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多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ片眼挿入

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011790910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズの適応拡大多焦点眼内レンズ(IOL)には,屈折型と回折型がありそれぞれ特徴的な見え方を有することにより,一般に両眼かつ同種のものを挿入するのが理想的とされている.しかし実際には片眼性白内障や,すでに片眼に単焦点IOLが挿入されているが,より良好な近方視力を得るために多焦点IOL挿入を希望する例がある.多焦点IOLの情報が患者に広まるとともに,両眼性白内障例以外では片眼挿入を希望する例が増えることが予想される.屈折型,回折型どちらを選択するかは僚眼の状態,患者の年齢,ライフスタイルによって変わってくる(図1).僚眼に単焦点IOLが挿入されている症例正視狙いで単焦点IOLを挿入した場合,IOL度数決定の精度向上や小切開白内障手術の導入による医原性乱視軽減により格段に良好になった.しかし単焦点IOL挿入後,きわめて良好な遠方視力が得られても,近方視で眼鏡に依存することに不満をもつ例がある.片眼に単焦点IOLがすでに挿入されている例では,もう片眼に多焦点IOLを挿入すると左右の見え方の違いや両眼視への影響が危惧され,多焦点IOL挿入を見合わせることが以前は多かった.現在国内で使用可能な回折型は光学部の改良,すなわちAbbott社製TecnisRmultifocalは非球面,Alcon社製ReSTORRはapodizationによりコントラスト感度の改善が図られており,以前のものより遠方の見え方について,単焦点IOLとの見え方の違いを感じなくなっている可能性が高いと思われる.実際に片眼のみ回折型IOLを挿入した症例では,単焦点IOLとの遠方の見え方の違いを自覚しているが,良好な近方視力に満足することが多い.片眼に単焦点IOLが挿入されていて近方視の向上を望む症例への対処法として,回折型挿入以外としては,屈折型の選択と,単焦点IOLによるモノビジョン法がある.まず屈折型は,近方視力は単焦点IOLに勝るが,回折型より劣り,またグレア,ハローについて,以前よりも改善しているが単焦点IOL,回折型より自覚しやすい傾向がある.片眼に単焦点IOLが挿入され僚眼に多焦点IOLを希望する症例では近方視への要求度が高いので,屈折型では,近方視に物足りなさを覚えるのに加え,グレア,ハローを強く自覚し,単焦点IOLの見え方と比較して利点を感じにくいことが危惧される.単焦点IOLによるモノビジョン法については,不同視を生じるので左右で3Dの差をつけて挿入することは困難で,両眼同時期の手術で計画的に行う場合と比較して近(79)●連載⑬多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子13.多焦点眼内レンズ片眼挿入中村邦彦たなし中村眼科クリニック片眼性白内障や,すでに片眼に単焦点眼内レンズ(IOL)が挿入されているが,より良好な近方視力を希望して多焦点IOLの片眼挿入を希望する例の増加が予想される.多焦点IOLには屈折型と回折型がありそれぞれ特徴的な見え方を有することにより,どちらを選択するかは僚眼の状態,患者の年齢,ライフスタイルによって変わってくる.図1片眼挿入で推奨される多焦点IOLのタイプ屈折型,回折型のどちらが推奨されるかは僚眼の状態,患者の年齢,ライフスタイルによって変わってくる.示されているのは,あくまで指標であり,実際の選択にあたっては患者個々に瞳孔径を含め十分に所見を把握し,ライフスタイルと本人の希望に鑑みて行うことが望まれる単焦点IOL回折型有水晶体眼高齢若年回折型正視屈折型近視回折型を近方狙い僚眼年齢僚眼の屈折推奨される多焦点IOL近視眼だが常時CL装用屈折型80あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011方視への不満が生じる可能性が高いと思われる.屈折型にてモノビジョン法を施行することも考えられるが,屈折型を近方視狙いにて挿入することになるので,グレア,ハローの自覚が強くなることが危惧される.したがって,単焦点IOL挿入後,良好な裸眼近方視力を要求する症例に対しては,回折型で対処するのが,患者にとって最も受け入れやすい方法と思われる.僚眼が有水晶体眼である症例片眼が透明水晶体で屈折が正視に近く,僚眼の白内障に対して多焦点IOLを検討する場合は,患者の年齢によって屈折型が良いか回折型が良いかは異なってくる.片眼が透明水晶体で,片眼性白内障に対し回折型を挿入した症例は,回折型挿入眼にわずかにコントラスト感度の低下に起因すると思われる症状を自覚するものの,良好な遠方視力と近方視力に満足することが多い.しかし回折型の特徴として遠方と近方にピークがあるため,中間距離が見えにくく感じやすい.瞳孔径が十分に確保できる症例では屈折型の近用ゾーンが有効に機能して回折型と比べても遜色のない近方視が得られるので,屈折型を選択したほうが中間視も良好で良い可能性がある.特に若年者では僚眼の有水晶体眼に調節機能が十分にあり近方視に困らないので,IOL眼での近方視を強く求めない限り屈折型を挿入したほうが自然な見え方で満足度が高いと思われる.一方,加齢とともに瞳孔径は縮小することが知られており,高齢者では十分な瞳孔径を得られず,屈折型については不利となる.現在使用されている屈折型,Abbott社製ReZoomRでは2.1mm以下の瞳孔径では近用ゾーンが機能せず単焦点IOLとほぼ同じ機(80)能になり,日本人の場合60歳以上ではReZoomRを挿入する利点はあまりないことが多い(図2).また,若年者であっても僚眼が近視の場合は,日常生活で常時コンタクトレンズにてほぼ完全矯正をしている症例では正視の場合と同様に屈折型を正視狙いで挿入することが適応となりうるが,眼鏡を中心に生活している症例では不同視を避けて回折型を選択して近方視狙いに挿入するほうが良いと思われる.これは,屈折型は回折型に比べはっきりした近方焦点が存在するわけではないので,近方視狙いとすると眼鏡依存度が減少した実感はあまりない一方で,前述のごとくグレア,ハローの自覚が強くなり,患者は不満を訴えやすいことによる.このように有水晶体眼が正視でない症例の僚眼に多焦点IOLを選択する際は,どのような屈折状態にするか術前に十分検討する必要があると思われる.☆☆☆図2明室,近方視時瞳孔径加齢とともに瞳孔径は縮小し,60歳以上では平均値は2.1mm以下となる.43210年齢(歳)瞳孔径(mm)2.1mm80~70~7960~6950~5930~3940~4920~29~19

眼内レンズ:核白内障と水晶体屈折力

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011770910-1810/11/\100/頁/JCOPY一般に近視の原因には眼軸長(axiallength:AL)と角膜全屈折力(cornealpower:CP)の2因子が大きく影響するとされているが,実際は水晶体屈折力(lenspower:LP)も大きくかかわっている.核混濁眼ではLPの増加により近視化し,混濁進行眼では強く近視化することが報告されている1,2).強度近視眼は核白内障の合併が多いことが知られている3)が,40歳以降では核混濁増加に伴うLPの増加が近視の進行の原因になることが多い.同程度の核白内障であっても,近視化への影響は症例により異なることは臨床でよく経験する.図1に核白内障眼と正常眼の前眼部解析装置(EAS-1000,ニデック)によるスリット画像を示す.核白内障はWHO(世界保健機関)分類での程度2であり,ALはIOLマスター(ツァイス),SE,CPはオートレフラクトケラトメータでの測定値である(SE=等価球面度数).LPはOlsen,Sasakiら4)の方法に準じて,LP=(110.0.2.43×AL.0.89×CP.SE)/0.62から求めた.核白内障眼,正常眼ともにALは25.3mm,CPは43.38Dと同じであるが,LPは正常眼(18.36D)に比べ,核白内障眼(25.35D)で約7D大きく,LPの増加が近視化の原因であることがわかる.LPは核混濁の程度と相関し,混濁進行に伴い近視化が進む.同じ程度の核白内障であってもLPは異なることがあり,これにはALの違いが大きく関与している.Olsen,Sasakiら4)は,50歳以上のアイスランド人正常眼において,ALとLPには有意な負の相関(ALが長いほどLPは小さい)があることを報告している.図2にALの異なる正常眼の水晶体屈折力を示す.LPは正常眼軸眼(21.01D)に比べ長眼軸眼(19.25D)で小さい.長眼軸眼と屈折力の小さい水晶体,短眼軸眼と屈折力の大きい水晶体の組み合わせは理にかなっている.(77)初坂奈津子佐々木洋金沢医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎293.核白内障と水晶体屈折力核白内障では混濁の進行に伴い,「核性近視」を生じることが知られている.しかし,核白内障の程度が同じであっても,近視化を生じる場合とそうでない場合がある.水晶体屈折力増加に伴う近視化は正常眼軸眼に比べ,長眼軸眼でみられることが多い.長眼軸眼では薄い水晶体に小さな核がみられることが多く,このような水晶体では核白内障による近視化が強いと考えてよい.図1核白内障眼と正常眼のLPの比較両症例ともAL,CPは同じ.図2正常眼の眼軸別によるLPの比較長眼軸眼のほうがLPは小さい.図3核白内障眼の眼軸長別によるLPの比較LPは正常眼軸眼に比べ長眼軸眼で強くなる.ALが異なる眼に同程度の核白内障を生じた場合,その屈折への影響は大きく異なる.図3に代表例を示すが,いずれも程度2の核白内障である.LPは正常眼軸眼(23.77D)に比べ,長眼軸眼(25.34D)で強くなっている.長眼軸眼は正常眼軸眼に比べ水晶体厚が薄い.核混濁の形態は正常眼軸眼では厚い水晶体に大きな核がみられるのに対して,長眼軸眼では薄い水晶体にコンパクトに押しつぶされたような形状を呈する核がみられることが多い.小さな核をもつ水晶体眼では,近視化の進行が強いと考えてよい.長眼軸眼の水晶体は薄く屈折力が弱いため,核混濁進行による屈折力増加の影響が現れやすいのかもしれないが,核の混濁形態の違いがどのようなメカニズムでLPに影響しているかについては,いまだ明らかではなく,今後さらに検討が必要である.文献1)SamarawickramaC,WangJJ,BurlutskyGetal:Nuclearcataractandmyopicshiftinrefraction.AmJOphthalmol144:457-459,20072)FotedarR,MitchellP,BurlutskyGetal:Relationshipof10-yearchangeinrefractiontonuclearcataractandaxiallengthfindingsfromanolderpopulation.Ophthalmology115:1273-1278,1278e1,20083)PraveenMR,VasavadaAR,JaniUDetal:PrevalenceofcataracttypeinrelationtoaxiallengthinsubjectswithhighmyopiaandemmetropiainanIndianpopulation.AmJOphthalmol145:176-181,20084)OlsenT,ArnarssonA,SasakiHetal:Ontheocularrefractivecomponents:theReykjavikEyeStudy.ActaOphthalmolScand85:361-366,2007

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 ロート「iQ14 バイフォーカル」

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011750910-1810/11/\100/頁/JCOPY現在すでに多くの種類の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)が提供されており,それぞれの特徴は多く異なっている.今回のテーマで扱う「iQ14バイフォーカル」が他のレンズと最も異なっているのは中央部が単焦点で,その周囲に累進屈折力部分を設けているところである.さらに,中央の単焦点部分が遠用度数を提供するDタイプと近用度数を提供するNタイプの2種類が準備されている.それぞれが単焦点SCLの性格を強く発揮するため,単焦点SCLの見え方にこだわる症例には他の遠近両用SCLでは提供できない快適な視力を提供できる.その一例を示してみよう.●症例患者:54歳,女性.主訴:遠近両用SCLを使用したい.現病歴:数年前からSCLを装用中に手元が見づらくなった.最近,数カ所の施設で老視用SCLを試したが,満足した見え方が得られなかった.結局,現在は2週間頻回交換単焦点SCLを装用し,近方視が必要なときだけ,老眼鏡を重ねて使用している.友達は遠近両用SCLで快適だといっている.私の眼に合う遠近両用SCLを処方して欲しい.現症:視力VD=0.03(1.2×.5.75D(cyl.0.25DAx180°)VS=0.03(1.2×.5.50D(cyl.0.50DAx180°)装用中の2週間頻回交換SCL:R)B.C.8.70mm/PS.5.50D/Size14.0mmL)B.C.8.70mm/PS.5.50D/Size14.0mmSCL装用状態で重ねて装用する近用眼鏡の度数:右眼sph+2.00D,左眼sph+2.00DSCL装用中のコンタクトレンズによる矯正視力:VD=1.2×自己SCL(1.5×自己SCL=sph+0.75D)VS=1.2×自己SCL(1.5×自己SCL=sph+0.75D)《私の独り言》単焦点SCLで快適な遠方視力が得られた人に遠近両(75)用SCLを処方するのはとてもむずかしい.通常ならば,SCLの処方には触れないで,使用中のSCLと重ねて使用する眼鏡を左右ともにsph+0.50Dadd+1.50Dで処方したいところである.しかし,この症例は遠近両用SCLを使用したいという気持ちは十分に強い.これまでに試した老視用SCLで満足できなかった理由を分析してみよう.1.使用中の単焦点SCLは過矯正である.このままで累進屈折力レンズを用いても強い加入度数が要求されて,快適な矯正はできない.2.使用中の眼鏡レンズ度数は+2.00Dであるが,SCLが.0.75D過矯正なので,近方視に使用している度数は+1.25Dしか機能していない.遠方矯正度数を適正にすれば,近用加入度数は+1.50Dあれば十分足りる.これまでに試した遠近両用の加入度数は+2.00D以上のものが用いられた可能性が高い.3.とりあえず,通常の処方を行ってみよう.最初に選択した累進屈折力タイプのSCLR)B.C.9.0mm/PS.4.75D/Size14.5mmadd+1.50DL)B.C.9.0mm/PS.4.75D/Size14.5mmadd+1.50D患者さんのコメント:手元は良いが,遠くがはっきり見えない.不満.2回目は遠方の度数を上げた累進屈折力タイプのSCLR)B.C.9.0mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50DL)B.C.9.0mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50D患者さんのコメント:手元は前よりも見づらく,遠くの見え方は改善していない.《私の独り言》累進屈折力レンズの見え方に不満が生じている.単焦点の見え方が必要な眼なのだろう.梶田雅義梶田眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法319.ロート「iQ14バイフォーカル」76あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(00)3回目は中央遠用単焦点周辺部累進屈折力タイプのSCLR)B.C.8.7mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50D[Dタイプ]L)B.C.8.7mm/PS.5.00D/Size14.5mmadd+1.50D[Dタイプ]患者さんのコメント:遠くは少しゴーストが気になるが前のSCLほどではなく,不満はない.手元は週刊誌くらいの文字は見えるが,細かい辞書の文字は見づらい.《私の指導》:近くが見づらいときにはこれまで通り現在使用している眼鏡を重ねて使用しましょう.患者さんのコメント:以前試した老視用SCLのときも,同じように近用眼鏡を重ねて使用してみましたが,辞書の文字は見づらかった.《私の指導》:このSCLは真ん中が単焦点になっているので,これまで使用していた単焦点SCLに近い見え方になると思います.試してみてください.患者さんのコメント:(眼鏡を掛けて)確かにこのレンズだと細かい文字も見えますね.《私の指導》:とりあえず1週間試してみましょう.1週後の患者さんのコメント:日常生活のほとんどをコンタクトレンズだけで過ごすことができるようになりました.買い物のレジでも眼鏡を使わなくてもよく,とても快適です.一口に遠近両用コンタクトレンズといっても,デザインの違いによって,見え方の鮮明さと安定性が異なる.患者さんの苦情をイメージして把握し,最適なデザインのレンズを選択してあげることが,遠近両用SCL処方成功のコツである.図1焦点深度をイメージするa.単焦点レンズ:50歳代では他覚的な調節力はほとんどなくなっている.遠方視用に完全矯正した場合には近くを見たときにはデフォーカス状態で,かなりぼけた網膜像になる.もちろん単焦点の近用眼鏡を追加装用すれば,近方にはピントがあうが,遠方を見たときの網膜像はぼける.b.累進屈折力レンズ:累進屈折力タイプの遠近両用レンズは球面収差を増した状態を作るので,ピントはあまく少しぼけた網膜像が得られる.しかし,ある程度ぼけた網膜像を大脳が処理して,視認識しようとする.この見え方に不満を感じなければ,焦点深度が深くなったように感じ,遠方から近方まで不自由なくそれなりに明視することができる.一般的な眼の場合は,3.00Dが1mmに相当するので,焦点深度が0.67mm得られれば,無限遠からおよそ50cmまで明視することができることになる.しかし,このタイプのレンズが作るぼけた網膜像に不満を感じる場合には矯正視力は低下して,快適さはまったく得られない.c.中央遠用単焦点周辺部累進屈折力レンズ:レンズの中央部分は単焦点なので,遠方は鮮明な網膜像が得られる.その周りの累進屈折力レンズが近方視のために少しぼけた網膜像をつくる.単焦点レンズで近方視をしたときの網膜像のぼけ方に比べればかなり鮮明であるため,大脳の処理が進み,近方視時にある程度の満足感を与える.中央部は焦点レンズであるため,これまでの老視用眼鏡を合わせて用いれば,近方視時に鮮明な網膜像が得られる.鮮明な網膜像浅い焦点深度少し不鮮明な網膜像深い焦点深度鮮明な網膜像に少し不鮮明な網膜像が重なる深い焦点深度a.単焦点レンズb.累進屈折力レンズc.中央遠用単焦点周辺部累進屈折力レンズ

写真:前眼部OCTによる急性水腫の観察

2011年1月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011730910-1810/11/\100/頁/JCOPY(73)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦320.前眼部OCTによる急性水腫の観察東原尚代京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学図1初診時の円錐角膜急性水腫症例(33歳,男性)のVisanteTMOCT(光干渉断層計)所見裂けたDescemet膜が前房側へ離解し実質浮腫を生じている.①②図2図1のシェーマ①:裂けたDescemet膜.②:角膜実質にみられるpseudocysts.図3初診から1週間後の前眼部OCT所見Descemet膜断端がロールして対側のDescemet膜との間隙が広がっている.実質浮腫はやや軽減している.図4初診から2週間後の前眼部OCT所見Descemet膜は皺を形成して厚みを増しながら短縮し,その断端は塊状になって対側のDescemet膜断端との距離がさらに広がった.この後,Descemet膜は実質側に接着して治癒した.74あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(00)円錐角膜の急性水腫発症時には角膜は強い浮腫と混濁のために詳細な観察は困難である.近年,前眼部OCT(光干渉断層計)を用いた急性水腫の観察に関する報告がなされており,角膜実質やDescemet膜の治癒過程を把握するのに有用な検査法と考えられている1).本症例においても,初診時から経時的にVisanteTMOCTを撮影し,避けたDescemet膜と角膜浮腫の変化を詳細に観察することができた(図1~4).初診時の前眼部OCT所見(図1)では,角膜浮腫および実質内のpseudocystを認めた.また,裂けたDescemet膜は前房側へ捲れ上がり断端は丸まっていた.さらに,初診から1週間後には,角膜実質の浮腫はやや軽減し,裂けたDescemet膜の断端はロールしているのがわかる(図3).さらに2週間後には,実質内のpseudocystは消失して浮腫は消退したものの,Descemet膜は皺を形成しながら短縮し,断端は塊状になって対側のDescemet膜断端との距離がさらに広がっているのが観察できた(図4).急性水腫発症後には角膜後面に強い瘢痕を残すことがある(図5)が,裂けたDescemet膜を前眼部OCTで観察することにより,急性水腫後に生じる角膜後面の瘢痕形成の過程を推察することができた.また,Descemet膜が前房側に離れた状態にもかかわらず,実質浮腫が徐々に消退していったことから,裂けたDescemet膜領域に周辺角膜から内皮細胞が伸展・被覆して内皮細胞のポンプ機能が再構築されるのではないかと考えられた.一般に円錐角膜の急性水腫の治療は,コンタクトレンズの装用中止と感染予防のため抗菌薬眼軟膏の点入を行い圧迫眼帯で保存的に経過をみるが,早い治癒が望まれる場合には前房内に空気注入を行って角膜浮腫の早期軽減を図る.その際にも治療効果の判定や治癒過程の観察に前眼部OCTが有用と報告されており2,3),急性水腫のように角膜混濁のある状況下においては,前眼部OCTは診断や治療判定に欠かせない検査法となっている.文献1)KucumenBR,YenerelNM,GorgunEetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyfindingsofacutehydropsinapatientwithkeratoconus.OphthalmicSurgLesersImaging41:S114-116,20102)RamamurthyB,MittalV,RaniAetal:Spontaneoushydropsinpellucidmarginaldegeneration:documentationbyOCT-III.ClinExperimentOphthalmol34:616-617,20063)VanathiM,BeheraG,VengayilSetal:IntracameralSF6injectionandanteriorsegmentOCT-baseddocumentationforacutehydropsmanagementinpellucidmarginalcornealdegeneration.ContLensAnteriorEye31:164-166,2008図5急性水腫発症後の角膜後面に残った瘢痕

DRS, ETDRS, DRVS

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYで,4年目では光凝固群12%,対照群29%であり,光凝固群で有意に低率であった2).3年経過で,高度の視力低下は,アルゴンレーザーで13.3%,キセノンで18.5%,経過観察群で26.4%であり,キセノンとアルゴンレーザーとの間に治療効果に有意差はなかった.なお,5年経過で光凝固療法により視力の悪化するリスクは50%に減少している.一方,光凝固による合併症は,視力低下がキセノン19.1%,アルゴンレーザー9.3%で,周辺視野狭窄がキセノン41%,アルゴンレーザー7%であった.ほかに暗順応低下や色覚異常などが検討されている.DRSでは,増殖網膜症のなかでも危険な兆候(highriskcharacteristics)が認められた場合に,高度の視力障害(視力0.025以下)をきたす頻度が汎網膜光凝固により有意に減少したという結果が得られた(表1).危険な兆候とは,①1/4乳頭面積以上の乳頭新生血管,②硝子体出血または網膜前出血を伴う1/4乳頭面積未満の乳頭新生血管,③硝子体出血または網膜前出血を伴うはじめに糖尿病網膜症に対する眼科的治療は,網膜光凝固と硝子体手術が主体的に行われている.糖尿病網膜症に対する網膜光凝固と硝子体手術に関して,大規模のHospital-basedstudyが行われ,その有用性が示されている.この結果から,糖尿病網膜症の眼科的治療は,広く普及し,さらなる発展がくり広げられている.大規模のHospital-basedstudyは,評価項目の比較検討のみならず,診断基準および検査方法の確立,危険因子の把握,さらには,治療ガイドラインの構築に大きく貢献している.本稿では,糖尿病網膜症を対象に行われた大規模のHospital-basedstudyについて解説する.ITheDiabeticRetinopathyStudyDiabeticRetinopathyStudy(DRS)1.7)は,1971年から1975年にかけて取り込まれた無作為多施設臨床治験である.糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の有効性と実施時期,キセノンとアルゴンレーザーによる効果と副作用の差異を検討するため,少なくとも1眼に増殖網膜症を有するか,両眼に重症の非増殖網膜症を有し,矯正視力が0.2以上の糖尿病患者1,758名を,片眼にキセノンまたはアルゴンレーザーで汎網膜光凝固を施行し,他眼は経過観察を行った.高度の視力低下(severevisualloss:矯正視力0.025以下が,4カ月以上の間隔をあけた経過観察で2回以上続いたもの)は,2年目では光凝固群6%,対照群14%(65)65*ShigehikoKitano:東京女子医科大学糖尿病センター眼科〔別刷請求先〕北野滋彦:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学糖尿病センター眼科特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):65.71,2011糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:DRS,ETDRS,DRVSDRS,ETDRS,DRVS北野滋彦*表1DRSにおける視力0.025以下まで悪化した率観察期間凝固群経過観察群重症の非増殖網膜症2年2.8%3.2%4年4.3%12.8%危険な兆候を認めない増殖網膜症2年3.2%7.0%4年7.4%20.9%危険な兆候を認める増殖網膜症2年10.9%26.2%4年20.4%44.0%66あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(66)中等症から重症の非増殖網膜症または早期増殖網膜症で,かつ黄斑浮腫を伴わず矯正視力0.5以上の症例,または,軽症から重症の非増殖網膜症または早期増殖網膜症で,かつ黄斑浮腫を伴う矯正視力0.1以上の症例を以下の3群に分けた.I.黄斑浮腫を認めないものII.黄斑浮腫を伴う軽症・中等症の非増殖網膜症(lesssevereretinopathy)III.黄斑浮腫を伴う重症の非増殖網膜症または早期増殖網膜症(moresevereretinopathy)それぞれの群で,片眼にただちに汎網膜光凝固を行う群(early群)と,他眼はハイリスク網膜症を認めた時点で汎網膜光凝固を行う群(deferral群)に割り付け,さらに早期に光凝固を行う場合は,凝固総数が1,200発を超える密凝固(completescatterphotocoagulation)群と超えない粗凝固(mildscatterphotocoagulation)群,加えて局所光凝固を併用させるか否かに細分された(図1).また,アスピリン650mg/日とplaceboが投与された.評価項目として,高度の視力低下,中等度の視力低下(視力が半分以下に低下),ハイリスク増殖網膜症(乳頭1/2乳頭面積以上の網膜新生血管のいずれかがみられるものをいう.危険な兆候が認められる増殖網膜症では,汎網膜光凝固による利益が損失を明らかに上回るため,汎網膜光凝固を遅らせてはならない.重症の非増殖網膜症と危険な兆候が認められない増殖網膜症では,ただちに汎網膜光凝固を行っても,注意深い経過観察を行って,危険な兆候が認められた時点で汎網膜光凝固を行ってもどちらでもよいという結論に至った.すなわち,DRSにおいては,危険な兆候を定められたことに大きな意義が認められている.IITheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)9.32)は,1980年から1985年にかけて,22施設において取り込まれた無作為多施設臨床治験である.光凝固の実施にあたり生じてきた疑問である,①汎網膜光凝固をどの時期に施行するのが最も有効か,②黄斑浮腫に対する局所光凝固は有効か,③アスピリン内服は網膜症治療に有効か,が検討された.図1ETDRSにおける症例の割り付け法ETDRS症例黄斑浮腫(-)いずれの非増殖網膜症または早期増殖網膜症黄斑浮腫(+)軽症または中等度非増殖網膜症非光凝固非光凝固非光凝固早期光凝固粗光凝固密光凝固粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固黄斑浮腫(+)重症非増殖網膜症または早期増殖網膜症粗光凝固密光凝固黄斑凝固→粗光凝固黄斑凝固→密光凝固早期光凝固(67)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201167には局所光凝固は考慮すべきである.すなわち,黄斑浮腫を伴う軽症または中等症の非増殖網膜症の場合は,まず黄斑浮腫に対する光凝固を行って経過を観察し,ハイリスクな増殖網膜症に移行した時点で汎網膜光凝固を行うのがよいとしている.アスピリン650mg/日とplaceboの比較検討において,アスピリン内服の有効性は認められなかった15).ETDRSでは,汎網膜光凝固の施行時期,黄斑光凝固,アスピリン内服の有効性以外に,以下にあげる多様な検討が行われ,第26報まで報告されている.①ETDRSの実施要項ETDRSの実施要項と観察時の背景因子14),立体眼底写真による糖尿病網膜症分類17),蛍光眼底所見による病期分類18)②糖尿病黄斑浮腫糖尿病黄斑浮腫の検眼鏡所見と眼底写真による同定法12),糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固の治療手技と臨床ガイドライン9),糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固の効果8,11),黄斑浮腫に対する局所光凝固の予後因子26),黄斑浮腫における網膜下線維増殖の特徴と危険因子29)③汎網膜光凝固糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固と局所凝固の手技10),糖尿病網膜症に対する早期網膜光凝固の効果16)④全身因子ETDRSにおけるC-peptidと糖尿病病型13),脂質異常と黄斑沈着28),重度の視力低下の原因30),腎移植における危険因子32)⑤アスピリン糖尿病網膜症に対するアスピリン治療効果15),アスピリン内服による死亡率と心血管疾患や腎疾患の罹病率21),アスピリン内服の白内障進展に対する効果23),硝子体および網膜前出血に対するアスピリン内服の影響27)⑥危険因子眼底所見の危険因子19),蛍光眼底所見の危険因子20),色覚異常の危険因子22),ハイリスク増殖網膜症と重度の視力低下の危険因子25)⑦手術予後白内障手術成績31),硝子体手術の背景と予後因子24)以上に関する検討のなかで,ETDRSによって確立さ新生血管や1/4乳頭面積以上の網膜新生血管を伴った硝子体出血または網膜前出血を有する網膜症)への進展があげられた.5年間の経過観察で,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は,各群とも非凝固群で高く,III群のmoresevereretinopathyにおいては61.3%にのぼった.しかしIII群で密凝固を行った群では,ハイリスクな増殖網膜症への進展率は27.6%に抑えられた.一方,5年間の経過観察における視力0.025以下まで悪化した率(severevisualloss)は,黄斑浮腫を認めないI群では差はみられなかったが,黄斑浮腫を認めるII群のlesssevereretinopathy,III群のmoresevereretinopathyでは,非凝固群に比し粗凝固群,密凝固群ともに抑制されていた16)(表2).汎網膜光凝固は黄斑浮腫を悪化させ,中等度の視力低下や視野障害を生じることがあり,粗光凝固より密光凝固でその頻度は高い.軽度や中等度の非増殖網膜症における汎網膜光凝固は,視野狭窄などの合併症をきたす頻度が著しい視力障害への抑制効果を上回っていた.これらの結果から,ETDRSの推奨する網膜症に対する光凝固は,注意深い経過観察が可能であれば,軽症・中等度の非増殖網膜症に汎網膜光凝固は推奨されない.重症あるいは超重症非増殖網膜症,さらに初期増殖網膜症において危険因子が伴う場合に汎網膜光凝固が施行され,ハイリスクな増殖網膜症に至ってからただちに汎網膜光凝固が施行されるという治療指針が示されている.黄斑浮腫に対する局所光凝固は,中等度の視力低下のリスクを減少させる効果がある8).また,黄斑浮腫の局所光凝固は視力向上の可能性を増加させ,浮腫の遷延を減らす.中心窩を含むか,中心窩に迫っている黄斑浮腫表2ETDRSにおける5年経過観察後の視力0.025以下まで悪化した率密凝固粗凝固非凝固I群黄斑浮腫(.)583眼590眼1,179眼2.7%2.6%2.2%II群黄斑浮腫(+)Lesssevereretinopathy718眼730眼1,429眼1.0%1.7%2.9%III群黄斑浮腫(+)Moresevereretinopathy542眼548眼1,103眼4.2%4.0%6.5%68あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(68)グ・センターで一括して行われる.②ETDRS視力表小数視力表の通常測定では,低視力領域の微妙な視力変化が測定困難であるため,ETDRSのために開発された視力表である.視力を判別可能な文字数で表している.③ETDRS病期分類DRSでは,Airlie分類を改変して,AmodificationoftheAirlieHouseclassificationofdiabeticretinopathy(DRS分類)が報告された.毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,静脈異常,網膜内細小血管異常,新生血管,硝子体出血・網膜前出血,網膜線維増殖,網膜.離などの15項目について基準写真を用いて3.6段階に程度分類し,重症度を定めた.ETDRSでは,さらにDRS分類を改変し,AnextensionofthemodifiedAirlieHouseclassificationofdiabeticretinopathy(ETDRS分類)を報告した.④ClinicallySignificantMacularEdema(CSME)(図2)ETDRSでは,治療の対象となる糖尿病黄斑浮腫をCSMEと定義している.1)中心窩または中心窩から500μm以内の網膜の肥厚2)中心窩または中心窩から500μm以内にあり,隣れたGoldstandardがあり,糖尿病網膜症の診断および治療において重要な指針となっている.①写真撮影法眼底撮影は,画角30°,7方向のステレオカラー写真と取り決められている.眼底写真の評価は,リーディン図2CSME1:中心窩または中心窩から500μm以内の網膜の肥厚(白色1).2:中心窩または中心窩から500μm以内にあり,隣接した網膜の肥厚(白色2)を伴う硬性白斑(青色).3:1乳頭面積以上の網膜の肥厚(白色3)があり,その一部が中心窩から1乳頭径内に存在する.表3国際重症度分類網膜症重症度眼底所見網膜症なし異常所見なし軽症非増殖網膜症毛細血管瘤のみ中等度非増殖網膜症毛細血管瘤以外の所見も認めるが,重症非増殖網膜症よりも軽症重症非増殖網膜症以下のいずれかの所見を認める1)4象限のすべてに20個以上の網膜内出血を認める2)2象限以上で明らかな静脈の数珠状拡張を認める3)1象限以上で明確な網膜内細小血管異常を認める増殖網膜症以下のいずれかの所見を認める1)新生血管2)硝子体出血あるいは網膜前出血黄斑浮腫重症度眼底所見黄斑浮腫なし網膜肥厚や硬性白斑なし軽症黄斑浮腫後極部に網膜肥厚や硬性白斑が認められるが黄斑部から離れている中等度黄斑浮腫網膜肥厚や硬性白斑が黄斑部の中心を含んでいない重症黄斑浮腫網膜肥厚や硬性白斑が黄斑部の中心を含んでいる(69)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201169後においては,視力0.5以上をはじめ,0.2以上,0.025以上,光覚なし,のいずれの視力の頻度においても両群間に有意差は認められなかった.なお,DRVSでは,振り分け3カ月以内に網膜光凝固が実施されている場合や,重度の虹彩新生血管,黄斑を含む網膜.離は除外されていて,経過観察中の網膜光凝固の施行に制限があり,現行の治療と相違があるので注意が必要である.0.05以上で活動性の新生血管・線維血管性増殖を伴うもの370例を,ただちに硝子体手術を施行する早期手術群と,視力0.1以下や,黄斑.離,硝子体出血による重症視力低下が6カ月継続する場合のみ手術を行う経過観察群に振り分けた.4年後の高度の視力低下は,早期手術群で30%,経過観察群で36%と差はみられなかったが,視力0.5以上は早期手術群が44%で,経過観察群28%に比し有意に高かった.重症増殖網膜症の硝子体出血で早期に硝子体手術を行うことで良好な視力(0.5以上)を維持できる可能性があることが示された35).近年の硝子体手術の機器と技術の進歩により術後成績は向上している.DVRSにおいて,光覚なしは約25%と高く,そのおもな原因は,血管新生緑内障であった.DVRSでは,眼内光凝固もなく,経過観察中の網膜光凝固にも制限があったため,現行の硝子体手術が行われるならば,早期手術の有効性はさらに明確になると思われる.したがって,糖尿病網膜症に対する硝子体手術の適応も変遷しているのは当然のことと言える.文献1)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Preliminaryreportoneffectsofphotocoagulationtherapy.AmJOphthalmol81:383-396,19762)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy:thesecondreportofdiabeticretinopathystudyfindings.Ophthalmology85:82-106,19783)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Fourriskfactorsforseverevisuallossindiabeticretinopathy.Thethirdreportfromthediabeticretinopathystudy.ArchOphthalmol97:654-655,19794)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy:relationshipofadversetreatmenteffectstoretinopa接した網膜の肥厚を伴う硬性白斑3)1乳頭面積以上の網膜の肥厚があり,その一部が中心窩から1乳頭径内に存在するCSMEは上記のうちいずれかを一つ以上有するものをいう.⑤黄斑光凝固実施要項直接凝固中心窩から500μm以遠,2乳頭径以内の孤立性の網膜過蛍光点・漏出点(おもに毛細血管瘤)を50.100μm,0.05.0.1秒で凝固部の明確な白色化が得られる強さで凝固する.(第1回目の凝固の4カ月後に視力が0.5以下で,浮腫や漏出があれば,中心窩から300μm以遠を再凝固する.)格子状凝固中心窩から500μm以遠,2乳頭径以内(乳頭黄斑線維束も凝固可)の網膜内びまん性漏出部,網膜毛細血管床閉塞を50.200μm,0.05.0.1秒で1凝固斑以上の間隔で中等度の強さで凝固する.⑥国際重症度分類(表3)国際重症度分類は,2002年にAmericanAcademyofOphthalmologyより提唱された糖尿病網膜症の病期分類であり33),ETDRSやWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy(WESDR)から得られたエビデンスをもとに作成されている.IIIDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyDiabeticRetinopathyVitrectomyStudy(DRVS)34.38)は,1976年から1983年に実施された無作為多施設臨床治験である.早期の硝子体手術により,硝子体出血と視力障害がある重症糖尿病網膜症が,さらに視力低下を起こす可能性を低下させるのか,または,重症糖尿病網膜症の視力良好例が視力低下を起こす可能性を,硝子体手術により軽減できるのかが検討された.硝子体出血の持続が6カ月以下で,光覚以上かつ0.025以下の視力低下が少なくとも1カ月続いた600例を,ただちに硝子体手術を施行する早期手術群と1年待ってから施行する経過観察群に振り分けた.2年後において,視力0.5以上は早期手術群の25%に対し,経過観察群は15%で有意差がみられた34)が,4年70あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(70)reportnumber9.Ophthalmology98:766-785,199117)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionofthemodifiedAirlieHouseclassification.ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98:786-806,199118)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Classificationofdiabeticretinopathyfromfluoresceinangiograms.ETDRSreportnumber11.Ophthalmology98:807-822,199119)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Fundusphotographicriskfactorsforprogressionofdiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber12.Ophthalmology98:823-833,199120)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Fluoresceinangiographicriskfactorsforprogressionofdiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber13.Ophthalmology98:834-840,199121)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Aspirineffectsonmortalityandmorbidityinpatientswithdiabetesmellitus.ETDRSreportnumber14.JAMA268:1292-1300,199222)FongDS,BartonFB,BresnickGH:Impairedcolorvisionassociatedwithdiabeticretinopathy:EarlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportNo.15.AmJOphthalmol128:612-617,199923)ChewEY,WilliamsGA,BurtonTCetal:Aspirineffectsonthedevelopmentofcataractsinpatientswithdiabetesmellitus.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreport16.ArchOphthalmol110:339-342,199224)FlynnHWJr,ChewEY,SimonBDetal:Parsplanavitrectomyintheearlytreatmentdiabeticretinopathystudy.ETDRSreportnumber17.Ophthalmology99:1351-1357,199225)DavisMD,FisherMR,GangnonREetal:Riskfactorsforhigh-riskproliferativediabeticretinopathyandseverevisualloss:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreport#18.InvestOphthalmolVisSci39:233-252,199826)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Focalphotocoagulationtreatmentofdiabeticmacularedema.Relationshipoftreatmenteffecttofluoresceinangiographicandotherretinalcharacteristicsatbaseline:ETDRSreportnumber19.ArchOphthalmol113:1144-1155,199527)ChewEY,KleinML,MurphyRPetal:Effectofaspirinonvitreous/preretinalhemorrhageinpatientswithdiabetesmellitus.EarlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportNo.20.ArchOphthalmol113:52-55,199528)ChewEY,KleinML,FerrisIIIFLetal:Associationofelevatedserumlipidlevelswithretinalhardexudatesindiabeticretinopathy.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreport22.ArchOphthalmol114:1079-1084,199629)FongDS,SegalPP,MyersFetal:Subretinalfibrosisinthyseverity.Diabeticretinopathystudyreportno.5.DevOphthalmol2:248-261,19815)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Diabeticretinopathystudyreportnumber6.Design,methods,andbaselineresults.Reportnumber7.AmodificationoftheAirlieHouseclassificationofdiabeticretinopathy.Preparedbythediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci21:1-226,19816)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Clinicalapplicationofdiabeticretinopathystudyfindings,Diabeticretinopathystudyreportnumber8.Ophthalmology88:583-600,19817)EdererF,PodgorMJ:Assessingpossiblelatetreatmenteffectsinstoppingaclinicaltrialearly:acasestudy.DiabeticretinopathystudyreportNo.9.ControlClinTrials5:373-381,19848)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber1.ArchOphthalomol103:1796-1806,19859)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Treatmenttechniquesandclinicalguidelinesforphotocoagulationofdiabeticmacularedema.Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber2.Ophthalmology94:761-774,198710)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Techniquesforscatterandlocalphotocoagulationtreatmentofdiabeticretinopathy:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportno.3.IntOphthalmolClin27:254-264,198711)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportno.4.IntOphthalmolClin27:265-272,198712)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Detectionofdiabeticmacularedema─Earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber.5.Ophthalmology96:745-750,198913)PriorMJ,ProutT,MillerDetal:C-peptideandtheclassificationofdiabetesmellituspatientsintheearlytreatmentdiabeticretinopathystudy.Reportnumber6.AnnEpidemiol3:9-17,199314)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Earlytreatmentdiabeticretinopathystudydesignandbaselinepatientcharacteristics.ETDRSreportnumber7.Ophthalmology98:741-756,199115)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Effectsofaspirintreatmentondiabeticretinopathy.ETDRSreportnumber8.Ophthalmology98:757-765,199116)TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Earlyphotocoagulationfordiabeticretinopathy.ETDRSあたらしい眼科Vol.28,No.1,201171diabeticmacularedema.ETDRSreport23.ArchOphthalmol115:873-877,199730)FongDS,FerrisIIIFL,DavisMDetal:Causesofseverevisuallossintheearlytreatmentdiabeticretinopathystudy:ETDRSreportNo.24.AmJOphthalmol127:137-141,199931)ChewEY,BensonWE,RemaleyNAetal:Resultsafterlensextractioninpatientswithdiabeticretinopathy:earlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportnumber25.ArchOphthalmol117:1600-1606,199932)CusickM,ChewEY,HoogwerfBetal:RiskfactorsforrenalreplacementtherapyintheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy,EarlytreatmentdiabeticretinopathystudyreportNo.26.KidneyInternational66:1173-1179,200433)WilkinsonCP,FerrisIIIFL,KleinREetal:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology110:1675-1676,200334)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Two-yearcourseofvisualacuityinsevereproliferativediabeticretinopathywithconventionalmanagement.Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport#1.Ophthalmology92:492-502,198535)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforseverevitreoushemorrhageindiabeticretinopathy.Two-yearresultsofarandomizedtrial.Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport2.ArchOphthalmol103:1644-1652,198536)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforsevereproliferativediabeticretinopathyineyeswithusefulvision.Resultsofarandomizedtrial─Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport3.Ophthalmology96:1121-1123,198937)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforsevereproliferativediabeticretinopathyineyeswithusefulvision.Clinicalapplicationofresultsofarandomizedtrial─Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport4.Ophthalomology95:1321-1334,198838)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyGroup:Earlyvitrectomyforseverevitreoushemorrhageindiabeticretinopathy.Four-yearresultsofarandomizedtrial:Diabeticretinopathyvitrectomystudyreport5.ArchOphthalmol108:958-964,1990(71)

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0910-1810/11/\100/頁/JCOPYDRCR.netがすでに終了した研究を,表2に現在進行中の研究を示す.結果が発表されている研究について,以下簡単に紹介したい.なお,研究のデザインやプロトコールについてはDRCR.netのウェブサイト(http://drcrnet.jaeb.org/)に詳しいが,結果については論文を参照しなければならない.はじめにDRCR.netとは,アメリカにあるDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkという組織の略称である.糖尿病網膜症およびその関連病態における多施設共同研究を円滑に進めることを目的として,2002年9月に設立された.糖尿病網膜症を対象とした多施設研究の発案,デザインから遂行までサポートしてくれる.基本的には臨床研究を対象としているが,疫学研究その他もサポート対象である.特に糖尿病黄斑症(黄斑浮腫)に重点を置いているのが特徴である.現在,DRCR.netには全米で227カ所の施設と797人の研究者が参加している.中央事務局はJohnsHopkinsにある.その財源は,アメリカ国立衛生研究所(NationalInstitutesofHealth)に属する研究所の一つ,国立眼病研究所(NationalEyeInstitute:NEI)である.国の研究機関という位置づけだが,大学病院およびその関連施設だけでなく地域の医療機関を積極的に活用しており,産業界との協力も積極的に行っている.事務局運営のための固定メンバーがいるが,研究のプロトコールを作成したり論文を作成したりする際には,随時必要なメンバーが集められる.参加している研究者の側から新しい研究のデザインを提案することもできる.招集された検討会でその提案が認められると,そのままプロトコールが練られ,実施へ向けて動き出す.設立からまだ10年に満たない組織だが,精力的に研究を行い,すでに多くの成果を発表している.表1に(61)61*HarumiFukushima:JR東京総合病院眼科**SatoshiKato:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学・視覚矯正学〔別刷請求先〕福嶋はるみ:〒151-8528東京都渋谷区代々木2-1-3JR東京総合病院眼科特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):61.64,2011糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:DRCR.netDRCR.net福嶋はるみ*加藤聡**表1DRCR.netの研究一覧(終了したもの)プロトコール1.APilotStudyofLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema2.ARandomizedTrialComparingIntravitrealTriamcinoloneAcetonideandLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema3.EvaluationofVitrectomyforDiabeticMacularEdemaStudy4.APilotStudyofPeribulbarTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdema5.TemporalVariationinOpticalCoherenceTomographyMeasurementsofRetinalThickeninginDiabeticMacularEdema6.APhase2EvaluationofAnti-VEGFTherapyforDiabeticMacularEdema:Bevacizumab(Avastin)7.AnObservationalStudyoftheDevelopmentofDiabeticMacularEdemaFollowingScatterLaserPhotocoagulation8.SubclinicalDiabeticMacularEdemaStudy9.TheCourseofResponsetoFocalPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema62あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(62)固を施行した群の成績が一番良かった.また,トリアムシノロンを投与した群では,眼圧上昇や白内障の進行が高率に認められた.糖尿病黄斑浮腫に対する治療としては古典的な網膜光凝固のほうがトリアムシノロンの硝子体投与よりも長期的効果に優れ,かつ合併症が少ないことが示された.プロトコール3:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の効果3)硝子体黄斑牽引を伴う糖尿病黄斑浮腫に対して硝子体手術を施行し,その効果を検討した.多施設スタディのため術者は複数であり,硝子体手術の手技(黄斑前膜の除去,内境界膜.離,ステロイド硝子体注などを行うかどうかの判断も含めて)は各々の術者にまかされた.硝子体手術から1年後にはほとんどの症例で網膜厚の減少をみたが,視力改善した症例は全体の38%にとどまり,22%は逆に視力低下した.プロトコール4:糖尿病黄斑浮腫に対する,トリアムシノロンTenon.下投与の効果4)視力0.5以上の比較的視力良好の糖尿病黄斑浮腫の対象患者を5群に分け,各々に①局所光凝固施行,②トリアムシノロン20mgをTenon.下投与,③局所光凝固施行4週間後にトリアムシノロン20mgをTenon.下投与,④トリアムシノロン40mgをTenon.下投与,⑤局所光凝固施行4週間後にトリアムシノロン40mgをTenon.下投与,の治療を施行した.その結果,術後早期にはトリアムシノロンを使用した群で網膜厚が減少する傾向はあったものの,長期的には視力も網膜厚も5群間でまったく差がなかった.さらにトリアムシノロン使用群では,眼圧上昇と眼瞼下垂の合併症も認められた.よって比較的視力良好な糖尿病黄斑浮腫に対して,トリアムシノロンのTenon.下投与は局所光凝固併用の有無にかかわらず効果はなさそうであるとの結論に至った.プロトコール5:糖尿病黄斑浮腫における,OCT上の網膜厚の日内変動5)糖尿病黄斑浮腫の8時および16時のOCT上の網膜プロトコール1:糖尿病黄斑浮腫に対する網膜光凝固方法の比較1)糖尿病黄斑浮腫に対する網膜光凝固の施行方法として,標準的に行われているETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)に準拠した方法(標準療法)と,それより低出力で,ただし凝固数を多くした凝固法(マイルド格子状凝固)を比較した.結果,凝固1年後の時点で光干渉断層計(OCT)上の網膜厚は標準療法のほうが薄く,視力は両法で差がなかった.新しい凝固法として注目されていたマイルド格子状凝固であったが,標準療法に勝るものではないという結果となり,DRCR.netはマイルド格子状凝固の効果についてそれ以降の研究は組まないと宣言した.プロトコール2:糖尿病黄斑浮腫に対する,トリアムシノロンの硝子体投与と網膜光凝固との効果の比較2)糖尿病黄斑浮腫に対し,網膜光凝固を施行した群と,トリアムシノロン1mgを硝子体投与した群と,トリアムシノロン4mgを硝子体投与した群でOCT上の網膜厚と視力の予後を比較した.視力も網膜厚も,治療4カ月後の時点ではトリアムシノロン4mgを硝子体投与した群の成績が一番良かったが,治療2年後では網膜光凝表2DRCR.netの研究一覧(現在継続中のもの)1.IntravitrealRanibizumaborTriamcinoloneAcetonideinCombinationwithLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema2.IntravitrealRanibizumaborTriamcinoloneAcetonideasAdjunctiveTreatmenttoPanretinalPhotocoagulationforProliferativeDiabeticRetinopathy3.EvaluationofVisualAcuityMeasurementsinEyeswithDiabeticMacularEdema4.ComparisonofTimeDomainOCTandSpectralDomainOCTRetinalThicknessMeasurementinDiabeticMacularEdema5.APilotStudyinIndividualswithCenter-InvolvedDMEUndergoingCataractSurgery6.AnObservationalStudyinIndividualswithDiabeticRetinopathywithoutCenter-InvolvedDMEUndergoingCataractSurgery7.AnEvaluationofIntravitrealRanibizumabforVitreousHemorrhageDuetoProliferativeDiabeticRetinopathy(63)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201163研究は終了しているが,結果がまだ発表されていない.厚を比較した.平均値でみると16時の網膜厚のほうが8時のそれより薄い結果ではあったが,逆に網膜厚が増加する症例も多々みられ,全体として意味のある差は検出されなかった.プロトコール6:糖尿病黄斑浮腫に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法の評価:ベバシズマブ(アバスチンR)について6)糖尿病黄斑浮腫の対象患者を5群に分け,①最初に網膜光凝固を施行,②最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ1.25mgを硝子体投与,③最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ2.5mgを硝子体投与,④最初にベバシズマブ1.25mgを硝子体投与し,6週間後に偽の注射,⑤最初および6週間後にそれぞれベバシズマブ1.25mgを硝子体投与するのに加え,3週間目に網膜光凝固を施行,と治療を行った.その結果,①群と比較すると②群と③群のほうが網膜厚の減少が大きく,視力が良好となった.しかし②~⑤群では網膜厚も視力も有意差が出なかった.よってベバシズマブの硝子体投与は糖尿病黄斑浮腫の一部には確実に効果があることが示されたが,どのような投与法が最良かについては結論が出なかった.プロトコール7:汎網膜光凝固(PRP)を1回ないし4回で完成させた後の,糖尿病黄斑浮腫の経過7)重症非増殖糖尿病網膜症ないし増殖糖尿病網膜症で,黄斑浮腫はないかごく軽度で比較的視力のよい症例を対象とした.1回でPRPを完成させた群と4回に分けてPRPを施行した群とで,その後の黄斑浮腫の状態を観察した(表3).その結果,PRP直後から1カ月後くらいまでは,1回でPRPを行った群のほうがより網膜厚が大きく視力低下していた.しかし,PRPの34週後になると,逆に4回に分けてPRPを施行した群のほうが網膜厚が大きく視力低下する結果となった.PRPを1回で完成させても4回に分けて施行しても,黄斑浮腫に対する臨床的な影響は差がはっきりしないという結論となった.プロトコール8:Subclinicalな糖尿病黄斑浮腫の経過表3汎網膜光凝固後のOCTによる網膜厚1回でPRPn=844回に分けてPRPn=71p値中心窩領域術前の平均網膜厚(μm)207198≧250.2993(4%)1(1%)術前と比較した網膜厚の変化(μm)3日後+9+50.014週間後+13+50.00317週間後+14+150.0834週間後+14+220.06術前と比較して網膜厚が25μm以上変化した症例3日後7(9%)3(5%)0.324週間後14(18%)5(8%)0.0417週間後13(17%)26(41%)0.00134週間後18(25%)25(45%)0.005術前網膜厚が250μm以上あり,かつ術後25μm以上変化した症例3日後1(1%)2(3%)0.404週間後8(10%)3(5%)0.1417週間後5(6%)11(17%)0.00334週間後9(13%)13(24%)0.02(文献7より改変)表4糖尿病黄斑浮腫に対する局所光凝固の長期的効果:OCT上の網膜厚全症例n=128#解析不適格6#16週までに加療1#16週以前に通院中断6#16週後の解析可能症例115局所光凝固16週後n=115中心窩網膜厚改善率(加療前と比較して)≧10%.54(47%)中心窩網膜厚<250μm26中心窩網膜厚≧250μm2816週時点で改善はしたが中心窩網膜厚が≧250μmの症例n=28#32週までに加療4#32週以前に通院中断2#32週後の解析可能症例22局所光凝固32週後(24週目で加療した症例含む)n=26中心窩網膜厚改善率(16週目と比較して)>10%11(42%)中心窩網膜厚<250μm8中心窩網膜厚≧250μm3(文献8より改変)64あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(64)tonideandfocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Ophthalmology115:1447-1449.e1-10,20083)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093.e3,20104)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Randomizedtrialofperibulbartriamcinoloneacetonidewithandwithoutfocalphotocoagulationformilddiabeticmacularedema:apilotstudy.Ophthalmology114:1190-1196,20075)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Diurnalvariationinretinalthickeningmeasurementbyopticalcoherencetomographyincenter-involveddiabeticmacularedema.ArchOphthalmol124:1701-1707,20066)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:AphaseIIrandomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Ophthalmology114:1860-1867,20077)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Observationalstudyofthedevelopmentofdiabeticmacularedemafollowingpanretinal(scatter)photocoagulationgivenin1or4sittings.ArchOphthalmol127:132-140,20098)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Thecourseofresponsetofocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Retina29:1436-1443,2009プロトコール9:糖尿病黄斑浮腫に対する局所光凝固の長期的効果8)糖尿病黄斑浮腫に対して局所光凝固を施行し,網膜厚が減少して効果が認められた症例が,長期的にはどうなるかを観察した.その結果,42%の症例は追加治療がなくても32週後まで網膜厚減少効果が持続した(表4).以上,DRCR.netが過去に施行した研究を概説した.糖尿病黄斑浮腫の症例を,視力やOCTによる網膜厚で条件を揃えたうえで,3桁のオーダーで集めるのは一つの施設ではきわめて困難である.多施設研究でしかなしえない,貴重な成果が次々と発表されつつある.今後の成果に期待したい.文献1)WritingCommitteefortheDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:ComparisonofthemodifiedEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyandmildmaculargridlaserphotocoagulationstrategiesfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol125:469-480,20072)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Arandomizedtrialcomparingintravitrealtriamcinoloneace

糖尿病細小血管合併症の発症進展における代謝コントロールの影響に関する国内外の研究

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYIUKPDS(UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy)1.UKPDS血糖コントロール研究対象は,英国の23施設より登録された新規に糖尿病と診断された2型糖尿病5,102例.3カ月間の食事指導を行い,一部の肥満者をメトホルミン研究に組み込んだ後,食事療法を継続する従来療法群に1,138名,厳格な血糖コントロールを目指す強化療法群(経口血糖降下薬またはインスリン療法)に2,729名を割り付けた.その結果,平均10年の経過観察において,研究期間中の平均HbA1C値は,強化療法群では7.0%で,従来療法群の平均HbA1C値7.9%に比し有意な低値を示し,強化療法施行群では,従来療法群に比し,細小血管合併症,白内障手術などのリスクが有意に低下していた(図1)3,4).また,血糖コントロールによる血管合併症のリスク減少は,経口血糖降下薬(スルホニル尿素薬)とインスリン間に差がなく,肥満糖尿病患者を対象としたメトホルミン研究では,メトホルミンによる有意な慢性血管合併症のリスク低下が示された.2.血糖コントロール研究終了後の観察期のデータ(UKPDSポストトライアル)血糖コントロール研究の対象となった4,209名のうち3,227名はUKPDSポストトライアルに参加することをはじめに血糖コントロールが長期間不良な患者では網膜症の発症進展が生じやすいことが,米国のKleinらの一連の研究(ウィスコンシン糖尿病網膜症疫学研究:WESDR)において示唆されていた.WESDRでは,1型糖尿病,2型糖尿病の10年間の観察により若年発症糖尿病(おもに1型),30歳以上発症の糖尿病でインスリン治療中の患者,30歳以上発症の糖尿病でインスリン以外の治療法により加療されているもの(2型)のいずれにおいても,ヘモグロビン(Hb)A1Cが高値となると網膜症の進展率が高率であった1,2).その後,1型糖尿病および2型糖尿病患者を対象に,厳格な血糖コントロールにより糖尿病性慢性血管合併症の発症,進展を阻止しうるかを検討した無作為前向き調査研究の成果が,国内外で相ついで報告され,「厳格な血糖コントロールにより糖尿病網膜症の発症,進展を阻止しうる」ことが明確になった.本稿では,2型糖尿病患者を対象に血糖コントロールの影響を検討した英国で行われたUKPDS(UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy),わが国で行われた大規模試験であるJDCS(JapanDiabetesComplicationsStudy),強化インスリン療法の効果を検討した熊本スタディ,また,1型糖尿病に対する強化インスリン療法の効果を検討したDCCT・EDICの結果を紹介する.(55)55*HidekiKishikawa:熊本大学保健センター〔別刷請求先〕岸川秀樹:〒860-8555熊本市黒髪2-40-1熊本大学保健センター特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):55.60,2011糖尿病についての疫学研究─Hospital-basedStudy:糖尿病細小血管合併症の発症進展における代謝コントロールの影響に関する国内外の研究StudiesofEffectsofMetabolicControlonDiabeticMicroangiopathy岸川秀樹*56あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(56)べ,糖尿病関連エンドポイントで9%,心筋梗塞で15%,全死亡率で13%となり,メトホルミン群の相対リスク減少率は,糖尿病関連エンドポイントで21%,心筋梗塞で33%,全死亡率で27%となった(図3).よって,ポストトライアル10年間の経過観察で,両群間の血糖コントロールの差が研究開始早期に消失したにもかかわらず,細小血管合併症のリスクの減少が持続し,心筋梗塞や全死亡率が減少すること,また肥満患者に適用されたメトホルミン療法が有用であることが明らかにさ求められ,5年間UKPDS関連の診療所に通院した.その際,先行試験の割り当て時の治療は継続することなく経過観察された.最初の5年間にUKPDS関連の診療所に通院できない患者にはアンケートを実施し,その後(6.10年)は対象者すべてにアンケートによる調査を行った(図2).その結果,UKPDS血糖コントロール研究で認められたHbA1Cの差はポストトライアル開始初年度に消失し,強化療法(SU薬インスリン群)における,観察開始10年後の相対リスク減少率は,従来療法に比従来療法群(n=1,138)の平均HbA1C:7.9%強化療法群(n=2,729)の平均HbA1C:7.0%020406080100糖尿病に関連したエンドポイント糖尿病に関連した死亡全死亡心筋梗塞脳卒中細小血管合併症の進展白内障手術細小血管合併症:光凝固,硝子体出血,腎不全(血漿クレアチニン値>2.93mg/dl,透析)12リスク減少率(%)10NS6NS16NS-11NS2524図1強化療法による慢性血管合併症のリスク減少率―UKPDS新規診断2型糖尿病5,102例強化療法群2,729例従来療法群1,138例メトホルミン群342例ポストトライアル参加2,118例ポストトライアル参加880例ポストトライアル参加279例ポストトライアル完了1,010例ポストトライアル完了379例ポストトライアル完了136例図2PostUKPDS血糖コントロール研究―患者割り付け(57)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201157については,従来療法群で9.52/1,000患者年に対し,介入群では5.48/1,000患者年と有意な低値を示した.IIIDCCT.EDIC1.1型糖尿病患者を対象としたDiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)米国のDCCTでは,1型糖尿病患者を,研究開始時に網膜症を認めなかった一次予防群,網膜症をすでに有していた二次介入群に分け,さらに,無作為に従来インスリン療法群(持続型インスリンを用いた1日1.2回注射)と頻回注射を用いた強化インスリン療法群(1日3回以上のインスリン頻回注射またはインスリン持続皮下注入療法)に分け,平均6.5年間の観察がなされた.その結果,HbA1Cは,強化インスリン療法群では研究開始6カ月後約7.0%まで低下し,観察期間中維持されたが,従来インスリン療法群では明らかな変化は認めなかった.ETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy:25段階)分類で3段階以上の上昇時を網膜症の悪化と定義し,網膜症の経過をみたところ,網膜症の悪化率(平均観察期間6年の成績)は,一次予防群,二次介入群ともに,従来インスリン療法群に比し,強化インスリン療法群で,有意な低値を示した11).れた5).UKPDSでは血圧コントロール研究も行われ,血糖コントロール研究と同様に,終了後の観察研究が続けられた.本試験で求められていた厳格な血圧管理による糖尿病関連イベント・糖尿病関連死・細小血管合併症・脳卒中の相対リスク減少は,観察期には消失し,血圧コントロールの好影響を維持するには厳格な血圧コントロールを維持することが必要と結論されている6.8).IIJDCS(JapanDiabetesComplicationsStudy)わが国で行われた大規模臨床介入研究であり,2型糖尿病患者2,033名(研究開始時平均年齢59歳,平均HbA1C7.7%)を対象に,非介入群(登録前の外来治療を継続)および生活習慣介入群(主治医と協力し生活指導介入)の2群に分け,経過観察された9,10).その結果,開始後5年間の網膜症発症リスクは,HbA1C〔JDS(theJapanDiabetesSociety)値〕7%未満の患者群に比し,HbA1C7.8%の患者群では約2倍,8.10%群では約3.5倍,10%以上では,7.6倍に達した.一方,HbA1C7%未満でも網膜症発症は完全に抑制されておらず,網膜症発症には非常に厳格な血糖コントロールが必要であることが示された.介入群では,非介入群に比し,0.2%のHbA1C値の低下となり,腎症・冠動脈疾患の発症率は,2群間で有意な差は認めなかったが,脳卒中の発症020406080100糖尿病に関連したエンドポイント糖尿病に関連した死亡全死亡心筋梗塞脳卒中末梢血管疾患細小血管合併症の進展細小血管合併症:光凝固,硝子体出血,腎不全(血漿クレアチニン値>2.93mg/dl,透析)9リスク減少率(%)1713159NS18NS24図3強化療法による慢性血管合併症のリスク減少率―PostUKPDS58あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(58)性網膜症を有し,尿中アルブミン排出量<300mg/日:55例)に分け,各々,従来インスリン療法群(CIT群,55名)またはインスリン頻回注射療法を用いた強化インスリン療法群(MIT群,55名)に無作為に割り付け,血糖コントロール状態および慢性血管合併症の推移を10年間追跡調査した.血糖コントロールは,CIT群は中間型インスリン1日1.2回注射,MIT群は1日3回以上の頻回注射(速効型インスリン毎食前,中間型インスリン就寝時)により行った.網膜症はmodifiedETDRS(EarlyTreatmentDiabetesRetinopathyStudy)gradingsystem(19段階分類)により判定し,腎症の悪化は1日尿中アルブミン排泄量により判定した.その結果,MIT群では,研究開始3カ月以降10年間にわたり,良好な血糖コントロール状態を達成しえたが,CIT群では研究開始時と同様な血糖コントロールで10年間推移し,MIT群における厳格な血糖コントロールが示唆された.10年間の網膜症累積悪化率は,一次予防群においてCIT群に対し,MIT群で有意な低値を示した.二次介入群でも同様の所見となった(図5).また,10年間の腎症累積悪化率も,一次予防群において,CIT群に比し,MIT群で有意な低値を示した.二2.EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications(EDIC)EDICでは,DCCT登録患者を対象にDCCT終了後4年間の網膜症の状態が,調査された.DCCT終了後4年間に従来インスリン療法群の多数の患者が強化インスリン療法に移行したため,EDIC時の従来インスリン療法群と強化インスリン療法群のHbA1Cの差は,DCCT時に比し縮小した(従来インスリン療法群8.2%,強化インスリン療法群7.9%)が,EDIC開始4年後の両群の網膜症悪化率,増殖網膜症の発症率,網膜浮腫発症率,光凝固施行率は,従来インスリン療法群に比べ,強化インスリン療法群で明らかな低値となった12,13).したがって,厳格な血糖コントロールによる網膜症発症・進展に及ぼす好影響は,施行後4年間にわたり持続していることが示された(図4).IV熊本スタディ熊本大学代謝内科のインスリン治療2型糖尿病患者(中間型インスリン1日1.2回注射で加療されていた患者および新規インスリン治療患者)110例を,一次予防群(研究開始時に網膜症を認めず,尿中アルブミン排出量<30mg/日:55例)と二次介入群(研究開始時に単純:従来インスリン療法:強化インスリン療法a.網膜症の進展c.網膜浮腫b.増殖または重症網膜症d.光凝固療法発症率(%)オッズ減少76%修正後オッズ減少75%6040200DCCT終了時DCCT終了4年後発症率(%)オッズ減少46%修正後オッズ減少58%12840DCCT終了時DCCT終了4年後発症率(%)オッズ減少68%修正後オッズ減少69%20100DCCT終了時DCCT終了4年後発症率(%)修正後オッズ減少75%修正後オッズ減少52%12840DCCT終了時DCCT終了4年後図4EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplications(EDIC)―網膜症リスク減少率(59)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201159重要となっている.文献1)KleinR,KleinBE,MossSEetal:Glycosylatedhemoglobinpredictstheincidenceandprogressionofdiabeticofdiabeticretinopathy.JAMA260:2864-2871,19882)KleinR,KleinBE,MossSEetal:Relationshipofhyperglycemiatothelong-termincidenceandprogressionofdiabeticretinopathy.ArchInternMed154:2169-2178,19943)UKProspectiveDiabetesGroup:Intensiveblood-glucosecontrolwithsulphonylureaorinsulincomparedwithconventionaltreatmentandriskofcomplicationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).Lancet352:837-853,19984)UKProspectiveDiabetesGroup:Effectofintensiveblood-glucosecontrolwithmetforminoncomplicationsinoverweightpatientswithtype2diabetes(UKPDS34).Lancet352:854-865,19985)HolmanRR,PaulSK,BethelMAetal:10-yearfollow-upofintensiveglucosecontrolintype2diabetes.NEnglJMed359:1577-1589,20086)UKProspectiveDiabetesGroup:Tightbloodpressurecontrolandriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes(UKPDS38).BrMedJ317:703-713,19987)UKProspectiveDiabetesGroup:Efficacyofatenololandcaptoprilinreducingriskofmacrovascularcomplicationsintype2diabetes(UKPDS39).BrMedJ317:713-720,19988)HolmanRR,PaulSK,BethelMAetal:Long-termfollowupaftertightcontrolofbloodpressureintype2diabetes.NEnglJMed359:1565-1576,20089)SoneH,TanakaS,IimuroSetal:Long-termlifestyleinterventionlowersincidenceofstrokeinJapanesepatientswithtype2diabetes:nationwidemulticenter次介入群においても同様の所見であった14~16).熊本スタディにおいて,血糖コントロール状態と網膜症,腎症の進展,増悪率の関係を対数線形ポアソン(Poisson)回帰分析で検討した結果,網膜症,腎症の進展,増悪率は,血糖コントロール状態の悪化とともに増大した.また,研究期間中に,空腹時血糖値<110mg/dl,食後血糖値<180mg/dl,HbA1C<6.5%では,細小血管合併症の悪化が認められず,細小血管合併症の発症・進展阻止におけるコントロール目標となりうることが示唆された.おわりに現在までに,血糖値およびHbA1Cを指標に血糖をコントロールすることの重要性は,すでにコンセンサスを得られたといってよい.しかし,糖尿病では,インスリン作用の異常に伴い,多くの病態が生じる.デンマークのSteno-2スタディは,糖尿病に伴う大血管合併症の発症・進展の抑制には,血糖コントロールのみならず,血圧・脂質代謝異常のコントロール,ひいては生活全体のコントロールが重要であることを示唆している17).近年,社会経済的な変化が糖尿病の治療にも大きな影響を与えている.糖尿病専門外来においては薬剤の長期投与が行われ,経済的問題のために教育入院の実施もむずかしくなっていることも示唆されている.しかし,糖尿病の治療においては,従来どおりの外来通院指導の回数を確保し,糖尿病療養指導士・栄養士・看護師などのコメディカルの力を結集すること,眼科医・糖尿病内科医・循環器専門医・腎臓専門医などの細かな連携がより80706050403020100累積悪化率(%)012345678910経過期間(年)一次予防従来インスリン療法群強化インスリン療法群80706050403020100累積悪化率(%)012345678910経過期間(年)二次介入従来インスリン療法群強化インスリン療法群図5KumamotoStudyにおける網膜症の推移網膜症の増悪:modifiedETDRS19段階分類2段階上昇.60あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(60)complicationsoftype1diabetesmellitus.JAMA2872:2563-2569,200214)OhkuboY,KishikawaH,ArakiEetal:IntensiveinsulintherapypreventstheprogressionofdiabeticmicrovascularcomplicationsinJapanesepatientswithnon-insulindependentdiabetesmellitus─arandomizedprospective6-yearstudy─.DiabResClinPract28:103-117,199515)ShichiriM,KishikawaH,OhkuboYetal:Long-termresultsoftheKumamotoStudyonoptimaldiabetescontrolintype2diabeticpatients.DiabetesCare23(Suppl2):B21-B29,200016)WakeN,HisashigeA,KatayamaTetal:Cost-effectivenessofintensiveinsulintherapyfortype2diabetes─Aten-yearfollow-upofKumamotostudy─.DiabResClinPract48:201-210,200017)GaedeP,VedelP,LarsenNetal:Multifactorialinterventionandcardiovasculardiseaseinpatientswithtype2diabetes.NEnglJMed348:383-393,2003randomizedcontrolledtrial.TheJapanDiabetesComplicationsStudy(JDCS).Diabetologia53:419-428,201010)曽根博仁,赤沼安夫,山田信博:JapanDiabetesComplicationsStudy(JDCS)日本糖尿病学会編糖尿病学の進歩2010.p338-343,診断と治療社,201011)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,199312)TheDiabetesControlandComplicationsTrial/EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup:Retinopathyandnephropathyinpatientswithtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivetherapy.NEnglJMed342:381-389,200013)TheDiabetesControlandComplicationsTrial/EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup:Effectofintensivetherapyonthemicrovascular

世界の眼科疫学研究:発展途上国編

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYは異なる),先進国(人口8.9億)での失明者数約200万人に対し,発展途上国(人口53.3億)では約3,500万人と推定された(表1).WHOは2002年まで最高矯正視力(best-correctedvisualacuity:BCVA)が0.05未満を「失明」,0.05~0.3を「ロービジョン」と定義していたが,これでは屈折異常を見逃すことになる.そこで,2004年の報告からは眼鏡を所持している人はその眼鏡を装用したときの視力を,眼鏡を所持していない人については裸眼視力を現視力(presentingvisualacuity:PVA)と定義し,これによって失明とロービジョンを決めるよう政策転換がなされた.その結果,新たに屈折異常による視覚障害者が約1億5,320万人(失明820万人,ロービジョン1億4,500万人)が追加され2),地球規模での失明原因疾患ははじめに健康政策の立案には基本となるデータの入手が必要である.たとえば,ある国で失明予防政策を立案しようとしても,失明率やその原因疾患,年代別分布などがわからなければ何も計画できない.健康政策に必要なデータの情報源には,①スクリーニング,②サーベイランス,③疾病登録情報,④サーベイなどがある.先進国ではそのいずれからも必要な健康保健情報を入手可能だが,人材や保健医療のインフラが不十分な発展途上国では国際機関や非政府機関,あるいは海外の高等教育機関の協力のもとサーベイを行うことが一般である.しかし,疫学調査は一般に多大な費用・労力・時間がかかるとされ,政策立案に必要な基本データを得るだけのためにそれらを浪費し,政策の実行・評価が行われないとするならば,本末転倒の話となる.よって,いかに効率よく国全体あるいは特定地域の健康情報を入手するかが重要になる.I世界の失明統計世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)は地理(アフリカ,米州,欧州,東地中海,東南アジア,西太平洋地域)と成人および小児死亡率の関係から世界各国を17の地域に区分し,2002年における各地域の失明者数・ロービジョン者数について推定を行った1).成人および小児の死亡率がきわめて低い地域mortalitystratumAを先進国と定義したとき(世界銀行の定義と(49)49*KoichiOno:順天堂大学医学部附属東京江東高齢者医療センター眼科**YoshimuneHiratsuka:国立保健医療科学院経営科学部〔別刷請求先〕小野浩一:〒136-0075東京都江東区新砂3-3-20順天堂大学医学部附属東京江東高齢者医療センター眼科特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):49.54,2011世界の眼科疫学研究:発展途上国編EpidemiologyofEyeDiseasesinDevelopingCountries小野浩一*平塚義宗**表1視覚障害者の経済・地理的分布人口失明*ロービジョン**視覚障害者先進国888.52.011.313.4発展途上国5,325.434.8112.9147.8アフリカ715.37.321.328.6アメリカ530.21.79.110.8中東286.92.57.710.2ヨーロッパ462.61.87.49.1東アジア1,799.412.638.150.7西太平洋1,531.09.029.438.4World6,213.936.9124.3161.1*:最高矯正視力が0.05未満.(単位:100万人)**:最高矯正視力が0.05.0.3.50あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(50)である.さらに,小児の衛生状況(眼脂の付着など)や水資源へのアクセス,トイレの有無,ゴミ捨て場の有無などコミュニティの環境診断を行う.Mathewら4)は西太平洋の島々のトラコーマの有病率を算出しているが,TRAはトラコーマが流行していると思われるコミュニティに限定した疫学調査であり,結果は国あるいは地域の有病率を代表するわけではないことに注意が必要である(選択バイアス).診断は分子生物学的な手法ではなく臨床診断によるため多くの偽陽性・偽陰性による影響も否めない(情報バイアス).IIIRapidAssessmentofCataractSurgicalServices白内障は手術により克服のできる失明疾患の代表であるが,発展途上国においては医療人材の不足,医療機器の不足,インフラの不備,医療への予算の不足,そして患者自身の無知から十分な医療サービスが行き届いていない.保健政策を計画しようにも地域にどの程度の患者がいるかは不明で,また海外からの援助などで白内障手術を行っていたとしても診療録の管理が不十分でその追跡調査を行うこともできない.これらの問題を解決する目的で,WHOが中心となって発展途上国の白内障をターゲットとした疫学調査のガイドラインが作られた.これをRapidAssessmentofCataractSurgicalServices(RACSS)という.RACSSでは白内障有病率の高くなる50歳以上の住民を対象に,①白内障による失明者の割合,②白内障手術を受けている割合,③白内障手術後の視力分布,④白内障手術を受けない理由,などについて調査を行う.調査はTRA同様,眼科看護師やコミュニティ・ワーカーなどによって行われることが多い.そのため,水晶体の観察は細隙灯顕微鏡でなく懐中電灯と拡大鏡を用い,屈折異常の診断にはピンホールによる視力をBCVAとすることが一般である.表2にアジア・オセアニアで行われた代表的なRACSSをあげる.先進国の疫学研究と異なり参加率が約90%であることは驚きである.PVAが0.1未満の人の割合は性別や年齢による調整を行っていないため一概に比較することはできない.人口100万人に対する1白内障(39.1%),屈折異常(18.2%),緑内障(10.1%),加齢黄斑変性(7.1%),角膜混濁(4.2%),糖尿病網膜症(3.9%),小児失明疾患群(3.2%),トラコーマ(2.9%),オンコセルカ症(0.7%)の順となった.IITrachomaRapidAssessmentトラコーマはクラミジア・トラコマティス(Chlamydiatrachomatis)による眼感染症で発展途上国のなかでも最貧困層の女性や不衛生な乳幼児が罹患しやすい.感染をくり返すにつれ結膜の瘢痕化・睫毛内反を起こし,やがて2次感染などにより角膜混濁を呈し失明に至る.この感染症による失明を防ぐためにWHOはSurgery(睫毛内反に対する手術),Antibiotics(抗生物質の投与),FacialCleanness(顔面の清潔,つまり,個人レベルでの衛生),EnvironmentalImprovement(水資源へのアクセスや蝿のコントロールといった生活環境の改善)の重要性を説いた.これをSAFEStrategy(フランス語圏ではCHANCE)という.発展途上国も経済の発展とともに生活環境が改善し急性期トラコーマの有病率は減少し,かつての流行地域でも限られたコミュニティにしか急性期トラコーマは存在しなくなった.大規模疫学調査を行えばその有病率を正確に知ることができるが,それには莫大な資金がかかってしまう.そこで,WHOはトラコーマが依然として公衆衛生学的問題なのかを知る目的で,①最貧困層が住み,②人口密度が高く,③水資源へのアクセスが悪く,④保健医療へのアクセスも悪いコミュニティを選択し,コミュニティにおけるSAFEの優先順位を決定する手段としてTrachomaRapidAssessment(TRA)という疫学研究のガイドラインを作成した.TRAはエチオピア,ナイジェリア,タンザニア,ガンビア,マリ共和国といったアフリカ諸国に加え,イエメン,中国,インド,ラオス(非公表),カンボジア(非公表)などでも行われた.調査チームは,一般社会から途絶したもっと貧しく不衛生なコミュニティを選択し1歳から10歳(あるいは9歳)までの小児と40歳以上の成人を対象にWHOトラコーマ分類を用いて臨床診断を行う.これらの診断は眼科医でなくおもに看護師やコミュニティ・ワーカーなどによって行われることが一般(51)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201151チモ.ルでは両眼の視覚障害者のうち白内障手術に10ドル以上費やしてよいと答えている住民は6%しかいないのに対し,かつて手術を受けた住民はもう片眼に30ドル支払っても手術を受けてもよいと答えている.このような地域では手術を受けた住民をヘルス・ボランティアとして雇い自己の体験を視覚障害者に伝えてもらうことで,視覚障害者たちが白内障手術を受けることの利益を理解し手術へのバリアが低くなることが予想される.IVRapidAssessmentofAvoidableBlindness国レベルの失明率は先進国の約0.2%からサハラ砂漠以南のアフリカの1.2%とその国の経済状況や保健・医療サービスのインフラの度合いに影響される.先進国の失明原因が加齢黄斑変性,緑内障,糖尿病網膜症など後眼部疾患であるが,発展途上国では白内障,前眼部感染症,屈折異常によることが知られている.RapidAssessmentofAvoidableBlindness(RAAB)は途上国を対象に白内障,角膜混濁,屈折異常といった治療や予防によって避けることのできる失明疾患(Avoidableblindness)の有病率を知ることを目的とした疫学調査のガイドラインである.RAABではRACSSとほぼ同様の手法で視覚障害の有病率を計算するが,ピンホールによる視力が0.5未満年当たりの白内障手術件数(CataractSurgicalRate)が4,000件以上と先進国並みに多いインドで白内障による視覚障害者の割合が特に多いが,これは年齢構成の問題と調査された時期が他の疫学調査よりも早いことが影響しているかもしれない.ある地域で白内障の手術を受けている割合をCataractSurgicalCoverage(CSC)という.CSCは眼数を基に計算されることもあれば,人数を基に計算されることもある.いずれの場合でも,CSCは白内障手術のコミュニティへの浸透度を知るのに有用な指標で,CSCの男女差や民族間での差は医療サービスが公平に行われていないことを示唆する.途上国では,男性が家財をコントロールするため女性への健康教育が不十分であることが多く,男性のほうがCSCが高くなる.このような地域では女性をターゲットにした健康教育プログラムを普及させる必要がある.表3に白内障手術後の現視力およびピンホールによる視力が0.3以上の割合を示す.特に東チモールにおいては眼内レンズが挿入されているにもかかわらず術後の屈折異常の患者が多く,このような地域では術後の屈折異常に対する眼鏡提供まで含めたパッケージとしてのサービスが望まれる.白内障手術を受けない理由としては,「手術で視力が改善することを知らない」「手術を受ける費用がない」「付添いがいない」「怖い」などといった理由が多い.東表2アジア・オセアニア地域で行われたRapidAssessmentofCataractSurgicalServices(RACSS)国調査地域文献調査年サンプルサイズ参加率現視力が0.1未満の割合白内障により現視力が0.1の割合東チモールDiliDistrict/BobonaroDistrict4)20051,41496.2%7.7%5.9%パプアニューギニアKokiwanigela/Rigocoastraldistrict5)2004~20051,17498.6%10.2%7.7%パキスタンChakwalDistrict6)19981,50594.1%11.6%6.2%インドKarnatakaState7)199521,95085.2%NA14.3%NA:Notavailable.表3白内障手術後の現視力とピンホールによる視力が0.3以上の割合(RACSS)国文献現視力が0.3以上の割合ピンホールによる視力が0.3以上の割合眼内レンズ無水晶体眼カウチング計眼内レンズ無水晶体眼カウチング計東チモール4)34.6%7.1%─25.0%61.5%7.1%─42.5%パプアニューギニア5)40.0%36.5%0%37.5%NANANANAパキスタン6)72.9%47.1%─51.1%79.7%61.1%─64.0%インド7)82.1%41.4%─43.5%NANANANA52あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(52)の場合に水晶体の検査に加え直像鏡を用いた眼底の観察を行う.本ガイドラインを用いた疫学研究はケニア,ルワンダ,ボツアナといったアフリカ大陸やメキシコでも行われており,アジアでも中国,バングラデシュ,インド,フィリピン,カンボジア(非公表),ラオス(非公表)などでも行われている.アジア地域で行われたRAABを表4に示す.いずれも過去5年以内に行われたものであり,参加率もきわめて高いため現在の視覚障害者の割合を知るうえでは最も信頼度の高い疫学調査といえる.失明原因はいずれも白内障の割合が高く,角膜混濁や後眼部疾患などがこれに続く.RAABでは緑内障や加齢黄斑変性,糖尿病網膜症などを後眼部疾患と一緒くたにしているが,これは最先端の医療技術と高価な医薬品のない途上国ではそれらを発見したとしても,現時点ではその住民に対する十分な医療サービスが提供できないためである.しかし,経済の発展に伴い途上国でも特に都市部では生活習慣が変化し糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの網膜疾患が急増することが予想されるため,今後は詳細な眼底疾患の判定が必要となるであろう.V国家規模での失明調査(NationalSurveyofBlindness)国家規模での失明疫学調査となると,ある特定の地域から標本を抽出するのではなく国全体から無作為に選ばれた住民を調査(通常はランダム・クラスターサンプリング)することになる.標本数はRAABに比べ自ずと大きくなり,莫大な費用・労力・時間がかかるため限られた国々でしか行われていない.マレーシア・バングラデシュ・パキスタンの3カ国で行われた国家規模の疫学研究の結果を表5に示す.いずれの国においても白内障が最大の失明原因であるが,マレーシアでは白内障による失明の割合がほかに比べ低く,網膜疾患による失明の割合が高い.このように社会の発展により予防・治療表5アジア地域で行われた国家規模の失明調査国調査年文献対象年齢サンプルサイズ参加率失明率*ロービジョン率**失明原因1位2位3位マレーシア1996~199713)全年齢17,44969.0%0.28%2.42%白内障(39.1%)網膜疾患(24.5%)屈折異常(4.1%)バングラデシュ200114)30歳以上11,62490.9%1.39%7.77%白内障(79.6%)無水晶体眼(6.2%)黄斑変性(3.1%)パキスタン2002~200415)30歳以上16,50795.3%3.4%23.4%白内障(51.5%)角膜混濁(11.8%)無水晶体眼(8.6%)*:WHO定義(良いほうの現視力が0.05未満).**:WHO定義(良いほうの現視力が0.05.0.3未満).表4アジアで行われたRapidAssessmentofAvoidableBlindness(RAAB)国場所文献調査年標本数参加率失明率*失明視覚障害(原因)1位2位3位中国雲南省昆明8)20062,58893.8%3.7%白内障(63.2%)角膜混濁(14.7%)緑内障(7.45)江西省Gao’an9)20074,69994.0%1.5%白内障(61%)後眼部疾患(22%)角膜混濁・眼球癆(13%)Xin’gan9)20073,83495.9%1.8%白内障(46%)後眼部疾患(41%)角膜混濁・眼球癆(10%)Wan’zai9)20072,86195.4%1.6%白内障(50%)後眼部疾患(39%)無水晶体眼(7%)フィリピンNegrosisland10)20052,77476.0%2.6%白内障(54%)後眼部疾患(31%)角膜混濁・眼球癆(6%)Antiquedistrict10)20063,17782.7%3.0%白内障(63%)角膜混濁・眼球癆(18%)後眼部疾患(16%)インド15州11)200740,44794.7%3.6%白内障(77.5%)後眼部疾患(5.8%)無水晶体眼(4.6%)バングラデシュSatkhiradistrict12)20054,86891.9%2.9%白内障(79.0%)後眼部疾患(13.3%)角膜混濁(3.5%)*:WHO定義(良いほうの現視力が0.05未満).(53)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201153地域の現状に適合した医療器械・検査方法・診断方法が用いられるべきである〔これを適正技術(appropriatetechnology)という〕.途上国の疫学調査の参加率は先進国に比べきわめて高い.これは途上国の地域住民が疫学調査を引き受けることで,医療サービスを受けられると期待しているためである.途上国で疫学研究に携わる者は学問的な関心としてのデータ収集や解析に終始せず,そうした期待に応えるべく必要な医療サービスを提供できるインフラの整備にも貢献しなければならない.その意味で途上国の疫学調査に協力する医師は,眼科学の知識に加えpublichealthmindをもった者であることが望まれる.文献1)ResnikoffS,PascoliniD,Etya’aleDetal:Globaldataonvisualimpairmentintheyear2002.BullWorldHealthOrgan82:844-851,20042)ResnikoffS,PascoliniD,MariottiSetal:Globalmagnitudeofvisualimpairmentcausedbyuncorrectedrefractiveerrorsin2004.BullWorldHealthOrgan86:63-70,20083)MathewAA,KeeffeJE,LeMesurierRTetal:TrachomainthePacificIslands:evidencefromTrachomaRapidAssessment.BrJOphthalmol93:866-870,20094)BrianG,PalagyiA,RamkeJetal:CatractanditssurgeryinTimor-Leste.ClinicalandExperimentalOphthalmol34:870-879,20065)GarapJN,SheeladeviS,BrianGetal:CataractanditssurgeryinPapuaNewGuinea.ClincalandExperimentalOphthalmol34:880-885,20066)HaiderS,HussainA,LimbergH:CatarctblindnessinChakwaldistrict,Pakistan:resultofasurvey.OphthalmicEpidemiol10:249-258,20037)LimburgH,KumarR:Follow-upofblindnessattributedtocataractinKarnatakastate,India.OphthalmicEpidemiol5:211-223,19988)WuM,YipJLY,KuperH:RapidassessmentofavoidableblindnessinKunming,China.Ophthalmology115:969-974,20089)XiaoB,KuperH,GuanCetal:Rapidassessmentofavoidableblindnessinthreecounties,JiangxiProvince,China.BrJOphthalmol94:1437-1442,201010)EusebioC,KuperH,PolckSetal:Rapidassessmentofavoidableblindnessinnegrosislandandantiquedistrict,Philippines.BrJOphthalmol91:1588-1592,200711)NeenaJ,RachelJ,PraveenVetal:RapidassessmentofavoidableblindnessinIndia.PlosOne3:e2867,200812)WadudZ,KuperH,PolackSetal:Rapidassessmentofによって克服できる疾患による視覚障害が減り,今までなかった疾患による視覚障害が増加する.このような疾病の構造変化を疫学転換(epidemiologictransition)という.疫学転換が起こっているマレーシアのような中所得の途上国ではRACSSやRAABのようなスタディ・デザインではもはや意味をなさず,先進国同様後眼部疾患に注目したスタディ・デザインが考慮されるべきであろう.おわりに先進国における疫学研究の目的は学問的な関心事であることが多いのに対して,途上国のそれは国の健康政策の立案・評価に必要な基本データの入手である.視覚障害の最大の危険因子が加齢であるため途上国の疫学調査のほとんどは成人あるいは高齢者を対象としている.若年者の視覚障害者の割合は成人のおよそ1/10と少なく疫学調査を行うにはサンプルサイズが膨大となってしまうこと,若年者の視力検査には高度な技術と時間を要することなどから,これらを対象としたpopulation-basedsurveyは少なく,学校や盲学校を対象としたinstitutebasedsurveyが多く行われている.しかし,途上国では学童の学校への出席率が必ずしも高いとは限らず,また盲学校へは一部の裕福層の子弟のみが通学している可能性があり,institute-basedsurveyではその結果の解釈には注意が必要である.先進国の医師のなかには途上国の疫学研究結果をみて疾病の分類が不十分だとか診断されるべき疾病がリストアップされていないなどと批判したり,先進国と同様の医療機械を用いて調査を行うべきと意見する者も存在する.しかし,筆者らは日常における現実の診療とかけ離れた医療器械・検査方法による疫学調査の実施妥当性について懐疑的である.その理由は,第一に最新の技術を用いて疾病がみつかってもその機器を持たない医療機関では診断や経過観察を行うことができないこと,第二に疫学調査で疾病が見つかったとしても治療が国の現在の医療水準を上回るものであれば,治療を行えず放置されてしまうこと(例:最貧国で正常眼圧緑内障が見つかっても高価な眼圧下降薬を一生使えるだけの保健予算はない)が予想されるからである.途上国の疫学調査はその54あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(54)causesofblindnessandvisualimpairmentsinBangladeshiadults:resultsofthenationalblindnessandlowvisionsurveyofBangladesh.BrJOphthalmol87:820-828,200315)DineenBP,BourneRRA,JadoonZetal:CausesofblindnessandvisualimpairmentsinPakistan:ThePakistannationalblindnessandvisualimpairmentsurvey.BrJOphthalmol91:1005-1010,2007avoidableblindnessandneedsassessmentofcataractsurgicalservicesinSatkhiradistrict,Bangladesh.BrJOphthalmol90:1225-1229,200613)ZainalM,IsmailSM,RopilahARetal:PrevalenceofblindnessandlowvisioninMalaysianpopulation:resultfromnationaleyesurvey1996.BrJOphthalmol86:951-956,200214)DineenBP,BourneRRA,HuqDMNetal:Prevalenceand

世界の眼科疫学研究:先進国編

2011年1月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY心に概説する.世界の眼科疫学研究1.FraminghamEyeStudya.背景と特徴欧米において眼科領域のpopulation-based研究が盛んになったのは1980年代以降である.その先駆けとなったのがFraminghamEyeStudyである.FraminghamEyeStudyは1948年から米国で行われていた循環器疾患についての疫学研究FraminghamStudyの追跡研究の一環として行われた.そもそものFraminghamStudyは循環器疾患の危険因子について明らかにすることを目的とした前向きコホート研究である.FraminghamStudyは今や常識となっている循環器疾患の危険因子,高血圧,高コレステロール血症,肥満などの関連を明らかにしたことで知られ,その成果はフラミンガムスコアとして虚血性心疾患や脳卒中の危険評価に広く用いられている.今や一般的に普及している「危険因子」という言葉を使い始めたことや「複数の危険因子が疾患の危険に関わる(マルチプルリスクファクター)」こと,さらにそれを明らかにするための統計手法である多重ロジスティック解析などを開発するなど現在の疫学研究の枠組みを作った研究といえる.当時高齢者の視力障害の原因疾患についての理解を深めるためにFraminghamEyeStudyが行われた2).はじめに国際疫学会「疫学辞典」によれば,疫学とは「特定された集団における健康に関連した状態あるいは事象の分布と決定因子の研究,及び,この研究の健康問題の制圧への応用」であると定義されている.疫学研究には数多くの手法があり,症例報告から症例対照研究,コホート研究から無作為臨床試験に至るまでさまざまである.眼科疾患の診断技術が発達し,新たな治療法が多く開発されている時代に,一般住民を対象とした疫学研究の意義は何であろうか?まず,一般住民を対象とした疫学研究は疾患の有病率,発症率などの基礎資料を得るのに最も信頼できる方法である.しかも,疾患の有病率や発症率は決して一定ではなく,人種差や医療の進歩に伴う予防効果,治療効果による経時的変化などがある.たとえば,重症の糖尿病網膜症の有病率は,1985年以前に比べてそれ以降では減少しつつあり,糖尿病の診断,治療の向上によるものであることが明らかとなっている1).多くの疾患では複数の危険因子,保護因子が複雑に関連しているがその関連を紐解いて明らかにしようとする際には多数例の正常者を含むコホート研究が今なお必要である.そして,新たな仮説の創成にあたっても正常者を含む研究は同様に有用である.本稿では,海外で今現在も研究活動,研究報告がなされている代表的な一般住民を対象とした疫学研究について「背景と特徴」,「研究方法」,「おもな研究結果」を中(41)41*RyoKawasaki:CentreforEyeResearchAustralia,RoyalVictorianEyeandEarHospital,UniversityofMelbourne〔別刷請求先〕川崎良:CentreforEyeResearchAustralia,RoyalVictorianEyeandEarHospital,UniversityofMelbourne,32GisborneStreet,EastMelbourne3002,VIC,Australia特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):41.47,2011世界の疫学研究:先進国編Population-BasedEpidemiologicalStudiesinDevelopedCountries川崎良*42あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(42)率とその危険因子について報告されたものの,発症率や進展率およびそれに関わる危険因子の理解は十分ではなかった.そこでより詳細な加齢性眼疾患の疫学研究を行うことを目的としてBDESが1987年にウィスコンシン大学(http://www.bdeyestudy.org/;RonaldKlein教授)により立ち上げられた.b.研究方法高齢者の視力障害の原因として重要である加齢白内障,緑内障,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症の有病率と発症率,進展率,およびそれに関わる危険因子を明らかにすることをおもな目的としている.米国ウィスコンシン州にあるBeaverDam地域の43歳から84歳までの一般成人約5,000名が初回検査に参加した(1998.1990年).その5年後,10年後,15年後の追跡調査が行われ,それぞれの追跡調査に約3,700名,2,800名,2,100名が参加した.2008年からは20年後の追跡調査が行われ現在も進行中である.BDESの成果はこれまでに300近くの論文として報告されており,現在も活発に研究が行われている眼科領域の疫学研究としては最長の追跡期間をもつ研究といえる.さらに,白内障と加齢黄斑変性の判定システムを開発したことにより再現性の高い判定が可能となり,これはその後の眼科疫学研究で用いられている6,7).c.おもな研究結果BDESの成果として重要なのは各疾患の有病率に加えて追跡調査によって発症率,および進展率を明らかにしたことであろう8~12).この研究で得られた有病率,発症率のデータはその後のさまざまな臨床試験に必要な基礎資料として用いられている.発症の危険因子としては加齢白内障と加齢黄斑変性の危険因子について喫煙など介入可能な危険因子を明らかにしたことも重要である.疾患の病態についても長期の自然経過観察から晩期加齢黄斑変性の前駆状態としてドルーゼンと網膜色素異常があることなども明らかにした.共通の判定システムを用いた他研究とのデータ統合型メタ研究も行われており,喫煙と加齢黄斑変性の関連についても複数の研究結果を統合したメタ研究で関連が確認されている13~15).b.研究方法FraminghamEyeStudyはこのFraminghamStudyに参加した対象者について1973年に追加調査を行い,眼科疾患の有病率および危険因子を報告したものである.研究対象者は52歳から85歳の2,477名であった.研究の対象疾患は白内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性そして緑内障であった.c.おもな研究結果白内障の有病率は15.5%,糖尿病網膜症の有病率は3.1%,加齢黄斑変性の有病率は8.8%,開放隅角緑内障の有病率は3.1%であった.白内障の危険因子として高血糖,収縮期血圧など,加齢黄斑変性の危険因子として高血圧,身長など,糖尿病網膜症の危険因子として高血糖,尿糖など,高眼圧の危険因子として高血圧,高血糖などが報告された3~5).2.BeaverDamEyeStudy(BDES)a.背景と特徴FraminghamEyeStudyにより加齢性眼疾患の有病図1BeaverDamEyeStudyの様子上:ウィスコンシン大学.左下:眼科疫学をリードしてきたRonaldKlein教授・BarbaraKlein教授夫妻.右下:ウィスコンシン大学の写真判定スタッフ.勤続20年を超えるベテランぞろいである.(写真提供Ms.StacyMeuer)(43)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201143ら2009年にかけて15年後の追跡調査が施行され現在その解析が進行中である.BMESで用いられた研究プロトコールは眼底写真や白内障の判定システムをはじめBDESの方法を多く踏襲している.眼科検査以外には一般内科検診,詳細な病歴,内服薬使用歴などを含む問診,栄養調査,認知機能,生活の質(qualityoflife)調査などが行われている.また,5年後以降の調査では聴覚検査,嗅覚検査など耳鼻咽喉科との共同研究も含まれているのも興味深い(BlueMountainsHearingStudy).c.おもな研究結果BMESでは白内障の有病率,発症率など白内障全体の基礎疫学データに加え手術施行率や白内障の病型ごとの危険因子などが詳細に解析されている.たとえば核白内障の危険因子として喫煙やアルコール摂取,皮質白内3.BlueMountainsEyeStudy(BMES)a.背景と特徴BMESは1992年からオーストラリア,ニューサウスウェールズ州郊外のブルーマウンテン地域に住む住民を対象として始められた研究で加齢性眼疾患の有病率,発症率,そして危険因子を明らかにするために始められた(http://www.cvr.org.au/bmes.htm;PaulMitchell教授).b.研究方法オーストラリア全体の高齢者人口分布と近似しているBlueMountains地区在住の49歳から97歳までの3,654名に対して1992年から1994年にかけて眼科検診が行われた(受診率82.4%).その後,1997年から1999年にかけて5年後(n=2,334),2003.2004年にかけて10年後(n=1,952)の追跡調査が行われた.2007年か図2BlueMountainsEyeStudyの検診センターの様子左上:BlueMountainsの象徴的風景“theThreeSisters”.右上:検診は大学院生と専任スタッフで行われている.左下:検診期間中は町の中心部に近い施設を借りて検診が行われる.右下:眼底写真および水晶体写真撮影室.44あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(44)b.研究方法RotterdamEyeStudyでは55歳以上の一般成人対象者10,215名のうち7,983名が参加(受診率78%),その後,1999年に新たに55歳以上の成人3,011名,2006年には45歳から54歳までの3,932名が加わり,2008年時点で45歳以上の成人14,926名の大規模なコホートとなっている.検査項目は視力,屈折異常,眼圧,細隙灯検査,視野検査,眼底写真撮影,視神経乳頭形状解析,黄斑色素測定,光干渉断層計による網膜および視神経部計測,眼軸長,眼底自発蛍光など詳細な検査が含まれている.眼科疾患としては加齢黄斑変性,緑内障そして網膜血管径などの血管所見について検討対象としている22,23).c.おもな研究結果加齢黄斑変性に関しては喫煙,動脈硬化,遠視が危険因子となっており,さらに加齢黄斑変性の家族歴があると若くして加齢黄斑変性を発症する危険があること,逆にbカルテノイド,ビタミンC,ビタミンE,亜鉛の保護的作用も報告されている.緑内障に関しては高血圧,特に収縮期血圧が高眼圧と関連していたが,緑内障との関連はなかった.年齢とともに視野欠損の頻度が高くなること,視神経乳頭陥凹の拡大の家系集積などが報告されている.網膜血管径測定も行っており,網膜静脈径の拡大と糖尿病の発症,脳卒中・脳梗塞の発症,網膜動脈径の狭小と高血圧の発症などが報告されている24~29).5.その他の研究1)LosAngelesLatinoEyeStudy(LALES)米国に住むヒスパニック人口は近年急激に増加し,いまやアフリカ系アメリカ人を抜いて米国第2位の構成人種である.LALESはヒスパニックには糖尿病が多いこと,医療保険加入者が少ないことなど医療・社会的背景があり,ヒスパニックにおける眼疾患の疫学調査を目的として,2000年にLosAngelesの6地域に住む40歳以上の一般ヒスパニック成人を対象に視力障害,白内障,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性について調査した研究である(http://www.nei.nih.gov/latinoeyestudy;RohitVarma教授).対象者となった一般成人7,789名のうち6,357名が参加し,うち女性が58%,平均年齢障の危険因子として女性や糖尿病,後.下白内障の危険因子としてはステロイド使用歴,紫外線曝露,喫煙,糖尿病,近視などがあげられた.加齢黄斑変性については加齢以外に喫煙,循環器系危険因子,家族歴,栄養摂取状況などの関連が明らかされた.緑内障については,研究を通じて発見された未受診・未治療の緑内障が緑内障有病者の約半数にのぼることが明らかとなった.緑内障のおもな危険因子として加齢,家族歴,糖尿病,高血圧,眼局所の危険因子として高眼圧,近視,視神経乳頭形状の左右差,乳頭周囲の萎縮,乳頭出血の存在(特に正常眼圧緑内障と関連)などが報告されている.糖尿病患者においてその約三分の一に何らかの糖尿病網膜症があり,うち16%が未受診で,糖尿病患者の平均視力は正常者に比べ低いことが明らかとなった.さらに非糖尿病者においても約10%に毛細血管瘤,網膜出血などの軽微な網膜症所見が認められ,これは高血圧をはじめとする循環器疾患の危険因子と関連していた.BMESでは網膜細動脈の口径不同,反射亢進,交叉現象など,網膜血管径測定も行っており,それら網膜静脈径の拡大と糖尿病の発症,脳卒中・脳梗塞の発症,網膜動脈径の狭小と高血圧の発症などが報告されている.視力について研究参加者の半数近くが日常生活に必要な適切な視力の屈折矯正を行っておらず,特に13%の住民は通常の屈折矯正によって3段階以上の視力向上が可能であった.視力障害の有病率が60歳以下では両眼0.6%,片眼3.6%と低いが,80歳以上ではそれがそれぞれ26.3%と52.2%と高率であること,また女性のほうが視力障害の率が高いこと,さらには視力障害を有する人は視力が良好な人に比べて死亡率が高いことなどが報告されている16~21).4.RotterdamEyeStudya.背景と特徴RotterdamEyeStudyは1990年から行われている前向きコホート研究で,研究全体の対象は眼科疾患のほかに循環器疾患(虚血性心疾患,脳卒中),神経疾患(Parkinson病,Alzheimer型痴呆),呼吸器疾患,肝疾患,糖尿病など内分泌疾患と多岐にわたる(JohannesR.Vingerling教授;http://www.epib.nl/research/ergo.htm).(45)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201145を対象とし,うち検診参加者は3,280名(参加率79%)であった.SiMESでは表2に示すような調査が行われており,近年活発に論文報告がなされている.SiMESに続き,現在ではSingaporeIndianChineseCohort(SICC)EyeStudyが進行中である.この研究はSiMESと同様の研究内容で中華系住民3,300名,インド系住民3,300名を対象目標としている.おもな研究結果としては白内障,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症あるいは非糖尿病者における網膜症,緑内障,そしてアジアにおいて有病率の高い近視,強度近視の屈折異常などである37,38).3)ReykjavikEyeStudyReykjavikEyeStudyはアイスランド・レイキャビクにおける疫学研究である.対象はおもに白内障,加齢黄斑変性症などである.ReykjavikEyeStudyについては佐々木による詳細な解説39)があるので本稿では割愛させていただく.は54.9歳(標準偏差10.8歳)であった.LALESでは表1に示すような調査が行われており,横断研究による有病率,および4年後の追跡調査に基づく発症率も最近報告があった30~36).2)SingaporeMalayEyeStudy(SiMES)シンガポールは国土面積が約700平方キロメートルで東京23区とほぼ同じ面積の中に中華系(人口の75%),マレー系(14%),インド系(9%)という3つの人種が混在し,同じ地理的環境におけるこれら3人種における眼科疾患の有病率とその危険因子について遺伝子多型などの解析も含めた眼科疫学研究が進行中である.2004年から2006年にまずマレー系住民を対象としたSiMESが開始された.SiMESでは西南地区を中心に40歳から79歳まで,40.49歳,50.59歳,60.69歳,70.79歳それぞれの年齢層ごとに無作為に1,400名,合計5,600名を抽出し,除外規定該当者を除く4,168名表1LosAngelesLationEyeStudyの調査項目の概要対象検査項目健康および社会的因子健康状態,病歴,治療歴,眼疾患治療歴,喫煙,アルコール摂取量,米国文化への適応度健康および視機能関連指標SF-12,NEI-VFQ-25,視力への満足度視力遠見・近見視力白内障LensOpacityClassificationSystem(LOCS)IIIで判定加齢黄斑変性黄斑部ステレオ眼底写真でWisconsinAge-relatedMaculopathyClassificationSystem変法で判定糖尿病網膜症7方向ステレオ眼底写真でAirlieHouseclassification・ETDRS変法で判定緑内障ステレオ視神経乳頭写真,視野,臨床病歴などで3人の緑内障専門医による判定表2SingaporeMalayEyeStudyの調査項目の概要対象検査項目屈折状態・前眼部オートレフラクト・ケラトメータで屈折状態と角膜曲率半径を測定.非接触光干渉レーザー眼軸測定装置で眼軸長,前房深度などの測定.パキメータで角膜厚を測定.遠見・近見視力,裸眼視力,生活視力,最高矯正視力.生活で使用中の眼鏡屈折度数.細隙灯検査で翼状片,虹彩異常など.白内障LensOpacityClassificationSystem(LOCS)IIIで判定.水晶体写真(45°細隙灯写真および徹照写真)緑内障視神経乳頭写真,眼圧,HeidelbergRetinaTomographII視神経乳頭形状解析.疑い者には隅角検査および視野検査.加齢黄斑変性黄斑部写真によるBlueMountainsEyeStudy変法で判定.糖尿病網膜症45°眼底写真(ETDRSField1とField2)によるETDRS変法で判定.高血圧性変化局所狭細,交叉現象,血管径測定健康および視機能関連指標VF-14,EQ-5D,SF-8,簡易認知検査46あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(46)ract:theBeaverDamEyeStudy.ArchOphthalmol116:219-225,199811)KleinR,KleinBE,JensenSCetal:Thefive-yearincidenceandprogressionofage-relatedmaculopathy:theBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology104:7-21,199712)KleinBE,KleinR,SponselWEetal:Prevalenceofglaucoma.TheBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology99:1499-1504,199213)KleinR,KleinBE,LintonKLetal:TheBeaverDamEyeStudy:therelationofage-relatedmaculopathytosmoking.AmJEpidemiol137:190-200,199314)SmithW,AssinkJ,KleinRetal:Riskfactorsforagerelatedmaculardegeneration:Pooledfindingsfromthreecontinents.Ophthalmology108:697-704,200115)TomanySC,WangJJ,VanLeeuwenRetal:Riskfactorsforincidentage-relatedmaculardegeneration:pooledfindingsfrom3continents.Ophthalmology111:1280-1287,200416)MitchellP,SmithW,AtteboKetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology102:1450-1460,199517)AtteboK,MitchellP,SmithW:VisualacuityandthecausesofvisuallossinAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology103:357-364,199618)MitchellP,SmithW,AtteboKetal:PrevalenceofopenangleglaucomainAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology103:1661-1669,199619)MitchellP,CummingRG,AtteboKetal:PrevalenceofcataractinAustralia:theBlueMountainseyestudy.Ophthalmology104:581-588,199720)MitchellP,SmithW,WangJJetal:Prevalenceofdiabeticretinopathyinanoldercommunity.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology105:406-411,199821)WangJJ,MitchellP,SmithW:Refractiveerrorandagerelatedmaculopathy:theBlueMountainsEyeStudy.InvestOphthalmolVisSci39:2167-2171,199822)HofmanA,BretelerMM,vanDuijnCMetal:TheRotterdamStudy:objectivesanddesignupdate.EurJEpidemiol22:819-829,200723)HofmanA,BretelerMM,vanDuijnCMetal:TheRotterdamStudy:2010objectivesanddesignupdate.EurJEpidemiol24:553-572,200924)DielemansI,VingerlingJR,WolfsRCetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainapopulationbasedstudyinTheNetherlands.TheRotterdamStudy.Ophthalmology101:1851-1855,199425)VingerlingJR,DielemansI,HofmanAetal:Theprevalenceofage-relatedmaculopathyintheRotterdamStudy.Ophthalmology102:205-210,199526)DielemansI,deJongPT,StolkRetal:Primaryopenangleglaucoma,intraocularpressure,anddiabetesmellitusinthegeneralelderlypopulation.TheRotterdamStudy.Ophthalmology103:1271-1275,1996まとめ本稿では現在進行中の一般住民を対象とした代表的な疫学研究について概説した.一般住民を対象とした疫学研究は疾患の危険因子や保護因子を明らかにするだけでなく,病態に関する新しい仮説を創成したり検証したりすることができる.近年の疫学研究の特徴としては眼疾患が視機能や生活動作,生活の質(qualityoflife)に及ぶ影響を研究項目に加えていること,遺伝子多型について検討している点があげられる.有病率や発症率は診断や治療の進歩とともに絶えず変化しており,理想的には定点的かつ経時的に継続することでまだまだ理解されていない疾患の理解が進むことが期待される.文献1)WongTY,MwamburiM,KleinRetal:Ratesofprogressionindiabeticretinopathyduringdifferenttimeperiods:asystematicreviewandmeta-analysis.DiabetesCare32:2307-2313,20092)LeibowitzHM,KruegerDE,MaunderLRetal:TheFraminghameyestudymonograph:Anophthalmologicalandepidemiologicalstudyofcataract,glaucoma,diabeticretinopathy,maculardegeneration,andvisualacuityinageneralpopulationof2631adults,1973-1975.SurvOphthalmol24(Suppl):335-610,19803)KahnHA,LeibowitzHM,GanleyJPetal:TheFraminghamEyeStudy.I.Outlineandmajorprevalencefindings.AmJEpidemiol106:17-32,19774)KahnHA,LeibowitzHM,GanleyJPetal:TheFraminghamEyeStudy.II.AssociationofophthalmicpathologywithsinglevariablespreviouslymeasuredintheFraminghamHeartStudy.AmJEpidemiol106:33-41,19775)KiniMM,LeibowitzHM,ColtonTetal:Prevalenceofsenilecataract,diabeticretinopathy,senilemaculardegeneration,andopen-angleglaucomaintheFraminghameyestudy.AmJOphthalmol85:28-34,19786)KleinBE,KleinR,LintonKLetal:AssessmentofcataractsfromphotographsintheBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology97:1428-1433,19907)KleinR,DavisMD,MagliYLetal:TheWisconsinagerelatedmaculopathygradingsystem.Ophthalmology98:1128-1134,19918)KleinBE,KleinR,LintonKL:Prevalenceofage-relatedlensopacitiesinapopulation.TheBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology99:546-552,19929)KleinR,KleinBE,LintonKL:Prevalenceofage-relatedmaculopathy.TheBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology99:933-943,199210)KleinBE,KleinR,LeeKE:Incidenceofage-relatedcataあたらしい眼科Vol.28,No.1,20114727)CzudowskaMA,RamdasWD,WolfsRCetal:Incidenceofglaucomatousvisualfieldloss:aten-yearfollow-upfromtheRotterdamStudy.Ophthalmology117:1705-1712,201028)IkramMK,deJongFJ,BosMJetal:Retinalvesseldiametersandriskofstroke:theRotterdamStudy.Neurology66:1339-1343,200629)WieberdinkRG,IkramMK,KoudstaalPJetal:Retinalvascularcalibersandtheriskofintracerebralhemorrhageandcerebralinfarction:theRotterdamStudy.Stroke41:2757-2761,201030)VarmaR,PazSH,AzenSPetal:TheLosAngelesLatinoEyeStudy:design,methods,andbaselinedata.Ophthalmology111:1121-1131,200431)Fraser-BellS,VarmaR:EyediseaseinLatinos.IntOphthalmolClin43:79-89,200332)ChopraV,VarmaR,FrancisBAetal:Type2diabetesmellitusandtheriskofopen-angleglaucomatheLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmology115:227-232,200833)VarmaR,FoongAW,LaiMYetal:Four-yearincidenceandprogressionofage-relatedmaculardegeneration:theLosAngelesLatinoEyeStudy.AmJOphthalmol149:741-751,201034)VarmaR,ChungJ,FoongAWetal:Four-yearincidenceandprogressionofvisualimpairmentinLatinos:theLosAngelesLatinoEyeStudy.AmJOphthalmol149:713-727,201035)VarmaR,RichterGM,TorresMetal:Four-yearincidenceandprogressionoflensopacities:theLosAngelesLatinoEyeStudy.AmJOphthalmol149:728-734,201036)VarmaR,ChoudhuryF,KleinRetal:Four-yearincidenceandprogressionofdiabeticretinopathyandmacularedema:theLosAngelesLatinoEyeStudy.AmJOphthalmol149:752-761,201037)FoongAW,SawSM,LooJLetal:Rationaleandmethodologyforapopulation-basedstudyofeyediseasesinMalaypeople:TheSingaporeMalayeyestudy(SiMES).OphthalmicEpidemiol14:25-35,200738)LavanyaR,JeganathanVS,ZhengYetal:MethodologyoftheSingaporeIndianChineseCohort(SICC)eyestudy:quantifyingethnicvariationsintheepidemiologyofeyediseasesinAsians.OphthalmicEpidemiol16:325-336,200939)佐々木洋:わかりやすい眼科疫学レイキャビック・アイ・スタディ.あたらしい眼科26:17-24,2009(47)

日本における緑内障疫学

2011年1月31日 月曜日

36あたらしい眼科Vol.28,No.1,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)され,得られたデータを国際的な評価・診断基準に基づいて判定したうえでの緑内障有病率の再評価が行われた.結果として高受診率と精度の高い検査機器によって得られたデータを国際的な診断基準に基づいて判定することによっても日本人では明らかに正常眼圧緑内障有病率がきわめて高いことが確認され,国際的な評価を得ることとなった.久米島スタディは多治見スタディとほぼ同様のプロトコールで調査が行われ,特に緑内障の病型別有病率とさらに緑内障の病態解明に重要な眼のバイオメトリー,前眼部の画像解析が同時に行われた.多治見は都市近郊,久米島は離島という日本国内でありながらまったく異なった環境における住民の調査が行われ,緑内障有病率のみならず失明原因の違い,眼の疾病構造の違いなどその比較が可能となった.さらに多治見スタディ以降,緑内障疫学調査における病型診断には参加者全員の隅角鏡検査が必須となっており,久米島スタディでは全例に隅角鏡検査が行われ,より精度の高い病型診断が行われた.沖縄県はこれまでのいくつかの報告から閉塞隅角緑内障の発症が多いことが明らかにされており,参加者全例に実施した隅角鏡検査,さらに眼のバイオメトリー,画像データの解析は閉塞隅角緑内障の病態解明に重要と考えられた.また,開放隅角緑内障の有病率についても多治見スタディと同様の検査と診断基準で行われており,現時点では日本における緑内障疫学調査の集大成といえるものである.はじめに日本ではこれまで3つの大規模な緑内障疫学調査が行われた.塩瀬らが中心となり,北は北海道から南は九州熊本までの全国7カ所で1988.1989年に実施された,いわゆる全国スタディがその始まりであった1).さらに,2000.2001年には岩瀬らを中心とした多治見スタディが日本緑内障学会の支援のもと,日本のほぼ中央に位置する多治見市で実施された2).引き続いて2005.2006年には南西諸島の沖縄県久米島町で久米島スタディが実施されている.これまでの多くの報告から緑内障の有病率には民族差,人種差さらには地域差があることが明らかにされてきた.まず塩瀬らの全国疫学調査は日本人における緑内障の有病率を国際的に初めて報告したパイオニアとしてその後のわが国における疫学調査の基準となった.同時にその結果は日本人における正常眼圧緑内障の有病率が,これまでの国際的な報告に比べ異常に高値であることを明らかにし,国際的に注目された.多治見スタディの目的は1998年に緑内障の診断基準が国際的に統一され3,4),この定義に準拠した緑内障の疫学調査を行い,塩瀬らの正常眼圧緑内障の有病率の再確認,再検討を行うことが主要な目的の一つであった.さらに疫学調査として重要なポイントである,高い受診率,Goldmann圧平眼圧計を用いた精度の高い眼圧測定,視野検査の標準となったHumphrey視野計による測定,新しい眼科検査機器を用いた一般検診項目を含めて実施(36)*ShoichiSawaguchi:琉球大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科学教室特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):36.40,2011日本における緑内障疫学GlaucomaEpidemiologyinJapan澤口昭一*(37)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201137ニングに関与していない3名の緑内障専門医が行い,診断が困難な症例は3名の医師による意見の統一が図られた.閉塞隅角緑内障に関しては隅角鏡検査はvanHerick2度以下を対象とし,視野異常は診断の条件とした.全緑内障有病率5%,開放隅角緑内障3.9%,このうち正常眼圧緑内障3.3%.閉塞隅角緑内障0.6%,その他0.5%であった.3.久米島スタディ対象は40歳以上の全町民4,632人で,このうち3,762名が受診し,受診率は81.2%.眼圧測定は多治見スタディと同様にGoldmann圧平眼圧計で3回測定し,中央値を採用した.視野のスクリーニングにはFDAを使用,2次検査として行った視野検査はHFA24-2(SitaStandard)を使用し,AndersonPatellaの診断基準を用いた.1次検診の眼底写真のスクリーニング,最終判定は多治見スタディに準拠した.隅角鏡による隅角検査は全例に施行し,閉塞隅角緑内障の診断には緑内障性視神経障害(含む視野異常)は必須とした.II緑内障の診断基準と疫学調査緑内障の診断基準はすでに述べたように1998年にInternationalSocietyofGeographycalandEpidemiologicalOphthalmlogy(ISGEO)により統一した見解が明らかにされた.緑内障は視神経乳頭の構造的な異常と視野検査による機能的な異常の両方が合致することで診断されることとなった(表1)3,4).また,隅角に関してIわが国の各疫学調査の概略1.塩瀬全国調査1)参加者は40歳以上の成人で対象者16,078人中8,126人が受診し,受診率50.54%.眼圧測定は非接触型眼圧計.視野検査は,眼底写真と眼圧が高値の対象者にHumphrey視野のArmalyの中心30°のスクリーニングプログラムで行っている.眼底写真読影と緑内障判定は1人の緑内障専門医が行った.隅角鏡検査は浅前房,狭隅角眼のみ実施された.閉塞隅角緑内障の診断は高度の狭隅角のみ隅角鏡検査を行い,眼圧は21mmHgを超えること,視野は診断には必須ではない.全緑内障有病率3.56%,正常眼圧緑内障有病率2.04%,閉塞隅角緑内障有病率0.34%,平均眼圧は13.7mmHgであった.2.多治見スタディ2)対象は40歳以上の市民54,165人のなかから無作為に抽出された3,870人,このうち3,021人が受診し,受診率78.1%.眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計で3回連続して測定し中央値を採用.視野のスクリーニングとしてFDA(frequencydoublingtechnology)検査を,2次検査としてHFA30-2を使用し,AndersonPatellaの診断基準を用いた.1次検診の眼底写真のスクリーニングは3名の緑内障専門医が読影し,緑内障を含めた異常が疑われた場合は確定検査〔2次検査としてHFA30-2(SitaStandard)を実施〕を実施し,AndersonPatellaの診断基準を用いた.緑内障の診断は眼底写真スクリー表1横断的疫学調査における緑内障診断基準カテゴリー1による診断:乳頭形態と視機能の両方の異常が必須形態の異常:陥凹/乳頭比あるいはその左右差が正常人口における97.5%をはずれる(おおむね垂直C/D比が0.7以上).乳頭リムが11時.1時,5時.7時で乳頭径の0.1以下視機能の異常:緑内障による明らかな視野異常が存在するカテゴリー2による診断:明らかに進行した乳頭形態異常を示すが視野異常は必須でない形態の異常:陥凹/乳頭比あるいはその左右差が正常人口における99.5%をはずれる(おおむね垂直C/D比が0.9以上)場合視機能の異常:視野検査の有無や信頼性によらず,乳頭形態から緑内障と診断される(カテゴリー1,2の診断では陥凹の拡大が他の(眼)疾患によらないことが必要である)カテゴリー3による診断:視神経乳頭が観察不能,視野検査不能視神経乳頭の検査が不可能の場合:A.視力が0.05未満かつ眼圧が人口の99.5%を超える場合,あるいはB.視力が0.05未満でかつ濾過手術が施行されている,または証明できるカルテなどの記録(文献3より)38あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(38)密には狭周辺前房深度)が隅角鏡検査の対象となっており,一方,久米島スタディでは全例が隅角鏡検査の対象となっている.すなわち,久米島スタディのほうが隅角検査,および閉塞隅角緑内障の診断に関してはより厳密に行われており,閉塞隅角緑内障の頻度は当然ながら若干増加することが予想される.しかしながら近年の緑内障疫学調査はそのほとんどが全例の隅角鏡検査を実施しており,閉塞隅角緑内障の有病率の比較の点では久米島スタディはより国際的な比較検討ができるものと考えられる.III病型別緑内障有病率の比較1.開放隅角緑内障5)メタ分析を用いた開放隅角緑内障の有病率については,人種差が大きいこと,さらに黒人>白人>黄色人種の順であることが報告されている.特に黒人は開放隅角緑内障の有病率がきわめて高いことが多くの疫学調査で報告されている.このメタ分析を用いた開放隅角緑内障の有病率は黒人が4.2%(CI:3.1.5.8),白人が2.1%(CI:1.6.2.7),黄色人種(アジア系)はその有病率が低く1.4%(CI:1.0.2.0)とされている.それに対しわが国における塩瀬らの報告1)では正常眼圧緑内障を含めた開放隅角緑内障の有病率は2.8%(うち,正常眼圧緑内障が2.04%),さらに多治見スタディ2)では3.9%(うち,正常眼圧緑内障3.3%)であり,広義の開放隅角緑内障およびそこに含まれる正常眼圧緑内障の比率を含めて黄色人種のなかでは日本人は突出して高有病率であることが明らかになった.特にISGEOの判定基準で行っは2002年にFosterらによってまとめられ報告されている(表2)3,4).しかしながら隅角に関してはその定義が適切であるかどうかは今後の長期的な臨床における証拠の積み重ねが必要とも述べられている.以上のことから,特に閉塞隅角緑内障に関しては塩瀬らの診断基準とYamamotoらの診断基準は同一ではない.また,厳密にいうとYamamotoらの多治見スタディにおける閉塞隅角緑内障の診断は久米島スタディにおける診断とも若干異なっている(表3).すなわち,多治見スタディではvanHerick分類の2度以下の狭隅角(厳表2閉塞隅角症の分類1)閉塞隅角眼(閉塞隅角症疑い)(primaryangle-closuresuspect:PACS)機能的な隅角閉塞の可能性がある(下段参照)2)閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC)上記に加え,隅角閉塞の所見が認められるもので1.周辺虹彩前癒着,2.眼圧上昇,3.急性発作の所見(虹彩萎縮,Glaukom-flecken,線維柱帯の過剰な色素沈着),しかし緑内障性視神経症はない3)閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)PACに緑内障の診断を伴った場合疫学調査では暗室,正面視で細いスリット光による隅角鏡検査で線維柱帯色素帯が270°以上観察できない場合を閉塞隅角眼と定義している.しかしこの定義は完全なものではなく,長期的研究による評価が必要である.この定義に基づいたより多くの臨床的な証拠の積み重ねが現時点での最も重要な課題である(文献3より)表3日本における緑内障疫学調査―閉塞隅角緑内障の診断基準Shioseらの診断基準スクリーニング:非接触型眼圧計で18mmHg以上かつ,細隙灯検査でvanHerick分類で狭い症例隅角の確定診断:隅角鏡検査でShaffer分類がGrade0,1とスリット状(Shaffer2度以上は開放隅角)眼圧はGoldmann圧平眼圧計で21mmHg以上緑内障性視神経障害は必須ではないTajimiスタディの診断基準スクリーニング:Goldmann圧平眼圧計で19mmHg以上,乳頭異常など隅角はvanHerick法で2度以下隅角の確定診断:隅角鏡で線維柱帯色素帯が3象限以上見えない緑内障性視神経障害は必須Kumejimaスタディの診断基準スクリーニング:多治見スタディと同様隅角の確定診断:隅角鏡検査は全例実施隅角鏡で線維柱帯色素帯が3象限以上見えない(+Shaffer2度以下の象限にPAS)緑内障性視神経障害は必須PAS:周辺虹彩前癒着.(39)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201139IV超音波生体顕微鏡の結果から見えてきたもの久米島スタディでは多治見スタディに比べて閉塞隅角緑内障の有病率が数倍高い(約4倍弱)ことが明らかにされた.閉塞隅角緑内障の診断にはISGEOの定義以降から隅角鏡検査が必須である.隅角鏡検査は,特に狭隅角眼では観察者の経験,技量によりその判定に影響を受ける可能性のあることが指摘されている.久米島スタディでは40歳以上の全住民の10%を無作為抽出して超音波生体顕微鏡(UBM)による検査を行い,隅角鏡検査を裏付ける客観的なデータとして実際に狭隅角の頻度や一般住民の隅角形態の検討を行った7).これまでUBMによる検討はおもにホスピタルベースのものであり,一般住民対象の疫学調査では行われていない.今回の検討の対象は40歳以上の4,632人の久米島町の全住民から無作為抽出された10%の住民461人であった.このうち,388人(84.2%)が1次検診を受診し,白内障手術を含めた手術例,施行不能例,実施拒否などを除いた301人(男性149人,女性152人)がUBM検査の対象となった.検査方法はトーメー社製のUD-1000を用い,右眼の上,下,鼻,耳の4方向を明・暗の条件下で測定た多治見スタディの結果は高有病率である黒人とほぼ同程度であり,正常眼圧緑内障の有病率がきわめて高いことと併せて日本人の特徴と考えられる.久米島スタディも開放隅角緑内障の有病率に関しては多治見スタディとほぼ同等であり,正常眼圧緑内障の比率も近似しており,日本民族の特徴と考えられる.2.閉塞隅角緑内障6)国際的な閉塞隅角緑内障の診断基準が採用される前の有病率に関しては,イヌイットは2%を超える高い有病率であることが知られており,白人,黒人,ヒスパニックでは一般に低有病率であることが知られている(0.5%以下).しかしながら北イタリアでは0.6%,東アフリカタンザニアの黒人は0.6%と中等度の有病率であり,例外も知られている.1998年以降のISGEOの診断基準が採用されてからの閉塞隅角緑内障の有病率としてはアジア系では中国,シンガポールの中国系,モンゴルでは1%以上と高有病率を示す.インド系では0.25.1.1%とかなり報告によって差があり,中等度の有病率といえる.南アジアではミャンマーが突出して高く2.5%であるが,一方で,シンガポールのマレー系は0.1%と対照的に非常に低い有病率が報告されている.タイは50歳以上の調査であるが0.9%と報告された.わが国においては1988年の塩瀬らの全国調査で0.34%とかなり低い有病率が報告されたが,多治見スタディでは0.6%と報告された.この違いには1998年のISGEOの診断基準が一部関係していると考えられる.Yamamotoらは多治見スタディの0.6%の有病率は塩瀬らの診断基準に合わせると0.23%となることも併せて報告している.一方,塩瀬らの北海道の閉塞隅角緑内障の有病率はISGEOの診断基準に準拠すると2.26%と,非常に高値となり,これは同様に補正した熊本の0.31%の約7倍となり,日本における閉塞隅角緑内障の有病率の地域差が明らかとなった.この補正後の北海道における閉塞隅角緑内障の有病率は久米島スタディの有病率と類似していた.この閉塞隅角緑内障の有病率の違いを含め,眼球形態の違いを含めた久米島スタディの結果から,人類学的に比較的単一と考えられてきた日本人の起源がより複雑である可能性が示唆された.図1超音波生体顕微鏡検査における各パラメータの部位AOD500:強膜岬から線維柱帯に沿って500μmの位置から虹彩までの距離.TIA:隅角底の開大度(線維柱帯.隅角底.虹彩表面で作る角度).TCPD:強膜岬から線維柱帯へ500μmの位置から毛様体表面までの距離,ID:強膜岬から線維柱帯へ500μmの位置から毛様体表面へ垂線を引き,この部位の虹彩の厚み.SSTIAIDTCPDAOD500AOD250500μm250μm40あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(40)おわりにわが国における3つの緑内障疫学調査の概要と結果についてまとめた.さらに国際的な比較を行い,日本民族は開放隅角緑内障の有病率が高く,そのなかで正常眼圧緑内障の比率がきわめて高いことを報告した.閉塞隅角緑内障には明らかな地域差があり,多治見と久米島ではおよそ4倍弱の開きがあった.この久米島の閉塞隅角緑内障の有病率は国際的にも突出して高く,今回の疫学調査で得られた眼のバイオメトリーの結果は今後,閉塞隅角緑内障の病態解明に重要な情報を与えてくれるものと期待される.文献1)ShioseY,KitazawaY,TsukaharaSetal:EpidemiologyofglaucomainJapan─Anationwideglaucomasurvey─.JpnJOphthalmol35:133-155,19912)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimistudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedefinitionandclassificationofglaucomainprevalencesurvey.BrJOphthalmol86:238-242,20024)澤口昭一:観察研究(横断研究):久米島スタディ.あたらしい眼科26:45-50,20095)RudnickaAR,Mt-IsaS,OwenCGetal:Variationsinprimaryopen-angleglaucomaprevalencebyage,gender,andrace:ABayesianMeta-analysis.InvestOphthalmolVisSci47:4253-4261,20066)澤口昭一,酒井寛,仲村優子:日本人と原発閉塞隅角緑内障:PACGの人種差,地域差.あたらしい眼科24:987-992,20077)HenzanIM,TomidokoroA,UejoCetal:Ultrasoundbiomicroscopicconfigurationoftheanteriorsegmentinapopulation-basedstudy:TheKumejimaStudy.Ophthalmology117:1720-1728,20108)PavlinCJ,RitchR,FosterFS:Clinicaluseofultrasoundbiomicroscopy.Ophthalmology98:287-295,1991した.おもな測定パラメータのうち,AOD500,TCPD,TIA,IDの4項目について概説する(図1)8).全体:AOD500は明室で0.267mm,暗室で0.202mm,このパラメータは耳側>鼻側>下方>上方の順に広く,これまでの報告と同様に上方の隅角は最も狭いことが確認された.TIAは明室で22.2°,暗室で17.0°,同様に上方隅角が最も狭い角度であることが示された.TCPDは明室で0.755mm,暗室で0.748mmとほとんど変化せず,上方が最も値が小さく,毛様体は上方で虹彩に近づいていることが示された.男女で比較した場合,AOD500に有意差はないものの女性でより小さい数値であった.TIAは明室では男女で有意差はなかったものの,暗室では男性18.4°,女性15.6°と有意差を認めた(p=0.043).毛様体の位置を示すTCPDは明室(p=0.037),暗室(p=0.040)とも有意差を認め,女性において毛様体がより前方に位置していることが示された.明室・暗室におけるAOD500の差は(0.267.0.202=0.065mm)であり,毛様体の位置は明暗でほぼ変化がないこと,また虹彩厚み(ID)は明暗で(0.457.0.412=0.045mm)の変化量があることから,暗室におけるいっそうの狭隅角化の原因はおもに虹彩の厚みの変化量によることが示された.では今回の検討による一般住民の隅角は広いのかあるいは狭いのかについては,中国のLiwanスタディではAOD500が0.1mm,TIA10°が閉塞隅角緑内障の危険があると報告されている.今回の検討ではおおよそであるが,その両方に合致する住民が約3割含まれていた.さらにこれまで報告された急性閉塞隅角緑内障の僚眼あるいは慢性閉塞隅角緑内障眼との比較検討では,久米島住民の暗室AOD500の0.202mmは,ほぼこれらの値に近似しており,久米島住民の母集団がもともと狭隅角眼であることがこれら客観的なデータでも示された.