眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人32.眼瞼と結膜の母斑石嶋漢北海道大学母斑は先天性の良性疾患である.眼瞼と結膜の母斑は通常,緩徐に発達し,自覚症状も整容面以外には乏しいことが多い.切除後のトラブルは,瞼縁では睫毛乱生や眼瞼の不整,結膜では充血や違和感である.ここでは実際に切除に至った症例の特徴や,切除時の留意点を述べる.●臨床的特徴母斑は先天性の良性疾患である1).胎生期に色素細胞は表皮に向かうが,表皮まで到達できなかった未熟な細胞が上皮内~上皮下に増殖してしまうために起こるものと考えられる2).色調は無色素性~黒色までさまざまであるが,通常は茶褐色を呈する.色調の多様性は色素細胞としての成熟度合い,増殖する深さが関与するためである.無色素性の悪性黒色腫も存在するので,色調をもって良悪性の鑑別はできない.●眼瞼の母斑好発部位は皮膚粘膜移行部~睫毛線の間,つまり瞼縁に多い2).母斑表面には光沢があり,母斑の結膜側は隆起に乏しい2)(図1).瞼縁母斑はゆっくり増殖し,結膜側は皮膚側に比べ隆起に乏しく症状がないことが多い.鑑別疾患として頻度が高いのは,良性では脂漏性角化症,悪性では基底細胞癌などである.脂漏性角化症は表皮の角化が強くみられるため,一般に表面が母斑よりザラザラ,デコボコして光沢がない.基底細胞癌は睫毛脱落,腫瘍中央部の潰瘍が発生しやすく,これらの所見は鑑別に有用である.●結膜の母斑好発部位は瞼裂部,角膜輪部である.ここは「他人から見られる」位置であるため,知人から指摘されやすい.母斑内に.胞を形成することが65%程度に認められ,良性を示唆する所見として知られる4)(図2).思春期に入り急速に増大して,受診することもある(図3).鑑別疾患としては,原発性後天性メラノーシス(pri-maryacquiredmelanosis:PAM),悪性黒色腫が重要である.PAMは悪性腫瘍の発生母地になるため,定期受診を自己中断しないように強めにお話をする4).「良(99)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1瞼縁母斑(70歳,男性)30年以上増大のない瞼縁母斑.隆起は緊満感があり光沢がある.眼瞼結膜側はフラットな印象を受ける.性でも悪いものが出るときがあるので,定期的にみせてください」というと,大抵しっかり来てくれる.要注意なのは「角膜単独の腫瘤や眼瞼結膜の腫瘤」で,これらは悪性の可能性があるため積極的に生検する.●切除腫瘤が増大傾向にある,表面が不整,しみ状の色素病変から新規病変が出てきたなど,悪性を疑ったら切除生検する.母斑は自覚症状が少ないため,術後トラブルになる可能性がある.とくに整容面で切除する場合は,術後の充血によって満足できない可能性もあることを必ず説明する.切除の前に,切除後の創の大きさや術後瘢痕などを予想してリスクを減らしていただきたい.瞼縁母斑切除後のトラブルの多くは,①症状のない母斑を深めに切除したために,睫毛内反,睫毛乱生により疼痛が発生した場合,②欠損部の再生不良による瞼縁不整となり,整容面が悪化した場合である.そのため,切あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171583aabb図2結膜母斑(12歳,女児)a:3時方向瞼裂部の母斑で,好発部位である.整容的に気になると両親より強く切除を希望された.b:病理組織所見(HE染色).結膜下に母斑細胞の増殖と多数の.胞がみられる.ab図4瞼縁母斑切開のシェーマa:悪い例.母斑をV字切開,または深く切除しようとすると,瞼板の欠損や周囲組織の収縮により瞼縁の不整や睫毛乱生を生じる.b:良い例.母斑辺縁より0.5mm程度残し,瞼縁のラインに沿って切開する.除時の注意点としては,色素が残るのを怖がり,深めに切りすぎないことである(図4).結膜母斑が整容面で問題になり切除に至る場合,全摘出しようとすると切除範囲が大きくなるので,見栄えに影響する範囲のみを切除するようにする.母斑が見える範囲は瞼裂の3時,9時方向であるので,切除範囲は思ったより小さい範囲ですむことに留意する.手術時に無意味に広範囲にならないよう,診察時にあらかじめ切除1584あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017図3結膜母斑(15歳,男児)a:初診時.色の薄い部分が.胞である.b:初診から4年後.増大し厚みも色調も変化している.母斑の上下に走る血管も拡張している.血管拡張は必ずしも悪性の所見ではない.図5結膜母斑切開のシェーマ母斑が図のように広がっている場合,実際に見える範囲を考えると全摘出する必要はなく,赤い線の範囲で切除すればよい.範囲が小さければ無縫合でもかまわない.範囲を決定しておくとよい(図5).●おわりに眼瞼母斑と結膜母斑の共通点は,母斑細胞の増殖,良性で無症状な臨床像,整容面での切除希望があること,悪性疾患との鑑別が必要なことなどである.切除の留意点に差はあるが,本質的には同じ疾患である.文献1)兒玉達夫:母斑.見た目が大事!眼腫瘍(後藤浩編),眼科プラクティス24,p74~76,文光堂,20082)吉川洋:母斑vs老人性疣贅vs基底細胞癌.いますぐ役立つ眼病理(石橋達朗編),眼科プラクティス8,p20~23,文光堂,20063)吉川洋:結膜母斑vsメラノーシスvs悪性黒色腫.いますぐ役立つ眼病理(石橋達朗編),眼科プラクティス8,p115~117,文光堂,20064)石嶋漢,加瀬諭:母斑.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),眼科診療エキスパート,p275~279,医学書院,2015(100)