●連載眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長フリーデンウォールド賞視覚研究家の中から1968年の春の学会である.私は特別講演をしたあと,フリーデンウォールド賞をもらった.このときくらい,学問をすることは孤独だと感じたことはない.会が始まってから,特別講演の日までの3日間が,たいへん長かったことを今でも思い出す.学会に出席している同僚たちは祝福こそしてくれるが,みんな冷たく感じて仕方がない.もしかすると,その年,私が受賞することに対して不満の意を表明しているようにも見える.この大きな名誉をもらう前の緊張によるイライラだったにちがいないと思っている.たくさんの人々のお世話になってこその自分であるが,賞は私に対して与えられる.私はそれに対して責任を持たねばならないという気持ちを,実にひしひしと感じたのである.フリーデンウォールド博士はボルチモアの名門大学,ジョーンズ・ホプキンス大学の教授であった.1940年,50年代,それまで,主として臨床医学であった眼科学を科学的な分野にまで引き上げた人である.彼は眼科医であると共に,数学者であり,化学者であった.私は九大にいるころ,彼の開拓した組織化学の方法を通じて,すでに彼の名前を知っていた.1956年,癌(ガン)で亡くなったあと,彼の名前を残すため,この賞が設立され,毎年視覚に関する研究で,有意義な仕事をした人を,世界中から選び出し,賞を与えることになっている.受賞者は眼科学会だけでなく,一般医学の領域にも広がり,この分野で,最も誉れのある賞となっている.私はその後,この賞の選考委員を務めさせてもらっているが,どのような仕事が本当に受賞に値するかを決定するのはたいへんに難しいことを経験して(75)▲フリーデンウォール賞メダル.筆者の名前と日付が彫り込まれている.いる.イギリスの試験管ベビーを作った先生方に差し上げることになっていたアメリカの一つの学会の賞が,その寸前になって中止されたことが,最近新聞種になっている.取り消しの理由は,試験管ベビーそのものは耳新しいけれども,この二人の先生には,科学的の報告が欠けているというのである.このようなことになった裏には,たくさんの科学者がともに,ショーマンとしてふるまうことがあることに対して警戒されたものだと思う.40歳を越して,胸をさされない男(勲章をもらえない男)は,本当にさされて死んだ方がいいというような言いまわしがある.それは軍人のことであろう.しかし同様に,学問の世界でも,ある年数仕事を続けた後,世の中の人々から何かの形で認めてもらえなければならない.存在を認められるということは大切なことである.世の中のお役に立ったことを物語っていると同時に,それから始まる将来への力添えとなってくれる.われわれの周りにたくさんの優秀な学者がいて,あたらしい眼科Vol.29,No.4,20125090910-1810/12/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話立派な仕事をしているのに,一向にうだつの上がらない人々がいる.たいへんお気の毒である.このような研究者を観察すると,何か自分で作った殻の中に閉じこもっているような性格の人が多く,人々は彼を変人と呼んでいる.また,一方彼は運が悪かったと言い訳をすることも出来るが,往々にして仕事の意義を認識していない場合が多くある.このような人を,ちょっと目ざめさせるチャンスがあると,立派な業績となることが知られている.どこかこのシリーズで述べたが,本当に役に立つ仕事は普遍性があって,万人に応用してもらえるものでなくてはならない.さきの運の悪い人は,自分だけで満足して他人の言葉を聞かないような人がいるのも事実である.このような人は,学者生活に入ったころ,しっかりした指導者がいなかったことが,このような運命となった直接の原因のようでもある.私は非常に幸福にも,医学研究の手ほどきを,二人の偉人から受けた.九大で今井環教授から進行方向を示され,コーガン教授に実際をたたき込まれた.この二人の師があって,私はやっと,自立出来たのである.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2012Vol.29月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2012Vol.25■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/Myboom他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他http://www.medical-aoi.co.jpお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544510あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(76)