特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):777.780,2012特集●神経眼科―最新の話題あたらしい眼科29(6):777.780,2012外傷性視神経症にステロイドパルス療法は禁忌か?IsSteroidPulseTherapyContraindicatedforPatientswithIndirectTraumaticOpticNeuropathy?敷島敬悟*I外傷性視神経症とは外傷性視神経症とは,広義には外傷による視神経障害はすべて外傷性視神経症といえる.開放性損傷による直達性外傷性視神経症,眼球や眼窩の鈍的外傷による介達性外傷性視神経症,続発性視神経症に分類される(表1).介達性外傷性視神経症は眼球直後に生じる視神経乳頭離断と眼窩後方の視神経管近傍に生じる狭義の外傷性視神経症からなる.このうち,本稿で取り上げるのは介達性の狭義の外傷性視神経症で,一側の眉毛部外側の鈍的打撲により介達性に同側の視神経機能が急激に障害されるものをいう.種々の発症機序が報告されている(表2)が,視神経管骨折の合併は意外に少なく,高々20.30%である.したがって,本症の原因は他に求められている.視神経管内視神経は他の部位の視神経に比べ,限られたスペース内にあり,周辺の硬膜や骨性視神経管に強固に固定されている.このために,一側の上眼窩部,特に眉毛部外側の鈍的衝撃が眼窩骨を伝わり介達性に視神経管部に到達した際,視神経管内視神経ならびに近傍視神経との移行部で浮腫や出血が生じ,視神経を圧迫することが主たる病態と考えられている.II現在の一般的治療以上の発症機序から,限局的スペースである視神経管内で圧迫による永続的な視神経障害をきたさないため表1外傷性視神経症(広義)の分類直達性介達性視神経乳頭離断外傷性視神経症(狭義)続発性頭蓋底骨折くも膜下出血うっ血乳頭(脳浮腫,血腫)表2外傷性視神経症の発症機序1)浮腫による圧迫2)視神経鞘出血・実質内出血による圧迫3)視神経管骨折4)視神経管の変形による視神経圧迫5)視神経過伸展6)視神経振盪7)視神経断裂8)視神経挫滅壊死9)循環障害10)二次性くも膜炎に,早急に減圧を図るのが外傷性視神経症に対する治療の主目的となる.減圧法には二通りの方法が考えられる.副腎皮質ステロイド薬投与(以下,ステロイド療法)と視神経管開放術である.ステロイド療法はメチルプレドニゾロンの大量点滴療法(1,000mg)が主流である.さらに大量(2,000mg以上)を投与することもある.これは,脊髄損傷に対する早期ステロイド大量療法の有効性が報告(NationalAcuteSpinalCordInjuryStudy:NASCIS)されたこ*KeigoShikishima:東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕敷島敬悟:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(55)777表3外傷性視神経症と関連疾患の大規模臨床研究報告者/研究名研究デザイン対象疾患ステロイド投与法ステロイド有効性自然回復率(%)Cook2)後向きMeta-analysisTONさまざま(lowdose.megadose)不明21.5IONTS3)前向き非無作為介入TONさまざま(lowdose.megadose)不明57Entezari4)RCTTONMP(250mg×6時間毎×3日)(.)53.3NASCIS1)RCT脊髄損傷MP(30mg/kgbodyweight)(+)─CRASH8)RCT脳損傷MP(2,000mg)(.)むしろ悪化─RCT:無作為対照臨床試験,TON:外傷性視神経症,MP:メチルプレドニゾロン.とを受けている1).前述のごとく,視神経管骨折の合併は少なく診断根拠にならないので,画像検査の結果の前に早急に点滴を開始することが勧められている.一方,手術は比較的安全な経篩骨洞内視鏡下視神経管開放術が現在の主流である.特に,骨折が証明された場合やステロイド療法で回復困難な重篤症例で施行されている.IIIEvidence.basedmedicine(EBM)外傷性視神経症においてステロイド療法と手術のどちらがより有効であるかは長年議論の的となっている.有効性に関する報告はほとんどが単施設の少数例の調査報告で,EBMに値するものは少ないが,このうち,重要な報告が3編ある(表3).1.Meta.analysisCookやLevinらによって,1996年にmeta-analysisによる後ろ向き研究が報告された2).結果は無治療よりは治療したほうがよいが,ステロイド療法,手術,両者併用のどれが有効かはデータが不十分のため結論は出せなかった.ステロイド投与量は低量から超大量(4,200mg)までさまざまであった.本報告は組み入れた症例の基準が曖昧であった.2.TheInternationalOpticNerveTraumaStudy(IONTS)LevinやBeckらによって,1999年に国際多施設前向き研究が報告された3).3群(ステロイド療法,視神経管解放術,無治療)に割り振られたが,無治療でも57%に回復がみられ,ステロイド療法と手術のどちらが有用かは明確にできなかった.本報告では,ステロイド投与量をlowdose(<100mg),moderatedose(100.499mg),highdose(500.1,999mg),veryhighdose(2,000.5,399mg),megadose(≧5,400mg)に分類しているが,実際の投与量はlowdoseからmegadoseまでさまざまであった.結論として,個々の症例で治療法もしくは無治療を決定することがよいとしている.この臨床研究は当初,対照試験として考案されたが,結局,組み入れに限界があり,非無作為介入試験のcaseseriesとなった.3.Randomizedcontrolledtrial(RCT)2007年に無作為二重盲検プラセボ対照臨床試験が発表された4).この報告は現在のところ唯一のRCTである5).デザインはメチルプレドニゾロン点滴(1,000mg)と生理食塩水投与を比較したもので,視神経炎の多施設トライアルに準拠したものであった.結果は,ステロイドパルス療法群と無治療群で最高矯正視力の回復に有意差はなかった.IV今回の問題提起最近,UCLA,JulesSteinEyeInstituteのSteinsapirらが衝撃的な総説を発表した6,7).彼らは外傷性視神経症ではステロイド大量療法は無効,むしろ有害であると主張した.これが本稿の主題である.ステロイド療法を否定した根拠は以下の2つのデータからである.778あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(56)1.TheCorticosteroidRandomisationafterSignificantHeadInjury(CRASH)trial頭部外傷におけるステロイド大量投与の有効性を検討したRCTである8).受傷2週間以内の死亡率がステロイド療法群(2,000mg)で高かったと報告された.ただし,この報告は頭部外傷が対象のため外傷性視神経症と同一視できるかは問題点である.2.外傷の実験動物モデルラットの球後視神経をcrushして作製した直達性の外傷性視神経症の実験動物モデルで,メチルプレドニゾロンは軸索損傷を増加させたという自施設からの報告である9).一方,メチルプレドニゾロンによる有効性はないが,網膜神経節細胞の生存や軸索変性の悪化はなかったという報告もある10).V自然回復率ステロイド療法の有効性がたとえ証明されずとも,障害が重篤で,自然回復が望めないのであれば単純に禁忌とまではいえない.従来,外傷性視神経症の自然回復の頻度は低いと推定されてきたが,大規模研究の無治療群のデータを参考にすると,外傷性視神経症の自然回復の頻度は約20.60%で,比較的高いものであった2.5,11).このうち,直達性や続発性の外傷性視神経症も含んでいる報告は20%と低い数字であった2,11)が,介達性に絞った報告では50%以上と高い数字であった3,4).VI今後の対応は?以上の報告を受け,われわれは外傷性神経症に遭遇したらどのように対応したらよいのか?最新のCochranereviewでは,外傷性視神経症は比較的高い自然回復率がみられ,ステロイド療法が経過観察よりも優れているという信頼性のあるエビデンスはないと結論づけた5).英国での調査では,最近の研究結果を受けて,外傷性視神経症の急性期では65%が無治療を選択していた11).JNeuroophthalmologyの誌上でも神経眼科の大家のVolpe,Levin,Lee,Biousseが討論を行っている12).上記の意見を総合すると,標準的な治療方針は明示で図1視神経管骨折のCT像右視神経管内側壁の骨折による骨片(←)がみられる.きず,case-by-caseであるが,現時点ではつぎのように考えられる.1)大量ステロイド療法は使用しない大量ステロイド療法は無効であるばかりか有害であるので使用しない.論文により多少定義が異なるが,ここで言う大量とはhighdoseやmegadoseのことで,メチルプレドニゾロン1,000mgや2,000mg以上を指す.したがって,通常のパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg×1回/日)も含まれる.2)経過観察とする比較的高い自然回復率のため,informedconsentのもと無治療で経過観察とする.3)手術も考慮するCT(コンピュータ断層撮影)で骨折(図1),MRI(磁気共鳴画像)で出血が見つかったら手術を考慮する.しかし,手術の有効性のEBMは確立されていないので,効果と合併症も含めてinformedconsentを行う.4)中等度量のプレドニゾロン投与を行うEBMは日本では馴染みにくく,救急の場で患者は動揺し,不安が強く,医師は,やはり,倫理上,無治療の選択はむずかしいと考えるであろう.上述の論文では,ステロイドの大量投与が有害なので,プレドニゾロンの低量から中等量(60.100mg)7)もしくは,メチルプレドニゾロン250mgを1日4回の分割投与で1.2日間のみ12)は使用してもよいと述べている.(57)あたらしい眼科Vol.29,No.6,20127795)神経保護薬を使用する神経保護薬は理想的な薬で期待ができるが,現在,臨床応用された有効なものはない(治験中である12)).おわりに今後,さらなる多施設RCTが理想だが,疾患の特殊性から症例の蓄積がむずかしいのが現状である.ただし,大規模なRCTでは自然回復率のデータがより明らかになると期待される.また,わが国ではステロイド療法に浸透圧利尿薬(マンニトールR,グリセオールR)を併用することもあるが,浸透圧利尿薬単独での効果は不明であるので,このRCTも必要と思われる.文献1)BrackenMB,ShepardMJ,CollinsWFetal:Arandomized,controlledtrialofmethylprednisoloneornaloxoneinthetreatmentofacutespinal-cordinjury.ResultsoftheSecondNationalAcuteSpinalCordInjuryStudy.NEnglJMed322:1405-1411,19902)CookMW,LevinLA,JosephMPetal:Traumaticopticneuropathy.Ameta-analysis.ArchOtolaryngolHeadNeckSurg122:389-392,19963)LevinLA,BeckRW,JosephMPetal:Thetreatmentoftraumaticopticneuropathy:theInternationalOpticNerveTraumaStudy.Ophthalmology106:1268-1277,19994)EntezariM,RajaviZ,SedighiNetal:High-doseintravenousmethylprednisoloneinrecenttraumaticopticneuropathy;arandomizeddouble-maskedplacebo-controlledclinicaltrial.GraefesArchClinExpOphthalmol245:1267-1271,20075)Yu-Wai-ManP,GriffithsPG:Steroidsfortraumaticopticneuropathy.CochraneDatabaseSystRev2011,DOI:10.1002/14651858.CD0060326)SteinsapirKD:Treatmentoftraumaticopticneuropathywithhigh-dosecorticosteroid.JNeuroophthalmol26:65-67,20067)SteinsapirKD,GoldbergRA:Traumaticopticneuropathy:anevolvingunderstanding.AmJOphthalmol151:928-933,20118)RobertsI,YatesD,SandercockPetal:Effectofintravenouscorticosteroidsondeathwithin14daysin10008adultswithclinicallysignificantheadinjury(MRCCRASHtrial):randomisedplacebo-controlledtrial.Lancet364:1321-1328,20049)SteinsapirKD,GoldbergRA,SinhaSetal:Methylprednisoloneexacerbatesaxonallossfollowingopticnervetraumainrats.RestorNeurolNeurosci17:157-163,200010)OhlssonM,WesterlundU,LangmoenIAetal:Methylprednisolonetreatmentdoesnotinfluenceaxonalregenerationordegenerationfollowingopticnerveinjuryintheadultrat.JNeuroophthalmol24:11-18,200411)LeeV,FordRL,XingWetal:SurveillanceoftraumaticopticneuropathyintheUK.Eye(Lond)24:240-250,201012)VolpeNJ,LevinLA:Howshouldpatientswithindirecttraumaticopticneuropathybetreated?JNeuroophthalmol31:169-174,2011780あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(58)