‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

抗VEGF治療:マクジェン®の特徴

2014年4月30日 水曜日

●連載抗VEGF治療セミナー─薬剤選択─監修=安川力髙橋寛二3.マクジェンRの特徴小沢洋子慶應義塾大学医学部眼科学教室マクジェンRは,RNAからなるアプタマーであり,免疫原性が少ないとされる.VEGF165アイソフォームを選択的に抑制し,一部の生理的および病的VEGF作用を残存させうるという利点と欠点がある.これまでの使用経験を紹介し,加齢黄斑変性の治療維持期に継続投与した臨床試験の報告から,マクジェンRの利用法を探る.マクジェンRはアプタマーであるマクジェンR(MacugenR)は,世界で初めて加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対して承認された血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抑制薬,すなわち抗VEGF製剤である.物質名はペガプタニブであり,他の抗VEGF製剤がアミノ酸を配列させたペプチドもしくは蛋白製剤であるのに対し,28個のリボ核酸(ribonucleicacid:RNA)を配列することでVEGFの特定の部分に結合しやすい立体構造を作製したアプタマーである.RNAのみの配列は非常に不安定であるが,ポリエチレングリコール(polyethyleneglycol:PEG)基を結合させることで安定性を増し,薬剤阻害効果の持続を延ばすことに成功した.アプタマーは蛋白製剤ではないことから,免疫細胞が異物と認識して自己抗体を作ること,すなわち免疫原性が少ないと考えられる.継続的に使用する薬剤では,薬剤に対する免疫反応による薬剤の有効性低下が懸念されるが,マクジェンRでは,その影響が少ない可能性があるところは利点である.マクジェンRはVEGF165アイソフォームを選択的に抑制するVEGF遺伝子には8個のエクソン(アミノ酸をコードする遺伝子の部分)があり,その組み合わせによりアイソフォームが決まる.マクジェンRはその中でもVEGF165アイソフォーム(数字はエクソンから翻訳されたアミノ酸の数の合計を示す)を選択的に抑制する.「選択的」という言葉は,特異的とは異なる.マクジェンRはVEGF165アイソフォーム特異的ではない.マクジェンRはVEGFエクソン7の配列に結合するため,165アイソフォームにも結合するが,ほかのアイソフォームにも結合しうる(図1).しかし,とくに眼病態には165アイソフォームの関与が大きいと考えられる1)ことから,このアイソフォームにフォーカスした呼び名がついた.眼内には121アイソフォームも多く存在し,病的・生理的役割を担う.マクジェンRは121アイソフォームに結合しないことから,眼内に投与した際に一部のVEGF機能を残すことができると考えられている.すなわち,マクジェンRはVEGF生理的作用を一部残すことで,正常組織への影響(網脈絡膜萎縮など)を,最小限に抑えられる可能性があるという考え方がある.マクジェンRによるAMD治療マクジェンRを用いてAMDに対して最初に行われた臨床試験は,2001年から欧米で行われたVISIONstudyであり,約1,200名のAMD患者が集められた2).続いて日本で行われた臨床試験では,95名のAMD患者に対するマクジェンRの効果が検証され,治療開始1Macugen.結合部位VEGF121VEGF165VEGF189VEGF206図1マクジェンRのアイソフォーム選択性マクジェンRは,121アイソフォームにはなく,165アイソフォームなどに存在する構造に結合する.眼内では121と165アイソフォームの発現が多く,それぞれVEGFの病的および生理的役割を担う.なお,ルセンティスRはすべてのアイソフォームに共通な部分に結合し,アイリーアRはVEGF受容体結合部位があれば反応するため,いずれもすべてのアイソフォームと結合することになる.(59)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145370910-1810/14/\100/頁/JCOPY 年目の平均視力変化がほぼ維持され,15文字以上,低下した症例は20%にとどまったことが報告された3).この日本での臨床試験の平均視力変化の推移のグラフを見ると,エラーバーが大きいことがわかる.これは症例ごとの効果に大きな差があった可能性を示している.その理由のひとつは,国内で初めての抗VEGF製剤の試験であり,それまでAMDと診断されても治療を受けずに待っていた比較的経過の長い症例が多く含まれていた可能性があることに起因するだろう.それと同時に,AMDでは症例に多様性があり,治療効果には個人差がある.マクジェンRの国内臨床試験の結果をサブ解析したところ,乳頭径1.2mm以下の病変では,視力予後が良かったという(Yuzawaetal.personalcommunication).また,筆者らの解析では,治療後に眼底所見の改善を得た症例には,網膜色素上皮の下に病変がとどまっているType1症例が多かった(第63回臨床眼科学会).このように,特定の症例ではマクジェンRが奏効する例があることが知られる.また,筆者の経験からは,マクジェンRで治療を開始する場合は,3回の投与で効果が十分ではなくても,5.6回投与を続けると奏効することがあったことを申し添えておく.効果判定の時期にも留意が必要であろう.マクジェンRの維持期治療への活用マクジェンRの使い方を提案した臨床試験に,米国で行われたLEVELstudyを踏襲して国内で行われたLEVEL-Jstudyがある4).まず光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)やマクジェンRを含む抗VEGF製剤で視力が上昇した症例で,その後の維持期の治療として,マクジェンRの定期投与を行ったときの視力予後を解析したものである.維持期中にマクジェンR治療だけでは効果が不足である場合には,ほかの治療法を組み合わせるBooster治療を取り入れることを可能とした.約50%の症例ではBooster治療が行われた.1年目の視力は,維持期を開始したときとほぼ変化がなかった.すなわち,マクジェンRの定期投与をベースとして,ほかの治療を組み合わせることで,導入期に上がった視力を維持することができる可能性があるといえたのである.一般に,抗VEGF製剤の投与法は,毎月投与がもっとも効果的であることは知られているものの5),実務的には,滲出性所見や視力が悪化したときに投与するPRN法が用いられているのが現状である.しかし,PRNでは悪化するたびに網膜障害を残す可能性があることから,最近では,毎月ではないにしても定期的に,悪化を防ぐ目的で投薬するtreatandextendの方法が注目されている.この流れを考えれば,維持期にマクジェンRの定期投与をベースとした治療をするという考え方があっても良いかもしれない.おわりに現在,AMD治療に認可をもつ抗VEGF製剤は3種類あるが,マクジェンRはアプタマーである,165アイソフォーム選択的である,という他の2剤とは根本的に異なる特徴がある.長期にわたって経過を追う必要のあるAMDという疾患では,病変に対する効果だけではなく,免疫原性や正常組織への影響等も含めたうえで治療を考える必要がある.これらのことを考えると,マクジェンRは,治療選択のひとつとして確保しておきたい薬剤といえよう.文献1)FribergTR,TolentinoM,GroupLS:Pegaptanibsodiumasmaintenancetherapyinneovascularage-relatedmaculardegeneration:theLEVELstudy.BrJOphthalmol94:1611-1617,20102)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETJr.etal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed351:2805-2816,20043)ペガプタニブナトリウム共同試験グループ:脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性を対象としたペガプタニブナトリウム1年間投与試験.日眼会誌112:590-600,20084)IshibashiT,LEVEL-JStudyGroup:Maintenancetherapywithpegaptanibsodiumforneovascularage-relatedmaculardegeneration:anexploratorystudyinJapanesepatients(LEVEL-Jstudy).JpnJOphthalmol57:417423,20135)CATTResearchGroup,MartinDF,MaguireMG:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,2011538あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(60)

緑内障:二次的網膜神経節細胞死(続発性緑内障網膜剥離関連)

2014年4月30日 水曜日

●連載166緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也166.二次的網膜神経節細胞死宗正泰成聖マリアンナ医科大学医学研究科眼科学(続発性緑内障網膜.離関連)網膜.離後手術後,網膜復位が得られているにもかかわらず,神経線維の進行する菲薄化を認めることがある.その原因として.離網膜硝子体における炎症性サイトカインの網膜神経節細胞への関与を考えた.早期からの消炎やサイトカインの除去は,続発する網膜神経節細胞死に対する保護治療として重要であると考えられる.ざまな報告がある.筆者らは今回,原発性緑内障とは別●網膜.離と炎症性サイトカインに,網膜.離手術後の網膜神経節細胞死に着目した.網軸索障害に引き続く網膜神経節細胞死は,原発性緑内膜.離は.離網膜内で炎症性サイトカインが上昇するこ障の主たる病態である.その原因には高眼圧はもちろとが基礎・臨床双方で証明されている1).当院で施行さん,酸化ストレス,免疫反応,ミトコンドリア障害や炎れた網膜.離手術後眼(硝子体手術もしくはバックリン症性サイトカインによるマイクログリアの活性などさまグ手術後眼)に,OCTにより視神経乳頭解析・網膜神術前術後3カ月図1網膜.離手術前と術後3カ月の眼底チャートとOCT術後3カ月で神経線維層の菲薄化を認めた.(57)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145350910-1810/14/\100/頁/JCOPY TNFa注射後の視神経軸索障害TNFa注射後の扇状の網膜神経節細胞死TNFa注射後の扇状の網膜神経節細胞死TNFa注射後の視神経軸索数400,000350,000300,00050,0000コントロールTNFp<0.05TNFa注射後の網膜神経節細胞数軸索数/mmp<0.05250,0002,000網膜神経節細胞数/mm20コントロールTNFコントロールTNF200,000150,000100,0001,5001,000500図2TNFa硝子体注射後の視神経軸索変性TNFa注射後2週間より,コントロール群に比し有意な軸索変性が生じる.経節細胞解析を行ったところ,術前と比較すると約15%の進行性の視神経軸索変性および網膜神経節細胞死を認めた(図1).過去の論文では,網膜.離眼の硝子体液でTNF(tumornecrosisfactor)の上昇が認められている2).また,東北大学の中澤らは以前,実験的ラット網膜.離眼における視細胞死に関して,TNFa,とくにTNFreceptor2が中心的役割を担うことを報告した3).これらの結果は,網膜.離の網膜硝子体内ではTNFaが上昇していること示唆している.●炎症性サイトカインと網膜神経節細胞死聖マリアンナ医科大学の北岡らは,少量のTNFa(20ng)をラットの硝子体に注射することで,注射後2週間で30%程度の視神経軸索変性が,注射後5週間で約30%の網膜神経節細胞死が生じることを報告した(図2,図3)4).さらに,TNFa投与は緑内障に類似した扇状の網膜神経節細胞死をきたす(図3).この機序として,マイクログリアにおけるNFkBp65の上昇などが考えられている.筆者らの実験結果より,網膜.離で上昇した網膜硝子体内のTNFaは,マイクログリアの活性を誘導し,軸索変性および網膜神経節細胞死を引き起こしている可能性が示唆された.●二次的網膜神経節細胞死と神経保護網膜.離後早期からTNFaの上昇が報告されていることから,なるべく早期に硝子体手術を行うことで,網536あたらしい眼科Vol.31,No.4,20142週5週図3TNFa硝子体注射後の網膜神経節細胞死TNFa注射後5週間より,コントロール群に比し有意な網膜神経細胞死が生じる.その細胞死は軸索障害に準じて生じるため扇状を示す.膜硝子体内のTNFaを除去可能であり,術後の視細胞死の予防のみならず二次的網膜神経節細胞死の予防にもなりうる.さらに.離発症早期よりステロイドを用い消炎することでTNFaの発現を抑制でき,二次的網膜神経節細胞死を抑制できると考えられる.症例にもよるが,強膜バックリング(scleralbucklingprocedure:SBP)よりも,経結膜小切開硝子体手術のほうが硝子体内炎症性サイトカインの除去が可能であり,二次的網膜神経節細胞死に対し有用であると考えられる.このように網膜.離のみならず,その他の疾患においても,炎症性サイトカイン制御の神経保護に及ぼす影響は多少なりとも存在すると考えられる.文献1)NakazawaT,MatsubaraA,NodaKetal:Characterizationofcytokineresponsestoretinaldetachmentinrats.MolVis12:867-878,20062)LimbGA,HollifieldRD,WebsterLetal:SolubleTNFreceptorsinvitreoretinalproliferativedisease.InvestOphthalmolVisSci42:1586-1591,20013)NakazawaT,HisatomiT,NakazawaCetal:Monocytechemoattractantprotein1mediatesretinaldetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSA104:2425-2430,20074)KitaokaY,KitaokaY,KwongJMetal:TNF-alphainducedopticnervedegenerationandnuclearfactor-kappaBp65.InvestOphthalmolVisSci12:7675-7683,2012(58)

屈折矯正手術:屈折矯正手術と自衛隊

2014年4月30日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載167大橋裕一坪田一男167.屈折矯正手術と自衛隊播本幸三防衛医科大学校眼科陸上自衛隊員は大部分が健常者であり,その約半数が近視などの屈折異常を呈している.屈折矯正方法は眼鏡あるいはコンタクトレンズ(CL)である.隊員は眼鏡やCLに対して不便や不安を感じつつも日常業務に従事している.屈折矯正手術を受けているのはわずか約5%であるが,手術は任務遂行能力向上に寄与している.●陸上自衛官の屈折矯正の現状平成23年3月11日に発生した東日本大震災では,東北地方を中心に東日本の広域が未曾有の被害を受けた.その大震災後の災害復旧活動に延べ1,058万人の自衛隊員が派遣され,人命救助,救急患者搬送,遺体収容,物資輸送,給水支援,給食支援,入浴支援,原子力災害対処などに過酷な状況下で従事した.疫学調査によれば,日本人成人における近視の割合は38.3.49.0%と報告されている1).近年わが国においてlaserinsitukeratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術を受ける人が増加してきた.今回,筆者らは陸上自衛官の屈折矯正の現状を調査する目的で,東日本大震災後の災害派遣活動に従事した陸上自衛官519名(全員男性)を対象としてアンケート調査を実施した.その結果眼鏡眼鏡+DSCL眼鏡+HCL眼鏡+SCLHCLDSCL図1陸上自衛官の屈折矯正法運転時に屈折矯正器具を必要とする246名のうち,眼鏡を使用しているものは118名(48.0%),CLを使用しているものは32名(13.0%),双方を使い分けているものは96名(39.0%)であった.DSCL:ディスポーザブルソフトコンタクトレンズ.HCL:ハードコンタクトレンズ.SCL:リユーザブルソフトコンタクトレンズ.(文献2より転載)は以下の通りである2).・回答者:516名(99.4%)・屈折矯正(眼鏡あるいはCL)を要する者:246名(47.7%)(内訳)眼鏡を使用している者:118名(48.0%)CLを使用している者:32名(13.0%)両者を併用している者:96名(39.0%)(図1)2)・CLを使用している者144名中過去にCL関連のトラブルを経験した者:52名(うち35名は演習中のトラブル)・演習中の眼鏡やCLが不便であると感じた者眼鏡装用者:66.9%CL装用者:63.5%・演習中のCLの交換についてたまに交換:33.1%無交換:61.9%・派遣中の眼鏡やCLのトラブルに対してとても不安:21.4%やや不安:46.9%この調査から,屈折矯正を必要とする多くの自衛官は,眼鏡やCLに対して不安や不便を感じつつ業務に従事している現状がみえてきた.近年のCLは酸素透過性に優れ,連続装用可能な商品も多数市販されているが,使用方法や管理方法に問題があり,CL使用者の角膜感染症の報告3)にもあるように,自衛官にとって眼鏡やCLが理想的な屈折矯正法とはとてもいいがたい.一方,屈折矯正手術を受けた者はわずか24名(4.7%)であった.今回調査した自衛官の多くは,屈折矯正手術に対して一定の興味はあるが,経済的な理由からあきらめているのが現状であった.(55)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145330910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表1自衛官における屈折矯正手術の視機能および任務への影響調査項目術前術後p値13.0%4.3%ドライアイ有病率(9名)(3名)p=0.0048光のにじみ1.71.9p=0.1097視機能遠方の見え方3.31.4p<0.0001近方の見え方2.11.5p=0.0002即応性2.61.3p<0.0001任務への影響防護マスク装着2.91.3p<0.0001任務遂行能力2.81.2p<0.0001屈折矯正手術の前後で比較して,ドライアイ有病率,視機能(遠方の見え方,近方の見え方),任務への影響(即応性,防護マスク装着任務遂行能力)において有意にスコアが改善した.●自衛官における屈折矯正手術の有用性他国(米国など)では,軍隊における屈折矯正手術の有効性についての報告がすでにある4,5).筆者らは,陸上自衛官における屈折矯正手術の視機能,任務遂行能力への影響について,すでに手術を受けた69名(男性65名,女性4名)に対してアンケート調査を行った.アンケートでの調査項目は表1の通りである.回答をスコア化(1:とてもよい,2:まあまあよい,3:やや悪い,4:悪い)し,c2検定で統計学的解析を行い,屈折矯正手術の前後で比較した.結果としては視機能では遠方の見え方,近方の見え方のいずれも有意に改善していた.任務への影響では即応性,防護マスク(図2)の装着,任務遂行能力のいずれもスコアが有意に改善していた(表1)2).よって屈折矯正手術は自衛官にとって任務遂行上,非常に有益であると結論づけられる.●自衛隊における屈折矯正手術の問題点と展望多くの自衛官は屈折矯正(眼鏡やCL)に不便や不安を感じながら業務に従事しているが,屈折矯矯正手術は自費で少数の隊員が受けているのが現状である.米軍では公費で隊員に屈折矯正手術を実施している.屈折矯正図2防護マスク化学兵器の脅威に曝された時点から約5秒以内に装着を完了しなければならない.眼鏡をかけたままでは装着は不可能であるので,マスク内には各隊員の屈折に合わせたレンズがあらかじめ装.されている.手術は隊員の任務遂行上有益であるが,わが国においても米軍のように公費で屈折矯正手術を実施するには,安全性の確立,莫大な費用,手術実行上の問題(場所,執刀する眼科医官数や技能,教育体系,適応決定など),立法上の問題,世論など,克服しなければならないハードルは高くて多い.文献1)HayashiH,YamashiroK,NakanishiHetal:Associationof15q14and15q25withhighmyopiainJapanese.InvestOphthalmolVisSci52:4853-4858,20112)播本幸三,加藤直子,庄司拓平ほか:陸上自衛官における屈折矯正法の現状:東日本大震災後の経験を踏まえて.日眼会誌118:84-90,20143)YeungKK,ForisterJF,ForisterEFetal:Compliancewithsoftcontactlensreplacementschedulesandassociatedcontactlens-relatedocularcomplications:theUCLAContactLensStudy.Optometry81:598-607,20104)StanleyPF,TanzerDJ,SchallhornSC:LaserrefractivesurgeryintheUnitedStatesNavy.CurrOpinOphthalmol19:321-324,20085)PandayVA,ReillyCD:RefractivesurgeryintheUnitedStatesAirForce.CurrOpinOphthalmol20:242-246,2009☆☆☆534あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(56)

眼内レンズ:日本医大式(三日月型)MQA

2014年4月30日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎鈴木久晴332.日本医大式(三日月型)MQA日本医科大学武蔵小杉病院志和利彦高橋浩日本医科大学眼科学教室MQAは眼科手術において重要な器具であるが,出血や水分の吸収除去に有用である一方,水分を急速に吸収するため,切開創の圧迫や組織の.離には適さない場合も多い.今回,筆者らはMQAの形を三日月型とし,そのホルダーも均等に力がかかるように設計し,切開創圧迫や出血除去など,さまざまな場面でこのMQAを用い臨床評価を行った.現在,medicalquickabsorber(MQA)は内・外眼手術ともに,なくてはならない器具となっている.しかし,出血や余分な水分の吸収除去などに有用である一方,水分を急速に吸収するため,切開創の圧迫や組織の.離などには適さない場合も多い.また,一度水分を吸収するとすぐに交換が必要となってしまう.そこで今回,筆者らはMQAの形を三日月型にした日本医大式MQAを考案した(図1).日本医大式MQAは,幅7mm,下側は平面ではなく,三日月型に弧を描いている.MQAホルダーは,ステンレス製で,全長73mm,MQAを把持する部分はMQAに並行するように弧を描く構造とした.これによりMQAに均等に力がかかるようになっている.また,MQAを固定する台を設け,MQAを交換する際にワンタッチでホルダーに装着できるように工夫した.筆者らはさまざまな手術でこのMQAを用い,その有用性を評価した.まずは,白内障手術の器具の出し入れ時における前房虚脱防止のための切開創の圧迫に用いた(図2).USチップやI/Aチップを引き抜く際には急激な前房虚脱を起こすことがあり,これを防ぐ方法として切開創を指で圧迫したり1),MQAで押さえたりする方法2)がある.しかし,通常のMQAではすぐに水分を吸収してしまうため切開創に均等に圧がかからず,十分な効果が得られないことがある.一方,日本医大式MQAでは,切開創に均等に圧が加わることによりチップの抜出時に切開創からの前房水の漏出も少なくなり,前房を維持したままのチップの抜きだしが可能であり有用であった.つぎに角膜切開における眼球固定に用いた(図3).切開創の対側から日本医大式MQAで固定することにより,眼球は固定され良好な切開創を作製することができた.これもやはり構造上,眼球に均等な力を加えることができるためである.また,日本医大式MQAは白内障手術以外の手術にも有効である.たとえば,翼状片の手術では,角膜からの翼状片の.離除去に有効である.翼状片などの組織を鈍図1日本医大式MQA,MQAホルダー,セッティングのための固定台図2前房虚脱の防止(53)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145310910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図3角膜切開における眼球固定図3角膜切開における眼球固定的に.離したい場合には,MQAを縦方向に用いることにより,力をピンポイントでかけることができるので,細かな組織.離に有用であった.また,強膜からの出血を凝固する際に,術野を確保するための眼球固定や,出血部を同定するための血液の拭き取りに非常に有用であった(図4).さらに,通常のMQAであると,血液や水分などをふき取るとMQAは大きく膨らみ,すぐに水分の吸収力が落ちてしまうが,日本医大式MQAの場合は先を少しつまむだけで簡単に水分を絞ることができ,再度,出血の拭き取りなどが可能であった.その他の使用方法としては,眼瞼下垂手術時・斜視手図4翼状片手術における止血操作術時の筋肉の露出とテノン.の掻爬などが考えられる.日本医大式(三日月型)MQAとMQAホルダーは,さまざまな眼科手術において有用な器具であると思われる.文献1)中野敦雄:自己閉鎖率を高めるための工夫.眼手術学5白内障(大鹿哲郎編),p130-132,文光堂,20122)鈴木久晴:視神経,網膜への侵襲を低減する工夫.新ESNOW11低侵襲手術(ビッセン宮島弘子,門野園一明編),p54-61,メジカルビュー社,2012

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療の疑問⑪

2014年4月30日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②11本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.シリコーンハイドロゲルレンズは眼にとって安全ですか?シリコーンハイドロゲルレンズのメリット,デメリットを教えてください.講師稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(siliconehydrogelcontactlens:SHCL)の最大の特徴は,非常に高い酸素透過性を有していることであり,CL装用に伴う乾燥感や充血を軽減するメリットがある(図1).発売当初は連続装用可能なレンズとして販売されていたが,現在では終日装用・2週間頻回交換型が主流であり,球面レンズに加え,乱視用・遠近両用の製品も増えているため,処方対象の年齢層も拡大している.また,連続装用が可能なレンズであるため,角膜疾患を有する症例に対して治療用CLとして使用されている製品もある.しかしながら,発売後約10年が経過して,SHCLのデメリットも数多く指摘されている.SHCLに多くみられる眼障害の原因として,素材の硬さ,ケア用品である多目的溶剤(multi-purposesolution:MPS)との相性,脂質汚れ,微生物の付着性などがあげられる.図1含水性SCLからSHCLへの変更による角膜血管新生の軽減例左:2ウイークアキュビューR使用中.右:アキュビューRアドバンスR装用開始2週間後.R:登録商標(岩崎直樹先生のご厚意による)(51)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY●素材の硬さSHCLは含水率が低い製品ほど酸素透過係数が高くなる反面,硬いレンズになる.現在わが国で発売されているSHCLのうち,弾性率が高いlotlafilconA,balafilconA,lotlafilconB,asmofilconAは,他の製品より比較的硬めのレンズといわれている.CLの硬さが関与するとされる眼障害の代表として,superiorepithelialarcuatelesions(SEALs),巨大乳頭結膜炎,ムチンボール(mucinball)などがあげられる.SEALsはSHCL装用者に多く発症する角膜上皮障害であり,角膜上方輪部角膜に弓状に点状表層角膜炎が集簇する(図2).初期には島状の上皮障害から始まり,輪部と平行に拡大する.ときに結膜充血や角膜血管新生を伴い,異物感や充血を訴えることもあるが,無症候性の症例も多い.SEALsは,上眼瞼とCLによる上輪部角膜に対する機械的ストレスとが原因として考えられており,CLの硬さとCL周辺部の厚みとの関連が指摘されている.巨大乳頭結膜炎についてもCLによる機械的刺激が発症の一因とされている.ムチンボールは,角膜と図2superiorepithelialarcuatelesions(SEALs)(提供:Johnson&JohnsonK.K.)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014529 図3ムチンボール連続装用SCLやシリコーンハイドロゲルレンズ装用眼などにみられることがある.(提供:Johnson&JohnsonK.K.)CLの間に生じる半透明.乳白色の小球形の混濁である(図3).スティープなCLを装用することによるCL.角膜間の涙液交換不良が原因とされ,その形成には脂質とムチンが関与しているといわれている.自覚症状はなく,CLをはずすと消失する.●ケア用品である多目的溶剤(MPS)との相性lotlafilconAが発売された当初,ケア用品としてPHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)を主成分とするMPSを使用していた装用者に角膜上皮障害が発症することが報告された1.3).MPSで保存したSHCLを装用すると表在性点状角膜炎がみられ,装用後2.4時間で消退するといわれている.その後の報告で,発売されているSHCLの多くは,PHMB製品で角膜上皮障害が起こるものの,SHCLとMPSの組み合わせによって発生頻度も上皮障害の程度も異なることが明らかになった4).SHCLのケア方法としては過酸化水素による消毒が推奨され,MPSを使用する際には注意が必要である.●汚れやすさSHCLに蛋白汚れはほとんど付着しないが,脂質汚れは付きやすい特性がある.化粧品には多くの脂質成分が含まれているため,目元に使用する化粧品やハンドクリームを使用した手指からSHCLに脂質汚れが付着し,結膜炎などの障害が誘発される可能性がある.また,SHCLは含水性SCLより細菌やアカントアメーバなどの微生物が付着しやすく,角膜感染症の発症に関与しているとの報告がある5,6).しかしながら,製品によっても差があるため,SHCLがすべて危険ということではないが,現在発売されているSHCLの多くが2週間頻回交換型であることから,毎日の洗浄と消毒を中心としたレンズケアに関する指導と注意喚起を十分に行う必要がある.文献1)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20052)水谷由紀夫:ソフトコンタクトレンズ,シリコーンハイドロゲルレンズ装用者にみられる角膜ステイニング.日コレ誌49:228-237,20073)AndraskoG,RyenK:Cornealstainingandcomfortobservedwithtraditionalandsiliconehydrogellensesandmultipurposesolutioncombinations.Optometry79:444454,20084)糸井素純:シリコーンハイドロゲルレンズとケア製品との適合性.日コレ誌50:s11-s15,20085)BeattieTK,TomlinsonA,McFadyenAK:AttachmentofAcanthamoebatofirst-andsecond-generationsiliconehydrogelcontactlenses.Ophthalmology113:117-125,20066)HenriquesM,SousaC,LiraMetal:AdhensionofPseudomonasaeruginosaandStaphlococcusepidermidistosiliconehydrogelcontactlenses.OptomVisSci82:446-450,2005530あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(00)ZS697

写真:後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)

2014年4月30日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦359.後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)張佑子バプテスト眼科クリニック図2図1のシェーマ①:下方の角膜後面に集簇する水疱様病変②:瞳孔領に孤発する水疱様病変③:平行な帯状病変図1後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)の水疱様病変(34歳,男性,右眼)下方の角膜後面に水疱様病変が集簇している.矯正視力は(1.2)と良好である.角膜内皮細胞密度は1,153/mm2と減少している.図3PPCDの帯状病変(49歳,女性,右眼)図4PPCDの進行例(49歳,女性,右眼)角膜後面に平行な帯状病変を認める.耳上側から瞳孔領にかかる角膜浮腫を認める.角膜内皮細胞減少が進行し,水疱性角膜症となり,角膜内皮移植術を施行した.(49)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145270910-1810/14/\100/頁/JCOPY 後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)は,1916年にKoeppeにより報告された角膜内皮細胞が上皮様に異常分化し増殖する,比較的まれな角膜内皮変性疾患である.常染色体優性遺伝であり原因遺伝子として,PPCD1(MIM#122000)のVSX-11),PPCD2(MIM#609140)のCOL8A22),PPCD3(MIM#609141)のTCF83)が同定されている.出生時から若年にかけて両眼性に発症し,左右非対称であることが多い.細隙灯顕微鏡検査では,Descemet膜から内皮レベルに水疱様,帯状病変(bandlesion)あるいはびまん性の混濁を認める.水疱様病変(vesiclelikelesion)の出現パターンは多彩であり,孤発する場合と集簇する場合がある.水疱様病変の周囲は,灰白色のhaloに囲まれていることが多い.帯状病変は水平方向に伸びる複数の平行な混濁として観察される.びまん性混濁はDescemet膜レベルに小さな斑状混濁として観察されるが,水疱様,帯状病変と比較すると少ない.角膜内皮細胞密度は,正常に近いものから低下したものまでさまざまである.スペキュラーマイクロスコープによる観察では,正常角膜内皮細胞の間に黒く抜けてみえるdarkareaが散在し,その境界は明瞭である.多くは非進行性であり自覚症状が乏しいため,コンタクトレンズ診療や検診で偶然発見される程度だが,まれに進行性で水疱性角膜症となる場合がある.PPCDに伴う他の所見として,滴状角膜,内皮機能障害による角膜浮腫,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS),瞳孔偏位などがある.PASの有無にかかわらず眼圧上昇をきたすことがある.治療は,無症状の場合には経過観察となる.角膜内皮細胞密度が減少した症例で白内障手術を行う際は,角膜内皮保護につとめる.角膜内皮細胞密度の低下により上皮障害を生じやすい症例では,治療用コンタクトレンズ装用や高張食塩水の点眼を行う.水疱性角膜症に至った症例に対しては,現在,角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)が行われている.鑑別すべき疾患としてposteriorcornealvesicle(PCV),虹彩角膜内皮症候群(iridocornealendthelialsyndrome:ICEsyndrome)がある.PCVは典型例では角膜後面に水平に伸びる帯状病変を認め,小水疱様病変として認められることもある.僚眼と比較して角膜内皮細胞密度が減少していることが多いが,進行することはほとんどなく,視力に影響することはない.ICE症候群は成人から中年女性に好発する.PPCDでは混濁は一定であるが,ICE症候群では角膜周辺部では混濁が薄い.また,PPCDに比べてPASや緑内障合併率が高い.いずれも非遺伝性で片眼性であることから鑑別可能である.PPCDはまれに出生時より角膜混濁を認める場合があり,先天緑内障,分娩時外傷などとの鑑別が必要である.先天緑内障では,乳幼児期から眼圧上昇をきたし,角膜内皮に横方向の線状混濁(Haab’sstriae)がみられる.分娩時外傷では,Descemet膜破裂による帯状病変は垂直方向に伸びる.文献1)HeonE,GreenbergA,KoppKKetal:VSX1:ageneforposteriorpolymorphousdystrophyandkeratoconus.HumMolGenet11:1029-1036,20022)BiswasS,MunierFL,YardleyJetal:MissensemutationsinCOL8A2,thegeneencodingthealpha2chainoftypeVIIIcollagen,causetwoformsofcornealendothelialdystrophy.HumMolGenet10:2415-2423,20013)KrafchakCM,PawarH,MoroiSEetal:MutationsinTCF8CausePosteriorPolymorphousCornealDystrophyandEctopicExpressionofCOL4A3byCornealEndothelialCells.AmJHumGenet77:694-708,2005528あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(00)

第3版ドライアイ診断基準改訂の提言

2014年4月30日 水曜日

あたらしい眼科31(4):523.525,2014c総説第3版ドライアイ診断基準改訂の提言ProposalfortheNewDryEyeDiagnosticCriteriaドライアイ研究会コアメンバー:坪田一男*(慶應義塾大学),島﨑潤(東京歯科大学),横井則彦(京都府立医科大学),渡辺仁(関西ろうさい病院),大橋裕一(愛媛大学),木下茂(京都府立医科大学)(順不同)Iドライアイ診断基準策定の歴史的背景1990年の設立以来,ドライアイ研究会は23年間にわたりドライアイの啓発,研究開発の推進を行ってきた.当初,ドライアイには乾性角結膜炎,眼乾燥症,乾燥症候群,Sjogren症候群などさまざまな名称が使用され,その概念も診断基準も統一されていなかった.そこで1995年,世界に先駆けて第1版のドライアイの定義および診断基準をドライアイ研究会のコアメンバーで作成した.この診断基準では,自覚症状の有無にかかわらず,涙液の異常と角結膜の異常が存在すればドライアイと診断するとした.その後,ドライアイ研究会が中心となって国際的なドライアイの定義,診断基準統一の重要性について各国のドライアイ専門家に働きかけを行った結果,2007年,TearFilm&OcularSurfaceSociety(TFOS)において国際基準のドライアイの考え方がまとめられ,世界に向けて発信された.これに先行して2006年にわが国でも定義,診断基準の見直しを行った(第2版).この見直しの大きなポイントは,“自覚症状”を重要視した点と,ドライアイの自覚症状に“視機能の異常”も含まれることを明記した点にある.涙液層が不安定となり(図1),時間軸を考慮した実用視力が低下する(図2)が,涙液層の不安定性はtearfilmbreak-uptime(BUT)検査によって測定が可能であり,視機能の異常は角膜トポグラフィや収差解析装置によっても検出可能である.図1涙液層の不安定なBUT短縮タイプのドライアイ角結膜の障害は少ないものの,BUTは極端に短縮し,症状も強い.〓-0.2〓-0.1〓0.0〓0.2〓0.3〓0.4〓0.5〓0.6〓0.7〓0.8〓0.9〓1.0051015202530354045505560図2BUT短縮タイプによる実用視力の低下この症例では通常の視力測定では1.2と判定されるが,継続して測定すると1分間に大きく変動していることがわかる.△:瞬目*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕坪田一男:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(45)523 IIBUT短縮型ドライアイの重要性近年,ジクアホソルナトリウム(ジクアスR)やレバミピド(ムコスタR)など,ムチンの分泌を促進し,涙液層の安定性を改善する点眼薬が登場するなか,ドライアイの病態に対する理解がさらに深まり,とくに“BUT短縮型ドライアイ”(英語ではshortBUTdryeye)に関する臨床的,基礎的知見が急速に集積されつつある.このタイプのドライアイの特徴としては,①他覚所見に比較して自覚症状が強い,②BUTをはじめとする涙液層の安定性を評価する検査が診断に必須である,③涙液層の安定性を助長する治療が有効なことが多い点,があげられる.これまで,BUT短縮型ドライアイは,角結膜障害が少ないにもかかわらず自覚症状が強い特異なドライアイで,治療法も確立しておらず,対応が難しい疾患とされてきた.1995年,このタイプのドライアイが初めて発表されたときには1)“BUTの短縮だけでそんなに強い症状が出るはずがない(,)のでは?”とか,“なぜSjogren症候群などの重症ドライアイに匹敵する自覚症状があるのか?”などの疑問が呈示され,このタイプのドライアイが独立した疾患単位として認知されることはなかった.しかしながら,涙液層安定性の重要性が認識され,上述の新しい点眼薬による治療の可能性が示されるに至り,BUT短縮型ドライアイは大きな注目を集めるようになった2).BUT短縮型ドライアイでは,角膜上皮表面の水濡れ性,あるいは涙液層の安定性が悪いために角膜上の涙液が容易に破綻し,視機能の低下や眼不快感が引き起こされると考えられている.このタイプの視機能の低下は通常の視力検査では検出できないが,1分間継続して視力を測定する「実用視力」によって検出可能であり3),高次収差も増えることがKohらによって報告されている4).また,京都府立医科大学の横井らは,涙液破綻のパターンによって本タイプのドライアイを鑑別できることを指摘し,大きなインパクトを与えた.さらに,近年実施されたドライアイ疫学研究(OsakaStudy)によれば,ドライアイ患者は涙液減少タイプよりもBUT短縮タイプが圧倒的に多く,現代のドライアイ診療において,このBUT短縮型ドライアイが重要な位置を占めると考えられるようになってきた.さて,現在のドライアイの診断基準によれば,自覚症状,涙液異常,上皮障害の3要素のなかで,“ドライアイ疑い”には以下の3つのパターンが存在する.①自覚症状あり,涙液異常あり,上皮障害なし②自覚症状なし,涙液異常あり,上皮障害あり③自覚症状あり,涙液異常なし,上皮障害ありBUT短縮型ドライアイは,このうちの①のパターンに属することになり,現行の基準では“ドライアイ疑い”とみなされてしまうという問題点がある(表1).本項で述べてきたように,BUT短縮型ドライアイのドライアイ診療における重要性に鑑み,今回,これを独立したド表1第2版ドライアイ診断基準(2006年)自覚症状涙液異常角結膜上皮障害ドライアイの診断○○○ドライアイ確定○○なしドライアイの疑いなし○○ドライアイの疑い○なし○ドライアイの疑いBUT短縮タイプのドライアイは“ドライアイの疑い”に分類される.表2第3版ドライアイ診断基準改訂の提言自覚症状涙液異常角結膜上皮障害ドライアイの診断○○○ドライアイ確定○○なしBUT短縮型ドライアイ確定なし○○ドライアイの疑い○なし○ドライアイの疑い524あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(46) ライアイの病型として取り扱うことを提唱する(表2).なお,②と③の臨床的意義や疾患概念については,今後の検討を待つこととする.III第3版ドライアイ診断基準改訂に向けて第2版の診断基準でも,主軸の涙液検査としてはSchirmer試験とBUT測定がとりあげられている.しかし,現在のドライアイ診療においてはBUT測定の重要性がさらに増大している.とくに,Sjogren症候群に代表される重症ドライアイと同程度の,強い自覚症状をきたすBUT短縮型ドライアイの診断には,BUT測定は不可欠である.BUTは部屋の相対湿度,フルオレセインの濃度や点眼する量によって大きく変化するため,最少量のフルオレセインを使用して検査することが求められる.最近,ドライアイと精神疾患との関係も注目されつつあり,興味深いことに涙液減少タイプのドライアイより,他覚所見に乏しい軽症のドライアイの方がうつ病と関係することがわかってきた5,6).また,BUT短縮型ドライアイの発症メカニズムに,コンピューターやスマートフォンの使用が関連する可能性も指摘されている.結論として,患者数あるいは臨床的重要性から考えて,BUT短縮型ドライアイを現行のドライアイ診断基準のまま,「ドライアイ疑い」とすることは実情に合わない.現在,エビデンスに基づいた診断基準やガイドラインの策定作業も開始されてはいるが,完成までにはしばらく時間を要すると思われる.そのため当面は,“BUT短縮型ドライアイ”を他の“ドライアイ疑い”とは区別して取り扱うことを提言する.謝辞:ドライアイ研究会は会員の会費に加え,以下の企業からの協賛を得て運営されている.株式会社オグラ,株式会社高研,小林製薬株式会社,参天製薬株式会社,株式会社シード,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,株式会社トーメーコーポレーション,名古屋眼鏡株式会社,株式会社ホワイトメディカル,ロート製薬株式会社(50音順)文献1)TodaI,ShimazakiJ,TsubotaK:Dryeyewithonlydecreasedtearbreak-uptimeissometimesassociatedwithallergicconjunctivitis.Ophthalmology102:302-309,19952)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosoltetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshortbreak-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595603,20133)KaidoM,DogruM,IshidaRetal:Conceptoffunctionalvisualacuityanditsapplications.Cornea26:S29-S35,20074)KohS,MaedaN,NakagawaTetal:Characteristichigher-orderaberrationsoftheanteriorandposteriorcornealsurfacesin3cornealtransplantationtechniques.AmJOphthalmol153:284-290,20125)LiM,GongL,SunXetal:Anxietyanddepressioninpatientswithdryeyesyndrome.CurrEyeRes36:1-7,20116)LabbeA,WangYX,JieYetal:Dryeyedisease,dryeyesymptomsanddepression:theBeijingEyeStudy.BrJOphthalmol97:1399-1403,2013☆☆☆(47)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014525

緑内障とアンチエイジング医学

2014年4月30日 水曜日

水晶体(老視)のアンチエイジング

2014年4月30日 水曜日

特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):511.516,2014特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):511.516,2014水晶体(老視)のアンチエイジングAnti-AginginCrystallineLens三田哲大*佐々木洋*はじめに老視は水晶体の加齢変化が最大の要因である.加齢水晶体は硬化し,最終的には白内障となる.本項では,水晶体のアンチエイジングとして,老視および白内障の予防について述べる.I老視とは老視とは,調節力が低下した状態を示しており,調節は近方視で見たい対象が鮮明に見えるように眼の屈折力が増加する作用である.その原理は,近方のものを見たとき毛様体筋が緊張することによってZinn小帯が弛緩し,水晶体が自己の弾性により球形に変化することから,水晶体の屈折力が増加するというHelmholtz1)の説が一般的に支持されている.調節が弛緩して最も遠方を見ているときに網膜に像を結ぶ点を遠点,調節を働かせて最も近方を見ているときに網膜に像を結ぶ点を近点という.遠点から近点までの距離を調節域とよび,これを屈折力で表したものが調節力である.調節力は加齢に伴って低下し(図1),60歳頃までは.0.25D/年で減少するといわれている2).老眼研究会は老視を加齢による調節幅の減退と定義し,近方視力の向上への介入が必要な状態であると考え“疾患”としている3).老視の有病率は45歳頃で約半数であり,加齢とともにその割合は増加する4,5).Hickenbothamらは9つの横断的研究のメタアナリシスにより,老視は男性に比べ女性で有意に多いと報告している6).原因として,調節力そのものの違いではなく,男女での近方作業の違いや腕の長さの違いなどが要因である可能性があると考按している.老視はQOL低下に直結するため,女性において近方障害を早期に自覚することは重要であり,眼球収差や瞳孔径の違いなど,眼光学的な側面からの検討も必要である.調節力の低下には水晶体核部の硬化が関与する7)とされているが,水晶体硬度を生体眼で定量的に測定することはできない.筆者らは,前眼部解析装置(EAS-1000,ニデック)で透明水晶体眼のスリット画像から後方散乱光強度を測定したところ,核部の後方散乱光強度と調節力には有意な相関があり,水晶体核部の後方散乱が上昇するほど調節力は低下した(図2).水晶体核部の後方散乱光強度は硬度の代用値となる可能性があり,調節力を客観的に評価する方法として有用な可能性がある.II調節力低下(老視)の予防健常者における調節力低下の予防および治療の手段は確立されていないのが現状である.眼精疲労は近業作業を長時間継続することによって生じる症状であり,調節を長時間続けた結果ともいえる.このような原因による調節力の低下を改善する可能性を示唆する方法にはいくつかの報告がある.瀬川らは,28.8mgのベリー類アントシアニンを含むミルトセレクトを1日2カプセル,28日間内服したところ,プラセボと比較して調節力が有意に改善したと報告している8).作用機序の詳細は不明であるが,ロドプ*NorihiroMitaandHiroshiSasaki:金沢医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕三田哲大:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学講座0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(33)511 9.009.008.008.007.007.00調節力(D)6.00調節力(D)6.005.004.003.005.004.003.002.002.001.001.000.00年齢(歳)0.00図1調節力の加齢変化後方散乱光強度(cct)図2水晶体核部(中心間層)の後方散乱光強度と調節力の相関表1アスタキサンチン100mg.kgの単回経口投与後の経時的変化203040506070020406080100時間(h)369122472168血清9.10±6.8836.88±17.7761.26±26.8720.46±12.758.26±6.91NDND虹彩・毛様体ND4.76±2.2233.55±12.7446.51±24.1679.35±37.354.43±3.33NDND:検出限界以下シン再生促進作用および網膜酵素の活性化を介して,夜間視力の改善効果や強い抗酸化作用から脳の酸化ストレスを軽減することによって神経保護効果を示すといわれており,これらの作用メカニズムが眼精疲労抑制にも働いている可能性があるとしている.小出らは,北欧を中心にジャムやジュースの形態で使用され,糖尿病による眼の毛細血管の保護・予防効果などがあるホワートルベリーを含有したコップ1杯のジュースを1日3回,7日間飲用したところ,プラセボと比較して有意に調節力が改善したと報告している9).作用機序の詳細は不明ではあるが,食用としての実績があることから安全性は確立されている.アスタキサンチンはエビ,カニ,サケ,イクラなどの水産物に含まれるカロテノイドの一種で,強い抗酸化作用を有することが知られている.長木らは,アスタキサンチン3mg含有カプセルを1日2カプセル,4週間内服したところ,プラセボと比較して調節力は有意に改善したと報告している10).血管拡張作用により毛様体の血流改善を促し,その結果として毛様体におけるエネルギー産生物質の供給と乳酸などの代謝物の除去が促進され,毛様体の機能が回復し,調節力が改善する可能性がある.アスタキサンチンを含む抗酸化サプリメン(ng/ml,g)トがVDT(visualdisplayterminal)作業による調節障害の回復に有効であったとの報告もある11).対象の平均年齢は40代であり,調節力の回復も平均0.2Dと少ないが,調節力が低い年齢層では自覚的にも有意な効果が期待できる可能性がある.筆者らは,家兎を使った実験でアスタキサンチンは虹彩・毛様体に高濃度移行することを報告している12)(表1).経口投与されたアスタキサンチンの虹彩・毛様体への移行濃度は,投与後24時間で最高となり,その濃度は血清のピーク値を上回る.虹彩・毛様体が豊富な血管構造を有すること,メラニン色素が豊富であることがその理由として考えられる.一方,前房水内への移行は微量であり,水晶体への移行も非常に少ないことが予想されることから,アスタキサンチンによる調節改善効果は,毛様体機能の回復によるものと考えられる.水晶体硬化が進行した50代以上では,若年者と同等の効果は期待できないことも予想される.眼周囲の保温が調節力の回復に有効であるとの報告がある.高橋らによると,温熱シートで眼の周囲を温めると閉瞼したのみと比べて調節力は改善し,温熱シートの蒸気量が多いほど調節力の改善の程度は良くなり,さらに眼前30cmにおける近方視力も温熱シートで改善し,512あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(34) 蒸気量が増加するほど良好になる13).眼周囲の温熱刺激により副交感神経が優位になり,血液循環が改善する.毛様体輪状筋が副交感神経支配であることから輪状筋の収縮により水晶体は前方に膨隆して屈折力が増加し,縮瞳による焦点深度の増加も加わり,調節力が回復すると考えられる.これらの方法は一時的に調節力を増加させており,調節力を継続的に保持するためのヒントとなるかもしれない.現時点では加齢に伴う調節力の低下を抑えることはできないので,早期から遠近両用の眼鏡あるいはコンタクトレンズなどを使用し,それらを使いこなすことが有効である.眼鏡装用に関して,アンチエイジングの視点からは累進屈折力レンズが最も適している.このレンズは審美的にも老視用のレンズであることが見た目ではわからない点でも有用である.一般的に初めての眼鏡処方における加入度数の限界は+1.50D前後であり,50歳を超えてくると眼鏡処方をしたときに違和感が出やすくなる.加入度数が少なくて済む40歳頃から遠近両用の累進屈折力レンズを装用するとその後の加入度数の増加にも対応しやすくなる.III白内障の危険因子と予防白内障の要因としては加齢の影響が最も大きい.それ以外の危険因子としては紫外線,喫煙,糖尿病,近視,副腎皮質ステロイドなどが知られている.一次予防が可能である紫外線と喫煙およびサプリメントによる予防の可能性について述べる.紫外線に関して,Taylorらが米国のMaryland地域の漁師を対象に調査を行い,眼部紫外線被曝量と皮質白内障には有意な相関があることを初めて明らかにした14).この報告以後に中緯度以上の比較的紫外線レベルが低い地域において,眼部紫外線被曝量と白内障に関する研究がなされ,眼部被曝量の指標であるMarylandsun-yearが0.01増加するにつれ,皮質白内障のリスクが有意に10%増加すると報告されている15).核白内障については紫外線との関連はないとする疫学調査結果が多いが,紫外線レベルの強い低緯度地域ではその有病率が非常に高いことが報告されている16,17).また,Giblinらは米国ニューヨーク市での快晴日正午時点の10分の1の強度(0.5mW/cm2)の紫外線A波(ultravioletA:UV-A)を5カ月間モルモットの水晶体に曝露し,それにより核白内障を発症することを確認している18).亜熱帯・熱帯地域で核白内障の有病率がきわめて高いことは確実であり,動物実験の結果からも,高度の紫外線被曝が核白内障の発症および進行に関与している可能性は高いと考える.核の硬化は調節力低下の主因であり,核部における不溶性蛋白の増加により硬化を生じ,透明度の低下,核混濁を生じ核白内障に至る.したがって,高度の紫外線被曝は加齢が主因である核硬化・混濁の進行に関与し,調節力低下と核白内障発症の要因の一つになっている可能性がある.紫外線被曝量と調節力低下および核混濁の関係については,今後の詳細な疫学調査が待たれる.眼部紫外線対策は紫外線による眼障害の発症予防にきわめて有効である.筆者らは,平均的な東洋人女性のマネキン型紫外線センサーを使用し,眼部紫外線被曝量の計測を行っている(図3).頭頂部の紫外線B波(ultravioletB:UV-B)被曝量は太陽高度が高い春から秋の午前10時.午後2時が強い.一方,眼部のUV-B被曝量は,太陽正面を向いていた場合,春から秋で太陽高度が低い朝夕のほうが正午前後に比べ被曝量が大きい19).全方向からの平均的な被曝量からみても,直射光以外に散乱光や反射光があるため,眼の紫外線対策は1日中かつ図3マネキン型紫外線センサー(35)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014513 010203040501.9%2.2%2.7%6.4%31.4%40.9%34.9%40.3%被曝率(%)010203040501.9%2.2%2.7%6.4%31.4%40.9%34.9%40.3%被曝率(%)UV-ABUV-BUV-ABUV-BUV-ABUV-BUV-ABUV-Bキャップ+サングラス眼鏡キャップサングラス図4眼部紫外線防御アイテムの効果年間をとおして必要である.帽子単独では十分な効果が得られない.眼鏡やサングラスはレンズのサイズやテンプル幅,顔面形状とフレーム形状の関係により効果は大きく異なるが,眼鏡で50.70%,サングラスで70.95%の紫外線カット効果が期待できる(図4).Kawakamiらは,ReykjavikEyeStudyにおいて,20代および30代でサングラスを1日30分以上使用していた者は,使用しなかった者に比べ皮質白内障の混濁程度が有意に低かったと報告している20).UVカットコンタクトレンズはUV-Bを98%以上ブロックし,角膜全体および輪部を覆うためきわめて有効である.動物実験においても,その有効性が証明されている21).喫煙はさまざまな健康影響の原因になることが知られているが,白内障の危険因子であることが多くの疫学調査22.24)および動物実験25,26)でも証明されている.Christenらによると喫煙者は非喫煙者に比べ核白内障と後.下白内障のリスクが上昇し,1日20本以上の喫煙者では核白内障が2.24倍,後.下白内障が3.17倍上昇すると報告されている27).Yeらは,メタアナリシスによる解析で,現在の喫煙者では非喫煙者に比べ,核白内障のリスクが1.41倍,後.下白内障が1.43倍増加すると報告している28).皮質白内障に関しては,喫煙によるリスク上昇の報告はない.禁煙が白内障のリスクを低下させ514あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014る効果があることが報告されており,喫煙者に対する非喫煙者の核白内障の発症相対リスクは0.64であるのに対し,禁煙後10年での発症リスクは0.79,20年以上では0.74であり,禁煙は核白内障の発症予防に有効であることが証明されている29).受動喫煙の影響については,疫学研究では有意な影響は証明されていないが,動物実験では受動喫煙したラットにおいて水晶体上皮細胞の重層化,水晶体線維細胞の浮腫,細胞核の拡大,水晶体.の粗雑化などがみられることが明らかになっている25,26).喫煙が核硬化を促進することは確実であり,透明水晶体眼においても核部後方散乱の増加,調節力低下の要因になっている可能性は否定できない.受動喫煙の影響も含め,今後は大規模な疫学調査で喫煙による調節への影響について明らかにしていく必要がある.加齢白内障に対するサプリメントの有効性については多くの疫学研究が行われている.ビタミンC,ビタミンEについて,白内障に対する有効性は調査により異なりコンセンサスが得られていなかったが,エビデンスレベルの高い最近の調査においては,単独では明らかな効果は期待できないと報告されている30.32).血中抗酸化物質と加齢白内障に関するメタアナリシスでは,ビタミンE(オッズ比:0.75),a-カロテン(オッズ比:0.72),ルテイン(オッズ比:0.75),ゼアキサンチン(オッズ(36) 比:0.70)は白人および東洋人での白内障のリスク軽減作用がみられているため33),抗酸化物質の不足が加齢白内障に関与している可能性は高いと考えてよい.しかし,抗酸化物質の過剰摂取が,白内障のリスク増加につながるとの報告もある.Zhengらは,スウェーデン人男性31,120名を対象に8年間の前向き調査を行い,高用量のビタミンC単独あるいはビタミンE単独使用は,白内障の発症リスクを,それぞれ1.21倍と1.56倍上昇させ,ビタミンCについては高齢者とステロイド使用者ではそれぞれ1.92倍と2.11倍でさらにリスクを増加させると報告している34).ビタミンCの摂取量と水晶体内濃度には有意な相関があり,過剰摂取により水晶体中の濃度は上昇する35).過剰ビタミンCはpro.oxidantとしての作用を有することが知られており,水晶体蛋白のglycation36)やスーパーオキサイドの産生37)により白内障発症の原因となる可能性は否定できない.過剰ビタミンEについても,水晶体の酸化障害を生じ白内障の要因になる可能性について報告されている38,39).一方,マルチビタミンに関しては白内障進行予防に有効であるとの報告が多く,Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)でもマルチビタミン・ミネラルであるCentrumRとbカロテン15mg併用の長期投与が核白内障の進行抑制に効果があったとされている40).AREDS2では,ルテインとゼアキサンチン,あるいはこれらとEPA・DHAの組み合わせが白内障に及ぼす影響について検討されたが,明らかな効果は確認されなかった41).食事での不足分をサプリメントで補うというのが基本ではあるが,低栄養(偏食),喫煙者,高度紫外線被曝者,核白内障のハイリスク群ではサプリメントは白内障予防に有効である可能性があり,白内障予防におけるサプリメントの役割は今後さらに高まることが予想される.文献1)vonHelmholtzH:Anatomy,physiology,anddioptricsoftheeye:Gullstrandappendix.Helmholtz’sTreatiseonPhysiologicalOptics,TranslatedfromtheThirdGermanEdition(SouthallJPCed),p.143-172,TheOpticalSocietyofAmerica,Wisconsin,19242)長谷部聡:老視のサイエンスアップデート.あたらしい(37)眼科22:1023-1028,20053)井手武,不二門尚,前田直之ほか:老視の定義と診断基準2010.あたらしい眼科28:985-988,20114)井手武,不二門尚:老視とは何か定義と考え方.あたらしい眼科28:605-608,20115)HashemiH,KhabazkhoobM,JafarzadehpurEetal:Population-basedstudyofpresbyopiainShahroud,Iran.ClinExperimentOphthalmol40:863-868,20126)HickenbothamA,RoordaA,SteinmausCetal:Metaanalysisofsexdifferencesinpresbyopia.InvestOphthalmolVisSci53:3215-3220,20127)HeysKR,CramSL,TruscottRJ:Massiveincreaseinthestiffnessofthehumanlensnucleuswithage:thebasisforpresbyopia?MolVis10:956-963,20048)瀬川潔,橘本賢次郎,川田晋ほか:VDT作業負荷による眼精疲労自覚症状および調節機能障害に対するビルベリー果実由来アントシアニン含有食品の保護的効果.薬理と治療41:155-165,20139)小出良平,植田俊彦:視機能に及ぼすホワートルベリーエキスの効果.あたらしい眼科11:117-121,199410)長木康典,三原美晴,塚原寛樹ほか:アスタキサンチン含有ソフトカプセル食品の調節機能及び疲れ眼に及ぼす影響.臨医薬22:41-54,200611)UchinoY,UchinoM,DogruMetal:Improvementofaccommodationwithanti-oxidantsupplementationinvisualdisplayterminalusers.JNutrHealthAging16:478481,201212)福田正道,高橋二郎,西田康宏ほか:アスタキサンチンの家兎眼内動態の検討.あたらしい眼科25:1461-1464,200813)高橋洋子,井垣通人,阪本一朗ほか:視力や近見反射に対する眼周囲乾熱と湿熱の効果の比較.日眼会誌114:444453,201014)TaylorHR,WestSK,RosenthalFSetal:Effectofultravioletradiationoncataractformation.NEnglJMed319:1429-1433,198815)WestSK,DuncanDD,MunozBetal:Sunlightexposureandriskoflensopacitiesinapopulation-basedstudy:theSalisburyEyeEvaluationproject.JAMA280:714718,199816)SasakiH,JonassonF,ShuiYBetal:Highprevalenceofnuclearcataractinthepopulationoftropicalandsubtropicalareas.DevOphthalmol35:60-69,200217)MurthyGV,GuptaSK,MarainiGetal:PrevalenceoflensopacitiesinNorthIndia:theINDEYEfeasibilitystudy.InvestOphthalmolVisSci48:88-95,200718)GiblinFJ,LeverenzVR,PadgaonkarVAetal:UVAlightinvivoreachesthenucleusoftheguineapiglensandproducesdeleterious,oxidativeeffects.ExpEyeRes75:445-458,200219)SasakiH,SakamotoY,SchniderCetal:UV-Bexposuretotheeyedependingonsolaraltitude.EyeContactLens37:191-195,2011あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014515 20)KawakamiY,SasakiH,JonassonFetal:[Characteristicsandfrequencyofcorticalcataractsatanearlystage(ReykjavikEyeStudyinIceland)].KlinMonatsblAugenheilkd218:78-84,200121)GiblinFJ,LinLR,LeverenzVRetal:AclassI(SenofilconA)softcontactlenspreventsUVB-inducedoculareffects,includingcataract,intherabbitinvivo.InvestOphthalmolVisSci52:3667-3675,201122)WestS,MunozB,EmmettEAetal:Cigarettesmokingandriskofnuclearcataracts.ArchOphthalmol107:1166-1169,198923)LeskeMC,ChylackLTJr,WuSY:TheLensOpacitiesCase-ControlStudy.Riskfactorsforcataract.ArchOphthalmol109:244-251,199124)KleinBE,KleinR,LintonKLetal:Cigarettesmokingandlensopacities:theBeaverDamEyeStudy.AmJPrevMed9:27-30,199325)ShaliniVK,LuthraM,SrinivasLetal:Oxidativedamagetotheeyelenscausedbycigarettesmokeandfuelsmokecondensates.IndianJBiochemBiophys31:261-266,199426)AvundukAM,YardimciS,AvundukMCetal:Determinationsofsometraceandheavymetalsinratlensesaftertobaccosmokeexposureandtheirrelationshipstolensinjury.ExpEyeRes65:417-423,199727)ChristenWG,MansonJE,SeddonJMetal:Aprospectivestudyofcigarettesmokingandriskofcataractinmen.JAMA268:989-993,199228)YeJ,HeJ,WangCetal:Smokingandriskofage-relatedcataract:ameta-analysis.InvestOphthalmolVisSci53:3885-3895,201229)ChristenWG,GlynnRJ,AjaniUAetal:Smokingcessationandriskofage-relatedcataractinmen.JAMA284:713-716,200030)ChristenWG,GlynnRJ,SessoHDetal:Age-relatedcataractinarandomizedtrialofvitaminsEandCinmen.ArchOphthalmol128:1397-1405,201031)McNeilJJ,RobmanL,TikellisGetal:VitaminEsupplementationandcataract:randomizedcontrolledtrial.Ophthalmology111:75-84,200432)RobertsLJ2nd,OatesJA,LintonMFetal:TherelationshipbetweendoseofvitaminEandsuppressionofoxidativestressinhumans.FreeRadicBiolMed43:13881393,200733)CuiYH,JingCX,PanHW:Associationofbloodantioxidantsandvitaminswithriskofage-relatedcataract:ameta-analysisofobservationalstudies.AmJClinNutr98:778-786,201334)ZhengSelinJ,RautiainenS,LindbladBEetal:High-dosesupplementsofvitaminsCandE,low-dosemultivitamins,andtheriskofage-relatedcataract:apopulation-basedprospectivecohortstudyofmen.AmJEpidemiol177:548-555,201335)TaylorA,JacquesPF,NowellTetal:VitaminCinhumanandguineapigaqueous,lensandplasmainrelationtointake.CurrEyeRes16:857-864,199736)LinetskyM,ShipovaE,ChengRetal:Glycationbyascorbicacidoxidationproductsleadstotheaggregationoflensproteins.BiochimBiophysActa1782:22-34,200837)LinetskyM,JamesHL,OrtwerthBJ:Spontaneousgenerationofsuperoxideanionbyhumanlensproteinsandbycalflensproteinsascorbylatedinvitro.ExpEyeRes69:239-248,199938)vanHaaftenRI,HaenenGR,vanBladerenPJetal:InhibitionofvariousglutathioneS-transferaseisoenzymesbyRRR-alpha-tocopherol.ToxicolInVitro17:245-251,200339)BowryVW,StockerR:Tocopherol-mediatedperoxidation.TheprooxidanteffectofvitaminEontheradical-initiatedoxidationofhumanlow-densitylipoprotein.JAmChemSoc115:6029-6044,199340)MiltonRC,SperdutoRD,ClemonsTEetal:Centrumuseandprogressionofage-relatedcataractintheAge-RelatedEyeDiseaseStudy:apropensityscoreapproach.AREDSreportno.21.Ophthalmology113:1264-1270,200641)ChewEY,SanGiovanniJP,FerrisFLetal;AREDS2:Lutein/zeaxanthinforthetreatmentofage-relatedcataract:AREDS2randomizedtrialreportno.4.JAMAOphthalmol131:843-850,2013516あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(38)

眼瞼のアンチエイジング

2014年4月30日 水曜日

特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):505~510,2014特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):505~510,2014眼瞼のアンチエイジングAnti-AgingTreatmentfortheEyelid山本哲平*野田実香*はじめに眼瞼のエイジングというと何を思い浮かべるだろうか?眼瞼のしわ・しみなど,加齢によって外見に影響するものがすぐに思い当たるだろう.また,眼瞼下垂や眼瞼皮膚弛緩による視界不良,眼瞼内反による目の痛みなどの機能的な障害も加齢によって生じるものである.一般的な眼科医にとっては,こちらのほうが重要な問題であろう.眼瞼のアンチエイジングとは,美容的なものばかりではなく機能を取り戻す治療を行うことなのである.ただし,機能だけ取り戻しても,見た目が不自然だと患者の満足は得られず,トラブルになることもある.機能の回復と自然な仕上がりの両立を目指していきたいものである.コラム1美容整形手術での若返り美容整形手術でどの程度人は若返り,魅力が増すのだろうか?手術前後の見た目の年齢と外見的魅力を点数化して客観的に検証した結果が米国で報告された1).対象は年齢42~73歳(平均57歳)で,フェイスリフトや上下の眼瞼リフトなど,1カ所以上の手術を受けた患者49人である.これによると,美容整形手術後は平均3歳若くみられたが,外見的な魅力は手術の前後で変わりはないという結果であった.美容整形手術を受けても魅力を増すことはなかなかむずかしいようである.I加齢による眼瞼の変化1.しわ・しみ皮膚の老化に影響を与えるものは加齢による内因的なものと紫外線の曝露による外因的なものの2つが主である.皮膚は外層から順に表皮,真皮,皮下脂肪の3層から構成されるが,加齢・紫外線などの影響で皮膚のそれぞれの層が萎縮し,菲薄化する.また,それらの層を結合している線維組織も弱くなり,しわが生じるのである.内的要因と外的要因のどちらの影響が強いかはまだわかっていない.しかししみに関していえば,加齢よりもむしろ紫外線を浴びることで,表皮角化細胞や色素細胞の遺伝子が傷ついた結果生じると考えられている.このことは,紫外線で生じるDNAの傷を正しく治せない色素性乾皮症の患者で,生後数カ月からしみができることからもわかる.ちなみに外的要因として,紫外線の他に喫煙も皮膚の老化に関係する.喫煙者はしわが目立ち,皮膚の色も黄ばんでみえるようになるため,年齢の割に老けてみえる2).図1a~cは加齢による眼周囲の変化である.図1aの乳児ではしわやしみは一つもみられない.図1bの若年女性でもまだ肌のエイジングはない.図1cは90歳の女性である.長年農業に従事しており,加齢とともに紫外線による影響を受けて眼周囲にさまざまなしわやしみが生じている.また,眼瞼下垂に対する代償性の変化として,眉毛が挙上し前額部にしわがみられる.*TeppeiYamamotoandMikaNoda:北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野〔別刷請求先〕山本哲平:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(27)505 図1眼周囲のしわ・しみ乳児期にはみられなかったしわやしみが,長年の加齢・紫外線などの影響で生じている.赤ちゃんの肌に憧れてしまうが,加齢によるやわらかな眼差しも悪くない.コラム2日光浴の必要性紫外線はしわ・しみの原因となるが,最近は光老化を防ごうとして紫外線対策を過剰に行う人が増えている.しかし,人は紫外線を浴びることにより体内でビタミンDを合成している.いきすぎた紫外線予防のために作られるべきビタミンDが不足する可能性もあるのである.また,食べ物からビタミンDを摂取できない乳児にくる病が発症するとの報告や3)高緯度地方に住んで日光に当たる頻度が少ないと消化器系の悪性腫瘍の発生頻度が高まるとの報告4)もある.1日に必要なビタミンDを体内で作るために必要な日光浴の時間を国立環境研究所が発表した.顔と両手の甲の日光浴で必要な時間は,7月晴天時の正午の場合は札幌市で5分,つくば市で4分である.12月晴天時の正午の場合は札幌市で76分,つくば市で22分であった.冬季の北日本ではかなり長時間の日光浴が必要となることがわかる.しわ・しみを恐れて癌やくる病になっては本末転倒で506あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014あり,紫外線対策もほどほどがよさそうである.2.上眼瞼の加齢変化上眼瞼に眼窩脂肪が多いと加齢により皮膚弛緩症を呈しやすい.また,眼窩脂肪が少ないと上眼瞼が陥凹しやすい.重瞼線は組織のたるみの影響ではっきりしなくなる場合もあるし,上方に移動することもある.眼瞼下垂や眼瞼皮膚弛緩が生じると視界が狭くなり,代償性の変化として,瞼を持ち上げるために眉毛を挙上させる.これによって前額部にしわが生じる.加齢による上眼瞼の変化を以下に示す(図2).a.眼瞼下垂老人性眼瞼下垂は日常診療でよくみる疾患である.上眼瞼挙筋腱膜と瞼板との接合が脆弱になるために生じる.手術治療は挙筋腱膜を瞼板に縫合する治療が一般的であり,Muller筋タッキングを行う術者もいる.図3は左目のみハードコンタクトレンズを長年装用して眼瞼下垂が生じた例である.挙筋腱膜逢着術を施行し(28) た.術後は左右差が減少し自然な見た目になっている.b.皮膚弛緩症上眼瞼の皮膚がたるみ,瞼縁を越えてかぶさっている状態である.余剰の皮膚を持ち上げると瞳孔反射が確認できる.上眼瞼皮膚弛緩症の手術治療には「瞼縁皮膚切除法」と「眉毛下皮膚切除法」がある.瞼縁皮膚切除法では重瞼線を切開し,瞼縁付近の皮膚を切除する(図4).一重まぶたの場合は重瞼を作製すると術後の皮膚のたるみを緩和できる.ただし,瞼縁付近の薄い皮膚を切除するとその上の厚い皮膚が降りてくるため,見た目が悪くなる場合がある.瞼の皮膚が厚い場合は行わないほうがよい.眉毛下皮膚切除術は眉毛の下の厚い皮膚を切除する(図5).この方法だと眉毛の下に縫合した傷跡が残ることがあるため,眉毛の薄い場合は注意が必要である.c.上眼瞼の陥凹(sunkeneye)加齢により眼窩脂肪が萎縮すると上眼瞼の陥凹が目立つようになる(図6).また,挙筋腱膜が瞼板から外れると代わりに瞼板上方の組織を引くため,さらに陥凹が進行する.この際,重瞼線が上方に移動することがある.上眼瞼の陥凹は眼窩脂肪の減少だけでなく,眼窩内の多様な支持組織の弛緩によって脂肪を含めた眼窩内容物全体が下方に移動することで助長される.そのため下眼瞼を圧迫すると上眼瞼の陥凹は減少する.治療は脂肪注入などが行われている5).d.眉毛挙上眼瞼皮膚弛緩や眼瞼下垂がある場合は,瞼を持ち上げa眼窩隔膜whiteline非常に疎な間隙眼瞼挙筋Whitnall靱帯挙筋腱膜挙筋腱膜の枝Muller筋結膜瞼板b上眼瞼の陥凹上昇した挙筋腱膜重瞼線図2加齢による上眼瞼の変化挙筋腱膜と瞼板の結合が緩むことで眼瞼下垂が生じる.瞼板から外れた挙筋腱膜が上方の組織を引くことで重瞼線が上昇したり,上眼瞼の陥凹を生じたりする.〔眼科プラクティス:22抗加齢眼科学(坪田一男編),文光堂,2008より転載〕図3左眼瞼下垂症(術前後)62歳,女性.両眼の挙筋腱膜逢着術と重瞼形成術を施行した.手術後は開瞼幅が広くなるとともに,重瞼を形成したことで目元がはっきりしている.(29)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014507 図4瞼縁皮膚切除(術前後)86歳,男性.点線で囲まれている瞼縁の皮膚を切除した.術後は瞳孔反射確認できるようになっている.重瞼の形成を併せて行っている.図6上眼瞼陥凹85歳,男性.上眼瞼に深い溝が形成され,眼瞼下垂を合併している.下眼瞼は脂肪の膨らみがありやや突出している.この部分を押すと,脂肪が上方へ移動して上眼瞼の陥凹はいくぶん軽減される.図5眉毛下皮膚切除(術前後)82歳,男性.眉毛の下の厚い皮膚を切除した.術後は瞳孔反射が確認できるようになっている.るために眉毛を挙上させる.これにより前額部にしわが生じる(図1c).眼瞼皮膚弛緩・眼瞼下垂の手術を行うことで,眉毛挙上が改善してしわが減少する.3.下眼瞼の加齢変化加齢により,下眼瞼を構成する皮膚や眼輪筋が菲薄化し弛緩する.眼輪筋を眼窩下縁に固定している支持組織も弱くなる.このために下眼瞼の組織は水平方向と垂直方向に弛緩してくる.また,下眼瞼牽引筋腱膜と瞼板との結合が緩んだり,眼窩隔膜自体も脆弱になる.これらの変化により,眼瞼の内反症や脂肪脱が生じる.内反症は見た目にはあまり影響しないが,眼表面の障害につながる(図7).また,脂肪脱によりいわゆる目袋が形成される.a.下眼瞼内反症加齢により,下眼瞼牽引筋腱膜と瞼板の接合が脆弱に508あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(30) a下円蓋部支持靱帯下直筋眼輪筋下眼瞼牽引筋腱膜眼窩隔膜(lowerlidretractor)(capsulopalpebralfascia)瞼板(tarsalplate)Lockwood靱帯下斜筋(orbitalseptum)b眼輪筋の収縮牽引筋腱膜の断裂図7下眼瞼内反症下眼瞼牽引筋腱膜と瞼板の結合が断裂する.また下眼瞼の組織全体が弛緩することで内反症が生じる.〔眼科プラクティス:22抗加齢眼科学(坪田一男編),文光堂,2008より一部改変転載〕なる.また,下眼瞼の組織全体が水平方向,垂直方向ともに弛緩する.これらが原因で眼瞼内反症が生じる(図8).牽引筋腱膜を瞼板に縫いつけるJones法が,もっとも理にかなった方法として広く行われている.組織の弛緩を矯正する治療としては皮膚切除術,眼輪筋短縮術・瞼板短縮術などが行われる.眼瞼内反症の程度が強い場合はこれらを組み合わせて手術を行う.b.脂肪脱眼窩脂肪は眼窩隔膜と眼輪筋に押さえられている.しかし,加齢により眼窩隔膜が菲薄・脆弱化し,かつ眼窩隔膜前部の眼輪筋も菲薄化すると眼窩の脂肪を押さえられなくなる.そこで突出して目袋とよばれる膨らみを形成する(図9).目袋の下縁に当たる部位では,眼輪筋が眼窩下縁を形成する頬骨の骨膜から線維が伸びて支持されているため垂れ下がりが少なく,溝を形成する.皮膚側,または結膜側から脂肪を摘出して治療を行う.文献1)ZimmAJ,ModabberM,FernandesVetal:Objectiveassessmentofperceivedagereversalandimprovementinattractivenessafteragingfacesurgery.JAMAFacialPlastSurg15:405-410,20132)ErnsterVL,GradyD,MikeRetal:Facialwrinklinginmenandwomen,bysmokingstatus.AmJPublicHealth85:78-82,19953)堀内勁:母乳を飲めば骨の強い子に育ちますか?周産期医学42:114-115,20124)OtaniT,IwasakiM,SasazukiSetal:PlasmavitaminDandriskofcolorectalcancer:theJapanPublicHealthCenter-BasedProspectiveStudy.BrJCancer97:446図8左下眼瞼内反症96歳,女性.左眼の下眼瞼内反症.両下眼瞼を下方に牽引すると,左眼の瞼縁は右眼よりも下方に引かれ弛緩が強いことがわかる.外見的には内反症があってもあまり違和感がない.(31)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014509 451,20075)阿部浩一郎:脂肪注入.眼手術学2眼瞼(野田実香編),p528-537,文光堂,2013図9脂肪脱下眼瞼に目袋とよばれる膨らみが形成されている.510あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(32)