結膜充血の診断と眼アレルギー診療へのAIの応用DiagnosisofConjunctivalHyperemiabyAIandItsApplicationinOcularAllergyTreatment田淵仁志*升本浩紀**米田剛***角環****福島敦樹*****はじめに結膜充血は眼科診療においてもっとも一般的な所見の一つである.さまざまな要因による結膜炎はもちろんのこと,ぶどう膜炎,緑内障発作による眼圧上昇,点眼薬の副作用など,多くの眼疾患の一徴候として結膜充血は日常的にカルテに記載される.たとえば,緑内障点眼薬の副作用として結膜充血は重篤な問題ではないとはいえ,比較的重要である.なぜなら整容面を気にかける患者からの点眼後の結膜充血の訴えは強く,薬剤コンプライアンスに実質的に悪影響があるからである.したがって,緑内障点眼後の結膜充血反応について個別に臨床試験が行われてきた.その際に問題になるのが結膜充血の程度判断である.現在結膜充血を重症度別に分類した診断システムに,日本眼科アレルギー学会提唱の結膜充血重症度分類がある1).この診断システムは提示されている標準写真を参考にして,判定者が充血の原因となっている結膜血管の拡張の程度を充血なしを含めて4段階で判定するものである.この重症度分類は前述した緑内障点眼薬の臨床試験で実際に用いられている2).この主観的判定システムの問題点はすでにいくつか指摘されている.米田らはこの判定システムによるエキスパート間の一致度の低さを報告し,さらに判定を客観的に行うための結膜撮影専用システムとその画像を用いた分析アプリケーションを考案している.ただこのシステムの実臨床への応用には,煩雑さの問題を解決する必要がある点を,米田自身が認めている3).一方で最近になって,医療分野への応用研究が盛んに報告されているのが深層学習(deeplearning)とよばれる機械学習を用いた自動診断手法である.眼科領域でも糖尿病網膜症を皮切りに,緑内障,加齢黄斑変性,網膜.離など数多くの疾患で報告が相次いでいる4).その撮影装置も多岐にわたっており,通常の眼底カメラ,OCT,広角眼底カメラなどである.深層学習を用いた診断,判断システムの利点はその適応範囲の広さと経済効率性の高さである.たとえば,多少の画像の位置ずれや,ピントの問題などを学習過程で内包させることが可能であるために,実臨床での使用範囲が広い可能性が指摘されている.さらに学習過程には多大なコンピューター演算が必要であるが,実際の判定は単純化された四則計算で行われるために,非常に軽い演算能力で実臨床に応用可能である点も普及が期待される所以の一つである.すなわち充血所見判定を深層学習で自動的に行うシステムには,原理的に臨床応用への可能性が示唆されるわけだが,筆者らの知る限りその試みは筆者らのチームだけが行っている.本稿では細隙灯顕微鏡画像,および前眼部計測装置画像への人工知能(arti.cialintelligence:AI)応用の取り組み,さらにvirtualprivatenetwork(VPN)で接続された複数施設での検討を紹介する.*HitoshiTabuchi:ツカザキ病院眼科,広島大学大学院医系科学研究科**HirokiMasumoto:ツカザキ病院眼科***TsuyoshiYoneda:川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科****TamakiSumi:高知大学医学部眼科学講座*****AtsukiFukushima:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕田淵仁志:〒671-122兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(35)411Score(0)軽度(1)中等度(2)高度(3)結膜充血所見なし数本の血管拡張多数の血管拡張全体の血管拡張図1日本眼科アレルギー学会結膜充血重症度判定基準写真(文献1より引用)図2ツカザキ病院眼科データベースより抽出した結膜充血判定用スリット画像回答は平視能訓練士4人均する使用データ専門医1人872枚1,000枚1,000枚ミスなど128枚図3事前判定者評価およびモデル評価用データフロー前半2,004枚回答一致使用データ視能訓練士2人で2,707枚3,816枚4,008枚後半不一致2,004枚1,209枚専門Dr視能訓練士2人でミスなど92枚診断不能50枚図4AIモデル作成用データフロー表1日本眼科アレルギー学会認定専門医1名と視能訓練士4名のweighted.k係数opponentFukMatNisOhiOkaFukMatNisOhiOka10.7165990.7553710.7316010.7120630.71659910.6406430.7623760.7826090.7553710.64064310.6619160.6304740.7316010.7623760.66191610.7708430.7120630.7826090.6304740.7708431(Fuk=日本眼科アレルギー学会認定専門医,Mat,Nis,Ohi,Oka=視能訓練士)てC92枚が判定用画像から失われた.残りのC3,916枚について,2名の判定が一致したC2,707枚は一致したグレードをそのまま採用し,グレードが不一致であった1,209枚の画像は日本眼科アレルギー学会専門医が最終判定を行った.この際,100枚について日本眼科アレルギー学会専門医が診断不能の判定を下した.C5.AIモデル作成画像データをC5ブロックに均等に分割した.そのうち,4ブロックの画像を学習用として,残りのC1ブロックをテスト用として使用した(K-FoldCCrossCValida-tion).学習用データに対して画像処理を行いC18倍に増幅した.画像増幅処理は,コントラスト調整,Cg補正,ヒストグラム均一化,ノイズ付加,反転で構成した.増幅された画像を対象にC6種類のCDNN(DeepCNeuralNetwork)(VGG16,VGG19,ResNet50,InceptionV3,InceptionResNetV2,Xception)訓練を行い,モデルを構築した.それぞれのモデルを用いて,テストデータに対してテストを行い,モデルの評価を行った.この作業をC5回行うことで,すべてのブロックがテスト用として使用されるようにした.C6.DeepLearningModelandTrainingtheModel今回用いたCDNNのうち代表的なCVGG16とよばれる深層学習モデルを説明する.VGG16はCConvolutionLayerとCMaxPoolingCLayerからなるCblockがC5つと,全結合層に分かれる.まず,入力された画像はすべてC256×192pixelsに事前に変換し,0-255のCRGBで読み込み,それをC255で割ることでC0-1の範囲に正規化した.ConvolutionalLayerは,畳み込みフィルターを通して対象の特徴量を取得する.各ブロックの最後にはCMaxPoolingLayerを配置した.MaxPoolingLayerは畳み込み層からの出力された特徴量の位置感度を落とし,より汎用的な認識が行えるようにする.最後に三次元の行列を平滑化したうえで,全結合層CFullyConnec-tionLayerをC2層配置し,softmax関数によりC2クラス分類を行った.全結合層は,抽出された特徴量から空間的な情報をそぎ落とし,それ以外の特徴ベクトルから統計的に対象を識別するための層である.最初の全結合層にC25%の確率でマスクを行うようドロップアウト処理をした.ドロップアウト処理の目的は,学習の過程で過学習が起きないように,汎化性能の向上を図ることである.あらかじめ別のデータで,学習済みであるパラメータを利用する転移学習(.ne-tuning)という方法を用いた.学習速度が速くなり,少ないデータでも高い性能が出やすくすることが目的である.パラメータはCImageNetのものを用いて,block1.4までは固定,blockC5と全結合層のみを調整した.最初のこの重みは確率的勾配降下法の一つであるCMomentumSGD(学習係数=0.001,慣性項=0.9)という最適化アルゴリズムに従って更新を行った.モデルの構築および評価はCPythonのtensor.ow(https://www.tensor.ow.org/)がバックエンドで動くCkeras(https://keras.io/ja/)を用いて行った.C7.AIモデル複合評価(アンサンブルメソッド)作成されたC6種類の学習モデルを組み合わせて,評価用データC872枚についての判定を行い,エキスパート判定との一致度を検討した.この際エキスパートの判定は平均値を採用した.6つのCDNNモデルの半数がエキスパートの回答に一致していた場合を正答とすると正答率はC83.5%であった.実際のモデルによる回答の例を図5に示す.代表モデルであるCVGG16による判定はCExpert1,CExpert2とCweighted-kでそれぞれC0.76,0.78であり,CExpert1とCExpert2のCweighted-kはC0.73であった.すなわち,AIモデルによる判定とエキスパート判定とのズレは,エキスパート判定同士の判定のズレよりも小さかった.つまり,AIは人間と人間の間を取るように学習を行っているということになる(図6).C8.客観的指標との相関それではCAI判定結果と,米田らが開発してきた球結膜の血管占有面積比率3)を指標とする客観的指標(図7a)との相関関係はどうなっているのだろうか.筆者らの検討によると,その結果も良好なものであり,相関係数はC0.74と非常に高いものであった(図7b).414あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(38)図5六つのDNNモデルを用いた複合モデル学会判定回答確率表示の1例0.8Expert10.780.780.760.760.760.740.730.73AI0.720.70.78VGG16Expert1Expert1Expert2Expert2VSVSVSExpert2AIAI図6AIとエキスパート判定1と2の一致度(weighted.k係数)の関係カッパ係数は高いほど一致度が高い.人間同士よりCAIと人間のほうが近い判定を下している.a5.2%9.5%13.0%33.4%a:米田らによる血管占有面積比率指標計測の実際.矩形で囲まれた領域で血管を計測(緑色).画像下部にそれぞれの比率値%を記載.b:AI判定結果(X軸)と米田らによる血管占有面積比率指標の相関関係グラフ*:Kruskai-Wallistestp<0.01**:Steel-Dwasstestp<0.01図7血管占有面積比率ab図8前眼部計測装置と多施設での検討a:MR6000で撮影した前眼部写真とこの画像に対する最適化後CAIモデル判定結果.b:ベースAIモデル作成に必要だった画像枚数と,このデバイスに最適化するために必要だった追加画像枚数の比較グラフ.-