特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):143.146,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):143.146,2013加齢黄斑変性と遺伝子GeneticAssociationswithAge-RelatedMacularDegeneration山城健児*はじめに加齢黄斑変性は遺伝しますか?と患者に聞かれたときに,自信をもって答えられる眼科医は意外に少ないのではないだろうか.遺伝病ではないので,優性遺伝や劣性遺伝の形式をとるわけではないことは眼科医であれば誰もが知っているはずである.一方でCFH遺伝子やARMS2/HTRA1遺伝子が加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子であるということは聞いたことがあっても,これらの遺伝子と加齢黄斑変性の遺伝性との関係は直感的には理解しづらいのではないだろうか.さらに,CFH遺伝子やARMS2/HTRA1遺伝子が加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子であるということがわかったところで,臨床家にとってはなんの役にも立たないのではないかと考えている眼科医も多いだろう.本稿では,最近わかってきた加齢黄斑変性に関するゲノム研究の成果を紹介し,臨床の現場にどう生かせば良いのかを解説したい.I疾患感受性遺伝子とは疾患のなかには網膜色素変性のように原因遺伝子に生じた変異によって発症するものもあれば,外傷のように遺伝的背景とは無関係に生じる疾患もある.加齢黄斑変性の発症には遺伝的背景と環境因子の両方が関与していると考えられており,そのような疾患を多因子疾患とよび,多因子疾患の発症に影響を与える遺伝子を疾患感受性遺伝子とよぶ.加齢黄斑変性の発症に関係する遺伝子としてはCFH210210210210CFH1410996HTRA1rs11200638010101012CFHY402HCFHI62Vオッズ比500リスクアレル数図1リスクアレル数による加齢黄斑変性の発症確率CFH遺伝子中の一塩基多型(Y402H,I62V,rs1410996)およびHTRA1遺伝子中の一塩基多型rs11200638のすべてにリスクアレルをもっていない人を基準にすると,すべてに2つずつリスクアレルをもっている人は約70倍もの高いリスクをもっていることがわかる.(文献1より改変)遺伝子とARMS2/HTRA1遺伝子が有名で,遺伝子型の組み合わせによって加齢黄斑変性が発症する可能性が数倍.数十倍に高まることがわかっている1)(図1).II加齢黄斑変性の感受性遺伝子1.ARMS2遺伝子ARMS2遺伝子は10番染色体の長腕に存在し,107*KenjiYamashiro:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕山城健児:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)14310番染色体程度のアミノ酸からなる小さい蛋白質をコードしている.図2のようにそのDNA配列を抜き出してみると,69番目のアミノ酸をコードしているコドンの配列が日本人ではGCT(alanine)になっている人が約6割で,TCT(serine)になっている人が約4割いることがわかっている.このように塩基が一つ変異を起こした状態が1%以上の人にみられる場合,その変異は一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)とよばれ,例にあげたSNPでは69番目のアミノ酸がアラニン(A)からセリン(S)に変わることから,このSNPはA69S多型ともよばれる.ARMS2遺伝子のなかには他にも複数のSNPがあるが,特にA69S多型と加齢黄斑変性の発症との関連が広く研究されてきた.ARMS2遺伝子は父親と母親の双方から受け継いだものをもっているため,それぞれのA69S多型について調べると,2つともGの人(GG型),片方がGでもう片方がTの人(GT型),両方がTの人(TT型)の3種類に分けられる.日本人ではGG型が約5割,GT型が約4割,TT型が約1割となっており,オッズ比から考えると,GG型の人に比べてGT型では1.5倍,TT型では5倍も加齢黄斑変性を発症しやすくなるということがわかっている2).両親がともにTT型であればその子供もTT型になると考えられ,両親がともにGT型であれば25%の確率で子供がTT型になると考えられることから,加齢黄斑変性については発症リスクが遺伝すると考えるべきである.2.他の遺伝子これまでにさまざまな遺伝子が加齢黄斑変性の感受性遺伝子として発表されてきた.しかし,感受性遺伝子であるかどうかを判断するためには複数の施設からの報告を総合的に検討する必要があり,これまでにもTLR3144あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013図2ARMS2遺伝子A69S多型ARMS2遺伝子は10番染色体の長腕に存在し,その塩基配列の一部を調べると,「CAGCTGCTAAAA」という配列をもっている場合と,「CAGCTTCTAAAA」という配列をもっている場合とがある.表1加齢黄斑変性の発症に関与する感受性遺伝子ARMS2/HTRA1CFICFHCETPC2/CFBTNFRSF10AC3やC1INといった遺伝子が感受性遺伝子として報告された後に,他施設からの複数の追試によって感受性遺伝子ではなかったということが判明している.現在,追試によって日本人の加齢黄斑変性の発症に関連があることが確認できている遺伝子を表1にまとめる.なお,ARMS2遺伝子とHTRA1遺伝子は10番染色体上の近傍に存在しているため,どちらが加齢黄斑変性の発症に影響を与えているのかがわかっていないことから,ARMS2/HTRA1と表記することが多い.III感受性遺伝子と病変サイズ,両眼性加齢黄斑変性患者から「反対の目にも発症するのですか?」と聞かれたときに,「両眼に発症するのは10人に1人か2人程度ですよ」と答えるだけで十分だろうか.最近になってARMS2の遺伝子型によって両眼に加齢黄斑変性が発症する確率が違うことがわかってきた.複数の施設から上述のA69S多型にTをもつと両眼発症の可能性が高くなるという報告がなされており,片眼に加齢黄斑変性を発症している患者を10年間経過観察すると,GG型の患者では1割程度にしか僚眼発症がみられないのに対して,TT型の患者では約7割の患者で僚眼に加齢黄斑変性が発症するということがわかっている3)(図3).他にもTT型の患者では病変サイズが大きいことや,進行が速いこともわかっており,ARMS2遺伝子のA69S多型を調べることによって患者に予後をより正し(10)僚眼発症10.90.80.70.60.50.40.30.20.10:GG:GT:TT020406080100120140160180経過観察期間(月)図3片眼発症例における僚眼の加齢黄斑変性の発症A69S多型の遺伝子型がGGの片眼発症患者では10年以上経過観察を続けても1割程度にしか僚眼の発症を認めていないのに対して,TTの患者では7割近くに僚眼発症を認めている.(文献3より改変)く説明することができるはずである.また,ポリープ状脈絡膜血管症ではTT型の患者に硝子体出血や網膜下出血が多いという報告もあり,合併症の予測にも役に立つかもしれない.IV遺伝子診断法このように臨床医にとっても,遺伝子診断を行うことによって加齢黄斑変性患者に対してより良い医療を提供できることがわかってきたが,まだ誰もが簡単に患者の遺伝子型を調べられるわけではない.通常,ゲノム研究としてSNPを調べる際にはTaqManSNPGenotypingAssayやSequenomMassArraysystemといった検査を行う必要があり,どこでも誰でも行える検査とはいえない.しかし,最近ではdeCODEme,MaculaRisk,23andMe,AsperBiotech,INTERNATIONALBIOSCIENCES,RetnaGENEAMDといった企業ベースの加齢黄斑変性の遺伝子リスク検査が可能になっている.さらに,京都大学とダナフォームが共同開発したA69S多型の迅速診断キットを用いると,リアルタイムPCR(polymerasechainreaction)システムさえあれば簡単に診断ができるようにもなった.このキットでは患者の末梢血5μlを試薬に混ぜて1分間加熱し,その後1μlを取り出して反応液に混ぜて機器にセットするだけ(11)で,20分程度で解析画面に結果が表示されるため,研究補助員程度の知識があれば簡単に検査が可能である.V個別化医療内科領域では肺癌治療の際に,EGFR遺伝子の変異を調べることによってイレッサを使用するかどうかを決めることが推奨されている.同様にワーファリンRを使用する前にCYP2C9とVKORC1の遺伝子多型を調べると,各患者に必要なワーファリンRの投与量がわかることも広く知られている.眼科でも加齢黄斑変性の治療を行う前に,いくつかの遺伝子の多型を調べることによって治療の効果を予測し,各患者に最適な治療方法を選択するという個別化医療を実現するためにさまざまな研究が行われてきた.日本人における光線力学的療法(PDT)の効果とA69S多型との関係については多数の報告があり,GG型の患者でより良い視力予後が得られることがわかっている1,4,5).白人ではA69S多型と視力予後の間には関連はないという報告もあるが,日本人では治療前にA69S多型を調べることによってPDTの効果を予測できる可能性が高そうである.一方,抗VEGF(血管内皮増殖因子)治療の効果を予測するための遺伝子多型についてはまだ決定的な結果が出ていない.CFHおよびARMS2/HTRA1遺伝子の多型については10報以上の結果が報告されているが,いまだ一定の見解は得られておらず,治療方法の選択には活用できそうにない.他にもいくつかの遺伝子の多型と抗VEGF治療の効果との関連を調べた研究結果が多数報告されており,特にVEGF遺伝子の多型と抗VEGF治療後の視力との間には関連がありそうだが,この関連を否定する報告もあり,やはりまだ決定的な結論には至っていないと考えるべきだろう.現在,抗VEGF治療の結果を予測できる遺伝子を探すための多施設前向き研究が行われている.この研究では約300例の加齢黄斑変性患者に対して抗VEGF治療を行い,全患者からDNAを採取して250万のSNPを調べることによって治療結果と関連を認めるSNPおよび遺伝子を探す予定となっており,さらに300例の追加症例を用いてその関連の再現性も確認することになっあたらしい眼科Vol.30,No.2,2013145ている.この研究の結果次第では,抗VEGF治療の効果を予測できる遺伝子多型が判明するはずで,治療を行う前に遺伝子診断を行い,抗VEGF治療かPDTかどちらがより効きそうであるかを予測したうえで,治療方法を選択することが可能になるかもしれない.おわりに2005年にCFH遺伝子が加齢黄斑変性の感受性遺伝子として発表されてから,ほぼ8年が経過した.2013年中には大規模な多施設研究の結果が判明し,加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子は20を超えることになりそうである.加齢黄斑変性の病態の解明につながれば新たな治療方法の開発につながるかもしれない.また,加齢黄斑変性患者の遺伝子を調べることによって,僚眼の発症予測や進行速度の予測が可能になりそうであり,臨床家にとっても日常の診療に遺伝子診断を活用する必要が出てくるかもしれない.特に治療効果の予測に遺伝子多型が有用であることがわかれば,遺伝子診断は加齢黄斑変性治療に必須の検査となるだろう.文献1)TsuchihashiT,MoriK,Horie-InoueKetal:ComplementfactorHandhigh-temperaturerequirementA-1genotypesandtrea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