0910-1810/11/\100/頁/JCOPY背景についての詳細はここでは割愛するが,その方法によりさまざまな疾患で脈絡膜の厚みを測定することが可能となった10?14).現在のところ,脈絡膜厚は年齢,屈折値,眼軸長などの影響を受けることや個体差が大きく正常眼においてもバラツキがあることがわかってきている.筆者らの自検例では177眼の正常眼においてEDIOCTで中心窩下の脈絡膜厚を測定したところ平均脈絡膜厚(±標準偏差)は250±75μmであった15)(図1).本稿ではEDI-OCTを用いてCSCの脈絡膜を観察した結果を紹介し,CSCの病態解明のポイントについて解説する.なお,内容の詳細については飯田16)の報告を参考とした.ICSCの患眼と僚眼の脈絡膜厚ICGAにおいて脈絡膜血管透過性亢進が証明されることから脈絡膜厚の肥厚は予想されていたが,これまではその脈絡膜厚を実際に測定することは困難であった.はじめに1997年にわが国に光干渉断層計(OCT)が導入され,さらに高速化・高解像度化したスペクトラルドメインOCTが2006年に市販されたことで,さまざまな黄斑疾患の病態解明が進んできた.中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)においては,網膜視細胞の変化を急性期と復位期のいずれでも詳細に観察することが可能となり,視細胞層の障害と視力予後に関するさまざまな報告がなされている1?4).一方で,1990年代以降インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(ICGA)によって脈絡膜循環を評価することが可能となり,さまざまな疾患で脈絡膜異常が証明された.CSCはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)で網膜色素上皮(RPE)からの漏出がその診断に最も重要であったため,以前にはRPE異常が疾患の本態と考えられてきた.しかし,CSCのICGAによる検討で脈絡膜血管の拡張や充盈遅延および脈絡膜異常組織染などの異常が指摘され,現在ではその一次的原因は脈絡膜にあると考えられている5?8).CSCにおけるICGAの最も代表的な所見である中期像の脈絡膜異常組織染は脈絡膜血管の透過性亢進を反映していると考えられているが,元々厚みがある脈絡膜を二次元的にしか評価できないため読影者による差異が少なからず存在していた.2008年にSpaideら9)は市販のOCT装置を用いて脈絡膜を簡単に観察する方法を報告し,enhanceddepthimaging(EDI)OCTと呼称した.EDI-OCTの理論的(23)1243*IchiroMaruko:福島県立医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕丸子一朗:〒960-1925福島市光が丘1番地福島県立医科大学眼科学講座特集●黄斑疾患の病態解明に迫る光干渉断層計あたらしい眼科28(9):1243?1248,2011EnhancedDepthImagingと中心性漿液性脈絡網膜症の脈絡膜OCT所見ChoroidalImagingforCentralSerousChorioretinopathyUsingEnhancedDepthImagingOpticalCoherenceTomography(EDI-OCT)丸子一朗*250μm図1正常眼の脈絡膜厚(enhanceddepthimagingopticalcoherencetomography)30歳,男性,右眼.1244あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(24)IICSCの治療前後の脈絡膜厚の変化CSCは正常眼と比較して脈絡膜が肥厚していることが明らかになったが,CSCに対する治療による脈絡膜への影響についての詳細は不明であった.一般にCSCは視力予後良好で自然軽快する症例も多いとされているが,漿液性網膜?離が遷延する場合や再発をくり返す症例に対してはレーザー光凝固術が考慮される.ただし,漏出部位が中心窩下にある場合やびまん性漏出を示す場合には,光線力学的療法(PDT)の有効性が報告されている18,19).筆者らは①レーザー光凝固群,②PDT群の2つに分けそれぞれの経時的な脈絡膜の変化を検討した18).①レーザー光凝固群(図4,5):FAでRPEからの明らかな点状漏出が観察されたCSC典型例12例12眼に対し,漏出点にレーザー光凝固を実施し,全例で2カ月以内に漿液性網膜?離は消失した.平均中心窩下脈絡膜厚は治療前345±127μmであり,治療1カ月後にも340±124μmと不変であった(p=0.2).②PDT群(図6,7):FAでびまん性漏出が観察された慢性型CSC症例8例8眼に対し,ベルテポルフィン半量PDTを実施した.照射範囲はICGAにおける脈絡Imamuraら17)はEDI-OCTでCSC19例28眼の脈絡膜を観察し,平均中心窩下脈絡膜厚は505μmと肥厚していることを報告した.彼らの報告には発症眼の僚眼が含まれており,それらも肥厚していた.筆者らも片眼発症のCSC症例66例の脈絡膜をEDI-OCTの手法を用いて観察したところ,平均中心窩下脈絡膜厚は414±109μmであり,前述の正常177眼のうち年齢調整した66眼248±71μmと比較して肥厚していた15).またCSC66眼の僚眼における平均中心窩下脈絡膜厚は350±116μmと発症眼と比較すると薄いものの,正常眼と比較すると肥厚していた(図2).ICGAでCSCの脈絡膜血管透過性亢進を評価した報告では,Iidaら8)が発症眼の92%でみられるのに対し,その僚眼でも約60%でみられると報告している.筆者らの非発症眼である66眼のICGAでは43眼(65%)で脈絡膜血管透過性亢進所見が観察された(図3).ICGAの脈絡膜血管透過性亢進所見の有無で脈絡膜厚を比較すると,血管透過性亢進がある群では410±92μmと肥厚しているのに対し,ない群では239±59μmであり正常眼とほぼ変わらない結果であった.このことはCSCでのICGAにおける脈絡膜血管透過性はEDI-OCTの手法を用いれば,非侵襲的に評価可能かもしれない.292μm317μmODOS図2中心性漿液性脈絡網膜症の発症眼(下段:左眼)と非発症眼(上段:右眼)の脈絡膜厚45歳,女性,右眼視力0.8,左眼視力0.4.左眼だけでなく,右眼においても脈絡膜が肥厚している.右眼では特に中心窩より耳側で脈絡膜肥厚がみられる.FAIA図3図2と同症例の両眼のFAとICGA画像上段:FAでは左眼中心窩上鼻側に淡い蛍光漏出がみられる.下段:IAでは左眼に脈絡膜血管透過性亢進所見が強くみられる.右眼では黄斑耳側に脈絡膜血管透過性亢進所見がみられる.これは図2における中心窩耳側の脈絡膜肥厚部位に一致している.(25)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111245μmと治療前より有意に減少した(p<0.001).①,②の結果からCSCの治療においてレーザー光凝固群では脈絡膜には変化がみられないのに対し,PDT群では脈絡膜が薄くなったことは,PDTがCSCの脈絡膜に直接作用していることを示している.PDT3カ月後のICGAでは治療前と比較して,脈絡膜血管透過性亢進所見が減少していたことから,EDI-OCTの手法を用いることでCSCに対するPDTの効果を非侵襲的に評価できる可能性が示された.また,自検例では自然軽快したCSC症例5例5眼の初診時と3カ月後の平均中心窩下脈絡膜厚はそれぞれ343μm,345μmと変化はみられなかった(図8,9).レーザー光凝固群と自然軽快症例において脈絡膜厚が不変である一方,PDTにおいては薄くなったことは,PDTは長期経過において再発を抑制する効果も期待できるかもしれない.IIIPDT後の脈絡膜厚変化の長期経過筆者らはPDT後の脈絡膜変化の長期経過を知るために,前述のPDT群の8例を含めた13例13眼において1年間にわたり脈絡膜厚の変化を観察した20).平均中心窩下脈絡膜厚は治療前397±108μmから1カ月後には膜血管透過性亢進所見と考えられる,中期像の過蛍光を含む範囲であり(ICGAguidedPDT),全例中心窩を含んでいた.平均中心窩下脈絡膜厚は治療前389±からPDT後2日目に462±124μmと一過性の増加が観察され,1週間後には360±100μm,1カ月後には330±103414μm408μmBaseline1M図5図4と同症例の脈絡膜厚の変化上段:治療前の脈絡膜厚は414μm.下段:治療後1カ月後には漿液性網膜?離は消失し,脈絡膜厚は408μm.FAIA図4レーザー光凝固群49歳,男性,左眼視力は0.2.カラー写真:黄斑部に漿液性網膜?離が観察できる.FA:中心窩上方に点状の蛍光漏出がみられる.IA:黄斑部に脈絡膜血管透過性亢進所見がみられる.OCT:黄斑部に漿液性網膜?離が確認できる.1246あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(26)みられなかった.CSCに対するベルテポルフィン半量PDT後の脈絡膜が1年後でも薄いままであり,再発がみられなかったことは,PDTの効果が1年間持続していることを示している.ただし,症例によってはPDT323±120μm(81%)に有意に減少し(p<0.01),1年後でも321±122μm(81%)と減少したままであった(p<0.01)(図10).PDT治療2日後には441±120μmと一過性の脈絡膜厚の増加がみられた.また,全例で再発はFAIA図6光線力学的療法群65歳,男性,右眼視力は0.7.カラー写真:黄斑部に漿液性網膜?離が観察できる.FA:中心窩下からの淡い蛍光漏出がみられる.IA:黄斑部に脈絡膜血管透過性亢進所見がみられる.OCT:黄斑部に漿液性網膜?離が確認できる.353μm309μm407μm431μmBaseline2D1W1M図7図6と同症例の脈絡膜厚の変化左上:治療前の脈絡膜厚は407μm.左下:治療2日後の脈絡膜厚は431μm.漿液性網膜?離の増加がみられる.右上:治療1週間後の脈絡膜厚は353μm.右下:治療1カ月後の脈絡膜厚は309μm.(27)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111247FAIA図8自然軽快症例40歳,男性.右眼視力は1.2.カラー写真:黄斑部に漿液性網膜?離が観察できる.FA:中心窩下からの淡い蛍光漏出がみられる.IA:黄斑部にFAでの蛍光漏出部位を中心とした脈絡膜血管透過性亢進所見がみられる.OCT:黄斑部に漿液性網膜?離が確認できる.一部に網膜色素上皮の不整がみられる.395μm394μm図9図8と同症例の脈絡膜厚の変化上段:初診時の脈絡膜厚は395μm.下段:経過観察3カ月後の脈絡膜厚は394μm.3M6M1Y308μm308μm306μm図10図6と同症例における3カ月以降の脈絡膜の変化上段:治療3カ月後の脈絡膜厚は308μm.中段:治療6カ月後の脈絡膜厚は308μm.下段:治療1年後の脈絡膜厚は306μm.1248あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(28)6)PiccolinoFC,BorgiaL:Centralserouschorioretinopathyandindocyaninegreenangiography.Retina14:231-242,19947)SpaideRF,HallL,HaasAetal:Indocyaninegreenvideoangiographyofolderpatientswithcentralserouschorioretinopathy.Retina16:203-213,19968)IidaT,KishiS,HagimuraN:Persistentandbilateralchoroidalvascularabnormalitiesincentralserouschorioretinopathy.Retina19:508-512,19999)SpaideRF,KoizumiH,PozzoniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,200810)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,200911)FujiwaraT,ImamuraY,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol148:445-450,200912)SpaideRF:Age-relatedchoroidalatrophy.AmJOphthalmol147:801-810,200913)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:SubfovealchoroidalthicknessfollowingtreatmentofVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina31:510-517,201114)ImamuraY,IidaT,MarukoIetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthescleraindome-shapedmacula.AmJOphthalmol151:297-302,201015)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessinfelloweyesofpatientswithcentralserouschorioretinopathy.Retina,inpress16)飯田知弘:黄斑疾患の病態画像診断による形態と機能解析.日眼会誌115:238-275,201117)ImamuraY,FujiwaraT,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralserouschorioretinopathy.Retina29:1469-1473,200918)ChanWM,LaiTY,LaiRYetal:Safetyenhancedphotodynamictherapyforchroniccentralserouschorioretinopathy:one-yearresultsofaprospectivestudy.Retina28:85-93,200819)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofcentralserouschorioretinopathy.Ophthalmology117:1792-1799,201020)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:One-yearchoroidalthicknessafterphotodynamictherapyforcentralserouschorioretinopathy.Retina,inpress21)UsuiS,MarukoI,IkunoY:Diurnalchangeofthesubfovealchoroidalthicknessanditsrelationshipwithclinicalfactorsinnormalhealthyeyes.ARVOmeeting,201122)VanceSK,ImamuraY,FreundKB:Theeffectsofsildenafilcitrateonchoroidalthicknessasdeterminedbyenhanceddepthimagingopticalcoherencetomography.Retina31:332-335,2011後に急激に脈絡膜が減少してしまう症例もある.現在筆者らはCSCに対してはベルテポルフィン半量PDTを実施しているが,症例によってはそれでも脈絡膜に過剰に影響を与えることを考慮することも必要である.これはCSCに対するPDT適応を決めるうえでも重要であり,今後多数例での検討が必要になると思われる.おわりに近年のICGAの検討でCSCの脈絡膜異常が証明され,その病態が明らかになってきたこの段階で,OCTによって脈絡膜を観察し,その厚みを測定することで,数値化して比較することが可能となった.これはICGAによる所見の評価のように読影者による差が生じないことから,方法論を統一すれば多施設で比較できることを示している.脈絡膜は日内変動があること21)や薬剤などで変化すること22)が報告されており,今後さらに脈絡膜変化に対するさまざまな因子が究明されれば,CSC未発症眼が今後発症するリスクや予防法が確立されていく可能性もある.EDI-OCTによる脈絡膜観察はまだ報告されてからそれほど時間が経過しておらず,これからCSCを含めたさまざまな疾患における脈絡膜の状態が研究され,病態解明につながっていくことが期待される.文献1)OjimaY,HangaiM,SasaharaMetal:Three-dimensionalimagingofthefovealphotoreceptorlayerincentralserouschorioretinopathyusinghigh-speedopticalcoherencetomography.Ophthalmology114:2197-2207,20072)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20083)FujimotoH,GomiF,WakabayashiTetal:Morphologicchangesinacutecentralserouschorioretinopathyevaluatedbyfourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology115:1494-1500,20084)OjimaY,TsujikawaA,YamashiroKetal:Restorationofoutersegmentsoffovealphotoreceptorsafterresolutionofcentralserouschorioretinopathy.JpnJOphthalmol54:55-60,20105)GuyerDR,YannuzziLA,SlakterJSetal:Digitalindocyanine-greenvideoangiographyofcentralserouschorioretinopathy.ArchOphthalmol112:1057-1062,1994