———————————————————————- Page 11336あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(00)0910-1810/09/\100/頁/JCOPYMS の病型別にどのような違いがあるか,その違いをどう理解するかについて解説していきたいと思う.IOCTで網膜神経線維層厚を測定する意義MS の神経症状に関しては,臨床スコアから重症度を評価することができても,脱髄や神経線維変性による視神経線維の障害程度を直接的かつ定量的に評価することは困難である.MRI 検査は病巣の部位や大きさを可視化し,撮影時点での血液脳関門(blood-brainツꀀ barrier)の破綻部位を画像化しうる特徴を有している.その評価には造影剤が必要であるが,造影しても障害程度の定量的評価は困難であり,その感度や精度は低い.一方,OCT を用いた RNFLT 計測は非侵襲かつ短時間で測定でき,結果が数値として得られるため,MS における炎症や脱髄に伴った視神経線維の変性・消失という長期的変化を経時的に捉える一つの目安になりうるのではないかと考えられ,近年注目されるようになっている.OCT は近赤外線領域の superツꀀ luminanceツꀀ diode を光源とし,光干渉現象を応用することで非侵襲的に網膜の精密な断層像が得られる.近年その進歩は目覚しく,タイムドメイン OCT からスペクトラルドメイン OCT へと進化し,撮影時間が 25 100 倍短縮されるとともに感度が数十倍良くなった.深さ方向の分解能もタイムドメインの 10 μm からスペクトラルドメインの 5 μm に改善され,得られる網膜断面像は飛躍的に向上した.すでに緑内障領域では緑内障性視神経障害の定量化法としてはじめに本稿では従来の古典的なマクドナルドの診断1)に従う多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)を古典型 MS と表し,新しい概念であるメイヨークリニックの視神経脊髄炎(neuromyelitisツꀀ optica:NMO)の診断基準2)に準拠したアクアポリン 4 抗体陽性または脊髄 MRI(磁気共鳴画像)で中心灰白質を中心とした 3 椎体以上の長い脊髄病巣が陽性の視神経脊髄炎型の MS を NMO と区別して表す.MS と記載した場合は,この二つの病型を合わせた総称として用いることにした.実際の臨床の場で,両者を区別できない場合や時期があるので,実践的に MSと総称することに利点がある.NMO を MS から外し,別疾患とする考えも存在するが,MS をどう定義するかによるものであり,疾患の実態の理解が異なるわけではない.またメイヨークリニックの NMO 診断基準からはずれるが,アクアポリン 4 抗体陽性か,脊髄に 3 椎体を超える病変がある症例は症候性の視神経炎既往がなくとも NMO と診断でき,病態は同一であると筆者らは考えている.よって本稿ではこれらの症例も NMO とした.眼科を受診する MS 患者は通常,視神経炎あるいは眼球運動障害を起こして来院することが多い.実際,古典型 MS では初発症状の一部として視神経炎を発症する割合は 20%3)程度である.本稿では,視神経炎既往の有無による MS の網膜神経線維層厚(retinalツꀀ nerveツꀀツꀀ ber layerツꀀ thickness:RNFLT)の差を光干渉断層計(optical coherenceツꀀ tomography:OCT)を用いて検討した場合,1336ツꀀ (38)特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1336 1342,2009*1 Yoko Ikeda:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学*2 Takahiko Saida:京都民医連中央病院神経内科〔別刷請求先〕池田陽子:〒602-0841 京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町 465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学視神経炎と光干渉断層計Optical Coherence Tomography for Evaluating Optic Neuritis inツꀀ Multiple Sclerosis池田陽子*1斎田孝彦*2———————————————————————- Page 2あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091337(39)耳鼻側方向で薄くなっている.また,視神経乳頭から離れれば離れるほど薄くなる.図 34)に示すように,加齢に伴って網膜神経節細胞が脱落する5,6)ために RNFLTは年々薄くなっていくが,正常では 90 歳を超えたとしてもある程度の厚みがある.図 4 は自験例のレポートである.図 4A は自験例の古典型 MS 視神経炎既往 1 回の症例で,わずかに RNFLT が薄くなっている.図 4B はNMO 視神経炎を複数回くり返した症例で RNFLT が非常に薄いため測定不能で,円グラフは広範囲で赤色になっている.図 4C はアクアポリン 4 抗体陽性の視神経炎を起こしていない NMO 症例で,RNFLT は正常の厚みを保っている.III網膜神経線維層厚と多発性硬化症の関連1. RNFLTはMSの罹患期間とともに減少し,その減少速度は正常者より速い古典型 MS では 30 歳が発症のピークである.正常者RNFLT 測定が利用されていたが,同様に MS の脳内視覚伝導路障害を推測する一つの手段になりうる可能性がある.図 1 には現在用いられている各社のスペクトラルドメイン OCT とその解析結果例を示す.II網膜神経線維層厚とは?RNFLT は網膜最表層に存在する無髄の網膜神経節細胞の軸索の厚みである.図 2 に示すように光刺激は視細胞である桿体・錐体細胞で電気信号へ変換され,双極細胞を経て,網膜神経節細胞に伝わった後,束となった軸索が視神経となって頭蓋内へ伸び,最終的に外側膝状体へ投射する.MS における RNFLT が正常者との比較でどのような差異があるのかを理解するために,まずは正常者の RNFLT を知ることが大切である.以下の比較においては視神経乳頭周囲の RNFLT に関して検討する.正常者の視神経乳頭周囲の RNFLT は上下耳鼻側の部位によって厚みが異なり,視神経乳頭の上下方向で厚く,ト コン 3DOCT解析レポートOCT imageFundus imageRNFL thicknessオプトビュー 3DOCTシラス 3DOCT図 1OCTとその結果レポート各種メーカー機器(上)とその視神経乳頭周囲の RNFLT を測定した結果(下).———————————————————————- Page 31338あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(40)往のあるほうが RNFLT の減少の傾きは大きい.視神経炎の既往のある古典型 MS においては視神経炎既往のない古典型 MS より RNFLT の減少速度がさらに速くなる.図 5C8)は視神経炎発症後の RNFLT の経時変化をみたグラフで,横軸は経過月数で縦軸は RNFLT である.視神経炎を起こしてからも RNFLT は徐々に減少している.図 5C から数値を読みとると,視神経炎発症後1 年間に約 20 μm 減少しているが,正常者の減少量(図3 から算出した 30 歳から 31 歳までの 1 年間の減少量)と比較するとおよそ 10 倍速い減少になる.2. MSの視神経炎既往別RNFLT図69)は MS の視神経炎既往別に RNFLT を比較したグラフである.a は正常者の眼,b d は古典型 MS で,b:両眼に視神経炎を起こしていない眼,c:片眼に視神経炎を起こしたときの僚眼そして,d:視神経炎を起こした眼である.これらを比較したところ,a が最も厚く,b,c がこれにつぎ,最も薄いのが d となっている.つまり,古典型 MS では視神経炎を起こしていなくてもでの 30 50 歳までの 20 年間の加齢に伴う RNFLT 変化(図 5A,B 点線)4)を参考に付けて,古典型 MS のRNFLT 変化7)のグラフ(図 5A,B 実線)を示した.この図からわかるように,古典型 MS は視神経炎の既往の有無にかかわらず RNFLT は正常より薄く,視神経炎既視覚路視 線光網膜神経線維神経節細胞アクアマリン細胞双極細胞ツꀀ 細胞桿細胞錐細胞色 上 層外側膝状体内側膝状体視索視ツꀀ 視神経 距 図 2視神経線維層のシェーマMS による炎症でミエリンが障害を受け,また寛解してミエリンが再生されたりもするが,最終的に脳神経が傷害される.網膜神経線維層をみることで,脳内病変が推測される.160150140130120110100902010304050Age(years)Average RNFLT(μm)60708090図 3年齢とRNFLTの減少グラフの傾きは y= 0.224x+134 で,加齢とともに RNFLTは減少する. (文献 4 より一部改変)———————————————————————- Page 4あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091339(41)正常より RNFLT は薄くなっており,興味深い.この明らかな理由は不明だが,慢性的な炎症による視神経障害が持続している可能性がある.A:古典型MS視神経炎既往ありOCT imageB:NMO視神経炎既往ありC:NMO視神経炎既往なしFundus imageOCT imageFundus imageOCT imageFundus imageRNFL thicknessRNFL thicknessRNFL thickness図 4自験例のOCT(RNFLT)データ各図下段は NFLT を表す.同世代正常者と同程度の厚みであれば緑色,薄いと赤色,ボーダーラインは黄色で表される.左下段は正常であれば緑の幅の間に患者の実測線(青色)が入るが,薄くなると下方にシフトする.右下段は測定結果を円グラフで模式化した図で,視神経のどの場所の RNFLT が薄いかイメージしやすい.140130120110100908070605005101520Disease duration(years)RNFLT(μm)図 5B古典型MS(視神経炎既往なし)の罹患期間とRNFLT視神経炎を起こしていなくとも MS に罹患しているというだけで RNFLT は正常(点線)より薄く,その減少の傾きは正常より大きい. (文献 7 より一部改変)140130120110100908070605005101520Disease duration(years)RNFLT(μm)図 5A古典型MS(視神経炎既往あり)の罹患期間とRNFLT視神経炎既往があると RNFLT は正常(点線)より薄く,視神経炎既往を起こしていない古典型 MS(図5B)よりも RNFLTの減少の傾きが大きい. (文献 7 より一部改変)———————————————————————- Page 51340あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(42)れのカテゴリー間で比べると,視神経炎の既往がある場合では古典型 MS より NMO のほうが薄くなっていて,視神経障害程度は NMO が大きいことがわかる.視神経炎既往のない NMO は古典型 MS より RNFLT は厚く出ている.図 7B は自験例の OCT の乳頭周囲耳側データであるが,傾向はほぼ同様であった.視神経炎既往がなくても RNFLT の薄くなる古典型 MS とは対照的に,NMO は視神経炎を起こすまではほぼ正常な RNFLT を保っている.つまり,末梢で抗体が循環している間(血液脳関門や血液網膜関門に障害がなく抗体が中枢に到達3. MSの視力障害の重症度とRNFLTMS では視力障害が重症であるほど RNFLT は薄くなる.視力が同程度であっても,視神経炎の既往があればさらに RNFLT は薄くなる.図 7A10)の縦軸は RNFLT,横軸は視力を表している.左から a:視神経炎の既往がない,b:視神経炎の既往があるが視力障害が正常範囲,c:視力障害が中等度,d:視力障害が重度の,カテゴリーを示している.古典型 MS においても NMO においても a が最も厚く,b,c と続き,最も薄いのが d であった.ただし,古典型 MS と NMO の RNFLT をそれぞ160140120100806040200369120Time after event(month)OCT(μm)図 5C急性視神経炎とRNFLT視神経炎を起こしたあとの RNFLT の減少は正常よりも速い. (文献 8 より一部改変)120100806040200a:正常RNFLT(μm)b:MS視神経炎なしd:MS視神経炎ありc:MS視神経炎を起こした眼の僚眼*******図 6古典型MS視神経炎の既往別RNFLTRNFLT の厚みは正常が最も厚く,ついで視神経炎なし,視神経炎を起こした僚眼の順になり,視神経炎を起こした眼が最も薄くなる.*,**,****は正常と比較して有意に薄い. (文献 9 より一部改変)120100806040a:視神経炎既往なしb:正常 0.8c:中等度0.67 0.3d:重度 0.3視神経炎を起こした :古典型MS:NMORNFLT(μm)図 7AMSの視力障害の重症度とRNFLTMS が重度なほど RNFLT は薄くなるが,NMO は視神経炎を起こしていない場合,RNFLT の厚みは正常と有意差がない. (文献 10 より一部改変)6050403020100RNFLT(μm)正常n=38NMO視神経炎(+)n=6NMO視神経炎(-)n=5古典型MS視神経炎(+)n=11古典型MS視神経炎(-)n=16図 7B自験例のRNFLTデータ自験例の RNFLT データも図7Aと同様の傾向がある.———————————————————————- Page 6あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091341(43)ある.OCT による RNFLT 測定とこれまでに MS の診断や経過観察に欠かせなかった脳や脊髄などの MRI 撮影との比較をしてみたいと思う.表 1 に両者の比較を示した.OCT による RNFLT 測定は非侵襲かつ MRI より低価格で,測定時間も短い.したがって MRI を撮影できない場合や,MS の症状悪化の場合など,OCT による RNFLT 測定が MS の病態の補助診断になりうる可能性がある.MRI が撮影できない患者(たとえばペースメーカー装着者や,閉所恐怖症患者など)に対しても計測が可能である.OCT の計測上の問題点としては視力が悪く,固視不良がある場合,または眼振の存在する場合などでは信頼性のあるデータが得られないことがあげられる.視神経のトラッキングシステムの存在により固視不良例でも撮影が可能になる場合もある.また,RNFLT は加齢による減少以外に,視神経乳頭辺縁からの距離によっても値が変わるため,同一患者でも再現性に問題がある可能性がある.できない間)は,抗体がアストロサイトを攻撃することはなく,何らかの感染のような血液脳関門あるいは血液網膜関門に障害を起こすイベントによって,それらが破綻しアクアポリン 4 抗体が中枢に移行できるようになると,激しい視神経炎を起こすと考えられている.しかしながら,これは動物モデルから推測された結果であり,実際にヒトで証明されたわけではない.4. MSスコアとRNFLTMSで使用される総合障害度のスケールEDSS(Expandedツꀀ Disabilityツꀀ Statusツꀀ Scale)は,Kurtzke 尺度としても知られ,インターフェロンbなどの MS 薬物治療の臨床試験で使用されている.EDSS は 8 つの機能系(錐体路機能,小脳機能,脳幹機能,感覚機能,膀胱直腸機能,視覚機能,精神機能,その他の機能)の評価と歩行機能の評価の組み合わせで評価され,スコアは0:正常から 10:死亡までとなっている.スコアが低い値ほど MS の障害は軽いとされ7,11),図 8 に示すように,EDSS スコアが高くなると RNFLT は薄くなる.このように RNFLT は MS の重症度と相関があるため,MS の重症度診断やその経過観察に役立つ可能性がある.IVMRIとOCTの比較これまで述べてきたように RNFLT は MS における視覚路の神経線維変性・脱落の指標となりうる可能性が14013012011010090807060501401301201101009080706050012EDSSEDSS345012345B :視神経炎なしA :視神経炎ありRNFLT(?m)RNFLT(?m)図 8MRIの所見の重症度(MS スコア)古典型 MS では視神経炎の既往の有無に関係なく EDSS の値が大きくなるほど RNFLT は薄くなっている. (文献 7 より一部改変)表 1MRIとOCTの比較OCT(RNFLT)MRI(脳,脊髄おのおの)測定時間片眼3秒20 分費用2,000 円30,000 円造影剤の使用なしあり侵襲なしあり測定不可症例固視不良体内金属保持者 (ペースメーカーなど)———————————————————————- Page 71342あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009おわりにMS では RNFLT が同世代正常者よりも薄く,MS が重症であるほど薄くなる傾向がある.そのため RNFLT はMS の病態を表す目安となりうる.OCT による RNFLT測定は非侵襲・短時間・低コストで測定でき,MS 患者の視神経変性の一つの指標となりうるため,MS の経過観察において有用な定期的補助検査となる可能性が考えられる.さらに今後,開発されるであろう MS の治療薬の薬効評価の際にも有用である可能性が高い.文献 1) Dyer D, MacDonald E, Newcombe RG et al:Abrasion and stain removal by di erent manual toothbrushes and brush actions:studies in vitro. J Clin Periodontol 28:121-127, 2001 2) Wingerchuk DM, Lennon VA, Pittock SJ et al:Revised diagnostic criteria for neuromyelitis optica. Neurology 66:1485-1489, 2006 3) Sorensen TL, Frederiksen JL, Bronnum-Hansen H et al:Optic neuritis as onset manifestation of multiple sclero-sis:aツꀀ nationwide,ツꀀ long-termツꀀ survey.ツꀀ Neurology 53:473-478, 1999 4) Kanamoriツꀀ A,ツꀀ Escanoツꀀ MF,ツꀀ Enoツꀀ Aツꀀ etツꀀ al:Evaluationツꀀ ofツꀀ the e ect of aging on retinal nerveツꀀ ber layer thickness mea-suredツꀀ byツꀀ opticalツꀀ coherenceツꀀ tomography.ツꀀ Ophthalmologica 217:273-278, 2003 5) Jonas JB, Schmidt AM, Muller-Bergh JA et al:Human optic nerveツꀀ ber count and optic disc size. Invest Ophthal-mol Vis Sci 33:2012-2018, 1992 6) Balazsi AG, Rootman J, Drance SM et al:The e ect of age on the nerveツꀀ ber population of the human optic nerve. Am J Ophthalmol 97:760-766, 1984 7) Siger M, Dziegielewski K, Jasek L et al:Optical coher-ence tomography in multiple sclerosis:thickness of the retinalツꀀ nerveツꀀツꀀ berツꀀ layerツꀀ asツꀀ aツꀀ potentialツꀀ measureツꀀ ofツꀀ axonal loss and brain atrophy. J Neurol 255:1555-1560, 2008 8) Costello F, Hodge W, Pan YI et al:Tracking retinal nerveツꀀ ber layer loss after optic neuritis:a prospective study using optical coherence tomography. Mult Scler 14:893-905, 2008 9) Pulicken M, Gordon-Lipkin E, Balcer LJ et al:Optical coherence tomography and disease subtype in multiple sclerosis. Neurology 69:2085-2092, 2007 10) Naismith RT, Tutlam NT, Xu J et al:Optical coherence tomography di ers in neuromyelitis optica compared with multiple sclerosis. Neurology 72:1077-1082, 2009 11) Gordon-Lipkinツꀀ E,ツꀀ Chodkowskiツꀀ B,ツꀀ Reichツꀀ DSツꀀ etツꀀ al:Retinal nerveツꀀ ber layer is associated with brain atrophy in mul-tiple sclerosis. Neurology 69:1603-1609, 2007(44)