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糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射とマイクロパルスレーザー閾値下凝固併用12カ月の治療成績

2017年6月30日 金曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(6):883.887,2017c糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射とマイクロパルスレーザー閾値下凝固併用12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学E.cacyof12Months’Anti-VEGFDrugIntravitrealInjectionCombinedwithSubthresholdMicropulseLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandvisualscience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対して,抗VEGF薬硝子体内注射にマイクロパルスレーザー閾値下凝固(SMLP)を併用した治療成績を検討した.対象および方法:対象は千葉労災病院にてDMEと診断され,ラニビズマブまたはアフリベルセプト硝子体注射とSMLPを併用し,12カ月以上経過観察できた11人12眼.平均年齢63.3歳.平均HbA1C6.7%.各症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(CRT)について,治療前および1,3,6,12カ月後について後ろ向きに検討した.結果:1年間の硝子体注射の回数は平均2.5回で,初回治療の平均3.1カ月後にSMLPを施行した.視力は治療前0.33から,1,3,6,12カ月後はそれぞれ0.26,0.23,0.17,0.21となり,6,12カ月後では有意に改善した.CRTは,治療前500.6μmから,1,3,6,12カ月後でそれぞれ365.3,427.0,320.9,372.6μmとなり,1,6,12カ月後では有意に改善した.結論:DMEに対する抗VEGF薬注射は,SMLPとの併用により,少ない注射回数でも12カ月にわたり治療効果が維持できる可能性が示唆された.Purpose:Toassessthee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugcombinedwithsubthresholdmicropulselaserphotocoagulation(SMLP)fordiabeticmacularedema(DME).Methods:Inaretrospectivecaseseries,12eyesof11patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrugs(ranibizumabora.ibercept)com-binedwithSMLPwerefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeand1,3,6and12months(M)afterthe.rstanti-VEGFdruginjection.Results:Thenumberofanti-VEGFdruginjectionsaveraged2.5times.SMLPwasperformedafter3.1months(averaged)fromthe.rstinjection.BaselineBCVAandCRTwere0.33and500.6μm,respectively.Atmonths1and3,BCVAdidnotshowsigni.cantdi.erence(1M:0.26,3M:0.23),thoughatmonths6and12itshowedsigni.cantdi.erence(6M:0.17,12M:0.21).Atmonths1,6and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:365.3,6M:320.9,12M:372.6μm).Atmonth3,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(3M:427.0μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugtherapycombinedwithSMLPise.ectiveforDMEdur-ing12months,evenatthelowerlevelsofanti-VEGFdruginjection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):883.887,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,マイクロパルスレーザー閾値下凝固.diabeticmacularedema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,subthresholdmicropulselaserphotocoagula-tion.はじめに(vascularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,高濃度に糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の病態存在していることが解明され1),DMEにおいて,VEGFが解明が進み,DME患者の硝子体内では,血管内皮増殖因子重要な因子となっていることが明らかになった.また,多く〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003千葉県市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPANの大規模臨床試験により,抗VEGF薬のDMEに対する良好な治療成績が示されてきた.これまでのレーザー治療やステロイドと比べ,効果発現までの期間は短く,非常に優れた治療効果が示されてきた2.4).そのため,わが国におけるDMEに対する治療は,これまでのレーザー治療,硝子体手術,ステロイド治療から,2014年に発売された抗VEGF薬硝子体注射が間違いなく主流になってきたといえる.しかしながら,多くの大規模臨床試験の示す投与回数は年間8回もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診とその高い薬剤費用が患者,医療者の双方に次第に大きな負担となっているのではないかという側面も見え始めている.また,加齢黄斑変性では,抗VEGF薬長期投与の結果,色素上皮の萎縮につながる可能性も指摘されている5).一方,筆者らが以前から取り組んできたマイクロパルスレーザー閾値下凝固(sub-thresholdmicropulselaserphotocoagulation:SMLP)6.8)は,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもの9)で,副作用の少ない低侵襲な治療である.視力は維持のみで,単独治療としてはまだ十分とはいえなかったが,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は12カ月持続して改善できた7).これまでの大規模臨床試験では,レーザー治療と抗VEGF薬との併用効果はないとされていた3)が,LavinskyらはDMEに対するレーザー治療として,通常の連続波によるレーザー治療と比較して,マイクロパルスレーザーの優位性を示している10).今回,抗VEGF薬をまず投与して浮腫を消退させ,その後に,SMLPを併用することにより抗VEGF薬硝子体注射回数を減らしたうえで,よりよい治療成績が期待できるのではないかと考えた.今回,当院を受診したDME患者で,抗VEGF薬注射とSMLP併用治療に同意が得られ,12カ月経過観察できた症例について,その治療成績を後ろ向きに検討した.I対象および方法対象は2014年7月.2015年3月の期間に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射とSMLP併用療法に同意した患者.以下のものは,対象から除外した.すべての期間で抗VEGF薬投与の既往があるもの,硝子体手術既往,3カ月以内にDMEに対するレーザーや薬剤投与歴のあるもの,HbA1C10%以上のコントロール不良例.抗VEGF薬は,ラニビズマブまたはアフリルベセプトを使用し,硝子体注射を行った.術前の20%以上,または300μm以下になるまでは1カ月ごとに抗VEGF薬の注射を行い,浮腫の改善が得られたのちに,SMLPを施行した.SMLPは,レーザー瘢痕がぎりぎり見える閾値を決めたあとは,200ms,10%dutycycle,200μm,閾値の2倍のパワー(実際には120.170mW)で,浮腫の残存している領域にレーザー照射を行った.同時に,浮腫の原因となっていると考えられる毛細血管瘤(microaneurysm:MA)がある場合には,連続波モードで,MAがかろうじて白くなる程度のパワーで直接凝固した.1カ月ごとに経過観察を行い,100μm以上の浮腫の再発,2段階以上の視力の低下があった場合には,抗VEGF薬の再投与を勧めた.SMLP施行は原則1回とした.その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算),CRTについて,治療前,1,3,6,12カ月後について後ろ向きに検討した.統計処理は,Wil-coxon順位和検定による.II結果11人12眼が対象である.平均年齢63.3歳.平均HbA1C6.7%.1年間の抗VEGF薬硝子体注射の回数は平均2.5回で,初回治療の平均3.1カ月後にマイクロパルスレーザーを施行した.マイクロパルスレーザーは全例が1回のみの施行であった.視力(logMAR換算)は治療前0.33から,1カ月後0.26,3カ月後0.23,6カ月後0.17,12カ月後0.21となり,術後6,12カ月では有意に改善した(p<0.05)(図1).logMAR0.2以上の変化で3カ月後には,悪化が1眼(8%),改善が4眼(33%),不変が7眼(58%)であったが,12カ月後には改善が4眼(33%),不変が8眼(67%)で,悪化はなかった.CRTは,治療前500.6μmから,1カ月後365.3μm,3カ月後427.0μm,6カ月後320.9μm,12カ月後372.6μmとなり,3カ月後でやや再燃傾向を認めたが,1,6,12カ月後では,有意に改善した(1カ月後p<0.05,6,12カ月後p<0.01)(図2).CRT20%以上の変化で,3カ月後では,改善7眼(58%),不変4眼(33%),増悪1眼(8%)であったが,12カ月後では,改善6眼(50%),不変6眼(50%)で,増悪はなかった.代表的な症例を示す.視力は小数視力で表示する.症例1(図3):64歳,女性.治療前視力(0.3),CRT601μm.ラニビズマブ硝子体注射後の1カ月後の視力は(0.4),CRT217μmと改善がみられたので,SMLPを施行した.3カ月後の視力は(0.5),CRT395μm.3カ月後でやや再燃はあったが,6カ月後の視力は(0.6),CRT242μmと改善がみられ,12カ月後まで,視力は(0.5),CRT258μmと安定していた.6カ月後,12カ月後の眼底では,レーザーの瘢痕は認められない.症例2(図4):57歳,男性,右眼.治療前視力(0.5),CRT479μm.ラニビズマブ硝子体注射1回施行後に,CRT273μmと改善し,SMLPを施行した.3カ月後の視力は(0.15),CRT725μmと,視力,CRTが,ともに著明に増悪した.その後,2回のアフリルベセプト硝0.45600*p<0.05,**p<0.010.4*5004003002000.1中心窩網膜厚(μm)0.050before1M3M6M12M期間図1視力(logMAR)の経過治療前,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の視力(logMAR).治療前0.33,1カ月後0.26,3カ月後0.23,6カ月後0.17,12カ月後0.21となり,6,12カ月後では有意に改善した(p<0.05).1000before1M3M6M12M期間図2中心窩網膜厚の経過中心窩網膜厚(CRT)は,治療前500.6から,1カ月後365.3,3カ月427.0,6カ月320.9,12カ月372.66μmとなり,1,6,12カ月後では,有意に改善した(1カ月後p<0.05,6,12カ月後ではp<0.01).BeforeIVR1Before1Mマイクロパルスレーザ3M6M6M12M12M図3症例1(64歳,女性)治療前視力(0.3),CRT601μm.ラニビズマブ硝子体注射(IVR)を1回施行後に,マイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行した.IVR1カ月後の視力は(0.4),CRT217μm.3カ月後の視力は(0.5),CRT395μm.6カ月後の視力は(0.6),CRT242μm.12カ月後の視力は(0.5),CRT258μm.6カ月後,12カ月後ともに眼底にはレーザーによる瘢痕は認められない.子体注射を行い,6カ月後の視力は(0.7),CRT261μm.1212カ月後の視力は(1.0),CRT305μmと維持ができている.カ月後の視力は(0.5),CRT231μmとなった.症例2(図5):57歳,男性,左眼.III考按図4で示した症例2の左眼である.右眼の初回治療から約DMEのメカニズムとして,まず,高血圧,高血糖,高脂6カ月後に治療開始した.血症の全身因子が重要である.それらを基盤として,低酸治療前視力(0.7p),CRT597μm.アフリルベセプト硝素,酸化ストレス,炎症といった機転より,VEGFをはじ子体注射2回施行後に,CRT288μm,視力(1.0)と改善し,めとするさまざまサイトカインが放出され,血液網膜柵破SMLPを施行した.6カ月後の視力は(1.0),CRT304μm,綻,血管透過性亢進の結果,DMEが発症すると説明されてBefore1MIVR13MIVA翌日マイクロパルスレーザIVA16MIVA212MBefore図4症例2(57歳,男性,右眼)治療前視力(05),CRT479μm.ラニビズマブ硝子体注射(IVR)1カ月後に,視力(05),CRT273μmと改善が得られ,マイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行した.3カ月後の視力は(0.15),CRT725μmと著しく増悪した.その後,2回のアフリルベセプト硝子体注射(IVA)を施行し,6カ月後の視力は(0.7),CRT261μm.12カ月後の視力は(0.5),CRT231μmと安定している.BeforeIVA11WIVA21MBeforeマイクロパルスレーザ3M6M12M図5症例2(57歳,男性,左眼)治療前視力(0.7p),CRT579μm.アフリルベセプト硝子体注(IVA)1カ月ごとに2回施行後に,マイクロパルスレーザーを施行した.IVA初回の1カ月後,視力(0.7),CRT298μm.3カ月後の視力は(1.0),CRT288μm.6カ月後の視力は(1.0),CRT304μm.12カ月後の視力は(1.0),CRT305μmと安定している.いる11)が,VEGFは1990年代より血管新生や血管透過性亢進に大きく関与し,DMEで重要なサイトカインであると注目されてきた.マイクロパルスレーザーの奏効機序には諸説があるが,筆者らはこれまでの治療経験をもとに,SMLPは色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化させ,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきた.また,これまでに810nm波長の機種において,視力は維持にとどまり,有意な改善は示せなかったが,CRTは12カ月にわたる持続した有意な改善を示すことができ7),即効性には欠けるが,持続性があると考えていた.また,577nm波長の新しい機種においては,577nmの波長特性を生かし,SMLP治療を行う際に,浮腫の原因と考えられるMAがあれば,同時に治療を行うことも簡単にできるようになり,照射1カ月後では視力,CRTともに有意差がなかったが,3カ月では,CRTは有意に改善した8).わが国において,2014年にラニビズマブ,アフリルベセプトにDMEへの適用が認可され,その有効性は認められたが,頻回投与が次第に問題となってきた.このような状況のなかで,筆者らは,抗VEGF薬とSMLPの併用療法を行えば,よりよい臨床効果とともに,患者負担の軽減につながるのではないかと考えた.今回示した治療成績では,3カ月後にCRTが増悪しているが,抗VEGF薬注射回数が平均2.5回では,効果が不十分であった可能性と,症例1,2が示すように,SMLP施行直後の増悪であった可能性が考えられる.SMLPは低侵襲レーザーで悪化はないとの報告が多いが,これまでにSMLP施行後,漿液性.離(serousretinaldetachment:SRD)があった症例で,SMLP施行1カ月後に増悪した例を経験している6).今回の症例2の右眼もSRDを伴うタイプであり,SMLP施行直後にCRTの著明な増悪があったので,SRD型では,慎重に対応したほうがよいと考えられる.筆者らのこれまでのSMLP単独の12カ月の治療成績7)では,視力は維持であったのに対し,今回の併用療法では,視力についても有意な改善が得られ,SMLPの単独療法を上回る結果となった.今後のDME治療において,SMLPは抗VEGF薬とは作用機序が異なる治療法であり,抗VEGF薬注射数が大規模臨床研究と比較して,より少ない本数でも,治療効果が維持できる可能性を示すことができたものではないかと考える.本研究は症例数も少なく,後ろ向き研究である.今後は,DMEの治療として,従来の連続波によるレーザーではなく,より低侵襲であるSMLPを用いて,抗VEGF薬との併用の効果を検討することが,今後のDME治療の方向性を考えるうえで重要ではないかと考え,継続して取り組んで行きたいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NewEnglJMed331:1480-1487,19942)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudyGroup:TheRESTOREstudy:ranibizumabmono-therapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20113)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchGroup:Longtermoutcomesofranibi-zumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20134)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gy121:2247-2254,20145)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:Riskofgeographicatrophyinthecomparisonofage-relatedmaculardegen-erationtreatmentstrials.Ophthalmology121:150-161,20146)高綱陽子,中村洋介,新井みゆきほか:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固6カ月の治療成績.眼臨101:848-852,20077)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20118)高綱陽子,水鳥川俊夫,渡辺可奈ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験.あたらしい眼科30:1445-1449,20139)PankratovMM:Pulsedeliveryoflaserenergyineperi-mentaltheramalretinalphotocoagulation.ProcSocPhotoOptInstrumEng1202:205-213,199010)LavinskyD,CardillioJA,MeloLAJretal:RandomizedclinicaltrialevaluatingETDRSversusnormalorhighdensitymicropulsephotocoagulationfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci52:4314-4324,201111)DasA,McGuirePG,RangasamyS:Diabeticmacularedema:Pathophysiologyandnoveltherapeutictargets.Ophthalmology122:1375-1394,2015***

千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):744.748,2017c千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学IntravitrealInjectionofAnti-VEGFDrugforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績を検討する.対象および方法:千葉労災病院において2014年3.8月にDMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)について,治療前,治療1,2,3,6,9,12カ月後に検討した.3カ月以上前のステロイドTenon.下注射,毛細血管瘤への直接凝固などのDMEに対する先行治療は含まれる.結果:17人18眼.平均年齢64.8歳.平均HbA1C6.8%.3カ月までに使用した抗VEGF薬はすべてラニブズマブであり,3カ月間のラニビズマブ注射回数は平均1.7回で,その後の12カ月まででは,アフリルベセプトも含まれるが,抗VEGF薬総注射回数は2.4回.期間中,抗VEGF薬以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼.治療前の視力(logMAR換算)は0.524で,治療1,2,6,9カ月後で,それぞれ0.428,0.425,0.386,0.381となり,有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(3M:0.422,12M:0.424).CRTは,治療前540.8μmで,治療1,2,3,9,12カ月後ではそれぞれ407.4,398.9,415.2,391.7,386.2μmとなり,有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後ではp<0.05).6カ月後では有意差はなかった(6M:415.5μm).結論:当院でのDMEに対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績は,総注射回数2.4回で,治療効果は12カ月にわたり維持できていた.Purpose:Toevaluatethee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugfordiabeticmacularedema(DME)overaperiodof12months.Methods:FromMarch2014toAugust2014,18eyesof12patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrug(ranibizumab)werefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeandat1,3,6,9and12months(M)afterthe.rstinjection.Results:Injectionincidenceaveraged1.7dur-ingthe.rstthreemonthsand2.4duringthe12months.BaselineBCVAandCRTwere0.52and544.8μm,respectively.Atmonths1,2,6and9,BCVAshowedsigni.cantdi.erence(1M:0.428,2M:0.425,6M:0.386,9M:0.381),thoughmonths3and12didnotshowsigni.cantdi.erence(3M:0.422,12M:0.424μm).Atmonths1,2,3,9and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:407.4,2M:398.9,3M:415.2,9M:391.7,12M:386.2μm).Atmonth6,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(6M:415.5μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugise.ectiveforDMEduringa12-monthperiod,evenatupto2.4injections.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):744.748,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,併用療法,光凝固.diabeticmacu-laredema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,combinedtherapy,photocoagulation.〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN744(142)はじめにわが国における糖尿病患者数の動向は厚生労働省国民健康・栄養調査結果によれば,調査が始まった平成9年度の糖尿病が強く疑われる者の数は690万人であったのに対し,平成14年度では740万人,平成19年度では890万人,平成24年度では950万人となっている.また,糖尿病網膜症は,糖尿病罹病期間の延長とともに累積的に増加し,後天性視覚障害の主要な原因となってきた.最近の報告では,若い世代では,高齢者と比較し,重症な増殖網膜症の発症頻度が2倍近く高く,また,年齢別にまた進展と重症化の割合も,65歳以上の高齢者に比べ,40歳未満の若年者においてより高く,若年者では,重症化した網膜症患者が増えていることが示されている1).また,網膜症の重症度が増すにつれ,黄斑浮腫合併の割合も増えるとされており,働く世代における糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)への対策が社会的にも非常に重要になっていると考えられる.これまでにレーザー治療,90年代からは硝子体手術,ステロイド治療などが行われてきたが,さまざまな問題点もあり,黄斑浮腫に対する治療は十分確立されたものとはいえないものであった.このようななかで,筆者らは,マイクロパルスレーザーに取り組んできた2).マイクロパルスレーザーは,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもので,副作用の少ない低侵襲な治療として行ってきたが,12カ月の治療成績では,中心窩網膜厚の改善はできたが,視力は維持のみで,単独治療としては,まだ十分とはいえなかった2).DMEの病態解明が進み,血管内皮増殖因子(vas-cularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,DMEの硝子体中では高濃度に存在していることが解明された3).加齢黄斑変性症の治療薬としてすでに認可されていたラニビズマブが,DMEにおいても大規模臨床試験でその有用性が示され4,5),わが国においても,2014年には,ラニブズマブ,ついで,アフリルベセプトと2種類の抗VEGF薬にDMEの適応が拡大された.抗VEGF薬は,これまでのレーザーや,ステロイド治療に比較して,即効性があり,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の改善のみならず,視力も改善できるなど,これまで以上の大変優れた治療効果が示されたが,年間7,8回以上もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診と高額な薬剤費用が大きな負担になってくると思われる.このような背景のもとで,筆者らは,DMEに対する治療として,抗VEGF薬硝子体注射を行うようになり,1年間の治療成績を診療録より後ろ向きにまとめたので報告する.I対象および方法2014年3.8月に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射を施行された症例で,その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR値),CRTについて,治療前および治療1,2,3,6,9,12カ月後について診療録より後ろ向きに検討した.これらの症例で,DMEに対する治療歴がまったくないものは3眼で,先行治療があるものも多く含まれている.3カ月以上前に施行された,毛細血管瘤(microaneurysm:MA)へのレーザー5眼,汎網膜光凝固4眼,白内障手術施行2眼,2年前にDMEに対して硝子体手術施行の1眼である.3カ月以内に何らかの治療を受けているものはすべて除外した.硝子体手術については6カ月以上の経過が空いていることとした.基本的な治療方針としては,ラニビズマブ硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)を行い,その後は2段階以上の視力の悪化または20%以上のCRTの増悪があった場合には,再燃と考え,IVRを繰り返す方針であるが,患者の同意が得られない場合には,必ずしもその限りではない.6カ月以降での再注射には,新しく発売されたアフリルベセプト使用も含まれる.また,経過中にMAの出現がみられた場合や,造影検査で,無血管野の残存があった場合にはレーザー追加すること,また,硝子体注射を希望しない場合の追加治療として,マイクロパルスレーザーや,ステロイドTenon.下注射もできることをあらかじめ説明した.統計処理は,Wilcoxon順位和検定による.II結果18人19眼が対象で,6カ月までは全例が経過観察できたが,2眼は6カ月経過後に網膜症の活動性が増し,硝子体出血発症などのため硝子体手術適応となり,16人17眼について検討した.平均年齢64.5歳,平均HbA1C6.8%であった.3カ月までの抗VEGF薬は,すべてラニビズマブが用いられ,IVRの3カ月間の回数は平均1.7回で,3カ月以降12カ月までの期間で追加投与した抗VEGF薬には,アフリルベセプトも含まれているが,12カ月間の抗VEGF薬総注射回数は2.4回であった.期間中の抗VEGF薬硝子体注射以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼であった.視力(logMAR換算)は治療前0.524より,1,2,3,6,9,12カ月後でそれぞれ,0.428,0.425,0.422,0.386,0.381,0.424となり,1,2,6,9カ月後で有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(図1,表1).CRTは,治療前540.8μmより,1,2,3,6,9,12カ月後では,それぞれ407.4,398.9,415.2,415.5,391.7,386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後では,0.7*p<0.05**p<0.01700*p<0.05,**p<0.010.6600*500*******0.5視力(logMAR)中心窩網膜厚(μm)0.40.34003002001000.20.10Before1M2M3M6M9M12M0Before1M2M3M6M9M12M図1視力(logMAR)の経過図2中心窩網膜厚の経過投与前,1,2,3,6,9,12カ月後の視力.投与前中心窩網膜厚(CRT)は,治療前540.8μmで,1カ月後0.524,1カ月後0.428,2カ月後0.425,3カ月後0.422,407.4,2カ月後398.9,3カ月後415.2,9カ月後391.7,6カ月後0.386,9カ月後0.381,12カ月後0.424とな12カ月後386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では,り,術後1,2,6,9カ月では有意に改善した(1,2,6有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カカ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).月後ではp<0.05).6カ月後では,有意差はなかった.表1視力(logMAR)の経過before1M2M3M6M9M12M視力(logMAR)0.524±0.0740.428±0.0730.425±0.0760.422±0.0890.386±0.0600.381±0.0700.424±0.074p値0.0150.0300.1550.0200.0010.083表2中心窩網膜厚の経過before1M2M3M6M9M12M中心窩網膜厚(mm)540.8±29.9407.4±25.3398.9±30.9415.2±27.7415.5±34.8391.7±23.3386.2±29.8p値0.0040.0020.0110.0550.0120.008p<0.05).6カ月後では有意差はなかった(図2,表2).代表的な症例を2例示す.〔症例1〕60歳,女性.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),CRT715μmで,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善したが,3回目の注射は希望されなかったため,初回IVR施行から3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらにその3カ月後に,まだ残存している毛細血管瘤へのレーザー光凝固を施行した.12カ月後の視力(0.5),CRT249μmと改善が認められた.網膜全体の出血斑,白斑も減少している(図3).〔症例2〕58歳,女性.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),CRT653μmと黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに3回行い,視力(0.4),CRT295μmと改善がみられた.6カ月後に再燃し,その後4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行い,12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した.12カ月後の眼底では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑や出血斑が著明に減少している(図4).III考按これまでに,DMEに対するIVRについては,大規模臨床試験4,5)により,その高い臨床効果は示されており,現在のDME治療の第一選択の位置にあることは明らかなものとなっている.しかしながら,大規模臨床試験での総投与回数は1年間で,7,8回以上となっており,繰り返しの注射は,さまざまな新たな問題につながっている.高額な医療費の経済的な負担のほか,頻回の外来通院は,患者側,医療者側にも負担になる.また,繰り返し注射は眼内炎のリスクにつながるものであり,そのような因子を考慮すると,大規模臨床試験の示す頻回の注射回数をそのまま実際の日常診療には適応しにくい.DMEの患者の硝子体中のサイトカインを調べた研究では,DME患者では,非常に高濃度のVEGFが発現しているが,それ以外にも,IL-6ほか,炎症性サイトカインもあり6),ステロイド投与は,理論的にも治療法として有効であると考えられる.また,血管透過性が亢進し,漏出しているMAがあれば,直接的凝固により,浮腫が速やかに改善でき図3症例1(60歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:6カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),中心窩網膜厚(CRT)715μm,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた(写真上段).ラニビズマブ硝子体注射を1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善した(右3段目).3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらに,残存する毛細血管瘤へのレーザーを6カ月後に施行した(眼底は左中段,OCTは右5段目).12カ月後では視力(0.5),CRT249μmと改善した(右下段).網膜全体の出血斑,白斑も減少している(左下段).視力の表示は小数視力による.ることは,1985年から推奨されており7),今回の症例においても,経過中に浮腫の原因となっていると思われるMAが新たに出現した場合には,凝固を行った.筆者らは,これまでにDMEに対するマイクロパルスレーザー閾値下凝固に取り組んできたが,色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化し,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきたが,即効性にはやや欠けるが,12カ月にわたる持続した治療効果を示し2),今回も追加治療として行っている.また,Takamuraらは,1回の抗VEGF薬投与でも,無血管野へのレーザー光凝固の併用により浮腫の再燃を抑制でき,レーザー光凝固が内因性のVEGFを減少させると考察しており8),今回の筆者らの治療図4症例2(58歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:2カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),中心窩網膜厚(CRT)653μm,黄斑浮腫が持続していた(眼底左上段,OCT右上段).ラニビズマブ硝子体注射1カ月ごとに3回行い,3カ月後には視力(0.4),CRT295μmと改善した(OCT右4段)が,6カ月後に再燃がったので,さらに4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行った.12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した(眼底左下段,OCT右下段).12カ月後の眼底(左下段)では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑と出血斑が減少し,病期が改善している.視力の表示は小数視力による.においても,経過中に残存した無血管野が確認できた場合には,光凝固の追加を行うようにした.筆者らは,DMEの病態を考えると,このような異なる作用機序をもつ治療法を併用して対応することが重要ではないかと考えて治療に取り組んできたので,今回の治療成績は,純粋に抗VEGF薬のみの治療効果を検討したものではない.今回の対象でも,事前治療がまったくなかったものは3眼のみであり,残りの14眼はさまざまな事前治療があり,また,10眼についてレーザー,ステロイドなどの追加治療がなされている.したがって,1年間当たり平均2.4回の少ない注射回数にもかかわらず,有意な視力改善とCRTの改善がほぼ1年にわたり維持できたことは,併用療法も重要な役割を果たしたものと考えられる.また,12カ月後の眼底は,全体として,血管透過性亢進が改善し,浸出斑や出血斑が減少し,網膜症としての病期が軽快したと思われる症例も多く経験した.実際に,ラニビズマブ投与3年の治療成績では,病期を改善する効果もあると報告されている9).とくに若年層では,重症網膜症が増えている1)ことを考えると,抗VEGF薬の網膜症の改善効果については,今後もDMEへの治療効果とともに,注目していきたいところである.この論文の6カ月までの経過は,第20回日本糖尿病眼学会総会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KatoS,TakemoriM,KitanoSetal:Retinopathyinolderpatientswithdiabetesmellitus.DiabetesResClinPract58:187-192,20022)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20113)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19944)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthal-mology118:615-625,20115)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchgroup:Longtermoutcomesofranibizum-abtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Oph-thalmology120:2013-2022,20136)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitre-ousin.ammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,20097)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19858)TakamuraY,TonomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20149)IpMS,DomalpallyA,SunJKetal:Long-terme.ectsoftherapywithranibizumabondiabeticretinopathyseveri-tyandbaselineriskfactorsforworseningretinopathy.Ophthalmology122:367-374,2015***

糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):419.424,2017c糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例善本三和子*1高野秀樹*2東原崇明*2松元俊*1*1東京逓信病院眼科*2東京逓信病院腎臓内科ACaseofDiabeticMacularEdemawithProgressiveRenalDysfunctionafterIntravitrealInjectionofRanibizumabMiwakoYoshimoto1),HidekiTakano2),TakaakiHigashihara2)andShunMatsumoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2)DepartmentofNephrology,TokyoTeishinHospital糖尿病性腎症(以下,腎症)を合併した糖尿病黄斑浮腫(以下,DME)患者に対するラニビズマブ硝子体内注射(以下,IVR)治療経過中,腎機能障害が急速に進行した症例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.下腿蜂窩織炎にて当院初診時,糖尿病が発見された(HbA1C12.2%,腎症+).眼科初診時,両眼視力(1.2),増殖前網膜症を認め,内科治療開始後より右眼DMEが発症,悪化し,右眼IVRを連続3回施行したが,反応不良であった.IVR前とIVR3回後で,血清クレアチニン値2.04→3.39mg/dl,尿中TP/CRE8.14→10.92g/gCr,尿糖(.)→(+2)と3カ月間の腎機能障害の進行は急速かつ顕著であり,その後の積極的な内科治療にも抵抗して腎症はさらに悪化し続け,IVR開始11カ月後,透析導入となった.DMEに対する抗VEGF療法では,全身因子としての腎機能の変化に注意し,盲目的な連続投与は避ける必要がある.Acaseofdiabeticmacularedema(DME)withprogressiverenaldysfunctionafterrepeatedintravitrealinjec-tionofranibizumabisreported.A56-y.o.malewasadmittedtoourhospitalwithacutecellulitisofthelowerextremitiesanddiagnosedwithdiabetesmellitus(HbA1C12.2%,diabeticnephropathy+).Atinitialophthalmicexamination,correctedvisualacuityofbotheyeswas1.2,anddiabeticretinopathywaspreproliferativestage.Afterdiabetesmedicationwasinitiated,DMEofrighteyeoccurredandprogressed,andintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)wasrepeatedthreetimes,butresponseforIVRwaspoor.Dataforserumandurineanalysis(pre-→post-IVR),serumcreatinine(2.04→3.39mg/dl),urineTP/CRE(8.14→10.92g/gCr)andurinesugar(.→+2)showedrapidrenaldysfunctionafterrepeatedIVR.Elevenmonthsafterthe.rstIVR,despiteintensivemedicaltreatmentagainstprogressiverenaldysfunction,dialysiswasinitiated.Itisnecessarytogivecareandattentiontorenalfunctioninanti-VEGFtherapyforDME,andtoavoidrepeatinginjectionsroutinely.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):419.424,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,ラニビズマブ硝子体内注射,抗VEGF抗体,糖尿病性腎症,腎生検.diabeticmacu-laredema,intravitrealranibizumabinjection,anti-VEGFantibody,diabeticnephropathy,renalbiopsy.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮増殖因子)抗体硝子体内注射は,現在,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)治療の主流になりつつある.しかし,同効薬である抗癌剤ベバシズマブの全身的副作用には高血圧や蛋白尿などが多く報告1)されており,全身合併症を有する頻度の高い糖尿病患者では,他の疾患に比べてその全身的影響が懸念されている.今回,筆者らは,初診時より腎症を有するDME患者に対し,抗VEGF抗体であるラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)を連続3回施行したところ,反応は不良で,かつ3回連続投与後に,急速な腎機能障害の悪化・進行が判明し〔別刷請求先〕善本三和子:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科Reprintrequests:MiwakoYoshimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2-14-23,Fujimi,Chiyoda-ku,Tokyo102-8798,JAPANた症例を経験したので報告する.I症例患者:56歳男性.主訴:下腿浮腫,発赤.現病歴:2014年3月中旬,左足関節部の傷と下腿の発赤腫脹を自覚し,同年3月18日当院皮膚科を受診.下腿蜂窩織炎を認め,全身検査の結果,HbA1C12.2%,尿糖4+,尿蛋白3+であり,糖尿病と診断(表1)され,抗菌薬全身投与とともに,強化インスリン療法,降圧薬の投与を開始,その後,3月24日糖尿病網膜症精査目的にて当科初診.既往歴:1998年頃,肥満(体重113kg,BMI34.11kg/m2),尿糖指摘.その後自己流の運動療法で体重が20kg減少し,放置.家族歴:糖尿病:弟,高血圧:母.初診時眼科所見:視力は,RV=0.15(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),LV=0.1(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),眼圧:両眼18mmHg,前眼部所見:角膜・前房異常なし.軽度の白内障あり.虹彩・隅角異常なし.眼底所見:両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑が散在し,初診時黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見では,右眼黄斑浮腫なし,左眼にはわずかな漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)と中心窩上方に軽度の網膜膨化を認めた(図1).経過:3月25日,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)では,両眼の中間周辺部網膜に無灌流域(nonperfusionarea:NPA)を認め,とくに右眼の鼻側網膜で広く,また右眼黄斑部には造影後期に毛細血管瘤からの蛍光漏出および貯留を認めた.3月31日,右眼の視力低下(矯正0.8)を訴え,OCTでは.胞様黄斑浮腫と網膜の膨化所見を認めたため,トリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)を施行し,その後,右眼黄斑局所凝固およびNPAに対する病巣凝固を開始し,4月30日には右眼DMEは消失した.初診から3カ月後には,HbA1Cは6.7%に低下し,それ以後は,テネリグリプチン(選択的DPP-4阻害薬:テネリアR20mg1錠/日)内服治療の下,HbA1Cは5.7.6.2%と良好なコントロール状態が続いた.初診から3カ月後のFAの結果,左眼のNPAに対する病巣凝固を施行し(両眼ともにDMEの再燃なし),初診から9カ月後(2014年12月)のFAでは,右眼でさらにNPAが拡大し,左眼では網膜新生血管を認め,OCTでは右眼にわずかなSRDと網膜膨化が再燃していたため,先に右眼STTAを施行後,DMEが軽減したため,網膜光凝固を追加,さらに左眼にも網膜光凝固を追加した.2015年1月7日受診時,右眼のDMEの網膜膨化所見が悪化(図2a)していたため,同年2月6日より右眼IVRを開始したところ,反応不良であったため,その後3月13日,4月24日と連続3回IVRを施行した.しかし,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は改善せず(図2b.d),同時期に腎機能障害の急速な進行が発覚したた表1初診時全身検査結果血液検査所見WBC(×103μl)15.6×103RBC(×106μl)4.39×106Hb(g/dl)13.5Ht(%)38.4Plt(×103μl)283×103CRP(mg/dl)19.11Na/K/Cl(mEq/l)136.7/5.0/99.3GOT/GPT(IU/l)26/18TP/Alb(g/dl)5.9/2.1BUN/CRE(mg/dl)26.6/1.79BS(mg/dl)朝食後5h504HbA1C(%)12.2eGFR32.3(ml/分/1.73m2)尿所見尿糖/尿蛋白4+/3+尿ケトン体─蛋白質定量(mg/dl)569TP/CRE(g/gCr)6.13NAG(U/l)34.3b2ミクログロブリン(ng/ml)52370身体所見身長182cmBMI26.4体重91.35kg血圧180/95異常値を○○(斜体と下線)で示す.eGFRは推算糸球体濾過量(基準値:90以上),TP/CREは1日尿蛋白量(正常:0.15未満),NAG(N-アセチル-b-D-グルコサミダーゼ正常:7以下),b2ミクログロブリン(正常:230以下)はともに尿細管障害の指標.本症例はeGFRおよび尿TP/CREより,糖尿病腎症3期(顕性腎症期)と診断された.図1初診時眼底写真とOCT2014年3月24日眼科初診時の眼底写真(右眼:a,左眼:d),および黄斑部水平断(右眼:b,左眼:e)および垂直断(右眼:c,左眼:f)OCT撮影画像を示す.眼底検査では両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑を認めた.OCTでは,右眼には明らかな黄斑浮腫はなく,左眼にわずかな漿液性網膜.離と中心窩上方の軽度の網膜膨化所見を認めた.め,本症例の黄斑浮腫には全身性因子の関与が強い可能性も考えられたため,その後のIVRを中止し経過観察とした.腎機能データは,当院初診時より顕性腎症期(糖尿病腎症)であったが,内科治療開始後約9カ月間は,血1表期)(3清クレアチニン値が1.3.1.7mg/dlを維持したまま経過していた.しかし,右眼DMEが再燃したため,IVRを開始し(同時期の血清クレアチニン値2.04mg/dl),連続3回施行したところ,3回目のIVRの1週間後の4月30日腎臓内科受診時,血清クレアチニン値が3.23mg/dlと急激に上昇していたため,当院腎臓内科に即日入院となった.IVR前後の右眼CRTの変化と腎機能データの推移を図3に示す.IVR後の腎臓内科入院約1カ月間,安静と飲水励行および減塩食による食事療法,降圧薬や脂質異常症治療薬の内服にて全身浮腫は改善しいったん退院したが,退院後早期に全身性浮腫が再度悪化し,7月21日腎臓内科に再入院となり,急激な腎機能障害の進行の精査目的に8月3日腎生検を施行した.病理組織学的検査(図4)では,糸球体には,慢性経過の糖尿病性腎症の病理所見で,糖尿病性結節性硬化の初期病変と考えられる細胞浸潤を伴った活動性の高いメサンギウム融解像を認めたことや,比較的新しい内皮障害が示唆される細動脈硝子化や尿細管の滲出病変が散見されたことなどから,最近になって比較的急速に進展した糖尿病性腎症の所見2)と考えられ,臨床経過を考慮すると,IVRの全身的影響の一部である可能性も考えられた.その後は,複数回の入院治療を含む積極的な内科治療にも抵抗して腎機能障害は進行し,2015年10月シャント造設,2016年1月透析導入となった.IVR後の右眼DMEは,腎臓内科入院後徐々にCRTが減少し,入院後3カ月でほぼ浮腫は消失し,その後は全身浮腫が悪化してもCRTは約250μm程度のまま,浮腫は再燃せずに経過した.なお,左眼のDMEは上記経過中出現していない.II考察DMEは,眼局所因子と全身因子が複雑にかかわり合って発症3)し,また患者個々に病態が異なることから,その治療法は大変複雑である.また,そのためかDMEに対する抗VEGF抗体単回投与の反応は,他の加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症に比して緩やかであり,繰り返し使用を余儀なくされることも多く4),さらに治療法の選択を困難にしていると*:CRT図2IVR前後の右眼黄斑部OCT所見(上段:水平断下段:垂直断)2015年1月7日(a),DMEが再発していたため,2月6日(b)に初回IVR,3月13日(c)に第2回IVR,4月24日(d)に第3回のIVRを施行したが,CRTは増加した.思われる.抗VEGF抗体硝子体内注射の全身的副作用としては,DME患者では狭心症・心筋梗塞,高血圧症などが少数例報告されてはいる5)ものの,大規模スタディでは,対象群と抗VEGF抗体治療群を比較しても全身的副作用の発現に有意差はない6)とされている.しかし,これらの大規模スタディの対象患者の患者背景は,比較的全身状態の良好な患者に限定されていることに注意する必要がある.抗VEGF抗体硝子体内注射後の血中VEGF濃度の推移をみた報告7)では,硝子体内注射後,血中VEGF濃度が上昇し,かつ腎障害のある患者では,そのクリアランスが低下していることや,抗VEGF抗体硝子体内注射後の腎臓組織には抗VEGF抗体が存在し,さらにVEGF活性が低下していることが報告8)されており,抗VEGF抗体硝子体内注射が腎組織に対して影響を与える可能性も考えられる.また,過去には,抗VEGF抗体の硝子体内注射後に,腎機能障害が進行した症例が報告9,10)がされており,とくに糖尿病性腎症があるDME患者において抗VEGF抗体硝子体内注射を繰り返し施行する際には,腎機能の推移に注意する必要があると考える.さらに,腎機能に対する注意は,副作用という観点だけではなく,腎機能障害が進行しつつある症例では,全身因子としてのDME悪化要因が加わることで,抗VEGF抗体注射に対する反応も不良となるため,その誤った評価により,不必要な注射を繰り返すことを避けるためにも重要であると考えられる.抗VEGF抗体である,ベバシズマブは,以前より大腸癌などの抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,その全身投与時の副作用として高血圧や蛋白尿が高率に報告されており1),症例の腎生検の組織学的検討を行った報告11.16)がなされている.それらによると,腎臓組織におけるVEGFの役割は,いまだ不明な点も多いが,VEGFはおもにpodo-cyteや尿細管上皮から産生され14),糸球体毛細血管の内皮700中心窩600網膜厚500CRT400(μm)3002003.525尿NAG(Ul)尿TP/CRE(g/gCr)3201400012000血清Cr(mg/dl)尿b2MG(ng/dl)2.51510000280001060001.54000200005100.52014/10/92014/11/92014/12/92015/1/92015/2/92015/3/92015/4/92015/5/9図3IVR前後の中心窩網膜厚(CRT)と腎機能データの変化上段には中心窩網膜厚(CRT)の変化とIVR施行日を示す.下段グラフは左軸に血清クレアチニン値(実線・,□の中に実測値),尿NAG(細点線・▲),尿TP/CRE(長点線・●),右軸にb2ミクログロブリン(実線・■)を示した.グラフ右下の棒グラフは尿糖を示し,IVR開始後出現し増加した.図4腎生検(病理所見)a:糸球体.糖尿病性腎症に矛盾しない結節性病変を多数認める.b:aの拡大写真.細胞浸潤を伴うメサンギウム細胞誘融解(.)を認め,結節性病変形成の初期病変と考えられた.c:尿細管の滲出病変,尿細管間質萎縮と線維化.d:血管の光顕像(PAM染色).内皮障害を示唆する細小動脈の硝子化.細胞のfenestration形成にかかわることにより,糸球体の構造や機能を維持する役割11)や,毛細血管障害が生じた場合の修復の役割も担うこと16)が報告されている.したがって,VEGFを阻害することにより,腎臓の毛細血管の成長が阻害されることにより毛細血管障害が起こり,さらにその修復過程も阻害されることにより,腎臓組織内の毛細血管障害やthromboticmicroangiopathy(TMA)などが引き起こされることが推測されている.本症例の腎機能障害の進行経過は,通常の糖尿病腎症を否定するものではないが,IVR開始後の進行速度が,非常に急速でかつ内科的治療に抵抗性であったこと,またHbA1C5.6%と血糖コントロール良好であるにもかかわらず,IVR開始後に尿糖が陽性になり,その後増加していったことは,通常の糖尿病腎症の進行経過中にはみられない点として着目した.通常の糖尿病性腎症の進行速度は,さまざまな要因によって修飾されるため,一定速度であるとは限らないが,過去の報告17)によると,血清クレアチニン値2.0mg/dlから透析導入に至るまでの期間は糖尿病腎不全症例36例の検討では平均2年4カ月と報告されており,本症例では経過は,約1年であり,比較的早い経過で腎不全に進行した症例と考えられた.さらに腎生検では糖尿病腎症に矛盾しない所見に加えて,この病期の糖尿病腎症患者ではみることが少ない,初期病変が散見されたことは,それまで存在していた糖尿病性腎症がIVRによりさらに後押しされたように進行した可能性も考えられたが,因果関係は不明である.DMEに対する抗VEGF抗体硝子体内注射は大変有用な治療法である.しかし,DME患者では糖尿病腎症を合併していることが多く,繰り返し治療を行う場合には進行性の腎機能障害があるかどうか,治療開始後,腎機能データに著しい変動はないか,という点に注意する必要があると思われた.とくに腎症を有し,DME治療開始時期に血清クレアチニン値が上昇傾向にある患者では,腎臓内科主治医と連絡をとりあいながら治療法を決定することが望ましいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhuX,WuS,DahutWLetal:Risksofproteinuriaandhypertensionwithbevacizumab,anantibodyagainstvas-cularendothelialgrowthfactor:systemicreviewandmeta-analysis.AmJKidneyDis49:186-193,20072)齋藤弥章,木田寛,吉村光弘ほか:糖尿病性腎症におけるMesangiolysisについて.日腎誌26:367-375,19843)BresnickGH:Diabeticmaculopathy.Acriticalreviewhighlightingdi.usemacularedema.Ophthalmology90:1301-1317,19834)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofranibizumabondiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/mlVIII安全性(使用上の注意等)に関する項目.VIII-8副作用.p56-58,2015年3月改訂(改訂第11版)6)LangGE,BertaA,EldemBMetal:Two-yearsafetyande.cacyofranibizumab0.5mgindiabeticmacularedema:interimanalysisoftheRESTOREeztensionstudy:Oph-thalmology120:2004-2012,20137)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/ml.VII.薬物動態に関する項目.p47-51,2015年3月改訂(改訂第11版)8)TschlakowA,ChristnerS,JulienSetal:E.ectsofasin-gleintravitrealinjectionofa.iberceptandranibizumabonglomeruliofmonkeys.PLoSOne21:e113701,20149)PelleG,ShwekeN,DuongVanHuyenJPetal:Systemicandkidneytoxicityofintraocularadministrationofvascu-larendothelialgrowthfactorinhibitors.AmJKidneyDis57:756-759,201110)GeorgalasI,PapaconstantinouD,PapadopoulosKetal:Renalinjuryfollowingintravitrealanti-VEGFadministra-tionindiabeticpatientswithproliferativediabeticretinop-athyandchronickidneydisease-Apossiblesidee.ect?CurrentDrugSafety9:156-158,201411)EreminaV,Je.ersonJA,KowalewskaJetal:VEGFInhi-bitionandRenalThromboticMicroangiopathy.NEnglJMed358:112-1136,200812)SugimotoH,HamanoY,CharytanDetal:Neutralizationofcirculatingvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)byanti-VEGFantibodiesandsolubleVEGFreceptor1(sFlt-1)inducesproteinuria.JBiolChem278:12605-12608,200313)GeorgeBA,ZhouXJ,TotoR:Nephroticsyndromeafterbevacizumab:casereportandliteraturereview.AmJKidneyDis49:E23-E29,200714)FrangieC,LefaucheurC,MedioniJetal:Renalthrom-boticmicroangiopathycausedbyanti-VEGF-antibodytreatmentformetastaticrenal-cellcarcinoma.LancetOncol8:177-178,200715)RonconeD,SatoskarA,NadasdyTet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糖尿病黄斑浮腫に対するRanibizumab単回投与後の経過に関する検討

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):280.282,2017c糖尿病黄斑浮腫に対するRanibizumab単回投与後の経過に関する検討藤井誠士郎本田茂大塚慶子三木明子今井尚徳楠原仙太郎中村誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野E.ectofSingleInjectionofRanibizumabinDiabeticMacularEdemaSeishiroFujii,ShigeruHonda,KeikoOtsuka,AkikoMiki,HisanoriImai,SentaroKusuharaandMakotoNakamuraDepartmentofSurgery,DevisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するranibizumab硝子体注射(IVR)単回投与後の経過に関する検討を行った.対象および方法:対象は2014年3月.2015年4月にDMEに対してIVR0.5mgを1回施行し,2カ月以上再投与なしで経過観察した連続症例22例26眼(男性17例,女性5例).光干渉断層計にて計測した平均中心網膜厚(CRT)を,IVR投与前と投与後1,2カ月で比較し,その変化量を評価した.結果:平均CRTはIVR前と比較し,IVR後1カ月,2カ月では有意に減少した(各p=3.4×10.5,2.1×10.3).一方,IVR後1カ月と2カ月間の平均CRTには有意差を認めなかった(p=0.10).また,IVR前と比べて,IVR後CRTが30%以上減少した症例の割合は1カ月で35.7%,2カ月で28.6%であった.結論:DMEに対するIVR単回投与で1カ月後には有意なCRTの改善が得られ,2カ月後においても治療効果は持続した.Purpose:Weevaluatedthee.ectofasingleinjectionofranibizumab(IVR)inpatientswithdiabeticmacularedema(DME).PatientsandMethods:Twenty-seveneyesof22diabeticpatients(17males,5females)withDMEdiagnosedfromMarch2014toApril2016wereenrolledinthestudy.Patientswerefollowedfor2monthsafterasingledoseof0.5mgIVR.Centralretinalthickness(CRT)wasmeasuredbyopticalcoherenttomography.Results:Asigni.cantdecreaseinaverageCRTwasobservedat1and2monthsafterIVRinjection(p=3.4×10.5,2.1×10.3).Nodi.erencewasobservedbetweenthe1and2monthperiods(p=0.10).Thepercentageofeyesshowing>30%decreaseinCRTwas35.7%at1monthand28.6%at2months.Conclusions:Asigni.cantdecreaseinCRTcanbeobtainedwithasingledoseofIVR.Thischangeismaintainedupto2monthspost-treat-ment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):280.282,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,ラニビズマブ,血管内皮増殖因子,単回投与,中心網膜厚.diabeticmacularede-ma,ranibizumab,vascularendothelialgrowthfactor,singleinjection,centralretinalthickness.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)により黄斑部網膜に細胞外液が貯留することで発症し,DRのすべての病期に生じる可能性がある.DMEの発症は,患者のQOV(qualityofvision)を低下させるため1),その治療法の確立は眼科臨床の重要な課題となっている.以前より,本症に対する治療法として,網膜光凝固,ステロイド局所投与,硝子体手術などが行われてきた.近年では,眼内の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)濃度と血管透過性やDMEの重症度にも相関が報告され2),VEGFをターゲットとする抗VEGF薬がわが国でも使用されるようになり,ranibizumab硝子体注射(injectionofranibizumab:IVR)が行われるようになった.今後,抗VEGF療法はDME治療の第一選択になると考えられている.〔別刷請求先〕藤井誠士郎:〒650-0071兵庫県神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野Reprintrequests:SeishiroFujii,M.D.,DepartmentofSurgery,DevisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe-shi,Hyogo-ken650-0071,JAPAN280(138)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(138)2800910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1症例の内訳患眼(右眼)26(15眼)性別(男性)17(77.3%)年齢67.0±11.0術前logMAR視力0.42±0.35術前CRT(μm)427.8±98.9IVR前治療有*17(66.7%)IVR後PRP開始4(15.4%)IVR後硝子体手術1(3.8%)IVR後網膜局所光凝固5(19.2%)*前治療(17例)の内訳汎網膜光凝固術16網膜局所光凝固3ステロイドTenon.下注射1(同一症例での重複含む)一方で,IVRの投与回数,投与間隔に関しては,近年さまざまな臨床試験が行われているものの,確立したプロトコールはなく,さまざまであるのが現状である.筆者らは,今回,DMEに対するIVR単回施行後の経過に関する検討を行った.I目的・方法1.研究デザイン診療録に基づく後ろ向き調査.2.対象2014年3月.2015年4月にDMEに対してIVR(0.5mg)を1回のみ施行し,2カ月以上経過観察した連続症例22例26眼(男性17例,女性5例)を対象とした.そのうち,2カ月の間に硝子体手術を行ったものが1例,汎網膜光凝固術を行ったものが4例あった(表1).3.主要評価項目治療開始後1カ月,2カ月の各時点における,視力(log-MAR),および中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の変化につき検討した.視力に関する統計処理は,最高矯正小数視力をlogMAR値に換算して行った.光干渉断層計(OCT)(CirrusHDR,CarlZeiss)にてretinalmap(macularcube200×200protocol)を測定し,黄斑部網膜厚マップの中心円(直径1mm)内における網膜厚をCRTとして解析に用いた.平均値の経時的比較には対応のあるt検定を使用し,p<0.05を有意水準とした.II結果全体の平均CRTは,IVR前の438.2μmに対し,IVR後1カ月で323.3μm,2カ月で359.8μmと有意に減少した(各p=3.4×10.5,2.1×10.3)(図1).一方,IVR後1カ月と2カ月間の平均CRTには有意差を認めなかった(p=0.10).Baseline1M2M図1Ranibizumab硝子体内投与後CRTの変化logMAR視力0.60.50.40.30.2全体前治療あり***p<0.05前治療なしBaseline1M2M図2logMAR視力また,IVR前と比べて,IVR後CRTが30%以上減少した症例の割合は,1カ月で35.7%,2カ月で28.6%であった.また,IVR前の治療の有無によって群分けした解析において,無治療群ではIVR後1カ月,2カ月ともに有意なCRT減少がみられたのに対し,有治療群ではIVR後1カ月のみ有意なCRT減少を認めた.視力に関しては,治療前と比べIVR後1カ月で有意に改善していたが(p=2.5×10.2)(図2),2カ月目では有意差を認めなかった.IVR後1カ月と2カ月の間では有意差はなかった.また,IVR前の治療歴があった群では1カ月後の有意な視力改善を認めたが,治療歴がなかった群では視力の有意な改善はみられなかった.III考按VEGFは虚血や高血糖で発現が増加して血管透過性亢進や血管新生に関与しており,DMEの病態において非常に重要な因子である.眼内のVEGF濃度は,血管透過性やDMEの重症度にも相関が報告されている.DMEに対しての治療はステロイド注射,網膜光凝固が一般的であったが,わが国において2014年2月に抗VEGF薬であるranibizumabが承認された.RanibizumabはVEGF-Aを阻害するモノクローナル抗体のFab断片の,さらに親和性を高めたものであ(139)あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017281る.DMEに対するranibizumab治療はすでに多数の大規模前向き臨床試験が行われており,3年という比較的長期間の経過も報告されている.おもなものはRESOLVE試験3),READ-2試験4,5),RESTORE試験6),RISE/RIDE試験7,8),REVEAL試験9)で,DMEに対する治療効果が立証されているが,いずれも導入療法として複数回のIVRを条件としている.本研究のDMEに対するIVR単回施行後の経過に関する検討では,IVR投与前の平均CRT438.2μmに対して,IVR後1カ月では323.3μm,IVR後2カ月では359.8μmといずれも有意な減少を認めた.一方でIVR後1カ月と2カ月の平均CRT間には有意差を認めなかった.また,治療前と比べてIVR後CRTが30%以上減少した症例の割合は1カ月で35.7%,2カ月で28.6%であった.視力に関しては,治療前と比べIVR後1カ月でに有意に改善しているが,IVR後2カ月では有意差はなかった.なかにはIVR1回施行により良好なCRT減少,視力改善が得られる症例もあるが,2カ月後にDMEが再発する例,IVRに反応しない例もみられた.現在,抗VEGF治療はDMEに対するおもな治療として使用されるようになっている.一方で,治療効果を維持するためには反復治療が必要という問題がある.今回の検討に関しても,IVR単回施行による反応は症例によってさまざまであり,今後IVR投与方法に関するさらなる検討が必要と考えられた.本研究では対象症例数が比較的少なかったため,解析項目によっては差が有意水準に達しなかった可能性もある.今後,さらに症例数を増やした検討が望まれる.IV結語DMEに対するIVR単回投与は,1カ月後の視力と黄斑浮腫を有意に改善させた.また,IVR後2カ月においても治療効果は持続した.今後,IVR投与方法に関するさらなる検討が必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WatkinsPJ:Retinopathy.BMJ326:924-926,20032)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:Increasedlevelofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6intheaqueoushumorofdiabeticswithmacularedema.AmJOphthalmol133:70-77,20023)MassinP,BandelloF,GarwegJGetal:Safetyande.ca-cyofranibizumabindiabeticmacularedema(RESOLVEStudy):a12-month,randomized,controlled,double-masked,multicenterphaseIIstudy.DiabetesCare33:2399-2405,20104)NguyenQD,ShahSM,KhwajaAAetal:Two-yearout-comesoftheranibizumabforedemaofthemaculaindia-betes(READ-2)study.Ophthalmology117:2146-2151,20105)DoDV,NguyenQD,KhwajaAAetal:Ranibizumabforedemaofthemaculaindiabetesstudy.3-yeartreatment.JAMAOphthalmol131:139-145,20136)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREstudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20117)NguyenQD,BrownDM,MarcusDMetal;RISEandRIDEReseachGroup:Ranibizumabfordiabeticmacularedema:resultsfrom2phaseIIIrandomizedtrials:RISEandRIDE.Ophthalmology119:789-801,20108)IpMS,DomalpallyA,HopkinsJJetal:Long-terme.ectsofranibizumabondiabeticretinopathyseverityandpro-gression.ArchOphthalmol130:1145-1152,20129)OhjiM,IshibashiT,REVEALstudygroup:E.cacyandsafetyofranibizumab0.5mgasmonotherapyoradjunc-tivetolaserversuslasermonotherapyinAsianpatientswithvisualimpairmentduetodiabeticmacularedema:12-monthresultsoftheREVEALstudy.InvestOphthal-molVisSci53:ARVOE-abstract4664,2012***(140)

難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):264.267,2017c難治性糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績石田琴弓加藤亜紀太田聡平野佳男野崎実穂吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Short-termOutcomeofIntravitrealA.iberceptforDiabeticMacularEdemaKotomiIshida,AkiKato,SatoshiOta,YoshioHirano,MihoNozaki,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の治療効果を検討した.対象および方法:糖尿病黄斑浮腫に対しアフリベルセプト硝子体内投与を行い,6カ月以上経過観察できた11例15眼(非増殖糖尿病網膜症7例9眼,増殖糖尿病網膜症4例6眼)を対象とした.平均年齢は58.3歳,平均観察期間は8.7カ月であった.必要に応じて追加投与を行い,矯正視力,中心網膜厚,黄斑体積を検討した.結果:平均投与回数は2.9回であった.最終受診時において,投与前と比較して平均視力はlogMAR視力で0.49から0.38(p<0.05)に,中心網膜厚は526μmから433μmに(p<0.05),黄斑体積は13.6mm3から12.3mm3(p<0.01)にいずれも有意に改善を示した.結論:糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与は,視力および黄斑浮腫の改善に有効であった.Purpose:Toreportthee.cacyofintravitreousinjectionofa.ibercept(IVA)forthetreatmentofdiabetimacularedema.PatientsandMethod:Enrolledwere15eyeswithdiabeticmacularedema(9eyeswithnon-pro-liferativediabeticretinopathy,6eyeswithproliferativevitreoretinopathy)thatunderwentIVAandwerefollowedupfor6monthsorlonger.Meanagewas58.3years;averagefollow-upperiodwas8.7months.Alleyesunder-wentIVAintheprorenata(PRN)regimenandbest-correctedvisualacuity(BCVA)measurement;centralreti-nalthickness(CRT)andmaculavolume(MV)onopticalcoherencetomographyweremeasuredperiodically.Results:ThemeanIVAfrequencywas2.9times.Atlastvisit,logMARBCVAsigni.cantlyimprovedfrom0.49to0.38(p<0.05),CRTdecreasedfrom526μmto433μm(p<0.05)andMVdecreasedfrom13.6mm3to12.3mm3(p<0.01),comparedtobaseline.Conclusion:Intravitrealinjectionofa.iberceptisane.ectivetreatmentfordiabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):264.267,2017〕Keywords:アフリベルセプト,抗血管内皮増殖因子,糖尿病黄斑浮腫,光干渉断層計.a.ibercept,antivascularendothelialgrowthfactor,diabeticmaculaedema,opticalcoherencetomographyはじめに糖尿病網膜症は先進国において主要な成人の失明原因である.わが国においても,若生ら1)の視覚障害の原因調査で糖尿病網膜症は2位(15.6%)を占めている.糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症の重症度にかかわらず発症し,直接視力低下の原因となるため,その治療は重要である.糖尿病黄斑浮腫に対しては毛細血管瘤に対する直接凝固や,閾値下凝固を含む格子状凝固,あるいはステロイド局所投与,硝子体手術が施行されてきたが,治療に抵抗することも少なくない.2014年に抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)製剤であるラニビズマブとアフリベルセプトが相次いで糖尿病黄斑浮腫の治療薬として承認され,重要な役割を果たしている.ラニビズマブはVEGFに対する中和抗体のFab断片で2),アフリベルセプトはVEGF受容体-1およびVEGF受容体-2の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcドメインからなる遺伝子組換え融合糖蛋白質であり,VEGF-A,VEGF-B,胎盤成長因子などのVEGFファミリーに高い親和性を有するとされている3).〔別刷請求先〕加藤亜紀:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:AkiKato,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN264(122)今回筆者らは糖尿病黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内注射後の視力,滲出性変化への影響を評価したので報告する.I対象および方法対象は2014年11月.2015年3月に名古屋市立大学病院で,他の治療で改善が困難な糖尿病黄斑浮腫に対し,アフリベルセプト2mg硝子体内注射を施行し,6カ月以上経過観察できた11例15眼である.投与前視力が小数視力で1.2以上の症例,無硝子体眼は対象から除外した.平均年齢58.3±3.3歳,平均観察期間8.7±0.3カ月(6.10カ月)であった.病型の内訳は非増殖糖尿病網膜症7例9眼,増殖糖尿病網膜症4例6眼であった.全例において糖尿病黄斑浮腫に対して治療歴があり,トリアムシノロン後部Tenon.下投与11例13眼,網膜光凝固12例14眼,(毛細血管瘤に対する直接凝固11眼,格子状閾値下凝固2眼,汎網膜光凝固7眼)ラニビズマブ硝子体内注射5例6眼であった(重複含む).初回アフリベルセプト投与後は原則毎月診察を行い,矯正視力,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)(シラスHD-OCT,ZEISS社)から,小数視力で2段階以上の視力低下あるいはOCTで黄斑部浮腫の残存または増悪が認められた場合はアフリベルセプトの追加投与を行った(prorenata:PRN投与).また症例によっては他の治療法を併用した.矯正視力およびOCTによる中心網膜厚,黄斑体積を後ろ向きに検討した.視力変化は,小数視力をlogarithmofminimalangleofresolution(logMAR)視力に換算したうえで0.3以上の差を改善または悪化とし,それ以外を不変とした.またCRTは20%以上の変化を改善,悪化とした.logMAR視力,中心網膜厚,黄斑体積の投与前と投与後の統計的比較には,Dunnett’stestを用いて,p<0.05を有意差ありとした.II結果平均投与回数は2.9±0.32であった.アフリベルセプト投与前後の最高矯正視力の変化を図1に示す.平均logMAR視力は,投与前0.49±0.08に対し,投与後最高時では0.26±0.08で有意に改善を認めた.また投与後最高視力においては,視力が改善した症例5眼(33%),不変が10眼(67%)で悪化した症例はなかった.投与後1カ月,3カ月,6カ月,最終受診時ではそれぞれ,0.34±0.05,0.36±0.06,0.39±0.08,0.39±0.08で,いずれの時点においても術前と比較して有意に改善を認めた(図2).最終受診時における視力変化は改善2眼(13%),不変13眼(87%)で悪化した症例はなかった(図3).平均中心網膜厚は投与前526±37μm,投与後1カ月,3カ月,6カ月,最終受診時ではそれぞれ,353±21μm,431±50μm,473±45μm,443±47μmで,投与前と比較し1カ月と最終受診時で有意に改善を認めた(図4).投与後最良中心網膜厚は改善が11眼(73%),不変が4眼(26%)で悪化した症例はなかった.最終受診時の中心網膜厚は改善7眼(47%),不変7眼(47%)で悪化1眼(6%)であった.平均黄斑体積は投与前13.6±0.46mm3,投与後1カ月,3カ月,6カ月後,最終受診時はそれぞれ11.9±0.31mm3,12.2±0.53mm3,12.1±0.53mm3,12.3±0.50mm3で,いずれの時点においても術前と比較して有意に改善を認めた(図4).経過観察中に,黄斑浮腫に対してアフリベルセプト以外の治療を行った症例は7例8眼で,トリアムシノロン後部Tenon.下注射2例2眼,トリアムシノロン硝子体内注射1例1眼,毛細血管瘤に対する直接凝固4例4眼,格子状閾値下凝固1例2眼,硝子体手術1例1眼(重複含む)であった.経過観察中に浮腫が消失し,その後再発しなかった症例は3例3眼で,2例はアフリベルセプト投与直後に毛細血管瘤に対する直接凝固を併用した症例,1症例はアフリベルセプト投与の2週間前に直接凝固を施行していた症例であった.6例9眼は浮腫が一度は消失したが,経過観察中に浮腫が再発し追加治療を行った.3例3眼は経過観察中,一度も浮腫の改善が得られなかった.経過観察中に,眼内炎,水晶体損傷,網膜.離,網膜裂孔など,直接アフリベルセプト硝子体内投与が関与したと思われる合併症はみられなかった.両眼加療中の患者1例で経過観察中に網膜中心動脈閉塞症を発症した.左眼へのアフリベルセプト投与3日後,右眼へのアフリベルセプト投与2カ月後に急に右眼視力が光覚弁にまで低下,蛍光眼底造影検査で右眼の著明な動脈の灌流遅延を認めた.その後視力は発症前程度にまで改善した.この症例は血糖値のコントロールが不安定で,前増殖型ではあったが,比較的無灌流領域の広い症例であった.またその他の重篤な有害事象は認めなかった.III考按今回筆者らは他の治療で改善が困難な難治性糖尿病黄斑浮腫に対してアフリベルセプト硝子体内投与を施行した.約9カ月間での平均投与回数は約3回で,アフリベルセプト後,最高視力はlogMAR視力で0.49から0.26に有意に改善,また33%の症例で視力が0.3以上改善した.経過観察中の平均視力は投与前と比較し有意に改善していた.中心網膜厚は最良時において73%が投与前と比較して改善し,平均中心網膜厚は最終受診時において投与前と比較して有意に改善していた.また平均黄斑体積も視力と同様,経過観察中投与前と比較し有意に改善していた.経過観察中浮腫の再発を認めなかったのは3眼(20%)で,9眼(60%)は浮腫が再発し,1.201.000.800.600.400.20アフリベルセプト投与後最高視力投与前136最終受診時(カ月)0.200.400.600.801.001.20図2アフリベルセプト投与後の視力の推移(logMAR)矯正視力は投与前と比較していずれの時点においても有意に改善を認めた(**p<0.01,*p<0.05,Dunnett’stest,bar±SE).アフリベルセプト投与前視力(logMAR)図1アフリベルセプト投与前視力と投与後最高視力(logMAR)全症例のアフリベルセプト投与前と投与後の最高視力を示す.60015.0526中心網膜厚黄斑体積13.6473431433*12.3**353**12.2**12.1**11.9**中心網膜厚(μm)黄斑体積(mm3)50014.0最高視力40013.0最終視力30012.020011.0投与前136最終受診時(カ月)図4アフリベルセプト投与後の中心網膜厚・黄斑体積の推移中心網膜厚は投与前と比較して1カ月,最終受診時,有意に改善を認めた.黄斑体積は投与前と比較していずれの時点においても有意に改善を認めた(**p<0.01,*p<0.05,Dunnett’stest,bar±SE).ト2mgを4週間ごとに5回投与後,8週ごとに連続投与した群では100週目で10文字程度改善し(VISTA11.1文字,VIVID9.4文字),15文字以上改善を維持していた割合は(VISTA33%VIVID31%)であったとしている.一方でRESTOREstudy6)やREVEALstudy7)ではPRN投与方式でラニビズマブ単独投与と黄斑部に対する網膜光凝固の併用の比較をしている.いずれも1年後において視力改善は6文字程度(RESTORE:IVR単独群6.1文字,併用群5.9文字,REVEAL:IVR単独群6.6文字,併用群6.4文字)で,ラニビズマブ投与回数は7回であったとしている.また網膜光凝固を併用した群と,しなかった群では結果に差はなかったと報告している.今回の筆者らの検討では,logMARでの0.02の変化をETDRS視力の1文字と換算したとき,最高視力は0.23改0%20%40%60%80%100%図3最高視力時・最終受診時における視力改善度logMAR視力で0.3以上の変化を改善・悪化としたとき,最高視力時は改善が33%,最終受診時は改善13%,残りは不変で悪化した症例はなかった.残りの3眼(20%)は経過観察中浮腫が残存した.糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬の有効性はすでに大規模臨床試験で示されている.わが国で最初に承認されたラニビズマブ0.5mg硝子体内投与については,RISEandRIDE試験4)として知られる毎月ラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR)の有効性を評価した報告で,24カ月後においてETDRS視力で12文字(RIDE12.0文字,RISE11.9文字)の改善を認め,36カ月後でも11文字(RIDE11.4文字,RISE11.0文字)程度の改善を認めたとしている.また36カ月後15文字以上の改善を維持していた割合は約40%(RIDE40.2%,RISE41.6%)であったとしている.アフリベルセプトにおいても連続投与に関する報告がされており,VISTAandVIVID試験5)においてアフリベルセプ善で約11.5文字改善しており,0.3以上の改善すなわち15文字以上の改善がえられた症例は33%で,最高視力時だけを比較すると,アフリベルセプトの連続投与での改善度に近いが,最終視力はlogMARで0.1の改善,ETDRSに換算すると5文字の改善にとどまり,15文字以上改善した症例も13%になり,PRN投与による既報と同等かそれ以下であると考えられる.投与回数も1年で約4回の計算になり,他の試験と比較すると少ない.実臨床においてたとえPRN方式であったとしても,医師が必要と判断したときに必ずしも患者が治療を希望するとは限らない.患者によっては金銭的な理由からステロイドの局所投与や,網膜光凝固を選択する場合も少なくない.よって可能な限り治療回数と,治療費を抑えることが必要になる.当院では以前から,インドシアニングリーン蛍光眼底造影を利用した毛細血管瘤の直接凝固8)を積極的に行っており,今回追加治療の必要なかった症例はいずれも治療の前後に直接凝固の治療歴があった.網膜光凝固の併用は差がないとの報告も多いが6,7),近年追尾システムを導入した網膜光凝固機器による網膜光凝固の併用でラニビズマブの投与回数を少なくできたとの報告がされており9),抗VEGF治療に毛細血管瘤に対する直接凝固を併用することは糖尿病黄斑浮腫の治療に有用であると思われる.今回の症例では5例6眼にラニビズマブ硝子体内投与の既往があった.糖尿病黄斑浮腫の治療において,現在わが国で認可されているどちらの薬剤の治療効果が高いかは興味深いところであるが,ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプト3剤の治療効果を比較したprotocolTとよばれる検討10,11)においては,治療開始後1年目では視力が20/50以下の群ではアフリベルセプトは他の群と比較して有意に視力改善がみたれたが,2年目では,3群の視力改善度も投与回数もともに差はなく,また合併症についても3群間で大きな差はみられなかったとしており,今回の症例においても長期経過を検討する必要があると思われる.今回,網膜中心動脈閉塞症と思われる所見を呈した症例が1例あった.両眼治療中で,左眼へのアフリベルセプト投与3日後,右眼へのアフリベルセプト投与2カ月後に右眼に症状が出現し,その後無治療で視力は発症前程度にまで改善したことから,動脈の完全閉塞が生じていたかどうかは定かではないが,抗VEGF薬による加療は眼内炎,網膜裂孔,水晶体損傷など眼への直接的な侵襲によるもののみならず,全身の血流,あるいは今回のように眼局所の血流にも影響を及ぼす可能性があり,注意深い経過観察が必要である.アフリベルセプトは糖尿病黄斑浮腫に対して他の治療に抵抗する症例においても浮腫の改善に有効であった.しかし効果は一時的で,大部分の症例において浮腫が再発し,追加治療が必要であった.視力改善を維持するためには投与回数を増やしたほうが良いとも思われるが,実臨床の場ではむずかしい部分もあり,併用療法も含め今後さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,20142)FerraraN,GerberHP,LeCouterJ:ThebiologyofVEGFanditsreceptors.NatMed9:669-676,20033)HolashJ,DavisS,PapadopoulosNetal:VEGF-Trap:aVEGFblockerwithpotentantitumore.ects.ProcNatlAcadSciUSA99:11393-11398,20024)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofrenibizumabtherapyfordiabeticmaculaedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)BrownDM,Schmidt-ErfurthU,DoDVetal:Intravitreala.iberceptfordiabeticmacularedema:100-weekresultsfromtheVISTAandVIVIDstudies.Ophthalmology122:2044-2052,20156)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:TheRESTOREstudy:ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20117)IshibashiT,LiX,KohAetal:TheREVEALStudy:Ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyinasianpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology122:1402-1415,20158)OguraS,YasukawaT,KatoAetal:Indocyaninegreenangiography-guidedfocallaserphotocoagulationfordia-beticmacularedema.Ophthalmologica234:139-150,20159)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabeticmacularedema.PLoSONE9:e113981,201410)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:A.iber-cept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMed372:1193-1203,201511)WellsJA,GlassmanAR,AyalaARetal:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema:Two-yearresultsfromacomparativee.ectivenessran-domizedclinicaltrial.Ophthalmology123:1351-1359,2016***

日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の6 カ月治療成績

2017年2月28日 火曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):259.263,2017c日本人における糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の6カ月治療成績村松大弐*1若林美宏*1上田俊一郎*2馬詰和比古*1八木浩倫*1木村圭介*1川上摂子*1飯森さやか*1根本怜*1阿川毅*1塚原林太郎*2三浦雅博*2後藤浩*1*1東京医科大学眼科学分野*2東京医科大学茨城医療センター眼科IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapan:6Months’OutcomeDaisukeMuramatsu1),YoshihiroWakabayashi1),ShunichiroUeda2),KazuhikoUmazume1),HiromichiYagi1),KeisukeKimura1),SetsukoKawakami1),SayakaIimori1),ReiNemoto2),TsuyoshiAgawa1),RintaroTsukahara2),MasahiroMiura2)andHiroshiGoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,IbarakiMedicalCenter,TokyoMedicalUniversity目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の効果を検討する.対象および方法:DMEにIVRを行い,6カ月以上観察が可能であった78眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回IVR後1,3,6カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した.初回注射の後は毎月観察を行い,必要に応じて再治療を行った.結果:観察期間は平均9.9カ月であった.治療前視力の平均logMAR値は0.4で,治療1カ月で0.32と改善傾向を示し,3,6カ月後および最終受診時には,それぞれ0.29,0.26,0.27と有意な改善を示した(p<0.05).治療前の網膜厚は488μmで,治療1,3,6カ月後,および最終受診時には388,404,392,372μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.05).最終観察時までのIVR回数は平均2.9回であり,経過中に光凝固は22眼(28%)に,トリアムシノロンTenon.下注射は9眼(12%)に併用された.視力が改善(logMAR0.2以上)した症例の割合は全体の36%であり,74%の症例は最終時に小数視力0.5以上となった.結論:IVRはDMEの軽減と視機能の改善に有効であるが,再発も多く,複数回の投与と追加治療を要する.Purpose:Toassessthee.cacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdia-beticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,78eyesof63patientswithDMEreceived0.5mgIVR.Caseswerefollowedupfor6monthsorlonger.Bestcorrectedvisualacuity(BCVA;logMAR)andcentralretinalthickness(CRT)werethemainmeasurements.Results:Meanfollowupperiodwas9.9months.BaselineBCVAandCRTwere0.4and488μm,respectively.At1month,BCVAhadimprovedto0.32andCRThadsigni.cantlydecreasedto388μmcomparedtobaseline(p<0.01).At6monthsand.nalvisit,BCVAhadsigni.cantlyimprovedto0.26(p<0.05)and0.27(p<0.05),respectively;CRThaddecreasedto392μm(p<0.01)and372μm(p<0.01),respectively.AverageIVRincidencewas2.9times.Visualacuityindigitswas0.5oroverin74%ofpatients.Conclusion:Intravitrealinjectionofranibizumabisane.ectivetreatmentforDME.However,multipleinjectionsandadditionaltreatmentsarerequired,duetofrequentrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):259.263,2017〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗VEGF.ranibizumab,dia-beticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-VEGF.〔別刷請求先〕村松大弐:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学分野Reprintrequests:DaisukeMuramatsu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPANはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症における視力障害の主要因子の一つであり,病態には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与していることが知られている.わが国における糖尿病網膜症の有病率は,久山町研究1)によると40歳以上の人口の15%,舟形町研究2)によると35歳以上の人口の14.6%と高率であり,糖尿病網膜症は日本の視覚障害者の主原因疾患の一つであるため,その制御はきわめて重要である.DMEに対する治療は,近年では抗VEGF療法が治療の主体となりつつある3.5).抗VEGF抗体の一種であり,ヒト化モノクローナル抗体のFab断片であるラニビズマブはDMEの治療にも適応が拡大され,大規模研究であるRISE&RIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された6).また,同様の大規模研究であるRESTOREstudyにより,光凝固への優位性も証明された7).しかし,これらの研究の対象は約95%が白人やアフリカンアメリカン人種であることに加え,薬剤の投与についても臨床研究のため多数の注射が行われており,日本人をはじめとするアジア人における実臨床における反応性や効果についてはいまだに不明である.2014年2月からわが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,日本人患者に対して行われた治療成績を報告する.I対象および方法対象は2014年3月.2014年12月に,東京医科大学病院ならびに東京医科大学茨城医療センター眼科において加療したびまん性黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症で,ラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)で治療を行い,6カ月以上の観察が可能であった日本人症例73例78眼(男性50例,女性23例)である.治療時の年齢は43.83歳,平均(±標準偏差)は66.4±9.9歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)による浮腫のタイプ8)は網膜膨化型が50眼(64%),.胞様浮腫が35眼(45%),漿液性網膜.離が22眼(28%)であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.治療歴として,ベバシズマブからの切り替え症例が23眼あった.また,初回抗VEGF抗体治療眼は55眼(71%)であり,これらのうち20眼はまったくの無治療,35眼(45%)は光凝固やトリアムシノロンアセトニドテノン.下注射(sub-Tenoninjectionoftriamcinoronacetonide:STTA)による治療歴があった.治療プロトコールとして,IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(prorenata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくは20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則IVRを行った.浮腫の悪化があってもIVRに同意されなかった場合や,IVR後の浮腫改善が不十分な場合はSTTAを施行している.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や網膜毛細血管瘤を認めた18眼に対しては,IVRの後,1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を行い,残りの60眼はIVR単独で治療を開始して,適宜追加治療を行った.これら60眼のうち23眼においては,眼所見が安定するまで1カ月ごとに2.3回の注射を行うIVR導入療法を施行し,その後はPRNとした.検討項目は,IVR後,1,3,6カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力,および光干渉断層計3D-OCT2000(トプコン)もしくはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditech)を用いて計測したCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期について診療録を基に後ろ向きに調査した.II結果全78眼の平均観察期間は9.9±2.4カ月(6.14カ月)であった.全症例における治療前の平均CRTは488.1±131.3μmであったのに対し,IVR後1カ月の時点では388.0±130.1μmと減少していた.CRTは3カ月の時点で404.1±145.9μm,6カ月では392.1±117.3μm,最終来院時では372.8±120.1μmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定Bonferroni補正)(図1).全症例における治療前の視力のlogMAR値の平均は0.39±0.28であった.視力はIVR後1カ月で0.32±0.25,IVR後3カ月では0.29±0.50と有意に上昇した.その後6カ月,最終来院の時点で,それぞれ0.26±0.54,0.27±0.22であり,IVR後3,6カ月,および最終来院時において有意な改善を示した(p<0.05,t-検定Bonferroni補正)(図2).全症例の治療前後の視力変化をlogMAR0.2で区切って検討すると,IVR後1カ月の時点で改善例は17眼(22%),不変例は60眼(77%),悪化例は1眼(1%),3カ月の時点で改善例は23眼(29%),不変例は51眼(65%),悪化例は4眼(5%),6カ月の時点で改善例は25眼(32%),不変例は48眼(62%),悪化例は5眼(6%),最終来院時には改善例は28眼(36%),不変例は46眼(59%),悪化例は4眼(5%)であり,経時的に視力改善例が増加していた(表1).全症例のうち,治療前の小数視力が0.5以上を示した症例は41眼(53%)存在したが,IVR後1カ月では50眼(64%)3カ月で51眼(65%),6カ月で51眼(65%),最終来院時,で58眼(74%)と,これら視力良好例においても経時的に視力改善例の占める割合が増加していた(表2).520IVR(n=0)0.22500PC(n=12)0.24STTA(n=1)0.26480IVR(n=32)0.28††*†400†中心網膜厚(μm)0.3460PC(n=5)logMAR0.324400.34PC(n=2)4200.360.380.4†380360340治療前1カ月3カ月6カ月最終図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚を示す.注射1カ月で網膜厚は大きく減少し,その後も3,6カ月,最終時と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.経過中の追加治療の内訳と施行眼数を示す.PC:光凝固,IVR:ラニビズマブ硝子体注射,STTA:トリアムシノロンアセトニドテノン.下注射.表12段階以上の視力変化の割合改善不変悪化1カ月17眼(22%)60眼(77%)1眼(1%)3カ月23眼(29%)51眼(65%)4眼(5%)6カ月25眼(32%)48眼(62%)5眼(6%)最終28眼(36%)46眼(59%)4眼(5%)表3最終視力との関連因子関連因子眼数最終視力0.5以上の割合p値治療前視力あり40眼98%(39眼)0.5以上なし38眼50%(19眼)p<0.01あり34眼82%(28眼).胞様浮腫なし44眼68%(30眼)p=0.24あり22眼73%(16眼)漿液性.離なし56眼75%(42眼)p=0.99あり48眼71%(34眼)網膜膨化なし30眼80%(24眼)p=0.52c2検定経過中に浮腫が完全に消失したことがある症例は41眼(53%)であった.このうち,初回注射後1カ月の時点での完全消失は20眼(26%)であり,6カ月以内に完全消失した例は32眼(41%)であった.最終来院時まで浮腫の完全消失が持続した症例は4眼(5%)のみであった.浮腫消失が持続した例における個別の背景として,1例は白内障手術に起因して発生した急性期の浮腫であり,2回のIVRで寛快した.もう1例は光凝固直後に発生した急性期浮腫に対し,20.420.44治療前1カ月3カ月6カ月最終図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のlogMAR値を示す.注射1カ月で視力は上昇し,その後も経時的に向上している.3,6カ月,最終時にはおいては治療前と比較し有意に改善している.*p<0.05,†p<0.01.表2治療前後の各時点における小数視力0.5以上の割合治療前41眼(53%)1カ月50眼(64%)3カ月51眼(65%)6カ月51眼(65%)最終58眼(74%)回のIVRを施行して寛快しており,さらに別の1例は血管瘤への直接光凝固の併用例であった.経過観察中には浮腫の再発を63眼(81%)で認めた.注射後から浮腫再発までの期間の平均値は10.4±8.8週であったが,その幅は4.48週とさまざまであり,再発までの中央値は8週であった.注射を施行しても無反応だった症例が5眼(6%)に存在した.初回治療後6カ月までの平均IVR回数は2.2±2.3回(1.6回),最終観察時までのIVR回数は2.9±1.8回(1.8回)であった.また,光凝固を追加した症例は22眼(28%),STTAを追加した症例は9眼(12%)存在した.今回の症例には,光凝固やSTTAを併用した群と,IVR単独で治療した群が存在したが,IVRの回数について両群について比較すると,初回治療後6カ月までの平均IVR回数は併用療法群では1.9±1.1回であり,IVR単独群では2.4回±1.2回であり,最終観察時までのIVR回数は併用療法群では2.3±1.3回であり,IVR単独群では3.2回±1.9回であり,最終観察時において有意な差を認めた(p<0.05,pairedt-検定).最終視力が0.5以上得られた場合の術前因子をc二乗検定で解析すると,術前視力が0.5以上あることが有意な関連因子であったが,術前の浮腫タイプなどとは関連性がなかった(表3).III考按無作為二重盲検試験であるRISE&RIDEstudyにより,糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ治療の有効性が証明されたが6),この研究における治療プロトコールでは,当初の24カ月は毎月ラニビズマブ注射を行っており,多数の注射を要したうえで12文字の視力改善が得られていた.その後に行われた光凝固との比較試験であるRESTOREstudyにおいては,当初の3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降は1カ月ごとの観察を通じて,必要に応じた再治療を行っている.そして12カ月の時点において6.1文字の改善を得ており,0.9文字の改善に留まった光凝固との比較において優位性が報告された7).今回は,23%(18眼)の症例ではIVR後1.2週のちに毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.29%(23眼)の症例では1カ月ごとに2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行うPRNで治療を行い,47%(37眼)の症例では1回の注射の後にPRNとし,6カ月間で平均2.2回,最終来院時までに2.9回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は劇的に減少し,視力も治療前と比較して最終来院時には有意な向上が得られた.視力のデータをETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)の文字数に換算すると,最終来院時において7文字の改善が得られた結果となった.この改善度はRISE&RIDEstudyには及ばなかったが,RESTOREstudyの結果とは同等であった.本研究において,少ない注射回数にもかかわらずRESTOREstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由として,観察期間が短いことが大きな理由の一つと考えられる.したがって今後,治療期間の延長とともに注射回数も増加していく可能性はある.少ない注射回数であったもう一つの理由として,本研究においては積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用,追加していることがあげられる.RESTOREstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はやや劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均7回であったのに対し,光凝固併用群でも6.8回とそれほど大きな差が認められなかった.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.米国における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,わが国で一般的に行われている網膜毛細血管瘤に対する直接光凝固や,targetedretinalphotoco-agulation(TRP)とも称される9)部分的な無灌流域に対する選択的光凝固は行われていないため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.また近年では,眼底に凝固斑が出現しない,より低侵襲な光凝固による良好な治療成績も報告されており10),今後はこういった新しい低侵襲光凝固をラニビズマブと併用することにより,黄斑浮腫への治療効果もよりいっそう向上していくかもしれない.もう一つの理由として,適宜トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射を併用していることも関係している可能性が考えられる.糖尿病網膜症やDMEの病態進展にはVEGFのみならず,炎症が関与することが報告されている11.15).また,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固時における黄斑浮腫の発生をトリアムシノロンアセトニドテノン.下注射によって抑制可能とする報告もあるので16),本研究におけるステロイドの併用がVEGF以外の浮腫を惹起する因子を抑制していた可能性もある.IVRを行う時期に関する一つの知見として,RISE&RIDEstudyにおいては偽注射群も研究開始後2年目からIVRを施行されたが,初回から治療した群と比較して視力改善率が低かったことが重要であると思われる.本研究においても前報と同様に治療後の良好な視力に有意に関連する事象として,治療前の視力が良好であることが示された.これらを考え併せると,黄斑浮腫が遷延化し,視細胞に障害が出現して視力が低下する前,すなわち浮腫発生後,早い段階でラニビズマブ治療を開始したほうが良好な治療成績が得られる可能性が高いのかもしれない.また今回の検討では,約8週間で8割以上の症例が再発をきたしていたので,今後IVRを行う際には,厳密なチェックならびに追加治療が必要であると考えられ,それが不可能な場合には早急に光凝固やトリアムシノロンテノン.下注射などの代替治療が必要であると考えられる.以上,日本人に対するラニビズマブ治療も短期的には有効と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり,症例数も十分とは言い難い.また,糖尿病網膜症にはさまざまな全身的な要因も絡むため,今後も長期にわたる経過観察と治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)安田美穂:世界の眼科の疫学研究のすべて久山町研究.あたらしい眼科28:25-29,20112)田邉祐資,川崎良,山下英俊:世界の眼科の疫学研究のすべて舟形町研究.あたらしい眼科28:30-35,20113)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdi.usediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20134)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,20135)村松大弐,三浦雅博,岩﨑琢也ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績.あたらしい眼科33:111-114,20166)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchGroup:Long-termoutcomesofranibi-zumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20137)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREstudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20118)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmac-ularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol127:688-693,19999)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,201410)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌116:568-574,201211)WakabayashiY,UsuiY,OkunukiYetal:Increasesofvitreousmonocytechemotacticprotein1andinterleukin8levelsinpatientswithconcurrenthypertensionanddia-beticretinopathy.Retina31:1951-1957,201112)WakabayashiY,KimuraK,MuramatsuDetal:Axiallengthasafactorassociatedwithvisualoutcomeaftervitrectomyfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci54:6834-6840,201313)MuramatsuD,WakabayashiY,UsuiYetal:CorrelationofcomplementfragmentC5awithin.ammatorycytokinesinthevitreousofpatientswithproliferativediabeticreti-nopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol251:15-17,201314)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:Aqueoushumorlevelsofcytokinesarerelatedtovitreouslevelsandpro-gressionofdiabeticretinopathyindiabeticpatients.Grae-fesArchClinExpOphthalmol243:3-8,200515)AdamisAP,MillerJW,BernalMTetal:Increasedvas-cularendothelialgrowthfactorlevelsinthevitreousofeyeswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOph-thalmol118:445-450,199416)ShimuraM,YasudaK,ShionoT:Posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalphotocoagulation-inducedvisualdysfunctioninpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.Ophthalmology113:381-387,2006***

糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討

2016年2月29日 月曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(2):295.299,2016c糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討平野隆雄鳥山佑一松田順繁時光元温京本敏行千葉大村田敏規信州大学医学部眼科学教室EvaluationofResponsetoTherapySwitchfromBevacizumabtoRanibizumabinDiabeticMacularEdemaTakaoHirano,YuichiToriyama,YorishigeMatsuda,MotoharuTokimitsu,ToshiyukiKyoumoto,DaiChibaandToshinoriMurataDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine目的:ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良の糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討する.対象および方法:対象はDMEに対しIVB施行されるも反応不良のためIVRへスイッチした7例7眼.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後の中心窩網膜厚,最高矯正視力(logMAR)について検討した.結果:最終IVBの中心窩網膜厚は投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後が484.0±99.7μmと有意差は認められなかった.初回IVRの中心窩網膜厚は投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).最高矯正視力は最終IVB,初回IVRともに投与前,投与1カ月後で有意差は認められなかった.結論:IVB反応不良のDMEではIVRへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.Purpose:Toevaluatetheefficacyofswitchingtoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmaculaedema(DME).Methods:Weenrolled7eyesof7patientswithDMEwhoreceivedranibizumabinjectionsfollowingbevacizumabtreatmentfailure.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralretinalthickness(CRT)accordingtospectral-domainOCTwereevaluatedbeforeandat1monthafterthelastbevacizumabinjectionandthefirstranibizumabinjection,respectively.Results:MeanCRTshowednosignificantchangeat1monthafterthelastbevacizumabtreatment(before:476.1±119.2;after:484.0±99.7μm),buthaddecreasedsignificantly(p=0.0156)at1monthafterthefirstranibizumabtreatment(before:520.1±82.1μm;after:343.3±96.8μm).BCVAdidnotdiffersignificantlybetweenbeforeand1monthafterthelastbevacizumabandthefirstranibizumabtreatment.Conclusions:RanibizumabtherapywaseffectiveinreducingCRTineyesthathadfailedbevacizumabtherapy.Theresultssuggestthatswitchingbetweenanti-vascularendothelialgrowthfactordrugsmaybeusefulineyeswithDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):295.299,2016〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,スイッチ療法,ベバシズマブ,ラニビズマブ.diabeticmacularedema,antiVEGFdrug,switchingtherapy,bevacizumab,ranibizumab.はじめに従来,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmaculaedema:DME)はレーザー網膜光凝固,薬物療法,硝子体手術によって治療されてきたが,実臨床の場では治療困難な症例も散見された.そのような状況のなか,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が糖尿病網膜症の硝子体内で濃度が上昇することが報告され,DMEの病因としても重要な役割を果たすことが明らかとなり1).その後,多くの大規模臨床研究において抗VEGF薬のDMEに対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではDME治療〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakaoHirano,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(135)295 における抗VEGF薬としてベバシズマブ(アバスチンR)が適用外使用ながら用いられていたが,ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)がそれぞれ平成26年2月と11月にDMEまで適用拡大され,DME治療における抗VEGF薬の選択肢は広がりつつある.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可された加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)では,近年,抗VEGF薬に対する反応不良例として,投与開始時から薬剤に反応しないnon-responder(無反応)5),治療開始当初は良好な効果がみられるが投与を繰り返すうちに効果が減弱するtachyphylaxis・tolerence(耐性)6)が報告されている.このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例に対しては,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).今回,筆者らは,ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良のDME症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討したので報告する.I対象および方法2013年6月.2014年8月に信州大学附属病院でDMEに対し3回以上IVB施行するも反応不良のため,抗VEGF薬をラニビズマブへスイッチした症例で既報に準じ8),下記の選択基準を満たし除外基準を含まない患者を対象とした.選択基準:①20歳以上の2型糖尿病患者,②スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による中心窩を中心とした直径1mmの網膜厚の平均である中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)が初回IVB治療前に350μm以上,③IVBを3回以上施行するも反応不良のためIVRへスイッチ.反応不良とはIVB後1カ月で.胞様黄斑浮腫や漿液性網膜.離を伴い,CRTがIVB初回治療前よりも20%以上の改善を認めない,もしくはCRTが350μm以上と定義した.除外基準:①本研究前の局所的もしくは全身的な抗VEGF療法の既往,②3カ月以内の何らかの網膜光凝固術・局所ステロイド治療の既往,③AMD・硝子体黄斑牽引・黄斑上膜・眼内炎症などDME以外に黄斑に影響を与える疾患の既往,④6カ月以内の白内障手術歴・時期を伴わない硝子体手術歴.⑤重症心疾患,脳血管障害,血液疾患,悪性腫瘍などの重篤疾患の既往.IVBはベバシズマブとして1回当たり1.25mgを0.05mlに調整し,4.6週ごとにCRTが350μm以上で投与するいわゆるPRN(ProReNata)投与で行った.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後のCRT,最高矯正視力(bestcorrectedvisualacuity:BCVA)について検討した.SD-OCTはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditec)を用い296あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016た.統計処理はGraphPadPrismRversion6(GraphPadSoftware)を用い,Wilcoxon符号順位和検定によるノンパラメトリック検定を行い危険率5%(p<0.05)をもって有意差ありとした.なお,本研究は信州大学附属病院倫理委員会の承認を得て行った(臨床研究No.2256)II結果症例内訳は男性4例4眼,女性3例3眼,年齢60±11(平均±標準偏差)歳であった.IVB前のDME治療歴は網膜局所光凝固術が3.3±1.4回,局所ステロイド治療が2.0±1.1回であった.初回IVB前のCRTは566.1±93.8μmで投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な減少を認めた(p=0.0481)(図1a).IVBによる治療期間中,治療前と比較してCRTは最高で平均161.3±86.8(53-300)μmの減少を認め,全症例においてCRTの改善では一定の治療効果がみられた.その後,IVB反応不良のためIVRへスイッチする直前の最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125)(図1b).初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156)(図1c).BCVA(logMAR)は初回IVBで統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875)(図2a).最終IVBのBCVAは投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なくむしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000)(図2b).初回IVRでは統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625)(図2c).なお,IVRへスイッチする前のIVB回数は平均で7.4±2.3回であった.また,最終IVBから初回IVRまでの平均期間は1.50±0.65(1.2.5)カ月であった.代表症例の経過を図3に示す.71歳,男性.2002年に糖尿病を指摘されるも放置.2009年より内服にて糖尿病治療を開始.2010年に右眼)汎網膜光凝固施行.その後,右眼)DME認めたため2012年当科初診.網膜局所光凝固術を5回,局所ステロイド治療を3回施行も浮腫の軽減認めなかったため,患者の同意を得たうえで2013年,初回IVBを施行.初回IVB前はCRT629μm,BCVA(少数)0.3であったが,投与1カ月後にはCRTが507μmと減少を認め,BCVA(少数)0.5まで改善を認めた(図3a,b).その後,IVB6回行われるも徐々に治療効果が減弱し,最終IVB前はCRT637μm,BCVA(少数)0.4で,投与1カ月後にはCRT609μm,BCVA(少数)0.4と反応不良となった(図3c,d).患者希望もあり,いったんIVBを中止.最終IVBより3カ月後に初回IVR施行したところCRTは628μmから285μmと減少を認め,BCVA(少数)も0.2から0.5へ改善を認めた(136) a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR800800800中心窩網膜厚(μm)*2002002000投与前投与1カ月後0投与前投与1カ月後0*投与前投与1カ月後中心窩網膜厚μm)図1初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の中心窩網膜厚の変化a:初回IVBのCRTは投与前が566.1±93.8μm,投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な改善を認めた(p=0.0481).b:最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125).c:初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR中心窩網膜厚(μm)6006006004004004001.0最高矯正視力(logMAR)最高矯正視力(logMAR)0.00.20.40.80.61.0最高矯正視力(logMAR)1.00.80.60.40.20.00.80.60.40.20.0投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後図2初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の最高矯正視力(logMAR)の変化a:初回IVBのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875).b:最終IVBのBCVA(logMAR)は投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なく,むしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000).c:初回IVRのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625).(図3e,f).DMEの症状が安定したため,初回IVRから9対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではカ月後に白内障手術を施行.計6回IVR施行し,初回IVR2014年2月にラニビズマブ(ルセンティスR)がDMEまでから12カ月後の最終受診時にはCRT261μm,BCVA(少数)保険適用が拡大される以前は,DME治療で保険適用のある1.2と良好な治療効果が得られており,今後もDMEの悪化抗VEGF薬が存在しなかったため,各施設の倫理委員会のを認めるようならIVRを施行する予定である(図3g).承認を得たうえで,ベバシズマブ(アバスチンR)が適用外III考按使用ながら用いられていた.過去の大規模臨床研究の結果と同様に,実臨床の場でもDMEに対して良好な治療効果を示VEGFが眼内の血管新生や血管透過性亢進に深くかかわすことが多いIVBであったが,一方で治療抵抗性や治療効っていることが1994年に報告され1),その後登場した抗果の減弱といった問題も報告されるようになった9).本研究VEGF薬については多くの大規模臨床研究においてDMEにでも7眼すべてにおいて初回IVB後1カ月の平均CRTは有(137)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016297 1.21a629cd637631e628b511537609520526507456424f337332285266246262240297g261CRT(μm)BCVA(少数)白内障手術0.80.60.40.20002M4M6M8M10M12M14M16M18M20M1M3M5M7M9M11M13M15M17M19Mabcdefg図3代表症例の経過グラフの左縦軸はCRT(μm),右縦軸はBCVA(少数),横軸は初回IVBからの経過日数(月)を表す..はIVBを△はIVRを表す.a:初回IVB投与前,CRT629μm,BCVA(少数)0.4.b:初回IVB投与後1カ月,CRT507μm,BCVA(少数)0.5.c:最終IVB投与前,CRT637μm,BCVA(少数).d:最終IVB投与後1カ月,CRT609μm,BCVA(少数)0.4.e:初回IVR投与前,CRT628μm,BCVA(少数)0.2.f:初回IVR投与後1カ月,CRT285μm,BCVA(少数)0.5.g:最終受診時,CRT261μm,BCVA(少数)1.2.298あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(138) 意に減少を認めたが,平均7.4回のIVB後,CRTは有意な減少を認めず反応不良となった.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可されたAMDでは,このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例において,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).本研究でもIVB反応不良のDME症例7眼すべてにおいて初回IVRへスイッチすることにより1カ月後にCRTの有意な減少を認めた.IVB反応不良のDME症例においてIVRへのスイッチ療法が有効であることの詳細なメカニズムについては明らかになっていない.AMDでは抗VEGF薬治療中に効果が減弱し反応不良となる理由として,抗VEGF薬に対する中和抗体の産生,標的組織での脱感受性,標的組織でのVEGF産生亢進などが考えられている10).同様の原因により本研究で対象としたDME症例においても,徐々にIVBに対して治療抵抗性となっていた可能性は高いと考えられる.また,KaiserらがIVB反応不良のAMD症例においてIVRへのスイッチ療法が有効な理由として,ラニビズマブがベバシズマブより分子量が小さく,VEGFへの親和性が高いためと考察しているように,Fc領域の有無といった両者の根本的な創薬デザインの相違も大きく影響していると考えられる11).本研究は症例数が7症例と少なく,観察期間も短いため,今後,より多くの症例と長期間の観察が必要と思われる.また,ラニビズマブ反応不良症例において,ベバシズマブやアフリベルセプトなど他の抗VEGF薬へのスイッチ療法の効果についても検討する必要があると思われる.本研究では,ベバシズマブ反応不良となったDME症例において,ラニビズマブへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.DMEに対する抗VEGF療法において,反応不良例では一つの抗VEGF薬にこだわらず,抗VEGF薬を変更するスイッチ療法を選択肢の一つとして検討することは重要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)MichaelidesM,KainesA,HamiltonRDetal:Aprospectiverandomizedtrialofintravitrealbevacizumaborlasertherapyinthemanagementofdiabeticmacularedema(BOLTstudy)12-monthdata:report2.Ophthalmology117:1078-1086e1072,20103)NguyenQD,ShahSM,KhwajaAAetal:Two-yearoutcomesoftheranibizumabforedemaofthemAculaindiabetes(READ-2)study.Ophthalmology117:21462151,20104)DoDV,Schmidt-ErfurthU,GonzalezVHetal:TheDAVINCIStudy:phase2primaryresultsofVEGFTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1819-1826,20115)OtsujiT,NagaiY,ShoKetal:Initialnon-responderstoranibizumabinthetreatmentofage-relatedmaculardegeneration(AMD).ClinOphthalmol7:1487-1490,20136)GasperiniJL,FawziAA,KhondkaryanAetal:Bevacizumabandranibizumabtachyphylaxisinthetreatmentofchoroidalneovascularisation.BrJOphthalmol96:14-20,20127)BakallB,FolkJC,BoldtHCetal:Aflibercepttherapyforexudativeage-relatedmaculardegenerationresistanttobevacizumabandranibizumab.AmJOphthalmol156:15-22e11,20138)HanhartJ,ChowersI:Evaluationoftheresponsetoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmacularedema.CaseRepOphthalmol6:44-50,20159)AielloLP,BeckRW,BresslerNMetal:Rationaleforthediabeticretinopathyclinicalresearchnetworktreatmentprotocolforcenter-involveddiabeticmacularedema.Ophthalmology118:e5-e14,201110)BinderS:Lossofreactivityinintravitrealanti-VEGFtherapy:tachyphylaxisortolerance?BrJOphthalmol96:1-2,201211)KaiserRS,GuptaOP,RegilloCDetal:Ranibizumabforeyespreviouslytreatedwithpegaptaniborbevacizumabwithoutclinicalresponse.OphthalmicSurgLasersImaging43:13-19,2012***(139)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016299

糖尿病黄斑浮腫の硝子体手術成績に及ぼすカリジノゲナーゼの影響

2016年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(1):145.150,2016c糖尿病黄斑浮腫の硝子体手術成績に及ぼすカリジノゲナーゼの影響伊勢重之古田実石龍鉄樹福島県立医科大学医学部眼科学講座AdjuvantKallidinogenaseinPatientswithVitrectomyforDiabeticMacularEdemaShigeyukiIse,MinoruFurutaandTetsujuSekiryuDepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUnivercitySchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する硝子体手術成績に及ぼすカリジノゲナーゼ内服の効果を評価する.方法:非盲検前向き単純無作為比較臨床研究.対象は治療歴のないびまん性DME25例25眼.術後にカリジノゲナーゼ(150単位/日)を投与した投与群12例12眼と,投与を行わなかったコントロール群13例13眼である.硝子体手術前,術後1カ月,術後3カ月,術後6カ月の視力と中心窩網膜厚(CFT)の変化を検討した.結果:投与群,コントロール群ともに術後6カ月の視力は有意に改善(p<0.01)したが,両群の視力変化量に差はなかった.術後6カ月の平均CFT変化量は,両群ともに有意に減少(p<0.01)し,CFT変化量に有意差はなかった.硝子体網膜境界面に異常がない16眼(投与群8眼,コントロール群8眼)で比較したところ,投与群のみ術後3カ月,6カ月でCFTが減少(p<0.01)していた.投与群は全例でCFTは減少し,コントロール群よりもCFTが安定している傾向にあった.結論:DMEの硝子体手術後にカリジノゲナーゼを内服することにより,CFTは安定的に改善し,その効果は硝子体牽引がない症例でも認められた.Purpose:Toevaluatetheeffectoforalkallidinogenaseonvisualacuityandcentralfovealthickness(CFT)aftervitrectomyfordiabeticmacularedema(DME).Methods:Thisstudy,designedasanopen-label,prospective,randomized,singleinstitutionalstudy,compared12eyesof12patientswhoreceivedoralkallidinogenasepostoperativelyfor6months(kallidinogenasegroup)with13eyesof13patientswhoreceivednokallidinogenase(controlgroup).MainoutcomemeasurementsincludedlogMARandCFTbeforesurgeryand1month,3months,6monthsaftervitrectomy.Results:LogMARimprovedsignificantlyat6monthsineachgroupascomparedwithbeforesurgery(p<0.01).Therewasnosignificantdifferenceinvisualimprovementbetweenthegroups.MeanCFTofbothgroupsgraduallydecreasedat6months(p<0.01).ThedecrementofCFTat6monthsinthekallidinogenasegroupwasgreaterthaninthecontrolgroup(n.s.).Sixteeneyeswithoutvitreomacularinterfaceabnormalityinopticalcoherencetomographywereanalyzed.ThemeanCFTinthe8eyestreatedwithkallidinogenasesignificantlydecreasedat3months(p<0.01),whereasthe8eyesinthecontrolgroupdidnotshowsignificantdecrementduringthefollow-upperiod.Conclusion:Asanadjunctivetherapy,oralkallidinogenasewaseffectiveinrestoringthemacularmorphologyaftervitrectomyforDME.Theeffectmaybeprominentineyeswithoutvitreomacularinterfaceabnormalities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):145.150,2016〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,カリジノゲナーゼ,中心窩網膜厚,光干渉断層計(OCT),硝子体手術,VEGF.diabeticmacularedema,kallidinogenase,centralfovealthickness,opticalcoherencetomography,OCT,vitrectomy,vascularendothelialgrowthfactor.〔別刷請求先〕伊勢重之:〒960-1295福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShigeyukiIse,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUnivercitySchoolofMedicine,1Hikarigaoka,Fusushimacity960-1295,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(145)145 はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は単純網膜症の時期から視力低下の原因となる.近年の疫学研究では,わが国におけるDMEは110万人に及び,増加傾向にあるといわれている1).Lewisらは,肥厚した後部硝子体膜を伴うDMEに対する硝子体手術の有効性を初めて報告した2).その後,硝子体黄斑境界面異常を有する症例では,硝子体手術が有効であることが多くの臨床症例で確認されている4.11).硝子体手術の奏効機序として,黄斑部の網膜硝子体境界面における機械的牽引の解除,硝子体腔内の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)や炎症性サイトカインの除去,硝子体除去後の硝子体腔内酸素分圧の上昇などが考えられている3).黄斑牽引や硝子体網膜境界面の異常がない症例に対しても硝子体手術の有効性が報告されているが10.13),異論も多く検討の余地がある.安定しない硝子体手術成績の向上を図る目的で,トリアムシノロン(triamcinoloneacetonide:TA)のTenon.下注射14,15)や硝子体注射16,17)の併用も検討されており,短期的には手術成績が改善したとする報告もある.しかし,中長期的には黄斑浮腫の再燃やステロイドによる合併症などが指摘されており,術後成績は必ずしも安定しているとはいえず,長期的な効果を有する治療法の開発が期待されている.カリジノゲナーゼは1988年から網脈絡膜循環改善薬として国内で使用されており,その作用機序は一酸化窒素(NO)産生亢進による血管拡張作用であるとされている18).近年,カリジノゲナーゼは循環改善作用以外に抗VEGF作用をもつことが報告されており18,19),網膜浮腫改善効果も期待される.今回,DMEに対する硝子体手術後にカリジノゲナーゼを投与し,手術成績に与える影響を検討した.I対象および方法研究デザインは非盲検前向き単純無作為比較臨床研究である.本研究は,福島県立医科大学医学部倫理委員会の承認を得て施行した.2012年2月.2013年2月に,福島県立医科大学眼科にてDMEに対して硝子体手術を計画し,術前に同意を得られた30例30眼を対象とした.封筒法での単純無作為割り付けを行い,硝子体手術後にカリジノゲナーゼ150単位/日を6カ月間内服する群(投与群),内服しない群(コントロール群)の2群に分けた.以下のいずれかに当てはまる症例は除外した.除外対象は,血清クレアチニン値3mg/dl以上,HbA1C値10%以上,対象眼白内障がEmery-Little分類GradeIII以上,黄斑浮腫に対するステロイドおよび抗VEGF薬使用の既往,黄斑部光凝固の既往,白内障手術以外の内眼手術歴のある症例である.手術方法は25ゲージ(G)もしくは23Gシステムを用いた経毛様体扁平部硝子体手術で,有水晶体眼は白内障手術を併用した.全例で網膜内146あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離を併用した.術中に硝子体やILMの可視化のためにTAまたはインドシアニングリーンを使用した際には,手術終了時にこれらの薬剤を可及的に除去した.術後はステロイド点眼と非ステロイド系消炎薬点眼を3カ月間継続したのち,完全に中止した.ステロイド内服,眼局所注射,黄斑部光凝固,抗VEGF薬投与などの黄斑浮腫に対する追加治療は行わなかった.検討項目はlogMAR視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT,HeidelbergEngineering社製SPECTRALISOCTRまたはZeiss社製CirrusOCTR)による中心窩網膜厚(centralfovealthickness:CFT)および血圧とHbA1C値である.それぞれ術前,術後1カ月,3カ月,6カ月に測定を行った.CFTは中心窩網膜の表層から網膜色素上皮までの距離とし,それぞれのOCTに付属しているソフトウェア上の計測機能を用いて中心窩を手動計測した.OCT所見の判定は既報20,21)に準じ,黄斑部網膜硝子体境界面上に肥厚した後部硝子体膜や黄斑上膜すなわち黄斑部網膜硝子体境界面異常(vitreomacularinterfaceabnormalities:VMIA)の有無を観察した.一般的には硝子体手術の効果が少ないとされるVMIAのない群についても,投与群とコントロール群それぞれのlogMAR視力とCFTの変化量を検討した.統計学的検討は,logMAR視力とCFT,血圧,HbA1C値について,各群内での測定値および変化量をDunnettの多重比較検定を用いて評価した.2群間の有意差検定には,分散分析および繰り返し測定型二元配置分散分析もしくはBonferroni型多重検定を用いて評価した.危険率5%未満を有意差ありとして採択した.II結果通院困難による脱落の5例5眼を除き,25例25眼を解析した.投与群は12例(男性8例,女性4例),年齢は64.3歳(±標準誤差,範囲45.78歳).コントロール群は13例(男性11例,女性2例),平均年齢68.1歳(±3.3,52.78歳)であった.術前の両群間の年齢,CFT,血清クレアチニン値,HbA1C値,平均血圧,脈圧に差はなかったが,視力は投与群が有意(p<0.05)に良好であった(表1).研究期間中はHbA1C値,平均血圧,脈圧に有意な変動はなく,カリジノゲナーゼ投与による重篤な副作用はみられなかった.1.視力変化投与群の平均logMAR視力は,術前0.48±0.06(平均±標準誤差),術後1カ月0.45±0.08(有意差なし,n.s.),術後3カ月0.34±0.04(n.s.),術後6カ月0.28±0.06(p<0.01)であり,持続した改善傾向を示した.コントロール群の平均logMAR視力は,術前0.73±0.08,術後1カ月0.60±0.07(p<0.05),術後3カ月0.50±0.06(p<0.001),術後6カ月(146) 0.52±0.05(p<0.001)と,術後1カ月から改善を示した.術後から投与群が有意に視力良好であり,全経過を通して投与群はコントロール群よりも視力が良好であった(p<0.05)(図1).術前からのlogMAR視力変化量は,コントロール群のほうが術後早期に視力が改善する傾向がみられたが,群間に有意差はなかった(図2).VMIAがない症例のlogMAR視力変化も同様の傾向を示し,コントロール群は術後3カ月.0.17±0.06μm,術後6カ月.0.20±0.08μmで有意に改善し,投与群は術後6カ月で.0.17±0.06μmに改善したが有意差はみられなかった.観察期間を通して群間に差はなかった.2.CFT変化投与群のCFTは,術前521±21μm(平均±標準誤差)で,術後は継続的に減少し,術後1カ月423±23μm(n.s.),術後3カ月378±60μm(p<0.01),術後6カ月286±86μm(p<0.001)となった.コントロール群のCFTは,術前471±71μmから術後1カ月で331±31μm(p<0.01)と有意に減少したが,それ以降は術後3カ月343.9±59.0μm(p<0.05),術後6カ月333.5±33.5μm(p<0.01)となり,有意差はあるもののCFTの変化はみられなかった.いずれの時点でも両群間に有意差はなかった(図3).術前からのCFT変化量は,投与群では継続的に減少したのに対し,コントロール群では術後1カ月で減少したが,それ以降の減少がみられず,むしろ減少幅がやや縮小する傾向がみられた.術後6カ月でのCFT減少量は,両群間に96.7μmの差が生じていたが有意差はなかった(図4).術前VMIAがない症例でCFT変化を検討した.VMIAがない症例は16例16眼で,投与群は8例8眼,コントロール群は8例8眼であった.投与群のCFTは術後6カ月まで減少する傾向を示し,CFT変化量は術後6カ月で.173±37μm(p<0.001)であった.一方,コントロール群のCFT変化量は術後6カ月で.92±84μmとなり術前より減少したが,すべての時点において群間に有意差はなかった(図5).有意差がない原因を探るため個々の症例のCFT変化を検討した(図6).投与群ではCFTが術前表1群別患者背景投与群コントロール群項目(平均±標準誤差)n=12(平均±標準誤差)n=13検定年齢(歳)64.3±2.268.1±3.3ns術前視力(logMAR)0.48±0.060.73±0.08p<0.05中心窩網膜厚(μm)521.1±47.3472±41.5ns血清クレアチニン(mg/dl)0.98±0.141.16±0.11nsHbA1CNGSP(%)6.82±0.186.82±0.25ns平均血圧(mmHg)102.8±2.493.1±4.5ns脈圧(mmHg)57.3±6.664±3.0ns0.90.1投与前1カ月後3カ月後6カ月後0.8投与群(n=12)コントロール群(n=13)##*********0.70.60.50.40.30.20.1-0.2-0.10***logMAR視力logMAR視力-0.3投与群(n=12)******0コントロール群(n=13)投与前1カ月後3カ月後6カ月後-0.4群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:分散分析および繰り返し測定型二元配置分散分析#:p<0.05(vsコントロール群)図1群別logMAR視力の経過投与群の平均視力は持続した改善傾向を示した.コントロール群の平均視力は術後1カ月から改善を示した.全経過を通して投与群はコントロール群よりも視力が良好であった.(147)群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:Bonferroni型多重検定ns(vsコントロール群)図2群別logMAR視力の変化量視力変化量は,コントロール群のほうが術後早期に視力が改善する傾向がみられたが,群間に有意差はなかった.あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016147 投与前1カ月後3カ月後6カ月後投与群(n=12)コントロール群(n=13)0100200300400500600投与前1カ月後3カ月後6カ月後**********中心窩網膜厚(μm)群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:分散分析および繰り返し測定型二元配置分散分析ns(vsコントロール群)図3群別中心窩網膜厚(CFT)の経過投与群のCFTは術後から継続的な減少を示した.コントロール群のCFTは術後1カ月から有意な減少を示したが,それ以降は変化がみられなかった.術後6カ月では投与群がコントロール群を47.1μm下回っていたが,いずれの時点でも両群間に有意差はなかった.投与群(n=8)コントロール群(n=8)*****中心窩網膜厚の変化量(μm)-250-200-150-100-50050投与前1カ月後3カ月後6カ月後群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01(vs投与前)群間比較:Bonferroni型多重検定ns(vsコントロール群)図5群別中心窩網膜厚(CFT)の変化量(黄斑牽引なし)黄斑牽引のない症例におけるCFT変化量は,投与群では術後6カ月まで一貫して減少し,術後3カ月以降は有意差を示した.コントロール群では術前より減少したものの,すべての時点において有意差はなかった.術後6カ月で両群間に81.1μmの差が生じたが,群間に有意差はなかった.よりも増加した症例はなく,ゆっくりと減少する傾向を示すのに対して,コントロール群ではCFT変動幅が大きく,術前よりもCFTが増加した症例が8例中2例にみられた.III考察DMEに対する硝子体手術成績は多数報告されており,148あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016投与群(n=12)コントロール群(n=13)-300-250-200-150-100-500**********中心窩網膜厚の変化量(μm)群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:Bonferroni型多重検定ns(vsコントロール群)図4群別中心窩網膜厚(CFT)の変化量CFT変化量は投与群で継続的に減少したのに対し,コントロール群では術後1月以後の改善がみられなかった.術後6カ月では両群間に96.7μmの差が生じていたが,有意差はなかった.投与前1カ月後3カ月後6カ月後300200100投与群-1000(n=8)-200-300-400-500300200100コントロール群0(n=8)-100-200-300-400-500図6群別症例別中心窩網膜厚(CFT)の変化量(黄斑牽引なし)個々のCFT変化量は,投与群ではすべての症例で減少傾向を示し,術前より増加した症例はなかった.コントロール群ではCFT変動幅が大きく,術前よりも増加した症例が8例中2例にみられた.Christoforidisら22)は,硝子体手術は83%の例で黄斑浮腫軽減効果があり,56%の例で視力に何らかの改善があったと報告されている.近年では,一般的に硝子体手術の効果は限定的で,黄斑牽引がみられる症例や中心窩に漿液性網膜.離がある症例に対してのみ有効であるという認識が広まった21,23,24).一方で,黄斑牽引を含めたVMIAのない症例に対投与前1カ月後3カ月後6カ月後(148) しても硝子体手術は有用であるとする報告もあり25),少なくともわが国においては手術の有効性に対する一定の見解は得られていない.鈴木ら26)のDME28例33眼に対するカリジノゲナーゼ単独内服前向き試験で,カリジノゲナーゼ投与後3カ月で有意にCFTの減少を認めている.今回の検討では,硝子体手術後の網膜形態改善に対してもカリジノゲナーゼ投与が有用で,相乗効果が期待できることが示唆された.Sonodaら27)の報告では,DMEに対する硝子体手術成績には炎症性サイトカインであるIL-6が関与するとされている.また,Fukuharaら28)はマウスにおける脈絡膜新生血管モデルで,tissuekallikrein(カリジノゲナーゼ)がVEGF165のisoformであるVEGF164を断片化させる効果を報告している.本報告では,DMEに対する硝子体手術後にカリジノゲナーゼを投与し,非投与症例との差を検討した.両群ともに術後6カ月では視力およびCFTの改善がみられ硝子体手術の有効性が確認できた.両群間で視力およびCFTの改善に差がなかったが,投与群全体でのCFTは継続的に改善したのに対し,コントロール群は術後1カ月以後の継続的改善はみられなかった.コントロール群が早期から急速に視力とCFTが改善したことは,手術による直接的な牽引除去や一時的なVEGF濃度の低下が作用機序となっていたと考えられる.VMIAがない例のみを検討したところ,CFTはカリジノゲナーゼ投与により有意に改善した.それらの個々の症例のCFT変化をみると,コントロール群は術後に増加した例もみられたのに対して,カリジノゲナーゼ投与症例では全例でCFTは減少傾向にあり,CFTの変動が少なかった.このことは,硝子体手術により硝子体腔内のIL-6やVEGFが除去され,術後もカリジノゲナーゼによる抗VEGF効果により網膜の血管透過性減少が持続し,VMIAのない症例においても浮腫改善が促進された可能性が考えられた.カリジノゲナーゼは網膜循環の改善29)や電気生理学的な改善30)も期待できることが報告されている.今後,硝子体手術例に対するカリジノゲナーゼ効果に関しては,レーザースペックルフローグラフィーなどの非侵襲的な微小循環評価法と形態変化を合わせて検討することで,奏効機序をより明確にすることができると考えられる.今回の検討は症例数が少なく,単純無作為割り付けを行ったが,ベースライン視力に差があったため,視力成績の評価が困難であった.今後は層別化無作為化などを行い検討する必要がある.近年のDME発症機序に関する病態理解,OCTや電気生理学的検査の進歩,眼底微小循環の計測装置の開発など,過去には検出不可能であったカリジノゲナーゼの効果が臨床研究でも明らかになってきた.カリジノゲナーゼは内服による長期投与可能な薬剤であり,DMEのように慢性的な病変の治療には有用であると考えられる.今後,そ(149)の作用機序の解明,治療効果のさらなる検討が必要である.文献1)川崎良,山下英俊:疫学に基づいた糖尿病網膜症の管理.月刊糖尿病5:23-29,20132)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidtraction.Ophthalmology99:753759,19923)山本禎子:糖尿病黄斑症に対する硝子体手術─新しい展開を目指して─.あたらしい眼科20:903-907,20034)HarbourJW,SmiddyWE,FlynnHWetal:Vitrectomyfordiabeticmacularedemaassociatedwithathickenedandtautposteriorhyaloidmembrane.AmJOphthalmol121:405-413,19965)ScottDP:Vitrectomyfordiabeticmacularedemaassociatedwithatautpremacularposteriorhyaloid.CurrOpinOphthalmol9:71-75,19986)GandorferA,RohlenderM,GrosselfingerSetal:Epiretinalpathologyofdiffusediabeticmacularedemaassosiationwithvitreomaculartraction.AmJOphthalmol139:638-652,20057)菅原敦史,田下亜佐子,三田村佳典ほか:硝子体黄斑牽引を伴う糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術.あたらしい眼科23:113-116,20068)HallerJA,QinH,ApteRSetal,DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkWritingCommittee:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093,20109)OphirA,MartinezMR:Epiretinalmembranesandincompleteposteriorvitreousdetachmentindiabeticmacularedema,detectedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:64146420,201110)YamamotoT,AkabaneN,TakeuchiS:Vitrectomyfordiabeticmacularedema:theroleofposteriorvitreousdetachmentandepimacularmembrane.AmJOphthalmol132:369-377,200111)LaHeijEC,HendrikseF,KesselsAGetal:Vitrectomyresultsindiabeticmacularoedemawithoutevidentvitreomaculartraction.GraefesArchClinExpOphthalmol239:264-270,200112)RosenblattBJ,ShahGK,SharmaSetal:Parsplanavitrectomywithinternallimitingmembranectomyforrefractorydiabeticmacularedemawithoutatautposteriorhyaloid.GraefesArchClinExpOphthalmol243:20-25,200513)HoeraufH,BruggemannA,MueckeMetal:Parsplanavitrectomyfordiabeticmacularedema.Internallimitingmembranedelaminationvsposteriorhyaloidremoval.Aprospectiverandomizedtrial.GraefesArchClinExpOphthalmol249:997-1008,201114)木下太賀,前野貴俊,中井考史ほか:糖尿病黄斑浮腫のタイプ別にみた硝子体手術とトリアムシノロンの併用効果.臨眼58:913-917,200415)中村彰,島田佳明,堀尾直市ほか:糖尿病黄斑浮腫に対あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016149 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糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績

2016年1月31日 日曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(1):111.114,2016c糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の治療成績村松大弐*1三浦雅博*1岩崎琢也*1阿川哲也*1伊丹彩子*1三橋良輔*1後藤浩*2*1東京医科大学茨城医療センター*2東京医科大学病院IntravitrealInjectionofRanibizumabforDiabeticMacularEdemainJapanDaisukeMuramatsu1),MasahiroMiura1),TakuyaIwasaki1),TetsuyaAgawa1),AyakoItami1),RyosukeMitsuhashi1)andHiroshiGoto2)1)TokyoMedicalUniversity,IbarakiMedicalCenter,2)TokyoMedicalUniversityHospital目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するラニビズマブ硝子体注射(IVR)の効果を検討する.対象および方法:2014年3.11月にDMEにIVRを行い,3カ月間以上観察が可能であった28例34眼を対象に,後ろ向きに調査した.初回IVR後1,2,3カ月と最終受診時の視力と中心網膜厚,追加治療について検討した(抗VEGF抗体初回投与25眼,ベバシズマブ注射から切り替え9眼).初回注射の後は毎月観察を行い,必要に応じて再治療を行った.結果:経過観察期間は平均7.6カ月であった.治療前の網膜厚は509.7μmで,治療1,2,3カ月後,および最終受診時には392.6,399.7,385.4,386.7μmと全期間で有意な改善を示した(p<0.01).治療前の完全矯正視力の平均logMAR値は0.45で,治療1,2,3カ月後はそれぞれ0.39,0.36,0.33であり,最終受診時には0.31と有意な改善を示した(p<0.05).3カ月までの平均IVR回数は1.8回,最終観察時までは2.9回であった.光凝固の追加は13眼,トリアムシノロンTenon.下注射の追加は9例であった.70%の症例は最終時に小数視力0.5以上となり,治療前と比較してlogMAR0.2以上の改善も38%で認められた.結論:IVRは短期的にはDMEの軽減に有効である.Purpose:Toassesstheefficacyofintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)inJapanesepatientswithdiabeticmacularedema(DME).Casesandmethods:Inthisretrospectivecaseseries,34eyesof28patientswithDMEwhoreceived0.5mgIVR(25anti-VEGFnaivecasesand9casesswitchingfrombevacizumab)werefollowedupfor3monthsorlonger.BestcMAR)andcentralretinalthickness(CRT)werethemainoutcomemeasures.Results:BaselineBCVAandCRTwere0.45and509.7μm,respectively.Atmonth1,BCVAhadimprovedto0.39andCRThadsignificantlydecreasedto392.6μmascomparedtobaseline(p<0.01).Atthefinalvisit,BCVAhadsignificantlyimprovedto0.31(p<0.05)andCRThaddecreasedto386.7μm(p<0.01).ThenumberofIVRaveraged2.9times.Visualacuityindigitswas0.5oroverin70%ofpatients.Conclusion:IntravitrealinjectionofranibizumabisaneffectivetreatmentforDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):111.114,2016〕Keywords:ラニビズマブ,糖尿病黄斑浮腫,光凝固,トリアムシノロンアセトニド,抗VEGF.ranibizumab,diabeticmacularedema,photocoagulation,triamcinoloneacetonide,anti-vascularendothelialgrowthfactor.はじめにわが国における糖尿病網膜症の有病率は,久山町研究1)によると40歳以上の人口の15%,舟形町研究2)によると35歳以上の人口の14.6%であると報告されている.なかでも糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は視力障害の主要因子の一つといえ,病態には眼内で増加する血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与していることが知られている.DMEに対する治療は,これまでは網膜光凝固3,4)が標準的治療とされ,その他にも硝子体手術5)やステロイド治療6)などが行われてきたが,VEGFを直接阻害する薬剤が使用可能となった近年では,抗VEGF療法が治療の主体となりつつある7,8).抗VEGF抗体の一種であり,ヒト化モノクローナル抗体のFab断片であるラニビズマブは,当初は加齢黄〔別刷請求先〕村松大弐:〒300-0395茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1東京医大茨城医療センターReprintrequests:DaisukeMuramatsu,M.D.,Ph.D.,TokyoMedicalUniversity,IbarakiMedicalCenter,3-20-1Chu-ou,Amimachi,Inashiki-gun,Ibaraki300-0395,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(111)111 斑変性に対する治療薬として開発されたが,近年ではDMEにも適応が拡大され,大規模研究であるRISEandRIDEstudyによって,偽注射に対して治療の優位性が証明された9).また,同様の大規模研究であるRESTOREstudyにより光凝固への優位性も証明された10).しかし,これらの研究の対象は約95%が白人やアフリカンアメリカン人種であり,日本人をはじめとするアジア人における反応性や効果についてはいまだに不明である.2014年2月から,わが国においてもDMEへのラニビズマブ治療が認可され,広く使用されるようになってきたことから,東京医大茨城医療センター眼科(以下,当院)における日本人患者への治療成績を報告する.I対象および方法対象は2014年3月.2014年11月の期間に,当院において加療したびまん性黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症で,ラニビズマブ0.5mgの硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)にて治療を行い,3カ月以上の観察が可能であった28例34眼(男性20例,女性8例)で,全例,日本人の症例であった.治療時の年齢分布は39.81歳で,平均年齢±標準偏差は65.9±9.0歳である.治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による浮腫のタイプは,網膜膨化型が22眼,.胞様浮腫が14眼,漿液性網膜.離が12眼であり,これらの所見は同一症例で混合している場合もあった.過去の治療歴として,ベバシズマブからの切り替え例が9眼であり,初回抗VEGF抗体治療眼が25眼であり,このうちの9眼はまったくの無治療であり,16眼では光凝固やトリアムシノロンTenon.下注射での治療歴があった.本研究時の治療プロトコールとして,初回IVRの後に毎月観察を行い,その後は必要に応じて再治療を行った(prorenata:PRN).再治療は,2段階以上の視力低下,もしくは20%以上の中心網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の増加がみられ,患者の同意が得られた場合に原則IVRを行った.浮腫の悪化があってもIVRに同意しなかった場合や,IVR後の浮腫改善が不十分な場合はトリアムシノロンTenon.下注射を施行している.全症例のうち,蛍光眼底造影で無灌流域や網膜毛細血管瘤を認めた10眼に対しては,IVRの後1.2週の時点で計画的に光凝固(汎網膜光凝固や血管瘤直接凝固)を行う併用療法を行い,残りの24眼はIVR単独で治療を開始し,適宜追加治療を行った.これら24眼のうち18眼においては,眼所見が安定するまで当初の1カ月ごとに2.3回の注射を行うIVR導入療法を施行し,その後はPRNとした.検討項目は,IVR後,1,2,3カ月ならびに最終来院時における完全矯正視力,および3D-OCT2000(トプコン)を用いて計測したCRTで,そのほかにも再発率,治療方法ならびに投与回数,投与時期112あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016について診療録を基に後ろ向きに調査した.II結果全34眼の平均観察期間は7.6±2.5カ月(3.12カ月)であった.全症例における治療前の平均CRTは509.7±157.3μmであったのに対し,IVR後1カ月の時点では392.6±158.8μmと減少していた.CRTは2カ月の時点で399.7±163.8μm,3カ月では385.4±158.0μm,最終来院時では386.7±147.3μmと,全期間を通じ,治療前と比較して有意な改善を示した(p<0.01,t-検定)(図1).全症例における治療前の視力のlogMAR値の平均は0.45±0.28であった.視力はIVR後1カ月で0.39±0.28へ上昇し,IVR後2,3カ月,最終来院の時点で,それぞれ0.36±0.30,033.±0.29,0.31±0.29であり,最終来院時において有意な改善を示した(p<0.05,t-検定)(図2).全症例を,治療前後の視力変化をlogMAR0.2で区切って検討すると,IVR後1カ月の時点で改善例は8眼(24%)不変例は26眼(76%),悪化例は0眼(0%)であり,3カ月(,)の時点で改善例は12眼(35%),不変例は21眼(62%),悪化例は1眼(3%),最終来院時には改善例は13眼(28%)不変例は20眼(59%),悪化例は1眼(3%)であり,経時的(,)に視力改善例が増加していた(表1).全症例において,治療前の小数視力が0.5以上を示した症例は13眼(38%)存在したが,IVR後1カ月では18眼(53%),2カ月で20眼(59%),3カ月で22眼(65%),最終来院時で24眼(70%)と,これら視力良好例の占める割合も増加していた(表2).経過中に浮腫が完全に消失したことがある症例は14眼(41%)であった.このうち,初回注射の1カ月の時点での完全消失は5眼であり,3カ月以内に完全消失した例は10眼であった.最終来院時まで完全消失が持続した症例は3眼のみであった.経過観察中には浮腫の再発を繰り返す症例がみられ,初回治療後3カ月までの平均IVR回数は1.8±0.9回,最終観察時までのIVR回数は2.9±1.9回(1.7回)であった.また,光凝固を追加した症例は13眼(38%),トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を追加した症例は9例(26%)存在し,光凝固やTenon.下注射併用例での平均IVR回数は2.6±1.9回であり,IVRのみで追加治療した例での平均IVR回数3.3±1.8回よりも少なかった.また,1回注射の後に浮腫の再発を認めなかった例が3例存在したが,いずれも網膜血管瘤への光凝固を併用した症例であった.最終視力が0.5以上得られた場合の術前因子をc二乗検定にて解析すると,術前視力が0.5以上あることが有意な関連性があった.しかし,併用療法の有無や,術前の浮腫のタイプなどは関連性がなかった(表3).(112) 治療前1カ月2カ月3カ月最終n=3434343434=3434343434図1治療前後の中心網膜厚の経時的変化全症例の各時点における中心網膜厚を示す.注射1カ月で網膜厚は大きく減少しその後も2,3カ月,最終時と治療前と比較し有意に網膜厚は減少している.†p<0.01.経過中の追加治療の内訳と施行眼数を示す.IVR:ラニビズマブ硝子体注射,PC:光凝固,TA:トリアムシノロンTenon.下注射.表12段階以上の視力変化の割合改善不変悪化1カ月8眼24%26眼76%0眼0%3カ月12眼35%21眼62%1眼3%最終13眼38%20眼59%1眼3%表3最終視力との関連因子関連因子眼数最終視力0.5以上の割合p値治療前視力0.5以上ありなし24眼10眼100%(24眼)0%(10眼)p<0.01併用療法ありなし19眼15眼74%(14眼)67%(10眼)p=0.94漿液性.離ありなし12眼22眼75%(9眼)68%(15眼)p=0.98c2検定III考按DMEに対するラニビズマブ治療の有効性を証明した大規模研究として,RISEandRIDEstudyがあげられる.この研究では対象を無作為に偽注射群とラニビズマブ治療群に割り当てし,治療開始から24カ月において,偽注射群ではETDRS視力で2.5文字の改善にとどまっていたが,ラニビズマブ治療群では12.0文字の改善と,ラニビズマブ治療の優位性が報告された9).しかし,この研究における治療プロトコールでは,当初の24カ月は毎月ラニビズマブ注射を行っており,多数の注射を要していた.その後に行われた光凝(113)340360380400420440460480500520540560††††IVRn=16PCn=0TAn=3IVRn=12PCn=0TAn=1IVRn=0PCn=10TAn=1中心網膜厚(μm)0.50.450.40.350.30.25p=0.4*p=0.04p=0.08p=0.2logMAR治療前1カ月2カ月3カ月最終n=3434343434図2治療前後の視力の経時的変化全症例の各時点における視力のlogMAR値を示す.注射1カ月で視力は上昇し,その後も経時的に向上している.最終時にはおいては治療前と比較し有意に改善している.*p<0.05.表2治療前後の各時点における小数視力0.5以上が占める割合治療前13眼(38%)1カ月18眼(53%)2カ月20眼(59%)3カ月22眼(65%)最終24眼(70%)固との比較試験であるRESTOREstudyにおいては,当初の3カ月は毎月ラニビズマブ注射を行い,それ以降は1カ月ごとの観察を通じて,必要に応じた再治療を行っている.そして12カ月の時点において6.1文字の改善を得ており,0.9文字の改善にとどまった光凝固への優位性が報告された10).当院における今回の治療方法では,29%(n=10)の症例ではIVR後1.2週で毛細血管瘤に対する直接光凝固や汎網膜光凝固を計画的に併用する方法で治療した.53%(n=18)の症例では1カ月ごとに2.3回の注射で導入療法を行い,その後は毎月観察を行って再発,悪化時に再投与を行う方法(PRN)で治療を行い,18%(n=6)の症例では1回の注射の後にPRNとし,3カ月間で平均1.8回,最終来院時までに2.9回の注射を行った.治療成績については,ラニビズマブ治療の開始直後から網膜浮腫は劇的に減少し,視力も治療前と比較して最終来院時には有意な向上が得られた.視力のデータをlogMARさらにETDRSの文字数に換算すると,最終来院時において7文字の改善が得られた結果となった.この改善度はRISEandRIDEstudyには及ばなかったが,RESTOREstudyの結果とは同等であった.本研究において,少ない注射回数でRESTOREstudyと同等程度の視力改善効果を得られた理由として観察期間が短いことが大きな理由の一つであり,今後,治療期間の延長とあたらしい眼科Vol.33,No.1,2016113 ともに注射回数も増加していく可能性はある.少ない注射数であったもう一つの理由として,本研究においては積極的に毛細血管瘤への直接光凝固や無灌流域への選択的光凝固を併用,追加していることや,適宜トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を併用していることも関係しているのかもしれない.RESTOREstudyにおいてもラニビズマブと光凝固の併用療法を行っている群があるが,ラニビズマブ単独治療群と比較して視力改善度はやや劣り,1年間の注射回数もラニビズマブ単独群で平均7回であったのに対し,光凝固併用群でも6.8回とそれほど大きな差が認められなかった.しかし,この報告では光凝固の適応や凝固条件が明記されておらず,詳細は不明である.米国における光凝固は,後極部における格子状光凝固ならびに広範な無灌流域に対する徹底的な汎網膜光凝固が主体であり,わが国で一般的に行われている網膜毛細血管瘤に対する直接光凝固や,部分的な無灌流域に対する選択的光凝固は行われていないため,これが本研究の治療成績との差異につながった可能性も考えられる.IVRを行う時期に関する一つの知見として,RISEandRIDEstudyにおいては偽注射群が研究開始後2年目からはIVRを施行されたが,初回から治療した群と比較して視力改善率が低かったことが重要であると思われる.本研究においても治療後の良好な視力に有意に関連する事象として,治療前の視力が良好であることが示された.これらを考え併せると,黄斑浮腫が遷延化して視力が低下する前,すなわち浮腫発生後,早い段階でラニビズマブ治療を開始したほうが良好な治療成績が得られる可能性が高い.以上より,日本人に対するラニビズマブ治療も短期的には有効と考えられたが,本研究は後ろ向き研究であり,症例数も十分とは言えない.今後も長期にわたる経過観察と,治療データの蓄積が必要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)安田美穂:世界の眼科の疫学研究のすべて久山町研究.あたらしい眼科28:25-29,20112)田邉祐資,川崎良,山下英俊:世界の眼科の疫学研究のすべて舟形町研究.あたらしい眼科28:30-35,20113)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchgroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyreportnumber1.ArchOphthalmol103:1796-1806,19854)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Earlyphotocoagulationfordiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber9.Ophthalmology98:766-785,19915)KumagaiK,FurukawaM,OginoNetal:Long-termfollow-upofvitrectomyfordiffusenontractionaldiabeticmacularedema.Retina29:464-472,20096)JonasJB,SofkerA:Intraocularinjectionofcrystallinecortisoneasadjunctivetreatmentofdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol132:425-427,20017)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20138)志村雅彦:糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,20139)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:RIDEandRISEResearchGroup:Long-termoutcomesofranibizumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,201310)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:RESTOREStudyGroup:TheRESTOREstudy:ranibizumabmonotherapyorcombinedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,2011***114あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(114)

硝子体手術後に残存,再燃した糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド(マキュエイド®)硝子体内注射についての検討

2015年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科32(10):1487.1491,2015c硝子体手術後に残存,再燃した糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド(マキュエイドR)硝子体内注射についての検討川原周平*1江内田寛*2石橋達朗*3*1国立病院機構小倉医療センター眼科*2佐賀大学医学部附属病院眼科*3九州大学大学院医学研究院眼科学分野IntravitrealInjectionofMaQaidR,aNewTriamcinoloneAcetonide,forDiabeticMacularEdemaRemainingorRecurringafterVitreousSurgeryShuheiKawahara1),HiroshiEnaida2)andTatsuroIshibashi3)1)DepartmentofOphthalmology,KokuraMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:硝子体手術後に残存,再燃した糖尿病黄斑浮腫に対し,トリアムシノロンアセトニド(マキュエイドR)を硝子体内注射し,その経時変化を検討した.対象および方法:対象は5名8眼で,1回の投与を1件とし,計15件について検討した.薬剤は眼灌流液に懸濁し27ゲージ針で硝子体内注射した.結果:中心窩平均網膜厚(CRT)が減少したのは13件(86.6%)で,2件は無効であった.CRTが減少しはじめる時期は1週間以内が11件,1週間以上が2件であった.薬剤の硝子体内平均滞留期間は28日(7.56日)で,黄斑浮腫の再燃を11件(84.6%)に認めた.2件(15%)で軽度の眼圧上昇を認めたが,眼内炎の発生はなかった.結論:硝子体手術後の糖尿病黄斑浮腫に対しマキュエイドR硝子体内注射は安全で有効な治療法となるが,高率で再燃するため繰り返し投与する必要がある.Purpose:ToinvestigatetheresultsofMaQaidR(MaQ),thenewlyreleasedtriamcinoloneacetonide,injectedintothevitreousofeyeswithdiabeticmacularedema(DME)remainingorrecurringaftervitreoussurgery.PatientsandMethods:Eighteyesof5DMEpatientswereadministereda4mgintravitrealinjectionofMaQusinga27-gaugeneedle.Atotalof15injectionswereinvestigatedrespectively.Results:Centralretinalthickness(CRT)decreasedin13injections(86.6%).CRTstartedtodecreasewithin1weekin11injectionsandwithin2weeksin2injections.VisibletracesofMaQpostintravitrealinjectionlastedforanaverageof28days(range:7-56days).DMErecurredin11injections(84.6%).Twoinjections(15%)experiencedmildintraocularpressureelevation,andnopatientsshowednon-infectiousendophthalmitis.Conclusion:IntravitrealinjectionofMaQintoDMEeyespostvitreoussurgerywasfoundtobesafeandeffective.However,repeatinjectionsmightbeneededinDMEeyeswithahighrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1487.1491,2015〕Keywords:トリアムシノロンアセトニド(マキュエイドR),糖尿病黄斑浮腫,硝子体内注射,硝子体手術.triamcinoloneacetonide(MaQaidR),diabeticmacularedema,intravitrealinjection,vitreoussugery.はじめに糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症のなかでも治療抵抗性の病態で,網膜症進行の程度とは無関係に進行することがある.したがって,一見軽度の網膜症でも,黄斑浮腫があるだけで視力の低下をきたしてしまうことがあり,注意が必要である.糖尿病黄斑浮腫の治療は網膜光凝固術にはじまり,さらに技術の進歩とともに硝子体手術もその治療法の一つとなった.そして近年ではそうした侵襲的治療によらない薬物療法,つまりステロイドや血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬を用いた比較的侵襲の少ない治療が注目されるようになって〔別刷請求先〕川原周平:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:ShuheiKawahara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-1-1Maidahi,Higashi-ku,Fukuoka-shi,Fukuoka812-8582,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(115)1487 きている1,2).しかし,いずれをもってしても,糖尿病黄斑浮腫に対する絶対的治療法とはなりえないのが現状である.これまでは最初の治療として適応外の使用にはなるが比較的侵襲の少ないトリアムシノロンTenon.下注射を行ったり,局所性の黄斑浮腫であれば,原因となる毛細血管瘤の直接光凝固,びまん性であれば格子状光凝固を行ったりしていたが,最近ではVEGF阻害薬硝子体内注が第一選択となりつつある1).そして,それらの治療に反応しない症例に対し,硝子体手術が選択されることがある3).また,硝子体の黄斑部への牽引や黄斑上膜の合併が確認される場合には,初めから硝子体手術が選択されることもある.ところが最終的に硝子体手術を行ったとしても,黄斑浮腫が残存したり,しばらくして再燃することが少なからずあるため,そうなるとつぎの治療がなくなることが多い.硝子体手術後のVEGF阻害薬は眼内滞留期間が短いため効果が期待できず,またその分血中濃度上昇も大きくなることが予想されるため全身合併症が危惧される4).それに対し,トリアムシノロンアセトニドは難溶性ステロイドであり,比較的効果が長期間持続するため有効な治療になりうる.しかし,これまでもっともよく使用されていたトリアムシノロンアセトニドであるケナコルト-AR(ブリストル社)には添加物が含まれているため,それが原因と推測される非感染性眼内炎がたびたび報告された5,6).そのため投与前に添加物を十分に洗浄,除去して投与を行うのだが,それでも非感染性眼内炎が起こることがあった.したがって,硝子体手術後に再燃した黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニドを硝子体内注射することに多くの眼科医は抵抗があり,そのような症例にはもはや打つ手がないという状況であった.そんななか,硝子体内注用のマキュエイドR(わかもと製薬)が承認を得た.このマキュエイドRは添加物を含まないトリアムシノロンアセトニドであるため,無菌性眼内炎のリスクがなく安全に硝子体内注射を行えると考えられた.そこで,筆者らは硝子体手術後に残存もしくは再燃した糖尿病黄斑浮腫に対しマキュエイドRを硝子体内注射し,その経過についての検討を行った.I対象および方法平成24年5月.平成25年3月に糖尿病黄斑浮腫に対し当院で硝子体手術を施行し,術後1カ月以上経っても黄斑浮腫が消失しなかった,もしくは再燃した5名8眼を対象とした.内訳は男性4名,女性1名,平均年齢69.3歳.中心窩平均網膜厚(CRT)の測定はZeiss社のCirrusHD-OCTを用いた.黄斑浮腫再燃の定義として,OCTで治療前のCRTと同等,またはそれ以上になったものを再燃とした.マキュエイドR硝子体内注射前の平均CRTは690.0μmであった.手術はAlcon社のコンステレーションRの25ゲージシス1488あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015テムで行い,有水晶体眼は白内障の同時手術も行った.マキュエイドRの硝子体内注射に際しては,まず,マキュエイドR1バイアルにオペガードMA眼灌流液R(千寿製薬)1mlを注入しトリアムシノロンアセトニド濃度が40mg/mlになるように懸濁した.つぎにイソジンで眼瞼の消毒を行い,希釈したPAヨードで眼表面を洗浄,消毒した.角膜を穿刺し0.1ml程度前房水を除去した後,角膜輪部から3.5mmの部位より27ゲージ針でマキュエイドR懸濁液0.1ml(トリアムシノロンアセトニドとして4mg)を硝子体内に注射した.注射後は綿棒でしばらく穿刺部位を圧迫し眼内液の漏出がないことを確認し,最後に細隙灯顕微鏡と倒像鏡を用いて眼表面,眼内の観察を十分に行った.経過観察は眼圧測定,OCTによるCRT測定,眼底検査を行い,黄斑浮腫が減少しはじめる時期,眼内のマキェイドRが消失する時期,黄斑浮腫が再燃する時期,合併症について検討を行った.また,マキュエイドR硝子体内注射後,黄斑浮腫が再燃した症例に対して薬剤の再投与を複数回行ったものが5眼あり,各投与に関して検討を行ったため1回の投与を1件と数え,計15件に対して検討を行った.実際には1回のみの投与が4眼,2回投与が4眼,3回投与が1眼であった.II結果投与前の平均CRTは690.0μmであったが,マキュエイドRの硝子体内注射後1週間で509.3μm,1カ月で449.1μmと有意に減少した(図1).投与後2カ月の平均CRTは557.4μmと投与前と比較して減少してはいたが,再燃傾向があり,有意な低下は認められなかった.2眼については単回の投与で著明に黄斑浮腫の改善がみられ,その後再燃することがなかった(図2).投与を行った15件のうち,実際にCRTが減少したのは13件(86.6%)で,2件は無効であった.投与後6カ月間経過観察ができたのは7件であり,それらの6カ月後の平均CRTは投与前678.6μmから投与後512.1μmと投与前に比べて有意に減少したが,徐々に再燃傾向であった(図3).CRTが減少しはじめる時期は1週間以内が12件(92%),2週間以内が1件(8%)で,効果のあったすべての症例で2週間以内に効果が認められた.眼内のマキェイドRは,硝子体内注射直後は後極一帯に認めたが,翌日以降の診察では硝子体腔の下方に沈殿しているのが観察された(図4).この眼内のマキェイドRが肉眼的に消失する時期は,1週間が1件(6.7%),3週間が2件(13.3%),1カ月が10件(66.7%),2カ月が2件(13.3%)であり,平均滞留期間は28日であった.投与回数ごとに検討すると,初回投与後は平均27.5日,2回目投与後は平均28日,3回目投与後は28日であった.黄斑浮腫が再燃するまでの期間は1カ月が1件(10%),2(116) 8001,2009008001,000700CRT(μm)**CRT(μm)6005006004004003002002001000投与前1W1M2M0投与前1W1M2M経過期間経過期間図1マキュエイドR投与後のCRT経時変化(2カ月)左:全15件の経時変化.右:平均CRTの経時変化.投与後1週間,1カ月までは有意に減少.*******CRT(μm)図2OCT像左:マキュエイドR投与前.著明な黄斑浮腫を認める.右:投与後1週間で黄斑浮腫は消失.9001,000800900700800700600500600CRT(μm)500400400300300200200100100投与前1W01M2M3M4M5M6M0投与前1W1M2M3M4M5M6M経過期間経過期間図3マキュエイドR投与後のCRT経時変化(6カ月)左:6カ月経過観察できた7件のCRT経時変化.右:平均CRTの経時変化.6カ月間にわたり有意な低下がみられた.カ月が4件(36%),3カ月が3件(27%),4カ月が3件(27%)であった.さらに,投与回数ごとに再燃までの期間を検討すると,初回投与後は平均2.25カ月,2回目投与後は平均3.0カ月,3回目投与後は2カ月であった.また,眼内のマキェイドRが消失する前に黄斑浮腫が再燃したものはなかった.合併症として眼圧上昇を認めたものが2件(15%)あり,(117)1件は2回投与眼で2回目の投与後に,2件目は3回投与眼の2回目投与後に生じた.同症例の3回目投与後には眼圧上昇は認めなかった.いずれの眼圧も25mmHg以下であり,ラタノプロスト点眼薬で眼圧は20mmHg以下にコントロールが可能であった.また,眼圧上昇発現時期はともにマキュエイドR硝子体内注射後2カ月半であった.いずれも1カ月以内に正常眼圧に低下し緑内障点眼は不要となった.さらあたらしい眼科Vol.32,No.10,20151489 図4眼底写真左:マキュエイドR投与直後.右:投与翌日.下方に沈殿している.に,マキュエイドR硝子体内注射直後に硝子体出血を認めたものが1件(7%)あったが,出血の程度は視力に影響するほどのものではなかった.この出血は翌日には消失していた.経過中,感染性眼内炎および非感染性眼内炎は認めなかった.最終経過観察期間は異なるが,8眼中6眼で最終的に黄斑浮腫が改善している.III考按糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニドの硝子体内注射は,非感染性眼内炎,眼圧上昇,白内障などの副作用のために敬遠される傾向にあった.そのため近年は副作用が比較的少ないVEGF阻害薬が薬物療法の中心となっているが,その一方でさまざまなスタディにおいてトリアムシノロンアセトニドの有効性が証明されている7.9).糖尿病黄斑浮腫を対象としたマキュエイドR硝子体内注の第II/III相試験では,有硝子体眼において有意に最高矯正視力とCRTの改善が認められている8).本研究ではマキュエイドRを有硝子体眼ではなく無硝子体眼に投与し,糖尿病黄斑浮腫に対する治療効果および経過について検討した.マキュエイドR硝子体注後,多くの症例で黄斑浮腫の改善がみられ,しかもそのほとんどで効果の発現が投与後1週間と早かった.黄斑浮腫改善効果は1カ月目まで続いたが,効果は短期的であり,2.4カ月の間にほとんどが徐々に再燃した.なかには初回投与時には効果がなかったものの2回目の投与では浮腫の改善がみられた症例や,逆に初回は効果があったものの2回目には効果を認めなかった症例もあり,その違いが何によるものかは不明であった.また,すべての症例において初回投与後と2回目投与後で眼内の薬剤滞留期間にはほとんど差がなかったにもかかわらず,2回目の投与後のほうがわずかだが効果が長く持続した.投与回数を重ねるごとに効果の持続期間が長くなっていくのかは今回の検討ではわからないので,今後検討していく必要がある.他のトリアムシノロンアセトニド4mgの有硝子体眼での眼内滞留期間は93±28日(半減期18.7日)と報告されている10)が,マキュエイドRでは52.9%の症例で84日後にも眼内にマキュエイドRの粒子が観察され,大多数が56.168日で消失する8).無硝子体眼においては同様に他のトリアムシノロンアセトニド4mgの半減期は3.2日であり,それから計算すると眼内滞留期間は約16日と考えられるが,本研究でマキュエイドRの平均眼内滞留期間は28日と長かった.その差が何によるものかは今回は具体的に検討していないが,粒子形状の違いがその差を生み出している可能性がある(図5).ケナコルトRは表面が平滑な部分が多いのに対しマキュエイドRは表面がかなり凸凹している.実際にケナコルトRに比べてマキュエイドRは粒子径が大きいため,溶解に時間がかかり眼内滞留時間が長くなっているのかもしれない.2011年に日本網膜硝子体学会主導で行われた調査では,ケナコルトRを硝子体内注射した後の非感染性眼内炎の発症率は1.6%であり,海外での報告(0.2.1.6%)と大差がなかった5).実際には感染性眼内炎と非感染性眼内炎の鑑別が困難なこともあり,一度眼内炎を経験してしまうとそれ以降の投与は躊躇してしまうことが多い.しかし,非感染性眼内炎の原因となりうる添加物を含まないマキュエイドRであれば発症のリスクは低いと考えられる.マキュエイドR硝子体内注の第II/III相試験では有硝子体眼に投与されたが,感染性眼内炎または非感染性眼内炎の発症はなかった8).本研究でも対象数が少ないが眼内炎を起こした症例はなく,マキュエイドR硝子体内注では眼内炎の発生頻度が非常に少ないことが予想される.トリアムシノロンアセトニド硝子体内注の副作用として白1490あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(118) 図5電子顕微鏡像左:ケナコルトR.Bar:2μm.右:マキュエイドR.Bar:5μm.マキュエイドRのほうが粒子が大きい.内障の進行があるが,マキュエイドR硝子体内注後の白内障進行率は35.5%であると報告されている8).今回検討した症例のように眼内レンズ挿入眼であれば白内障進行の心配が不要である.したがって,眼内レンズ挿入眼であれば有硝子体眼の症例でも積極的に投与を検討してよいと思われる.もう一つのトリアムシノロンアセトニド硝子体内注の副作用として眼圧上昇が重要である.有硝子体眼におけるマキュエイドR硝子体内注では29.4%に24mmHg以上の眼圧上昇を認めたが外科的手術に至った症例はなく,いずれも点眼で眼圧のコントロールは可能であったと報告されている8).本研究では眼圧上昇を認めた症例は15%と少なく,比較的軽度の眼圧上昇であり眼圧コントロールも容易であった.これは無硝子体眼のほうが有硝子体眼に比べ薬剤の滞留時間が短いためと考えられる.また,初回投与後と3回目投与後には眼圧上昇を認めず,2回目投与後のみ眼圧上昇を認めた症例があった.投与を繰り返すたびに眼圧上昇のリスクが増していくわけではないことを示唆するのかもしれないが,今回は1件だけなので今後投与症例を重ねて観察していく必要がある.その他,眼圧上昇以外でも繰り返し投与することによって副作用発現が高くなるものはなかった.糖尿病黄斑浮腫に対するVEGF阻害薬硝子体内注は初年度年間約8.9回の繰り返し投与が必要になる7).マキュエイドRも効果は一時的であるが同様に繰り返しの投与を行うことで効果を持続させることが可能であると考えられ,そういう意味ではVEGF阻害薬と同様の使い方ができるかもしれない.さらに,再燃までの期間を考慮すると,マキュエイドRの場合は年間投与回数をVEGF阻害薬のそれ以下に抑えることができると考えられる.繰り返し投与した場合,副作用の発現頻度は増加する可能性があるが,今回は短期間に4回以上繰り返し投与を続けた症例はなかったため,さらに今後検討していく必要がある.今回,硝子体手術後の糖尿病黄斑浮腫に対しマキュエイドR硝子体内注を行ったが,大きな副作用はなく比較的安全(119)でかつ効果的な治療であることがわかった.これまでは硝子体手術後に残存した黄斑浮腫には安全かつ有効な治療法がなかったが,マキュエイドR硝子体内注は新たな治療の選択肢になるといえる.文献1)野崎実穂:糖尿病網膜症・黄斑浮腫の薬物治療(抗VEGF薬の効果).あたらしい眼科32:349-356,20152)後藤早紀子:糖尿病網膜症・黄斑浮腫の薬物治療(ステロイド眼局所,全身治療).あたらしい眼科32:357-360,20153)森實祐基:びまん性糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の現状.あたらしい眼科32:361-367,20154)MoisseievE,WaisbourdM,Ben-ArtsiEetal:Pharmacokineticsofbevacizumabaftertopicalandintravitrealadministrationinhumaneyes.GraefesArchClinExpOphthalmol252:331-337,20145)坂本泰二,石橋達朗,小椋佑一郎ほか:トリアムシノロンによる無菌性眼内炎調査.日眼会誌115:523-528,20116)MoshfeghiDM,KaiserPK,BakriSJetal:Presumedsterileendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.OphthalmicSurgLasersImaging36:24-29,20057)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net):Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20108)小椋祐一郎,坂本泰二,吉村長久ほか:糖尿病黄斑浮腫を対象としたWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の第II/III相試験.あたらしい眼科31:1876-1884,20149)杉本昌彦,松原央,古田基靖ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド製剤(マキュエイドR)の硝子体内注射の効果.あたらしい眼科30:703-706,201310)BeerPM,BakriSJ,SingerDMetal:Intraocularconcentrationandpharmacokineticsoftriamcinoloneacetonideafterasingleintravitrealinjection.Ophthalmology110:681-686,2003あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151491