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眼内レンズ: 眼内レンズ嚢内二次挿入

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010510910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ (IOL)二次挿入IOL を二次挿入では,固定法として前房固定,毛様溝固定, 内固定,毛様溝縫着の 4 つの選択肢がある.水晶体 と毛様小帯に損傷がない場合には,毛様溝固定を選択することが一般的であるが,なるべくなら 内固定する1). 晶体 内固定の 位性水晶体は,①血管やリンパ管,神経が存在しないといった,生体内における特有の隔離性をもった器官であるため,水晶体 内は異物である IOL を挿入するには最適な環境であるということ,② 内固定された IOL は偏位が少ないということから,水晶体 内は IOL の理想的な固定位置とされている.このことから,水晶体摘出術と同時に IOL を挿入する場合には, 内固定が第一選択となっている.しかし,無水晶体眼に対して IOLを二次挿入する場合では,毛様溝固定あるいは毛様溝縫着が選択されることが多い.なぜ,二次挿入では IOLの固定に有利な 内固定が選択されていないのであろうか.水晶体 がない場合や Zinn 小帯断裂がある場合では毛様溝縫着を選択せざるをえない.しかし,前 と後 が癒着している症例では,癒着を解除することができれば IOL を 内に固定できるはずである.前 と後 の癒着を解除することが困難であるという理由から 内固定が選択されていないように思われる. 術方法前 と後 の癒着の程度は,前 切開断端部が最も強い.前 切開断端部の癒着を解除できれば,周辺部の癒着は粘弾性物質にて容易に外すことができる.ここで,当科での IOLツ黴€ 内二次挿入の手術方法を紹介する.(1)サイドポートを作製し,粘弾性物質にて前房形成(51)する.(2)プッシュプル鈎を用いて前 と後 の癒着を解除する.このとき,前 切開断端部の癒着の程度は均一ではないため,線維化の弱い場所から癒着を外し始め,そこを取っ掛かりとして癒着を解除していくとよい.これは,瞳孔縁に沿って全周に虹彩後癒着のある症例に対する白内障手術のときの癒着を解除していく要領と同じである.(3)すべての癒着を解除した後に,強角膜創を作製し,粘弾性物質を水晶体 内に注入する.(4)IOL を 内に挿入する.(5)I/A(灌流/吸引)チップにて粘弾性物質を吸引する.(6)眼圧を調整し,手術終了.前 切開断端部の癒着の程度は症例により異なる.粘弾性物質を前房内に注入するだけで容易に癒着を解除できる症例もあれば,まったく歯が立たない症例もあればとさまざまである.無理に癒着を解除すると後 破損を起こす可能性があるため,癒着の強い症例では,無理をせず毛様溝固定に変更する.二次手術時の散瞳状態によっては,前 切開断端部が虹彩の下に隠れてしまい見えない場合がある.このような症例では,イリスリトラクターを用いて瞳孔を拡張することにより,前 切開断端部を直視下にて確認することができる. 験例筆者らは,水晶体 に損傷のない無水晶体眼に対してIOL 二次挿入を行う場合には, 内固定を第一選択としている.2004 年 8 月から 2009 年 3 月の間に筆者が IOL 二次挿入を行った連続症例 192 例 198 眼のうち,術前より水晶体 が損傷していたため,計画的 IOL 縫着術を施行した 99 例 103 眼と計画的毛様溝固定術を施行した 16安宅伸介大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学眼内レンズセミナー 監修/大鹿哲郎281.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ツ黴€眼内レンズ 内二次挿入無水晶体眼に対する眼内レンズ二次挿入では前房固定,毛様溝固定, 内固定,毛様溝縫着の 4 つの固定法がある.このなかで, 内固定が最も理想的な位置であるが,一次手術から期間の経った症例では,前 と後 が癒着しているために 内固定を選択されないことが多い.しかし, 前 と後 の癒着を外せる症例は意外と多い.———————————————————————- Page 2例 17 眼を除外した 78 例 78 眼,水晶体摘出術(一次手術)から IOL 二次挿入術までの期間(5 日から 17 年,中央値 21 日)を対象とし,計画的 IOLツ黴€ 内二次挿入術を試みた結果,78 眼中 74 眼(94.9%)は 内に IOL を挿入できた.一次手術から二次手術までの期間は,前 と後 との癒着の程度に影響を及ぼす要因として重要である.しかし,一次手術から 10 年経過しているにもかかわらず,前 と後 の癒着を解除することができた症例(図1)がある一方,一次手術から 51 日目であってもまったく癒着を解除できない症例(図2)もあるため,一次手術からの期間以外の要因もあると思われる.Can opener法で前 切開が行われていた症例では,前 切開断端部が不連続であり,癒着を解除できなかったことを経験している.この症例は canツ黴€ opener 法で前 切開が行われていた時代に白内障手術が施行されていたため,一次手術から長期間経過していたことも要因であったかもしれない.しかし,鋸歯状の前 切開部は癒着を解除する取っ掛かりすら見つけることができなかった.また,シリコーンオイルを注入されていた症例(図2)も前 と後 との癒着が強い.これは,シリコーンオイルによる影響なのか,シリコーンオイルを注入しなければならないような症例では術後炎症が強いためなのかは不明であるが,いずれにしても術後炎症が強い場合や炎症が持続していた場合では癒着の程度が強くなる.以上の経験から現時点では,前 と後 との癒着に影響を及ぼす要因として,一次手術からの期間,一次手術時の術式,一次手術後の炎症の程度があげられると考えている.文献 1) Steinert RF, Arkin MS:Secondary Intraocular Lenses, Cataract Surgery Techniques, Complications, and Manage-ment(Steinert RF ed), p429 441, Saunders, Philadelphia, 2004図 1 10年前に超音波乳化吸引術(PEA)が施行されていた症例(23 歳,男性)a : 周辺部に Soemmering 輪がみられる.前 切開断端部に沿って癒着を解除.b : 周辺部に増殖した水晶体上皮細胞を灌流吸引にて除去.c : IOL を 内固定した後に前 切開断端部を切除.d : 手術終了時写真.図 2癒着を解除できなかった症例(25 歳,男性)受傷後 2 週間目に当科を受診した両眼外傷性網膜 離症例.右眼は 300°の鋸状縁裂孔を認め,PEA 併用 23 ゲージ硝子体手術を施行し,シリコーンオイルを硝子体内に注入した.一次手術後 51 日目に IOLツ黴€ 内二次挿入を試みるも前 と後 の癒着が強く解除できなかった.abcd

コンタクトレンズ: 私のコンタクトレンズ選択法(アキュビューRオアシス邃「乱視用)

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010490910-1810/10/\100/頁/JCOPYツ黴€ 乱視用ソフトコンタクトレンズ(SCL)の選択乱視用 SCL は各社から多くのブランドが販売されているが,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,チバビジョン株式会社,ボシュロム・ジャパン株式会社の3 社の使い捨ての乱視用 SCL を表1に示す.それらのなかでもワタナベ眼科で最も処方が多いのが,アキュビューRオアシスTM乱視用である(図1).2008 年 7 月に 2 ウィークアキュビューRトーリックが販売中止になったが,それに比べると,アキュビューRオアシスTM乱視用はアクセラレイテッド・スタビライゼ ー シ ョ ン・ デ ザ イ ン(Accelerated Stabilization Design:ASD)で軸の安定性が格段に良くなり,シリコーンハイドロゲルの素材で Dk/L 値が約 4 倍も増えた(表2).処方しやすくなったうえに,乾燥感なども減り,移行しても装用者のほとんどは不満がなかった.ただ,(49)欠点がないわけではない.滑りやすいために,外すときにゆっくり外さないと取れにくい.また,化粧品がつきやすいという訴えはある.ツ黴€ ASDという新しいデザインアキュビューRオアシスTM乱視用の ASD というデザインは,ダブルスラブオフのデザインを基本に,軸の安定性を向上させたうえにスピーディな安定をさせるためにアクセラレイト・スロープをつけている(図2~4).開瞼時は上眼瞼はレンズのスラブオフをした薄い部分に渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー 監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純 私のコンタクトレンズ選択法307.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ツ黴€アキュビューRオアシスTM乱視用表 1おもなメーカーの使い捨ての乱視用SCLの特徴会社名注1ブランド名分類レンズデザインデザインの特殊性注2Dk/L1.シリコーンハイドロゲル CL頻回交換(最長 2 週間で交換)J&JアキュビューRオアシスTM乱視用ダブルスラブオフASD注3129CIBAエアオプティクス乱視用プリズムバラストPB注4108B&Lメダリストプレミア乱視用プリズムバラスト912.含水性 SCL1)頻回交換(最長 2 週間で交換)B&Lメダリスト 66 トーリックグループ 2プリズムバラスト16.42)ディスポーザブル(毎日使い捨て)J&JワンデーアキュビューR乱視用グループ 4ダブルスラブオフASD注331.1CIBAデイリーズ トーリックグループ 2ダブルスラブオフダブルシンゾーン26B&Lメダリストワンデープラス乱視用グループ 2プリズムバラスト19.2 注1:会社名は,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(J&J),チバビジョン株式会社(CIBA),ボシュロム・ジャパン株式会社(B&L)と略した.注2:レンズのデザイン名は,各社が独自の名前をつけている.注3:Accelerated Stabilization Design.注4:プレシジョンバランス 8/4 デザイン.図 1 アキュビューRオアシスTM乱視用①②③④⑤図 2アキュビューRオアシスTM乱視用のデザイン①:レンズ光学部,②:スピーディなレンズの安定を実現する「アクセラレイト・スロープ」,③:容易な回転評価を可能にする上下の「スクライブ・マーク」,④:薄くなめらかな上下部分,⑤:適度に厚みをもたせたゾーン.(ASD,イメージ図)———————————————————————- Page 250あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(00)あり,瞬目時にアクセラレイト・スロープの部分でより効果的な圧力の伝達が可能となり,眼瞼幅の狭い眼にも対応できる. リコーンハイドロゲル の 化アキュビューRオアシスTM乱視用以外にも,他社からも 2007 2009 年にシリコーンハイドロゲルの素材の乱視用 SCL が出てきた.今までの含水性 SCL に比べて,酸素透過率が 3 4 倍以上良くなった.しかも,乾燥感は軽減され,素材の世代交代である.将来は,毎日使い捨てディスポーザブル SCL も,シリコーンハイドロゲルの素材に移行するであろうが,経済的な乱視用 SCL を望む装用者はアキュビューRオアシスTM乱視用のような頻回交換を希望するであろう.2009 年 12 月に,消毒液はアカントアメーバの cystに対して消毒効果が弱いというマスコミ報道があったが,眼科専門医にとっては周知の事実であった.煮沸消毒を行わないと完全には消毒できないが,現在のほとんどの SCL は煮沸により変形してしまうというジレンマがある.消毒液による擦り洗いと十分なすすぎ,レンズケースの洗浄・乾燥,1 カ月以内に新しいレンズケースに交換するなどの正しい使用方法を行えば,アカントアメーバの感染は防げると考えている.文献 1) 渡邉潔:改訂増補ディスポーザブルコンタクトレンズ,p38-41, メジカルビュー社, 1998ツ黴€ 2アキュビューRオアシスTM乱視用の性状材質: seno lcon AFDA 分類: グループⅠ製法: Stabilized Soft Molding 製法ベースカーブ:8.6 mm製作範囲:球面度数円柱度数円柱軸±0.00 Dツ黴€ 6.00 D(0.25 D ステップ) 0.75 D 1.25 D 1.75 D10°,20°,60°,90°,120°,160°,170°,180° 2.25 D10°,20°,90°,160°,170°,180°±6.50 Dツ黴€ 9.00 D(0.50 D ステップ) 0.75 D 1.25 D 1.75 D10°,20°,60°,90°,120°,160°,170°,180° 2.25 D10°,20°,90°,160°,170°,180°直径: 14.5 mm中心厚: 0.08 mm( 3.00 D の場合)含水率: 38%酸素透過係数*(Dk 値)103酸素透過率**(Dk/L 値)129( 3.00 D の場合)紫外線対策: 紫外線カット(A 波を約 96%,B 波を約 99%カット)スクライブ・マーク:12 時と 6 時の方向に 1 本ずつのライン着色: あり*:×10 11(cm2/sec)・(ml O2/ml・mmHg),測定条件 35℃.**:×10 9(cm・ml O2/sec・ml・mmHg),測定条件 35℃.医療用具承認番号 21800BZY10252000図 4 アキュビューRオアシスTM乱視用のスピーディで確実な回転制御のメカニズム(拡大イメージ図)アクセラレイト・スロープアクセラレイト・スロープ(急な傾斜)眼上眼瞼レンズ眼瞼下のレンズの厚みは薄く,一定より効果的な圧力の伝達が可能図 3 アキュビューRオアシスTM乱視用のデザイン(イメージ図)

写真: アカントアメーバ角膜炎における臨床所見の亜型

2010年1月31日 日曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010470910-1810/10/\100/頁/JCOPY(47)写真セミナー 監修/島﨑潤横井則彦308.ツ黴€ツ黴€ ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ツ黴€アカントアメーバ角膜炎におけるツ黴€ツ黴€ ツ黴€臨床所見の亜型図 2 アメーバ角膜炎移行期に認められた不整形上皮欠損ぼろぼろと上皮欠損が生じ,創傷治癒と欠損をくり返し形状が変化する.佐々木香る出田眼科病院ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 1コンタクトレンズ装用者に生じた上皮欠損a:不整形上皮欠損部の角膜擦過物よりアメーバが検出された.b:コンタクトレンズの長時間装用による上皮欠損であり,アメーバは検出されない.図 3アメーバ角膜炎移行期に認められた輪状上皮欠損深彫れはしていない.上皮欠損の内側縁は,その後輪状混濁を呈した.———————————————————————- Page 248あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(00)アカントアメーバ角膜炎の典型的臨床所見については,一般的に認知されつつある.典型的なものとしては,初期では偽樹枝状角膜炎,神経炎,輪部炎,さらに不均一な上皮下浸潤がよく知られている.また,進行期から完成期にかけては,輪状混濁から不均一な円板状角膜炎がよく知られている.しかし,それ以外にも不整形上皮欠損あるいは輪状上皮欠損など,アカントアメーバを疑う臨床所見が存在する.今回はこれらの,アカントアメーバ角膜炎の亜型ともいうべき臨床所見について解説する.アカントアメーバは細胞にアポトーシスを惹起すると報告されている1).アメーバを感染させた腫瘍細胞では,DNA ladder が確認され,形態学的な観察でも,アポトーシスによる細胞融解が観察される.アメーバ角膜炎の初期には,上述の典型的所見を伴わずに,不整形の上皮欠損が生じることがある(図1a)が ,この上皮欠損には,アポトーシスが関与している可能性も考えられる.その欠損底および周囲は透明度を保っており,周辺部浸潤も軽度であり,コンタクトレンズの過剰装用による上皮欠損(図1b)との鑑別が非常にむずかしい.よく観察すると周辺の浸潤が不均一であることなどから,差異は認められるが,実際には鑑別困難と考えられる.またアメーバ角膜炎は,細菌や真菌などの感染症と違い,組織破壊が軽度であるので,上皮欠損と治癒をくり返す傾向にある.移行期以降でも,遷延性上皮欠損ではなく,「治癒しては,またぼろぼろと がれる」をくり返し,形状を変化させながら何度も上皮欠損が生じ る(図2).アメーバ角膜炎が急増している今日では,コンタクトレンズ装用者に認められた不整形の上皮欠損では,ともかくアメーバ角膜炎を疑ってみることが大切である.アカントアメーバ角膜炎では,すべての病期を通じて,高度の輪部炎を認める.この輪部炎が高度になると,輪状の周辺部角膜上皮欠損を生じる(図3)2,3).ちょうど重症強膜炎における周辺部角膜潰瘍と同じような機序で,免疫反応の一種であると推測される.病期としては移行期の時期に認められ,進行するとこの輪状上皮欠損の内側縁は典型的所見である輪状混濁へと進行する4).輪状上皮欠損は,自己免疫疾患と違ってあまり深彫れしない上皮欠損であるが,その程度によって輪状に認めることも,局所的に円弧状に存在する場合もある.これらの上皮欠損も,前述のように遷延化せず,周辺からの創傷治癒によって形状を変化させる.輪部炎や毛様充血が高度であるアメーバ角膜炎では,正しい診断がなされる前にステロイドが投与されがちであるが,ステロイド投与はアメーバのシストから栄養体への変化を助長したり,栄養体の増殖を促進することが報告されている5).すなわち,ステロイドを投与することによって,臨床的には抑えているようにみえて,その実,アメーバを強化していることになる.ステロイド投与により,文頭であげたアメーバに典型的な臨床所見をすべてマスクしてしまったとき,今回提示した亜型の臨床所見がアメーバの診断に非常に重要になってくると考える.文献 1) Alizadehツ黴€ H,ツ黴€ Pidherneyツ黴€ MS,ツ黴€ McCulleyツ黴€ JPツ黴€ etツ黴€ al:Apoptosis as a mechanism of cytolysis of tumor cells by a pathogen-ic free-living amoeba. Infect Immun 62:1298-1303, 1994 2) 椎橋美予,宮井尊史,子島良平ほか:角膜周辺部に輪状上皮欠損を呈したアカントアメーバ角膜炎の一例.眼紀 58:425-429, 2007 3) 塩田洋:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科 13:15-20, 1996 4) Theodore FH, Jakobiec FA, Juechter KB et al:The diag-nostic value of a ring in ltrate in acanthamoebic keratitis. Ophthalmology 92:1471-1479, 1985 5) McClellan K, Howard K, Niederdorn JY et al:E ect of steroids on Acanthamoeba cysts and trophozoites. Invest Ophthalmol Vis Sci 42:2885-2893, 2001

B 「海の幸」編 サケ,イクラ,エビ,カニ(アスタキサンチン)

2010年1月31日 日曜日

B.「海の幸」編サケ,イクラ,エビ,カニ(アスタキサンチン) Salmon, Salmon Roe, Shrimp and Crab(Astaxanthin)北市伸義*大野重昭**石田晋*I縄文人を支えたサケ縄文時代はわが国で人類が定住を始めた時代である.縄文式土器の発明は食材を煮ることを可能にした.それにより,生ではあくが強くて食べられないドングリなどの木の実を食べられるようになった.また,クッキーや鍋料理などが登場し,狩猟に頼る不安定な食生活が大きく改善された.最近の考古学的研究によれば当時はカロリーの 40%以上をドングリなどの木の実で摂取し,残りはイノシシ,シカなどの狩猟,および魚類や貝類の漁撈による動物性カロリーであったらしい.彼らは川辺に集落を作ったが,これは飲料水の確保とともにサケの捕獲のためとも考えられている.サケ(アイヌ語ではシャケンベ)は特に東日本の遺跡から多くの骨が出土しており,生活を支える重要な食物であったと考えられる.そのため当時は西日本より東日本のほうが人口密度はかなり高かった.実際,北海道大学構内で発掘された多くの縄文/続縄文遺跡からもアワ,イネ,オオムギなどの炭化種子とともに,サケを捕獲するための定置網と考えられる柵状遺構や,焼いて調理されたサケの骨が大量に出土する.当然イクラ(ロシア語でイクラ)も食べていたと考えられる.本稿では,古来日本人が摂取してきたサケ,イクラ,あるいはカニやエビに豊富に含まれるアスタキサンチンに注目して眼に良い食べ物を解説したい.IIアスタキサンチンアスタキサンチン(3,3 ¢-ジヒドロキシ-b,b-カロテン-4,4¢-ジオン:AST)は 1938年,ドイツのリヒャルト・クーンらによって発見されたカロテノイドの一種である.クーンはビタミン類・カロテノイド類・酵素などの研究者で,後にノーベル化学賞を受賞した.アスタキサンチンはカロテノイド類のキサントフィルに属し,長鎖の共役二重結合と両末端の b-イオノン環がケト基とヒドロキシル基で置換された化学構造を有する.名前は「黄色い花」という意味のギリシャ語に由来する赤橙色の天然色素である.エビ,カニ,サケ,イクラなどの赤橙色の主成分であり,人類が古来摂取してきた食品中に広く存在する(表1).筋肉には遅筋(赤色)と速筋(白色)があり,通常赤身魚の色は遅筋のミオグロビンに起因するが,サケは体側筋が速筋で構成され,生物学的には白身魚である.そのためサケの刺身・切り身などを観察するとアスタキサン 表 1おもな食品中のアスタキサンチン含有量食品 含有量(mg/ 100 g) ベニザケ 2.5. 3.5 キンメダイ 2.0. 3.0 毛ガニツ黴€ 1.11 甘エビツ黴€ 0.99 イクラ・筋子ツ黴€ 0.8 クルマエビツ黴€ 0.66ツ黴€ *Nobuyoshi Kitaichi & Susumu Ishida:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野**Shigeaki Ohno:北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座〔別刷請求先〕北市伸義:〒060-8648 札幌市北区北 14条西 5丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野0910-1810/10/\100/頁/JCOPY (43) 43チンそのものの赤橙色/オレンジ色がよく実感できる.サケは産卵期が近づくとアスタキサンチンが体表やイクラへ移動して婚姻色とよばれる鮮やかな色調を呈する.甲殻類では加熱により結合蛋白から遊離するとアスタキサンチン本来の赤色がみられる.また,フラミンゴはエサの中に含まれるアスタキサンチンを体内でカンタキサンチンに変換するため,これがフラミンゴの特徴的なピンク色の羽毛の元になっている. III抗酸化作用近年,アスタキサンチンの抗酸化作用が注目されている.元来は藻,酵母,細菌などが有害な太陽光線から自らを守るために合成し始め,その後魚類,甲殻類など食物連鎖上位の生物も同様の理由で利用し始めたと考えられている.活性酸素は分子構造が不安定なためさまざまなものを酸化させ,細胞機能の低下や遺伝子変異,生活習慣病にも関係が深いと考えられている.ヒトは抗酸化物質であるビタミンC,ビタミンE,カロテノイドなどを体内で産生できないため,これらを食物中から摂取する必要がある.さらに現代社会はストレス,アルコール摂取,喫煙,食品添加物,残留農薬,排気ガス,紫外線,放射線など体内の活性酸素発生要因の増加が指摘されている1).これに対し,アスタキサンチンはきわめて強力な抗酸化作用を有することが明らかとなっており,その活性酸素消去能は a-トコフェノールの 550倍,フリーラジカル補足活性はルテインの 3.5倍にもなる1). IV動物モデルでの効果アスタキサンチンは抗酸化作用だけではなく抗炎症作用も有する.まずアスタキサンチンの抗炎症効果を動物モデルで検証してみた.エンドトキシン誘発ぶどう膜炎(EIU)は急性前部ぶどう膜炎モデルである.筆者らはルイスラットにリポ多糖(LPS)を投与し,同時にアスタキサンチンを投与して前房水中の炎症細胞数や前房内蛋白濃度,プロスタグランジン(PG)E 2,一酸化窒素(NO),腫瘍壊死因子(TNF) -a濃度を測定した.24時間後の前房炎症細胞数はアスタキサンチン 100 mg/kg投与群で有意に減少しており,代表的なステロイド薬であるプレドニゾロン10 mg/kgに匹敵した(図 1).前房水中蛋白濃度も 10 mg/kgから有意に減少し,100 mg/kg投与群ではプレドニゾロン 10 mg/kg投与と同程度に低下していた(図2).また,PGE 2,NO,TNF-a濃度はいずれも 1 mg/kg投与群から有意に減少し,10 mg/kg以上でプレドニゾロン(10 mg/kg)とほぼ同等の効果がみられた2).EIU惹起ラット摘出眼球の NF-kB(核内因子 kB)核内発現を免疫組織学的に検討すると,アスタキサンチン投与群ではぶどう膜(虹彩・毛様体)の NF-kB陽性細胞数が有意に減少していた3)(図 3).さらに,中高年者50蛋白濃度(mg/ml) 40 30 40 30 20 10細胞数( ×105個) 陽性対照110 100プレドニゾロンAST(mg/kg) (10mg/kg)図 1EIU惹起ラット前房水中炎症細胞数前房水中炎症細胞数はアスタキサンチン(AST)の投与量依存的に減少し,AST 100mg/kg投与群はプレドニゾロン10 mg/kg 投与群とほぼ同程度であった.44あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,20100陽性対照110 100プレドニゾロンAST(mg/kg) (10mg/kg)図 2EIU惹起ラットの前房水中蛋白濃度前房水中蛋白濃度はアスタキサンチン(AST)投与量依存的に減少し,100 mg/kg投与群ではプレドニゾロン 10 mg/kgと同程度に減少した.(44)対照 LPSLPS+AST図 3ラット急性眼炎症モデルにおけるアスタキサンチンの効果左:対照(アスタキサンチン非摂取群).中:LPSによる NF-kBの核内への移行(オレンジ色)がみられる.右:アスタキサンチン(100 mg/kg)摂取ラットでは NF-kBの核内移行が抑制される.250 の失明原因として注目される加齢黄斑変性の終末病態である脈絡膜血管新生に対する効果も検討したところ,レーザー誘導脈絡膜血管新生モデルではアスタキサンチンの摂取により脈絡膜血管新生が抑制された.この奏効機序も NF-kBを介する炎症機序の軽減によった4).したがってアスタキサンチンは免疫・炎症反応の中心的転写準他覚的調節力(%) 200 150 100 50因子である NF-kB阻害により抗炎症効果を発揮すると考えられる. 00 1428 Vヒトでの効果摂取日数図 4健常成人におけるアスタキサンチン摂取後の調節力変化つぎに動物モデルで得られた結果を元にヒトでの臨床的評価を試みた.被験者は日常的にパソコン業務などが多く,眼精疲労を自覚する健康成人とし,試験食品を 4週間連日経口摂取してもらった.対照群(非アスタキサンチン群)とアスタキサンチン 6 mg経口摂取群(アスタキサンチン群)の 2群に分け,眼精疲労と調節機能を二重盲検法で比較した.摂取開始後の準他覚的調節力を14日目,28日目で比較するとアスタキサンチン群では調節力が有意に改善し,その効果は摂取日数が長くなるほど増強した(図4).眼精疲労は自覚的視覚アナログスケール法を用いて摂取前後の客観的眼精疲労度評価を行14日目以降アスタキサンチン摂取群では有意に調節力が向上した.った.その結果,12項目中「目が疲れやすい」「目がかすむ」「眼の奥が痛い」「しょぼしょぼする」「まぶしい」「肩が凝る」「腰が痛い」「イライラしやすい」の 8項目で改善がみられた5)(表2).現代社会では長時間コンピュータモニターを利用することが多く,必然的に近見作業時間が長くなる.そのため毛様体筋に長時間の緊張状態を強いることになり,調節機能の異常やひいては眼精疲労をひき起こす.さらに(45)あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010 45表 2アスタキサンチン摂取試験眼精疲労自覚症状調査項目1.目が疲れやすい* 7.目が熱い 2.目がかすむ* 8.まぶしい,目を開けているのが辛い* 3.まぶたが重い 9.肩が凝る* 4.目の奥が痛い* 10.腰が痛い* 5.充血する 11.イライラしやすい* 6.しょぼしょぼする* 12.頭が重い *視覚アナログスケール法での改善項目.長期間にわたるコンピュータ使用による慢性ストレスが毛様体筋の機能低下をひき起こし,調節力の低下の一因となる可能性がある.筆者らがコンピュータなどの使用時間の長い被験者を対象として二重盲検試験を行ったところ,同様にアスタキサンチン投与群で調節機能と自覚症状の改善がみられた.したがってアスタキサンチン摂取は眼科臨床では眼精疲労の軽減と調節機能の改善に有効であると考えられた.今後さらに白内障進行予防,緑内障における視神経乳頭循環改善,ぶどう膜炎緩和,あるいは加齢黄斑変性や糖尿病網膜症の予防,進行緩和への応用が期待される. VI摂取の目安今日,アスタキサンチン必要摂取量の明確な目安はないが,1日 6.9 mgの摂取が一般的である.筆者らの臨床研究では 1日 6 mgを 4週間摂取することで眼の調節機能が改善した6).しかし現実問題として食品だけで 1日 6 mgのアスタキサンチンを摂取することは困難であり,サプリメントなどで補完することになる.また同時に筆者らの行った安全性試験では有効量の 5倍量である1日30 mgを 4週間摂取しても全身に影響はみられず,眼圧上昇などの眼科的有害事象もまったくみられなかった7).自然界・天然食材に豊富に存在し,人類が古来長期間にわたり摂取してきたという食経験の歴史も考えあわせると,アスタキサンチンは安全性の高い有用な活性物質であると考えられる.おわりにヒトは外界からの情報の 80%以上を視覚に頼るとされるが,近年の情報化社会は眼への負担をこれまで以上に過酷なものにしている.加えてわが国は世界一の長寿社会である.アスタキサンチンの抗炎症効果は NF-kBシグナルを介するが,NF-kBはストレス反応,サイトカイン産生,紫外線障害,細胞増殖,アポトーシス,自己免疫疾患,悪性腫瘍など多くの生理現象に深く関与している.したがってアスタキサンチンは将来,眼精疲労,炎症性疾患,紫外線障害,加齢黄斑変性症など多くの疾患に有用である可能性がある8).安全性の高さも考えあわせ,今後いっそうその抗酸化作用,抗炎症作用の基礎的・臨床的エビデンスを蓄積すべきであると考えられる9).文献1)大野重昭:海の幸サケ・エビ・カニは目に良いか?赤い色の正体は?.眼科ケア 117:68-72, 20082)Ohgami K, Shiratori K, Kotake S et al:E.ects of astaxan-thin on lipopolysaccharide-induced in.ammation in vitro and in vivo. Invest Ophthalmol Vis Sci 44:2694-2701, 20033)Suzuki Y, Ohgami K, Shiratori K et al:Suppressive e.ect of astaxanthin against rat endotoxin-induced uveitis by inhibiting the NF-kB signaling pathway. Exp Eye Res 82:275-281, 20064)Izumi-Nagai K, Nagai N, Ohgami K et al:Inhibition of choroidal neovascularization with an anti-in.ammatory carotenoid astaxanthin. Invest Ophthalmol Vis Sci 49: 1679-1685, 20085)大神一浩,吉田和彦,大野重昭:眼科におけるアスタキサンチンの有用性.あたらしい眼科 25:1257-1260, 20086)白取謙治,大神一浩,新田卓也ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ目におよぼす影響─健常成人を対象とした効果確認試験.臨床医薬 21:637-650, 20057)大神一浩,白取謙治,大野重昭ほか:アスタキサンチンの過剰摂取における安全性の検討.臨床医薬 21:651-659, 20058)北市伸義,大神一浩,大野重昭:アスタキサンチンの抗炎症効果.Functional Food 3:26-30, 20099)北市伸義,石田晋,大野重昭:気になる目の病気のすべてアスタキサンチン.からだの科学 263:131-134, 200946あたらしい眼科Vol. 27,No. 1,2010(46)

B 「海の幸」編 「牡蠣」-亜鉛の基礎知識から牡蠣トリビアまで-

2010年1月31日 日曜日

B.「海の幸」編「牡蠣」─亜鉛の基礎知識から牡蠣トリビアまで─ “Oyster”─ Basic Knowledge of Zinc and Oyster Trivia ─川崎佳巳*はじめにAREDS Study(Age-Related Eye Diseases Study)によって,抗酸化ビタミンと亜鉛の複合サプリメントが,加齢黄斑変性(AMD)の進行予防に有効であることが確認され1),亜鉛やそれを多く含む食材が,眼科領域にて注目されるようになった.本稿では,亜鉛の基礎知識,摂取するうえでの注意事項から,亜鉛を豊富に含む食材の代表格である牡蠣に関するトリビアまで,さまざまな情報を網羅した. 1.成体における亜鉛の役割人体における微量ミネラル(一日の摂取量が 100.mgまで)のなかでは,鉄のつぎに多い.代謝調整作用を有する 300種類以上の亜鉛含有酵素(スーパーオキシドジスムターゼ,DNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼ,アルコール脱水素酵素など)の構造成分として,種々の生理活性に関与している.ビタミン Aの活性化にも関与するため,亜鉛の欠乏により,ビタミン A欠乏症が現れる. 2.体内分布亜鉛は,体内に約 2.g存在し,その 50%が血液中に含まれ,30%が各臓器に,20%が皮膚に含まれている.臓器中濃度の比較では,前立腺に高濃度で存在し,ついで骨,骨格筋である.脳内では特に海馬に多く,眼球にも比較的高濃度存在する.血液中の亜鉛は 80%が赤血球に含まれている.ほとんどが蛋白質などの高分子と結合している. 3.吸収,代謝,排泄腸管からの吸収率は約 30%という報告もあるが,摂取量によって吸収率が変わるとされている.また,吸収の過程で 2価の陽イオンである鉄や銅などと拮抗することが報告されている.亜鉛の排泄は,未吸収の亜鉛や腸管粘膜の脱落,膵液の分泌などに伴う体内亜鉛(内因性亜鉛)の糞便中への排泄によっておもに行われている.尿中への亜鉛の排泄量は少なく,摂取量にかかわらずほぼ一定である. 4.推定平均必要量,推奨量日本人の食事摂取基準(2005年度版)では,亜鉛の推定平均必要量(EAR:母集団の 50%が必要量を満たす一日量)が,成人(15.69歳)では男性 8.mg,女性 6mgである.一方,推奨量(RDA:母集団の 97.98%が必要量を満たすと推定される一日量)が,成人男性 9mg,女性 7.mg(妊婦付加+3.mg)である. 5.欠乏症と過剰症亜鉛欠乏症は,亜鉛非添加の高カロリー輸液施行時,亜鉛含有量の少ないミルク,経腸栄養での栄養管理時において報告がある.欠乏症のおもな症状としては,皮膚炎と味覚障害などが報告されている.小児で不足する*YoshimiKawasaki:宝塚第一病院眼科〔別刷請求先〕川崎佳巳:〒665-0832宝塚市向月町 19-5宝塚第一病院眼科0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(39) 39と,成長障害,性腺発育障害がみられる.急性中毒として報告されているものとして,上腹部痛やめまいが多く,一日量が 150.mgを超えると催吐症状が起こりうるとされている. 6.食事からの摂取亜鉛含量の多い食材を表 1,2に示した.それらの代表格としては,牡蠣,スルメなどがある.これらは酒の肴にはいいが,毎日摂取だと飽きてしまう.牡蠣 1匹6.mgの亜鉛が含まれる.牡蠣はフライ .(約20.g)には2にすると,食べやすくなるものの,カロリーは 1匹当たり約 50kcalになり,毎日食べる食材としては高カロリーかもしれない.卵黄 1個(20.g)には 0.84.mgの亜鉛表 1動物性食品亜鉛食品(mg/100.g)あわび,水煮缶10.4 かき,養殖13.2 たらばがに,水煮缶6.3 するめ5.4 うし,かたロース6.4 ぶた,肝臓6.9 ラム,かた5.0 若鶏肉,もも2.9 パルメザンチーズ7.3 鶏卵,卵黄 4.2〔(独)国立健康・栄養研究所,ホームページ「健康食品」の安全性,有効性情報より〕表 2植物性食品亜鉛食品(mg/100.g)そば粉,全層粉2.4 小麦,強力粉3.0 凍り豆腐5.2 えんどう,塩豆3.6 ごま,いり5.9 焼きのり3.6 アーモンド,フライ4.4 切り干し大根2.1 抹茶6.3 ピュアココア 7.0〔(独)国立健康・栄養研究所,ホームページ「健康食品」の安全性,有効性情報より〕が含まれており,また牛肉,海苔,ゴマ,煮干し,チーズにも多く含まれ,ココアや抹茶なども意外に多い.したがって,まんべんなくバランスのとれた食生活を心掛ければ,不足することはないと思われる.ただし近年,日本の若年女子成人において,味覚機能の低下と低亜鉛状態との関連が報告されており,過度なダイエットや偏った採食主義はよくないと思われる. 7.食べ合わせの影響亜鉛の吸収を妨げるものとして,食物繊維(特に穀類や藻類),ホウレンソウに含まれるシュウ酸,インスタント食品に含まれるフィチン酸,カルシウムなどがある.一方,吸収を促進するものとして,クエン酸やビタミンC,動物性蛋白質などがある.ただし,亜鉛の吸収に関する食べ合わせばかりを気にしすぎて,全体の食事バランスを崩さないよう注意が必要である. 8.サプリメントによる摂取亜鉛は俗にセックスミネラルともいわれ,米国や日本では,滋養強壮目的に亜鉛を含有したさまざまなサプリメントが販売されている.一方,サプリメントでは大量摂取が可能なため,過剰摂取による害が懸念される.亜鉛 100.mg/日の大量摂取を継続すると,前立腺癌の発症頻度が上がるとの報告がある2).またミネラルは吸収の際に各々が拮抗することがあり,亜鉛単独の過剰摂取によって,銅の吸収が低下し貧血を起こす危険がある.AREDSでは亜鉛濃度が 80.mgに設定されたが,泌尿生殖系のリスクを下げるため AREDS2では 25.mgに減量して AMDの進行抑制効果があるか検討されている3).ゆえに AMDでない人がサプリメントで大量摂取するこ図 1牡蠣40あたらしい眼科Vol. 27,No.1,2010(40)表 3栄養機能食品としての表示例栄養成分 上限・下限量 機能表示 注意事項 亜鉛 3.mg.1 5.mg 亜鉛は,味覚を正常に保つのに必要な栄養素です.亜鉛は,皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です.亜鉛は,蛋白質・核酸の代謝に関与して,健康の維持に役立つ栄養素です. 本品は,多量摂取により疾病が治癒したり,より健康が増進するものではありません.亜鉛の摂りすぎは,銅の吸収を阻害するおそれがありますので,過剰摂取にならないよう注意してください.一日の摂取目安量を守ってください.乳幼児・小児は本品の摂取を避けてください. とはあまりお勧めできず,亜鉛濃度の高い食材を選んで効率よく摂取するほうが望ましい. 9.栄養機能食品としての利用する際の表示例平成 16年 4月 1日から栄養機能食品の成分として亜鉛が追加された.詳細は表 3を参照.一日摂取量を目安に過剰摂取にならぬよう注意すること. 10.亜鉛と薬剤との相互作用亜鉛サプリメントを d-ペニシラミンと同時投与した場合,本剤が吸収される前に亜鉛とキレート化され,本剤の吸収率が低下する可能性がある.よって,同時投与はできるだけ避けるべきである. 11.AREDSフォーミュラ日米での違い米国仕様の AREDSフォーミュラで使用されている酸化亜鉛は,日本では食品として使用できない.そこで日本仕様では亜鉛酵母を代用することになった(表4).人体への吸収試験にて,酸化亜鉛 80.mg相当と亜鉛酵母表 4AREDSフォーミュラ日本仕様■AREDS処方と等価の処方を日本向けに開発.1.原料を日本の法規制(食品衛生法)に適したものに変更 2.欧米人と日本人の体格差を考慮し,標準処方量を AREDSのAREDS処方ツ黴€ AREDS等価処方 亜鉛 80.mg相当(酸化亜鉛) ヒト吸収試験により亜鉛量を設定 40.mg相当(亜鉛酵母) ビタミン Eツ黴€ 400.IU(合成型)ツ黴€ 400.IU(天然型) 75%に設定∴亜鉛 30.mg相当の亜鉛酵母40.mg相当(亜鉛酵母 400.mg)がほぼ同等であることが確認された.体格差を考慮し,標準処方量を AREDSの75%に設定し,日本で販売されるフォーミュラサプリメント 1日分には,亜鉛酵母 30.mg相当(亜鉛酵母 300mg)を含有させることになった. 12.亜鉛酵母とは?酵母と(有機・無機)亜鉛を原料に,つぎの 2種類の製法で製造されている.①酵母を亜鉛耐性にし,生きた酵母に亜鉛を取り込ませる.②酵素を用いて,酵母内の有機物に亜鉛を結合される.この製法は,銅酵母,マンガン酵母,セレン酵母など,他のミネラル酵母も同様である.これらはいずれも有用成分が酵母内に取り込まれており,消化吸収が緩徐なため,毒性も少なく生物学的有用性が高い. 13.亜鉛の医薬品利用L-カルノシンと亜鉛の錯体であるポラプレジンク(プロマック顆粒)が,胃潰瘍の治療薬として臨床で用いられている.このプロマックは,亜鉛欠乏による味覚異常に対する治療薬としても治験が開始されている.一方,実験室レベルでの研究では,吸収性を高めた亜鉛錯体の医薬品を用い,2型糖尿病の予防・治療薬の開発が進んでいる4). 14.牡蠣を検証する海の岩からかき落とすことから,“カキ”という名前がついたといわれる.蛋白質や,カルシウム・亜鉛などのミネラルをはじめとする,さまざまな栄養素が含ま(41)あたらしい眼科Vol. 27,No.1,2010 41れ,『海のミルク』ともよばれる.食用の歴史は長く,世界中で食されている.魚介類の生食を嫌う欧米文化圏において,例外的に生食文化が発達し,フランス料理でも定番のオードブルになっている.生ガキをメニューの中心にそえる”オイスターバー”とよばれるレストランも存在する.世界的に,マガキが最も一般的な種で,寒い時期が旬である.日本では広島県,宮城県,岡山県産が有名だが,最近では韓国からの輸入も相当ある. 15.牡蠣トリビア a.生食用と加熱用どちらがおいしい?生食用は,汽水域(淡水と海水が混じりあった塩分の薄い河口など)にて植物プランクトンを豊富に摂った牡蠣を,紫外線殺菌された海水中で数日間飼育し,また,その間絶食状態にすることで無菌状態にしている.このため,生食用は身が痩せる.当然ながら,カキフライには加熱用が適している.一方,加熱用を生食することは,当然ながらビブリオやノロウイルスなどによる食中毒の危険があるので,止めておこう. b.ハマグリの内臓がカキフライもどきに某テレビ番組でハマグリの内臓だけを集めてフライを作り,材料を知らない人たちに食べさせる企画があった図 2柿が,20人中 18人がカキフライだとだまされてしまった.牡蠣は一度岩などにくっついたら一生離れず動かないために足が退化し,その体のほとんどが内臓部分である.また,牡蠣とハマグリの内臓を構成するアミノ酸成分(≒旨み)がよく似ており,このような結果になったとのことであった. c.オイスターマイスターを目指せ!日本オイスター協会がインターネット上で,オイスターマイスターの検定試験を公開している.自信のある方はお試しください. 16.こちらの“かき”は?柿は昔から,“赤くなれば医者が青くなる”といわれるほど,栄養価が高い果実である.特にビタミン Cは,柿 100.g(約半個)で 70.mgも含まれている.また, b-カロテン, b-クリプトキサンチンなどのカロテノイドも多く含み,こちらの“かき”も抗酸化にはよさそうである.ちなみに亜鉛含量は柿 100.g中には 0.1.mg程度なので,それほど多くない.文献1)The Age-Related Eye Disease Study ResearchGroup:A randomized, placebo-controlled clinical trial of high-dose supplementation with vitamins C and E, beta carotene, and zinc for age-related macular degeneration and visionloss:AREDS Report No.8. Arch Ophthalmol 119:1417-1436, 20012)Leitmann MF, Stampfer MJ, Wu K et al:Zinc supplement use and risk of prostate cancer. J Natl Cancer Inst 95: 1004-1007, 20033)Emily ChewMD:National Eye Institute Division of Age-Related Eye Disease Study 2 Protocol(AREDS2):A Mul-ticenter Randomized Trial of Lutein, Zeaxanthin, and Omeg-3 Long-Chain Polyunsaturated Fatty Acids in Age-Related Macular Degeneration IND # 74, 781. Ver-sion 5.1, December 20074)桜井弘:Znを含む新しい抗糖尿病錯体.化学 57:20-24, 200242あたらしい眼科Vol. 27,No.1,2010(42)

B 「海の幸」編 魚(オメガ-3多価不飽和脂肪酸)

2010年1月31日 日曜日

特集●眼に良い食べ物 あたらしい眼科 27(1):35.38,2010魚(オメガ-3 多価不飽和脂肪酸)w-3 Polyunsaturated Fatty Acid厚東隆志はじめに先進国における高齢者の主要な失明原因疾患である加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)は,以前より魚の摂取によりその発症が抑制されるとの報告がある1)が,これはおもに魚由来の脂肪酸であるw(オメガ)-3 多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfatty acid:PUFA)の作用によるものと考えられている.Iw-3 PUFA とはPUFA とは炭素結合間に複数の二重結合を有する脂肪酸の総称であり,メチル基側から数えて3 番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するものをw -3 PUFA(図1),6 番目に存在するものをw -6 PUFA とよぶ.いずれも体内では合成されない必須脂肪酸であるため,食事などによって摂取する必要がある.代表的なw -3PUFA として,おもに魚脂・海産物由来のエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)とドコサヘキサエン酸(docosahexsaenoic acid:DHA),植物由来のa-リノレン酸(alpha-linolenic acid:ALA)が存在する.IIw-3 PUFA 摂取による疾患予防EPA/DHA の摂取は,1975 年にグリーンランドイヌイットの疫学調査において動脈硬化のリスクを低下することが報告されて以来2),現在まで種々の疾患においてその有用性が指摘されている.EPA/DHA による高脂血症および心血管疾患の予防効果は,種々の臨床試験によって証明されている.高脂血症への効果についてはEPA/DHA の2.4 g/日の摂取により血中トリグリセリド値が用量依存的に25.40%低下するとの報告があり3),w -3 PUFA の一つであるEPA はその高純度製剤が抗高脂血症剤(エパデール)として臨床的に用いられている.心臓発作の既往歴のある患者がEPA/DHA を摂取することにより死亡リスクが低下するとの報告もある4).ALA の摂取は,心疾患の二次予防臨床試験において有用であったとの報告5)などがある.ALA はその一部が体内において長鎖化・脱飽和化を生じてEPA/DHAに変換することが明らかとなっており6),EPA/DHA での摂取が困難な場合は一定の有用性があるものと思われる(後述のEPA/DHA の目標摂取量は欧米人の食事の5倍近い量である).しかしながらALA の摂取はDHAの組成にほとんど影響せず,またトリグリセリド値を上昇させる傾向にあるため7),EPA/DHA での摂取がより効果的であると考えられる.IIIw-3 PUFA の作用機序w -3 PUFA は,どのように高脂血症,虚血性心疾患などのリスクを低下させるのだろうか.その作用機序は以下のように考えられている.w -3 およびw -6 PUFAはともにエイコサノイド(プロスタグランジン:PG),ロイコトリエン(LT),トロンボキサン(TX)の前駆体であるが,w -6 PUFA はアラキドン酸を経て,生理活性(血管収縮作用,血小板凝集作用,炎症惹起作用)の強いPGE2, PGI2, TXA2, やLTA4 などの代謝産物を生成するのに対して,w -3 PUFA は弱い生理活性しかもたないPGE3, PGI3, TXA3, LTA5 などに代謝される(図2).この際,w -3 およびw -6 は体内の代謝経路において律速段階酵素を共有するため,w -3 PUFA の摂取は相対的にw -6 系列からのエイコサノイドの合成を阻害することになる5).つまり,その代謝産物による生理活性も相対的に低下することが,種々の抗炎症作用につながるとされている.一方で近年EPA は,in vitro において核内受容体peroxisome proliferator-activated receptor(PPAR)-gを介してNF-k B 活性化を抑制することにより抗炎症作用を示すことが明らかにされた9,10).PPAR-g はリガンド応答性の核内受容体型転写因子で,脂質代謝・糖代謝におけるおもな調節因子であるが,近年それに加えてanti-pathogenic な作用が明らかになっている.筆者らの行ったマウス実験的脈絡膜血管新生(choroidal neovascularization:CNV)モデルを用いた検討では,invivo におけるEPA のPPAR-g を介した作用はきわめて限定的であると考えられた11)が,今後さまざまな疾患での検討が待たれる.IVw-3 PUFA の摂取EPA/DHA は魚由来の脂肪に多く存在し,イワシやアジなどの青魚,サケやマグロなどに非常に多く含まれる(表1).近年,厚生労働省研究班による多目的コホート研究(JPHC Study)における魚およびw -3 PUFA 摂取と虚血性心疾患発症の関連について以下の報告がなされた12).すなわち,魚の摂取量により分けられた5 群間で虚血性心疾患の発症を比べたところ,摂取が20 g/日と最も少ない群に対しすべての群で発症リスクが下がり,摂取の最も多い群(180 g/日)では約40%もリスクが低下したというものである.EPA/DHA の摂取量による比較でも同様の傾向がみられた.以前より週1.2回の魚の摂取が有用であるとの報告は数多く存在したが,本研究の報告はいわば「魚は食べれば食べるだけ体に良い」ともいえ,大変興味深いものである.一方で,わが国における高純度EPA 製剤の虚血性心疾患に対する発症抑制効果を検討したランダム化比較対照臨床試験(Japan EPA Lipid Intervention Study:JELIS)においては,高脂血症患者に対しHMG-CoA 還元酵素阻害剤治療をベースとして1.8 g/日のEPA 投与の有無を比較したところ,EPA の投与は主要冠動脈イベント発症リスクを19%軽減したという報告がなされた13).本研究は,元来魚食の多いわが国においても,w -3 PUFA の投与が有用であることを示す意味で意義深い研究である.これらの研究に基づき,「日本人の食事摂取基準」の2010 年度版においては,成人のw-3 PUFA の摂取目標量は1.8.2.4 g/日とされ,新たにEPA およびDHA を1 g/日(魚で約90 g/日)以上摂取することが望ましいとの基準が追加された.不足するw -3 PUFA を魚油サプリメントで摂取する場合など,EPA/DHA の含有量が製品により大きく異なってくるため,摂取量はEPA/DHA の含有量に基づいて決定するべきである.一方で4 g/日以上の摂取は出血時間を延長し,血小板数の減少をきたすため,過剰な摂取には注意を要する14).Vw-3 PUFA の摂取とAMD―AREDS2について― 現在米国において進行中のAge-Related Eye DiseaseStudy(AREDS)2 では,ルテインとともにEPA/DHAのAMD 進行に対する影響が検討されている.AREDSとは, 米国国立眼研究所(National Eye Institute:NEI)の主導で行われた無作為前向き他施設研究である.1992 年から1998 年にわたって行われた調査では,中型ないし大型のドルーゼンが存在するか,片眼にAMD が存在する場合,抗酸化ビタミンおよび亜鉛の摂取がAMD の発症・進行を予防することが明らかにされた.この良好な結果を受け計画されたのがAREDS2 である(表2).この研究は黄斑に存在するカルテノイドであり,網膜に有害とされる青色光のフィルターとしても働くルテイン/ゼアキサンチンと,EPA/DHA のAMD 進行に対する影響を検討するものである.約100 施設で55.80 歳の患者4,000 人を対象に,以下の4 群に分けて解析するデザインとなっている.① プラセボ② DHA/EPA(350 mg/650 mg)③ ルテイン/ゼアキサンチン(10 mg/2 mg)④ ルテイン/ゼアキサンチン+DHA/EPAこれまでもAMD とw -3 PUFA の摂取の関連については,w -3 PUFA を豊富に含む魚の摂食がAMD のリスクを低下させるとの報告も多くあるが,大規模なランダム化試験の結果はAREDS2 の結果を待たねばならない.筆者らの研究グループは,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルにおいてEPA の経口投与が脈絡膜血管新生を抑制することを報告し(図3)8),そのメカニズムとしてEPA 投与がアラキドン酸を減少させ炎症関連分子を抑制することを解明したが,これはAREDS2 の生物学的根拠となりうる知見である.おわりにEPA/DHA に代表されるw -3 PUFA の摂取は,高脂血症の治療や心血管病変の予防に役立つことがすでに明らかとなっている.今後の医療が疾患に対してより早期に介入していく方向へと進むなか,w -3 PUFA の豊富な魚を積極的に摂取するというライフスタイルを患者に勧めていくことは,さまざまな疾患を未然に防ぐ予防医学的アプローチにつながるであろう.w -3 PUFA によるAMD の進行抑制効果が示されるか否か,初の大規模ランダム化試験であるAREDS2 の結果に大きな期待が集まる.文献1) Seddon JM, Cote J, Davis N et al:Progression of agerelatedmacular degeneration:association with body massindex, waist circumference, and waist-hip ratio. Arch Ophthalmol121:785-792, 20032) Dyerberg J, Bang HO, Hjorne N:Fatty acid compositionof the plasma lipids in Greenland Eskimos. Am J ClinNutr 28:958-966, 19753) Montori VM, Farmer A, Wollan PC et al:Fish oil supplementationin type 2 diabetes:a quantitative systematicreview. Diabetes Care 23:1407-1415, 20004) Kris-Etherton PM, Harris WS, Appel LJ:Fish consumption,fish oil, omega-3 fatty acids, and cardiovascular disease.Arterioscler Thromb Vasc Biol 23:e20-30, 20035) de Lorgeril M, Renaud S, Mamelle N et al:Mediterraneanalpha-linolenic acid-rich diet in secondary prevention ofcoronary heart disease. Lancet 343:1454-1459, 19946) Pawlosky RJ, Hibbeln JR, Novotny JA et al:Physiologicalcompartmental analysis of alpha-linolenic acid metabolismin adult humans. J Lipid Res 42:1257-1265, 20017) Finnegan YE, Minihane AM, Leigh-Firbank EC et al:Plant- and marine-derived n-3 polyunsaturated fattyacids have differential effects on fasting and postprandialblood lipid concentrations and on the susceptibility of LDLto oxidative modification in moderately hyperlipidemicsubjects. Am J Clin Nutr 77:783-795, 20038) Rodriguez A, Sarda P, Nessmann C et al:Delta6- anddelta5-desaturase activities in the human fetal liver:kinetic aspects. J Lipid Res 39:1825-1832, 19989) Hutley L, Prins JB:Fat as an endocrine organ:relationshipto the metabolic syndrome. Am J Med Sci 330:280-289, 200510) Kavanagh T, Lonergan PE, Lynch MA:Eicosapentaenoicacid and gamma-linolenic acid increase hippocampal concentrationsof IL-4 and IL-10 and abrogate lipopolysaccharide-induced inhibition of long-term potentiation. ProstaglandinsLeukot Essent Fatty Acids 70:391-397, 200411) Koto T, Nagai N, Mochimaru H et al:Eicosapentaenoicacid is anti-inflammatory in preventing choroidal neovascularizationin mice. Invest Ophthalmol Vis Sci 48:4328-4334, 200712) Iso H, Kobayashi M, Ishihara J et al:Intake of fish andn3 fatty acids and risk of coronary heart disease amongJapanese:the Japan Public Health Center-Based(JPHC)Study Cohort I. Circulation 113:195-202, 200613) Yokoyama M, Origasa H, Matsuzaki M et al:Effects ofeicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemicpatients(JELIS):a randomised openlabel,blinded endpoint analysis. Lancet 369(9567):1090-1098, 200714) Simopoulos AP:Essential fatty acids in health and chronicdisease. Am J Clin Nutr 70(3 Suppl):560S-569S, 1999

A 「山の幸」編 シイタケ(β-グルカン)

2010年1月31日 日曜日

特集●眼に良い食べ物 あたらしい眼科 27(1):29.34,2010A.「山の幸」編シイタケ(b-グルカン)Lentinus edodes(Beta-1,3-Glucan)山田潤*はじめにシイタケはナイアシンやパントテン酸を豊富に含む低カロリー食品であり,水溶性成分のエリタデニンが血漿中のコレステロールを減らすとされている.また,温風と天日で乾燥させた干しシイタケは味わいが増すことに加え,エルゴステロールという成分が紫外線によってビタミンD へと変化するため,ビタミンD の良い供給源として重宝されている.さらに,免疫能を高めてアレルギーを抑制可能であるb -グルカンが,干しシイタケではなく,生シイタケに多く含まれている.シイタケは手軽に入手できる食品であるため,古来よりさまざまな効能・効果が伝えられてきた.西洋医学に親しんできたわれわれにとって,東洋医学的な色合いが含まれている食品類などには一線を引いて接することが多い.ところが実際には,西洋医学の見地からみた効果や機序についての検討がなされているものが少なくない.今回紹介するb -グルカンには基礎研究や臨床試験などによる十分な科学的検証がなされている一方,科学的根拠に乏しいb -グルカン含有健康食品が多くみうけられることに歯がゆさを感じている.良き物を正確に患者さんに薦めるためにも,b -グルカンについての知識を深めていただけたら幸いである.Ib-グルカンが脚光を浴びたわけ古くからシイタケ,アガリクス茸,メシマコブなどの食用茸は免疫機能を増強する働きがあるとされ,煎じて飲むという非常に意味のある行為(後述)などの民間療法がなされてきた.千原,羽室らは椎茸子実体(Lentinusedodes)の成分として含まれているb -1,3/1,6-グルカン「レンチナン(Lentinan)」を単離精製し,癌免疫を増強する働きを有していることをNature 誌などに報告した1,2).その後,手術不能の再発胃癌におけるヒト二重盲検比較臨床治験によって,抗腫瘍薬「レンチナン」の延命効果が世界で初めて立証された.1985 年より抗悪性腫瘍剤(注射薬)として承認され,医薬品として癌患者に処方されている(ただし,経口摂取では効能を示さない).現在,著明なQOL(quality of life)改善,制癌剤の副作用軽減効果と同時に,癌に対する免疫予防効果も期待されている3).レンチナンでの結果をもとにして,シイタケ以外のさまざまなb -グルカン製品が販売されてきたが,科学的根拠が不十分なものがしばしば見受けられる.IIb-グルカンとは化学で習ったように,グルコース分子(C6H12O6)がグリコシド結合で重合した多糖類をグルカン(glucan)とよび,結合の仕方でa -グルカンとb -グルカンに分かれる.a -グルカンはデンプンやトレハロースなどであり,米に含まれているアミロースやアミロペクチン,肝臓のグリコーゲン,乳酸菌のデキストランなどが代表的である.b -グルカンは1,4-グルコシド結合で重合したセルロース(C6H10O5)n が代表的である.また,酵母やカビ類の細胞壁の骨格構造物やキノコ類の多糖成分として存在しているb -グルカンは1,3-グルコシド結合を基軸として1,6-グルコシド結合による側鎖が形成されたb -グルカンである(通常,このb -1,3/1,6-グルカンをb -1,3-グルカンとよぶ)(図1).しかし,基本構造は同じでも1,6 結合で作製された側鎖の長短や側鎖の間の長短があり,分子の形はまったく異なる.たとえば,カビ類から抽出されたb -グルカンでは側鎖が長く,側鎖間も長い.茸類から抽出されるb -グルカンは側鎖が短く,側鎖間も短い(図2).さらに,種に特徴的な高次らせん構造を形成するため,同じ茸類であっても異なる茸では異なった高次らせん構造を示す.マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞の細胞膜表面にはb -グルカン受容体が存在し,高次らせん構造をしたb -グルカンとb -グルカン受容体とが結合して免疫作用を及ぼす.すなわち,b -1,3-グルカンは免疫増強作用があるといわれてはいるものの,科学的に実証されていない茸の種由来のb -1,3-グルカンでは同様の効果があるかどうかすら不明である.また,b -グルカンには可溶性の多糖として分泌されるものと,細胞壁構成成分由来を代表とする難水溶性のものが存在する.難水溶性b -グルカンに親水基を付けるなどの化学処理を施すとb -グルカンの立体構造が変化するために同じ効果は期待できない.IIIb-グルカンの経口摂取について抗悪性腫瘍剤であるレンチナンは経口投与では効果が得られず,注射薬として使用されてきた.なぜなら,b -グルカンは溶液中で水素結合により会合体(ミセル構造)を形成し,溶液中での粒子径が数百μm の巨大な凝集体となるからである.これは腸管粘膜のパイエル板を通過できない大きさであり,体内に取り込まれることなくそのまま排泄されてしまい,効果発現はほとんど期待できない.レンチナンを経口摂取可能とするため,ナノテクノロジーの手法を用いて,水溶液中で微粒子化安定したレンチナン含有機能性食品(ミセラピストR,味の素製)が開発されている.筆者らはこれを用いてヒト二重盲検臨床試験を行った(後述)(図3).b -グルカン製品ではb -グルカンの純度が議論の一つになっているが,純度だけの比較は無意味である.真に重要なのは,科学的根拠が得られている種類の茸由来b -グルカンが,如何ほど腸管吸収されて,如何ほど効果が得られているかである.ちなみに,古来より使用されてきた摂取方法に「煎じる」という行為がある.b -グルカンは生シイタケを煮ることで抽出でき,その際の粒子径は腸管吸収可能な小ささである.しかし,一旦冷却したり,また,粉末状にしたのちのb -グルカン溶液においてはグルカンが凝集して大きな粒子径を形成してしまう.すなわち,煎じて熱いうちに飲むという古来からの手法には一理あり,熱いうちに飲んで初めて効果が期待できると推測できる.今更ながら,人類の智恵,歴史,経験というものに感心させられる.余談となるが,b -グルカンの味は精製方法によってさまざまのようである.茸類を粉砕しただけのものは土臭さや苦みがある(効果が期待できるb -グルカンの量が不明であることに注意).パン酵母などのb -グルカンは無味無臭といわれている(茸のb -グルカンと構造がまったく異なることに注意).今回筆者が臨床試験に用いたミセラピストR は,生シイタケから高温高圧で抽出したb -1,3-グルカンであり,シイタケのだし汁のような味であった.好き嫌いがあるため,料理に使用するためのレシピが存在していた.医薬品では行われないような努力が各社の製品に垣間見られて面白い.IVb-グルカンによるアレルギーの制御もともと,b -グルカンは癌免疫を上昇させる目的で開発され,延命治療や予防医学を含めた補助療法として用いられている.免疫学的な効果発現機序として,アレルギー応答は抑制されると考えられる.難解な記載とはなるが,効果の機序を簡潔に述べたい.活性化CD4 陽性T 細胞はおもに,T-helper 1 型(Th1)とT-helper2 型(Th2)に分化する.Th1/Th2 バランスは抗原提示細胞の細胞内チオールレドックス状態により制御され,細胞内グルタチオンにおける還元型(GSH)/酸化型(GSSG)のバランスによって調節されている.アレルギーにおいては,アレルゲン曝露によって細胞内チオールレドックス状態が酸化型に傾斜した結果,Th1/Th2 バランスがTh2 に傾斜し,抗体産生やアレルギー応答が増強される.さらに,局所においては抗原提示細胞とT細胞との間でサイトカイン刺激によるTh2 増強ループが形成されてアレルギー応答の増強・維持が生じている.そこで,チオールレドックス状態を還元型に傾斜させるレンチナンを用いた.レンチナンによって細胞内チオールレドックス状態が還元型に傾斜した結果,Th1応答を増強させると同時にTh2 応答を抑制させることが可能である(図4).Th1 応答を増強させる治療においては,アレルギーを根本的に抑制できる可能性をも有しているが,逆にTh1 病は増悪することに注意が必要である.眼科疾患においては角膜移植拒絶反応などがあげられ,実際にb -グルカン服用直後に拒絶反応がみられたこともあるため,移植後の患者さんには薦めて欲しくない療法である.V微粒子化レンチナンを用いたヒト臨床二重盲検試験 実際に,粒子径を経口吸収可能な小さい状態(直径約0.2 μm)のミセル状態で安定させたレンチナン含有機能性食品を用いて眼表面アレルギー疾患の制御を試みた.倫理委員会の承認と文書同意によるインフォームド・コンセントを行った後に二重盲検比較臨床試験を施行した.季節性アレルギー性結膜炎を有しているボランティア60 例を無作為二重盲検法にて2 群に分け,一方にミセラピストR(以下,微粒子化群),他方に微粒子化されていないプラセボb -1,3-グルカン液(以下,プラセボ群)を一日1 回連続2 カ月摂取させた.ともに,b -1,3-グルカンを15 mg 含んでいるものを用いた.自己評価での効果判定では,2 カ月間の服用終了時点(図5),および服用終了2 カ月経過後において有意なアレルギー症状軽減効果が認められた.本臨床効果は末梢血IgE 変化と相関しており,プラセボ群では効果がみられなかったのに対し,レンチナン微粒子化群では服用後4 週と8 週において,有意にアレルゲン特異的IgE/抗原非特異的IgE の減少が認められた(図6).臨床効果との間に相関があるか否かを検討したところ,IgE 減少率と末梢血CD14 陽性単球へのレンチナン結合率に有意な相関がみられた(図7).以上より,レンチナンが単球に結合し,還元型を誘導し,Th2 偏倚を抑制することでアレルギー症状の制御が可能となったと推測している4).この検討におけるもう一つの特記すべき重要な結果は,同量のレンチナンを服用したプラセボ群ではまったく効果が得られなかったことである.30 年以上の昔,レンチナンをマウスに飲ませても効果が得られなかった理由が21 世紀に明らかとなった.大きな粒子径を形成したレンチナンは経口摂取では効果が得られないのである.いま一度,科学的根拠に基づいた基礎医学的,臨床医学的検証の重要性を感じることができた.一般的に,アレルギー疾患に対する治療には抗アレルギー薬や免疫抑制薬が用いられているが,抗アレルギー薬はアレルギー発症機序の末梢部分を抑制する対症療法に近い治療であり,また,免疫抑制薬もアレルギー体質を根本的に改善させる治療とは言い難い.免疫疾患に対する治療は免疫抑制ではなく免疫制御が重要と考えており,中等症以下のアレルギーが罹患患者の大部分を占めている現状において,体質改善を意図した安全かつ安価な治療指針を開発することは妥当な方向性であろうと考えている.おわりに近年,抗加齢医学(アンチエイジング)や老年医学といった分野が脚光を浴びている.加齢という生物学的プロセスに介入を行い,加齢に伴う疾患の発症率を下げることや,健康長寿を目指すといった医学である.加齢に伴いTh1/Th2 バランスはTh2 に偏倚することから,b -グルカンによるTh1/Th2 バランスの補正,すなわち,Th1 偏倚が抗加齢における一つの治療と考えられる.また,予防医学は現在の医学のなかで重要視されている.適切な時期にTh1 環境を強くすることで予防できる病態や疾患が多数みられ,免疫治療・体質改善という治療にも応用できる.癌に対する予防だけでなく,眼疾患においても新生血管や線維化を予防できる可能性が十分考えられ,今後の研究が期待されている.文献1) Chihara G, Maeda Y, Hamuro J et al:Inhibition of mousesarcoma 180 by polysaccharides from Lentinus edodes(Berk.)sing. Nature 222:687-688, 19692) Chihara G, Hamuro J, Maeda Y et al:Fractionation andpurification of the polysaccharides with marked antitumoractivity, especially lentinan, from Lentinus edodes(Berk.)Sing.(an edible mushroom). Cancer Res 30:2776-2781,19703) 羽室淳爾:癌免疫療法剤「レンチナン」の新たなうねり経口レンチナンの誕生.癌と化学療法 32:1209-1215,20054) Yamada J, Hamuro J, Hatanaka H et al:Alleviation ofseasonal allergic symptoms with superfine beta-1,3-glucan:A randomized study. J Allergy Clin Immunol 119:1119-1126, 2007

A 「山の幸」編 カレー(スーパークルクミン)

2010年1月31日 日曜日

特集●眼に良い食べ物 あたらしい眼科 27(1):23.28,2010カレー(スーパークルクミン)Curry( Super Curcumin)大澤俊彦*はじめに日本人の「わが家の味」のアンケートをとってみると,まず,トップランクに入る料理として「カレー」があげられるだろう.最近では,北海道で端を発した「スープカレー」が話題となってきており,インドやタイのカレー専門店も増えてきている.タイでは,ココナッツミルクを用いた白いカレーなども食欲をそそるが,大部分のカレー料理に特有の黄色と風味はカレー粉に由来する.カレー粉は,さまざまなハーブ・スパイス類をブレンドして作られる.ハーブ・スパイス類の基本作用は,図1 に示したように,香り付け(賦香作用)や悪臭に対するマスキング(矯臭作用),辛味作用や着色作用などである.カレーに用いられるおもなハーブ・スパイスとしては,カレー特有の黄色い色付けをするターメリック,サフランをはじめ,フマスキング効果が期待されるフェンネルやクミン,ナツメグやシナモン,カルダモンやコリアンダー,クローブやガーリック,ローレルなど多種多様で,ジンジャーやマスタード,ペッパーやトウガラシなどの辛味付けの香辛料なども含まれている.しかしながら,カレー料理に必須で,カレー粉の最大の特徴である黄色は「ターメリック」に由来する.ターメリックは,ウコンの根茎から来ている.その黄色の色素成分がクルクミンである1).Iターメリックの機能性インドでは,ターメリックがほとんど毎日のように料理に用いられ,特に芳香性や辛味効果を期待するために,調理の前にターメリックをはじめ10 数種のスパイスをブレンドしてカレーパウダーを作る,ということはそれぞれの各家庭に伝統的な味が引き継がれている.一方,沖縄では「ウコン茶」や「ウッチン茶」として「ウコン」が嗜好飲料として用いられ,調理素材として伝統的な沖縄料理に用いられているが,世界的には圧倒的に「スパイス」として用いられている.このターメリックは生薬としても伝統的に用いられ,漢方でも止血剤や健胃剤としては用いられ,インドやマレーシア,インドネシアなどで,女性はターメリックを皮膚に塗る習慣がある.「ウコン」には抗菌作用や抗炎症作用があることは,古くから知られており,インドやマレーシア,インドネシアなどでは,単に化粧として塗られるだけでなく,経験的にこのような効能を利用し,紫外線による傷害や皮膚感染などを予防したものであろう.「クルクミン」の機能性として最初に検討されたのが「皮膚癌」の抑制である.皮膚癌に対するクルクミン誘導体の抑制効果は「クルクミン」が最も強力であり,その抑制機構については,筆者らの研究グループにより発癌促進過程で生成されたフリーラジカルの捕捉能との間に大きな相関性があることが報告されている.一方,経口摂取での「癌予防効果」に関しては,ラトガース大学の研究グループが,前胃癌,十二指腸癌,大腸癌に対しての抑制効果を報告し,「クルクミン」は皮膚塗布だけでなく経口投与でも「癌予防効果」を示すことが期待できた.さらに,最近,放射線総合医学研究所の研究グループは,筆者らとの共同研究で,「クルクミン」がg 線照射による乳腺腫瘍の成長を有効に抑制したことを報告している.この研究の過程で筆者らが興味をもったのは,血液中には「クルクミン(U1)」がほとんど存在していないことであった.かわりに,大量に存在していたのは,「テトラヒドロクルクミン(THU1)」であった.この事実は,生体内で重要な役割を果たしているのは,U1 ではなくTHU1 ではないかという吸収・代謝経路の可能性を示すものである2).II「テトラヒドロクルクミン(THU1)」の機能3)U1 は,皮膚に塗る場合と食べる場合とで同じ効能が考えられるのであろうか.ここで登場するのがTHU1である.すなわち,U1 は経口で摂取すると腸管の部分で吸収されるときに上皮細胞中に存在する還元酵素でU1 がTHU1 に変換され,体の中で実際に効果を示すのはこのTHU1 である,というわけである(図2).これらの強力な癌予防効果は,「クルクミノイド類」のもつ強力な解毒酵素誘導作用をもつためではないかと考えられている.すなわち,「発癌物質」や「環境ホルモン」などの「毒性物質」が体内に入ると,肝臓で,まず第一相の薬物代謝系による活性化を受け,続いての第二相で「抱合反応」とよばれる反応の結果,「高水溶性代謝物」に変換され,最終的にはP 糖蛋白質などによる第三相の排出系で体外へ排泄されることが知られている.「抱合反応」には,グルクロン酸抱合体や硫酸抱合体の精製なども重要であるが,筆者らが注目したのは「キノン還元酵素(QR)」や「グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)」などの解毒酵素で,最近,発現のメカニズムの遺伝子レベルからの解明にも成功している.この「グルタチオン-S-トランスフェラーゼ」の誘導については,最近,ブロッコリー中のイソチオシアネートがよく知られているが,筆者らの研究では,ワサビをはじめとするアブラナ科の香辛料やパパイヤなどの果物にも高い解毒酵素誘導効果がみられている.「クルクミノイド」,THU1 はマウスに投与した場合,強力な解毒酵素誘導作用があることが見出されている.もう一つ興味深いのは免疫力をコントロールする働きがあるということである.まず,抗酸化の働きで酸化による免疫細胞のダメージを防いで,免疫力の低下を防ぐという作用をもち,この作用と一見,相反するようであるが,過剰な免疫作用も抑制するという作用も有している.白血球由来の免疫細胞は過剰に働くと正常な細胞も傷つけ,炎症を起こすが,クルクミンはこうした免疫細胞による過剰な炎症反応を抑制することが筆者らの実験で明らかになっている.III糖尿病合併症としての白内障の予防機能4)最近,糖尿病や動脈硬化といった代表的な生活習慣病に対する抑制効果も明らかとなった.糖尿病はわが国でも患者数1,370 万人といわれ,腎障害,神経障害,白内障などの合併症を伴う.その合併症の発症および進展には酸化ストレスが関係するといわれている.糖尿病における酸化ストレスの亢進の原因としては,高血糖状態が続くことにより生体構成蛋白質の糖化反応やポリオール代謝とレドックス,プロスタグランジン代謝などの経路とともに,グルコースの自動酸化などの経路による活性酸素の生成が考えられ,動脈硬化をはじめ,腎障害,糖尿病性白内障などの原因となると考えられる.このような背景から,糖尿病合併症の予防に抗酸化成分が大きな役割を果たしているのではないか,抗酸化成分が「糖尿病合併症の予防食品」となりうるのではないかと期待される.そこで,クルクミノイドの糖尿病合併症,なかでも,白内障に対する予防効果に関しての検討を行ってみた.白内障は水晶体の一部または全体が白色または黄褐色に混濁する疾患である.近年,糖尿病患者の増加に伴い,白内障を合併する患者数も急激に増えてきており,著効を示す薬物療法がないため,手術療法に頼らなければならない状況からも予防に関する研究が期待されている疾患である.白内障の発症要因は,これまでの研究からポリオール代謝の亢進によるレンズ内浸透圧の上昇,および蛋白質の糖化反応の亢進などが明らかにされているが,近年それらに加えて酸化ストレスも白内障の発症原因として重要であることが報告されてきている.そこで,正常ラットからレンズを単離し,キシロース含有培地で培養するという白内障のモデル系を用いて検討した.その結果,クルクミノイド,THU1 によるレンズ混濁抑制効果が見出され,グルタチオン量の回復機構を介したレドックス制御による抗酸化性であることが見出された.抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)やスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性の回復などの効果も明らかにされ,実際の動物実験でも,ラットへのガラクトース経口投与による白内障発症に対するクルクミノイド,THU1 の予防効果が明らかとなった(図3).IVクルクミノイドと老化コントロールでは,老化制御に関するクルクミノイドの効果はどうであろうか.抗酸化因子による老化予防の試みとして,筆者らは,最近,13 週よりTHU1 を投与したマウスにおいて,最大寿命は延長しなかったが,加齢に従っての生存曲線の低下が緩和されるという興味ある結果を得ることができた(図4).このデータは,カレーを食べた場合,最大寿命を延ばすという寿命延長効果ではなく,健康寿命を延ばすことにより「健康死」に至る可能性を示したものである5).しかしながら,多くの注目を浴びているのは,食の介入による寿命延長への挑戦である.今までに,大きな注目を集めてきたのは,カロリー制限による寿命延長効果であり,その最近の研究の進展に関する内容は,本誌でも紹介されている.歴史的に,不老長寿を目指した挑戦は,ことごとく失敗してきたが,2003 年に発表された赤ワイン中に存在するレスベラトロールによる寿命延長効果は注目されるところである.Horwitz ら6)は,サーテュイン(sartuin)ファミリーの脱アセチル化活性を促進する低分子化合物をスクリーニングし,最も強力な促進活性をもつ化合物としてポリフェノール化合物レスベラトロールを同定された.最近,筆者らの研究グループは,酸化ストレス応答と寿命延長効果を指標にすることにより,ショウジョウバエの寿命延長および抗酸化ストレス応答効果を示す物質としてTHU1 の新しい機能を明らかにできた.筆者らは, ストレス応答性の遺伝子を標的遺伝子とするFOXO 転写因子に着目した.FOXO は細胞質と核を行き来する蛋白質であり,核に局在することで転写活性を示すことが知られている.このFOXO はインスリン/IGF-1(インスリン様成長因子-1)レセプターを介したPI3K(phosphatidylinositol-3 kinase)/Akt(プロテインキナーゼB)シグナル経路によって負に制御されており,血清中のさまざまな成長因子などが細胞に作用している通常状態では細胞質に局在し,不活化状態にある.筆者らは,THU1 がFOXO4 の細胞内局在に与える影響とともに,その作用機構についても検討を行った.その結果,THU1 はFOXO4 の核内局在誘導作用があることが明らかとなった.食品因子のなかでも寿命延長効果が多数報告されているレスベラトロールにおいては,PI3K の活性を阻害することでFOXO の核内移行を促進させると報告されている.筆者らも,レスベラトロール投与によってFOXO4 の核内移行が確認されている.しかし,レスベラトロールとTHU1 の構造にはそれほど相関性はみられないことから,レスベラトロールの作用部位とTHU1 の作用部位が同じではない可能性が考えられたので検討を進めた結果,FOXO4 のリン酸化の抑制と,FOXO4 のすぐ上流に存在するAkt のリン酸化を抑制することが明らかとなった.PI3K/Akt シグナル経路と同様にインスリン/IGF-1 レセプターを介するMAP(mitogen-activated protein)キナーゼシグナル経路に存在するp44/42 MAPK(ERK)のリン酸化状態には影響がみられなかったことから,THU1 はAkt よりも上流の,PI3K/Akt シグナル経路に作用している可能性が示唆された.今回の検討では,テトラヒドロクルクミンの作用部位を特定するには至らなかったが,今後はPI3K のサブユニットであるP110 やP85 のリン酸化状態について検討を行うなど,さらに詳細に検討を行うことでTHU1 の作用部位を特定するとともに,レスベラトロールの作用機序と比較していくことが期待される(図5)7).おわりに「ウコン」は,インドでは,伝統的に「アーユルヴェーダ」の医療に用いられ,利胆薬として肝臓障害や胆道炎,健胃,利尿,虫下し,腫れ物などに対する薬効が知られ,化粧としてヒンドゥー教の結婚式や儀式にも不可欠であった.黄色色素である「クルクミン」,なかでも,強力な抗酸化性をもつ「クルクミン」の代謝物「テトラヒドロクルクミン」に対する期待は大きなものである.実際に,どのくらいのクルクミンを摂取すればよいのか,よく質問されるが,ウコン換算で成人1 日当たり2,3 g で十分であろう.長い歴史のなか,副作用の報告はないが,一般的に摂り過ぎはよくない.体内の酸化,還元作用はバランスが大切で,抗酸化成分はフラボノイド,カテキン,ビタミンC,E など多数あり,それぞれの特徴と作用のメカニズムがあるのでいろいろな機能性成分を食生活のなかで摂っていくのが理想である.クルクミンはアキウコン特有の成分で,他のショウガ科の生薬・香辛料にはほとんど含まれていない.筆者もカレーは大好きであるが,毎日というわけにはいかない.継続的に摂取するためには,サプリメントやドリンクで摂取するのも一つの方法ではないだろうか.文献1) 大澤俊彦,井上宏生:スパイスには病気を防ぐこれだけの効果があった.廣済堂出版, 19992) 大澤俊彦:がん抑制の香辛料,調味料 うこん.がん抑制の食品事典(西野輔翼編著),p200-205,法研, 20023) Osawa T:Nephroprotective and hepatoprotective effectsof curcuminoids, in “MOLECULAR TARGETS ANDTHERAPEUTIC USES OF CURCUMIN IN HEALTHAND DISEASE”(Aggarwal BB, Surh Y-J, Shishodia S,eds), p407-423, Springer, NY, 20074) 上野有紀,木崎美穂,中桐竜介ほか:抗酸化食品因子による糖尿病合併症予防,食と生活習慣病.予防医学に向けた最新の展開(菅原務監修),昭和堂,p157-167, 20025) 大澤俊彦:アンチエイジングと抗酸化食品.臨床栄養110:265-273, 20076) Howitz KT, Bitterman KJ, Cohen HY et al:Small moleculeactivators of sirtuins extend Saccharomyces cerevisiae lifespan. Nature 425:191-196, 20037) 大澤俊彦,丸山和佳子監修:脳内老化制御とバイオマーカー─基盤研究と食品素材─.シーエムシー, 2009

A 「山の幸」編 ブドウ・赤ワイン(レスベラトロール)

2010年1月31日 日曜日

特集●眼に良い食べ物 あたらしい眼科 27(1):17.21,2010ブドウ・赤ワイン(レスベラトロール)Grapes and Red Wine(Resveratrol)久保田俊介*Iレスベラトロールとcaloric restrictionCaloric restriction(CR;カロリー摂取制限)は65.70%カロリー摂取への減少と定義される1).2000 年にCR によりsilencing information regulator 2(Sir2)が活性化し,酵母の寿命が延長する抗加齢作用が報告された2).その後CR は多くの生物種でsirtuin の活性が上昇し寿命を延長させ,病気の状態を改善する効果が報告されている.哺乳類におけるCR の特徴はインスリンの低下やインスリン感受性の上昇,そして癌や心疾患などの加齢性疾患の減少である3).この寿命延長や加齢性疾患の減少という大変重要な効果を示すCR に対し,CR の効果をミミックする効果(カロリスミミックリー)をもつ物質の研究が盛んになってきた.Sir2 の哺乳類ホモログであるヒトSIRT1(sirtuin 1)によるp53 ペプチドのin vitro での脱アセチル化を定量することにより低分子物質ライブラリーをスクリーニングし,レスベラトロール(resveratrol)をはじめとする植物性ポリフェノール化合物がSIRT1 活性を亢進し,酵母の寿命を延長させることがわかった.そのなかでも特にレスベラトロールは13.4 倍という最も高いSIRT1 活性化作用があることがわかった4).レスベラトロール投与による抗加齢作用は酵母,線虫,ショウジョウバエ,魚類,高カロリー食マウスで確認されている5,6).それ以降レスベラトロールはCR をミミックできる物質として多くの研究が行われている.IIレスベラトロールとは古くから脂肪分の過剰摂取が動脈硬化をもたらし,心血管病変をひき起こすといわれてきた.しかし動物性脂肪をヨーロッパで多く摂取するフランス人には心血管病変が少ないことが知られており,この現象は「フレンチ・パラドックス」とよばれてきた.赤ワインにポリフェノールの一種であるレスベラトロールが多く含まれていることがわかり,レスベラトロールを含むポリフェノール類に抗酸化作用があることからその抗酸化作用がワインを多く摂取するフランス人に恩恵をもたらしているのではないかと考えられている7).ポリフェノールは芳香族炭化水素に結合した水酸基を多数分子内にもつ化合物の総称である.その水酸基は酸化還元電位が低く,自身が酸化されることで抗酸化作用を示す.レスベラトロールはポリフェノール類のスチルベノイドに属し,短鎖の共役二重結合と両端のベンゼン環がヒドロキシル基で置換された化学構造(図1)を有する白色の天然物質である.ブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.レスベラトロールは1940年にユリ科シュロソウ属のコバイケイソウの根から初めて単離された.植物にはフィトアレキシンという外的ストレスや感染などから生体を防御する物質が存在し,そのうちの一つと考えられていた.レスベラトロールは植物の細菌感染やUV(紫外線)照射により植物中で合成が促進する.植物中ではスチルビンシンターゼという合成酵素によりレスベラトロールが合成されるのだが,その酵素は限られた植物にのみ存在しその植物中にレスベラトロールが存在する.細菌はレスベラトロールの分解酵素を合成することができるので,長期に細菌感染を生じた植物のレスベラトロール量は低下する.しかし通常はレスベラトロール合成の速度が分解酵素合成の速度を上回るため,それらの植物は細菌感染を防御することができると考えられている.ただ,フィトアレキシンとして発見当時はあまり注目された物質ではなかった8).その後レスベラトロールにはシクロオキシゲナーゼを抑制する抗炎症作用が見出され,他にも血管拡張作用,抗血管新生作用,神経保護作用,抗癌作用,抗加齢作用など多くの生理活性について報告されている5).III眼科への応用筆者らのグループはぶどう膜炎の動物モデルとして知られる,エンドトキシン誘発ぶどう膜炎(EIU)モデルにおけるレスベラトロールの治療効果を検討した.C57BL/6J マウスにレスベラトロール(50 mg/kg)を5日間内服投与し,その後リポ多糖類(LPS)を投与後24時間で網膜血管への白血球接着数と網膜・脈絡膜における白血球接着因子(intercellular adhesion molecule-1:ICAM-1,monocyte chemoattractant protein-1:MCP-1)を測定した.LPS 投与3 時間後の網膜の酸化ストレス(8-hydroxydeoxygnanosine:8-OHdG)と脈絡膜の核内の核内因子k B(NF-k B)を測定した.その結果,LPS 投与24 時間後の白血球接着数は,レスベラトロールの濃度依存性に抑制されることがわかった(図2). そのメカニズムとして白血球接着因子であるICAM-1,MCP-1 はレスベラトロール投与により有意に減少することがわかった(図3).LPS 投与3 時間後における8-OHdG とNF-k B もレスベラトロール投与により有意に減少することがわかった(図4).抗加齢作用として重要なSIRT1 生体内活性が脈絡膜において上昇することを明らかにした(図5).今回の報告により,レスベラトロールは眼における酸化ストレスと炎症を抑IVレスベラトロール摂取についてレスベラトロールはサプリメントとして多く販売されているが,その最適な摂取量はいまだ不明であるのが現状である.レスベラトロールが多く含まれることで有名な赤ワインには1 杯につき0.1.3 mg のレスベラトロールが含まれると報告されている.ピーナッツには100 g当たり約0.1 mg のレスベラトロールが含まれる5).レスベラトロールは現在いくつかの臨床応用のための治験が米国にて行われている10).臨床応用としての対象疾患は2 型糖尿病,癌,そしてMELAS(mitochondrialmyopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke)症候群である.なかでもMELAS 症候群に対しては2008 年にFDA(米国食品医薬品局)よりorphan drug(希少疾病用医薬品)としての承認が下りており,臨床応用の先駆けとして注目されている.2 型糖尿病の患者を対象にした臨床試験では,28 日間レスベラトロールを5 g 経口投与したところ有意に血糖値の効果を得たとのことである.同様の摂取量で他の治験も行われているため,疾病の治療目的におけるレスベラトロール摂取は用量を考えると食事からの摂取は不可能であり,サプリメントとしての摂取となる.安全性については多くの報告が寄せられているが,明らかな副作用の報告はなく安全性は高いと考えられる.レスベラトロールの眼科的な作用についてはあまり報告が多くなく,まだ不明な点が多い.特に動物実験で使用された報告は数少ない.そのなかでは,レスベラトロールを40 mg/kg 体重でラットに4 日間投与することにより,酸化ストレスが減少し白内障の発生が抑制されたと2006 年に報告されている11).筆者らは2009 年に, レスベラトロールを50 mg/kg 体重でマウスに5 日間投与することにより,生体内SIRT1 を活性化し酸化ストレスと炎症が減少しぶどう膜炎を抑制したと報告した9).この量はヒトに換算すると一日2.5.3 g となり, 米国で施行されている治験の投与量に近似していて眼科的にも応用できる量と言える.眼は組織の特性上光を多く受光する組織であり,光酸化を生じやすく酸化ストレスを生じやすい.眼科的疾患の多くは酸化ストレスや炎症が関与するものが多い.われわれの社会も長寿社会となり,それに伴う多くの眼科的加齢性疾患も増加している.この加齢や酸化ストレス,炎症に対する効果をもつレスベラトロールは疾患の予防的見地から考えても非常に重要と考えられる.レスベラトロールは天然のポリフェノールであり,安全性は高いと考えられ,将来の抗炎症治療の一つとして有望な候補と考えられる.Vレスベラトロール以外のカロリスミミックリー CR の生体への有益な効果は広く知られているが,ヒトにおいて65.70%カロリー摂取への減少は現代の生活にあっては困難が伴うことが多い.そこでCR の効果をミミックする作用をもつレスベラトロールが注目されているが,最近は他にも同様の効果を示すものが報告されている.SIRT1 はnicotinamide adenine dinucleotide(NAD)依存性に働く酵素である.生体内においてNAD はCR など多くの刺激により増減しておりSIRT1の活性をcontrol しているのではないかと注目されている12).レスベラトロール以外のポリフェノールにも同様の効果があることが知られている.なかでもケルセチン(quercetin)が有名である.Quercetin はケッパー,タマネギ,リンゴ,お茶に多く含まれるポリフェノールの一種であり,レスベラトロール同様SIRT1 を活性化することが知られている.SIRT1 活性化の効果はレスベラトロールの40%程度と報告されている4,13).一方,薬剤としては2 型糖尿病の治療薬であるメトフォルミン(metformin)が注目されている.Metformin はアデノシン一リン酸(AMP)活性化蛋白キナーゼ(AMPK)を肝臓内で活性化することによりインスリン感受性を改善させることが知られている14).CR においても同様の効果が報告されており15),metformin もまたカロリスミミックリーとしての可能性が考えられる.他にも古来より体に有益であると考えられてきた運動(exercise)に対し最近は科学的な分析が進められている.CR において,CRP が減少し抗酸化物質が増加することがわかっているが,exercise によりその効果が増加することが報告されている16).ラットにexercise を負荷することにより筋肉においてSIRT1 の発現が増加することも報告された17).このようにレスベラトロールのみならず,NAD,quercetin,metformin,exercise など多くのものがカロリスミミックリーとして研究されている.近い将来にはこれらを組み合わせることによりCR そのものの効果を生体内で発揮することが期待される.文献1) McCay CM, Crowell MF, Maynard LA:The effect ofretarded growth upon the length of life span and uponthe ultimate body size, 1935. Nutrition 5:155-171;discussion172, 19892) Guarente L, Kenyon C:Genetic pathways that regulateageing in model organisms. Nature 408:255-262, 20003) Chen D, Guarente L:SIR2:a potential target for calorierestriction mimetics. Trends Mol Med 13:64-71, 20074) Howitz KT, Bitterman KJ, Cohen HY et al:Small moleculeactivators of sirtuins extend Saccharomyces cerevisiaelifespan. Nature 425:191-196, 20035) Baur JA, Sinclair DA:Therapeutic potential of resveratrol:the in vivo evidence. Nat Rev Drug Discov 5:493-506, 20066) Baur JA, Pearson KJ, Price NL et al:Resveratrol improveshealth and survival of mice on a high-calorie diet. Nature444:337-342, 20067) Dore S:Unique properties of polyphenol stilbenes in thebrain:more than direct antioxidant actions;gene/proteinregulatory activity. Neurosignals 14:61-70, 20058) Cucciolla V, Borriello A, Oliva A et al:Resveratrol:frombasic science to the clinic. Cell Cycle 6:2495-2510, 20079) Kubota S, Kurihara T, Mochimaru H et al:Prevention ofocular inflammation in endotoxin-induced uveitis with resveratrolby inhibiting oxidative damage and nuclear factor-kappaB activation. Invest Ophthalmol Vis Sci 50:3512-3519, 200910) Boocock DJ, Faust GE, Patel KR et al:Phase I dose escalationpharmacokinetic study in healthy volunteers of resveratrol,a potential cancer chemopreventive agent. CancerEpidemiol Biomarkers Prev 16:1246-1252, 200711) Doganay S, Borazan M, Iraz M et al:The effect of resveratrolin experimental cataract model formed by sodiumselenite. Curr Eye Res 31:147-153, 200612) Ramsey KM, Yoshino J, Brace CS et al:Circadian clockfeedback cycle through NAMPT-mediated NAD+ biosynthesis.Science 324:651-654, 200913) de Boer VC, de Goffau MC, Arts IC et al:SIRT1 stimulationby polyphenols is affected by their stability andmetabolism. Mech Ageing Dev 127:618-627, 200614) Blagosklonny MV:An anti-aging drug today:fromsenescence-promoting genes to anti-aging pill. Drug DiscovToday 12:218-224, 200715) Canto C, Gerhart-Hines Z, Feige JN et al:AMPK regulatesenergy expenditure by modulating NAD+metabolismand SIRT1 activity. Nature 458:1056-1060, 200916) Carter CS, Hofer T, Seo AY et al:Molecular mechanismsof life- and health-span extension:role of calorie restrictionand exercise intervention. Appl Physiol Nutr Metab32:954-966, 200717) Suwa M, Nakano H, Radak Z et al:Endurance exerciseincreases the SIRT1 and peroxisome proliferator-activatedreceptor g coactivator-1a protein expressions in rat skeletalmuscle. Metabolism 57:986-998, 2008

A 「山の幸」編 ホウレンソウ,ケール(ルテイン,ゼアキサンチン)

2010年1月31日 日曜日

特集●眼に良い食べ物 あたらしい眼科 27(1):9.15,2010ホウレンソウ,ケール(ルテイン,ゼアキサンチン)Spinach, Kale(Lutein, Zeaxanthin)尾花明*Iルテイン,ゼアキサンチンとはルテイン(lutein)はラテン語の黄色“luteus”から派生した言葉で,濃緑食野菜に豊富に存在する.食品中には650 種類のカロテノイドがあり,血液,乳汁中にはそのうちの34 種類(異性体も含む)が見つかっており,ルテインもその一つである.カロテノイドは長鎖ポリイソプレノイド分子で両端のシクロヘキセン環に酸素をもつものがキサントフィルで,ルテインとゼアキサンチンはキサントフィルに属する.眼内に存在するキサントフィルはルテインとゼアキサンチンで,ゼアキサンチンには2 つの立体異性体(3R, 3¢R)ゼアキサンチンと(3R,3¢ S)ゼアキサンチン(メソゼアキサンチン)がある(図1).(3R, 3¢ R)ゼアキサンチンは食事由来で,メソゼアキサンチンは体内でルテインから変換される.ルテイン,ゼアキサンチンは体内で合成されないので,日常的に食物から摂取しなければならない.サルを生後からキサントフィルを含まない食餌で飼育すると黄斑色素は形成されない.ヒトでも出生前(妊娠22 週)の網膜に黄斑色素はみられず,母乳など生後の食物摂取によって形成される.脂溶性のルテイン,ゼアキサンチンは十二指腸で吸収されて肝臓でリポ蛋白〔LDL(低比重リポ蛋白),HDL(高比重リポ蛋白)〕に組み込まれて眼に運ばれる(図2).IIルテイン,ゼアキサンチンは眼のどこに存在するか?ルテイン,ゼアキサンチンは網膜,毛様体,虹彩,水晶体に存在する(表1).なかでも黄斑色素として網膜中央の直径1.5.2.0 mm の範囲に多く存在する.この部分は黄斑色素によって黄色く見えるので黄斑とよばれる(図3).血漿中のルテイン,ゼアキサンチンは脈絡膜毛細血管から網膜色素上皮を介して錐体細胞外節に取り込まれて軸索に集積し,組織学的には錐体軸索である外網状層(Henle 線維層)に最も多い(図4).一部は神経接合を介して内網状層にも達する.杆体外節にもルテインが確認されている.網膜前膜や黄斑円孔の手術時に後部硝子体膜下のグリアと思われる増殖物に黄色色素がみられることから,病的に増殖したMuller 細胞は黄斑色素を取り込むと考えられる.周辺部網膜にも存在するが,錐体分布範囲にはメソゼアキサンチンが多く,杆体分布部位にはルテインが多い.眼以外には,肝臓,大腸,肺,前立腺,乳房,皮膚,子宮頸部にみつかっている.III眼内でのルテイン,ゼアキサンチンの働き1. フィルター効果ルテイン,ゼアキサンチンは460 nm に吸収ピークをもち,過剰な青色可視光を吸収する.青色可視光は視細胞に光障害をもたらす(blue light hazard)ため,この障害を抑制する働きをする(図5).2. 抗酸化作用ルテイン,ゼアキサンチンは活性酸素を還元する抗酸化作用をもつ.網膜色素上皮のリポフスチンに青色光を照射すると一重項酸素が発生するが,杆体外節のルテインがこの一重項酸素を消去していることが推測される.また,ゼアキサンチンの結合蛋白はpi isoform of glutathioneS-transferase(GST)で,錐体軸索に分布する.GST は脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)など脂質過酸化によってできた毒性物質を還元する酵素であることを考えると,ゼアキサンチンが酸化されたGST の還元に働いているのかもしれない.IV黄斑色素は加齢とともに減少する黄斑色素量が低値となる要因として,低摂取,白人,加齢,女性(ただし,男性が少ないという報告もある),虹彩色素が少ない,喫煙,長時間の太陽光曝露などがある.図6 は筆者ら4)が共鳴ラマン分光法を用いて健常日本人100 名の黄斑色素量を測定したもので,60 歳以上は20 歳代,40 歳代より有意に色素密度が低かった.また,若年者では色素量の個人差が大きかった.一方,ルテインの血漿濃度は年齢とともに増加傾向を示し(図7),60 歳以上は20 歳代よりも有意に血漿濃度が高かった.血漿濃度と黄斑色素量の相関はみられない.黄斑色素は蓄積物なので血清濃度に直接左右されにくいと考えられる.V加齢黄斑変性では黄斑色素が少ない摘出眼球で中心窩から3 mm 以内のルテイン,ゼアキサンチン量を調べると,加齢黄斑変性(AMD)眼は健常眼の63%であったと報告されている5).生体でもAMD 眼は同年齢の健常眼より黄斑色素量が有意に少ない.図8 は筆者ら4)が共鳴ラマン分光法で日本人AMD 患者を測定したもので,AMD 眼は低値であるが,片眼性AMD で,一見正常な僚眼の色素量も低値であった.黄斑色素の低値はAMD 進行要因なのか,病気の結果で低値になったのかは断言できないが,筆者らは黄斑色素の少ない個体がより病気の進行をきたしやすいと推測している.VIルテイン,ゼアキサンチンの適切な摂取量は? 1. 適切な摂取量日常的な食生活での血漿ルテイン濃度を知ることは重要だが,十分な研究はない.インディアナポリスの住民280 人でのルテイン,ゼアキサンチン摂取量は1,101±838 μg/日とされる6).日本人での研究はさらに少ないが,若年未婚者の摂取量は350 μg/日との報告7)があり,欧米人より極端に少ない.ただし,これは食生活が豊かでない若年者を調べたもので,家庭での食事の多い中高年者の濃度は不明である.Age-Related Eye Disease Study(AREDS)の報告8)では,ルテイン,ゼアキサンチンの最大摂取群(中央値3.5 mg/日)は最小摂取群(0.7 mg)より,滲出型AMDのオッズ比が0.65,萎縮型AMD のオッズ比が0.45 であった.Ritcher らが行った萎縮型AMD に対する治療試験9)ではルテインをサプリメントとして一日10 mg 投与している.また現在施行されている大規模試験AREDS2で採用されているサプリメント処方は表2 のようで,やはり一日量はルテイン10 mg である.その他の報告でも10 mg/日とするものが多く,現時点ではこの値がスタンダードと考える.ゼアキサンチンの最適量は不明だが,ヒト血中のルテイン:ゼアキサンチン比が約7:1 であることを考えて,AREDS では2 mg/日に設定したと考えられる.2. 摂取により血漿濃度と黄斑色素は増加するか健常者では積極的な摂取により血漿濃度と黄斑色素量は増加する.投与試験ではサプリメントを使用するものが多いが,ホウレンソウを使った試験でもルテインを30 mg または12 mg 含むホウレンソウ12 週間摂食で血漿ルテイン濃度と黄斑色素量増加が確認されている.ただし,糖尿病患者では血漿濃度の増加が不良との報告や,AMD 患者では血漿濃度や黄斑色素量の増加しない個体があるようである.VIIルテイン,ゼアキサンチン含有食物米国農務省が野菜果実のルテイン,ゼアキサンチン含有量データベースを公開している(表3).しかし,残念なことにわが国には同様のデータがないため,日本人がよく食べる緑色野菜(小松菜,みずな,春菊,白菜など)の含有量は不明である.したがって,欧米で行われているような食事アンケートをもとに,摂取量と疾患に関する研究はわが国では行えない.日本人向けのデータベース構築が必要である.1. ルテインを多く含む食物a. ケール地中海原産のアブラナ科植物でキャベツの原種.生が店頭で販売されることはめずらしい(図9).青汁の原料に使用される.生はそのまま食べると硬いので,オリーブオイルで炒めて塩,胡椒少々.またはごま油で炒めた後,だし汁を加えて和風に.脂溶性物質なので脂質とともに摂食したほうが十二指腸での吸収がよくなると思われる.b. ホウレンソウ原産はペルシャ.店頭で販売される一束は約200 g(図10)なので,ルテイン10 mg を摂取するには約半束を食べればよい.ただし,100 g 当たりの含有量が5,869 μgとの報告もあるので,その場合はほぼ1 束となる.c. パセリ,レタス,芽キャベツ,ブロッコリーなど(図11)これらの緑色野菜もルテインを多く含有するが,単独で必要量を摂取するのは不可能で,たとえば10 mg を摂取するには,グリーンレタスなら500 g(約1.3 個),茹でたブロッコリーなら1 kg(約2 房)が必要になる.卵黄も含有量が多いが,10 mg 摂取には約50 個が必要となる.したがってこれらの食品はできる限り多くの種類をとる必要がある.2. ゼアキサンチンを多く含む食物(図12)a. パプリカゼアキサンチン含有が多く,サプリメントの原料となる.b. 柿c. トウモロコシ茹でて食べる以外にも,粉製品,油などさまざまに使用されるので摂取しやすい.d. オレンジ,みかんe. クコ(枸杞)中国原産で,果実(枸杞子)は古くから生薬として,血圧降下,血糖降下,コレステロール降下,強壮などに使用され,根皮(地骨皮)は消炎,解熱,葉(枸杞葉)は血圧降下に使用されてきた.VIIIルテインとゼアキサンチンサプリメント一日の最適摂取量は未確定だが,ルテイン10 mg,ゼアキサンチン2 mg を目安にすると,ルテインはホウレンソウによって摂取可能だが,毎日食べ続けるのはむずかしい.他の食物もかなり大量を多種類摂取せねばならず,事実上,毎日続けることはできない.そこで,食事摂取で不足した分をサプリメントとして摂取することは理にかなっている.1. ルテインサプリメント天然植物由来製品は菊科のマリーゴールド花弁(図13)から抽出したものである.もともと中南米で栽培されていたが,最近はインドや中国で栽培されたものが多い.抽出過程でゼアキサンチンを完全に分離できないため,通常,1%程度のゼアキサンチンを含む.市販品にはエステル体と遊離体のルテインがある.エステル体は胃・十二指腸のエステラーゼ,リパーゼでフリー体になり,フリー体が十二指腸粘膜から吸収される.エステル体の吸収は同時に摂取した脂肪の量に影響されるが,遊離体は影響を受けることなく吸収されるようである.合成品もある.ルテイン含有サプリメントは多数,市場に存在する.2. ゼアキサンチンサプリメント天然植物由来製品はオレンジペッパー(図14)から抽出したものである.近年,ゼアキサンチンと他のサプリメントを組み合わせた製品が販売されだした.文献1) Burri BJ, Clifford AJ:Carotenoid and retinoid metabolism:insights from isotope studies, Arch Biochem Biophys430:110-119, 20042) Bernstein PS, Khachik F, Carvalho LS et al:Identificationand quantification of carotenoids and their metabolites inthe tissues of the human eye. Exp Eye Res 72:215-223,20013) Snodderly DM, Brown PK, Delori FC et al:The macularpigment. I Absorbance spectra, localization, and discriminationfrom other yellow pigments in primate retinas.Invest Ophthalmol Vis Sci 25:660-673, 19844) Obana A, Hiramitsu T, Gohto Y et al:Macular carotenoidlevels of normal subjects and age-related maculopathypatients in a Japanese population. Ophthalmology 115:147-157, 20085) Bone RA, Landrum JT, Mayne ST et al:Macular pigmentin donor eyes with and without AMD:A case-controlstudy. Invest Ophthalmol Vis Sci 42:235-240, 20016) Curran-Celentano J, Hammond BRJ, Ciulla TA et al:Relation between dietary intake, serum concentrations,and retinal concentrations of lutein and zeaxanthin inadults in a Midwest population. Am J Clin Nutr 74:796-802, 20017) Hosotani K:Measurement of individual differences inintake of green and yellow vegetables and carotenoids inyoung unmariied subjects. 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