●連載230監修=山本哲也福地健郎230.LowerNormalPressureGlaucoma坂田礼東京大学医学部附属病院眼科Study(LNPGS)とその意義LNPGSは日本人の正常眼圧緑内障患者,とくに無治療時の眼圧が15mmHg以下の患者を対象に,無治療でその自然経過を追った多施設共同前向き研究である.5年間の経過観察期間で,約66%に緑内障の進行(視神経乳頭や視野の悪化)を認め,長期の眼圧変動,乳頭出血,視神経乳頭陥凹拡大が緑内障進行に有意に関与していた.●研究の背景LowerNormalPressureGlaucomaStudy(LNPGS)は日本緑内障学会がデータ解析委員会のもとで実施した研究事業(2006年.)の一つである.日本では正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の有病率が高いことが判明しており,さまざまな角度から病態が論じられている.日本人NTG患者に対する治療は,人種差やベースライン眼圧の違いなどの問題を抱えつつも,20年前のCollaborativeNormalTensionGlaucomaStudy(CNTGS)の結果を基に行われているのが現状である.これはエビデンス-referredの治療ということで,日本人の患者を対象としても広く受け入れられており,治療の方向性を決める根拠として引き続き参考となる重要な臨床研究である.しかしながら今後,日本においてエビデンス-basedの治療を確立していくためにも,日本発のNTG患者に関する臨床的知見を集めていく必要があった.●研究の概略無治療時の眼圧が正常平均値(15mmHg)かそれ以下のNTG患者を対象として,原則無治療で経過をみることで,自然経過や緑内障進行に関与する因子を同定することを目的とした多施設共同の前向き研究である.眼圧の基準を担保するために,対象となりうる患者には6カ月以内で5回以上の来院を要請し,1回を除き常に15mmHg以内であることを確認した.研究開始後の患者は,5年間の通院を行ってもらい,3カ月ごとのHumphrey視野24-2検査,6カ月ごとの視神経乳頭検査(ステレオ眼底写真)を受けてもらった.この研究における緑内障進行の定義は,視野の進行および/または(75)(英語ではand/or)視神経乳頭の進行とした.前者はCarlZeiss社が提供しているGuidedProgressionAnal-ysis(GPA)を基にしたevent-typeの進行判定を行った.後者はステレオ視神経乳頭と乳頭周囲の眼底写真を3名の判定員がチェックし,進行の有無を判定した.経過観察中に緑内障の進行が認められた場合は点眼治療の対象とした.今回は第一報として,生存時間解析とCox比例ハザード解析を行った.●主要結果全国9施設から90名(117眼)が登録された.両眼とも組み入れ基準を満たした場合は,視野がよい眼を選択した.90名90眼の患者背景として,平均年齢53.9歳,平均ベースライン眼圧12.3mmHg(平均中心角膜厚538μm),平均屈折.3.5diopters,平均偏差(meandevia-tion:MD).2.8decibelsであった.経過中に14名が脱落し,76眼が経過観察を終えた.まず,76眼中52眼に緑内障進行を認め,進行までの中央値は51.0カ月(95%CI:43.3.58.7カ月)であり,5年次の緑内障進行割合は66%(95%CI:55.78%)であった(図1).進行群と非進行群の患者背景の比較では,屈折と乳頭出血に有意差を認め,進行群のほうが非近視かつ乳頭出血の出現が多かった.なお,経過中の平均眼圧は両群間で差を認めなかった.次に,緑内障進行に関与する因子として,年齢,性別,屈折,MD値,修正パターン標準偏差(patternstan-darddeviation:PSD)値,平均眼圧,眼圧変動(経過中眼圧値の標準偏差),中心角膜厚,垂直C/D比(スタート時),乳頭周囲脈絡網膜萎縮(parapapillaryatrophy:PPA)-b/Disc比(スタート時),乳頭出血,収縮期血圧,拡張期血圧,およびbodymassindex(BMI)を共変量あたらしい眼科Vol.36,No.8,201910450910-1810/19/\100/頁/JCOPY1.00.80.60.40.20.0経過月数(月)図1視野の進行および/または視神経乳頭の進行に基づくKaplan.Meier曲線緑内障進行を死亡と定義した.として検討を行った.単変量解析でp値<0.2であった共変量を多変量解析に代入し,その結果,乳頭出血,垂直C/D比,眼圧変動が有意な因子としてあげられた(表1).●研究の限界組み入れ基準(無治療時の眼圧値が常に15mmHg以下)が厳しかったため,参加人数が比較的少なく,緑内障進行に関連する他の因子を検出できなかった可能性は否定できない.また平均年齢も比較的若年であったため,高齢患者にこれらの結果をそのままあてはめるのは妥当ではない.次に,試験デザインが対照試験ではない.したがって,無治療時の眼圧がいわゆるlow-teenである緑内障に対して,眼圧下降治療を行った場合に(治療を行わなかった場合と比較して)どの程度緑内障進行を遅延させることになるのか,あるいはならないのか,という日頃疑問に思っている案件については,今回生存率(%)0102030405060表1視野の進行および.または視神経乳頭の進行に基づくCox比例ハザード解析共変量多変量解析(95%信頼区間)p値年齢等価球面度数眼圧変動垂直C/D比乳頭出血1.03(0.99.1.06)1.07(0.95.1.20)2.91(1.22.6.96)2.02(1.13.3.66)2.84(1.54.5.23)0.1620.2590.0200.018<0.001誌面の都合上,多変量解析のみの結果を示す.の結果から明確な答えを得ることはできない.●実臨床でどのように結果を生かせるのか垂直C/D比や乳頭出血に対しては治療の直接介入はできないが,初診時にカッピングが大きい眼や経過中に乳頭出血が認められたら,緑内障進行の可能性が高いという認識をもちながら診察を行う必要がある.次に,無治療時眼圧が15mmHg以下の開放隅角緑内障患者に対しても,長期の眼圧変動幅を減少させるための眼圧下降治療(一般的には第一選択として点眼治療)を行うことで,進行を遅延させることができる可能性が示唆された.謝辞:この研究は多くの先生方や,参加した患者のご協力があり,遂行することができました.また,緑内障学会前事務局長の近藤明様(故人)にもお世話になりました.関係の皆様に厚くお礼申し上げます.文献1)SakataR,YoshitomiT,IwaseA,etal;LowerNormalPressureGlaucomaStudymembersinJapanGlaucomaSociety:FactorsassociatedwithprogressionofJapaneseopen-angleglaucomawithlowernormalintraocularpres-sure.Ophthalmology2018.pii:S0161-6420(18)31001-7.[Epubaheadofprint]☆☆☆1046あたらしい眼科Vol.36,No.8,2019(76)