監修=木下茂●連載211大橋裕一坪田一男211.近視進行抑制とバイオレットライト鳥居秀成慶應義塾大学医学部眼科学教室世界の近視人口は増加の一途をたどっている.世界中の近視研究者のコンセンサスが得られている唯一の近視進行を抑制する環境因子として,屋外活動がある.筆者らはそのなかでも,屋外環境に豊富にあるC360~400nmのバイオレットライトが近視進行抑制に重要な役割を果たすことを基礎研究・臨床研究より明らかにした.*****●はじめに―バイオレットライトとは―5世界の近視人口は全世界で増加の一途をたどっており,.0.50D以下を近視,C.5.00D以下を強度近視と定義した場合,近視人口はC2050年には全世界人口のC49.8%のC47億C5800万人,失明リスクのある強度近視の人口はC9.8%のC9億C3800万人になると報告1)されている.屈折(ジオプター)0-5-10-15日本国内でも,文部科学省平成C28年度学校保健統計調査結果によると,裸眼視力C1.0未満の割合が小学校・中学校・高校において昭和C54年以来過去最高を記録した.この近視人口の世界的な急増は近年約C50年前からの変化であり2),遺伝因子よりも環境因子の変化が主因であると考えられている.近視と関連する環境因子のうち,これまでに屋外活動が近視進行を抑制することが複数の疫学研究や動物実験から指摘されてきており,近年,屋外活動が注目されている3,4).そのなかで近視進行抑制にかかわる因子としては,運動・遠方視・ビタミンCD・光環境などが考えられているが,そのうち何が効いているのか,また,そのメカニズムはわかっていなかった.そこで筆者らは屋外環境因子のうち,屋外環境に豊富にある波長C360~400Cnmのバイオレットライトに着目し,動物実験・臨床研究・環境調査を行った.JIS/CIEが可視光下限をC360Cnmと定義しているように,人間はバイオレットライトの色を認識することは可能である.C●動物実験実験近視モデルとして確立しているヒヨコを用いて,バイオレットライトをあてる群とあてない群で近視進行程度(屈折値・眼軸長)を比較・検討し,バイオレットライトの近視進行抑制効果の有無を評価した.近視誘導には,バイオレットライトを透過することを確認した凹(99)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY-20VL-VL+VL-VL+近視誘導なし近視誘導あり図1ヒヨコ実験近視モデルにおけるバイオレットライトの近視進行抑制効果バイオレットライト(VL)に暴露されたヒヨコ(VL+)は,暴露されていないヒヨコ(VLC.)に比べ,近視誘導の表現型が抑制された.(文献C5より引用)レンズ効果をもつクリアレンズを使用し,片眼装用を行った.屈折値・眼軸長データから表現型の確認を行うとともに,メカニズム解明のため,眼球を摘出し,網脈絡膜サンプルを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い,ターゲット遺伝子の絞り込みを行い,PCRで確認を行った.その結果,バイオレットライトを浴びたヒヨコの近視進行が抑制され,バイオレットライトを浴びたヒヨコの眼で,近視進行を抑制する遺伝子として知られているearlygrowthresponse1(EGR1[ZENK,zif268])が有意に上昇していることがわかり,バイオレットライトが近視進行を抑制するメカニズムとしてCEGR1が関与している可能性が示唆された(図1).C●臨床研究屈折矯正に用いるコンタクトレンズ(contactClens:CL)のバイオレットライトの透過率を調査し,バイオあたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C17370.25*0.301.60分光放射照度(W/m2/nm)1.401.201.00眼軸長の変化量(mm/年)0.200.800.600.400.200.150.100.000.05図3現代社会に欠如しているバイオレットライトオフィス内,車内,病院内ではC360~400Cnmのバイオレットライトがほとんどないことがわかる.0.00300350400450500550600650700750800(文献C5より引用)図2異なるバイオレットライト透過率のコンタクトレンズ装用による眼軸長変化量の比較バイオレットライト(VL)を透過するコンタクトレンズを装用している群(VL+)は,透過を抑制したコンタクトレンズを装用している群(VLC.)に比べて眼軸長変化量が有意に少なかった.(文献C5より引用)Cレットライトの透過率が高い群と低い群での近視進行程度を後ろ向きに比較・検討した.13~18歳の対象において,バイオレットライトを透過するCCL(透過率C80%以上)を装用している群(116例116眼)と,バイオレットライト透過を抑制したCCL(透過率C80%未満)を装用している群(31例C31眼)の眼軸長伸長量を比較した.その結果,バイオレットライトを透過するCCLを装用している群の眼軸長伸長量はC0.14Cmm/年,バイオレットライト透過を抑制したCCLを装用している群の眼軸長伸長量はC0.19Cmm/年であり,バイオレットライトを透過するCCLを装用している群のほうが,有意に眼軸長伸長量が少ないことがわかった(図2).C●環境調査われわれを取り巻く屋内・屋外環境において,バイオレットライトがどの程度存在するのかを調査した.その結果,現在われわれが日常的に使用しているCLEDや蛍光灯などの照明にはバイオレットライトはほぼ含まれておらず,眼鏡や硝子などの材質もCUVカットに加えてバイオレットライトをほとんど通さないことがわかった(図3).C●おわりに現代社会におけるわれわれを取り巻く環境において,波長C360~400Cnmのバイオレットライトが欠如しており,これが近年の近視の世界的な増大と関係している可能性が考えられる.バイオレットライトの研究は今後の近視人口増加に歯止めをかける一助になる可能性があるものと期待され,慶應義塾大学医学部からプレスリリースされ各種メディアに取りあげられた.ただし,屋外活動によりバイオレットライトは容易に取り入れられるものの,屋外活動だけでは同時に有害な短波長紫外線にも暴露されてしまうため,可視光であるバイオレットライトのみをとり入れる工夫も今後必要であると思われる.文献1)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetCal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCMyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.COphthalmologyC123:1036-1042,C20162)DolginE:Themyopiaboom.NatureC519:276-278,C20153)RoseKA,MorganIG,IpJetal:OutdooractivityreducestheCprevalenceCofCmyopiaCinCchildren.COphthalmologyC115:1279-1285,C20084)JonesLA,SinnottLT,MuttiDOetal:Parentalhistoryofmyopia,CsportsCandCoutdoorCactivities,CandCfutureCmyopia.CInvestOphthalmolVisSci48:3524-3532,C20075)ToriiCH,CKuriharaCT,CSekoCYCetCal:VioletClightCexposureCcanbeapreventivestrategyagainstmyopiaprogression.EbiomedicineC15:210-219,C20171738あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(100)C