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硝子体手術のワンポイントアドバイス 94.増殖病変を有する網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術(中級編)

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113870910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に起因する硝子体出血は,硝子体手術の適応症例としては比較的難易度が低いことが多く,多くの症例で単純硝子体切除術により良好な視力改善が得られる.しかし,なかには眼内に高度な増殖性病変を有するBRVO例に遭遇することがある.●増殖病変を有するBRVOの臨床的特徴網膜虚血が広範囲かつ高度なBRVOでは,しばしば増殖糖尿病網膜症(PDR)類似の線維血管性増殖膜を生じることがある(図1).一般にこのような症例は硝子体出血を併発していないことが多く,後部硝子体未.離例も多い.また,部分的な後部硝子体.離の進行により,牽引性網膜.離をきたしていることもあり,PDRの牽引性網膜.離と同等かそれ以上に難易度が高い症例も多い.BRVOの虚血範囲はPDRよりも狭いが,主幹静脈が閉塞しているので,局所的な虚血はPDRよりも高度であると考えるべきである.網膜中心静脈閉塞症でも同様の病変を有する症例もあり,この場合には広範な網膜虚血のために血管新生緑内障を併発しやすい.●硝子体手術における注意点PDRと同様に丁寧な増殖膜処理を行う必要がある.一般に乳頭新生血管を生じている症例は,PDRと同様に虚血が高度で難治例が多い1).増殖膜の周辺部は後部硝子体が未.離なことが多く,増殖膜処理後には周辺部まで確実に人工的後部硝子体.離を作製しておく必要がある.そのためには,若年であっても水晶体切除を併用したほうが良好な手術成績が得られることが多い.また,網膜虚血範囲が周辺部まで広範囲に存在していることが多く,最周辺部に至る十分な眼内光凝固を施行しておかないと,術後にしばしば再増殖をきたす(図2a,b).牽引性網膜.離を併発している場合には,気圧伸展網膜復位術により確実に網膜を復位させる.(79)文献1)IkunoY,IkedaT,SatoYetal:Tractionalretinaldetachmentafterbranchretinalveinocclusion.Influenceofdiscneovascularizationontheoutcomeofvitreoussurgery.Ophthalmology105:417-423,1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載94増殖病変を有する網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2網膜虚血が広範な網膜静脈分枝閉塞症例a:術前,b:術後.見かけより網膜虚血範囲が広く,周辺部に至る広範な光凝固が必要であった.ab図1線維血管性増殖膜を有する網膜静脈分枝閉塞症例硝子体出血は認めなかったが,後部硝子体は未.離で,周辺部に至る人工的後部硝子体.離の作製が必要であった.

眼科医のための先端医療 123.眼内悪性リンパ腫の新たな治療法

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113830910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに眼内リンパ腫は眼内原発のprimaryintraocularlymphoma(PIOL)と他部位(脳を除く)から転移・播種してきた続発眼内リンパ腫(secondaryintraocularlymphoma)に分類されます.前者のPIOLは中枢神経系悪性リンパ腫(centralnervoussystemlymphoma:CNSlymphoma)の一亜型と考えられ,眼・中枢神経系悪性リンパ腫とも分類されます.PIOLの診断時には25%にしかCNSlymphomaは発症していませんが,その後60.80%と高率にCNSlymphoma(いわゆる脳病変)が発症します1).PIOLはCNSlymphoma発症により,5年生存率が5.30%と,きわめて悪性度の高いリンパ腫とされます.PIOLのほとんどは非Hodgkinびまん性大細胞型B細胞リンパ腫です(図1).B細胞由来なので,CD19やCD20の表面マーカーを有しています.T細胞やNK(naturalkiller)細胞系の眼内悪性リンパ腫の報告も散見されますがまれです.ぶどう膜炎の眼内ではT細胞が優位となっていることと対照的です.近年は,悪性リンパ腫の診断に必須の細胞診(病理診断)に加え,遺伝子再構成,硝子体中のインターロイキン-10(IL-10)濃度などの補助診断が普及しつつあります.そこで,この悪性度の高いリンパ腫に対する最近の治療に関して触れたいと思います.治療法1.中枢神経系リンパ腫(脳病変)を伴う場合a.全身治療①化学療法:中枢神経リンパ腫の標準治療は大量メトトレキサート(MTX)療法になりつつあります1).高濃度にすることで,血液脳関門を通過すると考えられています.白質脳症(認知症様症状)をはじめとした副作用がありますが,生存率は向上しました.ほかにCHOP療法も選択されています.近年は生物学的製剤である抗CD20抗体(rituximab)を加えた治療の有効性が報告されています2).②放射線治療:悪性リンパ腫は感受性が高いため,放射線治療が主流でした.ただ,放射線治療単独では腫瘍の一時的な寛解導入ができても,再発率が高く,近年は化学療法との併用が考慮されています.一方で,放射線治療後にMTX大量投与を行うと高頻度で白質脳症をきたすことも知られています.なお,放射線治療単独でも高齢者では白質脳症が生じやすいことが問題となります.③造血幹細胞移植:治療抵抗症例や再発時に行われることがあります.b.局所投与①MTXの眼内注射:短期的には有効とされます.全身療法後に残存した場合もしくは眼内のみに再発した場合が適応と思います.MTX400μg/0.1mlの週2回の硝子体内注射から始め,月1回の維持療法が述べられています3).ただ,角膜上皮障害の副作用が生ずると,注射継続が困難となることがあります.②Rituximab(抗CD20抗体)の眼内注射:B細胞リンパ腫に補体関与の細胞障害,抗体関与の細胞障害,アポトーシスを誘導させる治療です.わが国からもMTX治療継続困難症例での有効例が報告されています4).2.眼内限局の場合施設により治療方針が立てにくい可能性があります.脳内病変などがない場合,血液内科などでMTX治療を(75)◆シリーズ第123回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊太田浩一(松本歯科大学歯学部眼科)眼内悪性リンパ腫の新たな治療法図1硝子体生検による硝子体細胞(May-Giemsa染色)切れ込みを有する大きな核と明瞭な核小体を有する大型の異型リンパ球を認める.384あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011行ってくれないことがあるからです.血液内科医にとって,末梢血や骨髄から「リンパ腫」が証明されず,治療指標がありません.近年,前述のような眼局所治療の有効性が報告され,「まずは眼科で局所治療をしてください」になる危険があります.基本治療はあくまでMTX大量療法などの化学療法に可能なら放射線療法,残存病変にMTX局所治療と考えます.悪性度についてとにかく,眼内悪性リンパ腫は悪性であることを眼科医は常に覚えていてほしいと思います.自験例でも最終的にすべて脳内病変を起こし,予後不良でした5).これらの症例で予防的な大量MTX療法は行われておりません.眼・中枢神経系悪性リンパ腫は精巣に生ずる悪性リンパ腫とともにimmuneprivilegedsiteに生じ,悪性度の高いものです.眼内には血液眼関門,脳には血液脳関門があり,薬剤が移行しにくいことがその理由にあげられます.さらに,immuneprivilegedsiteでは過剰な炎症が抑制されており6),悪性細胞を“外来異物”と認識できず,攻撃できない免疫学的な弱点によりその悪性度が高まると個人的には考えます.マウスにおいて,悪性リンパ腫の脳から眼内7),眼内から脳への転移8)が証明されており,ヒトの眼・中枢神経系悪性リンパ腫の再発パターンを裏付けており,局所療法のみの無効性を確認できます.おわりにMTXやrituximabの硝子体内注射は,眼内悪性リンパ腫に対し,有効な新しい治療手段と思われます.しかし,高率に生命予後がきわめて不良な脳内病変が生じうる中枢神経系悪性リンパ腫への全身的な治療を基本にした治療戦略が必要であることを心に留める必要があると思います.文献1)ChanCC:Molecularpathologyofprimaryintraocularlymphoma.TransAmOphthalmolSoc101:275-292,20032)BoehmeV,SchmitzN,ZeynalovaSetal:CNSeventsinelderlypatientswithaggressivelymphomatreatedwithmodernchemotherapy(CHOP-14)withorwithoutrituximab:ananalysisofpatientstreatedintheRICOVER-60trialoftheGermanHigh-gradeNon-HodgkinLymphomaStudyGroup(DSHNHL).Blood113:3896-3902,20093)SmithJR,RosenbaumJT,WilsonDJetal:Roleofintravitrealmethotrexateinthemanagementofprimarycentralnervoussystemlymphomawithocularinvolvement.Ophthalmology109:1709-1716,20024)OhguroN,HashidaN,TanoY:Effectofintravitreousrituximabinjectionsinpatientswithrecurrentocularlesionsassociatedwithcentralnervoussystemlymphoma.ArchOphthalmol126:1002-1003,20085)OhtaK,SanoK,ImaiHetal:Cytokineandmolecularanalysesofintraocularlymphoma.OculImmunolInflamm17:142-147,20096)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:Therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20037)HochmanJ,AssafN,Decker-SchluterMetal:Entryroutesofmalignantlymphomaintothebrainandeyesinamousemodel.CancerRes61:5242-5247,20018)LiZ,MaheshSP,ShenDFetal:EradicationoftumorcolonizationandinvasionbyaBcell-specificimmunotoxininamurinemodelforhumanprimaryintraocularlymphoma.CancerRes66:10586-10593,2006(76)■「眼内悪性リンパ腫の新たな治療法」を読んで■眼内悪性リンパ腫の発生頻度が年々増加しています.これは非Hodgin悪性リンパ腫のすべてについていえることであり,1970年代から1990年代にかけて激増しました.1990年代後半には増加はプラトーに達したと思われましたが,それからも毎年1%ずつ増加しています.その結果,眼内悪性リンパ腫は,ぶどう膜炎のまれな原因疾患とされていたものが,今では主要原因疾患といわれています.原因としては,診断技術の向上,エイズなどの免疫抑制性疾患の拡大,オゾン層の破壊などの環境要因があげられていますが,それだけでは増加数全体の半分しか説明できず,不明とされています.幸いなことに,悪性リンパ腫(特にB細胞リンパ腫)は以前から化学療法が奏効する疾患でしたが,最近開発された薬物はさらに高い奏効率を示します.その一つが本文に紹介されている抗CD20抗体薬rituximabです.欧米で行われた大規模試験では,従来のCHOP治療と組み合わせることで,なんと90%の患者に有効性が見出されました.これは先端医療が治療成績を飛躍的に向上させた例として特筆すべきもので(77)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011385す.そして,それだけでなく続々と新薬が開発されつつあります.たとえば,プロテインキナーゼC(PKC)b抑制薬は,糖尿病網膜症治療薬として,以前このコラムで紹介されましたが,PKCb抑制薬enzastaurinがB細胞リンパ腫にも奏効することがわかってきました.また,脾臓チロシンキナーゼ抑制薬fostamatinibdisodiumはB細胞リンパ腫にアポトーシスを起こして,リンパ腫を退縮させることが報告されました.それ以外にも,プロテアーゼインヒビターなどが有効性を示す新薬として注目を集めています.太田浩一先生が本文で述べられているように,眼内悪性リンパ腫が治癒しても,その後の中枢神経系悪性リンパ腫は悪性度が高いので,決して油断してはいけないことを,われわれ眼科医は強く認識して治療に当たるべきです.しかし,新たな治療薬が次々に開発されており,その未来は必ずしも暗いとはいえないでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

緑内障:血管新生緑内障眼における抗VEGF薬による新生血管の変化

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113810910-1810/11/\100/頁/JCOPY●血管新生緑内障の病態血管新生緑内障は1期:血管新生期,2期:開放隅角緑内障期,3期:閉塞隅角緑内障期の順に進行する.1期は虹彩や前房隅角に新生血管が生じているが,眼圧上昇はない時期である.2期の隅角は開放しているが,虹彩や前房隅角に形成された新生血管のために眼圧が上昇する時期である.この時期の眼圧上昇には2つの機序が考えられる.1つは新生血管からの血液成分の透過性が高いことによるものである.新生血管の内皮細胞には窓構造があり,血液の成分は容易に前房内に漏出する.他の1つは線維柱帯血管新生によるものである.線維柱帯間隙に新生血管が進入する.ほぼ同時に線維柱帯内皮網表面を内皮細胞が覆う1).3期は周辺虹彩前癒着が起こって隅角が閉塞し,不可逆性の眼圧上昇をきたす時期である.治療はまず原因である網膜の虚血性変化を改善することである.●抗VEGF薬による新生血管の変化近年,抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬が広く用いられるようになった.この治療は保険診療適用外で,ベバシズマブの硝子体注入を用いることが多い.硝子体内に1.25mg(0.05ml)を注入すると,細隙灯顕微鏡で観察する限り早期に虹彩および隅角の新生血管はほぼ消失するようにみえる.新生血管にどのような変化が起こっているかを調べるために,HeidelbergRetinaAngiograph2(HRA2)に前眼部アタッチメントを装着して,フルオレセインとインドシアニングリーンを用いた前眼部隅角造影検査を行った.フルオレセインは新生血管から容易に漏出するが,分子量が大きいインドシアニングリーンは新生血管からも漏出しないために,後期まで血管構築の観察が可能である2).フルオレセイン造影では新生血管から旺盛に漏出した.インドシアニングリーン造影では新生血管の構築が後期まで可能であった.ベバシズマブを硝子体内注射した後,数日後にもう一度前眼部蛍光造影検査を行った.フルオレセイン造影では新生血管からの漏出は明らかに減少していた.インドシアニングリーン造影では新生血管が描出され,その構築はベバシズマブ注入前と変化はなかった.このことからルベオーシス眼にベバシズマブを注入した変化としては新生血管からの漏出は抑えられるが,新生血管の構築には変化がないことがわかった3)(図1).血管新生緑内障眼でベバシズマブを硝子体内に注入した後に線維柱帯切除術を行った組織標本を観察した.線(73)●連載129緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也129.血管新生緑内障眼における抗VEGF薬による新生血管の変化久保田敏昭*1石橋真吾*2*1大分大学医学部眼科*2産業医科大学眼科ルベオーシス眼では新生血管が虹彩,隅角線維柱帯にみられる.新生血管の内皮細胞には窓構造があり,血液の成分は容易に前房内に漏出する.抗VEGF薬であるベバシズマブの効果は新生血管の窓構造を消失させることにより,新生血管からの漏出,すなわち血液房水関門の破綻を修復することであると考えられる.acbd図1ルベオーシス眼のベバシズマブ注入前後の造影検査所見a,b:フルオレセイン造影検査.c,d:インドシアニングリーン造影検査.a,c:注入前,b,d:注入後.ベバシズマブ注入により,フルオレセイン造影で漏出は減少しているが,インドシアニングリーン造影で血管構築に変化はほぼみられない.382あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011維柱帯には血管構築が多数認められた.血管内皮細胞のマーカーであるCD34免疫染色を行った標本を図2に示す.電子顕微鏡で観察すると,血管構造を形成する細胞には基底膜が観察され,血管内皮細胞であることがわかる.この内皮細胞には窓構造が認められなかった4)(図3).VEGFは血管内皮細胞の窓構造の維持の機能をもつとされる.ベバシズマブを注入することで,新生血管の内皮細胞の窓構造が消失したことが考えられる.おわりにベバシズマブ硝子体内注入は血管新生緑内障眼の病勢を一時的にストップさせる.前眼部造影検査と組織学所見からみたベバシズマブの効果は新生血管の窓構造を消失させることにより,新生血管からの漏出,すなわち血液房水関門の破綻を修復することがその1つである.細隙灯検査では新生血管が消失したようにみえるが,新生血管の血流が減少しているためと考えられる.ベバシズマブの効果がなくなると新生血管の再燃が起こることは組織所見からも明らかである.(74)文献1)KubotaT,TawaraA,HataYetal:Neovasculartissueintheintertrabecularspacesineyeswithneovascularglaucoma.BrJOphthalmol80:750-754,19962)川崎貴子,後藤美和子,久保田敏昭ほか:走査レーザー検眼鏡を用いた前眼部新生血管の蛍光造影検査.臨眼51:999-1001,19973)IshibashiS,TawaraA,SohmaRetal:Angiographicchangesinirisandiridocornealangleneovascularizationafterintravitrealbevacizumab.ArchOphthalmol128:1539-1545,20104)KubotaT,AokiR,HaradaYetal:Trabecularmeshworkinneovascularglaucomaeyesaftertheintravitrealinjectionofbevacizumab.BrJOphthalmol93:557-558,2009☆☆☆図2ベバシズマブ注入後の線維柱帯CD34免疫染色標本.線維柱帯に新生血管が多数存在する.SC:Schlemm管.ab図3ベバシズマブ注入後の線維柱帯にみられた新生血管の電子顕微鏡写真新生血管に窓構造は観察されない.矢印は血管内皮細胞の基底膜,矢頭はマイクロファイブリル.

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーフラップの高次収差

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113790910-1810/11/\100/頁/JCOPYLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,現在屈折矯正手術の主流となっているが,ときに夜間視機能の低下を生じるなどといった問題も残されている.見え方の質(qualityofvision)に影響を及ぼす因子の一つに高次収差があり,一般に近視矯正LASIKでは,角膜中央部の切除によりprolateからoblateへと角膜形状の変化をきたして球面収差が増加したり,照射ずれによりコマ収差が増加することが知られている1).Wavefront-guidedLASIKとは,術前に存在する高次収差を測定し,それを切除デザインに組み入れ,惹起される高次収差の抑制を試みるカスタム照射であり,臨床で広く用いられている2).しかし術後の高次収差は,エキシマレーザー装置の照射profileだけでなく,フラップ作製方法の違いによってもその増加量が異なることが報告されるようになってきている3.5).近年フラップ作製に関して,従来の機械式マイクロケラトームではなく,フェムトセカンド(femtosecond:FS)レーザーを使用することが注目されている.FSレーザーは波長1,053nmの超短パルスの近赤外線レーザーで,角膜実質内で光切断した点を連続させて角膜を切開し,高精度なフラップを作製することが可能である.その歴史については,1999年に米国食品医薬品局(FDA)に認可され,翌年にパルスレート6kHzのプロトタイプが登場した.2001年には当時のIntralase社から10kHzの第一世代のFSレーザーが販売されたが,フラップ作製に必要な照射エネルギーは高く,照射時間は約90秒を要した.その後,照射エネルギーの削減や照射時間の短縮などの改善が図られ,2003年に第二世代のIntralaseFS15TM(15kHz)が,2005年には第三世代のIntralaseFS30TM(30kHz)が登場し,現在ではAMO社から第四世代のIntralaseFS60TM(60kHz)と第五世代のIntralaseiFSTM(150kHz)が販売され広く普及している(図1).その他にも各社よりそれぞれ特徴をもったFSレーザーが開発されている.2010年6月にはAMO社のIntralaseFS60TMがわが国において承認を受けた.一般に,マイクロケラトームでは不均一な厚さのフ(71)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載130監修=木下茂大橋裕一坪田一男130.フェムトセカンドレーザーフラップの高次収差山村陽*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学LASIK(laserinsitukeratomileusis)術後の高次収差は,見え方の質(qualityofvision)に影響を及ぼす因子の一つであるため重要であるが,エキシマレーザー装置の照射profileだけでなく,フラップ作製方法の違いによってもその増加量が異なり,フェムトセカンドレーザーを用いて均一な厚さのフラップを作製したほうが術後の高次収差が少ない可能性がある.図1IntralaseFS60TM(左図)とIntralaseiFSTM(右図)の外観380あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011ラップ(meniscusflap)が作製されるのに対して,FSレーザーでは均一な厚さのフラップ(planarflap)が作製できる.このフラップ厚の均一性によって惹起される高次収差に違いが生じ,FSレーザーを用いてフラップを作製したほうが術後の高次収差が少ないと考えられている.実際マイクロケラトーム(MK-2000TM,NIDEK社)とFSレーザー(IntralaseFS60TM,AMO社)でそれぞれフラップ作製をし,VisxStarS4IRTM(AMO社)を用いてwavefront-guidedLASIKを施行した症例の術前後における高次収差の増加量を比較検討したところ,図2に示すような結果が得られた5).すなわち,術後6カ月での全高次収差(3.6次),コマ様収差(3次),球面様収差(4次),球面収差の増加量は,コマ様収差を除きいずれもFSレーザーを使用したほうが有意に増加量が少なかった.このように,FSレーザーでフラップを作製して施行するLASIKはマイクロケラトームを用いるよりも,惹起される高次収差は少ない可能性がある.FSレーザーに関してはLASIKにおけるフラップ作製以外にも,角膜内リング挿入や角膜移植,白内障手術などへの応用がすでに始まっており,今後もその動向からしばらく目が離せない状況が続きそうである.文献1)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Highorderwavefrontabberationsofcorneaandmagnitudeofrefractivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmology109:1154-1158,20022)JabburNS,KraffC:Wavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisusingtheWaveScansystemforcorrectionoflowtomoderatemyopiawithastigmatism:6-monthresultsin277eyes.JCataractRefractSurg31:1493-1501,20053)TranDB,SaraybaMA,BorZetal:RandomizedprospectiveclinicalstudycomparinginducedaberrationswithIntraLaseandHansatomeflapcreationinfelloweyes:potentialimpactonwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg31:97-105,20054)MedeirosFW,StapletonWM,HammelJetal:WavefrontanalysiscomparisonofLASIKoutcomeswiththefemtosecondlaserandmechanicalmicrokeratomes.JRefractSurg23:880-887,20075)山村陽,稗田牧,木下茂ほか:フェムトセカンドレーザーフラップによるLASIKの治療成績.臨眼63:903-908,2009(72)☆☆☆図2高次収差の増加量(術前と術後6カ月)高次収差はOPDscanTM(NIDEK社)で6次までの眼球の収差をZernike多項式を用いて解析径6mm(散瞳下)で測定し,波面収差量としてrootmeansquare(RMS)値を用いた.0.240.150.180.210.130.090.110.160.60.50.40.30.20.10波面収差量(μm)*****■:MK-2000■:IntralaseFS60全高次収差コマ様収差球面様収差球面収差*p<0.05**p<0.01

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズの術前検査

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113770910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)の術前検査は基本的には単焦点IOLの場合と同じであるが,多焦点IOLの特徴を念頭に置きながら検査を進めることが必要である.多焦点IOLには保険適用がなく患者の術後視機能に対する期待が高い.そのため,症例の見きわめや術後視機能の予測への検査を随時追加し,それらをもとに十分な説明をして医師と患者両方が納得したうえで手術に臨むべきである(図1).問診・一般診察による評価問診は単焦点IOLのときよりも慎重に行い,屈折矯正手術を含めた眼内手術の既往や網膜疾患・緑内障などの眼病歴はもちろん,今までの矯正方法や職業・ライフスタイル・術後の見え方の希望を詳細に把握する必要がある.加えて,実際に直接話をしたときの印象で性格を感じることも大切である.完璧主義者や神経質な方に挿入する場合は要注意である.一般診察時,細隙灯検査では,白内障の混濁の様子,角膜疾患の有無,コントラスト感度に影響するような網膜・硝子体疾患や緑内障などの眼合併の有無の確認を行う.偽落屑症候群,瞳孔癒着などZinn小帯が脆弱で,術後経過でIOLが偏位してくる可能性がある症例は適応から除外するほうが無難である.ぶどう膜炎の既往など術後.胞様黄斑浮腫が起こる可能性が高い症例も注意が必要である.視力検査時には視力(遠近),屈折度,眼鏡度数・コンタクトレンズの度数を参考にしながら普段の矯正方法・過去の屈折状態の予測を行う.眼内レンズ度数決定多焦点IOLでは基本的に術後に眼鏡使用をしないことを目的としているため,単焦点IOLのときよりも精確な度数設定が求められる.まずは精確な眼軸長・前房深度・角膜屈折力の測定が必要となる.狙いは基本的には正視だが,微調節は各々のIOLの種類によりコツがあるのでそれらを参考に決定する.眼軸長測定:光学式のIOLマスターで測定したほうがより精確に測れるが,皮質混濁が強く測定ができない症例では超音波式で測定をする.しかしその場合,超音波Aモードでは平均等価音速を用いて測定するため,22.0.26.0mmから外れる短眼軸・長眼軸ではどうしても誤差が出てしまう.どちらの測定方法でも,眼軸長測定時には数回測定を行い,再現性を確認する.角膜屈折力:オートケラトメータでは直径3.0mmの傍中心部を測定するため,屈折矯正術後の症例や角膜乱視の強い症例では注意が必要である.追加検査瞳孔径:屈折型多焦点IOLでは明視下の近方視時の瞳孔径の測定が必要である.その場合,より日常視に近い赤外線瞳孔径測定機での測定が望まれる.回折型多焦点IOLでは必ずしも瞳孔径による制限があるわけではないが,小さすぎる瞳孔径ではコントラスト感度の低下(69)●連載⑮多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子15.多焦点眼内レンズの術前検査稗田朋子稗田牧京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学多焦点眼内レンズ挿入術前検査には,適応決定のための検査・眼内レンズ度数決定のための検査・オプションが必要である.眼内レンズ度数決定には通常の単焦点眼内レンズよりも精確な度数設定が求められる.問診・一般診察による評価ライフスタイル屈折状態眼内レンズ度数決定の検査追加検査適応決定・患者説明瞳孔径角膜形状解析コントラスト感度OCT視野検査図1多焦点眼内レンズの手術までの流れ378あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011による視機能不良,大きい瞳孔径では回折型・屈折型を問わずハロー・グレア症状が強く出る可能性が高いので注意が必要である.角膜形状解析・角膜収差:多焦点IOLでは1.0Dを超える角膜乱視があると裸眼視力に影響をきたす.多焦点IOLでは角膜の不正乱視が視機能低下に強く影響する.そのため,術前に角膜形状解析を確認しておいたほうがよい(図2).コントラスト感度:通常多焦IOLを挿入すると,正(70)常範囲であるがやや中央より低くなる.そのため,術前にコントラスト感度が良い症例では挿入にあたり注意が必要である.特にclearlensectomyや核白内障の症例では術前にコントラスト感度の測定を行い,術後のコントラスト感度低下の可能性があることを本人へ説明する必要がある.その他:黄斑部の機能障害による視機能低下も多焦点IOL挿入時には除外対象となる.白内障があり詳細が不明だが視力が出にくい症例などはOCT(光干渉断層計)などで確認したり,視野検査など,単焦点IOLでは術後でもよかった検査を術前にする必要がある.適応決定・患者説明すべての検査結果と問診を踏まえたうえで,最終的に説明をして両者が納得した場合に手術を行う.破.により.外固定をせざるを得なくなった場合,単焦点IOLに変更する可能性があること,乱視矯正などの追加矯正を必要とする場合に自費診療になること,多焦点IOLによりコントラスト感度が低下しwaxyvisionが発生する可能性があること,中間距離が見えにくくなる可能性があること,などを十分に説明したうえで最終的に患者に選択してもらう.☆☆☆図2角膜形状不正患者のトポグラフィ上下に角膜形状の非対称がある.術後のグレアについてよく説明したうえで適応を決める.

眼内レンズ:水晶体核混濁形態と光学特性変化

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113750910-1810/11/\100/頁/JCOPY水晶体核混濁は白内障3主病型の一つである.日本人に最も多くみられるのは皮質混濁であるが,70歳以上になると核混濁の有所見率も20%を超える.また,若年者においても高度近視眼に核混濁が発症していることも多い.各混濁病型が視機能へ及ぼす影響において,瞳孔中央に局在する後.下混濁,瞳孔中央部まで進行した皮質混濁眼では顕著な視力低下をきたすが,水晶体中心部の混濁にもかかわらず,核白内障眼では顕著な視力低下をきたさないことが多い.程度I1)の核混濁が単独で存在しても,視力は1.0を確保していることが多く,程度IIになると同年代の透明水晶体眼に比べ視機能は有意に低下するが,視力は0.9程度,薄暮でのコントラスト視力も0.22(透明水晶体眼:0.35)を維持している2).核白内障眼の視機能低下が少ない理由の一つとしては,核の混濁形態が考えられる.核混濁は皮質や後.下混濁のような不規則形状ではなく,水晶体層構造に沿った規則正しい混濁である.瞳孔中心に皮質・後.下混濁がわずかでも存在すると,眼に入射してくる光は顕著な眼内散乱を起こし,鮮明な網膜像は得られなくなるが,核混濁の場合は程度IIを超えても,眼内散乱光の乱れは少ない.ただし,水晶体を透過していく光の波長成分は明らかに変化する.図1は,赤・緑・青の3色分解フィルターを用いて撮影したScheimpflugスリット像である3).短波長光(青色光)は水晶体皮質部でほぼ散乱・吸収され,赤色光撮影では水晶体後部まで鮮明に撮影されていることから,水晶体を透過していくのはほぼ中・長波長光(緑・赤色光)のみであることが推測される.つまり中程度の核混濁までは,黄色いサングラスのようなコントラスト向上効果があると考えられる.もう一つの理由としては,核混濁程度に伴う球面収差の低下現象がある.眼内の球面収差は加齢に伴い増加す(67)るが,核混濁眼では核部の散乱が増強するに従い,「負」の球面収差が増強し,角膜の「正」の収差を相殺する.程度IIの混濁では眼球全体の球面収差をほぼ「0」にする場合もある4).ただし,核混濁の形態は眼軸長によって異なる傾向がある.普通眼軸長を有する核混濁眼では水晶体厚・核部厚とも加齢水晶体と同様に肥厚し,水晶体および核部前面の弯曲度が大きく,核混濁程度の上昇に伴う「負」の球面収差の増加量も上記のように多くはない.しかし,長眼軸長眼における核白内障眼では,水晶体厚・核部厚は同年代の透明水晶体眼より薄く,弯曲度も少ない.つまり「負」の球面収差量は混濁程度以上に極度に大きくなり,網膜像の質の低下につながる(図2).加齢に伴う坂本保夫東北文化学園大学医療福祉学部視覚機能学専攻眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎295.水晶体核混濁形態と光学特性変化中程度までの核白内障眼では,観察される核混濁程度ほどには視機能の低下は少ないことが多い.これは核混濁による分光透過率の変化と「負」の球面収差の発生に起因する.核混濁を発症した長眼軸長眼では水晶体厚・核部厚が薄く,「負」の球面収差の増強が顕著となり,明らかな視機能障害をきたす.図13色分解フィルター(R:赤,G:緑,B:青)によるScheimpflugスリット撮影像長波長光(赤色光)ほど核後部まで撮影される.核混濁眼ではおもに緑と赤色光が水晶体を透過し,網膜像を形成している.いわゆる,黄色のサングラスによるコントラスト向上効果もあると考えられる.単眼三重視は水晶体の「正」の球面収差が一因であるが,核白内障眼の場合は過剰な「負」の球面収差に起因している5).核混濁程度がII以上で,核の硬度が高い症例では,図3のように徹照像でも瞳孔領内に円盤状の陰影として観察することができる.このような場合,瞳孔中央部と周辺部での水晶体屈折率に大きく差ができ,単眼複視が強くなると考えられる.文献1)ThyleforsB,ChylackLTJr,KonyamaKetal;WHOCataractGradingGroup:Asimplifiedcataractgradingsystem.OphthalmicEpidemiol9:83-95,20022)佐々木洋,坂本保夫:IV.中間透光体,8.水晶体の混濁.眼科プラクティス25,眼のバイオメトリー“眼を正確に測定する”,大鹿哲郎編,p154-159,文光堂,20093)SakamotoY,SasakiK,KojimaM:Analysisofcrystallinelenscolorationusingablackandwhitecharge-coupleddevicecamera.GermanJOphthalmol3:58-60,19944)坂本保夫:水晶体混濁と高次収差,あたらしい眼科24:1427-1433,20075)坂本保夫:IV.中間透光体,8.水晶体の光学特性.眼科プラクティス25,眼のバイオメトリー“眼を正確に測定する”,大鹿哲郎編,p160-167,文光堂,2009図3高度核白内障眼のスリット像(左)と徹照像(右)核混濁塊が小さく,混濁程度が高い核白内障眼では,徹照像においても核混濁の陰影が円盤状(↑↑)に観察できる.このような症例では,単眼複視の症状が強いと考えられる.…………….73F…………71F……..23.3mm31.3mm…………+2.0D-20.0DScheimpflug……….(EAS-1000)…………..(KR-9000PW)図2眼軸長によって核混濁の発症形態は異なる普通眼軸長眼では角膜の「正」の球面収差を相殺するように,混濁程度とともに「負」の球面収差が増加する.一方,長眼軸長眼では水晶体厚・核部厚とも薄く,弯曲度も小さいことから,「負の球面収差」が角膜の「正」の収差を上回り,網膜像の質の低下を招く危険性がある.

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 ボシュロム メダリスト プレミア マルチフォーカル

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113730910-1810/11/\100/頁/JCOPYヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)素材を主体とした従来のソフトコンタクトレンズ(SCL)と比べて,高い酸素透過性を有するシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)が急速に普及しつつある.これまでに,近視や遠視の矯正を目的としたSHCLに加えて,乱視矯正を目的としたSHCLが発売されたことで,過速度的に広がっている.さらに,老視矯正を目的としたSHCLが登場したことで,多くの者がこれらの恩恵を受けるようになった.今回は,日本で最初に発売された遠近両用SHCL,ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカルの特徴を概説する.●ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカルの特徴本レンズは終日装用を目的とした2週間頻回交換タイプである.製品概要を表1に示す.素材はbalafilconAであるが,SHCLのなかではやや硬めである1).ベースカーブ(BC)は8.6mm,サイズは14.0mmの1ベースカーブ1サイズであるが,ほとんどの患者にフィットする.遠方度数は+5.00D..10.00Dであるが,他のレンズと異なり,あらかじめ角膜頂点間距離補正を考慮した度数であるため,眼鏡のレンズ度数と同じと考えてよい.加入度数は+1.50D(LowAdd)と+2.50D(High(65)Add)の2種類である.本レンズは同心円型,同時視型の遠近両用SHCLで,中央が近用光学部,周辺が遠用光学部である.前面非球面デザインで累進屈折力レンズとして働くが,LowAddとHighAddでは異なるレンズデザインである.LowAddはレンズ中央に最大加入度数を設定し,周辺に向けて徐々に加入度数が弱くなる.HighAddはレンズ中央に最大加入度数が広くとられている.LowAdd植田喜一ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法321.ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル図1ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカルの度数分布イメージ(ボシュロム・ジャパン株式会社より提供)表1ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカルの製品概要材質balafilconA含水率36%酸素透過係数(Dk値)91*酸素透過率(Dk/L値)101**(.3.00Dの場合)中心厚0.09mm(Low・HighAdd)(.3.00Dの場合)ベースカーブ8.6mmサイズ14.0mm遠用度数+5.00D~.10.00D(眼鏡のレンズ度数表示)加入度数+1.50D(LowAdd)/+2.50D(HighAdd)光学部中心近用・周辺遠用(累進屈折力)設計前面非球面・後面球面レンズカラーライトブルー*:×10.11(cm2/sec)・(mLO2/mL・mmHg)測定条件35℃.**:×10.9(cm・mLO2/sec・mL・mmHg)測定条件35℃.374あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(00)では近用部と遠用部の移行部が広くなだらかであるのに対して,HighAddでは移行部が狭い(図1).ボシュロム社からはすでに従来素材の遠近両用SCLとしてメダリストマルチフォーカルが販売され,高い評価を得ているが,両レンズのデザインはほぼ同じである.メダリストマルチフォーカルのサイズが14.5mm,BCが8.7mmと9.0mmの2種類である点が大きく異なる1,2).レンズ表面の親水性の向上,脂質付着の防止を目的として,プラズマ加工がレンズ表面に施されている3).本レンズはSCHLという素材の面から考えると,長時間装用を希望する者,角膜内皮細胞密度が少ないなど酸素不足に伴う所見を認める者,乾燥感のある者,レンズに蛋白質が付着しやすい者などが良い適応である.老視矯正という面から考えた場合に適応しやすい者と適応しにくい者の例を表2に,本レンズの度数の合わせ方を表3に示す.文献1)植田喜一,柳井亮二:新しい遠近両用コンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:851-860,20062)村岡卓:「ボシュロムメダリストマルチフォーカル」の紹介.日コレ誌50:161-165,20083)松沢康夫:シリコーンハイドロゲルレンズの表面の性質について.日コレ誌51補遺:S1-S5,2008表3ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカルの合わせ方1.両眼にLowAdd(+1.50D)のトライアルレンズを入れる(ステップ1)・遠用度数:完全屈折矯正値に+1.00D付加した遠用度数①見え方の確認:近方.中間.遠方の見え方を確認する②追加矯正の手順:・見え方に不満がある場合は両眼同時に遠用度数を追加矯正する・近方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をプラスよりにする・遠方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をマイナスよりにする2.見え方に不満がある場合は非利き目にHighAddの(+2.50D)のトライアルレンズを入れる(ステップ2)・見え方に不満がある場合は両眼同時に遠用度数を追加矯正する・近方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をプラスよりにする・遠方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をマイナスよりにする3.見え方に不満がある場合は両眼にHighAdd(+2.50D)のトライアルレンズを入れる(ステップ3)・見え方に不満がある場合は両眼同時に遠用度数を追加矯正する・近方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をプラスよりにする・遠方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をマイナスよりにする表2ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカルの患者選択適応しやすい症例適応しにくい症例1.SCL装用のモチベーションが非常に高い方・不等像視強度近視の方・眼鏡で都合が悪い方(スポーツされる方美容上など)2.見え方に対して要求度が高くない方3.単焦点レンズを装用している方4.CL未経験者でそして遠方の見え方に不自由をきたした遠視の方1.SCL装用に興味のない方2.過度に遠方,近方の見え方を追求する方3.使用しているCLあるいは眼鏡が近視過矯正の方4.遠方が良く見えている弱度遠視眼~正視眼に近い方5.近方が良く見えている軽度近視の方6.眼鏡もしくはCLで乱視矯正をしている方

写真:腸球菌性角膜炎

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113710910-1810/11/\100/頁/JCOPY(63)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦322.腸球菌性角膜炎星最智藤枝市立総合病院眼科図1角膜外傷後の腸球菌性角膜炎(70歳,男性)角膜中央の白色病巣周囲にDescemet膜皺襞を認める.角膜裏面には病巣を取り囲むように免疫輪を認める.①②③図2図1のシェーマ①:白色病巣.②:Descemet膜皺襞.③:免疫輪.図3水疱性角膜症に伴う腸球菌性角膜炎(59歳,女性)水疱性角膜症があり治療用ソフトコンタクトレンズを装用していた患者.角膜実質に及ぶ類円形の白色浸潤病巣(矢頭)と前房内フィブリン反応(矢印)を認める.図4図1の角膜病巣擦過物のグラム染色像短い連鎖状に配列するグラム陽性球菌を認める.372あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(00)腸球菌は通性嫌気性のグラム陽性球菌であり,ヒトから分離される腸球菌の70.80%はEnterococcusfaecalisである.Enterococcusfaecalisは健常結膜.からもしばしば分離され,白内障術前患者を対象とした自験例では3.5%の保菌率であり,高齢になるほど保菌率が高くなる.マイボーム腺分泌物から検出されるとする報告もある1).眼科領域における腸球菌感染症では,急性術後眼内炎の起炎菌として有名である2)が,まれながら角膜炎の起炎菌にもなる.腸球菌はヒトの常在細菌であるため健常な眼表面では角膜炎は生じにくく,外傷が契機となったり,コンタクトレンズ装用や水疱性角膜症などの角膜易感染状態を有する宿主に日和見感染症として角膜炎が生じる3).角膜所見では,直径1.2mm程度の比較的境界明瞭な類円形の白色浸潤病巣を認める(図1,3).角膜炎が進行すると,病巣周囲にDescemet膜皺襞を伴った角膜実質浮腫が増強し,角膜裏面には免疫輪を形成することがある(図1).これは菌体の破壊によって角膜内に放出された菌体成分に対する宿主の免疫反応と考えられる.診断は,角膜所見のみでは初期の肺炎球菌性角膜炎との鑑別が困難であるため,角膜病巣擦過による塗抹と培養検査を行う.塗抹検査で短い連鎖状に配列するグラム陽性球菌を認めた場合は,レンサ球菌のほかに腸球菌の可能性も疑う(図4).治療は第四世代フルオロキノロンの頻回点眼を中心に行う.腸球菌はセフェム系とアミノグリコシド系抗菌薬には自然耐性であるため,これらの抗菌点眼薬の併用は不要である.治療経過の特徴として,角膜病巣自体は沈静化しているにもかかわらず毛様充血や限局性の角膜実質浮腫が遷延する傾向がある.その場合はステロイド内服で対応するが,外傷眼では角膜真菌症のリスクを伴うので慎重な経過観察が必要である.まとめ腸球菌性角膜炎は外傷,コンタクトレンズ装用や水疱性角膜症などの角膜易感染状態で生じやすい.所見は角膜実質浮腫を伴った円形の白色病巣を呈し,肺炎球菌性角膜炎の軽症例に似る.セフェム系やアミノグリコシド系抗菌薬に抵抗性だが,キノロン系抗菌薬にはよく反応する.治療予後は比較的良いが,毛様充血や角膜実質浮腫が遷延しやすいため,適切な時期に消炎治療を追加するとよい.文献1)田中ともゑ,和佐野利記子,久冨智朗ほか:マイボーム腺分泌物の細菌培養の結果.あたらしい眼科19:1609-1611,20022)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか,日本眼科手術学会術後眼内炎スタディグループ:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20063)RauG,SeedorJA,ShahMKetal:IncidenceandclinicalcharacteristicsofEnterococcuskeratitis.Cornea27:895-899,2008

ウイルス性内眼炎(ぶどう膜炎)

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYtype2;HSV-1型,HSV-2型),水痘帯状疱疹ウイルス(HHV-3=varicella-zostervirus:VZV),サイトメガロウイルス(HHV-5=cytomegalovirus:CMV)である.これらのウイルスによって発症する内眼炎にはヘルペス性虹彩毛様体炎,急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎),CMV網膜炎,進行性網膜外層壊死がある.1.ヘルペス性虹彩毛様体炎HSV,VZV,CMVは前部ぶどう膜炎を生じ,その特徴は共通して片眼性の豚脂様角膜後面沈着物を呈する肉芽腫性虹彩毛様体炎(granulomatousiridocyclitis)であり,眼圧上昇を伴う1).a.HSV虹彩毛様体炎初感染ではなく,HSV-1の再活性化により発症し,上皮型,実質型,あるいは内皮型の角膜病変を併発することがあるため,注意を要する.最も多いのは実質型角膜炎で,角膜病変領域に一致して豚脂様角膜後面沈着がみられる(図1).肉芽腫病変であるにもかかわらず,ときに前房蓄膿,前房出血を伴い,その回復期には限局性で円形の虹彩萎縮がみられる.〔治療〕アシクロビル(ゾビラックスR)の眼軟膏1日5回,消炎に対しては重症度に応じて副腎皮質ステロイド(リンデロンR)点眼1日3~6回,虹彩後癒着予防に散瞳薬(ミドリンPR)点眼1日1~3回,混合感染予防に抗生物質の点眼1日3回行う.角膜上皮病変がみられる場合はじめにウイルス性内眼炎の病因として知られているのはDNAウイルスであるヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV),およびRNAウイルス(レトロウイルス科)のヒトTリンパ球向性ウイルス1型(humanT-lymphotropicvirus-1:HTLV-1),ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV)である.このほかにも,風疹ウイルス,麻疹ウイルス,ムンプスウイルス,インフルエンザウイルス,コクサッキーウイルスなどがウイルス性内眼炎の病因として報告されているが,ウイルスによる直接の組織障害が発症要因になっているか否かは定かではない.ウイルス感染によりひき起こされる内眼炎は当然ながら個々の疾患が多様な病像を呈するため,定型的所見を基に主病変の解剖学的部位を知り,ウイルス性内眼炎を病型分類することは,その診断,鑑別,治療において価値がある.しかし,ウイルス性内眼炎は適切な治療を施さなければ徐々に悪化するため,以下に述べる眼所見を認めても,眼内液を採取し,ウイルス抗体価の測定,PCR(polymerasechainreaction)法によるウイルスの同定を行うことが重要である.Iヒトヘルペスウイルス(HHV)ウイルス性内眼炎に関連するとされるヒトヘルペスウイルスは,単純ヘルペスウイルス(HHV-1=herpessimplexvirustype1,HHV-2=herpessimplexvirus(55)363*MasaruTakeuchi:防衛医科大学校眼科学講座〔別刷請求先〕竹内大:〒359-0042所沢市並木3-2防衛医科大学校眼科学講座特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):363.370,2011ウイルス性内眼炎(ぶどう膜炎)ViralIntraocularInflammation竹内大*364あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(56)疹の出現後2週間以内に同側に発症する.VZVによる虹彩毛様体炎では,その回復期に生じる扇状の虹彩萎縮が特徴的であり,角膜裏面に色素性細胞が付着し,隅角にも色素沈着を認める(図2).眼部帯状疱疹を伴うことなく同様のVZV虹彩毛様体が生じることがあり,眼部帯状疱疹を伴うherpeszosterophthalmicusに対して伴わないものはzostersineherpeteとよばれている2).〔治療〕多くの場合は,抗ウイルス薬を用いることなく副腎皮質ステロイド(リンデロンR)点眼1日3~6回,散瞳薬(ミドリンPR)点眼1日1~3回,抗生物質の点眼1日3回で治癒する.しかし,局所治療のみで改善しない場合はバラシクロビル(バルトレックスR)3,000mg/日,3回/日の内服を1週間程度から開始し,プレドニゾロンの内服も30mg/日から短期間用いる.角膜上皮病変,眼圧上昇に関してはHSV虹彩毛様体炎の治療に準ずる.c.CMV虹彩毛様体炎これまでCMV虹彩毛様体炎の報告は,免疫不全患者のCMV網膜炎に合併した症例であった.しかし近年,正常の免疫能保持者であってもCMVが原因となり虹彩毛様体炎を生じることが前房水を用いたPCR法検査により明らかとなった3).角膜内皮炎を伴う症例が多く(図3),眼圧上昇は40mmHg以上のことも少なくない.しかし,炎症は軽度から中等度で,フィブリン析出や虹彩結節などをきたすことはない.角膜後面沈着物は白色微は,リンデロンRの点眼は行わず,副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンR)の内服を30mg/日程度から開始し,短期間用いる.局所治療のみで改善しない場合も副腎皮質ステロイド30mg/日の内服,さらにはバラシクロビル(バルトレックスR)1,000mg/日,2回/日の内服を1週間程度から行う.治療を開始しても眼圧が下がらない場合,または治療開始前の眼圧が30mmHg以上の場合は抗緑内障点眼薬を併用する.b.VZV虹彩毛様体炎眼部帯状疱疹の約1/3に虹彩毛様体炎が合併し,皮図1実質型角膜炎領域に一致してみられる豚脂様角膜後面沈着図2VZV虹彩毛様体炎にみられる色素性の角膜後面沈着物(左)および隅角の色素沈着(右)(57)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011365の抗緑内障点眼を処方するとともに,バルガンシクロビルの内服(バリキサR)または点滴(デノシンR)が必要であり,虹彩毛様体炎が消失するまで時には数カ月継続投与する必要がある.2.急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)HSV-1,HSV-2,VZV感染による汎ぶどう膜炎であり,原因ウイルスに関係なく豚脂様角膜後面沈着物を伴う急性虹彩毛様体炎で発症し,多くの例で眼圧上昇がみられる.病初期は軽度の硝子体混濁,網膜周辺部に散在する黄白色小滲出斑,視神経乳頭の発赤,および網膜動脈周囲炎を呈する4)(図4).経過とともに滲出斑は拡大塵なものからPosner-Schlossman症候群にみられるような類円形で灰白色なもの,色素沈着を伴うものまでさまざまであり,角膜病変に一致してみられる.HSV,VZVによる虹彩毛様体炎と同様に,炎症の慢性化に伴い虹彩萎縮を呈するが,その形状は斑状,扇状,区画性,びまん性とさまざまである.正常免疫能保持者のCMV虹彩毛様体炎では,続発緑内障による視神経乳頭所見以外の後眼部所見を呈することはない.〔治療〕重症度に応じて副腎皮質ステロイド(リンデロンR)点眼1日3~6回,散瞳薬(ミドリンPR)点眼1日1~3回,混合感染予防に抗生物質の点眼1日3回,眼圧下降目的図3CMV虹彩毛様体炎にみられた白色微細な角膜後面沈着物(左)および角膜内皮炎による角膜浮腫(右)図4ARNの病初期における軽度の硝子体混濁,視神経乳頭の発赤,網膜周辺部の網膜動脈周囲炎(左)および網膜周辺部に散在する黄白色小滲出斑(右)366あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(58)縮病巣となる.この間,硝子体混濁も軽快し眼底の透見性が良くなるが,後部硝子体.離の発生とともに硝子体混濁が増悪し,網膜.離が生じる.なお,網膜滲出斑が急速に後極部に向かって進展し,網膜全体が障害される劇症型があり,予後はきわめて不良である.HSV-ARNとVZV-ARNでは病像が多少異なり,HSV-ARNのほうが発症年齢が低く,抗ウイル癒合し,病変部は周辺部網膜のほぼ全周および後極に向かって進展する.病変部が眼底の広範囲に及ぶと,網膜血管から染み出るような出血が滲出斑に混在してみられ(図5),視神経乳頭炎も呈する.前眼部炎症は徐々に沈静化するが,硝子体混濁は経過とともに増悪し,眼底の透見性はさらに困難になる.しかし,発症後3週間程度経過すると病変の拡大は停止し,網膜滲出斑は徐々に萎表1全身治療初期療法(2週間)療法薬剤用法用量抗ウイルスアシクロビル(ビクロックスR)点滴3回/日30mg/kg/日抗炎症副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)点滴1回/日(朝)60~80mg/日(10~20mg/週で漸減)抗血小板アスピリン(バイアスピリンR)内服1回/日100mg/日継続療法(2週間)療法薬剤用法用量抗ウイルスアシクロビル(ビクロックスR)点滴3回/日30mg/kg/日抗炎症副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)点滴1回/日(朝)30~40mg/日(10mg/週で漸減)抗血小板アスピリン(バイアスピリンR)内服1回/日100mg/日継続療法ではバラシクロビル(バルトレックスR)3,000mg/日,3回/日の内服とともにすべての投薬を内服に変更することも可能である.図5急性網膜壊死病変の進展滲出斑は拡大癒合し,周辺部網膜のほぼ全周および後極に向かって進展する(左).網膜血管から染み出るような出血が滲出斑に混在してみられる(右).(59)あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113673.サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎免疫力低下状態にあるものに発症し(日和見感染),発病者では末梢血CD4+T細胞数が50個/μl以下に減少していることが多い.CMV網膜炎の原因となる疾患を表2に示すが,これらのなかでもHIV感染による後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)患者に最も頻度が高くみられる.1996年以降,HIV感染者に対するHAART(highlyactiveanti-retroviraltreatment)療法によりCMV網膜炎は激減し,今日はHAART導入後に惹起される免疫回復ぶどう膜炎(immunerecoveryuveitis:IRU)がAIDS患者における新たな問題となっているが,CMV網膜炎がAIDS患者の代表的眼合併症であることには変わりはない5).成人のCMV網膜炎は,ウイルスによる直接的な網膜浸潤であるため,前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しく,基本的な臨床所見は網膜血管病変,網膜滲出斑,網膜出血からなり,以下の2つのタイプに大別されるス薬に対する感受性の違いもあり軽症例が多い.しかし,臨床所見に相違はなく,臨床所見から鑑別することは不可能である.〔治療〕1)局所療法はVZV虹彩毛様体炎の治療に準ずるが,同時に表1に示した全身治療を開始する.両眼発症の急性網膜壊死では,先行眼発症後1カ月以内に後発眼に発症する確率が70%程度あるため,両眼発症予防のためにも1カ月以上抗ウイルス療法を行う必要がある.また,胃薬,抗骨粗鬆症薬を併用する.2)硝子体手術:網膜.離予防,または網膜.離治療のための硝子体手術が必要となる.手術を行う時期に関しては賛否両論があり,硝子体手術により眼内のウイルス,炎症性サイトカインの除去,眼内への薬の移行性の向上が望めるため早期に行ったほうがよいとする意見と,内科的治療のみで治癒する症例もあるため,後部硝子体.離が生じてから行うべきだとする意見がある.急性網膜壊死は症例数が少なく,また疾患により臨床経過もさまざまであるため,同条件での比較検討が困難である.また,硝子体手術手技,手術機器の改良,改善は全般的なその治療成績を向上させているため,新旧の症例を併せての検討はその評価を複雑にさせる要因ともなる.いずれにせよ今後の臨床データのさらなる蓄積が望まれる.表2サイトメガロウイルス網膜炎の原因となる免疫力低下をきたす疾患1)後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)2)白血病,悪性リンパ腫3)後天性成人型T細胞白血病4)臓器移植後の免疫抑制薬治療図6CMV網膜炎眼所見により後極部劇症型(左)と周辺部腫瘤型(右)に分類される.368あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(60)4.進行性網膜外層壊死(progressiveouterretinalnecrosis:PORN)AIDS患者に発症したVZVによるヘルペス網膜症であり,発症時の末梢血CD4+T細胞数がCMV網膜炎と同様に50個/μl以下に減少していることが多い.病初期は,網膜周辺部に散在性の黄白色小滲出斑が網膜深層に出現し,これらの黄白色病変は急速に拡大癒合し,周辺部網膜の全周,また後極に広がる.その後,病変部の黄白色の色調は網膜血管周囲から退色し(perivascularclearing),“cracked-mudappearance”とよばれる所見を呈する(図7).ARN,CMV網膜炎と同じく網膜壊死部に萎縮円孔が形成されると網膜.離をきたす.ARNとの鑑別は,前房や硝子体中に炎症所見がほとんどみられないこと,CMV網膜炎のような網膜出血はまれであることがあげられる.視力予後は不良なことが多く,失明に至ることも少なくない.〔治療〕有効な治療法は確率されていないが,アシクロビル単独治療は効果がなく,アシクロビル,ガンシクロビル,ホスカルネットのうちの2剤併用療法が基本である.投与方法は,2剤とも全身投与する方法と,1剤を全身投与し,もう1剤を硝子体内注射する方法がある.以下に投与法を示す.(図6).a.後極部劇症型網膜血管アーケードに沿って出血を伴った黄白色滲出斑が出現し,速やかに拡大するb.周辺部腫瘤型眼底周辺部に顆粒状の小滲出斑が集積した所見を呈し,網膜出血がみられないこともある.病巣は必ずしも網膜血管の走行に伴わなく,病巣の拡大も後極部劇症型よりも緩徐である.いずれのタイプも病巣と正常網膜の境界部分に顆粒状の滲出病変が認められ,granularborderとよばれている.滲出斑は徐々に拡大するが,病巣の中心部は萎縮傾向を示し,約20%の症例で網膜.離を併発する.通常は片眼性で発症するが,未治療または治療が奏効しない症例では両眼性になることが多い.〔治療〕全身治療:ガンシクロビルの点滴,バルガンシクロビル内服,ホスカルネットの点滴,または全身的な副作用を考慮しなければならない症例に対してはガンシクロビルの硝子体内投与を行う.CMV網膜炎は免疫不全者に生じる疾患であり,ガンシクロビルには骨髄抑制,ホスカルネットには腎障害の副作用があることから全身状態のモニタリングが重要であり,内科医との連携を密にし,治療を継続していくことが大切である.以下に各治療の投与方法を示す..ガンシクロビル(デノシンR)の点滴初期療法:5mg/kg/日,2回/日,3週間維持療法:5mg/kg/日,1回/日,5日/週.バルガンシクロビル(バリキサR)の内服初期療法:4錠(1錠450mg)/日,2回/日,3週間維持療法:2錠(1錠450mg)/日,1回/日.ホスカルネット(ホスカビルR)の点滴初期療法:60mg/kg/日,3回/日,3週間維持療法:90~120mg/kg/日,1回/日.ガンシクロビル(デノシンR)の硝子体内注射400~1,000μg/回,1回/週図7PORNの眼底写真周辺部網膜に“cracked-mudappearance”とよばれる所見がみられる.あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011369①全身投与(2~3週間).アシクロビル(ビクロックスR)10mg/kg/日,3回/日.ガンシクロビル(デノシンR)5mg/kg/日,2回/日.ホスカルネット(ホスカビルR)90mg/kg/日,3回/日②硝子体内注射(1~2回/週).ガンシクロビル(デノシンR)400~2,000μg/回.ホスカルネット(ホスカビルR)1,200~2,400μg/回IIヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-1)HTLV-1はHIVと同じく輸血,母乳,性交渉を介して感染し,成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄炎,ぶどう膜炎を生じる.しかし,HIVより感染力は弱く,HTLV-1感染者の多くはこれらの疾患を発症することがない無症候キャリアである.片眼性が両眼性よりもやや多く(6:4),眼所見は微細な角膜後面沈着物,軽度の虹彩炎,ヴェール状またはひも状の特徴的なびまん性硝子体混濁を呈し,網膜出血は滲出斑などの眼底病変はまれである(図8).ときに豚脂様角膜後面沈着物や虹彩結節,隅角結節を生じるものがあり,サルコイドーシスとの鑑別が重要である.〔治療〕HTLV-1ぶどう膜炎はウイルス感染症であるが,HTLV-1に対する免疫反応によりぶどう膜炎が生じると考えられ,副腎皮質ステロイドの点眼のみで消炎する.硝子体混濁による視力障害があれば,プレドニゾロン30~40mg/日の内服を開始し,漸減しながら2~4週間投与する.しかし,約60%の患者に再発がみられる.IIIヒト免疫不全ウイルス(HIV)先にも述べたように,AIDSの原因ウイルスであり,HIV-1とHIV-2に分けられるが,AIDSの多くはHIV-1の感染であり,HIV-2は病原性が低い.AIDS患者は種々の日和見感染に伴う眼所見を呈するが,HIV感染に特有な網膜微小血管循環障害による一過性の綿花状白斑,網膜出血を生じる.これらの眼所見は数週間で自然消退する(図9).おわりにウイルス性内眼炎は,特徴的な眼所見から病因ウイルスをある程度推定でき,疾患により予後の良し悪しはあるが,おおむねその治療法は確立されている.しかし,これまで内因性ぶどう膜炎に分類されてきた疾患や分類不能のぶどう膜炎とされてきた疾患のなかにも何らかのウイルス感染が原因と疑われるぶどう膜炎は少なくない.近年,眼内液を用いた分子生物学的手法により,さ(61)図8HTLV.1ぶどう膜炎にみられたヴェール状の硝子体混濁図9HIV網膜症にみられる綿花状白斑および網膜出血370あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011まざまな内因性ぶどう膜炎の眼内液からウイルスDNAが検出されている.今後は,このような症例の眼内液から検出されたウイルスが原因であるのかそれとも結果か,または合併症であるのかを慎重に検討していく必要がある.文献1)下村嘉一:日本眼科学会専門医制度生涯教育講座ウイルス性眼疾患.日眼会誌108:55-64,20042)毛塚剛司:水痘帯状疱疹ウイルスによる眼炎症と免疫特異性.日眼会誌108:649-653,20043)CheeS-P,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcytomegalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840.e831,20084)臼井嘉彦,毛塚剛司,竹内大ほか:急性網膜壊死患者における網膜神経線維層厚と乳頭形状の検討.あたらしい眼科27:539-543,20105)八代成子:【ぶどう膜炎アップデート】HAART療法時代のHIV関連眼合併症.眼科51:881-889,2009(62)

硝子体内注射後眼内炎

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYI感染性眼内炎1.発生頻度抗VEGF薬ならびにトリアムシノロンの硝子体内投与後の眼内炎発生率の一覧を表1に示した.これまでの報告では,抗VEGF薬硝子体内注射後感染性眼内炎の発症率(注射数当たり)は,0.01%から0.16%となっている1~9)が,おおよそ0.03~0.05%といったところであろう.Pilliらは特に,officesettingでの抗VEGF薬投与後の眼内炎の頻度について述べている6).具体的には,注射施行直前の眼瞼消毒とポビドンヨード点眼と術後2日間抗菌薬点眼を施行するのみで,術前点眼や手術室のようなセッティングはなしで硝子体内注射を行ったところ,細菌性眼内炎の発生率は0.029%であったとのことである.トリアムシノロン硝子体内投与後感染性眼内炎の頻度は0.1%.0.87%である10~13).表1には示していないが,抗ウイルス薬のガンシクロビルやホスカルネット投与後の眼内炎頻度は0.1%から0.29%となっている14,15).トリアムシノロンや抗ウイルス薬では,感染性眼内炎の発症は抗VEGF薬よりも高率であるが,これらは非感染性眼内炎も含まれている可能性がある.Nelsonらは,トリアムシノロン後の感染性の眼内炎の頻度は0.45%,非感染性のものは1.6%と区別して報告している10).なお,硝子体内ガス注入術後の眼内炎発症頻度については,0.1%以下との報告がある16).概して,硝子体注射はじめに硝子体内注射として,これまで抗生物質,抗ウイルス薬,トリアムシノロンなどの薬剤投与や,網膜.離,網膜下出血などに対するガス注入などが行われてきた.近年,抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が登場し,加齢黄斑変性に対して毎月の硝子体内投与が推奨されるようになった.抗VEGF薬は加齢黄斑変性以外にも血管新生黄斑症や黄斑浮腫などに適応が広がる可能性があり,今後ますます,硝子体内注射を施行する機会は増加するものと考えられる.このように硝子体内注射が高頻度に施行されるようになり,最初は厳重に手術場で施行されていたものが,最近では外来処置室にて比較的簡便に行われる機会も増えている.しかしながら硝子体内へ穿刺する以上,感染性眼内炎のリスクは避けては通れない.抗VEGF薬は視力良好な患者に適応されることも少なくなく,視力の改善,維持を目的として行われている治療であることから,感染性眼内炎の発症は,患者の治療を進めていくうえで避けなければならない合併症である.一方で,最近話題となっているのが,硝子体内注射後の非感染性眼内炎の発生である.非感染性の場合,必ずしも硝子体手術による対処は必要としない.したがって,硝子体内注射後は常に眼内炎の発症に対して備えを持ち,万が一発症した際には適切に病態診断し,タイミングを逃さず,速やかに治療を行うことが重要である.(49)357*ChikakoUeno&FumiGomi:大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座〔別刷請求先〕上野千佳子:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座特集●眼感染症治療戦略アップデート2011あたらしい眼科28(3):357.361,2011硝子体内注射後眼内炎EndophthalmitisafterIntravitrealInjection上野千佳子*五味文*358あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(50)眼内炎発症の有無の確認には,注射後早期,特に3日以内の再診が重要であると考えられる.それが困難な場合でも,患者に対し,眼内炎を疑う症状の自覚があった場合には早急に連絡するように指導しておくことが重要である.なお,白内障手術後などで報告されている晩期発症の眼内炎については,現在のところ硝子体内注射後に発症した報告はない.3.症状および臨床所見早期発症の眼内炎では,急激な視力低下(霧視),眼痛,充血,眼瞼腫脹などの症状を伴って発症する(図1).他覚的所見としては,虹彩毛様体炎,前房蓄膿,前房内フィブリン,角膜後面沈着物,後眼部には硝子体炎,網膜血管の白鞘化,小出血などを呈する(図2).頻度としては,視力低下と硝子体混濁はほぼ100%の症例に認め,眼痛も4分の3の症例には認められる17).しかし,虹彩毛様体炎,前房蓄膿,前房内フィブリン,角膜後面沈着物など前眼部炎症は認めない,または軽度である症例もまれではないため,注意を要する.患者には,急激な視力低下を自覚した際には迅速に再診するよう指導をしておく.後の感染性眼内炎の発生頻度はそれほど高いものではないが,重篤な視力障害をひき起こす合併症であるため,十分な注意が必要であることは言うまでもない.2.発症時期処置を施行してから,症状を自覚するまでの期間は,その他の手術後の眼内炎と同じく1日から6日の間が多く,特に3日以内が多いが,まれに10日以上経過してから発症する症例もみられる.術後眼内炎と同様に,注射後早期発症例では発症後数時間単位で病状が進行するため,早期診断と的確な治療が重要である.表1これまでに報告されている硝子体内注射後眼内炎のまとめこれまでの報告投与薬剤眼内炎発生率Fungetal1)2006BJOBevacizumab1/7,113(0.014%)Jonasetal2)2007JournalofocularpharmBevacizumab1/1,218(0.082%)Masonetal3)2008RetinaBevacizumab1/5,233(0.019%)Wuetal4)2008GraefeArchExpOphthalBevacizumab7/4,303(0.16%)Fintaketal5)2008RetinaBevacizumabRanibizumab6/26,905(0.022%)Pillietal6)2008AJOPegaputanibBevacizumabRanibizumab3/10,254(0.029%)Artunayetal7)2009EyeBevacizumab3/3,022(0.099%)Diagoetal8)2009RetinaPegaputanibBevacizumabRanibizumab3/3,875(0.077%)Kleinetal9)2009OphthalmologyPegaputanibBevacizumabRanibizumab15/30,736(0.037%)Nelsonetal10)2003RetinaTriamcinolone2/440(0.45%)Moshfeghietal11)2003AJOTriamcinolone8/922(0.87%)Westfalletal12)2005ArchOphthalmolTriamcinolone1/1,006(0.094%)Konstantopoulosetal13)2007EyeTriamcinolone1/130(0.77%)図1感染性眼内炎例の細隙灯写真70歳,男性.加齢黄斑変性に対し,ベバシズマブの硝子体内注射4日後に,視力低下,眼痛を訴えて来院.結膜充血,角膜浮腫,および前房蓄膿を認める.(51)あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113595.治療硝子体内注射後の感染性眼内炎に対して確立したガイドラインはない.治療は術後眼内炎のガイドラインに準じて行う.抗生物質の硝子体内投与で経過をみるか,硝子体手術に踏み切るかが迷うところとなるが,一般的には,硝子体混濁が高度で,血管が透見できない場合には硝子体手術を,血管が透見できる比較的軽度な症例には抗生物質の硝子体内投与を行いながらの経過観察を選択する.悪化を認めた場合には,早急に硝子体手術が必要となるので,硝子体手術が可能でない施設では,緊急事態に備えて,紹介できる病院を確保しておくことが重要である.6.予防硝子体内注射後眼内炎の予防としては,結膜.の常在菌の減菌化が最も重要となる.計画された抗VEGF薬の投与前には,抗菌薬を点眼することが推奨されている.3日前からの抗菌薬点眼により,結膜.,眼瞼縁からの細菌を60%程度減らすことができたと報告されている18,19).処置室で注射を行う場合には,手術室で行うような眼4.原因菌表1で示した硝子体内注射後の眼内炎の報告のなかで,硝子体培養結果が報告されていたものを抽出して,起因菌の割合を総計した.総数53眼の起因菌をグラフにしたものが図3である.最も多いものはブドウ球菌群(Staphylococcus)で,そのほとんどが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagurase-negativeStaphylococcus:CNS)であり,そのなかでも特に表皮ブドウ球菌が多い.ついでレンサ球菌群(Streptococcus)で,予後不良とされている腸球菌(Enterococcusfaecalis)の報告もある17).これらの菌は,これまでに報告されている結膜.内の常在菌とほぼ一致しており,硝子体内注射時に結膜.あるいは睫毛や眼瞼に存在する細菌を混入させる可能性を示している.この点においては,他の手術後感染性眼内炎の原因菌やその割合と大した相違はない.留意すべき点は,図3で示したように,原因菌の3位にStreptococcusviridansなどの口腔内常在菌があがったことである.これらの菌が結膜.内に存在しうることは知られているが,海外ではより簡単な装備で硝子体内投与が行われることもあり,会話中に混入した可能性なども捨てきれない.なお,最も検出される頻度の高い結膜常在菌はPropionibacteriumacnesであるが,弱毒性であり,急性期の眼内炎をひき起こす可能性は低い.図2感染性眼内炎に対する硝子体手術1カ月後の眼底写真図1と同一症例.網膜血管の白鞘化,網膜内出血の残存,視神経蒼白化を認める.検出されず,15例(29%)コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS),24例(46%)コアグラーゼ陽性ブドウ球菌,1例(2%)その他,4例(8%)腸球菌インフルエンザ菌ストレプトバシラス属マイコバクテリウム属1例(2%)1例(2%)1例(2%)1例(2%)表皮ブドウ球菌10例(19%)黄色ブドウ球菌2例(4%)その他12例(23%)レンサ球菌,8例(15%)うち口腔内レンサ球菌群6例(11%)図3硝子体内注射後感染性眼内炎の原因菌の内訳360あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(52)で培養にて細菌の検出を認めなかった.Satoらは,bevacizumabの同一ロットにおける5眼/35眼(14%)の無菌性眼内炎の発生を報告している.注射から発症までの期間は平均3日で,こちらの報告では,前房蓄膿を伴った比較的強い前眼部炎症を呈したが,硝子体混濁は軽度であり,網膜浸潤病巣は認めなかった21).当院で経験したbevacizumab投与後の無菌性眼内炎例では,患者は投与当日からの眼痛,頭痛,霧視を自覚しており,来院時には前房炎症と眼圧上昇をきたしていた(図4).前房水から細菌は検出されず,後眼部の炎症はごく軽度で,ステロイドの使用にて軽快した.別に,前房炎症は軽度で,網膜に一過性の綿花様白斑様の滲出斑が生じた症例もある.非定形な炎症は,抗VEGF薬投与後に生じうることがあることを念頭におく必要がある.先述したように,トリアムシノロン投与後の無菌性眼内炎は,その発生率は1.6%と報告されており,感染性眼内炎よりも高い.トリアムシノロン後の無菌性眼内炎も,自覚症状としての視力低下は,全症例で認められているが,眼痛を認めたのは44%の症例のみであった.前述の抗VEGF薬による無菌性眼内炎と同様である.周囲のドレーピングや眼瞼消毒を施行しないこともある.ドレーピングによりマイボーム腺や周囲皮膚を覆うことで,菌の混入を避けることができるため,できるだけ施行することが望ましい.原因菌として,口腔内菌が検出される場合もあるため,術者もマスクで口を覆うなどの配慮が必要である.また投与時には,眼瞼や睫毛に器具が接触しないよう,十分な注意を払うべきである.Shimadaらは,1.25%のポビドンヨード液にて硝子体手術直前に術野を十分に洗浄することで結膜.の殺菌を徹底できると報告しており20),硝子体投与の場合にも推奨できる.投与後には,抗菌眼軟膏塗布や,投与後数日間の抗菌薬点眼の指導も行っておく.硝子体内注射後に細菌が眼内へ迷入する原因として,注射の穿刺創からの硝子体の脱出がある.脱出した硝子体により創口の閉鎖が不十分となり,結膜.内の細菌が眼内へ迷入する.処置後は,創口に硝子体の嵌頓がないことを十分に確認する必要がある.II非感染性眼内炎トリアムシノロン,抗VEGF薬投与後には,非感染性眼内炎(無菌性眼内炎)が生じることも報告されている10,17,21,22).これらは,前述の感染性眼内炎と症状,所見が酷似しており,術後数日中に発症することから,鑑別がしばしば困難である.ところが無菌性眼内炎の場合は,感染性と違いステロイド投与にて炎症の改善が得られ,視力予後も良好である.そのためこれらを鑑別することは,治療方針決定のうえで大変重要である.Kourshら17)は,bevacizumab投与後に生じた5眼の無菌性眼内炎の症例を報告し,感染性眼内炎との所見の差異について比較検討している.それによると,無菌性眼内炎,感染性眼内炎ともに,自覚症状として,全症例で視力低下を認めているが,眼痛は感染性では全例で認められるのに対し,無菌性では40%の症例にしか認められなかった.また無菌性眼内炎例では,注射施行から視力低下などの症状自覚までの期間が1日未満と短く,前眼部炎症も軽度で,前房蓄膿,前房内フィブリンなどは認めず,硝子体混濁は認めるものの全例血管が透見できる程度であったと報告している.これらすべての症例図4無菌性眼内炎例の細隙灯写真78歳,男性.加齢黄斑変性に対しベバシズマブ硝子体内注射当日より,眼痛,視力低下を自覚していた.3日目の来院時,結膜充血と眼圧上昇,多数の前房内細胞,フレアを認めた.(53)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011361bevacizumab(Avastin)injection.Eye23:2187-2193,20098)DiagoT,MaCannalCA,BakriSJetal:Infectiousendophthalmitisafterintravitrealinjectionofantiangiogenicagents.Retina29:601-605,20099)KleinKS,WalshMK,HassenTSetal:Endophthalmitisafteranti-VEGFinjections.Ophthalmology116:1225,200910)NelsonML,TennantTS,SivalingamAetal:Infectiousandpresumednoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.Retina23:686-691,200311)MoshfeghiDM,KaiserPK,ScottIUetal:Acuteendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.AmJOphthalmol136:791-796,200312)WestfallAC,OsbornA,KuhlDetal:Acuteendophthalmitisincidence:intravitrealtriamcinolone.ArchOphthalmol123:1075-1077,200513)KonstantopoulosA,WilliamsCP,NewsomRSetal:Ocularmorbidityassociatedwithintravitrealtriamcinoloneacetonide.Eye21:317-320,200714)BaudouinC,ChassainC,CaujolleCetal:TreatmentofcytomegalovirusretinitisinAIDSpatientsusingintravitrealinjectionsofhighlyconcentratedganciclovir.Ophthalmologica210:329-335,199615)YoungSH,MorletN,HeerySetal:Highdoseintravitrealganciclovirinthetreatmentofcytomegalovirusretinitis.MedJAust157:370-373,199216)TornambePE,HiltonGF,TheRetinalDetachmentStudygroup:Pneumaticretinopexy.Amultiplerandomizedcontrolledclinicaltrialcomparingpneumaticretinopexywithscleralbuckling.Ophthalmology96:722-784,198917)Mezad-KourshD,GoldsteinM,HeilwailGetal:Clinicalcharacteristicsofendophthalmitisafteraninjectionofintravitrealantivascularendothelialgrowthfactor.Retina30:1051-1057,201018)MinodeKasparH,KreutzerTC,Aguirre-RomoIetal:Aprospectiverandomizedstudytodeterminetheefficacyofprospectivetopicallevofloxacininreducingconjunctivalbacterialflosa.AmJOphthalmol145:136-142,200719)InoueY,UsuiM,OhashiYetal:Preoperativedistinfetionoftheconjunctivalsacwithantibioticsandiodinecompounds:Aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmol52:151-161,200820)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Effectofoperativefieldirrigationonintraoperativebacterialcontaminationandpostoperativeendophthalmitisratesin25-gaugevitrectomy.Retina30:1242-1249,201021)SatoT,EmiK,IkedaTetal:Severeintraocularinflammationafterintravitrealinjectionofbevacizumab.Ophthalmology117:512-516,201022)RothDB,ChiehJ,SpirnMJetal:Noninfectiousendophthalmitisassociatedwithintravitrealtriamcinoloneinjection.ArchOphthalmol121:1279-1282,2003また,発症時期は投与から2日以内と比較的早い.前房内炎症の程度は症例によってさまざまであり,前房蓄膿を伴った強いものから,前房蓄膿を認めないものもあるが,硝子体混濁は全例で認めている.トリアムシノロンで無菌性眼内炎の発生率が高い原因として考えられているのが,トリアムシノロン製剤に含まれている添加物である.ベンジルアルコール,カルボキシメチルセルロース,ポリソルベートなどが添加されており,これらが炎症を惹起する原因となっていると考えられている10).おわりに以上,硝子体内注射後の感染性および無菌性眼内炎について簡単に述べた.非感染性のほうがより自覚症状,他覚所見ともにやや弱く,発症期間は短い傾向にはあるが,症例によってのばらつきも多く,しばしば鑑別は困難である.感染の可能性を完全に否定できない場合は,適宜抗生物質を投与しながら注意深く頻回の経過観察を行い,悪化を認めた場合にはすぐに硝子体手術による対応もできるよう心構えをしておく必要がある.文献1)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinternettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,20062)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnon-infectiousendophthalmitisafterintravitrealbevacizumab.JOculPharmacolTher23:240-242,20073)MasonJO3rd,WhiteMF,FeistRMetal:Incidenceofacuteonsetendophthalmitisfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)injection.Retina28:564-567,20084)WuL,Martinez-CastellanousMA,Quiroz-MercadoHetal:Twelve-monthsafetyofintravitrealinjectionsofbevacizumab(Avastin):resultsofPan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup(PACORES).GraefesArchClinExpOphthalmol246:81-87,20085)FintakDR,ShahGK,BlinderKJetal:Incidenceofendophthalmitisrelatedtointravitrealinjectionofbevacizumabandranibizumab.Retina28:1395-1399,20086)PilliS,KotsolisA,SpaideRFetal:Endophthalmitisassociatedwithintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyinjectionsinanofficesetting.AmJOphthalmol145:879-882,20087)ArtunayO,YuzbasiogluE,RaiserRetal:Incidenceandmanagementofacuteendophthalmitisafterintravitreal