緑内障による中枢神経障害について緑内障による中枢神経障害緑内障は,眼球の眼圧が上昇することにより眼球に視神経障害が生じ,その結果として視野障害をきたすことが知られていますが,日本人では,眼圧が正常で緑内障性の視神経障害をきたす正常眼圧緑内障が緑内障患者全体のC70%程度を占めています1).このことから,眼圧以外の因子の検索の必要度はきわめて高いと考えられます.最近では,緑内障は視神経の障害だけではなく,より高次の脳中枢の外側膝状体,上丘や視皮質まで障害されると報告されています.しかしながら実験動物として一般的なマウス,ラットでは脳中枢神経系が未発達であるため詳細な解析が行えず,ヒトやサルで解析を行うしかありませんが,これまでに詳細な検討はなされていません2).実験動物としてのフェレットは,マウスではC5%程度しか非交叉性神経線維がないのに対し,35%程度の非交叉性神経線維が存在するため,緑内障による中枢神経障害をより容易に解析することができます.欧米では実験動物としての社会的なコンセンサスが得られていますが,これまで眼科疾患への応用はありませんでした.しかし,高度な脳中枢をもつメリットを生かせることから,筆者らはファレットを実験動物として用い,世界で初めて緑内障モデルを作製することに成功しました3).フェレット高眼圧モデルを用いた視覚路の検討フェレットの結膜を採取し培養を行い,con.uentとなった結膜培養細胞を前房内に注入すると,結膜細胞が隅角で増殖して隅角閉塞を起こし,閉塞隅角緑内障を発症させること藤代貴志東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学ができました3).図1に示すように,緑内障となった眼球から投射する中枢神経である外側膝状体と上丘で色素の減弱がみられ,視神経だけでなく,外側膝状体,上丘における神経障害をフェレットにおいて証明することができました.さらにこれまでサル,ヒトで解析がむずかしかったCKonio細胞の障害も,フェレットでは外側膝状体の構造がサル,ヒトと異なることから容易に解析できるようになりました.今後の展望今後は外側膝状体,上丘だけでなく,より高次の視皮質の障害を詳しく検討することで,緑内障の中枢神経障害を視覚路の中枢神経全般にわたって詳細に解析できます.これらの神経細胞の障害のメカニズムの解明を進めることで,緑内障での神経障害抑制の手がかりをつかめる可能性があります.そしてこれらの知見から,これまで眼圧下降だけが唯一の選択肢であった緑内障治療において,中枢神経の保護をターゲットとする異なったアプローチによる新しい治療法の開発が期待できます.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20042)YucelYH,ZhangQ,WeinrebRNetal:E.ectsofretinalganglioncelllossonmagno-,parvo-,koniocellularpath-waysinthelateralgeniculatenucleusandvisualcortexinglaucoma.ProgRetinEyeResC22:465-481,C20033)FujishiroCT,CKawasakiCH,CAiharaCMCetal:EstablishmentCofCanCexperimentalCferretCocularChypertensionCmodelCforCtheCanalysisCofCcentralCvisualCpathwayCdamage.CSciCRepC4:6501,C2014図1右眼を高眼圧にしたフェレットの脳幹写真LGN:外側膝状体,SC:上丘,OH:高眼圧.左側:Normalフェレットの色素の分布.右眼に赤色素,左眼に緑色素を注入した.中枢神経では,交叉するため,左のCLGN,SCには赤色素が投射さて,右のCLGN,SCには緑色素が投射される.両側ともに色素の減弱はなく,正常に投射が行われている.右側:右眼を緑内障にしたフェレットの色素の分布.Normalフェレットと同様に右眼に赤色素,左眼に緑色素を注入した.右眼から投射される左のCLGN,SCにおいて赤色素の減弱がみられる一方で,左眼から投射される右のCLGN,SCにおいて緑色素はNormalフェレットと同様に投射され,減弱はみられない.以上から,眼球の緑内障の障害が高次の中枢であるCLGN,SCまで及んでいることが確認できた.(71)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C15190910-1810/18/\100/頁/JCOPY