特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):497.504,2014特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):497.504,2014レドックス環境と眼のアンチエイジングEvaluationandtheSkewingofThiolRedoxStatusforAnti-AgingoftheEye山田潤*はじめに眼科に関するアンチエイジングの領域では,加齢に伴うさまざまな眼疾患についての予防法や治療法が実践されている.本項では疾患別に病態をとらえるのではなく,レドックスという局面から眼疾患の病態を評価することで,体全体の中での眼の応答を理解し,予防と治療に関する新たなアプローチへつながることを期待する.Iレドックスと抗酸化レドックス(redox)とは,還元反応(reduction)と酸化反応(oxidation)とをまとめただけの造語である.酸化とは単純に酸素との結合を意味するのではなく,水素が外れる際も酸化反応である.たとえば,還元型グルタチオン(glutachione-SH:GSH)が二量体の酸化型グルタチオン(glutachione-S-S-glutachione:GSSG)に酸化される場合には,GSHに存在しているチオール基(R-SH:スルフヒドリル基,水硫基,メルカプト基と同義)から水素を失いジスルフィド基(R-S-S-R)を形成して酸化されている.堅い言葉でいうと「電子を失い酸化数が増加すること」が酸化である.レドックスにおいて重要なポイントは,抗酸化作用を促す還元剤(reducingagent,reductant)は目的物質を還元させると同時に還元剤自体が酸化されること,そして酸化剤(oxidizingagent,oxidant)ではその逆が生じていることである.抗酸化物質(antioxidant)や抗酸化剤とよばれている食品や薬剤は生体の酸化ストレスや食品の変性の原因となる活性酸素種(フリーラジカルや過酸化水素など)を捕捉して無害化する還元剤であることが多い(アントシアニンなどのポリフェノール類やアスコルビン酸など).さらに,抗酸化作用という文言には,青色光を吸収することで間接的に活性酸素の発生を抑制する作用(ルテインの一作用など)なども含まれることがある.IIアンチエイジングにおけるレドックスアンチエイジングの実践にはレドックス偏倚が密接に関係している.一つには,抗酸化物質による酸化ストレスの中和である.酸化ストレスが多くの生活習慣病を引き起こすことは「老化における酸化ストレス蓄積説」として知られている.強い酸化作用を有している活性酸素(reactiveoxygenspecies)やフリーラジカルは老化や癌の発生に関与しており,炎症や紫外線によって発生する.酸化脂質なども酸化ストレス誘導因子であり,生活習慣病や加齢黄斑変性発症に関連している.細胞内で毎日大量に発生している活性酸素の大部分は抗酸化機能によって消去されるが,安定化できなかった一部の活性酸素が細胞内のDNA損傷をきたす.大部分のDNA損傷は修復されるにもかかわらず,修復できなかった一部が加齢や疾患へとつながる.活性酸素の除去にはカタラーゼなどの酵素やビタミンA,C,E,そしてGSHなどの抗酸化物質が働き,それぞれが除去可能な活性酸素種のみを中和する.また,パラオキソナーゼ(paraoxonase:PON-1)などの抗酸化機能は酸化ストレス誘導物質の分*JunYamada:明治国際医療大学眼科〔別刷請求先〕山田潤:〒629-0301京都府南丹市日吉町保野田ヒノ谷6-1明治国際医療大学眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(19)497解酵素として機能を果たす.アンチエイジングに関係しているもう一つの重要なレドックスはチオール基のレドックスであり,生体内の蛋白機能や細胞機能の制御にかかわっている.たとえば,DNA修復に重要な役割を担うポリADPリボースポリメラーゼ(polyADP-ribosepolymerase:PARP)は,分子内チオールレドックスで酵素活性が制御されている.また,チオールレドックス偏倚を行い細胞内のGSH/GSSH比を偏倚させることで抗原呈示細胞,上皮細胞,線維芽細胞をはじめとするさまざまな細胞の機能が制御され,ひいてはTh1(Tヘルパー1型)/Th2(Tヘルパー2型)免疫応答の制御をも担っている.チオール基を有する抗酸化酵素であるチオレドキシン(thiore-doxin:Trx)やGSHなどは酸化ストレスからの保護作用とともに細胞内シグナル伝達にも関与している.本項では,GSHに関連した酸化ストレス防御と細胞機能調節とを中心として,チオールレドックス理論に基づいた眼疾患評価と予防について概説する.III生体内におけるGSHの役割GSHはグルタミン酸,システイン,グリシンが結合したトリペプチドであり,生体内のチオール基の約90%はGSHが有している.GSHの生理的機能は大きく4つあげられる(図1).1つめは細胞内のチオール環境を維持することにより,過酸化物や活性酸素種を還元して消去する働きがある.GSHが活性酸素(ヒドロキシラジカル(OH.)を中和するとされている)を捕捉してGSSGに変化することで役割を果たす.2つめは,細胞外環境の影響により細胞内GSHと細胞内GSSGとの相互変換が生じる結果,細胞内GSH/GSSG比の高低によって細胞内シグナル伝達やサイトカイン産生といった細胞機能が変化する.特に,マクロファージや樹状細胞といった抗原提示細胞の細胞内GSH変化は局所におけるTh1/Th2バランスを規定しており,還元型であるGSH比が高いときIL-12などのTh1サイトカインを産生し,GSH比が低いときIL-4などのTh2サイトカインを産生する.興味深いことに,GSH/GSSG比を人為的に偏倚させることで細胞機能を変えることが可能である.3つめは,GSHのシステインに含まれるチオール基が細498あたらしい眼科Vol.31,No.4,20142GSH+R-OOH→GSSG+R-OH+H2OG-SH+G-SH+(O)→G-SS-G+H2O(還元型:GSH)(酸化型:GSSG)生体内でのグルタチオンの働き1)ラジカルの捕捉・抗酸化成分2)酸化/還元による細胞機能の調節3)各種酵素のSH供与体4)グルタチオン抱合による解毒代謝図1グルタチオンの還元型.酸化型相互変換と生体内での働き胞におけるシステイン源であり,GSHが枯渇すると細胞は生存できない.4つめは,GSHが解毒代謝に関与しており,有害物質がグルタチオン抱合(システイン残基のチオール基に結合させる)してメルカプツール酸となり,自ら細胞外へ排出される.解毒剤として用いられているN-アセチルシステインは細胞内GSH量を増加させる働きを有している.アセトアミノフェンなどによってGSH濃度が低下すると薬物による毒性が発現することもある.IV細胞内GSHの増減とGSH量評価一般的に細胞内GSH量を低下させる要因としては,1)細胞のダメージによってGSH産生が低下した場合(加齢による細胞機能低下や細胞死へ陥る状態などもこれに含まれる),2)酸化ストレスなどによりGSHが酸化されGSSGに変換されている場合(炎症局所や紫外線照射など),3)組織が過度の低酸素状態にある場合(固形癌の中央部や過剰の炎症細胞浸潤によって酸素消費されている局所など),4)ステロイドやTGF-bの直接作用,5)Th2サイトカイン刺激(アレルギー環境が典型例),6)酵素抑制剤(BSO,BCNUなど)などがあげられる.逆にGSHを上昇させる要因には,1)Th1サイトカイン刺激やレンチナン(椎茸由来のb-1,3グルカン)などのTh1状態誘導剤による刺激,2)ポリフェノール,チオレドキシン,還元型誘導剤(GSH-OEt,N-アセチルシステインなど)などが知られている.局所におけるGSH量変化をみることで加齢や炎症疾患における病態変化が理解できる.生化学的手法では試料を酸化させて増加したGSSG量を計算し,GSH量を(20)角膜縫合炎症モデル(マウス)角膜上皮角膜実質施術直後High7日後GSH25μmLow疑似カラーを用いたGSH量表示50μm図2炎症によるGSH低下(角膜上皮)とGSH上昇した細胞の浸潤(角膜実質)マウス角膜炎症モデルを凍結包埋しチオール基を染色評価.紫外線波長の単色光の結果は擬似カラーを用いて表現(GSH量が多いところから,黄→赤→青→緑).角膜上皮ではGSH低下がみられる.逆に実質14日後21日後ではGSH量が増加した浸潤細胞がみられる.評価する.しかし,GSHは容易に酸化されやすいことや,微小組織におけるGSHの増減や局在は評価困難である.そこで,生体内の90%のチオール基がGSHに存在していることを利用し,チオール基と特異的に結合して発色するMCB試薬(mBCI:monochlorobiamine)で染色後,紫外線波長で励起した蛍光強度を観察することで簡便にGSH量やその変化を相対的に評価できる.本手法は培養細胞,薄切標本,インプレッションサイトロジーなどで採取した細胞などさまざまな試料を評価できる.実際のGSH評価と,人為的なGSH変動による病態制御とについて概説する.V炎症性角結膜疾患では細胞内GSH量が低下組織障害や組織炎症が生じると炎症組織の細胞内GSH量が低下することから,GSH量評価によって診断や治療効果の判定を行うことが可能である.たとえば,角膜を切開・縫合した角膜炎症マウスモデルでは,炎症が沈静化するまで角膜上皮内GSHの著しい低下がみられる(図2).細胞機能低下と炎症による酸化ストレスを防御したことでGSHが低下している.逆に,角膜実質には細胞内GSHが上昇した還元型マクロファージが浸潤しており,遅延型過敏反応を誘導する準備がすでに整(21)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014499健常結膜(40歳,女性)重症ドライアイ結膜(40歳,女性)HighMCB蛍光(擬似カラー)MCB蛍光(擬似カラー)GSHLowMCB(緑)+PI(赤)MCB(緑)+PI(赤)図3ドライアイ結膜におけるGSH低下インプレッションサイトロジー法による結膜上皮採取サンプルのチオール基を染色評価.ドライアイでは細胞内GSHの低下がみられる.PIによる核染色を行うことで,GSHは細胞質に多く存在することがわかる.っている.異物やアロ抗原などが存在すると速やかに全身の免疫系へ情報が伝わる.ドライアイには酸化ストレスの関与が証明されている.また,細胞障害や瞬目擦過などに起因した炎症の関与が示唆されており,抗炎症治療を実践している施設も増えている.実際,ドライアイにおける結膜上皮細胞内GSHは劇的に低下しており,涙点プラグなどの治療によって正常化することがわかっている(図3).ドライアイにおける結膜のGSH評価においては,微小な炎症をも明瞭な変化で評価できることから,治療効果の量的判定方法の一つとして期待がもたれている.その他,急性結膜炎や活動期の翼状片においても結膜上皮中の細胞内GSH低下がみられる.VI加齢に伴うGSH産生量の低下GSHは酸化ストレスを感知して生合成が進む.細胞内でミトコンドリア膜上に存在しているNADPHが酸素を感知し,Nrf-2蛋白が核移行する.Nrf-2シグナルによってGSH合成がなされ,細胞内GSH含量が増加する.GSHは抗酸化作用を発揮するだけでなく,GSH増加によるTNF-a産生抑制やMIF産生抑制,そしてNF-kB抑制につながることで抗炎症にも働いていることが大切である(図4).GSHの生合成には転写因子であるNrf-2が必須であるが,加齢に伴いNrf-2遺伝子発現が低下するためにGSH生合成自体が低下する.実際,インプレッションサイトロジー法を用いてヒト結膜上皮細胞を採取し,MCB染色を用いてGSH量を評価すると,高齢者で細胞内GSHの有意な低下がみられ,抗酸化能の低下がうかがえる(図5).VII人為的GSH.GSSG比制御によるTh1,Th2疾患の抑制未分化なCD4+T細胞(Th0)は抗原呈示細胞の誘導によって抗原特異的に分化し,Th1(細胞性免疫誘導),Th2(アレルギー応答誘導),Th17(好中球を主体とした免疫炎症誘導),Treg(調節性T細胞,抗原特異的な500あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(22)細胞質内活性酸素(ROS:reactiveoxygenspecies)TNF-a産生MIF産生NFkBNrf加齢とともにNrf-2の発現が低下=加齢に伴うGSH合成の低下ミトコンドリアNrf-2NQO1CRP/p300GSHKeap1Nrf-2-2Keap1GSTHO-1MalARE組織中にGSH量が少ない=酸化ストレス防御能が低い=組織障害が生じやすい図4GSH合成の細胞内メカニズムと加齢に伴うGSH産生量低下1)ミトコンドリア膜上に存在するNADPHが酸素を感知すると,2)Nrf-2蛋白が核移行し,3)細胞内GSH含量が増加する.細胞内GSHは酸化ストレス抑制だけでなく,TNF-a産生の抑制やMIF産生の抑制,ならびにNF-kBの抑制にも働き,抗炎症効果を果たす.加齢に伴いNrf-2蛋白発現が低下するためGSH生合成が低下する.免疫抑制)の大きく4つのレパートリーに分化する.簡単に一部を抜粋すると,Th1とTh2とは互いに抑制し合っており,Th1応答とTh2応答は同時に成立しない.Th1/Th2バランスは抗原提示細胞の細胞内チオールレドックス状態により制御され,細胞内グルタチオンにおけるGSH/GSSGのバランスによって調節されている.すなわち,抗原呈示細胞の細胞内GSH/GSSG比を偏倚させることでTh1/Th2バランスを人為的に変換可能である.Th1応答が主体の角膜移植拒絶反応は,細胞内GSH量を減少させるTh2偏倚薬剤を結膜下投与するだけで拒絶抑制が可能であることがマウスモデルで証明されている.逆に,アレルギーにおいては,アレルゲン曝露によって細胞内チオールレドックス状態が酸化型に傾斜した結果,Th1/Th2バランスがTh2に傾斜し,抗体産生やアレルギー応答が増強される.さらに,局所においては抗原提示細胞とT細胞との間でサイトカイン刺激によるTh2増強ループが形成されてアレルギー応答の増強・維持が生じている.そこで,チオールレドックス状態を還元型に傾斜させるレンチナン(椎茸子実体から抽出したb-1,3グルカン1,2))を用いることによってTh1応答を増強させると同時にTh2応答を抑制しアレルギー性結膜炎を抑制できた(図6).これはヒト二重盲検試験において,臨床症状の改善と血中IgEの減少がみられた(23)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014501若年者高齢者高齢者22歳,男性84歳,男性HighGSHLow22歳,女性91歳,女性MCB平均輝度200±16(25.3±3.1歳,n=6)MCB平均輝度169±60(78.1±8.9歳,n=6)図5加齢に伴う細胞内GSH低下(結膜上皮)インプレッションサイトロジー法による結膜上皮採取サンプルのチオール基を染色評価.眼疾患が認められない高齢者においても細胞内GSH低下がみられる.樹状細胞やマクロファージ還元型GSH酸化型GSSG分化誘導Th2Th1CD4+Th0IL-4IL-6IFN-gIL-12Th2環境の維持IL-4アレルギーIFN-g癌免疫増強体質改善図6チオールレドックス偏倚によるアンチエイジング(アレルギー制御含む)加齢に伴いTヘルパー2型T細胞(Th2)へ生体バランスが傾斜する.アレルギーにおいてもTh2と酸化型抗原提示細胞とによるTh2環境の増幅が生じている.レンチナンによる還元型GSH誘導によって花粉症(Th2病)が改善した.すなわち,癌免疫増強ができるTh1応答への傾斜といった体質改善が見込める.502あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014だけでなく,抗アレルギー効果はCD14陽性の単球とレンチナン結合率とが高いヒトにおいて効果的に抑制できることがわかっている3,4).すなわち,チオールレドックス制御によってTh1/Th2免疫応答はかなりの部分制御可能である.Th1応答を増強させる治療においては,アレルギーを根本的に抑制できる可能性をも有しているが,逆にTh1病は増悪することに注意が必要である.眼科疾患においては角膜移植拒絶反応などがあげられ,実際にb-グルカン服用直後に拒絶反応がみられたこともあるため,移植後の患者には勧めてほしくない療法である.(24)(25)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014503VIII加齢に伴う免疫能低下(Th2偏倚)とGSH.GSSG比上昇(Th1偏倚)による疾患予防加齢に伴いTh1/Th2バランスがTh2へ偏倚することがわかっており,マウスモデルでは加齢に伴うIFN-g産生(Th1サイトカイン)が減少し,IL-4産生(Th2サイトカイン)が上昇している.加齢に伴う悪性新生物の発症増加には免疫力の低下が一因とされている.悪性新生物は分裂回数30回程度で1g程度の大きさとなり,初めて臨床の癌として発見される.さらに10回程度分裂すると1kg程度の大きさとなり,末期癌としてQOL改善が治療となる.すなわち,臨床癌として発見されるまでの長い間に免疫力を強く保ち,免疫予防を行うことが重要と考えられる.免疫能を賦活させること,すなわちNK細胞活性や細胞性免疫能を上げることが予防の一つとされている.Th1/Th2バランスを修復することが抗加齢の一つの手段と考えられており,抗原提示細胞の細胞内GSH/GSSGのチオールレドックス偏倚によって細胞性免疫の増強が期待できる.Th1応答を増強させる一つの戦略がレンチナンである.b-グルカンであるレンチナンは,手術不能胃癌患者に対して世界で初めて延命効果を立証した癌免疫療法剤であり,保険適用のある注射剤として臨床使用されてい腸管粘膜腸管粘膜再凝集ナノテクノロジーによる微粒子化安定溶液中粒子径約200μm溶液中粒子径約0.2μmパイエル板1.0~5.0μm通過できないb-グルカン凝集体微粒子化b-グルカン凝集体“微粒子化”b-グルカン通過可能図7溶液中でのb.グルカン再凝集と腸管吸収における問題点b-グルカンは溶液中でパイエル板を通過できない大きさの凝集体を形成する.服用による効果が得られるためには,b-グルカンが溶液中で0.5μm以下の微粒子で安定していることが必要である.る.癌患者に対する著明なQOL改善だけでなく,癌に対する免疫予防効果も期待されている.b-グルカンは一般に上市され,サポーターも多い.しかし,2つの点において注意が必要である2,4).1つめは,グルカン粒子は微粒子化処理を施しても,溶液中ではグルカン粒子が100μm以上の大きさにミセル化して凝集してしまい,腸管吸収できない.すなわち,椎茸を煎じて飲む時点では服用にて効果が得られるが,一旦冷却したり,粉末化した際には注射剤でないと効果が得られないことがわかっている(図7).2つめは,b-グルカンは多糖類であるため,種によって異なる形状を有している.すなわち,科学的根拠を十分有している椎茸の1,3-b-グルカン以外の菌糸類では機序が明らかでないといえる.パン酵母由来のb-グルカンに至っては効果程度が信じがたい.そこで筆者らは,ナノテクノロジー技術により腸管吸収可能な大きさに微粒子化した,味の素製のミセラピストRを用い,経口摂取でのアレルギー軽減作用を証明した.微粒子化していないレンチナンでは同量のb-グルカンを服用しているにもかかわらず抗アレルギー効果は全くみられなかったのに対し,微粒子化安定したレンチナンでのみ効果が得られた.現在は末期膵癌やその他の末期癌における延命効果が公表されている.おわりに近年の医療機関ではアンチエイジングを取り入れ始めているところが多い.アンチエイジングという言葉は加齢に拮抗するという意味にも捉えられることで目をひくキーワードではあるが,「不老不死」を目指すものでは決してない.加齢という生物学的プロセスに介入を行い,加齢に伴う疾患の発症率を下げることや,健康長寿を目指すといった医学である.「オプティマル・ヘルス」や「最善の健康状態を維持する」医療であると大きく理解し,老年医学の分野とも相通じる学問であると考えている.今回とりあげたチオールレドックスを用いた人為的制御法は,眼における新生血管や線維化とも十分な関連があり,さらなる加齢性疾患への応用が期待できる.文献1)ChiharaG,MaedaY,HamuroJetal:Inhibitionofmousesarcoma180bypolysaccharidesfromLentinusedodes(Berk.)sing.Nature222:687-688,19692)羽室淳爾:癌免疫療法剤「レンチナン」の新たなうねり経口レンチナンの誕生.癌と化学療法32:1209-1215,20053)YamadaJ,HamuroJ,HatanakaHetal:Alleviationofseasonalallergicsymptomswithsuperfinebeta-1,3-glucan:Arandomizedstudy.JAllergyClinImmunol119:1119-1126,20074)山田潤:眼によい食べ物.あたらしい眼科27:29-34,2010504あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(26)