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新しい光干渉式眼軸長測定装置の測定精度と再現性

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1337《原著》あたらしい眼科28(9):1337?1340,2011cはじめに近年では白内障手術において,眼内から摘出した水晶体に代わる眼内レンズのさまざまな種類の開発および発展がめざましい.それに伴い患者のよりよいqualityofvisionが求められている.白内障手術における眼内レンズ度数予測において眼軸長の測定は必要不可欠であり,眼軸長測定の誤差が術後の屈折値に大きく影響する1).これまで眼軸長の測定にはAモードに代表されるような超音波式眼軸長測定が一般的であった.しかしながら,超音波式の測定は接触式であるために侵襲的であることや,測定誤差が生じることなどが欠点としてあげられており,近年普及している光干渉式の眼軸長測定装置は非接触かつスピーディに測定することができると報告されている2).光干渉式は超音波式に比べ簡便に測定することができるが,中間透光体混濁眼などが強い場合測定ができないことや,網膜?離眼では不正確な測定になってしまうという側面がある3).嶺井ら4)は超音波によるAモードと光干渉を用いたIOLMasterR(CarlZeissMeditec)の眼軸長測定について白内障眼で比較しているが,その結果良好な相関関係を認めている.IOLMaserR同様,光干渉法を用いて眼軸長測定のみではなく角膜曲率半径,前房深度の測定も可能な装置OA-1000(トーメー)が近年発売され注目を集めている.光干渉式眼軸長測定装置OA-1000の特徴は,1)非接触のため眼球圧迫による測定誤差がなく再現性の高い測定が可能,2)接触による感染のリスクがないこと,3)1秒間に10データを連続で取得できる高速測定で,固視困難例でも測定可能で〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻Reprintrequests:HiroshiUozato,Ph.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0373,JAPAN新しい光干渉式眼軸長測定装置の測定精度と再現性中山奈々美*1魚里博*1,2川守田拓志*1,2*1北里大学大学院医療系研究科眼科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻RepeatabilityandMeasurementAccuracyofNewOcularBiometryDeviceUsingOpticalLow-CoherenceInterferometryNanamiNakayama1),HiroshiUozato1,2)andTakushiKawamorita1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience光干渉式眼軸長測定装置は超音波式に比べ,高速で簡便に測定することができ,現在いくつかの機種が使用されている.そこで今回,新しい光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)の測定精度と再現性について比較した.ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用前後の眼軸長の差から推定されるSCL厚みと,メーカー公称値の差から評価された測定精度は約24μmであった.また,再現性については,測定10回の平均標準偏差は10.0μmと良好であり,非侵襲的でもあることから今後の臨床応用に期待できる装置であると考えられた.Inrecentyears,theuseofaxiallength-measuringdevicesemployingopticalinterferencehasbecomewidespread.Devicesusingopticallylow-coherenceinterferometrycanmeasureaxiallengthmoresimplyandathigherspeedthandevicesusingultrasoundbiometry.WeinvestigatedtherepeatabilityandmeasurementaccuracyoftheOA-1000(TOMEY).Resultsshowedthatthemeasurementaccuracyofthedevice,usingopticallylow-coherenceinterferometry,wasabout24micrometers.Inaddition,devicerepeatabilitywas10micrometers.Theseresultssuggestthatthisdevice,usingopticallylow-coherenceinterferometry,providesgoodrepeatabilityandmeasurementaccuracy,aswellasnon-invasivetesting.Itissuggestedthatthisdeviceisclinicallyuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1337?1340,2011〕Keywords:眼軸長,光干渉式,再現性,測定精度.axiallength,opticalinterferometry,repeatability,measuringaccuracy.1338あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(118)あること,4)タッチディスプレイ上で被検眼の瞳孔中心に触れると自動で測定位置に移動・測定開始し,他検者においても高い再現性が得られることがあげられる.過去の報告でもOA-1000とIOLMasterRの測定精度を比較した結果,OA-1000はIOLMasterRと同等の精度であったと報告している5).このようにOA-1000については高い測定精度と再現性が利点としてあげられているものの,詳細にそれらを検討したものは少ない.そこで今回筆者らは,高速測定が可能である新しい光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)の眼軸長測定精度と再現性を調査するため,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用による眼軸長測定の誤差について検討を行った.I方法1.被検者被検者として屈折異常以外に眼科的疾患を認めない健常者18名36眼を用いた.被検者の平均年齢は22.8±2.5歳,平均等価球面度数は?3.67±3.01D(+2.50??6.75D)であった.測定眼は両眼とし,裸眼の場合とSCLワンデーアキュビューR(Johnson&Johnson)装用で測定した.なお,測定に際し,被検者には十分なインフォームド・コンセントを行った.2.測定条件眼軸長の測定には光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(トーメー)を使用した.測定モードはImmersionモードを採用し,室内環境照度は約400lxの明室下とし,裸眼の場合とSCL装用下の両者で眼軸長の測定を行った.測定精度はSCL装用前後の眼軸長の差から推定されるSCL厚みと,メーカー公称値(0.084mm)の差から評価した.再現性の評価は裸眼測定10回の標準偏差,変動係数(標準偏差/平均×100),10回測定のうちランダムに選んだ2回の95%一致限界(±1.96×SD)で評価した.3.統計解析裸眼とSCL装用時の眼軸長の比較にはWilcoxon検定を用いた.また,両者の相関についてはSpearmanの順位相関係数の検定を行った.II結果裸眼での被検者の眼軸長は25.43±1.28mm,SCL装用後においては25.54±1.28mmとSCL装用前に比べ装用後の眼軸測定で有意な延長が認められ(p<0.01,図1),両者には強い相関関係が認められた(r=0.9997,p<0.01,図2).使用したSCLのメーカー公称厚み84μmとSCL装用前後差から推定されたSCL厚み107.9±32.8μmとの差は23.9±32.8μmであった.再現性については,測定10回の平均標準偏差は10.0μm,平均変動係数は0.04±0.03%であった.また,2回測定から算出された95%一致限界は±23.5μmであった(図3).過去の報告によるIOLMasterR,Aモードとの比較結果を表124.525.025.526.026.527.0裸眼眼軸長SCL装用眼軸長眼軸長(mm)図1眼軸長変化左が裸眼で測定された眼軸長,右はSCL装用での眼軸長を示す.SCL装用で眼軸長は有意に延長した.y=1.0042xr2=0.999323.024.025.026.027.028.029.023.024.025.026.027.028.029.0SCL装用眼軸長(mm)裸眼眼軸長(mm)図2裸眼とSCL装用での相関関係縦軸にSCL装用眼軸長,横軸に裸眼眼軸長,点線は縦軸と横軸1:1を示す.両者には有意な相関が認められた.-0.10-0.08-0.06-0.04-0.020.000.020.040.060.080.1023.024.025.026.027.028.029.02回測定の差(mm)2回測定の平均(mm)図395%一致限界裸眼測定10回のうちランダムに選ばれた2回の95%一致限界.縦軸に差を横軸に平均をプロットしてある.上側限界と下側限界内の領域を灰色で示す.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111339に示す.III考按これまで眼軸長の測定は超音波を用いたものが主流であった.しかしながら,超音波式の眼軸長測定は接触式であるため測定誤差が大きく,また検者の熟練度により測定結果に影響するという欠点があった.過去の報告では,白内障手術で挿入される眼内レンズの度数計算では,眼軸長1mmの測定誤差で2.3Dの屈折誤差になるといわれている1)ため,眼軸長の測定は高い精度が求められてきている.そこで近年,光干渉を用いた眼軸長測定装置が開発された.IOLMasterRに代表される光干渉式眼軸長測定機器は,超音波式に比べて簡便・非接触・高速に眼軸長を測定することができる.IOLMasterRは検者間の再現性が43μmと良好であり,超音波式に比べ検者による誤差が少ない6).IOLMasterRと超音波式Aモードの再現性を比較した報告が過去にいくつかある.標準偏差を指標として比較した結果ではAモード44μm,IOLMasterRで20μmであり,本検討のOA-1000でも10μmの再現性が得られた4).95%一致限界による再現性はAモード,IOLMasterRに比べ本検討が最も再現性がよい結果となった(表1)7,8).同じ光干渉を用いた装置の比較としてLENSTARLS900(HAAG-STREIT)とIOLMasterRの比較9,10)についても報告されており,光干渉式眼軸長測定装置は測定精度や再現性に優れていることがわかる.本検討のようにSCLを用いたIOLMasterRによって測定された眼軸長の再現性の検討をLewisらが行っている11).それによるとSCL装用後に眼軸長は有意な延長(134μm)を示し,標準偏差による再現性は裸眼で約20μmであったと報告されている.OA-1000を用いた本検討もSCL装用前後で眼軸長の測定を行ったが,SCL装用後に眼軸長は有意な延長をし,標準偏差による再現性は裸眼で約10μmであった.同じ光干渉の原理を用い,その他測定範囲(14?40mm)や表示分解能(10μm)は両装置ともに同じ設定ではあるものの,IOLMasterRとOA-1000では光源が異なる.IOLMasterRは波長780nmの半導体レーザーダイオードを用いているのに対し,OA-1000は波長820?850nmのスーパールミネッセントダイオードを使用している.半導体レーザーダイオードを用いた測定法は人体への影響が懸念され,IOLMasterRは各個人に対する一日の測定上限が20回とされているが,スーパールミネッセントダイオードによる測定は人体への影響がないと考えられているため同日の測定条件が設定されていない.このように同じ光干渉式であっても,IOLMasterRとOA-1000には波長など測定原理の違いがある.今回の検討で使用した新しい光干渉式眼軸長測定装置は非侵襲式で安全,簡便,高速に眼軸長の測定が可能であった.本装置の測定精度は約24μm,再現性は約10μmと良好な結果が得られた.このことから新しい光干渉式眼軸長測定装置は今後の臨床応用に期待できる装置であると考えられた.また,今後はさらに白内障眼などにおけるOA-1000の測定精度の検討も期待される.謝辞:稿を終えるにあたり,本研究にご協力いただきました北里大学医療衛生学部進藤真紀殿に感謝いたします.文献1)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼内レンズ.西信元嗣編:眼光学の基礎,p57-62,金原出版,19902)HaigisW,LegeB,MillerNetal:ComparisonofimmersionultrasoundbiometryandpartialcoherenceinterferometryforintraocularlenscalculationaccordingtoHaigis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:765-773,20003)深井寛伸,土屋陽子,野田敏雄ほか:光学式眼軸長測定器(IOLマスターTM)の眼軸長測定精度の検討.IOL&RS17:295-298,20034)嶺井利沙子,清水公也,魚里博ほか:レーザー干渉による非接触型眼軸長測定の検討.あたらしい眼科19:121-124,20025)氣田明香,須藤史子,島村恵美子ほか:光学式眼軸長測定装置OA-1000とIOLマスターRの比較.日本視能訓練士協会誌38:227-234,20096)LamAK,ChanR,PangPC:TherepeatabilityandaccuracyofaxiallengthandanteriorchamberdepthmeasurementsfromtheIOLMaster.OphthalmicPhysiolOpt21:477-483,2001表1過去の報告との比較超音波Aモード4,7,8)IOLMasterR4,7,8)OA-1000(本検討)測定時間4)約5分約1分約20秒再現性標準偏差4)44μm(36~67μm)20μm(7~38μm)10μm(0~33μm)再現性95%一致限界7,8)±300μm(成人)±760μm(小児)±90μm(成人)±40μm(小児)±24μm(成人)─過去の報告における被検眼数は文献4),7),8)でそれぞれ12,20,179眼であった.1340あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(120)7)ShengH,BottjerCA,BullimoreMA:OcularcomponentmeasurementusingtheZeissIOLMaster.OptomVisSci81:27-34,20048)CarkeetA,SawSM,GazaardGetal:RepeatabilityofIOLMasterbiometryinchildren.OptomVisSci81:829-834,20049)BuckhurstPJ,WolffsohnJS,ShahSetal:Anewopticallowcoherencereflectometrydeviceforocularbiometryincataractpatients.BrJOphthalmol93:949-953,201010)RohrerK,FruehBE,WaltiRetal:Comparisonandevaluationofocularbiometryusinganewnoncontactopticallow-coherencereflectometer.Ophthalmology116:2087-2092,200911)LewisJR,KnellingerAE,MahmoudAMetal:Effectofsoftcontactlensesonopticalmeasurementsofaxiallengthandkeratometryforbiometryineyeswithcornealirregularities.InvestOphthalmolVisSci49:3371-3378,2008***

ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療薬のIn Vitro角膜細胞傷害性評価

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(111)1331《原著》あたらしい眼科28(9):1331?1336,2011cはじめに緑内障治療薬には多くの種類があるが,最も作用が強いという理由から,臨床ではおもにプロスタグランジン(PG)点眼薬が第一選択として用いられ,眼圧コントロールが困難な患者に対して作用機序の異なる複数の緑内障治療薬が適宜追加される.しかし,緑内障治療薬の多剤併用は点眼表層角膜症や眼瞼炎といった眼局所の副作用や,患者からのしみる,かすむ,眼が充血するといった訴えを増加させるとともに,患者のアドヒアランス低下に繋がる.したがって,現在用いられている緑内障治療薬の角膜上皮に対する傷害性を明らか〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPANヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療薬のInVitro角膜細胞傷害性評価長井紀章*1大江恭平*1伊藤吉將*1,2岡本紀夫*3下村嘉一*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3近畿大学医学部眼科学教室InVitroEvaluationofCornealDamageCausedbyAnti-GlaucomaEyedropsUsingHumanCornealEpithelialCell(HCE-T)NoriakiNagai1),KyouheiOe1),YoshimasaIto1,2),NorioOkamoto3)andYoshikazuShimomura3)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceuticalResearchandTechnologyInstitute,KinkiUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine本研究では,ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)および1次速度式を用いて緑内障治療薬の慢性および急性毒性を算出し,invitro角膜上皮細胞傷害性評価を行った.緑内障治療薬は市販製剤であるチモプトールR,レスキュラR,キサラタンR,トラバタンズR,タプロスR,トルソプトR,デタントールR,ハイパジールR,サンピロRおよびキサラタンRの後発品であるラタノプロスト「ケミファ」(LPケミファ),「センジュ」(LPセンジュ),「わかもと」(LPわかもと),「サワイ」(LPサワイ)の13剤を用いた.本研究の結果,慢性毒性はキサラタンR≒LPケミファ≒LPわかもと≒LPセンジュ≒デタントールR>LPサワイ≒レスキュラR>タプロスR>チモプトールR>ハイパジールR>サンピロR>トルソプトR>トラバタンズRであり,急性毒性はLPわかもと≒LPセンジュ>キサラタンR>LPサワイ≒レスキュラR>タプロスR≒チモプトールR≒ハイパジールR≒サンピロR>トルソプトR>LPケミファ≒デタントールR≒トラバタンズRの順であった.以上,1次速度式にて解析することで,点眼薬の角膜上皮細胞傷害性を評価できることを明らかとした.Inthisstudy,weinvestigatedcornealepithelialcelldamagecausedbycommerciallyavailableanti-glaucomaeyedrops.Wealsoperformedkineticanalysisofcornealepithelialcelldamageusingthefirst-orderrateformula,andcalculatedthechronicandacutetoxicityofeyedrops.Usedinthisstudywere13preparationsofeyedrops(TimoptolR,ResculaR,XalatanR,TravatanzR,TaprosR,TrusoptR,DetantolR,HypadilR,SanpiloRandlatanoprostgenericproducts(LPChemiphar,LPSENJU,LPWAKAMOTO,LPSAWAI).Eyedropchronicandacutetoxicitydecreasedinthefollowingorder:chronictoxicity,XalatanR≒LPChemiphar≒LPWAKAMOTO≒LPSENJU≒DetantolR>LPSAWAI≒ResculaR>TaprosR>TimoptolR>HypadilR>SanpiloR>TrusoptR>TravatanzR;acutetoxicity,LPWAKAMOTO≒LPSENJU>XalatanR>LPSAWAI,ResculaR>TaprosR≒HypadilR≒SanpiloR≒TimoptolR>TimoptolR>LPChemiphar,DetantolR≒TravatanzR.Theseresultsshowthatkineticanalysisofcornealepithelialcelldamagecausedbyeyedrops,usingHCE-Tandfirst-orderrateformula,issuitableforresearchingcornealdamagecausedbyanti-glaucomaeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1331?1336,2011〕Keywords:緑内障治療薬,速度論解析,ヒト角膜上皮細胞,慢性毒性,急性毒性.anti-glaucomaeyedrops,kineticanalysis,humancorneaepithelialcell,chronictoxicity,acutetoxicity.1332あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(112)とすることは臨床的に非常に重要である.緑内障治療薬の角膜傷害は,角膜知覚,涙液動態および結膜といったオキュラーサーフェス(眼表面)の状態が関与することから,臨床(invivo)および基礎(invitro)両面からの観察が重要であることが報告されている1).筆者らはこれまで,角膜上皮細胞を用い点眼薬処理時の細胞増殖抑制率を求め,点眼薬の細胞傷害性の評価を行ってきた2).また,緑内障治療薬による不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)傷害作用が,正常ヒト角膜上皮培養細胞への傷害作用に非常に類似し,さらに細胞増殖性,感受性にばらつきが少ないため,HCE-Tが正常ヒト角膜上皮細胞の代わりにinvitro角膜傷害性評価に使用できることを報告している2).一方,この方法は角膜細胞増殖の抑制からその傷害性を表す間接的なものであるため,点眼薬処理時の角膜上皮細胞の生存率から細胞死亡率を算出するほうが臨床での使用状況に近く,より意義のある方法と考えられた.今回,HCE-Tを用い,現在臨床現場で多用されている緑内障治療薬処理時の細胞死亡率を測定するとともに,1次速度式を用いた細胞傷害性解析によるinvitro角膜上皮細胞傷害性評価を行った.I対象および方法1.使用細胞培養細胞は理化学研究所より供与された不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.1384)を用い,100IU/mlペニシリン(GIBCO社製),100μg/mlストレプトマイシン(GIBCO社製)および5.0%ウシ胎児血清(FBS,GIBCO社製)を含むDMEM/F12培地(GIBCO社製)にて培養した.2.使用薬物緑内障治療薬は市販製剤であるb遮断薬(0.5%チモプトールR),PG点眼薬(0.12%レスキュラR,0.005%キサラタンR,0.004%トラバタンズR,0.0015%タプロスR),炭酸脱水酵素阻害薬(1%トルソプトR),選択的交感神経a1遮断薬(0.01%デタントールR),a,b受容体遮断薬(0.25%ハイパジールR),副交感神経作動薬(1%サンピロR)およびキサラタンRの後発品であるラタノプロスト「ケミファ」(LPケミファ),「センジュ」(LPセンジュ),「わかもと」(LPわかもと),「サワイ」(LPサワイ)の13剤を用いた.表1には本研究で用いた各種緑内障治療薬に含まれる添加物および保存剤の濃度を示す.これら点眼薬は製薬会社からの提供ではなく,市販のものを購入しており利益相反はない.3.緑内障治療薬による細胞処理法HCE-T(50×104個)をフラスコ(75cm2)内に播種し,80%に達するまで培養した3,4).この細胞を,0.05%トリプシンにて?離し,細胞数を計測後,96穴プレートに100μl(1×104個)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内で24時間培養したものを実験に用いた.実際の操作法として,HCE-T細胞を0,10,20,30,60または120秒間薬剤にて処理後,PBS(リン酸緩衝液)にて2回洗浄し,各wellに表1各種緑内障治療薬に含まれる添加物緑内障治療薬添加物保存剤キサラタンRベンザルコニウム塩化物,等張化剤,無水リン酸一水素Na,リン酸二水素Na一水和物0.02%BACレスキュラRベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,濃グリセリン,D-マンニトール,エデト酸ナトリウム水和物,pH調節剤0.005%BACトラバタンズRポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,プロピレングリコール,ホウ酸,D-ソルビトール,塩化亜鉛,pH調節剤2成分sofZiaTM(濃度非公開)タプロスRベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,濃グリセリン,エデト酸Na水和物,リン酸二水素Na,pH調節剤0.001%BACチモプトールRベンザルコニウム塩化物液,水酸化Na,リン酸二水素Na,リン酸水素Na水和物0.005%BACトルソプトRベンザルコニウム塩化物液,ヒドロキシエチルセルロース,D-マンニトール,クエン酸ナトリウム水和物,塩酸0.005%BACデタントールRベンザルコニウム塩化物,濃グリセリン,ホウ酸,pH調節剤0.005%BACハイパジールRベンザルコニウム塩化物液,リン酸水素Na,リン酸二水素K,塩酸,塩化Na,0.002%BACサンピロRパラオキシ安息香酸プロピル(1),パラオキシ安息香酸メチル(2),クロロブタノール(3),酢酸Na水和物,pH調節剤,ホウ酸,ホウ砂,(1)0.014%(2)0.026%(3)0.2%LPケミファ濃ベンザルコニウム塩化物液50,塩化Na,リン酸二水素Na,リン酸水素Na水和物,ポリソルベート80,pH調節剤,エデト酸ナトリウム水和物BAC(濃度非公開)LPセンジュベンザルコニウム塩化物,塩化Na,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素ナトリウム水和物,塩酸,水酸化NaBAC(濃度非公開)LPわかもとベンザルコニウム塩化物,塩化Na,リン酸二水素Na,リン酸水素Na水和物,エデト酸ナトリウム水和物BAC(濃度非公開)LPサワイベンザルコニウム塩化物,塩酸,クエン酸,グリセリン,トロメタモール,ヒプロメロース,ポリソルベート80,D-マンニトールBAC(濃度非公開)サンピロRの保存剤濃度(1)~(3)は添加物中の(1)~(3)を示す.BAC:ベンザルコニウム塩化物.(113)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111333100μlの培地およびTetraColorONE(生化学社製)20μlを加え,37℃,5%CO2インキュベーター内で1時間処理後,マイクロプレートリーダー(BIO-RAD社製)にて490nmの吸光度(Abs)を測定した.本実験における細胞傷害はTetraColorONEを用い,テトラゾリウム塩が生細胞内ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼにより生産されたホルマザンを測定することで表した.本研究では,薬剤処理後の細胞死亡率(%)を次式(1)により算出した.細胞死亡率(%)=(Abs未処理?Abs薬剤処理)/Abs未処理×100(1)また,薬剤処理が細胞傷害へ与える影響をより詳細に検討すべく,次式(2)を用いて解析を行ったDt=D∞・(1?e?kD・t)(2)kDは細胞傷害速度定数(min?1),tは点眼薬処理後の時間(0?2分),D∞およびDtは薬剤処理∞およびt分後の細胞死亡率を示す.本研究ではkD,D∞をそれぞれ急性毒性および慢性毒性として表した.II結果1.緑内障治療薬における角膜上皮細胞傷害性の比較図1にはPG点眼薬処理における細胞死亡率を示す.キサラタンR,レスキュラRおよびタプロスR処理群では処理時間の増加とともに細胞死亡率の増加が認められた.キサラタンR処理群において,0.5分処理後の細胞死亡率は88.7%であり,今回用いた緑内障治療薬のなかで最も強い細胞死亡率を示した.レスキュラRおよびタプロスR処理群では,キサラタンRと比較しその細胞死亡率は低いものの,0.5分処理後の細胞死亡率はそれぞれ41.2%,32.3%であった.一方,トラバタンズR処理群ではほとんど細胞傷害が認められず,2分処理後における細胞死亡率は1.6%であった.図2にはおもな緑内障治療薬処理時の細胞死亡率を示す.いずれの処理群においても処理時間の増加とともに細胞死亡率の増加が認められたが,PG点眼薬であるキサラタンR,レスキュラRおよびタプロスRと比較しその傷害性は低値を示した.今回用いたPG点眼薬を除く緑内障治療薬のなかで最も細胞死亡率が低かったのは炭酸脱水酵素阻害薬トルソプトRであり,その0.5分処理後の細胞死亡率は7%であった.表2および表3はPG点眼薬(表2)および他の作用機序を有する緑内障治療薬の慢性毒性(D∞)と急性毒性(kD)を示す.本実験で用いた代表的な緑内障治療薬の慢性毒性はキサラタンR≒デタントールR>レスキュラR>タプロスR>チモプトールR>ハイパジールR>サンピロR>トルソプトR>トラバタンズRの順であり,急性毒性はキサラタンR>レスキュラR>タプロスR≒チモプトールR≒ハイパジールR≒サンピロR>トルソプトR>デタントールR≒トラバタンズRの順で低値を示表2プロスタグランジン点眼薬処理における角膜傷害性の比較キサラタンRレスキュラRトラバタンズRタプロスRkD(min?1)2.80±0.252.26±0.040.27±0.071.81±0.25D∞(%)101.5±6.661.1±0.33.9±0.356.8±2.6平均値±標準偏差,n=4?5.表3各種緑内障治療薬処理における角膜傷害性の比較チモプトールRトルソプトRデタントールRハイパジールRサンピロRkD(min?1)1.78±0.061.27±0.030.29±0.031.77±0.091.77±0.01D∞(%)46.6±1.315.1±0.194.6±11.930.1±0.521.6±0.1平均値±標準偏差,n=4?5.0204060801000.00.51.01.52.0処理時間(分)細胞死亡率(%)●:キサラタンR◆:レスキュラR▲:トラバタンズR■:タプロスR図1プロスタグランジン点眼薬処理によるHCE-T死亡率の変化平均値±標準誤差,n=4?5.●:チモプトールR▲:トルソプトR▼:デタントールR◆:ハイパジールR■:サンピロR020406080100細胞死亡率(%)0.00.51.01.52.0処理時間(分)図2各種緑内障治療薬処理によるHCE-T死亡率の変化平均値±標準誤差,n=4?5.1334あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(114)した.2.キサラタンRおよびその後発品における角膜上皮細胞傷害性の比較図3および表4はラタノプロスト点眼薬先発品(キサラタンR)と後発品処理における細胞死亡率(図3),点眼薬の細胞傷害性(表4)を示す.LPセンジュおよびLPわかもと処理群では,先発品であるキサラタンR処理群と比較し高い細胞死亡率を示した.この結果とは反対に,LPサワイおよびLPケミファ処理群では,キサラタンR処理群に比べその細胞死亡率は低値を示し,0.5分処理後の細胞死亡率はそれぞれ47.4%,16.1%であった.これらラタノプロスト点眼薬先発品および後発品の慢性毒性(D∞)はキサラタンR,LPケミファ,LPわかもとおよびLPセンジュでは同程度であったがLPサワイのみ有意に低値を示した.また,急性毒性(kD)はLPわかもと≒LPセンジュ>キサラタンR>LPサワイ>LPケミファの順であった(表4).III考按本研究では,現在臨床現場で多用されている緑内障治療薬処理時の細胞死亡率を測定するとともに,1次速度式を用いた細胞死亡率解析によるinvitro角膜上皮細胞傷害性評価を行った.Invitro角膜上皮細胞傷害性評価を行ううえで点眼薬処理時間の設定は重要である.Invivoでは一般的に点眼液は点眼後涙液により1/5まで希釈され,その後涙液として鼻涙管から排出されることが知られている5).このように,invivoでは薬剤が長時間角膜に滞留しないことから,本実験のようなinvitro実験系では臨床(invivo)よりも短時間で強い細胞傷害性が認められる.したがって,本研究では点眼薬処理開始後2分を目安に実験を行い,点眼薬自身の角膜上皮細胞への傷害性評価を行った.本研究の結果から1次速度式を用いて解析することで,薬剤自身の有する慢性毒性(D∞)および急性毒性(kD)が算出でき,これら慢性および急性毒性が高いほど角膜傷害性が高くなることがわかった.そこでこの1次速度式を用い,臨床で第一選択として用いられるPG点眼薬キサラタンR,レスキュラR,トラバタンズRおよびタプロスRの角膜上皮細胞傷害性について評価を行った.PG点眼薬では慢性および急性毒性ともにキサラタンR>レスキュラR>タプロスR>トラバタンズRの順であった(図1および表2).点眼薬には品質の劣化を防ぐ目的で保存剤が添加されており,薬剤性角膜傷害には主薬のみでなくこの保存剤が強く関与する6).なかでも保存剤ベンザルコニウム塩化物(BAC)は界面活性作用により細胞膜の浸透性を高め,膜破壊,細胞質の変性を起こすことで,高い角膜上皮細胞傷害性を有する7,8).筆者らもまた本実験系にてBACが高い細胞傷害性を示すことを明らかとしている9).今回用いたキサラタンR,レスキュラRおよびタプロスRいずれにおいても保存剤としてBACが用いられており,その濃度はそれぞれ0.02%,0.005%および0.001%であった.したがって,キサラタンR,レスキュラRおよびタプロスRの毒性強度の順は点眼薬中に含まれる主薬の傷害性とBAC濃度が関与するものと考えられる.一方,トラバタンズRはBAC非含有製剤であり,日本アルコン株式会社が特許を有するsofZiaTM(塩化亜鉛,ホウ酸を含むソルビトール緩衝剤保存システム)を保存剤として使用している.この保存剤はBACの高い角膜上皮細胞傷害性を避けるために考案されたものであり,トラバタンズRの毒性が他のPG点眼薬より低い主たる理由として,保存剤の違いが関与するものと考えられる.つぎに第2,3選択として,PG点眼薬とは作用機序の異なる点眼薬チモプトールR,トルソプトR,デタントールR,ハイパジールRおよびサンピロRを用い,角膜上皮細胞傷害性の検討を行った.いずれの処理群においても処理時間の増加とともに細胞死亡率の増加が認められ,その慢性毒性および保存剤はキサラタンR(0.02%BAC)≒デタントールR表4ラタノプロスト点眼薬先発品および後発品処理における角膜傷害性の比較先発品後発品キサラタンRLPケミファLPセンジュLPわかもとLPサワイkD(min?1)2.80±0.250.35±0.01*12.27±2.49*12.93±1.88*2.37±0.21D∞(%)101.5±6.6100.2±3.396.3±2.497.7±1.765.1±3.5*平均値±標準偏差,n=4?5,*p<0.05vs.キサラタンR(Dunnettの多群間比較).20406080100細胞死亡率(%)○:キサラタンR●:LPケミファ▲:LPセンジュ◆:LPわかもと■:LPサワイ0.00.51.01.52.0処理時間(分)図3ラタノプロスト点眼薬先発品および後発品処理によるHCE-T死亡率の変化平均値±標準誤差,n=4?5.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111335(0.005%BAC)>レスキュラR(0.005%BAC)>タプロスR(0.001%BAC)>チモプトールR(0.005%BAC)>ハイパジールR(0.002%BAC)>サンピロR(パラベン類)>トルソプトR(0.005%BAC)>トラバタンズR(sofZiaTM)の順であった(表2および表3).急性毒性においても慢性毒性と同様の順であったが,デタントールRでのみ他の点眼薬と比較し慢性毒性が高値を示し,急性毒性が低値を示した(表2および表3).実際の臨床現場において,緑内障治療薬による角膜上皮細胞傷害はPG点眼薬やb遮断薬で高頻度にみられることはすでによく知られており10),筆者らが示したPG点眼薬が強い毒性を有すことと一致が認められた.b遮断薬であるチモプトールRのBAC濃度は0.005%であることから,チモプトールRの毒性は,BACと主薬であるチモロールマレイン酸塩がおもに関与するものと考えられる.デタントールRも高い慢性毒性を示したが,急性毒性は非常に低かった.デタントールRのBAC含有濃度は0.005%であり,添加物も一般的であることから,主薬であるブナゾシン塩酸塩がこの慢性および急性毒性に関わるものと考えられる.高い慢性毒性を有するデタントールRが臨床で高頻度に角膜傷害を示さないのは,急性毒性が低いことが関与するものと思われる.一方,ハイパジールR,サンピロR,トルソプトRの毒性は低かった.ハイパジールRはBAC濃度が0.002%と低く,サンピロRでは保存剤にパラベン類が用いられていた.サンピロRの保存剤であるパラベン類はBACと比較し角膜細胞にほとんど影響を与えないことはすでに報告されている10).これらのことから,ハイパジールRおよびサンピロRの低傷害性はそれぞれBAC濃度,保存剤の種類の相違によるものと考えられる.トルソプトRでは保存剤として0.005%BACが用いられているものの,添加剤としてd-マンニトールが含まれていた.筆者らはこれまで添加物であるd-マンニトールがBACの傷害性を軽減することを明らかとしている9).したがって,トルソプトRがハイパジールRよりBAC濃度が高いにもかかわらず,傷害性が低いことに,d-マンニトール含有の有無および主薬自身の毒性が起因するものと考えられる.最後に,多くの後発品が販売されているラタノプロストについてHCE-Tを用い角膜上皮細胞傷害性評価を行った.代表的なラタノプロスト後発品としてLPケミファ,LPセンジュ,LPわかもとおよびLPサワイの4品目について慢性毒性を検討した結果,LPケミファ,LPわかもとおよびLPセンジュでは同程度であったが,LPサワイのみ有意に低値を示した.急性毒性はLPわかもと≒LPセンジュ>キサラタンR,LPサワイ>LPケミファの順となり,LPわかもとおよびLPセンジュの2剤が先発品であるキサラタンRより高い毒性を示した(表4).このLPわかもとおよびLPセンジュは先発品であるキサラタンと主薬は同じであり,添加物からもこれら後発品と先発品で大きな違いがみられないことから,製剤自身の急性毒性には添加物を加える順番など製剤過程での違いが影響すると考えられる.一方,先発品と比較しLPサワイは慢性毒性が,LPケミファでは急性毒性が有意に低かった.LPサワイではd-マンニトールが含まれており,BAC濃度も先発品の約半量と低値である.このBACおよび添加物がLPサワイの低い慢性毒性へと繋がっていると思われた.LPケミファのBAC濃度は非公開であるが,界面活性剤であるポリソルベート80が含まれることからBACの濃度は先発品より低いものと考えられる.しかし,LPケミファは他のラタノプロスト後発品と比較し,処理時間当たりの細胞死亡率が非常に低く,急性毒性も有意に低値であることから,BAC濃度だけでなく製剤過程でも他の工夫がなされている可能性がある.以上,本研究ではHCE-Tを用いた点眼薬の細胞死亡率を1次速度式にて解析することで,緑内障治療薬自身が有する急性および慢性毒性の算出が可能であることを明らかとした(図4).慢性毒性が高く急性毒性の低い薬剤では,正常なオキュラーサーフェスではその傷害性はわずかであるが,ドライアイ患者などでは涙液低下や滞留の増加により急性毒性が高まる可能性が考えられる.したがって,これら薬剤の急性および慢性毒性を明らかとすることは非常に意義あるものと考えられる.これら角膜上皮細胞傷害性は,臨床においては涙液分泌能低下などの他の作用により相乗的に角膜上皮細胞傷害をひき起こすことから9),今回のinvitroの結果(角膜傷害強度および傷害速度の算出)を基盤とした臨床結果のさらなる解析は,緑内障患者の状態に合わせた薬剤決定をより容易にするために重要である.本報告は今後の点眼薬開発および緑内障治療薬投与時における薬物選択を決定するうえで一つの指標になるものと考えられる.LPサワイレスキュラR慢性毒性大小キサラタンRトラバタンズRLPケミファLPわかもとLPセンジュデタントールRタプロスRチモプトールRトルソプトRハイパジールRサンピロRLPケミファデタントールRトラバタンズRLPわかもとLPセンジュLPサワイ急性毒性レスキュラR大小キサラタンRタプロスRチモプトールRハイパジールRサンピロRトルソプトR図4各種緑内障治療薬の慢性および急性毒性強度1336あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011文献1)徳田直人,青山裕美子,井上順ほか:抗緑内障薬が角膜に及ぼす影響:臨床とinvitroでの検討.聖マリアンナ医科大学雑誌32:339-356,20042)長井紀章,伊藤吉將,岡本紀夫ほか:抗緑内障点眼薬の角膜障害におけるInVitroスクリーニング試験:SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた細胞増殖抑制作用の比較.あたらしい眼科25:553-556,20083)ToropainenE,RantaVP,TalvitieAetal:Culturemodelofhumancornealepitheliumforpredictionofoculardrugabsorption.InvestOphthalmolVisSci42:2942-2948,20014)TalianaL,EvansMD,DimitrijevichSDetal:Theinfluenceofstromalcontractioninawoundmodelsystemoncornealepithelialstratification.InvestOphthalmolVisSci42:81-89,20015)後藤浩,吉川啓司,山田昌和ほか:眼科開業医のための疑問・難問解決策.p216-217,診断と治療社,20066)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcornealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailablelatanoprostandtravoprostinratdebridedcornealepithelium.JOleoSci59:135-141,20107)河嶋洋一:防腐剤の功罪(使い捨て点眼薬を含む),点眼薬の使い方.眼科診療プラクティス42,p86-87,文光堂,19998)DeSaintJeanM,BrignoleF,BringuierAFetal:EffectsofbenzalkoniumchlorideongrowthandsurvivalofChangconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci40:619-630,19999)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞傷害性評価.YAKUGAKUZASSHI131:985-991,201110)青山裕美子:緑内障の薬物治療-抗緑内障点眼薬と角膜.FrontiersinGlaucoma4:132-147,2003(116)***

細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(101)1321《原著》あたらしい眼科28(9):1321?1329,2011cはじめにOfloxacin(OFLX)点眼薬が1987年に上市されて以降,現在までにnorfloxacin(NFLX),lomefloxacin(LFLX),levofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),tosufloxacin(TFLX)ならびにmoxifloxacin(MFLX)が点眼液として開発され,フルオロキノロン系抗菌薬の点眼薬が細菌性外眼部感染症に対する第一選択となって久しい.これらフルオロキノロン系抗菌薬は,細菌のDNA合成に関与するDNAgyraseおよびtopoisomeraseIVという両酵素を阻害することで抗菌活性を示し,また,各薬剤のキノロ〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社開発本部育薬企画部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPAN細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査末信敏秀*1石黒美香*1松崎薫*2池田文昭*2秦野寛*3*1千寿製薬株式会社開発本部育薬企画部*2三菱化学メディエンス株式会社化学療法研究室*3ルミネはたの眼科InvestigationofBacterialIsolatesRecoveredfromOcularInfectionsRegardingSusceptibilitytoGatifloxacinandOtherAntimicrobialAgentsToshihideSuenobu1),MikaIshikuro1),KaoruMatsuzaki2),FumiakiIkeda2)andHiroshiHatano3)1)Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)ChemotherapyDivision,MitsubishiChemicalMedienceCorporation,3)LumineHatanoEyeClinic細菌性外眼部感染症由来の各種臨床分離株のgatifloxacin(GFLX)および他の点眼用抗菌薬に対する感受性動向を検討するため,2005年,2007年および2009年の各1年間に,全国の一次医療機関の細菌性外眼部感染症患者より分離された1,911菌株を対象に,GFLXおよびその他の点眼用抗菌薬に対する感受性を測定した.グラム陽性菌では,過去3回の調査を通じてGFLXに対する感受性の低下は認められず,moxifloxacin(MFLX)およびtosufloxacin(TFLX)に対する感受性とほぼ同等であり,また,他のフルオロキノロン系薬に対してよりもやや高い感受性を示す傾向が認められた.一方,グラム陰性菌においても,3回の調査を通じてGFLXに対する感受性の低下は認められず,levofloxacin(LVFX)およびTFLXに対する感受性とほぼ同等で,他のフルオロキノロン系薬に対してよりもやや高い感受性を示す傾向が認められた.以上,2004年の発売から5カ年にわたって,外眼部感染症分離菌のGFLXに対する感受性に経年的な耐性化傾向は認められなかったことから,GFLXは細菌性外眼部感染症に対して有用な抗菌薬であると考えられた.Isolatesrecoveredfromocularinfectiouspatientsbetween2005and2009wereassessedinvitroregardingtheirsusceptibilitiestogatifloxacin(GFLX)andotherophthalmicantimicrobialagents.TheinvitroactivityofGFLXagainsttheisolateswascomparedtothatoflevofloxacin(LVFX),ofloxacin(OFLX),lomefloxacin(LFLX),tosufloxacin(TFLX),moxifloxacin(MFLX)andcefmenoxime(CMX).TheactivitiesofGFLXagainstgram-positiveandnegativebacteriascarcelychangedduringtheinvestigationalperiod.TheactivityofGFLXagainstgrampositiveisolatewasalmostequaltothoseofMFLXandTFLX,andwashigherthanotherquinolones.Againstgram-negativeisolates,GFLXantibacterialactivitywasalmostequaltothoseofLVFXandTFLX,andmayhavebeenslightlystrongerthanotherquinolones.Sinceitdidnotexhibitdiminishedactivityduringtheperiodofthisinvestigation,GFLXisconcludedtobepotentlyactiveagainstbacterialisolatesfromocularinfectiouspatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1321?1329,2011〕Keywords:ガチフロキサシン,感受性,サーベイランス,フルオロキノロン,眼感染症.gatifloxacin,susceptibility,surveillance,fluoroquinolones,ocularinfection.1322あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(102)ン環における構造上の相違が両酵素に対する阻害活性に影響を及ぼす.GFLXの構造上の特徴は,キノロン環7位に3-メチルピペラジニル基および8位にメトキシ基を有することであり,3-メチルピペラジニル基による増強効果は比較的小さいと考えられる一方で,8位メトキシ基はDNAgyrase阻害活性の向上に寄与している1).すなわち,DNAgyraseおよびtopoisomeraseIVに対する阻害活性強度が近似することで,両酵素を同程度かつ強力に阻害2)(デュアル・インヒビター)する結果,Staphylococcusaureus2,3),Streptococcuspneumoniae4)あるいはEscherichiacoli5)などに対する抗菌活性が増強しているものと考えられる.同時に,8位メトキシ基は両酵素の変異株の出現頻度低減にも寄与していることから,耐性菌が生じにくいことが示唆されている6).このような特徴を有するGFLXは,2004年に点眼薬として上市されているが,抗菌薬の宿命として,耐性菌の発現は一般的に不可避であることから,今回筆者らは,細菌性外眼部感染症由来の各種臨床分離株のGFLXおよび他の点眼用抗菌薬に対する感受性動向を検討するため,上市以降の5年間に計3回の感受性調査を実施したので報告する.I材料および方法1.試験薬剤今回の試験では,gatifloxacin(GFLX),levofloxacin(LVFX),ofloxacin(OFLX),lomefloxacin(LFLX),tosufloxacin(TFLX),moxifloxacin(MFLX),cefmenoxime(CMX)の7薬剤を用いた.なお,Staphylococcusにはoxacillin(MPIPC),StreptococcuspneumoniaeにはpenicillinG(PCG),Haemophilusinfluenzaeにはampicillin(ABPC)を追加した.2.試験菌株表1に示したとおり,2005年,2007年および2009年の各1年間における目標収集株数を設定し,全国の一次医療機関の細菌性外眼部感染症患者より検体採取,分離,同定された順に目標株数に達するまでの収集菌株(総数1,911株)を表1試験菌株試験菌各回の目標収集株数収集株数第1回(2005年)第2回(2007年)第3回(2009年)StaphylococcusStaphylococcusaureus(Methicillin-susceptibleS.aureus:MSSA,Methicillin-resistantS.aureus:MRSA)100100100100Coagulase-negativeStaphylococcus(CNS)100100100100StreptococcusStreptococcuspneumoniae50505050Streptococcusspecies(S.pneumoniae以外)25252525Enterococcusspecies25252525Corynebacteriumspecies25252525Moraxella(Branhamella)catarrhalis25252525Neisseriagonorrhoeae10500EnterobacteriaceaeCitrobacterspecies10101010Klebsiellaspecies10101010Serratiaspecies25252525Morganellamorganii10101010Nonglucosefermentativegram-negativerod(NFR)Pseudomonasaeruginosa50505050Pseudomonasspecies(P.aeruginosa以外)25252525Sphingomonaspaucimobilis257618Stenotrophomonasmaltophilia10101010Acinetobacterspecies25252525HaemophilusHaemophilusinfluenzae50505050Haemophilusaegyptius10101010嫌気性菌Propionibacteriumacnes50505050計660637631643(103)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111323試験菌株とした.試験菌株は分離後,最小発育阻止濃度(MIC)測定時まで保存液(スキムミルク)中にて?70℃以下で保存した.なお,これらの試験菌株は,文部科学省および厚生労働省より公表された「疫学研究に関する倫理指針」を遵守して使用した.3.薬剤感受性測定試験菌株の薬剤感受性測定は,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)に準じた微量液体希釈法ならびに寒天平板希釈法(Neisseriagonorrhoeaeのみ)にて実施した.微量液体希釈法による測定には,フローズンプレート(栄研化学)を使用した.測定培地は,S.pneumoniae,Streptococcusspp.およびCorynebacteriumspp.については,2%ウマ溶血液添加cation-adjustedMuellerHintonbroth(CAMHB)を用い,H.influenzaeおよびH.aegyptiusにはHTMbroth(hematin15μg/mL,b-NAD15μg/mLおよびYeastExtract5%添加CAMHB)を用い,その他の好気性菌にはCAMHBを用いた.嫌気性菌については,5%ウマ溶血液添加Brucellabroth(hemin5μg/mLおよびvitaminK11μg/mLも添加)を用いた.好気性菌は約5×104~1×105CFU(colonyformingunit)/well,嫌気性菌は約1~2×105CFU/wellとなるように各wellに菌を接種後,好気性菌は35℃,20~22時間,好気培養,嫌気性菌は35℃,46~48時間,嫌気培養を行った.N.gonorrhoeaeの感受性は寒天平板希釈法により測定し,測定培地として1%DGS含有GCagar(GS寒天培地)を用いて約104CFU/spotとなるように菌を接種し,35℃,5%CO2条件下で20~24時間培養を行った.判定は,対照に用いた薬剤不含有培地における菌の発育を確認した後,菌の発育が認められない最小薬剤濃度をMICとした.4.耐性基準各菌種の耐性の定義はCLSIの基準に従い,以下のとおりとした.S.aureusは,MPIPCのMIC値が2μg/mL以下のものをsusceptible(MSSA),4μg/mL以上のものをresistant(MRSA)とした.Coagulase-negativeStaphylococcus(CNS)は,MPIPCのMIC値が0.25μg/mL以下のものをsusceptible(MSCNS),0.5μg/mL以上のものをresistant(MRCNS)とした.S.pneumoniaeはPCGのMIC値が0.06μg/mL以下のものをsusceptible(PSSP),0.12~1μg/mLのものをintermediate(PISP),2μg/mL以上のものをresistant(PRSP)とした.II結果1.グラム陽性菌2005年(第1回),2007年(第2回)および2009年(第3回)の各年に外眼部感染症患者から分離された菌株に対する各種抗菌薬のMICの成績を表2に示した.過去3回の調査においてMSSAに対するGFLXのMIC90は0.12~0.25μg/mLであり,他のフルオロキノロン系薬と同様に大きな変動は認められなかった.MRSAに対するGFLXのMIC90は32~128μg/mLであり大きな変動は認められず,MFLXのMIC90は32~64μg/mL,他のフルオロキノロン系薬のMIC90は>16または>128μg/mLであった.MSCNSについては,第3回調査におけるGFLXのMIC90は0.12μg/mLであり,第1回調査の成績と同等であったが,第2回調査のみ1μg/mLと高値であった.MRCNSについては,第3回調査におけるGFLXのMIC90は2μg/mLとMFLXと同等であり,過去2回の調査成績と変化はなかった.PSSPおよびPISPに対するGFLXのMIC90は過去3回の調査を通じて0.25μg/mLであり,MFLXおよびTFLXと同等であった.一方,PRSPの第1回,第2回および第3回において収集された菌株数は,それぞれ2株,4株および6株と少なかったが,GFLXのMICはPSSPおよびPISPに対するMICとほぼ同等であった.Streptococcusspp.およびEnterococcusspp.に対するGFLXのMIC90は3回の調査を通じて各々0.5および1μg/mLであり,変動は認められなかった.他のフルオロキノロン系薬においてもMIC90の変動は認められなかった.一方,CMXのEnterococcusspp.に対するMIC90は3回の調査すべてにおいて>128μg/mLであった.Corynebacteriumspp.に対するGFLXのMIC90も過去3回の調査を通じて16μg/mLでありフルオロキノロン系薬のなかでは低値であったが,CMXのMIC90は0.25~0.5μg/mLであり,フルオロキノロン系薬よりも低値を示した.過去3回の調査におけるP.acnesに対するGFLXのMIC90は0.25~0.5μg/mLであり,MFLXと同等で他のフルオロキノロン系薬よりも低値であった.2.グラム陰性菌過去3回の調査のM.(B.)catarrhalisに対するGFLXのMIC90は0.06μg/mL以下であり,LVFX,TFLXおよびMFLXと同等であった.N.gonorrhoeaeは第1回調査においてのみ5株が収集されたが,GFLXのMICrangeは0.25~2μg/mLであり,フルオロキノロン系薬のなかで最も低値を示した.第3回調査のCitrobacterspp.に対するGFLXのMIC90は0.06μg/mL以下で第1回調査成績と同等であったが,第2回調査では0.5μg/mLと高値であり,同様の傾1324あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(104)表2外眼部感染症由来分離株に対するgatifloxacinおよび対照薬のMIC推移(1)MIC:μg/mL菌名(株数)Drug第1回第2回第3回MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90グラム陽性菌MSSA第1回(81株)第2回(78株)第3回(76株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.061???????4816>128824≦0.060.250.51≦0.06≦0.0620.120.250.51≦0.06≦0.062≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.061???????2481282120.120.250.51≦0.06≦0.0610.120.250.51≦0.06≦0.062≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.061???????48161284220.120.250.51≦0.06≦0.0620.250.5120.120.122MRSA第1回(19株)第2回(22株)第3回(24株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.120.250.51≦0.06≦0.068???????>128>128>128>128>16128>128481612842>128128>128>128>128>1664>128≦0.060.250.51≦0.06≦0.064???????64>128>128>128>1632>1282816128426432>128>128>128>1632>1280.120.250.51≦0.06≦0.068???????>128>128>128>128>16128>12883264>128>168>128128>128>128>128>1664>128MSCNS第1回(60株)第2回(52株)第3回(60株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.060.25???????28161281622≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.060.50.120.250.51≦0.06≦0.061≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.060.25???????2816128>16410.120.250.51≦0.06≦0.060.51243220.51≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.060.25???????248644110.120.250.51≦0.06≦0.060.50.120.250.51≦0.060.121MRCNS第1回(40株)第2回(48株)第3回(40株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.062???????21632128164161243220.5424864418≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.060.5???????21632>128>164162486441428161288216≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.061???????64>128>128>128>16328148322142816128828PSSP第1回(38株)第2回(32株)第3回(29株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.120.250.52≦0.06≦0.06≦0.06???????0.51280.250.250.250.250.5140.120.120.120.251280.120.120.250.120.250.52≦0.06≦0.06≦0.06???????0.51280.250.250.250.251280.120.120.120.251280.120.120.250.120.514≦0.06≦0.06≦0.06???????0.51280.250.250.50.251280.120.120.120.251280.250.250.25PISP第1回(10株)第2回(14株)第3回(15株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.120.512≦0.06≦0.060.25???????0.251280.120.1210.250.5140.120.120.50.250.5140.120.1210.120.514≦0.06≦0.060.12???????0.251280.120.1210.250.5140.120.120.250.251280.120.120.50.120.512≦0.06≦0.06≦0.06???????0.251280.250.1210.250.5140.120.120.50.251280.120.121PRSP第1回(2株)第2回(4株)第3回(6株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.251280.120.120.5──────────────0.251240.120.120.5???????0.524160.50.54──────────────0.25124?80.120.120.5?4──────────────(105)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111325菌名(株数)Drug第1回第2回第3回MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90Streptococcusspp.第1回(25株)第2回(25株)第3回(25株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.06≦0.06???????0.512160.250.2520.250.5180.120.12≦0.060.51280.250.250.25≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.06≦0.06???????0.524160.50.540.250.5140.120.12≦0.060.51280.250.25≦0.060.120.250.52≦0.06≦0.06≦0.06???????0.524160.250.2520.251280.120.12≦0.060.51280.250.250.25Enterococcusspp.第1回(25株)第2回(25株)第3回(25株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.51240.250.258???????124811>1280.51240.250.2512812480.50.5>1280.251240.250.251???????12480.50.5>1280.51280.50.56412480.50.5>1280.251240.250.258???????12480.50.5>1280.51280.50.512812480.50.5>128Corynebacteriumspp.第1回(25株)第2回(25株)第3回(25株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06≦0.060.120.5≦0.06≦0.06≦0.06???????16128>12812816320.583264324160.121664128648320.5≦0.06≦0.060.120.5≦0.06≦0.06≦0.06???????>128>128>128>128>166410.250.5120.50.250.251664>12812816320.25≦0.06≦0.060.120.5≦0.06≦0.06≦0.06???????32>128>128>128>16640.50.250.5120.250.120.2516128>128>128>16320.5P.acnes第1回(50株)第2回(50株)第3回(50株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.250.250.51410.25≦0.060.250.51410.250.50.250.5120.120.25≦0.06???????0.512820.50.50.250.51410.250.120.512410.50.250.250.510.50.25≦0.06???4???0.51210.50.50.250.51410.250.120.512410.50.50.250.520.50.12≦0.06??????0.51410.250.5グラム陰性菌M.(B.)catarrhalis第1回(25株)第2回(25株)第3回(25株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.25≦0.06≦0.060.120.25≦0.06≦0.060.5≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.120.25≦0.06≦0.060.5≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.25≦0.06≦0.060.120.25≦0.06≦0.060.5≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?0.12≦0.06?0.12≦0.06?0.12≦0.06?0.250.12?0.25≦0.06?0.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?1≦0.06?1≦0.06?0.5N.gonorrhoeae第1回(5株)第2回(0株)第3回(0株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.250.5180.250.5≦0.06???????281664440.25──────────────Citrobacterspp.第1回(10株)第2回(10株)第3回(10株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06???????0.250.250.50.50.250.50.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.060.120.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06???????0.50.250.510.2511≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.06≦0.060.50.250.50.50.2510.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.120.12≦0.060.120.25≦0.06≦0.06?0.12≦0.06?0.12≦0.06≦0.06?0.12≦0.06?0.25表2外眼部感染症由来分離株に対するgatifloxacinおよび対照薬のMIC推移(2)MIC:μg/mL1326あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(106)菌名(株数)Drug第1回第2回第3回MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90Klebsiellaspp.第1回(10株)第2回(10株)第3回(10株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06?0.12≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.120.25≦0.060.120.25≦0.06≦0.06≦0.060.120.12≦0.060.12≦0.06≦0.06≦0.060.120.25≦0.060.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.120.12≦0.060.120.12≦0.06?0.12≦0.06≦0.06≦0.06?0.25≦0.06?0.12≦0.06?0.12≦0.06?0.250.12?0.25≦0.06?0.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?0.12≦0.06?0.25≦0.06?0.12≦0.06?0.5≦0.06≦0.06?0.12Serratiaspp.第1回(25株)第2回(25株)第3回(25株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06???????1124120.5≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.120.50.250.50.50.250.50.5≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06???????0.50.512110.50.250.120.250.250.120.250.120.50.250.50.50.2510.5≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06???????11241220.120.120.250.250.120.250.120.50.250.50.50.250.51M.morganii第1回(10株)第2回(10株)第3回(10株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06?0.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.060.12≦0.060.120.120.120.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06???????1122240.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.060.250.120.250.250.250.50.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?0.12≦0.06≦0.06?0.25≦0.06≦0.06?0.12≦0.06≦0.06?0.25≦0.06?0.12≦0.06?1≦0.06?0.12P.aeruginosa第1回(50株)第2回(50株)第3回(50株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.250.250.50.50.120.516???????3264128>128>16128>1280.50.5120.2511621240.54320.250.250.50.50.120.516???????8816164161280.50.5120.2513211220.52640.250.250.50.50.120.58???????448828>1280.50.5110.2511611220.5264Pseudomonasspp.第1回(25株)第2回(25株)第3回(25株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.12???????0.50.5110.2511280.120.120.250.25≦0.060.25160.50.250.510.25164≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.5???????448818>1280.50.5110.2513210.5120.521280.120.120.250.5≦0.060.2516???????11240.521280.50.5110.2513211220.5264S.paucimobilis第1回(7株)第2回(6株)第3回(18株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.060.120.251≦0.06≦0.062???????0.51280.50.532──────────────≦0.06≦0.060.120.25≦0.06≦0.061???????124812>128──────────────≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.062???????124822>1280.120.250.51≦0.06≦0.063212481164S.maltophilia第1回(10株)第2回(10株)第3回(10株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX0.250.5120.120.122???????448822>1280.50.5120.50.25128124411>128≦0.060.120.251≦0.06≦0.0632???????32326464>1632>1280.51240.50.5128448822>1280.250.5120.120.124???????224811>12811240.50.512812440.50.5>128表2外眼部感染症由来分離株に対するgatifloxacinおよび対照薬のMIC推移(3)MIC:μg/mLあたらしい眼科Vol.28,No.9,20111327向が他のフルオロキノロン系薬でも認められた.Klebsiellaspp.に対するGFLXのMIC90は,過去3回の調査を通じて0.06μg/mL以下であり,LVFXおよびTFLXと同等であった.Serratiaspp.に対するGFLXのMIC90については,すべての調査を通じて0.5μg/mLであり,他のフルオロキノロン系薬と同様の傾向であった.M.morganiiに対するGFLXのMIC90は≦0.06~0.25μg/mLであり,第2回調査におけるMIC90がやや高かったが,他のフルオロキノロン系薬も同様の傾向であった.P.aeruginosaに対するGFLXのMIC90は1~2μg/mLで大きな変動はなく,他のフルオロキノロン系薬と同様の傾向であった.Pseudomonasspp.に対するGFLXのMIC90についても0.5~1μg/mLであり,他のフルオロキノロン系薬のMIC90とほぼ同等であった.S.paucimobilisについては,第3回調査におけるGFLXのMIC90は1μg/mLであり,TFLXおよびMFLXと同等であった.なお,S.paucimobilisは第1回および第2回調査時の収集株数が各々7株および6株と少なかったが,第3回調査のGFLXのMICとほぼ同等であった.S.maltophiliaに対するGFLXの過去3回の調査におけるMIC90は1~4μg/mLであり,第2回調査で若干の上昇が認められたが,他のフルオロキノロン系薬と同様に経年的なMIC90の上昇は認められなかった.Acinetobacterspp.に対するGFLXの過去3回の調査におけるMIC90は0.12~0.25μg/mLであり,LVFX,TFLXおよびMFLXとほぼ同等であった.ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌に対するCMXのMIC90は32~>128μg/mLであり,フルオロキノロン系薬よりも高値であった.H.influenzaeおよびH.aegyptiusに対するGFLXのMIC90は,計3回の調査を通じて0.06μg/mL以下であり,LVFX,OFLXおよびTFLXと同等であった.一方,LFLXおよびMFLXではMICが0.12μg/mLを示す菌株(H.influenzae)が認められた.III考按細菌感染症の治療において,病巣擦過物の塗抹検鏡および培養による起炎菌の同定ならびに抗菌薬に対する感受性を確認して有効な抗菌薬が選択されるべきであるが,実際には検査結果を待たずして経験的治療が開始されることが多い.細菌性外眼部感染症においても,広域抗菌スペクトラムを有するフルオロキノロン系薬の点眼剤が汎用されているが,近年ではフルオロキノロン系薬耐性菌の出現と増加が報告されており7?9),起炎菌の感受性動向を調査することは,非常に重要になっている10).フルオロキノロン系薬の作用標的は,DNAgyraseおよびtopoisomeraseIVであるが,両酵素のQRDR(quinolone(107)菌名(株数)Drug第1回第2回第3回MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90MICrangeMIC50MIC90Acinetobacterspp.第1回(25株)第2回(25株)第3回(25株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06≦0.060.120.25≦0.06≦0.064???????161632128>1616128≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.06160.250.5110.120.2532≦0.06≦0.060.120.25≦0.06≦0.061???????0.50.5110.25164≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.06160.120.250.51≦0.060.1264≦0.06?0.12≦0.060.120.250.5≦0.06≦0.06160.120.250.51≦0.060.1232≦0.06?0.250.12?0.50.25?1≦0.06≦0.06?0.124?64H.influenzae第1回(50株)第2回(50株)第3回(50株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMXABPC≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.5≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.54≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.250.5≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.54≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.121≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.54≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?0.12≦0.06?0.12≦0.06?0.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?0.12≦0.06?0.12≦0.06?0.5≦0.06?0.5≦0.06?0.50.12?>1280.12?160.12?64H.aegyptius第1回(10株)第2回(10株)第3回(10株)GFLXLVFXOFLXLFLXTFLXMFLXCMX≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.25≦0.06≦0.06≦0.060.12≦0.06≦0.060.5≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.060.25≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?0.12≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06?0.5≦0.06?0.25≦0.06?0.5収集株数が10株未満であった場合は,MIC50およびMIC90を算定せず.表2外眼部感染症由来分離株に対するgatifloxacinおよび対照薬のMIC推移(4)MIC:μg/mL1328あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011resistance-determinationregion)にアミノ酸置換をひき起こす遺伝子変異が耐性化に密接に関連している.Noguchiら11)は,2002年に分離されたMRSA100株の97%がgrlA(topoisomeraseIVをコードする遺伝子)あるいはgyrA(DNAgyraseをコードする遺伝子)に変異を有し,いずれか一方の変異株ではLVFXへの感受性低下が認められたが,GFLXおよびMFLXに対する感受性の低下はほとんどなく,grlAおよびgyrA両遺伝子が変異することによりGFLXおよびMFLXに対しても高度耐性化したと報告している.今回の調査においても,MRSAに対するGFLXおよびMFLXのMIC90は,他のフルオロキノロン系薬に比して低い傾向が認められた.同様にMcDonaldら7)は,CNSにおけるフルオロキノロン系薬への耐性化についてもMRSAと同様に段階的であり,はじめにLVFXおよびTFLXに耐性化し,ついでGFLXおよびMFLXにも耐性化することを報告している.星12)は正常結膜?から分離されたMRCNSにおけるフルオロキノロン系薬耐性率がMSCNSに比して有意に高いことに加え,GFLXまたはMFLX感性株のなかにはLVFX耐性株が存在することを報告している.今回の調査においても,MRCNSに対するGFLXおよびMFLXのMIC90は,他のフルオロキノロン系薬よりも低い傾向にあり,CNSのGFLXおよびMFLXに対する耐性率は,LVFXに対する耐性率と相違したとするLingminら13)の報告と一致している.このような耐性率相違の要因としては,LVFXの一次作用標的がtopoisomeraseIVであるのに対し,その化学構造に共通してキノロン環8位にメトキシ基を有するGFLXおよびMFLX14)では,DNAgyraseおよびtopoisomeraseIVの両酵素をバランスよく強力に阻害する2,7)ことが反映されているものと考えられる.一方,S.pneumoniaeに対するフルオロキノロン系薬の抗菌活性はPSSP,PISPおよびPRSPに対して同等であり,PCGに対する耐性度には影響されなかった.Corynebacteriumspp.はtopoisomeraseIVを欠くことから,主としてgyrA変異によりフルオロキノロン系薬に対する耐性が獲得されると考えられている8).今回の調査においてGFLXが比較的高い抗菌活性を示した要因としては,GFLXのDNAgyraseに対する阻害活性が変異の影響を受け難いためと考えられる.山中ら15)も,Corynebacteriumspp.ではgyrAにコードされるSer-83およびAsp-87のアミノ酸変異パターンによってフルオロキノロン耐性度が変化し,両アミノ酸が変異したフルオロキノロン高度耐性株に対してGFLXのMICが最も低かったことを報告している.なお,Corynebacteriumspp.に対して最も強い抗菌活性を示した薬剤はCMXであり,小林らの報告16)と同様であった.グラム陰性菌およびP.acnesはフルオロキノロン系薬に高い感受性を示し,3回の調査を通じて感受性の低下傾向はみられず,多剤耐性株(MDRP)の出現が問題視されているP.aeruginosaについても耐性化傾向は認められなかった.以上,2004年の発売から5カ年にわたって,外眼部感染症分離菌のGFLXに対する感受性について検討した結果,経年的な耐性化傾向は認められなかった.したがって,GFLX点眼薬は,現時点においてもなお,外眼部感染症に対して有用であると考えられた.一方,抗菌薬にとって,その使用頻度に伴う耐性化は一般的に不可避であり,継続して眼科臨床分離株の感受性を監視し,感受性動向の情報を医療現場と共有することが肝要であると考えられた.一般に,抗菌薬耐性はCLSIの基準に基づき論じられることが多いが,CLSIのブレークポイントは全身性抗菌薬を対象としており,点眼抗菌薬について同様の基準が適応できるか明らかではない.点眼抗菌薬の臨床効果と分離株の感受性との関係についても,引き続き検討していく必要があると考えられる.文献1)TakeiM,FukudaH,KishiiRetal:ContributionoftheC-8-MethoxygroupofgatifloxacintoinhibitionoftypeIItopoisomerasesofStaphylococcusaureus.AntimicrobAgentsChemother46:3337-3338,20022)TakeiM,FukudaH,KishiiRetal:Targetpreferenceof15quinolonesagainstStaphylococcusaureus,basedonantibacterialactivitiesandtargetinhibition.AntimicrobAgentsChemother45:3544-3547,20013)FukudaH,HoriS,HiramatsuK:Antimicrobialactivityofgatifloxacin(AM-1155,CG5501,BMS-206584),anewlydevelopedfluoroquinolone,againstsequentiallyacquiredquinolone-resistantmutantsandthenorAtransformantofStaphylococcusaureus.AntimicrobAgentsChemother42:1917-1922,19984)KishiiR,TakeiM,FukudaHetal:Contributionofthe8-methoxygrouptotheactivityofgatifloxacinagainsttypeIItopoisomerasesofStreptococcuspneumoniae.AntimicrobAgentsChemother42:1917-1922,19985)LuT,ZhaoXandDricaK:Gatifloxacinactivityagainstquinolone-resistantgyrase:allele-specificenhancementofbacteriostaticandbactericidalactivitiesbytheC-8-methoxygroup.AntimicrobAgentsChemother43:2969-2974,19996)FukudaH,KishiiR,TakeiMetal:Contributionofthe8-methoxygroupofgatifloxacintoresistanceselectivity,targetpreference,andantibacterialactivityagainstStreptococcuspneumoniae.AntimicrobAgentsChemother45:1649-1653,20017)McDonaldM,BlondeauJM:Emergingantibioticresistanceinocularinfectionsandtheroleoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg36:1588-1598,20108)EguchiH,KuwaharaT,MiyamotoTetal:High-levelfluoroquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,2008(108)あたらしい眼科Vol.28,No.9,201113299)HooperDC:Mechanismsoffluoroquinoloneresistance.DrugResistUpdat2:38-55,199910)OliveiraAD,Hofling-LimaAL,BelfortRJretal:Fluoroquinolonesusceptibilitiestomethicillin-resistantandsusceptiblecoagulase-negativeStaphylococcusisolatedfromeyeinfection.ArqBrasOftalmol70:286-289,200711)NoguchiN,OkiharaT,NamikiYetal:Susceptibilityandresistancegenestofluoroquinolonesinmethicillin-resistantStaphylococcusaureusisolatedin2002.IntJAntimicrobAgents25:374-379,200512)星最智:正常結膜?から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512-517,201013)LingminHMS,ChristopherNT,HerminiaMK:One-dayapplicationoftopicalmoxifloxacin0.5%toselectforfluoroquinolone-resistantcoagulase-negativeStaphylococcus.JCataractRefractSurg35:1715-1718,200914)DilekI,DavidCH:MechanismsandfrequencyofresistancetogatifloxacinincomparisontoAM-1121andciprofloxacininStaphylococcusaureus.AntimicrobAgentsChemother45:2755-2764,200115)山中千尋,江口洋:コリネバクテリウムの分子疫学について教えてください.あたらしい眼科26:226-228,200916)小林寅喆,松崎薫,志藤久美子ほか:細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性動向について.あたらしい眼科23:237-243,2006(109)***

白内障術前患者における結膜囊常在細菌の保菌リスク因子

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)1313《原著》あたらしい眼科28(9):1313?1319,2011cはじめに結膜?常在細菌は術後感染症の原因として重要である1).特に黄色ブドウ球菌,腸球菌やグラム陰性桿菌に関しては,結膜?保菌率は高くはないものの感染症に至ると重篤な経過となりやすい菌種である2,3).また,近年は結膜?常在細菌の多剤耐性化が問題となっており,特にメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulasenegativestaphylococci:MR-CNS)でその傾向が強く,筆者らが行った調査においても眼科で汎用される各種フルオロキノロン系抗菌薬への耐性化が示されている4).このような眼科感染症の脅威となる微生物に対抗するためには,結膜?常在細菌の疫学的特徴を明らかにすることがまず必要である.結膜?検出菌のリスク因子については過去にいくつかの報告があり5?11),加齢,ステロイド全身投与,アトピー性皮膚炎,糖尿病などが結膜?内の細菌叢に影響するといわれている.しかしながら,これまでの報告の多くは個々の菌種の臨床微生物学的特徴を加味していないため,感染防御に有用な知見が十分に得られているとはいえない状況である.今回〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN白内障術前患者における結膜?常在細菌の保菌リスク因子星最智*1卜部公章*2*1藤枝市立総合病院眼科*2町田病院RiskFactorsforConjunctivalBacterialColonizationinPreoperativeCataractPatientsSaichiHoshi1)andKimiakiUrabe2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)MachidaHospital白内障術前に結膜?培養を施行した990名を対象とした.診療録から,年齢,性別,高血圧,糖尿病,ステロイド内服,涙道閉塞,緑内障点眼薬の使用,眼科通院歴,他科手術歴に関して調査し,主要な7菌種の保菌リスク因子をロジスティック回帰分析にて解析した.a溶血性レンサ球菌と腸球菌では年齢(それぞれp=0.040,p=0.002),グラム陰性桿菌では涙道閉塞(p=0.003),コリネバクテリウム属では年齢,性別,緑内障点眼薬の使用(それぞれp<0.001,p=0.014,p=0.001),メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌では性別(p=0.001),メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌ではステロイド内服,眼科通院歴,他科手術歴(それぞれp=0.002,p=0.021,p=0.001)において有意差を認めた.メチシリン感受性黄色ブドウ球菌では有意な保菌リスク因子を認めなかった.Conjunctivalsaccultureswereexaminedin990preoperativecataractpatients.Patientage,sex,hypertension,diabetes,oralsteroid,lacrimalductobstruction,glaucomaeyedrops,historyofophthalmicmedicalfacilitiesandhistoryofsurgeryinotherdepartmentswereinvestigatedviamedicalrecords.Riskfactorsforcolonizationof7bacterialspecieswereanalyzedbylogisticregressionanalysis.Alpha-haemolyticstreptococciandEnterococcusfaecalisshowedsignificantdifferencesbyage(p=0.040,p=0.002,respectively).Gram-negativebacillishowedsignificantdifferencesbylacrimalductobstruction(p=0.003).Corynebacteriumspeciesshowedsignificantdifferencesbyage,sexanduseofglaucomaeyedrops(p<0.001,p=0.014,p=0.001,respectively).Methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococcishowedsignificantdifferencesbysex(p=0.001).Methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococcishowedsignificantdifferencesbyoralsteroid,historyofophthalmicmedicalfacilitiesandhistoryofsurgeryinotherdepartments(p=0.002,p=0.021,p=0.001,respectively).Methicillin-susceptibleStaphylococcusaureusshowednosignificantriskfactors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1313?1319,2011〕Keywords:結膜?常在細菌,グラム陰性桿菌,コリネバクテリウム属,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,医療関連感染.conjunctivalbacterialflora,gram-negativebacilli,Corynebacteriumspecies,methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci,healthcare-associatedinfections.1314あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(94)筆者らは,白内障術前患者における結膜?常在細菌と患者背景との関連について,臨床微生物学的観点から詳細に調査を行ったので報告する.I対象および方法1.患者背景の調査と検体採取2007年8月から2008年7月までの1年間に,高知県の眼科専門病院である町田病院に外来受診した白内障術前患者を対象とした.検査眼に内眼手術歴がある場合や,抗菌点眼薬を使用している場合は対象から除外した.患者背景については,内眼手術予定の患者用に使用している問診票と診療録を元に,年齢,性別,高血圧の有無,糖尿病の有無,ステロイド内服の有無,涙道閉塞の有無,緑内障点眼薬使用の有無,6カ月以内の他院も含めた眼科通院歴の有無,3年以内の他科での手術歴の有無の9項目について調査した.眼科通院歴の6カ月以内,他科での手術歴の3年以内という期間設定については,診療録から正確に情報収集できる範囲として便宜上設定した.高血圧と糖尿病に関しては,内科ですでに治療を行っている場合と,術前検査で疾患が判明した後に内科で治療が開始された場合に有りと判定した.培養検体は,スワブの先を滅菌生理食塩水で湿らせた後に下眼瞼結膜?を擦過して採取した.培養検査はデルタバイオメディカルに依頼し,ヒツジ血液/チョコレート分画培地,BTB乳糖加寒天培地(bromothymolbluelactateagar),チオグリコレート増菌培地を用いて好気培養と増菌培養を行った.結膜?の検体採取後,涙道通水検査によって涙道閉塞の有無を全例で確認した.2.保菌リスク因子の解析結膜?から検出されやすい菌種であるメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus:MSSA),a溶血性レンサ球菌,腸球菌(Enterococcusfaecalis),グラム陰性桿菌,コリネバクテリウム属,メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillinsusceptiblecoagulase-negativestaphylococci:MS-CNS),MR-CNSの7菌種それぞれに対し,結膜?保菌率に影響を与える患者背景因子を調べるために統計学的解析を行った.具体的にはまず,9つの患者背景因子を説明変数,各菌種の結膜?保菌の有無を目的変数として単変量ロジスティック回帰分析を行い,粗オッズ比と95%信頼区間を算出した.つぎに,単変量解析にて統計学的に有意な因子を複数認めた場合は,これらを説明変数として強制投入した多変量ロジスティック回帰分析によって調整オッズ比と95%信頼区間を算出した.有意水準は5%とした.II結果1.対象者の特徴対象患者は990名(女性594名,男性396名)であり,平均年齢は73.9±10.1歳,年齢の中央値は75歳であった.対象患者の83.3%が65歳以上の高齢者であった.他の患者背景因子に関しては,高血圧が533名(53.8%),糖尿病が206名(20.8%),ステロイド内服が29名(2.9%),涙道閉塞が31名(3.1%),緑内障点眼薬使用が97名(9.8%),6カ月以内の眼科通院歴が725名(73.2%),3年以内の他科手術歴が74名(7.5%)であった.2.結膜?検出菌の構成培養陽性率は72.8%であった.結膜?検出菌の詳細を表1に示す.コリネバクテリウム属とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で全体の80.3%を占めた.また,本研究の調査対象菌種であるMSSA,a溶血性レンサ球菌,腸球菌,グラム陰性桿菌も含めると,全体の96.4%を占めた.3.保菌リスク因子の解析a.MSSAMSSAに関しては,単変量解析において統計学的に有意な保菌リスク因子を認めなかった(表2a).b.a溶血性レンサ球菌と腸球菌a溶血性レンサ球菌と腸球菌では,単変量解析において年齢と有意な関連を認めた(それぞれp=0.040,p=0.002)(表2b,c).年齢が1歳増加することによるオッズ比は,a溶血性レンサ球菌では1.047(95%信頼区間:1.002?1.093),腸球菌では1.074(95%信頼区間:1.027?1.122)であった.本研究の母集団の中央値が75歳であることから,75歳未満と75歳以上で保菌率を比較すると,a溶血性レンサ球菌ではそれぞれ1.6%,4.4%,腸球菌ではそれぞれ2.3%,4.7%であった.c.グラム陰性桿菌グラム陰性桿菌では,単変量解析において年齢,ステロイ表1結膜?検出菌の構成菌種株数割合(%)コリネバクテリウム属46244.8メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌23022.3メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌13613.2メチシリン感受性黄色ブドウ球菌444.3メチシリン耐性黄色ブドウ球菌60.6腸球菌363.5a溶血性レンサ球菌313その他のグラム陽性球菌282.7グラム陰性桿菌555.3グラム陰性球菌40.4合計1,032100(95)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111315表2各菌種における単変量解析結果a:MSSAb:a溶血性レンサ球菌説明変数陽性群n=44陰性群n=946pvalueオッズ比95%信頼区間説明変数陽性群n=31陰性群n=959pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限下限上限年齢(歳)74.9±10.473.8±10.10.5121.0110.9791.043年齢(歳)77.5±9.073.7±10.10.040*1.0471.0021.093性別(男/女)19/25377/5690.6601.1470.6232.112性別(男/女)14/17382/5770.5521.2440.6062.553高血圧(+/?)24/20509/4370.9231.0300.5611.890高血圧(+/?)21/10512/4470.1201.8330.8543.935糖尿病(+/?)6/38200/7560.2360.5890.2461.413糖尿病(+/?)10/21196/7630.1161.8540.8594.001ステロイド内服(+/?)2/4227/9190.5191.6210.3737.044ステロイド内服(+/?)2/2927/9320.2522.3810.54010.490涙道閉塞(+/?)2/4229/9170.5841.5060.3486.522涙道閉塞(+/?)2/2929/9300.2932.2120.5049.714緑内障点眼(+/?)6/3891/8550.5841.5060.3486.522緑内障点眼(+/?)5/2692/8670.2351.8120.6804.833眼科通院歴(+/?)33/11692/2540.7871.1010.5482.212眼科通院歴(+/?)22/9703/2560.7720.8900.4051.959他科手術歴(+/?)3/4171/8750.8660.9020.2722.985他科手術歴(+/?)1/3073/8860.3770.4050.0543.009c:腸球菌d:グラム陰性桿菌説明変数陽性群n=36陰性群n=954pvalueオッズ比95%信頼区間説明変数陽性群n=52陰性群n=938pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限下限上限年齢(歳)79.0±7.773.7±10.10.002**1.0741.0271.122年齢(歳)76.6±7.773.7±10.20.048*1.0331.0001.067性別(男/女)12/24384/5700.4070.7420.3671.502性別(男/女)21/31375/5630.9541.0170.5761.797高血圧(+/?)21/15512/4420.5821.2090.6162.373高血圧(+/?)33/19500/4380.1551.5210.8532.714糖尿病(+/?)9/27197/7570.5291.2810.5932.768糖尿病(+/?)13/39193/7450.4451.2870.6742.458ステロイド内服(+/?)1/3528/9260.9560.9450.1257.144ステロイド内服(+/?)4/4825/9130.046*3.0431.0189.094涙道閉塞(+/?)2/3429/9250.4021.8760.4308.187涙道閉塞(+/?)6/4625/9130.001**4.7631.86312.182緑内障点眼(+/?)3/3394/8600.7640.8320.2502.764緑内障点眼(+/?)4/4893/8450.6010.7570.2672.147眼科通院歴(+/?)26/10699/2550.8890.9480.4511.995眼科通院歴(+/?)39/13686/2520.7671.1020.5792.099他科手術歴(+/?)4/3270/8840.4021.5790.5434.591他科手術歴(+/?)6/4668/8700.2571.6690.6884.047e:コリネバクテリウム属f:MS-CNS説明変数陽性群n=460陰性群n=530pvalueオッズ比95%信頼区間説明変数陽性群n=223陰性群n=767pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限下限上限年齢(歳)75.9±8.572.1±10.9p<0.001**1.0421.0281.056年齢(歳)73.0±10.274.1±10.00.1650.9900.9761.004性別(男/女)200/260196/3340.038*1.3111.0161.692性別(男/女)110/113286/4810.001**1.6371.2122.211高血圧(+/?)267/193266/2640.014*1.3731.0681.766高血圧(+/?)122/101411/3560.7671.0460.7761.412糖尿病(+/?)92/368114/4160.5600.9120.6701.242糖尿病(+/?)53/170153/6140.2171.2510.8771.785ステロイド内服(+/?)15/44514/5160.5651.2420.5932.602ステロイド内服(+/?)5/21824/7430.4910.7100.2681.883涙道閉塞(+/?)17/44314/5160.3441.4140.6892.902涙道閉塞(+/?)6/21725/7420.6680.8210.3322.026緑内障点眼(+/?)31/42966/4640.003**0.5080.3250.794緑内障点眼(+/?)15/20882/6850.0820.6020.3401.067眼科通院歴(+/?)337/123388/1420.9851.0030.7561.330眼科通院歴(+/?)159/64566/2010.4590.8820.6331.229他科手術歴(+/?)39/42135/4950.2641.3100.8152.106他科手術歴(+/?)10/21364/7030.0580.5160.2601.022g:MR-CNSn:患者数.データは実数または平均±標準偏差で示す.ロジスティック回帰分析*:p<0.05,**:p<0.01.説明変数陽性群n=135陰性群n=855pvalueオッズ比95%信頼区間下限上限年齢(歳)75.3±10.274.4±9.90.2951.0100.9911.029性別(男/女)52/83344/5110.7050.9310.6411.351高血圧(+/?)75/60458/3970.6671.0840.7521.561糖尿病(+/?)29/106177/6780.8361.0480.6731.632ステロイド内服(+/?)10/12519/8360.002**3.5201.6007.744涙道閉塞(+/?)7/12824/8310.1471.8940.7994.485緑内障点眼(+/?)16/11981/7740.3891.2850.7272.272眼科通院歴(+/?)109/26616/2390.035*1.6271.0342.559他科手術歴(+/?)20/11554/8010.001**2.5801.4904.4671316あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(96)ド内服,涙道閉塞で有意な関連を認めた(それぞれp=0.048,p=0.046,p=0.001)(表2d).そこでこれら3つの因子を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,涙道閉塞のみが独立した保菌リスク因子として選択された(p=0.003)(表3a).涙道閉塞を認める場合の調整オッズ比は4.231(95%信頼区間:1.630?10.979)であった.グラム陰性桿菌の保菌率は,涙道閉塞を認めない場合は4.8%であり,認める場合は19.4%であった.d.コリネバクテリウム属コリネバクテリウム属では,単変量解析において年齢,性別,高血圧,緑内障点眼薬の使用と有意な関連を認めた(それぞれp<0.001,p=0.038,p=0.014,p=0.003)(表2e).そこでこれら4つの因子を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,年齢,性別,緑内障点眼薬の使用の3つが独立した保菌リスク因子として選択された(それぞれp<0.001,p=0.014,p=0.001)(表3b).年齢が1歳増加する6050403020100女性(17)男性(15)女性(231)男性(178)女性(48)男性(17)女性(298)男性(186)緑内障点眼あり(32)緑内障点眼なし(409)緑内障点眼あり(65)緑内障点眼なし(484)75歳未満(441)75歳以上(549)結膜?保菌率(%)図1コリネバクテリウム属の結膜?保菌率の変化括弧内の数字は保菌者数を示す.403020100眼科通院なし(232)眼科通院あり(657)眼科通院なし(26)眼科通院あり(46)眼科通院なし(6)眼科通院あり(21)他科手術歴なし(889)他科手術歴あり(72)他科手術歴なし(27)ステロイド内服なし(961)ステロイド内服あり(29)結膜?保菌率(%)図2MR?CNSの結膜?保菌率の変化括弧内の数字は保菌者数を示す.表3各菌種における多変量解析結果a:グラム陰性桿菌説明変数偏回帰係数調整オッズ比95%信頼区間下限上限pvalue年齢0.0271.0270.9941.0610.105ステロイド内服1.0742.9270.9688.8550.057涙道閉塞1.4424.2311.63010.9790.003**定数項?5.062───p<0.001**b:コリネバクテリウム属説明変数偏回帰係数調整オッズ比95%信頼区間下限上限pvalue年齢0.0421.0431.0281.058p<0.001**性別(男)0.3301.3911.0691.8110.014*高血圧0.1631.1770.9031.5340.229緑内障点眼?0.7630.4660.2950.7360.001**定数項?3.409───p<0.001**c:MR-CNS説明変数偏回帰係数調整オッズ比95%信頼区間下限上限pvalueステロイド内服1.2833.6071.6248.0120.002**眼科通院0.5441.7241.0872.7340.021*他科手術歴1.0262.7901.5974.876p<0.001**定数項?2.422───p<0.001**ロジスティック回帰分析*:p<0.05,**:p<0.01.(97)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111317ことによる調整オッズ比は1.043(95%信頼区間:1.028?1.058),男性の場合の調整オッズ比は1.391(95%信頼区間:1.069?1.811)であり,これら2つの因子は保菌リスクを増加させる一方,緑内障点眼薬の使用による調整オッズ比は0.466(95%信頼区間:0.295?0.736)となり保菌リスクを減少させた.コリネバクテリウム属の保菌率は,3つの保菌リスク因子の保有状況により11.8%から55.9%にまで変化した(図1).e.MS?CNSMS-CNSでは,単変量解析において性別と有意な関連を認めた(p=0.001)(表2f).男性の場合のオッズ比は1.637(95%信頼区間:1.212?2.211)であった.性別ごとの保菌率は,男性28.5%,女性19.7%であった.f.MR?CNSMR-CNSでは,単変量解析においてステロイド内服,眼科通院歴,他科手術歴で有意な関連を認めた(それぞれp=0.002,p=0.035,p=0.001)(表2g).そこでこれら3つの因子を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,ステロイド内服,眼科通院歴,他科手術歴が独立した保菌リスク因子として選択された(それぞれp=0.002,p=0.021,p<0.001)(表3c).ステロイド内服がある場合の調整オッズ比は3.607(95%信頼区間:1.624?8.012),眼科通院歴がある場合の調整オッズ比は1.724(95%信頼区間:1.087?2.734),他科手術歴がある場合の調整オッズ比は2.790(95%信頼区間:1.597?4.876)であり,3因子すべてが保菌リスクを増加させた.MR-CNSの保菌率は3つの因子の保有状況により,7.8%から33.3%まで変化した(図2).III考按結膜?常在細菌は,通常は眼表面を病原微生物から守る働きをもっていると考えられるが,眼科手術後感染症においては常在細菌そのものが起炎菌となりうる1).したがって,結膜?常在細菌の疫学的特徴を明らかにすることは,感染防御の観点からも重要と考えられる.結膜?検出菌の保菌リスク因子については過去にさまざまな研究がなされており,たとえば加齢で細菌検出率が高くなるという報告8,10,11)やプレドニゾロンの投与量と細菌検出数に正の相関を認めるという報告5),アトピー性皮膚炎患者では黄色ブドウ球菌が多く検出されるという報告6),さらに糖尿病ではMR-CNSが多く検出されるという報告9)などがある.しかしながらこれまでの報告は,微生物学的視点や感染疫学的視点に十分配慮した研究デザインがとられているものが少なく,報告されているリスク因子の信頼性を検証するうえでも再度詳細に検討し直す必要があると考えた.今回筆者らは,臨床微生物学的観点からつぎにあげる3点に注意して検討を行った.まず,菌種ごとに保菌リスク因子が存在するかどうかに着目した.細菌は菌種ごとに主たる生息部位,栄養要求性,伝播経路などが異なる.さらに,黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌ではその病原性が異なるように,菌種ごとに臨床上の重要度も異なるはずである.したがって,単に検出菌全体の増減を評価するのではなく,菌種ごとのリスク因子を評価するほうが感染防御的に有用な情報が得られると考えた.そのために対象患者数を増やすことで目的菌種の分離株数を解析可能な数にまで増やして検討を行った.つぎに,医療関連感染の可能性に着目した.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)やMR-CNS,バンコマイシン耐性腸球菌,多剤耐性緑膿菌などの多剤耐性菌は,主として医療関連感染として問題となる細菌である.したがって本研究では,6カ月以内の眼科通院歴と3年以内の他科での手術歴を検討項目に含めた.眼科通院歴に関しては医療従事者の手指から患者結膜への接触感染リスクの指標と考え,他科での手術歴に関しては医療施設内での全身抗菌薬の使用に対する間接的な指標と考えた.最後に,リスク因子について解析する際に問題となる交絡因子に配慮するため,多変量解析も行うことで独立したリスク因子かどうかの確認を行った.以上の3点に配慮して検討を行ったところ,黄色ブドウ球菌を除く6菌種において菌種ごとの保菌リスク因子を明らかにすることができた.黄色ブドウ球菌に関しては,9つの患者背景のいずれにおいても統計学的に有意な保菌リスク因子を認めなかった.結膜?検出菌としての黄色ブドウ球菌に関する過去の報告では,アトピー性皮膚炎患者において検出率が67%と高値であったとしている6).本研究ではアトピー性皮膚炎患者は9名とごく少数であり,統計学的解析はできなかった.アトピー性皮膚炎患者の場合は,皮膚粘膜バリア機能の破綻により黄色ブドウ球菌などの病原微生物が繁殖しやすい環境になっていると考えられ,非アトピー患者とは異なった結膜?細菌叢を構成していると認識したほうがよいかもしれない.黄色ブドウ球菌は主として鼻腔に生息しやすい細菌であり,健常者では2割が鼻腔に保菌している12).したがって,鼻腔の黄色ブドウ球菌が結膜?の保菌に影響を与えている可能性も考えられるため,今後は鼻腔の検出菌を含めた検討が必要と考えられた.a溶血性レンサ球菌と腸球菌では,年齢が保菌リスク因子として選択された.腸球菌では術後眼内炎で予後が悪いといわれている3)が,a溶血性レンサ球菌も筆者らがすでに報告しているように,予後の悪い症例が認められるので注意すべきである13).どの年齢から注意すべきかの判断はむずかしいが,たとえば両菌種の保菌率が5%を超える80歳以上(a溶血性レンサ球菌:6.0%,腸球菌:7.4%)では術後早期の再診間隔を短くするなど,各医療施設で可能な範囲内での対応があってよいと思われる.1318あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011グラム陰性桿菌では,涙道閉塞が独立した保菌リスク因子として選択された.グラム陰性桿菌は水の流れが滞った部位に繁殖しやすい性質があるため,涙道閉塞との関連は容易に理解できる.過去の報告においても,涙道閉塞患者では涙?内貯留液や結膜?検出菌に占めるグラム陰性桿菌の割合が増加することが指摘されている14).一方,慢性涙?炎の検出菌に関する報告では,グラム陰性桿菌の他にMRSAを含む黄色ブドウ球菌や肺炎球菌などの病原性グラム陽性球菌も多く検出されている15,16).本研究において黄色ブドウ球菌や肺炎球菌が多く検出されなかった理由としては,膿の逆流を伴わない涙道閉塞症例や流涙の自覚がほとんどない軽症例が多く含まれていたことが考えられる.しかしながら,慢性涙?炎の臨床所見を伴わない初期の涙道閉塞においても結膜?内の細菌叢に変化が生じうるという本研究の結果は,内眼手術に対する感染対策を行ううえで重要な知見である.白内障術後眼内炎の起炎菌では,まれに緑膿菌などのグラム陰性桿菌を認める2)が,これは手術機器の汚染以外に涙道閉塞が原因となっている可能性も考えられる.グラム陰性桿菌による眼内炎は予後不良であるため,流涙の自覚の有無にかかわらず術前に涙道閉塞の有無を確認するほうがよいと考えられた.また,涙道閉塞が存在する場合は,術直前に涙道内の洗浄を十分に行うか,可能であれば先に涙道再建術を行うほうがよいと考えられた.コリネバクテリウム属では,年齢,性別と緑内障点眼薬の使用が独立した保菌リスク因子として選択された.このうち男性と加齢は保菌リスクを増加させる一方,緑内障点眼薬の使用は保菌リスクを減少させる結果となった.コリネバクテリウム属の保菌と年齢,性別が関係するという報告は過去にない.結膜?からはCorynebacteriummacginleyiが多く分離されるといわれており17),細菌学的特徴として脂質の要求性が高いことが示されている18).仮説として,加齢や性別によってマイボーム腺からの脂質の量や性状が異なることで,高齢男性においてコリネバクテリウム属が繁殖しやすい環境が構築されている可能性が考えられる.緑内障点眼薬の使用によってコリネバクテリウム属の検出率が減少する理由も不明であるが,過去に緑内障術前患者では白内障術前患者と比較してコリネバクテリウム属の検出率が有意に低下するという報告がある7).緑内障術前患者はなんらかの緑内障点眼薬を使用していたはずなので,本研究と同じ現象を指摘していると考えられる.緑内障点眼薬の主成分によるものか,あるいは防腐剤などの添加物によるものかについては,今後さらなる検討が必要と考えられた.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌では,メチシリン耐性の有無で保菌リスク因子が異なるという興味深い結果となった.まず,MS-CNSでは,性別のみが保菌リスク因子として選択された.男性が保菌リスクを増加させたが,理由としてはコリネバクテリウム属の場合と同様,男性の眼瞼や眼表面にはMS-CNSの繁殖に必要な栄養が豊富に存在している可能性が考えられるが詳細は不明である.一方,MR-CNSでは,ステロイド内服,6カ月以内の眼科通院歴,3年以内の他科での手術歴の3つが独立した保菌リスク因子として選択された.ステロイド内服による全身の易感染状態では,外部から結膜?内に侵入してきた混入菌を排除する機構が減弱していることが原因の一つと推測される.結膜?のMR-CNS保菌が眼科通院歴や他科での手術歴と関連するという報告は今までにない.この結果は,医療関連感染の存在を示唆するものと考えられる.MR-CNSなどの薬剤耐性菌は,全身抗菌薬を使用する頻度の高い医療施設で頻繁に分離される細菌である.他科で手術を受けた患者の多くは周術期に全身抗菌薬を投与されていると思われるが,その結果全身の常在細菌叢が影響を受けてMR-CNSに感染しやすくなると考えられる.最初の保菌場所が眼ではなくても,手指による眼への自家感染が起これば,結膜?からもMR-CNSが検出されるようになると考えられる.さらに,このようにしてMR-CNSを保菌した患者が眼科に受診した際,眼科医療従事者の手指を介して,他の患者の眼部に接触伝播することでMR-CNSの保菌者を増やしている可能性が考えられる.本研究では便宜上6カ月以内の眼科受診歴としているが,実際は患者の受診頻度が保菌リスクに影響を与えていると考えられる.したがって,頻繁に眼科受診している患者ほどMR-CNSの感染リスクが高まると考えて,眼科医は日々の診療を行う必要がある.具体的には,患者の眼部に接触する前の手指衛生が重要であり,流水による手洗いや速乾性アルコール手指消毒剤による手指消毒を遵守することで眼科としてインフェクションコントロールに貢献できると考えられる.他のMR-CNSの結膜?保菌リスクとして屋宜ら9)は糖尿病を指摘しているが,本研究では糖尿病はMR-CNSの保菌リスクとはいえなかった.屋宜らの調査では1症例1検体ではなく両眼採取と片眼採取の症例が混在していること,糖尿病の有無で分けた2群間比較ではMR-CNSの保菌者数ではなく検出菌株数を対象としていることが問題であり,解析結果に少なからず影響を与えている可能性が考えられる.最後に本研究における問題点は,アトピー性皮膚炎,喘息,自己免疫疾患,ステロイド以外の免疫抑制剤使用者といった患者背景因子について,対象患者数が少ないために解析できなかったことである.過去にはこれら全身リスクを有する患者に関する報告6,11)もあるので注意が必要である.さらに本研究では嫌気性菌やMRSAについても解析できていないため,今後さらなる検討が必要である.結論として,結膜?常在細菌は菌種ごとに異なった保菌リスク因子を有していた.特にMR-CNSでは,ステロイド内服による全身の免疫抑制状態の他に,医療関連感染との関連(98)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111319が強かった.眼科におけるMR-CNSの蔓延を防ぐためには,眼科医療従事者による標準予防策の遵守が重要である.本研究の要旨は第63回日本臨床眼科学会で報告した.文献1)BannermanTL,RhodenDL,McAllisterSKetal:Thesourceofcoagulase-negativestaphylococciintheEndophthalmitisVitrectomyStudy.Acomparisonofeyelidandintraocularisolatesusingpulsed-fieldgelelectrophoresis.ArchOphthalmol115:357-361,19972)宮嶋聖也,松本光希,宮川真一:熊本大学における過去20年間の細菌性眼内炎の検討.眼臨89:603-606,19953)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:日本眼科手術学会術後眼内炎スタディグループ.白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)星最智:正常結膜?から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512-517,20105)MillerB,EllisPP:Conjunctivalflorainpatientsreceivingimmunosuppressivedrugs.ArchOphthalmol95:2012-2014,19776)NakataK,InoueY,HaradaJetal:AhighincidenceofStaphylococcusaureuscolonizationintheexternaleyesofpatientswithatopicdermatitis.Ophthalmology107:21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眼研究こぼれ話 21.光凝固療法 眼の手術にメスの効果

2011年9月30日 金曜日

(83)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111303光凝固療法眼の手術にメスの効果焦点を結んだ光には強い熱が生じることはだれでも知っている.この光の点をうんと小さくして利用すれば,外科用のメスと同様に体の組織を微細に切ることができる.この技術を光凝固と言って,外科手術の新しい方法として広く使われるようになった.眼球を切り開くことなく,透明な角膜,レンズを通して網膜に鋭利なメスを届かせることができるので,眼の手術には特に有用である.小さい癌(ガン)を焼き切ったり,出血を止めたり,また,将来何かの障碍を起こす可能性のある血管や組織を取り除いたりする目的で広く応用されている.また,網膜ばかりでなく,虹(こう)彩やその付け根辺りの顕微鏡手術にも使われている.ところが,この技術にも色々と問題がある.昔は強い光線をアーク灯(クセノンランプ)から得ていたが,光の波長の長さによって,この光では非常に小さい焦点を作ることは難しく,鋭利に小さい部分を切り取ることができにくい.この不便を解決するため,最近はレーザーを光源として使用するようになった.レーザーとは純結晶またはガス物質に強い光を注入して,一層強いエネルギーを持った光に増幅されて飛び出して来たもので,太陽光よりも強く,非常に小さい光の束にすることができる.光凝固が最初眼科に利用された頃(ころ),この研究には埼玉医大の野寄博士などが関与している.私は,現在,防衛医大で活躍している沖坂教授とともに細胞学的研究に手をつけた.ちょうどその頃,レーザーが種々の工業,通信分野で使われるようになり,また軍用では銃の照準器の中にも内蔵されるようになった.外科手術の目的ばかりでなく,このような軍用,日用の機械類を使用する際の安全性を決定するために,眼が受け入れる最低限度の許容量を知る必要に迫られた.空海陸軍の研究所をはじめ,色々の所から協力を求められたのである.レーザーを検眼鏡と同じ光学システムを通して網膜に焦点を合わすと,網膜は瞬間的に焼けてしまう.その頃,光凝固の眼科応用の目的には,?離(はく?)した網膜をもとにくっつけることと,網膜の表面に近い所を走っている異常血管を焼き切ることであったが,強い光を受けた網膜では深い層の視細胞が特に強く焼けることがわかった.視細胞の真下にある黒い色素を持った色素細胞層が,熱を吸収して,特に高温となって沸とうする.特別にねらった血管には,変化が起こらなくて,視力に大切な視細胞が破壊されてしまうのは都合が悪い.また赤い血液に選択的に吸収されることを考えて緑色のア0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載▲レーザー療法を受けたサルの視細胞.大きくふくれたり,まがったりして不規則になっている.走査電子顕微鏡像(7,000倍).1304あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011眼研究こぼれ話(84)ルゴンレーザーが開発された.ところが,このレーザーでもやはり視細胞層が一番強い傷害を受けることがわかった.沖坂君と私は,ずいぶんたくさんのサルを使ってこの実験をしたのである.今から10年以上も前,私たちがこの仕事を最も活発にしていた頃,数度その成績を日本の眼科学会の同僚たちに話したが,だれも興味を示さなかった.ところが,昨年京都で行われた国際(眼科)学会では,この問題が主題目の一つとして,たくさんの人々によって議論された.特に,糖尿病による失明の防止と治療のため,網膜の光凝固が日本でも盛んになりつつあるからである.しかし,十数年前,この療法を盛んに行った当地の連中は今頃,その治療が行き過ぎであったことを反省しつつあることを付け加えておきたい.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

インターネットの眼科応用 32.医療のIT化で可能になること(2) -電子カルテの進化-

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201113010910-1810/11/\100/頁/JCOPY電子カルテは無料になるのか本章では,電子カルテのIT化とその展望と課題について,事例を踏まえて紹介します.医療のIT化を知るには,インターネットの情報革命の潮流を知ることが重要です.その潮流の延長に,医療のIT化の姿がみえてきます.電子カルテは無料になるのか,その背景から紹介します.IT技術の進化に伴って,われわれはさまざまなソフトを低価格で利用できるようになりました.われわれが日常使うメーリングリスト(以下,ML)を例にあげます.このサービスは1990年代に登場しましたが,当初は有料のサービスでした.無料で利用できるようになったのは1997年のことですので,まだ15年経っていません.今では無料MLは常識ですが,当時は画期的でした.ホームページも同じです.今では,時間さえかければ無料で制作できます.mixiやFacebookに代表される,ソーシャルネットワーキングサービス(以下,SNS)も同様です.私が有志と運営するMVC-onlineという,医師限定インターネット会議室は,SNSを技術基盤にしています.6年前の開設当初,このSNSというソフトは1,000万円ほどする非常に高価なソフトでした.今では,SNSもインターネット上から情報を集めて無料で制作できます.5年経てば,価格が崩壊するのがソフトの歴史です.その理由として,ソフトのコードがインターネット上でオープン化されることと,今後はクラウドコンピューティング化が拡大することがあげられます.電子カルテというのは,ファイリングソフトを応用したものにすぎません.低価格化を導く素地が十分にあります.近い将来,あの頃の電子カルテは高かったね,と振り返る時代が必ずきます.総務省は2010年5月,光ファイバー回線やクラウドコンピューティングを駆使して,日本の次の成長戦略を考える「光の道」構想を打ち出しました.今後,インターネットは,電力や上下水道,公共交通機関や金融システムなどと同様に,社会基盤の一つになります.ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏はインターネットにアクセスする権利(情報アクセス権)を,自由権,参政権,社会権に並ぶ基本的人権の一つである,とまで述べています.また,孫氏は「光の道」構想のなかで,国費を投入することなく国内の全世帯のメタル回線を光ファイバーに置き換え,電子教科書や電子医療などを普及させる,とアピールしています1).現在のIT技術を用いれば,膨大な容量の患者情報をインターネット上でストックし,共有することができます.電子カルテだけでなく,レセプトコンピュータに代表される会計ソフトもインターネット上で共有することができます.つまり,クラウドコンピューティングという新しいインターネットサービスを通じて,電子カルテや会計ソフトは購入するものではなく,レンタルするものになります.孫正義氏の構想が実現すれば,パソコンとネット接続ツールさえあれば,電子カルテを常に最新の状態で利用することができます.さらに,複数の医療機関が共同でカルテ情報を共有し,地域の病診連携や診診連携を行うことも可能です.日本という狭い国土での医療に特化したグループウェアの開発は,日本型医療クラウドを進化・発展させるでしょう.このシステムを構築した成果物は海外への輸出すら可能である,と孫氏は説きます2).カルテ情報は誰のもの?近年,医療情報を扱ううえで重要な行政の指針が二つ公布されました.2009年3月に厚生労働省が「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4版」を,2010年12月に総務省が「ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン」を公布しました.従来は電子化されたカルテ情報は,医療機関内に保存されることが定められていました.つまり,サーバーを医療機関内に設置する必要がありました.しかし,この省令により,電子カルテの情報の保(81)インターネットの眼科応用第32章医療のIT化で可能になること②─電子カルテの進化─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ1302あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011存・管理をシステム会社に委託することが可能になりました.大きな転換点です.従来の医療情報は,患者-医師-医療機関の3者で共有していましたが,これからは,患者-医師-医療機関-システム事業者の4者で共有することになります.医療機関のメリットは膨大な情報量の管理を専門家に委託することができます.震災などの不測の事態にも対応可能です.もし,医療機関が損壊・焼失したとしても患者情報は残ります.また,医療機関はクラウドコンピューティングサービスを利用することで,システムに関わる費用を格段に減らすことができます.医療クラウドの問題点は以前も紹介しましたが,技術的な課題と,責任所在の課題に集約されます.先述した厚生労働省からの通達では,技術的な課題には,「暗号化を行う」,「情報を分散管理する」方法を提示し,これらを推奨しています.アクセス障害などの技術的な課題は,さまざまな方策を重ねるなかで解決されていくでしょう.ただ,万が一,大量の患者情報が漏洩した場合や消失した場合,誰が責任を取るのでしょう.医療クラウドにおいて,患者-医師-医療機関-システム事業者の4者のうち,カルテ情報の管理責任はどこにあって,そもそも,その所有者は誰なのでしょう.2010年2月に公布された,厚生労働省のガイドライン4.1版には,「現在の技術を十分に活用しかつ注意深く運用すれば,ネットワークを通じて,診療録等を医療機関等の外部に保存することが可能である.診療録等の外部保存を受託する事業者が,真正性を確保し,安全管理を適切に行うことにより,外部保存を委託する医療機関等の経費削減やセキュリティ上の運用が容易になる可能性がある.(中略)従って,ネットワークを経由して診療録等を電子媒体によって外部機関に保存する場合は,安全管理に関して医療機関が主体的に責任を負い,適切に推進することが求められる.」とあります.また,診療録情報を管理する外部機関には,経済産業省や総務省が定めたガイドラインを遵守する必要があります.そのガイドラインにおいても,医療機関が責任の主体者であることが確認されており,責任の分担については,「契約書で明文化すること」と簡単にまとめられています3,4).まとめると,万が一システムの障害があって,カルテ情報の漏洩や消失があった場合の責任の主体者は,システム会社ではなく医療機関にある,ということです.これは,行政の指針で明らかです.ただ,責任範囲を契約書で明文化するにあたって,医療機関側はすべてのリス(82)クを背負うことにならないよう,細心の注意が必要です.では,医療クラウドが普及した世の中において,カルテの所有者は患者,医師,医療機関,システム会社の4者のうち誰になるでしょう.先に,情報アクセス権を基本的人権の一つとする考えを紹介しました.自分自身の健康情報にアクセスする要求も高まるでしょう.インターネットの潮流から考えると,診療録情報の所有者は医療機関から患者自身へと移行します.患者は,自分自身の健康情報を自分でもつ権利を得る代わりに,その情報をシステム会社に預けていることへの覚悟が求められます.当然ながら,システム会社は非常に重要な情報を管理していることを認識し,技術的にも倫理的にも高いレベルのサービスを要求されます.中国の医療事情を参考までにご紹介します.患者と病院との信頼関係が成り立ちにくい事情,同姓同名の多さが重なり合って,診療録情報は患者自身が紙媒体で管理することが通例です.他施設に行くには,紹介状ではなく,個人で所有しているカルテそのものを持参します.患者がカルテを所有する,という医療環境は,医療のIT化が進んだ状態と奇妙にも一致して興味深く感じられます.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.この現象をMedical2.0とよびます.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvcjapan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://www.ustream.tv/recorded/68802772)http://www.ustream.tv/recorded/106507663)医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.1.http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/s0202-4.html4)ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン.http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_01000009.html

硝子体手術のワンポイントアドバイス 100.双手法による人工的後部硝子体剥離法(中級編)

2011年9月30日 金曜日

(79)あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112990910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめにトリアムシノロンアセトニドを硝子体手術のアジュバントとして使用するようになってから,一見後部硝子体?離が生じているような症例でも,薄い硝子体皮質が網膜全面に残存していることをしばしば経験するようになった.最近ではダイアモンドダストイレイサーによって,この薄い硝子体皮質を周辺部に向かって?離除去することで,裂孔原性網膜?離や糖尿病黄斑浮腫などの治療成績が向上している.●網膜硝子体癒着が強固な症例通常,上記のような薄い硝子体皮質はダイアモンドダストイレイサーを使用して,ワンハンドで?離除去できることが多い.しかし,強度近視眼や若年者の網膜?離では,その癒着が強固なために,ワンハンドによる人工的後部硝子体?離はしばしば困難を伴い,その処理に長時間を要することがある.●双手法による人工的後部硝子体?離術このような症例に対して,筆者はシャンデリア照明を装着し(図1),双手法で人工的後部硝子体?離を行っている.2本の硝子体鑷子,あるいは1本の硝子体鑷子とダイアモンドダストイレイサーを用いて,網膜硝子体癒着部位を捌くように人工的後部硝子体?離を作製していく.コツは,?離した硝子体膜の一端を硝子体鑷子で把持したうえで,もう1本の器具で,網膜硝子体癒着の境界部位を捌くようにしたり(図2),網膜硝子体癒着の外れた後極の網膜を色素上皮側へ無理のない程度に牽引する(図3).特に強度近視眼に生じた裂孔原性網膜?離では,この方法が有用で,手術時間を大幅に短縮できる.強度近視眼の網膜?離では,このような薄い硝子体皮質を確実に周辺部まで処理をしておかないと,術後にしばしば再?離をきたすので注意が必要である.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載100双手法による人工的後部硝子体?離法(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図3双手法による人工的後部硝子体?離作製(2)網膜硝子体癒着の外れた後極の網膜を色素上皮側へ無理のない程度に牽引することで,硝子体を網膜から分離する.図1シャンデリア照明の装着図2双手法による人工的後部硝子体?離作製(1)?離した硝子体膜の一端を硝子体鑷子で把持したうえで,もう1本の硝子体鑷子で,網膜硝子体癒着の境界部位を捌く.

眼科医のための先端医療 129.近視性網膜症の疫学:久山町研究

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112950910-1810/11/\100/頁/JCOPY視覚障害の主要な原因疾患としての強度近視強度近視は,先進諸国において失明原因の上位を占める疾患であり,日本では平成17年度の視覚障害者の原因疾患別調査(厚生労働省研究班)において第5位でした.近視性眼底病変には視力予後の異なるものが混在しており,なかでも黄斑部に生じる近視性脈絡膜新生血管および瘢痕形成による近視性黄斑変性は,中心視力を著しく障害し視力予後不良です.地域一般住民を対象とした多治見スタディでは,近視性黄斑変性は日本における片眼性ロービジョンの原因疾患の第3位,片眼性失明の原因疾患の第1位でした1).強度近視では眼軸の延長に伴い,眼底後極部にさまざまな近視性眼底病変をきたし,視力低下の原因となります.両眼性であることが多く,不可逆性で,働き盛りの年代の人の視力を障害することも少なくないため,社会経済的な観念からも重要な疾患です.一方,その有病率についての報告はほとんどなく,筆者らの知る限りpopulation-basedstudyで近視性網膜症の有病率について調査した報告が海外で2報あるのみです2,3).九州大学眼科学教室は,福岡県久山町において疫学調査(久山町研究)に1998年から参加し,40歳以上の久山町全住民を対象にさまざまな眼科疾患の有病率,発症率および危険因子の調査を長年にわたり継続しています.今回,久山町の調査結果より明らかになったわが国における近視性網膜症の疫学について報告します.近視性網膜症の有病率2005年に眼科健診を含む久山町成人健診を受診した40歳以上の住民1,892人を対象に近視性網膜症の有病率について調査しました.眼科健診では,両眼無散瞳下でのカラー眼底写真撮影(小瞳孔や白内障のために写真が不鮮明な場合は散瞳),IOLマスターによる眼軸長の測定,オートレフラクトメータによる屈折検査を行いました.近視性眼底病変の診断には眼底写真を使用し,びまん性萎縮病変,限局性萎縮病変,lacquercracks,近視性黄斑変性のうち,少なくとも1つがみられるものを近視性網膜症と定義しました.その結果,近視性網膜症は47眼33人に認め,有病率は1.7%でした.所見別の内訳は,びまん性萎縮病変44眼32人(1.7%),限局性萎縮病変10眼8人(0.4%),lacquercracks4眼3人(0.2%),近視性黄斑変性9眼7人(0.4%)でした.また,高齢になるほど近視性網膜症の有病率が有意に増加し,男性より女性において有病率が高いことが明らかになりました(表1).近視性網膜症の有無別で眼軸長,屈折度数(等価球面度数)の平均値を比較すると,近視性網膜症のない群ではそれぞれ23.5±1.2mm,?0.4±2.4Dであったのに対し,近視性網膜症のある群では28.2±2.2mm,?8.3±5.2Dで,眼(75)◆シリーズ第129回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊朝隈朋子(九州大学大学院医学研究院眼科学分野)近視性網膜症の疫学:久山町研究表1年齢階級別および性別の近視性網膜症の頻度:久山町研究(2005)年齢(歳)男性女性男女込み人数(人)近視性網膜症(%)人数(人)近視性網膜症(%)人数(人)近視性網膜症(%)40?491/841.21/1460.72/2300.950?591/1630.62/2920.73/4550.760?692/2710.76/3461.78/6171.370以上5/2581.915/3324.520/5903.4合計9/7761.224/1,1162.233/1,8921.7表2眼軸階級別近視性網膜症の有病率:久山町研究(2005)眼軸(mm)全体近視性網膜症眼数*(眼)(%)眼数(眼)(%)23未満1,37436.600.023?241,29634.520.224?2563516.910.225?262466.620.826?271183.186.827?28471.31123.428以上411.12253.7合計3,757100461.2*眼軸長のデータが得られなかった27眼を除く.1296あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011軸長,屈折値ともに有意差(p<0.001)を認めました.また,眼軸が長くなるほど近視性網膜症の有病率が高くなり(表2),眼軸長26.0mm未満では近視性網膜症の有病率は1.2%であったのに対し,眼軸長28.0mm以上では53.7%でした.同様に近視度数が大きくなるほど近視性網膜症の有病率は高くなる傾向を認め(表3),?4D未満の近視では有病率は1.5%であったのに対し,?10D以上の近視では36.8%でした.まとめ久山町研究で得られた結果から,近視性網膜症の有病率は1.7%であり,なかでも視力予後不良である近視性黄斑変性の有病率は0.4%でした.これを日本人40歳以上の総人口に換算すると,近視性網膜症の患者数は113万人,近視性黄斑変性の患者は25万人にも上ることが推定されます.さらなる追跡調査により近視性網膜症の発症率や関連因子を明らかにすることで,効率的な発症予測,進展予測につながることが期待されます.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20062)LiuHH,XuL,WangYXetal:PrevalenceandprogressionofmyopicretinopathyinChineseadults:theBeijingEyeStudy.Ophthalmology117:1763-1768,20103)VongphanitJ,MitchellP,WangJJ:Prevalenceandprogressionofmyopicretinopathyinanolderpopulation.Ophthalmology109:704-711,2002(76)表3屈折度数階級別近視性網膜症の有病率:久山町研究(2005)屈折度数(D)全体近視性網膜症眼数*(眼)(%)眼数(眼)(%)0<1,68551.010.10~?21,03331.310.1?2~?43019.141.3?4~?61655.031.8?6~?8752.345.3?8~?10260.8519.2≦?10190.6736.8合計3,304100250.8*白内障術後および屈折度数のデータが得られなかった480眼は除く.屈折度数は等価球面度数で示した.■「近視性網膜症の疫学:久山町研究」を読んで■今回は九州大学眼科の朝隈朋子先生による近視性網膜症の疫学データの紹介です.日本全体で,近視性網膜症の患者数は113万人,近視性黄斑変性の患者は25万人にも上ることがわかりました.眼科医として患者さんを治療する際にこのような基本的なデータを知っていることはとても大切なことです.有病率に加えて,どのような方が近視性網膜症や黄斑変性になりやすいかについての解析が進み,予防医学が有効に機能するようになると日本人の視力を良好に保持するために非常に有意義な研究ということになります.疫学は日常臨床でわれわれ眼科医が直面する問題を解決するという問題意識からはじまります.患者さんの治療法の研究に引き続いて予防をしたいということを考えることは自然な流れです.予防医学の基本は今後のあるターゲットとなる疾患の発症を予測することからはじまります.ある疾患の発症を予測するためには,正常な方と疾患を発症する方を比較する必要があります.このためには,疾患をもつ方が多い病院の眼科での臨床研究では限界があります.この問題を解決するのがpopulation-basedstudyで,これは住民健診など,正常な方をも検査する研究手法です.大変な費用,人手が必要ですが,世界ではこのような研究を行う必要性が認識され,大規模なpopulation-basedstudyが,アメリカ,ヨーロッパで進行しています.たとえば,イギリスのUKBiobankでは40?69歳の50万人のボランティアを対象にしたコホート研究を行って,疾患の危険因子を探索しています.日本でもこのような研究を行う必要性はみなさん,理解していただけるのではないでしょうか?人種により疾患の有病率,関連する因子に差がありますから,日本人のpopulationでの疾患の有病率や危険因子を検討する必要があるからです.朝隈先生のお仕事のフィールドになった久山町研究は世界的に有名なpopulation-basedstudyであり,九州大学眼科の石橋達朗教授のリーダーシップのもと,内科などと共同で精密で臨床的な価値のあるデータを連続して発表し続けておられま(77)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111297す.今回の朝隈先生のデータは難治性の近視性網膜症の全体像を示す大変貴重なデータです.われわれのもっているイメージよりはるかに多い患者さんがいることがわかりました.日本の眼科医が解決するべき問題の一つではないでしょうか?山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 201.Tea Tree Oilによる眼瞼清浄

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112930910-1810/11/\100/頁/JCOPY激性がかなり高い.?本方法の利点・欠点この方法は通常の眼瞼睫毛根部の清浄だけでは難治の症例に対して,治療のオプションとなることが最大の利点である.通常このような患者には抗生物質やステロイド含有軟膏を塗布する以外の治療法は少ない.物理的に清浄を毎日くり返すことは最も大事だと考えるが,角結膜障害なども出ている場合は,早急に毛?虫の数を減らすことも重要となる.ただ,前述のとおり皮膚粘膜刺激性があるので,眼にしみるのが欠点である.文献1)GaoYY,DiPascualeMAetal:HighprevalenceofDemo新しい治療と検査シリーズ(73)?バックグラウンド毛?虫と眼瞼炎に関する報告はかなり古くからあるが,それほど数が多くなく,睫毛やマイボーム腺に寄生する毛?虫(それぞれ,Demodexfollicule,Demodexbrevis)はその存在自体は病因にならないと一般的に考えられてきた.最近になって,毛?虫の数が多くなることにより病因となり,前部眼瞼炎を起こすという報告により再注目されている1).通常の治療に反応しない難治性の前部眼瞼炎のなかに毛?虫性前部眼瞼炎が含まれている2)ため,注意が必要である.本稿ではその治療法の一つを紹介する.?新しい治療法今回紹介する新しい治療法は,難治性の毛?虫性前部眼瞼炎に対する睫毛根部を清浄するためのTeaTreeOilである.これは筆者が米国研究留学中の同僚(GaoYY)が報告したもので,いろいろな消毒薬,殺菌剤を睫毛から採取した毛?虫に実際に垂らして実験した結果有効であったものがTeaTreeOilあり3),すでに米国では製品化されている.TeaTreeOilは,オーストラリアに自生する植物であるTeaTree由来の精油であり,Terpinen-4-olが主成分である.Terpinen-4-olは高い殺菌,制菌作用が多数報告されている.?実際の使用方法(治療,検査法の実際のやり方)日本では医療に使用できる品質のTeaTreeOilをさがすのは困難であり,海外から医療グレードのTeaTreeOilを購入し,ミネラルオイルで20?50%に希釈して使用している.もしくは,米国から製品(CliradexR)を輸入して使用する.そのままで用いると1,8-cineoleの刺激性により,粘膜皮膚に塗布したときの刺201.TeaTreeOilによる眼瞼清浄プレゼンテーション:川北哲也慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:鈴木智京都市立病院眼科図11カ月間の50%TeaTreeOilによる治療前後の眼瞼,結膜の様子1睫毛あたり多数存在した毛?虫の数は1カ月で認められなくなり,患者の主症状である異物感も消失した.(http://www.osref.orgより許可を得て転載)1294あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011dexineyelasheswithcylindricaldandruff.InvestOphthalmolVisSci46:3089-3094,20052)川北哲也,川島素子,OsamaIbrahimほか:日本における毛?虫性前部眼瞼縁炎.日眼会誌114:1025-1029,20103)GaoYY,DiPascualeMA,LiWetal:InvitroandinvivokillingofocularDemodexbyteatreeoil.BrJOphthalmol89:1468-1473,2005(74)1をみる限り,TeaTreeOilの治療前に比べ,治療後の睫毛根部は明らかに綺麗になっており,結膜の炎症も軽快しているものの,眼瞼皮膚にはところどころに隆起が認められる.これは,Demodexが眼瞼皮膚の皮脂腺にいまだ潜んでいる所見のようにも思われる.再発予防のためには,より長期にわたるTeaTreeOilの使用が必要なのかもしれない.その際に,Demodexで媒介される細菌感染の予防のために抗菌薬の併用が必須なようにも思われた.Demodexが眼瞼炎を生じるであろうという仮説は魅力的である.しかし,日本のような衛生状態の良い国で,Demodexはどの程度頻繁に繁殖しているものだろうか?今後,日常臨床で眼瞼炎を診療するときは,Demodexを念頭において眼瞼を注意深く診てみたい.もしもDemodexが難治性眼瞼炎に大きく関与しているのであれば,TeaTreeOilは治療regimenとして必須のものであることは間違いないであろう.1899年,Demodex(毛?虫)が眼瞼炎の原因の一つである可能性について報告されて以来,眼瞼炎とDemodexの関係については常に議論がなされてきた.近年では,欧米人に多い顔面の慢性的な血管異常(rosacea)やその眼合併症(ocularrosacea)の原因としてもDemodexが取り上げられるようになってきた.しかし,私見としては,Demodexそのものによる炎症のみならず,Demodexが媒介するブドウ球菌,溶連菌,バチルスなどの細菌に関係する炎症についても検討が必要であろうと考えている.さて,図1の症例では,眼瞼縁と球結膜に非常に強い炎症所見が認められる.この所見は,臨床現場で遭遇する頻度の高いブドウ球菌性眼瞼結膜炎とは明らかに異なる.細菌性眼瞼結膜炎であればニューキノロン系抗菌薬の眼軟膏で寛解に持ち込めるはずである.Demodexが原因となっている場合には,抗菌薬で媒介している細菌感染が治療されても,寛解を得られずにこのような強い炎症が持続するのであろうか?図?本方法に対するコメント?☆☆☆

眼感染アレルギー:微生物認識受容体とインフラマソーム

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112910910-1810/11/\100/頁/JCOPY細菌,真菌やウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類される.獲得免疫は,抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されるが,クローン増殖する必要があるために,機能するまでに数日かかる.これに対して自然免疫は,獲得免疫が働く前の感染早期に働く防御機構である.この自然免疫において,Toll様受容体(TLRs)をはじめとする微生物認識受容体が重要な役割を担っていることが明らかとなっている.微生物認識受容体は,微生物由来のさまざまな構成分子の構造,すなわち,糖や脂質,蛋白質,核酸からなる分子パターンを特異的に認識する.微生物認識受容体は,大きく膜貫通型と細胞質型に分類され,膜貫通型としてTLRsファミリーが,細胞質型としては,RIG-I様受容体(RLRs)ファミリーとNod様受容体(NLRs)ファミリーが存在する1).TLRは,ロイシンに富む領域(leucin-richrepeat:LRR)を細胞外に有し,それを介して細菌,ウイルス,または真菌といったさまざまな病原微生物の構成成分を認識する.ヒトでは10種類のTLRが同定されている.TLR2は,グラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカンの一成分であるリポ蛋白質を認識する.TLR1とTLR6は,そのTLR2と共役して,それぞれTLR1はトリアシル基をもつリポ蛋白質(細菌由来リポ蛋白)を,TLR6は,ジアシル基をもつリポ蛋白質(マイコプラズマ由来リポ蛋白)を認識する.TLR2とTLR6は,真菌の細胞壁成分であるチモザンの認識にもかかわる.TLR5は,細菌が遊走する際に使用する鞭毛の構成成分であるフラジェリンを,TLR4はグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)をそれぞれ認識する.またTLRは,真菌や細菌のみならずウイルスの構成成分も認識する.DNAウイルスのゲノムDNAは,哺乳動物のゲノムDNAと比べて非メチル化CpGモチーフを多量に有している.その非メチル化CpGDNAは,TLR9によって認識される.RNAウイルスのなかにはゲノム成分が一本鎖RNAのものが存在し,その一本鎖RNAは,TLR7とTLR8により認識される.ウイルスの生活環中に宿主細胞質中で生じ何らかの形で細胞外に放出された二本鎖RNAは,TLR3によって認識される.RLRは,細胞質内でウイルス核酸を認識する微生物認識受容体であり,N末端側には,CARD(caspaserecruitmentdomain)に類似したドメインを,C末端側には,核酸をほどく活性をもつRNAヘリカーゼドメインを有する.RNAヘリカーゼドメインがウイルスの認識に関与する.RLRの代表は,RIG-IやMDA5であり,細胞がウイルスに感染したときに細胞質に入った二本鎖RNAを認識する.つまり,ウイルス由来の二本鎖RNA(71)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一29.微生物認識受容体とインフラマソーム上田真由美京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学微生物認識受容体は,微生物由来のさまざまな構成分子の構造,すなわち,糖や脂質,蛋白質,核酸からなる分子パターンを特異的に認識し,自然免疫において重要な役割を担っている.また,膜貫通型と細胞質型に分類され,膜貫通型としてToll様受容体が,細胞質型としては,RIG-I様受容体とNod様受容体が存在する.??????????IPS1????????????????????RIG-IMDA5I??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????TLR3図1微生物認識受容体によるウイルス由来二本鎖RNAの認識ウイルス由来の二本鎖RNAは,細胞外に存在する場合はTLR3により認識されアダプター因子TRIFを介して1型インターフェロンを誘導する.一方,ウイルス感染後に細胞質に存在する場合は,RIG-IやMDA5によって認識されアダプター因子IPS-1を介して,炎症性サイトカインや1型インターフェロンを誘導する.1292あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011は,細胞外に存在する場合はTLR3により認識され,ウイルス感染後に細胞質に存在する場合は,RIG-IやMDA5によって認識され,炎症性サイトカインや1型インターフェロンを誘導する(図1)2).NLRも,細胞質内の微生物認識受容体であり,N末端側に蛋白質相互作用ドメインとして,CARD,ピリンドメインなどを,中央には多量体形成に必要なNOD(nucleotide-bindingandoligomerizationdomain)ドメインを,C末端側にはリガンドとの結合に関与するLLRをもつ.NOD1やNOD2がその代表であり,それぞれ細菌外壁のペプチドグリカン由来の特殊な分子構造を認識する.つまり,細菌外壁のペプチドグリカンは,細胞外に存在する場合はTLR2により認識され,何らかの機構で細胞内に入った場合はNOD1やNOD2によって認識される(図2).NOD2は,炎症性腸疾患であるクローン病の原因遺伝子であることがわかっており,常在細菌との相互作用に重要な役割を担っていると考えられている.NLRP3は,細菌由来のRNA,毒素などの微生物成分に加えて,宿主由来の核酸代謝産物である尿酸やATPを認識する.NLRP5とIPAFは,サルモネラ菌などのフラジェリンを認識する.NLRP3,NLRP5やIPAFは,インフラマソームの形成において重要な役割を担っている.インフラマソームとは,NLRとアダプター蛋白質およびcaspase-1から構成される蛋白複合体であり,(72)TLRsをはじめとした種々の刺激により産生された前駆型IL(インターロイキン)-1bならびにIL-18を,活性型IL-1bならびにIL-18に変換する(図3).このように,IL-1bならびにIL-18の細胞外への分泌は,1段階目の前駆型の産生,つづいて2段階目の活性型への変換を介して行われる.炎症反応は生体防御においてきわめて重要な反応であるが,その一方過剰な炎症反応は組織障害をひき起こし,疾患や合併症の原因となる.種々の微生物認識受容体の遺伝的な異常により自己炎症性疾患が生じることが報告されている.これらの微生物認識受容体の眼における役割について解明することが,各種眼炎症疾患の病態解明につながるかもしれない.文献1)KawaiT,AkiraS:TherolesofTLRs,RLRsandNLRsinpathogenrecognition.InternationalImmunology21:317-337,20092)UetaM,KawaiT,YokoiNetal:ContributionofIPS-1topolyI:C-inducedcytokineproductioninconjunctivalepithelialcells.BiochemBiophysResCommun404:419-423,2011図3NLRによるインフラマソームの形成ならびにIL?1bの活性化インフラマソームとは,NLRとアダプター蛋白質およびcaspase-1から構成される蛋白複合体であり,TLRsをはじめとした種々の刺激により産生された前駆型IL-1bならびにIL-18を,活性型IL-1bならびにIL-18に変換する.NOD????NOD1NOD2??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????NOD??????????????κ??TLR2????????????????????????TLRsIL-1β??IL-18??????????????????IL-1β??IL-18??????????????IL-1β??IL-18????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????ATP??????????????図2微生物認識受容体による細菌外壁成分ペプチドグリカンの認識細菌外壁のペプチドグリカンは,細胞外に存在する場合は,TLR2により認識されアダプター因子Myd88を介して炎症性サイトカインを誘導する.一方,細胞内に入った場合は,NOD1やNOD2によって認識され,デフェンシンなどの抗菌物質の産生を誘導する.