新しい治療と検査シリーズ206.ルテインによる加齢黄斑変性予防の可能性プレゼンテーション:小沢洋子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:尾花明聖隷浜松病院眼科.バックグラウンド加齢黄斑変性は国内の失明原因の4位を占め,高齢化社会にあっては避けて通れない疾患である.滲出型に対する治療法は普及したが,治療をうけても視機能障害を残すことは珍しくなく,また萎縮型には今のところ治療法がない.そこで,予防療法に期待が寄せられる.加齢黄斑変性発症の背景には,慢性炎症とそれに伴う酸化ストレスの遷延があると考えられており,その抑制が発症予防につながるという考え方は,受け入れやすい.この酸化ストレス抑制の観点から,米国ではビタミンC,E,b-カロテンと亜鉛からなるサプリメント(AREDSformula)の摂取により加齢黄斑変性の進行が予防できるかを検証する大規模臨床試験(Age-relatedEyeDiseaseStudy:AREDS)が行われた.米国では,その結果1)を受けて,すでに医師が患者にこれらのサプリメント摂取を勧めている2).米国では現在,さらなる予防効果を求めて新たな臨床試験AREDS2を行っている(図1).AREDS2では,AREDSformulaに加えて摂取するサプリメントとして,ドコサヘキサエン酸/エイコサペンタエン酸(DHA/EPA)とルテイン/ゼアキサンチンを取り上げた.ルテインはこれまでの小規模な介入試験から有望視され,AREDS2に組み込まれた..期待される予防療法(原理)元来,生物には,酸化ストレスを自己処理する機構がある.しかし,炎症などによりその能力を超えた酸化ストレスが発生すると,もしくは加齢によりその防衛能力が低下すると,酸化ストレスが蓄積し病態が発生すると考えられている.そこで,抗酸化作用のある物質を摂取して病態予防をもくろむ.現時点では,加齢黄斑変性予防のための認可をもつ抗酸化剤はなく,患者の選択でサプリメント(食品扱い)を摂取する方法が選択される.そのなかでもルテインに注目するには理由がある.ルテインは動物の生体内では産生できず,植物を食するこ(71)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY1.Placebo2.Lutein/Zeaxanthin10mg/2mg3.DHA/EPA*350mg/650mg4.2+3*DHA:ドコサヘキサエン酸(docosahexsaenoicacid)EPA:エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid)図1Age.RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)において検証中のサプリメントによる群わけAREDS2は50.85歳の加齢黄斑変性患者約4,000人を対象とした,米国における大規模臨床試験である.患者をAREDSformula(本文参照)に加え図のサプリメントを摂取する群に分け,5年後までに加齢黄斑変性の進行がみられるかを検証する.とで摂取される.ルテインは腸上皮から吸収され,血中を運ばれ,各臓器に蓄積されるが,そのなかでも網膜には皮膚などとともに,多く存在する.特に,黄斑には集中して存在しゼアキサンチンとともに黄斑色素を構成する.すなわち,ルテインには,元来,経口摂取したものが網膜に運搬される経路がある.サプリメントにより摂取強化を図れば,網膜に蓄積してより抗酸化能を発揮する可能性がある.また,ルテインの網膜内酸化ストレスの抑制効果については,動物実験の結果が各種報告され3),その面からも生体内の効果を期待できる抗酸化剤である..実際の勧め方まず,サプリメント摂取は,認可を受けた治療法ではないことをはっきりと説明する(表1).AREDS2は進行中でありまだ結果は出ていないこと,その結果は欧米人におけるものであり,日本人の加齢黄斑変性の予防効果に直結するかどうかは,検討の余地が残ることも,認識させることが重要である.そのうえで,AREDS2の結果を待っている間に発症してしまう可能性を少しでも減少させるためには,患者の理解のうえで,抗酸化剤の継続的摂取という選択肢があることをお話しする.まあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012359表1サプリメント(ルテイン)を勧める際の注意点1.サプリメント摂取は,認可を受けた治療法ではない2.AREDS2は進行中でありまだ結果は出ていない3.AREDS2の結果は欧米人における結果であり,日本人で加齢黄斑変性の予防効果があるかについては検討の余地が残る4.今後,AREDS2の結果が出ても,5年間摂取の結果に限られており,それ以上の期間の結果は出ない5.変化がなければ,予防効果を示していると考えられる6.年余にわたり継続摂取する方針が必要である7.AREDS2の結果を待っている間に発症してしまう可能性があるため,そのリスクを少しでも減少させるためには,以上のことを理解したうえで,抗酸化剤の継続的摂取をする選択肢がある=ルテインを選ぶ理由=・一般的に抗酸化作用をもつ物質である・元来動物においては,ルテインは体外から摂取されるものであり,網膜に運ばれる経路がある・動物実験から,生体網膜内での抗酸化作用が明らかになってきた患者には,加齢黄斑変性の病態や予後とともに,表の内容を伝える.た,摂取中に眼所見に変化がなければ,すなわちそれが予防効果を示していることに他ならず,年余にわたり継続摂取する方針が必要であることをお話しする.そして,ルテインを選ぶ理由(「期待される予防療法」の項参照)をお話しする.筆者らのアンケート結果からは,患者がサプリメントを摂取するかどうかの判断には,医師の言葉が大きく関与することが明らかになっており4),サプリメント摂取は(医師の処方ではなく)患者の自己選択・自己購入に任されるとはいえ,医師の言葉の重要性と責任は大きい..本方法の利点サプリメントは医師の処方なしに購入が可能であり,診断が確定していなくても摂取を開始することが可能である.また,ルテインにおいては,これまで各種小規模試験が行われたり,さらに食品として市販されたりしているが,大きな副作用が話題になったことは今のところない.ただし,世界的に公式な大規模臨床試験の結果はまだ出ておらず,効果・副作用いずれに関しても確固たるエビデンスが今のところないのは認識すべきである.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:14171436,20012)JagerRD,MielerWF,MillerJW:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed358:2606-2617,2008.Review.Erratumin:NEnglJMed359:1736,20083)OzawaY,SasakiM,TakahashiNetal:Neuroprotectiveeffectsofluteinintheretina.CurrPharmDes18:51-56,20124)SasakiM,ShinodaH,KotoTetal:Useofmicronutrientsupplementforpreventingadvancedage-relatedmaculardegenerationinJapan.ArchofOphthalmol,130:254-255,2012■本方法に対するコメント■ルテインに関するエビデンスを一言で表すと,状況ンチンも存在します.AREDS2ではルテイン対ゼア証拠は多数あるが,決定的物証がない,というところキサンチンの比率が5:1の製剤を使用していますが,です.AREDS2試験がその物証になるものと期待さその妥当性の証明は不十分です.れています.ただ,注意すべきは,著者の指摘のよう小腸で吸収されたルテインが視細胞の神経突起に分に,AREDS2は欧米人中心の試験で,体格や食生活布するまでの経路はかなり解明され,複数の輸送蛋白の異なる日本人にそのまま当てはめてよいのかは疑問の関与が示されていますが,それら輸送系の遺伝的差です.また,AREDS2では他の抗酸化ビタミンやミ異により,網膜の蓄積量に個人差ができます.食べるネラルを併用しているので,ルテイン単独の効果はわ量は個人によって違うのに,サプリメントは一律同じからないこと,あくまでも予防効果の検討なので,す量というのも理にそぐわない話で,まだまだ,解明すでに発症した患者に対する治療効果は不明な点もあげべきことは多いと思います.られます.さらに,網膜にはルテイン以外にゼアキサ360あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(72)