———————————————————————-Page1(129)5610910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):561563,2009cはじめにわが国では画一的な診療報酬点数のなかで,種々の眼内レンズが使用されている.今回筆者らはクラリフレックスRにおけるNEIVFQ-25(The25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire)の実施に伴い,SA40NでのNEIVFQ-25を比較検討した.NEIVFQ-25Ver1.3は国際的に広く認められたQOL(qualityoflife)尺度であり,その日本語版は計量心理学的な手法に則り,信頼性と妥当性が確認されたものである1).VFQ-25は視覚関連QOLを測定する25項目からなる.I対象および方法フォルダブル眼内レンズはAMO社製クラリフレックスRで,2006年4月2007年4月の期間に術前視力0.7以下,術後視力1.0以上で,白内障の程度はLOCS(水晶体混濁分類法)III分類にて核16,ASC(前下混濁)とPSC(後下混濁)15の150例(平均年齢68.3±11.4歳,男性70例,女性80例)を対象とした.術式は同一術者により3.0mm上方角膜切開,超音波乳化吸引術,内固定とした.予測屈折値は優位眼は-0.25D-0.75D,僚眼は-1.75D-2.00Dとした.多焦点レンズでは2006年4月2007年4月の期間に術前視力0.7以下,術後視力1.0以上で,白内障の程度はLOCSIII分類にて核16,PSC15の15例(5976歳,平均年齢67歳,男性7例,女性8例)を対象とした.観察期間は90365日(平均290日)であった.術式は同一術者により3.0mm上方角膜切開,超音波乳化吸引,内固定とした.予測屈折値は0+0.50Dとした.使用したレンズはAMO社製フォルダブル屈折型多焦点眼内レンズ(SA40N:2007年12月にわが国での販売は終了している)で近方加入度は+3.50Dであり,適応基準は,角膜乱視-2.00D以内であること,夜間の運転を職業としないこと,明室で瞳孔径〔別刷請求先〕佐藤功:〒253-8558茅ヶ崎市幸町14-1茅ヶ崎徳洲会総合病院眼科Reprintrequests:IsaoSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ChigasakiTokushukaiMedicalCenter,14-1Saiwaicho,ChigasakiCity,Kanagawa253-8558,JAPANSA40NとクラリフレックスRの術後比較佐藤功石原兵治高梠智彰吉田正至茅ヶ崎徳洲会総合病院眼科PostoperativeComparison:SA40Nvs.CLARIFLEXRIsaoSato,HeijiIshihara,TomoakiKourokiandTadashiYoshidaDepartmentofOphthalmology,ChigasakiTokushukaiMedicalCenterわが国では画一的な診療報酬点数のなかで,種々の眼内レンズが使用されている.今回筆者らは国内での使用が少ない多焦点眼内レンズが,満足度を十分得られているか検討した.対象は3.0mmの上方角膜切開よりSA40Nを挿入した5976歳までの15例で,患者満足度の評価方法はVFQ-25Ver1.3を用いた.検討項目に対して,ほぼ全項でポイントの上昇を認めた.SA40Nでの評価は,当院におけるVFQ-25Ver1.3を用いたクラリフレックスR(CLARI-FLEXR)での評価を上回った.VariousintraocularlensesareusedinuniformmedicaltreatmentfeepointsinJapan.WeinvestigatedwhetherornottherewasacorrespondinghighlevelofsatisfactionwithamultifocalintraocularlensthatisnotwidelyusedinJapan.TheSA40Nwasinsertedinto15patients,from59to76yearsofage,viaa3.0mmuppercornealincision.VFQ-25Ver1.3wasusedasanecacymeasure,forpatientsatisfaction.Thescoreofallpatientsincreasedinalmostallscales.ThescoreforSA40NexceededthatforCLARIFLEXRinthehospitalusingVFQ-25Ver1.3.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):561563,2009〕Keywords:多焦点眼内レンズ,単焦点眼内レンズ,VFQ-25Ver1.3.multifocalintraocularlens,monofocalin-traocularlens,VFQ-25Ver1.3.———————————————————————-Page2562あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(130)3.5mm以上であること2),白内障以外に視力に影響を及ぼす眼疾患がないこと,両眼挿入可能であること,多焦点機能について理解し十分なインフォームド・コンセントの得られたものであった3).検討項目は術後1年において5mの遠方視力,遠方視時の等価球面度数,近方視力(任意距離),近点距離,VFQ-25の測定(12項目),多焦点レンズに関連した項目として遠方,近方視時の満足度,眼鏡装用状況,グレア・ハローの有無とした.II結果術後視力(図1,多焦点レンズ)は,遠方視では裸眼視力1.0以上は74%だが,矯正視力で1.0以上出なかったものは1眼のみであった.近方視力では裸眼視力0.6以上が50%だが,矯正視力では全症例において1.0以上であった.等価球面度数と近点距離(図2,多焦点レンズ)では2カ月後にやや一時的に遠視化するものの3カ月後以降では予測どおり近点距離が平均32cmであった.白内障術前後のVFQ-25スコア(図3)では,大鹿ら4),当院でのフォルダブル眼内レンズ,当院での多焦点レンズの3グループにてスコアをそれぞ0102030405060708090100:大鹿ら術前:大鹿ら術後:フォルダブルIOL術前:フォルダブルIOL術後:多焦点IOL術前:多焦点IOL術後VFQ-25スコア総合得点心の健康役割制限自立社会生活機能色覚周辺視野運転遠見視力行動近見視力行動目の痛み全体的見え方図3白内障手術前後のVFQ25スコア(手術前後で3グループとも改善):大鹿ら:フォルダブルIOL:多焦点眼内レンズVFQ-25スコア051015202530総合得点心の健康役割制限自立社会生活機能色覚周辺視野運転遠見視力行動近見視力行動目の痛み全体的見え方図4VFQ25スコア改善度0.5-0.2500.250.50.7511.251.51.751週間1カ月2カ月3カ月1週間1カ月2カ月3カ月24262830323436384042(cm)(D)術後観察期間術後観察期間近点距離等価球面度数図2等価球面度数と近点距離(多焦点レンズ)1.0以上15眼(50%)30眼(100%)1.0以上遠方近方裸眼矯正0.7~1.07眼(23%)0.7未満1眼(3%)0.91眼(3%)1.0以上22眼(74%)0.4~0.613眼(43%)0.4~0.613眼(43%)0.4未満2眼(7%)0.6以上15眼(50%)1.0以上30眼(100%)1.0以上29眼(97%)図1術後視力(多焦点レンズ)(n=30)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009563(131)れ表示した.白内障によって患者の術前のQOLは著しく障害されているが,術後のQOLは大鹿らと同様に改善した.当院でのフォルダブル眼内レンズを用いたVFQスコアも,大鹿らと類似した結果が得られた.3グループにおける術後スコアから術前スコアをそれぞれ引いたものを改善度(図4)とした.全体的見え方,近見視力行動,遠見視力行動,社会生活機能,心の健康,総合得点の6項目は多焦点レンズにおいて他よりも改善度が上回った.近見視力行動,遠見視力行動,運転,役割制限において,4項目は当院におけるフォルダブル眼内レンズは大鹿らを上回っていたが,これは狙い度数の違いによるものと考えられた.心の健康や総合得点では大鹿らのフォルダブル眼内レンズと当院での多焦点レンズが当院でのフォルダブル眼内レンズを上回った.全体的見え方,心の健康,総合得点では多焦点眼内レンズが最も高い改善度を認めた.III考按多焦点眼内レンズは術後の眼鏡への依存度を軽減するために使用されるもので,それがこのレンズの特徴であり,多焦点眼内レンズを使用した場合,理論上も臨床上も視機能低下が起きることが知られている(コントラスト感度低下,グレア・ハローなど)511).一方,VFQ-25は設問前の患者への注意にあるように,眼鏡(またはコンタクトレンズ)矯正下での視機能や見え方への満足度を調べるものである.患者への説明には,「もし,眼鏡やコンタクトをお使いの方は使っているときのことを答えてください.時々しか使わない場合でも,すべての質問に使っているものとして答えてください.」とあるため,このアンケートでは多焦点眼内レンズの「眼鏡依存度の減少」というQOLへのメリットは反映されず,「視機能低下」の面のみが反映されることが予想される.実際のスコアにおいて「自立」の改善度が低いことから,「眼鏡依存度の減少」というQOLへのメリットは予想どおり反映されなかった.しかし「視力行動」と「全体的見え方」の改善度が高いことからは,「視機能低下」の面のみが反映される予想とは異なる結果が得られた.これはQOLの改善度において,白内障に対する「水晶体再建術」の効果が高いためと思われた.わが国では画一的な診療報酬点数のなかで,さまざまな眼内レンズが使用されているが,SA40Nの使用によりVFQ-25スコアでの術後総合得点改善率は28.3%が32.8%になる程度であった.しかしSA40Nは新しい多焦点眼内レンズに比べ成績が不良であることも報告されており,新しい回折型多焦点眼内レンズとは評価が異なる.それらを使用することによる満足度を患者が十分得られているかどうかは,屈折矯正手術に使用するアンケート方法12,13)などを用いたQOLの評価に基づき,今後の「水晶体再建術」の眼科診療報酬点数は,術式などによる差別化の必要があることを示唆していると思われた.文献1)大鹿哲郎,杉田元太郎,林研ほか:白内障手術による健康関連qualityoflifeの変化.日眼会誌109:753-760,20052)谷口重雄:多焦点眼内レンズ屈折型多焦点眼内レンズ(HOYASFX-MV1).あたらしい眼科25:1081-1086,20083)江口秀一郎:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズの適応とインフォームド・コンセント.あたらしい眼科25:1049-1054,20084)大鹿哲郎:白内障手術とQOL.日本の眼科76:1399-1402,20055)根岸一乃:眼内レンズ選択多焦点眼内レンズ─屈折型.眼科手術21:293-296,20086)荒井宏幸:多焦点眼内レンズ回折型レンズ(アクリリサ)の術後成績.あたらしい眼科25:1076-1080,20087)藤田善史:多焦点眼内レンズレストアの術後成績.あたらしい眼科25:1071-1075,20088)大木孝太郎:多焦点眼内レンズテクニス回折型多焦点眼内レンズの治療成績.あたらしい眼科25:1066-1070,20089)佐伯めぐみ:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズ挿入術の術前・術後検査.あたらしい眼科25:1061-1065,200810)林研:多焦点眼内レンズ屈折型と回折型レンズの特徴と使い分け.あたらしい眼科25:1087-1091,200811)ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズと乱視矯正.あたらしい眼科25:1093-1096,200812)ScheinOD:Themeasurementofpatient-reportedout-comesofrefractivesurgery:therefractivestatusandvisionprole.TransAmOphthalmolSoc98:439-469,200013)PesudovsK,GaramendiE,ElliottDB:Thequalityoflifeimpactofrefractivecorrection(QIRC)questionnaire:Developmentandvalidation.OptomVisSci81:769-777,2004***