‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

私の緑内障薬チョイス 9.多剤併用例にadd onしてもさらに眼圧が下降する可能性のあるアイファガン®点眼

2014年2月28日 金曜日

連載⑨私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑨私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也9.多剤併用例にaddonしてもさらに眼圧が下降新田耕治福井県済生会病院する可能性のあるアイファガンR点眼アイファガンR点眼は,毛様体における房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進のデュアル作用を兼ね備えた点眼である.Low-pressureGlaucomaTreatmentStudy(LoGTS)にて,アイファガンR点眼には神経保護作用が存在する可能性が示唆された.また,最大耐用点眼使用例にアイファガンR点眼をaddonすることで,さらに眼圧下降が得られることがある.本人の緑内障の7割以上を占める正常眼圧緑内障日(normal-tensionglaucoma:NTG)で,プロスタグランジン製剤点眼+b遮断薬点眼+炭酸脱水酵素阻害薬点眼の3種を使用しても視野障害の進行を止めることができず,トラベクレクトミーを選択しなければならない患者では,目標眼圧は1桁台の場合も多く,手術を決断する際にさまざまな術後合併症や併発症が頭をよぎる.術後早期には乱視の増悪,房水漏出,過剰濾過による低眼圧黄斑症,駆逐性出血,術後中期以降には濾過胞の限局化,白内障の進行,濾過胞炎,眼内炎,そのほか数々の周術期合併症がある.緑内障による視力障害を自覚していない症例に手術を施行した場合に,手術により目標眼圧にコントロールできても,手術後に日常生活に支障をきたすような視機能障害を患者本人が自覚するようになってしまっては,患者との信頼関係が損なわれかねない.そこで筆者は手術を最終的に決断する前に,アイファガンR点眼(図1)を追加することにしている.患者にはできれば手術を回避したいという切実な思いがあるので,点眼薬がさらに増えてもアドヒアランスが良好なことが多く,アイファガンR点眼のaddonによりさらに眼圧下降が得られることがある(図2).これはアイファガンR点眼が毛様体における房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進のデュアル作用を兼ね備えた点眼であることが一因である可能性がある.アイファガンR点眼以前に,平均10.2mmHgで一見眼圧コントロール良好な症例に,点眼治療を強化して平均8.1mmHgになったことで,視野進行の平均速度MDslopeが.1.14dB/yearから.0.16dB/yearに緩徐になったNTGを経験している.このように,NTG症例の中には,さらに1mmHgでも2mmHgでも眼圧を下降(65)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1アイファガンRできれば視野障害を遅らせることができるような症例があり,アイファガンR点眼が大いに期待される.また,LoGTSはアイファガンR点眼の神経保護作用の可能性について示唆している.チモロールとの多施設共同無作為化二重盲検比較試験にて,アイファガンR点眼の眼圧下降効果とチモロール点眼の眼圧下降効果には差がないものの,視野障害の維持効果はアイファガンR点眼にて有意に優れていたとの報告がなされた1)(図3).また,チモロール点眼とアイファガンR点眼との12カ月点眼後の網膜神経線維層厚の比較では,チモロール点眼群では,上下耳鼻側すべてで点眼開始前より有意に菲薄化していたが,アイファガンR点眼群では上下耳鼻側すべてで点眼開始前との差がなかったので,アイファガンR点眼は網膜神経線維層の菲薄化を抑制できる可能性があると報告された2)(表1).日本人でのアイファガンR点眼による視神経保護作用についての報告はまだない本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014225 眼圧推移左右デタントールタプロスコソプトアイファガンアイファガンSLTSLTデタントールタプロスコソプト眼圧推移左右デタントールタプロスコソプトアイファガンアイファガンSLTSLTデタントールタプロスコソプト図2最大耐用点眼を使用してもなお進行する正常眼圧緑内障眼で,アイファガンR点眼のaddonにより眼圧下降が得られた症例初診時58歳,男性.視力:RV=0.02(0.8×.4.25D(cyl.1.0×.0.01(0.06=),LV°09DAx4.5D(cyl.0.5DAx105°).左眼中心視野消失,右眼ハンフリーMD.21.96dB.初診時にすでにタフルプロスト点眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼,ブナゾシン点眼を使用.当院ではさらにレーザー線維柱帯形成術を施行しても眼圧は10.12mmHgに推移したため,アイファガンR点眼を追加.1年以上,眼圧は常に一桁台を推移するようになった.0.00.10.20.30.40.50.7チモロールブリモニジン0.6累積視野障害進行率ついては症例を積み重ねて機会があれば報告したい.長期に緑内障患者を管理していると,自分が使用できる緑内障治療のツールが1つでも増えることは大変ありがたいことである.緑内障進行予防に,すべての緑内障点眼と併用可能なアイファガンR点眼の効果を期待したい.04812162024283236404448観察期間(月)図3LoGTSにおけるアイファガンR点眼とチモロール点眼の累積視野障害進行率アイファガンR点眼はチモロール点眼よりも有意な視野維持効果を示した(p=0.001logrank検定).両群間に眼圧下降効果の差がなかったことから,アイファガンR点眼の視野維持効果には眼圧非依存性因子の関与が示唆される.(文献1より)が,上記の結果から,眼圧が良好にコントロールされていても進行するNTGの場合に,筆者は積極的にアイファガンR点眼を使用するようにしている.その効果に文献1)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20112)TsaiJC,ChangHW:Comparisonoftheeffectsofbrimonidine0.2%andtimolol0.5%onretinalnervefiberlayerthicknessinocularhypertensivepatients:aprospective,unmaskedstudy.JOculPharmacolTher21:475-482,2005表1チモロール群とアイファガンR群の網膜神経線維厚の変化baseline点眼開始12カ月後p値IOP(mmHg)アイファガンR群チモロール群24.2±1.3(22.0.27.0)23.9±1.1(22.5.26.0)18.6±0.9(17.0.20.0)18.7±1.1(17.0.20.5)<0.0001<0.0001Ellipseaverage(μm)アイファガンR群チモロール群71.5±9.5(57.1.94)71.7±12.1(49.4.98.3)71.5±9.4(55.3.89.2)68.7±12.4(47.3.96)0.970.004IOP:intraocularpressure(文献2より)226あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(66)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性とアバスチン®

2014年2月28日 金曜日

●連載抗VEGF治療セミナー─薬剤選択─監修=安川力髙橋寛二鈴木三保子1.加齢黄斑変性とアバスチンR大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室/VitreousRetinaMaculaConsultantsofNewYorkベバシズマブ(アバスチンR)は,眼科領域で臨床応用されている他のVEGF阻害薬であるペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)と異なり,大腸癌に対する静脈内投与が本来の適用である.それにもかかわらず,加齢黄斑変性を含む眼内新生血管に対する硝子体内投与は世界中で未認可(オフラベル)のまま広まった.現時点でアバスチンRとルセンティスRは,加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管に対してほぼ同等の有効性をもつと考えられている.一方,全身性の重篤な副作用については,両者に差があるかどうかは,はっきりとわかっていない.larDegenerationTreatmentsTrials:CATT)で,アアバスチンRの有効性バスチンRとルセンティスRの視力改善効果はほぼ同等アバスチンRは,すべてのVEGFアイソフォームをであるという結果が報告された1).図1に,CATT阻害する抗VEGF中和抗体で,本来は大腸癌に対するstudyにおける2年間の視力変化を示す.この結果は実点滴静注用の抗悪性腫瘍薬である.眼科での投与は適用際の臨床現場で受ける印象と一致していると感じる読者外使用であり,そのため医療施設によっては使用できなが多いと思われるが,オフラベルのアバスチンRと,他い場合もある.の認可されている抗VEGF薬の選択は,薬剤費の違い,アバスチンRは,同じ抗VEGF抗体をもとにして作そしてつぎに述べるアバスチンRの副作用なども考慮す製されたルセンティスRより分子量は大きく(150kDa),る必要がある.日本人におけるアバスチンRの効果は,VEGFとの親和性についてはどちらが優位であるかは欧米と同様に1型脈絡膜新生血管(網膜色素上皮下脈絡っきりとはわかっていない.2012年に加齢黄斑変性治膜新生血管)よりも2型脈絡膜新生血管(網膜色素上皮療の比較臨床試験(ComparisonofAge-relatedMacu-上脈絡膜新生血管)のほうが速やかに表れることが多111098765432100ルセンティスR月1回投与アバスチンR月1回投与ルセンティスR必要時投与アバスチンR必要時投与7688104経過観察期間(週)図1治療2年間の各群の視力平均変化量(文献1をもとに改変)41224365264(63)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142230910-1810/14/\100/頁/JCOPY視力スコアの平均変化量(文字数) 初診時1年後図22型脈絡膜新生血管に対するアバスチンR治療前と治療1年後の眼底変化初診時視力0.6,蛍光眼底造影検査でpredominantlyclassic型の病変を有しており,滲出性変化と網膜下出血を伴っていた.8カ月後に再燃したためアバスチンRを再投与した.1年後視力は1.2である.い2)(図2).しかしながら,再燃することもあり注意深い経過観察が必要である.アバスチンRの副作用全身性の抗VEGF治療でもみられる動脈血栓性事象,全身性出血,うっ血性心不全,静脈血栓性事象,高血圧が認められるほか,アバスチンRを静脈内投与したときの副作用としてあげられていた胃腸障害が,硝子体内投与でも同様にみられ,ルセンティスRに比べて有意に高頻度であることがCATTstudyで報告されている.CATTstudyでは,死亡や脳卒中のような重篤な事象224あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014の発現率の差は評価できていない.文献1)ComparisonofAge-relateedMacularDegenerationTreatmentsTrials(CATT)ResearchGroup(MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relateddegeneration:twoyearresults.Ophthalmology119:1388-1398,20122)SuzukiM,GomiF,SawaMetal:Bevacizumabtreatmentforchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationinjapanesepatients.JpnJOphthalmol54:124-128,2010(64)

緑内障:Cirrus HD-OCT

2014年2月28日 金曜日

●連載164緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也164.CirrusHD.OCT石澤聡子岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野Spectral-domainOCTであるCirrusHD-OCTには3つの測定用スキャンパターンがあり,緑内障の診断・進行程度を判断することができる.また,網膜神経節細胞層+内網状層厚の解析や緑内障進行解析が可能となっている.これらを上手に利用して緑内障診療に役立てたい.●CirrusHD.OCTとはCirrusHD-OCTはCarlZeissMeditec社製のspec-tral-domainOCTである.前身であるtime-domainOCTのStratusOCTと比べ高解像度・高速化し,種々の測定プログラムや解析により緑内障診断能力は飛躍的に向上した.●測定プログラムCirrusHD-OCTにはOpticDiscCube200×200(図1),MacularCube,HD5LineRasterの3つの測定用スキャンパターンが搭載されている.OpticDiscCubeは視神経乳頭を中心に6mm×6mmをスキャンし,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)厚を測定し解析するプログラムで,Ver.5.0から視神経乳頭解析パラメータが表示されるようになった.MacularCubeは黄斑部を中心に6mm×6mmの範囲でスキャンするプログラムで黄斑を中心とした網膜厚を測定する.NFLDや黄斑浮腫などを視覚的に把握することができる.HD5LineRasterは黄斑を中心に5本線でスキャンするプログラムで,緑内障ではRNFLや網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)の菲薄化を捉えることができる.●Ver.6.5からの新しい解析最新ソフトウェアであるVer.6.5では,MacularCubeにてGCL+内網状層(innerplexiformlayer:IPL)の厚みを測定し解析するGCA(ganglioncellanal-ysis)(図2)が追加となった.RNFL+GCL+IPLであるganglioncellcomplex(GCC)では層厚と視野の感度が相関することが報告されているが1),GCA開発にあたりRNFLは正常でのバリエーションが多く,これを含むとGCL本来の厚みの均質性が得られにくいため,GCCではなくGCL+IPL厚測定となった.CirrusHD図1OpticDiscCube200×200各データは年齢別正常データからの偏差値の5%未満が黄色,1%未満が赤色で示される.①Deviationmap:RNFLの障害部位を示す.②視神経乳頭解析.③rimの厚さ:耳側-上方-鼻側-下方-耳側の順に表示.④RNFLTSNITnormativedata:乳頭中心から1.73mmの部分でRNFLを測定し,耳側-上方-鼻側-下方-耳側の順に示す.正常では上下でpeakをもつ2つの山を形成(doublehump)する.⑤乳頭中心から半径1.73mmの円を4分割,12分割した平均RNFL厚.(61)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142210910-1810/14/\100/頁/JCOPY OCTでのGCL+IPL厚,RNFL厚,視神経乳頭パラメータではどれも診断において有意差はないとする報告もあるが2),GCAの有用性については今後の検討が必要である.●緑内障進行解析CirrusHD-OCTでは,GPA(guidedprogressionanalysis)を用いて緑内障進行解析を行うことができる(図3).Deviationmapでは初回2回をベースラインとし,3回目以降の変化をみるイベント解析を行い,平均・上・下RNFL厚では4回以上の測定結果で回帰直線によるトレンド解析とポイントごとに表示されるイベント解析を行う.Ver.6.5では平均C/D比の解析も可能222あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014図2GanglionCellAnalysis(GCA)①Deviationmap:GCL+IPL厚の異常を5%未満を黄色,1%未満を赤色で示す.②Thicknessmap:GCL+IPLの厚みをカラーマップで表示.異常所見では水平子午線上で分離する.③セクター解析:上下に区分した6セクターでの正常との比較.④平均・最小GCL+IPL厚.図3GuidedProgressionAnalysis(GPA)ベースライン2回の平均からばらつき以上の変動があった場合は黄色(possibleloss),2回連続して変動があった場合は赤色(likelyloss)で示される.①Deviationmap:RNFL厚の経時変化.②平均・上・下RNFL厚の変化:有意差が出ると回帰直線による有意な変化か検討される.③RNFLTSNITnormativedataの変化.④RNFLsummary:各解析結果で有意な変化があれば黄色(possibleloss),赤色(likelyloss)でチェックされる.になった.RNFL厚では平均と上下の解析であり,局所的な変化についてはやや鋭敏さに欠ける面もあるが,これらの解析結果は日々の緑内障診療に役立てていけるであろう.文献1)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20102)JeoungJW,ChoiYJ,ParkKHetal:Macularganglioncellimagingstudy:glaucomadiagnosticaccuracyofspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:4422-4429,2013(62)

屈折矯正手術:KeraKlear人工角膜

2014年2月28日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載165大橋裕一坪田一男福井正樹165.KeraKlear人工角膜南青山アイクリニック,国立病院機構東京医療センターKeraKlear人工角膜は折り畳み式アクリル性レンズである.術式が簡便であり,生体角膜が不要で眼球穿孔の必要がない.自験例2例では視力向上が得られ,合併症は認めなかった.長期予後に検討が必要だが,KeraKlear人工角膜は生体角膜移植高リスク例のみならず,生体角膜移植前にも適応できる新たな治療法として期待できる.はじめに角膜移植は,生体移植として全層角膜移植,層状角膜移植,内皮移植術などが,その後,人工角膜移植としてOsteo-odonto-keratoprosthesis(OOKP),BostonKeratoprosthesis(BostonKpro),AlphaCorartificialcornea(AlphaCor)などが行われてきた.しかし,生体角膜移植,BostonKproは生体角膜が必要であり,ドナー角膜の不足している日本では欠点となる.また,内皮移植以外は縫合が必要であり,縫合に伴う屈折変化,感染や免疫反応の問題が起こりうる.また,全層角膜移植,OOKP,BostonKpro,AlphaCorは術中に眼球解放状態(opensky)になるため,駆逐性出血などの合併症リスクを負うことになる.OOKPは3期手術,AlphaCorは2期手術であり,手術回数が増えたり,最終手術まで時間を要したりすることも負担になる.これらの改善が期待できる新たな人工角膜,KeraKlear人工角膜(K3)が開発されたので紹介する.●K3についてK3は直径7mmの中心に直径4mmの光学部をもつ,折り畳み式のアクリル性レンズである.光学部は周辺部に比べやや厚みがあり,44Dのレンズ機能をもつ.光学部周囲のplateには栄養交換や縫合のための18個の孔が設けられている(図1).なお,K3はCEマークを取得しているが,日本では厚生労働省未認可品であるため個人輸入になる.●術式角膜上皮から300μmの深さに直径8mmのポケットをフェムトセカンドレーザーで作製する.中央に直径3.5mmの光学部ウィンドウをフェムトセカンドレーザーで300μmの深さまで作製する.光学部ウィンドウ(59)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYacb図1KeraKlear人工角膜(K3)a:K3の全容と規格.b:K3は折り畳み式であり,これにより手術を簡便にしている.c:K3の移植後模式図.ab図2KeraKlear人工角膜(K3)移植術術式a:フェムトセカンドレーザーで光学部ウィンドウならびにプレート部のポケットを作製した後,光学部ポケットに沿ってその上の角膜実質を.離・除去している.b:プレート部のポケットが360°開いているのを確認後,K3を折り畳みながらポケットに挿入している.部の角膜を除去し,プレート部のポケットが360°空いていることを確認してK3を挿入する.プレートを縫合し,コンタクトレンズを載せ,術終了となる(図2).筆者らはフェムトセカンドレーザーで光学部ウィンドウおよびプレート部ポケットを作製したが,原法ではナイフを用いた手動で作製する方法も紹介されている.また,プレートの深さは300μmの深さに置くが,光学部あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014219 acbdacbd図3KeraKlear人工角膜(K3)移植症例膠状滴状角膜変性へのK3移植例.a:術前の前眼部写真.b:前眼部OCT写真.c:術後の前眼部写真.d:前眼部OCT写真.は全層に穿孔させる方法もある.K3のプレート縫合は不要ともいわれているが,検討を要する.●症例53歳,男性.膠状滴状角膜変性で,15年前と1年前に右眼治療的レーザー角膜除去術(phototherapeutickeratectomy:PTK)を行った既往のある患者.PTK術後も角膜実質混濁のため視力向上が得られず,K3移植術を行った.術前視力V.d.=0.03(0.06×S+6.00D(Cyl.1.50DAx170°),角膜実質浅層の混濁とPTKに伴う角膜菲薄化を認めた.術式は前述の通り行ったが,角膜の菲薄化を認めていたため,光学部ポケットを除去する際に角膜穿孔を認めた.しかし,穿孔の範囲が狭かったことから予定通り手術終了した.術後,K3の位置補正を行ったが,合併症なく,視力もV.d.=0.5(1.0×SCL)まで改善した(図3).●手術適応手術適応は光学的治療を要する角膜疾患(角膜混濁や水疱性角膜症)で,角膜厚が350μm以上あることが条件である.ただし,ドライアイを伴う症例には,感染や上皮障害が起こりやすくなることから注意が必要である.理論的には,穿孔をさせないK3移植術ではK3下に角膜実質が残るので,角膜深層の混濁への適応には慎重になる必要がある.角膜浅層の混濁にはよい適応と思われる.Stevens-Johnson症候群や化学外傷後など輪部機能不全を伴う上皮障害によい適応と考えられるが,重症220あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014ドライアイが併発していることがほとんどであり,前述の通り術後管理に注意が必要である.また,これまでの人工角膜は,拒絶反応を繰り返したり,角膜輪部機能不全を伴い組織侵入を繰り返したり,再移植を繰り返している症例に適応があったが,K3のコンセプトは角膜移植未施行例に対して行うことにある.これによりドナー角膜が不足しているような状況でも視力の向上を得られ,ドナーの提供を受けた際に角膜移植を行うこともできる.●課題K3は光学部の屈折が一つ(44D)しかなく,患者個々に合わせた屈折がK3で調整できないのは今後の課題である.また,筆者らの経験した2症例では,K3移植後6カ月の時点でもmedicalusecontactlens(MUCL)の装用を必要としている.MUCLなしでは疼痛があり,2週間に一度の診察で交換を行っている.MUCLからの離脱は今後検討が必要と考えている.そして,人工角膜の術後管理に必要な抗菌薬はK3でも必要となり,原則使用し続けることになる.耐性菌の観点から数カ月毎に抗菌薬の種類の変更を考慮しないといけない.現在のところ,この2症例では角膜上皮障害,角膜融解,炎症所見,感染などの合併症を認めていないが,長期的な予後に関して今後の検討が必要と思われる.●まとめK3は術式が比較的簡便で,術翌日から視力向上が期待できる人工角膜である.手術適応は350μm以上の角膜厚のある角膜移植術適応患者である.K3は術後に生体角膜移植を行えるという利点がある.そのため,ドナー角膜の不足している日本では生体角膜移植までの間の視力向上として,あるいは生体角膜移植を遅らせ,移植回数を減らすために使用するという新たな治療選択肢になりうる.現在のところ短期成績は良好であるが,中長期成績については今後さらなる経過観察,検討が必要である.文献1)PinedaRII,ShiueyY:TheKeraKlearArtificialCornea:ANovelKeratoprosthesis.TechOphthalmology7:101104,2009(60)

眼内レンズ:虹彩面上に移動したSoemmering輪

2014年2月28日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎330.虹彩面上に移動した塩出雄亮岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻Soemmering輪生体機能再生・再建学講座眼科学分野水晶体.外摘出術後に生じたSoemmering輪は,虹彩面上に移動すると視力低下の原因となりうる.水晶体.外摘出術後20年を経過して,左眼の虹彩面上に偏位したSoemmering輪により視力低下をきたした症例を紹介する.Soemmering輪を含む水晶体.を摘出し,術後視力は改善した.1928年にSoemmeringは,白内障手術を受けた眼の虹彩後方に,リング状の水晶体物質の混濁が存在することを報告した1).これをSoemmering輪と定義した.その後,Soemmering輪は,水晶体.の赤道部に残存した水晶体上皮細胞が線維芽細胞に分化・再生することにより,後.と前.が癒着して生じることが明らかになった.Soemmering輪は通常,虹彩後方に存在しており,散瞳などの処置を行わなければ確認することはむずかしいが,瞳孔領へ偏位を生じると視力低下の原因となることがある.筆者らは,アトピー白内障に対し水晶体.外摘出術を施行した症例において,Soemmering輪が虹彩面上へ偏位し,視力低下をきたした1例を経験したので報告する.●症例:39歳,男性.●主訴:左眼視力低下.●現病歴:1992年(19歳時),アトピー白内障に対して図1前眼部写真(術前)虹彩面上にSoemmering輪を認めた.(57)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY左眼水晶体.外摘出術を施行(眼内レンズ挿入は行わず).術後経過は良好であり左眼矯正視力は1.2であった.2004年(31歳時),水晶体.とSoemmering輪が一体となって硝子体腔内に落下していたが,眼症状を認めなかったため経過観察としていた.今回,とくに誘因なく左眼視力低下を自覚し,近医を受診.その後当科紹介となった.●眼科所見:視力右眼(0.2×+10.0D(C.0.75DAx120°),左眼(0.4×+11.0D).眼圧右眼22mmHg,左眼20mmHg.両眼ともに人工的無水晶体眼.左眼は,虹彩面上に移動した水晶体.とSoemmering輪を認めた(図1).両眼ともに眼底にはとくに異常所見を認めなかった.●経過:虹彩面上の水晶体.,Soemmering輪が視力低下の原因となっていたので,左眼水晶体.摘出術を施行した.まず,角膜輪部にサイドポートを作製し,biman図2術中写真耳側に強角膜創を作製し,輪匙を用いてSoemmering輪を摘出した.あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014217 図3前眼部写真(術後)良好に経過し,矯正視力1.2を得た.ualirrigation/aspirationdeviceおよびvitrectomycutter(25ゲージ)を用いて水晶体.とSoemmering輪の吸引・切除を試みた.しかし,Soemmering輪の石灰化が強く,困難であった.そこで,3.0mmの強角膜層を作製し,輪匙を用いて水晶体.とSoemmering輪を一塊として摘出した(図2).術後経過は良好で,左眼矯正視力は1.2を得た(図3).本症例では,硝子体腔内に落下していたSoemmering輪が何らかの原因により前房へ移動し,視力低下をきたした.原因として,左眼への外力(受傷,眼を擦る行為など),長時間の伏臥位,散瞳薬の使用などが考えられたが,問診では合致するものはなく,最終的に原因は不明であった.本症例のように,術後にSoemmering輪が前房へ移動した症例はこれまで数件報告散見されている2,3)が,若年で白内障手術を施行した症例,水晶体.外摘出術(眼内レンズ挿入を行わない)を施行した症例が多い.アトピー白内障では毛様小帯が脆弱であることが多く,術後の水晶体.の収縮に伴って毛様小帯が断裂することがある.本症例のように術後に毛様小帯が完全に断裂し,水晶体.とSoemmering輪が前房に移動し視力低下の原因となる場合は,積極的に摘出する必要がある.文献1)SoemmeringDW:BeobachtungenuberdieorganischenVeranderungenimAugenachStaroperationen.WLWesche,Frankfurt,18282)GuhaGS:Soemmering’sringanditsdislocations.BrJOphthalmol35:226-231,19513)AkalA,GoncuT,YuvaciIetal:PupilocclusionduetoalargedislocatedSoemmeringringinanaphakiceye.InternalOphthalmolMar1,2013

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン⑨

2014年2月28日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②9本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.ハードコンタクトレンズからソフトコンタクトレンズに変更するときの注意点について教えてください.講師植田喜一ウエダ眼科ハードコンタクトレンズ(HCL)装用者がソフトコンタクトレンズ(SCL)への変更を希望する場合には説明しなければならないことが多いが,とくに注意すべき点を概説する.●HCLとSCLの違いSCLは柔らかく,薄く,角膜径より大きいため装用感がよく,動きが少ないのでフィット感がよいが,含水性素材であるので乾燥しやすい,角結膜に吸着しやすいという問題がある.HCL・SCLの装用でそれぞれ特徴的な眼障害が生じるので,代表的なものを説明する.例えば乾燥による障害はHCLでは3時9時方向に点状表層角膜症(SPK)が,SCLでは瞳孔領下方にスマイルマークパターンのSPKが生じる(図1).角膜障害を生じた場合,HCLでは自覚症状が現われやすいので無理な装用をせず,眼科をすぐに受診するケースが多い.一方,SCLでは自覚症状がマスクされる(バンデージ効果)ため重症化しやすい.調子が悪いときにはSCLをはずすことと,眼科を受診することを指導する.光学的にはHCLのほうが優れており,SCLに変更すると像の鮮明度が低下することがある.強度の角膜乱視眼や不正乱視眼ではHCLがよいので,ビデオケラトスコープで角膜形状を確認する必要がある.ab図1乾燥による角膜障害a:3時9時ステイニング,b:スマイルマークパターン.●取り扱いとレンズケアSCLには使用期限が定まっているものが多いので,その期限を守るように指導する.また,HCLとSCLではケア方法が異なる.HCLには消毒が義務づけられていないが,SCLは1日終日装用タイプと1週間連続装用タイプのディスポーザブルでなければ消毒を必要とする.消毒には煮沸消毒と化学消毒(マルチパーパスソリューション,過酸化水素製剤,ポビドンヨード製剤による消毒)があるのでそれらの特徴を説明する.これらは製品によって取り扱いが異なるので詳しい説明が求められる.SCLによる眼障害はレンズケアに伴うものが多いので注意したい.●CL装用に伴う角膜形状変化ディスポーザブルレンズや2週間頻回交換レンズの普及とともに,HCL装用者がこれらのSCLに変換したいという希望が増えてきた.SCLを処方して,当初はよく見えていたのにしだいに見え方が悪くなってきたという症例を経験する.HCLでの矯正視力は1.2であり,SCL変更時の矯正視力も1.2であったが,2週間後の定期検査では矯正視力は0.8に下がっていた(表1).角膜形状をビデオケラトスコープで観察すると,角膜が直乱視化していた.これは,HCLを装用することで角膜形状がHCLの内面の(55)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142150910-1810/14/\100/頁/JCOPY ab図2角膜形状変化a:HCL→球面SCL変更時(左眼).b:球面SCL変更後2週間(左眼).表1HCLから球面SCLへの処方変更例症例:24歳,女性初診:他眼科で処方されたHCLを2年間装用.SCLを希望球面SCLを処方右眼(1.2×球面SCL)左眼(1.2×球面SCL)2週間後:両眼のかすみ,像のにじみ右眼(0.8×球面SCL)左眼(0.8×球面SCL)↓トーリックSCLを処方右眼(1.2×トーリックSCL)左眼(1.2×トーリックSCL)(文献1より改変・引用)ベースカーブに近い形状をとっていたのが,SCLに変更したことで元の角膜形状に戻ろうとしたことが原因であると考えられる(図2).この場合,球面のSCLでの矯正視力は不十分なため,トーリックSCLにするとよい1).HCLの経験者のSCLへの変更時は,角膜の経過観察が必要である.なお,眼鏡の見え方も変化することがあるので,必要に応じて眼鏡を処方する(乱視を矯正する円柱レンズが加わることがある).文献1)植田喜一:トーリックソフトコンタクトレンズ.あたらしい眼科19:443-456,2002216あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(00)ZS695

写真:ハードコンタクトレンズのエッジの刺激による続発性アミロイドーシスが疑われた症例

2014年2月28日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦357.ハードコンタクトレンズのエッジの刺激による糸井素啓京都府立医科大学附属北部医療センター眼科続発性アミロイドーシスが疑われた症例図2図1のシェーマ①:灰白色の隆起性病変.②:周辺結膜に充血を伴う.図1前眼部写真(54歳,男性)円錐角膜があり,若い頃からハードコンタクトレンズを装用している.最近,黒目の端が白くなり充血しやすいと訴えて受診した.診断は何か?図3フルオレセイン染色ハードコンタクトレンズ下にフルオレセインの貯留を認め,タイトなフィッティングになっている.ベベル幅は狭く,リフトエッジも低い.隆起性病変以外には角膜上皮障害は認めない.図4図1の症例のハードコンタクトレンズデザイン変更後の前眼部写真レンズエッジによる機械的刺激を軽減させるため,ベベル幅を広く,リフトエッジを高く変更した.その結果,角膜混濁を残すも,隆起性病変は改善した.(53)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142130910-1810/14/\100/頁/JCOPY 続発性角膜アミロイドーシスは,1966年にStaffordらが報告した二次性にアミロイドが角膜に沈着する疾患である1).発症は比較的稀とされ,わが国では1987年にHayasakaらが報告している2).アミロイドは,種々の原因で核となる蛋白質が形成され,それを中心にさまざまな蛋白質が凝集し線維様の形態を呈したものである.その前駆物質としてはラクトフェリンやケラトエピセリンなどが報告されている3)が,アミロイド形成の詳しい機序は未だ不明である.病理組織は,ヘマトキシリンエオジン染色で均一無構造物質を認め,コンゴレッド染色では橙赤色に染色される.また,偏光顕微鏡では黄緑色の複屈折を呈するという特徴を有する.角膜にアミロイドが沈着する疾患はその原因によって原発性,続発性と大別される.原発性では,格子状角膜ジストロフィ,膠様滴状角膜ジストロフィがあげられる.続発性では,睫毛乱生,外傷,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用が報告されている.本症例は円錐角膜患者で長期間にわたりハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)を装用していた.使用していたHCLはタイトなフィッティングであり(図3),レンズエッジによる角膜周辺部への慢性刺激の存在が推測され,特徴的な灰白色の隆起性病変から続発性アミロイドーシスを疑った(図1).これまでにも,角膜移植後のHCL装用者で移植片周辺部の角膜突出部位に続発性アミロイドーシスを生じたという報告がある4).本症例に対しては,レンズエッジによる角膜周辺部への機械的刺激を軽減させる目的で,HCLのベースカーブをフラットに変更し,ベベル幅を広くエッジリフトを高くベベルデザインを見直した結果,約1カ月で隆起性病変の改善を認めた(図4).本症例のように,HCLに起因する慢性刺激が原因と推測される場合は,HCLの装用をできる限り控えるとともに,レンズデザインを変更してフィッティングの改善を図る必要がある.一方,円錐角膜ではHCLがもっとも擦れやすい角膜頂点部にアミロイドを形成する症例をしばしば経験するが,HCL装用の中止が困難であるため,多段階カーブ設計のHCLに変更する,あるいは,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の上にHCLを装用させるPiggyBackLensSystemを選択するといった対策も必要になる.多量のアミロイド沈着を生じ強い痛みや羞明が生じた場合は,角膜厚が十分あればphototherapeutickeratectomy(PTK)で角膜表面切除するのも有効である.PTKは早期の再発は少なく,経過は比較的良好とされている.文献1)StaffordWR,FineBS:Amyloidosisofthecornea.ArchOpthalol75:53-56,19662)HayasakaS,SetogawaT,OhmuraMetal:Secondarylocalizedamyloidosisofthecorneacausedbytrichiasis.Opyhalmologia194:77-81,19873)SuesskindD,Auw-HaedrichC,SchorderetDFetal:Keratoepithelininsecondarycornealamyloidosis.Graefe’sArchClinExpOpthalmol244:725-731,20064)YamadaM,NishiyamaT,KonishiMetal:Secondaryamyloidosisinacornealgraft.JpnJOpthalmol46:3053072002214あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(00)

ブルーライト -体内時計- 睡眠障害の関連

2014年2月28日 金曜日

特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):205.212,2014特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):205.212,2014ブルーライト-体内時計-睡眠障害の関連EffectsofBlueLightonBiologicalRhythmsandSleepDisorder北村真吾*三島和夫*はじめに24時間より短い24時間より長いヒトを始めとしたほとんどすべての生物は,地球の自35転によって生み出される24時間周期の明暗サイクルに30対して適応し,約24時間周期で駆動する体内時計を有25する.睡眠覚醒サイクルは体内時計の中枢である視床下20部の視交叉上核からの調節を受けており,質のよい睡眠人数を得るためには体内時計の維持が不可欠である.近代以15降の人工照明の発達はわれわれの生活に利便性をもたらし,24時間を高効率に利用する社会の実現に寄与したが,自然環境であればわずかな光のみ存在するはずの夜間でも容易に高照度光を浴びる機会が蔓延し,体内時計はその本来あるべき状態を維持することが困難になっている.本稿では,ブルーライトを中心とした全波長光と体内時計・睡眠障害との関連について述べる.I光による体内時計の同調ヒトの概日リズムは外界の明暗環境が存在しなくても自律的な振動を維持するが,正確に24時間周期を示すことは稀であり,多くは24時間と異なる周期を示す.ヒトの場合はやや長く,平均では24.18時間(24時間11分)とされ1),1時間超の個人差を示す2)(図1).この周期のわずかなズレは,外界の周期の変動に対する調整用のマージンと考えられているが,24時間とわずかに異なるため,日々,時計の針を合わせるように,体内時計のリセット(同調)が必要となる.体内時計を同調させる要因を外部同調因子とよぶが,105023.523.723.924.124.324.524.7深部体温の概日リズム周期(h)図1ヒトの概日リズム周期の分布157名の成人(20.79歳)の概日リズム周期は1時間ほどの個人差がみられるが,多くは24時間よりも長い周期を示す.(文献2を改変)ヒトにおいて最も強い同調因子は光である.ただし,初期の研究では光が作用するのは実生活ではめったにないほどに強く長い曝露時間を伴うときだけであり,室内光程度の人工光は相対的に弱い同調因子であると考えられ,Weverは「ヒトにおける最も関連の強い同調因子は社会的または行動的な同調因子である」と結論づけた3).しかしながら,1980年にLewyらは2,500lxの光がメラトニン抑制作用をもつことを報告し,ヒトにおいてもやはり光は主要な同調因子であることが示された4).さ*ShingoKitamuraandKazuoMishima:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部〔別刷請求先〕三島和夫:〒187-8553東京都小平市小川東町4-1-1国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(45)205 80-4光曝露光曝露2,500lx2,500lx1,500lx0lx500lx500lx60-3メラトニン位相変化(h)メラトニン(pg/ml)-240-120011:002:003:004:005:001:002:003:004:005:00時刻(h)1101001,00010,000照度(lx)図2照度による体内時計への影響初期の研究ではある程度の強さの光(2,500lx程度)が体内時計に影響すると考えられたが,その後,100lx程度の室内光レベルの照度でも体内時計に影響することが明らかにされた.らにその後の用量依存性の研究により,室内光(100lx程度)でも位相同調効果を持つことが明らかにされた5,6)(図2).光の曝露はヒトが24時間周期の生活を維持していくのに必要不可欠な時間的手がかりであるが,そもそも光がないと体内時計と睡眠はどうなるのだろうか.この状況は光感受性をもたない視覚障害者が当てはまる.光感受性を持たない視覚障害者では概日リズム睡眠障害の自由継続型(FRT)とよばれる疾患が多く認められる7.9).この疾患は毎日1時間程度睡眠のタイミングが遅れていき,周期的な不眠と日中の眠気を経験する難治性の疾患である10)(図3).1,073名の視覚障害者を対象とした大規模研究では,全盲の18%,弱視の13%がFRTと推定された11).また,313名の視覚障害者を対象としたニュージーランドの調査では,光感受性が減退している156名のうち26%に睡眠パターンのドリフトがみられたと報告している12).光感受性機能の残存する度合いに応じて,この罹患率は変化する7)(表1).ただし,体温がフリーランしているにもかかわらず,睡眠覚醒サイクルは外界の24時間に同調できているケースも存在する9,13).このことは睡眠覚醒サイクルが生物時計の中枢206あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(文献4,6を改変)である視床下部の視交叉上核(SCN)以外の調節を受けており可塑性が高いためと考えられているが,ここでは詳述しない.睡眠覚醒サイクルとその他の概日リズム機能との間で周期のズレが生じることを内的脱同調とよぶ.内的脱同調はいわゆる時差ボケ状態であり,時差旅行や交代勤務で多く認められ,熟眠感の喪失,日中の眠気,全身倦怠感,食欲不振,気分変調,精神運動機能の低下が主症状である.このように,光が存在しない環境ではヒトの生体リズムや睡眠の規則性は著しく乱され,健康な生活を維持することが困難となる.ヒトにとって光は重要であるが,当然ながら単に浴びればよいというものではない.前項で光が体内時計を同調すると説明したが,正確にいえば体内時計の時刻(位相)を巻き戻したり(位相前進),逆に進めたり(位相後退)することで,総体的に時刻が合うように調節が図られる.光の同調作用によって体内時計の位相が前進するか後退するかは体内時計の位相に依存する.体内時計位相の主要な指標として用いられる深部体温でいえば,最も体温が低下する底点(通常は明け方)を境にして,直前までが前進,直後から後退と位相変化の方向が変わる.つまり朝に光を浴びると位相は前進し朝型生活に近(46) 時刻(2日分)時刻(2日分)012241224012241224健常な睡眠パターンFRT患者の睡眠パターン図3概日リズム睡眠障害の自由継続型(FRT)の睡眠パターン縦軸は6カ月の期間,横軸は2日分の時刻を表す.黒く塗られている部分が睡眠をとっている時間帯である.健常なパターンでは深夜から朝にかけての睡眠が維持されているが,FRT患者では毎日遅れ,1日のあらゆる時間帯に睡眠がみられる.(北村ら,未発表データ)表1光知覚と概日リズム同調異常の頻度視覚障害の程度通常の同調部分的な同調フリーラン型その他光知覚のある群≧3/60以上の視力(7)5729014(LP)指の本数を数えられる(5)802000手の動きがわかる(4)100000光の知覚がある(3)673300LP全体(19)712105光知覚のない群眼球の残存数が2(12)3342178(NPL)眼球の残存数が1(7)290710眼球の残存数が0(11)90910NPL全体(30)2317573づき,夜に光を浴びると位相は後退し夜型生活に近づく.前進と後退のもう一方の境は,おおむね午後2時頃にみられる.位相反応の強さは位相変化が逆転する境で最も大きい.さらに,同じ強さと時間の光を浴びた場合,位相前進作用よりも位相後退作用で変化幅が大きい.これらの反応をまとめたものを位相反応曲線とよぶ14)(図(47)(文献7を改変)4).位相反応は光の波長,強度,曝露時間にも影響を受ける.ヒトの場合,概日リズム周期が平均して24時間より長く,位相前進よりも位相後退のほうが変化の幅が大きい.夜間に光を浴びることが困難であった自然環境下で位相後退が必要となった際に光を浴びづらい夜間にも位相後退が可能なように獲得された機能であったと考あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014207 夜昼昼210-1-2-3-4前進後退夜昼昼210-1-2-3-4前進後退毛様体神経節視交叉上核室傍核外側膝状核膝状体間小葉視蓋前域オリーブ核Edinger-Westphal核松果体上頸神経節中間外側核図5ipRGCsからの非視覚系光情報ネットワーク実線部分はipRGCsからの求心性投射.一点鎖線は視交叉上核からのメラトニン産生経路.破線は瞳孔夜121518210369121518210おおよその時刻図4光による位相反応曲線縦軸は翌日の概日リズム位相の変化(h)を表す.夜の光は概日リズム位相を後退させ,体内時計を夜型方向へ変化させる.(文献14を改変)えられるが,人工照明による夜間の光曝露が普遍的にみられる現代社会では,ヒトは常に夜型化のリスクを抱えている.光同調において主要な役割を果たすのが内因性光感受性神経節細胞(ipRGCs)である.ipRGCsは比較的最近発見された第三の光受容器で,光を感知するメラノプシンを有する他,通常のRGCsと同様に双極性細胞を通じて杆体や錐体からの情報を受取る.ipRGCsには体内時計中枢であるSCNやオリーブ核,外側膝状核などの部位への直接的な投射が存在する15)(図5).杆体や錐体に比べるとipRGCsはわずかな量しか発現しておらず,ヒトの場合,RGCsのうちのわずか1割程度(約200個)調節経路.であるが,光同調において大きな寄与をもつ.ipRGCsは460.480nm付近のブルーライトに最も感受性が高い16)(図6).逆に長波長ではほとんど反応がみられない.そのため,光による体内時計,睡眠への影響は,曝露される光にどの程度ブルーライトが含有しているのかが大きな決定要因となる.II光による体内時計,睡眠への影響繰り返し述べているように,健康的な生体リズムと睡(文献15を改変)眠習慣の維持には適切な光曝露が不可欠であるが,逆にいえば不適切な光曝露は生体リズムと睡眠習慣を乱す.われわれの体内時計を24時間に同調させ,規則的な夜間睡眠を維持するためには,日中の光曝露と夜間の光.奪というバランスが重要である.歴史的にヒトは日の出と日の入りに従ったリズム性を獲得してきたが,人工照明の発達により,この100年程度で光環境が大幅に変わり,日没後の夜間にも長時間の光曝露を受けることになった.208あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(48) 人工照明に囲まれた環境がわれわれの睡眠やリズムにどのような影響を与えているのであろうか.コロラド大学のWrightらは,14時間40分の昼と9時間20分の夜からなるキャンプ生活を実験的に設定した17).キャンプ生活中は,自然光とキャンプファイヤーの光のみが利用可能であった.その結果,人工照明と人工建築物が日中の太陽光への曝露を減らし,夜の光曝露を増やし,リズム位相を後退させること,自然環境での生活では,リズムは自然な明暗サイクルに同調し,生物学的夜は日暮れごろに始まり,日の出直後の起床直前に終わること,さらに夜型の個人は,自然の明暗サイクルのもので,より大きな位相前進を示し,朝型の個人と同等の位相を示すことを示した.この結果を考慮すると,ヒトの体内時計の特性と考えられてきたことは,多くの部分で人工照明環境における自然環境とは異なった条件下で評価されてきた可能性があり,そもそも獲得されてきた機能特性はやはり自然環境に合致したまま保存されているようである.とはいえ,現在広く共有されている社会的スケジュールから離脱することは困難であり,仕事や家庭の都合から夜間の光曝露は容易には避けがたい.夜間の照明を白熱灯に変更することは有用であるが,エネルギー面から国内生産が中止されつつある.見た目は変わらない白熱灯型LEDは,スペクトル的にはブルーライトを含んでいるので同等の作用は期待しづらい.別の対策としては,日中と夜間の光をバランスよく浴びる方法が挙げられる.Zeitzerら18)は,日中の光曝露履歴が夜間の高照度光による位相後退効果を減弱することを示した.IIIブルーライトによる体内時計,睡眠への影響これまで述べてきた光による体内時計,睡眠への影響は,おもに自然光や蛍光灯の白色光を用いて行われた実験の知見であり,ブルーライトの作用についてもおおむね同様と考えてよい.しかし,前述のとおり,ブルーライトはipRGCsにとって最も感度の高い波長帯域の光であるため,同じ物理量が曝露された場合,睡眠やリズムに対して,その他の波長光よりも大きな影響を及ぼす.蛍光灯や近年急速に普及してきたLEDライトではブルーライトを多く含むため,概日リズムやメラトニン分(49)相対量子感度1.000.750.500.250.00lmax=464nmr2=0.91400450500550600650波長(nm)図6ipRGCsのアクションスペクトラム(文献16を改変)泌,睡眠維持に有害となりやすい19).これまでの研究で,就床前の時間帯に電子機器を使用することが入眠困難や睡眠の質の低下につながる可能性が指摘されている.Higuchiらは,就寝前に120cd/m2のCRTディスプレイを用いてコンピュータゲームを行うことが,覚醒度の上昇や寝つくまでの時間の延長に関連することを実験的に示した20).LEDバックライトをもつ液晶ディスプレイはさらに高輝度であることが多く,またブルーライトを多く含むため,より影響が大きいと考えられる.2008年に約10万人の中高生を対象とした全国調査では,毎日消灯後に携帯電話を通話やメッセージ送信に使用する割合が,全体でそれぞれ8.3%,17.6%と少なからず存在しており,この携帯電話使用が広汎な睡眠問題(短時間睡眠,主観的睡眠の質の低下,日中の過度な眠気,不眠症状)に関係することが示された21).これらの結果は,電磁波への曝露や刺激的な内容による影響も排除できないが,ブルーライトによる影響が含まれていると考えることは妥当であろう.実際に,夜間のブルーライト曝露が,時計遺伝子発現や睡眠状態の変化(寝つくまでの時間の延長,深い睡眠の減少)をきたすことが実験的に明らかにされている22.24).より直接的に画面による影響をみた研究では,ブルーライトを多く含んだLEDバックライトディスプレイに夜間に5時間曝露されると,非LEDバックライトディスプレイと比較して,メラトニンの分泌抑制,眠気の低下,緩徐眼球運動・あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014209 主観的眠気(KSS)安静状態安静状態暗順応非LEDLED映像鑑賞中(21:45~22:15)の眠気*654654KSS主観的眠気(KSS)安静状態安静状態暗順応非LEDLED映像鑑賞中(21:45~22:15)の眠気*654654KSS10暗順応LED非LED****887メラトニン(pg/ml)642018:1519:1520:1521:1522:1523:1500:1518:1519:1520:1521:1522:1523:1500:15時刻(h)時刻(h)図7LEDディスプレイによるメラトニン分泌抑制と眠気の低下EEG低周波成分の減少がみられ,種々の認知機能成績(持続的注意,ワーキングメモリー,宣言的記憶)が向上したという報告がある25)(図7).このとき,明るさの主観的感覚は非LEDバックライトディスプレイのほうが眩しいと感じたという.夜間のLEDによるブルーライト曝露が体内時計や睡眠を攪乱することの証左である.逆に,ブルーライトを効果的に使用することは,体内時計の異常によるリズム障害や気分障害の治療を効果的に進めることも可能となる.たとえば,これまでリズム障害に対する光治療は全波長の白色光で多く行われてきたが,ブルーライトの曝露であれば短時間曝露による患者負担の軽減,省エネ効果,これまで奏効しなかったケースへの応用が期待できる.6.5時間の480nmのブルーライト曝露による位相反応曲線(PRC)は26),全波長白色蛍光灯(10,000lx)曝露での既存のPRC(図4)と同様のプロファイルを示し,より効率的な位相反応への影響が示唆されるが,実験条件が異なるため正確な評価は今後の課題である.しかし,こうした位相反応の高効率性はその他の研究でもみられている27,28).また別の研究では,469nmのブルーライトLEDは全波長白色(4,000K)蛍光灯に比べてメラトニン分泌抑制効率が高いことが示されている29).さらにブルーライト曝露は体210あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(文献25を改変)内時計以外の部分でもメリットが期待できる.40名を対象に4時間の夜間運転時にブルーライト(468nm,20lx)を連続曝露した場合,コーヒー1杯分(カフェイン400mg)の覚醒度上昇効果と同等であったと示された30).昼過ぎの眠気が高まる時間帯の48分間のブルーライト(40lx)曝露は,脳波上の覚醒水準を亢進させる効果がある31).一方,睡眠時間帯が遅れている集団に対して,睡眠スケジュール改善指導とともに,体内時計の位相前進が期待できる朝に1時間のブルーライト(.225lx)曝露を行った研究では,低照度(<1lx)との間に効果の差がみられなかったという結果32)であったが,これは睡眠スケジュール改善によって全般的な日中に多く夜間に少ない光曝露量の変化によってマスクされた可能性が指摘されている.IVブルーカット眼内レンズと体内時計,睡眠白内障は高齢者の4人に1人が罹患する一般的な疾患であり,水晶体の白色化(黄色化)によって,光特に短波長領域の光曝露が十分でなく,日中にメラトニンが抑制されず眠気を感じたり,夜間の睡眠の質の低下や,睡眠障害を経験しやすい.白内障手術では水晶体の眼内レンズ(IOL)との交換が行われる.当初,IOLは全波長の光を透過させるものが使用されていたが,Ham33)に(50) よって全波長透過型のIOLによる問題が最初に報告され,紫外線(UV)による網膜障害の可能性が指摘された.さらに赤視症,網膜光傷害,.胞様黄斑浮腫がこうしたIOL患者で発生した.そのため,1980年代からはUVカットレンズが使用されるようになった.また,UVのみならず,可視光の短波長への曝露が加齢黄斑変性症や網膜障害のリスクを高めることが疫学研究や動物実験で明らかになった.そのため近年,IOLは,網膜障害を予防する目的で,一般に紫外線と500lx以下の短波長光を遮断するものが多い.しかし,サングラスなどと違い,全時間帯でブルーライトの遮断を行うIOLではリズム同調に必要な時間帯の光入力をも遮断してしまうため,体内時計,睡眠に関連するさまざまな問題が生じる可能性が指摘された.この懸念はしかし,ブルーカットIOLによる体内時計や睡眠に対する有害作用はみられないことが,56の査読付き論文を対象としたレビューにまとめられている34).また,最近の40名の白内障患者(水晶体核硬度N3以上)を対象としてブルーカットIOLの手術前後の睡眠を調べた研究では,術後に睡眠の質の改善がみられ,特に主観的睡眠感,睡眠時間,日中の機能障害の向上がみられた35).この結果は,ブルーカットIOLが部分的にしかブルーライトを減衰させていないことが一つの可能性としてある.実際,この研究で用いられたIOL(SN60WF,AlconLaboratories,USA)の短波長領域の透過率は,53歳の水晶体に近い水準を示していた(図8).同様に,18.76歳から得られた29の水晶体と,3つのIOL(UVカット1,ブルーカット2)での波長別透過率を比較した研究36)では,ブルーカットIOLの効果は比較的小さく,22.2歳の水晶体以上にはならないことが示され,少なくとも現時点では生理学的範囲を超えたブルーライトの抑制とそれによる体内時計や睡眠に対する有害作用の危険性はないといえる.おわりに本稿では,ブルーライトを中心とした全波長光と体内時計・睡眠障害との関連について述べた.体内時計や睡眠覚醒サイクルの維持には日中の光曝露と夜間の光.奪が不可欠であるが,人工照明によって不夜城のごとく明(51)透過率(%)100806040200300350400450500550600650:ブルーカットIOL:ヒト(53歳)の水晶体:全波長透過型IOL波長(nm)図8眼内レンズ(IOL)の光透過率(文献35を改変)るく照らされた現代社会では,体内時計や睡眠が危機に晒されている.自然への回帰とはいかないまでも,明暗サイクルを伴った活動と休息のバランスを心がけたい.文献1)CzeislerCA,DuffyJF,ShanahanTLetal:Stability,precision,andnear-24-hourperiodofthehumancircadianpacemaker.Science284:2177-2181,19992)DuffyJF,CainSW,ChangAMetal:Sexdifferenceinthenear-24-hourintrinsicperiodofthehumancircadiantimingsystem.ProcNatlAcadSciUSA108:1560215608,20113)WeverRA:Lighteffectsonhumancircadianrhythms:areviewofrecentAndechsexperiments.JBiolRhythms(Summer)4:161-185,19894)LewyAJ,WehrTA,GoodwinFKetal:Lightsuppressesmelatoninsecretioninhumans.Science210:1267-1269,19805)BoivinDB,DuffyJF,KronauerREetal:Dose-responserelationshipsforresettingofhumancircadianclockbylight.Nature379:540-542,19966)ZeitzerJM,DijkDJ,KronauerRetal:Sensitivityofthehumancircadianpacemakertonocturnallight:melatoninphaseresettingandsuppression.JPhysiol526:695-702,20007)LockleySW,SkeneDJ,ArendtJetal:Relationshipbetweenmelatoninrhythmsandvisuallossintheblind.JClinEndocrinolMetab82:3763-3770,19978)LockleySW,SkeneDJ,ButlerLJetal:Sleepandactivityrhythmsarerelatedtocircadianphaseintheblind.Sleep22:616-623,19999)SackRL,LewyAJ,BloodMLetal:Circadianrhythmあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014211 abnormalitiesintotallyblindpeople:incidenceandclinicalsignificance.JClinEndocrinolMetab75:127-134,10)AAoSM(ed):ICSD-2.TheInternationalClassificationofSleepDisorders,2nded,Diagnosticandcodingmanual.AmericanAcademyofSleepMedicine,Westchester,Illinois,200511)LegerD,GuilleminaultC,DefranceRetal:Prevalenceofsleep/wakedisordersinpersonswithblindness.ClinSci(Lond)97:193-199,199912)WarmanGR,PawleyMD,BoltonCetal:Circadian-relatedsleepdisordersandsleepmedicationuseintheNewZealandblindpopulation:anobservationalprevalencesurvey.PloSOne6:e22073,201113)CzeislerCA,ShanahanTL,KlermanEBetal:Suppressionofmelatoninsecretioninsomeblindpatientsbyexposuretobrightlight.NEnglJMed332:6-11,199514)KhalsaSB,JewettME,CajochenCetal:Aphaseresponsecurvetosinglebrightlightpulsesinhumansubjects.JPhysiol549:945-952,200315)BersonDM:Strangevision:ganglioncellsascircadianphotoreceptors.TrendsNeurosci26:314-320,200316)BrainardGC,HanifinJP,GreesonJMetal:Actionspectrumformelatoninregulationinhumans:evidenceforanovelcircadianphotoreceptor.JNeurosci21:6405-6412,200117)WrightKPJr,McHillAW,BirksBRetal:Entrainmentofthehumancircadianclocktothenaturallight-darkcycle.CurrentBiol23:1554-1558,201318)ZeitzerJM,FriedmanL,YesavageJA:Effectivenessofeveningphototherapyforinsomniaisreducedbybrightdaytimelightexposure.SleepMed12:805-807,201119)CzeislerCA:Perspective:castinglightonsleepdeficiency.Nature497:S13,201320)HiguchiS,MotohashiY,LiuYetal:Effectsofplayingacomputergameusingabrightdisplayonpresleepphysiologicalvariables,sleeplatency,slowwavesleepandREMsleep.JSleepRes14:267-273,200521)MunezawaT,KaneitaY,OsakiYetal:TheassociationbetweenuseofmobilephonesafterlightsoutandsleepdisturbancesamongJapaneseadolescents:anationwidecross-sectionalsurvey.Sleep34:1013-1020,201122)CajochenC,DijkDJ,BorbelyAA:DynamicsofEEGslow-waveactivityandcorebodytemperatureinhumansleepafterexposuretobrightlight.Sleep15:337-343,199223)CajochenC,JudC,MunchMetal:EveningexposuretobluelightstimulatestheexpressionoftheclockgenePER2inhumans.EurJNeurosci23:1082-1086,200624)MunchM,KobialkaS,SteinerRetal:WavelengthdependenteffectsofeveninglightexposureonsleeparchitectureandsleepEEGpowerdensityinmen.AmJPhysiolRegulIntegrCompPhysiol290:R1421-R1428,200625)CajochenC,FreyS,AndersDetal:Eveningexposuretoalight-emittingdiodes(LED)-backlitcomputerscreenaffectscircadianphysiologyandcognitiveperformance.JApplPhysiol(Bethesda,Md:1985)110:1432-1438,201126)RevellVL,MolinaTA,EastmanCI:Humanphaseresponsecurvetointermittentbluelightusingacommerciallyavailabledevice.JPhysiol590:4859-4868,201227)SmithMR,EastmanCI:Phasedelayingthehumancircadianclockwithblue-enrichedpolychromaticlight.ChronobiolInt26:709-725,200928)SmithMR,RevellVL,EastmanCI:Phaseadvancingthehumancircadianclockwithblue-enrichedpolychromaticlight.SleepMed10:287-294,200929)WestKE,JablonskiMR,WarfieldBetal:Bluelightfromlight-emittingdiodeselicitsadose-dependentsuppressionofmelatonininhumans.JApplPhysiol(Bethesda,Md:1985)110:619-626,201130)TaillardJ,CapelliA,SagaspePetal:In-carnocturnalbluelightexposureimprovesmotorwaydriving:arandomizedcontrolledtrial.PloSOne7:e46750,201231)SahinL,FigueiroMG:Alertingeffectsofshort-wavelength(blue)andlong-wavelength(red)lightsintheafternoon.PhysiolBehav27:116-117:1-7,201332)SharkeyKM,CarskadonMA,FigueiroMGetal:Effectsofanadvancedsleepscheduleandmorningshortwavelengthlightexposureoncircadianphaseinyoungadultswithlatesleepschedules.SleepMed12:685-692,201133)HamWTJr,MuellerHA,SlineyDH:Retinalsensitivitytodamagefromshortwavelengthlight.Nature260:153155,197634)HendersonBA,GrimesKJ:Blue-blockingIOLs:acompletereviewoftheliterature.SurvOphthalmol55:284289,201035)WeiX,SheC,ChenDetal:Blue-light-blockingintraocularlensimplantationimprovesthesleepqualityofcataractpatients.JClinSleepMed9:741-745,201336)BrondstedAE,LundemanJH,KesselL:ShortwavelengthlightfilteringbythenaturalhumanlensandIOLs─implicationsforentrainmentofcircadianrhythm.ActaOphthalmol91:52-57,2013212あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(52)

内因性光感受性網膜神経節細胞による体内時計の調節

2014年2月28日 金曜日

特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):199.203,2014特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):199.203,2014内因性光感受性網膜神経節細胞による体内時計の調節RegulationoftheCircadianClockbyIntrinsicallyPhotosensitiveRetinalGanglionCells羽鳥恵*はじめに睡眠・覚醒や代謝などにみられる1日周期の生体リズムは概日リズムとよばれ,これらのリズムを制御する体内時計を概日時計(circadianclock)という.外界からの時刻情報がまったくない環境,たとえば時計やテレビもなく窓もない部屋で生活した場合,ヒトは約24時間10分おきに自然に目覚めるという「1日」を繰り返す.このように生物が内在的に持つ時計機構の周期は24時間からわずかにずれており,これが概日(概ね1日の)時計とよばれる所以である.日常生活においては,外界の24時間周期との差を補正するために,生物は外からの情報や刺激を利用する.つまり概日時計は約一日周期で自律的に発振するだけではなく,光や食事などの外界からの刺激を巧みに利用して時刻合わせを行っている.シアノバクテリアからヒトまで地球上の多くの生物が概日時計機能を備え持っており,このことからも概日時計が生存に有利に働くことが推察できる.哺乳類において概日時計は全身のほぼすべての細胞に備わっている.時刻を生み出す分子メカニズム(発振機構)は細胞間で共通しているが,時刻を調節する入力シグナルは組織によって異なる.行動を支配する概日時計は脳の視床下部の視交叉上核(suprachiasmaticnucleus:SCN)に存在して中枢時計とよばれ,外界の光周期に同調する(図1).一方,全身に存在する末梢時計は食事に強く影響される1).本稿では概日時計の光調節において中心的な役割を果たす内因性光感受性網膜神経節細胞について,筆光食事網膜視交叉上核全身の細胞・組織図1哺乳類の概日時計の時刻調節ほぼ全身の細胞に時計が存在しており,時刻調節には光や食事などの外界の刺激を利用する.視交叉上核は腹側中央の四角で囲った領域に存在する小さな神経核である.者らの知見を中心に解説する.I視交叉上核視交叉上核は約一日周期の行動リズムを制御する中枢の概日時計として機能する.たとえばマウスでは直径1mmにも満たない左右一対の領域に約20,000個のニューロンを含む,小さな神経核である(図1).マウスは夜行性なので,明期12時間・暗期12時間の条件下では夜(暗期)に活動して昼(明期)は休息する.常に暗い条件に移すと,個体固有のリズム周期で輪を回し始める(この現象をフリーランという).一方,視交叉上核を切除すると行動リズムが失われる.ここに他の個体から取*MegumiHatoriソーク研究所:(TheSalkInstituteforBiologicalStudies)〔別刷請求先〕MegumiHatori:RegulatoryBiologyLaboratory-Pandalab,SalkInstituteforBiologicalStudies,10010NTorreyPinesRd,LaJolla,CA92037,USA0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(39)199 り出した視交叉上核を移植すると,ドナーに固有の周期で行動リズムが回復することから,視交叉上核が個体の行動リズムを規定していることが明らかにされた.視交叉上核の細胞を分散培養しても自律的な神経発火リズムを示すことから,個々の細胞に時計発振機構が備わっていることがわかる.それぞれのニューロンが時計機能を持っているだけでなく互いに協調することによって,動物の行動リズムを支配するほどの強力なリズムを生み出している1).II光受容体メラノプシン上述のように,視交叉上核の概日時計は光を利用して時刻合わせを行う.では,光情報はいかにして視交叉上核に伝達されるのであろうか?哺乳類においてはすべての光情報が眼において受容され,電気信号に変換されて脳へと伝達される.網膜の細胞は秩序だった層構造を形成し,視細胞層の杆体・錐体が受け取った光情報は双極細胞や水平細胞などを介して網膜神経節細胞に伝わり,視神経を経て大脳視覚中枢に伝達され視覚応答が起こる.長年の視覚研究から杆体と錐体のみが光受容体として働くと考えられてきたが,視覚を完全に失ったマウスやヒトでも概日時計が光に同調することから,新たな光受容体の存在が示唆されていた.この受容体は思わぬところから発見された.Provencioらは,アフリカツメガエル(Xenopuslaevis)の体色変化に関与するメラニン細胞メラノフォアから,メラノプシン(melanopsin)というG蛋白質共役型光受容蛋白質を単離した.さらにメラノプシン遺伝子が哺乳類にも存在することを見出し,網膜神経節細胞のうち数%の細胞がメラノプシンを発現することを2000年に報告した2).このメラノプシンこそが概日時計の光調節を行う新たな光受容体であることが,2002年に発表された一連の論文から解明された.まずBersonらは,一部の網膜神経節細胞が視交叉上核に投射することを逆行性トレーサーを用いて見出し,これらの細胞が光に応答して脱分極することから,内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallyphotosensitiveretinalganglioncell:ipRGC)と名付けた3).続いてHattarらは,このipRGCがメラノプシンを発現していることを明らかにした4).そのため,これらの細胞は200あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014図2メラノプシン発現網膜神経節細胞数%の網膜神経節細胞にメラノプシンという光受容蛋白質が発現している.この細胞はメラノプシン発現網膜神経節細胞とよばれ,光受容細胞として機能する.つまり網膜には杆体・錐体・メラノプシン発現網膜神経節細胞の3種類の細胞が光受容細胞として存在する.写真はメラノプシン抗体を用いたマウス網膜のフラットマウント免疫染色像.メラノプシン発現網膜神経節細胞は網膜全体に分布している.メラノプシン発現網膜神経節細胞(melanopsin-expressingretinalganglioncell:mRGC)ともよばれる(図2).さらにPandaらは,メラノプシン遺伝子を破壊したマウスを作製し,概日時計の光同調の感度が低下することを示したのである5).メラノプシンの吸収極大波長は460.480nm付近のブルーライトであり,概日時計の時刻を最も強く変化させる光の波長と一致している.杆体や錐体の光受容体はトランスデューシンとよばれるG蛋白質aサブユニットを介してcGMPの分解とそれに伴う過分極を引き起こすのに対し,メラノプシンは無脊椎動物の光受容体に類似した情報伝達系を持つと示唆されている.すなわち,Gq/11クラスのG蛋白質aサブユニットを介して細胞内カルシウムの上昇とそれに伴う脱分極を引き起こすと考えられている6).(40) IIIメラノプシン発現網膜神経節細胞の投射先メラノプシン発現網膜神経節細胞のおもな投射先は先に述べた視交叉上核であり,概日時計の位相調節やメラトニンの分泌調節を担う.メラノプシン発現網膜神経節細胞の軸索は網膜視床下部路を形成して視交叉上核に投射し,網膜視床下部路終末においてグルタミン酸や脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドが放出されて光情報が伝達される.興味深いことに,メラノプシン発現網膜神経節細胞の投射先はこれだけではない.外側膝状体や上丘などの脳領域にも投射し7,8),瞳孔反射や光による片頭痛の悪化などの視覚以外の光応答(まとめて非視覚応答とよぶ)を制御するとともに睡眠調節にも関与する.最近の研究によると,形態や投射先の違いからメラノプシン発現網膜神経節細胞は5つのサブタイプに分けられると考えられているが,それらの機能や発現遺伝子の違いなどについてはさらなる研究が待たれる.IV非視覚応答への杆体・錐体の寄与とメラノプシン発現網膜神経節細胞の役割上述のように,杆体・錐体を失ったマウスでも,メラノプシンがあれば概日時計の光同調はほぼ正常である(表1).一方,メラノプシン遺伝子を破壊したマウスは非視覚応答の感度が減少する.さらに,杆体・錐体の欠失に加えてメラノプシン遺伝子を破壊すると,光同調が不可能となり,マウスは明期12時間・暗期12時間の条件下においても個体固有のリズム周期でフリーランする9).このことからメラノプシンだけでなく杆体・錐体も非視覚応答に寄与することが判明した.それでは,非視覚応答における3種の光受容細胞の関係はいかなるものであろうか?すなわち,杆体・錐体からの光情報が視交叉上核などへ伝達されて非視覚応答が引き起こされる際に,メラノプシン発現網膜神経節細胞を経由するのであろうか(図3経路①),それとも他の種類の網膜神経節細胞を経由するのであろうか(図3経路②)?そこで杆体・錐体からの光情報の伝達におけるメラノプシン発現網膜神経節細胞の役割を解明すべく,筆者らはメラノプシン発現網膜神経節細胞を後天的に失うマウ表1光受容細胞と視覚応答・非視覚応答視覚応答非視覚応答野生型(正常)マウス○○杆体・錐体欠失マウス×○メラノプシン遺伝子破壊マウス○△杆体・錐体を欠失し,さらにメラノプシ××ン遺伝子を破壊したマウスメラノプシン発現網膜神経節細胞を持た○×ないマウス○は正常,△は感度や程度の減少,×は異常を示す.①光メラノプシン発現①非視覚情報網膜神経節細胞杆体・錐体?②②網膜神経節細胞視覚情報図3視覚応答と非視覚応答の伝達経路メラノプシンは光による瞳孔収縮,片頭痛の悪化,松果体からのメラトニン分泌の抑制,概日時計の位相調節などの非視覚応答を担う.メラノプシン発現網膜神経節細胞は自身で光を感じると同時に杆体・錐体からの投射も受け,光情報を集約して非視覚応答を引き起こす.スを作製した.このマウスの網膜の形態および網膜電図は正常であった.さらに,視覚認識能力への影響の有無を知るための視覚クリフ行動テストから,メラノプシン発現網膜神経節細胞を特異的に失ったマウスは野生型マウスと同程度の視覚機能を保持していた.すなわち,メラノプシン発現網膜神経節細胞の消失は視覚伝達には影響しないことがわかった(表1).一方,網膜から視交叉上核への投射はほぼすべて消失し,それに伴って概日時計は杆体・錐体が存在するにもかかわらず24時間の外界の明暗周期に同調されずに個体固有のリズム周期でフリーランした.さらに瞳孔反射や光による行動抑制などの概日位相調節以外の非視覚応答も完全に失っていた.つまりメラノプシン発現網膜神経節細胞は自身で光を感じると同時に杆体・錐体からの投射も受け,網膜内の膨大な情報はメラノプシン発現網膜神経節細胞に集約され,脳へ伝達されて非視覚応答が制御されていることが明らかになった10)(図3経路①,および表1).(41)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014201 効果なし杆体・錐体視覚応答オプシナマイドメラノプシン発現抑制網膜神経節細胞非視覚応答(瞳孔収縮や光回避行動など)光受容細胞哺乳類の光応答図4メラノプシンの機能阻害剤(アンタゴニスト)オプシナマイドメラノプシンに作用する非レチノイド型阻害剤であるオプシナマイドは杆体・錐体に発現する光受容体には影響を及ぼさず,メラノプシン発現光受容細胞由来の光応答を減弱させる.Vメラノプシンの薬理学的な機能調節メラノプシンの非視覚応答における役割の理解が深まるにつれてブルーライトを意識した光環境や生活が重要であることが明らかになってきた.つまりメラノプシンの機能を調節することができれば,非視覚応答の制御,ひいては片頭痛の光による悪化や時差ボケなどの諸症状の緩和につながると期待できる.そこで筆者らは,メラノプシンの機能を薬理学的に制御することにより,メラノプシン発現網膜神経節細胞が関与する生理現象を操作することができるのではないかと考えた.またメラノプシンの機能調節薬剤を手に入れることができれば,モデル生物以外におけるメラノプシンの機能を明らかにすることができ,基礎医学以外にも応用できると考えた.約80,000個の低分子化合物を準備し,メラノプシンに作用するか否かをスクリーニングした.哺乳類培養細胞にヒトのメラノプシンを安定的に発現させ,ブルーライト照射後の細胞内カルシウムレベルを測定してメラノプシンの活性化変化を評価する系を利用した.384ウェルプレートを用いたアッセイから,拮抗薬(アンタゴニスト)候補として最終的に数種類のスルホンアミド系化合物を同定し,オプシナマイド(opsinamides)と命名した.約70種類のG蛋白質共役受容体に対するカウンターアッセイから,オプシナマイドはメラノプシンに特異的に作用すると考えられた.ラットの網膜から単離したメラノプシン発現網膜神経節細胞にオプシナマイドを添加したところ,溶媒のみのコントロール群と比較して光応答が顕著に減弱した.つまり過剰発現系だけでなくメラノプシン発現網膜神経節細胞自体にもオプシナマイドが阻害剤として作用した.また,詳細は触れないがオプシナマイドのメラノプシンへの結合はレチナールと競合的であった.オプシナマイドは杆体,錐体には影響を与えずメラノプシン特異的に作用するのであろうか?個体レベルでの実験を行うためにまず,オプシナマイドが腹腔投与後に体内にどの程度の時間,存在するかを調べたところ,脳および網膜ともに投与30分後までは作用を示すのに十分な量が存在していたが,60分後には大幅に減少することがわかった.そこでオプシナマイドの投与30分以内に網膜電位を測定し,杆体および錐体への影響を解析した.オプシナマイドの投与は網膜電位に影響を与えなかったことから,杆体および錐体には作用しないと考えられた(図4).オプシナマイドは生体において非視覚応答に影響を与えるであろうか?今回の研究では,光回避行動と瞳孔収縮の2種類の非視覚応答を測定した.光回避行動の測定には生後7.9日齢のマウスを用いた.この日齢のマウスにおいて杆体・錐体は完全には発達しておらず,メラノプシン発現網膜神経節細胞が唯一の光受容細胞である.直径2.3cm,長さ15cm程度の透明グラスチューブに仔マウスを入れ,動きをモニターした.暗条件下ではマウスはチューブ内を動き回り,チューブの一方の端からブルーライトを照射すると光を避けて動きを止める.オプシナマイドを注射された野生型マウスはブルー202あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(42) ライトを照射した後も動きを止めることなく,何もなかったかのように動き続けた.光を避けずに動き続ける行動はメラノプシン遺伝子破壊マウスを用いた場合と同様であった.つまりオプシナマイドがマウスの生体でもメラノプシンの機能を阻害することを示している.さらに,成体マウスを用いて瞳孔収縮に与えるオプシナマイドの作用を検証した.まず,自然変異によって杆体・錐体のほぼすべてを失っているマウスを用いた.マウスを暗黒下で順応させたのちにコントロール溶媒もしくはオプシナマイドを腹腔内注射し,20分,30分そして40分後にそれぞれ1分間ブルーライトを照射して瞳孔を測定した.その結果,コントロール溶媒を注射されたマウスの瞳孔収縮と比べ,オプシナマイドを投与されたマウスの瞳孔の収縮の程度は20分後には顕著に減少していた.一方,注射の40分後にはコントロールマウスとオプシナマイドマウスはほぼ同程度の瞳孔収縮を示したことから,効果は可逆的であると考えられる.また,メラノプシン遺伝子破壊マウスにコントロール溶媒もしくはオプシナマイドを注射した場合には,その2者のブルーライトに対する瞳孔収縮に差はみられなかった.以上の実験結果はオプシナマイドがメラノプシン特異的な阻害剤であることを強く示している11).おわりにシフトワークなどに伴う概日リズムの乱れは癌などのリスクや摂食の乱れによる肥満の可能性を高めるとされている.そのうえ,加齢に伴う位相調節の不全や睡眠障害など,ブルーライトが関与する現象にはメラノプシンの関与が予想される.また,哺乳類のほぼ全身に存在する末梢時計は食事による影響を強く受ける.そのことを応用して筆者らは,食事を摂取する時間帯を制限すること(時間制限摂食)が概日時計の振幅を大きくし,食事の量を減らすことなく高脂肪食による肥満やそれに関連する病態を防ぐことを見い出した12).光と食事の両面に着目して総合的な研究が展開されることにより,概日時計の調節を軸として健康や医療への応用にも寄与できることを期待している.文献1)MohawkJA,GreenCB,TakahashiJS:Centralandperipheralcircadianclocksinmammals.AnnuRevNeurosci35:445-462,20122)ProvencioI,RodriguezIR,JiangGetal:Anovelhumanopsinintheinnerretina.JNeurosci20:600-605,20003)BersonDM,DunnFA,TakaoM:Phototransductionbyretinalganglioncellsthatsetthecircadianclock.Science295:1070-1073,20024)HattarS,LiaoHW,TakaoMetal:Melanopsin-containingretinalganglioncells:architecture,projections,andintrinsicphotosensitivity.Science295:1065-1070,20025)PandaS,SatoTK,CastrucciAMetal:Melanopsin(Opn4)requirementfornormallight-inducedcircadianphaseshifting.Science298:2213-2216,20026)HatoriM,PandaM:Theemergingrolesofmelanopsininbehavioraladaptationtolight.TrendsMolMed16:435446,20107)HattarS,KumarM,ParkAetal:Centralprojectionsofmelanopsin-expressingretinalganglioncellsinthemouse.JCompNeurol497:326-349,20068)BrownTM,GiasC,HatoriMetal:Melanopsincontributionstoirradiancecodinginthethalamo-corticalvisualsystem.PLoSBiol8:e1000558,20109)PandaS,ProvencioI,TuDCetal:Melanopsinisrequiredfornon-image-formingphoticresponsesinblindmice.Science301:525-527,200310)HatoriM,LeH,VollmersCetal:Inducibleablationofmelanopsin-expressingretinalganglioncellsrevealstheircentralroleinnon-imageformingvisualresponses.PLoSOne3:e2451,200811)JonesKA,HatoriM,MureLSetal:Small-moleculeantagonistsofmelanopsin-mediatedphototransduction.NatChemBiol9:630-635,201312)HatoriM,VollmersC,Zarrinpar,Aetal:Time-restrictedfeedingwithoutreducingcaloricintakepreventsmetabolicdiseasesinmicefedahigh-fatdiet.CellMetabolism15:848-860,2012(43)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014203

体内時計概論

2014年2月28日 金曜日

特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):191.198,2014特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):191.198,2014体内時計概論IntroductiontotheBiologicalClock中村孝博*中村渉**はじめに“西洋医学の父”と称されるHippocratesは,今から約2400年前に「規則性は健康の兆候であり,不規則な身体機能や不規則な習慣は不健康状態をつのらせる」と述べ,人間の生活における規則性にふれることで健康の維持に生体リズムが重要なことを指摘していた.私たちの生活にも根づいた生体の周期性は,その重要性からすると,人類の歴史においてあまりに知られていない時期が長かったといわざるを得ない.歴史を紐解くと,古代のHippocratesに始まり,その後は,近世に至るまで生体リズムは主として,地球,月,太陽の動きに操られて動くと信じられるのみで,生体内に固有の時計があることは,近代まで知られていなかった.フランスの天文学者・deMarianが1729年になって生体リズムを初めて学問としてとらえた.彼は,昼夜で変化するオジギソウの葉の開閉に着目し,オジギソウを常に暗闇に置いても,葉の開閉がみられることを発見し,オジギソウの中に固有の時計があることを示した.それから230年の間,この研究成果はほとんど世間に知られることはなかったのである.1950年代に入り,“リズム研究の父”と称されるPittendrighやAschoffのハエやヒトの研究に導かれ,生体リズムのなかでも特に約1日のリズムに関する研究が盛んになった.1960年には,米国ニューヨーク州のコールド・スプリング・ハーバーで生物時計の定義を検討する初めての大きなシンポジウムが開かれ,「サーカディアン(概日)リズム」という言葉が生まれた.1970年代に入り,哺乳類の概日リズムを駆動する概日時計中枢は視床下部・視交叉上核(SCN)に存在することがわかり,神経・内分泌生理学的理解が深まった.1997年に,日本のグループによって哺乳類の時計遺伝子が発見され1),その後の十数年間で生体リズムに関する研究が急速に発展した.現在では,分子・細胞レベルでの研究が大きく前進し,約24時間を生みだす分子機構の解明が進んでいる.最近では,このリズムを生み出す分子機構と病気を生み出す分子機構のクロストークを示す報告が相次いでいる.Hippocratesが2400年も前に記した生体の規則性の重要性を再確認するかのように,リズムの乱れが病気を引き起こすことがごく最近になって実証されている.本稿では,最新の知見を交えながら体内時計,特に概日時計の基礎について概説する.I日内リズムと概日リズム1.ヒトにおける生体機能の日内変動ヒトの多くの生体機能には日内変動があり,それぞれ最大限に機能が発揮される時刻が決まっている(図1).機能の時間変動は合目的で,生理機能の最適化と生活の効率化を図る.起床前の副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の急激な上昇により,われわれは眠りから覚めた直後から活動できるように身体の態勢が整えられる.睡眠時における副交感神経優位の状態から交感神経優位に傾き活動的な一日が送れるようになるのである.*TakahiroNakamura:帝京平成大学薬学部薬学科**WataruNakamura:大阪大学大学院歯学研究科口腔時間生物学研究室〔別刷請求先〕中村孝博:〒164-8530東京都中野区中野4-21-2帝京平成大学薬学部薬学科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(31)191 尿量心拍数体温血圧小腸運動赤血球肝血流量コルチゾールアルドステロンコレステロール合成リンパ球メラトニン成長ホルモン陣痛ヒスタミン反応尿量心拍数体温血圧小腸運動赤血球肝血流量コルチゾールアルドステロンコレステロール合成リンパ球メラトニン成長ホルモン陣痛ヒスタミン反応図1生体機能の日内変動文献を参考にヒトの日内変動をもつ生体機能についてまとめた.24時間時計の周りに生理機能のおおよそのピーク時刻を示している.内分泌系機能,特に,脳・視床下部に起因するホルモンの分泌は夜寝ている時間帯が活発になる.「寝る子は育つ」とは生体リズムをうまく表現した慣用句であり,図1に示されているように成長ホルモンの血中濃度は夜中の2.4時頃にピークを迎える.その時間帯は本来睡眠を取るべき時間帯で,睡眠を取らないとタイミングが乱れ,成長ホルモンが正しく分泌されないのである.一方,循環器系機能は起床時における交感神経活動の活発化に対応して機能が亢進し,夕方に血圧や心拍数のピークを迎える.循環器系疾患の発作は起床直後,もしくは夕方に多いことが知られており,これらの循環器機能の日内変動に起因する.コルチゾールレベルや体温は明瞭な日内変動を示し,血中メラトニンレベルは体内時計の動態を直接反映することから,ヒトの生体リズムを研究するうえでの重要な指標として用いられている.2.内因性リズム図1に示した生体機能のなかには,日内変動もしくは日内リズムとよばれるにすぎず,概日リズムと定義されないリズムも含まれる.生体固有の時計によりそのリズムが形成されるかは,昼夜で変化する気温や湿度などの環境因子や社会スケジュールを排除して測定され,リズムが観察されなければならない.生体機能が環境の周期的変動に反応した結果生じるリズムを外因性リズムといい,外的要因を一定に維持した状態でも生じるリズムを192あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014内因性リズムという.3.ヒトの概日リズム周期ヒトにおいて,そのリズムが内因性リズムであるということを証明するためには,外的要因を排除した環境でリズムを観察する必要がある.古典的には,洞窟(鍾乳洞)や防空壕を利用した,時刻情報がなくかつ昼夜に環境(気温,湿度,騒音,光など)が変化しない部屋で被験者に一定期間生活してもらい,その睡眠リズムや体温リズムを測定していた.ヒトを一定環境下に置くと,睡眠や体温は1日のリズムを持続するが,厳密には24時間からやや異なる周期を示す.ヒトを対象とした実験では,動物実験のように漆黒の闇の中で数日間にわたり内因性リズムを測定するのは不可能である.古典的方法では被験者が自由に照明をON/OFFする方法が取られていたが,この方法で得られたヒトのリズム周期は平均25.00時間であり,24時間より1時間も長い周期が認められた2).しかしながら,被験者が自由に照明をON/OFFする方法は,はたして生物学的に正しいリズム周期を求めることができるのであろうか.後述するように,光入力の変化はリズム位相を前進させたり後退させたりする.夜,眠りにつく前に浴びた光は位相を後退させ,それが継続するとリズム周期自体が延長する可能性がある.そこで,Czeislerらは被験者に概日時計が同調できない28時間周期の生活を約1カ月間続けてもらい(強制脱同調),ホルモンや体温リズムを測定し,光を含めた外的環境因子の影響を排除する方法でヒトのリズム周期を計測した3).その結果,1日28時間で生活していたにもかかわらず,生理機能(体温,血中メラトニン・コルチゾールレベル)のリズム周期は平均して24時間11分であった.この結果からヒトのリズム周期は24時間より確かに長いことが明らかとなったが,生理機能の周期は古典的方法で得た結果よりも短く,より24時間に近いことが示された.Czeislerらの結果は,ヒトが古くに獲得し今も持ち続けている生物学的な概日リズム周期を反映し,古典的な方法で得られた結果は,光のON/OFFを自由に操ることができる現代社会の生活習慣によって引き起こされた周期を反映しているのであろう(32) 010203040時間(時)02448明暗条件恒常暗リズム位相変位(時間)60-6①後退②前進③変位なし概日時刻(時)06121824①②③日数5060708090図2概日リズムの特性マウスの輪回し活動(写真)のダブルプロットアクトグラム(左図)と6時間の光パルスに対する位相反応曲線(右図).①夜の前半,②夜の後半,③昼間の光パルスに対するリズム位相の変位(シフト量)をアクトグラムから読み取りグラフ化したものが位相反応曲線である.か.光に溢れる現代社会において,われわれは寝る直前まで光を浴びることによって概日時計は常に位相の後退(周期の延長)状態に置かれていると考えられる.II概日リズムの特性1.哺乳類の概日リズム図2には,マウスの自発活動リズム記録に用いられる回転輪と表示方法を示した.マウス用飼育ケージに運動用回転輪を導入し1匹ずつを個別飼育したうえで,動物が自発的に回した輪の回転数を時系列に沿って記録する方法である.測定中,エサ・水の補給は常時可能とし,人工照明により,昼(明期)と夜(暗期)を厳密にコントロールする.われわれが実験に用いるマウスは夜行性で,夜間活発に輪を回す.輪回し活動測定は数サイクル(数日)から長期では年単位で連続記録することもあり,アクトグラムとよばれる方法で表示し概日リズムの変化を容易に判定する.アクトグラムでは活発に活動する時(33)間帯が帯状に黒く表示され,夜行性マウスでは夜間に行動が集中することで視覚的に理解できる.実験的な照明環境12時間明期:12時間暗期の24時間周期で行動を測定した場合,マウスは照明が消えた直後から正確に輪回し活動を開始する.一方,照明環境を一定にし,時間的な手がかりをなくした恒常暗状態では,マウスの輪回し活動開始時刻は毎日15分間ほど早くなる.開始時刻は日々前進していくが,周期性はきわめて正確である.定常状態で継続する約24時間周期のリズムは,マウスの体内時計機構に由来する内因性リズムであり,自由継続(free-run)リズムとよぶ.自由継続リズム周期は種によって多様であり,前述したようにヒトでは24時間よりも長く,げっ歯類でも実験で用いられるラットやハムスターは24時間よりも長い周期を示す.2.行動リズムの光同調と位相変位概日リズムは24時間の環境サイクルに引き込まれるあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014193 性質をもっており,これを同調(entrainment)とよぶ.図2に示した行動リズムの場合,光が同調因子となっているため,光同調とよばれる.光環境による24時間周期への引き込みを可能にするメカニズムとして,体内時計の時刻に依存したリズム調節機構が提唱されている.図2右下は,さまざまな時刻における光パルスの影響を示したものである.恒常暗環境下で自由継続しているマウスの活動期前半に光パルスを与えると,翌日の行動開始時刻は大きく遅れる(図中①).また,活動期後半に光パルスを与えると,以降の活動開始時刻は前に進む(図中②).活動休止期(マウス体内時計にとって主観的昼間)に同様の光パルスを付与しても,活動開始時刻に変化はない(図中③).この時刻依存的なリズムのシフトは,光の強さ,シフトの大きさなどに種差が認められるものの,基本的にヒトでも保存されている4.6).ヒトの実生活に即して考える場合,マウスの活動時間帯をヒトの睡眠時間帯と置き換えてみるとよいかもしれない.マウス活動期(夜間)前半の光パルスは睡眠開始時期にウトウトしかけたところでパッと明かりがつけられたようなものである.おそらくせっかく眠りにつこうとしていても目が冴えてしまい,翌朝は寝坊しがちになるだろう(図中①).また,マウス活動期(夜間)後半の光パルスは,ヒトにとっては起床時刻に向けて眠りが浅くなってきた明け方に強い光にさらされるようなものである.まだもう少し眠りたいかもしれない身体を奮い立脳弓頭頂葉脳梁前頭葉松果体視交叉上核視交叉下垂体橋延髄脊髄小脳たせ一応その日は早く起きだして活動するが,やはり夜は「今朝は早かったから…」と早めに眠りにつきたくなるだろう(図中②).本来の昼間に強い光に当たっても感覚的に生理変化を実感することは少ない.時刻依存的リズムの調節機構で特筆すべきは,リズムの遅れ(位相の後退)は即日生じるが,リズム位相の前進は数日間を要することである.ヒトの場合,社会的要因を考慮する必要があるが,「夜更かしは楽で早起きはつらい」というのは体内時計に依存する普遍的な性質であろう.III概日時計のメカニズム1.概日時計中枢:視床下部・視交叉上核概日リズムを生みだす概日時計中枢は哺乳類では脳の視床下部・視交叉上核(suprachiasmaticnucleus:SCN)に存在する(図3).SCNは視神経が左右交差する視交叉の直上正中部分に第III脳室を挟んで左右一対で存在し,その大きさはマウスではケシ粒程度であり,片側で約1万個の神経細胞が非常に緊密にパッケージされた特徴的な構造をしているため所在の同定は比較的容易である.げっ歯類のSCNを実験的に破壊すると,概日行動リズムの自由継続,光同調は完全に失われる.また,遺伝的に周期の異なった胎仔SCNを体外に取り出し,別の個体に移植するとドナーSCN側の周期で活動リズムが現れることから,SCNが概日時計中枢であることに疑いの余地はない7).視交叉上核(SCN)図3哺乳類の概日時計中枢の位置左図:ヒト脳の正中矢状断面の模式図.概日時計中枢である視交叉上核(SCN)は視神経が交叉する視交叉の直上に存在する.右図:マウス脳の前額断切片の写真.SCNは視交叉の直上に第III脳室を境に左右で対をなしている.立体的には直径が0.3mm,長さが0.6mm程度の卵に羽が生えたような形をした構造である.194あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(34) 2.概日光受容概日時計を同調させる最も強力な因子は光である.この概日光受容は非視覚性光受容の一つとして視覚の光受容とは区別される.両眼を摘出したハムスターにおいて光同調が起こらないことから,哺乳類における概日光受容は眼(網膜)で行われることがわかる.視覚と概日光受容は互いに異なる光受容細胞や神経回路を用いることが明らかになっている.網膜で受容した光は,視覚の神経回路とは異なる「網膜視床下部路」とよばれるごく少数の網膜神経節細胞の軸索が網膜からSCNに投射する経路をとる.1998年に,ヒトの膝の裏において概日光受容が行われるといった論文がScience誌に掲載されたが,その後,この結果を再現できた研究はなく,哺乳類においては網膜が唯一の光受容組織であることが示されている8).網膜神経節細胞の軸索末端からは,おもに神経伝達物質であるグルタミン酸が放出されSCN細胞に情報伝達する.麻酔下マウスのSCNにガラス電極を刺入しSCNの神経発火活動を記録する実験では,網膜の光刺激は素早く単一SCN細胞の自発発火活動に変化をもたらす9).概日光受容は光受容時刻に依存する特性をもち,かつ照度や持続時間,波長に依存する.波長(色)に関しては,Takahashiらのハムスターを用いた行動リズムを指標とした検討によって,概日光受容は可視光のなかでも500nm(青.緑)付近に感受性の最大値をもつことが明らかとなっている10).しかしながら,実験動物とヒトでは概日光受容に必要な照度や持続時間は異なっており,げっ歯類では10lx程度の光を30分間照射すれば最大の位相変位が認められるが,ヒトでは感度が低いようである.本間らの検討では,ヒトの睡眠覚醒リズムはおよそ5,000lxの明暗サイクルに同調することが示されている11).3.分子時計近年の研究により,SCN細胞自体がリズムを生み出す時計をもっていることがわかってきた.その中身は十数個の時計遺伝子とよばれる遺伝子群がフィードバックループを形成しリズムを刻む(図4).具体的には,転写因子であるCLOCKとBMAL1のヘテロ複合体によっ(35)Per1/Per2Cry1/Cry2図4時計遺伝子の転写翻訳フィードバックループCLOCK-BMAL1ヘテロ複合体はPer,Cryなどの転写を促進する.転写・翻訳されたPERおよびCRY蛋白質は複合体を形成し,CLOCK-BMAL1による自身への転写促進作用を抑制する.このループが1周するのに約24時間必要であり,概日リズムを作り出している.てPer,Cry遺伝子の転写が促進され,この翻訳産物であるPERおよびCRY蛋白質が,CLOCK-BMAL1ヘテロ複合体による転写を抑制し,Per,Cry遺伝子の転写が弱まる.このように,時計遺伝子自らの転写産物が自身の遺伝子の転写を抑制するネガティブフィードバックループが存在する.このループが1周するのに約24時間かかり,概日時計の本体であると考えられている.このループを基本とする時計遺伝子の転写翻訳ループは分子時計ともよばれ,実際に,時計遺伝子欠損・変異動物では概日行動リズム周期の短縮や延長そして,無周期になる.また,特定の変異マウスでは,リズム異常だけでなく糖尿病や高血圧などの生活習慣病の症状を示すことが報告されている12,13).先にSCNが概日時計の中枢であると述べたが,最近の研究成果から,分子時計は全身のさまざまな器官・組織に存在していることがわかり,SCNにある時計は主時計もしくは中枢時計などとよばれ,その他の器官・組織の時計を末梢時計というようになった.全身の時計をオーケストラにたとえるならば,SCNは指揮者にあたり,各組織・器官に存在する時計がそれぞれの楽器の演奏者にあたる.SCNはそれぞれの器官時計をその器官の生理機構に見合った時刻に合うように指揮・統合してあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014195 SCNSPZ神経発火頻度神経発火頻度(カウント×103/分)(カウン×104/分)1.41.21.00.80.60.45.00123456789101504.03.02.01.00123654時間(日)78910150輪回し回転数輪回し回転数(カウント/分)(カウント/分)図5InvivoMUAによるマウスSCNおよびSPZにおける神経発火活動リズムマウスの脳に慢性電極を植え込み,無拘束下でSCNおよびSPZ神経発火活動を輪回し活動リズムと同時に記録した.縦軸は1分ごとの神経発火頻度,横軸は日数を示す.それぞれの下段のグラフは輪回し活動量を示す.SCNの神経発火頻度は昼に高く,夜に低いリズムが観察され,SPZではSCNと反対位相のリズムが観察される.いるのである.指揮者が正しく指揮棒を振れないと良いアンサンブルにならないように,SCN機能低下や欠損は全身の分子時計の針を狂わせてしまう.4.リズムの神経出力さて,SCNは時刻情報をどのように出力し睡眠覚醒リズム,ホルモン分泌リズムを制御するのだろうか.電位依存性NaチャネルブロッカーであるテトロドトキシンをSCN近傍に注入する実験で,活動電位をブロックされたラットの概日行動リズムは消失した14).この結果はSCNのリズム出力系として,神経発火(活動電位)が重要であることを示すものである.筆者らは,SCNに直径100μmステンレスワイヤーを2本挿入し,自由に輪回し行動するマウスからSCNポピュレーション神経発火を記録する実験系(invivoMUA)を構築した15)(図5).SCNの神経細胞群は,行動が休息期にあたる昼間(明期)に盛んに神経発火し,照明がオフになる数十分前から徐々に発火頻度が低下して夜間は低いレベルを保った(図5上).逆に照明が点灯する約1時間前から徐々にSCNの神経発火頻度は上昇し,昼間は高い発火レベルを保った.この神経発火リズム自体は新発見ではなく,すでに夜行性のラットで30年前に報告されていて16),昼行性のリスでもSCNの神経活動は昼間に高く夜間低下するリズムを示す17).また,恒常暗条件下で行動リズムが自由継続した状態でも,マウスSCNの昼間(休息期)に活発で,夜間(活動期)に活動レベルが低下する神経発火リズムは保たれていた.SCNからの神経投射は,抑制性の出力がSCNの直上にある室傍核下帯(SPZ)を経由し,視床下部背内側核(DMH)に達し,DMHからさまざまな生体機能を司る中枢へ時刻情報が送られると提唱されている18).確かにそれを反映するようにSPZではSCN196あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(36) とは反対に,夜間(活動期)に活発で,昼間(休息期)に活動レベルが低下する顕著な神経発火リズムが認められる(図5下).しかし,ここに因果関係があるのか,単なる相関なのか,神経回路レベルの解明はまだ端緒についたばかりである.IVリズムの乱れと疾患リズムの乱れというとまず睡眠障害が思い起こされるであろう.米国ユタ州で見つかった“早寝早起き”の家系からは,時計遺伝子の一つであるPer2遺伝子の一部分に変異が見つかった19).この家系では,概日リズム睡眠障害に分類される睡眠相前進症候群が発症し,午後7時半より遅く起きていられず,朝は午前3時半頃になると目が覚めてしまう.幸いにもこの家系は代々パン屋さんを営んでいるという,これこそ遺伝子が規定した“天職”と言えるだろう.この例は極端であるが,時計遺伝子に変異がなくともわれわれは常にリズムの乱れに曝されている.医療従事者に代表される交代勤務者は,夜間の室内の光や翌朝の朝日を浴びることによってリズムの乱れが多く経験される.このような交代勤務を長く経験した女性では乳がんに罹患するリスクが1.5倍に上昇し,男性では前立腺がんに罹患するリスクが3倍に上昇するという疫学調査の結果が報告されている20,21).交代勤務者でなくても,現代社会の生活でリズムの乱れを経験することはある.仕事やレジャー目的で時差のある国へ出かけることが増え,時差ボケ(jet-lag)を経験する機会が多くなった.たまに経験する時差ボケによる体の異変は,旅の思い出や出張の証などとして軽視されがちであるが,世界を飛び回るビジネスマンにとっては本当の意味で死活問題になりうるという研究結果がマウスを使った生存率の検討で明らかになった22).この研究では,老齢マウス(約2歳)に対して飼育箱の明暗時刻を変更することによって6時間の時差ボケ状態を週に一度経験させた.その結果,リズムが前進する時差ボケを8回経験したマウスは,時差ボケを経験していない動物と比べ生存率が約半分となった.死因は不明であるが,時差ボケの繰り返し,すなわち,継続的なリズムの乱れは身体の不調を募らせ死にまで至らせる可能性があることを示している.(37)おわりにこれまで述べたように,生物は環境サイクルに対応した周期性をさまざまな生理現象のなかに示す.それらの多くは環境への適応として獲得され,環境の変化を予測する重要な働きをもつと考えられている.すなわち,生理現象に示される周期性には,それぞれ意味があり,われわれはこれらの周期性がもつ意味を適切に理解し,健康の維持や医療の進歩につなげていく必要がある.概日システムは入力(同調)系─振動体─出力系に分け表現されることがあるが,ヒトにとって光が最も強力な同調因子であることから,入力系で同調因子を受容する“眼”は概日システムにおいて最も重要な器官である.入力系での信号が変われば,振動体を介し出力も影響を受け,全身の恒常性システムの変化が起こる.現代社会の「光害」から身を守るためにも,眼科領域では「視覚機能」の保護・改善のみならず,体内時計に代表される「非視覚機能」にも注目した研究の進展が今後期待される.文献1)TeiH,OkamuraH,ShigeyoshiYetal:CircadianoscillationofamammalianhomologueoftheDrosophilaperiodgene.Nature389:512-516,19972)WeverRA(ed):TheCircadianSystemofMan.Resultsofexperimentsundertemporalisolation.Springer-Verlag,NewYork,19793)CzeislerCA,DuffyJF,ShanahanTLetal:Stability,precision,andnear-24-hourperiodofthehumancircadianpacemaker.Science284:2177-2181,19994)StHilaireMA,GooleyJJ,KhalsaSBetal:Humanphaseresponsecurvetoa1hpulseofbrightwhitelight.JPhysiol590:3035-3045,20125)MinorsDS,WaterhouseJM,Wirz-JusticeA:Ahumanphase-responsecurvetolight.NeurosciLett133:36-40,19916)HonmaK,HonmaS:Ahumanphaseresponsecurveforbrightlightpulses.JpnJPsychiatryNeurol42:167-168,19987)RalphMR,FosterRG,DavisFCetal:Transplantedsuprachiasmaticnucleusdeterminescircadianperiod.Science247:975-978,19908)WrightKPJr,CzeislerCA:Absenceofcircadianphaseresettinginresponsetobrightlightbehindtheknees.Science297:571,20029)NakamuraTJ,FujimuraK,EbiharaSetal:Lightresponseoftheneuronalfiringactivityinthesuprachiasmaticnucleusofmice.NeurosciLett371:244-248,2004あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014197 10)TakahashiJS,DeCourseyPJ,BaumanLetal:Spectralsensitivityofanovelphotoreceptivesystemmediatingentrainmentofmammaliancircadianrhythms.Nature308:186-188,198411)HonmaK,HonmaS,WadaT:Entrainmentofhumancircadianrhythmsbyartificialbrightlightcycles.Experientia43:572-574,198412)DoiM,TakahashiY,KomatsuRetal:Salt-sensitivehypertensionincircadianclock-deficientCry-nullmiceinvolvesdysregulatedadrenalHsd3b6.NatMed16:67-74,201013)MarchevaB,RamseyKM,BuhrEDetal:DisruptionoftheclockcomponentsCLOCKandBMAL1leadstohypoinsulinaemiaanddiabetes.Nature466:627-631,201014)SchwartzWJ,GrossRA,MortonMT:Thesuprachiasmaticnucleicontainatetrodotoxin-resistantcircadianpacemaker.ProcNatlAcadSciUSA84:1694-1698,198715)NakamuraW,YamazakiS,NakamuraTJetal:Invivomonitoringofcircadiantiminginfreelymovingmice.CurrBiol18:381-385,200816)InouyeST,KawamuraH:Persistenceofcircadianrhythmicityinamammalianhypothalamic“island”containingthesuprachiasmaticnucleus.ProcNatlAcadSciUSA76:5962-5966,197917)SatoT,KawamuraH:Circadianrhythmsinmultipleunitactivityinsideandoutsidethesuprachiasmaticnucleusinthediurnalchipmunk(Eutamiassibiricus).NeurosciRes1:45-52,198418)SaperCB,ScammellTE,LuJ:Hypothalamicregulationofsleepandcircadianrhythms.Nature437:1257-1263,200519)TohKL,JonesCR,HeYetal:AnhPer2phosphorylationsitemutationinfamilialadvancedsleepphasesyndrome.Science291:1040-1043,200120)SchernhammerES,LadenF,SpeizerFEetal:Rotatingnightshiftsandriskofbreastcancerinwomenparticipatinginthenurses’healthstudy.JNatlCancerInst93:1563-1568,200121)KuboT,OzasaK,MikamiKetal:Prospectivecohortstudyoftheriskofprostatecanceramongrotating-shiftworkers:findingsfromtheJapancollaborativecohortstudy.AmJEpidemiol164:549-555,200622)DavidsonAJ,SellixMT,DanielJetal:Chronicjet-lagincreasesmortalityinagedmice.CurrBiol16:R914916,2006198あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(38)