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黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入 ─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─

2011年1月31日 月曜日

108(10あ8)たらしい眼科Vol.28,No.1,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):108.112,2011cはじめに糖尿病網膜症(DR)や網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術1,2),網膜光凝固術3),不溶性副腎皮質ホルモン懸濁液であるトリアムシノロンアセトニド(TA)硝子体注入3)またはTenon.下注入2)などが行われてきた.近年は抗血管内皮増殖因子(VEGF)〔別刷請求先〕坂本英之:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:HideyukiSakamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─坂本英之山本香織堀貞夫東京女子医科大学眼科学教室IntravitrealBevacizumabforTreatmentofMacularEdema:DiabeticMacularEdemaandBranchRetinalVeinOcclusionHideyukiSakamoto,KaoriYamamotoandSadaoHoriDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症(DR)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に対するベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果を検討した.対象および方法:対象は経過観察期間中における最終治療がIVBであり,その後6カ月間黄斑浮腫の再発がなく追加治療をせずに経過観察できた32眼(DR18眼,BRVO14眼)であった.Logarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕,光干渉断層計で測定したfovealthickness(FT),totalmacularvolume(TMV)を術前と術後6カ月で比較した.視力(logMAR値),FT,TMVをDRとBRVOで比較し,また,術後視力改善の有無によっても比較した.結果:術後視力は術前視力に比べてBRVOで有意に改善し,FTとTMVはDRとBRVOで術前に比べて術後有意に改善した.DRにおける視力改善ありは術後視力改善なしと比べてTMVは有意に小さく,BRVOにおける視力改善ありは視力改善なしと比べて術前後視力は有意に不良であった.結論:DRとBRVOにIVB施行後6カ月間追加治療をせずに観察できた症例において,黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.Purpose:Tocomparetheeffectsofintravitrealbevacizumab(IVB)injectionformacularedemaindiabeticretinopathy(DR)withbranchretinalveinocclusion(BRVO).CaseandMethod:Thisstudyinvolved32eyes(DR18eyes,BRVO14eyes)thatunderwentIVBasfinaltreatmentduringtheinvestigationperiod,anddidnotrequireadditionaltreatmentforrecurrenceofmacularedemaduringthe6-monthfollow-up.Weexaminedlogarithmicminimalangleofresolution(logMAR)visualacuity,fovealthickness(FT)andtotalmacularvolume(TMV)viaopticalcoherencetomography,beforeandat6monthsafterinjection,andcomparedtheresultsbetweenDRandBRVO.Patientsweredividedinto2groupsbasedonvisualacuityimprovement,andtheresultswereanalyzed.Results:ImprovementinvisualacuitywasfoundonlyintheBRVOgroup,thoughimprovementsinFTandTMVwerefoundinbothgroups.IntheDRpatients,TMVinthegroupthatimprovedinvisualacuitywassignificantlylessthaninthegroupthatdidnotimprove.IntheBRVOpatients,visualacuityinthegroupthatimprovedinvisualacuitywasworsethaninthegroupthatdidnotimprove,bothbeforeandaftertreatment.Conclusion:ItissuggestedthatIVBformacularedemaismoreeffectiveforBRVOthanforDR,withouttheneedforadditionaltreatmentduringthe6-monthfollow-upperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):108.112,2011〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ベバシズマブ,光干渉断層計(OCT).diabeticretinopathy,branchretinalveinocclusion,macularedema,bevacizumab,opticalcoherencetomography(OCT).(109)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011109抗体であるベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果が報告されている4~7).黄斑浮腫を伴うDRやBRVOに対してIVBを施行し,その治療効果を検討した報告は術後3カ月程度の短期成績が主である4,6,7).IVB後の視力改善や黄斑浮腫の改善の程度,黄斑浮腫の改善から再燃までの期間などに関しても報告によって結果にばらつきがある4~7).IVB後に黄斑浮腫が再燃し,IVB再施行の必要な例や,すでに他の治療歴があるものにIVBを施行する例を経験する.また,対象の症例によって効果が異なることも経験するが,IVB後のDRとBRVOにおける効果を比較した報告は,検索した限りではない.今回,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対して経過観察中における最終的な治療がIVBであり,その後6カ月間追加治療をせずに経過観察ができた症例についてその結果や背景を検討することを目的に,視力や黄斑浮腫につき比較,検討したので報告する.I対象および方法対象は,2007年11月から2008年12月に黄斑浮腫に対してベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体注入を施行した症例48例50眼(DR:32例34眼,BRVO:16例16眼)のうち,最終IVBから追加治療をせずに6カ月以上経過観察できた30例32眼である(50眼中32眼:64%).IVBにあたっては,本学倫理委員会の承認を得て,患者への十分な説明と同意のもとに施行した.男性18例20眼,女性12例12眼,年齢は68.0±6.0(平均±標準偏差)歳であった.DR:16例18眼,BRVO:14例14眼であった.治療歴があったものはDRでは11眼,BRVOでは11眼で,その内訳は硝子体手術,網膜光凝固術,TATenon.下注入,IVBであった.対象となった症例のIVB施行回数は,DRにおいては1回が12眼,2回が5眼,3回が1眼であった.BRVOにおいては1回が5眼,2回が6眼,3回が3眼であった.治療追加の基準は,原則としてlogarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕で0.2以上増加,または経過観察中に最も軽度であった黄斑浮腫が光干渉断層計(opticalcoherencetomography:Zeiss社製,OCT3000,以下OCT)による後述の計測で30%以上の増悪を認めた場合とした.視力(logMAR値)はlogMAR視力表(Neitz社製)で測定した.黄斑浮腫はOCTで測定した.測定にはfastmacularthicknessMAPを用い,fovealminimumとtotalmacularvolume(TMV)を測定した.Fovealminimumをfovealthickness(FT)とした.最終IVB直前とその6カ月後の視力(logMAR値),FT,TMVをカルテベースに調査し,術前と術後で比較した.同様にDRとBRVOで比較した.さらに,視力改善に共通する術前因子を検討することを目的に,術後6カ月でのDRとBRVOそれぞれにおける視力改善の有無に分けて視力(logMAR値),FT,TMVを比較した.視力改善ありは視力(logMAR値)が0.2以上減少したものとし,視力改善なしは視力(logMAR値)が0.2未満の改善,不変および悪化を含めた.検討はレトロスペクティブに行った.統計処理にはt検定を用い,有意水準をp<0.05とした.II結果1.DRとBRVOにおける術前と術後6カ月の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)は,DRで術前0.54±0.30,術後0.51±0.33,BRVOで術前0.43±0.33,術後0.22±0.17であった.術後視力はDRでは有意な改善を認めず,BRVOのみで有意に改善した(p=0.026)(表1).FTは,DRで術前481±115μm,術後366±163μm,BRVOで術前348±112μm,術後243±90.5μmであり,FTはDRとBRVO両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0022,BRVO:p=0.022)(表1).FTの術後の減少率はDRでは23%,BRVOでは29%であった.TMVは,DRで術前10.2±1.53mm3,術後9.00±2.09mm3,BRVOで術前8.83±2.56mm3,術後7.55±1.48mm3であった.TMVはDRとBRVOの両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0012,BRVO:p=0.038)(表1).TMVの術後の減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であった.2.視力(logMAR値),FTおよびTMVのDRとBRVOにおける比較術前視力(logMAR値)はDRで0.54±0.30,BRVOで0.43±0.33で,両者間に有意差はなかった(p=0.27).術後表1DRとBRVOにおけるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DRBRVODRBRVODRBRVO術前0.54±0.300.43±0.33481±115348±11210.2±1.538.83±2.56術後6カ月0.51±0.330.22±0.17366±163243±90.59.00±2.097.55±1.48p値0.570.0260.00220.0220.00120.038t検定:術前と術後6カ月の比較.110あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(110)視力(logMAR値)はDRで0.51±0.33,BRVOで0.22±0.17で,DRと比較しBRVOで有意に良好であった(p=0.0026)(表2).術前FTは,DRで481±115μm,BRVOで348±112μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.0028).術後FTはDRで366±163μm,BRVOで243±90.5μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.022)(表2).術前TMVはDRで10.2±1.53mm3,BRVOで8.83±2.56mm3で,両者間に有意差はなかった(p=0.096).術後TMVはDRで9.00±2.09mm3で,BRVOで7.75±1.48mm3で,DRと比較しBRVOで有意に小さかった(p=0.038)(表2).3.DRとBRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVの比較DRでは18眼中,術後6カ月での視力改善ありは7眼,視力改善なしは11眼であった.BRVOでは14眼中,術後6カ月での視力改善ありは6眼,視力改善なしは8眼であった.DRにおける術後6カ月での視力改善の有無により視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.63±0.35,視力改善なしでは0.48±0.27で,有意差はなかった(p=0.37).術前FTは視力改善ありでは430±108μm,視力改善なしでは514±112μmで有意差はなかった(p=0.14).術前TMVは視力改善ありでは9.46±1.62mm3,視力改善なしでは10.6±1.35mm3で有意差はなかった(p=0.14)(表3).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.34±0.34,視力改善なしでは0.61±0.29で有意差はなかった(p=0.11).術後FTは視力改善ありでは293±92.6μm,視力改善なしでは412±184μmで,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後FTは有意に薄かった(p=0.088).術後TMVは視力改善ありでは7.92±1.02mm3,視力改善なしでは9.69±2.35mm3で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後TMVは有意に小さかった(p=0.044)(表3).BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.72±0.21,視力改善なしでは0.18±0.04で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術前視力(logMAR値)は有意に不良であった(p=0.00079).術前FTは視力改善ありでは404±140μm,視力改善なしでは307±67.8μmで有意差はなかった(p=0.16).術前TMVは視力改善ありでは10.5±3.02mm3,視表2DRとBRVOにおける視力(logMAR値),FT,TMVの比較術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DR0.54±0.30481±11510.2±1.530.51±0.33366±1639.00±2.09BRVO0.43±0.33348±1128.83±2.560.22±0.17243±90.57.55±1.48p値0.270.00280.0960.00260.0220.038t検定:DRとBRVOの比較.表3DRにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=18)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=7)0.63±0.35430±1089.46±1.620.34±0.34293±92.67.92±1.02改善なし(n=11)0.48±0.27514±11210.6±1.350.61±0.29412±1849.69±2.35p値0.370.140.140.110.0880.044t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.表4BRVOにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=14)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=6)0.72±0.21404±14010.5±3.020.38±0.13216±88.68.01±2.16改善なし(n=8)0.18±0.04307±67.87.54±1.090.10±0.05264±92.27.21±0.62p値0.000790.160.0590.00280.350.41t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011111力改善なしでは7.54±1.09mm3で有意差はなかった(p=0.059)(表4).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.38±0.13,視力改善なしでは0.10±0.05で視力改善ありは視力改善なしに比べ術後視力は有意に不良であった(p=0.0028).術後FTは視力改善ありでは216±88.6μm,視力改善なしでは264±92.2μmで有意差はなかった(p=0.35).術後TMVは視力改善ありでは8.01±2.16mm3,視力改善なしでは7.21±0.62mm3で有意差はなかった(p=0.41)(表4).III考按今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例について検討した.DRにおいてはIVB施行6カ月後の黄斑浮腫(FTとTMV)は有意に改善したことがわかった.しかし術後6カ月の視力は術前に比べ改善傾向は認めたが,有意差はなかった.DRにおいて術後視力改善ありと視力改善なしを比較すると,視力改善ありにおいてFTとTMVは有意に改善しており,浮腫が改善すれば視力が改善することが確認できた.一方,術前視力や術前の黄斑浮腫の程度は術後視力の改善に関与する因子ではなかった.BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無により比較すると,術後視力改善ありは視力改善なしと比較して,術前後の視力が有意に不良であった.DRとBRVOの比較から,今回の検討の対象においてBRVOはDRに比べて術前ではFTは有意に薄く,術後では視力は有意に良好でFTは薄く,TMVは小さい結果が得られた.このことからDRでは術前の黄斑浮腫は高度であり,DRではFT,TMVは術後に改善したがBRVOに比べると黄斑浮腫の残存の程度が大きいことがわかった.FTの術後減少率はDRでは23%,BRVOでは29%,TMVの術後減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であり,BRVOにおいてのみ術後有意に視力が改善した結果との関連が考えられた.今回の検討では,視力改善の点ではDRよりもBRVOにおいてIVBの効果は高いという結果であった.BRVOでは黄斑浮腫発症にあたりVEGFとinterleukin-6(IL-6)が関与するといわれている8).一方,DRでは黄斑浮腫発症の病態にVEGF以外にIL-6,intercellularadhesionmolecule1(ICAM-1)などの因子が関連するといわれている9,10).さらに,monocytechemoattractantprotein-1(MCP-1),pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)がDRに伴う黄斑浮腫おける黄斑部の網膜厚に関連する11)との報告がある.DRにおける黄斑浮腫の再燃にあたって,硝子体内のVEGFよりも,IL-6やMCP-1の関連が強く,黄斑浮腫の病因となる可能性が指摘されている12).以上のように,BRVOに比べDRでは黄斑浮腫発症の機序に,炎症に関連する数多くのサイトカインが関与するといわれている.BRVOでは黄斑浮腫発症の主因としてVEGFがあげられる一方で,糖尿病網膜症では病理組織学的に網膜毛細血管における周皮細胞・内皮細胞の変性,基底膜の肥厚があり,特に周皮細胞の変化と血管透過性亢進との関連がいわれている13,14).これらのことは,VEGFのみを標的とした抗VEGF抗体(ベバシズマブ)硝子体注入の治療効果をみた今回の検討において,BRVOのほうがDRに比べ効果が高いという結果になったことの要因と考えられる.Shimuraらの検討でもDRに伴う黄斑浮腫の治療としてIVBに比べ,抗炎症作用を併せ持つ副腎皮質ステロイド薬(TA)硝子体注入のほうが有効であり,ベバシズマブの効果はTAと比較して弱く,短いとしている15).黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術は長期間にわたり黄斑浮腫改善を維持できるとの報告1,2)やTA硝子体注入に比べ,局所/grid光凝固のほうがDRの黄斑浮腫における視力の長期予後が良好であるとする報告がある3).DRやBRVOに伴う黄斑浮腫発症機転に関してはいまだ明らかでない点が多い.その治療にあたり,硝子体手術,IVB,TAのTenon.下注入または硝子体注入,網膜光凝固などの選択肢のなかから,治療の侵襲,副作用,期待できる効果の程度や持続期間を考慮し,かつ患者の社会的背景も踏まえ適切な治療選択をすることが求められる.今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例において,DRに比べてBRVOでは術後視力は有意に良好で,術後FTとTMVは有意に小さく,術後減少率も高かった.黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.文献1)武末佳子,山名時子,向野利寛ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の術後成績.臨眼62:1457-1460,20082)八木文彦,佐藤幸裕,山地英孝ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対する硝子体手術.眼臨100:608-611,20063)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Arandomizedtrialcomparingintravitrealtriamcinoloneacetonideandfocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Ophthalmology115:1447-1459,20084)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Aphase2randomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Ophthalmology114:1860-1867,20075)大野尚登,森山涼,菅原通孝ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブとトリアムシノロンアセトニドの治療効果.臨眼63:307-309,2009112あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(112)6)澤田浩作,池田俊英,大八木智仁ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果.臨眼62:875-878,20087)原信哉,桜庭知己,片岡英樹ほか:網膜静脈分枝閉塞症による黄斑浮腫に対するベバシズマブの治療成績.眼臨紀1:796-801,20088)NomaH,FunatsuH,YamasakiMetal:Pathogenesisofmacularedemawithbranchretinalveinocclusionandintraocularlevelsofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6.AmJOphthalmol140:256-261,20059)NomaH,FunatsuH,MimuraTetal:Vitreouslevelsofinterleukin-6andvascularendothelialgrowthfactorarerelatedtodiabeticmacularedema.Ophthalmology110:1690-1696,200310)FunatsuH,YamashitaH,SakataKetal:Vitreouslevelsofvascularendothelialgrowthfactorandintercellularadhesionmolecule1arerelatedtodiabeticmacularedema.Ophthalmology112:806-816,200511)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitreousinflammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,200912)RohMI,KimHS,SongJHetal:Effectofintravitrealbevacizumabinjectiononaqueoushumorcytokinelevelsinclinicallysignificantmacularedema.Ophthalmology116:80-85,200913)WuL,ArevaloJF,BerrocalMHetal:Comparisonoftwodosesofintravitrealbevacizumabasprimarytreatmentformacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusions:resultsofthePanAmericanCollaborativeRetinaStudyGroupat24months.Retina29:1396-1403,200914)高木均,本田孔士,吉村長久ほか:眼と加齢加齢と網膜血管障害.日眼会誌111:207-231,200715)ShimuraM,NakazawaT,YasudaKetal:Comparativetherapyevaluationofintravitrealbevacizumabandtriamcinoloneacetonideonpersistentdiffusediabeticmacularedema.AmJOphthalmol154:856-861,2008***

糖尿病患者における網膜神経節細胞の機能変化

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)103《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):103.107,2011cはじめに糖尿病による網膜機能の変化については,ヒト1)や動物モデル2)を用いた多くの研究がある.糖尿病では長期間の高血糖状態が持続し,ポリオール経路3,4)を代表とする糖代謝異常をきたすため,網膜内では神経伝達物質の過剰な蓄積がみられ5),網膜細胞レベルで起こるアポトーシスにより網膜機能障害が発症する6).糖尿病患者の網膜機能を評価するため,Yonemuraら7)やShiraoとKawasaki8)は糖尿病網膜症患者から網膜電図(electroretinogram:ERG)を記録し,律動様小波(oscillatorypotential,以下OP波)の異常を報告した.その後,網膜症のみられない糖尿病患者においても,初期の網膜機能変化の指標としてOP波の変化が検討されている9~11).一方,実験的な糖尿病モデルラットにおいては,OP波の異常に加え網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)由来と考えられる暗所閾値電位(scotopicthresholdresponse:STR)の異常もみられる12~14).Buiら14)は,ストレプトゾトシン(streptozotocin:STZ)糖尿病ラットのSTR陽性成分(以下p-STR)の振幅低下からRGC機能障害を報告し,筆者ら15)もまた,STZラットを用いてp-STRがOP波より先に低下し,これを糖尿病によるRGCの脆弱性を示唆する変化として報告した.RGCを由来とする他のERG成分として,1999年Viswa〔別刷請求先〕神前賢一:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprintrequests:KenichiKohzaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishi-Shimbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPAN糖尿病患者における網膜神経節細胞の機能変化神前賢一竹内智一常岡寛東京慈恵会医科大学眼科学講座AlterationofRetinalGanglionCellFunctioninDiabetesPatientsKenichiKohzaki,TomoichiTakeuchiandHiroshiTsuneokaDepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine目的:網膜症を認めないか単純網膜症を有する糖尿病患者において,網膜神経節細胞の機能を電気生理学的に検討した.対象:網膜症を認めないか単純網膜症を有する糖尿病患者7例13眼に対して網膜電図を記録し,photopicnegativeresponse(PhNR)の振幅と潜時を計測し,ヘモグロビンA1C値,網膜症の程度,糖尿病罹病期間との関係を評価した.結果:糖尿病患者におけるPhNRの平均振幅は36.6±3.8μVであり,正常者の42.2±2.5μVと比較して減少傾向がみられた.潜時は,正常者の69.8±0.9msと比較して糖尿病患者では75.7±0.9msと有意に延長がみられた(p<0.0001).また,罹病期間とPhNR振幅において負の相関を認めた(p=0.044).結論:糖尿病では,罹病期間に比例して網膜神経節細胞の機能障害が起きている可能性が示唆された.Purpose:Weevaluatedtheretinalganglioncellfunctionindiabetespatientswithnoretinopathyandwithnon-preproliferativeretinopathy.Methods:Werecoredelectroretinogramsin13eyesof7diabetespatients.Wemeasuredthephotopicnegativeresponse(PhNR)amplitudeandimplicittime;wealsoevaluatedtherelationbetweenPhNRandhemoglobinA1Cvalue,stageofretinopathyanddurationofdiabetes.Results:ThemeanPhNRamplitudeinthesediabetespatientswas36.6±3.8μV,whichtendedtodecreaseincomparisonwithcontrols(42.2±2.5μV).Theimplicittimewassignificantlyprolongedinthediabetespatients(75.7±0.9ms)ascomparedwiththecontrols(69.8±0.9ms,p<0.0001).Inaddition,therelationbetweendurationofdiabetesandthePhNRamplitudeshowednegativecorrelation(p=0.044).Conclusion:Itissuggestedthat,regardingretinalfunctionindiabetes,theoccurrenceofretinalganglioncelldysfunctionisproportionaltothedurationofdiabetes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):103.107,2011〕Keywords:糖尿病,網膜電図,神経節細胞,錐体陰性反応,罹病期間.diabetesmellitus,electroretinogram,retinalganglioncell,photopicnegativeresponse,durationofdiabetes.104あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(104)nathanら16)は,photopicnegativeresponse(PhNR)を緑内障患者で測定し,その機能評価を検討している.PhNRは錐体b波に続く陰性波であり,その低下が緑内障患者のHumphrey静的視野検査の結果と相関することが近年報告された17).糖尿病は,緑内障のリスクファクターでもあり18~20),糖尿病患者に対する共焦点レーザー走査眼底観察装置(scanninglaserpolarimetry,GDxVCC:以下GDx)21,22)や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)23,24)を用いた研究から網膜神経線維層の欠損や菲薄化が報告されている.筆者らは,糖尿病によるRGCの機能障害を評価するため,検眼鏡的に網膜症を認めないか単純網膜症を有する糖尿病患者のERGを記録し,PhNRと糖尿病の罹病期間を中心に,ヘモグロビンA1C(HbA1C)値や網膜症の程度との関係,さらに錐体a波,b波,OP波の変化も検討したので報告する.I対象および方法東京慈恵会医科大学附属病院眼科において,検眼鏡的に網膜症を認めないか単純網膜症(福田分類A1~A2)の糖尿病患者7例13眼(A0:10眼,A1:2眼,A2:1眼)を対象とした(表1).男性は6例11眼,女性は1例2眼,平均年齢は59±3歳(52~74歳)であった.糖尿病の状態は,平均HbA1C値が8.2±0.4%(6.2~9.5%),平均糖尿病罹病期間は5.9±1.4年(2~13年)であった.比較対照は,全身疾患および眼疾患を認めない正常者12例21眼とした.男性は6例12眼,女性は6例9眼,平均年齢53±3歳(38~68歳)であった.ERGは,ガンツフェルド全視野刺激装置を使用し,30cd/m2の白色背景光下で10分間の明順応の後,Burian-Allenコンタクトレンズ電極を挿入し,3.93cd・s/m2の白色刺激で錐体ERGを記録した.得られた波形から,錐体a波,錐体b波,OP波,PhNRの振幅および潜時を計測し,糖尿病罹病期間,HbA1C値,網膜症の程度との関係を評価した.錐体a波は,基線から最初の陰性波の頂点までをa波振幅とし,刺激開始後からその頂点までを潜時と計測した(図1A).錐体b波は,a波頂点から最初の陽性波頂点までをb波振幅とし,a波同様にその潜時も計測した(図1B).OP波は,得られた錐体ERGの波形を100~200Hzのバンドパスフィルタで処理し,3番目の小波の振幅および刺激開始からその頂点までの時間を潜時として計測した(図1C).PhNRは,錐体b波に続く陰性波のうち,2番目の陰性波の頂点を基線から計測し振幅とした.また,刺激開始からその頂点までの時間を潜時とした(図1D).II統計学的解析糖尿病患者と正常者の振幅および潜時の比較検討については,unpairedt-test(Prism,ver.5.01,GraphPadSoftwareInc.,SanDiego,CA)を行い,p<0.05を有意差ありとした.同様に,糖尿病患者の各振幅および潜時とパラメータとの相関については,その相関係数を算出し,p<0.05を有意差ありとした.III結果1.錐体a波糖尿病患者の平均振幅は,43.5±3.3μVであり,正常者の48.5±3.1μVと比較して低下傾向がみられたものの有意差は認めなかった.糖尿病患者の平均潜時については,正常者と比較して有意な延長がみられた(糖尿病:16.4±0.5,正常者:14.8±0.3ms,p=0.0106).糖尿病患者の錐体a波とHbA1C値,網膜症の程度,糖尿病罹病期間との関係は,その振幅において罹病期間と負の相関(p=0.0155,r2=0.4265)を認めたが,その他に有意な相関はみられなかった(図2A,B).表1糖尿病患者の背景症例性別年齢(歳)分類(型)罹病期間(年)HbA1C(%)網膜症(右・左)視力(右・左)1女性662138.0A0・A00.9・0.62男性56238.1A0・A01.5・1.53男性52289.5A2・A11.2・1.24男性52268.9A0・A01.2・1.25男性54226.2A1・─1.5・─6男性74248.8A0・A00.7・1.07男性62257.9A0・A01.5・1.5HbA1C:ヘモグロビンA1C値,網膜症:福田分類で評価,視力:ERG記録時の矯正視力.症例5の左眼は,外傷により失明.a波b波OP波ABPhNRCD図1ERG波形の計測方法縦矢印は各波形の振幅,横矢印は各波形の潜時の計測方法を示す.A:錐体a波,B:錐体b波,C:OP波,D:PhNR.(105)あたらしい眼科Vol.28,No.1,20111052.錐体b波糖尿病患者の平均振幅は,89.0±6.3μVであり,正常者の103.9±6.1μVと比較して減少傾向がみられたが有意ではなかった.平均潜時においては,正常者の33.2±0.5msと比較して糖尿病患者では35.5±0.7msと有意に延長がみられた(p=0.0084).糖尿病患者の錐体b波とHbA1C値,網膜症の程度,糖尿病罹病期間との関係は,潜時において罹病期間と負の相関(p=0.0099,r2=0.4684)を認めたが,その他に有意な相関はみられなかった(図2C,D).3.OP波糖尿病患者の平均振幅は,16.7±3.1μVであり,正常者の24.4±2.3μVと比較して有意に減少がみられた(p=0.0484).平均潜時においては,正常者の32.6±0.4msと比較して糖尿病患者では34.4±0.6msと有意な延長がみられた(p=0.012).糖尿病患者のOP波とHbA1C値,網膜症の程度,糖尿病罹病期間との関係は,潜時において罹病期間と負の相関(p=0.0191,r2=0.4062)を認めたが,その他に有意な相関はみられなかった(図3A,B).4.PhNR糖尿病患者の平均振幅は,36.6±3.8μVであり,正常者の42.2±2.5μVと比較して減少傾向がみられたが有意ではなかった.平均潜時においては,正常者の69.8±0.9msと比較して糖尿病患者では75.7±0.9msと有意に延長がみられた(p<0.0001).糖尿病患者のPhNRとHbA1C値,網膜症の程度,糖尿病罹病期間との関係は,振幅において罹病期間と負の相関(p=0.044,r2=0.5654)を認めたが,その他に有意な相関はみられなかった(図3C,D).IV考按糖尿病の網膜におけるRGCの脆弱性は,1998年にBarberら6)により報告されている.この報告でSTZ糖尿病ラットにおけるRGCは,糖尿病発症後7.5カ月で約10%減少し,TUNEL(TdT-mediateddUTP-biotinnickendlabeling)染色によるアポトーシス細胞の検出は,糖尿病発症後4週目から有意な増加を認めている.さらに,ヒトドナー眼の網膜の検討において,糖尿病患者のTUNEL陽性細胞数は,非糖尿病患者の約2.5倍認められる.このように糖尿病によるRGC障害は,ヒトにおいても比較的早期から起きている可能性が考えられる.しかし,ヒトでは糖尿病の発症時期を特定することがむずかしく,長期的な変化に注意を置くべきと考え今回の検討を試みた.今回の検討で糖尿病患者のPhNRは,振幅低下や潜時延長がみられ(図4),罹病期間とPhNR振幅との間に負の相関(図3C)がみられた.このことから,長期間の高血糖や不安定な血糖の状態がRGCの機能障害をひき起こしている可能性が示唆された.GDx21,22)やOCT23,24)を用いた網膜神経線維層の解析でも,網膜症を認めない糖尿病患者の神経線維層は正常者と比較して菲薄化を示し,網膜症の進行に伴い有意に菲薄化することが報告されておりRGCの減少が推察される.PhNRの潜時については,罹病期間との明らかな相関がみられなかったが,平均潜時に有意な延長がみられた.これはb波による影響,つまりb波の潜時延長やb波と罹病024681012146040200504030201000246810121485807570654540353025CDABPhNR潜時(ms)OP波潜時(ms)PhNR振幅(μV)OP波振幅(μV)糖尿病罹病期間(年)図3OPおよびPhNRと糖尿病罹病期間の関係A:OP振幅は正常者と比較して全体的に低下がみられるが,罹病期間との関係はみられない.B:OP潜時は正常者と比較して変化はみられない.C:PhNR振幅は罹病期間に対して負の相関がみられる.D:PhNR潜時は正常者と比較して延長傾向がみられるが,罹病期間との関係はみられない.横軸:糖尿病罹病期間,縦軸:振幅または潜時,点線:正常者の平均値.糖尿病罹病期間(年)80604020024681012141501209060301817161502468101214403836343230ABCDb波潜時(ms)a波潜時(ms)b波振幅(μV)a波振幅(μV)図2錐体a波およびb波と糖尿病罹病期間との関係A:a波振幅は罹病期間に対して負の相関がみられる.B:a波潜時は罹病期間に対して短縮傾向がみられる.C:b波振幅は罹病期間に対して軽度の減少がみられる.D:b波潜時は罹病期間に対して負の相関がみられる.横軸:糖尿病罹病期間,縦軸:振幅または潜時,点線:正常者の平均値.106あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(106)期間との間の負の相関がみられ,糖尿病25)や血糖状態26)による双極細胞の障害を考慮する必要があり,PhNRの潜時延長はb波の変化による影響8)も否定できない.また,過去の報告10,27)でも網膜症のない糖尿病患者で,PhNR潜時の有意な延長は報告されていない.しかし,正常者の平均潜時と比較すると,b波潜時は6.9%であるのに対しPhNRは8.4%の延長がみられ,RGC機能の障害が存在する可能性が考えられる.以上のことから,糖尿病患者の網膜機能は,網膜症を認めないか初期の網膜症であっても,罹病期間に比例してRGCの機能障害が起きている可能性が示唆された.糖尿病患者のERG変化として広く知られている成分にOP波があげられる8,10,28,29).このOP波とRGCとの関係について,パターンERGを用いた研究がされている.パターンERGはPhNRと同様にRGC機能を反映し,OP波に比べ糖尿病罹病期間に対してより鋭敏29)で,有用な指標30)である.同様にOP波とPhNRを比較した研究で,Chenら27)はPhNRの鋭敏性を報告している.一方で,Kizawaら10)はOP波の鋭敏性を報告し,PhNRの低下はシグナル入力の減少であるとしている.今回の検討では,すべてのERG成分に平均潜時の延長がみられることから,視細胞へのシグナル伝達である光伝達経路の障害15,31)や長期間の糖尿病状態による視細胞の障害32)および網膜脈絡膜の循環障害による低酸素状態33)も関与し,全体の潜時延長を招いた可能性が考えられる.正確な糖尿病罹病期間を把握することは困難であり,糖尿病の診断基準を満たさない場合でも網膜症が発症する34)ことが知られているため,PhNRを用いた網膜機能の評価は,糖尿病の早期発見につながる可能性があり,今後さらに症例数を増やし,GDxやOCTによる神経線維層の評価を加えて糖尿病とRGCとの関係を検討したいと考える.文献1)TzekovR,ArdenGB:Theelectroretinogramindiabeticretinopathy.SurvOphthalmol44:53-60,19992)PhippsJA,FletcherEL,VingrysAJ:Paired-flashidentificationofrodandconedysfunctioninthediabeticrat.InvestOphthalmolVisSci45:4592-4600,20043)Ino-UeM,ZhangL,NakaHetal:Polyolmetabolismofretrogradeaxonaltransportindiabeticratlargeopticnervefiber.InvestOphthalmolVisSci41:4055-4058,20004)LorenziM:Thepolyolpathwayasamechanismfordiabeticretinopathy:attractive,elusive,andresilient.ExpDiabetesRes2007:61038,20075)LiethE,LaNoueKF,AntonettiDAetal:Diabetesreducesglutamateoxidationandglutaminesynthesisintheretina.ThePennStateRetinaResearchGroup.ExpEyeRes70:723-730,20006)BarberAJ,LiethE,KhinSAetal:Neuralapoptosisintheretinaduringexperimentalandhumandiabetes.Earlyonsetandeffectofinsulin.JClinInvest102:783-791,19987)YonemuraD,AokiT,TsuzukiK:Electroretinogramindiabeticretinopathy.ArchOphthalmol68:19-24,19628)ShiraoY,KawasakiK:Electricalresponsesfromdiabeticretina.ProgRetinEyeRes17:59-76,19989)金子宗義:HbA1C値が良好で検眼鏡的眼底所見が正常なインスリン非依存性糖尿病患者の暗所閾値電位.日眼会誌105:463-469,200110)KizawaJ,MachidaS,KobayashiTetal:Changesofoscillatorypotentialsandphotopicnegativeresponseinpatientswithearlydiabeticretinopathy.JpnJOphthalmol50:367-373,200611)LuuCD,SzentalJA,LeeSYetal:Correlationbetweenretinaloscillatorypotentialsandretinalvascularcaliberintype2diabetes.InvestOphthalmolVisSci51:482-486,201012)AylwardGW:Thescotopicthresholdresponseindiabeticretinopathy.Eye3(Pt5):626-637,198913)金子宗義,菅原岳史,田澤豊:ストレプトゾトシン誘発初期糖尿病ラットの網膜内層電位.日眼会誌104:775-778,200014)BuiBV,LoeligerM,ThomasMetal:Investigatingstructuralandbiochemicalcorrelatesofganglioncelldysfunctioninstreptozotocin-induceddiabeticrats.ExpEyeRes88:1076-1083,200915)KohzakiK,VingrysAJ,BuiBV:Earlyinnerretinaldysfunctioninstreptozotocin-induceddiabeticrats.Invest図4糖尿病患者のPhNR代表的な糖尿病患者のERG波形を示す.正常波形と比較して小さい症例(A)や潜時の延長症例(B)がみられる.横軸:潜時,縦軸:振幅,点線は基線,太線は糖尿病患者の錐体ERG波形,細線は正常者の錐体ERG波形.0255075100025507510012080400-40-80潜時(ms)振幅(μV)A:正常者B:糖尿病PhNRPhNR(107)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011107OphthalmolVisSci49:3595-3604,200816)ViswanathanS,FrishmanLJ,RobsonJGetal:Thephotopicnegativeresponseofthemacaqueelectroretinogram:reductionbyexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:1124-1136,199917)MachidaS,GotohY,TobaYetal:Correlationbetweenphotopicnegativeresponseandretinalnervefiberlayerthicknessandopticdisctopographyinglaucomatouseyes.InvestOphthalmolVisSci49:2201-2207,200818)NakamuraM,KanamoriA,NegiA:Diabetesmellitusasariskfactorforglaucomatousopticneuropathy.Ophthalmologica219:1-10,200519)ChopraV,VarmaR,FrancisBAetal:Type2diabetesmellitusandtheriskofopen-angleglaucomatheLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmology115:227-232e1,200820)ColemanAL,MigliorS:Riskfact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多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(97)97《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):97.102,2011cはじめに糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設立させ,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を図った1).〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998八王子市館町1163番地東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji,Tokyo193-0998,JAPAN多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移大野敦梶邦成臼井崇裕田口彩子松下隆哉植木彬夫東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科ChangesinQuestionnaireSurveyResultsamongTamaAreaOphthalmologistsRegardingtheOphthalmologicalNotebookofDiabeticsAtsushiOhno,KuniakiKaji,TakahiroUsui,SaikoTaguchi,TakayaMatsushitaandAkioUekiDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的:2002年に発行された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医の意識調査を発行7年目に施行し,発行半年目と2年目の調査結果と比較した.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳の配布状況,2)眼手帳配布に対する抵抗感,3)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,4)受診の記録で記入しにくい項目,5)受診の記録に追加したい項目,6)眼手帳を配布したい範囲,7)文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか,8)眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか,9)内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会,10)眼手帳の広まりについて調査し,各結果を3群間で比較した.結果・結論:眼手帳の配布率はこの5年間で10%上昇し,配布に対する抵抗感は有意に減少し,眼手帳を配布したい範囲は広がる傾向を認め,他院発行の眼手帳を見る機会は有意に増えているが,眼手帳の広まりに対する評価は厳しかった.Purpose:TheOphthalmologicalNotebookofDiabeticswasfirstissuedin2002;sevenyearshavepassedsincethen.Inthisstudy,weexaminedophthalmologistsregardingtheirawarenessoftheNotebook,andcomparedtheresultstothoseofsimilarsurveysconductedsixmonthsandtwoyearsaftertheNotebook’sfirstissuance.Methods:ThesubjectswereophthalmologistsintheTamaarea.Thesurveyitemswere:1)currentstatusofNotebookdistribution,2)senseofresistancetoprovidingtheNotebook,3)clinicalappropriatenessofthedescriptionof“guidelinesforthoroughfunduscopicexamination”,4)fieldsintheNotebookthataredifficulttocomplete,5)itemsthatshouldbeaddedtotheclinicalfindingsfield,6)areainwhichtheNotebookshouldbedistributed,7)whetherornottheNotebookcostnotcoveredbymedicalinsuranceisanobstacletoitspromotion,8)whetherornottheNotebookshouldbeprovidedtopatientsbyophthalmologists,9)frequencyofseeingtheNotebookissuedbyotherhospitals(includingattendingphysicians),and10)promotionoftheNotebook.Wecomparedtheresultsamongthethreegroups.ResultsandConclusion:TherateofNotebookdistributionhasincreasedby10%overthepastfiveyears,andthelevelofresistancetoprovidingithasmarkedlydecreased.ThemajorityofophthalmologistscommentedthattheNotebookshouldbedistributedoverawiderarea,andthefrequencyoftheirseeingitissuedbyotherhospitalshasincreased.Ontheotherhand,theyviewedthepromotionoftheNotebookasbeinginsufficient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):97.102,2011〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,眼科・内科連携.OphthalmologicalNotebookofDiabetics,questionnairesurvey,diabeticretinopathy,cooperationbetweenophthalmologistandinternist.98あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(98)またこの活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから7年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4~7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目に施行したので,本稿では発行7年目の結果を半年目8),2年目9)の結果と比較した.I対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医で,発行半年目96名〔男性56名,女性24名,不明16名,眼科経験年数19.0±11.6(M±SD)年〕,2年目71名(男性43名,女性28名,眼科経験年数20.3±12.9年),7年目68名(男性38名,女性22名,不明8名,眼科経験年数20.6±8.5年)である.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者が面接方式で行ったため,回収率はほぼ100%であった.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会等で発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます.」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.回答者のプロフィールを表1に示すが,年齢は40歳代が最も多く,3群間に有意差を認めなかった(c2検定:p=0.27).勤務施設は診療所がいずれも70%台で,3群間に有意差を認めなかった(c2検定:p=0.64).定期受診中の糖尿病患者数は,半年目に比べて2年目,7年目の患者数が増加していたが,有意差は認めなかった(c2検定:p=0.13).以上の背景ももつ対象において,問1.眼手帳の利用状況についてお聞かせ下さい問2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことに抵抗がありますか問3.眼手帳の1ページの「精密眼底検査の目安」の記載があることは,臨床上適当とお考えですか問4.眼手帳の4ページ目からの受診の記録で,記入しにくい項目はどれですか問5.眼手帳の4ページ目からの受診の記録に追加したい項目はありますか問6.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいですか問7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことは,手帳の普及の妨げになりますか問8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいとお考えですか問9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳を御覧になる機会がありますか問10.【半年目・2年目】眼手帳は広まると思いますか【7年目】眼手帳は広まっていると思いますか上記の問1~10に関するアンケート調査を行い,各問のアンケート結果の推移を検討した.3群間の回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳の利用状況(図1)発行半年目の調査時は質問項目として未採用のため,発行2年目と7年目で比較した.その結果,眼手帳の利用状況に有意差はなかったが,7年目の回答において,「積極的または時々配布している」を合わせると63.2%を認め,発行2年目より約10%増加していた.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳配布に対する抵抗感は,「全くない」がこの5年間表1回答者のプロフィール回答者年齢構成年齢半年目(96)2年目(71)7年目(68)20歳代3.1%(3)5.6%(4)1.5%(1)30歳代28.1%(27)21.1%(15)14.7%(10)40歳代33.3%(32)38.0%(27)38.2%(26)50歳代17.7%(17)16.9%(12)29.4%(20)60歳代11.5%(11)9.9%(7)11.8%(8)70歳代3.1%(3)8.5%(6)2.9%(2)未回答3.1%(3)1.5%(1)回答者勤務施設施設半年目(96)2年目(71)7年目(68)開業医75.0%(72)71.8%(51)76.5%(52)大学病院9.4%(9)9.9%(7)10.3%(7)総合病院7.3%(7)11.3%(8)5.9%(4)一般病院7.3%(7)5.6%(4)2.9%(2)その他2.9%(2)未回答1.0%(1)1.4%(1)1.5%(1)糖尿病患者数患者数半年目(96)2年目(71)7年目(68)10名未満8.3%(8)11.3%(8)8.8%(6)10~29名31.3%(30)16.9%(12)19.1%(13)30~49名19.8%(19)19.7%(14)23.5%(16)50~99名14.6%(14)14.1%(10)14.7%(10)100名以上10.4%(10)29.6%(21)23.5%(16)未回答15.6%(15)8.5%(6)10.3%(7)(99)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201199で14%増加し,「ほとんどない」と合わせて約9割に達し,3群間で有意差を認めた(c2検定:p<0.05).3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図1)目安があることおよび記載内容ともに適当との回答が3群とも80%前後を占め,目安の記載自体混乱の元で不必要との回答は4~10%台,目安はあったほうがよいが記載内容の修正は必要との回答は4~7%台にとどまり,3群間に有意差を認めなかった.7年目の回答者において,修正点として「目安としてはこう書くしかないと思うが,増殖前と増殖に関しては参考にならない」「コントロール状態と眼のステージで決めている」「黄斑症についての記載が必要だと思う」の記載があった.4.受診の記録の中で記入しにくい項目(図2)記入しにくい項目を選択した回答者の割合は,半年目47.9%,2年目42.3%,7年目51.5%で,3群間に有意差を認めなかった.7年目の回答者が選択した記入しにくい項目としては,福田分類,変化,白内障が10%を超えており,福田分類は増加傾向を認めた.一方,次回受診予定日,糖尿病網膜症,黄斑症は減少していた.問1.眼手帳の利用状況問2.眼手帳を糖尿病患者へ渡すことへの抵抗感問3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%□積極的に配布している■時々配布している■必要とは思うが配布していない■必要性を感じず配布していない■眼手帳を今回はじめて知った■その他の配布状況■未回答□全くない■ほとんどない■多少ある■かなりある■未回答□適当■不必要■修正が必要■未回答2年目7年目半年目2年目7年目半年目2年目7年目c2検定:p<0.05c2検定:p値0.86c2検定:p値0.55図1問1~3の回答結果問4.受診の記録の中で記入しにくい項目■特にない■ある■未回答■半年目■2年目■7年目0%0%5%10%15%20%25%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目問5.受診の記録の中で追加したい項目の有無c2検定:p値0.46(未回答を除く)糖尿病黄斑症福田分類変化糖尿病網膜症白内障眼圧矯正視力次回受信予定日図2問4,5の回答結果100あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(100)5.受診の記録の中で追加したい項目の有無(図2)追加したい項目は「特にない」が3群とも大多数を占め,「ある」は半年目7.3%,2年目9.9%,7年目14.7%にとどまり,3群間に有意差を認めなかった.追加したい項目があると回答した者において,具体的にはHb(ヘモグロビン)A1Cを記載したものが最も多かった.6.眼手帳を渡したい範囲(図3)発行7年目において眼手帳を渡したい範囲は,すべての糖尿病患者との回答が半年目より18.5%,2年目より5%増加傾向,一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目の6割台が2年目と7年目では4割台に減少傾向を認めた.7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか(図3)全くならないが半年目28.1%,2年目21.1%,7年目33.8%,あまりならないが38.5%,43.7%,33.8%,多少なるが19.8%,22.5%,23.5%,かなりなるが5.2%,8.5%,8.8%で,3群間に有意差は認めなかった.8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか(図3)眼科医が渡すべきであるが半年目40.6%,2年目36.6%,問6.眼手帳を渡したい範囲問7.文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか問8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか0%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目■全ての糖尿病患者■網膜症が出現してきた患者■正直あまり渡したくない■その他■未回答■全くならない■あまりならない■多少なる■かなりなる■未回答■眼科医が渡すべき■内科医でも良い■どちらでも良い■未回答c2検定:p<0.10%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目c2検定:p値0.260%20%40%60%80%100%半年目2年目7年目c2検定:p値0.51図3問6~8の回答結果問9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会問10.眼手帳の広まり■かなりある■多少ある■ほとんどない■全くない■未回答■【半年・2年目】かなり広まると思う【7年目】かなり広まっていると思う■【半年・2年目】なかなか広まらないと思う【7年目】あまり広まっていないと思う■どちらともいえない■未回答c2検定:p<0.052年目7年目c2検定:p<0.0050%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%2年目半年目7年目図4問9,10の回答結果(101)あたらしい眼科Vol.28,No.1,20111017年目36.8%,内科医が渡してもかまわないが30.2%,28.2%,23.5%,どちらでも良いが26.0%,32.4%,39.7%で,3群間に有意差は認めなかった.9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会(図4)半年目は質問項目として未採用のため,2年目と7年目で比較した.その結果,他院で発行された眼手帳をみる機会は,かなりあると多少あるが増加し,ほとんどないと全くないが減少して,2年目より7年目においてみる機会が有意に増えていた(c2検定:p<0.05).10.眼手帳の広まり(図4)この設問において,半年目と2年目は眼手帳の広まりに対する予想を,一方,7年目は現在の広まりに対する評価を質問した.その結果,眼手帳はかなり広まる・広まっているとの回答は20%台で推移しているが,あまり広まらない・広まっていないが倍増し,一方,どちらともいえないが減少して,3群間に有意差を認めた(c2検定:p<0.005).III考按1.眼手帳の利用状況眼手帳の存在自体を今回はじめて知ったとの回答は2年目4.2%,7年目4.4%にとどまり,眼手帳の認知度は約95%であった.船津らにより行われた全国9地域,10道県の眼科医を対象にした,発行1年目の調査5)における認知度は88.6%,6年目の調査7)では95.3%であり,ほぼ同等の結果と思われる.一方,眼手帳の活用度は,積極的と時々配布を合わせて63.2%で,2年目より10%増加していたが,先の発行1年目5)と6年目7)の調査における活用度60.5%,71.6%と比べると,かなり低かった.診療が忙しくてほとんど配布していないとの回答が15~20%,あまり必要性を感じないので配布していないとの回答が10%前後認めており,今後活用度を上げるには「記入すべき項目数の限定」「コメディカルによる記入の協力」など,より利用しやすい方法を考える必要がある.2.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感配布に対する抵抗感は,「全くない」がこの5年間で14%増加し,ほとんどないと合わせて約9割に達しており,時間的余裕と配布の必要性が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果であった.3.眼手帳に「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度「精密眼底検査の目安」の記載が臨床上適当であるとの回答は,3群とも8割前後の高い回答率であったが,一方,目安の記載自体混乱の元で不必要との回答も4~10%台認めた.この結果は,糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を改めて示している.4.受診の記録の中で記入しにくい項目7年目の回答において,福田分類,変化,白内障が10%を超えており,特に福田分類は増加傾向を示した.眼手帳とほぼ同じ項目で作成された「内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書」の改良点に関する調査においても,削除希望項目として福田分類の希望が多かった1).また筆者が,非常勤医師として診療に携わっている病院における眼手帳の記入状況において,福田分類は最も記載率が低かった10).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるためぜひ記入していただきたい項目であるが,その記入のためには蛍光眼底検査が必要な症例も少なくなく,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).一方,次回受診予定日は,記入しにくいと回答する者が減少していたが,眼科受診放置を防ぐためには,まず次回の受診時期を患者本人および内科主治医に知らせることが重要であり,今回の結果は望ましい方向に進んでいることを示している.5.受診の記録の中で追加したい項目の有無追加したい項目は特にないとの回答が約80~90%であったが,追加希望の項目としてはHbA1Cが多かった.HbA1Cが併記されれば,血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連がみやすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ,今後の導入が期待される.6.眼手帳を渡したい範囲すべての糖尿病患者との回答は,半年目で27.1%にとどまり,船津らの発行1年目の調査5)での24.8%との回答結果に近似していた.しかし2年目40.8%,7年目45.6%と増加傾向を示し,6年目の調査7)での31.8%を上回っていた.一方,網膜症の出現してきた患者との回答は,半年目の60%が2年目と7年目は40%強に減少傾向を認めたが,6年目の調査7)での39.6%と近似した結果を示した.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる5).7.情報提供書と異なり文書料が保険請求できないことが眼手帳の普及の妨げになるか普及の妨げに全く・あまりならないとの回答が計67.6%で,有意差は認めなかったが前者の比率がやや増えていた.従来連携に用いてきた情報提供書は,医師側には文書料が保険請求できるメリットがあるものの,患者側からみると記載内容を直接見ることができないデメリットもある.今回の結果は,「患者さんに糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらう」という眼手帳の目的を考えると,望まし102あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(102)い方向性を示している.8.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいと考えるか眼科医が渡すべきは比較的横ばいであったのに対し,有意差は認めなかったものの,内科医から渡してもかまわないが減少し,一方,どちらでも良いは増加していた.先に触れたように,精密眼底検査の受診間隔や眼手帳を渡す範囲などには眼科医によって差異があり,その点からも内科医からの配布には慎重な姿勢がみられたと思われる.9.内科主治医を含めて他院で発行された眼手帳をみる機会かなりあると多少あるが増加し,ほとんどないと全くないが減少していたが,眼手帳配布の協賛企業から日本糖尿病眼学会事務局への報告資料によると,東京都における眼手帳の医療機関への配布部数は2003年末で43,833部,2008年末で137,232部,眼手帳の申し込み件数は2003年末で656件,2008年末で2,099件と増加しており,この結果を支持していた.10.眼手帳の広まり眼手帳はあまり広まらない・広まっていないが倍増し,どちらともいえないが著減しており,前項の眼手帳をみる機会の増加と矛盾する結果であった.眼手帳の医療機関への配布部数ならびに眼手帳の申し込み件数は,先に示したように2003年末に比べて2008年末はそれぞれ3.1倍,3.2倍の増加を示しているが,同じく日本糖尿病眼学会事務局資料で東京都の眼科施設における配布率の推移をみると,病院の配布率が2003年末38%,2008年末62%で1.6倍,開業医の配布率が2003年末22%,2008年末30%で1.4倍の増加にとどまっている.すなわち,すでに利用している医療機関での各配布数の伸びが全体の配布部数の増加を支えており,利用施設数はパラレルに増加していないことになり,これが今回の眼手帳の広まりに対する実感につながっている可能性が考えられる.以上のアンケート結果の推移により,眼手帳の配布率はこの5年間で10%上昇し,配布に対する抵抗感は有意に減少し,眼手帳を配布したい範囲は広がる傾向を認め,他院発行の眼手帳をみる機会は有意に増えているが,眼手帳の広まりに対する評価は厳しかった.今後は,さらに多くの医療機関で眼手帳を利用してもらうために,眼手帳の目的を理解してもらうための啓蒙活動ならびに眼手帳のより利用しやすい方法の提案が必要と思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の利用状況と意識調査.日本糖尿病眼学会誌9:140,20049)大野敦,粂川真理,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における発行2年目の糖尿病眼手帳に対する意識調査.日本糖尿病眼学会誌11:76,200610)大野敦,林泰博,川邉祐子ほか:当院における糖尿病眼手帳の記入状況.川崎医師会医会誌22:48-53,2005***

眼科医にすすめる100冊の本-1月の推薦図書-

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011950910-1810/11/\100/頁/JCOPY2010年に読んだ本のなかで一番の本である.超おすすめ.マイブームになっている.何かあると“スマナサーラ”と唱えている自分がいる.みんなそれぞれ自分が好きな言葉があると思う.その言葉で元気づけられる.僕が一番好きな言葉は“ごきげんだからうまくいく”というフレーズだ.これは自分で作った.このフレーズをタイトルにした本もサンマーク出版から出した.この言葉によって何回勇気づけられたことか.言葉はそれ自体がエネルギーをもつ.自分の作った言葉に励まされるっておかしいと思うかもしれないが真実だ.子供から学ぶのと似たような感覚といえばよいだろうか.スマナサーラ(著者で僧侶の名前ですが)は同じく自分が“怒る”ことから永遠に別れをつげた象徴となった.思いもよらなかったことを教えてくれた本である.自分はだいぶ前に怒ることはやめた.正しくは長い間そう思ってきた.怒っても何もいいことがない.だからやめる.単純な理論である.まず怒ったらその怒る気持ちと声を真っ先に聞くのは自分だ.怒られるのはいやだから,怒るのもいやだ.なにしろ1秒単位でごきげんでいたいとチャレンジしている自分にとっては,怒りは無用である.ここまでは皆さんも同意してくれるだろう.ところが話はそんなに簡単じゃない.この本でまず驚いたのは,“後悔すること”“笑わないこと”“心の底から楽しいと思わないこと”も怒りであると指摘していることだった.えっ,そんなことも怒りなの?っていう感じである.ここのところを僕の言葉で語るのはまだむずかしいので,ぜひ本書を読んでいただきたい.人生は本当はとっても楽しく,ごきげん,笑いに満ちている.という前提がまず存在する.もしそうでなかったら,それはあなたの心の中に怒りがあるからだ.という考え方だ.だから永遠に怒りから決別しよう!とこの本は諭す.怒りがなくなったとたんに笑顔が自然に浮かんでくる.怒っていたら笑うことができない.これは真実だ.笑って人生を過ごすためには“怒らないこと”が大前提になる.この本はなにが起きても怒らないことを提唱する.怒ることはまったく必要のないことだと断言する.でも,たとえば誰かに足を思い切り踏まれたら怒りたくなるんじゃないか.と当然思う.でも怒らないほうが得だとこの本はいうのだ.もし怒ったら足を踏まれた時間は笑顔でいることができない.怒ってしまったらその時間は怒りの時間になってしまう.だから足を踏まれても自動的に怒る必要はないという.足を踏まれたら痛いと感じるのは自然である.でもその後に怒るか,“いいんですよ.間違いは誰にもあることです.怪我しなくてよかった.自分が踏む側じゃなくてよかった.あー,もう痛くなくなったし,本当によかった”と考える自由を人間はもっているというのだ.これはすばらしい考え方だと心から思う.お金を貸して返ってこなくても怒る必要はまったくない.“あー,ちょっと損したな”と思う.っていうか,それが数字上は真実なんだけど,それでも怒る必要はない.“お金が返ってこなくても普通に生活できる.自分がお金を踏み倒す側じゃなくてよかった.もし返ってきたらお祝いしちゃおう”くらいの気持ちで臨む.そうすると笑顔でいられる.それでも世の中には,人を脅したり,傷つけたりする人がいる.そのような場合はどうするのか.この本はそのような場合の対処の仕方,考え方も提示している.まずは無視すること.そういう感覚の人とは無縁だと自分で決めることだ.それでも自分に危害が及びそうだったら“毅然とした態度で,もしこれ以上悪いことをするならそれ以上の力で対抗します”と伝える.まれには実行もする.それでもその間,怒る必要はない.笑顔で“ま(95)■1月の推薦図書■怒らないことアルボムッレ・スマナサーラ著(サンガ)シリーズ─97◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科96あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011あ,こういうこともまれにはありますね”と対処する.でもあくまで基本は笑顔.怒らないことである.そんなわけで,最近は日常生活のなかでちょっとネガティブなことを感じたら“スナマサーラ”と唱えている.大型研究費の申請が落ちた!スマナサーラ.残念がることさえ怒りだ.自信の論文がジャーナルからリジェクトをくらった!スマナサーラ.そんなことで心を乱されたらだめだ.年収が半減した!スマナサーラ.別に給料が減ったってごきげんに生きているのだから笑顔で過ごしてまったく問題ない!という具合である.こうなってくると,つぎはどんなときにスマナサーラと叫ぶのかが楽しみになってくる.早く問題が来ないかなと思えるようになった自分がおかしい.何が来ても“スマナサーラ”があるから大丈夫!ぜんぜんへっちゃらなのだ.(96)☆☆☆

眼研究こぼれ話 13.レンズの構造 老化の次に来る白内障

2011年1月31日 月曜日

(93)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201193レンズの構造老化の次に来る白内障だれでも40歳を過ぎると,段々とものを遠くに置かないと見えにくくなり,45歳を過ぎると,仕方なく眼鏡を買うことになる.これは眼の中のレンズの弾力性が減って,焦点がうまく合わなくなるからである.この現象は止めることの出来ない老化の第一歩で,その後,白内障にならなければ幸いと,我慢するより仕方がない.白内障になっても,簡単に手術で取り去ってもらうことが出来るから心配はいらない.凸(とつ)レンズそのものの形をしたレンズは,角膜同様,透明な組織で,眼球の中で,血管,神経どちらもの介入を受けないで,ただヂン氏小帯という細い線維だけによって支えられている.この線維を介して,毛様体内の筋肉の運動を受けたレンズは厚さをかえて,光学的なレンズ作用をするようになっている.近くを見るときは毛様体の筋肉が収縮して,ヂン氏帯がゆるみ,レンズそのものの弾力性でレンズが丸くなり,焦点距離が短くなる.一方,遠方を見るときは,毛様体がゆるんで,ヂン氏帯がひっぱられ,レンズが平たくなる.このレンズは他の臓器と同様,細胞から出来ている.前表面に,モザイク様にしきつめた細胞があって,その細胞は,赤道線にあたる部分で,段々と背が高くなり,ついに細長い線維様の細胞となる.数百万という細長い細胞は規則正しい層を作って集まりレンズ形のかたまりとなっている.その様子はちょうど,タマネギの構造のようである.しかし,タマネギの場合は,中心が新しい幼若部から出来て,古い部分は外部へおし出されているのに反し,レンズの場合は,新しいレンズ細胞は前表面にあって,古い細胞は次々と内部に向かって押し込められている.そうして胎児の時期に出来たレンズ細胞は,大人になっても中心部に残っているわけである.焦点を合わす場合,レンズの細胞はお互いにこすり合うに違いないと,数年前まで信じられていた.そうして,線維間には粘滑油のような物質があるという考えがあった.この滑りの悪いことが,老化現象の始まりかもしれないとの仮説である.ところが,構造的にはこの物質の存在は見つけられていない.レンズはぐにゃぐにゃしていて,全くつかみ所も無く,どのように調べていいのかの見当さえつかないのが実態であった.何とかして,顕微鏡の下にもって来ても,個々の細胞の構造は,はっきりとは分0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑬▲走査電子顕微鏡で5,000倍に拡大した人間のレンズの一部.レンズ線維の表面には小さいしわがあって,隣の線維と強く結合するのに役立っている.94あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011眼研究こぼれ話(94)らなかった.新潟大学の桜川博士と共に,私は何とかならないものかと思案を重ねた後,走査電子顕微鏡を応用することに思いついた.走査電子顕微鏡も,日本製が世界最高の性能を誇っている.レンズの蛋(タン)白質を化学的に固めたあと,針の先でほぐすようにして,細胞をばらばらにして,この顕微鏡で調べると,レンズ線維細胞の立体的構造がはっきりと見られるようになった.今まで滑らかな線維と思われていた細胞の表面には,ドアノッブのような突起と,それが,がっぽりとはめ込まれる穴とがあり,また,その他の部分にはたくさんのしわがあって,隣同士の細胞は,お互いに強く結合しあっていて,滑り運動は起こっていないことが分ったのである.焦点を合わすための厚さを変える運動は,表面近くの,比較的軟らかい細胞群の動きで行われているらしいのである.そうして,老人の焦点不全はこの動く部分の細胞が少なくなるためであろうと考えるようになった.走査顕微鏡の利用によって,白内障の発生過程も,生化学的研究と歩調を合わせて,調べられるようになり,レンズ研究に活気がついて来た.白内障にかかってしまったレンズがどのように変化しているかは,何とか説明がつくが,どうして起こるかという原因についてはまだまだ将来の研究に待つ所が多い.これからもまだ当分の間は中年を過ぎた人々が腕の短くなる感じを持ち続けることと思う.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

インターネットの眼科応用 24.Medical 2.0 その1

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011910910-1810/11/\100/頁/JCOPYWeb2.0についてインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.前章までに,医療知識・医療情報がインターネット上で共有される事例を数多く紹介してきました.現在のインターネット技術では,動画共有サイトを通じて,さまざまな手術動画を閲覧することが可能です.Ustreamに代表されるライブ技術を使えば,さまざまな講演をインターネット上で受講することができます.さらに,セミナーの受講者が意見を投稿すれば,リアルタイムで聴衆同士が情報,感想を共有できます.本章では,インターネットの世界で起こっている潮流が,臨床現場とどのように関係するのか,皆さんが漠然と感じている時代の変化を言語化しようと思います.まず,Web2.0という言葉について,改めて解説します.Web2.0は単一の技術や出来事を指す用語ではありません.誰しもが感じていたインターネットの変化をTimO’Reilly(ティム・オライリー)氏らが言葉で表現したものです.2005年9月に同氏が発表した論文「WhatIsWeb2.0」(副題:Web2.0とは何か次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル)のなかで,次世代インターネットを象徴する言葉として紹介されました.彼のインタビュー記事からWeb2.0について理解することができます.『インターネットはソフトウェアの価値を何か違うところにもっていこうとしている.それは何か.まず,ユーザーが中心となって巨大データベースを作り,多くの人が使えば使うほど,そのデータベースが良くなっている.“ネットワーク外部性”が成功を導いている.それが,Web2.0なんだ.』1).つまり,インターネットの潮流として,ユーザーが情報を更新します.草の根ベースの情報発信の蓄積が,専門家から発信される情報と並ぶ,信頼性をもつようになっています.具体的には,「ミシュラン」という専門家が評価するレストランの格付け本か,「タベログ」という口コミサイトか,と例えることができます.どちらにも優劣があり,どちらも優れた評価方法でしょう.Web2.0の世界観を簡潔に表現すると,無限の広がりと組み合わせをもつインターネット上の巨大なデータベースがわれわれの生活のすぐそばにある,という状態です.ティム・オライリー氏は,インターネット業界において,ハードウェアからソフトウェアに価値が移り,ソフトウェアも皆が同じモノを使うようになると,その先に価値を産むのは“Peopleware”であると述べています.個人の知識ノウハウが個人だけのものでなくなり皆でシェアできる環境,それがWeb2.0の世界です1,2).医療情報の巨大なデータベースを世界の医療人が創造し,シェアできる環境というのは,非常に魅力的ではないでしょうか.インターネットで知的交流を行うのは時代の流れです.医療の世界でも,大学や病院,学会といった組織からの情報発信だけでなく,医師個人が情報を発信し,意見を投稿し,集合知を創るのがつぎの10年に起こる流れです.Medical2.0という考え方今後,インターネット上に医療に関する動画が集まります.手術動画,セミナー動画,さまざまな動画が集まるネット社会を想像してください.動画をただ,閲覧するだけでは,医療は何も変わらず世の中は動きません.われわれの医療行為は,非常にアナログな行為です.診(91)インターネットの眼科応用第24章Medical2.0①武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ92あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011療行為は人の手を介して行われ,一人の人間の人生を変える力をもちます.インターネットのデジタルの情報を,活きたアナログの技術に変換することが重要です.つまり医療教育です.一人の医師が,医療動画を見て,何かのコツを得て,実際の臨床の現場で患者に還元することができれば,インターネットは医療水準の向上に寄与したことになります.ですが,ここまでの情報の流れは一方向性です.従来は専門書だったものが,インターネットに代わった,ということです.インターネットは,その先の力をもちます.インターネットから得たノウハウを臨床現場に還元し,そこで得られた情報をインターネット上に再び投稿します.その情報の形態は,動画でも良いでしょうし,治療法へのコメントや治療経過を記載した文字情報でも構いません.新しく投稿された情報が,世界の誰かの医療を動かします.このくり返しによって,インターネット上の医療情報は常に更新され続け,世界全体の医療水準は向上し続けます.インターネット上の医療情報が,医師からの情報発信によって更新され続ける世界を,Medical2.0と定義します.医療現場では従来,教科書に書かれた,先人達の知恵の集積をなぞることが「是」とされてきました.Medical2.0の考え方は,その対極にあるものです.眉をしかめる方もいらっしゃるかもしれません.確かに現在では,既存の医学専門書と並ぶような,インターネット上の集合知は存在しません.しかし,インターネットの潮流と,その世界に所属するわれわれ眼科医の緩やかな意識の変容を統合しますと,近い将来,Medical2.0を具現化したサイトの情報量が増し,専門書に並ぶ価値をもつでしょう.医療情報をインターネットに投稿する医師は,患者情(92)報に注意を払う倫理観を求められます.閲覧する医師は,玉石混交の情報から貴重な情報を探し出すインターネットリテラシーを求められます.Medical2.0の世界では,価値をもつのは,ハードウェアでもなくソフトウェアでもなく,ユーザーである,参加する医師です.まさに,“Peopleware”がキーワードとなります.医師が,インターネットに向けて医療情報を発信することの社会的価値はきわめて大きく,積もり積もれば,世界の誰かの医療を動かして,患者の喜びとなります.近年,専門書だけでなく,インターネット上の情報を診療の補助に使う時代になりました.私は,現在のインターネットの潮流と,医療現場で起こっている変化を,Medical2.0と定義します.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVConlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20361105,00.htm2)武蔵国弘:インターネットの眼科応用第2章インターネットは個と個を繋ぐ.あたらしい眼科26:357-358,2009☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス 92.増殖糖尿病網膜症における後部硝子体皮質下の新生血管(初級編)

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011890910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに増殖糖尿病網膜症で,一見すでに後部硝子体.離が生じているように見えても,トリアムシノロン塗布後に網膜全面に薄い膜状の硝子体皮質が残存していることは,日常臨床でしばしば経験する.トリアムシノロンによる硝子体の可視化が普及する以前には,完全後部硝子体.離が生じている単純硝子体出血例で明らかな出血源が確認できなかったり,十分な硝子体切除を行ったにもかかわらず術後に再増殖をきたす例をときどき経験することがあった.このような症例の多くは,薄い残存硝子体皮質下の新生血管を見落としていたためと考えられる.●薄い膜状の硝子体皮質下に認める新生血管トリアムシノロン塗布後に網膜面に残存した薄い膜状の硝子体皮質をダイアモンドダストイレーサーで.離除去している際に,網膜静脈に沿って硝子体皮質下に小さな新生血管を発見することがある(図1.a,b,c).白色の小さな線維血管性増殖膜を伴っている症例では確認は比較的容易だが,裸の新生血管のみの例では見落とすことがありうるので注意が必要である.このような症例では,ダイアモンドダストイレーサーで丁寧に硝子体皮質を.離し,網膜との癒着を確認することで新生血管を確実に検出することができる.通常,新生血管の部位では網膜硝子体癒着が強固なので,その周囲に硝子体皮質を集め,硝子体カッター(あるいは硝子体剪刀)で切除した後,適宜眼内ジアテルミー凝固で止血しておく.新生血管を薄い硝子体皮質ごと残存させると,術後にその部位に再増殖が生じたり(図2),術後の硝子体牽引により再出血をきたすことがある1).文献1)池田恒彦:糖尿病網膜症の硝子体手術.臨眼52:452-457,1998(89)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載92増殖糖尿病網膜症における後部硝子体皮質下の新生血管(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科a:一見,後部硝子体.離が生じているように見える硝子体出血例.b:トリアムシノロン塗布後にダイアモンドダストイレーサーで薄い硝子体皮質を.離する.c:硝子体皮質下に小さな新生血管を認める.図1薄い膜状硝子体皮質下の新生血管図2術後の再増殖例上下の血管アーケードに沿って再増殖を認める.初回硝子体手術時に血管アーケード周囲の薄い硝子体皮質下の新生血管を処理していなかったためと考えられる.

眼科医のための先端医療 121.中心性漿液性脈絡網膜症に対する光線力学的療法の有用性と課題

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011850910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は従来から予後良好な疾患と位置づけられており,実際に多くの症例において数カ月で網膜.離が消失します.しかし,なかには網膜.離が吸収せず慢性化し,視機能が低下する症例も少なくありません.CSCは自覚症状発現から数カ月間は無治療で経過観察し,網膜.離が吸収しなければフルオレセイン蛍光眼底造影でみられる蛍光漏出点に対しレーザー光凝固を行いますが,蛍光漏出点が中心窩の近くにある場合,蛍光漏出点が特定できない場合,蛍光漏出点が多数存在する場合,網膜色素上皮からびまん性に蛍光漏出がみられる場合には経過観察を余儀なくされます.しかし近年,このような症例に対し光線力学的療法(PDT)が行われるようになり,その有用性については多数の報告があります1~3).本症は脈絡膜血管障害が本態で,二次的に網膜色素上皮が障害されバリア機能が破綻し網膜.離が生じることを考えると,脈絡膜のうっ血を解除するPDTは理にかなった治療といえます.CSCに対するPDTPDTは眼科領域では加齢黄斑変性に対して行われる治療であり,本症に対しては保険適用がなく,PDT施行に際しては各施設の倫理委員会の承認を得ることと患者への十分なインフォームド・コンセントが必要です.筆者らはそれらの手続きを経て,現在おもに慢性CSCに対しPDTを行っています.加齢黄斑変性で用いる通常量(6mg/m2)の光感受性物質を用いて行うPDTでは,照射部に一致して脈絡膜血管の閉塞がみられます4).この閉塞により,血管内皮増殖因子およびその受容体の産生が促され,脈絡膜新生血管が発生する可能性があります.実際CSCに対して通常量でのPDTを行い,脈絡膜新生血管が発生した報告があります5).そこで低侵襲のPDTが模索され始め,Laiらは光感受性物質を半量の3mg/m2にしたPDTを行い良好な成績が得られたことを報告1),さらにChanらは通常量と半量PDTのランダム化比較試験を行い,半量でも十分効果が得られることを報告2)しました.これらの結果から,現在は低侵襲のPDTが主流になってきており,当科でも半量PDTを行っております.しかし,いくら低侵襲とはいえ実際に良好な視力を有する症例の黄斑部にレーザー照射することには抵抗があり,常に不安がつきまといます.そこで視機能面での安全性をさらに検証する目的で,PDT前後での網膜.離部およびPDT照射野の網膜感度を検討しました.その結果,網膜.離は1カ月後16眼中14眼で消失し,網膜.離が持続した2眼も含めてPDT1カ月後,3カ月後にPDT照射野および網膜.離部の感度低下はみられませんでした.また,網膜.離消失眼ではPDT後に網膜感度の有意な改善が認められました6)(図1).PDT12カ月後も網膜.離部,PDT照射野ともに網膜感度の低下は認められませんでした.(85)◆シリーズ第121回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊藤田京子(駿河台日本大学病院眼科)中心性漿液性脈絡網膜症に対する光線力学的療法の有用性と課題図1PDT前,3カ月後の光干渉断層計(OCT)所見と網膜感度左上:PDT前のOCT.左下:PDT3カ月後のOCT.網膜.離は消失している.右上:PDT前の網膜感度.網膜.離部に一致して感度の低下がみられる.右下:PDT3カ月後の網膜感度.網膜.離消失に伴い,感度は改善.86あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011治療のタイミングでは,どの時点でPDTを考えればよいのでしょうか?これにはまだ明確な答えがないのが現状です.本症は網膜.離が持続していても視力が保たれることや自然軽快の可能性があることから,治療のタイミングを決めることが困難です.PDT後に網膜.離が消失し網膜感度の改善は得られても,改善幅が少なく,正常値まで回復しない例も経験します.これは遷延化した網膜.離により網膜色素上皮,視細胞に不可逆性の障害が生じた結果と考えられます.Ojimaらは網膜.離吸収後の網膜感度と光干渉断層計(OCT)所見を検討し,網膜色素上皮の不整,IS/OS(視細胞内節外節接合部)lineの欠損などと網膜感度低下との関連を報告しています7).OCTから微細な形態の変化を捉え,さらに視機能との関連づけができるようになってきたことで,網膜に不可逆性の変化が起こる前の段階がつかめるようになるのもそう遠くないと思われます.おわりにCSCに対してPDTを行えるようになり,遷延する網膜.離に手をこまねくことはなくなりましたが,PDT後に良好な視機能が得られなければ意味がありません.前述のように治療のタイミングをはかる指標の確立は急務です.CSCが真の意味で予後良好な疾患といえるように今後も知見の集積が必要と考えます.文献1)LaiTY,ChanWM,LiHetal:Saftyenhancedphotodynamictherapywithhalfdoseverteporfinforchroniccentralserouschorioretinopathy:ashorttermpilotstudy.BrJOphthalmol90:869-874,20062)ChanWM,LaiTY,LaiRYetal:Half-doseverteporfinphotodynamictherapyforacutecentralserouschorioretinopathy:one-yearresultsofarandomizedcontrolledtrial.Ophthalmology115:1756-1765,20083)CardilloPiccolinoF,EandiCM,VentreLetal:Photodynamictherapyforchroniccentralserouschorioretinopathy.Retina23:752-763,20034)Schmidt-ErfurthU,MichelsS,BarbazettoIetal:Photodynamiceffectsonchoroidalneovascularizationandphysiologicalchoroid.InvestOphthalmolVisSci43:830-841,20025)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Choroidalvascularremodellingincentralserouschorioretinopathyafterindocyaninegreenguidedphotodynamictherapywithverteporfin:anoveltreatmentattheprimarydiseaselevel.BrJOphthalmol87:1453-1458,20036)FujitaK,YuzawaM,MoriR:Retinalsensitivityafterphotodynamictherapywithhalf-doseverteporfinforchroniccentralserouschorioretinopathy:shorttermresults.Retina,2010Sep30[.Epubaheadofprint]7)OjimaY,TsujikawaA,HangaiMetal:Retinalsensitivitymeasuredwiththemicroperimeter1afterresolutionofcentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol146:77-84,2008(86)■「中心性漿液性脈絡網膜症に対する光線力学的療法の有用性と課題」を読んで■今回は藤田京子先生(日本大学駿河台病院)に,中心性漿液性脈絡網膜症(CSC),特に慢性のCSCの治療法として光線力学的療法(PDT)の有用性についてわかりやすく解説していただきました.CSCは,その急性期の臨床的な研究から網膜色素上皮の疾患というイメージが強いが,実は脈絡膜血管障害が本態で,二次的に網膜色素上皮が障害されバリア機能が破綻し網膜.離が生じることを考えると,脈絡膜のうっ血を解除するPDTは理にかなった治療といえることを解説していただきました.疾患の本態を考えるうえで動物実験モデルについての研究は大変重要な役割を果たしています.しかし,最後まで消えないジレンマは,「本当にこのモデルはヒトにみられる疾患と同じものなのか?」という疑問です.ヘルシンキ宣言を待つまでもなく患者さんに実験的な治療を試みることは厳に慎む必要がありますが,慢性のCSCにPDTが治療効果があるとの発想は,本当に素晴らしいものです.有意な効果がみられたことから,逆に慢性のCSCの病態の主座が脈絡膜血管である可能性を強く支持することになります.同じように,糖尿病黄斑浮腫にステロイド治療で有効な例が多くみられることから,糖尿病黄斑浮腫には炎症の分子メカニズムが作用していることがわかりました.また,加齢黄斑変性に抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬が有効であることから,加齢黄斑変性の病態にVEGFが主たる因子として関与していることが明らかになりました.臨床医の業績が基礎医学の研究成果を利用しつつ,病態の基礎研究に重要な情報をfeedbackするというとても大切で魅(87)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201187力的な研究のシステムです.これは第一に患者さんの治療を優先するという,精密な臨床研究からしか導き出せないものです.新しい治療薬を開発する臨床医,基礎研究者などは「本当に有効で安全な治療法であるか」ということをその基礎研究により十分に詰めてから新薬を治験します.それに加えて,臨床医が新たな発想で新しい治療対象を生み出した成果をお示しいただいた今回の解説から,臨床医が病態,病像を丁寧にきちんと観察し,勉強して新しい治療法を開発していく際のとても大切な役割を果たしていることがわかります.新しい治療法を日本からたくさん生み出し,世界に貢献するためには,われわれ臨床医のたゆまぬ努力と,有能な臨床医であり基礎研究にも造詣の深いclinicianscientistの育成を眼科領域でも精力的に行う必要があると考えます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

緑内障:抗VEGF薬併用による血管新生緑内障治療の変化

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011830910-1810/11/\100/頁/JCOPY●血管新生緑内障治療の基本的考え方血管新生緑内障は,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などによる眼内虚血に起因して発症する難治性の緑内障であり,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管内皮細胞に作用することで虹彩・隅角新生血管が形成され,房水流出路を閉塞するために眼圧上昇をきたす1,2).眼圧が上昇すると,それに伴って眼内虚血が増悪,新生血管が増加,さらに眼圧上昇するという悪循環に陥ると加速度的に病状が増悪する.そのため,治療として可及的早期に眼内虚血に対する網膜光凝固術や硝子体手術,眼圧上昇に対する薬物治療および線維柱帯切除術が施行されてきたが,新生血管の活動性が高い状態での外科的処置は,種々の合併症との戦いであった.それに対して,新生血管に直接作用する抗VEGF薬が応用されたことで3),本症の初期治療および線維柱帯切除術の周術期管理に変化をもたらした(図1).●抗VEGF薬現在,国内で血管新生緑内障に対して認可されている抗VEGF薬がないため,一般にbevacizumab(AvastinR)硝子体内投与が施行されている.しかし,bevacizumabの使用は適応外使用であり,治療を行うには事前に各所属施設の倫理委員会などによる承認を受けること,患者に効果・副作用および適応外使用であることを伝えて文書で同意を得ることが不可欠である.●初期治療における変化血管新生緑内障に対する抗VEGF薬の効果を表1にあげる.初期治療における効果について特筆すべきは,新生血管に対する効果の発現が速やかなこと,緑内障手術の緊急度が低下したことである.抗VEGF薬投与により虹彩・隅角新生血管は,肉眼的には翌日から数日中に消退する(図2).それに伴い,開放隅角期の症例では投与後に眼圧が下降することが期待できる4)ことから,緑内障手術の適応は眼圧下降効果の確認後に決定し,一部の症例では手術を中止できるようになった.また,隅角における活動性の低下により閉塞隅角期への進行を抑制することで,網膜光凝固,硝子体手術や緑内障手術に(83)●連載127緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也127.抗VEGF薬併用による血管新生緑内障治療の変化馬場哲也香川大学医学部眼科血管新生緑内障に対する抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)薬併用は,本症における初期治療および線維柱帯切除術の周術期管理に変化をもたらした.初期治療では,効果の即効性と眼圧下降効果から閉塞隅角期への進行が抑制され,緑内障手術の緊急度が低下した.また,線維柱帯切除術における術中・術後合併症が減少し,周術期管理が容易になった.表1血管新生緑内障に対する抗VEGF薬の効果1.虹彩・隅角新生血管の消退2.眼圧下降3.閉塞隅角期への進行抑制4.線維柱帯切除術の術中・術後合併症減少5.線維柱帯切除術の術後成績向上の可能性…………………………………………………………………………….図1血管新生緑内障の病態と抗VEGF抗体の作用部位抗VEGF抗体は,新生血管に直接作用してVEGF活性を抑制するとともに,線維柱帯切除術,硝子体手術,網膜光凝固術による出血や術後炎症を抑制する.一部の症例では眼圧下降も期待できる.84あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011よる永続的な効果が発現するまでの時間かせぎができるようになった.●線維柱帯切除術の周術期管理における変化従来の線維柱帯切除術は,術中出血への対応に追われ,術野の視認性の悪さから結膜合併症のリスクが高く,強膜弁縫合の強さや程度も勘に頼るところが大きかった.それに対して,抗VEGF薬により術中出血が減少し,ほぼ通常どおりに手術が施行できるようになった.また,術後前房出血や強膜弁内の凝血塊による術後早期の眼圧上昇の頻度が減少し5),レーザー切糸術の時期や効果判定も的確にできるようになった.それに伴い,患者にとっては治療中の精神的・肉体的苦痛が軽減され,眼科医にとっても一連の治療が一段落するまでの(84)精神的負担・肉体的労力も軽減された.●今後の課題抗VEGF薬の効果は即効性があるものの一過性のものであり,その効果持続期間は2.4カ月程度で4),症例によっては新生血管が再燃する.そのような症例に対する抗VEGF薬の反復投与の適応をはじめ,血管新生緑内障に対する長期的な治療戦略が確立されることで,本症の長期成績の向上につながることに期待したい.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEngJMed331:1480-1487,19942)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDMetal:Evidencebasedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1778,20013)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationafterintravitrealinjectionofbevacizumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol142:155-158,20064)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitrealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasein41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,20085)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,2009☆☆☆図2Bevacizumab投与前後の前眼部写真a:投与前には瞳孔領に著明な新生血管を認める.b:投与7日目には新生血管はほぼ消失している.ab

屈折矯正手術:ハロー・グレアの点眼治療

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011810910-1810/11/\100/頁/JCOPY●ハロー・グレアのメカニズム多焦点眼内レンズ(multi-focalimplantedintraocularlens:以下,多焦点IOL)の術後ハロー・グレア,コントラスト感度低下など術後視機能には瞳孔径が関与する1).多焦点IOLには屈折型と回折型がある.屈折型IOLは同心円状に遠用と近用が交互に構成される光学部をもつため,ハロー・グレアは瞳孔径が大きいほどその影響は大きく,夜間の見え方に注意が必要となる2).回折型IOLはレンズ表面に作った多数の溝で回折させる光学部をもち,入射光を遠方と近方に2分する.そのため,瞳孔径に依存しないといわれているが,逆にコントラスト感度の低下に注意が必要となる3).その際,瞳孔径が非常に小さいと,よりコントラスト感度の低下を自覚する場合があるので注意が必要となる.TecnisRmultifocal(AMO社)は瞳孔径に左右されず,常に遠方と近方が半々の分布であり,瞳孔径に左右されない.ReSTORR(Alcon社)は瞳孔径3.6mmまでは遠方と近方と配分するが,それ以上では遠方優位となる.したがって,瞳孔径が大きい場合,遠方はよく見えるが,近方が見えにくくなる.具体的には,夜間,車を運転するときに良好な遠方視力とハロー・グレアの軽減が望めるが,薄暗いところで読書するときには見づらい可能性がある.また,多焦点IOL挿入眼では原因不明の“ぼやけ,かすみ”といったwaxyvisionを生じることがある4).多焦点IOL(特に屈折型多焦点IOL)を挿入する症例の場合,術前,術後の瞳孔径を予測評価することが求められるが,その評価はむずかしい.これまでの瞳孔径の評価は十分な暗順応後に被検査眼遮閉下の単眼視で行われてきたが,測定条件を明所,両眼解放下,近方視という日常条件に近い条件下にする必要がある5).われわれが日常で観察できる角膜面上の瞳孔(入射線)は,実際の瞳孔径(実瞳孔径)より角膜,前房水の屈折のため,約13%拡大されている6).多焦点IOLを使用する際には,上記のことを常に念頭におく必要がある.●ハロー・グレア,コントラスト感度低下,waxyvisionへの対応多焦点IOLの光学特性によるハロー・グレアは,順応により時間とともに自覚症状が軽減するので,訴えがあっても可能な限り3.6カ月程度は経過観察する.多焦点IOL挿入眼では原因不明の“ぼやけ,かすみ”といったwaxyvisionを生じることがある.多少のwaxyvisionがあっても順応期間などの説明をして,少なくとも3.6カ月程度は経過観察する4).●ハロー・グレアの点眼治療多焦点IOL挿入して,術後3.6カ月経過しても,ハロー・グレアやwaxyvisionが軽減されない場合,ピロカルピンの点眼が有効である場合がある(特に屈折型多焦点IOL).ピロカルピンは点眼により速やかに眼内に移行し,副交感神経支配の瞳孔括約筋に直接作用してこれを収縮させ,縮瞳する.毛様体筋を収縮させることにより線維柱帯が広がり,房水流出が促進され,眼圧が下降する.縮瞳により,暗黒感を生じることがあるが,逆に多焦点IOL挿入眼では,ハロー・グレアやwaxyvisionを軽減させる効果が期待できる.同時に縮瞳により焦点深度が深くなるため,点眼中は近方の見え方には影響しない.暗黒感や点眼時の刺激を強く感じるときがあるので,使用前に患者に説明が必要である.(81)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載128監修=木下茂大橋裕一坪田一男128.ハロー・グレアの点眼治療草場喜一郎真野富也多根記念眼科病院LASIK(laserinsitukeratomileusis)や多焦点眼内レンズ(multi-focalimplantedintraocularlens)の術後ハロー・グレア,コントラスト感度低下など術後視機能には瞳孔径が関与する.今回,LASIK術後の白内障症例に対して多焦点眼内レンズ(IOL)を挿入し,waxyvisionを訴えた症例にピロカルピン点眼を処方し症状が改善した症例を経験したので紹介する.82あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011●症例右眼視力低下にて,当院受診した.既往に8年前に両眼LASIKを受けている.受診時,VD=0.5(0.6×sph+0.5D(cyl.2.0DAx40°),VS=0.7(1.0×sph+0.5D(cyl.2.0DAx95°)で,右眼に皮質白内障を認めた.多焦点IOLを希望され,右眼PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL施行し,回折型多焦点IOLであるTecnisRmultifocal+26.5Dを挿入した.術2週間後に,VD=0.3(0.8×sph.3.25D(cyl.1.75DAx135°)と屈折度数が近視寄りになったため,TecnisRmultifocal+21.5DにIOLの入れ替えを施行した.術後,炎症が強かったが,2週間後には消炎した.術2カ月後,VD=0.4p(0.4p×sph+0.5D(cyl.1.5DAx100°),近見VD=0.4(0.4×sph+1.5D(cyl.1.5DAx100°)で,IOLのcenteringは良好だが,瞳孔はやや散瞳しており,明らかなハロー・グレア症状はなく,全体のかすみ,IOLの回析構造が見えると訴えがあった.術3カ月後には暗所は見にくく,明所はまぶしいという訴えがあった(図1).ハロー・グレアやコントラスト感度低下の訴えとは関係なく,waxyvisionが生じていると判断した.症状改善が得られなかったため,術後6カ月に右眼1%ピロカルピン2.3/日を処方した.処方1カ月後,VD=0.9(1.0×sph+0.75D(cyl.1.25DAx100°)と視力改善し,瞳孔は縮瞳し,上記の症状は軽減し,ほぼ訴えは消失した(図2).まとめ多焦点IOLを挿入する場合,術後の視機能やIOLの特性を生かすために,術前の瞳孔径の評価が重要である.術後,ハロー・グレア,コントラスト感度低下,waxyvisionなどを訴えた場合,ピロカルピン点眼が有効な場合がある.ただ,多焦点IOLを希望される患者は術後視機能のこだわりが強い傾向にあり,患者のライフスタイルを考慮し,瞳孔径測定を含めた十分な術前検査や,術前にハロー・グレアなどの症状など十分なインフォームド・コンセントを行うことが重要である.文献1)稗田朋子,稗田牧:瞳孔径の多焦点眼内レンズへの影響.あたらしい眼科26:1075-1076,20102)吉野真未,ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズ3.屈折型多焦点眼内レンズ.眼科52:757-763,20083)南慶一郎,宮田和典:多焦点眼内レンズ4.屈折型多焦点眼内レンズ.眼科52:765-772,20084)根岸一乃:多焦点眼内レンズ5.特性と合併症への対処.眼科52:773-777,20105)飯田嘉彦:手術と瞳孔屈折型多焦点レンズと瞳孔.IOL&RS23:185-188,20096)西信元嗣:眼光学の基礎第Ⅳ章眼光学.p135-136,金原出版,1990(82)☆☆☆図1ピロカルピン点眼前スリット写真IOLのcenteringは良好で,瞳孔はやや大きめである.図2ピロカルピン点眼後スリット写真縮瞳を認める.