シリーズ⑬シリーズ⑬タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第13章デジタルロービジョンエイドとしての全盲患者への活用─その3─■全盲患者におけるスマートフォン活用セミナーの意義本章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc.)”とタブレット型PCである“iPadminiR(米国AppleInc.)”,“iPodtouch(米国AppleInc.)”のiOSバージョン6.1.3です.この章では全盲者向けのスマートフォン体験セミナーを通して学んだ注意点や気づきを,実際のセミナーの進行に合わせて紹介していきます.■私のロービジョンエイド活用法『全盲者向け活用セミナー編』①セミナー準備これまで私は弱視者を中心とした視覚障害者や医療従事者に対して,タブレット型のPCやスマートフォンのロービジョンエイドとしての活用セミナーを行ってきました.しかし,全盲者を対象とした体験セミナーを行う機会は多くはありませんでした.その理由は,全盲者と弱視者では端末操作の指導方法が大きく異なり,両者を同時に指導することは非常に難しいためです.第11章で述べたように,タブレット型PCやスマートフォンはアクセシビリティ機能の一つであるvoiceover機能(音声補助機能)を起動することで,全盲の患者でも情報端末機器として操作ができます.Voiceoverによる操作ではおもに音声フィードバックによって端末を操作することになります.そのため全盲者向けのセミナーは少人数制として,すべての参加者が実機を操作しながら学べる環境を準備することが重要です.また,同時に複数の参加者がvoiceover操作を行うため,音声のフィードバックを各自が正確に聞き取れるように,イヤ(87)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYホンを準備した状態で説明を受けることが望まれます.②本体説明最初に電源の入っていない端末を手に取り端末本体の構造的な特徴を理解してもらい,参加者に物理的なボタンの配置と機能を実際に触って確認してもらいます.タッチパネル式の端末ではすべての液晶画面がタッチ認識の対象となるため,不用意な液晶画面への接触は誤操作の原因となります.しかし,全盲患者にとって凹凸の存在しない端末の前面における,タッチ操作に反応する液晶画面の範囲を把握することは難しいです.そのため厚紙などで作製した端末の立体模型を用いて,触覚的にその構造を認識してもらい,誤操作を生じにくい端末の把持法を指導する必要性があります(図1).次に,同様に端末の立体模型を用いて,本体液晶画面に映し出される構成要素やアイコンの配置を触覚的に理解してもらいます.最初から実機を操作するのではなく,まず物理的な構造の把握と立体模型による液晶画面の構成イメージを構築したうえで,実際の端末実機による操作手順指導へと進みます.実機を操作するまでに触図1立体模型に触れてアイコンの配置と液晶画面の範囲を認識している様子あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013809図2片耳にイヤホンを装着して操作練習を行っている様子図2片耳にイヤホンを装着して操作練習を行っている様子覚を通して構造や画面構成を理解することで,実際の操作説明の際のイメージを想定するのが比較的容易となります.③操作説明Voiceoverを用いた具体的な操作方法の詳細に関しては第11章で述べましたが,voiceoverによる実機操作では,さまざまな操作アクションを音声によるフィードバックを通して確認することが可能です.参加者が各自イヤホンからの音声フィードバックを受けながら操作説明の指導を受けることで,より実践的な手技を習得することが可能となります(図2).Voiceover機能起動時の操作法には1本指での操作に加え,複数の指を使ったさまざまな応用操作が実装されています.全盲の患者が快適に端末を操作するためには,1本の指での操作に加え,複数の指を用いたさまざまな応用操作を習得することがとても重要です.しかし,患者のなかには指の動きが不自由な方もいるため,スマートフォンなどの対角4inchの液晶端末を利用した場合,端末の横幅が5.8cmと狭く複数の指を用いた操作が困難な場合があります.このような症例に対しては7.9inchの小型タブレット型PCを利用すると,タッチ認識可能な液晶画面の横幅が13.4cmと広く,最適な操作環境を提供できます.タブレットのサイズの多様化に伴い,これまで導入の難しかった全盲の患者に対して図3参加者の手のひらに1本指の操作の感覚を触覚を通して指導している様子も適応は確実に拡大しつつあるといえます.また,第11章でも述べましたが,初めてタッチパネル式の端末を操作する参加者には本人の手のひらに操作する指を誘導して,タッチパネル方式の操作に特異的なタッチの強さや動きの感覚を理解することで,不用意に力が入るなどの誤操作を予防することが可能です(図3).本章では全盲の患者たちに,タッチパネル式の端末を指導する際の手順と注意点について簡単に紹介しました.実際の全盲患者における端末指導では,触覚と聴覚による情報を適切に伝えることが最も重要であることに気づかされます.私は自身の活動を続けることでそのような気づきを中心に,正しいアクセシビリティ機能の活用法を広めることがとても重要であると考えています.全盲の方を含む,より多く視覚障害者がタブレット型PCやスマートフォンを日々の生活に活用することで,すべての視覚障害者の目に希望の光を戻し彼らの明るい明日が作られると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆810あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(88)