《原著》あたらしい眼科30(8):1174.1176,2013c線維柱帯切除術後の遷延性脈絡膜.離に対して白内障手術が効果的であったと思われる2症例3眼定秀文子竹中丈二望月英毅木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学EffectsofCataractSurgeryforPersistentChoroidalDetachmentafterTrabeculectomyAyakoSadahide,JojiTakenaka,HidekiMochizukiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity線維柱帯切除術(TLE)後に遷延性脈絡膜.離(CD)をきたした3眼の治療経過を報告する.症例1は53歳,男性.TLE術後3カ月目の眼圧は両眼とも4.6mmHgでCDが出現した.白内障も進行したため右眼白内障手術と強膜縫合を行った.左眼は白内障手術のみを行った.術後眼圧は両眼とも8mmHgになりCDは消失した.右眼の視力はTLE前より改善し左眼はTLE術前と同様になった.症例2は74歳,男性.左眼のTLE術後眼圧は6.10mmHgであったが,術後11日目からCDが生じて白内障が進行した.左眼白内障手術と脈絡膜下液排除を行った.術後眼圧は10mmHgでCDは消失し,左眼の視力は(1.2)になった.TLE後の遷延性CDに対して白内障手術単独,あるいは強膜縫合,脈絡膜下液排除を組み合わせて行いCDは消失した.TLE後に遷延したCDには白内障手術を中心とした治療が有用であると思われた.Wereporton3eyesof2patientswithpersistentchoroidaldetachment(CD)aftertrabeculectomy(TLE).Case1:A-53-year-oldmaleunderwentTLEinoculusuterque(OU).Postoperativeintraocularpressure(IOP)decreasedto4.6mmHg;CDoccurred3monthsafterTLE.CataractsurgerywasperformedinOU,withscleralflapsuturinginoculusdexter(OD).Afterthesurgery,CDresolvedandIOPincreased8mmHginOU.Visualacuity(VA)improvedinOD,butreturnedtopre-TLElevelinoculussinister(OS).Case2:A-74-year-oldmaleunderwentTLEinOS.PostoperativeIOPdecreasedto6.10mmHg.Onday7,CDoccurred.At14monthsafterTLE,cataractsurgerywithsubchoroidalfluiddrainagewasperformed.PostoperativeIOPwas10mmHg;CDgraduallydisappeared.CorrectedVAwasimprovedto1.2.CataractsurgerycanbeusefulasameansoftreatingpersistentCDafterTLE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1174.1176,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,白内障手術,脈絡膜.離.trabeculectomy,cataractsurgery,choroidaldetachment.はじめに線維柱帯切除術(TLE)は術後早期の合併症が少なくない.術後早期の濾過過剰に伴う浅前房,脈絡膜.離を避けるために強膜弁を強めに縫合し,濾過量が不足するときにはレーザー切糸術を併用して眼圧を調整する.術後早期に生じた脈絡膜.離の治療としてはアトロピン点眼,房水産生阻害薬の投与,ステロイド薬の点眼,内服が推奨され,外科的な処置としては空気や粘弾性物質の注入,脈絡膜下液排除などを行うことが教科書的に記載されている1).ところが遅延した脈絡膜.離に対する明確な治療法は今のところ確立されていない.今回線維柱帯切除術後に脈絡膜.離が遷延した3眼を経験した.白内障手術〔PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)〕単独,あるいは白内障手術に強膜弁縫合,または脈絡膜下液排除を組み合わせて行ったのでその治療経過を含めて報告する.I症例〔症例1〕53歳,男性.主訴は両眼の視力低下である.1997年頃両眼の開放隅角緑内障と診断された.点眼治療を行っていたが,2008年頃〔別刷請求先〕定秀文子:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:AyakoSadahide,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN117411741174あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(130)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYから両眼の視力低下が進行したため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は右眼0.1(0.7×sph.3.75D),左眼0.08(0.6×sph.3.25D(cyl.1.25DAx85°),眼圧は右眼22mmHg,左眼19mmHgであった.両眼Emery-Little分類でI度の白内障があった.眼軸長は右眼23.98mm,左眼23.86mmであった.両眼視神経乳頭は蒼白で陥凹拡大あり,開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年6月に左眼のTLE,2008年7月に右眼のTLEを行った.退院時の眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHgで,眼底に異常所見はなかった.2008年9月受診時(右眼術後2カ月目)の眼圧は右眼4mmHg,左眼6mmHgで,右眼の前房深度は浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していたため炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の内服と散瞳薬(アトロピン・トロピカミドフェニレフリン塩酸塩)点眼を開始した.このときの左眼の前房深度は十分で脈絡膜.離はなかった.右眼の経過:2カ月経過しても右眼の前房は浅いままで脈絡膜.離が進行し3象限に及んだ.光干渉断層計(OCT)で:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)(0.6)(0.2)脈絡膜.離出現PEA+IOL+強膜弁縫合眼圧(mmHg)181614121086420術後期間(カ月)図1症例1右眼の術後の眼圧と視力は低眼圧黄斑症はなかった.また,水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.右眼視力は0.02(0.1×sph.5.00D(cyl.1.00DAx10°)まで低下した.2008年11月(右眼術後4カ月目)右眼PEA+IOL+強膜弁縫合術を行った.PEA+IOL+強膜弁縫合術後1週間で脈絡膜.離はほぼ消失した.右眼眼圧は6.8mmHgで推移し脈絡膜.離の再発はなかった.視力も徐々に改善し術後3カ月目に(1.0×sph.6.00D(cyl.2.00DAx10°)となり,緑内障手術前より上がった(図1).左眼の経過:術後6カ月目の受診時の左眼眼圧は4mmHgであった.前房深度は1.77mmと浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.OCTで低眼圧黄斑症はなかった.薬物治療を行ったが,脈絡膜.離は2カ月間遷延した.水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.左眼視力は(0.3×sph.5.50D(cyl.1.25DAx20°)まで低下した.白内障手術による炎症で眼圧が上昇し脈絡膜.離が改善することを期待し2009年2月(左眼術後8カ月目)に左眼PEA+IOLを行った.眼圧は7.9mmHgで推移して脈絡膜.離は消失した.PEA+IOL術後5カ月で左眼の視力はTLE術前時の(0.6×sph.4.50D(cyl.3.00DAx10°)まで戻った(図2).〔症例2〕74歳,男性.主訴は両眼の視野狭窄である.1995年に両眼の開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行っていた.2007年頃から両眼の眼圧のコントロールが不良となり左眼の視野障害も進行するため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は1.0(1.2×sph+2.25D(cyl.3.00DAx85°),左眼0.8(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx95°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.水晶体は両眼Emery-Little分類でⅠ度の白内障があった.眼軸長は右眼24.03mm,左眼23.56mmであった.両眼とも視神経乳頭は陥凹拡大があり開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年5月に左眼TLEを行った.術後7日:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)眼圧(mmHg)1614121086420PEA+IOL脈絡膜.離出現(0.2)(0.6):眼圧(mmHg):視力0102030405060術後期間(カ月)眼圧(mmHg)20181614121086420脈絡膜下液排除+PEA+IOL脈絡膜.離出現(1.0)(0.6)(0.2)(1.5)術後期間(カ月)図2症例1左眼の術後の眼圧と視力図3症例2左眼の術後の眼圧と視力(131)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131175表1まとめ症例1右眼左眼症例2視力術前術後(0.2)(1.0)(0.3)(0.6)(0.1)(1.2)眼圧術前術後4mmHg8mmHg4mmHg7mmHg6mmHg9mmHgCD発症時期術後3カ月術後6カ月術後11日目CD発症から白内障手術までの期間2カ月後2カ月後13カ月後CD:脈絡膜.離.目の左眼の視力は0.8(1.2×sph+0.50D(cyl.1.25DAx40°),眼圧は10mmHgであった.術後11日目の再診時には左眼眼圧は6mmHgで前房は浅くなり,鼻上側と鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.眼圧は8mmHg前後で経過したが脈絡膜.離が進行した.検眼鏡検査では黄斑部に網膜皺襞はなかった.3象限にわたる脈絡膜.離が13カ月の間改善せず白内障が進行した.左眼の視力は(0.2×sph+0.50D(cyl.2.00DAx10°)に低下した.2009年7月(術後14カ月目)に左眼のPEA+IOLと脈絡膜下液排除術を行った.術後脈絡膜.離は徐々に改善し2カ月後左眼の眼圧は9mmHgで脈絡膜.離は消失した.術後左眼の視力は6カ月目に(1.2×sph.1.50D)になり,現在まで脈絡膜.離の再発はない(図3,表1).II考按線維柱帯切除術後の脈絡膜.離発症には過剰濾過や房水漏出などによる術後低眼圧あるいは眼内炎症が関与すると考えられている.多くが術後早期(1カ月以内)に出現し眼圧の上昇に伴い自然治癒し,外科的治療を要することは少ない1,2).しかし,遷延する脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は視力障害をきたすことがあるため何らかの外科的治療が必要になる.眼圧を正常化させるための処置として,圧迫縫合(compressionsuture)や自己血注入,強膜弁縫合などがある.また,内眼手術を行うことで炎症が生じ濾過胞の縮小,眼圧上昇をきたすことがあることが知られている.原田ら3)の報告によれば,線維柱帯切除術の既往のある眼に白内障手術を行った12眼中2眼で術後眼圧が上昇し緑内障再手術が必要となっている.また,Rebolledaら4)は線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った67眼中2眼は6カ月以内に緑内障再手術が必要になったと報告している.他にもKlinkら5)によれば線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った30眼において1年後の眼圧は平均で約2mmHg上昇し,30眼中151176あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013眼は2mmHg以上眼圧が上昇したと報告している.AwaiKasaokaら6)は線維柱帯切除術後1年以内に白内障手術を行うと有意に眼圧が上昇すると報告している.Sibayanら7)は線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して白内障手術が有効であった症例を報告している.白内障手術により炎症が起こることで濾過胞の瘢痕化,濾過機能の減弱を招きそれに伴い眼圧が上昇し低眼圧黄斑症が改善した.また,彼らは白内障がある線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して,白内障の程度や低眼圧の期間に関係なく白内障手術が有益だと述べている.これを応用して線維柱帯切除術後の遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術が有効であるとの報告がある8).筆者らはそれにならい遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術を中心とした治療を行った.症例1の右眼にはPEA+IOL+強膜縫合,左眼にはPEA+IOLを単独で行った.症例2は左眼PEA+IOLと脈絡膜下液排除を行い3眼とも脈絡膜.離の改善,視力の改善が得られた.強膜弁の追加縫合や脈絡膜下液排除がどこまで有効であったかわからない.中崎ら9)は線維柱帯切除術後の脈絡膜出血に対して下液排除だけでは再発を繰り返す症例を報告している.線維柱帯切除術の術後に遷延する脈絡膜.離に対しては白内障手術を中心とした治療が有効であるといえる.遷延する脈絡膜.離の要因,適切な追加手術の時期など今後解明すべき点は多い.文献1)丸山勝彦:線維柱帯切除術後早期管理.眼科手術24:138142,20112)新田憲和,田原昭彦,岩崎常人ほか:線維柱帯切除術後の脈絡膜.離に関する臨床経過の検討.あたらしい眼科27:1731-1735,20103)原田陽介,望月英毅,高松倫也ほか:緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響.あたらしい眼科25:10311034,20084)RebolledaG,Munoz-NegreteFJ:Phacoemulsificationineyeswithfunctioningfilteringblebs.aprospectivestudy.Ophthalmology109:2248-2255,20025)KlinkJ,SchmitzB,LiebWEetal:Filteringblebfunctionafterclearcorneaphacoemulsification.aprospectivestudy.BrJOphthalmol89:597-601,20056)Awai-KasaokaN,InoueT,TakiharaYetal:ImpactofphacoemulsificationonfailureoftrabeculectomywithmitomycinC.JCataractRefractSurg38:419-424,20127)SibayanSA,IgarashiS,KasaharaNetal:Cataractextractionasameansoftreatingpostfiltrationhypotonymaculopathy.OphthalmicSurgLasers28:241-243,19978)狩野廉:線維柱帯切除術中長期管理.眼科手術24:143148,20119)中崎徳子,原田陽介,戸田良太郎ほか:線維柱帯切除術後の上脈絡膜出血にシリコーンオイルのタンポナーデが奏功した2例.臨眼66:1537-1542,2012(132)