特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):31.39,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):31.39,2013後眼部編網膜の形態解析StructuralAnalysisoftheRetina大谷倫裕*はじめに1997年に日本に導入されたTD-OCT(time-domainopticalcoherencetomography)の深さ方向分解能は20μmで,1枚の断層像を得るためのスキャン時間は1秒もかかった.2006年に実用化されたSD-OCT(spectraldomainOCT)の分解能は5.7μmに向上し,スキャン時間も数百倍速くなっている.さらにOCT画像の加算平均を行うとスペックルノイズが除去されて,より高精細な網膜断層像が得られる.また,スキャンの高速化によって,眼底後極部を数秒で三次元画像化できるため,網膜の厚さ解析が容易になった.最近商品化されたSS-OCT(sweptsourceOCT)は,SD-OCTよりも速く,深さによる感度低下が少ないため硝子体から脈絡膜までを詳細に描出できる.本稿では,SD-OCTとSSOCTを用いた網膜の形態解析について述べる.I正常眼底のOCT1.中心窩を含む正常黄斑の断層像(水平断)(図1)黄斑部では中心窩が最も薄いため,中心窩を含むOCTでは網膜は中心窩に向かって陥凹する.硝子体未.離眼では,黄斑部の前方には硝子体液化腔が存在し(後部硝子体皮質前ポケット)1),ポケットの後壁は薄い硝子体皮質からなる.OCTでは,硝子体ポケットは周囲の硝子体ゲルより低反射となる.内境界膜はOCTでは観察できない.網膜表層にある高反射層は神経線維層であり,黄斑鼻側から視神経乳頭に近づくにつれて厚くなる.黄斑耳側では,神経線維層は縫線となるため神経線維層は見えない.黄斑の垂直断では,上下の神経線維層の厚さはほぼ等しい.網膜断層のほぼ中間にある低反射層が内顆粒層である.網膜外層には4本の高反射ラインがあり,硝子体側から強膜側に向かって順に,外境界膜・視細胞内節外節接合部(IS/OS:junctionbetweenphotoreceptorinnerandoutersegment)・錐体外節端(COST:coneoutersegmenttip)・網膜色素上皮と考えられている.さらに外側には脈絡膜があり,SS-OCTでは脈絡膜と強膜との境界が描出される.2.網膜の解剖と断層像(図2)網膜は光学顕微鏡所見から10層に区分される(硝子体側から,内境界膜・神経線維層・神経節細胞層・内網状層・内顆粒層・外網状層・外顆粒層・外境界膜・杆体錐体層・網膜色素上皮層).網膜に到達した光は,第1ニューロンである視細胞で電気信号に変換されたのち,第2ニューロン(双極細胞),第3ニューロン(神経節細胞)を介して,その情報が中枢に伝達される.第1ニューロンである視細胞は,外節・内節・細胞核・軸索・シナプスからなる.外節は,視物質を含む多数の円板状の膜が積み重なってできている.内節は,エリプソイド(網膜色素上皮側)とミオイド(硝子体側)に分けられる.エリプソイドにはミトコンドリアが分布しており,エネルギーを供給する.ミオイドにはGolgi体や小胞体などが含まれ,外節を構成する円板膜の蛋白合*TomohiroOtani:群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野〔別刷請求先〕大谷倫裕:〒371-8511前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(31)31強膜視神経硝子体ポケット脈絡膜クローケ管内顆粒層網膜色素上皮IS/OS神経線維層強膜視神経硝子体ポケット脈絡膜クローケ管内顆粒層網膜色素上皮IS/OS神経線維層図1中心窩を含む網膜水平断長波長(1,050nm)光源を用いたSS-OCTによる網膜断層像である.黄斑前には硝子体ポケットがある.硝子体から強膜まで描出することができる.神経線維層神経節細胞層内網状層内顆粒層外網状層外顆粒層網膜色素上皮層脈絡膜外境界膜IS/OSCOST第1ニューロン(視細胞)第2ニューロン(双極細胞)第3ニューロン(神経節細胞)外節ConesheathMuller細胞図2網膜断層像と解剖図1の赤点線部を拡大し,網膜を構成する細胞のシェーマを当てはめたものである(解説は本文参照).32あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(32)成が行われる.細胞核は外顆粒層に相当する.細胞核から伸びる軸索とシナプスによって外網状層が形成される.視細胞は杆体と錐体の2種類に分類される.錐体は色の識別や形態認識を行い,黄斑の中心直径500μm内の視細胞は錐体からなり杆体は存在しない.錐体は紡錘型をしていると考えられているが,中心窩では杆体のような形をしており,内節と外節の長さはほぼ等しい.中心窩の錐体外節の先端はほぼ網膜色素上皮に達しており,外節先端の一部が網膜色素上皮の微絨毛に包まれている.中心窩から離れるにつれて錐体は紡錘型となる.周中心窩(中心窩から2mm)の錐体外節の長さは内節の半分程度で外節先端は網膜色素上皮まで達しておらず,網膜色素上皮から伸びた微絨毛がさやのように外節先端部を覆っている(conesheath).杆体は明暗の識別を行う.中心窩から離れるにつれて杆体は急速に増加する.AB杆体の外節先端は微絨毛を介して網膜色素上皮に接している.網膜外層にある4本の高反射ラインのうち最も内側にある外境界膜は本当の膜ではなく,視細胞とMuller細胞の接合部(zonulaadherens)に相当する.IS/OSは外節と内節の境界であると考えられているが,内節のエリプソイドであるとの考えもある2).錐体外節はconesheathに包まれており,その外縁は網膜色素上皮まで達していないので,錐体外節外縁が高反射(COST)になると推測されている.外網状層の外側2/3は視細胞の軸索からなり,斜めに走行する〔ヘンレ(Henle)線維〕.OCTの測定光が組織に対し斜めに入射すると同軸方向に戻る後方散乱光が減少するため,実際よりも低反射に描出される.ヘンレ線維に対し測定光は斜めに入射するため,ヘンレ線維からの反射は減弱する.測定光がヘンレ線維に垂直にな内顆粒層シナプスヘンレ線維層外顆粒層内顆粒層シナプスヘンレ線維層外顆粒層図3ヘンレ線維層(SD.OCT)ヘンレ線維に対し測定光(緑点線矢印)は斜めに入射するため,ヘンレ線維からの強い反射は起こらない(A).測定光がヘンレ線維に垂直になるように測定光の入射角度を変えると,ヘンレ線維層からの反射が増強され,明瞭に描出される(赤矢印)(B).(33)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201333るように測定光の入射角度を変えると,ヘンレ線維層が明瞭に描出される(図3)3).第2ニューロンである双極細胞の樹状突起は外網状層で視細胞の軸索とシナプスを形成し,双極細胞の軸索は硝子体側に伸びて神経節細胞やアマクリン細胞と内網状層でシナプスを作る.内顆粒層は双極細胞・Muller細胞・水平細胞・アマクリン細胞の核からなりOCTでは低反射となる.第3ニューロンである神経節細胞の核は神経節細胞層にあり,OCTでは内網状層と神経線維層の間にある低反射帯として描出される.神経節細胞の軸索は神経線維層を形成する.緑内障における神経節細胞厚の解析は,神経節細胞複合体(GCC:ganglioncellcomplex=網膜神経線維層+神経節細胞層+内網状層)の厚さを評価するところから始まった.IIOCTによる網膜の形態解析1.網膜断層像では内顆粒層の低反射を基準にする網膜の形態は,内顆粒層を基準にするとわかりやすい.正常黄斑のOCTでは,網膜層構造のほぼ中間に内顆粒層の低反射が存在する.中心窩には内顆粒層は存在しないため,内顆粒層の低反射は中心窩付近で途切れる.OCT断層像で内顆粒層の低反射が途切れないで連続している場合は,OCTのスキャンが中心窩を含んでいないことになる(ただし中心窩低形成は例外).内顆粒層には双極細胞(第2ニューロン)の核があるため,内顆粒層よりも内層には神経節細胞(第3ニューロン)があり,内顆粒層と網膜色素上皮層の間は視細胞(第1ニューロン)からなると大まかに理解することができる.2.網膜厚マップも活用する眼底疾患の多くは網膜厚が増減するので網膜厚マップを見ると病変部位がわかりやすい.また,網膜断層像だけではOCTのスキャンラインに含まれない病変は検出できないので,網膜厚マップもチェックすると見落としが少なくなる.病態に応じて神経線維層厚やGCC厚も調べる.3.主病層が網膜内層にある病態a.緑内障(図4)緑内障の本態は網膜神経節細胞の消失であり,神経節B図4緑内障AA:カラー眼底.視神経乳頭の下耳側から神経線維層欠損(NFLD)が広がっている.B:網膜(全層)厚マップ.黄斑下方がNFLDに一致して菲薄化し,青色で示CDされている.C:網膜神経線維層(RNFL)デビエーションマップ.NFLDがピンク色で表示されている.D:黄斑部における内網状層+神経節細胞層(GCL)のデビエーションマップ.黄斑部下耳側はピンク色で表示され,E内網状層とGCLが薄い.E:垂直方向のSD-OCT.黄斑より下方のRNFL・GCLはほとんど消失している(赤矢印).内顆粒層34あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(34)細胞層・網膜神経線維層の菲薄化が起こる.網膜厚マップでは網膜神経線維の走行に沿って網膜が菲薄化する.GCC厚の解析も緑内障の早期発見に貢献すると考えられている.b.網膜動脈閉塞症(図5)網膜動脈は網膜内層を栄養しているので,動脈閉塞がA図5網膜動脈分枝閉塞症A:カラー眼底写真.黄斑上側の網膜動脈閉塞によって,網膜が白濁している.視力は1.2であった.B:垂直方向のSS-OCT.中心窩から上方の網膜内層は厚くなり反射も強くなっている(赤矢印).C:網膜厚マップ(1カ月後).動脈閉塞の領域に一致して網膜が薄Cくなり,ブルーからグレーで表示されている.D:垂直方向のSS-OCT(1カ月後).中心窩から上方の網膜内層は萎縮しており,内顆粒層の低反射も消失している(赤矢印).起こると網膜内層(神経線維層.内顆粒層)の障害が生じる.急性期では動脈閉塞領域の網膜内層が肥厚し高反射となる.正常では低反射である内顆粒層も高反射となる.眼底検査で,網膜の混濁がはっきりしなくても,OCTで網膜内層が高反射を示すこともある.陳旧期になると動脈閉塞領域の網膜内層が萎縮して薄くなる.網B内顆粒層D図6糖尿病黄斑浮腫A:カラー眼底写真.中心窩を含む黄斑浮腫があり,黄斑部耳側には硬性白斑がある.視力は0.2であった.B:垂直方向のSD-OCT.中心窩には.胞様変化(黄矢印)と漿液性網膜.離(赤矢印)がある.中心窩の下方には網膜外層(ヘンレ線維層)の膨化(青矢印)がある.C:網膜厚マップ.黄斑浮腫は黄斑部の下耳側に強く(白で表示),局所性浮腫であることがわかる.浮腫内の毛細血管瘤に対しレーザー光凝固を行った.D:網膜厚マップ(レーザー治療から11カ月後).局所性浮腫はほぼ消失し,視力は0.4に改善した.BACD内顆粒層(35)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201335膜厚マップでは,動脈閉塞の領域と一致して網膜が薄くなる.網膜中心動脈閉塞症では中心窩周囲の網膜内層が薄くなるので中心窩の陥凹がなくなる.糖尿病網膜症でも網膜毛細血管床閉塞によって網膜内層が菲薄化する.4.主病巣が網膜外層にある病態a.黄斑浮腫(図6)黄斑浮腫の網膜断層像は網膜膨化・.胞様変化・漿液性網膜.離の組み合わせによって構成される.網膜膨化はおもに外網状層のヘンレ線維層に起こりやすい..胞様変化は,.胞様の低反射として描出され,おもに内顆粒層と外網状層に存在する.漿液性網膜.離は中心窩下に,.離した神経網膜と網膜色素上皮に囲まれた低反射領域として観察される.網膜厚マップによって浮腫の有無や範囲がわかる.糖尿病黄斑浮腫は,局所性浮腫とびまん性浮腫に分類され,局所性浮腫は毛細血管瘤からの漏出によって起こる.局所性浮腫には毛細血管瘤に対すAB内顆粒層る光凝固が有効であり,網膜厚マップによって局所性浮腫を検出することは重要である.b.網膜色素変性(図7)網膜色素変性は,網膜の視細胞・色素上皮細胞が原発的に広範囲に侵される遺伝性疾患群である.視細胞外節の変性によりIS/OSが消失する.IS/OSの消失部位では,やがて視細胞本体も変性するため,外顆粒層の低反射も消失し網膜外層が薄くなる.網膜厚マップでは,黄斑周囲の網膜外層がドーナツ状に菲薄化することが多い.c.錐体ジストロフィ(図8)錐体機能だけが著しく障害され,進行性の視力低下・色覚異常をきたす.錐体の分布に一致してIS/OSが消失し,外顆粒層も菲薄化または消失する.網膜厚マップでは黄斑の網膜厚が減少する.C図7網膜色素変性A:カラー眼底写真.黄斑部周囲の網膜は灰色で粗造となっている.視力は1.2であった.B:水平方向のSS-OCT.黄斑部周辺の網膜はIS/OS・外顆粒層・外網状層がほぼ消失している(赤矢印).C:網膜厚マップ.網膜外層の消失により黄斑部周囲の網膜はドーナツ状に菲薄化している.36あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(36)CAB内顆粒層図8錐体ジストロフィA:カラー眼底写真.黄斑変性がある.視力は0.1であった.B:水平方向のSD-OCT.黄斑では視細胞外節や外顆粒層が消失している.さらに網膜色素上皮の萎縮により脈絡膜が通常よりも高反射となっている.C:網膜厚マップ.網膜外層の消失により黄斑は菲薄化している.A内顆粒層CBD図9AZOORA:カラー眼底写真.視神経乳頭の周囲に軽度の萎縮病変がある.B:静的視野.耳側に半盲様の暗点がある.C:多局所網膜電図.視野に一致して反応が低下している.D:水平方向のSD-OCT.黄斑から鼻側にかけて(赤矢印の範囲)IS/OSや外顆粒層が消失している.(37)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201337ABC図10特発性黄斑円孔(stage3)A:カラー眼底写真.中心窩に黄斑円孔がある.視力は0.2であった.B:水平方向のSS-OCT.C:垂直方向のSS-OCT.円孔周囲の外網状層と内顆粒層には.胞様変化がある.黄斑から.離した硝子体ポケットの後壁(硝子体皮質)(赤矢印)とポケットの前壁(黄矢印)が描出されている.ABC内顆粒層図11特発性黄斑前膜A:カラー眼底写真.黄斑に前膜がある.視力は1.2であった.B:水平方向のSS-OCT.C:垂直方向のSS-OCT.肥厚した前膜が網膜表面にある.前膜の収縮によって網膜が膨化し中心窩の陥凹が消失している.中心窩周囲では内顆粒層を含む網膜内層に膨化がある.この症例は後部硝子体.離がないため,硝子体ポケットが明瞭に観察される.黄矢印はポケットの前壁を示す.38あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(38)d.AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)(図9)AZOORは若い女性に多く,光視症や視野欠損などをきたす.視野障害はMariotte盲点の拡大から始まることが多い.主病巣は網膜外層から網膜色素上皮にあると考えられているが,原因は不明である.OCTでは,病変部位の視細胞外節が消失し,IS/OSが見えなくなる4).進行症例では外顆粒層も消失し,外層網膜は薄くなる.5.網膜硝子体界面病変a.特発性黄斑円孔(図10)硝子体ポケットの後壁である硝子体皮質の中心窩牽引によって生じる.黄斑円孔の初期(stage1)では中心窩の層間分離(.胞様変化)または微小網膜.離が起こる.Stage2以上では円孔周囲の.胞様変化が観察される.b.特発性黄斑前膜(図11)黄斑前膜の収縮によって網膜が肥厚する.OCTでは,網膜内表面に前膜の反射が描出され,網膜膨化によって中心窩の陥凹消失することが多い.内顆粒層を含む網膜内層がおもに膨化する.中心窩に円形の高反射がIS/OSとCOSTの間に見られることがある(cottonballsign)5).文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19902)SpaideRF,CurcioCA:Anatomicalcorrelatestothebandsseenintheouterretinabyopticalcoherencetomography:literaturereviewandmodel.Retina31:1609-1619,20113)OtaniT,YamaguchiY,KishiS:ImprovedvisualizationofHenlefiberlayerbychangingthemeasurementbeamangleonopticalcoherencetomography.Retina31:497501,20114)LiD,KishiS:Lossofphotoreceptoroutersegmentinacutezonaloccultouterretinopathy.ArchOphthalmol125:1194-1200,20075)TsunodaK,WatanabeK,AkiyamaKetal:Highlyreflectivefovealregioninopticalcoherencetomographyineyeswithvitreomaculartractionorepiretinalmembrane.Ophthalmology119:581-587,2012(39)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201339