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眼科医のための先端医療 136.黄斑円孔術後の網膜微細構造

2012年4月30日 月曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第136回◆眼科医のための先端医療山下英俊黄斑円孔術後の網膜内層構造黄斑円孔術後の網膜微細構造馬場隆之(千葉大学大学院医学研究院眼科学)硝子体手術により黄斑円孔は治療可能な疾患に特発性黄斑円孔に対する硝子体手術はKelly,Wendelら1)により報告されて以後,内境界膜.離が標準的な手技として行われるようになり,現在では初回手術後の円孔閉鎖率は9割以上で達成されています.内境界膜.離を行うことにより,後部硝子体皮質および網膜前膜の完全な除去も併せて行うことができます.そして,黄斑にかかる前後方向・接線方向の牽引を解除し,ガスタンポナーデとの組み合わせで黄斑円孔の閉鎖を得ることができます.黄斑円孔術後の網膜外層構造1990年代後半,光干渉断層計(OCT)の登場により,生体内での網膜構造の詳細な観察が可能になりました.タイムドメインOCTにて観察される,中心窩下の視細胞内節外節境界〔photoreceptorinner/outersegment(IS/OS)junction〕が特発性黄斑円孔に対する硝子体手術後の中心視力と関係していました2).IS/OSjunctionが明瞭に観察されるものでは,術後視力は良好であり,視細胞外節の長さ,配列が回復していることを示唆している所見と考えられました.さらに解像度の高いスペクトラルドメインOCTでは,網膜微細構造がより詳細に観察されるようになり,外境界膜(ELM)がIS/OSjunctionのラインの内側に認められます.このELMのラインは黄斑円孔術後症例の観察により,IS/OSjunctionよりも早期に回復し,視力とも相関がみられました3).ELMは視細胞内節とMuller細胞の接合部であることから,ELMラインの回復は視細胞の回復過程を意味していると考えられ,黄斑円孔術後の網膜外層の回復は視細胞内節側から外節の伸長,さらには錐体外節末端(COSTライン)の再生へと,内層から外層へと進むことが明らかとなっています.特発性黄斑円孔に対する内境界膜.離を併用した硝子体手術の術後,ganglioncellcomplex(GCC)の菲薄化がみられます(図1).GCCはスペクトラルドメインOCTにより測定される網膜内層構造で,神経線維層(NFL),神経細胞層(GCL),内網状層(IPL)を含みます.緑内障眼において網膜感度の低下に伴い有意にGCC厚が減少しており,ganglioncellと神経線維束の減少を反映していると考えられています.この黄斑円孔術後のGCCの菲薄化の範囲は,術後3カ月から6カ月にかけて拡大していました.また,術後6カ月の時点で,GCCの厚さは網膜感度と有意に相関していました.つまりGCCが薄くなりすぎると網膜感度は低下します.このGCCの菲薄化は内境界膜の染色方法にかかわらず,神経細胞保護効果4)があるブリリアントブルーGを使用してもみられたことから,インドシアニングリーンの細胞毒性の影響よりは,内境界膜.離による器械的障害が原因であると推察されます.免疫組織学的および電子顕微鏡を用いた検討により,.離された内境界膜の網膜側GCC89.3μm82.6μm79.0μm16.1dB15.6dB13.2dB術前術後3カ月術後6カ月図1左眼黄斑円孔ステージ3(66歳,女性)ブリリアントブルーGを使用して約3乳頭径大の内境界膜.離を行った.左上:術前GCC厚.中心窩陥凹周囲は解析から除外されている.左中:術前網膜感度.中心4点は黄斑円孔のため感度は低くなっている.中心4点を除いた中心10°(20点)の平均は16.1dB.左下:光干渉断層計では全層の黄斑円孔.視力は0.3.中上:術後3カ月.赤色部分はGCCの菲薄化を示している.中中:網膜感度の平均は15.6dB.中下:黄斑円孔は閉鎖し視力は0.6.右上:術後6カ月.GCCの菲薄領域が拡大.右中:網膜感度は13.2dBと低下.右下:黄斑円孔は閉鎖しており視力は0.7.(69)あたらしい眼科Vol.29,No.4,20125030910-1810/12/\100/頁/JCOPY の表面には,神経系の網膜細胞の付着が認められ,内境界膜.離により網膜内層障害が起こることを裏付けています.黄斑円孔術後の視機能スペクトラルドメインOCTにより,黄斑円孔術後の網膜構造を詳細に検討することが可能となりました.網膜外層の回復過程が,外境界膜から外方へ向って経時的に進むこと,それに伴い術後視力が改善していくことを動的に観察することができます.中心視力の回復という点では,中心窩周囲の網膜外層の評価だけでも十分ですが,内境界膜.離を行った症例の術後黄斑機能を調べるうえでは,点(中心窩)だけではなく面としての評価も重要と思われます.これまでの検討からは,網膜内層の変化は術前黄斑円孔がみられた部分を超えて,内境界膜.離を行った範囲すべてに起きているようですので,この領域の視機能(網膜感度など)を注意深くみていく必要があると思います.内境界膜.離はどこまで必要か?術後網膜内層(GCC)厚と網膜感度の検討からは,内境界膜.離が網膜内層に対して何らかの障害をもつことは明らかなようです.特発性黄斑円孔に対する手術の際の内境界膜.離が有用であることには疑問の余地はありませんが,果たして全例で内境界膜.離は必要なのでしょうか?今後はどのような症例を内境界膜.離の適応に含めるかを改めて見直していくことも重要なのではないかと考えます.文献1)KellyNE,WendelRT:Vitreoussurgeryforidiopathicmacularholes.Resultsofapilotstudy.ArchOphthalmol109:654-659,19912)BabaT,YamamotoS,AraiMetal:Correlationofvisualrecoveryandpresenceofphotoreceptorinner/outersegmentjunctioninopticalcoherenceimagesaftersuccessfulmacularholerepair.Retina28:453-458,20083)OokaE,MitamuraY,BabaTetal:Fovealmicrostructureonspectral-domainopticalcoherencetomographicimagesandvisualfunctionaftermacularholesurgery.AmJOphthalmol152:283-290,20114)NotomiS,HisatomiT,KanemaruTetal:CriticalinvolvementofextracellularATPactingonP2RX7purinergicreceptorsinphotoreceptorcelldeath.AmJPathol179:2798-2809,2011■「黄斑円孔術後の網膜微細構造」を読んで■現在,黄斑円孔を手術で閉鎖して視力改善させるこ(OCT)による網膜の微細構造を観察することにより,とは,ほぼ確実にできるようになりました.しかし,視力のような患者の主観による基準ではなく,客観的研究に終わりがないように,この治療法にも改善すべ基準を黄斑円孔術後の網膜評価に持ち込むことに成功き点は多々あります.一つは,患者の苦痛や負担の問しました.将来は,この方法により,最も侵襲が少な題です.現在の黄斑円孔の手術では,術後にうつ向きく,患者の視力回復に効果的な方法が細かく選択され姿勢を取ることは避けられません.このうつ向き姿勢るようになるでしょう.たとえば,内境界膜.離は,は患者にとってきわめて大きな苦痛になっています.どの部位から,どのように施行したほうが最も組織損確かに,うつ向き姿勢なしでも,黄斑円孔が閉鎖する傷が少ない,あるいは染色はどの程度行ったほうがよという報告もありますが,閉鎖成功率は,うつ向き姿いか,また膨張ガスの影響もより細かにわかるように勢をした場合に比べやはり低いようです.この問題になると思います.ついては,多くの研究者が研究を行っており,早晩解OCTが導入された初期から,OCTにより手術術式決策が出ると思われます.そして,もう一つの問題はを決定することになると予言されていましたが,まさ手術術式の選択です.従来は,術後視力や円孔閉鎖成にそのことを最初に成し遂げた研究です.今後,薬物功率などを基準にして,手術術式が決められていまし的硝子体融解法など,さらに新しい治療法が現れますた.しかし,術後視力は多因子に影響されるため,細が,この方法はその評価にも応用可能であり,今後のかな手術術式を決定するための十分な判断基準はあり大きな発展が期待できるものであるといえます.ませんでした.今回,馬場隆之先生は光干渉断層計鹿児島大学医学部眼科坂本泰二504あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(70)

緑内障:DCT(Dynamic Contour Tonometer)

2012年4月30日 月曜日

●連載142緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也142.DCT(DynamicContourTonometer)伊東健九州労災病院門司メディカルセンター現在使用されている眼圧計の多くは,角膜を介して眼圧を測定するため,角膜の物理的特性が影響し『真の眼圧』とは乖離する.影響する角膜因子のなかで,厚さが大きな因子であるが,弾性の影響も大きい.DCT(dynamiccontourtonometer)は角膜の影響を受けにくい眼圧計で,信頼性が高いとされるGoldmann圧平眼圧計より真の値に近い眼圧が測定できる.眼圧測定は,眼科診療の基本であり,特に緑内障診療においては治療方針の決定,治療効果の判定に必要不可欠な検査である.したがって,眼圧を正確に測定することは大切である.●既存の眼圧測定計の問題点Goldmann圧平眼圧計(GAT)は,現在,眼圧測定のgoldstandardであるが,角膜を介しての間接的な測定方法で,角膜の物理的特性に影響をうけることは広く知られている.レーザーによる角膜屈折矯正手術(LASIK)の術後眼圧は,GATでは過小評価される.日常診療で,眼圧のスクリーニング検査に広く使用されている非接触空気眼圧計(non-contacttonometer:NCT)はGATよりも圧平面積が大きいため,GATよりもさらに角膜の影響を受けやすい.●Dynamiccontourtonometerとは角膜の物理特性に影響を受けにくい眼圧計として開発されたのが,dynamiccontourtonometer(DCT)である1)(図1).DCTは,圧平式眼圧計とは異なる理論に基づく眼圧計である.半径10.5mmの凹面形状のチップの中心に,1.2mmの圧センサーが内蔵され,ディスポーザブルのプラスチックキャップを装着し,角膜と直径7.0mmの面積で接触させ,圧シグナルを収集しデジタル化する.眼圧は,心臓の周期に一致して周期的に変動し,収縮期眼圧と拡張期眼圧が存在する.DCTで測定し表示されるのは,拡張期眼圧と脈拍眼圧(ocularpulseamplitude)である.脈拍眼圧とは,収縮期眼圧と拡張期眼圧の差である.GATでは,測定時に上下のリングの周期的な水平方向のずれとして観察されていたものである(図2).(67)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1DynamicContourTonometer(DCT)細隙灯顕微鏡に装着して,眼圧を測定する.図2DynamicContourTonometer(DCT)で測定された眼圧波形眼圧は,心臓の周期に一致して周期的に変動する.収縮期眼圧と拡張期眼圧の差を脈拍眼圧(ocularpulseamplitude)とよぶ.●角膜厚と角膜曲率半径の影響GATやNCTにおいて,中心角膜厚と測定眼圧値は相関する報告が多く,一方DCTでは,中心角膜厚や角膜曲率半径と眼圧測定値は相関しない報告が多い2).あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012501 DCTとGAT(NCT)の測定値の差と中心角膜厚は有意に正の相関を認める3).これは,DCTは中心角膜厚に影響されないが,GATは角膜厚の影響を受けることを裏付ける結果である.現在,GATの測定値は角膜厚で補正することで,正確性が増すと考えられているが,それだけでは不十分である.なぜなら,同じ角膜厚であっても,同じ弾性率であるとは限らないからである.固体を一方向に力を加えて引き伸ばしたときの弾性率を,ヤング(Young)率(単位:MPa)とよび,ヤング率の低い物質は外力によって変形しやすく,ヤング率の高い物質は変形しにくい.角膜のヤング率は,0.01.10MPaまで幅広く報告されている.Liuらは,角膜弾性率,角膜厚,角膜曲率半径の順で,圧平眼圧計による眼圧測定値に影響することを理論値で報告している4)(図3).●DCTとGAT眼圧測定値の違いDCTはGATよりも,平均すると1.0.2.3mmHg高く眼圧が測定される2).筆者らの日本人のデータでは,GATよりもDCTのほうが平均で,2.8mmHg高く測定される結果であった3).死体摘出眼に対して,マノメトリー(前房内に圧transducerを刺入して測定する眼内圧)を用いた実験系では,GATでは真の眼圧より平均4mmHg低く計測されたことに加え,角膜実質浮腫のある場合,さらに低く測定された.これに対して,DCTは真の眼圧とは平均0.6mmHgの差しかなく,しかも角膜実質浮腫の影響も小さかった5).既存の眼圧の基準値(平均値±2SD)である10.20mmHgには,DCTで得られた眼圧測定値は従わないため,実際の臨床上,DCTの眼圧測定値の取り扱い方に戸惑うことも多い.筆者らは,多施設で屈折異常や白内障以外の眼疾患を有しない日本人ボランティアおよび眼科外来受診患者で,DCTとGATの測定眼圧値について検討中である.中間報告(第65回日本臨床眼科学会抄録集,2011年)では,20歳以上を対象とした測定眼圧値の平均は,GAT:13.7±2.6mmHg,DCT:17.1±2.9mmHgであった.DCTとGATの差の平均は3.4±1.9mmHgで,DCTが高く測定された.DCTの長所は,デジタル表示で客観性がある,0.1mmHg単位で眼圧を測定できる,フルオレセインによ502あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012理論上の眼圧測定値(mmHg)5045403530252015100.3:E=0.58MPa:E=0.19MPa0.40.50.60.70.80.9中心角膜厚(mm)図3眼圧測定値に対するヤング率と中心角膜厚の影響ヤング率が高い角膜は,より眼圧測定に影響する可能性がある.E:ヤング率.(文献4より改変して引用)る染色が不要,眼瞼・涙液の状態の影響を受けにくいことなどがあげられる.ディスポーザブルのプラスチックキャップを装用するため,感染予防の点からも有利である.しかし,固視不良眼では測定精度が悪いなどの問題点もある.また,検者内誤差,検者間誤差は,GATよりもDCTのほうが小さいとする報告と,DCTのほうが大きいとする報告があるが,複数回測定した場合にGATに比べて変動幅が大きい印象がある.おわりに眼圧測定値で一喜一憂する患者さんを前にして,われわれはより真の眼圧に近い,正確な眼圧測定を目指す努力を続けなければならない.文献1)KanngiesserHE,KniestedtC,RobertYC:Dynamiccontourtonometry:presentationofanewtonometer.JGlaucoma14:344-350,20052)SchneiderE,GrehnF:Intraocularpressuremeasurement-comparisonofdynamiccontourtonometryandGoldmannapplanationtonometry.JGlaucoma15:2-6,20063)ItoK,TawaraA,KubotaTetal:IOPmeasuredbydynamiccontourtonometrycorrelateswithIOPmeasuredbyGoldmannapplanationtonometryandnon-contacttonometryinJapanesesubjects.JGlaucoma21:35-40,20124)LiuJ,RobertsCJ:Influenceofcornealbiomechanicalpropertiesonintraocularpressuremeasurement:quantitativeanalysis.JCataractRefractSurg31:146-155,20055)KniestedtC,NeeM,StamperRL:AccuracyofdynamiccontourtonometrycomparedwithapplanationtonometryinhumanCadavereyesofdifferenthydrationstates.GraefesArchClinExpOphthalmol243:359-366,2005(68)

屈折矯正手術:Keraflex治療

2012年4月30日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載143大橋裕一坪田一男143.Keraflex治療市橋慶之井手武南青山アイクリニック進行した円錐角膜症例に対し現在はさまざまな治療選択肢が得られるが,最近当院では適応に応じて熱形成によるKeraflex治療(以下,Keraflex)を施行している.KeraflexはもともとLASIK(laserinsitukeratomileusis)に代わる近視矯正手術目的で開発されたものであるが,その技術を円錐角膜症例に応用したものである.Keraflexは可能矯正量が大きく角膜の平坦化も得られ,今後,進行した円錐角膜に対する治療方法の一つとして期待される.軽度の円錐角膜症例においては眼鏡,ソフトコンタクトレンズやハードコンタクトレンズ装用で視力が得られる.しかし,円錐角膜用ハードコンタクトレンズやピギーバックでも視力向上が得られない進行例では外科的治療の介入を考慮する.従来であれば,全層もしくは深層角膜移植という選択肢のみであったが,現在は,角膜内リング(ICRS:intrastromalcornealringsegments,IntacsR)やクロスリンキング,topographyguidedconductivekeratoplasty(TGCK)などの移植より一段手前の温存的治療が行われている.さらに当院では最近,進行した円錐角膜症例に対し熱形成術を利用したKeraflexを施行している.Keraflexはもともと近視矯正目的で開発された手術であるが,それを円錐角膜症例に応用したものである.●特徴Avedro社(米国)のKeraflexの特徴として,矯正量が多く,手術が簡便で短時間,低侵襲である.また,術後の創傷治癒が早く,繰り返し施行できる可能性や円錐角膜の進行例だけでなく,進行予防にも効果的な可能性がある.利点としては,角膜に切開を加えない,角膜組織を除去しない,術後の角膜表面が滑らかであり,重症ドライアイを生じないなどがいわれている.●適応と禁忌当院での適応は,年齢が18歳以上であり,中心またはやや下方が突出している円錐角膜症例で,眼鏡矯正視力が1.0未満,等価球面度数.1.0D以上,コンタクトレンズ不耐症などがあげられる.KeraflexはUV-A(ultraviolet-A)クロスリンキングと併用して治療を行うため,照射部位の角膜厚が400μm以上あることが望ましい.禁忌は,外傷後,角膜上皮化の遅延,高度の瘢痕例などがあげられる.●方法Keraflexは,Avedro社が開発したVederaTMKXS(図1)という器械を用いて治療する.角膜中心を同定し図1VederaTMKXS図2専用のアプリケーターを角膜に接着図3術前術後の角膜の形状Pre-KeraflexPost-Keraflex(65)あたらしい眼科Vol.29,No.4,20124990910-1810/12/\100/頁/JCOPY 表1各機械による角膜熱形成術ABAvedroVederaTMKXS屈折変化(近視化遠視化),ラジオ波DRefractecViewpointTMCK屈折変化(近視化),ラジオ波術前1W1M2M3M4M5M1050-5-10-15-20-25等価球面度数(D)SunriseHyperionLTMTK屈折変化(近視化),レーザーEFG1.81.6A1.4B図6各症例の等価球面度数の推移1.2C1D800.8EHLogMAR視力LogMAR視力A70角膜屈折値(D)0.6BF60CG0.450DEFH0.240030術前1W1M2M3M4M5M20GH10図4各症例の裸眼logMAR視力の推移0術前1W1M2M3M4M5M1.2図7各症例のTMSの角膜屈折値の推移1A0.8B平均年齢31.5±8.2歳)に対し,KeraflexとクロスリンC0.6Dキングを施行した成績を示す.平均裸眼logMAR0.4E(logarithmofminimumangleofresolution)視力は,F0.2G術前1.39±0.21,術後1週間0.71±0.36,術後1カ月術前1W1M2M3M4M5M0H0.70±0.32であり,術前と比較し有意な向上を認めた(p-0.2-0.4図5各症例の眼鏡矯正logMAR視力の推移た後に,専用のアプリケーターを角膜表面に接触させ(図2),アプリケーターの円形の電極から低エネルギーの高周波(ラジオ波,915MHz)を角膜表面から250μmまでに内径3.5mm,外径5.0mmのドーナツ状に伝達させると,その部分の温度が65℃に上がり,コラーゲン線維が収縮し,角膜中心部が平坦化し,角膜形状を整えることができる(図3).この作用を利用して円錐角膜を平坦化させることができ,ラジオ波をあてている間,周囲の組織を守るために角膜表面を冷却するシステムを備えている.その後,同日もしくは後日にクロスリンキングを行い,角膜実質を架橋することで術後の角膜形状の戻りを予防する.他の熱形成術との違いを表1に示す.●成績以下に当院で円錐角膜7例8眼(男性8眼,女性0眼,<0.05)(図4).平均眼鏡矯正logMAR視力は,術前0.41±0.44,術後1週間0.40±0.25,術後1カ月0.39±0.26で,術前と同等であった(図5).等価球面度数(SE)は,術前.12.8±4.4D,術後1週間3.5±4.2D,術後1カ月0.1±4.2Dと術後に有意に遠視化を認めた(p<0.05)(図6).TMSの角膜屈折値は,術前54.2±7.0D,術後1週間37.3±3.8D,術後1カ月39.3±2.8Dと術後に有意に角膜の平坦化を認めた(p<0.05)(図7).まとめKeraflexは矯正量が多く,裸眼視力も向上し,進行した円錐角膜に対し有望な術式であると考えられたが,術後のregressionや矯正視力の変化,適応症例の検討なども含めて,さらなる経過観察が必要であると思われる.あくまでこれまでの少数例の結果に対する個人的な印象ではあるが,矯正量が多いため高度の円錐角膜症例にも有効であり,バラツキは大きいが一度遠視側へシフトした後に徐々にregressionを認めている.裸眼視力の向上により満足度も高い印象がある.☆☆☆500あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(66)

眼内レンズ:トーリック有水晶体眼内レンズ

2012年4月30日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎308.トーリック有水晶体眼内レンズ神谷和孝北里大学医学部眼科トーリック有水晶体眼内レンズ術後1年の臨床成績は術後裸眼視力が1.29,矯正視力が1.55と良好であり,術前視力より術後視力が1,2段階向上し,術前矯正視力と同じ術後裸眼視力が期待される.強度近視眼では乱視の合併が多く,トーリックレンズの登場により,さらなる視機能の向上が期待され,今後マーケットの主流になるであろう.後房型有水晶体眼内レンズ(phakicIOL;VisianICLTM,STAARSurgical社)は,2010年2月2日に厚生労働省より認可を受けているが,追加として2011年11月24日にトーリックレンズが承認された(図1).本手術の適応は,年齢20.45歳,前房深度2.8mm以上,術前屈折度数.6.0D以上の強度近視となり,通常LASIK(laserinsitukeratomileusis)で問題となる薄い角膜厚の症例でも手術適応となる.術前乱視度数に関しては,症例のほとんどが直乱視であり,3mmの耳側角膜切開により約0.5D直乱視化することを考慮して1),乱視が1Dを超える症例では原則としてトーリックICLTMを選択している.角膜内皮細胞密度は明確な基準はなく,年齢も考慮する必要があるが,2,200.2,800cells/mm2以上あることが望ましい.レンズの選択は,通常の球面レンズと同様にして角膜横径と前房深度に基づいて計算されるが,レンズサイズを迷うような症例では,回転予防を目的として大きめのサイズを選択することが望ましい.術式としては,通常の白内障手術に類似しており,LASIKサージャンよりも白内障サージャンに適している.術前座位において頭位を垂直にして水平方向(3-9時)のマーキングを行っておく.3.0mm透明角膜耳側切開を行い,インジェクターを用いて低分子粘弾性物質を満たした前房内にレンズを挿入する.つぎに,マニュピレーターを用いて,それぞれのハプティクスを虹彩下に入れる.残存した粘弾性物質を十分に除去し,角度ゲージのついたリングを用いて目標とする乱視軸へレンズを固定する(図2).トーリック眼内レンズと異なり,角膜強主経線とマーキングの角度に基づくAxisRegistration法は通用しない.このレンズはオーダーレンズであり,水平方向からあまり回転させる必要がない(最(63)ToricICLToricICL図1後房型トーリック有水晶体眼内レンズ(VisiantoricICLTM,STAARSurgical社)眼内レンズ面上において6Dまでの乱視矯正が可能である.図2トーリック有水晶体眼内レンズの乱視軸合わせマニュピレーターを用いて目標とする乱視軸へレンズを回転させる.大で22.5°,ほとんどが10°以内).最後に,創口のハイドレーションを行い,手術を終了する.ただし,全体を通じて水晶体に接触しないように操作する必要がある.筆者らの施設では,トーリックICLTM術後1年の手術成績を報告している2)が,安全係数が1.17±0.21,有効係数が1.00±0.29であり,術後裸眼視力が1.29,術後矯正視力が1.55であった.これらは,術前視力より術後視力が1段階ないしは2段階向上し(図3),術前矯正視力と同じ術後裸眼視力が期待できること(図4)を意味し,興味深い.予測屈折度数から±0.5D,1.0D以内に入った割合がそれぞれ91%,100%であり,術後1週から1年の屈折変化は.0.07±0.27Dと安定していた.眼球四次収差は有意な増加を認めず,コントラスト感度は有意に上昇した(図5).その一方,軸ずれ補正を要しあたらしい眼科Vol.29,No.4,20124970910-1810/12/\100/頁/JCOPY 1001001001001002.55096100434395眼数(%)939393862801.560:術前:術後対数コントラスト感度眼数(%)140200.5-3-2-1012301週1カ月3カ月6カ月1年000.20.40.60.811.21.4矯正視力の変化術後期間対数空間周波数(cycles/degree)図3トーリック有水晶体眼内レンズ術後図4トーリック有水晶体眼内レンズ術後図5トーリック有水晶体眼内レンズ術前の矯正視力の裸眼視力後のコントラスト感度平均術後矯正視力は1.55であり,術前視■:視力1.0以上,■:視力0.5以上.術前眼鏡矯正に比較して術後コントラスト力より術後視力が1段階ないしは2段階向平均術後裸眼視力は1.29であり,術前矯感度が有意に向上する.上することが多い.正視力と同じ術後裸眼視力が期待できる.た症例が8.9%であり,いずれも術後早期(1日.1週)に発症した.角膜内皮細胞減少率は2.9%,症候性白内障を含めた重篤な合併症を認めなかった.視機能に関しては,第一に角膜中央部に対して外科的侵襲がなく,形状変化をほとんど起こさないこと,第二に瞳孔面上で矯正を行うため,網膜像の倍率変化を生じにくいことが指摘されている.個体差を有する角膜創傷治癒反応も受けにくいため,予測精度・安定性もきわめて良好であり3),もちろん調節力も温存可能である4).さらに,高価なレーザー装置も一切不要であり,内眼手術に習熟した術者であれば手術手技も比較的容易と考えられる.自験例による検討では,.6.0D以上の強度近視眼におけるphakicIOLとwavefront-guidedLASIKの視機能を比較したところ,phakicIOLはLASIKに比較して高次収差増加が有意に少なく,コントラスト感度も有意に改善した5).さらに.3.0..6.0Dの中等度近視の比較においても,強度近視ほどではないものの,同様の傾向を示した6).もちろん費用対効果や合併症について検討の余地があるものの,視機能に関してはphakicIOLが優れており,今後さらに適応が拡大する可能性がある.強度近視眼では乱視を認めることが多いため,トーリックレンズの登場でさらなる視機能の向上が期待され,今後マーケットの主流になるであろう.いずれにせよ,長期的な経過観察は術者の責務であり,正しい理解のもとで普及されていくことを期待したい.文献1)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:Surgicallyinducedastigmatismafterposteriorchamberphakicintraocularlensimplantation.BrJOphthalmol93:1648-1651,20092)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:One-yearfollow-upofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopicastigmatism.Ophthalmology117:2287-2294,20103)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20094)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:Timecourseofaccommodationafterimplantablecollamerlensimplantation.AmJOphthalmol146:674-678,20085)IgarashiA,KamiyaK,ShimizuKetal:Visualperformanceafterimplantablecollamerlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.AmJOphthalmol148:164-170,20096)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Visualperformanceafterposteriorchamberintraocularlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforlowtomoderatemyopia.AmJOphthalmol,2012Feb22〔Epubaheadofprint〕2012年4月作成

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ処方前検査:角膜形状検査はここまで必要

2012年4月30日 月曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】334.コンタクトレンズ処方前検査:角膜形状検査はここまで必要中川智哉国立病院機構大阪医療センター眼科ガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)の処方に際しては,オートケラトメータで測定された角膜曲率半径の中間値を参考にベースカーブを決定することが一般的と考えられる.オートケラトメータは角膜曲率半径を測定する装置であり,広い意味では角膜形状検査であるが,一般的な機種では角膜中央約3mm径での強主経線と弱主経線の曲率半径のみしか計測できない.角膜トポグラファーであれば広範囲に詳細な角膜形状解析ができるが,RGPCL処方前の全症例に検査を行うことは現実的でないため,本稿では,どのような症例に角膜形状解析を行ったほうがよいかにつき述べたい.●円錐角膜円錐角膜は思春期ごろに発症することが多く,軸性近視の発症時期と重なっているため,近視や乱視の症状を訴えてコンタクトレンズ(CL)処方を希望する患者のなかに円錐角膜やその疑い例が含まれている可能性があることを意識する必要がある.円錐角膜に特徴的な所見である角膜菲薄化・前方突出,Fleischer輪やVogt’sstriaeなどが細隙灯顕微鏡検査で確認できる症例は角膜形状解析を行わなくても診断可能であるが,それらの所見を欠き,矯正視力も良好だが,角膜形状解析でのみ円錐角膜パターンを認める円錐角膜疑い症例は見逃されやすい.もし円錐角膜と気づかずにRGPCL処方を行えば,フィッティング不良によるCLの固着や脱落,アピカルタッチによる角膜上皮障害,CL不耐の原因となる可能性がある.円錐角膜を疑う所見としては,若年者の倒乱視や斜乱視,強度角膜乱視,角膜曲率半径中間値の左右差,オートケラトメータのMeyerリングの乱れや測定結果の不安定さ,などがあり,これらを認める症例には角膜形状解析検査が望ましい(図1).単一球面RGPCLを装用すると初期の円錐角膜でも2点ないしは3点フィットのパターンを示すことが多いため,フィッティングチェック時にこれらのパターンを認めた際にも角膜形状解析を行(61)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1円錐角膜疑い症例の角膜トポグラフィ細隙灯顕微鏡では異常を認めないが,角膜中央やや下方に非対称な急峻化を認め,RGPCLは3点フィットのパターンとなった.オートケラトメータでの角膜乱視は.3.5D,軸は160°であった.う.円錐角膜に特徴的な角膜トポグラフィのパターンは,角膜傍中央部の屈折力増加,角膜屈折力の非対称化,強主経線の曲線化などである.●CL装用による角膜変形フィッティング不良や眼瞼形状などによって,RGPCLの瞬目に伴う動きが不良となると,CLの圧迫によって角膜が変形する(cornealwarpage)1).CLが上方や下方などに偏心して安定した場合は,非対称な角膜変形による不正乱視の原因となる.さらに涙液分布の異常やCLの物理的刺激によって,異物感,充血,圧迫感などの装用感不良や角結膜上皮障害の原因となる.CL装用による角膜変形に気づかずにCL処方を行えば,変形した角膜に対しての処方となり,主訴や上皮障害が軽快せずに頻回の処方交換を必要とする原因となる.角膜変形を疑う所見は,RGPCLの偏心や,それをうかがわせるCLエッジに沿った角膜上皮障害,CLエッジによる角膜の圧痕などである.また,RGPCL装用後数時間で圧迫感や充血などの主訴が発生する場合にも注意が必要である.オートケラトメータの測定値が大きくあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012495 図2RGPCL下方安定症例の角膜トポグラフィInstantaneouspowerのカラーコードマップを示す.角膜上方にCLエッジに一致した弧状のフラット化,圧迫を受けていない角膜上方のスティープ化を認めた.変化している場合や,他院で以前に処方されたCLのベースカーブとオートケラトメータの曲率半径中間値が解離している場合などにも角膜変形の可能性がある.RGPCL装用による角膜変形に特徴的な角膜トポグラフィのパターンは,CLエッジの圧迫による弧状のフラット化,偏心したCL下のフラット化,偏心の反対側のスティープ化,などである(図2).RGPCLによる角膜変形の改善にはRGPCLの装用中止が必要であるが,改善に必要な期間は症例によって差があるので,角膜形状解析で正常のパターンに戻ったことを確認してからRGPCLを再処方するようにする.●エキシマレーザー屈折矯正手術後LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの術後症例は今後も増加すると考えられるが,患者からの申告がない場合は細隙灯顕微鏡では一見わかりにくい症例もあるため注意が必要である.LASIK術後眼はエキシマレーザー照射部位のみがフラット化し,それより周辺の角膜形状は変化しない.通常の場合,RGPCLの直径はエキシマレーザーの照射径よりも大きいため,CLとタッチする角膜周辺部の形状解析結果を参考にCLを処方することが望ましい.LASIK術後に近視や乱視が増加してくる症例のなかには,keratectasia症例が含まれている可能性があるので,その検出の意味でも角膜形状解析が必要である.●オルソケラトロジー近視矯正目的で使用されるオルソケラトロジーレンズは,ガイドラインで円錐角膜の兆候がある患者は処方禁忌となっているため2),そのスクリーニングのために処方前には角膜形状解析が必要である.適切な矯正を得るためには就寝時のCLフィッティングが重要であり,CLの偏心は矯正効果不良や不正乱視の原因となる.良好なセンタリングで矯正が得られているかの判定にも角膜形状解析が必要である.文献1)WilsonSE,LinDT,KlyceSDetal:Rigidcontactlensdecentration:Ariskfactorforcornealwarpage.CLAOJ16:177-182,19902)日本コンタクトレンズ学会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,2009☆☆☆496あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(62)

写真:上眼瞼に生じた結膜扁平上皮癌

2012年4月30日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦335.上眼瞼に生じた結膜扁平上皮癌細谷友雅兵庫医科大学眼科①②③図2図1のシェーマ①:乳頭状隆起性腫瘍.②:腫瘍内の血管.③:瞼縁.図1初診時上眼瞼翻転写真(49歳,男性)左上眼瞼結膜鼻側2/3の範囲に血管に富む乳頭状隆起性腫瘍を認める.図3ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色弱拡大像図4HE染色強拡大像核分裂像(→)が目立ち,核・細胞質比の増大,細胞の多形性,基底細胞の極性喪失を認め,結膜扁平上皮癌と診断された.(Bar=50μm)外向性に乳頭状に増殖する扁平上皮細胞を認める.(Bar=500μm)(59)あたらしい眼科Vol.29,No.4,20124930910-1810/12/\100/頁/JCOPY 結膜に生じる上皮性の腫瘍は,基底膜が保たれたconjunctivalintraepithelialneoplasia(CIN)と,基底膜を越えて腫瘍が増大した扁平上皮癌(invasivesquamouscellcarcinoma:SCC)に分類される1).いずれも瞼裂部,特に角膜輪部に好発するが,結膜円蓋部や眼瞼結膜から発生することもあり,瞼裂部に発生する場合と比べて発見が遅れやすい.発生要因に,ヒトパピローマウイルス(HPV)16型と18型の関与が指摘されている.上眼瞼に生じた結膜扁平上皮癌の症例を紹介する.●症例患者:49歳,男性.主訴:左眼視力低下・左上眼瞼腫瘤.現病歴:10カ月前から左上眼瞼腫瘤に気付いていたが,麦粒腫と考え放置していた.徐々に増大し視力低下も自覚したため近医を受診し,悪性腫瘍が疑われ,兵庫医科大学病院眼科を受診した.全身疾患:糖尿病内服加療中,ヘモグロビン(Hb)A1C5.6%.初診時所見:VS=0.3(0.5)で,左上眼瞼結膜鼻側2/3の範囲に血管に富む乳頭状隆起性腫瘍を認め(図1),一部は瞼裂より突出し眼瞼翻転せずとも観察可能であった.角膜上皮は軽度の点状表層角膜症を認めるのみで,眼球結膜には異常を認めなかった.前房,水晶体に異常はなく,眼底は単純糖尿病網膜症で黄斑浮腫は認めなかった.耳前リンパ節は触知しなかった.経過:結膜扁平上皮癌の他,結膜乳頭腫,結膜アミロイドーシスを鑑別疾患と考え腫瘍生検を施行した.切除範囲は瞼裂から突出している部分を中心として可及的広範囲とした.病理診断の結果が結膜扁平上皮癌(図3,4)であったため,残存腫瘍縮小目的に院内調整1%5-FU(5-フルオロウラシル)点眼を1日3回2週間行った.その後,残存腫瘍の追加切除を施行し,術中0.04%マイトマイシンC(MMC)を5分間病巣に塗布した後に生理食塩水で洗浄した.視力は腫瘍切除後VS=1.0(1.0)と回復した.視力回復は腫瘍による角膜の圧迫が解除されたためと考えられた.術後,創が上皮化したことを確認したのち1%5-FU点眼1日3回2週間を1クールとし,術後療法を開始した.3クール施行予定で,現在1クールが終了したところであり,腫瘍の再発は認めない.結膜扁平上皮癌の治療は完全切除が基本であるが,5-FU点眼,MMC点眼,インターフェロンa-2b点眼は,術後の再発抑制あるいは腫瘍縮小に有用である2).Birkholzらは術中あるいは術後にMMCを使用した群と使用しなかった群では再発率に大きな差があり,たとえ術中切除断端が腫瘍細胞陰性であったとしてもMMCは使用すべきであると述べている3).これら抗癌剤の使用方法に確立されたプロトコールはない.5-FUは正常上皮の増殖も抑制するため,副作用として突然の角膜上皮欠損を生じ,眼痛を訴えることがある.この場合,5-FUの投与を中止すると回復する.MMC点眼は晩発性に強膜融解のリスクがあり,慎重に使用しなければならない.MMCによる強膜融解は発症すると制御不可能であるが,5-FUによる角膜びらんは投与中止後に治癒するため,筆者は点眼として使用する抗癌剤は5-FUを選択している.SCCは一般に放射線感受性が高い.腫瘍が大きく切除しきれない場合や,眼瞼浸潤例では,術後に放射線照射を併用するのも一つの方法である.文献1)細谷友雅,外園千恵:〔角膜疾患Q&A〕臨床編眼表面の腫瘍性疾患の診断と治療のポイントを教えてください.あたらしい眼科23(臨増):68-70,20072)辻英貴:眼表面悪性腫瘍に対する局所化学療法.あたらしい眼科28:1371-1376,20113)BirkholzES,GoinsKM,SutphinJEetal:TreatmentofocularsurfacesquamouscellintraepithelialneoplasiawithandwithoutmitomycinC.Cornea30:37-41,2011494あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(00)

交感神経α1遮断薬,交感神経刺激薬,副交感神経作動薬

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):487.491,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):487.491,2012交感神経a1遮断薬,交感神経刺激薬,副交感神経作動薬a1-AdrenergicAntagonist,AdrenergicAgonistsandCholinergicAgonist川瀬和秀*はじめに緑内障の治療薬の柱は,プロスタグランジン(PG)関連薬とb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)であることは間違いない.実際に,PG関連薬,b遮断薬,CAIと配合剤の組み合わせは無限にある.しかし,この4種類をどのように組み合わせても眼圧コントロールが不能な症例や視野障害の進行が著しい場合や,副作用などによって使用できない薬剤がある場合は,異なる作用機序の薬剤を追加するか手術治療を選択する必要がある.異なる作用機序の薬剤を追加するにしても闇雲に点眼薬を増やすことはアドヒアランスの面からも避けなければならない.通常は配合剤を含めて3.4剤が限度と考えられる.日頃から薬剤の特徴をよく理解し,典型例ごとにシミュレーションを行っておくことにより,忙しい外来においても点眼薬の特徴と症例の状態を考慮した最適な薬剤を追加できるようにしておきたい.a1受容体GqPIPIP2DGPKCPLCIP3MAPキナーゼ,Ik-Bなどのリン酸化ATPADPI交感神経a1遮断薬:ブナゾシン(デタントールR)ブナゾシンはアドレナリン受容体a1,a2受容体のうちa1に対する遮断薬であり,a1作用による毛様体筋収縮を阻害することによりぶどう膜強膜流出を増加させ眼圧を下降させる(図1).ラタノプロストによるぶどう膜強膜流出の増加はマトリックスメタロプロテアーゼによる毛様体筋間隙細胞外基質の分解によると推測され,作用機序が異なるため相加作用が期待できる.眼圧下降作用はb遮断薬にやや劣るものの,a遮断作用によりエ小胞体図1a受容体とぶどう膜強膜流出Gq:三量体G蛋白,PI:ホスファチジルイノシCa2+毛様体筋の収縮遺伝子の転写活性化トール,PIP2:ホスファチジルイノシトールビスリン酸,DG:ジアシルグリセロール,IP3:イノシトール三リン酸,PKC:プロテインキナーゼ毛様体筋路間のスペース減少C,ATP:アデノシン三リン酸,ADP:アデノ?シン二リン酸,MAPキナーゼ:マイトジェン活毛様体筋性化プロテインキナーゼ,Ik-B:転写因子,ぶどう膜強膜流出↓NF-kBのインヒビター.(徳岡覚:眼科プラ毛様体筋クティス11,文光堂,2006より)*KazuhideKawase:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕川瀬和秀:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(53)487 ンドセリンによる血管収縮を抑制する1)ため,眼循環改善作用が期待できる.さらに,刺激や副作用が少ないため,初期緑内障や他の薬剤が副作用で使いづらい場合には良い適応と考えられる.また,眼循環障害の関与が示唆される正常眼圧緑内障や眼圧下降が十分得られているにもかかわらず視野障害が進行する症例に良い適応となる.局所副作用は軽度の結膜充血,異物感,角膜びらん,眼瞼炎などがあるが,他の緑内障治療薬に比べて少ない.全身副作用もほとんど認めないが,添付文書には頭痛,動悸などが記載されている.II交感神経刺激薬:ジピベフリン(ピバレフリンR),ブリモニジン(アイファガンR)1960年代後半より1970年代後半にかけて交感神経刺激薬は副交感神経刺激薬とともに緑内障治療の主役であった.しかし,1970年代にb遮断薬が使用され,PG関連薬や炭酸脱水酵素阻害薬の臨床導入により,ほとんど使用されなくなってきた.しかし,a2刺激薬であるブリモニジンの発売により,その眼圧下降作用とともに神経保護作用が期待されている.実際,欧米ではb遮断薬と同程度に使用されている.交感神経系受容体はa(a1,a2),b(b1,b2,b3)の受容体に分けられ,全身および眼内に分布している(表1).臨床で使用されているジピベフリン(エピネフリンのプロドラッグ)はa1,a2,b1,b2,b3の刺激作用がある.エピネフリンはab受容体すべてに作用し,眼圧下降機序は3期に分けられている(図2)2).I期:点眼数分後に認められる毛様体充血とともに毛様体間質への水分移行減少による房水産生抑制.II期:I期に引き続き起きるa刺激作用による房水排出増加.この作用はチモロールで阻害されベタキ表1a,b受容体の分布a受容体a1a2血管,前立腺,眼内眼内b受容体b1b2b3心臓気管支,骨格筋,子宮脂肪眼球内分布a1a2b虹彩,涙腺,脈絡膜血管毛様体,網膜眼内すべての組織(毛様体にはb2>b1)ソロールで阻害されないためb2受容体を介したものと考えられている.III期:投与後数週間.数カ月にかけて認められる線維柱帯のグリコサミノグリカン代謝による排出促進.ブリモニジンはa2選択制の高い薬剤である.このため眼圧下降機序はb遮断薬と相似している部分もある.すなわち,a1はGq蛋白を介してホスフォリパーゼCを活性化するが,a2はGi蛋白,bはGs蛋白を介してどちらもadenylatecyclase(アデニル酸シク①②③図2エピネフリンの眼圧下降機序第I期①:房水産生の抑制.第II期②:ぶどう膜強膜からの排出促進.第III期③:グリコサミノグリカンの代謝による濾出促進.(木村泰朗:眼科プラクティス11,文光堂,2006より)b2受容体a2receptor効果器交感神経末端受容体a1b2a2b1図3交感神経とシナプス受容体(木村泰朗:眼科プラクティス11,文光堂,2006より)488あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(54) ラーゼ)活性を抑制し,cyclicAMP(アデノシン一リン酸)産生を減少させて房水産生を抑制する.ただし,a2受容体は効果器側ばかりでなく交感神経末端側にも存在しnegativefeedback機序として作用しており,b遮断薬との相加作用が認められている(図3).また,上強膜静脈圧低下やPG誘導作用関与の房水排出促進機序もあげられている.ジピベフリンはエピネフリンのプロドラッグであり,脂溶性が高く角膜透過率はエピネフリンの17倍とされるが,眼局所で加水分解されエピネフリンに変わる.このため点眼濃度はエピネフリンの1/10以下であり,副作用はエピネフリンに比べて少ない.しかし,交感神経刺激薬であるため,全身および局所の副作用が認められる.全身的副作用としては,循環器系(血圧上昇,頻脈,不整脈),呼吸器(咳嗽,呼吸困難,気管支炎),精神神経(不眠症,うつ病,神経過敏,振戦),消化器(胃腸障害,悪心,味覚障害),感染症(インフルエンザ症候群,感冒)などがある.また,外眼部副作用として,熱感,刺激感,反応性充血などが報告されている.眼局所副作用として,散瞳,エピネフリン黄斑症があり注意が必要である.ブリモニジンは,a2受容体を選択的に刺激することから,a1受容体刺激時に発現する散瞳や口腔内乾燥感などの副作用の頻度は低い.眼圧下降機序は,房水産生抑制に加え,ぶどう膜強膜経由の房水排出促進が関与している.また,動物実験にて,神経保護作用の可能性が示唆されている3).米国では,0.2%ブリモニジン酒石酸塩点眼液が使用されていたが,眼局所での副作用低減を目的に,防腐剤を塩化ベンザルコニウムから亜塩素酸ナトリウムに変更し,さらに製剤のpHを主薬のpKa(酸解離定数)に近づけることにより主薬の眼内移行性を高め,主薬濃度を0.15%,さらには0.1%まで下げられている.今回日本で発売されるものは,0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガンR点眼液0.1%)で,防腐剤は米国と同じ亜塩素酸ナトリウムを使用している.このため,アレルギー反応の抑制や眼内移行の改善がなされ,また神経保護作用も示唆されている新しいタイプの緑内障治療薬として期待されている.呼吸器系疾患および循環器系疾患にかかわる禁忌の記載はないが,交感神経刺激薬である以上,投与開始時には局所および全身の副作用には十分注意して使用することが大切である.III副交感神経作動薬:ピロカルピン(サンピロR)ピロカルピンは1世紀以上前から使用されている長い歴史のある緑内障治療薬であるが,高頻度の副作用(表2)や点眼回数の問題のため使用されることは少ない.しかし,他の薬剤と異なる作用機序により著効を示す症例も少なくない.作用機序は,毛様体筋を収縮させて強表2ピロカルピンの副作用重大な副作用眼類天疱瘡(結膜充血,角膜上皮障害,乾性角結膜炎,結膜萎縮,睫毛内反,眼瞼眼球癒着など)過敏症眼瞼炎眼暗黒感,視力低下,調節障害,近視化,眉毛痛,毛様痛,結膜充血,掻痒感,白内障,網膜.離消化器下痢,悪心・嘔吐その他頭痛,発汗,流涎,徐脈点眼前点眼前点眼後点眼後Schlemm管強膜岬線維柱帯毛様体縦走筋図4ピロカルピンの眼圧下降機序a:毛様体縦走筋が収縮し,線維柱帯網が開く.b:周辺虹彩を線維柱帯から引き離し隅角を開大させる.(中島正之:眼科プラクティス11,文光堂,2006より)(55)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012489 膜岬を後方へ牽引し線維柱帯網を開大させて房水流出抵抗を減少させて眼圧を下降する(図4a).また,閉塞隅角緑内障では瞳孔括約筋を収縮させ虹彩を平坦化し周辺虹彩を線維柱帯から引き離し隅角を開大させることも機序の一つである(図4b).近年,線維柱帯にムスカリン受容体と収縮性細胞の存在が明らかにされ,ピロカルピンなどのムスカリン作動薬は線維柱帯に直接作用して房水流出を促進している可能性も示唆されている4).急性図5浅前房とピロカルピンによる縮瞳閉塞隅角緑内障では,炭酸脱水酵素阻害薬や高張浸透圧薬の全身投与とともに1%または2%のピロカルピンを1時間に3.4回点眼し瞳孔ブロックの解除を図る.その他の症例では,併用薬として1日4回使用する.開放隅角緑内障や落屑緑内障においても症例によっては著効する場合もあるので,手術治療を選択する前に使用してみる価値がある.局所副作用として,縮瞳による暗黒感,視野狭窄(全体の感度低下),視力低下や,毛様体筋の緊張による近視化は薬理作用によるもので必ず起こりうるものである(図5,6).全身副作用は,ムスカリン作用により流涎,発汗,下痢,悪心・嘔吐などを惹起し,喘息発作,徐脈を生じることがある.長期投与では虹彩.腫,虹彩後癒着,白内障,網膜.離などをひき起こすことがある.禁忌はぶどう膜炎で,慎重投与は気管支喘息,悪性緑内障,網膜.離の危険があるもの,妊婦である.ピロカルピン投与前には必ず暗黒感,近視化などの副作用について説明し低濃度から使用する.閉塞隅角緑内障に有用な薬剤であるが,まれにレーザー虹彩切開術を施行していない閉塞隅角緑内障で,水晶体の前方移動のため急性緑内障発作を惹起する可能性もある.また,PG関連薬併用による相加作用も認められているが,図6ピロカルピン投与による視野障害2012.12011.112011.82011.6白内障手術ピロカルピン投与490あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(56) 毛様体筋を収縮させぶどう膜強膜流出を抑制することから作用が拮抗する可能性が示唆されている.いずれにしても使用に際して効果と副作用の確認が大切な薬剤である.文献1)杉山哲也,奥英弘,守屋伸一ほか:エンドセリン-1眼循環障害モデルを用いた塩酸ブナゾシン点眼液の評価.日眼会誌98:63-68,19942)SearsML:Autonomicnervoussystem:Adrenergicagonists.HandbookofExperimentalPharmacology,vol.69,SearsMLed,SpringerVerlag,Berlin,19843)DonelloJE,PadilloEU,WebsterMLetal:alpha(2)-Adrenoceptoragonistsinhibitvitrealglaucomateandaspartateaccumulationandpreserveretinalfunctionaftertransientischemia.JPharmacolExpTher296:216-223,20014)EricksonKA,SchroederA:Directeffectsofmuscarinicagentsontheoutflowpathwayinhumaneyes.InvestOphthalmolVisSci41:1743-1748,2000(57)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012491

知っておきたい配合剤(炭酸脱水酵素阻害薬+β遮断薬)

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):479.485,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):479.485,2012知っておきたい配合剤(炭酸脱水酵素阻害薬+b遮断薬)Need-to-knowTopicsofCombinationTopicalGlaucomaMedication(Dorzolamide-TimololFixedCombination)中谷雄介*大久保真司*はじめに早期緑内障を対象としたEarlyManifestGlaucomaTrialにおいて1mmHgの眼圧下降が緑内障進行の危険性を約10%減少させると報告され1),また,正常眼圧緑内障(NTG)患者を対象としたCollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyでは30%の眼圧下降を行うことで視野障害の進行を抑制することが報告された2).これらの報告からNTGの目標眼圧はベースラインから30%の低下が一つの目安といえる.しかし,現在の第一選択薬とされるプロスタグランジン関連点眼薬(PG剤)のみでは20%近くの眼圧下降は得られるが,目標とする30%には不十分といわれている3).たとえば,NTGに対するビマトプロストとラタノプロストの有効性を検討したところ,いずれのPG剤を使用した場合も眼圧下降率は16%であった3).多治見スタディによると日本人の40歳以上における広義原発開放隅角緑内障の有病率は3.9%,NTGは3.6%であり,NTGの広義原発開放隅角緑内障に占める割合が91.8%と非常に多い4)日本においてNTGのもともと低い眼圧をさらに下げることに苦労する場合が多いと思われる.目標眼圧まで単剤では十分下降が得られない場合,まずは単剤を別の単剤に変更する.その後目標眼圧にまで下降しない場合EGSG(EuropeanGlaucomaSocietyGuidelines)では薬剤の追加を勧めている.その場合,コンプライアンスを良好にするため配合剤がより好ましいとしている5).日本では緑内障診療ガイドライン(第3版)に薬物併用の留意点として「薬剤の効果がない場合,効果が不十分な場合,あるいは薬剤耐性が生じた場合は,まず薬剤の変更を考慮し,単剤(単薬)治療をめざす」「単剤(単薬)での効果が不十分であるときには多剤併用療法(配合点眼薬を含む)を行い,追加眼圧下降効果とともに副作用に留意する」とある6).一般に複数点眼する際には点眼間隔をあけなければならないが,配合剤の場合,点眼間隔に関する配慮が不要となる.また,配合剤は複数点眼するより防腐剤にさらされる影響を軽減できるなどの利点がある.現在日本で使用できる配合剤はb遮断薬とPG剤を組み合わせた2剤(ザラカムR,デュオトラバR)およびb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬を組み合わせた1剤(コソプトR)である.炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド塩酸塩)とb遮断薬(チモロールマレイン酸塩)の配合剤であるコソプ図1コソプトR(炭酸脱水酵素阻害薬+b遮断薬)の外観*YusukeNakatani&ShinjiOhkubo:金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)〔別刷請求先〕大久保真司:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(45)479 トR(図1)は1998年に米国の食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)で承認され1999年にMerck社から発売され,日本でも2010年から導入され多剤併用する患者にさらなる利便性を提供している.以下,コソプトRはDTFC(dorzolamide-timololfixedcombination)と表記する.なお,海外の市販製剤のドルゾラミド塩酸塩は2%であり,わが国の1%とは異なっている点は考慮すべきであるが,わが国における第II相試験において有効性が1%と2%では変わらなかった7)と報告されているので,海外の報告も参考にしてよいと思われる注).注)本稿で紹介したデータのうち,文献11のみが1%ドルゾラミド塩酸塩を含有するDTFCを用いたものであり,他は2%製剤によるものである.IDTFCの眼圧下降効果緑内障点眼において最も重視されるのが眼圧下降効果と思われる.DTFCに配合されている2成分はどちらも房水産生抑制に働くが機序が異なるため相加的な眼圧下降効果が得られるとされているが,本当に相加効果があるのか,あるいはチモロールマレイン酸塩とドルゾラミド塩酸塩の2剤点眼した場合と比較して眼圧はどうなのかという点を文献的に整理した.また,他の薬剤とDTFCとの比較およびPG剤へのDTFCの追加効果についても併せて整理した.海外では他にもさまざまな配合剤があり,コソプトRと比較した論文がでているが,ここでは現在日本で使用することのできる組み合わせにしぼってまとめた.1.相加効果はみられるか?(チモロールまたはドルゾラミドの単剤とDTFCの比較)配合剤をそれに含まれている成分の単剤のみと比較した試験では,いずれも配合剤で単剤よりも優れた眼圧下降効果が得られている.Boyleら8)は,点眼をwashoutしたあとのランダム化試験で朝のトラフ値でベースライン値よりDTFCは27.4%(.7.7mmHg),ドルゾラミド15.5%(.4.6mmHg),チモロール22.2%(.6.4mmHg),朝のピーク値でそれぞれ32.7%(.9.0mmHg),19.8%(.5.4mmHg),22.6%(.6.3mmHg)下がり,480あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012DTFCで最も大きく下がったとしている.また,Clineschmidtら9)は,チモロールでコントロールされない症例253眼にチモロール,ドルゾラミド,DTFCをそれぞれランダムに分け,DTFCはトラフ値でベースラインよりさらに1.1mmHg,ピーク値(点眼後2時間)ではさらに2.8mmHgの眼圧下降が得られたと報告している.これらは単剤の成分のみと比較しているため2剤含まれている配合剤のほうが下がるのは当然とも思われるが,これらのことよりDFTCは2剤の相加効果がみられると思われる.2.チモロール+ドルゾラミド併用とDTFCの眼圧下降効果は同等か?(チモロール+ドルゾラミド併用からDTFCへ変更)つぎに,配合剤をそれに含まれている2剤を併用した場合と比較すると,ほぼ同等の眼圧下降効果が得られるとされるが,配合剤の眼圧下降効果が大きかったとの報告もみられる.同等の眼圧下降効果としてはStrohmaierら10)がチモロールを投与している患者をDTFCへ切り替えた群,またはチモロールとドルゾラミドの併用群に分けチモロールのベースライン眼圧よりDTFCではさらに14.20%の眼圧下降が得られ,併用群でも16.20%の眼圧下降が得られたと報告している.日本ではKitazawaら11)がチモロールを観察期に点眼して18mmHg未満にコントロールできなかった症例にコソプトR,チモロール,ドルゾラミド併用の3群に分けて投与8週の眼圧変化を評価し,コソプトRは.2.5mmHg,併用は.2.78mmHg,チモロールは.1.82mmHgの眼圧下降でありコソプトRはチモロール単独より有意に低下,さらに併用群に比べても劣らなかったことを証明している(図2).Francisら12)は,ランダム化比較試験でDTFCと併用療法の間に眼圧の差はなかったが,併用をDTFCに切り替えるとさらに1.7mmHgの眼圧下降が得られたとしている.理由として,コンプライアンスの向上と配合剤によりwashoutの影響が弱まったことがあるのではないかと考察している.併用療法と比較すると配合剤は眼圧下降の点でほぼ同じだが,コンプライアンスにすぐれている点が有用であると思われる.(46) +1.00の眼圧g)-1.0からmmH-2.0変化量(ライン-3.0ベース-4.0症例数048(週)MK-0507A=189185180チモロール=929088併用療法=191187183図2チモロールをベースラインとしてチモロール+ドルゾラミド併用またはDTFCへ変更した場合の眼圧変化量チモロールを観察期に点眼して18mmHg未満にコントロールできなかった症例にDTFC,チモロール,併用の3群に分けて投与し,DTFCは.2.5mmHg,併用は.2.78mmHg,チモロールは.1.82mmHgの眼圧下降であり,DTFCはチモロール単独より有意に低下,さらに併用群に比べても劣らなかった(▲:MK-0507A=DTFC,○:チモロール,●:チモロールとドルゾラミドの併用療法).(文献10より)3.PG剤を超えることができるか?(ラタノプロスト単剤とDTFCの比較)現在の緑内障の第一選択薬とされるPG剤との眼圧の比較では,PG剤と同じ13)というものからDTFCがやや劣るという報告がある.しかし,DTFCが劣っていたとする報告は,すでにb遮断薬の反応が良くない例をDTFC,ラタノプロストに分けているためバイアスがかかっている可能性がある.また,DTFCとラタノプロストを比較した論文が多いが,ビマトプロストとの比較ではビマトプロストの眼圧がより下降したという報告がある14).近年,夜間の眼圧上昇と全身血圧低下による視神経乳頭血流障害が緑内障性視神経障害の原因の一つである可能性が指摘されており,昼間のみならず夜間も含めた24時間眼圧コントロールの重要性が高まっている.PG剤はいずれも24時間をとおして眼圧を著明に下降させる15).DTFCの場合,房水産生抑制効果のあるb遮断薬だけでは夜間の眼圧下降効果は減弱するが,配合成分である炭酸脱水酵素阻害薬の房水産生抑制により,夜間の眼圧下降効果も期待できる16,17).Konstasら18)は,24時間眼圧で平均値は同じくらいだが,夜間(午後10時)ではDTFCがラタノプロストより有意に下がったと報ベースライン告している.また,いくつかの研究から拡張期眼灌流圧が緑内障の発症および進行に関与しているといわれている.拡張期眼灌流圧の計算方法はさまざまであるが,簡単にいえば拡張期血圧と眼圧の差のことである.Sungら19)は,1mmHgごとの平均眼灌流圧の変動の上昇につき27%視野障害進行リスクが増加することを示した.ラタノプロストは24時間眼圧を均一に下げ血圧には影響しないので,結果として拡張期眼灌流圧を増加させるといわれている.DTFCとラタノプロストを比較するとPG剤はやはり収縮期,拡張期血圧ともに影響はなかったが,DTFCはb遮断薬の作用として血圧を下げた.しかし,24時間眼圧はDTFCもラタノプロストも下降するがDTFCの下降効果が大きく,拡張期眼灌流圧はPG剤とDTFCの間には有意差はなかった.血圧に対する影響はDTFCのほうが大きいにもかかわらず,拡張期眼灌流圧に差がみられなかったのはドルゾラミドの夜間眼圧に対する影響かもしれないと考察している20).これらのことから,夜間眼圧,拡張期眼灌流圧を考えたコントロールを目指した場合DTFCが有力な選択肢になるといえる.4.他の配合剤との比較:LTFC(latanoprost.timololfixedcombination:ザラカムR)とDTFCLTFCとDTFCの比較では眼圧下降効果は同等とするものとLTFCのほうが眼圧下降効果が大きいという報告21,22)の両者がみられる.たとえば253人を対象とした3カ月のランダム化試験ではLTFCがDTFCより日中の平均眼圧で1mmHg下がったと報告されている22).しかし同等との報告もある23,24).最近の多施設,ランダム化比較試験ではb遮断薬でコントロールできない症例を対象にDTFC群とLTFC群に分け,ほぼ同じ眼圧下降が得られ,お互いの薬剤に対し非劣性であったが16mmHg以下に抑えることのできた割合はLTFC群で有意に多かった25)(図3).また,1日1回点眼のLTFCのほうが患者に好まれるという報告があった.(47)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012481 :Fixed-combinationlatanoprost/timolol表1正常眼圧緑内障におけるPG剤へのDTFCの追加効果患者の割合(%)100:Fixed-combinationdorzolamide/timolol908070605040*30*20100ベースライン眼圧からの8週後の眼圧下降率患者数(%)≧10%25(62.5)≧20%9(22.5)≧30%2(5)すでにPG剤を受けている正常眼圧緑内障を対象にDTFCを追加することでPG剤をベースラインとした眼圧よりさらに10%以上の眼圧低下を示したものは62.5%,20%以上は22.5%,30%以上は5%であった.(文献27より)24≦15≦16≦17≦18≦19≦20≦21≦2223日中眼圧値(mmHg)図3LTFCとDTFCの比較b遮断薬でコントロールできない症例を対象にDTFC群とLTFC群に分け,目標眼圧に到達した割合を示す.LTFCとDTFCはほぼ同じ眼圧下降が得られ,互いの薬剤に対し非劣性であったが,16mmHg以下に抑えることのできた割合は眼圧(mmHg)22212019181716LTFC群で有意に多かった(*p<0.01).(文献25より)5.PG剤へのDTFCの追加効果(ラタノプロストに156:0010:0014:0018:0022:002:00眼圧測定時間DTFCを追加した場合)PG剤は1996年に登場して以来,それまで第一選択薬であったb遮断薬に代わり単剤での第一選択薬となった.しかし,すべての症例で目標眼圧を達成できるわけではなく,目標とする眼圧下降を得るために,点眼薬の変更または追加が必要となる.Martinezら26)は,PG剤ノンレスポンダーの場合(ベースラインから15%以上下がらない場合)DTFCを追加することでさらに眼圧を下げ(25.4mmHgから20.2mmHgへ),眼圧変動も小さくなった(8.6mmHgから4.3mmHgへ)と報告した.またNTGに対してもPG剤にDTFCを追加することでさらなる眼圧下降が得られている27,28).すでにPG剤を受けている40眼のNTGのみを対象にした報告ではDTFCを追加することでPG剤をベースラインとした眼圧よりさらに10%以上の眼圧下降を示したものは62.5%,20%以上は22.5%,30%以上は5%であった27)(表1).Konstasら29)は,ラタノプロストだけで十分に眼圧コントロールが得られない(21mmHg以上)31眼に対しDTFCあるいはLTFCに切り替えるか,あるいはラタノプロストにDTFCを追加するかを行い,どれもラタノプロスト単剤より24時間眼圧を下げるがDTFC+ラ482あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012図4PG剤へのDTFCの追加効果(ラタノプロストにDTFCを追加した場合)ラタノプロストで効果不十分であった患者を対象にDTFCまたはLTFCへの切り替え,あるいはラタノプロストにDTFCの追加を行って眼圧を検討した結果,DTFCとLTFCはラタノプロスト使用時よりも24時間にわたり下降させ,さらにラタノプロストにDTFCを追加した場合24時間にわたりラタノプロスト群より有意な眼圧下降を示した(p<0.0032,反復測定データの分析)(◆:ラタノプロスト,●:DTFC,■:LTFC,▲:ラタノプロストとDTFCの併用療法).(文献29より)タノプロストは24時間眼圧のどの時点においても,また他のいずれの群においても最高,最低眼圧ともに最も有意に下がった(ラタノプロスト→LTFC=2.7mmHg,ラタノプロスト→DTFC=2.2mmHg,ラタノプロスト→ラタノプロスト+DTFC=5.6mmHg)と報告している(図4).DTFCの追加によりPG剤単独より約2倍の眼圧下降が得られると考えられる.今のところPG剤+DTFCが最も強い眼圧下降効果をもつといえる.II血流改善効果は?NTGにおいても眼圧は重要な要素であるが,十分な眼圧下降が得られても視野障害が進行する緑内障症例が存在するので,眼圧だけではNTGの病態が説明できな(48) い.そのような症例では,今のところエビデンスは乏しいが,循環改善効果も考慮する必要がある.PG剤にも視神経乳頭血流の増加作用が報告されている30)が,ドルゾラミドには血流増加作用の報告が多い31,32).140人の原発開放隅角緑内障(POAG)または高眼圧症(OH)を70名ずつドルゾラミドまたはチモロールに分け6カ月後にそれぞれ切り替え,scanninglaserDopplerflowmetryで耳側リムと視神経乳頭の血流を,またlaserinterferometryで脈絡膜血流を測定した結果では,ドルゾラミドはいずれの部位もチモロールより有意に血流を増加させた31).NTGの長期studyで後眼部の血流が視野障害の進行にかかわっていたという報告もある32).また,チモロール,ドルゾラミドをDTFCへ切り替えた報告で,scanninglaserDopplerflowmetryによるperipapillaryretinaとneuroretinalrimの血流評価を行い,DTFCは視神経乳頭リムの血流をどちらの群も合わせて20.8%増加させた33).DTFCとラタノプロスト+チモロールの比較でもscanninglaserDopplerflowmetry,colorDopplerimaging,scanninglaserophthalmoscopyなどを用いて眼血流量を測定したところ,ラタノプロスト+チモロール併用とDTFCは眼圧下降には差がなかったが,DTFCは網膜中心動脈の拡張期眼血流,耳側後毛様動脈(temporalposteriorciliaryartery)の血流速度を増やした34).一方で,ラタノプロスト+チモロール併用は眼血流に影響がなかった.後眼部の血流測定でもDTFCは眼動脈,後毛様動脈の血流速度を増加させ血管の抵抗係数を減少させたが,逆にLTFCは血流速度を減少させ抵抗係数を増加させた35).ドルゾラミドには眼血流改善効果を示す文献が多くあり,それを含むDTFCにも眼血流改善効果の報告がみられることより,DTFCは眼血流改善効果が期待される.IIIアドヒアランスの向上点眼薬自体の眼圧下降効果も重要であるが,実際の臨床で眼圧下降効果を得るためにはアドヒアランスを向上させることも重要である.1日に点眼する回数が増える(49)とアドヒアランスは下がるといわれている36).Claxtonら37)は,monitoringdevicesを用いて観察した結果,1回の点眼では79%が,2回では69%,3回では65%,4回では51%が正確に点眼していたとしている.緑内障患者のコンプライアンスは点眼の回数が1日3回以上になると不良になり朝,夜および就寝前と比較して昼の点眼忘れが有意に多いとの報告がある38).DTFCは多剤併用している患者の点眼回数を減らすことができるのでアドヒアランスの向上が期待できる.この点が配合剤の最大の利点と思われる.IVDTFCの安全性は?(b遮断薬が含まれることをお忘れなく!)配合剤による副作用は,その成分がそれぞれもつ副作用となんら変わらず,配合剤であることで起こるものはないとされている.FDAの承認のため1,035人に行った臨床試験では5%が何らかの有害事象のため中止となり,そのうちの30%は刺激感であった39).その他眼周辺部に白い沈着物がつく,しみる(刺激感),にがみなどがあるが,一過性であった.最も多い有害事象は滴下投与部位刺激感であったが,併用療法との差はみられなかった10).点眼回数が減るので角膜炎はDTFCで併用療法より有意に低かった40).配合剤の登場で,b遮断薬を投与される患者数は増加すると予想される.b遮断薬は収縮力の低下した心不全や心機能を改善するともいわれているが,その有効性は脈拍の低下と深くかかわっている.脈拍や駆出率を指標に低用量から慎重に導入されるが,高齢者では一般に薬剤の副作用が強く現れ,重大な結果を招く恐れがある.処方する医師は配合剤にb遮断薬が含まれていることを認識して,副作用に対する配慮を十分に行い,必要なら内科主治医に問い合わせるなどして安易な処方を避けなければならない.おわりにここまで海外の文献をおもに紹介してきたが,DTFCは,チモロールマレイン酸塩とドルゾラミド塩酸塩を合わせた眼圧下降効果がみられ,眼圧下降効果はPG剤とほぼ同等である.特に多剤併用患者において,DTFCを用いることにより利便性の向上によりアドヒアランスあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012483 の向上が期待される.■用語解説■点眼間隔:同じ時間帯に2種類の点眼薬を点眼する場合は,1剤目と2剤目の間隔を5分以上あけて点眼するのが望ましい.間隔をあけないで2剤目を点眼した場合,1剤目を洗い流してしまい(washout:洗い流し効果),薬剤の効果が弱まる.拡張期眼灌流圧:眼灌流圧は動脈圧と眼圧の差として定義される(拡張期眼灌流圧は拡張期血圧と眼圧の差).緑内障発症,進行の危険因子であるといわれる.文献1)LeskeMC,HeijlA,HymanLetal:Predictorsoflong-termprogressionintheearlymanifestglaucomatrial.Ophthalmology114:1965-1972,20072)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroupetal:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)QuarantaL,PizzolanteT,RivaIetal:Twenty-four-hourintraocularpressureandbloodpressurelevelswithbimatoprostversuslatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.BrJOphthalmol92:1227-1231,2008,Epub2008Jun274)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20045)EuropeanGlaucomaSociety:TerminologyandGuidelinesforGlaucoma,3rded.DOGMA,Srl:Savona,Italy,20086)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:22-29,20127)KitazawaY,AzumaI,IwataKetal:Dorzolamide,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor:atwo-weekdose-responsestudyinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma3:275-279,19948)BoyleJE,GhoshK,GieserDKetal:Arandomizedtrialcomparingthedorzolamide-timololcombinationgiventwicedailytomonotherapywithtimololanddorzolamide.Dorzolamide-TimololStudyGroup.Ophthalmology105:1945-1951,19989)ClineschmidtCM,WilliamsRD,SnyderEetal:Arandomizedtrialinpatientsinadequatelycontrolledwithtimololalonecomparingthedorzolamide-timololcombinationtomonotherapywithtimololordorzolamide.Dorzolamide-TimololCombinationStudyGroup.Ophthalmology105:1952-1959,199810)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Dorzolamide-TimololStudyGroup.Ophthalmology105:19361944,199811)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼液(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,201112)FrancisBA,DuLT,BerkeSetal:Comparingthefixedcombinationdorzolamide-timolol(Cosopt)toconcomitantadministrationof2%dorzolamide(Trusopt)and0.5%timolol─arandomizedcontrolledtrialandareplacementstudy.JClinPharmTher29:375-380,200413)DayDG,SharpeED,BeischelCJetal:Safetyandefficacyofbimatoprost0.03%versustimololmaleate0.5%/dorzolamide2%fixedcombination.EurJOphthalmol15:336342,200514)ColemanAL,LernerF,BernsteinPetal:A3-monthrandomizedcontrolledtrialofbimatoprost(LUMIGAN)versuscombinedtimololanddorzolamide(Cosopt)inpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology110:2362-2368,200315)KonstasAG,MaltezosAC,GandiSetal:Comparisonof24-hourintraocularpressurereductionwithtwodosingregimensoflatanoprostandtimololmaleateinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol128:15-20,199916)QuarantaL,GandolfoF,TuranoRetal:EffectsoftopicalhypotensivedrugsoncircadianIOP,bloodpressure,andcalculateddiastolicocularperfusionpressureinpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci47:2917-2923,200617)StewartWC,KonstasAG,NelsonLAetal:Meta-analysisof24-hourintraocularpressurestudiesevaluatingtheefficacyofglaucomamedicines.Ophthalmology115:11171122,200818)KonstasAG,PapapanosP,TersisIetal:Twenty-fourhourdiurnalcurvecomparisonofcommerciallyavailablelatanoprost0.005%versusthetimololanddorzolamidefixedcombination.Ophthalmology110:1357-1360,200319)SungKR,LeeS,ParkSBetal:Twenty-fourhourocularperfusionpressurefluctuationandriskofnormal-tensionglaucomaprogression.InvestOphthalmolVisSci50:5266-5274,200920)QuarantaLS,MigliorS,FlorianiIetal:Effectsofthetimolol-dorzolamidefixedcombinationandlatanoprostoncircadiandiastolicocularperfusionpressureinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci49:4226-4231,200821)PajicB,Pajic-EggspuehlerB,HafligerIO:Comparisonoftheeffectsofdorzolamide/timololandlatanoprost/timololfixedcombinationsuponintraocularpressureandprogressionofvisualfielddamageinprimaryopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin26:2213-2219,201022)ShinDH,FeldmanRM,SheuWP;FixedCombination484あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(50) 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配合剤(プロスタグランジン関連薬+β遮断薬)

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):473.477,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):473.477,2012配合剤(プロスタグランジン関連薬+b遮断薬)FixedCombinations(ProstaglandinAnalog/b-blocker)安樂礼子*富田剛司*はじめに現在国内外で使用可能なプロスタグランジン関連薬(以下,PG製剤)とb遮断薬の合剤は,0.5%チモロールと0.005%ラタノプロストの合剤ザラカムR,0.5%チモロールと0.004%トラボプロストの合剤デュオトラバR,0.5%チモロールと0.03%ビマトプロストの合剤ガンフォートR(GanfortR,国内では未販売)の3剤で,いずれも点眼回数は1日1回である.わが国では2010年からザラカムRとデュオトラバRが販売可能になり,1日1回という利便性と強力な眼圧下降効果から緑内障薬物療法におけるその役割が期待されている.I配合剤の使い方現在多数の緑内障治療薬が認可されているが,薬物療法の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることである.緑内障診療ガイドライン1)に述べられているように,配合剤は緑内障治療の第一選択薬にはならないが,多剤併用時には副作用の増加やアドヒアランスの低下につながることもあり,アドヒアランス向上のため配合点眼薬の使用も考慮すべきとなっている.具体的な使い方としては,①PG製剤の単剤療法をしている患者で,さらなる眼圧下降を得るために,b遮断薬との併用療法ではなく配合剤を使用する場合,②PG製剤を含む2剤併用療法している患者で,さらなる眼圧下降を得るために点眼を追加する際,点眼数を増やさないためにPG製剤とb遮断薬の配合剤を使用する場合,③PG製剤を含む2剤あるいは多剤併用療法している患者に,点眼数を減らしアドヒアランスを向上させる目的で配合剤を使用する場合,などがあげられる.II配合剤の眼圧下降効果PG製剤あるいはb遮断薬の単剤療法からPG製剤とb遮断薬の配合剤に切り替えた場合の眼圧下降効果は,配合剤のほうが優れていることは数多くの論文で報告されている.それでは,PG製剤とb遮断薬の併用療法と,PG製剤とb遮断薬の配合剤とでは,どちらが優れた眼圧下降効果を示すのであろうか.表1は,単剤併用療法と,配合剤との眼圧下降効果について比較したおもな論文をまとめたものである.配合剤ではb遮断薬を1回しか点眼しないため,PG製剤1日1回とb遮断薬を1日2回点眼している併用療法と比べたら眼圧下降効果が劣るはずであるが,単剤併用療法が配合剤に比べて眼圧下降効果が優れていたと報告している論文は少なく,多くが同等の効果あるいは非劣性であったと報告されている.これはアドヒアランスの向上が関係していると思われ,特に,ランダム化比較試験ではなく,併用療法から配合剤に切り替えて眼圧下降効果を比較した論文ではその傾向が強い.しかし,Webersら2)がPG製剤とb遮断薬の併用療法あるいは配合剤に関連する29の論文をメタアナリシスした結果では,単剤併用療法のほうが配合剤よりも眼圧下降効果が高かったと報告されており,個々の研究で有意差がで*AyakoAnraku&GojiTomita:東邦大学医療センター大橋病院眼科〔別刷請求先〕安樂礼子:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(39)473 表1配合剤と単剤併用療法との比較(眼圧下降率)報告研究デザインn配合剤単剤併用結果DiestelhorstらBrJOphthalmol,2004ランダム化比較試験1900.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回単剤併用療法のほうが,眼圧下降効果が高かったDiestelhorstらOphthalmology,2006ランダム化比較試験5020.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤は単剤併用療法と比べて非劣勢ZhaoらBMCOphthalmol,2011ランダム化比較試験2500.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール朝1回0.005%ラタノプロスト夜1回眼圧下降率は同等InoueらJOculPharmacolTher,2011併用療法から配合剤へ切り替え1620.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール*0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤に切り替え後も眼圧は不変PacellaらEurRevMedPharmacolSci,2010併用療法から配合剤へ切り替え200.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤1回/日0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤に切り替え後,さらに眼圧が下がるKanstasらJOculPharmacolTher,2004併用療法から配合剤へ切り替え330.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤1回/日0.5%チモロール*0.005%ラタノプロスト夜1回配合剤に切り替え後も眼圧は不変SchumanらAmJOphthalmol,2005ランダム化比較試験4030.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回眼圧下降率は同等HughesらJGlaucoma,2005ランダム化比較試験3160.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回配合剤は単剤併用療法と比べて非劣勢HommerらEurJOphthalmol,2007ランダム化比較試験4450.03%/ビマトプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール2回/日0.004%ビマトプロスト夜1回配合剤は単剤併用療法と比べて非劣勢*点眼回数の記載なし.なかったのは検定力不足だった可能性もある.III配合剤の合併症配合剤は点眼される防腐剤量が減少するため,結膜充血,角膜上皮障害などの軽減が期待される.表2は,単剤併用療法と配合剤とで結膜充血などの副作用出現率を比較したおもな論文をまとめたものである.配合剤のほうが単剤併用療法より結膜充血の出現率が低かった報告が多い.Vinuesa-Silvaら3)はザラカムRと他の治療法(単剤併用療法またはPG製剤の単剤療法)とを比較した8つの論文をメタアナリシスした結果,ザラカムRは充血の頻度が他の治療法より有意に低かったと報告している.IV配合剤同士の比較表3には,わが国で使用可能なザラカムRとデュオト474あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012ラバRを比較した論文をまとめた.2剤とも同等の眼圧下降効果を示したことが報告されているが,デュオトラバRのほうがザラカムRより24時間の眼圧下降率は優れていたとの報告もある4).炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミドと0.5%チモロールの合剤であるコソプトRとの比較では,ザラカムRとデュオトラバRいずれも,コソプトRと同等またはやや高い眼圧下降率を認めたと報告されている5.7).表4にはガンフォートRとザラカムRあるいはデュオトラバRを比較した論文をまとめた.ザラカムRとガンフォートRを比較した論文では,ガンフォートRのほうがやや高い眼圧下降率を認めたとの報告が多い.1カ月のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバR,ガンフォートRの3剤についてランダム化比較試験した論文8)では,ザラカムRとガンフォートRが,デュオトラバRより眼圧下降効果が良好だったと報告されている(40) 表2配合剤と単剤併用療法との比較(副作用の出現率)報告研究デザインn配合剤単剤併用結果DiestelhorstらOphthalmology,2006ランダム化比較試験5020.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール2回/日0.005%ラタノプロスト夜1回眼合併症の発現率は配合剤のほうが少なかった単剤併用療法:20.1%配合剤:11.8%(p=0.01)ZhaoらBMCOphthalmol,2011ランダム化比較試験2500.005%ラタノプロスト/0.5%チモロール合剤夜1回0.5%チモロール朝1回0.005%ラタノプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:4.8%配合剤:7.2%SchumanらAmJOphthalmol,2005ランダム化比較試験4030.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:23.4%配合剤:14.3%HughesらJGlaucoma,2005ランダム化比較試験3160.004%トラボプロスト/0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール朝1回0.004%トラボプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:13.5%配合剤:12.4%HommerらEurJOphthalmol,2007ランダム化比較試験4450.03%/ビマトプロスト0.5%チモロール合剤朝1回0.5%チモロール2回/日0.004%ビマトプロスト夜1回結膜充血単剤併用療法:25.6%配合剤:19.3%表3ザラカムRとデュオトラバRの比較報告研究デザインn結果PachimkulらJMedAssocThai,20112.4週間のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバR,チモロール(2回点眼)の3グループに分けランダム化比較試験59ザラカムRとデュオトラバRは同等の眼圧下降率で,両点眼とも24時間の眼圧下効率はチモロール2回点眼より良好であった.KonstasらEye(Lond),20106週間のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバRの2点眼についてランダム化比較試験40ザラカムRとデュオトラバRは同等の眼圧下降率.24時間の眼圧下降率ではデュオトラバRがザラカムRより良好.副作用の出現率では有意差なし.TopouzisらEurJOphthalmol,20075.28日間のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバRの2点眼についてランダム化比較試験408ザラカムRとデュオトラバRは同等の眼圧下降率.朝9時の眼圧下降率はデュオトラバRがザラカムRより良好.結膜充血の頻度はデュオトラバRのほうが高かったが(15%vs.2.5%),充血の程度の差は小さかった.DenisらClinDrugInvestig,2008ザラカムR,またはデュオトラバRにて加療中の患者の治療前治療後の眼圧を後ろ向きに研究316デュオトラバRはザラカムRより午前中の眼圧下降率が良好であった.PfeifferらClinOphthalmol,2009単剤,配合剤,または併用療法にて十分な眼圧下降を得られていない患者にデュオトラバRに切り替え474単剤療法から切り替えた患者では5.9mmHg,ザラカムRから切り替えた患者では(n=47)4.4mmHgのさらなる眼圧下降を認めた.が,ガンフォートRからデュオトラバRへの切り替えで,さらなる眼圧下降を認めたとの論文もあり9),PG製剤はその効果に個人差があることが知られており10),単純な比較はむずかしいと思われる.V朝点眼か夜点眼かPG製剤単剤療法では日内変動幅が小さいとされる夜点眼が一般的であるが,b遮断薬は房水産生を抑制する(41)という働きから夜間より日中の点眼のほうがよいと考えられ,PG製剤とb遮断薬の配合剤では朝点眼,夜点眼のどちらがいいのか迷うところである.配合剤,あるいは単剤併用療法にて朝点眼と夜点眼とを比較した論文を表5にまとめた.基本的には朝点眼も夜点眼も良好な眼圧下降効果を認めるが,夜点眼のほうが日内変動幅は小さく,日中の眼圧下降効果が高いという報告もある11.13).これはPG製剤の効果を反映していあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012475 表4ガンフォートRとザラカムRまたはデュオトラバRの比較報告研究デザインn結果RigolletらClinOphthalmol,20091カ月のウォッシュアウト後,ザラカムR,デュオトラバR,ガンフォートRの3点眼についてランダム化比較試験128ザラカムRとガンフォートRがデュオトラバRより眼圧下降が良好.ザラカムRはガンフォートRより充血が軽度.CentofantiらEurJOphthalmol,2009PG単剤療法で十分な眼圧下降が得られなかった患者を対象に,ザラカムRとガンフォートRの2点眼についてランダム化比較試験82ザラカムRとガンフォートR両点眼とも有意な眼圧下降が得られたが,眼圧下降率はガンフォートRのほうが良好.MartinezらEye(Lond),20096週間のチモロール点眼後にザラカムRからガンフォートRにランダムに分配し眼圧下降率を比較54眼圧下降率は,その差はわずかではあるがザラカムRよりガンフォートRのほうが良好.MartinezらCurrMedResOpin,2007PG単剤療法で十分な眼圧下降が得られなかった患者を対象に,ザラカムRとガンフォートRをランダム化比較試験36ザラカムRとガンフォートR両点眼とも有意に眼圧下降が得られたが,眼圧下降率はガンフォートRのほうが良好.CentofantiらAmJOphthalmol,2010ラタノプロストとチモロールの配合剤または併用療法で十分な眼圧下降を得られなかった患者を対象とし,ガンフォートRとデュオトラバRの2点眼についてランダム化比較試験89ガンフォートR,デュオトラバRともに,さらなる眼圧下降を認める.ScherzerらAdvTher,2011ガンフォートR点眼,または0.03%/ビマトプロストと0.5%チモロールの併用療法からデュオトラバRに切り替え105ガンフォートRからデュオトラバRに切り替え後,さらなる眼圧下降を認める.表5朝点眼と夜点眼の比較報告研究デザインn結果KonstasらAmJOphthalmol,20020.5%チモロールを1日2回点眼したときの眼圧下降率と,0.005%ラタノプロストと0.5%チモロールを各朝1回または各夜1回点眼したときの眼圧下降率とを比較36朝点眼も夜点眼もチモロール1日2回点眼に比較して有意な眼圧下降率を認め,朝点眼と夜点眼の比較では,朝点眼はより夜間の,夜点眼はより日中の眼圧を下げる傾向が認められ,24時間の日内変動幅は夜間点眼のほうが小さかった.(夜点眼:3.6mmHgvs.朝点眼:4.3mmHg,p=0.02)TakmazらEurJOphthalmol,20080.005%ラタノプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較60朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して有意な眼圧下降率を認めるが,夜点眼のほうが,24時間の日内変動幅が小さかった.KonstasらActaOphthalmol,20090.004%トラボプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較32朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して有意な眼圧下降率を認めるが,24時間の日内変動幅は夜点眼のほうが小さかった.(夜点眼:3.8mmHgvs.朝点眼:5.1mmHg,p=0.0002)DenisらEurJOphthalmol,20060.004%トラボプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較92朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して同等の眼圧下降率を認めた.PopovicSuicらCollAntropol,20100.004%トラボプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回点眼したときと夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較79朝点眼も夜点眼もベースラインと比較して同等の眼圧下降率を認めた.KonstasらBrJOphthalmol,20100.004%ビマトプロスト1日1回単剤療法と,0.004%ビマトプロストと0.5%チモロールの合剤を朝1回または夜1回点眼したときとの眼圧下降率を比較60配合剤の朝点眼も夜点眼も0.004%ビマトプロスト単剤療法に比較して有意な眼圧下降率を認め,24時間眼圧下降率が30%以上認めた眼数は夜点眼で72%,朝点眼で65%であった.ると思われる.おわりに緑内障の薬物療法において第一選択薬としてPG製剤が多く使用されている現在,PG製剤とb遮断薬の合剤476あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012は,今後ますますその役割が重要になってくると思われる.単剤併用療法と比べるとその眼圧下降効果はやや劣る可能性があるが,点眼回数を軽減できアドヒアランスの改善が期待できること,また,点眼される防腐剤量の減少による角膜上皮障害軽減が期待され,臨床上におけ(42) るその利用価値は高い.ただ,PG単剤と違ってb遮断薬を配合していることと,わが国では原則として第一選択薬としては認められていないことに留意すべきである.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20122)WebersCA,BeckersHJ,ZeegersMPetal:Theintraocularpressure-loweringeffectofprostaglandinanalogscombinedwithtopicalbeta-blockertherapy:asystematicreviewandmeta-analysis.Ophthalmology117:20672074.e1-e6,20103)Vinuesa-SilvaJM,Vinuesa-SilvaI,Pinazo-DuranMDetal:Developmentofconjunctivalhyperemiawiththeuseofafixedcombinationoflatanoprost/timolol:systematicreviewandmeta-analysisofclinicaltrials.ArchSocEspOftalmol84:199-207,20094)KonstasAG,MikropoulosDG,EmbeslidisTAetal:24-hIntraocularpressurecontrolwithevening-dosedtravoprost/timolol,comparedwithlatanoprost/timolol,fixedcombinationsinexfoliativeglaucoma.Eye(Lond)24:1606-1613,20105)ShinDH,FeldmanRM,SheuWPetal:Efficacyandsafetyofthefixedcombinationslatanoprost/timololversusdorzolamide/timololinpatientswithelevatedintraocularpressure.Ophthalmology111:276-282,20046)CvenkelB,StewartJA,NelsonLAetal:Dorzolamide/timololfixedcombinationversuslatanoprost/timololfixedcombinationinpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.CurrEyeRes33:163-168,20087)TeusMA,MigliorS,LaganovskaGetal:Efficacyandsafetyoftravoprost/timololvsdorzolamide/timololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol3:629-636,20098)RigolletJP,OndateguiJA,PastoAetal:Randomizedtrialcomparingthreefixedcombinationsofprostaglandins/prostamidewithtimololmaleate.ClinOphthalmol5:187-191,20119)ScherzerML,LiehneovaI,NegreteFJetal:Travoprost0.004%/timolol0.5%fixedcombinationinpatientstransitioningfromfixedorunfixedbimatoprost0.03%/timolol0.5%.AdvTher28:661-670,201110)相原一:〔緑内障診療グレーゾーンを越えて〕治療編薬物療法プロスタグランジン関連薬の特徴と相違点.臨眼63(増刊号):238-246,200911)KonstasAG,NakosE,TersisIetal:Acomparisonofonce-dailymorningvseveningdosingofconcomitantlatanoprost/timolol.AmJOphthalmol133:753-757,200212)TakmazT,AsikS,KurkcuogluPetal:Comparisonofintraocularpressureloweringeffectofoncedailymorningvseveningdosingoflatanoprost/timololmaleatecombination.EurJOphthalmol18:60-65,200813)KonstasAG,TsironiS,VakalisANetal:Intraocularpressurecontrolover24hoursusingtravoprostandtimololfixedcombinationadministeredinthemorningoreveninginprimaryopen-angleandexfoliativeglaucoma.ActaOphthalmol87:71-76,2009(43)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012477

炭酸脱水酵素阻害薬(内服含む:配合剤含まず)

2012年4月30日 月曜日

特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):467.472,2012特集●わかりやすい緑内障薬物のお話あたらしい眼科29(4):467.472,2012炭酸脱水酵素阻害薬(内服含む;配合剤含まず)CarbonicAnhydraseInhibitorforGlaucomaTreatment澤口昭一*はじめに炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)は毛様体上皮の炭酸脱水酵素を阻害し,房水産生を抑制し眼圧下降に働く薬剤である.1949年にFriedenwaldが毛様体上皮での炭酸脱水酵素活性が房水産生に必要不可欠であることを突き止めた.1954年にはこのFriedenwaldの弟子であるBeckerが経口CAIの眼圧下降効果について報告した1).以降,アセタゾラミド,メタゾラミド,ジクロフェナミドなどが臨床の場で使用されてきた(図1).経口CAIの眼圧下降効果は非常にシャープで,持続時間も6時間以上であり,1990年代半ばまで広く臨床の場で使用された.しかしながら,経口CAIは眼圧下降効果に優れていたものの全身への副作用として四肢しびれ感,全身倦怠感,胃腸症状NNOCH3NNOHHCH3CNHCCSNCH3CNHCCSNHHOSOOSOアセタゾラミドメタゾラミドOCIHCISNHOOHSNHOジクロフェナミド図1経口CAIの化学構造式や代謝性アシドーシス,尿路結石,造血細胞抑制による貧血などの重篤な副作用があり(表1),長期投与には向かない欠点があった.長年にわたりCAIの点眼薬の臨床への登場が待ち望まれていたが,ついに1995年に米国で,さらに1999年にわが国においてもドルゾラミドが,ついでブリンゾラミドが臨床の場に登場し,広く普及し現在に至っている.本稿ではその作用機序,眼圧下降効果,さらに日常臨床でどのように用いられているかを含めて解説する.ICAIの作用機序CAIによる眼圧下降機序は,毛様体無色素上皮に高濃度に存在する炭酸脱水酵素(CA)の阻害による房水産表1経口CAIの副作用一覧血液貧血,白血球減少,血小板減少,骨髄機能低下代謝異常代謝性アシドーシス,血清カリウム低下,高尿酸血症皮膚皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群),中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)消化器食欲不振,胃腸障害,悪心・嘔吐,下痢精神神経系手指・口唇などのしびれ感,四肢の知覚異常,めまい,頭痛,眠気,うつ状態,精神錯乱,見当識障害眼一過性近視腎・尿路系腎・尿路結石,多尿,頻尿,腎不全その他倦怠感(山崎芳夫:内服炭酸脱水酵素阻害薬.眼科診療プラクティス70巻,p65,文光堂,2001より)*ShoichiSawaguchi:琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(33)467 O250H3CSSSO3NH2H310.5%0.5%0.2%2%1%28312933:ピーク■:トラフ2827262320251822171717ラタノプロストトラボプロストビマトプロスト40眼圧下降率(%・HCl30NHCH2CH3Hドルゾラミド2010NHHH3CSOSOSNH2チモロールベタキソロールブリンゾラミドドルゾラミドブリモニジンH3COOOブリンゾラミド図2点眼CAIの化学構造式生抑制である.CAには多くのisoenzyme(サブタイプ)があり,少なくとも7つ以上のサブタイプが同定され,特に房水産生に重要な毛様体無色素上皮にはCAII型が細胞質に,IV型が細胞膜に分布していることが明らかにされた.経口CAIはCAのサブタイプに対する特異性はなく,これらのすべてのCAを抑制し房水産生を減少させる.CAIによってCAの酵素反応を完全に阻害すると房水産生はおよそ40%が抑制され,強力な眼圧下降効果作用を示す.多くの点眼CAIの候補が臨床応用に向けて研究されてきたが,眼内移行の問題,CA抑制効果や持続時間などの問題があったため,点眼CAIが臨床応用されるまでに多くの年月が費やされた.1990年代に入り米国Merck社のドルゾラミド塩酸塩(MK507,以下ドルゾラミド)が眼内移行の問題をクリアし,また,特に毛様体無色素上皮に分布するCAIIへの選択性が高いことから,優れた眼圧下降効果と長時間の作用持続が証明されついに臨床応用に至った(図2).ブリンゾラミドも同様にCAIIの特異的な阻害薬で,眼内への移行を図るために懸濁液となっており,ドルゾラミドと同様の眼圧下降効果と持続時間を有しており臨床応用された(図2).II眼圧下降効果経口のアセタゾラミドはすでに述べたようにすべてのCAのサブタイプを抑制するため眼圧下降効果はCAIのなかでは最も強いといえる.点眼CAIのドルゾラミ468あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012図3メタ解析に基づく緑内障治療薬の眼圧下降効果(率)の比較各薬剤のピークおよびトラフにおける眼圧下降率を比較検討した.眼圧下降率は単剤ではPG製剤全体>0.5%チモロール>0.5%ベタキソロール,ブリモニジン>点眼CAIの順であった.ドはわが国では0.5%と1%が臨床に用いられている.欧米では2%が主流であるが,わが国において実施された濃度比較試験の臨床試験において0.5%,1%,2%の濃度では眼圧下降効果はほぼ同等である一方,充血や刺激感が2%で有意に多かったため,至適濃度は0.5%と1%になった経緯がある2).一方,欧米では0.7%と2%の比較試験では2%のほうがより有効であったとの報告があった3).眼圧下降効果に関しては0.5%ドルゾラミド3回点眼は0.25%チモロール2回点眼とほぼ同等であった.また,1%ドルゾラミド3回点眼の長期効果ではb遮断薬でみられる長期的な使用による効果の減弱は認められていない.メタ解析4)では単剤で用いた場合2%ドルゾラミドの眼圧下降効果はピークで約22%,1%ブリンゾラミドは17%と報告されている.これらの効果はプロスタグランジン製剤(PG製剤)の30%,0.5%チモロールの27%にやや劣るものの,0.5%ベタキサロール,あるいは今後市販が予定されているブリモニジンとほぼ同程度である(図3).ドルゾラミドとブリンゾラミドの眼圧下降効果の比較についてはすでに上述のメタ解析で説明したが,日常臨床で使用頻度の多いパターンであるPG製剤との併用では1日眼圧への効果はほぼ同等であることが報告されている(図4)5).(34) 日中(9:00~18:00)夜間(21:00~9:00)ドルゾラミド2回図4日中と夜間における点眼CAIのラタノプロストへの追加効果0(n=20)長期ラタノプロスト使用患者(20名)に1%ドル-10ゾラミド2回点眼と3回点眼,さらに1%ブリンゾラミド2回点眼を追加し眼圧下降率を日中(9:-2000.18:00)と夜間(21:00.9:00)で比較検討した.各群とも有意な眼圧下降率を認めたが,-303群間で有意差を認めなかった.(文献5より)-40-50(%)III使用方法と対象経口CAIの代表であるアセタゾラミド(ダイアモックスR)は250mg/1錠を6.12時間ごとに0.5.1錠内服させる.低カリウム血症を予防するためにカリウム製剤を併用する.また,腎機能に障害がある場合のカリウム製剤の補給は注意が必要であり,このような症例では内科医との連携を図る必要がある.CAIの点眼は眼圧下降効果,使用感などの問題から基本的にはファーストラインで用いられることは少ない.現在ファーストラインで使用されている薬剤としてはPG製剤,ゲル化b遮断薬が中心となっており,CAIの点眼はこれらの薬物に追加併用するセカンドラインあるいはサードラインの薬剤となっている.しかしながら,PG製剤の美容的な問題,b遮断薬の全身への副作用を考慮した場合,少数例ながら点眼CAIをファーストラインとして使用する場合もある.点眼CAIのPG製剤への追加効果あるいはb遮断薬への追加効果が多数報告されており,PG製剤とb遮断薬の2剤併用者への3剤目としての有効性も確認されている.注意すべき点は追加で使用する場合の原則として効果が若干減弱するということである.経口CAIはすでに述べた副作用の問題から長期投与には向かない.しかしながら,緑内障薬物治療で点眼CAIを含む3.4剤を併用した場合に生じる角結膜障害の際には点眼CAIを含む点眼薬を一時的に中止し,経口CAIに変更することも臨床上有効である.また,内眼手術後の一過性の高眼圧に対しても短期間のCAI内服ブリンゾラミドドルゾラミドドルゾラミドブリンゾラミドドルゾラミド2回3回2回2回3回(n=20)(n=17)(n=20)(n=20)(n=17)NSNS(平均±SD)を用いることもある.点眼CAIと経口CAIの両者の併用は相加的な効果がないことがこれまでの報告で明らかにされている.経口CAIと点眼CAIの眼圧下降効果については臨床経験,あるいはいくつかの報告から経口CAIが優れていると考えられるが,点眼CAIが優れているとの報告もある.IV使用感と副作用経口CAIの副作用についてはすでに述べたように重篤であり,多くの症例で長期の服用に耐えられない(表1).特に尿管結石,胃部不快感,四肢のしびれ感は長期の内服を阻害する代表的な症状である.また,頻度は少ないものの再生不良性貧血,顆粒球減少症,血小板減少などの骨髄機能障害やSteven-Johnson症候群,催奇形性なども報告されている.2種類ある点眼CAIのうち,ドルゾラミドはpHが5.5.5.9と酸性に傾いており,副作用としては点眼時の一過性の刺激感,一過性の霧視,刺激に伴う涙流などの局所的な副作用が多く報告されている.また,ブリンゾラミドはpH7.5であり刺激感,異物感はドルゾラミドに比べ少ないものの,眼内移行を良くするために白色の懸濁液となっており,このためほぼ全例に霧視が出現する.その持続時間は数秒からときに10数分に至ることもある.日本ではドルゾラミドが1%点眼であることもあり,刺激感は海外の報告に比べ一般に軽度であることが多いようである.ブリンゾラミドは海外と同じ濃度であり,霧視感はほぼ同程度と考えられる.ファーストラ(35)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012469 数秒症が多い(9/20)もののおおむね軽度にとどまっ(n=4,軽度)1分数分た.一方,ブリンゾラミドでは刺激感は少ない10分が,多くの症例でかすみ感があり(12/20),10異物感刺激感1分分以上持続する症例も観察された.(n=2,軽度)1分(文献5より)30秒(n=2,重度)5分ブリンゾラミド数秒5~6秒1分かすみ感1分(n=12)(n=10,軽度)1分1~2分2~3分3~4分10分20分051015インのPG製剤を使用中の緑内障患者に2種類の点眼CAIを交互に使用したところ5),ブリンゾラミドでは明らかに霧視が,またドルゾラミドでは刺激感が副作用として有意に多く,それぞれ処方する場合はこの点に関して十分に説明する必要がある(図5).炭酸脱水酵素は角膜内皮にも存在しており,角膜内皮障害のあるiridocornealendothelialsyndrome(ICE症候群)や全層角膜移植後の続発緑内障などで角膜内皮障害が存在する症例では注意が必要である.実際,全層角膜移植後の高眼圧に本剤を使用して水疱性角膜症に悪化した症例が報告された.臨床使用経験a.CAI内服症例:女性,81歳.診断:左眼水晶体落屑緑内障.1995年より両眼の原発開放隅角緑内障(POAG)で薬470あたらしい眼科Vol.29,No.4,201220(分)物治療開始.2005年,左眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ),線維柱帯切除術,2006年,右眼PEA+IOL施行.その後,PG製剤とb遮断薬の併用による点眼でコントロールされていた.2010年春より眼圧上昇(右眼<左眼),夏より両眼にPG製剤,ゲル化b遮断薬,ブリンゾラミド,2%ピロカルピン点眼で経過観察していたが,左眼のいっそうの眼圧上昇を認め,秋に左眼に選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)施行するも眼圧コントロールは次第に不良となり,また視野の急激な悪化を認めたため,手術目的に紹介された.2010年12月中旬に当科初診時,右眼眼圧20mmHg,左眼眼圧26mmHg,左眼瞳孔縁に水晶体落屑物質が観察された.12月末に再来時,右眼眼圧20mmHg,左眼眼圧は36mmHgと急激に上昇.年末年始の手術を希望せず,ブリンゾラミド中止し,ダイアモックスR3T,アスパラKR3T(3×)を処方し,2011年1月初め,右(36)刺激感(n=8,すべて軽度)異物感(n=1,軽度)5~6秒30秒1分図5ドルゾラミドとブリンゾラミドの使用感,5101520(分)副作用の出現頻度かすみ感(n=3,軽度)0数秒1~2秒2~3秒10~20秒20秒30秒1~2分2~3分ドルゾラミド数秒ドルゾラミドでは点眼による刺激感,異物感の発 眼眼圧18mmHg,左眼眼圧24mmHgとなり,1月中旬に線維柱帯切除術(マイトマイシンC併用)施行.経過良好にて1月末に退院,外来通院となる.コメント:手術までの短期間のCAI内服.経口CAIは本症例では明らかに点眼CAIより有効であった.b.点眼CAIファーストライン症例:28歳,女性.診断:高眼圧と大乳頭陥凹.2006年より,近医で上記診断されPG製剤で点眼加療していた.Humphrey視野計(HFA)検査で異常は出現していない.2008年,睫毛が伸びてきたこと,妊娠する可能性があることで心配しセカンドオピニオンを求めて当科受診.小児喘息の既往があった.眼圧は両眼とも15mmHg前後でコントロールされていた.PG点眼を中止しCAI点眼を処方したところ,眼圧は20mmHgと上昇した.光干渉断層撮影(OCT)では神経線維層厚はすべて正常範囲であった.経過中妊娠し,妊娠がわかった時点で速やかに点眼を中止し,来院したところ眼圧は22mmHgでその後経過中22.25mmHgで推移した.出産後CAI点眼再開し,眼圧は20mmHg前後でコントロールされている.OCTによる神経線維層厚や視野には異常は出現していない.コメント:若い女性で妊娠の可能性があること,美容的な意味があること,喘息の既往があることからCAI点眼をファーストラインとした症例.眼圧のいっそうの上昇,OCT所見の悪化や異常が出現したら眼圧下降効果に優れているPG製剤へ戻す.c.点眼CAIセカンドライン症例:32歳,男性.診断:右眼初期,左眼中期POAG.2008年,POAGで当科紹介受診.眼圧は無治療で右眼22mmHg,左眼26mmHgであった.小児喘息の既往あり.PG製剤点眼で眼圧は右眼15mmHg前後,左眼18mmHg前後に低下,一方で,左眼眼圧は常に2.3mmHg,右眼眼圧より高い傾向であった.その後6カ月ごとにHFA視野を測定.3年後,計8回の視野検査の結果,トレンド分析で左眼MD(平均偏差)スロープが.0.8dB/年の悪化を認めた.右眼は.0.3dB/年であった.小児喘息の既往があったため,左眼に点眼CAI(37)を追加した.眼圧は両眼とも15mmHg前後でコントロールされ,その後2回施行したHFA視野検査ではMDスロープに若干の改善を認めた.コメント:PG使用中の患者で喘息や心疾患の既往がある場合,あるいは高齢者で心肺機能が低下している場合などでセカンドラインにb遮断薬の使用が困難あるいは不可能な場合には,点眼CAIを追加する.d.点眼CAIサードライン症例:56歳,女性.診断:中期POAG,強度近視.2001年より強度近視(両眼とも.8.0ジオプトリー),両眼とも中期のPOAGで当科初診.初診時眼圧は無治療で両眼とも21mmHgであった.視神経乳頭は両眼とも乳頭陥凹の著しい拡大と,辺縁リムの狭少化,乳頭はやや蒼白であった.その後,PG製剤の副作用を嫌い,ゲル化b遮断薬の単剤で眼圧は18mmHg前後であった.その2年後にb遮断薬の効果が次第に減弱したため,2005年よりPG製剤に変更した.眼圧は16mmHg前後となった.視野の進行悪化があり,2006年よりゲル化b遮断薬の追加を行った.その後も6カ月ごとに視野検査を行ったところ,次第に右眼の視野の進行悪化が明らかとなり,2007年より,両眼に点眼CAIを追加した.眼圧はその後両眼とも15mmHg前後で推移し,視野の進行悪化はペースダウンし,MDスロープは両眼とも.0.5dB/年前後となった.コメント:中期以降で明らかに進行性のPOAG(含むNTG)や初診時から進行したPOAG(含むNTG)では可能な限りの薬物治療での眼圧下降を試みる.本症例のように年齢的にも長期の経過観察が必要な場合は,可能な限りの点眼治療を早期から始める必要がある.追記:合剤が市販されてからは,PG+合剤か合剤+CAIのパターンも増えてきている.文献1)BeckerB:Decreaseinintraocularpressureinmanbyacarbonicanhydraseinhibitor,Diamox.AmJOphthalmol37:13-15,19542)KitazawaY,AzumaI,IwataKetal:Dorzolamide,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor:atwo-weekdoseあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012471 responsestudyinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma3:275-279,19943)StrahlmanE,TippingR,VogelR:TheDorzolamideDose-ResponseStudyGroup:Asix-weekdose-responsestudyoftheocularhypotensiveeffectsofdorzolamidewithone-yearextension.AmJOphthalmol122:183-194,4)vanderValkR,WebersCAB,SchoutenJSAGetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs.Ametaanalysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20055)NakamuraY,IshikawaS,NakamuraYetal:24-hoursintraocularpressureinglaucomapatientsrandomizedtoreceivedorzolamideorbrinzolamideincombinationwithlatanoprost.ClinOphthalmol3:395-400,2009472あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(38)