———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????私が思うこと●シリーズ⑦(61)最近の子供を取り巻く環境は厳しく,小中学生の自殺や家庭内での事件など心を痛めるニュースばかりが取り沙汰されています.私も,眼科医である夫との間に小学5年生の息子がおり,「医師家庭での悲劇」などという週刊誌の見出しは他人事ではありません.人間関係が希薄になる一方で,受験競争は激しさを増し,他人からの評価は成績などわかりやすい数値によるものになりがちです.成績が下がったり友達から仲間はずれにされたりすると,自分には生きている価値がないという気持ちになってしまい,始まったばかりの人生を放棄してしまう子供がいるのです.このような子供たちには「自己肯定感がもてない」という共通点が見られるそうです.すなわち「自分はありのままの存在として素晴らしい,周りの人から愛され,認められている」という気持ちをもてない子供が多いということなのです.*今回タイトルに選んだ“ほめて育てる”は,恥ずかしながらわが家の教育方針です.生後7週目から保育園とお年寄りに育てられ,3歳から5歳の子供時代にドイツの強烈な異文化の洗礼を受けた息子は,超・日本人的な(脱・日本人か?),いわゆる“おりこうさん”の対極にある,変わった子供に育ちました.平凡な両親の理解を超えた個性的な性格に,どのように育てればこの個性をよい方向に伸ばせるだろうか,と夫婦で相談して教育方針を決めたのは,まだ子供が小さいころでした.それ以来,独創性があって常識にとらわれず,臆せずに友達の輪に入っていける積極性を,ただひたすらにほめ続けることにしました.ドイツから帰って日本の小学校に入学してからは,何度も先生をびっくりさせる珍事件を起こしました.1年生の1学期,3時間目が始まるチャイムがなっても2人の子供が教室に帰ってきません.不審者に誘拐されたか,あるいは遊んでいて池に落ちたか,と先生方は授業を自習にして必死に捜索してくださいました.すると4時間目のチャイムがなったとき,「してやったり」という顔で得意そうに教室へ帰ってきたというのです.なんと,いつも休憩時間に校庭で遊んでいて,教室に帰ってくるのが遅いと先生に叱られるので,ならば授業の間トイレに隠れていて次のチャイムで教室に入ればバレないだろう,と考えたというのです.100人の大学の講義室ならまだしも,25人しかいない小学1年生の教室ではごまかせるわけもなく,直ちに御用!となって職員室でお叱りをうけました.もちろん私も呼び出されたことは言うまでもありません.迎えに行ったときの,作戦失敗…というがっかりした顔がおかしくて,思わず笑ってしまいました.私自身は,親にあまり心配をかけないまじめな子供でしたので,わが子が引き起こす想像を超えた珍事件の0910-1810/07/\100/頁/JCLS小泉範子(??????????????)同志社大学研究開発推進機構再生医療研究センター1969年大阪府生まれ.専門は角膜の再生医療であるが,ヘルペス感染症とぶどう膜炎も好き.昨年結婚10周年を機に,夫と共通の趣味をもとうとレスポール(エレキギター)を購入するも,3日で投げ出す努力の続かない性格.「お母さんの得意料理は卵かけごはん」と子供が作文に書いたほどの料理上手?(本当はもう少し上手).(小泉)ほめて育てる▲AmericanAcademyofOphthalmologyにて医局の先生方と(1998年/ニューオリンズ)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007数々にとても不安になっていました.そんな私を力づけてくださったのが「この子は植物の球根です.芽が出る時期が来るまでは,いくら水や肥料をやっても腐らせるだけです.お母さん,芽の出る時を待ちましょう.」という1年生の担任の先生の言葉でした.その先生のお蔭であせらずに子供を見守ることができたように思います.周りの子供と比較して,できないことばかりを叱っていたら,自分に自信をもてない卑屈な子供になっていたかもしれませんが,幸い今のところ元気いっぱいに成長しています.つい怒りたくなるようなひどい成績表をもって帰り,ほめるところを探すのに苦労することもありますが,ほめられたときの嬉しそうな表情は,まだまだ子供だなあ,ほめられると嬉しいのだなあ,と思います.いつの日か大きな花を咲かせる日を楽しみに,あとわずかな子供時代を見守っていたいと思います.*“ほめて育てる”といえば,私自身もほめられてここまできたことに気づきました.私をほめてくださったのは,恩師の木下茂先生(京都府立医科大学教授)です.研修医の頃の私は体力がないうえに緊張症で,いろんな失敗をやらかしながら研修をしていたのですが,落ち込みそうになると,木下教授はいつも絶妙のタイミングで小さいことをほめてくださっていたのです.「こつこつ努力をするタイプだから,きっと小泉さんには研究とか教育が向いているよ」と暗示にかけるように言われ続けてきたことが,今の仕事にもつながっているのだと思います.木下教授は,見かけのイメージとは違うのですが(木下先生,ごめんなさい),実は医局員一人一人の精神状態,たとえば元気に働いているか,楽しそうに働いているかということにも大変細やかな心配りをされていることに,自分が人に指導する立場になった現在,ようやく気づきました.医師を取り巻く環境も最近は厳しくなっており,医師不足は眼科においても重大な問題となっています.医師不足を解決する手段の一つが,女性医師が仕事を続けやすくする環境を整えることだといわれており,産休・育休のシステムや保育園や病時保育の整備など,さまざまな試みがなされていることは素晴らしいことです.しかし現実には,環境を整えるだけでは十分ではなく,実家が遠いとかご主人の理解が得られないなど,まだまだ女性医師の職場復帰を妨げるハードルがいっぱいです.そのような困難に直面したときに,それでも仕事を続けようと思うか,やめてしまおうと思うかというところは,最終的には本人の仕事に対する執着心ではないかと思います.個々の状況は色々で,それらを一挙に解決するマジックはありませんが,一つだけどんな人にもある程度の効果のある方法があるとすれば,やはり“ほめて育てる”ことではないでしょうか.周りの上司や先輩から優れた点をほめられて,職場に必要な人材であることを伝えられたら,自分は職場や患者さんから必要とされている,自分にしかできない活躍を期待されている,という気持ちが励みになるに違いありません.仕事も子育てもまず10年,そこまで続けば眼科医としての実力もそれなりについているでしょうし,仕事を続けてきたことに対する自負心もできていますので,辞めるのはもったいないということに気づくはずです.最初の何年間かは,体力的につらくても経済的にメリットがなくても(子育ての最初の数年間は,自分の収入を超えるベビーシッター代がかかるということはよくあります),将来の自分への投資と割り切って仕事へのモチベーションを保ち続けることができれば,いつか子供と仕事,一生の宝物を両方手に入れることができるはずです.*私は眼科医として14年間働いてきましたが,入局したときには子供を育てることなど考えておらず,医局の先生方にも大変ご迷惑をかけながら,木下教授に「できる,できる」とおだてられながら何とか仕事を継続してきました.ブタもおだてりゃ木に登る,です.家族には「おだてられて木に登っているうちに,木登りもうまくなった」と笑われています.研究も大好きですが,臨床(62)▲球根くんが5歳のころ(2002年/ドイツの英国人学校にて)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????の現場も楽しくて,いつまでも眼科医として患者さんと接していたいと思っています.来年からは勤務する大学にできる新しい学部の教員となる予定で,生命医科学の研究者や技術者を目指す大学生,大学院生の教育に関わることになりました.これからは私が先輩方にお世話になった恩返しを,次の世代の人たちへの教育という形で返して行きたいと思います.講義や研究指導,就職指導など,私にできるのかと不安になることもあるのですが,悩んでいるときにやはり私の恩師は言いました.「小泉さんには向いているよー,すべてがいいほうに回っているね」(そうかしら,私には先生が向いているのかも.誰もやってないことだし楽しそう!)またしても,おだてられて新しい木に登ろうとしている私でした.小泉範子(こいずみ・のりこ)1994年京都府立医科大学卒業,眼科学教室入局2000年京都府立医科大学大学院修了,眼科修練医2000年ドイツケルン大学留学(フンボルト財団研究員,眼科研究員)2003年~現在同志社大学研究開発推進機構再生医療研究センター准教授2007年~現在京都府立医科大学客員講師☆☆☆(63)眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■