特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):457~463,2013特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):457~463,2013先天盲と中途失明におけるロービジョンケアLowVisionCareforCongenitalandAcquiredBlindness西田朋美*はじめに視覚障害は,盲・失明(blindness)とロービジョン(lowvision)に大きく二分される.現在のところ,それぞれの定義は世界で統一されていない.盲・失明というと,一般的には光もわからない状態をイメージしがちだが,決してそうではない.世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)では,いずれも良いほうの目を矯正して,盲・失明は光覚弁なし以上0.05未満,中心視野10°以内,ロービジョンは0.05以上0.3未満と定義づけている.わが国の身体障害者手帳認定基準に照らし合わせると,視覚障害1級,2級程度がWHOの盲・失明に相応する.盲・失明は,さらに先天盲と中途失明に二分される.先天盲は,乳幼児期までの間に受障し,視覚を使えた経験をもっていない状態で,中途失明は,人生半ばで受障し,視覚を使えなくなった状態をいう.つまり,先天盲と中途失明は,ものを見た記憶があるかないかという点が最も大きな相違点であり,盲・失明という同程度の視覚障害であっても困り具合がまったく異なる.これに伴い,ロービジョンケアの進め方も先天盲と中途失明では違うことが多い.本稿では,盲・失明を対象として,原因疾患,障害の告知と受容,就学前から就労まで,文字の読み書き,歩行,スポーツの面から,先天盲と中途失明でどのように異なるのかに関して説明を加え,ロービジョンケアを進めるうえで眼科医として最低限押さえておきたいポイントを明らかにする.I原因疾患先天盲では,盲学校の児童生徒の統計(1986~1996年)によれば,網膜色素変性症,視神経萎縮,先天性眼疾患が上位3位を占めている.視覚障害の原因に関しては,2005年の盲学校での調査結果では,眼球全体,視神経視路,網脈絡膜疾患を含む先天素因が過半数を占め,ついで,中毒(未熟児網膜症を含む),腫瘍が多かった.抗生物質が登場する以前は,感染症が多く,時代背景的に乳幼児の栄養不良による角膜軟化症も多くみられ,角膜混濁は視覚障害の主要な原因となっていたが,時代とともに激減してきた.また,厚生労働省が5年に1回行っている調査によると,2006年のデータでは全国に視覚障害児は約4,900人いて,うち75.5%が身障1級,2級に該当した.昨今の特徴としては,視覚障害と知的障害など重複障害が特徴であるとされている.中途失明では,身体障害者手帳に基づいた2005年の調査によると,緑内障,糖尿病網膜症,網膜色素変性症が上位3位となっている.昨今の特徴としては,高齢者が圧倒的に多く過半数以上を占め,従来は欧米に多かった加齢黄斑変性が徐々に増えてきていることがあげられる.II障害の告知と受容視覚障害リハビリテーション主体のロービジョンケア*TomomiNishida:国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科〔別刷請求先〕西田朋美:〒359-8555所沢市並木4丁目1番地国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(29)457は,一般的に障害告知から開始される.障害告知とは,どのような治療を行っても今以上の視機能改善が望めず,患者の視機能が視覚障害の状態で落ち着く場合に,患者や家族へ眼科医からわかりやすく状況説明を行うことである.告知時期は医学的予後や障害の程度がわかり次第,できるだけ早いほうがよい.ロービジョンケアはあらゆる職種とチームを組んで進めていくことが多いが,障害告知は眼科医にしかできないロービジョンケアのなかでも最重要の仕事である.眼科医にとっては,特に責任重大かつ荷の重い仕事ではあるが,患者や家族からの質問に対して,その場限りのあいまいな回答をすることだけは厳に慎み,真摯に患者や家族と向き合って説明を行うことが大切である.可能であれば,十分に時間をとって説明を行うことが望ましい.このとき,見えない理由の説明に終始するのではなく,これから先どうしたらいいのかに関しても必ず触れることが重要である.障害告知がうまくできるか否かで,その後のロービジョンケアが円滑に進められるか否かが決定するといっても過言ではない.仮に,自分のところで十分なロービジョンケアを行うことが困難な場合は,周囲でロービジョンケア対応が可能な医療機関や施設へ臆せずに紹介できるようなシステムを日頃から構築しておくことも大切である.特別な説明やアドバイスもなく,漫然と視覚障害の患者を通院させて月日を費やすことだけは眼科医として慎まなければならない.患者が未成年の場合は,両親あるいはそれに代わる保護者(以下,保護者)へ説明を行う.未成年であっても,患者が病状説明を理解できる状態であれば,保護者と相談のうえ,本人へも説明を行うことがある.特に,保護者への支援は大変重要である.子供の目が見えにくいと説明されても,即座にはそのことを受け入れることができず,絶望的になり,少しでもよい話が聞けるところがないかとあちこちの医療機関を巡り歩いたり,精神的に追い詰められてうつ状態になったりするケースもある.このような保護者に対しては,視覚障害児に対する正しい知識や悩みを相談できる場所が必要で,そういうところで救われたという保護者も多い.同じような視覚障害児の保護者との交流や盲学校などでの相談業務などを利用するのも一案だと思われる.先天盲は物心ついたとき458あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013から見えないので,視覚障害児自身は見えることがどのようなことなのかを体験したことがない.しかし,成長するにつれ,他者との違いから自身の障害に気がつくことが多い.この時期に,保護者や教育現場の支援者による適切な対応が必要になる.保護者自身の障害の受容がうまくできていないと,視覚障害児への対応もスムーズにいかず,当人のパーソナリティ形成にも影響が及ぶことがある.特に視覚障害児の場合,保護者の障害の受容が大きく影響する.決して簡単なことではないが,キーパーソンとなる保護者が適正に障害を受容できるように,適切な支援が必要である.中途失明の場合は,基本的には患者自身と家族へ説明を行う.やはり,先天盲の保護者同様,目が見えにくいということをすぐに受け入れることは大半のケースでむずかしい.特に患者自身,絶望のあまりうつ症状が出て自宅に引きこもってしまうことも決して珍しくはない.どんなに懇切丁寧に眼科医が説明を重ねても,障害を受容し,ロービジョンケアを開始することができないケースも少なくない.そういう場合,眼科医の立場からすると,ロービジョンケアをうまく進めることができず失敗に終わったと考えがちであるが,決してそんなことはない.そのようなケースでは,患者自身が能動的にロービジョンケアを始めようと思い始めるまで焦らずに待つことが大切である.眼科医の立場から,患者に必要なロービジョンケアの情報提供を行ったということは,患者にとって大変意味があることである.ロービジョンケアを始められないからという理由で,一切の通院を中断してしまうと,患者も家族も行き場を失ってしまう可能性があるので,眼科とのつながりは基本的に保っておいたほうがよい.通院を継続するなかで,患者が冷静に自分自身のことを考え,ロービジョンケアを始められることもある.厳密にいえば,盲・失明になって何十年と経過している視覚障害者であっても,完全に障害の受容ができている人はほとんどいない.大変むずかしい問題ではあるが,見えにくいということを貴重な体験ととらえ,個性の一つと思えてこそ,新たにロービジョンケアを始める起動力になるものと思われる.眼疾患の治療が眼科医の一番の仕事であることは間違いないが,眼科医はいつでも盲・失明状態の患者に接する機会があるわけで,眼(30)んっー撥音符(はねる音)促音符(つまる音)長音符(のびる音)撥音符(はねる音)促音符(つまる音)長音符(のびる音)科医自身でロービジョンケアを行うか否かにかかわらず,少なくとも盲・失明の患者と家族が抱える苦悩と可能性について把握しておくことを勧めたい.III就学前から就労までヒトは視覚から80%以上の情報を得ているといわれている.乳幼児期から幼少期は,いろんなものを見ながら,特別に教えられなくても見よう見まねで体得していくことが多い.しかし,先天盲の場合は手の届く範囲だけが自分の世界となりやすく,外界への興味がうすれがちである.先天盲の視覚障害児にとって,周囲からたくさん言葉かけをし,音の出るおもちゃで興味を引いたり,いろんなものに触ったりなど多くの経験が大変重要である.見ることだけにとらわれず,ほかの感覚を十分に活用することが大切である.就学前の早期の教育体制は,各地の身体障害者更生相談所や盲学校の就学前相談,幼稚部による早期の教育体制など,幸いにも国内のシステムが整っているので,必要に応じてそれぞれ利用直音(静音・濁音・半濁音)(清音)あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわゐゑを(濁音・半濁音)がぎぐげござじずぜぞだぢづでどばびぶべぼぱぴぷぺぽ可能である.また,一般の幼稚園や保育園での統合教育も行われており,視覚障害児も積極的に集団の場へ出て行きやすくなっている.盲学校では,親同士の交流の場図1日本地図の触図立体的に地図が浮き出ており,触察しながら理解を深めることができる.(横浜市立盲特別支援学校より提供)撥音・促音・長音図2点字一覧表(凸面)と点字の実際(日本点字委員会より一部提供)(31)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013459としても有効活用されている.義務教育を受ける前に,視覚障害児は地区の教育委員会の行う就学相談を受けて,子供の障害の状態,子供や親の希望,地域の実情などを考え合わせて,盲学校,小学校の特別支援学級,普通小学校のどれかに入学して教育を受けることになる.盲学校は各都道府県に最低1校はあるが,通学時間が長い子供たちは寄宿舎に入ることになる.在校生の半分は寄宿舎に入り,週末や長期休暇のときに自宅へ帰る生活をしている.就学と同時に家族から離れるという体験は,視覚障害児にとっては忘れられない分離体験になる.通学の子供たちにとっても,これまで遊んでいた地元の子供たちと話が合わなくなっていくことが多い.盲学校入学は専門的な教育を保障される代わり,これまでの環境が大きく変わることになる.学校教育法には,どの程度の障害をもった視覚障害児が盲学校で教育を受けるのかが記載されている.盲学校で行っている教育は基本的には普通校と変わりないが,触図を用いた学習(図1),点字という触覚で読める文字の指導(図2),拡大読書器や単眼鏡などの視覚補助具を用いた通常の文字の指導,自立活動における指導がある.自立活動は,見えにくさによるさまざまな困難を主体的に改善・克服し,自立して社会参加できるようにすることを目指した指導領域である.昨今の特徴として,視覚以外のほかの障害を併せ持っている重複障害児が増えていることから,個別の指導計画による対応となることが多い.盲学校でない場合は,統合教育の一環として地元の学校に通うことになる.家族と一緒に暮らしながら,地元で多くの友達と教育を受けるという点は,統合教育の最大の長所だといえる.しかし,統合教育のなかには,視覚障害の専門の先生がいないので,視覚障害児に必要な基礎的教育を受けにくいことが短所としてあげられる.また,教科書などの点訳や教材の確保はほとんど保護者やボランティアに頼っているため,これらの支援体制が不十分だとてきめんに困ることになる.さらに,受け入れ先の学校や先生方の理解が得られても,障害をもたない子供たちの保護者など周囲の理解が得られず,視覚障害児や保護者が孤立してしまうこともある.現時点では,盲学校か統合教育か,本人の状態,地域,家庭,学校など,さまざまな条件を考慮して判断していく必要がある.中途失明の場合,現在の学校や仕事を継続できるかはとても大きな問題となる.保有視機能をできるだけ有効に使用できるよう,拡大鏡,単眼鏡などの視覚補助具を活用して少しでも見えやすい環境を整えることが大切である.また,学校生活を送りやすくするため,眼科医,視能訓練士,保護者,学校の担任など,視覚障害児の関係者でミーティングを必要に応じて開くことも有効である.場合によっては,1冊のノートを連絡帳として活用し,学校の様子,家庭での様子,眼科での訓練や病状経過などを記載し,視覚障害児の関係者で情報共有しあう方法もある(図3).この場合,ノートの管理を保護者が行うことが個人情報保護の観点から望ましい.もしも視覚補助具を用いても文字の読み書きがむずかしいようであれば,点字の導入や音声パソコン(画面読み上げソフトを組み込んだパソコン)の訓練なども検討する必要がある.これらの導入は,生活訓練専門職へ依頼したほうがスムーズなことが多い.通常の眼科医療機関では,生活訓練専門職が不在なことが多いため,近くのどこに生活訓練専門職がいて,どのような施設があるのか,点字などの指導をしてもらえるか日頃から情報を集めておくことも大切である.昨今の試みとして,各施設の生活訓図3連絡帳患児の親,学校,病院の関係者間で,患児の目に関して各々の立場から1冊のノートに情報を書き込むことで,情報共有することができる.460あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(32)練専門職が眼科医療機関へ出向き,そこで実際に患者と会い,歩行訓練,点字・音声パソコンの導入時の相談を行うという,いわゆる中間型アウトリーチとよばれる支援方法が注目され始めている.もしもこのシステムがうまくいけば,本格的な視覚障害リハビリテーションを主体としたロービジョンケアの導入がより行いやすくなることが推測される.制度上の制約も多いとされるが,今後の発展が期待される.このように視覚障害児が学業を続けていきやすいように環境整備することも眼科医にしかできない大変重要な仕事の一つである.中途失明の仕事に関しては,ロービジョンケアのうえで学校生活の継続とも似た点が多い.もともとの仕事が運転手やパイロットなど,十分な視力,視野が求められる職業はどんなにロービジョンケアを行っても同じ仕事を継続するのはむずかしい.しかし,勤務先によっては,車の運転ができないのであれば,同じ職場の別の部署へ異動し,デスクワーク主体で仕事を継続できている人もいる.デスクワークであれば,保有視機能をできるだけ有効に使用できるよう,拡大鏡,単眼鏡などの視覚補助具を活用することで,大半の仕事ができる.また,最近では,視覚障害者にとってパソコンが大きなツールになっている.仮に全盲であっても,音声パソコンの登場で,通常の事務作業とほぼ同じことを行うのが可能になり,そのスキルを磨いて一般の会社などで勤務する視覚障害者も出てきている.このときに大切なことは,仕事を完全に辞めてしまう前に,必要なロービジョンケアを行い,環境整備を進めていくことである.いったん退職した後だと,たとえ本人が復職をしたいと強く希望してもむずかしいことが多い.また,本人が仕事先を退職する前にロービジョンケアのなかでできることがないか,眼科医自身が考えておくことも大切である.就労中の視覚障害者が患者でいたら,仕事はどうしているのか,常に考える習慣をつけておく.患者の労働上の環境整備ができるのは,眼科医しかいないことをぜひ頭に入れておいていただきたい.視覚障害者の仕事としては,三療(あん摩・マッサージ・指圧師,はり師,きゅう師),音楽芸能,宗教家などが古くから代表的なものとしてあげられる.今では,それ以外にも視覚障害者の職域は開拓されてきている.本人のやる気と周囲の協力理解があれば,かなりのことができるようになってきた.これには,障害者雇用促進法が制定され,法定雇用率(平成25年度より1.8%から2.0%へ引き上げ)が定められていることも関係していると思われる.IV文字の読み書き見えなくなったらみんな点字をやるというイメージがあるが,決してそんなことはない.むしろ,昨今の視覚図4視覚障害者用ポータブルレコーダーとデイジー図書デイジー図書は,各地の点字図書館を主とした図書館から貸出可能である.利用にあたっての条件については,各図書館へ直接確認を行ったほうがよい.(33)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013461障害者の特徴として高齢者が多いということもあり,中途失明で点字が使える人は約1割しかいない.点字の習得は,高齢になればなるほどむずかしくなり,特に糖尿病網膜症で指先の感覚が弱っている場合には,習得までにより一層の困難を伴う.先天盲では,ほとんど点字を習得する機会があり,実用している人も多い.中途失明の人の点字習得は個人差が大きく,時間がかかるときもあるが,要は速さよりも確実に読み書きできることが大切である.中途失明の人で点字を使うことがむずかしい場合は,視覚障害者用ポータブルレコーダーを用いることが多い(図4).デイジー(DigitalAccessibleInformationSystem:DAISY)図書とよばれる1枚のCDが媒体となり,これに約50時間の録音が可能である.録音も再生もできる機種もあり,操作もあまりむずかしくないため,中途失明の人のなかには重宝している人もいる.V歩行先天盲の歩行では,基礎的能力として,知識,感覚・知覚,運動,社会性,心理的課題の5つがあるとされている.これらの習得がうまくいかないと,歩行指導の能率も下がり,ある程度限られた範囲の歩行になりかねない.特に,視覚に問題のない子供が見ることによって教えられなくても模倣で学習するようなものや,普通校では教科対象にならない常識とされる点も学習対象として指導していくことが大切になる.たとえば,左右や方角,通常どこにでもある道路の溝,壁,段差,縁石などが含まれる.さらには,自動車の音,エスカレーターの手すりなどの各種聴覚や触覚,歩き方,姿勢といった運動,顔の表情や身なりなどの社会性としてのマナー,学習能力,推理力,判断力などの心理的課題とあらゆる内容が前述の5つの課題には含まれている.この点,中途失明の場合は,過去に見たことがあるたABC図5視覚障害者スポーツの例A:陸上,B:ボーリング,C:サッカー.視覚障害者スポーツは,3つの視機能の状態に分かれて競技を行う.全盲のクラスであるB1の場合,陸上ではアイマスクをして伴走者と走る.ボーリングではアイマスクをしてガイドレールを用い,残ピン位置は第三者に口頭で教えてもらう.サッカーでは,アイマスクをした状態で,音の出るサッカーボールとコーラーという周囲でボールの位置を声かけしてくれる人がいる.それぞれ視覚障害者の特徴を生かすよう工夫されている.462あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(34)め,理解してイメージしやすいことが多い.しかし,中途失明の人にとって,白杖を持つということはとても抵抗がある.視覚障害のことを十分理解して勧める分には構わないが,こんなに見えないのだからということで,安易に白杖を勧めると中途失明の人にとっては心理的なダメージが大きい.そのような場合は無理をせず,視覚障害リハビリテーションを主体にやっている医療機関や施設へ移動の相談に行ってみてはどうか?ということで,歩行訓練の突破口を開くことでも十分だと思われる.歩行訓練は,自発的に自分でやろうと思わないと訓練自体うまく進まないことが多い.これまで見えて歩いていたのが見えないなかで歩かなければならないとなると,いいようのない恐怖感や不安感が先に立つ.このような場合は,無理に自力歩行にこだわらず,同行援護の制度を利用して,ガイドヘルパーをお願いすることも可能である.また,手帳1級相応で,盲導犬とともに一定期間訓練を行い,適性があれば盲導犬の活用が有効になる.VIスポーツ見えなくなったので好きだったスポーツを諦めたという声も患者からよく聞くことがある.近年のパラリンピックなどを通して,視覚障害の選手の活躍ぶりが報道される機会が以前よりはだいぶん増えてきたが,見えにくいという理由でスポーツを諦める必要はまったくない(図5).むしろ,生きがいや健康面を考えると,何かしらのスポーツを継続することは視覚障害者にとって大変よいことであるといえる.見えにくくなってから始めたスポーツで,パラリンピックのメダリストになった視覚障害の選手も実在する.先天盲では,盲学校で体育の時間があり,視覚障害のスポーツがさかんに行われており,自然な流れでスポーツに取り組める環境が比較的整っている.しかし,中途失明の場合は,眼科医自身が視覚障害者スポーツに関して知らないことが多く,眼科医療機関で情報を得ることがきわめてむずかしい環境にある.筆者がロービジョンケアを行うなかで,スポーツがきっかけでロービジョンケアがスムーズに行えたケースは珍しくなく,今後ロービジョンケアにおける視覚障害者スポーツの位置づけも大切になっていくであろう.国際大会に出場できるほどでなくても,自身のレベルにあったスポーツを継続することで,患者の生き方が変わることもあり,視覚障害者スポーツの今後にも注目をしていきたい.おわりに先天盲と中途失明は以上に述べてきたように異なる点が非常に多い.たとえ自分で積極的にロービジョンケアを行う機会がなくても,眼科医としてそれぞれの障害特性を把握しておくことは,視覚障害の患者にとって大変心強く,大切なことである.文献1)樋田哲夫(編):ロービジョンケアガイド.文光堂,20072)原田政美(編):視覚障害第2版.医歯薬出版,19713)芝田裕一:視覚障害児・者の理解と支援.北大路書房,20074)吉野由美子:視覚障害者の自立と援助.一番ヶ瀬康子(監).一橋出版,19975)芝田裕一:視覚障害児・者の歩行指導.北大路書房,2010(35)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013463