《原著》あたらしい眼科33(12):1769?1773,2016c全層角膜移植後に発症したAbiotrophiadefectiva感染による角膜潰瘍の1例林寺健森洋斉子島良平野口ゆかり加藤美千代岩崎琢也宮田和典宮田眼科病院ACaseofCornealUlcerwithAbiotrophiadefectivaInfectionafterPenetratingKeratoplastyTakeshiHayashidera,YosaiMori,RyoheiNejima,YukariNoguchi,MichiyoKato,TakuyaIwasakiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital口腔内常在菌の一つで,感染性心内膜炎の主要起因菌Abiotrophiadefectiva(以下,A.defectiva)が分離された移植角膜潰瘍の1例を報告する.13年前に右眼の全層角膜移植を受けた84歳の女性が右眼の疼痛を主訴として来院し,移植角膜の上皮欠損と羽毛状浸潤,前房内炎症と結膜充血を認めた.病巣擦過標本では多数のグラム陽性球菌を検出し,培養検査ではレボフロキサシン耐性,セフメノキシム,クロラムフェニコール感受性を示すA.defectivaが分離された.感受性を示した抗菌薬投与により,角膜病変は徐々に縮小し,3カ月後に石灰化とともに治癒した.本例は日本で最初のA.defectivaによる角膜潰瘍の報告例である.本菌の分離は通常培養ではかなり困難であり,角膜潰瘍の細菌分離陰性例では起因菌の一つとして考慮する必要性がある.本症例の特徴として,ステロイド点眼中の移植角膜片の発症,真菌性角膜炎に類似,緩徐な病原体増殖があげられる.普段みられないような細隙灯顕微鏡所見を示す角膜炎例では,通常の細菌培養では見落とされやすい細菌感染の可能性を考慮した細菌学的検査を実施し,適切な抗菌薬を選択することが大切である.Abiotrophiadefectiva(A.defectiva)isknowntobeoneoftheimportantpathogenscausingendocarditis.WereporthereacaseofcornealulcercausedbyA.defectivaafterpenetratingkeratoplasty(PKP).An84-year-oldfemalecomplainedofapainfultransplantedeye13yearsafterPKP.Slit-lampexaminationrevealedcornealulcerswithconsolidatedplaquewithfuzzymargin,cellinfiltrationintheanteriorchamberandconjunctivalinjection.NumerousGram-positivecocciweredetectedinthesmearscrapedfromthecorneallesion.Levofloxacin-resistantA.defectivawasisolatedfromthelesion.Withtopicalinstillationofcefmenoximeandchloramphenicol,thecornealulcerhealedcompletelywithin3months.ThisisthefirstcaseofcornealulcerbyA.defectivainJapan.BacteriologicalexaminationisimportantinobtainingagoodprognosisinAbiotrophiakeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(12):1769?1773,2016〕Keywords:Abiotrophiadefectiva,角膜潰瘍,全層角膜移植,薬剤感受性.Abiotrophiadefectiva,cornealulcer,penetratingkeratoplasty,antibiogram.はじめにAbiotrophiadefectivaは普遍的な口腔内常在菌で,その形状は連鎖球菌に類似し,栄養素としてピリドキソールあるいはL-システインを要求するグラム陽性球菌である.1961年に,心内膜炎検体の細菌分離を試みていた培地上に,細菌集落の周囲に衛星状に発育する菌として発見され1),栄養要求性連鎖球菌(nutritionallyvariantStreptococcus:NVS)とよばれた2).NVSの多様性が1990年前後に明らかにされ,StreptococcusdefectivusとStreptococcusadiacensに区別され3),1995年には16SribosomalRNAの遺伝子解析に基づき,Streptococcusとは属が異なり,栄養素欠損を意味するAbiotrophia属に分類され,A.defectivaとA.adiacensに改名された4).その後,A.adiacensはA.balaenopteraeとA.elegansとともにGranulicatella属に区別され,Abiotrophiaに属する細菌はA.defectivaのみとなっている.このように,本菌の発見が1990年代以降で,かつ名称・分類上の位置の変遷もあったため,日常臨床では認知度が低く,かつ菌種の分離・同定がむずかしい細菌である.しかし,ヒトの感染性心内膜炎の起炎菌として非常に重要な位置を占め,心内膜炎以外の病原性も解明されつつある.眼科領域におけるNVS/A.defectiva感染は結膜炎5)や角膜炎6,7),白内障術後眼内炎8)などが数例報告されている.しかし,わが国ではこれまで報告がない.今回,全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)から13年後に移植角膜に潰瘍が生じ,同部よりA.defectivaを分離した1例を経験したので報告する.I症例患者:84歳,女性.主訴:右眼疼痛.現病歴:幼少時より両眼は視力不良であった.50歳時に当院初診となり,両眼に原因不明の角膜白斑と白内障を認め,同年,両眼の白内障手術を行っている.角膜白斑に対しては,72歳のとき,右眼にPKPを行い,翌年に左眼のPKPを施行した.術後は0.1%フルオロメトロン点眼1日4回を継続使用し,経過観察していた.術前の矯正視力は両眼ともに0.1であったが,術後の矯正視力は両眼ともに(0.2?0.4)程度で推移し,経過は良好であった.しかし,PKP術後13年目に,3日前からの右眼の疼痛を訴えて,当院を受診した.眼科所見:視力は右眼0.02(矯正不能),左眼0.15(0.4×sph+4.0D),眼圧は右眼測定不能,左眼13mmHg,中心角膜厚は右眼583μm,左眼481μm,角膜内皮細胞密度は右眼測定不能,左眼818cells/mm2であった.細隙灯顕微鏡では右眼の結膜充血,角膜移植片に限局した羽毛状角膜浸潤,浸潤部位からホスト角膜にかけての角膜上皮欠損,帯状角膜変性(図1a~c),角膜実質浮腫,Descemet膜皺襞,前房内炎症を認めた.前眼部三次元光干渉断層計では,角膜実質浅層から中層にかけての高輝度領域(図2)を検出した.左眼には急性変化は認められなかった.両眼ともに無水晶体で,右眼の眼底は透見不良で,左眼には網脈絡膜萎縮を認めた.経過:角膜擦過物の塗抹検鏡で,真菌は検出されず,グラム陽性球菌(図1d)を多数検出したことより,グラム陽性球菌による角膜潰瘍と診断し,0.1%フルオロメトロン点眼を中止し,モキシフロキサシン(MFLX),セフメノキシム(CMX)点眼1時間毎,オフロキサシン眼軟膏1回/日,ホスホマイシン,アスポキシシリン静注2g/日を開始した.浸潤巣は少しずつ縮小し,治療後11日目に抗菌薬の静注を中止した.治療開始後15日目に,表1の条件での細菌培養でA.defectivaが分離された.感受性検査では表2のようにレボフロキサシンを含めた広域の耐性を認め,注射用セファロスポリン系,クリンダマイシン,クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン,メロペネムなどに感受性を示した.抗生物質の点眼を,MFLXを中止し,CPとCMXに変更したところ,浸潤巣はさらに縮小した.その後,抗菌薬の点眼を漸減し(治療後29日目CMX,CP点眼2時間毎,56日目6回/日,65日目4回/日),治療後79日目に浸潤巣は消失し,石灰化とともに治癒に至った(図1e).II考按本症例はPKP後のステロイド点眼中に角膜に羽毛状浸潤を生じたことより,当初真菌性角膜炎を疑ったが,角膜擦過検体に多数の連鎖球菌様のグラム陽性球菌を認めたため,細菌性角膜炎と診断し,抗菌薬の点眼・点滴治療を開始した.細菌培養でA.defectivaを分離し,invitroでこの菌に感受性を示した抗菌薬の点眼治療に変更し,角膜潰瘍は治癒に至っている.口腔内常在菌であるA.defectivaによる角膜潰瘍例として,infectiouscrystallinekeratopathy(ICK)7,9)や孤立性円形浸潤6)などが報告されている.ICKは角膜実質の樹枝状・結晶様混濁を特徴とし,周囲の炎症反応が少ない病態として,1983年に角膜移植後の1例が報告されている10).一方,孤立性円形浸潤は,コンタクトレンズ装用者の角膜に生じる明らかな潰瘍形成を伴わない細胞浸潤を主体とする円形病巣として報告されている6).どちらの病巣も壊死性変化はなく,A.defectivaの病原性が強くないことを示唆している.また,この細菌は分離培地上における増殖も緩徐で,コロニーも非常に小さいことより2),角膜感染においても通常の細菌性角膜炎によりも進行がゆっくりで,炎症反応も弱く,真菌性角膜炎に類似した像を示す可能性がある.A.defectivaによる角膜感染の報告数が少なく,今後,多数例を集積することにより,臨床像が確立することが期待される.臨床所見からこの感染を推測することは困難であり,細菌学的検査が必須である.不適切な抗菌薬の使用を避けるため,薬剤感受性を確認し,適切な抗菌薬を選択することは重要である.これまで報告されているA.defectivaの分離株の抗菌薬感受性検査では,ペニシリン系抗菌薬に対する耐性が報告されている11).今回分離されたA.defectivaも多くの抗菌薬に耐性を認めた.興味深いことに一般臨床で経口薬として使用されている抗菌薬に耐性で,静注薬として使用される抗菌薬に対しては感受性を示す傾向がみられた.A.defectivaの分離培養はむずかしく,菌の培養が必要な抗菌薬感受性検査も不安定で,抗菌薬感受性(アンチバイオグラム)も一定な傾向〔別刷請求先〕林寺健:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:TakeshiHayashidera,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(91)17691770あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(92)