あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114410910-1810/11/\100/頁/JCOPYサプリメントは食品から摂取すべき微量ミネラルやビタミン類を補う補完食品で,本来薬ではありません.しかし,疫学調査や加齢黄斑変性(age-relatedmaculardisease:AMD)に関する大規模前向き試験であるAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)の報告1)により,その効果が大きく信頼され,眼科領域でも使用されるようになってきました.また,病態に酸化ストレスの関与が考えられるAMDで,抗酸化物質を含むサプリメントを摂取することは理にかなっているといえます.ここでは,AREDS関連サプリメントを中心とした眼科におけるサプリメントの現状と食品因子の有効性を検証するための基礎研究について報告します.AREDS?AREDS2AREDSは米国で行われた抗酸化ビタミン,亜鉛の摂取が白内障とAMDの発症,および進行予防に有効であるかを検討した多施設無作為比較対照試験です.AMDに関しては,55?80歳の3,640人が登録され,AMDの重症度を分類後,抗酸化ビタミン+亜鉛,亜鉛のみ,抗酸化ビタミンのみ,プラセボが投与され,5年以上経過観察後,摂取効果が検討されました.その結果,軟性ドルーゼンのある群,AMDの対側眼において,抗酸化ビタミン+亜鉛の摂取がAMD発症のリスクを25%減少,視力低下のリスクを19%減少させることが明らかとなり,摂取の有効性が示されました1).この結果は,CochraneCollaborationにレビューされており,現時点では,軟性白斑がある患者,片眼にAMDを発症している非喫煙患者には,抗酸化ビタミンと亜鉛の併用摂取を考慮すべきでしょう.しかし,この結果はNTT(numberneededtotreatment)13と,5年間サプリメントを内服した13人に1人が罹患を免れたにすぎず,より早期の軟性ドルーゼンのない群では予防効果は認められていません.患者にサ(73)◆シリーズ第130回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊サプリメント1.510.50ControlVehicleLuteinEIURhodopsin***1.510.50ControlVehicleLuteinEIUOSlength****ONLISOSControlVehicleLuteinEIUControlVehicleLuteinEIURhodopsina-Tubulin*p<0.05**p<0.01ACBD図1ルテインの網膜保護効果ルテインは,炎症による視物質ロドプシンの低下(A,B),視細胞外節の短縮(C,D)をともに,阻止した.EIU:網膜・ぶどう膜炎モデル,ONL:外顆粒層,IS:視細胞内節,OS:視細胞外節.(文献4より)佐々木真理子(慶應義塾大学医学部眼科/CenterforEyeResearchAustralia,UniversityofMelburne)1442あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011プリメントの摂取を勧める際には,これらの点に留意する必要があります.わが国でのAREDSサプリメント摂取の実態を筆者らの施設の網膜外来で調べたところ,AREDSの基準で摂取が推奨される患者のうち,摂取していた患者は34.5%2)と米国に比べ低いこと,摂取している患者のほぼすべてが担当医の勧めにより摂取していたことがわかりました.今後,進行中のルテイン/ゼアキサンチン,w-3系多価不飽和脂肪酸に関する臨床試験,AREDS2の結果など新しい情報に注意し,患者に正しい情報を提供していく必要があると思います.基礎研究による有効性の検証サプリメントの有効性は疫学研究や臨床研究により示されてきましたが,そのメカニズムはよく知られていませんでした.現在,生物学的な有効性が基礎研究により検証されています.たとえば,黄斑部に新生血管を生じる滲出型AMDの動物実験モデルとして,炎症が関与して新生血管を形成するlaser-inducedCNV(脈絡膜血管新生)モデルがあります.筆者らのグループはこのモデルマウスを用いて,ルテインが血管内皮で炎症性サイトカインの下流シグナル・nuclearfactor(NF)-kBを抑え,血管新生を抑制したことを報告しました3).これは,これまで数多く報告されてきたルテインのAMDにおける発症抑制効果の生物学的な根拠の一部を示すと考えます.さらに筆者らは,マウスの眼炎症モデルを用いて,炎症時に生じる網膜機能低下が,網膜内で増加した活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)が転写因子であるSTAT3を活性化し,蛋白分解系を亢進させ,視物質であるロドプシンを過剰に分解することにより生じることを明らかにしました4).ルテインはROSを抑制することによりこの経路を断ち,視機能を保持したと考えられ,炎症に対して直接的な網膜保護作用をもつことが示されました.このように,これまで臨床的に示された食品因子の有効性を検証するほかに,分子生物学的に機能を探り,新たな疾患への応用も試みられています.サプリメントの将来AMDにおいては,いくつかの有効な治療法が見出されましたが,その効果は満足できるものではなく,一度傷害された網膜の機能は回復しません.そのため,予防の意義は大きく,決め手となる予防法がない現在,サプリメントは重要な役割を担っています.AMD発症に遺伝子の関与が明らかなため,今後はRotterdamstudyの報告5)のように,サプリメント摂取においても,遺伝子解析が摂取対象者の選択や早期栄養指導などに生かされていくと考えられます.また,今回取り上げたAMD以外の多くの疾病の病態や加齢変化に,酸化ストレスが関与していることを考えると,長期摂取が可能なサプリメントは予防法として有望であり,今後も基礎研究とともに遺伝子解析を含む臨床研究を進めることにより,臨床に応用されていくものと考えています.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20012)SasakiM,ShinodaH,KotoTetal:UsageofmicronutrientsupplementforpreventingadvancedAge-relatedMacularDegenerationinJapan.ArchOphthalmol,inpress3)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Macularpigmentluteinisantiinflammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20074)SasakiM,OzawaY,KuriharaTetal:Neuroprotectiveeffectofanantioxidant,lutein,duringretinalinflammation.InvestOphthalmolVisSci50:1433-1439,20095)HoL,vanLeeuwenR,WittemanJCetal:Reducingthegeneticriskofage-relatedmaculardegenerationwithdietaryantioxidants,zinc,andw-3fattyacids:theRotterdamstudy.ArchOphthalmol129:758-766,2011(74)■「サプリメント」を読んで■サプリメントの有効性多くの疾患形成には,遺伝因子と環境因子の両方が関与しています.遺伝因子は改変不能ですが,環境因子は制御可能ですので,それにより疾患予防をする試みがなされています.実際に成功したものの一つが,赤ワインによる心疾患予防です.これは意図されたも(75)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111443のではありませんでしたが,環境因子により疾患発症を制御できることを証明した大規模事象であり,現在はそのメカニズムまで解明されています.加齢黄斑変性の発症にも環境因子が関与しています.発症メカニズムから類推して抗酸化物質の摂取が発症抑制すると期待されたので,抗酸化サプリメントと加齢黄斑変性との関係についての大規模研究が行われました.その結果,本文中にも述べられているように,抗酸化ビタミンなどの摂取が加齢黄斑変性の発症をある程度抑制することが証明されました.今回の佐々木真理子先生の研究で優れているのは,そのメカニズムに踏み込んだ点です.赤ワインによる心臓疾患抑制効果は,フレンチパラドックスとよばれ,疫学的には知られていましたが,メカニズムが不明なために十分に信用されていませんでした.そこで,英仏の大学による長年の研究により,原因物質がプロシアニジンであることが突き止められた結果,赤ワインの効果が科学的に裏付けられ,その価値がさらに高まりました.これは産学農による共同事業の素晴らしい成功例といえます.佐々木先生たちの研究は,赤ワインの場合と同様に,サプリメントによる疾患の予防について,将来大きな果実を生む可能性のある素晴らしいものです.サプリメントの危険性ただし,サプリメントについては良いことばかりではありません.ほとんどのサプリメントは健康食品に分類されており,医薬品のように厳密な成分表示がされていません.成分表示があってもそれを証明する必要がないので,表示と実際が異なるケースが多く報告されています.また,現在の医学基準を満たす有効性の証明がなされていないものが大部分です.さらに,他医薬品との相互作用が不明であり,安全性担保も十分とはいえません.有名なものでは,疾患予防のためにbカロチンサプリメント摂取の効果を調べた研究の途上で,男性喫煙者に有意に肺がん罹患率上昇が認められたために,急遽研究が中止された話があります.これが危険であるのは,bカロチンは動物実験レベルでは疾病抑制効果が認められたにもかかわらず,人では逆の結果をひき起こした点です.現在,サプリメントの成分が細胞実験や動物実験で有効であったから,人間の疾病予防に有効であると大々的に宣伝されているケースが多々見受けられます(白内障,緑内障,飛蚊症に効果があるというサプリメントなど).これは学問的に間違っているのみならず,一般の人を危険に導く行為です.良心的で責任感のある医師であれば,効果が科学的に証明されたものについてのみ,そのように説明すべきでしょう.患者およびその家族は常に弱い立場にあります.治療法のない網膜変性に罹患していることがわかったときに,冷静な判断ができる人は多くいません.そのようなときに,正確な情報を伝えるのは医師の重要な役目です.サプリメントにはそのような危険性も内包されていることを知るべきでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆