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行政におけるオルソケラトロジー

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY2)日本眼科学会の主催するオルソケラトロジーレンズに関する基礎的な講習会を受講すること,3)各メーカーの主催するオルソケラトロジーレンズの処方などのノウハウを伝える講習会を受講することが必要条件となった.なお,講習会については,日本眼科学会の主催する講習会を受講した後に各メーカーの主催する講習会を受講することになっている.II承認されたオルソケラトロジーレンズの保険診療オルソケラトロジーレンズは治療プログラムの一環として,治療機器・材料として取り扱われる.すなわち,オルソケラトロジーレンズの適性検査,レンズ処方(トライアルレンズ装用を含む),処方レンズの適正確認・装用指導,定期検査,問題発生時の対応などはすべて治療プログラムに含まれている.オルソケラトロジーに関する治療は保険適用外(自由診療)として取り扱われる.では,オルソケラトロジーレンズによる合併症が生じた場合は,保険診療を行ってよいかということが問題になる.これについては日本眼科医会の社会保険部と医療対策部が協議して見解を示しており,レーシック術後に角膜感染症が多発したが,その場合と同様の対応でよいという結論に達した(表1,2).保険診療と保険外診療を行う場合にはカルテを明確に分けることが求められる.そして,保険診療を行うにあたっては療養担当規則を遵守しなければならない.はじめに医療を行うにあたって法的な知識は欠かせない.眼科医として特に知っておく法律として,医師法,医療法,薬事法などがあげられるが,保険医として保険請求を行うのであれば,保険医療機関および保険医療養担当規則(以下,療養担当規則)や多くの行政通知の内容にも熟知する必要がある1).また,コンタクトレンズ(CL)については診療という医療の側面だけでなく,販売という商業的な側面もあるので,これに関する法律や行政通知の内容についても知っておいたほうがよい.CLの販売,管理などに深く関わるものとしては,薬事法,製造物責任法(いわゆるPL法),消費生活用製品安全法(いわゆる消安法),消費者契約法などがある2).平成21年4月28日,角膜矯正用CL,すなわちオルソケラトロジーレンズが高度管理医療機器に加えられた.同日,㈱アルファコーポレーションの商品名オルソ-K(後に,a-オルソRKに改名)が国内最初の視力補正用レンズ,角膜矯正用CLとして認可された.現在,厚生労働省の承認を得た高度管理医療機器のオルソケラトロジーレンズと未承認のオルソケラトロジーレンズが使用されているが,本稿では承認されたオルソケラトロジーレンズの取り扱いを中心に概説する.I承認されたオルソケラトロジーレンズの取り扱い資格厚生労働省との協議では,1)眼科専門医であること,(43)1525*KiichiUeda:ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1525.1528,2010行政におけるオルソケラトロジーOrthokeratorogyinPublicAdministration植田喜一*1526あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(44)3月30日,医政発第030010号)が出された.医療機関の広告についても規制が見直されたが,具体例を盛り込んだ医療広告ガイドライン(平成19年3月30日,医政発第0330014号)が出された.その中から注意すべき内容を述べる.広告と該当するものは,1)患者の受診等を誘引する意図があること,2)医業を提供する者の氏名もしくは名称または医療施設の名称が特定可能であること,3)一般人が認知できる状態にあることを満たす場合である.具体的には,「これは広告ではありません」,「これは取材に基づく記事であり,患者を誘引するものではありません」と記述していても,医療施設が記載してある場合や,治療法などを紹介する書籍や冊子などの形態をとっているが,特定の医療施設の名称が記載されていたり,電話番号やホームページアドレスが記載されていることで,一般人が容易に特定の医療施設を認知できる場合は広告に該当するものとして取り扱われる.広告の規制対象となる媒体として,チラシ,パンフレット(ダイレクトメール,ファクシミリなどによるものを含む),ポスター,看板,新聞紙,雑誌,その他の出版物,放送,Eメール,インターネット上のバナー広告などがあげられる.学会や専門誌などで発表される学術論文,ポスター,講演などは,社会通念上広告とみなされないが,学術論III承認されたオルソケラトロジーレンズの販売医療法第7条には営利を目的とした医療機関の開設が禁じられているため,医療機関でのCLの窓口販売は不可と解されている.したがって,医療機関ではCLの処方せんを発行し,それを受け取った患者は販売店でCLを購入することになる.ところが,オルソケラトロジーレンズは上述したように治療プログラムの一環として治療機器・材料として取り扱われるため,レンズ単体として販売されることはないと考えられ,医療機関で直接患者に渡すことになる.なお,通常のCLについては添付文書が同封されているが,オルソケラトロジーレンズについては添付文書は医家向けのみで,患者向けのものはなく,患者に対しては使用説明書が用意されている.IVオルソケラトロジーレンズの広告医薬品,医薬部外品,医療機器の広告については薬事法の規制を受ける.薬事法第66条,第68条ならびに医療品等適正広告基準にその内容が触れられている(表3).平成19年4月1日より「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」が一部施行され,この改正に係る行政通知(平成19年表2オルソケラトロジーの合併症の取り扱い(見解)1.オルソケラトロジーレンズの装用によって当然発生すると考えられる合併症は保険外診療(自費)とする2.オルソケラトロジーレンズの装用が原因と考えられないような疾患は保険診療とする3.予期しない重篤な合併症が生じた場合には,緊急避難的に第三者行為として保険診療を行うが,後日確定すれば法的に責任のある者に保険者から請求する(原則は自費である)表1レーシック術後の保険診療の取り扱い(見解)1.術後に当然発生すると考えられる合併症は保険外診療(自費)とする2.アレルギー性結膜炎等のレーシックと関係ない疾患は保険診療とする3.稀な合併症はとりあえず第三者行為(被保険者の申請により保険での立替払いをする)として保険診療を行うが,後日確定すれば法的に責任のある者に保険者から請求する(原則は自費である)表3CL広告に関する主な法律ならびに行政通知薬事法第66条何人も,医薬品,医薬部外品,化粧品又は医療機器の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関して,明示的であると暗示的であるとを問わず,虚偽又は誇大な記事を広告し,記述し,又は流布してはならない.薬事法第68条何人も,第14条第1項に規定する医薬品又は医療機器であって,まだ同項(第23条において準用する場合を含む.)又は第19条の2第1項の規定による承認を受けていないものについて,その名称,製造方法,効能,効果又は性能に関する広告をしてはならない.医薬品等適性広告基準(昭和55年10月9日,薬発第1339号)医師の処方せん若しくは指示によって使用する目的として供給される医薬品および一般人が使用した場合に保健衛生上の危害が発生する恐れのある医療用具については,医療関係者以外の一般人を対象とする広告は行わないものとする.(45)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101527Vオルソケラトロジー治療中の運転免許平成22年4月5日に警察庁交通局運転免許課長より日本コンタクトレンズ学会に,「角膜矯正用コンタクトレンズ使用者に対する周知事項について」という文書が届いたので以下に記す..角膜矯正用CLを使用することにより,裸眼視力が基準以上に矯正されている免許保有者には「眼鏡等」の免許の条件が付されること..角膜矯正用CL使用者が,運転免許を受けている場合には,免許証の更新時における視力に係る適性検査時に,当該レンズを使用していることを申し出ること..角膜矯正用CL使用者が,運転免許を新規取得する場合は,自動車教習所入所時に当該自動車教習所職員に対し,また,視力に係る適性試験時に警察職員等に対し,当該レンズを使用していることを申し出ること..角膜矯正用CLの使用を中断したり,使用していても基準以上の視力が確保されていない場合において,裸眼のまま自動車等を運転すると免許の条件違反となること.VI診療ガイドラインと添付文書の強制力と効力オルソケラトロジーレンズについてのガイドラインが日本眼科学会雑誌3)と日本コンタクトレンズ学会誌4)に掲載されている.こうしたガイドラインの強制力や効力文などを装いつつ,不特定多数にダイレクトメールで送るなどにより,実際には特定の医療施設に対する受診などを増やすことを目的としていると認められる場合には広告として扱われる.新聞や雑誌などでの記事も広告に該当しないが,費用を負担して記事の掲載を依頼することにより,患者などを誘引するいわゆる記事風広告も広告規制の対象となる.院内掲示,院内で配布するパンフレットなどは,その情報の受け手がすでに受診している患者などに限定されるため広告に該当しないが,希望していない者にダイレクトメールで郵送されるパンフレットなどは広告として取り扱われる.インターネット上の医療施設のホームページは,情報を得ようとする人がURLを入力したり,検索サイトで探したうえで閲覧することから,これまでどおり原則として広告とはみなさないこととされている.禁止される広告については,内容が虚偽にわたる広告(虚偽広告),他の医療機関と比較して優良である旨の広告(比較広告),誇大な広告(誇大広告),客観的事実であることを証明することができない内容の広告,公序良俗に反する内容の広告,品位を損ねる内容の広告,他法令,または他法令に関する広告ガイドラインで禁止される内容の広告などがある.専門医の資格を有する者の広告は可能であるが,その資格は各関係学術団体が認定するもので,単に「○○専門医」の標記は誤解を与えるものとして,誇大広告に該当するものとして指導などを受けることがある.眼科領域では日本眼科学会認定専門医の広告のみが可能である.自由診療のうち薬事法の承認または認証を得た医療機器を用いる検査,手術は広告可能であることから,「角膜矯正用CLの使用による近視の矯正」といったものは可能と考える.ただし,薬事法の広告規制の趣旨から,医療機器の販売名については,広告できない.医師などによる個人輸入により入手した未承認の医療機器を使用する場合には広告は認められないことから,未承認のオルソケラトロジーレンズについても広告は不可である.なお,広告規制違反については厚生労働省から各都道府県知事,各政令市長,各特別区長あてに医療法に基づく立入検査の実施の行政通知が出されている(表4).表4広告規制違反について医政発第0614004号(平成19年6月14日)先般の医療法改正により,医療法第6条の8として,広告違反のおそれがある場合における報告命令,立入検査等の規定が新設されたところであるが,同法第25条第1項に基づく立入検査の際,医業,歯科医業又は助産師の業務等の広告について,同法等に違反することが疑われる広告又は違反広告の疑いのある情報物を発見した場合においては,「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針(医療広告ガイドライン)について」(平成19年3月30日,医政発第0330014号医政局長通知)を参考とし,指導等を行う.1528あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(46)診療を行うにあたっては十分なインフォームド・コンセントが求められるのは当然のことである.おわりに現在,㈱アルファコーポレーション以外の5社がオルソケラトロジーレンズの臨床試験を行い,申請中である.今後,これらのレンズが認可され,多くの患者が治療を受けることになると予想する.オルソケラトロジーレンズを使用している患者の多くは,未承認のレンズを使用している.これらのレンズは国内で臨床試験を行っていないので,有効性,安全性が確認されたものではない.さらに,これらのレンズを取り扱っている医師のなかには眼科専門医ではなく,日本眼科学会の主催する講習会を受講していない者もいると推察する.治療プログラムの一環として認められているわけではないので,医療機関で直接渡すことは好ましくない.未承認レンズは医療法,薬事法のうえからも広告をしてはならない.しかしながら,実際には医療法,医師法,薬事法などに違反する医療行為や販売行為が見受けられる.こうした未承認レンズに対しては,行政による規制が求められる.われわれ眼科専門医は承認されたレンズの普及に努めることが大切である.追記:本稿提出後,2010年8月,9月にボシュロム社のボシュロムオルソケーR,テクノピア社のマイエメラルドRが新たに承認された.文献1)植田喜一:コンタクトレンズ診療に関する主な法律,行政通知.日コレ誌49:209-214,20072)植田喜一:コンタクトレンズ販売に関する主な法律,行政通知.日コレ誌49:275-283,20073)オルソケラトロジー・ガイドライン委員会:オルソケラトロジーガイドライン.日眼会誌113:676-679,20094)オルソケラトロジー・ガイドライン委員会:オルソケラトロジーガイドライン.日コレ誌51補遺:29-31,20095)竹中郁夫:診療ガイドラインの効力.日本医事新報No.4168:117-118,20046)泉寿恵:医薬品の能書と医師の注意義務.日本医事新報No.4322:108-111,2007について法的にどう捉えられるかが問題となる.特に,ガイドラインに従わずに治療を行い,その結果として不良な転帰をとった場合,具体例として医療訴訟などが生じた場合などがあげられる.弁護士である竹中の見解5)を以下に述べるので参考にするとよい..臨床疫学を利用してのガイドラインにあるプロトコールを守らない態様で治療を行えば,合併症が起こりやすいと記載していたにもかかわらず,実際に合併症が生じた場合には,診療行為と不良結果との因果関係が実証されやすくなる.当該医師が因果関係がないと主張・立証するには,個別の医学文献等を収集して,当該診療による因果関係はないことを明らかにする努力が必要になるが,学会のガイドラインは大規模なリサーチに基礎づけられているため,当該医師の反論は非常に大変な作業になる..責任論における過失の有無,とりわけ診療行為時の医療水準を満たしていたかという問題においても,ガイドラインが勧めるプロトコールをとらなかった場合に不良結果が生じた場合には,その合理性や当時の医療水準に反しないことの主張・立証は非常に大きな努力を要する.医薬品の添付文書と医師の注意義務については最高裁の判例がある6).「医師が医薬品を使用するにあたって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が確定される」(最高裁平成8年1月23日,第三小法廷判決).オルソケラトロジーレンズは医薬品ではないが,高度管理医療機器であることを鑑みると,同様に捉えられると考える.オルソケラトロジーレンズの処方においては,特に問題になるのが適応である.添付文書やガイドラインには屈折値,前眼部所見に加えて,対象年齢が明記されている.対象年齢については,日本で行われた臨床試験では20歳以上であったことから,未成年者への安全性が確認されていないことが背景にある.添付文書やガイドラインを逸脱した診療をしたからといって医師法違反にはならないが,医師の裁量による医療行為としてこうした

オルソケラトロジーの合併症とその対策

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYている.レンズは涙液の表面張力で角膜へ引き寄せられている状態であり,レンズと角膜の間には涙液が常に介在する.したがってレンズは直接角膜に触れることはないとされているが,閉眼中の眼球運動や瞬目に伴ってレンズが動き,その結果ベースカーブ部が機械的に角膜に接してステイニングが生まれることがある(図1).そのためフィッティングの良否にかかわらずステイニングが観察されることがある.この場合ステイニングの部位は睡眠中のレンズの位置を反映しており,フィッティング判断の手がかりとなる.夜間閉瞼中に涙液交換の低下および酸素分圧の低下がはじめに従来のハードコンタクトレンズは角膜に及ぼす影響が最小になるようにパラレルフィッティングを理想として処方された.一方,オルソケラトロジーはフラットフィッティングな中央部をタイトフィッティングな周辺部が支持する設計になっており,あえてレンズが角膜に対し能動的に変化を与える手法であるので,その使用にあたっては視力改善というメリットだけでなく角膜へのデメリット,つまり合併症も十分に配慮しなければならない.オルソケラトロジーレンズによる合併症はオルソケラトロジーに本質的あるいは特異的に起因するものと,コンタクトレンズ使用に伴うものとに分けられる.Iオルソケラトロジーに特異的な合併症1.角膜びらん,ステイニングa.フィッティング良好でも現れるステイニング通常のRGP(rigidgaspermeable)ハードコンタクトレンズで少数のステイニングがあっても軽度であればそのまま装用を許可するように,オルソケラトロジーレンズでも正常のフィッティングにおいて多少のステイニングが生じることは珍しくない.特に午前中など,レンズを外して間もないときにみられやすい.オルソケラトロジーレンズはフラットフィッティングのベースカーブ部を角膜中央に安定させる必要から,ベースカーブ部を囲む部位ではタイトフィッティングに相当する形に作られ(37)1519*MasaoMatsubara:東京女子医科大学東医療センター眼科〔別刷請求先〕松原正男:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1519.1523,2010オルソケラトロジーの合併症とその対策ComplicationsinOrthokeratologyandTheirSolutions松原正男*図1フィッティング良好であるが角膜中央に出たステイニング1520あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(38)じたら外す前に眼瞼の上から指でレンズを一度動かすか,あるいは人工涙液などを点眼してしばらく閉瞼したあと,数回瞬きしてから外すように指導する.2.Qualityofvisionの低下a.コントラスト感度低下オルソケラトロジーレンズでは角膜の非球面度を表す離心率e値を0にすることによって視力改善を図る.つまり,効果が出るほどに形状が球面化するため,球面収差が生まれ高次収差が顕著となりコントラスト感度の低下などが生じる.これはLASIK(laserinsitukeratomileusis)も同様であり,現在の技術での角膜形状変化に基づく屈折矯正法の限界である2,3).b.不正乱視オルソケラトロジーでは角膜中央部においてレンズベースカーブ部のフラットフィッティングによって上皮細あるため1),程度の強い,もしくは正しいフィッテングではみられない部位にステイニングが出現した場合,見逃してはならない.b.フィッティング不良によるステイニングレンズのセンタリング不良は特徴的なステイニングや角膜不正乱視の原因になる.タイトフィッティングでは下方に固着しやすいため角膜の上方にステイニングや下方結膜に圧痕を生じることがある.ルースフィッティングでは上方にずれやすく,角膜中央部に同じくステイニングを生じうる.c.レンズ下の異物や汚れによる角膜上皮障害レンズ裏面に異物が付着し角膜を障害することは,従来のレンズの装用者では比較的多くみられる合併症である.ただ,終日装用ハードコンタクトレンズでは瞬目のたびに異物による痛みを感じるが,オルソケラトロジーレンズで就寝直前に装用してそのまま就寝してしまった場合,やや気付きにくいこともある.レンズを装用したならば開瞼と瞬目を数回くり返し,いつもと違う異物感や痛みがあればすぐに外して洗ってからもう一度装用するように指導する.オルソケラトロジーは,その特殊な構造ゆえに,リバースカーブ部の溝に汚れが溜まることがある.汚れが溜まると必然的に後述するような感染症を惹起しやすくなる.丁寧に擦り洗いをすることと,肉眼で見て汚れが付着していなくても定期的に綿棒などで汚れをとることが必要である.ただし,オルソケラトロジーレンズは直径が大きいうえに溝の部分で厚みが薄いために,あまり乱暴に扱うとレンズが割れたり,内面が摩耗してフィッティングが変化し視力矯正力が低下することにも注意が必要である.d.固着による角膜障害涙液は常に重要な働きをしており,レンズ下の涙液交換による質の維持は重要である.したがってレンズが固着すると圧痕だけでなく角膜のステイニングを生じやすい.ただし,たとえ正しいフィッティングでも睡眠中はどうしても涙液交換が少ないので起床時にはレンズの動きが少なくなっており,ときには固着に近い状態になっていることがある.無理に外そうとすると上皮.離を生じる恐れがあるので,レンズが張り付いているように感図3レンズ下の空気泡不正乱視の原因となりうる.図2オルソケラトロジーレンズによる家兎角膜上皮の厚み変化の分布右側がレンズのベースカーブ部に,左側がリバースカーブ部に対応する.(39)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101521孔径が大きくなることのために,ハロー,グレアといった症状がみられることがある.これはLASIKでも瞳孔径が大きかったり,照射径が小さかった場合などにみられる症状である.3.Ironringレンズのリバースカーブ下に対応する部位に生じる細い茶褐色の角膜上皮内の色素沈着である.レンズの効果がよく現れている眼に生じることが多い印象である.ト胞層の菲薄化を生じる.その部を囲むようにレンズリバースカーブ部に対応するレンズ下空間に上皮細胞層の肥厚化が起きており,これらの効果によってオルソケラトロジーによる屈折矯正効果が生み出されている(図2)4,5).通常のRGPコンタクトレンズ装用ではレンズ下に涙液レンズが形成されるために多少の不正乱視は矯正されるが,オルソケラトロジーでは日中にレンズを装用しない代わりに涙液レンズ作用もないので不正乱視の影響が出やすい.装用中にレンズ下に迷入した空気が長時間貯留すると,レンズが角膜に均等に作用せずまたは空気泡自体で角膜を圧迫して不正乱視が生じる(図3).また,レンズのセンタリングが不良だと不均一な角膜変化が生じるため著しく見にくくなる(図4).スティープフィッティングでは平坦化した角膜の中心付近にcentralislandとよばれる相対的にスティープな領域が生じることがある.これも不正乱視であり著しい視力の質低下をきたす.適正なフィッティングの達成がオルソケラトロジーの成功のために肝要である(図5).c.ハロー,グレアオルソケラトロジーレンズのベースカーブの直径は6.0mmだが,正確に光学中心にレンズをフィッティングさせることは困難である.また,角膜変化が可逆的であるがゆえに夕方になると型押しされた角膜形状が徐々に元に戻ってくる.この日内変動および薄暮時からは瞳図4ルーズフィッティングのためレンズが外上方にずれていることを表すトポグラフィ乱視が強く視力が出ない.図5図4の症例のフィッティング修正後修正データに基づくレンズを装用して1晩後のトポグラフィ.センタリングがよく直っている.図6Ironring2年間装用後にみられた円弧状のironring.瞳孔と同心円状である.1522あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(40)中の安定が良くなるようにデザインされ上皮に対して圧迫力を作用させる結果,上皮に菲薄化だけでなく微小外傷を生じる可能性があることから,上皮.離やさらには潰瘍,感染を生じる危険を増す可能性がある.これらの合併症を予防するためには医師による正しいフィッティングと使用者による正しいケアが重要である.感染が定着すると夜間にレンズ装用のため進行しやすいと考えられるので,使用者にはケアに関して十分に理解させる必要がある.ケアは通常のRGPレンズと同様であるが,特徴的な溝に汚れがたまりやすいので,擦り洗いや綿棒による洗浄を丁寧に行い,汚れが残っていないか毎回点検する習慣をつけることが大切である.オルソケラトロジーに限らず夜間装用はもともと感染の機会が多く,重篤で視力に影響する合併症を起こしやすいことはどのコンタクトレンズにも共通である.オルソケラトロジーは新しい手法であり合併症が強調されるが,その多くはオルソケラトロジーに本質的なものではポグラフィでの変化部位とよく類似しており,瞳孔を囲む同心円状に出現する(図6).Ironringの機序は明らかではないがHudson-Stahlilineや円錐角膜基部にみられるFleischerringと同様のもので,角膜形状の急な変化部や涙液が貯留する部に起きると推測されている6,7).Choらは6カ月で49%,12カ月で90%以上生じたと報告している8)が,このこと自体に病的な意義はなく治療は必要ない.装用を中止すると消失する.IIコンタクトレンズとしての延長にある合併症1.疼痛正常なフィッティングであれば装用による痛みはほとんどなくハードコンタクトレンズよりも直径が大きく動きが少ないために異物感は少ないが,RGP素材でできているので特有の装用感はある.眼鏡やソフトコンタクトレンズ装用からの移行者で,その装用感を痛みと感じるかどうかは個人差がある.もちろん不適切なフィッティングではレンズのセンタリング不良による合併症を起こして痛みを伴うことがある.2.角膜感染症オルソケラトロジーによる角膜感染症は以前から幾度も報告されており,Pseudomonasaeruginasa(図7)やアカントアメーバによるものが多い9,10).しかし,その病原菌はハード,ソフトコンタクトレンズにおける角膜感染症でも知られているものであり,角膜に異物であるレンズがコンタクトしている限り避けては通れないものと心得るべきである.オルソケラトロジーレンズの夜間装用は角膜をいっそう低酸素状態にする可能性があること(図8)4,11),装用図7緑膿菌による角膜潰瘍図8家兎角膜のacidphosphatase染色ストレスなどに反応して活性が更新するが,扁平化した上皮の基底部でやや強い染色性を呈している.B:ベースカーブ部に対応.R:リバースカーブ部に対応.(41)あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015232)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Contrastsensitivityfunctionandocularhigher-orderaberrationsfollowingovernightorthokeratology.InvestOphthalmolVisSci48:550-556,20073)LuF,SimpsonT,SorbaraLetal:Therelationshipbetweenthetreatmentzonediameterandvisual,opticalandsubjectiveperformanceincornealrefractivetherapylenswearers.OphthalmicPhysiolOpt27:568-578,20074)MatsubaraM,KameiY,TakedaSetal:Histologicandhistochemicalchangesinrabbitcorneaproducedbyanorthokeratologylens.EyeContactLens30:198-204,20045)AlharbiA,SwarbrickH:Effectsofovernightorthokeratologylenswearoncornealthickness.InvestOphthalmolVisSci6:2518-2523,20036)RahMJ,BarrJT,BaileyMD:Cornealpigmentationinovernightorthokeratology:acaseseries.Optometry73:425-434,20027)LiangJB,ChouPI,WuRetal:Cornealironringassociatedwithorthokeratology.JCataractRefractSurg29:624-626,20038)ChoP,CheungSW,MountfordJetal:Incidenceofcornealpigmentedarcandfactorsassociatedwithitsappearanceinorthokeratology.OphthalmicPhysiolOpt25:478-484,20059)HsiaoCH,LinHC,MaDHetal:Infectiouskeratitisrelatedtoovernightorthokeratology.Cornea24:783-788,200510)WattK,SwarbrickHA:Microbialkeratitisinovernightorthokeratology:reviewofthefirst50cases.EyeContactLens31:201-208,200511)ChoyCK,ChoP,BenzieIFetal:Effectofoneovernightwearoforthokeratologylensesontearcomposition.OptomVisSci81:414-420,2004なく,使用上の問題に帰結できる内容が多い.正しく使わなくては危険であることはすでにソフトコンタクトレンズでつとに知られているとおりであり,オルソケラトロジーもまた然りである.オルソケラトロジーにおいてはこれまで屈折矯正,角膜形状変化などの臨床的報告は多いものの,生理学的・生物物理学的基礎はまだ十分解明されておらず臨床応用の先行が目立っている.今後,基礎的データの充実がオルソケラトロジーの安全な発展に必要である.3.アレルギー性結膜炎RGP素材であるが夜間装用であること,瞬目がない時間帯の装用なのでレンズの動きが少なく,睡眠中rapideyemovement(REM)があるとはいえ眼瞼結膜の狭い領域に限局してレンズ全体が触れているためアレルギー反応を起こしやすいことが考えられる.症状が強いときは適応でないのは基本的なことだが,花粉症や季節性アレルギー性結膜炎のみであれば,抗原に触れない時間の装用がむしろアレルギーを悪化させないとも考えられ,実用的には今後の検討を待たねばならない.文献1)中村葉,横井則彦,木下茂ほか:レンズ下の酸素分圧に対するオルソケラトロジーレンズの影響.日コレ誌51:13-16,2009

効果判定とレンズケア対策

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY×.2.0D).初診時トポグラフィ(図1a):弱主経線=右眼43.05D,左眼42.45D.トライアルレンズ:右眼43D,左眼42.5Dを選択.トライアルレンズ装用30分後,視力=右眼0.6,左眼0.5.トライアルレンズ貸し出しする.トライアルレンズ3日間使用後トポグラフィ(図1b):視力=右眼0.4p,左眼0.4p,明らかにレンズが下方に偏位しており裸眼視力に影響している.トライアルレンズ:右眼43.5D,左眼43.0Dに変更.レンズ変更後のトポグラフィ(図1c):視力=右眼0.8,左眼1.0.レンズのセンタリングもよくなり本人の満足も得られる.これを元にレンズを注文する.現在のトポグラフィ(図1d):視力=右眼0.9,左眼0.8,両眼1.2.近方視力=右眼0.9,左眼1.0.症例1総括:この症例では,レンズが下方に偏位していたためベースカーブの変更を行った.最後に示したトポグラフィを見ると,強く矯正されているようにはみられないが,本人はこの状態で遠近両方快適に見ることができ,非常に満足されている.〔症例2〕37歳,女性,看護師(3交代),眼疾患なし.初診時視力:右眼0.1(1.2×.5.0D),左眼0.1(1.5×.4.25D).初診時トポグラフィ(図2a):弱主経線=右眼42.67D,左眼42.61D.トライアルレンズ:右眼42.5D,左眼42.5Dを選択.はじめにオルソケラトロジーレンズが認可されわが国においても今後普及していくことが予測される.すでにオルソケラトロジーを始められている方,これから始められる方の参考になるよう,実際の症例を提示して効果判定とレンズケアについて解説する.I実際の症例オルソケラトロジー適応範囲は限定されるという認識をもって処方に臨んだほうがいい.オルソケラトロジーによってひき起こされる角膜の変化を考えても,角膜上皮による矯正効果と考える以上,矯正範囲がLASIK(laserinsitukeratomileusis)などその他の屈折矯正法に比較して乏しいのは当然といえる.ガイドラインで発表されている矯正量を守って処方すれば,たいていの場合うまくいくことが多い.オルソケラトロジーレンズは選択幅も少なく,基本的に初回のトライアルで適応不適応を明確に判断して無理をしなければ,かなりスムーズによい矯正が得られる.しかしながらここでは敢えて処方に苦慮,工夫した症例を提示して詳細を述べることとする.それらを参考に今後の経過観察に参考にしていただけたらと思う.すでに“適応と処方の実際”については解説されているので,ここでは通常の症例提示は割愛させていただくこととする.〔症例1〕40歳,女性,教師,眼疾患なし.初診時視力:右眼0.2(1.5×.2.25D),左眼0.1(1.5(31)1513*TomokoGoto:鷹の子病院眼科〔別刷請求先〕五藤智子:〒790-0925松山市鷹子町525番地1鷹の子病院眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1513.1518,2010効果判定とレンズケア対策Orthokeratology:EvaluationofEfficacyandLensCare五藤智子*1514あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(32)位が著しく,特に右眼は適当な矯正効果が得られず困った.ベースカーブを変更して試みも行ったが,院内で静かに寝てもらうのと自宅で就寝時のセンタリングに差があり,かなり苦慮した.この段階までくると,不適応としてオルソケラトロジーを中止することも考慮したほうがいい.しかし,当症例においては希望が強く最終的にはレンズ径を大きくすることで良好な矯正が得られた.左眼についても今後レンズ径を大きくすることを検討している.〔症例3〕32歳,女性,教師,アレルギー性結膜炎,ドライアイ加療中.1dayCL使用.右角膜下方にはスマイルマークパターンSPK(点状表層角膜炎)を認め,両眼とも軽い充血がある.初診時視力:右眼0.06(1.5×.6.25D),左眼0.15トライアルレンズ装用30分後(図2b):視力=右眼0.1,左眼0.2.視力はほとんど変わらなかったものの,トポグラフィ上矯正が得られたと判断し,レンズ注文とする.オルソレンズ使用1カ月後(図2c):視力=右眼0.3,左眼1.2.“起床時右眼のレンズがかなり内側に偏位している”との訴えあり,見え方も左眼と比べると悪い.3交代勤務のため装着時間が不規則である.トポグラフィ上は両眼とも偏位がみられるが,自覚症状の悪い右眼だけレンズを大きくして再処方する.再処方後(図2d):視力=右眼1.2p,左眼1.2p,両眼1.2.症例2総括:トライアルレンズ使用時は比較的センタリングが良かったのに,注文レンズ装用後はレンズ偏acbd図1症例1のトポグラフィa:初診時トポグラフィ,b:トライアルレンズ3日使用後,c:レンズベースカーブ変更後,d:センタリングの改善がみられる.(33)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101515うまくいった.昼間裸眼で過ごせるため点眼を効果的に使用することができ,アレルギー,ドライアイ症状が容易にコントロールできるようになった.本人もこれまで悩んできた充血が解消したことを非常に喜んだ.IIレンズケア対策海外におけるオルソケラトロジーレンズ普及は,わが国とは比べ物にならないほどである.それと同時に重大な眼感染症の報告も散見され,従来のコンタクトレンズ使用に比べてよりリスクが高いことや,オルソケラトロジーレンズへの菌の付着などがつぎつぎと報告されている.用いるレンズ素材はこれまで長年われわれが処方してきたものと同等であるので,そのレンズの安全性はあ(1.5×.3.0D).初診時トポグラフィ(図3a):弱主経線=右眼43.55D,左眼43.32D.トライアルレンズ:右眼43.5D,左眼43.0Dを選択.30分装用後(図3b):視力=右眼0.4p,左眼0.7p.注文レンズ使用3カ月後(図3c):視力=右眼1.5p,左眼1.0p.症例3総括:右眼矯正量が多いため起こりうる合併症について注意深く説明した.この症例はアレルギー性結膜炎とドライアイに悩みながらCLを使用しており,CLを使用せずきっちり点眼すれば一連の症状は軽快するも,職業柄眼鏡装用はむずかしいことよりオルソケラトロジーの希望が強かった.マニュアルどおりに矯正はacbd図2症例2のトポグラフィa:初診時トポグラフィ,b:トライアルレンズ装用30分後,c:注文レンズ使用1カ月後,d:レンズ径を変更した後.1516あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(34)ンズ周囲に汚れが付着しやすいのに対して,オルソケラトロジーレンズは涙液貯留部位であるリバースカーブの部分に汚れが付着しやすい傾向がある.レンズ保存液に浸して汚れがふやければ従来のこすり洗いだけで十分だる程度担保されているといえるが,就寝中,つまり閉瞼下での使用ということでは決定的に異なり,正しく安全にオルソケラトロジーを施していくためには,注意深い眼の観察と患者へのケア指導が必要不可欠である.まずレンズの取り扱いは従来のハードコンタクトレンズ(ガス透過性レンズ)と同様で,違いは昼夜逆転することである.昼レンズを装用する従来の使い方ではその間,つまり昼にレンズケースを乾燥させるが,オルソケラトロジーの場合は夜装着するので,就寝中にレンズケースを空にしてきっちり乾燥させておく必要がある.使用したレンズをケースに戻すときには,必ず丁寧にこすり洗いをしてケースに戻す.しかし本当に従来の洗浄の仕方でいいのだろうか?これは今後わが国でも注意深く観察していくべき問題である.レンズの汚れ方の違いを図4a,bに示す.従来のハードコンタクトレンズはレacb図3症例3のトポグラフィa:初診時トポグラフィ.b:トライアルレンズ装用30分後.c:注文レンズ使用3カ月後.図4a通常ガス透過性コンタクトレンズ汚れを染色したもの図4bオルソケラトロジーレンズリバースカーブに汚れが目立つ.(35)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101517性格など個人差があるということと,使用し始めて長年が経過するとケアがおざなりになりやすいということである.これはオルソケラトロジーに限らず言えることだが,処方時のケア法の指導はもちろんのこと,その後の定期的なケアの再教育もぜひ継続していただきたい.IIIレンズケア用品について従来のハードコンタクトレンズと素材は同じであることからこれまで使用されてきたもので十分対応できる.しかしレンズ内面の構造が多段カーブとなっており構造上汚れが蓄積されやすい.定期検査で汚れが目立つようであればこれまでの洗浄法,洗浄液などの見直しや工夫が必要となる.これらは今後学会などを通じてそれぞれの施設がデータや症例を集積し,より良い特殊レンズケアがなされるようフィードバックしていかなければならない事項である.わが国ではオルソケラトロジー使用者であっても感染リスクが通常レンズと変わらないということになっていけば,まさに非常に管理の行き届いた優良な医療が行われていることの証明にもなりうる(ちょっと言い過ぎか…).また,研磨剤単独での使用はレンズへの影響を考えて控えるよう指導されている.今後は動向をみて特殊レンズについてはハードレンズといえども消毒の必要性も含めて見解の見直しをしていく必要があるかもしれない.IVアレルギー性結膜炎で点眼を使用している症例においてオルソケラトロジーレンズの装用は就寝中であることより,日中の点眼が処方箋どおり十分可能となる.特にコンタクトレンズを昼間装着していた症例では,オルソケラトロジーに移行することでしっかりした点眼が可能となり,充血,かゆみなどの症状が軽くなる場合が多い.しかしこれらはあくまでも軽症例に当てはまることであり,重症のアレルギー性結膜炎や活動性の高い乳頭が大きく育っているような症例ではそちらの加療を優先して治療目的以外のコンタクトレンズ装用は差し控えたほうがいい.というならいいが,実際に使用したレンズの残留した汚れをみると,ここに菌が付着増殖し薄くなった角膜上皮に毎日接種されているのだと思うと気持ちのいいものではない.このようなレンズの形状の特徴は使用者にも十分理解させ,たとえば細めの綿棒を用いた洗浄法などの工夫も必要と思われる.つぎに,レンズケースの汚染状況を調べたデータを示し,もう少し考察を加えてみる.図5aに示すのが従来のハードコンタクトレンズ使用者のレンズケースを回収し汚染状況をみたもので,図5bがオルソケラトロジー使用者のものである.一見してわかるようにこのグラフを単純に比較するとオルソケラトロジーのほうが圧倒的に菌の検出が少ないということになりそうだが,筆者らはまったくそのように考えていない.従来のCL使用者は使用年数が長年にわたっており,処方された場所もばらばらであり,たまたま別の疾患で当院を訪れた人と定期検査に来ている人とが混ざっている.一方,オルソケラトロジーのほうは,すべて当院で処方され管理されている症例である.つまりレンズケース汚染は,使用者の■:Negative■:CandidaCandidaNegative図5bオルソケラトロジー使用者レンズケース汚染状況NegativeCNSSerratia■:Negative■:CNS(コアグラーゼ陰性菌)■:Serratia■:Klebsiella■:PseudomonasKlebsiellaPseudomonas図5a通常ガス透過性CL使用者レンズケース汚染状況1518あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(36)も近視矯正のなかの一部を担うものであり,その範囲はかなり限定されるという認識をもって取り扱うことが正しく広めるために不可欠である.おわりに新しい施術や概念が導入されたとき,われわれはどうするか?どんな事柄にでも弱点はつきものである.わが国ではオルソケラトロジーを眼科専門医が扱うこととなっている.ぜひ注意深い観察をしていただき,今後の見解にフィードバックしていただけたら幸いである.文献1)KimEC,KimMS:BilateralAcanthamoebakeratitisafterorthokeratology.Cornea29:680-682,20102)WattK,SwarbrickHA:Microbialkeratitisinovernightorthokeratology:reviewofthefirst50cases.EyeContactLens31:201-208,20053)ChooJD,HoldenBA,PapasEBetal:AdhesionofPseudomonasaeruginosatoorthokeratologyandalignmentlenses.OptomVisSci86:93-97,20094)LadagePM,YamamotoN,RobertsonDMetal:Pseudomonasaeruginosacornealbindingafter24-hourorthokeratologylenswear.EyeContactLens30:173-178,2004Vコンタクトレンズをすると乾燥感がある症例涙液減少型の重症ドライアイとして加療を受けている場合はコンタクトレンズ装用自体が向かない.しかしコンタクトレンズ装用時のみに乾燥感がある程度であれば十分オルソケラトロジーをすることはできる.あくまでも検査,診察したうえでの判断となる.オルソケラトロジーは閉瞼下での装用であることより,瞬目に伴う涙液の動態,角結膜とコンタクトレンズの摩擦はかなり減る.日中は裸眼となるので,軽度のドライアイやコンタクトレンズ下での乾燥感をもつ程度の症例ではかえって楽になる場合が多い.しかし就寝中の乾燥には配慮がいる.起床してレンズを外す場合かなり固着していることもあるので,人工涙液を点眼してから外すほうが角膜上皮への負担が軽減される.十分に個々の病態や問題点を把握したうえで医師の裁量権の下処方されることは新たな恩恵をもたらす結果ともなりうる.しかしながら改めて申し上げるが,ガイドラインに沿った処方を徹底することが,スムーズな矯正,診療の助けとなる.オルソケラトロジーはあくまで

適応と処方の実際

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY検査を行い慎重に判断しなければならない(表1)10,11).基本的には20歳以上の眼疾患のない軽度の近視が適応となる(表2).当院で行ったオルソケラトロジーの臨床治験の症例が使用していた視力補助具は眼鏡,ソフトコンタクトレンズ(SCL)が多く,HCLの使用経験は13%であった(図1).オルソケラトロジーレンズはHCLであるが,HCLの装用経験がない症例においても,オルソケラトロジーを問題なく導入することが可能である.逆に,オルソケラトロジーレンズを処方するための角膜形状解析検査を正確に行うためには,SCLは3日から1週間,HCLでは3週間から1カ月間,コンタクトレンズ(CL)装用を中止しなければならない.1.絶対禁忌オルソケラトロジーによる近視を軽減する原理は角膜中央部の形状を平坦化し,光学領域の角膜屈折力を減少はじめにオルソケラトロジーは,ハードコンタクトレンズ(HCL)を装着して睡眠し,角膜形状を変形させることにより角膜屈折力を変化させる屈折矯正方法である1,2).正しく適応の選択されたオルソケラトロジーの有用性・安全性が明らかになってきており3),わが国においても屈折矯正方法の一つとして普及されることが予想される.本稿では,オルソケラトロジーの処方方法について解説するが,実際のオルソケラトロジーの実施においては,その原理や実際の処方方法の習熟のみならず,屈折矯正の過程で生じる角膜への影響など,角膜生理と屈折矯正に対する深い理解が必要である.まずは,本特集でオルソケラトロジーに対する知識を整理してから成書を精読されることをお薦めする.Iオルソケラトロジーの適応オルソケラトロジーは日中,補助具なしで視力を改善することができること,レンズ装用を中止することにより角膜形状が元に戻り可逆性であることなどの利点がある4,5).一方,矯正効果を発揮するためには,より効率よく角膜の変形を生じるHCLを装用しなければならないため,角膜に対する影響は大きくなる6.9).また,オルソケラトロジーの屈折矯正効果には限界があり,適応を超えるような屈折異常の症例に無理に矯正を行うことは角膜に過剰な負担を強いることとなり危険性が高くなる.そのため,オルソケラトロジーの適応はスクリーニング(23)1505*RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野〔別刷請求先〕柳井亮二:〒755-8505宇部市小串1144山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1505.1512,2010適応と処方の実際PatientSelectionandLensFitting柳井亮二*表1オルソケラトロジーのスクリーニング検査1)視力検査:裸眼および矯正視力2)屈折値検査:自覚,他覚3)角膜曲率半径計測4)細隙灯顕微鏡検査5)角膜形状解析検査(トポグラフィ)6)角膜内皮細胞数測定7)シルマーI法試験8)眼底検査9)眼圧測定10)瞳孔径測定(明所,暗所)1506あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(24)錐角膜,角膜ジストロフィなどでは矯正効果および安全性が担保されないため,現時点では適応とならない12).これらの症例に対するオルソケラトロジーの有用性については,今後さらなる検討が必要である.2.相対禁忌a.医学的な相対禁忌屈折異常以外の眼疾患を有する場合や全身疾患を有する場合には適応とならない.b.社会的な相対禁忌オルソケラトロジーは適切に処方されたレンズを正しく使用することにより,安全に効果的に矯正効果を発揮する方法であるため,患者のコンプライアンスが大切である.処方者が患者へ十分な説明を行うことは前提であるが,インフォームド・コンセントに対する正しい理解が得られる症例であるかどうかの判断も,オルソケラトロジーの適応を判定するうえで重要である.コンプライアンスの悪い症例や定期検査に来られない症例は,オルソケラトロジーの効果が発揮されないばかりか,オルソケラトロジーによる最も重篤な合併症である角膜感染症の危険性も高くなる13,14).インターネットなどから誤った情報を得てオルソケラトロジーに過度の期待(近視の改善,永続的な治療効果など)を有している症例にも慎重な対応が必要である.IIオルソケラトロジーレンズの処方の実際現在行われている第三世代のオルソケラトロジーはリバースジオメトリーレンズが用いられており(図2),このレンズデザインにより効率的に角膜形状変化を起こすことが可能となる(表3).通常のHCLに比べ,レンズのデザインが複雑であるが,実際のレンズ処方は角膜形することによる.しかしながらこのような変化が生じる機序についてはわかっていないことも多い6~9).そのため,角膜実質のコラーゲンの性質が不安定な小児期や円表2オルソケラトロジーの適応適応1)年齢:20歳以上2)対象(1)屈折値が安定した近視および近視性乱視近視度数:.4.00D以下乱視度数:.1.50D以下の直乱視,.1.00D以下の倒乱視(2)角膜中心屈折力が39.00Dから48.00D非適応1)禁忌(1)医学的禁忌A.前眼部の疾患,損傷,奇形など活動性角膜感染症角膜形状異常アレルギー涙液分泌減少角膜知覚低下角膜内皮細胞減少B.妊婦,授乳中の女性あるいは妊娠の計画がある女性C.糖尿病D.免疫疾患(自己免疫疾患,AIDSなど)(2)社会的禁忌A.インフォームド・コンセントを行うことが不可能もしくは望まないB.取り扱い説明書の指示に従えないC.定期検診に来院することがむずかしいD.治療途中の視力変化が危険に結びつく(運転など)慎重処方1)ドライアイあるいは視力に影響が出る可能性のある薬物治療2)抗炎症薬の投与またはその予定3)暗所瞳孔径が大きな患者(4~5mm)ベースカーブリバースカーブアライメントカーブ周辺カーブ図2オルソケラトロジーレンズのデザインなし2%眼鏡54%定期交換SCL(1日型を含む)27%従来型SCL4%HCL13%図1オルソケラトロジーを行う前の視力矯正方法(山口大学)(25)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101507インパターンを確認する(図4).フィッティングに問題がなければ,取り扱い方法やレンズケアを指導した後に17),夜間の1回装用のスケジュールを調整する.夜間1回装用後にトライアルレンズによる実際のオルソケラトロジー効果を判定する.これは,トライアルレンズ装用前後のトポグラフィの変化から判定し,トライアルレンズの規格が正しい場合にはブルズアイパターンを示す(図5).そして,コンピュータプログラムを進めることにより処方レンズ規格が最終決定され,処方レンズによるオルソケラトロジーが開始される.セントラルアイランド(図6)やスマイリーフェイスパターン(図7)の場合にはコンピュータソフトウェアに従ってトライアルレ状解析データと屈折値から簡便に規格決定する方法が開発されている15).トライアルレンズフィッティング法は,メーカーから提供されるノモグラフに基づいてトライアルレンズを選択し,実際のフルオレセインパターンからレンズを決定する方法である16).角膜反応データに基づくフィッティング法はコンピュータソフトウェアによりトライアルレンズを決定し,1回の睡眠時装用による効果を判定して,処方レンズを決定する方法である.本稿では,BEソフトウェアを用いた角膜反応データに基づくフィッティング法について解説する.1.処方の流れ(図3)オルソケラトロジーの説明を行い,同意が得られた症例にスクリーニング検査を行い,オルソケラトロジーの適応を判断する.適応がある場合は,コンピュータプログラムによりトライアルレンズを決定し,仮装用を行って細隙灯顕微鏡で,レンズの装用状態およびフルオレセ表3リバースジオメトリーレンズのデザインと役割ベースカーブ角膜中央部の扁平化リバースカーブ陰圧により角膜中央部の形状変化を起こりやすくし,中間周辺部を急峻化アライメントカーブ角膜と接触してセンタリングを安定化周辺カーブ涙液を保持し,涙液交換を促進ベースカーブリバースカーブアライメントカーブ周辺カーブ図4リバースジオメトリーレンズのフィッティングパターンリバースカーブに涙液が貯留する特徴的なパターンを呈する.説明・同意・スクリーニングトライアルレンズの規格決定処方レンズの規格決定取り扱い・レンズケア指導夜間装用後の効果判定,安全性評価(1晩)トライアルレンズ有効(ブルズアイ)無効の規格を再決定装用後の効果判定,安全性評価(3~4週間後)定期検査(3カ月ごと)図3オルソケラトロジーレンズの処方手順(角膜反応データに基づくフィッティング法)装用前後の変化装用後装用前図5トライアルレンズ夜間装用後の角膜トポグラフィの評価ブルズアイ.理想的な夜間フィッティングを意味する.1508あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(26)装用前後の変化装用後装用前図7トライアルレンズ夜間装用後の角膜トポグラフィの評価スマイリーフェイス.角膜Sagの過大評価の場合に起こり,レンズのセンタリング不良を意味する.装用前後の変化装用後装用前図6トライアルレンズ夜間装用後の角膜トポグラフィの評価セントラルアイランド.角膜Sagの過小評価の場合に起こり,スティープなフィッティングを意味する.図8トライアルレンズの規格決定1角膜形状解析によるSagの算出.図はE300R(Medmont社)の解析画面.図9トライアルレンズの規格決定2BEプログラムの立ち上げ.通常は1/4tangentを選択すると次の画面へ切り替わる.角膜頂点カーブ角膜Sag余分な屈折変化量可視虹彩径(水平方向の角膜径)屈折変化量図10トライアルレンズの規格決定3角膜形状解析で得られたデータの入力画面.角膜頂点カーブ,角膜Sag,可視虹彩径(水平方向の角膜径)を入力すると,予測される屈折変化量が算出される.自覚的な屈折値と屈折変化量との差異を入力するとトライアルレンズが決定される.(27)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101509ブ,圧力因子,レンズSag(図14),接線角(図15),レンズ下の涙液層の厚み,角膜にレンズが接触する位置(図12),予測される屈折変化量が表示される.ここで,決定されたトライアルレンズを用いて夜間1回装用を行う.ンズ規格を再決定し,再度夜間の1回装用を行い,同様に効果を判定する.3.4週間後に再度効果判定を行う.このときに目標とする屈折変化が得られているかどうかを判定する.適切な症例選択およびスクリーニング検査が行われている場合には,この時点までに7.8割程度の屈折変化が生じている.このときに屈折変化が得られない場合には,オルソケラトロジーの非適応の場合とスクリーニング検査が正確に行われていない場合が考えられる.これまでの研究から,オルソケラトロジーの適応であると判定される症例においても2割程度の割合で,オルソケラトロジーによる屈折矯正の効果が十分に発揮されない症例があることがわかっている.2.トライアルレンズの規格決定ソフトウェアの実際の操作最初に,トポグラフィ(BEソフトウェアであればE300R,Medmont社)による角膜形状解析を行い,角膜Sagを算出する(図8).BEソフトウェアを立ち上げ(図9),「1/4tangent」を選択するとつぎの画面へ切り替わる(図10).角膜形状解析で得られたデータの入力画面で,「角膜頂点カーブ(図11)」,「角膜Sag(角膜の高さのこと.オルソケラトロジーにおいては,角膜中央部と角膜にレンズが接触する位置との高さのこと,図12)」,「可視虹彩径(水平方向の角膜径)」を入力すると,「予測される屈折変化量」が算出される.「余分な屈折変化量(自覚的な屈折値と予測される屈折変化量との差異)」を入力すると自動的にトライアルレンズが決定される(図13).画面上にトライアルレンズのベースカー角膜曲率半径角膜図11角膜頂点カーブ角膜中央部の角膜曲率半径.角膜は非球面(楕円)のため,角膜曲率半径や離心率は角膜中央部と角膜周辺部で異なっている.オルソケラトロジーによる角膜形状変化は角膜中央部で生じるため,角膜頂点カーブが重要となる.Sagレンズが周辺部角膜にフィットする位置図12角膜Sag角膜の高さ.オルソケラトロジーにおいては,角膜中央部とレンズがフィットする周辺部角膜の高さのこと.トライアルレンズの規格図13レンズSagリバースジオメトリーレンズのSagは角膜Sagに一定の涙液層の厚みを加えた高さとして設計される.このため,正確な角膜Sagの算出が重要である.レンズのSag角膜のSag涙液層の厚み図14接線角角膜にレンズが接触する位置での接線が交叉する角度.この角度によりレンズのセンタリングが調整され,レンズのフィッティングに影響する.1510あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(28)4.最新のレンズ処方プログラム日本と同様にHCLの処方率が高いオランダは,世界中で最もオルソケラトロジーの普及した国の一つである.オランダのCLメーカー(NKL社)ではBEソフトウェアをさらに進歩させたプログラムを独自に開発しており,BEプログラムよりも簡便にオルソケラトロジーレンズの処方が可能となっている(図18).このソフトウェアではさまざまなメーカーのトポグラフィに対応しており,角膜形状解析データの自動入力化により,レンズ規格決定までの操作が簡略化されている(図19).オランダは先進国のなかでは唯一オルソケラトロジーレンズの処方割合が全CL中で1%を超えており(5.6%,2008年)18),オルソケラトロジーの処方方法などの分野でも世界をリードしている.将来,わが国においてもこのようなソフトウェアを用いることによってオルソケラ3.処方レンズの規格決定の実際夜間の1回装用を行ったのちは,トライアルレンズを決定した画面(BEプログラム上,図13)の「Trialresponse(角膜反応)」ボタンを押すと角膜反応データのパターンを入力する画面が表示される(図16).ここで,「ブルズアイパターン」を選択すると,処方レンズの規格が決定され表示される(図17).図15トライアルレンズの規格決定4自動的にトライアルレンズのベースカーブ(8.50),圧力因子(0.740),レンズSag(1.5227),接線角(54.84),レンズ下の涙液層の厚み(0.0093),角膜にレンズが接触する位置(9.41),予測される屈折変化量(0.79)が算出される.()は本稿の例における実際の数値を示す.角膜Sag接線角図16角膜反応データの入力画面図17処方レンズの規格決定画面あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101511トロジーの処方が容易になることが期待される.おわりに現代のオルソケラトロジーは安全性も高く,屈折矯正の効果,安定性などの面からも屈折矯正方法の一つとして,広く普及することが予想される.オランダでは,定期交換SCLの普及により減少していたHCLの処方率がオルソケラトロジーの普及により,再度増加していることも報告されている18).従来,HCLの処方率の高かったわが国においても,オルソケラトロジーは普及しやすいものと考えられるが,オランダに比べ,近視度数の大きな症例の多いわが国においては,オルソケラトロジーの適応となる症例の割合は多くないことが予想される.オルソケラトロジーの処方方法がいくら進化しても適応(29)右眼のデータ左眼のデータ図18オルソケラトロジー処方プログラム(ReferentieR,NKL社)左右のレンズを同時に規格決定することができ,トポグラフィとの連携により角膜形状解析結果は自動入力される.トポグラフィから自動的に算出自覚的屈折値を入力ベースカーブ,度数,レンズ径,接線角,角膜Sagを自動的に算出レンズタイプ,素材を選択すると図19Referentieの入力画面と処方レンズ規格決定画面自覚的屈折値を入力し,オルソケラトロジーレンズの種類および素材を選択すると,自動的に処方レンズが決定される.1512あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010となる症例の選択を誤っている場合には期待どおりの効果が発現することはない.オルソケラトロジーの処方の成否は,適切な症例を選択することができるか否かにかかっているといっても過言ではない.文献1)SwarbrickHA:Orthokeratologyreviewandupdate.ClinExpOptom89:124-143,20062)柳井亮二,西田輝夫:オルソケラトロジー.臨眼62:1221-1226,20083)VanMeterWS,MuschDC,JacobsDSetal:Safetyofovernightorthokeratologyformyopia:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology115:2301-2313,20084)KobayashiY,YanaiR,ChikamotoNetal:Reversibilityofeffectsoforthokeratologyonvisualacuity,refractiveerror,cornealtopography,andcontrastsensitivity.EyeContactLens34:224-228,20085)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Recoveryofcornealirregularastigmatism,ocularhigher-orderaberrations,andcontrastsensitivityafterdiscontinuationofovernightorthokeratology.BrJOphthalmol93:203-208,20096)ChenD,LamAK,ChoP:Apilotstudyonthecornealbiomechanicalchangesinshort-termorthokeratology.OphthalmicPhysiolOpt29:464-471,20097)ChooJD,CarolinePJ,HarlinDDetal:Morphologicchangesincatepitheliumfollowingcontinuouswearoforthokeratologylenses:apilotstudy.ContactLensAnteriorEye31:29-37,20088)CheahPS,NorhaniM,BariahMAetal:Histomorphometricprofileofthecornealresponsetoshort-termreversegeometryorthokeratologylenswearinprimatecorneas:apilotstudy.Cornea27:461-470,20089)松原正男:メカニズム.眼科プラクティス27:227-229,200910)大橋裕一,金井淳,糸井素純ほか:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,200911)CheungSW,ChoP,ChanB:Astigmaticchangesinorthokeratology.OptomVisSci86:1352-1358,200912)柳井亮二:非適応例.眼科プラクティス27:234-237,200913)ChoP,BoostM,ChengR:Non-complianceandmicrobialcontaminationinorthokeratology.OptomVisSci86:1227-1234,200914)吉野健一:合併症.眼科プラクティス27:241-244,200915)MountfordJ:トライアルレンズフィッティングオルソケラトロジー(MountfordJ,RustonD,DaveT編集,吉野健一監訳),p119-149,エルゼビア・ジャパン,200616)平岡孝浩:処方.眼科プラクティス27:230-233,200917)柳井亮二:装用指導.眼科プラクティス27:238-240,200918)EfronN,MorganPB,HellandMetal:Internationalrigidcontactlensprescribing.ContactLensAnteriorEye33:141-143,2010(30)

オルソケラトロジーの角膜生理学

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYpHの変化,コハク酸脱水素酵素活性,細胞の増殖能をBrdU(ブロモデオキシウリジン)でみる方法,LDH(乳酸脱水素酵素),P450活性,形態をみるためにコンフォーカルマイクロスコープを使う方法,パキメトリーで角膜の厚みをみる方法など手法はさまざまである.これらは低酸素状態に伴う角膜上皮の活性の変化や組織学的な変化をとらえたものがほとんどである.測定法により違いがでるため一つの方法のみから判断するのはむずかしい.その一つである,レンズ下の酸素分圧を微小電極により測定する方法をとり,直接酸素分圧を測定することができる.HCLとして当初使用されていたPMMA(ポリメチルメタクリレート)〔Dk(酸素透過係数):0〕は酸素透過性が0のレンズである.この方法を用いて測定した結果,PMMAレンズを装用した場合家兎における開瞼時の酸素分圧は5mmHg程度であると報告されている3).さらに,Dk/L(酸素透過率)が125であるHCLでは開瞼時80~100mmHg,近年市販されたシリコーンハイドロゲルレンズ(Dk/L:175×10.9)では120mmHg程度の酸素分圧が測定されている4).レンズを装用しない場合の角膜の酸素分圧は155mmHgといわれており5),できるだけ近づけるようなレンズが理想的である.レンズ下の酸素分圧は酸素透過性に大きく左右されることがわかってきたため,これまで酸素透過性のよいレンズが開発,市販されてきた.理論的には開瞼時角膜浮腫予防のために必要なコンタはじめに現在は夜間就寝中にハードコンタクトレンズ(HCL)を装用するオルソケラトロジーも,歴史的に最初は近視矯正効果を期待して終日装用を行っていた.第三世代のオルソレンズになってからHCLの酸素透過性があがり夜間装用が可能となった1).2002年には米国の食品医薬品局(FDA)から認可も受けており,安全性について承認を受けたことになる.しかし,夜間コンタクトレンズ装用に対してわれわれ眼科医がもしも抵抗を感じるとすれば,その原因は夜間装用における角膜の状態の変化が明らかになっていないためではないかと思う.夜間にコンタクトレンズを装用することは今まで禁忌であると研修医時代から教わってきたから,ソフトレンズの夜間装用後に角膜浮腫を起こした症例を経験してきたからではないかと思う.角膜はどの程度になれば酸素不足になるのか,酸素不足が起こす角膜の変化について,今まで報告されているなかからわかる範囲で記述していきたい.Iコンタクトレンズ下の酸素分圧コンタクトレンズを装用すること自体レンズ下の酸素供給は少なくなる.レンズ装用下では開瞼時であっても大気からの酸素供給に制限が生じるため酸素分圧が低下することがわかっている.レンズ下の低酸素状態についての研究をまとめた報告によれば,家兎では1週間から1カ月程度連続装用することによって低酸素状態が出現したとの報告が多い2).低酸素状態の測定法としては(19)1501*YoNakamura:四条ふや町中村眼科〔別刷請求先〕中村葉:〒600-8005京都市下京区立売東町24みのや四条ビル2階四条ふや町中村眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1501.1504,2010オルソケラトロジーの角膜生理学PhysiologyofOrthokeratology中村葉*1502あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(20)との報告がある(表1).Bonnanoらの報告ではSCLの場合Dk/Lを130×10.9とすれば素材としては閉瞼時の酸素分圧を最も高く保てるものと考えられる.オルソレンズのようなHCLの場合も同様だが,SCLとの違いとして大きさの違いがある.SCLが角膜全体を覆うために全体が低酸素になるのに比較してHCLの場合は周辺のレンズののらない部分は涙液からの酸素供給がなされることになる.角膜を覆うレンズの大きさと厚みからDk/Lが125×10.9シリコーンハイドロゲルSCLはDk/L90×10.9のHCLと角膜に対する酸素供給は等しくなるというモデルの報告もある14).角膜輪部への酸素供給が影響を与えているとの考え方もある.HCLとSCLの違いはあるにしても,もともとの酸素供給が少ないために閉瞼時のコンタクトレンズ装用には十分な注意が必要であると考えられる.IIオルソレンズと涙液交換レンズ下の酸素分圧を考える際にもう一つ大切なことは,HCLの場合はSCLと比較して涙液が保たれていることがあげられる.SCLの就寝時装用で角膜浮腫の生じる症例はよくみられるが,HCLはSCLよりもレンズ下に涙液層を保っている可能性が高い.夜間就寝時には瞬目がされない状態にあり涙液交換が悪い可能性は十分にあるものの,レンズ下の涙液が保たれていれば涙液よりの供給がわずかであっても望めることになる.オルソレンズの場合,少なくとも涙液のたまっているフィックトレンズのDk/Lの値として20.06),24.17),35.08)といわれている(表1).現在市販されているHCLではほとんどのものが酸素透過性のよいものであり,開瞼時の場合は条件を満たしているものと考えてよい.それではオルソレンズの場合の閉瞼時について同様に考えてみることにする.角膜への酸素供給は開瞼時には大気より十分な酸素供給があるが,閉瞼時には大気よりの供給がなくなるため前房または涙液よりのわずかの供給となる.開瞼時酸素濃度21%,155mmHg,閉瞼時は7.7%,55mmHgになっていると報告されている5,9).もともと1/3強の酸素濃度しかない状態でのコンタクトレンズ装用に負担がかかるのは当然と考えてよいであろう.微小電極で測定したレンズ下の値の報告では閉瞼状態でコンタクトレンズ下酸素分圧を測定した結果はレンズのDk値にかかわらず20mmHg以下であると報告されている3).別の報告では,閉瞼下でのレンズ装用については閉瞼していること自体による低酸素状態が大きな影響を与えており,たとえ酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズであっても開瞼時と比べると上皮細胞の増殖能は約1/3と低くなっていると記されている.酸素透過性の違いは影響としては小さいものであると結論づけている10).リン光遅延法によってヒトにおいてレンズ下の酸素分圧を測定した報告があるが,それによるとソフトコンタクトレンズ(SCL)下の酸素分圧は酸素透過性の高いレンズにおいても低く測定されている11,12)(表2).この方法ではDk/Lが130程度あるレンズであっても40mmHg弱の酸素分圧が測定されており,Dk/Lが300を超えたレンズであってもそれほど変わらない結果となっている.測定法の違いにより酸素分圧の値は違ってはいるが,閉瞼時は閉瞼そのものによる影響が大きいことがわかる.必要なDk/Lの値として理論値ではあるが閉瞼時では87.07),75.013),1258)×10.9表1低酸素を防ぐためのレンズの酸素透過性Dk/L〔×10.9(cm/sec)(mLO2/mL・mmHg)〕開瞼時20.0,24.1,35.0閉瞼時87.0,75.0,125.0(文献6,7,8,13より抜粋)表2SCLのDk/Lとレンズ下酸素分圧Dk/tOpenPo2(Torr)ClosedPo2(Torr)GogglePo217.158.0±7.911.2±2.77.8±1.12768.1±6.812.4±3.09.9±1.285105.0±8.630.0±5.937.0±1.8124109.0±4.924.0±6.040.3±3.6138114.0±7.537.5±6.941.0±3.4166112.4±9.438.2±7.045.7±2.7226121.3±8.239.9±7.145.6±3.4329133.1±11.542.3±6.148.5±7.0(文献12のTable2より)(21)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101503ると考えられる.涙液の分布にばらつきがあるため,部位による違いが考えられる.オルソレンズでの低酸素状態について考える際に,HCLの酸素透過性がよいことはもちろんであるが,涙液の状態についても考慮する必要がある.III低酸素状態と臨床一般的にレンズによる低酸素状態で起こる臨床的な角膜の変化としては,急性の変化として角膜浮腫,長期の変化が起こった場合,角膜のターンオーバーの変化,さらには輪部の血管新生が認められる.ターンオーバーの変化として長期にわたる変化が生じた場合は特徴的な動きをもった角膜上皮障害が生じるが,初期段階として角膜のマイクロシストを認めることがある15)(図3).定期的に詳細な角膜の観察が必要である.ティングゾーンには十分な涙液層を保っていると考えてよいが,角膜中央のフラットにフィッティングされているベースカーブの部分ではかなり涙液層が薄くなっている可能性が高い.筆者らの行った家兎での実験を少し紹介する4).家兎にオルソレンズ(Dk/L:50×10.9)を装用させ,瞼板縫合により閉瞼状態を48時間保ったあとにレンズ下の酸素分圧を微小電極により測定した(図1).測定法はIchijimaらと同様の方法3)をとり,1分定常状態を保てた値をとった.測定は瞼板縫合をとって開瞼させた直後と,涙液交換をさせた後の2回測定し,比較検討した(図2).瞼板縫合をとってすぐのレンズは全例固着しており,閉瞼中はおそらく涙液交換は行われていなかったものと考えられた.結果は開瞼直後の値よりも瞬目後の酸素分圧が上昇したことより,涙液交換によって酸素分圧が上昇する傾向が認められた.涙液交換によってレンズ下の酸素分圧は上がるということであるが,閉瞼中に涙液交換は行われておらず低酸素である可能性は高い.また,酸素分圧は部位による違いが認められた.特に涙液のたまっているフィッティングゾーンでは55mmHgの酸素分圧が認められたのに対して,中央のベースカーブ部では40mmHgと酸素分圧にばらつきがみられた.オルソレンズのようなHCLの場合は,涙液交換がない状態であっても涙液のたまっている部分があることにより,わずかではあるが酸素供給を受けている可能性はあ図3低酸素状態によるマイクロシスト矢頭の部分がマイクロシスト.(文献15より)50100酸素分圧(mmHg)1(分)図1測定時の曲線1分間定常状態になった時点で測定した.酸素分圧(mmHg)0102030405060開瞼直後涙液交換後41.550.5図2測定結果涙液交換によって酸素分圧は高くなる可能性がある(p=0.068,n=5).(文献4より)1504あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(22)withhydrogellensesandeyeclosure:effectofoxygentransmissibility.AmJOptomPhysiolOpt58:386-392,19817)HoldenBA,MertzGW:Criticaloxygenlevelstoavoidcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.InvestOphthalmolVisSci25:1161-1167,19848)HavittDM,BonannoJA:Re-evaluationoftheoxygendiffusionmodelforpredictingminimumcontactlensDk/tvaluesneededtoavoidcornealanoxia.OptomVisSci76:712-719,19999)EfronN,CarneyLG:Oxygenlevelsbeneaththeclosedeyelid.InvestOphthalmolVisSci18:93-95,197910)LadagePM,RenDH,PetrollWMetal:Effectsofeyelidclosureanddisposableandsiliconehydrogelextendedcontactlenswearonrabbitcornealepithelialproliferation.InvestOphthalmolVisSci44:1843-1849,200311)BonannoJA,StickelT,NguyenTetal:Estimationofhumancornealoxygenconsumptionbynon-invasivemeasurementoftearoxygentensionwhilewearinghydrogellenses.InvestOphthalmolVisSci43:371-376,200212)BonannoJA,ClarkC,PruittJetal:Tearoxygenunderhydrogelandsiliconehydrogelcontactlensesinhumans.OptomVisSci86:936-942,200913)O’NealMR,PolseKA,SarverMD:Cornealresponsetorigidandhydrogellensesduringeyeclosure.InvestOphthalmolVisSci25:837-842,198414)IchijimaH,CavanaghDC:Howrigidgas-permeablelensessupplymoreoxygentothecorneathansiliconehydrogels:anewmodel.EyeContact33:216-223,200715)柳井亮二,西田輝夫:オルソケラトロジー.臨眼62:1221-1226,200816)WattKG,BonehamGC,SwarbrickHA:Microbialkeratitisinorthokeratology:theAustralianexperience.ClinExpOptom90:182-187,200717)YoungAL,LeungAT,ChengLLetal:Orthokeratologylens-relatedcornealulcersinchildren:acaseseries.Ophthalmolgy111:590-595,200418)YoungAL,LeungAT,ChengEYetal:Orthokeratologylens-relatedpseudomonasaeruginosainfectiouskeratitis.Cornea22:265-266,200319)XuguangS,LinC,YanZetal:Acanthamoebakeratitisasacomplicationoforthokeratology.AmJOphthalmol136:1159-1161,200120)YanaiR,MorishigeN,ChikamaTetal:Disruptionofzonulaoccludens-1intherabbitcornealepitheliumbycontactlens-inducedhypoxia.InvestOphthalmolVisSci50:4605-4610,200921)HaraY,ShiraishiA,OhashiY:Hypoxia-alteredsignalingpathwaysoftoll-likereceptor4(TLR4)inhumancornealepithelialcells.MolVis15:2515-2520,2009オルソレンズ装用に伴う合併症として感染症の報告がある.特に報告が多いのが緑膿菌とアカントアメーバである16~19).グラム陰性の嫌気性桿菌である緑膿菌感染がレンズによる低酸素状態が原因で起こっている可能性,さらに菌を捕食して繁殖するアメーバが緑膿菌の増殖に伴って増殖する可能性についても指摘されている.コンタクトレンズによる低酸素状態が感染を起こすメカニズムとしてZO(zonulaoccludens)-1を介するバリア機能の低下が原因という報告20)や,角膜上皮細胞のTLR4(Toll-likereceptor4)のシグナル伝達変化が起こることが原因であるとの報告もある21).感染症は通常のコンタクトレンズ装用に伴う合併症としてももちろん問題であるが,低酸素の影響が加わることにより難治性の感染症に発展する可能性があり,十分な注意が必要である.特に近年みぞ部分にあたるフィッティングゾーンに汚れがたまりやすいことが指摘されており,レンズの洗浄が大切である.おわりにオルソレンズ装用に伴う低酸素状態についてまとめてみた.オルソレンズのみならずコンタクトレンズ装用全般に関わる点も多く含まれていたが,今後オルソケラトロジーを始められる際に低酸素状態に関する基礎知識が少しでも参考になると嬉しく思う.文献1)NicholsJJ,MarsichMM,NguyenMetal:Overnightorthokeratology.OptomVisSci77:252-259,20002)McCannaDJ,DriotJY,HartstookRetal:Rabbitmodelsofcontactlens-associatedcornealhypoxia:areviewoftheliterature.EyeContactLens34:160-165,20083)IchijimaH,HayashiT,MitsunagaSetal:Determinationofoxygentensiononrabbitcorneasundercontactlenses.CLAOJ24:220-226,19984)中村葉,横井則彦,木下茂ほか:レンズ下の酸素分圧に対するオルソケラトロジーレンズの影響.日コレ誌51:13-16,20095)FattI,BieberMT:Thesteady-statedistributionofoxygenandcarbondioxideintheinvivocornea.ExpEyeRes7:102-112,19686)SarverMD,BaggettDA,HarrisMGetal:Cornealedema

オルソケラトロジーの原理と角膜形状変化

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYとの間にスペースが形成され,ここに涙液が貯留することからtearreservoirzoneともよばれる.このスペースは中央の角膜上皮が再分布するために重要な領域であると考えられ,後述するような上皮の厚み変化が生じる空間を確保している.このRCの設置により短時間で効はじめにオルソケラトロジーとは特殊なデザインを施したハードコンタクトレンズ(HCL)を使用して角膜の形状を意図的に変化させ屈折矯正を行うことであり,近年,乱視や遠視用のオルソケラトロジーも臨床応用されているが,一般に普及しているのは近視矯正であるため,ここでは近視用オルソケラトロジーの矯正原理と角膜形状変化について概説する.I近視矯正を目的としたオルソケラトロジー基本的にはフラットなベースカーブで角膜中央部の形状を平坦化させることにより,角膜屈折力を減少させて近視を矯正するとの考え方である.この基本的概念に基づき古くからさまざまなレンズデザインが考案され試されてきたわけであるが,現在,最も効果的と考えられ臨床応用されているのは,レンズ内面が4カーブ(もしくは5カーブ)で構成されるリバースジオメトリーレンズである.中央から周辺に向かって①ベースカーブ(basecurve:BC),②リバースカーブ(reversecurve:RC),③アライメントカーブ(alignmentcurve:AC),④ペリフェラルカーブ(peripheralcurve:PC)の4つの同心円状カーブから構成される(図1).BCはレンズ中心部,直径約6mmの部分であり,角膜の曲率よりもフラットに設計されており角膜中央部を平坦化させる役割を担う.RCはBCを取り囲む非常にスティープなカーブである.BCとACをつなぐ溝状の構造をなし,角膜(11)1493*TakahiroHiraoka:筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻眼科学〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻眼科学特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1493.1499,2010オルソケラトロジーの原理と角膜形状変化PrinciplesofOrthokeratology;CornealShapeChangesafterOrthokeratology平岡孝浩*ペリフェラルカーブ(PC)アライメントカーブ(AC)リバースカーブ(RC)ベースカーブ(BC)図1代表的なリバースジオメトリーレンズのデザイン中央から周辺に向かって以下の4つのカーブから構成されている.レンズ直径は10~11mmで,通常のハードレンズより大きい.①ベースカーブ(オプティカルゾーン):角膜よりもフラットに設計されたカーブであり角膜中央部を圧迫し扁平化する.直径6mm前後.②リバースカーブ:ベースカーブを取り囲む非常にスティープなカーブで,角膜との間にスペース(tearreservoirzone)を形成する.これは中央の角膜上皮が再分布するために重要な領域であると考えられている.幅0.6mm程度.③アライメントカーブ:角膜曲率とパラレルなカーブで,センタリングを良好にする.幅1.2~1.3mm程度.④ペリフェラルカーブ:いわゆるエッジリフト.レンズ下の涙液交換を促し,レンズの固着を防ぐ.幅0.4mm程度.1494あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(12)論である.特に角膜中央部と中間周辺部(RC部)のレンズ下に形成されるそれぞれの涙液層の厚みとそれらの差が重要で,これらを巧みに設定することにより目標の矯正効果を得ようとする手法で,現在もTLT(tearlayerthickness)フィッティング法として数社のレンズで応用されている.目標の矯正効果(角膜形状変化)を達成するために必要なレンズ後面の涙液層の厚みを個々の角膜形状データをもとに設定し,コンピュータソフトウェアを用いてレンズをデザインするというシステムであるが,現時点で完成された方法とは言い難く,さらに改良・洗練される必要がある.矯正精度をさらに高めるために,オルソケラトロジーによる角膜形状変化を物理学的または数学的に説明する試みもなされてきた.コンタクトレンズに作用する力としては,重力,眼瞼圧,表面張力,涙液圧搾力(レンズ下の涙液層が生みだす陰圧,ベクトルでいえば眼球に向かってレンズを引っ張る方向に作用する)などがあるが,それぞれが複合的に作用し合っており,これらの力の関係を単純な数式で表わすのは困難である.これまでに涙液圧搾力や静水力学的圧力に基づいた理論や有限要素解析などが提唱されているが,いずれも実測値ではなく相対値に基づいたモデルであり,形状変化を説明するための仮説にすぎない.つまり,実測値に基づく物理学的・数学的モデルとして確立されたものはない.このほか,サグ原理,一定表面積原理などさまざまなフィッティング原理があるが,それぞれ単独ですべてを説明できるような単純なものではない.以上をまとめると,オルソケラトロジーの矯正原理はいまだ発展途上であり確立されたとは言い難い.さまざまな仮説や理論が存在するため系統だった理解をするのは困難であるが,これはオルソケラトロジーがコンタクトレンズによる角膜の圧迫といった単純なものではなくきわめて複雑なメカニズムにより角膜形状変化を生じているということを示している.それぞれの仮説や理論をすべて知る必要はないが,オルソケラトロジーの臨床(特に不成功症例)を理解するうえで役立つことが多い.それぞれの原理や理論は非常にむずかしいので詳細は他に譲るが,JohnMountfordらによる成書1)に詳しく記されているので,興味のある方は一読することをお薦め果的な形状変化が達成できるようになった.ACは角膜とほぼパラレルとなるように設計され,角膜上のセンタリングを保持し十分な屈折矯正効果を得るための役割を果たす.PCはレンズ最周辺部のカーブであり,適度なエッジリフトにより涙液交換を促進し,レンズの固着を防止する役割を果たす.このレンズを装用することにより,中央部の角膜上皮の菲薄化と中間周辺部の角膜厚増加がもたらされ,その結果近視が軽減し裸眼視力の向上が得られると考えられている.ただし,非観血的な治療であるがゆえ矯正効果には限界があり高度近視には不向きである.レンズ素材は通常のガス透過性HCLとほぼ同様であるが,就寝時に装用するためDk(酸素透過係数)値100以上のものが用いられている.リバースジオメトリーという用語の意味は,従来の標準レンズは周辺カーブがベースカーブよりフラットであるのに対して,これとは正反対の構造,つまり周辺カーブが中央のベースカーブよりもスティープであるということを意味する.特に第2カーブを非常にスティープにデザインするという斬新なアイデアにより,オルソケラトロジーの矯正効果は飛躍的に向上した.また,センタリングを良好にするために第3のアライメントカーブが設けられるようになり,より精度の高い矯正が可能となった.II矯正原理上記のように,リバースジオメトリーレンズを装用することにより非常に効果的な角膜形状変化が得られることが経験的にわかってきたわけであるが,詳細な矯正原理については,古くからさまざまな説が提唱され議論されてきた.当初(1960年代)はcornealmolding(角膜塑造)という概念,すなわち眼瞼圧によって(レンズを介して)角膜中央に圧力がかかる結果,レンズ後面の形状に沿って角膜が形作られるという仮説に基づき,少しずつレンズをフラット化しながら目標の屈折値に近づけていく手法がとられた.その後,Tabbは流体力学を応用し,レンズ下の涙液層における流体の力により角膜形状変化がもたらされるという理論を提唱した.つまりレンズによる直接的な圧迫ではなく,涙液層から生み出される圧力(陰圧や陽圧)により角膜が変形するという理(13)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101495のか?もしくはanteriorcornealsurfacechangeといって角膜前面のみが変化するのか?という議論がなされてきた.Swarbrickら2,3)は光学的角膜厚測定装置を用いて,治療による中央角膜上皮の菲薄化と中間周辺部の肥厚を確認し,さらにトポグラフィのデータとともにMunnerlynの公式へ当てはめたところ,この公式から計算される予測屈折矯正量と実際に達成された屈折矯正量は非常によく相関すると報告した(図3).Munnerlynの公式とは,角膜屈折矯正手術で用いられている切除の深さ(角膜厚の変化)とトリートメントゾーンの直径と屈折矯正量の関係を表す公式であるが,角膜後面カーブに変化がないことを前提とした公式であるので,オルソケラトロジー後の屈折変化は角膜後面ではなく前面の厚み変化で十分に説明できるということを間接的に示したのである2).つまり,overallcornealbendingを否定している.一方,Owensら4)はビデオPurkinjeイメージ法を用いて,治療開始後早期には角膜後面も有意にフラット化することを報告し,その原因としてレンズのオーバーナイト装用がもたらす角膜浮腫によるのではないかと推察する.III角膜の非球面性が重要通常,角膜は非球面でありprolate型といって中央の屈折力が周辺よりも強い形状をしている.オルソケラトロジーを開始すると,角膜中央がフラット化することにより屈折力は弱まり,逆に中間周辺部の屈折力は強くなるので,つまり角膜形状は徐々に球面へと近づいていく.そして球面形状を通り越してさらに中央が扁平化すると周辺部の屈折力が中央よりも強くなるoblate型となる(図2).古くは角膜が完全に球面化したところが矯正の終点と考えられていたが,最近の研究では角膜中央よりも中間周辺部のほうが屈折力が大きくなることが判明し,LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの屈折矯正手術後と同様にoblate形状へと変化しうることが確認されている.したがって,もともとの角膜形状が球面に近い症例よりもprolate型が強い(非球面性が高い)症例のほうが,球面化そしてoblate形状へと変化していく余地が大きいため,オルソケラトロジーの効果がでやすいと考えられている.IV角膜前面変化or全層変化?オルソケラトロジー治療後には,overallcornealbendingといって角膜後面も含めて角膜全体が屈曲するProlate型中心がスティープ周辺がフラットOblate型中心がフラット周辺がスティープ図2Prolate形状とoblate形状角膜は非球面であり,通常prolate型といって角膜中央が周辺よりもスティープである.オルソケラトロジーを開始すると,角膜中央がフラット化することにより屈折力は弱まり,逆に中間周辺部の屈折力は強くなるので,つまり角膜形状は徐々に球面へと近づいていく.そして球面形状を通り越してさらに中央が扁平化すると周辺部が中央よりもスティープとなり,屈折矯正手術後と同様のoblate型となる.1.001.502.002.503.00PredictedchangeinRx(D)MeasuredchangeinRx(D)3.504.004.504.504.003.503.002.502.001.501.00図3Munnerlynの公式から計算される予測屈折矯正量(横軸)と実際に達成された屈折矯正量(縦軸)の相関関係屈折矯正手術で用いられるMunnerlynの公式t=.S2×D/3〔tは切除の深さ(角膜厚の変化),Sはトリートメントゾーンの直径,Dは屈折量変化〕をオルソケラトロジーに当てはめてみても,予測屈折変化量と達成屈折変化量がよく相関することが判明.この公式は角膜後面に変化がないことを前提として成り立っているので,オルソケラトロジーにおいても角膜後面には変化を生じないことが間接的に証明された.(文献3より)1496あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(14)V組織変化角膜厚が変化するメカニズムの一つとして,epithelialredistribution(上皮再分配)が提唱されている.角膜中央のBCの部分では上皮の厚みが薄くなり,それを取り囲むRC部分(tearreservoirzone)へと上皮細胞が移動することにより中間周辺部の上皮が肥厚するという考えである.はたしてヒト眼においてこのような変化が本当に起きているのであろうか?これまでにさまざまな光学機器を用いて中央角膜上皮の菲薄化を確認した報告は多数なされている3,7,8)が,組織変化としては動物実験でしか確認されていない.Matsubaraら9)は家兎眼にレンズを1カ月間連続装用している.Joslinら5)は,オルソケラトロジー後の眼球収差の増大は角膜収差の増大より大きく,内部収差の増大も伴わないと説明できないと報告し,内部収差増大は角膜後面の変化に起因することを示唆している.このように角膜後面変化を支持する報告も散見される.さらに最近になって,Tsukiyamaら6)はScheinpflug像の解析により,角膜後面の曲率半径と前房深度はオルソケラトロジー前後で変化がみられなかったことから,overallcornealbendingを否定する報告をしている.これまでに上記のようなさまざまな報告がなされ,角膜後面の変化については結論を得るには至っていないが,角膜前面での形状変化が主体であるという点に関してはコンセンサスが得られている.コントロールオルソケラトロジー後4時間オルソケラトロジー後8時間オルソケラトロジー後14日midperipheralcentralmidperipheralmidperipheralcentralmidperipheralmidperipheralcentralmidperipheralmidperipheralcentralmidperipheral図4ネコ眼での組織変化ネコ眼にオルソケラトロジーレンズを装用させたのちの経時的組織学的変化.コントロールと比較して早期から中央角膜上皮での菲薄化が認められる.その主要な反応は細胞の圧縮変形であり明らかな細胞層数の減少は認められない.特に基底細胞が通常の細長い形状ではなく,圧縮というべき押し潰されたような形状に変化している.一方,中間周辺部においてはレンズ装用後早期(4時間)では基底細胞の伸長が主体であるものの,8時間後にはわずかではあるが上皮細胞層数の増加がみられるようになり,14日後には基底細胞の伸長は目立たず,むしろ上皮細胞層数の増加が主体となっている.(文献10より)(15)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101497試みも行われてはいるが,約50μmの厚みしかない上皮の変化では強度近視を矯正することは理論的に不可能である.実質にも相当の変化を生じる,もしくは角膜全体の屈曲が起きる必要があり,強度近視眼において本当にこのような変化が起きうるのかについては今後検証される必要がある.VIIトポグラフィでの角膜形状変化前述したような角膜上皮の変化を主体として角膜厚の部位別変化が生じ,その結果屈折の変化と裸眼視力の向上が得られる.そしてこれらの角膜形状変化はトポグラフィ上で明瞭に確認できるようになる.理想的な変化はブルズアイ(bull’seye)パターンといい,すなわち角膜中央部に良好にセンタリングした円形のフラット化領域がみられ,その周囲をスティープな領域が囲む.さらに周辺部の形状にはほとんど変化がみられない状態である(図5).レンズがフラット過ぎると上方へ偏位しやすく,その結果スマイリーフェイス(smileyface)パターンといって,下方に三日月状のスティープな領域が現れる(図6).この領域が笑っている口のように見えることからこのようによばれるが,明らかに扁平化領域が偏心しさせたのちの組織変化を検討し,角膜中央のBCに対応する部位では角膜上皮は菲薄化,RCに対応する中間周辺部においては上皮が肥厚化すると報告した.特に中間周辺部での肥厚に関しては,重層扁平上皮である角膜上皮層の数が治療前よりも増加することに加えて上皮基底細胞の丈が長くなることにより達成されており,実質の肥厚はみられなかったとしている.Chooら10)はネコ眼にレンズを装用させ2週後までの角膜組織変化を検討している.その結果,中央角膜上皮での菲薄化が認められたが,その主要な反応は細胞の圧縮変形であり明らかな細胞層数の減少は認められなかったと報告した.特に基底細胞が通常の細長い形状ではなく,圧縮というべき押し潰されたような形状に変化していた.一方,中間周辺部においてはレンズ装用後早期(4時間)では基底細胞の伸長が主体であるものの,8時間後にはわずかではあるが上皮細胞層数の増加がみられるようになり,14日後には基底細胞の伸長は目立たず,むしろ上皮細胞層数の増加が主体となった(図4).この解釈として,治療後早期は細胞内の内容液が細胞間を移動するため細胞自体の圧縮(中央)や伸長(周辺)が主体となるが,時間が経過するにつれ細胞の分裂や脱落,アポトーシスのバランスが変化するほか,細胞自体の移動(再分配)などが関与して上皮細胞層数の増加をもたらす可能性が示唆されている.実質については,光学的角膜測定により確認された中間周辺部の実質肥厚2,3)に対して,組織学的に証明した報告はみられない.つまり,角膜上皮細胞層の厚みの変化に関しては確実にエビデンスがあるものの,角膜実質の形状や組織学的変化については一定の見解は得られていない.VI矯正の限界上記のように角膜前面,特に角膜上皮の厚み変化が主体となって屈折変化を生みだしているため,当然矯正効果には限界がある.もちろん症例により異なるが,通常は.4D程度までの近視がよい適応とされる.それよりも近視が強くなると効果の発現に時間がかかるだけでなく効果が不十分・不安定となりやすい.強度近視眼に対しては処方を段階的に強めることによって適応を広げる図5経過良好例のトポグラフィ所見(ブルズアイ)中央部に寒色(緑色)系の領域が認められ,治療により角膜中央部がフラット化したことが明確に判断できる.また中間周辺部は暖色(オレンジ)系となりスティープ化していることがわかる.さらに周辺ではほとんど変化がみられない.扁平化領域が偏心しておらずブルズアイ(bull’seye)とよばれる良好な所見である.1498あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(16)扁平化領域が中央から偏心するに従って高次収差が増大し,コントラスト感度が低下することが報告されている11)ので,レンズのセンタリングに留意し角膜の扁平化領域を中央に保つことがきわめて重要である.VIII角膜不正乱視・眼球高次収差本治療は積極的に角膜形状を変化させるため,各種の角膜屈折矯正手術と同様に角膜不正乱視や高次収差の問題は避けて通れない.たとえレンズのセンタリングが良好でも球面収差の増加は避けられず,レンズが偏心すればコマ様収差の増加へとつながる.しかし,これらの変化は近視矯正量に相関することが報告されており12,13),過度の矯正をしなければ不正乱視や高次収差の増加も許容できる範囲となることが多い.また不正乱視や高次収差は明視時の視機能だけでなく薄暮時の視機能とも関連している14,15)ので,視機能を類推するうえでも役に立つ.図7,8に実際の解析結果を提示するが,角膜トポグラフィでのFourier解析プログラムや波面センサーを用いてこれらを定量評価することは,治療効果の客観的判定を容易にするばかりでなく患者のさまざまな訴えを理解するうえでもきわめて有用である.ており,単眼複視やグレアの原因となるなどqualityofvisonが低下するため処方変更が必要となる.逆にレンズがスティープ過ぎる場合は下方に偏位しやすい.角膜図6経過不良例のトポグラフィ所見(スマイリーフェイス)レンズがフラット過ぎると上方へ偏位しやすく,トポグラフィ上では寒色の扁平化領域が上方へ偏位し,下方に三日月型の暖色域が現れる.この領域が笑っている口のように見えることから,スマイリーフェイス(smileyface)パターンとよばれる.図7Fourier解析による角膜不正乱視の定量化トポグラフィデータをFourier解析することにより,角膜不正乱視の定量化が可能であり,治療効果を把握するのに非常に有効である.非対称成分と高次不正乱視成分をあわせて広義の不正乱視とよんでいる.この症例ではいずれの不正乱視成分も強く,処方交換が必要である.左上図:オリジナルマップ.トリートメントゾーンが上耳側に偏位している.中央上図:球面成分.角膜中央は扁平化しているが,非常に狭い範囲の変化である.右上図:正乱視成分.2D程度の斜乱視が惹起されている.中央下図:非対称成分.きわめて強い非対称性が確認できる.右下図:高次不正乱視成分.高次不正乱視も著しい.あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101499文献1)MountfordJ:Amodelofforcesactinginorthokeratology.Orthokeratology:PrinciplesandPractice.MountfordJetaleds,p269-301,ButterworthHeinemann,Oxford,20042)SwarbrickHA,WongG,O’LearyDJ:Cornealresponsetoorthokeratology.OptomVisSci75:791-799,19983)AlharbiA,SwarbrickHA:Theeffectsofovernightorthokeratologylenswearoncornealthickness.InvestOphthalmolVisSci44:2518-2523,20034)OwensH,GarnerLF,CraigJPetal:Posteriorcornealchangeswithorthokeratology.OptomVisSci81:421-426,20045)JoslinCE,WuSM,McMahonTTetal:Is“wholeeye”wavefrontanalysishelpfultocornealrefractivetherapy?EyeContactLens30:186-188,20046)TsukiyamaJ,MiyamotoY,HigakiSetal:Changesintheanteriorandposteriorradiiofthecornealcurvatureandanteriorchamberdepthbyorthokeratology.EyeContactLens34:17-20,20087)NicholsJJ,MarsichMM,NguyenMetal:Overnightorthokeratology.OptomVisSci77:252-259,20008)SoniPS,NguyenTT,BonannoJA:Overnightorthokeratology:visualandcornealchanges.EyeContactLens29:137-145,20039)MatsubaraM,KameiY,TakedaSetal:Histologicandhistochemicalchangesinrabbitcorneaproducedbyanorthokeratologylens.EyeContactLens30:198-204,200410)ChooJD,CarolinePJ,HarlinDDetal:Morphologicchangesincatepitheliumfollowingcontinuouswearoforthokeratologylenses:apilotstudy.ContLensAnteriorEye31:29-37,200811)HiraokaT,MihashiT,OkamotoCetal:Influenceofinduceddecenteredorthokeratologylensonocularhigher-orderwavefrontaberrationsandcontrastsensitivityfunction.JCataractRefractSurg35:1918-1926,200912)HiraokaT,FuruyaA,MatsumotoYetal:Quantitativeevaluationofregularandirregularcornealastigmatisminpatientshavingovernightorthokeratology.JCataractRefractSurg30:1425-1429,200413)HiraokaT,MatsumotoY,OkamotoFetal:Cornealhigher-orderaberrationsinducedbyovernightorthokeratology.AmJOphthalmol139:429-436,200514)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Contrastsensitivityfunctionandocularhigher-orderaberrationsfollowingovernightorthokeratology.InvestOphthalmolVisSci48:550-556,200715)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Mesopiccontrastsensitivityandocularhigher-orderaberrationsafterovernightorthokeratology.AmJOphthalmol145:645-655,2008(17)図8波面センサーによる高次収差の定量化左下に表示されているハルトマン(Haltman)像の歪みから,治療により扁平化した領域が上方へ偏位していることがわかる.カラーマップの右上が角膜の高次収差,右下が眼球の高次収差であり,暖色と寒色が入り混じっていることから高次収差が増大していることがわかる.また各収差成分の定量化された数値がマップの下方に表示されている.本症例ではコマ様収差も球面様収差も増大しており,右図のLandolt環シミュレーションでは三重視のような所見を呈している.視機能が低下していることが容易に想像できる.

オルソケラトロジー・ガイドラインについて(講習会も含めて)

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY方する眼科専門医には学会指導の講習会を受講し,さらに販売する会社の講習会で処方手順を受講することを義務づけた.日本眼科学会は,エキシマレーザー屈折矯正手術と同様に本講習会を指定講習会として認定し,受講の有効期間を5年間とした.受講者は最新の情報を受けるために5年に1回受講しなければならない.日本眼科学会指定の講習会は,オルソケラトロジー診療に必要な基礎的および臨床的知識を盛り込み,インフォームド・コンセントや合併症などについても十分な解説を行うことを義務づけた.講習会を受講した眼科専門医に対しては受講証を発行することになった.さらに,オルソKは視力補正用コンタクトレンズとは異なり,処方する眼科専門医自身が本レンズを管理しなければならなくなった.日本コンタクトレンズ学会は,本レンズの治験が開始されたことから,2005年学会理事会内にオルソケラトロジー・ガイドライン委員会(金井淳委員長,他6名)を立ち上げ,さらに国内臨床治験に参加した12施設の治験担当医師によるオルソケラトロジー臨床試験施設委員会(吉野健一委員長,他11名)を作った.ガイドラインは,まず臨床治験施設委員会でその骨子が作成され,さらに日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジー・ガイドライン委員会で修正され,日本コンタクトレンズ学会理事会の承認を得た後,日本眼科学会に提出され日本眼科学会雑誌に掲載された2).オルソケラトロジー・ガイドラインの骨子はエキシマレーザー屈折矯正手はじめに視力補正用コンタクトレンズは,レンズを装用することで視力の改善を図ることができるが,オルソケラトロジーレンズ(以下,オルソKレンズ)は,就寝時に装用することで角膜の形状を変え,起床時以降レンズの装用なしで良好な裸眼視力を得ることができる新しい屈折矯正手段である.オルソKレンズは,わが国では承認以前から一部の医師により自らの裁量権のもとに処方されてきていたが,レンズ素材の酸素透過率,レンズデザインなどの問題,中国での重篤な合併症の発症も報道されたことから,2002年10月日本コンタクトレンズ学会では,未成年者への処方を慎重にすべきとの観点より「日本の眼科」に警告文を掲載した1).その後,わが国では2004年まず3社のオルソKレンズが臨床治験を開始し,その後,さらに3社も加わり,合計6社のオルソKレンズの臨床治験が行われた.2009年4月にアルファコーポレーション社のレンズが医療機器として製造・販売の承認を得た.これに伴い厚生労働省は,オルソKレンズを2009年4月28日付けで,新たにこれまでの視力補正用コンタクトレンズとは別に角膜矯正用コンタクトレンズとして薬事法に基づく医療機器として加えた.厚生労働省は承認に際して,これまでの視力補正用コンタクトレンズとはレンズデザインや処方方法も異なることから,日本コンタクトレンズ学会に対してガイドラインの作成を,そして日本眼科学会に対して,本レンズを処(7)1489*AtsushiKanai:順天堂大学医学部眼科学教室**KenichiYoshino:吉野眼科クリニック〔別刷請求先〕金井淳:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1489.1492,2010オルソケラトロジー・ガイドラインについて(講習会も含めて)AGuidelinetoOrthokeratology金井淳*吉野健一**1490あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(8)ない.a.年齢患者本人の十分な判断と同意を求めることが可能で,親権者の関与を必要としないという趣旨から20歳以上とする.わが国で実施された臨床治験では上記理由から20歳以上で行われた.b.対象屈折値が安定している近視,乱視の屈折異常とする.c.屈折矯正量①近視度数は.1.00Dから.4.00D,乱視度数は.1.50D以下を原則とする.明確な倒乱視,または斜乱視については,十分検討のうえ処方する.②角膜中心屈折力が39.00Dから48.00Dまで.③治療後の屈折度は過矯正にならないことを目標とする.現在わが国では1社のレンズのみが承認されたばかりであり,今後処方後の成績の集積が不可欠であり,これらの結果をもとに適応および矯正量などについて再検討されるべきである.処方年齢に関して,治験における対象が,20歳以上のごく限られた症例数(30症例60眼)であり,観察期間も1年と短かったこと,また,夜間就寝時のみ装用する本レンズが角膜に与える長期の影響,安全性については未知であることから,検討委員会ではその適応年齢を,レンズの取り扱いを十分熟知することのできる20歳以上とした.エキシマレーザー屈折矯正手術の最初のガイドラインでも,lateonsetmyopiaを考慮に入れ,親権者の同意を必要としない20歳以上としていた.その後,累積手術件数も推定110万件を超し,その臨床成績を踏まえて9年経過後の2009年に適応年齢を18歳に下げた.蓄積された臨床データを解析することにより,本ガイドラインも改定される可能性を残している.オルソKレンズの装用を中止した場合は,その後数週間以内に元の屈折状態に戻ることが治験において確認できている.学童への使用によって近視の進行を抑制できるかどうかについては,アジアからの報告6~9)が散見できるが,その経過観察期間はまだ1~2年と短く,長期観察での効果の結果を待たねばならない.さらに,若年者の角膜は成人に比べて柔らかさが異なることが角膜術のガイドラインを参考に作成された3~5).Iオルソケラトロジー・ガイトラインオルソKレンズは,高酸素透過性素材〔酸素透過係数(Dk)値:100×10.11以上〕を材料に作成されたリバースジオメトリーとよばれる特殊なデザインをもつハードレンズで,従来のハードレンズとは異なる特徴をもっている.すなわち,1)日中活動時の裸眼視力の向上をその使用目的とする,2)可能矯正屈折度数の限界と処方可能年齢に制限がある.3)角膜中心部がフラット,中間周辺部がスティープ,周辺部がパラレルとなる特殊なフィッティング原理を有する,4)日中の裸眼視力の向上を目的とするために,睡眠時の装用を繰り返すことにより屈折状態を変化させるが,使用を中止すれば元の屈折状態に戻る,5)特殊なレンズ形状と睡眠時の装用である点で,より入念なレンズの管理を必要とするなどの点があげられる.ガイドラインは,①処方者,②適応,③禁忌または慎重処方,④インフォームド・コンセント,⑤処方前スクリーニング検査,⑥レンズ処方の留意点,⑦処方後の経過観察に分けて作成された.IIガイドラインの内容1.処方者オルソケラトロジーによる屈折矯正は,エキシマレーザー屈折矯正手術同様,眼科専門領域で取り扱うべき治療法であり,日本眼科学会認定の眼科専門医であると同時に,角膜の生理や疾患ならびに眼光学に精通していることが処方者としての必須条件とした.オルソKレンズの処方に際しては,まず日本眼科学会の指定するオルソKレンズ処方講習会(現在は日本眼科学会総会,日本コンタクトレンズ学会総会,日本臨床眼科学会総会の年3回実施している)を受講し,つぎに厚生労働省から承認された製造・輸入販売業者が実施する導入時講習会を受講し証明を受けることが必要である.2.適応オルソケラトロジーによる屈折矯正の長期予後についてはなお不確定な要素があること,正常な角膜に変化を与えることなどから慎重に適応例を選択しなければなら(9)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101491または視力変化が心身の危険に結びつくような作業をする患者⑭不安定な角膜屈折力(曲率半径)測定値あるいは不正なマイヤー像を示す(不正乱視を有する)患者b.慎重処方①ドライアイを起こす可能性のある薬物治療あるいは視力に影響が出る可能性のある薬物,抗炎症薬(例えばcorticosteroid)の投与を受けている患者またはその予定のある患者②暗所瞳孔径が大きな患者(暗所瞳孔径は4~5mmであることが望ましい)4.インフォームド・コンセントオルソケラトロジーに伴って発現する可能性のある合併症と問題点について十分に説明し同意を得ることが必要である.特に,眼鏡や屈折矯正手術などの矯正方法が他に存在すること,オルソケラトロジー処方後に何らかの疾病で受診した場合,本処方の既往について担当医に申告すること,を十分に説明することが望まれる.5.処方前スクリーニング検査処方前には以下の諸検査を実施し,オルソケラトロジーの適用があるか否かについて慎重に評価する必要がある.①視力検査:裸眼および矯正視力②屈折値検査:自覚,他覚③角膜曲率半径計測④細隙灯顕微鏡検査⑤角膜形状解析検査(トポグラフィー)(重要)⑥角膜内皮細胞数測定⑦シルマーI法試験⑧眼底検査⑨眼圧測定⑩瞳孔径測定(明所,暗所)(任意)6.レンズ処方の留意点①適切なトライアルレンズを選定したら,視力の改善,センタリング,角膜の状態を観察する.不適切なフィッティングの場合には当日のレンズ引き移植などで知られており,本レンズを装用することで過矯正になるおそれが十分にある.直径10mmを超す大きなレンズを就寝時装用することで角膜の代謝に何らかの影響を及ぼすことなど未知の部分が多い.さらに,諸外国10,11)や国内12)でも若年者のオルソKレンズ使用例で角膜潰瘍発症例が報告され,レンズ取り扱いなどの点を含めて若年者への処方に問題が残されている.d.眼疾患を有していない健常眼でつぎの①,②であること①角結膜に顕著なフルオレセイン染色がなく,シルマーI法試験にて5分間5mm以上であること.②角膜内皮細胞密度が2,000個/mm2以上であること.3.禁忌または慎重処方つぎのような患者は,処方の対象とはしないか,または慎重に処方するものとする.a.禁忌①前述の適応に適合しない患者②インフォームド・コンセントを行うことが不可能もしくはそれを望まない患者,あるいは取り扱い説明書の指示に従わない患者③定期検診に来院することが困難な患者④妊娠,授乳中の女性あるいは妊娠の計画がある女性⑤円錐角膜の兆候あるいは他の角膜疾患がある患者⑥免疫疾患のある患者(例えばAIDS,自己免疫疾患)あるいは糖尿病患者⑦コンタクトレンズの装用,またはケア用品の使用によって,眼表面あるいは眼付属器にアレルギー性の反応を起こす,または増悪する可能性のある患者⑧前眼部に急性,亜急性炎症または細菌性,真菌性,ウイルス性などの活動性角膜感染症のある患者⑨角膜,結膜,眼瞼に影響を及ぼす眼疾患,損傷,奇形などのある患者⑩重篤な涙液分泌減少症(ドライアイ)患者⑪角膜知覚の低下している患者⑫眼に充血あるいは異物感のある患者⑬治療途中に車あるいはバイクの運転をする患者,1492あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(10)されるべきである.マスコミやインターネットを利用しての本レンズの宣伝は慎むべきである.社会的影響を十分配慮した良識ある行動をとるべきである.本ガイドラインは蓄積された臨床データを解析することにより,再検討することに何ら支障はない.文献1)オルソケラトロジーに対する警告.日本の眼科73:1161-1162,20022)日本コンタクトレンズ学会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,20093)屈折矯正手術の適応について,屈折矯正手術適応検討委員会答申.日眼会誌97:1087-1089,19934)エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン─エキシマレーザー屈折矯正手術ガイドライン起草委員会答申.日眼会誌104:513-515,20005)エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン.日眼会誌113:741-742,20096)ChoP,CheungSW,EdwardsM:Thelongitudinalorthokeratologyresearchinchildren(LORIC)inHongKong:Apilotstudyonrefractivechangesandmyopiacontrol.CurEyeRes30:71-80,20057)EidenSB,DavisRL,BennettESetal:TheSMARTstudy:Background,rationale,andbaselineresults.ContactLensSpectrum24:24-31,20098)WallineJJ,RahMJ,JonesLA:Thechildren’sovernightorthokeratologyinvestigation(COOKI)pilotstudy.OptomVisSci81:407-413,20049)CheungSW,ChoP,FanD:Asymmetrialincreaseinaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratologypatient.OptomVisSci81:653-654,200410)YoungAL,LeungAT,ChengLLetal:Orthokeratologylens-relatedcorenalulcersinchildren:acaseseries.Ophthalmology111:590-595,200411)HsiaoCH,YeungL,MaDHetal:PediatricmicrobialkeratitisinTaiwanesechildren:areviewofhospitalcases.ArchOphthalmol125:688-689,200712)加藤陽子,中川尚,秦野寛ほか:学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例.あたらしい眼科25:1709-1711,2008渡しは行わない.②目的視力達成に至るまでの低矯正に対しては,使い捨てソフトコンタクトレンズにて対処する.その間,法的に一定以上の視力が必要とされる行為(車の運転など)は控えるように説明する.7.処方後の経過観察処方翌日には必ず細隙灯顕微鏡による観察を行い,異常をチェックする.その後も必要に応じて経過観察するが,スクリーニング検査で挙げた項目については経時的に評価すべきである.処方後3カ月ごとのフォローアップは必須で,一般検査のなかで長期経過を見守る必要がある.オルソKレンズ装用には,以下の合併症と問題点が知られており,これらについても適切に対処,または観察する必要がある.①疼痛②角膜上皮障害③角膜感染症④アレルギー性結膜炎⑤ハロー・グレア,コントラスト視力の低下⑥不正乱視⑦ironring⑧上皮下混濁なお,考えうるトライアルレンズの変更を試みても効果不良な患者に対しては,治療を長引かせることなく治療を断念することも必要である.おわりに今回作成したオルソケラトロジー・ガイドラインは限られた症例での臨床治験をもとに作成されたもので,エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン同様,わが国での処方件数を蓄積し,長期効果,安全性を今後確認

オルソケラトロジーの歴史

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYケラトロジーのような効果のコントロールは不可能であり,かつ適応例もきちんと選択されていたとは到底思えないからである.そこから第一世代のオルソケラトロジーレンズが登場するまで約250年もの月日を要した.一方,似たような逸話として,CLの起源をレオナルド・ダ・ヴィンチとする見方があるのは有名である.西暦1508年,眼球に見立てて水を満たしたガラスボールの水面に自分の眼をつけて網膜への結像の実験を行ったというものであるが,これとてCLの開発を目論んでのことではなく,眼光学を科学的に説明するのが目的であり,その結果導き出されたのは眼の網膜への結像は直像である,という間違った結論であったというオチまで付いていた.実際にスイス人眼科医FickがCLを開発2),装用した1887年までには,それから約380年もの歳月が流れた.両者とも,本当の意味での実用化まで,数百年単位もの月日を要しているのが興味深い.しかも,今日のオルソケラトロジーの歴史を振り返るにあたっては,CLの歴史が欠かせない点でも共通している.IICL利用のオルソケラトロジー普及の背景CLをオルソケラトロジーに用いた当初は,まったくの手探りから始まった経験則に基づく事象の応用の積み重ねであったという印象がある.それを研究者らの地道かつ,たゆまぬ努力の末,開花したのが現在のCLを利用したオルソケラトロジーといえるであろう.近年の角はじめにどんなサイエンスにも歴史があるように,オルソケラトロジーにも歴史があり,その年月は50年近くにも及ぶ.その間,球面ハードコンタクトレンズ(CL)を複数枚必要とした第一世代,リバースジオメトリーレンズデザインを採用した第二世代を経て,高酸素透過性により就寝時装用を可能にし,今日普及しつつある第三世代へと推移している.本稿では,そのオルソケラトロジーの歴史について,理論やレンズデザインの発展とともに振り返ることとする.ICL利用以前のオルソケラトロジーにまつわるエピソード眼に屈折異常をもつ者にとって,眼鏡やCLなどを装用することなく裸眼で物が見えるということに対する欲求は,昔から強かったようである.約300年前の中国では,官僚登用試験である科挙制度の際に視力検査があり,近視の者は試験前夜から砂袋を眼の上に乗せて就寝し,裸眼視力向上を図っていた1)といわれている.ちなみに科挙制度とは隋から清の時代(西暦598~1905年)の中国に存在した「試験科目による選挙」を意味するが,選挙というよりも選抜試験といったほうが,今の日本語的にはより近い意味合いなのではなかろうか.この逸話をオルソケラトロジーの元祖とする意見があるが,賛否両論あるかと思われる.というのも,今日のオルソ(3)1485*HiroshiToshida:順天堂大学医学部附属静岡病院眼科〔別刷請求先〕土至田宏:〒410-2295伊豆の国市長岡1129順天堂大学医学部附属静岡病院眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1485.1488,2010オルソケラトロジーの歴史HistoryofOrthokeratology土至田宏*1486あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(4)っていた.しかし,この頃は当然のことながら角膜形状解析装置はおろか,処方マニュアルなどはまったく存在しておらず,処方医が手探りに近い状態で複数枚のレンズをつぎつぎに交換して,目標視力を導いていたようである1,4).しかも,目標に至るまでに時間と手間がかかるかばりでなく,矯正効果も1~2D程度であり,さらには当時のHCLはまだ酸素透過性がなく終日装用であったため,不便なものであり,また合併症も多かった.IV第二世代(リバースジオメトリーレンズの登場)(図2)第一世代の球面レンズの最大の特徴であるフラット処方における最大の欠点は,センターリング不良であった.通常のHCLでもフラットな処方でセンターリング不良を生じるが,オルソケラトロジーではレンズの偏位は乱視を生み出すため,最も避けなければならない状態である.この問題を解消すべく開発されたのが,1989年WlodygaとBrylaによって報告されたリバースジオ膜形状解析装置やコンピュータを駆使することにより理論立てて,この分野を一つの独立した学問に築き上げた先達の功績は非常に大きい.冒頭で触れたように,現在主流のオルソケラトロジーレンズは第三世代とよばれている.そこに至った背景には,1)レンズデザインの改良,2)角膜形状解析装置の開発・進歩,3)近視矯正理論の進歩,4)高酸素透過性素材の開発による就寝時装用の実現などの技術革新があげられる.次項以降では,CLとオルソケラトロジーの歴史の両者をリンクしながら,レンズの世代順にその歴史を駆け足で巡ることとする.III第一世代(球面CLを用いたオルソケラトロジーの黎明期)(図1)1962年,Jessen博士は現在のCLを用いたオルソケラトロジーの原理の基礎となるortho-focusという原理を,米国シカゴで開催されたInternationalSocietyofContactLensSpecialistsConferenceで初めて紹介した3).この当時の理論は,球面のハードCL(HCL)をフラットに処方すると屈折度数が減少する知見が基盤となAB図1第一世代の球面のハードCL(HCL)のフラット処方A:フィッティングの模式図.B:フルオレセインパターン.ABベースカーブベースカーブリバースカーブ周辺カーブ周辺カーブよりスティープなリバースカーブ図2第二世代のリバースジオメトリーレンズ(3カーブデザイン)A:レンズデザインの模式図.B:フルオレセインパターンと各レンズカーブの関係.中央のベースカーブと周辺カーブの間に,よりスティープなリバースカーブがデザインされている.(5)あたらしい眼科Vol.27,No.11,201014872009年4月にアルファコーポレーション社のオルソR-Kレンズが初めて厚生労働省より認可,発売開始された.おわりにオルソケラトロジーの黎明期から現在まで,その歴史を駆け足で巡ってきたが,上述のごとく現在主流かつ普及の要因となったオルソケラトロジーレンズの就寝時装用は今世紀に入ってからのものであり,その歴史は10年足らずとまだまだ浅い.基礎研究から合併症,長期安全性の臨床評価に至るまで今後の課題は多いのが事実である.その詳細については他稿に譲るが,特に矯正効果における適応は,日本コンタクトレンズ学会の委員会が作成したオルソケラトロジー・ガイドライン7)によれば.4.00Dまでの近視症例とされており,決していまだに中等度~強度近視例にまで間口が広がってはいないのが現状である.また,自験例ではガイドラインに完全に適メトリーレンズであった5).リバースジオメトリーレンズは,レンズの中央部分が周辺部よりもフラットにデザインされ,その間にリバースカーブが存在するため,カーブは合計3ゾーンから構成されている.この登場までに第一世代から約20年以上経過したが,この理論は今日のオルソケラトロジー理論の礎となっており,必要不可欠となっている.これにより従来の半分の時間で屈折矯正効果を生み出せるようになった.とはいえ,矯正効果が得られるまでに1~2カ月かかり,矯正効果も1~2日程度であった.一方,この頃から酸素透過性(RGP)CLが登場,オルソケラトロジーレンズにも用いられるようになったが,酸素透過性はまだ低く,装用方法も終日装用から脱していなかった.さらに,この第二世代のレンズとても,センターリング不良は最大の欠点としてなおも残存した.V第三世代(就寝時装用の実現)(図3)1990年代に入り,RGPCLの素材の開発競争が激化し,各社がレンズの酸素透過性向上に鎬を削り,Dk(酸素透過係数)戦争とよばれたりもした.その恩恵として,RGPCLを連続装用可能なものとし,オルソケラトロジーの世界においても就寝時装用が可能となり,今日,広く普及する大きな要因の一つとなった.第二世代のリバースジオメトリーレンズでなおも課題として残されたセンターリングの問題をさらに解決すべく,3カーブデザインに安定性を向上させるアライメントカーブを加えた4カーブデザインのリバースジオメトリーレンズが開発され,2002年5月,Paragon社のCRTRが初めての就寝時装用のオルソケラトロジーレンズとして米国食品医薬品局(FDA)の認可を得た.これにより,悲願であったオルソケラトロジーレンズの就寝時装用時代の幕開けとなった.その他のオルソケラトロジーを取り巻く環境の変化としては,昨今のパーソナルコンピュータおよび角膜形状解析装置の普及が,屈折矯正効果を予測立てて処方をマニュアル化することに大きく寄与し,現在のオルソケラトロジーレンズ普及の大きな推進力となっている.以降,複数のレンズメーカーからこれらの技術を駆使したオルソケラトロジーレンズが登場し,わが国においてもAB後面光学部カーブ/ベースカーブリバースカーブリバースカーブベースカーブ(オプティカルゾーン)フィッティング(アライメント)カーブ周辺カーブ周辺カーブアライメントカーブ図3第三世代のリバースジオメトリーレンズ(4カーブデザイン)第二世代のリバースジオメトリーレンズでいうところのリバースカーブと周辺カーブの間に相当する位置に,アライメントカーブがデザインされている.1488あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(6)文献1)佐野研二:オルソケラトロジーの歴史と現状.日コレ誌45:165-167,20032)EfronN,PearsonRM:CentenarycelebrayionofFick’sEineContactabrille.ArchOphthalmol106:1370-1377,19883)JessenG:Orthofocustechniques.Contacto6:200-204,19624)NeilsonR,MayCH,GrantS:Emmetropizationthroughcontactlenses.Contacto8:20-21,19645)WlodygaTJ,BrylaC:Cornealmolding;Theeasyway.ContactLensSpectrum4:58-65,19896)土至田宏:「はじめてのオルソケラトロジーQ&A」第3回処方に必要な施術前検査.眼科ケア12:732-735,20107)日本コンタクトレンズ学会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,2009合する症例に対し,何度処方変更しても良好かつ安定した裸眼視力が得られなかった症例が存在するのも事実である.眼瞼圧や角膜の柔軟性などの関与も示唆されるが,それらを定量する手段がないこと,仮に測定できたとしてもそれらを制御することは困難と思われることなど,まだまだ解決しなければならない問題は山積している.今後,さらに技術革新は進むと思われるが,それとともに,近視大国と言われるわが国においてオルソケラトロジーがどのように普及していくのか,注目,注視していく必要がある.■用語解説■リバースジオメトリーレンズ:レンズの中央部分のベースカーブが周辺カーブよりもフラットにデザインされ,その間にリバースカーブが存在するレンズ.もともとは角膜不正乱視例に対するレンズデザインであった.ベースカーブ:リバースジオメトリーレンズにおける中央光学部のベースカーブはフラットな設計となっている.装用時にはこの部位で角膜に接触しているかの誤解を受けやすい領域であるが,実際にはレンズと角膜間に薄い涙液層が存在する.リバースカーブ:標準レンズでは周辺カーブが中心部ベースカーブよりもフラットであるのに対し,中心から2番目のカーブが中心部のベースカーブよりもスティープである点を強調するために付けられた名称.フルオレセインパターンでは涙液を保持する場所であることから,ティアリザーバーカーブともよばれる.アライメントカーブ:リバースカーブと周辺カーブの間に,レンズの安定性を図る目的でデザインされたカーブ.周辺カーブ:リバースジオメトリーレンズ後面に存在する最周辺のカーブ.ペリフェラルカーブ,エッジリフトともよばれる.

序説:オルソケラトロジー診療を始めるにあたって

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY生(吉野眼科クリニック)に本ガイドラインのアウトラインと講習会の受講意義について解説をお願いした.さて,オルソケラトロジーが何故このような屈折矯正効果を発揮するのか,その科学的な裏づけについては後追いの感が強い.事実,本レンズによって生じる角膜形状変化や生理学的変化のメカニズムの検討は,生体組織としての角膜そのものの理解を深めることになっているようである.角膜形状変化については平岡孝浩先生(筑波大学)に,また生理学的変化については中村葉先生(四条ふや町中村眼科)に担当いただき,基礎的知見とともに最近の研究成果を紹介いただいた.一方,実際の診療にあたっての適応と処方,効果判定やレンズケアの指導など,通常の眼科診療やコンタクトレンズ診療ではなじみのないものも少なくない.そこで,ぜひ押さえておきたい実践的な知識,ポイントを,それぞれ,柳井亮二先生(山口大学)と五藤智子先生(鷹の子病院)に解説いただいた.近視矯正における新しいオプションとして本レンズへの期待には大きなものがあるが,合併症が多発するようであれば,せっかくの新技術も診療のなかで厄介もの扱いされてしまいかねない.自費診療とオルソケラトロジーは,睡眠中にハードコンタクトレンズを装着することによって角膜形状を変化させる屈折矯正法である.わが国では,2004年にオルソケラトロジーレンズの臨床試験が開始され,2009年4月に最初のレンズが医療機器としての製造・販売の承認を得ている.オルソケラトロジーの診療に興味をもっておられる先生方は,すでに日本眼科学会によるオルソケラトロジー講習会を受けられ,診療ガイドラインを読まれていることと思われるが,今回,オルソケラトロジーについての理解をより深めていただくために,本特集を企画した.オルソケラトロジーレンズのデザインは徐々に進化し,現在のものは第三世代とよばれる.ハードコンタクトレンズ装用による角膜形状変化を利用した屈折矯正の試みは古くからあったが,それがどのように進化してきたのか,レンズの特性と矯正理論を理解するために,土至田宏先生(順天堂大学静岡病院)には歴史的な変遷を解説いただいた.2009年,日本コンタクトレンズ学会は,診療の指針としてのオルソケラトロジー・ガイドラインを日本眼科学会雑誌に掲載した.本ガイドラインは日本眼科学会ホームページで随時閲覧・ダウンロード可能ではあるが,ガイドライン委員会の委員長を務められた金井淳先生(順天堂大学)と吉野健一先(1)1483*AkiraMurakami:順天堂大学医学部眼科学教室**YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視覚機能外科学分野(眼科学)●序説あたらしい眼科27(11):1483.1484,2010オルソケラトロジー診療を始めるにあたってAPrimerofOrthokeratologyPractice村上晶*大橋裕一**1484あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(2)いう枠組みのなか,そうした合併症の治療には本人への負担も予想される.そこで,本レンズの装用に伴って生じる合併症対策について松原正男先生(東京女子医科大学)に解説いただいた.オルソケラトロジーレンズは高度管理医療機器で,薬事法などの規則のもとに取り扱われ,関連する診療は保険外として行われる.通常の保険診療との相違点も少なからずあるため,混乱しないように,医師法,医療法,薬事法,さらにはレンズ販売に関連するさまざまな法律のなかで,オルソケラトロジー診療がどのように位置づけられているかを理解しておく必要がある.この点について,植田喜一先生(ウエダ眼科)にさまざまな具体例をもとに教示いただいた.屈折異常に対する治療についての考え方は国民性に大きく左右され,眼科医としての係わりかたにも自ずと差が出る.オルソケラトロジーについても,屈折矯正の手段としての位置づけにはかなりの価値観の違いがあり,わが国においてどのような形で普及していくのかは予測困難である.そこで,海外における本レンズの最近の動向について,吉野健一先生に紹介いただいた.本企画を通じて,オルソケラトロジーの基本,有用性と限界,今後克服すべき課題などについて理解いただければ幸いである.

瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(151)1473《原著》あたらしい眼科27(10):1473.1477,2010cはじめに眼科臨床において,視機能を評価するうえで視力検査は最も基本的で,かつ重要な検査の一つである.しかし,瞳孔などその他多くの因子により検査結果に影響を及ぼすことが知られている1).瞳孔の変化は,収差2)や焦点深度3),網膜照度4),スタイルズ・クロフォード効果5),瞳孔中心の偏位6)などが関与して,網膜像の質を変化させ視機能に最も影響を与える要因の一つである7).特に収差は,最近,瞳孔径に依存する光学的屈折矯正法あるいは治療法が多く登場8)しており注目されている.視覚の質が問われる近年,瞳孔と収差,視機能との関係を調査することは重要課題である.しかしながら,ヒト眼において,瞳孔サイズが視機能にどの程度影響するかの報告は少ない.そこで今回,筆者らは,瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響について検討したので報告する.I方法1.対象対象は,屈折異常以外に眼科的疾患のない正常被検者9名9眼,平均年齢20.2±0.7歳(20~22歳)である.ハードコ〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻Reprintrequests:HiroshiUozato,Ph.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthSciences,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0373,JAPAN瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響山本真也*1,3魚里博*2,3川守田拓志*2,3中山奈々美*2中谷勝己*2恩田健*1*1渕野辺総合病院*2北里大学大学院医療系研究科*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻EffectofPupilSizeonWavefrontHigher-OrderAberrationandVisualAcuityShinyaYamamoto1,3),HiroshiUozato2,3),TakushiKawamorita2,3),NanamiNakayama2),KatsumiNakatani2)andKenOnda1)1)FuchinobeGeneralHospital,2)KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,3)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthSciences目的:瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響について検討した.方法:対象は9名9眼である.視力測定には対数視力検査装置を用いた.実瞳孔サイズのコントロールができないため,本実験は人工瞳孔(1.0~6.0mm,1.0mm単位)を使用し,サイプレジンR点眼後,各瞳孔サイズでの視力値を測定し比較した.収差測定にはOPD-Scan2ARK-10000を用いた.各瞳孔サイズに対応した高次収差量を算出するため,Schwiegerlingのアルゴリズムを用い,各々の瞳孔サイズでの高次収差の総和を再計算し比較した.結果:高次収差の総和は,瞳孔サイズが拡大するほど有意な増加を認め,視力は人工瞳孔2.0mmで最も高値を示し,瞳孔サイズが4.0mm以上になると有意に低下した.結論:瞳孔サイズの拡大は高次収差の増加を導き,その結果,視機能に影響を与えている可能性が示唆された.Purpose:Weinvestigatedtheeffectofpupilsizeonwavefronthigher-orderaberrationandvisualacuity.Methods:Includedinthisstudywere9eyesof9normalsubjects.Visualacuitywastestedwithalogarithmvisualacuitymeasuringdevice.Becausecontrolofpupilsizewasnotpossible,weusedanartificialpupil(1.0~6.0mm,1.0mmstep).VisualacuitywasmeasuredateachpupilsizeafterCypleginRinstillation.Aberrometricmeasurementsweretakenwithanopticalpassdifference-basedwavefrontsensor(OPD-Scan2ARK-10000).Zernikecoefficientswererecalculatedforeachpupilsize,usingSchwiegarling’salgorithm.Results:Totalhigher-orderaberrationsincreasedsignificantly,pupilsizebecominglarge.Visualacuitywasbestatanartificialpupilsizeof2.0mm,but,decreasingsignificantlyatsizegreaterthan4.0mm.Conclusions:Thisstudysuggeststhatincreasedpupilsizeproduceshigherwavefrontaberrations,affectingvisualfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1473.1477,2010〕Keywords:瞳孔,視力,高次収差,視機能,収差.pupil,visualacuity,higher-orderaberration,visualfunction,aberration.1474あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(152)ンタクトレンズ装用者,弱視,斜視の者は除外した.被検眼は全例右眼とした.2.測定視力の測定には,対数視力検査装置LVC-1(NEITZ社)を用いた.実瞳孔サイズのコントロールができないため,本実験は人工瞳孔(1.0~6.0mm,1.0mm単位)を使用した.遠見矯正値の決定にはシクロペントラート塩酸塩(サイプレジンR)1.0%点眼50分後,瞳孔径が6.0mm以上に散瞳していることを確認し,基準瞳孔径として3.0mmを用いてlogMAR値.0.1(小数視力1.3)の段3/5以上を弁別できたときの自覚屈折値(球面値:.0.50±1.65D,円柱値:.0.39±0.33D)を採用した.そして,各瞳孔サイズでの視力値を測定し比較した.視力値の決定には,より詳細な視機能変化を反映するためETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)方式を採用し,正答数からlogMAR値を評価した.また,各人工瞳孔サイズでの視力が基準瞳孔径3.0mm時より低下したとき,追加矯正により再び基準瞳孔径3.0mm時の視力を獲得する割合とその度数についても検討した.測定時の環境照度は約500lxである.眼球全体の高次収差の計測は,OPD-Scan2ARK-10000(NIDEK社)を用い,解析径は6.0mm,Zernike多項式にて算出される3次~6次までのZernike係数を評価した.収差計測はサイプレジンR点眼後,瞳孔径が6.0mm以上に散瞳していることを確認して行った.各人工瞳孔サイズに対応した高次収差量を算出するため,Schwiegerlingのアルゴリズムを用い,OPD-Scan2による解析径6.0mmのZernike係数を各人工瞳孔サイズに対応したZernike係数に再展開した9).Schwiegerlingのアルゴリズムは外挿法の原理が応用され,ある解析径のZernike係数(originalexpansioncoefficients)を任意の瞳孔径におけるZernike係数(newexpansioncoefficients)へ再展開し,推定する方法である.II結果各瞳孔サイズにおける高次収差と視力,各瞳孔サイズの視力が基準瞳孔径3.0mm時より低下したとき,追加矯正により再び基準瞳孔サイズでの遠見矯正視力を得るために必要な追加矯正度数およびその割合を表1に示す.1.瞳孔サイズと高次収差OPD-Scan2による解析径6.0mmの平均高次収差の総和,コマ様収差,球面様収差は,各々0.41±0.16μm,0.35±0.16μm,0.21±0.07μmであった.高次収差は瞳孔サイズが拡大するほど有意に増加した〔ANOVA(analysisofvariance,分散分析)p<0.01〕(図1).2.瞳孔サイズと視力視力は人工瞳孔2.0mmで最も高値を示し,それ以下に縮小しても,それ以上に拡大しても低下の傾向が認められた(図2).瞳孔サイズが1.0mm,もしくは4.0mm以上になると視力は有意に低下した(Scheffetestp<0.01).高次収差が大きな眼と小さな眼の視力結果の代表例を図3に示す.表1各瞳孔サイズの高次収差と視力および追加矯正可能な割合とその度数瞳孔径1.0mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mm6.0mmlogMAR値AVESD.0.030.05.0.110.04.0.090.03.0.020.040.020.050.050.05高次収差の総和AVESD0.00240.00170.02040.01250.06570.03810.14490.07690.25870.12010.41430.1606球面様収差AVESD0.00020.00010.00400.00140.01910.00630.05450.01660.11710.03350.21350.0665コマ様収差AVESD0.00240.00170.01990.01260.06220.03870.13580.07660.22670.12380.34900.1619基準瞳孔サイズ時の視力を再獲得した割合および度数割合追加度数Re-n.c.──※1───100%※2.0.25±0100%.0.25±089%※3.0.28±0.09Re-n.c.:Re-noncorrigible(再矯正不能).※1:基準瞳孔サイズ時の視力より低下なし.※2:8/8名,1名は基準瞳孔サイズ時と不変のため除外.※3:8/9名,内1名は再矯正不能.瞳孔径(mm)0.60.50.40.30.20.10.0RMS(μm)1.02.03.04.05.06.0図1瞳孔サイズと高次収差ANOVAp<0.01.:TotalHOA,:Coma(S3+S5),:Spherical(S4+S6).(153)あたらしい眼科Vol.27,No.10,201014753.各瞳孔サイズにおける高次収差と視力の関係高次収差の総和とコマ様収差は,ともに人工瞳孔6.0mmで収差が高いほど視力は有意に低下し,高い相関関係を示した(Spearmanの順位相関係数の検定,人工瞳孔6.0mmと高次収差の総和p<0.05,r=0.82;人工瞳孔6.0mmとコマ様収差p<0.05,r=0.77)(図4a,4b).球面様収差では,***************-0.10.00.10.21.61.31.00.81.02.03.04.05.06.00.6logMAR値小数視力瞳孔径(mm)-0.2図2瞳孔サイズと視力ANOVAp<0.01,*:Scheffetestp<0.05,**:Scheffetestp<0.01.logMAR値小数視力瞳孔径(mm)-0.2-0.10.00.10.21.61.31.00.81.02.03.04.05.06.00.6図3瞳孔サイズと視力(代表例):high高次収差とlow高次収差の比較:high高次収差;(6.0mm径)TotalHOA:0.60μm,Coma:0.50μm,Spherical:0.31μm:low高次収差;(6.0mm径)TotalHOA:0.16μm,Coma:0.10μm,Spherical:0.12μm-0.2-0.10.00.10.2logMAR値00.0100.0500.2000.4000.5001.00NS1.0mmNS2.0mmNS3.0mmNS4.0mmNS5.0mm6.0mm高次収差の総和(μm)*p<0.05r=0.821図4a各瞳孔サイズにおける高次収差の総和と視力*:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.821.-0.2-0.10.00.10.2logMAR値00.0100.0500.2000.3000.5000.70NS1.0mmNS2.0mmNS3.0mmNS4.0mmNS5.0mm6.0mm*p<0.05r=0.769コマ様収差(μm)図4b各瞳孔サイズにおけるコマ様収差と視力*:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.769.-0.2-0.10.00.10.2logMAR値00.00100.0100.0500.1000.2000.40NS1.0mmNS2.0mmNS3.0mmNS4.0mm5.0mm6.0mm*2p<0.05r=0.769*1p<0.05r=0.761球面様収差(μm)図4c各瞳孔サイズにおける球面様収差と視力*1:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.761.*2:Spearmanの順位相関係数の検定p<0.05,Spearman’sr=0.769.1476あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(154)人工瞳孔5.0mm以上で収差が高いほど視力は有意に低下し,高い相関関係を示した(Spearmanの順位相関係数の検定,人工瞳孔5.0mm,p<0.05,r=0.76;人工瞳孔6.0mm,p<0.05,r=0.77)(図4c).III考按本検討により,瞳孔サイズが高次収差および視力に影響することが確認された.高次収差は瞳孔が拡大するほど増加し,視力は人工瞳孔2.0mmで最も高値を示し人工瞳孔4.0mm以上あるいは1.0mmで有意に低下した.瞳孔と視力に関する過去の報告では,線像強度分布を用いた結像特性の観点から瞳孔の最適径(入射瞳)は約2.4mm10),Linewidthacuityによる検討からは約2.5mm11)と報告され,本研究と近い結果となった.そして,それ以上に拡大したり,それ以下に縮小したりすると視機能は低下した.この異径瞳孔サイズによる視力の変化は,有効径拡大に伴う収差の増加と有効径縮小に伴う回折の影響によるものと考えられた5).高次収差と視力に関して,円錐角膜12)やドライアイ眼13),角膜屈折矯正手術眼14)などではコマ収差や球面収差の増加により視機能が低下することが報告されている.高コントラストの条件下で高次収差は視力に影響しないとの報告15)があるが,本検討では図4に示すように瞳孔が大きいとき,高次収差の総和,コマ様収差,球面様収差ともに視力との関連がみられた.特に,球面収差との関連が強く,瞳孔5.0mm以上で高い相関関係を認めた.そのおもな原因は網膜像の質の劣化と最良像点のシフトと考える.瞳孔が拡大すると,光は角膜の近軸領域より屈折力の強い周辺部も通るため光軸との交点にズレが生じる.その結果,像点では同心円状にボケた像となり,最良像点は網膜前方にシフトする.本検討でも表1に示すように,人工瞳孔サイズ拡大に伴い視力が低下した症例に再矯正を行ったところ約.0.25Dの追加矯正で元の最高視力に達している.このことは,瞳孔拡大により正の球面収差の影響を受けていたと示唆されるが,本検討のような正常眼では収差増加により網膜像の質は劣化するものの視力に及ぼす影響はさほど大きくないことも示唆している.ただし,図3にも示したhigh高次収差の1例は,人工瞳孔6.0mm時に追加矯正を行っても元の視力に達しなかったことからhigh高次収差眼では視機能への影響が懸念される.眼科臨床での影響として,散瞳剤を使用したときと片眼遮閉に伴う瞳孔拡大時があげられる.前者の散瞳状態では,高次収差による視力への影響や球面収差による最良像点がシフトし自覚屈折値の誤差要因となりうる.したがって,収差の影響を抑えるため人工瞳孔を使用することが望ましいが,径が小さすぎても回折による視力の影響や,焦点深度3)がより拡大し自覚屈折値の誤差要因となりうる.よって,これらを考慮し,本検討結果から3.0mmが適当ではないかと考える.ただし,日常視を反映した視機能を評価する際には,自然瞳孔サイズの人工瞳孔を使用するべきである.後者は,単眼視下検査における視機能の過小評価2)などが報告されているが,その他には片眼アイパッチによる視力増強訓練を必要とする小児があげられる.片眼遮閉により瞳孔は拡大し,それに伴う高次収差の増加が視力発達を阻害する可能性が懸念される.特に,high高次収差で,かつ片眼遮閉時の瞳孔サイズがより大きい症例ではその影響が示唆される.今後は,高次収差量と視力の関係について検討する予定である.本実験の制限として収差推定があげられる.今回算出された各瞳孔サイズに対応した高次収差は,実測値ではなくSchwiegerlingのアルゴリズムによって数学的に算出された推定値である.したがって,誤差を含んでいる可能性が示唆されるが,川守田らの報告によると,解析径6.0mmから4.0mmへの推定精度(95%信頼区間)は±0.03μmで,それ以下になると誤差はより小さい(第42回日本眼光学学会).つまり,本検討結果に影響する誤差ではないといえるが,あくまでも推定値として結果を解釈する必要がある.今回筆者らは,瞳孔サイズが高次波面収差と視力に及ぼす影響について検討した.瞳孔サイズが拡大すると高次収差の増加を伴い,その結果,視機能に影響を与えている可能性が示唆された.本論文の要旨は,第50回日本視能矯正学会にて発表した.謝辞:本研究の一部は,厚生労働省科学研究費(H16-長寿-12/HU),文部科学省科学研究費(萌芽研究#15659416/HU)ならびに北里大学医療衛生学部特別研究費(2007-1028&2008-1004/HU)補助金による器材を使用して実施されたものであり,感謝の意を表する.文献1)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼光学の基礎(西信元嗣編),p82-94,金原出版,19902)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,20053)WangB,CiuffredaKJ:Depth-of-focusofthehumaneye:Theoryandclinicalimplications.SurvOphthalmol51:75-85,20064)WilsonM,CampbellM,SimonetP:Changeofpupilcentrationwithchangeofilluminationandpupilsize.OptomVisSci69:129-136,19925)SmithG,AtchisonDA:TheEyeandVisualOpticalInstruments.p308-309,CambridgeUniversityPress,Cambridge,19976)UozatoH,GuytonDL:Centeringcornealsurgicalprocedures.AmJOphthalmol103:264-275,19877)ApplegateRA:Glennfryawardlecture2002:Wavefrontsensing,idealcorrections,andvisualperformance.OptomVisSci81:167-177,20048)SchallhornSC,KauppSE,TanzerDJetal:Pupilsizeand(155)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101477qualityofvisionafterLASIK.Ophthalmology110:1606-1614,20039)SchwiegerlingJ:ScalingZernikeexpansioncoefficientstodifferentpupilsizes.JOptSocAm(A)19:1937-1945,200210)CampbellFW,GubischRW:Opticalqualityofthehumaneye.JPhysiol186:558-578,196611)BennettAG,RabbettsRB:ClinicalVisualOptics.2nded,p28,Butterworth-Heinemann,London,198912)ApplegateRA,HilmantelG,HowlandHCetal:Cornealfirstsurfaceopticalaberrationsandvisualperformance.JRefractSurg16:507-514,200413)Montes-MicoR,AlioJL,CharmanWN:Dynamicchangesinthetearfilmindryeyes.InvestOphthalmolVisSci46:1615-1619,200514)MillerJM,AnwaruddinR,StraubJetal:Higherorderaberrationsinnormal,dilated,intraocularlens,andlaserinsitukeratomileusiscorneas.JRefractSurg18:S579-583,200215)VillegasEA,AlconE,ArtalP:Opticalqualityoftheeyeinsubjectswithnormalandexcellentvisualacuity.InvestOphthalmolVisSci49:4688-4696,2005***