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網脈絡膜疾患

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY数が減少すると網膜外顆粒層は菲薄化する(図2).杆体による物理的な支えがなくなる状況は,同じ網膜外顆粒層に存在する錐体にとって好ましくないと容易に想像ではじめに晴れた日に雪上に立つと誰もが眩しいと感じる.つまり,ある一定以上の強い光が網膜に到達すると眼に異常がなくても眩しくなるわけである.このとき,網膜ではどのような現象が起きているのだろうか.視細胞には錐体と杆体がある.強い光のもとでは杆体はほとんど機能しない(飽和状態)が,錐体は光が強くなるほど過分極し,神経伝達物質の放出量を減少させる(図1).この変化は,双極細胞により感知され,網膜神経節細胞を介して最終的に脳へ伝わり眩しさという感覚になる.双極細胞以降のシグナル伝達が正常という前提で,錐体からの神経伝達物質の放出量が何らかの原因で極端に減ると眩しく感じるようになるといえる.網脈絡膜疾患では,一次的または二次的に錐体が障害される.錐体の機能的異常は,ほとんどの場合その細胞死に繋がる.このような質的および量的な変化は,錐体からの神経伝達物質の放出量を減少させることで羞明の原因となろう.また,錐体障害の有無にかかわらず,無虹彩症のように網膜に到達する光が増えることでも眩しく感じる.本稿では,羞明をきたす網脈絡膜疾患を,1)二次的に錐体が障害されるもの,2)一次的に錐体が障害されるもの,3)錐体障害の有無にかかわらず眼への入光量が増えるものに分け,それぞれの代表的な疾患について述べる.I二次的に錐体が障害されるもの視細胞の約97%を占める杆体が障害され,その細胞(35)607*NobushigeTanaka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕田中伸茂:〒181-8611三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):607.612,2010網脈絡膜疾患ChorioretinalDisorders田中伸茂*神経伝達物質放出量膜電位光量時間図1光刺激に伴う神経伝達物質放出量の変化視細胞にあたる光量が増えると膜電位は過分極し,神経伝達物質の放出量は減少する.逆に,光量が減ると脱分極し,放出量は増加する.608あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(36)に動脈)の狭小化,骨小体様の色素沈着を認める(図4上).粗.胡麻塩状や白点状網膜を呈することもある.診断には網膜電図(ERG)と視野検査が欠かせない.ERGの異常(平坦化)は,病初期で視野・視力が良好な時期にもすでに認められる.視野障害は,輪状暗点や地図状暗点にはじまり,求心性視野狭窄に至る.蛍光血管造影検査では,網膜色素上皮萎縮による過蛍光(windowdefect)を認め,ときに.胞状黄斑浮腫もみられる..胞状黄斑浮腫の経時変化は,光干渉断層像(OCT)で観察するとよい.眼底自発蛍光検査は,網膜色素上皮の生体反応を間接的にみることができる.網膜色素上皮が萎縮した部位の自発蛍光は減弱する(図4下).非侵襲的検査であり病気の進行程度を把握するのに視野検査とならんで有用である.c.治療法特定の遺伝子異常に起因する網膜色素変性症の遺伝子治療が米国ですでにはじまっている2).しかしながら,研究段階の域である感は否めない.ビタミンAや循環改善薬の内服が一般的であるが,明らかな効果を望めるものではない..胞状黄斑浮腫に対して,炭酸脱水酵素阻害薬の内服が奏効することがある(図5).きよう.杆体からのシグナルは双極細胞,アマクリン細胞を経由して錐体からのシグナルを調整している(図3)し,杆体から錐体の生存に必要な物質が放出されているとの報告もある1).また,網膜色素上皮は視細胞の新陳代謝(視細胞外節を貪食し,再利用する物質を視細胞に戻す)に必須であり,脈絡膜は視細胞(網膜外顆粒層)を栄養している.このように,杆体・網膜色素上皮・脈絡膜の障害は,二次的に錐体の機能不全をきたす.1.杆体障害に続発するもの―網膜色素変性症杆体の光感知から双極細胞へのシグナル伝達系(phototransductioncascade)に関わるものや,視細胞の細胞構造を維持する遺伝子変異が知られている.種々の遺伝子異常により起きる杆体の変性が優位の進行性網脈絡膜変性である.a.自覚症状初期(10歳頃)より夜盲があり,病気が進行するにつれ(進行速度は症例ごとに大きく異なる),視野狭窄を自覚するようになる.錐体も障害されはじめると視力低下や羞明を感じる.網膜色素上皮も二次的に障害されるため,外血液網膜関門の破綻による.胞状黄斑浮腫をきたし,視力低下のほか歪視を自覚することもある.b.検査所見眼底検査では,視神経乳頭の.状萎縮,網膜血管(特アマクリン細胞ON型双極細胞OFF型双極細胞錐体錐体杆体図3杆体による錐体経路への影響杆体からのシグナルは双極細胞へ伝わる.双極細胞からのシグナルは神経節細胞とアマクリン細胞へ伝わる.アマクリン細胞は,錐体からシグナルを受けている双極細胞の調整をしている.正常ONLINLONLINL網膜色素変性症図2正常眼と網膜色素変性症眼の網膜組織切片像杆体が障害される網膜色素変性症では,その細胞数の減少に伴い外顆粒層は菲薄化する.内顆粒層は比較的保たれている.INL:innernuclearlayer(内顆粒層),ONL:outernuclearlayer(外顆粒層).(37)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010609必要なチャンネル(トランスポーター)が存在する.このトランスポーターの機能障害によって網膜色素上皮に多くの老廃物(リポフスチン)が蓄積されStargardt病の原因となる.黄色斑眼底は,Stargardt病と同じ遺伝子異常により生じるが,発症は遅く,症状も比較的軽微である.a.自覚症状10.20歳代頃より視力低下を自覚しはじめ,まれに羞明や色覚異常を訴えることがある.最終視力は0.1前後で落ち着くことが多い.夜盲や周辺部視野欠損を認めることはほとんどない.b.検査所見眼底検査で黄斑部に黄色斑を認める.蛍光血管造影検査で脈絡膜からの蛍光が網膜色素上皮に蓄積したリポフスチンにより遮断されることでいわゆるdarkchoroid(網膜色素上皮による遮断効果で脈絡膜充盈がみられない)を呈することが多い.網膜色素上皮層を挟んで硝子体側と脈絡膜側とには電位差がある.硝子体側陽性の電位差は,暗くなると小さくなり,明るくなると大きくなる.この反応を間接的に捉えたものが眼電図(EOG)である.網膜色素上皮の機能異常は,EOGの反応低下として現れる.網膜色素上皮障害が原発であるStargardt病の診断にEOGは有用ではあるが,早期診断には不十分である.d.鑑別疾患梅毒・トキソプラズマ感染などの炎症性のもの,薬剤などによる中毒性のもの,また他の網脈絡膜変性疾患を鑑別する必要がある.2.網膜色素上皮障害に続発するもの―Stargardt病網膜色素上皮には視細胞の老廃物(ビタミンA誘導体)を取り込み,再利用するものを視細胞に戻すために図4網膜色素変性症眼の眼底写真と眼底自発蛍光写真上:眼底写真.視神経乳頭の.状萎縮,網膜血管の狭小化,弓状血管より周辺網膜に骨小体様の色素沈着を認める.下:眼底自発蛍光写真.網膜色素上皮が萎縮した部位の自発蛍光は減弱している.黄斑色素により網膜色素上皮の自発蛍光は遮断されるため,黄斑部は低蛍光となる.図5網膜色素変性に続発する.胞状黄斑浮腫と炭酸脱水酵素阻害薬の効果網膜色素変性症患者に.胞状黄斑浮腫を認めることがある(上).炭酸脱水酵素阻害薬の内服により浮腫は軽減し歪視の訴えが消失した(下).610あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(38)ない.c.治療法根治療法はないが経過観察を行う必要がある.進行速度を視野検査や眼底自発蛍光検査で評価し,患者に還元することは有意義であろう.d.鑑別疾患Stargardt病と同様,黄斑変性をきたす疾患群(加齢黄斑変性症など)はすべて鑑別の対象となる.眼底所見は特異的なものではないため確定診断に戸惑うことは否c.治療法根治療法はないが経過観察が合併症の早期発見のために大切である.二次的に脈絡膜新生血管盤をきたすことを否定できず,その場合は加齢黄斑変性症に準じた治療が必要となろう.d.鑑別疾患黄斑変性をきたす疾患群(加齢黄斑変性症など)はすべて鑑別の対象となる.しかし,近年の科学技術の進歩に伴い,臨床診断が異なる疾患であっても遺伝子レベルでは同根と判明するようになってきたことも知っておくべきであろう.3.脈絡膜障害に続発するもの―中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ視細胞や網膜色素上皮に先んじて脈絡膜毛細血管の異常がみられたからといって脈絡膜が一次的に障害されているとは断定できない.しかしながら,脈絡膜毛細血管床の消失が病初期からみられる疾患を脈絡膜ジストロフィに分類している.この疾患群のなかで黄斑部に限局したものを中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィという.原因遺伝子の一つであるペリフェリンは視細胞外節の構造維持に必要な蛋白質であり,脈絡膜組織には存在しない3).脈絡膜の障害が一次的なものか二次的なものかはいまだ議論の余地が残るが,この事実は二次的であることを示唆している.a.自覚症状40.50歳代頃より視力低下を自覚するようになる.錐体障害が顕著になると羞明を感じることがある.中心比較暗点は徐々に拡大するが,夜盲や周辺部視野欠損を認めることはほとんどない.b.検査所見眼底検査で病初期には黄斑部に軽度の顆粒状変化を認めるのみである.病期の進行に伴い,境界明瞭な輪状病変となる(図6上)4).蛍光血管造影検査で病変部の脈絡膜毛細血管の消失を検出できる.脈絡膜血管造影に適したインドシアニングリーン蛍光血管造影検査がより有用である.眼底自発蛍光検査で網膜色素上皮の萎縮している範囲が明瞭に描出される(図6下).病変は黄斑部に限局しているためERGやEOGに明らかな異常を認め図6中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ眼の眼底写真と眼底自発蛍光写真上:眼底写真.境界明瞭な黄斑部の輪状病変を認める.下:眼底自発蛍光写真.網膜色素上皮の萎縮している範囲が低蛍光として明瞭に描出される.また,低蛍光部を取り囲むように輪状の過蛍光領域を認める.(39)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010611d.鑑別疾患眼底に所見がなく,視力低下をきたしている場合はoccultmaculardystrophyを鑑別する.黄斑部病変を伴う場合は黄斑変性をきたす疾患群(加齢黄斑変性症など)はすべて鑑別の対象であろう.III錐体障害の有無にかかわらず入光量が増えるもの1.無虹彩症眼の発達(発生)段階において,細胞は分裂と分化をくり返している.細胞内では,虹彩組織を形づくるために必要な遺伝子の発現調節が行われている.この過程で転写調節因子が働いており,その異常により虹彩の形成が阻害され無虹彩症となる.a.自覚症状虹彩がないため眼に入る光の量を調節できず羞明感が強い.視力低下は後述する眼合併症に起因することが多い.合併症が軽度でも焦点深度が浅くなるため軽度の遠視でも弱視になりやすい.弱視を伴う場合は眼振が顕在化する.b.検査所見細隙灯顕微鏡にて虹彩の欠損を認める.隅角鏡にて虹彩根部を認めるものが多く完全に虹彩が欠損していることは少ない.残存する虹彩が萎縮収縮することで周辺虹彩前癒着が起こり緑内障を続発することが多い.前述の転写調節因子は虹彩の発生だけに関わるものではなく,他の眼内組織の発生にも大切な働きをしている.そのため,無虹彩症以外の異常(小角膜・白内障・黄斑低形成・脈絡膜コロボーマなど)を随伴することはまれではない.約1割の患者に腎臓のWilms腫瘍および精神発達遅滞を伴うことも忘れてはならない.c.治療法眼合併症が無虹彩症のみであれば虹彩付きコンタクトレンズでかなり症状は軽減される.併発白内障に対しては外科的治療が有効だがZinn小帯が脆弱であることが多く難易度が高い.Zinn小帯に問題がなければ虹彩付き眼内レンズを.内固定できる.弱いようなら虹彩付き水晶体.拡張リングを使用するとよい..内摘出となった場合は虹彩付き眼内レンズの縫着術が必要である.続めない.II一次的に錐体が障害されるもの前述のように,杆体が障害されると二次的に錐体も障害されるが,逆はどうであろうか.視細胞の2.3%ほどでしかない錐体の障害だけで二次的に杆体障害をきたすとは考えにくい.したがって,錐体杆体ジストロフィは,錐体と杆体の双方に原因をもつ疾患と考えるべきである.たとえば,原因遺伝子の一つである前述のペリフェリンは視細胞外節の構造維持に必要な蛋白質であり,この変異により錐体も杆体も障害される3).これも一次的に錐体が障害されているといえるが,錐体のみの障害である錐体ジストロフィと異なることは明白である.錐体ジストロフィ錐体の光感知から双極細胞へのシグナル伝達系に関わるものの遺伝子変異が知られている.これらの遺伝子は錐体に特異的に存在している.色覚異常も錐体ジストロフィの範疇に入ろうが,ここでは進行性の錐体ジストロフィについて述べる.a.自覚症状10歳を過ぎる頃になって,はじめて視力低下を自覚する(すなわち,それ以前にはまったく視覚障害がなく,眼底所見も乏しいため正しく診断するのは困難であろう).視力は緩徐に低下するが0.1前後で落ち着くことが多い.他の自覚症状として,羞明・色覚異常・昼盲がある.b.検査所見眼底検査で黄斑部に標的状病変を認めることがある.この所見は錐体ジストロフィに特異的とまではいえない.非典型的な黄斑部の病変であったり,明らかな所見がなかったりすることもある.そこで診断にはERGが必須となる.通常のERGでほぼ正常な応答が得られるにもかかわらず,錐体機能を反映するフリッカーERGが平坦化する.c.治療法遺伝子治療などが盛んに試みられているが,現在のところ確立した治療法はない.612あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(40)い.何より問診で先天性のものか後天性のものかを容易に判断できるであろう.おわりに羞明をきたす網脈絡膜疾患を錐体が一次的または二次的に障害されるもの,および錐体障害の有無にかかわらず眼への入光量が増えるものに分け,それぞれの代表的な疾患について自覚症状・検査所見・治療法・鑑別診断を順に述べた.根治療法は確立しておらず今後の医学の進歩に委ねざるをえない.眩しさの対策法は,無虹彩症以外の疾患ではほぼ共通している.眩しさの原因となる短波長光だけを効果的に遮断する遮光眼鏡が有効である.最適な遮光眼鏡の処方は,患者の自覚的な感覚によるためレンズカラーの選択には十分な時間をかける必要がある.最後に,網膜色素上皮細胞に存在するトランスポーター遺伝子の異常は,Stargardt病と加齢黄斑変性症に関連し,ペリフェリン遺伝子の異常は,錐体杆体ジストロフィだけではなく,網膜色素変性症や中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィの原因になることが明らかになってきた.網脈絡膜疾患を診るうえで,臨床診断だけでなく遺伝子診断も大切になってきていることを痛感する.文献1)LeveillardT,Mohand-SaidS,LorentzOetal:Identificationandcharacterizationofrod-derivedconeviabilityfactor.NatGenet36:755-759,20042)MaguireAM,HighKA,AuricchioAetal:Age-dependenteffectsofRPE65genetherapyforLeber’scongenitalamaurosis:aphase1dose-escalationtrial.Lancet374:1597-1605,20093)RennerAB,FiebigBS,WeberBHFetal:Phenotypicvariabilityandlong-termfollow-upofpatientswithknownandnovelprph2/rdsgenemutations.AmJOphthalmol147:518-530,20094)BoonCJ,KleveringBJ,CremersFPetal:Centralareolarchoroidaldystrophy.Ophthalmology116:771-782,2009発緑内障に対しては,まず薬物療法となるが周辺虹彩前癒着が広汎に発生すると外科的治療が必須となる.d.鑑別疾患無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群およびPeters奇形は,虹彩角膜発育異常症に属する先天性の疾患である.後二者が鑑別の対象となろう.非典型例を除けば鑑別が困難なことは少ない.2.白子症チロシナーゼは,チロシンを酸化してメラニンの前駆物質であるドパに変える酵素である.白子症では,このチロシナーゼ遺伝子の異常により,ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)の色素細胞や網膜色素上皮細胞が先天的にメラニン顆粒を欠くか,きわめて少ない状態となる.a.自覚症状入射する光を虹彩で調節できないため羞明を強く訴える.脈絡膜と網膜色素上皮が光の通過を遮ることで,視細胞は効率よく光を受容できる.白子症ではそれができなくなり視力は不良となる.多くの場合,眼振を認める.b.検査所見徹照法で前眼部を観察すると虹彩からも眼底反射が透見できる.眼底検査では全体的に明るく,脈絡膜の血管がくっきりみえ,黄斑部の同定は困難である.眼に限局する眼白子症では皮膚や髪の脱色素は明らかではないが,眼皮膚白子症では皮膚や髪の色は蒼白となる.c.治療法根治療法は現在のところない.メラニンが不足しているため紫外線による影響(皮膚癌など)を受けやすくなる.このため,紫外線対策は大変重要となる.d.鑑別疾患特徴的な疾患であり通常,診断に苦慮することはない.原田病の夕焼け状眼底は白子症の眼底所見に類似するが,前者には周辺部に白色の斑点が散在することが多

乳幼児が眩しがる場合

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY重に検査を進める必要がある.本稿では,緑内障を中心に,乳幼児で羞明をきたす疾患について解説する.I鑑別診断と治療1.角膜角膜疾患は羞明の原因として,最も頻度の高いものであり,原因となる疾患は異物,外傷,感染症のほか,先天代謝異常,遺伝性のジストロフィなどきわめて多彩である.a.眼瞼内反,睫毛内反,睫毛乱生などによる角膜上皮障害慢性的で流涙を伴う.b.角膜擦過傷,異物,角膜熱傷,春季カタル,コンタクトレンズ障害などによる角膜上皮障害急激に流涙を伴う羞明がみられ,結膜充血や眼瞼腫脹を伴う.指,鉛筆,玩具などによる外傷が多い.受傷機転が不明なことが多く,瘢痕により不正乱視や弱視をきたすことがある.c.角膜炎細菌性角膜炎の原因菌としては,ブドウ球菌や肺炎球菌,レンサ球菌,緑膿菌などがおもなものであり,眼瞼炎,結膜炎,角膜炎とともに角膜潰瘍をきたす場合がある.ウイルス性角膜炎としては,単純ヘルペス角膜炎,水痘性角膜炎1),麻疹角膜炎2)などがあり,点状表層角膜症の場合が多いが,重症例では円板状角膜炎となり,虹彩炎を伴うことがある.はじめに羞明とは,光を異常に眩しく感じ,健常者には苦痛のない程度の輝度の光でも眼痛・流涙などを生じ,苦痛のため開瞼困難になる状態で,通常のこどもにはみられない症状である.明るい所を嫌い,片眼あるいは両眼をぎゅっとつぶる,頻繁に瞬きをする,などのしぐさがみられ,流涙,充血,眼痛,頭痛,眼振などを伴うことがある.羞明をきたす疾患は,角膜疾患,緑内障などの眼内疾患のほか,髄膜炎・脳腫瘍などの眼外疾患が原因となることもあり,ときには頭蓋内病変の検索も必要となる.診断には,発症年齢や程度,随伴症状も参考になる.乳児では,発達緑内障,杆体一色覚,II型チロシン血症,分娩時の角膜障害など,幼児では,外傷(角膜擦過傷,異物など),角膜炎など,児童では白皮症,無虹彩症などを鑑別診断として考える.また,流涙を伴っているかどうか(緑内障や角膜上皮障害,角膜炎など),流涙はなく眩しがっているのか(杆体一色覚,白皮症,無虹彩,角膜瘢痕など),眼振を伴っているか(杆体一色覚,白皮症,無虹彩)も参考になる.早発型発達緑内障の初期には,泣くと角膜混濁が増悪し,泣き止むと軽快するなど,診断に迷う場合もあり,眼圧測定のためには鎮静下あるいは全身麻酔下検査が必要になる.迅速な診断と的確な手術治療により,生涯良好な視機能を維持できる可能性のある疾患であり,乳幼児で羞明がみられた場合,必ず緑内障を念頭に置き,慎(27)599*MiinaHiraoka:小金井眼科クリニック〔別刷請求先〕平岡美依奈:〒184-0004小金井市本町5-19-26小金井眼科クリニック特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):599.605,2010乳幼児が眩しがる場合InfantswithPhotophobia平岡美依奈*600あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(28)ける.出生直後はびまん性の浮腫を示すが,浮腫性混濁は次第に消失し,多くはDescemet膜の線状の混濁を残す.角膜乱視や瞳孔領の混濁によって,弱視となることがある8).2.緑内障a.分類小児期にみられる緑内障は,発達緑内障と続発緑内障に分類されている9).発達緑内障は,胎生期の前房隅角の形成異常が原因となるもので,形成異常が隅角に限局する早発型および遅発型発達緑内障と,他の先天異常(無虹彩症,Sturge-Weber症候群,Axenfeld-Rieger症候群,Peters奇形など)を伴う発達緑内障に分類される.続発緑内障とは,未熟児網膜症,網膜芽細胞腫,若年性黄色肉芽腫症,白内障手術などに起因するものである.b.症状早発型発達緑内障(以前の原発先天緑内障)は,前房隅角の形成異常が原因で,他臓器の異常を伴わないものである.3歳以前(多くは生後1年以内)に発症し,初発症状として,羞明,流涙,眼瞼けいれんがみられ,眼圧上d.色素性乾皮症(xerodermapigmentosa)紫外線曝露によって生じたDNA損傷を除去修復する過程に先天的な障害をもっているため,高度の光線過敏症状をきたす疾患で,常染色体劣性遺伝である.乳幼児期から発症する重篤な日光過敏性皮膚炎を主症状とし,高頻度に皮膚癌を合併する.眼症状として羞明や眼瞼炎,流涙,結膜炎を生じ,末期には眼瞼外反や失明,悪性腫瘍発生に至る3).徹底的な遮光の必要がある(紫外線遮断レンズ眼鏡,サンスクリーンの使用など).e.II型チロシン血症(Richner-Hanhartsyndrome)アミノ酸代謝異常症の一つで,チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)欠損症であり,角膜潰瘍,指・手掌・足底の角化症,精神発達遅滞を呈する.生後1年以内に羞明,流涙,充血がみられ,角膜は両眼性の偽樹枝状潰瘍となるが,フルオレセインで染色されない.チロシン・フェニルアラニンの制限食によって角膜病変の改善がみられる4).f.先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditaryendothelialdystrophy:CHED)生下時あるいは生後1.2年以内に発症する両眼性の角膜混濁である.常染色体優性遺伝(CHED1)と常染色体劣性遺伝(CHED2)があり,劣性遺伝のほうが重症である5).角膜は高度の浮腫のため,ほぼ全面にわたってすりガラス状に混濁する.内皮細胞の欠如もしくは著明な減少がみられ,上皮および実質の浮腫,実質やDescemet膜の肥厚があるが,血管侵入はない.虹彩・水晶体などの異常を伴わないことが多く,眼圧も正常である6).g.シスチン蓄積症ライソゾーム膜輸送担体の異常により角膜などの眼組織,腎臓,骨髄など全身にシスチン結晶の沈着をきたす常染色体劣性遺伝である.腎型は乳児期に発症し,腎尿細管機能障害(Fanconi症候群),精神運動発達遅滞,甲状腺機能低下を伴う.眼症状として,角膜実質に針状のクリスタリン様結晶が沈着し,羞明がみられる.網膜への沈着は視力障害の原因となる.システアミンが結晶の沈着を抑制する7).h.分娩時外傷鉗子分娩・吸引分娩などの際に眼球に強い圧迫が加わると,Descemet膜に破裂が生じ,角膜内皮が障害を受図1早発型発達緑内障角膜は混濁し,角膜径は拡大している.(図1.5は国立成育医療センター東範行先生のご厚意により拝借)(29)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010601ニオトミー)も選択可能である.線維柱帯切開術は,角膜混濁があっても施行可能であるが,早発型発達緑内障患者の強膜は薄く穿孔しやすいため,強膜弁の作製が困難で,角膜径が拡大している例ではSchlemm管の同定が困難である.早発型発達緑内障の手術成績はおおむね良好であるが,無虹彩症やSturge-Weber症候群などに伴う発達緑内障は難治性で,複数回の手術にても眼圧コントロールが困難な症例では,代謝拮抗薬を併用しての線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)も行われる12).e.術後管理手術が奏効した場合,角膜は徐々に透明性を回復し,乳頭所見も改善がみられる(図2).術後も定期的な眼圧測定,眼底検査が必要で,たとえ眼圧値が良好でも角膜混濁が改善しない,あるいは乳頭陥凹拡大が進行する場合は,追加手術を検討しなければならない.眼圧下降効果が良好でも,視神経障害や,角膜障害,屈折異常などにより弱視となりやすく,屈折矯正・弱視治療も含めたきめ細かな管理が必要となる.f.他の先天異常を伴う発達緑内障無虹彩症(後述),Sturge-Weber症候群(顔面三叉神経領域,脈絡膜,大脳軟膜の血管腫を伴い,約1/3に緑内障を合併する),Axenfeld-Rieger症候群(後部胎昇が持続すると角膜が伸展され,角膜径が増大する(図1).新生児で11mm以上,または1歳以下で12mm以上の角膜径や,角膜径に左右差があるのは異常である.強膜が軟らかいため,眼圧上昇によりまず眼球拡大が起こるので,視神経乳頭陥凹拡大はかなり進行してから起こる.また,乳幼児は前房が浅いのが正常で,成人と同様の深い前房は要注意である.進行例では角膜混濁に加え,Descemet膜破裂(Haab’sstriae)をきたし,線状の混濁を永久的に残し,視力障害の原因となる.角膜径増大とHaab’sstriaeがあれば,本症の存在は明らかである.視神経乳頭の変化は,成人と異なり,初期には乳頭中央部の深い陥凹が生じ,全周のrim幅を保ったままsymmetricopticnervecuppingとなることが多い.1歳未満で乳頭/陥凹(C/D)比が0.3以上ある場合や,左右差があるのは異常である10).乳幼児の乳頭には可塑性があり,眼圧の低下とともに,陥凹の深さ・大きさが減少するのが特徴である.c.検査啼泣時の眼圧値は正確な値とはいえないため,緑内障を疑う所見がみられた場合,鎮静下検査あるは全身麻酔下検査が必要である.仰臥位で開瞼器を使用し,圧力をかけないよう注意しながらPerkins眼圧計,TonopenRなどで眼圧を測定する.角膜混濁の強い例などではSchiotz眼圧計も有用である.乳幼児の眼圧は成人より低く,さらに麻酔下の眼圧値は覚醒時よりも低くなるため,15mmHg程度を正常上限とするべきである11).全身麻酔では麻酔の深度によっても眼圧は変動するため,まず眼圧測定を行い,それから角膜径,前眼部・隅角・乳頭所見などを評価する.隅角検査は小児用Koeppe型レンズを使用して行う.乳頭所見は,緑内障の診断や病状の進行を判断するのに最も重要であり,まずは散瞳せずに直像鏡を用いて評価する.たとえ特徴的な角膜所見や眼圧上昇がみられなくても,眼圧上昇に起因する乳頭変化がみられる場合,手術を検討すべきである.d.治療診断が確定すれば,手術によって速やかに眼圧を下降させなければならない.病型にかかわらず,乳幼児では線維柱帯切開術(トラベクロトミー)が広く行われており,角膜の透明性が保たれている場合は隅角切開術(ゴ図2早発型発達緑内障(図1症例の術後)角膜混濁は軽快したが,瞳孔領に線状の混濁が残存している.602あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(30)づかれる.水晶体赤道部およびZinn小帯が観察され,隅角のみに痕跡状の虹彩が観察されるものから,全周に不完全ながら虹彩が認められるものまである(図3).緑内障は,一般に出生時にはみられず,徐々に隅角異常あるいは閉塞が進行するために小児期に発症し,その頻度は50.75%と報告されている(図4).白内障も進行性で,20歳までに50.85%に生じるとされ,ときに水晶体偏位がみられる.角膜混濁は,輪部のstemcell異常により起こるとされ,周辺部に始まり,中心部へ向かって進行する.黄斑低形成,視神経低形成の合併により生来低視力で,白内障・緑内障・角膜混濁の進行によって,視力はさらに低下していくことが多い14).Wilms腫瘍(腎芽細胞腫)は,PAX6近傍に存在するWT1遺伝子の異常によって生じるため,無虹彩に合併する頻度が高く,その80%は5歳以下で発症する.そのため,無虹彩症では定期的な腎臓超音波検査が必要である.WAGR症候群は,Wilms腫瘍,aniridia,genitourinaryabnormalities(泌尿生殖器異常),mentalretardation(精神発達遅滞)を四主徴とする疾患である.多くが糸球体硬化症により成人期に腎不全となり,死亡の原因となる.遮光眼鏡による羞明の緩和と屈折異常の矯正を行い,生環,周辺虹彩前癒着,瞳孔変形などの虹彩変化を伴い,約半数に緑内障を合併する),Peters奇形(角膜中央部の混濁と,角膜内皮,Descemet膜,実質後部の欠損,虹彩癒着がみられ,50.70%に緑内障を合併する)などが代表的な疾患である.緑内障は治療に抵抗性で,くり返し手術を要する場合が多い12).g.続発緑内障未熟児網膜症(水晶体後面の線維性組織の瘢痕収縮による隅角閉塞),網膜芽細胞腫(腫瘍の増大による隅角閉塞,網膜.離の持続による血管新生緑内障,あるいは腫瘍細胞の前房浸潤に伴う),若年性黄色肉芽腫(虹彩,毛様体などに生じた結節から出血し,眼圧上昇をきたす),白内障術後(開放隅角緑内障で,原因不明の場合が多い.小角膜・小眼球合併は緑内障発症のリスクが高い.術後6年以内に発症することが多い13))などが代表的な疾患である.3.ぶどう膜a.無虹彩症(aniridia)虹彩の低形成,角膜混濁,白内障,緑内障,黄斑低形成などを合併する疾患で,染色体11p13上のPAX6遺伝子の変異により生じる.幼少時からの眼振,羞明で気図3無虹彩症虹彩の低形成があり,水晶体赤道部が観察される.図4無虹彩症に伴う緑内障虹彩は低形成ながら,全周に観察される.眼圧上昇による角膜上皮浮腫を伴っている.(31)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010603炎に伴う場合,単純ヘルペス・水痘などの角膜炎に伴う場合,腫瘍の虹彩や毛様体浸潤などでみられる.若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)に伴う虹彩毛様体炎で霧視,羞明がみられるが,一般的に臨床所見のわりに自覚症状は軽度である.4.水晶体a.白内障後.下白内障,層間白内障などで水晶体が部分的に混濁している場合に羞明がみられる.b.水晶体偏位水晶体赤道部が視軸にかかる場合に羞明がみられることがある.Marfan症候群(常染色体優性遺伝,または孤発性の結合織疾患で,漏斗胸などの骨格症状,上行大動脈解離などの心大血管症状,水晶体偏位・亜脱臼などがみられる),ホモシスチン尿症(メチオニン代謝酵素の異常に起因する常染色体劣性遺伝性疾患で,骨格系異常,精神発達遅滞,血栓塞栓症,水晶体偏位などがみられる),Weill-Marchesani症候群(常染色体劣性遺伝で,低身長・短指症,小球状水晶体,水晶体偏位などがみられ,完全脱臼により緑内障をきたす),外傷などでみられる.5.網膜杆体一色覚(全色盲)網膜の錐体系視機能が杆体系視機能に比べ選択的に障害される先天性かつ停止性の疾患であり,先天停止性錐体機能不全症候群ともよばれる.著しい低視力,色弁別能の異常,眼振,羞明などの自覚症状が生まれつきみられ,常染色体劣性遺伝を示す.CNGA3,CNGB3,GNAT2などの遺伝子変異が報告されている17).基本的には進行のみられない停止性疾患であるが,長期間の経過観察中に症状が若干進行するする症例もあることが知られている.昼盲が強いために明るい所では瞼裂をせばめ,薄明所や暗所を好む.眼振や固視動揺があるが,青年期以降に軽減することがある.眼底所見および蛍光眼底所見は,輪状反射の乱れや欠如,黄斑部の色素異常などの軽度な異常がみられることもあるが,ほぼ正常であることが多緑内障の発症に注意しながら経過観察を行う必要がある.虹彩付きコンタクトレンズや人工虹彩付き眼内レンズも有効との報告がある15).白内障手術の際には,Zinn小帯が脆弱であることに留意する必要がある.b.白皮症(albinism)メラニン合成過程に異常があり,眼,皮膚,毛の色素が脱失または低下を示す先天性疾患である.さまざまな遺伝子変異によって発生し,原因となる遺伝子による分類が行われている.眼皮膚白皮症(oculocutaneousalbinism:OCA)は,原因遺伝子の違いによりOCA1.OCA4の4型に大別され,さらにHermansky-Pudlak症候群やChediak-Higashi症候群など,遺伝性疾患の一症状としても眼皮膚白皮症が認められる.眼白皮症(ocularalbinism:OA)は,眼に症状が限局されるもので,X連鎖性遺伝である.眼症状として,低視力,眼振,虹彩透光性,眼底の低色素,黄斑低形成(図5),斜視,各眼からの視神経線維の大多数が交叉してしまう視交叉の異常などがみられる16).乱視などの屈折異常も高頻度で合併するため,屈折異常の矯正と,遮光眼鏡が必要である.c.虹彩毛様体炎乳幼児では外傷性が最も多い.頻度は低いが,全眼球図5白皮症の眼底眼底は低色素で,脈絡膜血管が透見される.黄斑低形成があり,輪状反射は認められない.604あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(32)ら検査に協力してくれないことも多く,ときには鎮静下あるいは全身麻酔下検査が必要となることもある.緑内障の確定診断には全身麻酔下に,眼圧測定,隅角検査,UBM(超音波生体顕微鏡),眼底検査などを行う.錐体機能不全症候群の診断には錐体系と杆体系を分離したERGを記録する必要がある.眼内の異常がみられない場合は,頭蓋内病変の検索も進める.文献1)井上幸次:前眼部アトラス角膜水痘角膜炎.眼科プラクティス18:194,20072)小林顕:麻疹角膜炎.あたらしい眼科22:55-56,20053)GoyalJL,RaoVA,SrinivasanRetal:Oculocutaneousmanifestationsinxerodermapigmentosa.BrJOphthalmol78:295-297,19944)MacsaiMS,SchwartzTL,HinkleDetal:TyrosinemiatypeⅡ:ninecasesofocularsignsandsymptoms.AmJOphthalmol132:522-527,20015)JudischGF,MaumeneeIH:Clinicaldifferentiationofrecessivecongenitalhereditaryendothelialdystrophyanddominanthereditaryendothelialdystrophy.AmJOphthalmol85:606-612,19786)PearceWG,TripathiRC,MorganG:Congenitalendothelialcornealdystrophy:clinicalpathologicalandgeneticstudy.BrJOphthalmol53:577-591,19697)DureauP,BroyerM,DufierJL:Evolutionofocularmanifestationsinnephropathiccystinosis:along-termstudyofapopulationtreatedwithcysteamine.JPediatrOphthalmolStrabismus40:142-146,20038)HonigMA,BarraquerJ,PerryHDetal:Forcepsandvacuuminjuriestothecornea:histopathologicfeaturesoftwelvecasesandreviewoftheliterature.Cornea15:463-472,19969)阿部春樹,北澤克明,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,200610)RichardsonKT:Opticcupsymmetryinnormalnewborninfants.InvestOphthalmol7:137-140,196811)PensieroS,DaPozzoS,PerissuttiPetal:Normalintraocularpressureinchildren.JPediatrOphthalmolStrabismus29:79-84,199212)WallaceDK,PlagerDA,SnyderSKetal:Surgicalresultsofsecondaryglaucomasinchildhood.Ophthalmology105:101-111,199813)ChenTC,WaltonDS,BhatiaLS:Aphakicglaucomaaftercongenitalcataractsurgery.ArchOphthalmol122:1819-1825,200414)NelsonLB,SpaethGL,NowinskiTSetal:Aniridia.Areview.SurvOphthalmol28:621-642,198415)WongVW,LamPT,LaiTYetal:Blackdiaphragmaniridiaintraocularlensforaniridiaandalbinism.Graefesい.診断は,錐体系と杆体系を分離した網膜電図(ERG)を記録し,正常に近い杆体系ERGとほぼ消失した錐体系ERGがみられることによる.赤色コンタクトレンズ装用によって羞明が改善するとの報告がある18).6.視神経視神経炎感冒などの前駆症状に続いて,急激な視力低下に伴って,羞明がみられることがある.小児の視神経炎は両眼性で,視神経乳頭の発赤・腫脹を伴うことが多い.7.中枢神経髄膜炎,脳炎,片頭痛,三叉神経痛,くも膜下出血などで羞明を生じるとされている.片頭痛では,頭痛発作中に光過敏以外に音過敏がみられる.頭蓋内腫瘍では,視交叉部近傍腫瘍,後頭蓋窩腫瘍19)などで羞明を生じるという報告がある.眼科検査で異常がみられない症例の診断にあたっては,CT(コンピュータ断層撮影)検査,MRI(磁気共鳴画像)検査などでの検討も必要である.また,大脳皮質性視覚障害(corticalvisualimpairment:CVI)を有する小児の1/3に持続性で軽度の羞明がみられる.CVIが先天性であれば,羞明は生下時から存在し,その強さはときとともに軽減し,ときに消失することがある20).II補助検査羞明をきたす眼疾患は,眼瞼など眼表面の異常から,前眼部・中間透光体・眼底まで多岐にわたり,詳細な検査が必要となる.診察室の照明下あるいはペンライトに対する患児の反応を観察し,眼瞼の状態(眼瞼内反がないか,睫毛は角膜に接していないか)などを観察する.続いて,瞳孔検査〔相対的入力瞳孔反応異常(RAPD)の有無,瞳孔不同の有無〕を調べる.細隙灯顕微鏡で,角膜の観察を行い,必要であればフルオレセイン染色を用いて角膜上皮障害や異物の有無を確認する.結膜充血,結膜濾胞,巨大乳頭の有無,前房深度,炎症細胞の有無,虹彩異常の有無,水晶体の異常の有無を観察する.続いて,散瞳後に水晶体の異常や乳頭の形状,黄斑その他の異常を確認する.羞明が強いと年長の患児ですあたらしい眼科Vol.27,No.5,2010605ArchClinExpOphthalmol243:501-504,200516)KinnearPE,JayB,WitkopCJJr:Albinism.SurvOphthalmol30:70-134,198517)MichaelidesM,HuntDM,MooreAT:Theconedysfunctionsyndromes.BrJOphthalmol88:291-297,200418)ParkWL,SunnessJS:Redcontactlensesforalleviationofphotophobiainpatientswithconedisorders.AmJOphthalmol137:774-775,200419)MarmorMA,BeauchampGR,MaddoxSF:Photophobia,epiphora,andtorticollis:amasqueradesyndrome.JPediatrOphthalmolStrabismus27:202-204,199020)JanJE,GroenveldM,AndersonDP:Photophobiaandcorticalvisualimpairment.DevMedChildNeurol35:473-477,1993(33)

後囊下白内障

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY羞明を訴える,すなわちグレア障害を生じやすい3).後.下白内障では核硬化の症例と同じ視力であったとしても,コントラスト感度が低下しており,見えにくい可能性がある3).I鑑別診断白内障は,その混濁部位に応じて表1のように分類される4).後.下白内障は,先天性以外の白内障のなかに分類される.後.下白内障は顆粒状,斑状混濁を伴う後部皮質線維の軸性混濁として認められる.後.下白内障は,核硬化,皮質白内障と比べると若年,中年に多く認められる.後.下白内障と鑑別すべきものとしては,表2のようはじめに白内障の‘見えにくさ’は,視力検査でおもに評価されることが多く,進行した白内障では矯正視力低下が生じる.しかし,軽度の白内障においては,矯正視力は良好であっても患者は‘見えにくさ’を訴えることが少なくなく,それは羞明,霧視,近方視困難などの症状となって現れる1).後.下白内障は,初期変化として多数のvacuolesが後.直下に生じることが多く,その後混濁が発症する2)(図1).混濁の周囲にもvacuolesを伴うことが多く進行するにつれ混濁に転じる.初期には視力が保たれることが多いが,解剖学的に水晶体後.部は後方に凸になっており光線の散乱が起こりやすく症状として(23)595*KunihikoNakamura:たなし中村眼科クリニック〔別刷請求先〕中村邦彦:〒188-0011西東京市田無3-1-13ラ・ベルドゥーレ田無1Fたなし中村眼科クリニック特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):595.598,2010後.下白内障SymptomsofSubcapsularCataract中村邦彦*表1混濁の部位による白内障の分類先天性以外の白内障核硬化皮質白内障.下白内障前.下白内障後.下白内障先天白内障.白内障極白内障層間白内障点状白内障核白内障軸性白内障完全白内障表2鑑別診断.後極白内障.後部円錐水晶体.Mittendorf斑..穿孔外傷図1後.下白内障多数のvacuolesが後.直下中央部に生じている.596あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(24)に限局した混濁として白内障を生じるときがある.通常の外傷では前.にも混濁を生じるが,硝子体手術による医原性水晶体損傷では後.に限局して混濁を生じうる.後.中央に限局した後.下白内障には後極白内障に類似した形態を示す場合があり,鑑別が困難なときがある.混濁形状だけでなく,両眼性かどうか,遺伝性,現病歴などを鑑みて総合的に鑑別する必要がある.後極白内障,後部円錐水晶体,PHPV,.穿孔外傷とも後.に亀裂を生じやすく,場合によってはハイドロダイゼクションにて核と.を分離しようとしただけで亀裂を生じ核落下に至るときもあり,注意を要する.ハイドロダイゼクションは避けハイドロデリニエーションのみ行い,超音波水晶体乳化吸引は低灌流,低吸引の設定で行うのがよい.混濁部の後.の状態が術前にわかれば対策が立てられそうであるが,実際はスリットランプで観察してもそれを判断することはできない.術中に慎重に操作を行い,合併症に対処する以外に方法はない.この点で,後極白内障と他の疾患との鑑別が重要となってくる.II危険因子核硬化や皮質白内障が加齢を原因として生じることが多いのに対し,後.下白内障ではさまざまな他の要因によって生じることが少なくない(表3).加齢による後.下白内障は単独で生じることは少なく,核硬化に合併して生じることが多い.30.40歳代で後.下白内障を単独で生じている場合は,加齢以外の原因を念頭におくべきと考えられる.糖尿病により高血糖状態が続くと水晶体内に拡散したグルコースがアルドース還元酵素によってソルビトールに代謝され,水晶体内に蓄積していく.ソルビトールの蓄積に伴って細胞内の浸透圧が上昇し,水晶体線維細胞は膨潤してイオンバランスが崩れ前.下皮質から後.下皮質へと混濁する6).糖尿病白内障では皮質に放射状にな疾患があげられる.後極白内障は先天白内障に分類され,多くは常染色体優性遺伝の形式で両眼性であるが,散在性のものでは片眼性もある.後.欠損を伴いうる後.下皮質と.の肥厚した混濁で,水晶体後極部中央に隆起して認められ,円形・皿状の境界鮮明な混濁であることを特徴とする(図2).先天白内障であるが,混濁は左右対称かつ小さく限局しており弱視を形成することは少ない.加齢とともに混濁が拡大していく場合もあり,初期症状としては後.下白内障と同様に近見障害,グレアを自覚し,中年期に視力低下をきたし手術を必要とすることもある.後部円錐水晶体は,後.中央から水晶体皮質が後方に突出した先天異常で,片眼発症の散発性が多いが,両眼性の場合は常染色体劣性遺伝が多い.突出部は円形から楕円形までと一定していない.突出部も混濁したものから透明のものまでさまざまである.後極白内障では混濁部は水晶体線維が破綻して無構造となっており,後.自体は正常であるが,後.の厚さは通常の半分となっている5).Mittendorf斑は,硝子体血管の遺残として水晶体の鼻下側に接着したもので,しばしばBergmeister乳頭や,第一次硝子体過形成遺残(PHPV)と併存する.後部円錐水晶体,PHPVとも先天異常であり,後極白内障と同様に後.欠損を伴いうる..穿孔外傷は.穿孔部表3危険因子.糖尿病.放射線.ステロイド薬.ぶどう膜炎.網膜色素変性症.喫煙.硝子体手術後.外傷.アトピー性皮膚炎.高度近視図2後極白内障水晶体後極部中央に円形の混濁を認める.(25)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010597YAGレーザーにて後.切開を行うか,術中に対処するならばposteriorCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を行う.網膜色素変性症では後.下白内障を生じることが多いが,軽度の白内障の場合に手術をするべきか判断に迷うときがある.その際に散瞳することによって患者の症状が改善するならば手術の有効性が期待できる.ぶどう膜炎,糖尿病に合併した後.下白内障の場合は,まず原疾患の治療を十分に行ってからの白内障手術となる.V眩しさの対策法後.下白内障の確実な治療は白内障手術であるが,初期の白内障で視力低下もなく偽水晶体眼にすることにより完全に調節力を消失することに抵抗がある場合には羞明を抑える意味で遮光眼鏡が有用となる.遮光眼鏡は,羞明の要因となる短波長光をカットするものである.白内障眼での羞明は薄暮時に生じやすい14)が,有色のものでは暗所での視認性の低下の問題があり,室内では使用しづらい.近年では無色のものもあり暗所での視認性が低下することもなく羞明を軽減するので,室内でも使用可能で有用とされている15).文献1)三宅三平,太田一郎,前久保久美子ほか:視機能評価法(VF-14)の改良.IOL&RS11:116-120,19972)佐々木洋:白内障の基本病型.眼科プラクティス18,前眼部アトラス,p382-384,文光堂,20073)保科幸次,井崎篤子,下奥仁:初期白内障の臨床分類とコントラスト感度の検討.眼紀46:373-375,19954)渡辺公世,永本敏之:スリットランプを使った前・後.下白内障の術前診断.IOL&RS23:3-7,20095)林研:後極白内障と後部円錐水晶体.IOL&RS15:304-308,20016)岩田岳:白内障の発生(異常代謝・動物モデルを含む).眼科診療プラクティス22,やさしい眼の細胞・分子生物学,p189-193,文光堂,19967)BlackRL,OglesbyRB,VonSallmanLetal:Posteriorsubcapsularcataractsinducedbycorticosteroidsinpatientswithrheumatoidarthritis.JAMA174:166-171,19608)吉村将典,平野佳男,野崎実穂ほか:トリアムシノロン局所投与後の後.下白内障の発症頻度.日眼会誌112:786-789,2008広がる混濁を生じるのが典型だが,後.下白内障を単独で生じることも少なくない.ステロイド白内障については全身投与により後.下白内障が生じやすく,その投与量と発症頻度に関連があることが知られている7).近年では,黄斑浮腫に対してトリアムシノロンの眼局所投与が行われ有効性が報告されているが,一方でこれによるステロイド白内障,おもに後.下白内障が重要な合併症とされている8).トリアムシノロン局所投与による後.下白内障の発症の危険因子としては,投与回数に有意に相関した9),50歳未満では50歳以上に比べて有意に少ない10)といった報告もあれば,どれも相関はなかったとする報告もありまだ明らかではない.放射線白内障はX線照射によって活性酸素が発生し,水晶体上皮細胞のDNAが破壊され細胞の修復が抑制されることによって起こり,線量が増加とともに変性が増大するとされている.実験では2Gyでは水晶体上皮細胞に異系型性の核がみられ,4Gyでは淡い混濁が生じて上皮細胞の脱落があり,6Gyでは後.下白内障が起こり未分化な球状細胞の後極への移動がみられ,8Gyでは成熟白内障を生じて線維細胞が著しく崩壊する11).実際の放射線治療は2Gy照射が用いられており,短期には問題はないとされている.III補助検査現在,白内障に対する評価として視力検査以外にコントラスト感度測定やアンケート方式による評価が試みられている.前述のごとく視力が良好でも散乱の強い後.下白内障ではコントラスト感度が低下しやすいことが知られている.アンケートとしてはVF-1412)や,金沢医大式問診13)などが実生活における視機能の評価として行われている.他覚的評価として波面センサーによる眼球の高次収差の測定の有用性が報告されている14).IV疾患別治療後.下白内障の初期で症状が近見障害である場合は眼鏡による矯正を行うが,基本的には白内障手術を行う.顆粒状の混濁のみの場合は後.からの除去は容易だが,ときに線維性混濁が混在している場合があり,後.からの除去が困難なときがある.術中には無理せず,術後に598あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(26)ract.ArchOphthalmol112:630-638,199413)中泉裕子,阿部健司,徳田美千代ほか:13項目の問診による白内障患者術前・術後の訴えと患者の視機能.臨眼50:543-547,199614)高崎恵理子,伊藤美沙絵,相澤大輔ほか:初期白内障における愁訴と高次波面収差.臨眼58:1543-1547,200415)李俊哉,滝本正子,梁島謙次ほか:新しいコントラスト感度検査装置(CAT-2000).臨眼55:1147-1150,200116)入江都,山本香織,堀貞夫:初期白内障におけるコントラスト視力とネッツペックコーティングレンズの有用性.あたらしい眼科22:1133-1136,20059)CekicO,ChangS,TsengJJetal:Cataractprogressionafterintravitrealtriamcinoloneinjection.AmJOphthalmol139:993-998,200510)ThompsonJT:Cataractformationandothercomplicationsofintravitrealtriamcinoloneformacularedema.AmJOphthalmol141:629-637,200611)森田哲也,平山さをり,宇賀茂三ほか:X線照射ラット水晶体の形態学的研究.あたらしい眼科19:1081-1090,200212)SteinbergEP,TielschJM,OloverDSetal:TheVF-14.Anindexoffunctionalimpairmentinpatientswithcata

前部ぶどう膜炎

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY情報を聞き出す「考える問診」が重要である.ぶどう膜炎・内眼炎は全身疾患との関係が深いことがあり,民族・人種,性,居住地域,家族歴,両眼性/片眼性,急性/慢性,再発の有無,全身症状や食生活,動物・ペット飼育歴なども関係することがある1).漫然と問診してもこれらの必要な情報は得られないので,ただ聞くのではなく聞き出す意識が大切である.若年者は若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎,サルコイドーシス,間質性腎炎ぶどう膜炎症候群が多い.高齢者では悪性腫瘍を常に念頭におく.Behcet病は成人のなかでも比較的若年で20.30歳代が好発年齢であり,サルコイドーシスは男性では20.30歳代,女性では同年齢と50歳以上の二峰性がみられる2)(表1).罹患眼と眼外所見も非常に重要である(表2,3).はじめにぶどう膜炎(uveitis)というのは古くから用いられている用語である.本来はぶどう膜(虹彩,毛様体,脈絡膜)が炎症の主体をなす疾患を指すべきであるが,実際は網膜などの炎症が主体であるがぶどう膜にも炎症が及ぶ疾患も慣例的にぶどう膜炎の範疇として扱われてきた.そこで1990年代後半以降は国際眼炎症学会などが中心となり,ぶどう膜炎を本来のぶどう膜の炎症(狭義のぶどう膜炎)に限定し,その他を含めた従来の広義のぶどう膜炎に対しては内眼炎(intraocularinflammation)という呼称が提唱され,用いられている.したがって,本稿のタイトルである前部ぶどう膜炎は前部内眼炎と表記してもよい.一方,眼が眩しい,すなわち羞明は光が強く不快に感じる,あるいは見えにくい状態と定義される.その病態はときに中間透光体の混濁が原因となって散乱光が生じ,網膜像のコントラストが低下することに起因する.炎症が毛様体に及ぶと毛様体刺激症状としての毛様充血,眼痛(毛様痛)とともにしばしば羞明感を感じ,これらは中等度以上のあらゆるぶどう膜炎で生じうる.本稿では,眼の眩しさを主訴に受診する場合の原因の一つとして前部ぶどう膜炎を取り上げ,鑑別疾患と一次治療を中心に実際の臨床現場ですぐに役立つよう解説したい.I考える問診発症やその後の症状の経過から疾患を類推して必要な(17)589*NobuyoshiKitaichi:北海道医療大学個体差医療科学センター眼科学系,北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学分野〔別刷請求先〕北市伸義:〒002-8072札幌市北区あいの里2条5丁目北海道医療大学個体差医療科学センター眼科学系特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):589.594,2010前部ぶどう膜炎AnteriorUveitis北市伸義*表1年齢層別の前部ぶどう膜炎原因疾患の傾向年齢層よくみられる疾患小児・若年者若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎サルコイドーシス間質性腎炎ぶどう膜炎症候群若年者・成人(20.50歳代)Behcet病サルコイドーシス糖尿病虹彩毛様体炎Posner-Schlossman症候群Fuchs虹彩異色虹彩毛様体炎HTLV-1関連ぶどう膜炎高齢者サルコイドーシス(女性)眼内悪性リンパ腫590あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(18)HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-I関連ぶどう膜炎ではHTLV-I抗体が高値である.糖尿病虹彩毛様体炎では血糖値が著しく上昇している.若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎では抗核抗体が高値を示す.真菌性眼内炎ではb-d-グルカンが陽性となることがある.また,クオンティフェロン検査は結核で陽性となる.2.髄液検査:Vogt-小柳-原田病で単核球の増加がみられる3).悪性リンパ腫では髄液中に悪性腫瘍性細胞がII前部ぶどう膜炎の評価法前房炎症の程度はフレアと細胞数で表記する.炎症時には血液房水関門の破綻により前房水内蛋白濃度が上昇し,チンダル現象で前房内ではスリット光の照射経路が輝いて見える.これをフレアという.程度の低いほうから0,1+,2+,3+,4+と5段階評価する.また,前房内細胞は細隙灯顕微鏡で1mm×1mm大のスリット光で観察した視野内での細胞数により評価する.こちらは程度の低いほうから0,0.5+,1+,2+,3+,4+の6段階に分けられる(表4).診療録などへの記載は1+flare,1+cellsのようにする.III補助検査原因疾患を考えるために眼科以外の補助検査を行うと有用なことがある.1.血液検査:Behcet病では白血球数の上昇が,サルコイドーシスではアンギオテンシン変換酵素(ACE)やカルシウム,肺胞II型上皮細胞由来の糖蛋白KL-6や,肺サーファクタント濃度の上昇がみられることがある.表2罹患眼と前部ぶどう膜炎疾患両眼性Vogt-小柳-原田病・交感性眼炎若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎間質性腎炎ぶどう膜炎症候群おもに両眼性だがときに片眼性Behcet病サルコイドーシス糖尿病虹彩毛様体炎おもに片眼性だがときに両眼性ヘルペス性虹彩毛様体炎HLA-B27関連ぶどう膜炎Posner-Schlossman症候群急性網膜壊死片眼性Fuchs虹彩異色虹彩毛様体炎表4前房細胞数の評価グレード1mm×1mm視野内の細胞数01個未満0.5+1.51+6.152+16.253+26.504+51個以上表3眼外所見と代表的ぶどう膜炎疾患糖尿病糖尿病虹彩毛様体炎腎障害(小児)間質性腎炎ぶどう膜炎症候群炎症性腸疾患炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎脊椎炎HLA-B27関連ぶどう膜炎結節性紅斑Behcet病サルコイドーシス関節炎関節リウマチ関連ぶどう膜炎サルコイドーシス眼外傷後交感性眼炎外科手術後真菌性眼内炎悪性腫瘍悪性腫瘍眼内浸潤(仮面症候群)図1HLA.B27関連ぶどう膜炎患者にみられた強直性脊椎炎X線写真で竹節様脊椎(bamboospine)像がみられる.(19)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010591る5).前眼部炎症を主体とするものはVogt-小柳型,眼底後極部の所見を主体とするものは原田型とよばれることもある.前眼部には前房に炎症性細胞がみられ,虹彩に結節がみられることがある(図3)..Behcet病:Behcet病は日本を含むシルクロード地域に多発し,しばしば前房蓄膿を伴う激しい虹彩毛様体炎を発症する(図4).前房蓄膿はサラサラした性状である.口腔内アフタ性潰瘍,皮膚結節性紅斑,外陰部潰瘍を合わせて4主症状といい,問診・視診が重要である6).みられることがある.3.尿検査:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群でb2-ミクログロブリンが高値となる.サルコイドーシスではカルシウムが上昇することがある.4.X線写真,CT(コンピュータ断層撮影)検査:サルコイドーシスでは肺門リンパ節腫脹が,結核では陳旧性病変が検出されることがある.HLA(ヒト白血球抗原)-B27関連ぶどう膜炎では強直性脊椎炎を合併することがある(図1).5.皮内反応:Behcet病では針反応が亢進する.ツベルクリン反応はサルコイドーシスで陰転化し,結核では強陽性となる.IV鑑別疾患.サルコイドーシス:近年わが国のぶどう膜炎原因疾患で最多であり,肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する4).虹彩結節や隅角結節(図2),眼底では雪玉状硝子体混濁や網膜血管の白鞘化を伴い,慢性に炎症が持続することが多い.虹彩後癒着を起こしやすい.呼吸器科,皮膚科などとの連携が必要である..Vogt-小柳-原田病・交感性眼炎:日本人を含むモンゴロイドに多発する.眼症状がみられる前に,前駆症状として数日前から感冒様症状,頭痛,耳鳴,めまい,嘔気,頭髪の接触感覚異常,項部痛,眼窩深部痛などがある.前駆症状に続いて,両眼のぶどう膜炎が出現す図2サルコイドーシスでみられた隅角結節サルコイドーシスは肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する.特に隅角結節は本疾患に特徴的である.図4Behcet病による前部ぶどう膜炎しばしば激しい前部ぶどう膜炎を呈する.前房蓄膿はサラサラして体位により変動する.図3Vogt.小柳.原田病(VKH病)特に前眼部型(Vogt-小柳型)では肉芽腫性ぶどう膜炎を呈し虹彩結節などがみられることがある.592あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(20)人種では虹彩異色ははっきりしないことが多い..糖尿病虹彩毛様体炎:糖尿病のコントロールが不良な患者では強い前眼部炎症がみられることがある.線維素析出を伴うこともあるが,毛様充血は比較的軽度で前房蓄膿はまれである(図7).両眼性が多いが片眼のこともある.網膜症の有無,血糖値,Hb(ヘモグロビン)A1C値が診断の決め手となる10).血糖コントロールに伴い改善する..間質性腎炎ぶどう膜炎症候群:小児に多い.尿中b2-特に口腔内アフタ性潰瘍(口内炎ではない)はほぼ100%にみられる重要な所見である.眼炎症は急性,再発性で両眼性にみられるが,一度の眼発作は片眼であることが多い..HLA-B27関連ぶどう膜炎・急性前部ぶどう膜炎:多くは片眼性,再発性である.強い毛様充血,前房蓄膿,線維素析出,角膜後面沈着物がみられ,虹彩後癒着の頻度は高い.前房蓄膿は粘稠で中央部が隆起して見える(図5).眼痛など自覚症状が強い.日本人にはまれな遺伝子であるが,北欧を中心とした欧米人,中国や韓国人には多くみられる7)..ヘルペス性虹彩毛様体炎:豚脂様角膜後沈着物がみられ,眼圧上昇を伴うことが多い8).部分的な虹彩萎縮を伴うと水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)であることが確実である(図6)が,初期にははっきりしないことが多い.PCR(polymerasechainreaction)法による前房水からのウイルスDNAの検出が診断に有効である..急性網膜壊死:眼底周辺部から始まる網膜壊死が急速に広がり,網膜.離へと移行する予後の悪い疾患である.前眼部に強い炎症がみられることも特徴の一つであり,網膜周辺部に特徴的な黄白色病変がみられる9)..Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎:慢性で軽度の前部ぶどう膜炎がみられる.虹彩後癒着はなく,一般にステロイド薬治療も不要である.日本人など虹彩色素の多い図6ヘルペス性虹彩毛様体炎ヘルペス性虹彩毛様体炎,特に水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)では分節状の部分虹彩萎縮がみられる.図7糖尿病虹彩毛様体炎糖尿病虹彩毛様体炎では線維素析出を伴うこともある.毛様充血は比較的軽度で前房蓄膿はまれである.図5HLA.B27関連ぶどう膜炎HLA-B27関連ぶどう膜炎は急激で激しい前部ぶどう膜炎を生じる.しばしば粘稠な前房蓄膿がみられる.(21)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010593あるので,長期間効果が持続する硫酸アトロピンの点眼は原則として用いない.つまり「散瞳」よりむしろ「動瞳」を心がける.すでに部分的に虹彩後癒着がある場合には数日間硫酸アトロピン眼軟膏(リュウアトR眼軟膏)を夜間1回点入して虹彩後癒着を解除するとよい.2.点眼薬による消炎:ステロイド点眼薬を用いる.前房への移行性から0.1%リン酸ベタメタゾン(リンデロンR液など)を用い,炎症が強い場合は1日6回あるいは4回程度点眼する.ステロイドレスポンダー患者では眼圧が上昇するため眼圧を頻繁に測定する.長期間の使用では緑内障や白内障が生じることがある.炎症の軽減とともに減量する.3.結膜下注射による消炎:前眼部炎症が非常に強い場合,ステロイド薬の結膜下注射を行う.急性の前部ぶどう膜炎ではリン酸デキサメタゾン(デカドロンRなど)を用いることが多い14).特に炎症が強い場合は注射時に疼痛を感じ,また血管も拡張しているため結膜下出血も起こしやすい.加えて眼への注射に恐怖感をおぼえる患者もおり,意義や必要性,合併症などをよく説明してから行う必要がある.点眼薬と同様眼圧上昇に注意が必要である.ただし,炎症が強く,疼痛も強い場合には短期間ステロイド薬を全身投与することがある.内服は体重当たりミクログロブリンが上昇し,小児科・泌尿器科・腎臓内科などと連携が必要である11)..若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎:小児期にみられるが自覚症状に乏しく慢性再発性前部ぶどう膜炎を呈する12).視力予後は一般に不良である.膝など少関節型リウマチに多い(図8)..炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎:Crohn病,潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患で急性前部ぶどう膜炎をきたすことがある.注腸バリウム検査,内視鏡検査などで診断する(図9)..Posner-Schlossman症候群:片眼性,再発性虹彩毛様体炎を伴う急激な眼圧上昇が特徴である13).白人より日本人に多くみられる.V治療ぶどう膜炎はしばしば再発性,遷延性で全身疾患の合併も多く,視力予後不良者も多いことから,なるべく専門外来・専門施設で治療することが望ましい.専門外来へコンサルトするまでにまず行う治療は,以下の3点である.1.散瞳:前部ぶどう膜炎ではしばしば虹彩後癒着を形成する.虹彩後癒着は眼底の観察を困難にするばかりではなく,急性緑内障発作のリスクを高めるため大きな問題である.まず散瞳薬(ミドリンPRなど)を頻回に点眼させる.炎症が強い場合は散瞳位で癒着することも図8若年性関節リウマチぶどう膜炎を合併するのはおもに少関節型であり,特に膝関節が多い.図9Crohn病Crohn病では注腸バリウム検査で敷石像(cobblestoneappearance)がみられる.594あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(22)文献1)北市伸義,大野重昭:ぶどう膜炎の分類と頻度.すぐに役立つ眼科診療の知識基礎からわかるぶどう膜炎.p3-7,金原出版,20062)KitameiH,KitaichiN,NambaKetal:ClinicalfeaturesofintraocularinflammationinHokkaido,Japan.ActaOphthalmol87:424-428,20093)北市伸義,新野正明,大野重昭:ぶどう膜炎検査の正しい使い方髄液検査.あたらしい眼科25:1497-1500,20084)北市伸義,合田千穂,宮崎晶子ほか:サルコイドーシス.臨眼62:444-449,20085)北市伸義,三浦淑恵,大野重昭:Vogt-小柳-原田病.臨眼62:1852-1859,20086)北市伸義,大野重昭:Behcet病.日本臨牀63〔臨床免疫学(下)〕:376-380,20057)南場研一,北市伸義,三浦淑恵ほか:HLA-B27関連ぶどう膜炎.臨眼62:1950-1954,20088)北市伸義,三浦淑恵,大野重昭:ヘルペス虹彩毛様体炎.臨眼62:1430-1435,20089)吉沢史子,北市伸義,大野重昭:急性網膜壊死.臨眼64:276-279,201010)北市伸義,大野重昭:虹彩炎.眼科プラクティス7,糖尿病眼合併症の治療指針.p162-164,文光堂,200611)合田千穂,北市伸義,大野重昭:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群.臨眼61:1598-1601,200712)北市伸義,大野重昭:若年性関節リウマチにともなう前部内眼炎.臨眼61:488-492,200713)宮崎晶子,北市伸義,大野重昭:Posner-Schlossman症候群.臨眼61:2000-2003,200714)北市伸義:ぶどう膜炎に対するステロイド治療.ステロイドの使い方コツと落とし穴.p52-53,中山書店,200615)北市伸義:Vogt-小柳-原田病・交感性眼炎.眼科プラクティス23.眼科薬物治療AtoZ.p136-138,文光堂,200816)北市伸義,大野重昭:眼科用薬.治療薬ハンドブック2009.p161-194,じほう,2009プレドニゾロンで0.5.1.0mg/kg/日で投与を始める.静脈投与では200mgから開始する大量療法やコハク酸メチルプレドニゾロン(ソルメドロールRなど)1g/日から開始するパルス療法があり,投与量や減量のプロトコールはおおよそ決まっている15).Behcet病などでは免疫抑制薬シクロスポリンの内服や抗TNF(腫瘍壊死因子)-a抗体(レミケードR)の点滴静脈注射が用いられることがある.特にレミケードRは現在厚生労働省指示による市販後全例調査中であり,登録された施設でのみ行われる16).VI眩しさへの対策前房内の炎症細胞や蛋白質などが眩しさの主因であるから前房炎症の改善を図ることが基本である.また,散瞳位での虹彩後癒着による羞明に対してはサングラスなどで対処する.白内障手術などの際に外科的に虹彩後癒着を解除することも有効である.おわりに前部ぶどう膜炎を呈する全身疾患は多く,初診時すぐに原因疾患を特定するには至らない場合も多い.しかし虹彩後癒着や緑内障などの合併症を回避するためには,原因疾患もさることながら適切な初期治療が非常に大切である.眩しさを訴えて受診してくる場合に本稿が少しでもお役に立てば幸いである.

眼の表面:ドライアイ,結膜炎,角膜炎

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY2.角膜上皮障害が原因となる場合光に対する感受性は正常であるが,角膜上皮障害による角膜表面の小さな凹凸が光の散乱を生じ,過度な光刺激が眼内に及んで羞明を生じる場合がある.この原因として,点状表層角膜症や角膜びらんの原因疾患をあげることができる.たとえば,春季カタルやアトピー性角結膜炎などの重症のアレルギー性結膜疾患において,増悪期に落屑様の角膜上皮障害やシールド潰瘍を伴うと眩しさが出現しうる.特に,これらの疾患を生じうる若年層では,角膜知覚が鋭敏であるため,小さな傷でも痛みや異物感を生じ,それによる反射性の流涙も上乗せされて,光の散乱が増強して,羞明を生じやすいと考えられる.また,再発性角膜びらんでは,上皮の接着不良を伴うため,角膜表層の三叉神経第一枝が強く刺激されて,強い痛みに加えて,強い羞明を伴いうる.3.角膜混濁が原因となる場合角膜の混濁には,角膜の変性やジストロフィにみられるような何らかの物質の沈着,炎症性の細胞浸潤,角膜の浮腫などが関係し,結果として,光の散乱を生じて羞明がひき起こされることがある.特に,膠様滴状角膜ジストロフィでは,特徴的な強い羞明を訴える.4.角膜炎が原因となる場合感染性,あるいは,非感染性の角膜炎において,強い羞明を訴えることがある.これには,体のなかで最も密はじめに「眼の羞明」は日常診療における患者の訴えのなかで頻度の高い症状の一つである.眼の羞明を訴える場合,眼の障害部位は,眼瞼・角結膜といった外眼部から水晶体・硝子体・網脈絡膜さらに視神経経路と幅広く,加えて眼球以外の異常が原因になることもありうる.また,原因となる疾患により,眩しさが主訴になる場合と随伴症状の一つになる場合があり,さらには原因により羞明の程度もさまざまである.本稿では,羞明の原因となりうる眼疾患のうち,代表的な眼表面疾患をとりあげて解説する.I眼表面疾患における羞明の発症機序羞明を生じる疾患の診断を進めるには,原因が多岐にわたるがゆえに発症機序を考えて検査を行う必要がある.以下に,眼表面疾患で生じうる羞明の発症機序について考えてみる.1.涙液の異常が原因となる場合近年,眼球の高次収差が波面センサーによって解析できるようになり,角膜前に形成される涙液層の破綻や,瞬目時の涙液の厚みの変化によって視機能に影響が及ぶことがわかってきた1,2).このような涙液の異常に伴う視機能異常の一つとして,羞明を生じることがあり,原因として,ドライアイや流涙症,結膜弛緩症などがあげられる.(9)581*HisayoHigashibara&NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕東原尚代:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):581.587,2010眼の表面:ドライアイ,結膜炎,角膜炎OcularSurface:DryEye,Conjunctivitis,Keratitis東原尚代*横井則彦*582あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(10)もあるため,外出時などで光をいやがっていないかどうかなど家族から情報を聴取することも大切である.さらに,眼疾患の手術既往歴,薬物治療,精神神経学疾患などの既往症の有無を確認する.III基本的眼科検査と鑑別診断に必要な補助検査眩しさを訴える患者の診断に至るまでの検査の流れを図1に示す.まず,眼瞼や睫毛の異常,結膜充血の有無,顔面皮膚の状態を視診する.診察室の照明やペンライトの光に対する患者の反応を観察し,参考にする.その際,swingingflashlighttestを行い,視神経疾患の鑑別診断に必要な相対的入力瞳孔反応異常(relativeafferentpapillarydefect:RAPD)や瞳孔不同の有無を調べる.つぎに,眼科検査の基本として,視力・屈折検査を行う.眼表面疾患が羞明の原因となる場合,問診である程度の病態を見きわめ,細隙灯顕微鏡検査を行って確定診断を進める.細隙灯顕微鏡検査では,まず,眼瞼内反や睫毛乱生で睫毛が角膜に接していないか,眼瞼外反や兎眼で眼表面の露出がないか弱い白色光で観察する.角膜混濁の有無やその混濁の原因の鑑別,結膜充血や強膜の充血を観察する.順を追って,前房深度や炎症性細胞の有無,虹彩・瞳孔の不整の有無,白内障の有無,眼内レンズ挿入眼では偏位についても観察する.つぎにフルオレセイン染色を用いて涙液メニスカスの高さ,涙液層破綻時間(breakuptime:BUT)の計測,角膜上皮障害の位置・範囲・程度を観察する.このとき,フルオレセインの量に過不足があると涙液の正確な性状を確認できないため,フルオレセインの染色の仕方に注意する.筆者らは,フルオレセイン試験紙に水分を2滴たらした後,よく振って余分な液をとり,下方の涙液メニスカスに過度に色素を流し込むようなイメージで,下眼瞼縁を刺激しないよう優しく接触させて染色している.また,過剰な光や眼瞼への強い刺激は反射性涙液分泌を促すため,光量についても過剰にならないよう調整する.眼瞼の反転やSchirmer試験などの刺激を伴う検査は最後に行う.その他,補助検査として,緑内障や網膜疾患の鑑別のために,眼圧検査,眼底検査を行う.さらに,色覚検査度が高い角膜の知覚神経に対して,炎症性に刺激が加わるだけでなく,炎症細胞による角膜混濁も上乗せされることが,その理由になっていると考えられる.特に,病変が表層性で,かつ広範に及ぶときに,その影響が大きいと考えられる.ヘルペス性角膜炎やアカントアメーバ角膜炎が代表的である.また,コンタクトレンズ装用による酸素欠乏においても,同様に強い角膜の炎症や細胞浸潤が生じて,強い痛みとともに開瞼不能となる.一般に,「眼の羞明」に関係する眼表面疾患は,1..4.の病態を合併してもつことも多く,目をあけていられない理由が,眩しさによるものか痛みによるものかを明確に区別できないこともありうる.したがって,涙液から角膜まで,病態にかかわる異常所見を的確に診断して,病態を整理し,鑑別診断を行うことが重要である.以下には鑑別診断に必要な診断ステップを述べる.II問診羞明は日常生活において,たとえ健常眼であっても,天候,目をとりまく環境からの光量や,日中,夜間といった時刻による違いなどの影響を受けながら,出現しうる.一方,病的な羞明は,健常者には苦痛を感じない程度の日常の光で誘発されるため,まず問診で患者の訴えが病的か否かを判断することが大切である.特に,眼表面疾患で生じる羞明の場合,眼痛,流涙,充血,眼乾燥感,視力低下など他の症状に随伴して,羞明が生じる場合も多い.発症の様式が急性か,亜急性か,慢性かといった点も鑑別診断のポイントになる.急性の羞明の原因としては,角膜異物や外傷による角膜上皮障害,感染性,あるいは非感染性の角膜炎,急性緑内障発作などによる角膜上皮浮腫などがある.一方,慢性の羞明には,ドライアイや結膜弛緩症,角膜ジストロフィによる角膜混濁などが関係しうる.両眼性か片眼性か,年齢や性別も参考になる.眼表面疾患としては,小児では眼瞼内反による角膜上皮障害や春季カタル,中高年ではドライアイや結膜弛緩症などが羞明の原因になりやすい.特に小児では症状を上手く訴えることができず,目が閉じ気味にしているだけの場合(11)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010583………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………….LASIK…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………….CT..MRI……………………………………………………BUT……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………図1診断に至る検査の流れ584あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(12)10回/日点眼を行い,自覚症状の改善がない場合はヒアルロン酸点眼薬6回/日を追加する.眼精疲労の症状が強い症例では自家調整希釈サイプレジン点眼液(0.025%)を眠前1回併用する.以上で改善がなければ上下涙点プラグ挿入を考慮する.涙点プラグ挿入により,流涙症状を認めることもあるが,角膜上の涙液層が安定すれば他の愁訴とともに,羞明は軽減もしくは消失する.b.結膜弛緩症結膜弛緩症とは,加齢に関連した結膜の皺襞状の構造変化であり,ドライアイや流涙症のリスクファクターとなるため,いずれによっても羞明に関係する3).しかし,強い結膜弛緩は,下方の涙液メニスカスを占拠する形でや網膜電位図,視野検査を必要に応じて行う.以上の検査で眼球に異常が認められない場合は,頭蓋内病変や副鼻腔病変の検索のためX線撮影,CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像法)を施行する.もしも,視器に何らかの異常が認められない場合は,改めて,生活環境,患者の疲労の有無などを含め,精神神経疾患の関与についても考えてみる必要がある.IV羞明を生じる代表的な眼表面疾患とその治療つぎに,羞明をきたす代表的な眼表面疾患を示しながら,その治療のポイントを解説する.1.涙液異常で生じる場合a.ドライアイドライアイは,涙液減少型と蒸発亢進型の2つに大別され,いずれのタイプも上皮障害を伴うと,羞明を訴えることがあり,涙液減少型ドライアイの重症例では,涙液破綻が早く,上皮障害も強いために,羞明を生じやすい.現在,一般にドライアイの診断基準を満たすわけではないが,涙液破綻が非常に顕著で,強い症状を訴えるBUT短縮型ドライアイ(図2)とよばれる病型がある.本疾患は,まだ,世界的に認識されているわけではないものの,涙液の破綻をドライアイの中心メカニズムに置くわが国においては,難治性のドライアイの一型として知られている.本疾患は,一般に反射性涙液分泌やメニスカスの涙液量は正常であるが,BUTの著明な短縮を特徴とし,それに基づくと考えられる多彩な不定愁訴を生じ,乾燥感だけでなく,眼精疲労などの視機能に関係する視覚に症状を強く訴えることも多い.角膜上皮障害を伴いにくいにもかかわらず,羞明が生じる理由として,本疾患では,reflexloopが保たれているため,涙液の破綻とそれに伴う眼表面の刺激で反射性涙液分泌が生じ,涙液層に動揺が生じることや,涙液の表面形状の変動を補正するための調節過多によって眼精疲労を伴いやすく,それにより眩しさを自覚する可能性があると考えられる.典型的には,開瞼直後から,円形の涙液破綻がみられる.比較的若い年代の男性や,中高年女性にみられる場合がある.治療は,防腐剤フリーの人工涙液の図2BUT短縮型ドライアイ開瞼直後から円形の涙液破綻を認める.図3結膜弛緩症弛緩した結膜と少し離れた角膜面に点状表層角膜症を認める.(13)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010585る.顔面神経麻痺で兎眼を生じている場合は,まず点眼,眼軟膏などで保存的に管理し,必要に応じて眼瞼の手術を行う.急性や亜急性に発症する羞明で,角膜に機械的な擦過傷がある場合は,まず,角結膜異物を疑うが,美容外科のプチ整形に関連した二重瞼後の糸の刺激による可能性もあるため,注意が必要である.b.角膜びらん角膜びらん,あるいは,再発角膜びらんでは,強い眼痛,流涙とともに羞明を訴えうる.遷延性角膜上皮欠損では,刺激症状を伴わず,羞明だけが生じることもありうる.特に,瞳孔領に角膜びらんが及んでいると眩しさ出現し,その表面で光の散乱を生むため,強い光の状況下で,羞明を生じやすい.フルオレセイン染色では,弛緩した結膜が下方涙液メニスカスを占拠する形で存在する様子が観察され,瞬目により増強する.しばしば合併するドライアイや弛緩した結膜と角膜表面との摩擦により点状表層角膜症を伴う(図3).本症は中高年以上でみられるため,初期の老視や白内障,ドライアイなど他の眼疾患が羞明を修飾している場合もある.したがって,基本となる眼科検査を進めながら,症状の主たる原因が何であるかを見きわめる必要がある.一般に,本症では羞明よりも異物感や間欠性流涙が主症状となっていることも多いが,いわゆる眼不定愁訴の原因疾患の代表疾患ともいえるものであるため,その主症状を見きわめ,必要に応じて手術を考慮する必要がある4).2.角膜上皮障害で生じる場合a.点状表層角膜症点状表層角膜症(superficialpunctuatekeratopathy:SPK)を伴う代表的疾患がドライアイである.なかでも涙液減少型ドライアイは,慢性のSPKを伴いやすく,自己抗体が陽性でドライマウスを伴うSjogren症候群とSjogren症候群以外に分けられる.軽症.中等症では,SPKは角膜下方に集積するため羞明を生じることは比較的少ないが,重症になると瞳孔領を含む角膜全体にSPKが及んだり(図4),mucusplaqueを伴うと光の散乱が生じやすくなり,異物感・乾燥感とともに羞明を訴えることがある.治療は,軽症.中等症では,塩化ベンザルコニウムフリーの人工涙液点眼を7.10回/日に,症状改善に応じて,低濃度ステロイド点眼を2回/日程度併用する.さらなる改善をめざして,ヒアルロン酸点眼6回/日の併用を行うこともある.重症例では,上下の涙点プラグ挿入を行う.SPKが消失,もしくは角膜下方へシフトして軽症化すると他の症状とともに羞明は軽減する.その他,睫毛乱生や内反症・兎眼などの眼瞼異常や,角結膜異物でもSPKを生じる.小児で羞明を主訴に受診した症例のなかに内反症を認めることがあり,外科手術で内反症を治癒せしめると,目の開瞼状態がよくなることで術前の羞明の強さがわかり,驚かされることもあ図4涙液減少型ドライアイ重症例では瞳孔領に及ぶ点状表層角膜症を生じる.図5再発性角膜びらんフルオレセイン染色で染色性の異なる少し盛り上がった領域を認める.586あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(14)斑状角膜ジストロフィ,格子状角膜ジストロフィ,顆粒状角膜ジストロフィでも角膜混濁のために視力低下と眩しさを訴える.特に,格子状角膜ジストロフィでは再発角膜びらんを生じやすく,羞明のほかに眼痛,充血を訴えやすい.4.結膜炎で生じる場合アレルギー性結膜疾患のうち,アトピー性角結膜炎や春季カタルは急性増悪期に強い角膜上皮障害を伴い,羞明を生じることがある.a.春季カタル春季カタルは学童期の男児に好発し,眼瞼結膜に増殖性変化を伴うアレルギー性結膜疾患である.慢性期の症状は,眼脂,掻痒感,結膜充血を主体とするものであるが,急性増悪時には,本疾患に特徴的な落屑様のSPK,シールド潰瘍,角膜プラークを生じて,開瞼が困難になるほどの強い羞明を訴えることがある.上眼瞼結膜を翻転し巨大乳頭の有無とフルオレセイン染色にて角膜上皮障害の有無を観察する(図7).治療は,慢性期には,抗アレルギー点眼薬を主体とする治療を行うが,急性増悪時には,ステロイドの内服を必要とする場合もある.しかし,最近では,急性増悪期をステロイドの局所あるいは内服投与(たとえば,ベタメタゾン1.2mgを4日間程度)で乗り切りながら,免疫抑制薬点眼を併用することで,急性増悪を予防することができるようになり,かなり,治療しやすくなってきた.学を伴いやすい(図5).外傷による急性の角膜びらんは,抗菌点眼液や抗菌眼軟膏を点入しながら,必要に応じてアイパッチを併用し,保存的に安静を保つ.再発角膜びらんは,爪や紙などの鋭利なものによる外傷の既往があり,受傷後数カ月から数年して起床時の眼痛で発症するのが特徴的である.これは外傷により,基底膜に対する上皮基底細胞の接着障害を生じることが原因とされる.細隙灯顕微鏡検査では,結膜充血とともに,角膜に上皮の接着不良を示唆するフルオレセインの上皮下への貯留や慢性期には,SPKとは異なる上皮のフルオレセイン染色像とともに同領域に微小.胞を認める.強い炎症を伴うため,低力価ステロイドと抗菌薬の点眼を数回/日程度併用しながら回復を待つ.角膜びらんが治癒すると強い刺激症状が消失するため,自己判断で治療が中断されることが多いが,上皮の接着が回復するまで少なくとも1カ月半程度は眠前の眼軟膏点入を継続することが再発予防に重要である.3.角膜混濁で生じる場合角膜ジストロフィ角膜ジストロフィでは,さまざまな外観の角膜混濁がみられるが,強い羞明と関係する疾患として,膠様滴状角膜症がある.幼少時からの両眼性の羞明と眼異物感,視力低下,流涙を訴え,ときに開瞼困難になるほどに症状は強い.本疾患の羞明には,角膜混濁に加えて角膜表面の凹凸に伴う散乱光の影響が考えられる.初期には角膜上皮下に乳白色のびまん性混濁を認め,進行すると黄色みを帯びた膠様隆起物が出現する(図6).フルオレセイン染色では上皮の異常な透過性亢進がみられるのが特徴である.本症では,角膜上皮の透過性が著しく亢進しているために,角膜上皮,実質にアミロイドの沈着をきたすことが病因と考えられている.治療は,抗菌薬と低濃度ステロイド点眼を行いながら,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の連続装用を行う.進行例では角膜表面の不整のためにSCLの装用が困難となるため,可能であれば,エキシマレーザーによる治療的角膜切除術を考慮する.角膜表面が滑らかになるとSCL装用が容易になり,羞明が軽減して,視力改善にもつながる.その他,図6膠様滴状角膜変性角膜に乳白色の粒状隆起物を認める.あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010587童期の児童が治療対象になることもあるため,ステロイドの局所投与による眼圧上昇には特に注意する必要がある.上眼瞼結膜の乳頭切除は角膜上皮病変に対して即効性があるが,術後の管理を免疫抑制薬点眼を用いてうまく行わないと,再発を招きうる.b.アトピー性角結膜炎アトピー性角結膜炎はアトピー性皮膚炎に合併して生じるアレルギー性結膜疾患である.特に,顔面に皮疹が及ぶと,重症になりやすい.重症の眼表面疾患としての性格も併せ持ち,角膜への血管侵入や,角膜混濁,表面の不整をきたして視機能の低下につながることもある.それらの眼表面の異常に関連して羞明を訴える.さらに,本疾患そのものの合併症として,あるいは,全身あるいは眼局所のステロイド治療により白内障を合併することもあり,これが羞明の原因になっていることもある.治療は,抗アレルギー薬とステロイド点眼を中心に行い,急性増悪期の治療は,春季カタルに準ずる.いずれにしても,皮膚科医と連携が重要である.5.角膜炎で生じる場合アカントアメーバ角膜炎近年,増加しているコンタクトレンズ装用者にみられる角膜感染症で,強い眼痛と視力低下,羞明,流涙を症状とする.強い羞明は,開瞼を不能にするほどであり,角膜の炎症性混濁と三叉神経刺激によるものと考えられる.病型により多彩な所見を呈し,初期では多発性の角膜上皮下の細胞浸潤,偽樹枝状病変,放射状角膜神経炎を認める.移行期には実質浮腫,細胞浸潤が角膜中央部に生じ実質型ヘルペスに類似した所見を呈する.さらに進行すると,輪状の角膜浸潤を認める.治療は診断を兼ねて病巣部の広い掻爬を行い,抗菌点眼薬(4回/日)とともに,抗真菌治療に準じてフルコナゾール原液もしくは10倍希釈のミコナゾール点眼を6回/日点眼,ピマリシン眼軟膏6回/日,イトラコナゾール内服(150.200mg[3.4錠]を1日1回朝食後30分)あるいは,フルコナゾール(1回200.400mgを1日1回)かミコナゾール点滴(1回200.400mgを1日2.3回)の全身投与を行う.可能であれば,自家調整の0.02%polyhexamethylenebiganaid(PHMB)の1時間毎点眼やグルコン酸クロルヘキシジン(0.02%,6回/日)の点眼を行う.早期診断・早期治療で角膜は透明性を回復できるが,角膜瘢痕が残れば視力不良とともに羞明が残るため,角膜移植を必要とすることもある.V眩しさへの対策眼表面疾患が原因で羞明を生じる場合,眼痛,流涙,視力低下などの他の症状が主体で,羞明はむしろ随伴症状としてみられることが多い.しかし,羞明を訴える疾患のなかに重篤な視機能障害に至る可能性のあるものも含まれるため,系統だてて検査を行い,原因を特定し,その原因となる眼疾患に対する治療を行うことが重要である.羞明の原因となりうる眼疾患が特定され,それに対して適切な治療を行えば症状は軽減もしくは消失する.完全に羞明が消失しない例には,対症療法として羞明を軽減させるべく短波長成分を選択的に遮断するサングラスの装用などを併用すると良い.文献1)島.潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)高静花:涙液と高次収差.あたらしい眼科24:181-184,20073)横井則彦:眼の不定愁訴と結膜弛緩症.臨眼61:1985-1992,20074)YokoiN,InatomiT,KinoshitaS:Surgeryoftheconjunctiva.DevOphthalmol41:138-158,2008(15)図7春季カタルによる角膜病変落屑様の点状表層角膜症(角膜最上方)とその下方にシールド潰瘍を認める.

原因究明のコツ

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY度)によっても異なり,視角が小さいほどグレア光源の影響は大きい.たとえば,日常生活で眩しさを感じるような状態について考えてみると,夜間に自動車の運転中に対向車のヘッドライトが視界に入るような場合には,自分の進行方向の近くにある光源からの強い光が眼に入ることで眩しさを感じ,見たい対象物(この場合,自分の進行方向)が見えづらくなる.この場合には,昼間であればあまり気にならないような対向車のヘッドライトが夜間で周囲が暗いために強い光に感じられ,さらに視標とグレア光源が狭い視角の中に入ってくるためにグレアを強く生じやすい状況にある.また,映画館から外に出た直後のように暗いところから明るいところへ出た場合には,それまで暗順応状態にあって光感受性が高まっており,かつ瞳孔も散大している状態で相対的に強い光を受け取ることになるため,眩しさを感じる.これは光環境の変化と眼の明順応のタイムラグによるものといえる.一方,十分に明順応していても,屋外の直射日光の下で本を読もうとするような場合には,周囲が明るい状況で,さらに強い太陽光線が紙の表面で反射して適切な明るさ以上の光が眼に入るために眩しさを感じる.この場合は,瞳孔反応の限界と網膜の明順応の限界を超えた光が入るために,眼が感覚器として飽和状態となり,文字と周囲のコントラストが減退している状況にある.上記のような事例は健常者でも認められる生理的な不能グレアともいえるものであるが,光を受け取る眼の病I「眩しさ」とは「眼が眩しい」という症状は過剰な光によって物の見えづらさや,不快感が生じている状態である.医学的にはグレア(glare)あるいは羞明(photophobia)という用語が使われるが,いずれも症状としては「眩しさ」として訴えられる.不適切な光によって物の見えづらさが生じ視機能の低下をきたしている状態を不能(あるいは減能)グレア(disabilityglare)とよび,視機能の低下はなくとも光によって不快感を生じている状態を不快グレア(discomfortglare)とよぶ1).さらに,光への感受性が異常に高い状態をdazzlingglareと区別してよぶ場合もあり,これは狭義の羞明にあたる2).ただし,これらの分類は明確に区分することはできず,互いに重なり合い,影響し合っている.たとえば,不能グレアは不快グレアにもつながり,不快グレアや羞明があれば眼を閉じたり視線をそらせたりする回避的行動をひき起こし,結果的に不能グレアを生ずる.グレアは健常者でも普通に起こる現象であり,ヒトの眼が光学器として不完全であることに由来する.実際に眩しさを感じるかどうかには,さまざまな条件が関係している.見ようとする対象(視標)の明るさに比べて強い光(グレア光源)が視界に入ってくるときに眩しさが生じるが,その際の光の主観的な強さは周囲の明るさとの対比(コントラスト)に左右され,また,グレア光源と視標とがなす視角(2つの視標に対する視線がなす角(3)575*YasuhikoHirami&YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科,先端医療センター病院眼科〔別刷請求先〕平見恭彦:〒650-0046神戸市中央区港島中町4-6神戸市立医療センター中央市民病院眼科特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):575.580,2010原因究明のコツTipsonFindingtheCauseoftheGlare平見恭彦*栗本康夫*576あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(4)ざるえない場合もある.通常,グレアはいくつかの原因が絡み合って発生するものである.眩しさを訴える患者の診察においては,先にあげたような複数の要素が関与していることを念頭において,眩しさの原因を慎重に吟味していかなければならない.II眼の疾患と「眩しさ」の原因眩しさの原因と疾患の存在する部位は,ある程度関連づけて考えることができる.①眼内での光の散乱が原因となっている場合は,前眼部および中間透光体における混濁,あるいは表面の不整な凹凸により生じている状態であり,すなわち角膜の疾患による,涙液層や角膜上皮の障害,角膜実質の混濁や,白内障による水晶体の混濁,ぶどう膜炎などによる硝子体混濁によってひき起こされたものと考えられる.また,②瞳孔の異常が原因となっている場合は,薬剤性,あるいは中枢性その他の原因で散瞳をひき起こす病態や,虹彩の先天性疾患によるものである.そして③網膜の問題による場合は,網膜疾患による錐体の減少が考えられる.また,羞明は,髄膜炎など眼より後方の疾患による場合もある.表1にあげたように,角膜,前房,水晶体,網膜など眼球全体から中枢性まで幅広い疾患が眩しさの原因となりうる3).「眩しい」という患者の訴えはいろいろな症状を含んでおり,その症状もいろいろな原因で起こっている.患者に,どういう状況で眩しさを感じるのか,たとえば,明るいところでは眼を開けていられない,暗いところにいるほうが楽であるとか,あるいは,見えないことはないが,白くかすんだような,膜がはったような見え方であるといった,眩しさの性質についてよく聞いてみると原因を診断するうえで参考になる.先に述べたように,的な状態によって眩しさ程度は変化する.眼に入ってくる光は,角膜,前房,水晶体,硝子体を通過して網膜に到達する.また,瞳孔運動によりその光の量は調節されているが,こうした光の通路あるいは調節のしくみに異常がある場合に,眩しさの症状は生理的には問題とならないような状況でも強く出現してくる.眼の病的状態によって眩しさを感じる場合,多くは視機能の低下を伴い,不能グレアを生じる.その原因として,①眼表面および中間透光体の光路の問題のために眼に入ってくる光が強く散乱している場合,②瞳孔の問題により眼に入ってくる光量が適切に調節できない場合,③網膜の問題によりコントラスト感度が低下する場合,などが考えられる(図1).また,視機能の低下にまでは至らず,不快感のみを生じているような不快グレアとしては,明暗の落差の大きい環境で頻繁な光順応や瞳孔反応を強いられる場合や,高輝度のディスプレイを長時間見続けた場合に,眼精疲労を起こすような状態が考えられる.これらの不快グレアは健常者においても認められるが,不能グレアと同様に,瞳孔や網膜の問題により,健常者では問題とならないような条件下でも症状が出たり増強したりする.また,光の感受性が異常に亢進しているような場合には羞明ないしdazzlingglareを生じ,光を見ることをつらく感じたり,ときには痛みすら感じられ,患者は眩しさを訴える.羞明には,症状を説明できるような明らかな器質的障害が認められない場合も存在し,心因性と結論せ混濁表面の凹凸不整混濁加齢による変化散瞳・先天異常錐体の障害混濁眼内での光の散乱角膜水晶体硝子体虹彩眼内への過剰な入射光網膜光受容体の問題図1眼の部位と眩しさの原因表1部位別「眩しさ」を訴える原因となる疾患角膜,結膜,涙液:ドライアイ,結膜炎,角膜炎,角膜変性,角膜混濁前房,虹彩:瞳孔緊張症,外傷・薬剤などによる散瞳,無虹彩症,白子症,虹彩毛様体炎水晶体:白内障網膜:錐体ジストロフィ,網膜色素変性,杆体一色覚視神経,中枢性:視神経炎,片頭痛,髄膜炎,くも膜下出血(5)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010577の症例でみられる角膜上皮下の混濁(diffuselamellarkeratitis:DLK)では眼痛を伴うことは少ないが,同様に眼に入る光が散乱することで,眩しさの原因となることがある.白内障による水晶体の混濁は比較的初期から光の散乱を生じて眩しさの原因となることが多い.また,強い混濁を生じていなくても,加齢により水晶体の厚みは増加し,核は硬化が進む.こうした変化は加齢による眼球の高次収差の増加に関連して,散乱光の増加から眩しさを生じることもあると考えられる4).瞳孔異常(散瞳)をきたしている場合では,瞳孔緊張症(Adie症候群)のほか,外傷や急性閉塞隅角症による瞳孔括約筋の障害や,抗コリン作用をもつ薬剤の使用による影響,アトロピンやトロピカミドといった散瞳薬の点眼などが原因として考えられる.動眼神経麻痺と散瞳を伴っている場合には,脳動脈瘤が原因となっていることがあり,脳神経外科への紹介が必要となる.また,まれな疾患ではあるが,虹彩の先天性異常で,無虹彩症や白子症では,乳児の眩しがるようなしぐさがみられる.網膜に原因がある場合は,錐体ジストロフィや杆体一色覚のような錐体視細胞が障害される疾患によって眩しさが生じる.こうした場合には色覚の異常を伴うことが多い.網膜色素変性でも,進行すると錐体の障害が生じて,視力低下や色覚の異常とともに眩しさを生じることも多い.また,薬剤性の網膜障害をひき起こす原因としては,フェノチアジン系の抗精神病薬やクロロキン誘導体,塩酸キニーネ,タモキシフェンなどがあり,これらの薬剤では不可逆性の網膜変性に至ることがある.虹彩毛様体炎の場合も眼痛や充血を伴うことが多いが,毛様体筋,虹彩括約筋の攣縮による痛みを生じ,光を見ると痛みが増悪するといった特徴がみられる.また,片頭痛や髄膜炎,くも膜下出血などの頭蓋内疾患では,頭痛とともに眩しさを訴える場合があり,専門科への紹介が必要となる.III眼内レンズと眩しさ大気中や液体中での光の散乱の強さは,波長の4乗に反比例し,短波長の光ほど散乱しやすい.眼内での光の散乱もこれと同様であり,波長の短い青色光は散乱しや眼内での光の散乱や網膜における錐体の障害では,瞳孔での眼内への入射光量の調節が働いており,コントラストの低下により白くかすんだような見え方をしていると考えられる.一方で瞳孔運動の障害では,網膜全体に過剰な光が照射されるため,明るい場所では眼を開けていられないといった症状が強く出やすいと考えられる.診察にあたっては,患者は「眩しい」といってきているのであるから,いきなりスリットランプや倒像鏡の光を浴びせるよりも,丁寧に問診をとってみるのも良いだろう.患者の話に耳を傾けることで,その後の診察にも協力が得られやすくなると思われる.実際に原因疾患を鑑別していくときには,「眩しい」症状に伴ってどういった症状があるのか,また症状の誘因になったものがあるかどうかも参考になる(表2).ドライアイや結膜炎,角膜炎などの眼表面の疾患では,眼痛,異物感,乾燥感や充血を伴うことが多く,むしろそうした症状が主体であることも多い.ただし,患者の訴える眩しさその他の症状の程度と,角膜障害の程度は,比例するとは限らない.軽度の角膜上皮障害や涙液層破壊時間(BUT)の短縮程度の障害であっても症状が強いこともあり,実際に治療により症状の改善がみられることもある.角膜障害の誘因になるものはさまざまであるが,たとえば異物や薬品の飛入,外傷による場合やコンタクトレンズの不適切な使用によって生じる場合,あるいは雪山へ行ったり,長時間の溶接作業による紫外線への曝露といったことも原因としてあげられる.また,多種類の点眼を処方されている患者では点眼薬による角膜障害の可能性も考えられる.陳旧性の瘢痕による角膜混濁や,角膜ジストロフィ,あるいはエキシマレーザーによる屈折矯正手術後に一部表2問診のポイント主訴:いつごろから,どのくらいの期間続いているか,症状の強さ,どういう条件下でどんな症状があるのか随伴症状:眼痛,充血,霧視,異物感,乾燥感,かゆみ,頭痛,吐気コンタクトレンズ使用歴異物や薬品が入ったか外傷,手術の既往内服などの薬の服用眼科受診(散瞳検査)の有無578あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(6)る原因となる.IVコントラスト感度,グレアテスト眩しさによって見えづらいという状態は,通常の矯正視力検査では検出されにくい.矯正視力検査は,室内の一定の照度条件のもとで高コントラストの視標を用いて行われるので,日常のさまざまな見え方を必ずしも反映していない部分がある.グレア評価のゴールドスタンダードは確立されていないが,視力に現れない視機能の評価方法の一つとして,コントラスト感度測定があり,矯正視力が良好でも不能グレアなどの視機能障害が疑われる症例について有用な場合がある.コントラストとは,明暗の対比のことであり,白黒の縞模様を見たときに,どれくらいの細かさの縞模様について,どのくらいの明暗の差まで区別ができるか,という評価方法で検査する.このときの縞模様の細かさを空間周波数といい,cycles/degree(cpd)という単位で表される.また,明暗の差については,縞の明るいほうの輝度をLmax,縞の暗いほうの輝度をLminとした場合に,MichaelsonコントラストC=(Lmax.Lmin)/(Lmax+Lmin)として表され,見分けられる最小のコントラストの値がすく,眩しさの原因となりやすい.遮光眼鏡などで短波長光をカットすることはコントラスト感度の改善につながる.白内障手術後に眩しさを訴える例をしばしば経験する.これは,水晶体混濁の除去により眼内に入る光の総量が増えることもあるが,術前は水晶体の加齢変化により青緑系の短波長光の透過率が低くなっているのに対し,術後,眼内レンズ挿入により短波長光が眼内に入射するようになった結果,散乱光が術前よりも増加して眩しさの原因になっていることも考えられる.最近では短波長光をカットする着色眼内レンズが使用されることも多くなっており,高齢者にとって自然な見え方になり,眩しさを抑える効果も期待できる.眼球の高次収差もグレアの原因となることがある.眼球の高次収差のうち,球面収差とは,レンズの中心を通過する光と周辺を通過する光の結像する位置がずれることで生じるもので,特に瞳孔径が大きい場合に問題となる.角膜は正の球面収差を有しており,若年者では水晶体が負の球面収差を有することで眼球全体の球面収差をなくすように保たれている.しかし,加齢に伴い,水晶体の厚みが増して核硬化が進行すると,水晶体の球面収差も増加し,眼球全体の球面収差も増加する.また,球面眼内レンズも正の球面収差を有しており,術後も眼球の球面収差は減少しない.これに対して,眼内レンズに負の球面収差を付与して眼球全体の球面収差を減少させ,視機能を改善することを目的としているのが非球面眼内レンズである.最近,白内障手術後に眼鏡依存度を減らす目的で多焦点眼内レンズが使用される例も増加している.多焦点眼内レンズには遠方焦点部分と近方焦点部分を同心円状に配置した屈折型と,回折現象を応用することにより眼内への入射光を遠方と近方の2つの焦点に振り分ける回折型の2種類がおもに用いられている.しかし,どちらの方式の場合も単焦点眼内レンズに比べて散乱光が増加し,さらに,遠方と近方の2カ所の像が常に中心窩に焦点を結んでいることになり,これがグレアを生じる可能性がある.その他,病的な状態として,眼内レンズの偏心,傾斜,亜脱臼なども散乱光の増大をきたし,グレアが生じ図2コントラストグレアテスター(CSV-1000HGT,VectorVision社)4種類の空間周波数での視標についてそれぞれ8段階のコントラスト感度を測定し,コントラスト感度曲線が描ける.視標パネルの両側のハロゲンライトを点灯することにより,グレア負荷の状態を測定する.(7)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010579ヘッドライトのようなグレア負荷の状態でのコントラスト感度の測定が可能である.実際に測定した結果の一例をあげる.図3に示すのは,55歳の患者のCSV-1000HGTの測定結果で,左眼への回折型多焦点眼内レンズ挿入後である.右眼の眩しさを訴えるようになり,水晶体に軽度の前.下の混濁を認め,視力は右眼矯正0.9であった.グレア負荷あり,なしの両方の状態でそれぞれコントラスト感度を測定した結果,コントラスト感度の低下がみられたが,グレア負荷時にはさらに低下がみられた.このように,グレア負荷によるコントラスト感度測定は,視力測定に現れにくい,眩しさによる視機能の低下を他覚的および定量的に評価するのに有用である.コントラスト閾値,その逆数がコントラスト感度として用いられる.横軸に空間周波数,縦軸にコントラスト閾値またはコントラスト感度を対数表示することでコントラスト感度曲線が描かれる.こうしたコントラスト感度の測定装置に,グレアをひき起こすような光源を付加し,光源の点灯時と消灯時でコントラスト感度を測定することで,グレアによる影響を評価することができるようになっているものがある.VectorVision社のCSV-1000HGT(図2)は,3,6,12,18cpdの4種類の空間周波数の視標について,それぞれ8段階のコントラストで検査する.また,視標のパネルの両脇にハロゲンライトがついており,ライトを点灯した状態では夜間に前方から向かってくる自動車のab図3グレアの有無とコントラスト感度CSV-1000HGTを使用しての測定結果.a:左眼で回折型多焦点眼内レンズ挿入眼(矯正視力1.2),b:右眼で軽度の水晶体前.下混濁を認めた(矯正視力0.9).右眼では高周波数でのコントラスト感度低下を認め,グレア負荷でさらに低下していた.左眼はグレア負荷時でも低下は認められなかった.580あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(8)3)臼井正彦:症状からの診断羞明.眼科学(丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦ほか編),p824,文光堂,20024)FujikadoT,KurodaT,NinomiyaSetal:Age-relatedchangesinocularandcornealaberrations.AmJOphthalmol138:143-146,2004文献1)vandenBergTJ:Ontherelationbetweenglareandstraylight.DocOphthalmol78:177-181,19912)LudtR:Threetypesofglare:lowvisionO&Massessmentandremediation.Review29:101-113,1997

序説:眼が眩しい

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYく見えるせいで仕事に差しつかえたり,あるいは眩しく見えているために室内でも帽子を被ったりするように,見えてはいても,ビジョンのクオリティの低下をきたすことがある.このように,医師は「病気を治療している」のではなく,「患者を治療している」点を常に忘れてはいけない.本特集では,疾患よりも症状に焦点を合わせた.「眼が眩しい」という主訴において最もむずかしい考え方のプロセスを平見恭彦・栗本康夫両先生にお願いした.プロセスの確認に続き,各論として,原因のなかで多いものについてそれぞれ専門の先生に執筆していただいた.まずは,比較的よくある問題として,眼表面関係を東原尚代・横井則彦両先生,前部ぶどう膜炎を北市伸義先生,そして後.下白内障を中村邦彦先生に解説していただいた.さらにその後に,特殊な問題を取り上げた.乳幼児については平岡美依奈先生,網脈絡膜疾患は田中伸茂先生,中枢性の羞明は気賀沢一輝先生,薬剤性関連などは若倉雅登先生が,それぞれの原因を細かい鑑別診断,補助検査をもとに述べ,それらの疾患別治療および眩しさへの対策法に関して説明していただいた.今回の特集は,眼科にて頻繁に遭遇する主訴のひとつである「眼が眩しい」に注目する.日常診療では,このような訴えがあるとあまり深く考えずに自然に問題を鑑別しているのではないか.しかし,すべての可能性をきちんとリストアップするとなると,原因は眼科のあらゆる領域に立ち至る.筆者のように眼炎症を専門にしている者にとっては,前房や硝子体に炎症性細胞があれば,すぐに患者に説明できるので安心する.一方,明らかな炎症がない場合は,現病歴あるいは眼所見をもう一度確認する必要に迫られる.「何か見落としているのでは」,あるいは「ぶどう膜炎が原因と思い込んだが,実は他の問題かもしれない」などと心配する.後者は,特に専門家のアキレス腱といって良いであろう.やはり,どの眼科医でも,まずゼネラリストの姿勢をもって,問題を検討するのが重要であると思われる.また,「眼が眩しい」は,忙しいわれわれにとっては軽視しがちな事象である.それというのも,視力低下や視野欠損,眼の機能を障害する問題でないからである.しかし,患者にとっては,そうとばかりはいえない.生活上,眩しく見えることを負担に感じることは多い.たとえば,パソコン画面が眩し(1)573*AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室●序説あたらしい眼科27(5):573,2010眼が眩しいGlare岡田アナベルあやめ*

リネゾリドによる視神経症の1 例

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1564あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)564(148)0910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(4):564567,2010cはじめにリネゾリド(ザイボックスR)は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症やバンコマイシン耐性腸球菌に適応のある薬剤である.臨床の場では関節炎や骨髄炎,皮膚感染症,肺炎などに使われるが,副作用として骨髄抑制や視神経症などが知られている.特に長期投与で副作用が多く報告され,眼科領域では視神経症の報告がこれまでに散見される14).視神経障害の機序としてはニューロン内に豊富とされるミトコンドリアの障害が原因と推定されている1,5).今回筆者らはリネゾリドによる視神経症の1例を経験したので,これまでの報告例と比較検討して報告する.I症例患者:61歳,男性.初診日:平成19年4月11日.主訴:霧視.現病歴:平成16年より慢性関節リウマチにて治療中であった.平成17年6月,MRSAによる股関節炎・膝関節症・頸椎炎にて某大学整形外科でバンコマイシンによる治療を開始したが,直後より骨髄抑制による汎血球減少が生じたため中止して硫酸アルベカシン(ハベカシンR)とトシル酸スルタミシリン(ユナシンR)に変更した.洗浄や骨移植術などの治療も併用された.平成18年6月リハビリテーション目的にて当科関連病院の整形外科に転院となった.その後,関〔別刷請求先〕椎葉義人:〒343-8555越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:YoshitoShiiba,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minami-Koshigaya,Koshigaya-shi,Saitama343-8555,JAPANリネゾリドによる視神経症の1例椎葉義人門屋講司鈴木利根筑田眞獨協医科大学越谷病院眼科ACaseofLinezolid-inducedOpticNeuropathyYoshitoShiiba,KojiKadoya,ToneSuzukiandMakotoChikudaDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospitalリネゾリドの長期投与後に視神経症をきたした61歳,男性例を経験した.本患者はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による膝関節炎,股関節炎などにてバンコマイシンなどの薬剤投与を開始したが,副作用発現や効果不十分のため中止となり,平成18年12月にリネゾリドの投与を開始した.その後増減をくり返しながら持続投与となり,平成19年4月に霧視感を主訴に当科を紹介受診となったが,両眼視力は1.0であった.同年6月には右眼0.3,左眼0.03に低下した.当初は視力低下の原因が白内障進行によるものと診断したが,白内障手術後にも視力回復がみられず,さらに右眼0.1,左眼0.04となり,リネゾリドによる視神経症が疑われた.投与中止後9日目に視機能の改善がみられたが,股関節炎などは悪化した.1年後には両眼1.2に回復した.Weexperienceda61-year-oldmalewithlinezolid-inducedopticneuropathyafterprolongeduseoftheantibi-otic.Vancomycinandothermedicationshadbeeninitiatedforthetreatmentofmethecillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)infectionsofhiskneeandhipjoints,butwerenoteective.LinezolidtreatmentwasinitiatedinJuly2005.By23monthslater,visualacuityhaddecreasedto0.3ODand0.03OS,fromthe1.0OUnoted2monthsearlier.Routineocularexaminationrevealedonlycataracts;cataractsurgerywasperformedonbotheyes.However,visualacuitydidnotimprove(0.1OD,0.04OS),solinezolid-inducedopticneuropathywassuspected.Linezolidwasdiscontinuedandvisualacuityimproved9dayslater,whileinfectionofthejointsworsened.Visualacuityrecoveredfully(1.2OU)afteroneyearwithouttheantibiotic.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):564567,2010〕Keywords:リネゾリド,視神経症,副作用.linezolid,opticneuropathy,sideeect.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010565(149)節炎などが悪化したため平成18年12月9日よりリネゾリドの投与が開始され,平成19年8月18日まで継続された.投与量は1日600mgを標準とし,総量159g(600mg錠換算で265錠)であった.この間平成18年12月31日より平成19年1月26日まで一時休薬し,4月14日より5月13日まで3001,200mgの増減があった.この間の併用薬はプレドニゾロン(プレドニンR)1日5mg内服と糖尿病経口薬であった.平成19年4月に軽度の霧視感があったため,眼科的精査目的で当科を紹介された.既往歴:平成16年より糖尿病.初診時所見:視力は右眼0.15(1.0×2.5D(cyl0.75DAx95°),左眼0.08(1.0×3.0D(cyl1.0DAx65°),眼圧は右眼15mmHg,左眼17mmHgであった.前眼部および眼底に異常はないが,中間透光体は白内障を認め,Emery分類で核硬度度,後下に軽度の混濁を認めた.白内障および糖尿病のため定期的検査を続けることとした.経過:初診2カ月後の平成19年6月に視力低下を訴え,視力は右眼0.06(0.3),左眼0.02(0.03)と低下,グレアは測定不能であった.前眼部,眼底に異常を認めないものの,白内障が核度,後下の混濁が進行していた.これらより白内障進行による視力低下と判断し,白内障手術を施行した.術中・術後合併症は認めなかった.しかし,術後の視力改善はわずかで,2週間後の所見は,視力は右眼0.08(0.4),左眼0.07(n.c.)であった.眼底その他に異常はみられず視力不良の原因は不明であった.さらに,術後1カ月に視力低下の進行と視野狭窄を自覚した.このときの視力は右眼0.08(0.1),左眼0.04(n.c.),眼圧は右眼17mmHg,左眼15mmHgで,限界フリッカ値は両眼とも19Hzであった.前眼部,中間透光体は異常なかった.眼底は検眼鏡でも異常なくフラッシュERG(網膜電図)も正常で,蛍光眼底造影でも図1症例の蛍光眼底造影写真(左:右眼,右:左眼)両眼とも視神経乳頭に過蛍光などはみられなかった.図2症例のGoldmann視野検査(左:左眼,右:右眼)右眼の中心暗点と左眼のラケット状暗点を認めた.———————————————————————-Page3566あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(150)視神経に過蛍光などの異常を認めなかった(図1).Gold-mann視野検査では右眼は中心暗点,左眼はラケット状暗点を認めた(図2).これらより,視神経症と診断し,リネゾリドの長期投与との関連が疑われた.そのため,整形外科主治医および患者,家族と相談のうえ,リネゾリド投与を中止することとなった.投与中止9日後には,視力は右眼0.1(0.6),左眼0.04(0.05)と改善したが,限界フリッカ値は19Hzと不変であった.視野検査の結果も中心暗点の改善を認めた(図3).しかし,股関節炎,膝関節炎などの原疾患が再発し,手術目的にて某大学整形外科に転院となった.このため当院での経過観察がその後一時中止となった.約1年後の平成20年8月11日の再診時には,リネゾリドは投与されておらず,視力は右眼1.0(1.2),左眼0.8(1.2)に回復していた.II考按リネゾリドはMRSA感染症などに非常に有用な薬剤で2000年4月に米国FDA(食品医薬品局)の承認を受けていて3),28日間以内の安全性は十分に確かめられている.しかし,骨髄炎などの疾患に長期投与を余儀なくされる場合に副作用が報告されている.本例ではリネゾリドの長期投与があり,しかも本剤の投与中止により視機能が回復したことから本剤の副作用による視神経症と診断した.他の報告例の診断も,リネゾリドの長期使用および臨床症状,投与中止による回復が決め手となっている.本例では2年間の投与期間があり,これまでのJavaheriらのまとめでも,13症例の平均投薬期間が280日間となっている1).Ruckerらも511カ月(平均9カ月)としている4).今回の症例のように他の薬剤が無効で,増減しながらもリネゾリドの長期投与を避けられない場合は,特に副作用の発現に注意すべきである.本剤の抗菌作用はリボゾームRNAに結合することによるとされる3).視神経の障害の機序としてはニューロン内のミトコンドリアリボゾームの障害が推定されている1,5).ミトコンドリア障害による視神経症としてはLeber視神経萎縮がよく知られているが,ある種の中毒性視神経症や,タバコ・アルコール視神経症,薬物による視神経障害や近年は正常眼圧緑内障との関連が推定されている5).臨床症状に注目すると,発症は本症例も含め数週数カ月間かけて視力障害が進行する亜急性が多い.視力障害の程度は重度で0.1以下が多く,ほとんどが両眼性である.視野障害の種類は本症例でも呈していた中心暗点あるいはMariotte盲点の拡大が多く,他の視神経疾患との差異はない.既報では視神経乳頭は浮腫所見を示すことは少なく1),本例のように正常あるいは軽度の蒼白のみを示す場合が多い.ミトコンドリアの分布は視神経乳頭板より前方に多いことからすると,浮腫所見を示すことが多いはずであるが,実際の報告例ではさまざまであった.蛍光眼底写真ではLeber視神経萎縮と同様に正常なことが多い1).中尾は,視神経乳頭に異常がない“球後視神経炎”類似の所見で,眼球運動時の球後部痛がないことなどが薬剤の副作用による視神経症の特徴としている6).治療については,診断がつき次第に投薬を中止することで視機能は短期間で回復の兆しがみられ1,2),本例でも9日目で回復がはじまった.その後は数カ月間かけて回復することが多い可逆性である.視力回復の程度は本例では1.2まで完全に回復したが,他の報告でも39カ月の経過観察での最終視力は全例0.5以上と比較的良好である1).本例で視力が完全回復した理由として,発症からリネゾリド中止までの期間が80日と短かったことが考えられる.既報でも150200日で中止した場合は1.0以上に回復しており,中止まで300日以上を要した症例では視力障害が残った1).したがって本剤の投与患者では視覚症状に十分注意して,発症した場合は早期に中止することで良好な視力回復が期待できる.また,図3リネゾリド投与中止後9日目のGoldmann視野検査(左:左眼,右:右眼)両眼とも中心暗点の改善を認めた.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010567(151)副腎皮質ステロイド薬投与は無効であり,むしろ悪化の危険も指摘されていて現時点では勧められていない1,2).文献1)JavaheriM,KhuranaRN,O’HearnTMetal:Linezolid-inducedopticneuropathy:amitochondrialdisorderBrJOphthalmol91:111-115,20072)SaijoT,HayashiK,YamadaHetal:Linezolid-inducedopticneuropathy.AmJOphthalmol139:1114-1116,20053)McKinleySH,ForoozanR:Opticneuropathyassociatedwithlinezolidtreatment.JNeuro-Ophthalmol25:18-21,20054)RuckerJC,HamiltonSR,BardensteinDetal:Linezolid-associatedtoxicopticneuropathy.Neurology66:595-598,20065)CarelliV,Ross-CisnerosFN,SadunAA:Mitochondrialdysfunctionasacauseofopticneuropathies.ProgRetinEyeRes23:53-89,20046)中尾雄三:視路障害をきたす全身薬.あたらしい眼科25:455-460,2008***

片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1558あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)558(142)0910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(4):558563,2010cはじめに再発性多発性軟骨炎は比較的まれな疾患であるが,多彩な眼症状をきたす.眼症状の合併は約5060%と高率とされているが,虚血性視神経症の報告は少ない1,2).今回,筆者らは片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎を経験したので報告する.I症例患者:56歳,男性.主訴:左眼霧視.現病歴:2005年6月17日夕方より左眼霧視を自覚し近医眼科受診し,左眼視神経乳頭腫脹を指摘され,近医脳外科でMRI(磁気共鳴画像)などの精査を受けるも異常所見なく,6月27日金沢大学附属病院(以下,当院)眼科受診.眼症状出現前後から微熱,顎関節痛・両肩関節痛および両膝関節痛を認め,近医内科でリウマチと診断されていた.眼症状出現以降,眼痛は認めなかった.家族歴:特記すべきことなし.〔別刷請求先〕大久保真司:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学(眼科学)Reprintrequests:ShinjiOhkubo,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology&VisualSciences,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicine,13-1Takara-machi,Kanazawa920-8641,JAPAN片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎中野愛*1大久保真司*1東出朋巳*1杉山和久*1川野充弘*2*1金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学(眼科学)*2金沢大学附属病院リウマチ・膠原病内科RelapsingPolychondritiswithUnilateralAnteriorIschemicOpticNeuropathyAiNakano1),ShinjiOhkubo1),TomomiHigashide1),KazuhisaSugiyama1)andMitsuhiroKawano2)1)DepartmentofOphthalmology&VisualSciences,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,2)DivisionofRheumatology,DepartmentofInternalMedicine,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎を経験したので報告する.症例は56歳,男性で,左眼乳頭の発赤・腫脹,フルオレセイン蛍光造影で視野に対応する乳頭の楔状充盈欠損を認め前部虚血性視神経症と診断,その後に耳介の発赤・腫脹が出現し,耳介軟骨炎と関節炎と眼炎症の所見を認めたことから再発性多発性軟骨炎と診断した.ステロイド治療で視神経乳頭浮腫および全身状態は改善し,現時点で再燃は認めていない.左眼の視神経乳頭浮腫が消退後に視神経乳頭陥凹拡大を認めた.再発性多発性軟骨炎は血管炎を伴うこと,視神経乳頭陥凹を認めたことや非動脈炎性虚血性視神経症のリスクファクターを有しないことから,動脈炎による前部虚血性視神経症と考えられた.動脈炎性前部虚血性視神経症の原因の大部分は巨細胞性動脈炎であるが,比較的若い年齢で動脈炎性虚血性視神経症を認めた場合は再発性多発性軟骨炎も鑑別疾患として考慮する必要がある.Weobservedacaseofrelapsingpolychondritiswithunilateralanteriorischemicopticneuropathy(AION).Thepatient,a56-year-oldmale,haddevelopedAIONinthelefteyeandsubsequentlyexperiencedbilateralswell-ingandrednessinhisauricles.Healsoshowedchondritisoftheauricles,inammatorypolyarthritisandocularinammation,resultinginadiagnosisofrelapsingpolychondritis.Steroidtherapyinducedimprovementintheopticdiscedemaandconstitutionalcondition;thedisorderhasnotrecurred.Fluoresceinangiographydisclosedseg-mentsofabsentllingofthedisc.Whentheopticdiscedemaresolved,opticdisccuppingenlargementwasnoted.Vasculitiscanoccurinrelapsingpolychondritis.Inthiscase,thoughopticdisccuppingenlargementwasobserved,noriskfactorsfordevelopmentofnon-arteriticAIONwerenoted.Wethereforefeelthatthiscasecouldbearterit-icAION.However,arteriticAIONisalmostalwaysduetogiantcellarteritis,weshoweddierentiaterelapsingpolychondritisincasesofrelativelyyoungindividualswithAION.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):558563,2010〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,虚血性視神経症,視神経乳頭陥凹拡大,動脈炎,ステロイド治療.relapsingpolychondritis,ischemicopticneuropathy,opticdisccuppingenlargement,arteritis,steroidtherapy.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010559(143)既往歴:2002年3月心筋梗塞.初診時所見:視力は右眼0.2(1.5×2.75D(cyl1.5DAx70°),左眼0.1p(1.2×2.0D(cyl1.75DAx90°)で,眼圧は右眼18mmHg,左眼14mmHg.対光反射は右眼正常,左眼減弱,相対的入力瞳孔反応(relativeaerentpupil-larydefect:RAPD)は左眼で陽性,中心フリッカ値は右眼42Hz,左眼30Hz.前眼部は両眼の浅在性の上強膜血管の拡張と蛇行を認め,拡張と蛇行した血管は可動性がみられたため上強膜炎と判断した.中間透光体は異常なし.眼底は右眼正常で,左眼は乳頭発赤を認め,視神経乳頭の境界不明瞭であった(図1A,B).蛍光眼底造影:インドシアニングリーン蛍光造影では両眼の視神経乳頭周囲に脈絡膜循環不全および充盈欠損が認められ,フルオレセイン蛍光造影では左眼の早期で乳頭周囲の脈絡膜の充盈遅延(図1C)および乳頭上下での楔状充盈欠損がみられ(図1D),後期では視神経乳頭の他の部分が過蛍光を図1初診時の眼底写真とフルオレセイン蛍光造影A:眼底写真(右眼).特に異常所見なし.B:眼底写真(左眼).視神経乳頭発赤認め,境界不明瞭.C:左眼フルオレセイン蛍光造影(注入19秒後).乳頭周囲の脈絡膜の充盈遅延(矢頭で囲まれた部位)を認めた.D:左眼フルオレセイン蛍光造影(注入1分10秒後).乳頭上下での楔状充盈欠損(点線で囲まれた部位)を認めた.図2Goldmann視野検査A:初診時(2005年6月27日)左眼.求心性視野狭窄および水平半盲様の下方の視野欠損を認めた.B:2005年10月3日左眼.初診時と比較して下方の視野は広がり改善しているが,初診時に検出されていない上方の弓状暗点(矢印)が認められた.AB———————————————————————-Page3560あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(144)示した.視野検査:Humphrey視野検査では左眼は全体的な感度低下を認め,Goldmann視野検査では左眼は求心性視野狭窄および水平半盲様の下方の視野欠損を認めた(図2A).右眼では異常は認められなかった.Bモード,UBM(超音波生体顕微鏡):強膜肥厚など異常所見なし.造影MRI(2005/7/11施行):視神経および強膜の信号強度の異常および造影効果を認めず,視神経炎や強膜炎は否定的であった(図3A,B).本症例では以上のように初診時検査で,眼底所見で左眼乳頭の発赤,腫脹がみられ,フルオレセイン蛍光造影早期で左眼乳頭周囲の脈絡膜の充盈遅延および乳頭の楔状充盈欠損,後期で左眼乳頭の楔状充盈欠損部以外の部位の過蛍光を認め,左眼視野に上方の楔状充盈欠損部に対応する下方の水平半盲様の視野欠損を認めたため,左眼の前部虚血性視神経症と診断した.(またMRI,Bモード,UBMの所見から強膜炎や視神経炎の存在は否定的であった.)臨床検査結果:WBC(白血球)11,800/μl(正常値3,3008,800/μl),RBC(赤血球)399×104/μl(4.35.5×104/μl),Hb(ヘモグロビン)12.4g/dl(13.517.0g/dl),Ht(ヘマトクリット)37.5%(39.751.0%),Plts(血小板)36.1×104(1335×104/μl),血沈114mm/1時間(10mm以下),CRP(C反応性蛋白)9.1mg/dl(<0.3mg/dl),抗核抗体<20倍(20倍未満),抗SS-A抗体<10倍(10倍未満),抗SS-B抗体<15倍(15倍未満),抗カルジオリピン抗体<10.0U/ml(10.0U/ml未満),MPO-ANCA(抗好中球細胞質抗体)<10EU(10EU未満),リウマチ因子134IU/ml(<20IU/ml),Na(ナトリウム)139mEq/l(138146mEq/l),K(カリウム)4.8mEq/l(3.65.0mEq/l),Cl(塩素)101mEq/l(99108mEq/l),UA(尿酸)8.2mg/dl(3.47.9mg/dl),Cr(クレアチニン)1.49mg/dl(0.501.30mg/dl),g-GTP(gグルタミル・トランスペプチターゼ)171IU/l(1148IU/l),AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)44IU/l(1048IU/l),ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)100IU/l(350IU/l).治療および経過:7月4日全身精査目的に当院リウマチ内科入院.7月7日から左耳介に疼痛を伴う発赤・腫脹・疼痛が出現し(図4),7月9日からは右耳介にも同様の症状が出現した.両耳介軟骨炎,炎症性多発関節炎,眼症状から再発性多発性軟骨炎と診断し,全身の炎症と左眼の虚血性視神経症の治療のため7月14日からメチルプレドニゾロン500mg点滴静注を3日間施行,7月17日からはプレドニゾロンを30mg内服として,プレドニゾロン漸減投与している(図5).ステロイド投与後,炎症反応(CRPや血沈)は低下し,AB3MRI(2005年7月11日施行)A:造影脂肪抑制T1強調像.アーチファクトにより左眼窩内の脂肪が抑制されていないが,視神経腫大や強膜肥厚はみられない.また,視神経および強膜に造影効果はみられない.B:脂肪抑制T2強調像.アーチファクトにより左眼窩内の脂肪が抑制されていないが,視神経には高信号はみられない.図4耳介の写真左耳介の発赤,腫脹を認めた.耳介下端で軟骨組織のない部位(耳垂)には発赤や腫脹の所見は認めていない.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010561(145)7月19日には耳介の発赤や上強膜炎は消失した.左眼視神経乳頭の発赤・腫脹も7月21日には消失したが,乳頭蒼白となった(図6).10月3日の視野検査では初診時と比較して改善しているが,下方視野欠損と初診時に検出されていない上方の弓状暗点が認められた(図2B).これらの視野変化は初診時のフルオレセイン蛍光造影での視神経乳頭の上下の楔状充盈欠損とほぼ対応している(図1C).ステロイド内服漸減で炎症の再燃なくコントロールされているが,その後の視野検査では改善なく,左眼の下方視野欠損と上方の弓状暗点は残存している.II考按再発性多発性軟骨炎は全身の軟骨組織と軟骨と共通の成分を有する眼や心弁膜などに慢性・再発性の炎症および破壊を特徴とする疾患である.再発性多発性軟骨炎の診断基準はMcAdamら2)が提唱したものをDamianiら3)が適応を拡大解釈したものを用いる場合が多い(表1).本症例では軟骨生検は実施していないが,耳介軟骨炎,関節炎と眼炎症の所見を認めていることからDamianiらの基準を満たし再発性多発性軟骨炎と診断した.再発性多発性軟骨炎は比較的まれな疾患であるが,多彩な眼症状をきたす.再発性多発性軟骨炎の眼症状の合併は約5060%と高率とされている1,2).強膜炎・上強膜炎の合併の頻度が最も高く,ほかに結膜炎や虹彩炎の割合も高いが視神経症の報告は少なく1,2),視神経炎は12例,虚血性視神経は4症例のみである4).再発性多発性軟骨炎の病因は不明だが,軟骨組織に対する表1再発性多発性軟骨炎の診断基準McAdamの診断基準1)両耳介の再発性軟骨炎2)非びらん性血清反応陰性多発性関節炎3)鼻軟骨炎4)眼の炎症5)気道における軟骨炎6)蝸牛あるいは前庭障害,聴力障害,耳鳴り,めまいこのうち3項目以上満たし軟骨生検で組織学的所見を認める.Damiani&Levineの改正基準1)McAdamの基準を少なくとも3項目あるいは2)少なくとも1項目の基準項目と軟骨炎症を示す病理組織像3)少なくとも解剖学的に隔たった2カ所に軟骨炎があり,ステロイドに反応すること図62005年7月21日の左眼底写真2005年7月21日には左眼視神経乳頭の発赤,腫脹は消失したが,乳頭蒼白化を認めた.図7HRTIIA:2005年7月12日左眼.視神経乳頭面積は1.76mm2,視神経乳頭陥凹面積は0.68mm2.B:2006年9月19日左眼.視神経乳頭陥凹面積は0.75mm2.cuparea0.75mm22006/9/19discarea1.76mm2cuparea0.68mm2cup/discarearatio0.382005/7/12BANHByNNIS$31NHE%0図5入院後の経過2005年7月14日16日にステロイドパルス(メチルプレドニゾロン500mg点滴静注×3日間)施行後,7月17日からプレドニゾロン内服を漸減投与.ステロイド投与後,血沈,CRPは低下し,現在まで再燃は認めていない.———————————————————————-Page5562あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(146)系統的疾患であり,ステロイドが有効であることなどから自己免疫疾患と考えられている.再発性多発性軟骨炎では,血清中に抗II型コラーゲン抗体あるいは抗IX,XI型コラーゲン抗体が存在することが認められている5).その他,軟骨成分のmatrilin-1に対する免疫応答が認めるとの報告もある6).したがって,II型あるいはIX,XI型コラーゲン,matrilin-1に対する自己免疫応答が病因に関与していると思われる.II型コラーゲンは硝子体や関節軟骨などを構成する硝子軟骨に局在し,IX型コラーゲンは硝子体,角膜,硝子軟骨に存在し,XI型コラーゲンは硝子軟骨に分布する7).また,matrilin-1は成人では耳介,鼻,気管,肋軟骨に限って認められる抗原である6).II型コラーゲンやXI型コラーゲンは眼組織の硝子体や角膜にも存在することから,再発性多発性軟骨炎における眼球組織の障害に関与している可能性が考えられる.本症例のように再発性多発性軟骨炎に虚血性視神経症を合併した症例の報告は,海外でのHermanら8)とKillianら9)による報告での2症例と国内での竹内ら10)と三国ら11)による症例報告の2例の合計4例のみである.そのなかでフルオレセイン蛍光造影の記載があるのは竹内らの症例報告の1例のみである.虚血性視神経症は視神経の梗塞であり,動脈炎性虚血性視神経症と非動脈炎性虚血性視神経症に大別される.動脈炎性虚血性視神経症は,巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)などで眼動脈およびその分枝である後毛様体動脈,網膜中心動脈に動脈炎が起き,血管内腔の炎症性閉塞の結果,循環障害から視神経の梗塞に至る病態である12).非動脈炎性虚血性視神経症は小乳頭などの視神経乳頭の解剖学的危険因子および高血圧や糖尿病などの視神経の循環障害を起こしうるさまざまな因子が複合的に関与し,発症するものである13).本症例ではHeidelbergRetinaTomograph-II(HRT-II)で測定した左眼視神経乳頭面積が1.76mm3(正常範囲1.632.43mm3)(図7A)と小乳頭ではなく,糖尿病や高血圧の既往はなく,非動脈炎性虚血性視神経症をきたすリスクは低いと思われる.非動脈炎性虚血性視神経症では視神経乳頭浮腫消退後の視神経乳頭陥凹拡大は程度も軽くて頻度も13%と報告されている14)が,動脈炎性前部虚血性視神経症では大部分の症例で視神経乳頭浮腫が消退後,緑内障と類似した視神経乳頭陥凹拡大を認めることを特徴としている13).本症例でもステロイド治療前の2005年7月12日にHRT-IIで測定した左眼視神経乳頭陥凹面積は0.68mm2,視神経乳頭浮腫消退後の2006年9月19日では0.75mm2と乳頭陥凹面積の拡大を認めており(図7A,B),また再発性多発性軟骨炎の約1割の症例に全身性血管炎の合併を認めるとされている15)こと,血沈が114mm/1時間と高値を示したことから,本症例では動脈炎により前部虚血性視神経症となった可能性が考えられる.本症例では糖尿病や高血圧などの基礎疾患はないが,眼症状出現以前に心筋梗塞をきたしており,全身性血管炎の関与も疑われる.強膜炎が後部に及ぶ場合,視神経周囲炎をきたし,二次的血流障害をきたすことも考えうる16,17)が,本症例ではBモードやMRIにて強膜炎は否定的であり考えにくい.本症例や過去の報告における再発性多発性軟骨炎での前部虚血性視神経症と巨細胞性動脈炎での前部虚血性視神経症と比較すると,発症時に血沈亢進,CRP上昇を認めることが多いことは共通するが,好発年齢は,巨細胞性動脈炎が7080歳代と高齢である18)のに対して,再発性多発性軟骨炎での前部虚血性視神経症は本症例が発症時56歳で過去の報告でも4163歳と比較的若い点が異なる(非動脈炎性虚血性視神経症の好発年齢は5070歳代である).また,予後については,巨細胞性動脈炎での前部虚血性視神経症は視力障害が重篤な場合が多く,0.01以下の症例が少なくないが,再発性多発性軟骨炎での前部虚血性視神経症は,本症例のように軽度のものから失明に至る重篤な場合とさまざまである.筆者らは虚血性視神経症を合併した再発性多発性軟骨炎を経験した.原因としては,動脈炎性虚血性視神経症と考えられる.再発性多発性軟骨炎は比較的まれな疾患であり,日本では動脈炎性虚血性視神経症もまれであるが,比較的若い年齢の虚血性視神経症を認めた場合は再発性多発性軟骨炎も鑑別疾患として考慮する必要がある.文献1)IssakBL,LiesegangTJ,MichetCJJr:Ocularandsys-temicndinginrelapsingpolychondritis.Ophthalmology93:681-689,19862)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine55:193-215,19763)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis-reportoftencases.Laryngoscope89:929-946,19794)HirunwiwatkulP,TrobeJD:Opticneuropathyassociatedwithperiostitisinrelapsingpolychondritis.JNeurooph-thalmol27:16-21,20075)AlsalamehS,MollenhauerJ,ScheupleinFetal:Preferen-tialcellularandhumoralimmunereactivitiestonativeanddenaturedcollagentypesIXandXIinapatientwithfatalrelapsingpolychondritis.JRheumatol20:1419-1424,19936)BucknerJH,WuJJ,ReifeRAetal:Autoreactivityagainstmatrilin-1inapatientwithrelapsingpolychondri-tis.ArthritisRheum43:939-943,20007)塩沢俊一:コラーゲン.膠原病学改訂2版,p211-231,丸善株式会社,20058)HermanJH,DennisMV:Immunopathologicstudiesinrelapsingpolychondritis.JClinInvest52:549-558,1973———————————————————————-Page6あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010563(147)9)KillianPJ,SusacJ,LawlessOJ:Opticneuropathyinrelapsingpolychondritis.JAMA239:49-50,197810)竹内文友,大原孝和,宇治幸隆:虚血性視神経症を伴った反復性多発軟骨炎の1例.眼臨75:1383-1386,198111)三国信啓,戸田裕隆,愛川裕子ほか:再発性多発性軟骨炎に発症した急性閉塞隅角緑内障及び虚血性視神経症の1例.眼臨84:1671,199012)HenkindP,CharlesNC,PearsonJ:Histopathologyofischemicopticneuropathy.AmJOphthalmol69:78-90,197013)HayrehSS:Ischemicopticneuropathy.ProgRetinEyeRes28:34-62,200914)TrobeJB,GlaserJS,CassadyJC:Opticatrophy.Dieren-tialdiagnosisbyfundusobservationalone.ArchOphthal-mol98:1040-1045,198015)TrenthamDE,LeCH:Relapsingpolychondritis.AnnInternMed129:114-122,199816)林恵子,藤江和貴,善本三和子ほか:後部強膜炎に合併したと考えられた視神経周囲炎の4例.臨眼60:279-284,200617)OhtsukaK,HashimotoM,MiuraMetal:Posteriorscleri-tiswithopticperineuritisandinternalophthalmoplegia.BrJOphthalmol81:514,199718)HayrehSS,PodhajskyPA,ZimmermanB:Ocularmani-festationsofgiantcellarteritis.AmJOphthalmol125:509-520,1998***

経過観察で症状改善した網膜色素上皮腺腫の1 例

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1554あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)554(138)0910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(4):554557,2010cはじめに網膜色素上皮腺腫は網膜色素上皮(RPE)原発の色素性良性腫瘍である.網膜色素上皮に原発する腫瘍はまれであり,1972年にFrontら1)が報告して以来,網膜色素上皮原発の網膜色素上皮腺腫はアジアからの報告はほとんどなく,わが国では2006年に中村ら2)が日本眼科学会で報告した1例のみであった.まれな腫瘍であるが,色素性腫瘍であるため,脈絡膜悪性黒色腫と黒色細胞腫との鑑別を要する.その他の鑑別として,網膜色素上皮過誤腫,転移性脈絡膜腫瘍,炎症,外傷,レーザー,手術などにより網膜色素上皮の反応性過形成などがあげられる.今回筆者らは,外傷や眼疾患の既往のない健常人の黄斑部に網膜色素上皮腺腫が生じた1例を経験し,従来の画像検査に加え,眼底自発蛍光所見を観察したので報告する.I症例20歳の中国人男性.3カ月前からの左眼視力低下と中心暗点を主訴に当科を初診した.外傷歴,眼科および内科既往歴,生肉を食する習慣など特記すべき事項はなかった.初診〔別刷請求先〕野地裕樹:〒960-1295福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:HirokiNoji,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,1Hikarigaoka,Fukushima-shi960-1295,JAPAN経過観察で症状改善した網膜色素上皮腺腫の1例野地裕樹古田実石龍鉄樹飯田知弘福島県立医科大学医学部眼科学講座ACaseofRetinalPigmentEpitheliumAdenomaImprovedinVisualAcuitywithObservationHirokiNoji,MinoruFuruta,TetsujuSekiryuandTomohiroIidaDepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine網膜色素上皮腺腫は,周辺部網膜に好発するまれな色素性良性腫瘍であり,脈絡膜悪性黒色腫との鑑別を要する.今回,黄斑部に網膜流入血管を伴う色素性腫瘤を伴った症例を経験した.症例は20歳,中国人男性,3カ月前からの左眼視力低下を主訴に受診.矯正視力0.2であった.左眼黄斑部耳側に4乳頭径大の褐色の腫瘤を認めた.腫瘤は網膜表面に浸潤し,硝子体内に色素性細胞が散在していた.腫瘤周囲には滲出性網膜離と網膜皺襞,硝子体の牽引がみられた.フルオレセイン蛍光眼底造影で,拡張した網膜血管が腫瘤に流入しており,腫瘤は造影早期に低蛍光と後期組織染を示した.超音波所見からも網膜原性の色素性腫瘤で,腫瘤への網膜流入血管,滲出性網膜離という特徴的な所見から網膜色素上皮腺腫と診断した.腫瘤は青色眼底自発蛍光で低蛍光,赤外眼底自発蛍光では過蛍光を示した.1年6カ月間経過観察し,滲出の減少により視力は0.5に改善した.Wereportacaseoftheretinalpigmentepithelium(RPE)adenoma.Thepatient,a20-year-oldChinesemale,hadexperienceddecreasedvisualacuityofthelefteyefor3months.Oninitialpresentation,hisleftvisualacuitywas0.2;fundusexaminationrevealedapigmentedmasswithretinalfeedervesselsandexudativeretinaldetach-mentinthetemporalmacula.Fluoresceinangiographydiscloseddilatedretinalfeedervesselsandearlyhypo-uorescenceofthemassinarterialphase,withlatestaininganddyeleakage.Short-wavelengthautouorescencerevealedhypouorescence,andinfra-redautouorescenceshowedhyperuorescenceofthemass,suggestingoflackofnormalRPEmetabolismwiththemelaninpigment.TheseimagingswerecharacteristicofRPEadenoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):554557,2010〕Keywords:網膜色素上皮腺腫,脈絡膜悪性黒色腫,眼底自発蛍光,アジア人.retinalpigmentepitheliumadeno-ma,malignantmelanoma,fundusautouorescence,Asian.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010555(139)時左眼矯正視力は(0.2),左眼黄斑部耳側に色素性腫瘤とその周囲に滲出性網膜離と網膜皺襞,硝子体が癒着し牽引を形成していた(図1a).フルオレセイン蛍光眼底造影では拡張した網膜血管が腫瘤に流入しており,腫瘤は造影早期に低蛍光と後期組織染を示した(図1b).インドシアニングリーン蛍光眼底造影では造影早期から一貫して腫瘤は低蛍光であった(図1c).超音波断層検査では高反射腫瘤と脈絡膜は分離可能で,網膜起源の腫瘍が考えられた(図1d).光干渉断層計では高反射の腫瘤と硝子体内に大小多数の高反射塊がみられ,周囲には網膜離がみられた(図1e,f).青色光による眼底自発蛍光では腫瘤は低蛍光を示した(図1g).赤外光による眼底自発蛍光では腫瘤と色素に一致する過蛍光を示した(図1h).血液,生化学検査では特に異常はなく,ツベルクリン反応は陰性であった.陽電子放射断層撮影(posittronemissiontomogra-phy:PET)でも特に異常はなかった.僚眼には異常はなかった.以上の検査所見から,網膜色素上皮腺腫と臨床的に診断し,定期経過観察を行った.1年6カ月後には滲出性変化は減少し,視力は(0.5)へと改善した(図2).II考按本症例は,黄斑耳側に網膜流入血管を伴った網膜原性の色図1初診時眼底画像所見a:眼底写真.色素性腫瘤とその周囲に漿液性網膜離と網膜の牽引および硝子体中の色素細胞散布.b:フルオレセイン蛍光眼底造影検査(造影中期).病巣中心部は低蛍光,周囲の網膜血管から腫瘤への流入血管,周辺部網膜血管から漏出.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(造影中期).腫瘤は低蛍光で組織染なし.d:超音波断層検査.高反射腫瘤と脈絡膜は分離可能.e:光干渉断層計.高反射の腫瘤と硝子体内の高反射粒.f:光干渉断層計.腫瘤周囲に網膜離.g:眼底自発蛍光.腫瘤は低蛍光.h:眼底自発蛍光.腫瘤は過蛍光,色素塊も過蛍光.adghefbc———————————————————————-Page3556あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(140)素性腫瘤で,滲出性網膜離を伴っていた.この特徴的所見から,網膜色素上皮腺腫と診断した.網膜色素上皮腺腫の症例報告は海外からのものを含め少数である.Shieldsら3)の報告では,13症例の年齢は2878歳と幅広く,発生部位は周辺部,中間周辺部,視神経乳頭近傍,黄斑部とさまざまである.眼底周辺部が約半数で最も多く,視神経乳頭近傍や黄斑部には少ない.視力は光覚なしから1.0に保たれているものまで幅広い.黄斑部に発生したものは視力不良だが,周辺部に発生したものでも滲出性網膜離や増殖性病変のために指数弁になることもあり,発生部位と視力との関連は低い.治療は腫瘍が小さい場合は経過観察されているものが多いが,大きくなると眼球摘出,経強膜的腫瘍切除術,小線源放射線治療が施行されることもある.基本的には腫瘍の増大は緩徐とされており,急速な増大を認めた場合は腺癌との鑑別を要する.脈絡膜悪性黒色腫との鑑別が重要で,Shieldsら4)の報告によると,悪性黒色腫として紹介された1,739例中13例(約1%)が網膜色素上皮腺腫であり,まれな疾患であるが誤診率が高いといえる.鑑別点として最も参考になる臨床所見は網膜色素上皮腺腫では腫瘍の急峻な隆起,網膜流入血管,滲出性離の存在である3).黒色細胞腫は視神経乳頭に好発するが,まれに脈絡膜にも発生する.14%に滲出性網膜離を伴うことが報告されている4)が,増大した例でなければ網膜栄養血管を伴わないことで,網膜色素上皮腺腫とは異なる.本症例の場合,超音波断層検査で脈絡膜と腫瘤が明瞭に分離されており,脈絡膜悪性黒色腫との鑑別は可能であった.鑑別を要する腫瘍との特徴的な鑑別点を表1に示す.近年,眼底自発蛍光は非侵襲的な検査として臨床応用されている.青色光による眼底自発蛍光でRPE中に多く含まれるリポフスチンの発する蛍光物質が過蛍光を示し,RPEや網膜外層の生理活性や機能評価に有用であること5),赤外光による眼底自発蛍光ではメラニンが過蛍光を示すことが報告されている6).本症例では青色眼底自発蛍光で腫瘤と周囲の網膜離部分に一致した低蛍光を示した.赤外眼底自発蛍光では過蛍光を示した.正常RPEでは青色眼底自発蛍光,赤外眼底自発蛍光ともに自発蛍光の増強がみられることから,病変部のRPEは機能異常をきたしていると考えられる.腫瘤にメラニンが存在すること,および硝子体中に散布された色素塊もメラニンが主成分であり過蛍光を示したと考えられた.脈絡膜悪性黒色腫の青色眼底自発蛍光所見は,随伴するオレンジ色素やドルーゼンで過蛍光,RPE離や網膜下液領域では弱い過蛍光を示すことが報告されている7).本症例では,腫瘍自体だけでなく,網膜離の範囲にも過蛍光を認めず,脈絡膜悪性黒色腫との有用な鑑別点になりうると考えられた.また,脈絡膜悪性黒色腫の赤外眼底自発蛍光での報告は検索した範囲ではみられなかった.本症例では発生部位は黄斑耳側で,観察した1年6カ月間に腫瘍の増大はなく,滲出性網膜離の減少に伴い視力は0.5へと改善した.アジア人で報告が少ない網膜色素上皮腺腫の1例を経験し,おもに眼底画像検査の結果について報告した.近年注目されている眼底自発蛍光検査は網膜色素上皮腺腫が小さいうちから特徴的所見を示すと考えられ,今後症例を蓄積し,検表1網膜色素上皮腺腫とその他の腫瘍の特徴網膜色素上皮腺腫脈絡膜悪性黒色腫網膜色素上皮過誤腫脈絡膜転移性腫瘍好発年齢2080歳60歳代2045歳原発巣による(男性は肺,女性は乳房が多い)形態黒色急峻な隆起茶褐-黒色ドーム状隆起マッシュルーム状隆起Orangepigment黒色隆起は小さい境界不明瞭灰白色扁平-ドーム状隆起栄養血管網膜血管脈絡膜血管網膜血管脈絡膜血管網膜離の併発滲出性離漿液性離なし漿液性離図2初診時から1年6カ月後の眼底所見腫瘤径は変化なく,腫瘤周囲の滲出性変化は減少.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010557(141)討する必要がある.文献1)FrontRL,ZimmermanLE,FineBS:Adenomaofthereti-nalpigmentepithelium.AmJOphthalmol73:544-554,19722)中村宗平,末田順,疋田直文ほか:網膜色素上皮腺腫の診断がついた一例.日眼会誌110(臨増):222,20063)ShieldsJA,MashayekhiA,SeongRAetal:Pseudomela-nomasoftheposterioruvealtract.Retina25:767-771,20054)ShieldsJA,ShieldsCL,GunduzKetal:Neoplasmasoftheretinalpigmentepithelium.ArchOphthalmol117:601-607,19995)SekiryuT,IidaT,MarukoIetal:Clinicalapplicationofautouorescencedensitometorywithascanninglaserophthalmoscope.InvestOphthalmolVisSci50:994-3002,20096)KeilbauerCN,DeloriFC:Near-infraredautouorescenceimagingoffundus:visualizationofocularmelanin.InvestOphthalmolVisSci47:3556-3564,20067)ShieldsCL,BianciottoC,PirondiniCetal:Autouores-cenceofchoroidalmelanomain51cases.BrJOphthalmol92:617-622,2008***