‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

インターネットの眼科応用 27.医療とインターネットの距離

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115190910-1810/11/\100/頁/JCOPYインターフェースの重要性インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.手術,セミナーなどの医療情報は動画として共有することが可能になりました.医療行為はアナログです.複雑で情報量の多い医療情報は動画で伝えるのが最も効果的です.今後,手術やセミナーなどの医療動画がインターネット上にあふれ,整理されていくことでしょう.21世紀の医療者は,そのあふれる医療情報から適切な情報を選別するインターネットリテラシーが求められます.本来はアナログである医療と,デジタルであるインターネットの間には,いくつかのハードルがあります.このハードルが少なくなればなるほど,医療とインターネットの距離は近くなり,共存が可能です.本章では,医療とインターネットを近づけるインターフェースについて最新の事例を紹介しながら考察します.インターネットの普及を考える際,インターフェースの進化はきわめて重要です.インターフェースが改善されればされるほど,インターネットの利用者が増え,発信者が増え,情報量が爆発的に増加します.その一方でいまだインターネットが普及していない集団とは,どのような集団でしょうか.過疎地・老人が第一にあげられます.業種別に考えると,医療・教育・農業という規制の多い業界があげられます.過疎地には,インフラの整備によりインターネットは普及します.老人はどうでしょう.Wiiなどの遊具・携帯型健康器具の登場によって,インターネットに参加しやすくなりましたが,まだ不十分です.では,医療はどうでしょう.医療情報のデジタル化まず,医療情報の流れは,3つに分類されます.この3つを正確に捉えることによって,ツールが誰を対象にし,何を扱うのかが明確になります.1.医師-医師間(医療従事者間)のコミュニケーション(例:症例検討,カルテ)2.医師(医療従事者)-患者のコミュニケーション(例:待合,検査,ムンテラ)3.患者自身の健康管理・生活管理(例:家庭用健康器具,患者会)本章では,医師-医師間のコミュニケーションにおける,情報の流通を取り上げます.医療行為は,大別して検査・診察・手術に分けられますが,通信技術と情報圧縮技術の進歩が,動画をインターネットのコンテンツの一つとしました.動画というインターフェースの登場により,手術はデジタルコンテンツとして扱われます.医療とインターネットの間のハードルが一つ減りました.手術に代表される医療行為は容易にデジタル化され,インターネット上に投稿されます.一人の医師の頭の中にある医療情報が,インターネットを通じて他の医師に至るまでの過程を分解すると,以下のようになります.①術者が手術の流れを思考します.②①が医療行為となって患者に伝わります.③②を第三者もしくは録画機器が撮影します(アナログからデジタルへの変換).④③がインターネットに投稿されます(データベースに保存).⑤他の医療者が動画を視聴します(デジタルからアナログへの再変換).これらの流れをスムーズにすることが,きわめて重要です.一例を示しますと,撮影と投稿を同時に行うような,Webカメラを用いれば,手術のライブ放送を世界同時放送することが可能です.Ustreamに代表される,ライブ放送の技術を使えば,手術という医療行為は即時(63)インターネットの眼科応用第27章医療とインターネットの距離武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ520あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011にデジタル化されインターネット上のコンテンツとなります.誰もがインターネット放送局を持てる時代です.診察や検査はどうしょう.医療行為は,電子カルテに入力されデジタルデータとして保存されます.この「入力」という行為が,スケッチの多い科である眼科医としては,非常に大きなハードルとなります.手術は撮影という行為でデジタル化が完了しましたが,診察・検査は単純ではありません.電子カルテのデータの入力は,おもにキーボードによって行われますが,キーボード操作の得意不得意によって,患者とのコミュニケーション量が左右される状況がしばしば起こります.電子カルテへの入力をスムーズにする方策は4つあります.①専門の医療秘書が電子カルテに医師の代わりに入力する.②音声認識ソフトを使用し,発言内容を入力する.③タッチパネルの画面でペン入力する.④紙に記載した情報をスキャンして入力する.それぞれに長所短所がありますが,タッチパネルは情報を視覚的,直感的に扱うため,電子カルテのような複雑な情報の扱いに適しています.最新の音声認識ソフトは,医療用語専用にカスタマイズされたものもあり,認識率も高いようです(図1).これらのインターフェースの長所を採りいれた,眼科の診察風景を考察してみました.診察室の机は,ペン入力が可能なディスプレイが埋め込まれています.患者の名前を呼ぶことで当該患者の画面が立ち上がります.めくるような動きで画面をなぞって,前ページの検査・診察結果を確認します.シェーマを指の動きで指定し,色鉛筆の質感に近い専用ペンで所見を入力します.所見を口頭で追加することも可能です.眼底写真や視野検査を確認したい場合は,口頭もし(64)くは指で検査名を指示します.サマリーや症例検討に使うデータは電子スタンプなどで目印を付けます.直感的に扱えるよう補助するツールが増えるほど,電子カルテは眼科医にとって,より身近になります.どうしても紙で運用しなければならない部分は,スキャナーで画像情報として入力します.これらの電子カルテ関連ソフトを,購入せずに使えるクラウドコンピューティングが普及すれば,医療機関としても経済的に入手しやすくなります.手術は動画というインターフェースを用いることで,検査・診察はタッチパネルや音声認識ソフトといったインターフェースを用いることで,医療とインターネットの距離は近くなりました.学会というインターフェース動画サイトや,電子カルテにおける情報流通の進歩をインターフェースという観点から紹介しましたが,インターネットと医療との,最も自然なインターフェースは,学会というリアルな媒体を共有すること,と考えます.インターネット上で学会が開催され,その利便性が理解されれば,われわれの意識は大きく変容し,その変化を受け入れるでしょう.一般的には,デジタル化されたものは容易にインターネットに搭載されます.手術動画のインターネット化をみれば明らかです.われわれが参加する学会は,デジタルプレゼンテーションが主流になりました.学会のデジタル化はすでに完成していますので,インターネット化されるのは目前です.学会がインターネット化された時点で,医療とインターネットの距離は,ぐっと近くなります.電子カルテは,インターネットの医療応用の一部ですが,インターネット学会は,医療界全体の人,情報の流通に大きな変化をもたらす,革命的な出来事となるでしょう.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVConlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.図1熊本赤十字病院放射線科での音声認識ソフトの導入事例

硝子体手術のワンポイントアドバイス 95.全身麻酔下における笑気による眼圧変動(初級編)

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115170910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに全身麻酔下で硝子体手術を施行する際,眼内液-空気同時置換術を施行した後の硝子体腔は閉鎖腔となる.インフュージョンポートから一定の圧の空気を送り込んでいる間は問題にならないが,ポートを抜去した後は完全な閉鎖腔となり,笑気使用下では,笑気によって眼圧が変動する(図1)1).これは,気胸やイレウスなど閉鎖腔を生じる他科の手術の際にも同様である.●笑気の硝子体腔への流入と流出笑気を止めないで全身麻酔を続行した場合,硝子体が閉鎖腔となった時点から,笑気が硝子体腔内に流入して眼圧が上昇する.一般に,笑気による眼圧上昇は10.20分で20mmHg以上である.これは硝子体腔内が100%空気であっても,20%SF6(六フッ化硫黄)あるいは14%C3F8(八フッ化プロパン)であっても同様である.注意すべきなのは,SF6やC3F8などの膨張性ガスを注入した場合のみ,笑気による眼圧上昇が生じると誤解している術者が結構いるということである.これらのガスの膨張速度は緩徐で,手術終了間際の短時間でこの膨張の影響を受けることはほとんどない.100%空気であろうと,要するに眼内が閉鎖腔になっていれば,一様に笑気流入による眼圧上昇は生じる.一方,笑気中止後,硝(61)子体腔内に笑気が残存する場合には,逆に硝子体腔内から笑気が流出して眼圧は低下する.この変動幅は硝子体腔内の笑気の残存量やそのときの眼圧に依存するが,通常は10mmHg以上の低下が生じる.●全身麻酔下での手術終了時の眼圧補正全身麻酔時に笑気を止めた場合,通常20分後には血中の笑気は激減するとされている.よって,ポート抜去の20分前に笑気を止めれば,その後の眼圧変動は少なくなるものと考えられる.しかし,実際にはこのタイミングが遅れ,ポート抜去前後に笑気を止めることが多い.この場合,ポート抜去後は血中の笑気が残存しているので,一旦眼圧上昇した後に下降するといった複雑な変動をきたす.よって,手術終了時の眼圧を補正するためには,笑気を止めた20分後の眼圧をチェックし,高眼圧の場合には空気を抜去,低眼圧の場合には空気を追加すればよい.このときに膨張性のガスを注入しても,最終的に硝子体腔内が非膨張性の濃度であれば問題はない.20ゲージ硝子体手術の場合にはポート抜去後に強膜や結膜縫合する時間が余分にかかるため,眼圧補正を行う時間的余裕があったが,近年普及しているスモールゲージ小切開硝子体手術では,ポート抜去後にすぐに手術を終了することができるので,眼圧チェックが甘くなる危険がある.最近は,麻酔科医に依頼すれば,最初から笑気なしの麻酔をかけてもらうことも可能なので,ガスタンポナーデを行う硝子体手術ではそのほうが無難である.文献1)氏家彰子,二宮修也,田澤豊ほか:全身麻酔下の硝子体腔内期待注入の眼圧.眼科手術5:521-525,1992硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載95全身麻酔下における笑気による眼圧変動(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1笑気による眼圧変動眼圧一定眼圧インフュージョン抜去空気空気空気笑気笑気眼圧笑気中止

眼科医のための先端医療 124.知られていない盲点の性質:視覚潜時の空間分布

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115130910-1810/11/\100/頁/JCOPY多局所視覚誘発電位を蘇らせた発見1999年,コロンビア大学のZhangは多局所視覚誘発電位(multifocalvisualevokedresponse:mfVEP)を多数の被検者から記録するうちに,あることを発見しました(Hoodetal,20001)).この発見によって,それまで臨床では使えない2)と考えられてきたmfVEPに注目が集まるようになりました.mfVEP(図1)は,多局所網膜電図(mfERG)の発明者Sutterによって記録されていました(Baseleretal,19942)).視角半径20°の刺激図形は,中心に近づくと急激に小さくなる60個の弧に,擬ランダムに反転する市松模様が描かれています.視野の複数の領域から,同時に視覚誘発電位を記録できるため,他覚的な視野検査として応用されることが期待されたのですが,大きな欠点がありました.正常な視覚をもった被検者のmfVEPでも,反応が大きな領域,ごく小さな領域ができて,異常の有無すら判定できないのです(図1B).その原因は,網膜部位再現(retinotopic)マップである一次視覚野が脳回によって深く不規則に折りたたまれていることにあります2).一次視覚野に発生するダイポールが,頭皮に置かれた電極に電位変化として反映する程度は,折りたたみによって場所ごとにまちまちになってしまいます.脳回には個人差があり,また頭皮の電極の位置によってもmfVEPは変化してしまうので,結果の再現性も乏しいのです.Zhangが気づいたのは,こんなmfVEPが,健常者では左右眼でほとんど同一であることでした(図1B).ヒトなどの一次視覚野は,左右の2つの網膜のdominancebandが,細かく織り込まれて1枚のretinotopicマップを構成します3).視野上のある領域の刺激は,左右どちらの網膜を介しても,一次視覚野の同じ領域で知覚されることから,左右眼のmfVEPはほぼ同一になるのです.左右眼のmfVEPを比較することにより,僚眼を対照に使える片眼性の視野異常では,mfVEPによる他覚視野計測が実現しました1).緑内障では両眼性に視野欠損が進行することも多いのですが,初期では鼻側階段など,左右対称の変化であり,やはりmfVEPによる他覚視野計測で高感度に検出されます1).左右眼の潜時の違いを生じる,網膜内伝導ほとんど同一でありながら,mfVEPには左右眼でほんの僅かな潜時の違いがあります1,4).数msの違いが,ノイズで修飾されていますので内積法など数学的な処理をしなければ定量できません4).左右眼の潜時の違いは,視野の中心の垂直経線上にはなく,左右に離れるほど大きくなり,左視野では左眼の,右視野では右眼の潜時が短くなっていました1,4).左視野は,左眼では耳側視野(57)◆シリーズ第124回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊島田佳明(藤田保健衛生大学坂文種報德會病院眼科)知られていない盲点の性質:視覚潜時の空間分布:右眼:左眼AB図1多局所視覚誘発電位(mfVEP)A:刺激図形(右上)と大きさ(左下).B:健常者のmfVEPの波形一覧の例.右眼を青,左眼を赤で表記.部位により反応の大きさはまちまちであるが,左右眼のmfVEPはほぼ同一である.514あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011であり,鼻側網膜に投影し,視交叉で交叉して右の一次視覚野に至るのに対して,右眼からの視路はそれぞれ鼻側視野・耳側網膜・非交叉になっています.左右眼からの視路は,途中でシナプスをつくる,右外側膝状体の層も異なります.交叉性の視路は非交叉性視路よりも速く伝導している,ともいえます.この左右眼の視覚潜時の違いを生じているのは,網膜局所の網膜神経節細胞(RGC)から視神経乳頭までの網膜内伝導の距離であることが明らかになっています4).RGCの軸索は,視神経乳頭を過ぎますと髄鞘をもち,跳躍伝導を開始しますが,網膜の神経線維層では無髄であり,伝導はきわめて低速です5).耳側視野・鼻側網膜は視神経乳頭が近く,網膜内伝導距離が短いのに対して,鼻側視野・耳側網膜では視神経乳頭が遠く,網膜内伝導距離が長いため,視覚潜時が延長してしまうのです.視覚潜時の空間分布mfVEP潜時と網膜神経線維層の軸索の推定長との比によって,ヒトのRGC軸索の網膜内伝導速度が,中心から0.5.1.4°で0.29m/s,8.12°で1.39m/sと計算されました4).これらは動物での実測値や,ヒトのmfERGの視神経乳頭成分6)による推定値と矛盾しません.伝導速度の推定によって網膜内で生じる視覚潜時の空間分布が明らかになりました(図2).中心窩の周辺はとりわけ潜時が長く,乳頭黄斑束を構成する細い軸索の低速の伝導が反映していると考えられています.視覚潜時は視神経乳頭に近づくほど短縮するので,耳側視野は視覚潜時が短い利点が生じています.眼底に視神経乳頭が存在することによって,耳側視野には盲点ができます.一次視覚野では盲点の領域は僚眼のdominancebandが補.し3),暗点として自覚することはないのですが,これまでは,盲点の存在が視覚的に有利になる要素は指摘されてきませんでした.対面法や動的視野の計測では,耳側視野は鼻側視野よりも周辺に広がりをもっています.盲点はその中心近くに存在し,視覚伝導の高速化に寄与しています.僚眼を対照にすることで他覚視野計として発達したmfVEPには,こんな情報も含まれていて,臨床応用を待っています.文献1)HoodDC,ZhangX,GreensteinVCetal:AninterocularcomparisonofthemultifocalVEP:apossibletechniquefordetectinglocaldamagetotheopticnerve.InvestOphthalmolVisSci41:1580-1587,20002)BaselerHA,SutterEE,KleinSAetal:Thetopographyofvisualevokedresponsepropertiesacrossthevisualfield.ElectroencephalogrClinNeurophysiol90:65-81,19943)FlorenceSL,KaasJH:Oculardominancecolumnsinarea17ofOldWorldmacaqueandtalapoinmonkeys:completereconstructionsandquantitativeanalyses.VisNeurosci8:449-462,19924)ShimadaY,HoriguchiM,NakamuraA:Spatialandtemporalpropertiesofinteroculartimingdifferencesinmultifocalvisualevokedpotentials.VisionRes45:365-371,20055)StanfordLR:X-cellsinthecatretina:relationshipsbetweenthemorphologyandphysiologyofaclassofcatretinalganglioncells.JNeurophysiol58:940-964,19876)SutterEE,BearseMA:TheopticnerveheadcomponentofthehumanERG.VisionRes39:419-436,1999(58)図2視覚潜時の空間分布(右眼)視神経乳頭に近づくほど視覚潜時は短縮する.中心窩近傍では周辺よりも特に視覚潜時が長い.■「知られていない盲点の性質:視覚潜時の空間分布」を読んで■今回は島田佳明先生による“多局所視覚誘発電位(mfVEP)による研究の成果”の紹介です.島田先生が本当に読者の興味を引きつつその臨床的意義を上手に解説しておられます.mfVEP潜時と網膜神経線維層の軸索の推定長との比によって,ヒトの網膜神経節細胞(RGC)軸索の網膜内伝導速度が,中心から0.5(59)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011515.1.4°で0.29m/s,8~12°で1.39m/sとの計算結果に至る推論の論理的な発展は推理小説にも匹敵する面白さです.このような神経生理学的な基本データが臨床的に計算することができるというのは本当に驚きです.さらに盲点が視覚伝導の高速化に寄与しているとは!盲点の「機能」について考えたこともなかったです.まだまだ眼,視覚,視機能には多くの謎が潜んでいて,われわれは知らずに使っていることがわかりました.RGCの神経伝導速度が疾患により低下するかもしれません.それを検査により検出して疾患の病態,神経保護薬の効果の他覚的判定などに使えないでしょうか?わくわくしながら,いろいろなことが考えられるサイエンスとしての夢を感じる解説,ありがとうございました.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

緑内障:プロスタグランジン関連薬の比較

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115110910-1810/11/\100/頁/JCOPY●プロスタグランジン(PG)関連薬PG関連薬は,内因性生理活性物質であるPGF2aから眼局所副作用を分離した誘導体で,プロストン系とプロスト系に大別される.プロスト系には,プロスタノイド誘導体とプロスタマイド誘導体がある(図1).プロストン系(ウノプロストン):代謝型誘導体でPGF2a活性が消失している.最近の報告では主経路からの房水流出促進も示唆されている.プロスタノイド誘導体(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト):おもにFP受容体を介した細胞外マトリックスのリモデリングにより,ぶどう膜強膜流出経路からの房水流出を促進するとされる.製剤はプロドラッグ型で,角膜で代謝され眼内へ移行する.タフルプロストとトラボプロストはフッ素を導入し,ラタノプロストよりFP受容体親和性が強い.プロスタマイド誘導体(ビマトプロスト):一部はプロスタノイド誘導体と同様の作用を示すが,アミド結合を有し,角膜代謝率は低い.大部分は未変化体のまま,プロスタマイド受容体(FP受容体バリアント複合体)に作用し,ぶどう膜強膜流出経路からの房水流出を促進する.●眼圧下降効果プロストン系の眼圧下降はプロスト系に劣る.プロスト系薬剤は,1日1回点眼で終日持続する強力な眼圧下降・日内変動抑制効果を有し,連用による減弱や全身副作用がない.プロスト系4剤すべてを直接比較した報告はまだない.海外のメタ解析1,2)では,眼圧下降効果はラタノプロスト≒トラボプロスト≦ビマトプロ(55)●連載130緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也130.プロスタグランジン関連薬の比較中野聡子久保田敏昭大分大学医学部眼科プロスト系プロスタグランジン関連薬は,1日1回点眼で終日持続する強力な眼圧下降・日内変動抑制効果を有し,連用による減弱や全身副作用がない優れた薬剤である.わが国では4種の薬剤が使用可能で,それぞれの特徴を踏まえ,患者ごとに有効性,安全性,アドヒアランス,経済性を見きわめながら選択することが重要である.プロストン系系統プロスタノイドプロスタグランジン(PG)関連薬プロスタマイドプロスト系一般名ウノプロストンラタノプロストトラボプロストタフルプロストビマトプロスト主な国内製剤レスキュラR0.12%キサラタンR0.005%トラバタンズR0.004%タプロスR0.0015%ルミガンR0.03%点眼回数1日2回1日1回1日1回1日1回1日1回pH5.0~6.56.5~6.9約5.75.7~6.36.9~7.5防腐剤BAC0.005%BAC0.02%sofZiaTMBAC0.001%BAC0.005%貯法遮光,室温遮光,2~8℃1~25℃室温室温国内発売1994年1999年2007年2008年2009年ジェネリック医薬品ありありその他ディンプルボトルRBAC:塩化ベンザルコニウム,sofZiaTM:イオン緩衝系防腐剤.図1プロスタグランジン(PG)関連薬の特徴(2010年12月現在)PG関連薬はプロストン系(ウノプロストン)とプロスト系に大別される.プロスト系は,プロスタノイド誘導体(ラタノプロスト・トラボプロスト・タフルプロスト)と,プロスタマイド誘導体(ビマトプロスト)がある.512あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011ストの傾向にあるとされる.ラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの3剤を比較した自験例では,ビマトプロストが最も眼圧下降が良好であった(図2).プロスタノイド誘導体3剤の効果はほぼ同等で,プロスタマイド誘導体であるビマトプロストはやや効果が強い可能性がある.海外製剤のトラボプロスト(トラバタンR)は防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAC)を含有し,国内製剤(トラバタンズR)はホウ酸と亜鉛によるイオン緩衝系システム(sofZiaTM)を用いているが,同等の眼圧下降効果を示す.タフルプロストは,正常眼圧緑内障に対する強いエビデンス3)を有する.機序は不明であるが,各プロスト系薬剤への反応には個人差があり,ノンレスポンダーが10.40%存在する4).これまでは他系統の薬剤への変更・併用を要したが,別のプロスト系製剤を試みることで,プロスト系製剤1剤による治療が継続できる可能性がある.●その他の特徴各製剤の特徴を図1に示す.副作用には眼瞼・虹彩色素沈着,睫毛成長,眼周囲皮膚の多毛,結膜充血,角膜上皮障害,deepuppereyelidsulcus(DUES)などがある.結膜充血はラタノプロスト<トラボプロスト≒ビマトプロストの傾向1,5)とされ,自験例ではラタノプロスト≒タフルプロスト<ビマトプロストであった(図3).なお,プロスト系製剤間の切り替えでは充血が目立たないことが多く,継続使用で軽減することもある.角膜上皮障害は基剤やBAC濃度に影響され6),多剤併用例や(56)ドライアイや糖尿病を基礎疾患にもつ症例では考慮を要する.まとめプロスト系薬剤は,他系統の薬剤と比較して優れた点が多い.各製剤の特徴を踏まえ,患者ごとに有効性,安全性,アドヒアランス,経済性を見きわめながら選択する.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)桑山泰明,米虫節夫,タフルプロスト共同試験グループほか:正常眼圧緑内障を対象とした0.0015%タフルプロストの眼圧下降効果に関するプラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検第III相臨床試験.日眼会誌114:436-443,20104)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOphthalmol135:55-63,20035)HonrubiaF,Garcia-SanchezJ,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,20096)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,2008患者数(%)平均眼圧下降率<20%20~30%≧30%806040200****■:ラタノプロスト■:タフルプロスト■:ビマトプロスト図2眼圧下降率正常眼圧緑内障を含む原発開放隅角緑内障,高眼圧症を対象とした自験例では,ビマトプロストは眼圧下降率30%以上の眼圧下降良好例が多く,20%以下の眼圧下降不良例が少なかった(n=27,12週間,**:p<0.01,*:p<0.05).平均球結膜充血スコア3210ラタノプロストタフルプロストビマトプロスト***図3結膜充血スコアプロスト系単剤治療群の球結膜充血の程度を4段階(なし,軽度,中等度,重度)で評価した.ラタノプロストとタフルプロストと比較して,ビマトプロストで有意に充血が強かった(n=27,12週間,**p<0.01,*:p<0.05).

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーフラップの特徴

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115090910-1810/11/\100/頁/JCOPYフェムトセカンド(FS)レーザーは波長1,053nmの近赤外線レーザーで,角膜実質内で焦点を結ぶと球形のプラズマ爆発(直径1.3μm)が発生する.これが周囲組織に熱変性や衝撃を与えることなく分子レベルで組織を分離し,この小さな点を連続させることで面としての間隙を作り角膜フラップを作製する.手術手技は,サクションリングを強膜に吸着させた後,アプラネーションコーンをサクションリング内に下降させドッキングさせる.角膜を圧平したらレーザーを照射する.最初にポケット(フラップ作製時に発生する気泡を切除面から放出するための場所)が作製され,つぎに設定した深さでのベッド面が切開され,最後にサイドカットが切開されフラップが完成する(図1).フラップ作製時間は,当院で使用しているiFSTMAdvancedFemtosecondlaser(iFSTM,150kHz,AMO社)で約10秒である.●FSレーザーフラップの特徴1.フラップ作製に関する特徴マイクロケラトーム(MK)によるフラップ作製は数種のヘッドとサクションリングの組み合わせで形状が決まるが,個々の角膜に十分に合わせることはできない.角膜屈折力K<40D,K>46Dの場合にボタンホールやフリーフラップなど合併症のリスクも高くフラップ作製が困難である.FSレーザーによるフラップ作製はフラップ厚(90.400μm),フラップ直径(5.0.9.5mm),サイドカットアングル(30.150°),ヒンジ位置などの各種パラメータを任意に設定することができ,術者が計画した形状のフラップを精密かつ安全に作製することができる.作製されたフラップ厚の誤差は±10μm以内とMKの±25μmと比べて精密である.フラップ作製途中にサクションブレイクが起こるとMKの場合は手術が中止となるが,FSレーザーは再現性に優れており,同じアプラネーションコーンを使用すれば手術を続行することもできる.MKの機械的トラブルやサクションリングによる急激な高眼圧などのリスクも減少した.つぎに,FSレーザー特有の現象に不透過性気泡層(53)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載131監修=木下茂大橋裕一坪田一男131.フェムトセカンドレーザーフラップの特徴福岡佐知子多根記念眼科病院フェムトセカンドレーザーは光切断とよばれるプロセスにより組織を精密に分離する近赤外線光である.このレーザーによるLASIK(laserinsitukeratomileusis)のフラップ作製は,全過程をコンピュータ制御で,術者が計画したとおりの形状のフラップを安全で高精度に作製することができる.SidecutFlapbedHingePocketSidecutangleSuctionringApplanationconeCorneaSidecutFlapbed図1FSレーザーによるフラップ作製の模式図Pocket→Flapbed→Sidecutの順に作製される.SidecutangleはiFSTMで最大150°のシャープエッジを作製できる.図2不透過性気泡層(OBL)切除面上下の層内に発生する強く白い気泡.510あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(opaquebubblelayer:OBL)がある(図2).これは切除面上下の層内に発生する強く白い気泡で,角膜含水率が高い場合やFSレーザーの設定,フラップ作製位置が適切でない場合に発生する.過度のOBLはレーザー照射を妨げ,フラップとベッド間の分離が十分にできず,フラップのリフトが困難になったり,アイトラッキングの妨げとなることもある.これはレーザー設定の調整により軽減でき,過度に発生しても慎重に手術を行えばトラブルになるものではない.2.フラップの形態学的特徴MKで作製されるフラップの形状は中心が薄く周辺が厚いメニスカスフラップであるが,FSレーザーは角膜を圧平してフラップを作製するので角膜形状や厚さに影響されず,均一な厚みのプラナーフラップができる.これはフラップ作製による惹起収差が少なくカスタム照射に適している1).また,MKのように広範囲に深部角膜神経を断絶しないのでドライアイの訴えが少ない2).フラップのエッジはiFSTMの場合,最大150°の「bevelin」フラップを作製することが可能で,フラップを戻した際のずれが少なくフラップの皺や角膜上皮迷入が起こりにくい(図1,図3の右上→).iFSTMに搭載されたもう一つの新しい機能に楕円フラップがある.これは拡大したヒンジ角度を維持し,フラップの安定性を改善しながら照射面を大きく確保できるという利点があり,パンヌスのある眼に適している.つぎに豚眼角膜で作製したフラップの走査電子顕微鏡像を示す(図3).MKはブレードで組織を切離しているため断面はスムーズであるが,FSレーザーは光切断法で組織を分離しているため,電子顕微鏡でみると毛羽立っている.過度の粗い断面はカスタム照射に影響するが,このような適度な性状の断面は摩擦抵抗が大きく外力に強いと推察され,さらにシャープエッジも加わり,フラップの生体力学的強度,接着力,フラップの安定性が優れていると考えられる.おわりに屈折異常に対し,オーダーメイドであるカスタム照射が早くから施術されていたが,フラップ作製に関しては遅れていた.FSレーザーの登場でようやく個々に合わせた形状のフラップ作製が可能となった.術中コンピュータ制御で精密かつ安全に作製できる安心感,術後のフラップの安定感は,LASIKの適応の拡大と,術者のストレスを軽減させた.今後さらなるFSレーザーの進歩を期待している.文献1)DurrieDS,KezirianGM:Femtosecondlaserversusmechanicalkeratomeflapsinwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis:prospectivecontralateraleyestudy.JCataractRefractSurg31:120-126,20052)NordanLT,SladeSG,BakerRNetal:Femtosecondlaserflapcreationforlaserinsitukeratomileusis:six-monthfollowupofinitialU.S.clinicalseries.JRefractSurg19:8-14,2003(54)….左上:MK(MoriaM2)×50倍右上:FSレーザー(iFSTM)×50倍左下:MK(MoriaM2)×1,000倍右下:FSレーザー(iFSTM)×1,000倍図3豚眼角膜で作製したフラップ断面の走査電子顕微鏡写真※:フラップのベッド面.下図はベッド面の1,000倍拡大画像.ベッド面の性状はMKは作製過程が切離のためスムーズで,FSレーザーは分離のためやや粗い.→:フラップのエッジ.MKはメニスカスフラップでエッジはなだらかな曲線.FSレーザーはシャープエッジ.

多焦点眼内レンズ:回折型でなく屈折型がいい症例

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115070910-1810/11/\100/頁/JCOPY2005年頃より新世代の多焦点眼内レンズ(IOL)を用いた白内障手術が欧米を中心に開始され,わが国でも2007年より順次使用可能になった.現在では大きく分類して屈折型,回折型から選択することが可能である.これらは光学特性が異なるために,その特徴を考慮して選択する必要がある.本稿では,この2種類の多焦点IOLのうち,屈折型を選択することが望ましい場合について考察する.ReZoomR2007年よりわが国でも使用可能になった屈折型多焦点IOLは疎水性アクリル製,光学径6.0mm,全長13.0mmのAMO社製のReZoomRである.本レンズは,同社の屈折型多焦点IOLであるArrayRの後継モデルである.ArrayRと同様に,光学部中心より遠用,近用,遠用,近用,遠用の5つの光学ゾーンが配置されているが,ArrayRで問題とされていた夜間のグレア・ハロー現象の軽減と,中間視へのエネルギー配分の増加を目的としてその配分が変更されている(図1).中心から3番目の遠用部がArrayRに比べて80%増加しているのに対して,その外側の近用部は55%減少していることによって,暗所視および薄暮視では,遠用部を通過する光配分が増加するために,遠方視力が向上するとともにグレア・ハロー現象の軽減が期待される.本IOLは回折型多焦点IOLと異なり,回折現象によって失われる光学的エネルギーがないため,理論上はコントラスト感度の低下を生じにくい.しかし,光学的エネルギー配分が瞳孔径に左右され,瞳孔径が小さくなると近方視力が低下する(表1).また,近用加入度数は+3.5D(眼鏡面では約+2.0D)であるため,回折型多焦点IOLと比べると近方視力が劣ってしまう.白内障手術を受ける症例のほとんどは,若年者に比べて瞳孔径が小さい高齢者であるため,実際に使用されている多焦点IOLの数では回折型が屈折型を大きく上回っている.屈折型多焦点IOLが適している症例前述した事柄を踏まえながら,回折型よりも屈折型多(51)●連載⑯多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子16.回折型でなく屈折型がいい症例柴琢也東京慈恵会医科大学眼科屈折型多焦点眼内レンズ(IOL)は,回折型多焦点IOLに比べて近方視力が不良であると考えられていることより,あまり使用されなくなっている.しかし遠方および中間距離の視機能が良好であるため,若年症例に対しては,回折型多焦点IOLでは獲得しえない利点を提供することが可能である.Zone….ReZoomRArrayR……5..6.0mm6.0mm4..4.6mm4.6mm-55%3..4.3mm3.9mm+80%2..3.45mm3.4mm+5%1..2.1mm2.1mm図1ReZoomRとArrayRの光学部デザインの比較ReZoomR,ArrayRともに,光学部中心より遠用,近用,遠用,近用,遠用の5つの光学ゾーンが配置されているが,その配分が異なる.表1ReZoomRの光学的エネルギー配分瞳孔径エネルギー配分(%)近距離中間距離遠距離光の損失2mm0%17%83%0%5mm30%10%60%0%ReZoomRは回折現象によって失われる光学的エネルギーがないが,光学的エネルギー配分が瞳孔径に左右され,瞳孔径が小さくなると近方視力が低下する.508あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011焦点IOLが適している症例について,その利点と問題点を基に考按する.1.利点(遠方視機能が良好)屈折型多焦点IOLの回折型多焦点IOLに対する優位点の一つに,遠方の視機能が単焦点IOLと同様に良好であることがあげられる.遠方視力が良好であることだけでなく,コントラスト感度も同様に良好である.したがって,僚眼に白内障を認めない片眼性の白内障症例に対して用いても,遜色のない遠方視機能を得ることが可能である.図2は当院で手術を施行した症例の全距離視力であるが,他の回折型多焦点IOLと比べて遠方視力は有意に良好であった.つぎに当院の症例を提示する.症例は23歳,男性,大学4年生であるが,右眼の前.下白内障および後.下白内障を認めた.術前視力はVD=0.03(0.07×.3.00D),VS=0.03(1.5×.5.50D(cyl.0.50DAx160°)であった.十分なインフォームド・コンセントの下で右眼に対して水晶体再建術,多焦点IOL挿入術(ReZoomR)を遠方を正視狙いで施行し,白内障のない両眼に対してはエキシマレーザー屈折矯正手術(LASIK:laserinsitukeratomileusis)を施行した.術後遠方視力は,VD=1.2×IOL(1.5×+0.50D(cyl.1.00DAx170°),VS=1.5(1.5cyl.0.75DAx55°),近方視力は,VD=0.9×IOL(1.0×+0.75D(cyl.1.00DAx170°),VS=0.9(1.0cyl.0.75DAx55°)であった.術後視機能を聴取したところ「遠方はIOL挿入眼のほうが見やすく,近方はLASIK眼のほうが見やすい.大満足している.」とのことであった.2.利点(中間距離の視機能が良好)前述のごとく,近方加入度数が眼鏡面で+2.0Dであ(52)るため,中間距離視力は回折型に比べて良好であるとされている.このことはVDT(visualdisplayterminal)作業が多い現代のオフィスワークに適している.3.問題点(近方視力に限界がある)その一方,近方視力は回折型に比べると限界があり,必要度によっては近用眼鏡が必要になる場合がある.全距離視力であるが,他の回折型多焦点IOLと比べて.3.5Dよりもマイナスのレンズを負荷した場合に有意に視力が低下していた.したがって職業上の理由などで,30cm未満の近方を裸眼でよく見える必要がなければReZoomRを挿入したとしても,近方視で不満を自覚することは少ないであろう.再び当院の症例を提示する.症例は46歳,男性,会社員である.右眼の前.下白内障,後.下白内障を認めた.術前視力はVD=0.1(0.2×.2.00D(cyl.2.25DAx85°),VS=0.4(1.5×.1.50D(cyl.1.00DA×50°)であった.本症例は日常は遠用の眼鏡装用を行っており,右眼に対して水晶体再建術,多焦点IOL挿入術(ReZoomR)を,遠方を.1.50Dに合わせて施行した.術後の遠方視力は,VD=0.4×IOL(1.5×.1.75D(cyl.0.50DAx170°),近方視力はVD=1.0×IOL(1.5×.1.75D(cyl.0.50DAx170°)であった.術後視機能については「Glareについては,言われれば感じるが,日常生活では気にならない.近方も十分に見えており非常に満足している.」とのことであった.まとめ以上のように本レンズは良好な視機能を有するため,おもに20~40歳代の症例に対して使用しても遠方視力で不満がでる可能性は少ない.この年代であれば屈折型多焦点IOLの機能を引き出すのに十分な瞳孔径を有しており,中間~近方にかけても実用的な視力を得ることは可能である.しかし,ある程度の年齢になり瞳孔径が小さくなってくると,中間~近方にかけては若年~壮年時に比べると低下するであろう.しかし,その頃は手術を受けていない僚眼も老視の問題がでており,必要に応じて眼鏡装用を行う必要があろう.また,その僚眼が白内障になれば,年齢に合わせて回折型多焦点IOL挿入を行えば,mixandmutchを行うことが可能である.回折型に比べて多いといわれているグレア・ハロー現象といわれる見え方については,皆無ではないがこのことについて強く不満を訴える症例を筆者は経験していない.2.01.00.1+2.00+1.000-1.00-2.00-3.00-4.00-5.00ReZoomRReSTORRTECNISMultifocalRp<0.01,unpairedt-test図3多焦点IOL挿入眼の全距離視力ReZoomR挿入眼は,回折型多焦点IOL挿入眼に比べて遠方視力は有意に良好である.

眼内レンズ:先天性水晶体欠損症

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115050910-1810/11/\100/頁/JCOPY先天性水晶体欠損症は,水晶体赤道部辺縁の一部が欠損する形態異常である1).本症はしばしば白内障を併発し,視力低下をきたすことが知られており,これまでに超音波水晶体乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ(IOL)挿入術2)や,IOL毛様溝縫着術3)を行って視力を改善したという報告がある.一方,白内障の併発を認めない場合においても,水晶体欠損による水晶体形状異常により高次収差が生じて,視機能に悪影響を及ぼすことがある.(49)●症例患者は12歳,男性,左眼の視力低下を主訴に来院.初診時,VD=(1.0×.2.75D),VS=(0.1×(cyl.6.0D星崇仁大鹿哲郎筑波大学臨床医学系眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎296.先天性水晶体欠損症先天性水晶体欠損症は,Zinn小帯の一部が欠損,または疎になっているために,水晶体の形態異常をきたす病態である.そのため,著しい高次収差を生じ,視機能障害をきたすことがある.本症に対して水晶体.拡張リングを用いた手術を行うことにより高次収差を解消し,視機能を回復することが可能であった.図1水晶体欠損症例の細隙灯顕微鏡所見上方の水晶体欠損を認め,欠損部ではZinn小帯が疎になっている.図3術前の角膜形状解析軽度の正乱視(直乱視)を認めるのみで,角膜由来の高次収差は認められない.図4術前の高次収差角膜(上段)の収差は正常範囲内だが,眼球(下段)の収差が著しく増大し,Landolt環シミュレーション(右)でも像のぼけが強い.図2EAS.1000による徹照像Ax20°)と左眼の視力低下を認めた.上方の水晶体欠損を認め,欠損部のZinn小帯は疎であった(図1,2).上方やや中央寄りに限局性の混濁を認めるものの,水晶体は全体的に透明で,明らかな白内障の状態ではなかった.角膜形状解析では軽度の正乱視を認めるのみで,強い角膜乱視および不正乱視はみられなかった(図3).波面センサーによる解析では,角膜の低次および高次収差は正常範囲であるものの,眼球全体の収差が著しく増えており,すなわち水晶体の変形による非対称性収差(コマ収差)の増大が視機能障害の原因と考えられた(図4).Landolt環シミュレーションでも,網膜像のぼけが非常に強いことから,手術による治療を行うこととした.手術中,10時~12時のZinn小帯が伸びきっている状態が観察されたものの,その他の部位のZinn小帯に脆弱性はなく,通常の前.切開,PEA,皮質吸引を行うことができた.その後,水晶体.拡張リング(capsulartensionring:CTR)を角膜サイドポートから.内に挿入し(図5),欠損部を押し広げたのち,IOLを.内に挿入した.欠損部のCTRが瞳孔領に見られるため,まだ完全に水晶体.は拡張されていないと思われるが,IOLの位置はおおむね良好と判断された(図6).術後,波面センサーによる解析では,術前の強い高次収差がほぼ解消され(図7),Landolt環シミュレーション像もはっきりするとともに,自覚症状の著明な改善が得られた.文献1)KaempfferR:Colobomalentiscongenitum.GraefesArchOphthalmol48:558-637,18992)長尾泰子,高須逸平,岡信宏隆ほか:両眼先天性水晶体欠損に対して水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した1例.臨眼60:197-200,20063)隅田亜希,池田華子,松川みうほか:両眼性水晶体欠損に対して水晶体乳化吸引および眼内レンズ毛様溝縫着を施行した1例.眼科手術22:389-393,2009図5水晶体.拡張リング(CTR)の挿入皮質を除去した後にCTRを角膜サイドポートから.内に挿入し,水晶体.を拡張した.図6IOL.内固定CTRの一部がまだ見えているが,IOLの位置はおおむね良好であった.図7術後の高次収差収差は著明に改善し,Landolt環シミュレーション像もはっきりしている.

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 カラーコンタクトレンズ(その1)

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115030910-1810/11/\100/頁/JCOPYコンタクトレンズ(CL)は,高度近視や不同視などの医学的な理由よりも眼鏡をかけたくないという理由で使用している者が多い.今回は,虹彩付きカラーコンタクトレンズ(カラーCL)にはどのようなものがあるかを説明したい.カラーCLは,もともと,外傷による虹彩欠損や角膜白斑を隠す美容目的として開発されたが,角膜径を大きくみせたり,虹彩色を変えるなどおしゃれ目的で使用されることのほうが圧倒的に多くなってきた.つけ睫毛やエクステなど眼のまわりの化粧が派手になるとともに,カラーCLも派手なものが好まれ,未承認のカラーCLをインターネット通販や雑貨店などで購入する傾向がある.したがって,眼科専門医に受診することは非常に少なく,眼障害を起こしてからはじめて眼科専門医に受診する.●デザインによる分類カラーCLは,着色デザインにより2種類に分けられる.一つは,もともとの装用者の虹彩の色を隠して,CL色を虹彩色としてみせるOpaqueタイプで,以前はすべてこのタイプであった.もう一つは,虹彩色を変え(47)るのではなく,角膜周辺部を強調させるEnhanceタイプである.欧米人は,髪の色や虹彩色がさまざまで,髪の色を変えるように虹彩色を変えてみたいという要望で,OpaqueタイプのカラーCL(図1)が使用され始めた.Opaqueタイプのなかでは,エレガンス(NaturalTouchTM)のデザインが虹彩色も変えるが角膜径を大きく見せるということで使用者が多かった(図2).それを改良し,茶色.黒色の虹彩色のアジア人にEnhanceタイプとして流行しはじめた(図3).現在のところ,欧米人にはEnhanceタイプは必要とされず,ワンデーアキュビューRディファインTMはアメリカでは発売されていない.●装用スケジュールによる分類承認されたカラーCLには,従来型,頻回交換,1日使い捨てなどの装用スケジュールがある.●未承認のカラーCLとはカラーCLは,まず2つのグループに分けて考えなければならない.一つは,臨床試験を行い厚生労働省の高渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法322.カラーコンタクトレンズ(その1)図1OpaqueタイプのカラーCL虹彩色を変える目的のデザイン.図2OpaqueタイプとEnhanceタイプの両方のデザインのカラーCL(NaturalTouchTM)虹彩色を変える目的であったが,角膜の輪郭もはっきりするデザイン.図3EnhanceタイプのカラーCL(ワンデーアキュビューRディファインTM)角膜の輪郭を大きくはっきりさせる目的のデザイン.504あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(00)度管理医療機器の承認を受けて販売されているカラーCL(承認カラーCL)である.もう一つは,玩具(おもちゃ)として輸入して,消費者に売るときにはCLと思わせ販売しているおもちゃのカラーCL(未承認カラーCL)である.未承認カラーCLは,臨床試験は行われていないため,安全性も確認できていない.また,未承認カラーCLは,医師の診察をまったく受けずに購入するため,消毒方法を知らず,レンズケースさえ持たない装用者がおり,誤用による眼障害が非常に多くみられる.●度数なしのカラーCLの扱い医療関係者であれば,何故,未承認カラーCLが堂々と販売されているのかという疑問をもつであろう.日本コンタクトレンズ学会は,厚生労働省に対して未承認カラーCLの販売を禁止するよう要望を出したが,当時は「度数の入っていないCLは視力補正をしないので,CLではない」という見解であった.実際には,度数の入っている未承認カラーCLも同じように通販や雑貨店で販売されており,学会や眼科医会から販売中止の要望を続けた結果,2008年に「度数の入っていないCLもCLと同じ扱いにする」と厚生労働省が変更を認め,2011年2月4日には未承認カラーCLは小売販売店での販売ができなくなった.しかし,残念なことに海外からの並行輸入という入手方法があり,現在も,インターネット市場は増大しているようである.参考文献・コンタクトレンズを考える会:カラーレンズ.コンタクトレンズデータブック(改訂2版),p89.98,メジカルビュー社,2006

写真:重症薬疹における遷延性上皮欠損

2011年4月30日 土曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.4,20115010910-1810/11/\100/頁/JCOPY(45)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦323.重症薬疹における遷延性上皮欠損上田真由美外園千恵京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学図1亜急性期Stevens.Johnson症候群患者の遷延性上皮欠損角膜上皮幹細胞がすべて消失して角膜に結膜組織が侵入した後も上皮欠損が継続している.①②③④図2図1のシェーマ①:結膜組織の侵入,②:遷延性上皮欠損,③:結膜上皮の侵入,④:瞼球癒着.図3図1のフルオレセイン染色上皮欠損部がフルオレセイン染色で染色され,その周囲の上皮は結膜上皮の染色像を示す.図4急性期Stevens.Johnson症候群患者の眼所見Stevens-Johnson症候群ならびに中毒性表皮壊死融解症の急性期には,皮疹・粘膜疹とほぼ同時に両眼性に急性結膜炎を生じ,角結膜上皮障害,偽膜の形成,睫毛の脱落がみられる.502あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(00)遷延性上皮欠損とは,何らかの要因で角膜上皮欠損を生じ,正常な創傷治癒機転が働かないままに上皮欠損が遷延化した状態をさす.遷延性上皮欠損は感染を伴うリスクが高いことに加えて,非感染性の実質融解,さらには角膜穿孔をきたすことがある.遷延性上皮欠損の要因としては熱・化学外傷,点眼薬(b遮断薬,防腐剤)による薬剤毒性,角膜ヘルペス,三叉神経麻痺,糖尿病などがよく知られている.さらには,重症薬疹であるStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)ならびにその重症型とされる中毒性表皮壊死融解症(toxicepidermalnecrolysis:TEN)においても,急性期に生じた角膜ならびに結膜上皮欠損が遷延化し,重篤な視力障害の原因となることを覚えておきたい(図1,3).SJSならびにTENは,突然の高熱に伴って全身の皮膚および粘膜に発疹,びらんを生じる.発疹が体表面積の10%未満がSJS,10%以上がTENとされる.眼障害の合併率は50.70%程度とされているが,眼障害患者では約8割が発疹を生ずる前に感冒様症状を自覚しており,それに対する薬剤(総合感冒薬,解熱鎮痛薬,抗菌薬など)の服用後に発疹を生じている.皮疹・粘膜疹の数日前,あるいはほぼ同時に両眼性の結膜充血を生じ,しばしば角結膜上皮欠損,偽膜の形成,睫毛の脱落を伴う(図4).このとき眼表面には著しい炎症が存在し,消炎できないままであると角結膜上皮欠損が拡大し,かつ遷延化する.広範な角結膜上皮欠損は角膜上皮幹細胞の消失を招き,角膜に結膜組織が侵入してもなお上皮欠損が継続し(図1,3),角膜穿孔や感染の危険が継続する.角結膜上皮欠損が遷延する急性期ならびに亜急性期のSJS/TEN患者に対しては,ベタメタゾン点眼および軟膏を処方することに加えて,皮膚科医と相談のうえ,感染に注意をしながら全身性にステロイド薬投与の増量または免疫抑制薬であるシクロスポリン内服を追加し,消炎をはかる.しかし,保存的治療では上皮欠損が治癒しても角膜は厚い結膜組織で被覆され,高度の視力障害に陥る.筆者らの施設で2002年以降に実施している培養口腔粘膜上皮移植は,このような急性炎症を伴う遷延性上皮欠損の上皮化および消炎に有効である.ただし,いったん破壊された眼表面を元に戻すことはできない.SJSおよびTENの急性期には全身ならびに眼局所の消炎を十分に行い,角結膜上皮障害を速やかに治癒させて角膜上皮幹細胞を維持し,視機能を保持することが最善の治療である.謝辞:本総説は厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)の援助を受けた.文献1)相原道子ほか:Steven-Johnson症候群および中毒性表皮壊死症(TEN)の治療指針─平成20年度厚生省労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)重症多型滲出性紅斑に関する調査研究班による治療指針2009の解説─.日本皮膚科学学会雑誌119:2157-2163,20092)外園千恵:SJSとTENの眼合併症.最新皮膚科学体系2008-2009,p182-188,中山書店,20083)上田真由美,外園千恵:Stevens-Johnson症候群(SJS)の早期診断と早期治療のポイントは?.EBMアレルギー疾患の治療,p382-386,中外医学社,20084)上田真由美,外園千恵:重症薬疹では眼病変に注意.WHAT’SNEWIN皮膚科学,p86-87,メディカルレビュー社,2010

ぶどう膜炎における基礎研究の進歩―病態解析から新規治療法の開発へ―

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYに対して,それを標的とした治療法を開発し,その結果をもとにヒトへ応用されてきた.また,近年では遺伝子や蛋白質の網羅的解析による手段の増加により,患者検体から直接治療標的分子の同定が可能となり,ヒトで得られた知見を再び動物実験や試験管内の研究に還元し,新規治療法の開発につながるトランスレーショナルリサーチも行われている.ぶどう膜炎は多岐にわたるため,本稿では誌面の都合上,自己免疫機序が証明されているぶどう膜炎の基礎研究について最新の知見をまとめ,今後の研究の方向性を考えてみたい.はじめに近年の基礎研究の急速な進歩と臨床研究から得られるエビデンスの蓄積により,ヒトぶどう膜炎の臨床を取り巻く環境もinfliximabを代表とする治療薬の登場により劇的な変貌を遂げつつある.Infliximabはぶどう膜炎においてはじめての単一分子を標的とした免疫治療であり,このような新規治療法の開発にあたってはモデル動物や試験管内を基盤とした基礎研究に寄与することが大きい.現在までのぶどう膜炎における基礎研究は,実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)(図1)に代表されるぶどう膜炎の動物モデルを用いて同定した病因となる分子や免疫細胞(39)495*YoshihikoUsui:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕臼井嘉彦:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):495.499,2011ぶどう膜炎における基礎研究の進歩─病態解析から新規治療法の開発へ─ProgressinBasicResearchonUveitis:FromAnalysisofPathophysiologytoDevelopmentofNewTreatment臼井嘉彦*ABC図1実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)EAUマウスの網膜に血管炎(A)および白色滲出斑(B)がみられる.EAUの病理組織像(C)では好中球やリンパ球など多数の炎症細胞の浸潤がみられる.496あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(40)要であるToll-likereceptorの異常においてヒトぶどう膜炎の関与が見出され,実験的自己免疫性ぶどう膜炎やヒトぶどう膜炎は自然免疫と獲得免疫の両者の破綻と捉える考え方が進んできた.IIEAU,ヒトぶどう膜炎におけるTh1細胞とTh17細胞(図3)実験的自己免疫性ぶどう膜炎では,インターフェロン(IFN)-gノックアウトマウスでは劇症化するという報告があり,EAUのTh1仮説における矛盾であった.その後,IL-23にはCD4+T細胞のIL-17産生を増加させる作用があることが明らかとなり,それがTh1やTh2細胞とは異なるTh17細胞としてEAUやヒトぶどう膜炎におけるTh17細胞の役割に注目が集まるようになった4).さらにIL-17欠損マウスやIL-17の中和抗体を投与したマウスではEAUが軽減されることが示されている.ヒトぶどう膜炎においてはTh1サイトカインとTh17サイトカインがVogt-小柳-原田病,Behcet病,サルコイドーシスの病態形成に重要な役割を果たしていることが数多く報告されている.マウスTh17細胞の分化がナイーブCD4+T細胞をトランスフォーミング増殖因子(TGF)-bとIL-6の存在下で抗原に曝露させることで誘導される.これに対し,ヒトTh17細胞分化にはIL-1bやIL-23が重要な役割を果たす可能性が報告されている.Th17細胞の特徴とIぶどう膜炎における自己免疫機序ぶどう膜炎の炎症機序には,自己免疫機序が証明されているものもあれば,いまだ明らかでないものもある.Behcet病ではレンサ球菌1),サルコイドーシスではアクネ菌や抗酸菌2),Vogt-小柳-原田病ではtyrosinase3)が自己抗原となって発症する可能性が示唆されている.さらにその発症機構に活性化CD4+T細胞が中心的な役割を果たし,病態形成に重要な役割を果たしていると考えられている.EAUにおいてもヒトぶどう膜炎と同様にCD4+T細胞が重要な役割を果たしている(図2).ひと昔前には,EAUやヒトぶどう膜炎の病態を獲得免疫応答の異常,なかでもCD4+T細胞から産生されるヘルパーT細胞(Th)1/Th2サイトカインバランスの異常で考えるのが主流であり確固とした地位を築いてきた.このTh1/Th2パラダイムにも近年,大きな変革が押し寄せている.Th1,Th2細胞につぐ第3のエフェクターT細胞サブセットとして同定され,強力な炎症惹起能を有するインターロイキン(IL)-17を産生するTh17細胞やエフェクターT細胞の機能を抑制するCD25+CD4+制御性T細胞の発見,自然免疫応答に重図2Invitroにおける抗原刺激によるCD4+T細胞の増殖マウスの頸部にIRBP(interphotoreceptorretinoidbindingprotein)ペプチドを免疫すると,所属リンパ節でCD4+T細胞は活性化される.この活性化CD4+T細胞が所属リンパ節から眼内に浸潤し,抗原刺激をうけて分裂増殖する.Invitroにおいても抗原刺激によりCD4+T細胞が分裂・増殖している.……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………..図3抗原提示細胞とCD4+T細胞の相互作用多種多様な免疫の相互作用は抗原特異的レセプターを介するシグナル(第1シグナル)に加え,免疫反応を増大させる活性型補助シグナルと減弱させる抑制型補助シグナルがある.(41)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011497う活性型補助シグナル分子が最も有意な発現差異を認めた7).また,ICOS経路を阻害することで活動期Behcet病患者の末梢血単核球やEAUの発症期を抑制することから新規治療法の可能性も考えられる8).さらに,CD4+T細胞上に発現するICOSがBehcet病患者のTh1およびTh17サイトカイン産生に関与し,疾患活動性の指標になりうる可能性がある.眼局所における補助シグナル分子がぶどう膜炎の病態や病因の解明に有用であるとする報告も近年増加している9.11).このように免疫細胞のみならず眼局所の細胞に補助シグナル分子が発現していることは大変興味深く,補助シグナル分子の基礎研究と臨床応用へのトランスレーションがぶどう膜炎の解明や治療にさらなる進歩をもたらすことが期待される.IVぶどう膜炎における制御性T細胞の関与活性型T細胞の増殖やサイトカイン分泌を抑制するCD4+CD25+制御性T細胞が免疫寛容において重要な役割を果たし,その数や機能の異常によってさまざまな自己免疫現象が観察される.近年ではこの細胞のマーカーで機能分化を司る転写因子Foxp3が同定されている.EAUにおいても,この細胞が病気の抑制に関わることが証明されている.抗CD25抗体でCD4+CD25+制御性T細胞を除去してからEAUを誘導すると,その発症率や重症度の悪化が認められ12),またEAUの発症期にCD4+CD25+制御性T細胞を移入すると,軽症化することが知られている13).これらのことから,EAUの重してケモカインレセプターCCR6を発現することが知られているが,これはヒトとマウスのTh17細胞で共通している5).この結果はヒト,マウスともにCCR6がTh17分化に重要である点は一致しているものの,マウスの実験結果がヒトにおいて必ずしも当てはまらないことを意味している.しかし,EAUの実験結果をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないものの,もしヒトぶどう膜炎でのTh17の重要性が明らかになれば,infliximabとは異なる作用機序をもつCCR6を標的とした分子阻害薬が適用できる可能性は十分にあると考えられる.さらに,近年ではIL-9やIL-10を産生する新規のCD4+T細胞群であるTh9細胞にも注目が集まっている.しかし,ヒトぶどう膜炎の病態におけるTh9細胞の意義は明らかにされておらず,今後の主要な検討課題の一つである6).IIIぶどう膜炎における活性型リンパ球上の補助シグナル分子Th1またはTh17サイトカインを産生するCD4+T細胞の活性化には,抗原受容体であるT細胞受容体(TCR)からの第1シグナルに加え,抗原提示細胞からの種々の補助シグナル分子を介したシグナルが必要であり,この補助シグナルによって多様な免疫反応が惹起される.また,CD4+T細胞は補助シグナルなしにTCRからのシグナルのみが加わると,単に活性化されないだけでなく,再びその抗原によって刺激が加わった際に活性化されなくなるアナジーという状態や制御性T細胞に分化することが知られている.このように,補助シグナル分子にはT細胞を活性化させる活性型の補助シグナルとT細胞を抑制する抑制型補助シグナルがある(図4).前者は,抗原特異的なT細胞増殖や,Th1やTh17への分化を促すことによって免疫応答をひき起こす.抑制型の補助シグナル分子は抗原特異的なT細胞のアポトーシスやアナジーなどを誘導することにより,免疫反応を抑制する.補助シグナル分子は現在30種類以上報告されているため,筆者らはマイクロアレイによりBehcet病患者末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析を行い,健常者と比較して発現亢進する遺伝子群の同定を試み,その結果,ICOS(induciblecostimulator)とい………………………………………………………………図4マウスCD4+T(Th)細胞の分化と機能IFN-gやTNF(腫瘍壊死因子)-aを産生するTh1細胞とIL-17を産生するTh17細胞が病態をひき起こす病原性T細胞群であると考えられており,これらの細胞機能を制御することで疾患の発症予防や再発における新規治療法となる可能性がある.498あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(42)療の探索はますます重要になってくると思われる.文献1)DireskeneliH:Behcet’sdisesase:infedtiousaetiology,newautoantigens,andHLA-B51.AnnRheumDis60:996-1002,20012)GrunewaldJ:Clinicalaspectsandimmunereactionsinsarcoidosis.ClinRespirJ1:64-73,20073)YamakiK,GochoK,HayakawaKetal:TyrosinasefamilyproteinsareantigensspecifictoVogt-Koyanagi-Haradadisease.JImmunol165:7323-7329,20004)LugerD,CaspiRR:Newperspectiveoneffectormechanismsinuveitis.SeminImmunopathol30:135-143,20085)AnnunziatoF,CosmiL,RomagnaniS:HumanandmurineTh17.CurrOpinHIVAIDS5:114-119,20106)AnnuziatoF,RomagnaniS:HeterogeneityofhumaneffectorCD4+Tcells.ArthritisResTher11:257,20097)UsuiY,TakeuchiM,YamakawaNetal:ExpressionandfunctionofinduciblecostimulatoronperipheralbloodCD4+TcellsinBehcet’spatientswithuveitis:anewactivitymarker?InvestOphthalmolVisSci51:5099-5104,20108)UsuiY,AkibaH,TakeuchiMetal:TheroleoftheICOS/B7RP-1Tcellcostimulatorypathwayinmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitis.EurJImmunol36:3071-3081,20069)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtocytotoxicTlymphocyte-associatedantigen4.JExpMed198:161-171,200310)UsuiY,OkunukiY,HattoriHetal:FunctionalexpressionofB7H1onretinalpigmentepithelialcells.ExpEyeRes86:52-59,200811)SugitaS,UsuiY,HorieSetal:Humancornealendothelialcellsexpressingprogrammeddeath-ligand1(PD-L1)suppressPD-1+Thelper1cellsbyacontact-dependentmechanism.InvestOphthalmolVisSci50:263-272,200912)TakeuchiM,KeinoH,KezukaTetal:Immuneresponsestoretinalself-antigensinCD25(+)CD4(+)regulatoryT-cell-depletedmice.InvestOphthalmolVisSci45:1879-1886,200413)KeinoH,TakeuchiM,UsuiYetal:SupplementationofCD4+CD25+regulatoryTcellssuppressesexperimentalautoimmuneuveoretinitis.BrJOphthalmol91:105-110,200714)SugitaS,YamadaY,KanekoSetal:InductionofregulatoryTcellsbyinfliximabinBehcet’sdisease.InvestOphthalmolVisSci,inpress15)MizukiN,MeguroA,OtaMetal:Genome-wideassociationstudiesidentifyIL23R-IL12RB2andIL10asBehcet’sdisesasesusceptibilityloci.NatGenet42:703-706,201016)RemmersEF,CosanF,KirinoYetal:Genome-wideassociationstudyidentifiesvariantsintheMHCclassI,症度や発症,また予防に関しては制御性T細胞が一定の抑制的役割を有していることがわかっている.ヒトぶどう膜炎においては,infliximabによる治療後にぶどう膜炎患者の末梢血CD4+T細胞内のFoxp3の発現量が上昇し,Foxp3の発現が低いと眼炎症発作が起こりやすいことから,制御性T細胞の機能低下がぶどう膜炎の病態に何らかの関与があることが考えられる14).Vぶどう膜炎と遺伝子異常2010年にゲノムワイド相関解析(GWAS)の手法を用いた大規模コホート解析で,Behcet病における関連一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)と関連候補遺伝子群が報告された15,16).それによりIL-10およびIL23R-IL12RB遺伝子座の2つの領域がBehcet病と強く関連することがわかった.また,GWAS研究ではBehcet病と同様のIL23R-IL12RB2遺伝子座がある染色体1p31に炎症性腸疾患17,18),尋常性乾癬19),強直性脊椎炎20)などでも多数のSNPが明らかとなり,標的とする遺伝子や治療薬による効果が同じである可能性が高い.今後多数のゲノム研究で得られたデータをもとに病態解明や新規治療へと向かうことが期待される.おわりに眼は,従来,「免疫学的特権部位(immuneprivilege)」とされてきたが,そのような部位になぜ自己免疫疾患が起きるかは明確ではなく,いまだに不明な点が多い.実験的自己免疫性ぶどう膜炎の病態の理解に関しては,数々の基礎研究により明らかになりつつある.さらにぶどう膜炎の進行を阻止する治療薬の開発が進んでいるが,動物モデルで有効でもヒトでは十分な効果が認められないことが多い.それぞれのヒトぶどう膜炎により近い適切な動物モデルの開発が望まれるとともに,異なる作用点をもつ新規治療薬による総括的な治療も必要とされる.さらに自己免疫的機序でぶどう膜炎が生じている場合は,抗原特異的T細胞を標的とする必要があり,抗原特異的T細胞を制御しない限りぶどう膜炎の再発はまぬがれないであろう.今後infliximab治療に抵抗を示す症例も現れると思われるため,現在までに得られている数々の基礎研究による知見をもとにした新規治(43)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011499geneticassociationstudyconfirmsIL12BandleadstotheindentificationofIL23Raspsoriasis-riskgenes.AmJHumGenet80:273-290,200720)WellcomeTrustCaseControlConsortium;Australo-Anglo-AmericanSpondylitisConsortium(TASC),BurtonPR,ClaytonDG,CardonLRetal:Associationscanof14,500nonsynonymousSNPsinfourdiseasesidentifiesautoimmunityvariants.NatGenet39:1329-1337,2007IL10,andIL23R-IL12RB2regionsassociatedwithBehcet’sdisesase.NatGenet42:698-702,201017)DuerrRH,TaylorKD,BrantSRetal:Agenome-wideassociationstudyidentifiesIL23Rasaninflammatoryboweldiseasegene.Science314:1461-1463,200618)BarrettJC,HansoulS,NicolaeDLetal:Genome-wideassociationdefinesmorethan30distinctsusceptibilitylociforCrohn’sdisease.NatGenet40:955-962,200819)CargillM,SchrodiSJ,ChangMetal:Alarge-scale