特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):743.749,2012特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):743.749,2012視神経疾患のOCTとHumphrey静的視野検査OCTandVisualFieldbyHumphreyFieldAnalyzerinOpticNerveDisease藤本尚也*横山暁子*はじめに近年,網膜の層構造を近赤外光を用いて解析する光干渉断層計(OCT)が開発され,スキャンスピード,演算法の改良でより多くのスキャン数が可能となったスペクトラルドメインOCTが主流となり,網膜解像度の上昇と網膜層の分層化も細かくできるようになった.視神経乳頭周囲網膜神経線維層だけでなく,網膜神経節細胞層も検出でき,黄斑部網膜内層の解析も可能となった.CirrusOCT(CarlZeiss)は乳頭を中心に6×6mmの範囲で,200×200スキャンで,乳頭および乳頭周囲の網膜神経線維層厚を測定する.2,500(50×50)ピクセルの面で網膜神経線維層厚の分布(deviationmap)を表す.正常からの確率表示で,赤(1%未満),黄(5%未満)で示される.基本視神経周囲すべての線維をカバーするので視野は全視野となる.乳頭解析は辺縁部面積(rimarea),陥凹乳頭比(C/Dratio)などを示す.黄斑部網膜内層厚は6×6mmの範囲で200×200スキャン,512×128スキャンで,1°ごと360本の解析を車軸上に行う.GCA(ganglioncellanalysis)は網膜神経節細胞および内網状層厚を測定し,その分布(deviationmap)を表す.平均(average)の厚み,360本のなかで最小(minimum)軸の厚みを示し,黄斑部を6セクターに分け,それぞれ平均の厚みを示し,正常からの確率表示で,赤(1%未満),黄(5%未満)で示される.測定範囲は中心窩を中心に約10°となる.再現性1),緑内障性異常検出2)にすぐれている.乳頭黄斑線維部の障害が明確図1CirrusOCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)プリントアウトの見方A:Signalstrengthを確認(6以上).B:temporalraphesignの確認,背景の明るさのチェック.C:乳頭黄斑線維障害の有無のチェック(右眼は右,左眼は左).D:垂直線で黄斑分割される障害のチェック.E:緑内障性障害のチェック(耳側障害が多い).F:6セクターの異常チェック.G:平均(average)厚,最小(minimum)厚の異常チェック.*NaoyaFujimoto&AkikoYokoyama:井上記念病院眼科〔別刷請求先〕藤本尚也:〒260-0027千葉市中央区新田町1-16井上記念病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(21)743にわかり,右眼は右,左眼は左が乳頭黄斑線維部である(図1).I視神経疾患においてOCT異常と視野異常とどちらが先行するのか視神経疾患でOCT異常が視野より先行するのは,緑内障性視神経障害である.網膜神経節細胞死がある程度の割合で生ずれば,視野障害となる.緑内障で視野障害が先行するのは,眼圧が高度に上昇した虚血が関与した場合である.他の視神経疾患,視神経炎,虚血性視神経症,圧迫性視神経症,外傷性視神経症などは視野障害が先行し,網膜神経節細胞の消失が後に生じる.脱髄,虚血,圧迫が急性期の視野障害の原因となり,後に網膜神経節細胞の障害が生じ,慢性期の視野障害となりOCT所見と視野所見が一致する.視交叉部の腫瘍では,網膜神経線維層,網膜神経節細胞の障害が軽度であれば,腫瘍除去で,視野が改善しうる3).II視神経疾患のOCT所見1.緑内障性視神経障害OCTでは乳頭周囲網膜神経線維層の菲薄,黄斑部網膜神経節細胞の消失をきたす.網膜神経線維層は耳側を中心に菲薄化し,後期となると,全体に菲薄化する.OCTによる乳頭周囲網膜神経線維層厚とHumphrey視野30-2の全体的な視野指標MD(平均偏差)は相関を示す4,5)が,ごく初期例はOCTの変化のみが起こる.網膜神経線維層厚の経時変化とHumphrey視野経時変化は全体でみると必ずしも一致しない6).黄斑部網膜神経節細胞は,原則黄斑耳側から障害が始まり,網膜神経線維に沿って鼻側へ進行していく.黄斑部網膜神経節細胞の耳側の障害は上下にtemporalrapheで障害の程度差から分離すること(temporalraphesign)が特徴で(図2),CirrusOCTのGCAで緑内障眼の約7割に認められる.その他の疾患では網膜動脈分枝閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症,虚血性視神経症などでもみられる.乳頭周囲網膜神経線維層厚と黄斑部網膜神経節細胞厚の経時変化はある程度相関する.黄斑部網膜内層厚解析で6×6mmの範囲では視野約10°(10-2)が対応する(図3).2.視神経炎,外傷性視神経症急性期,OCTでは正常所見か網膜神経線維の腫大により,乳頭周囲の網膜神経線維層厚は増加する.その図2緑内障性視神経障害左はOCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)で右眼の耳側に障害の上下差を示すtemporalraphesign(矢印)で緑内障性変化の特徴と考える.右上は右眼で,下方から鼻側に異常を示すが,背景が暗く,右下は散瞳して再検すると異常はほぼ消失するので,ノイズと考える.744あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(22)30-210-10-2GCARNFL図348歳,女性,右眼正常眼圧緑内障左上段はHumphrey視野30-2サマリーで,下方視野の悪化を示す.右上段はHumphrey視野10-2でも下方視野に悪化を示し,右中段はOCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)でも視野に対応する上方部分が悪化(矢印),右下段はOCT乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)でも上方網膜神経線維層菲薄化(矢印)をきたしている.後,網膜神経線維層の菲薄化,網膜神経節細胞の消失をきたし(図4),障害部位に対応した視野異常の障害となる.外傷か詐病かの視神経萎縮の鑑別診断にOCT所見が最も有用となる.3.虚血性視神経症急性期は網膜神経線維の腫大により,OCTで乳頭周囲網膜神経線維層厚は増加する.その後,網膜神経線維層の菲薄化,網膜神経節細胞の消失をきたし障害部位に対応した視野異常となる(図5).4.視神経低形成視神経全体の低形成では,先天的に全体の網膜神経線(23)維層の菲薄,部分低形成は,低形成部の網膜神経線維層の菲薄をきたし,その部に対応した視野異常となる.しかし,部分低形成でもびまん性に網膜神経線維層の菲薄をきたすことが報告されている7,8).視神経低形成のうちで上方視神経低形成では経過によって緑内障性変化をきたすことがあり,OCTおよびHumphrey視野計による経過観察が必要である9).5.圧迫性障害,外傷性障害(視交叉,視索)腫瘍,外傷による視神経,視交叉,視索の障害で,逆行性変性による視神経萎縮がOCTの網膜神経線維層厚および網膜神経節細胞の障害で明確になる.両耳側半盲の乳頭周囲網膜神経線維層は鼻側と乳頭から黄斑を通るあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012745左30-30-2右RNFLGCA図460歳,女性,両視神経炎後視神経萎縮(右下段)視力両眼1.2,Humphrey視野30-2(左上段)正常と改善した.左下段:OCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA),右上段:OCT乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)で高度の菲薄をきたしている.30-2GCARNFL図575歳,男性,左前部虚血性視神経症急性期左乳頭腫脹(左上段),上方視野欠損をきたし,3カ月後,視神経萎縮を呈した(右下段).中央上段:OCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)で下方に異常を呈し,中央2段目:OCT左乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)で上下の菲薄を呈し,右上段:Humphrey視野30-2も上を中心に狭窄を呈した.746あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(24)左左30-2右左30-2右GCARNFL図641歳,女性,頭蓋咽頭腫上段:Humphrey視野30-2では,両耳側半盲,左上:nasalcyclingをきたし,中段:OCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)で黄斑を通る垂直線で分割される両鼻側の異常と左下耳側に伸びる異常,下段:OCT乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)で両乳頭黄斑線維障害と鼻側の菲薄を呈した.xx図7視交叉病変による両耳側半盲をきたす,逆行性視神経萎縮の模式図黒線が網膜神経線維の障害(乳頭黄斑線維と鼻側),水色領域が網膜神経節細胞の障害,青色円はOCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)領域.(25)GCARNFL図844歳,女性,左外傷性視索障害上段:Humphrey視野30-2では,右同名半盲,中段:OCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)で黄斑を通る垂直線で分割される右鼻側の異常,垂直線で分割される左耳側の異常,下段:OCT乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)で右乳頭黄斑線維障害と鼻側の菲薄,左上下耳側の菲薄を呈した.xx図9視索病変による右同名半盲をきたす,逆行性視神経萎縮の模式図黒線が網膜神経線維の障害(右:乳頭黄斑線維と鼻側,左:上下耳側),水色領域が網膜神経節細胞の障害,青色円はOCT黄斑部網膜内層厚解析(GCA)領域.あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012747右右R左GCARNFL図1052歳,女性,両後頭葉梗塞MRI(磁気共鳴画像)のT2強調画像(左)で両側後頭葉の高信号(矢印)を認めた.右上段:Humphrey視野30-2では,両側同名半盲,右中段:OCT黄斑部内層厚解析(GCA)にて黄斑左側垂直線で分割される右耳側の異常,黄斑左側垂直線で分割される左鼻側の異常,右下段:OCT乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)では明らかな菲薄を認めなかった.垂直線まで乳頭黄斑部障害をきたし,黄斑部網膜内層厚では黄斑を通る垂直線で分割される両鼻側異常をきたす(図6,7).同名半盲の乳頭周囲網膜神経線維層は,耳側半盲側は両耳側半盲と同じで鼻側と乳頭黄斑部障害をきたし,鼻側半盲側は,上下の耳側網膜神経線維層の菲薄をきたす.黄斑部網膜内層厚では耳側半盲側は黄斑を通る垂直線で分割される鼻側異常,鼻側半盲側は垂直線で分割される耳側異常をきたす(図8,9).視野の両耳側半盲,同名半盲ともOCT黄斑部網膜内層厚は同じ側の障害となる.視交叉部腫瘍において術前の黄斑部網膜内層厚は,腫瘍切除術後の視野障害の程度と一致し3),術前網膜神経節細胞が保たれていれば,視野は改善する.6.脳梗塞外側膝状体梗塞は,逆行性変性により,視神経萎縮をきたし,OCTの網膜神経線維層厚,網膜神経節細胞の障害をきたす.問題は神経シナプスをかえた視放線以後の中枢での脳梗塞でも網膜神経節細胞の消失をきたすことがある(図10)10).後頭葉梗塞での網膜神経節細胞の消失は,シナプスをこえた逆行性変性なのか,後大脳動脈枝の外側後脈絡叢動脈閉塞による外側膝状体梗塞の影響なのかは今後の検討で明確となるだろう.IIIOCT所見と視野所見視神経疾患においてOCTの所見から必ずしも視野異常を読むことはできない(図4).OCT所見はあくまで,細胞や神経の厚みを測定しているだけで,機能を反映し30-2748あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(26)ていない.また,どの程度の神経線維,細胞障害で,視野障害をきたすのかは,疾患によって異なる.ただ,OCTを測定することによって,半盲性疾患を検出でき,内頸動脈瘤による視索障害も検出しうる.特に黄斑部網膜内層厚の解析は,視野の10°と限られた範囲とはいえ,緑内障,半盲,乳頭黄斑線維障害などにすぐれた異常検出することができるので,神経眼科領域でルーチン検査として用いるべきであろう.ただ,OCTの黄斑部網膜内層厚に障害がないからといって,視野の半盲性疾患を否定できるわけではないので注意を要する.中枢からの逆行性の網膜神経節細胞障害は,ある程度の障害(外傷),圧迫と時間を要する.■用語解説■Temporalraphe:耳側網膜での水平分離線を,temporalraphe(縫線)という.神経線維がtemporalrapheで上下に分かれていて,交通はない.乳頭黄斑線維:黄斑から乳頭へ向かう神経線維で,その部の障害は中心視野,視力に影響を及ぼす.逆行性変性:神経線維が,細胞体へ向かって変性していくことで,眼では外側膝状体,視索,視交叉から視神経萎縮,網膜神経節細胞死をきたす.文献1)MwanzaJC,OakleyJD,BudenzDLetal:Macularganglioncell-innerplexiformlayer:Automateddetectionandthicknessreproducibilitywithspectraldomain-opticalcoherencetomographyinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci52:8323-8329,20112)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Gangliondiagnosticaccuracyofganglioncell-innerplexiformlayerthickness:Comparisonwithnervefiberlayerandopticnervehead.InvestOphthalmolVisSci,inpress3)MoonCH,HwangSC,KimBTetal:Visualprognosticvalueofopticalcoherencetomographyandphotopicnegativeresponseinchiasmalcompression.InvestOphthalmolVisSci52:8527-8533,20114)LeungCK,ChengCY,WeinrebRNetal:Retinalnervefiberlayerimagingwithspectral-domainopticalcoherencetomography.Avariabilityanddiagnosticperformancestudy.Ophthalmology116:1257-1263,20095)横山暁子,藤本尚也:緑内障におけるspectraldomainOCTによる網膜神経線維厚と視野との相関.眼科52:1077-1082,20106)LeungCK,ChiuV,WeinrebRNetal:Evaluationofretinalnervefiberlayerprogressioninglaucoma.Acomparisonbetweenspectral-domainandtime-domainopticalcoherencetomograpghy.Ophthalmology118:1558-1562,20117)LeeHJ,KeeC:OpticalcoherencetomographyandHeidelbergretinatomographyforsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthalmol93:1468-1473,20098)HayashiK,TomidokoroA,KonnoSetal:Evaluationofopticnerveheadconfigurationsofsuperiorsegmentaloptichypoplasiabyspectral-domainopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol94:768-772,20109)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神経眼科24:426-432,200710)YamashitaT,MikiA,IguchiYetal:Reducedretinalganglioncellcomplexthicknessinpatientswithposteriorcerebralarteryinfarctiondetectedusingspectral-domainopticalcoherencetomography.JpnJOphthalmol,inpress(27)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012749