連載⑦二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科7.平面と立体・乳児内斜視はじめに両眼視差による立体の認識には,平面を正しく認識することが必要である.両眼視差が0となる基準面(ホロプター)を定め,これをもとに視差を検出することで立体視が可能となる.両眼視の観点から本態性乳児内斜視の病状と治療について考える.平面と立体眼前に白い画用紙いっぱいに描かれた空飛ぶアンパンマンのイラストがあり,胸についた黄色の円形マークを両眼で固視しているとする.黄色い円は両眼の中心窩に,アンパンマン全身は網膜全体に映り,左右眼の像は融像*により平面的な絵として認識される.*融像とは,両眼網膜に映る同質の図形を中枢で融合させて単一の像として認識することである.正しく融像するためには,像が両眼の網膜に①鮮明に,②同じ大きさで,③中心窩を基準として同じ場所に同じ物が映っていることが必要である.それぞれを満たす条件として,①には白内障や角膜混濁など中間透光体の混濁がないこと,屈折異常や不同視がないこと,②には不同視により不等像視*のないこと,③には斜視のないことがあげられる.*不等像視とは,左右の網膜像の大きさに差が生じることで,7%を超えると両眼単一視不能となる.融像は周辺融像と中心融像に分けられる.周辺融像とは両眼の周辺網膜に映る像を融像することであり,アンパンマン全身像がこれにあたる.中心融像とは両眼中心窩に映る像を融像することで,胸の黄色マークがこれにあたる.左右眼の像がまったく同じとき,両眼視差は0で平面的な絵と認識される.視差0となる点の集合がホロプターであり,白い画用紙がこれにあたる.この面を基準にして,仮に絵の一部に交差性視差や同側性視差があれば,凸凹など立体視の認識が可能となる.平面は基本問題,立体は応用問題である(連載②③参照).視覚(71)の発育期には,周辺融像から中心融像へ,大まかな立体視(480~3,000秒)から精密な立体視(60秒未満)の可能な状態へと発達していく.中心融像可能=精密立体視可能=正常両眼視と考えられ,立体視検査から両眼視の状態を判断できる.60秒未満の小さな視差を検出するには,まず60秒より高い精度で眼位を整える必要がある.そのためには,中心窩に映る像の感覚的な融像だけでなく,正しい位置に両眼を動かす運動性融像の力が必要となる.正常両眼視をもつ大人でも①②③を妨げる要因があると両眼視が困難になるが,発育途上で同じことが起こると,視力や両眼視の発育まで阻害される.①②③を満たす視覚刺激が両眼から後頭葉に伝えられることで,後頭葉第一次視覚野(以下,V1)やそれより上位の中枢に存在する両眼視細胞が正しく育つ.両眼視細胞とは両眼からの情報を統合する細胞で,視覚情報が網膜→外側膝状体へと進むなか,V1で初めて登場する.①②③の一つでも異常をきたし正しい視覚刺激が届かないと,片眼からの刺激にしか反応しないなど,両眼の情報を統合できなくなってしまう.本態性乳児内斜視本態性乳児内斜視は,生まれてから半年までの間に大角度の内斜視を起こす病気であり,治療をしないと両眼視機能が育たない.図1に示すような特徴をもつ1).この病気に対して斜視手術が初めて行われたのは1950年代後半である.乳幼児の手術には全身麻酔が必要だが,麻酔方法の進歩や手術自体の進歩によって可能となり,世界中で多くの手術が行われた.1980年代に入り,2歳までの手術は両眼視機能の獲得に有効であると確認された.手術で眼位を整え,両眼で同じ像を見ることによって,V1にある両眼視細胞が育つことがわかったのもこの頃である.本態性乳児内斜視に対して2歳までに手術を行うことが長らく治療の基準となっていた.しかし,手術をして経過良好でも,周辺融像しか得られず,中心融像の獲得はむずかしかった.1994年Wrightらが生後6カ月以内に手術を行った症例のなかに精密立体視獲得の良好例を認めたと報告してから,生後6カ月以内の超早期手術が検討されるようになった.2歳までの手術より統計学的に良好な立体視が得られ,現在,治療の選択肢の一つとなっている2).ただし注意点がある.早期に発症した内斜視の自然寛解例がかなりの頻度で存在するのである.2002年PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroupが,生後4~20週までに20Δ以上の内斜視を発症した170例のうち,27%が保存的治療のみで自然寛解したと報告した3).この割合はかなり高く,自然寛解の可能性のある症例を超早期手術の対象にしないよう以下の条件が定められている.①発症が生後6カ月未満であること,②斜視角が変動せず,40Δ以上であること,③屈折異常が+3.00D以下であること,である.図2は筆者が経験した早期発症内斜視の自然寛解例の経過写真である4).このような例を超早期手術の対象に入れないよう注意が必要である.文献1)中川喬:内斜視.視能矯正学改訂第2版(丸尾敏夫,粟屋忍編),p256-265,金原出版,19982)矢ヶ崎悌司:両眼視機能の発達と内斜視の早期手術.あたらしい眼科23:11-18,20063)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Spontaneousresolutionofearly-onsetesotropia:Experienceofthecongenitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthalmol133:102-108,20024)雲井弥生,鍋島文代,向田佐恵ほか:早期に内斜視を発症した先天性両側性上斜筋麻痺の両眼視機能予後.眼臨紀2:505-511,2009(71)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617490910-1810/16/\100/頁/JCOPY①生後6カ月以内の発症②大きな斜視角変動は少ない③見かけ上の外転制限(人形の眼試験は正常)④交差固視内転眼で正中越しに反対側を見る.(左方視は右眼で,右方視は左眼で)⑤上下偏位や眼振の合併が多い下斜筋過動症交代性上斜位:視覚入力の減少により上斜図1本態性乳児内斜視の特徴図2自然寛解する早期発症内斜視a:生後6カ月.b:生後9カ月.c:1歳4カ月.d:3歳.生後6カ月に35Δの左内斜視と左への頭部傾斜を認めた.その後,斜視角は変動しながら減少し,1歳10カ月には内斜位への移行を認めた.両眼S+2.50Dの遠視と先天性両眼性上斜筋麻痺の合併を認めた.(文献4より許可を得て改変)1750あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(72