連載⑪現場発,病院と患者のためのシステム連載⑪現場発,病院と患者のためのシステムわかりやすい品質の評価基準はダウンしないことですが,それは開発するベンダ(システム開発会社)の力量に左右され,病院側は関与できません.われわれが関与できるのは,仕様の品質です.細部にわたって考慮された仕様もあれば,表面的にしか考えられていない仕様もあります.後システムの品質とは?杉浦和史*家を建てる場合には,土地の形,方角,家族数(世代,現在,将来),年齢構成,間取り,構造,好み,年収などさまざまな要素を勘案します.注文住宅か建て売りかも考慮する重要な要素です.システムも同様に考慮すべきことがあります.しかし,家を建てるほど身近に感じないためか,十分検討せず,安易に建て売りに相当するパッケージ(システム)を選んでしまう傾向にあります.住宅の場合,建て売りでも,家としての基本機能は揃っ者の場合,手作業が介在する可能性があり,他のシステムとの機能,情報連携が十分考慮されていないおそれがあります.もちろん,頻度的にまれな業務,作業は,システムに載せず,BPR(原点に立ち返って見直す)の対象として削除すべきでしょう.病院が関与できるシステムの品質につき説明します.ているので,時間の経過とともに慣れ,納得して住んでいる場合がほとんどです.一方,毎日の仕事に直結するパッケージの場合はどうでしょう.パッケージはその性格上,平均的な仕様(機能,機能間の連携,操作性など)で作らざるを得ず,現場の作業実態に合うことはないでしょう.パッケージではなくオーダメイドのシステムでも,おざなりのヒアリングと机上から現場を想像して作られた仕様では,現場から使い勝手の悪さを指摘されるのは目に見えています.それまでの仕様の延長線上に屋上屋を重ねる形で機能が追加され続け,スクラップ&ビルドの時期を逸した古い構造になっているケースもあります.いずれも“使えない”システムとなってしまいますが,見過ごされがちなのがシステム化するための仕様の品質が揃っているか否かです.本誌10月号連載⑨「自動計算機が機能するには」でリービッヒの最小律,ドベネックの桶の話をしましたが,各部門システムの仕様の品質が揃っている必要性につき,ダムの放水ゲートに例えて説明します.ダムの水位をシステム全体の仕様の品質とし,放水ゲート(図1a,b,c)を各部門システムの仕様の品質とします.a,b,c3つの放水ゲートのうち,bゲートを開くと,そのゲートの高さまで落ちてしまいます.cゲートの高さまで放水すると,さらに下がってしまいます.複数の部品,機能で構成される機械やシステムの品質はこれと同じです.すなわち,最も低いものに合わせられてしまうということです.言い換えると,機械,システムの中に高品質な部品,完成度の高い仕様の機能があっても,低いものに合わせられてしまい,高品質なものがあっても意味をなさないということです.医事会計システムを始めとして,検査データファイリング,オーダリング,予約,看護記録などのパッケージを必要に応じて別々に導入し,横の連携を図るようなシステム整備はこれと同じです.その部門,業務では期待した機能を発揮し,効果のあるシステムがあったとしても,部門間,業務間の情報授受,機能の連携に問題を抱えることは明abcabcabc図1全体の品質は最も低い部品・機能に合わせられてしまうRゲートの高さまでダムの水は放水され続けます(図1).放水はbゲートの高さまで来ると止まりますが,ダムの水位,すなわちシステム全体の仕様の品質は,このb*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(69)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121659カ図2手間のかかる仕様作成図4院内全部門,全業務の仕様の品質を揃えるR医事会計外来検査手術室病棟CS……治験・臨検らかで,効果は最も使い勝手の悪いシステムに抑えられてしまいます.業務種類毎に,それを得意とするベンダのパッケージを集めて院内のシステム整備を図る場合,それらは,各社各様の設計思想で作られたもので,全体としてみた場合,仕様の一貫性がないのはやむを得ないところです.中には,病院向けERP(統合情報システム)を提供していると主張するベンダもいます.しかしそれは,将来像,全体像を描いて順次整備したものではなく,ニーズが出て来たものを,その時利用可能な技術で作ったもので,一般的に一気通貫性がありません.どこかに“ほころび”があり,余分なソフトウェアが介在したり,手作業が発生したりで,期待した効果は得られません.では,どうすれば良いのでしょう.仕様の全体最適を保証する品質を保つには,病院業務全体を俯瞰し,BPR(業務改革)を行い,機能,情報が相互に連携し合う,筋の通った設計方針で順次整備する1660あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012CSコンタクト医局医事会計外来管理栄養士検査事務センタ治験・臨検手術病棟薬局図3仕様作成担当部門しかありません.手間のかかるこの仕様の決め方をパッケージに求めるのは無理かも知れませんが,パッケージを導入する際には,少しでもそのようなことに気をつけて作られたかをベンダに確認しても無駄にはなりません.院内総合電子化計画Hayabusaを開発中の当院では,仕様を病院スタッフが決め,仕様書を書いていますが,多大な手間を要しています.例えば,入院患者の点眼作業の仕様作成に約5カ月を要しました(図2).業務の細部に入り込んでのBPRとそれをふまえた仕様の作成は,このように時間と手間を要します.しかしながら,システムの使い勝手,効果を左右する品質を決める最も重要なプロセスなので妥協せず,各部門(図3)が仕様作成に取り組んでいます.この部門のプロジェクトメンバーが作る仕様の品質が,放水ゲートに相当し(図4),凹凸がないよう仕様の完成度を高めているところです.どのようなシステムを整備しようか思案中の病院の皆さまには,以下の手順で検討することをお勧めします.①院内すべての業務を洗い出す,②業務の作業手順を確認する,③②の中に無駄はないかを精査する,④③の結果を勘案し,ストレスのない作業手順を新たに作る.すべての業務につき,②~④の作業を行います.以上の結果をふまえ,合格点の多いパッケージを選ぶか,意図をくんで協力してくれるベンダを選び,そこに開発を任せれば,導入したシステムに失望する割合は少なくなるでしょう.(70)