特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1101?1106,2016ソフト系多焦点コンタクトレンズの種類とデザイン(頻回交換タイプ)KindsandDesignsofFrequentReplacementMultifocalSoftContactLenses東原尚代*はじめに1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)や頻回交換SCLが普及し,わが国のSCL装用人口は1,800万人と推定されている.日本は諸外国に比較して多焦点SCL処方の割合がまだ低いものの,少しずつ処方は増加しており,高齢化社会に伴って今後さらに多焦点SCLの需要が高まると考えられる.近年,各種メーカーからさまざまな素材やデザインの多焦点SCLが発売され,処方の選択肢が増えた.多焦点SCL処方の成功の鍵は,上手く適応を見きわめながらレンズの種類や特性をよく理解して処方すること,眼科医が処方経験を積み患者が不具合を訴えたときに上手く対処する術を習得することといえる.本稿では,頻回交換タイプの多焦点SCLの種類とデザインについて解説する.I多焦点SCLの種類多焦点SCLの種類は素材から,従来の含水性レンズ(ハイドロゲルレンズ)と,ハイドロゲル素材にシリコーンを共重合させ高い酸素透過性を有するシリコーンハイドロゲルレンズの2種類に分けられる.この数年,相次いで発売された頻回交換タイプの多焦点SCLはすべてシリコーンハイドロゲルレンズであり,涙液の量と質が変化する老視世代には,ドライアイ症状によるドロップアウトを減らすためにSCL素材にも注意したい.遠近両用SCLの光学的機能はすべて同時視型で,レンズの光学部デザインから二重焦点と累進屈折力に分類される.一般に,二重焦点レンズは遠用光学部と近用光学部の境界で屈折が変化するので,視線が境界部にかかるとプリズム作用で像のジャンプが生じやすく1),とくにセンタリング不良の場合には適応になりにくい2).二重焦点SCLの代表であった2ウィークアキュビューRバイフォーカルは2015年6月に販売終了となり,現在わが国で処方できる頻回交換タイプの多焦点SCLはすべて累進屈折力となった.累進屈折力SCLは中心が遠用で周辺が近用タイプと,中心が近用で周辺が遠用タイプのに大別され,中心から周辺にかけて度数が連続的に変化するため,遠方から中間,近方まで境目のない自然な見え方が得られやすい.メーカーやレンズの種類によって光学デザインや加入度数の違いがあるが,遠方と近方の像が網膜に同時に結像する同時視型ゆえに,単焦点SCLと比較してコントラスト感度は低下し,少し像全体が暗く見えるとされる3).また,近用光学部の加入度数が高くなるほど遠方の見え方の質は落ちやすい.しかし,片眼ではそのような傾向があっても両眼視であれば単焦点SCLに比較しても遠方,近方ともに視力は良好で満足度も高いとされ,年齢を問わず低い加入度数からトライアルレンズを選択することが推奨されている4).トライアルレンズの度数選択,遠方あるいは近方が見えにくかった場合の度数調整など処方手順はメーカーによって多少異なり,具体的な対処法は症例提示の項を参照されたい.II各種メーカー別の多焦点SCL1.種類現在,日本で処方できる頻回交換タイプの多焦点SCLを表1にまとめた.素材,光学特性によって色々な区分ができるが,やはりメーカーごとに製品の特徴やこだわりがある.ここではメーカー別に多焦点SCLの特徴を解説する.2.株式会社メニコンの多焦点SCL通常のSCLは角膜上ではやや耳下側に安定する傾向があるうえ,生理的に瞳孔がわずかに鼻側へ編位しているため,光学部に複数の度数を配列する遠近両用レンズでは視機能に影響しうる(図1).メニコンでは,光学中心と固視点と瞳孔中心を結ぶ線(照準線)5)を一致させた照準線共軸型の多焦点SCL(メニフォーカルソフトSR)の流れをくみ,現在はこの光学デザインで頻回交換タイプが発売されている.ハイドロゲル素材の「2WEEKメニコン遠近両用」,「2WEEKメニコンDUO」と,シリコーンハイドロゲル素材の「2WEEKメニコンプレミオ」である.加入度数は2WEEKメニコン遠近両用で+2.5D,2WEEKメニコンプレミオはLOWデザイン(ADD+1.0D)とHIデザイン(ADD+2.0D)が揃う.2WEEKメニコンDUOは,パソコンやスマートフォンなど長時間手元を見続ける現代人の目の疲労を軽減するというコンセプトで開発された低加入度数(+0.5D)のSCLで,比較的若く近業に従事する患者が適応となる.また,若いうちからこういったレンズを装用することで,老視年齢に達したときに多焦点SCLへの移行がスムーズになりやすい.照準線共軸型はセンタリングが重要で,回転を防止しながら安定した視界を得るため,2WEEKメニコン遠近両用とプレミオのHIデザインはダブルスラブオフ形状となっている(図2).メニコンプレミオのDk/Lは161で裸眼と変わらないくらいの酸素透過率を誇る.3.ボシュロム・ジャパン株式会社の多焦点SCLボシュロムの多焦点SCLは,すべて中心が近用光学部,周辺が遠用光学部の累進屈折力レンズである.「ボシュロムメダリストマルチフォーカル」はハイドロゲル素材の低含水・非イオン性のグループIに属するレンズで,加入度数が+1.50D(LowADD)と+2.50D(HighADD)がある.両者ともレンズ周辺から中心に向かってプラス度数が徐々に増加するが,HighADDのほうが中心部のプラス度数が高いために移行部が狭くなっている(図3).中心厚は?3.0Dで0.10mmとやや厚く,レンズ径は14.5mm,ベースカーブは8.7mmと9.0mmの2種類がある.レンズ前面は非球面設計でレンズ後面は球面設計となっている.単焦点SCLによるモノビジョン法とボシュロムメダリストマルチフォーカルによる老視矯正を比較した臨床試験において,ボシュロムメダリストマルチフォーカルはローコントラスト視力で単焦点SCLモノビジョン法より低下したものの,アンケート調査では76%の被験者が単焦点モノビジョン法よりもよい老視矯正法だと評価し6),多焦点SCLのなかで今も人気がある.その後にシリコーンハイドロゲル素材の「ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル」が登場した.メダリストマルチフォーカルの光学デザインと類似した設計で,中心厚は0.09mm,balafilconAの素材からなる.従来素材のSCLに比較して少し硬さがあるが,臨床試験では硬い素材であってもSEALsの発生はわずかで,遠近ともに見え方は良好で満足度も高い評価が報告されている7).また,同じシリコーンハイドロゲル素材で低含水イオン性(グループIII)の「メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト」は,それまでのボシュロム製品に比べて遠方の見え方を改善する目的で近用中心ゾーンを縮小し,中間ゾーンをより幅広く設計することで,クリアな視界と実用的な見え方が得られるようになった(図4).筆者が処方した印象では,手元が見やすいのはもちろんのこと,遠方の見え方も悪くなく,とくに中間距離の安定した見え方が期待できパソコンなどに従事する比較的若い層からも評判がよい.4.日本アルコン株式会社の多焦点SCLシリコーンハイドロゲルレンズである「エアオプティクスアクア遠近両用」がある.「プラズマサーフェステクノロジー」とよばれる表面処理でレンズ表面に架橋結合した親水性被膜を形成し,濡れ性を維持しながら脂質や蛋白質汚れの付着や沈着を防ぐのが特徴である.Dk/Lは138,含水率が33%,中心厚も0.08mmと比較的薄く,長時間装用しても乾燥しにくい.ベースカーブは8.6mmの1種類で,レンズ径は14.2mm,プレシジョン・プロファイル・デザインといわれる累進構造で,レンズ中心部から近用,中間部,遠用の光学配列で手元から遠方まで瞬時にかつスムーズに焦点が合うように設計されている(図5).ほかの多焦点SCLとの違いは,遠視,近視度数は?0.25Dステップの製作範囲で,きめ細かな度数調整が可能な点だ.加入度数はLO(+1.00D),MED(+2.00D),HI(+2.50D)がある.保存液中には浸水成分が配合され,良好な初期装用感が期待できる.5.クーパービジョン・ジャパン株式会社の多焦点SCL「バイオフィニティーマルチフォーカル」は中心遠用(球面設計),周辺近用(球面設計)で中間移行部が非球面設計になったシリコーンハイドロゲル素材の累進屈折力レンズである(図6).クーパービジョンの1日使い捨て遠近両用SCLである「プロクリアーワンデーマルチフォーカル」とは光学特性が逆であるが,臨床試験では両者はともに遠方から中間の見え方は同等に優れていることが示された(第68回日本臨床眼科学会モーニングセミナー).ベースカーブは8.6mmの1種類で,レンズ径は14.0mmである.当初,度数は+5.0D~?6.0Dの製作範囲は0.25Dステップ,?6.5D~?8.0Dまでは0.50Dステップであったが,2015年から遠視が+8.50Dから,近視は?10.0Dまでに拡張された.中心厚は0.10mmとやや厚いが,球結膜への摩擦を軽減し,レンズ表裏面へ涙液の分布を容易にする丸く滑らかなレンズエッジデザインが特徴である.加入度数は+1.0Dと+1.5Dの2種類があり,臨床試験ではほとんどは低加入度数で良好な視力が得られていた.6.株式会社シードの多焦点SCL「シード2weekPureマルチステージ」はハイドロゲル素材のイオン性高含水レンズ(グループIV)である.生体適合性の高い両イオン素材で,高含水レンズでありながら薬剤の影響を受けにくく汚れの付着も少ないのが特徴である.また,白内障や日焼けの予防効果が期待できる紫外線カット機能をもつ.光学特性は中心遠用,中間部,周辺近用の累進構造である(図7).ベースカーブは8.6mm,レンズ径は14.2mm,+5.0D~+0.5Dは0.25Dステップ,?0.50D~?6.00Dも0.25Dステップと細かな度数設定,?6.5Dからは0.50Dステップになるが,?10.0Dまでと最強度近視まで対応が可能である.加入度数は+0.75Dと+1.5Dと低加入度数が2種類あり,比較的若い年代からも使用できる.SCLには2カ所に大きくレンズマークが記され表裏の確認がしやすいだけでなく,ブリスターパックの文字も大きく印字されて老視世代に優しい配慮がなされている(図8).おわりに頻回交換タイプの多焦点SCLについて解説した.近年の多焦点SCLは性能が向上し,中間から遠方の見え方も改善している.また,処方手順も簡便になり,初心者でも処方しやすくなった.患者にとってベストな多焦点SCLを選択できるよう,各種メーカーの光学デザインや特性をふまえることが大切である.文献1)曲谷久雄:老視用コンタクトレンズの再検討.あたらしい眼科9:1829-1836,19922)塩谷浩:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法.あたらしい眼科24:711-716,20073)植田喜一,佐藤里沙,柳井亮二ほか:デザインの異なる遠近両用ソフトコンタクトレンズのコントラスト視力.日コレ誌44:211-215,20024)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科30:1363-1368,20135)櫻井寿也,原嘉明,魚里博ほか:照準線共軸型バイフォーカルコンタクトレンズによる視力.日コレ誌38:19-22,19966)RichdaleK,MitchellGL,ZadnikK:Comparisonofmultifocalandmonovisionsoftcontactlenscorrectionsinpatientswithlow-astigmaticpresbyopia.OptomVisSci83:266-273,20067)植田喜一,稲葉昌丸,梶田雅義ほか:2週間頻回交換遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズの臨床試験.あたらしい眼科28:1619-1627,2011*HisayoHigashihara:ひがしはら内科眼科クリニック,京都府立医科大学眼科〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13ひがしはら内科眼科クリニック図1照準線共軸型レンズの装用時のイメージ図(右眼の場合)(2WEEKメニコン遠近両用医家向け資料より転載)メ図ージ2図2WEEKメニコンプレミオ(上:LOWデザイン,下:HIデザイン)の光学デザインHIデザインはダブルスラブオフ形状でレンズマーク(▲)を鼻側に合わせて装用する.(2WEEKメニコンプレミオ医家向け資料より転載)表1日本で処方できる頻回交換タイプの多焦点SCLメーカー株式会社メニコンボシュロム・ジャパン株式会社日本アルコン株式会社クーパービジョン・ジャパン株式会社株式会社シード製品名2WEEKメニコン遠近両用2WEEKメニコンプレミオ遠近両用2WEEKメニコンDUOメダリストマルチフォーカルメダリストプレミアマルチフォーカルメダリストフレッシュフィットコンフォートモイストエアオプティクスアクア遠近両用バイオフィニティマルチフォーカル2weekPureマルチステージパッケージ外観構造中心から近・移行・遠用部光学中心偏心型(ディセンター)【Low】(基本)中心部に加入+1.50からゆるやかな累進移行部により遠用度数へ移行【High】中心部に加入+2.50のゾーンを広めにもち,累進移行部を経て遠用度数へ移行【Low】(基本)中心部に加入+1.50からゆるやかな累進移行部により遠用度数へ移行【High】中心部に加入+2.50のゾーンを広めにもち,累進移行部を経て遠用度数へ移行【Low】従来品より近用中心ゾーンを縮小し中間ゾーンをより幅広く設計【High】中心部に加入+2.50のゾーンを広めにもち,累進移行部を経て遠用度数へ移行プレシジョン・プロファイルデザイン中心近用→中間部→遠用の累進構造Low(基本)/Mid(近用より重視)の2種中心遠用→中間部→周辺近用の累進構造中心遠用→中間部→周辺近用の累進構造材質DMAA+NVPDMAA+ケイ素含有メタクリレート系化合物,ピロリドン系化合物DMAA+NVPPoly-HEMAbalafilconAbalafilconAlotrafilconBcomfilconAHEMA含水率72%40%72%39%36%36%33%48%58%BC(mm)8.68.68.68.7/9.08.68.68.68.68.6DIA(mm)14.514.214.514.514.014.014.214.014.2球面度数(D)?0.25~?10.005.00?6.00(0.25D間隔)?6.50D~?13.0D(0.50D間隔)?0.25~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?6.00D(0.25step)?6.50~?8.00D(0.50step)+5.00~?6.00(0.25step)?6.50~?10.00(0.50Step)加入度数+2.50+1.00,+2.50+0.5【Low】~+1.50D【High】~+2.50D【Low】~+1.50D【High】~+2.50D【Low】~+1.50D【High】~+2.50D【Low】+1.00D【Med】+2.00D+1.00,+1.50+0.75,+1.50中心厚(mm)(S?3.00)0.110.080.110.100.090.090.080.100.09Dk値34129349919111012830Dk/L値(S?3.00)31161319.510110113812833.3FDAグループグループIIグループIグループIIグループIグループIIIグループIIIグループIグループIグループIVUVカット*なしなしなしなしなしなしなしなしなしDk:×10?9(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)Dk/L:×10?11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)*Johnson&JohnsonVISIONCARE,INC.データより.図3メダリストマルチフォーカルの光学部デザイン(屈折力分布)左:加入度数+1.50D,右:加入度数;+2.50D.(ボシュロム・ジャパン株式会社より提供)図4ボシュロムメダリストフレッシュフィットコンフォートモイストの光学部デザインLowADDの屈折力分布と正面図(イメージ図).(ボシュロム・ジャパン株式会社より提供)図5エアオプティクスアクア遠近両用の光学部イメージ(医家向け文書からの転載)図6バイオフィニティーマルチフォーカルの光学特性バランスドプドグレッシブテクノロジーデザインとよばれる累進屈折力SCL.(クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供)図7シード2weekPureマルチステージの光学デザイン図8シード2weekPureマルチステージのSCLとブリスターパックの外観(シードHPより転載)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(19)11011102あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(20)(21)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611031104あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(22)図5エアオプティクスアクア遠近両用の光学部イメージ(医家向け文書からの転載)図6バイオフィニティーマルチフォーカルの光学特性バランスドプドグレッシブテクノロジーデザインとよばれる累進屈折力SCL.(クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供)図7シード2weekPureマルチステージの光学デザイン図8シード2weekPureマルチステージのSCLとブリスターパックの外観(シードHPより転載)*HisayoHigashihara:ひがしはら内科眼科クリニック,京都府立医科大学眼科〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13ひがしはら内科眼科クリニック0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(19)11011102あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(20)(21)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611031104あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(22)(23)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611051106あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(24)