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Dynamic Contour Tonometer を用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降率の比較

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)1269《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1269.1272,2010cはじめに原発開放隅角緑内障の治療の目的は,眼圧を下げることにより緑内障性の視野障害を抑制することにある1).眼圧が統計学的に正常域にある正常眼圧緑内障の治療においても眼圧下降の重要性が指摘されている2).点眼薬による眼圧下降は,過去の約10年において,高い眼圧下降作用と安全性でプロスタグランジン製剤が重要な位置を占めるようになった3).プロスタグランジン誘導剤は房〔別刷請求先〕白木幸彦:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YukihikoShiraki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHosptal,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerを用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降率の比較白木幸彦山口泰孝梅基光良植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUsedtoCompareEffectsofLatanoprost,TravoprostandTafluprostinGlaucomaYukihikoShiraki,YasutakaYamaguchi,MitsuyoshiUmemotoandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital目的:ラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の眼圧下降作用を,Dynamiccontourtonometer(DCT)とGoldmannapplanationtonometer(GAT)を用いて評価する.対象および方法:対象は緑内障の日本人患者32症例58眼(開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障45眼).無点眼,もしくはwash-out後の眼圧をベースライン眼圧(BL)とし,その後1眼に対し,LA,TR,TAを1剤ずつ順次使用し,それぞれの点眼後の眼圧を測定した.結果:BLはGAT18.7±3.9mmHg,DCT23.5±4.3mmHg.点眼後眼圧はGATでは,LA,TR,TAの順に16.7±3.9mmHg,15.6±2.9mmHg,16.2±3.3mmHg.DCTでは19.7±4.0mmHg,18.5±3.4mmHg,19.3±3.2mmHgであり,3剤ともBLよりも有意差をもって眼圧が低下したが,3剤間では有意差はなかった.平均眼圧下降率は,GATではLA,TR,TAの順に,11.1±17.4%,16.7±14.6%,13.7±13.1%,DCTでは15.2±16.0%,21.4±12.0%,17.9±11.3%.眼圧下降率ではDCTでのLA,TR間のみ有意差を得た.Method:Participantscomprised32patients(58eyes)withopen-angleglaucoma(13eyes),ornormal-tensionglaucoma(45eyes),allofJapaneseorigin.Patientswereswitchedamonglatanoprost(LA),travoprost(TR),andtafluprost(TA)fora2-4weektreatmentperiodaftera2-4weekmedicine-freeperiod.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredatuntreatedbaselineandattheendofeachtreatmentperiod,usingGoldmannapplanationtonometer(GAT)andDynamiccontourtonometer(DCT).Result:ThemeanIOPatbaselinewas18.7±3.9mmHg(GAT)and23.5±4.3mmHg(DCT).Themeanpost-treatmentIOPresultwithGATwas16.7±3.9mmHg(LA),15.6±2.9mmHg(TR),and16.2±3.3mmHg(TA).TheresultwithDCTwas19.7±4.0mmHg(LA),18.5±3.4mmHg(TR),and19.3±3.2mmHg(TA).AllmedicationssignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline.TheefficacyofIOPreductionshowednosignificantdifferenceamongmedicationswitheitherIOPmeasurement.TheIOPreductionpercentageasmeasuredbyGATwas11.1±17.4%(LA),16.7±14.6%(TR),and13.7±13.1%(TA);asmeasuredbyDCTitwas15.2±16.0%(LA),21.4±12.0%(TR),and17.9±11.3%(TA).TheDCT-measuredreductionrateforTRwassignificantlygreaterthatforLA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1269.1272,2010〕Keywords:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,眼圧,Dynamiccontourtonometer(DCT).latanoprost,travoprost,tafluprost,intraocularpressure,Dynamiccontourtonometer(DCT).1270あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(104)水産生に影響なく房水流出を増大するとされており4),海外ではラタノプロスト,ウノプロストン,トラボプロスト,ビマトプロストなどのプロスタングランジン製剤が臨床使用されている.長年にわたり日本においては,ラタノプロスト,ウノプロストンのみが臨床使用ができる状況であったが,近年,トラボプロスト,タフルプロストの2種が臨床でも使用することができるようになった.ビマトプロストはラタノプロストより有効に緑内障や高眼圧症の眼圧を下降させる5),もしくはラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストが有効に眼圧を下降させるが相互に有意の違いがない6)など,施設により内容が異なることがあり,その視野など視機能についての長期的な影響もよく知られてはいない.さらに,日本における後発薬は日本人に対しての臨床報告はまだ少ない.特にタフルプロストは,海外でも発売されてから日が浅く,報告自体が少ない.適正使用のためには,まずは短期使用での眼圧下降の程度や有効性についての比較検討が必要である.今回筆者らは,通常診療において,緑内障ガイドライン7)で推奨されている治療トライアルを,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストにおいて順次実施した.眼圧下降に最も有効な薬剤を各症例について知る必要があるため,同一症例に対して3剤を順次切り替えて,その眼圧下降作用を評価した.眼圧測定法もGoldmannapplanationtonometer(GAT)に加え,Dynamiccontourtonometer(DCT)を用いた.I対象および方法当院において視神経乳頭陥凹とそれに一致する視野障害から広義の原発開放隅角緑内障と診断された症例のうち,ラタノプロストのみを使用中,もしくは無点眼の症例で点眼が必要と判断された症例で,通常診療にあたって3剤を比較して最も有効なものを使用することに同意が得られた32症例58眼で検討を行った.落屑症候群を有する者,内眼手術歴がある者は除外した.男性は12症例22眼,女性は20症例36眼.年齢は71.9±9.4歳(44.87歳).緑内障の類型の内訳は狭義の原発開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障45眼であった.今回の研究開始まで無点眼であった症例は6眼であった.研究期間は2009年7.10月であった.もともと無点眼であった症例は点眼前の眼圧を,点眼中の症例は2.4週間の無点眼期間を設けてその後の眼圧をベースラインとした.その後ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの3剤を1種類ずつ順次切り替えたうえ,2.4週間使用後の眼圧を点眼後の眼圧とした.眼圧測定の時間帯はなるべく同一にした.3種点眼の順番は無作為とし,これについての検討はしていない.眼圧測定方法はGATに加え,DCTを用いた.DCTは圧センサーを用いた眼圧測定方法で,角膜厚の影響を受けにくく,拡張期眼圧とともに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)も測定することができ,拡張期眼圧に眼球脈波の値を加えることによって収縮期眼圧も測定することができるものである.小数点以下一桁まで表示することができるため,より低眼圧領域での正確な解析に有用と考えられる8,9).今回GAT値,DCT値を用いて眼圧下降値と下降率を算出した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用い,すべての手順はヘルシンキ宣言にのっとって行った.データの収集と公開に関しては当院の倫理委員会の了承を得て行った.統計学的検討は,2群間の差はt-testを行った.3剤の比較には分散分析を行い,有意差を認めた場合は多重比較(Tukey)を行った.p<0.05で有意差ありとした.II結果各点眼平均期間はラタノプロスト16.8日,トラボプロスト14.7日,タフルプロスト15.1日であった.ベースライン眼圧はGAT18.7±3.9mmHg,DCT23.5±4.3mmHgであった.GATでの点眼後眼圧はラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの順に16.7±3.9mmHg,15.6±2.9mmHg,16.2±3.3mmHgで,DCTでは19.7±4.0mmHg,18.5±3.4mmHg,19.3±3.2mmHgであった(図18.7±3.916.7±3.915.6±2.916.2±3.3BLLATRTA35302520151050GAT眼圧(mmHg)23.5±4.319.7±4.018.5±3.419.3±3.2BLLATRTA35302520151050DCT眼圧(mmHg)図1各種眼圧測定法によるベースライン(BL)とラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の平均眼圧値(105)あたらしい眼科Vol.27,No.9,201012711).どちらの眼圧測定値においても,3剤すべてで優位にベースラインより眼圧下降作用を認めた(p<0.01).3剤間は,分散分析において有意差は認めなかった.平均眼圧下降率は,GATではラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの順に,11.1±17.4%,16.7±14.6%,13.7±13.1%で,DCTでは15.2±16.0%,21.4±12.0%,17.9±11.3%であった(図2).3剤間で,統計学的に有意差を認めたのはDCT値でのラタノプロストとトラボプロスト間(p=0.027)のみであったが,トラボプロストがどちらの眼圧値においても高い眼圧下降率を有する傾向を認めた.眼圧下降率を眼圧測定法,点眼薬別に10%以下,10%から20%,20%から30%,30%以上に分け,それぞれが占める割合を図3に表示した.GATでは特に3剤の間に大きな違いはみられなかった.DCTでは,ラタノプロストに比べ,トラボプロスト,タフルプロストともに10%以上の眼圧下降率を示した症例が増えていた.タフルプロストでは,20%以上の高い効果を示した割合はラタノプロストと同程度であった.一方,トラボプロストはラタノプロストに比べて20%以上の眼圧下降を示す症例が増加した.各症例に対し最も眼圧下降率が高かった薬剤の内訳は図4のようになった(3剤とも10%以下の眼圧下降率を示したものは無効とした.GATの結果とDCTの結果に差異がなかったためDCTでの結果のみ記載した).ラタノプロストは14%(8眼),トラボプロスト48%(28眼),タフルプロスト31%(18眼),無効は7%(4眼)であった.トラボプロストが半数の症例で最も高い効果を示した.11.1±17.416.7±14.613.7±13.1(%)LATRTA15.2±16.021.4±12.017.9±11.3LATRTA50403020100-10(%)50403020100-10GATDCT図2各種眼圧測定法によるラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の平均眼圧下降率LA39.7TR37.9TA■:10%以上■:10~20%■:20~30%■:30%以上50.0LA37.9TRGATDCT20.7TA24.125.931.017.231.025.98.613.820.719.017.212.112.124.137.917.243.119.013.8100806040200(%)図3各種眼圧測定法によるラタノプロスト(LA),トラボプロスト(TR),タフルプロスト(TA)の眼圧下降率の内訳50.040.030.020.010.00.035.9LA(%)a19.3TR20.5TA50.040.030.020.010.00.025.6TR(%)b13.3LA14.9TA50.040.030.020.010.00.021.3TA(%)c7.6LA15.6TR図5同一症例のなかで,最も効果のある薬剤と他の2剤の平均眼圧下降率a:ラタノプロスト(LA)が最有効薬の症例,b:トラボプロスト(TR)が最有効薬の症例,c:タフルプロスト(TA)が最有効薬の症例.TR48%TA31%LA14%無効7%図4DCTにおいて各症例で最も効果の高かった薬剤の内訳LA:ラタノプロスト,TR:トラボプロスト,TA:タフルプロスト.1272あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(106)さらに,最も効果の高い薬剤の眼圧下降率と,他の2剤の薬剤の平均眼圧下降率(DCT値)を算出し,同一症例のなかで,最も効果のある薬剤と他の2剤の効果の差がどれほどあるのかを検討した.ラタノプロストが最有効薬の症例(8眼)での各点眼薬の平均眼圧下降率は,ラタノプロスト35.9%に対し,トラボプロスト19.3%,タフルプロスト20.5%(図5-a).トラボプロストが最有力の症例(28眼)では,トラボプロスト25.6%に対し,ラタノプロスト13.3%,タフルプロスト14.9%(図5-b).タフルプロストが最有効薬の症例(18眼)では,タフルプロスト21.3%に対し,ラタノプロスト7.6%,トラボプロスト15.6%であった(図5-c).ラタノプロストが最有効薬の場合は,他の2剤の効果が高いだけに,それよりも高い効果をラタノプロストは認めた.一方,タフルプロストが最有効薬の場合はラタノプロストの効果が低い傾向にあった.III考按眼圧下降作用においてはトラボプロストが比較的高い効果があることが示されたが,統計学的な有意差は,DCTで測定された下降率についてラタノプロストとトラボプロスト間で認めたのみであった.すべてにおいてトラボプロストが最有効なわけではなく,症例によってはラタノプロスト,もしくはタフルプロストが最も眼圧下降率が高かった.日内変動や季節変動などの影響10)は考えねばならないが,各症例に対して,最も眼圧下降作用のある薬剤は一様ではないとも考えられ,慎重な点眼薬の選択が必要と思われる.眼圧下降作用に関しては,GATに比べ,DCTでより変化が鋭敏に示されている.DCTでは小数点以下一桁まで測定できる.今回の解析には正常眼圧緑内障が多く含まれており,低眼圧の症例での変化がより正確に反映された可能性がある.また眼圧の平均値で集団を2分して,3剤の眼圧下降率を集団間で比較したが,低眼圧側の集団で下降率が低値すなわち無効となる症例が増加することを除き著明な有効性の違いは集団間でみられなかったため,今回は全体の解析を報告するにとどめた.DCTでは,OPA値の測定が可能であり,拡張期眼圧に加え,DCT値にOPA値を加えた収縮期眼圧も測定することができる.OPA値については,脈絡膜循環を反映するとの報告がある11)が,その値が臨床的に緑内障に対してどのような影響を与えるかは明らかな結論はない.筆者らは収縮期眼圧(DCT+OPA)に関しても同様の検討を行ったが,拡張期眼圧(DCT)での結果と特に大きな違いはみられなかったため本報告からは省いた.文献1)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AlexanderCL,MillerSJ,AbelSR:Prostaglandinanalogtreatmentofglaucomaandocularhypertension.AnnPharmacother36:504-511,20024)LimKS,NauCB,O’ByrneMM:Mechanismofactionofbimatoprost,latanoprost,andtravoprostinhealthysubjects.Ophthalmology115:790-795,20085)NoeckerRS,DirksMS,Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOphthalmol135:55-63,20036)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20038)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,20089)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療.あたらしい眼科26:695-699,200910)GiuffreG,GiammancoR,DardanoniGetal:Prevalenceofglaucomaanddistributionofintraocularpressureinapopulation.ActaOphthalmolScand73:222-225,199511)TrewDR,SmithSE:Postualstudiesinpulsatileocularbloodflow:II.Chronicopenangleglaucoma.BrJOphthalmol75:71-75,1991***

眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(139)999《原著》あたらしい眼科27(7):999.1003,2010cはじめに眼圧測定値は,その測定原理から角膜形状(角膜曲率半径,角膜厚)の影響を受け測定誤差を生じることが明らかになっている.角膜曲率半径が小さいほど,また角膜厚が厚いほど測定された眼圧値は過大評価され,この逆は過小評価されると報告1.5)されている.さらに,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用は角膜の形状や形態,生理的機能にさまざまな影響を及ぼす6)ことはよく知られている.このうち角膜形状についてはHCL装用に伴う角膜曲率の変化7,8)や,浮腫による角膜厚の増大,慢性的低酸素状態に基づく角膜実質の菲薄化6,9)などが報告され,これらは短期的,可逆的な角膜の変形と考えられている10).これらのことからHCL脱後に測定される眼圧値は,HCL装用による角膜形状変化により誤差が生じている可能性が考えられるが,その詳細は検討されていない.そこで今回HCL装用者を対象とし,HCL脱直後から経時的に眼圧値,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行い,HCL装用による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討したので報告する.I対象および方法対象は,HCL常時装用者(HCL装用群)17名34眼(男性〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響藤村芙佐子加藤紗矢香山田やよい庄司信行北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学InfluenceofHardContactLensonIntraocularPressureFusakoFujimura,SayakaKatou,YayoiYamadaandNobuyukiShojiDepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityハードコンタクトレンズ(HCL)による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討した.対象は眼科的疾患を有さない健常青年22名44眼とした.HCL脱後の角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧を経時的(脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間)に測定し,統計学的検討を行った.結果,眼圧値は脱直後と比較し,脱後10分,20分に有意な低下を認めた(p=0.0016,p=0.0267).角膜曲率半径は各測定時間と比較し,脱後24時間のみ有意な低下を認めた(脱後30分.24時間:p<0.0133,1時間.24時間:p<0.01,他時間.24時間:p<0.001).中心角膜厚は変化を認めなかった.HCL脱後に角膜形状変化を認めたが,眼圧値への影響は無視できる程度であり,脱後の眼圧下降はHCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果によるものと考えられ,眼圧測定はHCL脱後30分以降に行うべきと考えた.Weinvestigatedtheinfluenceofcornea-shapinghardcontactlens(HCL)onintraocularpressure(IOP).Participatinginthestudywere22younghealthyvolunteers.Cornealcurvature,centralcornealthicknessandIOPweremeasuredjustafterHCLremovalandat5,10,20,30minutes,1hourand24hoursafter.IOPshowedasignificantdecreaseat10and20minutes,comparedwithjustafterremoval(p=0.0016,p=0.0267,respectively).Cornealcurvatureshowedasignificantdecreaseonlyat24hours(30minutes.24hours:p<0.0133,1hour.24hours:p<0.01,alltheothertime.24hours:p<0.001).Centralcornealthicknessshowednochange.IOPmeasurementisnotaffectedbycornealshapechange.TheresultssuggestthattheIOPdecreasewascausedbythemassagingoftheeyeballwhentheHCLwasremoved.IOPshouldbemeasuredatleast30minutesafterHCLremoval.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):999.1003,2010〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,眼圧,角膜形状,角膜曲率半径,中心角膜厚,マッサージ効果.hardcontactlens,intraocularpressure,cornealshape,cornealcurvature,centralcornealthickness.1000あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(140)1名,女性16名)であった.平均年齢は20.7±1.3歳(19.24歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.3.81±2.93D(+2.25..9.50D)であった.対照としてCL非装用者(CL非装用群)5名10眼(女性5名)を対象とした.平均年齢は21.6±0.55歳(21.22歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.0.40±0.96D(+0.50..2.25D)であった.全例,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年22名である.なお,HCL装用群においては測定前1週間以上のHCL終日装用,および測定当日の3時間以上の装用を条件とした.対象者には研究の主旨とその意義に関する説明を十分に行い,文書による同意を得た後,測定を開始した.測定方法は以下のとおりである.HCL脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間に眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行った.測定による角膜形状への影響を最小限にするために,すべて非接触で測定可能な機器を用い,角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧の順で測定した.角膜曲率半径の測定にはオートレフケラトメーターARK-730A(NIDEK社),中心角膜厚測定には前眼部解析装置PentacamTM(OCULUS社),眼圧測定には非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)を使用し,各測定は少なくとも3回以上行い,安定した3つの値の平均値を代表値とした.また,角膜曲率半径は弱主経線と強主経線から求められる平均値をその角膜曲率半径とした.さらに日内変動の影響を最小限に抑えるため,測定開始時刻は午前10時に統一した.CL非装用群においてもHCL装用群と同時刻に同様の方法にて眼圧測定を行った.得られた結果を用い,以下の3つの項目について検討を行った.検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化.検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関.検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化.統計学的解析検討は,検討①③にはScheffetest,検討②には単回帰分析を用い,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得てから開始した(承認番号2009-009).II結果検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化眼圧はHCL脱直後に比べ脱後10分(p=0.0016),脱後20分(p=0.0267)に有意な低下が認められた(図1a).角膜曲率半径は,脱後24時間に減少しており,HCL脱直後と脱後24時間(p<0.001),脱後5分と脱後24時間(p<0.001),脱後10分と脱後24時間(p<0.001),脱後20分と脱後24時間(p<0.001),脱後30分と脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間と脱後24時間(p<0.01)に有意な差を認めた(図1b).中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(図1c).8.38.28.18.07.97.87.77.67.5角膜曲率半径(mm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***************n=34Scheffetest:*p=0.0133,**p<0.01,***p<0.001図1bHCL脱後の角膜曲率半径の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後,脱後5分,10分,20分と比較し,脱後24時間の角膜曲率半径は有意に低下していた(p<0.001).同様に,脱後30分より脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間より24時間(p<0.01)に有意な低下を認めた(Scheffetest).600580560540520500中心角膜厚(μm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間n=34図1cHCL脱後の中心角膜厚の経時的変化(平均値±標準偏差)中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(Scheffetest).15141312111098眼圧(mmHg)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***n=34Scheffetest:*p=0.0267,**p=0.0016図1aHCL脱後の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後と比較し,脱後10分,脱後20分の眼圧は有意に低下していた(それぞれp=0.0016,p=0.0267).30分以降の眼圧は,脱直後の眼圧と有意差は認めなかった(Scheffetest).(141)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101001検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関検討①において,眼圧はHCL脱直後に比べ,脱後10分および脱後20分に有意な低下を認めたことから,HCL脱直後と脱後10分および脱直後と脱後20分の間の眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚それぞれの変化量を算出し,眼圧変化量と角膜曲率半径変化量,眼圧変化量と中心角膜厚変化量の相関について検討を行った.結果,HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に相関は認めなかった(図2a)が,脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量はわずかに有意な相関が認められた(単回帰分析y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(図2b).また,眼圧変化量と中心角膜厚変化量は両時間とも相関は認めなかった(図3a,b).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1615141312111010:0010:0510:1010:2010:3011:00時間n=10眼圧変化量(mmHg)図4くり返し眼圧測定を行ったCL非装用群の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)CL非装用者に対し,検討①と同様の時間帯で非接触眼圧計による複数回の眼圧測定をくり返したが,眼圧は有意な経時的変化を示さなかった(Scheffetest).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2bHCL脱後と脱後20分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量には,わずかに有意な相関が認められた(y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3bHCL脱直後と脱後20分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1002あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(142)検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化HCL装用者と同様の方法にて,くり返し眼圧測定を行ったCL非装用者の眼圧値には有意な経時的変化は認められなかった(図4).III考按検討①の結果において,眼圧の経時的変化は,脱直後と比べ脱後10分および20分に有意な低下がみられた.これに対し,検討②:眼圧と角膜曲率半径,眼圧と角膜厚の関連性について,相関が認められたのは,脱直後と脱後20分における眼圧変化量と角膜曲率半径変化量のみであった.このことから,HCL脱後の眼圧下降に対する角膜曲率半径および中心角膜厚の影響は無視できる程度であると考えられた.野々村ら11)は,成熟白色家兎20匹を用いた動物実験において,眼瞼の上から15分間の指の圧迫によるマッサージを施行し,全例に眼圧値の顕著な低下を認めている.これより,今回のHCL脱後の眼圧低下にもマッサージ効果が関与している可能性が推測される.このマッサージ効果を生じる要因の一つとしてくり返しの眼圧測定が考えられる.今回の眼圧測定に用いた非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)は,空気圧平型の眼圧計である.これは空気の噴射によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間から眼圧を求める機械である.噴射される空気圧は微弱であり,本来は眼圧に影響を及ぼすには至らないことが前提となっている.しかしながら,HCL脱直後の測定開始から脱後10分の測定終了までは,短時間の間に何度も測定を行わなければならなかった.1回の空気圧は微弱ではあるが,これがくり返されたことで,前述のようなマッサージ効果が生じた可能性が考えられる.マッサージ効果を生じる他の要因としては,HCL装脱時における,指による眼瞼および眼球への圧迫によるものが考えられる.HCLをはずす場合は指で目尻を押さえ,その指を耳側やや上方へ引っ張り,軽く瞬目してはずす方法や,上下眼瞼を両手人差し指で押さえ,レンズを固定しながら両眼瞼ではじき出す方法が一般的である12).マッサージ効果を生じ得る,これら2つの要因の両者,もしくは一方により眼圧が低下した可能性が考えられるが,検討③の結果から,HCL装用者,CL非装用者の測定方法が同様であるにもかかわらず,CL非装用者の眼圧値に有意な変化を認めなかったことから,HCL脱後の眼圧低下は,眼圧測定時の空気圧によるものではなく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果の影響によるものと判断した.さらに,HCL脱後30分以降には眼圧に有意な低下がみられなかったことから,脱後30分以降にはマッサージ効果が減弱するとともに,眼圧値が緩やかに上昇し,安定したと考える.HCL脱後の角膜曲率半径の変化は,眼圧値に影響を及ぼすには至らない程度であったと述べた.しかしながら,結果から角膜曲率半径は,各測定時間と比較し,HCL脱後24時間のみに有意な低下を認めた.CL装用による角膜曲率の長期的変化については急峻化,不変,扁平化の3通りの報告8,9,13,14)がある.石川ら15)によるとHCL長期装用例において角膜の扁平化を認め,従来いわれているmoldingeffect13,14)によるものであると説明している.またWilsonら10)は,HCLにより角膜が変形した眼では,レンズの装用中止後にTopographicModelingSystem(TMS)所見上で角膜形状が正常に回復するまでには,酸素透過性(RGP)HCLでは平均10週間,PMMA(ポリメチルメタクリレート)HCLでは15週間を要すると報告している.これらのことを踏まえると,今回も同様にHCL装用により角膜が扁平化し,さらにHCLを排除することで,HCLによる圧迫が除外され,本来の角膜形状に回復する過程でHCL脱後24時間に有意な急峻化を認めたと考えられる.また,検討②:眼圧と角膜曲率半径の変化量との関連性を検討した結果では,脱直後と脱後20分のみではあるが,両者の変化量は,わずかに有意な相関が認められた.藤田ら16)は,円錐角膜を有する8名10眼を対象とし,HCL脱後の角膜形状の経時的変化を検討し,HCL脱直後から20分後まで有意な変化がみられたと報告しており,円錐角膜に対するorthokeratology効果の評価は少なくともHCL脱後20分以降に行うべきであるとしている.このことから,HCL脱後の曲率半径が大きな変化を生じる対象には眼圧測定時間を考慮すべきであり,眼圧測定はHCL脱後20分以降に行う必要があると推察される.HCL装用に伴う角膜厚の変化について,短期的にはCL装用が原因して起こる浮腫による角膜厚増大,長期的には慢性的低酸素状態に基づく実質の菲薄化6,9,17)が報告されている.特に長期装用例ではCL脱直後に角膜厚を測定すると,これらの変化が相殺され見かけ上の変化を示さない可能性がある17).今回の角膜厚測定に際し,このような角膜厚の変化が相殺された状態を測定した可能性は否定できず,結果に有意な変化を認めなかった要因となりうると考えられる.前述の濱野ら7)は,同研究においてPMMAレンズ装用眼の角膜厚肥厚率は6.9%であったのに対し,RGPレンズ装用眼では変化を認めなかったとし,HCLの材質による角膜厚への影響の差についても報告している.本検討を行うにあたり,使用するHCLは指定せず対象が常用しているHCLを用い,材質は考慮していない.このことが結果に影響を及ぼした可能性もあり,今後,材質による角膜厚への影響についてもさらなる検討が必要と考える.今回HCLによる角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討を行った.HCL脱後の眼圧は有意な低下を認めたが,角膜曲率半径および中心角膜厚の変化が眼圧値へ及ぼす影響は小さく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果が原因であると考えられた.またその効果はHCL脱後20(143)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101003分まで持続し,眼圧測定値が変動しやすく本来の眼圧値より誤差を生じる可能性が示唆された.HCL装用者の眼圧測定において,より安定した値を得るためには脱後30分以降に測定することが望ましいと考えられた.文献1)MarkHH:Cornealcurvatureinapplanationtonomertry.AmJOphthalmol76:223-224,19732)松本拓也,牧野弘之,新井麻美子ほか:開放隅角緑内障と高眼圧症眼の角膜形状が眼圧測定に及ぼす影響.臨眼52:177-182,19983)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Aplanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol53:34-43,19754)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalmology112:1327-1336,20055)MichaelJD,MohammedLZ:Humancornealthicknessanditsimpactofintraocularpressuremeasures:Areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,20006)LiesegangTJ:Physiologicchangesofthecorneawithcontactlenswear.CLAOJ28:12-27,20027)濱野光,前田直之,濱野保ほか:TMSデータを利用した角膜形状変化の解析─ハード系コンタクトレンズ装用による影響─.日コレ誌34:204-210,19928)LevensonDS:ChangeincornealcurvaturewithlongtermPMMAcontactlenswear.CLAOJ9:121-125,19839)LiuZ,PflugfelderSC:Theeffectoflong-termcontactlenswearoncornealthickness,curvature,andsurfaceregularity.Ophthalmology107:105-111,200010)WilsonSE,LinDT,KlyceSDetal:Topographicchangesincontactlens-inducedcornealwarpage.Ophthalmology97:734-744,199011)野々村正博:眼球マッサージの毛様体におよばす影響.日眼会誌89:214-224,198512)植田喜一:コンタクトレンズの装脱.眼科診療プラクティス94:88-91,200313)Ruiz-MontenegroJ,MafraCH,WilsonSEetal:Cornealtopographicalterationsinnormalcontactlenswearers.Ophthalmology100:128-134,199314)SanatyM,TemelA:Cornealcurvaturechangesinsoftandrigidgaspermeablecontactlenswearersaftertwoyearsoflenswear.CLAOJ22:186-188,199615)石川明,片倉桂,高橋里美ほか:コンタクトレンズ装用者におけるORBSCANIIによる角膜経常の検討.日コレ誌47:124-133,200516)藤田博紀,佐野研二,北澤世志博ほか:HCL除去後1時間までの円錐角膜の形状変化.あたらしい眼科15:1299-1302,199817)HoldenBA,SweeneyDF,VannasAetal:Effectsoflong-termextendedcontactlenswearonthehumancornea.InvestOphthalmolVisSci26:1489-1501,1985***

マイトマイシンC 併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)963《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):963.966,2010cはじめに緑内障においてエビデンスのある治療は眼圧下降のみである1).しかし一方で,眼圧を十分に下降させても視野障害進行を抑制できない例が存在するという事実もある2).近年,眼圧日内変動幅3)および仰臥位眼圧上昇幅4,5)が,緑内障視野障害進行と関係していることを示唆する報告が散見される.眼圧日内変動幅に関しては,薬物治療でもある程度小さくすることができる6)が,仰臥位眼圧上昇幅は,薬物治療7)およびレーザー線維柱帯形成術8)では抑制効果が少ないことが報告されている.線維柱帯切除術はマイトマイシンC(MMC)の併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となっているが,仰臥位眼圧上昇幅に対する抑制効果に関しては現時点では明らかではない.今回,MMC併用線維柱帯切除術後眼の体位変換による眼圧変化を測定し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,平成21年4月20日から8月31日に東京警察病〔別刷請求先〕小川俊平:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:ShumpeiOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPANマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化小川俊平中元兼二福田匠里誠安田典子東京警察病院眼科PosturalChangeinIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomafollowingTrabeculectomywithMitomycinCShumpeiOgawa,KenjiNakamoto,TakumiFukuda,MakotoSatoandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital初回マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察できた広義の原発開放隅角緑内障20例32眼を対象に,Pneumatonometerを用いて座位と仰臥位の眼圧を測定した.眼圧は,座位から仰臥位へ体位変換直後有意に上昇し,仰臥位10分後も有意に上昇した(p<0.05).また,再度,座位へ体位変換後,眼圧は速やかに下降した(p<0.05).仰臥位眼圧上昇幅は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg,仰臥位10分後で3.43±1.8mmHgであった.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅には有意な正の相関があった(仰臥位直後:r2=0.41,r=0.64,p<0.0001,仰臥位10分後:r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).In32untreatedeyesof20patientswithprimaryopen-angleglaucomaornormal-tensionglaucoma,weevaluatedtheposturalchangeinintraocularpressure(IOP)followingtrabeculectomywithmitomycinC.UsingaPneumatonometer,IOPwasmeasuredafter5minutesinthesittingposition,andat0and10minutesinthesupineposition.SittingIOP,and0and10minutessupineIOPwere10.2±3.3mmHg,12.2±4.2mmHgand13.7±4.5mmHg,respectively.Thedifferencebetweensupine0minIOPandsittingIOP(ΔIOP0min)was1.95±1.4mmHg(p<0.05);thedifferencebetween10minsupineIOPandsittingIOP(ΔIOP10min)was3.43±1.8mmHg(p<0.05).ThereweresignificantcorrelationsbetweensittingIOP,ΔIOP0min(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)andΔIOP10min(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):963.966,2010〕Keywords:仰臥位,体位変換,眼圧,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,線維柱帯切除術.supineposition,posturalchange,intraocularpressure,normal-tensionglaucoma,primaryopen-angleglaucoma,trabeculectomy.964あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(104)院眼科外来に受診した原発開放隅角緑内障(広義)20例32眼である.年齢は57.6±10.8(平均値±標準偏差)歳,男性5例8眼,女性15例24眼,病型は原発開放隅角緑内障(狭義)22眼,正常眼圧緑内障10眼である.選択基準は,熟練した2人の術者による初回のMMC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察されたものである.除外基準は,術後6カ月以内のもの,初回手術以外にレーザー治療を含む内眼手術既往のあるもの,白内障同時手術例,僚眼へb遮断点眼薬を使用しているもの,Seidel試験で濾過胞に明らかな漏出点があるもの,高血圧・糖尿病の既往のあるものである.なお,本試験は東京警察病院治験倫理審査委員会において承認されており,試験開始前に,患者に本試験の内容について十分に説明し文書で同意を得た.線維柱帯切除術の方法を以下に記す.まず,輪部基底の結膜弁を作製し,4×3mmの強膜半層三角弁作製後,0.04%MMC0.25mlを浸した小片状スポンジェルRを4分間結膜下に塗布した.その後400mlの生理食塩水で洗浄し,線維柱帯切除,周辺虹彩切除後,強膜半層弁を10-0ナイロン糸で房水がわずかに漏出する程度に5針縫合した.最後に結膜を連続縫合した.眼圧測定は,Pneumatonometer:PT(MODEL30CLASSICTMPneumatonometer,Reichert社)とGoldmann圧平式眼圧計(GAT)を用いて行った.眼圧測定は,外来ベッド上でPTを用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位へ体位変換した直後に眼圧を測定した.同時に,各測定時に自動眼圧計で右上腕の血圧および脈拍数を測定した.その後,診察室へ移動し,細隙灯顕微鏡検査およびSeidel試験を行った.最後に座位安静5分後にGATを用いて眼圧を測定した(図1).すべての眼圧測定は,同一検者(S.O.)が午後2時から4時の間に行った.眼圧測定は,すべて右眼より行い,仰臥位眼圧測定時は枕を使用しなかった.まず,PT測定値とGAT測定値の一致度を調べるため,GAT眼圧と座位安静5分後および再座位直後の眼圧をBland-Altman分析を用いて比較した.さらに,体位変換により眼圧および血圧が変動するかを検討するため,全対象の座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再座位直後の眼圧を,ボンフェローニ(Bonferroni)補正pairedt-testを用いて比較した.また,座位安静5分後の眼圧と座位安静5分後から仰臥位直後の眼圧上昇幅(ΔIOP直後)および仰臥位10分後の眼圧上昇幅(ΔIOP10分後)の関係について回帰分析を用いて検討した.有意水準はp<0.05(両側検定)とした.II結果手術日から本試験眼圧測定日までの期間は,2,385±1,646(214.5,604)日であった.Bland-Altman分析ではGATと座位安静5分後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35〕および再座位直後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.2.GAT-再座位直後眼圧(GAT+座位安静5分後眼圧)/2(GAT+再座位直後眼圧)/2GAT-座位安静5分後眼圧05101520531-1-3-505101520531-1-3-5図2GATとPTの一致度Bland-Altman分析では,GATと座位安静5分後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35]および再座位直後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.2..2.2,r2=0.005,p=0.69]の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった.座位安静5分後仰臥位直後仰臥位10分後再座位直後ベッド上PT診察室GAT図1眼圧測定順序眼圧は,Pneumatonometer(PT)を用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位直後に測定した.最後にGoldmann圧平式眼圧計(GAT)で眼圧を測定した.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010965.2.2,r2=0.005,p=0.69〕の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった(図2).各体位の全症例の眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHg,GAT:9.2±3.9mmHgであった.仰臥位直後および仰臥位10分後の眼圧は,いずれも座位安静5分後,再座位直後より有意に高かった(p<0.05).また,仰臥位10分後の眼圧が他の測定値のなかで最も有意に高かった(p<0.05)(図3).体位変換による仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg(ΔIOP直後),仰臥位10分後で3.43±1.8mmHg(ΔIOP10分後)であった.座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった(図4).血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後が最も高かった(p<0.05).また,脈拍数は,座位安静5分で最も多かった(p<0.05)(表1).血圧および脈拍数は,ΔIOP直後およびΔIOP10分後のいずれとも有意な相関はなかった.III考按緑内障における確実な治療法は,眼圧下降治療のみであり,薬物治療やレーザー治療によっても十分な眼圧下降が得られない場合は観血的手術を行う必要がある.線維柱帯切除術はMMCの併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となった1).しかし,手術治療で十分な眼圧下降効果が得られても,視野障害が進行する症例が少なくないことはよく知られている.近年,外来眼圧2)や眼圧日内変動幅3)のみならず仰臥位眼圧上昇幅も,緑内障視野障害進行と関与している可能性が指摘されている4,5).Hirookaら5)は,原発開放隅角緑内障患者11例を対象にして,同一症例の左右眼のうち視野障害がより高度な眼と軽度な眼の仰臥位眼圧上昇幅を比較したところ,視野障害がより高度な眼が軽度な眼より仰臥位眼圧上昇幅が有意に大きかったと報告している.Kiuchiら4)は,正常眼圧緑内障患者を対象に,座位眼圧,仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅とMDslopeとの関係を調べたところ,MDslopeと座位眼圧には有意な相関はなかったが,MDslope表1体位変動と血圧,脈拍数の変化座位仰臥位直後仰臥位10分再座位直後収縮期血圧(mmHg)129.7±15.0129.8±21.0126.1±16.1137.8±19.5*拡張期血圧(mmHg)80.7±9.675.8±12.174.6±10.984.7±9.6*脈拍数(回/分)73.4±15.0*68.7±14.267.0±13.270.9±13.9*:他の3体位との比較(p<0.05,Bonferroni補正pairedt-test).平均値±標準偏差.血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後で最も高かった.脈拍数は,座位安静5分で最も多かった.6543210-1-205101576543210-1051015ΔIOP直後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)ΔIOP10分後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)図4座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(ΔIOP直後=.0.26+0.23×GAT,r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(ΔIOP10分後=0.59+0.30×GAT,r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった.0510152025仰臥位直後座位安静5分後再座位直後仰臥位10分後n=32Mean±SE眼圧(mmHg)*****図3体位変換による眼圧変化各体位の平均眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHgであった.PTで測定された体位変換後の眼圧は仰臥位10分後が最も高かった(*p<0.05).966あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(106)と仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅との間には有意な負の相関を認めたと報告している.眼圧下降治療の質を向上させるためには,仰臥位眼圧上昇幅も可能な限り小さくすることが望まれる.線維柱帯切除術により,仰臥位眼圧上昇幅が抑制できるかは,Parsleyらによりすでに報告されている9).Parsleyらは,座位から仰臥位への体位変換により,眼圧が対照群では1.08mmHgの上昇であったのに対して,片眼手術群では3.31mmHg,両眼手術群では5.49mmHgと大きく上昇したことから,線維柱帯切除術の仰臥位眼圧上昇抑制効果はほとんどなかったと述べている.しかし,この報告では線維柱帯切除術施行時にMMCの併用はなく,手術群の術後眼圧は15.6.17.7mmHgと比較的高値であった.そこで,今回筆者らは,原発開放隅角緑内障(広義)患者を対象として,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧が体位変換によりどの程度変化するかについて検討したところ,座位から仰臥位への体位変換により,仰臥位直後平均1.90mmHg,仰臥位10分後平均3.40mmHg有意に上昇した.その後,再度座位へ体位変換すると,眼圧は速やかに有意に下降した.仰臥位眼圧上昇のおもな機序の一つとして,上強膜静脈圧の上昇が考えられている10.12).体位変換による上強膜静脈圧の上昇とともに,眼圧も1.3分で速やかに上昇することが知られている13,14).Fribergら11)によれば,健常人において,眼圧は体位変換後10.15秒以内に上昇幅の80%が上昇し,30.45秒で最大となり体位を保持するかぎり上昇幅は保たれていた.また,体位変換1分後と5分後では差がなく,座位に戻ると2.3分でベースラインへ戻ったと報告している.Tsukaharaら15)は,健常人と手術既往のない緑内障患者のいずれも,仰臥位直後より仰臥位30分後のほうが眼圧は高かったと報告している.今回の結果とあわせ,MMC併用線維柱帯切除術後も体位変換により,眼圧は速やかに変動することが確認できた.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)の間には有意な正の相関があり,術後座位眼圧が低いほど,仰臥位眼圧上昇幅がより小さかった.仮にMMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅が抑制されるとすると,その機序は座位から仰臥位への体位変換後,房水が濾過胞へ速やかに流出するためと推測される.これは術後座位眼圧が低い症例ほど,術後の濾過機能がより良好であった可能性が高いためと考えられる.このことから,できるだけ座位眼圧が低い,良好な濾過機能をもった濾過胞を形成することで,仰臥位眼圧上昇幅をより小さくできる可能性が示唆された.今回の検討では,術前の仰臥位眼圧上昇幅を測定していないため,MMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅を,術前より術後で抑制できたかについては明らかでない.この点に関して検証するためには,今後,MMC併用線維柱帯切除術前後に仰臥位眼圧上昇幅を前向きに測定し比較する必要があると考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientwithglaucoma.JGlaucoma9:134-142,20004)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientwithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,20075)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,20036)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,20047)SmithDA,TropeGE:Effectofabeta-blockeronalteredbodyposition:inducedocularhypertension.BrJOphthalmol74:605-606,19908)SinghM,KaurB:Posturalbehaviourofintraocularpressurefollowingtrabeculoplasty.IntOphthalmol16:163-166,19929)ParsleyJ,PowellRG,KeightleySJetal:Posturalresponseofintraocularpressureinchronicopen-angleglaucomafollowingtrabeculectomy.BrJOphthalmol71:494-496,198710)KrieglsteinGK,WallerWK,LeydheckerW:Thevascularbasisofthepositionalinfluenceontheintraocularpressure.AlbrechtvonGraefesArchklinexpOphthalmol206:99-106,197811)FribergTR,SanbornG,WeinrebRN:Intraocularandepiscleralvenouspressureincreaseduringinvertedposture.AmJOphthalmol103:523-526,198712)BlondeauP,TetraultJP,PapamarkakisC:Diurnalvariationofepiscleralpressureinhealthypatients:apilotstudy.JGlaucoma10:18-24,200113)WeinrebR,CookJ,FribergT:Effectofinvertedbodypositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol98:784-787,198414)GalinMA,McIvorJW,MagruderGB:Influenceofpositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol55:720-723,196315)TsukaharaS,SasakiT:PosturalchangeofIOPinnormalpersonsandinpatientswithprimarywideopen-angleglaucomaandlow-tensionglaucoma.BrJOphthalmol68:389-392,1984

タフルプロスト点眼薬のβ 遮断点眼薬への追加効果

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)959《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):959.962,2010cはじめに緑内障の進行を予防する効果的な治療方法として,エビデンスが得られているのは,眼圧下降のみである1).1999年にプロスト系プロスタグランジン(PG)関連薬が臨床の場に登場して以来,これまで,長年,使用されてきたb遮断薬に代わり,PG関連薬が第一選択となる症例が増えている.その理由として,PG関連薬は,1日1回の点眼で強力な眼圧下降効果が得られること,全身への副作用が少ないことがあげられる2).現在,国内では4種類のプロスト系PG関連薬が臨床使用されている.そのなかで,タフルプロスト点眼薬は,唯一,国内で開発されたプロスト系PG関連薬であり3),強力な眼圧下降効果が示されている4,5).眼圧下降機序には,房水産生,経Schlemm管流出路,経ぶどう膜強膜流出路が関与するが,各薬剤により房水動態に及ぼす影響は異なる.緑内障の薬物治療は,通常,単剤の点眼薬から開始する6)が,単剤では,目標眼圧に到達しない症例も多数ある.眼圧下降薬を併用する場合,各薬剤の作用機序を考慮して選択する必要がある.たとえば,房水産生を抑制するb遮断薬には,房水流出を促進するPG関連薬を組み合わせることが選択肢の一つである.しかし,臨床では,個体の薬剤反応性も大きく,薬剤の相加効果,相殺効果は必ずしも理論どおりにはいかない7).これまで,わが国ではb遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告はない.今回,(広義)開放隅角緑〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANタフルプロスト点眼薬のb遮断点眼薬への追加効果比嘉利沙子*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AdditiveEffectofTafluprostwithb-BlockerRisakoHiga1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,UniversityofTohob遮断点眼薬を3カ月間以上単剤使用している原発開放隅角緑内障患者にタフルプロスト点眼薬を追加投与した21例21眼の有効性と安全性を検討した.眼圧は,追加前,投与1カ月後,3カ月後を比較した.問診と細隙灯顕微鏡所見より安全性を確認した.眼圧は,追加前18.0±2.0mmHg,1カ月後15.7±1.6mmHg,3カ月後15.2±2.2mmHgで,タフルプロスト点眼薬追加後,有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は,1カ月後2.2±1.7mmHg,3カ月後2.8±1.8mmHgで,両者に有意差はなかった.眼圧下降率は,1カ月後12.0±8.0%,3カ月後15.6±9.1%で,両者に有意差はなかった.副作用として,タフルプロスト点眼薬追加後より1例に眼瞼発赤を認めた.タフルプロスト点眼薬をb遮断薬に追加投与した場合,眼圧は有意に下降し,眼圧下降効果は3カ月間持続した.安全性も良好であった.In21eyesof21glaucomapatientstreatedwithb-blockermonotherapy,weevaluatedtheefficacyandsafetyoftafluprostaddition.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredbeforeandat1and3monthsaftertafluprostaddition.Safetywasjudgedonthebasisofquestionnaireresponsesandslitlampfindings.IOPdecreasedsignificantly,from18.0±2.0mmHgto15.7±1.6mmHgafter1month,andto15.2±2.2mmHgafter3months.IOPreductionwas2.2±1.7mmHgafter1monthand2.8±1.8mmHgafter3months;therewerenosignificantdifferences.IOPreductionrateswas12.0±8.0%after1monthand15.6±9.1%after3months;therewerenosignificantdifferences.Adverseeffectssuchaslidrednesswereobservedin1patient.Additionalstudyisthereforeneededtofurtherestablishtheefficacyandsafetyofadjunctiveuseoftafluprostwithb-blockerfor3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):959.962,2010〕Keywords:タフルプロスト,b遮断薬,追加効果,眼圧,有効性,安全性.tafluprost,b-blocker,additiveeffect,intraocularpressure,efficacy,safety.960あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(100)内障患者を対象とし,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した際の有効性と安全性を検討した.I対象および方法登録期間は2009年1月から8月までで,井上眼科病院で行った.症例の選択基準は,①(広義)開放隅角緑内障患者,②(広義)b遮断点眼薬を3カ月間以上単剤使用している患者,③20歳以上で同意能力がある患者,④文書で同意が得られた患者の4項目をすべて満たしていることを条件とした.副腎皮質ステロイド(点眼または内服)使用中のほか,3カ月以内の内眼手術,角膜屈折矯正手術,虹彩炎の既往歴のある症例は除外した.点眼は,使用中のb遮断薬(1日1回の点眼薬は朝点眼)にタフルプロスト点眼薬を1日1回夜に追加投与した.眼圧は,Goldmann圧平式眼圧計で,追加前,投与1カ月後,3カ月後に,診療時間内(9時から17時)の同一時間帯に同一検者が測定した.眼圧の解析は,1例1眼とし,両眼とも選択基準を満たした症例では,追加前の眼圧が高い眼,同値の場合は右眼を解析眼とした.眼圧は,b遮断薬単剤使用中の3回の平均値を基準値とし,1カ月後,3カ月後と比較した.統計学的解析には,repeatedANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.眼圧下降幅,眼圧下降率を算出し,それぞれ投与1カ月後と3カ月後を比較した.統計学的解析には,対応のあるt検定を用いた.有意水準を0.05以下とした.安全性については,問診と細隙灯顕微鏡の前眼部所見より判定した.本臨床研究は,井上眼科病院倫理審査委員会の承認(2008年11月20日取得)を得て実施した.II結果登録数は,22例33眼であった.そのうち,1例は,タフルプロスト点眼後より眼瞼発赤を認め点眼を中止としたため,脱落症例とした.解析症例数は,21例21眼(pseudophakia4例4眼を含む)であった.経過病型は,原発開放隅角緑内障7例(33%),正常眼圧緑内障14例(67%)であった.性別は男性7例,女性14例,年齢は63.8±16.1歳(平均±標準偏差)(20.86歳),観察期間は3.2±0.4カ月(2.6.4.0カ月)であった.追加前の平均眼圧は18.0±2.0mmHg(15.22mmHg)であった.Humphrey視野中心30-2プログラムSITA-standardのmeandeviation(MD)値は,.6.54±4.83(.18.01..0.37dB)であった.使用しているb遮断薬は,熱応答ゲル化,イオン応答ゲル化,水溶性を含むマレイン酸チモロールが10眼(47%),持続型を含む塩酸カルテオロールが6眼(29%),ニプラジロールが3眼(14%),塩酸レボブノロールが2眼(10%)であった(図1).1.有効性眼圧は,追加前18.0±2.0mmHg,投与1カ月後15.7±1.6mmHg,3カ月後15.2±2.2mmHgであった.眼圧は,投与1カ月後,3カ月後とも,追加前と比較して,有意に下降した(p<0.0001)(図2).眼圧下降幅は,1カ月後2.2±1.7mmHg,3カ月後2.8±1.8mmHgで,有意差を認めなかった(p=0.21)(図3).眼圧下降率は,1カ月後12.0±8.0%,3カ月後15.6±9.1%で,有意差を認めなかった(p=0.18)(図4).眼圧下降率10%未水溶性マレイン酸チモロール(1日2回朝夕点眼)ニプラジロール(1日2回朝夕点眼)塩酸カルテオロール(1日2回朝夕点眼)塩酸レボブノロール(1日2回朝夕点眼)熱応答ゲル化マレイン酸チモロール(1日1回朝点眼)イオン応答ゲル化マレイン酸チモロール(1日1回朝点眼)持続型塩酸カルテオロール(1日1回朝点眼)4眼(19%)4眼(19%)3眼(14%)3眼(14%)2眼(10%)2眼(10%)3眼(14%)図1使用しているb遮断点眼薬20181614120追加前1カ月後眼圧(mmHg)3カ月後22****図2タフルプロスト点眼薬追加前後の眼圧眼圧は点眼前に比較して,点眼投与1カ月後および3カ月後で有意に下降した.repeatedANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)**p<0.0001.64201カ月後眼圧下降幅(mmHg)3カ月後53178NS図3タフルプロスト点眼薬追加後の眼圧下降幅(101)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010961満が8眼(38.1%),20%以上が9眼(42.9%),30%以上の症例はなかった.2.安全性脱落症例1例(4.8%)は,タフルプロスト点眼開始時より,眼瞼発赤がみられたが,点眼中止により改善した.2例(9.5%)は,b遮断薬使用中より,軽度の表層角膜炎を認めたが,タフルプロスト点眼薬追加投与による悪化はみられなかった.結膜充血の自覚は,なしか軽微であり,点眼継続不可能な症例はなかった.また,眼症状以外の全身的副作用は,自覚的に認めなかった.III考按b遮断点眼薬単剤では,眼圧下降効果が不十分と判断した場合,眼圧下降効果が高いPG関連薬への切り替え8)またはPG関連薬や炭酸脱水酵素阻害薬などの追加投与を行う6).b遮断薬には,short-termescape,long-termdriftの2層性の眼圧変化が生じることが知られている9).今回は,b遮断薬を3カ月間以上単剤使用している患者で,さらに安定した眼圧が持続している症例を選択した.b遮断薬では,眼圧の変動が大きいが,本研究では点眼時間と眼圧測定時間を一貫することはできなかった.眼圧測定時間により,ピーク値あるいはトラフ値を測定している可能性がある.追加投与前の基準値となる眼圧は,眼圧変動も考慮して,b遮断薬使用期間中の3回の平均値とした.追加投与後の眼圧は,個々の症例において,同一時間帯で測定した.わが国では,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告はない.海外では,b遮断薬にタフルプロスト点眼薬を追加投与した臨床報告が一報10)ある.Egorovら10)は,チモロール点眼薬使用時の眼圧が22.30mmHgの緑内障,高眼圧症患者にタフルプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降幅は6.22.6.79mmHgと有意に下降したと報告している.本研究では,投与3カ月後の眼圧下降幅は2.8±1.7mmHgであった.既報との眼圧下降幅の差は,追加投与前の眼圧の違いが大きな要因と考える.b遮断薬に他のPG関連薬を追加投与した臨床報告も散見される11,12).中井ら11)は,b遮断薬にラタノプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降率は19.4±10.3%と報告している.Orengo-Naniaら12)は,b遮断薬にトラボプロスト点眼薬を追加投与した場合,眼圧下降幅は5.7.7.2mmHg,眼圧下降率は23.1.27.7%と報告している.試験デザインが異なるため,単純に数値を比較することはできないが,b遮断薬に他のPG関連薬を追加投与すると,有意に眼圧が下降することが示されている.タフルプロスト点眼薬の単独投与では,桑山ら5)は投与1カ月後の下降幅は6.6±2.5mmHg(投与前眼圧23.8±2.3mmHg)であったと報告している.タフルプロスト点眼薬は,第1剤として使用した場合に比べ,本研究のように第2剤目として使用した場合では,眼圧下降幅は小さくなることが推察される.眼圧下降薬を追加する場合,同じ作用機序を有する薬剤では,理論上,眼圧下降に対する相加効果はない.しかし,臨床では,薬剤の相加効果,相殺効果は必ずしも理論どおりにはいかない.副交感神経刺激薬であるピロカルピンは,経Schlemm管流出路の排出は促進するが,経ぶどう膜強膜流出路からの流出は減少させる.一方,PG関連薬は経ぶどう膜強膜流出路からの流出を促進する.一見,両薬剤は,相反する作用機序を有するようにみえるが,Fristromら7)は,ピロカルピンとラタノプロストを併用した場合の眼圧下降に対する相加効果を報告している.実際に,眼圧下降薬の併用療法を行う場合,作用機序や薬剤のもつ眼圧下降率のみでは,眼圧下降効果を予想することはむずかしい.本研究では,投与3カ月後の眼圧下降率は,15.6±9.1%であった.30%以上の眼圧下降が得られた症例はなかったが,20%以上の眼圧下降が得られた症例は9眼(42.9%)であった.一方,眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダーも8眼(38.1%)存在したため,標準偏差値は大きくなったと考える.タフルプロスト点眼薬のおもな副作用は,結膜充血・眼充血(27.3%),眼掻痒症(9.1%),眼刺激(7.3%)と報告されている4).そのうち,中等度以上の副作用は,紅斑および眼瞼紅斑の2例(3.6%)のみと報告されている4).今回,1例(4.8%)は眼瞼発赤がみられ点眼薬を中止したため除外症例とした.この症例は,タフルプロスト点眼薬の中止により,症状は改善している.自覚的な結膜充血は,なしか軽微であり,点眼薬の継続は除外症例を除き,全例とも可能であった.虹彩や眼瞼の色素沈着や睫毛異常などのPG関連薬特有の眼合併症は,今回の経過観察期間中にはみられなかったが,今後,注意深く観察していく必要がある.緑内障治療は,長期にわたる薬物療法が中心であり,眼圧1カ月後眼圧下降率(%)3カ月後30NS20100402515535図4タフルプロスト点眼薬追加後の眼圧下降率962あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(102)下降効果を最大に得るには,点眼薬のアドヒアランスも重要な要素である.現在,b遮断薬と各PG関連薬の合剤の臨床報告13,14)も散見される.今後,これらの臨床成績にも注目したい.結論として,タフルプロスト点眼薬は,b遮断点眼薬に追加投与した場合,有意に眼圧が下降し,眼圧下降効果は3カ月間持続した.点眼薬の安全性も良好であった.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOphthalmol114:929-932,19963)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20034)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20085)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(Tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20046)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20067)FristromK,NilssonSE:InteractionofPhXA41,anewprostaglandinanalogue,withpilocarpine.Astudyonpatientswithelevatedintraocularpressure.ArchOphthalmol111:662-665,19938)WatsonP,StjernschantzJ,LatanoprostStudyGroup:Asix-months,randomized,double-maskedstudycomparinglatanoprostwithtimololinopen-angleglaucomaandocularhypertension.Ophthalmology103:126-137,19969)BogerWP,PuliafitoCA,SteinertRFetal:Long-termexperiencewithtimololophthalmicsolutioninpatientswithopenangleglaucoma.Ophthalmology58:259-267,197810)EgorovE,RopoA:Adjunctiveuseoftafluprostwithtimololprovidesadditiveeffectsforreductionofintraocularpressureinpatientswithglaucoma.EurJOphthalmol19:214-222,200911)中井正基,井上賢治,若倉雅登ほか:bブロッカー点眼薬にラタノプロストを追加した症例の眼圧下降効果.あたらしい眼科22:693-696,200512)Orengo-NaniaS,LandryT,VonTressMetal:Evaluationoftravoprostasadjunctivetherapyinpatientswithuncontrolledintraocularpressurewhileusingtimolol0.5%.AmJOphthalmol132:860-868,200113)ArendKO,RaberT:Observationalstudyresultsinglaucomapatientsundergoingregimenreplacementtofixedcombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inGerman.JOcularPharmacoTher24:414-420,200814)RossiGC,PasinettiGM,BracchinoMetal:Switchingfromconcomitantlatanoprost0.005%andtimolol0.5%toafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:a6-month,multicenter,cohortstudy.OpinPharmacoTher10:1705-1711,2009***

原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼前後の角膜厚および眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)955《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):955.958,2010cはじめにラタノプロストおよびトラボプロストはいずれもプロスタグランジン関連薬の一つであり,1日1回で強力な眼圧下降効果を示し,また,全身副作用がないことから第一選択薬として広く用いられている.プロスタグランジン関連薬の眼圧下降機序はいまだ明らかではないが,おもに毛様体および強膜のmatrixmetalloproteinase(MMP)の活性化に伴うコラーゲンの減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングと考えられている1).しかし,FP受容体は角膜にもあるため2),同様の機序が角膜においてもみられる可能性がある.近年,プロスタグランジン関連薬治療前後の中心角膜厚の変化に関する報告が散見されるが,治療後,中心角膜厚は減少する3.5),変わらない6),増加する7)報告があり,プロスタグランジン関連薬の中心角〔別刷請求先〕里誠:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:MakotoSato,M.D.,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPAN原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼前後の角膜厚および眼圧変化里誠中元兼二小川俊平安田典子東京警察病院眼科EffectofLatanoprostandTravoprostwithoutBenzalkoniumChlorideonCornealThicknessandIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomaMakotoSato,KenjiNakamoto,ShunpeiOgawaandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital広義の原発開放隅角緑内障30例57眼においてラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,周辺角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.対象を無作為にラタノプロスト治療群,BAC非含有トラボプロスト治療群に割付け,ラタノプロスト0.005%(キサラタンR),BAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させて,治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.眼圧は両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001).眼圧下降率は,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前後で有意な変化はなかった(p=0.20)が,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療後有意に減少した(p=0.007).周辺角膜厚は両治療群とも治療後有意に減少した(ラタノプロスト治療群:p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:p=0.002).Weinvestigatedtheeffectoflatanoprostandtravoprostwithoutbenzalkoniumchloride(BAC-freetravoprost)oncornealthickness(CT),paracentralCTandintraocularpressure(IOP).Subjectscomprised30patients(57eyes)withprimaryopen-angleglaucomawhowererandomlyassignedtoreceivelatanoprost(16patients,30eyes)orBAC-freetravoprost(14patients,27eyes)for8weeks.CTandIOPweremeasuredbeforeandaftertreatment.StatisticallysignificantIOPreductionwasobservedinbothgroups(p<0.001),withnosignificantdifferencebetweentheirpercentreductions(p=0.72).CentralCTdecreasedsignificantlyonlyintheBAC-freetravoprostgroup(p=0.007);peripheralCTdecreasedsignificantlyinbothgroups(latanoprostgroup:p=0.03,BAC-freetravoprostgroup:p=0.002).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):955.958,2010〕Keywords:原発開放隅角緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,角膜厚,眼圧.primaryopen-angleglaucoma,latanoprost,travoprost,cornealthickness,intraocularpressure.956あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(96)膜厚に及ぼす効果に関してもいまだ明らかでない.また,プロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関しては,筆者らの調べる限り,いまだ報告されていない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,傍中心角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.I対象および方法対象は2008年4月から12月までに東京警察病院を受診した,治療歴のない広義の原発開放隅角緑内障患者30例57眼で,年齢は56.3±13.0(31.80)歳,性別は男性20例,女性10例である.原発開放隅角緑内障(狭義)は3例6眼,正常眼圧緑内障は27例51眼であった.除外基準は,重篤な角膜疾患,ぶどう膜炎の既往のあるもの,内眼手術の既往のあるもの,角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2以下のもの,コンタクトレンズ装用者,担当医が不適切と判断したものである.本試験は東京警察病院治験審査委員会にて承認されており,本試験開始前に全例に試験の内容などを口頭および文書を用いて十分に説明し同意を得た.対象を無作為にラタノプロスト治療群16例30眼,BAC非含有トラボプロスト治療群14例27眼に割付けた.ラタノプロスト治療群はラタノプロスト0.005%(キサラタンR)を,また,BAC非含有トラボプロスト治療群はBAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させた.1滴点眼後5分以上涙.圧迫および眼瞼を閉瞼させた.治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.角膜厚は,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscan(スキャン方向8方向)で1回測定し,角膜中心から0.2mm(中心角膜)の平均値と2.5mm(傍中心角膜)の平均値を用いてそれぞれ検討した.なお,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscanでの中心角膜厚測定の再現性は良好であることはすでに報告されている8).眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で治療前後ともに同一医師が1回測定した.測定は,角膜厚から行い,直後に眼圧を測定した.まず,両群の背景因子を比較した.つぎに,各治療群において治療前後の中心角膜厚,傍中心角膜厚,眼圧を比較した.また,各治療群において治療前中心角膜厚と眼圧下降率[((治療前眼圧.治療後眼圧)/治療前眼圧)×100(%)]との関係を回帰分析を用いて検討した.さらに,各群において中心角膜厚変化率[((治療前中心角膜厚.治療後中心角膜厚)/治療前中心角膜厚)×100(%)]と眼圧下降率との関係を回帰分析を用いて検討した.統計解析は,群内比較にはWilcoxonsigned-rankstest,群間比較には,Mann-WhitneyUtestを用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果経過中,全例重篤な副作用はなく,中止・脱落したものはなかった.両治療群の背景因子には有意差はなかった(表1).眼圧は,ラタノプロスト治療群では治療前15.5±3.2mmHg,治療後13.4±2.5mmHg,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療前16.3±3.2mmHg,治療後13.9±2.9mmHgであり,両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001)(表1).眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であったが,両治療群間に有意な差は認めなかった(p=0.72)(図1).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前527.5±25.8μm,治療後526.3±26.7μmであり,治療前後で有意差表1背景因子治療群ラタノプロストp値(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)年齢(歳)58.5±12.153.9±13.90.17性別(男/女)11/59/50.20等価球面度数(D).2.5±2.4.3.7±4.30.45角膜厚(μm)中心(0.2mm)527.5±25.8528.9±43.00.94傍中心(2.5mm)544.3±26.3547.1±42.40.77眼圧(mmHg)15.5±3.216.3±3.20.39MD(dB).4.6±6.1.4.8±4.70.55両治療群の背景因子には有意差はなかった.MD:meandeviation.平均値±標準偏差.0481216ラタノプロスト治療群(n=30)BAC非含有トラボプロスト治療群(n=27)眼圧下降率(%)Mean±SE図1眼圧下降率比較眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であり,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).(97)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010957はなかった(p=0.20).BAC非含有トラボプロスト治療群では,中心角膜厚は治療前528.9±43.1μm,治療後525.3±44.7μmであり,治療後中心角膜厚は有意に減少した(p=0.007)(表2).傍中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前544.3±26.3μm,治療後542.0±28.1μm(p=0.03),BAC非含有トラボプロスト治療群は治療前547.1±42.4μm,治療後543.0±43.4μmであり(p=0.002),両群とも治療後有意に減少した(表2).治療前中心角膜厚と眼圧下降率の関係を回帰分析で検討したところ,両群とも治療前中心角膜厚と眼圧下降率の間に有意な相関はなかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=.35.3+0.09×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.14,p=0.46,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=.13.6+0.05×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.13,p=0.50).中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03)(図2).III考按ラタノプロストとトラボプロストの眼圧下降効果を比較した海外の報告によると,夕方9)または点眼24時間後のトラフ時刻10)で,トラボプロストのほうがラタノプロストより眼圧下降効果が大きいとするものがあるが,点眼12時間後のピーク時刻においては両者の眼圧下降効果には差がないとする報告が多い9.11).今回筆者らは,日本人を対象にピーク時刻でのラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果を比較したところ,両者の眼圧下降率には有意な差がなかった.このことから,日本人の原発開放隅角緑内障(広義)においてもラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果はピーク時刻では差がないといえる.プロスタグランジン関連薬の中心角膜厚への影響に関しては,近年いくつかの報告が散見されるが,いまだ明らかではない.Arcieriら6)によると,原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象にして,ラタノプロスト,トラボプロストおよびビマトプロストの血液房水柵および中心角膜厚へ及ぼす影響を調べたところ,ビマトプロストのみが中心角膜厚を有意に減少させ,ラタノプロストおよびトラボプロストでは中心角膜厚は有意に変化しなかった.一方,Hatanakaら4)は,開放隅角緑内障患者52例52眼をビマトプロスト,トラボプロストまたはラタノプロストで8週治療したところ,中心角膜厚はすべての群において有意に減少したと報告している.また,逆に治療後中心角膜厚が増加したとする報告も表2治療前後の眼圧および角膜厚変化治療群ラタノプロスト(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)眼圧(mmHg)治療前15.5±3.2p<0.001*16.3±3.2p<0.001*後13.4±2.513.9±2.9角膜厚(μm)中心(0.2mm)治療前527.5±25.8p=0.20528.9±43.0p=0.007*後526.3±26.7525.3±44.7傍中心(2.5mm)治療前544.3±26.3p=0.03*547.1±42.4p=0.002*後542.0±28.1543.0±43.4*:有意差あり.平均値±標準偏差.ラタノプロスト治療群非含有トラボプロスト治療群402000-20-2-1012-3-2-10123眼圧下降率(%)4020-20眼圧下降率(%)中心角膜厚変化率(%)中心角膜厚変化率(%)図2中心角膜厚変化率と眼圧下降率との関係中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,両群とも中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03).958あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(98)ある7).Bafaら7)は,開放隅角緑内障患者108眼を無作為にラタノプロスト,トラボプロストまたはビマトプロストで2年間治療したところ,ラタノプロストとビマトプロストでは,中心角膜厚は治療後有意に増加したが,トラボプロスト治療群では有意な変化はなかったと報告している.このように,現時点では,両薬剤の中心角膜厚に与える影響については,明らかではない.また,傍中心角膜厚も,中心角膜厚と同様に眼圧と有意な正の相関を示すことがHamilton12)により報告されているが,これまでプロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関する報告はない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障患者を対象に,ラタノプロスト,BAC非含有トラボプロストの中心角膜厚および傍中心角膜厚への影響を調べた.治療後の中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では,平均1.2μm,BAC非含有トラボプロスト治療群では平均3.7μm減少していたが,有意な変化はBAC非含有トラボプロスト治療群のみにみられた.また,傍中心角膜厚はラタノプロスト治療群では,平均5.0μm,BAC非含有トラボプロスト治療群は平均6.0μm減少しており,これらは両治療群とも有意な変化であった.しかし,中心角膜厚変化値の範囲はラタノプロスト治療群で.12.+10μm,BAC非含有トラボプロスト治療群で.14.+14μmと小さく,また,Goldmann圧平眼圧計の測定誤差も併せて考慮すると,両薬剤による中心角膜厚の変化が眼圧測定値に与える影響は,臨床上ほとんど問題にならないと考えられる13).今回の検討では,両治療群ともに中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間に有意な正の相関があり,両治療群ともに中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きいという結果であった.仮に,プロスタグランジン関連薬による角膜厚減少の機序が,眼圧下降機序と同様にMMPの活性化によるコラーゲン減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングであるとすると1,14),毛様体や強膜における薬理作用が強い症例ほど,角膜での作用もより強い可能性が考えられる.あるいは,この中心角膜厚減少による見かけ上の眼圧下降効果のために真の眼圧下降効果が過大評価されている可能性も否定できない.しかし,今回の中心角膜厚変化率と眼圧下降率の相関はいずれの治療群においても弱く,また,本試験は少数例,短期間での検討であるため,より多数例,長期間で検討する必要があると考える.文献1)TorisCB,GabeltBT,KaufmannPL:Updateonmechanismofactionoftopicalprostaglandinsforintraocularpressurereduction.SurvOphthalmol53:S107-S120,20082)Schlotzer-SchrehardtU,ZenkelM,NusingRM:ExpressionandlocalizationofFPandEPprostanoidreceptorsubtypesinhumanoculartissues.InvestOphthalmolVisSci43:1475-1487,20023)SenE,NalcaciogluP,YaziciAetal:Comparisonoftheeffectoflatanoprostandbimatoprostoncentralcornealthickness.JGlaucoma17:398-402,20084)HatanakaM,VessaniRM,EliasIRetal:Theeffectofprostaglandinanalogsandprostamideoncentralcornealthickness.JOculPharmacolTher25:51-53,20095)HarasymowyczPJ,PapamatheakisDG,EnnisMetal:Relationshipbetweentravoprostandcentralcornealthicknessinocularhypertensionandopen-angleglaucoma.Cornea26:34-41,20076)ArcieriES,PierreFilhoPT,WakamatsuTHetal:Theeffectsofprostaglandinanaloguesonthebloodaqueousbarrierandcornealthicknessofphakicpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.Eye22:179-83,20087)BafaM,GeorgopoulosG,MihasCetal:Theeffectofprostaglandinanaloguesoncentralcornealthicknessofpatientswithchronicopen-angleglaucoma:a2-yearstudyon129eyes.ActaOphthalmol,2009,Epubaheadofprint8)大貫和徳,前田征宏,伊藤恵里子ほか:検者間および同一検者での前眼部OpticalCoherenceTomographyの測定再現性.視覚の科学29:103-106,20089)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200110)DubinerHB,SircyMD,LandryTetal:Comparisonofthediurnalocularhypotensiveefficacyoftravoprostandlatanoprostovera44-hourperiodinpatientswithelevateintraocularpressure.ClinicalTher26:84-91,200411)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)HamiltonK:Midperipheralcornealthicknessaffectsnoncontacttonometry.JGlaucoma18:623-627,200913)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,200014)WuKY,WangHZ,HongSJ:Effectoflatanoprostonculturedporcinecornealstromalcells.CurrEyeRes30:871-879,2005***

Dynamic Contour Tonometer を用いた緑内障視野障害様式の検討

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)821《原著》あたらしい眼科27(6):821.825,2010cはじめに特徴的な視神経萎縮と視野欠損を生じ,他の疾患や先天異常が否定される開放隅角緑内障は,眼圧の測定値から一般的に20mmHg程度を境界として,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)と原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG,狭義の開放隅角緑内障)として,これまで便宜的に区別されてきた1).眼圧の程度と視野障害様式の違いについて,いくつかの検討がなされている.堀ら2)は,NTGは下方Bjerrum領域に,POAGは上方視野に障害が強いことを示した.Caprioliら3),Chausenら4)はPOAGに比べ,NTGはより局所性の障害であると報告をしている.しかし両疾患の差異,すなわち眼圧の程度と視野障害様式の関係についての明らかな結論は得られていない.そもそも眼圧には日内変動や季節変動なども知られており5,6),このように変動のある眼圧を,ある時点で計測した測定値を基準にして緑内障の分類を行うことに正当性がある〔別刷請求先〕山口泰孝:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YasutakaYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerを用いた緑内障視野障害様式の検討山口泰孝*1白木幸彦*1梅基光良*1木村忠貴*2植田良樹*1*1市立長浜病院眼科*2北野病院眼科DynamicContourTonometerUseinComparingVisualFieldDefectsinGlaucomaYasutakaYamaguchi1),YukihikoShiraki1),MitsuyoshiUmemoto1),TadakiKimura2)andYoshikiUeda1)1)DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitanoHospital視野障害様式が上方と下方で異なる広義開放隅角緑内障眼について,眼圧,眼球脈波(OPA),中心角膜厚,眼圧下降剤(ラタノプロスト,チモロール)への反応性を比較した.眼圧測定には,Goldmann圧平眼圧計(GAT)とdynamiccontourtonometer(DCT)を用いた.対象は上半視野障害を有する緑内障眼114例142眼,下半視野障害を有する緑内障眼75例93眼と健常眼50例100眼である.視野障害様式によるGAT測定眼圧,DCT測定眼圧,OPAおよび中心角膜厚の有意差は認めなかった.両群ともチモロールはラタノプロストより眼圧下降効果が弱かった.チモロールのDCT測定による収縮期眼圧(DCT測定眼圧+OPA)下降率は,上方視野障害群が下方視野障害群より有意に低値であった.また,上方視野障害群はチモロールによるOPA下降が得られなかった.Toinvestigatethedifferenceofthenatureoftheeyesbetweenthevisualfielddefectsbroughtonbyprimaryopen-angleglaucoma,defectlocalizationwasclassifiedinto2groups:upperdefectpatternandlowerdefectpattern.Weanalyzedintraocularpressure(IOP),ocularpulseamplitude(OPA),centralcornealthickness,andtheeffectofeitherlatanoprostortimolol.IOPwasmeasuredusingtheGoldmannapplanationtonometer(GAT)andthedynamiccontourtonometer(DCT),whichalsogavetheOPAmeasurement.Thesubjectscomprised142eyesof114patientsthathadupperdefectpattern,93eyesof75patientsthatshowedlowerdefectpattern,and100eyesof50patientswithnosignsofglaucomaasnormalcontrol.DifferencebetweenthetwopatternswasnotsignificantforIOP,OPAorcentralcornealthickness.TimololwaslesseffectiveinreducingIOPthanwaslatanoprost,foreitherpattern.Timololwaslesseffectivefortheupperdefectpatterneyes;thesystolicIOPdecrease(DCT-IOP+OPA)waslessprominentthaninthelowerdefectpatterneyes,andOPAreductionwasnotsignificant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):821.825,2010〕Keywords:ダイナミックカンタートノメーター,視野障害,眼圧,眼球脈波.dynamiccontourtonometer,visualfielddefect,intraocularpressure,ocularpulseamplitude.822あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(108)かは疑問のあるところである.加えて近年,緑内障視神経障害の機序について,眼圧のほかに眼循環の要素も提唱されている7)が,疫学的な結論が得られているとはいえない.いずれにしても,高眼圧は緑内障視神経障害の進行因子の一つであり8,9),眼圧の程度が緑内障による視神経障害の性質に関与するかは興味のあるところである.今回筆者らは,緑内障を視野障害様式の面から上半視野障害群と下半視野障害群に分類し,各症例の眼圧,眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA),中心角膜厚,眼圧下降剤への反応性について,比較検討した.眼圧測定には,Goldmann圧平眼圧計(GAT)とともにdynamiccontourtonometer(DCT)を用いた.DCTはセンサーによる測定装置であり,角膜剛性の影響を受けることなく眼圧を測定することができ,その値は小数点以下第1位まで表示される.筆者らは,緑内障治療においてDCTが眼圧の相対的変動の指標を測定する装置として,GATと同様に用いることができることを報告している10).また,DCTでは収縮期眼圧と拡張期眼圧の差であるOPAを同時に測定される11,12).OPAは脈絡膜循環に関与しているといわれている13)が,GATでは測定不可能である.眼圧降下剤は,眼圧下降機序が異なるとされるラタノプロストとチモロールの2剤の効果について,視野障害様式による差異を検討した.I対象および方法対象は,上半視野障害を有する緑内障眼114例142眼(男性57例,女性57例),平均年齢67.9±1.0(30.92)歳と,下半視野障害を有する緑内障眼75例93眼(男性43例,女性32例),平均年齢67.1±1.3(29.90)歳である.正常対照群として,白内障以外の内眼疾患を有さない健常眼50例100眼(男性22例,女性28例),平均年齢72.8±0.9(33.87)歳を用いた.対象から屈折度(等価球面度数)が.6D未満または眼軸長が26mmを超える強度近視眼は除外した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用いられ,点眼薬の処方や変更については患者の同意のうえで行うなど,すべての手順はヘルシンキ宣言の指針に基づいて行われた.緑内障眼は視神経乳頭所見および視野異常から診断され,Goldmann視野計で上方または下方に限局もしくは明らかにより進行した半視野障害を認め,湖崎分類a.bに相当する初期から中期の視野障害を有するものを対象とした.さらに光干渉断層計OCT3000(Zeiss社)を用いて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層(RNFL)厚を測定し,RNFLthicknessaverageanalysisを用いて解析,上方下方それぞれの平均RNFL厚を求めた.黄斑部網膜厚も同時に測定し,網膜厚の局所的な菲薄化を認め過去の網膜局所循環障害(網膜分枝動脈閉塞など)が疑われる症例は除外した.また,各症例についてHumphrey視野計で得られた結果をHfaFilesVer.5(Beeline社)で解析し,上下視野別に感度閾値と年代別正常値との差であるtotaldeviation(TD)を求め,対応するRNFL厚との解析を行った.GAT(Haag-Streit社)とDCT(ZeimerOphthalmic社,PascalR)を用いて,GAT測定眼圧(GAT値),DCT測定眼圧(DCT値)とOPAを測定した.DCTの測定値はQ=1.5のうち精度が上位の1,2,3を用いた.中心角膜厚は超音波角膜厚測定装置(TOMEY社,AL-1000)を用いて測定した.DCT値を「DCT拡張期眼圧」,DCT値+OPAを「DCT収縮期眼圧」としても扱った.対象症例のうち,上方視野障害群91眼,下方視野障害群58眼について,ラタノプロスト点眼とチモロール点眼の点眼効果を調べた.効果の比較の際にはwashout後2.4週間の点眼期間を設け,その前後にGAT値,DCT値,OPAを測定した.比較検討にはt検定,ノンパラメトリック検定を用い,p<0.05を有意とした.II結果まず上方視野障害群,下方視野障害群について,上方視野,下方視野別のTDを求め図1に示した.Goldmann視野計で半視野障害の判定を行っているため,Humphrey視野計の結果と必ずしも一致しない症例も認めたが,図の分布からはおおむね半視野障害の選別は適切であったと考えられた.つぎに両群の上下視野別の視神経乳頭周囲平均RNFL厚とTDの関係を図2に示した.両群とも視野障害側に相当する視神経周囲RNFL厚が菲薄化しており,Ajtonyら14)の報告同様,RNFL厚とTDには正の相関があることが確認できた.GAT値(健常眼13.9±0.3mmHg,上方視野障害群16.4○:上半視野障害群+:下半視野障害群上半視野TD(dB)下半視野TD(dB)-5-15-25-35-35-25-15-5図1上方視野障害群と下方視野障害群の上下半視野別TD(109)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010823±0.3mmHg,下方視野障害群17.8±0.6mmHg),DCT値(健常眼18.9±0.3mmHg,上方視野障害群21.7±0.4mmHg,下方視野障害群23.2±0.7mmHg),OPA(健常眼2.4±0.1mmHg,上方視野障害群2.9±0.1mmHg,下方視野障害群2.8±0.1mmHg)はいずれも緑内障眼が健常眼より有意に高値であったが,視野障害様式による眼圧の有意差はなかった(表1).健常眼について,DCT拡張期眼圧とDCT収縮期眼圧の各値と,GAT値との関係を図3に示した.ともにGAT値と強い相関があり,その相関係数は近似していた(DCT拡張期眼圧r=0.61,DCT収縮期眼圧r=0.63).中心角膜厚は上方視野障害群(524.6±3.5μm),下方視野障害群(530.3±5.3μm)ともに健常眼(536.0±3.4μm)より表1対象症例の平均GAT値,DCT値,OPA,中心角膜厚健常眼上方視野障害群下方視野障害群2群間の有意差GAT値(mmHg)13.9±0.316.4±0.3*17.8±0.6*NSDCT値(mmHg)18.9±0.321.7±0.4*23.2±0.7*NSOPA(mmHg)2.4±0.12.9±0.1*2.8±0.1*NS中心角膜厚(μm)536.0±3.4524.6±3.5*530.3±5.3NS*健常眼との有意差あり(p<0.05).050100RNFL厚(μm)a:上方視野障害群○,太線:上方視野+,細線:下方視野○,太線:上方視野+,細線:下方視野TD(dB)150050100RNFL厚(μm)b:下方視野障害群1505-5-15-25-35TD(dB)5-5-15-25-35図2RNFL厚とTD+,細線:DCT収縮期眼圧○,太線:DCT収張期眼圧25155515GAT値(mmHg)DCT拡張期,収縮期眼圧(mmHg)25図3健常眼のGAT値とDCT拡張期眼圧,収縮期眼圧5040302010001020304050点眼後DCT値(mmHg)点眼前DCT値(mmHg)a:上方視野障害群5040302010001020304050点眼後DCT値(mmHg)点眼前DCT値(mmHg)b:下方視野障害群○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール図4点眼前後のDCT値824あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(110)薄い傾向にあり,特に上方視野障害群は健常眼より有意に低値であった.視野障害様式による有意差はなかった(表1).上下視野障害別に緑内障点眼前後のDCT値を図4に示した.上方視野障害群の無点眼下での平均DCT値は21.6±0.4mmHgであり,ラタノプロスト点眼後は18.3±0.4mmHg,チモロール点眼後は20.1±0.4mmHgに有意に下降した(2剤間の有意差あり).下方視野障害群の無点眼下での平均DCT値は23.2±0.8mmHgであり,ラタノプロスト点眼後は19.2±0.5mmHg,チモロール点眼後は20.4±0.7mmHgに有意に下降した(2剤間の有意差あり).上方視野障害群で,ラタノプロストは点眼前DCT値が18mmHg以下,チモロールは22mmHg以下の症例において,点眼前後のDCT値に有意差はなかった.対して下方視野障害群では,ラタノプロストは点眼前DCT値が17mmHg以下,チモロールは18mmHg以下の症例において,点眼前後のDCT値に有意差はなかった.さらにDCT拡張期眼圧とDCT収縮期眼圧について,平均眼圧下降率を検討した.DCT拡張期眼圧は,上方視野障害群でラタノプロスト14.3±1.5%,チモロール5.8±1.7%(2剤間の有意差あり),下方視野障害群でラタノプロスト15.7±1.9%,チモロール11.1±1.6%(2剤間の有意差あり)であった.DCT収縮期眼圧は,上方視野障害群でラタノプロスト14.1±1.4%,チモロール5.6±1.7%(2剤間の有意差あり),下方視野障害群でラタノプロスト15.7±1.8%,チモロール11.1±1.5%(2剤間の有意差あり)であった.特にチモロール点眼によるDCT収縮期眼圧の下降率は,上方視野障害群よりも下方視野障害群で有意に高かった.点眼前後のOPAを図5に示した.無点眼下での平均値は2.8±0.1mmHgであったが,上方視野障害群のラタノプロスト点眼後は2.5±0.1mmHg,チモロール点眼後は2.8±0.1mmHg(2剤間の有意差あり)に,下方視野障害群のラタノプロスト点眼後は2.4±0.1mmHg,チモロール点眼後は2.5±0.1mmHg(2剤間の有意差なし)に変動を認めた.上方視野障害群のチモロール点眼後のみ,点眼前後の有意差を認めなかった.図6に,対象となった症例について,左右眼の視野障害様式を示した.同一症例でも左右眼で視野障害様式が上方視野障害と下方視野障害の異なるものが6%存在した.III考按健常眼の検討でGAT値はDCT拡張期眼圧ともDCT収縮期眼圧とも同程度に強く相関した.すなわち,通常得られるGAT値は,DCTから得られる細分化された値のいずれをもより反映することはないようである.これは,実際の計測手順を考慮すれば仕方のないことであろう.上下の視野障害様式によるGAT値,DCT値,OPAおよび中心角膜厚の有意差は認めなかった.症例の除外診断においては,視野欠損の自覚を得やすいと思われる下方視野に相当する上方の黄斑部網膜が明らかに局所性の循環障害で菲薄化した症例があり,過去においてNTGとされた症例にこのような症例が混在することで解析を混乱させた可能性があ点眼後OPA(mmHg)点眼前OPA(mmHg)64200246a:上方視野障害群点眼後OPA(mmHg)点眼前OPA(mmHg)64200246b:下方視野障害群○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール○,太線:ラタノプロスト+,細線:チモロール図5点眼前後のOPA39%上-健下-健上:上方視野障害眼健:健常眼下:下方視野障害眼進:視野障害進行眼上-上上-進上-下下-進下-下25%15%6%6%2%7%図6対象緑内障眼の左右視野障害様式の内訳(111)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010825る.いまや緑内障の解析に網膜三次元画像診断は必須といえる.視野障害様式に関わりなく,DCT値下降作用ならびにOPA下降作用はチモロールよりラタノプロストが優位であった.特に上方視野障害群においては,ラタノプロストに比べてチモロールの効果が得られにくく,点眼前DCT値が22mmHg以下の症例(GAT値平均14.8mmHg以下)でよりその効果は認められなかった.下方視野障害群に関しては,下降度の有意差を示す作用点としてのDCT値は,ラタノプロストとチモロールにそれほどの違いはなかった.眼圧下降のみを主眼とするなら,上方視野障害を有する正常眼圧緑内障眼には,問題なくラタノプロストが第一選択といえる.ただし,実際の視野障害進行防止効果については長期的な解析が必要である.このように,視野障害様式によりb遮断薬に対する反応性が異なることが明らかになった.Nicolelaら15)は緑内障および高眼圧症患者にラタノプロストとチモロールを各々投与し,カラードップラーを用いて点眼後の球後血流への影響を比較している.そこでラタノプロストは球後血流に変化を及ぼさなかったが,チモロールは血流速度の低下を認めたと報告している.今後同様の検討を視野障害様式ごとに分類して行うことで,網膜血流と視野障害の関連について新たな考察が可能となるかもしれない.筆者らは以前に,OPAとDCT値の相関は決して高くないこと(健常眼r=0.31,緑内障眼r=0.26)を明らかにした10).すなわちDCT値に伴いOPAも変動するが,必ずしもその程度は同様ではない.眼圧下降によって緑内障の視野障害進行を阻止できることは示されている8,9).OPAは眼圧の一部である一方で,脈絡膜循環を反映するともいわれている13).OPAの低下が視野に関して与える影響については,今後OPAの値自体を分類の指標とし解析する必要がある.同一症例で視野障害様式が左右異なる場合があった.視野障害様式の決定は,眼球自体の要素がより強く関わるのかもしれない.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)堀純子,相原一,鈴木康之ほか:正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障の中.末期における視野障害様式の比較.日眼会誌98:968-973,19943)CaprioliJ,SearsM,MillerJM:Patternsofearlyvisualfieldlossinopenangleglaucoma.AmJOphthalmol103:512-517,19874)ChausenBC,DranceSM,DouglasGRetal:Visualfielddamageinnormal-tensionandhigh-tensionglaucoma.AmJOphthalmol108:636-642,19895)LiuJH,KripkeDF,TwaMDetal:Twenty-four-hourpatternofintraocularpressureintheagingpopulation.InvestOphthalmolVisSci40:2912-2917,19996)BlumenthalM,BlumenthalR,PeritzEetal:Seasonalvariationinintraocularpressure.AmJOphthalmol69:608-610,19707)HarringtonDO:Thepathogenesisoftheglaucomafield:Clinicalevidencethatcirculatoryinsufficiencyintheopticnerveistheprimarycauseofvisualfieldlossinglaucoma.AmJOphthalmol47:477-482,19598)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19989)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,199810)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療.あたらしい眼科26:695-699,200911)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,200412)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200813)TrewDR,SmithSE:Postualstudiesinpulsatileocularbloodflow:II.Chronicopenangleglaucoma.BrJOphthalmol75:71-75,199114)AjtonyC,BallaZ,SomoskeoySetal:Relationshipbetweenvisualfieldsensitivityandretinalnervefiberlayerthicknessasmeasuredbyopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci48:258-263,200715)NicolelaMT,BuckleyAR,WalmanBEetal:Acomparativestudyoftheeffectsoftimololandlatanoprostonbloodflowvelocityoftheretrobulbarvessels.AmJOphthalmol122:784-789,1996***

日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)687《原著》あたらしい眼科27(5):687.690,2010cはじめにプロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,プロスト系薬剤)は現在眼圧下降治療薬のなかで最大の眼圧下降効果を有し,終日にわたる眼圧下降作用と眼圧変動幅抑制効果の点でも優れている.さらに,1回点眼であることと局所のみの副作用により,良いアドヒアランスが見込まれ,第一選択薬としての地位を確立している.すでに4種類のプロスト系薬剤が発売されているが,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは海外での臨床データが蓄積し,最近のメタアナリシス解析でもほぼ同様な25.30%の眼圧下降効果を有することが判明している1).日本で発売されて10年になるラタノプロストは,日本人正常眼圧緑内障(NTG)を対象〔別刷請求先〕相原一:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MakotoAihara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果大谷伸一郎*1湖.淳*2鵜木一彦*3竹内正光*4宮田和典*1相原一*5*1宮田眼科病院*2湖崎眼科*3うのき眼科*4竹内眼科医院*5東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学IntraocularPressure-ReductionEffectofSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinJapaneseNormal-TensionGlaucomaPatientsShin-ichiroOtani1),JunKozaki2),KazuhikoUnoki3),MasamitsuTakeuchi4),KazunoriMiyata1)andMakotoAihara5)1)MiyataEyeHospital,2)KozakiEyeClinic,3)UnokiEyeClinic,4)TakeuchiEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine日本人正常眼圧緑内障(NTG)眼におけるトラボプロスト0.004%(トラバタンズR)点眼による眼圧下降効果をラタノプロスト0.005%(キサラタンR)点眼液からの前向き切り替え試験で検討した.4施設において日本人NTG眼57例57眼をエントリーし前向きに眼圧,視力,充血,角膜上皮障害を,切り替え後1,3カ月後に評価し,エントリー時と比較検討した.3カ月間持続点眼できた38例のエントリー時,1,3カ月の眼圧はそれぞれ13.4±2.3,12.8±2.0,12.7±1.8mmHg(平均±標準偏差)であり有意な眼圧下降効果が得られた(paired-ttest,p<0.05).視力,充血には変化がなかったが,角膜上皮障害は1カ月で著明に改善し,その後3カ月間悪化しなかった.トラボプロスト点眼液は,日本人正常眼圧緑内障眼に対してラタノプロストと同様な眼圧下降効果が期待でき,また角膜上皮障害を惹起しにくいことが示された.Theintraocularpressure(IOP)-loweringeffectoftravoprost0.004%inJapanesenormal-tensionglaucoma(NTG)patientswasprospectivelyassessedbyreplacinglatanoprost0.005%withtravoprostat4eyecenters.Inthe57NTGpatientsenrolled,IOP,visualacuity,hyperemiaandocularsurfacedamagewereevaluatedat1and3months.In38patientsthatcompletedtheprotocol,IOPatentry,1and3monthswas13.4±2.3mmHg,12.8±2.0mmHgand12.7±1.8mmHg,respectively.IOPat1and3monthswassignificantlyreducedcomparedtothevalueatentry(p<0.05).Therewasnosignificantdifferenceinvisualacuityorhyperemiaamongthe3timepoints,whereascornealepitheliopathywassignificantlyimprovedat1monthandwasnotworsenedat3months.TravoprosthasanIOP-loweringeffectsimilartothatoflatanoprostinJapaneseNTGpatients,andhaslessdetrimentaleffectonthecornealsurfacethandoeslatanoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):687.690,2010〕Keywords:緑内障,眼圧,ラタノプロスト,トラボプロスト,塩化ベンザルコニウム.glaucoma,intraocularpressure,latanoprost,travoprost,benzalkoniumchloride.688あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(116)とした研究においても,約10.20%の眼圧下降効果を示し,さらにベースライン眼圧が15mmHg以下の場合でも1mmHg以上の有意な眼圧下降効果が得られており2.5),特に低眼圧で眼圧下降効果が得られにくい患者には,確実な眼圧下降効果を示しアドヒアランスを向上させるために重要な薬物である.しかし,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは15mmHg以上の緑内障患者を対象に治験が行われており,純粋にNTGを対象とした治験や報告はない.一方,国内開発のタフルプロストは臨床開発治験において原発開放隅角緑内障(OAG)を対象にラタノプロストに対して非劣勢の眼圧下降効果を示し,またNTG眼を対象に4週間で.4mmHgの有意な眼圧下降を有していることが第三相試験で判明している(タフルプロストインタビューフォーム).しかし,NTGを対象にラタノプロストと比較した報告はなく,長期使用における眼圧下降効果も不明である.プロスト系関連薬トラボプロストのトラバタンズR0.004%点眼液は,防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)を含有せず,SofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入している.日本でのトラボプロスト点眼液導入に際し,臨床治験では,BAC含有0.004%トラボプロスト(トラバタンR)を用いたNTGを含むOAGを対象にしていたため,SofZiaR含有0.004%トラボプロスト(トラバタンズR)の日本人NTGにおける眼圧下降効果の報告はない.BACは界面活性剤であるため,細胞膜の透過性を亢進させ細胞を破壊することによる抗菌作用をもつ一方,薬剤透過性を亢進する可能性があるため,BACの有無は薬効に影響することが懸念される.そこで,日本人NTG患者におけるキサラタンRからの切り替えによる眼圧下降効果を多施設で前向きに3カ月にわたり検討した.I対象および方法1.対象参加4施設(宮田眼科病院,うのき眼科,湖崎眼科,竹内眼科医院)に2008年1月から2月にかけて通院中の患者のうち,すでにNTGと診断された患者で,3カ月以上ラタノプロスト(キサラタンR)点眼液を単剤投与されている57例57眼を対象にした.評価対象眼は両眼NTGの場合は眼圧が高いほうもしくは同じ場合は右眼とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則し,共同設置の倫理委員会の承認を経て,患者からの同意を得たうえで実施された.2.方法エントリー時にラタノプロスト点眼液をトラボプロスト点眼液に切り替え,変更前および変更後1および3カ月の午前もしくは午後の同一時間帯に受診後,視力を測定,結膜充血の観察,さらにフルオレセイン染色による角膜病変をコバルトブルーフィルターもしくはブルーフリーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察,眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.主要評価項目は眼圧であり,変更前エントリー時の眼圧測定値と,変更後1および3カ月の測定値とをpairedt-testにて比較した.副次的評価項目である角膜病変は点状表層角膜症(SPK)をAD分類6)を用いて評価し,結膜充血は4施設共通の標準写真を用いて,正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階に分類した.II結果試験期間中の1カ月以内に14例脱落があった.内訳は,充血6例,眼圧上昇2例(16から17mmHg,16から19mmHg),他は表1のとおりであり,少なくとも主剤に関係ある重大な副作用は認められなかった.さらに3カ月までに5例の脱落があり,その内訳は,理由不明の中止例が3例,来院しなかった2例であった.最終的に38例38眼(エントリー中67.2%)が3カ月間持続点眼可能であった.38例は男性8例,女性30例,平均年齢68.2±10.7歳(34.82歳)であった.エントリー時,変更後1,3カ月の視力は,logMAR視力で0.89,0.86,0.84と有意差がなかった.眼圧は図1のとおり,エントリー時13.4±2.3mmHgに対し,変更後1カ月で12.8±2.0mmHg,3カ月で12.7±1.8mmHgと有意に切り替え眼圧(mmHg)20151050*p=0.02*p=0.03エントリー時(ラタノプロスト)トラボプロスト変更1カ月後継続期間(月)トラボプロスト変更3カ月後13.4±2.312.8±2.012.7±1.8図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧の推移n=38,paired-ttest,p=0.01(1カ月),p=0.03(3カ月).表13カ月経過観察中の脱落理由1カ月以内脱落理由充血異物感不快感頭痛,めまい眼圧上昇眼圧変化がないため6例131213カ月以内脱落理由原因不明通院せず32(117)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010689下降した(paired-ttest,p=0.02,0.03).SPKのAD分類の変化を表2に示す.エントリー時にSPKを認めた症例は38例中18例(47.4%)であった.A1D1が13例(34.2%),A1D2が1例(2.6%),A2D1が3例(7.9%),A2D2が1例(2.6%)であったが,変更後1,3カ月でA1D1が2例(5.3%)ずつと著明に改善した(c2検定,p<0.01).結膜充血はエントリー時に軽度充血が5例,変更後1カ月で8例,3カ月で0例であった.III考按今回の検討は,同系統のプロスト系薬剤であるラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる日本人NTG眼に対する長期眼圧下降効果であるが,BAC含有ラタノプロストから,BAC非含有トラボプロストに切り替えたことにより,BACによるオキュラーサーフェスへの影響と主剤のプロスト系の効果とがともに影響した結果であり,単純に主剤の効果を比較検討したものではない.過去のBAC含有点眼液トラボプロストとラタノプロストの緑内障および高眼圧症患者を対象にした眼圧下降効果を比較したメタアナリシスの報告7)では,ともに点眼後のトラフ値,ピーク値でラタノプロストが28%,31%,トラボプロストが29%,31%と同様な眼圧下降を呈することがわかっている.ただし,これらのメタアナリシスの解析に用いられた報告はトラボプロストについてはBAC含有点眼液であり,最近わが国で発売されたBAC非含有,SofZiaR含有点眼液での報告ではない.筆者らはすでに,BAC非含有トラボプロスト0.004%点眼液(トラバタンズR0.004%点眼液)の日本人健常眼に対する単回点眼による眼圧下降効果を,前日同時刻と比較することにより日内変動の影響を抑えた評価方法により評価した.その結果,BAC非含有トラボプロスト点眼は,正常眼に点眼後12時間で3.5mmHg(26.9%)の眼圧下降を呈した8).したがって,防腐剤が代わりBAC非含有となっても,眼圧下降には影響しないと考えられた.さらに,海外欧米人におけるOAGおよび高眼圧症(OH)を対象とした,BAC含有および非含有トラボプロスト点眼による眼圧下降効果には差がないことが報告されており9),日本人緑内障患者においてもBACの有無にかかわらず,トラバタンズR0.004%による眼圧下降効果が期待できると考え,今回日本人NTG対象にBAC含有キサラタンR単独投与症例に対して切り替え試験により前向き研究を行った.海外のラタノプロストからトラボプロスト(ともにBAC含有)切り替え試験では,眼圧はより下降もしくは同等であったと報告されている10.12).今回は日本人NTGを対象として3カ月でキサラタンRと比較し,約1mmHgの眼圧下降効果が有意に得られたことは,海外のNTGを含む早期緑内障を対象にした大規模試験であるEarlyManifestTrialでも示されているように1mmHgの眼圧下降は進行のリスクを約10%軽減させる13)ということからも,十分意義あるものと考える.今回のスタディではNTGと診断された症例ですでに3カ月ラタノプロストを投与された症例を対象にしたが,ベースライン眼圧の測定が必ずしも同一施設でなされていないため,純粋にNTGに対する眼圧下降効果を測定できていないが,ラタノプロストと同等以上の効果を有する結果となり,過去の切り替え試験での有効症例の存在に関する報告10)も合わせて考えれば,NTGを対象にしてもある種類のプロスト系薬剤に低反応性であれば切り替える意義は十分あることを裏付けている.ただし,今回はラタノプロスト点眼時の眼圧をエントリー時1回で評価している点が眼圧下降評価研究計画上の問題である.結果として切り替えにより有意差が得られたものの,この点を考慮して少なくともラタノプロストからトラボプロストへの切り替え試験により同等な結果,眼圧下降効果を有すると結論づけた.また,ベースライン眼圧が不明であるため,本対象症例のなかでラタノプロストに対する反応性とトラボプロストに対する反応性の相関を比較できなかった.今後は無治療NTGを対象に無作為平行群間比較試験かつ薬剤のクロスオーバーを行って,個々の症例でのプロスト系薬剤への反応性の相違を検討すべきであると考える.今回眼圧が切り替えにより平均で有意に下降した理由は,主剤自体の特徴と対象眼の感受性の問題が第一にあると考えられる.トラボプロストはラタノプロストに比べ,末端フェニル基にフッ素が付き化学構造を安定化させることにより効果を持続させている可能性があり,他のプロスト系薬剤と比べ細胞内シグナルのイノシトール代謝物を最大限惹起できること14)や,最終点眼後の眼圧下降持続効果が高いこと15)が報告されている.また,作用点であるFP受容体の遺伝的多型や発現分布なども薬理効果の相違につながると考えられるが確証は得られておらず,今後の課題である.第二の理由として,切り替えによるアドヒアランスの改善が考えられる.今回は初回エントリー57症例中1カ月で14例,3カ月で5例の症例が脱落した(表1).脱落理由に眼圧下降不良が2例あるが1回の測定による軽微な変化であり持続的変化であるかは判定していない.切り替え試験も含め眼圧下降作用を確表2AD分類によるSPKの推移A0A1A2A3D020→36→36D113→2→23→0→00D21→0→001→0→0D3000数字はエントリー時→1カ月後→3カ月後の症例数を示す.690あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(118)認する研究では,脱落例が生じることは否めず,脱落例に眼圧上昇例が多く含まれていれば結果に影響するが,今回19例の脱落中,眼圧下降不良という理由であった例はわずか2例であり,16から17mmHg,16から19mmHgへ上昇した例であった.残り17例は眼圧上昇以外の理由であり表1に示したとおりで,眼圧も変化がなかったか下降した例であるため,これら脱落例を含めても少なくとも今回の切り替え試験により眼圧が悪化したことにはならないと考える.むしろ主剤そのものに対して眼圧下降反応が低いというよりも,表1にあるような,持続的に起こる充血やしみるといった製剤の特徴により,脱落することが多いことがわかる.たとえば充血を理由にした脱落は6例(10%)存在する.また,不快感や異物感に関連するオキュラーサーフェスへの影響も重要なアドヒアランス良否に関わる因子である.今回3カ月継続可能であった38例の角膜障害は1カ月後著明に改善し,さらに3カ月までその改善効果が持続した.これは,すでに筆者らが報告したOAG,OH患者114例を対象にラタノプロストからトラボプロストに切り替えた試験と同様,有意な角膜上皮障害改善を示す結果であった16).したがってBAC非含有製剤であるトラバタンズRはオキュラーサーフェスへの影響が少ないことが示唆された.このような主剤の効果以外のアドヒアランスの影響を考えると,今回3カ月持続点眼可能であった症例は,実はアドヒアランスが不良であったが,トラバタンズRへの切り替えにより角膜障害が改善して,点眼アドヒアランスが良好となり,眼圧がより下降した可能性がある.患者によって副作用はかなり異なるが,少なくとも個々の患者にとってアドヒアランスが良い点眼,すなわち副作用が少なく,差し心地が良い点眼は,主剤の眼圧下降効果以上に重要な因子であると考える.緑内障患者は点眼薬を長期にわたり多剤併用することが多く,点眼液の主剤のみならず防腐剤を含めた基剤も複雑に影響して眼表面への副作用を惹起しやすい状況にあり,点眼に対するアドヒアランスが眼圧下降効果に大きく影響すると考えられる.したがって,眼圧のみにとらわれず,患者の生活環境や性格と眼表面への副作用,点眼時の印象も加味して治療効果を評価する姿勢が重要である.その点でトラバタンズR点眼液のように主剤としてNTGを対象にしても十分な眼圧下降効果が得られ,かつ防腐剤を改良したオキュラーサーフェスに優しい点眼液は,今後の点眼治療薬としての理想的な方向性を示している.今回は3カ月間の経過を追った研究であるが緑内障の長期管理は年単位であり,今後はさらに1年以上の長期点眼による影響を再評価する必要がある.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20033)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20034)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,20035)緒方博子,庄司信行,清水公也ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト単剤変更1年後の眼圧,視野,視神経乳頭形状の検討.臨眼59:943-947,20056)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20037)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20058)大島博美,新卓也,相原一ほか:日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲検単回点眼試験による眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科26:966-968,20099)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200710)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,200411)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200112)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,200313)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)SharifNA,KellyCR,CriderJY:Humantrabecularmeshworkcellresponsesinducedbybimatoprost,travoprost,unoprostone,andotherFPprostaglandinreceptoragonistanalogues.InvestOphthalmolVisSci44:715-721,200315)SitAJ,WeinrebRN,CrowstonJGetal:Sustainedeffectoftravoprostondiurnalandnocturnalintraocularpressure.AmJOphthalmol141:1131-1133,200616)湖.淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,2009

ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(123)4010910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):401410,2010c〔別刷請求先〕北澤克明:〒145-0071東京都大田区田園調布4-37-19Reprintrequests:YoshiakiKitazawa,M.D.,Ph.D.,4-37-19Denenchofu,Ohta-ku,Tokyo145-0071,JAPANビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験北澤克明*1米虫節夫*2*1赤坂北澤眼科*2大阪市立大学大学院工学研究科Single-Masked,Randomized,Parallel-GroupComparisonofBimatoprostOphthalmicSolutionandLatanoprostOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionYoshiakiKitazawa1)andSadaoKomemushi2)1)AkasakaKitazawaEyeClinic,2)GraduateSchoolofEngineering,OsakaCityUniversity原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤(0.03%)を12週間点眼したときの有効性および安全性を無作為化単盲検群間比較試験により0.005%ラタノプロスト点眼剤(LAT)と比較した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤(0.01%)と0.03%を比較し,本剤の至適濃度を確認した.治療期終了時の投与開始日からの眼圧変化値を主要評価として比較した結果,LATに対する0.03%の非劣性が検証された.0.03%の眼圧変化値はすべての時点でLATより大きく,投与2週間後においては両群間に有意な差が認められた.また,眼圧値,眼圧変化率および目標眼圧達成率の比較により,0.03%の眼圧下降効果はLATよりも高いことが確認できた.0.03%の副作用発現率はLATより高いものの臨床的に問題となるものではなかったことから,0.03%はLATに劣らず臨床的に有用な薬剤であると考えられた.また,0.03%の眼圧下降効果は0.01%より強く,同程度の安全性を有することから,0.03%が至適用量であることが確認できた.Intermsofecacyandsafety,0.03%bimatoprostophthalmicsolution(0.03%)wascomparedwith0.005%latanoprostophthalmicsolution(LAT)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhyperten-sion(OH),afteronce-dailyinstillationfor12weeksinasingle-masked,randomized,parallel-groupcomparisonstudy.Ecacyandsafetywerealsocomparedbetween0.01%and0.03%bimatoprost,inordertoconrmtheoptimalconcentration.Thenon-inferiorityof0.03%toLATwasdemonstratedwithregardtointraocularpressure(IOP)-loweringecacyasaprimaryendpoint.TheIOPreductionfrombaselinewith0.03%wasgreaterthanthatwithLATandthedierencewasstatisticallysignicantbetween0.03%andLATat2weeks;moreover,0.03%wasmorepotentthanLATintermsofIOPvalue,%reductionofIOPand%ofpatientsreachingtargetIOP.Althoughtheadversedrugreaction(ADR)incidenceratewashigherwith0.03%thanwithLAT,noneoftheADRswith0.03%wereclinicallyproblematic.Theseresultsshowthat0.03%isclinicallyusefulinthetherapyforpatientswithPOAGandOHandhasaprolethatisnotinferiortoLAT.TheIOP-loweringecacyof0.01%waslessthanthatof0.03%,buttheincidencerateofADRwith0.01%wasthesameasthatwith0.03%.Theoptimalconcentrationofbimatoprostwasthereforeconrmedtobe0.03%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):401410,2010〕Keywords:ビマトプロスト,ラタノプロスト,緑内障,眼圧,臨床試験.bimatoprost,latanoprost,glaucoma,intraocularpressure,clinicaltrial.———————————————————————-Page2402あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(124)はじめに現在,日本国内の眼科一般臨床で最も汎用されている緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬の0.005%ラタノプロスト点眼剤(キサラタンR,以下,ラタノプロスト点眼剤)である.ラタノプロスト点眼剤は,結膜充血,睫毛の成長,眼瞼や虹彩の色素沈着などの美容上の副作用が発現するものの,その強力な眼圧下降効果により最も汎用されている1,2).しかしながら,一方でラタノプロスト点眼剤のノンレスポンダーが1040%存在することが報告37)されており,すべての患者に有効な治療薬とはなりえていない.近年販売開始となったトラボプロスト点眼剤(トラバタンズR)やタフルプロスト点眼剤(タプロスR)はラタノプロスト同様プロスタノイドFP受容体(以下,FP受容体)のアゴニストであり,ラタノプロストと同程度あるいはそれ以上の眼圧下降効果を有すると報告されている8,9).ビマトプロスト(図1)は,米国アラガン社において新規に合成された眼圧下降薬である.ビマトプロストは,内因性の生理活性物質であるプロスタマイドF2aと類似した構造を有する.このプロスタマイドF2aは,内因性カンナビノイドの一つであるアナンダマイドよりシクロオキシゲナーゼ2を介して生成されることが知られている10,11).また,プロスタマイドF2aは既存のプロスタグランジン関連薬のターゲットであるFP受容体をはじめ既知のプロスタノイド受容体には作用しないことが明らかとなっている12).近年FP受容体バリアント複合体が同定され,ビマトプロストはFP受容体に作用せずFP受容体バリアント複合体,すなわちプロスタマイド受容体に作用すること,また,眼圧下降効果を発揮するまでのシグナル伝達経路の一部も違いがあることが明らかとなった13,14).この新規の作用機序により,海外の臨床試験においてラタノプロスト点眼剤に対する無効例や効果不十分例に対して,ビマトプロスト点眼剤が有意な眼圧下降効果を示したと報告されている1517).緑内障の治療において,眼圧を下降させる薬物療法は欠かせないものであるが,国内の眼科一般臨床で使用されている緑内障治療薬にはそれぞれに問題点があり,さらには現時点では既存のプロスタグランジン関連薬と同程度あるいはそれ以上の効力を有し,作用機序の異なる薬剤は国内の臨床現場には存在しない.これらのことから,既存のプロスタグランジン関連薬で目標眼圧に達しない場合,薬理作用の異なる薬剤に変更するか,併用療法を選択することを余儀なくされており,このような背景から,新規の作用機序を有し,強力な眼圧下降効果をもつ緑内障治療薬の開発が望まれている.当該試験では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者における0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの眼圧下降効果が0.005%ラタノプロスト点眼剤と比べ劣らないことを,無作為化単盲検群間比較試験により検証し,このときの安全性を検討した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果を比較し,本剤の至適濃度を確認した.なお,本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法第14条第3項及び第80条の2に規定する基準並びに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.I方法1.治験実施期間および治験実施施設2005年7月から2006年6月までに,表1に示した54施設で実施した.実施に先立ち,治験実施計画について,各実施医療機関の治験審査委員会の承認を受けた.2.対象両眼ともに原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,点眼薬による治療のみで眼圧のコントロールが可能であり,投与開始日の眼圧が両眼とも34mmHg以下かつ有効性評価対象眼の眼圧が22mmHg以上,かつ満20歳以上の外来患者を対象とした.治験参加に先立ち,同意取得用の説明文書および同意文書を患者に手渡して十分説明したうえで,治験参加について自由意思による同意を文書で得た.なお,性別は不問としたが,つぎの患者は対象より除外した.1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)有効性評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術および線維柱帯切開術の既往を有する者4)同意取得時から過去3カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者5)投与開始1週間前から治療期間中を通じてコンタクトレンズの装用が必要な者6)治験薬の類薬に対し,アレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者7)妊娠,授乳中の者または妊娠している可能性のある者および妊娠を希望している者8)高度の視野障害がある者9)投与開始日から治療期間中を通じて併用禁止薬を使用する予定がある者HOHOHHHHHHNOHCH3O図1ビマトプロストの構造———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010403(125)10)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者11)同意取得時から過去3カ月内に他の臨床試験(医療用具を含む)に参加した者および他の治験に参加する予定の者12)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者3.治験薬および投与方法被験薬は1ml中にビマトプロストとして0.1mgまたは0.3mgを含むビマトプロスト点眼剤を,対照薬として1ml中にラタノプロストとして0.05mgを含むラタノプロスト点眼剤(ファイザー株式会社提供)を用いた.治験薬は1日1回午後8時10時の間に,片眼または両眼に1滴ずつ12週間点眼した.4.盲検性の維持および薬剤の割付本治験は,治験依頼者,治験責任医師および治験分担医師に対する盲検化により実施した.被験薬および対照薬は識別が可能であるが,点眼瓶を1本ずつ同一のラベルが表示された小箱(外観からは識別不能)に厳封し,そのまま被験者に処方した.治験薬はコントローラー(米虫節夫)により,小箱での外観上の識別不能性を確認した後,3症例分(0.01%および0.03%ビマトプロスト点眼剤:各1例,ラタノプロスト点眼剤:1例)を1組として無作為割付を行った.5.Washout眼圧下降薬,抗ヒスタミン作用を有する点眼薬,ステロイ表1治験実施医療機関医療機関治験責任医師*医療機関治験責任医師*花川眼科田辺裕子大阪府立急性期・総合医療センター内堀恭孝石丸眼科石丸裕晃労働者健康福祉機構大阪労災病院恵美和幸秋田大学医学部附属病院吉冨健志神戸大学医学部附属病院中村誠山形大学医学部附属病院山下英俊広島大学病院三嶋弘,塚本秀利,草薙聖新潟大学医歯学総合病院福地健郎さいたま赤十字病院川島秀俊広島県厚生農業協同組合連合会廣島総合病院二井宏紀東京大学医学部附属病院相原一宇部興産株式会社中央病院鈴木克佳,井形岳郎東京都老人医療センター大橋正明広田眼科広田篤東京逓信病院松元俊愛媛県立中央病院立松良之,松田久美子済安堂お茶の水・井上眼科クリニック(旧:済安堂井上眼科病院付属お茶の水・眼科クリニック)井上賢治旦龍会町田病院卜部公章久留米大学病院山川良治聖愛会中込眼科中込豊平成紫川会社会保険小倉記念病院小林博湘南谷野会谷野医院谷野富彦佐賀大学医学部附属病院沖波聡山梨大学医学部附属病院柏木賢治熊本大学医学部附属病院稲谷大むらまつ眼科医院村松知幸明和会宮田眼科病院宮田和典富士青陵会中島眼科クリニック中島徹陽幸会うのき眼科鵜木一彦杉浦眼科杉浦毅琉球大学医学部附属病院澤口昭一金沢大学医学部附属病院杉山和久オリンピア会オリンピア眼科病院井上洋一労働者健康福祉機構中部労災病院丹羽英康京都府立医科大学附属病院森和彦碧樹会山林眼科山林茂樹近畿大学医学部附属病院松本長太岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀,近藤雄司全国社会保険協会連合会星ヶ丘厚生年金病院坂上憲史京都大学医学部附属病院田辺晶代,板谷正紀神戸市立中央市民病院栗本康夫北川眼科医院北川厚子山口大学医学部附属病院相良健千照会千原眼科医院千原悦夫北海道大学病院陳進輝大阪医科大学附属病院杉山哲也春日部市立病院水木健二大阪大学医学部附属病院大島安正日本大学医学部附属板橋病院山崎芳夫市立池田病院張國中自警会東京警察病院安田典子大阪厚生年金病院狩野廉多治見市民病院岩瀬愛子*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した.(順不同)表2Washout期間薬剤および処置Washout期間眼圧下降薬副交感神経作動薬2週間以上炭酸脱水酵素阻害薬2週間以上交感神経作動薬2週間以上交感神経遮断薬4週間以上プロスタグランジン関連薬4週間以上2剤以上の併用4週間以上その他抗ヒスタミン作用を有する点眼薬1週間以上ステロイド薬(全身投与,結膜下投与,眼軟膏を含む点眼投与,眼瞼への塗布).ただし,皮膚局所投与は可とする.1週間以上コンタクトレンズ装用1週間以上———————————————————————-Page4404あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(126)ド薬およびコンタクトレンズを使用している被験者に対しては,表2に示したWashout期間を設定した.6.検査・観察項目投与2,4,8および12週間後に,眼圧検査および細隙灯顕微鏡などを用いた他覚所見の観察(眼瞼,結膜,角膜,虹彩,水晶体および前房)を行った.眼圧は午前8時11時の間に測定した.投与開始日,4および12週間後に睫毛,眼瞼および虹彩の写真撮影を行った.また,スクリーニング時および投与12週間後に視力,眼底および視野検査を行った.7.併用薬および併用処置治験期間中は,他の緑内障・高眼圧症に対する治療薬,抗ヒスタミン作用を有する点眼薬,およびステロイド薬(皮膚局所投与を除く)の使用を禁止した.併用禁止薬以外で眼圧に影響を及ぼすことが添付文書上に記載されている薬剤については,投与開始4週間以上前から用法用量が変更されていない,または治験終了時まで継続使用予定の場合には併用可能とするが,原則として新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.治験期間中,緑内障手術およびその他の内眼手術,コンタクトレンズ装用など,治験薬の評価に影響を及ぼす療法(除外基準に該当する手術などを含む)を禁止とした.8.評価方法および統計手法本治験の統計解析には下記の3つのデータセットを用いた.有効性の評価は治験実施計画書に適合した解析対象集団をおもに用い,安全性の評価は安全性解析対象集団を用いた.a.有効性解析対象集団1)最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS)登録されたすべての被験者から,治験薬による治療を一度も受けていない被験者,選択基準を満たしていない被験者,除外基準に抵触する被験者,初診時以降の再来院がない被験者などを除外した集団.2)治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)重大なGCP違反症例,治験薬をまったく投与しなかった症例,選択および除外基準違反症例,診断名が対象外の症例,併用禁止薬を使用した症例,Washout期間設定の違反症例,治療期間を通じて点眼状況が75%未満または101%以上の症例を除く集団.b.安全性解析対象集団治験薬による治療を一度でも受けた被験者から,初診時以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団.治療期終了時における眼圧変化値を有効性の主要評価とし,ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性の検証を,PPSを用いて行った.非劣性の検証は,治療期終了時における投与開始日からの眼圧変化値の薬剤群間の差について95%両側信頼区間を算出し,その上限が1.5mmHgを超えなければ0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らないこととした.副次評価として,眼圧値,投与開始日からの各観察時の眼圧変化値および眼圧変化率を用いて,1標本t検定により各群の投与前後の比較を,また,2標本t検定により薬剤群間の比較を行った.治療期の各観察時において,20%または30%以上の眼圧変化率を達成した症例の割合(目標眼圧達成率;眼圧変化率)を求め,c2検定により薬剤群間の比較を行った.眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率について経時的分散分析を行い,2群ごとの最小二乗平均による薬剤群間の比較を行った.安全性の評価として,治験薬投与期間中の有害事象(副作用を含む)の程度,発現率を比較した.有効性の評価は投与開始日の眼圧値が高いほうの眼を採用した.ただし,投与開始日の左右の眼圧値が同じ場合は,右眼を採用した.なお,安全性の評価は両眼を対象とした.II結果1.症例の構成表3に症例の構成を示した.無作為化された222例のうち,未投与の2例を除く220例が治験薬を投与された.投与された220例のうち,不適格8例,中止11例および逸脱3例を除く198例を有効性解析対象症例(PPS)とした.投与した220例はすべて安全性解析に用いられた.表4に有効性解析対象症例198例の患者背景を示す.各項目について,薬剤群間の分布の均衡性を検討した結果,性別および合併症(眼局所)において不均衡が認められた.2.有効性a.主要評価:ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性の検証(治療期終了時)0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の治表3症例の構成0.03%BIM0.01%BIMLAT組み入れ症例777273未投与症例020投与症例777073不適格症例224中止症例344逸脱症例102有効性解析対象症例716463BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010405(127)療期終了時における眼圧変化値はそれぞれ8.0±2.7mmHgおよび7.4±2.8mmHgであった.眼圧変化値の差の95%信頼区間は1.50.3で,上限値はΔ(=1.5)を下回ることから0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性が検証された.なお,薬剤群間で性別および合併症(眼局所)に不均衡が認められたため,それらの不均衡を調整したところ,調整前と同様に非劣性が検証された.以上の結果から,治療期終了時の眼圧変化値に対する性別および合併症(眼局所)の影響はないと考えられた.b.副次評価治療期の各観察時における眼圧変化値の平均値の推移および薬剤群間比較を表5および図2に,眼圧値の平均値の推移および薬剤群間比較を表6に,眼圧変化率の平均値の推移および薬剤群間比較を表7に示した.すべての薬剤群で投与開始日と比較して各観察時点において有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロ表4患者背景(有効性解析対象症例;PPS)項目分類0.03%BIM0.01%BIMLAT検定性別男性女性353640242637p1=0.0535*年齢(歳)20293039404950596069702511181817235152118124202610p2=0.32816465452636284122平均年齢(歳)58.661.560.1緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障高眼圧症274421432340─合併症(眼局所)無有314025391746p1=0.1234*合併症(眼局所以外)無有234818461845p1=0.8354既往歴(眼局所)無有656568558─治療前投薬歴無有8639551251p1=0.4400治験薬投与前に行った処置無有710631630p3=0.6414BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.1:c2検定,2:Kruskal-Wallis検定,3:FisherExact検定.*:p<0.15.表5眼圧変化値の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧変化値(mmHg)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT2週間後(68)7.4±2.8#(61)6.5±2.6#(62)6.0±2.7#1.30.90.5p=0.0061*p=0.0663p=0.34214週間後(70)7.8±3.2#(61)7.1±2.7#(63)7.0±2.6#0.80.70.1p=0.1134p=0.1663p=0.86178週間後(69)7.9±2.9#(62)7.2±2.7#(62)7.0±2.8#0.80.70.2p=0.1017p=0.1817p=0.730612週間後(71)8.0±2.7#(64)7.4±2.7#(62)7.5±2.7#0.50.60.1p=0.2862p=0.2003p=0.8469治療期終了時(71)8.0±2.7#(64)7.4±2.7#(63)7.4±2.8#0.60.60.0p=0.2192p=0.2003p=0.9766BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.#:投与前後の比較(1標本t検定),p<0.05,*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.———————————————————————-Page6406あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(128)スト点眼剤の2群間で比較した結果,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点でラタノプロスト点眼剤よりも0.51.3mmHg大きく,2週間後において両群間に有意な差が認められた(p=0.0061).眼圧値および眼圧変化率に関しても2週間後に0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた.図3に目標眼圧達成率(目標眼圧変化率を達成した症例の割合)の薬剤群間比較を示した.2週間後の眼圧変化率20%および30%を達成した症例の割合において,0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた(p=0.0266,p=0.0135).また,12週間後の眼圧変化率30%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤で70.4%であったのに対して,ラタノプロスト点眼剤では50.0%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高かった(p=0.0160).さらに,眼圧の経時的な変化と薬剤との関係を評価するために眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率のそれぞれについて,経時分散分析および最小二乗平均により薬剤群間比較を行った.その結果,いずれの眼圧評価においても0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に対して有意な差が認められた(p<0.05).続いて0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤,0.01%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の眼圧下降効果についても同様に比較した.0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の比較では,眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率に関して群間に有意な差は認められなかった.しかし,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点で0.01%ビマトプロ02*48観察日(週)眼圧変化値(mmHg)12:0.03%ビマトプロスト点眼剤:0.01%ビマトプロスト点眼剤:ラタノプロスト点眼剤0-2-4-6-8-10-12図2眼圧変化値の推移*p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.ラタノプロスト点眼剤,2標本t検定).表6眼圧値の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧値(mmHg)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT投与開始日(71)24.2±2.4(64)23.8±2.0(63)24.1±2.60.10.40.3p=0.7919p=0.2787p=0.46532週間後(68)16.9±2.2(61)17.3±2.7(62)18.0±2.51.10.30.8p=0.0074*p=0.4447p=0.09114週間後(70)16.4±2.5(61)16.7±2.4(63)17.1±2.90.70.30.4p=0.1388p=0.4873p=0.41668週間後(69)16.3±2.0(62)16.6±2.4(62)17.1±2.70.80.30.5p=0.0635p=0.4173p=0.306712週間後(71)16.2±2.3(64)16.4±2.5(62)16.5±2.60.30.20.1p=0.4775p=0.6595p=0.7921治療期終了時(71)16.2±2.3(64)16.4±2.5(63)16.7±2.90.50.20.3p=0.2988p=0.6595p=0.5502BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.表7眼圧変化率の平均値の推移および薬剤群間比較観察日眼圧変化率(%)差の平均値薬剤群間比較0.03%BIM0.01%BIMLAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.LAT0.03%BIMvs.0.01%BIM0.01%BIMvs.LAT2週間後(68)30.0±9.4(61)27.2±10.5(62)24.8±9.85.22.82.4p=0.0023*p=0.1110p=0.18464週間後(70)31.8±10.8(61)29.5±10.2(63)28.9±10.12.92.30.6p=0.1195p=0.2228p=0.74738週間後(69)32.1±9.6(62)30.0±10.2(62)28.9±10.63.22.01.1p=0.0747p=0.2385p=0.547912週間後(71)32.7±9.3(64)30.9±10.2(62)30.9±10.21.81.90.1p=0.2925p=0.2690p=0.9661治療期終了時(71)32.7±9.3(64)30.9±10.2(63)30.6±10.52.11.90.3p=0.2125p=0.2690p=0.8797BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤,平均値±標準偏差,()は例数.*:薬剤群間比較(2標本t検定),p<0.05.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010407(129)スト点眼剤よりも0.60.9mmHg大きく,眼圧変化率30%を達成した症例の割合では,12週間後で0.01%ビマトプロスト点眼剤に比べ0.03%ビマトプロスト点眼剤が有意に高かった(p<0.05).0.01%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤の比較では,眼圧変化値,眼圧値,眼圧変化率および目標眼圧達成率はほぼ同程度で群間に有意な差は認められなかった.なお,FASを対象とした場合においても,PPSと同じく非劣性が検証され,副次評価の各項目の結果も大きな違いはなかった.3.安全性有害事象および副作用の発現例数および発現率を表8に,比較的頻度の高かった(5%以上)有害事象を表9に示した.†2週間後86.877.171.088.685.377.888.482.380.785.984.485.548.544.327.455.750.847.659.450.046.870.453.150.0***4週間後8週間後目標眼圧変化率:-20%12週間後1008060402001008060402002週間後4週間後8週間後12週間後目標眼圧変化率:-30%■:0.03%ビマトプロスト点眼剤■:0.01%ビマトプロスト点眼剤■:ラタノプロスト点眼剤目標眼圧達成率(%)図3目標眼圧達成率(眼圧変化率)の薬剤群間比較各観察時において20%(左図)または30%(右図)以下の眼圧変化率を達成した症例の割合を示す.*p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.ラタノプロスト点眼剤,c2検定).†p<0.05(0.03%ビマトプロスト点眼剤vs.0.01%ビマトプロスト点眼剤,c2検定).表8有害事象および副作用の発現例数および発現率0.03%BIM0.01%BIMLAT安全性解析対象症例数777073有害事象発現例数(発現率)58(75.3%)52(74.3%)48(65.8%)副作用発現例数(発現率)51(66.2%)46(65.7%)36(49.3%)BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.表9比較的頻度の高かった(5%以上)有害事象薬剤との関連有害事象名#0.03%BIM0.01%BIMLAT関連が否定できない*関連なし合計関連が否定できない*関連なし合計関連が否定できない*関連なし合計<眼障害>結膜充血31(40.3%)1(1.3%)3229(41.4%)1(1.4%)3014(19.2%)1(1.4%)15睫毛の成長24(31.2%)02419(27.1%)01912(16.4%)012眼瞼色素沈着8(10.4%)089(12.9%)094(5.5%)04眼の異常感4(5.2%)043(4.3%)1(1.4%)401(1.4%)1アレルギー性結膜炎0001(1.4%)011(1.4%)4(5.5%)5結膜浮腫4(5.2%)043(4.3%)03000<全身障害および投与局所様態>滴下投与部位そう痒感6(7.8%)064(5.7%)2(2.9%)64(5.5%)04<感染症および寄生虫症>鼻咽頭炎011(14.3%)11010(14.3%)1002(2.7%)2<皮膚および皮下組織障害>多毛症3(3.9%)032(2.9%)025(6.8%)05BIM:ビマトプロスト点眼剤,LAT:ラタノプロスト点眼剤.[%:発現例数/安全性解析対象症例数(0.03%群:77例,0.01%群:70例,ラタノプロスト群:73例)×100]*関連が否定できない:明らかに関連あり,多分関連あり,関連あるかもしれない.#:MedDRA(Ver.9.0)PT(基本語),SOC(器官別大分類).———————————————————————-Page8408あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010治験薬を投与した220例について,本治験薬の安全性を検討した結果,有害事象は0.03%ビマトプロスト点眼剤で77例中58例(75.3%),0.01%ビマトプロスト点眼剤で70例中52例(74.3%),ラタノプロスト点眼剤で73例中48例(65.8%)発現した.このうち,副作用は0.03%ビマトプロスト点眼剤で77例中51例(66.2%),0.01%ビマトプロスト点眼剤で70例中46例(65.7%),ラタノプロスト点眼剤で73例中36例(49.3%)であった.0.03%および0.01%ビマトプロスト点眼剤の副作用発現率はラタノプロスト点眼剤よりも高かったが,ビマトプロスト点眼剤の濃度間では副作用の発現率は同程度であった.最も高頻度で発現した副作用は結膜充血であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤で40.3%,0.01%ビマトプロスト点眼剤で41.4%に発現したのに対して,ラタノプロスト点眼剤では19.2%であり,ビマトプロスト点眼剤の濃度間では差は認められなかったが,ビマトプロスト点眼剤のほうがラタノプロスト点眼剤と比較して発現率は高かった.その他,高頻度で発現した副作用は,睫毛の成長および眼瞼色素沈着であり,結膜充血と同様にビマトプロスト点眼剤の濃度間では発現率に差はなかったが,ビマトプロスト点眼剤のほうがラタノプロスト点眼剤と比較して発現率は高かった.なお,発現した副作用のほとんどは軽度であった.ラタノプロスト点眼剤で2例の重篤な有害事象(糖尿病,てんかん)が発現した.いずれの事象も薬剤との因果関係は否定され,回復が確認された.なお,本治験では死亡に至る有害事象は発現しなかった.副作用による中止例は0.03%ビマトプロスト点眼剤で3例,0.01%ビマトプロスト点眼剤で3例,ラタノプロスト点眼剤で1例であり,薬剤群間に差はなかった.0.03%ビマトプロスト点眼剤における3例の中止理由は,患者からの申し出によるもの2例(眼瞼色素沈着,浮動性めまい),医学的な理由によるもの1例(眼瞼紅斑,滴下投与部位刺激感,結膜充血),0.01%ビマトプロスト点眼剤における3例の中止理由は,患者からの申し出によるもの1例(眼瞼色素沈着),医学的な理由によるもの2例〔結膜充血:1例,眼刺激(ひりひり感,熱感)・結膜充血・滴下投与部位そう痒感:1例〕,ならびにラタノプロスト点眼剤における1例の中止理由は,医学的な理由によるもの(水晶体障害)であった.III考按本治験では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの有効性および安全性を無作為化単盲検群間比較試験により0.005%ラタノプロスト点眼剤と比較した.また,0.01%ビマトプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤を比較し,至適濃度を確認した.有効性の主要評価項目である治療期終了時の眼圧変化値において,ラタノプロスト点眼剤に対する0.03%ビマトプロスト点眼剤の非劣性が検証された.0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての観察時点でラタノプロスト点眼剤よりも大きく,2週間後には両薬剤間で有意な差が認められた.同様に眼圧値,眼圧変化率に関しても2週間後にラタノプロスト点眼剤と0.03%ビマトプロスト点眼剤との間に有意な差が認められた.さらに,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率を用いた経時的分散分析および最小二乗平均による解析で,0.03%ビマトプロスト点眼剤とラタノプロスト点眼剤との間に有意な差が認められ,0.03%ビマトプロスト点眼剤がラタノプロスト点眼剤を上回る眼圧下降を示すことが確認された.海外で実施された無作為化比較試験であるEarlyManifestGlaucomaTrial(EMGT)では,眼圧が1mmHg下降すると視野障害の進行リスクを約10%減少することが証明され,少しでも眼圧を下降させることで視野障害の進行を抑制できることが明らかとなっている18).また,各種の無作為化比較試験1921)において,無治療時眼圧から20%および30%眼圧を下降させることで緑内障性の視野障害の進行リスクが減少することが証明されており,それらの結果を基に,緑内障診療ガイドライン22)では無治療時眼圧からの眼圧下降率20%および30%を目標の一つとして設定することが推奨されている.本治験において,12週間後の眼圧変化率20%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤およびラタノプロスト点眼剤で約86%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らない結果であった.一方,眼圧変化率30%を達成した症例の割合は,0.03%ビマトプロスト点眼剤では2週間後で約50%,12週間後で約70%であったのに対して,ラタノプロスト点眼剤ではそれぞれ約27%,約50%であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高かった.当該結果は,ラタノプロスト点眼剤と比べて0.03%ビマトプロスト点眼剤では,推奨される眼圧変化率を達成できる症例が多いことを示している.0.03%ビマトプロスト点眼剤の副作用発現率は66.2%であり,ラタノプロスト点眼剤の発現率49.3%に比べ高いことが確認されたが,重篤なものは認められなかった.また,副作用のほとんどが軽度で眼局所のものであり,全身への影響は少ないことが確認された.最も高頻度で認められた副作用は結膜充血であり,0.03%ビマトプロスト点眼剤で40.3%にみられたが,いずれも点眼を継続しても悪化するものではなく,炎症を伴うものではなかった.そのほか,高頻度に発現した副作用は睫毛の成長であり,点眼の中止(終了)により,ほとんどの症例で軽快した.睫毛の異常や眼瞼色素沈着などの副作用は眼周囲に点眼剤がこぼれることにより発現すると考えられるが,これら(130)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010409の副作用は点眼後濡れタオルの使用または洗顔などにより発現率が下がることが報告されており23),点眼剤使用時に処置を施すことにより発現を回避できると考えられる.結膜充血,睫毛の成長および眼瞼色素沈着などの副作用はいずれも美容的なものであり,視機能に影響を及ぼすような重大なものではなく,疾患の重要性,治療方針や副作用について十分な説明を行うことにより,治療コンプライアンスに及ぼす影響を低減させうると考えられる.0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果の比較では,眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率に関して0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の間に有意な差は認められなかった.しかし,0.03%ビマトプロスト点眼剤の眼圧変化値はすべての時点で0.01%ビマトプロスト点眼剤よりも大きく,眼圧変化率30%を達成した症例の割合は12週間後に0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが有意に高く,0.01%ビマトプロスト点眼剤の眼圧下降効果は,0.03%用量に比べて弱いことが示された.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤と0.01%ビマトプロスト点眼剤の安全性プロファイルに大きな違いは認められなかった.これらのことから,0.03%用量がビマトプロスト点眼剤の至適用量であることが確認された.本治験により,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤よりも早期に眼圧を下降させ,すべての時点で0.03%ビマトプロスト点眼剤のほうが眼圧変化値が大きく,眼圧変化率30%を達成できる症例の割合も高いことが示された.また,副作用は臨床使用上大きな問題となるものではなかったことから,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,現在第一選択薬として臨床使用されているラタノプロスト点眼剤に劣らず,臨床的に有用な薬剤であると考えられた.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,ラタノプロスト点眼剤に対する無効例や効果不十分例に対して効果を示したとの報告1517)があり,また,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,ラタノプロスト点眼剤と0.5%チモロールゲル製剤との併用療法による眼圧下降効果と同程度であったとの報告24)もあることから,単剤による治療範囲が広がる可能性が期待できる有用な薬剤であると考えられた.文献1)塚本秀利:薬物治療の進めかた.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p248-251,文光堂,20062)金本尚志:プロスタグランジン関連薬.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p254-256,文光堂,20063)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,20024)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20035)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,20056)美馬彩,秦裕子,村尾史子ほか:眼圧測定時刻に留意した,正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の検討.臨眼60:1613-1616,20067)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb-遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,20068)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:ThetravoprostStudyGroup:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20019)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,200810)YuM,IvesD,RameshaCS:SynthesisofprostaglandinE2ethanolamidefromanandamidebycyclooxygenase-2.JBiolChem272:21181-21186,199711)KozakKR,CrewsBC,MorrowJDetal:Metabolismoftheendocannabinoids,2-arachidonylglycerolandanand-amide,intoprostaglandin,thromboxane,andprostacyclinglycerolestersandethanolamides.JBiolChem277:44877-44885,200212)WoodwardDF,LiangY,KraussAH:Prostamides(prosta-glandin-ethanolamides)andtheirpharmacology.BrJPharmacol153:410-419,200813)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdenticationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)LiangY,LiC,GuzmanVMetal:Comparisonofprosta-glandinF2a,bimatoprost(prostamide),andbutaprost(EP2agonist)onCyr61andconnectivetissuegrowthfactorgeneexpression.JBiolChem278:27267-27277,200315)WilliamsRD:Ecacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.AdvTher19:275-281,200216)GandolSA,CiminoL:Eectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200317)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:Long-termIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglau-comapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200818)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:TheEarlyManifestGlaucomaTrialGroup:Factorsforglaucomaprogressionandtheeectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200319)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglau-(131)———————————————————————-Page10410あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010coma.ArchOphthalmol120:701-713;discussion829-830,200220)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sures.AmJOphthalmol126:487-497,199821)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,199822)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,200623)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の長期視野─5年後の成績─.眼紀56:342-348,200524)ManniG,CentofantiM,ParravanoMetal:A6-monthrandomizedclinicaltrialofbimatoprost0.03%versustheassociationinglaucomatouspatients.GraefesArchClinExpOphthalmol242:767-770,2004(132)***

ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(105)3830910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):383386,2010cはじめに緑内障は慢性に視野障害が進行する疾患である.視野障害進行抑制のエビデンスが得られている唯一の治療が眼圧下降療法である1,2).眼圧下降のために通常点眼薬治療がまず行われる.眼圧下降効果の点からファーストチョイスはプロスタグランジン関連薬が用いられることが多い.わが国におけるプロスタグランジン関連薬は1994年にイソプロピルウノプロストン点眼薬,1999年にラタノプロスト点眼薬,2007年にトラボプロスト点眼薬,2008年にタフルプロスト点眼薬が発売された.このなかでプロスト系の点眼薬(ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬)は特に眼圧下降効果が強力である.これらの薬剤の単剤投与における眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障,高眼圧症,性緑内障,色素緑内障に対して投与期間はさまざまであるが多数報告されている311).その眼圧下降率はラタノプロスト点眼薬が25.132%39),トラボプロスト点眼薬が26.131.1%10,11),タフルプロスト点眼薬が25.927.5%3)である.しかしこれら3剤を互いに比較した報告はまだない.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果井上賢治*1増本美枝子*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEfectsofLatanoprost,TravoprostandTaluprostKenjiInoue1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,UniversityofToho目的:ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬の単剤投与における眼圧下降効果と安全性をレトロスペクティブに検討した.方法:ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬のいずれかを新規に単剤投与された原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者128例128眼を対象とした.投与前と投与1,3カ月後の眼圧を比較した.投与1,3カ月後の眼圧下降幅と眼圧下降率を算出し,各薬剤間で比較した.さらに副作用の出現を調査した.結果:眼圧は3剤ともに投与1,3カ月後に有意に下降した.眼圧下降幅,眼圧下降率は投与1,3カ月後で3剤間に差はなかった.副作用による中止症例の頻度は3剤間で同等であった.結論:原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対してラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬は短期的には同等の眼圧下降効果と安全性を有する.Purpose:Toinvestigatetheocularhypotensiveeectsandsafetyoflatanoprost,travoprostandtauprostinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.Methods:Latanoprost,travoprostortauprostwasadministeredto128patientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.Intraocularpressure(IOP),dierenceinIOPreduction,IOPreductionrateandadversereactionswereretrospectivelycheckedmonthlyfor3months.Results:Thelatanoprost,travoprostandtauprostgroupsallshowedsignicantlydecreasedIOPat1and3monthsaftertherapy.DierencesinIOPreductionandreductionrateweresimilaramongthe3groups.Therateofadversereactionswasalsosimilaramongthe3groups.Conclusion:Inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension,latanoprost,travoprostandtauprosthavealmostthesameocularhypotensiveeectsanddegreeofsafety.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):383386,2010〕Keywords:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,眼圧,副作用.latanoprost,travoprost,tauprost,intraocularpressure,adversereaction.———————————————————————-Page2384あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(106)今回,ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬を単剤で投与された症例の短期的な眼圧下降効果と安全性をレトロスペクティブに検討した.I対象および方法2009年1月から4月までの間に井上眼科病院に通院中の患者で,ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬のいずれかを新規に単剤で投与された原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者128例128眼を対象とした.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)24例,正常眼圧緑内障102例,高眼圧症2例であった.手術既往のある症例は除外した.レトロスペクティブに調査したところ,ラタノプロスト点眼薬群は62例で,平均年齢は60.6±14.6歳(平均±標準偏差)(3183歳),緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)11例,正常眼圧緑内障49例,高眼圧症2例であった(表1).トラボプロスト点眼薬群は52例で,平均年齢は55.8±13.7歳(2883歳),緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)9例,正常眼圧緑内障43例であった.タフルプロスト点眼薬群は14例で,平均年齢は60.8±11.9歳(3679歳),緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)4例,正常眼圧緑内障10例であった.投与前の眼圧は,ラタノプロスト点眼薬群は17.4±4.5mmHg(1032mmHg),トラボプロスト点眼薬群は17.0±2.7mmHg(1224mmHg),タフルプロスト点眼薬群は18.3±4.6mmHg(1330mmHg)であった.Hum-phrey視野プログラム中心30-2のmeandeviation(MD)値は,ラタノプロスト点眼薬群は6.8±6.0dB(24.20.4dB),トラボプロスト点眼薬群は5.3±3.8dB(14.50.3dB),タフルプロスト点眼薬群は4.7±7.5dB(25.51.3dB)であった.各群の年齢,緑内障病型,投与前眼圧,Hum-phrey視野のMD値に有意差を認めなかった(ANOVA;analysisofvariance,分散分析).眼圧の測定はGoldmann圧平眼圧計を用いて基本的には1カ月ごとに行った.両眼に投与した症例では眼圧の高いほうの眼を,眼圧が同値の場合は右眼を対象眼とした.各群で投与前と投与1,3カ月後の眼圧を対応のあるt検定を用いて比較した.投与1,3カ月後の眼圧下降幅および眼圧下降率を算出し,3群間でANOVA(Bonferroni/Dunnet法)を用いて比較した.副作用の出現を診療録から抽出した.副作用により点眼薬が中止になった症例の頻度を,3群間でc2検定を用いて比較した.副作用により点眼薬が中止になった症例は眼圧の解析からは除外した.有意水準(危険率)を5%以下とした.II結果眼圧は,ラタノプロスト点眼薬群では投与1カ月後は14.4±3.3mmHg,投与3カ月後は13.8±2.9mmHgで投与前(17.4±4.5mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001)(図1).トラボプロスト点眼薬群では投与1カ月後は13.7±2.4mmHg,投与3カ月後は13.5±2.0mmHgで投与前(17.0±2.7mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001).タフルプロスト点眼薬群では投与1カ月後は14.3±2.9mmHg,投与3カ月後は14.0±3.4mmHgで投与前(18.3±4.6mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は,ラタノプロスト点眼薬群では投与1カ月後は3.5±2.7mmHg,投与3カ月後は3.6±3.3mmHg,トラ表1患者背景ラタノプロストトラボプロストタフルプロストp値症例(例)625214NS平均年齢(歳)60.6±14.655.8±13.760.8±11.9NS病型(例)NS原発開放隅角緑内障(狭義)1194正常眼圧緑内障494310高眼圧症200投与前眼圧(mmHg)17.4±4.517.0±2.718.3±4.6NSHumphrey視野MD値(dB)6.8±6.05.3±3.84.7±7.5NSNS:notsignicant.08101214161820222426投与前******投与1カ月後眼圧(mmHg)投与3カ月後図1ラタノプロスト点眼薬群,トラボプロスト点眼薬群,タフルプロスト点眼薬群の眼圧(*:p<0.0001,対応のあるt検定):ラタノプロスト点眼薬群,:トラボプロスト点眼薬群,:タフルプロスト点眼薬群.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010385(107)ボプロスト点眼薬群では投与1カ月後は3.4±1.9mmHg,投与3カ月後は3.5±2.3mmHg,タフルプロスト点眼薬群では投与1カ月後は4.2±3.1mmHg,投与3カ月後は4.3±2.5mmHgであった(図2).3群ともに眼圧下降幅は,投与1,3カ月後で同等であった.3群の比較では投与1,3カ月後ともに眼圧下降幅は同等であった.眼圧下降率は,ラタノプロスト点眼薬群では投与1カ月後は18.3±10.1%,投与3カ月後は18.3±14.0%,トラボプロスト点眼薬群では投与1カ月後は19.4±9.8%,投与3カ月後は19.6±11.2%,タフルプロスト点眼薬群では投与1カ月後は21.4±10.2%,投与3カ月後は22.8±9.9%であった(図3).3群ともに眼圧下降率は,投与1,3カ月後で同等であった.3群の比較では投与1,3カ月後ともに眼圧下降率は同等であった.副作用による投与中止例は,ラタノプロスト点眼薬群で6.5%(4例/62例),トラボプロスト点眼薬群で3.8%(2例/52例),タフルプロスト点眼薬群で14.3%(2例/14例)で,頻度は同等であった(p=0.36).ラタノプロスト点眼薬群では投与2週間後に充血,投与1カ月後にかすみ,投与2カ月後に違和感,投与3カ月後に眼瞼腫脹で各1例が中止になった.トラボプロスト点眼薬群では投与3週間後に眼瞼色素沈着,投与1カ月後に充血で各1例が中止になった.タフルプロスト点眼薬群では投与2カ月後に眼精疲労,投与2カ月後に違和感で各1例が中止になった.III考按ラタノプロスト点眼薬は発売から10年以上が経過しており,眼圧下降効果と安全性について多数の報告が行われている39,1215).原発開放隅角緑内障,高眼圧症,性緑内障,色素緑内障に対する眼圧下降率は,4週間投与で27.6%3),6週間投与で26.2%4),60日間投与で28.0%5),12週間投与で26.8%6,7),3カ月間投与で29.3%8),12カ月間投与で32%9)と今回の3カ月間投与(18.3%)よりは良好である.今回は正常眼圧緑内障が多数(79.0%)を占め,投与前眼圧(17.4±4.5mmHg)がこれらの報告(22.625.3mmHg)39)より低値であったためと考えられる.一方,正常眼圧緑内障に対する眼圧下降率は,3週間投与で21.3%12),4週間投与で16.9%13),8週間以上投与で16.3%14),3カ月間投与で24.4%8),8年間投与で14.6%15)と今回の3カ月間投与(18.3%)とほぼ同等である.トラボプロスト点眼薬は防腐剤として塩化ベンザルコニウムが使用されている点眼薬が海外で先行発売された.わが国で発売されたトラボプロスト点眼薬は防腐剤として塩化ベンザルコニウムは使用せず,sofZiaRを使用しており,これはホウ酸・ソルビトール・塩化亜鉛などを含み,塩化亜鉛がホウ酸・ソルビトール存在下で陽イオン化して発揮する殺菌効果を利用している.塩化ベンザルコニウムが含有されていないトラボプロスト点眼薬の原発開放隅角緑内障,高眼圧症,性緑内障,色素緑内障に対する眼圧下降率は,2週間投与で26.130.4%10),3カ月間投与で29.831.1%11)で,塩化ベンザルコニウムが含有されているトラボプロスト点眼薬と同等であった.今回の3カ月間投与の眼圧下降率(19.6%)はこれらの報告10,11)より低値であったが,正常眼圧緑内障が多数(82.6%)を占め,投与前眼圧(17.0±2.7mmHg)が過去の報告(23.627.1mmHg)10,11)に比べ低かったことによると考えられる.一方,メタアナリシスの報告ではラタノプロスト点眼薬と(塩化ベンザルコニウム含有)トラボプロスト点眼薬の眼圧下降効果は同等であった16,17).また,ラタノプロスト点眼薬,(塩化ベンザルコニウム含有)トラボプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬を12週間投与した際の眼圧下降幅は,各々5.98.6mmHg,5.77.9mmHg,6.58.7mmHgで同等と報告されている18).投与1カ月後8.07.06.05.04.03.02.01.00.0眼圧(mmHg)投与3カ月後図2ラタノプロスト点眼薬群,トラボプロスト点眼薬群,タフルプロスト点眼薬群の眼圧下降幅(ANOVA検定)■:ラタノプロスト点眼薬群,□:トラボプロスト点眼薬群,■投与1カ月後35.030.025.020.015.010.05.00.0眼圧下降率(%)投与3カ月後図3ラタノプロスト点眼薬群,トラボプロスト点眼薬群,タフルプロスト点眼薬群の眼圧下降率(ANOVA検定)■:ラタノプロスト点眼薬群,□:トラボプロスト点眼薬群,■———————————————————————-Page4386あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(108)タフルプロスト点眼薬の原発開放隅角緑内障,高眼圧症に対する眼圧下降率は,わが国における第III相検証的試験の結果3)しかないが,4週間投与で25.927.5%であった.今回の3カ月間投与の眼圧下降率(22.8%)はこの報告に比べてやや低値であるが,正常眼圧緑内障が多数(71.4%)を占め,投与前眼圧(18.3±2.4mmHg)がこの報告(23.8±2.3mmHg)3)に比べ低かったことによると考えられる.副作用が出現して点眼薬が中止になった症例は,ラタノプロスト点眼薬では0%35,7,8,12,13),2.5%6),11%9),トラボプロスト点眼薬では0%10),1.5%11),タフルプロストでは5.4%3)と報告されている.今回のラタノプロスト点眼薬群6.5%,トラボプロスト点眼薬群3.8%,タフルプロスト点眼薬群14.3%はやや高値であったが,点眼薬を中止する基準がなく,薬剤との因果関係は不明であるが患者の訴えにより中止となった症例が含まれている可能性がある.しかし点眼薬が中止になった症例においても副作用として重篤な症例はなく,後遺症もなかった.今回はレトロスペクティブな調査であり,プロスペクティブな調査とは結果が異なる可能性がある.レトロスペクティブな調査の問題点として,眼圧測定が行われていた経過観察期間中の来院日に一貫性がないこと,対照群がおかれていないこと,盲検化されていないこと,コンプライアンスが評価できなかったことなどがあげられる.また,ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬の3剤のなかからどの薬剤を選択するかの明確な基準がなかったために症例に偏りがあった可能性が考えられる.以上,結論として,今回のレトロスペクティブの調査結果においては,原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対してラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬は短期的には同等の眼圧下降効果と安全性を有すると思われる.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20084)SaitoM,TakanoR,ShiratoS:Eectsoflatanoprostandunoprostonewhenusedaloneorincombinationforopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol132:485-489,20015)PavanJ,tambukN,urkoviTetal:Eectivenessoflatanoprost(XalatanTM)monotherapyinnewlydiscoveredandpreviouslymedicamentouslytreatedprimaryopenangleglaucomapatients.CollAntropol29:315-319,20056)三嶋弘,増田寛次郎,新家真ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とするPhXA41点眼液の臨床第III相試験─0.5%マレイン酸チモロールとの多施設二重盲検試験─.眼臨90:607-615,19967)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglauco-maandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOph-thalmol114:929-932,19968)木村英也,野崎美穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20039)CamrasCB,AlmA,WatsonPetal:Latanoprost,apros-taglandinanalog,forglaucomatherapy.Ecacyandsafe-tyafter1yearoftreatmentin198patients.Ophthalomol-ogy103:1916-1924,199610)GrossRL,PeaceJH,SmithSEetal:DurationofIOPreductionwithtravoprostBAK-freesolution.JGlaucoma17:217-222,200811)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandecacy.JGlaucoma16:98-103,200712)RuloAH,GreveEL,GeijssenHCetal:Reductionofintraocularpressurewithtreatmentoflatanoprostoncedailyinpatientswithnormal-pressureglaucoma.Ophthal-mology103:1276-1282,199613)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲル,ラタノプロスト点眼の短期使用と長期眼圧下降効果.日眼会誌108:477-481,200414)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果.日眼会誌109:530-534,200315)小川一郎,今井一美:正常眼圧緑内障のラタノプロストによる長期視野─3,5,6,8年群の比較─.あたらしい眼科25:1295-1300,200816)AptelF,CucheratM,DenisP:Ecacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ametaanalysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,200817)EyawoO,NachegaJ,LefebvrePetal:Ecacyandsafe-tyofprostaglandinanaloguesinpatientswithpredomi-nantlyprimaryopen-angleglaucomaorocularhyperten-sion:ameta-analysis.ClinOphthalmol3:447-456,200918)ParrishRK,PalmbergP,SheuWPetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,2003***

正常人での眼圧の季節変動

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(105)6850910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):685688,2009cはじめに眼圧には季節変動があるといわれている.正常人の眼圧の季節変動に関しては多数の報告15)があるが,プロスペクティブに検討した報告1)は少ない(表1).これらの報告に共通しているのは,正常眼の眼圧には季節変動があり,12月から2月にかけて高く,7月から9月にかけて低いことである.しかし眼圧の測定方法は,Schiotz眼圧計1),Goldmann圧平式眼圧計24),非接触型眼圧計5)とそれぞれ異なる.また対象は同一症例を1年間にわたって経過観察した報告は少なく1),健康診断などでその期間に得られた多数例の結果をレトロスペクティブに検討している報告が多い25).眼圧の季節変動を検討する際は個人差を排除する必要があり,そのためには同一症例での比較が好ましいと考える.そこで今回筆者らはプロスペクティブに,正常人の同一症例を1年間にわたり毎月眼圧を測定し,眼圧の季節変動を検討した.I対象および方法2007年1月から12月まで,毎月眼圧を測定できた正常人48例48眼を対象とした.男性22例,女性26例,年齢は〔別刷請求先〕設楽恭子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KyokoShidara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常人での眼圧の季節変動設楽恭子*1井上賢治*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座SeasonalVariationofIntraocularPressureinNormalSubjectsKyokoShidara1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:プロスペクティブに,正常人における眼圧の季節変動の有無を検討する.対象および方法:2007年1月から12月に毎月眼圧を測定できた正常人48例48眼を対象とした.眼圧は毎月20±3日にGoldmann圧平式眼圧計で測定した.季節の振り分けは春35月,夏68月,秋911月,冬122月とし,各季節の平均眼圧値を比較した.さらに年間の眼圧変動幅が小さい(4mmHg以下,13例)症例と大きい(5mmHg以上,35例)症例に分け,各季節の平均眼圧値を比較した.結果:各季節の眼圧は全症例では春14.4±2.7mmHg,夏14.1±2.5mmHg,秋13.4±2.5mmHg,冬14.5±2.9mmHgで,秋の眼圧が有意に低かった.眼圧変動幅が小さい症例では各季節の眼圧に差がなく,大きい症例では秋の眼圧が有意に低かった.結論:正常人の眼圧には季節変動がある.眼圧は秋に低い傾向が認められた.Weprospectivelyinvestigatedtheintraocularpressure(IOP)in48eyesof48normalsubjects(males:22eyes,females:26eyes;meanage:39.1±10.0yrs).WecheckedIOPviaGoldmannapplanationtonometeronthe20thofeverymonth(±3days)for1yearandcomparedthemeanIOPsoftheseasons.WedenedspringasMarchtoMay,summerasJunetoAugust,autumnasSeptembertoNovemberandwinterasDecembertoFebru-ary.Wedividedthesubjectsintotwogroups(IOPvariationmorethan5mmHgorlessthan4mmHg)andcom-paredthemeanIOPforeachseason.ThemeanseasonalIOPsforallsubjectswerespring:14.4±2.7mmHg,sum-mer:14.1±2.5mmHg,autumn:13.4±2.5mmHgandwinter:14.5±2.9mmHg.ThemeanIOPforautumnwassignicantlylowerthanthemeansforotherseasons;itwasalsosignicantlylowerthanforotherseasonsinsub-jectswhoseIOPvariedmorethan5mmHg.ThisstudysuggeststhatIOPofnormaleyesundergoesseasonalvaria-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):685688,2009〕Keywords:季節変動,眼圧,前向き試験,正常人.seasonalvariation,intraocularpressure,prospective,normalsubjects.———————————————————————-Page2686あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(106)2258歳,39.1±10.0歳(平均±標準偏差)であった.正常人の判定は,近視や乱視以外の眼科的疾患を有さず,眼底検査で視神経乳頭陥凹拡大など緑内障性の変化を認めず,Humphrey静的視野検査で異常がなく,かつ初回眼圧値が21mmHg以下とした.眼圧の測定方法は毎月20±3日の午前中に,Goldmann圧平式眼圧計で同一検者が同一の細隙灯顕微鏡を用いて測定した.眼圧は両眼測定したが,解析には右眼のデータを用いた.なお,検者には対象の前月までの眼圧値がわからない状況とした.1年間にわたり測定された眼圧値を以下の3項目で検討した.1)全例での年間の眼圧変動の有無.2)全例での眼圧の季節変動の有無.3)年間の眼圧の変動幅が4mmHg以下と5mmHg以上に分け,眼圧の季節変動の有無.季節の振り分けは気象庁のホームページと過去の報告3)により春は35月,夏は68月,秋は911月,冬は122月とした.ただし,年間の眼圧の変動幅は1年間で月別の眼圧の最高値と最低値の差とした.検定方法はANOVA(analysisofvari-ance,分散分析)およびBonferroni/Dunnet法を用いた.調査の実施にあたり対象には調査の主旨を説明し,インフォームド・コンセントを得た.II結果全症例での年間の眼圧変動はなかった(図1).全症例での各季節の眼圧は春14.4±2.7mmHg,夏14.1±2.5mmHg,秋13.4±2.5mmHg,冬14.5±2.9mmHgであった(図2).秋の眼圧は春,夏,冬に比べて有意に低かった(p<0.0001).年間の変動幅が4mmHg以下の症例は13例(27.1%),男性3例,女性10例,年齢は2251歳,34.0±10.6歳であった.各季節の眼圧は春13.5±2.9mmHg,夏13.8±2.9mmHg,秋13.3±3.0mmHg,冬13.4±2.9mmHgであった(図3).季節ごとで変動はなかった.年間の眼圧の変動幅が5mmHg以上の症例は35例(72.9%),男性19例,女性16例,年齢は2358歳,40.9±9.2歳であった.各季節の眼圧は,春14.9±2.9mmHg,夏14.3±2.4mmHg,秋13.4±2.4mmHg,冬15.0±2.9mmHgであった(図4).季節ごとの眼圧変動を認め,秋が春,夏,冬に比べて有意に低かった(p<0.0001).表1正常眼の眼圧変動地域対象(人)最高眼圧(mmHg)時期最低眼圧(mmHg)時期Blumenthal1)イスラエル6317.7±0.51,2月14.1±0.47,8月Klein2)アメリカ4,92615.714月15.279月逸見3)山梨県1915.72,4月13.69月Giufre4)イタリア1,06215.4±4.4冬14.3±3.4秋森5)岩手県6,33612.1±2.712月11.0±2.58月01月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月2月眼圧(mmHg)201816141210図1年間の眼圧変動眼圧図3年間の変動幅が4mmHg以下の症例での各季節の眼圧***眼圧図2全症例での各季節の眼圧*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009687(107)III考按正常人の眼圧の季節変動に関する報告がある15).Blu-menthalら1)はイスラエルで63人の正常人の眼圧をSchiotz眼圧計で1年間のうち8回以上は測定して比較した.眼圧は11月から2月にかけて有意に高く,7月と8月が低かった.Kleinら2)はアメリカで住民健診での4,926人(男性2,135人,女性2,721人)の眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は1月から4月にかけて有意に高く,7月から9月にかけて低かった.Giufreら4)はイタリアで住民健診での1,062人(男性474人,女性588人)の眼圧をGold-mann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は冬が春,夏,秋に比べて有意に高かった.日本では逸見ら3)は19人の正常人の眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は2月と4月が高く,7月から9月にかけて低かった.森ら5)は集団検診で6,336人(男性3,687人,女性2,649人)の眼圧を非接触型眼圧計で測定して比較した.眼圧は12月が高く,8月が低かった.12月の眼圧は11月を除いた4月から10月までのすべての月に対して有意に高かった.しかし対象月は4月から12月までで,1月から3月までは調査から除外されていた.いずれの報告15)も眼圧は季節変動を有し,冬が高かった.今回の1年間にわたる正常人48名の眼圧変動は各月ごとには差はなかったが,9月から12月にかけて眼圧が低い傾向を認めた.これは眼圧には季節変動を呈するという過去の報告15)と一致するが,冬に眼圧が高くはなく,秋に眼圧が低かった.さらに,今回は年間の眼圧の変動幅での季節変動を検討した.年間の眼圧の変動幅が5mmHg以上の変動の大きい症例では眼圧は季節変動を呈しており,そのような症例が72.9%存在した.しかし,今回は症例数が少なく,また60歳以上の高齢者が対象に含まれていないため今後さらなる検討が必要である.ヒトの眼圧調整機序については自律神経機能が深く関与していると考えられ,第一は,交感神経のa受容体刺激により毛様体血管が収縮して限外濾過が減少する.第二は,毛様体のb受容体を介してATP(アデノシン三リン酸)よりサイクリックAMP(アデノシン一リン酸)を生じる過程が房水産生に重要な役割を果たし,b遮断薬が房水産生を抑制する.第三は,副交感神経刺激により毛様体筋が収縮し線維柱帯間隙を拡大することによって房水排出率を増加させることが知られている6).交感神経機能は寒冷にさらされたときに亢進し,血中および尿中カテコラミン含量は冬に有意な上昇が認められ,そのため冬に交感神経機能が亢進すると考えられている.その結果,カテコラミンの上昇がb受容体を介した房水産生を増加させ,寒冷期に眼圧が上昇すると考えられている7,8).気象庁から発表されたデータによると,2007年の年平均気温は全国的に高く,東京も同様で,さらに記録的な暖冬であった9).特に,1月,2月,8月,9月は例年に比し平均気温は1.5度高く,4月と7月は低温であった.今回,季節の振り分けを春は35月,夏は68月,秋は911月,冬は122月としており,春の気温は例年通りであり,夏は7月が低く8月が高かったことから気温は例年通り,秋は9月が例年以上に気温が高く,冬も1月,2月に気温が高かったことから1年を通してみると,例年よりも秋と冬の気温が高かったことがわかる.このことが,今回秋の眼圧が他の季節に比して低かったことの一因と考えられる.また,冬は過去の報告15)と同様に眼圧が高い傾向は認めたが,有意差がなかったのは,冬が例年より気温が高かったことが影響していると考えられる.逸見ら3)によると過去の報告で眼圧の季節変動を認めているのはいずれも年間の平均気温の差が15℃以上の地域である.2007年の東京の年平均気温は,最低気温は2月の8.6℃,最高気温は8月の29.0℃で,最高と最低気温で15℃以上の差がある.日本では年間の寒暖の差があり,冬に気温が下がるので眼圧の季節変動が起こりやすいと考えられる.今回筆者らは,プロスペクティブに正常人の眼圧変動を調査した.正常人には従来から指摘されているとおり眼圧の季節変動があり,秋に低かった.今後は緑内障患者での眼圧の季節変動を検討する予定である.文献1)BlumenthalM,BlumenthalR,PeritzEetal:Seasonalvariationinintraocularpressure.AmJOphthalmol69:608-610,19702)KleinBEK,KleinR,LintonKLPetal:Intraocularpres-sureinanAmericancommunity.InvestOphthalmolVisSci33:2224-2228,19923)逸見知弘,山林茂樹,古田仁志ほか:眼圧の季節変動.日眼会誌98:782-786,19944)GiufreG,GiammancoR,DardanoniGetal:Prevalenceofglaucomaanddistributionofintraocularpressureinapopulation.ActaOphthalmolScand73:222-225,19955)森敏郎,谷藤泰寛,玉田康房ほか:集団検診受診者から***0春秋冬夏眼圧(mmHg)201816141210図4年間の変動幅が5mmHg以上の症例での各季節の眼圧*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet.———————————————————————-Page4688あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(108)測定した眼圧の分析.あたらしい眼科14:437-439,19976)BartelesSP,RothO,JumbrattMMetal:Pharmacologicalefectsoftopicaltimololintherabbiteye.InvestOphthal-molVisSci19:1189-1197,19807)長滝重智,比嘉敏明:房水産生機構.緑内障の薬物療法(東郁郎編),p12-19,ミクス,19908)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20019)気象庁.平成20年報道発表資料.気象統計情報:http://www.date.jma.go.jp***