網膜・硝子体:MedicalRetina加齢黄斑変性Retina-Vitreous:MedicalRetinaAge-RelatedMacularDegeneration大島裕司*石橋達朗**はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の治療は,光凝固による直接凝固の時代から2000年に入り,ベルテポルフィンを用いた光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)が開始され大きな変化が起きた.その後,2008年にペガプタニブ,2009年にラニビズマブが滲出型AMDの治療薬として認可され,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法の時代を迎えることとなった.2012年にはアフリベルセプトが登場し,今まで滲出型AMDに対してなしえなかった視力維持のみならず視力改善する症例も認められるようになり,現在では抗VEGF薬が治療の主流となっている.抗VEGF療法はペガプタニブの登場以来,約10年が経った.短期的には抗VEGF療法にて視力改善が得られた症例も少なくないが,その改善した視力を維持するためには頻回の投与が必要であることが次第に知られるようになり,現在は長期的な治療管理が新たな問題となってきている.また,病型によっては抗VEGF療法のみならず,PDTとの併用など治療方法の選択が拡大してきている.そして,既存の抗VEGF薬のみならず,新たな抗VEGF薬や,新たな分子ターゲット薬などが開発中である.本稿では,新しい潮流として滲出型AMDの長期的な治療マネージメントや新しい治療薬や治療法の選択について解説する.I滲出型加齢黄斑変性の長期治療マネ-ジメント1.Reactiveによるアプローチ滲出型AMDの治療は,2008年のペガプタニブ,2009年ラニビズマブの認可後,抗VEGF療法が主流となっていることはいうまでもない.滲出型AMDに対する抗VEGF療法は,毎月1回の投与を3回連続で行い(導入期),その後の期間を維持期とよんで治療を行う.わが国のラニビズマブの維持期における再投与ガイドラインでは,維持期においては症状の悪化を認めた場合に投与を行うこととなっている.再投与の基準は,ETDRS視力で5文字以上の悪化を認めた場合と網膜病態が悪化した場合である.この方法は必要時投与(prorenata:PRN)法とよばれ,広く臨床の現場で使用されるようになった.しかし,この方法では,導入期に得られた視力を長期に維持することは困難であることが次第に知られるようになった.滲出型AMDに対してラニビズマブを用いた大規模臨床試験であるMARINA試験1),ANCHOR試験2)では,ラニビズマブを毎月,2年間固定投与を行い,視力の改善維持が得られている.2年間の試験終了後,実臨床下において治療を受けた登録患者の平均視力は徐々に悪化がみられ,試験開始から7年後には治療開始前のベースライン視力より8.6文字悪化したと報告されている(SEVEN-UPStudy)3).筆者らのラニビズマブ*YujiOshima:福岡大学筑紫病院眼科,九州大学大学院医学研究院眼科学分野**TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕大島裕司:〒818-8502福岡県筑紫野市俗明院1-1-1福岡大学筑紫病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(35)35BCVA変化(logMAR)-0.3-0.2-0.100.10.20.3Time(month)p<0.0001*図1実臨床における必要時投与法を用いた滲出型加齢黄斑変性の平均視力変化(自験例)滲出型加齢黄斑変性に対して,導入期毎月連続3回,維持期は必要時にラニビズマブ投与を行った(PRN法).導入期終了後に改善した視力は徐々に低下し,24カ月後には治療前とほぼ同等となった.36.60カ月後にはさらに低下,治療前に比して有意に悪化した.03691215182124273033363942454851545760治療前(0.4)12W(1.0)16W168W(1.0)68W194W(0.7)(1.0)(1.0)180W(0.7)(1.0)(1.0)(1.0)(0.7)24W84W32W100W16週間隔3回投与後206W(1.0)42W投与中断期間(1.2)54W218W(1.0)156W(1.2)(0.8)図2滲出型加齢黄斑変性に対してTreatandExtend法で治療を行った症例77歳,男性.治療前視力はC0.4,中心窩下にCclassic型の脈絡膜新生血管(CNV)およびその周囲に漿液性網膜.離を認め,アフリベルセプトを用いて治療を開始した.導入期終了後,滲出はドライになり視力はC1.0に改善した.TreatCandCextend法にて治療を行い,100週後にはC16週間隔で連続C3回投与を行い病態が安定化したと考え治療を中断し,モニタリングのみに移行した.その後C56週間は治療なしで経過観察を行ったが,156週に網膜下出血,視力はC0.8へ低下,再燃と考え,再度治療をCtreatandextendで開始した.218週で視力C1.2である(治療回数:1年目C7回,2年目C3回,3年目C1回,4年目C3回,5年目C3回).BCVA変化(logMAR)-0.3-0.2-0.100.10369121518212427303336Time(month)(*p<0.05pairedt-test)図3実臨床におけるTreatandExtend法を用いた滲出型加齢黄斑変性の平均視力変化(自験例)滲出型加齢黄斑変性に対して,導入期毎月連続C3回,維持期はCtreatandextend法にてアフリベルセプト投与を行った.導入期後に改善した視力はC36カ月後までほぼ維持でき,治療前と比較して有意に視力改善していた.比較した大規模臨床試験であるCEVEREST試験では,6カ月後のポリープ退縮率が併用療法でC77.8%,PDT単独でC71.4%,ラニビズマブ単独でC28.6%とCPDTが治療に組み入れられると有意であったと報告している13).その後にCEVERESTII試験として,PDTとラニビズマブ併用群とラニビズマブ群の比較試験が行われ,1年成績が発表されている.1年後のポリープ退縮率は有意に併用群が高いだけでなく(併用群C69.3%,ラニビズマブ群34.7%),視力改善率も併用群が高かったと報告している(併用群C8.3文字,ラニビズマブ群C5.1文字)14).Matumiyaらはアフリベルセプト併用したCPDT治療C1年経過を検討し,視力および中心窩網膜厚は有意改善したと,その有効性を報告している(ポリープ閉塞率C78%)15).このように副作用リスクの減少,解剖学的,機能的改善が得られ,硝子体注射の治療回数を短期的に減少させることができることが明らかとなり,PCVに対するCPDTと抗CVEGF併用療法が見直されてきている.しかし,まだ短期的な成績報告が多く,長期にわたっての有効性および安全性が不明であるため,今後さらなる検討が必要であると考える.C2.抗VEGF単独療法ラニビズマブの認可以来,PCVに対しても抗CVEGF療法が多く行われるようになった.しかし,ラニビズマブを用いた単独治療では滲出を減少させるが,ポリープ状病巣の退縮に関してはCPDTに比べて劣ることが知られている.Hikichiらは,ラニビズマブを導入期C3回投与後,PRN法にて経過観察を行った前向き研究結果を報告している.それによるとC1年後にC94%で視力改善維持が得られるが,ポリープ閉塞率はC40%,異常血管網閉塞はなく,平均治療回数はC4.2回であった16).アフリベルセプトが認可されたC2012年以降,PCVに対してもアフリベルセプトを用いた単独治療が多く行われるようになった.多くの施設からその有効性が報告され,ラニビズマブ同様に滲出を減少させるだけでなく,ポリープ状病巣の退縮率が高率であった17,18).筆者らは,PCVに対してアフリベルセプト単独療法を多施設共同,前向き研究で行った(APOLLOCstudy).アフリベルセプトを導入期C3回投与後,2カ月毎の固定投与を行い,1年後の治療効果を検討した.1年後にはC97.6%の症例で視力改善維持が得られ,ポリープ退縮率はC72.5%,drymacula率はC78.1%と高率であった19).アフリベルセプト導入期治療後にレスキュー治療としてCPDTを併用した大規模臨床試験としてCPLANET試験が行われた.そのC1年結果は,97%以上の症例で視力改善維持が得られ,81%以上の症例でポリープの活動性が認められなかったというものであった.しかもC85%以上の症例でPDTによるレスキュー治療が必要なく,アフリベルセプト単独療法が可能であったと報告されている.これらのことより,PCVに対する抗CVEGF療法は現時点ではアフリベルセプトが第一選択であると考える.しかし,まだ長期的な効果や安全性の評価は不明であり,今後検討が必要であると考える(図4).CIII開発中の新しい薬剤現在,加齢黄斑変性に対する新しい治療が数多く開発中である.VEGFをターゲットとする新しい薬剤や新たなる分子をターゲットとした薬剤,VEGFを標的とした遺伝子治療,新しいドラッグデリバリーシステムなどである.そのなかで臨床応用が近いと考えられる新しい抗CVEGF薬について紹介する.C1.Brolucizumab(RTH258)Brolucizumab(RTH258)は,VEGF-Aを阻害する分子量約C26kDaのヒト化C1本鎖抗体(scFV)断片である.Brolucizumabはアフリベルセプトと同程度のCVEGF親和性およびレセプター結合阻害作用を有し,FC領域をもたず,分子量が小さい.そのため,他剤に比して臨床用量でアフリベルセプトのC11.13倍,ラニビズマブの22倍高いモル濃度で使用することが可能であり,その効果が期待されている.海外で行われた第二相臨床試験では,アフリベルセプトを対照薬として効果が検討されている.導入期後,両剤ともC8週ごと固定投与をC32週まで行い,それ以降はアフリベルセプトC8週ごと投与を続行し,brolucizumabはC12週ごと投与を行い,52週においてCbrolucizumabの非劣性を報告している20).最近発表された第三相大規模臨床試験(HAWKandHARRIERstudy)では,維持(39)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C39治療前(0.8)3カ月後(1.5)1年後(1.2)2年後(1.2)3年後(1.2)図4ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対してアフリベルセプト単独療法を行った症例60歳,男性.治療前視力C0.8.中心窩下にポリープ状病巣と異常血管網,中心窩耳下側に出血性色素上皮.離を認めた.アフリベルセプト単独療法を導入期C3回の後,treatandextend法で施行した.3カ月後には色素上皮.離は縮小したがポリープ状病巣と異常血管網は残存,視力はC1.5に改善した.1年後にはポリープ状病巣は退縮,異常血管網は残存していた.3年後まで視力C1.2を維持している.治療回数はC1年目C8回,2年目C5回,3年目C4回(3年間合計C17回)であった.和性を有している.海外で行われた第一/二相臨床試験では,無治療の加齢黄斑変性患者を対象に安全性と効果が検討された.32名の対象患者は,abiciparpegol0.04.3.6CmgまでC1回硝子体投与されその後C16週まで経過観察された.その結果によるとC1.0CmgおよびC2Cmg投与では有意に中心窩網膜厚の改善と蛍光眼底造影による蛍光漏出の減少が認められている.しかし,高濃度になると有害事象として眼内炎が認められ(32人中C11人),さらなる検討が必要である21).現在,二つの第三相臨床試験(CedarandSequoiastudy)が行われているが,その結果が待たれる.おわりに滲出型CAMDの治療は抗CVEGF療法により大きく変革し,その良好な治療成績は広く認識され,現在では治療の第一選択となっている.しかし,治療効果を維持するためには継続的な加療が必要であり,患者および医療者の負担も増加している.より少ない治療回数で最大の効果を維持できるよう,既存の治療法の工夫や新たなる治療の開発が待たれるところである.いつまでも患者の視力を維持できるように,患者個々人の病態に合わせた治療を行っていく必要がある.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C20062)BrownCDM,CKaiserCPK,CMichelsCMCetCal:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.NEnglJMedC355:1432-1444,C20063)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearout-comesCinCranibizumab-treatedCpatientsCinCANCHOR,MARINA,CandCHORIZON:aCmulticenterCcohortCstudy(SEVEN-UP).OphthalmologyC120:2292-2299,C20134)PedenCMC,CSunerCIJ,CHammerCMECetCal:Long-termCout-comesineyesreceiving.xed-intervaldosingofanti-vas-cularendothelialgrowthfactoragentsforwetage-relatedmaculardegeneration.OphthalmologyC122:803-808,C20155)RayessCN,CHoustonCSKS,CGuptaCOPCetCal:TreatmentCout-comesCafterC3CyearsCinCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCusingCaCtreat-and-extendCregimen.CAmJOphthalmolC159:3-8,Ce1,C20156)KohCA,CLanzettaCP,CLeeCWKCetCal:RecommendedCguide-linesCforCuseCofCintravitrealCa.iberceptCwithCaCtreat-and-extendCregimenCforCtheCmanagementCofCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCinCtheCasia-paci.cCregion:Creportfromaconsensuspanel.AsiaPacJOphthalmol6:C296-302,C20177)MunkCMR,CArendtCP,CYuCSCetCal:TheCimpactCofCtheCvit-reomacularCinterfaceCinCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCinCaCtreat-and-extendCregimenCwithCexitCstrategy.OphthalmologyRetina1-7,C20178)FreundKB,KorobelnikJ-F,DevenyiRetal:Treat-and-extendregimenswithanti-VEGFagentsinretinaldiseas-es:aCliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C20159)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:ClinicalcharacteristicsofexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapaneseCpatients.AmJOphthalmol144:15-22,C200710)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamicCtherapyCinCage-relatedCmacularCdegenera-tionCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.OphthalmologyC115:141-146,C200811)KurashigeCY,COtaniCA,CSasaharaCMCetCal:Two-yearCresultsCofCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.AmCJOphthalmolC146:513-519,C200812)GomiF,SawaM,WakabayashiTetal:E.cacyofintra-vitrealbevacizumabcombinedwithphotodynamictherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CAJOPHTC150:C48-54,Ce1,C201013)KohCA,CLeeCWK,CChenCL-JCetCal:EVERESTCstudy:Ce.cacyCandCsafetyCofCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCorCaloneCversusCranibi-zumabCmonotherapyCinCpatientsCwithCsymptomaticCmacu-larCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CRetinaC32:1453-1464,C201214)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetCal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C201715)MatsumiyaCW,CHondaCS,COtsukaCKCetCal:One-yearCout-comeCofCcombinationCtherapyCwithCintravitrealCa.iberceptCandvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalcho-roidalCvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC1-8,C201616)HikichiCT,CHiguchiCM,CMatsushitaCTCetCal:One-yearCresultsCofCthreeCmonthlyCranibizumabCinjectionsCandCas-neededCreinjectionsCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.CAmCJCOphthalmolC154:117-124,C201217)YamamotoA,OkadaAA,KanoMetal:One-yearresultsofCintravitrealCa.iberceptCforCpolypoidalCchoroidalCvascu-lopathy.OphthalmologyC122:1866-1872,C201518)LeeCJE,CShinCJP,CKimCHWCetCal:E.cacyCofC.xed-dosingCa.iberceptCforCtreatingCpolypoidalCchoroidalCvasculopa-thy:1-yearCresultsCofCtheCVAULTCstudy.CGraefesCArch(41)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C41