監修=坂本泰二◆シリーズ第132回◆眼科医のための先端医療山下英俊ステロイド点眼薬による糖尿病黄斑浮腫の治療新たなステロイド点眼薬による糖尿病黄斑浮腫の治療効果後藤早紀子(山形大学医学部眼科)糖尿病黄斑浮腫に対する治療の現状筆者らの施設では,この新しいステロイド点眼薬がDMEの治療として有効ではないかと考え治療を開始しました(山形大学医学部倫理委員会承認).点眼治療のメリットとしては,切開など外科的処置が必要ないこと,副作用出現時にはすぐに投与を中止して余分な薬剤への曝露を抑制できること,薬物クリアランスの問題がないことから硝子体手術後も点眼可能であることなどがあげられます.糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病患者における視力低下の大きな原因の一つです.汎網膜光凝固を行い糖尿病網膜症の病勢は沈静化しているにもかかわらず,黄斑浮腫があるために視力が思わしくない,という症例の経験がある先生も多いのではないでしょうか.DMEに対する治療は,黄斑光凝固,ステロイド眼局所投与,抗vascularendotherialgrowthfactor(VEGF)薬硝子体内注射,硝子体手術が一般的に行われています.しかし,DMEに対する特効薬はなく,硝子体手術もすべての症例に有効であるわけではありません.病状に合わせていくつかの治療法を組み合わせているのが現状です.そこで,治療法の選択肢が多いことは戦略的に望ましいことと考えられます.新しいステロイド点眼薬の登場硝子体手術後も残存するDME症例7例11眼に対してDifluprednateophthalmicemulsion0.05%を最初の1カ月間は1日4回,その後2カ月間は1日2回点眼し,3カ月間の点眼治療を行いました3).点眼開始時の平均logMAR視力は0.67±0.35であり,点眼開始後3カ月では0.67±0.29と視力を維持していました.点眼開始時の平均網膜厚は500.6±207.7μmでしたが,点眼開始後3カ月では341.2±194.8μmと減少しました.点眼開始時網膜厚から20%以上減少した割合は73%でした.硝子体手術後も残存するDMEに対する治療は薬物クリアランスの点から硝子体内注射の有効期間が短縮するため,トリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’sinjectionoftriamcinoloneacetonide:STTA)が日本ではおもに行われています4).平均網膜厚の推移を硝子体手術後にSTTAを施行した10例11眼と比較したとこDifluprednateophthalmicemulsion0.05%は米国食ろ,同等の効果が認められました(図1).ステロイド薬品医薬品局で術後抗炎症薬として認可されている新しいの副作用である眼圧上昇は36%に生じましたが,点眼ステロイド点眼薬です.Difluprednate(DFBA)は皮膚800科領域で開発,使用されているステロイド薬であり,外用薬としては‘verystrong’に属します.DFBAを点眼700薬として開発するにあたり問題となったのは,疎水性が600強いということです.この点はoilinwatertypelipidemulsionとすることで解決され,点眼薬として製剤化されました.動物実験では,点眼後1時間の前房内濃度は懸濁液に比べ5.7倍と高いものでした1).また,有色家兎眼にトリチウムで放射性ラベルしたDFBAを1回点眼したところ,網膜・脈絡膜で59ngeq./g検出されました2).これは116nmolに相当する濃度であり,薬理学的に有効な濃度で後眼部へ達していると考えられます.したがって,これまで点眼薬では治療が困難であった後眼部疾患に対して,本点眼薬が有効である可能性が考えられました.(63)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY平均網膜厚(μm)2001000点眼開始時1カ月2カ月3カ月:点眼治療:STTA図1平均網膜厚の推移点眼治療を施行した7例11眼とSTTAを施行した10例11眼の平均網膜厚の推移を比較した.網膜厚減少において点眼治療はSTTAと同様の効果が認められた.あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111725500400300中止や眼圧下降薬の使用により正常範囲となりました.本検討から,Difluprednateophthalmicemulsion0.05%が硝子体手術後のDMEに対して効果があることがわかりました.その後,硝子体手術既往のない症例や汎網膜光凝固に伴うDME症例に対する治療効果についても検討を重ねています5,6).今後の展望Difluprednateophthalmicemulsion0.05%によるDME治療は網膜厚減少において明らかな効果を示しています.一方で点眼治療が無効な症例もあり,有効性と関連する因子を見つけだすことができれば,より治療効果を高めることが可能であると考えます.DMEはさまざまなサイトカインやカスケードが関与する炎症性疾患の一面があります.そのため,ステロイド薬のようにターゲットが広い薬剤が有効であり,簡便な治療法である点眼薬が今後のDME治療において選択肢の一つとなることが期待されます.文献1)YamaguchiM,YasuedaS,IsowakiAetal:Formulationofanophthalmiclipidemulsioncontainingananti-inflammatorysteroidaldrug,difluprednate.IntJPharm301:121-128,20052)TajikaT,IsowakiA,SasakiH:Oculardistributionofdifluprednateophthalmicemulsion0.05%inrabbits.JOcularPharmacolTher27:43-49,20113)NakanoS,YamamotoT,KiriiEetal:Steroideyedroptreatment(difluprednateophthalmicemulsion)iseffectiveinreducingrefractorydiabeticmacularedema.GraefesArchClinExpOphthalmol248:805-810,20104)KogaT,MawatariY,InumaruJetal:Trans-Tenon’sretrobulbartriamcinoloneacetonideinfusionforrefractorydiabeticmacularedemaaftervitrectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol243:1247-1252,20055)GotoNS,YamamotoT,KiriiEetal:Treatmentofdiffusediabeticmacularoedemausingsteroideyedrops.ActaOphthalmol,inpress6)YamamotoT,GotoNS,AbeSetal:Difluprednateophthalmicemulsion0.05%asadjunctivetreatmenttopan-retinalphotocoagulationforproliferativediabeticretinopathywithclinicallysignificantmacularedema.RetinalCases&BriefReports,inpress■「新たなステロイド点眼薬による糖尿病黄斑浮腫の治療効果」を読んで■近年の薬物治療の進歩により,従来は治療困難であでしょうが,有効濃度の薬物を網膜に送達することはった網膜硝子体疾患の治療が可能になってきました.簡単ではありません.また,全身への影響もより考慮抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬による加齢黄斑変性する必要があります.その点からは,点眼薬による薬の素晴らしい治療効果は,多くの方が経験されている物送達が理想的ですが,網脈絡膜への十分な薬物送達でしょう.また,抗血小板由来増殖因子抗体薬,抗イはむずかしいために,実用化されていませんでした.ンテグリン抗体薬などが,つぎつぎに開発されつつあ今回紹介された点眼薬治療による糖尿病黄斑症の治療り,薬の選択肢は広がっていくでしょう.しかし,こは,その意味から画期的なものです.糖尿病黄斑症にれらの治療には,共通かつ未解決な問題点がありまステロイド薬が有効なことは知られていましたが,副す.それは,これらの治療では,薬物送達のために眼作用や効果の点から,抗VEGF薬のほうが優れてい球に注射する必要がある点です.眼球注射は,感染症るという論調が最近は主流でした.しかし,これは双などの副作用が避けられないので,医療者にとって頭方とも硝子体注射で行うという条件下での判断であを悩ませる手技ですが,それ以上に患者さんにとってり,仮に抗VEGF薬治療は硝子体注射が必要であるは非常に抵抗を感じる治療法です.通常の注射ですらが,ステロイド薬は点眼治療でよいという条件下での忌避するのに,眼球注射など,考えただけでもおぞま判断になると,まずは点眼ステロイド薬を選択するほしいと言う人は少なくありません.米国では,患者さうが圧倒的に多いと思います.んの心理的負担を減らすために,治療中に音楽を流す本法は,ステロイド薬を使用するので地味な印象をなどの研究がされていますが,逆にこのことは眼球注受けますが,網膜治療の観点からみると革命的とも射に対する恐怖は決して小さくないことを示していまいってよい方法です.医療の主体は,医療者ではなくす.患者さんであることを考えると,その意味はさらに大眼球注射よりも優れた方法としては,経口剤や点眼きいといえます.薬があげられます.経口剤は,治療への恐怖感はない鹿児島大学医学部眼科坂本泰二1726あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(64)