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自己免疫性視神経症

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYI自己免疫性視神経症の分類・特徴・ 診断・治療 1. 分類広義の自己免疫性視神経症として,以下の視神経症が報告されている(表 1).a. p ANCA(MPO ANCA)陽性視神経症抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)は,発熱,体重減少,関節痛,筋肉痛などの全身症状を伴う,血管炎症候群に関与する自己抗体の一つである.ANCA は好中球の細胞質に作用して,種々の細胞質リソソーム酵素や活性酸素を放出させ血管壁を傷害し,血管炎をひき起こして血管閉塞をきたす(ANCA 関連血管炎).蛍光抗体間接法での染色像により,cytoplasmicツꀀ ANCA(c-ANCA)と perinuclear ANCA(p-ANCA)に分類され,近年では抗原の解明により,ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)はじめに本来「自己」を守るはずの免疫反応が,「自己」の組織を抗原として「自己抗体」を作り,過剰な免疫・炎症反応によって器質的障害を生じてしまう病態が,自己免疫疾患である.すでに膠原病を発症している場合もあるが,発症していなくとも,自己抗体の存在が証明されることより自己免疫の機序から視神経炎をきたしたと考える場合に,「自己免疫性視神経症」または「自己免疫性視神経炎」とよんでいる.臨床的には特発性視神経炎と酷似しているが,発症機序や副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)に対する反応性,予後の違いなどから,独立した疾患と考えられるようになった.1982 年の Dutton らによる抗核抗体高値の視神経炎の報告1)以降,各種の自己抗体陽性の視神経症が報告されてきた.さらに最近,視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)の原因抗体として抗アクアポリン 4(aquaporin-4:AQP4)抗体が同定され2),多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)の分類に大きな影響を与えているだけでなく,単独で生じる視神経炎の場合でも原因抗体となりうるか,注目されている.本稿では,自己免疫性疾患の臨床的特徴のほか,井上眼科病院(当院)での視神経炎の自験例において,自己抗体陽性例と陰性例,自己抗体陽性例のうち抗 AQP4抗体陽性例の臨床経過について,若干の知見を得たので報告する.(45)ツꀀ 1343 1 eツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ bツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 2Ma aツꀀツꀀツꀀ a aツꀀツꀀ aツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 273 0035ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 3 20 13 101ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1343 1349,2009自己免疫性視神経症Autoimmune Optic Neuropathy久保玲子*1若倉雅登*2ツꀀ 1自己免疫性視神経症の分類自己免疫性視神経症(狭義):膠原病に随伴した視神経炎自己免疫性視神経症(広義): 自己抗体を認めるが,膠原病を発症していない視神経炎〔例〕・p-ANCA 陽性視神経症・抗リン脂質抗体陽性視神経症・甲状腺関連抗体陽性視神経症・抗 SS 抗体陽性視神経症・抗 AQP4 抗体陽性視神経症———————————————————————- Page 21344あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(46)体は Sjogren 症候群の 48%に認められるが,他疾患における陽性率はきわめて低く,特異性が高い.e. 抗AQP4抗体陽性視神経症2005 年に,視神経と脊髄を病変の主座とする炎症疾患である NMO の原因抗原として,アストロサイトの足突起に多く存在する AQP4 が特定された2).これは視神経にも高密度に存在するため,抗 AQP4 抗体が存在した場合には,視神経に炎症や浮腫をきたすと考えられる.さらには二次的に,狭い視神経管内では容易に圧迫による血液・髄液の循環不全を起こすため,治療に抵抗して視神経萎縮に至りやすいといわれる10).パルス治療をくり返しているうちに視神経に不可逆性変化をきたしてしまうため,初回のパルス治療への反応が不良であった場合には,早期に血漿交換を行うことが提唱されている11).わが国では,抗 AQP4 抗体の測定開始は 2007 年頃からであり,これまで経過不良であった視神経炎症例のなかに,この抗 AQP4 抗体陽性の視神経症が含まれていた可能性がある.2. 特徴自己免疫性視神経症の臨床的特徴を表 2 に示す12,13).3. 診断発症経過などの問診,一般眼科検査,神経眼科的検査〔対光反応および swingingツꀀツꀀ ashlightツꀀ test による相対的瞳孔求心路障害(RAPD)など〕,血液検査などを行う法で PR3-ANCA(c-ANCA,対応抗原 proteinase 3)と MPO-ANCA(p-ANCA, 対 応 抗 原 myeloperoxi-dase)として,検出かつ定量される.特に p-ANCA(MPO-ANCA)は,おもに毛細血管などの微小血管レベルに作用するため視神経の栄養血管障害を起こし,両眼性・難治性の視神経炎となりやすい.報告ではステロイドパルス治療に無反応である症例が多く,また両下肢の痺れや膀胱症状などの脊髄障害を伴っていることもある3).b. 抗リン脂質抗体陽性視神経症抗リン脂質抗体は,抗カルジオリピン抗体,ループスアンチコアグラント,梅毒反応偽陽性(Wassermann 反応陽性+TPHA 陰性)の 3 つの形で検出される.動静脈血栓症や習慣流産,血小板減少症などと関連し,全身性エリテマトーデス(SLE)患者に出現率が高い.中小血管に好発する血栓症を特徴とするために眼症状を呈することがあり,時期をおいた片眼ずつの視力低下が突発し,一過性黒内障発作をくり返す症例が多い4).c. 甲状腺関連抗体陽性視神経症視神経症を惹起する可能性がある甲状腺関連抗体としては,抗サイログロブリン抗体と抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体があげられる.これらの抗体が高値を示すが,画像診断で外眼筋肥大や眼窩脂肪増大などが否定されるもので,自己抗体の関与が推察される橋本脳症(Hashi-moto’sツꀀ encephalopathy)5)と同様に血管炎を基盤に発症するとされており,圧迫が原因であるいわゆる甲状腺眼症の視神経症とは,発症機序が異なると考えられてい る6).d. 抗SS抗体陽性視神経症以前より原発性 Sjogren 症候群に発症した視神経炎がいくつか報告されており7),その発症頻度は 3 4%といわれ,視神経炎で初発することもある.原発性 Sjogren症候群の 10 30%は乾燥症状がないため,視神経炎で発症した際に自己免疫性と診断されにくい.この抗 SS抗体陽性視神経症とは,抗 SS-A または SS-B 抗体が陽性であるのみで,Sjogren 症候群を発症していない視神経炎を指す8).特に抗 SS-A 抗体が高値の場合は,全身性の血管炎を起こすことがあり,抗 SS-A 抗体が陽性のMS は予後不良であるという報告もある9).抗 SS-B 抗表 2自己免疫性視神経症の特徴1. 急激な視力低下で発症.眼窩部痛を伴うことが多い.片眼発症が多いが,経過中に僚眼にも発症することがある2. 易再発性.再発をくり返すうちに不可逆性の視機能障害(視力低下,視野欠損)を残しやすい3. 視神経乳頭所見は,乳頭型,球後型のいずれの形もとるが,経過中に蒼白化していくことが多い4. 中年女性に多い5. 種々の自己抗体が証明される(広義の自己免疫性視神経症)6. すでに自己免疫性疾患を有している場合もある(狭義の自己免疫性視神経症)7. ステロイドパルス療法に応答する例が多く,第一選択であるが,ステロイド依存性になりやすい8. MRI で脱髄所見はない(特発性視神経炎との鑑別)———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091345(47)例やくり返す再発例には,免疫抑制薬などの他治療の併用や変更も検討する.また,比較的高齢な症例に対しては,炎症血管壁での血栓形成を防ぐ目的で,抗血小板凝集剤を併用することが多い.II症例検討1. 症例当院を受診した,初診時原因不明であった視神経症症例に対し,抗 AQP4 抗体を含む自己抗体などの血液検査(表 4)を行い,初診後 6 カ月以上経過を観察できた100 例(男性 27 例,女性 73 例)を検討した.前医での初診時所見などを確認できなかった症例が存在し,それぞれの検討項目において母数が変動している.抗 AQP4(表 3).自己免疫性視神経症に対する特異的な血液検査の詳細を表 4 に示した.筆者らは血管炎の指標として,von Willebrand 因子の定量を治療前後に行い,ステロイド投与量などの治療方針の指標の一つとしている.4. 治療血管炎が基盤にあると考えられるため,原則としてステロイドパルス療法を第一選択とする.一般的には治療反応は良好であるが,ステロイドの減量や中止後に再発をくり返すステロイド依存性の高い症例や,初発でも無効な重症例も存在するため,治療法の選択に苦慮する.当院におけるパルス治療の標準的なプロトコールを図1 に示す.自己免疫性視神経症の場合は,パルス療法のあとは再発予防目的で,副作用が顕性にならない限り 6カ月以上にわたってステロイド薬の維持量を投与している場合が多い.しかし,安易にステロイドの増量をはかったり,パルス治療をくり返す姿勢は慎むべきで,無効表 3診療・検査項目■問診・症状…視力低下,頭痛・眼窩深部痛・動眼痛の有無・既往歴… 他院での治療歴,ステロイド投与歴,糖尿病,骨粗鬆症など・家族歴… 脱髄性疾患,膠原病など自己免疫性疾患,糖尿病など■診察・RAPD(相対的瞳孔求心路障害)の有無・視神経乳頭の形状… 左右差, disc 辺縁の不明瞭化, 小乳頭など・他疾患の検索…副鼻腔炎,眼窩内腫瘍,散瞳下で眼底疾患■検査・視力・眼圧・中心フリッカー検査・精密視野検査…動的視野( Goldmann 視野など) …視力不良例に有用静的視野( Humphrey 視野計,Octopus 視野計など)…視力良好例に有用・血液検査…自己抗体の検索(表 4)・MRI 撮影ツꀀ … 眼窩内病変・脊髄病変・視神経炎症部位の検索 Short T1 inversion recovery(STIR)法 T1 強調画像脂肪抑制造影(特に視神経炎の再発時)…脳内の脱髄巣の検索 Fluid attenuated inversion recovery(FLAIR)画像T2 強調画像表 4自己免疫性視神経症に対する血液検査項目血沈/CRP/von Willebrand 因子…炎症の存在抗核抗体…膠原病全般リウマトイド因子… リ ウ マ チ 性 疾 患 な ど抗 DNA 抗体… 全身性エリテマトーデスなど抗 ds-DNA-IgG 抗体p-ANCA(MPO-ANCA)… p-ANCA 陽性視神経症抗カルジオリピンb2GP I 複合体抗体… 抗リン脂質抗体陽性 視神経症血清梅毒反応(ガラス板法, TPHA 法)ループスアンチコアグラント抗サイログロブリン抗体… 甲状腺関連抗体陽性 視神経症抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体抗 SS-A 抗体・抗 SS-B 抗体… 抗 SS 抗体陽性視神経症抗 AQP4 抗体… 抗 AQP4 抗体陽性 視神経症図 1ステロイドパルス治療の標準プロトコールツꀀ ルプ ドツꀀ ロンツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ プ ドツꀀ ロンツꀀツꀀツꀀ 経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 治療ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ———————————————————————- Page 41346あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(48)と有意差は認めなかった.視力低下がなく,痛みのみで受診した症例は,(+)群41例中7例(17%),( )群46 例中 8 例(17%)に存在した.視力や視野を検討した結果,両眼性での初発は(+)群 3%,( )群 2 0 % と抗体の測定は金沢医科大学神経内科学講座へ依頼し た14).各項目の群間の統計学的な有意差はc2検定を用いた.2. 結果自己抗体陽性群 51 例,男女比 8:43 例〔以下,(+)群〕と自己抗体陰性群 49 例,男女比 19:30 例〔以下,( )群〕を比較(表 5)すると,(+)群の発症年齢は 8 74 歳,平均年齢は 41.0 歳,( )群の発症年齢は 14 75 歳,平均年齢は 39.8 歳であった.女性の比率は,(+)群 84%,( )群 61%で有意差を認めた(p<0.01).平均年齢には差はなく,初発年齢分布では(+)群 は 3 0歳代と 50 歳代の二峰性を,( )群は 30 歳代を中心とした一峰性を示した(図 2).発症時に眼窩深部痛や運動痛を自覚した率は,(+)群41例中32例(78%),( )群46例中30例(65%)図 2初発年齢の分布ツꀀツꀀツꀀツꀀ (症例 )ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ (+)群:(-)群70歳代表 5自己抗体陽性群と陰性群の比較有意差(+)群( )群症例症例数51 例49 例女性**84%(43/51 例)61%(30/49 例)平均年齢─41.0 歳(8 74 歳)39.8 歳(14 75 歳)発症時,眼窩深部痛・動眼痛自覚─78%(32/41 例)65%(30/46 例)初診時,痛みのみで視力良好─17%( 7/41 例)17%( 8/46 例)両眼性初発時* 3%( 1/33 例)20%( 7/34 例)最終的─43%(22/51 例)43%(21/49 例)視神経乳頭発作時所見異常なし─45%(15/33 例)24%( 8/34 例)腫脹・発赤─55%(18/33 例)76%(26/34 例)視神経乳頭最終所見異常なし**16%( 8/51 例)43%(21/49 例)軽度退色─27%(14/51 例)41%(20/49 例)蒼白***57%(29/51 例)16%( 8/49 例)視力最低視力(0.1)以下─57%(24/42 例)56%(19/34 例)最終視力(1.0)以上*49%(25/51 例)69%(34/49 例)(0.1)以下**29%(15/51 例) 8%( 4/49 例)治療ステロイドなし─20%(10/51 例)24%(12/49 例)パルス治療─80%(41/51 例)73%(36/49 例)抗血栓治療─16%( 8/51 例) 2%( 1/49 例)免疫抑制薬併用─ 8%( 4/51 例) 4%( 2/49 例)パルス治療反応なし─28%(11/40 例)11%( 4/36 例)再発率(1 眼につき)1.0 回(1 4 回)0.3 回(1 2 回)再発症例**41%(21/51 例)16%( 8/49 例)視野異常残存*84%(36/43 例)60%(24/40 例)*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.0001.─:有意差なし.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091347(49)野異常が残存した割合は,(+)群で 84%,( )群 で60%であり,(+)群に多く視野異常を残した(p<0.05).自己抗体の種類についての検討では,抗 AQP4 抗体陽性群(AQP 群),抗サイログロブリン抗体あるいは抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性群(甲状腺群),抗核抗体陽性群(N 群),抗 SS-A 抗体あるいは抗 SS-B 抗体陽性群(SS 群),抗 DNA 抗体陽性群(DNA 群)の 5群に分類した(表 6).複数の抗体を有する症例が存在し,各群に重複症例を含む.自己抗体陰性群も表に加えた.内訳は,AQP 群 14 例,男女比 2:12 例,甲状腺群25 例,男女比 4:21 例,N 群 23 例,男女比 1:22 例,SS群10例,男女比1:9例,DNA群4例,男女比1:3 例.AQP 群の 50%,甲状腺群の 44%,N 群の 61%,SS群の 70%,DNA 群の 25%で,複数の自己抗体が陽性であった.SS 群と DNA 群は症例数が少ないため,単純に比較することはできないが,女性の比率は AQP 群 86%,甲状腺群 84%,N 群 96%,SS 群 90%,DNA 群 75%と,いずれも女性優位であり,平均年齢はそれぞれ 40.9 歳,42.6 歳,39.2 歳,43.3 歳,52.3 歳で,これらの群間に( )群に多かったが,経過中に両眼性となった率は両群とも 43%で,同率であった.発作時に視神経乳頭に異常所見を認めなかった率は,(+)群 45%,( )群 24% と,(+)群で高かったが,有意差は認めず,経過中の最低視力が(0.1)以下であった率は,(+)群 57%,( )群 56%と差はなかった.パルス治療を施行したのは(+)群 80%,( )群 7 3%.パルス治療に反応しなかった率は,(+)群 28%,( )群 11%で,有意差は認めなかったが,(+)群に多い傾向があった.観察期間 6 カ月 10 年間での再発は,(+)群で計 50回,平均 1.0 回(1 4 回),( )群で計 15 回,平均 0.3回(1 2 回)であった.再発率は(+)群 41%,( )群16%で,有意差を認めた(p<0.01).最終視力については,(1.0)以上は(+)群で 49%,( )群で 69%,(0.1)以下は(+)群で 29%,( )群で 8%であり,それぞれ有意差を認めた(p<0.05,p<0.01).経過中の最低視力と最終視力,および発症時の視神経乳頭形態と最終視力には,両群ともに相関関係は認めなかった.経過後の視神経乳頭所見は,(+)群 の57%,( )群の 16%で蒼白化しており,(+)群に有意に多かった(p<0.0001).視野検査において最終的に視表 6各種自己抗体の症例比較AQP 群甲状腺群N群SS 群DNA 群( )群症例数14 例25 例23 例10 例4例49 例複数自己抗体保有率50%( 7 例)44%(11 例)61%(14 例)70%(7 例)25%(1 例)─女性86%(12 例)84%(21 例)96%(22 例)90%(9 例)75%(3 例)61%(30 例)平均年齢40.9 歳(16 72 歳)42.6 歳(16 72 歳)39.2 歳(8 72 歳)43.3 歳(19 70 歳)52.3 歳(30 74 歳)39.8 歳(14 75 歳)両眼性64%( 9 例)36%( 9 例)48%(11 例)40%(4 例)50%(2 例)43%(21 例)パルス治療施行93%(13 例)76%(19 例)82%(19 例)80%(8 例)50%(2 例)73%(36/49例)再発率(1 眼につき)1.8 回0.7 回1.0 回1.2 回0.3 回0.3 回再発回数1 4 回1 4 回1 3 回1 3 回1回1 2 回最終視神経所見・蒼白化93%(13 例)52%(16 例)61%(14 例)70%(7 例)50%(2 例)16%(8 例)最終視力(1.0)以上21%(3 例)60%(15 例)61%(10 例)60%(6 例)50%(2 例)69%(34 例)(0.1)以下64%(9 例)20%(5 例)26%(6 例)20%(2 例)0%(0 例)8%(4 例)MS・NMO の症例数 MS123114 NMO411100MS:多発性硬化症,NMO:視神経脊髄炎.———————————————————————- Page 61348あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(50)パルス治療に反応不良な症例は,有意差はないものの,抗体陽性群に 28%と多く存在した.当然ではあるが,反応不良例ではパルス治療を複数回試行していた症例が多かった.再発率,再発頻度の結果から,抗体陽性例の場合は高率に再発し,かつ,くり返す可能性が高いといえる.視力経過は,自己抗体陽性群でも半数は視力良好であったが,ほとんどの症例で視野異常を残していたように,視力経過が良好な例でも後遺障害をきたす.さらに,陽性群では約 30%の症例で視力経過が不良であり,パルス治療への反応不良例の存在と,再発頻度の高さが関係していると考えられる.パルス治療に抵抗する抗 AQP4 抗体陽性視神経症に対して,早期の血漿交換治療の有効性が報告されてお り11),自己抗体陽性例で初回のパルス治療に反応不良な場合には,これらの治療や免疫抑制薬など,パルス治療以外の方法を検討する必要性が示唆される.全症例中の NMO 5 症例は全例が視神経炎で初発し,のちに後頸部や背中の痛み,手足のしびれなどの脊髄炎の症状が出現したため精査,診断確定となった.眼症状のみならず,全身症状への注意も必要である.抗核抗体とは,細胞の核成分に対する抗体を意味するため特異性はなく,現在では,各種核成分を対応抗原とする数多くの抗核抗体が知られている.今回検討した自己抗体のなかでは,抗 DNA 抗体,抗 SS-A 抗体,抗SS-B 抗体が抗核抗体にあたり16), 実 際 N 群,SS 群,DNA 群は重複例が多かった.原理的には, SS 群, DNA群では全例が抗核抗体も陽性のはずだが,その割合は60%,25%であった.これは,抗体価の程度と検出感度によるものと推察される.自己抗体間での検討では,性差,平均年齢で群間の差はなかったが,抗 AQP4 抗体が陽性の場合は,両眼性(64%),易再発性(平均再発率 1.8 回),視力経過不良〔最終視力(0.1)以下が 64%〕と際立って不良な結果を示した.以上より,視神経炎症例に対しては,より早期に自己抗体検査を施行し,自己免疫性か否かを判定する.自己免疫性である場合には,積極的なパルス治療と慎重なステロイドの減量を行う.その副作用などの全身管理も必は差はなかった.経過中に両眼に罹患した率は AQP 群 64%,甲状腺群36%,N 群 48%,SS 群 40%,DNA 群 50%で,AQP群で多く,平均再発率は 1.8 回,0.7 回,1.0 回,1.2 回,0.3 回とばらつきがあった.ステロイドパルス治療を行ったのは AQP 群 93%,甲状 腺 群 76%,N 群 82%,SS 群 80%,DNA 群 50% であった.最終的な視神経乳頭所見は,AQP 群 93%,甲状腺群52%,N 群 61%,SS 群 70%,DNA 群 50%で蒼白となり,最終視力が(1.0)以上はそれぞれ 21%,60%,61%,60%,50%,(0.1)以 下 は 64%,20%,26%,20%,0%で,抗 AQP 群の視力経過が明らかに不良であった.全 100 症例中に NMO は 5 例存在し,抗 AQP4 抗体陽性例は 4 例で,そのうち 3 例は両眼の最終視力(0.1)以下と,予後不良であった.3. 考察自己免疫性視神経症では,自己抗体が検出されなかった視神経炎に比し,女性の比率が圧倒的に高かった.両群の発症平均年齢に差は認めず,年齢分布では 30 歳代が最も多く,ついで 20 歳代であり,幅広い年齢層に発症する可能性が示唆された.発症時の症状として,視力低下の自覚以外に眼窩深部痛や運動痛が 70%前後と,両群とも高頻度に認められた.両群に,発症時に球後神経炎の形態をとる症例がそれぞれ 45%,24%,視力低下のない症例がともに 17%存在するため,臨床においては上記の眼痛所見に注意を払う必要がある.視神経炎は初発時片眼性でも,多くの症例が最終的に両眼に発症するため,自覚症状がなくとも僚眼の所見も必ず同時に得ておくべきである.治療は,両群ともほとんどの症例でパルス治療を行っていた.自己抗体陰性例(特発性)に対してのパルス療法は絶対適応ではない15)が,顕著な視力低下や,早期の社会復帰の必要性などによる選択結果であった.一方,抗体陽性群でも,視力低下が比較的軽度な場合や炎症の活動性が低い場合は,パルス療法を選択しなかった.———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091349要とされ,特に抗 AQP4 抗体が陽性の場合には,さらに厳密かつ長期の管理を要する.まとめ今回は,自己抗体の存在と自己抗体の種類に焦点を当てて,自己免疫性視神経症を検討した.女性に多く,易再発性,視力経過不良といった,従来の自己免疫性視神経症の特徴が再確認できた.抗 AQP4 抗体陽性視神経症は,さらにその特徴を顕著に有することがわかった.視神経炎をみた場合には,自己免疫性の可能性,特に抗 AQP4 抗体陽性視神経症の可能性を,常に意識して対応する必要がある.文献 1) Duttonツꀀ JJ,ツꀀ Burdeツꀀ RM,ツꀀ Klingeleツꀀ TG:Autoimmuneツꀀ retrob-ulbar optic neuritis. Am J Ophthalmol 94:11-17, 1982 2) Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ et al:IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 202:473-477, 2005 3) Harada T, Ohashi T, Harada C et al:Case of optic neu-ropathy and recurrent transverse myelopathy associated with perinuclear anti-neutrophil cytoplasmic antibodies(p-ANCA).J Neuro-Ophthalmol 17:254-256, 1997 4) 大野尚登,村田恭吾,木村和美ほか:一過性黒内障を繰り返した抗リン脂質抗体症候群の 2 例.臨眼 56:1795-1797, 1996 5) Mocellin R, Walterfang M, Velakoulis D:Hashimoto’s encephalopathy:epidemiology,ツꀀ pathogenesisツꀀ andツꀀ manage-ment. CNS Drugs 21:799-811, 2007 6) Toyama S, Wakakura M, Chuenkongkaew WL:Optic neuropathyツꀀ associatedツꀀ withツꀀ thyroidツꀀ relatedツꀀ auto-antibod-ies. Neuro-Ophthalmol 25:127-134, 2001 7) Harada T, Ohashi T, Miyagishi R et al:Optic neuropathy and acute transverse myelopathy in primary Sjogren’s syndrome. Jpn J Ophthalmol 39:162-165, 1995 8) 久保玲子,若倉雅登,井上治郎:抗 SS 抗体陽性視神経症は特異的疾患か(口演).日本眼科学会総会専門別研究会視神経,2002. 5 月,仙台 9) 堀之内秀雄,上山秀嗣,藤本伸ほか:抗 SS-A 抗体陽性を呈した多発性硬化症の 1 例.内科 81:585-587, 1998 10) 三須建郎,藤原一男,糸山泰人:視神経脊髄炎(NMO)とアクアポリン 4 抗体.脳と神経 60:527-537, 2008 11) 中尾雄三,山本肇,有村英子ほか:抗アクアポリン 4 抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神経眼科 25:327-342, 2008 12) 若倉雅登:特発性視神経症.新図説臨床眼科講座 8 巻(若倉雅登編).p16-19, メジカルビュー社, 1999 13) 久保玲子,若倉雅登:自己免疫性視神経症.あたらしい眼科 20:1063-1068, 2003 14) 田中惠子:抗アクアポリン 4 抗体の解析.日本臨牀 66:1093-1097, 2008 15) 久保玲子,若倉雅登:視神経炎に対するステロイド治療の適応と実際.眼科 44:197-203, 2002 16) 橋本博史:膠原病の検査.新・膠原病教室,p49-59,新興医学出版社, 2009(51)

視神経炎と光干渉断層計

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 11336あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(00)0910-1810/09/\100/頁/JCOPYMS の病型別にどのような違いがあるか,その違いをどう理解するかについて解説していきたいと思う.IOCTで網膜神経線維層厚を測定する意義MS の神経症状に関しては,臨床スコアから重症度を評価することができても,脱髄や神経線維変性による視神経線維の障害程度を直接的かつ定量的に評価することは困難である.MRI 検査は病巣の部位や大きさを可視化し,撮影時点での血液脳関門(blood-brainツꀀ barrier)の破綻部位を画像化しうる特徴を有している.その評価には造影剤が必要であるが,造影しても障害程度の定量的評価は困難であり,その感度や精度は低い.一方,OCT を用いた RNFLT 計測は非侵襲かつ短時間で測定でき,結果が数値として得られるため,MS における炎症や脱髄に伴った視神経線維の変性・消失という長期的変化を経時的に捉える一つの目安になりうるのではないかと考えられ,近年注目されるようになっている.OCT は近赤外線領域の superツꀀ luminanceツꀀ diode を光源とし,光干渉現象を応用することで非侵襲的に網膜の精密な断層像が得られる.近年その進歩は目覚しく,タイムドメイン OCT からスペクトラルドメイン OCT へと進化し,撮影時間が 25 100 倍短縮されるとともに感度が数十倍良くなった.深さ方向の分解能もタイムドメインの 10 μm からスペクトラルドメインの 5 μm に改善され,得られる網膜断面像は飛躍的に向上した.すでに緑内障領域では緑内障性視神経障害の定量化法としてはじめに本稿では従来の古典的なマクドナルドの診断1)に従う多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)を古典型 MS と表し,新しい概念であるメイヨークリニックの視神経脊髄炎(neuromyelitisツꀀ optica:NMO)の診断基準2)に準拠したアクアポリン 4 抗体陽性または脊髄 MRI(磁気共鳴画像)で中心灰白質を中心とした 3 椎体以上の長い脊髄病巣が陽性の視神経脊髄炎型の MS を NMO と区別して表す.MS と記載した場合は,この二つの病型を合わせた総称として用いることにした.実際の臨床の場で,両者を区別できない場合や時期があるので,実践的に MSと総称することに利点がある.NMO を MS から外し,別疾患とする考えも存在するが,MS をどう定義するかによるものであり,疾患の実態の理解が異なるわけではない.またメイヨークリニックの NMO 診断基準からはずれるが,アクアポリン 4 抗体陽性か,脊髄に 3 椎体を超える病変がある症例は症候性の視神経炎既往がなくとも NMO と診断でき,病態は同一であると筆者らは考えている.よって本稿ではこれらの症例も NMO とした.眼科を受診する MS 患者は通常,視神経炎あるいは眼球運動障害を起こして来院することが多い.実際,古典型 MS では初発症状の一部として視神経炎を発症する割合は 20%3)程度である.本稿では,視神経炎既往の有無による MS の網膜神経線維層厚(retinalツꀀ nerveツꀀツꀀ ber layerツꀀ thickness:RNFLT)の差を光干渉断層計(optical coherenceツꀀ tomography:OCT)を用いて検討した場合,1336ツꀀ (38)特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1336 1342,2009*1 Yoko Ikeda:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学*2 Takahiko Saida:京都民医連中央病院神経内科〔別刷請求先〕池田陽子:〒602-0841 京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町 465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学視神経炎と光干渉断層計Optical Coherence Tomography for Evaluating Optic Neuritis inツꀀ Multiple Sclerosis池田陽子*1斎田孝彦*2———————————————————————- Page 2あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091337(39)耳鼻側方向で薄くなっている.また,視神経乳頭から離れれば離れるほど薄くなる.図 34)に示すように,加齢に伴って網膜神経節細胞が脱落する5,6)ために RNFLTは年々薄くなっていくが,正常では 90 歳を超えたとしてもある程度の厚みがある.図 4 は自験例のレポートである.図 4A は自験例の古典型 MS 視神経炎既往 1 回の症例で,わずかに RNFLT が薄くなっている.図 4B はNMO 視神経炎を複数回くり返した症例で RNFLT が非常に薄いため測定不能で,円グラフは広範囲で赤色になっている.図 4C はアクアポリン 4 抗体陽性の視神経炎を起こしていない NMO 症例で,RNFLT は正常の厚みを保っている.III網膜神経線維層厚と多発性硬化症の関連1. RNFLTはMSの罹患期間とともに減少し,その減少速度は正常者より速い古典型 MS では 30 歳が発症のピークである.正常者RNFLT 測定が利用されていたが,同様に MS の脳内視覚伝導路障害を推測する一つの手段になりうる可能性がある.図 1 には現在用いられている各社のスペクトラルドメイン OCT とその解析結果例を示す.II網膜神経線維層厚とは?RNFLT は網膜最表層に存在する無髄の網膜神経節細胞の軸索の厚みである.図 2 に示すように光刺激は視細胞である桿体・錐体細胞で電気信号へ変換され,双極細胞を経て,網膜神経節細胞に伝わった後,束となった軸索が視神経となって頭蓋内へ伸び,最終的に外側膝状体へ投射する.MS における RNFLT が正常者との比較でどのような差異があるのかを理解するために,まずは正常者の RNFLT を知ることが大切である.以下の比較においては視神経乳頭周囲の RNFLT に関して検討する.正常者の視神経乳頭周囲の RNFLT は上下耳鼻側の部位によって厚みが異なり,視神経乳頭の上下方向で厚く,ト コン 3DOCT解析レポートOCT imageFundus imageRNFL thicknessオプトビュー 3DOCTシラス 3DOCT図 1OCTとその結果レポート各種メーカー機器(上)とその視神経乳頭周囲の RNFLT を測定した結果(下).———————————————————————- Page 31338あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(40)往のあるほうが RNFLT の減少の傾きは大きい.視神経炎の既往のある古典型 MS においては視神経炎既往のない古典型 MS より RNFLT の減少速度がさらに速くなる.図 5C8)は視神経炎発症後の RNFLT の経時変化をみたグラフで,横軸は経過月数で縦軸は RNFLT である.視神経炎を起こしてからも RNFLT は徐々に減少している.図 5C から数値を読みとると,視神経炎発症後1 年間に約 20 μm 減少しているが,正常者の減少量(図3 から算出した 30 歳から 31 歳までの 1 年間の減少量)と比較するとおよそ 10 倍速い減少になる.2. MSの視神経炎既往別RNFLT図69)は MS の視神経炎既往別に RNFLT を比較したグラフである.a は正常者の眼,b d は古典型 MS で,b:両眼に視神経炎を起こしていない眼,c:片眼に視神経炎を起こしたときの僚眼そして,d:視神経炎を起こした眼である.これらを比較したところ,a が最も厚く,b,c がこれにつぎ,最も薄いのが d となっている.つまり,古典型 MS では視神経炎を起こしていなくてもでの 30 50 歳までの 20 年間の加齢に伴う RNFLT 変化(図 5A,B 点線)4)を参考に付けて,古典型 MS のRNFLT 変化7)のグラフ(図 5A,B 実線)を示した.この図からわかるように,古典型 MS は視神経炎の既往の有無にかかわらず RNFLT は正常より薄く,視神経炎既視覚路視 線光網膜神経線維神経節細胞アクアマリン細胞双極細胞ツꀀ 細胞桿細胞錐細胞色 上 層外側膝状体内側膝状体視索視ツꀀ 視神経 距 図 2視神経線維層のシェーマMS による炎症でミエリンが障害を受け,また寛解してミエリンが再生されたりもするが,最終的に脳神経が傷害される.網膜神経線維層をみることで,脳内病変が推測される.160150140130120110100902010304050Age(years)Average RNFLT(μm)60708090図 3年齢とRNFLTの減少グラフの傾きは y= 0.224x+134 で,加齢とともに RNFLTは減少する. (文献 4 より一部改変)———————————————————————- Page 4あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091339(41)正常より RNFLT は薄くなっており,興味深い.この明らかな理由は不明だが,慢性的な炎症による視神経障害が持続している可能性がある.A:古典型MS視神経炎既往ありOCT imageB:NMO視神経炎既往ありC:NMO視神経炎既往なしFundus imageOCT imageFundus imageOCT imageFundus imageRNFL thicknessRNFL thicknessRNFL thickness図 4自験例のOCT(RNFLT)データ各図下段は NFLT を表す.同世代正常者と同程度の厚みであれば緑色,薄いと赤色,ボーダーラインは黄色で表される.左下段は正常であれば緑の幅の間に患者の実測線(青色)が入るが,薄くなると下方にシフトする.右下段は測定結果を円グラフで模式化した図で,視神経のどの場所の RNFLT が薄いかイメージしやすい.140130120110100908070605005101520Disease duration(years)RNFLT(μm)図 5B古典型MS(視神経炎既往なし)の罹患期間とRNFLT視神経炎を起こしていなくとも MS に罹患しているというだけで RNFLT は正常(点線)より薄く,その減少の傾きは正常より大きい. (文献 7 より一部改変)140130120110100908070605005101520Disease duration(years)RNFLT(μm)図 5A古典型MS(視神経炎既往あり)の罹患期間とRNFLT視神経炎既往があると RNFLT は正常(点線)より薄く,視神経炎既往を起こしていない古典型 MS(図5B)よりも RNFLTの減少の傾きが大きい. (文献 7 より一部改変)———————————————————————- Page 51340あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(42)れのカテゴリー間で比べると,視神経炎の既往がある場合では古典型 MS より NMO のほうが薄くなっていて,視神経障害程度は NMO が大きいことがわかる.視神経炎既往のない NMO は古典型 MS より RNFLT は厚く出ている.図 7B は自験例の OCT の乳頭周囲耳側データであるが,傾向はほぼ同様であった.視神経炎既往がなくても RNFLT の薄くなる古典型 MS とは対照的に,NMO は視神経炎を起こすまではほぼ正常な RNFLT を保っている.つまり,末梢で抗体が循環している間(血液脳関門や血液網膜関門に障害がなく抗体が中枢に到達3. MSの視力障害の重症度とRNFLTMS では視力障害が重症であるほど RNFLT は薄くなる.視力が同程度であっても,視神経炎の既往があればさらに RNFLT は薄くなる.図 7A10)の縦軸は RNFLT,横軸は視力を表している.左から a:視神経炎の既往がない,b:視神経炎の既往があるが視力障害が正常範囲,c:視力障害が中等度,d:視力障害が重度の,カテゴリーを示している.古典型 MS においても NMO においても a が最も厚く,b,c と続き,最も薄いのが d であった.ただし,古典型 MS と NMO の RNFLT をそれぞ160140120100806040200369120Time after event(month)OCT(μm)図 5C急性視神経炎とRNFLT視神経炎を起こしたあとの RNFLT の減少は正常よりも速い. (文献 8 より一部改変)120100806040200a:正常RNFLT(μm)b:MS視神経炎なしd:MS視神経炎ありc:MS視神経炎を起こした眼の僚眼*******図 6古典型MS視神経炎の既往別RNFLTRNFLT の厚みは正常が最も厚く,ついで視神経炎なし,視神経炎を起こした僚眼の順になり,視神経炎を起こした眼が最も薄くなる.*,**,****は正常と比較して有意に薄い. (文献 9 より一部改変)120100806040a:視神経炎既往なしb:正常 0.8c:中等度0.67 0.3d:重度 0.3視神経炎を起こした :古典型MS:NMORNFLT(μm)図 7AMSの視力障害の重症度とRNFLTMS が重度なほど RNFLT は薄くなるが,NMO は視神経炎を起こしていない場合,RNFLT の厚みは正常と有意差がない. (文献 10 より一部改変)6050403020100RNFLT(μm)正常n=38NMO視神経炎(+)n=6NMO視神経炎(-)n=5古典型MS視神経炎(+)n=11古典型MS視神経炎(-)n=16図 7B自験例のRNFLTデータ自験例の RNFLT データも図7Aと同様の傾向がある.———————————————————————- Page 6あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091341(43)ある.OCT による RNFLT 測定とこれまでに MS の診断や経過観察に欠かせなかった脳や脊髄などの MRI 撮影との比較をしてみたいと思う.表 1 に両者の比較を示した.OCT による RNFLT 測定は非侵襲かつ MRI より低価格で,測定時間も短い.したがって MRI を撮影できない場合や,MS の症状悪化の場合など,OCT による RNFLT 測定が MS の病態の補助診断になりうる可能性がある.MRI が撮影できない患者(たとえばペースメーカー装着者や,閉所恐怖症患者など)に対しても計測が可能である.OCT の計測上の問題点としては視力が悪く,固視不良がある場合,または眼振の存在する場合などでは信頼性のあるデータが得られないことがあげられる.視神経のトラッキングシステムの存在により固視不良例でも撮影が可能になる場合もある.また,RNFLT は加齢による減少以外に,視神経乳頭辺縁からの距離によっても値が変わるため,同一患者でも再現性に問題がある可能性がある.できない間)は,抗体がアストロサイトを攻撃することはなく,何らかの感染のような血液脳関門あるいは血液網膜関門に障害を起こすイベントによって,それらが破綻しアクアポリン 4 抗体が中枢に移行できるようになると,激しい視神経炎を起こすと考えられている.しかしながら,これは動物モデルから推測された結果であり,実際にヒトで証明されたわけではない.4. MSスコアとRNFLTMSで使用される総合障害度のスケールEDSS(Expandedツꀀ Disabilityツꀀ Statusツꀀ Scale)は,Kurtzke 尺度としても知られ,インターフェロンbなどの MS 薬物治療の臨床試験で使用されている.EDSS は 8 つの機能系(錐体路機能,小脳機能,脳幹機能,感覚機能,膀胱直腸機能,視覚機能,精神機能,その他の機能)の評価と歩行機能の評価の組み合わせで評価され,スコアは0:正常から 10:死亡までとなっている.スコアが低い値ほど MS の障害は軽いとされ7,11),図 8 に示すように,EDSS スコアが高くなると RNFLT は薄くなる.このように RNFLT は MS の重症度と相関があるため,MS の重症度診断やその経過観察に役立つ可能性がある.IVMRIとOCTの比較これまで述べてきたように RNFLT は MS における視覚路の神経線維変性・脱落の指標となりうる可能性が14013012011010090807060501401301201101009080706050012EDSSEDSS345012345B :視神経炎なしA :視神経炎ありRNFLT(?m)RNFLT(?m)図 8MRIの所見の重症度(MS スコア)古典型 MS では視神経炎の既往の有無に関係なく EDSS の値が大きくなるほど RNFLT は薄くなっている. (文献 7 より一部改変)表 1MRIとOCTの比較OCT(RNFLT)MRI(脳,脊髄おのおの)測定時間片眼3秒20 分費用2,000 円30,000 円造影剤の使用なしあり侵襲なしあり測定不可症例固視不良体内金属保持者 (ペースメーカーなど)———————————————————————- Page 71342あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009おわりにMS では RNFLT が同世代正常者よりも薄く,MS が重症であるほど薄くなる傾向がある.そのため RNFLT はMS の病態を表す目安となりうる.OCT による RNFLT測定は非侵襲・短時間・低コストで測定でき,MS 患者の視神経変性の一つの指標となりうるため,MS の経過観察において有用な定期的補助検査となる可能性が考えられる.さらに今後,開発されるであろう MS の治療薬の薬効評価の際にも有用である可能性が高い.文献 1) Dyer D, MacDonald E, Newcombe RG et al:Abrasion and stain removal by di erent manual toothbrushes and brush actions:studies in vitro. J Clin Periodontol 28:121-127, 2001 2) Wingerchuk DM, Lennon VA, Pittock SJ et al:Revised diagnostic criteria for neuromyelitis optica. Neurology 66:1485-1489, 2006 3) Sorensen TL, Frederiksen JL, Bronnum-Hansen H et al:Optic neuritis as onset manifestation of multiple sclero-sis:aツꀀ nationwide,ツꀀ long-termツꀀ survey.ツꀀ Neurology 53:473-478, 1999 4) Kanamoriツꀀ A,ツꀀ Escanoツꀀ MF,ツꀀ Enoツꀀ Aツꀀ etツꀀ al:Evaluationツꀀ ofツꀀ the e ect of aging on retinal nerveツꀀ ber layer thickness mea-suredツꀀ byツꀀ opticalツꀀ coherenceツꀀ tomography.ツꀀ Ophthalmologica 217:273-278, 2003 5) Jonas JB, Schmidt AM, Muller-Bergh JA et al:Human optic nerveツꀀ ber count and optic disc size. Invest Ophthal-mol Vis Sci 33:2012-2018, 1992 6) Balazsi AG, Rootman J, Drance SM et al:The e ect of age on the nerveツꀀ ber population of the human optic nerve. Am J Ophthalmol 97:760-766, 1984 7) Siger M, Dziegielewski K, Jasek L et al:Optical coher-ence tomography in multiple sclerosis:thickness of the retinalツꀀ nerveツꀀツꀀ berツꀀ layerツꀀ asツꀀ aツꀀ potentialツꀀ measureツꀀ ofツꀀ axonal loss and brain atrophy. J Neurol 255:1555-1560, 2008 8) Costello F, Hodge W, Pan YI et al:Tracking retinal nerveツꀀ ber layer loss after optic neuritis:a prospective study using optical coherence tomography. Mult Scler 14:893-905, 2008 9) Pulicken M, Gordon-Lipkin E, Balcer LJ et al:Optical coherence tomography and disease subtype in multiple sclerosis. Neurology 69:2085-2092, 2007 10) Naismith RT, Tutlam NT, Xu J et al:Optical coherence tomography di ers in neuromyelitis optica compared with multiple sclerosis. Neurology 72:1077-1082, 2009 11) Gordon-Lipkinツꀀ E,ツꀀ Chodkowskiツꀀ B,ツꀀ Reichツꀀ DSツꀀ etツꀀ al:Retinal nerveツꀀ ber layer is associated with brain atrophy in mul-tiple sclerosis. Neurology 69:1603-1609, 2007(44)

視神経炎アップデート“抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎”

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY性視神経炎および多発性硬化症の視神経炎と診断され治療されている症例のうち,抗 AQP4 抗体陽性は 37.8%であった(抗 AQP4 抗体測定は九州大学神経内科に依頼している).他病院から治療困難として紹介される症例が多いために高い陽性率となっている可能性がある.筆者らの病院で初発時に診察した症例に限れば約 15%が陽性であった.日本とアジアに多い OSMS 症例の多くにこの抗 AQP4 抗体が陽性であったことから,欧米よりも日本のほうが陽性率は高いものと推測される.抗AQP4 抗体測定は限られた大学神経内科の研究室で行われており測定方法の違いや感度の差もあると聞くので,正しい陽性率に関しては多くの病院からのデータを収集して検討する必要がある.2. 比較的高齢女性に多く発症する抗 AQP4 抗体陽性例は圧倒的に女性に多く,平均発症年齢は 42 歳であった(陰性例は 31 歳).高齢の 60 70 歳代女性の発症は印象的であり,多発性硬化症に多い若い女性のイメージとは異なっていた.ただし,最近経験した 10 歳,女児の発症もあるので年齢だけでは決めつけられない.3. 初発は視神経炎が多い抗 AQP4 抗体陽性を示す視神経炎の全症例を見直すと,視神経炎の後に脊髄炎を発症した例が 57%であり,視神経炎だけの例も 14%あるので,結局これらの合計はじめに近年,視神経炎の診断,治療,予後に関してまったく新しい考え方が登場してきた.一般に“視神経炎”には原因不明(おそらくウイルスを主とする感染性)の特発性視神経炎,多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)の視神経炎,そして視神経脊髄炎(neuromyelitisツꀀ optica:NMO)の視神経炎がある.NMO は Devic 病ともよばれ,基本的には欧米では MS とは区別されている.一方,日本とアジアでは視神経炎と脊髄炎の組み合わせのタイプが多くみられ,古くから視神経脊髄型多発性硬化症(optic-spinalツꀀ multipleツꀀ sclerosis:OSMS)とよばれてきた1,2).最近,米国の Mayo Clinic でこの NMO 患者血清中に特異的な自己抗体(NMO-IgG)が見出され3),この標的としては神経組織のアクアポリン 4(aquaporin- 4:AQP4)waterツꀀ channelツꀀ protein が明らかとなった4).日本の OSMS 患者のなかにも NMO-IgG(=抗 AQP4抗体)の陽性例があり,神経内科サイドからは 3 椎体以上の重症脊髄病変と失明が多いという重要な結果がすでに報告されている5).眼科の立場から自験の抗 AQP4 抗体陽性を示す視神経炎例を詳細に検討した研究結果6)をもとに,抗 AQP4 抗体陽性視神経炎の診断,治療,予後を考察する.I抗AQP4抗体陽性視神経炎の特徴(表 1)6)1. 抗AQP4抗体陽性率は意外に高い近畿大学医学部附属病院眼科および堺病院眼科で特発(31)ツꀀ 1329ツꀀツꀀツꀀ o Nツꀀツꀀ oツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 590 0132ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 2 7 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1329 1335,2009視神経炎アップデート “抗アクアポリン 4 抗体陽性視神経炎”Update on Optic Neuritis “Anti-Aquaporin-4 Antibody Seropositive Optic Neuritis”中尾雄三*———————————————————————- Page 21330あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(32)MRI(磁気共鳴画像)で脳内に特異な病変があり9),視床下部や下部脳幹の症状を示す例の報告10,11)もあることから,“抗 AQP4 抗体陽性症候群”12)とよぶのがふさわしいのかもしれない.4. 球後視神経炎型が多い抗 AQP4 抗体陽性視神経炎では視神経乳頭に異常のない,いわゆる球後視神経炎型が多いのは多発性硬化症とよく似た傾向である.視神経炎で乳頭浮腫を示すのはウイルス感染後などの症例〔たとえば急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)〕が多い.5. 再発が多く,失明率が高い抗 AQP4 抗体陽性視神経炎は再発をくり返す例が多く,ステロイドパルス治療を行っても視機能回復は不良で失明率が高い6)という事実が明白になった.治癒率の高い特発性視神経炎や多発性硬化症の視神経炎とはまったく異なる重要な結果である.71%は視神経炎を初発症状としていることが判明した.米国Mayo Clinicからも再発性視神経炎の単独でNMO-IgG(=抗 AQP4 抗体)陽性の症例を長期間観察した後に,50%が脊髄炎を発症したとの報告がある7).視神経脊髄炎(NMO)は抗 AQP4 抗体陽性を示し,視神経炎と脊髄炎をくり返して重篤な症状(失明・麻痺)を後遺症とする疾患として知られているが,現実には原因不明の視神経炎(まだ脊髄炎を意識しない)としてわれわれ眼科医をまず初診することになる.NMO の視神経炎(いまだ視神経炎)だけのケースはハイリスクなNMO 類縁(spectrumツꀀ ofツꀀ NMOツꀀ disorders)8)と扱われているが,初発に視神経炎が多い事実を考えれば,眼科医はこの視神経炎を NMO の部分症としての視神経炎ではなく(脊髄炎の有無にとらわれることなく),“抗 AQP4抗体陽性視神経炎”とよんでこの視神経炎を認識し,初発単独の視神経炎であっても初診時に抗 AQP4 抗体を測定して初期から対応する姿勢が重要である.視神経炎の段階で抗 AQP4 抗体陽性が判明した場合には患者にその臨床的な意味を十分に説明し,つぎに脊髄炎が発症した際には神経内科で素早く的確な対応を受けられるよう配慮しておく必要がある.最近,NMO であっても表 1抗AQP4抗体陽性視神経炎と多発性硬化症(MS)の視神経炎の比較抗 AQP4 抗体陽性視神経炎MS の視神経炎抗 AQP4 抗体陽性陰性発症年齢中年 高年若年 中年性別女性>>>男性女性>男性発症時視力低下不良(重症)不良(重症)発症時中心 CFF 低下不良(重症)不良(重症)視野異常中心暗点・両耳側半盲中心暗点視神経乳頭異常なし>浮腫異常なし>浮腫眼球後部痛あり(激しい)ありUhthoツꀀ 症候約 14%約 30%MRI 脳病変まれ(非 MS 様)ありMRI 脊髄病変あり(3 椎体以上)あり(短い)髄液 OCBなし( まれ)あり治療(発症時)パルス・血漿交換パルス治療(再発抑制)低量ステロイド長期間INF-b免疫抑制薬・分子標的薬免疫抑制薬・分子標的薬再発あり(多い)あり最終時視力不良(重症)比較的良 MS:multiple sclerosis,AQP:aquaporin,CFF:critical fusion frequency,OCB:oligoclonal IgG band,パルス:ステロイドパルス治療,IFN:interferon. (文献 6 より)———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091331(33)II抗AQP4抗体陽性視神経炎の画像検査1. 頭蓋内の視神経病変に注意するMRI の画像上,炎症の存在部分は眼窩内視神経が最も多い13,14)が,21%の例では頭蓋内視神経,視交叉,視索に炎症病変を認めた6).視野所見で両耳側半盲や非協調性同名半盲がみられる事実と符合する.抗 AQP4 抗体陽性視神経炎では眼窩内だけでなく,頭蓋内の病変の存在にも注意して検索する必要がある(図 1A).2. 活動性の炎症はあるのか?治療効果が不良で紹介された例や再発を何度もくり返している例に対して治療を開始する前には,はたしてまだ活動性の炎症が存在するかどうかの評価が必要になる.T1 強調画像の脂肪抑制法で造影剤を用いて増強効果があれば活動性病変があり,治療効果が期待できると判断する14,15)(図 1B).3. 画像検査の工夫は?通常の軸位断面に用いられる Orbitomeatal(OM)Line では頭蓋内視神経,視交叉,視索の傾斜角度に対してクロスするため,分断されて 1 スライスに収まらない.このためまず位置決めの MRI 矢状断面を撮り,視交叉の傾きに平行の軸位断面として撮像すると頭蓋内視神経,視交叉,視索が 1 スライス内に明瞭に描出でき る15).III抗AQP4抗体陽性視神経炎の治療1. ステロイドパルス治療に低反応例・無効例が多い抗 AQP4 抗体陽性の視神経炎例では通常のステロイドパルス治療に低反応例・無効例が多く,視機能回復が不良であり,再発回数も多いことが明らかになった6).病変部の病理が多発性硬化症(MS)では脱髄と再生であるが,NMO では神経の AQP4 欠落,アストロサイト障害,壊死脱落といった重篤な所見であることが報告16)されている.また,NMO は自己抗体による液性免疫が主体17)であるのに対して,MS は細胞性免疫主体で,両者では免疫システムがまったく異なることが判明した.病理と免疫機序が異なる NMO に対して MS 用のステロ6. 両耳側半盲・水平半盲をみる抗 AQP4 抗体陽性視神経炎の視野異常の 75%は中心暗点であるが,25%に両耳側半盲,非協調性同名半盲,水平(上下)半盲がみられた6).両耳側半盲は視交叉炎,非協調性同名半盲は視索炎であり,実際に MRI で視交叉や視索の病変が描出可能である.これらの視野異常は一般には下垂体腺腫などの脳腫瘍にみられる所見であり,抗 AQP4 抗体陰性の視神経炎(特発性視神経炎や多発性硬化症の視神経炎)例にはみられなかった.この両耳側半盲,非協調性同名半盲,水平(上下)半盲が初診時や再発時の視神経炎例に認めた場合には,抗 AQP4抗体陽性視神経炎を想起する“predictiveツꀀ sign”として重要である.7. 眼球後部の痛みが強い視神経炎ではしばしば眼球運動に際して球後痛(ときに上眼瞼下の痛み)を訴えるが,抗 AQP4 抗体陽性視神経炎では眼窩深部に自発痛があり,Tolosa-Hunt 症候群や肥厚性硬膜炎などを疑った症例もあった.画像上は眼窩先端部(視神経後部・視神経管内)の病変で痛みを訴え,頭蓋内視神経,視交叉,視索の病変では痛みを訴えない傾向がある.8. 他の自己抗体がある他の自己抗体が同時に存在することがある.特に抗SS-A 抗体,抗 SS-B 抗体陽性の例が多いが,必ずしも涙液分泌減少(ドライアイ)の症状があるとは限らない.ステロイド治療中に重篤な肝機能障害を発生して自己免疫性肝炎と診断された 3 例があり,いまだ詳細は不明であるが注意が要る.9. 視神経炎で間違いないか?比較的高齢者に多くステロイド治療に反応しない視神経疾患としては虚血性視神経症,悪性(転移性)腫瘍の視神経圧迫,悪性リンパ腫の視神経浸潤,傍腫瘍性視神経症があり,再発しステロイドに依存の視神経障害として炎性偽腫瘍,Wegener肉芽腫症,肥厚性硬膜炎(ANCA 関連血管炎)があるので,抗 AQP4 抗体陽性視神経炎との鑑別は慎重に行う必要がある.———————————————————————- Page 41332あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(34)テロイドパルス以外の治療を積極的に行う必要がある.抗 AQP4 抗体が陰性の視神経炎例だけに限って ONTTの結果をあてはめるべきで,抗 AQP4 抗体の有無を調べずに無治療で観察するのは危険な間違いであり,厳に慎むべきである.3. 血漿交換治療が有効である通常のステロイドパルス治療を行っても低反応や無効のときに,血漿交換を行って抗 AQP4 抗体を除去し良好な視機能改善を得ている21).1 回の血漿交換で抗AQP4 抗体は陰性化し,ただちに視機能改善の傾向を示す例もある.血漿交換により期待する改善の程度は発症直前の視機能までであり,このレベルまでの改善を有効とすれば自験例では約 90%が有効である.4. 血漿交換の方法は?血漿交換治療には単純血漿交換,二重濾過膜血漿交換,免疫吸着があるが,筆者は抗 AQP4 抗体だけでなく補体や未知の関連サイトカインなどの除去も考慮してイドパルス治療だけをくり返し行っているのは,根本的に治療法が誤っている可能性がある.2. ONTTの結果との関係は?視神経炎の治療法に関しての治験(Opticツꀀ Neuritis Treatment Trial:ONTT)の評価が行われ18 20),ステロイドパルス,ステロイド内服,偽薬の長期効果を比較したところいずれの治療法でも約 70%の例が視力は20/20(1.0)以上に改善するという結果が報告された.視神経炎にはステロイド治療と信じ込んでいた日本の眼科医にはただちに信じがたい内容であった.しかしこの報告を熟読すると,約 3%の例がステロイドパルス治療に反応しない視力 20/200(0.1)未満の回復不良例であることも記載している.この ONTT は現在問題になっている抗 AQP4 抗体がまだ知られていない期間の治験であり,回復不良例の3%がNMOの視神経炎(抗AQP4 抗体陽性視神経炎)ではないかと推測される.抗AQP4 抗体陽性視神経炎はステロイドパルス治療に抵抗性で,ましてや無治療で回復するはずもなく,むしろス図 126歳,女性(抗AQP4抗体陽性)両眼の視力低下と視野異常(右眼の耳側半盲と左眼の大きな中心暗点)を認めた.ステロイドパルス治療は無効で,血漿交換により視機能は回復した.A:FLAIR 法の軸位断面で視交叉が高信号(炎症)を示した(⇒).脳幹左側にも高信号域がある(→).B:T1 強調画像脂肪抑制法の造影剤使用で視交叉が高信号に増強された(⇒).AB———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091333(35)7. 血漿交換はレスキュー,再発予防に免疫抑制薬が必要である血漿交換により抗 AQP4 抗体を除去して一旦は良好な結果を得ても,それは発症急性期における緊急避難的なレスキュー(rescue)にすぎず,依然として抗 AQP4抗体産生の免疫システムが存在するので血漿交換後にAQP4 抗体は産生され続けて増加し,視神経炎は必ず再発する.したがって視神経炎の再発を防ぐためには血漿交換後に免疫抑制薬(prednisolone, cyclophosphamide, methotrexate, azathioprine, cyclosporin, tacrolimus など)のいずれかを使用して持続的に抗 AQP4 抗体の産生を抑制する必要がある23,24).免疫抑制薬の長期投与による副作用対応や全身管理には免疫内科などの関連科の協力が要る.8. Interferon(IFN) bは無効,再発や悪化の要因になる多発性硬化症は細胞性免疫主体の病態と考えられており,IFN-bが再発抑制の目的で使用されている25).しかし,IFN-bを使用した OSMS のうち抗 AQP4 抗体陽性例では無効であるばかりでなく,かえって再発誘発や症状悪化の報告26)が相つぎ,厚生労働省難治性免疫性神経疾患研究班は抗 AQP4 抗体陽性例への IFN-b使用に警告を発している.9. 視神経炎はこの考え方で治療する抗 AQP4 抗体を意識した視神経炎の新しい治療法(図全例に単純血漿交換を行っている.血液浄化室への依頼,新鮮凍結血漿やアルブミンの手配,承諾同意書の作成,実施中の副作用の対応や全身管理などが必要である.関連各科との連携が重要である.5. 血漿交換治療はリスクが高い,注意すべきことは?単純血漿交換ではほぼ全血漿を他人の血漿に入れ替えるため,ショック,アレルギーによる全身発疹,循環器系障害,感染など重篤な症状の発生の危険があり,発症年齢が高いことも相まって血漿交換可能かどうかの実施前の全身検査とその評価が大事である.また,再発を何度もくり返す例や,他病院からステロイドパルス治療を試みたが無効なために紹介された例では,まだ活動性の炎症病変が視神経内に残存しているかの判断が重要である.MRI の T1 強調画像の脂肪抑制法に造影剤を用いて,視神経内に造影剤による増強効果があるかどうかを確認する.増強される部分があればまだ活動性炎症が残っていて血漿交換により視機能の改善が期待できるが,増強効果がなければすでに視神経萎縮であり血漿交換治療の効果はない.活動性炎症が残っていながら,全身状態の不良から血漿交換不可の例もある.ステロイドパルス治療に抵抗する視神経炎に対して免疫グロブリンの大量点滴法が有効の報告22)もある.血漿交換はリスクの高い治療法であるため,より安全でさらに有効な治療法の開発・治験が期待される.6. 血漿交換はいつから開始すべきなのか?初診または再発の急性期にまず 1 クール目のステロイドパルス治療を開始し,その効果が得られないときにはためらうことなくただちに血漿交換を開始すべきである.迅速に血漿交換を決断し,開始するためにはすべての視神経炎例において初診時に抗 AQP4 抗体の測定をしておく必要がある.3 クール目終了後でも効果がなく,その時点で抗 AQP4 抗体の測定を初めて考えるのでは遅く,すでに不可逆な視神経萎縮になっている危険性がある.視神経炎MRI(STIR・FLAIR)抗AQP4抗体測定抗AQP4抗体(+)血漿交換療法→ステロイド内服(長期)免疫抑制薬・分子標的薬抗AQP4抗体(-)ステロイドパルス①ステロイドパルス②③インターフェロンβ使用ステロイドパルス②③ステロイド内服*パルス有効ならインターフェロンβ使用せず*パルス無効なら免疫抑制薬分子標的薬(FTY720)ステロイド内服(長期)*多発性硬化症なら図 2視神経炎治療の新しい考え方(私案)(文献 6 より)———————————————————————- Page 61334あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(36)とは免疫システムと病理病態がまったく異なるため,診断と治療法に特別の配慮が必要である.視神経炎単独,視神経炎初発の例が多いため早期からの正しい診断と的確な治療法の決定に眼科医の責任は重く,関連科と協力して治療と全身管理にあたる慎重な姿勢が重要である.謝辞:本研究において抗 AQP4 抗体を測定していただいた九州大学医学部神経内科の吉良潤一教授,越智博文,松下拓也,黒田紀子の先生方に深甚なる謝意を表する.文献 1) Kira J, Kanai T, Nishimura Y et al:Western versus Asianツꀀ typesツꀀ ofツꀀ multipleツꀀ sclerosis:immunogeneticallyツꀀ and clinically distinct disorders. Ann Neurol 40:569-574, 1996 2) Kira J:Multiple sclerosis in the Japanese population. Lan-cet Neurol 2:117-127, 2003 3) Lennonツꀀ VA,ツꀀ Wingerchukツꀀ DM,ツꀀ Kryzerツꀀ TJツꀀ etツꀀ al:Aツꀀ serum autoantibody marker of neuromyelitis optica:distinction from multiple sclerosis. Lancet 364:2106-2112, 2004 4) Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ et al:IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 202:473-477, 2005 5) Nakashima I, Fujihara K, Miyazawa I et al:Clinical and MRIツꀀ featuresツꀀ ofツꀀ Japaneseツꀀ patientsツꀀ withツꀀ multipleツꀀ sclerosis positive for NMO-IgG. J Neurol Neurosurg Psychiatry 77:1073-1075, 2006 6) 中尾雄三,山本肇,有村英子ほか:抗アクアポリン 4 抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神経眼科 25:327-342, 2008 7) Matiello M, Lennon VA, Jacob A et al:NMO-IgG pre-dicts the outcome of recurrent optic neuritis. Neurology 70:2197-2200, 2008 8) Pittock SJ:Neuromyelitis optica:a new perspective. Semin Neurol 28:95-104, 2008 9) Pittockツꀀ SJ,ツꀀ Lennonツꀀ VA,ツꀀ Kreckeツꀀ Kツꀀ etツꀀ al:Brainツꀀ abnormali-ties in neuromyelitis optica. Arch Neurol 63:390-396, 2006 10) Watanabe S, Nakashima I, Miyazawa I et al:Successful treatment of a hypothalamic lesion in neuromyelitis optica by plasma exchange. J Neurol 254:670-671, 2007 11) Takahashi T, Miyazawa I, Misu T et al:Intractable hic-cup and nausea in neuromyelitis optica with anti-aqua-porin-4 antibody:a herald of acute exacerbations. J Neu-rol Neurosurg Psychiatry 79:1075-1078, 2008 12) Matsushita T, Isobe N, Matsuoka T et al:Aquaporin-4 autoimmune syndrome and anti-aquaporin-4 antibody-negative optico-spinal multiple sclerosis in Japannese. Mult Scler 15:834-847, 2009 13) Nakao Y, Yamada Y, Otori T:Di erential diagnosis of 2)6,27)について私案を述べる.1)すべての急性発症(初発・再発)の視神経炎(脊髄炎の有無にかかわらず)について,その初診時にただちに抗 AQP4 抗体を測定する.同時に MRI の STIR(short T1 inversion recovery)画像(または T1 強調画像脂肪抑制法造影)で視神経内の炎症を確認し,FLAIR( uid attenuated inversion recovery)画像で脳内の MS(非MS)病変の有無を検討する.治療としては,まずステロイドパルス(ソルメドロールRツꀀ 1,000 mg/日点滴,3 日間)治療の第 1 クールを開始する.2)抗 AQP4 抗体陽性の場合:①第 1 クールのステロイドパルス治療で視機能改善の効果がみられるときは,そのまま第 2,第 3 クールを引き続き行う.第 3 クール終了時点で視機能の改善がなお不十分であればステロイド薬(たとえばプレドニンR 30 mg/日)の内服を開始し,視機能の改善状態をみながら緩徐に漸減する.プレドニンRが 10 mg または 15 mg/日で減量を止め,維持する.②一方,第 1 クールのステロイドパルス治療で効果が乏しいかないときは,ただちに血漿交換を開始する.血漿交換後はステロイド薬の内服を開始し,漸減しながら継続する.このステロイド低量の内服期間中に再発を生じた場合,再発回数が多い場合,片眼がすでに失明の場合には,免疫抑制薬の使用を考慮する.再発抑制の目的でIFN-bは用いない.3)抗 AQP4 抗体陰性の場合:①通常どおりステロイドパルスの第 2,第 3 クールを行う.第 3 クール終了時点でなお視機能の回復が不十分であればステロイド薬(たとえばプレドニンRツꀀ 30 mg)の内服を開始し,視機能の改善状態をみながら漸減する.②脳 MRI 画像や神経症状から多発性硬化症の診断の場合は,神経内科と協同して再発抑制の目的で IFN-bを使用する.≪2)の①と②が抗 AQP4 抗体陽性視神経炎の治療,3)の①が特発性視神経炎の治療,3)の②が多発性硬化症の視神経炎の治療である.≫おわりに数年前に発見された抗 AQP4 抗体により視神経炎の考え方に大きな転換が生じた.抗 AQP4 抗体陽性視神経炎は従来の特発性視神経炎や多発性硬化症の視神経炎———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091335enlargedツꀀ opticツꀀ nerveツꀀ and/orツꀀ sheathツꀀ onツꀀ MRツꀀ imaging.ツꀀ Cur-rent Aspects in Ophthalmology 2, Excerpta Medica, Amsterdam-London-New York-Tokyo, p1671-1675, 1992 14) 中尾雄三:視神経疾患の画像診断.臨眼 61:1624-1633, 2007 15) 中尾雄三:MS/NMO と視神経炎の新しい展開.神経免疫,2009(印刷中) 16) 三須建郎,藤原一男,糸山泰人:NMO とアクアポリン 4 の病理的意義.Clinical Neuroscience 26:770 773, 2008 17) Lucchnetti CF, Mandler RN, McGavern D et al:A role for humoral mechanisms in the pathogenesis of Devic’s neuromyelitis optica. Brain 125:1450-1461, 2002 18) Beckツꀀ RW,ツꀀ Clearyツꀀ PA,ツꀀ Opticツꀀ Neuritisツꀀ Studyツꀀ Group:Optic Neuritis Treatment Trial:One-year follow-up results. Arch Ophthalmol 111:773-775, 1993 19) The Optic Neuritis Study Group:Visual function more than 10 years after optic neuritis:Experience of the optic neuritis treatment trial. Am J Ophthalmol 137:77-83, 2004 20) Optic Neuritis Study Group:Visual function 15 years after optic neuritis. Aツꀀ nal follow-up report from the optic neuritis treatment trial. Ophthalmology 115:1079-1082, 2008 21) Watanabe S, Nakashima I, Misu T et al:Therapeutic e cacy of plasma exchange in NMO-IgG-positive patients with neuromyelitis optica. Mult Scler 13:128-132, 2007 22) Tselis A, Perumal J, Caon C et al:Treatment of corticos-teroid refractory optic neuritis in multiple sclerosis patients with intravenous immunoglobulin. Eur J Neurol 15:1163-1167, 2008 23) Watanabe S, Misu T, Miyazawa I et al:Low-dose corti-costeroidsツꀀ reduceツꀀ relapsesツꀀ inツꀀ neuromyelitisツꀀ optica:aツꀀ ret-rospective analysis. Mult Scler 13:968-974, 2007 24) Mandlerツꀀ RN,ツꀀ Ahmedツꀀ W,ツꀀ Dencoツꀀツꀀ JE:Devic’sツꀀ neuromyeli-tis optica:a prospective study of seven patients treated with prednisone and azathioprine. Neurology 51:1219-1220, 1998 25) Saidaツꀀ T,ツꀀ Tashiroツꀀ K,ツꀀ Itoyamaツꀀ Yツꀀ etツꀀ al:Interferonツꀀ beta-1b is e ective in Japanese RRMS patients. A randomized, multicenter study. Neurology 64:621-630, 2005 26) Warabi Y, Matsumoto Y, Hayashi H:Interferon beta-1b exacerbates multiple sclerosis with severe optic nerve and spinal cord demyelination. J Neurol Sci 252:57-61, 2007 27) 中尾雄三:視神経炎.今日の治療指針 2008.p1082-1083, 医学書院, 2008(37)

視神経脊髄炎の治療法-最近のエビデンスを元に-

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYI急性期治療(表 1)1. ステロイドパルス療法NMO の急性期にステロイドパルス療法が有効であることを証明した文献はない.しかし,MS の急性期と同様に NMO においてもまずステロイドパルス療法を行うことが多い.実際には,メチルプレドニゾロン 500 1,000ツꀀ m g/日を 3 5 日間点滴静注投与する.その後1ツꀀ m g/kg/day からプレドニゾロンの内服を開始し 3 4日ごとに減量していくが,これを行わない場合もある.これで臨床的効果がみられない場合はステロイドパルス療法を再度施行することもある.NMO ではこのステロイドパルス療法により臨床的改善がみられないこともしばしばあり,その場合は次項に述べる血漿交換療法を速やかに行う必要がある.ただし,高橋らによる検討では,ステロイドパルス療法をせず血漿交換療法を施行した場合,血漿交換後にいったん低下した AQP4 抗体価がつぎの血漿交換施行前には再上昇する5).したがって,血漿交換療法に先行してステロイドパルス療法を施行し,抗体を産生するリンパ球を抑制しておく必要があると考えられる.なお,視神経炎に対するステロイドパルス療法の有効性に関する無作為化対照試験として,1988 年から米国はじめに視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は重度の視神経炎としばしば 3 椎体以上に及ぶ長い横断性脊髄炎を特徴とする再発性炎症性中枢神経疾患である.同じく時間的,空間的に多発する中枢神経病変を呈する疾患として多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)があり,NMO と MS の異同が長年議論されてきた.しかしながら近年,NMO 患者の血清中に特異的な自己抗体が検出され1),その標的分子がアクアポリン 4(AQP4)であることがわかった2).AQP4 は脳や脊髄のアストロサイトの足突起に高密度に発現する膜蛋白である.培養細胞および剖検症例の検討により NMO では補体介在性にAQP4 抗体が AQP4 を標的としてアストロサイトを障害する疾患であるらしいことがわかり3,4),臨床像のみならず病態としても NMO は MS とはまったく異なる疾患であることが明らかになってきた.NMO は初発症状として視神経炎のみで発症することも多いため,神経内科医のみならず,眼科医が初診時から担当する可能性がある疾患である.NMO の治療戦略は,1)急性期・再発期における炎症反応の抑制と機能回復の促進,2)長期的な再発予防のための免疫抑制,の 2 つに分けられる.本稿では,最近のエビデンスを元に,NMO の治療の急性期治療と再発予防治療について述べることとする.(25)ツꀀ 1323 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Nツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Iツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Nツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Iツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 2ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Mツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 治療ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 3ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 治療ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 4ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 5 Mツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Nツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀ 6ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 980 8574ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1323 1327,2009視神経脊髄炎の治療法ツꀀ 最近のエビデンスを元に Therapy for Neuromyelitis Optica:Recent Evidence西山修平*1三須達郎*2中島一郎*1高橋利幸*4 中村正史*5佐藤滋*6藤原一男*3糸山泰人*1———————————————————————- Page 21324あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(26)回復をみながら実施している.合併症としては血圧低下,迷走神経反射,感染などがある.感染や血栓症を予防するため留置カテーテルは原則として用いていない.3. その他の急性期治療リンパ球除去が NMO 急性期治療として有効であったとする症例報告がいくつか存在する13 15).これらの報告のなかにはステロイドパルス療法と血漿交換療法に反応せずリンパ球除去が有効であった症例も含まれており,急性期治療のオプションの一つとして検討する価値がある.また,全身性エリテマトーデス(SLE)16)や Sjogren症候群17)など他の自己免疫疾患に合併する脊髄炎や脳病変の多くは実際には NMO と考えられるものもあるが,これらに対してシクロフォスファミドパルス療法も治療の選択肢となりうる.投与法は,750ツꀀ m g/m2/日を1 日静注し,以後再発予防治療も兼ねて月 1 回投与する方法18)や2ツꀀ g/日を 4 日間静注し,その後白血球数をみながら G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor)を追加する方法16)が報告されている.II再発予防治療(表 1)NMO は重度の視神経炎(図 1)や横断性脊髄炎(図 2)をくり返し,高頻度に後遺症を残す.したがって NMOの 15 施設,457 症例で行われた Optic Neuritis Treat-ment Trial(ONTT)がある6,7).その結果はステロイドパルス療法の治療効果は短期的には視覚機能の改善を促進するものの,1 年後の予後はプラセボ群と有意差がみられなかった.わが国における同様の治験でも基本的に同じ結果が得られており8),これらの知見から視神経炎はすべて無治療でも予後に悪影響はないと理解されている向きもある.しかし,この ONTT では約 2%の予後不良群がありその多くが NMO である可能性がある.上述のように NMO の視神経炎に対してはステロイドパルス療法が無効なら,すぐに血漿交換療法を施行し視覚障害の改善に努めなければならない.ステロイドパルス療法における副作用として,不眠,倦怠感や消化管出血や高血糖などが知られている9).2. 血漿交換療法NMO の急性期における血漿交換療法の有用性については複数の報告がある10 12).血漿交換により自己抗体や補体などの有害液性免疫成分を除去し,炎症性サイトカインの除去により免疫調整作用も期待できる.当科では,アルブミン液を置換液として使用した単純血漿交換療法を採用しており,1 回の血漿交換量が約 2 l(40 50ツꀀ ml/kg),計 4 回を 1 クールとしている.血漿交換により凝固因子も除去されるため,フィブリノーゲン値の表 1視神経脊髄炎(NMO)の治療法薬品(商品名)標準薬剤量急性期治療ステロイドパルス療法Methylprednisolone(ソルメドロール)500 1,000 mg/日(1 クール 3 5 日間)(必要に応じ 1 2 クール追加)血液浄化療法通常 2 4 回程度(最大 7 回まで)①単純血漿交換アルブミン製剤など血漿処理量 40ツꀀ ml/kg/回②免疫吸着療法トリプトファンカラム血漿処理量 40ツꀀ ml/kg/回再発予防治療低用量ステロイド療法Prednisolone(プレドニゾロン)経口 5 20 mg/日免疫抑制薬Azathioprine(イムラン)経口 50 100 mg/日Rituximab(リツキサン)静注 375 mg/m2/日週 1 回を 4 週間Mitoxantrone hydrochloride(ノバントロン)静注 12 mg/m2月1 回を 6 カ月Cyclosphosphamide(エンドキサン)静注 750 mg/m2月1 回Mycophenolate mofetil(セルセプト)経口 1 2ツꀀ g/日免疫グロブリン(IVIG)療法献血免疫グロブリン製剤静注 400 mg/kg/日月 1 回———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091325(27)2. アザチオプリンアザチオプリンはプリンヌクレオチド生合成阻害による代謝拮抗型免疫抑制薬であり,移植後拒否反応の予防や炎症性腸疾患や種々の自己免疫疾患などの治療に使われている.NMO においては,Mandler らがプレドニゾロンとアザチオプリンの併用療法の有効性を示す報告をしている23).当科では,ステロイドのみでは再発を抑制できない症例を中心に 50 150ツꀀ m g/day を投与してきた.定期的に血液検査を行い,白血球が 3,000/μl 未満もしくは血小板が 10 万/μl 未満となる場合はアザチオプリンの減量が必要であり,肝機能障害にも注意が必要である.アザチオプリンはその免疫抑制効果が発現するまで数カ月かかり,当初は上述のステロイドを併用し再発予防することが推奨される.なお,アザチオプリンの効果が十分に出ていれば血液検査にて平均赤血球容積(MCV)が増加してくるため指標になる.アザチオプリンの長期投与により発癌リスクが増加することも指摘されており注意が必要である.3. リツキシマブ抗 CD20 モノクローナル抗体であるリツキシマブは B cell を選択的に破壊する.NMO のほか B cell リンパ腫や関節リウマチなどに投与されている.リツキシマブの患者の QOL(quality of life)を維持するために,再発を予防することが重要である.以下にあげる治療法を組み合わせることで,NMO の再発頻度を減少させることが期待できる.なお,MS の再発予防治療に使用されるインターフェロンbは,NMO においてはシクロフォスファミド,ミトキサントロン,アザチオプリンといった免疫抑制薬と比較し有効でないとする報告19)や,むしろ NMO を悪化させるという報告も20,21)あるため,現時点では再発予防治療薬として推奨されない.1. 低用量ステロイド持続投与筆者らは低用量ステロイドの長期投与により NMO 患者の年間再発率が 1.48(0.65 5.54)から 0.49(0 1.31)へ減少することを以前に報告した22).急性期のステロイドに引き続いて内服量を減量し,プレドニゾロン 20 mg/day からはさらにゆっくりと減量し 10ツꀀ m g/day 程度で維持する.長期ステロイド内服における副作用は高血圧,糖尿病,骨粗鬆症,易感染性,血栓症,消化管出血,大腿骨頭壊死,また moon face や中心性肥満などがある.次項で述べるアザチオプリンなどの免疫抑制薬との併用により,ステロイドを減量し副作用を軽減できる.図 1NMO患者における視神経炎のMRI画像左視神経に T2 強調画像にて高信号を示す病変を認める(矢印).図 2 NMO患者における横断性脊髄炎のMRI画像C1 C5 にかけて T2 強調画像にて高信号を示す長い脊髄病変を認める.NMO における横断性脊髄炎は,おもに脊髄中心部を侵す長軸方向に長い病変であることが特徴である.———————————————————————- Page 41326あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(28)(ALL)などを発症したという報告もあるため注意を要する.アザチオプリン以外の免疫抑制薬として,シクロフォスファミドやミコフェノール酸モフェチル,免疫調整薬であるコパキソンなども欧米では使用されているが27),確立したエビデンスはない.今後さらなる知見の蓄積が必要である.NMO は AQP4 抗体が病変形成に直接関与すると考えられており,免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)の治療効果も期待される.しかし現時点ではいくつかの症例報告があるのみである.カナダからの報告では,2 例のNMO患者に月1回400ツꀀ m g/kg/日の IVIG を行うことでそれぞれ 5 年半,1 年間再発がみられず経過した28).しかし 5 年半再発のない患者は他にステロイドとアザチオプリンを使用しており,IVIG 自体の効果なのかどうか明らかではない.わが国では IVIG は NMO における保険適用はなく,高額な治療法であるため,さらに慎重に適応を考える必要がある.おわりにNMO は,AQP4 抗体の発見によりこの 5 年で診断が大きく向上し治療方針にも大きな影響を及ぼしている.しかし NMO の治療研究はまだ発展途上にある.実際,今回紹介した治療法に関する文献もその多くは少数例での報告であり,今後多数例での治験が必要である.わが国では視神経炎症例全体における NMO の比率が欧米より高く,眼科診療において重要である.前述のように,NMO は重度の視神経炎や横断性脊髄炎をくり返し後遺症が重症化するため,適切な急性期治療や再発予防治療を行うことが求められる.そしてそれらの治療は MS とは異なることをくり返して強調しておきたい.今後はAQP4 抗体を含めた病態の解析を進め,同時に治療に関する知見を蓄積することにより NMO の標準的治療法が早期に確立されることが望まれる.文献 1) Lennon VA, Wingerchuk DM, Kryzer TJ et al:A serum autoantibody marker of neuromyelitis optica:distinction from multiple sclerosis. Lancet 364:2106-2112, 2004投与では血中の免疫グロブリン量に大きな変化がないことが知られており,B cell を介して T cell やマクロファージの抗原提示能やサイトカイン分泌の調節を介する機序が想定されている.Cree らが 2005 年に行った報告では,8 人の NMO 患者にリツキシマブを 375ツꀀ m g/m2週 1 回,4 週間投与し,年間再発率は 2.6 回から 0 回へ劇的に改善し(p=0.0078),EDSS も 7.5 から 5.5 へ改善を認めた(p=0.013)24).その後,この報告のうち 7人を含む 25 症例の NMO にリツキシマブを投与したその後の検討でも,年間再発率の中央値が 1.7 回/年(0.5 5)から 0 回/年(0 3.2)と有意に減少した25).これらの報告によりリツキシマブは NMO の再発予防に有効であると考えられる.リツキシマブによる重篤な副作用として,B 型肝炎ウイルスキャリアでの肝炎増悪や,進行性多巣性白質脳症(PML)などが知られており,感染症には常に注意する必要がある.わが国では 2009 年 6 月現在リツキシマブは NMO に対し保険適用外であるため,NMO に対してリツキシマブを投与する際には各施設の倫理委員会の承認を得る必要がある.治療経費の負担をどうするかも検討する必要がある.4. その他の再発予防治療再発寛解型 MS や二次進行型 MS に使用される免疫抑制薬であるミトキサントロンは NMO でも治療経験の報告がある.その作用機序は,DNA の二重らせん構造内に入り込むことで DNA 合成を阻害し,さらにトポイソメラーゼ II を抑制することにより B cell,T cell,マクロファージなどの増殖を抑制することである.Wein-stock-Guttman らは,NMO 患者 5 人にミトキサントロンを使用して(12ツꀀ m g/m2月 1 回を 6 カ月間,以後は 3カ月に 1 回)2 年間追跡し,投与前後で再発回数が 2.4±0.89 回/2 年間から 0.4±0.55 回/2 年間へ,EDSS が4.40±1.88 から 2.25±0.65 へと改善した26).ミトキサントロンには投与量に依存した心毒性があり,既往として心疾患がある場合は禁忌となることがある.投与中の心機能評価が必要で,左室駆出分画(ejection fraction)が低下していく場合は投与を中止せざるをえない.その他副作用として骨髄抑制,脱毛,無月経などがある.急性前骨髄性白血病(APL)や急性リンパ球性白血病———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091327(29) 16) Mok CC, To CH, Mak A et al:Immunoablative cyclophos-phamide for refractory lupus-related neuromyelitis optica. J Rheumatol 35:172-174, 2008 17) Ozgocmen S, Gur A:Treatment of central nervous sys-tem involvement associated with primary Sjogren’s syn-drome. Curr Pharm Des 14:1270-1273, 2008 18) Williams CS, Butler E, Roman GC:Treatment of myelopa-thy in Sjogren syndrome with a combination of predni-sone and cyclophosphamide. Arch Neurol 58:815-819, 2001 19) Papeix C, Vidal JS, de Seze J et al:Immunosuppressive therapy is more e ective than interferon in neuromyelitis optica. Mult Scler 13:256-259, 2007 20) Warabi Y, Matsumoto Y, Hayashi H:Interferon beta-1b exacerbates multiple sclerosis with severe optic nerve and spinal cord demyelination. J Neurol Sci 252:57-61, 2007 21) Shimizu Y, Yokoyama K, Misu T et al:Development of extensive brain lesions following interferon beta therapy in relapsing neuromyelitis optica and longitudinally exten-sive myelitis. J Neurol 255:305-307, 2008 22) Watanabe S, Misu T, Miyazawa I et al:Low-dose corti-costeroids reduce relapses in neuromyelitis optica:a ret-rospective analysis. Mult Scler 13:968-974, 2007 23) Mandler RN, Ahmed W, Dencoツꀀ JE:Devic’s neuromyeli-tis optica:a prospective study of seven patients treated with prednisone and azathioprine. Neurology 51:1219-1220, 1998 24) Cree BA, Lamb S, Morgan K et al:An open label study of the e ects of rituximab in neuromyelitis optica. Neurol-ogy 64:1270-1272, 2005 25) Jacob A, Weinshenker BG, Violich I et al:Treatment of neuromyelitis optica with rituximab:retrospective analy-sis of 25 patients. Arch Neurol 65:1443-1448, 2008 26) Weinstock-Guttman B, Ramanathan M, Lincoツꀀ N et al:Study of mitoxantrone for the treatment of recurrent neu-romyelitis optica(Devic disease). Arch Neurol 63:957-963, 2006 27) Jarius S, Aboul-Enein F, Waters P et al:Antibody to aquaporin-4 in the long-term course of neuromyelitis optica. Brain 131:3072-3080, 2008 28) Bakker J, Metz L:Devic’s neuromyelitis optica treated with intravenous gamma globulin(IVIG). Can J Neurol Sci 31:265-267, 2004 2) Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ et al:IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 202:473-477, 2005 3) Hinson SR, Pittock SJ, Lucchinetti CF et al:Pathogenic potential of IgG binding to water channel extracellular domain in neuromyelitis optica. Neurology 69:2221-2231, 2007 4) Misu T, Fujihara K, Kakita A et al:Loss of aquaporin 4 in lesions of neuromyelitis optica:distinction from multi-ple sclerosis. Brain 130:1224-1234, 2007 5) 高橋利幸,高野里奈,宮澤イザベルほか:NMO における単純血漿交換療法の検討.Neuroimmunology 17:73, 2009 6) Beck RW, Cleary PA, Anderson MM Jr et al:A random-ized, controlled trial of corticosteroids in the treatment of acute optic neuritis. The Optic Neuritis Study Group. N Engl J Med 326:581-588, 1992 7) Visual function 5 years after optic neuritis:experience of the Optic Neuritis Treatment Trial. The Optic Neuritis Study Group. Arch Ophthalmol 115:1545-1552, 1997 8) Wakakura M, Mashimo K, Oono S et al:Multicenter clini-cal trial for evaluating methylprednisolone pulse treatment of idiopathic optic neuritis in Japan. Optic Neuritis Treat-ment Trial Multicenter Cooperative Research Group(ONMRG). Jpn J Ophthalmol 43:133-138, 1999 9) Tumani H:Corticosteroids and plasma exchange in multi-ple sclerosis. J Neurol 255(Suppl 6):36-42, 2008 10) Keegan M, Pineda AA, McClelland RL et al:Plasma exchange for severe attacks of CNS demyelination:pre-dictors of response. Neurology 58:143-146, 2002 11) Watanabe S, Nakashima I, Misu T et al:Therapeutic e cacy of plasma exchange in NMO-IgG-positive patients with neuromyelitis optica. Mult Scler 13:128-132, 2007 12) Ruprecht K, Klinker E, Dintelmann T et al:Plasma exchange for severe optic neuritis:treatment of 10 patients. Neurology 63:1081-1083, 2004 13) Aguilera AJ, Carlow TJ, Smith KJ et al:Lymphocytaplas-mapheresis in Devic’s syndrome. Transfusion 25:54-56, 1985 14) Nozaki I, Hamaguchi T, Komai K et al:Fulminant Devic disease successfully treated by lymphocytapheresis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 77:1094-1095, 2006 15) Moreh E, Gartsman I, Karussis D et al:Seronegative neu-romyelitis optica:improvement following lymphocyta-pheresis treatment. Mult Scler 14:860-861, 2008

多発性硬化症・視神経脊髄炎の免疫学的背景

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———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYがって臨床的には NMO と OSMS はかなりオーバーラップすることとなったが,NMO において特異的な自己抗体(NMO-IgG)の発見と,同抗体が日本人 OSMS においても高頻度(30 70%)で認められることから,病態の面でも NMO と OSMS は同様の機序を共有している可能性が高まった.この機序は MS とはまったく異なるとする意見もあるが,OSMS に対するインターフェロンb治療の奏効例の存在や MS と同様の頭部病巣を呈する例があるなど,共通の土台がある可能性もあり,まだ議論すべき点は多い.本稿では,疫学的・病理的特徴にも簡単に触れながら,現在想定されている病態機序について概説する.I多発性硬化症の病態・機序MS の病理像はその名が示すように慢性期では,神経軸索に比してミエリンの消失が目立ち,グリオーシスを伴う硬化した脱髄病巣(プラーク)の形成が特徴であり,血管周囲に炎症細胞浸潤を伴って形成される.脱髄の活動性により浸潤細胞の構成は変化するが,基本的にはリンパ球とマクロファージが主体であり,特に急性期はマクロファージの割合が高く,分解されたミエリンがマクロファージ内部に認められる.このような多発性の病巣を形成する動物モデルが EAE である.EAE はもともとホモジネートした脊髄をマウスに接種することで発症する脳脊髄炎のモデルであったが,その抗原がミエリン塩基性蛋白(myelin basic protein:MBP)であることがはじめに多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)は,臨床的には症状および画像を含む検査上,2 カ所以上の中枢神経の脱髄が,それぞれ明らかに区別された時間に生じた疾患をさす.すなわち中枢神経に時間的・空間的に脱髄が散在する疾患である.これは病理学的な対応では中枢神経にみられる急性期の炎症性脱髄と軸索傷害を伴う限定的な再髄鞘化であり,最終的にはその名前が示すように硬化したプラークを形成する.こうした病像を作り出す機序については,臨床上の情報,病理上の情報,および動物モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎,experimental autoimmune encephalomy-elitis:EAE)を含む基礎医学からの情報が相互にフィードバックしながら徐々にその詳細が明らかになってきた.一方で動物モデルが確立した際に予想されたほど,単純な機序ではないことも示されている.視神経脊髄炎(neuromyelitisツꀀ optica:NMO,Devic病)はもともと重篤な両側性視神経炎と脊髄炎が連続して生じる疾患として報告され,のちに急性・亜急性視神経炎と横断性脊髄炎が 8 週間以内に連続して起こる単発性の脱髄疾患として定義された1).しかし症例の集積・解析により視神経,脊髄病巣の時間的な散在,再発がありうることが示され,その疾患概念は大きく拡張され た2,3).一方,日本における MS 症例では視神経と脊髄を病変の首座とする例が多く,視神経脊髄型 MS(optic-spinalツꀀ formツꀀ ofツꀀ MS:OSMS)と分類されていた4).した(17)ツꀀ 1315 Tツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Mツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学 学ツꀀ 学ツꀀツꀀ 神経ツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 812 8582ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 3 1 1ツꀀツꀀツꀀ 学 学ツꀀ 学ツꀀツꀀ 神経ツꀀ 学特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1315 1322,2009多発性硬化症・視神経脊髄炎の免疫学的背景Immunological Background of Multiple Sclerosis and Neuromyelitis Optica松下拓也*吉良潤一*———————————————————————- Page 21316あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(18)成されるポリペプチドの混合物であるが,CD8 陽性 T細胞の HLA-E を介して CD4 陽性 T 細胞を選択的に傷害していることが示されており7),CD8 陽性 T 細胞を介した病原性 CD4 陽性 T 細胞の除外システムも病態に関与している可能性がある.しかし CD4 陽性 T 細胞だけでなく,CD8 陽性 T 細胞も病態形成に寄与していると考えられている.MS 病変部では数のうえでは CD8 陽性 T 細胞のほうが CD4陽性 T 細胞より多く,少数例の検討ではあるが,T 細胞レセプターの解析から,病変部における CD8 陽性 T細胞のクローナルな増殖が報告されている8).CD8 陽性T 細胞により誘発される EAE も作製されており9),これらの所見は CD8 陽性 T 細胞の関与を示唆している.現在のところ,CD8 陽性 T 細胞は CD4 陽性 T 細胞によって惹起された炎症反応の増強と組織傷害を仲介していると考えられている.特に軸索傷害については CD8陽性 T 細胞の関与が示されている.一方,古くから MS ではオリゴクローナルバンドの存在や IgG インデックスの高値から髄液中の免疫グロブリン産生が亢進していることが示されており,これらはB 細胞の関与を疑わせる所見である.MS では髄液中にMBP,PLP,MOG,MAG といったミエリン蛋白に対する自己抗体を認めることが多く10),ミエリンだけでなく軸索に発現する蛋白質である neurofascin11),Contac-tin-212)に対する抗体も報告されている.病理上も急性期病変に補体と免疫グロブリン(おもに IgG)が認められている13).以上のような所見から病態に自己抗体が関与していると考えられ,B 細胞の影響が示唆される.また,CD20 に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブにより,急性期病変の迅速な改善が得られていることから,B 細胞は当初考えられていたより MS の病態に広範に関与している可能性がある.II多発性硬化症とサイトカイン・ケモカイン上記のように,EAE,MS の病態に関与する,type II HLA に拘束される CD4 陽性 T 細胞は炎症を促進するサイトカイン(IFN-g,TNF-aなど)を分泌しており,健常人ではミエリン反応性 CD4 陽性 T 細胞は炎症を制御するサイトカイン(IL-4,IL-5 など)を分泌する割合わかり,さらに MBP で刺激をした脾臓細胞を受動免疫することで,EAE を惹起できることが明らかとなった.これらの所見は病理像の相同性から MS の動物モデルと考えられ,MS の病態解析に大きな影響を及ぼしている.EAE における病巣形成は CD4 陽性 T 細胞に依存することから,MS においても免疫細胞,特に T 細胞の関与に注目が集まった.抗原として MBP のみではなく,ミエリン関連糖蛋白(MAG),ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG),プロテオリピッド蛋白(PLP)といったその他のミエリン関連蛋白やミエリン以外の蛋白質であるaB-クリスタリン,S-100 蛋白も EAE を惹起することから,さまざまな抗原が MS の自己抗原候補にあげられるようになった.ヒト MS においても,EAE の研究結果を受けミエリン蛋白と T 細胞の反応性について解析が行われた.MBP に応答する T 細胞は,健常人と異なりメモリー T 細胞の占める割合が高いことが示され,その T 細胞はインターフェロンg(IFN-g)などの炎症促進性サイトカインを分泌していることが明らかになった5,6).以上のように MS は中枢神経の抗原(特にミエリンが有力な候補であるが)を標的にした自己免疫性疾患であると考えられている.また,免疫反応と多発性硬化症の関係を示すさまざまな研究結果から,免疫システムに関連する遺伝子を候補に遺伝学的解析が行われた.この結果欧米白人種においてクラス II HLA(組織適合抗原)分子をコードする特定のハプロタイプが遺伝学的リスクであることが明らかになった(DRB1*1501 と DRB5*0101).このことは抗原提示分子が病態に関与していることを示しており,CD4 陽性 T 細胞の関わりをさらに示唆する結果である.免疫システムの調整異常が MS の病態に関与している可能性もある.これは EAE モデルで詳しい検討がなされているが,CD25 を発現している CD4 陽性 T 細胞(転写因子として Foxp3 を発現している)は IL-10 を分泌し,直接的もしくはサイトカインを介して間接的に自己応答性 T 細胞を抑制している.このような調節性 T 細胞の異常が MS の発症に影響している可能性もあるが,ヒトにおける調節性 T 細胞の詳細は今のところまだ明らかにはなっていない.MS の治療薬として欧米で使用されている glatiramerツꀀ acetate は,4 つのアミノ酸で構———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091317(19)トでの分化には IL-1bと IL-6 がその役割を果たしていると考えられている18,19)(図 1).IL-23 は IL-12 と p40サブユニットを共有しており,p40 の抑制が EAE の発症を抑制したのは結局 IL-23 の抑制効果に基づいたもので,研究結果の矛盾も解決した.MS においてもIL-17 mRNA を発現する髄液中・血中の単核球数の増加20),単球から分化させた樹状細胞の IL-23 産生亢進および CD4 陽性 T 細胞からの IL-17 の産生亢進21)といった Th17 細胞の関与を示す所見が得られている.Th17 細胞の増殖にはスフィンゴシン一リン酸レセプター(sphingosine-1-phosphate type 1 receptor:S1P1R)からの経路が影響を与えていることが示されており22),現在日本でも治験が行われているフィンゴリモド(FTY720)は,このレセプターのモデュレーターであることから,Th17 細胞への直接的な影響による治療効果も期待されている.IL-17 はもともと炎症促進性サイトカインとして知られており,特に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)やIL-8 を介して好中球の遊走を誘導している.マウスの線維芽細胞は IL-17 存在下で CCL2,CCL7,CXCL1,CCL20,matrixツꀀ metalloprotease(MMP)3 および 13 の発現を増加させており16),このような走化性因子(ケモカイン)と血液脳関門の傷害が病変部へのマクロファーが高い.前者のような T 細胞は転写因子として T-betを発現し炎症を誘発する type 1 ヘルパー T 細胞(Th1),後者は GATA-3 を転写因子として発現し,typeツꀀ 2 ヘルパー T 細胞(Th2)とよばれており喘息やアトピーなどアレルギー疾患にかかわる.転写因子は相互に排他的に働くことから,分化の状況によりどちらかの状態にシフトすることになる.MS,EAE は Th1 にシフトした病態と考えられ,Th1 細胞が病態形成のうえでも最も決定的な役割を果たすと考えられた.MS に対して IFN-g投与が行われた際に病状の悪化がみられた14)こともこれらの想定を補強するものであり,現在 MS 治療に広く使用されている IFN-bは Th1 から Th2 へのシフトをきたすことがその効果の原因と考えられている.しかしIFN-gノックアウトマウスでもEAEが誘発され,IFN-g産生 Th1 細胞への熟成効果を有する IL-12 の抑制は MS の治験において効果がみられないなど,Th1仮説に矛盾する研究結果も提示されていた.そして現在では EAE の検討から,発症に最も重要な T 細胞はIL-17 を産生するヘルパー T 細胞(Th17)であると考えられている15,16).これは Th1,Th2 に属さない別の系統に属するヘルパー T 細胞であり,転写因子としてROR-gを発現し IL-23 の影響下で増殖,ナイーブ T 細胞からの分化には IL-6 と TGF-bが必要である17).ヒツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ b/IL-10( +ツꀀツꀀツꀀツꀀ #ツꀀツꀀ ( , F 7N aツꀀ # .pF 7N aG&GpGoG2G $D @( +ツꀀツꀀツꀀツꀀ #ツꀀツꀀ ( , G %7, F 7N a+ツꀀ dツꀀ $7$D @ツꀀ $71″‘ツꀀツꀀツꀀ BIL-27IL-12IFN-gIL-4TGFb+IL-6TGFb(IL-6?敍圜辣)IL-23IL-2Na ve T cellDendritic cells(APC)逃?Th1T-betIFN-gRORgt図 1T細胞の分類———————————————————————- Page 41318あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(20)制御する分子的ポイントを抑制する治療法が効果をあげている.プロセス(2)については,先ほど述べたフィンゴリモド(FTY720)が作用する.フィンゴリモドはS1P1R の細胞表面への発現を抑え,S1P が作用できず,リンパ組織から血中へとリンパ球が移行しない.フィンゴリモドには MS に対し優れた再発抑制効果が確認されている24).サイトカイン・ケモカインは血管内皮細胞上にVCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)やICAM-1(intercellularツꀀ adhesionツꀀ molecule-1)といった細胞接着分子を誘導する.これは活性化した T 細胞の血管内皮への接着を促進し,中枢神経への免疫細胞の移行を促進させる.このプロセス(3)に関わる接着因子のうち,活性化したリンパ球表面に発現するa4 integrinに対するモノクローナル抗体(ナタリズマブ)が作製されており,進行性多巣性白質脳症の発症という問題があるものの,MS において MRI 画像上の増強効果と再発を抑制する効果が得られている25,26).また,非選択的にリンパ球を除去する CD52 に対するモノクローナル抗体(アレンツズマブ)27),B 細胞を選択的に除去するCD20 に対するモノクローナル抗体(リツキシマブ)28)も MS に対して画像上,臨床上の効果をあげている.ジの集簇およびさらなる自己反応性 T 細胞の中枢神経への移行をひき起こし,炎症を増幅させていくというカスケードが病態として想定されている.III病態プロセスと分子標的治療図 2 に MS に想定されている病態機序を示す.MS の発症,再発には大きく分けて 4 つのステップがあり,まずは(1)末梢リンパ組織において抗原を提示され自己反応性の T 細胞を形成し,(2)これらのリンパ球が血中に移行,(3)血中から中枢神経へ移行,(4)自己抗原の提示により炎症性サイトカインの分泌,炎症カスケードの惹起,といった経路が考えられる.治療薬のターゲットとしては,根本的な治療法として自己抗原を同定し,その自己反応を抑制する点に目が向く.MBP を抗原と考え,これに対する免疫寛容の導入を目的とした DNA ワクチン治療の試験が行われており,MRI 上の増強病変の出現を減少させる効果が認められている23)が,その効果は十分とは言いがたい.MS の病態は heterogene-ity があり,抗原も多様なものが想定されている.標的抗原を限定すると治療効果も一部の例に限定されてしまう可能性がある.一方で,そのプロセス自体に目を向け,各プロセスをツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ b+IL-6IL-23VCAM-1LFA-1ICAM-1VLA-4IL-17敏????????????????IL-1IL-6IL-8G-CSFMMP???????VEGF???????IL-6IFN-g舁????舁鉄?鉄B cell??????????CD8T????????敏?????敏?曉?Th17Th17図 2MSの病態———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091319(21)を傷害し,病像を修飾すると考えられる.ただし,抗体単独では発症せず,T 細胞を介した免疫反応が必要であり,T 細胞系の関与が必要と考えられる.また,補体価は抗 AQP4 抗体陽性患者では再発期に上昇しており,全身的な炎症反応を反映していると考えられ,補体消費傾向は認められていない37).病理上は軸索傷害,壊死を反映する空洞形成を伴った脱髄像がみられ,急性期はマクロファージの浸潤と血管周囲に好中球・好酸球の集簇が認められる.T 細胞の浸潤は少なく,血管周囲に補体と免疫グロブリンの沈着があり,血管壁の肥厚もみられる38).MS でも補体沈着が認められるが,これは病変の辺縁で生じており,NMOとは分布が異なっている.また,NMO の病変部では急性期・慢性期ともに AQP4 の染色性がミエリン蛋白に比して低下39,40),AQP4 の発現低下に伴いアストロサイトに特異的な蛋白質である GFAP の発現も低下している所見が報告されている39).この所見はミエリン蛋白は染色性が低下し,グリオーシスのため GFAP の発現が亢進している MS とは異なる所見である.NMO のサイトカイン・ケモカインの特徴については,脳脊髄液中の単核球において MOG 反応性に IL-5,IL-6,抗 MOGツꀀ IgG および IgM 抗体の産生,髄液中のeosinophil cationic protein(好酸球の顆粒に含まれる蛋白質),エオタキシン 2,3(好酸球の走化性因子)のレベルが MS に比較して高いことが報告されている41).これらは NMO の病変部に好酸球が認められる所見と矛盾せず,MS に比較して液性免疫へシフトしていることを示唆しており,病理上,抗体と補体の血管周囲の沈着が認められる所見と合致している.臨床的にも NMO 患者は NMO-IgG 以外にも SS-A など自己抗体が陽性になることが多く,この点も液性免疫の亢進を示唆している.また,日本人 OSMS においては髄液中の IL-17,IL-8 濃度が通常型 MS と比較して高いことが確認されており42),これは病変部に好中球浸潤がみられる病理所見と合致する.以上のように NMO においては MS と比較してアストロサイト傷害が主体で,免疫反応としては液性免疫の影響が強いと考えられている.AQP4 に対する自己抗体はAQP4 発現に影響を及ぼしていると思われるが,その臨このような治療効果は,MS の病態機序の想定に対する臨床面からの裏付けとなっている.IV視神経脊髄炎の病態・機序NMO に関する病態・機序については MS に比較すると不明な点が多いが,前述のように特異的抗体であるNMO-IgG の発見29)と,この抗体の対応抗原が水チャネルであるアクアポリン 4(aquaporin-4:AQP4)であることが判明し30),病態解明への大きな手がかりになると考えられている.AQP4 は水を選択的に通過させるチャネルで,単量体は 6 回膜貫通型で両末端は細胞内に存在し,基本的には細胞膜上で四量体を形成している.中枢神経ではアストロサイトの,特に軟膜や血管周囲に面した足突起に多く発現がみられ,脳以外でも腎臓の遠位集合管,胃の壁細胞,網膜の Muller 細胞,内耳や骨格筋にも発現がみられる.脳における分布は,AQP4 が脳内水分の in-outを司っていることを示唆している.NMO-IgG 陽性血清を用いた研究では,補体とともにアストロサイトに反応させることで細胞膜上の AQP4の発現を低下させる作用が確認されている31)が,TNC- 1 細胞に AQP4 を発現させた系では,NMO-IgG による水分調整への影響は認められなかったとする報告もあ る32).現時点で AQP4 の機能障害が何をもたらすかについて,明らかなことはわかっていないが,AQP4 ノックアウトマウスにおいては低浸透圧負荷や虚血による脳浮腫(細胞傷害性浮腫)は軽減され33),一方で血管原性浮腫が増悪することが報告されている34).抗 AQP4 抗体陽性患者において時にみられる白質の巨大な T2 延長病変は拡散強調画像と ADCツꀀ map の所見から血管原性浮腫と考えられ35),このような AQP4 の機能異常を示唆する所見である.MBP を抗原とした EAE を誘発したうえに,抗 AQP4 抗体陽性患者から精製した IgG を投与すると,EAE が重症化し,AQP4,およびアストロサイトに特異的な蛋白質である glialツꀀ brillary acidic pro-tein(GFAP)の消失,補体の沈着といった NMO に近い病理像が得られた36).すなわち,血液脳関門が破綻した状態では抗 AQP4 抗体は補体存在下にアストロサイト———————————————————————- Page 61320あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(22)るともいえる.NMO については病理所見や免疫反応の相違,そしてNMO-IgG の存在から,MS とはまったく異なる病態機序を有する疾患とする意見が強い.しかし,NMO-IgG陽性患者においても,その臨床像・画像所見はかなりのheterogeneity がみられ,MS 自体,B 細胞の関与が指摘されており,先ほど述べたように単純な免疫学的機序に還元できない以上,NMO と MS の背景に共通する要因が存在する可能性はある.OSMS における髄液中IL-17 の高値は,EAE と同様の免疫学的機序の存在を疑わせる.また,日本人 OSMS では欧米白人種とは異なり HLA-DPB1*0501 が関連するリスクファクターとして知られており,特に抗 AQP4 抗体陽性患者でそ床的な影響については今のところ不明である(図 3,表1 ).まとめ上記のように,MS の病態については実験的・臨床的な証拠が積み上がっており,理論上の構築は進んでいるが,それに伴い関連する病態の範囲は拡大を続けており,単純な病因に収束するとは今後も考えにくい.実際,現在もミエリン関連蛋白が重要な抗原の候補であることは間違いないが,確定的なエピトープは EAE とは異なり明らかではない.これは免疫反応が進むにつれ,認識する抗原の範囲が広がっていく epitopeツꀀ spreadingも原因と考えられるが,MS の複雑な病態を示唆していツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ AQP4舁AQP4舁鉄/NMO-IgGB cell悗単?悗????敏?曉?B cellT??超圜磔?渧??粳鞐?????????渧?図 3NMOの病態表 1NMO IgG/抗AQP4抗体の病原性支持する所見矛盾する所見 抗 AQP4 抗体は NMO に特異的に認められる 抗 AQP4 抗体は細胞表面の AQP4 に結合し,補体を活性化する NMO の病巣で AQP4 の消失が認められる AQP4 の分布は NMO の病変分布と相同的 抗 AQP4 抗体価と疾患活動性が相関するという報告 EAE を増悪させる作用 AQP4 は中枢神経より抗体のアクセスが容易な腎臓や筋にも発現しているがこれらの臓器病変の合併がない AQP4 の発現が高い小脳や大脳皮質,腰髄灰白質の傷害はまれ 抗 AQP4 抗体が中枢神経に到達するために,先行する血液脳関門の傷害が必要 AQP4 のノックアウトマウスには NMO 様症状は出現しない 抗体が存在しても再発が長期間ない例が存在する———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091321(23)の頻度が高いとする報告がある.このような遺伝的相違が現れてくる病像の違いに影響している可能性もある.NMO における AQP4 に対する抗体の発見は,今後,研究の焦点を決めるうえで重要な指針となるであろう.現在のところ AQP4 に対する抗体反応と,病理上認められるようなマクロファージの浸潤や組織傷害との間には,まだ多くの解明されなければならない段階がある.抗体の存在は病像へ影響していると考えられるが,現時点では抗体単独で発症する動物モデルは形成されていない.MOG 抗原特異的な T 細胞,B 細胞を導入されたマウスは NMO と同様に視神経と脊髄に強く病変が出現する EAE を自然発症する43,44).T 細胞による免疫反応とB 細胞による反応(および自己抗体の発現)のバランスが病像を決定している可能性も考えられる.文献 1) Stansbury F:Neuromyelitis optica;presentation ofツꀀ ve cases, with pathologic study, and review of literature. 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視神経脊髄炎の病理学的特徴

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYI多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)MS は,中枢神経系の炎症性脱髄を特徴とする慢性再発性疾患である.いまだにその原因は不明なままであるが,近年は,髄鞘の種々のミエリン蛋白に対する自己免疫疾患であるとする説が有力である.中枢神経系のあらゆる部位に相次いで脱髄斑が出現し,典型的には初期には再発と寛解をくり返すが,徐々にはっきりとした再発を認めずに症状が慢性的に悪化する二次進行型に移行する.一方で,従来の古典的 MS とは異なる亜型・類縁疾患としては,Marburg 型急性 MS や Balo 同心円硬化症,Schilder型びまん性硬化症,急性散在性脳脊髄炎(ADEM)や NMO などがあげられ,病態機序の違いが長年議論されてきた.歴史的に最も長く議論されてきた MS と NMO の違いは諸説あるが,特に議論されたのは,病変の局在,臨床経過,重症度,壊死性病変の有無である.MS と比較して,NMO は再発に関連して急性に失明や横断性脊髄症状といった重度の症候を呈する傾向があり後遺症も残りやすく,病理学的にも壊死性変化が強いといわれているが,MS のように二次進行性に悪化する例はきわめて稀である.1894 年の Devic らによる 17 例の検討では,再発例 3 例があるほか,単発例のうち 8 例は死亡または完全臥床状態であったが,一方で 8 例は軽度の障害に留まるなど,比較的軽症例や再発・寛解型 NMO を含めた多様な疾患群と考えられた.わが国では戦後,沖中や黒岩はじめに視神経脊髄炎(neuromyelitisツꀀ optica:NMO)は視神経と脊髄を病変の主座とする急性の炎症性疾患である.長い間多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)との異同が議論されてきたが,脱髄を伴うことから,MS 同様に髄鞘(ミエリン)を標的とする疾患と考えられてきた.2004 年,NMO の血清中に中枢神経系の軟膜や血管周囲に特異的に反応する NMO-IgG(免疫グロブリンG)が見いだされ,2005 年にその対応抗原がアストロサイトの足突起に高密度に発現するアクアポリン 4(AQP4)であることが報告された.当科の検討では,NMO の剖検脊髄病変における免疫組織学的検討では,本来 AQP4の豊富な脊髄灰白質や白質の血管周囲の壊死性病変において AQP4 は欠落し同部位で GFAP(glialツꀀ brillary acidic protein)も低下していたが,一方 AQP4・GFAPの欠落とは対比的にミエリンは比較的保存されることを初めて報告し,NMO 病変は MS の脱髄病変とは異なったアストロサイト障害に起因する病態を有することを明らかにした.NMO における視神経炎の病理学的特徴は,従来の MS や特発性の視神経炎とは異なり,高度の壊死性の脱髄を呈し視交叉や両側視神経に及ぶ広範な病変を呈することが多い.急性の片側あるいは両側の視力障害から場合によっては失明に至ることも多く,早期の適切な診断と迅速な治療を要する.本稿では,近年その免疫病態が明らかになりつつある NMO の病理学的特徴を中心に述べることとする.(9)ツꀀ 1307 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Mツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Fツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学 学ツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学ツꀀツꀀ 2ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Iツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学 学ツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 980 85 4ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1 1ツꀀツꀀツꀀ 学 学ツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀ 特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1307 1314,2009視神経脊髄炎の病理学的特徴Pathological Features of Neuromyelitis Optica三須建郎*1藤原一男*1糸山泰人*2———————————————————————- Page 21308あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(10)ブリンや補体を介する血管壁の変化を特徴とし,細胞性免疫を主体とする MS とは明確に異なる液性免疫を中心とする疾患群とした点で非常に重要であった.IIIアクアポリン4(AQP4)抗体の発見と意義1. NMO IgG/AQP4抗体の発見Lennon らはマウスの脳切片に患者血清を一次抗体として反応させる免疫組織学的方法を用いて NMO の患者血清には脳の軟膜や血管周囲に反応するヒト IgG を発見し,NMO-IgG と命名した4).NMO 患者における感度は 73%,特異度は 91%という驚くべき結果であった.日本人の純粋型 OSMS(optic-spinalツꀀ multipleツꀀ sclerosis)患者血清を盲検下で検索したところ,感度 58%,特異度 100%という結果であり,NMO と OSMS は同じ免疫学的背景をもった疾患群であることが証明された.2005 年,NMO-IgG は中枢神経系で主にアストロサイトに発現する AQP4 であることが明らかにされた5).当科で開発したヒト AQP4 を HEK293 細胞に発現させた系での抗 AQP4 抗体の検討(計 148 症例)では,NMO では 91%,ハイリスク群(再発性視神経炎あるいは横断性脊髄炎)では 85%が陽性であり,MS や他の対照群ではまったく検出されなかった(図 1).21 例のAQP4 抗体陽性例中,NMO-IgG 陽性は 15 例に留まり,Lennon らのラット脳を用いた系よりヒト AQP4 を用いた系のほうが高い感度を有することが示された6).らによる MS の報告とともに NMO 類似の視神経炎と脊髄炎を呈する患者が比較的多く経験されることが明らかとなり,日本およびアジアの特徴とされてきた1).IINMOの疾患概念の確立1993 年 Mandler らは剖検 5 例を含む自験 NMO 8 症例に文献的考察を含めて報告し,MS と厳密に区別しうる概念として 4 点を提唱している2).それらは,①臨床的には,視神経(両眼と限定しない)と脊髄(横断性と限定しない)に限局した症候が同時もしくは数カ月 数年の間隔で生じ,他の大脳,小脳,脳幹による症候を認めない,②画像上,頭部 MRI(磁気共鳴画像)は正常で脊髄 MRI にて脊髄の腫大や空洞形成を認める,③髄液所見として,髄液の蛋白上昇と髄内 IgG 産生の欠如,④病理学的に,脊髄の壊死性変化と空洞形成を認め,血管の肥厚・硝子変化と浸潤細胞の欠如を特徴とするとした.2002 年,Lucchinetti らは Mandler らの症例を含む剖検 8 例について,液性因子の詳細な検討を報告した3).NMO 病変においては,肥厚化・硝子化した血管変化が多数認められることを特徴とし,血管壁に免疫グロブリンおよび補体の沈着が全例で認められ,MS とはまったく異なるパターンであった.補体の沈着パターンは血管周囲に rosette 状あるいは rim 状に認められ MS とは異なる NMO の特徴とした.その当時,NMO は免疫グロ疾患名NMO01234567891011Cut-o (4×)65,536×8,192×1,024×128×16×16,384×4,096×1,024×256×64×16×4×HRMSCISp<0.0001r=0.9108r2=0.8295MiscellaneousdiseaseB脊髄病変長血清抗AQP4抗体価A血清抗AQP4抗体価図 1当科におけるアクアポリン4(AQP4)抗体価と脊髄病変との関連(文献 6 より改変)A: 視神経脊髄炎(NMO)およびハイリスク群(HR)において,それぞれ 91%,85%で AQP4 抗体が陽性であったが,多発性硬化症(MS)や他の神経疾患ではすべて陰性であった.MS:multiple sclerosis, CIS:clinically isolated syndrome.B: AQP4 抗体価は,急性期 NMO の脊髄病変長と強い正の相関が認められた.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091309(11)管周囲で AQP4 は欠落し,同部位では GFAP の染色も低下あるいは消失していた.一方,その周囲では反応性グリオーシスに伴い AQP4 が強く発現していた.さらに興味深いことには,急性期 NMO 病巣では AQP4 の欠落に比較して,髄鞘蛋白であるミエリン塩基性蛋白(MBP)の免疫染色性は保たれていた(図 2).NMO の病理像は,無くなる時期が急性期から慢性期まで病変の様相・程度は著しく異なっている.そこで筆者らは,NMOツꀀ 12 例,MSツꀀ 6 例の延髄および脊髄において,急性炎症性,活動期脱髄性,慢性活動性,慢性非活AQP4 抗体価は,脊髄炎の病変長と正の相関を示し,ステロイドや免疫抑制薬の治療により抗体価は低下し再発率も低下することが示された6).2. NMOの病理―アクアポリン4の脱落とアストロサイト障害2006 年,筆者らは NMO の急性炎症病巣にて AQP4の発現が欠損していることを,免疫組織学的手法を用いて検討し世界で初めて報告した7)(図 1).NMO の病変においては,補体である C9neo の沈着する拡張した血表 1視神経脊髄炎(NMO)病変の病期分類とその特徴病期分類組織の特徴液性因子活動性脱髄炎症細胞浸潤マクロファージ急性炎症性中心部の脱落・浮腫+++++(特に血管周囲)+活動期脱髄性全般的な組織脱落++++++(びまん性)+++(全般的)慢性活動性 胞状壊死─±─+(病変周囲)慢性非活動性 胞状壊死(全般的)───±液性因子:補体,免疫グロブリン(IgG, IgM)の血管周囲の沈着.活動性脱髄:KB 染色によるミエリン含有マクロファージ.炎症細胞浸潤:リンパ球または多核球・好酸球の浸潤.図 2視神経脊髄炎患者の血管周囲病巣におけるアクアポリン4(AQP4)およびGFAP発現パターン(文献 7 より改変)A: 急性期 NMO 病変での AQP4 と補体の検討.補体(C9neo)の沈着(茶色,矢印)する拡張した血管周囲において,AQP4(桃色)は欠落しており(*),その病変周囲で網目状の反応性グリアに AQP4 は発現している(矢頭).急性期 NMO 病変では,本来 AQP4 が豊富に発現する血管周囲で特異的に AQP4 が欠落することが証明された.B: Aと同じ切片での IgM と GFAP の検討.同様に IgM(桃色, 矢印)は血管に優位に沈着しており, 一方で反応性グリアは血管周 囲(Aの*相当部分)では認められず,病変周囲で GFAP 陽性のグリア(矢頭)が認められた(Scaleツꀀ bar=100 μm).炎症の中心部では, AQP4 の欠落に一致して GFAP 陽性のアストロサイトも認められず, グリオーシスが起きないことが示唆された.———————————————————————- Page 41310あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(12)と,一方で NMO 病変では欠落することを示し,筆者らと同様に MS と NMO は異なる病態機序が関連することを報告している9).Roemer らは,同様に NMO,MS,および対象群における,AQP4 の発現を検討し,NMOの急性期から慢性期まで AQP4 が欠落することを報告した.また,MS では急性期に一部で AQP4 の低下する病変が存在することを報告している.その意義は不明である10)が,AQP4 の脱落は病期にかかわらず NMOの病理学的特徴としており,筆者らの結果を支持するものである.3. AQP4の局在と病変との関わり筆者らは 2005 年に難治性吃逆をくり返す NMO 症例では,ガドリニウムで造影されずに治療で縮小する最後野の浮腫性病変が生じることを報告し,解剖学的に血液脳関門(BBB)の存在しない部位が再発病変の起こりやすさなどの病態に関連する可能性を示した11).その後,NMO では視床下部や延髄背側(最後野)など BBB がなく AQP4 が豊富に発現する部分に病巣が多い傾向が指摘されている12).Roemer らは欧米人 NMO の病変における AQP4 の発現を検討したなかで,NMO 病巣において AQP4 が欠落することを報告し,さらに最後野に生じた炎症性で浮腫状でありながら壊死や脱髄を伴わない病変が認められた病理所見を提示して,筆者らの吃逆例との類似性を考察している10).これらの事実は,BBBがなく AQP4 が豊富に発現することが知られている最後野などの脳室周囲器官が AQP4 抗体を介して病態に関わる可能性を示唆したものと思われる.しかし,動性の各病期を設定し,それぞれ AQP4・GFAP・MBP の各染色性および免疫グロブリン・補体の沈着を検討した(表 1).特に,血管周囲に著明な単核球や多形核球の浸潤を伴い比較的マクロファージの浸潤が少ない早期炎症性病変(n=22)において,著明な血管周囲の補体の沈着が明らかであり,その 16 病変では AQP4 やアストログリアの染色性は完全に欠落するが MBP は保たれる傾向が認められた8)(図 2,表 2).一方,脱髄に関わるマクロファージが病変を占める活動性脱髄性病変では,AQP4 は一貫して欠落するものの,GFAP やMBP の免疫染色性の程度はさまざまであり,グリオーシスや脱髄が heterogeneous に起こると思われる病期であった.慢性期では,一部でグリオーシスが認められる一方,脱髄は完成して壊死を伴った 胞状病変を呈していた.一方,古典的 MS の病変においては,MS 病巣では明瞭にミエリンの免疫染色性の脱落を認めるが,AQP4 や GFAP は反応性アストログリアとともに発現が亢進しており,NMO とはまったく逆のパターンを示していた(図 3).これらの結果から,NMO の病巣においては,AQP4 に対する自己抗体によって,AQP4 やアストロサイトの障害が,脱髄に先行して生じている可能性が高いと推察され,この AQP4 抗体が病態に関わることが示唆されるとともに,従来の古典的 MS とは免疫病態上まったく異なる疾患群であることが示された8)(表 2).Sinclair らは,MS および NMO において AQP4 の染色性を検討し,MS においては急性期から慢性期までAQP4 の発現が確認でき特に活動期の病変で亢進するこ表 2視神経脊髄炎の病変におけるAQP4,GFAP,MBPの染色パターン病変パターン病期分類AQP4GFAPMBP急性炎症性(n=22)活動期脱髄性(n=25)慢性活動性(n=8)慢性非活動性(n=12)パターン A( )( )(+)16730パターン B( )( )( )3701パターン C( )(+)(+)2400パターン D( )(+)( )1646パターン E(+)(+)( )0113パターン F(+)(+)(+)0002AQP4:アクアポリン 4,GFAP:グリア線維性酸性蛋白,MBP:ミエリン塩基性蛋白.( ):病変部における免疫染色性の完全な欠落,(+):病変部における染色性の部分的保存.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091311(13)壊死といった特徴的な NMO の病態が起こるのか不明な点が多いが,近年急速に AQP4 抗体の作用機序が解明されつつある.Hinson らは,AQP4 を強発現させたHEK293 細胞に対して NMO 患者血清による作用を詳細に検討した.その結果では,AQP4 抗体は補体介在性に細胞膜状に発現する AQP4 がすぐに degradation し,さらにendocytosisを受けることを示している13).AQP4 が degradation し た 後 も 細 胞 自 体 は 死 な ず,AQP4 は消化管や腎臓など他臓器にも分布し,またほとんど病変の出現しない大脳皮質などにも発現することから,AQP4 局在の特徴のみでは NMO の病態を説明できず,他の解剖学的・免疫学的要素なども関わると考えられている.IVNMO―アストロサイトパチーという概念この AQP4 抗体の存在によって,なぜ脱髄,浮腫,A.MBPB.AQP4C.GFAPD.MBPE.AQP4F.GFAP図 3視神経脊髄炎(NMO)と多発性硬化症(MS)の免疫組織学的相違NMO(A~C)では,非常に激しい破壊性病変が活動性・非活動性病変において認められる.多発性に組織の脱落が認められる脊髄において,脊髄実質の残る領域において(選択部ほか),AQP4(B,AQP4=桃色)や GFAP(C,GFAP=茶色)の欠落した病巣において,MBP(A,MBP=茶色)は比較的保たれていることがわかる.この所見からもNMO の予後が悪いことが想像される.M S 病 変(D~F)では,組織の破壊性変化は比較的軽度である.MBP が染まらない多発性白質病変(D,MBP=茶色)において,AQP4(E,AQP4=桃色),GFAP(F,GFAP=茶色)ともに発現低下は認められず,むしろグリオーシスとともに亢進傾向にある.MBP:myelin basic protein, AQP4:aquaporin 4, GFAP:glialツꀀ brillary acidic protein.———————————————————————- Page 61312あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(14)急性再発期の髄液の検討で,髄液中 GFAP が MS や対象群と比較して数千倍以上ときわめて高く上昇していることを見出し,治療によって速やかに正常範囲まで低下すること,重症度や脊髄病変長と強く相関することを報告した14).このように,NMO は AQP4 抗体を介するアストロサイト障害に起因する疾患(アストロサイトパチー)であることが示唆されており,これまで脱髄疾患の範疇として考えられてきた MS の類縁疾患 NMO は,その病態が明らかに異なる範疇の疾患であることが認識されつつある.おわりにMS の研究史において,NMO と MS の違いは最も古くから議論がなされてきたといえるが,現在その臨床・AQP4 抗体の影響を除くと AQP4 が再発現することを示し,また AQP4 は Ranvier 絞輪に発現して脱髄に関与する可能性を示唆した.さらに AQP4 抗体は補体介在性に,AQP4 とともにアストロサイトに発現する興奮性アミノ酸トランスポーター 2(EAAT2)の発現を低下させて glutamate の再吸収を阻害させることが示され,アストロサイトの機能障害によって生じた glutamate 毒性による神経系障害が NMO 病態に関与することを示唆した.一方,Vincent らは胎児アストロサイトと血管内皮細胞の共培養系を用い,AQP4 抗体は補体介在性にアストロサイトの足突起に極性をもって発現する AQP4が脱落して細胞質内へ取り込まれ,その後 BBB の透過性が亢進してアストロサイト自体も抗体・補体依存性に細胞死を生じることを示した.筆者らは,最近 NMO の表 3視神経脊髄炎と多発性硬化症における臨床・病理学的相違視神経脊髄炎多発性硬化症臨床的特徴経過再発・寛解型単発型一次進行二次進行>80%<20%稀稀>80%<10%30 60%発症年齢30 40 歳(平均)20 30 歳(平均)男女差1対91対2症候横断性脊髄症状失明・重度視力障害>50%30 50%稀稀脳 MRI頻度好発部位特徴初発時は稀延髄・第四脳室周囲視床下部・内包びまん性・血管性浮腫多発性脳梁・脳室周囲皮質直下・テント下斑状・楕円状脊髄 MRI縦長の病変(>3 椎体)中心灰白質優位の病変有高頻度稀稀髄液所見細胞増多(>50/mm3)細胞種類オリゴクローナルバンド有しばしば多核球10 20%稀単核球60 80%病理学的特徴血管所見血管壁の肥厚血管壁の硝子化多多稀稀細胞浸潤リンパ球・マクロファージ好中球・好酸球グリオーシス有有部分的有稀全般的組織外観活動期脱髄壊死・ 胞変化再髄鞘化破壊性有有少非破壊性有稀有AQP4脱落亢進GFAP脱落あるいは低下亢進補体(C9neo)花弁状・血管周囲髄鞘免疫グロブリン花弁状・血管周囲髄鞘———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091313病理学的相違は表 3 のように多くの相違点があり,それぞれ病態にとって重要な要素を含んでいると思われる.特に眼科的には,MS を含む視神経炎におけるステロイドパルス療法は長期的予後を改善することはないと考えられてきた経緯があったが,NMO における視神経炎は,ときに視交叉や両側視神経に及ぶ広範な病変を呈し,また壊死性変化を伴って重度の視力障害をきたす場合があり(図 4),適切な初期治療が行われずに失明に至る場合がある.視神経炎の病態は均一ではなく NMO のように緊急性を要する疾患が含まれており,ステロイドパルス療法や血漿交換療法などへの対応も念頭に置く必要がある.文献 1) Kuroiwa Y:Neuromyelitis optica(Devic’s disease, Devic’s syndrome). In:Koetsier JC, editor. Handbook of Clinical Neurology, Vol. 47, Demyelinating disease, p397-408, Elsevier Science Publishers, 1985 2) Mandler RN, Davis LE, Je ery DR et al:Devic’s neuro-myelitis optica:a clinicopathological study of 8 patients. Ann Neurol 34:162-168, 1993 3) Lucchinetti CF, Mandler RN, McGavern D et al:A role for humoral mechanisms in the pathogenesis of Devic’s neuromyelitis optica. Brain 125:1450-1461, 2002 4) Lennonツꀀ VA,ツꀀ Wingerchukツꀀ DM,ツꀀ Kryzerツꀀ TJツꀀ etツꀀ al:Aツꀀ serum autoantibody marker of neuromyelitis optica:distinction from multiple sclerosis. Lancet 364:2106-2112, 2004 5) Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ et al:IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 202:473-477, 2005 6) Takahashi T, Fujihara K, Nakashima I et al:Anti-aqua-porin-4 antibody is involved in the pathogenesis of NMO:a study on antibody titre. Brain 130:1235-1243, 2007 7) Misu T, Fujihara K, Nakamura M et al:Loss of aqua-porin-4 in active perivascular lesions in neuromyelitis optica:a case report. Tohoku J Exp Med 209:269-275, 2006 8) Misuツꀀ T,ツꀀ Fujiharaツꀀ K,ツꀀ Kakitaツꀀ Aツꀀ etツꀀ al:Lossツꀀ ofツꀀ aquaporinツꀀ 4 inツꀀ lesionsツꀀ ofツꀀ neuromyelitisツꀀ optica:distinctionツꀀ fromツꀀ multi-ple sclerosis. Brain 130:1224-1234, 2007 9) Sinclair C, Kirk J, Herron B et al:Absense of aqua-porin-4 expression in lesions of neuromyelitis optica but increasedツꀀ expressionツꀀ inツꀀ multipleツꀀ sclerosisツꀀ lesionsツꀀ andツꀀ nor-malツꀀ appearingツꀀ whiteツꀀ matter.ツꀀ Actaツꀀ Neuropathol 113:187-194, 2007 10) Roemerツꀀ SF,ツꀀ Parisiツꀀ JE,ツꀀ Lennonツꀀ VAツꀀ etツꀀ al:Pattern-speci c loss of aquaporin-4 immunoreactivity distinguishes neuro-myelitis optica from multiple sclerosis. Brain 130:1194-1205, 2007 11) Pittock SJ, Weinshenker BG, Lucchinetti CF et al:Neuro-myelitis optica brain lesions localized at sites of high aqua-porin 4 expression. Arch Neurol 63:964-968, 2006 12) Misu T, Fujihara K, Nakashima I et al:Intractable hiccup and nausea with periaqueductal lesions in neuromyelitis optica. Neurology 65:1479-1482, 2005 13) Hinson S, Pittock S, Lucchinetti C et al:Pathogenic (15)図 4視神経脊髄炎(NMO)および多発性硬化症(MS)における視神経病変A: NMO における視神経交叉部を含む視神経炎像(KB 染色).視神経交叉部に強い破壊性変化による組織欠損が認められ,同領域を含む両側視神経に広範の激しい脱髄と壊死所見が認められる.B: MS における視神経炎像(KB 染色).片側の視索の一部に髄鞘の脱落が認められるが,組織の脱落は軽微である.ツꀀ ———————————————————————- Page 81314あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009potential of IgG binding to water channel extracellular domain in neuromyelitis optica. Neurology 69:2221-2231, 2007 14) Misuツꀀ T,ツꀀ Takanoツꀀ R,ツꀀ Fujiharaツꀀ Kツꀀ etツꀀ al:Markedツꀀ increaseツꀀ in cerebrospinalツꀀ uid glialツꀀ brillar acidic protein in neuromy-elitis optica:an astrocytic damage marker. J Neurol Neu-rosurg Psychiatry 80:575-577, 2009(16)

臨床と疫学

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYMS の再発予防薬としてさまざまな病態を想定した治療薬が次々に開発されてきている.I多発性硬化症の疫学1. 遺伝的・環境的要因MS は人種や地域により有病率に大きな差がある.北半球でも南半球でも緯度が高いほど有病率が高い.日本国内でも北海道では九州に比べ 3 4 倍も有病率が高い.環境因子が大きいと考えられる要因として,15 歳までに高頻度地域に居住した場合,その後低頻度地域に移住しても,低頻度地域に出生・居住する住民よりも発症率が高いとされる.典型的な欧米型多発性硬化症(conventional MS:CMS)について,日本を北緯 37°で北と南に分けて比較すると,北で出生しそのまま北に居住する人々では,南で出生しそのまま居住する場合に比べ,MRI(磁気共鳴画像)でも典型的な CMS 画像を呈する場合が多いとされる.また緯度が近い地域でも人種により有病率が異なり,北ヨーロッパに出自をもつ北米・オーストラリアなどの国々に居住するコーカソイド人種では特に有病率が高く,40 100 人 /10 万人とされる.アジア・アフリカ系人種では 7 10 人 /10 万人と少ない.米国在住の日系二世は同世代の白人より MS の頻度が低く,南アフリカ在住の黒人でも同地域在住の白人に比し頻度が低い.このように,CMS の発症には遺伝的要因に加え環境要因が強く関連する.米国の調査では,同胞発症は 3 はじめに多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)は,中枢神経組織に,自己免疫機序によると考えられる炎症性脱髄性病変を多発性・多巣性に生じる疾患であり,視神経・大脳・脳幹・小脳・脊髄に炎症を生じ,再発と寛解をくり返す.本症は欧米白人に多く日本人には少ないとされてきたが,2004 年に施行された全国臨床疫学的調査では,過去 30 年間で患者数が 4 倍に増加したことが明らかになり,生活環境の欧米化の関与が考えられている.臨床病型についても,最近大きな変遷があった.すなわち,日本やアジア諸国に特徴的な病型と考えられてきた視神経脊髄型(optic-spinal form:OSMS)の多くが欧米で MS とは異なる疾患と考えられている neuromy-elitisツꀀ optica(NMO)と同一疾患である可能性が高くなった.さらに,これまで MS の病態は,中枢神経の白質がおもに CD4 陽性 T 細胞により傷害される機序が考えられてきたが,最近,髄鞘のみではなく早期から軸索にも病変が及ぶこと,白質のみではなく灰白質にも病変が及ぶこと,CD8 陽性 T 細胞も e ector になっていること,抗体が病変を修飾する可能性があること,これまでTh1/Th2 バランス仮説で病態が説明されてきたが,IL-17 を産生する Th17 細胞が重要な e ector であることが明らかになってきた.また,これまで,MS の再発予防にわが国では唯一使用可能であったインターフェロン-bが無効と考えられる病型が明らかになり,一方,(3)ツꀀ 1301ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ a a aツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 920 0293ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学 1 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀツꀀ 学 特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1301 1306,2009臨床と疫学Clinical Aspects and Epidemiology in Multiple Sclerosis/ Neuromyelitis Optica and Anti-Aquaporin-4 Antibody田中惠子*———————————————————————- Page 21302あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(4)速に増加しており,欧米化した生活習慣,土壌中の微生物環境,日照時間が短いことによるビタミン D の産生など,さまざまな環境要因の変化が考えられている1)(図1).また,女性の有病率が増加しており,1972 年には男性 1 に対し 1.3 であったものが,2004 年では 3.9 であった.女性 MS の増加は世界的な現象であるとの報告もある2).2. 臨床病型日本を含むアジア諸国の MS は,以前から欧米とは異なる臨床疫学的特徴を有すると考えられてきた.すなわち,わが国の MS は,主たる病変分布から,大脳病変を主体とする通常型(conventional form:CMS),視神経と脊髄に主たる炎症病巣を呈する視神経脊髄型(optic-spinalツꀀ form:OSMS)の 2 病型に大別され,欧米に比しOSMS の比率が高く,これがわが国を含むアジアの MSの特徴とされてきた3,4).最近の疫学調査では,OSMSはわが国の MS の約 20%を占め,CMS のように高緯度地域に多いという地域差がなく,CMS が近年増加の一途を辿るのに比し,OSMS の発症頻度は一定であるなどの特徴が示された(Osoegawaツꀀ Mツꀀ etツꀀ al:Multツꀀ Scler 15:159-173, 2009;Ishizu T et al:J Neurol Sci 280:22-28, 2009).5%とされるが,一卵性双生児の場合は 20%以上と推計されている.近年多数の MS 患者についての疾患感受性遺伝子の解析が進んでおり,HLA(組織適合抗原)その他多数の遺伝子が候補として検討されている.CMS における発症年齢のピークは 25 35 歳であるが,10 歳以前,あるいは 60 歳以降の発症もある.男女比は 1:2 3 とされる.米国での統計によると,CMSによる年間死亡率は 10 万対 0.7 で,平均死亡年齢が58.1 歳と,国民全体の平均死亡年齢 70.5 歳に比べ短縮している(The US Department of Health and Human Service, 1992).デンマークでも,MS の生命予後は国民平均より 10 年短いとの調査がある.近年,わが国でも MS は増加している.これまで,わが国では 1972 年,1982 年,1989 年,2004 年に全国疫学調査が施行されている.2004 年に厚生労働省の研究班が中心となって行った全国疫学調査によれば,10 万対の有病率は,1972 年時で 0.8 3.9,2004 年の調査では 7.7 と増加しており,さらに発症年齢のピークが 30歳代前半から 20 歳代前半へと移行し,若年者の MS が増加していることが明らかになった.特に北での増加が著しく,旭川での調査によれば,1975 年には 2.5 人 /10万人であったものが,2002 年には 8.9 人 /10 万人と急ツꀀ (1958)1.6(1968)1.0 本(1957)1.8(1983)1.3 児 (1973)0.7(1984)2.5 前(1973)3.8(1983)5.7旭川(1973)2.5(2002)8.9a):Northern patients(n=381):Southern patients(n=681)1926~19441945~19541955~19641965~19741975~199802468101214b)図 1 国内でのMS有病率の推移(a)と生年によるCMS/OSMS比の推移(b) (文献 1,2 より改変)———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091303(5)大脳病変に起因するものとして,半身の運動・感覚障害を呈する場合が多いが,ときにけいれんや失語・失行などの高次脳機能障害を呈する.頻度は低いものの,大脳に径 2 cm 以上の massツꀀ e ect を伴う大きな病変が生じる場合があり,tumefactiveツꀀ MS と呼称される.また近年,記銘力障害や注意集中困難,思考遅延などの認知機能障害が比較的早期から生じているとの報告があ る5).MRI で白質の脱髄プラークが目立たない場合も多く,むしろ大脳皮質の萎縮・脳梁の菲薄化・脳室拡大と関連し,MS ではこれまで考えられたよりも高頻度に,早期から軸索変性・神経細胞脱落が生じていることが推測されている.かつて,MS では euphoric になることが強調されたが,実際は MS の半数程度がうつ状態を呈するとされ,自殺の頻度も高い.このほか,MS に高頻度にみられるものとして,慢性疲労,性機能不全,restlessツꀀ leg 症候群がよく知られており,個々の対策が必要である.MS の症状の多くは,発熱や高温気象,入浴などによる体温上昇により症状が一過性に増悪する(Uhthoツꀀ 現象).MS は,大脳・脳幹・小脳に多数の病変を生じるため,MRI 検査が診断および経過観察に非常に有用である.MS の早期診断を目指して,2001 年に MRI に重点を置いた診断基準(McDonald の診断基準)6)が提唱されたが,その MRI に関する基準は Barkhof の基準7)に基づいている.欧米ではこの基準を満たせば,初回の発症時点から clinically isolated syndrome(CIS)として,再発予防の治療導入が開始される傾向があるが,OSMS の診断には有用とはいえず,その早期診断には別の基準が必要である.III視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)ツꀀ わが国では,CMS は頻度が低いため,かつてはその存在に疑問がもたれた時期もあった.一方で視神経と脊髄に炎症性脱髄性病変を反復する病型が注目され,視神経脊髄型(optic spinal)MS と呼称されて,わが国のMS を特徴付けるものと考えられてきた.OSMS と診断された例,特に脊髄に 3 椎体長以上に及ぶ縦長の病変II多発性硬化症の臨床MS は中枢神経の諸処に炎症性脱髄性病変を生じ,増悪と寛解,再燃をくり返すことが特徴とされ,「時間的・空間的多発性を呈する脱髄疾患」として知られている.病型の分類として,多くの場合は再発寛解型(relaps-ing-remitting form:RRMS)を呈し,長期経過の後,既存の脱髄斑の周囲に小病巣が重畳したり,軸索変性から神経細胞の脱落が進み,徐々に症状が進行性の経過をとるようにみえる二次性進行型(secondary progressive MS:SPMS)を呈するようになる.その他わが国ではまれとされるが,明らかな再発・寛解の経過をとらず,当初から緩徐に進行する経過を呈する一次性進行型(pri-mary progressive MS:PPMS)の病型も知られている.これらの病型の頻度は地域差があり,わが国ではRRMS が 90%以上を占め,PPMS は 5%程度とされる.一方,欧米では進行性経過を呈する例が多く,85 90%が RRMS で発症し,その約半数が 10 年以上の経過の後 SPMS に移行する.わが国ではまれである PPMS の頻度は 10 15%と高い.症候としては,脱髄巣を生じた部位によりさまざまであるが,15 20%の患者では視神経炎で発症する.通常は眼痛を伴う片眼の視力低下を呈するが,両眼同時あるいは数日の間隔で反対側にも症状が及ぶ.CMS では数週間の経過で良好な視力改善が得られるが,後述の抗アクアポリン 4 抗体陽性群では早期に高度の視力低下を生じ失明に至る場合がある.脳幹病変による複視や小脳脚病変による失調症状がみられる.小脳病変による失調の場合もある.脊髄に病変を生じる場合は,数時間から数日の経過で横断性脊髄症を呈することが多い.この場合,対麻痺や四肢麻痺,膀胱直腸障害,病変部以下の感覚障害を生じる.ときに,脊髄半側症状として障害側の運動麻痺・深部感覚障害と反対側の温痛覚障害を呈するBrown-Sequard 症候群を呈する.脊髄病変が生じると,頸部を急に前屈させた場合,背部を上から下に走る電撃痛(Lhermitte 徴候)がみられる.また,脊髄病変の回復期に多い症候として,手足を急に伸展するなどの際に上肢や下肢に発作的に強い疼痛を伴う,有痛性強直性攣縮がみられ,抗けいれん薬の投与を要する場合がある.———————————————————————- Page 41304あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(6)して発現させ,患者血清や髄液を反応させ,蛍光色素をラベルした抗ヒト IgG を二次抗体として検出するもので,同じ検体を用いて免疫組織化学で検出する NMO-IgG との比較でも両者の判定結果がほぼ一致することを確認している11).AQP4-Ab 陽性連続 20 例での検討では,AQP4-Abは IgG1 サブクラスに属した.IgG1 サブクラスは補体結合能を有する.NMO の病理所見の特徴として,血管壁への免疫複合体の沈着を伴う血管壁の肥厚がみられ,活性化補体が沈着していることは,本抗体の関与を支持する所見と考えられる.抗体価を同一患者の血清と髄液とで比較すると,血清のほうが 400 500 倍力価が高い.この関係は各検体でほぼ一定であることから,髄液中の抗体は血液からの流入によると考えられ,抗体産生の場は末梢リンパ系であると考えられている.2. 抗AQP4抗体陽性群の特徴全国諸施設から OSMS または MS の臨床診断のもとに NMO-IgG/AQP4-Ab 検査を目的に筆者のもとに寄せられた約 2,800 検体について解析が終了し,わが国での本抗体陽性例の臨床的特徴が明らかになってきている.全検体における AQP4-Ab 陽性率は 27%であったが,大脳・小脳病変を主とする CMS ではすべて陰性で(longitudinary extensive spinal cord lesion:LESCL)を生じる一群(LESCL-OSMS)は,欧米で疾患概念が提唱された NMO ときわめて類似点が多く,その異同については長い間議論があった.2004 年,米国 Mayo Clinic の Dr. Lennon のグループが,NMO に特異的に出現するとされる血清中の抗体:NMO-IgG を発見し8),さらに NMO-IgG が認識する抗原は神経系に発現する水チャネル分子,aquaporin-4(AQP4)であることを同定した9).この発見により,筆者を含めわが国の複数の施設で抗 AQP4 抗体の検出がなされるようになり,これまで OSMS と呼称してきた例の多くが,本抗体を有する NMO と同様の病態に基づく疾患であることが明らかとなり,MS の疾患概念および治療の選択に大きな変化をもたらした.1. NMO IgG/抗アクアポリン4抗体(anti-aqua-porin-4 antibody:AQP4-Ab)NMO-IgG は,NMO 患者血清・髄液で免疫組織化学染色を行った場合,マウスやラットの中枢神経組織の軟膜,Virchow-Robin 腔,小血管壁に沿う染色パターンを呈する IgG 抗体であり,NMO に特異的に認められる.遠位尿細管や胃壁細胞・筋線維も染色されるが,抗原の発現は神経系に優位なパターンを呈することから,水チャネル分子,AQP4 である可能性が考えられ,実際AQP4 との反応が確認された9).AQP4 は,脳表の軟膜直下の gliaツꀀ limitans,中小血管の外膜に接する部位,脳室壁上衣細胞に接する部位などでアストロサイトの endfeet に発現し,血液脳関門の機能を担い,脳浮腫に関連することが知られている(図 2)10).哺乳類のアクアポリンは現在 13 個の分子種が同定されており,そのうち中枢神経系で発現の多いサブタイプは 1 と 4 である.特に 4 は最も発現が多く,その構造は6 回の膜貫通領域をもち,四量体の形で存在し,水分子が通過しうるサイズのポアが水分子の出入りをコントロールしている.筆者の確立した AQP4-Ab の検出系は,ヒト AQP4の全長 cDNA を作製し,発現ベクターに組み込んで,human embryonic kidney(HEK)293 細胞に transfect図 2 水チャネルの機能に関連が深いと思われるAQP4発現部位(文献 10 より)———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091305(7)定化により抗体が検出感度以下になっている可能性も考えられ,ある時点で AQP4-Ab が陰性でも NMO と同様の病態を有する例であることもある.ちなみに眼科領域からの症例で集計が可能であった266 例をみてみると,抗体陽性例は 36/266(13.5%),うち初発例 18(視神経症状のみ 9 例)で,視神経炎のみを 16 年で 5 回反復した例,12 年で 4 回反復した例があった.欧米の統計では,本抗体陽性例の 50%は 5 6 年の経過で脊髄炎を呈するとする報告もある12).最近,視神経軸索や網膜神経細胞の変性を非侵襲的に評価し,症状経過を追跡する目的で,opticalツꀀ coherence tomography(OCT)が施行され,有用であることが報告されている.すなわち,nearツꀀ infraredツꀀ light を利用して retinal nerveツꀀ ber layer(RNFL)の厚さおよび mac-ularツꀀ volume(retinalツꀀ ganglionツꀀ cells)を測定し,明らかな再燃がない例でもこれらのパラメータが経過とともに増悪し,症状とも相関するとの報告がある13).なお,抗 AQP4 抗体関連 NMO の多くの例で,急性期にはメチルプレドニゾロンパルス療法が行われており,パルス療法に反応が不良な例では血漿交換療法が加えられて,症状の改善が得られた例がみられる.再発予防には少量のプレドニゾロン継続投与に加え,アザチオプリンなどの免疫抑制薬,ミトキサントロン,リツキシマブの投与の試みがあり,良好な経過をとる例の報告があった.対照として検討した,神経症状を認めないSjogren 症候群や全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病,その他の神経変性疾患,健康人を加えた 50例では陽性例はみられなかった.AQP4-Ab 陽性例で詳細な臨床情報が得られた 569 例では,陽性例の 79.1%が女性であり,発症年齢の平均が 47.2±16.3 歳,EDSS(Expandedツꀀ Disabilityツꀀ Statusツꀀ Scale)の平均は 6.2±2.1と高く,初発部位としては視神経と脊髄が多く,MRIでは脊髄に 3 椎体以上にわたる長大な病変を有する例が74.1%と多数を占めた.大脳・小脳・脳幹病変も 63%に認めた.高度の視力障害を有する例は約半数あり,年間再発回数も 3.6 回と,再発頻度も高い例が多くみられた.オリゴクローナルバンド陽性率は 10.4%と低かった(表 1).抗体陽性例の脊髄 MRI の代表的所見は,胸髄を中心として上下に長い病変を認め,横断面でみると脊髄中心部に病変の主座があった.経過の長い一部の例では脊髄が長い範囲にわたり高度に萎縮していた(図3).大脳病変はさまざまであり,視床下部病変があり過眠症が目立った例,大脳白質に空洞を伴う大きな病変を有する例もあった.なお,LESCLツꀀ を認めるものの,抗体陰性例も存在する.抗体陰性という場合,治療により抗体価が低下して検出できなくなる例があること,また寛解期で症状の安図 3NMOの脊髄MRI脊髄中心管を中心とした 3 椎体以上に及ぶ長大病変.表 1抗AQP4抗体陽性例の特徴AQP4-Ab 陽性例総数(男性/女性)569(119/450)(女性:79.1%)初発年齢(歳)47.2±16.3病型(再発寛解型)(%)75.8EDSS スコア6.2±2.1車いす/寝たきり85/138(38.1%)高度視力障害(視力喪失)99/116(46.0%)初発部位(ON/SP/BS/Cbr)(%)43.9/41.0/8.1/7.0MRI(cbr/cbll/BS)(%)35.9/4.8/22.3MRI LCL(+/ )(%)74.1/7.6OCB(+)/MBP(+)(%)10.4/57.4 RR:再発寛解型,SP:二次進行型,PP:一次進行型,ON:視神経,SP:脊髄,BS:脳幹,cbr:大脳,cbll:小脳,LCL:脊髄長大病変,OCB:オリゴクローナルバンド,MBP:ミエリン塩基性蛋白.———————————————————————- Page 61306あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(8)─.日本臨牀 61:1300-1310, 2003 2) 小副川学,吉良潤一:多発性硬化症の疫学─最近の全国臨床疫学調査からみえてくるもの─.医学のあゆみ 219:129-134, 2006 3) Kira J:Multiple sclerosis in the Japanese population. Lan-cet Neurol 2:117-127, 2003 4) Saidaツꀀ T,ツꀀ Tashiroツꀀ K,ツꀀ Itoyamaツꀀ Yツꀀ etツꀀ al:Interferonツꀀ beta-1b is e ective in Japanese RRMS patients:A randomized, multicenter study. Neurology 64:621-630, 2005 5) Chiaravalloti ND, DeLuca J:Cognitive impairment in multiple sclerosis. Lancet Neurol 7:1139-1151, 2008 6) McDonald WI, Compston A, Edan G et al:Recommended diagnostic criteria for multiple sclerosis:guidelines from the International Panel on the diagnosis of multiple sclero-sis. Ann Neurol 50:121-127, 2001 7) Barkhof F, Filippi M, Miller DH et al:Comparison of MRI criteria atツꀀ rst presentation to predict conversion to clini-cally de nite multiple sclerosis. Brain 120:2059-2069, 1997 8) Lennonツꀀ VA,ツꀀ Wingerchukツꀀ DM,ツꀀ Kryzerツꀀ TJツꀀ etツꀀ al:Aツꀀ serum autoantibody marker of neuromyelitis optica:distinction from multiple sclerosis. Lancet 364:2106-2112, 2004 9) Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ et al:IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 202:473-477, 2005 10) Verkman AS:More than just water channels:unexpect-ed cellular roles of aquaporins. J Cell Sci 118:3225-3232, 2005 11) Tanaka K, Tani T, Tanaka M et al:Anti-aquaporin 4 antibody in Japanese multiple sclerosis with long spinal cord lesions. Multiple Sclerosis 13:850-855, 2007 12) Matiello M, Lennon VA, Jacob A et al:NMO-IgG pre-dicts the outcome of recurrent optic neuritis. Neurology 70:2197-2200, 2008 13) Seze J, Blanc F, Jeanjean L et al:Optical coherence tomo-graphy in neuromyelitis optica. Arch Neurol 65:920-923, 2008 14) Mandlerツꀀ RN,ツꀀ Ahmedツꀀ W,ツꀀ Dencoツꀀツꀀ JE:Devic’sツꀀ neuromyeli-tis optica:a prospective study of seven patients treated with prednisone and azathioprine. Neurology 51:1219-1220, 1998 15) Creeツꀀ BA,ツꀀ Lambツꀀ S,ツꀀ Morganツꀀ Kツꀀ etツꀀ al:Anツꀀ openツꀀ labelツꀀ study of the e ects of rituximab in neuromyelitis optica. Neurol-ogy 64:1270-1272, 2005 16) Weinstock-Guttman B, Ramanathan M, Lincoツꀀ N et al:Study of mitoxantrone for the treatment of recurrent neu-romyelitis optica(Devic disease). Arch Neurol 63:957-963, 2006 17) Misuツꀀ T,ツꀀ Fujiharaツꀀ K,ツꀀ Kakitaツꀀ Aツꀀ etツꀀ al:Lossツꀀ ofツꀀ aquaporinツꀀ 4 inツꀀ lesionsツꀀ ofツꀀ neuromyelitisツꀀ optica:distinctionツꀀ fromツꀀ multi-ple sclerosis. Brain 130:1224-1234, 2007 18) Hinson SR, Pittock SJ, Lucchinetti CF et al:Pathogenic potential of IgG binding to water channel extracellular domain in neuromyelitis optica. Neurology 69:2221-2231, 2007なされている14 16).3. 抗AQP4抗体関連NMO/OSMSにおけるAQP4抗体の病因的意義これまで,AQP4 抗体の病因的意義を支持する知見と考えられている点は, a ) AQP4-Ab は,NMO/OSMS の病型で特異的かつ高頻度に検出される b ) 抗体価と病勢(活動性)が並行して推移する場合が多い c ) 抗体を除去する血漿交換療法や B 細胞を除去する治療が有効とされる d ) 病理学的に,本症の早期病変で,髄鞘がまだ残存する段階でも AQP4 が広範に消失している17) e ) AQP4 の発現が多い部位と病変好発部位が一致する f ) AQP4-Ab の免疫グロブリンサブタイプは,IgG1が主体であり,病理学的に本症病変で観察される,免疫グロブリンおよび活性化補体の沈着する所見を説明できる g ) 抗体は AQP4 の細胞外ドメインに結合すると考えられ,血液・髄液中の抗体が到達しやすいと考えられる h ) 培養系で AQP4 発現細胞に AQP4-Ab と補体を反応させると,AQP4 が degradation を受け,細胞が傷害される18) i ) ラットに実験的脳脊髄炎(experimental allergic encephalopathy:EAE)を作製し,AQP4 抗体陽性 NMO 患者より採取した血清 IgG を投与すると,NMO と同様の病理学的・免疫組織化学的所見が得られるなどの知見が集積されている.上述の多くの知見は本抗体が病態に深く関わっていることを示唆するものであり,今後の治療法の確立にも理論的根拠を与える知見となると考えられる.文献 1) 吉良潤一:多発性硬化症の臨床疫学─環境要因と遺伝要因

序説:多発性硬化症・視神経脊髄炎と 抗アクアポリン4 抗体

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYに解明されつつあり,治療への応用が考察されている.本年 10 月初旬に International Sympo-sium“New aspects of neuromyelitis optica(NMO)”が淡路夢舞台国際会議場(会長は楠 進教授:近畿大学神経内科)で開催され,わが国および世界各国から著名な NMO 研究者が集結して,最新の研究成果を発表し友好を深めたことはまことに意義深いことであった.本特集「多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン 4 抗体」は,このテーマの重要性を熟知された当誌編集主幹の木下茂教授(京都府立医大眼科)のご提案で,吉良潤一教授と私,中尾雄三が企画・構成をさせていただいた.執筆者はベテラン・若手を問わず,現在の神経内科と眼科の領域で最もアクティブに NMO の研究にたずさわっている方々ばかりで,最高のメンバーをそろえたと自負している.神経内科の先生方からは,まず MS と NMO の臨床と疫学(田中惠子),病理学的特徴(三須建郎,他),免疫・病態の背景(松下拓也,他),最近の治療法(西山修平,他)について幅広く解説していただいた.また眼科の先生方からは,抗AQP4 抗体陽性視神経炎(中尾雄三),視神経炎ここ数年前から,多発性硬化症(multipleツꀀ scle-rosis:MS)と視神経脊髄炎(neuromyelitis opti-ca:NMO)の診断,治療,予後に関する考え方に衝撃的な paradigmツꀀ shift が生じている.MS は脳,脊髄,視神経など中枢神経を障害する炎症性脱髄疾患で,なかでも特に視神経炎と脊髄炎の組み合わせは視神経脊髄型 MS(optic-spinalツꀀ multi-ple sclerosis:OSMS)とよばれてアジアに多くみられる.一方,NMO もまた視神経と脊髄を病変の主座とする炎症性脱髄疾患であるが,臨床像や病理所見の差から欧米では MS とは一線を画して扱われ,NMO と OSMS の異同が長く論議されている.近年,Lennon らが NMO の患者血清中に特異的な自己抗体(NMO-IgG)を見出し,これはアストロサイトの細胞膜のアクアポリン 4(aquaporin-4:AQP4)を標的とする抗体(抗AQP4 抗体)であることが明らかとなった.抗AQP4 抗体を意識した新しい NMO の診断基準が提唱され,重症で長い病変(3 椎体以上)の脊髄炎,再発が多く失明率の高い視神経炎など,改めて NMO の重大な臨床的特徴の報告が相次いでいる.抗 AQP4 抗体を軸とした NMO と MS(OSMSを含む)の免疫システムの違いの詳細が加速度的(1)ツꀀ 1299 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 2ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 神経ツꀀツꀀ ●序説 あたらしい眼科 26(10):1299 1300,2009多発性硬化症・視神経脊髄炎と 抗アクアポリン 4 抗 体Multiple Sclerosis/Neuromyelitis Optica and Anti-Aquaporin-4 Antibody中尾雄三*1吉良潤一*2———————————————————————- Page 21300あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(2)と光干渉断層計(池田陽子,他),自己免疫性視神経炎(久保玲子,他),実験的視神経炎(毛塚剛司)について詳しく述べていただいた.いずれもMS と NMO に関してはわが国を代表する研究施設と病院からの優れた研究成果ばかりである.医学を学び,医療に従事していて,幸運にも光り輝くような新事実に直面し,難しい疾患の病態の解明や治療法に光明を見出す喜びに感動することがあるが,今まさにこの抗 AQP4 抗体を中心とした NMO 研究がそれである.本特集をぜひとも多くの読者に熟読していただき,この思いを共有できれば企画・編集した者にとってこれ以上の喜びはない.執筆された研究者諸氏のさらなる発展に期待したい.

新生血管黄斑症に対する Bevacizumab 硝子体内投与後の 一過性眼圧上昇

2009年10月29日 木曜日

———————————————————————- Page 1(123)ツꀀ 14210910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1421 1423,2009cはじめに近年,網膜領域では眼内注射は増加しており,特に新生血管黄斑症に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬剤投与は重要な治療法になっている.しかし,投与後の眼圧変化について検討した報告はわが国にはない.今回,新生血管黄斑症に対する bevacizumab 硝子体内投与後の眼圧変化について検討した.I対象および方法2007 年 8 月より 2008 年 4 月までに杏林アイセンターにて bevacizumab 硝子体内投与した新生血管黄斑症を有する33 例 33 眼(男性 18 例,女性 15 例)について retrospectiveに検討した.平均年齢は 69.3 歳(35 89 歳)であった.緑内障既往眼,硝子体手術既往眼は除外した.白内障手術既往眼は含めた.疾患の内訳は狭義の加齢黄斑変性(AMD)9 眼(27%),ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)16 眼(49%),網膜血管腫状増殖(RAP)2 眼(6%),近視性血管新生黄斑症 5眼(15%),網膜色素線状 1 眼(3%)であった.1 回投与が14 眼(42%),2 回 投 与 が 18 眼(55%),4 回 投 与 が 1 眼(3%)であった.数回投与の場合,最低 1 カ月の間隔で行った.〔別刷請求先〕山本亜希子:〒180-8611 東京都三鷹市新川 6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprint requests:Akiko Yamamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Kyorin University School of Medicine, 6-20-2 Shinkawa, Mitaka, Tokyo 180-8611, JAPAN新生血管黄斑症に対する Bevacizumab 硝子体内投与後の一過性眼圧上昇山本亜希子杉谷篤彦岡田アナベルあやめ平形明人杏林大学医学部眼科学教室Changes in Intraocular Pressure after Intravitreal Injection of BevacizumabAkiko Yamamoto,Atsuhiko Sugitani, Annabelle Ayame Okada and Akito HirakataDepartment of Ophthalmology, Kyorin University School of MedicineBevacizumab 硝子体内投与後の眼圧変化について retrospective に検討した.対象は新生血管黄斑症を有する 33例 33 眼であった.Bevacizumabツꀀ 1.25 m g/0.05 ml注入後の投与眼の眼圧を注射前,注射直後,30 分後に非接触式眼圧計にて測定した.平均眼圧の推移は,注射前が 13.44±2.99 mmHg,注射直後は 28.17±10.27 mmHg,注射 30 分後は16.94±4.45 mmHgであった.30 分後の眼圧は全例 30 mmHg以下になっていた.注射直後,30 分後とも注射前に比べ有意に眼圧上昇していた.注射前に比べ平均眼圧上昇は注射直後 15 mmHg(p<0.0001),30 分後4 mmHg(p<0.0001).緑内障の既往はないが 1 眼のみ持続性の眼圧上昇を認め,眼圧下降薬の使用を必要とした.硝子体内投与後は眼圧のモニタリングが必要であると考えられた.Weツꀀ examinedツꀀ short-termツꀀ changesツꀀ inツꀀ intraocularツꀀ pressure(IOP)inツꀀ patientsツꀀ receivingツꀀ intravitrealツꀀ injectionsツꀀ of bevacizumab.ツꀀ Theツꀀ subjectsツꀀ comprisedツꀀ 33ツꀀ patientsツꀀ whoツꀀ receivedツꀀ intravitrealツꀀ injectionsツꀀ ofツꀀ bevacizumab(1.25 m g/ 0.05 ml)forツꀀ theツꀀ treatmentツꀀ ofツꀀ neovascularツꀀ maculopathy.ツꀀ Theツꀀ short-termツꀀ e ectsツꀀ ofツꀀ bevacizumabツꀀ injectionsツꀀ onツꀀ IOP wereツꀀ analyzed.ツꀀ Theツꀀ baselineツꀀ meanツꀀ IOPツꀀ wasツꀀ 13.44±2.99 mmHg. Immediately post-injection, the mean IOP was 28.17±10.27 mmHg. At 30 minutes after injection, the mean IOP was 16.94±4.45 mmHg. In one patient who had no history of glaucoma, the 30-minute post-injection IOP was 29 mmHg;this patient continued to exhibit elevated IOP requiring pressure-lowering medication. Our results suggest a need to monitor IOP following intravitreal injections.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1421 1423, 2009〕Key words:ベバシズマブ,眼圧,加齢黄斑変性,硝子体内注射.bevacizumab,ツꀀ intraocularツꀀ pressure,ツꀀ age-related macular degeneration, intravitreal injection.———————————————————————- Page 21422あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(124)総投与回数は 54 回であった.なお,bevacizumab 投与は倫理委員会の承認をもとに,書面によるインフォームド・コンセントを患者より得てから行った.方法は,キシロカイン点眼・結膜 Tenonツꀀ (穿刺部位付近の一部のみに注入)麻酔後,逆流防止しながら 30 ゲージ針にて bevacizumab 1.25 mg/0.05 ml 注入した.投与眼と僚眼の眼圧を注射前(局所麻酔前),注射直後,30 分後に非接触式眼圧計にて測定した.全例前房穿刺は行わなかった.眼圧の推移について Student-tツꀀ test にて検討し,p<0.05を統計学的な有意差ありと判定した.II結果注射前の眼圧は全例で 21 mmHg以下であった.平均眼圧の推移は,注射前が 13.44±2.99 mmHg(7 21 mmHg),注射直後は 28.17±10.27 mmHg(7 60 mmHg),注射 30 分後は 16.94±4.45 mmHg(5 29 mmHg)で あ っ た(図 1). 直後の眼圧が 50 mmHg以上に上昇した症例は 3 眼(9%)みられたが,30 分後の眼圧は全例 30 mmHg以下になっていた.30 分後眼圧が注射前に比して5 mmHg以上眼圧下降した 2例は,どちらも 9 D 以上の強度近視眼であった.この 2 例では直後の眼圧も術前の眼圧より下がっていた.強度近視眼でも注射直後に 20 mmHg以上眼圧上昇した症例も 5 例中 2例みられた.全例で注射直後,30 分後とも注射前に比べ有意に眼圧上昇していた.注射前に比べ平均眼圧上昇は注射直後15 mmHg(p<0.0001),30 分後4 mmHg(p<0.0001)であった.投与回数別の検討を行ったが有意差はなく,投与回数を重ねても眼圧上昇度は変化しないことがわかった.疾患別の眼圧上昇度を検討した.近視性脈絡膜血管新生の症例のみ有意な眼圧上昇はみられなかった.年齢については,50 歳未満(5 例)と 50 歳以上(28 例)の症例を比べ,有意差はみられなかった.1 例のみ持続的な眼圧上昇を認めた.症例は 79 歳,女性,PCV の症例であった.既往歴として糖尿病があった.それまで他の治療は受けていなかった.初回投与前眼圧 18 mmHgで直後眼圧が 33 mmHgまで上昇し,30 分後は 29 mmHgであった.60 分後はさらに 39 mmHgまで上昇したため 1% ブリンゾラミドの投与を開始した.投与 1 週間後の再診時に点眼を継続していたにもかかわらず眼圧 20 mmHgであり,その後も点眼継続とした.2 回目投与後も注射直後の眼圧が50 mmHg,30 分後 29 mmHg,1 時間後 28 mmHgと下降せず,0.5%チモロール追加とした.その後は 2 剤継続し 20 台前半で推移したが,3 回目の投与後は直後 51 mmHg,30 分後24 mmHgとなった.4 回目の投与直後は 60 mmHgまで上昇し,30 分後は 25 mmHgであった.投与 2 週間後に眼圧23 mmHgと高めであり,0.005%ラタノプラスト点眼追加となった.現在も 3 剤の点眼を継続中であり,眼圧は 20 mmHg台前半にて推移している.視神経は緑内障変化を認めず,視野検査においても緑内障を疑う異常所見はみられなかった.III考按抗 VEGF 薬剤投与の普及に伴い,その効果,合併症についての検討が必要とされている.Benz ら1)は 0.1 ml の硝子体内投与は 2.5%の硝子体容積に相当し,眼圧上昇は硝子体容積の増大が原因であるとしている.今回の検討でも一時的な眼圧上昇については同様の機序が考えられた.強度近視眼のみ有意な眼圧上昇がみられず,むしろ 30 分後に眼圧が下降した症例もみられた.これもまた硝子体容積の違いが影響していると考えられた.Benz ら1)は投与後逆流がみられない場合に眼圧が上昇することを指摘しており,強度近視の症例では強膜の菲薄化がみられる場合や硝子体の液化が進行していることが多く,穿刺部位より液化硝子体が漏出することによって眼圧が下がる可能性も否定できないと考えられた.持続性眼圧上昇をきたした 1 例について原因は明らかではなかった.Hollands ら2)は糖尿病黄斑症に対して bevaci-zumab を投与した 1 例において持続性眼圧上昇を認めたとしている.この症例は前回治療として triamcinolone を使用しており,それによる線維柱帯の障害が疑われたとしている.今回筆者らの症例では同様の機序は否定的であった.過去の報告においても bevacizumab 0.05 ml 注射後に一過性眼圧上昇がみられるとされており,平均 20 mmHg以上の眼圧上昇がみられたと報告している2).Kim ら3)は 213 回の硝子体内投与を施行し,直後の眼圧が 87 mmHgまで上昇した症例があったと報告している.また,一過性眼圧上昇により動脈閉塞の危険性が高まるとされており,VISIONツꀀ studyでは 7,545 例中 4 例で網膜動脈閉塞が起きたと報告してい る4).そのうち 1 例は pegaptanib 0.3 mg投与,4 例は pegap-tanib 1 mg投 与 後 で あ っ た.Huang ら5)は通常みられる40 mmHg以上の眼圧上昇により,網膜の微細構造や視神経,0510152025眼圧(mmHg)30354045注射前注射直後注射30分後図 1硝子体内投与後の眼圧変動———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091423(125)網膜や脈絡膜の小血管に障害を起こす可能性があると述べている.眼圧上昇はツꀀ 一過性とはいえ,注意深い経過観察が必要であると考えられる.Hollands ら2)も指摘しているように緑内障の既往がある症例では眼圧上昇によって視神経障害が進行する可能性があり,特に注意する必要がある.Byeonら6)は 0.5%チモロールと 2%ドルゾラミドの合剤投与後に房水流出が抑制されることにより bevacizumab の効果がより持続することを報告している.今後緑内障既往眼では投与後の眼圧のみではなく薬剤投与後,抗 VEGF 作用が持続する可能性も念頭におき経過観察するべきかもしれない.Bevacizumab 投与後は有意に眼圧上昇するが,ほとんどの症例では 30 分後は眼圧下降していた.前房穿刺の必要性については前房穿刺を行うことによって感染や水晶体損傷の危険性が高まるとの意見7,8)や前房穿刺を行うことによって眼圧上昇を防げる5)という意見,注射前に前房穿刺を行うことで薬剤の逆流を防げるという考え方9)もあり,意見が分かれているところではあるが,今回の検討結果からは治療を必要とする症例は 1 眼のみであり,前房穿刺は必ずしも必要はないと考えられた.しかし,まれに持続性の眼圧上昇をきたすこともあるため,投与後手動弁や指数弁の確認は全例に必要であり,症例によっては眼圧のモニタリングが必要と考えられる.文献 1) Benz MS, Albini TA, Holz ER et al:Short-term course of intraocularツꀀ pressureツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ injectionツꀀ ofツꀀ triamci-nolone acetonide. Ophthalmology 113:1174-1178, 2006 2) Hollands H, Wong J, Bruen R et al:Short-term intraocu-lar pressure changes after intravitreal injection of bevaci-zumab. Can J Ophthalmol 42:807-811, 2007 3) Kim JE, Mantravadi AV, Hur EY et al:Short-term intra-ocular pressure changes immediately after intravitreal injections of anti-vascular endothelial growth factor agents. Am J Ophthalmol 146:930-934, 2008 4) VEGF Inhibition Study in Ocular Neovascularization(V.I.S.I.O.N.)Clinicalツꀀ Trialツꀀ Group:Pegaptanibツꀀ sodiumツꀀ for neovascular age-related macular degeneration. Ophthal-mology 113:992-1001, 2006 5) Huang W-C, Lin J-M, Chiang C-C et al:Necessity of paracentesisツꀀ beforeツꀀ orツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ injectionツꀀ ofツꀀ beva-cizumab. Arch Ophthalmol 126:1314, 2008 6) Byeon SH, Kwon OW, Song JH et al:Prolongation of activity of single intravitreal bevacizumab by adjuvant topical aqueous depressant(Timolol-Dorzolamide). Greafes Arch Clin Exp Ophthalmol 247:35-42, 2009 7) Hariprasad SM, Shah GK, Blinder KJ et al:Short-term intraocular pressure trends following intravitreal pegap-tanib(Macugen)injection. Am J Ophthalmol 141:200-201, 2006 8) Lee EW, Hariprasad SM, Mieler WF et al:Short-term intraocularツꀀ pressureツꀀ trendsツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ triamcinolo-ne injection. Am J Ophthalmol 143:365-367, 2007 9) Tsui Y-P, Chiang C-C, Tsai Y-Y et al:Paracentesis before intravitreal injection of bevacizumab. Can J Oph-thalmol 43:239, 2008***

小児に発症した MRSA による急性化膿性涙腺炎

2009年10月25日 日曜日

———————————————————————- Page 1(107)ツꀀ 14050910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1405 1408,2009cはじめに急性感染性涙腺炎は比較的まれな疾患であり,原因不明の上眼瞼の腫脹と疼痛を主訴として紹介されることが多い.病原体としては,ウイルス,細菌,真菌がある1 4).ウイルス性では,ムンプスが最多で,他にサイトメガロウイルス,コクサッキー A 群ウイルス,エコーウイルス,伝染性単核球症ウイルス,帯状ヘルペスウイルスなど多種類のウイルスがある.細菌性には,黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌,淋菌,緑膿菌,Morax-Axenfeld 菌,Koch-Weeks 菌,トラコーマなどが知られている.局所からの細菌感染は,結膜炎,麦粒腫,眼瞼炎などから細菌が涙腺の排出管を逆行性に上がって起こるとされている.分枝菌,真菌,原虫では,ブラストマイコーシス,ヒストプラズモーシス,アクチノマイコーシス,ノカルディオーシス,スポロトリコーシス,アカントアメーバが知られている1,2).今回筆者らは,近医初診時に麦粒腫が疑われ,抗菌薬点眼,内服にて軽快せず当院紹介受診となったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantツꀀ Staphylococcusツꀀ aureus:MRSA)による急性化膿性涙腺炎の 7 歳,男児例を経験したので報告する.I症例患者:7 歳,男児.主訴:左眼の眼瞼腫脹,疼痛.〔別刷請求先〕稲垣伸亮:〒920-0293 河北郡内灘町大学 1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprint requests:Shinsuke Inagaki, M.D., Department of Ophthalmology, Kanazawa Medical University, 1-1 Daigaku, Uchinada-machi, Kahoku-gun 920-0293, JAPAN小児に発症した MRSA による急性化膿性涙腺炎稲垣伸亮北川和子永井康太萩原健太佐々木洋金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)An Infant Case of Acute Purulent Dacryoadenitis due to MRSAShinsuke Inagaki, Kazuko Kitagawa, Kouta Nagai, Kenta Hagihara and Hiroshi SasakiDepartment of Ophthalmology, Kanazawa Medical University7 歳の男児に発症したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による急性化膿性涙腺炎を経験した.左上眼瞼の腫脹と疼痛を認め,近医にて麦粒腫の診断で加療されたが増悪を認めたため,当院へ紹介された.充血,上眼瞼耳側の発赤腫脹,触診にて涙腺の腫大と圧痛,左耳前リンパ節腫脹がみられた.涙腺炎を疑い上眼瞼反転したところ,腫脹した外眼角近辺より黄色膿性分泌物が漏出した.分泌物の塗抹鏡検で多核白血球,グラム陽性球菌を多数認め,培養でMRSA が検出された.入院のうえ,抗生物質の頻回点眼,点滴静注を開始したところ,速やかに軽快した.筆者らが知る限りでは,MRSA による急性化膿性涙腺炎の報告はなく,健常な小児で本菌が起炎菌となることは少ない.本症例は,涙腺炎発症数日前にインフルエンザ罹患既往があり,免疫状態が低下した状態にあったことが MRSA 感染の要因であった可能性があるが,きわめてまれな症例と考えられた.Weツꀀ reportツꀀ theツꀀ caseツꀀ ofツꀀ aツꀀ 7-year-oldツꀀ maleツꀀ withツꀀ leftツꀀ acuteツꀀ purulentツꀀ dacryoadenitisツꀀ dueツꀀ toツꀀ methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA). In pus from the gland, many neutrophiles and gram-positive cocci were observed;culturingツꀀ revealedツꀀ MRSA.ツꀀ Theツꀀ patientツꀀ wasツꀀ admittedツꀀ andツꀀ treatedツꀀ withツꀀ frequentツꀀ topicalツꀀ antibioticsツꀀ and intravenousツꀀ antibiotics,ツꀀ resultingツꀀ inツꀀ aツꀀ rapidツꀀ cure.ツꀀ Toツꀀ ourツꀀ knowledgeツꀀ thereツꀀ areツꀀ noツꀀ reportsツꀀ ofツꀀ dacryoadenitisツꀀ with MRSA,ツꀀ butツꀀ itツꀀ shouldツꀀ beツꀀ keptツꀀ inツꀀ mindツꀀ thatツꀀ MRSAツꀀ infectionツꀀ canツꀀ occurツꀀ inツꀀ aツꀀ healthyツꀀ infant,ツꀀ asツꀀ inツꀀ theツꀀ presentツꀀ case. One cause of this infection might have been the in uenza he su ered just before this episode;the immune system may also have been somewhat depressed.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1405 1408, 2009〕Key words:涙腺炎,黄色ブドウ球菌,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),小児.dacryoadenitis,ツꀀ Staphylo-coccus aureus, methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA), infant.———————————————————————- Page 21406あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(108)現病歴:2006 年 7 月 2 日より左眼上眼瞼耳側の腫脹,疼痛を認めた.翌日近医を受診し,麦粒腫の診断にてタリビッドR眼軟膏と 0.1%フルメトロンR点眼,フロモックスR内服を投与されたが,症状の改善なく次第に下眼瞼にも腫脹が広がってきたため,7 月 5 日に当院に紹介受診となった.既往歴:2006 年 6 月 19 日手足口病,6 月 27 日インフルエンザ発症.今回退院後に流行性角結膜炎を発症.家族歴:特記事項なし.初診時所見:全身状態良好;体温 35.5℃,耳前リンパ節触知(左).視力;右眼 1.5(n.c.),左眼 1.2p(1.2×cyl 0.5 D Ax150°).眼位;正位,眼球運動:制限なし.眼 瞼;左眼瞼が著明に腫脹.特に上眼瞼耳側の発赤・腫脹が顕著で,腫脹した涙腺を触知でき,涙腺部を中心として眼瞼全体に圧痛があった(図 1).結 膜;左眼で球結膜・瞼結膜ともに充血と耳側球結膜に浮腫が存在した.角膜,中間透光体,眼底に異常所見は認められなかった.右眼には結膜炎症状を含め異常所見はみられなかった.上記所見より左眼の急性涙腺炎を疑い上眼瞼反転したところ,上円蓋部耳側涙腺部と思われる部位から大量の黄色膿性分泌物の排出を認めた(図 2).塗抹標本をグラム染色し鏡検を行うと多数の好中球とグラム陽性球菌,菌を貪食したマクロファージが確認された(図 3).血液・生化学所見では白血球増多(9,130/μl),CRP(C 反応性蛋白)(0.86 mg/dl),赤沈(37 mm)の亢進を認めた.CT(コンピュータ断層撮影)画像では眼瞼部・眼窩部涙腺の高度の腫脹があり,眼球後方までの辺縁が明瞭で均一な高吸収域を認めた.骨破壊像や周辺組織への炎症の波及は認めなかった(図 4).経過:グラム陽性球菌による左化膿性涙腺炎と診断し,即日入院のうえ,治療を開始した.タリビッドR眼軟膏 4 回を継続,ベストロンRツꀀ 1 時間毎点眼,セフェム系抗生物質(セファメジンaR 1 g 点滴用キットを 1 日 2 回)3 日間継続した.入院 2 日目より眼瞼腫脹は軽快してきた.その後,膿の培養より MRSA が分離されたが,すでに症状が改善してきていたため上記治療を継続し,10 日後には眼瞼腫脹はほぼ消失した.ちなみに,分離菌の薬剤感受性試験の結果を表 1 に示した.検討した 18 薬剤中,耐性であった薬剤は 8 剤で,そ図 2 左眼上眼瞼反転時 膿(矢印)が流出.図 1眼瞼左眼の眼瞼腫脹,結膜充血が存在.図 3膿のグラム染色所見上: 多核白血球優位で,グラム陽性球菌を多数認めた(400倍 ).下: マクロファージがグラム陽性球菌を貪食している像が認められる(1,000 倍).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091407(109)の内訳は,ペニシリン系のメチシリン(MPIPC),ベンジルペニシリン(PCG),セフェム系のセファクロル(CCL),セファゾリン(CEZ),セフメタゾール(CMZ),カルバペネム系のイミペネム・シラスタチン(IPM/CS),マクロライド系のエリスロマイシン(EM),リンコマイシン系のクリンダマイシン(CLDM)であった.感受性を示した薬剤は 10 剤で,グリコペプチド系のバンコマイシン(VCM),テイコプラニン(TEIC),アミノグリコシド系のゲンタマイシン(GM),アミカシン(AMK),アルベカシン(ABK),テトラサイクリン系のテトラサイクリン(TC),ミノサイクリン(MINO),ニューキノロン系のレボフロキサシン(LVFX),ホスホマイシン系のホスホマイシン(FOM),そしてスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)であった.II考察感染性涙腺炎の原因は,細菌性とウイルス性に大別され,細菌感染は,涙腺の排出管を逆行性に菌が進入して起こることが多いとされている.それに対し,ウイルス感染に伴うものは,体力が低下したときなどに発症し両眼性が一般的である.小児では流行性耳下腺炎のときに合併することが多い5).今回筆者らは,近医で麦粒腫が疑われ抗菌薬の点眼,内服投与で軽快せず当院紹介受診となった急性涙腺炎の小児例を経験した.急性涙腺炎はまれな疾患であり,急性結膜炎,麦粒腫,化膿性霰粒腫などの診断で抗生物質の点眼,内服療法を行い治癒していく症例のなかに急性涙腺炎が含まれている可能性がある.そのため,眼瞼部化膿性炎症所見を認める疾患の一つとして本疾患を認識しておく必要があると考えられた.左眼化膿性涙腺炎と診断した根拠は以下の通りである1).①上眼瞼耳側 1/3 に強い炎症性浮腫と圧痛が存在,眼瞼下垂と上眼瞼縁の典型的な S 字状カーブ,②多量の粘稠な眼脂,③球結膜外側の浮腫,④ CRP 陽性,⑤涙腺の触知とCT 像での涙腺腫脹と眼窩内炎症所見の存在,⑥上眼瞼結膜 耳側涙腺部からの黄色膿性の排膿がある.今回の症例は上記のすべてに合致した.眼瞼反転時に排膿がみられたが,これは診断とともに,治療的効果,また病原体同定のためのサンプルとして有用であった.本例は片側の涙腺炎で膿内から多核白血球,グラム陽性球菌が観察されたことより,細菌性涙腺炎として治療を開始した.多剤耐性の MRSA であるとの結果を得たが,その時点では薬剤感受性試験にて耐性であった薬剤を用いていた.また,近医でセフェム系抗生物質の内服が処方され,軽快を認めなかったが,広域スペクトルであるセフェム系抗生物質を再度第一選択し,静注(セファメジンaRツꀀ 2 g/日)を高濃度に行ったこと,病巣部が血管の多い組織なので,血流移行性が良く,著効したのではないかと考えられる.また,排膿したことも治療としての重要な要因の一つであると考えられた.小児の MRSA による眼感染症としては結膜炎がほとんどであり,まれに涙 炎の報告がある6).MRSA 感染症は,com-promised host に発症しやすく高度耐性の院内感染型 MRSAと,健常小児や成人に発症する中等度耐性の市中感染型MRSA に分類される.厳密には薬剤耐性遺伝子(SCCmec)の検索が必要であり,タイプ I,II,III を有するのは病院型,IV,ツꀀ V は市中型とされる.本例では遺伝子検索は行っていないが,入院歴がないこと,薬剤感受性パターンが中等度耐性,非多剤耐性であることより市中感染型と判定した7).本症例は入院前に手足口病,インフルエンザを認めており,免疫状態が低下するような全身疾患に罹患していたことが発症要因の一つではないかと考えている.なお,筆者らが検索した限りでは小児の MRSA による涙腺炎の症例報告はわが国および国外にも認められていない.しかし,小児感染症としてこのような疾患があることも念頭表 1分離菌の薬剤感受性試験の結果抗菌薬判定MIC 値抗菌薬判定MIC 値MPIPCR≧4AMKS≦2PCGR≧ 0.5ABKS≦4CCLR≦8EMR≧8CEZR≦4TCS≦1CMZR≦ 16MINOS≦4IPM/CSR≦1LVFXS≦ 0.12VCMS≦1FOMS≦8TEICS≦ 0.5CLDMR≧8GMS≦ 0.5STS≦ 10 R:耐性,S:感受性,MIC:最小発育阻止濃度.(抗菌薬の略語の説明は本文参照)図 4眼部CT像左眼窩内涙腺の著しい腫脹が観察される.———————————————————————- Page 41408あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(110)におく必要がある.文献 1) Duke-Elder S:System of Ophthalmology, In ammations of the Lacrimal Gland. XIII:601-618, London, 1974 2) Tomitaツꀀ M,ツꀀ Shimmuraツꀀ S,ツꀀ Tsubotaツꀀ Kツꀀ etツꀀ al:Dacryoadenitis associatedツꀀ withツꀀ acanthamoebaツꀀ keratitis.ツꀀ Archツꀀ Ophthalmol 124:1239-1242, 2006 3) Obata H, Yamagami S, Saito S et al:A case of acute dacryoadenitisツꀀ associatedツꀀ withツꀀ herpesツꀀ zosterツꀀ ophthalmic-us. Jpn J Ophthalmol 47:107-109, 2003 4) 早川純子,谷瑞子:涙腺腫瘍とまぎらわしい所見で発症した急性涙腺炎.眼科 28:1303-1305, 1986 5) 渡辺仁:I.疾患別:薬の使い方薬を使用する前に確認しておくべき事項.眼科プラクティス 眼科薬物治療ガイド,p101-103,文光堂,2004 6) 関根寿樹:新生児の眼科疾患─新生児の結膜炎,涙 炎.周産期医学 36:469-472, 2006 7) 外園千恵:眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─ 2.市中型 MRSA による眼感染症.あたらしい眼科 25:195-196, 2008***