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上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術

2019年3月31日 日曜日

上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術VitreoretinalSurgeryfromSuprachoroidalApproach小嶋健太郎*はじめに裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinalCdetach-ment:RRD)は治療介入なしには失明に至る重篤な疾患である.手術による網膜の復位が唯一の治療法であるが,治療のための手術方法は複数存在する.本稿では新たなCRRDに対する低侵襲な治療法として近年注目されている,上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術であるCsuprachoroidalbucklingについて解説する.CIRRDの現在の治療法RRDの現在の治療法としては,おもに経毛様体扁平部硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)と強膜バックリング手術(scleralbuckling:SB)があり,網膜.離の病型や患者の年齢に応じて術者により選択される.他に米国では気体網膜復位術(pneumaticCretino-pexy)もあげられるが,裂孔の存在する位置や範囲に制限があり適応となる症例が限られるため,わが国ではおもにCPPVとCSBから選択される.1970年代に開発されたCPPVでは裂孔を牽引する硝子体を切除のうえで眼内に長期滞留ガス(難治例にはシリコーンオイル)を注入し,そのタンポナーデ効果により網膜を復位させる.PPVは好発年齢がC50~60歳台の,後部硝子体.離に伴い網膜が硝子体に牽引されて生じる病型の網膜.離に対してとくに有効である.2000年代より低侵襲な小切開硝子体手術が開発・普及したことにより現在もっとも多く選択される術式となっているが,ガスタンポナーデによる術後の体位制限による身体的負担に加え,白内障の進行という問題点がある.もう一つのおもな術式であるC1950年代に確立されたCSBはシリコーン性素材を強膜に縫着し網膜裂孔部位に合わせて内陥させることにより裂孔を閉鎖し網膜復位を得る手術であり,眼内の硝子体を切除しないこと,白内障進行の心配がないことなどが利点としてあげられる.そのためPPVが多くなった今日においても,とくにC30歳台以下の若年者に多い,萎縮性裂孔に伴う硝子体牽引の関与が少ないCRRDに対して第一選択の術式である.その一方でC1950年代から近年まで低侵襲化が進んでいない強膜バックリング手術では,大きな結膜切開,外眼筋操作による術中・術後の疼痛,恒久的に残るバックル素材といった手術侵襲ならびに術後の乱視惹起や眼球運動障害などの合併症が欠点である(図1).CII上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術とはSuprachoroidalCbucklingは上脈絡膜腔にカテーテルもしくはカニューラを用いて充.物質(ヒアルロン酸製剤)を注入し,裂孔部位に合わせて一過性に脈絡膜と網膜のみを内陥させることによりCRRDを治療する術式で,1986年にすでにCPooleとCSudarskyによりこのコンセプトは考案されている.彼らは強膜の内陥は裂孔の閉鎖を成功させるための前提条件ではないと仮定し,上脈絡膜腔にヒアルロン酸製剤を注入することにより脈絡膜の*KentaroKojima:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕小嶋健太郎:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(55)C357a隆起シリコーンスポンジ縫合糸外眼筋図1裂孔原性網膜.離(RRD)の治療a:強膜バックリング手術.硝子体牽引の少ない萎縮性円孔など,とくに若年者のCRRDに有効である.大きな結膜切開,外眼筋操作による疼痛,恒久的に残るバックル素材,術後の乱視惹起,眼球運動障害などの合併症が欠点である.Cb:経毛様体扁平部硝子体手術.近年は小切開手術の進歩により低侵襲化している.後部硝子体.離に伴う硝子体牽引の強いCRRDにとくに有効である.術後の体位制限,白内障の進行という問題がある.外眼筋図2上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術上脈絡膜腔バックリング.一過性の充.物質を用いる.外眼筋の操作なし.小さな結膜切開ですむ.図3実際の手術手順28歳,男性.裂孔原性網膜.離に対する手術目的で紹介となった.右眼の上方に複数の萎縮性円孔を認める..離は黄斑に及ぶが術前矯正視力は(1.0)であった.Ca:上方の原因裂孔の位置に合わせて結膜をC9-1時方向で切開し,25ゲージシャンデリア照明を対側に設置する.Cb:広角観察系下で冷凍凝固を施行する.Cc:角膜輪部よりC4~5mmの位置で輪部に平行に強膜を切開し,脈絡膜を露出する.Cd:強膜と脈絡膜の間の隙間にヒアルロン酸製剤を注入し,強膜創付近の上脈絡膜腔を確保したうえで,カテーテルを上脈絡膜腔内に沿わせて慎重に挿入する.Ce:広角観察系で位置と隆起の高さを確認しながら,ヒアルロン酸製剤を上脈絡膜腔に注入し,脈絡膜を隆起させる.Cf:強膜創と結膜を縫合して手術を終了する.この症例では網膜下液の排液は施行していないが,裂孔閉鎖後に下液は徐々に吸収され術後C3カ月で矯正視力は(1.2)になった.り,外眼筋を露出し制御糸で眼位を大きく変えて強膜にマットレス縫合を行うCSBに比べ,手術手技が大幅に簡便となった.実際の手術手順を図3に示す.まず原因裂孔に一致する象限で結膜を切開し強膜を露出し,対側にシャンデリア照明を設置する(図3a).広角観察系下で網膜裂孔の冷凍凝固を施行する(図3b).原因裂孔との位置関係を考慮して強膜を切開し,脈絡膜を露出する(図3c).強膜創より上脈絡膜腔内にカテーテルを挿入する(図3d).広角観察系下で裂孔の下にカテーテル先端を誘導し,長期滞留型ヒアルロン酸を注入して脈絡膜を隆起させる(図3e).強膜創と結膜を縫合して手術を終了する(図3f).SBに比べ結膜切開が少なく,外眼筋を露出し制御糸をかけたうえで眼球を大きく傾ける操作も必要としない.SBでの手技に比べて手順が少なく,supracho-roidalbucklingは広角観察系との相性がよいことがわかる.CIII臨床成績SuprachoroidalCbucklingの手術成績については近年複数の報告があり5~7),いずれも初回網膜復位率はC90%以上の良好な結果であった.ただし海外では下方裂孔の際にCSBと同様に補助的に硝子体手術と併施することも行われているため,報告されている成績は硝子体手術併用を含むという点に注意が必要である.筆者らのグループも医学倫理審査委員会による承認を経て臨床研究(UMIN-CTR#24096)を行い,海外のグループと共同でその結果を報告している7).その報告では,全体のC62例中C57例(92%)で初回復位が得られ,そのうちsuprachoroidalCbuckling単独で治療したC47例においても,初回復位率はC91.5%(43例)であり,単独手術でも良好な成績が得られた.最終的に全例で網膜復位が得られており,平均ClogMAR視力も術前のC0.82からC0.22(小数視力換算でC0.15からC0.6)に有意に回復していた.合併症としては既存のC3報を検証すると,全C124例中C3例で軽度の脈絡膜出血を認めているが,いずれも局所的な出血で自然吸収が得られており視機能への影響は認められなかった.その他の有害事象もとくに認められなかった.上脈絡膜腔への充.物質としては美容形成領域で使用される長期滞留型のヒアルロン酸製剤や眼科領域で使用されているヒアルロン酸製剤が用いられているが,その種類によって隆起効果の持続する時間が異なる5~7).また,ElRayesによる病的近視に伴う近視性牽引性黄斑症に対するこの手技の臨床成績8)や,米国ではぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症に対して上脈絡膜腔へのステロイドの投与についての臨床試験も進行中で,他の網膜硝子体疾患に対する上脈絡膜腔アプローチの今後の応用も期待される.CIV上脈絡膜腔上脈絡膜腔(suprachoroidalspace)は脈絡膜と強膜の間に存在する潜在的な間隙である.通常の状態では脈絡膜と強膜は互いに密接しているが,組織学的には脈絡膜と強膜の境界は両者を相互に接続する疎な結合組織が層状に存在する移行帯であり9),低眼圧による静水圧のバランス破綻や炎症による脈絡膜血管の透過性亢進による脈絡膜.離,あるいは脈絡膜血管からの出血による脈絡膜出血の際に脈絡膜と強膜の間に液体が貯留し,上脈絡膜腔が顕在化する.この腔は前方は強膜岬から後方は視神経乳頭まで及ぶ.眼球赤道部より後方では,強膜を貫いて腔を横切り脈絡膜に至る血管と神経が多数存在するため,脈絡膜と強膜の癒着がより強く,脈絡膜.離などは赤道部より前方に生じやすい9).脈絡膜から流出する渦静脈が赤道部のやや後ろC2.5~3.5Cmm(輪部からC14~15Cmm),水平よりも垂直経線に近い位置で強膜を貫通し,二つの長後毛様動脈は長毛様体神経とともに視神経から約C3~4Cmmの距離をおいて水平方向で強膜を貫通し,上脈絡膜腔内を水平子午線に沿って眼球前方の鋸状縁あたりにまで走って分岐する.さらにC5~10本の短後毛様動脈が短毛様体神経とともに視神経周囲で強膜を貫通し脈絡膜に入る前に上脈絡膜腔を短い距離で横切る(図4,5).上脈絡膜腔はまた,ぶどう膜強膜流出路の一部として房水循環も担う.実験的に上脈絡膜腔と前房との間にC3~4CmmHgの負の圧力勾配が存在し,房水の流出させる働きがあることが示されている10).おわりに上脈絡膜腔アプローチによる網膜硝子体手術は360あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(58)図4上脈絡膜腔(suprachoroidalspace)(VaughanandAsbury’sGeneralOphthalmologyより改変)上斜筋渦静脈渦静脈短後毛様動脈および強膜短毛様体神経長後毛様動脈および長毛様体神経視神経下斜筋渦静脈渦静脈-’C-図5眼球後方からの図(VaughanandAsbury’sGeneralOphthalmologyより改変)

近視性牽引黄斑症への硝子体手術における内境界膜の可視化と利用

2019年3月31日 日曜日

近視性牽引黄斑症への硝子体手術における内境界膜の可視化と利用UtilizationofInternalLimitingMembraneinSurgicalTreatmentforMyopicTractionMaculopathy高橋洋如*I近視性牽引黄斑症への硝子体手術強度近視眼では,網膜硝子体界面において,硝子体と網膜の異常癒着が生じ,黄斑前膜を伴って接線方向へ網膜表面を牽引する.牽引による病変とそれに続発する網膜の萎縮変化とを合わせて,近視性牽引黄斑症(myopictractionmaculopathy:MTM)とよぶ.MTMのなかでは網膜分離症がもっとも頻度が高く,ほかに網膜前膜,分層黄斑円孔,中心窩網膜.離などがみられる(図1).変性した硝子体による網膜牽引のほかに,後部ぶどう腫による後方への牽引,網脈絡膜萎縮病変などが原因となる.MTMへの硝子体手術の治療を決定するにあたっては,長い罹病期間であっても自覚症状が不明瞭であること,視神経症や網脈絡膜萎縮病変による非典型的な視野異常が潜在していることなどを念頭におく.CII黄斑円孔への硝子体手術1.内境界膜染色・.離強度近視眼の黄斑円孔(macularhole)は非強度近視眼と比較して閉鎖率が低いと報告されており,内境界膜(internalClimitingmembrane:ILM)染色・.離の利用により治療成績が改善している1).染色には,トリアムシノロン,インドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG),ブリリアントブルーCG(brilliantCblueG:BBG)などの薬剤が使用可能である.黄斑部のCILM上に硝子体皮質膜が不均一に癒着している場合が多く,ILMを利用するためには硝子体皮質膜は先に除去しておいたほうがよい.ICGやCBBGでの染色では,硝子体皮質膜は染色されず,ILMのみ染色されるため,区別するのに有利である.C2.内境界膜翻転法Mickalewskaらが開発した内境界膜翻転法(invertedCILM.aptechnique)は,ILMを網膜表面から円孔縁まで.離したうえで黄斑円孔上に覆いかぶせるように翻転する方法であり,黄斑円孔の閉鎖率を向上させ,強度近視眼の黄斑円孔にも有用であると報告されている2).これ以外にも,黄斑外周のCILMを遊離弁として移植する内境界膜自家移植法(autologusCILMCtransplantation法)があり,再発症例や難治症例に有用である3).C3.内境界膜翻転法の適応と手技黄斑円孔への硝子体手術の目的は,円孔の閉鎖を得たうえでの視機能の回復である.すなわち,治療後の黄斑の網膜層構造がより適切に回復することを念頭に術式を選択する.円孔によって離開していた網膜層が閉鎖によって連続性を回復するためには従来のCILM.離がもっとも自然な方法であるため,軽症または中等度の黄斑円孔には通常のCILM.離で十分である.筆者は術前のOCT画像上で円孔径を測定し,直径C400Cμm以上の大きな円孔に対してのみCinvertedILM.ap法を使っている.円孔縁で留めながらCILMを1~2乳頭程度.離する*HiroyukiTakahashi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕高橋洋如:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(49)C351図1近視性牽引黄斑症のOCT像a:網膜分離症,Cb:全層黄斑円孔,Cc:黄斑前膜,Cd:網膜分離症(中心窩.離合併)など,病像は多様にわたる.図2黄斑円孔に対する内境界膜(ILM)翻転法の術中画像ILMは中心に向かって収縮している().図3黄斑円孔周辺の網膜前増殖組織a:網膜前増殖組織が黄斑円孔内の網膜裂開と連続していることがある.Cb:手術中に.離した組織は,黄色色素に富んでいる.無理に.離を試みると黄斑円孔が拡大したり,網膜内層の裂開が広がるため,円孔縁まで.離した上で小さくトリミングするに留める.Cb図4後部ぶどう腫がある眼での内境界膜(ILM).離a:強膜創に対して手前のぶどう腫内は鑷子でのアプローチが困難な場合がある.Cb:後部ぶどう腫(水色で示した範囲)のCILMを.離するにあたって鑷子での把持が角度的にむずかしい場合(C×印の方向)は,少し離れた部位からいったん外向きに.離して回り込む(○の方向).図5後極に網脈絡膜萎縮病変(CRA)がある網膜分離症a:黄斑から後極下方にかけて網膜分離症がある.下方の網膜血管周辺にCCRAがある.Cb:黄斑と乳頭を含むCOCT断層像.中心窩.離を合併している.Cc:術中画像.インドシアニングリーンで染色したうえで内境界膜(ILM).離を行っている.CRAとCILMの癒着が強い部分では強引に.離せず,島状に残した.Cab図6黄斑円孔網膜.離での内境界膜(ILM).離a:網膜.離を広げないように接線方向に引きながら膜.離をする.網膜が.離して前方に移動している分,鑷子でのアプローチはしやすい.Cb:パーフルオロカーボン液(PFCL)を後極に留置することにより,網膜の可動性は下がり,安定する.網膜は復位して強膜創から遠ざかる分,鑷子でのアプローチはしづらくなる.

3Dデジタル映像システムを用いたHeads-up Surgery

2019年3月31日 日曜日

3Dデジタル映像システムを用いたHeads-upSurgery3DDigitalImaging-AssistedHeads-upSurgery加藤悠*厚東隆志*はじめに近年,眼科領域でも3Dデジタル映像システムを用いたheads-upsurgeryが注目されている.これはデジタル化した術野の画像を3Dモニターに映し出し,術者,助手ともに顕微鏡の鏡筒をかがんで覗くことなくheads-upした状態で行う手術のことである(図1).術野をモニターに映し出すことや映像をデジタル化することで,本特集のテーマである近未来可視化手術を実現する可能性があり,普及しつつある.本稿では3Dデジタル映像システムを用いたheads-upsurgeryについて,その利点と課題,今後の展望について述べる.I背景とメカニズム医療の分野では他科,とくに元来モニター映像を見ながら診療を行う内視鏡や腹腔鏡を扱う分野で,より操作を行いやすくする目的でモニター映像の3D化が進んできた.一方,眼科領域では手術は顕微鏡下でもともと3Dで行われていたことから,リアルタイムの術野映像を3Dモニターに映し出すことに対する関心が高くはなかったといえる.これまでの3D映像はおもに学会発表などにおける手術ビデオの供覧に用いられ,教育や啓発のツールの一つとして,より臨場感をもった立体的な体験を提供する目的であることが多かった.しかし,2K(ハイビジョン)カメラの導入,高速3D表示技術の向上,4K大画面に代表されるモニター技術の向上などによりリアルタイムの3Dモニター映像が飛躍的に改善し図1Heads-upsurgery術野映像を大画面3Dモニターに映し出すことで,術者と助手が鏡筒をかがんで覗くことなくHeads-upの状態で手術をしている.たため眼科手術領域への導入が試みられることとなった.また,術野の映像を3D化するために映像はリアルタイムでデジタル化される.それにより映像にリアルタイムに加工や補正を加えることが可能となり手術操作支援ツールの一つとしても注目されることとなった(図2).ヒトの眼では立体視を得るために左右の網膜に視差のある像が投影され,その像を脳内で立体像として再構築している.同様に3D映像を見るためには,視差のある像を得て,それをモニター上に左右の眼に入る情報として映し出す必要がある.顕微鏡手術であれば,顕微鏡の*YuKato&*TakashiKoto:杏林アイセンター〔別刷請求先〕加藤悠:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林アイセンター0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(41)343デジタル化術野映像3D化技術の向上4Kモニター技術の向上Heads-up・疲労の軽減3Dモニター映像映像の共有映像の加工や補正・チーム医療・光毒性の軽減・教育・特定波長(色)の強調・遠隔医療・倍率の変換デジタル化・pictureinpicture技術の向上・overlay・サージカルガイダンス2Kカメラの導入図23Dデジタル映像システムを用いたheads-upsurgeryの導入が眼科領域にも試みられることとなった背景2K(ハイビジョン)カメラの導入,デジタル化技術の向上,高速C3D表示技術の向上,4K大画面モニター技術の向上などによりC3Dデジタル映像システムを用いたCheads-upsurgeryの導入が眼科領域にも試みられることとなった.=左眼からの映像右眼からの映像異なる偏光をもたせて上下交互に並べる(ライン・バイ・ライン)モニター左右で異なる偏光をもつ眼鏡左眼から入力される映像右眼から入力される映像図3映像を3D化する方法(ライン・バイ・ライン方式)左右のカメラから得られた画像にそれぞれ異なる偏光をもたせ,1走査線ごとに上下方向に並べ(ライン・バイ・ライン),左右で異なる偏光をもつ眼鏡を通して見ることでC3D映像を得ることができる.厳密にはC2K映像の場合,モニターの縦の長さのC3.19倍離れると画面上のC1画素が視力C1.0の解像度と等しくなる.CIIHeads-upによる利点これまで述べてきたように,3Dデジタル映像システムを用いたCheads-upsurgeryには大きく三つの利点があると考えられる.一つ目は鏡筒を覗くことなく,かが1,920画素1,920画素LR1,080画素左眼の2K映像右眼の2K映像横を2倍に拡大3,840画素R1,080画素2,160画素L1,080画素4Kモニターライン・バイ・ライン方式で並べて左右が異なる偏光をもたせるRLRLRLRLRL4Kモニターに映る3D映像(実際は2K)図42Kカメラを使用し4Kモニターで3D映像を表示する方法左右それぞれC2Kカメラで得られた映像の横をC2倍に拡大し,4KモニターにC1走査線ごとに上下方向に並べることで(ライン・バイ・ライン),2Kカメラ映像の画素数を損なうことなくC3Dモニター映像化する.まずにheads-upの姿勢で手術を行うことができること,二つ目は映像をリアルタイムでデジタル化するために加工や補正が可能なこと,三つ目は映像の共有化によるチーム医療の向上や教育効果である.眼科医には頸部症状,上肢症状,腰部症状が多いという報告がある1).米国北東部の眼科医C2,529名に対して行ったアンケート調査で,頸部症状(頸部痛など)は32.6%,上肢症状(手のしびれなど)はC32.9%,腰部症(43)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C345図5黄色フィルターによる眩しさの軽減a:フィルターなし,Cb:フィルターあり.映像に黄色フィルターをかけることでその反対色である青色光シグナル(短波長域)をカットし,散乱光を抑制し眩しさを軽減させる.図6青色光シグナル増強による硝子体視認性の向上図7黄色光シグナル増強によるILM視認性の向上a:通常シグナル,Cb:青色シグナル増強.青色光のシグナルをCa:通常シグナル,Cb:黄色シグナル増強.黄色光のシグナルを増強させることで硝子体からの散乱光を強調させ,硝子体の視増強させることで,ブリリアントブルーCGで青色に染色され認性を向上させる.た内境界膜(ILM)の視認性を向上させる.7,680画素4,320画素図8解像度の比較SD(standarddefinition)からC2Kへは横方向C3倍,2KからC4Kへは横方向C2倍,8KへはC4倍だが,画素数にするとC4K,8Kへと変化するにつれて著明に高画質化していく.’C

新しい緑内障流出路再建術-Heads-up Surgeryの応用

2019年3月31日 日曜日

新しい緑内障流出路再建術─Heads-upSurgeryの応用Heads-upSurgeryforAb-internoTrabeculotomyProcedure吉田武史*はじめに従来の顕微鏡下で行われる眼科手術では,術者が立体的に手術野の像を得ることはむずかしく,手術野の拡大と光量の調節が手術のパフォーマンスをあげる重要な因子であった.これまで,硝子体手術や白内障手術,緑内障手術などの眼内手術を行う際に眼内を観察するためには,左右の鏡筒を覗き込む古典的な顕微鏡を用いるしか方法はなく,術者が得られる像には視野,色調,コントラスト,シャープネスについてある程度の制限があった.それらの制限を補うため,眼科医は顕微鏡の特徴的な見え方にある一定の時間をかけて慣れる必要があり,見え方の制限については熟練した眼科医になっても手術中に悩まされることがあった.近年,デジタル技術と画像処理テクノロジーの進歩はめざましく,眼科手術領域においてもそれらの新技術を応用することで顕微鏡手術における術野の視認性は大きく改善してきている.今回解説するCheads-upsurgery(HUS)はその代表格である.従来,画像処理で主流であったCstandard-de.nition(SD)の解像度はC640C×480画素と低く,これまでにもC3D技術による手術への応用は存在していたものの,画質の問題からCHUSを含め適応させ普及させることはむずかしかった.しかしながら,画像技術の進歩により解像度C1,920C×1,080画素であるChigh-de.nition(HD)が開発され普及したことから画質の問題がクリアされており,画像処理速度の向上も相まって眼科手術画像技術は大きく進歩した.それとともに,手術のしやすさや術者のストレス軽減など大きな恩恵をもたらしている.そのため,眼科領域の手術においてCHUSの導入が徐々にではあるが本格化してきている.CIHeads-upsurgeryHUSは,顕微鏡の鏡筒を覗きこむことなく顔を上げ,左右別々の像が映し出されるC3Dモニター(図1)をC3D画像専用の偏光グラス(図2)を通して見ながら手術を行うものである.HUSでは鏡筒を覗きこむ必要がないため,身体の自由度が増し頸部痛や腰痛などの身体的苦痛から術者が解放される.また,これまでは手術顕微鏡の条件によって術野の見え方に大きな差があり,さらには術者と助手の間で観察している像が同じ条件ではなく画像情報の共有という点で問題があったが,HUSでは術者と手術助手,その他の手術室にいるすべてのスタッフが術者と同じモニターを通して術野を見ることができることから,スタッフ全員が術者と同じ視覚情報を共有することが可能であり,手術の進行をスムーズに行えるようになるだけでなく,手術教育にも大きなメリットをもたらした.もともと眼科領域でのCHUSは,2008年にCTrueCVisionSystem社がC3D技術と顕微鏡の鏡筒を覗かないHUS技術を従来の手術顕微鏡に接続し,HDディスプレイに映し出す形で世界で初めて導入し,白内障手術におもに用いられた.2017年からはアルコン社と協力し,*TakeshiYoshida:東京医科歯科大学眼科先端視覚画像医学講座〔別刷請求先〕吉田武史:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学眼科先端視覚画像医学講座C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(35)C337図2専用の偏光グラス図1アルコン社NGENUITY3Dビジュアルシステムの3D専用の偏光グラスを使用してモニターを見ることで立体的モニターな像が得られる.鏡筒を覗かずとも鮮明な画像を立体的に得られ,身体の自由度も増す.ハイダイナミックレンジカメラ(①)とC4KウルトラCHDOLEDディスプレイ(②),そしてChigh-speedCgraph-icsprocessingcomputer(③)の組み合わせで構成される.図3Kahookdualblade手術画像(a)とiStent挿入時の画像(b)どちらも線維柱帯部位の視覚的同定が非常に重要である.図4モニターと術者の位置顔は常時横を向いた状態で手術をすることになる.図5豚眼を使用したHUSシステムでの隅角観察フックで隅角を押したために眼球が動き,隅角の位置がずれても被写体深度が深いために焦点は良好である.Ca:押す前.Cb:フックで隅角部を押している.

手術用隅角鏡の進歩

2019年3月31日 日曜日

手術用隅角鏡の進歩AdvancesinSurgicalGoniolensforGonioSurgery森和彦*はじめに白内障手術や網膜硝子体手術から始まった眼科手術低侵襲化の波は緑内障手術にも波及し,近年,わが国においても低侵襲緑内障手術(microまたはminimuminva-siveglaucomasurgery:MIGS)が注目されている.現在,わが国において使用可能なMIGSとしてはトラベクトームを端緒として,iStent,KahookDualBlade,スーチャーロトミー眼内法(図1),さらにはマイクロフックロトミーなどが存在するが,海外ではiStentの第2世代にあたるiStentInjectや広範囲に線維柱帯切開を行うTrab360,Schlemm管拡張を目的としたHydrusやABiC/Visco360,XenやInnFocusに代表される結膜下への低侵襲濾過手術,さらにはiStentSupraやCyPass(2018年,内皮障害のため販売中止)のような上脈絡膜腔へのステントなど治験中のものを含めればまさに百花繚乱の様相を呈している.これらMIGSにおいてはその多くが房水流出の首座である隅角に対して観察ならびに手術的操作を行う必要があり,手術の際には手術用隅角鏡が必須となる.本稿では手術用隅角鏡の最近の進歩に関し,使用上の留意点を含めて詳述する.I手術用隅角鏡の必要条件手術用隅角鏡は診断用やレーザー用隅角鏡とは異なる必要条件を有している.通常,細隙灯顕微鏡下に用いる診断用もしくはレーザー用隅角鏡は,隅角を視軸方向から観察するためにミラーを内蔵しており,観察像は鏡像となる.一方,手術用顕微鏡の光源のもと隅角鏡下に種々の器具を用いた繊細な手術操作を行うためには,左右もしくは上下が反転する鏡像ではなく,見たままの映像である直像であったほうが直感的に操作を行うことができる.このような理由で従来の手術用隅角鏡はミラー内蔵型(図2b)ではなく,すべて直接型(図2a)となっていた.さらに隅角手術においては輪部に作製したサイドポートから前房内に器具を挿入して行う必要があり,隅角鏡と角膜との接触面積が大きいと必然的に器具と隅角鏡が干渉しやすくなる.したがって,器具との干渉を防ぐために角膜表面との接触面積は小さいほうが好ましい.また,手術器具の特徴として滅菌,消毒が容易であることも重要なポイントとなる.II直接型隅角鏡の問題点前述した理由により手術用隅角鏡の多くは直接型となっているが,直接型隅角鏡の欠点としては,視軸に対して一定の角度をつけた方向からしか隅角を観察できないことがあげられる(図2a).すなわち,閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術やスーチャーロトミー眼内法のような360°全方向の隅角を操作する手術を行うためには,その都度,患者の頭部や眼球を動かすか,もしくは顕微鏡を傾ける必要があり,必然的に時間も手間も要していた.小児緑内障に対する手術術式として古くから用いられている隅角切開術では,非常に繊細に隅角を切開する必要があるため,広範囲に切開するためには基本的*KazuhikoMori:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(27)329図1スーチャーロトミー眼内法前房内を粘弾性物質で満たし,27G針にて線維柱帯を切開する(a).先端を丸めた5-0ナイロン糸をマックスグリップ鑷子にて把持し,Schlemm管内へ挿入する(b).抵抗が大きくなりおおよそ半周進んだところで先端の位置を確認する(c).対側のサイドポートより27G針にて糸の先端部の線維柱帯を切開する(d).前房側からマックスグリップ鑷子にて5-0ナイロン糸の先端を把持する(e).眼外より糸を引くことで刺入部から先端部までの線維柱帯を切開する(f).その後,粘弾性物質を除去する.図2種々の隅角鏡の光路図直接型は観察方向が視軸に対して平行にはならないため斜め方向から観察する必要がある(a).診断用もしくはレーザー用隅角鏡はミラーを1個内蔵しており,視軸方向からの観察が可能であるが,観察像は鏡像となる(b).ダブルミラー型隅角鏡はミラーを2個内蔵しており,視軸方向からの直像での観察が可能である(c).図3ダブルミラー型隅角鏡プロトタイプ数多くのプロトタイプを検討したあとに最終型を決定した.図4サイドポート作製時のコツ輪部角膜に血管が侵入している場合,同部でサイドポートを作製してしまうと出血により視認性低下のリスクがある.また,血管を避けるために輪部から角膜サイドに遠ざかりすぎると,手術器具と隅角鏡が干渉してしまう.そのため,サイドポートは結膜血管にかからない可能なかぎり周辺に作製する必要がある(Ca).サイドポートは角膜刺入創を小さくしつつ前房側を広げれば,器具の可動域を維持しつつ粘弾性物質の脱出を防ぐことができる(Cb).図5隅角視認性不良例前房内の粘弾性物質が不十分な場合,もしくは隅角鏡を角膜に強く押し当てたり手術器具により角膜に過剰なストレスをかけたりすると,Descemet膜皺壁を生じて視認性が低下する(Ca).また,隅角鏡自体の経年変化により表面のコーティングがはがれ落ちることもありえる(Cb).abcViewingdirectionViewingdirectionViewingdirectionInstrumentdirection図6ダブルミラー型隅角鏡の傾きとミラーとの関係ダブルミラー型隅角鏡では眼球の視軸方向と隅角鏡の角度によりシングルミラー観察像として対側の隅角が見えたり(Ca),まったく隅角が見えなかったり(Cb)する.ダブルミラー観察像として直下の隅角を観察するためには眼球の視軸方向(青色点線)と隅角鏡の器具挿入側の側面(黄色ライン)が平行になって顕微鏡に向かう必要がある(Cc).図7隅角鏡の傾きと実際の見え方視軸に対して器具挿入側側面を左に倒した場合(Ca)にはシングルミラー観察像として対側の隅角が観察される(*印).一方,右側に倒した場合(Cb)には隅角は観察できず,視軸に対して平行にした場合(Cc)にのみダブルミラー観察像(**)として直下の隅角を観察できる.a図8ダブルミラー型隅角鏡の改良タイプa:初代ダブルミラー型隅角鏡.Cb:外部ダブルミラー型隅角鏡.Cc:高倍率ダブルミラー型隅角鏡(第C2世代).Cd:アーメドCDVX型隅角鏡(第C3世代).表1各種手術用隅角鏡の比較拡大率接触部直径レンズ高視野特徴図8CSwanJacobgonioprism1.20.C1.50C×9.5.8C.0CmmハンドルC90°直接型/ACCMoriuprightsurgicalgoniolensC0.80×11.5CmmC21.5CmmC110°CDM/EOGCaCDoublemirrorsurgicalgoniolensC1.64×9CmmC49.0CmmC90°外部CDM/ACCbCUpright1.3XsurgicalgonioprismC1.30×11.2CmmC10.9CmmC45°CDM/ACCcCAhmedDVXsurgicalgoniolensC1.31×10.0CmmハンドルC120°CDM/ACCdAC:オートクレーブ可,EOG:エチレンオキサイドガス滅菌,DM:ダブルミラー型.図9各種ダブルミラー型隅角鏡の見え方の比較a:初代ダブルミラー型隅角鏡.Cb:高倍率ダブルミラー型隅角鏡(第C2世代).Cc:アーメドCDVX型隅角鏡(第C3世代).各レンズの倍率の差と観察範囲の違いが確認できる.

Ex-PRESS併用濾過手術における術中光干渉断層計

2019年3月31日 日曜日

Ex-PRESS併用濾過手術における術中光干渉断層計IntraoperativeOCTinGlaucomaFiltrationSurgeryUsingEx-PRESSShuntDevice松崎光博*,**広瀬文隆*,***栗本康夫*,**I術中OCT光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)手術顕微鏡CRESCAN700(カールツァイスメディテック,以下,術中COCT)は,手術支援システムCCALLISTeyeと連携して,術野内のリアルタイム断層像を得ることができる(図1).術者の片眼の接眼レンズにCOCT画図1光干渉断層計手術顕微鏡RESCAN700(カールツァイスメディテック)と手術支援システムCALLISTeyeの写真(当院手術室にて)像が投影されるため,視線をはずことなくそのCOCT像を参照できる.硝子体手術時などで眼底の観察に用いることが一般的であるが,前眼部を観察することも可能である.CIIEx-PRESS併用濾過手術緑内障フィルトレーションデバイスであるCEx-PRESS(図2,日本アルコン)併用濾過手術は,デバイスが流出量をコントロールするため,線維柱帯切除術に比べて術中の急激な低眼圧をきたしにくく,術後は浅前房などの早期合併症が少ないと考えられている.また,虹彩切除が不要なため前房出血の頻度が低いことが知られている.強膜窓開創が不要となるなど比較的手技が容易であり,線維柱帯切除術と同等程度の眼圧下降が得られる比較的安全性の高い手技として広く普及している1,2).Ex-PRESS本体図2緑内障フィルトレーションデバイスEx-PRESSのシェーマ本体はデリバリーシステムにあらかじめ装着されている(日本アルコン提供).,**,*****CMitsuhiroMatsuzaki:神戸市立神戸アイセンター病院,神戸市立医療センター中央市民病院FumitakaHirose:神戸市立神戸アイセンター病院,新神戸ひろせ眼科*,**YasuoKurimoto:神戸市立神戸アイセンター病院,神戸市立医療センター中央市民病院〔別刷請求先〕松崎光博:〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(21)C323図3穿刺位置を決定する時の手術顕微鏡写真(a)と同時に撮像した術中OCT像(b)Vランスにて強膜下を圧迫し位置を同定(Ca,)し,術中COCTでCVランスのシャドウとしてリアルタイムに確認できる(Cb,).図4穿刺角度を決定する時の手術顕微鏡写真(a)と同時に撮像した術中OCT像(b)Vランスの角度を穿刺角度として調節する(Ca,).強膜上でCVランスを描出(Cb,)し,術中COCT像で虹彩面との角度を調整できる.図5Ex-PRESS挿入後の手術顕微鏡写真(a)と同時に撮像した術中OCT像(b)bの上図は角膜輪部に直角な断層像(青線),下図は角膜輪部と水平な断層像(赤線).の位置にCEx-PRESSが描出されている.図6深層強膜弁部分切除併用による強膜弁下のスペース(レイク)形成の手術顕微鏡写真(a)と同時に撮像した術中OCT像(b)前房に房水を注入し,の位置にレイク形成を確認できた.図7濾過胞形成の手術顕微鏡写真(a)と同時に撮像した術中OCT像(b)結膜縫合後,丈の高い良好な濾過胞形成を確認できた.図8術後外来における前眼部OCT(CASIA)角膜や虹彩との接触がなく,先端と情報の流出口が開放していることが確認できた.

術中デジタルガイダンスを用いた白内障手術

2019年3月31日 日曜日

術中デジタルガイダンスを用いた白内障手術IntraoperativeDigitalGuidanceSystemforCataractSurgery沖田和久*はじめに近年,白内障手術を希望される患者の術後の見え方に対する期待度は高くなっている.裸眼で車の運転やゴルフをしたい,楽譜を見たい,パソコンを見たい,遠くも近くも眼鏡をしたくないなどさまざまな要望を聞く.かつて,白内障術後は眼鏡をするのが当たり前だった.とくに強い角膜乱視を有する患者では術後眼鏡は必須だった.しかし現在は,乱視のある患者ではトーリック眼内レンズ(intraocularlens:IOL),遠方も近方も眼鏡なしで見たいといった患者には多焦点IOLを用いることで術前の患者の期待は高い確率でかなえられるようになってきた.しかし,いくらレンズ自体にポテンシャルがあったとしても,術後の度数ずれや軸ずれがあると意味をなさない.一方,白内障手術時の切開創の位置や,連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)サイズ,トーリックIOLの軸調整のためのマーキングやIOLの中心固定など術後視機能に影響しうる手技は,マニュアル操作で術者の技量に頼っている部分が多かった.人が行うことの精度には限度がありIOLの軸ずれや偏心固定の可能性は否めなかった.そこで登場したのが術中デジタルガイダンスシステムである.I術中デジタルガイダンスとは術中デジタルガイダンスという決まった表現はなく,イメージガイドシステム,マーカーレスシステム,デジタルマーキングなど各社,さまざまな言葉で表現しているが,要は術中,顕微鏡に切開創の位置や,CCCサイズ,トーリックIOLの目標軸などがデジタルにオーバーレイ表示され,術者はそのコンピュータによる正確なガイドを目安に手術を行うことができるというシステムである.デジタルガイダンスシステムには2種類の機種があり,術前に測定したデータに基づき手術プランを立て手術を行う術前計測タイプのものと,術中リアルタイムに眼球の屈折を計測し最適化されたIOL度数やトーリックIOLの軸を決める術中計測タイプのものがある.前者にはVERION(日本アルコン)(図1a),CALLISTOeye(カールツァイスメディテック)(図1b),IOLcom-pass(ライカマイクロシステムズ)(図1c)の3機種が,後者にはORA(日本アルコン)(図1d)がある.II術前計測タイプ術前計測タイプには3機種あり,それぞれ適合する計測機種が異なる.VERIONは外来ユニットと手術室ユニットからなり,外来ユニットのMeasurementModuleで角膜曲率や強結膜血管,虹彩や輪部の特徴などをとらえ,VisionPlannerでトーリックIOLのモデルなどを含めたIOLの選択と度数を決定し,手術室ユニットのDigitalMarkerMで術中ガイドを行う.眼軸長は他機種で測定した値が必要である.*KazuhisaOkita:新城眼科医院〔別刷請求先〕沖田和久:〒880-0035宮崎県宮崎市下北方町目後899-1新城眼科医院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(15)317図1デジタルガイダンスa:VERION(日本アルコン),Cb:CALLISTOeye(カールツァイスメディテック),Cc:IOLcompass(ライカマイクロシステムズ),Cd:ORA(日本アルコン).Ca~cは術前に測定したデータに基づき手術プランを立て手術を行う術前計測タイプ,Cdは術中リアルタイムに眼球の屈折を計測し最適化されたCIOL度数やトーリックCIOLの軸を決める術中計測タイプのデジタルガイダンスである.a-b図2トーリックIOL挿入後の検証画面(ORA)a:トーリックCIOLの軸が合っておらず残余乱視が大きいと,補正のためにCCW(Clockwise)やCCCW(Counter-Clockwise)といったCIOLの回転方向が示される.Cb:残余乱視がC0.5D以下もしくはトーリックCIOLの軸が予定軸とC5°以内であればNorotationrecommend(NRR)と表示される.図3VERIONでの切開層の位置表示術者が予定している切開位置が正確にデジタルマークされるた図4VERIONでのCCC表示め,いつも一定した予定切開位置での切開が可能である.筆者任意のサイズでCCCCを表す円形のガイドが表示される.は切開位置をC90°としている.図5虹彩色素撒布CCCサイズがCIOLの直径より大きすぎたために起こった眼内レンズのエッジと虹彩の接触による虹彩色素撒布.図6VERIONとORAでの乱視軸の表示図7VERIONによる眼内レンズの中心固定術前および術中に測定したデータに基づき乱視軸が術中顕微鏡瞳孔中心もしくは視軸を選んで表示することが可能である.筆下にデジタル表示される.緑がCVERION,赤がCORAによる者は多焦点CIOLの中心を視軸に合わせている.乱視軸表示である.図8VERIONによるIOL強膜内固定(フランジ法)時のマーキング(a)と針の刺入(b)360°の分度器表示を使用し,正確に瞳孔中心を通る対極の位置に刺入部の作製が可能である.

角膜混濁眼例の白内障手術における可視化

2019年3月31日 日曜日

角膜混濁眼例の白内障手術における可視化VisualizingTechniquesforPhaco-CataractSurgeryinEyeswithCornealOpacity大島佑介*はじめに角膜混濁眼に対する内眼手術において,とりわけ硝子体手術の分野では,多少の角膜混濁があっても,眼内照明を用いれば硝子体~網膜観察はある程度できることを多くの硝子体術者は知っている.その意味において,後述する白内障手術に応用した角膜混濁眼に対する内部照明観察法は,本特集の「近未来可視化手術」というテーマには若干ふさわしくないところもあるが,手術の基本である「見える」ための工夫としてご参考になれば幸いに思う.CI一般的な超音波白内障手術の相異角膜混濁を伴う白内障に対する超音波白内障手術あるいは近年に増えつつある既存の眼内レンズ合併症に伴う眼内レンズの縫着や強膜内固定などでは,手術操作の難易度そのものよりも,術中に良好な眼内視認性を確保できるかどうかが手術の成否を決めるもっとも重要なポイントとなる.外来の細隙灯顕微鏡で観察している際には一見して大したことない角膜混濁(図1)でも,従来の手術顕微鏡照明下では混濁による光の散乱で眼内の様子が見えづらくなる(図2a)ことは,ベテランの術者であれば,必ず体験したことがあろう.ひとまとめに角膜混濁といっても,混濁の程度,混濁病巣の位置,さらには成因がバラエティーに富んでいる.また,これまで角膜白斑やアベリノ型角膜変性症のような部分的な混濁を伴う白内障が手術適応の大半であ図1角膜白斑を有する白内障の細隙灯顕微鏡下のスリット光による観察像ったが,最近は角膜内皮移植の進歩に伴い,水疱性角膜症を有する白内障も,後日に角膜内皮移植することを前提に白内障手術を先行して行う需要が増えつつある.そのため,新たなニーズと異なるタイプの角膜混濁に対する可視化の戦略が必要になってきている.さらに,これらの角膜混濁は角膜形状が不整乱視を示すケースが多く,「見える質」を要求される時代における白内障手術において,眼内レンズ度数を正確に決定するのが困難であることに留意する必要がある.*YusukeOshima:おおしま眼科クリニック〔別刷請求先〕大島佑介:〒569-0055大阪府高槻市西冠C1-12-8医療法人聖佑会おおしま眼科クリニックC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(9)C311図2図1の角膜白斑の症例の術中観察画像a:従来の手術顕微鏡照明による眼内観察では角膜混濁部での光散乱による眼内の様子は見えにくい.Cb:ステレオ同軸照明の光学設計の顕微鏡による眼内観察では眼底からの徹照により眼内視認性は前者に比べてかなり改善している.Cc:角膜白斑による視認性への影響が軽減され,そのまま手術顕微鏡照明下で超音波破砕吸引などの操作が可能となる.Cd:核片を破砕吸引するにつれ眼底からの徹照がよくなるので,皮質だけの状態になったところでは眼内視認性が一段と向上する.図3角膜内皮移植を前提にした水疱性角膜症の超音波白内障手術a:従来の手術顕微鏡照明による前眼部観察では前房内や水晶体前.の状況がよく見えない.Cb:シャンデリア照明ファイバーを耳下側の角膜輪部約C4Cmm後方で経結膜的に設置する.通常の粘弾性物質で前房深度を確保し,さらにトリパンブルーを混ぜた粘弾性物質を水晶体前.面に塗布する.Cc:シャンデリア照明による水晶体後方からの眼内照明のみで前房,水晶体全体の良好な視認性や鑷子との遠近感が得られる.左手の鑷子で眼球コントロールしながら,トリパンブルーで染色した前.を鑷子で把持して連続円形切.(continuouscarvilinearcapsulorrhexis:CCC)を行う.Cd:シャンデリア照明ファイバーは自立固定しているため,いつも通りの双手法による核破砕吸引操作ができる.売されており,いずれも利用できる.耳下側の角膜輪部3.5~4Cmm後方に眼球中心に向かって経結膜的にトロカールカニューラもしくはガイド針を刺し,シャンディア照明ファイバーの先端を硝子体腔内に導入する.外部固定するファイバーを眼球中心に向かった方向で自立固定しておけば,眼内に差し込んだシャンデリア先端部(約4Cmm程度)が術中に後.に触れたり,破ったりすることはない.ファイバーを設置後,シャンデリア照明による水晶体後方からの眼内照明のみで良好な視認性が得られ,双手法による従来の手術と何ら変わりなく手術を行うことが可能である.この照明法があらゆる角膜混濁に対応できる汎用性を有する理由として,後方照明は顕微鏡照明や前房内照明のような角膜混濁部の前面や後面での照明光の散乱を生じないことが考えられる.逆にいえば,もしこの究極の照明法でも眼内視認性が得られないような極端な角膜混濁例ならば,もはや白内障手術だけでは術後視力の改善は望めず,そもそも単独手術の適応ではないと判断してもよいかもしれない.CIII手術操作の実際と留意点切開創に関して,角膜切開にすべきか,強角膜切開にすべきかは症例によって異なる.単純な角膜白斑で瞼裂幅が小さい症例や浅前房の症例には角膜切開のほうが操作性がよいが,角膜への結膜浸潤や角化の進行した症例やテリエン角膜変性のような辺縁角膜が菲薄化した症例などでは角膜切開のアプローチはむずかしく,強角膜切開や輪部近傍での経結膜一面切開のほうが無難であり,症例ごとに適した切開位置や切開創を選択できるように平素から両方の手技に精通するようにスキルをマスターすることが重要である.角膜混濁眼にかぎらず,超音波白内障手術では前.切開の成否は次の超音波破砕操作の成否,ひいては手術全体の成否を大きく左右する.角膜混濁眼の白内障手術において次に重要なステップは,視認性の悪いなかでも前.切開を安定して完遂することである.そのコツとして次のようなことがあげられる.C1.生体染色を行う視認性の悪いなかでは一度見失った前.縁を再度つかんだりするのはむずかしい.前.の視認性を向上させる手段として,トリパンブルーやインドシアニングリーンなどの生体染色剤を前.染色に用いるとよい.この場合,空気下での液体の染色液を注入するのもよいが,角膜裏面に付着した場合ではかえって視認性の低下につながるので,粘弾性物質とC1:1で混合した粘弾性物質を用いるとよい.C2.前.鑷子を用いる見えにくいなかでも前.縁を一度つかんだら離さないで前.切開を完遂するには,チストトームよりも前.鑷子を用いたほうが圧倒的に有利である.また,前.鑷子を用いて行ったほうがチストトームよりも水晶体やZinn小帯への負荷が少ない.C3.透明性の高い場所を選ぶ角膜混濁眼では混濁部位を避けながら眼内がよく見える透明性の高い部位を通じて前.切開などの眼内操作を行う場合が多々あるので,術者自身で術眼を眼内が観察しやすい位置に微妙に動かさなければならない.普段から必ず左手(非利き手)は鑷子を用いて眼球を固定したり,任意に動かしたりできるように保持しながら,右手(利き手)のみで前.切開を行うように心がければ,いざこのような症例を手術する際にその技術が生かされる.逆に,普段から利き手をもう一方の手で支えながら前.切開を行う癖がついてしまうと,このような症例では眼球の位置を任意にコントロールしながら前.切開を完遂するのはむずかしい.CIV術中視認性の変化に注意:角膜白斑と水疱性角膜症の違い手術中の眼内視認性は角膜混濁の違いによって経時的に変化することがある.たとえば角膜白斑の場合では,水晶体を破砕吸引して除去するにつれ,眼底からの徹照がよくなるので,眼内視認性は手術が首尾よく進むにつれて改善されていく.したがって手術開始時にある程度の眼内視認性が確保できれば,それ以上に視認状況が悪くなることは少ないと考えてよい.逆に角膜内皮障害に起因する角膜混濁の場合,往々にしてCDescemet皺襞や314あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(12)

術中OCTを用いた角膜移植手術

2019年3月31日 日曜日

術中OCTを用いた角膜移植手術IntraoperativeOpticalCoherenceTomography-AssistedKeratoplasty横川英明*小林顕*I術中OCTの目的術中光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の目的は,顕微鏡では見ることのできない断層をOCTで可視化し,術者の適切な意思決定および操作に役立てることである.CIIOCT顕微鏡システム近年開発された代表的なCOCT顕微鏡システムとして,RESCAN700(カールツァイスメディテック)(図1),EnFocus(ライカマイクロスシステムズ),iOCT(Haag-Streit社)などがある.筆者らが当院にて通常使用しているCRESCAN700は,顕微鏡(OPMICLumera700)にCspectral-domainOCTが内蔵されており,OCT画像がモニタースクリーンおよび術者の接眼レンズに映し出される.本装置を用いると,角膜混濁などで視認性が悪い場合でも,縦横C2方向(クロスパターン)と,同一方向に最大C5スライスまでの断層(Bスキャン)が可視化される.撮影範囲はCXY方向にC3~16mm,Z方向に2Cmmで,Z方向解像度は約C5Cμmである.なお,最近のソフトウェアのアップデートにより,撮影範囲がCZ方向に最大C5.8Cmmまで拡大される.本装置は前眼部手術と後眼部手術の両方において応用可能であり,術者がOCT画像を確認することによる手術時間の延長は問題のない範囲と考えられている.以下,角膜移植の代表的な術式ごとに,本装置の応用場面を解説する.IIIDescemet膜.離角膜内皮移植(DSAEK)Descemet膜.離角膜内皮移植(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)は,従来の全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PKP)と比較して視力回復がよく,外傷に強いなどのメリットがあり,現在では水疱性角膜症に対する第一選択の術式と考えられている.DSAEKでは,厚さC100Cμm程度のドナーグラフトを前房内に挿入し,空気でホスト角膜後面に接着させる.標準的なグラフト挿入法では,ドナーグラフトの表裏が逆になる可能性は低い.しかし,主要な合併症としてホストとグラフトの接着不良をときに経験するため,確実な接着が本術式成功のキーポイントとなる.グラフトの接着を得るためには種々の条件が必要とされるが,術中にできるだけホストとグラフトとの間のスペースを少なくしておくことが,術後の接着に有利であり1),また層間混濁を少なくできると考えられている2).術中の層間スペースを確認する方法としては顕微鏡外付けスリット照明(図2)とCOCT顕微鏡があるが,OCT顕微鏡を用いるとスリット照明では確認できないようなミクロンレベルの残存水分がスペースとして可視化される(図3).この残存水分を除去するために,まずは空気で眼圧を上げる,次に角膜上からスパーテルなどでスイープする,さらに角膜垂直切開から排液するなどの処置を行う.各ステップごとに,術者は層間スペースの減少*HideakiYokogawa&*AkiraKobayashi:金沢大学附属病院眼科〔別刷請求先〕横川英明:〒920-8641金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)C305図2顕微鏡外付けスリット照明DSAEK術中,従来の顕微鏡外付けスリット照明を用いて,ホスト切片(C.)とグラフト切片()との接合状態をおおまかに確認した.図1OCT顕微鏡RESCAN700(カールツァイスメディテック)の外観顕微鏡(OPMICLumera700)にCspectral-domainOCTが内蔵されている.図3緑内障術後の水疱性角膜症に対するDSAEK+白内障同時手術a:グラフト挿入直後,グラフトとホストとの間のスペース(で囲まれた空隙)が可視化された.Cb:グラフト下にエアーを注入して眼圧を上げると層間スペース()は減少した.Cc:フック()を用いて上からスイープすると,層間スペースはさらに減少した.Cd:術終了時,層間スペースはほぼ消失したが,わずかに残存が確認された().図4DSAEK術中における層間水分の除去DSAEKの各ステップにおいて,OCTからのフィードバックを利用して目的を達成する.図5PKP後の角膜内皮機能不全に対するDSAEKa:角膜上からのスイープや角膜垂直切開からの排液を行ったにもかかわらず,ホスト角膜後面の不整のために層間スペース(()が消失しなかった.Cb:このまま終わったのではグラフト接着不良になると判断し,10-0ナイロン糸でグラフト縫着)を追加した.術後のグラフト接着は良好であった.図6図3の症例の術後所見a:術後C1週間.部分的なグラフト.離()を認めたが,このまま経過観察した.Cb:術後C2カ月,グラフトの完全接着が得られ,視力は良好であった.図7レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症と白内障に対するDMEK+白内障同時手術a:前房に挿入したCDMEKグラフト()は,内皮面を外側にしてロール状になる性質をもつ.Cb:あわせてライトガイド()で斜めから前房内を照らすことにより,グラフトの状態を確認した.Cc:ロール形状()からグラフトの内皮面が下を向いており,表裏が正しいと判断された.角膜上からタッピングを追加してグラフトを広げた.Cd:エアー注入後,グラフトに刻印されたCSスタンプ()で最終的に表裏が正しいことを確信した.表裏がもし逆なら,「S」でなく「」にみえる.空気を入れて圧を上げた直後よりホストグラフトの層間スペースはゼロとなった.SC図8角膜移植片機能不全と無水晶体に対するPKP+IOL強膜内固定同時手術a:グラフトを縫合後,虹彩と角膜裏面との接触が確認された().そのままにしておくと虹彩前癒着を生じて,隅角閉塞などの問題を起こしやすくなる.Cb:鈍針をサイドポートから前房に入れてワイプ操作(虹彩を角膜裏面からはずす操作)を行ったところ,虹彩が角膜から離れたことが確認された.グラフトホスト接合部の隆起が良好であることも確認された.図9図8の手術終了時ネビアスライトのマイヤーリング像()で角膜乱視の程度を確認した.

序説:眼科領域の最先端・近未来可視化手術

2019年3月31日 日曜日

眼科領域の最先端・近未来可視化手術NovelVisualizationMethodsinOphthalmicSurgery高橋洋如*大野京子*手術における「可視化」とは,ありのままの状態では見ることが困難な微細な組織や透明な膜状物を技術や工夫によって視認できるようにすることや,従来の方法では物理的に観察できない部位を装置の革新によって新たな術野とすることである.眼球は光の受容器官であるという特性から,大部分を透明な組織が占めている.透明な組織同士を区別し安全に処理するために,可視化技術はなくてはならない存在である.わが国では,先駆者たちが組織染色など可視化技術を開発し,世界に発表して普及してきた実績がある.そこで今回は,眼科手術における可視化技術をテーマに特集を組んだ.一言で眼科手術といっても,角膜,水晶体,房水(緑内障),硝子体,網膜などの対象疾患によって手術方法はまったく異なるといっても過言ではない.そして,各手術方法がそれぞれに進歩していることが眼科の魅力であるため,今回は可視化という視点から手術法を見直して,各専門医の先生方に執筆いただいた.まず角膜の手術については横川英明先生,小林顕先生に術中OCTを用いた角膜手術について紹介いただいた.角膜は眼球の正面かつ最前面にありアプローチが容易である一方で,透明性と光学的な特性から,非専門医が手術をすることがむずかしい組織である.術中OCTにより今まで不可能であった角膜の断面を確認しながらの手術は,角膜手術の可能性と間口を広げる大きな一歩となりうる.水晶体の手術については,大島佑介先生に角膜混濁症例の白内障手術について,沖田和久先生にサージカルガイダンスについてご説明いただいた.白内障というもっとも頻度の高い疾患を含む水晶体の手術の進歩は著しく,多くの患者に恩恵をもたらしている.近年になって,手術後の視機能に対する要望の高まりであったり,患者の高齢化に伴う難易度の高い症例の増加であったりと新たなテーマを生んでいる.そこで,沖田先生には手術映像に術眼の乱視軸などの情報を付加して行う手術の利点や,よりよい手術への展望をうかがった.また,角膜混濁は日常しばしば遭遇する合併症であり,白内障手術の難易度を高めている.シャンデリア照明を利用した白内障手術の開発者である大島先生のトラブルシューティングから多くを学びたい.緑内障手術は近年新しいデバイスの開発が盛んな分野である.そこで新しい器械と手術方法について第一人者の先生方に解説いただいた.隅角形成や線維柱帯切開術は眼内法の普及により,手術方法の選択肢が増えている.しかしながら非専門医にとって,隅角は未だにアプローチがむずかしい組織であ*HiroyukiTakahashi&*KyokoOhono-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)303