提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一53.遠近両用ソフトコンタクトレンズの東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック京都府立医科大学眼科シンプル処方●はじめに日本の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)処方比率は近年少しずつ上昇しているものの,まだC6%と諸外国に比較して低いのが現状である.その背景として,日本では従来より近業に従事する装用者に対し,球面度数を弱めに処方することが多かったためと推察されている1).また,遠近両用CSCL処方の経験が少ないと,「処方が面倒」とか「むずかしいのでは?」と先入観を抱きやすいが,近年の遠近両用CSCLの性能は飛躍的に向上している.今回は遠近両用CSCLのシンプル処方について解説する.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの種類と特徴遠近両用CSCLの光学デザインはすべて累進屈折力で,レンズの中心が遠用で周辺が近用タイプと,中心が近用で周辺が遠用タイプに大別される(図1).中心から周辺にかけて度数が連続的に変化するため,遠方から中間,近方まで境目のない自然な見え方が得られるが,遠方と近方の像が網膜に同時に結像する(同時視)ためにコントラスト感度は低下しやすい2).また,加入度数が高くなるほど遠方の見え方は落ちやすい.しかし,片眼ではそのような傾向があっても,両眼視であれば遠方・近方ともに視力は良好で,年齢を問わず低加入度数を選択することが推奨されている3).単焦点CSCLと同様に,素材は含水性ハイドロゲルとシリコーンハイドロゲルレンズが,用途ではC1日使い捨てタイプとC2週間頻回交換タイプがある.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの適応と処方時の注意点処方の成否は適応を見きわめることである.①多焦点コンタクトレンズの装用に意欲的で,②老視症状の自覚や近業時の疲労感があり,③全乱視は-1.0D以下の条件がよい適応である.逆に,遠近ともに過度に視力を追及する人や,長時間の車の運転(とくに夜間)が必要な人では満足できない場合がある.同時視ゆえに慣れるまで時間を要すること,単焦点CSCLより遠方の見え方が若干劣ることなど,処方前に患者にメリット,デメリットを詳しく説明することが大切である.C●遠近両用ソフトコンタクトレンズの検査(図2)最初のトライアルレンズ度数は自覚的屈折値に+0.5~+1.0D加えた球面度数で低加入を選択する.弱めの度数を選べば過矯正が予防できるうえ,最初に「手元がよく見える!」と患者に強い印象を与えられ,モチベーション向上につながる.検査は,まず両眼開放で手元を図1いろいろある多焦点ソフトコンタクトレンズ用途と光学デザインから遠近両用SCLを分類した.黒字表記は含水性ハイドロゲル素材,青字がシリコーンハイドロゲル素材である(イメージ図はすべて各メーカーからの提供).(65)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3670910-1810/19/\100/頁/JCOPY見てもらい,そのあとに遠方の見え方を確認する.その際,生活のなかでよく目にするもの(近方なら新聞やスマホ,遠方ならカレンダーや壁掛け時計など)を見せて患者が満足できる度数を探す3,4).見え方の確認は必ず両眼開放で行うが,その際に視力検査表を使わないこと,数字の視力にこだわらないことが重要である.もし遠方の見えにくさを訴える場合には,両眼同時に球面度数を-0.25Dずつ同時に上げるか,モノビジョンを応用して優位眼の度数を変更する.逆に手元の見え方に不満があれば,非優位眼の度数を変更するか加入度数を変更する.モノビジョンを行うときには優位眼を遠方に,非優位眼で近方に合わせるのが基本で,左右の度数の違いはC0.75Dを目安に+0.25Dずつ慎重に追加する.C●検査時の注意点遠近両用CSCL装用に意欲的になった患者は,ときに過度な期待を抱く.たとえば,遠近両用CSCLを装用すれば若い頃のようにすべての距離が見えると期待してしまい,検査の段階からさまざまな距離を片眼ずつ遮蔽して見え方を確認してしまうのである.先にも述べた通り,片眼ではコントラスト感度は低下するため,必ず両眼で慣れるように指導し,「これぐらいで大丈夫」という見え方を探すよう声かけする.また,モノビジョンを行う場合,事前に左右で見え方が異なることを説明しておく.処方する側は各製品の特性を熟知し,ライフスタイル図2遠近両用SCLの検査の流れ(文献C3を参考に作成)に合わせてレンズを選択する.一般に,遠近両用CSCLでは表示された加入度数と実際の有効加入度数が乖離していることも知っておく必要がある4).初回の検査ですぐに処方せず,できれば数枚のトライアルレンズを渡して同時視を体験させ,満足できる見え方が得られるまで度数調整するとよい.ディスポーザブルCSCLなら処方後に再診するため,見え方に不具合を生じた場合や加齢による調節力の変化にも球面度数や加入度数の変更で対応できる.C●おわりに高齢化社会に伴い,遠近両用CSCLの需要が高まっている.最初の患者説明には一手間かかるが,うまく適応を見きわめ,検査手順に慣れれば,遠近両用CSCL処方は決してむずかしくない.遠近両用CSCLを上手く処方できると患者の高い満足度が得られるので積極的な処方をお勧めしたい.文献1)ItoiM,ItoiM,EfronNetal:Trendsincontactlenspre-scribingCinJapan(2003-2016)C.CContCLensCAnteriorCEyeC41:369-376,C20182)植田喜一,佐藤里沙,柳井亮二ほか:デザインの異なる遠近両用ソフトコンタクトレンズのコントラスト視力.日コレ誌44:211-215,C20023)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科30:1363-1368,C20134)植田喜一:コンタクトレンズによる老視治療.あたらしい眼科28:623-631,C2011PAS115