監修=坂本泰二◆シリーズ第142回◆眼科医のための先端医療山下英俊大型黄斑円孔へのInvertedILMFlapTechnique手術山下敏史(鹿児島大学医学部眼科学)黄斑円孔の閉鎖率は本当に高いのか?現在,黄斑円孔(MH)に対する硝子体手術は,内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離およびガスタンポナーデが広く行われています.この方法による初回手術後の円孔閉鎖率は9割を超えると報告されています.しかし,本当にそうでしょうか?確かに円孔径が小さいMHではそのとおりですが,円孔径が500μmを超える大型MHの閉鎖率は約6割にとどまります.大型MHの頻度は,決して高くはありませんが,この病態への治療法は確立しておらず,まだ改良が必要なのです.InvertedILMFlapTechnique(ILM翻転法)大型MHの治療成績を改善するには,どうすればよいでしょうか?大型MHの閉鎖率が悪いのは,ILM.離によって網膜の伸展性を改善しても,網膜量が不十分なためだと考えられます.MHが手術によって閉鎖するメカニズムは,まだ本当にはわかっていませんが,少なくともMHによる欠損部を何かで補うことが必要なようです.このコンセプトで,2010年にエール大学のMichalewskaらがILM翻転法について報告しました1).ILM翻転法の実際通常のILM.離は,黄斑を中心にILMを約2乳頭径大ほど.離・除去します.それに対して,ILM翻転法ではILMを円周方向に.離しますが,円孔縁は意図的に残したうえ,上部のみを硝子体カッターで切除・トリミングします.このILMが円孔をあたかも蓋のようにシールドすることで円孔を閉鎖させるという考え方です(図1).円孔部が閉鎖されれば,網膜色素上皮による吸引圧により,MH周囲の網膜もMH中央に寄せられて最終的にMHが閉鎖されます.通常のILM.離のみの(55)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1ILM翻転法の術中イメージ図InvertedILMflap表1大型MHの治療成績(連続症例7眼)症例最小円孔径(μm)円孔底径(μm)術前視力術後視力(3カ月)術後視力(6カ月)症例①5801,2940.30.40.5症例②6741,0430.10.10.2症例③5717580.070.40.8症例④5841,0880.060.30.5症例⑤8351,4400.10.30.3症例⑥5267860.040.30.3症例⑦5869610.20.50.5手術に比べ,若干手術が煩雑になりますが,問題なく施行可能です.術後早期の成績筆者らの施設でも,大型MHの治療成績は満足のゆくものではありませんでした.そこで,十分に検討をした後,大型MHに限って同法を施行しています.初期の限られた症例についての成績を示しますが,全例初回手術でMH閉鎖が得られており,術後視力も改善しています(表1).現在は,観察期間および症例数も増加していますが,特筆すべき合併症はないようです.ILM翻転法術後早期の光干渉断層計検査(OCT)OCTによる黄斑部の所見は,MHの診断や治療結果を示す客観的な根拠となり,必要不可欠な検査です.手術後早期のガスタンポナーデ眼に対するOCT撮影が可能であることを以前に報告しましたが,再現性や信頼性も十分ではありませんでした2).そのため,撮影できないものにはWatzke-Allenslitbeam検査などを手術の前後に行って,それによってMHの閉鎖を早期に確認しました3).Watzke-Allenslitbeam検査は簡便な方法あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121371AB図2大型MH(Stage4,術前最小円孔径≒600μm)の一例A:術前のOCT,最小円孔径が500μmを超える大型MH.B:ILM翻転法手術,翌朝のガス下OCT,網膜の連続性=円孔は閉鎖しているようにみえるが,円孔内部に圧縮されたILMを認める,本当に円孔閉鎖なのかの判断はむずかしい.C:術後1カ月目のOCT,円孔は閉鎖しているが,数枚のILMFlapが観察される.でsensitivityは高いためほぼすべての症例に施行可能ですが,specificityが低いために,単独検査では診断がつきません.そこで,技術改良を進めた結果,きわめて鮮明なガス下OCTが撮影可能であることを見出しました4).最近は,MHに限らずガスタンポナーデ眼に対し全例OCTを撮影していますが,ほぼ100%の症例において鮮明な画像を得ることに成功しています.CirrusHD-OCTを用いた方法を略述します.①眼底フォーカス(Focus)の調整を.20D(限界値)に設定,②アライメント画面とリアルタイムのBスキャン像を確認しながら,より鮮明な画像が撮影可能な場所を調整し,瞳孔中心ではなく上外側に少しずらす,③HD5linerasterモード(Spacing:0.025mm)でスキャンし,水平断だけでなく垂直断も含め何回か測定するなどの注意をして当科では施行しています.非大型MH術後早期のOCTでは,時間とともに円孔が(全層にわたり)閉鎖していく様子が明瞭に描出されますが,大型MHの場合はもともとの大きな円孔内に折りたたまれて圧縮されたILMが描出され,閉鎖した円孔との区別がむずかしいことが多いです(図2).考察―今後の課題既報告は,大型MHに対する初回手術の円孔閉鎖率は6割程度ですから,閉鎖困難と考えられる大型MHに対しILM翻転法は非常に有用であると考えられます.しかし,視力などの長期予後については今後の慎重な検討が必要と考えられます.また,ガス下OCTにより術後極早期の網膜微細構造の変化や手術時手技の有用性などが,今後明らかになっていくことが期待されます.文献1)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invertedinternallimitingmembraneflaptechniqueforlargemacularholes.Ophthalmology117:2018-2025,20102)MasuyamaK,YamakiriK,SakamotoTetal:Posturingtimeaftermacularholesurgerymodifiedbyopticalcoherencetomographyimages:apilotstudy.AmJOphthalmol147:481-488,20093)YamakiriK,SakamotoT:Earlydiagnosisofmacularholeclosureofagas-filledeyewithWatzke-Allenslitbeamtestandspectraldomainopticalcoherencetomography.Retina32:767-772,20124)YamashitaT,YamashitaT,SakamotoTetal:Earlyimagingofmacularholeclosure:Adiagnostictechniqueanditsqualityforgas-filledeyeswithspectraldomainopticalcoherencetomography.Ophthalmologica,inpress■「大型黄斑円孔へのInvertedILMFlapTechnique手術」を読んで■今回は山下敏史先生による黄斑円孔(MH)の手術かし,大型MHについては手術後の円孔の閉鎖率も法の開発についてのわかりやすい総説です.小型に比較して悪く,治療の新しい展開が求められてMHのうち,特に円孔径の小さな症例での手術成績いました.これに対する新しいチャレンジが今回のは良好であり,視力予後も良好になってきました.しInvertedILMFlapTechnique手術です.閉鎖率を上1372あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(56)げるためにMHによる欠損部をILM(内境界膜)で補して,網膜の創傷に対する組織反応を明らかにできるうという大変卓越したアイデアでの手術です.以前は成果を期待させます.なかなかいい動物モデルのでき円孔閉鎖率が約6割であったのが,新しい手術方法でないMHのような疾患の病態とその治癒メカニズムは全例初回手術でMH閉鎖が得られて,術後視力もの研究方法として大変興味深く,その成果が待たれま改善しているという素晴らしい結果を山下先生は示しす.ておられます.再生医学の急速な進歩によっても網膜組織の再生はその結果もさることながら,MHの手術でなぜ円孔きわめて困難が予想されます.もともと網膜の一部のが閉鎖するのかというきわめて基本的な疑問に対し欠損がある程度ではありますが,医師の手術での創傷て,今回の進歩は新しい網膜の創傷治癒のメカニズム治癒の過程を経て形態学的にも機能的にも(視力の向解明の希望を抱かせます.すなわち,ガス下OCTに上)回復することは,網膜再生のモデルをみているよより術後ごく早期の網膜微細構造の変化を観察する技うな感をもちます.鹿児島大学のグループの研究がこ術については,鹿児島大学の研究グループが世界に先のような方向に実を結ぶことも考えられます.駆けて開発し,素晴らしい画像を含めた論文で世界を山形大学医学部眼科学山下英俊あっといわせた技術です.このようなアイデアを駆使☆☆☆(57)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121373