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全身疾患に起因する眼症状を有する患者の視機能障害と補助具による対処

2020年3月31日 火曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科37(3):327?331,2020?全身疾患に起因する眼症状を有する患者の視機能障害と補助具による対処橋本佐緒里*1荻嶋優*1黒田有里*1田中宏樹*1井上順治*1堀貞夫*2井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院VisualImpairmentCausedbySystemicDiseaseandCopingwithVisualAidsSaoriHashimoto1),YuOgishima1),YuriKuroda1),HirokiTanaka1),JunjiInoue1),SadaoHori2)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospitalはじめに糖尿病などの全身疾患を有する患者に,視力低下,視野異常,眼位異常,眼球運動障害などの視機能の低下をきたすことが知られている.厚生労働省「平成26年患者調査の概況」では糖尿病の総患者数は316万6,000人であり,前回(平成23年)の調査から46万人以上増加していた.社会の高齢化により,全身疾患を有する患者数は増加の一途をたどり,それに伴い全身疾患に起因する眼症状を訴える患者も増加している1).西葛西・井上眼科病院(以下,当院)は,網膜・硝子体疾患の診断・治療を専門としており,糖尿病をはじめとする全身疾患を有する患者が多く来院し,これらの眼疾患に対応し〔別刷請求先〕橋本佐緒里:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:SaoriHashimoto,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANている.当院ではさまざまな原因で起こる視機能の低下に対する治療の一環として,不自由さの改善のために遮光眼鏡や拡大鏡,プリズム眼鏡などの補助具に関する特殊検査の予約を設けている.検査の際に日常どのようなことに不自由を感じているのかを詳しく聞き取り,その訴えに応えるために適切な補助具を選定している.眼疾患ごとの補助具選定の特徴についてはこれまでも報告されているが,全身疾患に起因する眼症状とその対応に関する文献は少なく,竹田らは全眼疾患において処方された補助具の種類に差はなかったとし,上野らも処方された補助具はさまざまで,一定の傾向はなかったとしている2,3).今回筆者らは,当院で受診した糖尿病をはじめとする全身疾患に起因する視機能障害を有する患者の眼症状を検討し,視機能の低下に対する治療の一環としてどのような補助具などを用いて対処したかについて疾患別に診療録から後ろ向きに調査した.また,全体の約半数を占めた糖尿病の症例では,網膜症なし,単純網膜症,増殖前網膜症,増殖網膜症の四つの病期に分け,各病期の眼症状と対処についても調査したので報告する.I対象および方法対象は2015年5月?2018年4月に当院で受診し,全身疾患に起因する視機能の低下で視機能検査を受けた患者83例(男性45名,女性38名,平均年齢68.4±12.9歳)である.方法は,診療録より眼症状を視力低下,羞明,視野異常,複視,色覚異常,変視に分け,これらの訴えに対してどのような対処をしたかについて疾患ごとに調べた.今回の調査では,白内障や緑内障,網膜色素変性症や加齢黄斑変性症などの眼疾患が原因で視機能検査を受けた症例や,原因が全身疾患と判別できない症例は対象から除外した.また,複数の全身疾患を有する症例に関しては,対象患者の重複がないよう視機能検査を受ける原因となった眼症状から,原因疾患を判別し検討した.II結果全身疾患に起因すると思われる視機能検査を受けた患者83例の疾患の内訳は,糖尿病が45例(54%)ともっとも多く,ついで頭蓋内疾患が19例(23%)であった.以下,高血圧8例(10%),精神疾患5例(6%),甲状腺疾患3例(4%),ミトコンドリア病2例(2%),原田病1例(1%)であった(表1).眼症状は,視力低下40例,羞明31例,視野障害13例,複視31例であった(重複あり)(表2).糖尿病患者のもっとも多かった眼症状は視力低下34例,ついで羞明が23例であった.視力低下の原因はおもに糖尿病網膜症による黄斑部の病変が27例と多く,ついで視神経萎縮が15例であった(重複あり).頭蓋内疾患,高血圧,甲状腺疾患,ミトコンドリア病のもっとも多かった眼症状は複視であった.複視の原因は,頭蓋内疾患では脳出血後の後遺症,高血圧は外眼筋栄養血管の微小循環障害,甲状腺疾患は甲状腺機能異常による甲状腺眼症,ミトコンドリア病は慢性進行性外眼筋麻痺であった.精神疾患の眼症状は全例が羞明で,向精神薬濫用による薬剤性の眼瞼けいれんが原因であった.原田病はぶどう膜炎による視力低下であった.糖尿病と頭蓋内疾患は視力低下,羞明,視野異常,複視と眼症状が多岐にわたっていた.視機能検査でどのような対処を行ったかを疾患別に示す(表3).糖尿病のもっとも多かった対処は視力低下,羞明に対して遮光眼鏡22例であった.頭蓋内疾患,高血圧,甲状腺疾患,ミトコンドリア病では複視に対してプリズム眼鏡が多かった.精神疾患では羞明に対して遮光眼鏡が多く,そのうち2例はクラッチ付きの遮光眼鏡が処方された.原田病は視力低下に対して拡大鏡の選定がされていた.糖尿病と頭蓋内疾患では矯正眼鏡,遮光眼鏡,拡大鏡・拡大読書器,プリズム眼鏡など,眼症状への対処も多岐にわたっていた.処方に至らなかった例では,元々持っている補助具を誤った方法で使用していたことが発覚し,使用方法を再度指導することで満足を得られた症例や,低視力の症例では検査を行っても患者が期待する見え方に至らず,現状と変化が得られないため処方をせずに様子をみた症例など,さまざまであった.視機能検査を行ったきっかけの内訳を示す(表4).医師からのアプローチが疾患全体で31例(34%),視能訓練士からのアプローチが13例(16%),患者からのアプローチが36例(43%)であり,医療従事者からの提案がやや多い結果となった.ここからは約半数を占めた糖尿病45例を四つの病期に分け,各病期の眼症状と対処を示す.各病期の内訳は,網膜症なしが6例(13%),単純網膜症が5例(11%),増殖前網膜症が0例,増殖網膜症が34例(76%)であった(表5).糖尿病の病期別の年齢,視力がよいほうの眼の矯正小数視力,眼症状と対処について示す(表6).網膜症なしでは,小数視力が0.3?1.2,平均1.0と視力良好の症例が多かった.訴えた眼症状は外眼筋栄養血管の微小循環障害による複視が多く,対処はプリズム眼鏡が多かった.単純網膜症では,小数視力が0.08?0.8,平均0.5であった.増殖網膜症では,指数弁?小数視力1.0,平均0.3と,病期別のなかでもっとも視力が悪かった.単純網膜症の眼症状は黄斑部の病変による視力低下,羞明が多く,増殖網膜症の眼症状は黄斑部の病変や視神経萎縮による視力低下,羞明が多かった.対処は単純網膜症,増殖網膜症とも遮光眼鏡が多かった.増殖網膜症では全例が汎網膜光凝固術(pan-retinalphotocoagulation:PRP)施行後の症例であった.表1全身疾患の内訳(n=83)頭蓋内甲状腺ミトコン表2疾患別眼症状の内訳(n=83)頭蓋内甲状腺ミトコン症状の重複あり.表3疾患別対処の内訳(n=83)頭蓋内甲状腺ミトコン拡大読書器眼鏡スコープITサポートとは電子情報支援技術を用いた障害者支援のことである.対処の重複あり.表4視機能検査に結びついたきっかけ(n=83)表5糖尿病患者の病期分類(n=45)医師視能訓練士患者不明網膜症なし単純網膜症増殖前網膜症増殖網膜症症例数3113366症例数65034表6糖尿病網膜症の病気別属性と眼症状および対処(n=45)網膜症なし(6例)単純網膜症(5例)増殖網膜症(34例)年齢(平均)57?85歳(69歳)62?75歳(70歳)40?84歳(68歳)視力(平均)0.3?1.2(1.0)0.08?0.8(0.5)指数弁?1.0(0.3)眼症状(重複あり)視力低下1例複視5例視力低下3例羞明3例視野異常1例視力低下30例羞明20例視野異常5例複視1例対処(重複あり)矯正眼鏡2例プリズム眼鏡5例矯正眼鏡1例遮光眼鏡3例拡大鏡1例拡大読書器1例矯正眼鏡5例遮光眼鏡19例拡大鏡12例プリズム眼鏡1例タイコスコープ1例III考察今回調査した全身疾患では,糖尿病と頭蓋内疾患は眼症状が多岐にわたり,対処もさまざまであった.これは,糖尿病網膜症の重症度によっても病状が異なるためであり,頭蓋内疾患は障害部位によって視野障害や眼筋麻痺など影響される眼症状が異なるためである4?7).今回の調査では高血圧疾患の眼症状のほとんどが複視であったが,視力低下を訴えた1例は高血圧由来の網膜静脈分子閉塞症による黄斑浮腫であったことから,高血圧による眼症状も多岐にわたることが考察される.糖尿病が原因で遮光眼鏡の検査を行った症例では,患者の好みの色を重視して選定されたものと,眩しさの軽減重視で選定されたものが半数ずつであった.そのため,今回の調査では色系統の傾向や特徴的な結果を得ることはできなかったが,乾らも遮光眼鏡の色や透過率において疾患による特異な傾向はなかったと報告している8).糖尿病が原因で拡大鏡・拡大読書器の検査を行った症例では,読みたい文字の大きさや,使用距離,視力,視野など個々のニーズと眼症状によって選定が行われていた.今回の筆者らの調査では特徴的な結果は得られなかったが,乾らは拡大鏡の度数には視力と視野が大きく関係し,低視力者ほど度数が大きくなり,視野狭窄がある患者では,残存中心視野の大きさと形が拡大鏡の度数に関係したと述べている9).これらのことから,患者一人一人によって異なる日常の不自由さを軽減するためには,どのような症状を抱えているのかを詳しく聴取し,患者の潜在的ニーズを汲み取ったうえで補助具の選定を適切に行う必要があると考える.眼症状に特徴がみられる疾患では,各疾患の眼症状が起こる原因をあらかじめ理解しておくことが,適切な補助具の選定に繋がると考える.ただし,眼症状に先入観をもつことなく,患者が訴える眼症状や日常の不自由さを理解したうえで対応することが,どのような場合でも重要であると考える.糖尿病では45例中28例に黄斑症がみられたが,色覚異常,変視は全疾患で訴えがみられなかった.これは「見づらい」「見えなくなった」など視力低下の眼症状に集約されたためと考えられる.見づらさの内容はさまざまで,眩しくて見づらい羞明,中心暗点などの視野異常,歪んで見づらい変視,霞みや老眼などを区別する必要がある.なかには低視力のため,歪みや色を判別できないと思われる症例もあった.また,糖尿病の眼症状では視力低下についで羞明が多くみられ,病期や視力に関係はみられなかった.これは,糖尿病に伴うさまざまな眼合併症のなかには羞明を訴える疾患が多いためと考えられる.一般に羞明の原因は,入射光路に光の散乱を引き起こす病変や,眼底に反射を増強する病変があることがあげられるが,その他,白内障手術,PRP施行後に羞明を訴えやすいとされている10).今回の筆者らの調査でも糖尿病で羞明を訴えた症例は,黄斑症,視神経萎縮,PRP施行後で多くみられたが,同様の症例でも羞明の訴えがないこともあった.「視力低下」「羞明」に集約される眼症状の内容は多岐にわたるため,眼症状を見逃さないためにも問診の際は具体的に尋ねる必要がある.今回の調査結果で視機能検査を行った糖尿病の症例は45例であったが,網膜・硝子体を専門としている当院としては少ない印象を受けた.また,外来で問診を行う視能訓練士から視機能検査に結びついたきっかけは16%と低い結果であったことから,問診時の聞き取りをより積極的に行うことで視機能検査のきっかけが増え,適切な検査の実施と補助具の選定により患者のqualityoflife向上につながると考える.すでに補助具を使用している患者でも,とくに糖尿病に関しては全身状態によって眼症状が変化しやすいため,再度選定が必要である症例は少なくない.また,視機能検査の際の聞き取りにて補助具を誤って使用していたことが発覚した症例も数例あったことから,選定後の使用状況の確認も重要であると考える.今回の調査では,診療録から後ろ向きに検討を行ったため,患者のその後の満足度については調査できなかった.問診時に使用状況の確認を行うことで満足度も測れるため,今後の課題としたい.今回糖尿病などの全身疾患に起因する眼症状とその対応について調査を行った.患者が抱えるさまざまな眼症状による不自由さを理解し,治療の一環として適切な検査の実施と補助具の選定などを援助する必要があることがわかった.文献1)KnudtsonMD,KleinBE,KleinR:Age-relatedeyedis-ease,visualimpairment,andsurvival:theBeaverDamEyeStudy.ArchOphthalmol124:243-249,20062)竹田宗泰,竹田峰陽:糖尿病網膜症患者に対する視覚補助具の有用性.眼紀54:947-951,20033)上野恵美,柴田拓也,黒田有里ほか:当院のロービジョンケアにおける糖尿病網膜症患者と他の疾患患者との比較.あたらしい眼科33:115-118,20164)宮本和明:眼球運動麻痺をみたら.あたらしい眼科30:753-759,20135)田口朗:複視と全身疾患.あたらしい眼科27:917-923,20106)大鹿哲郎,大橋裕一:麻痺性斜視,特殊な斜視の治療.専門医のための眼科診療クオリファイ22:275-277,20147)中村桂子:糖尿病によるロービジョン患者のものの見え方,見えにくさの評価.看護技術48:34-40,20028)乾有利,宇津木航平,河端陽子ほか:真生会富山病院アイセンターにおける遮光眼鏡処方の傾向.臨眼70:543-548,20169)乾有利,永森麻菜美,植田芳樹ほか:ロービジョン外来で処方した拡大鏡の倍率と患者の視機能の検討.臨眼72:551-556,201810)南稔浩,中村桂子,澤ふみ子ほか:大阪医科大学における遮光眼鏡の検討.日視会誌36:133-139,2007◆**

基礎研究コラム 34.コンタクトレンズとドラッグデリバリー

2020年3月31日 火曜日

基礎研究コラム?監修北澤耕司・村上祐介・中川卓コンタクトレンズとドラッグデリバリー南貴紘ハーバード大学スケペンス眼研究所ドラッグデリバリーの観点からみた点眼の問題点薬を体の中の効かせたい部位に効率よく到達させることは,薬の効果を最大化し,副作用を減らすために大変重要なことです.このことはドラッグデリバリーとよばれ,医工学の一大研究領域となっています.もともと眼は体の表面にあるため薬を到達させやすく,眼科は点眼という優れたドラッグデリバリー方法の恩恵を享受しています.しかし,その点眼といえども,薬剤のほとんどが眼の外に流れてしまうといわれ,そのため頻回点眼が必要になったり,皮膚や循環器系に副作用をもたらしたりすることがあります.また,点眼特有の施行のむずかしさや不快感などからアドヒアランスを得られにくいという問題点もあります.コンタクトレンズを用いたドラッグデリバリーこのような点眼の欠点を克服するために,コンタクトレンズによるドラッグデリバリー,すなわちレンズに薬を含ませて,眼の表面で放出させるというアイディアが半世紀ほど前からあり,今日に至るまで,より多くの薬を,よりゆっくり放出させるためさまざまな製法が提案されてきました1).しかし,薬剤が使用直後に大量に放出される問題や,薬剤によるレンズの着色,薬剤放出に伴うレンズの形状変化,高コストな製造工程など,各提案にそれぞれ課題があったため,未だに実用化されているものがありません.ところが,最近素材の技術的発展により実用化が近づいてきているようにみえます.たとえば筆者らの検討で,薬剤がもつ電荷と反対の電荷をもつ分子を用いてコンタクトレンズを形成すると,コンタクトレンズと薬剤が電気的に引き合い,薬剤をゆっくり放出することが示されており,少なくとも1日使い捨ての用途においては期待ができそうです(図1)2).またこの方式ですと,適切な素材を用いてコンタクトレンズを普通に作製し,薬液に漬けてそのまま保管するだけなので,製造が簡単で安価に可能です.2019年には,抗ヒスタミン薬を含ませたコンタクトレンズを用いた臨床研究の報告3)もされています.今後の展望技術的に実用化が近づく中で,規制の観点で,この新しい治療法の認可や社会実装の仕方などについて今後整理が必要でしょう.それらを乗り越えた暁には,市場の大きな疾患だaヒスタミン投与後b点眼治療時c抗ヒスタミン薬含有レンズdコンタクトレンズ治療時図1モルモットの眼にヒスタミンを投与し血中の青色色素の結膜漏出量を定量するアレルギー性結膜炎モデルヒスタミン投与で青色の色素が多量に結膜に漏出している無治療コントロール(a)に比し,抗ヒスタミン薬点眼治療を行うことで青色の色素の結膜への漏出が減少するが(b),抗ヒスタミン薬剤含有コンタクトレンズ(c)を装用することで青色色素の結膜への漏出を,同じ薬剤量の点眼よりさらに有意に減少させる効果を示した(d).けでなく,後期緑内障や難治性の感染症など1日に複数の点眼を何回もしなければならず現場の切実なニーズがある疾患においても,コンタクトレンズによるドラッグデリバリーを駆使した新たな治療で,患者の予後を改善してあげられる可能性がみえてくるかもしれません.文献1)XuJ,XueY,HuGetal:Acomprehensivereviewoncontactlensforophthalmicdrugdelivery.JControlRelease281:97-118,20182)MinamiT,IshidaW,KishimotoTetal:Invitroandinvivoperformanceofepinastinehydrochloride-releasingcontactlens.PLoSOne14:e0210362,20193)PallB,GomesP,YiFetal:Managementofocularaller-gyitchwithanantihistamine-releasingcontactlens.Cor-nea38:713-717,2019(65)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.3,2020313

硝子体手術のワンポイントアドバイス 202.黄斑円孔に対する硝子体手術後晩期に発症する網膜剝離(中級編)

2020年3月31日 火曜日

202黄斑円孔に対する硝子体手術後晩期に発症する網膜剝離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに黄斑円孔(macularhole:MH)は眼底周辺部に異常な網膜硝子体癒着を有する頻度が高く,後部硝子体?離(posteriorvitreousdetachment:PVD)作製時に医原性裂孔を形成することがある1).術中の裂孔見落としなどに起因する網膜?離(retinaldetachment:RD)は通常術後早期に発症するが,まれにRDが晩期に生じることもある.筆者らは過去にMH術後,数年を経過した後にRDをきたし,再手術を行った4例につき報告したことがある2).●症例の特徴筆者らが報告した4例の発症時の平均年齢は64.7歳で,男性2名,女性2名であった.初回手術からRD発症までの期間は2~7年(平均4.0年)で,他院で手術が施行された1例を除いて,いずれの症例にも初回手術時に医原性裂孔は生じていなかった.裂孔形成部位は上方が3眼,下方が1眼で,RDの形状は全例胞状であった(図1).裂孔はいずれも残存硝子体が網膜と癒着した辺縁に形成されていた(図2).再手術時に2例でMHの再開を認め,2例は閉鎖したままであった.●MH術後晩期に発症するRDの発症機序術後2~7年という長期を経過したのち,RDが発症する機序としては,初回手術の手技的な問題よりも,術後に緩徐に進行する残存硝子体の収縮による可能性が高いと考えられる.当科で初回手術を施行した3例は,人工的PVD作製時に医原性裂孔は生じなかったが,赤道部から周辺は無理にPVDを作製しなかった.MHは網膜格子状変性巣を伴う割合が高いとの報告1)があるが,今回の4例中2例は網膜格子状変性巣を認めず,1例は下方に網膜格子状変性巣を認めたものの,RDの原因裂孔は異なった部位に生じていた.このことは,MHでは網膜格子状変性巣を認めなくても,赤道部から周辺側は網膜硝子体癒着が強固で,硝子体手術後に周辺部残存硝子体の緩徐な収縮により,新たに周辺部裂孔が生じる可図1代表症例の眼底写真60歳,女性.58歳時に右眼MHに対して硝子体手術を施行したが,2年2カ月後に胞状のRDをきたした.図2代表症例の術中所見原因裂孔は上方で,周辺の残存硝子体が網膜と癒着した辺縁に裂孔が形成されていた.能性が高いことを示唆している.●MH再開例の予後再手術時にMHの再開を認めた2例では内境界膜はすでに?離されていたため,MH縁の網膜を求心的に牽引するのみで,とくに他の処置を加えずに術後MHの閉鎖が得られた.しかし,2例とも3カ月後と9カ月後にMHが再発した.この機序については,検眼鏡やOCTではとらえにくい軽微な増殖がMH周囲に生じ,黄斑部網膜を遠心的に牽引した可能性が考えられる.今後は再手術時に内境界膜の遊離弁を用いたinverted?ap法などを考慮すべきなのかもしれない.文献1)上水流広史,小椋祐一郎:特発性黄斑円孔における網膜周辺部変性の頻度.臨眼49:1095-1097,19952)森下清太,大須賀翔,河本良輔ほか:黄斑円孔に対する硝子体手術後晩期に網膜?離をきたした4例.眼臨紀12:824-827,2019(63)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.3,2020311

眼瞼・結膜:眼瞼外反の病態と治療

2020年3月31日 火曜日

60.眼瞼外反の病態と治療原田幸子熊谷眼科医院野田実香慶應義塾大学医学部眼科学教室●はじめに眼瞼外反症とは,瞼縁が眼球より離れて外方へ向き,瞼結膜の一部が眼球に接さず露出した状態をいう.閉瞼不全となり,眼表面の乾燥による角膜上皮障害,流涙,充血が起こり,長期経過した症例では角結膜障害の重篤化による視力低下,瞼縁および瞼結膜の肥厚・表皮化などによる異物感が生じる.また,整容面を大きく害し,qualityoflifeの低下を招く.●病態生理眼瞼には前葉(皮膚・眼輪筋)と後葉〔瞼板・瞼結膜・下眼瞼牽引筋腱膜群(lowereyelidretractors:LERs)〕がある.正常時は垂直方向にLERs,水平方向に眼輪筋と内眼角靱帯,外眼角靱帯による牽引がかかり,眼表面と瞼結膜が密着してメニスカスが形成される状態を保っている.下眼瞼外反症は,前葉の短縮や後葉の過剰にてバランスが前葉に傾いた場合や,下眼瞼にかかる水平方向や垂直方向への牽引が緩んだ場合に発症する1).●病因退行性,麻痺性,瘢痕性に大別される.退行性は,LERsの垂直方向の緩みや,眼輪筋と支持組織の水平方向への牽引が緩むために発症する.麻痺性は,閉瞼に必要な眼輪筋を支配する顔面神経の麻痺により起こる.瘢痕性は,外傷や熱傷などが原因で,前葉の瘢痕拘縮により起こる1).●術前評価詳細な病歴の聴取(顔面神経麻痺や外傷,手術の既往など)が重要であり,前眼部所見を丁寧に診る必要がある.角結膜所見,眼瞼前葉の瘢痕化の有無,眼瞼後葉の肥厚や増大による瞼板形態の変化の有無,眼球突出,支(61)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY持組織の弛緩の有無はとくに重要である.退行性や麻痺性の眼瞼外反症では,眼瞼の水平方向の弛緩が原因となるため,その評価が必須である.水平方向に対する評価としては,眼瞼の弛緩性試験(snapbacktest,pinchtest),内眼角靱帯の弛緩性試験(lateraldistractiontest),外眼角靱帯の弛緩性試験(medialdistractiontest)があるが,詳細は文献を参照されたい2~4).●病因に応じた治療瘢痕性は眼瞼の前葉組織の不足や牽引により起こるので,瘢痕を解除したあと,Z形成術や植皮,皮弁などで対応する.退行性と麻痺性は類似の病態を示す.両者とも下眼瞼水平方向の弛緩があるが,退行性は内眼角靱帯,外眼瞼角靱帯と瞼板が弛緩し,麻痺性では内眼角靱帯,外眼角靱帯は正常だが瞼板だけが弛緩する.どちらも眼輪筋の緊張が低下しており,重力に抗って下眼瞼の位置を適切に保持できない2,5).そのため水平方向を短縮する手術の適応である.下記に眼瞼外反の原因の多数を占める退行性外反症に対する治療について説明する.●退行性外反症の治療退行性外反症の下眼瞼水平方向の弛緩への治療は,水平短縮術またはlateraltarsalstripなどがある.後者は下眼瞼瞼板の外眼角と眼窩骨膜を縫合する手術手技4,5)であり,より難易度が高いと思われる.こちらに関しては他の良書を参考にしていただき,ここでは水平短縮術の説明にとどめる.水平短縮術は,肝心な角膜の領域近辺での引き締めができるため,水平方向の眼瞼の弛緩を確実に軽減させることができる.手術の方法としては,まず睫毛下で皮膚を切開する.そして短縮したい瞼板の長さだけ眼瞼を全あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020309図1水平短縮術+上眼瞼からの皮弁a:65歳,男性.顔面神経麻痺や外傷の既往なく,瘢痕などの外表所見もないため,退行性外反症と診断.b:睫毛下皮膚切開線と,万が一の下眼瞼組織不足に対し,上眼瞼にも皮弁用のマーキングをしておく.c:水平短縮後,座位にして口を開けて上方視させると,下眼瞼の組織不足があることがわかる.d:上眼瞼皮膚と眼輪筋を皮弁として下眼瞼に移植した.層で切除する.このとき,一方の辺だけに切開を入れて,眼瞼弁を重ね合わせて切除量を見積もると安全に切除できる.瞼板の縫合には6-0プロリン糸を使用する.瞼板縫合後に患者を座位にして外反が残ってないかを確認する.その際,口を開けて上方視させると組織不足の有無がわかり,もし下眼瞼の組織不足がある場合は上眼瞼からの皮弁で補?する(図1).水平短縮術は,外反の強い部位にポイントをしぼって治療できること,手技が比較的簡便であることが利点であるが,瞼縁に創が残ることと,創周囲の睫毛乱生が生じる可能性があることが難点である3,6).●おわりに眼瞼外反症は術前の眼瞼所見の評価が大事であり,症例ごとの病態,病因を見きわめたうえで手術方法を選択することが重要である.文献1)太田優:眼瞼外反症.臨床眼科11:1732-1737,20162)矢部比呂夫:眼瞼外板.眼瞼・眼筋(久保田伸枝編),眼科手術書7,p49-63,金原出版,19953)石嶋漢,野田実香:水平短縮術.専修医石嶋くんの眼瞼手術チャレンジノート.p372-383,金原出版,20174)柿崎裕彦:Lateralcanthoplastyによる下眼瞼外反症手術.Pepars51:112-118,20115)金子博行,長西裕樹:眼瞼外反症.眼瞼(野田実香編),眼手術学2,p428-446,文光堂,20136)野田実香:瞼板短縮術による外反症手術.Pepars51:119-122,2011☆☆☆310あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020(62)

抗VEGF治療:網膜静脈分枝閉塞症の治療方針

2020年3月31日 火曜日

74.網膜静脈分枝閉塞症の治療方針飯田悠人はじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,高血圧や動脈硬化を背景として網膜動静脈交叉部において静脈内血栓が形成され,静脈閉塞をきたすことで発症する.BRVOでは発症からの時間経過で区分して治療を考える必要があり,本稿では急性期と発症6カ月以降の慢性期に分けて治療方針を述べる.急性期の治療方針抗VEGF薬の有効性が確立された現在においては,発症後できるかぎり「速やかに」抗VEGF薬治療を開始することが,良好な視力予後のためにもっとも重要である.投与プロトコールについては,初回投与後4週間以上あけて必要時(prorenata:PRN)で追加投与を行う.初診時視力が0.5以下の症例では,導入期にまず3回毎月投与を行う3+PRN投与のほうが視力の改善が早く1),通院負担も減らすことができるため,3+PRN投与を勧めている.抗VEGF薬治療の導入を行い,黄斑浮腫がいったん完全に軽快した状態での矯正視力は,今後の治療方針を考えるうえで大切である.黄斑浮腫の消失が得られても視力改善に乏しい場合にはほかの要因を考慮する必要があり,網膜下出血,網膜光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)におけるellipsoidzoneの不整,黄斑虚血による網膜内層萎縮,などがあげられる.黄斑浮腫以外にも不可逆的な視力低下の要因が存在する場合,浮腫再燃時に抗VEGF療法を継続していくかどうかは,変視症状やコントラストなど視力以外の自覚改善の有無や患者の希望を考慮し決定するようにしている.難治性の黄斑浮腫慢性期のBRVOは,ほとんど追加治療を要さない軽症例から,継続的な治療が必要な重症例まで,症例によりばらつきが大きい.難治性の黄斑浮腫と,網膜新生血管からの硝子体出血が臨床上問題となる.慢性期にも再燃を繰り返す難治性の黄斑浮腫は,中心窩近傍に形成された毛細血管瘤が原因であることが多い.網膜浮腫が遷延し,さらに漏出した蛋白質や脂質の沈着により硬性白斑が円周状に増加してくる.黄斑部の硬性白斑は長期間を経て中心窩へ集積してくる傾向があり,注意が必要である.毛細血管瘤が同定できる場合には,血管瘤に対する直接光凝固が有効な治療法となる.原因となる毛細血管瘤を認めない場合には,慢性炎症による黄斑浮腫に対する治療としてトリアムシノロンアセトニドがよい適応となる.しかしながら眼圧上昇,白内障の進行などの合併症があるため,長期の反復投与は慎重に行う必要がある.網膜新生血管・硝子体出血網膜新生血管は,無灌流領域と灌流領域の境界に好発し,破綻による硝子体出血が問題となる.網膜無灌流領域が広い(5乳頭径以上)症例では,自然経過にて約3割で硝子体出血をきたすと報告され,予防には網膜無灌流領域に対する部分的汎網膜光凝固が有効である2).抗VEGF薬治療は,発症から網膜新生血管の形成,硝子体出血までの期間を延長するが,将来的な発生を完全に抑制するものではない.そのため,抗VEGF薬治療が奏効し浮腫の再燃が少なくなってきた頃,フォローアップ間隔を伸ばしていく前に,網膜無灌流領域の評価を行うことが大切である.広い網膜無灌流領域を認める症例では,部分的汎網膜光凝固の施行を検討する.網膜新生血管発生の予測に有用な因子の一つに,BRVO原因交叉部の動静脈交叉パターンがある.従来,原因交叉部のほとんどは,動脈が静脈より網膜表層を走行するarterialovercrossingであると想定されてきたが,OCTやOCTAngiographyを用いた検討により,静脈がより網膜表層を走行するvenousovercrossingのタイプも約4割存在することが明らかとなっている3~6).Venousovercrossingのタイプでは,より広い網膜無灌(59)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.3,2020307図2原因動静脈交叉部所見図1と同一症例の初診時OCT画像.原因交叉部の静脈の走行に沿って撮像すると,静脈が動脈より網膜表層を走行するvenousovercrossingであった.静脈は動脈と内境界膜の間で狭細化し,交叉部の中枢側に血栓の形成を認める.流領域領域を生じ4),慢性期での網膜新生血管発生率も高いことが報告され6),より注意深いフォローアップが必要である(図1,2).文献1)MiwaY,Muraoka,Y,OsakaRetal:Ranibizumabformacularedemaafterbranchretinalveinocclusion:Oneinitialinjectionversusthreemonthlyinjections.Retina37:702-709,20172)TheBranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserscatterphotocoagulationforpreventionofneovasculariza-tionandvitreoushemorrhageinbranchveinocclusion.ArchOphthalmol104:34-41,1986308あたらしい眼科Vol.37,No.3,20203)MuraokaY,TsujikawaA,MurakamiTetal:Morpholog-icandfunctionalchangesinretinalvesselsassociatedwithbranchretinalveinocclusion.Ophthalmology120:91-99,20134)IidaY,MuraokaY,OotoSetal:Morphologicandfunc-tionalretinalvesselchangesinbranchretinalveinocclu-sion:Anopticalcoherencetomographyangiographystudy.AmJOphthalmol182:168-179,20175)佐藤尚栄,田中慎,稲崎紘ほか:光干渉断層計を用いた網膜静脈分枝閉塞症における動静脈交叉部形態の観察.日眼会誌122:920-927,20186)Iida-MiwaY,MuraokaY,IidaYetal:Branchretinalveinocclusion:Treatmentoutcomesaccordingtothereti-nalnonperfusionarea,clinicalsubtype,andcrossingpat-tern.SciRep9:6569,2019(60)

緑内障:緑内障と中心窩無血管領域

2020年3月31日 火曜日

237.緑内障と中心窩無血管領域庄司拓平●はじめに緑内障の本態は網膜神経節細胞軸索の障害と網膜神経節細胞死の促進であると考えられている.網膜神経節細胞の約半数は黄斑部付近に集簇し,緑内障性視野障害が認められる頃には約半数の細胞死が起きていると考えられている.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainopticalcoherencetomography:SD-OCT)の普及以降,緑内障眼における構造変化を黄斑部で確認することが可能になり,現在では日常診療でも広く使用されるようになった.OCTによる構造変化だけではなく,光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)を用いた形態変化は近年さまざまな報告がなされている.●緑内障とFAZ網膜中心窩には網膜血管が存在せず,中心窩無血管領域(fovealavascularzone:FAZ)が存在することは古くから知られていた.このFAZは網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症において形態が変化することも,また古くから知られていた.従来,FAZ形態を確認するにはフルオレセイン蛍光造影(?uoresceinangiography:FA)検査が必要となり,造影剤注射を伴った侵襲的検査を頻繁に行うことは日常臨床では容易でなかった.しかし,OCTAは造影剤などを必要としない非侵襲的検査であり,OCTAを用いて,FAZの形態変化を観察することが可能となった.とくに緑内障のみを罹患している患者にFAを施行することはまれであり,FAを用いてFAZ形態と緑内障の関連を研究した報告もほとんどなかった.しかし,OCTAを用いたFAZ形状と緑内障の関連について近年いくつか報告があるので本稿で紹介する.abc図1緑内障眼(右眼)と僚眼a:眼底写真.b:Humphrey静的視野計24-2の検査結果.c:OCTA画像と自動抽出されたFAZ領域.左眼に比べ右眼のFAZが拡大している.Choiらは,正常眼に比べ緑内障眼では,FAZの真円率は低下し,FAZの周径は伸びるという報告をしている.そしてこれらのパラメータは緑内障診断にもある程度有効であると報告している(ROC曲線下面積で0.86~0.90)1).これは横断研究であるため因果関係は不明であるが,緑内障眼においてはFAZ形状が変化している(57)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.3,2020305ab図2緑内障術前後のFAZ領域の変化(OCTA画像)67歳,男性.右眼開放隅角緑内障.術前矯正視力(0.9),MD値は-28.41dBだった.a:術前画像.b:術後画像.c:術前後の重ね合わせ画像.術前では描出されていない血管が術後に描出され,自動計測されたFAZ領域が縮小していることが確認できる.cことを示唆している.また,同じ研究グループのKwonらは,緑内障眼を周辺視野欠損型と中心視野欠損型に分類したときに,中心視野欠損型のFAZ面積がより拡大していること,真円率が低下していることを報告している2).筆者らは,スウェプトソース(swept-source:SS-OCTA)で得られた網膜浅層の無血管領域をImageJマクロ言語を用いて自動的に抽出する方法を開発し,すでに報告している3).この方法を用いると,従来の手動での描出に近いFAZ境界領域の抽出が自動で可能になり,再現性の向上と作業時間の短縮を実現できた.図1に示す通り,同じ被検者の左右眼を比較しても,緑内障が進行している眼のほうがFAZは大きい傾向があることを確認した.また,本法を用いて緑内障手術前後の眼底OCTA画像を取得し,FAZ面積を測定した.一部の症例においては,術前には検出感度以下の血流量または血管径であったため観察できなかったと思われる中心窩の毛細血管が,術後には描出されることが確認できた.結果として,緑内障術後では有意にFAZ面積が縮小していること,緑内障眼におけるFAZ面積は中心窩感度と相関することが確認できた.●おわりにFAZは古くから知られているが,OCTAの普及に伴い,非侵襲的に観察可能となった.FAZの形態変化は黄斑部の血流動態変化を反映し,緑内障眼における黄斑部の神経節細胞の活動性や中心視野感度と関連していることが示唆された.今後,緑内障の発症や進行との関連がさらに明らかになることが期待される.文献1)ChoiJ,KwonJ,ShinJWetal:Quantitativeopticalcoher-encetomographyangiographyofmacularvascularstruc-tureandfovealavascularzoneinglaucoma.PLoSOne12:e0184948,20172)KwonJ,ChoiJ,ShinJWetal:Anopticalcoherencetomographyangiographystudyoftherelationshipbetweenfovealavascularzonesizeandretinalvesselden-sity.InvestOphthalmolVisSci59:4143-4153,20183)IshiiH,ShojiT,YoshikawaYetal:Automatedmeasure-mentofthefovealavascularzoneinswept-sourceopticalcoherencetomographyangiographyimages.TranslVisSciTechnol8:28,2019306あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020(58)

屈折矯正手術:LASIKとSMILEの使い分け

2020年3月31日 火曜日

●連載238屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂大橋裕一坪田一男238.LASIKとSMILEの使い分け戸田郁子●はじめにレーザー角膜屈折矯正術は,1980年代後半に第一世代のPRK(photorefractivekeratectomy)が臨床応用されて以来,1990年に入って第二世代のLASIK(laserinsitukeratomileusis),そして2010年代には第三世代のSMILE(smallincisionlenticuleextraction)が登場した.SMILEはまだ厚生労働省未認可の治療であるが,PRKとLASIKは認可済である.LASIKとSMILEは,上皮?離を行わずに実質の一部を切除するという点では非常に類似した手術であり,適応はオーバーラップするものの,フラップ作製の有無により,その適応選択がやや異なってくる.●LASIKとSMILEの方法と特徴LASIKとSMILEはレーザー切除によって角膜形状を変え,屈折力を調整するという原理は共通であるが,大きな違いは角膜垂直切開の長さである.LASIKではフラップを作製するため,フェムトセカンドレーザーにて直径8~9mm程度,約300°周の角膜に100?mの深さの垂直切開を加える.その後フラップをリフトし,エキシマレーザーにて角膜ベッドに対して矯正度数に合わせて実質切除を行う.一方SMILEでは,フェムトセカンドレーザーにてあらかじめ角膜実質内に2層の水平切開行って,矯正度数に合った角膜組織片をレンチクルとして作製しておく.レンチクルを約2~3mmの垂直切開創からマニュアルで除去する.すなわち角膜水平切開の範囲は同程度であるが,SMILEの角膜垂直切開の長さはLASIKの8~10分の1程度である(図1).角膜内神経は輪部の上下左右から実質3分の1の深さで神経幹として侵入し,水平方向がもっとも多い1).上方ヒンジのLASIKフラップを作製すると,神経幹の8割程度が切断されることになり,SMILEと比較すると術後の一時的角膜内神経減少が有意に多いことがわかる2()図2).涙液の分泌は角膜知覚からの反射であることから,LASIKでは術後一時的に涙液分泌が減少し,ドライアイが起こる3).術後ドライアイの程度はSMILEに比較するとLASIKのほうが強いという報告が多い4).また,LASIKではフラップが存在するため,フラップに関連する合併症(上皮迷入やフラップ偏位)の可能性がある.一方,SMILEは切開創が小さくフラップが存在しないため,ドライアイになりにくく,外傷に強い.角膜の強度は水平切開より垂直切開に依存するといわれていLASIKSMILE図1LASIKとSMILEの手術模式図赤点線は角膜垂直切開の部位.その長さはLASIKがSMILEの8~10倍である.(55)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.3,2020303a角膜上皮基底膜下神経叢密度bLASIK角膜中央3mm,?m/mm2SMILE表1LASIKとSMILEの利点と欠点図2LASIKとSMILE手術直後の角膜内神経密度の比較a:術前の角膜上皮基底膜下神経叢の密度を100%とした場合の,術後の神経密度をLASIKとSMILEで比較した(文献4参照).LASIKにおいて有意に神経密度が少ない.b:LASIKとSMILEにおける角膜内神経切断のイメージ.る5).ただし,-2D以下の軽度近視では,2層間のレーザー照射が近い関係で炎症が起こりやすく,またレンチクルが薄いために操作中の断裂のリスクがあり,よい適応ではない.●LASIKとSMILEの使い分けレーザー屈折矯正術の適応は角膜厚に依存するが,術後の残存角膜厚が400?m以上を保てる症例でも,術後の視機能を考慮し,LASIK,SMILEともに適応の目安は球面度数-6D以下,乱視度数2D以下で,球面度数-6D~-8Dについては要検討,球面度数-8D,乱視度数3D以上は有水晶体眼内レンズを第一選択として勧めている.もちろん,以上の屈折矯正術の適応選択方針は施設や医師によって多少差がある.LASIKとSMILEのメリット・デメリットを簡単に表1にまとめた.両者の特徴を考慮し,当院においては,その使い分けを以下のように考えている.1)SMILEのみを適応とする場合:格闘技の選手など,眼の外傷の可能性が高い人2)SMILEをおもに推奨する場合:術前からのドライアイがある人,術後ドライアイが心配な人3)LASIKをおもに推奨する場合:乱視が強め(回旋補正がないと精度が落ちる),モノビジョンやアンダーコレクションを希望(再手術での調整が行いやすい),角膜形状不良(カスタム照射が推奨される),45歳以上の人304あたらしい眼科Vol.37,No.3,20204)LASIKのみを適応とする場合:-2Dより軽度の乱視,遠視矯正の人以上は目安であり,適応条件のオーバーラップも多いことより,当然患者の希望により2)と3)が逆の方法になることはありえる.●おわりにLASIKは約30年の歴史があり,もっとも一般的なレーザー屈折矯正術であるが,フラップ関連合併症であるドライアイ,外傷性フラップ偏位,上皮迷入などにより術後治療に苦慮することがある.SMILEはLASIKのこれらの欠点をカバーする方法として有用と考えられる.一方で,LASIKが優位なケースもあり,両者の特徴を理解したうえで,患者にとってもっとも適切な治療を選択することが大切である.文献1)LindaJ,M?llerL:Cornealnerves:structure,contentsandfunction.ExpEyeRes76:521-542,20032)LiM,ZhaoJ,ShenYetal:Comparisonofdryeyeandcornealsensitivitybetweensmallincisionlenticuleextrac-tionandfemtosecondLASIKformyopia.PLoSOne8:e77797,20133)TodaI,Asano-KatoN,Hori-KomaiYetal:Dryeyefol-lowinglaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20014)KobashiH,KamiyaK,ShimizuK:Dryeyeaftersmallincisionlenticuleextractionandfemtosecondlaser-assist-edLASIK:Meta-analysis.Cornea36:85-91,20175)KnoxCartwrightNE,TyrerJR,JaycockPDetal:E?ectsofvariationindepthandsidecutangulationsinLASIKandthin-?apLASIKusingafemtosecondlaser:abiome-chanicalstudy.JRefractSurg28:419-425,2012(56)

眼内レンズ:白内障手術後のNegative Dysphotopsiaに眼内レンズ交換と位置矯正が効果的であった症例

2020年3月31日 火曜日

400.白内障手術後のNegativeDysphotopsiaに眼内レンズ交換と位置矯正が効果的であった症例高橋鉄平松島博之獨協医科大学眼科学教室●はじめに白内障手術後に,不快な光視症状であるnegativedysphotopsia(ND)またはpositivedysphotopsia(PD)1)を訴える症例が報告されている.わが国では報告が少ないことから対処方法に苦慮することも多い2).今回,白内障手術後のNDが6カ月続く症例に眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)交換を施行したところ症状が軽減し,再度IOL光学部の位置を矯正したところ,さらにNDが減少した症例を経験した.●症例68歳,男性.両眼白内障・左眼黄斑前膜の診断で手術目的で当科紹介となった.術前に特記すべきその他の所見はなく,入院後,左眼水晶体再建術+硝子体手術,右眼水晶体再建術をそれぞれ施行した.使用したIOLは右眼PU6A(興和),左眼PCB00V(ジョンソン・エンド・ジョンソン)であった.術後経過は良好で,矯正視力は右眼1.2,左眼0.7であったが,術後より右眼鼻図1Reverseopticcapture交換したNX-70を水晶体?内から前房側に脱出させてキャプチャーすることでIOL位置を虹彩側に移動させた.側に陰影を知覚した.経過観察により消失する症例も報告されているので外来経過観察としたが,半年経っても改善しないため,右眼のNDと考え,右眼のIOLを光学部径の大きいNX-70(参天製薬)に交換する摘出交換術を施行した.術後,右眼鼻側の影が移動して症状は改善したが,NDの残存と再手術を希望したので,IOLと虹彩間距離を縮める目的で右眼のIOLの位置を前房側に移動(reverseopticcapture)した(図1)ところ,NDはほぼ消失した.●白内障手術後NDと治療白内障手術後に,不快な光視症状であるNDやPDを訴える症例が報告されている(図2).NDはIOLを通過せず虹彩とIOLの隙間から直接網膜に到達した光と,IOLを通過することで屈折した領域の間に光間隙を生じて,暗く感じる現象である.PDは眼内に入った光線が瞳孔を通過する過程で一部の光がスクエアエッジ内面に図2NDとPDNDは直接網膜に到達した光と,IOLを通過することで屈折した領域の間に光間隙を生じて暗点が生じる現象.PDは光線の一部がスクエアエッジ内面に当たって反射し,半月状光輪として自覚する現象.(53)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.3,20203011回目2回目3回目図3NDの経過と前房深度術後経過とIOL種類,位置,IOL-虹彩間距離,NDの症状を示す.IOL光学部径が大きくなり,IOL-虹彩間距離が短くなるに従いNDの症状は減少した.当たって反射し,入射してきた方向と違う網膜に当たることにより,光源とは違う方向に半月状光輪として自覚する現象である.NDの発症リスクは,①IOL素因(スクエアエッジ・高屈折度数・小光学径),②明所での小瞳孔,③IOL-虹彩間距離が大きい,④鼻側前?がIOLをカバーしていること,が指摘されている.今回のNDは,過去の報告と同形のIOLを用いて発生していたので,光学部径が大きいNX-70にIOL摘出交換術を施行したところ,NDは小さくなり上方へ移動した.しかし,患者がさらなるNDに対する治療を望んだので,もう一つのリスクである③IOL-虹彩間距離を縮める目的でIOL位置をreverseopticcaptureした.本症例の経過観察中の前眼部OCT解析結果を図3に示す.3回目にreverseopticcaptureを施行すると,IOL-虹彩間距離は著しく縮小し,症状はさらに改善した.Holladayらの研究で,NDはIOLで屈折した光束と,IOL~虹彩間を通過した光束の間に光が当たらない部位が生じる場合に生じることが報告されており1),この定義を裏づけるようにIOL-虹彩間距離を縮める治療が有効であった.今後も同等のNDやPDを訴える症例は増加することが考えられる.発生機序の解明と確実な対処法,そしてNDやPDが発生しないIOLの開発も必要である.文献1)HolladayA,PortneyV:Analysisofedgeglarephenome-nainintraocularlensedgedesigns.JCataractRefractSurg25:748-752,19992)大塚斎史,森井香織,三浦真二ほか:Negativedysphotop-siaに対する手術治療を施行した2症例.眼科手術31:449-454,2018

写真:DSAEK後の眼内上皮増殖

2020年3月31日 火曜日

430.DSAEK後の眼内上皮増殖高橋実花福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①眼内上皮増殖②移植片③ブレブ図1DSAEK後の前眼部スリット写真(右眼)角膜9時方向に白濁した眼内上皮増殖を認める.図3図1の眼内上皮増殖部分の拡大図図4DSAEK後の前眼部光干渉断層計像眼内上皮増殖は移植片と角膜の境界面に高輝度な病変として描出された().(51)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.37,No.3,2020299膜移植は,従来の角膜上皮から内皮側まで移植する全層角膜移植から,病的部位のみ移植するパーツ移植へと変遷している.内皮機能不全に陥っている水疱性角膜症に対しては,角膜内皮移植術であるDesce?met’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)やDescemetmembraneendothelialkerato?plasty(DMEK)が世界中で数多く施行されている.一般的な角膜移植術の術後合併症には,移植片偏位(graftdislocation),移植片機能不全(graftfailure),移植片拒絶反応(graftrejection),感染(infection)などがあげられる.DSAEK/DMEK特有の合併症としては,前房内に注入したairによる瞳孔ブロック(airbubblerelat?edpupillaryblock)がある.眼内上皮増殖(epithelialingrowth)は,穿孔性眼外傷や白内障などの内眼手術やLASIK(laserinsituker?atomileusis)後の合併症としておもに報告され,おもに結膜上皮細胞や角膜上皮細胞が異所性に侵入増殖するとされる病態であるが,角膜内皮移植(DSAEK)後の合併症としての報告は多くない.提示症例は,79歳の女性.10年以上前に開放隅角緑内障と診断され,右眼については3度のマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行され,眼内レンズ挿入後眼である.多重緑内障手術による角膜内皮減少から水疱性角膜症に至ったと考えられた.矯正視力は紹介受診時(0.02)まで低下しており,角膜内皮移植の適応と考えDSAEKを施行した.手術は通常の手順で合併症なく終了した.移植片は9時(耳側)のスリットによる創口から挿入した.移植後の矯正視力は(0.9)まで改善したが,術後4週目に9時移植片辺縁に手術時になかった炎症を伴わない淡い白色の沈着物が認められた(図1~3).角膜周辺部であり視軸内ではなかったため経過観察とし,ステロイド点眼を減量した.白色沈着物はより明瞭かつ均質な沈着物となったが,拡大悪化は認めず,眼内上皮増殖と考えられた.海外の報告によると,眼内上皮増殖は手術後1カ月以降,移植片の周辺部に出現し,白色~灰色の均質な沈着物であるという特徴がある.眼内上皮増殖の原因として,移植片にドナー側の上皮細胞が混入すること,排液切開(ventingincisions)による眼表面との交通によりホスト側の上皮細胞が迷入することなどが推定されている.今回の症例のように移植片の周辺部に認められることが多く,視軸にかかる移植片の中央部に迷入することはまれであると報告されている1).病変は前眼部光干渉断層計にて高輝度な病巣としてとらえられる(図4)2).今回の症例の鑑別疾患に重要なものとして,DSAEK片とホスト角膜の境界面の真菌感染がある.多くはドナー由来であり,保存的治療抵抗性を示し,治療的角膜移植が必要になることが多い3).文献1)DalalRR,RaberI,DunnSPetal:Epithelialingrowthfol?lowingendothelialkeratoplasty.Cornea35:465-470,20162)SuhLH,ShoushaMA,VenturaRUetal:EpithelialingrowthafterDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:descriptionofcasesandassessmentwithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cornea30:528-534,20113)KitzmannAS,WagonerMD,SyedNAetal:Donor-relat?edcandidakeratitisafterDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea28:825-828,2009

ホームモニタリング

2020年3月31日 火曜日

ホームモニタリングHomeMonitoringofPatientsWithAge-RelatedMacularDegeneration藤田京子*はじめに昨今の高齢化に伴い加齢黄斑変性(age-relatedmacu-lardegeneration:AMD)患者も増加の一途をたどっている.脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が発生し,出血や滲出が生じる滲出型AMDは抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)療法で視力維持が可能になってきたものの,治療前よりも良好な視力を得ることは未だむずかしいのが現状である.抗VEGF療法後の視力は治療開始時における視力値と関連することが報告されており1),網膜に深刻なダメージが生じる前に異常を発見し,早めに治療を開始できれば良好な視機能を維持できる可能性がある.しかしながら患者は軽微な悪化のサインに気づくことは少なく,ある程度病状が進行してから初めて病状に気がつくことがほとんどである.網膜の障害が軽度な段階で治療を開始できれば視機能を保つことができることを考えると,いかに患者自身が症状の変化に気がつくかがポイントになる.欧米では数年前から患者自身による症状の早期発見の重要性が指摘され,さまざまな方法が試みられている.自宅で検査されたデータがホームモニタリングを統括するセンターに送られ,異常があれば早く治療を受けることができるように眼科受診がアレンジされるシステムもある.われわれも日常診療で患者に「ゆがみ」や「中心視野の見えづらさ,暗さ」の変化に気をつけてもらい,Amslerチャートを用いたチェックを薦めているが,早期発見のためにはさらに精度の高い検査が求められる.ここではAMDに対するホームモニタリングについて最近の知見をまとめてみる.I加齢黄斑変性の初期症状AMD患者が最初に気づく症状は変視症と暗点である2).Amslerは検眼鏡的に認められる形態変化よりも先に視機能の変化が現れることを報告し,患者自身の症状のモニタリングが重要であると述べている3).IIモニタリングの方法1.Amslerチャート変視症検出の一般的な方法にAmslerチャートがある(図1).視距離30cmの近見矯正下で片眼ずつ中央の白い点を固視しながら線のゆがみや格子が完全に見えるか,などをチェックする.Amslerチャートは誰もが簡便に行えるが,一方で固視の維持の困難さ,多数の線による“混みあい現象”の影響で精度が低いことが指摘されている4).2.Hyperacuityを利用Hyperacuityはvernieracuityともよばれ副尺視力と訳される.副尺視力とは線分のずれを識別する閾値であり,識別閾は視角2~10秒とされる5).Hyperacuityを利用したホームモニタリング装置にはmVTapp(Vital◆KyokoFujita:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕藤田京子:〒480-1195愛知県長久手町岩作雁又1-1愛知医科大学眼科学教室(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)295図1Amslerチャート中心視野20°以内に1°間隔で碁盤の目状に線が描かれている.ArtandScience),ForeseeHomemonitoring(NotalVision,Israel)(図2a)などがあり,いずれもFDA(米国食品医薬品局)の認可を受けている.ForeseeHomemonitoringはモニター画面に一部線を小さく歪ませた点線が160ミリ秒提示される(図2b)6).患者は提示された点線上でもっとも強くゆがみを自覚した部をコンピューターマウスで指し示し,ついで中央に提示されたポイントにマウスを戻すように指示される.提示される点線は中心視野14°以内にランダムに提示され,所要時間は約3分である.新たな病巣がみられない場合には患者は点線上で元々ゆがんでいる部を指し示すが,病巣に活動性が生じその部のゆがみが元々のゆがみよりも大きく感じられた場合,患者はより大きなゆがみの部を指し示すため,その応答は異常と判定される.米国ではAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)に参加した全米44カ所の網膜のクリニックを中心にForeseeHomemoniteringの有用性を検証するランダム化比較試験が行われた7).対象は視力が20/60以上で両眼に滲出型AMDに発展する危険性が高い大きなドルーゼン(125?m以上)がみられる症例,もしくは片眼に大きなドルーゼンを有し僚眼は進行したAMDの症例で,ドルーゼンのみ有する眼が対象眼になる.対象症例はAmslerチャートなどを用いて自身で症状をチェック図2ForeseeHomemonitoring(a)(NotalVision,Ltd)とモニター上に提示される刺激(b)点線には人工的なゆがみが含まれている.患者はaでみられるモニター上に提示される点線上のゆがみをコンピューターマウスでさし,ついで中央のポイントにマウスを戻す.刺激は160ミリ秒間提示される.する標準ケア群とForeseeHomemoniteringを用いるモニタリング群とにランダムに割り付けられた.Foresee-Homemoniteringの結果はセルラーモデムを系由してモニタリングセンターに送られ,登録時と比較し明らかな変化が検出されれば担当医師に連絡が行く.HOMEstudyreportNo1ではモニタリング群763例と標準ケア群757例でベースラインの視力とCNV検出時の視力との差が評価された.CNVはモニタリング群で51例,標準ケア群で31例発生したが,モニタリング群で有意にベースラインとCNV検出時の視力差が少なく,標準ケア群よりも良好な視力でCNVが検出された.この結果から,モニタリング群のほうが抗VEGF療法後によ296あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020(48)図3iPadで網膜感度をモニター(PsyPad)中心2°以内に12カ所刺激点が配置されている.(http://psypad.net.au/server/)図4HomeOCTsystem(NortalVision社)自宅で行えるOCTで,網膜下液の変化は解析装置によって自動分析される.い視力が期待できると報告している7).また,費用対効果も検討され,モニタリング群の費用対効果は高く,医療費の削減が期待できると報告されている8).3.網膜感度を利用自身のiPadで網膜感度をチェックし病状をモニターする方法も報告されている9~11).アプリケーション(PsyPad)は中心2°以内に配置された12カ所の刺激点からなり(図3),患者は50cmの視距離で通常の静的量的視野検査と同様の方法で行う.検査結果は中央のサーバーにアップロードされ網膜感度が分析される.Adamsらは50歳以上で両眼に125?m以上のドルーゼンを有し,矯正視力が20/60以上,iPadユーザーでインターネットに接続できる環境が整っている患者21例に対し,PsyPadとクリニックで行われたマイクロペリメトリの結果を比較した.その結果,両者に有意な差はみられず,PsyPadでも同様の結果が得られたと報告している11).4.OCTいまやOCTはAMDの診療に欠かせない検査であるが,ホームモニタリングにOCTが加わる日もそう遠くなさそうである.米国NotalVision社が開発したHomeOCTsystemは自宅でOCTを行い(図4),網膜下液の変化をNotalICTanalyzerが自動分析する12).網膜下液が検出された場合にはその結果が担当医師に伝えられるという遠隔管理システムであり,すでにFDAの承認が下りている.ほかにもMalocaらは頭の動きによるアーチファクトを減らすために頭位を固定しやすいように工夫されたOCTを用いて,通常のスペクトラルドメインOCT(spectraldomainOCT:SD-OCT)で測定した中心窩網膜厚を比較し,両者の平均中心窩網膜厚に有意差はみられなかった(p=0.091)と報告している13).おわりにAMDに対するホームモニタリングについて述べた.データの信頼性など課題は多いが,ホームモニタリングと遠隔システムの普及はわが国で現在行われているクリニックベースの医療の仕組みに大きな変革を迫ることになるだろう.増え続けるAMDに対する患者および医師の双方にかかる負担や医療経済への圧迫を欧米と同様に見直す時期が来ているのかもしれない.(49)あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020297文献1)YingGS,HuangJ,MaguireMGetal:Baselinepredictorsforone-yearvisualoutcomeswithranibizumaborbevaci-zumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology120:122-129,20132)FineAM,ElmanMJ,EbertJEetal:Earliestsymptomscausedbyneovascularmembranesinthemacula.ArchOphthalmol104:513-514,19863)AmslerM:Earliestsymptomsofdiseasesofthemacula.BrJOphthalmol37:521-537,19534)LoewensteinA,MalachR,GoldsteinMetal:ReplacingtheAmslergrid:anewmethodformonitoringpatientswithage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology110:966-970,20035)所敬:視力検査の現状と問題点.日本視能訓練士協会誌26:63-66,19986)LoewensteinA:Useofhomedeviceforearlydetectionofneovascularage-relatedmaculardegeneration.OphthalmicRes48(Suppl1):11-15,20127)AREDS2-HOMEStudyResearchGroup;ChewEY,ClemonsTEetal:Randomizedtrialofahomemonitor-ingsystemforearlydetectionofchoroidalneovasculariza-tionhomemonitoringoftheEye(HOME)study.Ophthal-mology121:535-544,20148)WittenbornJS,ClemonsT,RegilloCetal:Economicevaluationofahome-basedage-relatedmaculardegener-ationmonitoringsystem,JAMAOphthalmol135:452-459,20179)TurpinA,LawsonDJ,McKendrickAM;PsyPad:aplat-formforvisualpsychophysicsontheiPad.JVis14:16,201410)WuZ,GuymerRH,JungCJetal:Measurementofretinalsensitivityontabletdevicesinage-relatedmaculardegeneration.TransVisSciTechnol4:13,201511)AdamsM,HoCYD,BaglinEetal:Homemonitoringofretinalsensitivityonatabletdeviceinintermediateage-relatedmaculardegeneration.TranslVisSciTechnol7:32,201812)ChakravarthyU,GoldenbergD,YoungGetal:Automat-edidenti?cationoflesionactivityinneovascularage-relat-edmaculardegeneration.Ophthalmology123:1731-1736,201613)MalocaP,HaslerPW,BarthelmesDetal:Safetyandfea-sibilityofanovelsparseopticalcoherencetomographydeviceforpatient-deliveredRetinahomemonitoring.TranslVisSciTechnol7:8,2018298あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020(50)