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眼窩疾患診療の最近の進歩

2013年6月30日 日曜日

特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):769.774,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):769.774,2013眼窩疾患診療の最近の進歩UpdateonTherapiesforOrbitalDiseases高比良雅之*はじめに眼窩疾患は,炎症・腫瘍性疾患と眼窩の形態異常とに大きく分けることができる.本稿では,これらのうち,頻度が高い,あるいは稀であるが重要な疾患として,1)IgG4(免疫グロブリンG4)関連眼疾患,2)眼窩腫瘍およびその類縁疾患,3)眼窩骨折を取り上げ,それらの病態につき最近の診療・治療の進歩を交えて概説した.IIgG4関連眼疾患眼窩の腫瘍性病変ならびにその類縁疾患のうち,最も頻度が高いのはリンパ増殖性疾患である.ここでの眼領域のリンパ増殖性疾患には,悪性リンパ腫と,良性のリンパ病変,すなわち反応性リンパ過形成,リンパ浸潤,眼窩特発炎症,眼窩炎症性偽腫瘍といった疾患が含まれる.わが国では眼窩腫瘍および類似疾患の40%以上がリンパ増殖性疾患と推察され,米国ではその頻度は25%前後と若干低下するが,いずれにしてもリンパ増殖性疾患は眼窩腫瘍の重要な鑑別疾患である.IgG4関連疾患とは,IgG4上昇を伴う自己免疫膵炎の報告1)が発端となり,全身の諸臓器病変を併発することが明らかになってきた疾患概念である.眼科領域でも,涙腺が対称性に腫脹するMikulicz病で血清IgG4上昇を伴うことが報告され2),さらには涙腺以外の眼窩病変も多いことがわかってきた3).最近の統計により,わが国ではリンパ増殖性疾患のうち約25%がIgG4関連であることが推察される.典型的な眼領域のIgG4関連涙腺炎(図1a)の病理像では,IgG4陽性のリンパ形質細胞浸潤が顕著で(図1b),ときに線維化を伴う.他臓器では特徴的な閉塞性静脈炎の併発は少ないとされる.近年,IgG4関連眼疾患では,涙腺病変の他に,三叉神経の分枝である眼窩下神経周囲の腫瘤や,外眼筋腫脹をきたす頻度が高いことが判明した(図1c)3).そのほか,眼窩上神経,視神経周囲(図1d),眼窩脂肪,涙.や涙道,強膜などの病変がIgG4関連疾患あるいはその候補として報告されているが,今後の症例の蓄積による検討が待たれる.最近,全身諸臓器にわたるIgG4関連疾患の概念の確立とその診断につき,国内外で大きな動きがあった.一つは,日本で制定された「ComprehensiveclinicaldiagnosticcriteriaforIgG4-RD」4)であり,あわせてMikulicz病,自己免疫性膵炎,腎症の診断基準も追記された.もう一つは,米国が主導となり報告されたIgG4関連疾患に関する名称(nomenclature)と病理に関するコンセンサスである5,6).IgG4関連眼疾患に関する診断基準とその治療プロトコルについては,厚生労働省班会議眼科分科会を中心として現在(2013年3月)も検討中である.II眼窩の腫瘍性疾患眼窩の良性腫瘍および腫瘤性病変において,頻度が高くしばしば治療の対象となるものには,小児では毛細血管腫(図2a),デルモイド.腫(図2b,c),リンパ管腫などが,また成人では海綿状血管腫(図3a),涙腺.胞(図3b),涙腺多形腺腫(図3c)などがあげられる.ま*MasayukiTakahira:金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)〔別刷請求先〕高比良雅之:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(47)769 eeabcd図1IgG4関連眼疾患a,b:IgG4関連涙腺炎.60歳代,男性に両涙腺腫大がみられた.涙腺病理ではIgG4染色陽性細胞が腺房周囲やリンパ濾胞にみられる.c:左外眼筋腫大と眼窩下神経腫大を併発する60歳代,男性のIgG4関連眼症(涙腺生検で診断).d:視神経周囲病変を呈するIgG4関連眼症.40歳代,男性の右視神経周囲と涙腺に腫瘤病変がみられた.abcd図2小児の眼窩腫瘍および類縁疾患a:毛細血管腫(0歳,男性),b:デルモイド.腫(2歳,女性).MRIで蝶形骨の軽度圧排をみる.c:眼窩深部のデルモイド.腫(13歳,男性).d:横紋筋肉腫(12歳,男性).MRIで左上眼瞼皮下から眼窩内にわたる腫瘍がみられた.e,f:Langerhans組織球症(11歳,女性).眼窩側壁の融解をみる(e)が,3年後には眼窩骨は再生した(f).f770あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(48) 図3成人の眼窩腫瘍および類縁疾患a:海綿状血管腫(30歳代,女性).左視神経を圧排している.b:涙腺.胞(dacryops)(30歳代,男性).c:多形腺腫(80歳代,男性).眼窩骨破壊はない.d:腺様.胞癌(60歳代,男性).眼窩骨破壊を伴う.e,f:悪性黒色腫(50歳代,女性).眼瞼皮膚と結膜にわたる悪性黒色腫(e).腫瘍切除とインターフェロンの局所注射を繰り返し治療を行った2年後(f).abcdefた,眼窩の悪性腫瘍は稀ではあるが,小児では横紋筋肉腫(図2d)やランゲルハンス組織球症(Langerhanscellhistiocytosis)(図2e,f)が,成人ではリンパ腫を除けば腺様.胞癌(図3d),多形腺腫源癌(多形腺腫から発生した癌),涙腺の腺癌など涙腺原発の癌が留意すべき疾患である.また,眼球外の結膜,眼瞼に発症する悪性黒色腫は,しばしば治療に難渋する.眼瞼に生じる癌には,基底細胞癌,脂腺癌,Merkel細胞癌などがあげられるが,本稿では一般にこれら眼瞼に限局する腫瘍については割愛する.毛細血管腫(capillaryhaemangioma)は,眼窩領域では最も頻度の高い先天血管性腫瘍である(図2a).発育による自然消退も望めるが,大きさや場所によっては,視機能に問題となることがある.従来,摘出手術,血管塞栓術,ステロイド薬やインターフェロン投与などによる治療法があるが,近年,b遮断薬プロプラノロールの(49)投与が有用であることが発見された7).眼窩とその近傍の毛細血管腫に対してプロプラノロールを全身投与した100例の報告例のレビューによると,96%の症例で血管腫の改善または消失がみられたとされ,有用な治療選択肢と考えられる8).眼窩デルモイド.腫は,眉毛の下耳側の皮下に好発する腫瘤であり,幼少期にみつかることが多い(図2b).前頭頬骨縫合部に皮膚原基が迷入したものである.デルモイド.腫はときに眼窩内深部にも発症し(図2c),その場合に発見は10歳以降となることが多い.手術を急ぐ必要はないが,緩やかに増大して眼窩骨が圧排され欠損し,また破裂すると貯留物に反応して強い炎症を生じることがあるので,診断されたら早晩手術を予定すべきである.手術では,.胞壁を破裂させずに全摘出するのが望ましく,冷凍凝固プローブで牽引するのも良い方法である.しかし,骨膜との癒着が強い場合や,眼窩内にあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013771 連続するようなダンベル型などで,.胞壁が破れた際には,内容吸引,術野の洗浄,ステロイド薬局所注射などにより,貯留物の播種による炎症を最小限にとどめる.若年者の原発性の眼窩悪性腫瘍は稀であるが,知っておくべき疾患として,横紋筋肉腫(図2d)とLangerhans組織球症(図2e,f)があげられる.横紋筋肉腫の治療については,IntergroupRhabdomyosarcomaStudyGroup(IRSG)9)の臨床研究があり,わが国では日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG)により治療指針が提示されている.横紋筋肉腫は全身に発症しうるが,一般に原発部位では眼窩,組織型では胎児型で,最も予後が良いとされる.つまり眼窩原発では化学療法・放射線療法による生存率は高いので,手術では診断に必要な組織の採取と腫瘍の量を減らすことを目的とし,全摘出にこだわり眼球と眼付属器の機能・形態を犠牲にすることは避けるべきである.Langerhans組織球症(図2e,f)は,やはり稀ではあるが眼窩に生じる小児期の悪性腫瘍である.従来histiocytosisXとよばれ,好酸球性肉芽腫,Litterer-Siwe病,Hand-Schuller-Christian病に分類されていた疾患である.小児に好発し,骨病変,肺病変,皮膚病変,肝脾腫,リンパ腫がみられる.一般に単発限局性の場合には予後が良く(図2e,f),病巣の外科的掻爬にステロイド薬の局所投与と内服により治療する.多発性の場合には化学療法,免疫療法,放射線療法が必要となる.眼窩に発症する場合,眼窩骨の融解像をみるが,手術では骨再建は不要であり,広範切除は避けて病巣内容を掻爬するにとどめ,術後の骨再生を促す.成人に発症する眼窩腫瘍で頻度が高いものに,涙腺原発の腫瘍があげられる.涙腺多形腺腫(図3c)はその代表的な良性腫瘍であるが,悪性化傾向の強い腫瘍である.したがって,画像で涙腺多形腺腫が疑われる場合,手術では生検術は避けて全摘出を計画するべきである.涙腺に原発する上皮性悪性腫瘍には,多形腺腫源癌,腺癌,腺様.胞癌(図3d)などがある.これらには化学療法は一般に効果が少なく,眼窩内容除去を含めた手術療法か放射線照射,あるいは両者の組み合わせの治療選択となる.放射線治療では,従来のX線よりも,陽子線や重粒子線の治療効果が優れるが,現時点では保険適用がなく高額治療となるのが難点である.772あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013悪性黒色腫(図3e,f)は成人の眼領域に発症する代表的な悪性腫瘍である.眼領域の悪性黒色腫で腫瘍の隆起が明らかな状態であれば,その特徴的な色調から診断はそう困難ではない.ただし,眼瞼皮膚,結膜の隆起がない色素病変では,母斑やPAM(primaryacquiredmelanosis)との鑑別がときに困難である.診断に迷う際には腫瘍を切除して病理検査を行うが,悪性黒色腫であった場合を想定して切除範囲を計画することが重要である.皮膚悪性黒色腫の治療プロトコルに準ずると,眼窩領域の悪性黒色腫との病理診断であれば眼窩内容除去術の選択になるが,近年,結膜や眼瞼皮膚に限局した悪性黒色腫については,眼球を温存する局所化学療法も試みられている.インターフェロンb(フェロンR)は皮膚科領域でもDAV(ダカルバジン,ニムスチン,ビンクリスチン)フェロン療法として用いられており,眼瞼や結膜メラノーマ切除後の後療法として,眼瞼皮内注射,結膜下注射が有効である(図3e,f))10).また,最近では,結膜悪性黒色腫に対するインターフェロンa2点眼の有用性も報告されている11).III眼窩骨折とその病態しばしば手術の対象となる眼瞼疾患には眼瞼内反症と眼瞼下垂があるが,本稿ではこれらの病態や手術の詳細については割愛する.ただし,眼窩腫瘍や眼窩骨折など,眼瞼を経由して眼窩内に到達する手術においては,これら眼瞼疾患の手術に必要な解剖上の知識を備えておくことは重要である.眼窩の形態異常で,最も多く手術の対象となるのは外傷による眼窩吹き抜け骨折(図4)である.眼窩吹き抜け骨折の手術は施設によっては,形成外科,耳鼻科,脳神経外科などの眼科以外の科でも実施されているが,重度の多発顔面骨折を除けば,眼窩吹き抜け骨折における手術のおもな目的は,複視の是正である.したがって,術前術後の評価には,眼位,Hessチャート試験,両眼単一視領域などの眼科での検査が必要である.眼窩骨折の術前の評価には,冠状断CT(コンピュータ断層撮影)が必須である.MRI(磁気共鳴画像)は,線状骨折などで嵌頓する眼窩組織の詳細を評価したい場合に用いられる.(50) acac図4眼窩壁骨折a:左開放型眼窩下壁骨折(17歳,男性).b:左閉鎖型眼窩下壁骨折(14歳,男性).上顎洞内にはみ出した下直筋が絞扼されている.c~f:斜頸をきたした眼窩骨折症例(5歳,男性).CTでは,左上顎洞の高吸収域がみられ骨折が疑われ(c),MRIにて眼窩下溝付近の眼窩組織の脱出がみられた(d).受傷後1週間で左への斜頸が目立ち,頭部傾斜試験では健側への傾斜で右眼は上転した(e).術前術後のHessチャート試験(f).術前にみられた左下斜方向の外眼筋運動制限(上)は,術後1カ月(下)には改善した.ebdf骨折片が上顎洞や篩骨洞に向けて遊離して変位するいわゆる開放型骨折(図4a)では,診断は容易で,複視の程度によって手術適応が決まる.外眼筋の絞扼が少ない開放型では骨折が派手な割に複視が軽症な場合もある.一方,眼窩骨の変位が小さい閉鎖型骨折(図4b)は,骨の弾力性に富む20歳以下の若年者に多くみられる.閉鎖型骨折は眼窩下壁に多くみられ,内壁では稀である.いったん開いた骨折片のドアから外眼筋が脱出してドアが閉まると,外眼筋は骨折部に挟まり(トラップドア)著しい眼球運動障害を生じる.受傷後には嘔気,嘔吐を(,)生じることが多いが,水平断CTでは見逃されやすく,頭部外傷として管理されることもあるので注意が必要である.閉鎖型眼窩下壁骨折は手術の絶対適応で,外眼筋の骨折部での嵌頓を解除することが主目的であり,骨壁再建のための充.物は不要であることも多い.若年者の軽度の眼窩下壁骨折では,下斜筋単独の運動障害により(51)斜頸が顕著になってくる場合がある(図4c.f).受傷眼の回旋による複視を代償するために,受傷側に頸部を傾ける斜頸を呈する(図4e).骨折の生じやすい眼窩下溝付近を走行する動眼神経下斜筋枝の麻痺によるものと考えられている12).文献1)HamanoH,KawaS,HoriuchiAetal:HighserumIgG4concentrationsinpatientswithsclerosingpancreatitis.NEnglJMed344:732-738,20012)YamamotoM,HaradaS,OharaMetal:ClinicalandpathologicaldifferencesbetweenMikulicz’sdiseaseandSjogren’ssyndrome.Rheumatology44:227-234,20053)TakahiraM,OzawaY,KawanoMetal:ClinicalAspectsofIgG4-RelatedOrbitalInflammationinaCaseSeriesofOcularAdnexalLymphoproliferativeDisorders.IntJRheumatol2012;2012:6354734)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:Comprehensiveあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013773 diagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease(IgG4-RD),2011.ModRheumatol22:21-30,20125)StoneJH,KhosroshahiA,DeshpandeVetal:IgG4-relateddisease:recommendationsforthenomenclatureofthisconditionanditsindividualorgansystemmanifestations.ArthritisRheum64:3061-3067,20126)DeshpandeV,ZenY,ChanJKetal:ConsensusstatementonthepathologyofIgG4-relateddisease.ModPathol25:1181-1192,20127)Leaute-LabrezeC,DumasdelaRoqueE,HubicheTetal:Propranololforseverehaemangiomasofinfancy.NEnglJMed358:2649-2651,20088)SpiteriCornishK,ReddyAR:Theuseofpropranololinthemanagementofperiocularcapillaryhemangiomaasystematicreview.Eye(Lond)25:1277-1283,20119)CristWM,AndersonJR,MezaJLetal:Intergrouprhabdomyosarcomastudy-IV:resultsforpatientswithnon-metastaticdisease.JClinOncol19:3091-3102,200110)藤岡美幸,坂本麻里,安積淳ほか:インターフェロン-b結膜下注射で加療した結膜悪性黒色腫の1例その効果と副作用.日眼会誌110:51-57,200611)加瀬諭,石嶋漢,野田実香ほか:インターフェロンa-2b点眼液を補助療法として使用した結膜悪性黒色腫の2例.日眼会誌115:1043-1047,201112)KakizakiH,ZakoM,IwakiMetal:Incarcerationoftheinferiorobliquemusclebranchoftheoculomotornerveintwocasesoforbitalfloortrapdoorfracture.JpnJOphthalmol49:246-252,2005774あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(52)

神経眼科領域のOCT

2013年6月30日 日曜日

特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):761.768,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):761.768,2013神経眼科領域のOCTOpticalCoherenceTomographyfortheNeuro-OphthalmologyClinic中村誠*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は眼科診療を一変させた.黄斑部に対しては,網膜伸展像の二次元的観察が中心であった検眼鏡検査とは一線を画し,OCTは深部方向への断層構造を描出する.これは既知疾患の病態の理解を深めただけでなく,OCTでなければ診断のつかない新たな病態の発見を次々にもたらした.当初のtimedomain(TD)からspectral-domain(SD)へ進化したことにより,解像度は向上し,検査時間も短縮された.Swept-sourceOCTでは脈絡膜構造も観察できるほど,組織深達度も向上した.緑内障診療においてもOCTは必須の検査となりつつある.TD世代は乳頭周囲の網膜神経線維層(cpRNFL)厚の数値情報のみが利用されたが,SD世代になるとcpRNFLに加えて,黄斑部の網膜神経節細胞層と内網状層も解析対象に加えられ,定量化のみならず,正常者からの偏移量がデビエーション・マップとして描出されるようになったため,視覚的によりわかりやすく進化した.現時点では保険診療で認められているのは上記の2病態のみであるが,視神経疾患における有用性も認識されてきている.筆者はすでに,TD-OCTを視路疾患へ応用する有益性について過去に報告した1).本稿では,SD世代におけるOCTの視路疾患への有用性と問題点について概説したい.I視路病変評価に有用なSD.OCT指標外側膝状体までの前部視路病変は,緑内障と同様に網膜神経節細胞ならびにその軸索である視神経を障害するため,障害が長期に及ぶか重篤な場合には,これらの構造物を含む組織は菲薄化する.したがって,視神経乳頭周囲のcpRNFLないし黄斑部内層網膜構造が,前部視路病変におけるSD-OCTの主たる観察指標となる.その意味では緑内障における使用法と同じである.しかしながら,初めから前部視路病変と診断がつくものばかりではなく,検眼鏡的に明瞭な病変を呈さない網膜病変が紛れ込んでいるケースも少なくない.その代表がacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)であろう.したがって,同時に黄斑部網膜外層構造〔IS/OS:視細胞内節外節接合部,COST:coneoutersegmenttips(錐体細胞外節端)ラインなど〕にも異常がないか,十分に留意する必要があるが,紙幅の都合上,ここでは詳細は割愛する.cpRNFLは,TD世代から緑内障診療で解析されてきた指標なので,ご存知の諸氏も多いであろう.図1Aは著明な有髄神経線維症例の眼底写真である.これでわかるとおり,神経線維は視神経乳頭の決まった位置に流入する.すなわち乳頭黄斑線維は乳頭耳側へ,鼻側の線維は乳頭鼻側へ,中心窩を通る垂直経線より耳側からの線維(弓状線維)は乳頭上下のいずれかの象限へ,そして乳頭黄斑線維を除く垂直経線より鼻側からの線維(放射*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕中村誠:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(39)761 ABC図1眼内網膜神経線維走行とOCTの乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚の関係A:網膜有髄神経線維の眼底写真.乳頭と中心窩を結ぶ水平線の上下網膜からの有髄神経線維が,視神経乳頭の上下に流入しているのが明瞭にわかる.B:網膜神経線維走行のシェーマ.中心窩を通る垂直経線(赤直線)より耳側網膜からの弓状線維(赤曲線)は視神経乳頭の上下象限に,乳頭黄斑線維(水色曲線)は乳頭耳側象限に,その他の放射状線維(緑色曲線)は,一部は乳頭鼻側象限に,残りは上下象限に,それぞれ流入する.また乳頭と中心窩を結ぶ水平線(青直線)に対して上下の線維は,それぞれ乳頭の上下象限に流入する.C:cpRNFLのTSINTグラフ.上下(SUPとINF)のcpRNFLは耳鼻(TEMPとNAS)のcpRNFLより分厚いdoublehumppatternを呈する.緑は正常対照者の分布,黄色が正常の1.5%,赤が正常の1%未満の分布を示す.状線維)も乳頭上下のいずれかの象限へ流入する(図1B).したがって,正常のcpRNFLは上下象限が耳鼻象限より分厚いdoublehumppatternを呈する(図1C).いかなる機種であっても,現在のSD-OCTによるcpRNFL解析では,このTSNIT(temporalから始まり,superior,nasal,inferiorと周回し,再度元のtemporalに戻るcpRNFLプロファイリング)グラフが表示され,正常対照のプロファイリング幅に収まっているかどうかが一目でわかる.加えて,cpRNFL厚の全平均値や特定のセグメントにおける平均値,眼底画像上における正常対照からの異常偏移領域のデビエーションマップも合わせて表示される.一方,黄斑部には網膜神経節細胞の半数が集中しているので,緑内障や視神経疾患ではTD-OCTの時代から762あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013黄斑部網膜厚が菲薄化することが指摘されてきた2).しかし,その当時は全層厚測定であったため,敏感度はcpRNFLに及ばず有用性が低かった.これに対して,SD-OCTにより測定される黄斑部網膜内層厚は網膜神経節細胞に関連する層の合計の視標である.すなわち,内網状層(IPL),神経節細胞層(GCL),神経線維層(NFL)を計測しているが,使用する機種により,IPL+GCLの2層のみ(代表がCarl-ZeissMeditiec社CirrusのGanglioncellanalysis:GCA,図2)を一括するか,この3層すべて(代表がOptovue社RTVueのGanglioncellcomplex:GCC,図3Aや,ニデック社RS-3000の網膜内層厚マップ)を一括するかが異なる(トプコン社3D-OCTはどちらも表示).内層だけにターゲットを絞ったので,視神経疾患の検出能はcpRNFLと同等かそ(40) ODThicknessMapOSThicknessMap225OSThicknessMap225150750μmFovea:92,101Fovea:105,97ODDeviationMapODSectorsOSSectorsOSDeviationMap59Asian935569DistributionofNormals878558606395%5%1%838275ODμmOSμmAverageGCL+IPLThickness6184MinimumGCL+IPLThickness5372図2CirrusSD.OCTによる黄斑部内層網膜厚(Ganglioncellanalysis)の一例れ以上である可能性が指摘されるようになった.を損傷し,視機能低下と視神経萎縮をきたす.外傷痕が実測値以外に,正常対照と比べて菲薄化しているエリ小さいと,受傷直後には視機能低下を説明できる眼底変アがカラーコード表示される(図2,3A).ただし,カラ化はなく,相対的求心路瞳孔障害(RAPD)が唯一の他ーコード表示は,cpRNFLの場合も同様であるが,黄覚的所見である.経過とともに逆行性に軸索変性が進色は正常者の分布では5%未満,赤色は1%未満であるみ,網膜神経節細胞は死に至り,視神経乳頭は単性萎縮ことを示しているのであって,必ずしも病的であることを呈するようになる.これまでは視神経乳頭の蒼白化をを表わしているわけではない.また,あくまでその機種検眼鏡的に確認するには,おおむね1カ月を要した.で検証した比較的少人数の正常対照者と比較しているのこれに対して,受傷直後から経時的にRTVueSDで,人種や屈折・眼軸長,年齢の影響はcpRNFL以上OCTで経過観察できた4例をみると,2週目からに検証が不十分であることに留意する.なお,中心窩にcpRNFLとGCCの有意な菲薄化が検出できるようになは網膜神経節細胞は存在しないので,計測対象外であり,おおむね4週頃にはその菲薄化は底打ちを呈した3).る.しかも,乳頭黄斑線維の菲薄化が先行し,次第にびまんII外傷性視神経症におけるcpRNFLと性の神経線維の菲薄化を呈することがわかった3)(図3).視神経乳頭の色調変化は主観的で,定量性に欠けるのに黄斑部内層網膜層の変化対して,SD-OCTによるcpRNFLとGCCの評価は外眉毛部外側打撲の衝撃が視神経管に介達されると軸索傷性視神経症における視神経障害の範囲と程度を客観(41)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013763 A受傷後週数13412107.1μm93.9μm83.9μm61.2μm89.0μm78.1μm72.2μm64.5μm対僚眼菲薄化率(%)B100908070605001234122032~36受傷後週数図3外傷性視神経症におけるOCT指標の経時的変化―RTVueによる計測A:サンプル例.上段はcpRNFL,下段はGCC.B:4症例における僚眼に比べた菲薄化率の経時的変化.緑は黄斑部網膜全層厚.赤はGCC.青はcpRNFL.網膜全層厚での菲薄化率は顕著ではないが,GCCやcpRNFLでは受傷後3週目頃より有意な菲薄化を認める.(文献3より)的・定量的に判定できるといえる.半盲を呈する.鼻側網膜由来の線維は,Ⅰ項で述べたよIII視交叉圧迫病変におけるSD.OCTのうに,乳頭黄斑線維として乳頭耳側象限に流入する線維と乳頭鼻側象限に流入する線維の占める割合が多いた有用性と問題点め,乳頭上下象限よりも耳鼻側象限の萎縮化が顕著とな球後視神経から後方の視路において神経線維は独特のる.これを帯状萎縮(bandatrophy)ないし蝶ネクタイ走行をとり,その結果,病巣の局在により,特徴的な視状萎縮(bow-tieatrophy)という(図4A,B).野障害をきたす.すなわち,視交叉では,中心窩垂直経TD世代のOCTにおいても,この特徴的な耳鼻側優線から鼻側網膜由来の線維が交叉し,下垂体腺腫などの位なcpRNFLの菲薄化を計測できることを筆者らは報視交叉圧迫性病変は両眼の交叉線維を障害して,両耳側告した4).SD-OCTでは,こうしたcpRNFLの特徴的764あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(42) ABD図4視交叉圧迫病変による両耳側半盲と視神経のbandatrophyの一例A:視神経乳頭写真.左は右眼,右は左眼.上下リムに比べて鼻耳側リムの蒼白化が顕著である.いわゆるbandatrophyの像を呈している.B:両耳側半盲.C:RTVueによるcpRNFL(OpticNerveHeadMap)とGCC解析.上段は右眼.下段は左眼.cpRNFLは上下に比べ,耳鼻セクターの菲薄化が,GCCでは中心窩より鼻側の菲薄化が著明で,Aの乳頭写真上のbandatrophyと一致している.D:CirrusによるcpRNFL解析.耳鼻セクター・象限より,むしろ上下セクター・象限の菲薄化が強いような表示となり,視野や眼底所見と隔たりがある.(文献5より)な菲薄化に加えて,黄斑部内層網膜解析においても,中膜厚も菲薄化し,OCTはbandatrophyによる乳頭黄心窩垂直経線より鼻側の選択的な菲薄化を捉える5)(図斑線維の障害を検出できる可能性が示されている5)(図4C).筆者らを含む内外の研究者の報告から,cpRNFL4C).の菲薄化の程度と視野障害の程度は一定の相関性を有す一方,SD-OCTは多数の機種が存在するが,その測ること5,6),すでにcpRNFLの菲薄化が生じてから治療定・解析方法は同一ではなく,機種によって,bandを行っても視野の回復は芳しくないこと6)などがわかっatrophyの検出に得手・不得手のあることも知っておくてきた.すなわち,視交叉圧迫病変の術前評価として必要がある.乳頭鼻側象限の計測は,光の入射角が測定OCT所見は,術後の視機能回復の可能性を予見できる面との垂直性を保ちにくい関係から,幾分精度に欠ける指標であるといえる.さらにGCCなどの黄斑部内層網ことが知られていた.緑内障ではおもに耳上・耳下象限(43)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013765 A左眼右眼B右眼左眼耳側鼻側耳側cpRNFLGCC図5左視索症候群の一例A:Goldmann視野.右同名半盲を示す.B:OCT所見.上段はCirrusによるcpRNFLのデビエーション・マップ.下段はRTVueによるGCC.右眼は鼻側・耳側象限のcpRNFLと中心窩より鼻側のGCCの菲薄化が,左眼は上下象限のcpRNFLと中心窩より耳側のGCCの菲薄化が顕著で,いわゆるhomonymoushemianopicatrophyの所見と合致する.(文献8より)のcpRNFLの菲薄化が中心となるため,あまり結果に影響を受けないが,bandatrophyでは鼻側cpRNFLのIV視索症候群におけるSD.OCT所見解析は診断の肝になる.RTVueとCirrusで同一眼を比視索は同側眼からの耳側非交叉線維と対側眼からの鼻較した筆者らの研究では,Cirrusはこの鼻側cpRNFL側交叉線維から成っている.したがって,一側の視索障の菲薄化を十分に捉えられていないことを見出した5)害では,対側の同名半盲が生じ,経時的に,障害側の視(図4D).OCTを視路疾患へ応用する際には,このよう神経乳頭上下象限の萎縮〔砂時計様萎縮(hourglassな機種のクセと限界を検証しておく必要がある.atrophy)〕と対側の視神経乳頭のbandatrophyが生じ766あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(44) る.左右眼で視神経萎縮のパターンが直交する様式を総称して同名半盲性萎縮(homonymoushemianopicatrophy)ともよぶ.また,交叉線維の数が非交叉線維より多いことから,対側眼(耳側半盲眼)にRAPDが検出される.こうした一連の所見を呈する視索障害が視索症候群である.TD-OCTで,筆者らはすでに視索症候群では,cpRNFLの同名半盲性萎縮に一致した菲薄化が生じることを報告した7).SD-OCTでこれが裏付けられただけでなく,障害側では中心窩経線より耳側のGCCが,対側では同じく鼻側のGCCが限局して菲薄化することがわかった8)(図5).視索障害,特に陳旧性の場合,頭蓋内変化を画像で捉えることはむずかしいので,OCTによる他覚的な同名半盲性のcpRNFLとGCCの菲薄化の検出は,耳側半盲側のRAPDの存在と合わせて,視索症候群の診断根拠としてきわめて有用である.Vその他視路疾患におけるOCT研究は,上記に留まらない.たとえば,多発性硬化症や視神経脊髄炎では一定の閾値を越えてcpRNFLが菲薄化すれば,恒久的な視野障害とcpRNFLの菲薄化の程度はよく相関すること9)や,視神経脊髄炎のほうが多発性硬化症よりもOCTの変化が強いことなどが報告されている10).また,うっ血乳頭,虚血性視神経症,糖尿病乳頭症などの急性期では,蛍光眼底造影検査では血液網膜柵からの漏出がないにもかかわらず,黄斑下に漿液成分が貯留することがOCTを用いることで発見された11.13)(図6).視神経乳頭周囲のグリア細胞も第3の血液網膜柵として働いている可能性を示している.AB図6糖尿病乳頭症の一例A:右眼眼底写真.乳頭腫脹を認める.B:フルオレセイン蛍光眼底造影.乳頭からの色素漏出を示すが,網膜血管や色素上皮からの漏出はみられない.C:Goldmann視野.Mariotte盲点の拡大と比較中心暗点を認める.D:黄斑部OCT.網膜下漿液成分の貯留を認める.(文献13より)D(45)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013767 これまで,視放線や後頭葉といった後部視路の障害では,すでに外側膝状体で神経細胞がシナプスを換えているため,先天後頭葉半盲などの特殊な条件を除き,視神経萎縮をきたすことはないと考えられてきた.しかしながら,最近になり,経シナプス的に後部視路病変がcpRNFLや黄斑部内層網膜に菲薄化をもたらす可能性が指摘されつつある14,15).おわりに以上に述べてきたように,問題点や限界はあるものの,OCTの応用により,網膜病変と同様に,これまでの常識を覆すような視路疾患に関する事実の発見と病態の解明が進むものと期待される.文献1)中村誠:光干渉断層計.眼科48:1347-1354,20062)KusuharaS,NakamuraM,Nagai-KusuharaAetal:Macularthicknessreductionineyeswithunilateralopticatrophydetectedwithopticalcoherencetomography.Eye20:882-887,20063)KanamoriA,NakamuraM,YamadaYetal:Longitudinalstudyofretinalnervefiberlayerthicknessandganglioncellcomplexintraumaticopticneuropathy.ArchOphthalmol130:1067-1069,20124)KanamoriA,NakamuraM,MatsuiNetal:Opticalcoherencetomographydetectscharacteristicretinalnervefiberlayerthicknesscorrespondingtobandatrophyoftheopticdiscs.Ophthalmology111:2278-2283,20045)NakamuraM,Ishikawa-TabuchiK,KanamoriAetal:BetterperformanceofRTVuethanCirrusspectral-domainopticalcoherencetomographyindetectingbandatrophyoftheopticnerve.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1499-1507,20126)Danesh-MeyerHV,PapchenkoT,SavinoPJetal:Invivoretinalnervefiberlayerthicknessmeasuredbyopticalcoherencetomographypredictsvisualrecoveryaftersurgeryforparachiasmaltumors.InvestOphthalmolVisSci49:1879-1885,20087)TatsumiY,KanamoriA,KusuharaAetal:Retinalnervefiberlayerthicknessinoptictractsyndrome.JpnJOphthalmol49:294-296,20058)KanamoriA,NakamuraM,YamadaYetal:Spectraldomainopticalcoherencetomographydetectsopticatrophyduetooptictractsyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol251:591-595,20139)CostelloF,HodgeW,PanYIetal:Trackingretinalnervefiberlayerlossafteropticneuritis:Aprospectivestudyusingopticalcoherencetomography.MultScler14:893-905,200810)SycSB,SaidhaS,NewsomeSDetal:Opticalcoherencetomographysegmentationrevealsganglioncelllayerpathologyafteropticneuritis.Brain135:521-533,201211)HoyeVJ3rd,BerrocalAM,HedgesTR3rdetal:Opticalcoherencetomographydemonstratessubretinalmacularedemafrompapilledema.ArchOphthalmol119:12871290,200112)HedgesTR3rd,VuongLN,Gonzalez-GarciaAOetal:Subretinalfluidfromanteriorischemicopticneuropathydemonstratedbyopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol126:812-815,200813)NakamuraM,KanamoriA,Nagai-KusuharaAetal:Serousmaculardetachmentduetodiabeticpapillopathydetectedusingopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol127:105-107,200914)ParkHY,ParkYG,ChoAHetal:Transneuralretrogradedegenerationoftheretinalganglioncellsinpatientswithcerebralinfarction.Ophthalmology2013Epubaheadofprint15)JindahraP,PetrieA,PlantGT:Thetimecourseofretrogradetrans-synapticdegenerationfollowingoccipitallobedamageinhumans.Brain135:534-541,2012768あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(46)

眼運動神経麻痺をみたら

2013年6月30日 日曜日

特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):753.759,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):753.759,2013眼運動神経麻痺をみたらOcularMotorNervePalsies宮本和明*はじめに眼運動神経とは,動眼神経(第III脳神経),滑車神経(第IV脳神経),外転神経(第VI脳神経)の3つを指す.眼運動神経麻痺は,神経眼科領域の疾患のなかで非常に大きな割合を占め,ときに緊急の対応が要求される重要な眼科疾患の一つである.眼運動神経麻痺は,同じ眼球運動障害を呈していても,発症病態によって経過がまったく異なるため,的確に原因を特定することが必要であるが,原因究明を進めていくうえで,発症原因の頻度を把握しておくことはとても重要であり,その原因ごとの経過と対処法を理解しておくことは,突然物が二重に見えるようになり,耐え難い不安に陥っている患者の診療をスムーズに行うために必要不可欠である.本稿ではまず,動眼神経,滑車神経,外転神経それぞれの単独麻痺症例の発症頻度,原因,予後について概説し,それを基にした各神経麻痺の検査の進め方と管理方針および治療について述べる.I眼運動神経麻痺の発症頻度と原因1993年1月から2011年12月までの19年間に,京都大学病院眼科を受診し,治癒まで,または6カ月以上経過観察のできた動眼神経,滑車神経,外転神経それぞれの単独麻痺症例のデータを基に述べる.総数は683例で,各神経麻痺の症例数と発症時の年齢分布を図1に示す.眼運動神経単独麻痺は,外転神経麻痺,滑車神経麻痺,動眼神経麻痺の順に多く,約半数は外転神経麻痺動眼神経(n=171)滑車神経(n=176)外転神経54.8歳(n=336)(例)■:0~19歳■:20~39歳■:40~59歳:60歳以上図1各神経麻痺の発症時の年齢分布バー右横の数字は,各神経麻痺の発症時平均年齢を示す.表1眼運動神経麻痺の原因59.7歳58.1歳050100150200250300350血管性脳動脈瘤頭部外傷脳腫瘍先天性内頸動脈海綿静脈洞瘻脳幹部梗塞頭部手術後髄膜炎/脳炎Fisher症候群Tolosa-Hunt症候群頭蓋内圧亢進副鼻腔疾患多発性硬化症脳動静脈奇形眼筋麻痺性片頭痛放射線治療後帯状ヘルペス脳静脈・静脈洞血栓症Arnold-Chiari奇形で,1/4が滑車神経麻痺と動眼神経麻痺であった.発症時の平均年齢は,動眼神経麻痺58.1歳,滑車神経麻痺59.7歳,外転神経麻痺54.8歳と3者間に差はなく,どの神経麻痺も約半数が60歳以上で,40歳で区切ると,実に約8割が40歳以上であった.*KazuakiMiyamoto:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕宮本和明:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(31)753 眼運動神経麻痺の原因は多岐にわたる.表1に眼運動神経麻痺の原因を示した.血管性,脳動脈瘤,頭部外傷,脳腫瘍,先天性がおもな原因であり,合わせて原因全体の約8割を占める.“血管性”というのは,神経栄養血管の微小循環障害のことで,虚血により神経の機能不全をきたしたものを意味する.背景に,糖尿病,高血圧,高脂血症,動脈硬化などのリスクファクターを有する患者に発症し,頻度は糖尿病に関連するものが最も多い.脳腫瘍,脳動脈瘤は,神経への機械的圧迫が原因となる.筆者らの施設での計683例について検討した結果,原因の頻度は神経麻痺ごとに特徴がみられたので,以下その点について述べる.動眼神経単独麻痺の発症原因を図2に示す.血管性が42%と最も多く,2番目に多かったのが脳動脈瘤で12%,続いて脳腫瘍,頭部外傷が10%程度であった.血管性のものは,糖尿病に関連しているものが多く,約半数が糖尿病で加療中であった.脳動脈瘤はすべての症例血管性脳動脈瘤頭部外傷脳腫瘍先天性その他(%)図2動眼神経単独麻痺の発症原因とその割合01020304050血管性脳動脈瘤頭部外傷脳腫瘍先天性(代償不全)その他が40歳以上であった.その他の原因として,中脳梗塞,Fisher症候群,Tolosa-Hunt症候群,頭部手術後などがみられた.原因が不明なものも“その他”に含めている.滑車神経単独麻痺の発症原因を図3に示す.滑車神経麻痺は,原因が先天性であることが多いとされているので,初診時に必ず以前からの頭位傾斜の有無について問診し,昔の写真で確認している.つまり“先天性”には,小児はもちろんのこと,元々存在していた滑車神経麻痺が,加齢とともに代償しきれなくなって症状が現れた成人の代償不全も含めている.滑車神経麻痺の原因として最も多いのは,動眼神経麻痺と同様,血管性で約45%を占めた.脳動脈瘤によるものは1例もなく,2番目に多いのが先天性(代償不全)で18%,そのつぎが頭部外傷で16%であった.その他の原因には,Fisher症候群や髄膜炎などがあった.外転神経単独麻痺の発症原因を図4に示す.他の神経麻痺と同様,最も多いのは血管性で44%を占めた.2番目に多いのが脳腫瘍で約20%,つぎに多いのが他の神経の単独麻痺の原因としては1例もみられなかった内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernousfistula:CCF)で7%あった.続いて先天性,脳動脈瘤,頭部外傷が5754あたらしい眼科Vol.30,No.6,201301020304050(%)図3滑車神経単独麻痺の発症原因とその割合血管性脳動脈瘤頭部外傷脳腫瘍先天性CCFその他50(%)図4外転神経単独麻痺の発症原因とその割合%程度であった.その他の原因には,頭部手術後,Tolosa-Hunt症候群,頭蓋内圧亢進,橋梗塞,ArnoldChiari奇形などがあった.原因についてまとめると,すべての神経麻痺で最も多い原因は血管性で,ほぼ同じ割合の40%強を占める.2番目に多い原因に特徴があり,動眼神経麻痺は脳動脈瘤,滑車神経麻痺は先天性(代償不全),外転神経麻痺は脳腫瘍であった.外転神経麻痺には,他の神経の単独麻痺の原因とならないCCFが原因として多くみられた.(32)010203040 II眼運動神経麻痺の経過と予後突然,物が二重に見えるようになった患者は,原因もさることながら,この状態は治るのか治らないのか,そして治るならどのくらいでの期間で,どの程度まで治るのかが一番の関心事であり,それに対して診察した医師はしっかりと答えなければならない.眼運動神経麻痺は,複視が残存すれば最終的には患者の希望で斜視手術を行うが,眼運動神経麻痺のなかには自然治癒傾向が強いものがあり,もうこれ以上良くならない状態を見きわめ,眼位の安定を待って判断することになる.それには,各眼運動神経麻痺の経過・予後を十分に把握して,外科的治療のタイミングを計る必要がある.以下に,筆者らの施設における,眼科での斜視手術以外の治療(脳外科医による脳動脈瘤,脳腫瘍,CCFに対する治療,神経内科医によるFisher症候群,Tolosa-Hunt症候群,髄膜炎に対する治療,耳鼻科医による副鼻腔疾患の治療,糖尿病・高血圧などの全身疾患に対する治療など)を行ったうえでの,各眼運動神経麻痺の経過・予後について述べる.動眼神経麻痺の原因ごとの予後を,完全回復,不完全血管性脳動脈瘤頭部外傷脳腫瘍その他血管性頭部外傷脳腫瘍先天性(代償不全)その他01020304050607080:完全回復■:不完全回復■:回復せず(例)図5動眼神経麻痺の原因別予後01020304050607080:完全回復■:不完全回復■:回復せず(例)図6滑車神経麻痺の原因別予後回復,回復せずの3つに分けたデータを図5に示す.見てわかるとおり,血管性の回復率は非常に良く,9割以上が完全回復し,不完全回復も含めると100%が回復する.一方,脳動脈瘤,脳腫瘍によるものの回復は不良で,脳動脈瘤で約7割,脳腫瘍で約6割は回復しない.滑車神経麻痺の原因別予後を図6に示す.動眼神経麻痺同様,血管性は回復率が良く,9割以上が完全回復し,不完全回復も含めるとほぼ100%が回復する.それに対して,頭部外傷によるものの約4割は回復しない.また,先天性で成人の代償不全が原因のものでは回復する症例もある.外転神経麻痺の原因別予後を図7に示す.他の神経麻痺同様,血管性は回復率が良く,9割以上が完全回復する.脳腫瘍,脳動脈瘤によるもので回復が不良なのは,動眼神経麻痺と同様である.外転神経麻痺に特徴的な原因であるCCFでは,ほぼ全例でCCFそのものは治癒したにもかかわらず,約半数は回復しない.各神経麻痺すべてで完全回復率の高かった血管性の治(33)血管性脳動脈瘤頭部外傷脳腫瘍CCFその他020406080100120140160:完全回復■:不完全回復■:回復せず(例)図7外転神経麻痺の原因別予後癒過程を図8に示す.経過とともにほぼ一定の割合で徐々に回復していき,発症後3カ月の時点で約6割が完全に回復し,6カ月後にはほぼ9割が完全に回復する.眼運動神経麻痺の経過と予後についてまとめると,血管性によるものの完全回復率は約9割で,脳動脈瘤や脳腫瘍などの器質性疾患によるものの回復率は不良でああたらしい眼科Vol.30,No.6,2013755 完全回復率(%)1008060402000123456経過観察期間(月)図8血管性眼運動神経麻痺の治癒過程る.血管性神経麻痺は大半が3.4カ月以内に回復する.そこで回復しない場合は,画像診断による器質性疾患の除外を考慮するべきである.III眼運動神経麻痺の検査の進め方と管理方針以上のデータを基に,各神経麻痺の検査の進め方と管理方針について述べる.まず,眼運動神経麻痺を診たとき,どの神経麻痺にも共通して注意する必要があるのは,その発症様式が急激な場合である.特に,受診当日に発症し,発症時間がはっきりしている場合は要注意で,起床時すでに症状が出現していた場合も含む.この場合,頻度は低いが,脳幹部梗塞が原因である可能性があり,早急な対応が求められる.病巣が拡大して下部脳幹に及べば,生命にかかわる場合もあるからである.眼科諸検査に優先して,頭部MRI(磁気共鳴画像)拡散強調画像撮影をオーダーし,脳幹部梗塞の有無を確認する.確認されれば,速やかに神経内科医に対診する.これは,すべての神経麻痺に共通する対処の注意点である.1.動眼神経麻痺動眼神経は,上直筋,内直筋,下直筋,下斜筋,上眼瞼挙筋,瞳孔括約筋,毛様体筋を支配している.したがって完全麻痺では,以下の所見がみられる.1)外下斜視および内方回旋斜視(内直筋,上直筋,下直筋,下斜筋麻痺).2)眼球の内転,上転,下転障害(内直筋,上直筋,下756あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013直筋,下斜筋麻痺).3)眼瞼下垂(上眼瞼挙筋麻痺).4)散瞳,対光反射および輻湊反射の減弱または消失(瞳孔括約筋麻痺).5)調節障害(毛様体筋麻痺).不完全麻痺では,動眼神経支配筋の一部の麻痺が生じる.また,動眼神経は上眼窩裂を通過する直前に上枝と下枝に分かれるので,眼窩内病変により分枝単位の麻痺も生じうる.上枝麻痺では上眼瞼挙筋と上直筋の麻痺,下枝麻痺では内直筋,下直筋,下斜筋,瞳孔括約筋,毛様体筋の麻痺が生じる.動眼神経麻痺の診断はそれほどむずかしくないが,重要なのはその原因を特定することである.前述の脳幹部梗塞に加え,原因が脳動脈瘤である場合は,救急疾患として対応しなければならないため,原因としてまず脳動脈瘤を除外する必要がある.動眼神経麻痺を生じる脳動脈瘤の好発部位は,内頸動脈・後交通動脈分岐部(internalcarotid-posteriorcommunicating:ICPC)である.ICPC動脈瘤では早期から散瞳がみられるため,動眼神経麻痺を診たときはまず瞳孔所見に注目する.ICPC動脈瘤で早期に瞳孔が障害されるのは,動眼神経の構成線維のうち瞳孔運動線維は動眼神経の上内側部を通り,動眼神経瞳孔運動線維内頸動脈後交通動脈視神経後大脳動脈脳底動脈動眼神経核断面図中脳水道図9動眼神経内の瞳孔運動線維の走行模式図瞳孔運動線維は,後交通動脈と伴走する動眼神経内の上内側部を走行する.(文献1より)(34) 表2動眼神経麻痺の検査方針年齢瞳孔所見40歳未満40歳以上正常・内科的精査(糖尿病,高血圧の有無などをチェック)+頭部造影MRI・内科的精査(糖尿病,高血圧の有無などをチェック)+経過観察(3日後,1週後,1カ月後,3カ月後)・3カ月で改善しない場合や初診時に患者の希望があれば,頭部造影MRI+MRangiography(MRA)散大・頭部造影MRI+MRA+ただちに脳神経外科へ対診→・3dimensionalCTangiography(3D-CTA)・脳血管撮影不完全動眼神経麻痺は,全例頭部造影MRI+MRAを行う.ICPC動脈瘤が動眼神経を上外側から圧迫することが理由である(図9)1).ところが一方,原因が血管性では,動眼神経の中心を通る外眼筋への体性運動線維のみが障害され,虚血に強い表層を通る瞳孔運動線維は保存されるため,瞳孔は障害されにくい.つまり,緊急処置が必要な脳動脈瘤による動眼神経麻痺と自然治癒傾向の強い血管性動眼神経麻痺を瞳孔所見で大まかに鑑別することができる.ただし自験例では,ICPC動脈瘤による動眼神経麻痺の約5%は初診時瞳孔所見が正常で,血管性動眼神経麻痺の約25%に散瞳がみられ,この点については注意が必要である.初診時瞳孔が正常のICPC動脈瘤による動眼神経麻痺も,数日以内にほぼ100%が散瞳してくるので,初診時から最初の1週間は3日おきに再診する.また,2mm以上の左右差のある瞳孔不同は原因として血管性を除外できるとされている2)ので,2mm以上の瞳孔不同がみられた時点で脳外科医へ対診する.自験例で散瞳がみられた血管性動眼神経麻痺の瞳孔不同は,全例1mm以下であった.動眼神経麻痺を診たときの検査方針を表2にまとめた.2.滑車神経麻痺滑車神経麻痺は,上斜筋麻痺により患側の上斜視を呈し,代償反応による健側への頭部傾斜および顔回しという眼性頭位異常がみられる.患眼には回旋偏位(外方回旋)もみられるため,垂直方向の複視に加え,患眼の像が傾いて見えると訴える.確定診断には,Parks-Bielschowsky3段階試験を行う(図10).滑車神経麻痺の診断がついたら,まず原因として多い(35)(文献1より)頭部外傷の既往を問診する.つぎに,先天性滑車神経麻痺の代償不全かどうかをチェックする.これには,まず患者に,これまでの写真撮影時に頭が傾いていることをよく指摘されなかったかどうかを尋ね,昔撮った写真を調べてもらい,以前からの頭位傾斜の有無を確認することで診断する.可能なら,撮影間隔の空いた写真数枚をチェックし,そのいずれにも頭位傾斜が確認されれば確実である.続いて内科的精査をするのは,動眼神経麻痺と同様である.画像検査は,初診時に患者の希望があった場合,または3カ月で改善しない場合に行う.3.外転神経麻痺外転神経麻痺は,正面視で患眼に内斜視がみられ,患眼の外転が障害される.外転障害がみられた場合,まず拘束性の眼球運動障害でないかをチェックする.拘束性眼球運動障害を呈する代表的疾患は,甲状腺眼症,眼窩筋炎,眼窩吹き抜け骨折である.これらはすべて,内直筋の伸展障害のために外転障害を生じるため,まずforcedductiontestを行う.Forcedductiontestが陽性であれば,続いて眼窩部CT(コンピュータ断層撮影)検査を施行し,内直筋肥大の有無,眼窩内側壁損傷の有無などをチェックする.つぎに除外する必要があるのは,重症筋無力症である.症状の日内変動,日差変動の有無を確認し,血液検査にて抗アセチルコリン受容体抗体のチェック,テンシロンテスト,筋電図検査などを行う.上記の疾患を除外して,外転神経麻痺の診断がついたら,まずは原因が転移性腫瘍である場合を考えて,全身の悪性腫瘍の既往を問診する.つぎに,原因として頭あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013757 第1段階(正面視)右上斜視考えられる麻痺筋:・右上斜筋,・右下直筋・左下斜筋,・左上直筋第2段階(右方視・左方視)左方視で右上斜視が著明考えられる麻痺筋:・右上斜筋,・左上直筋右方視左方視第3段階(右頭部傾斜・左頭部傾斜)右頭部傾斜で右上斜視が著明考えられる麻痺筋:・右上斜筋右頭部傾斜左頭部傾斜図10Parks.Bielschowsky3段階試験(右眼上斜視の場合)眼位の上下ずれがある場合に麻痺筋を同定する検査法で,つぎの3段階の検査で診断する.第1段階:正面視で上斜視は右眼か左眼か.第2段階:右方視と左方視のどちらで眼球の上下偏位が大きいか.第3段階:頭を右に傾けたときと左に傾けたときのどちらで眼球の上下偏位が大きいか.特に第3段階は,Bielschowsky頭部傾斜試験(Bielschowskyheadtilttest:BHTT)といい,上斜筋麻痺の診断に有用である.蓋内病変が多いことから,画像検査を行う.脳幹部から斜台,海綿静脈洞にかけての部位をチェックし,小児なら脳幹部腫瘍(神経膠腫など),壮年期以上なら,海綿静脈洞病変(鼻咽腔腫瘍,転移性腫瘍,CCF)に注意する.続いて内科的精査をするのは,他の神経麻痺と同様である.3カ月で改善しない場合には,再度画像検査を行う.IV眼運動神経麻痺の治療眼運動神経麻痺に対する治療は,まずはその原因に対して行われる.前述したが,眼科以外では,脳外科医による脳動脈瘤,脳腫瘍,CCFに対する治療,神経内科医によるFisher症候群,Tolosa-Hunt症候群,髄膜炎に対する治療,耳鼻科医による副鼻腔疾患の治療などが行われる.これらの治療を行ったうえで複視が残存した場合,眼科において治療を行うことになる.眼科での治療の3本柱は,薬物治療,プリズム療法,手術である.758あたらしい眼科Vol.30,No.6,20131.薬物治療眼運動神経麻痺には,眼科主導で薬物治療を考慮する場合があり,その対象となる原因は血管性と外傷である3,4).薬物治療の目的は,神経修復・保護,神経細胞の循環・代謝改善であり,補酵素型ビタミンB12製剤(メチコバールR),カリジノゲナーゼ(カルナクリンR),アデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP)製剤(アデホスコーワ腸溶錠R)などが用いられる.前述のように,血管性眼運動神経麻痺の大半は発症後3.4カ月以内に完全に治癒し,ほぼ9割は6カ月後までに完全治癒するので,その時期ぐらいを目処に投薬中止を考慮する.具体的には,治療開始後1.3カ月程度は投薬を継続し,症状の改善具合を診て,3.6カ月程度で中止する.2.プリズム療法薬物治療が奏効しなかった場合,まずはプリズム療法を考慮する.最終的に手術となる症例でも,とりあえず複視を軽減するのに有効である.プリズム療法は対症療法であり,プリズムにより患者が正面視において両眼単(36) 一視野をある程度獲得できて,本人の自覚が良くなれば適応である.プリズム療法にはおもに,眼鏡にプリズムレンズを組み込む組み込み式プリズムとFresnel膜プリズムを眼鏡レンズに貼付する膜プリズムの2つがある.組み込み式プリズムは,通常の眼鏡レンズと同様に透明なので視力は低下しないが,眼鏡レンズとして作製するため度数は固定され,症状の変化に柔軟に対応できない.一般に,眼位ずれの偏位量が小さく,安定している場合が良い適応である.一方,膜プリズムは度数が強くなるとプリズム線が目立ち,視力低下や見た目の問題が生じるが,組み込み式プリズムに比べると安価で,レンズも薄くて軽く,大きな眼位ずれにも対応可能で,取り外しが簡便なので症状の変化に応じて簡単に度数を変更することができるという利点がある.病態に応じて両プリズムを使い分けるが,プリズム処方の際に注意する必要があるのは,症状の改善や悪化により,短期間のうちにプリズムの度数を変更しなければならない場合や症状の変化がなくても抑制のために複視を自覚しなくなる場合があることを十分に説明することである.3.手術プリズム療法で患者の満足が得られず,本人が希望すれば手術を行うが,その場合,それ以上の回復が見込めず,眼位が安定したことを見計らって判断する.一般にその判断は,発症から6カ月後以降になされることが多い.手術は一般に,麻痺筋の強化手術と拮抗筋の弱化手術を行う.動眼神経麻痺は難治であり,手術の目的は複視消失よりも整容目的となることが多い.水平筋である内外直筋の大量前後転術を行い,眼瞼下垂も伴っている場合は眼瞼手術も併施する.滑車神経麻痺の手術治療は,麻痺筋である上斜筋の強化手術や拮抗筋である下斜筋の弱化手術が行われるが,最近は垂直筋である上下直筋の水平移動術が主流となっている.同時に眼位の上下ずれに対しては,上下直筋の後転術や短縮術併用で対応する.外転神経麻痺の手術治療は,麻痺の程度に応じて,患眼の内直筋後転術,外直筋短縮術,内外直筋前後転術を行う.眼球運動障害が最大の外転努力によっても正中を越えない高度なものは,上下直筋外方移動術(西田法)を施行する.手術の目的は,第一眼位(正面視)での複視の消失であって,手術を行っても第二眼位,第三眼位での複視をすべて消失させることは不可能であることを患者に十分に説明し,納得のうえで手術を受けてもらう必要がある.おわりに眼運動神経麻痺の原因は眼球外にあるが,その主症状は複視という視覚症状であるため,患者が最初に受診する診療科はほとんどの場合眼科である.眼科医には,その診断を的確に行い,適切に対処するという重要な役割がある.診断後には,原因の究明や治療に関して,脳神経外科,神経内科,耳鼻科,放射線科などの協力を仰がなければならないケースが多く,日頃から他科との連携を図っておくことが大切である.文献1)宮本和明:動眼神経麻痺.臨床神経眼科学(柏井聡編),p236-239,金原出版,20082)JacobsonDM:Pupilinvolvementinpatientswithdiabetes-associatedoculomotornervepalsy.ArchOphthalmol116:723-727,19983)三村治:神経眼科疾患の薬物治療.あたらしい眼科20:1231-1236,20034)宮本和明:複視の薬物治療.あたらしい眼科27:875-879,2010(37)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013759

甲状腺眼症を疑ったなら

2013年6月30日 日曜日

特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):745.751,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):745.751,2013甲状腺眼症を疑ったならWhenThyroid-AssociatedOphthalmopathy(TAO)IsSuspected鈴木康夫*はじめに1835年,ダブリン(Dublin,アイルランド)の内科医Gravesは,甲状腺腫と動悸をきたした3症例中の1例に眼球突出を認めたことを報告した.ついで,1840年にはメルゼブルグ(Merseburg,ドイツ)の開業医Basedowが,甲状腺腫,動悸,眼球突出を3主徴(メルゼブルグ3徴)とする4症例を報告した.欧米では,この疾患群にGravesの名を冠することが多いのだが,かつてドイツ医学が主流であった日本では,Basedow病の名が定着し,現在に至っている.このため,眼球突出を主体とした甲状腺機能亢進症に伴う眼症状は,「甲状腺眼症(thyroid-associatedophthalmopathy:TAO)」,「Basedow病眼症」「眼Graves病」「悪性眼球突出」など種々の名称でよば(,)れている.しかし(,),その病態が甲状腺機能そのものとは直接の関連をもたない独立した自己免疫異常であり,眼球突出以外にも多彩な眼症状があるのみならず,眼球突出を生じない症例が半数以上あることが明らかとなった現代では,その病態を正しく示した「甲状腺眼症(TAO)」が最適な病名とされている.甲状腺眼症は決してまれな疾患ではない.この疾患特有のいくつかのポイントをつかんでしまえば神経眼科を専門としない眼科医であっても,容易に高い精度で診断を行うことができる.本稿では,当センターで用いている甲状腺眼症診断・治療マニュアルをもとに,甲状腺眼症診療を「疑う」「診断」「検査オーダ」「治療」「他科連携」の項目に分(,)け,各々(,)3つのポイント(,)を抽出(,)し,表1甲状腺眼症MinimumrequirementsⅠ疑うポイント1.上方視時に悪化する垂直複視2.角膜上方輪部結膜の露出3.眼瞼腫脹Ⅱ診断のポイント1.眼球運動は頭部を固定して評価する2.眼球突出の左右差を評価する3.外眼筋(眼球運動時痛),眼瞼・結膜(発赤,浮腫)の炎症を評価し,病期(急性/慢性)を判断するⅢ検査オーダのポイント1.眼窩CT2.血液検査3.眼窩MRIⅣ治療のポイント1.禁煙指導,分煙指導を第一に行う2.急性期は,ステロイド薬の内服(3カ月以上かけて漸減)か,ステロイドパルス治療(終了後,内服漸減へ移行)を選択する3.慢性期は,対症療法を行いながら経過観察し,手術治療の適応を検討するⅤ他科連携のポイント1.ステロイドパルス治療は甲状腺機能に影響を与える可能性がある2.放射線ヨード治療は,TAO悪化(急性転化)の危険性を高める3.妊娠はTAOに関与しないが,出産直後はTAO悪化の危険性が高まる「甲状腺眼症のMinimumrequirements」(表1)として解説する.*YasuoSuzuki:手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センター〔別刷請求先〕鈴木康夫:〒006-8555札幌市手稲区前田1条12丁目1-40手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センター0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(23)745 I甲状腺眼症を疑うポイント1.上方視時に悪化する垂直複視TAOにおける眼球運動障害の原因は自己免疫に起因する炎症によって肥厚した外眼筋に伸展障害が生じることにある.また,複視は,眼球運動障害に左右差があるときに生じる.原因は明らかではないがTAOの外眼筋肥厚は下直筋から生じることが非常に多く,その程度に左右差がある場合がほとんどである.このため,初発症状が上転障害(内上方視よりも外上方視の制限が強くなる)による垂直複視であることが多い.この垂直複視は上方視によって悪化することが特徴であり,上方視時にのみ生じることも多い.垂直複視を認めたときにすぐに思いつく疾患名は「滑車神経麻痺」であろうが,「滑車神経麻痺」による垂直複視は下方視で悪化する.よって,上方視で悪化する垂直複視はTAOの可能性が高い.2.角膜上方輪部結膜の露出健常者の上眼瞼は,正面視に際して,瞳孔領を隠さない程度に上方角膜を覆っている.上眼瞼を挙上する上眼瞼挙筋は,上直筋とともに動眼神経上枝に支配されており,垂直眼球運動に際して上直筋と同様に収縮,弛緩し,眼瞼が視線を遮ったり,過度に球結膜が露出したりすることを防いでいる.TAOでは上眼瞼挙筋が肥厚し伸展障害が生じたり,交感神経の過緊張が上瞼板筋の過収縮を生じたりすることで,正面視時に上眼瞼縁が上方角膜輪部より拳上したり(眼瞼後退,lidretraction,Dalrymple徴候),下方視時に眼瞼縁の下降が眼球運動に遅れて瞼裂開大が生じたり(眼瞼遅動,lidlag,Graefe徴候)する.もちろん,下瞼板筋の過緊張による下眼瞼後退も生じるが,下眼瞼縁は正常者でも下方角膜輪部より下降していることも多く,診断意義は高くはない.3.眼瞼腫脹眼瞼内や眼窩縁に腫瘤を触知せず,かつ垂直眼球偏位を認めない眼瞼腫脹は,TAOの可能性がある.TAOの筋肥厚は筋腹が主体であり,眼球に接した部分の肥厚は軽度のことが多いので眼球突出は生じても,眼球を圧排し,水平,垂直方向に偏位させることはまれである.746あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013これに対し,腫脹した涙腺や涙腺部を主とした筋円錐外腫瘍は眼窩縁で触知できたり,眼球が圧排され対側へ偏位していたりする可能性が高い.TAOで認める眼瞼腫脹はうっ血の影響を受けやすく,起床時に悪化するものが多い.その場合,就寝時の枕を少し高くすることで起床直後の自覚症状を軽減できることもある.また,眼瞼そのものの腫脹のみではなく,眼球突出を伴っている場合も多い.II診断のポイント1.眼球運動は頭部を固定して評価する(図1)眼球運動制限,複視の評価は,空間に対して頭部が動かないことを確認しながら行う必要がある.特に垂直眼球運動の評価は,介助者に患者の頭部を固定してもらいながら行うことが望ましい.なぜなら,日常の視線の動きは眼球運動と頭部運動の加算として生じており,視標を追わせて眼球運動を評価する際,頭部が動くと眼球運動制限,複視の有無が不明瞭になる.水平頭部運動は気付きやすいが,垂直頭部運動は自然に生じるので意識していなければ見逃す可能性がある.また,頭部を動かさないように依頼しても垂直方向の頭部運動を抑制できない患者も多い.特に,上方視時の垂直複視が徐々に進行した症例では,本人も気付かぬうちに上方視に際して複視を抑制するための顎上げ(chinup)頭部運動が自然と生じるようになっていることもある.2.眼球突出の左右差を評価する眼球突出度はHertel眼球突出計で測定することが一般的であるが,健常者の眼球突出度は顔つきによって異なり(日本人健常者の分布,8.22mm1)),また,眼球突出計の「Base(両側眼窩外側縁間距離)」の取り方,眼窩縁への押し付け方によってもその絶対値は変動する.同一患者であれば,「Base」を固定して,同一検者が測定を行うことにより経時的な変動の有無を適切に評価することができるが,よほどの極端な眼球突出でない限り,その絶対値のみから病的眼球突出との診断を下すことはむずかしい.しかしながら,健常人の眼球突出度に1.5mm以上の左右差をみることはごくまれ(3%未満)1)であり,明らかな左右差を認めた場合はTAOを(24) A:正面視B:下方視図1眼球運動は頭部を固定して評価する頭部を固定しないと「顎上げ」により上C:上方視(顎上げなし)D:上方視(顎上げあり)転制限が不明瞭となる(図3D).A:閉瞼B:開瞼図2視診による眼球突出の左右差の評価被検者の正面に立ち,上方から両眼の角膜頂点位置を比較することで左右差の有無は評価できる.Bのように開瞼時でC:開瞼D:上眼瞼挙上も,角膜頂点が見えない場合は(C),上眼瞼を挙上して比較する(D).疑い原因検索を行うべきである.眼球突出度計がない場合は,被検者の正面に立ち,上眼瞼を挙上し,上方から両眼の角膜頂点位置を比較することで左右差の有無は評価できる(図2).また,眼球突出度の短期間での悪化(2mm以上/3カ月)も病的状態を示唆する.なお,上眼瞼の強い腫脹や皮膚弛緩のため角膜頂点がHertel眼球突出計で確認できない場合は,上眼瞼耳側をテープで挙上して測定すると良い.瞼を大きく開けるように指示することは輻湊が生じたり,眼窩内圧の変動に伴う眼球突出度の変動が生じたりするのでお勧めできない.3.外眼筋,眼瞼・結膜などの炎症を評価し,病期(急性.慢性)を判断する(図3)TAOは急性期と慢性期で治療法が異なることから,(25)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013747 的確な病期判断が重要である.急性期は眼窩内に自己免疫異常に由来する炎症が生じており,炎症の5徴候のなかの疼痛,発赤,浮腫(他の2つは熱感と機能障害)が眼瞼,結膜,眼窩内軟部組織に生じる.1989年にMouritsにより提唱されたClinicalactivityscore(CAS)2)では,疼痛は「球後痛」と「眼球運動時痛」の2項目,発赤も「眼瞼」と「結膜」の2項目,浮腫は「結膜」,「涙丘」「眼瞼」「眼球突出(2mm以上/3カ月)」の4項目に分(,)けられて(,)いる(表2).陽性が1項目(Score1点)以下を慢性期,2項目(Score2点)以上を急性期と診断し,4項目以上陽性(Score4点以上)でステロイドパルス治療の適応と判断する.III検査オーダのポイント1.眼窩CT(コンピュータ断層撮影)(図3E,F)初診時に,軟部組織(腹部)撮影条件で軸断(axial)と冠状断(coronal)を撮影する.被検者が正面視をした状態で撮影するよう依頼する.外眼筋肥厚は筋腹の肥厚が主であり,紡錘状を呈し,視神経よりも厚い場合を陽ABCDEF表2ClinicalactivityscoreofTAO1)痛み球後痛眼球運動時痛2)発赤眼瞼発赤結膜充血3)浮腫結膜浮腫涙丘浮腫眼瞼浮腫眼球突出(3カ月で2mm以上悪化)4)機能異常視力低下(3カ月で1段階以上低下)眼球運動制限(3カ月で5°以上悪化)(文献2より改変)性とする.肥厚した筋と複視の生じ方を照らし合わせ,複視が肥厚した筋の伸展障害によるものか否かを判断する.筋の断面のCT値がまだらな場合は活動性の浮腫が疑われる.初診時にCTではなく,より多くの情報が得られ,放射線被曝の心配のないMRI(磁気共鳴画像)で画像診断図3急性期TAOに対するステロイドパルス治療の消炎効果治療前の前眼部所見(A,C)と外眼筋所見(E)とを,3クールのステロイドパルス治療直後の所見(B,D,F)と対比して提示した.冠状断CTは,軟部組織撮影条件にて,できるだけ薄いスライスで撮影した軸断を,再構成したものである.748あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(26) することももちろん有用である.しかし,固定不良やアーチファクトがある場合,外眼筋肥厚の判断がむずかしく,当科では,CTを初診時の画像診断の第一選択としている.2.血液検査内科での診断,加療が行われていない場合は,甲状腺機能〔(Free-T3,Free-T4,TSH(甲状腺刺激ホルモン)〕をTAO関連抗体〔TPO(サイロイドペルオキシダーゼ)抗体,TG(サイログロブリン)抗体,TSH受容体抗体〕とともに採血し,内科への紹介の必要性を検討する.あくまでも,甲状腺機能障害とTAOとは別個の自己免疫性疾患であり,TSH受容体抗体がTSH受容体を介して甲状腺機能に影響する性質(刺激性であれば機能亢進,抑制性であれば機能低下)をもっていなければ甲状腺機能は障害されない.また,TAOに関連する自己抗体はすべてがわかっているわけではなく,現在見出されている抗体がすべて陰性であっても,TAOを否定する根拠にはならず,他の臨床症状から確定診断することもある.3.眼窩MRI頻回の経過観察の必要性が見込まれる場合や急性期の活動性把握が重要な場合は当初からMRI撮影を選択す図4治療戦略のフローチャートTAOの診断開始(START)から安定した慢性期(GOAL)へ持ち込むための治療戦略をフローチャートで示した.太い矢印は「圧迫性視神経症」をきたした際の治療戦略を,破線矢印は「再発」を示している.CAS(Clinicalactivityscore)は表2を参照のこと.ることもある.CTと同様に,正面視時の軸断(axial)と冠状断(coronal)を撮影するよう依頼する.T1強調画像にて,外眼筋肥厚の有無を判断する.T2強調画像にては外眼筋の浮腫の活動性を評価する.外眼筋肥厚の活動性評価が重要な場合はSTIR(short-T1inversionrecovery)法冠状断を併用する.IV治療のポイント(図4)1.禁煙指導,分煙指導を第一に行う1993年に,オランダから喫煙によって甲状腺眼症の発症率は8倍になり,重症化傾向も高まることが報告された3).これ以降,他の多くの国,施設からも,喫煙がTAOの発症率を高めるのみならず,悪化の危険因子,治療の妨げであることが報告されている4).当センターにおいても,重症例には喫煙者が多く,難治症例にも禁煙未達成者が多い.ニコチンのみならず副流煙に含まれる有害物質も悪化要因とされており,現在進行形の喫煙も危険因子となる.甲状腺眼症の治療の第一歩は,喫煙者には禁煙を,非喫煙者にも分煙を勧めることである.2.急性期は,ステロイド薬の内服か,ステロイドパルス治療を選択する急性期でCASが4点以上の場合,もしくは機能異常(視力低下,眼球運動制限の発症,悪化)を認めたときSTART病期判定禁煙・分煙指導急性期慢性期(CAS>4)機能異常(CAS=2,3)(CAS=0,1)GOAL経過観察3月以上対症療法(点眼加療)ステロイド内服漸減投与ステロイドパルス治療圧迫性視神経症の改善緊急眼窩減圧手術放射線治療(再治療不可)斜視,眼瞼手術眼窩減圧手術圧迫性視神経症慢性化YESNO経過観察YESNO急性転化悪化(27)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013749 ABCDE図5両側の圧迫性視神経症に対する経涙丘眼窩内壁減圧手術術前(A,C),術後(B,D)の眼窩CT所見および,術後の術創所見(E,赤矢印).右は術後1カ月,左は術後6カ月経過している.皮膚切開は加えず,球結膜近傍の涙丘上で縦切開を入れる.下方球結膜へ伸ばした長さ12mm程度の創口から篩骨紙様板に到達し,紙様板を除去する.クールのパルス治療を行っても十分な視機能の回復が得られない場合や,パルス治療により回復した視機能がステロイド薬漸減中に再度悪化した場合は,緊急眼窩減圧手術の適応となる(図4の太矢印).その場合は眼窩手術の十分な経験をもつ医師への紹介を検討する.眼窩減圧手術には眼窩内壁,下壁,外壁を減圧対象とする種々の手術法があるが,当科では,皮膚切除を必要とせず,動脈損傷の危険も少なく,眼球運動制限,複視などの合併症がほとんどない「経涙丘眼窩内壁減圧手術」を第一選択としている(図5).3.慢性期は,対症療法を行いながら経過観察し,手術治療の適応を検討する慢性期の対症療法は,角膜障害に対する点眼が主となる.高眼圧の既往があり,眼瞼後退や眼瞼遅動が目立つ場合は交感神経a受容体遮断作用のある点眼薬(ニプラジロールなど)を試みてもよい.眼瞼症状が上瞼板筋過緊張に起因する場合は症状の軽減が得られる.また,正面視時の偏位量が少なく安定した垂直複視に対しては,Fresnel膜を含むプリズム眼鏡装用が自覚症状改善に貢(28)はステロイドパルス治療(メチルプレドニゾロン1gの点滴を3日間,その後4日間のプレドニゾロン30mg内服で1クール,以下パルス治療)を3クール行い,その後,3カ月以上かけて漸減投与する.症状の改善,副作用の有無により1クール,もしくは2クールで終了することもあるが,3クール投与を原則とする.初回治療から放射線治療をパルス治療と併用することを勧める成書もあるが,放射線治療の安全な照射量(晩期障害を避けうる累積線量)は治療部位ごとに生涯にわたって一定であり,パルス治療のように副作用の回復を待っての再加療はほぼ不可能である.このため,当科にては初回治療に際してはパルス治療単独を第一選択とし,パルス治療による難治例,再発例に対し,放射線治療の適応を検討している.急性期でCASが2.3点で,視機能,眼球運動障害に悪化を認めない場合は外来でのステロイド薬治療を選択する.ブレドニゾロン30mg/日の内服から開始し,症状の改善を確認しながら3カ月以上かけて漸減する.原則として,急性期には眼科手術治療を行うべきではないが,圧迫性視神経症を生じている場合は異なる.3750あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013 献することも多いので,斜視手術を選択する前に試みるべき慢性期の対症療法である.慢性期が3カ月以上経過した場合は,複視に対する斜視手術,眼瞼手術,眼球突出に対する(圧迫性視神経症に対する場合とは異なる)眼窩減圧手術などの手術治療が可能となる.ただし,術後にTAOが再燃する可能性があり,慎重な経過観察が欠かせない.合併症の心配がない場合は,予防的なステロイド薬投与(CASが2.3点の場合に準じる)を併用するとよい.V他科連携のポイント1.ステロイドパルス治療は甲状腺機能に影響を与える可能性があるパルス治療は免疫抑制作用があり,自己抗体全般を抑制する.TSH受容体に興奮性,抑制性に作用する抗体が高値の患者の場合,治療により甲状腺機能が著明に変動する可能性がある.治療中は,甲状腺機能の定期的なチェック,動悸などの全身状態への注意が必要である.2.放射線ヨード治療は,TAO悪化(急性転化)の危険性を高める放射線ヨード治療は,観血的な甲状腺摘出手術とは異なり,一時的に大量の自己抗体を全身に拡散してしまう可能性がある.治療によってTAOが悪化する可能性が高まるため,予防的なステロイド薬投与が勧められている.当科にてはプレドニゾロン30mg(内服)を初回量とし,3カ月以上をかけての漸減投与を基本として行っている.3.妊娠はTAOに関与しないが,出産直後はTAO悪化の危険性が高まる妊娠はTAOの明らかな危険因子ではなく,パルス治療の前後を除き,避妊の必要はない.少量のプレドニゾロン,メチルプレドニゾロンを投与したままでの妊娠継続,出産も可能であるが,ステロイド薬は乳汁に分泌されるため,授乳を控えていただかねばならない可能性がある(注:デキサメタゾン,ベタメタゾンは胎盤を通過し胎児に移行するので用いない).また,出産後に自己免疫能が亢進することが誘因となり,Basedow病と同様にTAOが悪化する可能性もあり,出産後は特に注意深い経過観察が必要となる.文献1)中山智彦,若倉雅登,石川哲:今日の日本人の眼球突出度について.臨眼46:1031-1035,19922)MouritsMP,KoornneefL,WiersingaWMetal:ClinicalcriteriafortheassessmentofdiseaseactivityinGraves’ophthalmopathy:Anovelapproach.BrJOphthalmol73:639-644,19893)ThorntonJ,KellySP,HarrisonRAetal:Cigarettesmokingandthyroideyedisease:asystematicreview.Eye(Lond)21:1135-1145,20074)PrummelMF,WiersingaWM:SmokingandriskofGraves’disease.JAMA269:479-482,1993(29)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013751

眼振をみたら

2013年6月30日 日曜日

特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):739.743,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):739.743,2013眼振をみたらHowtoTreatNystagmus木村亜紀子*はじめに眼振患者のqualitativestudyにおいて,眼振患者は大きく6つの点で悩んでいることが報告された1).視力,行動の制限,目立つこと/溶け込めないこと,内なる自分の感情,将来や人間関係への悲観である.これらは,眼振患者が日常生活のうえで視力不良による障害(車の運転や職業の制限など)と眼振による整容面での引け目,自己否定によるものの表れである.眼振患者に対する治療において,視力向上は医療側が積極的に取り組むべきものとして当然であるが,今後は,新たに整容面での改善にも重きをおき,積極的に取り組むべきではないかと考えている.I眼振とは眼振は,規則的に繰り返す不随意な眼球運動であり,眼球のリズミカルな振動様の往復運動と定義される.先天性と後天性があるが,その判断に迷うことは少ない.動揺視がなく,両親が生後まもなくから眼振に気付いていれば先天性である.ただ,先天眼振でも周期性交代眼振(periodicalternatingnystagmus:PAN)は動揺視を自覚していることが多いので注意を要する.また,一般に先天眼振とよぶ場合には,視力がきわめて不良なoculocutaneousalbinism(眼皮膚白子症)や視神経低形成,網膜異常など器質的疾患を伴っている場合は除外されている.PAN以外で動揺視がある場合は後天性を考えるが,後天性の場合には原因精査が重要となる.特にupbeatnystagmus,downbeatnystagmusなどの上下方向の眼振は脳幹部腫瘍など重大な疾患が潜んでいることがある.II眼振の分類水平眼振,回旋性眼振,垂直眼振,これらが組み合わさったものがある.急速相をもつものは律動眼振(jerkynystagmus),急速相と緩徐相がほぼ同等のものは振り子様眼振(pendularnystagmus)とよばれる.眼振には眼振の振幅が小さくなる,もしくは眼振が止まる静止位をもつ頭位眼振(この場合は代償頭位をとる)と静止位のない眼振の2種類に分類できる.静止位の有無により,治療法や視力予後が異なるため静止位の有無での分類も重要である.III先天眼振1.特徴先天眼振は,輻湊,暗所,閉瞼により眼振の振幅の抑制がみられ,注視により増強する特徴がある.また,注視方向を眼振の急速相に向かわせるに従って眼振の強度が増大するAlexanderの法則も知られている.屈折異常としては乱視の合併が高いことが指摘されており2),厳密な屈折矯正は眼振患者の治療の第一歩である.*AkikoKimura:兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕木村亜紀子:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(17)739 2.視力が良好な先天眼振先天眼振で,潜伏眼振,静止位をもつ頭位眼振,周期性交代性眼振(PAN)では比較的視力は良好である.潜伏眼振は片眼を遮閉することで眼振が出現する.両眼視しているときは眼振は認められない.そのため,両眼視力は良好であるが,学校の健診や運転免許の際の視力検査でしばしば視力不良を指摘される.自分が潜伏眼振を左への顔回し(faceturntoleft)図1眼振の代償頭位a.Versionprism:静止位が右方向にあり,左への顔回しの場合もっており,片眼ずつの視力検査では引っかかる可能性があることを知っておいたほうが良い.頭位眼振は静止位が正面にくるように代償性頭位をとっている(図1).そのため,治療の目的は異常頭位の改善である.保存的治療としては,静止位が正面にくるようなプリズム眼鏡(versionprism療法:図2a),手術療法としてはAnderson法,Kestenbaum変法などがある(図3d,f).一方,PANは,急速相がある一定の時間(通常は数分)をもって逆方向に急速相の向きが変わる眼振で,急速相が変化するときに静止位をもつため比較的視力は良好である.異常頭位はあるときとないときがあったり,一定でなかったりする(図4).比較的視力は良好にもかかわらず,眼振が外観上目立つため,整容目的で手術治療を希望する患者が多い.術式は眼振の振幅減弱を目的とした水平4直筋大量後転術である(図3e).この術式により,異常頭位の消失も得られることが報告されている3).左眼右眼Faceturntoleftb.輻湊抑制頭位矯正+輻湊抑制R:15base-inR:20base-inΔΔL:15base-outΔL:20base-outΔ図2眼振のプリズム療法a:15Δでは異常頭位が残存し,20Δで異常頭位は消失している.b:Vergenceprism療法は輻湊させることで眼振の振幅減弱を目的とする.Compositeprism療法は異常頭位の改善に加え輻湊努力もさせるため,左右のプリズムの量は等量ではなく外転位を取るようにする.VergenceprismCompositeprism740あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(18) RLRLRLRLa.Anderson法:静止位と同側の水平とも向き筋の後転術RLc.Kestenbaum法:Anderson法と後藤法の併用で短縮量と後転量は等量RLe.水平4直筋大量後転術:水平の内外直筋を赤道部へ後転する3.視力が不良な先天眼振静止位のない先天眼振では,中心窩でものをとらえるfoveationtimeが少ない場合,律動眼振,振り子様眼振にかかわらず一般的に視力は不良である.そのため,治療の目的は視力向上であるが,劇的な改善は期待できない.先天眼振の治療の第一は,屈折矯正であるが,調節麻痺薬を用いた精密な屈折検査を行い完全矯正の眼鏡を常用することが大切である.コンタクトレンズは,乱視矯正効果が優れることから眼振にとっては良い適応である.コンタクトレンズの効果としてのバイオフィードバック説に関しては意見が分かれるところである.保存的治療として,先天眼振が輻湊により眼振の振幅減弱を認めることから,プリズム(Δ)をbase-outに入れたvergenceprism療法がある(図2b).プリズム眼鏡は8Δくらいまで製作可能であるが,実際には5Δ以内が臨床的に適していると思われる.また,10Δ以上の外転位をとらせることは,眼精疲労をひき起こす原因b.後藤法:静止位と反対側の水平とも向き筋の短縮RLd.Kestenbaum変法(ストレートフラッシュ法):短縮量と後転量に差をつけている左外直筋短縮8mm,右内直筋短縮7mm左外直筋後転5mm,右外直筋後転6mmfKestenbaum変法(ストレートフラッシュ法):術前:左への顔回し施行後の自由頭位手術により静止位を正面にもってくる静止位が右方向にあるため,左への顔回しの場合(faceturntoleft)図3眼振に対する手術治療a~dは異常頭位に対する手術.eは静止位のない眼振の振幅減弱を目的とした手術.となるため,vergenceprismは両眼にそれぞれ3.4Δbase-outが適当と考えられる.手術治療としては,正面視での眼振の振幅減弱を目的とした水平4直筋大量後転術(図3e)の適応となるが,(19)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013741 FaceturntorightFaceturntoleftChinup図4周期性交代性眼振(PAN)異常頭位は変動する.視力向上に関しては劇的ではない.成人してから水平4直筋大量後転術を施行すると,術後に複視を訴えることがあり,経験的には小学校低学年までに施行することが望ましいと考える.成人してから整容目的にこの術式を施行する場合には,術前から術後に複視が生じる可能性と眼位矯正の再手術の可能性を伝えておく必要がある.IV後天眼振1.小児での原因検索乳幼児では動揺視を訴えることはないが,生後4カ月以降の眼振の出現,asymmetricな眼振,うっ血乳頭を伴う場合や嘔吐を伴っている場合の眼振などは後天性と考えられる.頻度が高いものでは,視神経膠腫(opticnervegliomas)などの視覚経路の前半での障害,ほかには脳幹部や小脳病変,代謝異常があげられる.Spasmusnutansでも認められることがある.2.成人での原因検索問診でまず薬剤性を念頭に,副作用として眼振をきたす内服薬の服用の有無を確認する.バルビタール,抗ヒスタミン薬,抗痙攣薬などのほか,シンナー中毒などでも眼振は認められる.ビタミンB12欠乏症やWernicke脳症(ビタミンB1欠乏症)などの報告もあり,栄養状態もチェックしておく.薬剤性や栄養障害は最初に確認しておかなければ,不必要な検査を続けることになり注意が必要である.頻度の高い原因としては,多発性硬化症(MS),脳幹病変,小脳病変(Arnold-Chiari奇形:小脳の一部が脊柱管内に落ち込む)であることから,頭部742あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013MRI(磁気共鳴画像)での精査は必須である.MSでは振り子様眼振が一般的で,視神経脊髄炎や片眼性の眼振で初発した視交叉部での視神経膠腫なども報告がある4).Downbeatnystagmusは,多くは小脳変性,小脳の虚血で生じるが,約4割は原因不明である.しかし,MRIは正常な場合でも,両側のvestibulopathy,多発神経炎,小脳失調を伴っている頻度が高い.3.保存的治療(内服治療)わが国では眼振に対して認可が下りていないが,海外では内服治療は積極的に行われている5).MSにはgabapentine,memantineが,PANにはbaclofen,4aminopyridineが,後天性の振り子様眼振にはgabapentin,memantineが,downbeat,upbeatnystagmusにはaminopridines,4-aminopyridine,3,4-diaminopyridine,clonazepamが,torsionalnystagmusにはgabapentineが,そしてseesawnystagmusにはclonazepam,memantineが有効とされている.おわりに患者には,保存的治療でも手術治療でも眼振を完全には消失させることはできない,ということをあらかじめよく理解しておいてもらう必要がある.たとえば,異常頭位に対する手術後に,「左を見たときに眼振がまだ残っている」という保護者の発言は,術前の説明不足,患者の理解不足と考えなければならない.眼振は外眼筋手術で消失するものではない.治療の目的は,個々における最良の視力を獲得させることと整容的な改善を試みる(20) ことで,眼振患者のQOL(qualityoflife)の向上を目指すものである.文献1)McLeanRJ,WindridgeKC,GottlobI:Livingwithnystagmus:aqualitativestudy.BrJOphthalmol96:981-986,20122)WangJ,WyattLM,FeliusJetal:Onsetandprogressionofwith-the-ruleastigmatisminchildrenwithinfantilenystagmussyndrome.InvestOphthalmolVisSci51:594601,20103)GradsteinL,ReineckeRD,WizovSSetal:Congenitalperiodicalternatingnystagmus.DiagnosisandManagrment.Ophthalmology104:918-928,19974)HageRJr,MerleH,JeanninSetal:Ocularoscillationsintheneuromyelitisopticaspectrum.JNeuroophthalmol31:255-259,20115)MehtaAR,KennardC:Thepharmacologicaltreatmentofacquirednystagmus.PractNeurol12:147-153,2012(21)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013743

視神経炎をみたら

2013年6月30日 日曜日

特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):731.737,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):731.737,2013視神経炎をみたらViewsofOpticNeuritis毛塚剛司*はじめに視神経炎は比較的まれな疾患ではあるが,初期対応を間違うと不可逆的な経過をたどり,視力予後に悪影響を及ぼすことがある.今回,視神経炎と診断するための検査の進め方,さらに視神経炎と診断されたら,どのような治療方針を立てて経過観察を行うのか述べたいと思う.I視神経炎の疫学と病因視神経炎は,日本人の成人人口10万人に対して年1.6人の割合で発症する疾患である1).通常の視神経炎は特発性のことが多いが,ウイルス性,細菌性,自己免疫性など多岐にわたる.日本における特発性視神経炎トライアルでの年齢分布は,14.55歳の患者が65.9%と多くを占め,若年から壮年期に多い疾患であることが窺える.一方,抗aquaporin4(AQP4)抗体陽性視神経炎では,9:1で女性が多く,また壮年期から高齢の方によくみられる.視神経炎には,病因として種々の疾患が関与していることがあるため,視力低下をきたす前の感冒症状や頭痛など眼外症状を問診することが必要である(表1).さらに毒物や環境物質由来の視神経症を除外するために,職業の内容にも留意する必要がある.視神経炎は,外傷によるものや鼻性視神経症などの圧迫性によるものも考慮に入れなければならない.外傷の既往がある場合には視束管骨折に併発する視神経腫脹の可能性があり,眼窩表1視神経炎を疑った場合の問診内容・感冒や頭痛の有無・職業の内容・外傷の既往・副鼻腔炎などの耳鼻咽喉科領域疾患CT(コンピュータ断層撮影)で的確な診断が必要である.副鼻腔炎の術後では,術後.胞や肉芽により視神経を圧排している可能性も考えられる.このように,視神経症が炎症ではない場合,すなわち視神経炎ではない場合も考慮して診断を確定しなければならない.II視神経炎に必須の問診検査の前には,視神経炎を起こす可能性のある病因を念頭に置き,問診を行わなければならない.自覚症状としての眼球運動痛(視神経炎の50%程度に存在する)や,多発性硬化症によくみられる,運動時もしくは風呂上がりなどの体温上昇時における視力低下や眼痛(Uhthoffsign;ウートフ徴候)や,眼外症状として手足のしびれ,しゃっくり,嗄声なども良い補助診断となる.小児によく起こるウイルスなどの感染症に続発する視神経炎は,先行する感冒症状が重要なキーとなる.梅毒性視神経炎を疑った場合の皮膚症状の聞き取り,ネコひっかき病におけるネコの接触の有無も眼所見を検索した後に聞き直す必要がある.*TakeshiKezuka:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)731 III視神経炎の重要な臨床所見とそれに伴う検査所見視神経炎を診断するのに必要な検査とその所見を下記に述べる.診察室で可能な簡便な検査からMRI(磁気共鳴画像)のような画像診断まで種々にわたる.初期に必ず行う必要があるのは,相対的瞳孔求心路障害(RAPD:表2視神経炎を診断するために必要な検査初期(必須)項目・RAPDの有無のチェック・眼底所見・CFF・造影MRI可能なら早期に行う項目・血清における抗体および感染症チェック・蛍光眼底造影可能なら行う項目・三次元画像解析(OCT)・視覚誘発電位(VEP)ababrelativeafferentpupillarydefect)の有無のチェック,眼底所見,限界フリッカ値(CFF:criticalflickerfrequency),造影MRIである.引き続き,血清における抗体および感染症チェック,蛍光眼底造影を行う(表2).1.RAPD視神経炎では,暗所でswingingflashlighttest(交互点滅対光反射試験)を行い,対光反射を確認することが重要である.左右交互に光を当て,患眼に光を当てると両眼ともに散瞳し,僚眼に光を当てると縮瞳する反応である.急性期や亜急性期ではRAPDが陽性となる.2.眼底所見視神経炎は,視神経乳頭が発赤腫脹する視神経乳頭炎パターン(図1a,b)と視神経乳頭の発赤がない球後視神経炎パターンがある.抗AQP4抗体陽性視神経炎では,特に球後視神経炎パターンが多く見受けられるが,図2図1視神経乳頭炎患者の眼底像a:視神経乳頭の発赤腫脹がみられる.b:蛍光眼底造影上,視神経乳頭に一致して過蛍光がみられる.図2抗AQP4抗体陽性視神経炎の眼底像a:視神経乳頭の発赤腫脹がみられる.b:蛍光眼底造影上,視神経乳頭に一致して過蛍光がみられる.732あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(10) に示す病変では蛍光眼底造影上,視神経乳頭が過蛍光である.3.VEPにおける潜時延長視神経炎が強く起こり,視神経の神経損傷がある程度進んだ場合,視覚誘発電位(visualevokedpotential:VEP)のP100潜時が延長して振幅が低下する.VEPの潜時延長は,急性期には起こらず,発症後1カ月以上経過した後にみられることが多い.VEP潜時が延長した場合,視神経内の神経損傷は不可逆的であると考えられている.4.OCT(opticalcoherencetomography)におけるGCL(ganglioncelllayer)の菲薄化三次元眼底像を解析することにより,視神経炎の既往が推察できる.視神経乳頭の形状解析や網膜中心厚,さらに神経節細胞層(GCL)の菲薄化を解析することにより,以前罹患した視神経炎の障害の程度が推測可能となる(図3).ただ,急性期の病態にはあまり反映しないため,寛解期のスクリーニングとして活用するほうが良いと思われる.5.造影MRIMRIは視神経-視交叉を中心に撮るなら冠状断で,baILM-RPEThickness(μm)MaculaThickness:MacularCube512x128HoursRNFLandONH:RNFLQuadrantsRNFLClockOpticDiscCube200x200RNFLThickness図3黄斑および視神経周囲網膜における三次元画像解析a:中心窩を除く黄斑部で菲薄化が認められる.b:視神経周囲網膜でも菲薄化をきたしている.視交叉以後の視路を知りたいなら水平断で撮像する(図4).単純MRIでは視神経萎縮が高信号となることがあるので,可能な限りガドリニウム造影MRIを行う.また,STIR(short-T1inversionrecovery)法やT2脂肪抑制画像で視神経に沿った高信号を確認する.図4に示すのは,T2脂肪抑制で撮像した眼窩MRIである.abc図4抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎におけるMRIT2強調脂肪抑制画像a:冠状断で右眼視神経の高信号を認める(矢印).b:水平断で右眼視神経の複数部位での高信号を認める(矢印).c:矢状断で頸椎の高信号を認める(矢印).(11)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013733 6.CFFCFFは,視神経の機能評価に有用で簡便な検査である.通常,35Hz以上が正常であるが,視神経炎では20Hz未満となる.ぶどう膜炎による視神経腫脹では,25.30Hzと軽度の低下に留まる.これは,おそらくぶどう膜炎の視神経線維の障害が特発性視神経炎と比較して軽微だからだと思われる.7.抗体検査を含む血液検査血算と生化学検査は視神経炎の原因同定には必須の検査である.貧血もしくは白血病でも視神経の腫脹は起こりうる.また,腎機能障害でも視神経障害をきたすことがある.下記に詳しく述べるが,梅毒による血液検査も重要である.ステロイド薬抵抗性の視神経炎では,一定の割合で抗AQP4抗体陽性視神経炎がみられるため,視神経炎と診断されたら,早急に抗AQP4抗体測定を行わなければならない.現在SRLでも抗AQP4抗体の測定依頼が可能だが,直接コスミックコーポレーションで受託測定を行っており(http://www.cosmic-jpn.co.jp/contractservice/contract_service.html),2週間以内に結果が判明するので,急いでいる場合には後者を選択すると良い.抗AQP4抗体が陽性の場合には,他の膠原病が陽性のことが多いので,抗核抗体や抗サイログロブリン抗体などの抗甲状腺抗体,抗SS-Aや抗SS-B抗体などのSjogren症候群に対する血清抗体を測定してもよいと思われる.IV視神経炎と間違えやすい疾患鑑別診断としていくつかの視神経に所見がみられる疾患をあげたいと思う.特にぶどう膜炎や腫瘍,眼窩疾患からの波及による炎症に注意が必要である.1.Vogt.小柳.原田病Vogt-小柳-原田病(VKH)は,肉芽腫性ぶどう膜炎の型をとるが,視神経腫脹をきたすことが多いため,視神経炎と間違えやすい(図5).視神経炎では眼痛を伴うことが多いが,VKHでは頭痛や項部硬直を伴うことがあるも眼痛はほとんどない.VKHでは,他に眼外症状として難聴,白髪化,皮膚の白斑などをきたす.VKHは,前部ぶどう膜炎をきたす前に視神経腫脹が先行することがあるので,視神経炎と混同しやすい.鑑別のための検査には,蛍光眼底造影で視神経からの蛍光漏出の他に,網膜への蛍光色素のpoolingなど網膜病変の検出が重要である.先述したが,VKHではCFFが軽度低下に留まることも特徴の一つである.2.梅毒による視神経網膜炎感染による視神経炎の一種とも考えることもできるが,通常の視神経炎とは異なり,ステロイド薬治療が第一選択ではないため,鑑別疾患としてしっかり考慮に入れておく必要がある.梅毒は網膜血管炎を伴うことが多いため,当疾患が疑われた場合には蛍光眼底造影が必須である(図6).筆者らの施設では,視神経炎を疑った場合にはスクリーニング検査として,梅毒の検査法である図5Vogt.小柳.原田病の眼底像a:右眼,b:左眼.両眼の視神経乳頭の発赤腫脹および漿液性網膜.離を認める.ab734あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(12) 図6梅毒性視神経炎の眼底像a:視神経乳頭の腫脹を認める.b:蛍光眼底造影で視神経乳頭に一致して過蛍光を認める.図7視神経乳頭周囲髄膜腫a:視神経乳頭は蒼白浮腫をきたしており,シャント血管を認める(矢印).b:MRIT2強調脂肪抑制画像で,tram-tracksignを認める(矢印).abab脂質抗原試験(STS:serologicaltestsforsyphilis)やTPLA(toreponemapallidumlateximmunoassay)を測定している.初期治療は副腎皮質ステロイド薬を用いず,ペニシリン製剤(サワシリンRなど)のみを投与する.3.視神経周囲髄膜腫若年から壮年期の女性において,視神経腫脹をきたす疾患として注意が必要である.視神経の発赤腫脹をきたす通常の視神経炎と異なり,蒼白腫脹に近い外観を呈する.視神経からのshuntvessel(シャント血管)がみられることが多い(図7a).眼窩CTやMRIでは“tramtracksign”がみられる(図7b).比較的まれな疾患であるが,進行した場合には治療がむずかしい.V視神経炎の治療―まず何を行うか―1.ビタミンB12療法視神経炎と診断しても視力低下が軽度の場合には,自(13)然軽快もありうるので,メコバラミンなどのビタミンB12製剤を投与する.視力が0.1以下に低下した場合には,自然に軽快するとしても時間がかかるので,ステロイド薬の大量点滴療法を行う.米国において以前行われた視神経炎におけるステロイド薬治療に対するトライアルでは,1)ステロイド薬点滴療法は視力の回復を早めること,2)ステロイド薬内服療法は再発を2倍にすること,3)自然経過では93%の症例で視力が0.5以上に回復し,一方で患者の30%は5年以内に多発性硬化症を発症することが判明した2.4).米国に引き続き日本においても同様に視神経炎の治療に関する多施設トライアルが行われ,ステロイドパルス療法は視神経炎の回復速度を速めるが,最終的な視機能はプラセボ群と変わらないことや,視神経炎の約6.9%の症例では発症後1年経過しても視力が0.2以下にとどまることなどが判明した5,6).これらのことから,特発性視神経炎が疑われた場合には,安易に副腎皮質ステロイド薬の経口投与を行わず,重篤な視力低下をきたした視神経炎の治療にステあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013735 ロイドパルス療法が必要であると思われる.2.ステロイドパルス療法ステロイドパルス療法は通常ソル・メドロールR1,000mg3日間静脈投与を行う.後療法として,プレドニゾロン0.5mg/kg/dayからの内服療法を開始する.1週間ごとに当初は10mgずつ漸減,20mg以下となったら5mgずつ漸減していき,投与を中止とする.ただし,抗AQP4抗体陽性視神経炎のように,抗体が再度産生されると再発する可能性がある場合は,プレドニゾロン10mg/dayに加えて別項目に示す免疫抑制薬を投与することもある.一方,胃潰瘍の既往がある場合には,消化性潰瘍用薬を処方する.ステロイドパルス療法は,全身にかなりの負担をかけるため,胸部X線や心電図,梅毒や肝炎に対する血清抗体など基本的な検査を事前に行っておいたほうが安心である.万が一,ヘルペス感染症が認められた場合,ステロイドパルス療法後にヘルペス脳炎を発症する可能性があるため,筆者らの施設では念のために血清ヘルペス抗体価(herpessimplexvirus,varicellazostervirusにおける抗体)も測定している.視力低下が投与後も継続するようなら,筆者らの施設では4.5日空けて再度ステロイドパルス療法を予定する.ステロイドパルス療法を行っても視力低下が継続し,視力回復が見込まれない場合は血漿交換療法を考慮する.ステロイド薬の反応性が非常に悪いと感じた場合,ステロイドパルス療法を1クール施行後に血漿交換療法を導入することもある.この場合は,比較的早期に長期間にわたる治療に踏み切るということもあり,神経内科や腎臓内科との入念な検討が必要となる.3.血漿交換療法血漿交換療法に踏み切る前に,抗AQP4抗体の存在を確認しておく必要がある.このために特発性視神経炎が疑われ,ステロイドパルス療法の施行を予定した際に抗AQP4抗体を迅速に測定することが望ましい.血漿交換療法にはいくつか方法があり,大きく分けて単純血漿交換,二重膜濾過血漿交換,免疫吸着療法があげられる.先にあげたものほど治療効果が大きくなる736あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013が,体の負担も大きくなる.先述のように,血漿交換療法を行うときには神経内科と腎臓内科と連携して行う必要がある.そのうえ,血中の免疫グロブリン量が一定量に回復しないと退院させることがむずかしいので,患者は2カ月前後の入院を強いられることになる.さらに血漿交換療法は保険適用外診療となるため,血漿交換療法の導入には慎重にならざるをえない.幸い,本年(2013年)4月より複数の施設で,ステロイド薬抵抗性視神経炎に対して免疫グロブリン大量療法(IVIg)の臨床治験が開始された.この治験で良好な成績が得られれば,免疫グロブリン大量療法は,将来的に血漿交換療法に代わる治療法として普及するものと思われる.4.免疫抑制療法アザチオプリンなどの免疫抑制療法は,抗AQP4抗体陽性視神経炎の血漿交換療法後に後療法としてプレドニゾロンとともに用いることがある.これは,抗AQP4抗体陽性視神経炎の患者が女性に多く,壮年期から高齢期に多発することから,免疫抑制薬を併用してステロイド薬の用量を減量するよう働きかける必要があるためである.免疫抑制薬を併用すれば,骨粗鬆症などの副作用を避けるためのステロイド薬の早期離脱が可能となる.おわりに視神経炎における診断と治療に対する一般的な注意点を中心に述べた.この古くから知られている疾患である視神経炎は,抗AQP4抗体の関与が明らかになるにつれて新たな概念が確立されつつある.また,保険適用外治療となる血漿交換療法に頼らない,次世代の治療法が普及されることを願ってやまない.文献1)石川均:日本における特発性視神経炎トライアルの結果について.神経眼科24:12-17,20072)BeckRW,OpticNeuritisStudyGroup:TheOpticNeuritisTreatmentTrial.ArchOphthalmol106:1051-1053,19883)OpticNeuritisStudyGroup:Theclinicalprofileofacuteopticneuritis:experienceoftheOpticNeuritisTreatmentTrial.ArchOphthalmol109:1673-1678,19914)BeckRW,ClearyPA,AndersonMMJretal:Arandom(14) ized,controlledtrialofcorticosteroidsinthetreatmentofacuteopticneuritis.TheOpticNeuritisStudyGroup.NEnglJMed326:581-588,19925)WakakuraM,Minei-HigaR,OonoSetal:BaselinefeaturesofidiopathicopticneuritisasdeterminedbyamulticentertreatmenttrialinJapan.OpticNeuritisTreatmentTrialMulticenterCooperativeResearchGroup(ONMRG).JpnJOphthalmol43:127-132,19996)若倉雅登:視神経炎治療多施設トライアル研究の概要.神経眼科15:10-14,1998(15)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013737

眼瞼けいれんをみたら

2013年6月30日 日曜日

特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):725~730,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):725~730,2013眼瞼けいれんをみたらViewsofBlepharospasm山上明子*はじめに眼瞼けいれんはまばたき(瞬目)が快適にできなくなる病気であり,まぶたがけいれんする病気ではない.まばたきは呼吸と同様に,無意識のうちに快適に行わなければならない.瞬目が快適にできなくなるとどのような不都合が生じるのか?まず正常の瞬目運動を考えてみる.I正常な瞬目とは瞬目は動眼神経支配の上眼瞼挙筋の収縮による開瞼と,顔面神経支配の眼輪筋収縮による閉瞼の連続した協調運動であり,涙液の分泌や排出といった角膜涙液層維持や,異物除去などの角膜保護,眼筋の緊張解除,網膜の入力補正などさまざまな役割を果たす.正常人が無意識のうちにしている瞬目(周期性瞬目)は1分間に15~20回程度とされる1)が,その他眼瞼や角膜の触覚刺激や光刺激によって誘発される反射性瞬目や精神的過敏によって生ずる随意的瞬目があり,環境や動作・精神状態などさまざまな要素で多様に瞬目の質や回数を無意識のうちにかえて対応している.また,瞬目時には一時的に視覚が遮断されるが,視野が暗くなることを自覚しないように瞬目抑制という脳の機能が働いている.II眼瞼けいれんとは眼瞼けいれんの定義は眼瞼周囲の筋,主として眼輪筋の間欠性あるいは持続性の過度の収縮により不随意的な閉瞼が生じる疾患で,局所のジストニア(身体のいくつかの筋肉が不随意に持続収縮し,捻じれやゆがみが生じるもの)とされる2)が,“瞬目の制御異常”と考えると理解しやすい.瞬目の回数が増加したり閉瞼力が異常に強くなる,開瞼のタイミングが遅れるなど瞬目のコントロールがつかなくなるために,いつも眼のことが気になり集中しても何かを見る気力さえもそがれ,また眼の違和感や強い羞明を伴う厄介な状態である.重症例では自力で開瞼が不能になる場合もある.瞬目機能不全のため角膜涙液維持が異常をきたしドライアイを合併することが多く,BUT(breakuptime)短縮が報告されているほか,強い羞明や眼所見に一致しない眼部の違和感(しょぼしょぼ,ごろごろ,痛い),風がしみるなどの知覚過敏様の感覚異常が持続し,その結果,抑うつ感など精神症状を合併することも多い3).眼瞼けいれんの原因病巣は,大脳基底核や視床を介した基底核-視床-大脳皮質ループを介したGABA(gaminobutyricacid)抑制系の異常やドーパミン系の異常と考えられている4,5).眼瞼けいれんの大半は40歳以降で,男女比は1:2~2.5で女性に多くみられが,薬物(抗不安薬や睡眠導入薬などの向精神薬)の内服歴や化学物質などへの曝露歴が要因となることもある.特に,40歳未満の症例では薬物性が多くみられる.問診の際は既往歴の他,薬物内服歴や環境要因,職業などを含めた問診を追加しておく必要がある.*AkikoYamagami:井上眼科病院〔別刷請求先〕山上明子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)725 III眼瞼けいれんをみつけよう!―診断のコツ―眼瞼けいれんの患者は“まぶたがけいれんする”とか“ピクピクする”といっては受診しない.そのような訴えの場合は,片側顔面けいれんか眼瞼ミオキミアである.眼瞼けいれんに特徴的な愁訴を表16)に示す.眼瞼けいれんの羞明は特徴的であり,パソコンやテレビがまぶしくて見られない,室内でも蛍光灯がまぶしい,窓から差し込む光がまぶしいといった羞明症状があ表1自覚症状・瞬目が多い・まぶしい(外に出ると,または屋内でもまぶしい)・眼が乾く,ごろごろする,うっとうしい,眼をつぶっていたほうが楽・片眼つぶりになってしまう・瞼が垂れる・手指を使わないと開瞼できないことがある・人ごみや人,ものにぶつかる・電柱や立木などにぶつかったことがある・危険を感じるので車や自転車の運転ができなくなった(文献6より改変)表2瞬目負荷テスト・軽瞬(眉毛部分を動かさないで歯切れのよいまばたきをゆっくりしてみる)0点:できた1点:眉毛部分が動く,強いまばたきしかできない2点:ゆっくりしたまばたきができず,細かく速くなってしまう3点:まばたきそのものができず,目をつぶってしまう・速瞬(できるだけ速くて軽いまばたきを10秒間してみる)0点:できた1点:途中でつかえたりして30回はできないが,大体できた2点:リズムが乱れたり,強いまばたきが混入した3点:速く軽いまばたきそのものができない・強瞬(強く目を閉じ,すばやく目を開ける動作を10回してみる)0点:できた1点:すばやく開けられないことが1,2回あった2点:開ける動作がゆっくりしかできなかった,またはできたが後でしばらく閉瞼してしまった3点:開けること自体が著しく困難であるか,10回連続できなかった0点:正常,1~2点:軽症眼瞼けいれん,3~5点:中等度眼瞼けいれん,6~8点:重症眼瞼けいれん.(文献6より改変)726あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013り,通常の白内障や角膜疾患でみられるような強い光で生じる羞明と異なる.その他,電柱や人にぶつかる,階段を踏み外す,歩いていると眼を閉じてしまうといった訴えも眼瞼けいれんの特徴である.また,前眼部の違和感を訴える症例が多く,主訴からはドライアイに非常に類似している.ドライアイを合併している症例でも,眼所見と自覚症状が一致せず,ドライアイ治療に抵抗性の強い違和感を訴える症例や,眼科的に器質的異常がないもしくは少ないのに,眼および眼周囲の違和感や疼痛を強く訴える症例では眼瞼けいれんを疑う.特異的愁訴から眼瞼けいれんを疑ったら,瞬目負荷テスト(表2)6)を行う.重症例では開瞼困難や開瞼失行の症状が容易に観察され,特徴的な顔貌(眉間に強いしわを寄せてまぶしそうな顔貌をしている)からその診断は比較的容易であるが,中軽症例では通常の診察室での様子からでは眼瞼けいれんと診断することは困難である.IV治療(治療の考え方)現在行われている眼瞼けいれんの治療は対症療法であり,根本的な解決策はまだない.以下に示す治療を組み合わせて行っている.1.眼瞼けいれんの誘因の除去眼瞼けいれんは,三環系などの向精神薬の副作用として知られているが,その他抗不安薬・睡眠薬として広く用いられているベンゾジアゼピン系・チェノジアゼピン系の薬剤も眼瞼けいれんの誘発因子であり,また増悪因子である7).誘因を除去・軽減するだけで眼瞼けいれんが軽減・消失することもあり8),薬物との関連が疑われる場合は,他科の処方医との連絡をとりながら薬の変更,減量などを行う.わが国では非常に多く睡眠薬・抗不安薬が処方されている傾向があるが,患者は不眠を病気とは考えていないし,処方医からも副作用のない弱い薬という説明がなされている場合が多く,既往歴や薬の内服歴を問診しても自ら言わない患者も多い.眼瞼けいれんの患者をみたら具体的に睡眠薬や安定剤を内服していないか薬品名を確認し,処方医にコンサルトしながら,減量,中止するように指導していく.(4) 表3ボトックスR投与の実際1.ボトックスR注を生理食塩水(以下,生食)に溶解する.初回投与量は1.25~2.5単位/部位をめやすにする.ボトックスR注50の生食溶解量を下記に示す.添付文書には1カ所あたり0.1ml投与とし溶解量を記載しているが,投与量は少ないほうが痛みが少ないため,部位あたりの投与量を少なくするために,筆者は1バイアル(V)を生食1mlに溶解して使用している.投与単位生食量/V1カ所あたり0.1ml投与1.25単位4mlする場合2.5単位2ml5.0単位1ml投与単位投与量/部位1バイアルを生食1mlで1.25単位0.025ml溶解2.5単位0.05ml5.0単位0.1ml2.疼痛予防目的に,投与部位を注射前に氷で十分冷やす.ペンレステープRを貼付してもよい.3.患者を仰臥位にして,皮膚消毒を行う.アルコール消毒の場合は,十分乾かす.(アルコールによるボトックスR失活を防ぐため)4.27~30ゲージの針で両眼瞼周囲の眼輪筋や,眉間部の皺眉筋,鼻の鼻根筋に投与する.上眼瞼中央部に投与すると眼瞼下垂や上転制限による複視を自覚するため図1における斜線部位には投与を避ける.眼球損傷を避けるために針先の方向や深さ(深くならないように)注意し,不随意な瞬目で針先が動くことがないように工夫する.5.出血部位は乾いたガーゼで圧迫止血する.注射当日は注射部位はこすらないように指導する.また,職業上シンナー・ガソリン・防蟻剤など化学物質に日常的に曝露されている場合や新築・改築などによりシックハウス・シックビルディング症候群の一つとして本症を発症する可能性も指摘されており9),この場合は環境整備などが有効となる.2.ボツリヌス治療眼瞼けいれんの唯一有効な第一選択薬と考えられる.A型ボツリヌス毒素は,神経筋接合部の神経伝達を遮断する作用があり,眼瞼けいれんの場合は,眼輪筋や眼周囲に投与することで眼瞼の不随意運動を末梢性に抑制する.注射後,2~3日から効果が出現し,1~3週でピークとなるが,神経筋接合部の再開通が生じるため,効果は3~6カ月で消失する.わが国で現在承認されているボツリヌス製剤はボトックスR注であるが,投与に際しては施行講習を受ける必要がある(インターネットで受講可能).a.施行の実際(表3)1)ボトックスR注を生理食塩水で溶解する.初回投与量は1.25~2.5単位/部位をめやすにする.2)注射時の疼痛予防目的に投与部位を注射前に氷で冷やす.または,ペンレステープRなどの表面麻酔薬を貼付するなど工夫するとよい.3)患者を仰臥位とし,皮膚消毒を行う.消毒のアルコールを十分乾かしてからボトックスR注投与を行う(ボトックスRの失活を防ぐため).4)27~30ゲージの針で両眼瞼周囲の眼輪筋および眉間部の皺眉筋や鼻根筋に投与する(図1).上眼瞼中央部に投与すると眼瞼下垂や上転制限による複視を生じるた図1ボトックスR注投与部位●:ボトックスRの一般的な投与部位.△:瞬目と一緒に眉毛全体が上下する場合に追加.◇:鼻根部に横しわがある場合に追加.斜線部:投与を避ける部位.(5)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013727 表4ボツリヌス治療のおもな副作用1.注射部位の疼痛・浮腫・皮下出血・つっぱり感などの違和感2.眼瞼下垂3.兎眼・閉瞼不全4.流涙5.複視め斜線部位には投与を避ける.眼球損傷を避けるため針先の方向や深さに(深くなりすぎないように)注意し,不随意な瞬目でも針先が動くことがないように工夫する.5)出血部位は乾いたガーゼで圧迫止血する.注射当日は注射部位をこすらないように指導する.b.ボツリヌス治療のおもな副作用(表4)眼の周りの筋力を低下させるため,眼瞼周囲につっぱり感や表情がつくりにくいなどの違和感がある.その他,眼瞼下垂,兎眼・閉瞼不全,流涙などがあるがいずれも一過性である.通常上記のような軽度の副作用は投与後1~2週間に出現するので,ボツリヌス治療初回時は副作用の出現の有無を確認しておくとよい.c.ボツリヌス治療禁忌・慎重投与1)禁忌・全身性の神経筋接合部の障害をもつ患者(重症筋無力症や筋萎縮性側索硬化症など).・妊婦や妊娠の可能性のある婦人,授乳婦に対する安全性は確立されていない.また,挙児を希望する場合は男女ともボツリヌス治療後3カ月あける必要がある.2)慎重投与・筋弛緩作用を有する薬剤を投与中の患者,閉塞隅角緑内障のある患者もしくは狭隅角眼などのある患者は慎重投与となるので,事前に狭隅角に対する治療(レーザー虹彩切開術や白内障手術)を施行することを検討する.3.遮光眼鏡とクラッチ眼鏡羞明に対しては,遮光眼鏡により主観的にも客観的にも眼瞼けいれんが改善することが報告されている10~12).また,眼瞼けいれんでは眼瞼に軽く触れるだけで瞬目コントロールが改善する(ジストニア特有の固有知覚)場合がある.クラッチ眼鏡とは通常の眼鏡にワイヤーを取728あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013図2クラッチ眼鏡眼瞼を軽く支持するようなワイヤーをつけたもの.ジストニア特有の固有知覚を利用して,瞬目のコントロールを改善する目的で用いる.り付けたもので,上眼瞼に軽く引っ掛けるか触れるようにすると効果的である(図2).眼瞼けいれん重症例では,閉瞼筋力が強くクラッチ眼鏡がうまく装着できない場合もあるが,ボツリヌス治療との併用で筋力を低下させると有効である.4.内服治療2)眼瞼けいれんに対する内服治療はあくまでも補助的にすぎない.抗けいれん薬(リボトリールR,テグレトールR,デパケンR)や抗コリン薬(アーテンR),抗不安薬(セルシンR,デパスR,レンドルミンR),選択的セロトニン取り込み阻害薬:SSRI(パキシルR,デプロメールRなど)が用いられている.しかし,ベンゾジアゼピン系の抗不安薬やリボトリールRは中枢性ベンゾジアゼピン受容体に結合するため,慢性的な投与で中枢性ベンゾジアゼピン受容体のdown-regulationが起こり,眼瞼けいれんの発症・増悪因子であると考えられているため,治療薬として反対意見もある.抗コリン薬(アーテンR)はParkinson病治療薬であるが,アセチルコリン受容体を遮断することで効果を発現し,眼瞼けいれんの治療に用いられる.ボトックスR注のまったくの無効例や効果不良例に投与する.また,強い疼痛を併発する眼瞼けいれん患者でボトックスRが痛みに無効な場合には,中枢性の疼痛抑制効果のあるSSRIを併用することがある.(6) 5.外科的治療眼瞼けいれんの合併症としての眼瞼下垂や眼瞼皮膚弛緩に対して手術を行うことがある.合併症の手術はある程度効果は期待できるものの,眼瞼けいれんの根本的治療ではないため,ボツリヌス治療の継続が必要となる.また,眼瞼けいれんに対する直接的な手術としては眼輪筋切除や眉毛固定,選択的顔面神経切断術があるが,その適応は重症例に限られる.眼瞼下垂の手術をうけても症状が軽快しないとの訴えで受診し,眼瞼けいれんと診断される場合も少なくない.V眼瞼けいれんの治療のコツ・病気を正しく理解してもらおう眼瞼けいれんというと“私の瞼にはけいれんはありません!”と否定されてしまう場合がある.病名は“けいれん”となっているが,その実態は瞬目の異常(瞬目回数の増加,まばたきがコントロールできず開けるタイミングが遅れるなどまばたきが快適にできない状態)ということを説明し,あわせて羞明や眼の違和感など感覚的な異常を合併することを説明していく.羞明や眼痛が主訴の場合はさらに瞬目異常を理解してもらうのは難しいこともあるので,何回か診察しながらボツリヌス導入を検討していく.・治療方法についても正しく理解してもらおう現在行われている治療は対症療法であり,ボツリヌス注射をしても根本治療にはならないこと,ボツリヌス治療の効果がどの程度かは投与してみないとわからず,まったく効果のでない症例もあることをボツリヌス治療前に必ず説明する.・ボツリヌス治療の効果がないといわれた場合ボツリヌス治療だけでは,効果が不十分なことが多く,クラッチ眼鏡や遮光眼鏡を併用していくことを勧めている.また,本人がボツリヌス治療の効果がないと思っていても,投与前の所見が消失したりしていたり,もしくは症状が軽減・消失しているのに気が付いていない場合もあるので,問診でボトックスR投与前にあった症状の有無を確認すると,医師側にも患者側にもどのような効果がでているか判定しやすい.(7)・もっと強くボツリヌス治療をしてほしい筆者は注射後約1カ月で効果を判定している.その時点で眼瞼けいれんが残存し,閉瞼が十分可能であればボツリヌス毒素の量を前回の2倍程度まで増やして投与する.また,瞬目ごとに眉毛全体の上下運動が強い場合の眉毛外側にも追加している(図1).1カ月の時点で眼瞼けいれんが残存していても,閉瞼筋力が低下している場合は投与量を増やしても効果より副作用が表面化してしまうので投与量はそのままとしている.投与量を増やしても効果の持続時間を長くすることはできない.1回のボツリヌス治療だけでは効果の判定が困難な場合は,数回ボトックスR治療を試すと効果を実感することができることがある.逆に長期間の投与継続にて,ボツリヌス治療の効果がわからなくなったら,いったん投与を中止し,注射効果を再度判定しなおすことも考慮する.・羞明がとれないと言われた場合ボツリヌス治療ではある程度羞明が軽減する場合もあるが,消失はない.羞明の残存はボツリヌス投与量の増量では効果は期待できないので,遮光眼鏡の併用を勧める.おわりに眼瞼けいれんの診断は特殊な機械や道具は必要としない.まずは,患者の訴えから眼瞼けいれんを疑うことがコツである.眼瞼けいれん患者の多くはドライアイ,眼精疲労,眼瞼下垂などと診断され,点眼治療や手術をうけるも症状が軽快せず多数の医療機関を受診している場合も多い.治療抵抗性の不定愁訴(ごろごろ,違和感,目が重いなど)を訴える患者には,眼瞼けいれんを疑って診察することをお勧めする.文献1)平岡満里:瞬目の生理と分析法.神経眼科11:383-390,19942)眼瞼けいれん診療ガイドライン:日眼会誌115:617-628,20113)大石恵理子,若倉雅登:眼瞼けいれん患者におけるCES-Dを用いた気分障害の評価.神経眼科27:422-428,20104)PerlmutterJS,StambukMK,MarkhamJetal:Decreasedあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013729 [18F]spiperonebindinginputameninidiopathicfocaldystonia.JNeurosci17:843-850,19975)SuzukiY,MizoguchiS,KiyosawaMetal:Glucosehyper-metabolisminthethalamusofpatientswithessentialblepharospasm.JNeurol254:890-896,20076)若倉雅登:眼瞼ジストニア(眼瞼けいれん)の概念と診断.眼科50:895-901,20087)WakakuraM,TsubouchiT,InouyeJ:Etizolamandbenzodiazepineinducedblepharospasm.JNeurolNeurosurgPsychiatry75:506-509,20048)EmotoY,EmotoH,OishiEetal:Twelvecasesofdrug-inducedblepharospasmimprovedwithin2monthsofpsychotropiccessation.DrugHealthcPatientSaf3:9-14,20119)若倉雅登:化学物質による眼瞼痙攣発症.医学のあゆみ208:774-775,200410)HerzNL,YenMT:Modulationofsensoryphotophobiainessentialblepharospasmwithchromaticlenses.Ophthalmology112:2208-2211,200511)VitaleS,MillerNR,MejicoLJetal:Arandomized,placebo-controlled,crossoverclinicaltrialofsuperblue-greenalgaeinpatientswithessentialblepharospasmorMeigesyndrome.AmJOphthalmol138:18-32,200412)BlackburnMK,LambRD,DigreKBetal:FL-41tintimprovedblinkfrequency,lightsensitivity,andfunctionallimitationsinpatientswithbenignessentialblepharospasm.Ophthalmology116:997-1001,2009730あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(8)

序説:神経眼科 Minimum Requirements

2013年6月30日 日曜日

●序説あたらしい眼科30(6):723.724,2013●序説あたらしい眼科30(6):723.724,2013神経眼科MinimumRequirementsMinimumRequirementsforNeuro-Ophthalmology三村治*神経眼科学というと何かむずかしいもの,特別な知識やMRI(磁気共鳴画像)などの神経画像が必要なもの,自分とは関係のない分野とお考えの先生方が多いのではないであろうか.しかし,日常臨床においては眼科専門医というだけで,しばしば眼内に異常を認めない眼瞼異常,原因不明の視力障害,両眼複視などさまざまな症状を訴える患者が来院する.これらの患者に私の専門は眼の中の疾患だけだからといってもまず理解が得られることはない.眼科専門医として診療を行う以上,最低限の神経眼科診療の基礎知識をもつことが必要不可欠である.しかも,神経眼科疾患といっても決してむずかしいものではない.簡単なコツをつかんで,丁寧な問診や視診を行えば,それらの患者の多くはおおよその診断がつく可能性がある.ただ,神経眼科疾患のなかには脳動脈瘤や抗アクアポリン(AQP)4抗体陽性視神経炎など緊急の治療を要するものもあるので注意が必要である.本特集は,最近特に診断法や治療法が進歩し,神経眼科領域でもトピックスになっている疾患や徴候をテーマに,神経眼科とその関連分野の新進気鋭からベテランまで幅広く専門家に解説をお願いした.最初のテーマの眼瞼けいれんでは,2011年日眼会誌に診療ガイドラインが掲載され,瞬目テストなども十分記載されているにもかかわらず,いまだに難治性ドライアイとして治療されている患者が多くみられる.そこで,この疾患を日本で最も多く治療しておられる井上眼科病院の山上明子先生に多数の自験例での工夫も含め解説していただいた.視神経炎を知らない眼科医はいないであろう.しかし,視神経脊髄炎の血清中に抗AQP4抗体の存在が証明されて以降,視神経炎の診療は大きく変わりつつある.“Waitandsee”だけでも良いとされた予後の良好な視神経炎と異なる抗AQP4抗体陽性視神経炎を考慮すべき時代になった.この点を日眼総会の評議員指名講演をされた東京医科大学の毛塚剛司先生に鑑別診断も含め新たな診療方針を述べていただいた.ほとんどの眼科で,治療法はないといわれている先天眼振患者の悩みは大きい.しかし,異常頭位を訴える患者の頭位の矯正は比較的容易であるし,周期性交代性眼振などでは劇的な眼振の減少を得られるケースをしばしば経験する.この分野ではわが国で最も手術実績の多い兵庫医科大学の木村亜紀子先生にコンタクトレンズによる治療,プリズム療法とともに治療の注意点の解説をお願いした.甲状腺眼症は甲状腺機能亢進がなくても発症する.この基本的な知識を知らない内科医(場合によっては内分泌内科医)も多い.しかも眼瞼症状が先行する甲状腺機能亢進症も多い.したがって,眼科*OsamuMimura:兵庫医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(1)723 医は眼瞼異常をみれば甲状腺眼症を疑い,まず甲状腺関連自己抗体や画像検査を行うべきである.この甲状腺眼症を疑うべきポイントと検査,治療のポイントを手稲渓仁会病院の鈴木康夫先生に述べていただいた.両眼複視の大部分は眼運動神経麻痺によるものである.しかし,患者が知りたいその自然治癒率,平均改善期間の情報については意外と知られていない.そこで,動眼,滑車,外転神経の原因別予後を京都大学の宮本和明先生の豊富な自験例から解説するとともに,検査の進め方と管理の基本方針についても触れていただいた.特に脳動脈瘤による動眼神経麻痺は初診の眼科医こそがきわめて重要な役割を負うことになる.最近のOCT(光干渉断層計)の進歩と普及は凄まじいものがある.しかし,OCTが意外に神経眼科疾患でも鑑別診断や予後の判定に重要であることは知られていない.以前は難治性球後視神経炎と診断されていた若年女性のかなりの部分が,おそらく急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)ではなかったかと考えられている.それほどAZOORと球後視神経炎の鑑別は一見むずかしいが,実はOCTと多局所網膜電図(ERG)で容易になる.神戸大学の中村誠先生にはそれ以外の視覚路病変でもみられるOCTでの有用性と問題点について解説していただいた.神経眼科関連分野に眼窩領域がある.この分野においての最新のトピックスといえばリンパ増殖性疾患とIgG4関連眼疾患の概念であろう.2005年にMikulicz病に血清IgG4の増加がみられることが日本人により報告されて以降,その臨床例の報告が相次ぎ,決してまれな疾患ではないことが判明した.そこで,IgG4関連眼疾患に最も造詣の深い金沢大学の高比良雅之先生にIgG4関連眼疾患とその他の眼窩腫瘍性疾患について,さらには眼科救急疾患の1つである眼窩骨折の病態についても述べていただいた.神経眼科と神経内科の境界領域の疾患としては,重症筋無力症,多発性硬化症などとならんでFisher症候群がある.重症例では小脳失調まできたすものの大部分の患者は複視で眼科を初診する.この疾患が神経内科領域の難解でまれな疾患でないことを佐賀大学の大野新一郎先生に解説をお願いした.決してまれな疾患ではなく,単なる“先行感染後に起こる外眼筋麻痺”との理解が進むはずである.神経眼科領域でも悪性腫瘍は存在する.眼窩では原発性にも発生するし,隣接臓器の副鼻腔からの浸潤圧迫や転移でも発生する.さらに視神経の悪性腫瘍では膠腫以外に白血病細胞の浸潤などがある.私たち眼科医は種々の治療にもかかわらず進行性に悪化がみられる場合には常に悪性腫瘍を念頭に置かなければならない.この領域ではやはり経験の非常に豊富な静岡県立がんセンターの柏木広哉先生に解説していただいた.さらに放射線障害や悪性腫瘍随伴症候群についても触れていただいた.この特集の前半は初級編,後半は上級編といえるが,いずれもそれぞれの筆者の経験に基づいた解説でなるほどと思わせるものである.どこからでもお読みいただき,神経眼科診療のコツと最新の知識に触れていただき,明日からの眼科診療に役立てていただければ編者として望外の幸せである.724あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(2)

治療に苦慮した眼窩蜂巣炎の1例

2013年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科30(5):712.716,2013c治療に苦慮した眼窩蜂巣炎の1例石田友香*1廣渡崇郎*1吉丸芳美*2寺尾元*3秋澤尉子*1*1東京都保健医療公社荏原病院眼科*2吉丸眼科医院*3東京都保健医療公社荏原病院耳鼻咽喉科ACaseofRefractoryOrbitalCellulitisTreatedOnlywithAntibioticsTomokaIshida1),ToshioHirowatari1),YoshimiYoshimaru2),HazimeTerao3)andYasukoAkizawa1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanHealthandMedicalTreatmentCorporationEbaraHospital,2)YoshimaruEyeClinic,3)DepartmentofOtolaryngology,TokyoMetropolitanHealthandMedicalTreatmentCorporationEbaraHospital筆者らは,軽度の副鼻腔炎から波及したと思われる難治性の眼窩蜂巣炎の成人症例を経験した.症例は37歳,男性.右眼周囲の発赤,腫脹,疼痛を主訴に東京都保健医療公社荏原病院眼科を受診した.視力は両眼とも矯正で(1.5),視野異常もなかった.右眼球は突出し,眼球運動はほとんどみられなかった.Magneticresonanceimaging(MRI)では,右眼窩内上方から内側に眼窩骨膜に沿って眼窩尖部にまで及ぶ不均一で造影増強効果のある病変が検出され,右眼窩蜂巣炎と診断した.原因は右篩骨洞炎と思われた.セフェム系,カルバペネム系の抗生物質点滴投与にて,症状が改善せず,アミノグリコシド系抗生物質の経結膜的球後注射を4回施行したところ,眼瞼の発赤,腫脹,疼痛と眼球運動障害が改善し,後遺症なく保存的療法のみで治癒を得た.眼窩蜂巣炎は,進行により失明や敗血症など生命にかかわる緊急疾患であり,早期診断,治療は重要である.今回いくつかの反省を踏まえ,その治療経過を報告した.Background:Weexperiencedanadultcaseofrefractoryorbitalcellulitiscausedbymildsinusitis.Subject:A37-year-oldmalereferredtousfororbitalcellulitisdeterioration.Observation:Atfirstexamination,weobservedswellingandruborofhisrighteyelid,exophthalmosofhisrighteyeballandocularmotorfailure.Magneticresonanceimaging(MRI)showedanenhancedlargelesionintheupper-nasalorbitandmildethmoidsinuses,whichweconcludedwasthecauseoftheorbitalcellulitis.Wegaveanintravenousdripofbroad-spectrumantibiotics,butwithnoameliorativeeffect;wethereforeadministeredaretrobulbarinjectionofantibiotics.Thiswaseffective;wedidthisthreemoretimes.Thepatientexperiencedremissionoftheeyelidswellingandrubor,hiseyemovementbecamenormalandthediplopiadisappeared.Conclusion:Wereportedrefractoryorbitalcellulitis,withsomeconsiderationregardingthetreatmentanddecisionoftreatmenteffect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):712.716,2013〕Keywords:眼窩蜂巣炎,磁気共鳴画像(MRI).orbitalcellulitis,magneticresonanceimaging(MRI).はじめに眼窩蜂巣炎は,急性の細菌感染であり,感染経路として副鼻腔から眼窩への炎症の波及が最多である.重症化すると失明に至る場合や,頭蓋内への波及や敗血症など生命に危険を及ぼす場合もあり,速やかな診断と適切な治療を必要とする救急疾患である.一般には抗生物質の全身投与で予後は改善されることが多いが,その効果が低い場合は早急に観血的処置が必要となることもある1).発症年齢は小児(10歳にピーク)と40歳代の二峰性を示すといわれている2).今回,筆者らは,軽度の副鼻腔炎から波及したと思われる難治性の眼窩蜂巣炎の成人症例を経験したので,その治療経過を報告する.I症例患者:37歳,男性.主訴:右眼周囲の発赤,腫脹,疼痛.既往歴・生活歴:職業サーファー,花粉症,イヌを飼っている.現症:2012年3月11日から右上眼瞼の発赤,腫脹と疼痛があり,同日に近医を受診し,霰粒腫の診断で,レボフロキ〔別刷請求先〕石田友香:〒145-0065東京都大田区東雪谷4-5-10東京都保健医療公社荏原病院眼科Reprintrequests:TomokaIshida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanHealthandMedicalTreatmentCorporationEbaraHospital,4-5-10Higashiyukigaya,Ota-ku,Tokyo145-0065,JAPAN712712712あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(134)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY サシン500mg1日1回内服と,レボフロキサシン点眼とフルオロメトロン0.1%点眼1日4回を処方された.しかし,5日目に右眼瞼の発赤,腫脹が高度となり,疼痛が悪化し,頭痛も出現したため,3月16日に他医院を受診し,眼窩蜂巣炎の疑いにて,同日に東京都保健医療公社荏原病院眼科(以下,当院)に紹介となった.初診時所見:右上眼瞼の発赤,腫脹が高度であった.右眼眼球結膜は浮腫を伴い充血高度であり,眼球突出していた.霰粒腫を示唆するしこりは触れなかった.角膜から中間透光体,眼底には異常所見はなかった.視力は右眼0.2(1.5×(cyl.2.0DAx80°),左眼1.5(n.c.),Goldmann視野検査は正常範囲であった.副鼻腔造影磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)では,右眼窩内上方から内側に眼瞼皮下から,眼窩骨膜に沿って眼窩尖部にまで及ぶ不均一で造影増強効果のある病変が検出された.隣接する右篩骨洞の軽度の粘膜肥厚と,右鼻腔粘膜の明らかな肥厚を認めた.しかし,明らかな骨破壊や脳への進展はみられなかった(図1).血液検査では,白血球は7,600個/μlと正常範囲内,C-reactiveprotein(CRP)は,1.14mg/dlと軽度上昇であったが,その他には異常値はなかった.体温は正常範囲であった.初診時に採取した右下眼瞼の結膜.の培養は陰性であった.花粉症による水様性鼻漏は軽度であったが,鼻すすりの癖があった.Radioallergosorbenttest(Rast)では,ハウスダスト,ヤケヒョウダニ,スギ,ヒノキが陽性であった.T2W1水平断:入院時T2W1冠状断:入院時図1入院時MRI(3月19日)左:T2W1水平断.右眼窩鼻側から,眼窩骨膜に沿って眼窩尖部にまで及ぶ不均一で造影増強効果のある病変がみられる(矢頭).右:T2W1冠状断.右眼窩内上方に造影増強効果のある病変があり,眼球が偏移している.隣接する右篩骨洞の軽度の粘膜肥厚と,右鼻腔粘膜の明らかな肥厚もみられる.眼瞼腫脹+++++++++++++++++-眼球突出++++++++++++++++++-疼痛+++++++++++++++++-眼球運動障害++++++++++++++++++-図2入院後経過WBC(個/μl)8,7005,4007,8006,2007,400入院後の臨床経過を図にして示す.CRP(mg/dl)5.21.550.540.261.06WBC:白血球.CRP:C-reactiveprotein.CEZ:セファゾリンナトリウム.治療CEZ5g/dayMEPM2g/dayMEPM:メロペネム水和物.AMK:アミカシン硫酸塩.AMK400mg/dayAMK球後注射4回3/193/223/253/263/283/294/54/13入院退院(135)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013713 経過:眼窩蜂巣炎の診断のもと,入院による加療を勧めたが,本人の都合で入院を希望しなかったため,外来でセフォチアム塩酸塩2gを点滴し,帰宅した.翌日も同様の点滴を施行したが改善なく,右眼瞼の発赤,腫脹が著明に悪化していった.3月19日には,白血球8,700個/μl,CRP5.2mg/dlと上昇し,右眼瞼の発赤,腫脹と眼球突出が増悪し,眼球はやや外斜したまま眼球運動がまったくない状態となったため,同日緊急入院となった.入院後経過(図2):3月19日から第二世代セフェム系のセファゾリンナトリウム(cefazolin:CEZ)1g5回/日を点滴投与開始した.3月22日には白血球52,400個/μl,CRP1.55mg/dlと改善し,右眼瞼の浮腫や発赤はやや改善し,疼痛も軽減したが,眼球突出と眼球運動に改善はなかった.3月25日に,疼痛の悪化があり,右眼瞼の腫脹が悪化した.白血球7,800個/μl,CRP0.54mg/dlであり,CRPは改善していたが,白血球数が上昇しており,所見や自覚症状の悪化と合わせ,改善なしと判断し,3月26日から抗生物質点滴を,広域スペクトルをもつメロペネム水和物(mero図3Hessチャート(3月28日)右眼眼球運動が大きく制限されている.T2W1水平断:退院後T2W1冠状断:退院後図4退院後MRI(4月18日)左:T2W1水平断.右:T2W1冠状断.両方とも炎症所見は消失し,正常範囲の画像を示している.714あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(136) penem:MEPM)2g/日に変更した.3月28日には白血球6,200個/μl,CRP0.26mg/dlと改善し,疼痛の改善と,他覚的な腫脹も軽減した.眼球運動も改善しはじめたため,Hessチャートによる評価を開始した(図3).3月29日に眼瞼腫脹と疼痛の訴えがあり他覚的にも腫脹の悪化があった.白血球も7,400個/μl,CRP1.06mg/dlとごく軽度の悪化を認めた.血液検査では軽度の炎症所見であったが,眼瞼腫脹や眼球運動障害の所見は著明であり,MEPMの効果は低いと判断した.そこで同日から,アミカシン硫酸塩(amikacin:AMK)の球後注射を併用した.副鼻腔MRIで炎症の強かった上鼻側の結膜に切開を入れ,27ゲージヒーロンR針でAMK1mlを投与したところ,著明に眼瞼の腫脹が改善し,疼痛も消失した.このため,3月29日からAMKの球後注射を2日おきに3回追加し合計4回行ったところ,眼球運動も著明に改善し,内転障害のみ残存する状態となった.4月3日に副鼻腔MRIを再検したが,右眼窩内の炎症所見が著明に軽減し,膿瘍形成はなかった.残存した炎症所見に対し,AMKの球後注射が著効したことから,抗生物質全身投与を4月5日よりAMK(400mg/日)の点滴に変更した.4月11日にミノサイクリン塩酸塩(minocyclinehydrochloride:MINO)100mg/日の内服に切り替え退院とした.退院後の副鼻腔MRIでは,造影効果のある炎症病変は消失しており,眼球突出もみられなくなっていた(図4).複視の訴えも消失,Hessチャートも正常範囲となった.II考按眼窩蜂巣炎の原因としては,副鼻腔疾患(炎症性,.胞性,腫瘍性,外傷性など)が最多で,ついで眼瞼の化膿性疾患,骨髄炎と報告されている2).副鼻腔から眼窩への感染の進展経路は,直接組織を伝わる経路,骨孔や骨裂隙を経る経路,神経周囲間隙を経て神経に伝わる経路,血管やリンパ管を経る経路が指摘されている.特に篩骨洞と眼窩の間は,篩状板という薄い軟骨でできており,炎症が波及しやすいため,篩骨洞の病変は眼窩蜂巣炎の原因となりやすい3).本症例では,眼瞼に霰粒腫,麦粒腫,涙.炎などの所見はなく,軽度ではあるが,篩骨洞の粘膜の肥厚像があり,副鼻腔炎が契機となり眼窩蜂巣炎を発症したと考えた.また,鼻腔の粘膜の肥厚が著しく,アレルギー検査では,花粉症とイヌのアレルギーが示唆されたことからアレルギー性鼻炎も増悪因子の一つと考えた.患者はサーファーで,毎週サーフィンをして,激しい鼻かみを繰り返し,入院後も鼻すすりの癖がみられた.鼻すすり動作は胸腔内に生じた陰圧が下気道,上気道に波及することによって鼻孔から空気を吸引する動作であり,鼻咽腔に陽圧が発生する.鼻かみ動作も,鼻咽腔に陽圧が発生す(137)る.これらの動作は耳管を通じて中耳圧の変化を起こし,中耳炎の原因となることが指摘されている4).本症例は,小児や免疫不全者ではないが,副鼻腔炎に激しい鼻かみや鼻すすり癖の動作が加わることで,中耳炎と同様の機序で炎症が骨隙や静脈を伝って波及しやくなったために,軽度の副鼻腔炎から重症の眼窩蜂巣炎を発症したと考えられる.副鼻腔炎の評価を造影MRIのみで行ったが,初診時に造影computedtomography(CT)で,副鼻腔炎の厳密な評価,骨の状態の評価,眼窩内の気泡の有無の評価などを行うべきであった.眼窩蜂巣炎の治療の基本は抗生物質の全身投与である.培養の結果が出るまで,広域抗生物質を使用し,原因菌を同定したところでターゲットを絞った抗生物質に変更していくのが一般的である5).金子らは,24.48時間の抗菌薬投与でも改善を認めない場合,視力障害を認める場合,敗血症,髄膜炎などの全身症状が出現する場合,膿瘍が証明され臨床症状を伴う場合に,外科的治療の適応があるとしている6).40%近くが手術となったという報告もある2).今回上記には該当せず外科的治療への移行を行わなかったが,抗生物質の全身投与で速やかに改善したわけではなく,治療に苦慮した.その原因として,原因菌が同定できなかったことがある.結膜.培養も,すでに近医で抗生物質の点眼を投与されている状態であったことと,結膜に膿が露出していたわけではなかったため,菌を検出できなかった.耳鼻咽喉科からの報告では,眼脂のみならず,鼻腔や咽頭からも培養をとっており,これらから菌が検出されている3).そもそも,鼻領域からの炎症の波及を考えると,抗生物質全身投与前に耳鼻咽喉科に依頼し鼻腔内の特に篩骨洞に近い部分の培養を取るべきであった.本症例は,セフェム系,カルバペネム系の抗生物質全身投与は無効であった.成人の場合,StreptococcusspeciesやStaphylococcusaureusが原因菌として多いとされており1),それらをターゲットにグラム陽性球菌に強い第一世代セフェム系を選択した.しかし,セフェム系は無効でありターゲット外のグラム陰性桿菌がその原因として考えられた.グラム陰性桿菌の頻度は低いが,緑膿菌の報告は散見される1,3).しかし,抗菌スペクトルを広げてカルバペネム系MEPMの投与を行ったが,それも無効であり,結局はアミノグリコシド系のAMKが有効であった.MEPMの耐性菌として,最近多剤耐性緑膿菌の報告があるが,そのなかで新谷の報告では,2010年の院内の喀痰由来緑膿菌で,AMKの薬剤感受性率は88.9%に対し,MEPMは70.8%であった7).このように,今回MEPMに耐性を獲得しているが,AMKの薬剤感受性が保たれている菌による感染であったために,薬物療法が難航した可能性が高い.また,耐性菌のみならず,眼窩は血流の乏しさによる抗生物質の組織移行性の低さが考えられたため,球後注射によるあたらしい眼科Vol.30,No.5,2013715 抗生物質投与も行った.眼窩蜂巣炎に対する抗生物質の球後注射という治療に関しては,筆者らの調べた限りでは今まで報告がない.しかし,この方法は,侵襲性が低く,なおかつ今回は有効であったことから,外科的治療を検討する前に試みてよい治療方法と思われる.また,AMKは,当院で白内障手術時に感染予防の結膜下注射で使用してきて,今までそれによる合併症がでていなかったことから,球後注射に採用したが,本症例でも,視神経や眼球運動を含め,特にAMKによると思われる合併症はみられなかった.球後注射による抗生物質投与に関しては,さらに多数の症例による有効性の検討が必要である.治療を選択し,変更していく過程において,その評価方法も重要である.眼窩蜂巣炎では,入院時に発熱があったものは半数以下であり,血液検査もほかの全身感染症に比べると,炎症反応がでにくい傾向にある3).本症例も発熱はなかった.血液所見の炎症反応は中等度で,抗生物質投与後早い時期に正常範囲となったが,眼球突出や眼球運動制限などの臨床所見からは治癒といえる状態ではなかったため,血液所見や体温を指標とすることは困難であった.視診による腫脹,発赤のほかには,疼痛や複視などの自覚症状を指標とするには定量性に欠けることが問題であった.抗生物質終了や変更の分岐点での評価は副鼻腔MRIで行った.これは有用な検査であるが,頻回には行いにくい.そこで,本症例の場合は入院時にまったく眼球運動がなく,治療により改善していったので,眼球運動をHessチャートで評価し,治療効果判定の指標の一つとした.Hessチャートは簡便で,比較もしやすいので,治療効果判定の指標の一つとしては適していると思われる.本症例は治療が難航したが,抗生物質の全身投与のみでなく,球後注射を行ったことで視野障害や視力障害,眼球運動障害を残さずに,保存的治療のみで治癒に至った.難治性眼窩蜂巣炎を経験し,抗生物質の球後注射併用が効いたために保存的療法で治癒可能であった.しかし,上記のようにいくつかの反省点があったため,その経過と治療内容を報告した.今後さらによりよい治療を目指していきたいと思う.文献1)大島浩一:眼窩疾患の取り扱い方─眼窩内感染症─眼科の立場より─.JOHNS25:1097-1101,20092)藤島浩,平形寿孝,木村肇二郎:慶大眼科における眼窩蜂窩織炎の統計的観察.眼紀42:268-272,19913)山岸由佳,名田匡利,横山壽一ほか:副鼻腔炎に併発した眼窩蜂窩織炎に関する報告.日本外科感染症学会雑誌7:299-306,20104)崎川康彦:鼻すすりの病態と生理鼻すすりによる中耳圧・髄液圧の変化.JOHNS16:1045-1048,20005)工藤睦男,古矢彩子,嶋根俊和ほか:眼窩内疾患の取り扱い方眼窩内感染症─耳鼻咽喉科の立場から─.JOHNS25:1102-1105,20096)金子研吾,里和一仁,久保田修ほか:副鼻腔炎による眼窩内合併症─32症例の臨床的検討─.日鼻誌42:130137,20037)新谷雅司:当院(山本第三病院)の分離緑膿菌の薬剤感受性と本菌の薬剤耐性化システム.化学療法の領域26:22632271,2010***716あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(138)

若年女性に発症した視神経乳頭炎に起因する網膜中心静脈閉塞症の1例

2013年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科30(5):707.711,2013c若年女性に発症した視神経乳頭炎に起因する網膜中心静脈閉塞症の1例齊間麻子*1古谷達之*1陳麗理*2豊口光子*3堀貞夫*4*1済生会川口総合病院眼科*2東京女子医科大学眼科学教室*3東京女子医科大学八千代医療センター眼科*4西葛西・井上眼科病院CentralRetinalVeinOcclusionResultingfromOpticDiscVasculitisinYoungFemaleAsakoSaima1),TatsuyukiFuruya1),ChenReiri2),MitsukoToyoguchi3)andSadaoHori4)1)DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKawaguchiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityYachiyoMedicalCenter,4)NishikasaiInoueEyeHospital目的:関節リウマチと貧血がある若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の症例を報告する.症例:31歳,女性.右眼の霧視を主訴に東京女子医科大学病院を受診.右眼矯正視力は1.2で,前眼部に特記すべき所見はなかったが,網膜静脈の蛇行・拡張,周辺部網膜出血,視神経乳頭の軽度腫脹を認めた.左眼には特記すべき所見はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影では視神経乳頭の軽度過蛍光と網膜静脈からの蛍光色素の漏出は認めたが虚血性変化はなかった.1カ月後に眼底所見が増悪したため,貧血の是正と,関節リウマチの治療としてのステロイド薬を2.5mg/日から30mg/日に増量した.1.5カ月後に眼底所見は改善し,その後2年間にわたり再発を認めなかった.結論:関節リウマチと貧血に合併してCRVOを発症したと考えられた.ステロイド薬の増量と貧血の是正が奏効し,本症例は乳頭血管炎に起因するCRVOと考えられた.Purpose:Toreportacaseofcentralveinocclusioninayoungfemalewithsystemiccomplicationsofrheumatoidarthritisandanemia.Case:A31year-oldfemalevisitedTokyoWomen’sMedicalUniversityHospitalwithcomplaintofblurredvisioninherrighteye.Correctedvisualacuitywas1.2;fundusexaminationrevealedtortuousdilatationintheretinalvein,scatteredretinalbleedingintheperipheryandmilddiscswelling,withnofindingsintheanteriorsegment.Noabnormalsignsweredetectedinthelefteye.Fluoresceinangiographyshowedmildhyperfluorescenceonthediscandslightstainingoftheretinalveinwithoutnon-perfusionarea.Thesefindingsworsenedafter1month;doseinsystemicadministrationofsteroid,whichhadbeenadministeredtotreattherheumatoidarthritis,wasincreasedfrom2.5mg/dayto30mg/dayandcorrectedtheanemia.Thesymptomssubsidedin1.5months,withnoregressioninthe2yearssince.Conclusion:Thecentralretinalveinocclusion(CRVO)wasthoughttohaveoccurredasacomplicationofrheumatoidarthritisandanemia.Theincreaseddoseofsteroidadministrationresultedinthehealingofthesymptoms.TheCRVOinthiscasewasconsideredtohaveresultedfromopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):707.711,2013〕Keywords:中心静脈閉塞症,関節リウマチ,貧血,ステロイド,乳頭血管炎.centralveinocclusion,rheumatoidarthritis,anemia,steroid,opticdiscvasculitis.はじめに化が主要要因と考えられている1)が,7.20%くらいの頻度網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:で50歳以下の若年者に発症すると報告されている2).広範CRVO)はおもに高齢者に発症し,高脂血症,高血圧,糖尿な火炎状網膜出血を特徴とし,強膜篩状板またはその付近で病などの全身疾患を背景として発症するものが多く,動脈硬の網膜中心静脈の圧迫や,血栓形成により中枢側への血流の〔別刷請求先〕齊間麻子:〒332-8558川口市西川口5-11-5済生会川口総合病院眼科Reprintrequests:AsakoSaima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKawaguchiGeneralHospital,5-11-5Nishikawaguchi,Kawaguchi,Saitama332-8558,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(129)707 障害が原因とされている3).CRVOの自然経過は予後不良で,初診時視力が不良なほど最終視力が悪く,初診時視力が20/200では最終視力が20/200未満であり,初診時視力が20/200.20/50では改善が19%,不変が44%,悪化が37%であったと報告されている4).50歳未満の若年者では喫煙,高血圧,経口避妊薬,過剰な水分の摂取,血液の過粘稠状態に由来する深部静脈血栓などが危険因子とされている3).原因疾患として,鉄欠乏性貧血,抗リン脂質抗体症候群,潰瘍性大腸炎,インターフェロン治療中の慢性C型肝炎,長期にわたるステロイド薬の内服などの報告例がある5.12).若年者における乳頭浮腫を伴うCRVOを,Hayrehは乳頭血管炎(opticdiscvasculitis)としてまとめ,病型は多くの場合非虚血型でその経過は緩徐であるが予後は良好であり,後遺症として,基幹網膜静脈および乳頭上の拡張した血管の白鞘形成がみられるとしている13).今回筆者らは,既往歴にコントロール不良の関節リウマチと小球性低色素性貧血がある若年女性の片眼の乳頭血管炎に起因すると思われるCRVOにおいて,すでに投与されていたプレドニゾロン全身投与を増量したことと,貧血の是正が奏効した症例を経験したので報告する.I症例患者:31歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:23歳発症の関節リウマチ,30歳発症の貧血.現病歴:平成22年6月初診.9日前から右眼の中心付近の霧視を自覚するようになり,徐々に増悪したため近医眼科を受診した.切迫型CRVOの疑いで精査目的にて東京女子医科大学病院に紹介受診となった.既往歴の関節リウマチは関節痛が強く,コントロール不良でありプレドニゾロン内服の増量が検討されていた.貧血も約1カ月前から治療開始されたが,それまで1年以上未治療であった.初診時所見:視力は右眼0.02(1.2×.8.5D),左眼0.03(1.2×.7.0D(cyl.0.5DAx5°),眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHgであった.相対的瞳孔求心路障害は両眼とも陰性で,前眼部,中間透光体に異常は認めなかった.右眼眼底に網膜静脈の蛇行・拡張,周辺部に網膜出血の散在,および視神経乳頭の軽度腫脹を認め,左眼眼底には異常所見はみられなかった(図1a).フルオレセイン蛍光眼底撮影では早期像で右眼動静脈循環時間の遅延はなく(図1b),後期像では視神経乳頭に軽度過蛍光と後極静脈からの蛍光色素の漏出を認めたが,虚血性変化はなかった(図1c).光干渉断層計では.胞様黄斑浮腫は検出されなかった.血液生化学検査では血小板数(Plt)が高値であり,ヘモグロビン値(Hb),ヘマトクリット値(Ht),平均赤血球容積(MCV)の低値を認708あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013め,小球性低色素性貧血であった(表1).血糖,コレステロールおよび中性脂肪値は正常で,糖尿病や高脂血症はなかった.経過:初診時の眼所見から右眼の切迫型CRVOと診断された.右眼矯正視力1.2と良好であり,若年の非虚血型CRVOであったので,以前より内科で処方されていた.プレドニゾロン2.5mg/日,メトトレキサート12.5mg/週,溶性ピロリン酸第二鉄5mg/日は同量のまま継続とし,新たにアスピリン81mg/日とカリジノゲナーゼ150mg/日の内服を開始して経過観察した.初診から1カ月後の視力は矯正1.2と良好であったが,右眼眼底に網膜静脈の蛇行・拡張,火炎状網膜出血,軟性白斑の散在と一部にRoth斑を認め,視神経乳頭は発赤腫脹し乳頭血管炎の所見を呈していた(図1d).血液生化学検査ではHb,Ht,MCVは低値のままで,Pltも高値のままであり,C反応性蛋白(CRP)は1.32mg/dlと高値を示していた.関節リウマチと小球性低色素性貧血以外の血管閉塞をきたす疾患も考えられたため,抗リン脂質抗体症候群およびSjogren症候群について検査を施行したが,異常値は認めなかった(表1).同日よりウロキナーゼによる線溶療法(24万単位/日の点滴静注を2日間,12万単位/日の点滴静注を2日間,6万単位/日の点滴静注を2日間)を行ったが,ほとんど改善は認めなかった.初診後33日よりワルファリンカリウム5mg/日の内服を開始し,内科と相談のうえさらにプレドニゾロンを30mg/日に増量した(図2).プレドニゾロン増量後11日には右眼眼底の網膜静脈の蛇行・拡張は改善し,火炎状網膜出血は減少し,視神経乳頭腫脹の改善を認めた(図1e).そのさらに約1カ月後には視力は矯正1.2と良好なままであり,点状出血が残存するものの網膜静脈の蛇行・拡張および視神経乳頭腫脹はさらに改善していた(図1f).同日の血液生化学検査では,Hb,Ht,MCVは上昇して小球性低色素性貧血は改善,Pltの減少とCRPの上昇も改善した(表1).その後3カ月ごとの経過観察を行ったが,関節リウマチと貧血のコントロールも安定し再発は認めず,約2年後にも再発はなかった.II考按若年者における乳頭浮腫を伴うCRVOを,Hayrehは乳頭血管炎(opticdiscvasculitis)としてまとめた13).その臨床的特徴として,健常な若年者の片眼に発症し,軽い霧視が唯一の症状であり,視力低下は軽度で経過中に正常に復すること,眼底所見は著明な乳頭浮腫と網膜静脈の拡張・蛇行,乳頭およびその周辺の網膜出血を伴うこと,病型は多くの場合非虚血型でその経過は緩徐であるが予後は良好であり,後遺症として基幹網膜静脈および乳頭上の拡張した血管の白鞘形成がみられるとしている.さらに乳頭浮腫が著明なI型と,(130) abcdefabcdef図1初診時および投薬後の所見a:初診時の右眼眼底写真.網膜静脈の蛇行・拡張,周辺部に網膜出血の散在および視神経乳頭の軽度腫脹を認める.b:初診時のフルオレセイン蛍光眼底写真.早期像で眼動静脈循環時間の遅延は認めない.c:初診時のフルオレセイン蛍光眼底写真.後期像では視神経乳頭に軽度過蛍光と後極静脈からの蛍光色素の漏出はあるが,虚血性変化は認めない.d:初診から1カ月後の右眼眼底写真.網膜静脈の蛇行・拡張,火炎状網膜出血,軟性白斑散在と一部にRoth斑があり,視神経乳頭は発赤腫脹し,乳頭血管炎の所見を認める.e:プレドニゾロン増量後11日の右眼眼底写真.網膜静脈の蛇行・拡張は改善し,火炎状網膜出血は減少している.視神経乳頭腫脹の改善を認める.f:プレドニゾロン増量後40日の右眼眼底写真.点状出血が残存するものの,網膜静脈の蛇行・拡張および視神経乳頭腫脹はさらに改善している.(131)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013709 CRVOに類似したII型に分類し,I型は篩状板前部における毛様血管の非特異的炎症によるもの,II型は乳頭部または篩状板後部における網膜中心静脈の炎症としている.I型はステロイド薬に著効し予後良好で,II型はI型よりも効果的ではないがやはり予後良好として,ステロイド薬の有効性を認めている13).本症例は,高脂血症,高血圧,糖尿病などの血管閉塞を起こしうる基礎疾患がない若年発症の片眼のCRVOに合致する病態であり,主訴が霧視であるが視力は良好で乳頭浮腫を伴い非虚血型で,Hayrehの提唱する乳頭血管炎と考えられた.既往歴にコントロール不良の関節リウマチと小球性低色素性貧血があった.線溶療法を施行するも眼所見の改善は軽度にとどまり,関節リウマチに対するステロイド薬の増量により,血清学的な炎症反応の改善と,短期:ウロキナーゼ(万単位):プレドニゾロン(mg)35:ワルファリンカリウム(mg)3025201510507/277/297/318/28/48/128/287/287/308/18/38/68/149/12図2投与薬の経時的経緯間に眼底出血および視神経乳頭腫脹の著明な改善を認めた.眼所見の改善を認める経過中に,血清学的な小球性低色素性貧血も改善されており,貧血による相対的血小板増多が血栓形成を容易にする5.8)との報告もあることから,貧血の改善も眼底所見の改善に効果的であったと考えられた.これまでにも関節リウマチに合併したCRVO14,15)や貧血に合併したCRVO5.8)の報告はあるが,関節リウマチと貧血とを合併したCRVOの報告はない.以上より,本症例のCRVOの原因として関節リウマチに伴う血管炎と貧血が考えられた.本症例のように,若年者における乳頭浮腫を伴うCRVOの原因は単一ではなく,多因子が関与すると想像される.したがって,一つひとつの基礎疾患に対応した治療が必要となると考えられた.今回良好な経過をたどったのは,関節リウマチに伴う血管炎に対する治療と貧血の是正が奏効したと考えられた.若年者に発症したCRVOにおいて,高脂血症,高血圧,糖尿病などの血管閉塞をきたす疾患がない場合には,全身疾患の検索が必要であり,関節リウマチがあった場合は経過を把握し,状況に応じては内科医とも相談しステロイド薬などの抗炎症薬の全身投与の開始あるいは増量を検討するべきであり,さらに貧血があった場合には貧血の是正をするべきであると考えられた.文献1)HayrehSS:So-called“centralretinalveinocclusion”.I.表1採血結果の推移検査項目(正常値)平成22年6月29日(初診)平成22年7月27日平成22年9月17日Hb(g/dl)(12.16)7.88.011.2Ht(%)(35.43)28.828.236.7RBC(μm/μl)(380×104.480×104)395×104397×104456×104MCH(pg)(28.35)19.720.224.6MCV(fl)(82.102)71.471.080.5Plt(μm/μl)(15×104.35×104)40.8×10437.2×10429.2×104WBC(μm/μl)(4.0×103.8.6×103)6×1035.4×1037.2×103CRP(mg/dl)(≦0.30)1.30.07CH50(U/ml)(30.45)41.8C3(mg/dl)(65.135)110.0C4(mg/dl)(13.35)22.5ループスアンチコアグラント(<1.3)0.95抗CL-b2GPI(U/ml)(<3.5)≦1.2抗CL-IgG抗体(U/ml)(<10)≦8抗SS-A抗体(.)抗SS-B抗体(.)710あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(132) Pathogenesis,terminology,clinicalfeatures.Ophthalmologica172:1-13,19762)AndrewCO,FongMD,SchatzHetal:Centralretinalveinocclusioninyoungadults.SurvOphthalmol37:393417,19933)HartCD,SandersMD,MillerSJ:Benignretinalvasculitis.Clinicalandfluoresceinangiographicstudy.BrJOphthalmol55:721-733,19714)TheCentralVeinOcclusionStudyGroup:Naturalhistoryandclinicalmanagementofcentralretinalveinocclusion.ArchOphthalmol115:486-491,19975)朝蔭博司,堀江英司,伊地知洋ほか:網膜中心静脈閉塞に毛様網膜動脈閉塞が併発した鉄欠乏性貧血症の1例.臨眼45:17-19,19916)高木康宏,瀬口ゆり,田村充弘:鉄欠乏性貧血患者に合併した毛様網膜動脈閉塞と網膜中心静脈切迫閉塞.臨眼51:1377-1379,19977)川崎厚史,橋田徳康,金山慎太郎ほか:鉄欠乏性貧血を伴った網膜中心静脈閉塞症の3症例.臨眼57:732-736,20038)冨田真知子,賀島誠,吉田慎一ほか:鉄欠乏性貧血の若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞と網膜中心動脈分枝閉塞の合併症例.臨眼60:1219-1222,20069)須賀裕美子,本間理加,横地みどりほか:若年者の潰瘍性大腸炎に合併した網膜静脈閉塞症の1例.臨眼59:913916,200510)岡田泰助,品原正幸,前田明彦ほか:慢性C型肝炎に対するIFN-a療法中に網膜中心静脈閉塞症と網膜動脈の血流低下を呈した若年発症1型糖尿病の1例.小児臨56:47-50,200311)小林晋二,山崎広子:若年者に発症した両眼の網膜静脈閉塞症の1例.臨眼58:815-818,200412)新井麻美子,伊集院信夫,北野保子ほか:若年者に網膜中心静脈閉塞症を発症した抗リン脂質抗体症候群の1例.眼紀54:830-834,200313)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,197214)田代忠正,佐藤末隆,市岡東洋ほか:慢性関節リウマチに併発した半側網膜静脈閉塞症.明海大歯誌22:276-283,199315)青山さつき,岡本紀夫,栗本拓治ほか:半側網膜中心静脈閉塞症に網膜中心動脈閉塞症が続発したリウマチ性関節炎の1例.眼科49:731-735,2007***(133)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013711