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眼科医のための先端医療 160.ドラッグデリバリーシステムからみた新たな後眼部疾患治療薬

2014年4月30日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第160回◆眼科医のための先端医療山下英俊ドラッグデリバリーシステムからみた新たな後眼部疾患治療薬福本雅格池田恒彦(大阪医科大学眼科学教室)はじめにわが国における中途失明原因の主要な疾患として,糖尿病網膜症,網膜色素変性,加齢黄斑変性がありますが,これらはすべて後眼部の疾患です.眼科で一般的に用いられる点眼では,投与した薬剤の90%以上が角膜表面に達する前に消失するといわれています1).さらに,角膜を通過し前房内に達するのは投与量の約1~5%といわれています.薬剤の眼内移行は,異物を排除しようとする眼球がもつ生理的な防御機構に逆らうことにほかなりません.そのため,このような防御機構を回避し,後眼部にできるだけ多くの薬剤を届ける方法として,硝子体内注射が選択されます.加齢黄斑変性に対する抗VEGF抗体の硝子体内投与が代表例としてあげられます.しかし,1回の投与による硝子体内での薬物濃度上昇は,その後の薬物代謝により次第に低下するために,反復投与が必要となります.また,硝子体注射の合併症としては網膜.離,眼内炎などが知られており,投与回数の減少が課題となっています.つまり,後眼部疾患に対する理想的な薬物投与方法は,十分な濃度の薬物を少ない回数で長期間持続させることができる方法といえます.この理想的な投与方法をめざし,近年,さまざまな治療薬が開発されています.硝子体インプラント眼局所に長期間,高濃度の薬物を投与する方法として硝子体インプラントがあります.現時点においてわが国で認可されている製品はないものの,海外においては複数の製品が臨床使用されています(表1).1996年,サイトメガロ網膜炎の治療を目的としてVitrasertRが開発されました.この製品は生体内では分解されないケースにガンシクロビルを内包した生分解性をもつポリマーが入っており,5~8カ月間の持続投与が可能です.RetisertRは非感染性ぶどう膜炎を対象としており,VitrasertRと同じポリマーに含有したフルオロシノロンアセトニドを約30カ月間,持続投与することが可能です.両者とも,本体を硝子体内に挿入後,一部を強膜に縫着固定します.しかし,本体は生分解性をもたないために,投与期間終了後は摘出しなければなりません.OzurdexRは薬物を内包させたポリマーのみを硝子体内に挿入することで,この問題点を解決しています.OzurdexRは生分解性ポリマー内にデキサメサゾンを内包しており,網膜静脈分枝閉塞症,網膜中心静脈閉塞症および非細菌性ぶどう膜炎による黄斑浮腫を適応疾患としています.さらに,RenexusRは半透膜で構成された中空の円筒内に,神経保護因子であるciliaryneutrophicfactor(CNTF)を分泌するように遺伝子改変されたヒト網膜色素上皮細胞を封入しています.半透膜を介してCNTFを硝子体腔内に放出する一方,免疫細胞からの攻撃を回避しつつ,封入されている細胞の生存に必要な栄養成分を取り込むことが可能となっています.表1海外で製品化されている硝子体インプラント販売名有効成分基材対象疾患VitrasertRガンシクロビルEVA/PVAサイトメガロ網膜炎RetisertRフルオロシノロンアセトニドシリコーン/PVA非感染性ぶどう膜炎OzurdexRデキサメサゾンPLGA網膜中心静脈閉塞症網膜静脈分岐閉塞症後部ぶどう膜炎RenexusRCNTF半透性中空糸膜網膜色素変性症*地図状萎縮*黄斑部毛細血管拡張症*EVA:EthylenevinylacetatecopolymerPVA:poly(vinylalcohol)PLGA:polylactide-co-glycolideCNTF:ciliaryneutrophicfactor*は現在,臨床試験段階であることを示す.(65)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145430910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図1ARBを内包したPLGA粒子の走査型電子顕微鏡写真PLGAは生体内に存在する「乳酸」と「グリコール酸」が共重合したもので,最終的に水と二酸化炭素となり,体外へ排出される安全な物質である.RenexusRはすでに米国において第II相試験が行われており,萎縮型加齢黄斑変性に伴う地図状萎縮の患者において,視力低下に対する抑制効果が報告されています2).このようにめざましい発展を遂げている硝子体内インプラント製剤ですが,眼内炎や網膜.離といった手術に伴う危険性があります.経強膜投与と現在の知見薬物の経強膜投与は,硝子体内注射とならび,後眼部に薬物を到達させる有効な方法です.経強膜投与の代表例として,トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射があります.経強膜投与では眼内に到達するまでに強膜,脈絡膜,Bruch膜や網膜色素上皮といった複数の障壁を通過しなければなりません.さらに眼窩内への拡散の影響も受けます.しかし,Tenon.下注射や結膜下注射といった経強膜投与は,一般的に硝子体内投与よりも手技的に安全であるという利点があります.一方,強膜は角膜に比較し,多くの親水性および疎水性物質に対して透過性が高く,その拡散は分子のサイズや径に依存していることが知られています.また,強膜面積は角膜面積の約17倍であることも経強膜投与の優位性を示唆しています.筆者らは今,糖尿病網膜症動物モデルを用いて,polylactide-co-glycolide(PLGA)に内包したアンジオテンシン拮抗薬(angiotensinreceptorblocker:ARB)の結膜下投与による糖尿病網膜症への有用性を研究しています.以前に筆者らは,糖尿病網膜症にお544あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014いて眼局所でのレニン-アンジオテンシン系(reninangiotensinsystem:RAS)が亢進していることを報告しました3).また,糖尿病動物モデルにおいて,RASの亢進が酸化ストレスを介して血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の発現を亢進することを見いだしています3).さらに,大規模臨床試験においてもARBの全身投与による糖尿病網膜症への有効性が証明されています4).一方,PLGAは前述のOzurdexRの基材としても用いられている生分解性ポリマーですが,わが国においても前立腺癌の治療薬リュープリンRの基材として臨床使用されており,安全性が確立された物質です(図1).現在までに,PLGAに内包された徐放化ARBの結膜下投与による網膜血管の透過性亢進抑制作用,白血球の血管内皮への接着抑制作用,さらに網膜でのVEGF発現抑制作用を動物モデルにて確認しています.これらの結果は,ARBの局所投与が糖尿病網膜症の新たな治療戦略になる可能性を示唆しているものと考えています.おわりに糖尿病網膜症,加齢黄斑変性といった多くの後眼部疾患に対しては,いまだ決め手となる治療法がなく,その確立が切望されています.投与部位の選択や徐放化による投与回数の減少は患者の肉体的,精神的負担を軽減する意味において,新たな薬物の開発と並ぶ重要な課題です.今後さらに多くの基礎研究,臨床研究が行われることで,後眼部疾患に対する新たな治療薬の臨床使用が期待されます.文献1)WorakulN,UnluN,RobinsonJR:OcularPharmacokinetics.InAlbert&Jakobiec’sPrinciplesandPracticeofOphthalmology(AlbertDM,JakobiecFA,eds),vol1,2nded,p202-211,W.B.Saunders,Philadelphia,20002)ZhangK,HopkinsJJ,HeierJSetal:Ciliaryneurotrophicfactordeliveredbyencapsulatedcellintraocularimplantsfortreatmentofgeographicatrophyinage-relatedmaculardegeneration.ProcNatlAcadSciUSA108:62416245,20113)FukumotoM,TakaiS,IshizakiEetal:InvolvementofangiotensinII-dependentvascularendothelialgrowthfactorgeneexpressionviaNADPHoxidaseintheretinainatype2diabeticratmodel.CurrEyeRes33:885-891,20084)SjolieAK,KleinR,PortaMetal:Effectofcandesartanonprogressionandregressionofretinopathyintype2(66) diabetes(DIRECT-Protect2):arandomisedplacebo-controlledtrial.Lancet372:1385-1393,2008■「ドラッグデリバリーシステムからみた新たな後眼部疾患治療薬」を読んで■現在まで,網膜薬物治療のために膨大な数の化合物見込めるということがわかると,数多くのベンチャーや生物活性分子などが調べられてきました.しかし,企業,製薬企業がこの問題に取り組み始めました.実実験段階では有効なものでも,小型動物,大型動物へ社会における医学と経済は車の両輪といわれますが,と臨床に近い状況になると,効果が判然としなくなるまさにそれを地で行く展開です.今回述べられたものものがほとんどですし,臨床治験で有効性を示すこと以外に,眼外に薬物を貯留し治療が必要なときにだけができるものは,その中のさらに一部にすぎませんで眼内に薬物を送達するMicroPumpや,抗VEGF薬した.俗諺で薬九層倍といいますが,開発の困難さやを放出するデバイス(ForSightVision4)も開発中でリスクを考えると,しかたがない面も多いかもしれます.これらのシステムが確立されれば,ぶどう膜炎やせん.糖尿病,あるいは緑内障に対して,既存化合物を用い多くの方は,薬の開発が困難なのは,適正な化合物た新しい治療がすぐにでも実現するでしょうし,今後が得られていないからだとお考えかもしれませんが,の眼科学も大きく変わるでしょう.今回,そのような網膜疾患の場合,有効な薬物は存在しても,網膜まで理由で現在,大きく動き出している最近の薬物送達研十分量の薬を送達できないことが大きな障害になって究について,福本先生が科学的視点から解説されていいたのです.このことは以前から知られていましたます.この領域は,今後眼科研究の重要な分野になるが,あまり活発な研究は行われませんでした.ところことは間違いありません.が,抗VEGF薬がこの領域に導入されて,網膜疾患鹿児島大学眼科坂本泰二治療の市場規模がきわめて大きく,これからも成長が☆☆☆(67)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014545

新しい治療と検査シリーズ 216.バルベルト緑内障インプラント

2014年4月30日 水曜日

新しい治療と検査シリーズ216.バルベルト緑内障インプラントプレゼンテーション:谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座コメント:東出朋巳金沢大学附属病院眼科.バックグラウンドトラベクレクトミーは,理論的にはあらゆる緑内障病型で眼圧下降が期待でき,また,線維芽細胞増殖抑制薬を併用する術式が加わって以降,より確実に眼圧下降を得ることができるようになったため,もっとも標準的な緑内障術式として施行されている.一方で,臨床の場では,複数回の手術既往のため結膜が広範に瘢痕化している症例,無水晶体眼,若年者の緑内障など,トラベクレクトミーの効果が限定的な症例も経験する.また,線維芽細胞増殖抑制薬を併用したトラベクレクトミー術後のブレブ感染・眼内炎は,本術式に関する重大な未解決問題である.近年,いわゆる難治性緑内障に対しても一定の眼圧下降効果が期待できる術式として,緑内障チューブシャント手術が注目されている..新しい治療法現在,わが国で保険診療が可能な緑内障チューブシャント手術用の医療材料(glaucomadrainagedevice)として,エクスプレス緑内障フィルトレーションデバイス(日本アルコン社)とバルベルト緑内障インプラント(エイエムオージャパン社)の2種類がある.これらは,その手術適応が大きく異なり,前者は基本的にはトラベクレクトミーの代替手術であるのに対し,後者は角膜輪部近傍の結膜瘢痕のためにトラベクレクトミーの効果が期表1バルベルトの使用上の注意(添付文書からの抜粋)【効能または効果に関連する使用上の注意】主な適応患者は以下のとおりである.(1)線維柱帯切除術が不成功に終わった緑内障患者(2)手術既往により結膜の瘢痕化が高度な緑内障患者(3)線維柱帯切除術の成功が見込めないまたは線維柱帯切除術において重篤な合併症が予測される緑内障患者(4)他の濾過手術が技術的に施行困難な緑内障患者(63)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY待できない,あるいはトラベクレクトミーが不成功に終わった種々のタイプの緑内障が適応となる(表1).バルベルト緑内障インプラントによるチューブシャント手術は,眼内に挿入したチューブから眼球赤道部に留置にした房水吸収部(プレート)に房水を誘導し,周囲組織に拡散・吸収させることで眼圧下降が図られる,濾過手術の一法である..手術手技と合併症前房あるいは毛様体扁平部にチューブを挿入し,プレートを眼球赤道部に固定する.毛様体扁平部に挿入する場合,有硝子体眼では硝子体手術により硝子体を郭清する.前房へのチューブ挿入により長期的には角膜内皮障害が懸念されるため,角膜内皮減少眼,角膜移植眼では毛様体扁平部へのチューブ挿入が望ましい.また,硝子体手術後の無硝子体眼や,原疾患の治療のため硝子体手術が必要な症例(糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障など)でも,毛様体扁平部へのチューブ挿入が考慮される.本デバイスは,弁機能を有さないため,術後一定期間(2.4週程度),過度の眼圧下降を避けるための術中処置(チューブの一時的な結紮,チューブ内へのステント糸留置など)を行う必要がある.そのため,術後しばらくは高眼圧が持続することが多い.また,チューブ結前房挿入毛様体扁平部挿入図1バルベルト緑内障インプラント手術の模式図(AMOジャパン社提供)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014541 紮糸の開放後に,低眼圧が持続することがあり,チューブ再結紮や脈絡膜下液排出などの処置が必要となることがある.なんらかのパッチ材料で術中にチューブを被覆しない場合,術後のチューブ露出は必発である.パッチ材料として,わが国では,自己半層強膜弁,保存強膜,保存角膜が使用されることが多い..本治療法の良い点米国で行われた大規模な前向き研究であるTubeversusTrabeculectomy(TVT)Studyでは,212例のトラベクレクトミー不成功,白内障手術既往,あるいはその両者の既往のある緑内障眼を対象として,バルベルト緑内障インプラントの前房挿入とマイトマイシンCを併用したトラベクレクトミーの眼圧下降効果の比較を行った.眼圧は,術後5年まで両術式間に差がなく,薬物スコアは,術後1年と2年ではトラベクレクトミーで有意に少なかったが,その後に差はなかった.また,術後5年間の眼圧コントロールの不成功率は,眼圧21,17,14mmHgいずれの基準でもトラベクレクトミーで高く,バルベルト緑内障インプラントの成績が良好であった(表2)1).TVTスタディでは,眼圧が40mmHgを超える緑内障,活動性のある血管新生緑内障,増殖性網膜疾患,再発性ブドウ膜炎,無水晶体眼,トラベクレクト表2TVTスタディの5年眼圧死亡率定義バルベルトレクトミーp値眼圧21mmHg以上29.8%46.9%0.002眼圧17mmHg以上31.8%53.6%0.002眼圧14mmHg以上52.3%71.5%0.017<死亡の定義>3カ月以降で,2回連続眼圧規定の眼圧以上または眼圧下降20%未満3カ月以降で,2回連続眼圧5mmHg以下緑内障再手術,光覚消失(文献1から作成)ミーが施行できないような結膜瘢痕のある症例は除外されている.わが国では,より重篤な症例が適応の中心であるため,TVTスタディの結果の解釈には注意が必要であるが,わが国においても本術式が難治性緑内障に対して普及することに期待を抱かせる報告である.文献1)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789803,2012.バルベルト緑内障インプラントに対するコメント.2012年にバルベルト緑内障インプラントが保険診障インプラントとトラベクレクトミーの両術式を同列療として使用可能となったが,このデバイスの開発かの術式として無作為前向きに比較し,前者の優位性をらは約20年の歳月が経過している.これを含むチュー報告した.しかし,詳細をみると低眼圧(5mmHg以ブシャント手術は,結膜の瘢痕化が強い症例などトラ下)による手術不成功がトラベクレクトミー群に10ベクレクトミーが困難な症例には最終手段となる手術眼も多く,この群の不成功の3割を占め,低眼圧に対であり,長年保険適用となることが切望されていた.する対処法の記載がない.チューブ特有の合併症もあ欧米においても,チューブシャント手術は従来トラベり,このスタディの手術成功率のみが一人歩きするこクレクトミーの後に位置づけられていたが,TVTスとが懸念される.タディは手術既往眼ではあるものの,バルベルト緑内☆☆☆542あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(64)

私の緑内障薬チョイス 11.眼圧下降以外の効果があるかもしれないアイファガン®

2014年4月30日 水曜日

連載⑪私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑪私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也11.眼圧下降以外の効果があるかもしれないアイファガンR吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座アイファガンRは,最近の論文で,チモロール点眼群と比較して,眼圧下降効果は変わらないが,視野維持効果があるという結果が出ている.この論文の結果にはまだ異論もあるが,この薬剤が眼圧下降以外の作用で緑内障の視野進行を抑制する効果がある可能性を示唆している.すべての緑内障治療薬は眼圧下降効果を第一に考えるべきで,これが現在唯一のエビデンスのある治療法である.しかし,最大限の眼圧下降を成し遂げたときには,このような作用の可能性も考えて処方してもよいと思う.現在の緑内障治療薬の選択肢現在,緑内障治療薬は7つの作用機序(コリン作動薬,アドレナリン作動薬,a2作動薬,a遮断薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,プロスタグランジン製剤)で16種類の点眼薬,さらに配合薬が5種類発売されている(表1).われわれが緑内障治療薬をチョイスする際には,この21種類もの点眼薬からさまざまな要素を考慮して選択していかなければならない.緑内障治療にとって唯一のエビデンスのある治療は眼圧下降である.したがって,緑内障治療薬のチョイスでもっとも重要な要素は,やはり眼圧下降効果である.眼圧下降効果に関してはそれぞれの薬剤で詳細な解析が行われており,眼圧下降効果の違いも統計学的に解析されている1).これに従って処方するとしても,個々の症例でいろいろな要素があり,それを勘案していかなければならない.全身の副作用は,患者自身は気づきにくいものなので,眼科医の立場から注意して処方しなければならない要素である.局所の副作用も眼科医として注意しなければならないのは当然であるが,軽症の場合は患者が気にしているかどうかも重要な要素になってくる.アドヒアランスの問題も非常に重要な要素であり,これを維持するために配合薬などを用いることも多いと思う.眼圧下降効果緑内障患者の経過観察では,1mmHgでも眼圧を下げておくことが重要である.眼圧下降薬には7つの作用機序があるので,すべての薬剤が投与できれば眼圧下降効果は最大になるかもしれないが,それは現実的ではない.点眼薬は併用する薬剤の種類が増えるほどアドヒアランスが低下することが報告されている2).アドヒアラ(61)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY表1現在発売中の緑内障治療薬(2014年2月現在)作用機序一般名商品名副交感神経コリン作動薬ピロカルピン塩酸塩サンピロR交感神経アドレナリン作動薬ジピベフリン塩酸塩ピバレフリンRa2作動薬ブリモニジン酒石酸塩アイファガンRa遮断薬ブナゾシン塩酸塩デタントールRb遮断薬チモロールマレイン酸塩カルテオロール塩酸塩ベタキソロール塩酸塩ニプラジロールレボブノロール塩酸塩チモプトールRミケランRベトプティックRハイパージールRミロルR炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド塩酸塩ブリンゾラミドトルソプトRエイゾプトRプロスタグランジン製剤イソプロピルウノプロストンラタノプロストレスキュラRキサラタンR配合薬ザラカムR(キサラタンR+チモプトールR)デュオトラバR(トラバタンズR+チモプトールR)タプコムR(タプロスR+チモプトールR)コソプトR(トルソプトR+チモプトールR)アゾルガR(エイゾプトR+チモプトールR)ンスが落ちて,患者が点眼しなくなってしまっては本末転倒になってしまう.したがって,眼圧下降効果を最大にするためには,点眼薬の投薬数を増やせばいいというものではなく,それぞれの症例に応じてさまざまな要素を考慮してゆく必要がある.現実的には3種類の点眼薬併用が限界だと感じている.本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014539 TotalSubjects20IntraocularPressure(mmHg,mean±SD)ProportionParticipantsDevelopingFieldProgressionbrimonidinetimololtimolol0.40.31510500.1brimonidine0.00481216202428323640444804812162024283236404448Follow-up,monthsTotaltimololAtRisk79787771696460874841252316ProgressionInactive11621122334252720633125StudyEnd7211323brimonidineAtRisk99927763585048484541343026ProgressionInactive715145171100032210043125StudyEnd6442223図1aチモロール投与群とブリモニジン投与群の視野進行変化ブリモニジン投与群の視野変化が有意に抑制されている.(文献5より引用)点眼薬併用が眼圧下降に与える効果についてはさまざまな論文が発表されているが,これも多数例の平均で比較した結果であり,中には,点眼薬を追加してもほとんど効果のない症例もあるかと思えば,予想外に追加の眼圧下降効果を示す例もある.あくまでも個々の症例で,さまざまな要素を考慮して追加投与を考えていく必要がある.眼圧下降以外の作用さまざまな緑内障治療薬に眼圧下降以外の作用があることは,今までも報告されている.点眼によって眼底の血流に影響するという報告も,レーザースペックルを用いた研究でなされてきた3,4).このように,緑内障治療薬は眼圧下降以外にも,眼血流などの緑内障の進行に重要な要素に関与していると考えられている.しかし,これらの要素が実際の臨床で薬剤選択の根拠になるかといえば,エビデンスが不足しているというのが現状であった.一方,緑内障に対する神経保護効果をもつ薬剤の治療効果について,基礎実験は多数行われているが,臨床治験にまで進んだ薬剤は少ない.しかも薬剤の有効性を確認するためには,年余にわたる視野進行の結果を解析しなければならず,臨床治験まで進んだ薬剤でも,メマンチンのように最終的に有効性が証明できなかった薬剤も存在する.このように緑内障治療の中で,眼圧下降以外のいわゆる「神経保護治療」はかなり以前から注目されていたが,なかなか実用化に至らないというのが現状で540あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014Follow-up(months)図1bチモロール群とブリモニジン群の眼圧の変化2群間の眼圧に差はない.あった.最近,Low-PressureGlaucomaTreatmentStudyの論文で,ブリモニジン点眼群とチモロール点眼群とを比較してみたところ,2群間で眼圧下降効果は変わらないが,視野の進行に有意の差があり,ブリモニジンに視野維持効果があるという結果が出ている(図1a,b)5).この論文に関しては,2群間でdropout数に差があるなど,結果に対する異論もある.しかし,この薬剤が眼圧下降以外の作用で緑内障の視野進行を抑制する効果がある可能性を示唆している.現時点では,すべての緑内障治療薬は眼圧下降効果を第一に考えるべきで,これが現在唯一のエビデンスのある治療法である.しかし眼圧下降以外の作用のことも,最大限の眼圧下降が得られた後の治療としては,考えてもよいのではないかと考える.文献1)vanderValkR,WebersCAB,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20052)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533540,20073)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgraphyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol88:723-729,20104)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,19975)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,2011(62)

抗VEGF治療:マクジェン®の特徴

2014年4月30日 水曜日

●連載抗VEGF治療セミナー─薬剤選択─監修=安川力髙橋寛二3.マクジェンRの特徴小沢洋子慶應義塾大学医学部眼科学教室マクジェンRは,RNAからなるアプタマーであり,免疫原性が少ないとされる.VEGF165アイソフォームを選択的に抑制し,一部の生理的および病的VEGF作用を残存させうるという利点と欠点がある.これまでの使用経験を紹介し,加齢黄斑変性の治療維持期に継続投与した臨床試験の報告から,マクジェンRの利用法を探る.マクジェンRはアプタマーであるマクジェンR(MacugenR)は,世界で初めて加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対して承認された血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抑制薬,すなわち抗VEGF製剤である.物質名はペガプタニブであり,他の抗VEGF製剤がアミノ酸を配列させたペプチドもしくは蛋白製剤であるのに対し,28個のリボ核酸(ribonucleicacid:RNA)を配列することでVEGFの特定の部分に結合しやすい立体構造を作製したアプタマーである.RNAのみの配列は非常に不安定であるが,ポリエチレングリコール(polyethyleneglycol:PEG)基を結合させることで安定性を増し,薬剤阻害効果の持続を延ばすことに成功した.アプタマーは蛋白製剤ではないことから,免疫細胞が異物と認識して自己抗体を作ること,すなわち免疫原性が少ないと考えられる.継続的に使用する薬剤では,薬剤に対する免疫反応による薬剤の有効性低下が懸念されるが,マクジェンRでは,その影響が少ない可能性があるところは利点である.マクジェンRはVEGF165アイソフォームを選択的に抑制するVEGF遺伝子には8個のエクソン(アミノ酸をコードする遺伝子の部分)があり,その組み合わせによりアイソフォームが決まる.マクジェンRはその中でもVEGF165アイソフォーム(数字はエクソンから翻訳されたアミノ酸の数の合計を示す)を選択的に抑制する.「選択的」という言葉は,特異的とは異なる.マクジェンRはVEGF165アイソフォーム特異的ではない.マクジェンRはVEGFエクソン7の配列に結合するため,165アイソフォームにも結合するが,ほかのアイソフォームにも結合しうる(図1).しかし,とくに眼病態には165アイソフォームの関与が大きいと考えられる1)ことから,このアイソフォームにフォーカスした呼び名がついた.眼内には121アイソフォームも多く存在し,病的・生理的役割を担う.マクジェンRは121アイソフォームに結合しないことから,眼内に投与した際に一部のVEGF機能を残すことができると考えられている.すなわち,マクジェンRはVEGF生理的作用を一部残すことで,正常組織への影響(網脈絡膜萎縮など)を,最小限に抑えられる可能性があるという考え方がある.マクジェンRによるAMD治療マクジェンRを用いてAMDに対して最初に行われた臨床試験は,2001年から欧米で行われたVISIONstudyであり,約1,200名のAMD患者が集められた2).続いて日本で行われた臨床試験では,95名のAMD患者に対するマクジェンRの効果が検証され,治療開始1Macugen.結合部位VEGF121VEGF165VEGF189VEGF206図1マクジェンRのアイソフォーム選択性マクジェンRは,121アイソフォームにはなく,165アイソフォームなどに存在する構造に結合する.眼内では121と165アイソフォームの発現が多く,それぞれVEGFの病的および生理的役割を担う.なお,ルセンティスRはすべてのアイソフォームに共通な部分に結合し,アイリーアRはVEGF受容体結合部位があれば反応するため,いずれもすべてのアイソフォームと結合することになる.(59)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145370910-1810/14/\100/頁/JCOPY 年目の平均視力変化がほぼ維持され,15文字以上,低下した症例は20%にとどまったことが報告された3).この日本での臨床試験の平均視力変化の推移のグラフを見ると,エラーバーが大きいことがわかる.これは症例ごとの効果に大きな差があった可能性を示している.その理由のひとつは,国内で初めての抗VEGF製剤の試験であり,それまでAMDと診断されても治療を受けずに待っていた比較的経過の長い症例が多く含まれていた可能性があることに起因するだろう.それと同時に,AMDでは症例に多様性があり,治療効果には個人差がある.マクジェンRの国内臨床試験の結果をサブ解析したところ,乳頭径1.2mm以下の病変では,視力予後が良かったという(Yuzawaetal.personalcommunication).また,筆者らの解析では,治療後に眼底所見の改善を得た症例には,網膜色素上皮の下に病変がとどまっているType1症例が多かった(第63回臨床眼科学会).このように,特定の症例ではマクジェンRが奏効する例があることが知られる.また,筆者の経験からは,マクジェンRで治療を開始する場合は,3回の投与で効果が十分ではなくても,5.6回投与を続けると奏効することがあったことを申し添えておく.効果判定の時期にも留意が必要であろう.マクジェンRの維持期治療への活用マクジェンRの使い方を提案した臨床試験に,米国で行われたLEVELstudyを踏襲して国内で行われたLEVEL-Jstudyがある4).まず光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)やマクジェンRを含む抗VEGF製剤で視力が上昇した症例で,その後の維持期の治療として,マクジェンRの定期投与を行ったときの視力予後を解析したものである.維持期中にマクジェンR治療だけでは効果が不足である場合には,ほかの治療法を組み合わせるBooster治療を取り入れることを可能とした.約50%の症例ではBooster治療が行われた.1年目の視力は,維持期を開始したときとほぼ変化がなかった.すなわち,マクジェンRの定期投与をベースとして,ほかの治療を組み合わせることで,導入期に上がった視力を維持することができる可能性があるといえたのである.一般に,抗VEGF製剤の投与法は,毎月投与がもっとも効果的であることは知られているものの5),実務的には,滲出性所見や視力が悪化したときに投与するPRN法が用いられているのが現状である.しかし,PRNでは悪化するたびに網膜障害を残す可能性があることから,最近では,毎月ではないにしても定期的に,悪化を防ぐ目的で投薬するtreatandextendの方法が注目されている.この流れを考えれば,維持期にマクジェンRの定期投与をベースとした治療をするという考え方があっても良いかもしれない.おわりに現在,AMD治療に認可をもつ抗VEGF製剤は3種類あるが,マクジェンRはアプタマーである,165アイソフォーム選択的である,という他の2剤とは根本的に異なる特徴がある.長期にわたって経過を追う必要のあるAMDという疾患では,病変に対する効果だけではなく,免疫原性や正常組織への影響等も含めたうえで治療を考える必要がある.これらのことを考えると,マクジェンRは,治療選択のひとつとして確保しておきたい薬剤といえよう.文献1)FribergTR,TolentinoM,GroupLS:Pegaptanibsodiumasmaintenancetherapyinneovascularage-relatedmaculardegeneration:theLEVELstudy.BrJOphthalmol94:1611-1617,20102)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETJr.etal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed351:2805-2816,20043)ペガプタニブナトリウム共同試験グループ:脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性を対象としたペガプタニブナトリウム1年間投与試験.日眼会誌112:590-600,20084)IshibashiT,LEVEL-JStudyGroup:Maintenancetherapywithpegaptanibsodiumforneovascularage-relatedmaculardegeneration:anexploratorystudyinJapanesepatients(LEVEL-Jstudy).JpnJOphthalmol57:417423,20135)CATTResearchGroup,MartinDF,MaguireMG:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,2011538あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(60)

緑内障:二次的網膜神経節細胞死(続発性緑内障網膜剥離関連)

2014年4月30日 水曜日

●連載166緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也166.二次的網膜神経節細胞死宗正泰成聖マリアンナ医科大学医学研究科眼科学(続発性緑内障網膜.離関連)網膜.離後手術後,網膜復位が得られているにもかかわらず,神経線維の進行する菲薄化を認めることがある.その原因として.離網膜硝子体における炎症性サイトカインの網膜神経節細胞への関与を考えた.早期からの消炎やサイトカインの除去は,続発する網膜神経節細胞死に対する保護治療として重要であると考えられる.ざまな報告がある.筆者らは今回,原発性緑内障とは別●網膜.離と炎症性サイトカインに,網膜.離手術後の網膜神経節細胞死に着目した.網軸索障害に引き続く網膜神経節細胞死は,原発性緑内膜.離は.離網膜内で炎症性サイトカインが上昇するこ障の主たる病態である.その原因には高眼圧はもちろとが基礎・臨床双方で証明されている1).当院で施行さん,酸化ストレス,免疫反応,ミトコンドリア障害や炎れた網膜.離手術後眼(硝子体手術もしくはバックリン症性サイトカインによるマイクログリアの活性などさまグ手術後眼)に,OCTにより視神経乳頭解析・網膜神術前術後3カ月図1網膜.離手術前と術後3カ月の眼底チャートとOCT術後3カ月で神経線維層の菲薄化を認めた.(57)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145350910-1810/14/\100/頁/JCOPY TNFa注射後の視神経軸索障害TNFa注射後の扇状の網膜神経節細胞死TNFa注射後の扇状の網膜神経節細胞死TNFa注射後の視神経軸索数400,000350,000300,00050,0000コントロールTNFp<0.05TNFa注射後の網膜神経節細胞数軸索数/mmp<0.05250,0002,000網膜神経節細胞数/mm20コントロールTNFコントロールTNF200,000150,000100,0001,5001,000500図2TNFa硝子体注射後の視神経軸索変性TNFa注射後2週間より,コントロール群に比し有意な軸索変性が生じる.経節細胞解析を行ったところ,術前と比較すると約15%の進行性の視神経軸索変性および網膜神経節細胞死を認めた(図1).過去の論文では,網膜.離眼の硝子体液でTNF(tumornecrosisfactor)の上昇が認められている2).また,東北大学の中澤らは以前,実験的ラット網膜.離眼における視細胞死に関して,TNFa,とくにTNFreceptor2が中心的役割を担うことを報告した3).これらの結果は,網膜.離の網膜硝子体内ではTNFaが上昇していること示唆している.●炎症性サイトカインと網膜神経節細胞死聖マリアンナ医科大学の北岡らは,少量のTNFa(20ng)をラットの硝子体に注射することで,注射後2週間で30%程度の視神経軸索変性が,注射後5週間で約30%の網膜神経節細胞死が生じることを報告した(図2,図3)4).さらに,TNFa投与は緑内障に類似した扇状の網膜神経節細胞死をきたす(図3).この機序として,マイクログリアにおけるNFkBp65の上昇などが考えられている.筆者らの実験結果より,網膜.離で上昇した網膜硝子体内のTNFaは,マイクログリアの活性を誘導し,軸索変性および網膜神経節細胞死を引き起こしている可能性が示唆された.●二次的網膜神経節細胞死と神経保護網膜.離後早期からTNFaの上昇が報告されていることから,なるべく早期に硝子体手術を行うことで,網536あたらしい眼科Vol.31,No.4,20142週5週図3TNFa硝子体注射後の網膜神経節細胞死TNFa注射後5週間より,コントロール群に比し有意な網膜神経細胞死が生じる.その細胞死は軸索障害に準じて生じるため扇状を示す.膜硝子体内のTNFaを除去可能であり,術後の視細胞死の予防のみならず二次的網膜神経節細胞死の予防にもなりうる.さらに.離発症早期よりステロイドを用い消炎することでTNFaの発現を抑制でき,二次的網膜神経節細胞死を抑制できると考えられる.症例にもよるが,強膜バックリング(scleralbucklingprocedure:SBP)よりも,経結膜小切開硝子体手術のほうが硝子体内炎症性サイトカインの除去が可能であり,二次的網膜神経節細胞死に対し有用であると考えられる.このように網膜.離のみならず,その他の疾患においても,炎症性サイトカイン制御の神経保護に及ぼす影響は多少なりとも存在すると考えられる.文献1)NakazawaT,MatsubaraA,NodaKetal:Characterizationofcytokineresponsestoretinaldetachmentinrats.MolVis12:867-878,20062)LimbGA,HollifieldRD,WebsterLetal:SolubleTNFreceptorsinvitreoretinalproliferativedisease.InvestOphthalmolVisSci42:1586-1591,20013)NakazawaT,HisatomiT,NakazawaCetal:Monocytechemoattractantprotein1mediatesretinaldetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSA104:2425-2430,20074)KitaokaY,KitaokaY,KwongJMetal:TNF-alphainducedopticnervedegenerationandnuclearfactor-kappaBp65.InvestOphthalmolVisSci12:7675-7683,2012(58)

屈折矯正手術:屈折矯正手術と自衛隊

2014年4月30日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載167大橋裕一坪田一男167.屈折矯正手術と自衛隊播本幸三防衛医科大学校眼科陸上自衛隊員は大部分が健常者であり,その約半数が近視などの屈折異常を呈している.屈折矯正方法は眼鏡あるいはコンタクトレンズ(CL)である.隊員は眼鏡やCLに対して不便や不安を感じつつも日常業務に従事している.屈折矯正手術を受けているのはわずか約5%であるが,手術は任務遂行能力向上に寄与している.●陸上自衛官の屈折矯正の現状平成23年3月11日に発生した東日本大震災では,東北地方を中心に東日本の広域が未曾有の被害を受けた.その大震災後の災害復旧活動に延べ1,058万人の自衛隊員が派遣され,人命救助,救急患者搬送,遺体収容,物資輸送,給水支援,給食支援,入浴支援,原子力災害対処などに過酷な状況下で従事した.疫学調査によれば,日本人成人における近視の割合は38.3.49.0%と報告されている1).近年わが国においてlaserinsitukeratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術を受ける人が増加してきた.今回,筆者らは陸上自衛官の屈折矯正の現状を調査する目的で,東日本大震災後の災害派遣活動に従事した陸上自衛官519名(全員男性)を対象としてアンケート調査を実施した.その結果眼鏡眼鏡+DSCL眼鏡+HCL眼鏡+SCLHCLDSCL図1陸上自衛官の屈折矯正法運転時に屈折矯正器具を必要とする246名のうち,眼鏡を使用しているものは118名(48.0%),CLを使用しているものは32名(13.0%),双方を使い分けているものは96名(39.0%)であった.DSCL:ディスポーザブルソフトコンタクトレンズ.HCL:ハードコンタクトレンズ.SCL:リユーザブルソフトコンタクトレンズ.(文献2より転載)は以下の通りである2).・回答者:516名(99.4%)・屈折矯正(眼鏡あるいはCL)を要する者:246名(47.7%)(内訳)眼鏡を使用している者:118名(48.0%)CLを使用している者:32名(13.0%)両者を併用している者:96名(39.0%)(図1)2)・CLを使用している者144名中過去にCL関連のトラブルを経験した者:52名(うち35名は演習中のトラブル)・演習中の眼鏡やCLが不便であると感じた者眼鏡装用者:66.9%CL装用者:63.5%・演習中のCLの交換についてたまに交換:33.1%無交換:61.9%・派遣中の眼鏡やCLのトラブルに対してとても不安:21.4%やや不安:46.9%この調査から,屈折矯正を必要とする多くの自衛官は,眼鏡やCLに対して不安や不便を感じつつ業務に従事している現状がみえてきた.近年のCLは酸素透過性に優れ,連続装用可能な商品も多数市販されているが,使用方法や管理方法に問題があり,CL使用者の角膜感染症の報告3)にもあるように,自衛官にとって眼鏡やCLが理想的な屈折矯正法とはとてもいいがたい.一方,屈折矯正手術を受けた者はわずか24名(4.7%)であった.今回調査した自衛官の多くは,屈折矯正手術に対して一定の興味はあるが,経済的な理由からあきらめているのが現状であった.(55)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145330910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表1自衛官における屈折矯正手術の視機能および任務への影響調査項目術前術後p値13.0%4.3%ドライアイ有病率(9名)(3名)p=0.0048光のにじみ1.71.9p=0.1097視機能遠方の見え方3.31.4p<0.0001近方の見え方2.11.5p=0.0002即応性2.61.3p<0.0001任務への影響防護マスク装着2.91.3p<0.0001任務遂行能力2.81.2p<0.0001屈折矯正手術の前後で比較して,ドライアイ有病率,視機能(遠方の見え方,近方の見え方),任務への影響(即応性,防護マスク装着任務遂行能力)において有意にスコアが改善した.●自衛官における屈折矯正手術の有用性他国(米国など)では,軍隊における屈折矯正手術の有効性についての報告がすでにある4,5).筆者らは,陸上自衛官における屈折矯正手術の視機能,任務遂行能力への影響について,すでに手術を受けた69名(男性65名,女性4名)に対してアンケート調査を行った.アンケートでの調査項目は表1の通りである.回答をスコア化(1:とてもよい,2:まあまあよい,3:やや悪い,4:悪い)し,c2検定で統計学的解析を行い,屈折矯正手術の前後で比較した.結果としては視機能では遠方の見え方,近方の見え方のいずれも有意に改善していた.任務への影響では即応性,防護マスク(図2)の装着,任務遂行能力のいずれもスコアが有意に改善していた(表1)2).よって屈折矯正手術は自衛官にとって任務遂行上,非常に有益であると結論づけられる.●自衛隊における屈折矯正手術の問題点と展望多くの自衛官は屈折矯正(眼鏡やCL)に不便や不安を感じながら業務に従事しているが,屈折矯矯正手術は自費で少数の隊員が受けているのが現状である.米軍では公費で隊員に屈折矯正手術を実施している.屈折矯正図2防護マスク化学兵器の脅威に曝された時点から約5秒以内に装着を完了しなければならない.眼鏡をかけたままでは装着は不可能であるので,マスク内には各隊員の屈折に合わせたレンズがあらかじめ装.されている.手術は隊員の任務遂行上有益であるが,わが国においても米軍のように公費で屈折矯正手術を実施するには,安全性の確立,莫大な費用,手術実行上の問題(場所,執刀する眼科医官数や技能,教育体系,適応決定など),立法上の問題,世論など,克服しなければならないハードルは高くて多い.文献1)HayashiH,YamashiroK,NakanishiHetal:Associationof15q14and15q25withhighmyopiainJapanese.InvestOphthalmolVisSci52:4853-4858,20112)播本幸三,加藤直子,庄司拓平ほか:陸上自衛官における屈折矯正法の現状:東日本大震災後の経験を踏まえて.日眼会誌118:84-90,20143)YeungKK,ForisterJF,ForisterEFetal:Compliancewithsoftcontactlensreplacementschedulesandassociatedcontactlens-relatedocularcomplications:theUCLAContactLensStudy.Optometry81:598-607,20104)StanleyPF,TanzerDJ,SchallhornSC:LaserrefractivesurgeryintheUnitedStatesNavy.CurrOpinOphthalmol19:321-324,20085)PandayVA,ReillyCD:RefractivesurgeryintheUnitedStatesAirForce.CurrOpinOphthalmol20:242-246,2009☆☆☆534あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(56)

眼内レンズ:日本医大式(三日月型)MQA

2014年4月30日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎鈴木久晴332.日本医大式(三日月型)MQA日本医科大学武蔵小杉病院志和利彦高橋浩日本医科大学眼科学教室MQAは眼科手術において重要な器具であるが,出血や水分の吸収除去に有用である一方,水分を急速に吸収するため,切開創の圧迫や組織の.離には適さない場合も多い.今回,筆者らはMQAの形を三日月型とし,そのホルダーも均等に力がかかるように設計し,切開創圧迫や出血除去など,さまざまな場面でこのMQAを用い臨床評価を行った.現在,medicalquickabsorber(MQA)は内・外眼手術ともに,なくてはならない器具となっている.しかし,出血や余分な水分の吸収除去などに有用である一方,水分を急速に吸収するため,切開創の圧迫や組織の.離などには適さない場合も多い.また,一度水分を吸収するとすぐに交換が必要となってしまう.そこで今回,筆者らはMQAの形を三日月型にした日本医大式MQAを考案した(図1).日本医大式MQAは,幅7mm,下側は平面ではなく,三日月型に弧を描いている.MQAホルダーは,ステンレス製で,全長73mm,MQAを把持する部分はMQAに並行するように弧を描く構造とした.これによりMQAに均等に力がかかるようになっている.また,MQAを固定する台を設け,MQAを交換する際にワンタッチでホルダーに装着できるように工夫した.筆者らはさまざまな手術でこのMQAを用い,その有用性を評価した.まずは,白内障手術の器具の出し入れ時における前房虚脱防止のための切開創の圧迫に用いた(図2).USチップやI/Aチップを引き抜く際には急激な前房虚脱を起こすことがあり,これを防ぐ方法として切開創を指で圧迫したり1),MQAで押さえたりする方法2)がある.しかし,通常のMQAではすぐに水分を吸収してしまうため切開創に均等に圧がかからず,十分な効果が得られないことがある.一方,日本医大式MQAでは,切開創に均等に圧が加わることによりチップの抜出時に切開創からの前房水の漏出も少なくなり,前房を維持したままのチップの抜きだしが可能であり有用であった.つぎに角膜切開における眼球固定に用いた(図3).切開創の対側から日本医大式MQAで固定することにより,眼球は固定され良好な切開創を作製することができた.これもやはり構造上,眼球に均等な力を加えることができるためである.また,日本医大式MQAは白内障手術以外の手術にも有効である.たとえば,翼状片の手術では,角膜からの翼状片の.離除去に有効である.翼状片などの組織を鈍図1日本医大式MQA,MQAホルダー,セッティングのための固定台図2前房虚脱の防止(53)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145310910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図3角膜切開における眼球固定図3角膜切開における眼球固定的に.離したい場合には,MQAを縦方向に用いることにより,力をピンポイントでかけることができるので,細かな組織.離に有用であった.また,強膜からの出血を凝固する際に,術野を確保するための眼球固定や,出血部を同定するための血液の拭き取りに非常に有用であった(図4).さらに,通常のMQAであると,血液や水分などをふき取るとMQAは大きく膨らみ,すぐに水分の吸収力が落ちてしまうが,日本医大式MQAの場合は先を少しつまむだけで簡単に水分を絞ることができ,再度,出血の拭き取りなどが可能であった.その他の使用方法としては,眼瞼下垂手術時・斜視手図4翼状片手術における止血操作術時の筋肉の露出とテノン.の掻爬などが考えられる.日本医大式(三日月型)MQAとMQAホルダーは,さまざまな眼科手術において有用な器具であると思われる.文献1)中野敦雄:自己閉鎖率を高めるための工夫.眼手術学5白内障(大鹿哲郎編),p130-132,文光堂,20122)鈴木久晴:視神経,網膜への侵襲を低減する工夫.新ESNOW11低侵襲手術(ビッセン宮島弘子,門野園一明編),p54-61,メジカルビュー社,2012

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療の疑問⑪

2014年4月30日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②11本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.シリコーンハイドロゲルレンズは眼にとって安全ですか?シリコーンハイドロゲルレンズのメリット,デメリットを教えてください.講師稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(siliconehydrogelcontactlens:SHCL)の最大の特徴は,非常に高い酸素透過性を有していることであり,CL装用に伴う乾燥感や充血を軽減するメリットがある(図1).発売当初は連続装用可能なレンズとして販売されていたが,現在では終日装用・2週間頻回交換型が主流であり,球面レンズに加え,乱視用・遠近両用の製品も増えているため,処方対象の年齢層も拡大している.また,連続装用が可能なレンズであるため,角膜疾患を有する症例に対して治療用CLとして使用されている製品もある.しかしながら,発売後約10年が経過して,SHCLのデメリットも数多く指摘されている.SHCLに多くみられる眼障害の原因として,素材の硬さ,ケア用品である多目的溶剤(multi-purposesolution:MPS)との相性,脂質汚れ,微生物の付着性などがあげられる.図1含水性SCLからSHCLへの変更による角膜血管新生の軽減例左:2ウイークアキュビューR使用中.右:アキュビューRアドバンスR装用開始2週間後.R:登録商標(岩崎直樹先生のご厚意による)(51)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY●素材の硬さSHCLは含水率が低い製品ほど酸素透過係数が高くなる反面,硬いレンズになる.現在わが国で発売されているSHCLのうち,弾性率が高いlotlafilconA,balafilconA,lotlafilconB,asmofilconAは,他の製品より比較的硬めのレンズといわれている.CLの硬さが関与するとされる眼障害の代表として,superiorepithelialarcuatelesions(SEALs),巨大乳頭結膜炎,ムチンボール(mucinball)などがあげられる.SEALsはSHCL装用者に多く発症する角膜上皮障害であり,角膜上方輪部角膜に弓状に点状表層角膜炎が集簇する(図2).初期には島状の上皮障害から始まり,輪部と平行に拡大する.ときに結膜充血や角膜血管新生を伴い,異物感や充血を訴えることもあるが,無症候性の症例も多い.SEALsは,上眼瞼とCLによる上輪部角膜に対する機械的ストレスとが原因として考えられており,CLの硬さとCL周辺部の厚みとの関連が指摘されている.巨大乳頭結膜炎についてもCLによる機械的刺激が発症の一因とされている.ムチンボールは,角膜と図2superiorepithelialarcuatelesions(SEALs)(提供:Johnson&JohnsonK.K.)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014529 図3ムチンボール連続装用SCLやシリコーンハイドロゲルレンズ装用眼などにみられることがある.(提供:Johnson&JohnsonK.K.)CLの間に生じる半透明.乳白色の小球形の混濁である(図3).スティープなCLを装用することによるCL.角膜間の涙液交換不良が原因とされ,その形成には脂質とムチンが関与しているといわれている.自覚症状はなく,CLをはずすと消失する.●ケア用品である多目的溶剤(MPS)との相性lotlafilconAが発売された当初,ケア用品としてPHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)を主成分とするMPSを使用していた装用者に角膜上皮障害が発症することが報告された1.3).MPSで保存したSHCLを装用すると表在性点状角膜炎がみられ,装用後2.4時間で消退するといわれている.その後の報告で,発売されているSHCLの多くは,PHMB製品で角膜上皮障害が起こるものの,SHCLとMPSの組み合わせによって発生頻度も上皮障害の程度も異なることが明らかになった4).SHCLのケア方法としては過酸化水素による消毒が推奨され,MPSを使用する際には注意が必要である.●汚れやすさSHCLに蛋白汚れはほとんど付着しないが,脂質汚れは付きやすい特性がある.化粧品には多くの脂質成分が含まれているため,目元に使用する化粧品やハンドクリームを使用した手指からSHCLに脂質汚れが付着し,結膜炎などの障害が誘発される可能性がある.また,SHCLは含水性SCLより細菌やアカントアメーバなどの微生物が付着しやすく,角膜感染症の発症に関与しているとの報告がある5,6).しかしながら,製品によっても差があるため,SHCLがすべて危険ということではないが,現在発売されているSHCLの多くが2週間頻回交換型であることから,毎日の洗浄と消毒を中心としたレンズケアに関する指導と注意喚起を十分に行う必要がある.文献1)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20052)水谷由紀夫:ソフトコンタクトレンズ,シリコーンハイドロゲルレンズ装用者にみられる角膜ステイニング.日コレ誌49:228-237,20073)AndraskoG,RyenK:Cornealstainingandcomfortobservedwithtraditionalandsiliconehydrogellensesandmultipurposesolutioncombinations.Optometry79:444454,20084)糸井素純:シリコーンハイドロゲルレンズとケア製品との適合性.日コレ誌50:s11-s15,20085)BeattieTK,TomlinsonA,McFadyenAK:AttachmentofAcanthamoebatofirst-andsecond-generationsiliconehydrogelcontactlenses.Ophthalmology113:117-125,20066)HenriquesM,SousaC,LiraMetal:AdhensionofPseudomonasaeruginosaandStaphlococcusepidermidistosiliconehydrogelcontactlenses.OptomVisSci82:446-450,2005530あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(00)ZS697

写真:後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)

2014年4月30日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦359.後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)張佑子バプテスト眼科クリニック図2図1のシェーマ①:下方の角膜後面に集簇する水疱様病変②:瞳孔領に孤発する水疱様病変③:平行な帯状病変図1後部多形性角膜ジストロフィ(PPCD)の水疱様病変(34歳,男性,右眼)下方の角膜後面に水疱様病変が集簇している.矯正視力は(1.2)と良好である.角膜内皮細胞密度は1,153/mm2と減少している.図3PPCDの帯状病変(49歳,女性,右眼)図4PPCDの進行例(49歳,女性,右眼)角膜後面に平行な帯状病変を認める.耳上側から瞳孔領にかかる角膜浮腫を認める.角膜内皮細胞減少が進行し,水疱性角膜症となり,角膜内皮移植術を施行した.(49)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145270910-1810/14/\100/頁/JCOPY 後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)は,1916年にKoeppeにより報告された角膜内皮細胞が上皮様に異常分化し増殖する,比較的まれな角膜内皮変性疾患である.常染色体優性遺伝であり原因遺伝子として,PPCD1(MIM#122000)のVSX-11),PPCD2(MIM#609140)のCOL8A22),PPCD3(MIM#609141)のTCF83)が同定されている.出生時から若年にかけて両眼性に発症し,左右非対称であることが多い.細隙灯顕微鏡検査では,Descemet膜から内皮レベルに水疱様,帯状病変(bandlesion)あるいはびまん性の混濁を認める.水疱様病変(vesiclelikelesion)の出現パターンは多彩であり,孤発する場合と集簇する場合がある.水疱様病変の周囲は,灰白色のhaloに囲まれていることが多い.帯状病変は水平方向に伸びる複数の平行な混濁として観察される.びまん性混濁はDescemet膜レベルに小さな斑状混濁として観察されるが,水疱様,帯状病変と比較すると少ない.角膜内皮細胞密度は,正常に近いものから低下したものまでさまざまである.スペキュラーマイクロスコープによる観察では,正常角膜内皮細胞の間に黒く抜けてみえるdarkareaが散在し,その境界は明瞭である.多くは非進行性であり自覚症状が乏しいため,コンタクトレンズ診療や検診で偶然発見される程度だが,まれに進行性で水疱性角膜症となる場合がある.PPCDに伴う他の所見として,滴状角膜,内皮機能障害による角膜浮腫,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS),瞳孔偏位などがある.PASの有無にかかわらず眼圧上昇をきたすことがある.治療は,無症状の場合には経過観察となる.角膜内皮細胞密度が減少した症例で白内障手術を行う際は,角膜内皮保護につとめる.角膜内皮細胞密度の低下により上皮障害を生じやすい症例では,治療用コンタクトレンズ装用や高張食塩水の点眼を行う.水疱性角膜症に至った症例に対しては,現在,角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)が行われている.鑑別すべき疾患としてposteriorcornealvesicle(PCV),虹彩角膜内皮症候群(iridocornealendthelialsyndrome:ICEsyndrome)がある.PCVは典型例では角膜後面に水平に伸びる帯状病変を認め,小水疱様病変として認められることもある.僚眼と比較して角膜内皮細胞密度が減少していることが多いが,進行することはほとんどなく,視力に影響することはない.ICE症候群は成人から中年女性に好発する.PPCDでは混濁は一定であるが,ICE症候群では角膜周辺部では混濁が薄い.また,PPCDに比べてPASや緑内障合併率が高い.いずれも非遺伝性で片眼性であることから鑑別可能である.PPCDはまれに出生時より角膜混濁を認める場合があり,先天緑内障,分娩時外傷などとの鑑別が必要である.先天緑内障では,乳幼児期から眼圧上昇をきたし,角膜内皮に横方向の線状混濁(Haab’sstriae)がみられる.分娩時外傷では,Descemet膜破裂による帯状病変は垂直方向に伸びる.文献1)HeonE,GreenbergA,KoppKKetal:VSX1:ageneforposteriorpolymorphousdystrophyandkeratoconus.HumMolGenet11:1029-1036,20022)BiswasS,MunierFL,YardleyJetal:MissensemutationsinCOL8A2,thegeneencodingthealpha2chainoftypeVIIIcollagen,causetwoformsofcornealendothelialdystrophy.HumMolGenet10:2415-2423,20013)KrafchakCM,PawarH,MoroiSEetal:MutationsinTCF8CausePosteriorPolymorphousCornealDystrophyandEctopicExpressionofCOL4A3byCornealEndothelialCells.AmJHumGenet77:694-708,2005528あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(00)

第3版ドライアイ診断基準改訂の提言

2014年4月30日 水曜日

あたらしい眼科31(4):523.525,2014c総説第3版ドライアイ診断基準改訂の提言ProposalfortheNewDryEyeDiagnosticCriteriaドライアイ研究会コアメンバー:坪田一男*(慶應義塾大学),島﨑潤(東京歯科大学),横井則彦(京都府立医科大学),渡辺仁(関西ろうさい病院),大橋裕一(愛媛大学),木下茂(京都府立医科大学)(順不同)Iドライアイ診断基準策定の歴史的背景1990年の設立以来,ドライアイ研究会は23年間にわたりドライアイの啓発,研究開発の推進を行ってきた.当初,ドライアイには乾性角結膜炎,眼乾燥症,乾燥症候群,Sjogren症候群などさまざまな名称が使用され,その概念も診断基準も統一されていなかった.そこで1995年,世界に先駆けて第1版のドライアイの定義および診断基準をドライアイ研究会のコアメンバーで作成した.この診断基準では,自覚症状の有無にかかわらず,涙液の異常と角結膜の異常が存在すればドライアイと診断するとした.その後,ドライアイ研究会が中心となって国際的なドライアイの定義,診断基準統一の重要性について各国のドライアイ専門家に働きかけを行った結果,2007年,TearFilm&OcularSurfaceSociety(TFOS)において国際基準のドライアイの考え方がまとめられ,世界に向けて発信された.これに先行して2006年にわが国でも定義,診断基準の見直しを行った(第2版).この見直しの大きなポイントは,“自覚症状”を重要視した点と,ドライアイの自覚症状に“視機能の異常”も含まれることを明記した点にある.涙液層が不安定となり(図1),時間軸を考慮した実用視力が低下する(図2)が,涙液層の不安定性はtearfilmbreak-uptime(BUT)検査によって測定が可能であり,視機能の異常は角膜トポグラフィや収差解析装置によっても検出可能である.図1涙液層の不安定なBUT短縮タイプのドライアイ角結膜の障害は少ないものの,BUTは極端に短縮し,症状も強い.〓-0.2〓-0.1〓0.0〓0.2〓0.3〓0.4〓0.5〓0.6〓0.7〓0.8〓0.9〓1.0051015202530354045505560図2BUT短縮タイプによる実用視力の低下この症例では通常の視力測定では1.2と判定されるが,継続して測定すると1分間に大きく変動していることがわかる.△:瞬目*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕坪田一男:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(45)523 IIBUT短縮型ドライアイの重要性近年,ジクアホソルナトリウム(ジクアスR)やレバミピド(ムコスタR)など,ムチンの分泌を促進し,涙液層の安定性を改善する点眼薬が登場するなか,ドライアイの病態に対する理解がさらに深まり,とくに“BUT短縮型ドライアイ”(英語ではshortBUTdryeye)に関する臨床的,基礎的知見が急速に集積されつつある.このタイプのドライアイの特徴としては,①他覚所見に比較して自覚症状が強い,②BUTをはじめとする涙液層の安定性を評価する検査が診断に必須である,③涙液層の安定性を助長する治療が有効なことが多い点,があげられる.これまで,BUT短縮型ドライアイは,角結膜障害が少ないにもかかわらず自覚症状が強い特異なドライアイで,治療法も確立しておらず,対応が難しい疾患とされてきた.1995年,このタイプのドライアイが初めて発表されたときには1)“BUTの短縮だけでそんなに強い症状が出るはずがない(,)のでは?”とか,“なぜSjogren症候群などの重症ドライアイに匹敵する自覚症状があるのか?”などの疑問が呈示され,このタイプのドライアイが独立した疾患単位として認知されることはなかった.しかしながら,涙液層安定性の重要性が認識され,上述の新しい点眼薬による治療の可能性が示されるに至り,BUT短縮型ドライアイは大きな注目を集めるようになった2).BUT短縮型ドライアイでは,角膜上皮表面の水濡れ性,あるいは涙液層の安定性が悪いために角膜上の涙液が容易に破綻し,視機能の低下や眼不快感が引き起こされると考えられている.このタイプの視機能の低下は通常の視力検査では検出できないが,1分間継続して視力を測定する「実用視力」によって検出可能であり3),高次収差も増えることがKohらによって報告されている4).また,京都府立医科大学の横井らは,涙液破綻のパターンによって本タイプのドライアイを鑑別できることを指摘し,大きなインパクトを与えた.さらに,近年実施されたドライアイ疫学研究(OsakaStudy)によれば,ドライアイ患者は涙液減少タイプよりもBUT短縮タイプが圧倒的に多く,現代のドライアイ診療において,このBUT短縮型ドライアイが重要な位置を占めると考えられるようになってきた.さて,現在のドライアイの診断基準によれば,自覚症状,涙液異常,上皮障害の3要素のなかで,“ドライアイ疑い”には以下の3つのパターンが存在する.①自覚症状あり,涙液異常あり,上皮障害なし②自覚症状なし,涙液異常あり,上皮障害あり③自覚症状あり,涙液異常なし,上皮障害ありBUT短縮型ドライアイは,このうちの①のパターンに属することになり,現行の基準では“ドライアイ疑い”とみなされてしまうという問題点がある(表1).本項で述べてきたように,BUT短縮型ドライアイのドライアイ診療における重要性に鑑み,今回,これを独立したド表1第2版ドライアイ診断基準(2006年)自覚症状涙液異常角結膜上皮障害ドライアイの診断○○○ドライアイ確定○○なしドライアイの疑いなし○○ドライアイの疑い○なし○ドライアイの疑いBUT短縮タイプのドライアイは“ドライアイの疑い”に分類される.表2第3版ドライアイ診断基準改訂の提言自覚症状涙液異常角結膜上皮障害ドライアイの診断○○○ドライアイ確定○○なしBUT短縮型ドライアイ確定なし○○ドライアイの疑い○なし○ドライアイの疑い524あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(46) ライアイの病型として取り扱うことを提唱する(表2).なお,②と③の臨床的意義や疾患概念については,今後の検討を待つこととする.III第3版ドライアイ診断基準改訂に向けて第2版の診断基準でも,主軸の涙液検査としてはSchirmer試験とBUT測定がとりあげられている.しかし,現在のドライアイ診療においてはBUT測定の重要性がさらに増大している.とくに,Sjogren症候群に代表される重症ドライアイと同程度の,強い自覚症状をきたすBUT短縮型ドライアイの診断には,BUT測定は不可欠である.BUTは部屋の相対湿度,フルオレセインの濃度や点眼する量によって大きく変化するため,最少量のフルオレセインを使用して検査することが求められる.最近,ドライアイと精神疾患との関係も注目されつつあり,興味深いことに涙液減少タイプのドライアイより,他覚所見に乏しい軽症のドライアイの方がうつ病と関係することがわかってきた5,6).また,BUT短縮型ドライアイの発症メカニズムに,コンピューターやスマートフォンの使用が関連する可能性も指摘されている.結論として,患者数あるいは臨床的重要性から考えて,BUT短縮型ドライアイを現行のドライアイ診断基準のまま,「ドライアイ疑い」とすることは実情に合わない.現在,エビデンスに基づいた診断基準やガイドラインの策定作業も開始されてはいるが,完成までにはしばらく時間を要すると思われる.そのため当面は,“BUT短縮型ドライアイ”を他の“ドライアイ疑い”とは区別して取り扱うことを提言する.謝辞:ドライアイ研究会は会員の会費に加え,以下の企業からの協賛を得て運営されている.株式会社オグラ,株式会社高研,小林製薬株式会社,参天製薬株式会社,株式会社シード,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,株式会社トーメーコーポレーション,名古屋眼鏡株式会社,株式会社ホワイトメディカル,ロート製薬株式会社(50音順)文献1)TodaI,ShimazakiJ,TsubotaK:Dryeyewithonlydecreasedtearbreak-uptimeissometimesassociatedwithallergicconjunctivitis.Ophthalmology102:302-309,19952)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosoltetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshortbreak-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595603,20133)KaidoM,DogruM,IshidaRetal:Conceptoffunctionalvisualacuityanditsapplications.Cornea26:S29-S35,20074)KohS,MaedaN,NakagawaTetal:Characteristichigher-orderaberrationsoftheanteriorandposteriorcornealsurfacesin3cornealtransplantationtechniques.AmJOphthalmol153:284-290,20125)LiM,GongL,SunXetal:Anxietyanddepressioninpatientswithdryeyesyndrome.CurrEyeRes36:1-7,20116)LabbeA,WangYX,JieYetal:Dryeyedisease,dryeyesymptomsanddepression:theBeijingEyeStudy.BrJOphthalmol97:1399-1403,2013☆☆☆(47)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014525