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強膜内陥術後にみられた続発緑内障の1例

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):391.395,2013c強膜内陥術後にみられた続発緑内障の1例山本麻梨亜新明康弘新田卓也齋藤航陳進輝石田晋北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野ACaseofSecondaryGlaucomaDevelopedafterScleralBucklingMariaYamamoto,YasuhiroShinmei,TakuyaNitta,WataruSaito,ShinkiChinandSusumuIshidaDepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine半年以上経過した陳旧性の裂孔原性網膜.離の23歳,男性に対し,強膜内陥術を施行した.初回手術でエクソプラントを施行したが,術後再.離がみられたため,再度輪状締結併用インプラントを行い,復位が得られた.しかし,初回手術直後から眼圧上昇をきたし,再手術により網膜が復位した後も高眼圧は続いた.抗緑内障薬を使用し,さらにステロイド薬を中止しても眼圧下降が得られず,初回手術から3週間にわたり高眼圧が持続した.線維柱帯切開術を施行したところ,十分な眼圧下降が得られ,有効であった.A23-year-oldmalediagnosedwithrhegmatogenousretinaldetachmentthathaddevelopedforover6monthswasreferredtoahospital.Afterweperformedscleralbucklingwithasiliconeexplantmaterial,theretinadidnotreattach.Afterthesecondsurgery,inwhichweusedasiliconeimplantcombinedwithanencirclingband,theretinareattached.However,thepatient’socularhypertensiondidnotdecreasefor3weeksafterthefirstscleralbucklingprocedure,despitemaximumanti-glaucomatherapyanddiscontinuationofcorticosteroid.Wethenperformedatrabeculotomy,whichsucceededinreducingtheintraocularpressure,provingtheproceduretobeeffective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):391.395,2013〕Keywords:裂孔原性網膜.離,強膜内陥術,続発緑内障,トラベクロトミー.rhegmatogenousretinaldetachment,scleralbuckling,secondaryglaucoma,trabeculotomy.はじめに裂孔原性網膜.離眼では,さまざまな機序により眼圧の変化が起こることが知られている.一般的に裂孔原性網膜.離眼では,50%の症例で術前眼圧が低下し,40%は不変,約10%で上昇をきたすといわれている1).眼圧下降の機序として,以前は毛様体機能の低下とされてきたが,近年の研究では,網膜裂孔部から脈絡膜へ流出するmisdirectedflowによる房水流量の減少もその原因と考えられている2).一方,眼圧上昇をきたす機序としては,外傷性緑内障の併発の他に,視細胞外節の前房中への移行によるSchwartz症候群などが知られている3,4).さらに網膜.離に対して強膜内陥術を選択した場合には,特に輪状締結の併用にかかわらず,眼圧上昇が起こる可能性がある5).裂孔原性網膜.離の場合,その緊急性から網膜.離手術が優先して行われることになるが,同時に眼圧に対しても注意を向ける必要がある.今回筆者らは,裂孔原性網膜.離の強膜内陥術後に持続性の高眼圧をきたした症例に対し,線維柱帯切開術(トラベクロトミー)を行い,良好な結果を得たので報告する.I症例患者は23歳,男性.近医を受診した際に左眼の網膜.離を指摘されたが,陳旧性のもので現在は落ち着いているといわれ,約半年間経過観察をしていた.その後本人が不安になり,手術治療を希望したため,当院を紹介された.外傷やアトピー性皮膚炎などの既往歴はなく,家族歴にも特記すべき事項はなかった.当院初診時の視力は,右眼0.3(1.2×sph.3.5D(cyl.1.5DAx10°),左眼0.02(0.07×sph.5.5D(cyl.2.0DAx170°).眼圧は,右眼16mmHg,左眼10mmHgであった.左眼の前房中に細胞がわずかにみられた.左眼眼底は,下方に網膜下索状物を伴った黄斑部にまで及ぶ丈の低い網膜.離があり,鼻上側に原因と思われる萎縮性の円孔と小裂孔がみられた(図1).右眼眼底には異常所見はみ〔別刷請求先〕山本麻梨亜:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野Reprintrequests:MariaYamamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,N-15,W-7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(105)391 網膜下索状物黄斑部を含む丈の低い網膜.離原因裂孔?はっきりした毛様体.離は(ー)網膜下索状物黄斑部を含む丈の低い網膜.離原因裂孔?はっきりした毛様体.離は(ー)図1初診時の眼底チャート10時半の鼻上側に原因と思われる萎縮性の円孔と小裂孔がみられ,黄斑部を含む丈の低い網膜.離がみられた.6時から8時にかけて網膜下に索状物もみられた.られなかった.左眼の裂孔原性網膜.離と診断し,7.5×5.5mmのシリコーンスポンジ(#507,MIRA社)をトリミングして厚みを4mm程度までに減らし,上直筋の下を通して,筋付着部ぎりぎりに寄せて円周状にエクソプラントで置いた.経強膜的に裂孔周囲を冷凍凝固し,網膜下液の排出も行った(図2).手術時に圧迫して眼底を詳細に観察したが,他に裂孔は見つからず,毛様体.離もはっきりしなかった.手術終了時にはデキサメタゾン(デカドロンR)の結膜下注射とオフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏と硫酸アトロピン(アトロピンR)眼軟膏の点入を行った.術翌日より40mmHg以上の高眼圧となり,D-マンニトール(マンニットールR)300mlの点滴を1日2回,アセタゾラミド(ダイアモックスR)3錠とL-アスパラギン酸カリウム(アスパラKR)6錠の内服薬を投与した.その他に,レボフロキサシン(クラビットR)点眼を4回,0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロン液R)点眼を4回行い,さらに0.0015%タフルプロスト(タプロスR)点眼1回,0.5%マレイン酸チモロール(チモプトールR)点眼を2回,1%塩酸トルゾラミド(トルソプトR)点眼を3回追加した.しかし,40mmHg以上の高眼圧はその後も続いた.初回手術直後は角膜上皮浮腫のために眼底の透見性は不良ではあったが,小裂孔・円孔ともバックル上にのっているようにみえ,明らかな網膜下液の残存はなく,網膜は復位していた.しかし,術後1週間の時点で再.離がみられ,網膜.離は再び下方にまで広がっており,9時から11時にかけて毛様体.離も出現したため,毛様体裂孔の存在を疑った(図3).さら392あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013鼻側上方で排液裂孔を囲むように冷凍凝固#507を薄くトリミングして強膜に3糸マットレス縫合図2初回手術上直筋の下を通して,シリコーンスポンジを筋付着部ぎりぎりに寄せて10時から13時にかけて円周状にエクソプラントで置いた.経強膜的に裂孔周囲を冷凍凝固し,網膜下液の排出も行った.毛様体.離が出現バックルを超えて下方に網膜.離が広がってきた図3再.離時の眼底チャート術後6日目にバックルの範囲を超えて網膜.離が再び広がってきた.新たに9時から11時にかけて毛様体.離が出現した.に,前房中には細胞の浮遊がみられた.再.離後も眼圧は変わらず高いままであった.初回手術から10日後,前回のエクソプラントのシリコーンスポンジを除去し,内直筋下に9mm幅のシリコーンタイヤ(#277,MIRA社)を輪部から3mmのところまで強膜半層切開してインプラントを行った.さらに,輪状締結術を併用した(#270,#240,MIRA社).毛様体.離の部分には冷凍凝固の追加も行った(図4).手術終了時には,前回同(106) 様にデキサメタゾンの結膜下注射,オフロキサシン眼軟膏とれた.その後網膜は復位したが,なお40.60mmHgの高眼硫酸アトロピン眼軟膏の点入を行った.術中の所見として,圧は持続した.術後浅前房などはみられなかったが,炎症に10時半の位置に毛様体裂孔が確認され,原因裂孔と同定さよる高眼圧の可能性も考え6),4日間にわたりプレドニゾロン(プレドニンR)30mgの内服を行ったが,眼圧はまったく変化しなかった.術翌日からの急激な眼圧の上昇のため,ステロイドレスポンダーの可能性は低いと考えたが,この可能性も除外するためステロイド薬点眼および内服を中止したが眼圧は変わら図4再手術前回の手術から10日後に,前回エクソプラントしたシリコーンスポンジを除去し,内直筋下にシリコーンタイヤをインプラント,さらに輪状締結術を併用した.毛様体.離の部分にはさらに冷凍凝固の追加も行った.プレドニゾロン30mg内服0.1%ベタメタゾン点眼0.1%ベタメタゾン点眼マンニトールdivアセタゾラミド3T/3×内服0.0015%タフルプロスト1×0.5%チモロール2×0.0015%タフルプロスト1×1%ドルゾラミド3×0.5%チモロール2×強膜を半層切開し#277をインプラント#270を巻き#240で締める3mm毛様体.離の部分に冷凍凝固を追加図5線維柱帯切開術結膜の瘢痕部を避けるように,下耳側に4×4mmの2重強膜弁を作製し,金属製ロトームをSchlemm管に挿入して,Schlemm管内壁および線維柱帯を120°切開した.眼圧(mmHg)706050403020100前房洗浄線維柱帯切開術網膜.離再発網膜復位術②インプラント+輪状締結網膜復位術①エクソプラント010203040100150200経過(日)図6眼圧グラフ経過中の眼圧の推移を示した.初回手術後25日目にトラべクロトミーを,29日目に前房洗浄を施行して,その約4日後より眼圧下降が得られている.(107)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013393 図7術後眼底写真網膜は復位している.ず,中止後1週間以上経過しても眼圧は下降しなかった.この時点で高眼圧がすでに3週間以上持続していたため,これ以上の高眼圧は視神経に対して非可逆的な障害を起こす可能性があると判断し,手術療法に踏み切った.すでに2度の網膜.離手術で結膜切開を行っているので,線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)ではなく,耳側下方にトラベクロトミーを行った(図5).術後前房出血が多く眼圧が下降しなかったため,一度前房洗浄を行い,その後眼圧は下降した(図6).術後約半年経過しているが,現在のところ再上昇はみられない.なお,術後27週の最終受診時の視力は,右眼(1.2)左眼(0.1),眼圧は右眼18mmHg,左眼18mmHgで,網膜(,)は復位していた(図7).II考按本症例の眼圧上昇の機序として,①Schwartz症候群,②強膜内陥術による房水の流出障害,③ステロイド緑内障,④もともと緑内障を合併していた,の4つの可能性が考えられる.Schwartz症候群は,前房中に細胞の浮遊がみられ,ステロイド薬に反応しなかった点は一致するが,術前の眼圧上昇がなかった点や網膜復位後も眼圧が正常化しなかった点が異なる.それでもなお,あえてSchwartz症候群として解釈するなら,術前は網膜.離が鋸状縁まで.がれていなかったため,網膜視細胞外節がそれほど多く前房中に遊走せず高眼圧とならなかったが,1回目の強膜内陥術で復位せず鋸状縁周394あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013辺部まで.離が広がってしまったため,さらに多くの網膜視細胞外節が前房中に遊走し,線維柱帯閉塞が増強して眼圧上昇した可能性は否定できない.通常Schwartz症候群では,復位後数日以内に眼圧下降が得られることが多いが,数カ月間抗緑内障薬が必要な症例もあり,この場合も線維柱帯の閉塞が解消されるのにさらなる時間を要したためとも考えられる.また,強膜内陥術は強膜および脈絡膜を圧迫するため,Schlemm管以降の房水流出路(distaloutflowsystem)が障害され,眼圧上昇をきたした可能性もある.しかし,本症例では,線維柱帯およびSchlemm管内壁を切開して房水流出抵抗を減らすトラベクロトミーが奏効したことから,Schlemm管以降の流出路障害があったとは考えにくい.このことは,バックルを置いた象限が小さく輪状締結術を併用しなかった初回手術からすでに眼圧の上昇がみられていたことからも裏付けられる.ステロイド緑内障は,トラベクロトミーが奏効した点については矛盾しない7).しかし,ステロイド薬の内服および点眼中止後もまったく眼圧が下がらなかった点は一致せず,手術終了時のデキサメタゾン結膜下注射の影響が術後2週間以上持続したとも考えにくい.最後に,もともとの緑内障眼に裂孔原性網膜.離が合併した可能性である.つまり,緑内障の高眼圧眼に裂孔原性網膜.離が生じたため,.離が生じていた受診時に眼圧が下がっていた眼が,復位したことで高眼圧に戻った可能性が考えられる.実際,裂孔原性網膜.離眼では,原発開放隅角緑内障が合併している頻度が高いと報告されている8).さらに,発達緑内障の合併に関しては,横井らはSchwartz症候群で網膜の復位後に眼圧上昇をきたした症例を報告し,隅角の形態異常もみられたことから,Schwartz症候群に発達緑内障が合併していたと結論づけている9).筆者らの症例も20歳代と若く,緑内障とすれば原発開放隅角緑内障あるいは遅発性の発達緑内障の可能性が高いが,緑内障の家族歴はなく,両視神経乳頭に緑内障性変化もみられなかった.さらに,術後に確認した隅角にも異常所見がみられなかったことから,本症例ではこの可能性も低いと考えられた.本症例では,最終的に眼圧上昇の原因は特定できなかったが,2度にわたって結膜が切開され,特に2度目の手術では,全周の結膜が切開されていたため,結膜の状態が予後に影響するトラベクレクトミーによる濾過胞維持はむずかしいと考えた10.12).さらに,患者の若い年齢も考慮したうえで,最終的にトラベクロトミーを選択した.筆者らの研究13)では,トラベクロトミー施行例の約11%に前房洗浄を必要としたが,今回の症例でも術後前房出血が多く眼圧が下降しなかったため,前房洗浄を行った.その結果,トラベクロトミーが奏効し,眼圧が正常化した.しかしながら,今後とも注意深(108) い経過観察が必要と考えられた.本論文の要旨は,第21回日本緑内障学会(福岡)で発表した.文献1)宇山昌延:網膜.離と眼圧.眼科MOOK20,網膜.離,p62-68,金原出版,19832)大鹿哲郎:裂孔原性網膜.離患者における房水蛋白濃度の経時変化.日眼会誌94:594-603,19903)SchwartzA:Chronicopen-angleglaucomasecondarytorhegmatogenousretinaldetachment.AmJOphthalmol75:205-211,19734)MatsuoN,TakabatakeM,UenoHetal:Photoreceptoroutersegmentsintheaqueoushumorinrhegmatogenousretinaldetachment.AmJOphthalmol101:673-679,19865)田中住美:輪状締結術後のうっ血.眼科診療プラクティス60,p26,文光堂,20006)河野眞一郎:強膜バックリングと眼圧.眼科診療プラクティス30,p87,文光堂,20097)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabeculotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,20008)PhelpsCD,BurtonTC:Glaucomaandretinaldetachment.ArchOphthalmol95:418-422,19779)横井由美子,大黒浩,大黒幾代ほか:発達緑内障にSchwartz症候群を合併した1例.眼科48:265-268,200610)TheFluorouracilFilteringSurgeryStudyGroup:Fiveyearfollow-upoftheFluorouracilFilteringSurgeryStudy.AmJOphthalmol121:349-366,199611)StomperRL:LateFailureofFilteringBleb.GlaucomaSurgicalManagement,Volume2,p239-242,SAUNDERS,UK/USA,200912)SalmonJF,KanskiJJ:Trabeculectomy.Glaucoma,ThirdEdition,p139-149,Butterworth-Heinemann,UnitedKingdom,200413)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,2012***(109)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013395

Bacillus属による遅発性濾過胞感染に伴う眼内炎の1例

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):385.389,2013cBacillus属による遅発性濾過胞感染に伴う眼内炎の1例田中宏樹重安千花谷井啓一渡辺健春畑裕二秋山邦彦山田昌和独立行政法人国立病院機構東京医療センター眼科ACaseofEndophthalmitisAssociatedwithLate-OnsetBlebitisCausedbyBacillusSpeciesHirokiTanaka,ChikaShigeyasu,KeiichiYatsui,KenWatanabe,YujiHaruhata,KunihikoAkiyamaandMasakazuYamadaDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenterBacillus属による濾過胞感染に伴う眼内炎を経験したので報告する.症例は67歳,男性.前日夜からの左眼の視力低下,疼痛を主訴として,翌朝9時に来院した.左眼の閉塞隅角緑内障に対して白内障手術と線維柱帯切除術を施行された既往歴があった.左眼の矯正視力は0.2で,著明な毛様充血,前房内に炎症細胞および前房蓄膿を認め,濾過胞は白濁し,眼底は透見困難であった.濾過胞感染による眼内炎と診断し,同日14時に硝子体手術を行った.術中硝子体の塗抹検査でグラム陽性桿菌が検出され,芽胞も認めたためにBacillus属による眼内炎を疑い,細菌培養検査で術後2日目にBacillus属と同定した.起炎菌が早期に判明し,感受性のある抗菌薬を投与したところ,術後4日目には眼内の炎症所見は改善傾向を示し,その後徐々に鎮静化した.術後4カ月には矯正視力は1.0まで回復し,良好な視力予後を得ることができた.術後眼内炎の治療においては,patient’sdelayやdoctor’sdelayをできるかぎり短縮して早期に治療できる体制づくりと起炎菌に応じた化学療法が重要であることが改めて示唆された.Wereportacaseofbleb-associatedendophthalmitisduetoBacillusspecies.A67-year-oldmalepresentedatourhospitalthemorningafterexperiencingdecreasedvision,painandepiphorainhislefteyeonthepreviousnight.Hehadapasthistoryofcataractsurgeryandtrabeculectomyinhislefteye.Thevisualacuity(VA)oftheeyewas20/100;slitlampexaminationrevealedciliaryinjection,severeinflammationandhypopyonintheanteriorchamber.Theblebwasinfiltratedandthefunduswasinvisible.Bleb-associatedendophthalmitiswasdiagnosed,andvitrectomywasperformed6hoursafterpresentation.Smearpreparationofvitreousaspiratesrevealedgram-positiverodswithspore-formingbacteria,suggestingBacillusspecies;thefindingwasconfirmed2dayslaterbypositivemicrobialculture.Severalactiveantibioticswereadministratedviavariousroutes.Theinflammationgraduallydiminishedwithin4dayspostoperatively;VArecoveredto20/20in4months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):385.389,2013〕Keywords:バチルス,眼内炎,濾過胞炎,線維柱帯切除術,硝子体手術.Bacillus,endophthalmitis,blebitis,trabeculectomy,vitrectomy.はじめにBacillus属は土壌や水中に広く生息するグラム陽性の芽胞形成桿菌である.眼外傷後の眼内炎やコンタクトレンズに関連した感染性角膜炎の起炎菌として知られており,特に眼内炎に関しては,Bacillus属は数種類の強い外毒素を有するため急速で劇症な経過をたどり,予後不良であると報告されている1,2).しかし,線維柱帯切除術後の眼内炎の起炎菌としてBacillus属はまれであり,筆者らが検索した限り,わが国において線維柱帯切除術後にBacillus属を起炎菌とする眼内炎の報告はない.今回,筆者らはBacillus属を起炎菌とする濾過胞感染に続発した眼内炎の1例を経験した.発症早期に診断し,迅速に硝子体手術と化学療法を行った結果,良好な予後を得ることができたのでその臨床経過を報告する.I症例患者:67歳,男性.主訴:左眼の視力低下.〔別刷請求先〕田中宏樹:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1独立行政法人国立病院機構東京医療センター眼科Reprintrequests:HirokiTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,2-5-1Higashigaoka,Meguro-ku,Tokyo152-8902,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(99)385 図1初診時前眼部写真前房内に著明な炎症細胞および前房蓄膿を認め,毛様充血を伴っていた.現病歴:2010年2月夜より左眼の視力低下,疼痛,流涙を自覚し,翌日午前9時に来院した.既往歴:2008年7月左眼の急性閉塞隅角緑内障発作を起こし,同日レーザー虹彩切開術を施行した.いったんは眼圧低下が得られたが,その後に眼圧の再上昇を認めたため,同年8月に白内障手術(超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術),10月に線維柱帯切除術を施行した.線維柱帯切除術では,結膜弁は輪部基底で作製し,上方11時の位置で線維柱帯切除を行い,0.04%マイトマイシンC(MMC)を併用した.術後は2009年2月頃より無血管濾過胞の状態ではあったが,濾過胞からの房水漏出はなく,眼圧は点眼なしで15mmHgと安定していた.左眼の視力は(1.0),Goldmann視野検査では視野欠損を認めなかった.抗菌薬の点眼は行わずに,6週間に1回外来にて経過観察していた.家族歴,全身疾患:特記事項なし.眼内炎発症時の所見:視力は右眼(1.2×+1.50D(cyl.1.00DAx135°)左眼(0.2×+1.25D(cyl.0.50DAx180°).左眼は毛様充前房内に著明な炎症細胞および前房蓄膿を認め(図1),濾過胞は白濁していた(図2).硝子体は混濁し,眼底は透見困難であった.血液検査所見:白血球数は10,400/μlと軽度の上昇を認めたが,C反応性蛋白(CRP)は0.1mg/dlであり,その他のデータも正常範囲内であった.経過:濾過胞感染はすでに硝子体まで炎症が波及したstageIII3,4)の状態であり,同日14時に23ゲージ硝子体手術を行った.感染部位である濾過胞の結膜は,癒着が強かったため強膜血,(,)を一部含めて.離を行い切除し,細菌培養検査へ提出した.また,前房水,硝子体の採取も行い,同様に細菌培養検査へ386あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013図2初診時濾過胞写真白濁した濾過胞が観察された.図3硝子体手術術中眼底写真眼内は強い硝子体混濁があり,網膜に斑状出血と樹氷状血管炎を認めた.提出した.眼内は強い硝子体混濁と網膜に斑状出血,樹氷状血管炎を認めたため(図3),可能なかぎり硝子体を切除した.セフタジジム20μg/ml,バンコマイシン40μg/mlを添加した術中灌流液に加え,術終了時にセフタジジム10mg/0.5mlとバンコマイシン5.0mg/0.5mlの結膜下注射,セフタジジム2.0mg/0.1mlとバンコマイシン1.0mg/0.1mlの硝子体内注射を行った.線維柱帯切除部位の強膜からの漏出はみられず,切除した結膜周囲の結膜下の癒着を解除した後,周囲の結膜を寄せて縫合した.術当日,採取した硝子体は遠心分離後に沈渣の塗抹検査を行った.グラム陽性桿菌が検出され,芽胞形成を認めたためにBacillus属による眼内炎を疑い,術後2日目には硝子体からの細菌培養検査によりBacillus属と同定した.術翌日から点眼薬は2%セフタジジム,1%バンコマイシン,0.5%(100) 退院2/345678910111213141516硝子体注射VCM1.0mg/0.1mlCAZ2.0mg/0.1ml結膜下注射VCM5.0mg/0.5mlCAZ10mg/0.5ml点眼薬1%VCM×8回0.5%ABK×8回2%CAZ×8回0.5%MFLX×8回全身投与CPFX600mgⅳFMOX1gⅳCPFX300mgoral図4術後抗菌薬使用状況感受性のある抗菌薬を硝子体注射,結膜下注射,点眼,全身投与とさまざまな方法で使用した.VCM:vancomycin,CAZ:ceftazidime,ABK:arbekacin,MFLX:moxifloxacin,FMOX:flomoxefsodium,CPFX:ciprofloxacin.図5術後半年眼底写真白濁し樹氷状血管炎を呈していた網膜の血流は回復し,斑状出血も消失した.モキシフロキサシンを1日8回,0.1%ベタメタゾンを1日4回,1%アトロピンを1日1回使用していたが,起炎菌がBacillus属と同定された術後2日目からは2%セフタジジムを0.5%アルベカシンへ変更した.Bacillus属はbラクタマーゼ産生性でペニシリン,セフェムが無効であることが多く,バンコマイシン,アミノグリコシドが第一選択として推奨されているためである.また,術翌日から9日間,セフタジジムとバンコマイシンの結膜下注射および硝子体内注射を連日継続した.全身投与の抗菌薬も硝子体移行性,薬剤感受性を踏まえ,術後2日目からフロモキセフナトリウム1gか(101)図6術後5カ月前眼部写真眼内の炎症所見は改善した.図7術後5カ月濾過胞写真濾過胞の再形成を認めた.らシプロフロキサシン600mgへ変更し10日間静脈内投与を行った後,300mg/日の経口投与へ変更して7日間継続した(図4).術後3日目に判明した薬剤感受性試験の結果においては,ペニシリン系のPCG(ペニシリンG),ABPC(アンピシリン),セフェム系のCTM(セフォチアム)には耐性を示し,アミノ配糖体系のGM(ゲンタマイシン),ニューキノロン系のLVFX(レボフロキサシン)には感受性であった.術後4日目には眼内の炎症所見は改善傾向を示した.白濁し樹氷状血管炎を呈していた網膜の血流は回復し,斑状出血も消失し,左眼の視力は(0.5)と改善した.術後4カ月には眼底所見は改善し,左眼の視力は(1.0)まで回復し,濾過胞の再形成を認めた(図5.7).0.03%ビマトプロスト点眼で眼圧は15mmHg程度と落ち着いており,視野欠損もなく2年4カ月経過した現在まで経過は良好である.あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013387 II考按線維柱帯切除術にMMCなどの線維芽細胞増殖抑制薬を併用するようになり,術後の眼圧コントロールの成績は改善した5).しかし,その一方で術後の濾過胞炎や眼内炎の発症の危険性は増大していることが報告されている6).線維柱帯切除術後の晩期感染症の発生頻度は,線維芽細胞増殖抑制薬を併用しない場合では0.2.1.5%,5-フルオロウラシル併用では1.9.5.7%,MMC併用では1.6.3.1%と報告されている7).線維芽細胞増殖抑制薬の併用以外に濾過胞感染を生じやすい危険因子として,濾過胞からの房水の漏出8),下方の濾過胞8),乏血管性の濾過胞9),易感染性の全身疾患10)などがあげられている.線維柱帯切除術後の抗菌薬点眼の予防的継続の是非については諸説あり6,9),一定の見解が得られていない.本症例では線維芽細胞増殖阻害薬の使用や乏血管性の濾過胞といった危険因子は存在したものの,長期的な抗菌薬の点眼は行わずに,患者に濾過胞感染に関する啓蒙,指導を行ったうえで,数週間に一度の定期的な診療を行っていた.線維柱帯切除術から濾過胞感染症までの期間については,Mochizukiら3.1年(0.4.6.0年)9),Busbeeら19.1カ月(3日.9年)11),Songら5年(0.7.12.2年)12)とさまざまな報告があるが,本症例では線維柱帯切除術後16カ月で濾過胞感染症を発症している.線維柱帯切除術後の眼内炎の起炎菌としてStreptococcus属やStaphylococcus属などが多いとされ11,12),これらは結膜.内に常在細菌叢として存在する菌である.本症例の起炎菌となったBacillus属は芽胞形成性のグラム陽性桿菌であり,水中や土壌に広く存在する環境菌である13).Bacillus属は術後眼内炎の起炎菌としてはまれであり,Bacillus属による眼内炎は外傷に伴うものが多いとされている1,2).本症例における発症要因としては外傷などの誘因はないため,感染経路として患者の手についた菌が擦過により,あるいは水を介して濾過胞に付着した可能性が推測される.Bacillus属はbラクタマーゼを産生し,ペニシリン,セフェムが無効であることが多く,抗菌薬選択は,バンコマイシン,アミノグリコシドが第一選択として推奨されている14.16).また,全身投与の抗菌薬は硝子体内への移行性,感受性を踏まえシプロフロキサシンが推奨されている17.19).本症例の感受性試験でもペニシリン,セフェムには耐性を示していたが,アミノグリコシド,ニューキノロンには感受性を認めた.このため術後2日目から点眼薬はセフタジジムをアルベカシンへ,全身投与の抗菌薬もフロモキセフナトリウムからシプロフロキサシンへ変更した.硝子体注射は,無水晶体無硝子体眼では半減期が短縮し20,21),バンコマイシンとセフタジジムの反復投与が網膜毒性を示さなかったという報告を踏まえ22),術後9日間継続した.線維柱帯切除術後のBacillus属による眼内炎の報告は少なく,筆者らが渉猟した限りでは3例であった14,15).Millerらの報告14)では,線維柱帯切除術後16カ月で眼内炎を発症し,診断後2時間で硝子体内にバンコマイシン,ゲンタマイシンを投与したが,予後不良であった.Hemadyらの2例15)は,線維柱帯切除術後に眼内炎を発症し,診断後6時間で,ゲンタマイシンとメチシリンあるいはセファロチンの結膜下注射,全身投与を行い,最終視力は0.6と0.4であった(表1).これらの予後の違いについて,まず菌種の違いや外毒素の産生能の違いが原因として考えられており,60種類以上あるBacillus属の種のなかでもBacilluscereusは最も予後の悪い菌として知られている1,2).つぎに感染から治療開始までの時間の違いがあげられる.Bacillus属は感染後に増殖し,ある一定以上の細菌数に達すると外毒素を放出するquorumsensingを行う菌である.Bacilluscereusは眼感染後,2.4時間で外毒素の放出を開始するため,4時間以内に表1線維柱帯切除後Bacillus眼内炎の報告例報告者(年)年齢(歳)/性別検出菌診断-治療時間手術点眼抗菌薬使用結膜硝子体全身発症時視力最終視力Hemady(1990)50/男性Bacillussp.6hr─BCNMDMPPCGMDMPPCGM─0.6Hemady(1990)80/男性Bacillussp.6hr─CETGMCETGMCETGM0.10.4Miller(2007)47/男性Bacilluscereus2hrTapVCMGMSLSL田中(2013)67/男性Bacillussp.5hrPPVVCMABKVCMCAZVCMCAZCPFX0.21.0MFLXABK:arbekacin,BC:bacitracin,CAZ:ceftazidime,CET:cephalothin,CPFX:ciprofloxacin,DMPPC:methicillin,GM:gentamicin,MFLX:moxifloxacin,NM:neomycin,VCM:vancomycin.PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術.388あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(102) 治療を始めたほうが,有意に予後がよいという報告もある23).最後に治療方法の違いが考えられる.Busbeeらは線維柱帯切除後の眼内炎で,硝子体手術を行った群と硝子体タップと抗菌薬硝子体注射を行った群とで視力予後を検討し,硝子体手術を行った群で有意に視力予後が良好であったと報告している11).一方,Songらは同様の検討を行い,硝子体タップと抗菌薬硝子体注射を行った群で有意に視力予後が良好であったと報告している12).本症例で1.0と良好な最終視力を得られたのは,早期の硝子体手術に加え,硝子体注射を含めた感受性の高い化学療法を行ったためであると考えられる.本症例で有効な治療が行えたのは,まず,発症から来院までの時間,patient’sdelayが少なかったことがあげられる.これは線維柱帯切除術後から,患者に濾過胞感染に関する啓蒙がしてあり,何か異常があればすぐ来院するように指導していたためである.つぎに,来院してから手術までが早く施行できたこと,doctor’sdelayが短かったことがあげられる.診断から手術まで早期に行える体制づくりが重要であることが改めて示唆された.最後に起炎菌が早期に判明したことがあげられる.結膜,前房水,硝子体を検体として細菌学的検査を行ったが,術当日の塗抹検査結果からBacillus属による感染を疑い,感受性のある抗菌薬を硝子体注射,結膜下注射,点眼,内服とさまざまな方法で使用することができた.以上により眼内炎発症から迅速に加療を開始することができ,良好な結果を得られたと考えられる.本論文の要旨は第47回日本眼感染症学会(2010)で発表した.文献1)DasT,ChoudhuryK,SharmaSetal:ClinicalprofileandoutcomeinBacillusendophthalmitis.Ophthalmology108:1819-1825,20012)FosterRE,MartinezJA,MurrayTGetal:UsefulvisualoutcomesaftertreatmentofBacilluscereusendophthalmitis.Ophthalmology103:390-397,19963)KatzLJ,CantorLB,SpaethGL:Complicationsofsurgeryinglaucoma.Earlyandlatebacterialendophthalmitisfollowingglaucomafilteringsurgery.Ophthalmology92:959-963,19854)GreenfieldDS:Bleb-relatedocularinfection.JGlaucoma7:132-136,19985)PalmerSS:Mitomycinasadjunctchemotherapywithtrabeculectomy.Ophthalmology98:317-321,19916)JampelHD,QuigleyHA,Kerrigan-BaumrindLAetal:Riskfactorsforlate-onsetinfectionfollowingglaucomafiltrationsurgery.ArchOphthalmol119:1001-1008,20017)望月清文,山本哲也:線維芽細胞増殖阻害薬を併用する緑内障濾過手術の術後眼内炎.眼科手術11:165-173,19988)SoltauJB,RothmanRF,BudenzDLetal:Riskfactorsforglaucomafilteringblebinfections.ArchOphthalmol118:338-342,20009)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:IncidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunctivemitomycinCor5-fluorouraciltreatment.BrJOphthalmol81:877-883,199710)LehmannOJ,BunceC,MathesonMMetal:Riskfactorsfordevelopmentofpost-trabeculectomyendophthalmitis.BrJOphthalmol84:1349-1353,200011)BusbeeBG,RecchiaFM,KaiserRetal:Bleb-associatedendophthalmitis:clinicalcharacteristicsandvisualoutcomes.Ophthalmology111:1495-1503,200412)SongA,ScottIU,FlynnHWJretal:Delayed-onsetbleb-associatedendophthalmitis:clinicalfeaturesandvisualacuityoutcomes.Ophthalmology109:985-991,200213)岡山加奈,藤井宝恵,小野寺一ほか:手指消毒効果と手指細菌叢に影響する爪の長さ.環境感染誌26:269-277,201114)MillerJJ,ScottIU,FlynnHWJretal:EndophthalmitiscausedbyBacillusspecies.AmJOphthalmol145:883888,200815)HemadyR,ZaltasM,PatonBetal:Bacillus-inducedendophthalmitis:newseriesof10casesandreviewoftheliterature.BrJOphthalmol74:26-29,199016)KervickGN,FlynnHWJr,AlfonsoEetal:AntibiotictherapyforBacillusspeciesinfections.AmJOphthalmol110:683-687,199017)AlfaroDV,DavisJ,KimSetal:ExperimentalBacilluscereuspost-traumaticendophthalmitisandtreatmentwithciprofloxacin.BrJOphthalmol80:755-758,199618)KerenG,AlhalelA,BartovEetal:Theintravitrealpenetrationoforallyadministeredciprofloxacininhumans.InvestOphthalmolVisSci32:2388-2392,199119)BabaFZ,TrousdaleMD,GaudermanWJetal:Intravitrealpenetrationoforalciprofloxacininhumans.Ophthalmology99:483-486,199220)AguilarHE,MeredithTA,el-MassryAetal:Vancomycinlevelsafterintravitrealinjection.Effectsofinflammationandsurgery.Retina15:428-432,199521)ShaarawyA,MeredithTA,KincaidMetal:Intraocularinjectionofceftazidime.Effectsofinflammationandsurgery.Retina15:433-438,199522)YoshizumiMO,BhavsarAR,DessoukiAetal:Safetyofrepeatedintravitreousinjectionsofantibioticsanddexamethasone.Retina19:437-441,199923)CalleganMC,GuessS,WheatleyNRetal:EfficacyofvitrectomyinimprovingtheoutcomeofBacilluscereusendophthalmitis.Retina31:1518-1524,2011***(103)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013389

遠近両用ソフトコンタクトレンズ装用による視野への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):381.384,2013c遠近両用ソフトコンタクトレンズ装用による視野への影響柴田優子*1魚里博*1,2平澤一法*1進藤真紀*2,3庄司信行*1,2*1北里大学大学院医療系研究科感覚・運動統御医科学群視覚情報科学*2北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学*3学校法人滋慶学園東京医薬専門学校視能訓練士科EffectofWearingMultifocalSoftContactLensesonVisualFieldYukoShibata1),HiroshiUozato1,2),KazunoriHirasawa1),MakiShindo2,3)andNobuyukiShoji1,2)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience,3)CourseofOrthoptist,TokyoCollegeofMedico-pharmacotechnology目的:2種類の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の視野への影響を検討した.対象および方法:対象は若年ボランティア15名15眼(平均年齢25.3±5.9歳).視野測定にはHumphrey視野計を使用し,コンタクトレンズは単焦点ソフトコンタクトレンズ(SCL)と,遠用中心近用加入MFSCL-Dタイプと近用中心遠用加入MFSCL-Nタイプを使用した.対照SCLを基準としてMFSCL-Dタイプ,MFSCL-Nタイプ装用下における中心窩閾値,平均網膜感度,および偏心域ごとの網膜感度を比較した.結果:3種のSCL装用下の中心窩閾値,全測定点の合計,また偏心域ごとの網膜感度には統計学的有意差はなかった.結論:MFSCL装用下の視野への影響はなかった.Purpose:Weinvestigatedtheinfluenceonthevisualfieldofonesingledistance-visionsoftcontactlensandtwotypesofmultifocalsoftcontactlenses.Methods:Subjectswere15youngindividuals(age20.41yrs).Wemeasuredvisualfieldusingstandardautomatedperimetry(HumphreyFieldAnalyzer:HFA)withthesingledistance-visionsoftcontactlenses(control)andtwotypesofmultifocalsoftcontactlenses.Theorderofexperimentwiththethreetypesofcontactlenseswasrandomlychangedforeachsubject.Weassessedfovealthreshold,totaltestpoints’sensitivitiesandaverageofthetestpointofeachlocationofvisualfieldeccentricity.Results:NostatisticallysignificantdifferencewasfoundamongthethreegroupsofthethreetypesofSCLsinregardtofovealthreshold,totaltestpoints’sensitivitiesoraverageofthetestpointofeachlocationofvisualfieldeccentricityinsubjectswithsingledistance-visioncontactlensesortwotypesofmultifocalcontactlenses.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):381.384,2013〕Keywords:コンタクトレンズ,自動静的視野検査,遠近両用,同時視,デフォーカス.contactlenses,automatedperimetry,multifocal,simultaneousvision,defocus.はじめに近年屈折矯正術の進歩により,加入度の付いた多焦点コンタクトレンズや多焦点眼内レンズが普及している.多焦点コンタクトレンズは老視治療の他,調節の不均衡による眼精疲労の軽減目的などでの使用が検討されている.近視予防のトライアルとして,わが国では周辺部にプラスの加入の入った眼鏡装用の試みがなされており,海外では同様なデザインの眼鏡やコンタクトレンズ装用による近視予防の研究1.3)が進んでいる.一方,このような多焦点のレンズの装用が視野へどのような影響を与えるかの検討はまだ少ない.今回,遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の装用が視野に及ぼす影響を検討するため,加入度の付いた2種のMFSCLと単焦点SCL装用下における視野の網膜感度を比較した.I対象および測定方法本研究はヘルシンキ宣言(世界医師会)の理念を踏まえ,全対象に文書による説明を行い,本人の自由意思による同意〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学大学院医療系研究科感覚・運動統御医科学群視覚情報科学Reprintrequests:HiroshiUozato,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara-shi,Kanagawa252-0373,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(95)381 を得て行った.また,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を受けた(倫理承認番号:2011-013).対象は矯正視力1.0以上,乱視度.0.75D以下,屈折異常以外の眼科的疾患をもたない正常成人ボランティア15名15眼(男性6名,女性9名)である.対象の年齢は平均25.3±135°meridian60°60°30°30°45°meridian図1カスタムプログラムの測定点の配置全測定点は29点.中心窩の測定と,各象限に斜めの13点の測定点を配置した.■:遠用部■:移行部■:近用部8.0mm8.0mm5.0mm2.3mm5.0mm1.0mm図2使用コンタクトレンズのデザイン略図左はロートi.Q.14RバイフォーカルDタイプ,右はロートi.Q.14RバイフォーカルNタイプのレンズデザインの略図を示す.5.9歳(20.41歳)で,等価球面度は平均.2.58±2.03D(.6.00D.+0.50D)であった.視野測定にはHumphrey視野計を用いた.測定点は中心と,斜め方向(経線45°,135°,225°,315°)に6°ごとに28点をカスタムプログラムで設定し(図1),4.2dBのfullthresholdアルゴリズムで測定した.使用したSCLはロート製薬(株)製の単焦点SCL〔ロートi.Q.14Rアスフェリック,ロート製薬(株),大阪〕と,2種類のMFSCL〔ロートi.Q.14Rバイフォーカル,ロート製薬(株),大阪〕である.ロートi.Q.14Rバイフォーカルは同時視型の累進屈折型レンズデザインであり,近用中心遠用周辺のNタイプと遠用中心近用周辺のDタイプの2種類がある(図2).どちらも遠用部と近用部の間には移行部があり,遠用から中間部,近用への連続的な視点の移行が可能である.Nタイプ,Dタイプともに+1.0,+1.5,+2.0,+2.5Dの4つの加入度が市販されている.本検討では加入度+2.0Dを使用した.実験に先立ち各対象眼の屈折検査と視力検査を行い,完全矯正となる単焦点SCL度数を決定した.さらに,今回検討のMFSCLは,対照SCLの度数と同表記のものを用意し,Dタイプ+2.0D加入とNタイプ+2.0D加入の2種(対照SCLと合わせて計3種)とした.MFSCLの加入度は,実際の臨床では使用者の自覚に合わせて加入度数を適宜選択するが,今回の筆者らの検討では比較的加入度が大きく,したがって視機能への影響が大きい可能性のある+2.0D加入を使用した.なお,今回の検討ではMFSCL装用の視力検査は行っていない.また,3種のSCL装用の順序は各対象でランダムに割り振った.検討項目は3種のSCL装用下における中心窩閾値と,全測定点における平均網膜感度および,偏心域ごとの平均網膜感度である.統計解析には,StatView5.0(HULINKS,Inc.)を使用し,各網膜感度の比較にはKruskal-Wallis検定を行い,p<0.05を棄却域とした.表1各SCL装用下の平均網膜感度と標準偏差(dB)対照SCLMFSCL-DタイプMFSCL-Nタイプp値(Kruskal-Wallis)中心窩閾値全測定点合計測定域4.2°12.7°21.2°29.7°38.2°46.7°55.2°36.7±1.5766.3±46.334.3±1.131.7±1.230.5±0.828.0±1.123.9±2.921.4±3.815.6±3.736.7±1.4762.3±43.134.0±1.231.5±1.530.3±1.128.4±1.223.7±4.021.2±3.715.2±3.436.3±1.7748.7±65.133.6±1.531.2±1.229.5±1.627.2±2.323.3±3.520.6±5.116.1±5.00.88370.65870.40930.72710.23260.17420.81570.98590.70663種SCL装用下の中心窩閾値,全測定点合計,測定域ごとの4象限平均の網膜感度(dB)の全対象の平均と標準偏差を示す.すべての項目にて,3種SCL装用下の網膜感度に統計学的な有意差はなかった.382あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(96) II結果全対象眼で,細隙灯顕微鏡検査上,3種SCL装用時に明らかなfitting異常はなかった.各SCL装用下の網膜感度測定結果を表1に示す.視野中心窩閾値の全対象眼の平均網膜感度は対照SCL装用時36.7±1.5dB,MFSCL-Dタイプは36.7±1.4dB,MFSCL-Nタイプは36.3±1.7dBであった.また,全測定点の合計の平均は,対照SCL装用時766.3±46.3dB,MFSCL-Dタイプは762.3±43.1dB,MFSCL-Nタイプは748.7±65.1dBであった.中心窩閾値,全測定点の合計,偏心域ごとの平均網膜感度では,3種SCL装用下で有意な差はなかった(表1).III考按MFSCLには同時視型と交代視型がある4).どちらもレンズの領域を遠用と近用の屈折度に振り分けるものであるが,現在わが国で普及しているMFSCLは同時視型がほとんどである.同時視型は視軸のレンズ上の移動を伴わないため,遠方と近方の対象物は同時に網膜に投影され,注視物の網膜投影のエネルギーは低下しコントラスト感度の低下が起こり5),周辺網膜のコントラストも低下する6).しかしながら,脳内で選択的に取り上げると考えられるため,日常生活では満足できる視機能の範囲にある6)とされている.さらに,同時視型MFSCLは累進屈折型と二重焦点型(回折型)に分類される7).累進屈折型は同心円の遠用部と近用部の間に屈折度の移行部をもつ.一方,二重焦点型は間の移行部はなく,遠用,近用の層を何層か重ねてレンズ光学領域を構成している.今回の筆者らの検討では,同時視型累進屈折型の中心遠用周辺近用(MFSCL-Dタイプ)と中心近用周辺遠用(MFSCL-Nタイプ)を用いた(図2).MFSCLの視野への影響についての既報として,Alongiらは,単焦点SCLと累進屈折型MFSCL,および二重焦点型MFSCLのHumphrey視野検査を報告している8).それによれば,単焦点SCLと屈折型では網膜感度の有意な変化がなかったが,二重焦点型は中心から周辺30°までの合計網膜感度は低下したが周辺30°から60°では低下しなかったと述べている8).今回の筆者らの検討では,累進屈折型の中心遠用と中心近用の2タイプのMFSCL装用では両者ともAlongiの検討の累進屈折型MFSCLと同様の結果を得た.高田は,中間透光体の混濁が影響を受けにくいフリッカー測定を除き,他の視野測定法はコントラストを変化させて閾値を測定するため,検査結果が低下することを報告している9).本検討に用いたMFSCLの場合は,エネルギーの低下はあるものの,視標を遮ることはなく,視感度測定に影響は与えなかったと考えられる.つぎに,遠近両用のコンタクトレンズの特徴である加入度による視野への影響も考えられる.デフォーカスを付加した場合の視野検査の影響について,Atchisonらは,Goldmann視野検査で,デフォーカス(.3.00D.+5.00D)を付加した場合網膜感度の低下を認めたが,30.40°を超える周辺では影響はほとんどなかったと報告している10).宇山らは,オクトパス視野検査計で+1.0Dから+5.0Dのレンズを負荷して視感度を測定し,その結果負荷度数が大きくなるにつれ感度は低下するが,周辺部は中心部より低下量は少なく,+2.0Dの付加では,領域10°以内では平均で2.1dBの低下,領域21.30°では1.4dBの低下と報告している11).今回の筆者らの検討では,+2.0Dの加入度のMFSCLを用いているが,対照のSCL装用と比べ網膜感度に明らかな差がなかった.その理由として,周辺部の焦点深度は中心部網膜より非常に大きい12)ため,MFSCLの場合は全体としてのエネルギー低下があっても,今回使用のMFSCLの加入度数ではデフォーカスの視野への影響を受けないことが考えられた.一方,中心部の網膜感度の変化もなかったことについては,本検討の対象が20.41歳で調節力優良な被験者群で調節麻痺剤不使用であったため,眼内の調節を働かしている可能性が考えられた.MFSCL装用下の視野への影響はレンズデザインを考慮する必要があると思われるが,今回使用したレンズデザインでは正常者の視野への影響はほとんどないと考えられた.謝辞:本研究は,北里大学大学院院生プロジェクト研究(no.2011-3155)の助成を一部受けた.ここに感謝の意を表する.文献1)ChengD,SchmidKL,WooGCetal:Randomizedtrialofeffectofbifocalandprismaticbifocalspectaclesonmyopicprogression:two-yearresults.ArchOphthalmol128:12-19,20102)TarrantJ,SeversonH,WildsoetCF:Accommodationinemmetropicandmyopicyoungadultswearingbifocalsoftcontactlenses.OphthalmicPhysiolOpt28:62-72,20083)AllenPM,RadhakrishnanH,RaeSetal:Aberrationcontrolandvisiontrainingasaneffectivemeansofimprovingaccommodationinindividualswithmyopia.InvestOphthalmolVisSci50:5120-5129,20094)塩谷浩:遠近両用コンタクトレンズの処方適応の判断から処方に至るまで.日コレ誌52:47-51,20105)ZlotnikA,BenYaishS,YehezkelOetal:Extendeddepthoffocuscontactlensesforpresbyopia.OptLett34:2219-2221,20096)Llorente-GuillemotA,Garcia-LazaroS,Ferrer-BlascoTetal:Visualperformancewithsimultaneousvisionmulti-focalcontactlenses.ClinExpOptom95:54-59,20127)ToshidaH,TakahashiK,SadoKetal:Bifocalcontactlenses:History,types,characteristics,andactualstateandproblems.ClinOphthalmol2:869-877,2008(97)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013383 8)AlongiS,RolandoM,CoralloGetal:Qualityofvisionment.OphthalmicPhysiolOpt7:259-265,1987withpresbyopiccontactlenscorrection:subjectiveand11)宇山孝司,松本長太,奥山幸子ほか:視標のボケと中間透lightsensitivityrating.GraefesArchClinExpOphthalmol光体混濁の中心静的視野閾値に及ぼす影響.日眼会誌97:239:656-663,2001994-1001,19939)高田園子:中間透光体の混濁が視野測定に与える影響.近12)WangB,CiuffredaKJ:Depth-of-focusofthehumaneye畿大学医学雑誌27:165-177,2002inthenearretinalperiphery.VisionRes44:1115-1125,10)AtchisonDA:Effectofdefocusonvisualfieldmeasure-2004***384あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(98)

My boom 14.

2013年3月31日 日曜日

監修=大橋裕一連載⑭MyboomMyboom第14回「坂本英久」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑭MyboomMyboom第14回「坂本英久」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介坂本英久(さかもと・ひでひさ)さかもとひでひさ眼科院長私は,昭和63年に鹿児島大学医学部に入学し,大学時代はボードセイリング部に所属していました.平成6年に九州大学医学部眼科に入局し,平成8年からおもに福岡県内の関連病院で白内障手術と網膜硝子体手術の研修を行いました.入局当初から眼科手術が大好きでしたので,手術の上手な先生の噂を聞くと,手術の見学を申し込んで勉強をさせていただきました.平成15.21年まで九州労災病院眼科でおもに網膜硝子体疾患を中心とした臨床を行いました.九州労災病院在職中の平成19年には,ボストンのマサチューセッツ眼科耳鼻科病院のMukai准教授のもとで小児網膜硝子体疾患について勉強させていただきました.平成21年からは福岡県北九州市にクリニックを開業し,網膜硝子体疾患に力を入れた診療を行っています.臨床のmyboom①:日帰りDSAEK(角膜内皮移植術)現在,当院ではConstellationRとLumeraTRおよびResightRの組み合わせで25Gの小切開硝子体手術を日帰りで行っています.これまで網膜硝子体疾患の治療に携わってきたなかで,PVR(増殖硝子体網膜症)などの難治例には当然苦労しましたが,角膜疾患を合併した患者さんの治療にも頭を悩まされました.手術自体は内視鏡などの使用によりうまくいっても,角膜疾患のため術後の視機能が十分に改善しないことがありました.そん(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYななか,角膜パーツ移植が発表され,角膜の透明性の改善がクローズドアイサージャリーでも行えるようになりました.私は平成20年にシンガポール国立アイセンターのTan教授が開催されたALTK-DSAEK(automatedlamellartherapeutickeratoplasty-Descmetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)の手術手技習得コースに参加し,その後九州労災病院で硝子体手術後の水疱性角膜症の患者さんにDSAEKを行うようになりました.当初,無硝子体眼へのDSAEKでは術後の前房内ガスの挙動に不安がありましたが,6時部に虹彩切開を行い,術後の仰臥位の管理をきちんと行うことで,問題はありませんでした.開業後は,九州労災病院のオープンベッドシステムを利用させていただきDSAEKを行っていましたが,平成24年からは当院で局所麻酔下での日帰りDSAEKを行っています.症例の選択には十分に注意をはらっていても,局所麻酔下での手術では移植片挿入時に前房がやや形成されづらくなることがあり,苦労したこともありました.しかし,前房保持のインフュージョン針の先端をdoubleglidepullthrough法の際に前房に挿入するシート状のglideの上に設置することにより前房が十分に形成され,移植片挿入にあまり苦労しないようになりました.術後の仰臥位安静時間や,前房内ガスの量など試行錯誤をしながらより良いシステムを模索中です.臨床のmyboom②:NextGenerationWorkshop(NGW,写真1)平成19年から,前回のプレゼンターの西村知久先生や私を含めた5名の世話人の先生方と,九州の若手の硝子体術者を対象としたクローズドのセミナーを年に1回行っています.略称NGWというその会は,毎回テーマを決め,世話人や著名な先生の特別講演と若手の先生方あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013373 〔写真1〕第4回NGW.韓国の先生方と英語で情報交換の一般講演を学会形式で行うのですが,加えて,ライブサージャリーの実施,プレゼンテーションをはじめ会のすべてを国際学会風に英語で実施,3D映像を用いた手術手技の検討,「行列の出来る硝子体相談所」という若手の先生が日々の悩みを気さくに会員に相談する企画など,趣向も凝らしたユニークな会で,毎回深夜まで大いに盛り上がります.第1.5回までは私が世話人の代表を務めさせていただき,いろいろと勉強になりましたし,第一線でご活躍の先生方と親交を深めることができたことも大きな財産となりました.第6回からは,さらにアカデミックでユニークな会にすべく,長崎大学医学部眼科の鈴間潔先生に代表世話人をお願いしています.プライベートのmyboom:和装(写真2)私は学生時代からおしゃれを楽しむのが好きなほうでしたが,5年ほど前から少しずつ和装に興味を持つようになりました.毎年夏になると仲の良い近隣の眼科の先生方と浴衣姿で集まり,情報交換会を行っています.昨年,眼科診療アップデートセミナーで京都を訪れた際に〔写真2〕着物デビュー.京都で購入した大島紡ふと立ち寄った着物屋で見つけた格安の新古の着物が偶然私にぴったりのサイズで,それを購入して以来,本格的に和装への興味が深まりました.とは言いましても,あまり堅苦しいのは苦手ですので,決まり事にはとらわれずに楽しく着るようにしています.バリエーションは女性の着物に比べると多くはありませんが,裏地や小物などには拘りを発揮できます.現在は,和装に合う木製の眼鏡を物色中です.次回は,NGWでも大変お世話になり,和装もとてもお似合いになりそうな,長崎大学医学部眼科の鈴間潔先生にバトンをつなぎたいと思います.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆374あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(88)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 3.Dr. Jin H. Kinoshitaと日米眼科研究協力

2013年3月31日 日曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ③責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ③責任編集浜松医科大学堀田喜裕Dr.JinH.Kinoshitaと日米眼科研究協力沖坂重邦(ShigekuniOkisaka)防衛医科大学校名誉教授1964年順天堂大学医学部卒業.1969年順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了.医学博士学位取得.1970年米国Harverd大学医学部HoweLaboratoryofOphthalmologyResearchFellow.1972年米国国立眼研究所VisitingScientist.1974年Merubourne大学医学部眼科学教室Fellow.1975年順天堂大学医学部助手.1976年同大学臨床講師.1978年防衛医科大学校助教授.1982年同校教授.2004年同校定年退官.眼病理教育研究所所長.2005年防衛医科大学校名誉教授.現在に至る.Dr.JinH.Kinoshita(以下Jin先生)の水晶体の生化学的研究の業績は,私が大学院在学中の後半(1968~1969年)の博士論文(家兎前眼部の器官培養)作成の際にはきら星のごとく輝いていました.それはJin先生のところで研究していて帰国され,順天堂大学眼科学教室の講師としてご指導を受けていた佐藤建士先生から伺ったエピソードによっても裏打ちされていました.Jin先生との出会いはそれからすぐの1969年9月のまだ暑さのきびしい時でした.Jin先生は,HarverdMedicalSchool,HoweLaboratoryofOphthalmologyの同僚であるDr.ToichiroKuwabara(以下Toichi先生)と一緒に日米眼科研究協力について日本側の順天堂大学の中島章先生らと話し合いのために来日されました.写真1は話し合いの合間にBostonのRetinaFoundationの留学から帰国されたばかりの糸井素一先生と一緒にお二人を箱根の観光にお連れした時のものです.翌年の1970年5月から私はResearchFellowとしてHoweLaboratoryofOphthalmologyの実験病理研究室でToichi先生のご指導の下で網膜光凝固,網膜光毒性,網膜生検の仕事をはじめました.LaboratoryでJin先生にお会いすると,「Toichiは厳しいから何か困ったことがあったら私のところに遠慮なく相談に来なさい」とやさしく声をかけてくださるのが常でした.1971年には,Jin先生はWashington,DC郊外のメリーランド州Bethesdaにある米国国立眼研究所NationalEyeInstitute(NEI)のLaboratoryofVisionResearch(LVR)の初代の所長になられたので,HoweLaboratoryofOphthalmologyの多くの研究者もLVRに移って行きました.Toichi先生もLVRの実験病理部(85)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY写真1箱根にて左より,Jin先生,Toichi先生,糸井素一先生,筆者.長として新しい研究室の立ち上げに奔走しておられました.私は1972年にLVRに移り,網膜から緑内障にテーマを変えての実験病理の仕事をToichi先生と一緒に精力的に続けました.幸いにも,トップネームの論文“Selectivedestructionofthepigmentedepitheliumintheciliarybodyoftheeye”がScience(184:12981299,1974)に掲載され,Jin先生からも「よくやったね」と労をねぎらっていただきました.私はNEI開設時に留学していた関係でNEI同窓会の事務的なお世話を仰せつかっていました.NEIDirectorのDr.CarlKupfer,Jin先生,Toichi先生らが来日した時には来賓を囲んで同窓会を企画し旧交を温めていました.写真2は1984年9月Jin先生をお迎えした時のNEI同窓会の集合写真で,図1はJin先生に差し上げた寄せ書き(コピー)です.2005年7月Dr.CarlKupferから,NEIのIntramuあたらしい眼科Vol.30,No.3,2013371 写真2東京帝国ホテルにて中央のJin先生を囲んでNEI同窓会のメンバー.ralProgramで留学した日本人研究者の帰国後の動向を調査してほしいとの依頼が中島章先生を通してありました.留学者一人ひとりのpointの情報よりも全員のmassの情報を,時間軸を含めた三次元の情報として捉えれば何か新しい動向が見えてくるかもしれないと思い,NEI同窓会の会員にアンケート調査への協力依頼をいたしました.このアンケート集計をDr.CarlKupferに提供したところ,日米の眼科研究協力のすばらしい成果であると評価されました.この調査結果は日本眼科学会雑誌(110:238-241,2006)の談話室に「アメリカ国立眼研究所と日本人留学者」として掲載されていますので参考にしていただければ幸甚です.NEIに留学した日本人は,1972~1979年19名,1980~1989年25名,1990年以降12名でした.この数字の意味するところは,いくつかあると考えています.①これだけ多数の日本人研究者が30年ほどの間に1研究施設に留学できたのは,1969年9月に日米眼科研究協力の話し合いで来日した時からのJin先生とToichi先生のこのProgramに対する強力な思い入れがあったものと確信しています.②後期に留学者が減少しているのは,NEI内での留学者の一極集中を避ける動きやNEIの所帯が大きくなってJin先生やToichi先生の影響力が及ばなくなったことなどによるのではないかと推測しています.留学の目的にはいろいろあると思いますが,私の独断と偏見をお許しいただくとして3つに分けてみました.56名の日本人研究者の主な留学目的を無理を承知で分類してみますと,①医育機関内でのステップアップの手段としてのキャリア・技術・語学力などの習372あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013図1Jin先生にプレゼントしたNEI同窓会メンバーの寄せ書き(コピー)得をしたい(76%),②一時期研究生活を体験して臨床医としての幅を広げたい(17%),③最先端の研究の場に身を置きたい(7%)ということになりました.興味ある数字であると思っています.今まで述べてきましたNEIのIntramuralProgramと並行して,日本学術振興会(JSPS)とNEIの上部機関である米国国立衛生研究所(NationalInstitutesofHealth:NIH)との政府間協議による眼科および視覚に関連した生理学,工学の研究者の国際交流が1976~1991年までの15年間に実施されており,日本から米国へ19名,米国から日本へ17名留学しています.NEIであれNIH・JSPSであれ組織を介した留学の継続にはプロモートする人々の見識・先見性・持続する情熱が大ですが,時の流れ・時期を得ることのむずかしさもおわかりいただけたのではないかと思います.日米眼研究の架け橋の一断面について述べさせていただきましたが,故人となってしまわれましたJin先生,Toichi先生,お二人の恩師のD.G.Cogan先生のご指導に感謝いたします.また,このプロジェクトに強い牽引力を示されました私の恩師中島章先生のご健勝を祈念しています.(86)

WOC2014への道:あと13カ月

2013年3月31日 日曜日

WOC2014TokyoWOCまで,あと1年あまりとなりました.一般演題の募集も開始され,いよいよ本格的な準備が始まっています.私は,今回日本のプログラム委員長,ICO(InternationalCouncilofOphthalmology)のプログラム委員会副委員長を担当していますので,WOCのプログラムについて解説させていただきます.WOCのプログラムは,ICOのScientificPro-gramCommitteeが中心となって企画・立案されます.この方式はアブダビで行われたWOC2012が最初で,東京がICO主導でプログラムが作られる2回目の学会になります.それまでは,ICOからプログラム委員長が1名推薦され,ホスト国の眼科学会が中心となってプログラム委員会を組織していました.ICOからのプログラム委員長は,米国のStephanJ.Ryan先生が長く努められていました.アブダビからシステムが変わり,プログラム委員長もライプチッヒ大学のPeterWiedemann先生に代わりました.プログラム委員のメンバーも,世界のいろいろな地域から6名が選ばれて,プログラム作成を担当しました.私もこのときから委員に加えていただきました.WOC2014ではプログラム委員も11名に増えて,Wiedemann委員長の主導で活動しています.昨年のシカゴでの米国眼科学会の際に第1回目のプログラム委員会が開かれました.ICOの事務局にも専任の職員が配置されています.WOCでのシンポジウムは,ICOの会員となっている各国の眼科学会や網膜・緑内障・角膜など専門領域の国際学会が企画するものと,プログラム委員会から委任されたScientificProgramCoordinatorが企画するものがあります.今回はこのような各種学会が企画するものとしてすでに50以上のシンポジウムが提案されています.ScientificProgramCoordinatorは,35のsubspecialtyの領域に世界の地域を考慮して5名ずつ推薦されており,開催国である日本からもすべての領域に1名ずつ入っていただいています.今ちょうど,Coordinatorにシンポジウムの企画を依頼しているところで,3月中には素案ができあがる予定です.WOCでは初日の平成26年4月2日(水)にSub-specialtyDayを予定しています.Cataract,Glau-coma,Oculoplasty,PediatricOphthalmology,RefractiveSurgery,Retinaの6つの領域のSub-specialtyDayが予定されています.SubspecialtyDayは知識のアップデートに有用ですが,AAOとは異なり学会登録費のみで参加できるので,かなりお得です.一般演題は,1.口演,2.ポスター,3.ビデオ,4.インストラクションコースの4つの発表形式で公募されます.ポスターとビデオはすべてデジタル形式で提出していただき,学会期間中いつでもコンピュータで閲覧できるようなシステムを考えています.演題募集はすでに始まっており,7月26日が締めきり予定です.詳細は,WOCのウェブサイト(http://www.woc2014.org)をご覧ください.多くの皆様からの演題登録をお待ちしています.WOC2014への道あとカ月小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学13(83)あたらしい眼科Vol.30,No.3,20133690910-1810/13/\100/頁/JCOPY

現場発,病院と患者のためのシステム 14.業務システムにおけるメッセージの重要性

2013年3月31日 日曜日

連載⑭現場発,病院と患者のためのシステム連載⑭現場発,病院と患者のためのシステムテレビ,レンジなど,家電を購入すると取扱説業務システムにおけるメッセージの重要性明書(マニュアル)がついてきます.多機能な家電ほど分厚く,見ようとする気にならない方は多いでしょう.普段使わない機能を使う場合には見なければなりませんが,基本機能だけで十分な場合は多く,常識を働かせればマニュアルを見なく杉浦和史*マニュアルを見るのはどのような場合でしょう.多種多様なシーンが考えられますが,操作の結果,何らかのメッセージが表示され,判断しなければならない場合にても使えるように作って欲しいものです.業務システムも同じです.マニュアルを見ることはよく経験します.マニュアルを見ないで済むようにはできないものでしょうか?稼働12年を経過している当院の予約業務を主体とするリソースマネジメントシステムM-Magicでは,操作シーンに応じて,多数の工夫されたメッセージが用意されています.これによってM-Magicはマニュアル不要なシステムになっています.個室希望の患者さんを大部屋に移してしまった,“博美”“里美”など,女性を思わせる名前から女性の部屋に割り(,)当てたら男性だったなどは,経験するところです.これを防ぐために必要な情報(性別,希望部屋種類)は,システムが持っています.これらの情報を使えば,部屋変更の操作時,矛盾のチェックをシステムに任せることができます.M-Magicでは,性別が混在していたり,個室希望なのに大部屋に移そうとした場合には,図1のようなメッセージを表示し,注意を促して操作ミスを防いでいます.このメッセージは,部屋を変更する際,確認漏れによる移動ミスが多いことへの対策でした.これにより,誤操作,誤判断を防ぐことができ,病棟看護師は安心して操作し,患者さんからのクレームも解消する効果的な対策となりました.ところで,図1左側のメッセージで,部屋と患者さんの性別が違っているにもかかわらず,“承知”を選択できるのはどうしてでしょう.これは,患者さんが幼い男子だった場合,若い母親が看病することを想定し,女性の部屋に幼い男子を入れられるようにするための処置です.“承知”の選択肢がないと,若い母親が男性の部屋に出入りしなければならず,不都合が生じます.予約担当看護師からの仕様確認で,このような場合があることがわかりましたが,“イレギュラーなことが起きるのが病院”を前提に設計していたので,“承知”の選択肢を用意してあり,クリアすることができました.個室に入っていた患者さんが,一人では寂しくなり,大部屋に変えて欲しいという要望が出ることもあります.これを考慮し,部屋変更の操作をすると“図1右側の確認メッセージを表示し,“承知”を応答できるようにしています.ところで,このような丁寧なメッセージではなく,図2左側のメッセージだった場合はどうでしょう.操作ミスの内容がわからず,マニュアルを調べ,メッセージを捜し,表示された理由を理解してから,応答しなければなりません.何がどのように間違っていて,どうすれば良いのかがわかるメッセージと応答(選択肢)部屋割当/移動移動先の部屋は女性部屋です。承知やり直し部屋割当/移動山本一彦様は個室希望です。移動先は大部屋ですが良いですか?承知やり直しサンプル操作に誤りがあります。無視やり直しサンプル入力された値が上限値を超えています。無視やり直し図1メッセージ例1図2メッセージ例2*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(81)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013367 ☆☆☆予約確認平成25年1月19日(火)(都城)診察:●●先生の午前1枠いいえはい予約確認平成25年1月19日(火)(都城)診察:●●先生の午前1枠よろしいですか?いいえはい図3メッセージ例3にしておかないと,このようにマニュアルが必要になります.図2右側のメッセージのように,“入力された値が上限値を超えています”の文があれば,マニュアルを見ることなく,安心して応答できます.メッセージへの応答としてよくみかける,“はい/いいえ”は,何が“はい”で,何が“いいえ”なのかがハッキリしない場合があります.この場合,“.よろしいですか?”の文を追加すれば,“はい/いいえ”,が生きてきます(図3).このように,メッセージの文章,応答ボタン名には,間違わないための工夫が必要です.当院で稼働中のM-Magicsには実装済みですが,現在開発中のHayabusaも,メッセージの文章と応答のボタンの名前に工夫をし,マニュアルレスを指向しています(図4).手術管理支援会計411号室劉備玄徳様のお迎えを、諸葛孔明様の車いすでお願いします。院内診断書が出来上がりました。※ムンテラご希望の家族の方がおられれば●●先生の診察室に取りに行って下さい。ご案内ください。了解後で了解図4メッセージ例4このようなメッセージ文,応答ボタンの名前にするには,業務を調査し,現実に起こり得る操作シーンを洗い出し,整理整頓が必要になります.お仕着せのパッケージソフトでは,説明してきたような微に入り細にわたったメッセージ,応答の選択肢は期待できず,従って分厚いマニュアルが必要となってきます.メッセージによって,作業ミスを軽減することも可能です.“医師の診察後,散瞳”の指示を見落とし,診察前の検査で散瞳してしまった.“スクラッチテスト用の抗血清剤の有効期限を確認しないまま,期限切れの抗血清剤を使ってしまった”など,インシデントになるような作業ミスも,システムが患者情報と医師の指示を参照し,注意メッセージを表示することで,避けることができます(図5).検査(スクラッチテスト)霧島つつじ様抗血清剤の有効期限を確認してください。了解検査(散瞳)宮崎ぢどり様散瞳は医師の診察後です。了解西郷ドン様ミドリンP禁止です。了解図5メッセージ例5また,応答したスタッフが誰なのかを管理すると,責任が明確になることで適度な緊張感を与え,適切な作業が期待できます.どのようなメッセージ,応答方法が用意されているか,これはシステムを評価する一つの指標になるでしょう.皆さまのご参考になれば幸いです.検査(点眼)368あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(82)

タブレット型PCの眼科領域での応用 10.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入-その3-

2013年3月31日 日曜日

シリーズ⑩シリーズ⑩タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第10章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入─その3─■ロービジョンエイドとしてのデバイスサイズの選定の実際今回は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PCである“RetinaディスプレイモデルiPadR(米国AppleInc.)”とスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”,ポータブルマルチプレイヤーのiPodtouchR(米国AppleInc.)のiOSバージョン6.01について,デバイスサイズの選定における問診の進め方を具体的な言葉とともに紹介していきます.■私のロービジョンエイド活用法『見きわめの問診後編』本章では,前章での見きわめの問診において各デバイスに関心を示した患者に対して,各人のニーズに対応した最適なタブレット端末の大きさの選定手順について説明していきます.具体的には最も大きい9.7インチのタブレット型PCであるiPadR,その軽量小型版である7.9インチのタブレット型PCのiPadminiR,最も小さい4インチ(対角)の液晶画面をもつiPhone5RやiPodtouchRなどのデバイスが,その患者の視機能やニーズにとって最適かを判断してデバイスサイズの選定を行っています(2013年1月31日現在).私は視機能にかかわらず原則的に,まず最も大きい9.7インチのデバイスを用いて前章で示したように最適な文字サイズや文章設定を行い,タブレット上での読書が可能かどうかを確認します.読書行為自体に関心を示さない患者にはカメラ機能などを用いたデジタルルーペとしての活用などを通して,画面が大きいことによる恩恵を患者が受けるかを慎重に確認します(図).画面の大きさが患者にとってのメリットとならない場(79)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY合,すなわちデバイス上で最大まで拡大表示された文字や画像が視認不可能な視機能の患者に対しては,最も小さいデバイスである4インチのデバイスを用いた音声読み上げ機能や音声フィードバック機能(voiceover)の適応について,確認するように指導の方向性を転換します.9.7インチのタブレット型PCの利点は,ディスプレイの大きさによる視認性の向上です.そのため9.7インチの画面においても視認性の向上を得られない患者では,音声情報や音声フィードバック操作による情報端末デバイスとしての切り口でデバイスサイズの選択を検討します.4インチのデバイスは,液晶画面が小さく9.7インチや7.9インチのタブレット型PCと比較して画面上のアイコンの構成要素が少なく,操作を視機能に依存しない患者にとっては液晶画面内の構成要素の配置の把握や検出が比較的容易です.操作方法などの詳細は次章で解説しますが,液晶画面の表示アイコンに依存せずに操作が可能な音声フィードバック機能(voiceover)を用いることで音声パソコンと類似した操作が可能となります.図体験をとおして患者の視機能で文字の閲覧が可能な最適なサイズを選択あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013365 一方,9.7インチのタブレット型PCで読書行為などが可能な患者に対しては,7.9インチのタブレット型PCにおいても同様の使い方が可能であるかを確認します.両サイズにおいて,遜色なく活用できた患者に対しては以下の要素に注目して,最適なサイズを選択します.①使用場所②使用目的③患者以外の使用者の有無以上の3つの要素についての問診が重要です.①に関して自宅での使用が主体で携帯性を重視しない患者には,画面が大きく視認性の最も良い9.7インチのタブレット型PCを第一選択とします.①,②に関して携帯性を重視した屋外での使用がメインである患者の場合は,軽量の7.9インチのタブレット型PCを優先的に選択します.携帯性を重視する理由の一つには,タブレット型PCを実際にロービジョンエイドとして導入した患者から,以下のような言葉をよく耳にするからです.『寝ながら本を読んだのは,生まれて初めてです』『読書という行為の概念が,根底から変わりました』『電源を気にしないで,場所を問わず読書ができることは本当に快適です』『好きなサイズ(文字)で,いつでも読めるので初めて文字を読むことが好きになりました』拡大読書器などを使用しないと読書行為が行えなかったロービジョンの患者にとって,電源確保の心配がなく場所や体勢の制約から解放されることは,タブレット型PC使用による大きな恩恵の一つといえます.そのため,タブレット型PCをエイドとして選択する際に,タブレット本体の重量やサイズは非常に大きな要素の一つであるのです.しかし,十分な視認性の向上を得られることが最も優先するべき要素であることには変わりはなく,まず視認性の向上の確保できるサイズであることは必須条件で,そのうえでニーズに対応できる必要最小のタブレットサイズを選択することが重要です.また,③の“患者以外の使用者の有無”は,実際に患者がエイドとして使用していけるかを決定する非常に大きな要素であり重要です.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての適応条件(視力,視野など)に関366あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013する問い合わせを受けることがありますが,私の経験上,エイドの適応条件は視機能ではなく家族や仲間の存在に依存します.タブレット型PCは一般に広く普及した機器であるため,晴眼者である家族や仲間が同じ機器やそれに類似した機器を使用している可能性が高く,そのような環境が構築できるかはエイドとして使用していくうえで,患者にとって非常に大きな心の支えとなります.私は患者に最終的にエイドとしての使用を勧める際,家族や友人などを外来に同伴してもらうように勧めています.それは家族や友人がタブレット型PCを共有して使用することで,患者自身がエイドとしての使用を一時的にドロップアウトした際に,家族が一般機器として活用しながら患者のペースに合わせてロービジョンエイドとしての活用を再度導入することが可能なためです.このような二段階の導入法は,タブレット型PCやスマートフォンが一般に広く普及した汎用性の高い機器であって初めて成立するのです.家族や子どもとの共用が考えられる場合,最も大きい9.7インチであることの利点が生かされる事例も多く,最後の要素として家族や仲間との利用を含めた包括的なサイズの選定が必要になるのです.“サイズの見きわめの問診”のポイントは前章と同様にまず体験の先行を重視し,医療従事者側が安易に視機能から一方的にデバイスサイズや適応を判断するのではなく,患者本人にとっての最もニーズの高い使用目的を明確にすることです.また家族や協力者の存在の有無やニーズを考慮して包括的にデバイスサイズを選択することが最も重要であるといえます.なぜなら使えるエイドであることよりも,使い続けていけるエイドであることがロービジョンエイドを選定するうえでの最も大切な要素であるからです.一人でも多くの視覚障害者の目に希望の光を戻せるように,正しい“見きわめの問診”を広めることが視覚障害者の明日を作ると私は信じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(80)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 118.瘢痕期未熟児網膜症に生じる裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術(上級編)

2013年3月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載118118瘢痕期未熟児網膜症に生じる裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに瘢痕期未熟児網膜症の合併症としては,屈折異常,眼位異常,閉塞隅角緑内障,網膜.離,硝子体出血などがある.網膜.離には牽引性と裂孔原性があるが,瘢痕期未熟児網膜症に発症する網膜.離は,網膜無血管野の脆弱な網膜部位に異常な硝子体牽引が作用して生じる裂孔原性網膜.離の頻度が高い.●瘢痕期未熟児網膜症に生じる裂孔原性網膜.離の特徴瘢痕期未熟児網膜症に生じる裂孔原性網膜.離は,以下のような特徴を有しており難治例が多い.1)硝子体の液化変性が著明で網膜.離の進行が早く,しばしば胞状となる.2)後部硝子体が未.離かつ網膜との癒着が面状で,人工的後部硝子体.離作製がむずかしい.3)光凝固や冷凍凝固を施行してある辺縁に裂孔を生じることも多く,その周囲は過去の凝固操作により網膜が非常に菲薄化,脆弱化している.4)しばしば裂孔の深さが異なり,後極に向かって不規則に裂ける大きな裂孔が多い.5)牽引乳頭を認める症例では網膜の伸展性が低下していることがある.6)周辺部の無血管野に線維血管性増殖膜を生じていることがある.本シリーズの(71)家族性滲出性硝子体網膜症に伴う網膜.離に対する網膜硝子体手術(上級編)に記載したが,網膜.離の病態は家族性滲出性硝子体網膜症と類似点が多い.●瘢痕期未熟児網膜症に生じる裂孔原性網膜.離に対する手術治療裂孔が赤道部より周辺にあり,網膜に著明な増殖組織が認められない場合には,まずは強膜バックリング手術(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYを考慮する.しかし,硝子体牽引が強い例や深部裂孔,大きい裂孔を有する例では硝子体手術が必要となることが多い(図1).硝子体手術での人工的後部硝子体.離作製時には,ワンハンドでの処理は困難で,双手法による処理が必要なケースが多い(図2).赤道部まで確実に人工的後部硝子体.離を作製し,残存硝子体の牽引を相殺する目的で輪状締結術を併用したほうが確実な復位が得られる.図1自験例の左眼眼底写真上鼻側の弁状裂孔と下鼻側深部に不規則な裂孔を認め,胞状の網膜.離が後極部に進行している.硝子体の液化が著明で網膜.離の進行は早い.図2術中所見網膜硝子体癒着が強固でかつ面状であり,双手法による人工的後部硝子体.離作製が必要である.あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013363

眼科医のための先端医療 147.Retinal Function Imager-網膜機能画像イメージング

2013年3月31日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第147回◆眼科医のための先端医療山下英俊RetinalFunctionImager─網膜機能画像イメージング西川薫里野崎実穂(名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学)RetinalFunctionImager(RFI)とは網膜血流測定は古くは蛍光眼底造影,最近ではレーザースペックルを用いた評価が盛んに行われています.RetinalFunctionImager(RFI)も網膜血流評価のできる新しい網膜機能画像イメージング装置(図1)で,イスラエルのOpticalImaging社で開発され,わが国では2011年に承認されました1.3).RFIの原理は,赤血球のヘモグロビンが緑色光を吸収する特性を利用し,波長540nmの光源を使用して眼底の連続撮影をします.血管内の赤血球の動きをトラッキングすることにより,網膜血管血流速度の測定(図2A)をし,血管内の赤血球の動きのコントラストの変化を加算することにより,造影剤を使わずに毛細血管を描出することができます(図2B).RFIの上級モデルでは,さらに網膜血管酸素飽和度や網膜の代謝レベル(神経細胞活動性)の評価も可能となっています1,2).図1RetinalFunctionImager高解像度デジタルカメラ付きの眼底カメラとコンピュータおよびフラッシュ光源の内蔵されている装置からなる機械である.(文献3より)AB図2RFIによる血流速度測定と毛細血管描出A:RFIによる血流速度測定.中心窩にマーク(矢頭)をすると,あとは血管をトレースするだけで,任意の血管の血流速度の絶対値を測定できる.マイナスがついているのは,動脈(色は赤),静脈は紫色で表される.B:RFIによる毛細血管描出.画角20°で撮影,毛細血管が造影剤の投与なしで,鮮明に描出されているのがわかる.(文献3より)(73)あたらしい眼科Vol.30,No.3,20133590910-1810/13/\100/頁/JCOPY *p<0.05*p<0.055細静脈血流速度(mm/秒)RFIでは,蛍光眼底造影で検出できる「造影剤の漏出」という所見を得ることはできませんが,経口造影剤で鮮4明な蛍光眼底像がRFIで得られることも報告されてい3*p<0.01ます8).現在のRFIは,画角20°(もしくは30°)で眼底細動脈血流速度(mm/秒)撮影をするので,視神経乳頭,黄斑部以外の撮影には向2いていませんが,今後画角が大きくなり,パノラマ機能1を搭載されれば,糖尿病網膜症症例などに非常に有用に健常PDR0健常PDRなると期待されます.今後の展望造影剤を使わず非侵襲的に網膜微小循環を評価できる図3健常人と増殖糖尿病網膜症(PDR)の血流速度の比較PDRでは,健常人と比較して有意に血流速度が低下していた(健常人8眼,PDR13眼).RFIは,臨床の場でとても魅力のある機器といえます.今後さらにRFIを用いた網膜微小循環評価データを増やし,さまざまな疾患の早期発見や予後,治療効果評価RFIを用いた研究―血流速度―RFIのメリットは,従来の方法では評価できなかった,血管径60μm未満の網膜細動静脈の血流速度を測定できることです.今までに,RFIを用いて,非増殖糖尿病網膜症(nonproliferativediabeticretinopathy:NPDR)では,正常人と比較して,網膜細動静脈の血流速度が有意に低下していること4),一方で網膜症のない初期糖尿病患者では細動静脈の血流速度が有意に上昇しているという報告がありました5).筆者らのRFIを用いた検討でも,正常人と増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)との比較で,PDRで有意に網膜の細動静脈血流速度が低下していました(図3).RFI以外の方法で網膜大血管や毛細血管の血流を評価した過去の報告では,糖尿病網膜症が発症すると網膜血流が低下するといわれてきましたが,網膜症発症前には,血流が増加する,という報告の他に,血流が低下するという報告もあり,正反対の結果がみられます.RFIを用いた網膜症発症前の血流評価は,まだ1グループから報告5)されただけですが,今まで評価できなかった網膜細動静脈の血流速度を,RFIを用いて今後さらに他施設でより多くの症例で追試されれば,網膜症発症機序の解明にもつながる可能性があり興味深いと思われます.また,最近では,RFIを用いた結膜血管の血流測定の報告もみられ,他の組織でも応用ができるかもしれません6).につながるように,検討していく必要があると思われます.文献1)NelsonDA,KrupskyS,PollackAetal:Specialreport:Noninvasivemulti-parameterfunctionalopticalimagingoftheeye.OphthalmicSurgLasersImaging36:57-66,20052)IzhakyD,NelsonDA,Burgansky-EliashZetal:Functionalimagingusingtheretinalfunctionimager:directimagingofbloodvelocity,achievingfluoresceinangiography-likeimageswithoutanycontrastagent,qualitativeoximetry,andfunctionalmetabolicsignals.JpnJOphthalmol53:345-351,20093)野崎実穂:【眼科の新しい検査法】網膜疾患RetinalFunctionImagerについて教えてください.あたらしい眼科27(臨増):138-140,20104)Burgansky-EliashZ,NelsonDA,Bar-TalOPetal:Reducedretinalbloodflowvelocityindiabeticretinopathy.Retina30:765-773,20105)Burgansky-EliashZ,BarakA,BarashHetal:Increasedretinalbloodflowvelocityinpatientswithearlydiabetesmellitus.Retina32:112-119,20126)JiangH,YeY,DebucDCetal:Humanconjunctivalmicrovasculatureassessedwitharetinalfunctionimager(RFI).MicrovascRes2012Oct16.doi:pii:S0026-2862(12)00166-5.10.1016/j.mvr.2012.10.003.[Epubaheadofprint]7)WitkinAJ,AlshareefRA,RezeqSSetal:Comparativeanalysisoftheretinalmicrovasculaturevisualizedwithfluoresceinangiographyandtheretinalfunctionimager.AmJOphthalmol154:901-907,20128)NelsonDA,Burgansky-EliashZ,BarashHetal:Highresolutionwide-fieldimagingofperfusedcapillarieswithRFIを用いた研究―網膜毛細血管網―RFIの毛細血管網描出画像のほうが,蛍光眼底造影画outtheuseofcontrastagent.ClinOphthalmol5:1095像に比べて,血管のループや,中心窩無血管野の大きさ1106,2011をより詳細に評価できるといわれています7).一方で,360あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(74) ■「RetinalFunctionImager―網膜機能画像イメージング」を読んで■今回は新しい網膜血流の測定法について,西川薫里先生,野崎実穂先生にわかりやすく解説していただいた.網膜疾患,とりわけ非常に患者数の多い網膜血管疾患の病態解明には血流を定量的に測定する装置が必須です.これまでも,蛍光眼底検査,レーザードップラ,レーザースペックルなど種々の方法を用いて血流測定が試みられ,成果をあげてきました.血流をどのように捉えるかはその機械の原理によるので,今回のRFIは赤血球の動きをトラッキングすることによる測定で,網膜の病態,特に組織の酸素飽和度についてのデータをとることが期待できます.これにより,糖尿病網膜症の発症前の段階でのリスク評価を行い,今後の治療方針,特に血糖や血圧のコントロールの方針にまで眼科医の立場からアドバイスをできるかもしれません.糖尿病患者での問題として,大血管症(心筋梗塞,脳卒中)があります.網膜症の重症度がその後数年の大血管症発症のリスク評価に使えることを示すデータが近年蓄積されてきています.現時点では網膜症の評価は眼底所見によることが多いので,今後,RFIのシステムにより,網膜症発症前のリスク評価が大血管症のリスク評価をさらに精密なものにする可能性も考えられます.今後の西川先生,野崎先生のご研究の進展が期待されます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(75)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013361