———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098030910-1810/09/\100/頁/JCLSインターネットと手術動画私が医学部を卒業した平成10年当時,手術のライブ映像を医局や病棟のテレビで見ることができました.その通信技術に驚いたものですが,10年経った今日,手術映像はインターネットを使えば世界同時中継すら可能になりました.インターネットの通信容量が格段に上昇したため,テレビ番組や高画質の動画などの大容量の情報をパソコンで見ることができます.まさに情報革命といえます.ただ,革命のスピードと相対する力が,人間の意識であり倫理感です.最先端の技術を開拓する人間には,常にバランス感覚と倫理感を求められますが,遺伝子工学や再生医療といったライフサイエンスの領域だけでなく,インターネットの世界にも求められます.手術という医療行為は,ショーではなく患者の個人情報に深く関わりますので,ネット放送は技術的には可能であっても,安易に行わないよう医療人に倫理感を問いかけます.厚生労働省が平成16年12月24日に公布した「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」1)によると,「医療機関等は,患者の傷病の回復等を目的として,(中略)必要に応じて他の医療機関と連携を図ったり当該傷病を専門とする他の医療機関の医師等に指導,助言等を求めたりすることが日常的に行われる.」とあります.医療機関が,診療結果の向上のために個人情報を持ち出すことは「本人の同意が得られていると考えられる場合」として認められていますが,通信手段については記載がありません.また,同ガイドラインには,「学問の自由の保障への配慮から,大学その他の学術研究を目的とする機関等が,学術研究を目的として個人情報を取り扱う場合においては,法による義務等の規定は適応しない」とあります.つまり,純粋な「学術目的」のためなら,個人情報保護法の適用外となるため,文字通りに解釈するとインターネットに手術動画などの医療情報を制限なしに公開して良いことになります.ただし,刑法134条1項に「医師(略)が正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6カ月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する.」とあります.インターネットという新しいメディアを医療で扱うには,われわれ自身がインターネットの特性を理解し,患者の個人情報への配慮を今まで以上に強くもって利用しないといけません.21世紀のビジネスマンに求められるのは「会計力と英語力とITリテラシー」と言われます.なぜ,ITリテラシーなのかというと,良い書類を作るためではありません.インターネットを使えば,検索したい情報に瞬時に到達することができるからです.多忙な臨床医は,ビジネスの最先端に生きる方たちと同等の情報へのアプローチをしないといけません.時間を有効に使うためにインターネットはきわめて有効な手段です.ある手術を詳しく見たい,習得したい場合どうするか.その手術をしている施設を見学する,主催される技術講習会に参加する.が従来の方法です.当然ながら時間と労力を必要とします.いずれ,インターネットで検索して手術などの医療情報が自由に得られる時代が必ず訪れます.文献検索が容易になったように,手術動画検索はもっと効率化されるでしょう.モニターに映る情報以外に,患者の動線,スタッフの動線,モノの配置,モノの流れも貴重な手術情報です.これらの総合的な手術情報がインターネット上に掲載されれば,手術見学はきわめて効率化されます.インターネットの医療応用は時代の流れです.今後,医療コンテンツがインターネット上に整備されていくでしょう.ただし,先述したように治療行為・手術に関する医療動画は,医療者の倫理を強く求めます.各種学会(79)インターネットの眼科応用第5章インターネット手術見学武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑤———————————————————————-Page2804あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009のサイト内や,MVC-online2)のような医療者限定のサイトで行われるべきです.医療の動画がインターネット上に集まる世界では,提供する側には倫理感が求められ,閲覧する側にはITリテラシーが求められます.MVConlineでできること②(インターネット手術見学)先月号より,実例を交えて紹介しておりますが,MVC-onlineでは参加する医療者がエリアを越えて意見交換しています.学会場や手術室でしか見られなかった手術動画を自宅でも閲覧できます.ディスカッションに参加しなくても,その意見交換を見聞きするだけで自分の引き出しが増えていきます.MVC-onlineで投稿された実際の手術動画を簡単に紹介します.Case1:「白内障手術」大津日赤病院の栗山晶治先生から,白内障手術の動画をご投稿いただきました(図1)3).この症例が,MVC-onlineに投稿された初めての手術動画です.前の徹照やCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)のフラップが確実に見える画質の高さを維持したまま,メンバーであれば世界中のどこからでもインターネット上で閲覧できます.Case2:「春季カタルに対する乳頭切除術」国際医療福祉大学三田病院の藤島浩先生より,春季カタルの難治例に対する手術症例をご提示いただきました(図2)4).この症例では,術中に低濃度のマイトマイシン(80)Cを併用しています.手術の現場をインターネットで表現できる時代になりました.医師限定のSNSサイト,MVC-onlineでは,われわれ医療者の知識・ノウハウをインターネット上で共有しています.この試みは,インターネットの眼科応用の可能性を示しており,WEB2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」.厚生労働省,平成16年12月24日医政発12240012)http://mvc-online.jp3)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=76944)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=8330図2結膜乳頭切除術の手術動画図1白内障手術の手術動画