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緑内障:転倒,転倒恐怖感と緑内障

2015年11月30日 月曜日

●連載185監修=岩田和雄山本哲也185.転倒,転倒恐怖感と緑内障結城賢弥ハーバード大学医学部ボストン小児病院●転倒は代表的な不慮の事故の原因である転倒は日常生活における代表的な外傷や死亡の原因である.日常生活における不慮の死亡といえば交通事故死が思い浮かぶかもしれない.しかし,実際には平成25年度における転倒による死亡は7,766人であるのに対し,交通事故による死亡は6,060人と転倒により死亡している人数のほうが3割近く多いのである(平成25年度人口動態統計,図1).わが国では平成25年度に65歳以上の高齢者の占める割合が初めて25%を突破した.65歳以上の高齢者の3分の1,85歳以上の高齢者の半分が年に1度以上の転倒を経験していると報告されており,転倒の予防はわが国にとって重要な社会問題である.●転倒と緑内障安全な歩行にとって視機能が重要であることは,目を閉じて安全に歩行することが困難なことから明らかである.緑内障はわが国の後天失明原因の第1位であり,かつ加齢とともに有病率が上昇するため,今後多くの高齢者が緑内障により視機能障害を有すると思われる.緑内障と転倒の関係に関してはいくつか報告がある1~3).Haymesらは,緑内障患者は視野正常者と比較し約3倍転倒リスクが高かったと報告している.Blackらは緑内障患者における転倒の危険因子の解析を行い,下方の視野障害が重篤化するほど転倒のリスクが上昇したと報告している4).筆者らのグループは,原発開放隅角緑内障患者365名(平均年齢64.9±10.8歳,男性210名,女性155名)に対し,質問票を用いて過去1年間の転倒既往,転倒による怪我既往ならびに全身疾患既往などの情報を得,それぞれの症例のHumphreyvisual.eldanalyzerSITA-standard24-2からintegratedvisual.eldを作成し,上方周辺視野,上方中心視野,下方周辺視野,下方中心(61)中毒など:694火災:1,304図1平成25年における不慮の事故死の死因転倒・転落は不慮の事故死の死因の2位を占める.不慮の事故死の24%は転倒・転落が原因であり,交通事故死数を上回る(平成25年人口動態統計より).視野のtotaldeviationを求め,構造方程式モデリングを用いて,転倒ならびに転倒による怪我と,各視野領域のTD値,良いほうの眼の視力,悪いほうの眼の視力,性別,年齢などの関連を検討した.結果として,365名中,過去1年間に55名が転倒し,そのうち22名が怪我をしていた.転倒と関連していた因子は,良いほうの眼の視力ならびに悪いほうの眼の視力であった.また,転倒による怪我と関連していた因子は,女性と下方周辺視野障害であった.これらの結果から,矯正視力障害を有する緑内障患者は転倒しやすく,さらに下方周辺視野障害を有する女性緑内障患者は転倒に伴い怪我をしやすい可能性があるといえる5).●転倒恐怖感と緑内障転倒は,怪我だけでなく精神面にも大きな影響を与える.転倒恐怖感は,読んで字のごとく転倒に対する恐怖あたらしい眼科Vol.32,No.11,201515730910-1810/15/\100/頁/JCOPYコントロール初期緑内障中期緑内障後期緑内障n=293n=313n=48n=26図2転倒恐怖感に対するオッズ比年齢や性別を補正した転倒恐怖感に対する中期緑内障ならびに後期緑内障のコントロールを参照群としたオッズ比は,それぞれ2.33(95%CI:1.0~5.44),4.06(1.39~11.90)とコントロールと比較し有意に高値であった.感である.転倒恐怖感はTineetiらによりpost-fallsyn-dromeとして定義されたが,その後,必ずしも転倒後に生じるわけではなく,転倒しなくても転倒恐怖感を感じる場合があるとわかった6).転倒恐怖感は,うつ,歩行時間の減少,正常な歩行姿勢の障害から健康関連QOLの低下,転倒や死亡の原因となりうる.Ramuluらは83名の緑内障患者と60名の視野正常な緑内障疑いの患者を対象に転倒恐怖感を調査し,両眼の視野障害を有する緑内障患者は,視野障害が重篤になるほど,転倒恐怖感を有することを報告した7).また,Wangらは,視野正常者と比較し緑内障患者は約3倍,転倒恐怖感による行動制限を生じていると報告している8).筆者らのグループは,緑内障患者387名と対照群293名に対し転倒恐怖感に関する質問を行い,視野障害の程度と転倒恐怖感の有無に関する検討を行った.その結果,転倒恐怖感を有する割合は対照群で11.9%,初期緑内障患者で12.1%であったのに対し,中期緑内障患者では25.0%,後期緑内障患者では23.1%と視野障害が悪化するとともに有病率が増加する傾向にあった(傾向検定p=0.03).また,転倒恐怖感を有する緑内障患者はそうでない患者に比較し,有意に1日あたりの歩行分数が少なかった(図2).年齢や性別を補正した転倒恐怖感に対する中期緑内障ならびに後期緑内障のオッズ比は,対照群に対しそれぞれ2.33(95%CI1.0~5.44),4.06(1.39~11.90)であった(図3)9).緑内障は自覚症状の少ない病気である.転倒や転倒恐怖感の上昇は緑内障による視野障害の自覚がない状態でも生じている.これは,緑内障による視野障害を自覚していなくてもQOLが低下しはじめているということを示している.転倒や転倒恐怖感の発症は,運動などによって一定の割合で予防可能であると報告されている.今後は緑内障による視野障害の進行予防のみでなく,1574あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151日あたり平均歩行分数(分)25020015010050*0転倒恐怖感なし転倒恐怖感あり図3転倒恐怖感を有する症例の1日あたり平均歩行時間転倒恐怖感を有する者の1日あたりの歩行分数を,転倒恐怖感を有さない者と比較したところ,転倒恐怖感を有する者は1日あたりの歩行分数が有意に短かった(p<0.05,Mann-WhitneyU-test).QOLの低下を予防するための介入も必要となると思われる.文献1)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:Theassociationbet-weenprimaryopen-angleglaucomaandfall:anobserva-tionalstudy.ClinOphthalmol6:327-231,20122)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Riskoffallsandmotorvehiclecollisionsinglaucoma.InvestOphthal-molVisSci48:1149-1155,20073)GuseCE,PorinskyR:Riskfactorsassociatedwithhospi-talizationforunintentionalfalls:Wisconsinhospitaldis-chargedataforpatientsaged65andover.WMJ102:37-42,20034)BlackAA,WoodJM,Lovie-KitchinJE:Inferior.eldlossincreasesrateoffallsinolderadultswithglaucoma.OptomVisSci88:1275-1282,20115)YukiK,AsaokaR,TsubotaK:Investigatingtheinfulenceofvisualfunctionandsystemicriskfactorsonfallsandinjurioursfallsinglaucomausingthestrucutureequationmodeling.PLoSOne20158;10:e01293166)Sche.erAC,SchuurmansMJ,vanDijkNetal:Fearoffalling:measurementstrategy,prevalence,riskfactorsandconsequencesamongolderpersons.AgeAgeing37:19-24,20087)RamuluPY,vanLandinghamSW,MassofRWetal:Fearoffallingandvisual.eldlossfromglaucoma.Ophthalmol-ogy119:1352-1358,20128)WangMY,RousseauJ,BoisjolyHetal:Activitylimita-tionduetoafearoffallinginolderadultswitheyedis-ease.InvestOphthalmolVisSci53:7967-7972,20129)YukiK,TanabeS,KouyamaKetal:Theassociationbetweenvisual.elddefectseverityandfearoffallinginprimaryopen-angleglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:7739-7745,2013(62)

屈折矯正手術:わが国の屈折矯正術の社会的問題

2015年11月30日 月曜日

監修=木下茂●連載186大橋裕一坪田一男186.わが国の屈折矯正術の社会的問題井手武南青山アイクリニック屈折は角膜と水晶体の両方の要素で決定される.後者については非常にさまざまな場面で議論されるが,角膜における屈折,とくに屈折矯正手術については眼科医全体であまり教育が行きわたっているとはいいがたい.それによる弊害も将来考えられる.これらついて概論する.●白内障手術と屈折矯正手術白内障手術は全外科手術において最大の件数を誇る.この手術は以前は明るさを取り戻すことが主目的で,度数の精度は高くはなかった.しかし,現在は測定機器,レンズ計算式,手術器具,眼内レンズの発展で術後0.25~0.5D以内の屈折誤差で語られるようになってきた.屈折矯正手術というとLASIK(laserinsitukeratomile-usis)を思い浮かべ,眼科医療従事者のなかでも慎重または批判的なスタンスをとられる方々もいるが,白内障手術はもはや水晶体レベルにおける屈折矯正手術と考えられる.眼光学系において屈折力は水晶体と角膜の屈折力の合計でほぼ決まり,水晶体と角膜の屈折力比は1:2であるので,屈折を語るうえで水晶体のみならず角膜の屈折矯正の知識も必要であるのは自明である.水晶体の屈折矯正手術については是で角膜については非というのは一貫性がないように思われる.しかし,現実として大学病院や基幹病院で自費診療の(おもに角膜)屈折矯正手術のトレーニングを受けられる機会は非常に少ない.そのため眼科医療従事者のなかでも知識レベルや治療に対するスタンスは大きく異なる.現在,当院ではLAISK術後の白内障手術症例の割合が全体の約2割を占める.また,他院からLASIK術後の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算が不安なので手術を依頼されるというケースも多い.これらは現時点では特殊かもしれないが,日本にはまだ白内障になっていない角膜屈折矯正手術(LASIKが代表的)後の患者が多く存在しており,近い将来,そのような患者に全国の眼科医が各々で対応しなくてはならなくなる可能性が高い.そのような際に,眼科医側に角膜屈折矯正手術に関する知識がないと,大きな度数ズレなどが生じかねない.通常のオートケラトメータでは,角膜前後面カーブの比率が一定であるという数学的前提に則って計算されているがゆえに誤差が出やすくなるため,入力す(59)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1ASCRS(アメリカ白内障屈折手術学会)の眼内レンズ計算サイト屈折矯正手術後の眼内レンズ計算はいまだ確立されたものがなく,経験の少ない術者には未だハードルの高い分野である.このサイトでは検査結果の入力をすることにより参考となるIOL度数をある程度の範囲に絞ることができる.る角膜屈折値には工夫が必要である(図1,2).LASIKなどの角膜屈折矯正手術を受けた患者群は見え方に対するこだわりや期待値が高い人々が多いため,時代に逆行するような精度ズレはトラブルに発展する可能性もある.しかし,過去の経験と知識で確立しつつある方法〔米国白内障屈折手術学会(ASCRS)ホームページの利用など〕で対応すれば,大きな誤差なく計算できるようになってきている.●屈折矯正手術ソフト・ハードの浸透度課題屈折矯正手術は基本的に健康保険でカバーされない自費診療分野であるのと,屈折異常以外は問題がない眼に対する手術であるため,期待値が上がる傾向がある.度数ズレ,ハロー・グレアなどが術後発生した場合,もともと矯正視力が低下している白内障手術などでは視力があたらしい眼科Vol.32,No.11,2015157148D-6D42D-6D-6DのLASIK42D36Dとなるはずが・・・48D-6D42D-5.25D-6DのLASIK42D36.75D図2角膜屈折値(K値)の過大評価(南青山アイクリニック,福本光樹先生のご厚意による)上昇して明るくなるメリットがあるため,愁訴があったとしても相殺され問題になることは少ない.一方,自費診療分野の屈折矯正手術の場合,期待値が高いこともありセカンドオピニオンを求めて施術施設以外の医師にかかることが多い.しかし,先述のように眼科医療従事者内での経験・知識レベル,考え方の差が大きいため,説明スタンスも異なってくる.患者側からすると眼科医間で話があまりに異なると眼科医への信頼が失われることも考えられる.他院に相談に行く患者の愁訴が手術に伴いある程度は起こりうるものである場合でも,それは手術や術者に依存する合併症だと強調する医師がいた場合には,施術施設と問題に発展することもある.こうした問題をできるだけ減らすために,治療概要とそれによって得られるメリットと起こりうるデメリットについて,医療従事者が業界全体としてある程度一貫性のある説明をできるようになる必要がある.レンズ誤差が微小でIOL入れ替えが不適切な症例,移植後などの大きな不正乱視がある症例ではLASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)によるタッチアップが適応になることもある.加えて,保険適用になったPTK(phototherapeutickeratectomy)などのためにも,エキシマレーザーや屈折矯正手術の知識は必須となる.1572あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015しかし,屈折矯正手術のためのインフラなどのハードや人材・知識などのソフトを各病院・診療所で確立しようとするのは,医療経済的にも非効率で現実的ではないので,屈折矯正手術関連のハード・ソフトを含めた医療資源の共有化というスキームが必要だと考える.とくにソフト面の知識に関しては,患者を混乱させないためにも習得の必要があると思う.先述したPTKは保険適用になったが,PTKそのもの,そして保険適用という情報は残念ながらまだ多くの眼科医には認識されていない.知らない,もしくはエキシマレーザーに対する批判的スタンスから患者に治療の可能性を伝えていない場合もあるようで,PTK目的で当院に来られるジストロフィなどの患者に「PTKでこれほど簡単に明るくなるのだったら,なぜこの治療があることが今まで知らされなかったのでしょうか?」といわれることもある.●まとめ“LASIK難民”問題など看過できない重要な問題が存在し,一般のみならず眼科医が屈折矯正手術に懐疑的になっており,LASIKを代表とする屈折矯正手術は症例数が減少している.このような影響もあり,実際に手術から撤退する施設も出てきている.しかし,屈折矯正術は必要な眼科医療であり,知識と適応がしっかりしていれば安全と考えられる.一度人材や知識がなくなると,それを回復するには非常に時間がかかる.患者の経過観察ができる施設・人材もなくなると,患者にしわ寄せが来て,眼科全体の問題として認識されてしまう危惧がある.医師と患者が正しい情報と知識を共有し,期待値と提供できる技術レベルのすり合わせを眼科コミュニティ全体でめざすことが大切である.しかし,教科書があるとはいえ,日常臨床であまり遭遇しない,かつこれまでトレーニングを受けたこともないものに対して各個人でのがんばりに期待するのは,これまでの歴史からみても無理がある.教育も目的とした屈折矯正手術関連のハード・ソフトを含めた医療資源の共有化というスキームが,医師にとっても患者にとっても必要だと考える.文献1)http://www.museumofvision.org/exhibitions/?key=44&subkey=4&relkey=352)HeitzRF,EnochJM:LeonardodaVinci:Anassessmentonhisdiscoursesonimageformationintheeye.In:AdvancesinDiagnosticVisualOptics:proceedingsofthethirdinternationalsymposium,Tirrenia,Italy,May1-4,1986(editedbyFiorentiniA,GuytonDL,SiegelIM),p19-26,Springer-Verlag,1987(60)

眼内レンズ:眼内レンズ強膜内固定法の合併症

2015年11月30日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋348.眼内レンズ強膜内固定法の合併症蒔田潤小堀朗福井赤十字病院眼科近年,学会発表も増えている強膜内固定法は優れた術式であるが,合併症も存在する.使用する眼内レンズ(IOL)の特性に起因することが多く,適切なIOLの選択により合併症の発生を減らすことができる.これまで経験した合併症を報告し,対処法についても紹介する.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の強膜内固定法は,水晶体.に依存せず後房にIOLを固定する方法として近年注目されている術式1)である.これまで水晶体落下あるいは後.破損症例に対して行われてきた縫着術は,支持部固定のために両端で2カ所の縫合を要し,2点支持であるために光学面の安定が得られにくい面があった.これに対し,強膜内固定法ではIOL支持部端を2~3mm,強膜内に埋没させる2,3)ため光学面の安定に優れていると考えられる.手技によっては短時間かつ無縫合で手術を終えることも可能とされる.しかし,優れた術式である一方,症例を重ねるうち本法特有の合併症に遭遇した.以下に46例50眼で経験した強膜内固定法での合併症のうち,IOLに関連するものをあげていく.●瞳孔捕獲5眼虹彩の緊張度が乏しい前立腺肥大の内服治療患者,外傷や術後で瞳孔偏位を有する眼では,眼球運動によりIOLの瞳孔捕獲を生じることがある.極大散瞳で捕獲が解除される場合はレーザー虹彩切開術を追加し観察したが,繰り返し瞳孔捕獲をきたした症例についてはプロリン糸のIOL前面通糸(図1),または虹彩縫合(図2)を図1前立腺肥大の内服治療中のIFIS症例術後瞳孔捕獲を繰り返した.IOL前面にプロリン糸を橋渡しし,捕獲を起こさなくなった.行った.これを防止するためには,光学部径の大きなIOLを使用するか,周辺虹彩切除を術中追加する方法が考えられ,効果を得ている.●IOL再脱臼2眼落下IOLをそのまま利用し強膜内固定を行った4例中2例でIOL再脱臼を生じた.1眼はPMMA製シングルピースIOLで,もう1眼はソフトアクリル製3ピースIOLであった.PMMA製の支持部はとくに硬いため,強膜内固定後,支持部湾曲より外方への伸展状態時に生じる内方への力が強く,固定創からはずれやすいと考えた.アクリル製3ピースIOLでは支持部が光学部から抜け落ちていた(図3).両症例ともIOLを摘出し,別のIOLを強膜内固定した.IOLの種類により支持部の引き抜き強度が異なるので,本法には光学部.支持部接合部の強度が強いIOL図2白内障手術創に虹彩嵌頓した楕円形上方偏位瞳孔の症例術後瞳孔捕獲を生じ,3カ所に周辺虹彩切除を順次追加しても瞳孔捕獲を繰り返すため,虹彩嵌頓創付近で虹彩縫合を行った.(57)あたらしい眼科Vol.32,No.11,201515690910-1810/15/\100/頁/JCOPY図3光学部―支持部接合部解離によるIOL再偏位の症例aa:アクリル製3ピースの落下IOLをそのまま利用し強膜内固定した5カ月後,IOLの上方偏位を認めた.再手術時,下方支持部が光学部よりはずれているのを認めた.b:亜脱臼IOL摘出後,毛様体に残っていたIOL支持部の術中内視鏡写真.の使用が望ましい.●IOL傾斜1眼強膜内固定術後のIOL傾斜により視力が低下した症例を経験した.強膜内に埋没された支持部の長さの不均衡により傾斜が生じたと考え,再度強膜内固定を行ったところ,内部乱視が減少し,視力も改善した.●強膜内固定法とIOL特性本法に適したIOLについて考えると,瞳孔捕獲は光学部径の大きなIOLのほうが起きにくい.支持部については,強膜内固定では手術手技により支持部が引き延ばされるため,破損しにくい材質が望ましい.また,眼内操作での自由度はしなやかな素材の支持部のほうが優れている.PMMA製の支持部は先端を把持した際に折れることがあり,剛性ゆえに眼内操作での自由度も低い.一方,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製が扱いやすい.固定後の安定性を考えると,支持部長・支持部間距離(IOL全長)の長いものがよい.これらの理由により,当院では光学部径7.0mmでPVDF製支持部を有し支持部間距離13.2mmであるエタニティーX-70,エタニティーナチュラルNX-70(参天製薬),光学部径は6.0mmであるがローパワーもラインナップにあるアバンシィAN6K,AN6MA(興和創薬)をおもに使用するようになり,合併症は減少した.●おわりにこのほか,IOLに関連しない合併症として,術後一過性の低眼圧を認めたが数日で正常化した.IOL強膜内固定法は今後広まっていくものと思われる.偽落屑症候群や水晶体震盪のある症例など,.内固定できるがZinn小帯が脆弱である場合,将来のことを考えて強膜内固定法に適したIOLを選択しておくのも一つの方法かと考えている.文献1)SchariothGB,PrasadS,GeorgalasIetal:Intermediateresultofsuturelessintrascleralposteriorchamberintraoc-ularlens.xation.JCataractRefractSurg36:254-259,20102)YamaneS,InoueM,ArakawaAetal:Sutureless27-gaugeneedle-guidedintrascleralintraocularlensimplan-tationwithlamellarscleraldissection.Ophthalmology121:61-66,20143)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術.臨眼68:1682-1690,2014

コンタクトレンズ:カラーコンタクトレンズ

2015年11月30日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方.はじめの一歩監修/下村嘉一18.カラーコンタクトレンズ●はじめに本来のカラーコンタクトレンズ(以下カラーCL)は,角膜白斑や無虹彩症などに対し,整容目的・羞明防止などの医療目的に使用されていた.1990年頃から非視力補正用(以下度なし)のおしゃれを目的とするカラーCLを使用する若者が増えるようになったが,度なしカラーCLは生活雑貨店などで雑品として販売され,規制されていない粗悪な製品による深刻な眼障害が問題とされるようになった.そのため,2009年に薬事法が改正され,度なしカラーCLも高度管理医療機器に指定されるようになり,厚生労働省の承認を得たレンズのみが流通するようになった.薬事法改正前に承認されたカラーCLは10種類程度であったが,現在は350種類以上存在するため,すべてのレンズを把握することは困難な状況である.また,眼科医による目の状態やフィッティングのチェックを受けずにインターネットなどで購入し,眼障害を生じるケースも多くみられる.眼科医がカラーCLの特徴を知り,適切なレンズを処方し,ユーザーへの指導を行っていくことが必要である.●特徴カラーCLの最大の特徴は,着色部分が存在することである.着色パターンにより虹彩色を変えるopaqueタイプと,黒目を大きく見せるenhanceタイプ(サークルタイプともいう)がある.多くのカラーCLは,色素がレンズ内に封入されたサンドイッチ構造をうたっているが,色素がレンズ表面に露出しているレンズも存在する.色素がレンズ表面に露出していると,角膜上皮障害や角膜への色素沈着を生じることがある.また,色素がレンズ表面に近い部分に存在すると,レンズ表面に凹凸が生じ,角膜上皮障害の発生やレンズへの細菌付着を助長させる可能性があり1),注意が必要である.●処方カラーCL処方では,通常の透明なSCL同様に問診(55)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学眼科学ののち他覚的・自覚的屈折検査,角膜曲率半径,角膜形状,角膜内皮細胞,細隙灯顕微鏡,眼圧,眼底,涙液検査などのスクリーニング検査を行い,CL装用が可能かどうかについて検討する必要がある.次にトライアルレンズの選択を行うが,カラーCLにおいてはファッション性を重視しレンズを選択することが多いので,実際に装用し患者の満足いく色やデザインを選択してもらった後にフィティングを確認したほうがよい.フィッティングでは,まずセンタリングの確認を行う.カラーCLの着色部分に瞳孔領にかかってしまうと視機能へ影響を及ぼすため,着色中心と瞳孔中心が近い部分にあるか,照度を落としても瞳孔領が着色部分にかからないかを確認する.次にレンズの動きを確認する.Pushuptestや瞬目,眼球運動によるレンズの動きを確認するが,カラーCLでは着色部分があることで動きが大きく見えてしまうので,レンズエッジをみて動きを確認する必要がある(図1).レンズの動きが大きいからといってタイトなレンズを選択すると角結膜障害を引き起こす危険があるため,レンズの種類を変更することも考慮したほうがよい.最後に追加矯正による度数の決定を行う.透明なレンズを装用している場合と比べて,カラーCL装用時はコントラスト感度が低下し2),自覚的な見え方が悪くなることがあるため,過矯正にならないようにする追加矯正を行う.●指導2012年に日本コンタクトレンズ学会が行ったカラーCLに関連した眼障害調査において,眼障害を生じたカラーCL装用者のうち,レンズケアが正しく行われていたのは33.4%,定期検査をまったく受けない人は79.8%であり3),カラーCL装用者のコンプライアンス不良が眼障害の一因となっている.カラーCL装用者の眼障害を減少させるには,目の状態やケア方法をチェックするための定期検査の必要性を説明し,ケア方法を含めたレンズの取扱いについて繰り返し確認していくことが大あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151567

写真:前眼部OCTによる結膜弛緩症の観察

2015年11月30日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦378.前眼部OCTによる結膜弛緩症の観察久保田久世東北公済病院眼科図1結膜弛緩症の症例(67歳,女性)主訴は流涙.下方涙液メニスカス部を弛緩結膜が占拠している.瞬目に伴い弛緩結膜の可動性を認める.図2図1の症例の前眼部OCTによる涙液メニスカス部縦断像と正常像a:開瞼直後,b:開瞼維持時.メニスカス部を弛緩結膜が占拠し,結膜上皮下に低反射領域がみられる.OCT像より,余剰結膜量や瞬目に伴う可動性を定量評価できる.c:正常眼.26歳,女性.メニスカスに涙液貯留がみられる.(53)あたらしい眼科Vol.32,No.11,201515650910-1810/15/\100/頁/JCOPY結膜弛緩症とは,襞状の余剰な結膜が眼表面と眼瞼の間にある球結膜の変化であり1),流涙症の原因疾患のひとつである.流涙症をきたすこの疾患の病態としては,弛緩した結膜が涙液メニスカス部を占拠して眼表面での涙液の流路を遮断することによる導涙性流涙と,角膜上の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進を介して眼表面を刺激することによる分泌性流涙の2つの機序が混在する2).結膜弛緩症の診断は,細隙灯顕微鏡と涙液のフルオレセイン染色による涙液メニスカス部の観察により比較的容易である.しかし,流涙に対する結膜弛緩症の治療の観点からみると,弛緩結膜の範囲と量の観察のほかに,上皮障害の評価,涙液分泌機能,涙点以降の涙道の通過障害の有無や,眼瞼弛緩などの眼瞼異常の有無,また半月襞や涙丘の耳側変位の有無などの病態評価が必要である.ことに外科的治療を行う際は適切な弛緩結膜量の把握が必要であるが,現在その定量的な評価方法はない.近年,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が登場し,角膜や隅角の観察のみならず,緑内障術後の濾過胞の評価3)や,涙液メニスカスの涙液量評価,涙液クリアランス測定4)にも応用されている.本症例(図1)のような結膜弛緩症の涙液メニスカス部を前眼部OCTで観察すると,弛緩した余剰結膜がメニスカス部を占拠している断層像が観察される(図2a,b).本症例に使用したフーリエドメイン方式前眼部OCT「CASIA(トーメーコーポレーション)」では,専用の解析ソフトを用いて任意の部位の距離や断面積を計測することが可能であり,それにより,座位でのメニスカスに占拠する部分の余剰結膜を定量評価することが可能である.さらに動画撮影機能により,瞬目に伴うメニスカス部の結膜変化を観察することが可能である.本症例では,開瞼直後に余剰結膜が角膜表面を上方向に伸展し,開瞼保持時は経時的に結膜が下方移動し短縮する結膜の動的変化が観察された.また,本症例では,余剰結膜上皮下の領域に,瞬目運動で可変する低反射領域が観察された.結膜弛緩症が,病理学的に結膜下の弾性線維の断裂や膠原線維の減少,リンパ管拡張などを起こし,結膜組織の強膜からの.離がみられるという報告から5),この低反射領域は,結膜の粘膜固有層内の間隙や,リンパ管拡張部,結膜と強膜間の.離間隙を示していると考えられた.前眼部OCTによる結膜弛緩症の観察は,外科的治療の結膜短縮量決定の一助になる可能性がある.また,細隙灯顕微鏡では評価しにくい結膜弛緩症の動的な病態評価や,弛緩結膜とその結膜下組織の病理の解明にも有用である可能性が示唆された.文献1)MellerD,TsengSC:Conjunctivochalasis:literaturereviewandpossiblepathophysiology.SurvOphthalmol43:225-232,19982)YokoiN,InatomiT,KinoshitaS:Surgeryoftheconjunc-tiva.DevOphthalmol41:138-158,20083)SinghM,ChewPT,FriedmanDSetal:Imagingoftrab-eculectomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoher-encetomography.Ophthalmology114:47-53,20074)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearlyphasetearclearancebyanteriorseg-mentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol92:e105-e111,20145)WatanabeA,YokoiN,KinoshitaSetal:Clinicopathologicstudyofconjunctivochalasis.Cornea23:294-298,2004

黄斑上膜に対する硝子体手術の侵襲

2015年11月30日 月曜日

黄斑上膜に対する硝子体手術の侵襲SurgicalInsultinVitrectomyforEpiretinalMembrane築城英子*はじめに黄斑上膜症例は歪視・違和感などを自覚しているが視力良好な場合も多い.そのため,他の増殖性疾患に対して失明を防止する硝子体手術と異なり,黄斑上膜患者はqualityofvision(QOV)を向上させる目的で硝子体手術を受ける.黄斑上膜に対する硝子体手術は確立された手術であり,新しい手技など日々進化し続けてはいるが,術者の技量にかかわらず広く行われている.しかも近年は,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)・広角観察システムなどにより低侵襲で安全に安定した結果が期待できるようになった.しかし,手術侵襲による視機能低下の危険性もなくなったわけではない.本稿では,黄斑上膜に対する硝子体手術における術中侵襲・術後合併症・侵襲評価について述べる.I術中侵襲手術侵襲という観点でMIVSは,以前行われていた20ゲージ(G)硝子体手術に比較してさまざまな点で優れている.創が小さく無縫合であるために手術時間は短縮され,術後炎症や結膜充血も少なく,術後異物感が軽減され,患者満足度も高い.実際,術後の傷口がほとんどわからないことも多い(図1).縫合による惹起乱視もないので,早期の視力改善が期待できるなどの報告1,2)もある.また,灌流量を少なくすることも侵襲を軽減させることになるため,MIVSは低侵襲手術という点で黄図1術2日後の写真刺入部(→)は,目立たない.斑上膜手術に最適である.そのほか術中侵襲を生じる可能性があるものに眼内照明,術中使用薬剤などがあげられる.眼内照明は硝子体手術には欠かせない器具であるが,その網膜光障害についてはさまざまな研究,報告3)がある.同一光源を用いた場合,MIVSでは従来の20Gの照明と比較しておよそ半分程度の照度といわれ,侵襲は少ないが術野が暗いことが問題であった.新しい高輝度の光源を用いた照明装置に改良されたが,明るい照明は手術を簡便にする一方,光毒性に注意をはらう必要がある.短波長の光には網膜毒性が存在するため,安全性確保のためにキセノン光源にはフィルターが組み込まれているが,低侵襲手術*EikoTsuiki:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座眼科・視覚科学〔別刷請求先〕築城英子:〒852-8501長崎市坂本1-7-1長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座眼科・視覚科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(45)1557PreoperativePostoperative図22症例の術前後Goldmann視野0.5%ICGを使用し内境界膜を.離したところ,術後に鼻側視野欠損が生じていた.図3術後低眼圧症のOCT写真70歳,男性.右眼の網膜前膜手術後低眼圧が持続した.術後5日目(右眼圧3mmHg)のOCT写真で網脈絡膜の皺壁が認められる.(μm)★superior(μm)nasal140140120120100100808060604040202000術前術直後1M後3M後6M後12M後24M後術前術直後1M後3M後6M後12M後24M後(μm)★inferior(μm)temporal140140120120100100808060604040202000術前術直後1M後3M後6M後12M後24M後術前術直後1M後3M後6M後12M後24M後対応有ANOVA,Dunnettにて有意差あり★p<0.05図4術後網膜神経線維層厚変化視神経周囲網膜神経線維層は,術直後にはどの部位でも有意に肥厚し,鼻側以外はその後術前より有意に菲薄化し,術2年後まで菲薄化は続いた.る手術後の視神経周囲RNFL厚を長期的に観察した報告15)もいくつかある.これらの報告ではRNFL厚が術後菲薄化していくというものであり,筆者の施設で検討した結果でも,視神経周囲RNFL厚は術後早期にいったん肥厚し,術3カ月後から徐々に薄くなり(術前より有意に菲薄化し),鼻側以外は2年後まで菲薄化が続いた(図4).同様に早期の肥厚を示す報告もあり,黄斑上膜の牽引によるRNFLの腫脹の残存や術後炎症による視神経浮腫によるものではないかと考察されている.菲薄化はとくに耳側RNFL厚で著明であり,後部硝子体.離作製や黄斑上膜・内境界膜.離操作自体の器械的影響や光障害,染色剤の影響などさまざまな手術侵襲によるものが原因と考えられているが,筆者の施設の検討では後部硝子体.離の有無や染色剤の有無で菲薄化に差はなく,この菲薄化と視力・視野の相関は認められなかった.このように術後長期にわたり持続する変化は,硝子体手術そのものによる侵襲の可能性があると考えられる.黄斑上膜に対する手術後,視力が改善しても網膜感度が低下する報告18)が散見される.この網膜感度の低下も手術侵襲の影響が考えられる.中心網膜感度を測定する装置としては,以前からオクトパス視野計(Haag-Streit社)やHumphrey視野計(CarlZeiss社)があり,術後の網膜感度改善について検討されたが有意な改善を認めなかった.その後,自動トラッキングシステムが搭載されたMP-1(NIDEK社)が登場し,中心網膜感度・固視の状態をより正確に測定できるようになったが,術前後での有意な感度改善は認めなかった.さらに刺激幅が広くなり微細な網膜感度の変化をとらえられるようになったmaiaTM(トプコン社)による検討では,術前後で統計学的有意差をもって網膜感度が改善したと報告19)されたが,一部には術後視力改善したが中心網膜感度が改善しなかった症例もあった.網膜感度や固視はIS/OSラインの形状や黄斑部視細胞の構造変化をより鋭敏に反映しているとの報告20)もあるため,網膜感度測定は黄斑上膜の手術侵襲評価を定量的に評価するのに有用である可能性がある.最後に術前後の眼底血流評価法として筆者の施設で頻(49)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151561図5レーザースペックルフローグラフィLSFG-NAVITMを用いて血流マップ(右上)を作成し,視神経乳頭内縁に沿ってラバーバンド(解析範囲)を設定すると(左下),自動でMeanBlurRateが算出(左上)される.背景を含まない血管の平均血流値(MBR)としてMV(血管領域血流).MT(組織血流)の値を解析に用いる.–

黄斑上膜のChromovitrectomy

2015年11月30日 月曜日

黄斑上膜のChromovitrectomyChromovitrectomyforEpiretinalMembrane中尾新太郎*江内田寛**はじめにChromovitrectomyとは,術中視認性を向上させる目的でアジュバントといわれる手術補助剤を用いて行う硝子体手術である.Chromovitrectomyという用語は2002年の米国Vailmeetingの際に,Krollによって“Themagiccolorsinchromovitrectomy”という演題ではじめて紹介された.chromoとは英語で色や色素を表すため,色素などの手術補助剤を併用した硝子体手術をおもに呼ぶが,現在ではトリアムシノロンによる可視化剤も含んだ概念となっている.2000年にKadonosonoとBurkの2つのグループはインドシアニングリーン(indocyaningreen:ICG)が内境界膜.離の視認性向上に有用性であることを報告し,世界的に使用されるようになった.しかし,その幅広い使用とともに網膜毒性など安全性に関する問題も議論されてきた.その後,安全性を克服するためブリリアントブルーG(brilliantblueG:BBG)をはじめ,新しい色素の報告があり,その有用性からchromovitrectomyは硝子体手術に不可欠なものとなっている.最近ではその視認性向上効果のみならず,アジュバントのさらなる付加価値も着目され研究が進んでいる.今後さらなる発展が期待されるchromov-itrectomyの分野であるが,今回黄斑上膜に対するchromovitrectomyにスポットを当て最近の知見を交えて概説する.I硝子体手術の意義黄斑上膜は半透明な膜様組織であり,後部硝子体皮質にさまざまな細胞成分が増殖・形態変化することで膜肥厚や収縮を引き起こす.このような病理により網膜が牽引され視力低下や歪視などの症状を伴うとされている.以上の点からも膜組織の確実な.離除去が重要であることは容易に理解できる.かつては同時に内境界膜が.離される症例以外,黄斑上膜のみを.離し手術を終了していた.しかし,現在では多くの施設において黄斑上膜.離後に内境界膜.離が併施されている.内境界膜.離はその視力予後に対して一定の見解はなく,術後の黄斑耳側領域の網膜の菲薄化を認めるという報告もあるが,黄斑上膜の再発予防という観点から施行すべき手技と筆者らは考えている.手術を行う際,切除(または.離)すべき①硝子体,②黄斑上膜,③内境界膜は,視認困難な組織である.これら視認困難な組織により形成されている個々の病態把握は,術中に術者が安全で確実な手術を遂行するうえで重要なポイントとなる.このような点からも視認性を向上させるchromovitrectomyは,より安全性の高い手術といえる.IIトリアムシノロンによるChromovitrectomyの変遷と実際硝子体術者にとっては,まずは透明な硝子体ゲルをいかに効率良く安全に切除するかが重要であり,これは黄*ShintaroNakao:九州大学大学院医学研究院眼科学分野**HiroshiEnaida:佐賀大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕中尾新太郎:〒812-8582福岡県福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(41)1553図1トリアムシノロンを用いた黄斑上膜の.離トリアムシノロンの顆粒が黄斑上膜に付着することで視認性が向上する.図2ブリリアントブルーGを用いた内境界膜.離ブリリアントブルーGは内境界膜への染色選択性が高く,内境界膜の視認性が向上する.に露出した状態で染色することが望ましい(図2).硝子体の残存はBBGの染色性を妨げるため,十分な後部硝子体除去も良好な染色性にとって重要である.また,染色による視認性が不十分な場合には複数回の染色を行うが,それによっても細胞傷害性が低いことが示されている.BBGについては,現在のところEUを除く日本や米国などにおいて薬剤としての承認を得られていないため,使用にあたっては倫理委員会での承認を得た後,自家調整や製剤を個人輸入する必要がある.EUではすでにILMBLUERとして製剤化されているため,個人輸入して使用することも可能である.近年,Babaらは黄斑円孔手術ではあるが,ICGとBBG併用のない内境界膜.離後の視機能を比較し,BBGが術後早期から有意な視機能改善と網膜感度を得たことを報告している4).内境界膜はその特性として硝子体側に比べ網膜側で剛性が強いことが知られており,その特性故に.離した内境界膜はカールする.最近の報告ではICG,BBGともに内境界膜の剛性を増加させることが示されている5).このことにより,ICG,BBGにより染色された内境界膜は剛性を増すことでより把持しやすく,.離手技が容易表1Chromovitrectomyにおけるアジュバントの組織染色選択性と付加価値になることが考えられる.IVChromovitrectomyの付加価値近年,choromovitrectomyはその視認性向上による手術への有益性のみならず,プラスアルファの効用が着目されている.上述したようにトリアムシノロンの抗炎症作用,またICGやBBGによる内境界膜の剛性増加による操作性向上などもそのひとつである.基礎研究の分野では,BBGは染色剤だけではなく,P2X7受容体の選択的なアンタゴニストであることが知られている.組織傷害において組織中に大量のATPが排出されるが,ATPはP2X7受容体のアゴニストであり,結合により細胞死を引き起こすことが知られている.そのためBBGはATPと拮抗し,ATP依存的な細胞死を抑制することが脊髄損傷などの動物モデルにおいて報告されてた.網膜においても,動物モデルなどの知見からBBGにより視細胞のアポトーシスが抑制されることが示され,BBGの網膜神経保護効果が示唆されている6).網膜に侵襲が加わる硝子体手術ではBBGの染色剤としての効用だけでなく,神経保護効果も期待される.VChromovitrectomyの今後今回,紹介したアジュバントに加え,臨床研究レベルでは多くの色素の可能性が報告されている.しかし,その多くは国内ではオフラベルか未認可のものを使用しているのが現状である.今後これらアジュバントの早期承認を望むとともに,その付加価値などがより安全なchromovitrectomyにつながることに期待したい.(43)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151555

黄斑上膜を伴う分層円孔の手術

2015年11月30日 月曜日

黄斑上膜を伴う分層円孔の手術SurgeryforLamellarMacularHole木村修平*白神史雄*はじめに黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)を伴う分層円孔は,一般には層状黄斑円孔(lamellarmacularhole)とよばれ,1975年,Gassにより,.胞様黄斑浮腫から全層黄斑円孔に至る一過程として初めて報告された1).その後,層状黄斑円孔がすべて全層黄斑円孔に至るとは限らないとの報告もあり,現在までのところ層状黄斑円孔の発症機序は確定していない2).しかしながら,最近の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の進歩により,類縁疾患である黄斑偽円孔や全層黄斑円孔とは,はっきりと区別ができるようになった.Witkinらによれば,層状黄斑円孔の臨床診断は以下のように定義されている.1)黄斑の輪郭が不規則,2)黄斑内層が断裂している,3)網膜内層と外層に裂隙が生じている,4)全層黄斑円孔ではない3).層状黄斑円孔の患者は視力が保たれていることが多く視力予後も良い4).しかしながら,なかには視力不良や歪視を訴える患者もいる.今のところ層状黄斑円孔に対する治療は硝子体手術であり,自然経過と手術加療を比較した論文では手術加療のほうが良い結果となると報告されている5).以下,層状黄斑円孔の発症機序,OCT所見,術中所見の特徴,硝子体手術とその結果,代表症例,考察と今後の課題の順に述べる.I層状黄斑円孔の発症機序層状黄斑円孔の発症には2つの機序が考えられる6).1.硝子体牽引による発症機序硝子体の牽引により網膜内層が網膜外層から解離する.そのときに黄斑色素やグリア細胞を伴った網膜組織が後部硝子体界面に沿って移動する(図1a~c).硝子体黄斑牽引が存在するか,もしくは後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)が起こった後に残存する後部硝子体皮質が収縮した場合,患者は視力低下や歪視を自覚するようになる.2.ERMに続発する発症機序ERMにより求心性の牽引が黄斑部にかかり,黄斑偽円孔がまず形成される.黄斑偽円孔のいくらかの患者では遠心性の牽引が黄斑部にかかる症例もあり,そういったケースでは網膜外層から網膜内層の乖離が起こり,黄斑色素やグリア細胞を伴った網膜組織が網膜面上に移動する(図1d~f).II層状黄斑円孔のOCT所見の特徴層状黄斑円孔の診断にはOCTが必須である.層状黄斑円孔のOCT所見には次の2つの特徴がある.1つ目は網膜の内層と外層の乖離であり,2つ目は網膜上に形成された膜状の構造物である(以下,便宜上,この層状*ShuheiKimura&FumioShiraga:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座眼科学分野〔別刷請求先〕木村修平:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(33)1545硝子体牽引による発症機序ERMに続発する発症機序図1層状黄斑円孔の形成機序a:黄斑部に遠心性の牽引がかかる(.:牽引の方向).b:網膜内層と外層が解離する.c:後部硝子体皮質,内境界膜を足場としてグリア細胞が黄斑色素を伴って遊走する(.:グリア細胞の遊走の軌跡).d:ERMにより黄斑偽円孔が形成される().e:ERMにより遠心性の牽引がかかり,網膜内層が網膜外層から解離する.f:ERMに沿ってグリア細胞が黄斑色素を伴って遊走する(.:グリア細胞の遊走の軌跡).(文献6より改変して引用)層状黄斑円孔lamellarmacularhole(LMH)図2黄斑偽円孔と層状黄斑円孔のOCT所見の比較a:層状黄斑円孔のOCT画像.黄斑部に非全層性の黄斑円孔を認める.黄斑偽円孔とは違い,網膜内層と外層の解離を認め(),円孔周囲の網膜上に膜状構造物を認める(→).b:黄斑偽円孔のOCT画像.黄斑部に非全層性の黄斑円孔を認める.黄斑周囲にERMを認める(→).1546あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(34)図6右眼層状黄斑円孔の1例(55歳,男性)術前矯正視力は0.8であった.層状黄斑円孔に対する硝子体手術(硝子体切除+denseERM温存+内境界膜.離+空気タンポナーデ)を行い,術後7日で黄斑形態の改善を認め,術後1カ月では視力1.5まで改善した.眼底自発蛍光では,術前に黄斑部に過蛍光を認めていたが,術後には均一な低蛍光に改善している.OCTでは,術前に内層と外層に解離を認めていた層状黄斑円孔が,術後1カ月で正常な黄斑形態に回復している.(文献11より改変して引用)-

黄斑上膜における内境界膜切除の是非

2015年11月30日 月曜日

黄斑上膜における内境界膜切除の是非ControversyoverInternalLimitingMembranePeelinginSurgicalTreatmentforEpiretinalMembrane鈴間潔*はじめに内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)切除は1999年ごろから特発性黄斑円孔の手術で併用されるようになり,2000年にKadonosonoらがインドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)でILMを染色して.離する方法を報告1)して以来,広く一般的に行われるようになった.現在ではとくに特発性黄斑円孔ではILM切除を併用することにより手術成績が飛躍的に改善され,必要不可欠な手技となった.また,強度近視眼における黄斑円孔網膜.離,網膜分離症の治療成績もILM切除併用により改善されることが明らかとなり,糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症,増殖硝子体網膜症においても施行されることが多くなっている.以上のように近年の硝子体術者にはILM切除をマスターすることが要求されているが,初心者にとっては非常に大きな関門となっている.I実際のILM切除染色の方法としてはICG(図1),トリアムシノロン(図2),ブリリアントブルーG(brilliantblueG:BBG,図3)などがある(詳細は別稿「黄斑上膜のChromovit-rectomy」を参照).網膜上膜(epiretinalmembrane:ERM)手術の場合,ERM.離を行ってからILM染色をするか,染色を行ってからERM.離,ILM切除を行うかは膜の性状や術者の好みによって分かれるが,毒性の少ないBBGを用いる場合は複数回の染色をしてもよいと考えられる.ILMに切開を加えて立ち上げてからつかむか,直接鑷子でILMをつかむ.ちぎれやすいため一塊として.離することが重要である..離を進めるときは鑷子の先を可能な限り網膜に近づけて,網膜の接線方向のベクトルが大きくなるようにすることが大きく.離するコツであるが,鑷子の先が網膜を傷つけてはいけない.乳頭と黄斑の間はILMが厚く,周辺ほどILMが薄く2)ちぎれやすい.IIProsILM切除の効果は,目に見えないような薄い後部硝子体膜の網膜からの完全除去と網膜の伸展性の向上であることから,とくに黄斑上膜では再発を1/3に減らすという報告もある3).また,非常にやわらかくて一塊となって取れないERMや中心窩に小さくERMがある場合は,ILMごとERMを取らないとむずかしい手技となる.また,ERM.離だけでは約1/4でILMがintactで残っている4)という報告もある.多くの症例では中心窩のILMはERMと同時に取れているが,残ったILM上にERMが再発すると中心窩の網膜がリング状に締め付けられる状態になることもある(図4).再発ERMは膜として.離できるほどの硬さ,厚さがないことも多く再手術を決断するタイミングがむずかしい.再手術のときはILM切除を行うことになるが,初回手術で部分的にILMが破れていてきれいに染色されないと,一塊で切除するのがむずかしいことがある(図5).糖尿病黄斑*KiyoshiSuzuma:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕鈴間潔:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(29)1541図1ICGによるILM染色染色性が高い.図2トリアムシノロンの粒子によるERM,ILMの可視化ERMとILMの見分けが困難なこともある.図3BBGによるILM染色毒性が少なく複数回の染色操作が可能.図4ERM.離後20年経って再手術した症例BBGで中心窩周囲にリング上にILMが残っているのがわかる.その上にERMが再発して中心窩をリング状に締めつけていた.図5再発ERMの手術染色も不均一になることが多い.ERM自体も柔らかく,ILMもところどころ損傷しているので一塊として切除するには熟練を要す.図6増殖糖尿病網膜症で黄斑浮腫と牽引性網膜.離を伴う黄斑円孔ILM切除とinvertedILM法を行った.ParsplanavitrectomywithUS35.1%removaloftheposteriorhyaloidIntl31.4%ParsplanavitrectomyUS31.0%withILMpeelingIntl49.0%JetreainjectionIntl14.4%US24.1%ObservationUS6.5%Intl3.1%US3.3%OtherIntl2.1%n=6840102030405060図7ASRS(AmericanSocietyofRetinaSpecialists)のPATsurvey2013米国外ではILM切除を行う術者が多い.A.毛様体扁平部硝子体切除による後部硝子体の29.4%58除去B.毛様体扁平部硝子体切68.5%135除によるILM.離C.Jetrea(plasmin製材)0.5%1注射D.経過観察1.5%30E.その他0.0%回答者数:197図8日本網膜硝子体学会が同じ質問で行った調査(PAT.j)日本ではILM切除を行う術者がもっと多い.IndocyaninegreenTriamcinoloneTrypanblueBrilliantBlueGNoneOtherUS62.2%Intl10.8%US14.9%Intl5.6%US2.0%Intl7.2%US10.0%Intl63.1%US7.3%Intl4.6%US3.5%Intl8.7%n=685A.インドシアニングリーンB.トリアムシノロンC.トリパンブルーD.ブリリアント・ブルーGE.なしF.その他0102030405060図9ASRS(AmericanSocietyofRetinaSpecialists)のPATsurvey2013米国内ではICG,米国外ではBBGが多かった.26.3%5222.7%450.5%147.5%942.0%41.0%2回答者数:198図10日本網膜硝子体学会が同じ質問で行った調査(PAT.j)日本は米国内と米国外の中間であった.

黄斑上膜の硝子体手術

2015年11月30日 月曜日

黄斑上膜の硝子体手術VitrectomyforEpiretinalMembrane平野佳男*はじめに黄斑上膜の硝子体手術は,黄斑部手術において比較的頻度が高い.複雑な手技を必要とせず硝子体手術の入門篇とも考えられているが,視機能に直結する黄斑部を触る手術であり,より安全で侵襲の少ない手術が求められる.硝子体切除に関しては網膜周辺部に変性や裂孔がなければ,通常,周辺部硝子体切除の必要はないが,手術前に黄斑上膜の状態,後部硝子体.離の有無,周辺部網膜裂孔・網膜変性の有無などを把握しておくことは手術に臨むうえで非常に重要である.I手術適応手術適応を決める際には,術後視力がどの程度得られるのかを予想できれば,判断の役に立つ.術前のellip-soidzoneやconeoutersegmenttips(COST)lineの状態などが視力予後に影響する因子として報告1,2)されているが,熊谷らは,術前の視力と年齢で術後視力を予想する予測視力値の表を報告している3).その論文によると,術後矯正視力1.0を得るためには,40歳代と50歳代では,術前矯正視力が0.5以上,60歳代と70歳代では0.7以上,80歳以上では1.0以上となっている.患者説明の際に目安として使用できる可能性がある.また,視力低下が軽度でも変視症の訴えが強い場合も手術の適応になり得るが,変視症は残存することが多く手術前にその旨をしっかりと説明しておく必要がある.II白内障手術硝子体手術後の核白内障の進行が50歳以上では著明との報告4)があり,当院では50歳以上と50歳以下でも白内障を認める症例では白内障同時手術を行っている.眼内レンズ挿入は硝子体手術前,後どちらでもかまわないが,硝子体切除後の度数は近視化するとの報告5,6)もあり,目標ターゲットよりも少し遠視となるように度数を選択している.III広角観察システム広角観察システムを使うとcorevitrectomy,後部硝子体.離作製,周辺部硝子体切除までを1つのレンズで行うことが可能である(図1).後部硝子体.離を作製する際には,医原性裂孔形成に気をつけないといけないが,広角観察システムを使用すると広範囲に硝子体と網膜を観察できるため,周辺部の医原性裂孔形成を防ぐことができる.黄斑部などの後極部の操作では,拡大率,解像度,立体視ともに劣るため,後極部観察用の接触型レンズを使用している.IV後部硝子体.離作製Corevitrectomyを行い,後部硝子体皮質前ポケットの前壁を切除する.黄斑上膜の症例ではほとんど後部硝子体.離が完成しているが,未完成の症例も認められるため,マキュエイドRを用いて硝子体を可視化する.後*YoshioHirano:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕平野佳男:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(23)1535図7硝子体黄斑牽引症候群の術中光干渉断層計所見(ZEISS図6ZEISSRESCANR本体(カールツァイス社RESCANR)(カールツァイス社より提供)より提供)術中視野内に光干渉断層計ライブ画像が表示されている.図8図7と同一症例の術中光干渉断層計所見(ZEISSRESCANR)(カールツァイス社より提供).離されている内境界膜が確認される().