監修=坂本泰二◆シリーズ第164回◆眼科医のための先端医療山下英俊糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える阿部さち(山形大学医学部眼科学講座)はじめに糖尿病黄斑浮腫形成の機序には種々の原因が複雑に関与し合っていると考えられています.網膜血管内皮細胞の障害やそれに伴う毛細血管瘤からの漏出,網膜色素上皮のポンプ機能の異常,高血圧に伴う網膜血管内静水圧の上昇による黄斑部の浮腫促進,硝子体内への血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)やIL-6などの炎症性サイトカインの貯留,炎症のケミカルメディエーターの貯留による網膜・硝子体細胞の機能の制御異常,黄斑上への膜形成による垂直方向への牽引力などがあります.われわれは,糖尿病黄斑浮腫の患者さんを診た場合,この患者さんの浮腫形成に,今,どの因子がより悪影響を及ぼしているかを見きわめ,それに対処してく必要があります.具体的には,浮腫の原因となるような漏出を認める網膜細血管瘤を検出できれば,それに対して直接光凝固を行います.色素上皮のある部分からの漏出であればその部分に格子状光凝固を行います.増殖網膜症の合併や浮腫遷延を認めた場合には,炎症の機序を考えステロイドや抗VEGF抗体を使った薬物投与を行います.糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術現在の糖尿病黄斑浮腫の治療で最も侵襲的である硝子体手術に関しては,その適応が曖昧であり,その治療の特徴から他の治療で無効な場合に行われる傾向にあるのが現状ではないでしょうか.とくに昨今の欧米では抗VEGF抗体が万能であるかのような風潮もあり,海外では保険診療の体制の観点からも,あまりメジャーな治療ではなくなりつつあります.しかし,糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は日本で多く行われ,日本の先生方がたくさんのデータを出されてきたという背景があります1.3).実際に日常診療でも効果の持続性があり,一定の効果が得られる治療として,硝子体手術は必要なツールと考えられます.牽引なし牽引あり表面は平滑微細な皺襞あり牽引あり図1糖尿病黄斑浮腫のOCT分類従来の断層像による牽引のある/なしの2群への分類を,セグメンテーション画像を使うことで,牽引のないもののなかから網膜表面に微細な皺襞を要する症例を分類できる.(文献6より改変して引用)(91)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411710910-1810/14/\100/頁/JCOPY図2網膜表面に皺襞のある症例における硝子体手術前後のOCT変化内境界膜.離を行うと,網膜浮腫が軽減するだけでなく,網膜表面の微細な皺襞も消失している.(文献6より改変して引用)硝子体手術の適応の検討筆者らは,現状ではやや曖昧な硝子体手術の適応を,客観的で判定しやすい方法で決定できないかと考えました.2010年にDRCR.netが,黄斑部に牽引が検出できる糖尿病黄斑浮腫には硝子体手術が有効であるという報告を出しました4).この報告を受けて,筆者らは糖尿病黄斑浮腫の個々の症例に牽引力が働いているかどうかの検討をOCTを用いて行いました.今回とくに着目したのがスペクトラルドメインOCT(CirrusTMHD-OCT)で得られる3次元のセグメンテーション画像です.筆者らは以前,ポリープ状脈絡膜血管症で色素上皮レベルのセグメンテーション画像を見ると,ポリープ病変と異常血管網のつながりを観察できることを報告しました5).セグメンテーション画像は,元来OCTが網膜や色素上皮,脈絡膜の垂直方向の変化を描出するためのツールであったのに対し,網膜接線方向の病変の水平な広がりもとらえることができるようになりました.糖尿病黄斑浮腫では,とくに内境界膜レベルの画像に変化が現れます.当科で過去に硝子体手術を行った患者さんのOCTを,1172あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014とくに3次元解析画像に着目して検討しました.その結果やはり多かったのは,断層像のみで見ても黄斑上膜や肥厚した後部硝子体膜などが描出され,従来「硝子体牽引が関与している」と考えていた症例でした.そのほかに,黄斑上膜や後部硝子体膜が明らかには検出されない症例群の中に,ILMレベルのセグメンテーション画像で,表面が平滑な症例と微細な皺襞がある症例に分類できました.つまり,従来の断層像では,硝子体牽引がある/なしの2群にしか分類できなかったものが,ILMレベルのセグメンテーション画像に着目することで,3群に分けることができた,ということです(図1).手術治療の効果という観点からは,術後3カ月の時点では3群に明らかな差はなく,3群とも改善を得られました.また,術前・術後のOCTを見比べてみると,ILMレベルのセグメンテーション画像で認めた網膜表面の皺襞は,手術で内境界膜.離を行うと消失することも確認しました.この,手術中に.離した組織を免疫染色すると,硝子体由来のコラーゲンIVは検出されず,内境界膜由来のコラーゲンIIは染色されました.このことから,.離された組織は間違いなく内境界膜であり,ILMレベルのセグメンテーション画像で検出された皺(92)襞は,内境界膜が形成するものであることが推察されました.この皺襞の消失とともに浮腫が軽減していることから,黄斑浮腫の形成に皺襞が関与しているとも考えられます(図2)6).これまで当科で行った糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術をレトロスペクティブに検討すると,断層像で黄斑上膜や肥厚した後部硝子体膜が検出される場合のほかに,レーザー治療や薬物治療に抵抗性で視力が徐々に低下してきた症例にも多く施行されているというのが実際でした.しかし,硝子体手術という侵襲の大きさから,治療時期を逸してしまい著明な視力低下に至った場合には予後が不良との報告もあります7).さいごに近年の小切開硝子体手術などの技術の進歩により硝子体手術の適応はどんどん広がってきています.この眼科手術のめざましい発展は,これまで誠実に一人ひとりの患者さんと向き合って手術を行ってこられた先生方の経験と探究心に基づくものです.簡潔で安全にできるからといってむやみに手術を行ったり,流行の方法に流れてしまったりして,一人ひとりの患者さんに合った適正な治療を行う努力を怠ってはならないと考えます.今回の糖尿病黄斑浮腫における3次元画像解析の検討が,硝子体手術の適応の適正化だけでなく,レーザー治療や薬物治療など他の治療も含めた糖尿病黄斑浮腫治療の適正化につながるように,さらに検討を重ねたいと思います.文献1)TheDiabeticRetinopathyClinialResearchNetwork(DRCR.net)etal:Three-yearfollow-upofaramdomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol127:245-251,20092)DiabeticRetinopathyClinicalResearchnetwork(DRCR.net):Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromtlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20103)KumagaiK,FurukawaM,OginoNetal:Long-termfollow-upofvitrectomyfordiffusenontractionaldiabeticmacularedema.Retina29:464-472,20094)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkWritingCommitteeonbehalfoftheDRCR.net:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093,20105)AbeS,YamamotoT,YamashitaHetal:Three-dimensionalfeaturesofpolypoidalchoroidalvasculopathyobservedbyFourier-domainopticalcoherencetomography.OphthalmicSurgLasersImaging9:1-6,20106)AbeS,YamamotoT,KashiwagiYetal:Three-dimensionalimagingoftheinnerlimitingmembranefoldingonthevitreomacularinterfaceindiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol57:553-562,20137)YamamotoT,TakeuchiS,SatoYetal:Long-termfollow-upresultsofparsplanavitrectomyfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol51:285-291,2007■「糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術適応を3次元画像解析から考える」を読んで■OCTが眼科臨床に導入されて10年以上が経過しま今回のアプローチは,その限界を克服するための優れした.当初は,疾患の分類・病態の解明など研究目的た方法です.網膜皺壁は2次元画像上では,網膜表面で使用されましたが,最近はむしろ個々の症例の診断のわずかな乱れとしか映りませんが,3次元画像に再治療へと,その使用は大きく広がっています.構築すると変化が明らかになります.それだけではな網膜領域についてもそのことはいえます.OCTにく,影響を及ぼす領域も如実に描出されます.それらより,糖尿病黄斑症の病型・病態にもさまざまなものを検討することで,硝子体手術が効果的な症例とそうがあることが報告されましたが,そのデータを用いるでないものを選別しようというのが今回の試みであことで,予後予測についての診断精度が格段に向上しり,その目的を達成しています.ました.たとえば,OCT画像上の網膜外層IS/OS阿部先生が述べられているように,硝子体手術が有lineの存在が視力予後を占う上で重要であることがわ効であれば,頻回の眼内注射に比べて,患者負担は大かったことなどは,その好例です.幅に減少します.しかも,糖尿病黄斑症に対する硝子しかし,個々の症例においては,このことが当ては体治療は,わが国が世界をリードしてきたのです.たまらない場合も多くあります.とくに,硝子体手術のだし,硝子体手術はどの症例にも有効なわけではありような網膜の3次元構造に介入する治療の効果をみるません.大規模臨床研究のような幅広い症例を対象と場合,2次元画像上の解析だけでは限界があります.した治験ではその有効性は表れにくく,眼内注射を凌(93)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141173駕する治療成績は得られていません.しかし,今回の療”という考え方が推奨されていますが,その意味か方法で糖尿病黄斑症の中から硝子体手術が有効な症例らも3次元OCT画像を用いた硝子体手術適応の選択を選別することができれば,硝子体手術の真の有効性はきわめて今日的な方法であるといえます.が明らかになるのではないでしょうか.最近は,患者鹿児島大学眼科坂本泰二ごとに最適な治療法を選択する“テーラーメード医1174あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(94)