特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):907.912,2012特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):907.912,2012眼瞼下垂手術BlepharoptosisSurgery渡辺彰英*はじめに一言で眼瞼下垂といっても,実際には多くの疾患が含まれ多くの術式が存在する.狭義の眼瞼下垂とは,開瞼時に上眼瞼縁が瞳孔領にかかる状態をいうが,広義の眼瞼下垂では,上眼瞼皮膚弛緩や眉毛下垂による見かけ上の眼瞼下垂(偽眼瞼下垂)も含まれる.また,眼瞼下垂手術の主となる“眼瞼挙筋短縮術”といわれている術式にも多くのバリエーションが存在するため,これから眼瞼下垂手術を行う術者にとっては,どのような術式を選択すべきか悩ましいところである.本稿では眼瞼下垂の大まかな分類とそれに対応する術式を示す.具体的な術式としては,aponeurosisとMuller筋をともに.離・前転する挙筋短縮術(levatorresection)と,aponeurosisのみを前転する挙筋短縮術(aponeuroticadvancement)をおもに紹介する.いずれもメスを用いて皮膚切開し,有鈎鑷子で組織を把持し,スプリング剪刀で組織を切開・.離する一般的な術式であるが,バイポーラを用いた術中の止血が非常に重要である.最近普及している炭酸ガスレーザーなどはどの施設でも使用できるものではないため,これから眼瞼下垂手術に取り組もうとされる先生方は,まずはメス・剪刀・バイポーラを用いた挙筋短縮術をマスターすることをお勧めしたい.I眼瞼下垂の分類1.先天眼瞼下垂と後天眼瞼下垂眼瞼下垂は,先天眼瞼下垂と後天眼瞼下垂に分類される.先天眼瞼下垂は挙筋機能がほとんどないため,挙筋短縮術よりも吊り上げ手術が適応となることがほとんどであり,その吊り上げ材料としてはナイロン糸やゴアテックスRなどが用いられる(後述).後天眼瞼下垂は,加齢に伴う退行性眼瞼下垂の頻度が最も高く,ついでハードコンタクトレンズの長期装用に伴う眼瞼下垂,白内障,緑内障,角膜移植などの内眼手術後下垂が多い.その他,動眼神経麻痺,重症筋無力症,Horner症候群,外眼筋ミオパチー,外傷による眼瞼下垂などがある.2.後天眼瞼下垂に対する挙筋短縮術手術適応となる後天眼瞼下垂の多くは退行性眼瞼下垂,コンタクトレンズ眼瞼下垂,内眼術後下垂のいずれかに当てはまり,挙筋機能は良好なことが多く,挙筋短線維脂肪組織Whitnall靱帯眼輪筋上眼瞼挙筋眼窩隔膜上直筋aponeurosis前層aponeurosis後層Muller筋眼輪筋瞼板結膜図1上眼瞼の解剖*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(31)907縮術の良い適応である.挙筋短縮術には多くの術式があるが,上眼瞼挙筋のWhitnall靱帯より末梢である上眼瞼挙筋腱膜(aponeurosis)単独の短縮術(aponeuroticadvancement)か,aponeurosisとMuller筋の両者の短縮術(levatorresection)が選択されることが多い(図1の上眼瞼の解剖参照).3.挙筋短縮術の適応Aponeurosis単独の挙筋短縮術は,挙筋機能が若干悪い症例ではaponeurosisの前転量が多くなり,術後に下方視時のlidlag(眼瞼の置き去り現象)や閉瞼不全の原因となるため,術前の挙筋機能が良好な症例に限って行うのが好ましい.一方,aponeurosisとMuller筋の両者を一塊に前転する挙筋短縮術は,やや挙筋機能が不良な症例に対しても良い適応となる.また,aponeurosisのみならず,Muller筋単独の短縮術も可能ではあるが,手術の適応が広く,結果的に筋の前転量が少ない術式はaponeurosisとMuller筋両方の前転術であるため,levatorresectionは,ぜひとも身につけたい術式といえる.ここでは挟瞼器を用いない術式を紹介するが,挟瞼器を用いたほうが出血による視野の妨げを避けて手術が進行できるという利点もあるので,初めて挙筋短縮を行う場合には挟瞼器を使用してもよい.II挙筋短縮術の実際1.Levatorresectionの実際(図2)①重瞼線に沿ったデザイン,結膜下注射,皮膚側からの眼輪筋下麻酔を行う.②皮膚切開をする.皮膚にテンションをかけて切開することがポイントである.止血は,左手の指で創を上下に開きテンションをかけ,創の傍らに置いたガーゼで拭いてから出血点を確認し,バイポーラの先を少し開いたまま創に置くようなイメージで止血するとよい.瞼板の露出は,有鈎鑷子で瞼縁側の眼輪筋を把持し,天井方向へ引き上げ,左手の薬指で創の頭側を引くようにテンションをかける.眼輪筋下の瞼板へ向かってスプリング剪刀で組織を切開する.瞼板が見えるまで一気に切開するのがポイントである.瞼板を露出していく際に出血があれば,左手でテンションをかけたままで右手だけをバ908あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012イポーラに持ち替え止血すると,創が出血にまみれることなく止血できる.③中村式釣り針フックや制御糸を用いて創を上下に展開する.瞼板上には必ずaponeurosisが付着しているので,スプリング剪刀を用いてこれを切開する.Muller筋は瞼板上縁に付着しているので,スプリング剪刀を用いて結膜とMuller筋間の.離を始めるきっかけを作る.Muller筋を結膜から.離し,横方向に切開する.血管があればバイポーラで焼灼してから切開する.④瞼板上縁から離れるほど血管豊富な領域から離れるので,結膜とMuller筋は.離しやすくなる.前転量以上の.離が必要であるため,目安としては瞼板上縁から少なくとも10mm以上は結膜とMuller筋間を.離する.予想以上に前転を要する場合は.離を後に追加する.⑤Aponeurosisの先端を下方へ引き,光沢のあるaponeurosis表面が出てくるまで眼窩隔膜を横方向へ切開する.⑥Aponurosis表面の白く強い組織を前転するように6-0ナイロン糸でaponeurosis,結膜側のMuller筋にも通糸する.瞼板への通糸は瞳孔上の瞼板上1/3の部位である.⑦一度糸を仮留めして術中定量を行う.瞳孔上縁より上,角膜輪部より1.2mm下が基本であるが,片側の状態や患者の希望に応じて挙上量はあらかじめ決めておく.挙上が足りなければ前転量を増やし,過剰であれば減らす.瞼縁の形,カーブがよければ内側,外側にも通糸し,3点固定とする.⑧再度挙上量,瞼縁のカーブを確認する.過不足や変形があれば瞼板の固定位置を適宜変更する.定量が決定したら余剰のaponeurosisおよびMuller筋を切除する.⑨Aponeurosisの先端と眼輪筋を7-0ナイロン糸で3点通糸固定し重瞼形成する.これは睫毛内反の予防でもある.皮膚を7-0ナイロン糸で縫合し手術終了となる.Pearls&Pitfalls:スムーズなlevatorresectionを行うために必要なことは,解剖をよく知ること,術中の(32)①デザイン,局所麻酔⑥AponeurosisとMuller筋の前転,瞼板への通糸固定⑥AponeurosisとMuller筋の前転,瞼板への通糸固定②皮膚切開,瞼板の露出⑦術中定量,内外側の瞼板へ固定③創の展開,aponeurosisとMuller筋の.離④Muller筋の.離⑤眼窩隔膜の切開,aponeurosisの露出組織の見きわめ,止血である.これらをおろそかにしていると,きれいな眼瞼挙上を得られないばかりか,いたずらに時間だけが過ぎて眼瞼の腫脹が進み,さらに定量がむずかしくなるという悪循環に陥る.(33)⑧挙上量とカーブの確認,余剰のaponeurosis,Muller筋切除⑨重瞼形成,皮膚縫合図2Levatorresection2.Aponeuroticadvancement(図3)基本的な手術の進め方はlevatorresectionと同様であるが,levatorresectionがMuller筋と結膜間を.離して,aponeurosisとMuller筋を一塊にして前転するのと異なり,aponeurosisのみの前転術では,Muller筋とあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012909Muller筋とaponeurosis間瞼板の露出の.離①瞼板の露出の.離①Muller筋とaponeurosis間の.離②眼窩隔膜の切開Aponeurosis,瞼板への通糸瞼板への固定開瞼の程度の確認瞼板内外側への通糸瞼板への3点固定挙上とカーブの確認図3Aponeuroticadvancement910あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012aponeurosisの裏面との間を.離する.瞼板を露出した後,aponeurosisの先端を天井方向に持ち上げその裏面(白い組織)を見ながら,Muller筋(ピンク色)との間にある結合組織をスプリング剪刀を用いてaponeurosisから外していく.このとき,ほとんど血管はなく,スプリング剪刀の先端を少し広げながら鈍的に.離できることが多い.症例によってはMuller筋とaponeurosisの裏面の間にたくさんの脂肪が沈着していることがある.特に加齢に伴う退行性眼瞼下垂において見受けられるが,結果的に多くの前転量を要する症例もある.Aponeuroticadvancementは挙筋機能の良い症例によい適応であるので,術中に挙筋機能が弱く挙上が十分に得られない場合はlevatorresectionに切り替えることもできるようにしておくとよい.Aponeurosisの裏面を露出できたら,眼窩隔膜切開し,aponeurosisを前転固定する.以下はlevatorresectionと同様に進めていく.Pearls&Pitfalls:Aponeurosis特に裏面の露出がポイントである.Aponeurosisの裏面とMuller筋の間にある組織をMuller筋側に落とすように.離すると白っぽいaponeurosisが出てくるが,ここでMuller筋側に切れ込むとMuller筋を切断するばかりでなく,いつまでもaponeurosisの裏面は出てこない.逆に,aponeurosisに切れ込むとaponeurosisを切断することとなるため,組織を見きわめる目を養うことが重要である.また,薄いaponeurosisのみの短縮は術後再発をきたしやすいため,.離したaponeurosisがかなり薄ければ,levatorresectionへのコンバートが望ましい.III先天眼瞼下垂の手術先天眼瞼下垂は片側性で,遺伝とは無関係に起こるものがほとんどであるが,遺伝性の瞼裂狭小症候群に伴う両側性先天眼瞼下垂もある.先天眼瞼下垂のほとんどは挙筋機能がなく,手術は吊り上げ術が第一選択となるが,程度の軽い下垂や挙筋機能が軽度存在する場合には挙筋短縮術が選択される場合もある.吊り上げ術はナイロン糸などを埋没して行う方法と,ゴアテックスRや大腿筋膜などを眉毛上から眼瞼までのトンネルを通して行う方法があるが,ここではナイロン糸とゴアテックスR(34)を用いた手術を紹介する.1.ナイロン糸による吊り上げ術(図4)小児の先天眼瞼下垂に対する吊り上げ術のなかでは最も簡便な術式である.術後の糸の露出や感染の心配もほとんどないのが利点であるが,ゴアテックスRなどの吊り上げ材料を用いた術式と比較すると徐々に吊り上げ効果が減弱することが弱点である.2.3歳までの小児や,抗凝固剤を内服していたり,長時間仰臥位を維持することがむずかしい高齢者によい適応となる.2.ゴアテックスRによる吊り上げ術(図5)吊り上げ材料を用いた術式のなかで,人工材料であるゴアテックスRを用いた術式は比較的よく選択される.吊り上げ効果は高く持続性もよいが,異物であるために術後の露出や感染が問題となることがある.小児では3歳以降でよい適応となる.おわりに眼瞼下垂手術は,眼科小手術といえども整容面でも結果が求められる手術であり,眼瞼の解剖や手術適応,術図44.0ナイロン糸による吊り上げ術図5ゴアテックスRによる吊り上げ術(35)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012911式を知らぬままに安易に取り組むべき手術ではない.内眼手術と異なり患者にも手術結果がわかるうえ,開瞼の程度や瞼縁の形への満足度はかなり主観的なものに左右されるため,術前に十分に患者とのコミュニケーションがとれていることが重要である.文献1)渡辺彰英:眼瞼疾患.眼科研修ノート,p276-281,診断と治療社,20092)渡辺彰英:眼瞼下垂.新ESNOWきれいな小児眼科手術.I眼瞼・眼窩手術,p18-27,メジカルビュー社,20113)渡辺彰英:眼瞼下垂手術─手術機器に応じた術式の選択円刃刀とスプリング剪刀を用いたスタンダードな眼瞼下垂手術.眼科手術23:91-98,2010912あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(36)