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現場発,病院と患者のためのシステム 1.病院向けパッケージの基礎知識

2012年2月29日 水曜日

はじめに医事会計システム,電子カルテシステムなど,病院向けのパッケージはベンダ(システム開発会社)から販売されており,病院では機能,導入コストなどを勘案し適宜選択している.しかし,安易な選択により問題点を抱えたまま使っている場合が少なからずある.そうならないための基礎知識を紹介する.ITの世界では,パッケージとは“出来合いの業務ソフトウェア”という意味だが,スーツでいえばいわゆる“吊し”である.適宜選んだのち,ズボンの丈を直すのが一般的で,少し待っていればできあがり,比較的安価で,早く着用できるという特長がある.これに対してオーダする場合は,一般的に高く,着られるまでに時間を要する.パッケージは,“吊し”に相当し,業務分析から入って一から作る(スクラッチ開発)は,オーダに相当する.どちらがよいのか?単純に費用と時間で比較すれば前者のほうに分があることは理解できるが,着心地という肝心の部分に相当する使い勝手は,明らかに後者に軍配があがる.また,価格的にスーツとソフトウェアパッケージとは桁が違うこと,一度導入すると,それを前提に院内業務が動いてしまっていること,および入力済みの多種多様な情報があり,簡単には買い換えられないことを考慮しなければならない.スーツと違って保守,バージョンアップの費用も見込まなければならないこともあり,慎重な事前検討が必要になる.ある調査会社のホームページに,パッケージ選定から稼働開始,運用,保守の導入フェーズ別の電子カルテ満足度推移があった.パッケージが決まった段階では,やや満足と満足を併せると50%以上が満足と評価するものの,稼働してしばらく経つと,両方併せても30%を切るようになり,使い続けて保守が必要になる頃には,20%まで下がり,満足と評価するのは5%以下になるというものである.また,この頃になると,導入直後にはなかった不満が増え,やや不満を併せると40%以上が何らかの不満を抱くようになるという.このデータだけでは,一概にはいえないものの,実態に近いのではないかと思わせるものであった.問題は,使い始めてから使(71)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYいづらいことに気がつくということである.慣れるしかないという話を聞いたことがあるが,事前の検討が不十分であること,およびパッケージ自体が現場の作業実態を反映した機能,操作性になっていなかったのではないかと想像される.価格と導入実績をみて,安易に決めてしまう傾向にあるのが現状といえるが,導入実績は文字通り導入した件数のことで,費用に見合う効果をあげているところ,患者,医師,看護師などコメディカルが満足して使っている件数ではないことに気をつけなければならない.ベンダは,成功事例を紹介することがあるが,うまくいっているといわなければならない立場の人物が応対することを考慮しなければならない.本当にうまくいっているとしても,その成功要因が自院に当てはまるかを検討しなければ損をしかねないことに,注意が必要である.不具合を慣れでカバーしてしまい,問題を問題と思わなくなってしまうと,本質的な解決は遠のき,本物の効果は期待できない..パッケージとはソフトウェアのパッケージとは,該当する業務を調査し,必要な機能を洗い出し,その機能をソフトウェアで実現したものだが,できるだけ適用範囲を広げなければならないという宿命があるため,平均値の仕様で作らざるを得ない.そのため,帯に短し,タスキに長しになるし,痒いところに手が届かず,不足部分を手作業で補い,不要な部分は使わないという,スクラッチ開発ではあり得ないことが起きる.その代わり,比較的出費が少*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIOあたらしい眼科Vol.29,No.2,2012219図1屋上屋を重ねる複数パッケージによる問題なく,早期導入ができるというメリットがあるといわれている.しかし,そのようなメリットを実感できるだろうか.パッケージの機能をそのまま使う場合には,少なくても早期導入というメリットを感じることができるが,多かれ少なかれカスタマイズを行うのが普通であり,早期とはいかない場合が多い.出費が抑えられるというメリットはどうだろう.パッケージの仕様を決める際,カスタマイズ可能な範囲をどこまで考えていたかで決まる.想定内であり,パラメータを変更するだけで対応可能な場合にはパッケージのメリットを感じることができるかもしれない.例えば,術式の指定をする処理で100種類の術式が用意されているところに,5種類の術式を追加する,あるいは登録済みの術式を削除したり,術式名を変更することはあり得ることだが,それが容易に行えるようになっているかである.クリニカルパスも同様で,既存パスの追加,変更,削除,新規のパスの登録が容易にできるように考えて作られているのが常識的な構造だが,そうなっているかをパッケージを選択する際に確認しておかなければならない.モダンホスピタルショーで見た再来受付システムでは,診察カードを挿入した際に表示される案内メッセージの文面を変更するには,ベンダが有償で行うという説明を受け,唖然としたことを覚えている.メインの機能だけではなく,このような機能まで調べておかないと,安いと思っていたパッケージが意外に高くつくことがあり,そのような事例が多いことを考慮しておかなければならない..屋上屋を重ねる全体構想があり,これに沿って順次投入されたのではなく,必要になった都度,必要になった業務をカバーする機能を,屋上屋を重ねるように作ってきたのが現状といえる.技術的なブレークスルーや,システムに期待されるものが質量共に大きく変化した場合には,リセットして作り直すべきだが,継ぎ接ぎのバージョンアップで乗り越えてきたパッケージは多い.業務種類ごとにそれを得意とするベンダのパッケージを導入した場合には,狭い診察台にパッケージ対応のディスプレイが複数置かれることになる.また,異なるベンダ製のパッケージの操作性は統一されておらず,情報の重複も発生し,障害発生時の対応に時間を要するなどの多くの問題を抱えることになる(図1).☆☆☆220あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(72)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 105.先天白内障術後の網膜剥離に対する硝子体手術(中級編)

2012年2月29日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載105105先天白内障術後の網膜.離に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに先天白内障術後晩期に生じる裂孔原性網膜.離の発症頻度は約10%と高く,発症時期も白内障手術から長期間(15.25年)経過してから生じることが多いとされている.白内障術後の器質化した残存水晶体皮質やSom-mering輪,虹彩後癒着による散瞳不良などで眼底の視認性が悪く,術前に裂孔が検出できないことも多い.また,患者の自覚症状の欠如(もともと視力不良のことが多い)と相まって,網膜.離の発見が遅れ重症化することもある.罹患眼はしばしば高度近視眼となっており,硝子体の液化変性も高度で硝子体手術の難易度は高い症例が多い.←●眼底視認性の確保が重要先天白内障術後の網膜.離に対して硝子体手術を施行する場合には,眼底周辺部の視認性確保が重要である.散瞳不良例では虹彩後癒着を解離した後にアイリスリトラクターで瞳孔形成を行うが,器質化した残存水晶体皮質やSommering輪などで周辺部の視認性が不良の場合(図1)には,必要に応じてこれを除去する必要がある.これらの白色塊は結構厚みがあるだけでなく非常に硬くなっていることが多く,通常の硝子体カッターでは切除が困難なことが多い.最近の小切開硝子体手術の普及で使用する機会は激減しているが,このような症例に対して筆者はフラグマトームTMを好んで使用している(図2).処理中に白色塊が眼底に落下することもあるが,フラグマトームTMとライトガイドによるchopsticktech-niqueで処理する(図3).これでもなお切除が困難な非常に硬い部分については,毛様体扁平部をやや大きく切開して硝子体鑷子で抜去する(図4).周辺部の混濁物が除去できれば,裂孔が容易に検出でき,網膜.離手術が非常にやりやすくなる(図5).なお,この方法に慣れていない場合には,強角膜切開創から水晶体白色組織を抜去したほうが早い.図1Sommering輪による混濁器質化した残存水晶体皮質やSommering輪などで眼底周辺部の視認性が不良である.→図2フラグマトームTMによるSommering輪の除去図3落下したSommering輪の処理図4毛様体扁平部から白色組織の摘出図5網膜.離の処理フラグマトームTMとライトガイドによるきわめて硬い組織は,毛様体扁平部をやや周辺部の混濁物が除去できれば,網膜chopsticktechniqueで処理する.大きく切開して硝子体鑷子で抜去する..離手術がやりやすくなる.(69)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122170910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 134.裂孔原性網膜剥離における手術進化と視細胞保護

2012年2月29日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第134回◆眼科医のための先端医療山下英俊裂孔原性網膜.離における手術進化と視細胞保護國方彦志(東北大学病院感覚器理学診療科眼科)JulesGoninが裂孔閉鎖を行った1900年代初頭から,裂孔原性網膜.離の病態は変わらないと考えられますが,サージャンを取り巻く環境と考え方は刻々と変わってきました.その最たるところは,手術デバイス革新がもたらした広角観察系,シャンデリア眼内照明,小切開硝子体手術(MIVS)や高精細内視鏡があげられるでしょう.今後も若年扁平網膜.離に対する強膜バックリングの重要性などは変わらないでしょうが,状況により術者は網膜.離に対する手術手技を変え,適切に対応することが大切と思われます.25ゲージ硝子体切除術(25G-MIVS)は2002年から現在に至るまで世界的に普及しており,最近ではさまざまな硝子体疾患に用いられるようになりました.眼内レンズ落下や眼内異物の処理にもMIVSは用いられ,その有用性・汎用性が確認されつつあります1,2).全網膜.離,脈絡膜.離,低眼圧を伴う場合など注意を要する場合もありますが,裂孔原性網膜.離に対する25G-MIVSは一般的になりつつあり,現在では初回復位率も非常に高くなりました3,4).筆者らの25G-MIVSを用いた検討では裂孔原性網膜.離84例84眼に関し,初回復位は80眼(95.2%)で得られ,最終復位は84眼(100%)で得られました4).その際,術後早期の低眼圧のみならず,高眼圧にも注意する必要があり,黄斑.離例は網膜合併症も多いことが明らかになりました.また,巨大裂孔網膜.離など特殊な症例に関しても,MIVSアプローチが可能で高い網膜復位率が得られつつあります5).しかしながら,復位は得られても視力予後の悪い症例も依然として多数存在します5).(65)図1裂孔原性網膜.離の治療―臨床上の問題点―PVR:増殖硝子体網膜症,RPE:網膜色素上皮.裂孔原性網膜.離の治療において,臨床上の問題点として,以下の3つが考えられます(図1).①網膜外の増殖性変化:網膜前・網膜下増殖膜の形成,多くは医原性に増殖硝子体網膜症へ移行.Gli-osis(Mullercells),RPEproliferation②グリア細胞,網膜色素上皮(RPE)の変化:網膜自体が固く術中に網膜伸展不可能.網膜接着不良.Gliosis(Mullercells),RPEimpairment③視細胞の変化:術後に網膜復位が得られても中心視力や視野が回復しない.Photoreceptordegene-ration(apoptosis)そのなかで,①②が存在しても,前述したように進化した最新の手術技術を駆使すれば,解剖学的にはほとんどの症例で網膜復位を得られるようになってきました.しかしながら,③に至ってしまうと復位は得られても,視細胞アポトーシスが主因と考えられる視力予後不良例になってしまうことが多いのです.網膜.離眼における視細胞アポトーシスの病態は近年解明されつつあり,動物実験によりmonocytechemoat-tractantprotein1(MCP-1)が重要な役割を果たしていることが明らかになっています6).MCPファミリーはあたらしい眼科Vol.29,No.2,20122130910-1810/12/\100/頁/JCOPY単球,好酸球,T細胞などの遊走を惹起させます.MCP-1は,マクロファージなど免疫担当細胞や血管内皮細胞など多くの細胞から分泌され,慢性炎症やアレルギー性炎症にも関与し,血管新生誘導や創傷治癒にも深く関与しています.このようにMCP-1は炎症に伴い局所で分泌され,分泌された領域に免疫担当細胞を集めると考えられています.さまざまな眼疾患においてもMCP-1の上昇が確認され,網膜領域では糖尿病性黄斑浮腫,網膜静脈分枝閉塞症黄斑浮腫(BRVOME),増殖糖尿病網膜症,裂孔原性網膜.離や増殖硝子体網膜症での上昇が明らかになっています.糖尿病網膜症患者などでは,血液や前房水でも上昇があることから,外来などで容易に測定できるバイオマーカーとしてもMCP-1は期待されます.MCP-1ノックアウトマウスにおける網膜.離モデルでは,ワイルドタイプに比べ有意に視細胞アポトーシスが低減され外顆粒層も保たれました6).さらにMCP-1中和抗体を用いれば,そのアポトーシスを抑制できることも明らかになりました.MCP-1をブロックする薬剤は広く炎症の治療薬になる可能性があり,網膜.離眼の初期においてMCP-1を制御できれば,アポトーシスをかなり防ぐことができる可能性が高いと考えられます.実際の臨床では,BRVOMEにおいてトリアムシノロンアセトニド(TA)硝子体注射が眼内のMCP-1を有意に低下させることが明らかになっています7).さらに,最近の筆者らの検討では,裂孔原性網膜.離においても眼内MCP-1はTA硝子体注射により制御できることがわかってきました.裂孔原性網膜.離は診断の時点ですでにアポトーシスが進行していることも多いと思われますが,さらなる進行を抑えるために,今後は手術の精度を上げるのみではなく,薬剤による視細胞保護を含めたハイブリッド治療を模索する必要があるかもしれません.裂孔原性網膜.離に対する治療は,特に硝子体手術分野において進化し,さまざまな状況下でも網膜復位が得られ,技術的には完成されつつあります.しかしながら,今後は,さらに良好な術後視機能獲得をねらい,サージカル・メディカル治療の融合が大切と考えられます.文献1)KunikataH,FuseN,AbeT:Fixatingdislocatedintraocu-larlensby25-gaugemicroincisionvitrectomy.OphthalmicSurgLasersImaging42:297-301,20112)KunikataH,UematsuM,NakazawaTetal:SuccessfulRemovalofLargeIntraocularForeignBodyby25-GaugeMicroincisionVitrectomySurgery.JOphthalmol2011:940323.Epub2011Apr43)KunikataH,NittaF,MeguroYetal:Di.cultyininsert-ing25-and23-gaugetrocar-cannuladuringvitrectomy.Ophthalmologica226:198-204,20114)KunikataH,NishidaK:Visualoutcomeandcomplicationsof25-gaugevitrectomyforrhegmatogenousretinaldetachment;Eighty-fourconsecutivecases.Eye24:1071-1077,20105)KunikataH,AbeT,NishidaK:Successfuloutcomesof25-and23-gaugevitrectomiesforgiantretinalteardetachments.OphthalmicSurgLasersImaging42:487-492,20116)NakazawaT,HisatomiT,NakazawaCetal:Monocytechemoattractantprotein1mediatesretinaldetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSA104:2425-2430,20077)KunikataH,ShimuraM,NakazawaTetal:Chemokinesinaqueoushumourbeforeandafterintravitrealtriamcino-loneacetonideineyeswithmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.ActaOphthalmologica,2010Apr23■「裂孔原性網膜.離における手術進化と視細胞保護」を読んで■今回は國方彦志先生による,網膜.離の分子病態とは開発されてきました.しかし,視力を向上させて疾網膜神経保護についての意欲的研究成果のご紹介で患が発症する前の状態にまで戻す治療の戦略はなかなす.われわれ眼科医の最終的な目的は言わずもがなでか進歩しておりません.すが,視力を正常にまで,つまり1.0にまで引き上げ今回,國方先生はMCP-1(本文参照)というサイることです.このためには戦略的に種々の疾患の診トカインが網膜の視細胞アポトーシスに関与している断・治療を行う必要があります.網膜の物理的な状況こと,その作用を制御することにより網膜視細胞の保(網膜.離,網膜浮腫,循環障害など)への対応策は護を行える可能性があることを示されました.われわかなり進歩してきました.循環障害についてはその回れ眼科医が今後進むべき研究の方向を具体的な成果と復はかなり困難ではありますが,正しく診断する方法ともにお示しいただいたことになります.國方先生は214あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(66)硝子体手術の名手として著名ですが,その先生が手術薬物治療の最適な選択と必要であればそれを組み合わ成果の向上のために基礎研究の重要さ,臨床と基礎研せた治療の開発」が期待されていると考えます.今回究ががっちりとタイアップしていくことの重要性をおの國方先生の総説は,手術と分子病態の今後の戦略を示しいただいたことになります.Benchtobed-side示す大変興味深いご報告と考えます.というのは言うは易く行うは難しですが,これからの山形大学医学部眼科山下英俊サージャンは修学的な治療戦略をリードする「手術と☆☆☆(67)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012215

新しい治療と検査シリーズ 205.アスタキサンチン

2012年2月29日 水曜日

新しい治療と検査シリーズ205.アスタキサンチン1)プレゼンテーション:北市伸義1,2)2)北海道医療大学個体差医療科学センター眼科学系/石田晋3)北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座/3)同眼科学分野コメント:杉田直東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野.バックグラウンドヒトは外界からの情報の80%以上を視覚に頼るが,近年の情報化社会は眼への負担をこれまで以上に過酷なものにしている.加えてわが国は世界一の長寿社会である.加齢に伴う多くの眼疾患や眼精疲労などに対して,天然由来のフードファクターによる介入はできないか,眼科医のみならず国民の関心も高い.ヒトは抗酸化物質を食物中から摂取する必要がある.アスタキサンチン(3,3¢-ジヒドロキシ-b,b-カロテン-4,4¢-ジオン:AST)は1938年,ドイツのリヒャルト・クーンらによって発見されたカロテノイドの一種であり,強力な抗酸化作用を有する.その活性酸素消去能はa-トコフェノールの550倍,フリーラジカル補足活性はルテインの3.5倍にもなる1).アスタキサンチンは元来,藻,酵母,細菌などが有害な太陽光線から自らを守るために合成し始め,その後魚類や甲殻類など食物連鎖上位の生物も同様の理由で利用し始めたと考えられている.カニ,サケ,イクラなどの赤橙色の主成分であり,人類が古来摂取してきた食品中に広く存在する2).準他覚的調節力(%)20015010050.新しい治療法の根拠―動物モデルでの検討アスタキサンチンは抗酸化作用だけではなく抗炎症作用も有する.ラットのエンドトキシン誘発ぶどう膜炎(EIU)モデルではアスタキサンチンにより前房水中の炎症細胞数や前房内蛋白濃度,プロスタグランジン(PG)E2,一酸化窒素(NO),腫瘍壊死因子(TNF)-a濃度がいずれも有意に低下した2).また,毛様体のNF-kB(核内因子kB)陽性細胞数も有意に減少していた2).さらに,加齢黄斑変性の終末病態であるレーザー誘導脈絡膜血管新生モデルでも,アスタキサンチンの摂取により脈絡膜血管新生が抑制され,その奏効機序もNF-kBを介する炎症機序の軽減によった3).したがっ(63)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYて,アスタキサンチンは免疫・炎症反応の中心的転写因子であるNF-kB阻害により抗炎症効果を発揮すると考えられる..使用方法―ヒトでの検討ついでヒトでの効果を検討する.被験者は日常的にパソコン業務などが多く,眼精疲労を自覚する健康成人とし,試験食品を4週間連日経口摂取した.対照群(非アスタキサンチン群)とアスタキサンチン6mg/日経口摂取群(アスタキサンチン群)の2群に分け,眼精疲労と調節機能を二重盲検法で比較した.摂取開始後の準他覚的調節力を14日目,28日目で比較するとアスタキサン250001428摂取日数図1健常成人におけるアスタキサンチン摂取後の調節力変化14日目以降アスタキサンチン摂取群では有意に調節力が向上した.表1アスタキサンチン摂取試験眼精疲労自覚症状調査項目1.目が疲れやすい*7.目が熱い2.目がかすむ*8.まぶしい,目を開けているのが辛い*3.まぶたが重い9.肩が凝る*4.目の奥が痛い*10.腰が痛い*5.充血する11.イライラしやすい*6.しょぼしょぼする*12.頭が重い*視覚アナログスケール法での改善項目.あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012211チン群では調節力が有意に改善し,その効果は摂取日数が長くなるほど増強した(図1).眼精疲労は自覚的視覚アナログスケール法を用いて摂取前後の客観的眼精疲労度評価を行った.その結果,12項目中「目が疲れやすい」「目がかすむ」「目の奥が痛い」「しょぼしょぼする」「まぶしい」「肩が凝る」「腰が痛い」「イライラしやすい」の8項目で改善がみられた2)(表1).さらに,筆者らの別の検討では,アスタキサンチンの摂取(12mg/日)により健常者の眼底血流速度が増加した4).健常者のアスタキサンチン摂取は,眼精疲労の軽減と調節機能の改善,眼底血流量の増加に有効であると考えられた..本方法の良い点アスタキサンチンの抗炎症効果はNF-kBシグナルを介するが,NF-kBはストレス反応,サイトカイン産生,紫外線障害,細胞増殖,アポトーシス,自己免疫疾患,悪性腫瘍など多くの生理現象に深く関与している.したがってアスタキサンチンは将来,眼精疲労,炎症性疾患,紫外線障害,加齢黄斑変性など多くの疾患に有用である可能性がある.さらに,古来人類が摂取してきた安全性の高さがある.今後いっそうその抗酸化作用,抗炎症作用の基礎的・臨床的エビデンスを蓄積すべきであると考えられる.文献1)大野重昭:海の幸サケ・エビ・カニは目に良いか?赤い色の正体は?.眼科ケア117:68-72,20082)北市伸義,大野重昭,石田晋:「眼に良い食べ物」サケ,イクラ,エビ,カニ(アスタキサンチン).あたらしい眼科27:43-46,20103)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Inhibitionofchoroidalneovascularizationwithananti-in.ammatorycarotenoidastaxanthin.InvestOphthalmolVisSci49:1679-1685,20084)SaitoM,YoshidaK,SaitoWetal:Astaxanthinincreaseschoroidalblood.owvelocity.GraefesArchClinExpOph-thalmol,inpress.本方法に対するコメント.アスタキサンチンは,今注目されている健康成分のまた,食品の中から特定の成分だけを抽出して摂取一つである.これはニンジンやほうれん草などの緑黄すると,より効果的にその成分を摂ることができる色野菜に多く含まれているbカロテンと同じカロテが,逆に,特定の成分を含んだ食品だけを大量に摂取ノイドとよばれる成分である.その特徴はbカロテすることでも,より多くのものが体内に取り込まれンよりも強力な抗酸化力をもっていることである.ヒる.しかし,こうしたことは必ずしも体に良いわけでトは紫外線を浴びると,体内で多くの活性酸素が発生はなく,なかには中毒的な副作用を及ぼすものもあるし,肌や体内の老化を進行させる原因になる.このサだろう.発表されている臨床データが少ないため,アプリメントは体内で発生した活性酸素を抑えることがスタキサンチンの副作用についての重大な障害の報告でき老化防止になる.北市らが示したような調節力のはないようだが,似たような成分物質で逆の視力減退変化が起こるのが本当ならば多くの眼精疲労患者の良などの症例が報告されている.また,妊娠中にサプリいサプリメントとなるであろう.ただし,NF-kBシメントなどで摂取した場合の安全確認も信頼できる報グナルを介しての抗炎症作用は,その作用メカニズム告がないため避けるべきであろう.の詳細が不明で多くの検証実験が必要な印象をもつ.☆☆☆212あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(64)

緑内障:緑内障Genome-Wide Association Study最新の知見: 1.どう見て,どう考えるか

2012年2月29日 水曜日

●連載140監修=岩田和雄山本哲也140.緑内障Genome.WideAssociationStudy池田陽子*1中野正和*2森和彦*1京都府立医科大学大学院医学研究科*1視覚機能再生外科学*2同ゲノム医科学最新の知見:1.どう見て,どう考えるか疾患の原因遺伝子を発見するためには,かつては家系から割り出す連鎖解析が行われていたが,2002年開始の国際HapMap計画を契機にマイクロアレイを用いるGenome-WideAssociationStudy(GWAS)の時代となった.本稿では,GWASの歴史と同定された緑内障遺伝子について解説する.●緑内障関連GWASの歴史ヒトゲノム上の300万箇所に及ぶ一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)をすべて列挙することを目的とした国際HapMap計画により,マイクロアレイの飛躍的な技術革新と解析費用の価格崩壊が起こり,Genome-WideAssociationStudy(GWAS)は急速な進歩を遂げた.緑内障関連では落屑緑内障(exfoliationglaucoma:XFG)に対するLOXL1(2007年;300K)1)の発見や,その後引き続いて筆者らの広義原発開放隅角緑内障(POAG)の報告(2009年;500K)2)を経て,現在は1,000Kアレイによる研究が進んでいる.GWASのまとめを図1に,主要2社のマイクロアレイを図2に示す.●GWASで同定された緑内障遺伝子1.LOXL1(XFG)北欧グループが報告したXFGのLOXL11)は弾性線1990維であるエラスチンの重合を触媒する.人種を超えて幅広く再現性が認められたが,LOXL1の1つのSNP(rs1048661)ではアジア人と白人とでリスクアレルが逆転,つまり危険と保護の正反対の作用を有していることが判明したため,今後のさらなる解明が待たれる.2.ZP4,PLXDC2,TMTC2(POAG)筆者らが同定したPOAGに関連するSNP2)の近傍に位置する遺伝子であり,機能は不明である.いずれも相対危険度が1.3前後と小さいため,POAGが多因子疾患であることを浮き彫りにした結果となった.現在のところ他人種では再現性が認められていないが,少ないサンプル数による検出力不足のためか,人種差のためかは今後の解析が待たれる.3.CAV1,CAV2(POAG)アイスランドの白人で報告されたSNP3)の近傍遺伝子で,細胞膜内在構造体の主要構成成分であるカベオリンをコードする.このSNPは日本人においてはバリアントではなく,人種差が存在している.また,相対危険度2003図1GWASの時代背景と同定2008された緑内障遺伝子GWASに至るまでは,遺伝子解5’3’析の手法は連鎖解析および候補遺伝子解析が主であった.しかしながら,1990年からのヒトゲノム計画が終了し,2003年に国際HapMap計画が始まってからGWAS解析手法が著しく進歩し,アレイの価格崩壊が起こったため,国家プロジェクトでなくとも参入が可能となりGWASの時代となった...ゎ…………………………………………………………………………………………..199019952000200520102015(61)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122090910-1810/12/\100/頁/JCOPY表1GWASで同定された緑内障関連領域と近傍遺伝子病型人種染色体領域遺伝子報告年文献落屑緑内障白人(アイスランド人)15q24LOXL120071)原発開放隅角緑内障(広義)アジア人(日本人)1q4310p1212q21ZP4PLXDC2TMTC220092)正常眼圧緑内障アジア人(日本人)2p216p12SRBD1ELOVL520105)原発開放隅角緑内障白人(アイスランド人)7q31CAV1CAV220103)原発開放隅角緑内障白人(オーストラリア人)1q249p21TMCO1CDKN2B-AS120114)GeneChipHumanMapping250KNsp/StyArrayHumanHap300SNPASNPBSNPCSNPASNPBSNPC図2GWASに用いるマイクロアレイGWASに用いるマイクロアレイは米国企業のアフィメトリクス社(左)とイルミナ社(右)の2つのアレイが主流となっている.前者はプローブが基盤に直接固層化されているのに対して,後者はビーズ上に固層化されているのが特徴である.が1.36であり,白人においてもPOAGが多因子疾患であることを示した.4.CDKN2B.AS1,TMCO1(POAG)オーストラリア人で報告された遺伝子4)で,SNPの相対危険度はそれぞれ1.50および1.68であった.CDKN2B-AS1が存在する9p21領域は心疾患・糖尿病など,多種多様な疾患の発症にかかわる領域であることが報告され,イギリス白人健常人での視神経乳頭サイズおよび垂直陥凹にかかわる遺伝子であるCDKN2Bもこの領域に存在する.5.SRBD1,ELOVL5(NTG)日本人正常眼圧緑内障(NTG)で報告され5),細胞増殖抑制やアポトーシスにかかわることが示唆されている.同じ日本人でNTGのみならず狭義POAGでの再210あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012現性も報告されている.●まとめGWASにて同定された緑内障関連領域と近傍遺伝子を表1にまとめた.大規模GWASを行えば統計学的に関連するSNPは同定できるが,多因子疾患の場合には相対危険度が高くアミノ酸置換を伴う遺伝子上の機能的SNPよりも,相対危険度が低く遺伝子の発現調節にかかわる遺伝子外のSNPが同定されることが多い.今後はこれらの結果を「遺伝子砂漠」に埋もれさせるのではなく,次世代シーケンサーを用いたさらなる解析にてその意義を明らかにしてゆく必要がある.文献1)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,20072)NakanoM,IkedaY,TaniguchiTetal:Threesusceptiblelociassociatedwithprimaryopen-angleglaucomaidenti.edbygenome-wideassociationstudyinaJapanesepopulation.ProcNatlAcadSciUSA106:12838-12842,20093)ThorleifssonG,WaltersGB,HewittAWetal:CommonvariantsnearCAV1andCAV2areassociatedwithpri-maryopen-angleglaucoma.NatGenet42:906-909,20104)BurdonKP,MacgregorS,HewittAWetal:Genome-wideassociationstudyidenti.essusceptibilitylociforopenangleglaucomaatTMCO1andCDKN2B-AS1.NatGenet43:574-578,20115)TheNormalTensionGlaucomaGeneticStudyGroupofJapanGlaucomaSociety:Genome-wideassociationstudyofnormaltensionglaucoma:commonvariantsinSRBD1andELOVL5contributetodiseasesusceptibility.Ophthal-mology117:1331-1338,2010(62)

屈折矯正手術:有水晶体眼内レンズICLTMにおけるレーザー虹彩切開術による光視症

2012年2月29日 水曜日

監修=木下茂●連載141大橋裕一坪田一男141.有水晶体眼内レンズICLTMにおける磯谷尚輝中村友昭REC名古屋アイクリニックレーザー虹彩切開術による光視症ICLTM(ImplantableCollamerLens)術前処置で行うレーザー虹彩切開術(LI)で,合併症として光視症を経験した.術前のインフォームド・コンセントではICLTMの合併症とともに,LIの合併症についても十分な説明をしなければならない.後房型有水晶体眼内レンズICLTM(ImplantableCol-lamerLens)は,LASIK(laserinsitukeratomi-leusis)の適応外となる.10D以上の最強度近視も矯正可能なレンズであり,わが国でもICLTMが2010年に,乱視も矯正可能なToric-ICLTMが2011年に厚生労働省より認可された.角膜形状にほとんど変化をきたさず,また手術に伴う光学的損失が少ないという特性のため,高度近視のみではなく,LASIKが可能な近視の範囲においても屈折矯正手術の選択肢として用いられるようになった.ICLTMは虹彩と水晶体のわずかな間隙に挿入し,毛様溝に固定する.術後,ICLTMによる瞳孔ブロックにより急性緑内障をきたさないよう,術前に予防的にレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または,術中に周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)を施行する必要がある.LIの合併症として角膜内皮細胞障害が多く報告されているが,筆者の施設ではICLTMを過去に800眼以上行っており,全例において術前あるいは術中にLIないしはPI(ほとんどが術前LI)を施行している.現在のところ施行後に角膜内皮細胞減少を認める症例はない.しかし,LI施行翌日からその合併症と思われる光視症を訴える症例を1例経験した.ICLTMの術前LIは通常は1時半と10時半の2カ所,大きさは0.8mm程度が推奨されている.当院では現在1カ所のみ(1時半または10時半),眼瞼で隠れるように虹彩周辺部に行っている.LIの位置が上眼瞼で隠れず,虹彩上部の露出が多い場合では光視症を訴える可能性が考えられるが,今回の症例では他の症例と比較しても施行位置に違いはない(図1).患者は下方からの差し込むような光の眩しさ,視野の下方に光が波打ったように見えるといった症状を訴えた.多くはないが過去にも同じような症状を報告した文献があり1.3),当院でもど(59)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1光視症を訴えた症例生活に支障が出る1最初からあり気にはなるが2我慢できる程度最初からあったが消えた6最初は気になっていたが経過10とともに気にならなくなったLI翌日から症状なし16024681012141618(人)図2光視症についてのアンケートのくらいの割合で発生しているのか,ICLTMを施行した35人を対象に聞き取り調査を行った(図2).今回,光視症を訴えた1症例以外には「生活に支障が出る」という訴えは見当たらなかったが,初期は約半数に少なからず光視症の症状があることがわかった.「最初は気になっていたが経過とともに気にならなくなった」と答えた10人は,1週間後には気にならなくなったという症例もあれば,約1年後に気にならなくなったという症例もあり,個人によって違いがあった.また,「最初からあったが消えた」と答えた6人も同様に症状が消えるまであたらしい眼科Vol.29,No.2,2012207図3フレッシュルックRデイリーズR(チバビジョン社)を装用した前眼部写真LIの穴を覆うことはできたが効果はない.に1週間.約1年と個人によって違いがあった.今回の症例は術後6カ月を経過しており,今後も消失もしくは軽減する可能性があるが,現状の改善を強く望んだため1dayアキュビューRディファイン(ジョンソン&ジョンソン社)の処方を試みた.しかしアクセント(黒),ヴィヴィット(茶)とも効果はなく,フレッシュルックRデイリーズR(チバビジョン社)も同じく効果はなかった(図3).両ソフトコンタクトレンズとも周辺部のみに色がついており,LIの穴を覆うことはできたが効果はないとのことであった.そこで広範囲に色をつけることが可能な虹彩付きソフトコンタクトレンズ(シード社)を試みた.このレンズは虹彩径,瞳孔径,色,ベースカーブ,度数のパラメータが製作範囲内であれば任意に調節が可能なレンズである.今回は色味を中心に虹彩が茶色の薄いタイプから濃いタイプ,黒いタイプを試した.その中で黒いタイプは,最も光視症を軽減することができ,若干視界が暗く感じる症状を訴えるも,患者本人からは80%満足という結果を得た(図4).現在は引き続き,光視症の消失・軽減を経過観察中である.今回の症例を含め,LIを施行した位置や大きさに患者間にほとんど差はない.つまり光視症を訴えた症例のLIの位置がより中央に施行されていたとか大きなLIであったということはなかった.さらに入射光の進路を勘案し前房深度,角膜径,角膜曲率半径が影響していることも考えられたが,今回の検討においては患者間で有意な差はみられなかった.それらの結果から個人の感受性や順応能力,さらには性格が深くかかわっている可能性が考えられた.208あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012図4虹彩付きソフトコンタクトレンズ(シード社)を装用した前眼部写真症状は80%改善された.LIによる光視症の報告は少ないが,Venessaら4)によると,LI後の複視,グレア,網膜障害などの合併症は少なからずあり,そのなかでも異常光視症は案外と多い.また,筆者らはLI施行位置が上方の場合と耳側の場合とを検討しており,意外なことに,LI施行位置が耳側のほうが異常光視症の発生頻度は少ないと報告している.つまり,単純にLIの位置が眼瞼に隠れているからといって,光視症の予防にはなりえないようである.今回報告した光視症の症状は誰にでも起こりうる可能性があることから,LI施行前に起こりえる合併症を説明し,同意を得ることが重要と考える.つまり,ICLTMは手術そのものの合併症とともに,術前処置におけるLIやPIについての合併症についても十分留意しなくてはならない.今後はわが国においては未認可ではあるが,清水らにより開発されたICLTMの中央部に房水循環を促す穴を開けた新たなICLが使用可能になれば,LI・PIが必要なくなり,これらの懸念もなくなるかもしれない.文献1)WeintraubJ,BerkeSJ:Blurringafteriridotomy.Ophthal-mology99:218-224,19922)SpaethGL,IdowuO,SeligsohnA:Thee.ectsofiridoto-mysizeandpositiononsymptoms.JGlaucoma14:364-367,20053)MurphyPH,TropeGE:Monocularblurring.Acomplica-tionofYAGlaseriridotomy.Ophthalmology98:1539-1542,19914)VenessaV,IqbalI:LPIs:Makingagoodthingbetter.ReviewofOphthalmologySeptember2010:76-78(60)

眼内レンズ:ゼメリング輪の除去と脱臼眼内レンズの整復

2012年2月29日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎森秀夫大阪市立総合医療センター眼科306.ゼメリング輪の除去と脱臼眼内レンズの整復ゼメリング輪(S輪)は白内障術後に残存水晶体上皮が増殖し.周辺の白色混濁となったものである.S輪の圧排により前房に脱臼した眼内レンズ(IOL)を,S輪を除去して毛様溝に整復した.除去法は粘弾性物質を前.とS輪間に注入してS輪を遊離させ,硝子体側からカッターで切除した.この方法は前房内のIOLに妨げられず施行できる利点があった.ゼメリング輪(Soemmerring’sring;以下,S輪)は白内障術後の水晶体.周辺部の白色混濁で,本態は残存水晶体上皮の過剰増殖であり,中央に及ぶとElschnig’spearlsとなる1).S輪は.外固定の眼内レンズ(IOL)を圧排して近視化と乱視の増強をきたしたり2),IOL光学部の偏心・前房への脱臼,視力低下などをきたす3)場合がある.筆者はS輪の圧排により前房へ支持部・光学部ともに脱臼したIOLを,S輪を除去して再び毛様溝に整復できた症例を経験した.●症例患者:73歳,女性.2000年に左眼の緑内障発作を発症し,両眼白内障手術を受けた.2005年4月に左眼IOLの前房内脱臼を指摘されたが放置した.当時矯正視力は0.4であった.2008年10月にIOL摘出および縫着を目的に当科を紹介された.【初診時所見】視力は右眼0.4(1.0×.1.5D(.cyl2.0DAx100°),左眼0.07(0.1×+1.25D(.cyl4.0DAx70°)で,左眼の視力不良とIOLの傾斜が原因と思われる著明な乱視を認めた.眼圧は両眼正常で,左眼に角膜内皮細胞密度減少(1,579/mm2)を認めた.右眼は瞳孔正円で,IOLは.外固定されて中央に位置し,眼底などに著変はなかった.左眼瞳孔は緑内障発作により散瞳固定していた.水晶体.全周に著明なS輪を認め,虹彩およびIOLを後方より圧排し,IOLは光学部・支持部ともに前房に脱臼していた(図1).前部硝子体には虹彩由来の色素が浮遊していた.視神経・網膜に著変はなかった.●手術S輪除去手術は,まず27ゲージ(G)鋭針にて,前.(57)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼前眼部所見IOLが前房に脱臼.著明なゼメリング輪を認める.切開縁から.内に粘弾性物質を注入して前後.の癒着を.離し,23Gの吸引器具でS輪の吸引除去を試みたが,S輪は.との癒着が強く不可能であった.つぎに,毛様体扁平部(parsplama:PP)に灌流ポートを取り付け,PPより20G硝子体カッターを挿入し,後.中央部を切除して.内にカッターを挿入してS輪の吸引切除を試みたが,癒着が強くやはり不可能であった.しかし,この操作で混濁した前部硝子体は切除された.図2粘弾性物質によるゼメリング輪の遊離あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012205図3術後の前眼部所見IOLは整復されている.つぎに,角膜サイドポートからスパーテルを挿入し,前.とS輪を一部.離し,そこに大量の粘弾性物質を注入するとS輪の一部が.から遊離できた(図2)ので硝子体側からカッター(回転数300.400/分)で切除した.この操作を繰り返しS輪を完全に除去した.S輪の一部は眼底に落下したが,やはりカッターにて容易に切除できた.この結果,虹彩と水晶体.の間に十分なスペースができ,IOLを毛様溝に整復固定できた(図3).視力は術後1カ月で0.2(0.3×+0.5D(cyl.1.5DAx90°)に改善した.乱視は著明に減少し,近視も若干減弱した.状態は術後1年半の最終観察時まで安定していた.●考察本症例は緑内障発作のため瞳孔が散瞳固定しており,S輪の圧排で.外固定のIOL全体が前房に脱臼したと思われる.S輪除去とIOLの整復を試みたが,S輪と.との接着は強く,吸引除去は不可能であった.粘弾性物質を.内周辺部に大量に注入するとS輪は.から分離でき,PPから挿入した硝子体カッター(回転数300.400/分)にて容易に切除できた.その後既存のIOLを毛様溝に整復して,視力改善と乱視・近視の軽減を得た.S輪には硬軟両方の部分があるとされ,硬部はカッターでは切除できないとする意見4)や,後.を切除すれば硬部も水に触れて軟化し,切除可能となるとする意見もある5).また,硬部に超音波チップを使用した報告6)もみられる.いずれも1例報告であり,そのときどきの術者の判断で安全かつ侵襲の少ない方法が選択されるべきであろう.今回の症例では特に硬い部分はみられなかったが,手術中に水分を含んで軟化していた可能性はある.S輪除去とIOL再建を施行した報告は少ないが,角膜輪部からアプローチして,前房に脱臼したIOLを摘出し,前.を大きく切開してS輪の軟部は吸引除去し,硬部は輪部創から摘出し,残った.内に新しいIOLを固定したものがある3).角膜輪部からの操作は前房内にIOLがあるとむずかしいので摘出するほうが無難であるが,今回のように硝子体側からの操作は前房内のIOLに妨げられない利点があった.文献1)林研:後発白内障の成因と対策.臨眼55:129-133,20012)矢舩伊那子,植木麻理,南政宏ほか:Soemmering’sringにより眼内レンズ偏位をきたした1例.臨眼61:1111-1115,20073)GimbelHV,VenkataramanA:Secondaryin-the-bagintraocularlensimplantationfollowingremovalofSoem-meringringcontents.JCataractRefractSurg34:1246-1249,20084)蔭山誠,中塚和夫,小野ひろみ:Soemmering’sring摘出法が手術の成否を分けた網膜.離の2症例.臨眼87:2447-2449,19935)矢舩伊那子,植木麻里,片岡英樹ほか:硝子体手術時のSoemmeringringの処理法.臨眼59:503-506,20056)小路万里:Soemmeringringに包埋されていた眼内鉄片異物の1症例.臨眼51:1021-1024,1997

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 ハードコンタクトレンズのベースカーブとレンズサイズについて考える(1)

2012年2月29日 水曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】332.ハードコンタクトレンズのベースカーブと植田喜一レンズサイズについて考える(1)ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学ハードコンタクトレンズ(HCL)をうまくフィッティングさせるためには,ベースカーブ(BC),レンズサイズを適正に選択する必要がある.メーカーから提供されたトライアルレンズは,BCについては数多く用意されているが,レンズサイズについては通常ワンサイズのみであることが多い.したがって,BCの選択に力を注いでも,レンズサイズには関心をもたない眼科医が多い.しかしながら,HCLのフィッティングはBCよりもレンズサイズに大きく影響を受ける.HCLの処方にあたっては,まずレンズサイズを選定した後にBCを選択したほうがよい.●レンズの重心角膜上のHCLは常に下方に降りようとする重力が働くが,その重心の位置が前方にあるとHCLは下方にずれやすく,逆に後方にあるほど角膜上での安定性は増す.レンズサイズについていうと,小さいレンズよりも大きいレンズのほうが重心は後方に位置するため安定しやすい.同様に,BCの大きいレンズよりも小さいレンズのほうが,プラスレンズよりもマイナスレンズのほうが,厚いレンズよりも薄いレンズのほうが安定しやすい(図1).図2Clcpの直径とレンズ光学部直径Cornealcapの直o径rとeレンaズの光学部の直径が一致する(a)とレンズのセンタリングがよいが,一致しない(b)とセンタリング不良になりやすい.●角膜とレンズサイズ一般的に角膜曲率半径ならびに角膜径が大きい症例では大きなレンズサイズを選び,角膜曲率半径ならびに角膜径が小さい症例では小さなレンズサイズを選択するが,レンズの中央部を角膜中央部の形状にできるだけ沿うようにするアライメントフィットを考えた場合,レンズサイズはレンズの光学部直径とcornealcapの直径がレンズサイズが小レンズサイズが大BCが大BCが小(+)レンズ(-)レンズ厚いレンズ薄いレンズ図1CLの重心CLはその重心が前方にあるほど下方にずれやすい.(55)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122030910-1810/12/\100/頁/JCOPYBC:7.70mmBC:7.65mmレンズサイズ:8.5mmレンズサイズ:8.9mm図3角膜形状によるレンズサイズの選択Cornealcapが小さければレンズサイズは小さいもの(a)を,cornealcapが大きければレンズサイズは大きいもの(b)を選択する.一致した場合にレンズのセンタリングは良好になり,しかも涙液交換も効率よく行われるので,光学部直径にベベルを含む周辺カーブを加えた値をレンズサイズとするとよい(図2).Cornealcapは角膜中央部の曲率の変動が1D以下の領域でほぼ球面とみなせる範囲をいう.具体的には,cornealcapの直径が7.8mmであれば光学部直径は7.8mmとし,さらにベベル幅を0.6mmとす表1同一被覆率の角膜径とレンズサイズ角膜径(mm)10.511.011.512.012.5レンズサイズ(mm)8.08.48.89.29.6被覆率(%)59.258.358.658.859.0ると両側に1.2mm必要で,レンズサイズは9.0mmになる.図3のaとbは角膜曲率半径に大きな差はないが,cornealcapの大きさが異なる症例である.図3aのようにcornealcapが小さい症例ではレンズサイズは小さいものを,逆に図3bのようにcornealcapが大きい症例ではレンズサイズは大きいものを選択する.オートケラトメータで計測される部位は角膜中央部の3.4mmの数カ所であって,角膜の広い範囲を測定したものではないので,症例によってはビデオケラトスコープで角膜形状を測定してレンズサイズを考えることも大切である.サンコンタクトレンズ社のカスタムメイドではこれまでの臨床経験からレンズサイズはHCLが角膜を覆う割合(被覆面積割合:被覆率)を考慮して決定している.角膜径をもとにして被覆率を計算してレンズサイズを導き出している(表1).たとえば,角膜径が11.5mmの場合,レンズサイズは8.8mmとなるが,実際には角膜曲率半径の値も考慮されている.☆☆☆204あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(56)

写真:眼球結膜に生じた伝染性軟属腫

2012年2月29日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦333.眼球結膜に生じた伝染性軟属腫横井桂子篠宮克彦横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①:眼瞼縁に生じた伝染性軟属腫.②:眼球結膜に生じた伝染性軟属腫.図1伝染性軟属腫(43歳,男性)上眼瞼縁に増殖した腫瘤と,眼球結膜に限局性で表面が平滑な光沢のある白い結節性病変の集簇を認める.図3切除結膜の病理組織所見上皮の基底部数層上から表層へ向かって,好酸性細胞質封入体の充満した細胞を多数認める.上層ほど封入体は大きく,核は周辺に圧排されている.Bar=100μm.図4伝染性軟属腫単純切除後切除してから3カ月後には切除部以外も含めすべての病変が消失した.(53)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122010910-1810/12/\100/頁/JCOPY春季カタルは男児に好発し,結膜の増殖性変化とともに角膜障害を合併する重症のアレルギー性結膜炎であり,緩解増悪を繰り返し治療に苦慮する疾患である.治療にはステロイド剤の点眼や内服などを必要とすることが多いが,近年,免疫抑制剤点眼が使用できるようになり,結膜の増殖性変化の沈静化と緩解期の維持に非常に有効で,コントロールがしやすくなった.さらに,ステロイド剤のような眼圧上昇もなく使いやすいが,副作用として最も注意しなければならないのは,その名のとおり局所の免疫力を抑制することから,感染症があげられる.特に,アトピー性皮膚炎を合併している場合,免疫力の低下があり,さらに危険性が高まる.免疫抑制剤の点眼時における感染症はあらゆるものが想定されるが,今回,タクロリムス点眼薬使用時に眼瞼縁および眼球結膜に伝染性軟属腫を発症した症例を経験した.症例は43歳の男性で,アトピー性皮膚炎があり,長年にわたり春季カタルに対し治療を続けていた.増悪緩解を繰り返し,緩解期でも自他覚所見が軽度残存し,ステロイド点眼薬から離脱することが困難であった.タクロリムス点眼薬開始から,角結膜所見の改善とともに自覚症状が消失し,ステロイド点眼薬の離脱が可能となった.しかし,タクロリムス点眼薬の維持は必要で,増悪期にはステロイド点眼薬の一時的な併用をしていた.タクロリムス点眼薬使用開始から2年後,左上眼瞼縁に小隆起性病変が,その半年後には左眼球結膜に白い結節性病変が数個出現した.自覚症状はなく,さらに経過観察していたところ,半年で左眼球結膜の結節性病変の数が増加し(図1),右眼球結膜にも同様の病変が数個出現した.診断および加療目的で,左眼瞼縁病変部と眼球結膜の病変を切除し,病理組織学的検討を行ったところ,伝染性軟属腫であることが判明した(図3).3カ月後には残存していた左眼および右眼の病変がすべて消失した(図4).伝染性軟属腫(molluscumcontagiosum)はMollu-scipoxvirusgenusによる感染症で皮膚に良性多発性の1.数mmの丘疹を生じる.白い内容物のある丘疹の中央はややくぼんでいることが多い.俗に「みずいぼ」として知られており,幼い子供で直接接触することで感染し,1年以内に自然消失する.通常は免疫が形成されると再発しないが,アトピー性皮膚炎では成人でも認められ,免疫不全状態では遷延化あるいは重症化することがある.病理組織像は,増殖した表皮細胞の細胞質に好酸性の封入体(molluscum小体)が認められるのが特徴的である.眼科領域では眼瞼縁に好発し,点状表層角膜炎,濾胞性結膜炎を伴うこともある.通常は自然治癒が望めるので経過観察も可能であるが,積極的には単純切除やレーザー治療が行われる1).本症例は,眼球結膜に限局性の結節性病変を認めた稀な症例2,3)であるが,アトピー性皮膚炎を合併する春季カタルに免疫抑制剤の点眼薬を長期に使用し,さらにステロイド点眼薬の併用を行う際には,あらゆるタイプの感染症が生じる得ることを念頭に置く必要があると思われる.文献1)DeborahPL:Viraldiseaseoftheocularanteriorseg-ment:basicscienceandclinicaldisease.In:SmolinandThoft’sthecornea.FosterCS,AzarDT,DohlmanCHeds,p297-393.LippincottWilliam&Wilkins,Philadelphia,20052)CharlesNC,FiedbergDN:Epibulbarmolluscumcontagiosuminacquiredimmunede.ciencysyndrome.Casereportandreviewoftheliterature.Ophthalmology99:1123-1126,19923)IngrahamHJ,SchoenleberDB:Epibulbarmolluscumcontagiosum.AmJOphthalmol125:394-396,1998

屈折矯正手術後の眼内レンズ度数計算

2012年2月29日 水曜日

屈折矯正手術後の眼内レンズ度数計算IntraocularLensPowerCalculationafterRefractiveSurgery根岸一乃*はじめにエキシマレーザー角膜屈折矯正手術は,2000年に国内で承認が得られてから,徐々に普及し,現在その件数は年間数十万件に達している.エキシマレーザー角膜屈折矯正手術は,手術としては安全性が高く,矯正精度および術後の安定性が良好であり,患者満足度も高い.しかし,エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後眼では,通常の白内障手術患者よりも眼内レンズ(IOL)度数の計算誤差が大きいことが知られており,大きな問題となっている1).本稿では,エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後眼に対するIOL度数計算の現状と問題点について,最近の知見をまとめる.I計算誤差の原因屈折矯正術後のIOL計算誤差の主原因は,機器の測定誤差,屈折率の誤差,計算式の誤差の3つに分けられる2,3).機器の測定誤差に関しては,ほとんどのケラトメータは角膜を球面あるいはトーリック面と仮定して角膜中央2.5.3.2mmの範囲を測定しているが,角膜近視矯正手術後は形状変化のため,その仮定は成立しない4,5).屈折率に関しては,エキシマレーザー角膜屈折矯正手術では角膜前面形状は変化するものの,後面はほとんど変化しないため,前後面の比が変化し,換算屈折率(1.3375)を使用すると誤差の原因となる.3番目にあげられた計算式の誤差とはHolladay,Ho.erQ,SRK/T(Sanders-Retzla.-Kra./theoretical)など現在汎用されている第三世代の理論式に含まれる誤差である.これらの式では,術後前房深度(e.ectivelensposition:ELP)を角膜曲率半径から予測する.エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後,角膜は平坦化するが前房深度はほとんど変化しないため6),第三世代の理論式では,平坦化した角膜データからELPを推定すると,実際よりもELPが小さく推定されてしまい,遠視側の誤差が生じることになる7).以上の問題を解決しないかぎり,近視矯正術後の白内障手術ではいわゆる“hyperopicsurprise”が起きることになる.IIDouble.K法Double-K法は第三世代の理論式の誤差を軽減する方法で,2003年にAramberriによって報告された7).この方法では,第三世代の理論式のなかで,ELP予測に用いられている部分の角膜屈折力値に,屈折矯正手術前の角膜屈折力を用いることにより,ELP予測誤差を軽減するものである.屈折矯正手術前の角膜屈折力はケラトメータ,トポグラフィーによる測定値を使用し(両方得られる場合はケラトメータの値を用いる),術後角膜屈折力は屈折矯正手術前後の屈折変化量を角膜平面上に換算し,その値を屈折矯正手術前の角膜屈折力から差し引くことによって求める.近視矯正手術後眼において第三世代の理論式を使用する際に,ELP予測と屈折計算に別の角膜屈折力を使用するというDouble-K法の基本的な考え方は現在も汎用されている.*KazunoNegishi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕根岸一乃:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(47)195表1おもな近視矯正手術後眼用のIOL度数計算式の分類計算に必要な術前・手術データPreK+ΔMRΔMR不要データ補正角膜屈折力ClinicalHistoryAdjustedACCPHaigis-LCammellin-CarossiShammas-PL(上記3式はELP計算に角膜屈折力を用いていない)角膜屈折力・ELPDouble-KIOL度数計算結果CornealbypassFeiz-MannisMasketModi.edMasketPachymetricrationohistorymethodELP:e.ectivelensposition(術後予測前房深度).PreK:エキシマレーザー角膜屈折矯正手術前の角膜屈折力.ΔMR:エキシマレーザー角膜屈折矯正手術前後の屈折変化(等価球面).III屈折矯正手術後眼用のIOL度数計算式現在,屈折矯正手術後眼用IOL度数計算法が多数報告されている.これらは,角膜屈折力の過大評価を補正する方法と,角膜屈折力は補正せずIOL度数計算結果を直接補正する方法に大きく二分される.角膜屈折力を補正する方法で第三世代の理論式を用いる場合,ELPの予測誤差は軽減されないため,現在,これらの方法では,補正された値をDouble-K法7)に代入して,その結果を評価する場合が多い.一方,計算の際に必要なデータから分類すると,屈折矯正手術前の角膜屈折力データ(preK)または手術による屈折変化(ΔMR)を必要とする方法(historical法)と,白内障術前のデータのみを使用する方法(nohistory法)の2つに分けられる.表1に代表的な計算法の分類,表2に各計算法の概要を示す8.14)が,これ以外にも多数の計算式の報告がある.IV光線追跡法による計算ソフトウェア光線追跡法によるIOL度数計算15)は精度はよくても汎用のソフトウェアがないことなどから,これまで普及には至らなかった.しかし,近年光線追跡法を用いたIOL計算ソフトウェア(OKULIX)が発売され,国内でも販売されている.対応している測定機器(トーメー社のTMS4,TMS5,OA,CASIA,超音波Aモード,オクルス社のペンタカム,ハーグストレイト社のレンズスター)が使用可能な環境であれば,正常眼,屈折矯正手術後眼を問わず同じソフトウェアで精度よく計算可能である.他の計算式と比較した場合の,光線追跡法を用いた方法の利点としては,精度が眼軸長の長短や角膜曲率半径の影響を受けにくい,角膜屈折力の測定は原則として角膜形状解析装置で行うため,非球面形状の角膜でも測定誤差が軽減できる,角膜換算屈折率を原因とする誤差を軽減できる,などの利点がある.ただし,2011年現在,国内ではトーメー社のみがこのソフトウェアを扱っており,他のメーカーから入手はできない.V現状ではどの方法がよいか?現在,米国白内障屈折手術学会(ASCRS)のホームページの“Post-refractivesurgeryIOLcalculator(http://iol.ascrs.org/wbfrmCalculator.aspx)”は,手持ちデータを画面上に入力すれば,一度に多数の計算結果が閲覧でき,かつ無料で利用可能な有用な手段である(図1).TheClinicalHistoryMethodは広くゴールデンスタンダードとされてきたが,最近の報告では誤差が大きいとされる16).また,術前の角膜屈折力を用いる方法よりも,角膜屈折矯正手術前後の屈折変化のみを用いる方法や,nohistory法のほうが精度がよいことが報告されている16).Wangらの報告16)(57例72眼)によれば,この“Post-refractivesurgeryIOLcalculator”に掲載されている計算式の精度(誤差の絶対値)は,術前の角膜屈折力および屈折矯正手術の矯正量が必要な式(Clinicalhistory,Feiz-Manis,Cornealbypass)では,±0.5D以内が37.44%,±1D以内が60.69%,屈折矯正手術の矯正量のみを必要とする式(AdjustedE.RP,Adjust-edAtlas0-3,Masket,Modi.ed-Masket,Adjusted196あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(48)表2おもな近視矯正手術後眼用のIOL度数計算式の概要方法(出典)概要ClinicalHistory(HolladayJT)屈折矯正手術前後の屈折(等価球面)を角膜平面に換算し,変化量を計算.これを術前の角膜屈折力から引くことにより,屈折矯正手術後の角膜屈折力を推定.Kp+SEp.SEa=KaKp=屈折矯正手術前の平均角膜屈折力,SEp=屈折矯正手術前の等価球面SEa=屈折矯正手術後の等価球面,Ka=屈折矯正手術後の推定角膜屈折力Cornealbypass(文献8)手術による実質の矯正量(術前等価球面.術後等価球面)をIOL度数の狙いとして,屈折矯正手術前の角膜屈折力と術後の眼軸長によりIOL度数を計算する.Feiz-Mannis(文献9)まず,屈折矯正手術前の角膜屈折力を用いて,当該患者が屈折矯正手術を受けていないと仮定してIOL度数計算を行う.このIOL計算結果に,屈折矯正手術による屈折変化量(眼鏡平面)を0.7で割った値を加えて,挿入するIOL度数とする.IOLpre+(RC/0.7)=IOLpostIOLpre=屈折矯正手術をしなかった場合の術前値に基づくIOL度数,RC=眼鏡平面上での屈折矯正手術による矯正度数,IOLpost=屈折矯正手術後に挿入すべきIOL度数AdjustedACCP(文献10)平均中央角膜屈折力(averagecentralcornealpower:ACCP)はトーメイ社の角膜トポグラフィーの中央3mmのプラチドリング上の屈折力の平均値である.AdjustedACCP法では,以下のようにACCPから屈折矯正手術後の補正角膜屈折力を求めて計算に用いる.ACCP.(RC×0.16)=屈折矯正手術後の補正角膜屈折力RC=角膜平面上における,屈折矯正手術による手術矯正量MagellanACPとOPD-ScanIIIAPP3-mmmanualvalueを用いる場合は同じ補正式が使える*.Masket(文献11)IOLMaster(カールツァイスメディテック社)により測定した角膜屈折矯正手術後角膜屈折力によって計算したIOL度数を以下の式によって補正する.IOLpost+(RC×0.326)+0.101=IOLadjIOLpost=角膜屈折矯正手術後データで計算したIOL度数,RC=角膜屈折矯正手術前後の屈折変化(角膜平面),IOLadj=挿入すべきIOL度数Modi.edMasket(HillW.PresentedatASCRS2006)Dr.HillはMasketFormulaを以下のように変えた方法を推奨している*.IOLpost+(RC×0.4385)+0.0295=IOLadjIOLpost=角膜屈折矯正手術後データで計算したIOL度数,RC=角膜屈折矯正手術前後の屈折変化(角膜平面),IOLadj=挿入すべきIOL度数Haigis-L(文献2)IOLMasterにより測定した角膜屈折矯正手術後角膜曲率半径(rmeas)をもとに,以下の式を用いて補正した角膜曲率半径を通常のHaigis式に代入して計算する.rcorr=331.5/(.5.1625×rmeas+82.2603.0.35)rcorr=補正後角膜曲率半径,rmeas=IOLMasterで測定した角膜曲率半径Shammas-PL(文献12)測定した角膜屈折矯正手術後の角膜屈折力を以下の式を用いて補正し,Shammas-PLformulaに代入する.ELPはA定数から算出される.1.14×Kpost.6.8=補正後術後角膜屈折力Kpost:Atlastopographer(ZeissHumphrey)のNumericalViewの1mm,2mm,3mmのannularpowerの平均値(ない場合はIOLMasterの角膜屈折力を用いる)Cammellin-Carossi(文献13)測定した角膜屈折力を,屈折矯正手術前後の屈折変化がわかる場合はその値で,変化量が不明な場合は角膜前面曲率半径や中央付近の角膜厚のデータを元に補正して用いる.ELPは,術前前房深度,水晶体厚,眼軸長,およびA定数から計算する.PachymetricRatioNo-HistoryMethod(文献14)白内障術前データからSRK/T式で計算したIOL度数を以下により求めたadjustmentnumberで補正.1.(CP+A)/SCP=Geggelratio2.A=Geggelratio×SCP.CP3.A/12=角膜平面上における推定矯正度数4..0.399×(A/12).0.40=adjustmentnumberA:推定切除深度(μm),CP:白内障術前の中央角膜厚(μm),SCP:上方周辺角膜厚(μm)*http://iol.ascrs.org/wbfrmCalculator.aspxyより引用.(49)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012197図1Post.refractivesurgeryIOLcalculator米国白内障屈折矯正手術学会のホームページ(http://iol.ascrs.org/wbfrmCalculator.aspx)からアクセス可能である.ACCP/ACP/APP)では,±0.5D以内が57.67%,±1D以内が86.91%,nohistory法(Wang-Koch-Malo-ney,Shammass,Haigis-L,Gallilei)では±0.5D以内が58.72%,±1D以内が90.96%である.前2つのカテゴリーに入る計算方法による結果の平均値を用いた場合は±0.5D以内が72%,±1D以内が93%と最も良好であったという.McCarthyら17)は,屈折矯正手術後の白内障手術眼117例173眼のデータを用いて,ClinicalHistory,Double-K,LatkanyFlat-K,FeizandMannis,R-Fac-tor,CornealBypass,Masket,Haigis-L,Shammasと第四世代の計算式を比較したところ,平均予測誤差,標準偏差,遠視側の“refractivesurprises”の有無の面からみて良好であった式のトップ5はMasket(Ho.erQ式に代入),Shammas-PL,Haigis-L,ClinicalHistory(Ho.erQ式に代入),LatkanyFlat-K(SRK/T式に代入)であったと報告している.自験例は数が30眼前後と少ないが,なかではHaigis-L式(IOLMasterにソフトウェアが付属)やCamellin-carrossi式(IOLstation,NIDEK社にソフトウェアが付属)の成績が比較的良好である.しかし正常角膜の精度には遠く及ばない.自験例の光線追跡法ソフトウェアOKULIXによる計算結果はさらに症例数が少ないが,現状ではCamellin-carrossiなどと同等に精度が良好で有望であると推察している.おわりに種々の改良により,屈折矯正手術後眼のIOL度数計算精度はかなり向上してきているが,手術既往歴のない正常角膜眼に対するIOL計算精度にはいまだ及ばない.したがって,臨床的には,IOL度数予測誤差について,術前に十分に患者に説明し,同意を取ることが最も重要である.精度のよい計算式を使用するためには限定された測定機器が必要である.また,決定的な計算式がないため,複数の計算結果を参考にして最終決定を行う必要があるなどの問題がある.今後の計算精度のさらなる向上が期待される.文献1)NaseriA,McLeodSD:Cataractsurgeryafterrefractivesurgery.CurrOpinOphthalmol21:35-38,20102)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesur-geryformyopia:Haigis-Lformula.JCataractRefractSurg34:1658-1663,20083)Ho.erKJ:Intraocularlenspowercalculationafterprevi-ouslaserrefractivesurgery.JCataractRefractSurg35:759-765,20094)HamiltonDR,HardtenDR:Cataractsurgeryinpatientswithpriorrefractivesurgery.CurrOpinOphthalmol14:44-53,20035)RosaN,CapassoL,LanzaMetal:ReliabilityoftheIOLMasterinmeasuringcornealpowerchangesafterphoto-refractivekeratectomy.JCataractRefractSurg30:409-413,20046)NishimuraR,NegishiK,SaikiMetal:Noforwardshift-ingofposteriorcornealsurfaceineyesundergoingLASIK.Ophthalmology114:1104-1110,20077)AramberriJ:Intraocularlenspowercalculationaftercor-198あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(50)nealrefractivesurgery:double-Kmethod.JCataractRefractSurg29:2063-2068,20038)WalterKA,GagnonMR,HoopesPCetal:Accurateintraocularlenspowercalculationaftermyopiclaserinsitukeratomileusis,bypassingcornealpower.JCataractRefractSurg32:425-429,20069)FeizV,MannisMJ,Garcia-FerrerFetal:Intraocularlenspowercalculationafterlaserinsitukeratomileusisformyopiaandhyperopia:astandardizedapproach.Cornea20:792-797,200110)AwwadST,ManassehC,BowmanRWetal:Intraocularlenspowercalculationaftermyopiclaserinsituker-atomileusis:Estimatingthecornealrefractivepower.JCataractRefractSurg34:1070-1076,200811)MasketS,MasketSE:Simpleregressionformulaforintraocularlenspoweradjustmentineyesrequiringcata-ractsurgeryafterexcimerlaserphotoablation.JCataractRefractSurg32:430-434,200612)ShammasHJ,ShammasMC:No-historymethodofintraocularlenspowercalculationforcataractsurgeryaftermyopiclaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:31-36,200713)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,200614)GeggelHS:Pachymetricrationo-historymethodforintraocularlenspoweradjustmentafterexcimerlaserrefractivesurgery.Ophthalmology116:1057-1066,200915)PreussnerPR,WahlJ,LahdoHetal:Raytracingforintraocularlenscalculation.JCataractRefractSurg28:1412-1419,200216)WangL,HillWE,KochDD:EvaluationofintraocularlenspowerpredictionmethodsusingtheAmericanSoci-etyofCataractandRefractiveSurgeonsPost-Keratore-fractiveIntraocularLensPowerCalculator.JCataractRefractSurg36:1466-1473,201017)McCarthyM,GavanskiGM,PatonKEetal:Intraocularlenspowercalculationsaftermyopiclaserrefractivesur-gery:acomparisonofmethodsin173eyes.Ophthalmolo-gy118:940-944,2011(51)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012199