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パターンスキャンレーザーを用いた網膜光凝固部位のSD-OCT による経時的評価

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1435.1439,2013cパターンスキャンレーザーを用いた網膜光凝固部位のSD-OCTによる経時的評価平野隆雄赤羽圭太鳥山佑一家里康弘村田敏規信州大学医学部眼科学教室EvaluationofTime-dependentMorphologicChangesCausedbyPhotocoagulationwithPatternScanLaserTakaoHirano,KeitaAkahane,YuuichiToriyama,YasuhiroIesatoandToshinoriMurataDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine目的:パターンスキャンレーザーと従来条件で光凝固を行い,凝固斑の形態変化をスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)で経時的に比較検討する.対象および方法:対象は未治療の増殖前・増殖糖尿病網膜症患者7例10眼.パターン照射と従来照射で5眼ずつ汎網膜光凝固を施行.各症例で3カ所の凝固部位をSD-OCTで1分・20分・1週間後に測定.横径・縦径・網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を比較検討した.結果:パターン照射群では凝固斑横径が1分後に比し20分後に拡大し,1週間後に縮小を認めた(各373±46μm,407±36μm,283±33μm).GCC厚は従来照射群で1分後に比し20分後に増加し1週間後に減少したが(各71±10μm,87±20μm,53±17μm),パターン照射群では観察期間に有意な変化を認めなかった(各55±11μm,54±8μm,59±8μm).結論:パターン照射では従来照射と異なり,照射20分後に横径は拡大し,1週間後には縮小した.また,GCC厚の経時的変化が少ないことからパターンスキャンレーザーによる光凝固では従来条件に比し網膜内層への障害が少ないと考えられた.Purpose:Usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),tocomparetime-dependentmor-phologicchangesinretinallaserlesionsmadebypatternscanlaserwiththosemadebyconventionallaserphoto-coagulation.Methods:Studieswere10eyesof7patientswithtreatment-naiveproliferativeorpreproliferativediabeticretinopathy;5eyesweretreatedwithpatternscanlaserand5weretreatedwithconventionallaserpho-tocoagulation.Inalleyes,SD-OCTwasperformedat1minute,20minutesand1weekafterphotocoagulation,toevaluatethetransversediameter,longitudinaldiameterandganglioncellcomplex(GCC)thicknessofburnlesions.Results:Themeantransversediameterofthepatternscanlaserburnswasgreaterat20minutesthanat1min-ute,butsmaller1weekpostoperatively(373±46μm,407±36μm,and283±33μm,respectively).Inburnscreatedbypatternscanlaser,GCCthicknessremainedstableateachtimepoint(55±11μm,54±8μmand59±8μm,respectively),whereasinburnscreatedbyconventionallaserphotocoagulation,GCCshowedaneventualdecrease(71±10μm,87±20μmand53±17μm,respectively).Conclusions:Burnsmadebypatternscanlaserexpandoverthe.rst20minutesandlaterreduceinsize.ThestabilityofGCCthicknessfollowingpatternscanburnssug-geststhatthistypeoflasercausesconsiderablylessdamagetotheinnerretina.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1435.1439,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固,網膜神経節細胞複合体,パターンスキャンレーザー,スペクトラルドメイン光干渉断層計.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation,ganglioncellcomplex,patternscanlaser,spectraldomainopticalcoherencetomography.〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakaoHirano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto390-8621,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(91)1435はじめにDiabeticRetinopathyStudyが糖尿病網膜症に対する有効性を報告して以降1),汎網膜光凝固術(panretinalphotoco-agulation:PRP)は,糖尿病網膜症治療のスタンダードとして広く臨床の場で用いられている.しかし,PRPの問題点として凝固時の疼痛や手術時間の長さなどが依然としてあげられる.そんななか,ショートパルス・高出力のパターン照射を特徴としたパターンスキャンレーザーのPASCALR(TOPCON社)登場以降,多くのパターンスキャンレーザーが市場に出てPRPのそれらの問題点は解決されつつある2.3).従来条件による凝固斑が経時的に拡大してatrophiccreepなどの問題を起こすのに対して,パターンスキャンレーザーによる凝固斑は月・年単位で縮小することが報告されている4).このため従来条件によるPRPでは凝固斑間隔が1.0.2.0凝固斑に設定されるが,パターンスキャンレーザーでは0.5.1.0凝固斑が推奨されている.ところが,実際の臨床の場では0.5凝固斑間隔でパターンスキャンレーザーによる照射を行うと照射後すぐの眼底検査で凝固斑が拡大することを経験し凝固間隔の設定にとまどうことがある.パターンスキャンレーザーによる凝固斑のOCTを用いた日・週単位での経時変化の報告はあるが,分単位での報告は筆者らの確認したところなされていない.また,動物実験でショートパルス・高出力照射は従来の照射条件に比し網膜神経線維層などの網膜内層への障害が少ないことが報告され5),タイムドメイン光干渉断層計を用いた糖尿病網膜症に対するPRPの凝固斑の検討においても同様の結果が報告されている6).本研究ではトラッキング機能を用いることにより,撮影時間が異なっても正確に網膜同一部位のより詳細な撮影が可能となったスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)を用いてパターンスキャンレーザーと従来条件による凝固斑の形態的変化を凝固直後より経時的に比較検討したので報告する.I対象および方法本研究は,信州大学附属病院倫理委員会の承認を得て行った.対象は2012年6月から10月に信州大学附属病院でPRPが必要と判断された未治療の増殖前糖尿病網膜症・増殖糖尿病網膜症7例10眼(平均年齢:58.6±10.6歳,性別:男性4例,女性3例).光凝固装置は全例でパターンスキャンレーザーを搭載したVixiR(NIDEK社)を使用し,凝固条件はパターンスキャンレーザーと従来条件によるPRPについて比較検討した既報と同条件に設定した7).5眼をパターン照射群とし比較検討を行う部位の凝固条件は凝固出力400mW,凝固時間0.02秒,3×3のパターンを用い,凝固間隔は0.5凝固斑間隔とした.対照として5眼を従来照射群とし凝固条件は凝固出力1436あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図1SD-OCTにおける凝固斑横径,凝固斑縦径,GCC厚の評価(図3fと同じ従来照射群20分後のSD-OCT画像)内境界膜(赤色),内網状層/内顆粒層(黄色),網膜色素上皮/Bruch膜(紫色)で層別化.凝固斑横径として網膜色素上皮高輝度反射領域(A),凝固斑縦径として凝固斑中央部の内境界膜・網膜色素上皮/Bruch膜(B),GCC厚として内境界膜・内網状層/内顆粒層(C)を測定した.200mW,凝固時間0.2秒,凝固間隔は1.0凝固斑間隔とした.2群とも接触レンズはMainsterPRP165R(Ocular社)を用い,波長(577nm)と設定照射サイズ(200μm)は同条件とした.各症例において照射直後(1分後)に上方網膜アーケード血管直上の連続する3カ所の照射部位でSD-OCT(RS-3000R,NIDEK社)を用いて120枚のトレーシング加算画像を撮影(図2c,3c).撮影部位をベースラインとしてフォローアップ機能を用い20分後(実際の臨床の場で光凝固施行後,倒像鏡で凝固状況を確認するタイミングとして照射20分後を設定した),1週間後に同部位を撮影.取得した画像において1分後・20分後は網膜色素上皮において網膜外層における高輝度領域と連続した範囲,1週間後は網膜色素上皮における高輝度反射領域を計測し凝固斑横径とした.また,取得した画像を内境界膜,内網状層/内顆粒層,網膜色素上皮/Bruch膜で層別化し,凝固斑中央部で測定した内境界膜・網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)/Bruch膜間のカリキュレーターによる測定値を凝固斑縦径,内境界膜・内網状層/内顆粒層間の測定値を網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚とした.凝固斑横径,縦径そして中央網膜厚,網膜内層への影響を検討するためにGCC厚についてパターン照射群・従来照射群それぞれについて検討した(図1).統計処理はWilcoxon符号順位和検定(Wilcoxonsignedrankstest)を用いたノンパラメトリック検定で行い危険率5%以下(p<0.05)をもって有意差ありとした.II結果パターン照射群では照射1分後に灰白色の凝固斑が,20分経過後にはより鮮明な白色調となり拡大傾向を認めた.1週間後には凝固部位で色素沈着を認め,径は照射20分後に比し縮小傾向を認めた(図2a,b,d,e,g,h).従来照射群で(92)図2パターンスキャン群の眼底所見とSD-OCT画像a,b,c:照射直後(1分後),d,e,f:20分後,g,h,i:1週間後.a,d,g:カラー眼底写真.b,e,h:a,d,gの黒破線部位を拡大したもの.c,f,i図中の赤矢印は各凝固斑において計測した横径の両端を示す.照射1分後に灰白色の凝固斑が20分後にはより鮮明な白色調となり拡大傾向を示す.1週間後には凝固部位で色素沈着を認め,径は20分後に比し縮小傾向を示す.c,f,i:b,e,hの白線部位におけるSD-OCT画像.眼底所見と同様の経時的変化を認める.は照射1分後からパターン照射群より鮮明な白色調の凝固斑を認め,20分後の径の拡大は認められなかった.1週間後には凝固部位で色素沈着がみられたが,照射20分後と比し径の変化は認められなかった(図3a,b,d,e,g,h).SD-OCTの結果では,パターン照射群で凝固斑横径の平均値(標準偏差)は1分後373±46μm,20分後407±36μm,1週間後283±33μmで20分後は1分後に比し有意に拡大し,1週間後には有意な縮小を認めた(各p=0.0006,0.0007<0.01)(図2c,f,i,図4).一方,従来照射群において凝固斑横径は1分後481±47μm,20分後488±49μm,1週間後472±58μmで,経過中に有意な変化は認められなかった(図3c,f,i,図4).凝固斑縦径はパターン照射群で1分後233±13μm,20分後246±8μm,1週間後217±12μm,従来照射群は1分後268±33μm,20分後292±31μm,1週間後226±35μmで両群ともに20分後は1分後に比し有意に増加し(各p=0.0007,0.0008<0.01),1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.0015,0.0007<0.01).GCC厚はパターン照射群において1分後55±11μm,20分後54±8μm,1週間後59±8μmで観察期間中には有意な変化は認められなかったが,従来照射群では1分後71±10μm,20分後87±20μm,1週間53±17μmで凝固斑縦径と同様に,20分後は1分後に比し有意に増加し1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.007,0.0095<0.01)(図5).III考按パターンスキャンレーザーのパイオニアであるPASCALRは動物実験において同等の凝固斑を得るために必要な凝固出力と凝固時間を比較したところ,ショートパルス・高出力設定のほうが結果的に総エネルギーを少なくでき,凝固時の熱拡散を抑制するという結果をもとにBlumenkranzらによって開発された2).パターンスキャンレーザーの特長である1回の照射で複数の凝固斑を得ることができるパターン照射はPRPの問題点である長い手術時間と手術回数を減少させ,(93)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131437図3従来照射群の眼底所見とSD-OCT画像a,b,c:照射直後(1分後),d,e,f:20分後,g,h,i:1週間後.a,d,g:カラー眼底写真.b,e,h:a,d,gの黒破線部位を拡大したもの.c,f,i図中の赤矢印は各凝固斑において計測した横径の両端を示す.照射1分後(a)からパターン照射群より鮮明な凝固斑を認め,20分後(d)にも径の拡大は認めない.1週間後(g)には凝固部位で色素沈着を認めるが20分後(d)と比し径の変化は認められない.c,f,i:b,e,hの白線部位におけるSD-OCT画像.眼底所見と同様の経時的変化を認める.凝固斑横径(μm)600550500481472488450407400373350:凝固斑横径3002832502001分20分1週1分20分1週照射からの経過時間図4SD-OCTにおける凝固斑横径の経時的変化凝固斑横径はパターン照射群で,照射1分後に比し20分後に有意に拡大し1週間後に有意な縮小を認める(各p=0.0006,0.0007<0.01).従来照射群では経過中,有意な変化は認められなかった.ショートパルス・高出力設定による凝固時の熱拡散抑制は同じくPRPの問題点としてあげられる施行時の疼痛を有意に減少させた8).しかし,従来条件による凝固斑が拡大傾向を示す9)のに対し,パターンスキャンレーザーによる凝固斑は1週間,4週間と経時的に縮小することからパターンスキャンレーザーでPRPを行う際には凝固間隔を従来条件より小さくすることが推奨されている.ところが,実際の臨床の場では分単位でパターンスキャンレーザーによる凝固斑が拡大することを経験し凝固間隔の設定にとまどうことがある.今回のSD-OCTによる観察では,臨床の場での印象のとおりパターンスキャンレーザーによる凝固斑横径は1分後に比し,筆者らがレーザー後,倒像鏡で眼底を観察する時間帯として設定した20分後で有意に拡大し,1週間後には凝固斑横径が既報のとおり有意に縮小することが確認された.この結果からパターンスキャンレーザーを用いたPRPを行う際には凝固後数分の凝固径の拡大にとらわれず,凝固間隔を従来条件(1.0.2.0凝固斑)より小さくする(0.5.1.0凝固斑)1438あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(94)凝固斑縦径とGCC厚(μm)3503002502001501005001分20分1週1分20分1週照射からの経過時間図5SD-OCTにおける凝固斑縦径とGCC厚の経時的変化凝固斑縦径はパターン照射群,従来照射群ともに20分後で1分後に比し有意に増加し(各p=0.0007,0.0008<0.01),1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.0015,0.0007<0.01).GCC厚はパターン照射群で経過中,有意な変化は認められなかったが,従来照射群では中央網膜厚と同様に,20分後は1分後に比し有意に増加し1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.007,0.0095<0.01).ことが効果的な治療を行うために重要であることが示唆された.GCC厚が緑内障の視野障害と相関するという報告は多く,GCC厚は神経線維層・神経節細胞層障害の指標として用いられている10).PRPの標的は酸素需要の高い網膜色素上皮と視細胞であり,網膜内層,特に神経線維層・神経節細胞層への障害はより少ないことが望まれる.従来条件のPRPが網膜内層を障害すること11)やパターンスキャンレーザーによる照射は網膜内層への障害が少ないという報告6)は散見されるが,従来条件とパターンスキャンレーザーによる照射のGCC厚への影響についてSD-OCTを用いて検討した報告はいまだなされていない.今回筆者らは網膜内層への影響を比較するためにGCC厚についても検討を行った.従来照射では凝固斑縦径・GCC厚ともに1分後に比し20分後に有意に増加し1週間後に減少したのに対し,パターン照射では凝固斑縦径が同様の変化を示したが,GCC厚は経過中に著明な変化は認められなかった.この結果からパターンスキャンによる光凝固のほうが従来条件に比し神経線維層・神経節細胞層への障害が少ないことが示唆された.今回,筆者らが用いた凝固条件は過去の報告7)を踏まえて設定した.総エネルギーはパターン照射群で20ms,400mW(95)で8mJ,従来照射群で200ms,200mWで40mJとなる.この総エネルギーの差が凝固斑の経時的な形態変化と網膜内層への障害の差の要因の一つと考えられる.パターンスキャンレーザーを用いた反網膜光凝固を行う際にはこれらの従来条件との違いを踏まえることが効果的な治療のために重要と思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Prelim-inaryreportone.ectsofphotocoagulationtherapy.AmJOphthalmol81:383-396,19762)BlumenkranzMS,YellachichD,AndersenDEetal:Semiautomatedpatternedscanninglaserforretinalphoto-coagulation.Retina26:370-376,20063)Al-HussainyS,DodsonPM,GibsonJM:Painresponseandfollow-upofpatientsundergoingpanretinallaserpho-tocoagulationwithreducedexposuretimes.Eye22:96-99,20084)MuqitMM,GrayJC,MarcellinoGRetal:Invivolaser-tissueinteractionsandhealingresponsesfrom20-vs100-millisecondpulsePascalphotocoagulationburns.ArchOphthalmol128:448-455,20105)JainA,BlumenkranzMS,PaulusYetal:E.ectofpulsedurationonsizeandcharacterofthelesioninretinalpho-tocoagulation.ArchOphthalmol126:78-85,20086)植田次郎,野崎実穂,吉田宗徳ほか:網膜光凝固後の組織反応の光干渉断層計による評価─PASCALRと従来レーザーとの比較.臨眼64:1111-1115,20107)NagpalM,MarlechaS,NagpalK:Comparisonoflaserphotocoagulationfordiabeticretinopathyusing532-nmstandardlaserversusmultispotpatternscanlaser.Retina30:452-458,20108)MuqitMM,MarcellinoGR,GrayJCetal:PainresponsesofPascal20msmulti-spotand100mssingle-spotpanreti-nalphotocoagulation:ManchesterPascalStudy,MAPASSreport2.BrJOphthalmol94:1493-1498,20109)MaeshimaK,Utsugi-SutohN,OtaniTetal:Progressiveenlargementofscatteredphotocoagulationscarsindiabet-icretinopathy.Retina24:507-511,200410)RolleT,BriamonteC,CurtoDetal:Ganglioncellcom-plexandretinalnerve.berlayermeasuredbyfourier-domainopticalcoherencetomographyforearlydetectionofstructuraldamageinpatientswithpreperimetricglau-coma.ClinOphthalmol5:961-969,201111)LimMC,TanimotoSA,FurlaniBAetal:E.ectofdiabet-icretinopathyandpanretinalphotocoagulationonretinalnerve.berlayerandopticnerveappearance.ArchOph-thalmol127:857-862,2009あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131439

糖尿病網膜症に対する光凝固法の日欧間の差

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1429.1433,2013c糖尿病網膜症に対する光凝固法の日欧間の差廣瀬晶*1加藤聡*2北野滋彦*1*1東京女子医科大学糖尿病センター糖尿病眼科*2東京大学大学院医学系研究科眼科学教室Di.erencesbetweenJapanandEuropeinPhotocoagulationMethodforDiabeticRetinopathyAkiraHirose1),SatoshiKatou2)andShigehikoKitano1)1)DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,GraduateSchoolofMedicine糖尿病網膜症に対する光凝固法(対黄斑浮腫を除く)の日欧間の差の有無を調べるため,欧州と日本の施設に勤務する眼科医に対し文書を用いたアンケート調査を対面・聞き取り方式で行い,欧州では9名,日本では17名の計26名から回答を得た.日本では汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)の他に,蛍光眼底造影検査上の毛細血管無灌流域などの限局した領域に選択的に光凝固を開始し必要に応じ追加してゆく選択的光凝固(selectivephotocoag-ulation:S-PC)が広く考慮されるのに対し,欧州ではPRPのみでS-PCは考慮されず,光凝固の開始時期は遅い傾向であった.糖尿病網膜症に対する光凝固法には日欧間で差があるようで,しかもこの差の存在に両者とも気づいていない可能性が高い.自分の方法を再評価したりより良い治療を目指すために,比較糖尿病眼科学的な視点も重要と思われる.Toidentifyanydi.erencesbetweenJapanandEuropeintermsofphotocoagulationmethodfordiabeticretin-opathy(excludingdiabeticmacularedema),oneofus(AH)conductedaquestionnairesurveythatreceivedresponsesfrom9and17ophthalmologistsworkinginEuropeandJapan,respectively.Panretinalphotocoagulation(PRP)wasconsideredinbothregions,butselectivephotocoagulation(S-PC)wasconsideredonlyinJapan,neverinEurope,andphotocoagulationseemstohavebeeninitiatedlaterinEurope.Thereseemstobedi.erencesbetweenthetworegionsintermsofphotocoagulationmethodfordiabeticretinopathy.Moreover,bothregionsseemtobeunawareofthesedi.erences.Acomparativediabeticophthalmologicperspectivemaybeimportantintermsofrecheckingourownroutineophthalmicmethodsandseekingtoimprovethem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1429.1433,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固,選択的光凝固,日欧の差,比較糖尿病眼科学.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation(PRP),selectivephotocoagulation(S-PC),di.erencesbetweenJapanandEurope,com-parativediabeticophthalmology.はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR),またはその前段階の重症非増殖糖尿病網膜症(severenon-proliferativediabeticretinopathy:severeNPDR)に対する周辺部網膜への光凝固法(対黄斑浮腫を除く)として,後極部以外の眼底全周を凝固する汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)が世界的に認知されている1).日本ではこのPRPに加え,蛍光眼底造影検査上の毛細血管無灌流域(non-perfusionarea:NPA)などの限局した領域に選択的に光凝固を開始し,必要に応じ追加してゆく選択的光凝固(selectivephotocoagulation:S-PC)2,3)も広く施行されていると思われる.ところが,米国眼科学会の糖尿病網膜症ガイドライン4)に記載されている光凝固法は,黄斑浮腫に対するもの以外はPRPのみで,S-PCに類する凝固法への言及はなく,日本と海外で糖尿病網膜症に対する光凝固の方法に差があるようにみえる.今回アイルランドでの学会に参加する機会を得たので,特に欧州でのS-PCの状況は実際の臨床の現場でどうなのかと考え,日本と欧州との差がないかどう〔別刷請求先〕廣瀬晶:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学糖尿病センター糖尿病眼科Reprintrequests:AkiraHirose,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(85)1429MayIaskyousomequestionsaboutphotocoagulationforPDRorearlierstagesinyourdailyclinicalpractice(principallynotformacularedema)?1.Whendoyouinitiatethephotocoagulation?(multipleanswersallowed)□MildorModerateNPDR□SevereNPDR□Non-High-RiskPDR□High-RiskPDR2.Howdoyoucoagulate?(multipleanswersallowed)□PRP(panretinalphotocoagulation:scatterphotocoagulation)□Otherphotocoagulationmethod(s)Reference(PreferredPracticePatternGuidelinesofAAO,2008)“PRPisusedforthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.”“TheETDRSsuggestedthat…”MildorModerateNPDR…PRPshouldnotberecommended,providedthatfollow-upcouldbemaintained.SevereNPDRandNon-High-RiskPDR…PRPshouldbeconsidered.High-RiskPDR…PRPshouldnotbedelayed.BackgroundInJapan,asigni.cantnumberofophthalmologistsperform‘selectivescatterphotocoagulation’inwhichnonperfusionareas(NPA)con.rmedby.uorestinangiography(FA)arecoagulatedatsevereNPDRstage,intendingtoinhibititsprogressiontoPDR.3.WouldyouconsiderphotocoagulationontheNPAsshownbelow?□Yes□No□Other(JpnJOphthalmol56:52-59,2012)Thankyouforyourcooperation!図1質問票(蛍光眼底造影写真は,転載許可を得てJpnJOphthalmol56:p53の.g.1,2012を転載)1430あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013かアンケート調査を行い調べてみた.I対象および方法欧州の施設に勤務する眼科医に対し,第22回EASDec(EuropeanAssociationfortheStudyofDiabetesEyeComplicationsStudyGroup:欧州糖尿病学会眼合併症研究会)の2012meeting会場(アイルランド・ダブリン)で,また関東の施設に勤務する眼科医に対し東京での各種講演会会場で,同一の英文質問票(図1)を用いたアンケート調査を個別面接法・他記式(聴き取り方式)ですべて筆頭著者が行った.「あなたの日常診療でのPDRまたはその前段階への光凝固(対黄斑浮腫を除く)について」と前置きしたうえで,1)光凝固をはじめる時期,2)光凝固の方法,3)S-PCについて,の3項目について質問した(図1).米国眼科学会の糖尿病網膜症ガイドラインでの推奨を参考としてあげ,1)ではMildorModerateNPDR/SevereNPDR(ほぼ前増殖期と同等と日本では口頭で補足)/Non-High-RiskPDR/High-RiskPDRの4つを,また2)ではPRPと他の方法の2つの選択肢を提示し,複数回答可として尋ねた.3)については,欧州では背景として日本でのS-PC施行について説明したうえで,文献2)の標準写真を提示し光凝固施行を考慮する(consider)かどうか尋ねた.「No」の回答の場合,引用提示した標準写真のNPA領域はかなり小範囲であるため「この症例については」光凝固施行をconsiderしないと答えている可能性を考え,もっと病変の範囲が広い症例であってもS-PCの類の光凝固を行うことはないのかどうかを,口頭で追加して尋ねた.日本でも,標準写真の症例に限らず選択的光凝固施行を考慮するかどうかを尋ねた.II結果(表1)1.回答者の数と背景回答者数は,欧州では計9名(英国4名,アイルランド2名,フランス1名,デンマーク1名,ロシア1名),日本では計17名の総数26名であった.年齢や眼科医経験年数は原則として調べなかったが,アイルランドとロシアの各1名はそれぞれ眼科医になって5年目と3年目で,欧州の他の7名は推定40歳代以上でかなりベテランの眼科医と思われ,このうち英国2名,フランスとデンマーク各1名の計4名はEASDecの幹部クラスの医師であった.日本の17名は全員推定40歳代以上であった.勤務施設は,欧州の6名は大学または病院勤務と思われ,他の3名は不明であった.日本では9名が大学または病院勤務医で,8名は開業医であった.検者は欧州の9名全員,日本の開業医の4名とは面識がなかった.日本の回答者の出身教室は,関東圏の少なくとも7大学にわたると推定された.(86)表1回答のまとめ勤務国勤務施設いつ始めるか?光凝固法S-PC考慮?コメントなどフランス大学/病院PDR.PRPNosegmentalPCは効かない英国大学/病院PDR.PRPNo英国不明PDR.PRPNoPC前FA必ず施行/ガイドラインと現場で施行していることとは違うことも英国不明PDR.PRPNo英国大学/病院severeNPDR.PRPNoPCするときは×1,000.2,000のfullscatterアイルランド不明severeNPDR.PRPNoPRPするときは熟慮する/severeNPDRへのPCはfollowupできないときアイルランド大学/病院severeNPDR.PRPNo眼科医5年目デンマーク大学/病院severeNPDR.PRPNosectionalPCはエビデンスがない/severeNPDRへのPCは対眼PDRのときロシア大学/病院severeNPDR.PRPNo眼科医3年目日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes3/4象限以上のNPAに対しPC開始日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes3/4象限以上のNPAに対しPC開始日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本大学/病院severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRPNo昔はS-PC施行していた日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYessevereNPDRへのPCはHbA1C10%以上のときなど日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYes日本開業severeNPDR.PRP/otherYesFA:.uoresceinangiography,HbA1C:GlycohemoglobinA1C,NPDR:non-proliferativediabeticretinopathy,PC:photocoagulation,PDR:proliferativediabeticretinopathy,PRP:panretinalphotocoagulation,S-PC:selectivephotocoagulation.2.光凝固についての回答1)の光凝固をはじめる時期については,欧州では英国の3名とフランスの1名の計4名はNon-High-RiskPDR以降と答えた.念のため口頭で確認したがsevereNPDRは否定したので,この4名は「常にPDR以降でしか施行しない」と思われる.他の5名はsevereNPDR以降と答えた.日本では17名全員がsevereNPDR以降と答えた.「常にPDR以降でしか施行しない」ことに関して,日欧間で有意な差を認めた(p<0.01:Fisher’sexacttest).2)の光凝固の方法については,欧州では9名全員がPRPのみであったのに対し,日本では17名全員がPDRに加え他の方法も選択し,日欧間で有意な差を認めた(p<0.01:Fisher’sexacttest).3)のS-PCについては,欧州では9名全員が明確にNoと答えた.このうち,フランスの1名とデンマークの1名(両者ともにEASDecの幹部)は,それぞれsegmentalPC,sectionalPCという具体的な用語をあげたうえで,すなわちS-PCに類する凝固法を明らかに認識したうえで否定した.しかし,他の欧州の回答者の多くではS-PC的な光凝固法についての概念自体をもっていないのではないか,という印象を受けた.日本では,17名中16名がS-PC施行を考慮することがあると回答し,S-PC考慮に関して日欧間で有意な差を認めた(p<0.01:Fisher’sexacttest).日本で現在はPRPしかしないとした開業医の1名も,以前はS-PCを施行していたと答えた.III考按今回の,PDRまたはその前段階への光凝固法(対黄斑浮腫以外)についての日欧でのアンケート調査からは,日本ではPRPの他にS-PC施行を考慮するのに対し,欧州ではPRPしか考慮せず,両者の間に差が認められた.また,欧州での凝固開始時期は日本より遅い傾向で,これらから欧州では,日本に比べ糖尿病網膜症がある程度進行するまで光凝固を行わず,凝固するときは「いきなりPRPを施行」している可能性が大きい.前述の米国眼科学会の糖尿病網膜症ガイドライン4)にはS-PCに類する光凝固法への言及はないため,併せて考えると,少なくともS-PCに関しては日本と欧米で光凝固法に差があることが推測される.今回の調査では,まったく面識のない欧州の眼科医に学会場で短時間のうちにアンケート調査を行うという制約があったため,サンプル数が特に欧州で9名と少ないことが問題で,結果の解釈には注意を要する.しかし,通常のアンケー(87)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131431ト調査では比較的多数の対象者に質問紙を渡し文章だけでのし広く調べてみると,必ずしも「欧=米」ばかりではないよ質問に対し自己記入で回答してもらうことが多いため,語句うにも思われる点である.たとえば,英国王立眼科学会の糖や言い回しの解釈の違いによる質問の誤解や回答者の集中力尿病網膜症ガイドライン7,8)をみると,TheNationalScreen-の低下などによる信頼性低下の問題がある.これに対し,今ingCommitteeのスクリーニング用網膜症分類(NSC-UK回はすべて1人の検者が個別面接・聞き取りの方法で追加のclassi.cation)で用いられるBackground/Preproliferative/説明・質問を適宜しながら行ったため,誘導尋問的効果の危Proliferativeという用語は,日本で使われる改変Davis分類険性はあるものの,回答の内容についての信頼性はかなり高と同じで,これについては「日≒英」⇔米である.また,いと思われる.EASDecは参加者約120名と小規模で,ア2005年版の同ガイドライン7)では,光凝固(=PRP)の適応カデミックななかにも非常にfriendlyな集まりであるためかと推奨されている網膜症病期はPDRのみで,この前段階と欧州の眼科医も皆集中して真摯に回答してくれたが,かなり思われるverysevereBDR(backgrounddiabeticretinopa-念を押して尋ねてみても,S-PCあるいはS-PCに類する凝thy)に対しては明確にNoと記されていた.PDRより前の固法については拍子抜けするほど9名全員がはっきりと否定病期での光凝固開始の余地がある日米3,4)と違い,これに関した.なお,このうち4名はオピニオンリーダー的な眼科医しては英⇔「日≒米」であったのではないかと思われる(なと思われた.日本では,出身教室や勤務施設で回答が異ならお,2012年12月に出された2012年版8)では,PRPはpre-ないかと注意して調べたが,少なくとも今回の範囲ではこれproliferativeに対して考慮されるべき,と米国のガイドライらにかかわりなく,予想どおり国内でS-PCが広く考慮されンと同じ表現4)に変更されている).考えてみれば当然のこていることが確認された.とだが,単に「日本と欧米」というわけではなく,「日」とアンケート調査をしてみて特に感じたのは,欧州では日本「欧」と「米」のそれぞれの間で違いや同じところがあり,で常識的なS-PCの概念自体があまり認識されておらず,知また,同じ英国内でもスコットランドでの網膜症分類が上記っているが施行しないのではなく,そもそも選択肢として意のNSC-UKclassi.cationと微妙に異なっている7,8)ことをみ識すらされていないことが多いのではないか,という強い印ると,「欧」のなかにも同様に多様性がありそうである.こ象であった.Francoisらは1977年に,無作為に汎光凝固すれらから類推すると,日本や欧米に限らず,さらにアジアやるrandomizedPRPに対比したdirectedPRPという名称でその他の地域を含めた世界中で,糖尿病眼科診療における考S-PC的な考え方を発表している5)が,筆者らが調べた限りえ方や方法にいろいろな差があり,しかも,互いにその差がでは,その後欧米ではこの方向での研究は進まなかったようあることに気がついていない可能性がある.日常診療におけである.米国をはじめ現在多くの国々で糖尿病網膜症ガイドる診断や治療の方法については,個々の医師がそのすべてのラインの重要な根拠となっているEarlyTreatmentDiabetic最適性を検証することは不可能なため,地域やグループごとRetinopathyStudyにおいても,PRPに関しては凝固密度をに意識されないまま同一化・慣例化してゆく傾向があると思変えた群間で比較したのみで,S-PC的に凝固範囲を変えてわれる.こうした状況のなかでは,他との差異を知ることにの比較はしていない6).現時点でS-PCはかなり日本独特のより,はじめて自分の位置を知り,自分では常識の,または方法である可能性が高く,隔離された環境で独自に進化し他常識だと思い込んでいる日頃の方法について改めて再確認やの世界とは異なっているという意味で,日本はガラパゴス化改良する機会が得られるわけで,この意味で「比較糖尿病眼しているのかもしれない.蛍光眼底造影検査施行への積極性科学」的な感覚を持つことが大切なのかもしれない.の違いが影響している可能性も考えられる.S-PCには,必最後に,協力して頂いたすべての回答者に深く感謝申し上要性が少ない症例に対し安易に施行されてしまうという欠点げます.も危惧される半面,PRPより侵襲が少ないため比較的早期からきめ細かく施行しやすいことによる利点も考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし少なくとも,光凝固に際してS-PCという選択肢をもっておくことは,糖尿病網膜症に対するより良い治療を考えるうえできわめて重要であり2),今後さらにS-PCについてのエビ文献デンスを示していくことが必要であると思われる.1)MohamedQ,GilliesMC,WongTY:Managementofdia-今回の結果をみるとき,もう一つ大事な点があげられる.beticretinopathy:asystematicreview.JAMA298:902-われわれはともすると無意識に欧=米と考え,「日本と欧米」916,2007すなわち日⇔「欧=米」と捉えがちで,確かに今回のS-PC2)TheJapaneseSocietyofOphthalmicDiabetology,Subcom-mitteeontheStudyofDiabeticRetinopathyTreatment:の結果に関してはそのとおりかもしれない.しかし,網膜症Multicenterrandomizedclinicaltrialofretinalphotocoag-の分類や光凝固の適応など糖尿病眼科の診療に関してもう少ulationforpreproliferativediabeticretinopathy.JpnJ1432あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(88)Ophthalmol56:52-59,20123)清水弘一:分担研究報告書平成6年度糖尿病調査研究報告書.厚生省,p346-349,19954)AmericanAcademyofOphthalmologyRetinaPanel,Pre-ferredPracticePatternGuidelines.DiabeticRetinopathyPPP-2008(4thprinting:October2012)(米国眼科学会糖尿病網膜症ガイドライン)http://one.aao.org/CE/PracticeGuidelines/PPP_Content.aspx?cid=d0c853d3-219f-487b-a524-326ab3cecd9a2013.2.11アクセス5)FrancoisJ,CambieE:Argonlaserphotocoagulationindiabeticretinopathy.Acomparativestudyofthreedi.er-entmethodsoftreatment.MetabOphthalmol1:125-130,19776)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Techniquesforscatterandlocalphoto-coagulationtreatmentofdiabeticretinopathy.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportno.3.IntOphthalmolClin27:254-264,19877)TheRoyalCollegeofOphthalmologists:GuidelinesforDiabeticRetinopathy2005(英国王立眼科学会糖尿病網膜症ガイドライン2005年版):www.rcophth.ac.uk/core/core_picker/download.asp?id=3412012.11.19アクセス〔文献8)の2012年版公開後はアクセス不能〕8)TheRoyalCollegeofOphthalmologists:GuidelinesforDiabeticRetinopathy2012(英国王立眼科学会糖尿病網膜症ガイドライン2012年版)http://www.rcophth.ac.uk/page.asp?section=451&sectionTitle=Clinical+Guidelines2013.2.11アクセス***(89)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131433

後期臨床研修医日記 25.富山大学医学部眼科学講座

2013年10月31日 木曜日

富山大学医学部眼科学講座宮腰晃央中村友子藤田和也矢合隆昭矢合都子尾崎弘典富山大学眼科学講座では,現在,6名の後期研修医が大学あるいは関連病院で勤務しています.富山県と新潟県に関連病院があり,出張も大変です.毎日多忙ながらも充実した日々を送っている研修医が,大学および関連病院の日常について紹介させていただきます外来編後期研修医の外来の仕事はいろいろで,予診,検査,処置はもちろん,専門をもつようになると,専門外来を行います.眼科医不足は地方でやはり厳しく,後期研修医といいながら幅広く業務を担当しています.しかし,そのような重要な役割を与えられる分,自分が頑張らざるを得ないため,みんなよく勉強します.また,「一流の場所で学んできなさい」との林篤志教授のコンセプトのもと,有名施設で勉強するチャンスが与えられるため(外部研修編参照),それぞれ自分の専門外来を充実させようと日々精進しています.沢山の患者さんに受診していただいており,外来はほぼノンストップ,気がつけば夕方,という感じです.水分と糖分を補給するため,紅茶花伝を飲みながら外来日を乗りきります.(中村友子)病棟編毎朝8時頃,入院患者さんの診察を行います.術後所見をしっかりとりながら,患者さんの疑問や不安にも丁寧に応対できるように心がけています.教授回診では上級医の先生方がそろって診察画面が映し出されるモニターを注視されています.術後の状態,今後の治療方針についてアドバイスを受けます.入院日には書類の記入,検査,診察,手術の説明と忙しいですが,夜遅くならないように気をつけています.やりがいがあると感じるのは,「朝早くから夜遅くまで働いて大変だね」とねぎらいの言葉をかけられたり,手術後に「見えるようになった」と患者さんが笑顔で退院されていくときです.眼科は入院,退院が目まぐるしい科であり,入院日には病床数の調整に苦労される姿も目にします.日中は外来や手術で応対ができないことも多いので,病棟看護師さんとのふれ合いも大事だと思います.(尾崎弘典)手術室編当院の手術日は月曜と木曜です.眼科専用の手術室があたらしくできて,そこには手術部屋が2部屋あります.もともとの全科用手術室もあり,そこでは全身麻酔が必要な症例を中心に手術が行われています.手術開始は朝8時30分からです.手術日の朝は8時から医局会や抄読会があるので終わったらダッシュで手術室に向かいます.このときだいたい私たちがその日使用する眼内レンズを手術室に運ぶのですが,うっかり忘れてしまって手術室でパニックになることもしばしば….手術はお(77)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201314210910-1810/13/\100/頁/JCOPYもに硝子体手術・緑内障手術・白内障手術・外来手術が行われます.ルセンティスRやアイリーアRといった硝子体内注射はおもに手術日ではなく火曜と水曜に行っています.私たちも白内障手術をさせていただいています.上級医の先生に助手についていただき,指導してもらいながら日々研鑽の毎日です.1日の手術はだいたい夕方には終了します.緊急手術が入れば夜遅くなることもあります.大変なときもありますが毎日楽しく頑張っています.(矢合隆昭,矢合都子)大学からの外部研修編富山大学の特徴の一つに比較的早い時期から専門分野が決まることがあげられます.とはいっても,地方大学ですので経験できる症例数は限りがあります.そこで,林教授の「一流に触れてくるんや!」の号令のもと,全国の名だたる施設で定期的に勉強させていただいています.角膜は木下茂先生(京都府立医科大学),ぶどう膜は岡田アナベルあやめ先生(杏林大学),緑内障は桑山泰明先生(福島アイクリニック),視神経は中尾雄三先生(近畿大学),斜視弱視は杉山能子先生(金沢大学)といった具合です.私の専門分野は角膜ですので,2011年4月.2012年3月までは毎週月曜日,2012年4月から現在は1カ月に1度,京都府立医科大学で研修をさせていただいています.研修日は朝のカンファレンスに出席し,全国学会顔負けのレクチャーの後,症例検討会があります.その後,木下先生の教授外来につき,終わった後は興味深い症例のディスカッションです.重症感染症,円錐角膜,ジストロフィ,Mooren潰瘍,Stevens-Jhonson症候群,角膜移植患者などが全国各地から続々と集まり,また私のような角膜専攻志望医も全国各地から集まり,診断・治療に喧々諤々と討論するのはかなりの刺激となっています.得られた知識・技術を富山の眼科医療に還元できるよう,日々勉強あるのみです!(宮腰晃央)ある関連病院での研修医の一週間月曜日8時半,回診のため病棟に向かいます.入院患者は7人程度.特に問題なく9時からの外来へ足を向けます.今日も外来は大繁盛です.白内障手術の予約を取1422あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013〈プロフィール〉(50音順)尾崎弘典(おざきひろのり)北里大学卒業,富山大学附属病院にて初期臨床研修,平成24年4月より富山大学医学部眼科学講座.中村友子(なかむらともこ)富山大学卒業,済生会高岡病院と富山大学附属病院にて初期臨床研修,平成22年4月より富山大学医学部眼科学講座.藤田和也(ふじたかずや)富山大学卒業,済生会高岡病院と富山大学附属病院にて初期臨床研修,平成22年4月より富山大学医学部眼科学講座.宮腰晃央(みやこしあきお)富山大学卒業,富山大学附属病院にて初期臨床研修,平成21年4月より富山大学医学部眼科学講座.矢合隆昭(やごうたかあき)富山大学卒業,富山大学附属病院にて初期臨床研修,平成23年4月より富山大学医学部眼科学講座.矢合都子(やごうみやこ)香川大学卒業,射水市民病院と富山大学附属病院にて初期臨床研修,平成23年4月より富山大学医学部眼科学講座.るのに3カ月待ちですと患者さんに告げると,嫌な顔をせず応じてくれます.本当に上越の患者さんは良い人ばかりです.13時より手術室へ.月曜は白内障手術と硝子体注射,外来手術の日です.白内障手術はおよそ5件,そのうち3件前後を私が執刀させていただいています.火曜日は午前外来へ.目が乾くという訴えの患者さんにフルオレセインを,と思うとすでに看護師さんが横で用意して待っていてくれています.本当に上越の看護師さんは良い人ばかりです.午後は硝子体手術の日です.硝子体手術は助手を務めさせていただいています.水曜日はほぼ月曜と同じスケジュール.冬は雪で来られるかわからないという患者さんの再診日を,じゃあ3.4カ月後とアバウトに指示しますと,受付でうまい具合に再診をとってくれます.本当に上越の受付の人は良い人ばかりです.木曜日は1日外来の日.ORTさんに弱視のメガネについて相談します.経験不足の私にとって非常にありがたいです.本当に上越のORTさんは良い人ばかりです.金曜日はほぼ木曜と同じスケジュール.紹介できた原因がよくわからない角膜炎の症例について指導医の先生に相談します.私の治療方針を尊重しつつも,考えるべ(78)き疾患,するべき検査について適切に教えていただけます.本当に上越の先生は良い人です.土曜は第1,3,5週で午前を交代で1人外来,1人書類仕事という振り分けになっています.レセプトの量の多さにうんざりしつつ,わからないところがあったためカルテを取り寄せます.急いでというと15分で持ってきてくれました.本当に上越の事務は良い人ばかりです.以上,上越総合病院での眼科後期研修医の1週間でした.私は2年間上越で研修させていただきましたが,内外に良い人が多い土地で気持よく研修ができたと思います.大学での研修とはまた違った経験ができ,眼科医として一回り成長できた(させていただいた)と,この上越という土地に感謝しています.(藤田和也)地方大学では医局員の減少が顕著で富山大学も同様です.しかし,医局員が少ないほうが一人ひとりの面倒を良くみてあげられる利点もあります.今,眼科に入局した6名の研修医は,皆まじめでやる気があります.一人ひとりが貴重な人材であり,大切に育てたいと思っています.自分が25年前に研修医だったときのことを思い出しながら,研修医の気持ちになって教おわりに富山大学の眼科では,定期的に飲み会があり,富山の美味しい物を食べたり,医局旅行で盛り上がるなど,医局全体でまとまるイベントが多いのが特徴だと思います.また,個人の性格や生活に合わせて仕事の方向性を上の先生が考えてくださっているのが感じられる,とても良い医局だと思っています.現在,新人医局員の募集も積極的に行っています.自分自身至らない点が多々ありますが,1人の人間として成長し,眼科の魅力を後の世代に伝えることができるように経験を積んでいきたいと思っています.(尾崎弘典)育に取り組んでいます.各人とも性格も興味も違いますので,各人がより成長できる機会をたくさん作り,のびのびと能力を発揮していけるような環境整備が私の仕事です.それが日本の眼科に貢献することですし,眼科の魅力を医学生,研修医に伝えることになると思っています.(富山大学医学部眼科学講座・教授林篤志)☆☆☆(79)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131423

My boom 21.

2013年10月31日 木曜日

自己紹介阿部早苗(あべ・さなえ)秋田大学大学院医学系研究科眼科学講座私は,新潟大学を卒業後,由利組合総合病院で2年間の初期研修を経て,2007年に秋田大学眼科に入局しました.入局して早6年が経ちます.これまで専門医試験や学位審査などの試練を乗り越え,現在では吉冨教授指導のもと,のびのびとした雰囲気のなかで眼科診療一般に携わっています.臨床のmyboom―お気に入りのレンズ秋田大学では年間約150症例の線維柱帯切除術を施行しています.それに伴って,術後管理を任せられる機会も多くなっています.術後管理のなかで,レーザー切糸は重要な役割を担っていると思います.「今でしょ!」という時期を逃さずに,レーザー切糸するよう心がけています.秋田大学では数年前までホスキンスレンズ(写真1①)のみを用いてレーザー切糸を行っていました.ところが,Tenon.が厚い症例,開瞼がうまくできない症例,疼痛が強くレンズをのせられない症例,ブレブ内に出血があり糸の視認性が悪い症例では,思うようにレーザー切糸ができず,患者さんも自分も大変な思いをしていました.それを受けて当科ではその後,たくさんの種類のレーザー切糸レンズが導入されることとなりました.私のお気に入りのレンズをいくつかご紹介します.RitchNylonSutureレンズ(写真1②,Ocular社)は,これまでのホスキンスレンズと違い,レンズの接着面積が小さいため,より効果的に一点を圧迫できます.(75)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY導入された当初は,ホスキンスレンズでは糸が見えづらかったTenon.が厚い症例などに非常に有効でした.しかし,レンズの結膜への接着部分の形状がやや丸みを帯びているため,結膜上でつるっと滑ってしまうことが多々ありました.それらのストレスを解消したのが,BlumenthalSuturelysisレンズ(写真1③,Volk社)です.レンズの接着面積は②と同様,小さくできていますが,結膜接着側に対してわずかに尖っているため,結膜面上での安定性が増しました.さらに,レンズを保持する部分が②よりも大きいためしっかりレンズを把持できるようになりました.これらのレンズを使い分けることによって,レーザー切糸が困難であった症例にも対応できるようになりました.趣味のmyboom―クロスステッチ最近はクロスステッチがmyboomです.クロスステッチは刺繍の技法の一つで,専用のマス目が並んだ布に×の形に刺繍糸を刺し,それらの組み合わせで模様を作る手芸です.一口に×を刺繍するといっても/を先に刺して上から\を重ね一つひとつ×を作る方法(これだけでも刺し方のルートは4通りあります),始めに連続して///を刺し,後から\\\を重ねて×××としていく方法など刺し方はさまざまです.作品全体で/と\のどちらが上になるかをそろえる必要があります.図案をみながら,どの順番で刺し進めていけば裏がきれいになるか考えながら作品を仕上げていきます.これがなかなか頭を使う作業で,まるでパズルを解いているかのようです.一度始めるとあっという間に時間が過ぎてしまいます.図案も花などの古典的なものから,おもちゃをモチーフにした現代的なものまでさまざまです.一時期は,電光掲示板に表示されるカクカクした文字が,刺繍のモチーフに見えたこともありました.刺繍糸はいくつあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131419〔写真1〕秋田大学にあるレーザー切糸用レンズかの会社から発売されていますが,私のお気に入りはDMCというフランスの会社で,500色近くの刺繍糸を展開しています.色見本を見ているだけでもうっとりします.退職して時間がたくさんできたら,大作に挑戦しようと思っています.おまけ―婚活???ところで「30代」「独身」「女医」といったら,myboomは当然「婚活」でしょ!?と思われる方も少なくないかも知れません.東京などの都心部で働いている大学の同級生の話を聞くと,弁護士・建築士・検事・作家・音楽家とのお食事会など話題に事欠きません.それに比べて秋田はほど遠い所にいるなあと感じてしまいます.実際,出会いの場が少ないのは事実なようで,秋田〔写真2〕最近のクロスステッチの作品たち県では「医師不足・偏在改善計画策定部会」が主体となって,女性医師と未婚男性との出会いの場をつくり,女性医師の未婚・晩婚化の解消で県内定着を促そうという動きがあるくらいです.実際に県が今後どのように取り組んで行くのか興味深いところです.次回のプレゼンターは岡山大学の内藤知子先生です.先生の講演はとてもわかりやすく,引き込まれてしまいます.いつも美しくいらっしゃる先生のmyboomに私自身,興味津々です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆1420あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(76)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 10.親子でお世話になったKinoshita先生

2013年10月31日 木曜日

親子でお世話になったKinoshita先生岩田岳(TakeshiIwata)国立病院機構東京医療センター感覚器センター分子細胞生物学研究部1988年名城大学大学院農学研究科卒.1988年NEIVisitingFellow.1989年BascomPalmerEyeInstituteResearchFellow.1991年NEIVisitingScientist.1999年国立病院東京医療センター臨床研究部主任研究員.2004年国立病院機構東京医療センター感覚器センター室長.2007年同感覚器センター部長.現在に至る.JinH.Kinoshita先生には親子でたいへんお世話になりました.Kinoshita先生のお誘いをいただき,Nation-alEyeInstitute(NEI)へ留学することになりました.Kinoshita先生がいらっしゃらなければ今とは全く異なった人生を歩んでいたと思います.Kinoshita先生にお会いしたのは1967年12月で,ご自宅に私の家族が招待され,8歳の私は青いダンプトラックをクリスマスプレゼントにいただいてリビングルームを走り回ったことを覚えています.私の父,岩田修造はこの年,千寿製薬の研究員としてボストンのRetinaFoundationに留学し,2年後ハーバード大学HoweLaboratoryofOph-thalmology,MassachusettsEyeandEarInfirmaryのKinoshita先生の研究室に移籍することになりました.白内障の最初のモデルマウスであるNakanoマウスを研究室に持ち込んで精力的に研究したようです.帰国後も家族の交流は続き,Kinoshita先生と奥様のKayさんが神戸の自宅にいらっしゃいました.私が大学院生のときにはKinoshita先生のご自宅に泊めていただき,NEIを見学させていただきました.1988年,米国で分子生物学を勉強したいと考えていた私に対してKinoshita先生は「分子生物学は核酸ACGTの研究だから生物種など関係ない,眼科研究でも分子生物学は十分に勉強できる」といわれ,脳回転状網脈絡膜萎縮症(GyrateAtro-phy)の遺伝子を解明したGeorgeInana室長の研究室に留学することになりました.すでに順天堂大学から堀田先生や藤木先生そして大阪大学から笹部先生が着任されており,2カ月後には同じく順天堂大学から村上先生が参加されました.当時のNEIは眼科分子生物学のメッカであり,多く(73)の優秀な研究者が集まっておりました.一直線に伸びるBuilding6の廊下の端に立っていると,忙しく部屋を出入りする研究者の姿がありました.このような活気あるNEIのIntramuralResearchを指揮していたのがKinoshita先生です.Kinoshita先生は部長・室長に自由を与える一方,研究の質には厳しい先生でした.特にKinoshita先生がご専門のAldoseReductaseを担当していたPeterKedar先生やDebbieCarper先生らは厳しい競争にさらされておりました.右も左もわからない20代の私に対してKinoshita先生とKayさんは優しく見守ってくださいました.当時のNEIでは,Kinoshita先生によってNICHDから引き抜かれたJoramPiatigorsky先生が最新の分子生物学的手法をNEIに広め,クリスタリン遺伝子のクローニング,その転写制御因子の解明,網膜特異的な遺伝子の探索や連鎖解析などが行われていました.私もX-LinkedRetinitisPigmentosaの連鎖解析を最初の研究テーマとしていただきました.当時のNEIでは多数のCell,Nature,そしてScienceに論文が発表され,NEIの黄金時代ともいわれています.Inana先生がBascomPalmerEyeInstitute(BPEI)の助教授として着任することになり,日本人の笹部先生,村上先生と私の3名が同行して,分子生物学の研究室を立ち上げることになりました.それから2年後の1991年には再びNEIに戻った私はKinoshita先生の信頼の厚いCarper先生の研究室でAldoseReductase(AR)とSorbitolDehydrogenase(SDH)の研究を行うことになりました.Carper先生は現在NEIのDeputyDirectorとして忙しい毎日を過ごされています.このときKinoshita先生の本命であるARは厳しい競争の只中あたらしい眼科Vol.30,No.10,201314170910-1810/13/\100/頁/JCOPYでした.競争は以下の順番で展開されました.まずはARcDNAクローニング,続いてARリコビナントタンパク質の発現,さらにARタンパク質の結晶化と構造解●★析による活性部位の決定,そして最後はAR阻害薬の開発競争です.私がBPEIからNEIに戻って間もなくKinoshita先生は退官され,10年後にはCarlKupfer先生(NEI初代所長)も退官されてNEIの一時代が終わりました.この27年間の間に日本人を含む多くの外国人がNEIで勉強し,このNEI海外ネットワークは今でも拡大しています.私は2013年2月にSieving先生(現NEI所長)にお呼びいただき,NEIAudaciousGoalMeeting(http://www.nei.nih.gov/agmeeting/)に参加させていただきました.世界中から集まった約200名の眼科研究者が小グループに分かれ,今後15年を見据えた眼科研究の方向性を2日間部屋に閉じこもって議論する企画です.この会議で感じたことは参加者全員が何らかの形でNEIとつながりをもっていることです.これほど世界に影響力のある眼科研究組織の基礎を構築したのはKinoshita先生の人選,長期展望,指揮力,そして面倒見の良さだと考えます.近年日本でも検討されているNIH構想を実現させるためには,日本にもこのような先生の存在が不可欠であると考えます.私は父と違ってKinoshita先生に直接指導を受けることはありませんでしたが,幼少のころからNEI留学までKinoshita先生と奥様のKayさんにはたいへんお世話になりました.心よりお二人のご冥福をお祈り申し上げます.●★1418あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(74)

現場発,病院と患者のためのシステム 21.医療情報システムが提供する情報の利活用(可視化)

2013年10月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.30,No.10,201314150910-1810/13/\100/頁/JCOPY.複数回の検査オーダ一般的に,受付をした後,①診察待ち→②診察(検査オーダ)→③検査待ち→④検査→⑤検査終了→⑥診察待ち→⑦診察(追加検査がなければ)→⑧会計待ち→⑨会計,となります.⑦の診察の結果,追加検査が必要と判断された場合には,そのオーダが出されます.このオーダがあると,③.⑦のプロセスを繰り返されることになり,患者さんが待たされる場面が多くなります.関連する検査をセットでオーダせず,1つずつオーダすると,患者さんの待ち時間を無用に増やしてしまうことにもなり,待ち時間がクレームの最多原因になっていることを勘案すると,再考が必要です.医師が追加検査をオーダし,複数回の診察になる割合をチェックしたことがあります.受け持つ患者さんの状況にもよりますが,全医師で2.8%程度でした.そのなかで,複数診察する割合が35%前後の特異なケースがみつかりました.当院では,診察待ち状況が患者さんにわかるようになっていますが,図1に示すその画面をみると,一目瞭然,頻回に追加検査をオーダ,複数診察していることがわかります.図1の状況を,システムが提供する情報を使って詳しく調べることができます.トレースした結果を図2に示します.同じ患者が何回診察を受けているかの情報から,何回の追加検査を受けていることがわかります.このように,“時間を要しているようだ”をトリガに,(71)杉浦和史*医療情報システムが提供する情報の利活用(可視化)現場発,病院と患者のためのシステム連載………………………………….*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)医療機関にはさまざまな情報システムが導入され,多くの情報を提供しています.来院数,新患数,ベッド稼働率など,即物的なものから,医師を含むスタッフの稼働率(パフォーマンス)の把握,待ち時間の分析など,経営にかかわるものまでさまざまな用途があります.システムが提供する情報を積極的に使うことで,どのようなことがわかるかを例をあげて紹介します.図1追加検査を頻回に指示c図2同じ患者が追加検査を頻回に行っている状況c区分再来再来再来再来新患再来再来再来再来再来再来再来新患再来新患再来再来再来再来再来新患新患新患新患再来新患ID開始終了所要時間3368083103390461227104819000611609:5910:0310:1010:1410:1210:2210:1710:2810:5510:3710:3710:4410:5211:1811:1311:2211:3511:3911:4712:0511:4812:0012:3312:4212:5013:0809:5610:0010:0410:0610:1210:1410:1410:1810:2210:2810:3710:4010:4611:0611:1111:1511:2511:3511:3911:4611:4812:0012:3312:3612:4912:528441195803008149548370665000084794566832702844119840703580300814954500003750000898398535000088814954794371832702947684084050000895000087500008850000878327025000088 1416あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013システムが提供する情報を使って根拠のある原因調査ができます.例えば,再来で来院したID832702の患者さんは,10:14に3分間の1回目の診察で追加検査がオーダされ,2回目の診察が始まる11:35までの1時間18分の間,検査待ち→検査→診察待ちとなっていることがわかります.2回目の診察時間は4分です.ここで再び追加検査がオーダされ,11:39.12:49までの1時間10分待って3回目の診察を受けています.3回目の診察時間はわずか1分,改善の余地がありそうな感じがします.もし,2回出している追加検査のオーダを1回目の診察時にまとめて出せたら,患者さんにとっては移動回数が減り,待ち時間も減ることが期待できます.つまり,患者さんの診察終了時刻は12:50ではなく,もっと早く終わるはずです.現在開発中のHayabusaでは,どの検査を受けているかもわかるので,より詳細な分析と,分析に基づく有効な対策を採ることが可能です.ID814954の患者さんの2回目の診察時間が0となっているのは1分以内に診察が終わったことを示していますが,新患も1分以内で診察が終わり,検査オーダが出されているケースが4人あります.これらの場合も,Hayabusaが提供する情報を使って分析し,結果に基づき,効率向上のための施策を考えることができます..診察順の妥当性「あの人は私よりも後に来たのに,先に診察を受けた」というクレームはよく聞きます.どの医療機関でも,治療上の都合でやむを得ず順番を変更することがあるとの張り紙を見かけますが,受付してからどのくらいで診察が始まっているかにつき,再来患者の場合を調べたことがあります(表1).事前にオーダしていた検査の種類(難易度)と数にも(72)よりますが,おおよそ1時間待たされていることがわかります.13分しか待たずに済んでいる患者さんもいますが,この場合がクレームになっているはずです.この582470というIDの患者さんが,その後も早く処理されているかどうかの追跡調査可能なデータも採取できるので,一時的なものなのか,意図的な特別扱いかどうかを判断することができます.なお,表1中の待ち時間0は,VIPに区分されている患者さんで,首長など費やす時間に社会性があり,診察を待っている時間をその方面に向けるべきと判断している場合の特例です.以上,例をあげて説明してきましたが,システムが提供する通り一遍の情報をみるだけではなく,提供される情報を縦横に使いこなすことで,患者満足度を向上させ,ひいては病院の経営効率化に寄与するヒントが得られる可能性があることを理解していただければ幸いです.☆☆☆表1受付から診察開始までに要する時間c08:2708:5608:5609:0209:0509:1109:1309:2309:3109:3209:4209:42840972842961842961787025844887843117582470810356668482632881944481944409:1909:2610:1910:1710:1910:3109:2610:3410:3609:3210:3911:070:520:301:231:151:141:200:131:111:050:000:571:25ID受付時刻診察開始時刻待ち時間

タブレット型PCの眼科領域での応用 17.デジタルコミュニケーションツールとしての活用-その3-

2013年10月31日 木曜日

永田眼科クリニック■タブレット型PCのコミュニケーションツールとしての意義第17章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PC“iPadRetinaディスプレイモデル(米国AppleInc)”と“iPadmini(米国AppleInc)”のiOSバージョン6.1.3です.この章では発達障害や発声障害の患者や家族に対するデジタルコミュニケーションツールとしてのタブレット型PCの活用法を,患者の声とともに紹介していきます.■私のデジタルコミュ二ケーションツール活用法「発達・発声障害者編」タブレット型PCを臨床業務へ導入する以前,私は発達障害や発声障害などのコミュニケーションに障害をもつ患者との意思疎通に有効な手段をもっていませんでした.しかし,タブレット型PCの臨床業務への導入後は,発達障害や発声障害をもつ患者に対する意思疎通の方法は大きく変化しました.2013年8月現在,私の外来ではタブレット型PCの障害者向けアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)の活用法を,患者や患者家族とのデジタルコミュケーションツールとして紹介しています.①コミュニケーション支援アプリの活用タブレット型PCには多数のコミュニケーション支援アプリが存在しています.これらのアプリを起動すると,代表的な日常動作や感情を表すアイコンが表示されます.使用者はそれらのアイコンをタップすることでアイコンの内容が音声で読み上げられ,希望する動作や感情をリアルタイムに相手に伝えることが可能です(図(69)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY第17章としての活用─その3─三宅琢(TakuMiyake)1).また,アイコンや音声は任意に作成して追加することができるため,個人のニーズに合わせて設定したアイコンを用いることで,より快適な意思疎通を行うことができます.また,主語や述語,目的語を個別に選択することで簡単な会話文を任意に作成し,音声で読み上げてくれる高度なコミュニケーション支援アプリも存在しています.私の外来では患者とのコミュニケーション用のアイコンを事前に作成して,診察時の意思疎通の補助ツールとして利用しています(図2).感情や意志の出力に障害をもつ人がリアルタイムに自らの感情を出力することができるため,自然な会話の流れの中でコミュニケーションをとることが可能となります.このようなアプリの導入により,医師患者関係のみならず患者と患者家族との関係性も向上します.実際に導入した患者の家族の声には以下のようなものがあります.あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131413「これまで息子が何を考えているのか全くわからなかったけど,はじめて息子の考えていることが理解できました.」「以前は私が質問して子供が答える形が私たちの会話でした.最近は子供が自分の意志で感情や意志を表現できるので,本当に子供の声を聞いているような感覚になります.」シンプルなアプリであるために,患者は自発的かつ直感的にアプリを操作することが可能です.また,患者家族と患者とのコミュニケーション以外にも利用できるため,このアプリが自宅でのタブレット型PC導入の契機となった症例もあります.そのような家族の声には,以下のようなものがあります.「息子が使っていないときは,祖父が使っています.ときどき息子と祖父がこのアプリを使って会話しているときもあって,見ていて微笑ましいです.」コミュニケーション支援アプリを生活に導入することで,発達・発声障害の患者のみならず,自身の感情や意志を伝えることが困難なすべての人がコミュニケーション上の不便さを軽減することができるのです.■デジタルデバイス導入の意義3章にわたり,さまざまな障害者とのコミュニケーションツールとしてのタブレット型PCの活用事例を紹介しました.コミュニケーションにおける出力や入力が困難な人々にとって,タブレット型PCの安価なアプリが与える彼らの生活の変化はとても大きな意味をもっています.インフォームド・コンセントが重要視される現代の医学教育において,医学生は患者説明に関するさまざまな教育を受けています.医療面接の際に難解な医学用語などの専門用語を使用しないことや椅子の配置や身の向きなど,われわれはさまざまな医療面接におけるスキルを教育されて来ました.しかし,実際の臨床においては,それらのスキルに加えて個々の患者─医師間の意思疎通を向上させる仕組みが必要です.すなわち,医療者は患者が最も受け止めやすい形で情報を発信し,障害の有無にかかわらず患者の意志が抽出しやすい状況を設定することは,現代の障害者医療の現場ではきわめて重要であると私は強く感じています.より多くの医療機関で,コミュニケーションツールとしてタブレット型PCが活用されることで,障害者がコミュケーションの質を向上されられる日が来ると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆1414あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(70)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 125.妊娠により憎悪した増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(中級編)

2013年10月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載125125妊娠により増悪した増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●妊娠と糖尿病網膜症近年,糖尿病罹患率の増加により,糖尿病を有する女性の妊娠,出産が増加している.妊娠は糖尿病網膜症の悪化因子の一つとされており,活動性の高い網膜症を有する場合には,網膜症の沈静化を待つか,光凝固により網膜症の活動性を低下させたうえで,妊娠するように指導する計画妊娠が勧められている.また,妊娠後に増殖糖尿病網膜症(PDR)と診断されたときは,治療的妊娠中絶を選択することもある.●妊娠が硝子体手術後の予後不良の一因と考えられた1例症例は33歳,女性.初診時に両眼とも活動性の高いPDRを認めた(図1).光凝固を開始したが経過中に右眼の牽引性網膜.離が進行し,増殖膜処理中,特に出血の処理に苦慮することなく手術を終了した.術後視力は(0.4)に改善した.その後,左眼も同様に牽引性網膜.離が進行した(図2).しかし,その後妊娠(11週)していることが判明した.内科医,産科医と協議し,胎児奇形,糖尿病の悪化,網膜症の悪化などの妊娠継続のリスクを説明し,人工的妊娠中絶を勧めたが,本人および家族が妊娠の継続を強く希望したため,硝子体手術を妊娠16週に施行した.しかし,右眼と違い増殖膜処理時の出血は易凝血性であり,多数の医原性裂孔を形成した(図3).その後も左眼は再出血,再増殖をくり返し視力は(0.04)にとどまった.●妊娠が硝子体手術に与える影響妊娠が糖尿病網膜症に影響を与える因子として,心拍出量の増加による網膜血流量の増加,血中脂肪の増加,1412あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図1初診時の左眼眼底写真活動性の高い増殖糖尿病網膜症を認め,下方に硝子体出血をきたしていた.右眼もほぼ同じ所見であった.図2硝子体手術前の左眼眼底写真鼻側に増殖膜を認め,牽引性網膜.離が進行してきたため硝子体手術を施行した.眼底所見としては右眼の硝子体手術前とほぼ同様であった.図3左眼の硝子体手術中の所見増殖膜処理時の出血は易凝血性であり,多数の医原性裂孔を形成した.胎盤から分泌される各種ホルモンの影響,血小板凝集能の亢進などが指摘されている.本症例では,網膜症の重症度は硝子体手術施行時には左右ともほぼ同程度と考えられたが,妊娠16週に行った左眼の硝子体手術では出血は易凝固性で多数の医原性裂孔を形成し,再出血や再増殖の原因となった.妊娠中に血液凝固能が亢進することは知られているが,血小板数は非妊娠時から妊娠後期まで変化がない一方で,血小板粘着能は妊娠中期ごろより上昇するとされている.良好な視機能を温存するためには妊娠中であっても硝子体手術を施行するケースは今後もあり得るが,手術時に血小板凝集能や血小板粘着能の亢進により手術の難易度が高くなる可能性を念頭におく必要がある.(68)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 154.眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して

2013年10月31日 木曜日

第154回◆眼科医のための先端医療a0.5e/104M-1眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して向井亮(群馬大学医学部眼科学講座)はじめにイリジウム錯体(iridiumcomplex)は,腫瘍領域における腫瘍細胞のイメージングを目指して開発されてきたSNNIrSOOCH3H3CbIntensity(arbitaryunit)-111化合物です1).そのイメージングの基本原理は,低酸素状態でのみリン光を発しエネルギー状態を変遷させることができるイリジウム錯体の性質を利用したものです.腫瘍細胞では,著明な低酸素環境が生じていることが知られており,その結果,低酸素に対する生体応答であるcm0.500HIF-1aを介した転写因子により調節される系が働き,VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)やGlut-1などの標的遺伝子が誘導されます.従来のイメージングではこれらの因子をターゲットにし,ラジオアイソトープを用いた基材,PET(positronemissiontomography)による検出を目指した低酸素細胞の検出方法が開発されてきました.一方,イリジウム錯体を用いた低酸素領域の検出は,リン光の出現をイメージングする方法であり,従来の方法に比べ,安全に基材を調整することが可400500600700Wavelength/nmす3).眼灌流量の低下により網膜組織での酸素分圧の減弱がもたらされることが予想されますが,現在の一般検査機器では網膜内の低酸素状態をリアルタイムで検出することはできません.能です.また,検出器械の設備が簡素化するために,大変大きなメリットが見込まれます.今回,筆者らはこのイリジウム錯体を用いて,眼科領イリジウム錯体を用いた眼内のイメージングを行う実域における虚血性疾患での眼底イメージングの実現を目際のプロセスは,イリジウム錯体の静脈内投与を行い,指した基礎実験について紹介させていただきます.その後,眼底自発蛍光(fundus:FAF)のカメラを用い,500.600nmの励起光を用いて眼内を撮影する,という簡便な方法です.イリジウム錯体を投与前にFAFカ眼科領域における虚血性疾患としては,網膜動脈閉塞症を始め,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,未熟児網膜症,虚血性視神経症,眼虚血症候群などが,そして脈絡膜レベルでの虚血が関与する疾患として加齢黄斑変性などがあげられます.糖尿病網膜症においては,レーザードップラーの方法により,網膜動脈の血流が低下することが報告されています2).眼内への全血流量が低下する疾患がある一方で,網膜動脈分枝閉塞症では眼内の局所での網膜血流の減弱が生じていることが報告されていま(65)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYメラにて撮影した像が図2であり,イリジウム錯体が励起されているのがわかります.その後静脈内投与を行い,眼底を撮影することで,血管内に広がるイリジウム錯体をFAFカメラにて検出することが可能です.図3は正常家兎に対しイリジウム錯体の静脈内投与を行い数分後に眼底を撮影したものです.血管内と一部硝子体内に播種しているのがわかります.現在,筆者らは網膜血管の灌流領域内に虚血状態を作製し,その部位での低酸素状態に関しイリジウム錯体をあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131409用いて検討しております.眼科領域での虚血性動物実験モデル作製には,網膜血管を直接に光凝固する方法4),眼動脈を直接遮断する方法5)がありますが,現在,筆者らは前者の方法を利用して,眼虚血モデルを作製したうえでイリジウム錯体を静脈内投与し,その後低酸素領域にあるイリジウム錯体から放射されるリン光をFAFカメラにより検出することを試みています.現在までのところ,日本白色家兎を用い網膜血管の直接光凝固を行い,その翌日にイリジウム錯体を耳静脈から投与し,FAFカメラにて眼底撮影を行ったところ,レーザー領域に一致した部位で,眼底自発蛍光の増強が確認されています.図3正常家兎にイリジウム錯体を静注し眼底自発蛍光カメラにて観察した眼底像文献1)ZhangS,HosakaM,YoshiharaTetal:Phosphorescentlight-emittingiridiumcomplexesserveasahypoxia-sens-ingprobefortumorimaginginlivinganimals.CancerRes70:4490-4498,20102)NagaokaT,SatoE,TakahashiAetal:Impairedretinalcirculationinpatientswithtype2diabetesmellitus:reti-nallaserdopplervelocimetrystudy.InvestOphthalmolVisSci51:6729-6734,20103)大前恒明,高橋淳士,長岡泰司ほか:【症例】網膜動脈循環動態変化を測定した網膜動脈分枝閉塞症の1例.日眼会誌113:800-807,20094)HillDW,YoungS:Retinalvascularocclusioninthecatbyphotocoagulation:trialofanewinstrument.ExpEyeRes16:467-473,19735)FujinoT,HamasakiDI:Theeffectofoccludingthereti-nalandchoroidalcirculationsontheelectroretinogramofmonkeys.JPhysiol180:837-844,1965■「眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して」を読んで■今回は向井亮先生(群馬大学眼科)の意欲的な眼行うことにより,リアルタイムに網膜が低酸素状態に科検査法開発についての解説です.網膜の虚血によりあるかどうかを臨床的に調べることができる可能性を多くの疾患,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などが発示したことに大きな意義があります.今後,ヒトに投症することはよく知られ,虚血網膜から産生される血与することのできる安全で有効な検査薬が開発されれ管内皮増殖因子(VEGF)が網膜血管バリアー機能障ば,いままで困難であった直接的な網膜の低酸素状態害や血管新生を引き起こす分子病態が明らかになってを検出することができるようになります.きているのは,眼科医の常識になりつつあります.網現在の網膜循環障害に対する治療法開発のトピック膜の虚血を調べる臨床検査は,実は「網膜が低酸素状スは抗VEGF薬の開発です.今後,糖尿病網膜症の態にあるか?」を調べているのではなく血流が低下し特に黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫の治療ている状態を調べています.向井先生のユニークな研薬として期待されている抗VEGF薬の大きな問題は,究は,イリジウム錯体を用いた眼内のイメージングをどのような症例にどのようなプロトコールで投与する1410あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(66)かという問題を臨床検査をもとにエビデンスをもって清水弘一教授,岸章治教授と続く網膜疾患研究の解決することです.網膜が現時点で低酸素状態にあるメッカであり,このような教室から新しい網膜疾患検ことが明確に示されれば治療法決定に大きな助けとな査法が開発されることは偶然ではなく大きな意義を有ります.また,治療ターゲットを低酸素状態にするこすると考えます.この研究がぜひ,臨床現場で使用可とで新しい発想の治療薬の開発が進むかもしれませ能な検査法として確立されることを願ってやみません.ん.今回の向井先生の所属しておられる群馬大学眼科は山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(67)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131411

新しい治療と検査シリーズ 210.α2受容体作動薬-ブリモニジン

2013年10月31日 木曜日

210.a2受容体作動薬―ブリモニジンプレゼンテーション:相原一四谷しらと眼科コメント:山本哲也岐阜大学大学院医学系研究科眼科学.バックグラウンド交感神経a2受容体作動薬は鎮静鎮痛薬としてのキシラジンが古くから有名であるが,非選択的交感神経作動薬であるエピネフリンが眼圧を下降させることから,選択性のあるa2受容体作動薬であるクロニジンが開発された経緯がある.残念ながらクロニジンは眼圧下降効果はあるものの中枢性のa2受容体刺激による低血圧,傾眠などの副作用が著明であり,眼圧下降薬として開発さHClれなかった.その後,血液脳関門を通過しにくいアプラクロニジンが開発されたが,散瞳,結膜蒼白,眼瞼退縮,口渇感により長期連用できず現在は前眼部のレーザー照射時に一時的に使用されていることはご存じのとおりである.血液脳関門を通過しにくく,副作用の少ない薬剤探索の結果,ブリモニジンが開発され,日本でもようやく海外に遅れること10年,2012年に上市された(図1).1日2回点眼により有意な眼圧下降効果が得られ,基本的に主要な眼圧下降薬と併用効果もあり,全身[クロニジン塩酸塩][アプラクロニジン塩酸塩]HOHHO2CCO2HHOH[ブリモニジン酒石酸塩]分子量:442.22(酒石酸塩),292.13(遊離塩基)図1a2受容体刺激薬ブリモニジン酒石酸塩と類薬の化学構造(61)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201314050910-1810/13/\100/頁/JCOPY視野障害進行患者割合0.70.60.50.40.30.20.10.0図2a2作動薬ブリモニジンの眼圧下降以外の神経保護効果の可能性ブリモニジン群がチモロール群より.副作用(アレルギー)で脱落が多い(28.3%vs11.4%)..視野の進行例が有意に少ない(9.1%vs39.2%).初めて大規模スタディにより眼圧下降以外の作用による緑内障神経保護効果を示した報告.(KrupinT,etal:AmJOphthalmol2011)048121620242832経過(月)性の副作用もb遮断薬より少なく使用しやすい薬剤である.興味深いことに古典的a2受容体作動薬のキシラジンと同様に,神経保護効果に対する報告がきわめて多い薬剤であり,培養細胞実験系から動物実験まで幅広く眼圧負荷だけでなく神経細胞死を起こすストレスに対しての保護効果が示唆されている.唯一多施設無作為化並行群間比較試験による眼圧下降以外の神経保護効果を示唆する臨床効果が報告されている薬剤であり(図2)1),眼圧下降効果だけでなく,将来の神経保護薬としての可能性を秘めた薬剤である..新しい治療法ブリモニジンは血液脳関門を通過しにくく,なおかつa2受容体選択性の高い薬剤であり,交感神経シナプス末端および毛様体に存在するa2受容体に結合し刺激する.房水動態ではブリモニジンにより房水産生抑制と主としてぶどう膜強膜路経由の房水流出促進が得られるこ36404448とで眼圧が下降する.a2受容体にはサブタイプがあるが,特にa2A受容体に選択性が高いため全身末梢性a2受容体刺激がきわめて少なく,呼吸器系や循環器系に末梢レベルでの副作用を惹起しない.既存の主要な眼圧下降選択薬であるプロスタグランジン関連薬,交感神経b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とは作用点が異なることで併用効果が得られる.眼圧下降は単独ではプロスタグランジン関連薬には劣るが,プロスタグランジン関連薬への追加効果では点眼b遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬と同等の効果が得られる2)..使用方法1日2回点眼を他の薬剤により十分な眼圧下降効果が得られないときに追加処方することが基本である.作用機序から非選択性交感神経作動薬であるピバレフリンとは併用すべきではないが,他の眼圧下降薬とは併用可能である.副作用として中枢神経系に作用した場合,傾表1交感神経a2受容体作動薬ブリモニジン酒石酸塩の特徴製品名アイファガンR(千寿製薬)作用点交感神経a2受容体刺激眼圧下降機序房水産生抑制とぶどう膜強膜路房水流出促進眼圧下降効果b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とほぼ同等他の薬剤で十分な眼圧下降効果が得られないときの追加適応併用点眼薬使用方法1日2回点眼慎重投与循環器系のリスクが高い高齢者緑内障,脳血管障害,起立性低血圧の患者禁忌低出生体重児,新生児,乳児,2歳未満の幼児おもな副作用アレルギー性結膜炎,ふらつき,めまい,低血圧1406あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(62)眠,中枢性a2A受容体を介した血圧低下が起こりうる.しかし,基本的には血液脳関門を通過しにくい薬理学的性質をもつが,個人差があることに留意する.また,局所的には長期使用により濾胞性アレルギー性結膜炎が生じやすい.慎重投与は循環器系のリスクが高い高齢者緑内障,脳血管障害,起立性低血圧の患者,また血液脳関門が十分発達していない低出生体重児,新生児,乳児,2歳未満の幼児には禁忌である..本方法の良い点プロスタグランジン関連薬には劣るものの十分な眼圧下降効果が得られ,全身的に副作用が少なく,既存の眼圧下降薬のほとんどと併用効果がある使用しやすい薬剤である.プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬についで有用な選択肢が増えたことにより,点眼眼圧下降治療は一層充実したものとなった.特に呼吸器系,循環器系疾患によりb遮断薬が使用できない患者にも,製剤としては塩化ベンザルコニウム非含有であり,それに対してアレルギーが認められる患者にも使用可能である.文献1)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Low-Pres-sureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbri-monidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20112)ChengJW,LiY,WeiRL:Systematicreviewofintraocu-larpressure-loweringeffectsofadjunctivemedicationsaddedtolatanoprost.OphthalmicRes42:99-105,2009.本治療薬に対するコメント.ブリモニジンは昨年日本に導入された新規薬理作用作用である.後者は遅発性(通常2.3カ月以上使用を有する緑内障治療薬であり,良くも悪くもユニーク例)かつ頻度の高いことに留意する必要がある.ブリな薬剤である.眼圧下降効果はb遮断薬と同等あるモニジンの神経保護作用に関して眼圧下降に差のないいはやや弱い程度であり,また1日2回点眼であるこチモロール投与例と比較して視野変化が少なかったととからも第一選択薬としては使用しにくい.また,幼いう報告(図2)が確かにある.しかしながら,当該児には使えない.しかしながら,b遮断薬と比較して論文についてはAJOのEditorial(2011年11月号)全身副作用が軽度である,他剤との併用時にも相性がなどの批判もあり,可能であれば日本人正常眼圧緑内良い,などの使いやすさがある.傾眠とアレルギー性障患者を対象とした追試験が望まれる.結膜炎は処方開始時に伝えておかなければいけない副☆☆☆(63)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131407