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硝子体手術のワンポイントアドバイス 112.裂孔原性網膜剥離に対するMIVS後の再剥離(中級編)

2012年9月30日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載112112裂孔原性網膜.離に対するMIVS後の再.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●小切開硝子体手術の落とし穴本シリーズの「109裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術時のバックル併用の是非(初級編)」(Vol.29,No.6)にも関連することであるが,最近,裂孔原性網膜.離に対する小切開硝子体手術(MIVS)術後の再.離例をときどき経験するようになってきた.もちろん,従来の20ゲージ硝子体手術後の再.離にも共通する原因が多いのだが,MIVSの初心者が陥りやすい問題点を筆者なりに述べてみたい.●裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術後再.離の原因今までの筆者の経験から,再.離の原因としては以下の2つが大半を占める.1.薄い硝子体皮質の残存裂孔原性網膜.離では一見後部硝子体.離が生じているようにみえても,トリアムシノロンで可視化すると網膜全面に薄い硝子体皮質が残存していることがある.特に若年者の網膜.離ではこの傾向が強い.この膜状の残存硝子体皮質の術後の牽引により,既存の裂孔が再開し,再.離をきたすことがある.また,残存硝子体皮質の量が多いと,しばしば増殖硝子体網膜症に進行する.初回硝子体手術時に,ダイアモンドダストイレーサーなどで確実にこの膜状硝子体皮質を除去する必要があるが,MIVSに慣れていない術者ではしばしばこの処置が不十分となりがちである.2.周辺部残存硝子体牽引これは筆者自身,非常に気になっている点である.本シリーズ(109)の内容と重複するが,網膜格子状変性巣縁の弁状裂孔が原因で発症する胞状の網膜.離に対して硝子体手術を施行した場合,網膜格子状変性巣の後縁までは容易に硝子体を切除できるが,変性巣の周辺側の硝子体を十分に切除するのは結構むずかしい.MIVSが普及してから,黄斑上膜や黄斑円孔のような感覚で周辺(73)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1後極部の残存硝子体皮質の牽引により再.離をきたした症例トリアムシノロン塗布後に網膜全面に薄い硝子体皮質が残存しており,この牽引により周辺部の裂孔が再開していた.図2周辺部の残存硝子体網膜格子状変性巣よりも周辺部に多量の硝子体が残存しており,その牽引により裂孔の周辺側が再開していた.硝子体切除が不十分なまま気圧伸展網膜復位を行う術者が増加しているように思われる.ワイドビューイングシステムも上手く使いこなさないと周辺硝子体を結構残存させてしまっている.バックルを併用しなくても復位させうる網膜.離症例はかなり多いと思われるが,網膜格子状変性巣が広範囲に認められる症例では,十分な周辺硝子体切除を施行するか,バックルにより周辺残存硝子体による牽引を軽減しておく必要がある.●疾患ごとで理に適った硝子体手術を!今回述べたことは,別にMIVSに限ったことではなく,従来の20ゲージ硝子体手術でも生じうることである.逆にいうと,MIVSでも上記のような問題点を克服できる技量があればまったく問題はない.しかし,現実はMIVSがより身近なものとなり,多くの若い先生方がMIVSから硝子体手術を始める時代になっているため,上記の理解が不十分な術者が増加しているように思われる.硝子体手術の本質は機器の違いではなく,疾患によってどのような手術を行えば確実な手術成績が得られるかである.初回で理に適った確実な手術を行い,再手術にならないようにすることが,なにより重要であることを再度強調したい.文献1)池田恒彦:網膜硝子体疾患治療のDON’T─硝子体手術.眼臨紀2:820-823,2009あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121249

眼科医のための先端医療 141.Girdinの生理的および病的網膜血管新生における役割 -VEGFシグナリング下流の探索-

2012年9月30日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第141回◆眼科医のための先端医療山下英俊Girdinの生理的および病的網膜血管新生における役割―VEGFシグナリング下流の探索―米今敬一(名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学)血管新生におけるAktの役割セリン・スレオニンキナーゼAktはPKB(proteinkinaseB)ともよばれ,細胞の増殖および分化において重要な役割を担っています.血管内皮細胞もその例外ではなく,Aktによってその遊走および血管新生が制御されています.実際,Aktの主要アイソフォームであるAkt1のノックアウトマウスでは,血管内皮増殖因子(VEGF)の刺激あるいは虚血誘導による血管新生が阻害されることが報告されています1).しかしながら,このAktが血管内皮細胞の遊走および血管新生を制御する分子メカニズムは近年までまったくわかっていませんでした(図1).アクチン結合蛋白Girdinの同定2005年に名古屋大学の榎本らは,酵母ツーハイブリッド法を用いてAkt関連蛋白であるGirdin(girdersofactinfilament)を同定しました.この蛋白質は,別名Ccdc88a(coiled-coildomaincontaining88a)ともいい,分子量約250kDaの大きな分子で,図2に示すような一次構造を有しています.GirdinはN末端ドメインとそれに続く長いコイルドコイル領域によって二量体を形成し,C末端ドメインを介してアクチンに直接結合します.また,GirdinはAktによって1416番目のセリンがリン酸化されます.Vero細胞をEGF(上皮細胞増殖因子)で刺激すると,PI3K/Akt経由でGirdinがリン酸化されることで細胞運動が促進されることもわかりました2).さらに,2008年には同グループによって,GirdinがVEGFの下流に存在し,HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)をVEGFで刺激すると,細胞内でAktがGirdinをリン酸化することで血管内皮細胞が遊走し,血管新生が促進されることが明らかにされました3).さらに,こ(69)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1Aktシグナル伝達系と血管新生レセプター(growthfactorなど)PI3KAktその他基質細胞増殖,生存GSK-3b細胞極性?細胞遊走,血管新生12531375AktP(1416-Ser)1870NNTCoiled-coilCT1CT2CMembraneActinDimerizationbindingbinding図2Akt.relatedproteinGirdinの一次構造の蛋白質は神経系でも多く発現しており,海馬の神経細胞層形成に重要な役割を果たしていることが報告されています4).新生児期における網膜の生理的網膜血管新生とGirdin上記の報告のなかで,彼らはGirdinのノックアウトマウス(Girdin./.マウス)を作製しています.このGirdin./.マウスは,一見したところ野生型マウスと肉眼的な差異はありませんが,生後6日目くらいから発育が悪くなり,体重減少をきたして生後28日目までには死亡してしまうことがわかりました.また,彼らは生後3日目と7日目の発達段階におけるGirdin./.マウスでは,Girdin+/.マウスに比べて生理的網膜血管新生が障害されていることを発見しました3).そこで筆者らは,この結果がマウスの発達遅延に付随する合併症でないことを証明するために,生後5日,7日,10日のGirdin+/.マウスと野生型マウスの生理的網膜血管新生を比べることにしました.なぜなら,Girdin+/.マウスはGirdin./.マウスと違って生後に野生型マウスと同じように成長し,体重減少を示さなかったからです.このGirdin+/.マウスの網膜におけるGirdinの発現量は野生型マウスの約半分であることを,ウェスタンブロット法あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121245 で確認しました.その結果,すべてのタイムポイントで野生型に比べてGirdin+/.マウスの血管新生が遅延していることがわかりました.すなわち,Girdinの発現量が半分減るだけで,網膜血管新生が遅延することがわかったわけです.さらに筆者らは,Girdinのリン酸化部位である1416番目のセリンをアラニンに変換したマウス(GirdinSA/SAマウス)を同じ実験系を用いて調べたところ,こちらも野生型に比べて発達段階の網膜血管新生が遅延していることを見つけました.この結果,Girdinのリン酸化が血管新生に促進的に作用することがわかりました.網膜の病的血管新生とGirdinつぎに,筆者らはこのGirdinの発現とリン酸化が,糖尿病網膜症や未熟児網膜症などの虚血性網膜疾患における新生血管の伸展にどのような影響を及ぼすのかに興味を抱き,実験を進めることにしました.この実験では,一般によくマウスの実験で用いられているOIR(酸素誘発網膜症)モデルを使用しました.その結果,Girdin+/.マウスおよびGirdinSA/SAマウスのOIRモデルでは,野生型のそれに比べて,網膜の病的新生血管が少ないことを突き止めました.虚血性網膜疾患における新生血管に対しても,Girdinの発現とリン酸化は促進的に働いている可能性が示されたのです.さらに,加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管(CNV)の実験的モデルであるレーザー誘発CNVモデルを用いて上記と同じ遺伝子改変マウスのCNVを測定したところ,やはりGirdin+/.マウスおよびGirdinSA/SAマウスのCNVは野生型マウスのCNVに比べて有意に小さいことがわかりました.この結果,加齢黄斑変性のCNVに対してもGirdinの発現とリン酸化は促進的に働いている可能性が示されました.以上から,Girdinは網膜の主要な病的血管新生に深くかかわっている分子であることが推察されました.近年,ベバシズマブやラニビズマブを用いた抗VEGF療法が定着してきましたが,今後Girdinを含めたVEGFシグナリングの下流に存在する分子機能が明らかになるにつれ,それらをターゲットにした治療法の開発が進むかもしれません.以上の筆者らの実験は,名古屋大学医学部腫瘍病理学教室の高橋雅英教授との共同実験です.この実験結果を含んだ論文は,現在英文雑誌に投稿中ですが,この記事が出るころには発行されていると思いますので,皆さんご興味がございましたら読んでみてください.文献1)AckahE,YuJ,ZoellnerSetal:Akt1/proteinkinaseBaiscriticalforischemicandVEGF-mediatedangiogenesis.JClinInvest115:2119-2127,20052)EnomotoA,MurakamiH,AsaiNetal:Akt/PKBregulatesactinorganizationandcellmotilityviaGirdin/APE.DevCell9:389-402,20053)KitamuraT,AsaiN,EnomotoAetal:RegulationofVEGF-mediatedangiogenesisbytheAkt/PKBsubstrateGirdin.NatCellBiol10:329-337,20084)EnomotoA,AsaiN,NambaTetal:Rolesofdisruptedin-schizophrenia1-interactingproteingirdininpostnataldevelopmentofthedentategyrus.Neuron63:774-787,2009■「Girdinの生理的および病的網膜血管新生における役割」を読んで■―VEGFシグナリング下流の探索―今回は名古屋大学眼科の米今敬一先生による血管内として大変大きな進歩と考えます.そして,VEGF皮増殖因子(VEGF)の作用の分子メカニズムについは多様な作用をもっていますが,それを明らかにするての解説です.VEGFが眼内の血管新生についてのことで,疾患の治療の有効性(血管新生を抑制するこキー・モレキュールであることは周知の事実です.そと)と安全性(血管の生理的な作用を阻害しないこと)れは基礎実験と臨床的な実績(抗VEGF薬が加齢黄の両立を目指した治療法開発のスタートラインになる斑変性や未熟児網膜症,糖尿病黄斑浮腫に治療効果をかもしれないとても大切な発見であると考えます.もつこと)によって証明されてきました.今回はその米今先生の研究の方向性は,今後ほかの分子の作用分子メカニズムとして細胞内へ影響を及ぼす分子としについても大きな影響を与える素晴らしい研究と考えてGirdinが新しく解明されたことを紹介していただます.VEGFはそれ自体が多様であると同時にいろきました.今後,新しい治療薬を開発するターゲットいろなサイトカインと相互に作用を及ぼしあいます1246あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(70) (クロストーク).それにより抗VEGF薬により思わすることになると考えます.今回の研究がますます発ぬ副作用が出ることを予想したり対策を考える基礎と展し,眼科医療に大きな貢献をされることを期待してなるかもしれません.また,VEGFに限らず多くのおります.サイトカインが治療薬開発のターゲットとして研究を山形大学医学部眼科学山下英俊進める際の方法としてきわめて重要な研究戦略を提供☆☆☆(71)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121247

抗VEGF治療:未熟児網膜症と抗VEGF薬

2012年9月30日 日曜日

●連載④抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二2.未熟児網膜症と抗VEGF薬福島慶美直井信久宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野未熟児網膜症(ROP)に対する治療の第一選択は,光凝固であることはいうまでもないが,適切と思われる時期に光凝固を行っても予後不良な症例がある.2011年に米国から発表されたBEAT-ROPstudyの結果では,zoneI網膜症に対するbevacizumabの有効性が示された.本稿ではROPに対する抗VEGF薬による治療効果について概説する.未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)の発症には,網膜無血管領域からの血管内皮増殖因子(VEGF)を始めとする血管増殖因子が強く関与していると考えられており,近年,抗VEGF薬の硝子体内投与による治療が試みられている.抗VEGF薬治療として最もよく行われているのは,bevacizumabを1眼あたり0.625mg,上方の角膜輪部より0.75.1.5mm程度離れた位置より水晶体を避けて硝子体内に注入する方法である.抗VEGF薬の使用法は治療目的によりSalvagetherapy,Combinationtherapy,Monotherapyの3つに大別され,Salvagetherapyでは光凝固後に黄斑部を含む部分網膜.離や全網膜.離に進行した例に対し追加治療として,Combinationtherapyではそれより前の段階で光凝固と同時か後に投与される.Monotherapyは光凝固の代替治療として光凝固を行わずに本治療を行うもの投与前である.筆者らの施設ではETROPstudy1)の治療基準をもとに2009年11月から全身麻酔下でMonotherapyを行っている.2012年7月までに67眼に治療を行い,全例でROPの鎮静化が得られている.治療後に共通する眼底所見としては,光凝固後にみられるような炎症反応が起こらないため治療翌日から眼底が明瞭に観察でき,かつ網膜血管の拡張・蛇行といったplusdiseaseの所見が著明に改善する(図1).StageIIIでみられる血管外増殖組織は数日のうちに消失していき,治療3,4週後より網膜血管が周辺へと伸展していく様子(図2)が観察されるが,その後数カ月たつとまだ無血管網膜を残す症例でも血管の伸展はみられなくなる.合併症としては,治療前の血管最先端部付近やその後伸展した部分の網膜血管が横走して,治療2カ月後頃より静脈蛇行が出現し,その後半年ほど蛇行が増強すると投与翌日図1Plusdisease所見の改善Bevacizumab投与翌日には静脈拡張(黒矢印)・動脈蛇行(白矢印)の明らかな改善傾向を認める.(67)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212430910-1810/12/\100/頁/JCOPY 投与前投与25日目図2網膜血管の伸展黒矢印は同部位を示す.投与25日後には白矢印分の血管の伸展を認める.いった血管の走行異常を認めている.治療前の血管外増殖組織が輪状にうっすらと残ったり,伸展した網膜血管の先端付近に治療から1年以上経過して網膜滲出物を認める例が数例ある.いずれの症例もROPのくすぶり所見と思われるが,蛍光眼底造影検査で血管外漏出など高い活動性を認めた症例はなく,今までのところROPの再治療例は経験していない.一方,BEAT-ROPstudy2)などでは一旦鎮静化したROPがしばらくした後に再燃し,網膜.離に至った症例も報告されており,治療後も密な経過観察が必要である.元来VEGFには神経保護効果があることや,硝子体内に投与したbevacizumabが血行性に全身へ移行する3)ことも知られており,成長段階にある児への影響が懸念される.今後症例を重ねて視機能や全身への影響,投与量について検討する必要がある.なお,ROPに対する抗VEGF薬治療は適用外使用となるため,各施設の倫理委員会の承認と保護者への文章によるインフォームド・コンセントの取得が必須である.文献1)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCooperativeGroup.Revisedindicationsforthetreatmentofretinopathyofprematurity:resultsoftheearlytreatmentforretinopathyofprematurityrandomizedtrial.ArchOphthalmol121:1684-1694,20032)Mintz-HittnerHA,KennedyKA,ChuangAZ;BEATROPCooperativeGroup:Efficacyofintraviteralbevacizumabforstage3+retinopathyofprematurity.NEnglJMed364:603-615,20113)SatoT,WadaK,ArahoriHetal:Serumconcentrationsofbevacizumab(avastin)andvascularendothelialgrowthfactorininfantswithretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol153:327-333,2012☆☆☆1244あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(68)

緑内障:Humphrey視野検査C10-2の有用性

2012年9月30日 日曜日

●連載147緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也147.Humphrey視野検査C10.2の内藤知子岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学有用性緑内障性視野障害の重症度評価には一般的にHumphrey視野計の中心30°(C30-2)が用いられるが,中心視野障害の詳細な評価には測定ポイントがより密に配置されている中心10°(C10-2)を用いることが望ましい.●グレースケールの成り立ちC30-2の実測値とそれに対応したグレースケールを示す(図1).測定ポイントごとにマス目をかぶせてみると,一つの実測値にそのままグレースケールのマス目が対応しているわけではない.ある部分のグレースケール部分を拡大してみると,1マスと思われる中には実は9マス存在している.実際,この部位の実測値は0dBであるが,それに対応しているのは,この中央の1箇所だけであり,他は推測値で埋めて作成されている.C30-2のグレースケールはイメージの把握にとどめることが大切である.●実際の中心10°に相当する視野日常生活において,上下10°以内の視野とはどのくらいの範囲であろうか.たとえば,喫茶店で誰かと向き合っていると仮定する(図2).その際,相手との距離が85cmとした場合,中心10°の範囲に相当するのは30cm,ちょうど相手の顔がすっぽり入るくらいの部分に相当する.10°以内,すなわち中心視野領域はQOV(qualityofvision)にかかわる非常に大切な領域であることが理解できる.●C10.2はどのような場合に有用か①中心視野障害の疑われる症例②後期緑内障症例①正常眼圧緑内障症例(図3)視神経乳頭には4時にnotchと,黄斑線維束に近い部10°10°85cm図2中心10°以内の視野15cmtan10°(=0.17633)≒15cm/85cm15cmシンボル表示dB>40>35>30>25>20>15>10>5>0.0C30-2C10-2図1グレースケール実測値以外は推測値で埋めて作成されている.図349歳,女性:正常眼圧緑内障眼圧11mmHg,点眼1剤で加療中.(65)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212410910-1810/12/\100/頁/JCOPY C10-22008.6.22.2009.1.22.2009.7.16.2009.2.25.C30-2C10-22008.6.22.2009.1.22.2009.7.16.2009.2.25.C30-2分まで明瞭な網膜神経線維層欠損(NFLD)がみられる.この症例をC30-2で測定した際には,中心10°以内に暗点は認めないが,C10-2では暗点が検出された.C30-2の測定点は6°間隔で76点,一方C10-2の測定点は2°間隔で68点,両者がかぶっているのはC30-2の中心4点のみである.C30-2で測定したポイントには,たまたま暗点がなかったため,その間に存在していた暗点は測られないまま,正常に白く塗り込められてしまっているのである.乳頭耳側にNFLDのある症例や中心視野障害を生じやすい近視眼1)などでは,C30-2で暗点が検出されなくても,C10-2で確認する意識をもつことが大切である.②原発開放隅角緑内障症例(図4)治療経過中,C30-2で中心4点のうちの鼻下側のグレースケールが濃くなった.グレースケールだけで判断すると進行?と疑いたくなるが,C10-2を検査すると,悪化が疑わしかった部分には感度が残っていることがわ図453歳,女性:原発開放隅角緑内障眼圧13mmHg,点眼3剤で加療中.かる.この症例,この後にもう一度C30-2を検査すると,中心鼻下側部分はグレースケールでは白くなり,感度も戻っていた.後期緑内障症例はC10-2でもfollowすることが必要である.おわりにC30-2では,中心視野障害を見逃したり,後期緑内障においては評価が困難であったりする.C10-2は固視点近傍に及ぶ視野障害の程度を正確に把握することができるので,症例に応じて積極的にC10-2を取り入れることが望ましいと考える.文献1)AraieM,AraiM,KosekiNetal:Influenceofmyopicrefractiononvisualfielddefectsinnormaltensionandprimaryopenangleglaucoma.JpnJOphthalmol39:60-64,1995☆☆☆1242あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(66)

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーによるフラップ作製の術中合併症

2012年9月30日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載148大橋裕一坪田一男148.フェムトセカンドレーザーによる北澤世志博神戸神奈川アイクリニックフラップ作製の術中合併症フェムトセカンドレーザーによるLASIK(laserinsitukeratomileusis)のフラップ作製はきわめて安全であるが,サクションリングを吸着させアプラネーションレンズで角膜を圧平しながらレーザーを照射するという方式のため,サクションが外れたり,レーザーにまつわる術中合併症がときとして起こる.しかし,いずれの合併症もマイクロケラトームでの術中合併症に比べると軽微であり,術後視機能に影響することはない.LASIK(laserinsitukeratomileusis)のフラップ作製は,その正確性と安全性からマイクロケラトームからフェムトセカンドレーザー(FSレーザー)に移行してきた.実際FSレーザーになってマイクロケラトームでときとして術中に起きていたフリーフラップや,ボタンホールのような手術を中止しないといけない重篤な合併症はなくなったが,FSレーザー特有の術中合併症がある.また,近年FSレーザーもさまざまなメーカーから出ており合併症の頻度も機種ごとに若干異なるが,一般的には下記の合併症が起こる.1.サクションブレイク(図1a,b)瞼裂が狭かったり結膜がゆるく吸引が不完全である場合や,レーザー照射中に閉瞼しようとするなど強い眼球運動が起こるとサクションが外れることがある.レーザーがラスター(フラップ面作製)中ならば再度最初からレーザーを施行し,ラスター終了後のサイドカット(フラップのエッジ作製)中ならばサイドカットのレーザー照射のみを行えばよい.その際,同一のアプラネーションレンズを使用すれば初回とほぼ同じ深さにレーザーがあたるが,まれに段差になることもある.ただし,そのような場合もごくわずかの段差であり視力には影響しない.2.OBL(opaquebubblelayer)(図2)レーザーの設定状況(スポットの大きさと間隔やエネルギー)によって起こるほか,アプラネーションレンズによる圧平が強い場合,フラップ作製中のガスが上手く抜けないときに起こる.強いOBLができた場合には,フラップリフト時に抵抗があったり,エキシマレーザー鈍的なもので擦るとOBLは薄くなる.またはフラップ照射時にアイトラッキングやIR(irisregistration:虹を開けずに10分程度待てばOBLの白濁は自然に消失彩紋理認証機能)がかかりにくいことがある.その場合し角膜は透明となるので,アイトラッキングやIRも通は,フラップ翻転後にベッドをフラップリフターなどの常に作動する.(63)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212390910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1aサクションブレイクの瞬間サクションが外れたところ.直ちにレーザーを中止する.図1bサクションブレイク後の再レーザー再度レーザーをし直すと問題なくフラップができる. 図2OBL(opaquebubblelayer)強いOBLが生じている.フラップリフトに抵抗がありアイトラッキングがかかりにくい可能性がある.図3前房内ガス迷入前房内に迷入したガスがみられる.この程度の大きさのガスならば照明を少し暗くする程度でアイトラッキングは問題なく入る.3.前房内へのガス迷入(図3)明らかな原因と前房への迷入経路は依然として不明であるが,角膜径が小さい場合やフラップが角膜輪部寄りにずれた場合に生じやすい.迷入したガスバブルが多いとエキシマレーザー照射時にアイトラッキングやIRがかかりにくいことがある.その場合はレーザー照射時に照明を暗くして散瞳させるとアイトラッキングをかけることができる.または直ぐにフラップを翻転せずに20~30分待つとバブルが小さくなるので,アイトラッキングやIRも通常に作動する.4.VGB(verticalgassbreakthrough)とcoldspot(図4)作製したフラップが薄く,角膜に混濁がある場合やエ1240あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012図4VGB(verticalgassbreakthrough)によるcoldspotヒンジ近くに比較的大きいcoldspotが生じている.直ちにレーザーを中止して角膜厚に余裕があれば30μmほど深いところにフラップを作り直せばよい.ネルギーが強すぎる場合に起きる.FSレーザーで生じたガスがフラップの薄い部分から角膜上皮を突き抜けて上に出てくる状態をVGBといい,このガスが広がりラスターのレーザーが当たらない部分(切開ができていない部分)をcoldspotという.VGBでは薄いフラップを開けるときに注意しないと亀裂ができる可能性があり,またcoldspot部分はレーザーが当たっていないので,そのサイズが大きい場合や瞳孔領にかかる場合は手術の中止が必要になってしまう.そこでcoldspot発生時には直ちにレーザーを中止して30μmほど深い位置に再度フラップを作製すれば手術を中止しなくて済む.5.角膜上皮スリップと上皮.離40歳以降の年齢が高い症例やコンタクトレンズ未経験者に多く,フラップ作製時の乾燥や過度の圧平が原因となる.このような症例では,フラップ翻転にストレスをかけないようにそっとフラップを開ける必要があるが,万一角膜上皮のスリップや.離が起きた場合もコンタクトレンズを装用すればよい.参考文献1)北澤世志博:IntraLASIK─LASIKの新しい手技─.眼科手術19:332-334,20062)北澤世志博:フェムトセカンドレーザー.IOL&RS21:426-429,20073)中村友昭:LASIK導入の注意点.IOL&RS25:27-31,20114)福岡佐知子:フェムトセカンドレーザーフラップの特徴.あたらしい眼科28:509-510,2011(64)

眼内レンズ:水晶体嚢真性落屑のOCT所見

2012年9月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎313.水晶体.真性落屑のOCT所見湧田真紀子宇部興産株式会社中央病院眼科水晶体.真性落屑は,水晶体.から前房内に立ち上がる膜状組織である.組織像では水晶体.の層間分離がみられ,これまでは術中に採取された前.の病理組織による検討がなされてきた.今回は,前眼部光干渉断層計を用いることで生体内における真性落屑の形態が詳細に観察でき,さらに病理所見と比較検討した.●疾患概説水晶体.真性落屑は,細隙灯顕微鏡で水晶体.から前房側に立ち上がる薄いセロファン様の膜状組織として認められる.組織像では水晶体.の層間分離がみられ,1922年にElschnigが前.に.離を認める症例として報告し1),1932年にVogtが前.表層の.離であることを明らかにした2)..の分離する程度や部位には個人差があり,瞳孔領に明らかな膜状物がみられる場合もあれば,散瞳下にて部分的に膜の立ち上がりを認める場合もあり,注意深く観察しなければ判別が困難であったり,白内障術中に初めて判明することも多い.当初は長期にわたる赤外線や熱線への曝露が発症原因とされ,疫学的にガラス工などの作業者にみられる比較的まれな疾患とされてきたが,近年では明らかな曝露歴のない特発性の症例も報告されており,発症機転はいまだ不明である.鑑別すべき疾患として偽落屑があるが,1954年にTheobaldが両者は病態の異なる別の疾患であると提唱しており3),真性落屑は緑内障の発症には関与しない.真性落屑では視力低下は生じないとされるが,.の分離が水晶体赤道部まで及んでいる症例ではZinn小帯の脆弱化が起こり,白内障術中のZinn小帯断裂や術後の眼内レンズ偏位を生じるとの報告がある4).白内障手術に際してその他に注意すべき点としては,連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorhexis:CCC)の際,分離した前.の各層がずれて切開されるために切開縁が二重円を呈する,doubleringsignとよばれる所見がある.このため真の切開線を見誤り,CCCが完成していないのにhydrodissectionや核処理を行ってしまい,Zinn小帯断裂や.破損をきたすことがある.真性落屑における組織構造の検討には,これまで術中に採取された前.組織の病理組織が用いられてきた.しかし今日では,前眼部光干渉断層計(opticalcoherence(61)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYtomography:OCT)を用いることで生体内での形態を観察することが可能となった.●症例両眼白内障手術目的で紹介された右真性落屑の81歳男性.眼外傷や眼内炎症,熱線曝露の既往はない.術前,細隙灯顕微鏡にて右眼の水晶体前.から前房側へ挙上する高さ約0.5mm,直径約5mmの円形・透明なフリル状の膜状組織が全周性に観察された(図1).術前に前眼部OCTを用いて生体内での形態評価を行ったのち,術中に採取した前.の病理組織との比較検討を行った.白内障手術は合併症なく施行可能であった.●水晶体.真性落屑の前眼部OCT像前眼部OCT(CirrusOCT,カールツァイス社)を用いて右眼水晶体前.の断層像を観察した結果を図2に示す.水晶体前.が表層4分の1で分離し,水晶体の周辺側から中央側に向けて前房内に.離・挙上して,膜状組織を形成していた.前.の厚さは分離部の中央側よりも周辺側のほうが菲薄化していた.虹彩に近い部位には表層が不連続な部位(図2中矢印)がみられ,表層が.離した辺縁であると考えられた.また,前.内のより深層には連続した低輝度の層(図2中矢頭)が認められ,分図1水晶体.真性落屑の前眼部写真水晶体前.から前房側へ挙上する高さ約0.5mm,直径約5mmの円形・透明なフリル状の膜状組織が全周性に観察された.あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121237 離部から周辺側にはこの層の付近に高輝度の点状構造物が散在してみられた.●水晶体.真性落屑の組織構造採取した前.組織のヘマトキシリン・エオジン染色像を図3に示す.水晶体前.に層間分離に連続した染色性の低い硝子膜様組織がみられ,挙上していた膜状組織と考えられた.一方,前.の内部は均質・無構造で,前眼部OCTでみられた低輝度層や点状構造物に合致する所見は確認できなかった.水晶体.真性落屑の組織学的特徴は.の層間分離である.病理組織を検討した過去の報告では.離部位の深さ20μm図3水晶体.真性落屑のヘマトキシリン・エオジン染色所見水晶体前.には層間分離に連続した染色性の低い硝子膜様組織がみられ,挙上していた膜状組織と考えられた.前.の内部は均質・無構造であった.図2水晶体.真性落屑の前眼部OCT所見水晶体前.が表層で分離し,膜状組織を形成.周辺側の前.は菲薄化し,表層に断裂部(矢印)がみられた.深層の低輝度層(矢頭)の周辺側には高輝度の点状構造物が散在.画面上:前房,下:水晶体,左:水晶体中央,右:鼻側.は症例によって異なり,数層の分離が同時に認められるとの報告や,分離した真性落屑組織に線維芽細胞様細胞がみられたという報告もあり5),前眼部OCTで前.の深層にみられた低輝度層や高輝度構造物がこれらの組織変化を示唆しているのかもしれない.また,病理組織を用いた検討では標本の作製時にアーチファクトを生じる可能性があるが,今回は前眼部OCTを用いることで生体内での組織形態を詳細に観察することができた.前眼部OCTで捉えられた形態の変化は病理組織像と類似していたが,前眼部OCTのみで確認された所見もあり,今後の病態解明の一助になると考えられる.文献1)ElschnigA:AblosungderZonulalamellebeiGlasblasern.KlinMonatsblAugenheilkd69:732-734,19222)VogtA:WeiterehistologischeBefundebeisenilerVlrderkapselabscilferung.KlinMonatsblAugenheilkd89:581-586,19323)TheobaldGD:Pseud-exfoliationofthelenscapsule.Relationto“true”exfoliationofthelenscapsuleasreportedintheliteratureandroleintheproductionofglaucomacapsulocuticulare.AmJOphthalmol37:1-12,19544)YamamotoY,NakakukiT,NishinoKetal:Histologicalandclinicalstudyofeyeswithtrueexfoliationandadouble-ringsignontheanteriorlenscapsule.CanJOphthalmol44:657-662,20095)朝蔭博司,伊地知洋,石綿丈嗣ほか:特発性水晶体.真性落屑の2例─病理組織学的検討─.日眼会誌98:664671,1994

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 ハードコンタクトレンズのデザインについて考える(2)

2012年9月30日 日曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】339.ハードコンタクトレンズのデザインについて考える(2)ハードコンタクトレンズ(HCL)の外面の光学領にはレンズの度数によって決まった曲率半径のカーブを有しているが,その周辺部にはレンズ固有のデザインが設計されている(図1).そこで,レンズ外面の周辺部形状,特にフロントベベルの厚さ(図2)が,上眼瞼との関係でHCLのフィッティングにどのような影響を及ぼすかについて述べる.比較的大きなサイズのHCLでは,フロントベベルのエッジリフトエッジベベルPCICPCブレンドICブレンドベースカーブフロントカーブフロントベベルIC:intermediatecurvePC:peripheralcurve植田喜一ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学厚いレンズのほうが上眼瞼による保持を強く受け,瞬目後もレンズは過度に下がることなく角膜中央付近に静止するが,比較的小さなサイズのHCLでは,フロントベベルの厚みが増すと瞬目でレンズはいったん下方に押し下げられた後に,上眼瞼によって上方に引き上げられる動きになると考えられる.一方,フロントベベルの薄いHCLは,上眼瞼の下にスムーズに滑り込んだ後に上方に引き上げられる(図3).特に,上眼瞼の張り出している症例や下三白眼の症例,眼瞼圧の強い症例では,フロントベベルの影響はより顕著であると予想される.したがって,眼瞼の形状,眼瞼圧,瞬目の状態により,フロ薄い標準厚い図1HCLの周辺部デザイン図2フロントベベルの厚さ図3外面周辺カーブとレンズサイズA:厚い外面周辺カーブa:大きなレンズサイズではレンズは上眼瞼による保持を強く受け,瞬目後もレンズが角膜中央に静止する.b:小さなレンズサイズではレンズは上眼瞼によって押し下げられてそのまま角膜下方に安定することが多い.B:薄い外面周辺カーブa:大きなレンズサイズではレンズは上眼瞼による保持を受けるが,周辺部が厚いレンズほどではないため,時間の経過とともにレンズが下がることがある.b:小さなレンズサイズではレンズは上眼瞼の下にすべり込む.周辺部が薄い小さなレンズでは重心が後方に位置するため,角膜中央に安定しやすい.ABabab(59)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212350910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4HCLの周辺部に施したMZ加工ントベベルの厚みを考慮したフィッティングが重要になる.HCLの下方固着,下方安定の症例に対する手段として,フロントベベルに溝を作る修正(MZ加工)を行うことがある(図4)が,ときにレンズが破損しやすい,溝に汚れが付着しやすい,異物感を生じるということがある.●HCLのデザインがくもりに及ぼす影響レンズ内面のベベル幅とエッジリフトはHCLのくもりにも影響を及ぼす.具体的な例を以下に記す.エッジリフトが高いと涙液層が破綻しやすくなる.ベベル幅が広いとエッジ下に涙液がプールしやすくなる.このため,鏡に息を吹きかけたときに生じるドライなくもりが,HCLの表面に生じる(図5).エッジリフトの高さとベベル幅の修正をするとドライなくもりは改善する.エッジリフトが低く,ベベル幅が狭いHCLは,角膜中央の曲率とHCLのBCとの関係がパラレルであっても,タイトフィッティングになりやすい.また,エッジやベベルが角膜の周辺部を刺激するため,結膜からの分泌物が増えて,HCL表面にウェットなくもりが生じやすくなる(図6).エッジリフトの高さとベベル幅の修正をするとウェットなくもりは改善する.一方,レンズ外面は眼瞼結膜に接するが,厚いフロントベベルのHCLでは結膜に対して刺激を与えて,結膜からの分泌物が増し,HCL表面にオイリーなくもりが生じやすくなる.こうした場合には,フロントベベルを薄くカットするとウェットなくもりは改善する.図5高いエッジリフト,広いベベル幅のHCLの装用によるドライなくもり図6低いエッジリフト,狭いベベル幅のHCLの装用によるウェットなくもり1236あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(60)

写真:Descemet膜前角膜ジストロフィ

2012年9月30日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦340.Descemet膜前角膜ジストロフィ近間泰一郎広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)実質深層に限局する高輝度の点状混濁図2図1のシェーマ図145歳,男性の左眼角膜視力は矯正1.0と良好.スリット光を用いた観察で,角膜実質深層1/3~1/4に微細な輝度の高い陰影が散在していた.強膜散乱法を用いた観察(右下挿入図)では,さまざまな形をした微細な灰白色の混濁がより明瞭に観察された.図3前眼部OCT(SS-1000CASIAR,TOMEY)による角膜断層像の観察(図1と同一症例)角膜実質深層にほぼ均一に高輝度な領域が観察された.図4生体レーザー共焦点顕微鏡(HRTIIIR-RCM,HeidelbergEngineering,Germany)による観察(図1と同一症例)角膜実質深層に細胞質内に高輝度の微細な顆粒をもつ異常な角膜実質細胞がみられた.顆粒状物質は細胞質内に限局してみられた(深さ:角膜表面から485μm).これらの変化は実質浅層・中層の実質細胞にはみられなかった(1辺:400μm).(57)あたらしい眼科Vol.29,No.9,201212330910-1810/12/\100/頁/JCOPY Descemet膜前角膜ジストロフィは,Descemet膜直上の角膜実質深層に微細な点状や線状の混濁がみられる疾患である1,2).病変は両眼性で左右差はほとんどなく,30歳代以降に生じることが多い.混濁は細隙灯顕微鏡の反帰光線で明瞭に観察できるが,その局在は細隙灯顕微鏡では困難で,滴状角膜などの内皮の異常と診断されることがあるが,Descemet膜や角膜内皮は正常である.本疾患では,通常視力低下はなく自覚症状も乏しいため積極的な治療は不要である.角膜実質深層に点状混濁を有する疾患群として,粉状角膜(corneafarinata),Fleck角膜ジストロフィ(Fleckdystrophy),多形性アミロイド変性(polymorphicamyloiddegeneration:PMD)などがあり,鑑別を要する.粉状角膜は,細隙灯顕微鏡検査では多数の微細な粉末状の混濁がDescemet膜直上の実質深層にみられる.加齢性の変化で遺伝性はないとされている.病変は両眼性で左右差はほとんどない.Descemet膜前角膜ジストロフィと非常に類似した所見を呈するが,Descemet膜前角膜ジストロフィの混濁のほうがやや大きく不均一であり,より多様な形状の混濁が観察されるといわれている3).生体共焦点顕微鏡による観察では,Descemet膜前角膜ジストロフィでみられる所見と酷似している4).Fleck角膜ジストロフィは,常染色体優性遺伝形式をとるまれな疾患で,出生時から存在する角膜全層にわたる孤立性で多発性の混濁がみられる.病変はほとんど進行することはなく,両眼性で,ときに左右差があることがある2).視力障害を含め自覚症状を伴う症例はほとんどないが,ときに羞明を訴えることがある.多形性アミロイド変性は50歳代以降の症例にみられることが多く,角膜中央部の実質内にアミロイドの沈着として点状や線状の角膜全層にわたる混濁がみられる.遺伝性はなく他の疾患との関連もない5~7).Descemet膜前角膜ジストロフィの症例における病理組織学的検討では,角膜実質深層にPAS(periodicacid-Schiff)染色陽性の顆粒を含む空胞をもち,細胞質が拡大した異常角膜実質細胞が認められた.この顆粒は色素が変性したリポフスチンであり,細胞内に存在することが報告されている8).レーザー生体共焦点顕微鏡を用いた観察では,顆粒状物質は実質細胞内のみに存在しているように観察され,前述の病理組織所見と矛盾しない所見であった.文献1)ArffaRC:Dystrophiesoftheepithelium,Bowman’slayer,andstroma.In:ArffaRC(ed):Grayson’sDiseaseoftheCornea.4thed,p413-463,Mosby,StLouis,19972)deSousaLB,MannisMJ:Thestromaldystrophies.In:CrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ(eds):Cornea.2nded,p907-927,Mosby,StLouis,20053)GraysonM,WilbrandtH:Pre-descemetdystrophy.AmJOphthalmol64:276-282,19674)KobayashiA,OhkuboS,TagawaSetal:Invivoconfocalmicroscopyinthepatientswithcorneafarinata.Cornea22:578-581,20035)ChangRI,ChingSST:Cornealandconjunctivaldegenerations.In:CrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ(eds):Cornea.2nded,p987-1004,Mosby,StLouis,20056)MannisMJ,KrachmerJH,RodriguesMMetal:Polymorphicamyloiddegenerationofthecornea.Aclinicalandhistopathologicstudy.ArchOphthalmol99:1217-1223,19817)NirankariVS,RodriguesMM,RajagopalanSetal:Polymorphicamyloiddegeneration.ArchOphthalmol107:598,19898)CurranRE,KenyonKR,GreenWR:Pre-Descemet’membranecornealdystrophy.AmJOphthalmol77:711(s)716,19741234あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(00)

抗VEGF療法の合併症

2012年9月30日 日曜日

特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1229.1232,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1229.1232,2012抗VEGF療法の合併症ComplicationsAssociatedwithIntravitrealAnti-VEGFTherapy山本亜希子*はじめに4540硝子体内注射は血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬であるペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR)が認可されたとともに飛躍的に増加している.そこで注意しなければならないのは合併症である.合併症には手技に伴うものと薬剤による影響がある.まずは手技的な問題であるが,結膜下出血,角膜障害,水晶体損傷,網膜裂孔,網膜.離,眼内炎などがあげられる.I網膜裂孔網膜裂孔についてはジェット流により裂孔形成が起こりやすくなるとの報告があり,薬剤注入の際には比較的ゆっくりと注入することが望ましいとされている.また,同じ部位での投与を避け,注射時の結膜移動による硝子体脱出の予防が推奨されている1).硝子体嵌頓が起こると注射部位の対側の網膜に牽引がかかる可能性があり,投与後の経過観察の際には注意深く観察する必要がある.もし硝子体脱出が起きた場合にはスプリングハンドル剪刀にて切除するのも一つの方法である.II一過性眼圧上昇すべての薬剤に言えることだが,薬剤を投与することで一過性の眼圧上昇をひき起こすことがある.0.05mlの硝子体内投与は1.25%の硝子体容積に相当し,一過眼圧(mmHg)35302520151050図1硝子体内投与後の眼圧変動対象は新生血管黄斑症を有する33例33眼であった.ベバシズマブ0.05ml注入後の投与眼の眼圧を注射前,注射直後,注射30分後に非接触式眼圧計にて測定した.平均眼圧の推移は,注射前が13.44±2.99mmHg,注射直後は28.17±10.27mmHg,注射30分後は16.94±4.45mmHgであった.30分後の眼圧は全例30mmHg以下になっていた.性眼圧上昇は硝子体容積の増大が原因である.筆者らの検討では33眼のベバシズマブ(アバスチンR)投与後は眼圧を測定し,投与直後は上昇するものの30分後には全例で30mmHg以下にまで低下していた(図1).しかし,一部の症例では眼圧が急激に上昇し,場合によっては網膜動脈閉塞を起こす可能性も考えられるため,特に緑内障患者など眼圧上昇傾向がみられる場合には注意を要する.過去の報告ではアバスチンR投与3日後に急性の眼圧上昇をきたした報告もあり2),投与直後でなくとも注意は必要である.注射前注射直後注射30分後*AkikoYamamoto:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山本亜希子:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(53)1229 III眼内炎最も重大な問題は眼内炎である.2011年にBascomPalmer眼研究所と関連施設で行ったVEGF阻害薬を用いた60,322硝子体内注射をまとめた報告では眼内炎の頻度は0.02%でアバスチンR0.018%,ルセンティスR0.027%と有意差はなく3),多施設より報告されたアバスチンR12,585例とルセンティスR14,320例においてもそれぞれ0.02%と差はみられていない4).CATTStudyにおいてもアバスチンR0.04%,ルセンティスR0.07%と有意差はみられなかった5).白内障手術後の眼内炎は約0.05%とされており頻度は近似しているが,硝子体内注射では1人の患者に対し複数回の投与が必要となるためより注意が必要となる.眼内炎対策についてわが国と異なる点は米国では滅菌手袋が58%,滅菌ドレープが12%でしか使用されていない点である1).ルセンティスRについては硝子体内注射ガイドラインが作成されており,滅菌手袋,ドレープ使用が推奨されている.ドレープについては睫毛がしっかりドレープし,薬剤を注入する際,針先に睫毛が当たらないように注意することが大切である.術前術後点眼についても記載があり,筆者らの施設でも投与前後3日間抗生物質点眼を使用しているが,術前点眼の必要性については考え方がまだ定まってはいない.術前の抗菌点眼薬投与が結膜.の菌を減らしたとする報告があるが,耐性菌による白内障術後眼内炎の報告もあり6),術後眼内炎の発生率を下げるという明確なevidenceはない.術前抗菌薬投与というのは眼科特有の事項であり点眼の容易さによるところも大きいと思われるが,少なくともマクジェンRとルセンティスRでは取り扱い文書に術前3日前からの抗菌薬点眼が記載されており,特別な事情がない限り抗菌薬点眼の術前からの使用が望ましいと考える.一方で近年硝子体注射に伴う抗生物質の使用に関する耐性菌の報告も増えてきており,治療が長期に及んだ場合の耐性菌への配慮も今後必要となってくるであろう7,8).注射後眼内炎の危険因子に関する研究が進んでお1230あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012り9),有意差がないのは開瞼器の有無,注射時の結膜の移動,注射部位(上方・下方結膜),ルセンティスR・アバスチンRなどの薬剤の違い,術後抗生物質点眼の有無と報告している.一方,有意差があったのは,①ポビドンヨードの有無,②マスクの有無,③マスク非使用時の会話の有無であり,口腔内細菌が硝子体内注射後の眼内炎に関与する可能性を示唆している.処置中に患者が話すこともリスクになると考えられ,患者本人はマスクを装着していなくともドレープを使用することで患者自身による汚染を予防できると考える.硝子体内注射後眼内炎52眼(105,536注射中)のmetaanalysisでは,細菌培養陽性52%,陰性48%としており,レンサ球菌属の比率が通常の内眼手術より高いとされている10).この結果からも口腔常在菌が影響していると考えられ,注射を行う際にはマスクをし,会話をできる限り避けることが望ましい.眼内炎の診断のポイントは自覚症状,他覚的所見の悪化である.一般的には眼痛,羞明,視力低下を訴えることが多いが,実際には眼痛を伴わない症例もあり糖尿病を併発している場合などは特に注意が必要である.米国のEndophthalmitisVitrectomyStudy(EVS)でも25%の症例では眼痛を伴っていない.他覚的所見としては毛様充血,前房内の細胞,フレアの出現,進行例では前房蓄膿,フィブリン析出,虹彩癒着,角膜浮腫,硝子体混濁が出現する.眼内炎のリスクがあることを患者に理解してもらい,変化があった場合にはできるだけ早く診察を受けるよう指示をしておくことも重要である.米国の硝子体内注射ガイドラインでは注射部位にポビドンヨード点眼をしてから注射することを推奨している.結膜常在細菌はひだ構造に潜んでいるため十分な消毒が必要となる.ポビドンヨードの安全で殺菌効果の高い濃度は0.05.0.5%である.この濃度であれば網膜への障害のリスクもないとされている.洗浄量に関して5%ポビドンヨードの2滴点眼よりも10ml洗浄のほうが殺菌効果が高いとされており,殺菌に要する時間は0.1.1.0%で15秒間に対して2.5.10%ポビドンヨードでは30.120秒間と長くかかる.欧米で使用されている5%ポビドンヨード点眼では角膜障害が生じやすく,殺菌までの時間も30.120秒間を要する.また,点眼のみ(54) では結膜の構造上十分な洗浄を行えない可能性があり,内眼手術と同様に希釈したポビドンヨードで洗浄したほうが安全かつ効率的といえよう.感染性眼内炎が発症した場合の治療法についてであるが,選択肢は大きく二つあり,一つは抗菌薬の点眼,硝子体内投与などによる保存的方法,もう一つは硝子体手術の施行である.基本的には病変が前眼部に限局している場合には抗菌薬の局所投与を試み,硝子体腔に炎症が及んでいる場合には硝子体手術を選択する.しかし,眼内炎に対する治療の遅れは取り返しのつかない結果をもたらすことがあるため,硝子体手術ができない施設では無理に保存療法を選択するよりは,速やかに手術可能な施設に紹介することも必要であると考える.つぎに薬剤自体による合併症について述べる.IV無菌性眼内炎アバスチンRでは2009年にGeorgopoulosらが投与を行った2,500例中8例に無菌性眼内炎を発症したと報告されている11).いずれも投与後2日以内に疼痛のない霧視を自覚し,前房内炎症と硝子体混濁がみられたが,前房蓄膿は認めなかった.FabフラグメントにFc部分が付加され蛋白質積荷が大きいことなどが炎症をひき起こす可能性を指摘している.この場合副腎ステロイドが有効なことが多く,抗生物質に反応しない(図2a,b).特発性無菌性眼内炎はtoxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)として知られている.TASSは使用した薬剤のpH,防腐剤,洗浄剤,酸化,細菌の毒素,眼内レンズなどに対する免疫反応とされており,無菌性であり,術後12.48時間で発症し前房蓄膿を伴い強い前眼部炎症をひき起こす12).TASSも副腎ステロイド薬が有効であるが,前房蓄膿を伴う炎症の場合にはまず感染を念頭に対処すべきであると考える.V全身合併症薬剤の影響において最も議論されるのは脳梗塞の発症リスクについてだろう.脳梗塞を含めた全身合併症の発症リスクが危惧される報告が散見される13,14)が,一方では関連性の低さを指摘する論文もある15,16).また,薬剤(55)ab図2抗VEGF薬投与後の無菌性眼内炎61歳,男性.抗VEGF薬投与2週間後に毛様充血と前房内炎症を認めた.一度目の投与であった.0.1%ベタメタゾン点眼6回/日と0.5%レボフロキサシン点眼を開始し,2週間後,毛様充血,前房内炎症ともに改善傾向がみられた.前房水培養からは起因菌は検出されなかった.a:発症時の前眼部所見,b:ステロイド点眼治療後.による差についてはCATTStudyの結果からルセンティスR,アバスチンR間での全身への影響には大きな差がないと考えていいのではないかと考える3).筆者らの施設ではそれぞれの報告について患者へ説明し,特に脳梗塞発症後2年以内の症例についてはより注意深く対応している.病状の進行の程度や本人の価値観によっても選択が変わってくると思われ,患者とのコミュニケーションが大切である.慢性疾患であり,患者自身が納得したうえで治療を継続することが重要なのではないかと考える.あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121231 アバスチンRについては若年者の症例への投与例もあり,特に女性では生理周期へ影響を及ぼす場合がある.また,胎児への影響が明らかではなく安全性が確立していないため,治療中の妊娠は避けたほうがよいと考えられ,出産後の授乳も控えるのが望ましいと考えられる.おわりに最近では視力良好例へも抗VEGF薬を投与する機会も多くなっており,合併症への配慮が必要である.合併症のリスクをより低くし,効率よく適切な治療ができるように今後もさまざまな点での検討や工夫が必要と考える.文献1)Green-SimmsAE,EkdawiNS,BakriSJ:SurveyofintravitrealinjectiontechniquesamongretinalspecialistsintheUnitedStates.AmJOphthalmol151:329-332,20112)JalilA,FenertyC,CharlesS:Intravitrealbevacizumab(Avastin)causingacuteglaucoma:anunreportedcomplication.Eye21:1541,20073)MoshfeghiAA,RosenfeldPJ,FlynnHWJretal:Endophthalmitisafterintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactorantagonists:asix-yearexperienceatauniversityreferralcenter.Retina31:662-668,20114)FintakDR,ShahGK,BlinderKJetal:Incidenceofendophthalmitisrelatedtointravitrealinjectionofbevacizumabandranibizumab.Retina28:1395-1399,20085)CATTResearchGroup,MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularizationage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20116)DeramoVA,LaiJC,FastenbergDMetal:Acuteendophthalmitisineyestreatedprophylacticallywithgatifloxacinandmoxifloxacin.AmJOphthalmol142:721-725,20067)KimSJ,TomaHS:Antibioticresistanceofconjunctivaandnasopharynxevaluationstudy:aprospectivestudyofpatientsundergoingintravitrealinjections.Ophthalmology117:2372-2378,20108)MilderE,VanderJ,ShahCetal:Changesinantibioticresistancepatternsofconjunctivalfloraduetorepeateduseoftopicalantibioticsafterintravitrealinjection.Ophthalmology119:1420-1424,20129)ShahCP,GargSJ,VanderJFetal:Post-InjectionEndophthalmitis(PIE)StudyTeam:Outcomesandriskfactorsassociatedwithendophthalmitisafterintravitrealinjectionofanti-vascularendothelialgrowthfactoragents.Ophthalmology118:2028-2034,201110)ChenE,LinMY,CoxJetal:Endophthalmitisafterintravitrealinjection:theimportanceofviridansstreptococci.Retina31:1525-1533,201111)GeorgopoulosM,PolakK,PragerFetal:Characteristicsofsevereintraocularinflammationfollowingintravitrealinjectionofbevacizumab(Avastin).BrJOphthalmol93:457-462,200912)MamalisN,EdelhauserHF,DawsonDGetal:Toxicanteriorsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,200613)UetaT,YanagiY,TamakiYetal:Cerebrovascularaccidentsinranibizumab.Ophthalmology116:362,200914)EnseleitF,MichelsS,RuschitzkaF:Anti-VEGFtherapiesandbloodpressure:Morethanmeetstheeye.CurrHypertensRep12:33-38,201015)CampbellRJ,BellCM,PatersonJMetal:Strokeratesafterintroductionofvascularendothelialgrowthfactorinhibitorsformaculadegeneration:Atimeseriesanalysis.Ophthalmology[Epubaheadofprint]201216)CurtisLH,HammillBG,SchulmanKAetal:Risksofmortality,myocardial,infarction,bleeding,andstrokeassociatedwiththerapiesforage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol128:1273-1279,20101232あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(56)

光線力学的療法(PDT)との併用療法

2012年9月30日 日曜日

特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1223.1228,2012特集●抗VEGF治療のすべてあたらしい眼科29(9):1223.1228,2012光線力学的療法(PDT)との併用療法CombinedTherapyofAnti-VEGFTreatmentandPhotodynamicTherapy(PDT)永井由巳*I抗VEGF療法滲出型加齢黄斑変性(exudativeage-relatedmaculardegeneration:AMD)をはじめ,黄斑部中心窩下に生じる脈絡膜新生血管(CNV)に対する治療法として,最近は抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法が中心となった.国内ではAMDに対してのみ承認されている薬剤として,pegaptanib(MacugenR)とranibizumab(LucentisR)とが投与されており,その他のCNVに対しては,各施設の倫理委員会の審議承認の下でbevacizumab(AvastinR)が使用されている.抗VEGF薬の単独投与の成績については国内外で臨床試験を含めて報告1.4)があり,どの報告もCNVに対して効果的に作用し,視機能の維持,改善を認めている.そのため,中心窩下CNVに対して2004年に承認され多くの施設で行われていた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の実施数は,抗VEGF療法の出現とともに減少し,PDTは過去の治療になるとさえ言われはじめていた.抗VEGF薬単独療法は,疾患により差は認めるものの,複数回にわたる硝子体内投与を行わなくてはならない.AMDにおける臨床試験である,MARINA試験1)(minimallyclassicCNVとoccultCNVに対するranibizumab投与試験)やANCHOR試験2)(predominantlyclassicCNVに対するranibizumab投与試験)では,ranibizumabを毎月24カ月投与することで視力の改善効果を得ている.しかしながら,臨床の現場でAMD患者を全例毎月診察して毎月投与するということは,患者側,医療側双方にとって物理的,経済的負担が大きい.その後,ranibizumab導入期の3カ月は毎月投与で,その後の維持期は視力や検眼鏡所見,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の結果で治療の適応がある際にのみ再投与(prorenata:PRN)するPrONTO試験3)が行われ,24カ月後に導入期の視力改善を維持することができ,毎月連続投与を行って得られた治療成績と同等の結果を得た.上記のPrONTO試験の結果に基づき,わが国でもranibizumabの維持期における再投与ガイドラインも作成され,視力や眼底所見,OCT所見でもって投与の判断を行う基準4)が示された.また,海外における維持期の投与方法の臨床試験の結果5)からも,診察時の所見に応じてPRNする方法であれば,毎月24カ月連続投与したときと同等の視力改善効果を得ることができることが示され,現在は多くの施設でranibizumabの維持期における投与はPRNで行っている.AMDに対して,抗VEGF薬を上記のとおりPRNで投与することで,12カ月後,24カ月後における滲出抑制および視力の改善効果を得た報告が国内でも散見されるようになった6,7).どの報告でも平均視力は最初の導入期で改善した状態で維持されており,AMDに対する治療の第一選択となっている.しかしながら,多くの症例で滲出抑制の効果を認める反面,ranibizumabを投与*YoshimiNagai:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学附属枚方病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(47)1223 してもまったく反応を認めない症例(non-responder)や,投与し始めた頃は滲出抑制効果を認めていたものの次第に効果が減弱して効かなくなる症例(tachyphylaxis)も認められる.当教室での自験例8)では,12カ月経過観察できたAMDの症例〔典型AMDとポリープ状脈絡膜血管症(PCV)〕のなかで10.1%(22眼/218眼)が導入期の投与で無反応を示し(non-responder),1眼を除きすべてフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)におけるCNVの分類でocculttypeを示していた.この結果は,抗VEGF薬の網膜色素上皮下病変への作用が弱い可能性を示唆しているのと同時に,同じような症例でも効果を認めるものと反応がみられない症例とが混在することからgenotypeの差異9,10)を含めた他の原因によることも考えられる.II光線力学的療法(PDT)との併用療法上記のとおり,現状では抗VEGF療法がCNVに対する第一選択となっているが,前述のようなnon-responderやtachyphylaxisの存在,CNVのサブタイプによって効果に差異が認められることなどから,結果的に投与回数が多くなることもある.そのため,治療効果を高める,あるいは抗VEGF薬の投与回数を減らす目的でPDTを併用することもある.RanibizumabとPDTを併用した海外での試験では,AMDにおける病型により反応に差異が認められている.まず,AMDのすべてのCNVサブタイプを対象にしたMONTBLANC試験11)において,治療開始から12カ月後の視力は,predominantlyclassicCNVではranibizumab併用PDT群とPDT単独治療群でほぼ同等の成績で,occultCNVとminimallyclassicCNVではranibizumab単独治療群が併用群より良かった.視力以外の評価では,導入期を含めて12カ月間のranibizumab投与回数が単独治療群より併用群が若干少ないこと(単独治療群:5.1回,併用群:4.8回),治療後の中心窩網膜厚の減少は併用群のほうが良好であったことがあげられる.これらのことから,滲出抑制効果は併用群のほうが強いが,視力の改善についてはranibizumab単独群よりやや劣るといえ,PDT併用の抗VEGF療法1224あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012を行う際には症例選択を慎重に行う必要がある.日本人のAMDにおいて30.50%を占めるとされる12,13)PCVに対するPDTは良好な成績を示しており14),抗VEGF療法よりもPDTのほうが短期的には治療効果が高い.しかしながら,PDT単独では視力の改善度という点では,抗VEGF療法の成績に比べ見劣りする.特に複数回のPDTを行うと,網膜の菲薄化を起こし視力の改善も小さくなることが多い.これらの抗VEGF療法とPDTの弱点を補う意味でPDTを併用した抗VEGF療法を行うと,抗VEGF療法の抗血管新生作用と抗透過性亢進作用にPDTの血管内皮傷害による血管閉塞作用が合わさり,また,PDT後の一過性の滲出増加(血管外漏出)やPDT後のVEGF増加などの副作用を抗VEGF薬が抑制することにより,より効果的に滲出抑制効果を得ることができる.PCVについてPDT単独治療,ranibizumab単独投与,併用療法の3群で投与後の成績を比較したEVEREST試験15)では,視力はどの群も改善したが,ポリープ状病巣の完全閉塞を得た症例はPDT単独群,併用療法群がranibizumab単独投与群よりも有意に多い結果であった.この結果は,このようなPDTとranibizumabの作用機序の相乗効果によるものと考えられる.AMDのなかでも治療抵抗性が高いとされている,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)については,これまで光凝固や硝子体手術下での流入血管切断,PDT,triamcinolone(KenacortR)のTenon.下あるいは硝子体内注射などさまざまな治療が行われてきたがいずれも再発率が高い.抗VEGF薬が登場する前はtriamcinoloneを投与してから10日前後時間をあけてPDTを行う併用療法を施行することが多かった(pharmacology,pause,photodynamictherapy:PPP)16).抗VEGF薬を使用するようになり,ranibizumab単独療法の報告も散見されるが,Hemeidaらはbevacizumab,ranibizumab投与後12カ月で視力を維持できた症例は73.3%で,再燃傾向が強く75%の症例で24カ月間に再投与を行ったにもかかわらず視力を維持できた症例は62.5%であったと報告している17).このように抗VEGF薬単独療法では十分な治療効果を得られないことから,病巣が網膜内新生血管に限局して(48) いるstage1よりも進行したstageの症例にに対しては,PDT群,bevacizumab併用PDT群の6カ月での視力多くの施設で抗VEGF薬併用PDTかさらにtriamcino成績は,PDT単独治療群が55.6%で視力維持(視力悪loneも併用したトリプル療法を行っている.筆者らの化が44.4%)をしたのに対し,triamcinolone併用群,自験例で,PDT単独治療群と,triamcinolone併用bevacizumab併用群ともに87.5%の症例で視力を維持b図1RAPに対するranibizumab,triamcinolone併用PDTの症例(治療前)症例は81歳,男性.左眼の中心暗点,変視症,視力低下で受診.矯正視力は0.5.FA….a:治療前眼底:左眼眼底には網膜表層出血と網膜色素上皮.離(PED),癒合性軟性ドルーゼンを認めた.b,c:FA.PEDの部位は早期(b)から淡い過蛍光を示し,後期(c)になるとPEDは均一な過蛍光を呈していた.黄斑部耳側に新生血管を示唆する蛍光漏出を認めた.…………….CME..Bumpsign……..PEDdLV..0.5……FA……………………………………………………PED..a……..cd:OCT.ドーム状のPEDを2箇所認め,その間に漿液性網膜.離を認める.耳側のPEDにはbumpsignを認め,網膜には網膜浮腫(CNE)を認めていた.e:治療前IA.PEDは終始低蛍光を示し,その内部に矢印で示す流入血管と流出血管から成るRAP病巣を認めた.f:PDTの際のGLDとレーザー照射域.トリプル療法実施時のPDTは,GLD(病巣最大直径)が5,024μm,レーザー照射径はPDTの手順どおり1,000μmを加えて6,024μmで行った.GLD5024μmRAP病巣PEDefIAトリプル療法実施Ranibizumab,triamcinolone,PDT(49)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121225 していた18).また,治療から12カ月の経過をみた成績として,Saitoらはbevacizumab併用PDT群で100%の症例で視力を維持し,46.0%で改善したと報告し19),Leeらはranibizumab併用PDT群で100%の症例で視力を維持,改善は54.5%と報告している20).筆者らはRAPに対してはトリプル療法を行っているが(図1,2),この場合も12カ月後の視力は100%で維持していた21).PED….CME…………….PEDCME..PED….LV..0.6..LV..0.8..de……….Ranibizumab4……..PED….CME….cLV=..0.5..CME….PED……aLV=..0.5..Ranibizumab2……..PED….bLV=..0.5..Ranibizumab3……..これらの結果より,現在のところ,RAPに対しては,ranibizumab併用PDT,あるいはtriamcinoloneも併用したトリプル療法がスタンダードな治療となっている.以上の国内外の報告や自験例の治療成績から,当科ではRAPを除くAMDに対しては原則として抗VFGF薬投与を第一選択と考えているが,視力が0.6.0.7以下で大きな漿液性網膜色素上皮.離(PED)を伴うような図2RAPに対するranibizumab,triamcinolone併用PDTの症例(治療後経過)a:初回治療1カ月後.ranibizumab2回目投与.PEDは平坦化し,CMEは消失した.視力は0.5.b:初回治療2カ月後.ranibizumab3回目投与.PED,CMEは完全消失した.矯正視力は0.5.c:初回治療3カ月後.PEDとCMEは消失したままで,視力も0.5を維持していた.d:初回治療7カ月後.PEDとCMEが再発した.視力は0.6.滲出再燃のためranibizumabの追加投与を行った(4回目).e:初回治療8カ月後.PED,CMEは完全に吸収消失した.矯正視力は0.8.1226あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(50) occultCNVのAMDやPCVについては,初回治療時からPDT併用抗VEGF療法を採用している.特に,occultCNVのなかでも抗VEGF薬の反応が弱いfibrovascularPEDに対しては併用療法を行うことが多い.RAPは前述のとおり,triamcinoloneも用いたトリプル療法を行っている.また,抗VEGF薬投与とPDTの間隔については,議論の余地があり,どのタイミングで行うかは現状では各施設の判断で行われている.当科では,抗VEGF薬を投与してあまり時間を経てからPDTを行うのはPDTの効果を弱める可能性があると考え,同日(PDTを行ってから,無灯火顕微鏡下での抗VEGF薬投与)に行っている.AMD以外のCNVに対してはType2のCNV(FAにおけるclassicCNVとほぼ同一)であることが多く,抗VEGF薬単独療法が第一選択治療であり,PDTの併用療法を行うことはほとんどない.おわりにCNVに対する抗VEGF単独療法は,滲出を抑制し視力の維持改善効果を認める治療法であり,現在のCNV治療の主流である.しかしながら,なかには効果の弱いCNVのタイプもあり,また,まったく効果を認めないあるいは効果の減弱する症例も認められる.このような症例にはPDTを併用した抗VEGF薬投与を行うことで,治療効果を高めることが可能となったと同時に,抗VEGF薬の投与回数減少や硝子体内注射による合併症のリスク軽減などの物理的な面や治療費の負担軽減などにも寄与している.しかしながら,PDT併用療法のほうが視力の改善が弱いという報告もあるので,どのような症例に行うべきかは,今後も慎重に適応を検討する必要があると思われる.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed44:1432-1444,20063)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariable-dosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:year2ofthePrONTOStudy.AmJOphthalmol148:43-58,20094)田野保雄,大路正人,石橋達朗ほか:ラニビズマブ(遺伝子組換え)の維持期における再投与ガイドライン.日眼会誌113:1098-1103,20095)MitchellP,KorobelnikJF,LanzettaPetal:Ranibizumab(Lucentis)inneovascularage-relatedmaculardegeneration:evidencefromclinicaltrials.BrJOphthalmol94:2-13,20106)NakamuraT,MiyakoshiA,FujitaKetal:One-YearResultsofPhotodynamicTherapyCombinedwithIntravitrealranibizumabforExudativeAge-RelatedMacularDegeneration.JOphthalmol.2012:154659,20127)HikichiT,HiguchiM,MatsushitaTetal:One-yearresultsofthreemonthlyranibizumabinjectionsandas-neededreinjectionsforpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.AmJOphthalmol154:117-124,20128)尾辻剛,永井由巳,正健一郎ほか:加齢黄斑変性に対するラニビズマブ無反応例の検討.厚生労働省難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班平成21年度報告書,p153-156,20109)TeperSJ,NowinskaA,PilatJetal:Involvementofgeneticfactorsintheresponsetoavariable-dosingranibizumabtreatmentregimenforage-relatedmaculardegeneration.MolVis16:2598-2604,201010)Kloeckener-GruissemB,BarthelmesD,LabsSetal:GeneticassociationwithresponsetointravitrealranibizumabinpatientswithneovascularAMD.InvestOphthalmolVisSci52:4694-4702,201111)LarsenM,Schmidt-ErfurthU,LanzettaPetal:Verteporfinplusranibizumabforchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthMONTBLANCstudyresults.Ophthalmology119:9921000,201212)UyamaM,WadaM,NagaiYetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:naturalhistory.AmJOphthalmol133:639-648,200213)ShoK,TakahashiK,YamadaHetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy.ArchOphthalmol121:1392-1396,200314)SaitoM,IidaT,NagayamaD:Photodynamictherapywithverteporfinforage-relatedmaculardegenerationorpolypoidalchoroidalvasculopathy:comparisonofthepresenceofserousretinalpigmentepithelialdetachment.BrJOphthalmol92:1642-1647,200815)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTSTUDY:EfficacyandSafetyofVerteporfinPhotodynamicTherapyinCombinationwithRanibizumaborAloneVersusRanibizumabMonotherapyinPatientswithSymptomaticMacularPolypoidalChoroidalVasculopathy.Retina32:1453(51)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121227 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