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白内障術前患者における結膜嚢内常在菌の薬剤感受性の比較

2014年4月30日 水曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(4):581.586,2014c白内障術前患者における結膜.内常在菌の薬剤感受性の比較港一美*1飯田悠人*1須田謙治*2石原健二*2遠藤みう*1矢坂幸枝*1倉員敏明*1*1公立豊岡病院組合日高医療センター眼科*2京都大学眼科学教室AntimicrobialSusceptibilityofNormalConjunctivalFloraofCataractSurgeryKazumiMinato1),YutoIida1),KenjiSuda2),KenjiIshihara2),MiuEndo1),YukieYasaka1)andToshiakiKurakazu1)1)DepartmentofOphthalmology,ToyookaHospitalHidakaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:白内障術前患者の結膜.内常在菌の薬剤感受性を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)にて比較した.対象および方法:2010年8月.2011年12月の間で外眼部感染症を有しない,白内障手術予定患者150例150眼の結膜.内常在菌およびそれらの薬剤感受性をレボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB),バンコマイシン(VCM)のMICにて比較検討した.結果:150眼中126眼(84%)に細菌が検出され,検出菌182株の内訳はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS)37.9%,コリネバクテリウム36.3%,アクネ菌6.3%の順であった.CNSに対するMIC90はGFLX・VCM<LVFX<CMX・TOBであり,コリネバクテリウムに対するMIC90はTOB<CMX<VCM<<GFLX<LVFXであった.コリネバクテリウムは第三・第四世代ニューキノロンに耐性を獲得しており,CNSに対するニューキノロンのMIC分布が二峰性を呈したことから耐性化が進行していると考えられた.Purpose:Toevaluatetheantimicrobialsusceptibilityofbacteriaisolatedfromconjunctivalsacsofpatientsundergoingcataractsurgery.Methods:Preoperatively,bacterialisolateswerecollectedfromtheconjunctivalsacsof150eyesatHidakaMedicalCenterfromAugust,2010toDecember,2011.Minimuminhibitoryconcentrations(MIC)oflevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),cefmenoxime(CMX),tobramycin(TOB)andvancomycin(VCM)weremeasuredtodeterminesusceptibility.Results:Atotalof182strainswereisolatedfrom126eyes.Themostfrequentlyisolatedbacterialspecieswerecoagulase-negativeStaphylococci(CNS),37.9%,followedbyCorynebacteriumspp.,36.3%andPropionibacteriumacnes,6.3%.VCMandGFLXhadthelowestMIC(90)sforCNS,followedbyLVFX,CMXandTOB.ForCorynebacteriumspp.,TOBhadthelowestMIC(90),followedbyCMX,VCM,GFLXandLVFX.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):581.586,2014〕Keywords:白内障手術,結膜.内常在菌,薬剤感受性,抗菌点眼薬,最小発育阻止濃度(MIC).cataractsurgery,bacterialflorainconjunctivalsacs,drugsensitivity,antibioticophthalmicsolution,minimuminhibitoryconcentration(MIC).はじめに眼科で使用頻度の高いフルオロキノロン系抗菌薬は強力な殺菌作用と広い抗菌スペクトルを持ち,周術期の感染予防目的に日常的に使用されている.術後眼内炎の起因菌は,術眼の結膜.常在菌によるものが多いといわれており1.4),近年,メチシリン耐性やフルオロキノロン耐性菌による眼内炎の報告もある5.11).公立豊岡病院組合日高医療センター(以下,当院)でも,白内障術後のレボフロキサシン耐性表皮ブドウ球菌による眼内炎を経験し,周術期の抗菌薬点眼を再検討する目的で白内障術前患者における結膜.内常在菌の薬剤感受〔別刷請求先〕港一美:〒669-5302兵庫県豊岡市日高町岩中81公立豊岡病院組合日高医療センター眼科Reprintrequests:KazumiMinato,DepartmentofOphthalmology,ToyookaHospitalHidakaMedicalCenter,81Iwanaka,Hidaka,Toyooka-city,Hyogo669-5302,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)581 性を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)にて比較検討した.I対象2010年8月.2011年12月の間,当院眼科を受診した20歳以上の白内障手術を予定し同意を得られた150例150眼で男性66例,女性84例,平均年齢は74.7±9.0歳であった.ただし,術前に明らかな外眼部感染症を認める者,検体採取日の1週間以内に抗菌剤の投与を受けている者,対象眼にコンタクトレンズを装用していた者については除外した.II方法手術の1カ月前以内に術眼の結膜.から検体を採取した.0.4%塩酸オキシブプロカインで表面麻酔した後,下眼瞼結膜.を滅菌綿棒で擦過し,カルチャースワブにて三菱化学メディエンス社に搬送した.羊血液寒天培地M58・クロムアガーオリエンテーション寒天培地・チョコレートⅡ寒天培地・アテネコロンビアウサギ血液寒天培地にて直接分離培養を,GAM半流動高層培地にて増菌培養を行い,検出されたすべての分離菌に対するレボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),塩酸セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB),バンコマイシン(VCM)のMICを微量液体希釈法で測定した.MICの結果は累積発育阻止曲線としてまとめ,薬剤間の差異を検討した.III結果150眼中126眼(検出率84%)に182株の菌が検出された.その内訳は表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis:S.epidermidis)を含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS)69株(37.9%),Corynebacteriumspp.66株(36.3%),Propionibacteriumacnes(P.acnes)11株(6.0%),腸球菌(Enterococcusfaecalis:E.faecalis)7株(3.8%),黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus:S.aureus)4株(2.2%)であった(図1).検出された全182株中MICが測定できた181株についてMIC別の菌株割合および累積発育阻止曲線を図2,3に示す.全菌株に対する薬剤感受性をMIC90で比較するとVCM(2μg/ml),CMX(8μg/ml),GFLX(16μg/ml),TOB(32μg/ml),LVFX(64μg/ml)の順で感受性が高かった.次に,グラム陽性菌153株に対するMIC別の菌株割合および累積発育阻止曲線を図4,5に示す.グラム陽性菌に対する薬剤感受性はMIC90でVCM(2μg/ml),CMX(8μg/ml),GFLX・TOB(16μg/ml),LVFX(128μg/ml)の順であった.一方,グラム陰性菌17株に対する薬剤感受性はMIC90でGFLX(0.5μg/ml),LVFX(1μg/ml),TOB(4μg/ml),CMX(16μg/ml),VCM(128μg/ml)の順であった(図6,7).主要な菌種別についてみると,CNSに対する薬剤感受性504540350:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>128割合(%)割合(%)その他グラムS.aureus,2.2%30陰性菌,9.3%図1検出菌182株の内訳25グラム陽性菌,CNS2015103.8%(S.epidermidisを含む)37.9%P.acnes,6.0%5S.pneumoniae,Corynebacterium0.5%spp.,36.3%MIC(mg/ml)図2検出菌182株のMIC別菌株割合E.faecalis,3.8%:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>12850450:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>12840累積(%)3530252015105MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図3検出菌182株のMIC累積分布図4グラム陽性菌153株のMIC別菌株割合582あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(104) 6050:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>12880700:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128割合(%)割合(%)累積(%)累積(%)累積(%)40504030302010MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図5グラム陽性菌153株のMIC累積分布図6グラム陰性菌17株のMIC別菌株割合:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM≦0.060.120.250.51248163264128>128800708060705060504040303020201010MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図7グラム陰性菌17株のMIC累積分布図8CNS(S.epidermidisを含む)68株のMIC別菌株割合:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>1288080割合(%)7070606050504040303020201010MIC(mg/ml)図9CNS(S.epidermidisを含む)68株のMIC累積分布MIC(mg/ml)図10Corynebacteriumspp.66株のMIC別菌株割合:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM100900≦0.060.120.250.51248163264128>1288080累積(%)累積(%)70706060505040302010MIC(mg/ml)MIC(mg/ml)図11Corynebacteriumspp.66株のMIC累積分布図12P.acnes11株のMIC累積分布(105)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014583 :GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM累積(%)1009080706050403020100≦0.060.120.250.51248163264128>128:GFLX:LVFX:CMX:TOB:VCM累積(%)1009080706050403020100≦0.060.120.250.51248163264128>128MIC(mg/ml)図13E.faecalis7株のMIC累積分布LVFXとGFLXのMIC差■:0管■:1管■:2管■:3管302520151050(菌株)≦0.06≦0.060.1250.250.51248164160.251GFLXはMIC90では,GFLX・VCM(2μg/ml),LVFX(4μg/ml),CMX・TOB(8μg/ml)の順であったが,MIC値の分布をみるとGFLX・LVFXは二峰性の分布を呈しており,CNSのなかでのフルオロキノロン低感受性株の増加がうかがわれた(図8,9).Corynebacteriumspp.についてはMIC90で,図14CNS68株のGFLX・LVFXのMIC値の比較討する目的で今回の調査を行うこととした.術前の結膜.からの検出菌は薄井ら9)の報告と同様,CNS,Corynebacteriumspp.,P.acnesの順であった.CNSTOB(≦0.06μg/ml),CMX(0.25μg/ml),VCM(0ml),GFLX(16μg/ml),LVFX(128μg/ml)の順となり,フルオロキノロンに対する高度な薬剤耐性を獲得しているとμg/5.の薬剤感受性はMIC90ではGFLX<VCM<LVFX<CMX<TOBであったがMICの分布をみると,星23)や片岡ら24)と同様,GFLX,LVFX共に二峰性の分布を示していた.思われた(図10,11).遅発性眼内炎の起因菌とされているP.acnesについては,MIC90はCMX(<0.25μg/ml),GFLX(0.25μg/ml),VCM(0.5μg/ml),LVFX(0.75μg/ml),TOB(128μg/ml)であり,TOB以外は感受性が高い結果であった(図12).E.faecalisについてはMIC90で,VCM(0.75μg/ml),GFLX(8μg/ml),LVFX(32μg/ml),TOB・CMX(>128μg/ml)の順であった(図13).IV考按白内障手術の主流が小切開手術となった現在,わが国の白内障手術後眼内炎の発症率は0.05%程度と考えられている9).一度起こってしまうと最悪失明に至るこの合併症を限りなくゼロに近づけるべく,ハイリスク患者の確認,術前結膜.細菌叢の把握,減菌化を目的とした抗菌薬の点眼,術直前の洗眼,ドレーピング法など,さまざまな検討がなされてきた11).術後眼内炎に限らず感染症の起因菌は微生物=準種性(quosispesisnature)を持つ集まりである以上,耐性の出現を止めることはできない12).これまでにも臨床状態が良好な患者にも耐性菌の保菌者がいること13.16),眼科領域で汎用されているキノロンの耐性率が年々増加傾向にあることといった報告がなされてきた17.22).術野の減菌化目的で抗菌薬の点眼を使用する以上,すべての手術対象者に対し術前に結膜.培養検査と分離菌の薬剤感受性検査を行い適切な薬剤を術前処置に使用することが大切といえる.当院でも,2007.2009年の間近隣からの紹介例も含め白内障術後眼内炎が増加し,LVFX耐性表皮ブドウ球菌が起因菌である症例を経験した.これをきっかけに周術期の抗菌薬点眼を再検584あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014Fukudaら25),Barnardら26),Hooper27)らによると,S.aureus同様,S.epidermidisはトポイソメラーゼIV(parC)→DNAジャイレース(gyrA)→parC→gyrAと変異を積み重ねるたびにより高度なフルオロキノロン耐性を獲得していく.このうちDNAジャイレースの変異を得るとGFLXへの耐性を獲得するとされ26),LVFXに対する低感受性群には第4世代フルオロキノロン耐性の予備軍が存在していることになり,このことは星23)の報告でも指摘されている.そこで個々のCNSについてGFLXとLVFXのMIC値の相関をみたところ図14のようになり,GFLX・LVFXともにMIC値の高い株のなかには少なくとも1回以上の遺伝子変異を起こしている株が存在すると考えられ,CNSのフルオロキノロンに対する段階的な耐性獲得を予想させる結果となった.一方Corynebacteriumspp.にはparCに相当するホモログが存在せず,DNAジャイレースの変異のみでキノロン高度耐性化を獲得することができるとされ28),筆者らの調査でも感受性の低い株が多かった.Corynebacteriumspp.による眼内炎は海外で散見され29.31),わが国では角膜炎が増加傾向にある.Eguchiら32)によるとフルオロキノロン耐性を持つのはCorynebacteriummaginleyであり,その耐性率はキノロンを乱用した日本に多いとされ,今後術後眼内炎についても注意が必要と思われる.P.acnesは遅発性眼内炎の起因菌とされ11,33),皮膚深部やマイボーム腺・結膜円蓋部の皺襞に埋もれて存在し,手術前の消毒・洗眼後にその検出率が増加し,他の術前常在菌が消失した例に多いとの報告もある34).わが国では現在のとこ(106) ろ,アミノ配糖体系の薬剤以外は有効とされ当院の調査でも同様の結果を得た.片岡ら24)や宮永ら35)も術前点眼によるP.acnesの耐性化はほとんどみられなかったとしているが,Horiら36)はCNS,S.aureus,Corynebacteriumspp.,P.acnesについては,LVFXに耐性を持つ株はMICが低くともGFLX,moxifloacinに対して耐性化していくと述べており,今後の動向を見張っていく必要があると思われる.E.faecalisによる眼内炎は1990年頃から増加しはじめ7),2002年度白内障術後眼内炎全国症例調査9)ではCNS,MRSAに次ぎ全体の12%を占め,MRSAとともに視力予後不良と報告されている.今回検出されたE.faecalis7株のMIC90はVCM以外は大きく,有効な抗菌薬の選択肢の少なさが,E.faecalisによる眼内炎の重症化の一因とも考えられた.術後眼内炎予防のために周術期減菌化目的で抗菌点眼薬を使用する場合,術眼の結膜.常在菌を把握し,そのMICに応じて術前抗菌点眼薬を選択すること,点眼薬の薬物動態37.39)を理解しておくことが大切である.そのためには,藤ら40)が報告した眼科用薬剤感受性測定オーダープレートのような眼科に特化した判定方法の開発が待たれるところである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)EggerSF,Huber-SpitzyV,ScholdaCetal:BacterialcontaminationduringECCE.Prospectivestudyon200concesutivepatients.Ophtalmologia208:77-81,19942)AriyasuRG,NakamuraT,TrousdaleMDetal:Intaraoperativebacterialcontaminationoftheaqueoushumor.OphthalmicSurg24:367-374,19933)SpeakerMG,MilchFA,ShahMKetal:Roleofexternalbacterialflorainthepathogenesisofacutepostoperativeendophthalmitis.Ophthalmology98:639-650,19914)BannermanTL,RhodenDL,McAllisterSKetal:Thesourceofcoagulase-negativestaphylococciintheEndophthalmitisVitrectomyStudy.ArchOphthalmol115:367-361,19975)BarryP,SealDV,GettinbyGetal:ESCRSstudyofprophylaxisofpostoperativeendophthalmitisaftercataractsurgery:preliminaryreportofprincipalresultsfromaEuropeanmulticenterstudy.theESCRSEndophthalmitisStudyGroup.JCataractRefractScug32:407-410,20066)JensenMK,FiscellaRG,CrandallASetal:Aretrospectivestudyofendophthalmitisratescomparingquinoloneantibiotics.AmJOphthalmol139:141-148,20057)原二郎:起炎菌の変遷と術前消毒の効果.眼科手術11:159-164,19988)秦野寛:白内障術後眼内炎:起炎菌と臨床病型.あたら(107)しい眼科22:875-879,20059)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,200610)DeramoVA,LaiJC,FasteningDMetal:Acuteendophthalmitisineyestreatedprophylacticallywithgatifloxacinandmoxiflxacin.AmJOphthalmol142:721-725,200611)子島良平,宮田和典:術後眼内炎を予防する白内障手術.IOL&RS22:137-141,200812)宮永嘉隆,山田尚,塩田洋:眼科.耐性菌感染症とその緊急具体策3.対策編化学療法の領域16:278-287,200013)大鹿哲郎:白内障術後眼内炎:発症因子と危険因子.あたらしい眼科22:315-338,200514)屋宜友子,須藤史子,森永将弘ほか:糖尿病患者における白内障手術前の結膜.細菌叢の検討.あたらしい眼科26:243-246,200915)荒川妙,太刀川貴子,大橋正明ほか:高齢者におけるマイボーム腺および結膜.内の常在菌についての検討.あたらしい眼科21:1241-1244,200416)岩崎雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜.内細菌叢と薬剤感受性.あたらしい眼科23:541-545,200617)MillerD,FlynnPM,ScottIUetal:Invitrofluoroquinoloneresistanceinstaphylococcalendophthalmitisisolates.ArchOphthalmol124:479-483,200618)IiharaH,SuzukiT,KawamuraYetal:Emergingmultiplemutationsandhigh-levelfluoloquinoloneresistanceinMRSAisoratedfromocularinfections.DiagnMicrobiolInfectDis56:297-303,200619)JhanjiV,SharmaN,SatpathyGetal:Forth-generationfluoloquinolon-resistantbacterialkeratitis.JCataractRefractSurg33:1488-1489,200720)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,200521)KurokawaN,HayashiK,KonishiMetal:IncreasingofloxacinresistanceofbacterialflorafromconjunctivalsacofpreoperativeophthalmicpatientsinJapan.JpnJOphthalmol46:586-589,200222)関奈央子,亀井裕子,松原正雄:高齢者の結膜.内コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の検出率と薬剤感受性.あたらしい眼科20:677-680,200323)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512-517,201024)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜.内常在菌に対するガチフロキサシン及びレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科23:1062-1066,200625)FukudaH,HoriS,HiramatsuK:AntibacterialactivityofGFLX,anewlydevelopedfluoloquinolone,againstsequentiallyacquiredquinolone-resistantmutantsandthenorAtransformedofS.aureus.AntimicrobAgentsChemother42:1917-1922,199826)BarnardFM,MaxwellA:InteractionbetweenDNAgyraseandquinolones:effectsofalaninemutationsatGyrAsubunitredusesSer83andAsp87.AntimicrobAgentsChemother45:1994-2000,2001あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014585 27)HooperDC:FluoloquinoloneresistanceamongGrampositivecocci.LancetInfectDis2:530-538,200228)SierraJM,Martinez-MartinezL,Va’squezFetal:RelationshipbetweenmutationsinthegyrAgeneandquinoloneresistanceinclinicalisolatesofCorynebacteriumstriatumandCorynebacteriumamycolatum.AntimicrobAgentsChemother49:1714-1719,200529)FerrerC,Ruiz-MorenoJM,RodriquezAetal:PostoperativeCorynebacteriummacginleyiendohthalmitis.JCataractRefractSurg30:2441-2444,200430)HollanderDA,StewartJM,SeiffSRetal:Late-onsetCorynebacteriumendophthalmitisfollowinglaserposteriorcapsulotomy.OphthalmicSurgLasersImaging35:159161,200431)ArsenAK,SizmazS,OzbonSBetal:Corynebacteriumminutissimumendophthalmitis:managementwithantibioticirrigationofthecapsularbag.IntOphthalmol19:313-316,1995-199632)EguchiH,KawaharaT,MiyaharaTetal:High-levelfluoloquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummavginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,200833)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起炎菌.あたらしい眼科20:657-660,200334)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,200635)宮永将,子島良平,宮井尊史ほか:白内障手術の周術期における結膜.内常在菌叢フルオロキノロン点眼による減菌化と感受性変化.臨眼63:1659-1666,200936)HoriY,NakazawaT,MaedaNetal:Susceptibilitycomparisonsofnormalpreoperativeconjunctivalbacteriatofluoloquinolones.JCataractRefractSurg35:475-479,200937)福田正道,佐々木洋,大橋裕一:モキシフロキサシン点眼薬の家兎眼内移行動態─房水内最高濃度値(AQCmax)の測定.あたらしい眼科23:1353-1357,200638)末吉理恵,辻村まり:術前抗生物質投与におけるレボフロキサシン点眼薬とガチフロキサシン点眼液の比較検討.あたらしい眼科27:523-526,201039)BlondeauJM:Newconceptionantimicrobialsusceptibilitytesting:themutantpreventionconcentrationandmutantselectionwindowapproach.VetDermatol20:383-396,200940)藤紀彦,子島良平,池田欣史ほか:眼科用薬剤感受性プレートと臨床的有用性.臨眼65:1601-1607,2011***586あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(108)

眼感染症由来Staphylococcus aureusの In Viroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響と抗菌点眼薬の殺菌効果

2014年4月30日 水曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(4):571.580,2014c眼感染症由来StaphylococcusaureusのInVitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響と抗菌点眼薬の殺菌効果神鳥美智子*1井上幸次*1池田欣史*1藤原弘光*2高畑正裕*3髙倉真理子*3*1鳥取大学医学部視覚病態学*2鳥取大学医学部附属病院検査部*3富山化学工業株式会社綜合研究所InfluenceofGlucoseonInVitroBiofilmFormationbyStaphylococcusaureusIsolatedfromOcularInfection;BactericidalActivityofAntibacterialOphthalmicSolutionMichikoKandori1),YoshitsuguInoue1),YoshifumiIkeda1),HiromitsuFujiwara2),MasahiroTakahata3)andMarikoTakakura3)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)3)ResearchLaboratoriesToyamaChemicalCo.,Ltd.TottoriUniversityHospital,目的:糖尿病患者の涙液中グルコース濃度は健常人に比べ高く,結膜.常在菌に影響している可能性がある.そこで,眼感染症由来Staphylococcusaureus(S.aureus)のinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べるとともに,バイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果を検討した.方法:鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたキノロン感受性S.aureus3株を用い,メンブレンフィルター(MF)上のバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響をMF静置寒天平板培地にこれを添加することで検討した.また,トスフロキサシン,レボフロキサシン,セフメノキシムの各点眼液を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)の30倍濃度(30MIC)でバイオフィルム形成菌に24時間作用させ,生菌数変化,さらに走査型電子顕微鏡による形態観察で殺菌効果を評価した.結果:S.aureusバイオフィルムの成熟度はグルコース濃度(0%,0.01%,0.1%および1.0%)に比例し増大した.0.1%グルコース存在下,バイオフィルム形成菌に対するトスフロキサシン点眼液30MIC作用時の殺菌効果は,いずれの場合も比較点眼液より有意に強かった.結論:S.aureusによるバイオフィルムの成熟度はグルコース濃度の影響を受けることから,糖尿病患者に対する抗菌点眼薬の選択においては,バイオフィルムにより効果のある薬剤を考慮する必要があると考えられた.Purpose:Tearglucoseconcentrationishigherindiabeticpatientsthaninhealthysubjectsandmayinfluenceconjunctivalflora.TheinfluenceofglucoseoninvitrobiofilmformationwasexaminedusingStaphylococcusaureusisolatedfrompatientswithocularinfection.Alsoinvestigatedwerethebactericidaleffectsofantibacterialophthalmicsolutionsagainstbiofilmbacteria.MaterialsandMethods:Usingthreequinolone-susceptibleS.aureusisolatesfrompatientswithocularinfectionatTottoriUniversityHospital,weexaminedtheinfluenceofglucoseonbiofilmformationonmembranefilter(MF)byaddingglucosetotheagarplateontheMF.Bactericidalactivitiesoftosufloxacin(TFLX),levofloxacin(LVFX)andcefmenoxime(CMX)ophthalmicsolutionswereexaminedbycountingviablecellsremainingafterexposureofS.aureusbiofilmtothoseagentsatconcentrations30-foldtheirrespectiveminimuminhibitoryconcentrations(MIC),andbyobservationunderascanningelectronmicroscope(SEM)Results:ThedegreeofS.aureusbiofilmmaturationincreasewasdependentontheglucoseconcentration(0%,(.)0.01%,0.1%and1.0%).With0.1%glucose,thebactericidaleffectofthetosufloxacinophthalmicsolutionwassignificantlymorepotentthantheotherophthalmicsolutions.Conclusion:SincethedegreeofS.aureusbiofilmmaturationwasaffectedbyglucoseconcentration,itissuggestedthattheantibacterialophthalmicsolutionmostpotentagainstbiofilmbeselectedfordiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):571.580,2014〕〔別刷請求先〕井上幸次:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学教室Reprintrequests:YoshitsuguInoue,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(93)571 Keywords:黄色ブドウ球菌,グルコース,バイオフィルム,トスフロキサシン,点眼薬,殺菌効果.Staphylococcusaureus,glucose,biofilm,tosufloxacin,ophthalmicsolution,bactericidaleffect.はじめにグラム陽性菌のStaphylococcusaureus(S.aureus)は眼感染症の代表的な疾患である結膜炎や角膜炎の主要な起因菌である1).また,発症頻度は低いものの,急性術後眼内炎の起因菌としてもStaphylococcusepidermidis(S.epidermidis)を含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌やS.aureusの割合が高い2,3).S.epidermidisやS.aureusはヒトの結膜.内細菌叢に常在しており,このことが多くの眼感染症の起因菌になる理由と考えられる.分離比率はS.epidermidisが常に最も高いが,糖尿病患者ではS.epidermidisに次ぐS.aureusの比率が健常人より高いとの報告がある4).眼感染症では周術期創部などから常在菌が侵入し,縫合糸などへの菌の定着の後,バイオフィルムを形成するケースや,治療に用いられる眼内レンズなどのバイオマテリアルに形成されたバイオフィルム菌などが発症に関与している場合がある5.7).バイオフィルム形成後の菌の生育はslow-growingあるいはnondividinggrowthの状態にあると同時に,菌体を覆うexopolysaccharidematrixの薬剤低透過性などにより,抗菌薬の殺菌作用を回避すること,また,その成熟度が増した場合,抗菌薬の殺菌作用はさらに減弱されるので,治療の難渋化を招いていることが報告されている5,8,9).筆者らは先に,メチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidisを用いてinvitroで作製したバイオフィルム形成菌に対するフルオロキノロン系点眼薬とb-ラクタム系点眼薬の殺菌効果を検討した.その結果,いずれの薬剤もバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果は浮遊菌(planktonic菌)の場合より減弱すること,また,バイオフィルム形成菌に対する殺菌効果はb-ラクタム系点眼薬よりフルオロキノロン系点眼薬が強いが,その作用はフルオロキノロン系点眼薬間でも差異が認められるとの成績を得た10).眼感染症起因菌においてS.epidermidisと並び分離頻度の高いS.aureusでは,バイオフィルム形成時,生育環境に存在するグルコースによりバイオフィルム成熟度が変化することが報告されている11,12).ヒト涙液にはグルコース(tearglucose)が正常人で0.004.0.008%含まれているが,糖尿病患者ではこれより高く13.15),眼表面や眼内におけるS.aureusのバイオフィルム形成は正常人の場合と異なるものと考えられる.このため,定着したS.aureusが形成したバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の殺菌作用も何らかの影響を受けている可能性が推察される.現在,眼感染症におけるバイオフィルム形成菌について,涙液中のグルコースの影響や生理的なグルコース濃度存在下での,抗菌点眼薬の殺菌効果についての報告は見当たらない.そこで,今回,眼感染症由来S.aureusのinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べるとともに,先回報告10)したS.epidermidisに引き続き,S.aureusバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果を検討した.すなわち,2011年から2012年に鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたS.aureusのうち,icaA,D遺伝子,薬剤感受性などを検討した3株を用いてinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べるとともに,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.I実験材料および方法1.使用菌株鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から2011.2012年に分離されたS.aureus31株を用いた.これら分離株すべてについて,各種薬剤に対する感受性,キノロン薬耐性決定領域(quinoloneresistant-determiningregion:QRDR)遺伝子の変異およびicaA,D遺伝子の有無を調べた.2.QRDR遺伝子およびicaA,icaD遺伝子の解析DNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIV蛋白のそれぞれのsubunitA蛋白,GyrAならびにGrlAのQRDR部位をcodeするgyrA,grlA遺伝子の主要な変異部位の解析(GyrA:Ser84,Ser85,Glu88.GrlA:Ser80,Glu84)をSreedharanら16),Ferreroら17)の報告に基づいたPCR(polymerasechainreaction)法で行った.また,バイオフィルム形成に関連するslimeの主要成分,polysaccharideintercellularadhesin(PIA)の生合成に関わるicaA,icaD遺伝子の有無をArciolaら18)の方法に基づき検討した.3.使用薬剤薬剤感受性の測定にはトスフロキサシン(富山化学工業株式会社),レボフロキサシン(LKTLaboratories,Inc),セフメノキシム(ベストコールR静注用,武田薬品工業株式会社)を用いた.また,S.aureusのメチシリン耐性の判別のため,オキサシリン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を使用した.Invitroバイオフィルム形成菌およびplanktonic菌に対する殺菌効果の検討には市販のトスフロキサシン点眼液(オゼックスR点眼液0.3%,大塚製薬株式会社),レボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬株式会社),セフメノキシム点眼液(ベストロンR点眼用0.5%,千寿製薬株式会社)を目的の作用濃度になるよう25%cation-572あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(94) adjustedMueller-Hintonbroth(CAMHB;日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)で適宜希釈し用いた.いずれの薬剤も純度あるいは含量が明らかなものを使用し,濃度は活性本体の値として示した.4.薬剤感受性の測定抗菌薬に対する感受性の測定にはCAMHBを用い,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)の微量液体希釈法に基づき行った19).メチシリンに対する感受性/耐性はCLSIの判定基準に基づき,オキサシリンに対する最小発育阻止濃度(MIC)(≦2μg/ml:感受性,≧4μg/ml:耐性)によって分類した20).また,キノロン薬に対する感受性/耐性は同判定基準に基づき,レボフロキサシンに対するMIC(≦1μg/ml:感受性,≧4μg/ml:耐性)によって分類した.5.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果今回使用の臨床分離S.aureus31株のうち,キノロン感受性でicaA,icaD遺伝子を保有するメチシリン感受性S.aureus(methicillin-susceptibleS.aureus:MSSA)のF5820およびF-5829株,メチシリン耐性S.aureus(methicillin-resistantS.aureus:MRSA)のF-5809株を用いた(表1).CAMHBにて37℃で一夜培養した菌を新鮮なCAMHBに接種し,さらに4時間前培養した菌液0.5mlに,リン酸緩衝液(PB:1/15mol/l,pH7.0)で5倍濃度に調整した各薬液1ml(終濃度,30MIC),10%グルコース溶液5μlまたは50μl(グルコース終濃度,0.01%または0.1%)を加え,PBで全量5mlにした培養液(CAMHB濃度:通常の10%濃度)を作製した.37℃で振盪培養し,24時間後に生菌数測定を行った(n=1).対照として薬剤不含の同様な10%CAMHB5mlを用い,生菌数を測定した.6.Invitroバイオフィルムの作製とグルコースの影響Planktonic菌に対する殺菌効果の試験に用いたMSSAのF-5820およびF-5829とMRSAのF-5809株の3株で検討した.Websterら21)の方法に基づき,CAMHBで一夜培養したS.aureusの菌液100μlを新鮮なCAMHB10mlに接種し,さらに3.5時間培養した.本菌液100μlを0.01%または0.1%グルコースを含み,通常の10%培地成分濃度になるよう作製したCAMHB10mlに懸濁した.その25μlを0.01%および0.1%のグルコースを含んだ10%培地成分濃度のMueller-Hintonagar(MHA,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を平板上に置いたmembranefilter(MF,DuraporeRMembraneFilter0.45μmHV;Millipore)に滴下した(n=3).グルコース濃度0.01%は健常人涙液中濃度,0.1%は糖尿病患者涙液中に含まれるグルコース濃度に近似すると考え検討した13.15).なお,別にバイオフィルム形成に及ぼす詳細なグルコース濃度(0,0.01,0.1および1%)の影響はMSSAF-5820株を用い調べた.(95)37℃,48時間培養後,走査型電子顕微鏡(SEM:HITACHIS-3400)を用いてバイオフィルム像を観察した.SEM像の観察に当たっては,試料を1.5%glutaraldehyde(和光純薬工業株式会社)にて1時間,さらに1%osmiumtetroxide(TAABLaboratories)に18時間浸漬し固定した.アルコール脱水-酢酸イソアミル(和光純薬工業株式会社)置換を経た後,臨界点乾燥を行った試料を白金-パナジウム蒸着した.7.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果0.01%あるいは0.1%グルコースを含む10%培地成分濃度のMHA上に静置したMFに菌液を滴下し,37℃,24時間培養した後,MFを各薬剤30MICを含む新しいMHA上に移した.さらに37℃,24時間培養した後,生菌数を測定した.作用濃度(30MIC)はトスフロキサシン頻回反復点眼時の結膜.内濃度などを参考にした22).なお,MRSAF-5809株の場合はセフメノキシム点眼液の溶解必要濃度が高すぎることから薬剤含有MHAが作製できず,トスフロキサシン点眼液とレボフロキサシン点眼液のみで殺菌効果を検討した.生菌数の測定に当たっては上述のMFをMulti-BeadsShockerR(安井器械株式会社)で破砕,ホモジナイズした試料を適宜希釈し,MHA平板に塗布し,生育コロニー数を計測した.得られた生菌数は各比較群間でパラメトリックDunnett型多重比較による有意差検定を行った.また,SEMでバイオフィルムに対する薬剤作用像を観察した.II結果1.使用菌株の各種抗菌薬に対する感受性,GyrAおよびGrlA蛋白におけるQRDR部位のアミノ酸変異,icaA,icaD遺伝子の解析S.aureus31株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図を図1に示す.トスフロキサシンは試験株すべてに対し,レボフロキサシンおよびセフメノキシムと同等か,2.512倍以上強い抗菌活性を示した.31株中,MRSAは22株(71.0%),キノロン耐性S.aureusは18株(58.1%)であった.また,キノロン耐性S.aureus18株のQRDR部位における最も頻度の高い変異株はGyrAのSer84Leu,Glu88Gly変異およびGrlAのSer80Tyr,Glu84Lys変異を同時に保有する株であった(7株/18株,38.9%).icaA,icaD遺伝子については今回使用した眼由来臨床分離株は31株すべて両遺伝子を保有していた.バイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討に使用した3菌株の各遺伝子の解析および薬剤感受性の結果を表1に示す.GyrA,GrlAのQRDR主要部位に変異は認められず,キノロン薬に感受性で,MICはトスフロキサシンが0.0313あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014573 トスフロキサシMIC(μg/ml)≧1684210.50.250.1250.06≦0.03111136311114315533≦0.030.1250.528≦0.030.1250.5280.060.2514≧160.060.2514≧16レボフロキサシンMIC(μg/ml)セフメノキシムMIC(μg/ml)図1Staphylococcusaureus31株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図相関図中の数値は株数.いずれの株もトスフロキサシンのMICはレボフロキサシン,セフメノキシムのMICと同等か,低かった.表1使用菌株の各種抗菌薬に対する感受性,icaA,icaD遺伝子の有無,およびGyrA,GrlAのアミノ酸変異菌株トスフロキサシンMIC(μg/ml)レボフロキサシンセフメノキシムオキサシリンicaA,icaD遺伝子の有無icaAicaDQRDRアミノ酸変異GyrASer84,Ser85,Glu88GrlASer80,Glu84F-58200.06250.2520.5++──F-58290.03130.12521++──F-58090.06250.25832++──+/─:検出/非検出.μg/mlあるいは0.0625μg/ml,レボフロキサシンは0.125μg/mlあるいは0.25μg/mlであった.また,F-5820およびF-5829株はMSSA,F-5809株はMRSAであり,セフメノキシムのMICは前2株が2μg/ml,F-5809株は8μg/mlであった(表1).2.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果Planktonic菌に対する薬剤30MIC,24時間作用後の生菌数を図2に示す.いずれの薬剤も30MIC作用後の生菌数は薬剤無添加の場合に比べ,10.6以上減少し,検出限界以下(LogCFU/ml:≦1.30)であった(図2).3.Invitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響MSSAF-5820株において,培地にグルコースを0.01%,0.1%,1%濃度になるよう添加し,バイオフィルム形成能をグルコース無添加の場合と比較した結果,培養48時間後の成熟度は濃度依存的に増大した.バイオフィルム形成能は0.01%添加から影響がみられたが,0.1%,1%添加時にはMF構造に沿って多くのslime様物質が付着し,これらに覆われた球菌の数も多かった(図3).4.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果バイオフィルムを形成した各株に対する抗菌点眼薬30MIC,24時間作用後の生菌数を図4に示す.グルコース0.01%存在下,MSSAF-5820株におけるトスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシン点眼液と同等,セフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.グルコース0.1%存在下での24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.また,グルコース0.01%と0.1%存在下での殺菌効果を比較すると,トスフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液では差異がみられなかったが,レボフロキサシン点眼液では,0.1%存在下の殺菌効果は0.01%の場合より有意(p<0.001)に弱かった.グルコース0.01%存在下,MSSAF-5829株におけるトスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシン点眼液およびセフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.また,グルコース0.1%存在下での24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃574あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(96) Glucose0.01%Glucose0.1%Viablecellscount(LogofCFU/ml)108642010864201086420F-5820MSSAF-5829MSSAF-5809MRSANT108642010864201086420F-5820MSSAF-5829MSSAF-5809MRSANT検出限界(≦1.30)ControlトスフロキサシンレボフロキシサンセフメノキシムControlトスフロキサシンレボフロキシサン点眼液点眼液点眼液点眼液点眼液図2Staphylococcusaureusのplanktonic菌に対する各種抗菌点眼薬の殺菌効果NT:試験せず.Planktonic菌に対してはいずれの点眼液も強い殺菌効果を示した.セフメノキシム点眼液度のレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.また,グルコース0.01%あるいは0.1%存在下での殺菌効果はセフメノキシム点眼液では差異がなかったが,トスフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液では,0.1%存在下のほうが0.01%の場合より有意(p<0.01,p<0.001)に弱かった.グルコース0.01%および0.1%存在下,MRSAF-5809株におけるトスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシン点眼液より有意(p<0.01)に強かった.また,トスフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液ともに,グルコース0.1%での殺菌効果は0.01%の場合より有意(p<0.01,p<0.001)に弱かった.5.MSSAF.5820株が形成したinvitroバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の作用像0.1%グルコース存在下,invitroでMSSAF-5820株が形成したバイオフィルムに対する各点眼液30MIC作用時のSEM像を図5に示す.セフメノキシム点眼液作用後のバイオフィルム像(図5G,図5H)は薬剤無添加群(図5A,図5B)とほぼ同様であった.トスフロキサシン点眼液作用時(図5C,図5D)では,バイオフィルム構造の消失や,これを構成する菌塊構造の軽度化が観察された.レボフロキサシ(97)ン点眼液の場合は薬剤無添加群に比べ,低倍でバイオフィルム構造が若干消失した像が観察されたが,バイオフィルム上部の菌塊構造の厚みの変化はトスフロキサシン点眼液作用時より小さかった(図5E,図5F).なお,今回の試験では,他の2株でもMSSAF-5820株と同様なバイオフィルム形成像,また各抗菌点眼薬作用像がSEMで観察された(データ示さず).III考按結膜.における検出菌の分離比率はS.epidermidisが最も高いが,糖尿病患者では本菌種に次いでS.aureusの比率が健常人より高いとの報告がある4).眼感染症ではバイオフィルム形成菌がその発症に関与することが報告されており,S.aureusやS.epidermidisもコンタクトレンズ,眼内レンズ,手術時縫合糸,涙道形成用チューブ等の医療材料に付着してバイオフィルムを形成することが知られている5,6).近年,眼感染症においては,Staphylococcus属以外にも,Pseudomonasaeruginosa(P.aeruginosa)などによるバイオフィルム形成が臨床的に問題となっているが,さまざまな菌種でバイオフィルム形成菌はその成熟度によって抗菌薬の殺菌作用が影響を受けることが報告されている8,9).S.aureusではバイオフィルムの成熟度は生育環境に存在するグルコーあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014575 ABCDEFGHIJKLIJKABCDEFGHIJKLIJK図3StaphylococcusaureusF.5820株のバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響培養時間:48時間,A,E,I:glucose0%,×100,×3,000,×10,000,B,F,J:glucose0.01%,×100,×3,000,×10,000,C,G,K:glucose0.1%,×100,×3,000,×10,000,D,H,L:glucose1%,×100,×3,000,×10,000.グルコース0.1%,1%添加時には多くのslime様物質が産生され,これに覆われた球菌の数も多かった.スの影響を受け,濃度依存的にその成熟度が増大するとの報告がある11,12).糖尿病患者の涙液中グルコース(tearglucose)濃度は健常人に比べ高く,正常人では0.004.0.008%であるのに対し,糖尿病患者ではこれより5.10倍以上高く,0.03.0.13%以上含まれると報告されている13.15).また,糖尿病患者では急性結膜炎を含む各種細菌感染症のリスクが高いこと,網膜症,白内障など,さまざまな眼の組織における病態に高血糖が悪影響を与えるとの報告がある23,24).これらのことから,糖尿病患者では眼表面や眼内に定着したS.aureusがバイオフィルムを形成する場合,その成熟度が増し,抗菌点眼薬の殺菌作用が何らかの影響を受ける可能性が考えられ,今回の検討を行った.眼感染症由来S.aureusのバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響をSEMで形態観察した報告や,バイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果などを検討した報告はこれまでなかった.今回,眼感染症由来S.aureusのinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べた結果,これまでの報告11,12)に記述されているようにその成熟度はグルコース濃度の影響を受けており,糖尿病患者の涙576あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014液中グルコース濃度に想定した0.1%添加時では,無添加時に比べ,slime様物質が多く産生され,これらがMF構造や菌体表面に付着したバイオフィルム像が観察された.S.epidermidisではPIAの生合成はica遺伝子locusが関連し,icaA,DはN-acetylgulcosaminetransferase,icaBはPIAdeacetylase,icaCはPIAのexporter遺伝子とされ25),ソフトコンタクトレンズ装用者における急性結膜炎患者から分離されたブドウ球菌ではicaA,D遺伝子保有率が高いとの報告がある26).しかしながら,S.aureusではicaA,D遺伝子はほとんどすべての株が保有しており,本遺伝子のバイオフィルム形成時における意義は両菌種で異なる可能性が考えられた.Izanoら27)はブドウ球菌属のバイオフィルムにおける主要な2つの構成ポリマーはPIAとextracellularDNA(ecDNA)であり,S.aureusではPIAがバイオフィルムの主要な構成成分ではなく,ecDNAがその主成分としている.また,別の報告でS.aureusの臨床株ではグルコースが調節するバイオフィルム形成はicaADBC遺伝子の発現に関係しないとされ,同じブドウ球菌属ながら,バイオフィルム形成,発現様式について違いが存在する可能(98) Glucose0.01%Glucose0.1%Viablecellscount(LogofCFU/MF)109876510987651098765F-5820MSSA10***98765***NS†††***F-5820MSSA******F-5829MSSA†††††***1098765F-5829MSSA***F-5809MRSAF-5809MRSA10****98†††††76NTNT5ControlトスフロキサシンレボフロキシサンセフメノキシムControlトスフロキサシンレボフロキシサンセフメノキシム点眼液点眼液点眼液点眼液点眼液点眼液図4Staphylococcusaureusのinvitroバイオフィルム形成菌に対する各種抗菌点眼薬の殺菌効果薬剤作用時間:24時間,n=3,有意差:***:p<0.001,**:p<0.01vs.トスフロキサシン点眼液,†††:p<0.001,††:p<0.01vs.0.1%glucose,NS:notsignificant,(Dunnetttest),NT:試験せず,MF:membranefilter0.1%グルコース存在下では,いずれの場合もトスフロキサシン点眼液は同じ30MIC濃度で比較したレボフロキサシンあるいはセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示した.性があり,現在,詳細は明らかでない28).眼感染症由来S.aureusはレボフロキサシン,セフメノキシムに対する感受性が高い1).今回の使用菌株に対する抗菌活性はトスフロキサシンがレボフロキサシン,セフメノキシムと同等か,2.512倍以上強く,2009年分離の外眼部感染症由来S.aureusの成績とほぼ同様であった29).現在S.aureusのバイオフィルム形成菌に対するこれら抗菌点眼薬の殺菌効果に関する成績は見当たらない.そこでinvitroバイオフィルムを作製し,汎用されている市販抗菌点眼薬,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.トスフロキサシンについては健康成人男子を対象に1回1滴,1日8回14日間点眼し,結膜.内濃度を測定した成績があり,点眼14日目の初回点眼24時間後の濃度は2.0±2.69μg/mlであったとの報告がある22).この24時間値(約2.0μg/ml)は今回invitroでバイオフィルムを作製したS.aureus3株に対するトスフロキサシンのMIC値(0.0313μg/mlおよび0.0625μg/ml)の約32あるいは64倍に相当する.このことから,作用濃度および作用時間はいずれの点眼液も30MIC,24時間とした.その結果,0.01%グルコース存在下では,invitroでバイ(99)オフィルムを形成したS.aureusに対し,トスフロキサシン点眼液はMSSAF-5820株では,レボフロキサシン点眼液と同等,MSSAF-5829株,MRSAF-5809株ではレボフロキサシンあるいはセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示した.0.1%グルコース存在下では,いずれの場合もトスフロキサシン点眼液は同MIC濃度で比較したレボフロキサシンあるいはセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示し,SEMによる形態観察でも,MSSAF-5820株のバイオフィルム形成菌に対し,トスフロキサシン点眼液作用時,強い殺菌像が観察された.また,フルオロキノロン系抗菌点眼薬の殺菌効果はMSSAF-5820株バイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の場合を除き,いずれも糖尿病患者の涙液中グルコース濃度を想定した0.1%グルコース存在下のほうが0.01%グルコース存在下より弱く,バイオフィルムの成熟度がフルオロキノロン系抗菌点眼薬の殺菌効果に影響を及ぼす可能性が考えられた.バイオフィルムを形成した細菌がplanktonic菌に比べ抗菌薬抵抗性を示すこと,また,その抵抗性には薬剤系統差があることが知られている8).S.aureusにおいてフルオロキノロン系抗菌薬レボフロキサシンはplanktonic菌よりバイあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014577 ABCDEFGHABCDEFGHABCDEFGHABCDEFGH図5StaphylococcusaureusF.5820株が形成したinvitroバイオフィルム形成菌に対する各種抗菌点眼薬作用時の走査型電子顕微鏡像A,B:control,×100,×3,000,C,D:トスフロキサシン点眼液,×100,×3,000,E,F:レボフロキサシン点眼液,×100,×3,000,G,H:セフメノキシム点眼液,×100,×3,000.低倍率でもトスフロキサシン点眼液の作用により,バイオフィルム構造の大部分が消失している像が観察された.オフィルム形成菌に対する殺菌効果が弱いとの報告があム形成菌に対する殺菌作用では,フルオロキノロン系抗菌る30).今回の試験でもplanktonic菌に比べ,バイオフィル薬,アミノ配糖体系抗菌薬,b-ラクタム系抗菌薬の順に強ムを形成した菌に対する殺菌作用はいずれの薬剤も弱かっいことも報告されている8).さらに,S.aureusのバイオフィた.薬剤系統差については,P.aeruginosaのバイオフィルルムにおける薬剤透過性はb-ラクタム系抗菌薬のオキサシ578あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(100) リン,セフォタキシム,またグリコペプチド薬であるバンコマイシンより,アミノ配糖体のアミカシンやフルオロキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシンのほうが良好との報告がある31).これらのことから,S.aureusのバイオフィルム形成菌に対しては,b-ラクタム系抗菌薬よりもフルオロキノロン系抗菌薬を,また,そのなかでも目標とする菌種に対して,より強い抗菌活性を示すフルオロキノロン系抗菌薬を選択すべきと考えられた.今回の成績は,先に報告10)したS.epidermidisのバイオフィルム形成菌における結果と近似しており,殺菌効果はb-ラクタム系点眼薬よりフルオロキノロン系点眼薬が強いが,その効果はフルオロキノロン系点眼薬間でも差異が認められる点では同様の成績が得られた.術後感染症としての眼内炎の起因菌は60%以上をStaphylococcus属が占める.S.epidermidisの比率が最も高いものの,MRSAを含むS.aureusが起因菌の場合も多い3).眼内炎は重篤な感染症であり,手術前後に眼瞼および結膜.内を十分殺菌することが重要である.フルオロキノロン系点眼薬の周術期における無菌化率は高く,トスフロキサシン点眼液の場合も手術14日後に判定した術後感染症の発症は全例(108例)において認めず,また,術後無菌化率は95.1%で,類薬と同程度であった32,33).これらの成績におけるバイオフィルム形成菌関与の程度は不明であるが,そのような場合にも殺菌効果が十分期待できる抗菌点眼薬の使用が望ましいことから,その選択には十分な配慮が必要と考えられた.以上,トスフロキサシン点眼液はレボフロキサシン点眼液およびb-ラクタム系のセフメノキシム点眼液より,バイオフィルムを形成したS.aureusに強い殺菌効果を示した.トスフロキサシン点眼液はバイオフィルムを形成したキノロン感受性S.aureusによる眼感染症の治療,予防において有用と考えられた.利益相反:高畑正裕(カテゴリーE:富山化学工業株式会社社員),髙倉真理子(カテゴリーE:富山化学工業株式会社社員)文献1)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20112)DurandML:Endophthalmitis.ClinMicrobiolInfect19:227-234,20133)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)BilenH,AtesO,AstamNetal:Conjunctivalflorainpatientswithtype1ortype2diabetesmellitus.AdvTher24:1028-1035,20075)亀井裕子:眼感染症とバイオフィルム.臨床と微生物36:439-444,20096)BehlauI,GilmoreMS:Microbialbiofilmsinophthalmologyandinfectiousdisease.ArchOphthalmol126:15721581,20087)KodjikianL,BurillonC,LinaGetal:Biofilmformationonintraocularlensesbyaclinicalstrainencodingtheicalocus:ascanningelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci44:4382-4387,20038)SpoeringAL,LewisK:BiofilmsandplanktoniccellsofPseudomonasaeruginosahavesimilarresistancetokillingbyantimicrobials.JBacteriol183:6746-6751,20019)AmorenaB,GraciaE,MonzonMetal:AntibioticsusceptibilityassayforStaphylococcusaureusinbiofilmsdevelopedinvitro.JAntimicrobChemother44:43-55,199910)井上幸次,池田欣史,藤原弘光ほか:眼感染症由来Staphylococcusepidermidisが形成したInVitroバイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果.あたらしい眼科29:1681-1688,201211)LimY,JanaM,LuongTTetal:Controlofglucose-andNaCl-inducedbiofilmformationbyrbfinStaphylococcusaureus.JBacteriol186:722-729,200412)CroesS,DeurenbergRH,BoumansMLetal:StaphylococcusaureusbiofilmformationatthephysiologicglucoseconcentrationdependsontheS.aureuslineage.BMCMicrobiol9:229,200913)SenDK,SarinGS:Tearglucoselevelsinnormalpeopleandindiabeticpatients.BrJOphthalmol64:693-695,198014)DaumKM,HillRM:Humantearglucose.InvestOphthalmolVisSci22:509-514,198215)ChatterjeePR,DeS,DattaHetal:Estimationoftearglucoselevelanditsroleasapromptindicatorofbloodsugarlevel.JIndianMedAssoc101:481-483,200316)SreedharanS,OramM,JensenBetal:DNAgyrasegyrAmutationsinciprofloxacin-resistantstrainsofStaphylococcusaureus:closesimilaritywithquinoloneresistancemutationsinEscherichiacoli.JBacteriol72:72607262,199017)FerreroL,CameronB,ManseBetal:CloningandprimarystructureofStaphylococcusaureusDNAtopoisomeraseIV:aprimarytargetoffluoroquinolones.MolMicrobiol13:641-653,199418)ArciolaCR,BaldassarriL,MontanaroL:PresenceoficaAandicaDgenesandslimeproductioninacollectionofstaphylococcalstrainsfromcatheter-associatedinfections.JClinMicrobiol39:2151-2156,200119)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:MethodsforDilutionAntimicrobialSusceptibilityTestsforBacteriaThatGrowAerobically;ApprovedStandard-EighthEditionM07-A8,ClincalandLaboratoryStandardsInstitutes,Wayne,PA,200920)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting;NineteenthInformationalSupplementM100-S22,201221)WebsterP,WuS,GomezGetal:Distributionofbacterialproteinsinbiofilmsformedbynon-typeableHaemophilusinfluenzae.JHistochemCytochem54:829-842,2006(101)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014579 22)北野周作,宮永嘉隆,東純一:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の臨床薬理試験(単回・反復および頻回反復点眼試験).あたらしい眼科23(別巻):47-54,200623)KruseA,ThomsenRW,HundborgHHetal:Diabetesandriskofacuteinfectiousconjunctivitis─apopulation-basedcase-controlstudy.DiabetMed23:393-397,200624)SkarbezK,PriestleyY,HoepfMetal:Comprehensivereviewoftheeffectsofdiabetesonocularhealth.ExpertRevOphthalmol5:557-577,201025)OttoM:Staphylococcalbiofilms.CurrTopMicrobiolImmunol322:207-228,200826)CatalanottiP,LanzaM,DelPreteAetal:Slime-producingStaphylococcusepidermidisandS.aureusinacutebacterialconjunctivitisinsoftcontactlenswearers.NewMicrobiol28:345-354,200527)IzanoEA,AmaranteMA,KherWBetal:Differentialrolesofpoly-N-acetylglucosaminesurfacepolysaccharideandextracellularDNAinStaphylococcusaureusandStaphylococcusepidermidisbiofilms.ApplEnvironMicrobiol74:470-476,200828)FitzpatrickF,HumphreysH,O’GaraJP:EvidenceforicaADBC-independentbiofilmdevelopmentmechanisminmethicillin-resistantStaphylococcusaureusclinicalisolates.JClinMicrobiol43:1973-1976,200529)末信敏秀,石黒美香,松崎薫ほか:細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査.あたらしい眼科28:1321-1329,201130)MurilloO,DomenechA,GarciaAetal:Efficacyofhighdosesoflevofloxacininexperimentalforeign-bodyinfectionbymethicillin-susceptibleStaphylococcusaureus.AntimicrobAgentsChemother50:4011-4017,200631)SinghR,RayP,DasAetal:PenetrationofantibioticsthroughStaphylococcusaureusandStaphylococcusepidermidisbiofilms.JAntimicrobChemother65:1955-1958,201032)秦野寛,大野重昭,北野周作:トスフロキサシン点眼液による眼科周術期の無菌化療法.眼科手術23:314-320,201033)大橋裕一,秦野寛,張野正誉ほか:ガチフロキサシン点眼液の眼科周術期の無菌化療法.あたらしい眼科22:267-271,2005***580あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(102)

慢性涙嚢炎が契機と考えられた角膜潰瘍の3症例

2014年4月30日 水曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(4):567.570,2014c慢性涙.炎が契機と考えられた角膜潰瘍の3症例日野智之*1,2外園千恵*1東原尚代*1,3山田潤*4上田幸典*1渡辺彰英*1木下茂*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2大阪府済生会吹田病院*3ひがしはら内科眼科クリニック*4明治国際医療大学ThreeCasesofCornealUlcerCausedbyChronicDacryocystitisTomoyukiHino1,2),ChieSotozono1),HisayoHigashihara1,3),JunYamada4),KousukeUeda1),AkihideWatanabe1)andShigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)SaiseikaiSuitaHospital,3)4)MeijiUniversityofIntegrativeMedicineHigashiharaclinic,感染巣を伴わない角膜潰瘍により紹介,慢性涙.炎を診断し治癒した3症例を報告する.症例1:88歳,女性,抗菌薬抵抗性の角膜潰瘍にて紹介受診.初診時に多量の膿性眼脂,右眼鼻下側に細胞浸潤に乏しい角膜潰瘍を認め,涙.炎を診断した.LVFX(レボフラキサシン)および0.1%ベタメタゾン点眼,セフカペン内服により数日で治癒した.症例2:84歳,男性,初診時に多量の膿性眼脂,右眼鼻下側に細胞浸潤に乏しい角膜潰瘍を認め,涙道洗浄,LVFX点眼により治癒した.症例3:100歳,女性,眼脂と眼瞼腫脹があり,眼内炎の診断で紹介受診.初診時に多量の膿性眼脂と広範囲の角膜上皮欠損,前房蓄膿を認めた.涙.炎を診断,GFLX(ガチフロキサシン)およびセフメノキシム点眼,セフカペン内服により約1週間で治癒した.いずれも前医で涙道閉塞を指摘されておらず,初診時に涙道洗浄で多量の膿が逆流,膿の検鏡で多数の好中球,培養でMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)などを検出した.抗菌薬抵抗性で多量の眼脂を伴う角膜潰瘍では,涙道閉塞に留意する必要がある.Thisstudyinvolved3casesofcornealulcerwithoutcellinfiltration.Case1,an88-year-oldfemale,presentedacornealulcerwithoutcellinfiltrationatthelowernasalsideofherrighteyethatwasresistanttotreatmentwithlevofloxacin.Case2,an84-year-oldmale,presentedacornealulcerwithoutcellinfiltrationatthelowernasalsideofhisrighteye.Case3,a100-year-oldfemale,presentedeyelidswelling,alargecornealepithelialdefectandhypopyoninherrighteye.Atfirstpresentation,all3casesexhibitedpurulentdischargeandwerediagnosedaschronicdacryocystitis.Mucopurulentdischargesamplesshowedmanyneutrophils;methicillin-sensitiveStaphylococcusaureusorotherbacteriawerecultured.Thesefindingsshowthatstrictattentionshouldbepaidtolacrimalductobstructionwhentreatingcornealulcerswithoutcellinfiltrationthatareaccompaniedbyalargeamountofdischargeandareresistanttoantibacterialtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):567.570,2014〕Keywords:角膜潰瘍,膿性眼脂,慢性涙.炎,好中球.cornealulcer,purulentdischarge,chronicdacryocystitis,neutrophil.はじめに感染性角膜炎は角膜中央に生ずることが多く,急性に疼痛,眼脂および視力低下を伴って発症し,重症では角膜実質内の膿瘍,前房蓄膿を呈する.感染性角膜炎のなかでも肺炎球菌による角膜炎は,高齢者の慢性涙.炎がリスク因子の一つであることが古くから指摘されている.一方,角膜周辺部に潰瘍を生ずる疾患として,Mooren潰瘍,膠原病に伴う周辺部角膜潰瘍(リウマチ性角膜潰瘍),カタル性角膜潰瘍がある.これらは非感染性に潰瘍をきたし,通常は眼脂を伴わない.今回筆者らは,多量の眼脂を伴うが,実質に感染所見を伴わない角膜潰瘍により紹介され,慢性涙.炎を診断した3症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕外園千恵:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:ChieSotozono,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(89)567 I症例〔症例1〕患者:88歳,女性.主訴:眼脂.既往歴:甲状腺腫瘍手術.現病歴:2013年1月7日,近医を初診した.右眼に多量の眼脂,睫毛乱生,角膜潰瘍を認め,1.5%レボフロキサシン点眼4/日,0.1%フルオロメトロン点眼4/日で治療されるも改善なく,1月16日京都府立医科大学眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.06(n.c.),左眼0.06(0.3×sph-2.0D(cyl-1.25DAx120°),眼圧は右眼12mmHg,左眼10mmHgであった.右眼に多量の膿性眼脂,角膜の鼻下側周辺に潰瘍を認めたが,潰瘍部に明らかな細胞浸潤を伴わず,前房内炎症も認めなかった(図1).通水試験を施行したところ,膿の逆流を認め,右眼の眼脂培養にてMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)を検出した.図1症例1:初診時の右眼前眼部上:鼻下側に角膜潰瘍,多量の眼脂を伴うが潰瘍部の細胞浸潤,前房内炎症はない.下:フルオレセイン染色.経過:1.5%レボフロキサシン点眼4/日,0.1%ベタメタゾン点眼2/日,セフカペン(100)3錠分3に処方変更したところ,数日で潰瘍の治癒を得た.鼻涙管閉塞に対して涙管チューブを挿入し,内反症については手術を希望されなかった.当院初診時の採血にてリウマチ因子が陽性(RF84.1IU/ml)であり,内科にて精査したが,リウマチの診断に必要な他の所見を伴わないために経過観察となった.〔症例2〕患者:84歳,男性.主訴:左眼疼痛.既往歴:認知症,糖尿病(コントロール不良).現病歴:2013年1月14日,2日前からの左眼疼痛を主訴にA病院を受診した.A病院にて左眼角膜穿孔を認めたが,眼窩部CT(コンピュータ断層撮影)にて鉄片異物を認めず,1.5%レボフロキサシン処方のうえで経過観察となった.1月17日再診時,両眼に角膜潰瘍があり,診断および加療目的で当科紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.2(n.c.),左眼0.04(n.c.),眼圧は右眼16mmHg,左眼11mmHgであった.両眼ともに,抗菌点眼の使用にもかかわらず,多量の膿性眼脂を認めた.右眼は下眼瞼に高度の内反を伴い,角膜鼻下側周辺の上皮欠損と菲薄化を認めた(図2).左眼は穿孔閉鎖しておりフルオレセインに染まらず,また角膜に感染所見を認めなかった.通水試験にて両眼ともに多量の膿の逆流を認め,膿の培養検査でMSSAを検出した.眼脂の塗抹鏡検では,右眼からは好中球,グラム陽性球菌,左眼からは多量の好中球を検出した(図3).経過:1.5%レボフロキサシン点眼,0.1%フルオロメトロン点眼の継続,涙道洗浄により,涙.炎,角膜上皮欠損ともに次第に改善し,初診から3週後には角膜上皮欠損はほぼ消失した.〔症例3〕患者:100歳,女性.主訴:右眼の眼脂,眼瞼浮腫.既往歴:詳細不明.現病歴:以前より眼脂に対してB病院より抗菌点眼を処方されていた.2011年11月14日,介護施設に入所のために親戚が訪れた際に,右眼に高度の眼瞼浮腫,多量の眼脂を認めたため,近医C眼科を受診した.C眼科にて,膿性眼脂,角膜潰瘍,前房蓄膿を認め,眼内炎疑いで同日,当科紹介となった.初診時所見:右眼に高度の眼瞼浮腫,多量の膿性眼脂,広範囲の上皮欠損,前房内フィブリン,前房蓄膿を認めた(図4).角膜に明らかな細胞浸潤,膿瘍を認めず,通水試験にて多量の膿の排出を認めた.排出した膿の培養検査からPeptostreptococcusanaerobius,Actinomycesmeyeri,Prevotellaintermediaを検出した.眼脂の塗抹鏡検ではグラム陽性球菌,グラム陰性桿菌,多568あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(90) 図2症例2:初診時の右眼前眼部鼻下側に角膜潰瘍を認める.図4症例3:初診時の右眼前眼部上:眼瞼浮腫,多量の眼脂,前房蓄膿を認める.下:前眼部フルオレセイン染色にて広範囲の上皮欠損(線内)を認める.図3症例2:初診時の右眼膿塗抹鏡検像好中球に貪食されるグラム陽性球菌を認める.量の白血球を認め(図5),培養検査によりEikenellacorrodensを検出した.経過:涙.炎に伴う角膜潰瘍の診断にてガチフロキサシン点眼6/日,セフメノキシム点眼6/日,セフカペン(100)3錠分3,涙.マッサージにて加療を開始した.B病院内科に入院し,C眼科から往診した.前房蓄膿は速やかに消失し,涙.炎は徐々に軽快,角膜上皮欠損も徐々に縮小,消失した.図5症例3の右眼脂塗抹鏡検にて好中球に貪食されるグラム陽性球菌を認める.(91)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014569 II考按今回経験した3症例では,88歳,84歳,100歳と高齢であること,多量の眼脂を伴うが,細胞浸潤に乏しく,感染巣を伴わない角膜潰瘍を認めたことが共通していた.症例1,症例2では前医より処方された抗菌点眼薬を使用していたにもかかわらず,多量の眼脂を認めた.3症例とも,通水試験により膿の逆流を認め,慢性涙.炎と診断した.これらの症例は角膜感染症あるいは眼内炎が疑われて紹介されたが,角膜内に膿瘍や明らかな細胞浸潤を認めず,涙.炎により二次的に生じた非感染性の病態が主体であったと考える.慢性涙.炎は,鼻涙管閉塞のために涙液が涙.内に貯留し,病原微生物の増殖を生じるものである.涙.内に貯留した膿は,ときに結膜.に逆流する1)が,眼痛などの症状を伴わず,流涙,眼脂など自覚症状に乏しいことも少なくない.成人の涙.炎からの検出菌は,Staphylococcusepidermidis,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含めたStaphylococcusaureusが多数を占めることが報告されており2,3),今回の結果も過去の報告に合致するものであった.慢性涙.炎では,抗菌薬の点眼や内服を続けても一時的な改善がみられるだけであり,根治するには涙道再建術が必要である1).いずれの症例も,前医では涙.炎を診断されておらず,膿の塗抹鏡検で多量の好中球が観察された.多量の眼脂に含まれる菌の毒素,好中球のライソゾーム酵素が角膜潰瘍の成立と進行に寄与した4)と推測された.症例1は睫毛乱生,症例2と3では内反症を認めたことより,睫毛接触による微細な角膜上皮障害が発症の契機となった可能性が考えられた.周辺部角膜潰瘍の代表的疾患は,Mooren潰瘍,リウマチ性角膜潰瘍,カタル性角膜潰瘍があげられる.カタル性角膜潰瘍は透明帯を伴い,細胞浸潤が主体である.Mooren潰瘍,リウマチ性角膜潰瘍では深く掘れ込むような急峻な潰瘍所見が特徴である5)が,3症例ともに,潰瘍部に明らかな細胞浸潤を認めず,輪部に沿った深く掘れ込むような潰瘍所見も認めなかった.今回の3症例のような多量の膿性眼脂を伴う角膜潰瘍で,細胞浸潤に乏しい場合には通水試験を行い,慢性涙.炎の有無を確認する必要がある.慢性涙.炎による角膜潰瘍が疑われた場合は,眼脂あるいは涙.から排出される膿の塗抹鏡検と培養検査を行い,感受性のある抗菌薬の点眼と内服を処方し,涙道再建術を行うことが望ましい.慢性涙.炎が診断されないままであると,角膜潰瘍の遷延化や再発をきたしたり,感染性角膜潰瘍に進展する可能性がある.また,逆に慢性涙.炎は角膜潰瘍の原因になるため,慢性涙.炎を診断した場合は,角膜の診察も必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)児玉俊夫:涙.炎と涙小管炎.あたらしい眼科28:323329,20112)児玉俊夫,宇野敏彦,山西茂喜ほか:乳幼児および成人に発症した涙.炎の検出菌の比較.臨眼64:1269-1275,20103)HartikainenJ,LehtonenOP,SaariKM:Bacteriologyoflacrimalductobstructioninadults.BrJOphthalmol81:37-40,19974)芝野宏子,日比野剛,福田昌彦ほか:慢性涙.炎が原因と考えられた周辺部角膜潰瘍の3例.眼臨101:755-758,20075)外園千恵,木下茂,横井則彦ほか:周辺部角膜と強膜の捉え方.角膜疾患外来でこう診てこう治せ.メジカルビュー社,p108-109,2005***570あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(92)

ブックレビュー:谷口重雄著 『連続写真と動画で学ぶ白内障手術パーフェクトマスター-基本から難症例への対処法まで-』

2014年4月30日 水曜日

ブックレビューブックレビュー■谷口重雄著『連続写真と動画で学ぶ白内障手術パーフェクトマスター―基本から難症例への対処法まで―』(B5判・上製,本文344頁,DVD付,定価23,000円+税),ISBN978-4-521-73910-6/C3047,中山書店)本書は眼科医となって40年間,白内障手術の進歩とともに歩んでこられた谷口重雄先生が,白内障手術の全工程を通して一人で書きあげた手術解説書である.白内障手術の手技を解説する本は多数見られるが,そのほとんどは何人かの著者による分担執筆である.共著の場合,各執筆者での手術に対する考えが微妙に異なるため,一冊の本とした時にその違いを感じることがある.しかし本書では,谷口先生が長年手術をし,若手を教育してきて得られた白内障手術に対する考え,スタンスが前面に打ち出されており,単なる手技の解説だけでないことが特筆される.本書には,基本的な手術手技が解説されているだけでなく,さらに安全で効率的な手術を目指して谷口先生自身が開発した種々の手技と器具が詳しく説明されている.与えられた手技だけに満足することなく,より良い手術を求めて進化させていくというスタンスを学び取ることは,熟練者にとっても有益である.手術手技の詳細を読者に伝わりやすいようにするため,本書にはいろいろな工夫がなされている.1.術中の手術写真が多数掲載されている術中のワンポイントの写真だけでひとつの手技を説明するのではなく,多数の連続写真を用いて「紙芝居」のように解説している.2.写真の中にイラストと説明文が挿入されている写真が多いため,ひとつひとつの写真は小さいのだが,写真内にイラストを加えることによって,分かりやすい図になっている.またその図の中に説明文も挿入されているため,図を見るだけで手技が理解できるように工夫されている.3.図の説明が具体的で細かい図の中の説明は簡潔であるが,文中の解説はきわめて丁寧であり,抽象的ではなく,微に入り細を穿って解説560あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014されている.4.自身の手術ライブラリーから動画が厳選されている写真を多用した解説だけでなく,素晴らしい動画がDVDに収載されている.動画が添付されている手術解説書は最近よく見られるが,本書で私が特に感心したのは,その動画がすべて適切な画角で見やすく,しかもピントが良く合っていることである.本の中の解説に合わせて綺麗な動画が多数用意されており,手技を理解しやすくしている.よくぞここまで,いろいろな場面の動画を集めて整理できたものだ,と感心してしまった.毎回毎回の手術ビデオをまとめ,それを編集して整理しておくことが重要であることは十分理解しているが,なかなかできないことであり,このライブラリーを提供することが谷口先生の白内障術者としての集大成であるといえる.今までは難症例と考えられていた小瞳孔や硬い核の症例は,手術装置の進化と対処手技の普及によって熟練者なら合併症なしに行うことができるようになってきたが,チン小帯脆弱は現時点でも難症例として恐れられている.本書は,この難症例対策に重点が置かれていることも大きな特徴である.この分野は谷口先生の最も得意とするところであり,チン小帯脆弱症例に対する安全な攻略法と,それに付随する毛様溝縫着術についての記載は,本文320頁中94頁を占めており,詳細に解説されている.本書は,白内障手術を始めた初心者から,多数の症例を経験した熟練者,そして若手を指導している指導医まで,白内障手術に関与しているすべての人が,それぞれの立場で熟読すべき本であるといえる.(東京慈恵会医科大学眼科学講座常岡寛)(00)(82)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY

後記臨床研修医日記 31.東北大学病院眼科学教室

2014年4月30日 水曜日

●シリーズ後期臨床研修医日記東北大学病院眼科学教室菊地明日香佐藤茉莉華鈴木哲章矢花武史外来当科の外来は曜日ごとに,網膜外来,緑内障外来,神経斜視外来,角膜ドライアイ外来と分かれています.研修医は2カ月ごとに手術日と外来日が入れ替わり,それぞれの専門外来をローテートするしくみになっています.1年目研修医はおもに他院からの紹介の新患を診察します.診察し,検査の指示を出し,検査結果をもとに自分で診断や方針を考えたうえで,その日の診断医にコンサルトします.必要に応じて,その後の外来での経過観察も自分で担当します.もちろん,まだまだ1人では何も決められないので,その都度,上級医に相談しながら経過観察を行います.そのほか,入院中に担当した患者の術後の経過も,同様に上級医に相談しながら診ていきます.1年目のうちは,忙しくなりすぎないように配慮されていて,1日に診る患者の数はあまり多くありませんが,2年目になると,新患や術後以外の経過が長い再診の患者もたくさん診るようになり,とても忙しそうです.1年後の自分たちが,あんなにテキパキと仕事をこなせるようになるなんて想像もつきません.また,外来日のうち1日は処置係になります.処置係の仕事としては,FA/IAのライン取りと撮影が主で,そのほか,眼圧測定,睫毛抜去,涙点プラグの挿入,硝子体注射,点眼作成などを行います.週2回ある網膜外来の日のFA/IAは鬼のように忙しく,研修医1人では手に負えないので,ベテランのORTさんが手伝ってくれ,とても助かっています.外来は9時から17時までで,外来の前には病棟の担当患者の診察,夕方には新入院患者の診察とムンテラを行います.また,曜日ごとに各専門分野のカンファレンスがあり,新患の振り返りや治療に迷っている症例について話し合いをします.外来患者が多かった日には,カンファレンスのあとで外来に戻り,新患返礼状などの仕事をして,長い1日がやっと終わります.(菊地明日香)病棟病棟では後期研修医1あたり常時6人前後の患者を受け持ち,1人の患者さんに対して上級医1人が指導医としてつきます.月曜から日曜日まで毎日診察をしますが,平日は外来業務や手術が始まる前までに診察を終えなければなりません.また毎週2回手術日の担当があり,その翌日は8時半から術後回診が始まります.起床時間はその時の受け持ち患者さんの人数によってかわりますが,6時半頃から診察を始めなければ間に合わないということもあります.しょぼくれた目を何とかこじ開けながら病棟へやってきますが,朝が苦手な夜型人間にとっては大変な試練となります.写真1仲良し同期4人後列左から時計回りに矢花,鈴木,菊地,佐藤.(79)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145570910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真2業務に奮闘する研修医夜遅くまで指示入力やカルテ記載を頑張っています.7時半過ぎから朝食が配られ始めるため,誰から診察を始めるか,瞬時に仕事モードになって計画をたてます.しかも朝の診察室は大変混雑し,4台あるスリット台はほぼ満席です.患者さんを呼ぶ声や,「上見てくださーい,右上見てくださーい」という声が行き交い,診察室は早朝から大変にぎわいます.木曜日は朝8時半から教授回診です.皆サマリーを前日までにカルテに書き出し,データを見直したり教科書を読んだりして備えますが,教授からは予想できない鋭い質問が飛んできます.しかしそのおかげで,私たちは重要な点を見逃していたことに気づきます.教授回診は毎回新たな発見の連続で,大変勉強になります.さて,朝の診察が終わると研修医は外来や手術へ散り散りとなり,それらの激務終了後,病棟へ帰ってきます.この頃にはフラフラですが,それでも仕事は待ってくれません.状態が不安定な患者さんの診察や処置をしたり,手術のために入院してきた患者さんのムンテラや診察をしたり,翌日入院してくる患者さんの準備をしたり,各々の仕事にとりかかります.お腹が鳴りますが,仕事が終わるまでは我慢です.個人的には自炊がどうしても怠りがちになるのが悩みの種です.そしてすべての仕事が終わる頃には,病棟はすでに消灯後であり,ほの暗くなっています.(佐藤茉莉華)手術1週間のうち月曜と火曜,水曜,金曜日が手術日です.普段は2室を使って局所麻酔下の手術を行い,金曜日は558あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014全身麻酔下の手術も行うので,3室並行で手術が進行します.患者さんは9時に入室するので,それまでに機材のセッティングや薬剤の準備など,事前準備を済ませておかなければいけません.きまって更衣室のロッカーはガラガラで,他のどの科の医師よりも早く手術室に向かいます.手術の内容は,外眼部手術,白内障手術,緑内障手術,硝子体手術とさまざまです.私たち後期研修医1年目は,最初に外回りの仕事を覚え,次に助手として手術に参加し,そして少しずつ手術操作を教わっていきます.一口に白内障手術といっても,術式一つとってもアプローチや創口の位置,使う器具など,執刀する先生によって細かな違いがあり,気が抜けません.おもに担当患者の助手に入り,それ以外では外回りをして定期手術は17時前後に終わります.(鈴木哲章)休日土曜日は朝8時30分から,金曜に手術をした患者さんの術後回診があります.この頃になると1週間の疲れもピークにあり,早起きがとても辛いですが,午後からゆっくりできるぞと最後の力を振り絞ります.術後回診,入院患者さんの診察,日曜入院の患者さんの指示だしを終えれば,その日の業務は終了です.午後からはそれぞれの時間を過ごします.また,土曜日は講演会や後期研修医向けの勉強会なども多く企画されており,まとまった知識を得るチャンスです.もちろん,その後のおいしいご飯やお酒が目当てであったりもします.日曜は普段より遅めに出勤し,入院患者さんの診察を〈プロフィール〉菊地明日香(きくちあすか)東北大学卒業,石巻赤十字病院で初期研修2年間終了後に眼科入局.佐藤茉莉華(さとうまりか)山形大学卒業,大崎市民病院で初期研修2年間終了後に眼科入局.鈴木哲章(すずきのりゆき)秋田大学卒業,雄勝中央病院で初期研修2年間終了後に眼科入局.矢花武史(やばなたけし)山形大学卒業,東北大学病院で初期研修2年間終了後に眼科入局.(80) 行います.月曜日に手術の担当があれば,日曜入院の患者さんの診察も行います.それらを終えて長い1週間が終わります.眼科の知識や手技は特殊であり,覚えることも多く,日々の診療や学会発表の準備などなかなか忙しい日々を過ごしていますが,その一方で,頑張っている自分に充中澤徹先生が平成23年9月に主任教授に着任し,早いもので丸2年が経過しました.休む間もなく現在に至った感がありますが,東北大学眼科学教室では臨床,研究,教育においてさらに充実したシステムを確立し進めてまいりました.そのような中で,菊地,佐藤,鈴木,矢花の新人4人の先生方はすくすくと成長しており,例年にも増して,病棟,外来,研究とすべてに全力投球しており,本当に嬉しく思います.同窓会では,多数の先輩方の前での新人発表会も立派にこ指導医からのメッセージ実感も感じています.まだ眼科医になって間もないですが,たくさんの先生方や視能訓練士(ORT)さん,看護師さんに支えられながら,これからも切磋琢磨していきたいと思います.(矢花武史)なし,そのまま英語論文になるほどの内容のものも見受けられました.来年度にはすぐ次の新人が入ってきます.先生方は2年目になり新人に教え,また教えられながら,成長した自分を少しずつ実感できると思います.患者さんの視機能を常に考えながら,これからも共に良い仕事を行っていきましょう.(東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座眼科学分野准教授・教育主任國方彦志)☆☆☆(81)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014559

My boom 27.

2014年4月30日 水曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第27回「近間泰一郎」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第27回「近間泰一郎」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介近間泰一郎(ちかま・たいいちろう)広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学私は,1991年に富山医科薬科大学(現・富山大学)を卒業し,故郷の山口県にある山口大学医学部眼科学教室に入局させていただきました.医学生時代はバレーボール部に所属し,クラブ活動のないときはゴルフやスキーなどスポーツに明け暮れていました.爽やかなスポーツ青年だった(はず?!)のですが,今となっては見る影もなく,無理がたたって一昨年,椎間板ヘルニアを発症してしまいました.それでもスポーツ観戦は大好きで,野球やサッカーはときどき観戦に行きます(写真1).青春時代の話はこのくらいにして,仕事に関する紹介に移ります.山口大学眼科に入局して3年目に西田輝夫先生が教授として赴任されて以降,角膜の臨床や研究に明け暮れることになりました.2001年9月から米国のオハイオ州にあるシンシナティ大学に留学し,Kao教授のもと,ほぼ毎日トランスジェニックマウスと格闘する3年間を過ごしました.帰国後は,再び角膜移植や前眼部再建術といったオキュラーサーフェスを専門として臨床を続けています.2011年1月に広島大学に移り,オキュラーサーフェス疾患を対象とする角膜外来の充実に集中しています.ここ最近のmyboomは妄想です.臨床においても研究においても疑問に感じたことがあれば,その解決のための方法や希望的観測も含めた結果を,日中ならコーヒー,夜ならシングルモルトでも飲みながら考えること(77)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYです.妄想は自由でお金もかかりませんが,最近は,頭が冴えている午前中に妄想する時間が取れないことが最大のストレスです.臨床におけるmyboomおもに生体共焦点顕微鏡を用いて,角膜内の変化を細胞レベルで可視化することです.高倍率の対物レンズを入手し,特注のアダプターを介して,完全非接触での角膜の観察に挑戦しています.従来の接触型の観察に比べ,約1.6倍の拡大率を得ることができ,形態学的特徴のある細菌の同定が可能となりました.たとえば,肺炎球菌は双球菌の形態で莢膜が観察可能です.この画像を見たときは鳥肌が立ちました.まだまだ困難なことも多いなかで,楽しい妄想をしながら,より良い観察法を探求しています.研究におけるmyboom2011年1月に広島大学に異動してから,角膜感染症に対する光線力学療法についての研究を始めました.新規の光感受性物質であるTONS504というポルフィリン誘導体と新規LED照射装置を用いて,各種細菌,酵母型真菌,さらにヘルペスウイルスへの効果を確認しています.invitroではその有効性がほぼ確認できましたので,今後はinvivoでの検証に移る予定です.インドネシアからの留学生が熱心に研究を進めてくれています.薬剤耐性を考えなくてよい感染症治療になります.これで抗生物質がいらなくなってしまうと製薬会社が困ってしまいます(実際にそんなことはないですが…).この研究もまだ道半ばですが,もし臨床応用できれば難治性の角膜感染症の新しい治療法となりうる可能性を秘めています.今は,動物実験での良好な結果を妄想しながら研究計画を立てているところです.国内外の学会に演題あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014555 写真12011年8月10日に札幌ドームでの日韓戦を観戦写真22012年のARVO.最後のフォートローダーデールを出し続けて,臨床応用を実現できるようにモチベーションを維持しなければいけません.プライベートのmyboom現在,単身赴任4年目に突入し,掃除や洗濯は日常業務ですが,最近は自炊のレパートリーを増やすために,クックパッドや楽天レシピなどのコンテンツをのぞく機会が増えました.とはいっても時間に制限があり,そこまで凝り性ではなく,スープやだしから自分でとろうとは思っていない私にとっては,でき合いの鍋つゆや煮物のたれは重宝しています.揚げ物よりはゆで物や煮物が多くなってきています.また,外食に関して広島にはさまざまなジャンルのおいしい食事どころがたくさんあります.医局の仲間やスタッフ,あるいは学生さんを交えて,新規開拓にでかけています.今のところ80%以上の勝率(満足できた率)です.これからも,おいしいお酒とおいしい食事が楽しく食べられるお店の開拓を続けていきたいと思います.私自身いろいろなことに興味をもつ,いわば浮気性のところもあります.でも,継続することは大きな発見をもたらすことは先人が教えてくれています.ありふれた日常の一コマで,小さな発見をして興味をもったら調べる.はまったらそれがmyboomになるのでしょうね.次回のプレゼンターは山形大学の難波広幸先生です.角膜分野で頑張っている若手のホープです.これで,日本地図の山形県を灰色に塗りつぶすことができます.このリレー企画を少し若い先生方に回してもらうことにしたいと思います.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆556あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(78)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで

2014年4月30日 水曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑯責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑯責任編集浜松医科大学堀田喜裕NEIのこと,JinH.Kinoshita先生のこと樋口真琴(MakotoHiguchi)社会医療法人秀眸会大塚眼科病院理事長・院長1974年北海道大学医学部卒業.北海道大学医学部付属病院医員.1979年国立札幌病院勤務.1980年北海道大学医学部付属病院医員.1981年北海道大学医学部付属病院助手.1987~1989年米国国立眼研究所VisitingAssociate(日本学術振興会─NEI交換留学プログラム).1989年医療法人社団秀眸会大塚眼科病院勤務.理事長・院長,現在に至る.私が大学を卒業した頃は,インターン制度もなく,今のような初期研修もありませんでしたから,卒業するとすぐに眼科に入局しました.北海道大学で12年ほど研修し,臨床にも自信がつき,学位もいただき,そろそろ外の病院に出ようかというときに,何か大学でなければできないことで,やり残したことはないかと考えました.そして,留学をしていないことに気づいたのです.先輩からのコネの留学など,私のような女性に,まして3人の子持ちになどにお声がかかるわけもありません.なんとか自分の力で留学の道をさがそうと考えていたときに,日本学術振興会の長期在外研究員の募集のポスターを見つけました.その募集要項を調べてみましたら,米国の受け入れ先が国立眼研究所(NationalEyeInstitute:NEI)であることがわかり,定員は年にたった一人ではあるけれど,NEIということはきっと医療関係者,とくに眼科医を募集するのだろうから,自然科学一般の研究者を対象にする他の国より競争率が低いのではないかと考えました.「そんなものに応募しても北海道の田舎者にはあたらないよ」とアドバイスしてくださる先輩もいましたが,だめもとで応募してみましたら,その年はよほど応募が少なかったのか合格してしまいました.日本学術振興会とNEIの交換留学プログラムで渡米することになりました.その受け入れ先の責任者が当時ScientificDirectorであられたJinH.Kinoshita先生でした.NEIを初めて訪れた日に,Jin先生のところにご挨拶に行きました.大変威厳のある,でも人を包み込むような温かさのあるやさしいお父さんといった印象を受けました.私は北海道大学で杉浦教授の下でぶどう膜(75)炎,眼免疫アレルギーを勉強していましたので,RobertB.Nussenblatt先生の眼免疫のラボに入れていただきましたが,Jin先生のラボはあちこちのビルに分かれていましたので,ほとんど私たちのいるビルのラボでお会いすることはありませんでした.NEI全体の講演会のようなときいつも真ん中の前のほうで熱心に聞いておられる姿を後ろのほうから眺めておりました.Jin先生はゴルフがお好きだと聞いておりましたが,私にはそのような趣味もなく,ラボも離れておりましたから,仕事でもプライベートでもお会いすることはありませんでした.私の留学したプログラムのことやら,滞在延期をしたときなど,本当に事務的に必要なときしかお会いする機会がありませんでしたが,いつも温かく対応してくださいました.余談ですが,いつもJin先生と一緒にお話しに出てくるToichiroKuwabara先生は,私たちと同じビルの同じ階にいらっしゃいましたので,時々エレベーターや廊下でお会いしました.大変気難しいとか,厳しいとか,日本人にも日本語ではお話しくださらないとか,いろいろうわさを聞いておりましたが,なぜか私はKuwabara先生とは日本語でしかお話したことしかありませんでした.最初にご挨拶に伺ったおり,家族のことを聞かれ,子供が3人いると申し上げましたら,「boy?girl?」と聞かれました.「うちは全員女でございます」とお答えしたら,先生のお顔からふっと笑みがこぼれ,「うちもみんなgirlです.犬までgirlです.女の子は良いものです」といわれ,大層楽しそうに笑われました.私の子供たちが全員息子だったら英語でお話ししなければならなかったのではないかと今でも思うのです.あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145530910-1810/14/\100/頁/JCOPY 私が米国国立保健研究所(NIH)にいた1987~1989年ごろは,NIHには実にたくさんの日本人がいました.私は結構頑張って留学したつもりでしたが,こんなにたくさんの日本人はどうやってきたのだろうかと思うほどでした.中でもNEIはさほど大きな研究所ではありませんでしたので,NEI全体のドクターに占める日本人の割合は非常に大きかったと思います.これはきっとScientificDirectorであったJin先生のお力添えがあったからではないかと思います.平成6(1994)年頃でしたでしょうか,白内障学会の●★前にたしかJin先生の叙勲をお祝いしてOBの会が京王プラザホテルでありました.たくさんのNEIのOB,OG,先生の教え子さんたちが集まり盛大にな会でしたが,Jin先生は終始にこやかに皆と歓談されていたことを思い出します.すでにNIHを離れ,カリフォルニアにいらっしゃると聞いていましたが,これが私のJin先生にお会いした最後になりました.NEIで勉強する機会を与えてくださったことに感謝申し上げ,ご冥福を心よりお祈りいたします.●★554あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(76)

現場発、病院と患者のためのシステム システムとツールの違い

2014年4月30日 水曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム医師を含むパソコンに詳しいスタッフがExcelやAccessを駆使して身近な作業の効率化を図ることは珍しくありません.具体的には,部門内業務に閉じるような効率化(OA:officeautoシステムとツールの違い*杉浦和史mation)や,身の回りの効率化(PA:personalautomation)ですが,これらはいわゆるツール(tool)と呼ばれ,一般的に単独で機能します..システムシステムはsystemと書き,communicationsystem(通信網),educationalsystem(教育制度),nervoussystem(神経系統)などと使われますが,われわれはもちろんinformationsystem(情報システム)のことを縮めてシステムと呼んでいます.システムの定義にはいろいろあり,“複数の機能が集まって相互に関係しながらこれらのツールを寄せ集めても,機能が相互に連携して動き,情報を共有するシステムにはなりません.アリストテレスは,“全体は部分の寄せ集め以上の存在である”といっています.全体をシステム,部分をツールに置き換えると当てはまります.Σツール<システムです.全体でまとまった機能を実現している存在”という堅苦しい説明もあります.簡単にいえば,“相互に連携し合った機能,情報の集合”です.図1に示すように院内の業務は多種多様であり,連携して動いています.これを,各部門の限られた範囲の効率化を目指すツールを寄せ集めて処理できるでしょうか?答えはNo!です.個別作業の効率化を目指すツールと全体最適をめざすシステムとの違いでもありますが,考慮すべき業務の広さと深さ,それに業務間の連携への考察に雲泥の差があります.受付治験・研究問診検査処置診察予約会計入院病棟給食手術事務図1院内業務関連図スエズ運河を作ったレセップスは,その知識経験を買われ,パナマ運河を作ることになりましたが,失敗しました.スエズ地域にはなかった熱帯雨林という気候,マラリア,黄熱病の蔓延する地域という予想外の環境があり,紅海と地中海にはなかった太平洋と大西洋の水位の(73)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY差がスエズ運河建設時の技術と経験ではクリアできなかったということです.なお,地政学的に重要なこの地域には,各国の思惑が複雑に絡み合っていたという大きな問題もありました.教訓は,①“小”の延長線で“大”を考えない,②“小”の集合で“大”を考えない,③同じ“大”でも質が異なる場合がある,④“大”と“巨大”とでは大きく違う,です..ツールツールとは,手作業ではできなかったり,手間がかかることを代わってやってくれる道具です.例えば釘は手では打てませんが,金槌という道具(ツール)を使えば簡単です.板を切るには鋸があります.切った板を釘で止めて箱を作ったり,家を作りますが,それらの使い分けと段取りは大工が行います.つまり,ツールは大工的な人がいないと単機能な部品としての機能で終わってしまいます.もちろん,それでも役立つことはあり,ツールとは本来そのレベルでかまわないものです.例をあげましょう.手術件数を術式別,年度別,月別に集計し,グラフ化して推移をみたい場合,Excelとマクロを使えば可能です.しかし,術式などのデータは入力しなければなりません.長い術式名を間違って入力す*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014551 ると集計結果が正しくなりません.術式名一覧を表示させ,選択することで間違わずに入力することができますが,術式をあらかじめ登録すること,および術式の保守を確実に行う必要があります.この作業は人手で行わなければなりません.また,他の業務でこの手術実績情報を使っている場合,それぞれ入力したり,保守しなければなりません.単独,狭い範囲で使われ,連携していないからです.これがツールの特徴であり,限界です.また,誰がどこでどのような情報を何のために使っているかにつき,組織内で共有されていないために,同じような機能をもったツールを複数部門で作ってしてしまうことがあるのも特徴の一つです.図1に示した“検査”,眼科の場合,何十種類にも及びます.これらを省力かつ効率よく処理するため,検査機器メーカは自社機器用のファイリングシステムを用意しています.これとは別に独自に便利ツールを作っている医療機関もありますが,いずれも院内業務全体をとおして電子的に連携して使うことはできません.それは局所的な業務,作業が対象であり,連携して使うことを前提としていない個別システムやツールだからです.情報が電子的に連携していないため,必要な都度,データを再入力したり,コピーして使うというハンドリングも発生します.システム化の大きな目的である,一度入力したデータは再入力することなく,その情報を必要とするすべての処理で使うという,“createonetime,usemanytimes”になっていないということです..まとめシステムには構想があり,全体最適をめざし,機能・情報の連携を前提としているのに対し,当面の目的があり,個別最適でよく,基本的には連携を考えていないのがツールといえるでしょう.目的別に使い分けることがポイントですが,システムとツールの違いをまとめると,表1のようになります.表1システムとツールの違い比較項目システムツール1開発動機まとまった一連の業務を連続的に処理し,組織全体の業務効率,作業品質を向上させたい手作業で処理していた身近な仕事を簡便に済ませたい2カバーする業務範囲大小3機能,情報の連携○(複数機能の集合)×(連携を考えない単機能)4完成までの時間遅い早い5実用性,使い勝手設計者,実装者のセンス,技量に依存するが,一定水準を保つ作った人物のセンスに依存自己満足でも構わない6開発者専門的な訓練を受け,知識,経験を持つ専門家非専門家(担当者)7開発費用一般的に多額の費用がかかる安価,もしくは無料8開発技法ルールに従って開発属人的発想9開発ドキュメント必須ない場合が多い10マニュアル必須ない場合が多い11保守専門部署,専門家,外部委託担当部,開発者(作った者)12教育制度的に職制で実施する個人ベース552あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(74)

タブレット型PCの眼科領域での応用 23.さまざまな障害児童におけるタブレット型PCの活用②

2014年4月30日 水曜日

タブレット型PCの眼科領域での応用タブレット型PCの眼科領域での応用シリーズ三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第23章さまざまな障害児童におけるタブレット型PCの活用②■はじめに第23章で取り上げる端末は,東京大学先端科学技術研究センターでさまざまな障害をもつ児童とのコミュニケーションに活用しているタブレット型PC“iPadAir”と“iPhone5s”(いずれも米国AppleInc)のiOSバージョン7.0.6です.この章では学習障害や発達障害をもつ児童へのタブレット型PCの導入の過程で経験した眼科医としての気づきを,彼らの生の声とともに紹介させていただきます.■眼科医としての学習障害・発達障害児とのかかわり前章で述べたように,学校での視力検査で視力の低下を認め,医療機関における視力検査や視機能検査で異常を認めない児童の中には,さまざまな障害により読み書きに困難を抱える学習障害児や発達障害児が存在します.空間認識障害や聴覚過敏などの症状により,授業への参加に困難を抱える児童が最初に訪れる医療機関が眼科であることは,われわれ眼科医にとって非常に大きな意味をもっています.東京大学先端科学研究センターに通う児童たちとのかかわりの中で,私は眼科医として行っているデジタルロービジョンケアに通じる事例を経験することがあります.ある児童の言葉には次のようなものがありました.「背景の色が白色だと,まぶしくて文字に集中できなくて,読むことができない.」読み書き障害をもつ児童の一部には,背景色により文字の見やすさに差が出る児童が存在します.彼らは,さまざまなカラーフィルターを読書対象に使用すること(71)で,印刷物の視認環境がいくらか改善するといいます(図1).これらの差はあくまで児童の自覚的所見による評価に過ぎませんが,学童期の子どもにとって,快適な視認環境で学習できることはとても重要です.このような訴えのある児童らには,タブレットの背面カメラを利用して,映像にさまざまな色覚的効果を与えることが可能なアプリケーションソフトウェアを活用したり,電子書籍の背景色の設定を各自に合わせて変更することで,印刷物やデジタル文字情報に対する視認環境を改善できる場合があります.文字サイズやフォント,背景色を変更して視認環境を最適化する作業は,デジタル機器を用いたデジタルロービジョンケアにおける患者に合わせた視認環境設定の基本ですが,同様の配慮が,読み書きに障害をもつ児童の一部にも活用できる可能性があります.読んでいる行を誤認しやすい児童では,周囲の文字や装飾が対象の文字列と同じレベルの情報として認識されてしまうため,読字がとても困難になっているケースがあります.そこで,スリットの入ったボードを利用することで,対象の文字列のみに集中することが可能となり,読書に集中できる児童もいます(図2).このスリットボードはロービジョン者が利用するタイポスコープというエイドと形状や機能が共通し,一部同じ目的で利用されているといえます.■学習障害児童へのデジタルロービジョンケア『障害者の権利に関する条約』は「第二十四条教育」で教育についての障害者の権利を認め,この権利を差別なしに,かつ,機会の均等を基礎として実現するため,障害者を包容する教育制度(inclusiveeducationsystem)などを確保することとし,その権利の実現にあたり確保するものの一つとして,「個人に必要とされる合理的配あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145490910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図1カラーフィルターを利用すると印刷物の見えやすさが変化する慮が提供されること」を明記しています.われわれ眼科医が読み書き障害をもつ児童に最初に出会う可能性がある以上,われわれは読み書き障害という疾患の存在に対して配慮する必要性があります.また,これらの障害をもつ児童に対するケアとして,これまでのリハビリテーションやトレーニングに加えて,エイドやデジタルデバイスを併用したロービジョンケアは合理的配慮の視点からも,とても重要な意味をもっています.例えばノイズキャンセル機能のついたヘッドフォンを用いることで聴覚過敏の症状を有する児童の学習環境整備をするなど,彼らの生活や学習環境を最適化するための配慮が今後は重要になると考えられます.しかし,就学環境において,デジタルデバイスを利用するための環境整備は十分とはいえず,読み書き障害をもつ児童の困難さに対する理解や,デジタル機器の活用の意義に対する教育機関の認識も,現状では高いとはいえません.眼科医と学校関係者との連携や啓発が,読み書き障害をもつ児童への合理的配慮を提供するうえで,今後必須の課図2スリットボードを使用すると読字環境が改善する題となっていくと考えられます.東京大学先端科学技術研究センターでは,これらの児童に対するデジタル機器によるケアを中心とした試みが始まっています(診断や評価を中心とした読み書き障害の研究活動『ココロ』〔http://at2ed.jp/clinic/〕,実際の端末の利用や指導を目的とした教室『ハイブリッド・キッズ・アカデミー』〔http://www.eduas.co.jp/buriki/〕).これらの活動の紹介は,読み書き障害をもつ児童やその家族に対して,リハビリテーションや訓練と同様に重要です.一人でも多くの眼科スタッフがこれらの障害の存在を理解することが,障害児童が生き生きと学べる環境配慮への第一歩だと私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはStudioGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.StudioGiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆550あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(72)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 131.液体パーフルオロカーボンによる脱臼眼内レンズの摘出と毛様溝縫着術(初級編)

2014年4月30日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載131131液体パーフルオロカーボンによる脱臼眼内レンズの摘出と毛様溝縫着術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●液体パーフルオロカーボンの眼科手術への応用1987年にChangらは,巨大裂孔網膜.離と増殖性硝子体網膜症に対する硝子体手術に,液体パーフルオロカーボン(liquidperfluorocarbon:LPFC)を使用し,その有用性を報告した1).それ以来,LPFCは硝子体手術の有用な補助材料として,広く臨床で用いられている.LPFCの適応としては,前述した2疾患に加えて,通常の裂孔原性網膜.離,増殖糖尿病網膜症,網膜下血腫,脱臼水晶体,脱臼眼内レンズ(intraocularlens:IOL)などがある2).●LPFCを用いた脱臼IOLの摘出水晶体やIOLはLPFCよりも比重が軽いことを利用して,硝子体切除に引き続きLPFCを硝子体腔内に注入することで,眼底に落下している水晶体やIOLを浮上させることができる3,4).眼底に落下しているIOLを硝子体鑷子で直接把持する方法では,IOLの傾きによって誤って網膜を損傷するリスクがあるが,LPFCを使用することでこのリスクを回避できる(図1).また,LPFCを瞳孔面まで注入することで,上方の強角膜創から脱臼IOLを容易に摘出できる(図2).LPFCを硝子体腔に注入することで,術中の眼球の変形も最小限にすることが可能で,脈絡膜出血の発症頻度も減らすことができると考えられる.●LPFCを用いたIOL毛様溝縫着術IOL毛様溝縫着術を施行する際にも,LPFCを瞳孔面図1Sommering輪ごと脱臼したIOLLPFC注入により網膜面との距離が開き,硝子体鑷子でIOLを把持しても,網膜を損傷するリスクは少なくなる.図2上方の強角膜創からIOL摘出LPFCを瞳孔面まで注入することで,IOLを前房に浮上させ,上方の強角膜創から容易に摘出できる.この症例ではレンズグライドを使用している.図3IOL毛様溝縫着術IOL挿入後の偏位が少なくなり,良好なセンタリングが得やすくなる.近くまで注入しておくと,IOL挿入後の偏位が少なくなり,良好なセンタリングが得やすくなる(図3).IOLを摘出せずに眼内操作のみで毛様溝に縫着する方法も,LPFCを用いると施行しやすい.文献1)ChangS:Lowviscosityliquidfluorochemicalsinvitreoussurgery.AmJOphthalmol103:38-43,19872)池田恒彦:液体パーフルオロカーボンと眼科手術.臨眼47:915-921,19933)満田久年,田野保雄,瓶井資弘ほか:Perfluorodecalineによる脱臼眼内レンズ摘出法.眼科手術3:519-522,19904)LewisH,SanchezG:Theuseofperfluorocarbonliquidsintherepositioningofposteriorlydislocatedintraocularlenses.Ophthalmology100:1055-1059,1993(69)あたらしい眼科Vol.31,No.4,20145470910-1810/14/\100/頁/JCOPY