‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

就労期のロービジョンケア

2013年4月30日 火曜日

特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):443.449,2013特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):443.449,2013就労期のロービジョンケアLowVisionCareoftheWorkingPeriod鶴岡三惠子*はじめに就労期の視覚障害者が病院を訪れるとき,その入り口は一般外来である.そのとき,視覚障害の患者を眼科医が支援しなければならないのだが,眼科医としての支援とは何であろうか.眼科医として,視覚障害者の職業=「三療」(あん摩・マッサージ・指圧,鍼,灸)しかないと考えるのは間違いである.視覚障害があっても,ロービジョンケアによって,事務の仕事や他にもできることは多く,第一線で仕事をしている患者も少なくない.また,在職中の患者に対して眼科医が「仕事を続けることが重要である」と伝えることが必要なのである.ロービジョンケアは専門家だけが行う,特殊なケアではない.ここに紹介するロービジョンケアは,毎日の診療中ですべての眼科医が認識すべき基本的なものである.働き盛りの患者にとって,仕事を維持・継続できるかどうかは,家族の生活にもかかわる問題だけに大変重要である.視覚障害が原因で仕事を辞めてしまうと,再就職は容易ではない.それ故,退職することなく働き続けられるように眼科医が支援することが大切なのである.I眼科医として一般外来でできるロービジョンケアロービジョンケアには6つの基本がある.すなわち,1.患者のニーズを知る,2.視機能評価,3.必要書類の作成,4.社会資源の紹介,5.ロービジョンエイド,表1一般外来でできるロービジョンケア一般外来でできるロービジョン外来で行う患者のニーズを知る傾聴問診表・ゆっくり傾聴視機能評価視力・視野偏心視域・読書速度必要書類の作成経験者に相談書類の作成社会資源の紹介専門医に紹介パンフレットの用意一般外来のなかで行えるロービジョンケアは多い.6.環境整備,である.これらのすべてが,一般外来でできるわけではない.すべての眼科医が診療のなかで明日から実践できるものは,1.患者のニーズを知る,2.視機能評価,3.必要書類の作成,4.社会資源の紹介である(表1).以下に一般外来でできる4つのケアを含め,6つの基本事項について述べる.1.患者のニーズを知る一般外来の問診のなかで,大切なことは傾聴である.外来で患者の声に耳を傾けることから始める.眼科医の仕事の最終目的は,視機能を良くすることだけでなく,患者の自立を手助けすることである.表2に問診のチェックポイントをまとめる.2.視機能評価矯正視力(遠見・近見),視野検査,読書視力,アムスラー(中心暗点検査)などの一般眼科検査だが,ポイ*MiekoTsuruoka:お茶の水・井上眼科クリニック〔別刷請求先〕鶴岡三惠子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3新お茶の水ビルディング18F・19F・20Fお茶の水・井上眼科クリニック0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(15)443 表2問診のチェックポイント<読み書きについて>.新聞の文字は見えるか:大見出しは?中見出しは?本文は?.自分で書いた文字は読めるか?.書式の決まった書類に記載できるか?<移動について>.通勤時の移動は問題がないか?.信号の色はわかるか?.階段の昇降はできるか?<就労に対して>.いま働いているか?(休職中か?病気療養中か?).経済面も含めて,困っていることはないか?.職場の上司,人事担当と視覚障害について相談できるか?<身体障害者手帳>.持つ気はあるか?.手帳を取得することで,公的支援制度を活用できることを知っているか?.補装具や日常生活用具などへの援助を知っているか?<特定疾患(難病)>.手続きを行っているか?患者の声に耳を傾けることが大切である.ントは矯正視力と視野である.視機能評価をするとき,身体障害者手帳の等級に該当するかをチェック(表3)する.障害年金については,程度等級は身体障害者手帳の等級基準と異なる(表4).視機能評価と同時に,「あなたの見え方は戻らないけれども,あなたと同じような見え方で仕事を続けている人たちがいる」とアドバイスすることが重要である.患者がつぎのリハビリテーション過程へスムーズに移行できるようにするためにも,眼科医からの早期の情報提供が大切である.3.書類作成診断書や意見書の作成は,その後の患者の復職のための対応にも影響を与え,人生の岐路を分けることにもなる.しかし,一方的に患者や障害者に有利に書くべきではなく,一人の判断でなく,経験者に相談をすることが大切である.身体障害者手帳の申請のための診断書は,都道府県知事の指定を受けた医師でないと書けない.復職などに際して事業主が診断書などを求めた場合の記載内容について,「就労は可能であること」が読みと444あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013表3身体障害者程度等級視力0.60.50.40.30.20.10.090.080.070.060.050.040.030.020.0106級5級4級3級2級1級00.010.020.030.040.050.060.070.080.090.1視野2級両眼の視野がそれぞれ10°以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が95%以上3級両眼の視野がそれぞれ10°以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90%以上4級両眼の視野がそれぞれ10°以内5級両眼による視野の2分の1以上が欠けている※身体障害者手帳の申請のための診断書は,都道府県知事の指定を受けた医師でないと書けない.れるものとする.また,療養が必要な場合は「療養(歩行,音声パソコンなどのリハビリテーションを含む)を要する」のように,療養の中身がリハビリテーションを含むことを明記する.<休職の際に提出する診断書の例>・復職を不可能にすることがある例:単に,「療養を要する」と記入.→療養の結果,目が見えるようにならなければ,復職は認められないと言われることがある.・復職するときのことを想定して書いた例:「療養(歩行,点字,音声パソコンなどのリハビリテーションを含む)を要する」と記入.→視覚障害からくる日常生活の支障や社会的不利を軽減する措置(文字の読み書きや移動など,(16) 表4障害者年金基準1級両眼の矯正視力の和が0.04以下のもの2級両眼の矯正視力の和が0.05以上0.08以下のもの3級両眼の矯正視力が0.1以下のもの障害等級国民年金(障害基礎年金)厚生年金保険(障害厚生年金)1級○○2級○○3級○年金の等級は,身体障害者手帳の等級とは関係なく,年金支給の要件基準で判断される.1級は「日常生活の用をたすことができない程度」(身体障害者手帳の概ね1.2級)2級は「日常生活に著しい制限を受ける程度」(身体障害者手帳の概ね3級)◆国民年金(障害基礎年金)障害認定時:初めて医師の診療を受けたときから,1年6カ月経過したとき(その間に治った場合は治ったとき)に障害の状態にあるか,または65歳に達するまでの間に障害の状態となったとき.◆厚生年金保険(障害厚生年金)障害認定時:障害基礎年金と同じ.障害年金を受給するための4つの条件1初診日時点で年金に加入していること2保険料を一定期間払っていること3障害の等級に該当する程度の状態である465歳までに年金請求すること※例外規定があります◆障害年金は月給をもらっていても支給されることがある.いわゆる視覚リハビリテーション)が必要であることを併記する.4.社会資源の紹介就労期の視覚障害者の場合,就労継続・復職に向けたリハビリテーション実施のタイミングが重要である.このためのロービジョンケアには医療だけでなく,福祉,労働など多くの関係者(社会資源)の連携が不可欠である.眼科医からの早期の情報提供が大切で,生活訓練を行う福祉機関,ハローワーク(用語解説)など労働関係機関へつなぐ必要がある.治療と並行して,リハビリテーションを行うことも効果的である.(17)表5社会福祉サービスの窓口身体障害者手帳市区町村役場の福祉課障害基礎年金・手当金国民年金市区町村役場の年金課厚生年金社会保険事務所特定疾患保健所生命保険の重度障害保険金各生命保険会社社会福祉サービスの窓口を患者に情報提供することが大切である.社会資源のすべてに精通することはむずかしいが,社会福祉サービスの窓口は知っておいて,患者に伝えるべきである(表5).また,困ったときに紹介できる近隣の施設を調べておくと良い.自信をもって紹介するためにも,視覚障害者の就労現場,訓練現場を見学し,音声パソコンなど支援機器を体験することも重要である.社会資源の例を下記にまとめる.1)医療:近隣のロービジョン外来はインターネットで検索できる.日本眼科医会のホームページから検索(http://www.gankaikai.or.jp/lowvision/)日本ロービジョン学会のホームページから検索(http://www.jslrr.org/sisetu1.html)2)福祉:障害者支援施設(自立訓練と就労移行支援)海外たすけあいロービジョンネットワークのホームページから地域の施設検索ができる.(http://ganenstudy.web.fc2.com/jp/reference/institution.html)自立訓練(機能訓練)の目標:日常生活動作における機能回復就労移行支援の目標:就労に必要な知識および能力の向上3)雇用・障害者雇用に関する各種相談,職業紹介→地域ハローワーク・職場定着支援,事業主への助言→地域障害者職業センター,障害者就業・生活支援センター・各種助成金→地域ハローワーク,高齢・障害・求職者雇用支あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013445 援機構例)日本盲人職能開発センター(http://www.os.rim.or.jp/.moushoku/)4)情報源・用具販売:点字図書館日本点字図書館(http://www.nittento.or.jp/)5)関連団体日本網膜色素変性症協会(http://www.jrps.org/)日本盲人会連合(http://www.normanet.ne.jp/~nichimo/)緑内障フレンド・ネットワーク(http://www.gfnet.gr.jp/)中途視覚障害者の復職を考える会(NPO法人タートル)(http://www.turtle.gr.jp/)5.ロービジョンエイドロービジョンエイドは5つの基本からなる.1)拡大:補助具(ハイパワー眼鏡,拡大鏡,拡大読書器など)を使用することで視力を補う.2)遮光:遮光眼鏡,帽子などで羞明を予防する.3)照明:コントラスト改善・夜盲の対策を行う.4)眼球運動訓練:視界を拡大する.5)便利グッズ:白杖,音声時計などの使用で日常生活動作を支援する.一般外来のなかでロービジョンエイドがすべてできるわけではない.ここでは明日からの外来のなかで実践できるものとして,基本的な知識を紹介する.拡大について:近用の眼鏡を処方ロービジョンの患者にとって,読書・筆記は見えづらいためにむずかしい作業である.「新聞を読みたい」「手紙を書きたい」などのニーズに対し,拡大鏡・拡大(,)読書器の選定が必要となるが,しっかりと近用の眼鏡を処方することが大切である.ここで,新標準近距離視力表1)を紹介する.この視力表はロービジョンの患者の近見視力を測定するのに優れており,1項に本の種類別に必要とされる視力が近距離視力表(表6)にある.この表から拡大倍率を推定することができる.→必要倍率は以下の式から求めることができる.◇必要倍率M=必要とされる視力/実際の近見視力例)患者の近見視力=0.05(矯正0.1)の場合患者のニーズ「本を読みたい」表6より→一般446あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013表6印刷物を読みうる近距離視力の表ひらがな漢字教科書0.10.20.20.3新聞一般書籍0.30.40.40.4.0.5辞書0.50.6近見視力を矯正して,必要とされる視力からおおよその倍率を推定する.(湖崎克:新標準近距離視力表より)書籍=0.5処方1)矯正した近見視力=0.1ここでしっかり矯正近見視力を出すことが大切!→近用眼鏡を装用して拡大鏡を処方→必要倍率は0.5/0.1=5拡大鏡は5倍となる処方2)矯正なしの近見視力=0.05→裸眼で拡大鏡のみ使用する場合→必要倍率は0.5/0.05=10拡大鏡は10倍となる倍率が上がると視野に入る文字数が少なくなる(図1).患者から「字は見えるが文章が読めない」と,ニーズと合わない結果になってしまうことがある.遮光について:つばの大きい帽子やサンバイザーの利用を助言ロービジョン患者の見えにくさは,視力・視野だけではない.患者の訴える「見えにくさ」の改善に遮光眼鏡が有用な場合がある.「見えにくさ」の感じ方は状況や屋外,屋内など環境や個人によって異なるため,遮光眼鏡の処方には貸出が重要である.このために選定に時間がかかり,一般外来のなかでの処方はむずかしい.しかし,正面からの光だけでなく,上方からの光が「見えにくさ」の原因になることもあり,つばの大きい帽子やサンバイザーの利用を助言することで,「見えにくさ」の軽減に役立つ.補装具における遮光眼鏡の取扱指針改正について(平成22年3月31日)これまで,遮光眼鏡が身体障害者(視覚障害)の補装具として適用される際の支給対象者は原因疾患が限られていたが,平成22年3月の改正で対象者が原因疾患によらないと明確化された(表7).遮光眼鏡の支給対象者(18) 5倍10倍図15倍・10倍の拡大鏡の見え方拡大倍率が上がると視野に入る文字数が少なくなる.は,視覚障害による身体障害者手帳を取得している患者とされ,補装具費支給事務取扱指針に定める眼科医(用語解説)により,治療法として遮光眼鏡の装用が必要と診断され,選定・処方となった場合と改正になった.便利グッズについて:白杖を申請するときの助言補装具の白杖は,身体障害者手帳の取得時に市区町村の福祉課から給付される場合と,補装具として患者自身が申請して給付をうける場合がある.給付時の問題として,給付をうけた患者へ白杖の使い方の指導がない.また,白杖には材質・型・長さなどさまざまなものがあるが,患者にあったものが渡されるとは限らない.患者が白杖を市区町村の福祉課へ申請するときには,歩行訓練サービスも合わせて希望し,白杖の種類と利用時のアドバイスが欲しいことを患者が自分から窓口担当者へ申し出るよう助言する.ロービジョンエイドが視覚障害に対して万能なわけではない.患者によりエイドも異なり,エイドを使いこなすためにトレーニングが必要なこともある.患者がロービジョンエイドを必要とした場合は,近隣のロービジョン外来を紹介してほしい.6.環境整備環境整備は家庭(家族)と会社(上司)に視覚障害について理解を深めてもらうことからはじまる.ロービジョン外来ではシミュレーションゴーグルなどで疑似体験を通して関係者の視覚障害への理解を深めてもらう場合もある.患者本人や周囲の人の意識改革を最も効果的に行えるのは,普段から患者の診療を行っている眼科医なのかもしれない.家庭内での環境整備について:家族の理解を深める家族に患者のコントラスト感度の低下を理解してもらうことが重要である.たとえば,患者に階段の段差がわかるようにテープを張る,患者がお菓子(あられなど)を食べるとき,花柄模様の皿からお菓子をとるのは難しいので白い皿を利用するなど,家のなかにコントラストを増やす工夫が必要である.患者の記憶が視覚障害を代償することを理解してもらうことも重要である.たとえば,冷蔵庫の牛乳は置く位置をきめて,家族全員が牛乳を飲んだあとは必ず定位置に戻す.床にないはずの物が置いてあると障害物になる.オープンスペースをつくり,ものは溜めない,散らかさないなど,家庭内でルールを作り守っていく必要性を助言する.表7補装具における遮光眼鏡の取扱指針改正(平成22年3月31日)旧新補装具の対象者について(種目:眼鏡,名称:遮光眼鏡)・網膜色素変性症・白子症・先天無虹彩・錐体杆体ジストロフィーであって羞明をやわらげる必要のあるもの・視覚障害により身体障害者手帳を取得していること・羞明を来していること・羞明の軽減に,遮光眼鏡の装用より優先される治療法がないこと・補装具費支給事務取扱指針に定める眼科医による選定,処方であること疾患の縛りがなくなった.(19)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013447 会社での環境整備について:会社(上司)の理解を深める会社からの仕事効率の期待と患者自身の作業能率との差が,職場で問題になることがある.また,会社の期待あるいは患者自身の期待感と現実の作業能率の悪さが原因で退職になることがある.職場での問題から,患者が退職に追い込まれないようにするために,患者の作業内容など職場環境の調整が必要になる.会社(上司)や産業医から問い合わせがあった場合には一人の判断でせず,経験のある眼科医,視覚障害者の職業訓練施設などの専門機関の意見を参考にしながら判断をする必要がある.具体的な復職事例の問い合わせの場合は,中途視覚障害者の復職を考える会(NPO法人タートル)が多数の事例を把握していると情報提供をするとよい.環境整備について眼科医だけで問題を抱え込まず,支援団体や関係機関などと連携・協力して,チームによる支援を行うことが重要である.〔症例〕ぶどう膜炎による続発緑内障(両眼).50代,男性.元タクシー運転手.⇒緑内障は,2004年の身体障害者届出件数の第1位(20.7%)である.病歴:5年前,ぶどう膜炎による続発緑内障と診断,点眼・内服による治療,その後,両眼の線維柱帯切除術を行う.転居のため当院を紹介,再手術を検討中である.患者のニーズ:視野狭窄を自覚し,自分からタクシー会社を退職した.仕事を辞めたことが原因で離婚となり,独り暮らしをしている.現在はマンションの管理人をしているが,いつか視覚障害が原因で仕事を辞めなければならないのではと先行きが不安である.視機能評価:視力:右眼=(0.7×.1.75D(cyl.2.0DAx105°).左眼=(0.1×.2.0D(cyl.0.5DAx170°).眼圧:右眼=18mmHg,左眼=19mmHg.視野:湖崎分類右眼=IIIa,左眼=Vb(図2).ケアの実際:必要書類の作成(身体障害者手帳):ロービジョン外来の初診時,視野障害で手帳の取得資格に該当すること,手帳を取得することで公的支援制度を活用できることを説明し,身体障害者手帳の申請となる.社会資源の紹介:病院より中途視覚障害者の復職を考える会(NPO法人タートル)を紹介(支援を依頼),同じように就労継続に不安を感じ,問題を克服している患者の話を参考に,今後の対応を考えることになる.ロービジョンエイド:携帯型拡大読書器を紹介.目的は拡大ではなく,白黒強調の画面を使用することである.コントラストがはっきりして,書類仕事の不自由さが軽減することがわかり,手帳取得後に購入となる.その後,NPO法人タートルの相談会で就労継続の不安を訴え,障害者支援施設・ハローワークへ支援依頼となる.また,仕事を継続しながら障害者年金の支給を受けるための助言があった.診断書の希望にてロービジョン外来を再診.障害者年金の申請と症状進行のため障害者手帳2級の再申請となる.この結果,障害者年金の2級を受給することになり,経済的な不安は軽減した.患者は就労継続を希望しており,ハローワークより病院へ就労可能証明書の依頼があるなど,現在,職場での環境RLI/4V/4I/4I/4V/4図2Goldmann視野右眼の中心視野は孤立している.448あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(20) 整備を行っている.患者は歩行訓練を検討中で,治療とロービジョンケアを並行して継続している.II眼科医が知っておきたいロービジョンケア知識障害者の法定雇用率の引き上げ(平成25年4月1日から)すべての事業主は,法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務がある(障害者雇用率制度:用語解説).この法定雇用率が,平成25年4月1日から表8のように変わる.おわりに視覚障害になると,患者にとって今までできていたことができなくなる事柄が数多くなる.そんななかで,予測ができず,ばかばかしく,胸がはりさけるように感じることも多いであろう.しかし,ロービジョン訓練,生活訓練や職業訓練などの訓練によってできるようになることも多い.今も,視覚障害のある患者が安全に通勤し,パソコンを活用して文字処理業務などを行うなど,いろいろな職域で働いており,「見えない者は働けない」というのは間違いである.このことをしっかり患者に伝える必要がある.患者に対して,本人が保有している視機能の活用と必要な視覚補助具などについて眼科医から助言・指導を行い,就労(継続)の可能性があることを理解させることが重要である.文献1)湖崎克:新標準近距離視力表.1項,半田屋商店,20132)東京都心身障害者センター:視覚障害.身体障害者手帳診断作成の手引き,p15-25,東京都心身障害者センター,20113)李俊哉:身体障害者手帳.疾患への対応ロービジョンケア(新井三樹編),p30-33,メジカルビュー社,20034)守本典子:福祉への橋渡し.疾患への対応ロービジョン表8障害者の法定雇用率の引き上げ事業主区分法定雇用率現行平成25年4月1日以降民間企業1.8%2.0%国,地方公共団体等2.1%2.3%都道府県等の教育委員会2.0%2.2%事業主は,法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務がある.■用語解説■ハローワーク:視覚障害者の雇用の促進と安定を支援の二つの柱として,在職中の中途視覚障害者の雇用継続支援も行っている.患者が在職中に受障などにより雇用上の課題が生じた場合,雇用継続を図るためにも,眼科医ができるだけ早くハローワークに相談するよう助言することが大切.障害者雇用率制度とは:「障害者の雇用の促進等に関する法律」では,事業主に対して,その雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者の割合が一定率(法定雇用率)以上になるよう義務づけている.補装具費支給事務取扱指針に定める眼科医とは:・身体障害者福祉法第15条第1項に基づく指定医=身体障害者診断書の記載ができる指定医師+眼科専門医aまたは・障害者自立支援法に基づく指定自立支援医療機関の眼科を主に担当する医師+眼科専門医・国立リハビリテーションセンター学院においてb実施している視覚障害者用補装具適合判定医師研修会の修了者ケア(新井三樹編),p36-41,メジカルビュー社,20035)石田みさ子:光学的補助具,ロービジョンケアマニュアル(簗島謙次,石田みさ子編),p79-91,南江堂,20006)下堂園保:訪問調査.視覚障害者の就労の基盤となる事務処理技術及び医療・福祉・就労機関の連携による相談支援の在り方に関する研究報告書(下堂園保編),p9-122,特定非営利活動法人タートル,20097)厚生労働省通知「視覚障害者に対する的確な雇用支援の実施について」の本文及び関係資料http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha02/(21)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013449

就学期のロービジョンケア

2013年4月30日 火曜日

特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):437.442,2013特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):437.442,2013就学期のロービジョンケアLowVisionCareforSchoolAgeChildrenandYouth永井春彦*出井博之**はじめに小学校から大学に至る就学期は,自立と社会参加の基礎となる個人の形成がなされる時期であり,この時期に学習し経験することは将来の職業選択にもつながる重要な意味をもつことになる.その学習や経験の多くが視覚に依存する要素を含むことから,ロービジョン児(者)あるいは視覚障害児(者)にとっては視機能障害による不利を補うことが課題となる.就学期のロービジョンケアを特徴づける最大の要素は,健常であれば享受できるはずの教育の機会が,視覚の障害があるがゆえに損なわれることがないよう,個々の視機能を取り巻く課題に対処することである.ロービジョンを専門として標榜していなくとも,眼科の一般診療のなかで就学期のロービジョンへの対応について相談を受けることはありうることであり,眼科医の立場で知っておきたいポイントについて解説する.なお,本稿では視覚単独の障害を前提とした対応について述べることとし,知的障害あるいは発達障害を伴うロービジョン児(者)への対応については本特集の他項を参照されたい.また,2006(平成18)年以降の法令改変により,従来の盲・聾・養護学校を障害種別を超えた特別支援学校に一本化することを骨子とする「特別支援教育」への転換が図られ,地域によってこれを担当する学校などの呼称や設置形態に変化が生じているが,本稿の文中では,原則として従来の「盲学校」,「弱視教室」,「弱視通級指導教室」の呼称を用いることとする.I就学期ロービジョンケアの特徴小児の視覚は,正常の発達経過をとる場合でも,おおむね小学校の後半までの時期に完成するものであり,ロービジョン児の視覚はこれに個々の原因疾患による修飾が加わるため,学齢期のうちは発達と低下の両方の変動要素を有することを考慮しなければならない.また,原因疾患の発症時期もまちまちであり,それに応じて障害を生じる以前の視覚発達の状況や視経験の程度も個々に異なる.同時に,年齢(学年)が進むにつれて,視機能についての要求が高くなるので,これらの条件を個々に勘案し,必要なケアの内容を考えなければならない.就学期は,家庭や地域での日常生活と同時に学校生活が優先される時期であり,必要とされるロービジョンケアの内容を考えるにあたっては,ロービジョン児(者)本人だけではなく,保護者や学校との連絡が重要である.ロービジョンケアの内容は,設定されるゴールによるが,就学期においては,このゴールの設定がむずかしい場合がある.多くの場合,ロービジョン児(者)本人も保護者も,就学期の先まで見通したゴールを設定しうるだけの十分な情報や選択肢が与えられているとは言い難く,実際には未経験のことについて限られた選択のなかで妥協や諦めを余儀なくされている例も見受けられる.特に保護者の影響が大きい義務教育段階までの症例では,保護者に対して十分な情報提供がなされるよう考慮する必要がある.*HaruhikoNagai:勤医協札幌病院眼科**HiroyukiIdei:北海道札幌盲学校〔別刷請求先〕永井春彦:〒003-8510札幌市白石区菊水4条1丁目9-22勤医協札幌病院眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)437 就学期のロービジョンケアで経験することとして,視機能障害による能力障害に対して有効な対処法があっても,学校という集団のなかで実行できるかどうかは個々の条件によるという課題がある.教室内での着席位置に関することや教材の拡大などの配慮を受けることの是非にはじまり,体育実技や校外活動の際の配慮が得られるか,単眼鏡・拡大鏡あるいは拡大読書器などを教室に持ち込んで使用できるか,外見的に目立つ遮光眼鏡を装用できるかなど,本人の受容と学校や同級生の理解がなければ実行し難い状況が生じうる.場合によっては,周囲の理解を得るために眼科医として働きかけることも必要である.II就学期ロービジョンケアの対象小・中・高・大の学校種別を問わず,ロービジョンまたは視覚障害に起因する就学上あるいは日常生活上の何らかの課題が生じた場合がケアの対象である.すでに特別支援教育の対象として盲学校や弱視教室に就学している児(者)については,学校と連携しつつ必要なロービジョンケアを進めることが期待される.一方,就学期の途中で発症または重症化した原因疾患によりロービジョンとなった児(者)の場合は,就学する学校の選択がポイントとなる.表1に現行の教育制度からみた就学先の選択肢と,学校教育法施行令〔2002(平成14)年改正〕による盲学校などに就学すべき児(者)の視機能の基準を示す.いずれも,基本的には視力値によって厳格に区分されない柔軟性を含む基準となっている.実際の就学先の決定にあたっては,本人・保護者と教育委員会,学校などの合意形成に基づく手順を経ることとなっているが,判断基準として拡大鏡などの視覚補助具の使用による文字や図形の認識の程度が重視されることから,その判断の前提として適切な視覚補助具の選定を主としたロービジョンケアが実施されていることが望まれる.表1の各種基準より障害程度が軽く,制度上は特別支援教育の対象とされない児(者)であっても,個々の状況によってロービジョンケアを必要とする例はまれではなく,その多くは特別なサポートを受けることなく通常学級に潜在しているものと推定される.眼科の診療のなかでそのような症例に遭遇した場合は,以下に述べる種々の工夫やサポートの要否を注意深く検討しなければならない.III就学期ロービジョンケアの方法1.基本原則原則的には他の年齢層に対するロービジョンケアと変わることはなく,眼科医療のなかで対応すべき内容は,以下の3つの類型に集約される.まず第1には,保有視機能を活用して必要な視覚情報を獲得するための工夫であり,視覚補助具の選定と使用訓練が主体となる.第2には,保有視機能の活用によっても必要な情報が獲得できない場合は,視覚以外の感覚による感覚代行(音声,点字など)の導入の必要性を判断することである.これら第1,第2の対応の前提として正確な視機能評価が重要である.学齢期で特に注意すべきこととして,片眼遮閉での視力検査では視力不良であっても両眼開放で著しく改善する例,調節力が十分大きいために,遠見矯正視表1視覚障害児(者)教育の選択肢・特別支援学校〔盲学校〕両眼の視力がおおむね〇・三未満又は視力以外の視機能障害が高度で,拡大鏡等を使用しても文字等を認識することが不可能又は著しく困難な程度の者・特別支援教室〔弱視学級〕拡大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が困難な程度のもの・通級指導教室〔弱視通級指導教室〕上記(弱視学級)の対象に該当する者であって,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とするもの・小・中学校認定就学(者)盲学校の就学基準に該当する視覚障害があっても,(通常の)小・中学校において適切な教育を受けることができる特別な事情があると市町村の教育委員会が認める場合・通常の普通学校在籍主として上記の基準より障害程度が軽い場合・日本国外の学校教育制度留学,移住等438あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(10) 力が不良であっても近見読字については視対象を眼に近接させることによりほとんど不自由を生じない例などが散見されるので,状況に応じて標準条件以外の設定でも視機能を評価する工夫が望まれる.第3の対応として重要なのは視環境の整備である.読み取りやすい文字の大きさや,照明・コントラストなどについて,適切な助言がなされることが望ましい.個々の対応においては,これら3つの類型のいずれかのみに頼るのではなく,I項で述べた諸条件を考慮しつつ状況に応じてこれらを適切に組み合わせた対応が望まれる.以上は眼科臨床とのかかわりが深く,眼科医療の立場で積極的に関与すべきケアの内容であるが,教育・福祉・行政分野など,医療機関以外での専門的対応に委ねることが必要なニーズについては,それぞれの専門機関との連携により対応する.2.就学期の視覚補助具視覚補助具の効果を最大限に確保するためには,矯正眼鏡の装用が必要な場合がある.ロービジョン児(者)のなかには,眼鏡による屈折矯正では矯正視力に改善がなく,日常生活で眼鏡装用を必要とされていない例もみられるが,補助具の効果を確保するためには屈折異常を矯正しておくことが望ましい場合もありうるので,正確な屈折の評価とその矯正は補助具選定の前提として重要である.補助具の導入にあたっては,視機能障害の程度と視覚上のニーズの相対的関係と同時に,年齢によって変化する本人の理解力やモチベーションを考慮する.小学校低学年では,補助具使用の目的や使用方法を客観的に正確に理解することがむずかしい場合があるが,用いられる文字サイズも大きめであるため,比較的低倍率であっても使用法が単純であるものが最初の導入には適する.その意味で,最も導入が容易であるのがドーム型置き型拡大鏡(図1,2)である.補助具を使用したときと使用しないときの見え方の差異に気づき,補助具を用いるとより良く見えることを経験することにより,ものを見ることに対するモチベーションを高め,同時に視対象への興味を引き出すことを期待する.学年が進み,小さな文字への対応が必要となった場合や,低学年でもより高倍率(11)図1ドーム型置き型拡大鏡とケプラー式単眼鏡の例図2ドーム型置き型拡大鏡による拡大の拡大が必要な場合は,焦点合わせを含む補助具の保持方法を指導しつつ,手持ち式あるいはドーム型以外の置き型拡大鏡を含めて選択することとなる.黒板の文字や掲示物など,遠方のもの,近接できないものを見るために最初に導入されるのはケプラー式単眼鏡(図1)である場合が多い.特殊なものを除けば自分で焦点合わせをする必要があり,これを理解できる年齢以上が対象となる.焦点合わせがむずかしい場合や,両手をフリーにしたい場合などは,やや低めの倍率に限定されるが,ガリレイ式単眼鏡が適応となる場合もある.年齢が進めば,特に制限なく種々の補助具のなかから本人の使用スタイルに適したものを選択すればよいが,光学的補助具の拡大の限界を超える高倍率を要する場合や,コントラスト増強を重視する場合など,拡大読書器あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013439 も適応となる.近見用としての用途にとどまらず,教室内で黒板などの遠方の対象を拡大して画面に映す方法や,パソコンに接続して用いるなど,多様な活用が可能である.羞明やグレアの症状がある場合には,遮光眼鏡が有効な場合がある.本人の自覚的な訴えがないときでも,装用によるコントラスト改善が予想外に奏効することもあり,適応を広く検討する価値がある.ただし,色によっては外見上の問題を生ずることもあり,本人や周囲の理解に応じて対応を検討する.近年普及してきたiPadRに代表されるタブレット型多機能端末を視覚補助具として活用する試みがなされ,電子書籍化した拡大教科書として活用することも含め大きな可能性を秘めたものとして期待が高まっている1,2).3.視環境改善の方法ロービジョン児(者)本人の保有視覚活用の工夫と同時に,周囲の環境を調整して本人にとっての視認の改善と安全の確保を図ることも重要である.眼科医の立場では,視機能や眼疾患の状態に応じた適切な助言をすることが期待される.教室内での着席位置については,視力に応じて前のほうに,あるいは羞明やグレアに対応して窓や黒板との相対的な位置関係を考慮することなどが一般的な対応である.近年,盲学校や弱視学級を有する学校はもとより,多くの学校でユニバーサルデザインを導入した施設の設計がなされるようになった.ロービジョン児(者)の快適で安全な環境確保の点から望ましいことではあるが,広い意味では,盲学校や視覚障害児(者)のための施設を郊外ではなく交通至便な市街地の中心部に置くことも一つのユニバーサルデザインであり,今後意識されるべき課題である.その他の設備面での工夫として,拡大鏡などの視覚補助具を机上で使う場合,あるいは視対象を眼に近接させて読む場合など,極度のうつむきで姿勢が悪くなる傾向があるので,椅子を低く・机を高くしたり,傾斜をつけた書見台(図3)を用いることが有効な場合がある.視対象となる文字などに関する工夫の原則は,ロービジョン児(者)にとって見やすい大きさとコントラスト440あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013図3学校の教室内での書見台の利用図4ロービジョン児(者)向けノートと定規を確保することである.学校内の掲示物や配布物もこの原則に沿った配慮が望まれる.ロービジョン児(者)にも見やすく使いやすいように設計されたノートや文具類(図4)も発売されている.2008(平成20)年に施行された「障害のある児童生徒のための教科用特定図書等の普及の促進に関する法律(通称:教科書バリアフリー法)」により,在籍する学校の種類にかかわらず,視覚に障害のある児童・生徒は拡大教科書(図5)の支給を申請できることになった.義務教育課程の教科書については無償で支給され,高等学校の教科書も限定的ながら対応が始まっている.教科書以外にも大活字本が多く出版されるようになったのでこれらを活用することも選択肢の一つである.ただし,学齢期を過ぎ,社会一般の文字情報への対応を考えれば,(12) 図5拡大教科書左が拡大教科書,右が同内容の普通教科書(小学校・社会科).そのうち拡大文字で提供されるものはごく一部分にすぎず,視覚補助具を使いこなして自分で拡大したり音声変換したりして情報を獲得する技術を身に着けることも重要である.以上述べたハード面での視環境整備に加えて,学校の教職員や同級生らがロービジョンあるいは視覚障害を理解し,日常的に自然な形で種々の支援が周囲から得られる環境が形成されること,すなわち,ソフト面での環境整備が同時に進むことが望まれる.4.就学期のロービジョンケアにおける連携就学期ロービジョンケアのニーズは,さきに述べた眼科医療の範疇での対応で満足されるとは限らず,学校教育上のさまざまなニーズに対応するために就学先の学校との情報交換が必須となる.盲学校などの特別支援教育の対象となっていない場合には,就学先の選択・検討の段階で本人と保護者が盲学校などに出向いて直接相談を受けることを勧める.普通校に在籍するロービジョン児(者)の場合,各教科の学習内容のなかでの視覚上の課題に対する対応について,普通校に専門的対応を期待することは困難であり,在籍校と盲学校との学校間の連携によって必要な支援が検討され提供されるよう調整することも必要となる.特別支援教育のしくみのなかで位置づけられる盲学校の機能として,普通校に対する支援は重要な要素であり,学校教育に関する内容に限定せず,(13)移動・歩行,コミュニケーション,さらには日常生活全般に関する支援のあり方について相談に応じることが期待されている.各都道府県の盲学校はその学校への入学・転校を前提とせず,さまざまな相談に応じる体制をとっており,就学期のいろいろな課題についての相談先として活用したい.ロービジョンを専門としない眼科医療機関で盲学校などとの連携に不慣れな場合は,ロービジョンクリニックのある眼科へ紹介することも一つの連携の手段である.大学での就学上の課題については,ロービジョンあるいは視覚障害学生の専攻分野が多様化している現状で,個々のニーズに即した対応が必要となる.この点は,多様な職業に対応したロービジョンケアのあり方と共通する.特に,大学在学中に視覚障害が発生・重度化した場合には,その専攻分野での就学を継続すべきか進路を変更すべきか,ロービジョンケアを通じた保有視機能活用の可能性の正確な把握を前提とした,本人の慎重な判断が求められる.大学内での支援体制に加えて,視覚障害学生の就学を支援する外部組織との連携も考慮し,また,最近では障害をもつ学生の支援を専門とする部門を学内に設置する大学も増えていることから,これらの情報を整理して就学継続の可能性を探ることが重要である.一方,視覚障害者の伝統的な職域への就労を前提とした,盲学校高等部専攻科などへの進路変更は,一つの選択肢として考慮され,状況に応じて相談を勧めることあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013441 表2大学入試・各種試験における配慮の例・大学入試センター試験1979年度の共通一次試験開始以来,受験特別措置を実施点字/拡大文字による受験,試験時間の延長,別室試験等の対応・医師国家試験(2001年法改正により視覚障害が医師の絶対的欠格条項から削除)2003年より点字受験,朗読・代筆による解答方式,試験時間の延長,別室受験,拡大版試験問題提供,視覚補助具の持込等・司法試験1973年度より点字受験可能1977年度より試験時間の延長等・英検,TOEFL各種の特別措置規程ありとなる.5.各種の試験への対応就学期ロービジョンケアの課題の一つに,進学や就職,あるいは各種の資格取得などに関する試験への対応がある.本人の志望する学習や就労の適性や能力があるにもかかわらず,視覚障害を理由として試験の段階で道が閉ざされることがないように配慮されなければならない.多くの領域で門戸が開かれ,試験に際して種々の配慮がなされるようになっている(表2).多くの場合,これらの措置を受けるためには診断・証明書類が必要とされるので,要望に応じて必要な書類を作成することも眼科医の役割である.おわりにすでに述べてきたように,就学期のロービジョンケアは学校教育制度との連携のうえに成立するものである.かつては,視覚障害のために義務教育を受けることすら保障されない時代があり,多くの先人の努力によって開拓されてきた歴史のうえに現在の特別支援教育を含む教育制度が成り立っている.近年,多様化し同時に増大する特別支援教育のニーズのなかで,視覚障害単独の教育ニーズが相対的に矮小化され,伝統と専門性によって支えられた教育制度が維持し難い状況が生じつつある.眼科医療のなかでのロービジョンケアを充実させると同時に,既存の視覚障害教育の体制を維持強化することが望まれる.そのためには,現状で普通校に多く潜在し必要な支援が受けられないまま就学期を過ごしているロービジョン児(者)を,眼科医療の責任として発見し,教育分野との連携を積極的に進めることにより,この分野のニーズが無視できないものであることを示す必要がある.眼科医は,医療現場で就学上の課題を抱えたロービジョン児(者)の存在を最初に察知する立場にあり,ロービジョンケア導入の鍵を握っているといえる.自ら専門的にロービジョンケアに関与できなくとも,そのようなニーズを察知した時点でロービジョンケアの提供可能な眼科医療機関に紹介することが,すべての眼科医が果たすべき役割として期待される.文献1)三宅琢:タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その1─.あたらしい眼科29:1251-1252,20122)三宅琢:タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その2─.あたらしい眼科29:1377-1378,2012参考書籍1)氏間和仁:見えにくいこどもへのサポートQ&A.読書工房,20132)鳥山由子:視覚障害学生サポートガイドブック.日本医療企画,20053)鳥山由子:視覚障害者指導の理論と実際.ジアース教育新社,2007442あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(14)

就学前のロービジョンケア

2013年4月30日 火曜日

特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):431.435,2013就学前のロービジョンケアPreschoolLowVisionCare伊藤里美*仁科幸子*皮質盲その他9%4%ジストロフィ11%先天異常43%網膜芽細胞腫3%未熟児網膜症19%先天緑内障5%小眼球コロボーマ視神経乳頭異常視神経低形成Leber先天黒内障黄斑低形成白子症網膜分離症家族性慘出性硝子体網膜症先天無虹彩角膜混濁822611451013051015図1原因疾患(比率)(文献2より)先天白内障6%はじめに視覚障害の原因は成人の疾患が大多数を占め,先天疾患は全体の約1割にも満たない1).視覚障害児の数の少なさから,しばしば成人のロービジョンケアと混同されることがあるが,発達の途上にある小児のロービジョンケアには成人とは異なる特徴がある2).小児の視覚障害の約9割は1歳未満で発症する3).したがって,乳幼児期から就学前までに適切なロービジョンケアを開始することが重要な課題である.ロービジョンケアを開始するにあたり,保護者の理解と協力が不可欠であることから,原因疾患の診断や治療と並行し,できるだけ早期に視覚障害の程度を評価して,保護者に対する十分な説明と継続的なケアを行う必要がある4).全身合併症の有無や,発達状況について,他科や療育施設と連携することも大切である.乳幼児期には療育相談や情報提供が主体となるが,発達段階に応じて種々の補助具を選定し,学習環境を整備する.このように,年齢・発達に伴いニーズが変化する点や療育・教育機関など連携先も成人とは大きく異なる.本稿では,就学前の小児のロービジョンケアの特徴,および視覚特別支援学校との連携を中心に述べる.I就学前のロービジョンケアの特徴1.原因疾患視覚障害の原因疾患は,先天異常が最も多く,ついで,未熟児網膜症,ジストロフィ,皮質盲,網膜芽細胞腫である.先天異常の内訳は,家族性滲出性硝子体網膜症,小眼球,先天白内障,視神経形成異常など多彩であ*SatomiIto&SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕伊藤里美:〒157-0074東京都世田谷区大蔵2丁目10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)431 る(図1)2).先天あるいは出生直後に発症する先天疾患では,重症度が個々に異なって多彩な病像を呈し,視覚障害に他の障害が重複することが多い2).また近年では,400.500gの超未熟児の救命率が向上したため,重症未熟児網膜症による視覚障害の比率が増加し,重篤な視覚障害に中枢神経系,呼吸循環器系,聴覚系,発達遅滞などの障害を合併した重複障害児が増加する傾向にある.2.視機能の早期評価乳幼児期に種々の視力検査を行うことによって,視力の評価だけではなく,児の応答を通して発達の状況も評価できる.しかし低年齢,低視力の視覚障害児では,正図2縞視力検査表(LEAGratingPaddles,GoodLite社製)確な評価はむずかしい2).通常の視力検査がむずかしい児には,簡便な縞視力検査(図2),近見視力検査,視覚認知検査(図3),視覚誘発電位などを用いて保有視力を評価する.それでも視力の測定がむずかしい重症・重複障害児の場合は,体位や方向を工夫して,ペンライトや色彩のはっきりした視標を用いて視反応(固視・追視)をよく観察する.視覚障害児は器質疾患に加えて強い屈折異常を伴うことが多い4).視力の評価と同時に,調節麻痺剤を用いた精密屈折検査を行い,乳幼児期から屈折矯正を開始することが保有視力を伸ばすために重要である.視野障害の定量的な評価を就学前に行うことはむずかしい.しかし,視力が比較的良好であっても,視野狭窄を伴う網膜色素変性症や脳神経疾患では,文字や図形の認識がむずかしく,周囲の状況を把握することが困難なため,日常・社会生活に支障をきたしやすい.視野狭窄,羞明,明暗順応障害をきたす疾患では“視力は良好だが見えにくい状態”について,シミュレーション眼鏡などを用い,保護者に十分に説明しなければならない.小児では,少なくとも就学前に,原因疾患と保有視機能を的確に診断・評価することが重要となるため,必要に応じて網膜電位図,光干渉断層計,周辺部までの詳細な眼底・蛍光眼底検査などを全身麻酔下で実施している図3視覚認知検査表(LEASymbol3-DPuzzleSet,GoodLite社製)図4全身麻酔下検査側臥位にて光干渉断層計検査を実施.432あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(4) (図4).病状が固定すれば,成人と同様に身体障害者手帳の申請を行う.乳幼児用視力検査でも申請は可能だが,発達によって視機能が変化する可能性があるので,低年齢の場合には1.3年で再認定を要する.3.ニーズの把握視経験の少ない視覚障害児自身は,“見えにくさ”を認識することも表現することもできないので,ニーズの把握は非常に困難である5).乳幼児期は保有視機能を評価して発達を促すこと,保護者に対し療育相談や情報提供を行い支援を行うことがロービジョンケアの主体となる.年齢や発達段階によってニーズが変化するので,保護者から情報を得て継続したケアを行わなければならない.視覚障害児の養育に関する問題点として,乳幼児期では,基本的な生活習慣(食事,生活リズム)や発達に関する悩み,保護者としての不安などがあげられる6,7).特に,重複障害児では,日常生活や視機能評価に関する相談が多く,このような場合は,療育センターなどで運動機能訓練をはじめとする全身ケアを受けながら視覚ケアを含めたハビリテーションを促す.幼児期には教育や就学に関する相談や補助具に関する相談が多い2)(図5).就学については居住地域の教育機関と連携をとり,時期的に余裕をもって相談を進めることが大切である.4.補助具0.2歳の乳児期では,補助具の処方例はほとんどないが,3歳以降になると疾患によって遮光眼鏡(図6)を処方するケースが出てくる.就学前になると視機能に応じて拡大鏡(図7),単眼鏡(図8),拡大読書器などの補助具の導入が必要となる.補助具は導入時期が遅れると,羞恥心のため補助具を使いたがらない,見ようとする意欲の低下,などの理由から使用が困難となる傾向がある5).本人が補助具の使用を躊躇するような場合でも,保護者が補助具のメリットを知ることにより,児にその使用を促すことができる.補助具の選定の際には,コントラスト視力表(図9)や読書チャートを用いた検査結果が参考になる.また,使用時の視環境が大きく影響す(5)■視機能評価■医療情報提供■福祉情報提供■日常生活・療育相談■教育・就学相談■補助具選定33%17%8%40%0~2歳2%3~5歳25%7%13%27%19%9%3%11%9%6%34%36%6歳~0%20%40%60%80%100%図5年齢別のロービジョンケアの内容(比率)(文献2より)図6遮光眼鏡小児用のサイドシールド付きフレームも販売されている.図7拡大鏡あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013433 図8単眼鏡図9コントラスト視力表(TransLucentContrastTest,PrecisionVision社製)るので,学校や保護者と相談して選定する必要がある.視覚障害が児童の学習に与える影響は大きいため4),補助具の使用訓練だけでなく,視環境を整え,学習しやすくする配慮をすることが重要である.II視覚特別支援学校(盲学校)注1)との連携1.視覚特別支援学校の取り組み視覚特別支援学校の開設形態は地方や学校によって差434あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013があるが,各都道府県に1校以上設置されている.原則として,学校教育法における就学基準注2)を参考に教育や特別支援の適否が判断されるが,現在は保護者の希望を取り入れて在籍校や支援の形態を事前に相談できるようになった.視覚特別支援学校は従来の教育機関としての役割だけではなく,保護者,役所,保健所,視覚障害児の受け入れ施設などからの問い合わせ,訪問指導にも対応し,地域の特別支援教育のセンターとしての役割も担っている.注1)平成19年4月から,学校教育法等の改正に伴い,従来の盲学校は,「視覚特別支援学校」に変わった.しかし実際には,通称として「盲学校」という名称を用いることが主流である.注2)平成14年に改正された学校教育法における就学基準では,盲学校の対象者は,「両眼の視力がおおむね0.3未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち,拡大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの」で,弱視特別支援学級の対象は,「拡大鏡の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が困難な程度のもの」と定義されている.(身体障害者手帳の判定が困難な場合や該当しない場合でも,学校教育法の就学基準を基に視覚特別教育を受けることができる.)年齢ごとの視覚障害児に対する就学前の早期の視覚特別支援学校の取り組みを表1に示す.近年では,乳児期からの育児相談が多く,保護者の要望により,0歳児から2歳児を対象とした育児学級を開設する視覚特別支援学校もある.育児学級は,教員とともに保護者が育児について考え,視覚障害に関する情報交換,交流の場となり,日常生活に根ざした早期からの支援が行われている.幼稚部では,具体的に,保護者に対しては,視覚障害児との関わり方として,日常の場面では,児にわかるような方法で,物を認識させ動作と言葉を結びつけるように話すことの重要性を,遊びの場面では,大人が一方的に働きかけるのではなく,児の主体的な活動を促すよう,また,児からの働きかけに適切に答えていくことの重要性を伝えている.さらに,児の発達や興味を探り,音を楽しむ遊び,体を動かす遊び,触れて楽しむ遊びなど,いろいろな遊びを提供している.児に対しては,さまざまな体験活動を通して物の触り方や見分け方が上手(6) 表1年齢ごとの視覚特別支援学校(盲学校)の取り組み年齢対応0.2歳(一部の学校で開設)育児相談,視覚障害に関する情報交換,交流の場としての育児学級視覚障害児への関わり方,障害の受け止め方についての保護者へのサポート遊びやさまざまな体験活動を通しての物の触り方や見分け方の指導3.5歳(幼稚部)保護者と視覚障害児との包括支援のため,基本的に親子での参加地域の保育機関への就園相談(地域の保育機関と掛け持ちで在籍することが多い)学校選び拡大鏡や単眼鏡,拡大読書器などの補助具の導入4歳頃.(就学相談)高額な補助具の購入に際しての社会保障・福祉制度の情報提供重複障害児の学校選び(どの障害を主体に考えるべきか)にできるように援助している.3歳を過ぎると,地域の保育機関への就園相談,4歳頃からは就学相談も始めている.就学相談の一環として,拡大鏡やルーペなどの補助具の導入を開始し,社会保障制度についての情報提供なども随時行われる.重複障害児では,どの障害を主体に考えて学校を選ぶべきか保護者も判断に苦しむことがあるが,仮に視覚特別支援学校以外の学校が選択され,視覚的な配慮が十分できない場合は,視覚特別支援学校からのコーディネーターによる訪問指導がある.視覚特別支援学校に幼稚部の標榜がなくても,必要に応じて相談を受け付けており,教員が家庭に訪問する形式や,電話やメールによる相談も可能なことがある.近年,医学や補助具の進歩により,視覚活用が可能な視覚障害児が増加し,就学に際し,点字教育のみならず,墨字教育を併用した教育への要望が高まっている.弱視学級への在籍や,地域の学校に在籍しながら,視覚特別支援学校もしくは弱視学級への通級という措置も増加している.視覚特別支援学校や弱視学級への通学が困難な場合は,視覚特別支援学校から,保護者,担任などに対する訪問指導を行うこともある.2.視覚特別支援学校との連携乳幼児期から就学前までのロービジョンケアには,医療機関からの療育・教育機関との連携,特に地域の視覚特別支援学校幼稚部との連携体制が不可欠である.患児の医学的背景や視覚障害の状況を正確に伝え,個々の患児に適したケアを早期に開始することが課題となる.おわりに重症眼疾患の診断・治療後,家族は眼科的な問題だけではなく,視覚障害を持つ子どもの発達,就学,学習,進路など将来について憂慮していることが多い.急性期の治療後,保有視機能の発達を促すとともに,視覚障害が発達を妨げないよう,できるだけ早い段階で療育環境を整え,継続した支援をしていくことが重要である.文献1)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:わが国における視覚障害の現状.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業,網脈絡膜・視神経萎縮に関する研究,平成17年度総括分担研究報告書,p263-267,20062)伊藤-清水里美:国立成育医療センターにおける小児ロービジョンケアの特徴.眼臨紀3:346-352,20103)柿澤敏文:全国視覚特別支援学校及び小・中学校弱視特別支援学級児童生徒の視覚障害原因等に関する調査研究─2010年調査報告書,20104)湖崎克:ロービジョン児教育のさきがけ.眼臨97:198202,20035)小松美保,大瀧亜季,飯塚和彦ほか:小児のロービジョンケアの要点.眼紀48:750-753,19976)仁科幸子,新井千賀子,富田香ほか:未熟児網膜症および眼先天異常による視覚障害児の療育に関する問題点.眼臨94:529-534,20007)久保田伸枝:視覚障害児の指導と教育.眼臨90:192-196,1996(7)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013435

序説:状況に応じたロービジョンケア

2013年4月30日 火曜日

●序説あたらしい眼科30(4):429.430,2013●序説あたらしい眼科30(4):429.430,2013状況に応じたロービジョンケアLowVisionCareforVariousSituation仲泊聡*川瀬和秀**視覚障害が発生する場所は,ほとんどの場合,眼科領域である.ときにそれは予防されるが,やむなく発症した場合は,早期に発見されることが望ましく,また治療により完全に回復することが理想的である.しかし,期せずして障害を残し,リハビリテーションが必要になる場合も少なくはない.さらに,多くの眼科施設では,リハビリテーションは行われず,闇雲に治療が優先され,治療不能な場合であっても,つぎのステップに踏み出すのには時間を要する.この遅延は,眼科医にも責任があるが,当事者の心理的要因が最も大きく関係すると思われる.治らないと諦めた視覚障害者は,眼科への通院をやめ,自宅に引きこもることが多い.本来は,その時点で相談支援・権利擁護を受けられる体制が存在すべきである.しかし現実には,そのような支援は得られず,その後に入る情報は,医療機関や教育機関からの直接の情報ではなく,役所の福祉窓口での問い合わせや,知人からの口コミ,あるいはインターネットで家族が調べたものになる.そして,運が良ければ,その後にようやくいくつかの支援サービスにつながる.この眼科治療後の空白をいかになくすかが,現時点でのロービジョンケアの最大の課題であるといえよう.そして,眼科医療は,治療ができなくなったらそれでおしまいというものではなく,経過観察とさまざまな支援サービスのバックアップ体制として機能しなければならない.眼科医にとっては,疾患によるロービジョンケアを理解することは比較的簡単である.それぞれの疾患による視覚障害の特徴を考えればおのずとケアの方向性が見えてくる.このため,疾患によるロービジョンケアの特集記事は少なくない.しかし,実際のロービジョンケアにおいては,視覚障害の発生時期やその他の障害の合併による,経済的根拠の変化や主たる支援の内容もその違いが重要になる場合も多い.図1は,視覚障害の発生時期とそれに伴った支援体制の変化についてまとめたものである.今回,あえてロービジョンケアを疾患による分類ではなく,発症時期による項目(就学前,就学期,就労期,高齢期)と,その他の障害による項目(先天眼疾患と中途失明者,眼球運動障害者,発達障害者,高次脳機能障害者)に分け,それぞれの分野のエキスパートに執筆していただいた.眼科医が苦手としている分野ではあるが,今回の特集で,ロービジョンケアには,疾患による特性だけでなくこれらの状況に応じた対応が重要になる場合が多いことを理解し,少しでも対応するよう努力していただければ,より幅の広いロービジョンケアが展開できるものと信じている.*SatoshiNakadomari:国立障害者リハビリテーションセンター病院**KazuhideKawase:岐阜大学大学院医学研究科神経統御学講座眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(1)429 社会参加障害者スポーツ・娯楽サービス点字図書館等による情報サービス労働関係サービス介護サービス医療(経過観察・バックアップ)教育・児童福祉サービス障害福祉サービス医療<教育<行政<口コミ・インターネット医療(治療・リハビリテーション)医療(予防・啓発・早期発見)視覚障害の発生時期就学前就学期就労期退職後高齢期経済的根拠保護者(親)就労・障害年金・生活扶助年金・養護者(子)主たる支援医療特別支援教育自立訓練(機能訓練)・就労支援生活支援高齢者支援社会参加障害者スポーツ・娯楽サービス点字図書館等による情報サービス労働関係サービス介護サービス医療(経過観察・バックアップ)教育・児童福祉サービス障害福祉サービス医療<教育<行政<口コミ・インターネット医療(治療・リハビリテーション)医療(予防・啓発・早期発見)視覚障害の発生時期就学前就学期就労期退職後高齢期経済的根拠保護者(親)就労・障害年金・生活扶助年金・養護者(子)主たる支援医療特別支援教育自立訓練(機能訓練)・就労支援生活支援高齢者支援図1視覚障害の発生時期と支援体制430あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(2)

Prism Adaptation Test により術量決定を行った内斜視の術後成績

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):419.422,2013cPrismAdaptationTestにより術量決定を行った内斜視の術後成績加藤浩晃*1,2稗田牧*2中井義典*2中村葉*2木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学PreoperativePrismAdaptationinPatientswithEsotropiaHiroakiKato1,2),OsamuHieda2),YoshinoriNakai2),YouNakamura2)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:外来診療時のみでPrismAdaptationTest(PAT)を行った内斜視手術の術後成績をレトロスペクティブに検討する.対象および方法:対象は京都府立医科大学附属病院において2003年から2010年までに共同性内斜視で10プリズム(Δ)以内の正位を目標としてPATにて術量を決定して手術を施行した症例で,術後1カ月以上経過観察が可能であった47例(男性18例,女性29例),年齢4.75歳(平均19.9±22.8歳)である.完全矯正下でPATを施行し,正位を目標に水平筋移動量を1mm当たり3Δで手術を行った.術後成績,術後斜視角が10Δ以内を手術成功と定義したときの手術成功率,術後の斜視角の推移,眼位矯正効果を検討した.結果:遠方眼位は30.6±11.4ΔからPATにて33.7±10.7Δに有意に増加した(p<0.01).PATを行った際の手術成功率は術後1年で72%,術後2年で71%であり,PATをしなかったと仮定した場合の成功率が術後1年で53%,術後2年で52%であることと比較すると,PATによる術量定量は良好な成績をもたらした.術後の斜視角は術後1カ月から2年の観察期間中で安定しており,明らかな戻りは認めず,眼位矯正量としても約3Δ当たり1mmという算定方法で安定した成績を示した.結論:内斜視に対する手術では,術前にPATで術量決定を行ったほうが良好な術後成績が得られた.Purpose:ToretrospectivelyexaminethepostoperativeresultsofesotropiasurgeryperformedafteradministratingthePrismAdaptationTest(PAT)onlyduringtheperiodofambulatorycare.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved47patients(18malesand29females;agerange:4.75years;meanage:19.9±22.8years)whoshowedstableesodeviationwith10prismsorlessbyPAT.Foreachpatient,PATwasadministeredunderfullcorrectionandsurgerywasperformedonthelateralrectusmuscleand/ormedialrectusmuscleat3prismsper1mm,forthepurposeofright-eyerepositioning.Theprocedure’spostoperativesuccessrate(definedaspostoperativeangleofstrabismusoflessthan10prisms),thepostoperativeangleofstrabismusandtheeffectivenessofthesurgicalcorrectionofeyepositionwereexamined.Results:At1and2yearspostoperatively,thesuccessrateofthesurgicalprocedurewithPATperformedwas72%and71%,respectively,ascomparedwith53%and52%,respectively,withoutPATperformed.ThepreoperativeadministrationofPATthereforeyieldedgoodresults.Ineachpatient,thepostoperativeangleofstrabismusremainedstableduringthe2-yearfollow-upobservationperiod.Inaddition,thepositionofeachpatient’seyewassurgicallycorrectedandstabilizedviathecalculationmethodof3prismsper1mmofcorrection.Conclusions:Forpatientsundergoingesotropiasurgery,betterpostoperativeresultsareobtainedthroughthepreoperativeadministrationofPAT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):419.422,2013〕Keywords:プリズムアダプテーションテスト,PAT,内斜視,内斜視手術,斜視角.PrismAdaptationTest,PAT,esotropia,esotropiasurgery,angleofstrabismus.〔別刷請求先〕加藤浩晃:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:HiroakiKato,M.D.,BaptistEyeClinic,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(133)419 はじめに内斜視は眼位の定量に輻湊の影響が入りやすく,眼位の正確な定量が困難なため,斜視手術の精度が外斜視より不安定とされている.このためプリズムアダプテーションテスト(PrismAdaptationTest:PAT)を施行して手術成績を上げる試みが従来から検討されてきた1,2).PrismAdaptationStudyResearchGroupは,内斜視手術におけるPATの有用性を無作為化臨床比較試験で評価している.PATを行って0.10プリズム(Δ)に斜視角が安定して融像がある症例に対して最大斜視角を基準に手術を行った群(最大斜視角群)と,顕性斜視角を基準に手術を行った群(顕性斜視角群)の手術成績を比較すると,術後斜視角度が10Δ以内となった割合は最大斜視角群では89%に対し,顕性斜視角群では79%であり,PATにより検出された斜視角を基準に手術を行ったほうが過矯正になる割合は少なく,統計的有意差はないが安定した成績が得られる3)というものであった.その後同様の結果4.7)が報告されているが,わが国でも大月らがPATを行った内斜視手術の術後1年の手術成績として,プリズム中和時の度数を基準に手術を行った群とプリズム中和前の斜視角を基準に手術を行った群を比較すると,術後斜視角度が10Δ以内を手術成功と定義した場合,手術成功率はそれぞれ84%,78%であり,プリズム中和時の度数を基準に手術を行った群のほうでより良好な成績が得られたことを報告している8).これらの報告ではPATを入院のうえで術前5.7日間においてプリズムレンズを装用させて行っているが,現在では眼科手術に際し,入院して検査を行えないことも多い.そこで,今回筆者らは,入院ではなく外来診察時にPATを行い,内斜視手術における術前定量としての外来のみでのPATの有用性を検討したので報告する.I対象および方法1.対象の選択2003年4月から2010年12月までに京都府立医科大学附属病院眼科で,内斜視に対して手術を行った106例のうち,共同性内斜視であり外来のみでPATを行い,10Δ以内の正位を目標として術量を決定し手術を施行した症例で,術後1カ月以上経過観察が可能であった47例を対象とした.内訳は男性18例,女性29例,年齢は4.75歳(平均19.9±22.8歳)であった.2.屈折検査7歳以下の小児の場合は,0.5%アトロピン点眼を両眼に1日2回,1週間行い,それ以外は1%シクロペントレート点眼で調節麻痺をして屈折検査を行った.屈折異常があれば完全矯正の眼鏡を装用させた.420あたらしい眼科Vol.30,No.3,20133.斜視角の計測遠見は5m離れた距離に設置した点光源を,近見は30cm地点に置いた目標物を視標にAlternateprismcovertest(APCT)で斜視角を計測した.両眼視機能検査では遠見・近見ともに可能な限り融像の有無を判定した.融像の確認は遠見ならびに近見において視標が1つに見えるかどうかで確認を行った.4.PATによる斜視角測定法プリズムレンズ(フレネル膜プリズム検眼セット4000・5000:中央産業株式会社)を使用して検査を行った.両眼の視力差がなければプリズムジオプトリーを等分にしたプリズムレンズを両眼に装用し,両眼に視力差があれば,視力の良いほうに強めのプリズムジオプトリーのプリズムレンズを装用させた.30分後にAPCTを行い,融像を確認して斜視角が0.10Δ以内におさまり融像の確認ができればその斜視角で決定とした.一方,10Δ以上の内斜視もしくは外斜視が生じる場合は,再度プリズムレンズの変更を行い斜視角が10Δ以内に収まるようにプリズムジオプトリーを増減して斜視角を決定した.これを,決定した斜視角が同等の場合は2回で変動する場合は3回以上,検査日を変えて,外来のみで施行した.5.手術方法,手術定量輪部結膜切開もしくは放射状結膜切開で外眼筋を露出し,筋の付着部から内直筋後転術,外直筋切除術もしくは両方を施行した.後転術・切除術はともに筋を7-0ナイロン糸で強膜に3カ所縫合固定し,結膜は9-0シルク糸で縫合した.定量としては,斜視角3Δ当たり1mmとして計算した.6.検討項目,手術成績の判定PAT前後の斜視角の変化,術後の眼位変化,術後の斜視角の推移,眼位矯正量について検討を行った.術後の眼位に関しては,APCTにて10Δ以上の外斜視,10Δ以内の外斜視,正位,10Δ以内の内斜視,10Δ以上の内斜視の5つのカテゴリーに分類した場合のそれぞれの成績に加えて,術後10Δ以内に眼位が収まっている状態を手術成功と定義した場合の術後1年・2年における手術成功率を検討した.また,PATをしなかったと仮定した場合の術後眼位を『PATを施行した場合の術後斜視角+PATでの増加斜視角』と定義して,この場合の手術成功率も検討した.術後の斜視角の推移については術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年において検討を行った.眼位矯正量に関しては,術前斜視角.残存斜視角を手術での矯正斜視角と考え,この矯正斜視角を筋移動量で除したものを眼位矯正量と定義し,術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年の観察期間においてそれぞれ検討した.(134) II結果1.PAT前後の斜視角の変化遠見ではPAT前30.6±11.4ΔからPAT後で33.6±10.7Δと有意な増加がみられた(p<0.01).近見でもPAT前30.4±12.7ΔからPAT後に34.9±12.7Δと有意な増加がみられた(p<0.01)(図1).10Δ以上斜視角度が増加した症例は26.7%であった.2.術後成績術後の眼位は10Δ以上の外斜視,10Δ以内の外斜視,正位,10Δ以内の内斜視,10Δ以上の内斜視の5つのカテゴリーで分類すると,術後1年ではそれぞれ1例(3%),2例(6%),7例(22%),14例(44%),8例(25%)であり,術後2年ではそれぞれ1例(5%),1例(5%),5例(24%),9例(43%),5例(24%)であった.手術成功率は術後1年で72%(23/32例),術後2年では71%(15/21例)であった.PATをせずに手術を行った場合の術後眼位は,10Δ以上の外斜視,10Δ以内の外斜視,正位,10Δ以内の内斜視,10Δ以上の内斜視と分けると,術後1年ではそれぞれ1例(3%),2例(6%),2例(6%),13例(41%),14例(44%),術後2年では1例(5%),1例(5%),4例(19%),6例(29%),9例(43%)であり,PATを施行せずに手術を行った場合の眼位矯正成功率は,術後1年で53%(17/32例),術後2年で52%(11/21例)であった(表1).手術成功の割合は今回の結果では,PATをした症例のほうが高かった.3.術後の斜視角の推移術後の斜視角を術前,術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年としたところ,遠見はそれぞれ33.6±10.7Δ,4.8±9.2Δ,4.8±7.0Δ,4.1±6.0Δ,6.0±6.8Δ,5.4±7.1Δ,5.8±6.8Δであり,近見はそれぞれ34.9±12.7Δ,6.3±6.5Δ,(PD)(PD)*6050403020100*6050403020100PAT前PAT後PAT前PAT後遠見*p<0.01近見図1PAT前後の斜視角の変化PAT前後で遠見・近見ともに斜視角の有意な増加がみられる.表1術後成績眼位PAT施行PATなし術後1年(n=32)術後2年(n=21)術後1年(n=32)術後2年(n=21)外斜視(≧10Δ)1(3%)1(5%)1(3%)1(5%)外斜視(1≪10Δ)2(6%)1(5%)2(6%)52%1(5%)4(19%)6(29%)正位72%7(22%)71%5(24%)53%2(6%)内斜視(1≪10Δ)14(44%)9(43%)13(41%)内斜視(≧10Δ)8(25%)5(24%)14(44%)9(43%)手術成功率はPATをしたほうが術後1年で72%,術後2年では71%であり,PATをしなかったほうの成功率(術後1年53%,術後2年52%)よりも高い.(PD/mm)(PD)7:遠見6:近見543210Pre1M3M6M1Y1.5Y2Y1M3M6M1Y1.5Y2Y(n=41)(n=38)(n=32)(n=26)(n=21)(n=41)(n=38)(n=32)(n=26)(n=21)図2術後の斜視角の推移図3眼位矯正量術後の斜視角は術後1カ月.2年の観察期間中で安定しており,眼位矯正量は術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年明らかな戻りは認めなかった.において約3mm程度で大きな変動はなかった.6050403020100-10:遠見:近見(135)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013421 5.8±7.7Δ,6.3±7.6Δ,5.9±8.1Δ,5.8±9.3Δ,4.3±8.7Δと,いずれも術前に比べて術後1カ月の時点で有意に斜視角が減少していた(p<0.01).また,術後1カ月から2年の観察期間中で眼位は安定しており,明らかな戻りは認めなかった(図2).4.眼位矯正量(Δ.mm)術後1カ月,3カ月,6カ月,1年,1年半,2年における眼位矯正量は,遠見でそれぞれ3.1±0.9Δ/mm,3.1±0.9Δ/mm,3.3±0.8Δ/mm,3.2±1.1Δ/mm,3.1±1.1Δ/mm,3.3±1.2Δ/mmであり,近見ではそれぞれ3.1±0.9Δ/mm,3.2±0.9Δ/mm,3.2±0.9Δ/mm,3.3±1.0Δ/mm,3.3±1.2Δ/mm,3.5±1.1Δ/mmであった(図3).統計学的に有意な変化は認められなかった.III考按今回,内斜視手術の術量決定に際して,入院ではなく外来診察時のみでPATを行い,その手術成績を検討した.PATの前後においては,遠見で平均約3Δ,近見で約4.5Δの有意な斜視角の増加が認められた.PATにより術量を決定した場合の手術成功率は術後1年で72%,術後2年で71%であり,PATをせずに手術を行った場合は成功率が術後1年で53%,術後2年で52%であることと比較すると良好な成績であった.また,術後の斜視角は術後1カ月から2年における観察期間中で眼位は安定しており,明らかな戻りも認めず眼位矯正量としても約3Δ/mmで安定していた.今回の報告が既報と大きく違う点は,PATを入院のうえ5.7日かけてプリズムレンズ装用をさせて行っているのではなく,外来時に30分程度のPATを行い,10Δ以内におさまる斜視角において術量を決定している点であり,既報よりもPATが簡便だということである.この簡便なPATであっても顕性斜視角のみで内斜視手術を行う場合に比べて良好な手術成績が認められた.PATを行わず顕性斜視角で内斜視手術をする場合は最大融像幅における斜視角を検出できていないため,術後に低矯正になる可能性が高いと考えられる.また,既報のPrismAdaptationStudyResearchGroupや大月らの報告では,術後斜視角度が10Δ以内となった割合はそれぞれPAT群では89%,84%であったのに対して,PATを行わず顕性斜視角にて手術を行った群ではそれぞれ79%,78%であり,それぞれの成績が今回の筆者らの報告よりも良好であった.これは,筆者らの術前の融像の確認に原因があるのではないかと考えている.大月らはPATをした際にBagolini線条レンズを装用して融像の確認を行っていたが,筆者らは複視の自覚による融像の確認は行ったが,全例でBagolini線条レンズを使っての網膜対応の確認までは行っておらず,厳密には融像のない症例が混じっていた可能性が考えられる.プリズム中和に対して融像反応を示さない症例は手術成功率が低い2)とされており,Bagolini線条レンズを装用して網膜対応の確認を行っていなかったためこのような手術成功率が低い症例が混じり,PAT施行群ならびにPATを行わなかった群それぞれの手術成績が低下したと考えられる.少数例だがBagolini線条レンズ検査で融像が確認できた症例では良好な術後成績が得られていた.内斜視手術では術後の低矯正を防ぎ術後成績を向上させるためにも,術前のPATによる術量の決定が有効であると考えられた.今回の報告では術後経過も良好で術後の眼位も安定しているが,経過観察期間としては2年程度であり,さらに今後長期にわたる経過観察が必要である.文献1)ScottWE,ThalackerJA:Preoperativeprismadaptationinacquiredesotropia.Ophthalmologica189:49-53,19842)大月洋,中山緑子,岡山英樹ほか:手術を前提としたプリズム視能矯正.日眼会誌90:1707-1713,19863)PrismAdaptationStudyResearchGroup:Efficacyofprismadaptationinthesurgicalmanagementofacquiredesotropia.ArchOphthalmol108:1248-1256,19904)BurkeJP,ScottWE,StewartSA:Pre-operativeprismadaptationinacquiredestropia.BrOrthoptJ51:41-44,19905)RepkaMX,ConnettJE,ScottWE:Theone-yearsurgicaloutcomeafterprismadaptationforthemanagementofacquiredesotropia.Ophthalmology103:922-928,19966)HwangJM,MinBM,ParkSCetal:Arandomizedcomparisonofprismadaptationandaugmentedsurgeryinthesurgicalmanagementofesotropiaassociatedwithhypermetropia:one-yearsurgicaloutcomes.JAAPOS5:31-34,20017)Veronneau-TroutmanS:Prismadaptationtest(PAT)inthesurgicalmanagementofacquiredesotropia.ArchOphthalmol109:765-766,19918)大月洋,長谷部聡,田所康徳ほか:後天性内斜視に対するプリズム中和の評価.日眼会誌96:910-915,1992***422あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(136)

正面視および頭部傾斜下での水平融像幅(遠見)の比較検討

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):415.418,2013c正面視および頭部傾斜下での水平融像幅(遠見)の比較検討佐藤友香*1矢野隆*1相澤大輔*2,3樋口聡美*1*1海老名メディカルプラザ眼科*2海老名総合病院眼科*3北里大学医学部眼科学教室HorizontalFusionAmplitudeatPrimaryPositionandHeadTiltPositionsYukaSato1),TakashiYano1),DaisukeAizawa2,3)andSatomiHiguchi1)1)DepartmentofOphthalmology,MedicalPlazaofEbina,2)DepartmentofOphthalmology,GeneralHospitalofEbina,3)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:頭部傾斜下での水平融像幅(遠見)の比較検討.対象および方法:対象は屈折異常以外の眼科的疾患および斜視を有さず,同意を得られた正常被検者14名(男性6名,女性8名),年齢は21.39歳(平均28.1±6.5歳)とした.頭部傾斜(20°,40°,140°,160°)にての交代プリズムカバーテスト,プリズム融像幅をそれぞれの角度にて測定を行った.結果:各頭位での眼位は水平,上下ともに有意差はみられなかった.頭部傾斜を行うことにより融像幅は有意に減少した.結論:頭部傾斜により眼位変化は生じないが融像幅が有意に減少した.Purpose:Weexaminedvariationinhorizontalfusionamplitudeatprimarypositionandheadtiltpositions.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14normaladults(6males,8females).Age21through39years(meanage:28.1±6.5yrs).Wemeasuredalternateprismcovertestandprismfusionamplitudeatprimaryposition(90°)andheadtiltpositions(20°,40°,140°,160°).Result:Therewerenosignificantdifferencesbetweenprimarypositionandheadtiltpositionsintermsofeyepositionofhorizontalandverticalheterophoria.However,horizontalfusionamplitudewassignificantlylowerinheadtiltposition.Conclusions:Eyepositionofhorizontalandverticalheterophoriaexhibitednosignificantdifferencesbetweenprimaryandheadtiltpositions,buthorizontalfusionamplitudewassignificantlylowerinheadtiltposition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):415.418,2013〕Keywords:頭部傾斜,融像幅,眼位.headtilt,fusionalamplitude,eyeposition.はじめにヒトの日常視では必ずしも90°の頭位(正面視)でものを見るだけでなく,さまざまな姿勢で,さまざまな空間位置のものを見ていることが多い.融像に関する研究は多くあるが,その多くはprimarypositionでの融像機能を見ていることがほとんどである1.3).Primaryposition以外での報告では,葛谷ら4)による注視位を変化させた場合の融像幅の報告,人見5)による頭部傾斜時の回旋融像についての報告しかなく,日常視を意識しての融像を含む両眼視機能研究はほとんどされてこなかった.日常生活中,寝転んでテレビを見たときに複視を生じるとの主訴で受診する患者も多く,仮説として正面視の融像幅と寝転んだ状態を想定した頭位での融像幅との間に違いは生じるのではないかと考え,今回筆者らは頭部傾斜時の水平融像幅の比較検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は屈折異常以外の眼科的疾患および斜視を有さず,同意を得られた正常被検者14名(男性6名,女性8名).年齢は21.39歳(平均±標準偏差28.1±6.5歳)で,矯正視力は(1.0)以上あり近見立体視(Titmusstereotests)にてcircls(7/9)以上とした.方法は,正面(90°)での優位眼検査,交代プリズムカバーテスト(APCT)による眼位検査,プリズム融像幅,頭部傾斜(20°,40°,140°,160°)(図1)にてのAPCT,プリズム融像幅をそれぞれの角度にて測定を行った.眼位検査はAPCTとParallaxtestを併用し,水平・上下ともに0.5Δ以上あれば斜位(+)とした.プリズム融像幅は調節視標を用いて,優位眼にプリズムを〔別刷請求先〕佐藤友香:〒243-0422海老名市中新田439番地1号海老名メディカルプラザ眼科Reprintrequests:YukaSato,C.O.,DepartmentofOphthalmology,MedicalPlazaofEbina,439-1Nakashinden,Ebina-city,Kanagawa243-0422,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(129)415 160°140°90°40°20°図1頭部傾斜測定方法NSNS****530.329.640.328.127.6204090140160****60NSNS4504030201.42.02.12.01.9融像幅()Δ融像幅()Δ3斜位量()Δ2110000.60.30.40.40.1-1NSNS頭部傾斜(°)NSNSn=14-2Wilcoxon符号付順位和検定204090140160**p<0.01頭部傾斜(°)図3各頭位における融像幅(全体):水平斜位:垂直斜位n=14**Wilcoxon符号付順位和検定70NS(notsignificant)図2各頭位における眼位6050入れて行った.また,複視を生じたbreakpointの値(絶対融像幅)を用いた.頭部傾斜角度の測定方法はそれぞれの角度を記載した模造紙を作製し,壁に貼り付けて角度決定を行った(図1).II結果1.各頭位における眼位各頭位での眼位は水平,垂直ともに有意差はみられなかった(図2).今回の被検者14名の水平眼位は外斜位または正位のみであった.2.各頭位における融像幅90°にて平均融像幅は平均40.3±16.3Δであった.頭部傾斜を行うことにより融像幅は有意に減少した(図3).20代・30代にて比較すると90°では融像幅に大きな差はなく,頭部傾斜による融像幅の減少率にも大きな差はみられなかった(図4).3.各頭位における融像幅(開散・輻湊別)開散・輻湊側別で融像幅の変化を比較すると,輻湊側のほ416あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013100*****NS32.827.031.327.541.139.229.626.029.125.5204090140160頭部傾斜(°)■:20代:30代n=8(20代)n=6(30代)Wilcoxon符号付順位和検定NS(notsignificant)*p<0.05図4各頭位における融像幅(20代・30代別)うが頭部傾斜による融像幅の減少が開散側よりも大きかった(図5).4.各頭位における融像幅(垂直斜位別)垂直斜位(+)群(n=6)・(.)群(n=8)で比較すると,90°での融像幅は垂直斜位(+)群のほうが(.)群よりも大きかった(図6).減少率で比較をすると垂直斜位(+)群が(130)403020 ********60****80****50*NS23.923.632.921.6**70406055.239.538.835.535.3融像幅()Δ5030融像幅(Δ4021.329.12022.523.421.83022.8*NS107.46.46.3206.46.10204090140160頭部傾斜(°):輻湊:開散n=14Wilcoxon符号付順位和検定NS(notsignificant)*p<0.05**p<0.01図5各頭位における融像幅(開散・輻湊別)(.)群と比較して,頭部傾斜による融像幅の減少が大きい傾向であった.III考按融像には感覚性融像と運動性融像があり,感覚性融像は両眼の像を1つに融合させることである.運動性融像は融像性輻湊ともいわれ,両眼の眼位を感覚融像が成立する位置まで輻湊(開散)させることである6).実際に融像を行うにはこれらが連合して働く感覚-運動機能であり,vergencesystemにより行われる.融像に関する研究は多くあるがその多くはprimarypositionでの融像機能を見ていることがほとんどである1.3).Primaryposition以外での報告では,葛谷ら4)による注視位を変化させた場合の融像幅の検討がある.葛谷ら4)は,内寄せ融像幅は正面から側方に注視するほど低下したと報告している.頭部傾斜した場合の融像幅の報告は,人見5)による頭部傾斜時の回旋融像についてしかなく,これによると頭部傾斜による回旋融像幅に差はみられなかったとしている.今回筆者らは頭部傾斜時の水平融像幅について比較検討を行ったが,90°の位置で融像幅が一番広く,頭部傾斜にて融像幅の減少が有意にみられた.葛谷ら4)によると,内寄せ融像幅は正面から側方に注視するほど融像幅が低下し,その原因として運動性融像の予備機能が低下していることを示唆している.今回筆者らの結果でも頭部傾斜により融像幅が減少し,さらに輻湊(内寄せ)融像幅が開散融像幅よりも頭部傾斜にて減少率が大きい傾向であった.このことより頭部傾斜においても運動性融像の予備機能が低下していることを示唆していると考えられる.予備機能低下の原因として,頭部傾斜しての日常視は特殊な場合に限られ,融像がしづらい状態が生じたと考えられる.100204090140160頭部傾斜(°)■:垂直斜位(+)群:垂直斜位(-)群n=6(垂直斜位(+)群)n=8(垂直斜位(-)群)Wilcoxon符号付順位和検定*p<0.05図6各頭位における融像幅(垂直斜位別)今回の結果で垂直斜位(+)群・(.)群の比較では垂直斜位(+)群のほうが90°での融像幅が大きかったが,頭部傾斜による減少率も大きかった.先天性の上斜筋麻痺では上下・回旋斜視に対する感覚適応が生じているとの報告があり7.11),おそらく垂直斜位がある人では日常,斜位分を常に融像しているため垂直と水平に対して感覚適応が生じ,正面では水平融像幅も広くなったと考えられる.しかし,頭部傾斜により融像幅が正面時と比較し減少すると正常融像幅が狭い垂直斜位の影響が大きく出てしまい,それが負荷になって融像がしづらくなり,頭部傾斜により垂直斜位(.)群と比較して減少率が多くなったのではないかと考えた.今回の結果では,頭部傾斜により融像幅は有意に減少したが,眼位の変化はみられなかった.眼位は,輻湊順応により頭部傾斜にても眼位に変化が起こらなかったと考えられる.輻湊順応とは個々人は固有の眼位ずれをもっているにもかかわらず通常,常に両眼視をして眼位を0プリズム(Δ)に順応させている結果,眼位はほぼ正位に近くなっているという考え方(orthohoriazation)であり,加齢・外傷などによる外眼筋・眼窩内容物の変化が生じた際に眼位を一定に保持するために存在していると考えられている12).また,渡邉ら13)によるphoriaadaptationの年齢による変化では,輻湊順応は高齢者で低下したと報告されている.今回は年齢の幅が少なかったため眼位・融像幅に変化はなかったとも考えられ,年齢の幅を広げると頭部傾斜にて眼位・融像幅に変化が生じる可能性もあり,今後の研究課題である.今後,頭部傾斜にての眼位検査は融像力の比較的強い間欠性外斜視などにも応用できるか検討を行っていきたい.(131)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013417 IV結論頭部傾斜により眼位変化は生じないが水平融像幅が減少した.文献1)SchorCM,CiuffredaKJ:VergenceEyeMovements:BasicandClinicalAspects,p671-698,ButterworthsPublishers,Boston,19832)若倉雅登,三柴恵美子:調節・輻湊障害を有する眼精疲労患者に対する融像幅増強訓練の効果.臨眼38:897-902,19843)DaumKM:Thecourseandeffectofvisiontrainingonthevergencesystem.AmJOptomPhysiolOpt59:223,19824)葛谷明美,藤井雅朗,福田敏雅ほか:正常者および間歇性外斜視患者の注視位による内よせ融像幅の違いについて.眼臨79:2130-2134,19855)人見緑子:頭部傾斜時の回旋融像について融像刺激としての図形の形状,大きさの違いによる差の検討.眼臨76:1909-1913,19826)不二門尚:両眼視の基礎と臨床.日本の眼科71:11851188,20007)堀川晶代,平井美恵,河野玲華ほか:上斜筋麻痺の回旋偏位に対する感覚適応.臨眼54:1447-1450,20008)平野佳代子,林孝雄,坂上達志ほか:上斜筋麻痺の回旋について第1報後天上斜筋麻痺の回旋融像幅.眼臨101:60-63,20079)高橋総子:まわし斜視に関する研究(第3報)FundusHaploscopeによる上斜筋麻痺患者の自覚的および他覚的まわし眼位.臨眼37:655-660,198310)高橋総子:まわし斜視に関する研究(第4報)まわし斜視のSensoryAdaptationについて.臨眼38:591-595,198411)稲富昭太,可児一孝,佐々本研二ほか:回旋(まわし)斜視の研究.日眼会誌91:1119-1136,198712)鵜飼一彦:輻湊と調節における順応.眼球運動の実験心理学(苧阪良二ほか編),p79-99,名古屋大学出版会,199313)渡邉久美子,原直人,庄司信行ほか:Phoriaadaptationの年齢による変化.あたらしい眼科23:273-276,2006***418あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(132)

皮膚電極を用いた網膜電図で確定診断を得た杆体一色覚の1症例

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):409.413,2013c皮膚電極を用いた網膜電図で確定診断を得た杆体一色覚の1症例松永美絵*1貝田智子*1花谷淳子*2中村ヤス子*2宮田和典*1*1宮田眼科病院*2鹿児島宮田眼科ACaseofRodMonochromatismDiagnosedbyElectroretinogramUsingSkinElectrodesMieMatsunaga1),TomokoKaida1),JunkoHanaya2),YasukoNakamura2)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)KagoshimaMiyataEyeClinic目的:皮膚電極を用いた網膜電図(electroretinogram:ERG)が幼児の杆体一色覚の診断に有用であった症例を報告する.症例:3歳,女児.生後3カ月頃眼振を認め,精査目的にて当院受診.初診時,眼振や遠視を認めたが他に異常所見はみられなかった.1歳3カ月時には昼盲がみられ,3歳時では両眼開放下にて矯正視力は0.2であった.原因不明の弱視のため視覚誘発反応測定装置LE-4000(TOMEY)を用いて皮膚電極ERGを行った.結果:皮膚電極ERGでは杆体応答のみ得られ,錐体応答は消失していた.患児は低視力,眼振,羞明を認めることと皮膚電極ERGの結果から杆体一色覚と診断した.結論:角膜電極が使用困難な幼児に対し,皮膚電極ERGは早期に網膜機能を評価し診断に至ることが可能であった.Wereportacaseinwhichelectroretinogram(ERG)usingskinelectrodeswasusefulfordiagnosisrodmonochromatismofchildhood.Thepatient,a-3-year-oldfemaleinwhomnystagmuswasdiagnosedataround3monthsofage,wasreferredtoourhospitalforathoroughexamination.Weconfirmednystagmusandhypermetropia,butatthetimeofthefirstmedicalexamination,nootherabnormalfindingswereobserved.Dayblindnesswassometimesseenfor1yearoldthreemonths;atage3,correctedvisualacuitywas0.2inbotheyes.Foramblyopiaofunknowncause,weperformedskinelectrodeERGusinganLE-4000(TOMEY).ResponsecouldonlybeobtainedinrodERG;coneresponsehaddisappeared.ThepatientwasdiagnosedwithrodmonochromatismbasedontheERGresults,lowvision,nystagmusandphotophobia.Forcornealelectrodeusingadifficultchild,skinelectrodeERGcanleadtoearlydiagnosistoevaluatetheretinalfunctionwaspossible.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):409.413,2013〕Keywords:皮膚電極,角膜電極,幼児期,網膜電図,杆体一色覚.skinelectrodes,cornealelectrode,babyhood,electroretinogram,rodmonochromatism.はじめに日常診療において,先天網膜疾患が疑われる幼児症例にしばしば遭遇する.そのなかでも杆体一色覚は,常染色体劣性遺伝の先天性網膜疾患であり,0.1.0.2程度の低視力で,眼振,羞明,昼盲がみられ1),眼底は正常であることが多い2).色覚検査が可能な年齢になれば,臨床所見でも診断をつけやすいが,確定診断には網膜電図(electroretinogram:ERG)が必須である.しかし,ERGを記録する際に,現在臨床に最も広く使用されているのは光一体型コンタクトレンズ電極(以下,CL電極)である3,4).これは角膜に直接接触するため,幼少児では検査が困難であり,全身麻酔下や鎮静下での検査も余儀なくされてきた.これに対し,皮膚電極を用いたERG5.7)(以下,皮膚電極ERG)は幼少児でも使用しやすいが,CL電極を用いたERGと比べると振幅は小さくノイズの影響も受けやすいため8,9),臨床に積極的には用いられなかった.視覚誘発反応測定装置LE-4000(TOMEY)は,これらの問題点を改良し,より安定したERGを記録することが可能である10).今回筆者らはこのLE-4000を用いた皮膚電極ERGが,幼児期の杆体一色覚の確定診断に有用であった1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕松永美絵:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:MieMatsunaga,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo-city,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(123)409 I症例患者:3歳,女児.主訴:眼振,羞明.現病歴:生後3カ月頃より眼振を認め近医受診,精査目的にて宮田眼科病院(以下,当院)紹介受診となった.既往歴:特記すべき事項なし.家族歴:特記すべき事項なし(近親婚はなし).経過:初診時,嫌悪反射はなく,追従運動は可能,眼位は正位,潜伏眼振および左右注視方向性眼振を認めた.シクロペントラート塩酸塩(サイプレジンR)調節麻痺下にて両眼+6Dの遠視を認めた.前眼部,中間透光体,眼底には異常所見はみられなかった.1歳3カ月時,戸外にて強い羞明がみられるようになり,視力はPL(preferentiallooking)法にて両眼開放下(Bbs)=0.05であった.眼鏡を装着できる年齢になったため屈折矯正を行い両眼+3Dブルーレンズを処方した.その後も定期的な屈折矯正を行うが,3歳時,視力右眼は森実式dotcardにてBbs=0.05(0.2×+3D)であった.眼底やOCTでは特記すべき所見はみられなかった(図1,2).そこで,原因不明の視力障害のため皮膚電極ERGにて精査を行った.皮膚電極ERGの測定にはLE-4000を用い,トロピカミド・フェニレフリン点眼液(ミドリンPR)で散瞳し,明室で仰臥位にて電極糊とテープを用い,額に不関電極,耳に接地電極,両眼の下眼瞼から7mmの場所に関電極となる皮膚電極を固定した(図3a).装着後20分の暗順応を行い,眼鏡型刺激装置を装用し(図3b),刺激強度0.01cd・s/m2(刺激光輝度80cd/m2,発光時間0.12msec),刺激頻度2秒間隔,加算回数16回の条件でrodERGを測定した.つぎに,刺激強度50cd・s/m2(刺激光輝度100,000cd/m2,発光時間0.5msec),加算回数8回の条件で,brightflashERGを測定した.その後10分の明順応をさせて刺激強度3cd・s/m2(刺激光輝度6,000cd/m2,発光時間0.5msec),背景光輝度25cd/m2,加算回数32回の条件で,coneERGを測定した.最後に刺激強度3cd・s/m2(刺激光輝度6,000cd/左眼図1症例の眼底写真明らかな異常は認められない.右眼左眼図2症例のOCT写真明らかな異常は認められない.410あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(124) ++図3皮膚電極ERGの実際a:額に不関電極,耳に接地電極,下眼瞼から7mm位置に皮膚電極を固定する.b:暗順応後に眼鏡型の光刺激装置を着用する.RodConeBrightflashERG15μV10μV25ms10msFlickerERG25μV10μV10ms10ms図4正常小児の皮膚電極ERG従来の角膜電極によるERGと類似しているが,振幅は約1/4である.m2,発光時間0.5msec),背景光輝度25cd/m2,刺激頻度律動様小波が減弱していた.ConeERG,flickerERGは反30Hz,加算回数50回の条件で,flickerERGを測定した.応がほとんど検出されなかった(図5).色覚検査は幼児のたなお,参考として当院での正常小児の皮膚電極ERGを図4め理解できず検査不可能であったが,羞明,眼振も認め,女に示す.児であることから杆体一色覚と診断した.II結果III考察RodERGは正常範囲内であった.BrightflashERGでは小児期から青年期にかけて発症することの多い遺伝性網膜(125)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013411 RodCone15μV10μV25ms10msBrightflashERGFlickerERG25μV10μV10ms10ms図5症例の皮膚電極ERGRod,brightflashERGは正常範囲だが,cone,flickerERGは消失している.疾患は,ERGが診断に有用なことが多い11).遺伝性網膜疾患の一つである杆体一色覚は,眼底が正常で蛍光眼底造影検査や光干渉断層計でも明らかな異常所見をみられないことが多い2).しかし,Goldmann視野検査では,周辺視野は正常だが中心暗点が検出されたり12),パネルD-15を用いた色覚検査で,scotopic軸に一致した異常パターンがみられることもある2).また,NagelアノマロスコープⅠ型検査では,極端に急嵯な傾きを示す2)が,幼少児ではこれらの自覚的検査は困難で,症状もあいまいなことが多い.そのため,ERGは客観的な網膜機能検査として期待される役割は大きく,診断の有力な決め手となる.網膜色素変性症,先天停在性夜盲,杆体一色覚,先天網膜分離症などの遺伝性網膜疾患はERGにて確定診断が可能である.また,視神経疾患,詐病,心因性視力障害と網膜疾患との鑑別にも有用である.しかし,ERGの記録には角膜に直接接触させるCL電極が一般的で,6歳以上の比較的聞き分けの良い小児以外では検査の協力を得るのは困難であり,また感染の危険性が懸念される角結膜疾患患者では用いることは不可能である.今回筆者らは,角膜に接触させない皮膚電極を用いることで,幼少児に与えるストレスを減らすことができた.また,従来課題となっていた皮膚電極ERGで得られる振幅の低さやノイズの多さは,光刺激を行った眼のERGから刺激を行っていない眼のERGを差し引き,それを412あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013加算平均することで解決され10),従来のCL電極を用いたERGに見劣りしない,安定した波形を得ることができた.さらにCL電極では,暗室で電極の取り付けを行うため,幼少児に不安や恐怖を与えていたが,皮膚電極では明室での取り付けが可能であり,不安や恐怖を軽減することができた.また,光刺激についても,CL電極では強制的に開瞼させていたが,皮膚電極では白色発光ダイオードが内蔵された眼鏡型刺激装置を装着させるだけである.そのため,幼少児や角結膜疾患患者にも負担が少なく使用しやすいと思われる.すでに筆者らは,正常成人において,LE-4000における皮膚電極とCL電極を用いたbrightflashERGは互いに類似していることを報告してきた10)が,rodERG,coneERG,flickerERGにおいてはまだ明らかではない.幸いにも今回の症例では,皮膚電極ERGの所見も杆体応答のみ得られ,錐体応答の消失をみる杆体一色覚の特徴と一致し,臨床的にも幼少時よりの低視力,眼振,羞明を認める女児であることから,杆体一色覚の確定診断に至った.今後,皮膚電極ERGを用いた他の先天性網膜疾患の鑑別のためにも,brightflash以外のERG所見の皮膚とCL電極による結果の整合性について検証が必要である.杆体一色覚との鑑別にS錐体一色覚があるが,両者とも臨床症状,所見,ERGは類似している.診断方法としてパネルD-15や遺伝形式が重要(126) であり,青錐体一色覚では,tritan軸に直行するパターンがみられたり,X染色体劣性遺伝のため患児は男児である13).今回の症例では患者が幼児であるため色覚検査は不可能であったが,女児であることから青錐体一色覚は否定した.年齢的に検査が可能になれば色覚検査や,角膜電極を用いた色刺激ERG13,14)を用いて青色光刺激で反応が残っているかどうかも確認していく予定である.今回筆者らは角膜電極を使用できない幼児に対し,皮膚電極を用いることで早期に確定診断に至ることができた.すでに小児に皮膚電極ERGを記録した報告15)や皮膚電極ERGを用いて小児の網膜ジストロフィをタイプ別に診断できる可能性が報告されており16),患者に負担の少ない皮膚電極は,より簡便に,定性的に視機能を評価する検査として臨床的に有用であると考える.今後症例数を増やし,異なる疾患や病態の進行状態,正常小児においても皮膚電極ERGはCL電極と同様の記録が可能か比較検討することにより皮膚電極ERGの有効性を立証する必要がある.また,皮膚電極ERGを用いた遺伝性網膜疾患の早期診断は,現在有効な治療はないものの,視力予後を知ることにより,患者やその家族の迷いや不安をより少ないものへと導き,将来設計を立てる一助になると考えられる.今後,皮膚電極ERGは幼小児期の網膜機能評価および,遺伝性網膜疾患の診断に役立つことが期待される.文献1)KrillAE,DeutmanAF,FishmanM:Theconedegenerations.DocOphthalmol35:1-80,19732)HayashiT,KozakiK,KitaharaKetal:ClinicalheterogeneitybetweentwoJapanesesiblingswithcongenitalachromatopsia.VisNeurosci21:413-420,20043)田原恭治,楠部亭,北谷和章ほか:高輝度発光ダイオードを用いた光刺激装置.第1報フリッカーERG刺激装置の試作.眼紀38:1833-1839,19874)KondoM,PiaoCH,TanikawaAetal:Acontactlenselectrodewithbuilt-inhighintensitywhitelight-emittingdiodes.DocOphthalmol102:1-9,20015)中村善寿:皮膚からのERG記録法の検討.日眼会誌79:42-49,19756)安達恵美子,千葉弥幸:皮膚電極による臨床ERG.日眼会誌75:38-43,19717)TepasDI,ArmingtonJC:Electroretinogramfromnon-cornealelectrodes.InvestOphthalmol1:784-786,19628)KrissA:SkinERGs:theireffectivenessinpaediatricvisualassessment,confoundingfactors,andcomparisionwithERGsrecordedusingvarioustypesofcornealelectrode.IntJPsychophysiol16:137-146,19949)MormorMF,FultonAB,HolderGEetal:ISCEVStandardforfull-fieldclinicalelectroretinography.DocOphthalmol118:69-77,200910)貝田智子,松永美絵,花谷淳子ほか:サブトラクション法を用いた皮膚電極による網膜電図とLED内蔵コンタクトレンズ電極を用いた網膜電図の比較.日眼会誌117:5-11,201311)近藤峰生:弱視と間違えやすい網膜疾患.眼科44:717728,200212)Goto-OmotoS,HayashiT,GekkaTetal:CompoundheterozygousCNGA3mutations(R436W,L633p)inaJapanesepatientwithcongenitalachromatopsia.VisNeurosci23:395-402,200613)MiyakeY:Blueconemonochromacy.ElectrodiagnosisofRetinalDiseases,p138-140,Springer,Tokyo,200814)Ladekjaer-MikkelsenAS,RosenbergT,JorgensenAL:Anewmechanisminblueconemonochromatism.HumGenet98:403-408,199615)BradshawK,HansenR,FultonA:ComparisonofERGsrecordedwithskinandcorneal-contactelectrodesinnormalchildrenandadults.DocOphthalomol109:43-55,200416)MeredithSP,ReddyMA,AllenLE:Full-fieldERGresponsesrecordedwithskinelectrodesinpaediatricpatientswithretinaldystrophy.DocOphthalmol109:57-66,2004***(127)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013413

正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケラン® LA2%)の眼血流への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):405.408,2013c正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)の眼血流への影響梅田和志稲富周一郎大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座EffectofCarteololHydrochloride(2%MikeranRLA)onOpticNerveHeadBloodFlowinNormalEyesKazushiUmeda,SyuichiroInatomi,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)点眼薬の眼血流への影響についてレーザースペックルフローグラフィを用いて調査した.対象および方法:対象は健常人正常眼8例16眼.右眼にミケランRLA2%,左眼にプラセボを単回点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後に眼圧,眼灌流圧,全身血圧,脈拍および視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上・下耳側リム,視神経乳頭近傍上・下耳側網脈絡膜の血流量を測定した.結果:ミケランRLA2%点眼眼とプラセボ点眼眼の両群間で眼圧および眼灌流圧において有意差を認めなかった.全身血圧および脈拍は開始時と比較して下降したが重篤な副作用はみられなかった.眼血流量は,乳頭近傍上耳側網脈絡膜でミケランRLA2%点眼眼が3および6時間後に有意に増加した(p<0.05).結論:ミケランRLA2%は正常眼において,眼血流増加作用のあることが示されたことから,緑内障神経保護治療の選択肢となる可能性が期待される.Purpose:Toexaminetheeffectofcarteololhydrochloride(2%MikeranRLA)onopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers,usinglaserspeckleflowgraphy.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved8healthysubjects(16eyes)instilledwith2%MikeranRLAintherighteyeanditsplacebointhelefteye.Changesinintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP),pulserate(PR),ocularperfusionpressure(OPP)andmeanblurrate(MBR)weredeterminedfrommeasurementstakenatbaselineandat1.5,3,4.5and6hoursafterinstillation.Results:IOPandOPPdidnotchangebetweentherightandlefteyes.BPandPRdecreaseduponinstillationof2%MikeranRLA,butwithnosideeffects.MBRatthesuperotemporalchorioretinasurroundingtheopticnerveheadincreasedsignificantlyat3and6hoursafterinstillation(p<0.05).Conclusion:Thisresultsuggeststhat2%MikeranRLAincreasesopticnerveheadbloodflowandcouldbeaneuroprotectiveagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):405.408,2013〕Keywords:カルテオロール,視神経乳頭血流,緑内障,レーザースペックルフローグラフィ.carteolol,opticnerveheadbloodflow,glaucoma,laserspeckleflowgraphy.はじめに緑内障性視神経症の発症および進行の原因としては,眼圧による機械的な障害のみではなく,視神経乳頭や網脈絡膜などの眼循環障害の関与が考えられる1).したがって,種々の抗緑内障薬のもつ眼圧下降効果に加えて眼血流に対する効果,すなわち神経保護の重要性が示唆されている2.8).抗緑内障点眼薬のなかで最も多く使用される薬剤としてプロスタグランジン点眼液とbブロッカー点眼薬がある.bブロッカー点眼薬のなかでもカルテオロール塩酸塩は内因性交感神経刺激様作用(ISA)を有し,また血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進,血管収縮因子(EDCF)の分泌抑制により末梢血管抵抗を減少させる働きを有しているため眼血流改善効果が期待される2,9.11).Tamakiら11)は正常人に対して2%カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)または0.5%チモロールをそれぞれ1日2回3週間点眼させて眼血流量をレーザースペックルフローグラフィで検討したところ,両〔別刷請求先〕梅田和志:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KazushiUmeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)405 者において短期的には影響はなかったものの,前者では3週後の時点で眼血流の増加の可能性を示唆した.そこで今回筆者らは,カルテオロール塩酸塩の効果の持続性が期待される製剤(ミケランRLA2%)において短期的な眼血流への影響がどうなるかを検討する目的で,健常眼における点眼前後での眼血流の変化をレーザースペックルフローグラフィを用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は軽度の屈折異常以外特に全身および眼疾患を有しない健常ボランティア8例16眼である.その内訳は男性3例女性5例,年齢20.34歳(平均23.9歳).対象の右眼にミ図1レーザースペックルフローグラフィによる血流マップ測定部位は乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域,また乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.(mmHg)2118151296開始時1.5hr3hr4.5hr6hra.眼圧************ケランRLA2%を点眼,左眼にプラセボとして生理食塩水を点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後における眼圧,眼灌流圧,全身血圧および脈拍をそれぞれ3回ずつ測定した.眼血流は視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上耳側および下耳側リム,視神経乳頭近傍上耳側および下耳側網脈絡膜の5カ所とした.具体的には0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.MBR値は相対値であるため,開始時に対する変化率を経時的に算出した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した(図1).乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.統計学的解析は対応のあるまたは対応のないt検定を用い,有意水準p<0.05を有意とした.当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,試験参加者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)(図2a)眼圧は開始時16.1±3.3mmHgから,ミケランRLA2%点眼1.5,3,4.5および6時間後でそれぞれ13.3±2.2mmHg(p<0.05),13.1±2.6mmHg(p<0.01),12.4±2.8mmHg(p<0.01)13.1±2.5mmHg(p<0.01)と有意に下降した.プラセボ点眼眼(,)においても点眼3,4.5および6時間後でそれぞれ14.6±2.2mmHg(p<0.05),14.0±2.7mmHg(p<0.01),14.0±2.2mmHg(p<0.01)と開始時に比べて有意に下降した.両群間で統計的有意差はみられなかったが,プラセボ点眼眼に比べてミケランRLA2%点眼眼でより低い眼圧値を呈した.(mmHg)5520開始時1.5hr3hr4.5hr6hrb.眼灌流圧504540353025*図2眼圧および眼灌流圧の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼圧(a)および眼灌流圧(b)の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(*p<0.05,**p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.406あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(120) 2.全身血圧および脈拍(平均±標準偏差)平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,平均血圧はミケランRLA2%点眼前78.9±6.4mmHgで,点眼4.5および6時間後にそれぞれ72.6±5.3mmHg(p<0.05),72.5±5.5mmHg(p<0.01),と開始時より有意に低下していたが,重篤な副作用はみられなかった.また,脈拍はミケランRLA2%点眼前70.4±5.3拍/分で,点眼1.5および3時間後にそれぞれ64.8±6.0拍/分(p<0.01),65.1±9.3拍/分,と開始時より低下したが,4.5時間後までには元のレベルに回復していた.3.眼灌流圧(平均±標準偏差)(図2b)眼灌流圧は2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ミケランRLA2%点眼眼では眼灌流圧に有意な変化はみられず,プラセボ点眼眼では開始時36.5±4.3mmHgに比べ点眼6時間後に34.3±3.8mmHgと有意に下降した(p<0.05)が,両群間で統計的有意差はみられなかった.4.視神経乳頭および網脈絡膜血流(平均±標準偏差)視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は,ミケランRLA2%点眼眼でいずれの時点でも開始時より高い値を示していたのに対し(図(%)a.視神経乳頭陥凹部20151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hr*(%)151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hrc.視神経乳頭下耳側リム*#図3眼血流の変化率の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼血流(MBR値)の開始時からの変化率の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(#p<0.05,##p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.(121)3a,3b,3d),プラセボ点眼眼では開始時に比べ6時間後に視神経乳頭陥凹部MBR値の変化率が有意に低下していた(p<0.05)(図3a).さらにミケランRLA2%点眼眼の乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率はプラセボ点眼眼に比べて3および6時間後に有意に増加した(p<0.05)(図3d).一方,視神経乳頭下耳側リムのMBR値の変化率はミケランRLA2%点眼眼でプラセボ点眼眼に比べ点眼1.5時間後には有意に低下した(p<0.05)が,その後は両群間での有意差はみられなかった(図3c).乳頭近傍下耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は両群間での有意差はみられなかったが,ミケランRLA2%点眼眼では点眼前と比べてほぼ変化がなかったのに対し,プラセボ点眼眼で点眼6時間後に有意な低下がみられた(図3e).III考按一般的にbブロッカーの眼局所効果は房水産生を抑制することで眼圧の下降が得られることが知られ,全身副作用として血圧低下や末梢組織血流量の減少などがある.一方,カルテオロール塩酸塩では内因性交感神経刺激様作用(ISA)による血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進および血管収縮因(%)b.視神経乳頭上耳側リム40302010-20-100開始時1.5hr3hr4.5hr6hr(%)403020100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hrd.視神経乳頭近傍上耳側網膜**##(%)20100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hre.視神経乳頭近傍下耳側網膜*あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013407 子(EDCF)の分泌抑制作用により末梢血管抵抗を減少させることでこれらの副作用の軽減があるとされている2,9.11).今回筆者らの正常眼を用いた検討では,視神経乳頭近傍上耳側網脈絡膜血流がミケランRLA2%点眼により,点眼3および6時間後に有意に増加するという結果が得られた.この機序として,ミケランRLA2%点眼眼で眼灌流圧が下降せず保たれていたことから,ISAによるEDRFの分泌亢進およびEDCFの分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って視神経乳頭および網脈絡膜毛細血管が拡張したためと考えられる.現在までに種々の抗緑内障点眼薬を用いた眼血流への効果をみた研究報告が散見される3.6)が,緑内障眼を用いたものが多く,ある程度の血流増加作用の報告はあるものの,筆者らが調べたかぎりにおいて正常眼を用いた研究ではそのような効果の報告は少ない7,8).正常眼圧緑内障眼においては正常人眼に比べ血流量が低下していること,さらに乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている12,13).これらの事実は視神経乳頭の血流動態が緑内障と密接に関係していることを示唆するものである.したがって,正常眼に比べて緑内障眼ではすでに視神経乳頭周囲の血流が低下しているため,抗緑内障点眼薬のもつ血流への影響が正常眼に比べて出やすい可能性がある.今回筆者らの検討においても視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜ではミケランRLA2%点眼による眼血流量の増加がみられたのに対し,下耳側リムおよび乳頭近傍下耳側網脈絡膜ではみられなかった.これは解剖学的にいわゆるI’SNTの法則により視神経乳頭下方の神経線維が最も多く,それに伴って血流の予備能も多いため効果がマスクされた可能性が考えられた.正常人眼では視神経乳頭血流量は加齢とともに減少することが知られている12).緑内障眼では視神経乳頭血液循環のautoregulation機構が破綻するため,加齢変化以上に乳頭血流量が低下するのかもしれない.したがって,低下した血流量を抗緑内障点眼薬などにより生涯にわたり改善することができれば,緑内障の進行をある程度阻止できる可能性が期待できる.2008年,Kosekiら14)は正常眼圧緑内障患者にカルシウム拮抗薬であるニルバジピンを3年間投与し,ニルバジピン群はプラセボ群に比しHumphrey視野のMD(標準偏差)の傾きが有意に低下し,かつ視神経乳頭血流量が有意に増加したと報告した.ごく最近筆者らの研究グループは,2年間の前向き2重盲検試験においてサプリメントとしてのカシスアントシアニンが緑内障患者の視野進行の阻止と眼血流の上昇をもたらすことを報告した15).この事実は乳頭血流を改善することによって視野障害の進行を阻止しうる可能性を示唆している.したがって,今回筆者らが得たミケランR408あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013LA2%点眼による眼血流量の増加作用,しかも点眼6時間後にも血流が増加していた事実は慢性疾患である緑内障の治療を考えると望ましいものであり,緑内障神経保護治療の選択肢として有用な示唆を与えるものであると考えられる.文献1)早水扶公子,田中千鶴,山崎芳夫:正常眼圧緑内障における視野障害と視神経乳頭周囲網膜血流との関係.臨眼52:627-630,19982)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼科研究への応用.日眼会誌103:871-909,19993)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸レボブノロール長期点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.臨眼60:1841-1845,20064)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20095)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20056)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸ブナゾシン点眼の人眼・眼底末梢循環に及ぼす影響.眼紀55:561-565,20047)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20038)廣辻徳彦,杉山哲也,中島正之ほか:ニプラジロール点眼による健常者の視神経乳頭,脈絡膜-網膜血流変化の検討.あたらしい眼科18:519-522,20019)戸松暁美:b遮断剤点眼薬カルテオロールの眼圧下降作用と網脈絡膜組織血流量に及ぼす影響.聖マリアンナ医科大学雑誌22:621-628,199410)三原正義,松尾信彦,小山鉄郎ほか:ビデオ蛍光血管造影と画像解析によるCarteolol(ミケランR)点眼における網膜平均循環時間の検討.TherapeuticResearch10:161-167,198911)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)永谷健,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼および正常眼圧緑内障における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200113)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200614)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,200815)OhguroH,OhguroI,KataiMetal:Two-yearrandomized,placebo-controlledstudyofblackcurrantsanthocyaninsonvisualfieldinglaucoma.Ophthalmologica228:26-35,2012(122)

円蓋部基底線維柱帯切除術後における留置糸に関連した微小膿瘍様病変の検討

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):401.404,2013c円蓋部基底線維柱帯切除術後における留置糸に関連した微小膿瘍様病変の検討加藤弘明森和彦池田陽子生島徹小林ルミ今井浩二郎木下茂京都府立医科大学視覚機能再生外科学EvaluationofNylon-Suture-RelatedMicro-Abscess-LikeLesionsinPostoperativePhaseofFornix-BasedTrabeculectomyHiroakiKato,KazuhikoMori,YokoIkeda,TohruIkushima,LumiKobayashi,KojirouImaiandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:円蓋部基底線維柱帯切除術(TLE)後,留置糸近傍に白色の円形.楕円形をした微小膿瘍様病変(microfocus:MF)がみられることがある.今回筆者らはTLE術後早期のMF出現率と治療経過を検討した.対象および方法:平成18年1月からの1年間に当科にてTLE単独または白内障同時手術を行った79例93眼(男性48例55眼,女性31例38眼,平均年齢65.7歳)を対象とし,入院中に出現したMFの頻度,時期,部位,治療経過を後ろ向き研究で検討した.なお,MF出現時にはセフメノキシム(CMX)点眼を追加し,MFが改善しない場合には留置糸を抜去した.結果:全症例中MFは42眼(45.2%)にみられ,平均出現日は術後9.0±4.8日,出現部位は水平留置糸(上方)が19眼(45.2%)と最多であった.CMX点眼のみで消失した症例は4眼で,留置糸抜去後には全例で消失した.結論:円蓋部基底TLEでは平均術後9日に約半数の症例でMFが出現し,留置糸抜去にて速やかに消失した.Purpose:Followingfornix-basedtrabeculectomy(TLE),white,round/ellipticalmicro-abscess-likelesions(microfoci:MF)areoftenobservednearthenylonsutures.Weinvestigatedthefrequency,timeandlocationofMFemergence,andtheirclinicalcourses.SubjectsandMethods:Enrolledinthisstudywere93eyesof79subjectswhounderwentTLEwithorwithoutcataractsurgery.ToeyesinwhichMFappearedafterTLE,cefmenoxim(CMX)eyedropswereinstilled.IfCMXwasineffective,thesuturewasremoved.Results:In42eyes(45.2%),MFappearedin9.0±4.8daysafterTLE.In19ofthoseeyes(45.2%),MFemergedatthesuperiorsiteofthehorizontalnylonsuture;in4eyes,MFdisappearedbyCMXinstillation;intheremainingeyes,MFdisappearedafternylonsutureremoval.Conclusion:InalmosthalfofthepatientswhounderwentTLE,MFappearedinapproximately9postoperativedays.Inallcases,however,MFdisappearedfollowingremovalofnylonsutures.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):401.404,2013〕Keywords:マイクロフォーカス,微小膿瘍様病変,円蓋部基底線維柱帯切除術,バイオフィルム.microfocus,micro-abscess-likelesion,fornix-basedtrabeculectomy,biofilm.はじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy;TLE)の術式として,近年は輪部基底TLEにかわり,広い術野が得られ手術操作がしやすく,濾過胞の維持もよい円蓋部基底TLEが行われるようになっている1.4).しかし,円蓋部基底TLEでは角膜輪部側からの房水漏出が一番の問題となり,それを防止するために角膜輪部に縫合が必要であり,その方法の一つとして輪部のcompressionsutureがある5).術後,この留置糸の近傍に白色の円形.楕円形をした微小膿瘍様の病変が出現することがあり,筆者らの経験からこの病変は抗菌薬点眼の追加投与や,留置糸の抜去により消退することがわかっている.病変の外見からは細菌による微小膿瘍やバイオフィルム6,7)の可能性が高いと考え,筆者らはこの病変をmicrofocus(MF)とよぶことにした.これまで円蓋部基底TLE後にみられる本病変に関する報告は,筆者らの知る限りない.〔別刷請求先〕加藤弘明:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学視覚機能再生外科学Reprintrequests:HiroakiKato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(115)401 表1対象の病型内訳病型症例数平均年齢(歳)TLE施行眼白内障併用TLE施行眼原発開放隅角緑内障(広義)44眼65.7±11.116眼28眼原発閉塞隅角緑内障11眼70.7±12.42眼9眼血管新生緑内障15眼62.5±10.114眼1眼落屑緑内障3眼71.7±4.622眼1眼その他の続発緑内障20眼64.9±13.013眼7眼今回,筆者らは円蓋部基底TLE術後早期におけるMF出現の頻度,時期,部位ならびにその後の治療経過についての検討を行ったので報告する.I対象および方法平成18年1月1日から12月31日までの1年間に,当科にて円蓋部基底TLE単独または白内障同時手術を行った症例79例93眼(男性48例55眼,女性31例38眼,年齢65.7±11.4歳)を対象とした.対象の病型内訳は表1に示すとおりであり,施行した円蓋部基底TLEの術式としては以下のとおりである.結膜円蓋部を切開後,半層強膜弁を作製し,0.04%マイトマイシンCを含ませたサージカルスポンジを3分留置させた.その後,生理食塩水300mlで洗浄し,線維柱帯を切除して強膜弁をwatertightに10-0ナイロン糸で5糸縫合した.さらに,輪部結膜を角膜輪部に対して10-0ナイロン糸で端々縫合し,角膜輪部に対して水平方向および子午線方向にcompressionsutureを留置した(図1).なお,手術は3人の術者により行われ,術後全例にノルフロキサシン点眼および塩酸ベタメタゾン点眼を1日4回行った.これらの症例の術後早期(入院期間:16.4±7.3日)におけるMF(図2a.c)出現の頻度,時期,部位および出現後の治療経過を後ろ向き研究で検討した.水平留置糸端々縫合糸子午線留置糸強膜フラップ図1円蓋部基底線維柱帯切除術における糸の留置部位図2円蓋部基底線維柱帯切除術後に微小膿瘍様病変(microfocus:MF)がみられた3症例a.cのいずれも水平留置糸近傍に白色の円形.楕円形状のMFが複数みられる.402あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(116) II結果当科での円蓋部基底TLE術後眼におけるMFの出現数と出現時期の分布は図3のとおりであり,MFの出現頻度は45.2%(93眼中42眼),出現時期は術後9.3±4.8日であった.出現部位は水平留置糸部:34眼(81.0%)〔上方:19眼(45.2%),耳側:4眼(9.5%),全体:5眼(12.0%),不明:6眼(14.3%)〕,端々縫合糸・子午線留置糸部:3眼(7.1%),詳細不明:5眼(12.0%)と水平留置糸部が最も多く,そのうち約半数が結紮部のある水平留置糸部(上方)に生じた(図4).MFが出現した42眼のうち,入院中に抜糸が可能であった3眼に関しては抜糸にてMFの消失を認めた.また,抜糸ができなかった39眼においてはセフメノキシム(CMX)点眼を追加することで,4眼でMFの消失を認めた.CMX点眼の追加でもMFが消失しなかった残り35眼においても,発生数(眼)76543210510152025術後日数(日)図3円蓋部基底線維柱帯切除術後における微小膿瘍様病変(MF)の出現数と出現日の分布MFの出現頻度は45.2%であり,出現時期は術後9.3±4.8日であった.水平留置糸部:34眼(81.0%)上方(①):19眼(45.2%)耳側(②):4眼(9.5%)全体(①+②):5眼(12.0%)不明:6眼(14.3%)①②端々縫合糸・子午線留置糸部:3眼(7.1%)詳細不明:5眼(12.0%)図4円蓋部基底線維柱帯切除術後における微小膿瘍様病変(MF)の出現部位MFの出現部位は,水平留置糸部:34眼(81.0%)〔上方:19眼(45.2%),耳側:4眼(9.5%),全体:5眼(12.0%)不明:6眼(14.3%)〕,端々縫合糸・子午線留置糸部:3眼(,)(7.1%),詳細不明:5眼(12.0%)と水平留置糸部(上方)が最も多かった.(117)MFの数や大きさの維持または減少を認め,最終的には退院後の外来通院中に抜糸を行うことでMFは消失した.また,今回の検討では濾過胞感染をきたした症例はみられなかった.III考按角膜移植術後において角膜の縫合糸の近傍に,MFと同様の白色病変がみられることがあり,それは縫合糸浸潤あるいは縫合糸感染(sutureabscess)とよばれる8).その発症機序として,手術直後に縫合糸に対して細胞浸潤が起こる場合と,手術後の長期経過において縫合糸の弛緩や断裂が原因で病原体が侵入して感染症が成立する場合があるとされるが,前者において,その起源が感染症なのか,生体側の免疫反応なのか,はっきりとした結論は出されていない.円蓋部基底TLE術後にみられるMFの出現時期は術後9.3±4.8日と比較的早期であり,MFの起源についても,感染症の可能性と,縫合糸に対する生体側の免疫反応の可能性が考えられた.ただ,TLE術後の結膜縫合糸の培養から60%の症例において細菌が検出されることが報告されており9),抗菌薬点眼(CMX)を追加することでMFが消退していること,また今回の検討では術後すべての症例に免疫抑制薬であるリン酸ベタメタゾン点眼を併用していることから,MFの起源が縫合糸に対する生体側の免疫反応である可能性よりも,感染症(特にその外見からノルフロキサシンに耐性のある細菌によるバイオフィルム6,7))である可能性のほうが高いと考えられた.本来ならMFを採取して病理学的検討を行いたいところではあるが,MFは結膜上皮内に存在しており,術後早期の創部の接着が十分でない時期に,濾過胞近傍の結膜の処置を行うことは創部からの房水流出の危険性を高め,濾過胞感染症のリスクを高めると考えられたため,MFの採取および病理学的検討は困難と判断した.CMX点眼の追加によってMFが完全に消退したのは39眼中4眼だけであったが,残りの35眼においては,MFの数や大きさの維持または減少がみられた.CMX点眼の追加がない場合は日を追ってMFの数が増加し,大きさが増大していくため,完全に消退しないまでもCMX点眼にMFの抑制効果が認められたと考えられる.一般にバイオフィルムに対して抗菌薬投与のみでは奏効しにくく,またCMXが殺菌的にというよりは静菌的に作用していると考えると,MFの起源が感染症(細菌によるバイオフィルム)であると考えるほうが合理的であると考えられた.上記を踏まえてMFが水平留置糸部(上方)に多くみられた理由についても考察すると,水平留置糸部(上方)は常に上眼瞼によって覆われているうえに,結紮部が存在し,かつ瞬目による眼瞼の動きに対して垂直に糸が存在していることから,眼瞼の動きに対して平行に糸が存在する端々縫合糸・あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013403 子午線留置糸部と比較して,瞬目時に眼脂や涙液の滞留が起こりやすいため,細菌がバイオフィルムを形成しやすい環境にあると考えられ,もしMFの起源が生体側の免疫反応であるとすれば,MFは水平留置糸部だけでなく端々縫合糸・子午線留置糸部にも同頻度で出現するはずである.全層角膜移植術後に縫合糸に付着したバイオフィルムから縫合糸感染へ進展した報告があり10),MFが細菌によるバイオフィルムである可能性があることを考えると,円蓋部基底TLE術後においてもMFの出現から縫合糸感染,ひいては濾過胞感染症へと進展する危険性があることが推察される.TLE術後の縫合糸留置に関連して感染兆候を示した症例の報告もみられ5,11),円蓋部基底TLE術後は可及的速やかに留置糸を抜去すべきと考えられるが,早期の留置糸抜去は房水流出の危険性を高め,また房水流出が濾過胞感染症をひき起こす可能性を高めるとされている12.14).そのため,留置糸を速やかに抜去することができない術後早期においてMFが出現した場合には,抗菌薬点眼(CMX)を追加して濾過胞感染症へと進展する危険性を軽減するよう対処することが望ましいと考えられる.今回の検討で円蓋部基底TLE術後眼の45.2%と比較的高頻度にMFの出現を認めたことから,円蓋部基底TLE術後においては,診察時に十分な注意を払い,MFを早期に発見するとともに,MFが出現した時点で濾過胞感染症につながる危険性を考慮して,速やかに抗菌薬点眼(CMX)を追加して対処することが望ましいと考えられた.文献1)吉野啓:線維柱帯切除術─輪部基底と円蓋部基底.眼科手術21:167-171,20082)AlwitryA,PatelV,KingAW:Fornixvslimbal-basedtrabeculectomywithmitomycinC.Eye19:631-636,20053)BrinckerP,KessingSV:Limbus-basedversusfornixbasedconjunctivalflapinglaucomafilteringsurgery.ActaOphthalmol70:641-644,19924)TraversoCE,TomeyKF,AntoniosS:Limbal-vsfornixbasedconjunctivaltrabeculectomyflaps.AmJOphthalmol104:28-32,19875)平井南海子,森和彦,青柳和加子ほか:緑内障術中・術後におけるCompressionSutureの有用性.眼科手術18:387-390,20056)亀井裕子:細菌バイオフィルムとスライム産生.あたらしい眼科17:175-180,20007)ZegansME,ShanksRMQ,O’TooleGA:Bacterialbiofilmsandocularinfections.OculSurf3:73-80,20058)LeaheyAB,AveryRL,GottschJDetal:Sutureabscessesafterpenetratingkeratoplasty.Cornea12:489-492,19939)大竹雄一郎,谷野富彦,山田昌和ほか:線維柱帯切除術後の結膜縫合糸における細菌付着.あたらしい眼科18:677680,200110)柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の1例.あたらしい眼科21:801-804,200411)BurchfieldJC,KolkerAE,CookSG:Endophthalmitisfollowingtrabeculectomywithreleasablesutures.ArchOphthalmol114:766,199612)堀暢栄,望月清文,石田恭子ほか:線維柱帯切除後の濾過胞感染症の危険因子と治療予後.日眼会誌113:951963,200913)HirookaK,MizoteM,BabaTetal:Riskfactorsfordevelopingavascularfilteringblebafterfornix-basedtrabeculectomywithmitomycinC.JGlaucoma18:301-304,200914)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:IncidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunctivemitomycinCor5-fluorouraciltreatment.BrJOphthalmol81:877-883,1997***404あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(118)

急性原発閉塞隅角緑内障に対する超音波乳化吸引術と虹彩切開術との比較

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):397.400,2013c急性原発閉塞隅角緑内障に対する超音波乳化吸引術と虹彩切開術との比較高井祐輔佐藤里奈久保田綾恵松原明久野崎実穂安川力小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学ComparativeStudyofPhacoemulsificationandAspirationorLaserIridotomyforAcutePrimaryAngleClosureGlaucomaYusukeTakai,RinaSato,AyaeKubota,AkihisaMatsubara,MihoNozaki,TsutomuYasukawaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences急性原発閉塞隅角症を含む急性原発閉塞隅角緑内障に対する初回治療として,超音波乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)あるいは虹彩切開術を施行した症例について検討した.対象は,平成15年1月から平成20年7月までに当院を受診し,該当する21例23眼.内訳は,PEAを施行した群(PEA群)8例9眼,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)を施行した群(LI/PI群)13例14眼であった.これらの症例において,年齢,術前術後の視力,術前および術後の最終眼圧,術後使用した眼圧下降薬数,眼軸長,手術までの日数,追加手術を必要とした症例数について,PEA群とLI/PI群で比較検討した.平均年齢はPEA群では74.9±8.1歳,LI/PI群では72.5±4.5歳であった.術後に使用した眼圧下降薬の本数,追加手術を必要とした症例数に関しては,ともにLI/PI群のほうが多く,有意な差を認めた(p<0.05).年齢,術前と術後の平均視力および眼圧,眼軸長,手術に至るまでの日数には有意な差を認めなかった.Weevaluatedthefirsttreatmentof23eyes(21patients)withacuteprimaryangleclosureoracuteprimaryangleclosureglaucomathatunderwentphacoemulsificationandaspiration(PEA)orlaseriridotomy(LI/PI)duringa5-yearperiod(PEAgroup:9eyes;LI/PIgroup:14eyes).Weanalyzedage,visualacuity,intraocularpressure,axiallength,dateofoperationandcasesundergoingadditionalsurgery.Averageagewas74.9±8.1yearsinthePEAgroupand72.5±4.5yearsintheLI/PIgroup.Thereweresignificantdifferencesbetweenthegroupsintermsofnumbersofeyedropsandcasesundergoingadditionalsurgery(p<0.05).Nocorrelationwasfoundwithage,visualacuity,intraocularpressure,axiallengthordateofoperation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):397.400,2013〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,急性原発閉塞隅角緑内障,超音波乳化吸引術,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術.acuteprimaryangleclosure,acuteprimaryangleclosureglaucoma,phacoemulsificationandaspiration,laseriridotomy,peripheraliridectomy.はじめに緑内障診療ガイドライン1)における急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)を含む急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangleclosureglaucoma:APACG)の治療方針は,まず薬物治療による処置後,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を,LIが不可能な場合は周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)を施行するとなっている.しかし,近年ではLIを施行しても眼圧が下降しない症例に超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspiration+intraocularlens:PEA+IOL)を施行したところ眼圧下降を得たという報告2)や,LIやPIを施行せずに,PEAを第一選択として施行し,眼圧下降を得たという報告もみられる3.5).さらに,LIを施行した群とPEAを施行した群での手術成績を比較したとこ〔別刷請求先〕高井祐輔:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YusukeTakai,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(111)397 ろ,PEA施行群のほうがLI施行群よりも眼圧下降にすぐれ,再手術例も少ないとの報告もある6,7).今回,筆者らは,当院でAPACあるいはAPACGと診断され,D-マンニトール(マンニットールR)点滴,アセタゾラミド(ダイアモックスR)内服,ピロカルピン塩酸塩(サンピロR)点眼の薬物治療を行った後に初回手術としてLIあるいはPIを施行した群とPEAを施行した群について,その治療効果をレトロスペクティブに比較検討したので報告する.I対象および方法平成15年1月から平成20年7月までに名古屋市立大学病院眼科を受診し,APACあるいはAPACGと診断された21例23眼(2例の両眼同時発症を含む)について検討した.男性4例,女性17例,平均年齢は73.4±6.1歳(63.87歳)であった.内訳は,PEAを施行した群(PEA群)8例9眼,LIまたはPIを施行した群(LI/PI群)13例14眼であった(表1,2).また,術者による偏りはみられたが,レトロスペクティブに検討したため,術式に関する明確な振り分け方はなかった.これらの症例において,年齢,術前術後の視力,術前および術後の最終眼圧,術後使用した眼圧下降薬数,眼軸長,手術までの日数,追加手術を必要とした症例数について,PEA群とLI/PI群で比較検討し(unpairedt-test),p<0.05をもって有意差ありとした.II結果比較検討項目を表3に示す.経過観察期間はPEA群では7.5±1.0カ月(0.5.42カ月),LI/PI群では22.2±1.5カ月(0.5.83カ月)と若干の違いはみられたものの,有意な差を認めなかった.平均年齢はPEA群では74.9±8.1歳(63.87歳),LI/PI群では72.5±4.5歳(64.80歳)で有意差はなかった.術前の平均logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はPEA群では0.56±0.64(.0.08.1.70),LI/PI群では1.39±1.04(0.22.2.70),術後の平均表1PEA群症例一覧症例年齢(歳)性別薬物治療後眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術式術後眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)術後使用薬剤数1右眼85女性3643PEA+IOL1211─2右眼69女性3464PEA+IOL1111─3右眼63男性2056PEA+IOL1915─4右眼71女性1738PEA+IOL1814─4左眼71女性1557PEA+IOL1412─5右眼72女性4042PEA+IOL+GSL911─6右眼78女性966PEA+IOL811─7左眼87女性N/A59PEA+IOL168─8左眼74女性N/A36PEA+IOL10152GSL:隅角癒着解離術,N/A:notavailable(データなし).表2LI/PI群症例一覧症例年齢(歳)性別薬物治療後眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術式術後眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)術後使用薬剤数追加手術1右眼72女性1557LI1515─2右眼79男性N/A40LI111113右眼75男性2455LI1529─4右眼80女性3055LI1213─5左眼73男性2854LI242416右眼69女性1442LI99─7右眼74女性N/A56LI4418左眼73女性N/A46LIN/A143ECCE+Vit+GSL+IOL(*1)毛様体光凝固術9左眼76女性1846PI18182PEA+IOL10左眼64女性N/A62PI41151PEA+IOL11右眼70女性2060LI1016─PEA+IOL11左眼70女性3160LI21132PEA+IOL12左眼70女性3053LI1110─ECCE(*2)13左眼67女性5868PI10101PEA+IOLECCE:水晶体.外摘出術,N/A:notavailable(データなし).*1:後.破損,水晶体亜脱臼を認めた.*2:毛様小体断裂を認めた.398あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(112) 表3PEA群とLI/PI群間の比較検討項目第一選択としてLIあるいはPIを施行していたが,PEAをPEA群LI/PI群p値施行した症例もみられた.観察期間(月)7.5±1.022.2±1.5NS今回の筆者らの結果においても,レトロスペクティブの検年齢(歳)74.9±8.172.5±4.5NS討ではあるが,術後に使用した眼圧下降薬の本数,追加手術術前視力(logMAR)0.56±0.641.39±1.04NSを必要とした症例数において有意な差を認め,眼圧下降には術後視力(logMAR)0.29±0.300.18±0.21NS24.4±12.027.1±14.1NSPEAのほうが有用であるとの結果を得た.薬物治療後(mmHg)術前眼圧(mmHg)51.2±11.553.9±7.9NS今回の検討において,LI/PI施行後にも,なお眼圧コント最終眼圧(mmHg)12.0±2.314.7±6.4NSロールが不良な症例が50%に認められた.これらは,隅角術後使用した眼圧下降0.2±0.70.9±0.90.048閉塞が残存しており,PEAが必要となった症例と考えられ薬数(本)眼軸長(mm)21.6±0.9021.8±1.07NSる.PEAは,水晶体の容積を減らし,瞳孔ブロックを解除手術までの日数4.6±5.31.8±2.0NSする他に,毛様突起の前方移動を改善させるため8),閉塞隅追加手術を必要とした070.0032角を解除するために有効であり9),著明な高眼圧をきたすよ眼数うな隅角閉塞をきたしている症例にはより適していると考えNS:notsignificant(有意差なし).られる.しかし,このような症例には,縮瞳薬やLI/PI術後の炎症による散瞳不良症例や,LI/PI後の術後の房水経路のlogMAR視力はPEA群では0.29±0.30(0.10.0.39),LI/PI変化による水晶体核硬化の急激な進行10)の他にも,水晶体群では0.18±0.21(.0.08.0.70)で,術前術後ともLI/PI亜脱臼,毛様小体断裂などを合併している例もあり,手術手群でやや不良であったが,統計学的有意差はみられなかっ技には注意を要する.一方で,急性緑内障発作後の初回手術た.初期の薬物治療後の眼圧はPEA群では24.4±12.0としてPEAをする際も,前房が非常に浅い,瞳孔ブロックmmHg(15.40mmHg),LI/PI群では27.1±14.1mmHgが残存し眼圧が高いため角膜混濁が強い,毛様小体の脆弱を(14.58mmHg),術前眼圧はPEA群では51.2±11.5認める,散瞳不良などの症例も多く,手術方法を選択するうmmHg(36.66mmHg),LI/PI群では53.9±7.9mmHg(40えで,術者の技量も十分考慮する必要がある..68mmHg),最終診察時における眼圧はPEA群では12.0また,LI後に角膜内皮細胞障害による水疱性角膜症11)の±2.3mmHg(8.15mmHg),LI/PI群では14.7±6.4mmHg発症が報告されており,初回手術にPEAを行うほうが,こ(4.29mmHg)で眼圧に関して有意差はなかった.眼軸長のような合併症を減らすことができる可能性が考えられる.はPEA群では21.6±0.90mm(20.47.22.90mm),LI/PI今回,角膜内皮細胞密度の経過を追うことはできなかった群では21.8±1.07mm(20.44.23.38mm),手術に至るまでが,急性緑内障発作によっても角膜内皮細胞密度は減少するの日数はPEA群では4.6±5.3日(0.14日),LI/PI群ではうえに,PEAを施行することによってさらに減少し,術後1.8±2.0日(0.6日)で,これらの項目も有意な差はみられの炎症も強いため12),一長一短があると思われ,今後角膜内なかった.PEA群,LI/PI群ともに術施行時の合併症はな皮細胞密度の長期経過については検討を要すると思われる.かった.術後に使用した眼圧下降薬の本数は,PEA群ではPI後の合併症には,白内障の進行や瞳孔領虹彩後癒着の発0.2±0.7本(0.2本),LI/PI群では0.9±0.9本(0.3本)で生がある.そのため,すでに白内障を認める場合は,PI同あり統計学的に有意な差を認めた(p<0.05).PEA群では様観血的な処置としてPEAを選択するほうがよいと考えら追加手術を必要とした症例は認められなかったのに対して,れることもある13).LI/PI群では7眼で追加手術を施行しており,有意な差を認今回の筆者らの検討では,APACあるいはAPACGに対めた(p<0.05).LI/PI群において14眼中7眼(50%)が術する初回手術として,PEAのほうが,LI/PIよりも眼圧下後の眼圧コントロール不良のため,追加でPEAあるいは水降には有用であるという結果であった.瞳孔ブロック解除を晶体.外摘出術を施行した.その際,合併症として,1眼に目的としたPEAにはいまだ賛否両論があるが,LI後に後.破損と水晶体亜脱臼,1眼に毛様小体断裂を認めた.PEAを施行された症例では,角膜内皮細胞密度は有意に減III考按少しているとの報告もあり14),近い将来に白内障手術を要する症例では,初回からPEAを選択したほうが侵襲も少なく,近年,APACあるいはAPACGに対する初回手術法とし適していると考えられた.てLIまたはPIと比較してPEAが有効であるという報告がみられるようになってきた2.7).当院においてもAPACある文献いはAPACGのうち,高眼圧による角膜浮腫で視認性が悪い症例や,極度の浅前房のため手術操作が困難な症例では,1)阿部春樹,北澤克明,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドラ(113)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013399 イン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)YoonJY,HongYJ,KimCY:Cataractsurgeryinpatientswithacuteprimaryangle-closureglaucoma.KoreanJOphthalmol17:122-126,20033)家木良彰,三浦真二,鈴木美都子ほか:急性緑内障発作に対する初回手術としての超音波白内障手術成績.臨眼59:289-293,20054)ImaizumiM,TakakiY,YamashitaH:Phacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteangleclosurenottreatedorpreviouslytreatedbylaseriridotomy.JCataractRefractSurg32:85-90,20065)SuWW,ChenPY,HsiaoCHetal:Primaryphacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteprimaryangle-closure.PLoSOne6:e20056,20116)JacobiPC,DietleinTS,LukeCetal:Primaryphacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,20027)LamDS,LeungDY,ThamCCetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsificationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20088)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocessconfigurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,20069)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.Ophthalmology112:974-979,200510)LimLS,HusainR,GazzardGetal:Cataractprogressionafterprophylacticlaserperipheraliridotomy:potentialimplicationsforthepreventionofglaucomablindness.Ophthalmology112:1355-1359,200511)森和彦:レーザー虹彩切開術と角膜障害.医学のあゆみ234:278-281,201012)西野和明,吉田富士子,齋藤三恵子ほか:超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障.あたらしい眼科26:689-697,200913)北澤克明,白土城照:緑内障手術の合併症とその対策周辺虹彩切除術,アルゴンレーザー虹彩切開術の合併症とその対策.眼科25:1423-1430,198314)宇高靖,横内裕敬,木本龍太ほか:レーザー虹彩切開術が角膜内皮細胞密度に与える長期的影響.あたらしい眼科28:553-557,2011***400あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(114)