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抗癌剤使用例におけるチューブ留置前後の角膜所見

2015年10月31日 土曜日

《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(10):1459.1462,2015c抗癌剤使用例におけるチューブ留置前後の角膜所見五嶋摩理*1,2亀井裕子*2三村達哉*2山本英理華*1尾碕憲子*1川口龍史*1村上喜三雄*1松原正男*2*1がん・感染症センター都立駒込病院眼科*2東京女子医科大学東医療センター眼科EffectofLacrimalTubeIntubationonCornealLesionsinChemotherapy-relatedLacrimalDrainageObstructionMariGoto1,2),YukoKamei2),TatsuyaMimura2),ErikaYamamoto1),NorikoOzaki1),TatsushiKawaguchi1),KimioMurakami1)andMasaoMatsubara2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanCancerandInfectiousDiseasesCenterKomagomeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast目的:抗癌剤のおもな眼合併症として,涙道閉塞と角膜障害が知られている.抗癌剤投与中に涙道閉塞と角膜障害を合併した症例に対し,導涙改善による角膜所見の変化を調べた.方法:抗癌剤開始後の涙道閉塞に対して涙管チューブ留置術を施行し,術後経過良好であった症例のうち,術前から角膜障害を認めた16例32側,年齢50.75歳について,術前後の角膜所見を比較検討した.結果:使用中のおもな抗癌剤は,S-1が13例,ドセタキセル,パクリタキセル,カペシタビンが各1例であった.チューブ留置後に角膜所見が改善した症例は,S-1投与例1例2側とカペシタビン投与例1例2側で,悪化した症例は,S-1投与例3例5側であった.角膜障害は,抗癌剤中止後,全例改善した.結論:抗癌剤による角膜障害は,チューブ留置後も悪化する可能性がある.Purpose:Toreportontheeffectofintubationoncorneallesionsinlacrimaldrainageobstructionassociatedwithchemotherapy.Method:Investigatedwere32sidesof16caseswithcorneallesionsandlacrimaldrainageobstructionrelatingtochemotherapythatunderwentsuccessfulintubation.Result:ThirteencaseswereassociatedwithS-1;theremainderwereassociatedwitheitherdocetaxel,paclitaxelorcapecitabin.Followingintubation,thecorneallesionsimprovedintwocases,oneeachwithS-1andcapecitabin,whereasthelesionsworsenedin5sidesof3casesreceivingS-1.Thecorneaimprovedinallcasesaftercessationofchemotherapy.Conclusion:Cornealsideeffectduringchemotherapymayworsenevenafterintubation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1459.1462,2015〕Keywords:抗癌剤,涙道閉塞,合併症,角膜障害,チューブ留置.chemotherapy,lacrimaldrainageobstruction,complication,corneallesion,tubeintubation.はじめにS-1は,5-FUのプロドラッグに5-FU分解阻害薬と消化器毒性軽減薬を配合した経口抗癌剤で,その有効性と簡便性から,消化器癌を中心に幅広く用いられている.一方で,S-1を中心とした抗癌剤の普及とともに,涙道閉塞や角膜障害などの眼副作用が指摘されているが1.8),涙道閉塞と角膜障害発生の因果関係は明らかでない.Christophidisらは,5-FU使用例における流涙症状は,涙液中の5-FU濃度と相関するものの,血清中の5-FU濃度とは相関しないことを報告しており6),このことから涙道閉塞例では5-FUが涙液中に貯留していることが示唆され,貯留した涙液を介して角膜障害が起こる可能性が考えられる.そこで,筆者らは,S-1を含めた抗癌剤投与例において,導涙障害改善による角膜障害の改善の有無を調べるため,涙管チューブ留置術を施行した症例における角膜所見の変化について検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒113-8677東京都文京区本駒込3-18-22がん・感染症センター都立駒込病院眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanCancerandInfectiousDiseasesCenterKomagomeHospital,3-18-22Honkomagome,Bunkyo-ku,Tokyo113-8677,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(87)1459 I対象および方法対象は,2011年3月.2014年1月に,抗癌剤開始後の流涙を主訴に東京女子医科大学東医療センターまたは都立駒込病院を受診した症例のうち,涙道閉塞ならびに角膜障害を認め,涙管チューブ留置後通水良好であった16例32側(男性9例18側,女性7例14側),年齢50.75(平均67.2±標準偏差7.0)歳で,いずれもチューブ留置後3カ月以上経過観察できた症例である.対象症例は,涙点拡張後,涙道内視鏡,五嶋式ブジー型涙管洗浄針または三宅式ブジーで閉塞部の開放を行い,涙管チューブを挿入留置した9).抗癌剤投与中はチューブ留置を継続し,抗癌剤終了後2カ月の時点でチューブを抜去した.経過中は,全例,2.4週ごとに通水洗浄し,角膜障害を含めた細隙灯顕微鏡所見を確認した.点眼薬は,基本的に,初診時から,全例で防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼を勧めたが,前医からの点眼継続希望例では,他剤使用可とした.また,チューブ留置後1カ月間は,0.1%フルオロメトロンと0.5%レボフロキサシン点眼を1日3回行った.抗癌剤の種類と投与期間,チューブ留置前の角膜所見,涙道閉塞の部位と程度,チューブ留置後の角膜所見,抗癌剤中止後の角膜所見について,診療録から後ろ向きに検討した.角膜所見は,フルオレセイン染色範囲により,A0(染色なし),A1(角膜下方のみ染色),A2(角膜中央まで染色)A3(角膜全体染色),A4(角膜潰瘍合併例)に分類した(図(,)1).II結果(表1)投与中のおもな抗癌剤は,S-1が13例26側で,受診までのS-1使用期間は1.10(4.6±3.1)カ月であった.その他の抗癌剤使用例は,いずれも1例2側ずつで,受診までの使用期間は,カペシタビンとパクリタキセルが8カ月,ドセタキセルが3カ月であった.チューブ留置前の角膜所見は,A1が22側,A2が6側,A3が4側で,全例左右差がなかった.涙道閉塞は,涙点狭窄が全例に認められた.涙小管閉塞は,総涙小管に限局したもの(矢部・鈴木分類でgrade1)が24側,涙点から7mm以降で閉塞したもの(同grade2)が8側であった.2側に鼻涙管上部の閉塞も認めた.涙.炎合併例はなかった.癌以外の全身合併症としては,糖尿病を2例に認め,角膜所見は,それぞれA2とA3であった.留置した涙管チューブは,LACRIFASTR(カネカメディックス,東京)12側,PFカテーテルR(東レ,東京)10側,ヌンチャク型シリコーンチューブR(カネカメディックス,東cbad図1角膜所見の分類(フルオレセイン染色)a:A1.角膜下方のみ染まる.b:A2.角膜中央まで染まる.c:A3.角膜全体が染まる.d:A4.角膜潰瘍を認める.1460あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(88) 表1症例と結果性別年齢抗癌剤投与涙小管鼻涙管留置前留置後中止後全身抗癌剤期間閉塞★閉塞チューブ#角膜所見角膜所見角膜所見点眼薬合併症(月)右/左右/左右/左右/左右/左71男S-17gr1/gr1なし/ありLFA3/A3A2/A2A1/A1ヒアルロン酸ナトリウム75男S-15gr2/gr2なしNSA3/A3A3/A3A0/A1ソフトサンテイア糖尿病65男S-17gr2/gr2なしNSA2/A2A2/A2A0/A0生理食塩水71男S-11gr1/gr1なしNSA1/A1A1/A1(投与中)レボカバスチン塩酸塩69男S-15gr1/gr1なしNSA1/A1A1/A1A0/A0ソフトサンテイア59男S-18gr1/gr1なしNSA2/A2A3/A4*A2/A2生理食塩水糖尿病72男S-110gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1A0/A0ヒアルロン酸ナトリウム(A2/A4*)レバミピド59男S-17gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1(投与中)ソフトサンテイア67男S-11gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1A0/A0ソフトサンテイア72女S-11gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1(投与中)ソフトサンテイア61女S-13gr1/gr1なしPFA1/A1A1/A1(投与中)ヒアルロン酸ナトリウム73女S-14gr1/gr1なしLFA1/A1A1/A1A0/A0ヒアルロン酸ナトリウム75女S-11gr1/gr1なし/ありLFA1/A1A1/A2(投与中)レバミピド72女ドセタキセル3gr2/gr2なしLFA1/A1A1/A1(投与中)生理食塩水64女パクリタキセル8gr1/gr1なしLFA1/A1A1/A1(投与中)レバミピド50女カペシタビン8gr2/gr2なしLFA2/A2A2/A1A0/A0生理食塩水★矢部・鈴木分類でのgrade,#LF:LACRIFASTR,NS:ヌンチャク型シリコーンチューブR,PF:PFカテーテルR,*全身状態悪化時,角膜所見の分類は図1参照.ab右眼左眼図2抗癌剤中止前後の角膜所見a:S-1投与中.両眼A3.b:S-1中止後3カ月.右眼A0,左眼A1.京)10側であった.チューブ留置後1カ月で,チューブのA2がA1となったカペシタビン投与例1例2側のみであっ種類にかかわらず,自覚症状(流涙)ならびに涙液メニスカた.角膜所見が悪化したのは,いずれもS-1投与例で,こス高が改善した.一方,角膜障害は20側で変化がなく,改のうち1例2側はA1からA2となり,2例4側で高度の貧善した症例は,A3がA2となったS-1投与例1例2側と,血と白血球減少を認めて全身状態が悪化した時期に,両眼(89)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151461 A1から右A2左A4,両眼A2から右A3左A4にそれぞれ悪化した.経過観察中に抗癌剤が中止できた症例は,9例18側で,中止後2カ月以降に全例角膜障害が改善した.S-1投与中,両側A3であった症例も,抗癌剤中止3カ月後には右A0左A1になった(図2).全身状態悪化時にA4となった2例も,抗癌剤中止後に角膜所見は改善し,1例は両眼A0となったが,もう1例は,角膜所見がA2まで改善後,永眠された.なお,抗癌剤が中止できた9例18側で,中止2カ月後に涙管チューブを抜去したが,抜去後流涙や角膜所見に変化を認める症例はなかった.経過中,継続使用した点眼薬は,人工涙液(生理食塩水またはソフトサンテイアR)が9例,ヒアルロン酸ナトリウムやレパミピドが6例で,アレルギー性結膜炎合併例1例にはレボカバスチン塩酸塩を使用した.角膜障害が悪化した3例は,人工涙液,ヒアルロン酸ナトリウムとレパミピド,レパミピドとそれぞれ異なる点眼薬を使用しており,角膜所見の変化と,使用した点眼薬との相関はみられなかった.III考按S-1は,5-FUプロドラッグを含む経口抗癌剤であり,涙道閉塞と角膜障害をはじめとした眼副作用が知られている1.5).抗癌剤による角膜障害の特徴としては,結膜充血や結膜上皮障害がなく,両眼性であることがあげられる.立花らは,S-1投与中の7例において,点状病巣,epithelialcracklineまたはハリケーン状,白色隆起病巣,半円状の白濁のいずれかの角膜障害を認めたとしている1).一方,柴原らは,S-1投与10例における点状表層角膜症を報告しており2),本例と同様の角膜所見であった.涙道閉塞治療による角膜障害の変化に関しては,これまで検討した報告はない.今回の検討で,導涙機能改善後も,抗癌剤中止がない場合は,角膜障害の軽減がみられなかった理由は明確でないが,全身状態悪化時に角膜潰瘍を合併した症例が2例認められ,全身状態回復とともに角膜所見も改善したこと,そして,本検討では,対象施設の性格上,癌進行例が多数含まれていたことから,免疫能低下のため,角膜の創傷治癒力が阻害されていた可能性が考えられる.さらに,A2とA3の角膜障害を認めた5例のうち,糖尿病合併例が2例含まれていたことから,糖尿病患者で抗癌剤を使用する際は,角膜障害に注意する必要があると考えた.今回,S-1と同様のピリミジン拮抗薬であるカペシタビンのほか,涙道閉塞の副作用報告のある微小管阻害薬であるパクリタキセル7)とドセタキセル8)も1例ずつ検討したが,角膜障害はいずれも軽症で,経過中の悪化はなかった.抗癌剤の種類による副作用発生機序の相違を含め,今後,症例数を増やして検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)立花敦子,稲田紀子,庄司純ほか:抗悪性腫瘍薬TS-1による角膜上皮障害の検討.眼科51:791-797,20092)柴原弘明,久世真悟,京兼隆典ほか:S-1療法により流涙がみられた症例における眼病変の検討.癌と化学療法37:1735-1739,20103)柏木広哉:抗がん剤による眼障害─眼部副作用─.癌と化学療法37:1639-1644,20104)SasakiT,MiyashitaH,MiyanagaTetal:Dacryoendoscopicobservationandincidenceofcanalicularobstruction/stenosisassociatedwithS-1,andoralanticancerdrug.JpnJOphthalmol56:214-218,20125)五嶋摩理:眼障害.改定版がん化学療法副作用対策ハンドブック(岡本るみ子,佐々木常雄編),羊土社,2015(印刷中)6)ChristophodisN,VajdaFJ,LucasIetal:Ocularsideeffectswith5-fluorouracil.AustNZJ-Med9:143-144,19797)SavarA,EsmaeliB:Upperandlowersystemnasolacrimalductstenosissecondarytopaclitaxel.OphthalPlastReconstrSurg25:418-419,20098)EsmaeliB,HidajiL,AdininRBetal:Blockageofthelacrimaldrainageapparatusasasideeffectofdocetaxeltherapy.Cancer98:504-507,20039)五嶋摩理:内視鏡を用いた鼻涙管手術.イラスト眼科手術シリーズV眼瞼・涙器手術(若倉雅登監修,山崎守成,川本潔編),p74-91,金原出版,2013***1462あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(90)

ブックレビュー:小出良平監修 『眼科エキスパートナーシング 改訂第2版』

2015年10月31日 土曜日

ブックレビューブックレビュー■小出良平監修『眼科エキスパートナーシング改訂第2版』(B5判,本文262頁,定価3,900円+税,ISBN978-4-524-26411-7/C3047,南江堂,2015年6月)私が勤めている眼科専門病院に他科より転職してくる看護師からは,面接の際に必ずといっていいほど「入職までに何を勉強してくればよいか」という質問がある.思い起こせば13年前,私も眼科に勤めるまでは10年間集中治療部に勤務し,眼科と耳鼻科以外の看護は経験したが,眼科については看護学生時代に学んだ記憶もほとんどなくゼロから始める状況であった.いくつか本を購入したが,眼科看護は他科よりもイメージすることがむずかしく,チーム医療における看護師の役割が何であるのかが具体的にわからず,とまどっていたことを今でも覚えている.本書は,そんな眼科看護を始めようとしている不安な看護師や,実習を控えて専門書を探しとまどっている看護学生の悩みを具体的に解決してくれる1冊である.以下にその理由を紹介する.1.視機能についてイメージしやすく,病気を理解しやすいカラー写真やイラストが豊富に掲載されているだけでなく,その構成や説明もイメージしやすい内容になっている.さらに,ポイントが明確でわかりやすいため,幅広く理解することができる.1章「眼の構造」で描かれている眼球の解剖のイラストは,あえて別々ではなく全体が表示されておりイメージしやすい.また,それぞれの部位の役割のポイントも明確なので,短時間で確認することができわかりやすい.病気についても視機能という視点で理解できるため,その障害により起こる病気は何であるかに結びつきやすい.結果,どのような視機能障害が起こり,患者さんが困る内容は何かというようにイメージでき,病気を覚えるのではなく,病気によって起こっている視機能障害は何であるかを結び付けて理解できる.2.眼科医療の進歩に即した検査および幅広い病気の内容を病態別に理解できる検査の項では視機能の評価内容はもとより,医療機関ごとでチーム医療としての看護師の役割も変わってくるため,実際に検査を行えるように検査方法についても丁1446あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015寧に解説されている.眼の病態の項では部位別に分けてポイント重視でまとめられており,カラー写真を含めた説明が非常にわかりやすい.この項はハンドブックにして持ち歩きたいほどだ.また,看護学生も対象として作られたテキストだけに,そのわかりやすさから患者説明用としても使用できる内容である.今回の改訂により,眼科医療の進歩に伴う幅広い病態が説明され,その点においては眼科看護のエキスパートにも必要な知識である.3.眼科専門の看護師をめざし明日より具体的に実践できる2章の「眼科看護の基礎技術」では,眼科看護の特徴・専門性や,視機能障害をもつ患者さんに対して眼科専門の看護師としてどのようにかかわり介入していくかの基本が明記されている.そのうえで,「外来における看護」「病棟における看護」「手術室における看護」と部門別の看護についても詳細に記述されている.これは,第一線の看護師が基本的な看護技術のみならず,患者さんとのかかわりの中で得た実践的知識と技術を探求しつづけている結果であろう.そしてこのテキストは明日から眼科看護をすぐに実践できるような具体的なものであるため,教育用としても有用である.眼科看護のスタッフ教育についての内容が具体的で充実している点も特長である.本書は,わかりやすさへの配慮がなされ,眼科チーム医療における看護師の役割とは何かという視点でまとめられていると感じる.この本で最初に勉強すれば,眼科は決して敬遠するものではなく,専門性の求められる最も身近な看護分野であることが実感できるであろう.はじめて眼科看護を学ぶ看護師はもちろん,看護学生にもぜひ推薦したい1冊である.(林眼科病院看護部長永野美香)(74)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY

ブックレビュー:オリヴァー・サックス著 『色のない島へ―脳神経科医のミクロネシア探訪記』

2015年10月31日 土曜日

ブックレビュー■オリヴァー・サックス著(大庭紀雄監訳,春日井晶子訳)『色のない島へ―脳神経科医のミクロネシア探訪記』(ハヤカワノンフィクション文庫)(新書版・並製,本文364頁,定価900+税),ISBN978-4-15-050426-7/C0147,早川書房)オリヴァー・サックスは,1933年ロンドン生まれの国際的神経学者で,ノンフィクション作家である.ここに紹介する「色のない島へ」は,日本では1999年に出版され,このたび文庫化された.その監訳をしているのが大庭紀雄鹿児島大学名誉教授で,訳者の春日井晶子氏はお嬢さんで,オリヴァーの代表作「レナードの朝」など,多くの訳書をもつ翻訳家である.本書は二部に分かれ,第一部は先天的に色覚をもたない症例が多発するミクロネシアのピンゲラップ島とポーンペイ島を探訪する話.オリヴァーと,自分も先天性全色盲で,オスロで視覚の研究をしているクヌート・ノルドビー,眼科医のボブの3人チームで探訪がはじまる.このテーマに対するオリヴァーの感性は次の記述でわかる.「全色盲の社会に全色盲として生きるのはどういうことだろうか.(中略)そこでは色という概念が存在しない代わりに,他の形での知覚が格段に発達しているかもしれない.私たちのものとは全く違う,独特の嗜好や芸術,料理,服装などを発達させた文化を想像してみた.『色』という言葉のもつ意味が完全に消滅,色の名前も,色による何かの象徴も,色を表現する言葉も存在しない.その代わりに,(中略)非常に繊細な質感や色合いを強調する言葉がちゃんとあるに違いない.」周囲の環境から孤立している島は,そこに特有の風土,文化,遺伝子の偏りが生まれる「自然の実験場」である.ピンゲラップ島は1775年ごろに島を襲ったレンキエキ台風で島民の90%が犠牲になり,島民の数は20数人になってしまった.血族結婚が増加し,1820年代から視覚障害の子供「マスクン」(現地語で「見ない」という意味)が生まれるようになる.次いで3人はピンゲラップ島からの移住者が多いポーンペイ島を訪れる.色のない島と思っていた2つの島のマスクンは,実は大多数の視覚健常者の間に散在しているのだった.そこを掘り下げるには,彼ら3人の旅程は短かすぎた.その分,読者に重い課題を残したといえな(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYくもない.第2部「ソテツの島へ」を,私は第一部以上に関心をもって読んだ.グアム島に住む神経学者ジョンからオリヴァーに入った誘いの電話をきかっけにはじまる調査旅行記である.グアム島,ロタ島に多発する筋萎縮性側索硬化症に似る「リティコ」とパーキンソン病に似る「ボディグ」と呼ばれる神経病の踏査であった.興味深いのは,島中にあって一部食用にもなっているソテツ中毒説をめぐって繰り広げられるストーリーである.これは,読んでのお楽しみにしてもらいたい.「どんな神経毒でも,接触してから何年も経ってから中枢神経系や臨床徴候が出現するという前例がない」ソテツ中毒説への反論も出てくる.前例がないというのは,単に気付かなかっただけかもしれないのに…….患者のいる家々を往診してのオリヴァーの記述は,例外事象,バリエーションを見落とさない詳細で視野の広い内容である.古典的な臨床医学の方略だが実に含蓄がある.標準化された多数例の検討では,決して見えないものである.多くの論文を一流誌に掲載してきたオリヴァー自身も述べているが,このような臨床的記述の論文は採用されにくい.今日,一流誌と呼ばれる臨床科学誌は,症例報告を科学的エビデンスレベルが低いとみなして受け付けない.彼は作家としての才能があるから,それをノンフィクション作品に結実できる.だが,そうはいかない一般臨床医にとって,症例報告は,古いやり方であろうと見直すべき非常に大事な研究手段であると思う.本書を読んで,病気,病人の一例一例の貴重さを改めて感じた.本書は,ノンフィクションとしての面白さに加えて,臨床医の姿勢についても考えさせられる一冊であった.(若倉雅登)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151445

My boom 45.

2015年10月31日 土曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第45回「江口洋」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第45回「江口洋」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介江口洋(えぐち・ひろし)近畿大学医学部堺病院所属,眼科20年目私は1995年に徳島大学医学部を卒業し,すぐに徳島大学眼科学教室に入局しました.豪州留学から帰国した2003年以後は前眼部専門医をしています.今春,大阪の近畿大学医学部堺病院に異動し,臨床8割・基礎研究2割のclinicianscientist生活を満喫しつつ,週末に子供たちと一緒に愛犬の世話をして癒されています.医局の偉大な先輩私が入局する前の徳島大学眼科には,眼感染症の権威であった三井幸彦先生や内田幸男先生がご在職でした.入局当時は三村康男先生が教授,のちに教授になられた塩田洋先生が助教授であられました.三村先生も塩田先生も眼炎症・眼感染症分野の権威でしたので,当時の徳島大学眼科は,自ずと眼感染症・眼炎症にうるさい眼科医が育つ医局でした.同時に,医局員の教育体制がきっちりと構築された組織でもありました.おかげで常識知らずの劣等医学生であった小生も,まっとうな社会人,かつ眼感染症にこだわる眼科医に育ててもらいました.医局員として直接指導を仰ぐ機会はありませんでしたが,退官後の三井先生にも少なからず影響を受けました.入局1年目の下半期に,毎週水曜日の外勤先で月に1回だけ三井先生にお会いしていました.手術終了後,外来控え室で1時間以上の有り難いお話を拝聴し,必ず医局会に遅れて帰っていました.三井先生に関しては,同門の先輩達から「怖い・偉い・凄い」先生だったと多くの逸話を聞かされていましたが,同時に名言をたくさん残されたとも聞きました.実際,三井先生が他界された(71)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYあとに,同門の先生が三井語録の冊子を作成されていました.わずか半年間(しかも月1回)しかお会いしていなかったのに,入局1年目の私にも記憶に残るお話しを二つしてくださいました(本当はもっとたくさんあったのだと思いますが,不できな1年目の眼科医の記憶に残った話しが2つだけです…).一つは「ペーパードクターになってはいけません」でした.「培養結果を見るだけではダメ.塗抹・検鏡して自分の目で見なさい」との教えです.そしてもう一つが「コリネバクテリウム(コリネ)」でした.「コリネのことを知っていますか?結膜.の培養で必ず5%前後分離されます.培養結果を発表しているのをみたら,コリネの分離頻度をみなさい.その施設の培養の精密度がわかります.まったく分離されていなかったらいい加減ということ.まあでも,コリネは弱毒だから起炎菌にはなりませんよ」でした.きっかけとサポート2003年4月に西オーストラリア大学の留学から帰国した私は,6月から徳島県西部の病院に外勤として行きはじめました.療養型医療施設も併設していたその病院で,とある90代の男性患者に出会いました.白内障術後,数年に渡ってキノロン点眼薬を使用しており,難治性の結膜炎になっていました.眼脂の塗抹像や培養の結果からするとキノロン耐性コリネによる結膜炎でした1).あの偉大な三井先生が「コリネは起炎菌にはならない」といっていたことを思い出し「何かの間違い?いや,もしかしたら稀少な症例では!」との高揚感があったのを今でも記憶しています.そういえば,当時の西オーストラリアではキノロン点眼薬を処方している眼科医はいませんでした.しかし留学前の日本では,すでにキノロン点眼薬が頻用されていました.キノロン偏重の眼科診療が,眼表面に常在するコリネを耐性化させ,キノロン耐性コリネが眼表面の優位菌になり,感染症の起炎菌になりはじめているのではあたらしい眼科Vol.32,No.10,20151443 ないか,と勝手に推察し,コリネについて研究しようと決心しました.ですので,コリネの基礎研究は,三井先生の有り難いお話しがきっかけでした.実際に研究するとなった際には,「好きなことやったらエエやん」と優しく説いてくれた三村先生,「必要なものがあったら何でも言えよ」と研究のサポートしてくれた塩田先生の存在が欠かせませんでした.些細な研究結果でも,眼科学の発展にごくわずかに寄与でき,それが直接会えない患者さんへの間接的な医療貢献に繋がる.そのような考え方が継承され,後輩を育て,その後輩がまた眼科学の発展に寄与する仕事をして間接的医療貢献をする,先輩はそれをサポートする.大学は,このような連鎖がなければならないと改めて思います.研究のMyboom今もっともはまっている研究は,「次世代シークエンス技術を用いた臨床サンプルの菌叢解析」です.臨床で実際に出会う感染症には,想像以上に複合感染症が多いと思います.培養で1種のみが報告されたものの,塗抹では複数種の微生物が確認できることがあります(写真1).そんな臨床サンプルの中に,難培養菌や培養不可能菌(viablebutnonculturablebacteria:VNC菌)がいても,培養では報告されません.実際に,眼表面拭い液から細菌のDNAを抽出してシークエンスをしたら,未同定(未分類)菌のDNAがもっとも多く検出されたという報告2)もあります.そのような細菌も含め,ゲノムワイドに多種類の細菌の存在と構成比を把握できる菌叢解析は,これからの感染症診療に大きな福音をもたらすと確信しています.昨今,近畿大学の下村嘉一教授のご高配のもと,香川大学分子微生物学の桑原教授と一緒に実際に臨床検体の次世代シークエンス解析をしています.すると,想像を絶するほど多くの菌のDNAが確認できます.「~~眼内炎」といっても,実は黒幕のVNC菌がいるのではないか,そんな当てのない妄想をしつつ,週1~2日の研究日に(昨今は調節障害と戦いながら)ピペッターやサンプルチューブをいじっています.臨床のMyboomズバリ「手術」です.今春,近畿大学医学部堺病院に異動しましたが,そこで日下俊次教授の手術をみて衝撃を受け,これまでの自分の手術を見直す決心をしました.自分では,難治例も含め白内障手術は完成していると思っていましたが,それが高慢であったこともわかりました.もっとも得意とする角膜移植でも,以前は慣れ1444あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015写真1「本当にそれだけ?」発熱と咳がひどかったときの私の喀痰グラム染色像(×1,000)です.7~8種類の細菌がいますが,培養で報告されたのは肺炎球菌のみでした.た環境で最高の(あるいはそれに近い)結果を出していたつもりですが,異動後の慣れぬ環境で実施してみて,実は以前の環境に自分が慣らされていただけで,環境改善の努力を怠っていたのではないか,と考えるようになりました.全国一円から(たまに海外から)紹介されてくる網膜・硝子体疾患の難症例を受け入れ,easycaseはあっという間に,でも難症例には労をいとわず手術をされている日下教授の姿に,40代後半になって「ophthalmicsurgeonとは」と改めて考え直す日々を送っています.次回の担当は,徳島大学眼科学分野の宮本龍郎先生です.宮本先生は,徳島大学の角膜外来を担当しておられる徳島大学のホープです.臨床・研究・教育にご多忙をきわめておられると思いますが,そんなバリバリの若手眼科医のMyboomには,かつての上司としても興味津々です.宮本先生,よろしくお願いします!文献1)EguchiH:OcularinfectionscausedbyCorynebacteriumspecies.In:Infectioncontrol(SilpiBasaked.),p75-82,Rijeka,InTech,20132)DongQ,BrulcJM,IovienoAetal:Diversityofbacteriaathealthyhumanconjunctiva.InvestOphthalmolVisSci52:5408-5413,2011注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(72)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 149.高度の増殖硝子体網膜症に対する広範囲網膜切開術(上級編)

2015年10月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載149149高度の増殖硝子体網膜症に対する広範囲網膜切開術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●網膜切開術の適応本シリーズNo.101「網膜切開術の適応と実際(上級編)」でも記載したが,網膜切開術は,十分な増殖膜処理と強膜バックリングを行っても,なお牽引解除が不十分で,気圧伸展網膜復位術による術中網膜復位が得られない症例に対してのみ適応があるとされている.●高度の増殖硝子体網膜症に対する広範囲網膜切開術増殖硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)の硝子体手術では,網膜前,網膜下の増殖膜を確実に除去し,網膜の伸展性を回復させることが大原則であるが,なかには網膜自体が器質化,短縮化をきたし広範囲の網膜切開を余儀なくされることがある.自験例を1例提示する.症例は59歳,男性.1年前から視力低下を自覚していたが放置していた.当科受診時には高度の併発白内障により眼底透見不能.超音波Bモード検査で漏斗状の網膜全.離と網膜の肥厚を認めた.手術の非適応とも考えられたが,光覚弁があり色覚も赤が判別可能であったため,患者と家人に相談のうえ硝子体手術を施行することにした.眼底はナプキンリングを伴うPVR:D-3の状態(図1)で,網膜前および網膜下索状物を可能なかぎり除去した(図2).その後,液体パーフルオロカーボンを注入したが,網膜の器質化,短縮化が著明で,十分な伸展が得られず上方を除くほぼ全周で広範囲の網膜切除を施行し,シリコーンオイルタンポナ.デを行った(図3).術後,後極の網膜は伸展し矯正視力は0.04に改善した(図4)が,術後6カ月の時点で網膜切開縁から再増殖,再.離が生じてきた(図5).初回手術時の網膜下索状物の取り残しも原因と考えられる.房水産生も低下し前房内シリコーンオイルとなっている.患者と相談のうえ再手術は施行せずに経過をみている.(69)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)ナプキンリングを伴うPVR:D-3の状態であった.図2術中所見(2)網膜前および網膜下索状物を可能な限り除去した.図3術中所見(3)網膜の器質化,短縮化が著明で,上方を除くほぼ全周で広範囲の網膜切除を余儀なくされた.図4術後早期の眼底写真術後,後極の網膜は伸展し,矯正視力は0.04に改善した.図5術後6カ月の眼底写真網膜切開の辺縁から再増殖,再.離をきたしている.初回手術時の網膜下索状物の取り残しもみられる.●おわりに広範囲の網膜切開術を施行した症例は,いったん網膜の復位が得られても,術後に切開縁の再増殖や再.離が生じやすく,また術後に低眼圧が持続し,長期予後はきわめて不良である.広範囲網膜切開の必要性を術前に判定することはむずかしいが,.離期間,網膜下索状物の範囲,網膜肥厚の程度などがある程度参考になる.あたらしい眼科Vol.32,No.1,20151441

眼科医のための先端医療 178.弱視治療の新たなアプローチ

2015年10月31日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第178回◆眼科医のための先端医療山下英俊弱視治療の新たなアプローチ荒木俊介三木淳司(川崎医科大学眼科学1教室)前原吾朗(神奈川大学人間科学部)はじめに弱視は乳幼児期に生じる視機能障害のおもな原因です.機能弱視のおもな異常責任部位であると考えられている視覚皮質は可塑性を有しており,視覚のcriticalperiodにおいて適切な視性刺激を与えることが弱視の予防および治療に重要となります.ヒトの視覚皮質の可塑性は生後2カ月頃から急速に高まり,2歳頃にピークを迎えたあと,徐々に低下していくとされていることから,弱視の予防・治療はより早期から開始するべきだと考えられてきました.これまでの弱視治療臨床的によくみられる不同視弱視や斜視弱視は単眼性図1眼間抑制の定量に用いる両眼分離呈示刺激の例Signal刺激:すべての刺激が同じ方向に移動する.Noise刺激:各刺激がランダムに移動する.患者はSignal刺激の運動方向(右か左)を弁別する.a:両眼分離視下において,弱視眼/健眼それぞれに同等のコントラスト刺激を呈示したときは,健眼からの弱視眼に対する抑制が生じ,実際に知覚される像は健眼に呈示されたNoise刺激のみとなり,作業課題を遂行することはむずかしい.b:一方で,健眼に呈示する刺激のコントラストを徐々に下げていくことで,健眼に呈示されたNoise刺激と弱視眼に呈示されたSignal刺激が同時に知覚される(患者がSignal刺激の方向判別が可能となる)ポイントが出現する.このポイントが得られる健眼のコントラストレベルを抑制の程度とし,抑制の程度(弱視の程度)に応じた刺激コントラスト下で作業課題を行うことで,弱視眼に高コントラストSignal刺激弱視眼高コントラストNoise刺激健眼抑制知覚像(Noiseのみ)対する抑制を低減させる.aSignalの方向判別不能の弱視で,これらの弱視に対する治療は屈折異常矯正および遮閉法が主流となっており,ランダム化比較臨床試験においてもその有効性が証明されています1).ただし,治療開始時期2)や弱視の程度などによっては治療後も視機能障害が残存します.弱視における眼間抑制と弱視治療の新たなアプローチ(図1)一方で,これまでの治療法では回復が困難で,なおかつcriticalperiodを過ぎていると考えられる弱視に対しても,治療により視機能回復の可能性があることが報告されており3),その手法として眼間抑制に対するアプローチが注目されています.弱視眼では,健眼遮閉下で測定した視力に比べて両眼開放下で測定した視力が大幅に低下することがあり,これは両眼開放下において健眼から弱視眼に対して生じる抑制(眼間抑制)が原因とされています.この健眼から弱視眼への抑制を低減させることが弱視治療の新たなアプローチとなる可能性があります.近年,Hessらのグループは眼間抑制を定量する手法を開発し4),弱視における抑制の役割について検討しています.その結果,弱視の程度と抑制の深さが正の相関関係にあることを示しました5).そして,抑制が弱視眼高コントラストSignal刺激低コントラストNoise刺激弱視眼健眼抑制知覚像(Signal+Noise)bSignalの方向判別可能(67)あたらしい眼科Vol.32,No.10,201514390910-1810/15/\100/頁/JCOPY の視機能障害の原因として原発性に関与している可能性を支持し,眼間抑制を直接のターゲットとしたdichoptic条件下(両眼分離視下)における弱視治療法を提案しました.この治療法は,弱視眼に高コントラスト刺激,健眼に低コントラスト刺激をそれぞれ両眼分離呈示することで,各眼からの入力バランスを統一し,両眼からの視覚情報の統合を可能にしたうえで,ゲームなどの作業課題を施行させることにより眼間抑制を低減させることを目標としています.この手法を用いた成人の弱視を対象とした調査では,14例中13例で視力および立体視の改善がみられたとしています6).また,成人に限らず小児の弱視治療においても,iPadゲームを利用したこの治療法の有効性が報告されており,家庭訓練に対するコンプライアンスは59%で,遮閉法(44~58%)と同等であったとしています7).そして現在,この新たな弱視治療の有効性についてPediatricEyeDiseaseInvestigatorGroupによるランダム化比較臨床試験が行われています.おわりにこれまで治療が困難とされてきた弱視症例においても,新たな治療アプローチの登場により視機能回復の可能性が期待されます.従来の治療法との兼ねあいや治療開始時期について,今後の研究が注目されます.文献1)WallaceDK;PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup,EdwardsAR,CotterSAetal:Arandomizedtrialtoevaluate2hoursofdailypatchingforstrabismicandanisometropicamblyopiainchildren.Ophthalmology113:904912,20062)HolmesJM;PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup,LazarEL,MeliaBMetal:Effectofageonresponsetoamblyopiatreatmentinchildren.ArchOphthalmol129:1451-1457,20113)HessRF,MansouriB,ThompsonB:Anewbinocularapproachtothetreatmentofamblyopiainadultswellbeyondthecriticalperiodofvisualdevelopment.RestorNeurolNeurosci28:793-802,20104)BlackJM,ThompsonB,MaeharaGetal:Acompactclinicalinstrumentforquantifyingsuppression.OptomVisSc88:334-343,20115)LiJ,ThompsonB,LamCSetal:Theroleofsuppressioninamblyopia.InvestOphthalmolVisSci52:4169-4176,20116)HessRF,BabuRJ,ClavagnierSetal:TheiPodbinocularhome-basedtreatmentforamblyopiainadults:efficacyandcompliance.ClinExpOptom97:389-398,20147)BirchEE,LiSL,JostRMetal:BinoculariPadtreatmentforamblyopiainpreschoolchildren.JAAPOS19:6-11,2015■「弱視治療の新たなアプローチ」を読んで■今回は荒木俊介先生,三木淳司先生,前原吾朗先生くの情報を提供しています.そのため,視覚の専門家により新しく開発された弱視治療の紹介です.弱視はである眼科医には眼球の異常のみではなく,さらに高発達過程の小児の視力低下の原因として重大であり,次レベルの脳機能の障害による視覚障害はあると考え小児眼科医療の大きな問題です.難治性の弱視患者のられますが,診断がきわめて困難です.しかし,今回治療に新しい発想での治療法を開発されたことに,心の荒木先生たちの新しい治療法は,両眼からの視覚情から敬意を表します.弱視の異常の責任部位は視覚皮報の統合を促進するという方法論が効果があることを質であること,高次脳機能の障害が弱視になっている示しており,脳機能と視覚の関連を明らかにするアプこと,しかし視覚皮質は可塑性をもっていることを考ローチといえるかもしれません.察しておられます.さらに脳科学的なアプローチによ21世紀は脳科学の時代ともいわれます.われわれり,弱視のメカニズムを「眼間抑制」によることの考眼科医が視覚情報の入口のみでなく,脳機能にまで大察から,健眼と弱視眼に分離した刺激を提示することきく影響する視覚の情報処理の研究に大きな貢献をすで難治性の弱視を治療する方法を考えられ,実際の効る可能性を荒木先生たちの研究は見せてくださいまし果を認めておられます.た.今後の発展,成果が楽しみです.視覚は,いろいろな情報を統合する高次脳機能に多山形大学眼科山下英俊☆☆☆1440あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(68)

眼瞼・結膜:マイボーム腺炎と霰粒腫の類似点

2015年10月31日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人9.マイボーム腺炎と霰粒腫の類似点鈴木智京都市立病院眼科霰粒腫は,マイボーム腺開口部が閉塞し,腺内にうっ滞したマイボーム腺分泌脂(meibum)に対して生じた肉芽反応の結果生じた脂肪肉芽腫(lipogranuloma)である.すなわち,局所に生じた閉塞性マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)に,炎症を伴った状態と考えることができる.●霰粒腫とは霰粒腫(chalazion)は,マイボーム腺における脂肪肉芽腫(lipogranuloma)である.19世紀には,その臨床所見については詳細に記述されていた.霰粒腫とマイボーム腺との関係について最初に述べたのはAddaria(1888年)であり,現在では,霰粒腫が基本的には「マイボーム腺分泌脂(meibum)のうっ滞によって生じる」という概念が広く受け入れられている1).典型的には,霰粒腫に関連したマイボーム腺の開口部は閉塞しており,meibumは分泌されない(図1).すなわち,まず,マイボーム腺開口部の閉塞が生じ,続いて,マイボーム腺の腺房およびその周囲の組織でうっ滞した脂質に対する肉芽反応(granulomatousreaction)が生じるのである2).その浸潤様式には,皮膚側へ浸潤する場合(図2)と結膜側へ浸潤する場合(図1)がある.典型例では,脂肪滴やマクロファージ由来の類上皮細胞,多核巨細胞の浸潤を中心に,リンパ球や形質細胞の浸潤を伴う慢性肉芽腫性炎症の組織像を呈する(図3).脂肪滴は,通常のパラフィン切片では脂質が溶出するため,空胞として観察される.●霰粒腫とMGDの関係MGDは,「さまざまな原因によって,マイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義され,霰粒腫のような局所的なマイボーム腺異常はMGDには含まれないが3),霰粒腫を「局所的に生じている炎症性の閉塞性MGD」と捉えることが,マイボーム腺と眼表面(meibomianglandsandocularsurface:MOS)4)を考えるうえで重要である(図4).マイボーム腺に炎症を生じる原因としては,開口部が閉塞している状態で腺内の常在細菌であるPropionibacteriumacnes(嫌気性菌)が関与している可能性が推測される.ab図1典型的な霰粒腫a:霰粒腫の外観.下眼瞼の隆起と軽度の発赤を認める.b:霰粒腫に関連したマイボーム腺の開口部は閉塞している.本症例では結膜側への浸潤を認める.(65)あたらしい眼科Vol.32,No.10,201514370910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2眼瞼皮膚側へ浸潤した霰粒腫脂肪滴リンパ球多核巨細胞形質細胞x20図3霰粒腫の典型的なH&E染色像マイボーム腺機能不全(MGD)閉塞性MGD非炎症性炎症性ドライアイ(蒸発亢進型)MeibomianKeratoconjunctivitisマイボーム腺炎角結膜上皮症(酒.性角結膜炎)(角膜フリクテン)(眼瞼角結膜炎)マイボーム腺炎霰粒腫眼表面疾患低-高-分泌性MGD瘢痕性細菌P.acnes,StaphMeibomianglandsandOcularSurface図4マイボーム腺機能不全におけるマイボーム腺炎と霰粒腫の位置づけ(文献4から改変)文献3)NelsonJD,ShimazakiJ,Benitez-del-CastilloJMetal:1)Duke-ElderWS,MacFaulPA:Diseasesoftheeyelids.InTheinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunc-Systemofophthalmology(ed.byDuke-ElderWS),vol.tion:reportofthedefinitionandclassificationsubcommitXIII:Diseasesoftheoutereye,Part1:Theoculartee.InvestOphthalmolVisSci52:1930-1937,2011adnexa,p000-000,London,HKimpton,19744)SuzukiT,TeramukaiS,KinoshitaS:Meibomianglands2)BronAJ,BenjaminL,SnibsonGR:Meibomianglanddis-andocularsurfaceinflammation.OculSurf13:133-149,ease.Classificationandgradingoflidchanges.Eye(Lond)2015(Pt4):395-411,19911438あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(66)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法-認可薬による治療戦略-

2015年10月31日 土曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二21.糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法平野隆雄村田敏規信州大学医学部眼科学教室―認可薬による治療戦略―糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は従来,局所光凝固,ステロイド局所投与などにより治療されてきたが,難治性の症例も見受けられる.わが国では昨年,抗VEGF薬のラニビズマブ,アフリベルセプトがDMEまで適応拡大され,抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法はDME治療の第一選択となりつつある.本稿ではDMEに対する抗VEGF療法について概説する.糖尿病黄斑浮腫(DME)は,糖尿病網膜症の全進行過程で発症する可能性があり,就労年齢層における社会的失明の原因として問題となっている.DMEの病態は非常に複雑で,血管透過性亢進・血管閉塞による血流障害・膠質浸透圧低下・後部硝子体膜の牽引などさまざまな要因が関与して起こる.なかでも,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の血管透過性亢進作用がDME発症に果たす役割の大きさは疑う余地がなく,近年の大規模臨床研究における抗VEGF薬の良好な治療効果もこのことを裏付けている1,2).従来,DMEは局所光凝固(毛細血管瘤直接凝固/grid凝固)やステロイド局所投与により治療が行われてきたが,実臨床の場では難治性の症例も散見される.わが国ではDME治療における抗VEGF薬としてベバシズマブ(アバスチンR)が適応外使用ながら用いられていたが,ラニビズマブ(ルセンティスR)・アフリベルセプト(アイリーアR)がそれぞれ平成26年2月,11月にDMEまで適応拡大されたことにより,DME治療における抗VEGF薬の選択肢は広がりつつある.具体的な投与方法として,ルセンティスRはまず0.5mg(0.05ml)を硝子体内投与し,その後は1カ月に1投与前図1ルセンティスR投与症例(65歳,女性)ルセンティスR投与前は中心窩を含むびまん性の糖尿病黄斑浮腫を認めた.投与1週後には浮腫の軽減を認め,1カ月後にも浮腫は抑制されている.中心窩領域網膜厚は投与前460μmから1週後387μm,1カ月後342μmと改善を認める.回視力などを測定し,その結果および患者の状態を考慮し投与する(いわゆる1+PRN投与).投与開始後は,視力が安定するまでは1カ月ごとに投与する方法が推奨されている.図1にルセンティスR投与症例を提示する.アイリーアRは2mg(0.05ml)を1カ月ごとに1回,連続5回導入期として硝子体内投与する.その後は通常2カ月ごとに1回,硝子体内投与する方法(いわゆる5+2q8投与)が推奨されている.図2にアイリーアR投与症例を提示する.なお,全身への影響も考慮し,ルセンティスR,アイリーアRともに投与間隔は1カ月以上あけることとなっている.同じ抗VEGF薬といっても,ラニビズマブがヒト化抗VEGF中和抗体FabフラグメントですべてのVEGF-Aのアイソフォームを阻害するのに対し,アフリベルセプトは組換え糖融合蛋白質でVEGF-Aに加えて胎盤成長因子やVEGF-Bにも結合するといった創薬デザインの違いがある.今後,どの時期にどの抗VEGF薬を選択するかは,それぞれの薬剤特性,患者背景などによって検討が必要となってくると思われる.2015年2月にDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkからベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリ投与前投与1週後投与1カ月後(63)あたらしい眼科Vol.32,No.10,201514350910-1810/15/\100/頁/JCOPY 投与前投与前投与1週後投与1カ月後ベルセプトの中心窩を含むDMEに対する治療効果と安全性の比較について興味深い報告がなされた3).それによると,3剤ともに1+PRNで硝子体内投与が行われ,1年後,3剤すべてで治療効果を得られたが,治療開始時の視力によって治療効果に差がでる結果となった.治療開始時の視力が69~78文字と比較的良好な視力群では,ベバシズマブが7.5文字,ラニビズマブが8.3文字,アフリベルセプトが8.0文字の視力改善を認め,3剤間で視力の改善に有意差を認めなかったが,治療開始時の視力が69文字より悪い群では,ベバシズマブが11.8文字,ラニビズマブが14.2文字,アフリベルセプトが18.9文字の改善を認め,アフリベルセプトがベバシズマブ,ラニビズマブより有意に視力の改善を認めたと報告している.しかしながら,この報告ではラニビズマブの投与量が0.3mgとわが国で認可されている投与量(0.5mg)よりも少ないことや,投与方法が推奨されている方法と異なること,患者背景にやや差異を認めることなどの問題点があり,今後もさらなる検討が望まれるが,非常に示唆に富む結果となっている.症例でも提示したとおり,ルセンティスR,アイリーアRともに投与直後より迅速なDMEの改善を認めるが,抗VEGF療法はその効果が一時的であるために,頻回の硝子体内注射が必要となることによる眼内炎のリスク増大,経済的・社会的な患者側の負担増大,施行する医師側の負担増大などさまざまな問題が残る.これらの問題を解決すべく,抗VEGF療法における硝子体内注射の回数を減らす試みが最近になって報告されてきている.Lieglらは,ナビゲーションシステムを搭載することでより正確に網膜光凝固を行うことが可能となった網膜光凝固装置NavilasRを用いて,ラニビズマブ硝子体内注射に局所光凝固(毛細血管瘤直接凝固/grid凝固)を併施した.これにより,ラニビズマブ硝子体内注射単独治療と比較して,局所光凝固併用治療では硝子体内注射1436あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015図2アイリーアR投与症例(36歳,男性)アイリーアR投与前は中心窩を含むびまん性の糖尿病黄斑浮腫を認めた.投与1週後には浮腫の軽減を認め,1カ月後にも浮腫は抑制されている.中心窩領域網膜厚は投与前519μmから1週後293μm,1カ月後280μmと改善を認める.の回数が年間で6.9回から3.9回へと少なくなり,しかも同等の治療効果を得ることができたと報告している4).また,Takamuraらは,無灌流領域への網膜光凝固を徹底することにより,ベバシズマブ硝子体内注射の治療効果が延長されることを報告している5).抗VEGF薬の登場によりDME治療は大きな変革期を迎えている.今後,抗VEGF薬の選択肢が広がるなか,どの時期にどの抗VEGF薬を選択するか,それぞれの薬剤特性,患者背景などによって検討が必要となってくると思われる.抗VEGF薬はその良好な治療効果の反面,頻回の硝子体内注射により,患者・医師双方への負担増加や感染・全身合併症のリスク増大などの問題がある.上記のように網膜光凝固をはじめとした従来の治療を併用するなどの工夫を行い,抗VEGF薬硝子体内注射の回数を必要最低限に減らしながらも,その恩恵を最大限享受できるようなプロトコールの確立が待たれる.文献1)Schmidt-ErfurthU,LangGE,HolzFGetal:Three-yearoutcomesofindividualizedranibizumabtreatmentinpatientswithdiabeticmacularedema:theRESTOREextensionstudy.Ophthalmology121:1045-1053,20142)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravitrealafliberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmology121:2247-2254,20143)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Aflibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMed372:1193-1203,20154)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabeticmacularedema.PLoSOne9:e113981,20145)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Theeffectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,2014(64)

緑内障:緑内障とロービジョンケア-欧米と比較して-

2015年10月31日 土曜日

●連載184緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也184.緑内障とロービジョンケア加茂純子甲府共立病院眼科―欧米と比較して―視野の相補性や補完性のため,緑内障は自覚症状が出るのが遅い.FunctionalAcuityScoreで読書の,Func-tionalFieldScoreで移動に必要なケアの予測がつく.視野の欠損した部位にあるはずのないものが見えるCharlesBonnet症候群は精神科に行かなくてもよい.輪状暗点のある人では,ある程度までは自動車事故もない.オプトメトリスト(OD)がいない日本では,遮光眼鏡,拡大鏡,拡大読書器,携帯端末,偏心視訓練などは眼科医とORT,地域の眼鏡士が担い,就労継続のサポート,患者の会と心理ケア,位置情報と,どこへ行くか?などはソーシャルワーカー,作業療法士を欧米のように教育し,関与させる必要性を述べた.●はじめに開発途上国ではいまだ白内障が中途失明の首位であるが,日本における失明原因の第一位は緑内障であり,欧米では加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)や糖尿病網膜症(黄斑症)が首位に立つ.英国では視覚障害登録の際にICDコード(国際疾病分類)を用いて,予防できる失明に至る病気の発生率を,国として統計を取っているから信頼できる.視野中心が侵される疾患では,昨日までできた読書,運転,社交に突然困難が生じ,日常生活動作(activitiesofdailyliving:ADL)が下がり,メンタルにも影響が起きるために,欧米では日本より早期にロービジョンケアが進んだ.また退役軍人に手厚いために戦時負傷により両眼失った者,高齢に至ってAMDになった者に対してのリハビリテーションが,制度としても学問としても進んでいる.●視野の判定基準の違い人種的に日本人は緑内障が多いということもあるが,身障者の認定基準,とくに視野基準が求心性に特化され,比較的程度が軽い輪状暗点で比較的普通に生活できる人までも2級を取れる制度から,緑内障は障害が過大評価されているきらいがあることも一因である.●自分では気づきにくい英国では,緑内障でかなり視野障害が進行した人でも,そのインペアメント(機能の障害)に適応した人は視覚障害と認めないことになっている.一方で2親等以内に緑内障があれば,その人は無料でオプトメトリスト(doctorofoptometry:OD)に診断してもらえる.閉塞隅角緑内障の発作,あるいは血管新生緑内障などで数日のうちに視機能低下が起こるのとは違い,広義の開放隅角緑内障は比較的ゆっくりと進行すること,多くの緑内障は視野の相補性(視野欠損が生じても反対の目が情報を補う)や視野の補完性(視野欠損部があっても視中枢が欠損部周囲の情報から欠損部を補完する)のため自覚症状に乏しく,後期に至るまで気づかれにくい.●FunctionalAcuityScore(FAS)視機能については,国際分類であるFunctionalAcuityScore(FAS)を用いると,視力から読書に必要なケアの予測がつく.すなわち小数視力0.3~0.1(logMAR0.6~0.9)は拡大鏡,拡大読書器など用いれば読書速度はほぼ正常,0.1~0.05(logMAR1.0~1.3)は読書補助具を用いて普通よりゆっくり読むか,高倍率拡大鏡を用いる.0.04以下(logMAR1.4~1.7)は補助具を用いてどうにかこうにか読む.部分的に拡大鏡を用いるが,録音されたものを好むようになる.0.02未満(logMAR1.8以上)では視覚による読書はなくなり,音声に頼るようになる.●FunctionalFieldScore(FFS)一方,視野についてはFunctionalFieldScoreでおおよそのorientation&mobilityにつき見当がつく.すなわち片眼を喪失,または視野(GoldmannIII4/e)の半径50~40°では正常であるが,ときに驚くことがあり,多くの見渡し(スキャニング)が必要.上半分の喪失あるいは30~20°ではほぼ正常であるが,見渡しが必要.半盲または下半分の喪失,あるいは10~8°では視覚による動きは遅くなる.常に見渡しが必要になる.杖が補助として必要となるかもしれない.6~4°となると,長い杖(白杖)が物を探すのに必要となる.2°未満では視覚による定位確認は信頼できなくなり,白杖か音,盲導犬,または他の移動手段に頼るようになる.(61)あたらしい眼科Vol.32,No.10,201514330910-1810/15/\100/頁/JCOPY ●CharlesBonnet症候群欠損が大きくなると12~18カ月の間,CharlesBonnet症候群(視野の欠損した部位にあるはずのないものが見える.人,子ども,野生動物,花籠,石垣などの訴えがある)を発症することがある.幻視と間違って精神科に紹介することのないように知っておかなければいけない.●自動車の運転Peliらのアンケートを用いて,筆者もWOC2012アブダビで発表したが,中心視野に暗点が出ると本人も強く自覚し,運転に自信がもてなくなる.緑内障の輪状暗点のある人では,視野の相補や補完があるので,まだ運転できるし,ある程度までは事故もない.海外では数多くの研究があるが,視野欠損が大きくなると事故を起こす率が高くなることを,田辺,国松も述べている.英国の普通免許の欠格事項は,2014年の11月の改訂によると,Estermanテストで周辺視野は水平線上に3連続暗点,水平線と交わる垂直線上に1暗点があること,中心視野は中心半径20°以内に全部か一部4連続暗点,20°以内に3連続暗点+離れた1点,また,同名半盲や同名1/4盲での中心暗点で3連続暗点があるものとなった.職業免許の場合は,中心半径30°以内にいかなる暗点があっても欠格事項となる.●遮光眼鏡,拡大鏡,拡大読書器,偏心視訓練など視野が損なわれたときには,羞明を訴えるようになる.ここで遮光眼鏡が登場する.短波長をカットするもので,黄色,オレンジが主流であったが,最近は紫など目立たないものも出てきた.いよいよ中心視野が欠損すると,拡大鏡,拡大読書器,そして使える人はパソコン画面,最近では携帯端末の拡大機能を用いれば,楽に読めるようになる.中心視野が侵された場合,見やすい網膜位置を用いて偏心視すると見やすくなる場合もある.自然にも片眼ずつ習得するが,誘導するためにプリズムやマイクロペリメータを用いる方法がある.●就労継続復職できるというレポートも多い.近くに相談できる機関がない場合,「タートルの会」に相談するとよい.産業医の分野で村上は,早期から産業医が職場に出向き,環境を整えることで就労継続が可能になることを述べた.このとき前出のFASとFFSにより合成されるFunctionalVisionScore(FVS)が管理者に説明する際に役立つことを述べている.厚労省のウェブサイトで1434あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015も,眼科医や雇用者に向けて視覚障害者の雇用を継続するように呼びかける資料が掲載されている.●患者の会と心理ケアうつ状態になる人も多い.そのようなときに役に立つのが患者のネットワークである.緑内障フレンドネットワークがある.また,気賀沢らは,これらの患者に傾聴を勧めている.治療者は意義や説得をするのではなく,認知療法で患者の歪みを自ら語ることで,効果を奏することを述べている.激しい焦燥感,自殺念慮,顕著な不眠,急激な体重減少があれば,精神科へのコンサルトをすすめる.●位置情報と,どこへ行くか(orientation&mobility)歩行訓練士に適切に指導を受け,自分の中に地図があり,困ったときには助けを受けることができれば,見えなくとも動けるようになる.これには街のユニバーサルデザインも関与する.しかし,地方都市で公共交通が不便となれば,同行援護を使ったほうが便利である.甲府市の場合,2級以上ならば年間100時間は無料でサービスが提供される.日本人の恥の文化が白杖を持ちにくくする.乗り越える.白杖を使うとなると近所だけとなり,近所の手前,自分の眼が見えない,見えにくいことを伏せる人もいる.また,障害を長期にもってしまうと,鬱傾向になって閉じこもり,足腰弱くなり,なお出にくくなる人もいる.これには理学療法士による訪問リハビリを使う方法もある.中年以降,できるだけWHOの推奨する6千歩は体のために歩くことを患者に教育する.中途失明の方でもスポーツをしていることも知識として知らせるのも,一案である.ボランティアの存在も大きい.●おわりに日本にはODがいないので,近所の眼鏡屋さんと協力して眼科医が一翼を担わなくてはいけない.近所の薬局にロービジョンお助けグッズを置くのも一案である.歩行訓練士を1人1施設で雇うのは採算性の問題でむずかしい.すでに雇用されている理学療法士,作業療法士に身体のみならず,視覚障害にも配慮する教育をして,視覚リハビリに参加させていくのも一考である.その眼には,することはなくても,その人に対してできることはある.チームとして勉強し,地域の視覚リハビリ制度を構築していこう.「山梨県視覚障害を考える会」のホームページに筆者らの勉強の軌跡がアーカイブされている.(62)

屈折矯正手術:AMILEの合併症と対策

2015年10月31日 土曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載185大橋裕一坪田一男185.SMILEの合併症と対策中村友昭名古屋アイクリニックSMILEはフェムトセカンドレーザーによって角膜実質を光切断し,小さな切開創のみで屈折矯正を行うことができる最新の手術である.安全かつ安定した効果を得ることができ,レーシックに比べて術後の合併症も少ない.ラーニングカーブはあるが,若干の注意点を守り専用の器具を使用することにより,簡単,確実に手術を行うことができる.●はじめにReLEx(refractivelenticuleextraction)はCarlZeissMeditec社(以下,CZM社)が開発したフェムトセカンドレーザー(以下,FSレーザー)VisuMaxのみでレーシックを行う新技術である.フラップを作製したのち,角膜実質をエキシマレーザーによって蒸散させて切除するのではなく,FSレーザーによって光切断しレンチクルとして摘出することにより屈折矯正を行う.2010年,CZM社はこの技術をさらに発展させ,フラップを作らず,最小2mmの切開創からレンチクルを抜去して屈折矯正を行うSMILE(smallincisionfemtosecondlenticuleextraction)を開発した.SMILEはPRK(photorefractivekeratectomy)やレーシックと同様,手術手技の一般名称であるが,現時点ではCZM社のFSレーザーでのみ行える技術である1).●SMILEの得失について1.利点①FSレーザーのみでレーシックが行える(経済性).②エキシマレーザーに比べて温度・湿度など環境による影響を受けにくく,常に安定した矯正が行える(独自のノモグラム不要).③フラップを作らずに実質切除が行われるため,手術が短時間で終了する.④フラップに起因する合併症が皆無となる.⑤レーシックに比べ角膜の知覚神経が温存できることから,ドライアイになりにくい.⑥角膜のバイオメカニカルな強度が保たれるので,術後屈折が安定しており,強度な近視への対応も期待できる.⑦切除効率のばらつきがなく,狙い通りの三次元的形状で切除できるため,角膜のprolate形状を比較的保つことが可能となり,術後の収差に優位である.(59)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY⑧1μm単位の精度での切削が可能なことより,高精度なcustom矯正への発展が期待できる.2.欠点①視力回復がやや遅い.②現時点ではCZM社のFSレーザーでしか行えない.③追加矯正がややむずかしい.④遠視,老視への対応がない.⑤ウェーブフロントなどcustom照射ができない.⑥サイクロトーションへの対応がない.●SMILEの術式まず最深部であるレンチクル後面を切断する.その後,レンチクル前面を切断し,下方ないし側方に2.0~4.0mmのサイドカットを行う.レンチクルをスパーテルで分離したのち,鑷子にて除去する(図1).●合併症と対策通常はレーシックやReLExで角膜屈折矯正手術を修練したのち,SMILEを行う.ある程度のラーニングカーブがあるものの,最初から比較的安全に手術を行うFs-laser132レンチクル後面作製のための深い切開を行うレンチクル前面の切開を行うサイドカットを行う小さな切開創からレンチクルを取る図1SMILEの術式角膜実質をフェムトセカンドレーザーにより光切断をし,レンチクルとして切除することにより,屈折矯正を行う.あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151431 図2サクションロスレーザー照射終盤に写真右下より吸引固定がはずれ,レーザーが中断した.ことができる.最近では筆者が開発した専用器具を用いることにより,より簡便かつ確実に手術を行うことができるようになった.1.術中合併症a.サクションロス(図2)術中合併症の多くはサクションロスである.VisuMaxは専用のアタッチメントにより角膜周辺部で吸引固定し,レーザー照射時間は20数秒であるが,その間患者はブラックアウトせず,ある程度の固視が可能であるが,中盤から視界が白くなり緑の固視灯を見失うようである.とくに患者が過度に緊張している場合は,サクションがはずれやすい.その率は1~2%である.ただし,ラーニングカーブにより,そのリスクは1%未満になりうる2).手術前から患者をリラックスさせることとレーザー中の声かけは重要であるが,サクションロスを起こした際は,レーザー中盤までであれば,その日は中止する.中盤以降であれば,最初からレーザーをするか,途中から続行することにより,問題なく手術を完遂することができる.b.レンチクル分離不全顕微鏡下で,すでにレーザーにて切断されたレンチクルを専用のスパーテルにて分離するが,その断端を見つけることがむずかしい場合,スパーテルにて仮道を作ってしまい,さらに分離がむずかしくなる場合がある.抵抗がある場合は,速やかに別の断端を見つけるように心がけるようにする.筆者が考案した器具により,より簡便に断端を見つけることが可能になった.c.不完全レンチクル除去レンチクルは最薄部でも少なくとも15μm以上あり比較的強度があるため,除去中にちぎれて残存してしまうことはめったにないが,残存してしまった場合はスポット照明などで確認してしっかり分離することで除去可能である.それが困難な場合はフラップを作製して起こしたあとに,残存したレンチクルを確認して除去する.2.術後合併症SMILE特有の術後合併症はなく,ほぼレーシックの術後管理と同様でよいと思われる.a.層間炎症(diffuselamellarkeratitis:DLK)術後炎症は,レーシックに比較してきわめて少ない印1432あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015角膜周辺部に新たに切開創を作る図3CIRCLEの模式図レンチクルとして切断した周辺に新たに切開創を作り,SMILEのレーシック様のフラップを作切開創製する.CIRCLEのヒンジ象である.術後早期に層間に淡い混濁を認めることがあるが,原因はレーザーによる軽度の組織炎症か,.離時の組織に対する物理的な刺激によるものと考えられる3).最近ではレーザー設定値の適正化と専用器具による手術のスムーズ化により,これもあまり問題にはなっていない.筆者の施設では,ステロイド点眼は2週間で終了している.b.追加矯正術後の戻りが少なく,ほとんど追加矯正する必要がない.筆者はこれまで350眼のSMILEを行ったが,初期設定による低矯正に対し2例の追加を行っただけで,近視への戻りによる追加矯正は行っていない.一般に3~5%の追加率といわれるレーシックと比較し,非常に少ないと思われる.追加矯正が困難なことがSMILEの欠点であるが,PRKの他,最近ではCIRCLEというプログラムで,周辺を切開し,レーシック様のフラップを作製することにより簡便に追加矯正を行うことができるようになった(図3).●おわりにFSレーザーはレーシックに始まり,角膜移植術から白内障手術へと,多くの眼科手術に応用されるようになってきた.レーシックへの応用としてのReLEx,さらに進化したSMILEは,一定の技量をもった術者であれば安全に手術を行うことができる.結果も安定しており術後の合併症もとても少ない.究極の角膜屈折矯正手術として,切開創のほとんどない組織内切除が可能になる日が訪れることは,それほど遠くないことかもしれない.文献1)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlenticuleextraction:all-in-onefemtosecondlaserrefractivesurgery.JCatractRefractSurg37:127-137,20112)WongC,ChanC,TanC:Incidenceandmanagementofsuctionlossinrefractivelenticuleextraction.JCataractRefractSurg40:2002-2010,20143)ZhaoJ,YaoP,LiMetal:Diffuselamellarkeratitisafterfemtosecondlaserrefractivelenticuleextraction.JCRSOnlineCaseReports1:e26-e32,2013(60)