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正常眼圧緑内障患者における持続型カルテオロール点眼薬3年間投与の効果

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):835.839,2012c正常眼圧緑内障患者における持続型カルテオロール点眼薬3年間投与の効果比嘉利沙子*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第2講座EffectofLong-actingCarteololHydrochloride2%OphthalmicSolutionTreatmentovera3-YearPeriodinNormalTensionGlaucomaRisakoHiga1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineアルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬を正常眼圧緑内障患者に3年間投与したときの眼圧,視野に及ぼす影響を検討した.アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬を新規に単剤点眼した正常眼圧緑内障患者24例24眼を対象とした.眼圧は1.3カ月ごと,Humphrey視野は6カ月ごとに測定した.眼圧,視野検査のmeandeviation(MD)値とpatternstandarddeviation(PSD)値を1年ごとに評価した.視野障害進行判定はトレンド解析とイベント解析を行った.眼圧は3年間にわたり下降効果を維持した(p<0.0001).MD値とPSD値は点眼前後で同等であった.視野障害は,トレンド解析では1眼(5%),イベント解析では5眼(24%)が進行と判定された.正常眼圧緑内障患者に対して,アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬3年間単剤投与により眼圧下降効果は維持したが,24%で視野障害が進行した.Thisstudyreportstheeffectof3-yeartreatmentwithlong-actingcarteololhydrochloride2%ophthalmicsolutionin24eyesof24patientswithnormaltensionglaucoma(NTG).Inall24patients,intraocularpressure(IOP)wasmeasuredevery1-3months,andHumphreyvisualfieldperformanceevery6months.IOP,meandeviation(MD)andpatternstandarddeviation(PSD)ofHumphreyvisualfieldtestswereevaluatedeveryyear.Visualfieldperformancewasalsoevaluated,usingtrendandeventanalyses.Inallpatients,meanIOPwasfoundtobesignificantlylowerduringtheentire3-yeartreatmentperiodthanbeforeadministration(p<0.0001).TherewasnosignificantchangeinMDorPSDduringthe3years.Visualfieldperformanceevaluationbytrendanalysisandeventanalysisshowedrespectivedecreasesin1patient(5%)and5patients(24%).Theresultsofthisstudyshowthatlong-actingcarteololhydrochloride2%ophthalmicsolutionwaseffectiveinreducingIOPforatleast3yearsinNTGpatients,althoughdecreaseinvisualfieldperformancewasobservedinsomepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):835.839,2012〕Keywords:アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬,正常眼圧緑内障,眼圧,視野.long-actingcarteololhydrochloride2%ophthalmicsolution,normaltensionglaucoma,intraocularpressure,visualfield.はじめに日本における緑内障の病型は72%が正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)であることが多治見スタディより明らかになった1).NTGにおいても,視野障害の進行を阻止するには眼圧下降は重要である2,3)が,NTGの視神経障害には眼循環因子など,眼圧以外の多因子の関与が示唆されている4,5).b遮断薬である塩酸カルテオロール点眼薬(以下,標準型カルテオロール点眼薬)は,房水産生の抑制により眼圧を下降させるが,内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympathomimetricactivity:ISA)を有する点で他のb遮断薬と異なる6,7).ISAを有するb遮断薬は,血管拡張作用あるいは血管収縮抑制作用を介して眼循環の改善も期待される8,9).標準型カルテオロール点眼薬は1日2回の点眼を必要とする〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(113)835 が,2007年に日本で承認されたアルギン酸添加塩酸カルテオロール点眼薬(以下,持続型カルテオロール点眼薬)は,点眼薬の眼表面での滞留時間延長により1日1回の点眼が可能となった10,11).原発開放隅角緑内障や高眼圧症では,持続型カルテオロール点眼薬1%および2%とも眼圧下降効果は標準型と同等であることが報告されている12.15).しかし,NTG患者に持続型カルテオロール2%点眼薬を新規に単剤投与した臨床報告は少なく,経過観察期間は最長1年である16,17).緑内障の治療は生涯にわたるものであり,今回,さらに観察期間を延長しNTGにおける持続型カルテオロール2%点眼薬の眼圧,視野に対する3年間の影響を前向きに検討したので報告する.I対象および方法2007年7月から2008年2月の間に井上眼科病院で新規にNTGと診断し,持続型カルテオロール2%点眼薬(1日1回朝点眼)の単剤投与を開始した39例(両眼投与14例,片眼投与25例)のうち,さらに3年間にわたり単剤の点眼投与の継続および経過観察ができたNTG患者24例(両眼投与8例,片眼投与16例)を対象とした.ただし,解析対象は1例1眼とし,両眼投与例では点眼投与前眼圧の高い眼,同値の場合は右眼を選択した.解析対象の性別は,男性6例,女性18例,年齢は52.2±12.4歳,25.73歳(平均±標準偏差値,最小値.最大値)であった.点眼投与前の眼圧は17.5±2.1mmHg(14.21mmHg),Humphrey視野(プログラム中心30-2SITA-standard)の平均偏差(meandeviation:MD)値は.3.46±3.85dB(.13.76.0.08dB),パターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)値は6.20±4.47dB(1.67.16.68dB)であった.NTGの診断基準は,1)日内変動を含む複数回の眼圧測定にても眼圧が21mmHg以下であり,2)視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障に特有な形態的特徴(視神経乳頭周辺部の菲薄化,網膜視神経線維層欠損)を有し,3)それに対応する視野異常が高い信頼性と再現性をもって検出され,4)視野異常の原因となりうる他の眼疾患や先天異常を認めず,さらに5)隅角鏡検査で両眼正常開放隅角を示すものとした.ただし,1)矯正視力0.5以下,白内障以外の内眼手術やレーザー治療の既往,2)局所的,全身的なステロイド既往,3)耳鼻科的,脳神経外科的な異常を有する,4)アセタゾラミド内服中の症例は対象から除外した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で,患者ごとに同一検者が診療時間内(9時から18時)のほぼ同一時間帯に,1.3カ月ごとに測定した.点眼投与前の眼圧は,点眼投与前に1mmHg以上の差がないことを確認のうえ,点眼開始前の最終単回測定値とした.視野は6カ月ごとにHumphrey静的視野検査(プログラ836あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012ム中心30-2SITA-standard)を行った.視野障害進行の有無は,3年間にわたる視野検査結果を視野解析プログラム(GlaucomaProgressionAnalysis1:GPA1,CarlZeissMeditec社製)を用いて,トレンド解析とイベント解析で判定した.トレンド解析は,MD値の経時的変化を直線回帰分析したもので,これにより算出された年単位のMD値の変化量(dB/年)を統計学的有意性とともに表した指標である.一方,イベント解析は,経過観察当初2回の検査結果をベースラインとして,その後の検査でベースラインと比較して一定以上の悪化が認められた時点で進行と判定する指標である.なお,Humphrey視野において,固視不良20%以上,偽陽性,偽陰性が33%以上の場合は解析から除外した.そのため,視野解析は21例21眼で行った.統計学的解析は,眼圧にはtwo-wayANOVA(analysisofvariance)およびBonferroni/Dunnet法,視野検査におけるMD値,PSD値にはFriedmantestを用いた.眼圧,MD値,PSD値とも5%の有意水準とした.トレンド解析では,5%の有意水準をもって「視野障害の進行あり」と判定した.イベント解析では,EarlyManifestGlaucomaTrial18)の警告メッセージに基づき「進行の傾向あり」と判定されたもの,すなわち3回連続して同一の3点以上の隣接測定点に有意な低下を認めた場合を「視野障害の進行あり」と判定した.本臨床研究は,井上眼科病院倫理審査委員会の承認後,研究内容を十分説明のうえ,被験者から文書による同意を取得した.II結果1.眼圧眼圧値は,持続型カルテオロール点眼1年後は14.8±1.6mmHg(12.17mmHg),2年後は14.9±1.9mmHg(12.18mmHg),3年後は14.8±2.4mmHg(11.20mmHg)で,点眼前(17.5±2.1mmHg)と比較し各解析時点で有意に下降していた(p<0.0001)(図1).眼圧下降幅は,点眼1年後は2.5±1.6mmHg(0.6mmHg),2年後は2.4±1.8mmHg(.2.7mmHg),3年後は2.6±2.1mmHg(.1.6mmHg)と同等であった(図2).眼圧下降率は,点眼1年後は14.3±7.9%(0.28.6%),2年後は13.5±9.2%(.12.5.33.3%),3年後は14.6±11.4%(.5.6.30.0%)と同等であった(図3).2.視野MD値は,持続型カルテオロール点眼1年後は.3.70±4.72dB(.15.73.1.38dB),2年後は.3.19±3.23dB(.10.61.0.63dB),3年後は.3.91±3.22dB(.11.26..0.29dB)であり,点眼前(.3.46±3.85dB)を含め経過観察中に有意な変化はなかった(図4).PSD値は,持続型カルテオ(114) 222018161412100点眼前1年後2年後3年後******n=24図1持続型カルテオロール2%点眼薬点眼前後の眼圧6543210眼圧下降幅(mmHg)n=24222018161412100点眼前1年後2年後3年後******n=24図1持続型カルテオロール2%点眼薬点眼前後の眼圧6543210眼圧下降幅(mmHg)n=24眼圧(mmHg)ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法,**p<0.0001.1年後2年後3年後図2持続型カルテオロール2%点眼薬点眼後の眼圧下降幅30n=241250点眼前1年後2年後3年後n=21n=19n=18n=16平均偏差(MD)(dB)眼圧下降率(%)-120-2-3-41510-5-65-7-801年後2年後3年後図4持続型カルテオロール2%点眼薬点眼前後のMD値図3持続型カルテオロール2%点眼薬点眼後の眼圧下降率有意な悪化1例4例進行の傾向ありパターン標準偏差(PSD)(dB)12108n=21n=19n=18n=16トレンド解析イベント解析1例(5%)5例(24%)6n=214図6視野障害進行解析2中止3例,点眼薬の変更2例,白内障手術施行2例の理由に0点眼前1年後2年後3年後より,脱落となった症例が合計15例あった.点眼中止理由図5持続型カルテオロール2%点眼薬投与前後のPSD値ロール点眼1年後は6.37±4.91dB(1.66.16.89dB),2年後は6.30±4.18dB(2.02.15.95dB),3年後は7.25±4.10dB(1.98.17.26dB)であり,同様に点眼前(6.20±4.47dB)を含め経過観察中に有意な変化はなかった(図5).3.視野障害進行判定トレンド解析では1例(5%),イベント解析で5例(24%)が「視野障害の進行あり」と判定された.両解析で「視野障害の進行あり」と判定されたのは1例のみであった(図6).4.脱落症例3年間の経過観察中,来院中断または転院8例,点眼薬の(115)は,点眼直後に眼瞼腫脹(1例),点眼4カ月後に息苦しさ(1例)の出現であるが,両症例とも点眼中止後,速やかに症状は改善している.残りの1例は,点眼8カ月後に無治療の経過観察を希望したためである.点眼薬変更は,2例とも点眼投与後に眼圧下降(16mmHgから14mmHg,15mmHgから13mmHg)は得られたが,それぞれ7カ月と12カ月以降に眼圧が投与前と同値が続いたため,ラタノプロスト点眼薬に変更した.III考按CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroupは,NTGでも眼圧を30%下降させると5年間の観察においあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012837 504030201000図7持続型カルテオロール2%点眼薬点眼前の眼圧と眼圧下降率□:トレンド解析・イベント解析で視野障害進行と判定された症例.△:イベント解析で視野障害進行と判定された症例.●:トレンド解析・イベント解析とも視野障害進行なしと判定された症例.て80%で視野進行を阻止できたことを報告しており2),NTGにおいても進行予防には眼圧下降は重要であることが示された.しかし,眼圧を下げても5年間で20%の視野障害が進行したことや未治療群でも40%は進行しなかった報告もある3).筆者らの報告では,NTG患者に対する持続型カルテオロール点眼薬の眼圧下降率は,3カ月では14.2%16),1年では14.7%17)であった.今回,経過観察期間を3年間に延長しても眼圧下降率は14.6%で維持された.本研究では,点眼3年後の眼圧下降率が30%以上の症例は2眼(8%),20%以上は8眼(33%),10%以上は13眼(54%)であった.点眼前の眼圧と眼圧下降率を散布図で示した(図7).ベースラインの眼圧が高いほど眼圧下降率は高い傾向にあったが相関はなく(p=0.314,r=0.214,Pearsonの相関係数),個々の症例におけるばらつきも大きいことがわかる.本研究では,個々の症例においては眼圧測定時間帯を統一するようにしたが,点眼から測定までの時間は統一されておらず,どの時点の眼圧を捉えているか不明瞭な点では不備がある.今回,点眼投与前の眼圧17.5±2.1mmHgはやや高値であった.眼圧が低い症例は,点眼薬治療を希望されない症例が存在したために,今回の対象の投与前眼圧は日本人における平均眼圧1)より高値であったと考えられる.NTG患者に対する眼圧下降効果を他剤と比較すると,標準型カルテオロール2%点眼薬18カ月投与では,眼圧下降率は10.8%(点眼前平均眼圧14.8mmHg)であった19).本研究結果から原発開放隅角緑内障や高眼圧症患者だけでなく12.15),NTG患者においても標準型と持続型カルテオロール点眼薬の眼圧下降効果は同等であった.アドヒアランスの838あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012y=1.17x-5.46r2=0.046n=24眼圧下降率(%1416182022点眼前の眼圧(mmHg)観点から,眼圧下降効果が同等であれば,点眼回数が少ないほうが利便性がよい.NTG患者に対する他のb遮断薬3年間投与の眼圧下降率は,レボブノロール点眼薬では13.3%20),ニプラジロール点眼薬では17.2%21)であり,本研究結果とほぼ同等の値であった.視野進行判定には,臨床的判断,Aulhorn分類や湖崎分類などのステージ分類,トレンドやイベント解析などの方法がある.同一症例でも解析方法により判定が異なる場合があり,視野障害進行を正確に評価するのはむずかしい.MD値は年齢別正常値からの平均視感度低下を評価しているので,MD値のみでは局所的な視野変化が捉えられない可能性がある.トレンド解析では,生理的なぶれの影響は少なく,長期的傾向を把握しやすいが,急激な局所の変化は捉えにくい欠点がある.一方,イベント解析では,異常判定時に再現性を確認する必要はあるが,1回ごとに進行の判定が可能であり,急激な変化は捉えやすい特徴がある.NTG患者におけるレボブノロール点眼薬投与による視野変化については,3年間および5年間ではMD値,PSD値ともに点眼前後で変化がなかった20,22)が,5年後のトレンド解析では3例(15%),イベント解析では6例(30%),そのうち2例は両解析で視野障害進行と判定された22).NTG患者におけるニプラジロール点眼薬5年間投与では,トレンド解析では8例(18%),イベント解析では7例(16%),そのうち1例は両解析で視野障害進行と判定された23).視野障害が進行と判定された症例と眼圧下降率を見てみると一定の傾向はなく(図7),NTGの視野障害進行には眼圧以外の因子が作用していることが示唆される.しかし,残念ながら本研究ではISAが視野進行障害阻止にどの程度影響があったかは明らかにすることはできない.MDスロープを用いた視野障害進行判定では,6カ月ごとに検査を行い視野変動が低い場合には.2.0dB/年または.1.0dB/年の進行判定に要する期間はそれぞれ2.5年,3年と報告されている24).視野変動が中等度以上の場合もしくは進行速度がこれ以上遅い場合は視野障害進行判定に3年以上の期間を要することになる.このことから,本研究においても視野障害進行判定には,さらに長期の経過観察を行う必要があると考えた.安全性については,点眼直後に眼瞼腫脹,点眼4カ月後に息苦しさのため点眼を中止した症例が各1例(5.1%)あったことを過去に報告した17)が,その後は副作用により点眼を中止した症例はなかった.カルテオロール点眼薬の全身性副作用については,標準型と持続型では同等とする報告12.14)や持続型のほうが血漿中濃度は有意に低く,拡張期血圧下降も低いことから全身性副作用が少ないとの報告がある15).さらに,アドヒアランスの向上にはさし心地も重要な因子であり,持続型カルテオロール点眼薬はゲル化チモロール点眼薬(116) よりさし心地が良かったとのアンケート結果も得られている25).結論として,NTG患者において持続型2%カルテオロール点眼薬単剤投与により3年間にわたって眼圧下降効果は維持したが,24%の症例で視野障害が進行した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19984)YamazakiY,DranceSM:Therelationshipbetweenprogressionofvisualfielddefectsandretrobullbarcirculationinpatientswithglaucoma.AmJOphthalmol124:287295,19975)田中千鶴,山崎芳夫,横山英世:正常眼圧緑内障の視野障害進行と臨床因子の検討.日眼会誌104:590-595,20006)SorensenSJ,AbelSR:Comparisonoftheocularbeta-blockers.AnnPharmacother30:43-54,19967)ZimmermanTJ:Topicalophthalmicbetablockers:Acomparativereview.JOculaPharmacol9:373-384,19938)FrishmanWH,KowalskiM,NagnurSetal:Cardiovascularconsiderationsinusingtopical,oral,andintravenousdrugsforthetreatmentofglaucomaandocularhypertension:focusonb-adrenergicblockade.HeartDis3:386397,20019)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199710)SechoyO,TissieG,SebastianCetal:Anewlongactingophthalmicformulationofcarteololcontainingalginicacid.IntJPharm207:109-116,200011)TissieG,SebastianC,ElenaPPetal:Alginicacideffectoncarteololocularpharmacokineticsinthepigmentedrabbit.JOculPharmacolTher18:65-73,200212)DemaillyP,AllaireC,TrinquandC:Once-dailyCarteololStudyGroup:Ocularhypotensiveefficacyandsafetyofoncedailycarteololalginate.BrJOphthalmol85:962968,200113)TrinquandC,RomanetJ-P,NordmannJ-Petal:Efficacyandsafetyoflong-actingcarteolol1%oncedaily:adouble-masked,randomizedstudy.JFrOphtalmol26:131136,200314)山本哲也・カルテオロール持続性点眼液研究会:塩酸カルテオロール1%持続性点眼液の眼圧下降効果の検討─塩酸カルテオロール1%点眼液を比較対照とした高眼圧患者における無作為化二重盲検第III相臨床試験.日眼会誌111:462-472,200715)川瀬和秀,山本哲也,村松知幸ほか:カルテオロ.ル塩酸塩2%持続性点眼液の第IV相試験─眼圧下降作用,安全性および血漿中カルテオロール濃度の検討─.日眼会誌114:976-982,201016)井上賢治,野口圭,若倉雅登ほか:原発開放隅角緑内障(広義)患者における持続型カルテオロール点眼薬の短期効果.あたらしい眼科25:1291-1294,200817)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:正常眼圧緑内障患者における持続型カルテオロール点眼薬の効果.臨眼65:297-301,200918)LeskeMC,HeijlA,HymanLetal:EarlyManifestGlaucomaTrial:designandbaselinedata.Ophthalmology106:2144-2153,199919)前田秀高,田中佳秋,山本節ほか:塩酸カルテオロールの正常眼圧緑内障の視機能に対する影響.日眼会誌101:227-231,199720)比嘉利沙子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障患者におけるレボブノロール点眼の長期効果.臨眼61:835839,200721)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:正常眼圧緑内障患者におけるニプラジロール点眼3年間投与の効果.臨眼62:323-327,200822)井上賢治,若倉雅登,富田剛司:正常眼圧緑内障患者におけるレボブノロール点眼5年間投与の効果.眼臨紀4:115-119,201123)InoueK,NoguchiK,WakakuraMetal:Effectoffiveyearsoftreatmentwithnipradiloleyedropsinpatientswithnormaltensionglaucoma.ClinOphthalmol5:12111216,201124)ChauhanBC,Garway-HeathDF,GoniFJetal:Practicalrecommendationsformeasuringratesofvisualfieldchangeinglaucoma.BrJOphthalmol92:569-573,200825)湖崎淳,稲本裕一,岩崎直樹ほか:カルテオロール持続点眼液の使用感のアンケート調査.あたらしい眼科25:729-732,2008***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012839

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):831.834,2012cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討木内貴博*1井上隆史*2高林南緒子*1大鹿哲郎*3*1筑波学園病院眼科・緑内障センター*2井上眼科医院*3筑波大学医学医療系眼科Long-termEfficacyafterSwitchingfromUnfixedCombinationofLatanoprostandTimololMaleatetoFixedCombinationTakahiroKiuchi1),TakafumiInoue2),NaokoTakabayashi1)andTetsuroOshika3)1)DepartmentofOphthalmology/GlaucomaCenter,TsukubaGakuenHospital,2)3)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofTsukubaInoueEyeClinic,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の2剤併用療法中の広義開放隅角緑内障16例16眼を対象とし,配合剤へ切り替えたときの眼圧変化とアドヒアランスについて2年間の観察を行った.平均眼圧は切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで差はなく(p=0.088),経時的にも有意な変化はみられなかった(p=0.944).アドヒアランスに関し,完全点眼達成率は切り替え前が18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012).しかしながら,切り替え前は無点眼日があったとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%にも及んだ.配合剤への切り替えは眼圧に影響を及ぼさず,アドヒアランスの改善が期待できる.ただし,切り替え後の点眼のさし忘れは1日を通してまったく治療が行われないことを意味し,注意が必要である.Weevaluatedintraocularpressure(IOP)andadherenceafterswitchingfromunfixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatetofixedcombinationin16eyesof16patientswithopenangleglaucomafortwoyears.AverageIOPbeforeandafterswitchingwas14.4±2.7mmHgand14.8±2.3mmHg,respectively;nosignificantdifferencewasfound(p=0.088),norwasanystatisticallysignificantdifferenceobservedinthetimecourseofchangesinIOP(p=0.944).Drugadherencerateincreasedsignificantly,from18.8%to62.5%asaresultofswitching(p=0.012).Aftertheswitch,37.5%ofpatientsfailedtocompletethefixedcombinationsolutioninstillationregimenforatleastoneday,whiletherewerenosuchfailuresbeforetheswitch.SwitchingtoafixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatedidnotinfluenceIOPandwashelpfulinimprovingadherence.Attentionmustbepaid,however,tothefactthatfailureofinstillationaftertheswitchmeansthatglaucomatreatmentsarenotbeingadministeredthroughouttheentireday.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):831.834,2012〕Keywords:ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,配合剤,眼圧,アドヒアランス.latanoprost,timololmaleate,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,adherence.はじめに近年,わが国でも眼圧下降薬として配合剤が使用できるようになり,緑内障に対する薬物療法の選択肢が広がりつつある.わが国初の配合剤は,プロスタグランジン関連薬であるラタノプロストとb遮断薬である0.5%チモロールマレイン酸塩を組み合わせた,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(ザラカムR配合点眼液,ファイザー)であり,2010年4月の上市をもって配合剤処方の門戸が開かれることとなったが,海外では2000年にスウェーデンで初めて承認されて以来,現在に至るまで100カ国以上で発売されており,すでに緑内障薬物療法の一翼を担う存在となっている.必然的に,本剤に関する臨床研究は外国人を対象としたものが圧倒〔別刷請求先〕木内貴博:〒305-0854茨城県つくば市上横場2573-1筑波学園病院眼科Reprintrequests:TakahiroKiuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TsukubaGakuenHospital,2573-1Kamiyokoba,Tsukuba,Ibaraki305-0854,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)831 的に多く,なかでも多剤併用療法から配合剤へ切り替える方法により,眼圧の推移やアドヒアランスの変化などを検討したものが多勢を占める1.5).ところが,欧米人と日本人とでは,緑内障の疾患構成に違いがあること6,7)や,薬剤に対する反応性が異なる可能性もあることなどから,わが国でも配合剤に関するデータベース作りが急務と思われるが,発売後間もないこともあり,そのような臨床試験はあまり行われていない.さらに,いくつか散見される学術集会レベルの報告をみても,症例の組み入れ条件が一定でなかったり,観察期間が短期限定であったりするものがほとんどである.そこで今回,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩に限定し,これら2剤による併用療法から配合剤1剤へ切り替えたときの眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について,比較的長期にわたる観察を行って検討したので報告する.I対象および方法1.対象ラタノプロスト(キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー)と2回点眼のチモロールマレイン酸塩(チモプトールR点眼液0.5%,MerckSharp&Dohme)の2剤併用にて,2年以上にわたり治療が継続されてきた広義開放隅角緑内障の患者を対象とした.著しい眼表面疾患を有する者,眼圧値に影響を及ぼす可能性のある眼疾患および全身疾患を有する者,眼圧下降のための外科治療およびレーザー治療の既往のある者,組み入れ前の1年以内に別の眼圧下降薬(ラタノプロスト以外のプロスタグランジン関連薬やチモロールマレイン酸塩以外のb遮断薬を含む)へ変更または追加,あるいは点眼中止のあった者は除外とし,上記の基準を満たし,かつ,十分な説明のうえで同意の得られた18例が本研究に組み入れられた.最終的に,決められた通院スケジュールを遵守できなかった2例が除外され,16例を検討の対象とした.性別は男性10例,女性6例,平均年齢は62.2±13.1歳(39.80歳)であった.全症例とも点眼治療は両眼になされており,検討には右眼のデータを採用した.なお,本研究は筑波大学附属病院倫理委員会の承認を得て行われた.2.点眼スケジュール切り替え前の2剤併用時は,ラタノプロストの夜1回とチモロールマレイン酸塩の朝夕2回の点眼スケジュールであったが,その後,休薬期間なしに配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩への切り替えを行い,切り替え後は夜のみ1回点眼を指示した.3.検討事項切り替え前後における眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について調査を行った.眼圧に関しては2カ月ごとに,切り替え前1年と切り替え後1年,つまり計2年間にわたって追跡を行い,切り替え前後それぞれの期間における全測定832あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012値の平均の比較,および,切り替え前後を通じた経時変化について検討した.なお,各々の患者について,切り替え前にはすべての眼圧測定時刻が3時間以内であったことを確認し,切り替え後も同様の時間帯に測定を行った.アドヒアランスに関しては,切り替え前1カ月と,切り替え1年経過時,すなわち本研究終了直前1カ月間の点眼状況をアンケート方式にて抽出した.切り替え前は2剤で3回点眼がノルマであるため,1日のうち1回でも点眼忘れがあれば,その日は不完全点眼日として,また1日を通じてまったく点眼しなかった日があれば,これを無点眼日と定義して,それぞれ該当日数をカウントした.一方,切り替え後は1剤のみ1回点眼となるため,点眼をさし忘れた日があれば,その日は必然的に無点眼日とみなした.そのうえで,1カ月間の該当日数を,なし(完全な点眼ノルマ達成),1日以上4日以内,5日以上8日以内に区分し,切り替え前後のアドヒアランスの変化を検討した.4.統計学的解析平均眼圧の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を,眼圧の経時変化については一元配置分散分析を,アドヒアランスの検討にはFisherの直接確率検定またはKruskal-Wallis検定を用い,危険率5%未満を有意とした.II結果1.眼圧の推移平均眼圧は,切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで有意な差はなかった(p=0.088).切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた症例とそれより下降した症例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられたが,そのほとんどは1mmHgを若干超えた程度の軽微な上昇の範囲にとどまっていた(図1).切り替え前後の眼圧の変化を図2に示す.経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).なお,今回の検討では,眼圧測定25%75%■:>+1mmHg■:±1mmHg:<-1mmHg020406080100(%)図1切り替え前後の平均眼圧の変化切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた例とそれより下降した例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられた.(110) 切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.前日および当日の点眼を忘れた例はなかった.2.アドヒアランスの変化1カ月の間,点眼忘れがまったくなかった症例の割合,すなわち完全点眼達成率は,切り替え前がわずか18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと大幅に改善した(p=0.012).点眼遵守状況の詳細を図3に示す.無点眼日数のみを抽出すると切り替え前後で有意な差はなかったものの(p=0.070),切り替え前の不完全点眼日数と切り替え後の無点眼日数との間には有意差が認められ(p=0.036),切り替え後は点眼忘れの頻度が減少していた.しかしながら,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,毎日なんらかの点眼がなされていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日でも点眼忘れがあったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.III考按緑内障診療において唯一の治療的エビデンスを有するのは眼圧下降であり,特別な事情がない限り,まずは点眼による治療が優先される.一般に,点眼は1剤から開始されるのが通例であるが,眼圧下降が不十分であると判断されたときは薬剤の変更や追加が考慮される8).当然ながら,目標眼圧達成のノルマが厳格になればなるほど多剤併用療法にシフトされる傾向が強くなり,それに伴いアドヒアランスの低下や副作用発現の増加といったトラブルも増すことになる.一方,2種類の独立した薬効を併せ持つ配合剤には,薬剤数と点眼回数の減少に伴う患者の利便性の向上が期待できる,複数の点眼薬の連続点眼による洗い流し効果がない,防腐剤の曝露量が減少するため眼表面疾患の発症リスクを最小限にできるなどといったさまざまな利点を有することが指摘されている9).したがって,配合剤の適切な使用は,多剤併用療法が抱えるいくつかの欠点を補う可能性があり,現在のところ,(111)不完全LAT点眼日数+TIM無点眼日数LTFC無点眼日数0%80%100%18.8%68.7%12.5%100%62.5%20%40%60%31.3%6.2%:なし/月■:1~4日/月■:5~8日/月図3点眼遵守状況完全点眼達成率は切り替え前の18.8%から切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012)が,切り替え前は無点眼日があるとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%に認められた.LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).配合剤の成分を含む2種類の点眼からの切り替え,あるいは,単剤に別の薬効をもつ薬剤の追加を考慮する際などにおいて,投与が検討されうる立ち位置にあるものと考えられる.多剤併用と配合剤との比較試験に関する海外からの報告を参照すると,眼圧下降効果は配合剤へ変更後も同等と結論づけるものが多いなか1.3),Hamacherらはさらに下降4),Diestelhorstらはむしろ上昇したとしている5).このうち上昇に転じたとするDiestelhorstらの検討5)では,配合剤の点眼時刻が朝8時であった点が,夜に点眼をさせたとする他の報告とは異なるため,解釈には若干注意が必要である.今回は,切り替え前の治療薬をラタノプロストと2回点眼のチモロールマレイン酸塩のみに限定したことに加え,除外基準を厳格化することで研究精度をできるだけ保つよう努めただけでなく,切り替え前後それぞれ1年という比較的長期にわたる観察期間を設定したため,組み入れ症例数は少数にとどまったが,眼圧に関しては,経時的にも平均値の比較においても切り替え前後で有意差を認めず,この点については海外の多くの報告と同様であった.平均眼圧の変化に関してPoloら3)は,切り替え後,79%の症例が1mmHg以内に維持,または,それより下降したとしており,これも今回の筆者らの結果と類似している.したがって,2剤併用療法から配合剤へ切り替えたときの眼圧下降効果は,多くの症例で同等であると考えて差し支えないと思われる.一方,点眼に対する動機付けを強いられる今回のような臨床試験とは異なり,実際の日常臨床においては,少なくとも多剤併用時の点眼忘れの頻度はもっと高いものであると推察される.そのような状況下において配合剤へ変更した場合,臨床試験のときと比べ,患者は利便性の向上感をより強く自覚することが予想され,そうなると点眼遵守度の大幅な改善が期待されることから,切り替え後の眼圧はさらに下降する可能性が考えられあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012833 る.よって,今回の筆者らの結果も踏まえて考察するに,配合剤は,少なくとも眼圧に関しては比較的安心感をもって使用できるものであると思われる.従来から,点眼薬数や点眼回数の増加によるアドヒアランスの悪化が指摘されている10)が,配合剤はこれを改善させうることが報告されている2).今回の検討でも,点眼忘れがまったくなかったとする症例の割合が,切り替え後は大幅に増加したことに加え,切り替え前の不完全点眼日数との比較においても,切り替え後の点眼忘れの頻度は有意に減少し,アドヒアランスは明らかに改善したことが示された.一方で,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,3回点眼という完全なノルマを達成できなかった日であっても,ラタノプロストまたはチモロールマレイン酸塩の両方,あるいは,どちらか一方が,1回ないし2回は点眼されていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日であっても無点眼日があったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.Okekeらは,1日1回の単剤点眼でさえ,実際に点眼回数が守られていたのは約7割にすぎないことを報告しており11),このことは今回の筆者らの結果を裏づけるものであると思われる.配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩のみで治療を行う場合,点眼忘れのあった日は,1日を通して治療がまったく行き渡らないことを意味しており,したがって,切り替えにより包括的にアドヒアランスが向上したとしても,これを無条件で歓迎するのは危険である.万一,無点眼日の眼圧が大幅に上昇しているとすれば,眼圧の日々変動が大きくなり,結果,緑内障性視神経症の悪化につながらないとも限らない.よって,配合剤に切り替えた後の点眼忘れには特に注意を払い,これまでにも増して点眼指導の徹底を図ることが重要であると思われる.一方,本研究の組み入れ症例数はきわめて少ないものであったため,今回の結果をもってただちに結論を導き出すのは時期尚早といえる.今後,わが国においても大規模かつ多施設での試験が積極的に行われることを期待し,多くの貴重なデータの蓄積を待ちたいところである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DiestelhorstM,LarssonLI:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20062)DunkerS,SchmuckerA,MaierH:Tolerability,qualityoflife,andpersistencyofuseinpatientswithglaucomawhoareswitchedtothefixedcombinationoflatanoprostandtimolol.AdvTher24:376-386,20073)PoloV,LarrosaJM,FerrerasAetal:Effectondiurnalintraocularpressureofthefixedcombinationoflatanoprost0.005%andtimolol0.5%administeredintheeveninginglaucoma.AnnOphthalmol40:157-162,20084)HamacherT,SchinzelM,Scholzel-KlattAetal:Shorttermefficacyandsafetyinglaucomapatientschangedtothelatanoprost0.005%/timololmaleate0.5%fixedcombinationfrommonotherapiesandadjunctivetherapies.BrJOphthalmol88:1295-1298,20045)DiestelhorstM,LarssonLI:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20046)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1161-1169,20047)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1641-1648,20058)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20129)石川誠,吉冨健志:緑内障治療薬配合剤.あたらしい眼科27:1357-1361,201010)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,200911)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Interventionsimprovepooradherencewithoncedailyglaucomamedicationsinelectronicallymonitoredpatients.Ophthalmology116:2286-2293,2009***834あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(112)

プロスタグランジン点眼薬に対する副作用出現あるいはノンレスポンダー症例のゲル化チモロール点眼薬への変更

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):827.830,2012cプロスタグランジン点眼薬に対する副作用出現あるいはノンレスポンダー症例のゲル化チモロール点眼薬への変更井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第2講座EffectofSwitchingfromProstaglandinEyedropstoGel-formingTimololSolutioninProstaglandinNon-respondersorThosewithAdverseReactionsKenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)点眼薬でノンレスポンダーや眼局所副作用が出現した症例をゲル化チモロール点眼薬へ変更した際の眼圧下降効果と副作用を検討した.PG点眼薬を単剤で使用し,ノンレスポンダーあるいは眼局所副作用のために継続困難であった原発開放隅角緑内障や高眼圧症患者21例21眼を対象とした.PG点眼薬を中止し,熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更した.変更時と変更1,3カ月後の眼圧を比較した.副作用出現例では副作用症状を調査した.眼圧は変更前後で変化なかった.ノンレスポンダー症例(8例)で10%以上の眼圧下降を変更1カ月後37.5%,3カ月後25.0%で示した.副作用出現例(13例)での副作用症状は全例で改善あるいは消失した.PG点眼薬によるノンレスポンダーや副作用出現症例を熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更することで,約30%の症例で眼圧下降が得られ,副作用が改善し,有用である.Weinvestigatedtheeffectandsafetyofthermosettinggeltimololsolution.Subjectscomprised21patients(21eyes)diagnosedwithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension,whowereusingprostaglandineyedropmonotherapyandwerenon-respondersorsufferedadversereactions.Prostaglandineyedropswerediscontinuedandthermosettinggeltimololsolutionwasinitiated.Comparisonofintraocularpressure(IOP)beforeandat1and3monthsafterswitchingrevealednodifferencesinIOPbetweenbeforeandaftertheswitch.Intheprostaglandinnon-responders(8cases),IOPdecreaseofover10%wasobservedin37.5%at1monthaftertheswitchandin25.0%at3months.Inthecasesthathadsufferedadversereactionstoprostaglandin(13cases),theadversereactionseitherimprovedordisappearedinall13cases.Inpatientstakingprostaglandineyedropswhowereeithernon-respondersorhadadversereactions,aftertheyswitchedfromprostaglandintothermosettinggeltimololsolution,IOPdecreasewasseeninabout30%andadversereactionsimproved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):827.830,2012〕Keywords:熱応答ゲル化チモロール点眼薬,プロスタグランジン点眼薬,ノンレスポンダー,眼局所副作用,変更.thermo-settinggeltimololsolution,prostaglandineyedrops,non-responder,adversereaction,switch.はじめに緑内障治療の最終目標は残存視野の維持である.そのために高いエビデンスが得られている唯一の治療が眼圧下降である1).眼圧下降のための第一選択は通常点眼薬治療である.そのなかでも強力な眼圧下降作用2)と全身性副作用の少なさと1日1回点眼の利便性からプロスタグランジン(PG)点眼薬が第一選択薬として用いられることが多い3).しかしPG点眼薬の問題点として,ノンレスポンダーの存在4.7)やPG点眼薬に特有の眼局所副作用(眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,睫毛延長,睫毛剛毛化,上眼瞼溝深化)の出現8.19)があげられる.PG点眼薬によるノンレスポンダーや眼局所副作用出現例では,PG点眼薬を中止し,他の点眼薬に変更せざるをえない8.12).その際に1日1回点眼の利便性を考慮するとゲル化チモロール点眼薬が最適であると考えられる.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)827 今回,PG点眼薬によるノンレスポンダーや眼局所副作用出現例に対して,熱応答ゲル化チモロール点眼薬(リズモンRTG,わかもと製薬)に変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2010年3月から2011年4月の間に井上眼科病院に通院中の患者で,PG点眼薬(1日1回夜点眼)を単剤使用中で,ノンレスポンダーあるいは眼局所副作用が出現し,PG点眼薬が継続困難となった緑内障や高眼圧症の連続した患者21例21眼を対象とした.男性5例,女性16例,年齢66.0±10.1歳(平均値±標準偏差)であった.緑内障病型は正常眼圧緑内障14例,原発開放隅角緑内障6例,高眼圧症1例であった.ノンレスポンダー症例は8例,副作用出現症例は13例であった.前投薬(PG点眼薬)は,ノンレスポンダー症例ではトラボプロスト点眼薬3例(37.5%),タフルプロスト点眼薬3例(37.5%),ラタノプロスト点眼薬2例(25.0%),副作用出現症例ではビマトプロスト点眼薬7例(53.8%),トラボプロスト点眼薬4例(30.8%),タフルプロスト点眼薬1例(7.7%),防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬(ラタノプロストPF)1例(7.7%)であった.ノンレスポンダーの判定は,PG点眼薬を単剤で2カ月間以上使用し,眼圧下降率が10%未満の症例とした.副作用出現症例の副作用は表1に示す.副作用出現の判定は患者からの申し出とした.出現症例では午前6例,午後7例であった.ノンレスポンダー症例では眼圧測定時間別(午前と午後)に眼圧下降率を比較した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果全症例(21例)での眼圧は変更時16.5±3.7mmHg,変更1カ月後15.6±3.2mmHg,変更3カ月後16.2±3.7mmHgで変更前後に有意差はなかった(図1).ノンレスポンダー症例(8例)での眼圧はベースライン(無治療時)18.3±2.7mmHg,PG点眼薬使用中18.2±2.9mmHg,変更時18.5±2.9mmHg,変更1カ月後17.3±3.6mmHg,変更3カ月後18.0±2.1mmHgですべての時点で有意差はなかった(図2).眼圧下降率は,変更1カ月後は10%以上が3例(37.5%)10%未満が5例(62.5%),変更3カ月後は10%以上が2例(,)(25.0%),10%未満が6例(75.0%)であった(図3).眼圧が10%以上上昇した症例はなかった.眼圧測定時間別に検討すると眼圧下降率は午前群1.4±12.2%,午後群1.7±11.6%で同等であった(p=0.9718).副作用出現症例(13例)での眼圧は変更時15.2±3.7mmHg,変更1カ月後14.5±2.5mmHg,変更3カ月後15.0±3.7mmHgで変更前後に有意差PG点眼薬を中止し,washout期間なしで熱応答ゲル化チ25.0(ANOVA).副作用出現例では副作用症状の経過を観察した.眼圧測定は症例ごとにほぼ同時刻に行った.眼圧測定時0.0NS変更時変更1カ月後変更3カ月後間はノンレスポンダー症例では午前3例,午後5例,副作用図1全症例での変更前後の眼圧(ANOVA,NS:notsignificant)表1副作用症例の内訳モロール点眼薬(1日1回朝点眼)に変更した.眼圧を変更眼圧(mmHg)20.0時と変更1,3カ月後にGoldmann圧平式眼圧計で測定し,15.0比較した(ANOVA:analysisofvariance).ノンレスポン10.0ダー症例では眼圧下降率を算出した.ノンレスポンダー症例と副作用出現症例に分けて変更前後の眼圧を比較した5.0ベースラインPG製剤使用熱応答ゲル化チモロールに変更25.020.015.010.05.00.0眼圧(mmHg)NS副作用前投薬上眼瞼溝深化5例ビマトプロスト点眼薬3例トラボプロスト点眼薬2例結膜充血3例ビマトプロスト点眼薬3例ビマトプロスト点眼薬1例眼瞼色素沈着3例トラボプロスト点眼薬1例タフルプロスト点眼薬1例眼痛1例ビマトプロスト点眼薬異物感1例ビマトプロスト点眼薬ベースPG使用時変更時変更変更ライン平均1カ月後3カ月後霧視1例ラタノプロスト点眼薬図2ノンレスポンダー症例での変更前後の眼圧(ANOVA,視力低下1例トラボプロスト点眼薬NS:notsignificant)828あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(106) 変更1カ月後変更3カ月後10%以上,3例,37.5%10%未満,5例,62.5%10%以上,2例,25.0%10%未満,6例,75.0%図3ノンレスポンダー症例での変更後の眼圧下降率はなかった.しかし,眼圧が10%以上上昇した症例が2例あり,これらの前投薬はトラボプロスト点眼薬であった.出現した副作用は変更後に13例全例で自覚的には改善あるいは消失した.他覚的評価が可能であった症例のうち結膜充血は消失,眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化は改善していた.視力低下は変更前後で矯正視力に変化はなかったが,自覚的には元に戻ったと感じていた.III考按PG点眼薬にはノンレスポンダーが存在し,ラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度は8%4),8.6.26.3%5),10%6),14.3.20.9%7)と報告されている.しかし,ノンレスポンダーの定義は各報告で異なり,outflowpressureが0以下5),眼圧下降率10%未満4,6,7)などとされている.PG点眼薬のノンレスポンダー症例に対しては点眼薬を変更する必要がある.PG点眼薬のノンレスポンダー症例に対してPG点眼薬を中止してb遮断点眼薬に変更した際の眼圧下降効果は,現在のところラタノプロスト点眼薬に対する症例の報告しかない8.10).中元ら8)は,ラタノプロスト点眼薬を8週間投与し,眼圧下降率が10%未満の正常眼圧緑内障7例7眼を2%カルテオロール点眼薬に変更し8週間投与した.眼圧はラタノプロスト点眼薬治療時14.7±2.2mmHgとカルテオロール点眼薬治療時15.4±3.2mmHgで変化なかった.7眼中2眼(29%)で眼圧が下降したが,無治療時に対する眼圧下降率は0.4±10.4%,眼圧下降率が10%以上となった症例は1眼(14.3%)であった.菅野ら9)は,ラタノプロスト点眼薬を投与し,1カ月後,2カ月後の眼圧下降率が10%未満の原発開放隅角緑内障あるいは正常眼圧緑内障10例をレボブノロール点眼薬に変更し3カ月間投与した.眼圧は変更1カ月後16.2±2.9mmHg,2カ月後15.8±3.2mmHg,3カ月後15.2±4.1mmHgで,無治療時(19.1±5.0mmHg)やラタノプロスト点眼2カ月後(19.2±4.2mmHg)に比べて有意に下降した.正常眼圧緑内障9例では,無治療時と比べて変更3カ月後に7例(77.8%)が眼圧下降率10%以上になった.一方,比嘉ら10)は,眼圧下降率には言及していない(107)が,ラタノプロスト点眼薬で眼圧下降効果が不十分であった2例を熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更したところ眼圧が下降したと報告した.今回はPG点眼薬のノンレスポンダー症例に対してPG点眼薬を中止して,熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更した.この際にPG点眼薬を中止して他のPG点眼薬に変更する方法も考えられる.熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更した理由として,他のPG点眼薬に対してもノンレスポンダーの可能性があること,1日1回点眼の利便性を有するからである.眼圧は変更前後で変化なかった.眼圧下降率が10%以上となった症例は,変更1カ月後37.5%,3カ月後25.0%で,カルテオロール点眼薬へ変更した報告8)よりは良好であったが,レボブノロール点眼薬9)へ変更した報告よりは不良であった.その理由として,過去の報告8.10)ではPG点眼薬のうちラタノプロスト点眼薬によるノンレスポンダー症例のみを対象としているために今回と結果が異なった可能性が考えられる.眼圧の評価として眼圧の日内変動あるいは点眼時間を考慮する必要がある.PG点眼薬は夜点眼のため午後群ではトラフ値に近い値,熱応答ゲル化チモロール点眼薬は朝点眼のため午前群ではピーク値に近い値であった可能性が考えられる.眼圧測定時間別に検討すると眼圧下降率は午前群と午後群で同等であった.眼圧の評価をより詳細に行うためには眼圧日内変動を測定しなければならないが,今回はそこまで行うことができなかった.眼瞼色素沈着,眼瞼部多毛,睫毛延長,睫毛剛毛化などの副作用が出現したためにラタノプロスト点眼薬を中止し,他の点眼薬へ変更したことで副作用が改善したと報告されている11,12).泉ら11)は,眼瞼色素沈着,眼瞼部多毛,睫毛延長,睫毛剛毛化が出現した21例35眼に対してラタノプロスト点眼薬を中止してウノプロストン点眼薬に変更し,6カ月間経過観察した.変更6カ月後の写真判定で眼瞼色素沈着は29%,眼瞼部多毛は43%,睫毛延長は44%,睫毛剛毛化は44%で改善した.自覚的には眼瞼色素沈着は71%,眼瞼部多毛は92%,睫毛延長は44%,睫毛剛毛化は44%で気にならなくなった.久我ら12)は,眼瞼色素沈着または眼瞼部多毛が出現した12例21眼に対してラタノプロスト点眼薬を中止してウノプロストン点眼薬に変更し,6カ月間以上経過観察した.写真判定で眼瞼色素沈着は68.4%,眼瞼部多毛は76.9%で改善した.自覚的には眼瞼色素沈着は90.9%,眼瞼部多毛は71.4%で改善した.今回のPG点眼薬で副作用が出現した13例では熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更したところ,全例で副作用が自覚的,他覚的に改善あるいは消失した.この結果から,熱応答ゲル化チモロール点眼薬はPG点眼薬よりも眼局所に対しての安全性が高いと考えられる.さらに同じPG点眼薬であるウノプロストン点眼薬に変更する11,12)よりも熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更するほうが副作用の観点からは有用である可能性が示唆される.あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012829 しかし,副作用出現症例では熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更後に10%以上の眼圧上昇例が2例(前投薬トラボプロスト点眼薬)あり,それらの副作用は上眼瞼溝深化,視力低下各1例であった.上眼瞼溝深化に対してPG点眼薬を中止し,他のPG点眼薬,配合点眼薬へ変更,あるいはレーザー治療を行うことで上眼瞼溝深化が改善あるいは消失したと報告されている13.19).今回他のPG点眼薬へ変更する選択肢も考えたが,b遮断点眼薬へ変更することで副作用に対するPG点眼薬の影響をより少なくできると考えた.眼圧上昇のリスクを考えるとb遮断点眼薬よりも他のPG点眼薬へ変更したほうがよいかもしれない.副作用出現症例では熱応答ゲル化チモロール点眼薬へ変更した際に平均眼圧に変化はなかった.PG点眼薬のほうがb遮断点眼薬に比べて眼圧下降効果は強力2)であるが,この乖離の原因として今回の症例中に副作用が出現したためにアドヒアランスが低下した,あるいはPG点眼薬のノンレスポンダー症例が潜んでいた可能性が考えられる.今回PG点眼薬のノンレスポンダーや副作用出現症例を熱応答ゲル化チモロール点眼薬に変更したところ,ノンレスポンダー症例の約30%で眼圧が下降し,副作用は全例で自覚的に改善したが,約15%の症例で眼圧が10%以上上昇した.PG点眼薬のノンレスポンダーや副作用出現症例に対してPG点眼薬を中止して熱応答ゲル化チモロール点眼薬へ変更することはおおむね有用であるが,眼圧が上昇する症例もあり注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,20093)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査2009─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20114)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20035)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,20026)SusannaRJr,GiampaniJJr,BorgesASetal:Adouble-masked,randomizedclinicaltrialcomparinglatanoprostwithunoprostoneinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology108:259-263,20017)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,20058)中元兼二,安田典子:正常眼圧緑内障のラタノプロスト・ノンレスポンダーにおけるカルテオロールの変更治療薬および併用治療薬としての有用性.臨眼64:61-65,20109)菅野誠,山下英俊:ラタノプロストのノンレスポンダーに対するレボブノロールの投与.臨眼60:1025-1028,200610)比嘉弘文,名城知子,上條由美ほか:チモロール熱応答型ゲル点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科24:103-106,200711)泉雅子,井上賢治,若倉雅登ほか:ラタノプロストからウノプロストンへの変更による眼瞼と睫毛の変化.臨眼60:837-841,200612)久我紘子,宮内修,藤本尚也ほか:ラタノプロストの副作用発現例のウノプロストンへの切り換えにおける有効性と安全性.臨眼58:1187-1191,200413)AydinS,L..kl.gilL,Tek.enYKetal:Recoveryoforbitalfatpadprolapsusanddeepeningofthelidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy:2casereportsandreviewoftheliterature.CutanOculToxico29:212-216,201014)YamJCS,YuenNSY,ChanCWN:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200915)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy-anunfamiliarsideeffectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,201016)FilippopoulosT,PaulaJS,TorunNetal:Periorbitalchangesassociatewithtopicalbimatoprost.OphthalPlastReconstrSurg24:302-307,200817)PeplinskiLS,SmithKA:Deepeningoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,200418)YangHK,ParkKH,KimTWetal:Deepeningofeyelidsuperiorsulcusduringtopicaltravoprosttreatment.JpnJOphthalmol53:176-179,200919)渡邊逸郎,圓尾浩久,渡邊一郎:トラボプロスト点眼によって上眼瞼陥凹をきたした1例.臨眼65:679-682,2011***830あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(108)

スペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼圧緑内障篩状板の画像解析

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):823.826,2012cスペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼圧緑内障篩状板の画像解析小川一郎今井一美慈光会小川眼科ImagingofLaminaCribrosainNormalTensionGlaucomaUsingSpectralDomainOpticalCoherenceTomographyIchiroOgawaandKazumiImaiJikokaiOgawaEyeClinic正常眼圧緑内障(NTG)の発症頻度はきわめて高いにもかかわらず,眼痛などを訴えないためか剖検例はきわめてまれである.しかし,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の進歩により,随時NTGの視神経乳頭陥凹の形状および篩状板の画像所見が容易に観察記録できるようになった.通常OCTによる網膜黄斑部解析はvitreousmodeで行われているが,今回使用された3D-OCT(トプコン社1000-MarkII)のchoroidalmodeにより,より深層の篩状板を含む緑内障性乳頭陥凹の形状および篩状板を明瞭に画像解析ができるようになった.対象は正常人(50.79歳)35眼,NTG各期45眼.原発開放隅角緑内障(POAG)各期14眼につき画像解析を行い,トプコン社3D-OCTのcaliperで篩状板の厚さの計測を行った.NTGでは乳頭陥凹は進行の時期に伴い,主としてバケツ型,ないし深皿型で深くなる.しかし,篩状板表面および裏面は進行期でもほとんどの症例で下方へ向かい弯曲せず,比較的平坦で,かなりの厚さを保っているものが多い.従来明らかでなかったNTGの視神経乳頭陥凹の形状,篩状板の病態を非侵襲的に随時明瞭に示し,経過観察記録と病因解明に有用であると考えられた.Pathologicalcasesofnormaltensionglaucoma(NTG)areextremelyrare,despitenumerousclinicalcases.Now,however,wecanobserveimagesofopticdiscexcavationandlaminacribrosainNTGbythechoroidalmodeof3D-OCT(TopconCo.1000-MarkII;ScanSpeed27,000)atanytime.Incasescomprising35eyesofnormalpersons(50.79yearsofage),45NTGeyesand14primaryopenangleglaucoma(POAG)eyes,2.3eyesofeachstage,opticdiscexcavationformwasobservedtobemainlybucketordeepplate.Laminacribrosawasnotcurveddownward,butremainedrelativelyflatandmaintainedrelativethicknesseveninprogressedstage.Laminacribrosathicknesswasmeasuredusingcalipers.3D-OCTwasveryusefulforclearimagingofopticnerveexcavation,includinglaminacribrosa,andforobservingthecourseandpathologyofNTGcasesatanytime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):823.826,2012〕Keywords:スペクトラルドメイン光干渉断層計,正常眼圧緑内障,視神経乳頭陥凹,篩状板,caliper計測.3DOCT,normaltensionglaucoma,excavationofopticdisc,laminacribrosa,caliper.はじめに原発開放隅角緑内障(POAG)の剖検所見はすでにきわめて数多くの報告が行われている.しかし,正常眼圧緑内障(NTG)の発症頻度は高いにもかかわらず,わが国のみならず,欧米でも眼痛などがないためか,眼球摘出が行われる機会はほとんどなく,したがって剖検例もきわめてまれで電子顕微鏡所見を含む報告はIwataらによる1例のみである1).しかし,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の進歩によりNTGの各時期における視神経乳頭陥凹の形状および篩状板の画像所見が容易に観察記録できるようになった.〔別刷請求先〕小川一郎:〒957-0056新発田市大栄町1-8-1慈光会小川眼科Reprintrequests:IchiroOgawa,M.D.,OgawaEyeClinic,1-8-1Daiei-cho,Shibata-shi957-0056,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)823 I対象および方法通常,光干渉断層計(OCT)による網膜黄斑部画像解析は硝子体側に最も感度のよいvitreousmodeで行われているが,今回使用された3D-OCT(トプコン社1000-MarkII,ScanSpeed27,000)はより深部の強膜側に感度を合わせたchoroidalmodeで緑内障性視神経乳頭陥凹の画像解析を行い,陥凹の明らかな形状のみならず,篩状板の形状および厚さの計測も可能となった.なお,黄斑部の画像は認められやすくするため通常1:2に拡大しているが,視神経乳頭陥凹の画像はなるべく実測値比に近づけるため1:1の拡大にしてある.中間透光体の混濁,強度近視などが軽度で,さらにNTGでは篩状板が下方への弯曲がほとんどないので横径,縦径とも比較的明瞭に視認できる.採択率はNTGでは45眼/53眼(85%).POAGでは初期からすでに下方への弯曲が激しく始まり,篩状板も薄くなり測定部位には迷うこともあったが,ほとんど中央部で測定した.採択率15眼/20眼(75%).通常協同研究者と2名で行い,明らかに異なった結果が出た場合は症例から除外した.症例は正常人(50.79歳)35眼,各期のNTG45眼,POAG14眼の視力,眼圧,屈折+3.0..6.0D,Humphrey30-2(SitaStandard)による視野測定を行った.なお,乳頭陥凹の深さはmeancupdepth〔HRT(HeidelbergRtinaTomograph)II〕の数値を使用した.篩状板厚の測定はトプコン社の3D-OCTのcaliperで計測した.II結果1.正常人における視認率,視神経乳頭陥凹の平均の深さ,篩状板の厚さ正常人で50.79歳の症例21例35眼(+2.0..6.0D)の採択率は比較的良好で太い血管が篩状板の中央を貫通し,計測に障害を及ぼす確率は5%以下であった.視神経乳頭の3D-OCTによる画像所見の陥凹の篩状板までの深さはmeancupdepth(mm)(HRTII)などのレーザー測定値を利用した.陥凹の平均の深さは229.3±53.6μm.画像上で測定した35眼の篩状板の平均の厚さは269.21±47.30μm.2.3D.OCTによるPOAG,NTG症例の画像所見図1は64歳,男性.左眼POAG初期で視力は0.06(1.0),MD(meandeviation):.0.85dB.初診時の眼圧は24.2mmHg.ラタノプロスト1日1回点眼により1カ月後17.1図164歳,男性の左眼POAG初期(MD:.0.85dB)視神経乳頭の横断面,縦断面ともにほぼ同一弯曲で深く,篩状板は幾分薄い.表面の細孔はほぼ明瞭である.824あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(102) 図279歳,女性の左眼NTG中期(MD:.12.1dB)視神経乳頭陥凹は円筒状で深さは横断面,縦断面とも比較的経度,篩状板も水平状で比較的薄い,表面の細孔は明瞭に多数認められる.図388歳,男性の右眼NTG末期(MD:.24.5dB)横断面,縦断面ともに深いが,篩状板は比較的平坦で,厚さもかなり保たれている.イソプロピルウノプロストン単独点眼により10年以上右眼も視力1.0で,求心性視野狭窄10.0°を保ち進行を示していない.篩状板表面は萎縮が認められ,細孔ははっきりしないところが多い.(103)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012825 400300200100-5-10-15-20-250500:NTG:POAG:45眼回帰直線:14眼回帰直線篩状板厚(μm)400300200100-5-10-15-20-250500:NTG:POAG:45眼回帰直線:14眼回帰直線篩状板厚(μm)-30Meandeviation(dB)図4Meandeviationと篩状板厚との相関―NTGとPOAGの比較―mmHg.視神経乳頭陥凹は横断面,縦断面ともに初期にかかわらず凹弯はすでに深く(575μm),篩状板は比較的薄くなっている(283μm).表面の細孔はほぼ明瞭.ラタノプロスト8年点眼後,トラボプロスト1年点眼中でほぼ進行を認めない(図1).図2は79歳,女性.左眼NTG中期で,MD:.12.1dB.視神経乳頭陥凹は円筒状で,陥凹はかなり深い(328μm)が,篩状板は水平で比較的厚い(271μm).視力はVS=0.8,眼圧は12.1mmHg→9.2mmHg.ラタノプロスト10年点眼で進行を認めない(図2).図3は88歳,男性.右眼NTG末期で,MD:.24.5dB.視神経乳頭陥凹は横断面,縦断面ともに凹型できわめて深い(549μm)が,篩状板はかなり厚さを保っている(319μm).イソプロピルウノプロストン単独10年点眼によりVD=1.0,右眼眼圧は13mmHg→9mmHg,中心視野10°を保ちその間10年にわたり進行を認めていない(図3).3.篩状板の厚さとMDとの相関NTG45眼とPOAG14眼に関して篩状板厚(LCT)とMD値との相関についてPearsonの相関係数で検討した.その結果,POAGでは視野狭窄の進行に伴い,篩状板の厚みは視野狭窄とともに薄くなるが,計数の変化の有意差は認められなかった.一方,NTGでは視野が進行してもばらつきがあり,有意差は認められなかった(図4).4.篩状板内の細管篩状板の細管が真っすぐ立ち上り枝分かれせず,乳頭面上に盃形に約6.7倍以上に拡大し開孔している所見が認められることがある.OCTの機能は日進月歩で改善しつつあるので,近い将来にはさらに詳細な病変を捉え得る可能性もあると考えられる.III考按“はじめに”の項にも述べたごとく,NTGの視神経乳頭に826あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012おける病理組織について述べた文献はきわめてまれである.福地ら2)は特徴的所見として,1)貧弱な篩状板ビームとその著しい変形,2)視神経乳頭全域での著明な軸索の腫脹と脱落,空洞化変性,3)明瞭な傍乳頭萎縮(PPA)とその部に一致した軸索腫脹などをあげている.そして筆者らによる3D-OCT検査では篩状板の空洞化などの組織学的変化は認められなかった.なお,Inoueら3)は3D-OCT(18,700AS/second)で高眼圧性POAGの30例52眼について篩状板を画像解析した.その厚さの平均値は190.5±52.7μm(range80.5.329.0).そして篩状板の厚さは視野障害と有意の相関を示したことを述べた.また,Parkら4)はNTG眼では篩状板は薄く,特に乳頭出血を伴う場合には薄くなることを認めた.筆者らはPOAGではPearson相関係数で視野狭窄の進行に伴い,篩状板の厚さが薄くなると予想され,その傾向はあったが,有意差は認められなかった.NTGも視野狭窄が進行しても篩状板は下方へ弯曲することなく,いずれもかなりの厚さを保っていて,菲薄化については有意な相関は認められなかった.以上の所見から明らかなごとく,筆者らは結果として3D-OCTによりNTGについてはいまだ文献上記載がみられなかった事実としてほとんどの症例で篩状板は視野進行例でも下方へ弯曲せず,flatでかなりの厚さを保っていることを認めた.ただ,今回の症例のうちでも10年を超える長期間ウノプロストンやプロスタグランジン系点眼をしている症例もあり,この長期点眼薬がNTGの乳頭陥凹,篩状板にいかなる変化をきたしているのかについては今後の検討に俟ちたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwataK,FukuchiT,KurosawaA:Thehistopathologyoftheopticnerveinlow-tensionglaucoma.GlaucomaUpdateIV.p120-124,Springer-Verlag,Berlin,Heidelberg,19912)福地健郎,上田潤,阿部春樹:正常眼圧緑内障眼の視神経乳頭における病理組織変化.臨眼57:9-15,20033)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflaminacibrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,20094)ParkHY,JeonSH,ParkCK:Enhanceddepthimagingdefectslaminacribrosathicknessdifferencesinnormaltensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology119:10-20,2012(104)

後期臨床研修医日記 17.千葉大学医学部眼科学教室

2012年6月30日 土曜日

●シリーズ⑰後期臨床研修医日記千葉大学医学部眼科学教室新沢知広千葉大学医学部附属病院眼科では現在3名の後期研修医が研修に励んでいます.山本修一教授をはじめ,各専門の先生方の指導のもと,多忙ながらも充実した日々を送っています.女性医師の多いイメージの眼科ではありますが,今年の後期研修医は男子3人です.お互い神経を使わず自由にできるところは気持の面で楽でとても良いと感じています.簡単にではありますが,3人を代表して研修医生活を紹介させていただきたいと思います.眼科は朝の診察からずいぶん朝早くからやるんだね~と入院した患者さんはきまって驚く,患者さんで満ちた朝の診察室.毎日ここからスタートです.8時から患者さんは朝食,私たちは朝のカンファレンス(月水金)もしくは手術(火木)となるため,それまでに担当患者さんの診察を終える必要があります.当院では一人の患者さんに対し,基本的には外来・病棟ともに同じドクターが担当することになっています.後期研修医はオーベンの先生や術者の先生とともに患者さんを担当します.術後の患者さんの眼底は見づらく,ガスなんて入っていればもう全然,ガス越しに眼底なんか見えるのか,という感じでしたが,人間とは慣れるものですね.徐々に見えるようになってきました.所見はまだまだですが….朝のカンファレンス・教授回診月水金の朝8時より,朝のカンファレンスと教授回診が行われます.術前患者さんのプレゼンと術後患者さんの報告が主になります.何言ってるかわかんねえよ!という心の声が聞こえてこないように(たまに本当に聞こえてくる?),限られた時間のなかで,ポイントをついたプレゼンが要求されます.(95)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY▲後期研修医(左から林田,新沢,三田村.外来にて)外来朝の診察・回診が終わると,もう一仕事した感じがして疲れが襲ってくるのですが,ほっと一息,ではなく外来が始まります.後期研修医は6カ月の研修期間を過ぎると,一般外来の初診とその患者さんの再診を受け持つことになります.初期研修医の選択科目として眼科研修を行っていると,その分外来に出るタイミングが早くなります.僕は7カ月選択研修を行っていたため,4月から外来に出ることになりました.外来はチーフの先生,専門外来の先生とともに診ていくことになります.散瞳時間,種々の検査,時間によっては食事などを考えて診察だけでなく,患者さんのマネジメントが必要であり,これが狂うと外来は大惨事になりかねません.診療時間内にすべての患者さんの診察を終えるのにもう必死です.手術月火木曜日は手術日です.研修医3人の担当する曜日が分かれており,週に1日ないし2日が手術日になります.手術は3列同時に行っており,自分の担当患者さんあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012817 ▲FAカンファレンス風景(写真手前側に写っていない先生方多数)の助手や,各部屋の状況をみながら助手・外回り・器械出し(夜勤帯では)を行います.またもちろん,自分執刀の手術もあります.当院では後期研修医1年目の目標に白内障手術の完投があります.上級医の先生方が簡単そうにやっていることが,できません.目の前の眼が思い描いている光景に,なりません.助手側からの顕微鏡に慣れているため,なぜか術者側の顕微鏡のほうが見にくい?なんて….まだまだ修行が足りません.カンファレンス・勉強会全体では,毎週月曜日夜に行われるFAカンファレンス,第一水曜日夜に行われる緑内障カンファレンス,第2,4週月曜日朝に行われる抄読会などがあります.FAカンファレンスでは,FA・IAを施行した症例の検討,またFAに限らず,症例報告や難症例の検討などを行っています.緑内障カンファレンスでは,検討症例を持ちよりディスカッションなど.抄読会は,2~3カ月に1回自分の発表の順番がまわってきます.この会はすべて英語で行われます.自分の読んだ論文を英語でプレゼンし,ディスカッションも英語で行うことになります.皆普通に英語でディスカッションできるのが,僕には非常に不思議な思いです.病棟業務眼科という科の特性なのでしょうが,日中はどうしても外来や手術がありますので,入院患者さんの診療は朝と夜になります.患者さんからすると,朝食前と夕食後の診察になるので,入院すると患者さんは,朝早くから818あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012▲上級医指導のもと,豚眼で練習する筆者夜遅くまで大変~とだいたい僕らの体を心配してくれます.ん,もしかして,僕が不健康そうに見えるだけなのでしょうか?術前の眼底スケッチをしたり,オーダーを出したり,手術予定を組んだり,外来の残務をしたり,調べ物をしたり,学会発表の準備をしたりと夜が更けていきます.もうこれは明日にしよう,と心からの声と薄れゆく意識と戦い,だいたい負けます(笑).後回しにするともっと面倒な事態になることが多いので,なるべく早く片付けるようにはしているつもりですが,この紹介記事も締め切りギリギリに書いている現実からするとやはり負けているのでしょう.当直・待機・土日平日夜と土日は月3~4回程度,当直と待機があります.上級医の先生が待機についてくれているので困ったことがあったら,深夜に心苦しくも相談です.土日には決まった業務はありませんが,担当患者さんが入院していることがほとんどですので診察を行います.おわりに当院での研修生活について簡単ですが,紹介させていただきました.当科は,千葉大学だけでなく,他大学出身の先生も多く,医局全体の雰囲気はとてもよく働きやすい環境だと思います.病棟や外来スタッフともとても仲良くやっており,飲み会や医局旅行などのイベントはとても面白いです.だいたい後でびっくりするような写真が出てきますが….千葉市という人口100万人都市にありながら,房総(96) 半島の地域医療の拠点でもある当院では,さまざまな疾患を経験することができます.その分ハードな毎日ではありますが,幅広い疾患に対応できるようになるため,研修医としてはとてもよい環境であると思います.未熟な点を痛感する毎日ですが,一人前の眼科医になれるよう日々努力していきたいと思います.〈プロフィール〉新沢知広(にいざわともひろ)平成21年弘前大学医学部医学科卒業,同年より千葉大学医学部附属病院(B1プログラム)で初期研修医(平成21年度千葉労災病院,平成22年度千葉大学附属病院),平成23年度千葉大学医学部眼科学教室入局後期研修医.千葉大学医学部学生に対して,また他大学の学生や研修医が見学に来るときなどにアピールする点は,①まず大学に入るべし,②眼科に入るべし,③プラス,千葉はGoodの3点です.①②では他大学の眼科に入局されてしまうかもしれないし,大学以外でも眼科以外でも,専門を決めるのは恋愛と同様に運命的な相性(タイミング)なので,今回の3人の入局にどれだけ影響があったかわかりません.最初から決まっていたかもしれません.ここは外人部隊で母校出身者は少ないけど,風に吹かれて同じ船に乗って新世界に航海しています.①他の施設から大学へのベクトル(流れ)はないか指導医からのメッセージら,リストラのない医師が30年以上仕事を続けるなら大学からスタートしたほうが選択肢が多い.先のことはわからない.②眼は小宇宙.小さいけど緻密に無限大.オペ中に観る世界は美しい世界.サージカル苦手になってもメディカルで活かせる.サブスペシャリティーは沢山ある.③千葉県は対人口比では眼科医がものすごく少ない.都心に近いのに自然が豊富で温暖,海も綺麗,大きな空港にも近い,ディズニーランドもある.よく遊びよく学ぼう.(千葉大学医学部附属病院眼科・講師菅原岳史)☆☆☆(97)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012819

My boom 5.

2012年6月30日 土曜日

監修=大橋裕一連載⑤MyboomMyboom第5回「植木麻理」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑤MyboomMyboom第5回「植木麻理」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介植木麻理(うえき・まり)大阪医科大学眼科私は平成3年(年がバレます)に大阪医科大学を卒業後,当時,東郁郎教授が主宰されていた眼科学教室に入局しました.研修医のころから手術が大好きで時間があれば手術室で上の先生の手術を見ていました.平成11年に池田恒彦教授が就任され,翌年から池田網膜硝子体学校の1期生となり,網膜硝子体手術に朝から夜までどっぷりと浸かり,その中で血管新生緑内障を担当するようになりました.現在は続発緑内障を中心に緑内障手術にいそしむ日々を送っています.前回の加瀬諭先生から引き継いだものの,仕事,子育て,ちょっとだけ嫁仕事と毎日,走りまわっていてmyboomなんて考えたこともなかったため,「はて?私のmyboomって??」と考え込んでしまいました.そこでmyboomとは日々,大切に思いこだわっていることと勝手に解釈し,書かせていただくことにします.臨床でのmyboom最も興味をもっているのが血管新生緑内障の手術治療です.難治といわれる血管新生緑内障にあの手この手で立ち向かいます.以前は「打倒!!血管新生緑内障」と思っていましたが,ここ数年で考えが少し変わりました.以前は敵を倒そうとやっきになり,とにかく眼を助けるために徹底的に網膜光凝固,硝子体手術をして鋸状縁まで焼き尽くし,ときには毛様体扁平部も焼いて,それでもだめなら緑内障手術としていました.しかし,眼(93)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYを助けるために行ったはずなのに結果は落ち着いても著しい視野狭窄となってしまうことも多く,患者さんに「やっぱり見えへんなあ」と言われてしまうこともしばしばでした.そこで最近では打倒するのではなく,手なずけるようにすると方向転換しました.もちろん,まずは可能なかぎりの光凝固ですが,同時に抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体やトリアムシノロンというアメを与えて網膜症の状態を手なずけ,おとなしくさせます.そして点眼で眼圧がコントロールできない場合には濾過手術をします.3年前からチューブ手術をはじめ,現在までに17例18眼にチューブ手術を行いました(うち15例15眼が経毛様体扁平部挿入型)が15例15眼は点眼治療なしに21mmHg以下にコントロールされ,点眼治療を追加すれば現在,全例が21mmHg以下となっています.何度,濾過手術を行っても眼圧コントロールがつかなかった患者さんでもコントロール可能となり,もう少し早く始めていればあの人も助けられたかもしれないと何人かの患者さんの顔が目に浮かびます.緑内障手術の適応も早まり,結果としてよりよい視力,視野が残せるようになってきました.より良い視機能が残せるように日々精進したいと思っています.研究でのmyboom研究はおもに臨床研究を行っています.Myboomというより趣味に近いのですが過去のカルテを見ながら長期のデータを集めるのが大好きです.仕事が終わってから医局で独り言をいいながらバックグラウンド,視力,眼圧,視野,イベントなどをexcelに打ち込んでいきます.こだわりは時間がかかりますが一人で黙々とすること.一人ですべてのデータをとっていると何人目かである特徴に気が付きます.次にそこに着目してデータを取り直してみるということを繰り返します.そうすると見あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012815 えなかった何かが見えてくることがあり,ワクワクします.データを取っているうちに違うデータがあればもっと面白い結果が出そうだと思いつき,次の研究のアイデアになることもあります.また,自分が手術をした症例については経過記録を残すようにしています.良かった症例,悪かった症例のインパクトが強く,記憶しているだけでは自分の治療を正しい評価ができないため,3年ごとにすべての症例の成績を出して治療の正当性を評価し,次の治療にフィードバックします.最近は四十の手習いで眼病理を勉強し始めました.週に1度,病理学教室に伺い,眼科の過去に診断された組織を診て自分の知識をつけているだけですが,将来的に臨床につながる検討ができるようになれればいいなと思っています.プライベートのmyboom私を知っておられる先生からは「ほんまか!」と聞こえてきそうですが,趣味は自己流の料理と編み物です.料理はストレスの解消法です.忙しければ忙しいほど現実から逃避するためか,凝ったものを作りたくなります.中華料理なら「チャラララ,ランランランラ.ン.」,イタリア料理なら「オソ.レミ.オ..」と歌い,昔あったテレビ番組「料理の鉄人」の真似をして「今,鉄人がエビを投入しました!」と一人実況しながら作ります.子供と2人で食べるだけなのにキャンドルを灯し,テーブルセッティングにもこだわります.また,平日は子供とゆっくり時間を過ごすことができないため,日曜日は朝から何か一緒に作る日としており,先週はうどん,今週はパンでした.来週はケーキにでもしましょうか!編み物は大きなものは時間もかかり,あまり作りませんが冬には帽子やマフラー,夏にはベストなど小物は毎年作っています.子供が幼稚園のころは毎年のバザーに必ずお母さんの手作り作品を出さなければならず,「縫いぐるみ」ならぬ編みぐるみやガマグチ財布を編んで,何とか乗り切っていました.編み物はいいかげんな性格の私にぴったり!編んでいって小さければ編み足して大きくすることもできます〔写真1〕今まで一番のヒット作.子供の帽子を編んでみましたが試しにかぶらせたところ,アフロヘアーのカツラのようでした.でも大丈夫.耳をつければクマさん帽子に早変わりしました.し,出来上がりが気に入らなければちょっとした工夫でイメージを変えることができます.写真1は今まで一番のヒット作で,子供も気に入り1歳から3歳まで毎冬,かぶってくれました.周りにも大評判でお友達から注文がきたほどです.街中で見知らぬ人に「かわいい!」と頭を撫でられることもしばしばありました.でも調子に乗って次の年につくったアンパンマン帽子やドラえもんマフラーは「いやっ」と1回で却下されお蔵入りになりました.小学生になるとなかなか注文がうるさくなってきており,今年はワンピース,ポケモンキャラのベストもしくは帽子にチャレンジしたいと思っています.次回のプレゼンターは名古屋市立大学の安川力先生です.安川先生は精力的な仕事ぶりとギャップのある天然ほんわかキャラで一緒にいる周りの人を癒してくれます.私も会うたびにいつも元気をもらっています.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆816あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(94)

眼研究こぼれ話 30.結び ご愛読を感謝して

2012年6月30日 土曜日

眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話●連載(最終回)桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長結びご愛読を感謝してだらだらと,勝手なことを書いているうちに,ついに100回を超してしまった(編集部注:本誌では全108編のうち30編を収載).このあたりで一応おしまいにしようと思う.長い間,読んでいただいた皆さまにお礼を申し上げたいと思う.この拙稿は発送の都度,東北大学の福士博士に目を通していただき,変な当て字などは大部分消していただいたはずだが,ずいぶんと読みにくいばかりでなく,幼稚な表現を重ねて,失礼を続けたことをおわびしなければならない.不均一な漢字の分布は,私が辞典を引くのを怠ったためであり,お許しを願いたい.また,数編にわたり,独りよがりな,専門的記述を長々とつづったこともおわびしたい.連載については,愛媛大学眼科,坂上教授のご親切な紹介をいただき,大変恐縮した.編集に当たった谷口氏,愚弟,寛吏には,特にお礼を述べたい.多数の方々からお教えや,おしかりを受けたことに対してもお礼を申し上げる.残念ながら一つ一つご返事を出せなかったことをおわびしたい.私の研究室では,昨日まで書いたようなたわいない話が毎日,こぼれ落ちている.これを読んでいただいた方々に,眼とはどんなものかという,アウトラインでもわかっていただけて,また,眼科学が医学の重要な部門を占めていることを認識していただけたら,本当に幸いである.以上は比較的幸運にめぐまれた一病理学徒が,眼の研究に取り組んだ話であって,うまく行ったことばかりを書きつらねたきらいがある.医学研究の実際はこんなにうまくばかりいくものではない.私にとっても,他の多数の学者と同様,思ったように進(91)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY▲東北大学福士博士.眼科学の権威であるばかりでなくレンズの生化学,糖尿病の研究などでも第一人者である.アメリカ留学は二度目,東南アジア方面でも活躍されている.まない場合の方が多い.せっかくあげた成績も,努力の甲斐もなく,応用のもっていく場所のない場合もある.今日も,同僚の一人が,網膜変性の遺伝因子を持っているラットを繁殖させるため,1年間をムダに費やしたこと,そうして,最初の実験目的が薄れてしまったことを相談して来た.このようなことが起こるのが,研究室の日常でもある.われわれが学者ぶった顔をして,何か,ごそごそやっている向こう側には,研究成果を本当に待っている病人たちがいる.いつも期待に間に合わないのである.私たちはそのことを念頭において,常にイライラもしている.その期待に沿うためには,だれかが休みなく腰をあげ,手をぬらしていなければならない.学究的な医学者はなにも大学とか研究所だけにいるのではない.自己犠牲に徹した医者がたくさん,人助けを業と心得て働いている.悪徳医者とか,医学系大学の不正入学がセンセイショナルに報道される一方に,お役に立っている医者が,もっともっとたくさんいることを知っていただきたい.このシリーズでは,ボストンとワシントンの特別あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012813 眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話に恵まれた環境にいる人々のことを主として書き続た医学者の数人の方々から,医学の光明の面を久方けたけれども,医学には国境は全くなく,日進月歩ぶりに読んでうれしいと,言って来られた.私の役の発達には,数知れないほどの日本の医学者の参与目が終わったような気がする.がある.種々の不利な条件に打ち勝って,日本の医(おわり)学界は,世界水準の上位に属していることも,どう(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)か認めていただきたい.私の拙稿を読んでくださっ☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2012Vol.29月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2012Vol.25■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/Myboom他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他http://www.medical-aoi.co.jpお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544814あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(92)

現場発,病院と患者のためのシステム 5.ノンストップのための条件

2012年6月30日 土曜日

連載⑤現場発,病院と患者のためのシステム連載⑤現場発,病院と患者のためのシステム優れた機能をもったシステムでもダウンしたら終わりです.航空管制システムや新幹線の制御システムのダウンは生死にかかわり,原子炉制御のシステムダウンは,生死のみならず,その地域でノンストップのための条件*杉浦和史生活できるかどうかにさえかかわってきます.システムに頼っている度合いが強ければ強いほど,医療情報システムに限らず,システムが止まってしまう要因は大きく分けて5つあります.電源断/ハードウェア障害/ソフトウェア障害/アプリケーション不具合/操作ミスです.これら5つの要因と対策につき,説明します.ダウンした際のダメージは大きくなります.どうすれば問題なく稼働し続けられるか..電源断電源の供給が止まると,コンピュータ本体のみならず,周辺機器がすべて動かなくなり,システムは機能しなくなってしまいます.これに備えてバッテリーで電源供給するのが普通ですが,間違って理解されている場合があります.それは,電源の供給が止まっても,バッテリーを使ってシステムを稼働し続けられると考えていることです.モバイル環境で使うことが多いノートパソコンは,バッテリー駆動で何時間も動くよう省電力設計になっているものがありますが,システムの心臓部ともいえるサーバーは,電力消費量が多く,バッテリーだけで長時間動かし続けるには限界があります.サーバー用のバッテリーは,電源供給が止まったら,データの保全性(Integrity)を確保したうえで,安全に停止するための時間稼ぎをする手段と考えたほうが無難です.サーバーだけではなく,周辺機器にも安全に停止させる間,電源を供給してやらなければなりません.安全に停止させれば,電源の問題が解決すると支障なく再開することができます..ハードウェア障害コンピュータを構成する部品の中で故障が発生するのは,おもにハードディスク(HDD)です.これは常に高速で回転し,一般的に振動に弱く,正常に動くための温湿度条件も設定されています.HDDには,アプリケーションやデータが記録されているので,故障するとシステムは運転を続けられなくなります.以前に比べ,耐故障性が高まっていますが,それでも0にはなりません.万が一に備えてバックアップをとっておかなければなり(89)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYませんが,バックアップは,できるだけ離れた場所に置く必要があります.それは,近くに置いておくと,地震,津波,火災,落雷などで一緒に使えなくなってしまうからです.東日本大震災の際の原発事故は,緊急炉心冷却用のバックアップ電源が同じ建屋にあり,大津波で一挙にやられてしまいましたが,同じ理屈です.当院では,本院と分院の両方に同じ環境をつくり,相互にバックアップするようにしています.さらに,CPUはじめ,すべての部品,機構を二重化して耐故障性を高めたFT(Faulttolerant)と呼ばれるサーバーを用い,可能な限り正常な稼働が続けられるよう考えています.ハードウェア障害対策で見逃しがちなことがありますが,それは予備機の扱いです.業務が止まってしまうクリティカルな機器の場合には,あらかじめ同じ機種を用意し,万が一に備えます.しかし,最近の機械は信頼性が高く,なかなか故障せず,予備機の出番がありません.出番がないまま置いておくと,ラベルプリンタなど,可動部分をもつ機器の場合,ローラ部分がくっついていて動かないという事態が起きる可能性があります.これはスペアタイヤを積んでいても,空気が少なくなっていて使えなかったということと似ています.予備機のまましまっておくのではなく,定期的に入れ替えて使うことを勧めます..ソフトウェア障害OS,データベース,通信などシステムのインフラとなるソフトウェア群に障害が発生すると,システムは止まります.もちろん,製品の性格上,十分な品質テスト*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012811 医事会計検査外来図1現場スタッフによるテストをしてから出荷されるので,滅多なことではトラブルは発生しない信頼性をもっていることになっています.しかし,0にはなりません.リリースされたばかりの製品,新機能はできるだけ使わないというのが当院の方針ですが,それは机上ではテストしきれず,現場で使って初めて発生する不具合というものがあり,これらが吸収され,安定性が増すまで様子をみるということです.一般的に,バージョン3が無難だといわれます.バージョン1は品質が安定せず,機能が揃っていない,バージョンアップ2はそれらを吸収し,皆さんが使い込み,バージョン3で比較的安心して使える状態になり,バージョン4以降は,余分な機能がつき重たくなる.この評価は,今までの経験からも同感できる見方です.付和雷同にブームに迎合せず,ベンダ(システム開発会社)の甘言に乗らない,これもポイントではないかと思います..アプリケーション不具合これは,現場の業務と作業実態を,BPRしたうえで整理整頓し,どれだけシステムに反映できたかという仕様の完成度と,それを確実にプログラミングする技術,仕様通りに動作するかのテストに依存します.もの作りに起因する技術的なものはベンダに任せるしかありませんが,ユーザー(病院)側でも積極的に参加できるものがあります.仕様の作成,それにレビューとテストです.これをベンダ任せにせず自前で行うことにより,稼働中に起きる不具合が減り,システムが止まり,業務が止まる危険を減らすことができます.簡単にいえば,“このケースでは,この操作をしたら,こうなるはず”ということができているかどうかです.ベンダの技術者に業務の内容を伝え,彼らにやってもらう方法では,伝えきれなかったり,ベンダが理解しきれないことにより,不具合が作り込まれてしまうことを防ぐことができます.病院側スタッフがテストすれば,日頃処理してい812あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012ることができるかをチェックするだけなので,比較的容易に,実務に即したチェックができます.ベンダには難しいことでしょう.当院には,2002年7月に稼働を始めた予約業務を主体とするリソースマネジメントシステムM-Magicがありますが,稼働以来,約10年間,ノーダウンを続けています.これは,現場のスタッフが,イレギュラーな場合も含め,稼働前に実際に使うシーンを想定して機能をチェックするなかで,品質を向上させたことが一因ではないかと考えています.現在開発中の院内総合電子化計画Hayabusaでも,もちろん,現場がテストし,品質と実用性を高めています(図1)..操作ミス本来,操作ミスによってシステムダウンになることは考えられないことです.仮にあるとすれば,それはテストの段階ではじかれているはずであり,万が一,操作ミスをしてもシステムダウンを引き起こすような仕様にはなっていないはずです.しかし,起きてしまうことがあります.簡単にいえば仕様の不備,テストの疎漏です.これを防ぐには,デザインレビュー,テスト方法のレビューが必須ですが,この工程を疎かにした開発をすると,その可能性が高くなります.Wordで文書を作り,“保存しなくてもいいですか”に対し,“はい”を応答してしまい,ファイルを失った経験をした方も多いと思います.メッセージの内容を確認せず,惰性でEnterキーを押してしまい,デフォルトになっている選択肢が選択され,その結果思わぬ事態になることがあります.デフォルトはフェールセーフ(できるだけ悪くならない選択)を基本としなければなりませんが,操作ミスによる思わぬ事態にならないかは,デザインレビューでたたき出しておかなければならないことです.(90)

タブレット型PCの眼科領域での応用 1.なぜ今,眼科医療においてタブレット型PCが大切なのか

2012年6月30日 土曜日

シリーズ①シリーズ①タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第1章なぜ今,眼科医療においてタブレット型PCが大切なのか私は臨床で眼科医をする傍らで医療の現場を離れ,視覚障害者の生活をより快適なものにすることを理念とした情報サイトの運営と啓発活動をしている三宅琢と言います.具体的な活動としては私が代表を務めるGiftHandsなどを通して視覚障害者や児童,盲学校職員,視能訓練士などを対象にタブレット型PCの活用法を紹介する啓発セミナーを行っています.Giftは贈り物や才能を,Handsはそれらをつなぐ手を意味し,多くの視覚障害者の意見や想いを吸い上げ,社会に還元することを目標としています.眼科医療におけるタブレット型PCの活用法,体験インタビューで得た実際のニーズとその対応方法などを,体験者の声を交えて紹介していきたいと思います.連載にあたって第1章ではなぜ今,眼科医療の分野においてタブレット型PCが重要であるかを社会背景やタブレット型PCの臨床導入の現状を踏まえて説明していこうと思います.近年,携帯性に優れた,タブレット型の多機能電子端末が広く普及してきています.なかでもApple社製の9.7インチマルチタッチスクリーンを搭載したタブレット型PCであるiPadR(AppleInc.)はキーボードやマウス操作を必要としないタッチパネル式の多機能電子端末で,2本の指のみの操作で表示画像の拡大や縮小ができ,簡便かつ瞬時に表示サイズの変更が可能で操作性に非常に優れています.また,9.7インチの大きい表示画面を有し持ち運びが簡単にできるため,ベッドサイドでの検査結果の説明や画像閲覧に使用でき,ベッドサイドケア,介護,看護と医療の現場でも多方面での応用がすでに報告されています1.5).また,手術室では透明で無菌のカバー越しにも簡単に操作が可能であるため,3D再構築画像と術中所見とのリアルタイムな比較を行っている施設もあり,その活用法の可能性は日々広がり続けています.(87)眼科領域においても,ここ数年で学会の抄録集がアプリケーションソフトとしてダウンロードができるようになり,演題の検索や学会中の演題進行状況の把握などが非常に簡便かつ的確になってきています.しかし,内科や一般外科領域の医療現場への導入の状況と比較すると,眼科医にとっての電子タブレットの活用は個人レベルにとどまり,おもな活用方法はスケジュール管理やメールの確認などまだ限定的であり,あまり重用視はされていません.しかしここ数年で登場した,後継機種にはタブレットの前面および背面に2つのカメラを搭載したこと,表示画面の解像度やコントラストが向上したこと,音声入力や読み上げ機能などを追加したことにより,その活用法の可能性は眼科領域においても急速な広がりをみせています.私は内科系研修医としての2年間初期研修のなかで,医療に関する2つの基本的な姿勢を学びました.1つ目は,治療の本質は患者のなかにあり,患者教育こそが最も時間を割くべき医療行為であるという姿勢です.医療現場では「医療者の指示に患者がどの程度従うか」というコンプライアンスの概念がこれまで重用視されてきましたが,ここ数年で「患者自身の治療への積極的な参加」というアドヒアランスの概念が重要であり治療成功の鍵であるという考えが一般的になってきました.眼科領域において治療の主体である点眼行為が,患者のアドヒアランスに大きく影響されることは言うまでもなく,まさしく治療の中心は患者にあると言えます.また,古くより患者の心理的な作用を利用した偽薬(プラセボ)効果は有名ですが,患者の多くが不定愁訴を認め,自覚症状の改善が重要な要素である眼科医療において,点眼行為という一種の儀式に対するアドヒアランスの効果は計り知れません.私は3年前から外来での患者説明の際にタブレット型PCを使用しています.解剖や病態生理,前眼部や眼底写真を患者と一緒に閲覧し病状や手術術式などを説明すあたらしい眼科Vol.29,No.6,20128090910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図1取り込んだ製剤見本の画像を拡大表示る際,患者の視力に適した画像の拡大や明るさの調節などが即座に可能で,患者の視機能に合ったオーダーメイドな説明ができます(図1).患者や家族からも「実際に手に持って説明を聞ける.」,「診察室が暗くても画面が明るく,図が大きいから非常に見やすく理解しやすい.」などのコメントがあり,以前より短い時間でより満足度の高い良好な患者-医師関係を構築することができるようになりました.紙ベースでの資料では不可能であった新しい説明方法で,何より起動から画像提示までが数秒以内に行えること,患者や家族がタブレットを直接操作して任意に拡大や縮小を行うことで,より高い水準の病態理解が得られ,アドヒアランスは格段に向上します.個人的に説明などに使用する範囲であれば,そうした際に使用する解剖図などは日本眼科学会のホームページ(http://www.nichigan.or.jp/public/disease.jsp)などからも簡単に入手することができます.2つ目は,患者の言葉は教科書であり,患者の内なる声に常に耳を傾ける姿勢の大切さを学びました.3分診療という言葉にもあるように,実際の臨床の現場は時間との戦いであり,事実上眼科医療における診療時間とは,おもにスリットランプでの診察や眼底の診察に要する時間を意味し,患者との対話に要する時間は非常に短いと日々感じてきました.また,今後の電子カルテ化に伴い医師の視線はPCの画面とキーボードの入力に奪われることは必至であり,患者の想いと医師の理解の乖離は広がる方向にあります.タブレット型PCによる説明を導入し,良好な患者医師関係が構築されるようになった結果,診察時間は大幅に短縮しました.患者は診察室に入ってくるなり真実の言葉を話し出します.今までは気を使って言えなかった本音の言葉,それは真の治療効果を私に教えてくれま810あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012す.デジタルな存在であるタブレット型PCを上手に利用することで,逆に患者と医師の心の距離は近づいたと言えるのではないでしょうか.今後このシリーズで扱っていく電子タブレットのさまざまな活用方法を知ることは,最終的には患者の幸福はもちろん,言葉の食い違いなどから始まる諸問題から医師自身の身を守る手段としても非常に有用であると思います.そして何より,その存在を知ることによって,多くの治療法を失ったロービジョン患者の瞳に光を戻すことができると私は信じています.【追記】原則的に私が現在,GiftHandsや実際に外来で扱っている電子タブレットは,すでに医療現場に導入例のあるiPadRとiPhoneR(AppleInc.)の最新機種である“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年4月30日現在).なお,本文中の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページでの問い合わせのページよりいつでも受け付ていますので,連絡いただけたら幸いです.GiftHands:http://www.gifthands.jp/文献1)吉田茂:【現場の要求とモニタ選定】最新技術展望iOSデバイスが有する診療補助機能としての可能性を説く.新医療38:100-103,20112)杉本真樹:【ICTが医療・福祉施設環境を変える】医療クラウドとスマートモバイルデバイスによる個別化医療福祉ICTOsiriX-iPadと医領解放構想.病院設備53:48-50,20113)網木学:【医療を変えるiPhone/iPad】導入事例手術室でのiPad活用看護教育を中心に.看護学雑誌74:30-34,20104)富田博信:iPadは医療のなにを変えるのか臨床での有用性と新表示デバイスAquariusSystemを使用したシャント3D-CTAngio活用におけるiPadの臨床使用例透析室でのシャント3D-CTAngio配信システム.新医療38:145149,20115)杉本真樹,森田圭紀,松岡雄一郎ほか:【ロボット手術と最新の内視鏡外科手術】ロボット手術,NOTESにおける実時間的手術ナビゲーション.SurgeryFrontier17:234-243,2010<プロフィール>三宅琢(みやけ・たく)平成17年東京医科大学卒業平成17年東京医科大学八王子医療センターにて初期研修平成19年東京医科大学眼科大学院平成24年東京医科大学眼科兼任助教平成24年東京医科大学眼科大学院卒業平成24年永田眼科クリニック平成24年GiftHands代表http://www.gifthands.jp/(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 109.裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術時のバックル併用の是非(初級編)

2012年6月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載109109裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術時のバックル併用の是非(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●裂孔原性網膜.離に対する術式の変遷硝子体手術の進歩に伴い,従来は強膜バックリング手術で治療していた裂孔原性網膜.離に対して,初回から硝子体手術のみで網膜を復位させる術者が増加の一途をたどっている.それに加えて近年の小切開硝子体手術の普及やワイドビューイングシステムなどの観察系の進歩により,バックル手術を併施しない傾向もますます顕著になっている.しかし,硝子体手術が第一選択と考えられるような裂孔原性網膜.離もすべての症例が硝子体手術のみで確実な復位が得られるかというと,やや疑問が残る.●硝子体手術後の周辺部残存硝子体牽引と再.離一般に,中高年者に多い網膜格子状変性巣縁の弁状裂孔が原因で発症する胞状の網膜.離は,硝子体手術の適応と考える術者が多い.硝子体手術を選択した場合,網膜格子状変性巣の後縁までは容易に人工的後部硝子体.離を作製できるが,変性巣の周辺側の硝子体を完全に切除するのは結構むずかしい.スモールゲージ硝子体カッターを周辺側の硝子体と網膜の間に上手く挿入することで,周辺部の人工的後部硝子体.離を比較的容易に作製できる症例もあるが,面状の網膜硝子体癒着をきたしている症例では双手法を用いないと硝子体を網膜から.離できないことも多い(図1).特に網膜格子状変性巣が全周性に広範囲に認められる症例ではその傾向が強い.最近普及している高速回転の硝子体カッターでは,残存硝子体量を少なくすることはできるが,vitreousshavingのみで硝子体の牽引が完全になくなるわけではない.●残存硝子体牽引に対するバックルの有用性周辺部に硝子体が残存した場合には,眼内光凝固や経強膜冷凍凝固などの凝固操作により硝子体牽引を上回るだけの癒着力を得ておくことが必須となり,しばしば残存硝子体牽引が打ち勝って再.離をきたすことがある図1網膜格子状変性巣周辺での人工的後部硝子体.離作製広範な網膜格子状変性巣を有する症例では,網膜格子状変性巣より周辺側の硝子体は面状に網膜と癒着しており,双手法による硝子体切除が必要となることが多い.図2残存硝子体牽引による再.離多くの硝子体術者は,この部分をvitreousshavingに留め,残存硝子体をできるだけ薄くして,あとは眼内光凝固の癒着力によって網膜を復位させているが,しばしば残存硝子体牽引力が光凝固の癒着力を上回って再.離をきたす.図3バックル併用の意義バックル設置により残存硝子体牽引を相殺し,再.離のリスクを軽減できる.(図2).筆者はこのように残存牽引が強いと予測される症例(すなわち周辺部の硝子体が十分に処理できなかった症例)では,迷わずバックルを設置している(図3).通常は#240シリコーンバンドによる周辺部輪状締結術を施行することが多いが,もちろん部分バックルでもよい.バックルの設置部位としては,硝子体牽引が残存している裂孔の周辺側を確実にバックル上にのせるようにする.バックル併用硝子体手術では,屈折が術後に変化するので,眼内レンズは二次的に挿入するようにしている.最近,バックルを置かないことにこだわり過ぎて再.離をきたし紹介されてくる症例を時々みかけるようになった.初回硝子体手術時に必要最小限のバックルを設置する侵襲と再手術を施行する侵襲では,当然後者のほうが大きいはずである.(85)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20128070910-1810/12/\100/頁/JCOPY