(23)かのぼり,生乳の入った容器に乳酸菌が入り込んでできた偶然の産物であるといわれている.ノーベル生理学・医学賞を受賞したIlyaIlyichMechnikov博士が,ブルガリア人が長寿であることを発見し,その原因を現地の伝統食品であるヨーグルトであると考え,『ヨーグルト不老長寿説』を発表したことによって,ヨーグルトは健康食品として世界から注目されるようになった.IIプロバイオティクスの抗アレルギー効果腸内の微生物細菌叢の存在は,免疫寛容の発達を促進すると考えられている2).この考えの下,プロバイオティクスを摂取することにより腸内細菌叢を整えることがアレルギー疾患のコントロールに有用ではないかとされ,さまざまな研究が行われてきた.実際,マウスモデルにおいては,ヨーグルトの摂取によりIgEや各種アレルギー関連のサイトカインの産生が抑制されることが証明されている3).ヒトにおいても,アトピー性皮膚炎,湿疹,喘息,アレルギー性鼻炎などに対する抗アレルギー効果に対し,ランダム化比較試験が多数施行されている.たとえば,妊娠中および授乳中の母親がヨーグルトを摂取すると,乳幼児のアトピー性皮膚炎,湿疹などアレルギー性皮膚疾患の発症を有意に抑制したと報告されている4).また,アレルギー性鼻炎においても,ヨーグルトの摂取により症状の緩和,末梢血のサイトカイン産生を抑制している5).一方,喘息では,3千人余りの子供を対象にしたメタ解析でプロバイオティクス摂取によIプロバイオティクスとはプロバイオティクス(probiotics)とは,人体によい影響を与える微生物自体,またはそれらを含む製品,食品のことをさす.抗生物質(antibiotics)が他の微生物の発育を阻害する物質であるのに対し,プロバイオティクスはラテン語のpro(~とともに)という接頭語が付いており,微生物を殺すのではなく,ともに共生していくという意味で,対比して用いられることも多い.人間の体内には,人体を構成する細胞より多数の微生物が存在しているといわれており,この微生物のバランスが崩れると病気になるという概念がかなり以前より提唱されてきた.そのため,体内の微生物の環境を整えることにより,体調が改善したり,病気の発症が予防できるとも信じられている.「probiotics」を文献検索すると,1950年代からこの用語は登場しているが,現在いわれている「腸内フローラのバランスを改善することにより宿主の健康に好影響を与える微生物」と定義されるようになったのは1980年代である1).ヨーグルトはプロバイオティクスとしてもっとも受け入れられている食品である.世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)では,「ヨーグルトとは乳および乳酸菌を原料とし,ブルガリア株(Lactobacillusbulgaricus)とサーモフィルス株(Streptococcusthermophilus)が大量に存在し,その発酵作用で作られた物」と定義されている.ヨーグルトの起源は7千年前にもさ(13)389*YukoHara:愛媛大学大学院医学研究科眼科学講座,愛媛大学大学院地域眼科学〔別刷請求先〕原祐子:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学研究科眼科学講座特集●眼アレルギー診療の新時代に向けてあたらしい眼科37(4):389?393,2020アレルギー性結膜炎とプロバイオティクスEffectofProbioticsonAllergicConjunctivitis原祐子*0910-1810/20/\100/頁/JCOPY390あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(14)の菌株が共通ではないこと,投与期間や投与量,また投与するタイミングにばらつきがあるため,その効果が一定の基準で判断できないことがあげられる.また,プロバイオティクスの抗アレルギー効果のメカニズムがブラックボックスであることも,その効果を明確に言及できない一因になっていると思われる.IIIミカン果皮配合ヨーグルトの開発愛媛大学農学部では,乳製品に含有されるbラクトグロブリンと柑橘類の果皮に多く含まれるノビレチンの組み合わせに着目して研究を行ってきた.ノビレチンはフラボノイド水酸基のうち六つがメトキシ基に置換されたポリメトキシフラボノイドに分類され,肥満細胞の脱顆粒の抑制や,好塩基球によるヒスタミン,IL(interleukin)-4,IL-13の産生を抑制することが報告されており,その抗炎症作用,抗アレルギー作用についても報告されている7~9).bラクトグロブリンとノビレチンはともに抗アレルギー作用を有しているが,その作用点は異なっており,ラット好塩基球様細胞株RBL-2H3細胞において,ノビレチンはPI3K(phosphatidynositide3-kinase)を,bラクトグロブリンはSyk(spleentyrosinekinase)のリン酸化を阻害することにより脱顆粒を抑制する(図1).Yasunagaらはスギ花粉症モデルマウる有意な症状抑制効果は認めらないと結論づけており6),報告ごとにその効果の結論は異なっているのが現状である.このように効果がばらつく原因の一つは,これらの多数の研究で用いられているプロバイオティクスLynPI3KFynSykPLCgCa2+PKC顆粒の放出(脱顆粒)FceRIIgE抗原ノビレチンb-ラクトグロブリン好塩基球肥満細胞図1bラクトグロブリン,ノビレチンの脱顆粒抑制作用ノビレチンはPI3Kを,bラクトグロブリンはSykのリン酸化を阻害する.*p<0.05,**p<0.01vs.Control0くしゃみ回数/30分10203040***p<0.05非感作対照温州ミカン果皮ヨーグルト混合図2ヨーグルト,ミカン果皮摂取によるマウスモデルの抗アレルギー効果両者を混合投与した群でもっともアレルギー反応を抑制した.(15)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020391スを作製し,5日間食餌にヨーグルトを混入した群,ミカン果皮を混入した群,両者を混合して投与した群をスギ花粉に暴露したところ,ヨーグルト単独摂取群では無摂取群より有意にアレルギー症状を緩和したが,混合投与群では単独で投与した群よりもさらに有意な抑制効果が示された10)(図2).IVミカン果皮配合ヨーグルトのアレルギー性結膜炎抑制効果の検証筆者らはこれらの結果より,ヒトでも一定の抗アレルギー効果が得られるのではと考え,ノビレチンを含有するミカン果皮配合ヨーグルトを試作し,ヒトでの検証を行った11).ミカン果皮配合ヨーグルトは,四国乳業株式会社で作製した.1ボトル(150g)あたりbラクトグロブリン摂取開始前ミカン果皮配合ヨーグルト摂取後コントロールヨーグルト摂取後PatientNo.11PatientNo.21PatientNo.29図4結膜抗原誘発試験後の前眼部写真試験開始時およびコントロールヨーグルト接種後に比較して,ミカン果皮配合ヨーグルトを摂取後は充血が軽減されている.図3OcularSurfaceThermographer(OST)TG?1000(トーメーコーポレーション)の外観392あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(16)subsp.,Bulgaricus.,Streptococcusthemophillius.,LactobacillusacidophilusLA-5,BifidobacteriumlactisBB-12で,四国乳業で一般的に用いられている菌種である.対象はスギ花粉症によるアレルギー性結膜炎既往者31名(男性7名,女性24名,平均年齢32.5±12.2歳)である.すべての症例でスギ抗原特異的IgE抗体が陽性であり,試験実施時には全身および局所のアレルギー治療を行っていないことを確認した.まず,全例に結膜抗原誘発試験を行った.結膜抗原誘発試験は,抗原稀釈液を被検者に点眼してアレルギー性結膜炎を誘発させる試験で,一定の症状を計画的に起こすことができるため,抗アレルギー点眼薬の効果を判定する際によく用いられている.結膜抗原誘発試験前後に自覚症状アンケートを実施し,細隙灯顕微鏡検査,結膜表面温度を測定した.その後被験者をランダムに2群に分けて,ミカン果皮配合ヨーグルト,コントロールヨーグルトを3週間ずつ摂取し,次の3週間は最初に摂取したものとは異なるヨーグルトを摂取し,各ヨーグルトの摂取終了時に結膜抗原誘発試験を行った.この試験は,二重盲検,クロスオーバーのプロトコールとして設計し150mg,ノビレチン0.53mgを含有している.また,二重盲検試験のために,bラクトグロブリンを半量の93mg,ノビレチンは非含有,ミカンフレーバーで味をつけたコントロールヨーグルトも作製した.ヨーグルト作製に用いた乳酸菌は,Lactobacillusdelbrueckii00.20.40.60.811.2℃*х+コントロールヨーグルトミカンヨーグルト摂取前摂取前ミカンヨーグルトコントロールヨーグルト図6結膜抗原誘発試験後の結膜表面温度の変化ミカン果皮配合ヨーグルト摂取後の温度上昇は,摂取前と比較して有意に抑制され,さらにコントロールヨーグルト摂取後よりも低下していた.右側に同一患者の摂取前,ミカンヨーグルト摂取後,コントロールヨーグルト摂取後のOST画面および前眼部写真を示す.*p<0.001,×p<0.01,+p<0.05;Friedmantest,ScheffeMultiplecontraststest.01234567**+*******p<0.001,+p<0.01:Friedman,ScheffeMultiplecontraststest.摂取前ミカンヨーグルトコントロールヨーグルト充血スコア結膜浮腫スコア掻痒感スコア図5結膜抗原誘発試験後の自覚症状,他覚所見スコアの変化ミカン果皮配合ヨーグルト摂取後,自覚症状,他覚所見は有意に低下していた.(17)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020393することができておらず,今後も検討を行う予定である.文献1)FullerR:Probioticsinmanandanimals.JApplBacteriol66:365-378,19892)HooperLV,LittmanDR,MacphersonAJ:Interactionsbetweenthemicrobiotaandtheimmunesystem.Science336:1268-1273,20123)AbebayehuD,SpenceAJ,CaslinHetal:LacticacidsuppressesIgE-mediatedmastcellfunctioninvitroandinvivo.CellImmunol341:103918,20194)LiL,HanZ,NiuXetal:Probioticsupplementationforpreventionofatopicdermatitisininfantsandchildren:Asystematicreviewandmeta-analysis.AmJClinDermatol20:367-377,20195)KawaseM,HeF,KubotaAetal:EffectoffermentedmilkpreparedwithtwoprobioticstrainsonJapanesecedarpollinosisinadouble-blindplacebo-controlledclinicalstudy.IntJFoodMicrobiol128:429-434,20096)AzadMB,ConeysJG,KozyrskyjALetal:Probioticsupplementationduringpregnancyorinfancyforthepreventionofasthmaandwheeze:systematicreviewandmetaanalysis.BMJ347:f6471,20137)TheoharidesTC,AlexandrakisM,KempurajDetal:Anti-inflammatoryactionsofflavonoidsandstructuralrequirementsfornewdesign.IntJImmunopatholPharmacol14:119-127,20018)HiranoT,HigaS,ArimitsuJetal:Flavonoidssuchasluteolin,fisetinandapigeninareinhibitorsofinterleukin-4andinterleukin-13productionbyactivatedhumanbasophils.IntArchAllergyImmunol134:135-140,20049)YasunagaS,DomenM,NishiKetal:Nobiletinsuppressesmonocytechemoattractantprotein-1(MCP-1)expressionbyregulatingMAPKsignalingin3T3-L1cells.JFunctFoods27:406-415,201610)YasunagaS,KadotaA,KikuchiTetal:Effectofconcurrentadministrationofnobiletinandb-lactoglobulinonthesymptomsofJapanesecedarpollinosismodelsinmice.JFunctFoods22:389-397,201611)HaraY,ShiraishiA,SakaneYetal:Effectofmandarinorangeyogurtonallergicconjunctivitisinducedbyconjunctivalallergenchallenge.InvestOphthalmolVisSci58:2922-2929,201712)HaraY,ShiraishiA,YamaguchiMetal:Evaluationofallergicconjunctivitisbythermography.OphthalmicRes51:161-166,2014ている.結膜表面温度の測定には,OcularSurfaceThermographer(OST)TG-1000(トーメーコーポレーション)を使用した(図3).OSTは簡便に眼表面温度が測定でき,再現性もよく,一定領域の平均温度を算出したり,経時的な温度変化も解析可能である.筆者らは,結膜抗原誘発試験前後に温度を測定する今回と同様のプロトコールを用いて,抗アレルギー点眼薬の効果を温度によって判定する実験系を確立している12).摂取開始前,ミカン果皮配合ヨーグルト摂取後,コントロールヨーグルト摂取後の前眼部写真を図4に示す.結膜抗原誘発試験後20分の時点の所見で,すべての写真で結膜充血を認めるが,摂取開始前の所見に比べ,とくにミカン果皮配合ヨーグルト摂取後の充血が3例とも抑制されている.図5に充血,結膜浮腫,掻痒感自覚症状のスコアを示す.コントロールヨーグルト摂取後も摂取前に比べ,掻痒感,充血スコアでは有意な低下を認めている(p<0.01:Friedmantest,ScheffeMultiplecontraststest).しかし,ミカン果皮配合ヨーグルトでは,すべてのスコアで摂取前より有意な低下を認めただけでなく(p<0.001:Friedmantest,ScheffeMultiplecontraststest),掻痒感スコア,充血スコアではコントロールヨーグルトよりその抑制効果は勝っていた.図6には結膜抗原誘発試験前後の結膜の温度変化を示すが,ミカン果皮ヨーグルト摂取後は試験開始前,コントロールヨーグルト摂取後に比べ,その温度上昇抑制効果は有意に強く,アレルギー性結膜炎抑制効果を有しているとの結論に至った.おわりにこのミカン果皮配合ヨーグルトは,すでに四国乳業より「N+ドリンクヨーグルト」として市販されており,現在特定保健用食品としての申請を行っている.筆者らは今回の検討でミカン果皮配合ヨーグルトがアレルギー性結膜炎を抑制しているという現象を証明した.しかし,いまだそのメカニズムに関しては明らかに