ネクロプトーシス細胞死の分類とネクロプトーシス“細胞死はプログラムされている”と提唱したのは1964年のLockshinとWilliamsの論文で,これが細胞死研究の幕開けともいえます.1973年には形態学的な観点から1)核・細胞質の濃縮,2)細胞質のオートファゴゾームの形成,3)細胞質・細胞小器官の拡張と細胞膜の破綻,の3種類の細胞死が分類されました.これらはそれぞれアポトーシス,オートファジーを伴う細胞死,ネクローシスとして現在でも広く用いられている概念です.アポトーシスはギリシャ語のapo(離れる)とptosis(落ちる)を組み合わせた造語ですが,ただの死(ギリシャ語でネクローシス)とは異なり,プログラムされた細胞死として提唱されました.この仮説はCaspaseファミリーの発見により実証されましたが,一方でCaspase阻害によりアポトーシスを抑制しても細胞は必ずしも救済されず,代わりにネクローシスの形態を取って死ぬことがわかりました.その後の研究から,このCaspase阻害下に誘導されるネクローシスは,receptorinteractingprotein(RIP)1/RIP3のリン酸化を介して能動的に誘導されることが明らかとなり,受動的なネクローシスと区別してネクロプトーシスとよばれています1).網膜疾患におけるネクロプトーシスの役割視細胞の死はさまざまな網膜疾患や加齢で起こりますが,これらはおもにアポトーシスによって誘導されると考えられてきました.しかし逆説的でありますが,アポトーシスの主要経路であるCaspaseを阻害しても,動物モデルでの網膜変性は十分に抑制されませんでした.そこで網膜.離モデルを用いて視細胞の形態を詳細に観察したところ,Caspase阻害下ではネクローシス様に変化することがわかりました.さらにこのネクローシス様の視細胞死はRIP経路の阻害によって抑制されることから,網膜.離後の視細胞死にはアポトーシスのみならずネクロプトーシスが代償的に関与することがわかりました(図)2).また,網膜色素変性や加齢黄斑変性モデルにおいても,ネクロプトーシスの関与がわかりました.今後の展望網膜や脳の変性疾患において,近年ネクロプトーシスやオートファジーなど非アポトーシス型細胞死の重要性が明ら(101)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY村上祐介九州大学大学院医学研究院眼科学分野図網膜.離の視細胞死網膜.離後,視細胞死はおもにアポトーシスによって誘導されるが(a),Caspase阻害薬(Z-VAD)でCaspase経路を阻害すると,RIP経路の活性化を介してネクロプトーシスが誘導される(b).Caspaseの阻害とRIP経路の阻害(Nec-1またはRIP3遺伝子の欠失)を行うと,効果的に視細胞死が抑制された.(文献3より改変引用)かになってきています.また,死細胞から放出されるさまざまな物質は,周囲の細胞を刺激して炎症/増殖/細胞死を誘導し,病態を大きく修飾することも注目されています.細胞死研究の進展から,さまざまな網膜変性疾患に有効な治療薬が現実になる日も遠くないかもしれません.文献1)VandenabeeleP,GalluzziL,VandenBergheTetal:Molecularmechanismsofnecroptosisorderdcellularexplosion.NatRevMolCellBiol11:700-714,20102)TrichonasG,MurakamiY,ThanosAetal:Receptorinteractingproteinkinasesmediateretinaldetachment-inducedphotoreceptornecrosisandcompensateforinhibi-tionofapoptosis.ProcNatlAcadSciUSA175:21695-21700,20103)MurakamiY,NotomiS,HisatomiTetal:Photoreceptorcelldeathandrescueinretinaldetachmentanddegenera-tions.ProgRetinEyeRes37:114-140,2013あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171017