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選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6 カ月の有効率

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(117)6930910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):693696,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は,線維柱帯細胞のうち色素を含有する細胞のみを選択的に障害する新しい緑内障レーザー治療として1995年にLatinaら1)によって報告された.低エネルギーであり線維柱帯の器質的変化をきたすことが少ないため,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)に代わる緑内障レーザー治療として注目され,以来,広く臨床使用されるに至っている.その成績は開放隅角緑内障や落屑緑内障を対象として,primarytreatmentとして使用した場合,80%以上の有効率2,3)を示し,ラタノプロストに匹敵する降圧作用2,4)があると報告されている.しかし実地臨床では,点眼加療で眼圧下降が不十分な例に手術回避を目的として施行されるなど,second-linetherapyとして使われることが多く,また,ぶどう膜炎に続発する緑内障や閉塞隅角緑内障を除くさまざまな緑内障病型にも用いられる場合がままある.〔別刷請求先〕望月英毅:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:HidekiMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima-shi734-8551,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率望月英毅高松倫也木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学ResponderRateatSixMonthsafterSelectiveLaserTrabeculoplastyHidekiMochizuki,MichiyaTakamatsuandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を後ろ向きに検討した.対象はSLTを受けた緑内障患者連続55例58眼であった.内訳けは,開放隅角緑内障が36眼,落屑緑内障11眼,その他の続発緑内障および緑内障手術既往眼が11眼で,点眼薬剤数2.3±1.0剤,治療前眼圧は20.4±4.1mmHg.総エネルギー量は28.2±6.8mJ,下方半周を凝固した.照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅中央値は5.0mmHgであった.同様に6カ月後に20%以上眼圧が下降したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値は27.4%であった.術前眼圧は有効率と相関があった(r=0.5,p=0.012).落屑以外の続発緑内障と緑内障手術既往眼では成績が悪かった.比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,緑内障手術既往のない眼が良い適応と考えた.Wereviewedaseriesof58eyesof55patientswhohadbeentreatedwithselectivelasertrabeculoplasty(SLT).Ofthe58eyes,36hadopen-angleglaucoma(includingnormal-tensionglaucoma),11hadexfoliativeglau-comaand11hadothersecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgery.Theaveragenumberofanti-glauco-mamedicationsusedwas2.3±1.0andthemeanbaselineintraocularpressure(IOP)was20.4±4.1mmHg.Theinferior180degreesofmeshworkreceivedenergyof28.2±6.8mJ.Theresponderratefor20%pressurereductionwas36%andthatfor3mmHgIOPreductionwas41%at6-monthsfollow-up.ThebaselineIOPcorrelatedwithanSLTsuccessof20%IOPreduction(r=0.5,p=0.012).Eyeswithsecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgerydidnotrespond.SLTwasfoundtobeecaciousforopen-angleglaucomaorexfoliativeglaucomawithoutahistoryofglaucomasurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):693696,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,緑内障,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,glaucoma,lasertherapy.———————————————————————-Page2694あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(118)から4まで分類判定したものを用いた.II結果術後16カ月後の有効率を図1に示す.レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅の中央値は5.0mmHg,2575%点は4.36.8mmHg,最大値は10.3mmHgであった(図2a).同様に6カ月後に下降率20%以上を示したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値しかしながらこうした場合,従来の報告どおりの効果が期待できるのかはわからない.そこでSLTの日常臨床での成績を検討した.I対象および方法1.対象広島大学眼科緑内障外来でSLTを受けた緑内障患者連続58例62眼のうち全身状態悪化などで受診が途絶えた3例4眼を除いた,55例58眼を対象にレトロスペクティブに検討した.対象は男性30例32眼,女性25例26眼で,年齢は平均62.3±11.2歳(4386歳)であった.異なる日に計測した連続する術前2回の眼圧の平均値は,20.4±4.1mmHgであった.術前の眼圧下降薬の点眼数は2.3±1.0本で,内訳は,点眼薬を使用していないものが3眼,1剤が10眼,2剤が14眼,3剤が26眼,4剤が5眼であった.眼圧下降薬の内服はなかった.観察期間は6カ月とした.対象の緑内障病型の内訳は表1に示すとおり,広義原発開放隅角緑内障で術前眼圧が16mmHg以下の群,16mmHgより大きい群,落屑緑内障,その他の緑内障群とした.その他の群にはaphakicglaucomaなど落屑緑内障以外の続発開放隅角緑内障および,トラベクレクトミー既往眼が4眼,トラベクロトミー既往眼が1眼含まれている.ALT既往眼はなかった.2.方法レーザーはLuminus社製SelectaIIを用い,照射の方法はこれまでの報告57)と同様,0.8mJ/発前後から始め,気泡の出ない最大のエネルギーを使用し,全例下方線維柱帯半周180°に照射した.平均総エネルギーは28.2±6.8mJ(平均±SD),照射数は56.3±6.0発であった.下降幅3mmHg以上,または下降率20%以上を有効と判定した.経過観察期間中に点眼を追加された1眼,緑内障手術を受けた10眼は無効例とした.隅角色素は下方象限の色素をScheieの分類でグレード0表1対象患者の緑内障病型の内訳病形眼数術前眼圧(平均±SDmmHg)開放隅角緑内障(≦16mmHg)614.8±1.5開放隅角緑内障(>16mmHg)3019.9±2.9落屑緑内障1124.0±4.4その他1121.5±3.9開放隅角緑内障(≦16mmHg)は術前2回の受診時眼圧の平均値が16mmHg以下の広義原発開放隅角緑内障.開放隅角緑内障(>16mmHg)は同様に術前眼圧が16mmHgより大きい広義原発開放隅角緑内障.その他の群には緑内障手術既往眼(レクトミー後4例,ロトミー後1例)およびaphakicglaucomaなど,その他の続発開放隅角緑内障を含む.:3mmHg下降:20%下降1009080706050403020100有効率(%)1カ月3カ月術後月数6カ月図1SLT後1~6カ月の有効率実線は有効判定基準を眼圧下降幅3mmHg以上としたもの,破線は有効判定基準を眼圧下降率20%以上としたもの.02468101201020304050ab眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降率(%)図2SLT有効例の箱ヒゲ図a:レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示した24眼の下降幅の分布.b:同様に6カ月後に下降率20%以上を示した21眼の下降率の分布.:無効例:有効例35302520151050眼数OAG≦16mmHg15110OAG>16mmHg1317落屑緑内障65その他図3照射後6カ月での病型別有効例数(眼圧下降率20%以上)OAG:開放隅角緑内障.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008695(119)むね50%程度の有効率があったが,眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障および,緑内障手術既往のある群や無水晶体性緑内障などの続発緑内障では有効率は低かった.今回の対象では手術既往のある眼は,トラベクレクトミー後で特に成績が悪かった.レクトミー後はSchlemm管が狭窄化しており9),レクトミー既往眼にはロトミーは効果が少ない10)ことから,一般にレクトミー後は房水流出路が萎縮するものと考えられている.SLTも同様の理由でレクトミー後は無効であるものと推察される.また,術前眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障の群では反応例が少なく,やはり術前眼圧の高いものが反応しやすいものと考える.落屑緑内障にやや反応例が多かったのも術前眼圧が高かった影響があるのかもしれない.色素含有細胞のみを選択的に障害するとされているSLTの作用機序からは隅角色素が多い眼のほうが有効性は高いものと予想されるが,SLTでは隅角色素と術後成績の間に相関がない5,11)と報告されている.自験例でも相関はみられなかった.この事象に関しては考察が困難であり,これまでにも納得のできる説明はなされていない.Songら8)は個々の緑内障点眼薬が成績に及ぼす影響を検討し,プロスタグランジン製剤,b遮断薬,炭酸脱水素酵素阻害薬のいずれも有効率に差は検出されなかったとしているが,Songらの対象では複数の点眼が処方されている例が多く,はたして正確に個々の点眼の影響を検討できるのか疑問が残る.筆者らの症例においても,多くの症例でラタノプロストが処方されており,個々の点眼薬の影響を検討することは困難であったので,今回は検討していない.最近レトロスペクティブな検討12)で,プロスタグランジン製剤点眼を使用している患者群のほうが,その他の緑内障点眼を使用している群よりSLTの効果が高いとの報告がなされたものの,今のところその他にSLTと相乗効果のある緑内障点眼薬があるのかどうかは不明である.以上を要するに,SLTでは比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,レクトミーの既往のない眼がよい適応であり,隅角色素は効果には無関係と考える.SLTは比較的合併症の少ない治療ではあるが,点眼と比べて患者にかなりの経済的負担(平成18年10月版医科点数表の解釈によると隅角光凝固術8,970点)を強いるものである.病型を選ばずに,点眼加療中の緑内障患者にSLTを行うと,既報の成績よりも反応性が悪くなる可能性があることを念頭に適応を決する必要があるものと考える.文献1)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,1995は27.4%,2575%点は2533%,最大値は42%であった(図2b).照射後6カ月で,下降率20%以上を示した例の数を病型別に図3に示す.術前眼圧16mmHgより大きい開放隅角緑内障と落屑緑内障の群で比較的良好な反応が得られたが,16mmHg以下の開放隅角緑内障とその他の群では反応性に乏しかった.緑内障手術既往のある眼では,トラベクレクトミー既往眼は4眼すべてで無効で,ロトミー既往眼1眼は術後3カ月までは有効であったが,6カ月目に無効となった.つぎに成績に影響を与える因子を検討した.有効例(下降率20%以上)における眼圧下降値と術前眼圧は単回帰にてr=0.5と弱い相関があった(図4).3mmHg下降,および20%下降で判定した有効例群と無効例群における隅角色素のScheie分類のグレード数をMann-Whitney-Utestを用いて比較したところ,いずれの判定基準においても差は検出されなかった(順にp=0.89,p=0.59).同様に術前の眼圧下降薬の点眼数を比較したが,差は検出されなかった(順にp=0.17,p=0.11).III考按今回は,すでに点眼加療がなされているさまざまな緑内障病型に対してSLTを行った結果を検討した.これまでの報告2,3)ではSLTはprimarytreatmentとしては80%以上の有効率を示すとされている.しかしながら,今回得られた有効率はこれらと比べても低い値であった.筆者らと同様に点眼加療を行っている患者に対する治療の報告8)をみると,50%前後の有効率であり,筆者らの結果よりやや良いもののおおむね同様である.今回の検討では術前の点眼数と有効性の関係は検出されなかったものの,日常臨床でSLTの適応を決定する場合に注意を要する結果といえる.対象患者の病型の内訳をみてみると,術前眼圧が16mmHgより大きい開放隅角緑内障,および落屑緑内障ではおおr=0.50p=0.0121110987654315202530術前眼圧(mmHg)眼圧下降幅(6カ月後)(mmHg)図4有効例(眼圧下降率20%以上)における眼圧下降幅と術前眼圧の単回帰分析———————————————————————-Page4696あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(120)維柱帯形成術のアルゴンレーザー線維柱帯形成術の効果比較.眼臨99:633-637,20058)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassoci-atedwith180degreesselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,20059)JohnsonDH,MatsumotoY:Schlemm’scanalbecomessmalleraftersuccessfulltrationsurgery.ArchOphthal-mol118:1251-1256,200010)禰津直久,永田誠:天理病院トラベクロトミーの統計学的観察その1病型・術前手術.眼臨80:2120-2123,198611)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,200512)SchererWJ:Eectoftopicalprostaglandinanaloguseonoutcomefollowingselectivelasertrabeculoplasty.JOculPharmacolTher23:503-512,20072)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,20063)MelamedS,BenSimonGJ,Levkovitch-VerbinH:Selec-tivelasertrabeculoplastyasprimarytreatmentforopen-angleglaucoma:aprospective,nonrandomizedpilotstudy.ArchOphthalmol121:957-960,20034)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Aran-domised,prospectivestudycomparingselectivelasertra-beculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20055)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19996)加治屋志郎,早川和久,澤口昭一:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.日眼会誌104:160-164,20007)佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:選択的レーザー線***

眼科医にすすめる100冊の本-5月の推薦図書-

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086810910-1810/08/\100/頁/JCLSこの4月から後期高齢者医療制度が導入され,医療の現場ではかなりの混乱が生じています.この制度の是非はともかくとして,最近は医師不足,医療崩壊などの言葉がマスコミで取り上げられています.医療訴訟の多い産婦人科医,小児科医,外科医などへの希望者が激減し,また,リスクが高く過酷な勤務を強いられる大病院の勤務医が小規模の病院に,さらに開業医にシフトしてきており,それが病院の勤務医不足に拍車を掛けています.自分の住んでいる地域には産科がなく,出産時に病院をたらい回しにされたという妊婦のことが報道されました.どうしてこんなことが起こってきたのでしょうか.現在,虎の門病院泌尿器科部長を務めておられる小松秀樹氏は,その原因の一つとして,日本人を律してきた考え方の土台が崩れてきており,死生感が失われて,生きるための覚悟がなくなり,不安が心を支配しているからだと述べています.医療とは不確実なものですが,患者は現代医学に過剰な期待をもっています.すべての病気は発見され,適切な治療を受ければ治ると思っていますし,医療はリスクを伴ってはいけないと思っています.一方,医師の方は医学はまだ発展途上であり,医学には限界があることを知っています.この差が医療訴訟をひき起こし,安心・安全神話に覆われている日本社会では,メディアが煽り,司法が裏打ちすることで,理不尽な医療への攻撃が頻発しています.このような事態が進んでいくと,使命感を抱く医師や看護師が現場を離れて,結果的に困るのは医療を必要とする患者とその家族であると,小松氏は述べています.医療が置かれている危機的状況の理解をうながし,医療の崩壊を防ぐ一助となることを願って著した本書は,七つの章からなります.第一章では,日本人の死生観が変容して死というものを受容できなくなっており,それが医療をめぐる争いごとに影響を与えていること,またさまざまな症例を呈示して,医療が不確実であることを示しています.このなかで,医療行為の結果は確定せず,確率的に分散しますが,メディアのみならず裁判官までをも,原因と結果は一対一の関係にあり,結果から原因を特定できるというドグマが支配している,ということが書かれており,これにはあらためて驚いてしまいました.第二章では,医療は無謬ではなく,間違いは起こるものであることが認知されてきたこと,また,インフォームド・コンセントの重要性が書かれています.第三章では,医療と司法の間にあるさまざまな問題点にスポットをあてています.日本における医療訴訟は年間1,000例程度と非常に少なく,年間で医師200人に1人ぐらいしか訴訟を受けていないとのことです.アメリカのニューヨーク州では年間で医師17人に1人が訴訟を受けているとのことですから,かなり日本における医療訴訟は少ないと言えるでしょう.しかし,医療訴訟は日本においても確実に増えてきていることは間違いありません.私自身も医療訴訟の経験がありますが,解決には何年もかかり,その間,不快感と不安は継続します.私の場合は比較的満足の得られる形で解決しましたが,納得の得られない処分を受けたとすれば,医師の士気は削がれ,医療の質は低下するでしょう.第四章では,医療倫理の確立と医師の行動規範の成文化について,著者が虎の門病院で取り組んだ内容について書かれています.また,医師が患者に説明し,同意を得なければればならない診療行為が決められてあり,説明文書にて説明したうえで同意文書を書いて貰うわけですが,もし,納得がいかない場合には,セカンド・オピ(105)■5月の推薦図書■医療の限界小松秀樹著(新潮新書,新潮社)シリーズ─81◆小玉裕司小玉眼科医院———————————————————————-Page2682あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008ニオンを聞くことも勧めるとのことです.第五章では,医療における教育,評価,人事について,大学院,医局制度,新臨床研修制度などに触れながら問題点を指摘しています.著者は,若い医師の要求の最も大きいものは,自分たちの医師としての能力を向上させることであり,意欲のある若い医師を,医局や病院の垣根をなくして交流させ,大きく育てようとする姿勢を示すことが,若い医師を確保する最も重要なポイントだと述べています.眼科は医学部卒業後,希望者が多い診療科の一つですが,それでも周辺の病院から常勤医の撤退が相次いで聞こえてきます.医師不足の原因は根深いところにあり,すぐに解決できる問題ではないように思えてしまいます.第六章では,医療費について言及されています.2004年の先進国の医療費の対GDP比は,アメリカが15.3%,ドイツが10.9%,フランスが10.5%,カナダが9.9%,イギリスが8.3%なのに対して,日本は8.0%であり先進7カ国では最下位になったとのことです.特に,入院診療に費用がかけられていないようです.2006年4月の診療報酬改定では,マイナス3.16%という史上最大規模の医療費削減が実施されました.また,政府は医療費削減を目指す観点から医師数を規制してきました.医療費削減によって過酷な労働負担を強いられる病院勤務医は現場から立ち去り始めてしまい,医師数の規制と相まって医師不足に拍車を掛けたのです.2002年,日本の医師数は人口10万対206名であるのに比較して,OECD加盟国は平均で人口10万人に対して290名であり,大半の先進国で,日本よりはるかに医師数は多いということができます.イギリスではサッチャー政権による長年の医療費抑制政策で,医療従事者の士気が崩壊したとのことです.その結果,多くの医師がオーストラリアやカナダなどの海外へ移住したようです.その後のブレア政権は医療費を増やして現状を打開しようとしたのですが,いったん崩壊した医師の士気はすぐには元に戻りません.日本もイギリスの失敗を見習って医療費抑制政策を見直さねばならない時機にきていると思います.日本の医療は,現在「公共財」として運営されていますが,市場原理にゆだねられるべき「通常財」として運営していくかの岐路に立たされているようです.アメリカは通常財として医療が運営されています.医療は平等ではなく,金持ちしか高度な医療を受けることができません.中間からやや下の階層では医療保険を購入できず,その結果,アメリカの乳幼児死亡率は貧しいキューバよりも高くなっているとのことです.医療保険も値段によってサービスが異なり,保険会社による支払いも上限があり,本格的な病気だと多額の自己負担が発生します.貧困層3,700万人はメディケイドによって医療費が支給されますが,メディケイドは相対的に医療費を安く設定しているため,メディケイドの患者の診療を拒否する医師が50%にも達しているということです.第七章では,医療崩壊を防ぐにはどのようにしたらよいかについて考察されています.医療崩壊を防ぐには医療事故を防止するだけでは不十分であり,医療事故が起きることを前提として,公平な処理システムを医療制度に組み込むことが必要であると述べられています.眼科医にとっても医療訴訟を恐れていたのでは,最新の医療は提供できなくなり,医療の質の低下を招きます.医療訴訟を防ぐには,インフォームド・コンセントをしっかり取ることは勿論,大変重要なことですが,医療の限界というものを,患者に理解して貰うことも大切であることがよくわかりました.著者は「国民的な議論を通して一致点を明確にし,その上で具体的な改革案を考えることは,実行可能な現実的な案だと思います.現在の医療危機の原因が,考え方の齟齬にあるとすれば,解決のために,国民的議論は避けて通れないと私は確信しています」と締めくくっています.☆☆☆(106)

眼科専門医志向者“初心”表明

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086790910-1810/08/\100/頁/JCLS私の医師としての人生は,スーパーローテーションシステム導入の最初の年にスタートしました.このシステムの導入には賛否両論がありましたが,私の場合,なんだかあっという間の大学生活6年が過ぎ,国家試験に受かり,「内科系ではなく外科系に進みたい」という程度の漠然としたイメージしか持ち合わせていなかったため,どの科に進むかよく吟味できる点で好都合でした.実際にスーパーローテーションでいろいろな科をまわり,内科にいた患者さんに外科で再び会い,「またお会いしましたね」などとよく声をかけた覚えがあります.当然,内科で診断を受け,外科に手術のコンサルトされたわけですね.その後短い間ですが眼科をまわり,眼科は,最初の検査から診断,手術やその後の定期検査まで一貫して行っていけるという点が,自分の性格にあっていると実感しました.また,技術的なことだけでなく,患者さんとのコミュニケーションをとりやすく信頼関係も築いていけるところにも魅力を感じました.研修医時代,1日にたくさんの白内障患者さんが手術を受けていました.その1人ひとりが手術が終わって眼帯を外した時,パッと世界が明るくなり,その人の人生そのものまで大きく変わったことと思います.医者としてとしてこのような仕事に携わっていけることがすばらしいと思ったのが眼科医の道を選んだ理由です.この掲載を機に改めて私自身のことを振り返ると,眼科医として最初の一歩をようやく踏み出せたのが現状です.日々の診療のなかで,沢山の患者さんや一緒に働くスタッフの方々を通して眼科のスキルアップに努め,また医師としての人間性を磨いていきたいと思います.そして,この“初心”表明を胸に,道のりは果てしないですが,どんな疾患にも対応できる「オールラウンド眼科臨床医」になりたいと思います.◎今回は獨協医科大学出身,スーパーローテート世代1期生の藤田先生にご登場いただきました.ローテートをしていると気づかされることが多いのですが,他科と比べて診療が一貫して行えたり,1人で手術ができたりする点は本当に眼科の大きな魅力だと思います.(加藤)☆本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.追って詳細を連絡させていただきます.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(103)眼科医者“初心”表明●シリーズ⑤目標はオールラウンド眼科臨床医!藤田雅裕(MasahiroFujita)海谷眼科1979年群馬県高崎市生まれ.県立高崎高校,獨協医科大学卒業.卒後同大学付属越谷病院でスーパーローテーションを修了し,現在は海谷眼科に勤務.一般的な分野から,小児眼科や眼形成眼科など幅広い分野で活躍できるような眼科医を目指す.(藤田)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.では,連載第5回目はこの先生に登場してもらいます!▲海谷眼科の先生方と

後期臨床研修医日記5.

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086750910-1810/08/\100/頁/JCLS努め,ときには手術をやらせてもらえることもあります.それ以外にも搬入・搬出,全身麻酔の導入,覚醒待ちなどの手術以外の時間もあり,担当が重なると時間に追われる日となります.増殖硝子体網膜症手術などの重症例では,毎回術中にさまざまな局面があり勉強になりますが,部屋が暗いときなどはつい日頃の疲れが出てしまって顕微鏡を揺らしてしまうこともあります.最近電子カルテの導入に伴い,術中の画像をそのまま電子カルテ上に残すことができるようになりました.これらが将来学会などに使用されるときのことを考えるとちょっとワクワクします.症例は重症例に偏ったものでなく,全身麻酔が必要な軽症例など1年間を通していろいろな経験をすることができました.(鍋島崇寛)当直編日中の業務が終わっても仕事は終わりではありません.当直があります.現在は月に3日程度(1日の日当直含む)自分の担当の日があります.4月は眼科医になりたてということで上級医が一緒に当直をしてくださいましたが,5月からは自分たち1人でやることになりました.日頃診る病棟の患者さんとはまた種類が異なり,(99)九州大学医学部眼科学教室では,昨年4月から後期研修医5名が眼科医としての新しいスタートを切りました.大学病院特有の忙しさに時折音をあげそうになることもありましたが,同期みんなでお互い助け合い励まし合いながら,1日1日が新鮮でとても有意義で充実した日々を送ることができました.今回はそんな九大眼科の現状を一部紹介したいと思います.病棟および外来業務編私たちの主な仕事場は九大病院最上階の南11階病棟です.窓の外に広がる博多の街の美しさに癒されながら日々仕事に勉強に励んでいます.眼科医1年目の4月から主治医として働かせていただいていますが,まだまだわからないことだらけです.しかしどんなことでも上級医・主任・病棟医長の各先生方が相談にのってくださり,素晴らしい指導体制のなかで安心して働くことができます.眼科は入退院が目まぐるしく手術日も症例数が多いため,日々こなさなければならない雑用も多いのですが,スタッフ一同励まし合いながら乗り越えていくことができます.また毎週金曜日は糖尿病で外来経過観察中の患者さんを診察する機会が与えられています.そのときには外来の先生方が,1日200人に達することもある外来診療をこなしながら,慣れない外来に戸惑う私たちを優しく指導してくださいます.忙しければ忙しいほど助け合いの精神が生まれ,時折開かれる飲み会では更なる結束を強めることのできる,そんな1年間を送ることができたように思います.(園田倫子)手術編火曜,木曜は手術日で3つの部屋で並列して手術をしております.1日平均12~13例で,多いときは18例という日もありました.実際に私たちは顕微鏡を見ながらの硝子体手術の助手,白内障手術・外眼部手術の助手を後期臨床研修医日記●シリーズ⑤九州大学医学部眼科学教室安里良金海美和園田倫子高木健一鍋島崇寛▲仲良し同期の5人(左から鍋島,金海,園田,高木,安里)———————————————————————-Page2676あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(100)できるとても有用な会です.自分で英語の論文をしっかりと読む,とてもいい機会にもなります.さらに冬頃には,学内外の経験を積んだ先生方による勉強会があり,ここでは各先生方が勤務されている病院の特徴や,今行っている研究の成果,手術の実際などについて,わかりやすく発表してくださいます.臨床から基礎まで範囲は幅広く,普段私たちが触れることの少ない,研究や一般病院の臨床などを垣間見ることができます.さらに病棟では週に1回ほど,上級の先生方とのディスカッションの場を設け,普段の診療や各症例における疑問点を解決したり,手術ビデオを見てその術中操作の意味についてさまざまな方がいらっしゃいます.鉄片や角膜びらんなど軽症例から,ときには角膜潰瘍や眼内炎,眼球熱傷,網膜中心動脈閉塞症など重症例までバリエーションに富んだ疾患の方が来られます.あるとき,救急部から呼ばれて行ってみたら日本語がほとんどしゃべれない外国の方が来られていたこともありました.その時は心の中で途方に暮れながら,顔では慌てず騒がず英語で症状や必要な検査などの説明をしました.患者さんに安心していただくには技術はもちろん,演技力も必要だな,と痛感しながら毎晩当直をやっていました.(高木健一)症例カンファ・勉強会編学内の勉強会として,夏に抄読会を行っています.学内にいる全員が週に1回のペースで順に発表していきます.テーマは問わず,各人が興味のある題材を選び,その内容を皆に発表することで,知識の共有を図ることが?プロフィール?安里良(あさとりょう)昭和55年11月30日生まれ.B型.埼玉医科大学卒業後,大分県立病院・九州大学病院での初期研修を終え平成19年度九州大学眼科へ入局.趣味は体を動かすこと全般.沖縄で鍛えた無尽蔵なスタミナを誇り,冬でも半袖のまま多忙な大学病棟の仕事を効率よくフル回転させるが,早すぎて周りがついてこれていないという噂も….金海美和(かなうみみわ)昭和56年1月30日生まれ.O型.鹿児島大学医学部卒業後,九州大学病院・福岡赤十字病院での初期研修を経て平成19年度九州大学眼科へ入局.快活な性格で一見すると運動が得意そうだが実は趣味は読書全般というインドア派.その強気な発言から同期に恐れられることもあるが,意外に気を遣う女性の一面も….園田倫子(そのだのりこ)昭和56年2月24日生まれ.B型.長崎大学医学部卒業後,九州労災病院・九州大学病院での初期研修を経て平成19年度九州大学眼科へ入局.常に冷静沈着.動揺してもそれを表に出さない.福岡市内でよく似た顔のアルコールの入った某君の目撃情報があるが真相は闇の中である.食いしん坊万歳!!!高木健一(たかきけんいち)昭和55年12月24日生まれ.AB型.九州大学医学部卒業後,九州大学病院・国立病院機構小倉医療センターでの初期研修を終え平成19年度九州大学眼科へ入局.趣味は作詞・卓球.人見知りするため人の目を見て話せと指導を受けることもしばしば.最近細隙灯で人の目を「診」ながらだったら話せるようになった.Nのつく某街での目撃談も多数あるが真相は定かではない.鍋島崇寛(なべしまたかひろ)昭和54年8月9日生まれ.AB型.福岡大学医学部卒業後,北九州市立医療センター・九州大学病院での初期研修を経て平成19年度九州大学眼科へ入局.趣味は音楽鑑賞.病棟のムードメーカーで担当の患者さんに笑顔が絶えることはない.同期のなかで最も福岡での生活が長く毎回同期にさまざまな店を紹介している.彼に紹介されたお店をデートで使用する同期もいるとかいないとか?▲週1回ある勉強会の1コマ自分の受け持ちで興味ある症例をみんなの前で発表します.▲月1回あるウェットラボの1コマ指導医の先生が熱心に教えてくださいます.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008677医局対抗野球を数試合,フットサルを月2~3回練習(部活並み?)しており,また毎月研修医の先生の歓送迎会などの飲み会があります.昨年の医局旅行は1泊2日で温泉で有名な大分県湯布院に行きました.毎年お決まりの新入局員による芸をしなくてはならず,診察や電子カルテ入力,退院サマリーの記載を終えた夜11時頃からポツポツ集まりだし,深夜4時近くまで練習したのを覚えています.おかげで連日睡眠不足で通常業務をこなすこととなり,芸の道の厳しさを知りました.こうした仕事以外でのいろいろな思い出もまた今の私たちの宝物となっております.九大眼科は仕事以外でもこうして医局員同士の交流を深めることのできる恵まれた環境にあると思います.(安良良)(101)皆で考えて理解を深めたりしていました.また,今期は大学全体で電子カルテが導入されました.眼科でも,特別な画像システムを用いるようになり,初めは戸惑うこともありましたが,使い慣れると大変便利で,今では毎日の診療に欠かすことはできません.(金海美和)レクリエーション編九大眼科では年間の恒例行事がいろいろあります.春はお花見から始まり,6月に医局旅行,夏はビアガーデンに秋は同門会,冬は忘年会など定期的に行っております.そういう場で,上の先生方に普段なかなか聞けないことや,診療のノウハウなど公私ともどもいろいろなアドバイスをいただいています.また,夏から秋にかけて教授からひとことあっという間の1年だったと思いますが,みんなよく頑張りました.今でも自分が新人のときのことはよく覚えています.すべてのことが目新しく戸惑うことばかりでしたが,体力に任せて乗り切った気がします.みんなそんなものです.そして一緒に過ごした同級生とは,これからも助け合って切磋琢磨して頑張ってください.大学病院は珍しい病気や難症例が集まるところです.大学で学んだことはきっとこれからの眼科医人生の大きな糧となるでしょう.また,今のフレッシュな気持ちとともに,病気を診たときに感じた素直な感想を大事にしてください.将来,既成概念を打ち破る新しい治療につながるかも知れません.九州大学大学院医学研究院眼科学分野・教授石橋達朗☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス60.角膜混濁例に対する硝子体手術(その2)(中級編)

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086730910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに前号からの続きで,今回は一時的人工角膜を用いた角膜移植と眼内内視鏡について述べる.角膜混濁が認められる症例でも,単純硝子体切除のみであれば,通常の眼内照明による硝子体手術で治療できる場合が多いが,複雑な手術操作が必要な症例では,この2つの方法が有用である.時的人工角膜を用いた角膜移植術一時的人工角膜には,Eckardt一時的人工角膜(図1)とLanders一時的人工角膜(図2)があり,前者のほうが視野は広く有用であるが,残念ながら現在入手しにくい状況となっている.Eckardt一時的人工角膜はシリコーンでできているため,適度な軟らかさがあり,角膜組織への侵襲も少ない.Landers一時的人工角膜はPMMA(ポリメチルメタクリレート)でできていて硬く,角膜にねじ込むように装着するため侵襲がやや大きい.眼底周辺部の視認性もEckardt一時的人工角膜のほうが優れている(図3).本術式の最大の問題点は術後の角膜の透明性維持である.硝子体手術後は術後炎症が高度で,拒絶反応のリスクが高いだけでなく,種々のタンポナーデ物質により角膜移植片への障害が生じやすい.しかし,最近では免疫抑制剤を適宜併用し,角膜専門医と網膜硝子体専門医が密接に協力しあいながら術後の経過観察を厳重に行うことで,治療成績は向上している.内内視鏡による硝子体手術最近は眼内照明機能を有する非常に解像度の良い眼内内視鏡が入手可能で,硝子体手術に盛んに応用されている.特に通常の硝子体手術では観察困難な眼底最周辺部の観察が確実に施行できる利点は大きい.眼内内視鏡の欠点は立体視ができないことであるが,硝子体手術に習熟した術者であれば,モニターをみながらすべての操作を内視鏡下で施行することも可能である(図4).(97)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載60角膜混濁例に対する硝子体手術(その2)(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図3Eckardt一時的人工角膜を用いた硝子体手術眼底周辺部の視認性も優れている.図4眼内内視鏡を用いた硝子体手術良好な視認性が得られるが,立体視ができないのが欠点である.図1Eckardt一時的人工角膜シリコーンでできているため,適度な軟らかさがあり,角膜組織への侵襲は少ない.図2Landers一時的人工角膜PMMAでできていて硬く,角膜にねじ込むように装着するため侵襲がやや大きい.

眼科医のための先端医療89.前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086690910-1810/08/\100/頁/JCLS神経堤細胞んのとお前眼部部とのをるるを路とすのと神経神経堤細胞神経細胞とのの細胞群でににを与とでに形成すので神経堤細胞とを部分の前眼部の形成にをす神経堤細胞と神経の部に形成る細胞で化するとで細胞の発ににすの後にグ細胞細胞細胞にに細胞に分化するをとのをすで眼での神経堤細胞の分ととをグで内一子の分すとるでにに分前眼部発に与す神経堤細胞の分化に関与する因子と発達緑内障をとにする神経堤細胞で分化後のとお発で発部との分化です前眼部神経堤細胞の発とを発達緑内障をわわ眼にるとす前眼部神経堤細胞の分化に関わる因子群分にんのる因子ので発達緑内障に関する因子群をにす因子でる前眼部形成にをとすののと子群の因子とですと眼発に眼のに発すににの発部に部に発すので内の形成との分を前形成と前眼部形成に因子でるとわすでのの発神経堤細胞を分化にととるを化を化成にす神経堤細胞の分化をする分子ルととグ成因子b(TGF-b)があげられます(図1).TGF-bスーパーファミリーは細胞の増殖・分化・アポトーシスのみならず,(93)◆シリーズ第89回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊岩尾圭一郎(熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学)前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障図1前眼部神経堤細胞におけるシグナル経路神経堤細胞は,TGF-bスーパーファミリー(TGF-b2やBMP4)の刺激を受けると,SMAD経路を経て,FOXC1やPITX2などの転写因子を発現し,活性レベルや時期によりさまざまな前眼部組織へと分化していく.角膜実質や角膜輪部などでは活発にコラーゲンなどの細胞外マトリックスを産生する.PITX2PloPitx2SMADFoxH1SMAD2/3FOXC1CMSMADPLODSMAD1/5/8Foxc1細胞質内細胞外マトリックスBMP4TGF-b2———————————————————————-Page2670あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008細胞外基質の産生,免疫系の制御など多岐にわたる役割を担っています.和歌山県立医科大学の雑賀司珠也先生7)のマウスを用いた研究で,そのなかのアイソフォームのなかでも特にTGF-b2が重要であることが報告されています.前述のFoxc1やPitx2の発現も,その上流でTGF-b2の制御を受けていることが知られています8).TGF-b2やそのレセプターをKOしたマウス実験でも,Foxc1やPitx2をKOした際と同様に,角膜や隅角に分化・増殖異常が生じ,Axenfeld-Rieger症候群やPeters奇形に類似した眼所見を呈することが証明されています7,8).このほかの前眼部形成に必要な分子に,CYP1B1(cytochromeP-450,family1,subfamilyb,polypeptide1)9)やtyrosinase10)があります.Cyp1b1は発達緑内障の原因遺伝子として有名ですが,CYP1B1はtrans-retinolの酸化,TCFAP2Aを介し,tyrosinehydroxy-laseを調節している可能性が示されています11).Tyrosinehydroxylaseもtyrosinaseも,メラニン代謝に重要な酵素であり,隅角形成に関与している可能性がトランスジェニックマウスを用いた実験から示唆されています10)が,その代謝産物であるL-dopaがどのような経路を経て,前眼部形成に関与しているかについては,まだ詳細は不明です.今後の展望神経堤細胞前眼部形成におをす細胞群です今因子群神経堤細胞の分化にわるに因子にのですお山の一でのに因子群にを形成るとすの分のにとで前眼部形成にる眼ルの緑内障の因子発発達緑内障群と神経堤細胞関与するのとす文献1)CreuzetS,VincentC,CoulyG:Neuralcrestderivativesinocularandperiocularstructures.IntJDevBiol49:161-171,20052)GagePJ,RhoadesW,PruckaSKetal:Fatemapsofneu-ralcrestandmesoderminthemammalianeye.InvestOphthalmolVisSci46:4200-4208,20053)KidsonSH,KumeT,DengKetal:Theforkhead/winged-helixgene,Mf1,isnecessaryforthenormaldevelopmentofthecorneaandformationoftheanteriorchamberinthemouseeye.DevBiol211:306-322,19994)HjaltTA,SeminaEV,AmendtBAetal:ThePitx2pro-teininmousedevelopment.DevDyn218:195-200,20005)GagePJ,SuhH,CamperSA:DosagerequirementofPitx2fordevelopmentofmultipleorgans.Development126:4643-4651,19996)HjaltTA,AmendtBA,MurrayJC:PITX2regulatespro-collagenlysylhydroxylase(PLOD)geneexpression:implicationsforthepathologyofRiegersyndrome.JCellBiol152:545-552,20017)SaikaS,SaikaS,LiuCYetal:TGFbeta2incornealmor-phogenesisduringmouseembryonicdevelopment.DevBiol240:419-432,20018)IttnerLM,WurdakH,SchwerdtfegerKetal:CompounddevelopmentaleyedisordersfollowinginactivationofTGFbetasignalinginneural-creststemcells.JBiol4:11,20059)StoilovI,AkarsuAN,SarfaraziM:IdenticationofthreedierenttruncatingmutationsincytochromeP4501B1(CYP1B1)astheprincipalcauseofprimarycongenitalglaucoma(Buphthalmos)infamilieslinkedtotheGLC3Alocusonchromosome2p21.HumMolGenet6:641-647,199710)LibbyRT,SmithRS,SavinovaOVetal:Modicationofoculardefectsinmousedevelopmentalglaucomamodelsbytyrosinase.Science299:1578-1581,200311)ChenH,HowaldWN,JuchauMR:Biosynthesisofall-trans-retinoicacidfromall-trans-retinol:catalysisofall-trans-retinoloxidationbyhumanP-450cytochromes.DrugMetabDispos28:315-322,2000(94)☆☆☆———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008671(95)「前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障」を読んで今回は熊本大学視機能病態学の岩尾圭一郎先生による神経堤細胞の前眼部形成の分子メカニズムと前眼部の先天性疾患病態についてのわかりやすく明快な解説です.前眼部の発生はダイナミックにいろいろの組織が形成されていき,きわめて複雑な期間が形成されていくことは神秘的でさえあります.発達の過程と,その障害によるAxenfeld-Rieger症候群,発達緑内障,ICE(iridocornealendothelial)症候群などの病態を「神秘」で片づけないで,分子レベルでメカニズムを解明する研究がきわめて進歩していることが岩尾先生の解説でとてもよくわかりました.現時点でも,FOXC1,PITX2,TGF-b2,CYP1B1といった種々の因子が神経堤細胞の前眼部形成への関与に関連する機能を制御していることが明らかにされ,Axenfeld-Rieger症候群,発達緑内障の病態への関与のメカニズムも解明されつつあるということがわかります.ただ,最後に述べておられるように「このほかにもさまざまな因子群が複雑に絡み合うネットワークを形成」していることが考えられ,現状の把握も困難です.これはゲノムプロジェクトが終了したいわゆるポストゲノムの時代といわれる現代生命科学の重大なテーマとなると考えられます.ヒトの遺伝子の塩基配列はすべて明らかになりました.ゲノムのなかでの遺伝子としての暗号の解読,その遺伝子としての暗号の解読,つまり,どのように読んだらヒトという生命体の発生,成長,老化などの生命現象を支え機能している幾つもの遺伝子を取り出せるのか,その遺伝子がコードしている蛋白質はどのような構造,機能をもっているかを研究することが生命科学の重大な課題です.たとえば,今回のテーマである神経堤細胞がどのように前眼部の形態形成に関与するかという研究を細胞,分子のレベルだけで積み上げていくことはとても気が遠くなるような作業です.しかし,大切な情報をわれわれ臨床医はもっています.いろいろな疾患を治療するために綿密に患者さんを診察し,治療することを体系的に積み上げて臨床医学としての眼科学という知恵と情報の集積をもっています.Foxc1とPitx2遺伝子の機能がおかしくなるとAxenfeld-Rieger症候群を起こすということから,生体のなかでの遺伝子の動きを予測することができますし,ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスなどの手法を用いた動物モデルをつくって検証するときにはそのゴールドスタンダードは臨床医学の情報です.われわれ臨床医は患者さんを最善の方法で治療するという目的のためにこれらの情報を利用していますが,臨床医学のなかで解決できない問題の解決には基礎医学での研究の成果を利用したいと考えています.つまり,臨床医学は研究という大きな戦略のなかの入り口であり,かつ出口であり,またそうあらねばなりません.このように,われわれ臨床医がもっている情報を提供してよりよい研究が進行するようにすることが社会から求められていると考えます.生命科学は近年長足の進歩をして,研究の倫理的な面での規制(再生医療などで顕著ですが)も出てきつつあります.健全で自由で有益な生命科学の研究を遂行していくためには,研究の目的として臨床的な意義をはっきりさせていく努力がわれわれ臨床医には課せられているようです.それはわれわれ臨床医の義務であり,かつ権利でもあるかもしれません.そして,基礎的な生命科学と臨床医学をつなぐ岩尾先生のようなclinicalsci-entistが多く活躍できる研究環境を整備することが,社会的にわれわれに課され期待されていることにこたえる重要な戦略であろうと考えます.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ182.若年白内障に対する多少点眼内レンズ

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086670910-1810/08/\100/頁/JCLS術前遠方視力右眼=0.06(0.6×5.0D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.5DAx180°)術前近方視力右眼=0.1(0.6×4.5D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)新しい治療と検査シリーズ(91)バックグラウンド最近登場した回折型多焦点レンズは,良好な術後の遠近視力を提供できるようになった.白内障摘出による調節力の喪失が問題となる若年者の白内障治療に大変有効である1,2).実際の使用法多焦点眼内レンズは角膜乱視の少ない患者に有効であるといわれている.本レンズが有用であった症例を提示する.〔症例1〕28歳,男性,若年者の両眼白内障.術前遠方視力右眼=0.4(0.4×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.1(0.1×cyl+1.0DAx90°)28歳であるので老視もなく,遠方も近方も眼鏡装用の経験はない.当然のことながら従来の単焦点レンズでは術後の近方視力が問題になる.本人の希望により回折型多焦点眼内レンズを挿入した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.8(1.2×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.9(1.2×cyl+1.25DAx90°)術後近方視力右眼=0.7(1.0×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.6(0.9×cyl+1.25DAx90°)この症例では角膜乱視が少ないため,裸眼での遠近視力が良好であった.さらに,特筆すべき点は,遠方矯正度数の装用によって近方視力も向上する点である.このことは,白内障手術術後の屈折誤差に対しても一つの眼鏡で遠近両方の視力に対応できることと,さらには片眼の手術にも適応できることを意味しているからである.〔症例2〕35歳,男性,近視眼の片眼(右眼)白内障.182.若年白内障に対する多焦点眼内レンズプレゼンテーション:大木孝太郎大木眼科コメント:ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科図1わが国で臨床治験の終了している回折型多焦点眼内レンズ左側がReSTORR(アルコン社),右側がTECNISTMMultifocal(AMO社).図2内固定された回折型多焦点眼内レンズレンズ表面の同心円状の回折構造が観察できる.———————————————————————-Page2668あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008右眼が白内障で視力低下をきたしているが,遠方矯正時の左眼の近方視力は良好で,まだ老視年齢ではない.パソコン業務が多く,自覚的には片眼で作業をしている感じがして眼精疲労が強いことが主訴である.眼鏡使用者でコンタクトレンズの使用はまったく希望しない.したがって,左眼の近視状態に合わせて右眼の術後屈折値を45Dに設定して眼内レンズを挿入することになるが,単焦点レンズを用いた場合,遠方用の眼鏡を装用した状態では,調節力を喪失した右眼近方視力は当然不良となる.その結果,近方作業は片眼だけで行うことになり,それでは術前の片眼視による眼精疲労という本来の訴えを改善することがむずかしい.まだ調節力のある年齢であるので,右眼に対し正視を狙って白内障手術を行い,左眼はLASIK(laserinsitukeratomileusis)によって近視矯正を行うというオプションも考えられるが,本人がそれは望まず希望により,右眼に回折型眼内レンズを左眼の近視度数に合わせて使用した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.08(1.2×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.0DAx180°)術後近方視力右眼=0.1(0.8×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)右眼の近方視力が遠方矯正度数で非常に良好であり,遠方用の眼鏡一つで,違和感なくデスクワークが行えるようになり,高い満足を得られている.本治療法の利点白内障手術の大きな弱点は術後の調節力の喪失である.多くの白内障患者は高齢者であり,通常は術後の眼鏡使用に問題を感じない.しかし今回提示した若年者の症例では,老視眼鏡の使用は生活上の問題になることも多く,本レンズは非常に効果的である.1)大木孝太郎:AMOTecnis回折型多焦点眼内レンズ.IOL&RS21:227-229,20072)清水直子:回折型眼内レンズ─症例報告.あたらしい眼科24:169-175,2007(92)☆☆☆本方法に対するコメント従来,若年者の白内障手術については,水晶体摘出後に調節力を失うことが大きな問題であった.そのため,白内障で視力が低下していても,水晶体を温存することで調節力を保てる利点を考慮し,手術時期をなるべく延ばす例も少なくなかった.多焦点眼内レンズ,特に本稿で紹介された回折型多焦点眼内レンズは,術後に良好な近方視力が期待できるため,若年例でも調節機能障害によるハンディーがかなり軽減された.症例1のような両眼手術例では,術後の屈折値を悩まず正視にすることができるが,問題は症例2のような片眼性白内障で,かつ,もう片眼の屈折が遠視や近視例である.従来の単焦点眼内レンズでは,迷うことなく健眼の屈折が近視であれば,不同視を生じない程度の近視狙いで眼内レンズ度数を選択した.多焦点眼内レンズ挿入希望例で,コンタクトレンズは使えず眼鏡装用の場合は,担当医とじっくり話し合い,本症例のような選択も多焦点レンズの恩恵といえるであろう.筆者(ビッセン)はエキシマレーザーによる屈折矯正手術を同施設で行っているため,眼鏡への依存度を減らす多焦点眼内レンズの利点を最大限に生かすよう,術後屈折は正視目標とし,健眼にはコンタクトレンズ装用,あるいは屈折矯正手術を行い,非常に高い満足度を得ている.

眼感染アレルギー:Propionibacterium acnesによる前眼部感染アレルギー

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086650910-1810/08/\100/頁/JCLS眼表面の炎症と眼瞼縁の炎症はしばしば密接につながっている.眼瞼縁の,特にマイボーム腺そのものの炎症とそれに伴う角結膜上皮障害を総称して「マイボーム腺炎角膜上皮症」とよぶ1).その病型は,角膜に結節性細胞浸潤と血管侵入を伴う「フリクテン型」(図1)と,点状表層角膜症を主体とした「非フリクテン型」の二つに大別できる.ここでは,感染アレルギーによって生じる「フリクテン型」(いわゆる角膜フリクテン)について述べる.膜フリクテンの病因1950年代より以前には,結核菌蛋白に対する遅延型アレルギー反応(DTH)が疾患の本体であると考えられていた.その後,結核患者の減少とともに,ブドウ球菌性眼瞼炎との合併が報告されるようになり,家兎動物モデルが報告されて以来,この疾患の本体は,おもに黄色ブドウ球菌の菌体成分に対するDTHであると考えられてきた.近年,真菌や寄生虫,クラミジアなどによると考えられるものも報告されているが,実際の臨床の現場では,患者の結膜や眼瞼縁の培養を行ってもこられの病原体を検出することはまれである.マイボーム腺分泌物(meibum)の培養による検討では,ほとんどの患者からPropionibacteriumacnes(P.acnes)が検出され,健常者に比べて有意に検出率が高かったことから,P.acnesが本疾患の起炎菌として重要であると考えられている.P.acnesとはP.acnesは,嫌気性のグラム陽性無芽胞桿菌であり,皮膚,腸管に常在している.本来ヒトに対する病原性は低いと考えられていたが,ニキビ(acne)の発症には中心的な役割を果たしており,慢性感染症の起炎菌としての報告もみられる.マイボーム腺は生体内で最大の皮脂腺であるが,ニキ(89)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑤監修=木下茂大橋裕一5.Propionibacteriumacnesによる前眼部感染アレルギー鈴木智京都市立病院眼科マイボーム腺炎角膜上皮症では,腺内で増殖するPropionibacteriumacnesに対する遅延型アレルギー反応(DTH)によって角膜に細胞浸潤(フリクテン)を生じる.治療は,ステロイド薬でDTHを抑えるのみならず,抗菌薬で腺内の除菌を行うことが重要である.図1マイボーム腺炎角膜上皮症フリクテン型角膜上の結節病変の延長線上の眼瞼縁に,マイボーム腺炎を認める.図2P.acnesを注入後48時間のラット角膜P.acnesで免疫したラットの角膜実質にP.acnesを注入すると,48時間後に強い細胞浸潤が認められる.———————————————————————-Page2666あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008ビを生じる皮脂腺とは「毛がない」という点で大きく異なっている.通常の皮脂腺は一つの腺房が毛包管内の毛根部へ開放しているのに対し,マイボーム腺は多数の腺房が一つの導管に開放しその導管が眼瞼縁で開口している.このように構造は異なっているが,皮脂腺では導管上皮の角化が毛包管の角化へと進行することがニキビ発症機序であるのと同様に,マイボーム腺の導管上皮の角化がマイボーム腺機能不全の発症機序であると考えられている.P.acnesは,免疫系に対して①補体を活性化する,②多核白血球の走化性因子を産生する,③多核白血球による酵素の放出を誘発する,④選択的にサプレッサー/キラーT細胞を阻害するなどの強い免疫作用を有している.肝臓や肺の実験的肉芽腫形成には,P.acnesによる前感作が必要であり,生菌,死菌のいずれの再感作においても肉芽腫が形成されたことから,肉芽腫形成はP.acnesの曝露に対する宿主のDTHの結果と考えられている.P.acnesで免疫したラットの角膜実質にP.acnesを注入すると,注入した部位に旺盛な細胞浸潤と角膜浮腫が認められる(図2).皮膚のDTHと同様に,6時間後には好中球が侵入し,48時間後にはマクロファージやリンパ球などの単核球が増加していくという変化が認められる(図3).また,浸潤リンパ球はCD4陽性T細胞がCD8陽性T細胞に比べ有意であり,P.acnesは角膜にDTHを生じうる.皮脂腺に存在するP.acnesの増殖がニキビの発症に深く関与しているのと同様に,マイボーム腺におけるP.acnesの増殖がマイボーム腺炎および角膜フリクテンの原因となっている可能性が推測される.P.acnesが常在菌であるにもかかわらず,特定の患者にしか発症しないことについては,宿主側の抗原に対する反応性の違いが関与すると考えられている2).マイボーム腺炎角膜上皮症(フリクテン型)の治療細菌増殖によるマイボーム腺炎が疾患の原因であるため,その治療を基本とする.すなわち,眼瞼縁の清拭やマイボーム腺内のmeibum圧出とともに,マイボーム腺内で増殖しているP.acnesに対して適切な抗菌薬を投与する.重症例および難治例にはマイボーム腺内の抗菌薬の濃度を高める目的で点滴を行うことも効果的である.ステロイド薬については,初期に眼表面の炎症が強い場合には短期的な投与が必要になる場合があるが,眼表面の炎症が改善した時点で中止すると再発しやすい.これは,マイボーム腺炎に関連していると考えられる細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.マイボーム腺炎の改善は,眼表面の炎症の沈静化より少し遅れることを覚えておかなければならない.感染アレルギーとしての角膜フリクテンを,アレルギーの立場からでなく,感染の立場から治療し,起炎菌を除去することが治療上重要である.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20002)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisassociatedwithmeibomitis.AmJOphthalmol140:77-82,2005(90)☆☆☆図3P.acnesを注入後48時間のラット角膜のヘマトキシリンエオジン染色所見48時間後には,実質浮腫とともにマクロファージやリンパ球といった単核球を中心とした細胞浸潤が認められる.

緑内障:各種眼圧計の測定原理

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086630910-1810/08/\100/頁/JCLSSchiotz眼圧計は代表的な圧入眼圧計である.仰臥位で角膜に垂直にのせて,可動杆によって角膜が圧入される程度から眼圧を測定する.目盛りの読みは眼圧ではなく,可動杆の圧入量である.換算表を用いて,目盛りの読みと用いた重錘から眼圧を求める.平眼圧計内圧Pをもつ球体を平面により力Wで圧平すると,圧平面積AとW,Pとの間にはW=P×Aの関係が成立する(Imbert-Fickの法則)(図1).ただし,球体が完全な球状で,球体を構成する膜が柔軟で,無限に薄く,かつその表面が乾燥しているという条件が必要となる.Imbert-Fickの法則が眼球にあてはまるとすれば,WまたはAのいずれかを一定にして他方を測定することにより,Pを求めることができる.圧平眼圧計ではこの法則が応用されており,臨床的にはおもにAを一定としてWを測定する眼圧計が用いられている.1.Goldmann圧平眼圧計臨床的に精度が高く,緑内障診療において標準的に使用されるべき眼圧計である.圧平プリズムにより角膜を圧平(直径3.06mm)して眼圧を測定する(図1)1).圧入眼圧計とは異なり,測定時の眼球容積の変動がきわめて少なく,測定値は眼球壁硬性の影響を受けにくい.しかしながら,他の圧平眼圧計と同様に,本眼圧計においても測定値は中心角膜厚の影響を受ける.Ehlersら2)のマノメトリーを用いた検討では,中心角膜厚が520μmの場合に最も真の眼圧を反映し,中心角膜厚が厚く(薄く)なると眼圧は高く(低く)測定される.2.MackayMarg型眼圧計本眼圧計では可動杆に加わる力を電気信号に変換して眼圧を測定する3).先端に可動杆があり,周囲のスリーブよりわずかに突出している.角膜を圧平すると,可動杆に加わる力が増加する.さらに角膜を圧平すると,スリーブが角膜に接触するため,可動杆に加わる力が減少しトラフを示す.このトラフ時の可動杆に加わる力から眼圧を求める.Tono-PenはMackay-Marg型眼圧計の原理を応用した眼圧計である.3.空気眼圧計圧搾空気を用いて角膜を圧平して眼圧を測定する4).シリコーン膜で覆われたプローブを角膜にあて,角膜が圧平されると,プローブの内圧は眼圧と等しくなり,この内圧が電気信号に変換され記録される.4.非接触眼圧計眼球に直接接触させず,空気を角膜に噴射して眼圧を測定する5).角膜形状の変化が光学的にモニターされる.空気の噴出によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間あるいはその際の空気圧から眼圧を求める.新しい非接触眼圧計ocularresponseanalyzer6)では,角膜の生物化学的特性を補正した眼圧測定が可能であり,円錐角膜眼やレーザー角膜内切削形成(LASIK)眼における(87)●連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄95.各種眼圧計の測定原理八百枝潔白柏基宏新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野臨床的に,眼球に一定の力を加えて生じるその変形の程度,あるいは眼球に一定の変形を起こす力を測定することにより,眼圧を求めることができる.眼圧計は圧入眼圧計と圧平眼圧計の2つに大別される.本稿では,両眼圧計を中心に,各種眼圧計の測定原理につき概説する.図1圧平眼圧計による眼圧測定の原理内圧Pの球体を平面により力Wで圧平すると,圧平面積AとW,Pとの間にはW=P×Aの関係が成立する(Imbert-Fickの法則).Gold-mann圧平眼圧計ではこの法則が応用されており,Aを一定(直径3.06mmの円)にしてWを測定することによりPを求めている.———————————————————————-Page2664あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008眼圧測定に有用であるとされている.の他の眼圧計Pressurephosphenetonometerでは,眼瞼上から眼球を圧迫した際に自覚される光視現象を応用して眼圧を測定する7).携帯型で電源が不要であり,自己測定が可能であるという特徴を有する.Impacttonometerではプローブを角膜に衝突させ,衝突時間や減速速度から眼圧を測定する(図2)8).Dynamiccontourtonometerではチップ先端に組み込まれている圧センサーにより眼圧を測定するが,先端が凹型であり,測定値は圧平眼圧計に比して角膜の性状(角膜厚など)による影響を受けにくいとされている(図3)9).(88)眼圧を連続測定する方法として,眼内レンズ10)やコンタクトレンズ11)にセンサーを内蔵した装置が開発されているが,現在のところ実用化されていない.文献1)GoldmannH,SchmidtT:UberApplanationstonometrie.Ophthalmologica134:221-242,19572)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Applanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol(Copenh)53:34-43,19753)MackayRS,MargE:Fast,automatic,electronictonome-tersbasedonanexacttheory.ActaOphthalmol37:495-507,19594)DurhamDG,BiglianoRP,MasinoJA:Pneumaticapplana-tiontonometer.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol69:1029-1047,19655)GrolmanB:Anewtonometersystem.AmJOptomArchAmAcadOptom49:646-660,19726)LuceDA:Determininginvivobiomechanicalpropertiesofthecorneawithanocularresponseanalyzer.JCataractRefractSurg31:156-162,20057)FrescoBB:Anewtonometer-thepressurephosphenetonometer:ClinicalcomparisonwithGoldmanntonome-try.Ophthalmology105:2123-2126,19988)KontiolaAI:Anewelectromechanicalmethodformea-suringintraocularpressure.DocOphthalmol93:265-276,19979)KanngiesserHE,KniestedtC,RobertYC:Dynamiccon-tourtonometry:Presentationofanewtonometer.JGlau-coma14:344-350,200510)SvedberghB,BacklundY,HokBetal:TheIOP-IOL.Aprobeintotheeye.ActaOphthalmol(Copenh)70:266-268,199211)LeonardiM,LeuenbergerP,BertrandDetal:Firststepstowardnoninvasiveintraocularpressuremonitoringwithasensingcontactlens.InvestOphthalmolVisSci45:3113-3117,2004図3Dynamiccontourtonometerの外観図2Impacttonome-terの外観☆☆☆

屈折矯正手術:ケラテクタジアに対するリボフラビン・UVA治療

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086610910-1810/08/\100/頁/JCLSPhotorefractivekeratectomy(PRK)やlaserinsitukeratomileusis(LASIK)などのエキシマレーザーを用いた角膜屈折矯正手術は,その誕生からすでに20年近くが経過し,現在では有効性と安全性が認められた術式となった1,2).しかし,これらの手術での安全性が保証されるのは,手術適応を厳密に守った場合のみである.手術適応を見誤った場合に発症しうる最も重篤かつ不可逆的な合併症の一つに角膜拡張症(ケラテクタジア,keratectasia)がある.ケラテクタジアは,医原性円錐角膜ともよばれ,角膜屈折矯正手術後の角膜の前方突出を特徴とする疾患である.ケラテクタジアの発症要因は,大きくわけて二つあるとされている.一つ目は,術前に円錐角膜があったにもかかわらず,それを見逃して角膜屈折矯正手術を行ってしまった場合である.そして,二つ目は,手術時に過剰な実質切除を行ってしまったために術後の残余角膜厚が基準値を下回ってしまった場合である.いずれも,過度に脆弱となった角膜実質が眼内圧に負けて前方に突出すると考えられている.PRKやphototherapeutickera-tectomy(PTK)の術後にも発生しうるが,角膜フラップを作製することにより前二者に比べて角膜実質の深い層を切除するLASIKで最も発生しやすい.手術直後にはいったん裸眼視力が回復するが,数カ月で近視性乱視の急激な再発と進行がみられ,場合によっては術前より悪い状態になることもある.角膜形状解析では,原発性の円錐角膜に類似した特徴的な菲薄部の前方突出がみられる(図1).ケラテクタジアの治療は,円錐角膜と同様,眼鏡やコンタクトレンズによる矯正である.しかし,それでは十分な視力が得られない場合には角膜移植術を行うしかないとされてきた.リボフラビン・UVA治療は,角膜実質にリボフラビン(ビタミンB2)を浸透させてから長波長紫外線(UVA)を照射することにより,角膜実質のコラーゲン線維を架橋し脆弱性を改善する方法であり,円錐角膜やケラテクタジアの治療法として開発された3,4).リボフラビンが光増感性物質として働き,紫外線を照射されることによりフリーラジカルを生じ,それがコラーゲン線維の架橋を強めると考えられている(図2).さらに,リボフラビンが紫外線を吸収することにより,前房より後方の眼組(85)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男96.ケラテクタジアに対するリボフラビン・UVA治療加藤直子南青山アイクリニック慶應義塾大学医学部眼科ケラテクタジアは医原性円錐角膜ともよばれ,円錐角膜眼に角膜屈折矯正手術を行った場合や,実質を基準値以上に切除した場合に発症する.リボフラビン・UVA治療は,角膜実質のコラーゲン線維の架橋を促して角膜の脆弱性を改善させる治療で,円錐角膜やケラテクタジアの進行を防止することができる点で着目されている.2リボフラビン・UVA治療による角膜架橋の効果未処置の角膜(透明)に比べ,リボフラビン・UVA治療を施した角膜(黄色)は硬度が増加していることがわかる.(文献5,Figure1より転載)1ケラテクタジア症例の角膜形状解析原発性の円錐角膜に類似した,角膜下方部の前方突出がみられる.———————————————————————-Page2662あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008織を紫外線障害から守る役割も果たすともいわれている.1990年代から基礎実験や動物実験の成果が報告されてきたのに続き,2003年に初めてヒトの円錐角膜眼での成果が報告された5).それによれば,リボフラビン・UVA治療を行うことにより,円錐角膜の進行が抑制され,症例によっては角膜屈折力の若干の減少と裸眼・矯正視力の向上が得られ,重篤な合併症は認められなかったとされている.その後,数多くの臨床調査の結果が報告されているが,2008年1月現在大きな問題点は指摘されておらず,全世界ですでに1,000例以上の施術が行われていると推測される.実際の施術の方法は,角膜上皮を直径79mmで離した後,リボフラビンを35分ごとに30分間点眼する.その後,370nmのUVAを30分間角膜実質上に照射する(図3).角膜実質のコラーゲンの架橋は,UVA光源に近い表層で強固に起こり,深層へいくに従って弱まる.また,表層から400μmまでは,紫外線の影響で角膜の構成細胞がアポトーシスになる可能性がある4)ため,角膜内皮細胞の保護を考えて,上皮を除く角膜厚が400μm以上の症例を選んで施行する必要がある4,5).筆者らは,2007年2月より南青山アイクリニックにて,円錐角膜に対するリボフラビン・UVA治療を開始している.その結果,屈折度数,角膜形状解析検査などのデータには大きな変化はみられなかったものの,コンタクトレンズ装用状況が改善する症例がみられた.他の施設からの報告と同様,重篤な合併症は現時点までは1例も経験していない.リボフラビン・UVA治療は,裸眼視力や屈折度数の大幅な改善をもたらすものではないため,進行してしまった円錐角膜やケラテクタジア眼では大きなメリットを享受できない.むしろ,前方突出が進行する前の段階での予防的な施術に意義が認められる.実際,欧米では,安全性が確認されるに伴い対象となる症例が低年齢化しており,12歳前後の症例にも行われるようになってきている.角膜屈折矯正手術後のケラテクタジアに対しても,発症してから行うよりも,危険因子をもつ症例に対して予防的に処置を行うほうが理にかなっている.そのためにも,初期の円錐角膜やケラテクタジアを確実に診断し,さらにはこれから進行する症例を正確に見分ける方法の開発が望まれる.また,すでに進行してしまった症例に対しては,角膜厚400μm以下の症例へ適応を拡大するための治療法の改良や,PRKや角膜内リングなど他の術式との組み合わせ手術などが求められるであろう.文献1)KatoN,TodaI,Hori-KomaiYetal:Five-yearoutcomeofLASIKformyopia.Ophthalmology,inpress2)AmbrosioRJr,WilsonS:LASIKvsLASEKvsPRK:advantagesandindications.SeminOphthalmol18:2-10,20033)WollensakG:Crosslinkingtreatmentofprogressivekera-toconus.CurrOpinOphthalmol17:356-360,20064)WollensakG,SpoerlE,ReberFetal:CornealendothelialcytotoxicityofRiboavin/UVAtreatmentinvitro.Oph-thalmicRes35:324-328,20035)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboavin/Ultraviolet-A-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkera-toconus.AmJOphthalmol135:620-627,2003(86)☆☆☆図3角膜に長波長紫外線を照射しているところ上皮を離し,リボフラビンを30分間点眼した後に,長波長紫外線を30分間角膜に照射する.