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硝子体手術のワンポイントアドバイス 109.裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術時のバックル併用の是非(初級編)

2012年6月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載109109裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術時のバックル併用の是非(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●裂孔原性網膜.離に対する術式の変遷硝子体手術の進歩に伴い,従来は強膜バックリング手術で治療していた裂孔原性網膜.離に対して,初回から硝子体手術のみで網膜を復位させる術者が増加の一途をたどっている.それに加えて近年の小切開硝子体手術の普及やワイドビューイングシステムなどの観察系の進歩により,バックル手術を併施しない傾向もますます顕著になっている.しかし,硝子体手術が第一選択と考えられるような裂孔原性網膜.離もすべての症例が硝子体手術のみで確実な復位が得られるかというと,やや疑問が残る.●硝子体手術後の周辺部残存硝子体牽引と再.離一般に,中高年者に多い網膜格子状変性巣縁の弁状裂孔が原因で発症する胞状の網膜.離は,硝子体手術の適応と考える術者が多い.硝子体手術を選択した場合,網膜格子状変性巣の後縁までは容易に人工的後部硝子体.離を作製できるが,変性巣の周辺側の硝子体を完全に切除するのは結構むずかしい.スモールゲージ硝子体カッターを周辺側の硝子体と網膜の間に上手く挿入することで,周辺部の人工的後部硝子体.離を比較的容易に作製できる症例もあるが,面状の網膜硝子体癒着をきたしている症例では双手法を用いないと硝子体を網膜から.離できないことも多い(図1).特に網膜格子状変性巣が全周性に広範囲に認められる症例ではその傾向が強い.最近普及している高速回転の硝子体カッターでは,残存硝子体量を少なくすることはできるが,vitreousshavingのみで硝子体の牽引が完全になくなるわけではない.●残存硝子体牽引に対するバックルの有用性周辺部に硝子体が残存した場合には,眼内光凝固や経強膜冷凍凝固などの凝固操作により硝子体牽引を上回るだけの癒着力を得ておくことが必須となり,しばしば残存硝子体牽引が打ち勝って再.離をきたすことがある図1網膜格子状変性巣周辺での人工的後部硝子体.離作製広範な網膜格子状変性巣を有する症例では,網膜格子状変性巣より周辺側の硝子体は面状に網膜と癒着しており,双手法による硝子体切除が必要となることが多い.図2残存硝子体牽引による再.離多くの硝子体術者は,この部分をvitreousshavingに留め,残存硝子体をできるだけ薄くして,あとは眼内光凝固の癒着力によって網膜を復位させているが,しばしば残存硝子体牽引力が光凝固の癒着力を上回って再.離をきたす.図3バックル併用の意義バックル設置により残存硝子体牽引を相殺し,再.離のリスクを軽減できる.(図2).筆者はこのように残存牽引が強いと予測される症例(すなわち周辺部の硝子体が十分に処理できなかった症例)では,迷わずバックルを設置している(図3).通常は#240シリコーンバンドによる周辺部輪状締結術を施行することが多いが,もちろん部分バックルでもよい.バックルの設置部位としては,硝子体牽引が残存している裂孔の周辺側を確実にバックル上にのせるようにする.バックル併用硝子体手術では,屈折が術後に変化するので,眼内レンズは二次的に挿入するようにしている.最近,バックルを置かないことにこだわり過ぎて再.離をきたし紹介されてくる症例を時々みかけるようになった.初回硝子体手術時に必要最小限のバックルを設置する侵襲と再手術を施行する侵襲では,当然後者のほうが大きいはずである.(85)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20128070910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 138.iPS細胞の眼科への応用

2012年6月30日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第138回◆眼科医のための先端医療山下英俊iPS細胞の眼科への応用平見恭彦(先端医療センター病院眼科)iPS細胞とは2006年に京都大学の山中伸弥教授らは,皮膚の細胞にレトロウイルスを用いて遺伝子を導入することにより胚性幹細胞(embryonicstemcell:ES細胞)と同様の細胞ができることを報告1)し,アップル社のiMacRやiPodRといったヒット商品の名前をもじって人工多能性幹細胞(inducedpluripotentstemcell:iPS細胞)と命名しました.ES細胞やiPS細胞は,培養により無限に増殖させることができるうえ,培養条件を変化させることでさまざまな組織あるいは臓器の細胞に分化させることができる多能性幹細胞といわれるもので,特にiPS細胞は,血液や皮膚,毛髪などの細胞から,本人と同一の遺伝子をもったクローン細胞を作製し,若返った組織や臓器を作ることができる可能性があることから,再生医療,移植医療への応用が期待されています.網膜細胞をつくるiPS細胞が未分化の分裂状態を保つためにはフィーダー細胞といわれる足場となる細胞の上に培養し,培地にLIF(leukemiainhibitoryfactor)といわれる未分化維持のための因子を加える必要があり,それらを除去するとiPS細胞はいろいろな細胞へ分化していきます.培地の組成を変化させ,分化誘導因子を加えることで神経や筋肉,血球など特定の組織への分化をコントロールすることができ,網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepitheliumcell:RPE細胞)はヒトES細胞,iPS細胞から分化開始後約30日で出現しますが,網膜視細胞の出現には約120日以上が必要になります2,3).RPE細胞では分化が進むと肉眼でも確認できる茶色の色素をもつ細胞集団(コロニー)ができるため,コロニーを周囲の細胞から分離して,分化したRPE細胞だけを増殖させることが可能で,さらに単層のシート状に培養して回収することができます.細胞を移植する際に分化していない未分化な細胞が混入すると,腫瘍化する(81)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1iPS細胞を用いた細胞移植治療のモデル自己細胞の代わりにiPS細胞バンクから細胞を調達すれば,遺伝性疾患の治療が可能で,治療期間やコストの圧縮にもつながると考えられる.可能性があるため,治療に必要な分化した細胞の選別が容易であるということは臨床に応用するうえでの利点となります.一方,視細胞の場合は他の細胞と混在しているうえ,肉眼での識別はできず,蛍光標識による染色を行わないと検出できなかったため,細胞を作製した後に,純化して取り出す方法が課題となっていました.しかし最近,マウスのES細胞から三次元的に層構造をもった網膜を作製する方法4)が報告され,この技術がヒトの幹細胞にも応用されれば,視細胞の移植にも大きく前進する可能性が開けてくることと思われます.眼科領域での臨床応用に向けて網膜細胞は作製することができるようになりましたが,臨床で移植に用いるためには安全性などのさまざまなハードルを越える必要があります.レトロウイルスにより導入された遺伝子が再活性化することによって移植細胞が腫瘍化することや,細胞の培養過程で使用される培地や成長因子にはマウスやウシなど他動物種由来のものがあるために,移植細胞が拒絶されることが懸念されていましたが,これらの問題に対しては,プラスミドを用いた遺伝子導入法5)や,分化誘導に合成あるいは抽出蛋白ではなく低分子化合物を用いた方法6),さらに培地の組成についても詳細に分析して人体に有害な影響を生じない細胞の製造工程の検討が進められています.また,作製したRPE細胞を免疫不全マウスに移植して腫瘍が生じないことを確認する試験も進められています.網膜は他の臓器に比べて治療に必要とされる細胞の数が少ないことと,移植細胞源として他者の細胞を使うのあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012803 がむずかしいことから,早くからES細胞やiPS細胞を使った移植治療のターゲットとして考えられていました.2012年1月には,世界初のES細胞による網膜疾患治療として,米国AdvancedCellTechnology社により,ES細胞から作ったRPE細胞を用いて,Stargardt病と萎縮性加齢黄斑変性(AMD)の患者に対する細胞移植治療を行ったことが発表されました7).Stargardt病はRPEの変性により視細胞変性がひき起こされる疾患で,遺伝子異常が原因であるため,自己由来のiPS細胞でなくES細胞を用いる必要がありますが,長期にわたって拒絶反応が起こらないかどうかなど,今後の経過が注目されると思います.滲出型AMDに対しては現在,抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬や光線力学的療法による脈絡膜新生血管(CNV)の抑制が治療として効果をあげていますが,黄斑部網膜下の線維性瘢痕や網膜の萎縮,変性をきたした場合には視力の改善は得られません.滲出型AMDに対する手術治療としては,CNVの抜去や黄斑移動術が行われてきており,海外では周辺部網膜を.離して自己RPE-脈絡膜シートを採取し,黄斑部へ移植する手術も行われています.CNVの抜去術を行った症例では病巣を除去した後の網脈絡膜萎縮により視力の改善は困難であり,黄斑移動術や自己RPE-脈絡膜シート移植術では黄斑部網膜下が健常なRPEでカバーされるようになることで視力改善が得られる症例もありますが,手術侵襲が大きくなるために重篤な手術合併症を発生する率が高いことが欠点でした.iPS細胞から作製したRPE細胞シートを用いることにより,CNVの除去に加えて健常なRPE細胞シートを移植することによってバリア機能を回復し,視細胞を保護することができれば,網膜の機能再生治療として視力の改善も得られる可能性があると考えられます.一方で,生体外で培養された細胞シートを眼内へ挿入し,網膜下へ移植する手術はこれまでに前例がなく,新しい手術手技および手術器具が必要になります.細胞をバラバラの状態で注入するのと異なり,細胞シートの移植手術では視細胞側とBruch膜側の極性がある単層の薄くて柔らかいRPE細胞シートを,硝子体手術と同様の強膜創から眼内へ挿入し,人工的網膜.離を作製し網膜切開部から極性を保った状態で移植するという手技が想定されます.強膜創や網膜切開を最小限にするため,細胞シートを細長い短冊状にして注入する方法と,より大きい細胞シートを円筒状に丸めて眼内~網膜下へ挿入し,展開して接着させる方法について現在検討を進めています.理化学研究所とジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC),先端医療センターの共同研究グループでは,滲出型AMDを対象にしたiPS細胞由来のRPE細胞シートを用いた細胞移植治療を臨床研究として2013年度に開始できるよう準備を進めており,当初は既存の治療では難治の症例に対して行う予定ですので,視力の大幅な改善は期待できないと思われますが,治療の安全性が確認され,将来的に治療の適応が拡大することにより,症例によっては視力向上も期待できる治療になることが期待されます.文献1)TakahashiK,YamanakaS:Inductionofpluripotentstemcellsfrommouseembryonicandadultfibroblastculturesbydefinedfactors.Cell126:663-676,20062)OsakadaF,IkedaH,MandaiMetal:Towardthegenerationofrodandconephotoreceptorsfrommouse,monkeyandhumanembryonicstemcells.NatBiotechnol26:215224,20083)HiramiY,OsakadaF,TakahashiKetal:Generationofretinalcellsfrommouseandhumaninducedpluripotentstemcells.NeurosciLett458:126-131,20094)EirakuM,TakataN,IshibashiHetal:Self-organizingoptic-cupmorphogenesisinthree-dimensionalculture.Nature472:51-56,20115)OkitaK,NakagawaM,HyenjongHetal:Generationofmouseinducedpluripotentstemcellswithoutviralvectors.Science322:949-953,20086)OsakadaF,JinZB,HiramiYetal:Invitrodifferentiationofretinalcellsfromhumanpluripotentstemcellsbysmall-moleculeinduction.JCellSci122:3169-3179,20097)SchwartzSD,HubschmanJP,HeilwellGetal:Embryonicstemcelltrialsformaculardegeneration:apreliminaryreport.Lancet379:713-720,2012■「iPS細胞の眼科への応用」を読んで■今回はiPS細胞を用いた再生医療についての解説でん,きっとあると思いますが,最先端のことをわかりす.再生医学のなかでも最も注目を集めているプロやすく解説していただいたことで,その実態と今後のジェクトの一つですから,名前を聞いたことは皆さ展望をきちんと理解できると考えます.滲出型加齢黄804あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(82) 斑変性の治療への応用が2013年に予定されているこめられます.これについて十分に検討されていることとがわかり,現実感をもってその成果に期待することがわかります.また,効果についても,今後の長期的ができます.なかなか治療の困難な疾患だけに大きなな戦略のなかで見きわめていく必要が述べられていま期待が集まっています.また,iPS細胞の臨床応用のす.まずは,安全性,そして有効性というこの手順をなかでも眼科疾患が先頭グループにいて研究を牽引しきちんと踏んでいらっしゃることがわかります.先端ていることはわれわれ眼科医として大変誇らしい気分医療というとこれまで治せなかった病態を治療するのにもなります.高橋政代先生をリーダーとした平見恭であり,大きな期待が社会から寄せられます.われわ彦先生の研究グループのますますの発展が期待されまれは眼科医療のプロフェッショナルとして,iPS細胞す.を用いた再生医療の有効性を長いスパンでみていく,最先端医療を導入する際に大変大切なことも平見先そして,臨床応用が可能になった日には眼科全体とし生の今回の総説のなかには書かれています.まず,究てきちんと評価していくscientificな姿勢が求められ極の安全性への配慮です.医療である以上,日常の医ると考えます.今後の正しい軌道での発展に日本の眼療でも必ずリスクはついて回りますが,先端医療で皆科の実力が問われているのかもしれません.さんが注目しているだけに高いレベルでの安全性が求山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012805

新しい治療と検査シリーズ 207.Topography-Guided Conductive Keratoplasty(TGCK)

2012年6月30日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ207.Topography.GuidedConductiveKeratoplasty(TGCK)プレゼンテーション:加藤直子防衛医科大学校眼科学講座コメント:稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学.バックグラウンドConductivekeratoplasty(CK)は,Refractec社製theViewPointCKSystemを用いて角膜に電極を刺入し,そこから発生させたラジオ波を利用して角膜を熱収縮させる方法である.もともとは遠視と老視の治療を目的として開発された方法であり,それぞれ2002年と2004年に米国食品医薬品局の承認を得て,実際のヒトの屈折矯正に用いられ始めていた1).筆者らはCKを用いて円錐角膜眼の角膜形状の整復を行う方法を考案し,Topography-guidedconductivekeratoplasty(TGCK)とよんでいる2)..新しい治療法(原理)角膜実質のコラーゲンは58~76℃の温度で収縮する.しかし,79℃以上の高温になると,逆に伸縮性を失い変性し,やがてケラトサイトが活性化されコラーゲン新生が起こり瘢痕が形成される.CKでは,角膜に刺入した電極から発生したラジオ波が角膜実質の中を電導する際に生じる抵抗が熱に変換され,電極周囲の実質の温度が58~76℃になる.これを利用し,電極の周囲の角膜のコラーゲンを比較的深い層まで均一に円柱形に近い形状で収縮を起こさせる仕組みである3).直径7~8mmの円周上にCKを行った場合は,隣り合うCKの間の距離が短縮し,収縮リングができ,円の内部の曲率半径は小さくなる.一方,CKを行う円の直径を3~5mm程度に小さくすると,対角線上のCKの間の距離も短縮するため,円の内部の曲率半径は小さくなる.この原理を利用して,円錐角膜眼に行うTGCKでは狭い範囲にCKを行い,さらに個々の角膜の形状に合わせて突出箇所に多くのCKを行うことで対称性を改善させる(図1)..実際のやり方CKの電極を角膜に垂直に刺入し,ラジオ波を発生させる.角膜形状を参照しながら,3~5mmの円周上にまず何箇所かCKを施し,適宜ケラトリングを用いて角膜形状を確認しながら角膜の対称性が確保されるよう図1TGCK施行前の角膜形状と施行後のスリット所見下方の突出部分に多くTGCKを施行することで対称性を改善させる.(文献2のFigure1より転載)(79)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20128010910-1810/12/\100/頁/JCOPY に,突出部分に多くCKを追加する.TGCKを行っただけでは矯正効果は術後1カ月を過ぎると急速に弱まり,術後3カ月ごろには角膜はほとんど施術前に近い形に戻ってしまう.そこで,TGCK後には早期に角膜クロスリンキング4)を行い,形状を固定する必要がある.TGCKを行う症例は,角膜厚が450μm以上であり,角膜実質に混濁や瘢痕がない症例を選ぶ必要がある.TGCKは角膜実質に収縮を起こす術式であるので,瘢痕のある角膜では効果が期待しにくい.また,角膜が薄い症例には電極が角膜を穿孔する危険性が高く,もともと適応でないうえ,その後の角膜クロスリンキングが不可能であるため,長期にわたる効果が期待できない..本方法の良い点TGCKが角膜を整復する力は非常に強く,AmslerKrumeich分類で3度以上の強度の円錐角膜でも裸眼視力と矯正視力を向上させることができる.一方で,まだ症例数が少なく長期的データも不足しているため慎重な適応決定が求められる.しかし,角膜移植を検討している患者に移植の前に施行する方法としては非常に有用と考える.文献1)McDonaldMB,DavidorfJ,MaloneyRKetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyperopia:1-yearresultsonthefirst54eyes.Ophthalmology109:637-649,20022)KatoN,TodaI,KawakitaTetal:Topography-guidedconductivekeratoplasty;Treatmentforadvancedkeratoconus.AmJOphthalmol150:481-489,20103)BerjanoEJ,NavarroE,RiberaVetal:Radiofrequencyheatingofthecornea:Anengineeringreviewofelectrodesandapplicators.TheOpenBiomedicalEngineeringJ1:71-76,20074)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,2003.本方法に対するコメント.長い間,円錐角膜の治療はハードコンタクトレンズTGCKはクロスリンキングで効果の安定が得られると角膜移植しかなく,進行した円錐角膜患者は視機能ようになったが,症例を選べば角膜移植以上の矯正視が低い状態での生活を余儀なくされている.TGCK力が確実に得られる手術であろうか?40年前に生は角膜熱形成とクロスリンキングを組み合わせて,こまれた角膜熱形成術はそのプライマリアウトカムであれまで角膜移植になっていた症例の何割かを移植しなる視機能(コンタクトレンズ装用後矯正視力)が角膜くてもよくできる治療という位置づけらしい.移植に劣るという点も見逃すことはできない.このこ故糸井素一先生らが開発された「円錐角膜に対するとを克服する何らかの方法論が開発されれば,ある一角膜熱形成術」の問題点は,「効果の不安定性」と定数の円錐角膜には確実に熱形成が行われることにな「角膜混濁が発生しうる」ことであったという.るものと思われる.☆☆☆802あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(80)

抗VEGF治療:抗VEGF薬の基礎

2012年6月30日 土曜日

●連載①抗VEGF治療セミナー─基礎編─監修=安川力髙橋寛二1.抗VEGF薬の基礎石田晋北海道大学大学院医学研究科眼科学分野近年の細胞生物学的研究の進歩は,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などにみられる眼内血管新生の責任分子が血管内皮増殖因子(VEGF)であることを明らかにした.このため,VEGFを分子標的とした治療戦略の確立に向けて複数の新薬が開発された.本稿では,これらVEGF阻害薬の薬剤特性について概説する.眼科疾患と抗VEGF療法~オーバービュー~糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など重篤な視力障害に至る眼科疾患における共通の進行期病態は,血管新生である.近年の細胞生物学的研究の進歩は,血管新生の責任分子が血管内皮増殖因子(VEGF)であることを明らかにしたため,VEGFを分子標的とした治療戦略の確立に向けて複数の新薬が開発された.VEGF分子に結合し,その生物活性を阻害する方法は複数あるため,これが現存のVEGF阻害薬の多様性につながっている.大腸癌を適応としながら眼内使用が未認可のまま世界的に広まった中和抗体製剤bevacizumabの他に,わが国では加齢黄斑変性を適応疾患として,pegaptanib,ranibizumabが2008年,2009年と相次いで厚生労働省の認可を受け,さらに3剤目のafliberceptの第3相ランダム化対照試験(RCT)が終了し,2012年中の認可を見込まれている.基本構造だけをみてもpegaptanibはアプタマーという修飾RNA分子,ranibizumabは中和抗体可変領域断片,afliberceptは2つのVEGF受容体融合蛋白であり,そもそも創薬デザインから大きく異なっており(表1),これら多様なVEGF阻害薬について,その薬剤特性の相違点を把握しておくことは必要である.VEGFは血管透過性因子でもあることから,糖尿病黄斑浮腫に対する改善効果が期待され,最近になってRCTの良好な成績が次々に報告された.しかしながら,加齢黄斑変性と同様,長期にわたる継続投与の安全性・有効性については未だ明らかにされていない.糖尿病網膜症も加齢黄斑変性も慢性疾患であるため,これらの疾患に対する抗VEGF療法はいつまで続けるべきか,他の治療法といかに組み合わせていくか,などといった至適な治療プロトコールを検討していくことは,今後の重要な課題である.抗VEGF療法の基礎知識1.VEGFの生物活性VEGFには少なくとも8つのアイソフォームが存在し(図1),眼内ではVEGFとVEGFが主に産生される(数字は構成アミノ酸の(121)数).血管内(165)皮細胞には,VEGF受容体VEGFR-1,VEGFR-2が発現しており,血管内皮細胞の分裂を担うシグナルはVEGFR-1ではなくVEGFR-2を介する.VEGFR-2は,VEGF165アイソフォームに特異的に結合するneuropilin-1という補助受容体と共発現することで,VEGF165-VEGFR-2/neuropilin-1という複合体を形成すると,VEGF165によ表1VEGF阻害薬の薬剤特性薬剤名(商品名)分子量(kDa)創薬デザイン阻害分子販売認可(海外/日本)Pegaptanib(Macugen)Bevacizumab(Avastin)Ranibizumab(Lucentis)Aflibercept(EyleaorVEGFTrap-Eye)5015050110アプタマー中和抗体中和抗体断片VEGF受容体融合蛋白(加齢黄斑変性を対象とした適応)VEGF1652004年/2008年VEGF未認可/未認可VEGF2006年/2009年VEGFPIGFなどのVEGFホモログ分子2011年/2012年(見込み)(75)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20127970910-1810/12/\100/頁/JCOPY VEGFR-1VEGFR-2neuropilin-1VEGFR-2signaltransductionVEGFR-2neuropilin-1VEGF165VEGF121VEGFR-1VEGFR-2neuropilin-1VEGFR-2signaltransductionVEGFR-2neuropilin-1VEGF165VEGF121exon:1-58exon:1-56A1A28exon:1-578exon:1-56A1A26B8exon:1-578exon:1-56A178exon:1-56A1A278exon:1-56A1A26B78exon:1-518617446receptorbindingdomainheparinbindingdomainPlGFVEGF121VEGF165VEGF121VEGF145VEGF148VEGF162VEGF165VEGF183VEGF189VEGF206aminoacids図1VEGFアイソフォーム眼内で産生されるアイソフォームはVEGF121とVEGF165.両者の違いはexon7によるコード領域の有無(赤囲み).Exon7コード領域にneuropilin-1やpegaptanibが結合する.図2VEGF.VEGF受容体システムNeuropilin-1はVEGF165と特異的に結合するVEGFR-2の補体受容体.VEGF165の細胞内シグナルはneuropilin-1により強力になる.PIGF(VEGF遺伝子ファミリーの一つ)はVEGFR-1に結合する.CCR2MCP-1内皮細胞VEGFR-2VEGFCD18ICAM-1VEGFR-1炎症細胞内皮細胞分裂るVEGFR-2シグナルがneuropilin-1により増強され,内皮細胞分裂が亢進する(図2).このシステムの関与は糖尿病網膜症の線維血管増殖1)や関節リウマチの滑膜血管新生などで示されており,VEGF164欠損マウス(マウスではアミノ酸の数が1つ少ない)でも脳や網膜の発生段階の生理的血管新生に影響しないことから2),VEGF165は病理的アイソフォームと理解されるようになった3).VEGFR-1はマクロファージ系の炎症細胞にも発現しており,VEGFは白血球走化因子として機能し炎症細胞をリクルートする.さらにVEGFは,血管内皮細胞のVEGFR-2を介して強力な走化因子monocytechemotacticprotein(MCP)-1や接着分子intercellularadhesionmolecule(ICAM)-1の発現誘導を促進することで炎症細胞のリクルートや血管内皮への接着を促進する4)798あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012炎症図3VEGFの生物活性(炎症と血管新生)白血球接着VEGFは,VEGFR-2を介する血管内皮血管新生細胞分裂(血管新生)のみならず,白血球(マクロファージ系炎症細胞)のVEGFR-1に作用して炎症を惹起する.(図3).このように,VEGFの炎症性サイトカインとしての生物活性は,VEGFがそもそも血管透過性因子vascularpermeabilityfactor(VPF)として発見された経緯からも納得できるが,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性でみられる浮腫性・滲出性病変を説明しうる重要な性質なのである.したがって,抗VEGF療法の奏効機序は,炎症(浮腫性・滲出性変化)と血管新生の双方を抑制することにある.2.VEGF阻害薬の種類と特徴(表1)a.Pegaptanib眼内で発現する主要なVEGFアイソフォームはVEGF121とVEGF165の2つであるが,pegaptanibはVEGF165アイソフォームに選択的に結合するように作られたアプタマーである.Pegaptanibの基本構造はRNA分子で,ヌクレアーゼで分解されないようメチル(76) 化・フルオロ化されている.また,半減期を延長するよう基本構造に高分子ポリエチレングリコール付加などの分子修飾が加えられ,分子量はほぼ50kDaである.アイソフォーム選択性の理論的根拠は,VEGF165がVEGF121より強力な生物活性をもつうえに病理的な条件でより誘導されること,VEGFそのものが眼内の恒常性維持のため生理的に必要であることであろう.しかし,加齢黄斑変性に対するpegaptanibとranibizumabそれぞれの第3相RCT(VISION5),MARINA6),ANCHOR7))の結果からpegaptanibの視力改善効果はranibizumabより小さく,この理由としてpegaptanibはVEGF121による病態形成を抑制できないことが考えられる.b.RanibizumabとBevacizumabBevacizumabは,VEGFに対するマウスモノクローナル抗体を遺伝子組み換えによりヒト化した中和抗体で,アイソフォーム非選択的にすべてのVEGFアイソフォームを阻害する.分子量はIgG分子相当のほぼ150kDaである.一方,ranibizumabは,bevacizumabと同様にすべてのアイソフォームを阻害する抗VEGF中和抗体から,Fabフラグメント(可変領域)を基本構造として作製された蛋白製剤である.全長のIgGでは硝子体注入した場合の網膜内への移行性が悪いため,より小さな分子量の誘導体として開発された.分子量はほぼ50kDaである.Ranibizumabは,アイソフォーム非選択的な中和抗体製剤という点でbevacizumabと共通しているが,その分子量の違いは組織深達性に有利である一方,半減期が短くなるという不利な点もある.Bevacizumabは,ranibizumabやpegaptanibと異なり,もともと大腸癌に対する静脈注射用に開発され,眼疾患に対する局所投与(硝子体注射)のRCTを経ずに未認可使用が広まった.しかしながら,bevacizumabの有効性を示す報告はこの数年で急増し,bevacizumabはranibizumabとほぼ同等の有効性をもつと考えられる8).安全性への懸念として,ranibizumabは,その第3相RCTのサブ解析から脳血管イベントのリスクを上昇させる可能性が指摘されており9),特に血管イベントの既往のある患者への投与には慎重を要する.c.AfliberceptAfliberceptは,VEGFR-1とVEGFR-2それぞれのVEGFに結合する細胞外ドメインとIgG分子のFcドメイン(不変領域)の融合蛋白であり,細胞内シグナルが(77)入らないよう切断された可溶化受容体としてVEGFに結合する.分子量はほぼ110kDaであり,硝子体投与による網膜深達性も確認されている.VEGFR-1の細胞外ドメインを含んでいることから,すべてのVEGFアイソフォームに加えて胎盤成長因子placentagrowthfactor(PlGF),VEGF-Bなど他のVEGF遺伝子ファミリーのホモログ分子も阻害する点もユニークな特徴の一つである.加齢黄斑変性に対する第2相ランダム化試験(CLEAR-IT2)10)の結果からは,afliberceptはranibizumabと同等の有効性をもつ可能性が示され,わが国も参加している第3相RCT(VIEW2)はプラセボ群を設定せずranibizumabとの実薬対照試験である.最近公表された結果では(論文未発表),ranibizumabに比べて何ら遜色のない有効性が示された.文献1)IshidaS,ShinodaK,KawashimaSetal:CoexpressionofVEGFreceptorsVEGF-R2andneuropilin-1inproliferativediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci41:1649-1656,20002)IshidaS,UsuiT,YamashiroKetal:VEGF164-mediatedinflammationisrequiredforpathological,butnotphysiological,ischemia-inducedretinalneovascularization.JExpMed198:483-489,20033)UsuiT,IshidaS,YamashiroKetal:VEGF164(165)asthepathologicalisoform:DifferentialleukocyteandendothelialresponsesthroughVEGFR-1andVEGFR-2.InvestOphthalmolVisSci45:368-374,20044)IshidaS,UsuiT,YamashiroKetal:VEGF164isproinflammatoryinthediabeticretina.InvestOphthalmolVisSci44:2155-2162,20035)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETJretal:VEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularizationClinicalTrialGroup.Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed351:2805-2816,20046)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:MARINAStudyGroup.Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20067)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup.Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,20068)CATTResearchGroup,MartinDF,MaguireMGetal:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20119)UetaT,YanagiY,TamakiYetal:Cerebrovascularaccidentsinranibizumab.Ophthalmology116:36,200910)HeierJS,BoyerD,NguyenQDetal:CLEAR-IT2Investigators.The1-yearresultsofCLEAR-IT2,aphase2studyofvascularendothelialgrowthfactortrap-eyedosedas-neededafter12-weekfixeddosing.Ophthalmology118:1098-1106,2011あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012799

緑内障:糖尿病は緑内障の危険因子か?

2012年6月30日 土曜日

●連載144緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也144.糖尿病は緑内障の危険因子か?千原悦夫京都府宇治市・千原眼科糖尿病患者では神経症に伴う網膜神経線維層の萎縮がもともと存在し,これに線維柱帯の機能異常による高眼圧が加わるため,糖尿病は従来緑内障の危険因子と考えられてきた.しかし,近年糖尿病による神経保護作用が報告され,疫学的調査の結果も混乱するようになった.本稿では対立する2学説の白熱した議論を紹介した.糖尿病はわが国における患者数が800万人を超える重要な全身疾患であり,その三大合併症は糖尿病網膜症,腎症,神経症で眼科との関連も深い.糖尿病網膜症の発症は全身における脳血管障害,心臓血管障害のリスクが上がっていることを示す兆候として重視され,また眼科では硝子体出血,牽引性網膜.離,血管新生緑内障の発症を経て失明に至る病態として臨床的にも注目度が高い.その一方で,糖尿病神経症は後天性色覚異常,コントラスト感度の低下などの眼症状はあるが,失明に至らないものとして眼科ではあまり興味をもたれなかった.しかし,近年緑内障と糖尿病の関係が話題になり,この糖尿病神経症と緑内障性視神経萎縮との関係について激しい議論が展開されるようになってきている.●視神経における糖尿病神経症糖尿病神経症は全身の神経組織を侵すが,人体最大の神経である視神経も例外ではない.基礎医学的には細胞の自殺といわれるapoptosisについて糖尿病の動物あるいはヒトの網膜を調べると,網膜の内層(神経節細胞層)で,網膜神経節細胞やアマクリン細胞が減少し,その結果,網膜神経線維層が20%程度減る.このようなapoptosisは外胚葉の細胞のみならず血管系の中胚葉の細胞でも起こり,全身的な問題でもある1).神戸大学の報告図2単純糖尿病網膜症患者における網膜神経線維層欠損この患者では外下方に欠損を認める(矢印).:NDR(n=50):PDR(n=20)80:mode-NPDR(n=25):mildNPDR(n=33)7060NFLT(μm)50p=0.016p=0.008p=0.003p<0.001p=0.039p=0.024p<0.00150404030302020101000TSNITave.Superiorave.Inferiorave.NFIp=0.0019p=0.0045p=0.0010p<0.0001NFIscore図3文献4に報告された糖尿病による網膜神経線維層厚の減少網膜症が悪化するほど神経線維層は菲薄化するが,網膜症がない患眼でも菲薄化が起こっていることがわかる.NDR:網膜症なし,mildNPDR:初期の単純糖尿病網膜症,mode-NPDR:中期単純糖尿病網膜症,PDR:増殖糖尿病網膜症,NFLT:網膜神経線維層厚,TSNITave.:全周平均神経線維層厚,Superiorave.:上半周平均神経線維層厚,Inferiorave.:下半周平均神経線維層厚.(73)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20127950910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1網膜症のない糖尿病患者における網膜神経線維層欠損無赤光撮影で乳頭の外上側に欠損を認める(矢印). では糖尿状態で眼圧を上げると,さらに多くのapoptosisが起こる.筆者らは以前糖尿病家兎の視神経において軸索輸送量が減少することを報告したが,軸索輸送の減少による栄養因子の減少が神経節細胞のapoptosisにつながるということも考えられる2).臨床的に糖尿病患者の網膜神経線維層を観察すると,血管障害が起こる前から神経線維層の欠損が発見され,それはscanninglaserpolarimeter(GDx)においても確認されるが,乳頭の陥凹拡大は伴わない(図1.3)3,4).●糖尿病患者における高眼圧一方,糖尿病になると蛋白質のクロスリンクが増え,またムコ多糖代謝に異常が起こることが知られており,このことがSchlemm管とぶどう膜強膜流出路における房水排出機能を低下させると考えられている.実際に糖尿病患者における高眼圧を報告する論文は多い5).これまでの議論をまとめると糖尿病では神経線維(細胞)の脱落があり,しかも,この患者群では眼圧が高いので緑内障の頻度が高いであろうと推測され,実際BlueMountainEyeStudyをはじめとしてヒスパニックや看護師を対象にした研究など,いくつかの疫学的な研究で糖尿病患者における緑内障の頻度が高いことが報告された6).●反論:糖尿病は神経保護作用をもつのか?ところが,2002年になってOHTS(ocularhypertensiontreatmentstudy)で,糖尿病群においては眼圧が高いことが確認されるにもかかわらず,緑内障の発生頻度が低い〔Hazardratio0.37(range0.15.0.90,p<0.05)〕という結果が発表された7).このOHTSの結果は2008年になって著者のGordon自身が糖尿病の検出率に問題があったことを認め有意差はなかったと修正されたが,それでも眼圧が高いにもかかわらず発生頻度に有意差がないということは,糖尿病が神経保護的に作用するのであろうと解釈された.さらに,この発表と相前後していくつかの疫学的な調査で糖尿病と緑内障の関係が否定され5,8),2009年にはQuigleyのような大物が糖尿病は緑内障の危険因子ではないとして論陣を張るに至った9).Quigleyは糖尿病患者において緑内障の発見が多いとされる理由は,眼圧が高く,しかも網膜症に関する検診を受ける機会が多いためであるとしており,糖尿病そのものは逆に神経保護的に作用する可能性があるとしている.彼は糖尿病による神経保護に関して以下の3つの論点を強調した.1)糖尿病患者における血管バリアの破綻に伴って細胞間に漏出するVEGF(血管内皮増殖因子)に神経保護作用があること,2)中枢神経において前虚血状態にさらされた神経組織はサバイバル機構が働くようになることが知られており,網膜でも神経が緑内障性視神経障害に対する防御機能を備える可能性があるということ,3)糖尿病患者においてはコラーゲンのクロスリンキングが起こるので強膜組織が強化され,視神経篩状板におけるストレスに耐えやすい視神経乳頭ができるというものである.実際にそのことを示すような報告もなされている.日本では糖尿病と緑内障の関係について早くから研究が行われ,糖尿病は緑内障の危険因子であるとする論調が強かった.糖尿病で神経症が網膜神経線維層に起こるということについては間違いがないと思われるが,緑内障の危険因子であるかについては白熱した議論が展開されており,今後どうなるのか興味深い.文献1)BarberAJ,LiethE,KhinSAetal:Thesignificanceofvascularandneuralapoptosistothepathologyofdiabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci52:1156-1163,20112)ChiharaE:Impairmentofproteinsynthesisintheretinaltissueindiabeticrabbits;secondaryreductionoffastaxonaltransport.JNeurochem37:247-250,19813)ChiharaE,MatsuokaT,OguraYetal:Retinalnervefiberlayerdefectasanearlymanifestationofdiabeticretinopathy.Ophthalmology100:1147-1151,19934)TakahashiH,GotoT,ShojiTetal:Diabetesassociatedretinalnervefiberdamageevaluatedbyscanninglaserpolarimetry.AmJOphthalmol142:88-94,20065)TanGS,WongTY,FongC-Wetal:Diabetes,metabolicabnormalities,andglaucoma.ArchOphthalmol127:13541361,20096)MitchellP,SmithW,CheyTetal:Open-angleglaucomaanddiabetes:theBlueMountainEyeStudy,Australia.Ophthalmology104:712-718,19977)GordonMO,BeiserJA,BrandtJDetal:Theocularhypertensiontreatmentstudy.ArchOphthalmol120:714-720,20028)DeVoogdS,IkramMK,WolfsRCetal:Isdiabetesmellitusariskfactorforopen-angleglaucoma?TheRotterdamStudy.Ophthalmology113:1827-1831,20069)QuigleyHA:Candiabetesbegoodforglaucoma?Whycan’twebelieveourowneyes(ordata?).ArchOphthalmol127:227-229,2009796あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(74)

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーによる近視矯正手術(ReLEx)

2012年6月30日 土曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載145大橋裕一坪田一男145.フェムトセカンドレーザーによる神谷和孝北里大学医学部眼科近視矯正手術(ReLEx)フェムトセカンドレーザーによる近視矯正手術Refractivelenticuleextraction(ReLEx)は,フラップを作製するFemtosecondlenticuleextraction(FLEx)とフラップを作製しないSmallincisionlenticuleextraction(SMILE)に分類される.初期臨床成績では,安全性・有効性が高く,予測性にも優れており,本来のprolate角膜形状を比較的保持し,球面収差増加が少ない.術式の理論的背景から考えてもポテンシャルが高く,新たな屈折矯正手術の選択肢の一つとして期待される.●ReLExとは?マイクロケラトームを用いた角膜実質除去による近視矯正手術は,1996年にBarraquerらによって開発されたが,十分な精度が得られず,広く臨床応用されるに至らなかった.フェムトセカンドレーザーの登場によって任意の深さや方向で自由自在に角膜組織をアレンジできるようになり,これまで術者の経験や技量に負うところが大きかった眼科手術が少なからず変貌を遂げようとしている.従来LASIK(laserinsitukeratomileusis)におけるフラップ作製に使用されてきたが,現在ではさまざまな角膜移植,角膜内リング,老視矯正から白内障手術にまで適応が拡大している.屈折矯正手術分野においては,エキシマレーザーを使用せず,角膜実質の一部をレンチクルとして抜去する屈折矯正手術Refractivelenticuleextraction(ReLEx)が開発されている.ReLExは,Femtosecondlenticuleextraction(FLEx)およびその亜型であるSmallincisionlenticuleextrac-tion(SMILE)の総称として用いられており,CarlZeissMeditec社のフェムトセカンドレーザーVisuMaxTMを使用して行う.●Femtosecondlenticuleextraction(FLEx)まず,フェムトセカンドレーザーを用いてフラップとレンチクル作製のベースとなる切開を行う(図1).つぎに,フラップ辺縁からスパーテルを用いてフラップを鈍的に.離する.その後,レンチクル後面も同様にして.離し,鑷子によりレンチクルを抜去する(図2).最後に,LASIKと同様に洗浄を行いフラップの接着を確認して手術を終了する.LASIKと異なり,①エキシマレーザーを必要とせず患者の移動が不要,②手術室の室内環境に影響を受けにくい,③レーザー照射による個体差の(71)図1ReLExフェムトセカンドレーザーを用いてフラップとレンチクル作製のベースとなる角膜切開を行う.図2FLExレンチクル後面も同様に.離し,鑷子によりレンチクルを引き.がす.ある角膜創傷治癒反応の影響を受けにくい,④眼球運動の影響や周辺部レーザー照射効率の悪化がなく,眼球高次収差への影響が少ない,⑤しかもその変化が矯正量に依存しない,ことがメリットとして考えられる.2006年にBlumやSekundoらのグループにより,最初のReLExの臨床試験は弱視眼を対象として開始された.その後2008年にSekundoらは,近視および近視性乱視(術前等価球面度数.4.73±1.48D)を有する10例10眼を対象として,術後6カ月までの初期臨床成績を報告している1).その結果,達成矯正度数が予測矯正度数の±0.5D以内が40%,±1.0D以内が90%であり,2段階以上の視力低下を認めた症例はなかったとしている.つぎに,角膜形状と眼球球面収差の変化に注目したい.通常,LASIKに代表されるエキシマレーザー屈折矯正手術は,矯正量に依存して角膜がprolateからあたらしい眼科Vol.29,No.6,20127930910-1810/12/\100/頁/JCOPY oblate形状へと変化し,高次収差が増加することが知られているが,本手術では,周辺部角膜レーザー照射効率の悪化に伴うoblate化がなく,優れた眼球光学特性が維持可能と考えられる.コントラスト感度については検討されていないが,高次収差については,瞳孔径5mmにおける全収差が0.18±0.07μmから0.21±0.09μmへ,コマ収差が0.09±0.05μmから0.14±0.09μmへ,球面収差が0.08±0.08μmから0.06±0.08μmへといずれも有意な変化を認めず,矯正量にも依存しないと報告している.2010年Blumらは,近視および近視性乱視(術前等価球面度数.4.59±1.3D)を有する56例107眼を対象として,達成矯正度数が予測矯正度数の±0.5D以内が74.8%,±1.0D以内が98.1%,屈折安定性も良好であり,97.1%の患者満足度が得られたと報告している2).術後合併症としては,一過性上皮下混濁(術後1週以内)が20.3%に,Diffuselamellarkeratitis(DLK)が0.9%に,周辺部におけるmicrostriaeが15.7%に,それぞれ認められたものの全例経過とともに軽快したとしている.さらに,Blumらは,近視性乱視31例62眼を対象として,術後1年の臨床成績も報告しており,平均裸眼視力が術前0.12から術後1.10へと改善し,術後6カ月以降の屈折安定性も良好であった3).北里大学病院においても倫理委員会の承認を得て,国内初となるFLExを2010年10月から開始しており,優れた初期臨床成績が得られている(神谷ら,第65回日本臨床眼科学会発表).ただし,LASIKに比較して術後早期の裸眼視力の回復がやや遅い傾向があり,現在ではエネルギー設定や術後投薬の見直しを行って,早期回復が得られている.●Smallincisionlenticuleextraction(SMILE)SMILEはFLExをさらに改良した術式であり,フラップそのものを作製しない.したがって,角膜に対する侵襲はより少ないであろうと考えられる.まず,フラップに該当する辺縁に弧状切開を加え,FLExと同様にしてスパーテルを用いてレンチクル前面と後面を鈍的に.離する.その後,鑷子を用いて遊離したレンチクルを切開創より引き抜いて,最後に創間を洗浄して手術を終了する(図3).FLExと比較してもフラップ作製に伴う角膜生体力学特性の低下やドライアイも起こりにくいことが理論的に期待されている.2011年Sekundoらは,48例91眼に対してSMILEを施行したところ,術後6カ月の時点での達成屈折度数が予測屈折度数の±0.5D以内が80.2%,±1.0D以内が95.6%であり,FLExと794あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012図3SMILE約60°の弧状切開創より遊離したレンチクルを引き抜く.同様にして高次収差の増加は少なく,93.7%の患者満足度が得られたと報告している4).Shahらは,41例51眼に対してSMILEを施行し,術前屈折度数が.4.87±2.16Dから術後6カ月の時点で+0.03±0.30Dへと改善し,予測屈折度数の±0.5D以内が91%,±1.0D以内が100%,裸眼視力0.8以上の割合が79%であったとしている5).いずれの結果もノモグラムを使用せずに得られたものである.FLExと比較してドライアイの自覚・他覚的所見が有意に少ない点や予測性がわずかながらも良好である点に注目したい.フェムトセカンドレーザーを用いてどんなに正確にフラップを作ったとしても,フラップ作製そのものが屈折安定性やオキュラーサーフェスに何らかの影響を与えるリスクファクターとなり得るのかもしれない.自験例による検討でも,術後疼痛が有意に低下し,オキュラーサーフェスへの影響も少ないことが明らかになっている.従来の角膜屈折矯正手術と異なり,本術式はフラップレスサージェリーとしてのアドバンテージがあり,今後の普及が期待される.文献1)SekundoW,KunertK,RussmannCetal:Firstefficacyandsafetystudyoffemtosecondlenticuleextractionforthecorrectionofmyopia:six-monthresults.JCataractRefractSurg34:1513-1520,20082)BlumM,KunertK,SchroderMetal:Femtosecondlenticuleextractionforthecorrectionofmyopia:preliminary6-monthresults.GraefesArchClinExpOphthalmol248:1019-1027,20103)BlumM,KunertKS,EngelbrechtCetal:Femtosecondlenticuleextraction(FLEx)─Resultsafter12monthsinmyopicastigmatism.KlinMonblAugenheilkd227:961965,20104)SekundoW,KunertKS,BlumM:Smallincisioncornealrefractivesurgeryusingthesmallincisionlenticuleextraction(SMILE)procedureforthecorrectionofmyopiaandmyopicastigmatism:resultsofa6monthprospectivestudy.BrJOphthalmol95:335-339,20115)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlenticuleextraction:All-in-onefemtosecondlaserrefractivesurgery.JCataractRefractSurg37:127-137,2011(72)

眼内レンズ:胸膜弁を作成しない眼内レンズ指示部強膜内固定法

2012年6月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎310.強膜弁を作製しない眼内レンズ山根真門之園一明横浜市立大学附属市民総合医療センター支持部強膜内固定法眼内レンズ支持部強膜内固定法は煩雑な縫合を必要としない手術方法である.シンプルな手技で確実な眼内レンズ固定が可能であるが,従来の手術法とは大きく異なるので,事前に十分なシミュレーションを行うことが望ましい.水晶体支持組織のない無水晶体眼に対する眼内レンズ(IOL)挿入法はIOL縫着術が一般的であるが,近年IOL支持部を縫合することなく強膜内に固定する術式が報告されている1.3).この術式は,毛様溝を通して眼外へIOL支持部を誘導し,強膜に作製したトンネル内に留置するものである.最初に報告されたGaborの方法では,25ゲージ硝子体鑷子にてIOL支持部を眼外へ引き出し,24ゲージ針で作製した強膜トンネルへ挿入するという方法であった.この方法では引き出した支持部を強膜トンネルに挿入することが技術的にむずかしかった.Agarwalの方法では強膜弁を作製してIOL支持部を覆う術式であり,比較的容易に行うことができる.しかし,フィブリン糊か縫合が必要な強膜弁を作製する術式は,シンプルであるというIOL支持部強膜内固定の最大の魅力を半減させてしまう.筆者らはGaborの原法に近い方法で,より低侵襲,簡便に行えるよう術式を改良した.無水晶体眼に対する手術の手順を以下に記載する.まず25ゲージシステムを用いて硝子体を切除する.支持部固定予定部位の結膜を切開し,角膜輪部に平行な長さ1.5mm程度の強膜半層切開を行う(図1).強膜半層切開は水平に刺入したときに毛様溝へ至るよう,角膜輪部から約2mm離れた位置に作製する.4時,10時方向に強膜半層切開を作製したら1時方向の強角膜切開からインジェクターを用いてIOLを挿入する.この際前方支持部は虹彩上に置き,後方支持部は眼外に留める.続い強膜トンネル(2mm)強膜半層切開(1.5mm)1.5~2mm27ゲージ針図1強膜半層切開支持部の強膜トンネル内への挿入を容易にするために,角膜輪部に平行な長さ1.5mm程度の強膜半層切開を行う.図2眼内レンズ支持部の引き出し27ゲージ針に眼内レンズ支持部を挿入して眼外へ誘導する.図3眼内レンズ支持部の固定鑷子を用いて強膜トンネル内へ眼内レンズ支持部を挿入する.(69)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20127910910-1810/12/\100/頁/JCOPY て27ゲージ針を強膜半層切開部から眼内に刺入し,内腔に前方支持部を挿入して眼外へ引き出す(図2).この操作にはコツが必要で,まずIOLを挿入する強角膜創と支持部を眼外へ引き出す強膜半層切開部との位置関係が重要である.支持部のカーブをイメージして,引き出しやすい位置を見つける.IOLにより多少異なるが,両者が約90°程度離れている位置が適切である.27ゲージ針の内腔に支持部を挿入する際には角膜サイドポートから挿入した前.鑷子などにて誘導する必要がある.後方支持部もいったん虹彩上に挿入し,先行支持部と同様に眼外へ誘導する.続いて30ゲージ針を用いて強膜半層切開の端から角膜輪部に平行に長さ2mm程度の強膜トンネルを作製して,IOL支持部を挿入する(図3).本術式は原法よりスモールゲージにて手術を行うため低侵襲であり,創からの房水漏出がほとんどないので,術後低眼圧の心配がないというメリットがある.また,IOL支持部を眼外へ引き出した部位と,強膜トンネルの間に強膜半層切開を作製することで,原法ではややむずかしかった強膜トンネルへの支持部挿入を容易にしている.IOL支持部は強膜トンネル内に挿入しているだけであるが,固定には問題がないと考える.鑷子などでIOL支持部を強膜トンネルに平行に引けば抜けるが,光学部をレンズフックなどで強く押しても支持部が抜けることはない.眼内レンズ支持部強膜内固定は現時点で従来の縫着術にとって代わるものではないかもしれないが,よりシンプルに行える術式として今後も発展していくと考えられる.通常のIOLは.内固定を前提に設計されているため,本術式では全長が足りず,引き伸ばした状態になってしまうという問題があり,術式の改良に加えて専用IOLの開発が望まれる.文献1)GaborSGB,PavlidisMM:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlensfixation.JCataractRefractSurg33:1851-1854,20072)AgarwalA,KumarDA,JacobSetal:Fibrineglue-assistedsuturelessposteriorchamberintraocularlensimplantationineyeswithdeficientposteriorcapsules.JCataractRefractSurg34:1433-1438,20083)小早川信一郎,松本直,権田恭広ほか:支持部を強膜内に固定する新しい眼内レンズ二次挿入術の早期成績.眼科手術23:125-130,20102012年4月作成

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ装用指導の実際(2)

2012年6月30日 土曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】336.コンタクトレンズ装用指導の実際(2)塩谷浩しおや眼科●ハードコンタクトレンズの装脱練習前号で解説したハードコンタクトレンズ(HCL)の装用指導前と装脱練習前の準備が終わってから装脱練習を開始する.患者がコンタクトレンズ(CL)メーカーの取り扱い説明書を事前に読んで装脱の仕方の概略を理解してきたことを確認し,レンズの装着の仕方,レンズのはずし方,レンズのずれの直し方の順に指導する.以下に一般的に行われていることと同様ではあるが,当クリニックで行っている装脱練習の実際について解説する.●レンズの装着の仕方(1)まず,ケースから取り出したレンズを,凹面を上にして利き手の人差し指の指先の腹にのせる.ここでレンズに異常がないかどうか確認する.(2)つぎに,鏡を見ながら利き手の中指でレンズを装着する眼の下眼瞼を下方に引き気味にして支え,残りの手の人差し指で,より大きく開瞼できるように上眼瞼を真上から上方に引きながら閉瞼しないように押さえる(図1).(3)鏡を見ながら角膜が瞼裂の中央にくるようにコントロールし,レンズを角膜に近づけて,人差し指で角膜にそっと触れるような感覚で角膜の中央に装着する(図2).このとき,顔が鏡と平行になるようにすることと,顔が下向きになり上目遣いにならないよう意識することを指導する.(4)レンズが角膜に装着した状態になっていることを自覚したら,ゆっくりと人差し指を角膜から離し,続いて利き手の中指を下眼瞼から離す.最後にレンズがずれないように注意しながら上眼瞼を押さえていた残りの手の人差し指を離す.(5)静かに瞬目をして,レンズが角膜上で動いていることを鏡で確認する.さらに見え方が裸眼(またはレンズ非装着眼)と比べて異なることを利用して,レンズが角膜の中央に確実に装着した状態であることを確認する.(67)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1レンズの装着の仕方図2レンズの装着の仕方●レンズのはずし方HCLの装用開始後に患者がレンズをはずすことができないような事態が生ずれば,レンズの装着そのものが危険なものとなってしまう.そのため装脱練習のなかで,レンズのはずし方は特に重要であり,確実に習得しなければならない技術である.当クリニックでは患者が安心して装着できるようにレンズのはずし方についてはあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012789 図3レンズのはずし方:方法1図4レンズのはずし方:方法2図5レンズのずれの直し方2つの方法を練習し,それぞれの患者が使いこなしやすい方法を主として用いるように指導している.<方法1>(1)顔が鏡と平行になるように注意して,鏡を見ながら角膜が瞼裂の中央にくるようにコントロールし,レンズが角膜の中央に位置していることを確認する.(2)レンズより大きく瞼裂を開くように意識しながら,レンズをはずす眼と同じ側の人差し指を目尻に当て,それと同時にレンズを受け止めるために反対側の手のひらを顔の下に添える(図3).(3)目尻に当てた人差し指で皮膚を耳側あるいは耳側のやや上方に引いて,テンションを加えたまま瞬目するとレンズがはずれる.(4)顔の下に添えた手のひらで落ちてくるレンズを受け止める.<方法2>(1)方法1の(1)と同様にしてレンズが角膜の中央に位置していることを確認する.(2)利き手の人差し指をレンズの位置の真下から下眼瞼に当て,レンズが下方にずれないように下眼瞼越しにレンズを固定する.(3)残りの手の人差し指を上眼瞼に当て,上方に引き気味にしながらいったん押さえ,つぎの動作で,そのまま押し下げて上眼瞼縁でレンズの上方のエッジを角膜からはがすようにしてレンズをはずす(図4).(4)はずしたレンズは下眼瞼に付着している場合はそのまま取り出し,落下した場合にはあらかじめ下に敷いておいたハンカチやタオルで受け止める.●レンズのずれの直し方眼部への衝撃,急な大きい目線の移動によってレンズが角膜から球結膜にずれることがある.HCLの使用者がレンズのずれへ慌てずに対処できるように,レンズの装着の仕方とはずし方を習得したら装用中のレンズのずれの直し方を指導する.(1)まず,鏡を見ながらレンズがどの位置にずれたか確認する.(2)つぎに,レンズがずれた位置と反対方向に視線を移動する.このとき,顔は正面を向いたまま,視線を移動させる方向に手鏡をかざして鏡に映った眼を見るようにすると視線を固定しやすくなる(図5).(3)ずれた位置にあるレンズを人差し指で固定し(鼻側と耳側にずれた場合はレンズを直接固定し,上方と下方にずれた場合は眼瞼越しに固定する),ゆっくりと視線をレンズの方向に戻し,レンズが角膜の中央に移動するようにする.手鏡を使う場合は,鏡に映る眼に視線を固定したまま,鏡を動かして視線をレンズの方向に戻す.どの位置にレンズがずれた場合も,基本的には同様の方法でレンズのずれに対処することができる.790あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(68)

写真:角膜前後面放射状切開術後の水疱性角膜症に対するDSAEK

2012年6月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦337.角膜前後面放射状切開術後の水疱性角膜症中川紘子京都府立医科大学大学院医学研究科に対するDSAEK視覚機能再生外科学②①③図2図1のシェーマ①:上皮下混濁および角膜浮腫.②:角膜の前面および後面への切開創.③:角膜後面の突起物.図1症例:78歳,男性54年前に角膜前後面放射状切開術施行.矯正視力は0.05.角膜の前面および後面に全周性に放射状切開が施行されている.角膜中央部は浮腫を認め水疱性角膜症の状態となっている.角膜内皮スペキュラは測定不能である.図4術前の前眼部OCT角膜浮腫および後面の凹凸不整を認める.図3DSAEK術後1カ月目角膜中央部の浮腫は改善しグラフトの接着も良好である.矯正視力は0.2.(65)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20127870910-1810/12/\100/頁/JCOPY 1939年に佐藤勉によって考案された,角膜の前後面療法に放射状切開を行う角膜前後面放射状切開術(佐藤氏手術)は近視の手術療法として普及した1).その後角膜内皮を切開することによって角膜内皮障害が起こり高率に水疱性角膜症が発症することが判明したため2),以後行われなくなった.佐藤の術式を改良し,1970年代にロシアのFyodorovが角膜の前面のみの切開を行うradialkeratotomy(RK)を開発した.これにより水疱性角膜症の問題は解決されたが,切開創の深さによってはmicroperforationを起こしこれによって内皮障害がひき起こされることもあった3).その後LASIK(laserinsitukeratomileusis)の普及により,現在ではRKはほとんど行われなくなった.Kawanoらの報告では佐藤式RK術後に水疱性角膜症を発症するまでの平均期間は,約27年とされ,また220眼中173眼(78.6%)で水疱性角膜症をきたしたとされている.水疱性角膜症に対しては,従来は全層角膜移植術(PKP)が施行されていたが,近年Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)が主流となっている.佐藤式RK術後の水疱性角膜症の特徴としては,内皮面の切開創のために角膜後面形状が不整である場合や,Descemet膜が瘤状に隆起した突起物が内皮面に複数みられることより,DSAEK術後のグラフトの接着不良のリスクがある.術前に,前眼部OCT(光干渉断層計)で角膜後面形状や,後面突起物の有無や位置について十分に確認し,手術では,Descemet膜の図5DSAEK術後1カ月目の前眼部OCTstripping時に,内皮面の突起物があれば前.鑷子などで除去する.グラフトサイズに関しては,通常のサイズと同じで8mmを基本として選択する.当院では現在までに佐藤式RK術後水疱性角膜症3眼に対してDSAEKを施行しているが,このうち1眼で術翌日にグラフトの接着不良を認めたため,空気再注入を行い良好な接着が得られた.佐藤式RK術後の水疱性角膜症に対しても,DSAEKは有効な術式であるといえる.文献1)SatoT:Posteriorincisionofcornea;surgicaltreatmentforconicalcorneaandastigmatism.AmJOphthalmol33:943-948,19502)KanaiA,TanakaM,IshiiRetal:Bullouskeratopathyafteranterior-posteriorradialkeratotomyformyopiaformyopicastigmatism.AmJOphthalmol93:600-606,19823)MoshirfarM,OllertonA,SemnaniRTetal:Radialkeratotomyassociatedendothelialdegeneration.ClinicalOphthalmology(Auckland,NZ)6:213-218,2012788あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(00)

難治性眼瞼痙攣に眼瞼手術療法は有効か?

2012年6月30日 土曜日

特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):781.785,2012特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):781.785,2012難治性眼瞼痙攣に眼瞼手術療法は有効か?IsLidSurgeryEffectiveforIntractableBlepharospasm?三村治*はじめに本態性眼瞼痙攣(以下,眼瞼痙攣)は眼輪筋の過度な収縮により不随意的な閉瞼が生ずる疾患で,放置すれば次第に進行し最終的には機能的失明状態になることもあり,患者のqualityofvision,qualityoflifeを大きく損なうものである1).現在,国際的にも広く認められている第一選択の治療はボツリヌス毒素療法であり,ボツリヌス毒素のなかでも最も毒性の強いA型毒素を,眼輪筋や皺眉筋などに注射することにより約3.4カ月程度の症状の寛解をもたらすことができる1).しかし,その奏効する頻度は80.90%であり2,3),必ずしも全例に効くわけではない.このような無効例はfirstfailureとよばれている.一方,ボツリヌス毒素を長期にわたり反復投与することによって抗毒素抗体(中和抗体)の産生される可能性があり,この抗体がいったん産生されれば,対象疾患に対するボツリヌス毒素療法は無効となってしまう.これはsecondaryfailureとよばれているが,その頻度は報告によりさまざまである4,5).この抗毒素抗体産生は用量依存性であり,もともと使用量の少ない本態性眼瞼痙攣ではまれであった.しかし,A型ボツリヌス毒素製剤(BOTOXR,Allergan,USA)の初期の製剤(originalBOTOXR)では,この抗体産生による無効化がしばしば問題になったが,最近の組織結合蛋白を少なくした製剤(currentBOTOXR)では眼瞼痙攣においてはいまだ陽性例は報告されていない1).ただし,抗毒素抗体産生とまではいかなくとも,反復投与により,徐々に効果が減弱する例が多くの施設から報告されている6,7).このようにボツリヌス毒素療法が無効,あるいは効果が不十分な症例に対しては,以前から観血的眼瞼手術が行われていた1).なかでもAndersonの眼輪筋を大きく切除する方法は,ボツリヌス毒素療法とほぼ匹敵する成績をあげると報告されている8).しかし,彼らの方法はかなり大がかりなもので侵襲が大きく,われわれが日常臨床ですぐに使用できるものではない.筆者らは,これらのボツリヌス毒素療法が無効,あるいは効果が不十分な症例に対して,おもに炭酸ガス(CO2)レーザーメスを用いた上眼瞼の眼輪筋切除を行ってきた.本稿では,眼瞼痙攣に対してこれまで行われてきた各手術の概要を示すとともに,筆者らの行っている手術の結果を述べ,さらに最新の手術手技の進歩についても解説する.I眼瞼痙攣に対する手術1.眼瞼皮膚切除術老人性皮膚弛緩症に対して行うのと同様,単に余剰の上眼瞼皮膚を切除する方法である.眼瞼痙攣では強い閉瞼運動を反復するため,眼瞼の皺や皮膚のたるみが多くみられる.これを切除することにより眼瞼が軽く感じられることもあるが,効果はあくまで一時的であり,つぎに述べる眼輪筋部分切除を併用しなければ長期的には無効になる.合併症としては,術後の腫脹,皮下出血が主*OsamuMimura:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕三村治:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(59)781 であるが,切除範囲を広くとり過ぎると,閉瞼不全や眼瞼の外反をきたし,兎眼性角膜炎をみることもある.2.眼輪筋切除術眼瞼の眼輪筋をできるだけ広い範囲で,できるだけ多量に,瞼板近くまで切除する方法である.眼瞼の皮膚切除範囲は通常の老人性眼瞼皮膚弛緩症の際の眼瞼皮膚切除と同じか少し広い目にとる.上眼瞼挙筋短縮術(縫縮術)やMuller筋縫縮術と併用することもある.通常上眼瞼のみで行うことが多い.単純な皮膚切除より切除範囲や体積の減少が大きいので,短期的には術後の腫脹,血腫が強く,長期的には切除部位の陥凹をみることがある.また,前額部の知覚鈍麻,閉瞼機能低下,兎眼性角膜炎,眼瞼外反症などをきたすことがある.筆者らの行っている方法は次項で述べる.3.Muller筋縫縮術,上眼瞼挙筋短縮術いずれも経皮的に瞼板を露出し,瞼板上縁に付着しているMuller筋や上眼瞼挙筋を上方まで.離して縫縮あるいは短縮する方法である.ただ,通常の眼瞼下垂には効果的であるが,眼輪筋を強く収縮させ,眉毛を下降させる眼瞼痙攣には効果はあくまで限定的であり,実際に眼瞼痙攣に対してこれらの手術を受け改善しないと訴えて筆者らの外来を受診する患者が絶えない.眼瞼痙攣には他の手術との併用を要する補助手術と考えられる.4.前頭筋吊り上げ術上眼瞼挙筋の挙筋能が不良な眼瞼下垂に対する手術である.瞼板に縫着したさまざまな素材を上眼瞼皮膚と眉毛の下をくぐらせて眉毛の上方に固定する.以前は大腿筋膜や腱を使うことが多かったが,最近では人工素材を用いることも多い.合併症では,感染,兎眼性角膜炎,縫合部の肉芽腫形成などがある.手術成績は73.92%で良好とするものもあるが,無効例や増悪例もあり,術後にほとんどのケースでボツリヌス毒素注射を施行しているという報告もある1).782あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012II兵庫医科大学病院眼科での手術成績と既報の比較1.筆者らの行っている上眼瞼眼輪筋切除術通常の加齢性上眼瞼皮膚弛緩症と同様に皮膚切除部位を決め,皮膚ペンでマークする.若年者の薬剤性のものであれば最低限の皮膚切除量にとどめる.ついでエピネフリン添加1%キシロカイン液(1%キシロカインER)で麻酔を行う.その後15分程度待ってから挟瞼器で上眼瞼を挟む〔炭酸ガス(CO2)レーザーメスでは切開と止血が同時にできるので特に挟瞼器の必要はない〕.この際にはできるだけ大きな挟瞼器を使用するのがよい.その後,マークした線に沿って皮膚切開をメスで行い,皮膚を切除する.皮膚切除後の上縁皮膚および下縁皮膚に牽引糸(5-0程度のシルク糸)をかけ,上下それぞれに牽引し,その下の眼輪筋を.ぐように切除していく.できる限り多く眼輪筋を切除するために,この操作を一見瞼板が露出するように見える程度まで徹底的に行うことが重要である.皮膚縫合は7-0プロリン糸で連続ではなく結節縫合で行う.2.兵庫医科大学病院眼科での手術成績a.対象1996年4月から2011年12月までの15年8カ月間に兵庫医科大学病院眼科(以下,当科)を受診し,本態性および薬剤性眼瞼痙攣の診断を受けた患者のうち,上記眼瞼手術を受け,1年以上経過を追うことのできた患者115例を対象とした.b.方法全例に対して,後ろ向きに診療録,顔写真,顔面ビデオ,手術記録,手術ビデオなどを検討した.検討項目としては,年齢,性,手術手技,初診から手術までのボツリヌス毒素注射回数,患者の自覚症状,術後の寛解の有無,手術前後および最終注射時の平均注射間隔,などを調査した.c.結果患者の性別は男性37例,女性78例で,年齢は27.85歳までである(平均64.4歳).手術では,115例全例が炭酸ガスレーザー手術装置を用いて,挟瞼器を使用せ(60) ずに上眼瞼の眼輪筋切除術を受けていた.このうち7例では同時にMuller筋縫縮術を併用していた.ボツリヌス毒素注射を術前に他院で受けていたものは12例で,当科で受けていたものは107例(4例重複)であった.術前に注射を受けていたが,無効または効果が弱いため1回のみの注射ですぐに手術を希望したものは36例であり,複数回の注射を受けていたものは79例で,術前の最多注射回数は45回であった(図1).患者の術後(抜糸後)の自覚症状改善の有無は68例で回答があり,悪化はなくほとんどが楽になったというものであった(図2).注射後の経過では,経過良好で1年間注射を受けていないものは14例(12.2%)であるが,そのうち5例は1年以上経過してから症状の再燃のために再注射を開始されていた(術後1年2カ月が2例,1年9カ月,3年,4年が各1例).一方,無効のため通院を中止したもの,さらなる眼瞼手術を希望したもの,転院したものがそれぞれ少数あり,残る大部分(74.8%)が引き続いてボツ(例)40353025201510502345-10-15-20-25-30-35-40-45(回)図1自験例115例の術前のボツリヌス毒素注射回数図2抜糸直後の患者の自覚症状の変化数字はそれぞれ症例数,頻度の順.不変8,12%少し楽6,9%楽になった46,67%大変楽に8,12%リヌス毒素注射を継続していた(図3).術前の1回から3回までの注射が無効または効果不十分と訴えていたものは60例で,これらの症例の予後では,術後経過良好で1年以上注射不要となったものは11例(18.3%),無効と判定したものが6例(10.0%),転院したものが5例(8.3%),さらに眼瞼手術を追加したものが4例(6.7%)で,当初ボツリヌス毒素注射を希望しなかったものが継続して注射を受けるようになったものが34例(56.7%)である.術前および術後にそれぞれ5回以上の注射を受けていたものは67例と88例で,これらの注射間隔を比較すると,ピークはともに2.5カ月超から3.0カ月にみられるが,明らかに術後に延長しているものが多いことがわかる(図4).さらに,術前には注射が無効で毒素の継続無効中止追加手術6,5%4,4%転院5,4%寛解14,12%注射継続86,75%図3全115例の予後寛解は1年間追加注射を必要としなかったもの.数字はそれぞれ症例数,頻度の順.(例)05101520253035-2.5-3-3.5-4-4.5■:術前■:術後-5-5.55.75-(カ月)図4全115例の手術前後の注射間隔横軸の-2.5は2.5カ月以下,-3は2.5カ月超3カ月以下,5.75-は5.5カ月超を示す.(61)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012783 (例)-2(カ月)図5注射間隔の変化横軸の3.5は3.25カ月以上,0は-0.25カ月以上0.25カ月未満,-2は-2.25カ月超を示す.術直後,最終受診時とも注射間隔が同じ(変化が±0.5カ月以内)ものが最も多いが,全体では注射間隔が延長するものが多い.051015■:直後203.532.521.510.50-0.5-1-1.5■:最終注射を希望しなかった症例が,術後には定期的に注射を受けるようになったことも読み取れる.このことは術前と術後,さらには術前と最終5回の注射間隔の変化をみても明らかである(図5).もちろん術後も最終でも術前と注射間隔に変化のない(±0.5カ月)ものが最多ではあるが,明らかに間隔短縮例より延長例が多く認められた.さらに術前,術後,最終それぞれ注射間隔を測定できた全例の結果では,術前5.5カ月以上の注射間隔のものは2例のみしかなかったのにかかわらず術後や最終の注射間隔が5.5カ月以上であったものはそれぞれ9例に05101520253035-2.5-3-3.5-4-4.5-5-5.5-6■:術前■:術後■:最終(例)(カ月)図6全症例(術前67例,術後88例,最終68例)の注射間隔の比較横軸の-2.5は2.5カ月以下,-3は2.5カ月超3カ月以下,-6は5.5カ月超を示す.増加していた(図6).3.既報での満足度調査(表1)9.12)表1に示すように多くの報告で,ボツリヌス毒素療法が無効または効果が不十分な難治例に対して,上眼瞼手術は患者の満足度も高く,また手術後に注射を継続している場合はその持続期間を延長することがわかる.しかし,手術を行ったから毒素注射を全例終了できるものではなく,むしろかなりの頻度で継続する必要がある.しかし,本来眼瞼痙攣のなかでも比較的ボツリヌス毒素注射が奏効しにくい開瞼失行症においても有効であり,そ表1報告者による上眼瞼手術の効果の違いGeorgescuら9)上眼瞼筋切除ALO合併45例33例完全回復44例ALO半分以上改善術後BTX療法継続30例中20例で治療効果が延長ドライアイ42例12例(29%)改善羞明(+)44例18例(41%)改善37例(82%)整容的改善術前disabilityscore14.11±5.78(59%)術後5.20±8.25(22%)Wabbelsら10)前頭筋吊り上げ術132例252眼瞼73%で改善自覚的改善スケールで平均50%改善Patilら11)2段階手術*10例/14例8例で非常に満足,1例幾分良い,1例悪化全例がBTX療法継続Maurielloら12)上眼瞼手術14例自覚的改善68.75%(筋切除+形成術)58.33%(挙筋腱膜前転+形成術)注射間隔:術前122.1日術後210.5日*の2段階手術とは,上眼瞼眼輪筋切除術を行い,それから4.6カ月後に自己筋膜による眉毛吊り上げ術を行うもの.ALO:apraxiaeyelidopening(開瞼失行症),BTX:BOTOXR.784あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(62) の1/3では完全に回復したとの報告もある9).筆者らの調査では,全体での1年以上注射から離脱できる寛解率こそ12%であるが,術前3回までの注射で無効と判断された群では18%で離脱できた.このことから,いたずらに注射を反復するのではなく,患者が注射が無効と訴えてきた場合,早期に眼瞼手術を行うことが望ましいと考える.IIIインフォームド・コンセント眼瞼痙攣は局所ジストニアに分類されているが,そのなかでも心因性要素の関与の大きい疾患である.患者は羞明や違和感に長い間苦しんでおり,そのため治療に対する期待も非常に大きい.しかし,眼瞼痙攣を根治できる治療法はなく,あくまで対症療法で,患者が100%満足できるものではない.眼瞼痙攣を治療する医師はボツリヌス療法を行うにせよ手術を選択するにせよ常に患者に謙虚に接し,治療法の欠点と限界を説明しておくべきである.筆者らのところには,形成外科や眼科で眼瞼痙攣と正しく診断されることなく,眼瞼下垂の診断のもとに眼瞼手術を受けて,かえって症状が増悪したという患者が多く訪れる.これらの患者に共通することは,きわめて短時間の診察で眼瞼下垂と診断され,簡単に治りますと説明されて手術を受けていることである.筆者らも眼瞼痙攣の患者にときにはMuller筋縫縮術や前頭筋吊り上げ術を選択することがある.しかし,そのような場合にも決して簡単に良くなるなどと言うことはしない.あくまで,少しでも症状の緩和を図るのがおもな目的で,ボツリヌス療法を受けているものでは離脱できる可能性は決して高くはないと説明すべきである.特に眼瞼痙攣の患者には,治療によりすべての症状が改善することはないと明言してから手術に臨むべきである.おわりに本稿のテーマである「難治性眼瞼痙攣に手術療法は有効か?」という質問に対する回答としては,「有効であるが,その効果は限定的でありボツリヌス毒素療法を受けているものでは,離脱できる可能性は12%程度である.しかし,ボツリヌス毒素療法の効果を増強したり作用期間を延長させることがあり,患者の満足度も高い」ということになる.眼瞼痙攣にはさまざまな背景や病態をもつ患者のすべてのタイプに有効な治療法はなく,現在第一選択とされるボツリヌス療法に眼瞼手術の併用も考慮すべきではないかと考える.文献1)日本神経眼科学会眼瞼痙攣診療ガイドライン委員会:眼瞼けいれん診療ガイドライン.日眼会誌115:617-628,20112)GrandasF,ElstonJ,QuinnNetal:Blepharospasm:areviewof264patients.JNeurolNeurosurgPsychiatry51:767-772,19883)KraftSP,LangAE:Botulinumtoxininjectionsinthetreatmentofblepharospasm,hemifacialspasm,andeyelidfasciculations.CanJNeurolSci15:276-280,19884)MaurielloJAJr,DhillonS,LeoneTetal:Treatmentselectionsof239patientswithblepharospasmandMeigesyndromeover11years.BrJOphthalmol80:1073-1076,19965)HsiungGY,DasSK,RanawayaRetal:Long-termefficacyofbotulinumtoxinAintreatmentofvariousmovementdisordersovera10-yearperiod.MovDisord17:1288-1293,20026)SnirM,WeinbergerD,BouriaDetal:Quantitativechangesinbotulinumtoxinatreatmentovertimeinpatientswithessentialblepharospasmandidiopathichemifacialspasm.AmJOphthalmol136:99-105,20037)木村亜紀子,三村治:BTX治療の長期予後.三村治(編):眼科疾患のボツリヌス治療.p79-93,診断と治療社,20098)AndersonRL,PatelBCK,HoldsJBetal:Blepharospasm:past,present,andfuture.OphthalPlastReconstrSurg14:305-317,19989)GeorgescuD,VagefiMR,McMullanTFetal:Uppereyelidmyectomyinblepharospasmwithassociatedapraxiaoflidopening.AmJOphthalmol145:541-547,200810)WabbelsB,RopggenkamperP:Long-termfollow-upofpatientswithfrontalisslingoperationinthetreatmentofessentialblepharospasmunresponsivetobotulinumtoxintherapy.GraefesArchClinExpOphthalmol245:45-50,200711)PatilB,FossAJ:Upperlidorbicularisoculimusclestripandsequentialbrowsuspensionwithautologousfascialataisbeneficialforselectedpatientswithessentialblepharospasm.Eye23:1549-1553,200912)MaurielloJAJr,KeswaniR,FranklinM:Long-termenhancementofbotulinumtoxininjectionsbyupper-eyelidsurgeryin14patientswithfacialdyskinesias.ArchOtolaryngolHeadNeckSurg125:627-632,1999(63)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012785