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糖尿病黄斑浮腫に対する防腐剤無添加トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射による無菌性眼内炎

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):909.912,2015c糖尿病黄斑浮腫に対する防腐剤無添加トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射による無菌性眼内炎布目貴康杉本昌彦松原央小林真希坂本里恵小澤摩記近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室ACaseofSterileEndophthalmitisInducedbyPreservative-FreeTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdemaTakayasuNunome,MasahikoSugimoto,HisashiMatsubara,MakiKobayashi,SatoeSakamoto,MakiKozawaandMineoKondoDepartmentofOphthalmology,MieUniversity,GraduateSchoolofMedicine目的:トリアムシノロン硝子体内注射(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)は糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する有効な治療法の一つである.副作用の一つとして無菌性眼内炎(sterileendophthalmitis:SE)が知られているが,防腐剤無添加のTA製剤(マキュエイドR,わかもと製薬)を用いたIVTAによる発症報告はない.今回,筆者らはわが国で初めての,本剤のIVTAによるSEを経験したので報告する.症例:60歳,男性.右眼のDMEに対しTATenon.下注射や抗血管内皮増殖因子製剤硝子体内注射を行ったが反応しなかった.続けて施行したIVTAによりDMEは改善し,右眼の矯正視力は0.2から0.3となったが,再発を繰り返し,IVTAを複数回行っていた.2014年10月に,DMEの再発に対し3回目のIVTAを施行した.IVTA5日後の再診時に硝子体混濁を認め,右眼の矯正視力も0.06に低下した.眼痛や前房の炎症性変化は認めないものの硝子体混濁の改善傾向がないため,眼内炎と診断し,硝子体手術を施行した.術中,硝子体混濁は認めたものの網膜の感染性変化は乏しかった.また,術中採取した前房水・硝子体液の培養は陰性であり,IVTA後のSEと診断した.術後,矯正視力は0.4に改善し,感染徴候も認めずDMEも改善している.結論:防腐剤無添加のTA製剤を用いることでIVTA後のSEの頻度は減少するが,防腐剤以外の原因で生じることもあり,注意が必要である.Purpose:Intravitrealtriamcinoloneacetonide(IVTA)isaneffectivetreatmentfordiabeticmacularedema(DME).However,sterileendophthalmitis(SE)isknowntobeacomplicationassociatedwiththistreatment.MaQaidR(MaQ;WakamotoPharmaceutical,Tokyo,Japan)isanewpreservative-freetriamcinoloneacetonide,andtherearenoreportstodatedescribingSEarisingfromtheuseofMaQ.Inthisstudy,wereportacaseofSEthatresultedfromtheuseofMaQ.CaseReport:A60-year-oldmalepatientwithDMEhadshownresistancetovarioustherapies.HewaseffectivelytreatedwithIVTAandhisvisualacuity(VA)improved.However,the3rdIVTAtreatmentresultedinvitreousopacitywithvisiondeteriorationto0.06diopters(D)after5days.Thoughnoobviousinflamationwasseen,wediagnosedhimasendophthalmitisandperformedavitrectomy.Duringsurgery,noinfectiouschangeswereseenandabacterialculturewasnegative,resultinginafinaldiagnosisofSE.Thepatient’sVAimprovedto0.4DwithabsorptionoftheDME.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowtheimportanceofperformingdetailedexaminationsinordertocorrectlydiagnoseSE,theonsetofwhichmightbereducedbytheuseofpreservative-freetriamcinoloneacetonide.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):909.912,2015〕Keywords:トリアムシノロンアセトニド,糖尿病黄斑浮腫,防腐剤無添加,無菌性眼内炎.triamcinoloneacetonide,diabeticmacularedema,preservativefree,sterileendophthalmitis.〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(145)909 はじめにステロイド製剤の一つであるトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)は難水溶性の薬剤で,古くから整形外科領域で用いられてきた.眼科疾患への応用も広がり,とくに黄斑浮腫に対する投与(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)や硝子体手術時の可視化目的に使用されている1,2).国内では長年,ケナコルトR(BristolMyersSquibb社)が用いられてきたが,2010年にマキュエイドR(わかもと製薬)が市販された.本剤は眼科使用のみに特化していることと,剤型が粉末で防腐剤無添加のTA(preservativefreetriamcinoloneacetonide:PFTA)であるため無菌性眼内炎(sterileendophthalmitis:SE)の危険性が低下するという利点があり3),国内での本剤によるSEの発症報告はこれまでにない.安全性が担保されたことから,現在国内では,ほぼ本剤のみがIVTAに用いられている.今回筆者らは本剤のIVTAによって生じたSEを経験した.本症例はわが国で初めての症例であり,ここに報告する.I症例患者:60歳,男性.主訴:右眼視力障害.現病歴:2013年4月,両眼の糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)加療目的で当科受診した(図1a).初診時の右眼の矯正視力は0.2であり,ケナコルトRTenon.下注射や抗血管内皮増殖因子(vascularendotheliumgrowthfactor:VEGF)製剤の硝子体内注射を施行したが改善しなかった.2013年10月にマキュエイドRを用いた右)IVTAを施行したところ,DMEは著明に改善し,矯正視力も0.3となった(図1b).以後,再発していたがマキュエイドRの追加投与で寛解していた.今回右)DMEが再発し(図2a),矯正視力も0.2に低下した.2014年10月に3回目のIVTAを施行した.IVTAはオペガードMAR(千寿製薬)に溶解し40mg/mlに調整したTA0.1ml(4mg)を,減菌下に角膜輪部4mmの部位から27G針を用いて,硝子体注射して行った.施行後翌日の診察ではとくに炎症などの異常を認めなかったが,施行5日後の受診時に視力低下を伴う硝子体混濁を認めた.IVTA後の眼内炎と診断し,加療目的に当科入院となった.既往歴:糖尿病.加療前所見:矯正視力は右眼0.06,左眼0.2.眼圧は右眼14mmHg,左眼20mmHg.前眼部所見は右眼の結膜充血や前房蓄膿,細胞浮遊は認めなかった.眼脂や眼痛も認めなかった.左眼の異常は認めなかった(図2b).中間透光体・眼底所見は両眼に軽度白内障を認めた.右眼の硝子体混濁を認め,硝子体中のTA周囲でとくに混濁は強かった(図2c矢910あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015印).左眼の異常は認めなかった.経過:臨床所見からSEが疑われたが,感染性眼内炎の可能性も否定できなかったため,入院同日に超音波乳化吸引術+硝子体切除術を施行した.硝子体中には残存するTA周囲に強い混濁を認めた.しかし,眼底には感染性眼内炎に特徴的な白斑や出血,血管の白鞘化などは認めず,網膜色調も良好であった.また,術中に前房水・硝子体液・眼内灌流液を採取し培養検査を行ったが,いずれも菌は陰性であった.術後眼内炎の再燃はみられず,前眼部は清明であった(図3a).以上から,IVTAに伴うSEと診断した.術後,硝子体混濁は消失し,DMEも軽快した(図3b,c).術後2カ月で右眼の矯正視力は0.4と改善している.II考按近年,DMEの治療に薬剤の硝子体注射が広く用いられている.抗VEGF製剤とTA製剤はその代表であり,DMEに対する成績は偽水晶体眼に限っては両者の効果はほぼ同等であるとされている4).硝子体手術時の硝子体の可視化目的にもTAは用いられており安全な術中操作が可能となっている5).しかし,硝子体可視化目的の使用に比し,IVTAは白内障や眼圧上昇などの副作用面から抗VEGF製剤ほどは用いられていない.筆者らの施設でも,IVTAはDMEに対する第一選択となってはいない.しかし,全身合併症のため抗VEGF製剤の使用を控えざるをえない症例や,抗VEGF製剤やTAのTenon.下注射に反応しない症例,そして硝子体手術が施行できない症例などに対してIVTAは有効な選択肢の一つとなっている3).とくに偽水晶体眼は白内障発症の危険がないため,IVTAの良い適応である.国内外でこれまで使用されていたTA製剤であるケナコルトRは剤型が懸濁液であるため,防腐剤が添加されている.IVTAでは低頻度ながらもSEを生じることが知られており6,7),この添加防腐剤が原因の一つとして考えられている.MaiaらはIVTAによるSEの発症頻度を防腐剤の有無で比較している.防腐剤含有TAでの発症頻度は7.3%であるが,PFTAでは1.2%と統計学的に有意な発症頻度の低下を認め,防腐剤の有無でSEの発症頻度に差を認めている7).このため,マキュエイドRが入手できなかった2010年までは,防腐剤を除去してから使用することがわが国でも推奨されていた.わが国での多施設共同研究でもSEの発生頻度は1.6%であり,前述の報告と差異はないようであった8).防腐剤の除去法としてはフィルターによる方式が推奨されていたが9),煩雑であり防腐剤の完全除去は困難であった.この欠点を補うPFTAであるマキュエイドRが国内で市販され,SE発症の危険が少ない安全な薬剤であることが期待されていた.現に市販後4年間,IVTA後のSEの報告がなかったことは如実にこれを反映している.しかし,前述のように頻(146) aab図1初診時までの加療経過当院初診時,右眼の矯正視力は0.2であり,光干渉断層計が示すような黄斑浮腫を認めた(a).IVTAを行ったところ,浮腫は速やかに吸収し,矯正視力も0.3に改善した(b).abc図2加療前の所見IVTA前,浮腫の再発を認め,右眼の矯正視力は0.2であった(a).IVTAの5日後,前眼部所見に明らかな異常は認めなかったが(b),硝子体の混濁を認め眼底透見性は低下した(c)..:混濁塊.abc図3加療後の所見硝子体手術後2カ月の所見を示す.前眼部は清明であり(a),硝子体混濁も消失し,透見性は改善した(b).トリアムシノロンアセトニド粒子の残存を認める(.).光干渉断層計に示すように黄斑浮腫も消失した(c).度が下がるもののPFTAでもSEは生じうること,また,直接接触が細胞に与える影響について報告している.TA粒硝子体切除後に本剤が眼内に残存した場合にSEを発症した子の細胞への直接接触は炎症性サイトカインの増加を誘発症例が報告されていること(マキュエイド硝子体内注用し,細胞への障害が生じることを明らかにした.彼らはこれ40mg添付文書,わかもと株式会社,2014.4改訂第4版)なを「Particle-inducedendophthalmitis」と名づけた10).Inどから防腐剤以外のSEの発症原因があることも示唆されてvivoの条件下と異なり,生体でどのような変化が生じていいる.Otsukaらは細胞をTAとともに培養し,TA粒子のるかはいまだ不明であるが,このようにIVTA後のSE発症(147)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015911 には防腐剤以外の因子があることを念頭に,IVTAは注意深く行われなければならない.加療に当たり,SEと感染性眼内炎の鑑別が本例でも問題となった.SEの臨床所見としては,結膜充血や疼痛を伴わない前房混濁であり,感染性のものと異なり,さらさらした性状の前房蓄膿として知られている11).視力低下は著明で,これらの所見は24時間以内に生じることが多いとされている.本例はIVTA翌日の炎症所見や前房混濁を認めないものの,外眼部所見が清明であったことや硝子体混濁を主体とした強い視力低下を示したことから,加療開始前にすでにSEが強く疑われた.両者の大きな差異は,SEがとくに加療を行わなくても自然治癒することであり,本例においても経過観察が可能であったかもしれない.しかし,感染性眼内炎の初期像をみていた可能性はやはり否定できず,前述の所見も翌日以降に増悪していたかもしれない.感染性眼内炎の予後は治療開始時期に依存するため,硝子体手術の安全性が向上している現在において,本例のように即日の手術加療を行うことは視機能維持に直結する.以上から,過剰加療の側面があるものの,本例では手術加療を行った.感染による網膜白斑や血管白鞘化といった著明な変化もなく,術中採取した検体の培養結果も陰性であったことからSEと確定診断し,経過良好である.加えてDMEに対する加療選択肢の一つである硝子体手術を行ったため,結果としてDMEの消失と視機能改善を得ることができた.以上,PFTAであるマキュエイドRによるわが国で初めてのSE症例を報告した.防腐剤が無添加になったことによりSE発症頻度は減少し,有用なDMEに対する加療選択肢であるIVTAは行いやすくなっている.しかし依然,SEがIVTAにより生じうることを念頭に置いて加療する必要があると考えられる.文献1)JonasJB,KreissigI,SofkerAetal:Intravitrealinjectionoftriamcinolonefordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol121:57-61,20032)PeymanGA,CheemaR,ConwayMDetal:Triamcinoloneacetonideasanaidtovisualizationofthevitreousandtheposteriorhyaloidduringparsplanavitrectomy.Retina20:554-555,20003)杉本昌彦,松原央,古田基靖ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド製剤(マキュエイドR)の硝子体内注射の効果.あたらしい眼科30:703-706,20134)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork,ElmanMJ,AielloLP,BeckRWetal:Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20105)YamakiriK,SakamotoT,NodaYetal:Reducedincidenceofintraoperativecomplicationsinamulticentercontrolledclinicaltrialoftriamcinoloneinvitrectomy.Ophthalmology114:289-296,20076)MoshfeghiDM,KaiserPK,BakriSJetal:Presumedsterileendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.OphthalmicSurgLasersImaging36:24-29,20057)MaiaM,FarahME,BelfortRNetal:Effectsofintravitrealtriamcinoloneacetonideinjectionwithandwithoutpreservative.BrJOphthalmol91:1122-1124,20078)坂本泰二,石橋達朗,小椋祐一郞ほか:日本網膜硝子体学会トリアムシノロン調査グループトリアムシノロンによる無菌性眼内炎調査.日眼会誌115:523-528,20119)NishimuraA,KobayashiA,SegawaYetal:Isolatingtriamcinoloneacetonideparticlesforintravitrealusewithaporousmembranefilter.Retina23:777-779,200310)OtsukaH,KawanoH,SonodaSetal:Particle-inducedendophthalmitis:possiblemechanismsofsterileendophthalmitisafterintravitrealtriamcinolone.InvestOphthalmolVisSci54:1758-1766,201311)坂本泰二:粒子誘発性眼内炎:無菌性眼内炎の新しい病因.臨眼67:1249-1253,2013***912あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(148)

腎移植または血液透析導入を契機に糖尿病黄斑浮腫が改善した5 症例

2015年2月28日 土曜日

《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):279.285,2015c腎移植または血液透析導入を契機に糖尿病黄斑浮腫が改善した5症例石羽澤明弘*1,2長岡泰司*1横田陽匡*1高橋淳士*1南喜郎*2吉田晃敏*1*1旭川医科大学眼科学教室*2名寄市立総合病院眼科FiveCasesofImprovementinDiabeticMacularEdemaafterRenalTransplantationorCommencementofHemodialysisAkihiroIshibazawa1,2),TaijiNagaoka1),HarumasaYokota1),AtsushiTakahashi1),YoshiroMinami2)andAkitoshiYoshida1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NayoroCityGeneralHospital目的:糖尿病性腎症による末期腎不全を合併した糖尿病黄斑浮腫(DME)が,腎移植または血液透析の導入で改善した5症例を経験したので報告する.症例:腎移植となった症例は43歳,男性.DMEに両眼トリアムシノロンTenon.下注(STTA),左眼bevacizumab硝子体注(IVB)施行したが著効せず,中心窩網膜厚(CMT)は右眼464μm,左眼394μm,小数視力は右眼(0.2),左眼(0.5)であった.生体腎移植が施行され,全身の溢水状態は改善し,体重は20kg減少した.腎移植3カ月後,CMTは右眼275μm,左眼285μmに減少し,視力は両眼(0.8)へ改善した.血液透析が導入された4例(平均年齢62.8歳)では,5眼でDMEを認めた..胞様黄斑浮腫(CME),漿液性網膜.離(SRD)をそれぞれ4眼で認めた.2眼でSTTA施行,1眼でIVB施行されたが,著効は示さず,透析導入前の平均CMTは550.8μmであった.透析導入後,平均4.6カ月で全例にDMEの改善が認められ,CME,SRDも全例で消失した.透析導入後の平均CMTは298.6μmであった.結論:腎移植や血液透析による全身溢水状態の改善が,DMEの改善にも繋がることが示唆された.Purpose:Toreport5casesofspontaneousimprovementindiabeticmacularedema(DME)afterrenaltransplantation(RT)orcommencementofhemodialysis(HD).Cases:A43-year-oldmalewithend-stagediabeticnephropathyhadDMEbilaterally.Evenaftersomeconventionalophthalmologicaltreatments,theDMEremained.AfterRT,however,theDMEwascompletelyimprovedbilaterally.Fiveeyesintheremaining4patientswithESKDalsohadDME;themeancentralmacularthickness(CMT)was550.8μmbeforeHD.AftercommencementofHD,theDMEeyeswereimprovedinallcases,andthemeanCMTwasdecreasedto298.6μm.Conclusion:ThesefindingssuggestthattheremovalofasystemicoverflowofbodilyfluidbymeansofRTorHDiscorrelatedtotheimprovementofDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):279.285,2015〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,糖尿病網膜症,糖尿病性腎症,腎移植,血液透析.diabeticmacularedema,diabeticretinopathy,diabeticnephropathy,renaltransplantation,hemodialysis.はじめに糖尿病網膜症のいずれの病期からも発症しうる糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は,糖尿病による視力低下の重要な要因となっている.DMEの治療に関して,古典的な網膜光凝固のみならず,ステロイド薬や血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)に対する抗体療法など,薬物療法が近年試みられているが1),日常臨床において,これらの治療に抵抗するDME症例が数多く存在する.また一方で,血液透析(以下,透析)や腎移植により,眼局所の治療をせずともDMEが改善する症例があることも報告されている2.4).糖尿病性腎症による末期腎不全(end-stagekidneydisease:ESKD)は,溢水による全身浮〔別刷請求先〕石羽澤明弘:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkihiroIshibazawa,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,2-1-1-1MidorigaokaHigashi,AsahikawaHokkaido078-8150,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)279 腫をきたすため,ESKDに合併したDMEの病態には,眼局所の内外血液網膜関門の破綻のみならず,腎機能障害による全身溢水が影響している可能性がある.実際に腎症悪化による体重増減に並行するDMEの変化も報告されている5).しかし,近年の抗VEGF療法など眼局所療法に抵抗するDMEにおいて,透析や腎移植により改善する症例が存在することを,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて形態的かつ定量的に示した報告は,検索しえた範囲では見当たらない.今回筆者らは,腎移植または透析の導入により顕著に改善し,かつ経時的にOCTにより定量できたDMEの5症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕43歳,男性(腎移植著効).2007年7月,両眼の増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)にて旭川医科大学眼科(以下,当科)で汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)施行後,両眼ともに硝子体出血(vitreoushemorrhage:VH)を繰り返していた.VH消退後もDMEは残存し,OCT(RTVue-100R,Optovue社)で測定した中心窩網膜厚(centralmacularthickness:CMT)は右眼650μm,左眼629μm,小数視力(以下,視力)は右眼(0.2),左眼(0.3)であった.2008年7月左眼,9月右眼にトリアムシノロンTenon.下注(subtenontriamcinoloneacetonide:STTA),12月左眼にベバシズマブ硝子体注(intravitrealbevacizumab:IVB)を行い,短期的な効果は得たが,すぐに再発した(図1A).2009年7月,CMTは右眼553μm,左眼534μm,視力は右眼(0.4),左眼(0.2),糖尿病性腎症による低蛋白血症(血清アルブミン値2.4.2.9mg/dl)から,全身浮腫の悪化のため入院し,利尿剤投与などが行われた.両眼のCMTは減少傾向を示すも,.胞様黄斑浮腫(cysticmacularedema:CME)は残存し,2011年1月,CMTは右眼464μm,左眼394μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.5)であった(図1A,B).推定糸球体濾過量(estimatedglomerularfiltrationrate:eGFR)は9.0mL/分/1.73m2とESKDのため,同年2月,伯父を臓器提供者とした生体腎移植が行われた.3カ月後,eGFRは46.3mL/分/1.73m2へと改善,血清アルブミン値は4.9mg/dlと低蛋白血症も解消され,溢水の改善から体重は20kg減少した.CMTは右眼275μm,左眼285μmと著明に減少し,CMEは消失,中心窩陥凹も認められた(図1C).視力は両眼ともに(0.8)まで改善した.〔症例2〕72歳,男性(頻回再発後,透析導入).2008年,近医にて両眼の白内障手術,その後PRPが施行された.左眼の遷延するDMEのため,2011年3月に当科へ紹介となった.左眼にびまん性のDMEを認め,CMTは647μm,視力は(0.08)であった.同年4月,7月にIVBを280あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015実施し,9月にSTTAを1回行った.一時的な改善を得たが再発を繰り返し,2012年4月,左眼CMTは649μm,視力は(0.09)であった(図2A,B).eGFRは7.7mL/分/1.73m2とESKDであり,2012年6月に透析導入となった.3カ月後,左眼のCMTは273μmと著明に減少し,中心窩陥凹も認めた(図2C).しかし,視力の改善は(0.3)に留まった.〔症例3〕57歳,男性(硝子体手術後,透析導入).2004年,右眼白内障手術を近医にて施行された.2011年1月,両眼の視力低下を主訴に近医を受診し,両眼のPDRのため当科へ紹介となった.PRP後,右眼にびまん性のDMEを認め,CMTは498μm,視力は(0.9)であった.STTA後,2012年5月にVHが出現した.VHが消退しないため,同年9月に右眼硝子体手術を行った.術後,CMEを認め,CMTは510μm,視力は(0.4)であった(図3A,B).eGFRは6.8mL/分/1.73m2とESKDの進行があり,同年10月に透析導入となった.透析導入後,徐々に黄斑浮腫は改善し,4カ月で右眼CMTは296μm,視力は(1.0)まで改善した(図3C).〔症例4〕54歳,男性(白内障術後,透析導入).2008年2月,両眼のPDRにて当科でPRPを行い,中心窩近傍の毛細血管瘤に局所網膜光凝固も施行した.2009年2月に両眼の白内障手術後,DMEが悪化した.両眼ともに著明なCMEを認め,CMTは右眼529μm,左眼530μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.4)であった(図4A,B).eGFRは12.5mL/分/1.73m2とESKDであり,同年7月に透析導入となった.6カ月後,CMTは右眼241μm,左眼291μmへ減少,視力は右眼(0.3),左眼(0.5)となり,logMAR視力換算で1段階程度の改善があった(図4C).〔症例5〕69歳,男性(透析導入のみ).2012年12月,両眼PDRに対するPRP後の遷延するDMEのため当科に紹介となった.左眼に著明な漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)を認め,CMTは521μm,視力は(0.8)であった(図5A,B).2013年2月,eGFRは8.8mL/分/1.73m2とESKDのため,眼科的治療を行う前に透析導入となった.1カ月後,SRDは減少し,CMTは390μm,視力は(1.0)へ改善した(図5C).4カ月後にはSRDは消失した(図5D).また,中心窩下脈絡膜厚(subfovealchoroidalthickness:SCT)は,透析前395μm(図5B)であったが,透析導入後のSCTは1カ月,4カ月でそれぞれ,342μm(図5C),340μm(図5D)と減少した.症例のまとめを表1に示す.透析が導入された4例(平均年齢62.8歳)では,5眼でDMEを認めた.CME,SRDをそれぞれ4眼に認めた.2眼にSTTA施行,1眼にIVB施行されたが,著効は示さず,透析導入前の平均CMTは550.8μmであった.透析導入後,平均4.6カ月で全例に(108) L:STTAR:STTAL:IVB全身浮腫悪化で入院加療腎移植右眼:左眼:800700600500400300200中心窩網膜厚(μm)2008年07月2008年11月2009年03月2009年07月2009年11月2010年03月2010年07月2010年11月2011年03月2011年07月L:STTAR:STTAL:IVB全身浮腫悪化で入院加療腎移植右眼:左眼:800700600500400300200中心窩網膜厚(μm)2008年07月2008年11月2009年03月2009年07月2009年11月2010年03月2010年07月2010年11月2011年03月2011年07月A:中心窩網膜厚の経過右眼左眼右眼左眼B:腎移植前C:腎移植後(6カ月)図1症例1の中心窩網膜厚(CMT)の経過(A),腎移植前(B)と後(C)の眼底写真(上段),フルオレセイン蛍光造影写真(FA:後期像,中段),光干渉断層計像(OCT:水平断,下段)A:トリアムシノロンTenon.下注(STTA),ベバシズマブ硝子体注(IVB)により,一時的に改善はするが,浮腫の再発が認められた.全身浮腫悪化による入院,利尿剤投与後,中心窩網膜厚(CMT)は減少傾向を認めたが,浮腫は残存した.B:腎移植前のFAでは蜂巣状の高度な蛍光貯留を認め,OCTでは.胞様黄斑浮腫(CME)を呈している.CMTは右眼464μm,左眼394μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.5)であった.C:腎移植から6カ月後,FAでの蛍光漏出は明らかに減少し,OCTではCMEが消失,中心窩陥凹も認めた.CMTは右眼275μm,左眼285μmで,視力は両眼ともに(0.8)まで改善した.DMEの消失が認められた.透析導入後の平均CMTはII考按298.6μm(p<0.01)と有意に改善していた(pairedt-test).糖尿病性腎症によるESKDのため透析導入となる患者は,(109)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015281 IVB①IVB②STTAHD導入中心窩網膜厚(左眼)(μm)800700600500400300200100011年03月11年05月11年07月11年09月12年03月12年01月12年05月12年07月12年09月11年11月IVB①IVB②STTAHD導入中心窩網膜厚(左眼)(μm)800700600500400300200100011年03月11年05月11年07月11年09月12年03月12年01月12年05月12年07月12年09月11年11月A:中心窩網膜厚の経過(左眼)B:透析導入前(OCT:水平断)C:透析導入後(3カ月)図2症例2(左眼)の中心窩網膜厚(CMT)の経過(A)と透析導入前(B)後(C)のOCT像(水平断)A:ベバシズマブ硝子体注(IVB),トリアムシノロンTenon.下注(STTA)により,一時的に改善はするが,浮腫の再発が認められた.B:透析導入前,CMEを呈し,CMTは649μm,視力は(0.09).C:透析導入3カ月後,CMEは消失,CMTは273μm,視力は(0.3)へ改善.B:透析導入前(OCT:水平断)A:透析導入前(右眼)C:透析導入後(4カ月)図3症例3(右眼)の眼底写真(A),透析導入前(B)後(C)のOCT像(水平断)A,B:硝子体手術後,CMEを認め,CMTは510μm,視力は(0.4).C:透析導入4カ月後,CMEは消失,CMTは296μm,視力は(1.0)まで改善.そのほとんどが糖尿病網膜症を有し,その50%以上が最重は透析導入となったDME患者11例22眼において,DME症型のPDRである6).しかし,透析療法が開始継続されるの鎮静化までの期間を眼底写真,蛍光眼底造影(fluoresceinことにより,1.2年で網膜症は非活動型の「燃え尽き網膜fundusangiography:FA)で判定し,DMEの軽減まで平均症」に至ることが多いと報告されている7).一方,DMEへ6.5カ月,消失までは平均14.7カ月の時間を要したと報告しの透析療法の効果を示した研究は意外にも少ない.市川ら2)た.今回,筆者らは透析および腎移植に伴うDMEの改善を282あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(110) 右眼左眼A:透析導入前(眼底写真)B:透析導入前(OCT:水平断)C:透析導入後(6カ月)図4症例4の眼底写真(A),透析導入前(B)後(C)のOCT像(水平断)A,B:白内障術後,CMEを認め,CMTは右眼529μm,左眼530μm,視力は右眼(0.2),左眼(0.4).C:透析導入6カ月後,CMTは右眼241μm,左眼291μmへ減少,視力は右眼(0.3),左眼(0.5)へ改善.395μmB:透析導入前342μmA:透析導入前(左眼)C:透析導入後(1カ月後)340μmD:透析導入後(4カ月後)図5症例5(左眼)の眼底写真(A),透析導入前(B)後(C,D)のOCT像(水平断)A,B:透析導入前,著明な漿液性網膜.離(SRD)を認めた.CMTは521μm,視力は(0.8)であった.中心窩下脈絡膜厚(SCT)は395μmであった.C:透析導入1カ月後,SRDは減少し,CMTは390μm,視力は(1.0)と改善.SCTは342μmへ減少.D:透析導入4カ月後,SRDは消失した.SCTは340μm.(111)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015283 表1症例のまとめ腎移植前腎移植後腎移植症例年齢性別eGFRR/LDMEtypeCMESRDPRPfocalPCSTTAIVB硝子体手術白内障手術CMT小数視力CMT小数視力改善までの期間症例143男9Ldiffuse+.+.+…4640.22750.83Rdiffuse+.+.++..3940.52850.83透析導入前透析導入後透析導入症例年齢性別eGFRR/LDMEtypeCMESRDPRPfocalPCSTTAIVB硝子体手術白内障手術CMT小数視力CMT小数視力改善までの期間症例272男7.7Ldiffuse+.+.++..6490.092750.33症例357男6.8Ldiffuse+++.+.++5100.429614症例453男12.5Rfocal++++…+5440.22410.36Lfocal++++…+5300.42910.56症例569男8.8Ldiffuse.++…..5210.839014平均値62.88.95550.8298.64.6(歳)(mL/分/1.73m2)(μm)(μm)(カ月)eGFR:推定糸球体濾過量(mL/分/1.73m2),diffuse:びまん性DME,focal:局所性(毛細血管瘤からの漏出による)DME,CME:.胞様黄斑浮腫,SRD:漿液性網膜.離,PRP:汎網膜光凝固,focalPC:毛細血管瘤への局所光凝固,STTA:トリアムシノロンTenon.下注,IVB:ベバシズマブ硝子体注,CMT:中心窩網膜厚(μm).OCTで経過観察し,透析導入後平均4.6カ月で浮腫の消失を確認し,CMTは平均550.8→298.6μmと有意に改善した.筆者らは透析導入後にFAを施行しておらず,血管からの漏出が消失したかどうかは定かではないが,今回OCTで観察されたDMEの消失までの期間は,市川らが報告した期間よりは短い.これは,びまん性漏出が完全に消失する前に形態が先行して正常化することを示唆しているのかもしれない.一方,症例1は,透析ではなく,腎移植による腎機能の本質的改善により,体液貯留が改善され(体重は20kg減少)眼科的局所治療なしで,DMEが消失し,視力回復に至った.(,)清水ら4)は腎移植を受けた糖尿病網膜症患者20例40眼を検討し,DMEの改善は6眼中3眼であったと報告した.この報告はOCTが導入される以前のものであり,定量的な浮腫の評価は困難であったと考えられるが,腎移植後の網膜症の予後は良好であり,視力向上例が多いと結論づけている.本症例においても,腎移植によって低蛋白血症が改善されたことにより,血漿膠質浸透圧の低下も改善され,網膜内余剰水分が除水された結果,DMEの改善に至ったと考えられる.腎機能低下に伴う溢水とDMEの関連性を強く示唆する症例と考えられた.近年,DMEの眼科的加療として,抗VEGF療法やステロイド療法が注目され,おもに眼所見(OCT所見)と治療効果については幾多の検討がなされている8).一方で,これらの治療に抵抗性を示す症例の全身状態,とくに腎機能について言及した報告は,検索しえた範囲では見当たらない.IVBやSTTAにても頻回再発をきたしていた症例2では,IVB,STTAともに一過性には効果を示すため,DMEの病態にVEGFを含めた慢性炎症が関与することに議論の余地はない.しかし,透析導入により3カ月でDMEは速やかに改善したことから,繰り返す再発の一因として,腎機能障害による全身溢水の影響があった可能性があると考えた.体重の増減に伴うDMEの増減を認めた症例も報告されており5),本症例においても体液管理の重要性が示唆され,眼科医も全身状態を十分把握し,透析導入時期を含めた内科との連携が必要であると考えられた.手術後も残存したDMEへの透析導入例(症例3,4)においては,硝子体手術による緩徐な改善効果9)や,手術侵襲による一過性の増悪からの自然回復も考えられる.柳ら10)は,硝子体手術後,透析導入により,速やかに軽快したDMEを報告しており,症例3と同様の経過をたどっている.症例4は白内障手術後のDMEの急性増悪であり,STTAなども有効であった可能性がある.しかし,眼局所治療せず,透析導入後に浮腫の消失を認めた.網膜硝子体,そして脈絡膜における炎症と透析療法の関係性は明らかではないが,術後に残存するDMEの改善にも透析導入が有効な症例があると考(112) えられた.さらに,透析導入のみでDMEが改善した症例5では,脈絡膜厚の変化も同時に観察可能であった.本症例では透析導入前に比較し,透析導入後1カ月,4カ月ではSCTは約50μm減少していた.近年,Ulasら11)は,非糖尿病性の透析患者において,単回の透析により,脈絡膜厚は透析後減少することを報告している.糖尿病患者において,透析導入前後の脈絡膜厚の変化をみた文献は筆者らの調べた限り見当たらないが,本症例では,ESKDによる全身溢水により,脈絡膜にも溢水をきたし,脈絡膜厚の増加が観察されたと考えられる.さらに脈絡膜側から漏出した水分や網膜色素上皮の排泄不全が黄斑部のSRDの発生に関与し,透析導入後,脈絡膜の溢水の解消に伴い,脈絡膜厚も減少し,SRDも消失したと推測される.他の症例では画像の質的問題から透析導入前後の脈絡膜厚を評価するのは困難であり,すべての症例で同様の機序を推定することはできないが,透析導入となった5眼中4眼が経過中SRD(+)であった.かねてより,糖尿病による血管障害は脈絡膜にも及んでいることが報告されており12),ESKDによる全身溢水は網膜血管のみならず脈絡膜も介し,上記のようなSRDの形成に関与した可能性があると考えた.腎機能と脈絡膜厚,DMEの関連性については,今後十分な症例数での検討が必要である.これらの5症例を通して,腎移植や透析導入による全身溢水の改善が,DMEの改善にも繋がることが示唆された.今後は,脈絡膜厚測定による脈絡膜の溢水改善や,低蛋白血症の改善に伴ってDMEが改善していく時間経過を,より多数例で前向きに検討していきたいと考えている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)志村雅彦:総説糖尿病黄斑浮腫.眼科55:1525-1536,20132)市川一夫,蟹江佳穂子,吉田則彦ほか:糖尿病黄斑浮腫と透析療法.眼紀55:258-264,20043)TokuyamaT,IkedaT,SatoK:Effectsofhaemodialysisondiabeticmacularleakage.BrJOphthalmol84:13971400,20004)清水えりか,船津英陽,堀貞夫ほか:腎移植を受けた糖尿病患者の糖尿病網膜症.眼紀48:149-152,19975)宮部靖子,三澤和史,種田紳二ほか:糖尿病腎症悪化による体重増減に並行して糖尿病黄斑浮腫の増減をみた症例.眼紀58:361-368,20076)竹田宗泰,鬼原彰,相沢芙束ほか:糖尿病性網膜症に対する透析療法の影響.眼科31:849-854,19897)徳山孝展,池田誠宏,石川浩子ほか:血液透析症例における糖尿病網膜症.あたらしい眼科11:1069-1072,19948)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20139)HarbourJW,SmiddyWE,FlynnHWJretal:Vitrectomyfordiabeticmacularedemaassociatedwithathickenedandtautposteriorhyaloidalmembrance.AmJOphthalmol121:405-413,199610)柳昌秀,石田由美,今田昌輝ほか:硝子体手術後透析導入により軽快した糖尿病黄斑浮腫の1例.眼臨98:31-33,200411)UlasF,DoganU,KelesAetal:Evaluationofchoroidalandretinalthicknessmeasurementsusingopticalcoherencetomographyinnon-diabetichaemodialysispatients.IntOphthalmol33:533-539,201312)HidayatAA,FineBS:Diabeticchoroidopathy.Lightandelectronmicroscopicobservationsofsevencases.Ophthalmology92:512-522,1985***(113)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015285

糖尿病黄斑浮腫を対象としたWP-0508(マキュエイド®硝子体内注用)の第II/III相試験

2014年12月31日 水曜日

1876あたらしい眼科Vol.4102,211,No.3(00)1876(138)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1876.1884,2014cはじめに黄斑浮腫は,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などに合併する視力低下の主要な原因であり,血液網膜関門が破綻し,網膜血管の透過性が亢進することにより引き起こされる病態である.この黄斑浮腫の治療法として,わが国においては硝子体手術や網膜光凝固などが選択されているが,効果には限界〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-kuNagoya,Aichi467-8601,JAPAN糖尿病黄斑浮腫を対象としたWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の第II/III相試験小椋祐一郎*1坂本泰二*2吉村長久*3石橋達朗*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座視覚疾患学*3京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学*4九州大学大学院医学研究院臨床医学部門外科学講座眼科学分野Phase2/3ClinicalTrialofWP-0508(MaQaidRIntravitrealInjection)forDiabeticMacularEdemaYuichiroOgura1),TaijiSakamoto2),NagahisaYoshimura3)andTatsuroIshibashi4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedichine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyusyuUniversityWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の有効性および安全性を確認するため,糖尿病黄斑浮腫患者100例を対象に多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験を実施した.WP-05088mgおよび4mg単回硝子体内投与後12週の観察を行った結果,8mg群および4mg群の両群で非投与群に対する最高矯正視力,中心窩平均網膜厚の有意な改善(p<0.05,共分散分析)が認められ,非投与群に対する優越性が検証された.主な副作用として,眼圧上昇(8mg群27.3%,4mg群26.5%),白内障進展(8mg群15.2%,4mg群23.5%),飛蚊症(8mg群18.2%,4mg群11.8%),および硝子体内TA(トリアムシノロンアセトニド)拡散(8mg群18.2%,4mg群8.8%)がみられた.8mg群4例(12.1%),4mg群3例(8.8%)で投与後12カ月の追跡期間中に白内障手術に至ったが,視力予後は良好であった.手術に至った眼圧上昇例はなく,感染性・非感染性眼内炎はみられなかった.単回投与後12週の効果,および忍容性が確認できたことから,WP-0508は糖尿病黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられた.ToassesstheefficacyandsafetyofWP-0508(MaQaidRintravitrealinjection),arandomized,single-masked,sham-controlled,multicenterstudywascarriedouton100diabeticmacularedemapatients.AfterasingleintravitrealinjectionofWP-0508,12-weekobservationrevealedsignificantimprovementofmeanbest-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralmacularthicknessinboththe8mgand4mggroups,incontrasttotheshamgroup(p<0.05,ANACOVA),verifyingsuperiorityinbothWP-0508groups.Majoradverseeffectswereelevatedintraocularpressure,cataractdevelopment,floatingspotsandintravitrealtriamcinoloneacetonide(TA)dispersion.Althoughseveralpatients(4in8mggroup,3in4mggroup)requiredcataractsurgeryduringthe12-monthfollow-upperiod,BCVAwasrecoveredaftersurgery.Innocasedidelevatedintraocularpressureleadtofiltrationsurgery.Infectiousandnon-infectiousendophthalmitiswerenotobservedthroughoutthestudyperiod.SincetheefficacyandtolerabilityofWP-0508havebeenconfirmed,itisdeemedausefulalternativefortreatingdiabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1876.1884,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,硝子体内投与,無作為化臨床試験,WP-0508.diabeticmacularedema,triamcinoloneacetonide,intravitrealinjection,randomizedclinicalstudy,WP-0508.(00)1876(138)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(12):1876.1884,2014cはじめに黄斑浮腫は,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などに合併する視力低下の主要な原因であり,血液網膜関門が破綻し,網膜血管の透過性が亢進することにより引き起こされる病態である.この黄斑浮腫の治療法として,わが国においては硝子体手術や網膜光凝固などが選択されているが,効果には限界〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-kuNagoya,Aichi467-8601,JAPAN糖尿病黄斑浮腫を対象としたWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の第II/III相試験小椋祐一郎*1坂本泰二*2吉村長久*3石橋達朗*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学講座視覚疾患学*3京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学*4九州大学大学院医学研究院臨床医学部門外科学講座眼科学分野Phase2/3ClinicalTrialofWP-0508(MaQaidRIntravitrealInjection)forDiabeticMacularEdemaYuichiroOgura1),TaijiSakamoto2),NagahisaYoshimura3)andTatsuroIshibashi4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedichine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyusyuUniversityWP-0508(マキュエイドR硝子体内注用)の有効性および安全性を確認するため,糖尿病黄斑浮腫患者100例を対象に多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験を実施した.WP-05088mgおよび4mg単回硝子体内投与後12週の観察を行った結果,8mg群および4mg群の両群で非投与群に対する最高矯正視力,中心窩平均網膜厚の有意な改善(p<0.05,共分散分析)が認められ,非投与群に対する優越性が検証された.主な副作用として,眼圧上昇(8mg群27.3%,4mg群26.5%),白内障進展(8mg群15.2%,4mg群23.5%),飛蚊症(8mg群18.2%,4mg群11.8%),および硝子体内TA(トリアムシノロンアセトニド)拡散(8mg群18.2%,4mg群8.8%)がみられた.8mg群4例(12.1%),4mg群3例(8.8%)で投与後12カ月の追跡期間中に白内障手術に至ったが,視力予後は良好であった.手術に至った眼圧上昇例はなく,感染性・非感染性眼内炎はみられなかった.単回投与後12週の効果,および忍容性が確認できたことから,WP-0508は糖尿病黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられた.ToassesstheefficacyandsafetyofWP-0508(MaQaidRintravitrealinjection),arandomized,single-masked,sham-controlled,multicenterstudywascarriedouton100diabeticmacularedemapatients.AfterasingleintravitrealinjectionofWP-0508,12-weekobservationrevealedsignificantimprovementofmeanbest-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralmacularthicknessinboththe8mgand4mggroups,incontrasttotheshamgroup(p<0.05,ANACOVA),verifyingsuperiorityinbothWP-0508groups.Majoradverseeffectswereelevatedintraocularpressure,cataractdevelopment,floatingspotsandintravitrealtriamcinoloneacetonide(TA)dispersion.Althoughseveralpatients(4in8mggroup,3in4mggroup)requiredcataractsurgeryduringthe12-monthfollow-upperiod,BCVAwasrecoveredaftersurgery.Innocasedidelevatedintraocularpressureleadtofiltrationsurgery.Infectiousandnon-infectiousendophthalmitiswerenotobservedthroughoutthestudyperiod.SincetheefficacyandtolerabilityofWP-0508havebeenconfirmed,itisdeemedausefulalternativefortreatingdiabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1876.1884,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,硝子体内投与,無作為化臨床試験,WP-0508.diabeticmacularedema,triamcinoloneacetonide,intravitrealinjection,randomizedclinicalstudy,WP-0508. があり,他の治療手段の開発や併用療法が今後の緊急の課題と考えられている.糖尿病黄斑浮腫に対しては,2001年にJonasら1)が初めて硝子体内にトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を投与し,浮腫が軽減することを報告して以来,国内外での報告が相ついでいる.また,坂本らの2005年国内アンケート調査結果2)によると,黄斑浮腫の主な原因疾患(糖尿病黄斑症,網膜静脈閉塞症)では,TA眼局所投与(硝子体内,Tenon.下注射)が第一選択という意見が多かったと報告されている.眼科で広く適応外使用されてきたTA製剤(ケナコルト-AR筋注用・関節腔内用水懸注)は眼科用に承認された製剤ではなく,添加剤として眼組織に有害なベンジルアルコール3,4)や眼圧上昇の危惧のあるカルボキシメチルセルロース5)を含有するため,これらを除去するために各医療機関で再調製する必要があり,微生物汚染のリスクの増加が懸念されていた.WP-0508(マキュエイドR硝子体内注用40mg)は,合成表1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*社会医療法人秀眸会大塚眼科病院引地泰一医療法人渓仁会手稲渓仁会病院眼科横井匡彦NTT東日本東北病院眼科志村雅彦山形大学医学部附属病院眼科山下英俊福島県立医科大学附属病院眼科飯田知弘自治医科大学附属病院眼科佐藤幸裕千葉大学医学部附属病院眼科山本修一順天堂大学医学部附属浦安病院眼科佐久間俊郎東邦大学医療センター佐倉病院眼科前野貴俊駿河台日本大学病院眼科島田宏之聖路加国際病院眼科大越貴志子医療法人社団済安堂西葛西・井上眼科病院宮永嘉隆横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科門之園一明名古屋市立大学病院眼科吉田宗徳医療法人社団同潤会眼科杉田病院杉田元太郎京都大学医学部附属病院眼科吉村長久大阪大学医学部附属病院眼科生野恭司大阪市立大学医学部附属病院眼科白木邦彦独立行政法人労働者健康福祉機構大阪労災病院眼科恵美和幸香川大学医学部附属病院眼科白神史雄九州大学病院眼科望月泰敬,石橋達朗医療法人社団研英会林眼科病院林研医療法人松井医仁会大島眼科病院矢部伸幸医療法人出田会出田眼科病院川崎勉鹿児島大学病院医学部・歯学部附属病院眼科坂本泰二公益財団法人慈愛会今村病院分院眼科土居範仁*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).(139)副腎皮質ステロイドであるTAを有効成分とし,眼に有害な添加剤を含有しない粉末注射剤であり,わが国初の「硝子体手術時の硝子体可視化」および「糖尿病黄斑浮腫」の効能・効果が承認されている.今回は,「糖尿病黄斑浮腫」の効能・効果承認のために実施された糖尿病黄斑浮腫を対象とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験の結果を報告する.本治験は,わかもと製薬株式会社の依頼により,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」,ならびに治験実施計画書を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,平成22年2月.平成24年3月の間に全国26医療機関において,各々の治験責任医師のもと実施された(表1).試験実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.対象対象は,糖尿病黄斑浮腫患者で,本治験の選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者を対象とした.主な選択・除外基準を表2に示した.本治験の開始に先立ち,すべての被験表2主な選択・除外基準選択基準(1)年齢が満20歳以上(2)2型糖尿病〔日本糖尿病学会の診断基準(1999年)〕(3)対象眼が非増殖糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫(4)対象眼の最高矯正視力<ETDRS>が35文字から70文字(小数視力換算で0.1以上0.5以下)(5)対象眼の中心窩平均網膜厚が,光干渉断層計による測定で300μm以上(6)対象眼の眼圧が21mmHg以下除外基準(1)いずれかの眼に,活動性の眼感染または非活動性のトキソプラズマ症が認められる(2)対象眼に緑内障および高眼圧症を有する,または既往歴がある(3)HbA1Cが10.0%以上,血清クレアチニンが2.0mg/dl以上(4)対象眼に硝子体手術の既往を有する(5)対象眼への薬剤の硝子体内投与が治験薬投与前52週以内に実施(6)対象眼への副腎皮質ステロイド薬のTenon.下または球後への投与が,治験薬投与前24週以内に実施(7)対象眼へのレーザー治療または硝子体手術以外の内眼手術が,治験薬投与前12週以内に実施(8)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,ワルファリンおよびヘパリンの投与が,治験薬投与前4週以内に実施あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141877 表3検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日1週4週8週12週中止時6,9,12カ月同意取得●患者背景●症例登録●治験薬投与●眼科検査最高矯正視力●●●●●●○中心窩平均網膜厚●●●●●●眼圧●●●●●●●○細隙灯顕微鏡検査●●●●●●●○TA粒子観察●●●●●●●○眼底検査●●●●●●●●○眼底撮影●●●●●●●○蛍光眼底造影検査●血圧・脈拍数●●●●臨床検査●●●●有害事象●○:有害事象発現例,硝子体内TA粒子残存例,有水晶体眼例の追跡調査を行った.者に対し,治験審査委員会の承認を得た同意・説明文書を使用して十分説明した後,自由意思による治験参加の同意を本人から文書にて取得した.3.試験方法a.治験デザイン本治験は,多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験として実施した.適格な被験者を動的割付(因子:最高矯正視力,中心窩平均網膜厚,水晶体の状態)によりWP-05088mg群,4mg群,非投与群のいずれかに無作為に割り付けた.b.治験薬・投与方法被験薬であるWP-0508は,1バイアル中にTA40mgを含有する添加剤を含まない白色の結晶性の粉末で,生理食塩液にて用時懸濁して用いた.投与対象眼に対し,投与群(WP-05088mg群,4mg群)では,それぞれTA8mg,4mgを含有する懸濁液0.1mlを硝子体内に単回投与し,非投与群では投与部位に注射針未装着の注射筒の先を当てる措置を行った.4.検査・観察項目検査・観察スケジュールを表3に示した.蛍光眼底造影写真より蛍光漏出,虚血および新生血管の有無を判断し,糖尿病網膜症分類6),選択・除外基準の判定を行った.最高矯正視力はETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)チャートを用いて,中心窩平均網膜厚は光干渉断層計(OCT3000R,CarlZeissMeditec社製)を用いて測定した.観察項目として,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査を行った.その結果から,投与後に認められた臨床上好ましくない疾病あるいは徴候を収集し,有害事象として評価した.投与後12週までの観察期間中は,対象疾患に対する併用処置〔硝子体手術,レーザー治療,VEGF(血管内皮増殖因子)阻害薬投与など〕,および視力に影響のある処置(白内障手術,緑内障手術など)を禁止とし,治療が必要とされた場合は中止時検査を行い中止・終了した.観察期間終了後も,投与群の白内障進展について投与後12カ月まで追跡調査した.有害事象発現例,硝子体内TA粒子残存例についても追跡調査を行った.5.評価項目および方法a.有効性主要評価項目は,投与後12週の最高矯正視力とした(投与後12週以内に中止された場合も,投与後1週以降で一番遅い時点に観察されたものを最終評価時のデータとして解析に使用した).副次評価項目として,各評価時期の最高矯正視力,中心窩平均網膜厚について評価した.非投与群においては,4週以降,治療が必要と判断された時点のデータを12週までのデータとして集計した.(140) あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141879(141)b.安全性有害事象および副作用,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数,臨床検査の各項目を評価した.6.解析方法a.解析対象集団主要な有効性解析対象集団は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS)とし治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性は,治験薬の投与がなされた症例を対象とした.b.解析方法群ごとに各評価時期について,最高矯正視力および最高矯正視力変化量の要約統計量を算出し,スクリーニング時の最高矯正視力を共変量として,各評価時期の最高矯正視力について非投与群に対する共分散分析を行った.解析は閉手順とし,第一の仮説検定で8mg群と非投与群の差を,第二の仮説検定で4mg群と非投与群の差を検証した.また,各評価時期の最高矯正視力変化量について,対応のあるt検定を行った.中心窩平均網膜厚についても最高矯正視力と同様の解析を行った.統計解析における有意水準は両側5%,信頼係数は両側95%とした.II試験成績1.被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験への参加に同意し,登録された被験者は合計102例であり,実際に投与されたのは,8mg群33例,4mg群34例,非投与群33例の合計100例であった.登録被験者のうち,8mg群の1例で投与表4被験者背景(安全性解析対象集団,FAS)項目8mg群4mg群非投与群解析対象例数33例34例33例性別男18例(54.5%)16例(47.1%)20例(60.6%)女15例(45.5%)18例(52.9%)13例(39.4%)年齢(歳)67.1±8.265.6±8.165.4±6.4[48.81][38.83][53.79]糖尿病網膜症分類*軽症非増殖9(27.3%)6(17.6%)8(24.2%)中等症非増殖22(66.7%)22(64.7%)15(45.5%)重症非増殖2(6.1%)6(17.6%)10(30.3%)増殖0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)最高矯正視力(文字)57.8±7.456.0±8.856.6±10.4[42.70][38.69][35.70]中心窩平均網膜厚(μm)449.5±94.7426.3±89.1435.2±108.9[317.695][304.722][302.706]眼圧(mmHg)14.8±3.815.2±2.715.1±3.0[8.21][10.21][11.20]HbA1C(%)6.89±0.856.75±0.967.27±1.15[5.6.8.6][5.4.9.9][5.4.9.9]平均値±標準偏差[最小値.最大値]*糖尿病網膜症国際重症度分類6)に従って判定された.軽症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤のみ認める,中等症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤以外の所見も認めるが,重症非増殖糖尿病網膜症より軽い,重症非増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認め,かつ増殖性網膜症の所見を認めないもの[4象限すべてで20個以上の網膜出血,2象限以上で明らかな静脈の数珠状拡張,1象限以上で顕著な網膜内細小血管異常(IRMA)],増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認めるもの[新生血管,硝子体and/or網膜前出血]図1被験者の内訳*非投与群4週以降終了者(11例)も含む.投与未実施例数8mg群4mg群非投与群中止・脱落例数8mg群4mg群非投与群2101例例例例3201例例例例登録被験者数投与例数8mg群4mg群非投与群観察期完了例数8mg群4mg群非投与群100333433例例例例97*313432*例例例例102例項目8mg群4mg群非投与群解析対象例数33例34例33例性別男18例(54.5%)16例(47.1%)20例(60.6%)女15例(45.5%)18例(52.9%)13例(39.4%)年齢(歳)67.1±8.265.6±8.165.4±6.4[48.81][38.83][53.79]糖尿病網膜症分類*軽症非増殖9(27.3%)6(17.6%)8(24.2%)中等症非増殖22(66.7%)22(64.7%)15(45.5%)重症非増殖2(6.1%)6(17.6%)10(30.3%)増殖0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)最高矯正視力(文字)57.8±7.456.0±8.856.6±10.4[42.70][38.69][35.70]中心窩平均網膜厚(μm)449.5±94.7426.3±89.1435.2±108.9[317.695][304.722][302.706]眼圧(mmHg)14.8±3.815.2±2.715.1±3.0[8.21][10.21][11.20]HbA1C(%)6.89±0.856.75±0.967.27±1.15[5.6.8.6][5.4.9.9][5.4.9.9]平均値±標準偏差[最小値.最大値]*糖尿病網膜症国際重症度分類6)に従って判定された.軽症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤のみ認める,中等症非増殖糖尿病網膜症:毛細血管瘤以外の所見も認めるが,重症非増殖糖尿病網膜症より軽い,重症非増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認め,かつ増殖性網膜症の所見を認めないもの[4象限すべてで20個以上の網膜出血,2象限以上で明らかな静脈の数珠状拡張,1象限以上で顕著な網膜内細小血管異常(IRMA)],増殖糖尿病網膜症:以下の所見のいずれかを認めるもの[新生血管,硝子体and/or網膜前出血]図1被験者の内訳*非投与群4週以降終了者(11例)も含む.投与未実施例数8mg群4mg群非投与群中止・脱落例数8mg群4mg群非投与群2101例例例例3201例例例例登録被験者数投与例数8mg群4mg群非投与群観察期完了例数8mg群4mg群非投与群100333433例例例例97*313432*例例例例102例 表5最終評価時の最高矯正視力(FAS)8mg群と非投与群の比較4mg群と非投与群の比較投与群非投与群投与群非投与群(33例)(33例)(34例)(33例)スクリーニング時のデータで調整後の値61.8±1.257.8±1.261.8±1.257.1±1.24.0±1.7(0.6.7.5)4.7±1.7(1.3.8.1)非投与群との差(95%信頼区間)p=0.022*p=0.008**平均値±標準誤差.p:スクリーニング時のデータを共変量とした共分散分析,*:p<0.05,**:p<0.01.8070605040スクリー14812最終***#######******#####################:8mg群(33例):4mg群(34例):非投与群(33例)ニング時評価時期(週後)評価時図2最高矯正視力の推移(FAS)各ポイントは平均値±標準偏差で表示.*:p<0.05,**:p<0.01,非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.#:p<0.05,###:p<0.001,スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定.表6最高矯正視力の推移(FAS)最高矯正視力(文字)スクリーニング時1週4週8週12週最終評価時n3333333230338mg群実測値57.8±7.461.1±9.662.2±8.861.7±8.362.1±8.662.3±8.8─3.3±7.14.5±5.04.3±5.74.8±6.04.5±5.9変化量*1─p=0.012#p<0.001###p<0.001###p<0.001###p<0.001###対非投与群*2─p=0.339p=0.039*p=0.042*p=0.020*p=0.022*n3434343434344mg群実測値56.0±8.859.1±10.260.1±8.661.6±8.861.5±9.361.5±9.3─3.1±4.74.2±6.25.6±6.55.6±6.25.6±6.2変化量*1─p<0.001###p<0.001###p<0.001###p<0.001###p<0.001###対非投与群*2─p=0.348p=0.089p=0.010*p=0.008**p=0.008**n333333323233非投与群実測値56.6±10.458.3±12.557.9±12.057.7±11.357.3±11.257.3±11.0─1.6±7.41.2±7.40.9±7.80.6±8.40.7±8.2変化量*1─p=0.215p=0.345p=0.501p=0.690p=0.631平均値±標準偏差.*1変化量(p):スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定,#:p<0.05,###:p<0.001.*2対非投与群(p):非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較,*:p<0.05,**:p<0.01.(142) 前に同意撤回のため,また非投与群の1例が措置前の被験者の視力悪化に対する医師の判断により投与未実施となった.投与後8mg群2例,非投与群1例で中止となったため,観察を完了した被験者は,8mg群31例,4mg群34例,非投与群32例(治験実施計画書に従い4週以降に治療が必要と判断され終了となった非投与群の11例を含む)であった.中止・脱落となった理由は,8mg群の1例が被験者の安全性への配慮のため,1例が併用禁止薬使用の必要性であり,非投与群の1例が治験開始後の同意撤回であった.投与後12週以降は,有害事象発現例,硝子体内TA粒子残存例,有水晶体眼例の安全性追跡調査を投与後12カ月まで行った.析).PPSにおいても,8mg群および4mg群でFASと同様の結果であった.b.副次的評価項目に関する結果FASにおける観察期間(投与後12週まで)の最高矯正視力の推移を図2および表6に,中心窩平均網膜厚の推移を図3および表7示した.投与後12週までの各時点の最高矯正視力の推移は,8mg群,4mg群ともスクリーニング時に比べ投与後1週より有意な改善が認められ(それぞれp<0.05,600被験者背景(安全性解析対象集団,FAS)を表4に示した.2.有効性投与後1週以降,12週までのデータが存在する100例が有効性解析対象となった[FAS:100例(8mg群33例,4mg群34例,非投与群33例),PPS:90例(8mg群29例,4mg群30例,非投与群31例)].a.主要評価項目に関する結果中心窩平均網膜厚(μm):8mg群(33例):4mg群(34例):非投与群(33例)******************************##############################500400300200100本治験の主要な解析対象集団であるFASにおける,投与スクリー14812最終後12週(最終評価時)の最高矯正視力(スクリーニング時のニング時評価時期(週後)評価時データで調整後)を表5に示した.8mg群と非投与群の比図3中心窩平均網膜厚の推移(FAS)較(第一の仮説検定)に続き,4mg群と非投与群の比較(第各ポイントは平均値±標準偏差で表示.***:p<0.001,非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析二の仮説検定)でも有意差が認められた(それぞれp=0.022,に基づく群間比較.###:p<0.001,スクリーニング時の値にp=0.008,スクリーニング時の値を共変量とした共分散分対する対応のあるt検定.表7中心窩平均網膜厚の推移(FAS)スクリーニング時1週4週8週12週最終評価時8mg群対非投与群*2n実測値変化量*133449.5±94.7───33339.7±72.5.109.9±84.4p<0.001###p<0.001***33291.1±52.0.158.5±88.9p<0.001###p<0.001***31273.2±45.3.172.0±93.5p<0.001###p<0.001***31292.7±85.9.156.4±121.1p<0.001###p<0.001***33292.4±87.1.157.1±117.3p<0.001###p<0.001***4mg群対非投与群*2n実測値変化量*134426.3±89.1───33301.7±57.6.128.1±78.2p<0.001###p<0.001***34276.7±61.4.149.6±94.0p<0.001###p<0.001***34263.9±63.1.162.4±96.4p<0.001###p<0.001***34276.4±74.7.149.9±110.3p<0.001###p<0.001***34276.4±74.7.149.9±110.3p<0.001###p<0.001***n333333323233非投与群実測値435.2±108.9420.8±112.4428.2±118.8425.1±109.0427.1±115.6421.4±118.4─.14.4±46.0.7.0±76.3.12.5±85.9.10.5±82.2.13.9±83.1変化量*1─p=0.081p=0.602p=0.418p=0.474p=0.345平均値±標準偏差.*1変化量(p):スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定,###:p<0.001.*2対非投与群(p):非投与群に対するスクリーニング時の値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較,***:p<0.001.(143)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141881 p<0.001,スクリーニング時の値に対する対応のあるt検定)投与後4週,8週,12週と改善が持続した(いずれもp<0.001).非投与群ではいずれの時点においても,スクリーニング時に比べ有意な改善は認められなかった.中心窩平均網膜厚の推移についても,同様の結果が得られた.最終評価時点での投与群(8mg群および4mg群)の最高矯正視力変化量と中心窩平均網膜厚変化量との間に,相関が認められた(r=.0.316,p<0.001).3.安全性a.副作用収集した有害事象のうち,治験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした(表8).本治験における副作用は,8mg群75.8%(25/33例),4mg群55.9%(19/34例)にみられた.いずれかの群で5%以上の発現がみられた副作用は,白内障進展,飛蚊症,硝子体内TA拡散,眼圧上昇,血中トリグリセリド増加,糖尿病悪化であった.また,重篤な副作用は,8mg群12.1%(4/33例:白内障進展3例,食道静脈瘤1例),4mg群5.9%(2/34例,白内障進展2例)に認められた.食道静脈瘤は,治験開始前より生じていた可能性が高いが,治験薬との因果関係が完全には否定できないため副作用とされた.いずれも入院を伴う処置を行ったことから重篤と判定されたが,処置後の転帰は消失であり,臨床上問題は少ないと考えられた.重篤な眼圧上昇,感染性眼内炎または非感染性眼内炎はみられなかった.b.眼圧上昇8mg群9/33例(27.3%),4mg群10/34例(29.4%)にて投与対象眼の眼圧が24mmHg以上に上昇した.眼圧上昇は,いずれも眼圧下降点眼薬(1.4剤)あるいは炭酸脱水酵素阻害薬内服の併用によりコントロール可能であった.また,8mg群は4mg群と比較して眼圧上昇持続期間や併用薬投与期間が長い傾向にあった(表9).いずれの群においても濾過手術などの外科的処置に至った症例はみられなかった.c.水晶体混濁の進行WHO分類7)を参考にして水晶体混濁(皮質・核・後.下)を4段階で評価した.スクリーニング時と比較してスコアの悪化がみられた症例は,8mg群で21.2%(7/33例),4mg群で12/34例(35.3%),非投与群で1/33例(3.0%)であった.投与群における進行部位は後.下が多く,核および皮質にもみられた.8mg群4例,4mg群3例に対し白内障手術が施行されたが,いずれも手術後の転帰は消失であり,視力予後は良好であった.水晶体混濁進行時期,手術施行時期を表10に示した.投与後6カ月以降に水晶体混濁が進行する症例が多くみられた.d.TA粒子硝子体内残存投与後のTA粒子硝子体内残存の有無を評価した(表表8副作用一覧8mg群4mg群副作用名(33例)(34例)発現数25例(75.8%)19例(55.9%)眼眼圧上昇9例(27.3%)9例(26.5%)飛蚊症6例(18.2%)4例(11.8%)硝子体内TA拡散6例(18.2%)3例(8.8%)白内障進展5例(15.2%)8例(23.5%)霧視1例(3.0%)1例(2.9%)前房内TA拡散1例(3.0%)0例(0.0%)後発白内障1例(3.0%)0例(0.0%)角膜びらん1例(3.0%)0例(0.0%)硝子体出血1例(3.0%)0例(0.0%)眼以外糖尿病悪化2例(6.1%)1例(2.9%)血中カリウム増加1例(3.0%)1例(2.9%)好酸球数増加1例(3.0%)1例(2.9%)食道静脈瘤1例(3.0%)0例(0.0%)血中尿素増加1例(3.0%)0例(0.0%)白血球数減少1例(3.0%)0例(0.0%)白血球数増加1例(3.0%)0例(0.0%)糖尿病性ニューロパチー1例(3.0%)0例(0.0%)血中トリグリセリド増加0例(0.0%)2例(5.9%)好塩基球数増加0例(0.0%)1例(2.9%)血中ブドウ糖増加0例(0.0%)1例(2.9%)尿中ブドウ糖陽性0例(0.0%)1例(2.9%)血小板数減少0例(0.0%)1例(2.9%)表9眼圧上昇時期および持続期間24mmHg以上の眼圧上昇症例眼圧上昇に対する処置上昇例数上昇時期持続期間処置例数処置開始併用薬投与(%)(日後)(日)(%)時期(日後)期間(日)8mg群(33例)9例(27.3%)97.9[6.189]147.0[28.274]9例(27.3%)106.9[5.189]103.4[13.257]4mg群(34例)10例(29.4%)85.4[1.373]75.3[5.174]8例(23.5%)110.6[7.373]87.3[11.168]非投与群(33例)0例(0.0%)──0例(0.0%)──平均値[最小値.最大値].(144) 表10水晶体混濁進行時期および手術施行時期水晶体混濁が進行した症例水晶体混濁に対する処置進行時期手術施行時期進行例数(%)(日後)手術例数(%)(日後)8mg群(33例)7例(21.2%)180.9[1.393]4例(12.1%)304.8[216.378]4mg群(34例)12例(35.3%)264.3[8.365]3例(8.8%)419.3[370.469]非投与群(33例)1例(3.0%)84.0[84.84]0例(0.0%)─平均値[最小値.最大値].表11投与後のTA粒子硝子体内残存評価時期8mg群(33例)4mg群(34例)残存例数(残存率)残存例数(残存率)投与直後33例(100.0%)34例(100.0%)1日後33例(100.0%)32例(94.1%)1週後32例(97.0%)34例(100.0%)4週後28例(84.8%)31例(91.2%)8週後24例(72.7%)21例(61.8%)12週後9例(27.3%)18例(52.9%)6カ月後3例(9.1%)6例(17.6%)9カ月後0例(0.0%)0例(0.0%)12カ月後0例(0.0%)0例(0.0%)11).いずれの群においても,投与後9カ月時点ですべての症例でのTA粒子消失を確認した.III考察本治験結果より,WP-05088mg群および4mg群ではスクリーニング時と比較して投与後1週と早期から視力および浮腫改善が認められ,その効果は投与後約3カ月間維持された.最終評価時における8mg群および4mg群の非投与群との差は,それぞれ4.0±1.7文字(95%信頼区間,0.6.7.5文字)および4.7±1.7文字(95%信頼区間,1.3.8.1文字)であり,ETDRS視力表で1段階(5文字)に相当する視力改善が認められた.本治験より,両投与群において有効性が示されたことから,副作用発現率,持続期間などを考慮し,臨床使用用量としては4mgを選択した.本治験の結果,眼局所において眼圧上昇,白内障進展等の副作用が認められたが,安全性上問題となる所見は認められなかった.眼圧上昇,白内障進展はTA製剤硝子体内投与による海外での臨床試験8,9)においても報告されており,TA4mg投与による発現頻度は眼圧上昇33.50%,白内障進展59.83%と本治験結果と同程度あるいは高かった.文献報告にて発現率が高かった理由としては,追跡調査期間,治療背景などの違いが考えられた.本治験における眼圧上昇例で(145)は,濾過手術などの外科的処置に至った症例はなく,併用薬でコントロール可能であったが,他の報告2,8,9)では濾過手術が必要になった症例もみられた.外科的処置を避けるためには,本治験と同様に眼圧コントロール不良な患者への投与を避け,投与後少なくとも3カ月は眼圧測定を行い,眼圧上昇の徴候がみられた場合は速やかに眼圧下降薬点眼を開始する必要がある.白内障進展については,予後は良好ではあるが白内障手術に至った症例が本治験においてもみられていることから,投与後6カ月以降も有水晶体眼の患者に対して注意を促すことが必要である.なお,白内障進展が4mg群で多かった要因の一つとして,投与後6カ月時点でのTA粒子硝子体内残存率が高かったことが挙げられる.いずれの症例においても,投与後9カ月時点でTA粒子消失を確認しており,白内障手術施行率も8mg群12.1%,4mg群8.8%であることから,用量の違いによるリスク変化はないと考えている.TA粒子硝子体内残存期間については,被験者の硝子体の状態(加齢による硝子体液化,眼科手術歴など)が関与していると考えている.WP-0508は単回投与により約3カ月間薬効が持続することから,VEGF阻害薬硝子体内注射の薬効維持に1.2カ月ごとの投与を要すること8,10,11)を考慮すると,投与回数,来院頻度,経済性の面で患者,医師へのメリットがあると考えられた.安全性の面においても,投与回数が増えると眼内炎のリスクが高くなることから,持続性の薬剤を選択するメリットは大きい.また,黄斑浮腫に対する硝子体手術,網膜光凝固は,施行から効果発現までに半年から1年の期間を要することが報告されていることから9,12),WP-0508は硝子体手術,網膜光凝固前の早期治療法として推奨できると考えた.さらに,硝子体手術,網膜光凝固においては網膜への侵襲が危惧され,治療適応が局所性,牽引性などの浮腫に限られている一方で,TA硝子体内注射は.胞様浮腫に対する効果が高いと報告されていること13)などから,WP-0508は特にびまん性,.胞様浮腫治療に適していると考える.本治験の結果,問題となる全身性の副作用は認められなかあたらしい眼科Vol.31,No.12,20141883 った.糖尿病黄斑浮腫を対象とした第I/II相試験(1mg,4mg,8mg群各11例)の結果得られたWP-0508硝子体内単回投与後の血漿中薬物濃度が,TA筋肉内・関節腔内注射14.17)と同等あるいは低値と考えられたことからも,本剤の全身性副作用は既存薬から予想可能であり,脳梗塞,心疾患などの全身合併症を伴う症例にも使用可能と考えている.以上より,WP-0508は糖尿病黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられた.文献1)JonasJB,SofkerA:Intraocularinjectionofcrystallinecortisoneasadjunctivetreatmentofdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol132:425-427,20012)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,20073)WalterP,LukeC,SickelW:Antibioticsandlightresponsesinsuperfusedbovineretina.CellMolNeurobiol19:87-92,19994)MorrisonVL,KohHJ,ChengL:Intravitrealtoxicityofthekenalogvehicle(benzylalcohol)inrabbits.Retina26:339-344,20065)ZhuMD,CaiFY:Developmentofexperimentalchronicintraocularhypertensionintherabbit.AustNZJOphthalmol20:225-234,19926)WilkinsonCP,FerrisFL3rd,KleinREetal:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology110:1677-1682,20037)ThyleforsB,ChylackLTJr,KonyamaKetal:Asimplifiedcataractgradingsystem.OphthalmicEpidemiol9:83-95,20028)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20109)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Threeyearfollowupofarandomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol127:245-251,200910)SultanMB,ZhouD,LoftusJetal:Aphase2/3,multicenter,randomized,double-masked,2-yeartrialofpegaptanibsodiumforthetreatmentofdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1107-1118,201111)DoDV,Schmidt-ErfurthU,GonzalezVHetal:TheDAVINCIStudy:phase2primaryresultsofVEGFTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1819-1826,201112)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093,201013)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:Visualoutcomeafterintravitrealtriamcinoloneacetonidedependsonopticalcoherencetomographicpatternsinpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina31:748-754,201114)KusamaM,SakauchiN,KumaokaS:Studiesofplasmalevelsandurinaryexcretionafterintramuscularinjectionoftriamcinoloneacetonide.Metabolism20:590-596,197115)DoppenschmittSA,ScheidelB,HarrisonFetal:Simultaneousdeterminationoftriamcinoloneacetonideandhydrocortisoneinhumanplasmabyhigh-performanceliquidchromatography.JChromatogBBiomedSciAppl682:79-88,199616)Blauert-CousounisSP,ZiemniakJA,McMahonSCetal:Thepharmacokineticsoftriamcinoloneacetonideafterintranasal,oralinhalationandintramuscularadministration.JAllergyClinImmunol83:221,198917)DerendorfH,MollmannH,GrunerAetal:Pharmacokineticsandpharmacodynamicsofglucocorticoidsuspensionsafterintraarticularadministration.ClinPharmacolTher39:313-317,1986***(146)

眼科的介入のない糖尿病黄斑浮腫の短期経過

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1545.1549,2014c眼科的介入のない糖尿病黄斑浮腫の短期経過加藤(堂園)貴保子*1,2棈松泰子*2土居範仁*3鎌田哲郎*4坂本泰二*2*1宮田眼科病院*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科視覚疾患学講座*3慈愛会今村病院分院眼科*4慈愛会今村病院糖尿病内科Short-TermFollow-UpofDiabeticMaculopathywithoutOphthalmicInterventionKihokoKato(Dozono)1,2),YasukoAbematsu2),NorihitoDoi3),TeturoKamata4)andTaijiSakamoto2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKagoshima,3)DepartmentofOphthalmologyImamuraBun-inHospital,4)DepartmentofDiabetesMellitus,ImamuraBun-inHospital目的:過去1年間眼科的に無治療で経過観察した糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)眼について,短期的な自然経過を調べる.方法:過去1年間に光凝固や手術歴がなく6カ月以上経過観察可能であったDME眼(27例34眼)について視力,中心窩網膜厚を後ろ向きに検討した.結果:視力は,改善が8眼(24%),不変が20眼(58%),悪化が6眼(18%)であり,中心窩網膜厚は,改善が3眼(9%),不変が18眼(62%),悪化が10眼(29%)であった.6カ月で視力は有意に変わらなかったが,中心窩網膜厚は有意に悪化した.視力改善群のHbA1C値は非改善群のそれに比べ,初診時,6カ月ともに有意に低かった.結論:活動性の低いDME眼では,眼科的に無治療であっても,自然軽快するものがあり血糖コントロールと関与する可能性が示唆される.Objective:Toestimatetheshort-termnaturalcourseofdiabeticmacularedema(DME).Methods:Inthisretrospectivecaseseriesstudy,patientdatawerereviewedfromtherecord.Thosewhohadreceivednooculartreatmentfor1yearbeforetheinitialexaminationandwerethenobservedforatleast6monthswithnooculartreatmentwerestudied.Visualacuity(VA),fovealthickness(FT)evaluatedbyopticalcoherenttomography(OCT)andseveralclinicalparameterswereevaluated.Results:Atthe6-monthvisit,VAhadimprovedin8eyes(24%),remainedunchangedin20(58%),anddeterioratedin6(18%).FThaddecreasedin3eyes(9%),remainedunchangedin18(62%),andincreasedin10(29%).VAwassignificantlycorrelatedwithFTatbothinitialand6-monthvisits,intheanalysisofalleyes.HbA1CwassignificantlylowerinthepatientswithimprovedVAthaninthosewithdeterioratedVA(initialvisit:6.7±0.8,vs.7.5±0.9%,p=0.04;6-months:6.3±0.7vs.7.3±1.1%,p=0.01).Conclusions:InmildDME,VAandFTimprovedspontaneouslyinasignificantnumberofpatientswithnooculartreatment.GoodglycemiccontrolcouldbesignificantlyrelatedtotheimprovementofVAinthesepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1545.1549,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,視力転機,中心窩網膜厚,OCT,自然経過.diabeticmacularedema,visualoutcome,fovealthickness,OCT,naturalhistory.はじめに糖尿病黄斑浮腫(DME)については多くの研究があるが,無治療で経過をみた報告はわずかである.Hikichiらは,2型糖尿病でDMEのある82眼について,6カ月の自然経過を観察し,33%に浮腫が改善し,2段階以上の視力改善を63%に認めたと報告している1).また,純粋な自然経過とはいえないが2.4),Gilliesらでは,DME眼無治療群35眼で,2年後においても,26%に視力が改善した2).MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroupでのプラセボ群42眼では,36週の経過観察期間に10%で2段階以上の視力改善があったと報告している3).一方,PKC-DRS2Groupは573眼のコントロール群において36カ月で2.4%に視力改善を認めたと述べている4).近年,光干渉断層計(OCT)による評価が,黄斑評価に不可欠とされるが,OCTによる自然経過についての報告は少なく,GilliesらのものとMacugenDiabeticRetinopathy〔別刷請求先〕加藤(堂園)貴保子:〒885-0051都城市蔵原町6街区3号宮田眼科病院Reprintrequests:KihokoKato(Douzono),M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(123)1545 StudyGroupの2つのみである.Gilliesらは2年間に平均網膜厚が71μm減少し2),MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroupでのプラセボ群では網膜厚が3.7μm増加し,75μm以上の改善を19%に認めたと報告している3).今回筆者らは,過去1年間に眼科治療を受けていないDME症例のうち,その後6カ月間,さまざまな理由のために無治療で経過観察された症例の自然経過について検討した.I方法対象は1999年から2006年に今村病院分院を受診したDME患者450人のうち過去1年間光凝固を含む眼科治療を受けていないDME症例で,かつ6カ月以上眼科的に無治療で経過観察できた27例34眼.後ろ向きに観察研究を行った.黄斑浮腫の有無は散瞳下,検眼鏡で中心窩を含む浮腫があり,OCTにより確認できたものとした.経過観察中,網膜症の増悪のためfocalphotocoagulation,scatterphotocoagulation(PHC)少なめの光凝固(400.650発),panretinalphotocoagulation(PRP),トリアムシノロン注射やトリアムシノロンTenon.下注射併用白内障手術,硝子体手術,その他の眼科手術が必要になったものは除外した.視力悪化症例については浮腫増悪による視力低下を認めたため,治療を勧めたが拒否された症例に限定した.除外項目として,他の眼疾患を有する症例(網膜血管閉塞症,緑内障,黄斑変性,ぶどう膜炎,角膜混濁,高度な白内障,硝子体出血),DMEに対する治療歴のある症例(トリアムシノロン使用歴,硝子体手術既往)および過去1年以内に白内障手術や光凝固治療既往のある症例をあげた.全身状態としては,コントロール不良な高血圧,重症な全身疾患およびクレアチニン3以上の糖尿病性腎症,血液透析例,ネフローゼ症候群を除外した.これらの症例について,年齢,性別,糖尿病(DM),罹病期間,初診時および6カ月の小数視力,中心窩網膜厚,HbA1C(JDS値),高血圧,末梢神経障害,腎症,高脂血症について調査した.小数視力が0.2以上改善した群を視力改善群とし,それ以外を視力非改善群として,両群を比較検討した.2012年より推奨され現在広く用いられているHbA1C:NGSP値はJDS値に約0.4%を加えた値であり換算した値も表記した.初診時の定義として,すでに初診時に黄斑浮腫があった症例では,その時点の所見を採用した.黄斑局所光凝固または汎網膜光凝固がされた症例では光凝固1年経過後を初診とした.黄斑浮腫のない症例で経過観察中に黄斑浮腫を認めた症例では,黄斑浮腫発症時を初診時とした.平均視力や視力の2群間の比較においては,小数視力を1546あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014logMAR視力に換算して比較を行った.視力,光干渉断層計(OCT2またはOCT3000)で測定した中心窩網膜厚を初診時および6カ月後で調査し,比較検討した.中心窩網膜厚は,網膜表面から網膜色素上皮までとし,OCT2では中心窩を含む垂直断と水平断を各2回測定してその平均値とした.OCT3000ではretinalmapのaverageretinalthickness(fovea)を使用し決定した.また,中心窩網膜厚については,初診時の中心窩網膜厚の20%以上減少したものを改善,20%以上増加したものを悪化とした.II結果症例の内訳は27例34眼,男性17例21眼,女性10例13眼.年齢は42.77歳,平均62歳.平均観察期間(年)3.36±1.73.症例の眼所見および全身状態を表1に示す.視力は初診時と6カ月後を比較し有意差を認めなかった.中心窩網膜厚は6カ月で有意に増加した(p<0.05:Wilcoxonsigned-rankstest).視力と中心窩網膜厚の相関は初診時では相関係数が0.43,6カ月後は相関係数0.41であり,有意な相関を認めた.HbA1C(%)(JDS値)は,初診時7.33±0.96,6カ月7.04±1.10で改善していたが有意差は認めなかった(p=0.06).収縮期血圧(mmHg)の平均値は初診時と6カ月で,有意差はなかった.視力は,改善が8眼(24%),不変が20眼(58%),悪化が6眼(18%),中心窩網膜厚は,改善が3眼(9%),不変が18眼(62%),悪化が10眼(29%)であった.視力改善群8眼,非改善群は26眼であった.両群間の比較結果を表2に示す.年齢,初診時視力,初診時中心窩網膜厚(μm)については,いずれも有意差を認めなかった(p=0.13,p=0.29,p=0.68:Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables).6カ月後の中心窩網膜厚(μm)は視力改善群322±101,非改善群376±118で有意差を認めなかったものの,非改善群のほうが厚い傾向があった.初診時との比較では,網膜厚が視力改善群では初診時330±61,6カ月322±101μmと減少傾向を示したが有意差はなく,非改善群では網膜厚は初診時328±101,6カ月376±118μmと有意に増加した(p=0.50,p=0.014:Wilcoxonsigned-rankstest).DM罹病期間については視力改善群のほうが非改善群に比べ短い傾向にあったが有意差はなかった.初診時HbA1C(%)は視力改善群6.7±0.8,視力非改善群7.5±0.9,6カ月後のHbA1C(%)は視力改善群6.3±0.7,視力非改善群7.3±1.1でいずれも有意差があり(p=0.04,p=0.01:Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables),視力改善群では視力非改善群に比べ,初診時,6カ月ともに(124) 表1糖尿病黄斑浮腫症例(34眼)p年齢(歳)61.7±8.6性別(男/女)21/13糖尿病罹病期間(年)13±6.0網膜症MildNPDR2眼ModerateNPDR20眼SevereNPDR9眼PDR3眼視力(logMAR)初診時0.23±0.320.636M0.22±0.27中心窩網膜厚(μm)初診時328±920.0486M363±115中心窩網膜厚と視力の相関**初診時r=0.440.0096Mr=0.410.017HbA1C(%)*(JDS値)初診時7.33±0.960.066M7.04±1.10HbA1C(%)*(NGSP値に換算)初診時7.73±0.960.066M7.44±1.10収縮期血圧(mmHg)*初診時134±240.336M130±20糖尿病性腎症なし10眼StageII以上24眼高脂血症あり10眼なし24眼*:Wilcoxonsigned-rankstest.**:Spearman’srankcorrelationcoefficient.本検討ではHbA1C(%)はJDS値を使用している.2012年より推奨され現在広く用いられているNGSP値はJDS値に約0.4%を加えた値であり換算した値も表記した.血糖コントロールが良好であった.血圧,末梢神経障害については両群間に有意差はなく,クレアチニン3未満で糖尿病性腎症2以上の有無,高脂血症の有無についても両群間に有意差は認めなかった(p=0.39,p=0.52,p=0.75,p=0.39:Fisher’sexacttest).III考按現在まで,OCTなどを用いて,DMEの自然経過を詳細に検討したものは少ない.近年,DMEが悪化した場合,さまざまな治療が積極的に行われることを考えると,今後も自然経過に関する研究は困難と思われるが,自然経過のデータは,治療の適応を判断するうえで不可欠である.そこで本研(125)表2視力改善群と視力非改善群での中心窩網膜厚および合併症の検討視力改善群視力非改善群n=8n=26p年齢(歳)58.3±7.3262.7±8.750.13性別(男/女)*7/114/120.12視力(logMAR)初診時0.22±0.110.24±0.370.296M0.03±0.080.27±0.280.03中心窩網膜厚(μm)初診時330±61328±1010.686M322±101376±1180.15糖尿病罹病期間(年)10±5.214±6.10.07初診時HbA1C(%)JDS値6.7±0.87.5±0.90.046MHbA1C(%)6.3±0.77.3±1.10.01初診時HbA1C(%)NGSP値7.1±0.87.9±0.90.036MHbA1C(%)6.7±0.77.7±1.10.01高血圧(収縮期血圧130以上)*あり4190.39なし47末梢神経障害*あり7200.52なし16腎症II以上*あり6180.75なし28高脂血症あり190.39なし717Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables.*:Fisher’sexacttestfordichotomousvariable.究では,過去の症例から,諸事情により眼科的介入が1年半以上されなかった症例を抽出して,その結果を短期自然経過として解析した.1985年にEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStusy(ETDRS)はDMEの早期に黄斑局所光凝固を行うことによって,視力低下を抑えられると述べた5).この報告では,無治療群においては,3年間で視力は少しずつ低下してきており,自然経過は悪化するとしている.今回筆者らは,過去1年間眼科治療のない活動性の低いDME症例を,6カ月間経過観察した.20%近くの症例に視力改善が認められたが,これはHikichiら1)の報告とほぼ同様であった.また,視力と中心窩網膜厚においては,初診時と6カ月の時点で相関が認められた.FDA(米国食品・医薬品局)の見解では視力と中心窩網膜厚の間には相関はないとされているが,本研究では,視力と中心窩網膜厚にはある程度の相関が認められた.過去にも同じように相関を認めた報告があるが,Winfriedらは視力と中心窩網膜厚には中等度の相関があり,特に黄斑部の虚血や白内障の少ない患者ではより相関がみられると述あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141547 べている6).同程度に中心窩網膜厚が増大しても,発症間のないものと,時間を経たものでは視力が異なるのは当然である.本症例は,比較的軽症例が多かったことも結果の違いに反映されたかもしれない.視力改善群の中心窩網膜厚は,非改善群に比べ,6カ月後に減少していたが,有意差は認めなかった.一方,視力非改善群では中心窩網膜厚が有意に増加していた.DM罹病期間については,視力改善群では非改善群に比べ短い傾向があった.これは黄斑浮腫が出現して時間がたてば,網膜に不可逆的障害を生じ,黄斑浮腫が改善しても視力改善がえられないとも考えられる.表1ではHbA1C(%)は,初診時と比較して,6カ月で改善していたが有意差は認めなかった(p=0.06).これについては,糖尿病内科,眼科に数年かかっているという病識の高い患者が多かったため,全般的に血糖コントロールが良好であったと思われる.また,表2では,HbA1Cが,視力改善群で,初診時,6カ月ともに視力非改善群に比べ有意に低かった.過去の報告において,厳格な血糖コントロールは,網膜症の進行するリスクを50%以上軽減できるとする報告がある7).また,12年間厳格な血糖コントロールを行うことによって,9年間網膜症の進行が抑えられたとの報告もある8).一方,Raijaらは,2型DM133人について前向きに10年間,黄斑症,視力を調査し,その危険因子を検討したが,血糖コントロール不良が黄斑症の最大の危険因子であり,血圧などは黄斑症発症の危険因子ではないとした.また,黄斑症の発症についてはDM罹病期間が長くなると頻度が上がり10年で約21%に黄斑症を認めたと報告している9).このように血糖コントロールが糖尿病網膜症やDMEの発症や進行に関与したとする報告はあるが,黄斑浮腫の改善に影響したという報告はない.今回の結果は,厳格な血糖コントロールが,比較的軽症例のDMEを改善させる可能性を示唆している.血圧とDME/腎症の関連については,今回,初診時の収縮期血圧が視力改善群,非改善群ともに平均130台と良好であり,コントロール不良な高血圧やクレアチニン3以上の腎症を除外しているため,言及はできない.Leskeらは324例のDM患者を9年間経過観察し,網膜症の発症因子をみているが,それによると収縮期高血圧,拡張期高血圧は危険因子であった10).腎症についてはKleinらの検討検討で蛋白尿が黄斑浮腫の危険因子であると述べている11).El-Asrarも重症網膜症患者では腎症合併率が高く,また糖尿病合併症と網膜症との関連を多変量解析した結果,腎症が唯一の関連因子だったと報告した12).腎機能の悪化時期に一致してDMEが増悪することはよく経験される.網膜症も腎症も糖尿病による微小血管障害の結果であり,その関連については複雑ではあるが,十分に関連があると考えられる.1548あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014高脂血症の有無についても今回は有意差はなかった.視力改善群では高脂血症症例は1例のみであり,この結果もこの研究が全身状態の比較的良好な症例に限定した検討であることを反映していると思われる.黄斑浮腫が脂質管理のみで改善したという報告はない.ETDRSでは血清総コレステロール値,低比重リポ蛋白(LDL)値の上昇が,硬性白斑の頻度を増加させる13)と報告している.FenofibtrateInterventionandEventLoweringinDiabetes(FIELD研究)においても,フェノフィブラート投与により,糖尿病網膜症の2段階以上の進行,光凝固治療の必要性が有意に抑制され,黄斑浮腫の発症については単独では有意差はみられなかったもののプラセボと比べ黄斑症発症頻度は少なかった14)とある.ActiontoControlCardiovasucularRiskinDiabetes(ACCORD)試験15)では,血糖,血圧の厳格な管理とスタチン,フェノフィブラート併用療法において,糖尿病網膜症の進行,光凝固施行,硝子体手術施行を有意に抑制したとあり,脂質管理も大切であることはいうまでもない.本研究の問題点としては,後ろ向き研究である点,浮腫の発症時期が不明確な点,症例数が少ない点があげられる.DMEの自然経過を見るには,疾患の重篤さを問わずすべてについて調べるべきであるが,悪化例に治療を行わないことは倫理上問題であり,重篤なものは治療介入が行われたので,結果として比較的軽症例が多く含まれることになった.また,本来であれば,経過中に視力が増悪して介入したものを悪化例とすべきかもしれないが,DME全症例についての把握ができていないために定量的評価に耐える結果が得られないことから,今回の評価方法をした.さらに,全身状態も比較的良好な症例に限定した検討であり,全身状態不良例を含めると悪化症例はさらに増加する.この点に注意して,この結果を解釈,一般化する必要がある.しかし,少なくとも比較的軽症例では,厳格な全身管理(HbA1C6.5%未満:JDS値)で短期的に黄斑浮腫が改善することが示唆された.症例数の少なさについては,倫理的に意図的な無治療状態が作れない現状では,限界がある.対象が限定されたものであるとはいえ,本研究で,現在のわが国において,DMEは半年間に改善するものがあることがわかったことは重要である.DMEは,長期的には悪化するという報告に基づき,早期から積極的な眼科介入を推奨する意見が多い.しかし,大変血糖コントロールが良く,全身管理も良い例では,早期に治療に踏み切らず数カ月は経過観察を行っても良いのかもしれない.本論文は第13回日本糖尿病眼学会で発表した.2014年に再調査.(126) 利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HikichiT,FujioN,AkibaJetal:Associationbetweentheshort-termnaturalhistoryofdiabeticmacularedemaandthevitreomacularrelationshipintypeIIdiabetesmellitus.Ophthalmology104:473-478,19972)GillsiesMC,SutterFK,SimpsonJMetal:Intravitrealtriamcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema.Ophthalmology113:1533-1538,20063)MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.Ophthalmology112:1747-1757,20054)PKC-DRS2Group:Effectofruboxistaurinonvisuallossinpatientswithdiabeticretinopathy.Ophthalmology113:2221-2230,20065)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportNumber1:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19856)GoebelW,Kretzchmar-GrossT:RetinalthicknessindiabeticretinopathyAstudyusingopticalcoherencetomography(OCT).Retina22:759-767,20027)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetes.NEnglJMed329:977-986,19938)UKProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Effectofintensiveblood-glucosecontrolwithmetforminoncomplicationsinoverweightpatientswithtype2diabetes(UKPDS34).Lancet352:854-865,19989)Voutilainen-KaunistoR,TerasvirtaM,UusitupaMetal:Maculopathyandvisualacuityinnewlydiagnosedtype2diabeticpatientsandnon-diabeticsubjects:A10-yearfollow-upstudy.ActaOphthalmol79:163-168,200110)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:BarbadosEyeStudyGroup:Hyperglycemia,bloodpressure,andthe9-yearincidenceofdiabeticretinopathy:TheBarbadosEyeStudies.Ophthalmology112:799-805,200511)KleinR,ZinmanB,GardinerRetal:Therelationshipofdiabeticretinopathytopreclinicaldiabeticglomerulopathylesionsintype1diabeticpatients:theRenin-AngiotensinSystemStudy.Diabetes54:527-533,200512)El-AsrarAM,Al-RubeaanKA,Al-AmroSAetal:Retinopathyasapredictorofotherdiabeticcomplications.IntOphthalmol24:1-11,200113)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStusyResearchGroup.Associationofelevatedserumlipidlevelswithretinalhardexudatesindiabeticretinopathy.ArchOphthal114:1079-1084,199614)KleechA,MitchellP,SummanenPAetal:Effectoffenofibrateontheneedforlasertreatmentfordiabeticretinopathy(FIELDstudy):arandomizedcontrolledtrial.Lancet370:1687-1697,200715)ActiontoControlCardiovasucularRiskinDiabetes(ACCORD)StudyGroup:ACCORDEyeStudyGroupetal:Effectofmedicaltherapiesonretinopathyprogressionintype2diabetes.NEnglJMed363:233-244,2010***(127)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141549

糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術を施行した部位の網膜感度の検討

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):289.294,2014c糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術を施行した部位の網膜感度の検討荻原彩子*1,2稲垣圭司*1箕輪有子*1藤谷周子*1,2大越貴志子*1村上晶*2*1聖路加国際病院眼科*2順天堂大学医学部眼科学教室RetinalSensitivityofMaculaafterGridPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaAyakoOgiwara1,2),KeijiInagaki1),YukoMinowa1),ShukoFujitani1,2),KishikoOhkoshi1)andAkiraMurakami2)DepartmentofOphthalmology,1)St.Luke’sInternationalHospital,2)JuntendoUniversitySchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術施行部位の網膜感度を評価した.方法および対象:対象は閾値凝固を行った糖尿病黄斑浮腫症例,男性5例5眼,女性6例7眼の計11例12眼,年齢は52.78歳.マイクロペリメーター1(NIDEK社)を用い術前,術後早期(1週.1カ月),3カ月,7.20カ月の照射部網膜感度をフォローアップモード測定し比較検討した.結果:12眼全体の平均網膜感度(dB)は術前,術後早期,3カ月,7カ月以降の最終網膜感度(7.20カ月)においてそれぞれ10.88,9.81,10.32,11.69で有意な低下は認めなかった.各症例の平均網膜感度の変化が2dB以上を有意とすると,術後早期で11眼中改善2眼(18%),不変4眼(36%),悪化5眼(45%)となった.最終網膜感度は7眼中改善2眼(29%),不変3眼(43%),悪化2眼(29%)となり,術後早期よりも改善している割合が増加した.結論:格子状光凝固術後の凝固部位の網膜感度は凝固後1週.1カ月には低下傾向であったが,それ以降は回復傾向となった.Purpose:Toassess,viafundus-relatedmicroperimetry,changesinretinalsensitivityfollowinggridphotocoagulationfordiabeticmacularedema(DME).Methods:DiabeticpatientswithdiffuseDME(11patients,12eyes)weretreatedwithgridphotocoagulation.Postoperativeretinalsensitivity(1week.20months)wascomparedtopreoperativeretinalsensitivityasmeasuredbymicroperimeter-1(MP-1,NidekTechnologies).Results:Meanretinalsensitivitydidnotdecreasesignificantlybefore(10.88dB)orafter(1week.1month:9.81dB,3months:10.32dB,7.20months:11.69dB)gridphotocoagulation.Therewasatendencytowardtemporaryretinalsensitivitydecreaseaftergridlasertreatment,butsensitivitygraduallyrecovered.Conclusion:Itseemedthatretinalsensitivityinitiallydecreasedbetween1weekand1monthaftergridlaserphotocoagulation,andgraduallyrecoveredafterward.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):289.294,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,黄斑感度,マイクロペリメトリ,格子状光凝固,光干渉断層計.diabeticmacularedema,macularsensitivity,microperimetry,gridphotocoagulation,opticalcoherencetomography.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症による視力障害の主たる原因の一つである.1985年にEarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)1)がclinicallysignificantmacularedema(CSME)に対する光凝固術の視力維持効果を証明し,また1986年Olk2)によってびまん性黄斑浮腫に対する格子状光凝固術の有効性が報告された.しかしその後,凝固斑の進行性拡大3)や暗点4),網膜下線維増殖5)などレーザーによる組織障害に起因する合併症が報告され,より低侵襲に行える凝固条件や適応などが見直されてきた.また,近年DMEの浮腫の程度,視力,網膜感度の関係を検討している報告6,7)や,格子状光凝固術前後の黄斑部感度を測定した報告8)が散見される.しかし,それらは黄斑部全体の網膜感度を測定しており,凝固〔別刷請求先〕荻原彩子:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakoOgiwara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3-1-3Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8431,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)289 部に限定した網膜感度を術前後で検討した報告はない.そこで今回筆者らはDMEに対し格子状光凝固術を行った部位の凝固術前後の網膜感度をマイクロペリメーター1を用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は,ETDRSのCSMEに該当するDMEを有する11例12眼である.除外基準は1カ月以内のトリアムシノロン後部Tenon.下投与,4カ月以内の白内障手術後症例,6カ月以内の硝子体手術後症例とした.症例の内訳は,男性5例5眼,女性6例7眼,年齢は52.78歳(66.1±7.6歳:平均値±標準偏差,以下同様)であった.平均血清Hb(ヘモグロビン)A1C値は8.7±1.9%,網膜症分類は増殖前網膜症6眼,増殖網膜症6眼であった.腎症を有する7眼は,透析症例ではなかった.また,術前視力は0.1以下が3眼,0.2.0.5が3眼,0.6.0.9が6眼であった.DMEに対して治療歴のある症例は12眼中7眼(58%)で,内訳は硝子体手術3眼,トリアムシノロン後部Tenon.下投与5眼であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)所見でびまん性漏出を認め,かつ浮腫が存在する部位に格子状光凝固術を行った.10眼はマルチカラーレーザーイエロー561nm(ルミナス社,NOVUSVARIA),2眼はパターンスキャンレーザー532nm(トプコン社,PASCAL)を使用した.マルチカラーレーザーはスポットサイズ100μm,凝固時間0.1秒,スペーシング1.5.パターンスキャンレーザーはスポットサイズ100μm,凝固時間0.01秒,スペーシング1.0.凝固出力はマルチカラーレーザーは0.08.0.1W,パターンスキャンレーザーは0.15.0.2Wで,それぞれ凝固斑が観察される最低条件で照射した.また,FAで毛細血管瘤からの蛍光漏出の強い症例3眼には毛細血管瘤への直接凝固も併用した.光凝固術前,術後1,2,3,6,12カ月の視力,中心窩網膜厚,黄斑体積および術後早期1週.1カ月,3カ月,7カ月以降(7.20カ月)の最終網膜感度の凝固部網膜感度を測定した.中心窩網膜厚,黄斑体積の測定はOCT3000(CarlZeissMeditecDublin,CA,USA)を用い,中心6mmの範囲をファーストマクラモードにて測定し黄斑体積とし中心窩1mmの範囲の平均網膜厚を自動計測し評価に用いた.また,各症例ごとに厚さの測定基点がずれていないことを確認した.網膜感度はマイクロペリメーター1(microperimetor-1:MP-1)(Nidektechnologies,Padova,Italy)を用いた.MP-1の指標はGoldmannIII,閾値ストラテジーは4-2,固視標は1mmのシングルクロスを用いた.マニュアルモードで1×1mm内0.5°間隔,49ポイントのグリッドパターンを作成し,びまん性蛍光漏出を伴い浮腫を認め,毛細血管瘤290あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014がない部分の凝固予定部位の網膜感度を測定し,眼底写真と対比させながらその部位が確実に照射されるように格子状光凝固術を行った.その後フォローアップモードで同部位の網膜感度を測定した.光凝固術前後の視力,OCTで測定した中心窩網膜厚,黄斑体積および凝固部網膜感度の変化をWilcoxon符号付順位和検定で検討した.視力は少数視力で測定し,logarithmoftheminimalangleofresolution(logMAR)値に換算して統計処理を行った.網膜感度の変化は49ポイントの感度の平均値にて評価した.II結果平均視力(logMAR値±SD)は術前0.43±0.41(n=12),術後1カ月では0.41±0.38(n=12),2カ月では0.32±0.36(n=11),3カ月では0.27±0.44(n=12),6カ月では0.29±0.28(n=10),12カ月では0.27±0.28(n=10)であり,術後3カ月で術前と比較し有意に改善していた(p=0.044,Wilcoxon符号付順位和検定)が,その後は有意な変化は認めなかった(図1).平均中心窩網膜厚は術前396.3±164.0μm(n=12),術後1カ月では337.3±79.8μm(n=12),2カ月は357.8±139.1μm(n=12),3カ月は338.4±113.2μm(n=12),6カ月は281.3±91.3μm(n=9),12カ月は290.4±73.9μm(n=11)であり,有意な変化は認めなかった(Wilcoxon符号付順位和検定)(図2).12例全例の平均黄斑部体積は術前10.50±1.64mm3,術後1カ月では10.42±1.89mm3,2カ月は9.90±1.83mm3,3カ月は10.25±1.94mm3,6カ月は9.71±1.55mm3,12カ月は9.91±2.07mm3であり,術後6カ月で術前と比較し有意に減少していた(p=0.033,Wilcoxon符号付順位和検定)が,12カ月では有意な減少は認めなかった(図3).平均網膜感度は術前10.88±2.08dB(n=12),術後早期(1週.1カ月)では9.81±2.65dB(n=11),3カ月では10.32±2.03dB(n=7),7カ月以降の最終網膜感度は11.69±2.98dB(n=7)で有意な低下は認めなかった(Wilcoxon符号付順位和検定)(図4).各症例の平均網膜感度を,2dB以上の増減を有意とすると,術前と比較し術後早期は11眼中改善2眼(18%),不変4眼(36%),悪化5眼(45%)であった.また最終網膜感度は術前と比較し7眼中改善2眼(29%),不変3眼(43%),悪化2眼(29%)であった(表1).Wilcoxon符号付順位和検定では,術後早期は11眼中改善3眼(27%),不変1眼(9%),悪化6眼(55%)となり,最終網膜感度は7眼中改善4眼(57%),不変1眼(14%),悪化2眼(29%)であった(表2).ともに術後早期より改善している症例の割合が上昇していた.代表的な症例を以下に提示する.(130) 0-0.05450400350-0.1300-0.150術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月*平均中心窩網膜厚(μm)logMAR視力250-0.2-0.25-0.3-0.3520015010050-0.4-0.45観察期間-0.5術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月図2平均中心窩網膜厚の推移観察期間術前と比較し有意な変化は認めなかったが減少傾向だ図1平均logMAR視力の推移った.p=NS(Wilcoxon符号付順位和検定)術前との比較では,術後3カ月でのみ有意に改善した.*p<0.05(Wilcoxon符号付順位和検定)*1210.611.5平均黄斑部体積(mm3)10.4平均網膜感度(dB)1110.2109.810.5109.69.59.499.2術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月8.5術前1週~3カ月7~観察期間(n=12)1カ月(n=7)20カ月図3平均黄斑部体積の推移術後6カ月で術前と比較し有意な減少を認めたが,12カ月では有意な変化は認めなかった.*p<0.05(Wilcoxon符号付順位和検定)表1平均網膜感度の術前との比較術後早期最終網膜感度改善2眼(18%)2眼(29%)不変4眼(36%)3眼(43%)悪化5眼(45%)2眼(29%)2dB以上の変化を有意とした.78歳,女性.OCTで中心窩に漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫があり,FAでは黄斑部にびまん性の漏出を認めた.そこでマルチカラーレーザーを用いて格子状光凝固術を施行した.凝固条件は波長561nm,スポットサイズ100μm,凝固時間0.1秒,スペーシンング1.5,凝固出力は凝固斑がわずかに残る程度の凝固とした.小数点視力は術前0.4,術後2週以降は0.6であった.中心窩網膜厚は術前390μm,術後2週も390μmと浮腫の改善はなかったが,術後3カ月で240μmに減少,術後4カ月は229μmとなり浮腫はほぼ消失した.凝固部網膜感度は術前13.63dB,浮腫の引かない(131)(n=11)(n=7)観察期間図4平均網膜感度の推移術前と比較し有意な変化は認めなかった.p=NS(Wilcoxon符号付順位和検定)表2平均網膜感度の術前との比較術後早期最終網膜感度改善3眼(27%)4眼(57%)不変1眼(9%)1眼(14%)悪化6眼(55%)2眼(29%)Wilcoxon符号付順位和検定による.術後2週は9.84dBに低下,浮腫が引くのに伴って術後3カ月は13.22dBに上昇,術後7カ月には14.78dBと術前よりも改善した(図5,6).III考察DMEと網膜感度の相関を検討する報告は数多い.2006年Okadaら6)は,DMEで中心窩網膜厚と黄斑部網膜感度(中心10°,24ポイント:MP-1)は有意な関係があり,さらに網膜感度はDMEの予後測定因子となりうると報告していあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014291 BAD図5症例(78歳,女性):術前検査所見A:術前のカラー眼底写真.硬性白斑を伴う黄斑浮腫を認める.B:術前のフルオレセイン蛍光眼底造影撮影.黄斑部にびまん性漏出を認める.C:術前の光干渉断層計写真.漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫を認める.中心窩網膜厚は390μmであった.D:術前のマイクロペリメーター1.平均感度は13.63dBであった.る.2011年Hatefら7)がDMEの中心窩網膜厚(中心12°,28ポイント:OPKO/OTI)は280.320μmで最も感度が高く,それより低値あるいは高値であるほど感度は低下すると報告した.一方,DMEに対する黄斑光凝固術は,直接凝固と格子状凝固がある.ETDRS1)は1985年に黄斑局所凝固(直接凝固と格子状凝固)が視力維持に有効であることを報告し,それ以降,今日まで,エビデンスレベルの高い治療法として広く用いられてきた.しかしながら,黄斑部という最も視機能に直結する部位をレーザーにて破壊する治療であるため,黄斑機能がレーザーにより損なわれる可能性が懸念されている.このため,視力の評価はもとより,網膜感度に代表される黄斑機能評価は不可欠である.特に格子光凝固術は黄斑部全体または4分の1の範囲といった比較的広い範囲の網膜に凝固斑を置くため,今日まで光凝固術前後の感度変化を評価するためのさまざまな研究がなされてきた.格子状光凝固術前後の網膜感度はこれまでHumphrey視野計9,10),走査レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)4,8),highcontrastvisualdiscriminatoryfunction11)などで測定し報告されてきた.2005年Klausら8)は,DMEに対する閾値凝固術前後の黄斑部網膜感度(SLO)は1dB以上の変化を有意とすると30眼中改善15眼,不変7眼,悪化7眼だったと報告している.また,辻本ら4)は,黄斑光凝固の凝固斑を走査レーザー検眼鏡で感度を測定し,術直後,絶対暗点になることを報告している.また,Sinclairら11)は,閾値レベルの凝固は,従来のETDRS凝固に比較して網膜感度への影響が少ないことを報告している.しかし,これまでの報告では,黄斑全体の感度を評価,またはマニュアルにて凝固斑の1点のみを評価するなど,厳密に格子状凝固そのものの黄斑感度への影響を評価する方法ではなかった.その理由はこれまでの機器は同一箇所の感度を測定するのは事実上不可能であり,臨床上評価に値する治療前後のデータを得ることは不可能であったからである.一方,今回使用したMP-1はトラッキング機能による固視ずれの補正やフォローアップ機能をもち,同一箇所を測定できる網膜感度測定機器である.この利点を生かし,純粋に光凝固部位に合わせ,1×1mm内0.5°間隔,49ポイントと小さいグリットパターンをマニュアルモードで作成し,凝固部そのものの感度の術前後の変化を経時的に測定することができた.また,MP-1の網膜感度の変化については,評価の方法が確立されていないため,今回2dB以上による評価と,ポイントに対応するWilcoxon符号付順位検定を用いた.292あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(132) EFGHIJ図6症例(78歳,女性):術後検査結果E:術後2週の光干渉断層計写真.中心窩網膜厚は術前と変化なく390μmだった.F:術後2週のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は9.84dBに低下した.G:術後3カ月の光干渉断層計写真.中心窩網膜厚は240μmに減少した.H:術後3カ月のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は13.22dBに上昇した.I:術後7カ月の光干渉断層計写真.黄斑浮腫はほぼ消失している.J:術後7カ月のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は術前より改善し14.78dBとなった.今回DMEに対する格子状光凝固術は,術後早期では45%の症例で凝固部の網膜感度が低下したが,術後3カ月以降は回復傾向にあった.症例数が少なく有意な黄斑部体積減少を認めたのは6カ月の時点のみであり12カ月では有意な減少は認めなかったが,平均値では減少しており,凝固部を含めた黄斑部全体の浮腫が減少傾向に転じたことに起因するものと推定される.レーザーによる網膜の障害は凝固直後から1,2カ月で形態的変化が最も強く,その後術後約2カ月で視細胞内節外節接合部(IS-OSライン)の修復が始まることをInagakiら12)が報告しており,また動物実験でも同様の報告13)がある.今回はOCTによる凝固斑の観察はしていないが,既報告におけるレーザー後の網膜障害と回復の過程が,感度の回復の過程に類似した経過をたどった.そして,黄斑部全体の浮腫が減少するにつれて凝固部局所の感度が改善し,術前より感度が改善する症例があったことを考慮すると,光凝固による障害が黄斑感度に与える影響が,浮腫改善による黄斑機能の回復で相殺され,その結果感度上昇に転じたものと推定された.今回の検討では,視力の有意な変化の時期と黄斑部体積の有意な変化の時期がずれていた.視力の変化は主として中心窩の機能を反映しているが,黄斑部体積は黄斑部全体の浮腫の評価になり視力の変化と一致しなかった可能性が考えられる.また,OCT3000では,6本のラインを用いた疑似体積での評価になり,実際の体積の評価にはなっていないことが原因とも推定される.今回の結果を,他のレーザー治療法と比較すると,同様な凝固部位の感度測定方法でマイクロパルス閾値下凝固の術前後の感度を星川らが報告しており14),術後早期に2dB以上(133)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014293 の感度低下を示した症例はなかった.また,2009年に中村ら15)は,硬性白斑が集積するDMEに対するマイクロパルス閾値下凝固前と術後3カ月で黄斑部全体の網膜感度を測定し有意な改善はみられなかったと報告している.2010年Vujosevicら16)は,DMEに対するマイクロパルス閾値下凝固,modifiedETDRS凝固を比較検討し,両者において術後12カ月の中心窩網膜厚は有意な変化を認めなかったが,黄斑部感度(中心4°,12°:MP-1)はマイクロパルス閾値下凝固では有意に改善しmodifiedETDRS凝固では有意に低下したと報告している.このように,黄斑感度の変化から推定すると,今回の調査で対象となった従来の格子状凝固より,マイクロパルス閾値下凝固のほうが低侵襲であることが考えられる.近年,選択的色素上皮凝固可能なマイクロパルス閾値下凝固術が浮腫減少に有効であることが報告されている17).従来の格子状凝固は視細胞層の破壊を免れえないが,マイクロパルスは視細胞層を破壊せず,色素上皮層に修復可能なレベルの障害を与えるのみでレーザーの効果を発揮するため,感度の変化が少ないのではないかと推定される.今回の検討は12眼と症例数が少なく,そのうち2眼は他と異なるレーザーを使用していることが検討課題としてあげられる.光凝固の効果と侵襲のバランスは今後の検討課題である.本稿の要旨は第17回日本糖尿病眼学会(2011)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19852)OlkRJ:Modifiedgridargon(blue-green)laserphotocoagulationfordiffusemacularedema.Ophthalmology93:938-950,19863)SchatzH,MadeiaD,McDonaldRetal:Progressiveenlargementoflaserscarsfollowinggridlaserphotocoagulationfordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol109:1549-1551,19914)辻本元一,斉藤喜博,井上智之ほか:格子状光凝固術のSLOMicroperimetryによる検討.眼紀47:37-41,19965)GuyerDR,D’AmicoDJ,SmithCW:Subretinalfibrousafterlaserphotocoaglationfordiabeticmacularedema.AmJOphthalmol113:652-654,19926)OkadaK,YamamotoS,MizunoyaSetal:Correlationofretinalsensitivitymeasuredwithfundus-relatedmicroperimetryandretinalthicknessineyeswithdiabeticmacularedema.Eye20:805-809,20067)HatefE,ColantuoniE,WangJetal:Therelationshipbetweenmaculasensitivityandretinalthicknessineyeswithdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol152:400405,20118)KlausR,StefanB,RolandGetal:Scanninglaserophthalmoscopefundusperimetrybeforeandafterlaserphotocoagulationforclinicallysignificantdiabeticmacularedema.AmJOphthalmol129:27-32,20059)OlkRJ,StriphGG,HertWM:Modifiedgridlaserphoto-coagulationfordiabeticmacularedema.Theeffectforthecentralvisualfield.Ophthalmology95:1673-1679,198810)大越貴志子,草野良明,四蔵裕美ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固.視力良好例に対する予防的照射の検討.臨眼48:676-678,199411)SinclairSH,AlanizR,PrestiP:Lasertreatmentofdiabeticmacularedema:ComparisonofETDRS-leveltreatmentwiththreshold-leveltreatmentbyusinghighcontrastdiscriminantcentralvisualfieldtesting.SeminOphthalmol14:214-222,199912)InagakiK,OhkoshiK,OhdeS:Spectraldomainopticalcoherencetomographyimageofretinalchangesafterconventionalmulticolorlaser,subthresholdmicropulsediodelaser,orpatternscanninglasertherapyinJapanesewithmacularedema.Retina32:1592-1600,201213)PaulusYM,JainA,GarianoRFetal:Healingofretinalphotocoagulationlesions.InvestOphthalmolVisSci49:5540-5545,200814)星川有子,大越貴志子,山口達夫:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固後の網膜感度の短期的検討.日眼会誌115:13-19,201115)中村洋介,辰巳智章,新井みゆきほか:硬性白斑が集積する糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス・閾値下凝固の治療成績.日眼会誌113:787-791,200916)VujosevicS,BottegaE,MarghweitaCetal:Microperimetryandfundusautofluorescenceindiabeticmacularedema.Retina30:908-916,201017)OhkoshiK,YamaguchiT:SubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedemaforJapanese.AmJOphthalmol149:133-139,2010***294あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(134)

糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド製剤(マキュエイド®)の硝子体内注射の効果

2013年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科30(5):703.706,2013c糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド製剤(マキュエイドR)の硝子体内注射の効果杉本昌彦松原央古田基靖近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室IntravitrealInjectionofMaqaidR,ANewTriamcinoloneAcetonide,forDiabeticMacularEdemaMasahikoSugimoto,HisashiMatsubara,MotoyasuFurutaandMineoKondoDepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:トリアムシノロンアセトニド製剤の硝子体内注射は糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に有効である反面,まれに無菌性眼内炎を生じることがあり,防腐剤がその原因の一つとされている.マキュエイドR(MaQ)は,硝子体可視化に特化された防腐剤無添加のトリアムシノロンアセトニド製剤である.今回,DMEに対してMaQの硝子体内注射を行い,6カ月間経過観察したので報告する.対象および方法:本研究は,当院倫理委員会の承認を得て行った.他の治療が施行困難なDME患者9例10眼を対象とした.清潔下にMaQ4mgを硝子体内注射し,投与後6カ月間の視力,中心窩網膜厚,合併症につき検討した.結果:平均中心窩網膜厚は投与前555.9±207.0μmであったが,投与後6カ月で305.7±131.6μmと有意に改善した(p<0.05).Logarithmicminimumangleofresolution視力は投与前0.70±0.42から投与後3カ月で0.56±0.46と有意に改善した(p<0.05)が,6カ月後では有意差がみられなかった.合併症として無菌性眼内炎や手術を要する眼圧上昇は発生しなかったが,白内障の進行を4眼に認めた.結論:DMEに対するMaQ硝子体内注射の効果を6カ月にわたり観察した.本剤は防腐剤を含まない安全なステロイド製剤としてDMEの治療の選択肢となる.Purpose:Intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection(IVTA)isausefultreatmentfordiabeticmacularedema(DME).However,preservativecontentcanoccasionallycausesterileendopthalmitis(SE).MaqaidR(MaQ)isanewpreservative-freetriamcinoloneacetonidethatislimitedtouseinvitrectomy.WeconductedanIRB(InstitutionalReviewBoard)-approvedtrialofIVTAusingMaQforDME.PatientsandMethods:Teneyesof9DMEpatientswhocouldnotreceiveadvancedtherapywereadministereda4-mgvitrealinjectionofMaQinasterileenvironment.Eyeexaminationresults,visualacuity,centralretinalthickness(CRT)andcomplicationswereevaluatedfor6months.Results:CRTdecreasedfrom555.9±207.0μmbeforeinjectionto305.7±131.6μmat6monthsafterinjection(p<0.05).Logarithmicminimumangleofresolutionvisualacuityimprovedfrom0.70±0.42beforeinjectionto0.56±0.46at3monthsafterinjection(p<0.05).Nostatisticallysignificantchangewasseenafter6months.NopatientshowedSEorsevereintraocularpressureelevation;4patientsexhibitedcataractformation.Conclusion:Weshowthatpreservative-freeMaQisusefulandsafeforDMEforatleast6months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):703.706,2013〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射,防腐剤,無菌性眼内炎.diabeticmacularedema,triamcinoloneacetonide,intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection,preservative,sterileendopthalmitis.〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-shi,Mie514-8507,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(125)703 はじめに黄斑浮腫(macularedema:ME)は,網膜静脈血管閉塞やぶどう膜炎,糖尿病網膜症などに続発して視力低下の原因となりうる.特に糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は種々の治療にしばしば抵抗を示すが,近年さまざまな薬物の眼内・眼外投与による治療が報告されている1).ステロイド製剤の一つであるトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)の硝子体内注射(intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection:IVTA)は,DMEに対して有効な治療法の一つである.当初はBristolMyersSquibb社から市販されているケナコルトRが国内外で使用され,その有効性が報告されてきた2).しかし,0.8.1.6%の頻度で無菌性眼内炎を生じることが知られており3,4),防腐剤として添加されているベンジルアルコールがその原因の一つと考えられている5).発症防止には,静置やフィルターなどによる防腐剤の分離除去などが推奨されている6.8).防腐剤のみが無菌性眼内炎発症の原因ではないが,投与前にこのような処置が必要であることはIVTAが普及しにくい理由の一つとなっている.TAは,硝子体手術時の硝子体可視化にも用いられる9).わかもと製薬から2010年に市販された新しいTA製剤マキュエイドR(以下,MaQ)は術中硝子体可視化に特化されて市販された,防腐剤を含有しない製剤である.本剤はケナコルトRと同一成分であるが硝子体手術中使用のみに認可されており,MEに対する硝子体注射への使用は2012年11月にようやく認可された.防腐剤無添加であるので,本剤の使用により無菌性眼内炎の発症が低下し,より安全に治療が行える可能性がある.筆者らは,本剤が未認可であった2011年9月から院内倫理委員会承認のもと,MaQ硝子体内注射によるDMEの治療を開始した.今回は少数例ながらも本剤投与後6カ月間の経過観察を行うことができたので報告する.I対象および方法本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った(申請番号9-124).施行前に患者本人もしくは家人から書面で同意を得た当院通院中のDME患者で,種々の問題から他の治療が施行困難な症例に対して行った.除外基準は,全身ないしは眼局所へのステロイド薬投与による合併症既往のある患者,20歳未満の患者,妊娠または授乳中の患者とした.40mgのMaQを清潔下で1mlのbalancedsaltsolution(BSSRPlus,参天製薬,大阪)に溶解し40mg/mlに調整した.患者は術3日前より抗生物質点眼を1日4回点眼し,術眼の減菌化を行った.術直前に0.25%ポビドンヨードにより十分に消毒・洗眼を行った.点眼ならびに結膜下への麻酔を行い,0.1ml(4mg)のMaQを角膜輪部から3.5.4mm704あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013の部位で硝子体内注射を行った.直後に眼圧を確認し,眼圧が高ければ前房穿刺により前房水を排出して調整した.その後,抗生物質含有軟膏を塗布し,ガーゼ閉瞼して終了した.感染予防目的で術後1週間,抗生物質点眼を行った.硝子体内注射前および注射後1週間・1カ月・3カ月・6カ月後の各診察時に視力(logarithmicminimumanalogofresolution:logMAR値)・眼圧測定,前眼部・中間透光体・後眼部検査を行った.同時に光干渉断層計(OCT,SpectralisR,Heidelberg社)も行い,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.また,本治療を選択した背景とこれまでに行った治療内容も検討した.図1糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する,マキュエイドRの硝子体内注射後の眼底写真と注射前後の光干渉断層計(OCT)の変化注射翌日,眼内にはマキュエイドR粒子の散布(矢頭)が確認された(a).OCTでは,投与前には明らかなDMEがみられた(b,矢印)が,投与後1週間で速やかに改善していた(c,矢印).(126) II結果DMEを有する9例10眼にMaQの硝子体内注射を行った.9例(男性8例,女性1例)の平均年齢は67.4±9.6歳で,水晶体眼8眼,人工水晶体眼2眼であった.本治療を選択した背景としては,脳梗塞など血管閉塞性疾患の既往がありアバスチンRの投与が困難であった例が5眼,経済的理由などから硝子体手術を希望しなかった例が5眼であった.本治療前の治療としては,TATenon.下注射単独施行眼が6眼,TATenon.下注射+アバスチンR硝子体内注射施行眼が4**眼であった.10眼の投与前の平均CRTは555.9±207.0μmであったが,投与後1週間で350.3±122.7μmと速やかに減少し,これは統計学的に有意であった(p<0.05,図1).CRTの改善は投与後6カ月まで維持された(305.7±131.6μm,p<0.05,図2).視力のlogMAR値は投与前に0.70±0.42であったが,投与後3カ月には0.56±0.46と統計学的に有意に改善した(p<0.05).6カ月後では,0.59±0.45と依然改善傾向がみられたものの,有意ではなかった(図3).投与後合併症として,無菌性眼内炎や手術を要する眼圧上昇はみられなかったが,3眼で緑内障点眼1剤以上を必要とする眼圧上昇がみられた.また,4眼で白内障が進行し,その2眼で白内障手術900800500400300200100**投与前1週1カ月3カ月6カ月経過期間700600CRT(μm)図2マキュエイドR硝子体内注射前後のCRTの経時的変化を施行した.III考察わが国でのDME加療は,TATenon.下注射,抗血管内皮増殖因子(VEGF)製剤(アバスチンR)硝子体内注射や硝子体手術が行われている.TATenon.下注射は最も簡便でわが国で広く用いられているが,欧米では有効性が確認されておらず10),十分に普及していない.抗VEGF製剤の硝子体内注射も簡便な治療ではあるが,脳梗塞などの血管閉塞性疾患の既往がある患者には施行がためらわれる.硝子体手術も選択肢の一つであるが,経済的背景や全身状態により患者が望まないことがある.このように,DMEに対して他の治療が困難な症例に対して,特にMaQは防腐剤無添加であ糖尿病黄斑浮腫(DME)9例10眼に対する,マキュエイドRの1.4硝子体内注射前後の平均CRTおよび標準偏差を示す.投与後1週間でCRTは速やかに減少し,有意な減少は6カ月まで観るので安全なIVTA治療が行えると考えた.今回筆者らは,本剤の投与適応を他の加療が施行困難な症察された.*:p<0.05.例に限定した.その理由の一つは,本剤を用いても無菌性眼内炎が生じうる可能性や白内障,眼圧上昇が生じる可能性が1.5*投与前1週1カ月3カ月6カ月経過期間あると考えたからである11).もう一つの理由は,国内外ともにDMEに対してIVTAは第一選択とされていないという実情である.昨年度の米国網膜硝子体学会による網膜専門医へのアンケート調査結果(2012年度PATsurvey)では,DMEへのIVTAを行わないとする回答が48%もあった.さらに,わが国の網膜硝子体専門医に対する同様なアンケート(2011年度PAT-Jsurvey)でもIVTAを選択するのは15%程度と小数であった.そのため今回の研究ではDME治療に対する第一選択としてIVTAを行った症例はなく,症例の選択にバイアスがかかっている点が既報と大きく異なっている.MaQは2012年末になってDMEに対する使用がわが国でLogMAR値1.31.21.11.00.90.80.70.60.50.40.30.20.1図3マキュエイドR硝子体内注射前後の視力の経時的変化糖尿病黄斑浮腫(DME)9例10眼に対する,マキュエイドRの硝子体内注射前後のlogMAR値の平均および標準偏差.投与後3カ月でのみ有意な改善がみられた.6カ月の時点でも改善傾向はみられたが,術前との差は有意ではなかった.*:p<0.05.(127)認可された.薬剤添付文書によると,34眼を対象とした臨床試験ではMaQ非投与群に比し,投与後12週で有意な視力改善とCRT改善を認めている.今回,筆者らの検討でも3カ月までは同様の結果であった.しかし,臨床試験で報告されていない術後6カ月では,CRTは改善したものの視力あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013705 改善は有意ではなかった.IVTAの単回投与の効果をみた既報でも,投与後に視力は4カ月間改善を示したが,その後視力は低下して6カ月後にはコントロール群と有意差が認められていない12).抗VEGF製剤硝子体内注射とIVTAの繰り返し投与を比較した報告では,観察期間2年で視力改善はコントロール群と差がなかったが,偽水晶体眼に限定した解析では良好な改善を得ており,ステロイド薬による白内障が視力低下の一因としている13).筆者らの検討でも白内障進行が4眼でみられた.偽水晶体眼を除くと対象症例中8眼中の半数で生じたことになる.また,手術を行った2例では各々初診時の矯正視力が0.3と0.03であったが,注射後白内障が徐々に進行した.白内障手術直前には各々0.2と0.02に低下し,羞明感が強くなり後.下白内障を呈していた.これらの変化が視力の結果に影響した可能性があると考えている.今回,筆者らは防腐剤無添加のTA製剤であるMaQを用いて,重篤な合併症なく安全にIVTAを行うことができた.少数例ながらも6カ月間経過観察することができた点で,視力やCRTの変化に関して興味深い所見が得られた.しかし,IVTAによる無菌性眼内炎の発症頻度は既報では2%以下と低いので,今回の症例数では出現しなかっただけかもしれない.また,筆者らはDMEに対する第一選択治療としてIVTAを行ったわけではないため,限定された症例に対する研究といえる.本剤のDMEに対する使用が認可されたこともあり,今後はさらに多数例における効果や副作用の詳細な研究が期待される.文献1)後藤早紀子,山下英俊:糖尿病黄斑浮腫の薬物治療.あたらしい眼科29(臨増):139-142,20122)JonasJB,KreissigI,SofkerAetal:Intravitrealinjectionoftriamcinolonefordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol121:57-61,20033)MoshfeghiDM,KaiserPK,BakriSJetal:Presumedsterileendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.OphthalmicSurgLasersImaging36:24-29,20054)坂本泰二,石橋達朗,小椋祐一郞ほか;日本網膜硝子体学会トリアムシノロン調査グループ:トリアムシノロンによる無菌性眼内炎調査.日眼会誌115:523-528,20115)MaiaM,FarahME,BelfortRNetal:Effectsofintravitrealtriamcinoloneacetonideinjectionwithandwithoutpreservative.BrJOphthalmol91:1122-1124,20076)NishimuraA,KobayashiA,SegawaYetal:Isolatingtriamcinoloneacetonideparticlesforintravitrealusewithaporousmembranefilter.Retina23:777-779,20037)井上真,植竹美香,武田香陽子ほか:ベンジルアルコールを除去した硝子体内投与用トリアムシノロンアセトニド溶液の作成.眼紀55:445-449,20048)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,20079)SakamotoT,MiyazakiM,HisatomiTetal:Triamcinolone-assistedparsplanavitrectomyimprovesthesurgicalproceduresanddecreasesthepostoperativeblood-ocularbarrierbreakdown.GraefesArchClinExpOphthalmol240:423-429,200210)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork,ChewE,StrauberSetal:Randomizedtrialofperibulbartriamcinoloneacetonidewithandwithoutfocalphotocoagulationformilddiabeticmacularedema:apilotstudy.Ophthalmology114:1190-1196,200711)JonasJB,KreissigI,DegenringR:Intravitrealtriamcinoloneacetonidefortreatmentofintraocularproliferative,exudative,andneovasculardiseases.ProgRetinEyeRes24:587-611,200512)JonasJB,HarderB,KamppeterBA:Inter-eyedifferenceindiabeticmacularedemaafterunilateralintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.AmJOphthalmol138:970-977,200413)ElmanMJ,BresslerNM,QinHetal:Expanded2-yearfollow-upofranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:609-614,2011***706あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(128)

カリジノゲナーゼによる糖尿病黄斑浮腫軽減効果の検討

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(89)1457《第16回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(10):1457?1459,2011cはじめにカリジノゲナーゼは,血漿中のキニノーゲンからキニンを遊離させ末梢血管を拡張させる作用を有し,眼科領域においては,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症などの網脈絡膜循環改善を目的に使用されている.しかしカリジノゲナーゼに関して実際に眼科領域で臨床的な検討をした報告は少ない.一方Katoら1)は,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットにおいて,カリジノゲナーゼは眼内液中の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)量を有意に低下させ,血管透過性が抑制されることを報告している.VEGFが糖尿病黄斑浮腫(diabeticmaculaedema:DME)の重要な悪化因子であり,抗VEGF抗体がDME治療に用いられていること2,3)から,今回筆者らは,カリジノゲナーゼによるDME軽減効果について検討したので報告する.I対象および方法対象は平成19年10月から平成21年11月の間に中心窩網膜厚が300μm以上のDMEを伴い,保存的療法での経過〔別刷請求先〕鈴木浩之:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANカリジノゲナーゼによる糖尿病黄斑浮腫軽減効果の検討鈴木浩之石崎英介家久来啓吾佐藤孝樹南政宏池田恒彦大阪医科大学眼科学教室ComparativeStudyofKallidinogenaseEfficacyinTreatingDiabeticMacularEdemaHiroyukiSuzuki,EisukeIshizaki,KeigoKakurai,TakakiSato,MasahiroMinamiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対するカリジノゲナ?ゼの有効性を,カリジノゲナーゼ投与群(以下,投与群)とカリジノゲナーゼ非投与群(以下,非投与群)で比較検討する.対象および方法:対象はDME28例33眼で,カリジノゲナーゼ150単位/日を3カ月間投与するカリジノゲナーゼ投与群(19例22眼)と非投与群(9例11眼)に割り付け,黄斑浮腫および視機能に対する効果を比較検討した.結果:OCTで評価した中心窩網膜厚は,投与群が489.7±25.1μmから448.0±26.0μmと有意に低下したが,非投与群は437.5±46.3μmから439.7±44.9μmと不変であった.投与群の中心窩網膜厚を初期値500μm以上の群と未満の群に分けて評価したところ,初期値500μm未満の群で有意な低下がみられた.結論:カリジノゲナーゼはDMEの中心窩網膜厚改善に有効である可能性が示唆された.Objective:Toperformacomparativestudyofkallidinogenaseefficacyintreatingdiabeticmacularedema(DME).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved33eyesof28patientswithDMEwhoweredividedintothetreatmentgroup(19patients,22eyes),whichreceived150unitsofkallidinogenaseperdayfor3months,andthecontrolgroup(9patients,11eyes),whichdidnotreceivethedrug.Thetwogroupswerethencomparedastotheeffectofkallidinogenaseonmacularedemaandvisualacuity.Results:Evaluationbyopticalcoherencetomographyshowedthatfovealretinalthicknessdecreasedsignificantlyinthetreatmentgroup,from489.7±25.1μmto448.0±26.0μm,butremainedunchangedinthecontrolgroup.Anassessmentmadebydividingthetreatment-grouppatientsintotwosubgroups,onewithfoveal-retinal-thicknessbaselinevaluesof500μmorhigher,andonewithbaselinevalueslowerthan500μm,revealedsignificantreductioninfovealretinalthicknessinthelattersubgroup.Conclusions:TreatmentwithkallidinogenasemaybeeffectiveforimprovingfovealretinalthicknessinpatientswithDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1457?1459,2011〕Keywords:カリジノゲナーゼ,糖尿病黄斑浮腫,網脈絡膜循環,血管内皮増殖因子(VEGF).kallidinogenase,diabeticmaculaedema(DME),fundusandretrobulbarbloodflow,vascularendothelialgrowthfactor(VEGF).1458あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(90)観察を希望した患者である.試験方法は,無治療あるいは血管強化剤かビタミン剤の内服のみで経過観察する群:カリジノゲナーゼ非投与群(以下,非投与群)と,カリジノゲナーゼ150単位/日を3カ月間投与する群:カリジノゲナーゼ投与群(以下,投与群)に割り付け,中心窩網膜厚の推移,およびlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力の推移を比較検討した.割り付けについてはカリジノゲナーゼ投与に関して十分な説明を行い,同意を得られた症例を投与群としたため,無作為試験ではない.また,非投与群と投与群の全身的な背景因子の比較は行っていない.中心窩網膜厚の測定にはZeiss社OCT3000を使用した.除外規定として,試験期間中,抗凝固剤,血小板凝集抑制剤,抗緑内障薬など,網脈絡膜循環や黄斑浮腫に影響を及ぼす可能性のある薬剤の追加や,服用法,服用量を変更した症例,透析導入となった症例,網膜光凝固後6カ月未満の症例,トリアムシノロンアセトニドの硝子体内注射やTenon?下注射後6カ月未満の症例,白内障手術などの内眼手術施行後6カ月未満の症例は除外した.対象症例は投与群,非投与群合わせて全30例で,経過中除外対象となった2例を除き,解析症例は28例33眼,投与群19例22眼,非投与群9例11眼である.患者背景を表1に示す.統計学的な検討は,中心窩網膜厚,logMAR視力の推移については対応のあるt検定を用い,投与群,非投与群の群間比較については対応のないt検定を用いて,p<0.05を有意とした.II結果投与前の中心窩網膜厚やlogMAR視力には,投与群と非投与群の間に統計学的な有意差を認めなかった(中心窩網膜厚p=0.282,logMAR視力p=0.33).中心窩網膜厚は投与群で投与開始時489.7±25.1μmから3カ月後に448.0±26.0μmと有意に低下した(p<0.01)が,非投与群では不変であった(図1).投与群の中心窩網膜厚を初期値が500μm以上の群(n=9)と未満の群(n=13)に分けて評価したところ,初期値500μm未満の群で有意な低下(p<0.01)がみられた(図2).投与群の中心窩網膜厚を黄斑浮腫のタイプ別に分けて評価したところ,Diffuse型(n=9),CME(cystoidmacularedema)型(n=11)で有意な低下(p<0.05)がみられた(図3).Diffuse型については中心窩網膜厚の変化量を投与群(n=9)と非投与群(n=6)で群間比較したところ,有意な差(p<0.05)がみられた(図4).LogMAR視力の推表1患者背景項目投与群非投与群性別男性:7例女性:12例男性:6例女性:3例平均年齢66.9±1.8歳66.1±1.5歳MEタイプ(眼数)CME:11眼Diffuse:9眼混合型:2眼CME:3眼Diffuse:6眼混合型:1眼SRD:1眼前治療(眼数)PRP:12眼Vitrectomy後:4眼IOL眼:2眼DirectPC:1眼TATenon?下注射後:1眼PRP:6眼IOL眼:1眼Vitrectomy後:2眼CME:cystoidmaculaedema,SRD:serousretinaldetachment,IOL:intraocularlens,PRP:panretinalphotocoagulation,TA:triamcinoloneacetonide.300400500600投与開始時3カ月後:投与群(n=22):非投与群(n=11)489.7±25.1437.5±46.3448.0±26.0439.7±44.9**Mean±SE**:p<0.01(対応のあるt検定)中心窩網膜厚(μm)図1中心窩網膜厚の推移**:Diffuse(n=9):CME(n=11):混合(n=2)575.5±25.5601.0±39.0492.4±33.2467.4±45.7449.7±29.8411.8±46.1Mean±SE*:p<0.05(対応のあるt検定)投与開始時3カ月後300400500600700中心窩網膜厚(μm)図3投与群での黄斑浮腫タイプ別の中心窩網膜厚の平均値推移555.0±33.0Mean±SE**:p<0.01(対応のあるt検定)300400500600700投与開始時3カ月後:500μm以上(n=9):500μm未満(n=13)598.8±31.6414.2±15.8373.8±19.5**中心窩網膜厚(μm)図2投与群での中心窩網膜厚の平均値推移(91)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111459移については,投与群で投与開始時0.53±0.06,3カ月後0.48±0.06,非投与群で0.42±0.09,3カ月後0.37±0.08であり,統計的な変動は認められなかった.投与期間中,カリジノゲナーゼによる副作用は認めなかった.III考按DMEは,糖尿病による網膜微小循環不全に伴う網膜虚血,低酸素状態が長期間続くことにより,VEGFなどのサイトカインが放出され,血管透過性が亢進することが原因の一つと考えられている.またNagaokaら4)は,脈絡膜血流量を測定するlaserDopplerflowmetryを用い,2型糖尿病患者,特にDMEを伴う症例では,中心窩の脈絡膜血流が低下していることを報告している.カリジノゲナーゼは,血漿中のキニノーゲンからキニンを遊離させて末梢血管を拡張させる作用により網脈絡膜循環を改善すると考えられており,実際に健常者や網膜静脈閉塞症での改善効果も報告されている5,6).今回の筆者らの研究でも,カリジノゲナーゼ投与群でDMEの中心窩網膜厚が改善したが,その機序の一つとして,網脈絡膜血流が改善したことにより二次的にVEGFなどのサイトカイン放出が抑制され,血管透過性が抑制されたことが原因として考えられた.またもう一つの機序として,カリジノゲナーゼの直接的な抗VEGF作用が考えられる.Katoら1)は,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットを用いた実験で,カリジノゲナーゼが眼内液中のVEGF量を有意に低下させ,血管透過性が抑制されることを報告しているが,最近中村らは,2010年10月に開催された第30回日本眼薬理学会で,カリジノゲナーゼに直接的なVEGF切断作用がある可能性を報告している.カリジノゲナーゼがinvitro血管管腔形成抑制作用およびinvivoマウス網膜における異常血管新生抑制作用を有し,その作用はカリジノゲナーゼの血管内皮細胞に対する増殖および遊走抑制作用によることを示している.その作用機序としてVEGF切断によるVEGF受容体の活性化抑制作用を介している可能性を述べている.これらのようにカリジノゲナーゼによるDME改善効果には,まだ検討の余地は多いものの,複数の機序が関与していると考えられた.今回の筆者らの検討で,投与群において中心窩網膜厚の改善は認められたものの,logMAR視力に関しては改善が認められなかった原因として,投与後の中心窩網膜厚の減少が平均41.7μmであり,投与後もDMEが比較的高度に残存していたことが原因の一つと考えられた.ただし,DMEが改善しても視力が改善するにはしばらく時間がかかるとの報告があること7)や,今回のカリジノゲナーゼの投与期間が3カ月であり,さらに長期間の投与での変化も今後検討したい.中心窩網膜厚が500μm未満のカリジノゲナーゼ投与群において,有意な中心窩網膜厚の減少を認めたことから,軽度のDME症例に対してはまずカリジノゲナーゼを試みてもよいかもしれないと考えられるが,投与量や投与期間など,検討すべき課題は多い.今回の検討は無作為試験ではなく,投与前の全身因子の比較も行っていない.今後,これらを考慮した新たな検討を行いたいと考えている.文献1)NoriakiK,YunlongH,ZhenhuiLetal:Kallidinogenasenormalizesretinalvasopermeabilityinstreptozotocininduceddiabeticrats:Potentialrolesofvascularendothelialgrowthfactorandnitricoxide.EurJPharmacol606:187-190,20092)ChunninghamETJr,AdamisAP,AltaweelMetal;MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,anantivascularendothelialgrowthfactoraptamerfordiabeticmacularedema.Ophthalmology112:1747-1757,20053)ArevaloJF,Fromow-GuerraJ,Quiroz-MercadoHetal;Pan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup:Primaryintravitrealbevacizumab(Avastin)fordiabeticmacularedema:resultfromthePan-AmerianCollaborativeRetinaStudyGroupat6-mouthfollow-up.Ophthalmology114:743-750,20074)NagaokaT,KitayaN,SugawaraRetal:Alterationofchoroidalcirculationinthefovealregioninpatientswithtype2diabetes.BrJOphthalmol88:1060-1063,20045)楊美玲,望月清文,丹波義明ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科17:1433-1436,20006)小林ルミ,森和彦,石橋健ほか:カリジノゲナーゼの網脈絡膜血流に及ぼす影響.臨眼57:885-888,20037)TerasakiH,KojimaT,NiwaHetal:Changesinfocalmacularelectroretinogramsandfovealthicknessaftervitrectomyfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci44:4465-4472,2003***-100-90-80-70-60-50-40-30-20-1001020304050投与開始時3カ月後:投与群(n=9):非投与群(n=6)17.3±20.6-55.7±20.9#Mean±SE#:p<0.05(対応のないt検定)中心窩網膜厚(μm)図4Diffuse型の中心窩網膜厚変化量の群間比較

糖尿病網膜症に高度な黄斑部滲出性網膜剥離を認めた症例

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(97)2350910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):235238,2009cはじめに糖尿病網膜症に併発する黄斑部漿液性網膜離には,糖尿病黄斑症の悪化がまず考えられる.しかし,高度な黄斑部漿液性網膜離が出現した場合は,他の疾患の合併なども考える必要がある.今回,安定していた糖尿病網膜症に,中心性漿液性脈絡網膜症を合併し,急激に高度の黄斑部漿液性網膜離を生じた症例を経験したので報告する.I症例患者:65歳,男性.初診:平成10年1月30日.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧(この時点では糖尿病は指摘されていなかった).〔別刷請求先〕緒方奈保子:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:NahokoOgata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,Fumizono-cho10-15,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN糖尿病網膜症に高度な黄斑部滲出性網膜離を認めた症例嶋千絵子*1緒方奈保子*1松山加耶子*1松岡雅人*1和田光正*1髙橋寛二*2松村美代*2*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2関西医科大学附属枚方病院眼科SevereSerousMacularDetachmentinaCaseofQuiescentDiabeticRetinopathyChiekoShima1),NahokoOgata1),KayakoMatsuyama1),MasatoMatsuoka1),MitsumasaWada1),KanjiTakahashi2)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:治療後安定していた糖尿病網膜症に,急激に高度な黄斑部滲出性網膜離を生じ,中心性漿液性脈絡網膜症の併発が疑われた症例を経験したので報告する.症例:65歳,男性.初診時左眼中心性漿液性脈絡網膜症と診断し,光凝固治療を行った.7年後,再診時に両眼増殖糖尿病網膜症を認め,汎網膜光凝固と硝子体手術を施行.以後眼底所見は安定していたが,1年後に突然左眼黄斑部に高度の滲出性網膜離を生じた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で網膜色素上皮離とその辺縁からの蛍光漏出を認めた.同部に光凝固を行い,網膜離は消失した.結論:糖尿病網膜症に合併する黄斑部の滲出性網膜離には,糖尿病黄斑症の増悪によるものだけではなく,中心性漿液性脈絡網膜症の併発によることがあり,注意を要する.Wereportacaseofsevereserousretinaldetachmentinthemacularregioninquiescentdiabeticretinopathy.Thepatient,a65-year-oldmale,hadbeentreatedwithphotocoagulationinhislefteyeforcentralserouschori-oretinopathy.Sevenyeaslater,hevisitedourhospitalwithdecreasedvisioninbotheyes.Hepresentedwithprolif-erativediabeticretinopathyinbotheyesandunderwentvitrectomyfollwingpanretinalphotocoagulation.Thereafter,hiseyesshowedquiescentcondition.Oneyearslater,severeserousretinaldetachmentinthemacularregionabruptlyoccurredinhislefteye.Fluoresceinangiographyrevealedpigmentepithelialdetachmentaccompa-niedbydyeleakagefromtheedge.Laserphotocoagulationattheleakagepointsledtocompleteimprovement.Serousretinaldetachmentinthemacularregion,originatingfromcentralserouschorioretinopathy,canappeareveninstableproliferativediabeticretinopathy.Itisimportanttodierentiatecentralserouschorioretinopathyfromseverediabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):235238,2009〕Keywords:漿液性網膜離,糖尿病網膜症,中心性漿液性脈絡網膜症,色素上皮離,糖尿病黄斑浮腫.serousretinaldetachment,diabeticretinopathy,centralserouschorioretinopathy,pigmentepithelialdetachment,diabeticmacularedema.———————————————————————-Page2236あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(98)家族歴:父が高血圧.現病歴:10日前からの左眼視力低下が出現し,近医より左眼黄斑変性疑いにて紹介受診.初診時所見:視力は右眼矯正1.5,左眼矯正0.7.眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHgで,前眼部には異常なく,中間透光体は両眼とも軽度白内障のみであった.眼底には左眼に黄斑部を含む漿液性網膜離と眼底後極部に網膜毛細血管瘤を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)と,光干渉断層計(OCT)にてmicroripと思われる点状漏出を伴う色素上皮離(PED)を認めた(図1a,b).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)では,早期に脈絡膜充盈遅延と脈絡膜静脈の拡張,中後期に脈絡膜異常組織染を認めた(図1c).右眼に異常は認めなかった.経過:以上より,左眼の中心性漿液性脈絡網膜症と診断し,毛細血管瘤は傍中心窩毛細血管拡張症と診断した.PED辺縁と漏出点に光凝固を施行したところ,3カ月後網膜離は消失し,PEDも扁平化し,視力は矯正1.0まで回復した.しかし,以後受診が途絶えた.平成11年頃より糖尿病を指摘されていたが眼科受診はしなかった.3カ月前からの両眼視力低下を主訴に,7年ぶりに平成17年2月19日眼科受診.視力は右眼矯正0.5,左眼矯正0.2で,両眼ともに眼底に網膜出血と綿花様白斑が多発し,進行した糖尿病網膜症を認めた(図2a).左眼はFAにて広範な無血管野と網膜新生血管を認め,増殖糖尿病網膜症の眼底所見であった.後極部には初診時にも認められたPEDと新たに出現したPEDを認めた(図2b).両眼に汎網膜光凝固を開始し,その後発生した両眼硝子体出血に対して早期早期中期中期動脈相動脈相静脈相静脈相後期後期後期後期中心窩中心窩abc1初診時の左眼眼底所見(H10.1.30)a:FAにて,漏出を伴うPEDと網膜毛細血管瘤を認める.b:OCTにて,黄斑部を含む滲出性網膜離とその上方のPED(矢印)を認める.c:IAにて,上段:動脈相(22秒)で脈絡膜充盈遅延(矢印),中段:静脈相(27秒)で脈絡膜静脈拡張(矢印),下段:後期(12分)に異常脈絡膜組織染(矢印)を認める.ab図2初診から7年後の再診時眼底所見(H17.2.19)a:両眼の眼底写真.綿花様白斑,網膜出血を多数認め,左右同様の糖尿病網膜症を認める.b:左眼のFA.広範な無血管野と網膜新生血管を認め,枠外では以前認めたPED(黒矢印)と,新たに出現したPED(白矢印)を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009237(99)硝子体手術を施行し,以後網膜症は活動性が低下し安定していた(図3).1年後(平成18年6月13日),左眼に突然高度の漿液性網膜離が出現し(図4a),視力は矯正0.09となった.OCTにて黄斑部を含む漿液性網膜離とPEDを認め(図4b),FAでPED辺縁から網膜下への蛍光漏出を認めた(図4c).IAでは,動脈相で脈絡膜充盈遅延と脈絡膜の血管透過性亢進所見を認めた.しかし脈絡膜新生血管を示す網目状血管やポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の所見は認めなかった.以上より,中心性漿液性脈絡網膜症の再発と診断し,PED周囲と漏出部に光凝固を施行した.1カ月後,中心窩の漿液性網膜離とPEDは消失した(図5a,b).視力は糖尿病黄斑症による変性萎縮により矯正0.1にとどまったが,その後1年経過した現在も再発なく安定している.II考察糖尿病網膜症に高度な黄斑部漿液性網膜離が出現した場合,糖尿病黄斑浮腫以外で考えられる病態としては,全身状態の変化,加齢黄斑変性の合併,過剰な汎網膜光凝固,中心性漿液性脈絡網膜症の合併,炎症性疾患(原田病,強膜炎,梅毒性ぶどう膜炎など)の合併,その他の疾患(腫瘍,ピット黄斑症候群など)の合併などがあげられる.今回報告した症例は,初診時,中心性漿液性脈絡網膜症と傍中心窩毛細血管拡張症の併発と診断したが,このときすでに糖尿病網膜症があった可能性がある.7年後再診時には増殖糖尿病網膜症となっており,光凝固と硝子体手術にて眼底所見は約1年間安定していた.しかし,左眼に突然高度漿液性網膜離が出現し,FAにてPED辺縁からの強い漏出を認めた.このFA所見より,本症例は糖尿病網膜症に中心性漿液性脈絡網膜症が併発し,漿液性網膜離が出現したと考え,光凝固を施行し,網膜離は消失した.ab図5治癒後の左眼眼底所見(H19.3.17)a:眼底写真,b:OCT.網膜離は消失し,滲出性変化は認めない.図3安定時の左眼FA(H18.2.17)PEDのみ過蛍光を示すが,滲出性変化は認めない.①②①②acb図4漿液性網膜離出現時の左眼眼底所見(H18.6.13)a:眼底写真.黄斑部を含む広範な高度漿液性網膜離が出現.b:aの眼底写真の①②に対応するOCT所見.黄斑部を含む漿液性網膜離とPEDを認める.c:FAにて,PED辺縁からの漏出を認める(矢印).上:早期,下:後期.———————————————————————-Page4238あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(100)糖尿病網膜症とともに,糖尿病脈絡膜症の存在も明らかにされてきており1,2),糖尿病脈絡膜症の組織では,内皮基底膜の肥厚による脈絡膜毛細血管の狭細化,閉塞や脱落,脈絡膜内微小血管異常や血管瘤,新生血管などが知られている.一方,中心性漿液性脈絡網膜症は,脈絡膜血管透過性が亢進し,二次的に網膜色素上皮が障害され,漿液性網膜離が生じると考えられているが,なぜ脈絡膜病変が生じるか,循環不全と血管透過性亢進との関係は不明である.他の眼疾患や全身状態の変化の際に中心性漿液性脈絡網膜症が合併することもある.ステロイドの全身投与による併発はよく知られているが,高血圧性網膜症3)や正常妊娠4)での合併,糖尿病黄斑浮腫に対するステロイド局所治療による発症5)などの報告もある.それぞれ,高血圧性脈絡膜症と同様の変化や,血栓傾向による脈絡膜循環障害から二次性中心性漿液性脈絡網膜症をきたすこと,ステロイドによる色素上皮の損傷修復過程の抑制などが原因と考えられている.糖尿病網膜症では,脈絡膜循環障害や遷延する黄斑浮腫などにより網膜色素上皮の障害を受けやすい.さらに糖尿病網膜症では中心窩脈絡膜血流量が低下しているとの報告もある6).従来少ないとされていた糖尿病網膜症に合併する加齢黄斑変性の報告は散見される79).しかし中心性漿液性脈絡網膜症の合併の報告は筆者らの検索の限りではみられなかった.この理由として,一つには好発年齢の違いがあげられる.中心性漿液性脈絡網膜症は3050歳と比較的若年であり,高齢者には少ないのに対して,糖尿病網膜症は40歳代から増加し60歳代が最も多く,好発年齢に差がある.2つ目の理由として,糖尿病網膜症では網膜血管透過性亢進,網膜色素上皮障害や網膜毛細血管瘤からの漏出所見などを伴うため,中心性漿液性脈絡網膜症を合併しても漏出点がマスクされて糖尿病黄斑浮腫と診断され,診断しにくいことがあげられる.糖尿病網膜症に併発した黄斑部漿液性網膜離は,高度な黄斑部滲出性網膜離の場合,中心性漿液性脈絡網膜症を併発していることもあり,注意を要する.文献1)竹田宗泰:糖尿病脈絡膜症─病態研究の新しい視点─.あたらしい眼科20:919-924,20032)福島伊知郎:糖尿病脈絡膜症の病態と脈絡膜循環.DiabetesFrontier15:293-296,20043)山田英里,山田晴彦,山田日出美:中心性漿液性脈絡網膜症を発症した高血圧性網脈絡膜症.臨眼61:1867-1872,20074)今義勝,永富智浩,西岡木綿子ほか:正常妊娠後期に合併した中心性漿液性脈絡網膜症の1例.臨眼60:473-476,20065)ImasawaM,OhshiroT,GotohTetal:Centralserouschorioretinopathyfollowingvitrectomywithintravitrealtriamcinoloneacetonidefordiabeticmacularedema.ActaOphthalmolScand83:132-133,20056)NagaokaT,KitayaN,SugawaraRetal:Alterationofchoroidalcirculationinthefovealregioninpatientswithtype2diabetes.BrJOphthalmol88:1060-1063,20047)KleinR,BarbaraE,ScotEetal:Diabetes,hyperglycemiaandage-relatedmaculopathy.Thebeavereyestudy.Oph-thalmology99:1527-1534,19928)ZylbermannR,LandauD,RozenmanYetal:Exudativeage-relatedmaculardegenerationinpatientswithdiabet-icretinopathyanditsrelationtoretinallaserphotocoagu-lation.Eye11:872-875,19979)宮嶋秀彰,竹田宗泰,今泉寛子ほか:糖尿病網膜症に伴う脈絡膜新生血管の臨床像と経時的変化.眼紀52:498-504,2001***