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写真:ラタノプロストによる虹彩色素増加

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910690910-1810/09/\100/頁/JCOPYラタノプロスト(キサラタンR)がわが国で発売開始され,すでに10年以上経過している.虹彩の色素増加はラタノプロストの,というよりもプロスタグランジン製剤の特徴と考えられており,ラタノプロスト以前よりわが国で入手可能であったウノプロストン(レスキュラR)1),後に発売となったトラボプロスト(トラバ(63)タンズR)2),わが国では未発売のビマトプロスト(ルミガンR)3)でも虹彩の色素増加が報告されており,最近わが国で発売された国内産のタフルプロスト(タプロスR)4)でも,同様の発症が予想される.欧米では,副作用として「iriscolorchange:虹彩の色調変化」が注目された.青,緑,黄色の色調の虹彩が茶色に変化するた写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦303.ラタノプロストによる虹彩色素増加図1点眼開始前もともと2時,4時,7時,11時方向の色素が放射状に濃い.図3点眼開始12カ月色素増加はさらに増強し,コントラストが顕著になっている.図2点眼開始1カ月もともと色素の濃かったところが増強している.図4点眼開始8年背景光の違いで色調が異なるが,色素の濃いところはそのまま濃く,全体が均一になることはない.原岳原眼科病院———————————————————————-Page21070あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(00)め,診察する医師のみならず,家族,親しい友人から指摘されたり,本人が自覚することもあった.特に茶色と青,緑の混ざったHazaleyeで色調変化の頻度が高いと報告されていた5).これに対し,日本人に多い単色茶色ではあまり変化はなかったとも報告されていたため,わが国では発売前にはあまり問題視されていなかったが,実際に市販後に細隙灯顕微鏡で観察してみると,徐々に色調が濃くなる変化が出てくることがわかった6).日本人の場合,本人も自覚しないことが多く,欧米での色調変化に対し,「increasedpigmentation:色素増加」と表現するのが適していると思われる.また,当初は虹彩の色素増加が問題視されていたが,実際に発売後,広く使用されるようになると,むしろ,睫毛の延長,剛毛化,ならびに眼瞼の色素増加7)のほうが患者の自覚が強く,美容的な問題も生じる事態となり,点眼継続のアドヒアランスを考えたうえでも無視できない問題となっている.変化は早い例では使用2,3カ月より出始め,経時的に増加する.ラタノプロスト使用を中止した場合,色素増加の進行も停止し,筆者の印象では,可逆的に微減していく.文献1)小田江里子,松元俊,鷲見泉ほか:イソプロピルウノプロストン点眼液によると思われた虹彩色素沈着.眼科41:1479-1483,19992)HuangP,ZhongZ,WuLetal:Increasediridialpigment-ationinChineseeyesafteruseoftravoprost0.004%.Glaucoma18:153-156,20093)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenK:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP:a3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1031,20014)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20085)WistrandPJ,StjernschantzJ,OlssonK:Theincidenceandtime-courseoflatanoprost-inducediridialpigmenta-tionasafunctionofeyecolor.SurvOphthalmol41:129-138,19976)原岳:ラタノプロスト点眼で生じた単色茶色の日本人の虹彩における色素増加.日眼会誌105:314-321,20017)原岳,小島孚允:ラタノプロスト点眼で生じる睫毛変化の評価.あたらしい眼科17:1567-1570,2000

白内障手術教育の進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYれている.手術訓練をするにあたりヒトの眼が入手できれば,最も良い.ただ,わが国では,人眼の使用は,使用目的が限られており,白内障などの練習用に用いることはできない.したがって,比較的入手がやさしく人眼に近い動物の眼として豚眼が利用されてきた.ただ,この豚眼は,人眼に比べ一回り大きく強膜なども厚い.白内障手術を行うと,水晶体前は厚く,張力が強い(張力の強さは,小児の人眼に似ているが,厚みはかなり厚い).前切開をヒトと同じ感覚で行おうとすると,切開線が流れてしまいうまく完成できない.豚眼でいくら研修して豚眼での前切開のコツをつかんでも,豚眼と同じような感覚で人眼水晶体の前切開を行うと,これもうまくはいかない.また,豚眼は若いブタの眼であるので,白内障はなく,核娩出,核分割などの手技を学ぶことはできなかった.豚眼実習は,あくまでも顕微鏡操作や,顕微鏡下での器具の操作をするときの手の動かし方,器具の持ち方,ペダル操作の練習などに有用であった.これら基本的な手足の動かし方は,手術において最も基本的な操作であり重要なものではあったが,PEA操作に習熟するのには限界があった.1998年頃,これらを改良する試みとして,組織固定液であるホルマリンを用いて,水晶体や水晶体核蛋白を変性させ,人眼に近い感覚で手術ができるよう豚眼を加工する工夫が始まった.当時,筆者も参天製薬が開設したウエットラボ室を研修医の教育用に使うなかでウはじめに白内障手術の細かなバリエーションは,かなりの数にのぼり標準化されていない.教育方法についてもさまざまな方法があり,施設ごとの教育環境(教育機器などのハード面や人材などのソフト面)により現在でもさまざまであると思われる.したがって,白内障手術教育の進化といっても統一されたものがあるわけではないが,それでも,この10年で特記すべきことがいくつかあった.まず第1に,ウエットラボ用の豚眼の加工技術や練習用模擬眼が開発されたことである.第2に,ウエットラボの提供施設が大都市には常設されたこと.第3に,指導医講習会が開催されるようになったことである.これらの概略を辿ってみたい.I豚眼実習の加工技術・練習用の模擬眼の開発白内障手術に超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsi-cationandaspiration:PEA)が導入され普及し一般化されると,術後早期よりの安定した視機能回復が可能となった.手術時間も,水晶体外摘出術の時代には,40分程度かかるのが当たり前だったものが,20分を切るような時代となった.それに伴い,研修医の手術も水晶体外摘出術は行われなくなり,教育も初めからPEAが行われるようになった.患者からの術後早期からの視機能回復の要求が強くなるとともに,PEA教育をいきなり人眼から開始することはなくなり,ウエットラボでの実習を経てから人眼手術を行うことが一般化さ(59)1065手020505内11手特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10651068,2009白内障手術教育の進化ProgressofTrainingforCataractSurgery黒坂大次郎*———————————————————————-Page21066あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(60)しばらくして,豚眼水晶体を使うのではなく,水晶体内容を除去した空の水晶体内に人工物を注入し人眼に似た核を作るカートンが開発された(図3).カートンで作った核では,人眼水晶体とは違うものの,溝掘り,核分割,核片除去などの操作が可能であり,豚眼水晶体をホルマリンやアルコールなどで処理した核にある粘りや硬さの不均一性などが解消された.ただ,このカートンは,注入方法にコツがあり,うまく水晶体内に注入しないと練習に適切な核を作ることができない.徐々に注入のコツがわかり,現在はカートンを使ってのPEAの核処理の実習が広く行われるようになった.これとは別に,豚眼などをまったく使わず人工物で眼エットラボ室に在籍していた参天製薬(当時)の植月氏とともにこの開発に加わった14).ホルマリンを粘弾性物質やヒドロキシエチルセルロース(スコピゾルR)に混ぜ前上に留置すると1分足らずで前が固定され人眼に近い感覚での前切開の練習ができる(図1).水晶体核にホルマリンを注入すると核が出来上がるが,粘着性が残ったり,硬くなりすぎたりであった.その後電子レンジで蛋白質を熱変性させ核を作る方法も行われた(図2).この方法では,粘着性がなく割れる核ができたが,水晶体の硝子体側半分程度の核作製で,それ以上に電子レンジ処理をすると水晶体が破裂してしまい限界があった.図1ホルマリン固定した前でのCCC前が裏返せ,人眼に似た感じで行える.2電子レンジで作製した核での分割分割可能な白い核ができている.図3カートンで作製した核での分割(杏林大学・永本敏之先生提供)図4白内障手術練習用模擬眼机太郎(飽浦淳介先生開発).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091067(61)出して何度も伝えることができ,実際の手術中の指導の場でのストレスも軽減できる.しかしながら,不定期に開催されるウエットラボでは,タイミングよく行えるとは限らないし,次回の開催も確かではない.そうなると,勢い限られた時間内に多くのことを学ぼう・教えようとして,消化不良になることが多い.個々の手技は荒くなり,最終的には練習したという思いだけが残り,なかなか実効が得られにくい.ウエットラボ室が,常時設置され,定期的に開催されているとなると研修医も指導者もある程度余裕をもって,教育ができるようになり,その意義は大きい.また,大学内に常時設置されている場合と別の場所に設置されている場合の違いは,大学内だといつでもできる反面,指導者も研修医もさまざまな臨床の用事(患者に呼ばれたり)で結局不定期になりがちであるが,外の場合には場所を変えるので,計画が守られやすい利点がある.さらに,多くのウエットラボ室では,粘弾性物質や眼内レンズなどが準備されており,手術環境としても優れていることが多い.企業のメセナとして持続が望まれる.III指導医講習会の始まり白内障手術は,年間100万件行われ,多くの術者が存在する.研修医もそのほとんどが手術教育を受けるが,白内障手術教育を実りあるものとするためには,良を模し,白内障手術を練習する人眼模型が開発されている.以前より人眼模型は存在したが,比較的高価で,そのわりに人眼とあまり似ていなかったために普及しなかった.最近,新しい模擬眼が開発された(図4).このセットは,顕微鏡やPEA機器を使わずに練習できるものである.それゆえ実際とは異なる点があるが,手術設備を必要としないという点で汎用性が高く,今後普及されていくことが期待される.IIウエットラボ環境の変化10年前までは,ウエットラボといえば,大学や病院の一室で,器械メーカーや製薬会社が準備した顕微鏡とPEA装置を使って行うことが主流であった.しかしながら,大都市を中心に常設のウエットラボ室が準備されるようになり,単にその会社の製品を試用する目的ばかりでなく,教育用に開放されているところが多い(図5).ウエットラボの利用においては,理想的には,自分が行う部分の(多くの初心者は,初めは一部の過程のみ手術をするので)練習をくり返し行い,納得したうえで人眼の手術を行い,再び勝手が違った部分を豚眼で確認していくことが望ましい.しかも実際に手術を指導する医師に教わりながらウエットラボを行うことができれば,さらに効果が上がる.指導医も研修医の実力や問題点を豚眼を通じて把握できるし,自分の伝えたいことも声を図5メーカーによるウエットラボ室での実習図6JSCRS白内障手術セミナーの様子毎年7月に東京で開催される.———————————————————————-Page41068あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(62)おわりに白内障手術は,年間100万件にも達する手術であり,眼科医にとって誰でもがかかわる手術である.眼科専門医であれば,ほぼ例外なく白内障手術の経験があるといっても過言ではないであろう.ここ10年のさまざまな進歩は,白内障手術をより安定化させ,さらに最近は,さまざまな付加価値がつく眼内レンズも開発され,術後視機能はより向上している.この現状をさらに持続し白内障治療が進歩し続けるためには,多くの優秀な術者を育て,患者側からの理解を得ることが重要である.初心者が行う手術へのインフォームド・コンセントなど倫理面も含め,白内障手術教育がさらに発展することを願いたい.文献1)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル.(1)核処理の練習用.あたらしい眼科15:1553-1554,19982)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル.(2)Divide&Conquer法.あたらしい眼科16:61-62,19993)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル.(3)CCCの練習用.あたらしい眼科16:355-356,19994)HashimotoC,KurosakaD,UetsukiY:Teachingcontinu-ouscurvilinearcapsulorhexisusingapostmortempigeyewithsimulatedcataract.JCataractRefractSurg27:814-816,2001質な指導医が必要である.一部の経験豊かな術者が直接に教えられる人数には限界があり,白内障手術の全国的なレベルアップのためには,研修医を指導する立場にある指導医の教育が大切である.このような考えの下,日本眼内レンズ屈折手術学会では,4年前より指導医を対象に白内障手術セミナーを行っている.約80名前後の指導者に対し,教科書をもとに2日間にわたる講義と,1日間のウエットラボを行っている(JSCRSのホームページアドレス:http://www.jscrs.jp/index.html).図7JSCRS白内障手術セミナーで使われるテキスト市販されている.

術前術後検査と管理の進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY以降,波面光学が眼科領域に応用されるようになってから,視力良好である症例に対し,コントラスト感度(視力)以外に手術適応を決める方法として,波面収差測定および網膜像シミュレーションが行われるようになった.軽度白内障眼の波面収差を測定し,光学的な劣化(収差の増加)を定量化するとともに,その結果から網膜像をシミュレーションするものである.このシミュレーション網膜像は,散乱などの影響を含まないため,正確なシミュレーション像とはいえないが,臨床的には非常に有用で,二重視,三重視などの自覚症状を判別できる場合もある1).視力やコントラスト感度が比較的良好でも,自覚と他覚(光学的な劣化)の所見が一致していれば,手術適応と判断できる場合もあり,より客観的に手術適応を決定することができるようになった.2.生体計測(眼軸長測定)10年ほど前は眼軸長の測定は超音波Aモードのみで行われていた.しかし,超音波による測定は精度に限界があり,検者の熟達度によるばらつきも多く,IOL度数誤差の最も多い原因であった2).現在も眼軸長の測定には超音波Aモードが用いられているが,2002年から光学式測定法も可能となった.超音波Aモードには接触式と水浸(immersion)式がある.超音波Aモードの測定誤差は,接触式の場合,角膜の圧迫により前房深度が浅くなってしまうことが測定誤差の原因となる3).水浸式では角膜に接触しないため測定精度は高い.しかし,はじめに白内障手術の術前術後検査には,屈折検査,視力検査をはじめとする視機能評価,眼内レンズ(IOL)度数決定のための眼軸長および角膜屈折力測定,手術リスク評価のための角膜内皮細胞密度検査がある.ここ10年の変化を考えてみると,視機能および眼光学機能評価法は波面光学が眼科分野に応用されるようになった2000年ごろから格段に進歩し,自覚的評価のみならず眼球光学系の他覚的評価を行うことにより,白内障の詳細な影響も検知可能となり,手術適応決定の際に役立っている.術前検査としては,付加価値IOLの登場により,現在では瞳孔径,球面収差などが行われている.また,小切開から極小切開になったことにより,術後管理も変化している.本稿では10年前と現在を比較しながら,検査法の進歩および術後管理の変化について述べる.I術前検査1.手術適応決定のための視機能評価約10年前には,小切開手術およびフォルダブルIOLが一般に普及し術後早期から良好な視力が得られるようになっていたため,ECCE(外摘出術)の時代と比較して,視力の良好な症例でも手術が行われるようにはなっていた.視力が(1.0)以上ある症例に対して手術適応を決める際には,コントラスト感度またはコントラスト視力検査が行われていたが,それほど普及していなかった.最近ではこれらの検査が普及しつつある.2000年(53)1059160858235特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10591063,2009術前術後検査と管理の進化EvolutionofPre-andPostoperativeExaminationsandCare根岸一乃*———————————————————————-Page21060あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(54)situkeratomileusis)術後眼では角膜前面曲率のみを測定するタイプのトポグラファー(角膜換算屈折率を用いる)では,評価誤差を生じる可能性がある.角膜前後面の測定が可能な,スリットスキャン型,シャインプルーク像を用いるタイプの角膜形状解析装置もあるが,角膜後面の測定精度についてはいまだ議論がある6,7).IOL度数計算のため,白内障術前には正確な角膜屈折力評価が行われることが望ましいが,角膜形状解析装置を用いて評価誤差を減らしても計算式に含まれる誤差も大きいため,IOL度数計算の精度向上には計算式の改良が必須である.計算式の進歩については次項で述べる.4.IOL計算式IOL計算式も改良が重ねられているが,背景としてこの10年で最も大きかったのは屈折矯正手術後眼の白内障手術が増加したことであろう.10年前にはすでに第3世代の理論式が一般化し,HoerQ式,Holladay1式,SRK/T式が眼軸長測定装置のIOL度数計算ソフトウェアとして組み込まれ,使用されていた.これらの式では,正常モデル眼のパラメータに基づいて計算式が作成され,眼軸長と中央角膜曲率半径のみから術後のIOLの位置を推定している3).このため,正常眼での予測精度は比較的良好であるが,角日本では取り扱いが簡便な接触式が普及しており,水浸式が使われることはほとんどない.2002年のIOLマスター(カールツァイスメディテック社)の発売以降,光学式測定が徐々に普及しつつある.光学式測定は非接触で検者によるばらつきがほとんどなく,測定精度が高い.OlsenらはIOL度数計算誤差の絶対値の平均は,超音波Aモードで測定した場合,平均0.65D,光学式の場合は0.43Dで統計学的有意差があったと報告している4).最近では,数社から光学式測定装置が販売されている.機器改良の影響もあってか,最近の報告では,IOL度数誤差の原因としての眼軸長測定ミスの割合は以前よりも減少している5)(図1).3.生体計測(角膜屈折力測定)10年前は,角膜屈折力の測定はオートケラトメータで行われていた.角膜形状異常眼では測定誤差が大きく,IOL度数誤差が大きいことが問題であったが,角膜形状異常眼はそれほど多くはなく,一般的にはその誤差は容認されていた.現在,角膜屈折力はオートケラトメータまたは光学式測定装置に付属のオートケラトメータで測定されるのが主である.しかし,屈折矯正手術後眼の急激な増加により,角膜形状異常眼の角膜屈折力評価は無視できない課題となっている.LASIK(laserin図1IOL度数予測誤差の原因(文献5より)ACD-pred:術後IOLの予測位置,AL:眼軸長,Ch-dist:測定視標までの距離,Cor-th:角膜厚,IOL:IOLpower,Pupil:瞳孔径,Qa:角膜前面の非球面性,Qp:角膜後面の非球面性,Ra:角膜前面曲率半径,Ret-th:網膜厚,Rfx:術後眼鏡矯正度数,RI-air:空気の屈折率,RI-aqu:房水の屈折率,RI-cor:角膜の屈折率,RI-vit:硝子体屈折率,Rp:角膜後面曲率半径.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091061(55)点IOLの適応検査としては瞳孔径検査が必須であること,視機能に対する瞳孔径の影響が認識されはじめていることから,瞳孔径測定は重要視されはじめており,将来的には単焦点IOL挿入前の検査としてもルーチンになる可能性がある.2.角膜形状解析角膜屈折力測定の項で角膜形状解析については述べたが,付加価値IOLの使用や乱視矯正を行う際には角膜形状解析が必須の検査となりつつある.具体的には,多焦点IOLは角膜不正乱視がある症例は適応外となるため,多焦点IOLを使用する場合は必須の検査となっている.また,LASIK術後などの角膜形状異常眼のIOL度数決定の際や,輪部減張切開により白内障手術と同時に乱視矯正を行う際にも角膜形状解析は必須である.さらに,本年「乱視矯正IOL」が承認されたが,このIOLの適応および手術計画を決定する際にも角膜形状解析は重要である.III術後検査1.惹起乱視の評価10年前には角膜形状解析装置はかなり一般化していたが,乱視といえば正乱視の評価を指し,ごく特殊な症例を除き不正乱視を評価の対象とすることはなかった.術前後の乱視の測定はオートケラトメータで行い,惹起乱視の評価はそれに基づいてCravy法やJae法などで行われることが多かった.この時期には小切開無縫合白内障手術でも直径6.0mmのPMMA(ポリメチルメタクリレイト)IOLを用いた切開幅5.5mmとフォルダブルIOLで切開幅3.2mmの場合では,3.2mmのほうが惹起乱視は有意に少ないとの報告があった8,9).現在ではほとんどの症例でフォルダブルIOLが使用されるようになっている.3.0mm以下の小切開または極小切開白内障手術では,惹起乱視が小さく,正乱視の評価では切開幅による差が出にくく,手術成績を比較する場合には不正乱視の評価が必須である.具体的な方法としては,角膜形状解析,波面収差解析などである.現在では数多くの角膜形状解析装置が販売されており,機種によって,Fourier解析(正乱視成分,高次不正成分に分解),膜形状異常眼などでは誤差が大きくなることが問題である.現在でも,第3世代の理論式は使用されているが,さらに精度の高い計算式も発表されている.たとえば,Haigis-L式はIOL定数およびsurgeon-specic定数を3つ用い,前房深度も計算に使用する.一方,この式では角膜屈折力をIOL計算に使用しないことにより,前面角膜曲率半径の評価誤差と術後のIOLの位置の予測誤差を排除され,屈折矯正手術後眼にも使用可能である.しかし,計算式に用いる3つの定数は回帰式から求めなければならないため,さまざまな眼軸長で術者ごとに50例以上症例数が必要である点が欠点である3).Hol-laday2式は短眼軸から長眼軸まで対応している.しかし,術後のIOLの位置を計算するために7つものパラメータ(眼軸長,平均角膜屈折力,水晶体厚,水平方向の角膜径,前房深度,術前屈折,年齢)を必要とすることが煩雑である.光学式測定では水晶体厚が測定できないため,この式を使用するためには超音波Aモード(水浸式が望ましい)による測定が必要である3).屈折矯正手術後眼の急激な増加により,そのほかにも,角膜屈折矯正手術後眼をターゲットとした計算式が次々と報告されている.いずれも第3世代の理論式を使用するよりは誤差が小さいが,正常眼におけるIOL度数予測精度には至っていない.米国IOL屈折手術学会のホームページに角膜屈折矯正手術後眼のIOL度数の計算サイトがある.計算式は限られるものの,数種類の計算式の結果が一度に得られるので,有効に活用されたい.将来的には光線追跡法が主流となる可能性もある.IIその他の術前検査1.瞳孔径1990年代から数年前まで,屈折型多焦点IOL(アレイ,AMO社)が保険適用であり使用されていた.屈折型多焦点IOLのパフォーマンスは瞳孔径に依存するため,アレイを使用する際には瞳孔径検査は必須であったが,多焦点IOL自体が普及していなかった.単焦点IOLを使用する際に瞳孔径が考慮されることはなく,術前検査としては一般的ではなかった.しかし,2007年に新しい数種の多焦点IOLが承認された.屈折型多焦———————————————————————-Page41062あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(56)た.前眼部OCT(光干渉断層計)は術前後眼の解剖学的情報を得るのに非常に有用である.また,術後の胞状黄斑浮腫は10年前には検眼鏡的に評価するか蛍光眼底撮影を行うしかなかったが,現在では後眼部OCTにより他覚的かつ非侵襲的に検査可能となった.IV術後管理の変化ここ10年ほどの間に3mm以上の小切開手術(SICS)から2mm前後の極小切開手術(MICS)に切開幅が減少し,術後屈折の安定時期はさらに早くなった.10年前は眼鏡をつくる時期は1カ月以降が一般的であったが,極小切開手術で行えば,術後1カ月以内の処方が十分可能である.HayashiらはMICS(2.0mm)とSICS(2.65mm)を比較した報告10)で,角膜形状変化の平均値を示している(図2).これを見る限りMICSを行った平均的な症例では術後2週間で眼鏡処方しても何ら問題ないZernike解析(球面収差,コマ収差などに分解)などが可能である.2.波面収差解析,前眼部OCT,後眼部OCT従来,術後の合併症が視機能に及ぼす影響については,定量的評価が困難であった.しかし,最近では,IOL偏位などのIOL位置異常(術前の水晶体の位置異常でもよい)に対しては波面収差解析で高次収差の測定および網膜像シミュレーションを行うことにより,視機能への影響をある程度定量的に推定することが可能となっ図22.0mmコアクシャル手術の平均角膜形状変化(文献10の図2より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091063(57)lation.JCataractRefractSurg18:125-129,19923)LeeAC,QaziMA,PeposeJS:Biometryandintraocularlenspowercalculation.CurrOpinOphthalmol19:13-17,20084)OlsenT:ImprovedaccuracyofintraocularlenspowercalculationwiththeZeissIOLMaster.ActaOphthalmolScand85:84-87,20075)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercal-culation.JCataractRefractSurg34:368-376,20086)ChengAC,HoT,LauSetal:EvaluationoftheapparentchangeinposteriorcornealpowerineyeswithLASIKusingOrbscanIIwithmagnicationcompensation.JRefractSurg25:221-228,20097)Perez-EscuderoA,DorronsoroC,SawidesLetal:Minorinuenceofmyopiclaserinsitukeratomileusisontheposteriorcornealsurface.InvestOphthalmolVisSci,2009Apr22[Epubaheadofprint]8)OshikaT,NagaharaK,YaguchiSetal:Threeyearpro-spective,randomizedevaluationofintraocularlensimplan-tationthrough3.2and5.5mmincisions.JCataractRefractSurg24:509-514,19989)OlsonRJ,CrandallAS:Prospectiverandomizedcompari-sonofphacoemulsicationcataractsurgerywitha3.2-mmvsa5.5-mmsuturelessincision.AmJOphthalmol125:612-620,199810)HayashiK,YoshidaM,HayashiH:Postoperativecornealshapechanges:microincisionversussmall-incisioncoaxialcataractsurgery.JCataractRefractSurg35:233-239,200911)ElkadyB,PineroD,AlioJL:Cornealincisionquality:microincisioncataractsurgeryversusmicrocoaxialpha-coemulsication.JCataractRefractSurg35:466-474,2009だろう.術後創傷治癒や術後炎症も切開幅の減少により確実に早く,少なくなっている.Elkadyらの報告11)によれば,2.2mmの同軸手術で行った25眼のうち,術翌日にSeidel(+)だった症例はなく,術後平均フレア値は翌日が30.2,1週間後が4.2,1カ月後が0.0であったという.明確な基準はないが,これを見る限り術後の生活制限(洗眼,洗髪,運動など)もごく早期から解除可能であり,術後点眼もごく早期に中止できると考えられる.おわりにここ10年で超音波水晶体乳化吸引術という基本術式は変わっていないにもかかわらず,術式の小切開化,極小切開IOLおよび付加価値IOLの登場と検査機器の進歩により白内障の術前術後検査と管理は大きく変化している.今後もさまざまな付加価値IOLが登場することが見込まれており,それによって検査や術後管理のスタンダードも変化していくことだろう.文献1)FujikadoT,ShimojyoH,HosohataJetal:Wavefrontanalysisofeyewithmonoculardiplopiaandcorticalcata-ract.AmJOphthalmol141:1138-1140,20062)OlsenT:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalcu-

白内障手術と眼科手術顕微鏡の進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYンズ系で平行光線となって鏡筒に入り,中間鏡筒光学系の変倍モジュールで観察倍率が術者の必要に応じて調節されて接眼部に至る(図1).接眼部は,倍率をさらに拡大するとともに,像を正立像とし,術者の観察姿勢にあった方向に光路を向ける.また,観察者眼ごとに異なる視度を調整する.その間の中間鏡筒内は原則的に平行光が通過する仕組みとなっている.したがって距離が増えてもあまり影響はないため,その間に各種フィルターやビームスプリッター(ビデオカメラ)など,必要なオプション機器を重ねて挿入することができる(図1-②).II眼科手術顕微鏡の最新機能2)1.同軸照明によるステレオ立体観察手術顕微鏡は,1枚(1セット)の対物レンズの中心から少しずれた位置に左右2つ開けられた観察光路からステレオ立体観察を行う仕組みとなっている(図1).また,観察している部位が影にならずに常に照明されるように,同じ対物レンズを通して照明も行われる(広義同軸照明)(図2).a.同軸照明:徹照を得るための照明と立体感を得るための照明(図2)さらに,白内障手術を行ううえで手術顕微鏡の最も重要な機能の一つに,良好な徹照を得ることがある.良好な徹照を得るためには,観察光路の軸にできるだけ近い方向(例:0°~2°)から照明する必要がある.逆に,観はじめに眼科手術は,顕微鏡手術とともに進化した.近年,多くの術者が安全で質の高い白内障手術を確実に行えるようになったが,その基礎には,超音波手術装置や手術手技に加えて手術顕微鏡を用いた観察技術の進歩がある.本稿では,白内障手術に必要な手術顕微鏡機能とその機能を実現するために開発されてきた最新の眼科手術顕微鏡の特徴について解説する.I手術顕微鏡の基本構造1)手術顕微鏡の基本構造は,落射光で照明する双眼実体顕微鏡である.照明された術野からの映像光は,対物レ(41)1047ToruNoda眼科1528902251眼科特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):1047~1057,2009白内障手術と眼科手術顕微鏡の進化EvolutionofOphthalmicSurgicalMicroscopesforCataractSurgery野田徹*図1手術顕微鏡の基本構造①対物レンズ系,②中間鏡筒系,③接眼レンズ系,の3つのユニットで構成されている.中間鏡筒系の中は,光束は平行光で通過するため,オプション機器を重ねて挿入しても(距離が長くなっても)視認性にあまり影響しない.———————————————————————-Page21048あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(42)するシステムを,助手用は簡便なガリレオ回転型の固定変倍モジュールがとられる(図3a).また,助手用顕微鏡の観察系は,通常は,開口径もやや小さく観察光学性能を術者より抑えた設定とされていることが多い(図3a,b).2.眼科手術顕微鏡の最新機種の特長代表的な国内外3社の眼科手術顕微鏡を例に,それらの特長を概説する(図3).察光路軸からずれた方向(例:6°)から照明すると,徹照はしにくいが,観察視野の凹凸に影を形成して立体感を生じる効果を生じる(図2).白内障手術には,その両方の性質の照明光が必要である.したがって,観察光路に対してどのような位置関係にどれだけの大きさの照明(反射鏡)を設置するかが顕微鏡の観察特性を大きく左右する.b.同軸立体観察:術者用観察光路と助手用観察光路術者も助手もともにステレオ同軸観察を実現するために,高性能な手術顕微鏡は,同じ対物レンズの径の中に,助手用顕微鏡用の左右2つの観察光路が術者と独立して設けられている(広義同軸観察).しかし,その配置と光学性能が各社ごとに異なり,それぞれの特徴となっている(図3).術者用に対して助手用顕微鏡は,助手としての観察に必要十分な,ややコストダウンした光学系が選択されていることが多い.たとえば,観察倍率を調節するための変倍モジュールは,術者用は連続ズーム形式を電動制御対物レンズ反射鏡光源図2同軸照明「徹照を得るための照明」と「立体感のための照明」観察している部位が影にならずに照明されるように,観察系と同じ対物レンズを通して照明される.0°~2°の観察光路と同軸付近の照明では強い徹照が得られる.やや斜め方向(例:6°)からの照明は,徹照しにくいが,観察対象に「影」を形成して,術者に立体感の与える効果がある.図3術者観察光路,助手観察光路,同軸照明の光路配置図3a:TOPCONOMS800術者と助手の観察光路がややずれた位置に配置されている.白内障手術では支障ないが,狭い視野を通して観察する場合は,助手の観察が妨げられる可能性がある.しかし,この配置は,術者の観察光路に近接した位置から離れた位置までをカバーする大きな同軸照明鏡を設置できるため,徹照と立体感の両立した自然な観察像が得られ,白内障手術には適している.敏図3b:ZEISSOPMIVISU術者と助手の観察光路が90°回転した位置に配置されており,どのような条件の手術においても術者と助手の観察方向はほぼ一致する.同軸照明の配置は,徹照を得るための2°照明と,立体感を得るための6°照明が独立して設置されており,6°照明は観察条件に応じて術者が光量を調光できるようになっている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091049(43)図3d:LEICAM844F40術者と助手の観察光路は同等の光学系が90°回転した位置に配置され,両者は常にほぼ同じ光学条件で観察される.この4つの光路はズーム変倍ユニットも一体として連動し,術者と助手の術野は,観察倍率とともに常に共有される(※:QuadZoomTMユニットの構造模型).照明鏡は,4つの観察光路の外側,術者の左右の観察光路に接した位置に2つ設置されている.魔胯???敏?胯??攷鉄胯???柞畑??鉄粳?濁????諶躬皸諶?癆??????燐?諶躬???柞膝??龍???梃瞥???図3c:ZEISSOPMILumera(ルメラ)─(1)同軸照明コンセプト徹照を得るための照明は,左右の観察光路と同じ光路(同軸0°)から射出されるため,左右それぞれの観察光路に対して最良の徹照条件が得られる.OPMIVISUと同様,調光可能な6°照明が組み合わされる.①0°照明のみ③6°照明のみ②0°照明6°照明0°照明6°照明やや過1)0°照明と6°照明の組み合わせと観察特性の変化内転位下転位上転位外転位図3c:ZEISSOPMILumera(ルメラ)─(2)観察映像(症例:偽落屑症候群)2)各眼位での観察状態:どの眼位でも強い徹照が得られている———————————————————————-Page41050あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(44)OPMILumera(ルメラ)3):同軸0°照明+6°照明(図2,3c)最新機種のOPMILumeraは,左右2つの観察光路から完全同軸照明光を投下する,つまり左右の観察光路それぞれに最良の徹照を得るための照明を備える究極的なシステムを実現した.その0°同軸照明に従来からの6°照明が組み合わされる.これまでの常識では,観察光路へ照明系(ハーフミラーなど)を介入させる0°同軸照明は,対物レンズや眼球光学系からの反射光などの多くの問題から手術顕微鏡での実用は困難とされてきた.OPMILumeraはそれらの問題を解決して生まれた画期的なシステムといえる.さらにLumeraの0°照明光路は,眼底からの反射が最大となるように眼球光学系(角膜+水晶体:約60D)を含めた光学設計がなされている.したがって,最も徹照が必要な前切開の際に最良の徹照条件となり,瞳孔径や眼位にかかわらず強い徹照が得られる注1).実際に使用してみると,まるで眼底に光源を設けたような強い徹照が確認される.筆者は当初,システムの性質上,角膜混濁がある症例では散乱光が観察を強く障害するのではないかと懸念したが,実際には,意外にもそれらの影響は少なく,多少の角膜混濁もあまり障害には感じられなかった.注1)水晶体除去後の後観察:逆に,著しく屈折異常の強い眼や水晶体除去後の後観察の際には,最良の徹照条件にならない.特に,水晶体除去後の後観察の際は,6°照明を落とすのがコツである.元々きわめて明るい観察系であるため,コントラストが向上して後の詳細が観察しやすくなる.c.LEICALEICAM844F40(図3d)術者と助手の観察視野の共有という観点において,LEICAM844の機能は卓越している.術者と助手それぞれ左右の観察光路は同等の光学性能を備えているだけでなく,十字に配置された4つの光路は,共有されたズーム変倍ユニットで連動するため,術者が倍率を変更すれば,助手の倍率も同期し,術野は常に共有されるシステムを実現している.照明光路は術者の左右の観察光路付近それぞれに配置されており,“術者の”左右の観察a.TOPCONTOPCONOMS800(図3a)TOPCONOMS800は,白内障手術用顕微鏡として必要十分な機能とコストパフォーマンスを両立した顕微鏡といえる.助手用の左右観察光路は,対物レンズのやや周辺位置にとられているため,助手の観察方向は術者と若干のずれがある.しかし,白内障手術助手を行ううえには,(ときに術者の手の位置によって助手の観察が妨げられる以外は)まったく支障ない視認性である.助手用顕微鏡は,必要に応じて左右に付け替えることも,左右両側同時に設置することもできる.この配置は,術者の左右の観察光路に接した位置に大きな照明鏡をおくことができ,①徹照を得る,②影をつけて立体観察する,の両者を効率よく実現しつつ,自然な観察像が得られ,構造が比較的単純でコストパフォーマンスに優れている.白内障手術においては,焦点深度の深い自然な立体観察特性は,高価な海外機種を凌ぐと評価する術者も少なくない.b.ZEISSZEISS,LEICAの顕微鏡は,卓越した光学系性能と,術者と助手の観察光路が十文字配置をとり,両者の観察術野が直行する方向から常に共有される同軸構造が特長である.対物レンズの中心付近の部位を4つの観察光路が占めるため,照明鏡は複数に分けて配置される.ZEISSの助手用顕微鏡は,設置位置を左右に移動できるユニークな仕組みをとっている.助手鏡頭は回転して術者の左右にスライドするが,その際,左右2つの観察光路の開口部は,助手鏡頭をセットするとその側が開き,逆側は自然に閉鎖される.術者が耳側に位置して側方切開で白内障手術を行う術者や,術中に切開部位を変更するような場合には便利な仕組みである.OPMIVISU:同軸2°照明+6°照明(図2,3b)OPMIVISUは従来,左右の観察光路の間に徹照を得るための同軸2°照明をおき,それと独立して,助手観察光路の外側に,立体的観察効果を得るための6°照明を設けて,術者が6°照明を調光できるシステムをとっている.手術に必要な2種類の異なる照明を必要に応じてコントロールできる理論的なシステムといえる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091051(45)ば,いくら前の細かい模様まで観察できる顕微鏡があっても,その性能を必要とする操作は実際にはなく,超音波核処理時に核片の形がいくら詳細に見えても後が視認できなかったり,あらゆる操作ごとに頻繁にピント調整をしなければならないとしたら,非常に使いにくい顕微鏡となってしまう.白内障手術のみを考えた場合,見えなければならないのは前の詳細な模様ではなく,前のフラップの辺縁のはっきりしたラインである.過度の解像度は必要なく,むしろ焦点深度が深い顕微鏡のほうが操作自体は安全でずっと効率的に行える.しかし,それでは観察系が暗くなり,高照度の照明が必要になるが,眼科手術には光毒性の問題があり,他科の手術ではしばしば行われているような著しく高照度のキセノン光下で手術を行うような設定はできない.光学条件のセッティングは最も微妙な選択となる.c.観察精度と狭い術野の視認性について白内障手術や角膜手術ではあまり問題とならないが,眼窩手術で深く奥まった術野や,小瞳孔症例の硝子体手術など,狭い術野を観察する必要がある場合には,前述の1)長い焦点距離の対物レンズ,2)左右の観察光路の開口径が大きすぎない,3)左右の観察光路の間隔(立体視差)が離れすぎない必要があり,それらは高性能を追求する(高精細で明るく立体視差が大きい)条件とは対極にある.手術顕微鏡では,それらの特殊な条件での観察を可能とする範囲でとりうる最良の設定が選択されている*.*助手用顕微鏡光路は術者光路と直交同軸配置(ZEISS/LEICA型)をとる必要がある(図3b,d).d.手術顕微鏡性能の評価指標:収差補正について顕微鏡性能の一つの評価基準は,各種収差をどれだけ精密に補正しているかである.結像収差には,球面収差,像面弯曲収差,非点収差,コマ収差,歪曲収差のほか,波長による屈折率の違いによる色収差がある.そのなかで,特に顕微鏡性能の指標とされるものは,色収差と像面弯曲の補正精度である.色収差をはじめとする収差の完全補正を目指せば,複雑できわめて高価なレンズ系となる.逆に焦点深度は浅くなる.明るさ,解像度,収差補正,焦点深度,製作コスト,そのすべての条件を折り合わせて,眼科手術顕微鏡は設計されている.光路それぞれに最適な条件での照明を行う.片側の助手用顕微鏡を左右に移動することも,2セット重ねて両側同時に助手用顕微鏡を設置することもできる.術者と助手が常に共同して手術を進める術者や教育施設には,最適な配置である.さらに,助手用顕微鏡性能が術者用と相当であることから,ビデオカメラ撮影のビームスプリッターを助手用観察光路側に設置することができる.カメラを設置しても術者は100%の光量のままで観察できる.III眼科手術と顕微鏡光学設定眼科領域で用いられる生体顕微鏡(手術顕微鏡・細隙灯顕微鏡)は,単純に光学的性能(解像度・明るさ・立体視差)のみを優先すると,眼科特有の観察条件により,しばしば観察に支障を生じ,かえって使い勝手が低下する.また,眼科手術コストに見合う予算で製作できなければ,多くの術者に顕微鏡が提供できない.現在の眼科手術顕微鏡の光学設定は,いくつかの相反する条件の間でそれぞれの最良のバランスが追求された結果,現在の設定に至ったといえる.1.観察系a.対物レンズの焦点距離(作動距離)について対物レンズの焦点距離(作動距離)は,術野と対物レンズとの間の手術操作可能な距離となる.以前は,対物レンズを術者が手術ごとに付け替えていたが,現在は,眼科手術の術式が限定されてきたこともあり,ほぼ175~200mmに統一されている.対物レンズの焦点距離は,操作距離だけではなく,術野の観察特性にも影響する.長い焦点距離ほどより狭い空間を深くまで観察でき,眼窩手術や小瞳孔例の硝子体手術などの狭く深い術野で行う手術に適している.b.高解像度・明るさと焦点深度について眼科手術では,照明照度が低いほど手術を受ける患者に与える苦痛を軽減できる.網膜光傷害が問題となる眼科手術では特に「明るい」顕微鏡は,より低照度で手術ができるため,安全性のうえでもきわめて大きな利点となる.しかし,明るく解像度の高い光学系を追求しすぎると,焦点深度が浅くなって操作性は低下する.たとえ———————————————————————-Page61052あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(46)透明組織(角膜・水晶体・硝子体)の断面の観察に適している.ZEISSは,メイン照明光源とオプション光源をハロゲン,キセノンから別々に選択装備できるシステムを用意している.b.スリット照明システムZEISS,LEICAの手術顕微鏡には,オプションとして,細隙灯顕微鏡と同様のスリット照明を設置することができる(図4).スリット照明は,おもに硝子体手術で両手操作を行う際に用いられることが多いが,白内障手(1)色収差補正:アポクロマート波長の短い青色光は波長の長い赤色光よりも焦点がレンズ寄りに結ばれ,そのずれは,色にじみ,色ずれ,ぼけの原因となる.色収差には,光軸上のずれ(軸上色収差)と結像の大きさのずれ(倍率色収差)があるが,顕微鏡評価基準は前者で行われる.色収差は凸レンズと凹レンズで逆に生じるので,材質の異なる凹と凸レンズの組み合わせや,異分散材レンズなどを用いて補正する.赤,青の2波長(赤656nmと青486nm)の像点を一致させる補正をアクロマート,赤,青,緑の基本3波長すべての像点を一致させる補正をアポクロマート補正という.現在の高級機種の眼科手術顕微鏡はみな最高クラスのアポクロマート基準を満たす精度を実現している.(2)像面弯曲補正:プラン対物レンズ完全に平面化補正された視野の広さは顕微鏡性能の判断基準となる.全視野にわたって像面弯曲が補正されている対物レンズをプラン対物レンズという.補正が不完全な場合,平面が凸面や凹面のように見えたり,周辺視野がぼけたりするが,現在の高級機種の眼科手術顕微鏡は十分なプラン特性を備えている.2.照明系a.メイン同軸照明:ハロゲン光源光源には,①タングステン,②ハロゲン,③キセノンなどがあるが,現在の眼科手術顕微鏡には,ハロゲン光源が採用されている.キセノン光源はさらに効率よく高い照度が得られるので,一般外科手術では近年汎用されている.しかし,眼科領域では,短波長(青)光成分比率が高いキセノン光は,網膜光毒性の問題があり,半透明組織で散乱しやすく,元々角膜の透明性の低下した症例や術中の角膜浮腫などでは視認性がかえって低下する可能性があり,メイン照明としては必ずしも適していないと考えられている.◆参考:キセノン光源の特長キセノン光源は,エネルギーに比して効率よく高い照度が得られ(人間の目が明るさを敏感に感じる500nm台の波長成分比率が高い),短波長成分は散乱しやすい性質を利用して,硝子体手術では25ゲージなどの小口径のライトガイドでも高照度かつ効率よく硝子体や網膜表面を明瞭に観察できる有用な照明光源となる.スリット照明に用いる場合は,半遅遅遅ab図5角膜中心に強い混濁のある症例の観察a:同軸照明光では,照明光束は混濁の強い角膜を通して入射し,その散乱光が観察光路上に生じるため,視認性が著しく低下する.b:同軸を避けた斜めからの照明光は,混濁の強い中央部以外の角膜を通過するため,照明光束により生じる散乱光量が少なく,かつ,観察光路から離れた場所に生じるために,観察を障害しにくい.観察光束が角膜を通過する際の散乱のみの障害となる.角膜混濁の強い症例では,混濁のある角膜を通した照明は用いず,角膜輪部からファイバーライトガイド照明を前房内に直接挿入して照明すると最良の視認性が得られる.????諶躬図4スリット照明装置a:ZEISS,b:LEICA.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091053(47)術にも活用できる.メイン照明は,照明光束と観察光束が同軸であるため,角膜混濁がある場合,観察光路上にある混濁組織周囲に照明・観察両光の散乱が生じて視認性を損なうのに対して,スリット照明では,混濁部位を避けた方向から照明することにより,視認性を向上させられる場合がある(図5).適しているのは,混濁が限局している症例で,広範に混濁のある症例ではあまり良い視認性は得られない.c.ファイバーライトガイド照明それに対して,角膜混濁の強く広範な症例では,硝子体手術用のライトガイド照明を角膜輪部から前房内に挿入して照明すると,混濁角膜で照明光が通過する際に生じる強い散乱の発生なしに,直接水晶体組織を照明できるため,視認性が著しく向上する.硝子体手術術者のみならず,角膜混濁を伴う症例の白内障手術のために,超音波白内障手術装置にもライトガイド照明と光源を準備しておくと便利である(図6).d.眼科手術と網膜光障害網膜に対する光障害の重要性が近年認識され,特に白内障手術においてはその予防的配慮が求められる.眼科手術顕微鏡の照明系には,熱防止のための赤外カットフィルターのほか,短波長光をカットするイエローフィルターや,瞳孔領に円形の無照明野を形成するシステムなどが備えられている.網膜光障害には2つの機序があり,その理解が網膜障害の発生を効果的に予防するうえで不可欠である.(1)熱障害長波長(赤~赤外線)光は,純粋に光エネルギーによる温度上昇で生じる熱傷機序のみで網膜障害を生じる.視細胞には血流豊富なラジエター機能をもつ脈絡膜が接しているため,赤外カットフィルターが常備されている手術顕微鏡では,かなり高い照度で長時間連続照射されないと熱障害は生じにくい.(2)光化学障害それに対して短波長(青~紫外線)光は,熱障害が生じるよりもずっと低い照度で,網膜視細胞に光化学反応をひき起こす.視細胞を破壊する光エネルギー閾値は,熱障害の1/10以下である.障害性の高い波長のピークは430nm前後といわれている(紫外線は角膜などの組織を通過しにくく,網膜への到達率が低い).したがって,短波長光のみを照明光からカットするだけで,手術の安全性は飛躍的に向上する.IV手術顕微鏡映像の撮影,モニター,録画テレビ放送がBSデジタル,地上波デジタルの時代となり4),家庭用ビデオカメラの普及により,ハイビジョン画質が生活に一般化して久しい.医療分野でも,外科領域では,内視鏡手術にハイビジョン映像システムが急速に普及しており,最近話題のdaVinci外科ロボット手術支援システムにもハイビジョン映像技術がすでに導入されている5).しかし,眼科領域に関しては,まだ従来画質(NTSC)を用いている施設が大多数であり,視覚を専門とする医療業界が世のなかで最も立ち遅れている感がある.その一因は,手術顕微鏡に適した小型ハイビジョンカメラと映像記録メディア・レコーダーの開発,供給が遅れていたためである.しかし,ようやく2009年7月現在,3社から手術顕微鏡に適した小型高性能なハイビジョンカメラが供給されることになり,記録メディアとレコーダーの供給と合わせて,今後は眼科顕微鏡手術映像分野のハイビジョン化が急速に進むものと考えられる.2009年7月現在の顕微鏡手術記録のためのハイビジョン映像機器を紹介する.1.ハイビジョン(HD)カメラ(図7a)a.SONYPMW10MD最新のフルハイビジョン対応の医療用小型カメラ.1/2インチ-3CMOSセンサー方式.Cマウント方式で図6ライトガイド照明用光源ユニット(Alcon)———————————————————————-Page81054あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(48)通常の顕微鏡用アダプターに接続できる.b.IkegamiMKC300HD前者と同じ3CMOSセンサー(1/3インチ)を用いた最新のフルハイビジョン対応医療用小型カメラ.本カメラに合わせて開発された同社の手術顕微鏡用アダプター:VA-300を用いて接続すれば,焦点合わせがより厳しく求められるハイビジョン撮影でも,オートアイリス機能により焦点深度を深く保って撮影できる.c.ToshibaIKHD11/3インチ-3CCD,Cマウント方式のハイビジョンカメラ.コントロールユニットを分離させ,小型軽量で手術顕微鏡に設置でき,かつ十分な画質の撮影を可能とした初めてのハイビジョンカメラで,2008年に市販された.実際には1,440×1,080画素だが,水平画素ずらし方式によりフルハイビジョン信号として出力する.◆参考:ハイビジョン,フルスペック・ハイビジョン規格電子情報技術産業協会(JEITA)は,垂直650画素以上の映像を「ハイビジョン」と定義しているので,それにはいくつかの段階の画質の規格がある.フルスペックハイビジョンとは特に,1,920×1,080画素の映像のことをいう.多くの「ハイビジョン」レコーダーやPCのキャプチャーボードは,外部入力からはそれより低い1,440×1,080画素の映像を録画する.フルスペックハイビジョンカメラの手術映像をそのままの画質で録画できるのは,現状ではプロフェッショナルディスク(XD-CAM)に限られる.2.ハイビジョン手術映像の記録法:記録装置と記録メディアa.HDVビデオテープレコーダー(図7c)ハイビジョン映像を圧縮してHDV規格の映像信号をビデオテープに録画する.i.Link端子で外部機器と記録データが送受信できる.メディアは,従来のDV,DV-CAMビデオテープがそのまま利用できる.i.Link端子への入力は,ビデオカメラからの標準ハイビジョンデジタル信号(SDI)を専用の変換ボードを用いてHDVに変換して行う.◆参考:HDV規格2種類の規格がある.HDV1080i(1,440×1,080画素,秒間59.94フィールド,走査線1,080本インターレース映像,25Mbps:MPEG-2)は,従来のテレビ規格(NTSC)と同じ走査方式を用いているため,既存機器との互換性,利便性が高く汎用されている.HDV720p(1,280×720画素,秒間60フレーム,走査線720本,19Mbps:MPEG-2)はそれより画素数の少ないプログレッシブ映像の規格.?????PDW-75MD廬蛬?????BRU-H700(廬蛬????HFBK-TS1)CMOSfullHDCameraSONYPMW-10MD3CMOSfullHDCameraIkegamiMKC-300HD3CCDHDCameraToshibaIK-HD1SDIHDV(i.Linc)PF-D(ProfessionalDisc)XDCAM????PDW-U1HDVテープレコーダーSONYHVR-M15AJPC???a?USB(2.0)?HDV(i.Linc)SDIHDV(i.Linc)????軫畑????????図7ハイビジョン顕微鏡手術映像撮影のためのシステム構築プランa:医療用小型ハイビジョンカメラb:XD-CAM(プロフェッショナルディスク)c:HDVビデオテープレコーダーd:映像サーバ(ハードディスク:HDD)※:HD-SDI⇔HDV:変換ボード/変換ユニットカメラから出力される標準ハイビジョン信号(SDI)は,HDV(i.Linc)信号に変換することによって,家庭用ビデオカメラと同様に,HDVビデオテープや一般のコンピュータなどへの入出力が容易になる.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091055(49)b.ブルーレイディスク(BD)レコーダー青紫色半導体レーザーによりDVDの5倍の大容量記録を可能とした光ディスク(1層25GB,2層50GB:技術的には200~400GBまで可能)レコーダーである.民間用のいわゆるブルーレイディスクレコーダーは,映像ライセンス保護の観点から入出力信号の規格が制限されている.映像信号の入力はi.Link端子(機器により制限あり),モニター映像出力はHDMIとよばれる民間向け専用の映像出力規格で行われる.手術映像記録は通常フルハイビジョンではない.メディアの信頼性,転送速度などのグレードの抑えられた民間消費者向けの規格である.c.ハードディスク(HDD:図7d)一般には,HDV規格の映像信号をi.Linkでパソコン(PC)入力し,HDDにデータとして録画することが多い.近年,テラバイト(TB)単位の大容量HDDが安価で利用できるようになったため,手術映像の録画にビデオテープやディスクを用いず,電子カルテと同様にHDD映像サーバーに入力して,閲覧は各PC端末からアクセスするワークステーション形式を構成するのも手術映像管理の一つの選択肢となる.省スペースで大量の映像信号が保存でき,必要に応じてブルーレイディスクやプロフェッショナルディスクへ複製して携帯,保管することもできる.しかし,HDDの高画質映像ファイルのデータ量は膨大である.安全のために常に2系統のHDDを併設するが,それでもクラッシュによるデータ消失の危険は常に存在するため,確実で永続的な映像保存という観点からはやや不安が残る.d.XDCAM:プロフェッショナルディスク(HDD:図7b)BDと同様の青紫色レーザーによる光ディスクで,構造・容量はBDにきわめて近いが互換性はない.現在,フルハイビジョンで手術映像を記録できる唯一の規格であり,データ保持寿命は50年以上といわれ,映像コンテンツの永久保存を必要とするスポーツ,映画,放送業務の各分野の映像記録メディアとして今後公式採用されていく見込みである.ハイビジョン映像の今後の標準記録フォーマットといえるが,メディアがまだ高価である点は問題である.医療用XD-CAMレコーダー:SONYPDW-75MDメディカル用向けのXD-CAMレコーダー.カメラからのフルハイビジョン映像標準デジタル信号(SDI)は,そのまま変換なしで入力され記録される.HDV相当に情報量を落として,より長時間(190分)記録することもできる.XD-CAMドライブ:SONYPDW-U1XD-CAMディスクに記録された映像をPCで読み取るための小型ドライバー.USB(2.0)接続でPCに接続し,PCモニター上で手術映像を閲覧したり,付属ソフトを用いて簡易編集ができる.3.顕微鏡手術映像システムの展望従来のビデオ映像はもっぱら,見学者にモニターで供覧したり,録画保存することを目的として用いられてきた.しかし近年,肉眼機能を超える超高感度,超高精細な映像システムが開発されてきており,近未来的に,手術顕微鏡は,従来の接眼レンズを通した肉眼観察をはるかに超える観察システムに進化する可能性が示唆されてきた.術野の観察のみならず,検査画像情報などを付加表示することも可能で,すでに脳神経外科では,脳腫瘍手術の際,顕微鏡映像に腫瘍の位置を示すMRI画像を重ねて表示する手術支援システムが臨床で用いられている6).白内障手術では,たとえば,トーリック眼内レンズ手術の際に,乱視軸方向をマークした検査機器からの映像を,手術映像にスーパーインポーズして示す,などの応用法がすぐに想定される.眼科手術顕微鏡映像システムの実現の条件は,高精細カメラ,高性能モニター,高性能立体観察システムの開発である.a.ビデオカメラハイビジョンカメラ映像システムの可能性現在汎用されているカメラ用ビームスプリッターのカメラへの分配比率は20%程度が主流である.もしもその映像が高精細で手術操作に耐えうるものであれば,単純に現在の水準のカメラをそのまま用いても照明光量は肉眼観察の5分の1ですむ計算となる.手術が実際に行えれば大きな利点となる.超高感度高精細カメラ:SuperHARP管NHK放送技術研究所の谷岡らが開発した超高感度高———————————————————————-Page101056あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009精細カメラで,すでにMiyakeら7)は,ハイビジョン立体ビューワー(望月:NHK-ES8))と組み合わせた眼科手術顕微鏡システムを用いることにより,きわめて低照度で眼科顕微鏡手術が行える可能性を報告している.現在はまだカメラ本体が大型できわめて重量が重く高価なため実用段階にないが,近い将来,小型軽量の固体HARP管が完成し,実用化される見込みである.超高感度高精細カメラを用いた超低照度手術は,特に眼科領域では,光毒性の問題からも,患者に苦痛の少ない手術の実現の点からもきわめて有用であり,今後の実用化が期待される.b.高品位高精細モニターハイビジョンカメラで白内障手術に必要な映像が撮像できるものと仮定すると,立体映像観察システムの実用化は,ひとえに小型高精細モニターの開発にかかっている.上記のハイビジョン立体ビューワーでは6.5インチ程度の大きさのモニターを用いた場合が最も観察しやすいが,現在の液晶モニターカラーフィルター方式でフルハイビジョン表示を行うためには最小で24インチ相当の大きさを必要とするため,小型のモニターでは十分な観察映像の表示は不可能である.それに対して近年,フィールド・シーケンシャル方式により,6.5インチモニターでフルスペックハイビジョンを表示する革新的なモニターが開発された9).現在筆者はそのプロトタイプを用いた立体ビューワーシステムを観察用として試用している.本モニターが利用できれば,眼科手術顕微鏡や細隙灯顕微鏡にハイビジョン立体映像システムの利点を生かした臨床応用が実現できる可能性があり,その製品化の実現を切に期待する.c.立体映像観察システム外科内視鏡手術分野では,単カメラの2次元映像だけでも,ある程度十分な手術が行える.しかし,眼科手術は,術野が微細なうえに立体観察が操作に不可欠であるため,モニター映像で手術を行うためには,高精細高品位な立体観察を可能とするシステムが不可欠である.2009~2010年現在,映画,放送分野の各業界は,配信映像の立体化を今後の主要な目標に位置づけ,近々の配信に向けて全力で準備を進めている.主要な方式は,円偏光眼鏡が予定されているが,より疲労感の少ない立体映像が近々,配信される予定である.立体映像観察システムの基本は,視差のついた異なる左右の顕微鏡観察映像の分離観察であり,最も原始的な赤・青眼鏡方式(アナグリフ方式)のほか,以下のような方式がある10).1)高速液晶シャッター方式(アクティブ方式):画面(50)図8ハイビジョン立体映像撮影システム(文献8より一部改変)(写真は旧型で大型のSONYHDC-X300:現在はずっと小型のSONYPMW-10MDが最適な選択)a:ビームスプリッター・アダプターレンズユニットを介してカメラを設置する.b:ハイビジョンカメラとステレオ・ビームスプリッター・アダプターレンズユニット.瞭瞭11)カメラ×2台で左右の顕微鏡映像を撮影し,ハイビジョン1画面に映像を合成表示するシステム2)1台のハイビジョンカメラでのステレオ立体映像撮影システム———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091057に同期して左右交互に高速開閉するシャッターを備えた眼鏡を装用する.2)偏光方式(パッシブ方式):水平・垂直または逆回りの円偏光で左右の映像を分離する.後者は,観察者が顔を傾けても立体観察が保たれる利点がある.これらの方式は,光量または観察精度が低下するが,不特定多数の観察者への供覧に適している.特に偏光眼鏡は簡便で汎用性が高い.3)左右1画面合成方式(望月):16:9の横長のハイビジョンの1画面に,左右光路の顕微鏡映像の水平幅を半分にした8:9映像を並べて表示し,プリズム立体ビューワーで観察する.観察光量の低下がなく,長時間観察しても他の立体ビューワーに比して疲れにくいのが特長であり,脳神経外科領域ではすでに臨床応用されている.また,手術顕微鏡の視野も角膜も,形は円であるため,水平方向は幅が半分で正方形に近い画面(8:9)にして左右を2つ並べたほうが,横長のハイビジョン全画面(16:9)を有効に活用できる.映像から静止画を作成すれば,ステレオ立体写真となる.実際の手術顕微鏡映像の撮像方法には,2台のカメラを術者の左右の観察光路に設置して,両者の映像を映像信号処理で1画面に合成する方法〔図8の1)〕と,左右の観察光路からの光束をステレオレンズアダプターを用いて1台のカメラの画像素子に写し込んで撮影する方法〔図8の2)〕がある.筆者は,2)方式のハイビジョン立体モニター(量販製品あり)を手術室や医局に設置して見学者や医局員へのモニター供覧と教育用途に,3)を未来の手術顕微鏡システムへの臨床応用に利用したいと考えている(図9).文献1)野田徹:手術顕微鏡.眼科診療プラクティス71:32-40,20012)野田徹:網膜硝子体手術における眼底観察法の進歩.あたらしい眼科24:37-46,20073)大鹿哲郎:手術用顕微鏡OPMILumera.眼科手術21:463-466,20084)野田徹:映像信号とそのデジタル化.眼科診療プラクティス33:84-87,19985)家入里志,橋爪誠:ロボット手術の現状.外科治療101:7-14,20096)森田明夫,光石衛,割澤伸一ほか:深部脳神経外科支援ロボットMM1.Newton(日本語版)9:76-83,20047)MiyakeK,TaniokaK,MochizukiRetal:Applicationofanewlydeveloped,highlysensitivecameraanda3-dimen-sionalhigh-denitiontelevisionsysteminexperimentalophthalmicsurgeries.ArchOphthalmol117:1623-1629,19998)望月亮:ハイビジョン立体視手術顕微鏡システム.立体映像技術─空間表現メディアの最新動向,p149-153,本田捷夫(監),シーエムシー出版,20089)関秀廣,市川了子,濱久保百合子ほか:LEDバックライトを用いたフィールド・シーケンシャル・カラーOCB液晶ディスプレイ.月刊ディスプレイ12(7):49-53,200610)本田捷夫:立体映像表示技術─2眼ステレオ方式の原理と実現法.立体映像技術─空間表現メディアの最新動向,p.5-15,本田捷夫(監),シーエムシー出版,2008(51)図9ハイビジョン立体ビューワー左右のカメラ映像は1つのハイビジョン画面にならべて合成表示され,立体視ビューワー(プリズム+凸レンズ)で観察する(望月,NHK-ES).a:術者用手術顕微鏡に接眼鏡と併設した立体視ビューワー.b:ビューワーを設置すれば,術野から離れた場所で術者と同じ立体手術映像が観察できる.c:不特定多数の観察者に映像を供覧するためには,偏光表示方式の大型ステレオ立体モニター(Hyundai社E465SV:46型3D映像対応TV)に立体信号を出力して偏光眼鏡をかけて観察する.acb

粘弾性物質の進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY図1に示す.粘弾性物質とは粘性(viscosity)と弾性(elasticity)の両方の性質をもっている物質のことで,粘性とは液体にみられる,一定の応力を加え続けると流動し始める性質(水など),弾性は固体のように,一定の応力を加えると歪みが生じ,力を取り除くと元に戻ろはじめに粘弾性物質は眼科領域の手術では,すでに必須アイテムとしての存在であり,最近では眼科手術補助剤の意味としてophthalmicviscosurgicaldevice(OVD)ともよばれている.特にこの10年間では,含有物,濃度により,性質の異なる粘弾性物質が登場し使用方法,手術方法にもさまざまな進化,応用が広がり,白内障手術の安全性が向上した1).本稿では,OVDとしての粘弾性物質の進化と白内障手術に対する使用方法を述べる.I粘弾性物質とは?OVDについて理解するうえで,必要な用語を表1,(33)1039iyoshiIshii33800018333特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10391045,2009粘弾性物質の進化EvolutionofOphthalmicViscosurgicalDevices石井清*表1用語解説分類用語解説固体の性質弾性(elasticity)外力が加わると変形し,外力を取り除くと元の形に戻る性質応力(stress)ひずみに対応する力例:ゴムを引っ張るときの力液体の性質粘性(viscosity)液体は同じ外力を受けても流れる速度は液体の種類により異なる.これは液体に内部摩擦抵抗が存在するからであり,この内部摩擦のことずり(剪断)応力(shearingstress)流れをひき起こす単位面積当たりの力(図1)ずり(剪断)速度(shearingrate)単位距離当たりの速度変化(図1)現在のOVD性状分散型(dispersive)分子同士が固まらず離れようとする特性凝集型(cohesive)分子同士が互いに集まろうとする特性多数の分子があたかも1個の物質として挙動する性質Viscoadaptive型低いずり速度では高凝集型で滞留力強く,高いずり速度では分子の塊が破砕され流れる挙動を示す面から中までの距離ずり応力一速い流れき=ずり速度図1ずり(剪断)応力と速度の関係———————————————————————-Page21040あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(34)ととなる.IIIこの10年の進化(表4)1.効能効果の変更承認当初は眼内レンズ挿入時と全層角膜移術植における手術補助剤として採用され,さらに超音波乳化吸引術(PEA)時に使用することにより角膜内皮保護作用があることがしだいに取り上げられ,1998年より効能効果に白内障手術における手術補助が加えられ,それに伴いシリンジ内容量も0.4ml程度から0.61.1mlまで増量され,手術開始時から使用することが可能となった.2.分散型,Viscoadaptive型OVDの登場OVD濃度がすべて1%のみであった時代は,粘性と弾性は分子量が高くなるほど増加するとされており,分子量の差によるOVDの性状のみが注目されていた.しかし1999年に分散型OVD(ビスコートR),2003年にViscoadaptive型OVD(ヒーロンRV)が発売され,OVDの性状の違いが明瞭になり使用方法にも変化が訪れる.3.21世紀のOVD分類と種類(表5)現在の臨床上は粘性,弾性の性質よりも①分散型,②凝集型,③Viscoadaptive型に大別し使用される.分散型は絡み合う力が弱いShortpastaのように固まらずバラバラになる性質で,凝集型は絡み合う力が強くLongうとする性質(ゴムなど)を示している用語である(図2).II眼科での応用経緯(1998年まで)この10年の進化の前の歴史を簡便に示す(表2).ヒアルロン酸の発見から眼科応用されるまで約半世紀の期間が必要であった.20世紀後半,眼内レンズ(IOL)挿入時に,水晶体と前房を十分形成する物質が望まれた.さらに液体のように前房内に入れやすい粘性と,ある程度の前房形成を保つことのできる弾性をもち,また前房内操作性も重要視されるため,透明性があり,かつ細胞に対する毒性がないことも条件となった(表3).そして1979年鶏冠からヒアルロン酸ナトリウム(分子量200万dalton)の大量生産が可能となり一気に広まるこ図2粘弾性物質の性質イメージ左:粘性をもつ液体,右:ゴムのような反発固体.表21998年以前のヒアルロン酸ナトリウムの眼科での導入の変遷年代保険適用までの変遷1930年代Meyer硝子体および臍帯からヒアルロン酸を分離1942年Balazsウシの滑液から粘性ヒアルロン酸を産出1958年Hruby網膜離に使用(失敗)1966年Balazs鶏冠から純粋な分離精製に成功1977年Millerウサギ角膜内皮効果1979年Stegmannヒト角膜内皮効果1979年Stegmann鶏冠より大量注出成功1979年FDA眼科用医療用具として承認1986年*厚生省眼内レンズ挿入術・全層角膜移植術における手術補助剤として承認1992年厚生省眼内レンズ挿入術保険適用*:全層角膜移植術のみ保険適用.表3粘弾性物質の求められる条件性質求められる条件透明性非常にclear粘性簡便な前房内への注入弾性前房形成能力の高さ毒性限りなくゼロ表41998年以降のOVDの変遷年代1998年以降厚生省白内障手術における手術補助の適応追加内容量の増加1999年分散型OVD(ビスコートR)発売2003年Viscoadaptive型OVD(ヒーロンRV)発売———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091041(35)ある.組織に粘り付く性質上角膜内皮面を覆い,白内障手術時の角膜内皮保護効果が強く,蜂蜜様の粘度を想像していただくとわかりやすく,溶け出すように吸引される.しかし分散型のみでPEAを施行した場合,虹彩裏面までOVDが付着し完全な除去には時間がかかる点とairや核片などをトラップしやすく,前房内視認性にやや難がある(図46).②凝集型OVD:濃度はすべて1%ヒアルロン酸であるが,高・中・低分子量の製剤があり若干性質が異なる.前述のように分子量が高くなるほど弾性が向上し前房の形成能力は上昇するが,前房滞留能は①に比べると低くなるため,hydrodissectionにて前房から一塊になって前房から流失しやすく,必要に応じて再注入することが望まれる.③Viscoadaptive型OVD:②の凝集型の2.3倍の高濃度ヒアルロン酸で,非常に強い前房形成能を有している2).しかし,従来の粘弾性物質よりも前切開時に前に対する加圧が強く,切開された前のコントロール,つまり滑りにくいため,Arshinoは粘弾性物質を前房内に注入後,灌流液を水晶体との間に入れ,前の処理を容易にする方法(ultimatesoftshelltechnique)を紹介している(図7)3).またこのOVDは創口から眼外へ漏出することが少ないため,hydrodissection時に灌流液を急に注入すると,後破損をきたす可能性もあpastaのように絡みつきやすい(図3)性質と表現され,Viscoadaptive型は状況により分散型,凝集型の両者の性質をもつとされている.4.各種OVDの性質と使用方法ここからは各OVDの種類と特性およびその役割,選択について述べる.①分散型OVD:1999年にビスコートRとして発売された,ヒアルロン酸+コンドロイチン硫酸化合剤であり,コンドロイチン硫酸がずり(剪断)速度の影響を受けず一定の粘度を示すため(つまりいつまでもドロドロ),他のODVと比較し非常に粘性が高いのが特徴で表521世紀のOVDの分類,種類分類製品名分子量(dalton)含有物,量(1ml中)容量(ml)分散型ビスコートRHN(50万)CN(2.25万)HN30mg(3%)CN40mg(4%)0.5凝集型ヒーロンRオペガンハイRプロビスクRハイビスコRオペリードRHV高分子(190390万)HN10mg(1%)0.4,0.6,0.850.7,0.850.4,0.7,0.850.7,0.850.85オペリードR中分子(150220万)HN10mg(1%)0.5,0.6,1.1オペガンRビスコケアR低分子(60120万)HN10mg(1%)0.6,1.10.6Viscoadaptive型ヒーロンRV高分子(400万)HN23mg(2.3%)0.6HN:ヒアルロン酸ナトリウム,CN:コンドロイチン硫酸ナトリウム.図3分散型と凝集性の性質のイメージ左が分散型,右が凝集型.———————————————————————-Page41042あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(36)すように吸引されるのではなく,吸引口付近のみのOVDが部分的に吸引除去される.したがってPEAの際に吸引流量22ml/min以下に設定することにより,PEA時にOVDが十分に前房内滞留することにより角膜内皮保護作用が高くなり,IOL挿入以降は流量を23ml/min以上に設定することにより凝集型の要領で吸引することができる.しかしIOL裏面の残存OVDは眼圧上昇必発であるため,I/A(irrigation/aspiration;灌流吸引)チップをIOL後面に挿入し吸引する〔behindthelens(BTL)法,図10〕4)を行うことが推奨されている.IV複数の粘弾性物質を組み合わせた使い方のコツ①分散型,②凝集型,③Viscoadaptive型のOVDをるので,ゆっくり注入することも肝要である(図8,9).そして,Viscoadaptive型OVDの最大の特徴は,その名の示すとおり①前房内では吸引流量が22ml/min以下では分散型,23ml/min以上で凝集型の粘弾性をもつとされていることである.実際は①の分散型の溶け出①①②図4ビスコートR使用時の留意点(模式図)①:隅角周辺虹彩裏面の残存ビスコートRによる核片の留置,②:Airのトラップによる視認性低下.図5豚眼におけるビスコートRの残存モデルフルオレセイン染色したビスコートRを前房内に置換後,I/Aにて吸引.吸引流量を増加させても角膜裏面に付着しているのが観察される.残存皮質の癒着図6皮質の前房内での接着虹彩表面,隅角への皮質の接着が観察される.ab7Ultimatesoftshelltechnique法(豚眼)a:粘弾性物質を前房内に注入した後,フルオレセインで染色した灌流液を注入する.b:Viscoadaptive型OVDと水晶体の間の染色灌流液が確認できる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091043(37)2.角膜内皮細胞減少,脆弱症例分散型と凝集型を組み合わせたsoftshelltechnique5)(図12),もしくは分散型とViscoadaptive型を組み合実際の症例に応じて,組み合わせ,さらに使い分けすることが可能となったのはこの10年間の最大の進化であり,以下使用方法とコツを述べる.1.破時の核,皮質処理前房内に残留したOVDの分子量,濃度が高いほど術後眼圧上昇を招くので,まず分散型OVDで脱出硝子体を後下へ押し戻し,その後凝集型を用いて前房形成し核処理(弁出),皮質吸引を行う.特に上方の残存皮質は,術後吸水膨化し,術後炎症を悪化させるだけでなく,瞳孔領へ侵入した場合の術後視力不良が免れず,硝子体中へ落下した場合は術後の飛蚊症必発である(まさに泣き面に蜂).残存皮質吸引時は低吸引流量,もしくは27ゲージ針を用いて引き出すことにより,前房虚脱を避け手術を比較的容易に継続できる(図11).図8Hydrodissection染色した灌流液が前房内のViscoadaptive型OVDを眼外へ漏出することなく,内に入る様子が観察される.図10Behindthelens(BTL)法IOL後面の残存Viscoadaptive型OVDの吸引の様子.前房側のOVDがIOLの挙動を制御するので,後側の吸引が容易となる.図9過剰な灌流液による後破損(模式図)脱出硝子体分散型OVD凝集型OVD凝集型OVD27G針切開創前方前?下の残存皮質Sideport残存皮質硝子体①②③④図11後破時のOVDの使用方法と処置①:破部位からの脱出硝子体と残存皮質.②:分散型OVDは眼圧上昇しにくいので遠慮なく硝子体中まで入れ脱出硝子体を後下へ押し戻す.③:凝集型OVDで水晶体を形成.④:Sideportより27ゲージ鈍針にて,残存皮質を引き出し吸引除去する.(文献1「眼科診療のコツと落とし穴①」より,改変引用)———————————————————————-Page61044あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(38)置換した状態に保つようゆっくり注入する(図15a).IOL挿入後のOVDの吸引除去は灌流液ボトルを40cm程度まで下げ前房内への必要以上な圧力を避けOVDわせたultimatesoftshelltechnique3)は,分散型OVDがPEA中,角膜内皮側をコーティングし内皮細胞保護作用を発揮する.後者は吸引流量20ml/min,ボトル高55cm以下となる低PEA設定が可能な場合,前房内Viscoadaptive型OVD残留による効果も引き出すことができる.3.前房保持能が必要な症例浅前房,小瞳孔,IOL摘出交換などの十分な作業空間が必要な症例(図13)と過熟白内障の前房染色時,術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativeoppy-irissyn-drome:IFIS)にはViscoadaptive型の使用が推奨される(図14)6,7).またZinn小帯脆弱症例でもViscoadap-tive型が有用な一面をみせる.水晶体を適度に膨らませ,かつ必要以上に押し下げぬよう,前房内をOVDで①②図12Softshelltechnique法①:ビスコートRを0.1mlほど注入の後,②:凝集型OVDを注入する.①②図13十分な前房形成能を必要とする症例①:IFIS症例に対するMalyuginringの装着.②:剪刀による前の部分切開.十分な前房形成が得られている.図14成熟白内障への使用例膨張した水晶体を十分抑え前房を保ちながら,乳化皮質の吸引をI/Aチップで行う.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091045が前房内充物として作用し,前房内から一気に流失するのを防ぐためSimcoe針を用いて除去する(図15b).4.角膜表層状態の悪い場合(図16)分散型OVDを角膜面に塗り角膜表層の凹凸を均一化することにより,前房内の視認性が向上する.おわりにこの10年間で新しいOVDが誕生し,それぞれの特性を理解し,症例による使用方法により,眼内への侵襲を抑えることが可能となり,きわめて良い手術予後が得られる時代が到来したと思われる.文献1)石井清:粘弾性物質の種類と選択.眼科診療のコツと落とし穴①手術─前眼部(樋田哲夫,江口秀一郎編),p8-9,中山書店,20082)MamalisN:OVDs.viscosurgical,viscoelastic,andviscoad-aptive.WhatdoesthismeanJCataractRefractSurg28:1497-1498,20023)ArshinoSA:UsingBSSwithviscoadaptivesintheulti-matesoft-shelltechnique.JCataractRefractSurg28:1509-1514,20024)TetzMR,HolzerMP:Two-compartmenttechniquetoremoveophthalmicviscosurgicaldevices.JCataractRefractSurg26:641-643,20005)ArshinoSA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.JCataractRefractSurg25:167-173,19996)ChangDF:UseofMalyuginpupilexpansiondeviceforintraoperativeoppy-irissyndrome:resultsin30consec-utivecases.JCataractRefractSurg34:835-841,20087)OettingTA,OmphroyLC:Modiedtechniqueusingexibleirisretractorsinclearcornealcataractsurgery.JCataractRefractSurg28:596-598,2002(39)ab図15Zinn小帯断裂例a:必要以上に水晶体を押し下げず,前房内をOVDで置換する.b:IOL挿入後のSimcoe針を用いたOVDの吸引.図16角膜混濁症例に対するビスコートRの塗布ビスコートRを満遍なく塗布すると眼内の視認性が上がる.

白内障手術補助器具の変遷と進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYとなっている.このことから2.8mm以上の切開創から2001年に若干小切開化が進み,バイマニュアルによる白内障手術が出現1,2)し,2005年前後から極小切開からのコアクシアルの超音波白内障手術3)が行われるようになってきていることがわかる.最近ではマニー株式会社のように1.03.5mmまでほぼ0.1mm刻みのサイズでスリットナイフを生産している会社もある.また,スリットナイフだけでなく,クレセントナイフやサイドポート作製のためのMVR(microvitreoretinal)まで,切れ味や剛性の向上のため各社ともナイフの形状や製法を改良している4,5)ほか,刃先のコーティングなども改良しているが,詳細は明らかにされていないことも多い.2005年からは使用時以外は刃先をハンドル内に収納でき,安全性を向上した製品(セーフティーナイフ,図2)なども日本ベクトン・ディッキンソン株式会社やカイインダストリーズ株式会社,フェザー株式会社などから販売されている.II前鑷子前鑷子(図3)も進歩し改変が続いている白内障手術器具の一つである.1995年頃Duckworth&Kent社より稲村式カプシュロレクシス鑷子6)が発売され,白内障手術の小切開化に伴い改良されバージョンアップしながら現在でもたくさんの眼科医に使用されている.その後サイドポートから容易に挿入可能な23ゲージの池田式マイクロカプセル鑷子7)がEyeTechnology社より河はじめに白内障手術の技術の進化は著しく,小切開白内障手術から最近では極小切開白内障手術(micro-incisioncata-ractsurgery:MICS)に移り変わってきている.白内障を行うにはもちろんフェイコマシンは必須だが,その他にさまざまな補助器具を使用する.補助として使用する手術器具にはさまざまなものがあり,歴代の眼科医がいろいろなアイディアを絞って生まれてきたもので,現在でも頻用されているものがたくさんある.今回は手術器具の進歩についていくつかの企業にも協力していただき,調査を試みた.たくさんのものがあるため,正直なところすべてを調べきれている自信はないが,できるだけこれまでの歴史を振り返ってみよう.(発売年度に若干のずれがある可能性があるが,ご勘弁願いたい.)Iマイクロサージェリーナイフ(スリットナイフ,他)手術器具の進歩と言えばスリットナイフの進歩は著しい(図1).白内障手術の切開創が小さくなるたびに小さい創口を作製するナイフが生産されてきた.スリットナイフの発売時期を調べるといつ頃から白内障手術の小切開化が進んだかよくわかる.たとえば,AMO社が発売しているスリットナイフを調べると1999年発売当初より2.83.2mmのナイフが作られていたが,2001年6月に2.65mm,2005年10月に1.4mm,1.6mm,2006年6月に2.2mm,2.4mmのスリットナイフが販売開始(25)1031iii3210293880特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10311038,2009白内障手術補助器具の変遷と進化HistoryandEvolutionofSurgicalToolsforAssistingCataractSurgery松島博之*———————————————————————-Page21032あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(26)FGABCDE正面拡大像側面図1各社スリットナイフの形状比較AEが2.8mm,FとGが1.4mmスリットナイフの先端形状を示す.同じスリットナイフでも各社で異なった製法をしており,先端形状は大きく異なる.A:SU28AG(AMO社),B:ClearCutHP(Alcon社),C:MSL28(マニー社),D:72-2831(Sharpoint社),E:CLEARCORNEA(ベクトン・ディッキンソン社),F:SU14(AMO社),G:P-7614(フェザー社).図2セーフティーナイフ必要時以外はカバーをすることで安全にメスを取り扱える.必要時は右図のように先端をカバーから出して使用する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091033(27)ルの原案が生まれ,改良を重ねて“分割君”(新川橋フック,イナミ)が発売11)された.現在も最も売れている核分割スパーテルの一つであり,Divide&Concur法に有効な補助器具となっている(図6).1993年には永原・三好式フェイコチョッパー(Geuder社)が生まれフェイコチョップ法には現在も主流の分割器具として使用されている12).その他にも図5に示すようにさまざまな核分割スパーテルが考案され,変遷を遂げている13).最近では核分割後の水晶体片の角膜内皮細胞への衝突を防ぐために開発された福山・吉富式核分割コブラシャフトスパーテル14)(イナミ社)もそのユニークな形から印象深い.バイマニュアル白内障手術のためには灌流がついたイリゲーションチョッパーが開発された.核分割はあらかじめ核を分割し,1手法での効率的な超音波乳化吸引を可能にした赤星式フェイコプレチョッパー15)(図7,Duckworth&Kent社)も有名である.プレチョッパーは1996年頃から発売されているが先端形状も改良が加わり,先端面積を増加することにより,軟らかい核でも分割を可能にしている.その他,先端が長方形形状で平らな核分割鑷子は核分割が苦手な初心者が溝掘り後に核分割を行うのに有効(図8)である.IV瞳孔拡張小瞳孔はしばしば遭遇する術中合併症で,対応法に苦慮する.条件を改善するためには瞳孔拡張をしなければ合式CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)鑷子8)がASICO社,イナミ社より発売され,使用頻度が増加傾向にある.これらのマイクロカプセル鑷子は,前切開が流れたときのリカバリーや後CCCなどに有効であり,MICSによる白内障手術の質の向上に伴い必要な手術器具の一つとなってきている.前鑷子と関連して前染色も白内障手術進化に貢献した技法の一つである.インドシアニングリーン9)とトリパンブルー10)の2種類の色素を使用する方法があり,過熟白内障など進行した白内障の前切開(図4)に有効である.III核分割器具超音波白内障手術は2手法になり格段と手術効率が良くなった.図5に各種分割スパーテルを示す.1990年に総合新川橋病院の德田,吉富によって核分割スパーテ稲村式カプシュロレクシス鑷子河合式CCC鑷子図3前鑷子2種類の前鑷子の先端形状を示す.図4トリパンブルーによる前染色トリパンブルーで前染色をすることで視認性が悪い状態でも前切開ができるようになった.———————————————————————-Page41034あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(28)図6術式と分割スパーテルの使い分け白内障術式の相違で分割スパーテルを使い分けることが大切である.例をあげると溝掘り後の分割には分割君(新川橋フック)のような先端面積が大きいもののほうが分割しやすい.フェイコチョップ法では先端が細く長いスパーテルが使用しやすい.左図は先端が分割君形状をした核分割コブラシャフトスパーテルによる核分割,右図は永原・三好式核分割スパーテルによるフェイコチョップを示す.図5各種核分割スパーテルさまざまな形状の核分割スパーテルが開発されている.術式に合わせて先端形状が工夫されている.左側および中央の4つのスパーテルはDivide&Concur法で溝掘り後の核分割に有効である.右側の2つのスパーテルはフェイコチョップ法に有効である.分割君(新川橋フック)分割スパーテル永原・三好式フェイコチョッパーMフック核分割用フック中京式スパーテル福山・吉富式核分割コブラシャフトスパーテル———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091035(29)ションリングは挿入が困難であったがテンションリングインジェクター(Geuder社)が開発され,比較的容易に挿入できるようになった.しかし,Zinn小帯断裂の範囲が広いときはカプセルテンションリングを使用しても超音波による白内障手術が不可能になる場合がある.2003年に小澤,谷口がカプセルエキスパンダー22,23)(はんだや)を開発し,高度のZinn小帯断裂症例でも小切開からの超音波白内障手術が可能(図11)になった.近年ではZinn小帯脆弱例でも予防的に使用することで術中合併症を抑制できるため注目されている.VIその他その他開発された器具をあげればきりがない.開瞼器も欧米で使用されていたものから改良が進み,日本での開発も行われるようになり,手術する環境を容易にしている.ハイドロダイセクションを容易にしたハイドロダイセクション針24)や上方12時部位に残存した皮質を吸引する上方吸引針25)などの開発も白内障手術手技を容ならない.瞳孔拡張をする機器には虹彩リトラクター16)(グリスハーバー社),瞳孔エキスパンダー17)(EagleVision社),ベーラー氏瞳孔拡張器18)(Moria社)などがある.これらの方法は術中の散瞳は得られるが,術後に瞳孔が散瞳したままの状態となり,羞明を伴うことがある.最近では,八重氏マイクロ虹彩剪刀19)(EyeTech-nology社)を用いた瞳孔スピンデクトミー(図9)が瞳孔拡大に有効で,術後も正常に近い瞳孔径に縮小できる.2006年にロシアのMalyuginが開発したMalyuginring20)(AMO社)もマイルドな瞳孔拡張を得られることから最近着目されている.VZinn小帯断裂Zinn小帯断裂に対応する手術機器も開発されている.Zinn小帯断裂範囲が狭いときはカプセルテンションリング21)(Morcher社)が有効(図10)である.現在では個人輸入で入手するため費用がかさむが近年国内でも販売される可能性があるという情報がある.カプセルテン図7プレチョッパー当初は先端形状が鋭角なプレチョッパーが開発されたが,先端形状を変えることで軟らかい核,硬い核にも対応できるバージョンが作られている.図8核分割鑷子核分割鑷子を使用すると過熟白内障などの難症例でも比較的容易に核分割を行うことができる.———————————————————————-Page61036あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(30)図9瞳孔スピンデクトミー小瞳孔症例には瞳孔縁を細かく切開することで散瞳を得られる.八重氏マイクロ虹彩剪刀が有効で,左右のサイドポートから使用することで360°瞳孔縁を切開することができる.図10カプセルテンションリングZinn小帯脆弱例,Zinn小帯断裂軽度の症例はカプセルテンションリングを使用することでZinn小帯の補強をして,手術を継続することができる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091037易にし,術中合併症を減少させる.単純な構造ではあるが,超音波乳化吸引術中の前房内圧変動を抑制するオペセーバー(サージカルジャパン社)26)も有効(図12)である.白内障手術手技の進化は今後もとどまることがなく,さまざまなアイディアからいろいろな方法が生まれてくるであろう.面白いのはそのアイディアが生まれてくるのは決してベテランの先生ばかりではなく,ビギナーの先生の思い付きからも良い機器が開発されるところである.皆さんもふと浮かんだ新しいアイディアを日本の白内障手術の進歩に役立ててみてはいかがだろうか?本稿執筆にあたり,さまざまな情報を提供していただいた,AMO株式会社,カイインダストリーズ株式会社,イナミ株式会社,エムイーテクニカ株式会社の担当各位,ご意見・ご指導をいただいた大木孝太郎先生(大木眼科),小沢忠彦先生(小沢眼科病院),德田芳浩先生(井上眼科病院),永本敏之先生(杏林大学)に感謝の意を表します.(31)図11カプセルエキスパンダー外傷によるZinn小帯断裂が高度な症例も,カプセルエキスパンダーを断裂部にかけることで,通常の超音波白内障手術を施行できる.図12オペセーバー灌流側にオペセーバーを設置するだけで,前房内圧の安定化を図ることができる.以前のものより軽量化され,扱いやすくなっている.———————————————————————-Page81038あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009以下に各社のホームページアドレスを示す.アールイーメディカル株式会社http://www.re-medical.co.jp/イナミ株式会社http://www.inami.co.jp/エムイーテクニカ株式会社http://www.metechnica.co.jp/カイインダストリーズ株式会社http://www.metechnica.co.jp/日本ベクトン・ディッキンソン株式会社http://www.bdj.co.jp/日本AMO株式会社http://www.amo-inc.co.jp/site/はんだやhttp://www.handaya.co.jp/フェザー株式会社http://www.feather.co.jp/jMedical.htmホワイトメディカル株式会社http://www.whitemedical.co.jp/マニー株式会社http://www.mani.co.jp/モリアジャパン株式会社http://www.moriajapan.com/有限会社サージカルジャパンhttp://www.opesaver.com/※Duckworth&Kent社,Geuder社,EyeTechnology社の製品は日本ではエムイーテクニカ株式会社,ASICO社の製品は日本ではアールイーメディカル株式会社,EagleVision社の製品はホワイトメディカル株式会社で取り扱っている.文献1)TsuneokaH,ShibaT,TakahashiY:Feasibilityofultra-soundcataractsurgerywitha1.4mmincision.JCataractRefractSurg27:934-940,20012)三戸岡克哉:Bimanualによる極小切開白内障手術.眼科手術18:471-476,20053)黒坂大二郎:Coaxialによる極小切開白内障手術.眼科手術18:477-480,20054)松島博之,野堀秀穂:白内障切開創の極小化におけるスリットナイフの精度.眼科手術20:49-53,20075)野堀秀穂,松島博之,高橋佳二ほか:各種スリットナイフによる創形成および切開創への負荷.眼科手術20:247-250,20076)稲村幹夫:稲村式前鑷子.IOL&RS16:352-355,20027)池田宏一郎:サイドポート用前切開鑷子を用いたCCC.IOL&RS16:356-361,20028)河合憲司:白色白内障に対する新型前鑷子.IOL&RS18:245-250,20049)HoriguchiM,MiyakeK,OhtaIetal:Stainingofthecap-suleforcircularcontinuouscapsulorhexisineyeswithwhitecataract.ArchOphthalmol116:535-537,199810)MellesGRJ,deWaardPW,PameyerJHetal:Trypanbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorhexisincat-aractsurgery.JCataractRefractSurg25:7-9,199911)徳田芳浩:眼科手術における切開と縫合:核分割のコツとバイオメカニズムクロス分割の勧め.眼科診療プラクティス44:44-45,199912)永原国宏:超音波白内障手術核乳化(水晶体内二手法)のこつ核分割法.IOL5:283-287,199113)南宣慶:M-フックTMの多角的機能性とその使い方(M-Cutテクニック).あたらしい眼科13:1129-1132,199614)吉富文昭:核分割コブラシャフトスパーテル.眼科手術17:369-370,200415)赤星隆幸:PhacoPrechop新しい核分割手技による一手法手術の再評価.あたらしい眼科16:1219-1233,199916)湯口琢磨,大鹿哲郎,沢口昭一ほか:虹彩レトラクターを使用した白内障手術後の瞳孔動態.臨眼52:1395-1400,199817)猪狩栄利子,水村幸之助,滝澤寛重ほか:小瞳孔白内障手術における瞳孔エキスパンダーの使用経験.眼科手術16:203-206,200318)飯野倫子,市側稔博,大下雅世:小瞳孔白内障手術でのベーラー氏瞳孔拡張器TMの使用経験.眼科手術12:91-95,199919)八重康夫:八重氏虹彩マイクロ剪刀.IOL&RS17:449-452,200320)ChangDF:UseofMalyuginpupilexpansiondeviceforintraoperativeoppy-irissyndrome:resultsin30consec-utivecases.JCataractRefractSurg34:835-841,200821)徳田芳浩:術中合併症の予防と対処:チン小帯断裂.臨眼58(増刊):66-72,200422)小澤忠彦:チン小帯脆弱例に対するカプセルエキスパンダー.IOL&RS18:237-244,200423)小澤忠彦,谷口重雄:チン小帯脆弱例の超音波白内障手術におけるカプセルエキスパンダーの試作.臨眼59:333-339,200524)大木孝太郎,吉富文昭:SW型ハイドロダイセクション用カニューラ.あたらしい眼科19:323-324,200225)常岡寛:術中合併症の予防と対処:皮質吸引困難.臨眼58(増刊):84-89,200426)小出義博,松島博之,大木孝太郎:オペセーバーの効果.IOL&RS21:433-436,2007(32)

眼内レンズの進化

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———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY線)と光軸から離れた所を通る光線(周辺光線)とでは光軸上に集光する位置が異なる(図1).これにより生じるのがSeidelの5収差の一つである球面収差である.角膜は正の球面収差をもつのに対して,若年者の水晶体は負の球面収差を有し,このことにより眼球全体の球面収差を低下させている.加齢により水晶体の球面収差が正になっていくことにより,眼球全体の正の球面収差は増大する.球面構造のIOLは,高齢者の水晶体と同様に正の球面収差をもつため,白内障手術後も眼球全体の球面収差は軽減できなかった.この球面収差を軽減させるために各屈折面の傾斜を変化させて,周辺光線と近軸光線とが同一点に集光するように開発されたIOLが非球面IOLである(図2).元々この手法は天体望遠鏡や写真レンズの分野では古くから用いられてきたが,近年はじめに近年の白内障手術は目覚しい進歩を遂げており,超音波白内障手術とfoldable眼内レンズ(IOL)による小切開白内障手術によってほぼ完成された術式となっている.その結果,現在の白内障手術は白内障を治療する開眼手術から,より質の高い術後視機能を獲得する復眼手術へとその意味合いが変化してきている.IOLの分野においては,従来から用いられてきた球面構造の単焦点紫外線吸収IOLに代わり,さまざまな付加価値を追加したIOLが開発され臨床利用されている.本稿では,これらのIOLのここ数年の進歩について概説する.I非球面眼内レンズ球面構造のIOLでは,光軸近くを通る光線(近軸光(19)1025眼105846131918眼特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10251029,2009眼内レンズの進化IntraocularLensProgress柴琢也*光軸光図1球面IOLによる球面収差(模式図)周辺光線近軸光線入高図2非球面IOLによる球面収差(模式図)———————————————————————-Page21026あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(20)III多焦点眼内レンズ単焦点IOLは調節力が欠如しており,これを解決するために多焦点IOLが以前より使用されてきた.わが国では屈折型多焦点IOLであるArrayRSA40N(AMO社)が2002年より使用可能であるが,コントラスト感度の低下やグレア・ハロといった術後視機能の低下が問題視され4)あまり普及しなかった.しかしここ数年欧米を中心として,新世代の多焦点IOLが開発され良好な臨床成績が報告されている5).これら新しい多焦点IOLは屈折型と回折型の2つの型に大別され,これまでの多焦点IOLに比べてコントラスト感度が向上し,グレア・ハロが軽減し,術後視機能が格段に向上しているといわれている.またそれぞれ利点および問題点があり,片眼ずつそれぞれの多焦点IOLを挿入してそれらを分散させようという試みも行われている(MixingandMatch-ing法).多焦点IOLは遠方の裸眼視力が良好でないとその性能を発揮することができない.そのため術後の屈折度数ずれや,残余角膜乱視があると,良好な術後視機能を獲得することが困難になる.この問題点に対して近年発達している屈折矯正手術を白内障手術後に行い対処する方法も行われている(touchup法).これら新しい多焦点IOLは2007年に屈折型のNXG1ReZoomR(AMO社),2008年にアポダイズ回折型のSA60D3IOLにこのデザインが用いられるようになってきた.ここ数年新たに発売されているIOLは,ほとんどが非球面構造を有している(図3).球面収差を軽減することによりコントラスト感度が高い良好な視機能が得られるとされているが,メーカーにより球面収差の補正量が異なりその評価が行われている1).II着色眼内レンズ従来から用いられている紫外線吸収IOLはヒト水晶体に比べて,可視光線の全領域で透過度が高く,特に短波長光を多く透過している.ヒト水晶体は,加齢に伴い特に短波長光の透過性が低下する.このため,術後に明るさ感覚や色の感覚が異なることが報告されている2).着色IOLはこのことに対処するため,ヒト水晶体に近い分光透過率を取り入れることを目的にわが国を中心に開発された.さらに,短波長光は網膜光障害の原因になることが指摘されている3)が,着色IOLはこの領域の光の透過率を低下させているために,網膜光障害の発生を抑制する効果も期待されている.従来はPMMA(ポリメチルメタクリレート)製の着色IOLのみしかなかったため,白内障手術が小切開化するに伴って使用される機会が減っていった.しかし,数年前よりfoldableIOLの製品が開発され,世界的に多く用いられるようになっている.着色の度合いは各メーカーにより異なっているが,いずれもヒト水晶体よりは分光透過率が高い(図4).非着色IOL206080ヒト水晶体AN6(OWA)SN60WF(Alcon)YA-65BB(HOYA)着色IOL相対透過率(%)波長(nm)020406080100350400450500550600650700図4ヒト水晶体と着色・非着色IOLの分光透過率各IOLは異なる分光透過率を有するが,いずれもヒト水晶体よりも高い.図3非球面IOL各IOLは異なる負の球面収差を有する〔0.27μm(ZA9003),0.18μm(SN60WF),0.17μm(FY60AD)〕.ZA9003(AMO)SN60WF(Alcon)FY60AD(HOYA)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091027(21)V極小切開対応眼内レンズ数年前より,切開幅3.0mm前後の小切開白内障手術よりも,さらに小さな2mm前後の切開創から白内障手術を行う,極小切開白内障手術(micro-incisioncata-ractsurgery:MICS)が行われている7).最初は灌流スリーブを外した超音波チップと灌流カニューラを用いて水晶体摘出を行うbimanualmicrophacoのみが行われていたが,その後になりフレアチップに細いスリーブを装着して水晶体摘出を行うco-axialmicrophacoが登場して選択の幅が広がった6).MICSの開発当初は,水晶体摘出は2.0mm前後の切開創から行うことはできても,ReSTORR(Alcon社),同IOLに非球面構造および着色を付加したSN6AD3ReSTORRAspheric(Alcon社),非球面構造を有する回折型のZM900TecnisTMMultifo-cal(AMO社),2009年に同IOLをアクリル素材にしたZMA00TecnisTMMultifocalAcrylic(AMO社)が相次いでわが国でも発売された(図5).これらIOLは価格面より,現在の日本の保険診療内では使用することができないため,自費診療にて用いられている.IV大光学径眼内レンズ数年前より7.0mmの光学径を有するfoldableIOLが発売されている(図6).このIOLは,大きな光学径を有することにより,眼底検査時により周辺部までの観察を行いやすくなっている.そのため硝子体手術と白内障手術の同時手術時や,眼底疾患を有する症例の術後診察に有用であると考えられている.また,CCC(continu-ouscurvilinearcapsulorrhexis)が予定よりも大きくなってしまったときや,後破損時にIOLを外固定するときなどの術中合併症に対しても適しており,いわゆるレスキューレンズとして重要である.さらに,インジェクターの改良により,光学径が大きくても挿入は2.4mmから3.2mm程度と現在の小切開白内障手術に対応しているため,合併症時以外の通常手術時にも広く用いられている.NXG1(AMO)SA60D3(Alcon)SN6AD3(Alcon)ZM900(AMO)ZMA00(AMO)図5多焦点IOLX-70(参天製薬)VA-70AD(HOYA)図6大光学径IOL両IOLとも光学径7.0mmであり,X-70は球面構造,VA-70ADは非球面構造を有する.———————————————————————-Page41028あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(22)装方法を間違えて術中合併症の原因になってしまうこともある.そういったことに対処すべく開発されたのが,すでにインジェクターにIOLが装されているプリセットIOLである(図8).そのメリットとして,装時の手間が省ける以外に,IOLに触れることなく挿入までを完了することが可能なため,より感染予防に対しては有用であると考えられている8).VII乱視矯正IOL2006年にAcrySofRToric(Alcon社)がFDA(米国食品医薬品局)の許認可を得て,欧米で発売された(図9).このIOLは,シングルピースfoldableIOLであるSN60AT(Alcon社)に柱面度数を追加した構造になっている.そのラインナップは柱面度数よりSN60T3(矯正度数1.50D,角膜面上で1.03D),SN60T4(同2.25D,1.55D),SN60T5(同3.00D,2.06D)の3種類からなる.2009年に入りこれらを非球面構造にしたSN6AT3,SN6AT4,SN6AT5が加わり,わが国ではこのモデルから導入される.使用する際に術者は,web上よりSur-gicallyInducedAstigmatismCalculatorというファイルをダウンロードして,シングルピースのAcrySofRを用いた際の臨床データを入力して,自身の惹起角膜乱視を算出する.つぎに専用のwebsiteのアプリケーションに角膜屈折力,AcrySofRを用いる際のIOL度数,そして先ほど求めた自分の惹起乱視量を入力する.そうすると適切なIOLおよびそれを固定する軸角度が算出される仕組みになっている(図10).IOL挿入時に最低でも3.0mm弱まで切開創を拡大する必要があり,このことが本術式が一般的に行われるための最大の障害となっていた.しかし現在では,極小切開創から安全に挿入可能なIOLがわが国でも用いることができるようになった(図7).いずれのIOLもインジェクターを用いて,2.0mm以下の創口から安全に挿入可能である.VIプリセットIOLFoldableIOLの挿入方法は,鑷子を用いる方法と,インジェクターを用いる方法があり,インジェクターを用いたほうが,必要な切開幅が小さく,IOL挿入時に眼内に細菌を持ち込むリスクを軽減できる.最近のfold-ableIOLの特徴として,インジェクター挿入に対応しているものが多いことがあげられる.しかし,インジェクターへのIOLの装に手間が掛かったり,ときにはPY-60AD(HOYA)図8プリセットIOLインジェクターにあらかじめIOLが装されている(図中矢印).図9乱視矯正IOL乱視軸が光学部にマーキングされている.NY-60(HOYA)SN60WF(Alcon)図7極小切開対応IOL両IOLともインジェクターを用いることにより,2.0mm以下の切開創から挿入可能である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091029(23)おわりにより質の高い白内障術後視機能を獲得するために,現在はさまざまな付加価値を追加したIOLが使用されている.さらに,これらの付加価値をいくつか組み合わせたIOLが主流となっている.IOLの選択は症例に最も適した付加価値を考慮して行う必要があり,術者はそれらについて十分に理解して選択・使用することが求められている.文献1)BellucciR,ScialdoneA,BurattoLetal:VisualacuityandcontrastsensitivitycomparisonbetweenTecnisandAcry-SofSA60ATintraocularlenses:Amulticenterrandom-izedstudy.JCataractRefractSurg29:652-660,20052)三戸岡克哉:眼内レンズの色感覚.Vision11:75-79,19993)ErnestPH:Light-transmission-spectrumcomparisonoffoldableintraocularlenses.JCataractRefractSurg30:1755-1758,20044)PiehS,WeghauptH,SkorpikC:Contrastsensitivityandglaredisabilitywithdiractiveandrefractivemultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg24:659-662,19985)PeposeJS,QaziMA,DaviesJetal:VisualperformanceofpatientswithbilateralvscombinationCrystalens,ReZoom,andReSTORintraocularlensimplants.AmJOphthalmol145:593-594,20076)AlioJ,Rodriguez-PratsJL,GalalAetal:Outcomesofmicroincisioncataractsurgeryversuscoaxialphacoemulsi-cation.Ophthalmology112:1997-2003,20057)TsuneokaH,ShibaT,TakahashiY:Feasibilityofultra-soundcataractsurgerywitha1.4mmincision.JCataractRefractSurg27:934-940,20018)小松真理:新しいフォーダブルIOLの臨床評価インジェクター.IOL&RS17:259-262,2003図10乱視矯正IOLの軸角度計算画面インターネット上のソフトウェアを用いて,乱視矯正IOLを固定する乱視軸を求める.

白内障手術装置の進化 

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY発振器を装着したハンドピースにリユーズの灌流・吸引チューブを用いる仕様であった.電磁式の問題点は発熱が多く,冷却が十分でないと創口に熱傷が生じるシビアな問題が発生していた.このため,第3世代以降のすべてのPEA装置には発熱の少ないピエゾエレクトリック方式の超音波発振器を装着したハンドピースが採用された.II超音波発振の変更が可能になった第3世代PEA装置超音波発振によって生じる振動は縦振動(チップの軸に沿った振動)で,第3世代以降のPEA装置からは連続モードかパルスモードを選択できるようになった.パルスモードは発振時間が固定された仕様(100ms前後)のもので,1秒間に発振するパルス数を変えることができた.1回の発振時間が固定されているため発振回数を上げると,冷却に必要な時間がなくなり,連続モードと同じように発熱が生じるためパルスモードによって発熱を抑えるには,発振回数を抑えた設定が必要であった.19ゲージの超音波チップに対し,吸引システムは設定された3段階の変更しかできず,実際は吸引流量15~25ml/分,吸引圧80~100mmHg程度で行っていたため,少し硬い核をパルスモードで破砕するとチャタリング現象(吸引口で核が弾かれる)で破砕効率が逆に悪くなることがあった.この現象を抑えるため吸引圧を上げて吸引口から核が弾かれないよう保持力を強くし,さらはじめに超音波水晶体乳化吸引(PEA)装置はピエゾエレクトリック方式による超音波発振,ペリスタルティックやベンチュリ方式による吸引制御など,さまざまな技術を駆使して破砕効率を向上させ,超音波発振による発熱や吸引中のサージ現象を抑えるハイテクノロジーを応用したさまざまな技術が登場し,核処理の安全性は飛躍的に向上している.本稿ではこの10年間を振り返り,臨床や実験の結果に基づいて行われてきたPEA装置の技術革新について述べる.I20年前のPEA装置最近10年のPEA装置の変遷を述べるためには,それ以前の白内障手術の変遷も知っておく必要がある.PEA装置は1990年から1995年の間に大きく変化したが,その背景にはシリコーン製のフォルダブル眼内レンズ(IOL)が開発され,点眼麻酔による切開幅約3mmからの角膜小切開手術ができるようになったことが発端になっている.当時は球後麻酔,外手術(11mmの強角膜切開)が主流で手術時間も1件40分はかかっていたが,この革命的変化によって手術はPEAに大きく流れが変わっていった.それまでのPEA手術の適応は軟らかい核が対象になっていたが,出血がない綺麗な手術の結果に適応範囲が硬い核へ広がっていったことは言うまでもない.1990年頃の第2世代とよばれたPEA装置は,電磁式またはピエゾエレクトリック方式の超音波(11)1017MiyuiNgh1138655731特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):1017~1023,2009白内障手術装置の進化PhacoemulsicationSystemAdvances永原幸*———————————————————————-Page21018あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(12)のカニューラをそれぞれのサイドポートから挿入して行う手術手技をbi-manualphacoとよび分けた.Bi-man-ualphacoの大きな問題は,超音波チップが直接創口に接触しているため熱傷が生じることである.当時,世界的にブームが生じさまざまな器具が開発されたが,学会で眼内炎やサーマルバーンの報告が増えてからは,ほとんどの術者がcoaxialphacoに戻った.第5世代のPEA装置は熱傷対策に重点が置かれている.発熱の少ないピエゾエレクトリック装置の開発と,発熱の少ない発振方式が開発された.初期の代表的な仕様はAMO社のソブリンRに採用されたdutycycleというコンセプトである.発熱の根源は超音波パワー(振幅)であり,振幅を変えずに発振のパターンを1msec単位でコントロールすることで破砕力を変え,さらに冷却するための休止時間を入れて発熱を抑えるというものである.フットスイッチとリニアに連動し踏み具合で4段階にパターンを変えられる.Coolingphacoという代名詞でよばれ発熱は極力抑えられたが,非常に硬い核は振幅を増やさないと十分な破砕力は得られなかった.AMO社はさらにWHITESTARRICE(IncreaseCon-に流量を増やして核を引き寄せやすくすることで,核の処理効率を上げる高流量高吸引圧時代へ入っていった.1993年に発表されたMMP(multi-modulatedphacoe-mulsication)1)は核処理の局面に応じて設定を変え,安全かつ効率よく手術を行うことが目的で生まれたコンセプトだが,今のPEA装置では標準的に設定ができるようになっている.IIIコンピュータ制御の吸引システムが付加された第4世代PEA装置流量と吸引圧の制御システムに用いられる吸引ポンプは,ペリスタルティック方式かベンチュリ方式が採用されている.ベンチュリ方式はベンチュリ管の原理で陰圧を発生させるものであるが,吸引圧が瞬時に立ち上がり,吸引圧によって変化する流量のコントロールがむずかしいため,おもに流量の変化が少ない硝子体手術装置に採用されている.硝子体手術装置に付加されているベンチュリ方式PEA装置はサージ現象(流量の急激な変化で前房容積が変動する現象)が生じやすく注意が必要になる.ペリスタルティック方式はほとんどの第4世代PEA装置に採用されている.上述したようにPEA手術は高流量高吸引圧の時代へ突入し,コンピュータ制御の吸引システムが付加されたPEA装置を第4世代とよんだ.代表的なPEA装置として,20000レガシーR(アルコン社),プレステージR(AMO社)がある.吸引圧の変化を捉えるセンサーを備え,変化に応じてペリスタルティックポンプの回転速度を変え流量をコントロールしサージ現象を抑える制御システムである.サージ現象がさらに少なくなるよう灌流・吸引チューブの仕様(灌流チューブは太く,吸引チューブは細く硬く)が変更された.IV発熱を抑える第5世代のPEA装置欧米では2005年頃から1.45mmの創口から入るプレート型IOL(ThinOptX社)が開発され,極小切開への可能性を追求するようになった.手術手技としては,従来のスリーブを取り付けて行う手術手技をcoaxialphaco,スリーブを外して超音波チップと灌流分割併用時間(msec)出力(%)45403530252015105図1ICEPulsetechnology(AMO社)AMO社はWHITESTARRICE(IncreaseControlandEciency)technologyとして,超音波発振の際にチップ先端で発生するキャビテーションによる核破砕力を増強させるため,発振開始の1msecにパワー設定値(青)より0~12%強い振幅(赤)を入れることができるICEPulsetechnologyを開発した.Dutycycleに始まった発振のパターンを数msec単位でコントロールして破砕力を変えるコンセプトは,発熱を抑えるだけでなく,硬い核にも対応できる破砕力を発生できるまでに至った.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091019(13)軽量化され発熱を抑える仕様に改良された.超音波発振も改良され,WHITESTARRと同様に高頻回パルス発振が可能となり,超音波エネルギー量の減少,発熱作用の抑制が実現され,超音波発振に関しても頻回モニタリング(1,000回/秒,ソブリンRの50倍)し,安定かつ滑らかな超音波発振と,低パワー超音波発振でも抜群の安定性を実現している.さらにアクアレースという温熱で水晶体を破砕できるハンドピースを同時に開発した.チップの先端から温熱を噴き出しながら水晶体を破砕して吸引するというコンセプトであるが,グレード3までの軟らかい核に限られる.灌流・吸引系のカセットパックはペリスタルティックポンプのチューブを廃止,カセット本体を剛性の高いプラスチックで構成することでチューブのたわみによるサージを抑えることに成功した.吸引系圧センサーは10,000回/秒で吸引圧の変化をモニタリング(ソブリンRの200倍,レガシーRアドバンテックの25倍)し,吸引流量は60ml/分(最大設定値)から状況に応じて自動的に100ml/分へ変わり,大きなサージ現象を抑える場合はポンプが逆回転することにより前房を保つ,非常に精密なコンピュータ制御でPEA手術の安全性が格段に向上した.さらにダイナミックドライブポンプ(ペリスタルティック+ベンチュリポンプ)機能を搭載,吸引圧と吸引流量の両方を別々に制御することでベンチュリと同等の早い吸引圧の立ち上がりが可能になり,吸引圧を完全にリニアコントロールすることを実現した.灌流系にも圧モニターを導入し,将来的にはボトル残量減少時あるいは灌流系異常時に警告を発生することや,灌流圧もコンピュータ制御することが可能になりそうである.インフィニティRでは,非生理的な超高灌流圧(100mmHg以上),超高吸引流量(50ml/分以上),超高吸引圧(500mmHg以上)の設定で手術を行うことが可能で,それにより核処理を早く行うことができる.これだけの設定を行えるPEA装置の性能にも驚かされたが,しかし,このような超高灌流・超高吸引設定では角膜内皮や眼循環に悪影響があることは必至であり,時間を争う手術に危険を感じる術者がほとんどであった.trolandEciency)technologyとして,超音波発振の際にチップ先端で発生するキャビテーションによる核破砕力を増強させるため,発振開始の1msecにパワー設定値より0~12%強い振幅を入れることができる,ICEPulsetechnologyを開発した(図1).この頃,アルコン社はレガシーRアドバンテック(最終バージョンはエベレスト)にNeoSonixRtechnologyを追加した.従来の40kHzの縦振動に100Hzのねじれ(トーショナル)の振動(±2°)を加えたもので,2001年から発売されている.ハンドピースが130gと従来のレガシーRのものと比べ40gも重く操作性に難はある(図2)が,機能的に硬い核には縦振動のみの発振よりも有効である.ただし,非常に硬い核の場合は縦振動の振幅を増やさないと十分な破砕力は得られなかった.アルコン社はレガシーRの次期PEA装置としてインフィニティRを発売した.インフィニティRは発売当初から現在まで数々の改良が加えられ,第5世代のPEA装置から第6世代へ進化する.まず,インフィニティRに採用された標準のハンドピースは,レガシーRよりも図2ハンドピースの変遷(アルコン社)アルコン社はレガシーRアドバンテックにNeoSonixRtechnol-ogyを追加した.従来の40kHzの縦振動に100Hzのねじれ(トーショナル)の振動(±2°)を加えたもので,2001年から発売されている.ハンドピースが130gと従来のレガシーRのものに比べ40gも重く操作性に難はあるが,機能的に硬い核には縦振動のみの発振よりも有効である.OZilTMのハンドピースはインフィニティR標準より少し重いが60gに軽量化され,NeoSonixRのハンドピースより操作性が飛躍的に改善されている.———————————————————————-Page41020あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(14)障害が生じる(図3).超音波チップの縦振動はチップの反対方向へ流れが生じるだけでなく(図4左),チップが核を弾くため核の破砕効率が悪く,当時,この状況を打開するため,高い灌流圧,流量,吸引圧に設定する傾向にあった.一方,横振動によって生じる水流の変化はチップの吸引口に向かうもので(図4右),実際の手術では,硬い核でもチップが核を弾くことはなく,安定した状態で効率よく核を破砕できる(図5).OZilTMは最大90μmの縦振動40kHzとねじれの振幅が交互に発振され,超音波チップを振動させる.縦振動のパターンは従来のバーストモード,ハイパーパルスモードの設定がさらに細かく変更できるカスタムパルス,本発振の前に20%出力で前打ちが入るスマートパルスV第6世代PEA装置(インフィニティRの進化),超音波破砕力に革命を起こした横(ねじれ)振動アルコン社はNeoSonixRの進化版といえるOZilTMtorsionaltechnologyを開発し,核の破砕力(効率)に革命が起きた.OZilTMのハンドピースは60gでNeoSonixRのハンドピースより軽量化され,操作性が飛躍的に改善されている(図2).ねじれの振動によって破砕効率が上がることは(特に硬い核)経験的にわかっていたが,100Hzの振動では限界があり従来の縦振動の振幅を大きくして対処していた.縦振動の振幅が大きくなると超音波チップが核を弾く現象が大きくなり,硬い核になると核の散乱が生じ,飛散した核の接触で角膜内皮図3NeoSonixR(アルコン社)を用いた硬い核の処理(核の飛散)ねじれの振動は100Hzであるため,硬い核のときは縦振動を100%(90μm)入れないと破砕できない.縦振動の振幅が大きくなると吸引口に入った核が角膜に向けて飛び散る現象が生じ,角膜内皮障害が生じる.左上:分割した硬い核片で吸引口が完全に閉塞している.右上:つぎの瞬間,超音波チップの縦振動の発振で核は角膜に向かって飛散している.左下:分割した硬い核片で吸引口が,半分閉塞している.右下:つぎの瞬間,超音波チップの縦振動の発振で核は角膜に向かって飛散している.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091021(15)できるようになっている.ねじれ発振のみも設定可能で,ねじれの振動によって破砕力を向上させるにはKelmanチップとの組み合わせが設定できるようになっており,ねじれの振動は発振時間(最長20msec)と最大振幅をパネルで設定し,設定した発振時間と振幅を100として術者がコントロール図5OZilTM(アルコン社)を用いた硬い核の処理左上→右上→左下→右下:ねじれの振動だけで毎秒64,000カットが可能になる.核片は吸引口の先端で回りながら飛散することなく吸い込まれていく.図4縦振動とねじれ振動による流れの変化超音波チップの周囲の水流がわかるように青色の色素を滴下して観察した実験.縦振動はチップの反対方向へ水流が生じる(図左).一方,横振動はチップの吸引口へ向かう水流が生じることがわかった(図右).———————————————————————-Page61022あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(16)versal(横断)の振動,ねじれと異なるところは,Kelmanチップのようなベント角が必要ないことで,従来のストレートチップでも横振動による破砕ができる(図7).OZilTMでは,横と縦振動が交互に発振する仕様であるが,EllipsTMは同時に発振できるため,チップ先端の動きが3次元的に楕円(ellipse)を描き,さらにソブリンRに採用されているICEPulsetechnologyによって発熱を極力抑えて核を破砕することができる.上述したように超音波チップのねじれによる横振動で生じる水流は,縦振動と正反対の流れが生じる.恐らくElli-psTMも同様の流れが生じていると思われるが,この実験に基づいて言えることは,横振動のみで破砕を行う場合は必要以上に吸引圧や吸引流量を上げる必要がなく,安定した状態で核破砕ができることである.FusionTMは同じカセット内にペリスタルティック方式とベンチュリ方式のポンプを搭載している.現在の仕様としては,超音波操作の際はペリスタルティック方式,I/Aと硝子体カッター(2,500rpm仕様)ではベンチュリ方式というように使い分けられる.ソブリンRに採用されているWHITESTARRICECASE(ChamberStabilizationEnvironment)はサージ現象を抑えるシステムであるが,FusionTMはCASEに加え,閾値を超えた閉塞時間をモニターしており,一定の時間を過ぎるとサージ現象を抑えるため吸引圧が下がるようになっていが必須となる.Kelmanチップは先端手前の3mmの位置で下方へ20°屈曲(ベント角)しており,ねじれの振動をベベル30°で最大91μm,ベベル45°で最大120μmの振幅に変える.縦振動は前進のときのみに核が破砕されるのに対して,ねじれの振動は往復時,常に核が破砕されているため破砕効率は飛躍的に向上すること(図6),チップの種類によっても手術侵襲が異なることが報告されている2).IV追従する第6世代PEA装置は付加価値を重視した仕様第6世代に進化したインフィニティRに追従するように,吸引系の性能の向上,超音波発振方式の変更,硝子体カッターの性能向上など,各メーカは付加価値を重視した仕様で発売した.2007年,Bausch&Lomb社は新しいPEA装置StellarisTMを発売した.ペリスタルティック方式とベンチュリ方式を選択できる仕様になっている.両方式を混在して使用することはできないが,標準で装備されている硝子体切除システムは2,500rpm仕様であることと,吸引制御システムについては高い評価が報告されている3).同年,AMO社ではOZilTMに対抗する横振動のコンセプトであるEllipsTMと,流体力学に基づいた吸引制御システムのコンセプトであるFusionTMを同時開発し,SignatureTMという名称で発表した.EllipsTMはtrans-図6縦振動とねじれ横振動の破砕効率の比較従来の縦振動は1方向しか破砕しないため毎秒40,000カットになる.破砕する際には核を突き放し,吸引する際には核を逆方向へ放してしまうため,核の保持力が悪く,核処理中の前房の挙動も大きくなる.ねじれの振動は両方向で破砕が可能になるため,毎秒64,000カット(32kHz×2)が可能になる.吸引と破砕の方向が異なるため核の保持力に優れ,核処理中の前房が安定する.従来の縦の振動横の振動回転軸ベント角20°図7ねじれ横振動と横断横振動の比較OZilTM(アルコン社)ではねじれ横振動と縦振動が交互に発振する仕様(図左)だが,EllipsTM(AMO社)は横断横振動と縦振動が同時に発振できるため,チップ先端の動きが3次元的に楕円(Ellipse)を描き(図右),さらにソブリンR(AMO社)に採用されているICEPulsetechnologyによって発熱を極力抑える仕様になっている.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091023る(図8).おわりにこのようにPEA装置は白内障手術の進歩を担っており,現時点における開発の視点は核の破砕効率,熱対策,流体制御にある.PEA手術がいつまで続くのか,代替のさまざまなアイデアが出されては消えるなかで,第7世代のPEA装置はさらに安全性を上げる仕様が準備されているに違いない.文献1)清水公也,杉田元太郎,谷口重雄:Multi-modulatedphacoemulsication(MMP).IOL7:86-94,19932)BerdahlJP,JunB,DeStafenoJJetal:Comparisonofatorsionalhandpiecethroughmicroincisionversusstandardclearcornealcataractwounds.JCataractRefractSurg34:2091-2095,20083)GeorgescuD,KuoAF,KinardKI,OlsonRJ:AuidicscomparisonofAlconInniti,Bausch&LombStellaris,andAdvancedMedicalOpticsSignaturephacoemulsicationmachines.AmJOphthalmol145:1014-1017,2008(17)図8PEA装置のFluidics(流体工学)の向上FusionTM(AMO社)は同じカセット内にペリスタルティック方式とベンチュリ方式のポンプを搭載している.ソブリンR(AMO社)に採用されているWHITESTARRICECASE(ChamberStabilizationEnvironment)はサージ現象を抑えるシステムで,吸引圧の変動に対し,ペリスタルティックポンプの速度を変化させ,サージを極力抑える(図左).FusionTMはCASEに加え,吸引圧の上の閾値(upthreshold)を超えた閉塞時間(uptime)をモニターしており,一定の時間を過ぎるとサージ現象を抑えるためポンプが逆転(pumpreversal)して吸引圧が下がるようになっている(図右).706050403020100500mmHg45cc/minFullOcclusionOcclusionBreakNoCASECASE0.00.5Time(Seconds)IntraocularPreessure(mmHg)1.0PumpReversal‘UpThreshold’‘UpTime’TimeMaximumVacuumVacuumVacuumComfort???????????

白内障手術法の進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY術を行ったとして,多くの術者が角膜にサイドポートを作製しており,この部分の閉鎖も十分確実に行わなくてならない.もう一つの大きな変化は,極小切開創白内障手術の登場である.フォルダブル眼内レンズの登場により,創口幅約3mmの小切開創白内障手術が主流となり,あたかもPEAは完成されたように思われた.しかし,常岡ら3)やAgarwalら4)によってbimanualphacosurgeryが報告され,極小切開創白内障手術の時代の幕開けとなった.これは,より切開創を小さくすることを目的としてsleevelessphacotipを使用し,灌流は別のポートかはじめに最近10年の白内障手術の進歩は,その前の10年とは異なる.前の10年は外摘出術(ECCE)から超音波乳化吸引術(PEA)への移行および小切開創白内障手術の完成であり,いわゆる劇的な変化の時代であった.しかし,最近10年の変化は,PEAの成熟期といってよいであろう.白内障手術の技術的な変化というより,より効率よく,より安全な手術を目指し,デバイスの進化によって手術が進化していったと言える.そのなかで小切開創白内障手術から極小切開創白内障手術へと進化した.各デバイスの進化の詳細については各項目を参照していただき,本稿では白内障手術の各場面における大まかな進化について順に紹介する.I切開創まず,この10年の特徴として角膜切開創および強角膜切開創の是非を術後感染症の観点から多く論議されたことがあげられる.そして,現在のところ強角膜切開と比較して角膜切開のほうが,3.4倍から4.6倍程度眼内炎の危険率が高いとされている1,2).しかし,強角膜切開で行ったから必ず安全ということはない,強角膜切開であっても,手術終了時に創口の閉鎖を十分確認しなくてはならない.強角膜切開の一つの利点は,創口が結膜に被覆されるということである.だから折角強角膜切開で行うなら,面倒でもしっかりと結膜縫合を行い,その利点を最大限生かすべきである.また,強角膜切開で手(3)1009atsuaitooa20186014111特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10091016,2009白内障手術法の進化EvolutionofCataractSurgery三戸岡克哉*図1BimanualphacoSleevelessphacotipを使用し,そして,灌流は別のポートから分割鈎付き灌流カニューラを挿入して行うことにより1.4mm以下の創口から水晶体の除去が可能である.———————————————————————-Page21010あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(4)continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の成功率は非常に低いものであった.その最大の原因は前の視認性低下にあった.インドシアニングリーン6)やトリパンブルー7)で染色することによって,その視認性が著明に向上して(図2),成功率が高くなり8),その後の手技における合併症発生の軽減に大きく寄与している.また,白色白内障のなかでも,急速に進行し皮質が膨化している膨潤白内障では,前切開の途中で切開線が赤道ら分割鈎付き灌流カニューラ(以下,灌流フック)を挿入して行う方法である(図1).この方法の登場により,切開幅1.4mm以下での乳化吸引を可能にしたばかりでなく,uidics(水流動態)について議論されることが多くなった.その後,co-axialphacoでも2.22.4mmの手術が可能となり,創口幅2.4mm以下の手術を総じて極小切開創白内障手術とよんでいる.そして,両者の進化には,高頻度パルスモードやtorsionalphacoが寄与したのはいうまでもない.切開創が狭くなることにより,創口作製方法も若干変化した.以前より角膜切開においては一面切開が主流であったが,強角膜切開では三面切開が主流であった.しかし,極小切開になると,従来のクレッセントナイフを左右に振りながら使用しての強角膜半層切開はむずかしく,創口幅のコントロールもむずかしくなってきた.そこで現在では,必要な創口幅に見合ったスリットナイフを用いた強角膜二面切開もしくは一面切開が主流となった.最近では,経結膜・強角膜一面切開が紹介されている5).II前切開前切開における一番のトピックは何と言っても,前染色の登場であろう.従来,白色白内障における,図3サイドポート用前切開鑷子サイドポートから挿入するため,粘弾性物質注入下で前房を維持したまま操作が容易である.左は,膨潤白内障症例でヒーロンRVを注入し前切開を行っている.ヒーロンRV挿入時には,チストトームを使用しての前切開は,フラップをうまく伸展することができず,困難な場合がある.このようなときは,前鑷子が有用である.右は,眼内レンズ挿入後に前切開を拡大している.このようなときにも有用である.図2トリパンブルーによる前染色白色白内障における前染色は,いまやなくてはならない手技である.コントラストがはっきりし,視認性が著明に向上しているのがわかる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091011(5)図5角膜混濁症例に対する前房照明角膜混濁症例に対する硝子体用ライトファイバー(ライトガイド)を用いた前房照明は非常に有用である.左は,トリパンブルー前染色を行った後に,前房照明をしながら前切開を行っている.右は,PEA中である.PEA中は,術者は両手が塞がっており,助手に前房照明してもらう.照明を当てる角度により,見やすさが大きく異なるため,適宜調整する必要がある.図4八重氏マイクロ虹彩剪刀小瞳孔において,瞳孔縁に多数の小切開を加えた後,粘弾性物質を注入することにより,ある程度の瞳孔拡大をすることができる.八重氏マイクロ虹彩剪刀はサイドポートから挿入可能なため,左右の2カ所のサイドポートから挿入することにより,瞳孔縁360°にわたって切開が可能である.———————————————————————-Page41012あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(6)うために,1m近くもボトルを上げる必要があったが,その後の灌流フックの改良により,ボトル高を高くすることなく,十分な灌流量を得ることが可能になった(図6).また,従来のhighvacuumphacoから,低吸引圧,低吸引流量へという流れが注目されると,さらにbiman-ualphacoの水流動態の特殊性,有用性が指摘されるようになった.つまり,灌流と吸引を別経路で行うことにより,従来よりも吸引効率が向上すること,灌流の流れを自分でコントロールできること,応用範囲が広いことなどがあげられる.Co-axialphacoでは,吸引口の近くから灌流液が吸引方向と逆方向に排出されており,吸引で引き寄せられるべき核片を流し去ってしまっており,それを補うために,実は必要以上の吸引流量を必要としている.一方,bimanualphacoは吸引と灌流の位置が大きく異なる場所で行われるため,吸引流量を減らしても効率を落とすことなく,乳化吸引を行うことができる(図7).また,灌流液の流れを自分でコントロールできるため,必要に応じて核片を誘導したり,後を押し下げたりということが自由に可能である14).しかし,bimanualphacoでは,co-axialphacoと勝手が違いどうしてもラーンニングカーブが生じる.現在では,スリーブの改良(図8)によりco-axialphacoにおいても,2.4mm以下の創口からPEAおよび眼内レンズが挿入可能となった.そのため,bimanualphacoの有用性が十分に理解されないまま,co-axialによる極小切開創白方向へ流れることがしばしばであった.しかし,visco-adaptiveのヒーロンRVが登場し,前を圧迫し平坦化することにより,安定性が増した.また,従来前鑷子は,創口より挿入するものが一般的であったが,無理な操作をすると創口から粘弾性物質(ophthalmicvisco-surgicaldevice)が流出し,前房が不安定になり,切開線も不安定になることがあった.しかし,サイドポート用前切開鑷子の登場により,前房維持したまま安定した前切開が可能になった9)(図3).その他サイドポート用の器具として,八重氏マイクロ虹彩剪刀も非常に有用な道具である.小瞳孔の際に,虹彩切開を行い,瞳孔拡大をすることができる10)(図4).また,前の線維化を認めた症例での前切開でも非常に有用である.もう一つ前の視認性低下の原因に角膜混濁があげられる.その際にも,前染色が有用なのはいうまでもない11)が,それに加え硝子体手術用のライトファイバー(ライトガイド)を眼外から12)や前房内で13)使用し,前の視認性向上やその後のPEA時での前房内の視認性向上に有用であることが報告され,超音波白内障手術の適応が広がった(図5).III超音波乳化吸引PEAにおけるトピックは,何と言っても極小切開創白内障手術の登場である.その先駆けになったのがbimanualphacoである.しかし,登場当初は灌流を補図6サイドオープンタイプとフロントオープンタイプの灌流カニューラの比較左のサイドオープンタイプでは,両脇から著しく乱れながら灌流液が排出されているのに対し,右のMST社製Duetのフロントオープンタイプでは,先端からスムーズに灌流液が排出されているのがわかる.その結果,灌流量も増加している.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091013(7)必要がある.コブラシャフトスパーテルも,発想としては核片の飛散を機械的に抑え込み,角膜障害を軽減することを目的にしている16)(図9).また,分散型のビスコートRと高分子凝集型の粘弾性物質を合わせて使用するソフトシェル法17)では,粘弾性物質を有効に利用した角膜保護を目的とした方法も登場した.この場合もある程度,低吸引圧,低吸引流量の設定にしておかないと,最後までビスコートRを残すことはできず,角膜保護作用は期待できない.IV眼内レンズ挿入インジェクターによる眼内レンズ挿入が一般的になり,そしてさらに極小切開に対応した挿入方法として,woundassisted法18)とwoundadapt法19)があげられる.Woundassisted法は,あかたもカートリッジ先端の延長がそのまま創口のトンネルに続き,カートリッジを眼内に挿入せずとも,レンズをより狭い創口から挿入可能にする方法である.眼内レンズ挿入時にカートリッジを創口に押し当て,挿入するので,眼球が変形しないよ内障手術が主流となっている.先に述べたような,一時期のhighvacuumphacoから,低吸引圧,低吸引流量へという流れが注目されるなか,大木よって正常眼圧白内障手術という言葉が生まれた15).目的はボトルの高さを低くすることにより,必要以上の圧負荷を取り除き,眼組織への侵襲を少なくしようとするものである.その際には,当然PEAの設定も低吸引圧,低吸引流量にする必要ある.その結果,眼内での水流が穏やかになり,水晶体核片の飛散が減少し,粘弾性物質の前房内滞留が顕著となり,核片などによる物理的な角膜障害を軽減できるものと期待されている.しかし,一方で不用意な器具操作により容易に角膜を歪ませてしまい,それがかえって角膜に障害をきたしてしまうことも懸念されているため,眼内操作を慎重に行う核核図7Coaxialとbimanualの灌流液の流れと核片の動きCo-axialでは,吸引口の近くから灌流液が吸引方向と逆方向に排出されており,吸引で引き寄せられるべき核片を流し去ってしまっている(左).そのため,必要以上の吸引流量を必要としている.Bimanualは,吸引と灌流が大きく異なる場所で行われるため,灌流液が灌流開口部から吸引口へと一方向に流れている(右).そのため吸引流量を下げても効率よく核片を引き寄せることが可能である.図8従来のスリーブとmicrocoaxialphaco用のスリーブの比較左から,従来のスリーブ,Laminar20GSleeve(AMO社),UltraSleeve(Alcon社)である.右の2つのスリーブが従来のものと比較して細いのがわかる.これらのスリーブを使用することにより,2.4mm以下から超音波チップを挿入可能である.図9コブラシャフトスパーテル吉富らによって考案されたスパーテルで,分割フックのシャフトの太くした部分で,角膜内皮方向へ飛散しようとする核片を押さえ込むことを目的としている.———————————————————————-Page61014あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(8)うに,十分な粘弾性物質を眼内に注入する必要があり,適切なカウンタープレッシャーをかけないと眼内レンズが創口を通過できないので,サイドポートからフックなどの器具を挿入する必要がある.カートリッジ先端を創口に確実にあてがうことができたら,サイドポートから挿入したフックなどの器具によるカウンタープレッシャーとプランジャーで眼内レンズを押す力のバランスとタイミングを合わせて,眼内レンズを挿入する(図10).一方,woundadapt法は,前房内にカートリッジ先端のみを挿入する.この場合,眼内レンズが創口を通過する際に,カートリッジ内をスムーズに通過して眼内に入るため,カウンタープレッシャーを必要としないメリットがある.MonarchIIDカートリッジ(以下,Dカートリッジ)を使用すれば,強角膜切開創2.22.4mmで容易に挿入可能である.ただし,内方弁から水晶体まで距離があるため,十分にインジェクターを立てて(角度を付けて)操作を行わないと,眼内レンズを水晶体内に導くことができない(図11).図10Woundassisted法Woundassisted法では,カートリッジ先端を外方弁が開く程度に押し当て,眼内レンズは創口のトンネルを通って眼内に挿入される.そのため,粘弾性物質を前房内に十分注入し,カウンターテクニックを使用する必要がある.図11Woundadapt法Woundadapt法では,カートリッジ先端は前房内にあり,眼内レンズはカートリッジ内を通過して容易に眼内へ挿入される.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091015しかし,現在では両者の方法を取らずとも,カートリッジ先端を十分に眼内に挿入し通常通りの方法でも2.4mm以下でレンズ挿入可能なインジェクターが次々と開発・市販化されている.V合併症の処理合併症が発生した際の処理も進歩した.その一つがbimanualによる前部硝子体カッター(以下,A-vit)の使用である.従来のA-vitは,PEAのハンドピースを同様に中心に硝子体カッターがあり,その周囲から灌流が流れるという,いわゆるco-axialであった.そのため,核娩出なので創口を拡大した後に,その創口からA-vitを挿入すると,創口からの灌流液の漏出が多く,前房が不安定になったり,余計な硝子体脱出をきたす要(9)図12BimanualによるAvit外筒を外した20ゲージの前部硝子体カッター(右)と20ゲージの灌流針(左)を用いることにより,watertightの状態で,安全に前部硝子体切除が可能である.筆者は,器具を挿入する前に,19ゲージのVランスを用いて,すでに作製しているサイドポートを拡大している.図13Viscoextraction粘弾性物質が創口から出る流れを利用し,その流れに乗せて核を娩出する.核を創口付近まで誘導したら,やや創口を開くようにすると,粘弾性物質が眼内へ排出される流れに乗って,核が娩出されやすくなる.———————————————————————-Page81016あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009因となっていた.そこで,最近では外筒を外し,中の硝子体カッターのみを使用し,灌流は別経路で専用のハンドピースを用い,両者を別々のサイドポートから挿入し,使用するようになった.これにより,よりwatertightな状態でA-vitを使用でき,前房の虚脱を防ぐことができ,操作性も向上した(図12).最近のPEA装置に付くA-vitのなかには,もともとbimanualによる使用が前提とされ,外筒のない硝子体カッターが付属しているものもある.また,核娩出の方法として,以前は輪匙などで機械的にやや強引に掻きだすのが一般的であったが,最近は粘弾性物質の流れによって核を娩出するviscoextractionが推奨されるようになった.粘弾性物質を大量に使う欠点があるものの,むやみやたらに硝子体を引っ張ることがなく,安全な核娩出が可能である(図13).おわりに創口幅3mm以下でPEAおよび眼内レンズ挿入が可能になり,術後惹起角膜乱視がゼロにきわめて近くなり,ほぼPEAは完成し,PEA装置以外の別の機械が登場しなければ,これ以上の進化はないものと思われていた.しかし,bimanualphacoの登場をきっかけに,小切開から極小切開への流れができた.当初極小切開の必要性が疑問視されていたが,眼内レンズ挿入も2.4mm以下から可能になり,現在進行形でまだ創口幅は小さくなっている.また,デバイスも日々進化し,より安全で効率のよい手術やより適切な合併症処理が可能になっている.そして,本稿がこの10年の白内障手術の進化における知識を整理するうえで一助になれば幸いである.文献1)NagakiY,HayasakaS,KadoiCetal:Bacterialendoph-thalmitisaftersmall-incisioncataractsurgery:eectofincisionplacementandintraocularlenstype.JCataractRefractSurg29:20-26,20032)WongTY,CheeSP:Theepidemiologyofacuteendoph-thalmitisaftercataractsurgeryinanAsianpopulation.Ophthalmology111:699-705,20043)TsuneokaH,ShibaT,TakahashiY:Feasibilityofultra-soundcataractsurgerywitha1.4mmincision.JCataractRefractSurg27:934-940,20014)AgarwalA,AgarwalA,AgarwalSetal:Phakonit:Lensremovalthrougha0.9mmcornealincision.JCataractRefractSurg27:1548-1552,20015)菅井滋,大鹿哲郎:白内障手術における経結膜・強角膜一面切開.眼科手術22:173-177,20096)HoriguchiM,MiyakeK,OhtaIetal:Stainingofthelenscapsuleforcircularcontinuouscapsulorrhexisineyeswithwhitecataract.ArchOphthalmol116:535-537,19987)MellesGRJ,deWaardPWT,PameyerJHetal:Trypanbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorrhexisincataractsurgery.JRefractSurg25:7-9,19998)渡辺交世,永本敏之,石垣純子ほか:白色白内障でのトリパンブルー前染色後ContinuousCurvilinearCapsulor-rhexis成功率.IOL&RS18:304-310,20049)河合憲司:難症例に対するサイドポート用前切開鑷子の有用性.あたらしい眼科20:773-774,200310)八重康男:八重氏マイクロ虹彩剪刀.IOL&RS17:449-452,200311)BhartiyaP,SharmaN,RayMetal:Trypanblueassistedphacoemulsicationincornealopacities.BrJOphthalmol86:857-859,200212)FarjoAA,MeyerRF,FarjoQA:Phacoemulsicationineyewithcornealopacication.JCataractRefractSurg29:242-245,200313)西村栄一,陰山俊之,谷口重雄ほか:角膜混濁例に対する前房内照明を用いた超音波白内障手術.あたらしい眼科21:97-101,200414)三戸岡克哉:水流動態からみたBimanualPhacoとCo-axialPhacoの違い.眼科48:1897-1900,200615)大木孝太郎:正常眼圧白内障.IOL&RS22:45-48,200816)吉富文昭:コブラシャフトスパーテル.眼科手術17:369-370,200417)ArshinoSA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.JCataractRefractSurg25:1630-1636,199918)TsuneokaH,HayamaA,TakahamaM:Ultrasmall-inci-sionbimanualphacoemulsicationandAcrySofSA30ALimplantationthrougha2.2mmincision.JCataractRefractSurg29:1070-1076,200319)三戸岡克哉:インジェクターを使用した眼内レンズ挿入:その2.眼科手術21:338-341,2008(10)

序説:白内障手術の進化―ここ10 年余りの変遷

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY手術装置の進化についても高頻回パルスモードの登場による発熱防止とエネルギー量低減が実現し,灌流動態管理システムの改良に伴うサージの防止と前房安定性が格段に向上し,後破損発生率低下,角膜内皮損傷低減に寄与している.また,従来の縦振動ではなく回旋振動(これにより曲ったチップでは首振り運動となる)もできるOZilTMの登場により破砕力が向上し,硬い核の症例のフェイコが容易となっている.その他にも細かい点でさまざまな進歩・改良がある.眼内レンズについては数々の改良がなされている.後発白内障予防のシャープエッジは当たり前となり,非球面,着色(青色光カット)もすでに一般化しつつあり,縫着対応アクリルレンズ,大光学部径レンズ,さらにマルチフォーカルレンズも登場し,今後トーリックレンズなども出てくる.将来的には真の調節力をもったレンズが登場することが期待される.手術器具・医療材料もいろいろ便利なものが出てきている.1999年時点ではサイドポートから挿入可能な器具は池田式前鑷子くらいであったと記憶しているが,その後前鑷子も種類が増え使いやすくなり,八重式虹彩剪刀をはじめとするサイドポート剪刀も登場し,前房の安定性を保ったまま繊細な操作が行えるようになり,難症例の手術成績の向上10年一昔というが,10年前の白内障手術はと聞かれると今とあまり変わっていないと感じる読者も多いかもしれない.しかしそれは単なる錯覚である.白内障手術は2515年前に術後無水晶体眼から眼内レンズ挿入へ,そして内摘出術から外摘出術,さらに超音波水晶体乳化吸引術へと大きな変革があった.その後超音波乳化吸引術と後房型眼内レンズを内に挿入するという術式が定着し,現在の基礎が築かれた.このためここ10年は大きな変革がないように思われるのだが,実際には白内障手術は着実に大きな進化を遂げている.たとえば手術法では,1999年当時眼内レンズはすでにソフトマテリアルの時代を迎えていたが,当初は4.1mm切開創から折りたたんで挿入する方法が一般的であった.しかし,その後の良質のインジェクターの開発・普及に伴い切開創が3.0mmへと小さくなり,最近では2.4mmあるいは2.2mmという切開創が一般的になっている.また,灌流と乳化吸引を分け,両手法で行う手技では1.4mm程度の小さな切開創から手術を行うことが可能となっているが,眼内レンズ挿入前に拡大せざるをえないのが現状であるため,現在は従来通りのcoaxialphacoが主流である.しかし,将来的には極小切開に対応した眼内レンズが開発されれば両手法に移行する可能性もある.(1)1007●序説あたらしい眼科26(8):10071008,2009白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷AdvancesinCataractSurgeryduringtheLastDecade永本敏之*———————————————————————-Page21008あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(2)につながっている.また,カプセルテンションリング,縫着用リング,カプセルエキスパンダー,瞳孔拡張リングなども登場し,これらも難症例の手術を容易にする補助具として有用である.トリパンブルーによる前染色の普及により白色白内障のCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)が容易になった点も大きな進歩である.粘弾性物質に関しては,ヒーロンRをはじめとする高分子量凝集型しかなかったのが,フェイコ中の滞留能に優れた分散型粘弾性物質であるビスコートRの登場により内皮保護が格段に向上し,さらに空間保持能力に優れ,かつ滞留能も従来の高分子量よりも向上したビスコアダプティブ粘弾性物質とよばれるヒーロンRVの登場により,さまざまな難症例の手術が容易になった.これにより,症例による粘弾性物質の使い分けが必要な時代になったともいえる.手術顕微鏡に関してもZEISS社のLumeraをはじめ,10年前と比べれば格段に見やすくなった機種が登場している.術前術後検査と管理に関しては,術後予想屈折度数の向上,小切開化に伴う術後回復の早期化,惹起乱視の減少,社会復帰の早期化などがある.白内障手術教育に関してここ10年で進歩したかどうかは教育施設ごとで違う可能性もあるが,社会環境的に手術教育がむずかしくなってきた現状があり,現状に即して進歩させようとする動きはいくつかある.また,最近では手術教育について関心が徐々に高まってきていることも事実である.今回の特集では「白内障手術の進化─ここ10年余りの変遷」というテーマを掲げ,手術方法について慈恵医大の三戸岡克哉先生,手術装置について東京大の永原幸先生,眼内レンズについて慈恵医大の柴琢也先生,手術器具・医療材料について獨協医大の松島博之先生,粘弾性物質についてさいたま日赤の石井清先生,顕微鏡について東京医療センターの野田徹先生,術前術後検査と管理について慶應大の根岸一乃先生,白内障手術教育について岩手医大の黒坂大次郎先生という,エキスパートに執筆をお願いした.この特集が皆様の日常診療向上の一助となることを願っている.