特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):923~928,2013特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):923~928,2013光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価TearMeniscusHeight(TMH)EvaluationUsingOpticalCoherenceTomography(OCT)inLacrimalSurgery鈴木亨*はじめに眼表面の涙液は,その75~90%が上下の涙液メニスカスに分布するとされる1).上下のメニスカスのうち下方は涙道閉塞で著明に増大する場合があるのに対し,上方は重力によってある程度制限され,下方ほどの大きな変化はみられない.眼表面全体の涙液量を推察する手がかりとしては,下方涙液メニスカスの大きさを調べるのが合理的であろう.もちろん,流涙症状のすべてが眼表面の涙液量の問題だけで説明できるものではない.しかし少なくとも,下方の涙液メニスカスが涙道手術後に変化する現象は手術の涙液排出効果をよく反映すると考えられ,この経過を調べることは手術効率の他覚的評価の一助となりうる2).本稿では,普及型の後眼部用光干渉断層計(OCT)に前眼部アタッチメントを装着し,この下方涙液メニスカスの断面の高さ(tearmeniscusheight:TMH)を調べる簡便な方法と,その臨床応用例について述べる.I撮影の注意点とTMHの測り方1.撮影後眼部用OCTに前眼部用アタッチメントを装着し,涙液メニスカス断面を撮影する.筆者はフーリエドメインOCTRTVue(Optovue社)を使用しているが,各社で専用の前眼部用アタッチメントが用意されている.図1に実際の撮影の様子を示した.一般眼科診療では視力・眼圧検査が最初に行われるこ図1OCTを用いた涙液メニスカス撮影撮影は暗室でなくてもよい.被検者に向かってエアコンの気流が当たらないように配置する.とがルーチンとなっている場合があるが,TMH計測はすべての検査に優先して最初に行われなければならない.他の検査の刺激によるTMH変化を除外する必要がある.また,実際の測定では,患者に自然な瞬目を続けるように指示する.強制開瞼時や瞬目直後の像は本来のメニスカスといえない.検者は角膜の中央を通る切片で撮影できるようにセッティングを行い,画面で瞬目による涙液メニスカスの動きを観察しながらタイミングよく撮影する.患者のなかには,涙を拭いて眼科検査に備える習慣のある者も多数存在する.したがって,眼を拭かないで検査を受けるような指示も重要である.*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東二島4-7-1鈴木眼科クリニック0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)923895μm図2TMHの測り方OCTで撮影できたメニスカス断面の上下いずれかの頂点から垂線を引き,その線の他方の頂点の高さまでの長さを測定する.Optovue社の機種の画面では縦横が反転して像が表示されるため,垂線は横方向となる.OCT検査後,細隙灯顕微鏡下に極小量フルオレセインで染色して眼表面を観察し,OCTで得られたTMHの値が実際に観察できるメニスカス像やその左右差と一致していることを確認する気配りも必要である.結膜弛緩が著明な症例ではTMHが測れないか,測れても値の再現性は低くなる.当院でこの検査を始めた当初は細隙灯顕微鏡所見と一致しない症例が多かったが,検査スタッフが慣れるに従って不一致症例は減少した.患者誘導に関して検者のラーニングカーブがあると考えられる.2.計測OCT画像では涙液メニスカス断面は歪んで写っている可能性があり,三角形の辺の長さを直接計測しても真のTMHとは限らない.眼球の前に想定した垂直面に投影される涙液メニスカス断面の高さをTMHと定義すべきである(図2).Optovue社の機種では,画面上で動かせる任意の2点間距離や面積の計測ソフトが内蔵されているので便利である.II日本人高齢者におけるTMHの分布白内障手術直前の高齢者日本人の226例419眼(平均年齢73歳)について,下方TMHの分布を調べた.検査はOCTで1回だけ行い,測定値の再現性や信頼性は無視してそのまま採用した.結膜弛緩症は対象に含まれているが,手術で問題となるような炎症性眼疾患や重症ドライアイ,涙洗で診断した涙道閉塞などは除外されて924あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013TMH(μm)2,000n=4191,8001,6001,4001,2001,0008006004002000図3日本人高齢者のTMH分布p=0.1500,Kolmogorov’sDtest:対数正規分布の適合度を検定するものでp値が小さい場合に対数正規分布からのデータという仮説が棄却される.対象419眼の平均年齢:73.3±7.9歳.男女比:1対1.2.箱ひげ図の中のひし形印が平均値を示す.おり,結果は軽症ドライアイを含む標準的な日本人高齢者集団についてのものと考えてよい.1.全体の分布図3に全体の結果を示した.高齢者集団の生理的TMH分布は対数正規分布であった.正規分布を前提とした平均値は331μmであるが,実際のデータ分布のピークは200μm台前半にあるので,日本人高齢者のTMHは約200μmといってもよい.この平均値と分布ピークのずれを知っておくことは,TMHの解析結果を判断するときに重要である.単純計算によるTMH平均値は実際に多くみられるデータの代表的数値ではなく,それよりも高い値と考えるべきである.合わせて示した箱ひげ図で判断すると,自然なTMH分布範囲は約62~632μmであった.これを超えて高いTMH(外れ値,すなわち統計的に不自然な範囲に分布するデータ)は14個存在したが,そのうち9眼で著明な結膜弛緩症や涙洗時の強い逆流がみられた.これらで説明のつかない外れ値を示したのは5眼で全体の1.2%と少なかった.(42)p<0.0001,ANOVA2,000n=6231,0001,8008001,6001,4001,200TMH(μm)600術前TMH(μm)4001,0002008000600女性男性図4男女別のTMH分布TMH平均値は男性で343.4±140.0μm,女性で286.1±142.5μm.2.男女差図4に男女別の結果を示した.TMHの分布には男女差がみられた(p<0.0001,ANOVA:analysisofvari4002000図5涙道疾患のTMH分布p=0.1323,Kolmogorov’sDtest.治療前のTMH平均値は603±308μm.02004006008001,0001,2001,4001,6001,8002,000n=623単涙小管閉塞近位涙小管閉塞遠位涙小管閉塞涙内癒着鼻涙管閉塞機能性流涙術前TMH(μm)ance).対象にはドライアイ治療中の症例も含まれているが,白内障手術が困難なほどの重症例はない.高齢者のドライアイおよびその疑い有病率は高く,また一般にドライアイが女性に多いことがTMH分布の男女差に影響したと考えられる.III涙道疾患におけるTMHの分布当施設で2010年5月から2013年1月までに治療した連続症例涙道疾患のうち,治療前にTMHが記録されていた471例623眼について,その値の分布を調べた.図6閉塞病型別のTMHそのなかで,治療後の経過良好例でTMH記録のある174例216眼について,治療前後のTMH分布を比較した.治療内容は,軽症例に対する涙石の洗浄除去から重症例に対する涙.鼻腔吻合術まで,涙.摘出以外の全種類の涙道治療を含む.1.治療前TMHの分布図5に治療前の全体の結果を示した.涙道疾患におけるTMHの分布は最大1,870μmまで記録されており,全体では生理的な場合と同様に対数正規分布となった.データ分布のピークは300~600μmの範囲に存在した.2.病型別にみた治療前TMHの分布病型別ごとのTMH分布を図6に示した.全体の比較(43)p=0.3522,ANOVA.閉塞病型は術中所見を考慮に加えて分類した.図中に各群の平均を結んだ線を示した.単涙小管閉塞:上下どちらかの涙小管のみ機能している44例,近位涙小管閉塞:涙点閉鎖を含むGrade3の26例,遠位涙小管閉塞:Grade1と2の252例,涙.内癒着:総涙小管まで異常がなく,かつ術中に涙.内腔の内腔が確認できなかった9例,鼻涙管閉塞:涙点・涙小管に異常がなく,かつ術中に涙.内腔が確認できた264例,機能性流涙:内視鏡検査で涙道内に有意な狭窄がみられなかった31例,その他:涙小管外傷1例と涙小管炎1例.でTMH分布には有意差はみられなかったが,鼻涙管閉塞群と他の群との個別比較においても有意差はみられなかった.上田らはメニスコメータを用いて涙道閉塞におけるメニスカス解析を行い,涙小管閉塞では鼻涙管閉塞よりメニスカスが大きいと報告(涙道閉塞部位の涙液メあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013925p<0.001,pairedt-test涙管チューブ挿入術(NLDI)の術後経過を比較した.2001,000900n=2167006005004003002001000治療前治療後図7治療前後でのTMH平均値変化800TMH(μm)TMH平均値は治療前596±311μm,治療後最終観察時321±139μm.2.患者選択と研究方法先に図5でTMH分布を示した涙道疾患対象群のなかから,涙点・涙小管に異常のない鼻涙管閉塞症を選択し,術後6カ月以上観察できた124眼の経過記録を調べた(ただし早期再発症例は含めた).術式はXDCR24例,EDCR61例,NLDI39例であった.まず術後の通水か通色素検査の記録を調べ,涙道開存性について調べ1.00.80.60.4生存率0.20.0術後観察日数図8術式別の術後涙道開存率:XDCR24例,:EDCR61例,:NLDI39例.XDCR,EDCR,NLDIの3つの術式においてチューブを使用した症例数はそれぞれ3例,28例,39例で,平均留置期間はそれぞれ69日,36日,62日であった(p<0.0001,ANOVA).術後平均観察期間は,それぞれ349日,331日,306日で有意差はなかった.術後開存率には3群間で有意差があった(p<0.0001,log-ranktest).700600*0100200300400500600700800900500TMH(μm)400300ニスカスに及ぼす影響:第62回日本臨床眼科学会抄録集,p.215,2009)しており,今回の結果と異なる.結果の不一致は対象の違いによると考えられる.上田らの対象が涙管チューブ挿入術で対応できた軽症例に限定しているのに対し,今回の対象にはDCRとその類の手術で対応せざるをえなかった重症例が630例中251例含まれている.鼻涙管閉塞では,涙.内の貯留粘液が重症度に応じたさまざまな程度に涙小管に逆流してきている.重症例では,涙小管にも粘液による塞栓があると考えられ,したがって重症例を多数含むとTMH分布には涙小管閉塞と差がみられなくなると考えられる.3.治療前後でのTMH分布比較図7に,涙道治療後に6カ月以上観察して経過良好と判断した216眼の治療前後でのTMH比較を示した.TMH平均値は,術前に596μmであったものが術後最終観察時に321μmとなり有意に減少した(p<0.0001,pairedttest).先に図3で示した日本人高齢者のTMH平均値331μmとほぼ同等の値が得られた.涙道治療が奏効すると,TMHが正常化することが示された.*p=0.0110,ANOVA100IVTMH推移からみた鼻涙管閉塞症治療経過の検討1.目的鼻涙管閉塞症に対する3つの治療法,涙.鼻腔吻合術鼻外法(XDCR),涙.鼻腔吻合術鼻内法(EDCR),鼻926あたらしい眼科Vol.30,No.7,20130術前1W1M3M6M術後観察日数図9術後開存例における術式別TMH平均値の推移:XDCR17例,:EDCR41例,:NLDI13例.TMH平均値の3群間比較では術前から術3カ月後までは差がなかったが,術6カ月後では有意な差があった(p=0.0110,ANOVA).(44)た.つぎに,涙道の開存を確認できた症例について,術前と術後1回目再来時(5~7日目),術1カ月後,術3カ月後,術6カ月後のTMH記録すべてに欠損データのない71眼のTMH平均値推移を調べた.3.結果図8に術後の涙道開存性を示した.結果として,NLDI群で最も開存率が悪かった(p=0.0001,log-ranktest).しかし,図9に示した術後TMHの推移ではNLDIで最も早い改善がみられており,術後6カ月目の3群間比較ではNLDI群のTMHが240μmで有意に低かった(p=0.0110,ANOVA).これは日本人高齢者の生理的TMH平均値331μmより低い.4.結論と考察涙小管に異常のない鼻涙管閉塞症における治療法の比較では,NLDIの術後開存率は不良であった.しかし,開存している症例に限ってみればNLDI後のTMHは,XDCRやEDCRの後と比較して有意に低かった.説明理由には2つ考えられる.一つにはNLDIでは涙.が保存されるため,涙.ポンプ作用のため眼表面の涙液排出力が強い可能性がある.もう一つには,NLDI奏効例ではもともとドライアイの後に鼻涙管閉塞となった症例が多数あった可能性があり,したがって治療後にドライアイの傾向が再現されたのではないかと考えられる.ただし症例選択にはバイアスがある.筆者は,おもにmicrorefluxtest3)陽性の症例にDCRを,陰性の症例にNLDIを適用しているので,DCR群では涙.が拡張している症例が多くNLDI群では涙.の拡張がない症例が多い.おわりに涙液メニスカスに関するパラメータ解析はMainstoneによって始められた4).Mainstoneは涙液メニスカスの断面写真を撮って,その奥行(TMW)や面積(XSA),高さ(TMH),前方面の曲率(TMC)を計測してドライアイの診断に役立てようとした.その結果,ドライアイの診断指標としてTMCが最も優れることが示され,横井のメニスコメトリー5)へと道を開いた.メニスコメトリーは信頼性が高く,ドライアイのみならず流涙症状の解析においても優れる可能性がある.しかし検査機器が一般販売されていないので,特定の施設以外では検査の実施が困難である.一方,Mainstone以降は涙液メニスカスのパラメータ解析にOCTが導入されるようになり,普及型の眼科一般検査機器でTMHを計測できる方法へと道を開いた.筆者は,当初はXSAを指標としてメニスカス解析を試みたが,サンプル集団のXSA値の偏りが不自然で解析が複雑になることや,XSA値から直感的に涙液メニスカスの様子を想像できないことなど,日常の臨床では困難があった2).その点TMH値は,本編で示したようにデータ群が綺麗な対数正規分布に従うので取り扱いが容易なこと,細隙灯顕微鏡で観察できるメニスカスの様子を直感的に表現してわかりやすいことなどの利点がある.また何より,眼科スタッフなら誰でも検査ができ,視力検査のように医師は結果をみるだけでよいという大きな利便性がある.この方法の欠点としては,瞬目の影響や結膜の弛緩状態など測定誤差要因が多く,測定精度に関する検証も行われていないことがあげられる.しかしこの方法で,健常眼や涙道疾患を伴う眼のTMH分布の知見が得られた.また,涙道手術後のTMH経過からこれまで知られていなかった術式の特性も明らかにすることができた.結果の妥当性から,日常臨床での眼表面涙液量の解析には,この方法で十分と考えられる.今後はこの方法でさまざまな涙道治療効果の客観的評価が行われ,さらにはその結果から術式選択に際して参考となる新しい知見が得られることが期待される.流涙症には,眼表面涙液量が増加して涙が眼瞼縁を超えて零れ落ちる症状以外にも,さまざまな感覚異常が含まれている.涙液量は増加していなくても,涙液自体の質的な問題(眼脂による涙液の粘稠性)や,結膜.が涙液以外のものに占拠される不快感,あるいはマイボーム腺の異常に起因する眼瞼縁の不快な感覚なども含んでいるとみられる.したがって,TMH計測だけから流涙症を診断することはできない.あくまでも,眼表面涙液量が涙道の異常や治療介入で変化する様子を捉えるだけである.OCTで調べたTMHがドライアイ並みに低いからといって,流涙症を否定するようなことがないように配慮したい.(45)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013927文献1)ShenM,LiJ,WanJetal:Upperandlowertearmenisciinthediagnosisofdryeye.InvestOphthalmolVisSci50:2722-2726,20092)鈴木亨:光干渉断層計を用いた涙小管閉塞症術前後の涙液メニスカス断面積の測定.臨眼65:641-645,20113)CamaraJG,SantiagoMDD,AtebaraNH:Themicrorefluxtest:Anewtesttoevaluatenasolacrimalductobstruction.Ophthalmology106:2319-2321,19994)MainstonJC,BruceAS,GoldingTR:Tearmeniscusmeasurementinthediagnosisofdryeye.CurrEyeRes15:653-661,19965)YokoiN,BronAJ,TiffanyJMatal:Reflactivemeniscometry:anon-invasivemethodtomeasuretearmeniscuscurvature.BrJOphthalmol83:92-99,1999928あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(46)