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極小切開硝子体手術:黄斑部以外

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS切開など創口の閉鎖率が改善されたため,低眼圧の発生頻度も低下し,周辺部の硝子体まで圧迫しても安定した創口の閉鎖が可能になった.そのため,さらにMIVSに対する手術適応が広がっている.I増殖糖尿病網膜症MIVSではトロッカーカニューラシステムを用いているため,使用できる器具に制限がある.特に増殖糖尿病網膜症では増殖膜処理に用いる水平剪刀がカニューラを通して挿入できず,当初は増殖膜処理が困難であるため重症例ではMIVSが適応外と考えられてきた.挿入できるのはカーブ剪刀であるが,先端の曲がり角に制限があり,網膜の面に対して剪刀の方向が垂直になってしまいやすく,水平剪刀のように網膜面に対して接線方向での操作がむずかしい(図1).特に器具を挿入する対側の操作であれば網膜面に対して接線方向での操作が可能だが,器具を挿入した手元の操作となれば剪刀の先端しか増殖膜に接触せず,増殖膜の分層(delamination)はますます困難となる.しかし,xenon光源によるシャンデリア照明が進歩して,増殖膜を器具の切除しやすい方向に誘導できるようになり,増殖膜処理が行いやすくなっている(図2).また23G硝子体カッターは先端から開口部までの距離が短くなっているため,増殖膜と網膜の間に硝子体カッターを挿入でき,硝子体カッターだけで膜操作が行えるようになった(図3).この術式は硝子体カッターを用いたmembranectomyとして新しい術式はじめに白内障手術において小切開手術(micro-incisioncata-ractsurgery:MICS)が進歩するなかで,硝子体手術においても小切開手術(microincisionvitrectomysur-gery:MIVS)が広がっている.それは,2002年にFujiiら1)が経結膜的強膜創にカニューラを設置する25ゲージ(以下,25G)硝子体手術システムを開発して幕開けした.その手術システムは小切開かつ経結膜的無縫合硝子体手術が可能で,当初は黄斑疾患にのみ限定された術式であった.現在ではその有用性から,徐々にその適応を拡大してさまざまな疾患に施行されている.25G硝子体手術システムでは器具の口径が0.5mmであり,器具のしなりや脆弱性が問題であった.しかし,器具の剛性も改良によってかなり改善されている.さらに23G硝子体手術システム(口径約0.7mm)も加わり,MIVSでの選択肢が増え,ますます広がりつつある.25G硝子体手術や23G硝子体手術では強膜創の作製にトロッカーとカニューラを用いる.カニューラを設置することで,術中の器具の出し入れによる強膜創に硝子体が嵌頓して生じる強膜創近傍の医原性網膜裂孔が発生しにくくなる.このことは黄斑手術においてというより,器具の出し入れがより多い疾患に対して有用であると考えられる.小切開硝子体手術は周辺部硝子体を残して創口に硝子体を嵌頓させて創口を閉鎖する術式であり,術直後に生じる低眼圧はMIVSでの一つの合併症であった.斜め(39)1367MaotoInoe::1806202部特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13671371,2008極小切開硝子体手術:黄斑部以外MicroincisionVitrectomyinNon-MacularSurgery井上真*———————————————————————-Page21368あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(40)創血管新生とよばれていた(図5).これは強膜創に線維血管増殖を生じて,それが収縮することで周辺部の網膜離を生じさせたり再発性の硝子体出血を起こしたりする病態で,重症例での術後予後が不良である原因とされてきた.この強膜創血管新生は,糖尿病網膜症以外の症例でも強膜創の創傷治癒過程で生じ,一過性で自然消失するbrousingrowthと異なり,強膜創に嵌頓した硝子体を基盤に強膜創から硝子体基底部に沿って輪状の線維性血管増殖に発展するため,予後不良であった2).前部硝子体線維血管増殖(anteriorhyaloidsbrovascularproliferation:AHFVP)は硝子体手術のあるなしにかかに発展しているため,剪刀を使用する頻度が減少していることも事実である(図4).最近広がっている増殖糖尿病網膜症への抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)抗体であるベバシズマブ(アバスチンR)の硝子体内投与により,術前に新生血管の活動性を低下できるようになった.これによる術中の出血も少なくなるため,硝子体カッターのmembranec-tomyのみで増殖膜処理ができる症例が増加している要因にもなっている.また術後に投与して術後の重症化を予防できる可能性もある.糖尿病網膜症においては術後に強膜創に関連した合併症が問題となっていた.硝子体手術後に強膜創に嵌頓した硝子体を足場に眼内に向かって血管新生が生じ,強膜図4硝子体カッターでのmembranectomy23G硝子体カッターの先端を増殖膜の下に滑らせて切除を行っている.図2双手法での増殖膜処理23G鉗子と23Gカーブ剪刀で増殖組織を切除している.25G23G20G増殖膜網膜図3硝子体カッターの比較MIVSでの硝子体カッターは先端から開口部までの距離が短いが,23G硝子体カッターでは特に短い.図1カーブ剪刀での増殖膜切除増殖糖尿病網膜症の増殖組織を23Gカーブ剪刀で切除している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081369(41)は糖尿病網膜症でMIVSを使用すると強膜創に嵌頓した硝子体を足がかりに,より強膜創血管新生が発症するのではと危惧されていた.しかし,創口が小さいためかMIVSによる強膜創の新生血管増殖はあまり生じないようである.術後の再出血の頻度を比較した検討では20G手術とMIVSでは差がないようではあるが,自験例ではMIVSの術後に著しい強膜創血管新生を経験していない.同時期に広がった増殖糖尿病網膜症への抗VEGF抗体であるアバスチンRの硝子体内投与で重症例では術前に新生血管の活動性を低下できるようになったり4),術後に投与して重症化を予防できるようになったことも要因の一つである可能性はある.創口が小さいため強膜創での血管新生を予防できている可能性も高いが20Gの1mmの切開と23Gの0.7mm切開,25Gでの0.5mm切開と著しく発生率が異なることは考えにくい.MIVSではカニューラシステムを用いていて手術中の強膜創にかかるストレスが少ないため強膜創周囲の色素上皮細胞,ひいては線維芽細胞を刺激しないように眼内操作ができていることが誘因である可能性はある.II裂孔原性網膜離網膜離手術で重要なことは,硝子体をできるだけ切除して網膜への硝子体牽引を除去することである.小切開硝子体手術であっても強膜圧迫するか,wideeldviewingsystemを用いて最周辺部まで十分に硝子体を切除して硝子体牽引を除去しなければならない.MIVSでは結膜を展開していないため,通常のプリズムコンタクトレンズでは赤道部より前方に死角ができてしまうとわらず,前部硝子体膜に沿って線維血管増殖が起こり,同様に周辺部網膜離や再発性硝子体出血を起こして予後不良の因子になる3).AHFVPは硝子体手術が要因となる強膜創血管新生とは異なった病態であるが,網膜周辺部での虚血が生じている点では共通している.強膜創血管新生は20G硝子体手術での報告であり,強膜創を縫合しても硝子体の嵌頓が避けられないこと,または強膜創を縫合する縫合糸が刺激しているなどの説があった.小切開硝子体手術では経結膜無縫合手術であり,強膜創に硝子体が嵌頓して創口が閉鎖されると報告されている.実際UBM(ultrasoundbiomicriscope)を用いた検討でも強膜創に嵌頓した硝子体が観察されている.当初図5硝子体手術後の再出血に対する手術所見スリット光で観察すると強膜創での血管新生(白矢印)による硝子体出血と考えられた.プリズムコンタクトレンズWideeldviewingsystem死角になりやすい図6プリズムコンタクトレンズとwideeldviewingsystemの視野プリズムコンタクトレンズでの眼底観察では最周辺部の後方が死角になりやすい.———————————————————————-Page41370あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(42)網膜下に流入してさらに胞状の離になることがある.しかし,25G手術では灌流量が少ないため灌流液の勢いで網膜下に流入することはない.同様に25G手術では胞状に離した網膜が創口に嵌頓することはほとんどないが,23G手術の場合には眼内灌流量も20G手術と差がないため,こまめにプラグを挿入するか眼内灌流圧を少し下げるなどの注意が必要である.23G手術での胞状の網膜離に対する手術の場合は20G手術と同様に後極に少量の液体パーフルオロカーボンを注入しておくと網膜の挙動が少なくなる.また,MIVSではトロッカーカニューラシステムを用いているために術中に強膜創に硝子体が嵌頓しづらい(図8).このことは術中に強膜創に嵌頓した硝子体によって離した網膜が牽引されたり,網膜離が胞状離にならないようにする予防に役立っている.いう問題がある.これはwideeldviewingsystemを用いれば対処可能である(図6).結膜が浅くプリズムコンタクトレンズを用いた周辺部圧迫では制限がある場合には特に有用である.MIVSでの網膜離手術も通常の方法と同様に,まず網膜裂孔周囲の硝子体牽引を除去すると胞状の網膜離がゆっくり下がってくる(図7).MIVSでは眼内灌流量も少ないため,離した網膜の挙動が少ないといった利点もある.たとえば,20G手術ではインフュージョンの対側に網膜裂孔があれば,灌流液が網膜裂孔を通って図7MIVSでの網膜離手術網膜裂孔への硝子体牽引を早めに除去すると網膜離が少しずつ下がり,網膜が復位してくる.カニューラありカニューラなし強膜強膜硝子体硝子体図8トロッカーシステムと硝子体嵌頓トロッカーカニューラシステムを用いているため,術中に強膜創に硝子体が嵌頓しにくい.図9液体パーフルオロカーボン下での光凝固パーフルオロカーボン下(矢印)で網膜を復位させ,強膜を圧迫して手術顕微鏡による直視下で周辺部網膜裂孔(矢頭)への光凝固を行う.図10ライト付き同軸レーザープローブによる光凝固ライト付き同軸レーザープローブを挿入し強膜を圧迫して網膜裂孔(矢印)に光凝固を行っている.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081371(43)ときに数回の手術を行っていれば結膜の癒着が強く,結膜を展開して強膜創を作製しづらい症例にも遭遇する.その場合には結膜を展開せず,経結膜で強膜創を作製するMIVSで治療を行うほうが簡便である場合もある.しかし術後の感染が問題となるので強膜創は結膜と一緒に縫合したほうがよい.シリコーンオイル注入後においても1針縫合を追加する.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-guageinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20022)池田恒彦,田野保雄,前田直之ほか:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術後の再増殖─特に強膜創血管新生について.眼科手術4:111-114,19913)LewisH,AbramsGW,WilliamGA:Anteriorhyaloidbrovascularproliferationafterdiabeticvitrectomy.AmJOphthalmol104:607-613,19874)ChenE,ParkCH:Useofintravitrealbevacizumabasapreoperativeadjunctfortractionalretinaldetachmentrepairinsevereproliferativediabeticretinopathy.Retina26:699-700,2006網膜離手術で重要なことは網膜裂孔への十分な術中光凝固である.MIVSではレーザースポット径が20Gよりもやや小さくはなるが,レーザーファイバー自体にレーザー光を集光させて,眼内では広げることにより25Gであっても十分なスポットサイズが得られるようになっている.光凝固の方法は後極の裂孔であれば液-空気置換後に光凝固を行うが,周辺部裂孔の場合は液体パーフルオロカーボンを裂孔の高さを越えて注入して液体パーフルオロカーボン下で網膜が復位した状態で光凝固を行う(図9).また,液-空気置換を行いシャンデリア照明下で光凝固を行う方法,助手に強膜を圧迫してもらい光凝固を行う方法,ライト付きの同軸レーザープローブで光凝固を行う方法などがある(図10).シャンデリア照明は空気灌流下では先端が発熱する報告もあり,空気灌流下では照度を少し落とすようにしている.アトピー性皮膚炎に伴う網膜離は網膜最周辺部に原因裂孔が存在するため強膜バックリング手術が基本ではあるが,ときとして後極裂孔を伴ったり,増殖硝子体網膜症を合併した場合には硝子体手術が必要になる.この

極小切開硝子体手術の実際:黄斑疾患

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSI黄斑疾患1.黄斑疾患とMIVS増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症と比べて黄斑上膜(ERM),黄斑円孔(MH)などの黄斑疾患は硝子体手術のなかでは合併症が比較的少なく安定した結果が得られる疾患群であり,それだけに患者の期待度も高く,最終視力のみならず,早期からの視力改善や異物感の軽減,早期退院などと要求も多い.そういった要求に応えるためにも結膜への侵襲が少ないMIVSは非常に理にかなったものである.2.20G手術との違い手術を行うにあたって従来の20Gシステムとの違いはなんといっても器具の剛性の違いである.黄斑疾患の場合は周辺部硝子体の完全な郭清までは必要としないため硝子体カッターの性能はそれほど手術に影響しないが,ERMの膜離や内境界膜(ILM)離は鉗子で行うため,従来の20Gシステムに慣れている術者は最初はMIVSの鉗子,とりわけ25Gシステムでは剛性が低く戸惑うこともあるかもしれない.しかしながら徐々に慣れてゆくのでほとんど20Gの鉗子と遜色なく操作を行うことが可能になる.ところが25Gシステムでは従来の20Gシステムのように眼球を両手に持った眼内照明と硝子体カッターでコントロールすることはむずかしく,考え方を改めMIVSではできるだけ両手のポートはじめに今でこそ極小切開硝子体手術(microincisionvitrec-tomysurgery:MIVS)において強膜創は斜め切り(obliqueincision)1)による自己閉鎖が常識となっているが,当初MIVSが紹介された手技では25ゲージ(G)のトロッカーを経結膜的に強膜に垂直に刺入し,周辺部硝子体を残すことによって自己閉鎖させるように考案されたものであった2).つまり,MIVSは周辺部硝子体を郭清しなくてよい黄斑疾患しか適応でないと考えられていた.さらには慣れない繊細な25Gの器具では従来の20Gほど安定して強膜圧迫などの操作が行いにくいこともそういった考えを定着させることになった.しかしながら,現在では裂孔原性網膜離や増殖糖尿病網膜症などほとんどすべての疾患にMIVSは対応可能となり,必ずしも経結膜手術にこだわらなくともトロッカーを使うことによる強膜への侵襲の低下や硝子体創口への嵌頓の減少,25Gや23Gの小口径硝子体カッターを使うことによる増殖膜処理時の有効性などMIVSの有効性の評価はさまざまな場面に及ぶようになった.とはいえ,MIVSを初めて導入する場合など,後極部への操作が主体の黄斑疾患はMIVSと非常に相性がよい疾患であることに変わりない.本稿では黄斑疾患に対してMIVSを初めて導入する際の注意点について述べたい.(31)1359aaaa::761079317501特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13591365,2008極小切開硝子体手術の実際:黄斑疾患MicroincisionVitrectomySurgeryforMacularDisease山地英孝*———————————————————————-Page21360あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(32)面からいえば,23Gシステムがより20Gシステムに近い感覚で行えるので,いきなり25Gシステムを導入するよりも23Gから始めるというのも一法である.3.MIVSは本当に低侵襲かMIVSは視力の立ち上がりが早いことなどが報告されで眼球をコントロールせずに行う手術を心がける必要がある.MIVSでは患者の眼球運動も押さえ込むことはむずかしく,よく眼球が動く症例には球後麻酔などを追加し眼球運動を抑制する必要がある.また,器具の剛性のVA=(0.4)VA=(1.5)VA=(1.5)図3症例68歳,女性:ERMに対する25GMIVSの経過術前(左),術1週後(中),術3カ月後(右).術1週後で視力は(1.5)に達し,惹起乱視はほとんど認めない.0.0000.0500.1000.1500.2000.2500.3000.3500.4000.450logMAR視力p0.017p0.040p0.010p0.014p0.021p0.570術前術後1週術後経過1カ月3カ月25G20Gpairedttest図1黄斑上膜(ERM)術前後の視力経過20G群では有意な視力改善は1カ月後からであるが,25G群では1週後より有意に視力は改善する.00.511.522.53術前術後1週術後1カ月術後経過*惹起乱視クトル対値(D)*p0.001:Mann-WhitneyU-test25G20G図2惹起乱視の変化術後1週では20G群に比べて25G群では有意に惹起乱視が少ない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081361(33)は極小切開の内径の細いライトパイプでは十分な光量が得られないため,キセノンもしくは水銀蒸気灯の光源を用意する必要がある.各メーカーから発売されているが,筆者らはsynergetics社のPhotonもしくはPhotonⅡ(図4)を用いている.Dorc社製のBrightStarや,Alcon社製のハイブライトイルミネーターなどがあるが,アタッチメントの豊富さからはPhotonが優れていている3,4)が,本当に20Gと比べて低侵襲であるかどうかを検討してみた.筆者らはERMに対して硝子体手術を行った53眼に対し20G群(24眼)と25G群(29眼)の2群について術前と術後1週,1カ月,3カ月の視力について検討した.術前の平均年齢や視力などは2群間に差がなく,50歳以上では両群で2.4mmの角膜切開または強角膜切開にて白内障手術を行った.20G群では術前と比べ術後1カ月目に初めて有意に視力が改善したのに対し,25G群では術後1週目から有意な視力の改善がみられた(図1).この原因として術後の惹起乱視や手術時間との関連が疑われたため,術後の惹起乱視と手術時間について検討を行ったが,術1週後において20Gに対して25Gでは有意に惹起乱視が少なく,術1カ月後には両群で差はなくなっていた(図2).手術時間では20Gでは中央値が33.5分であったのに対し,25Gでは25.0分と有意に短い(p=0.001:Mann-WhitneyU-test).つまり,20G手術では強膜創の縫合が必要であり,この強膜創の縫合によって少なからず乱視が発生し,視力の回復を遅らせている可能性があり,逆に25Gでは強膜創の縫合が不要であるため惹起乱視が少なく,さらに手術時間も短いため手術侵襲が少なく早期の視力回復に寄与していることがわかる(図3).4.黄斑疾患のMIVSでは何を揃える?MIVSを行うにあたり,まず揃えなくていけないものは眼内照明の光源装置であろう.従来のハロゲン光源で図4眼内照明の光源装置synergetics社製PhotonとPhotonⅡ.Photonはキセノン光源,PhotonⅡは水銀蒸気灯光源.PhotonⅡがやや緑がかった色調である.図525G通常照明(右)とワイド照明(左)硝子体ゲルの視認性には通常照明が優れるが,眼底全体や周辺部の把握にはワイド照明が使いやすい.———————————————————————-Page41362あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(34)移る.MVR(microvitreoretinal)ブレードを曲げたマイクロフックトニードルで取っ掛かりを作り,後は鉗子で膜を除去する(図8).黄斑部を通過するときは癒着が強い場合があり,無理に引っ張ると黄斑円孔を生じるので慎重に行う.筆者らは膜の取り残しや再増殖を防ぐために内境界膜(ILM)の離も行っている.さらに,トリアムシノロンアセトニド(TA)を眼底に散布し,ILMを鉗子のまま離する.ERMを除去すると部分的にILMの断裂がみられるので,そこからILM離を始めると容易に行える.このときMIVSの鉗子では把持する面積が20Gと比べて小さくILMが切れやすいので慎重に力を加えながらapを大きくしていくのがコツである(図9).ILMが取れれば周辺部の確認およびポート周辺の硝子体を切除する.最低限トロッカーに嵌頓した硝子体は切除する(図10).後はトロッカーを除去し,自己閉鎖の確認を行うが,トロッカー抜去直後には若干の漏出を認めてもポートの位置を確認して綿棒もしくは比較的鈍な鑷子の先端で創口をしばらく押さえるとほとんどの場合ポートからの漏出は止まる.それでも漏出が止まらない場合は,結膜上から創口が確認できれば結膜上から,確認がむずかしければ結膜切開を行い直接強膜ると筆者は考えている.23Gもしくは25Gシステムでの硝子体鉗子,照明プローブ,硝子体カッターとバックフラッシュニードルなどが必要である.黄斑疾患については3ポートシステムで十分行えるが,ライトパイプが通常のタイプでは照射角度が狭いためワイドタイプの照明を用いるのがよい(図5).ワイドタイプのものにも術者が眩しくないようにシールド付のライトパイプや,特に鉗子の操作に集中するためにはカニューラに取り付けるシャンデリア(図6)があり,それらを用いると,鉗子を両手で持つこともでき便利である.II実際の手技1.黄斑上膜(ERM)創口の作製は別項に譲るが,3ポート作製した後,MIVSの経験が少ない場合にはコンタクトレンズのリングは縫着する.縫着不要のSuturelessring(HOYA社)など便利な器具もあるが角膜とリングがずれることがあり,まずはMIVSに慣れるためになるべく20Gと同様な環境を心がける.筆者らは接触型レンズのワイドビューイングシステムを用いてコアビトレクトミーを行う.ワイドビューイングレンズでは散瞳が良好な症例ではほぼ鋸状縁まで視認できる(図7)ので,ワイドビューイングレンズを用いて可能な限り周辺部硝子体を切除する.その後,後極部拡大レンズに替えてERMの離に図6カニューラシャンデリアカニューラ用のシャンデリアは簡単に位置を変更でき,固定すれば両手で鉗子を操作することができて便利である.図7ワイドビューイングレンズとカニューラシャンデリアの組み合わせワイドビューイングレンズでは倒像となるため反転装置(インバーター)が必要であるが,シャンデリア照明と組み合わせることによって鋸状縁近くまで一度に観察できる(黄斑円孔症例).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081363(35)ERMの手術と同様にコアビトレクトミーを行う.このときstage4を除き後部硝子体は未離であるためPVD作製時に誤って周辺部の硝子体を誤吸引しないように硝子体カッターを入れたポートから視神経乳頭までの硝子体を可能な限り切除しておき,その後TAを後極部に散布する.ワイドビューイングレンズでも行える(図11)が(筆者は普段行っている),慣れるまではより創に一糸縫合をおく.2.黄斑円孔(MH)黄斑円孔も基本的にはERMの手術に後部硝子体離(PVD)作製とガス置換の2つの手技の追加があるだけなので,この2点について解説する.ab8ERMの離MVRブレードの先端を曲げたマイクロフックトニードルでERMを撫でるとERMが引っかかってくる(a)ので鉗子に持ち替えて断端を把持して膜離を行う(b).図9ILM離ERMの離後TAを後極部網膜に散布すると大抵ILMが一部ERMと一緒に取れているのでその断端をつかみ離する.図10トロッカー周辺の硝子体切除シャンデリアを挿入したトロッカー周辺を圧迫して硝子体を切除している.———————————————————————-Page61364あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(36)離を行う.ILM離は再度トリアムシノロンを後極部網膜に散布して行うが,ILM離にはMVRブレードなどで取っ掛かりを作らなくても鉗子でILMをつまんで裂け目を作り,それを取っ掛かりとして離してゆけばよい.今後はブリリアントブルーG(BBG)などの新しい染色剤も視認性が高く期待されている(図12).3.黄斑浮腫網膜静脈分枝閉塞症(BRVO),糖尿病黄斑症(DME)に対するMIVSも手技的にはほとんどERMと同様であり,しいて言えばILM離時に黄斑浮腫や漿液性網膜離などによって網膜に可動性があるのでILM離を行う際,ILMを鉗子でつかむと網膜ごとついてくることがあり,ERMやMHよりさらにゆっくりとした操作が必要となる.IIIさらなる低侵襲をめざす以前は白内障手術でも翌日強い術後炎症や角膜浮腫を認める症例は少なくなく,翌日に見えにくいのは手術侵襲によるもので仕方がないと考えられていたが,現在では白内障手術の翌日に角膜に浮腫はなく視力も改善しているのが当たり前である.同様に硝子体手術でも成績はもとよりいっそうの低侵襲が求められている.しかしながら通常のルーチン検査では検出できないような侵襲が実際には起きていることがある.黄斑円孔術後早期に自詳細な観察ができる後極部拡大レンズを用いて硝子体カッターの吸引でPVDを作ってゆく.この作業は20Gと変わらないが,灌流量がMIVSでは少ないため眼球の虚脱に注意し,無意味な灌流液の吸引を行わないように注意する.一旦部分的にでもPVDが起こり始めれば眼底全体を確認できるワイドビューイングレンズに交換して硝子体カッターで断端を軽く吸引しPVDを進めていき,後は硝子体カッターで切除していけば徐々にPVDは進んでゆく.ワイドビューイングレンズで見える範囲を切除できれば後極部拡大レンズに交換しILM図12BBGを用いたILM離BBGを用いればICGと同様かそれ以上に鮮明にILMを確認することができる.abc11後部硝子体離の作製ワイドビューイングレンズを用いているがTAを散布した後,さらに視神経乳頭付近の硝子体を切除する(a).その後視神経乳頭から少し黄斑よりで硝子体カッターの吸引をかけて後部硝子体離を作ってゆく(b).1カ所後部硝子体膜に穴ができれば後はそこを吸引することで広げてゆく(c).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081365発蛍光(AF)を撮影するとこのように鉗子で取っ掛かりをつけた部位に一致した低蛍光が認められる.これはいまだ原因は明らかではないが,手術侵襲によって神経線維に浮腫を生じ,その浮腫が軸索を逆行性に進んだものと推測されている(図13).こういった変化も3カ月後には消失しており,視力などには影響はないものの侵襲をどこまで減らせるかが今後の課題である.おわりに20G手術と比べると結膜切開が不要で,創口が小さく乱視の発生を抑えることができるMIVS手術は,手術侵襲を大幅に低減する効果がある.若干の器具の脆弱性は認めるものの,20Gとほぼ同様なシステムで行え,少しの慣れで十分習得できる黄斑疾患はMIVSを始めるにあたり非常によい適応である.黄斑疾患に慣れてくれば他の疾患に対しても適応を広げてゆけばよい.文献1)ShimadaH,NakashizukaH,MoriRetal:25-gaugescler-altunneltransconjunctivalvitrectomy.AmJOphthalmol142:871-873,20062)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20023)KadonosonoK,YamakawaT,UchioEetal:Comparisonofvisualfunctionafterepiretinalmembraneremovalby20-gaugeand25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol142:513-515,20064)RizzoS,Genovesi-EbertF,MurriSetal:25-gauge,suturelessvitrectomyandstandard20-gaugeparsplanavitrectomyinidiopathicepiretinalmembranesurgery:acomparativepilotstudy.GraefesArchClinExpOphthal-mol244:472-479,2006(37)図13黄斑円孔後の眼底自発蛍光(FAF)術1週後には取っ掛かりを作った部位に一致した低蛍光がみられる(矢印)が,術3カ月後では消失した.視力や視野に異常はない.1週目3カ月目

極小切開硝子体手術:合併症とその対策

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS低眼圧の頻度は,最近の報告によれば,23ゲージのTwo-step法では20%,5mmHg以下では7%,One-step法では6mmHg以下の低眼圧症例は6.5%とのことである2).しかし,Two-step法では,約20%で術後低眼圧がみられたとの報告もあり,一般に,23ゲージでは,術後の低眼圧は生じやすい.一方,25ゲージの低眼圧は,一般にその発症頻度は23ゲージに比較して少ない.また,強膜へのトロカールの刺入方法による違いも検討されている.垂直刺入では斜め刺入より術後低眼圧になりやすく,最近では,斜め刺入が主流になりつつある(図1).また,眼内をガスあるいは空気で満たしたほうが,眼内灌流液よりも,より術後低眼圧が生じにくいとの報告もある.術後の低眼圧を予防するためには,鋭利なトロカールを用いて,結膜をずらして,約30°斜めに強膜に刺入し,術中はできるだけトロカールに負担をかけないような手術を心がけ,トロカール抜去後は,綿棒にて強膜創の鈍的閉鎖を丹念に行う(図2).終刀時に比較的大きな結膜ブレブがみられたり強膜創の非閉鎖が疑わしい場合は,強膜創に1針縫合を加える(図3).さらに,眼軟膏を十分に点入し閉鎖補助剤として使用する.2.術後眼内炎20ゲージ硝子体手術の術後眼内炎は0.07%と報告されている3).硝子体手術後の眼内炎はきわめてまれであり,そのような術後合併症を経験した術者はきわめて少はじめに近年小切開硝子体手術が急速に普及しているが,その特有の合併症に対する配慮は重要である.注意を要する代表的な合併症は,術後低眼圧,術後眼内炎,術後網膜離,術中の小切開器具の損傷などである.本稿では,これらの合併症の特徴と対策を述べたい.小切開硝子体手術の合併症小切開硝子体手術の合併症には,以下のものがあげられる.術後低眼圧,術後脈絡膜離,術後脈絡膜出血,術後網膜離,術後眼内炎,術中の網膜裂孔形成,術後黄斑浮腫,術後黄斑円孔,術中の硝子体器具の破損,損傷などである.それぞれの合併症のなかで,術後低眼圧の頻度が最も多い.1.術後低眼圧Fujiiらによる25ゲージ硝子体手術の最初の報告で,術前16mmHgであった眼圧は,術後1日目で平均12mmHgへと低下すると述べているように,術後の低眼圧は小切開手術の大きな合併症の一つである1).何故,術後の低眼圧が問題になるのだろうか.低眼圧が生じると,術後の炎症が増強・遷延し,脈絡膜離を促し,低眼圧黄斑症を生じることもある.さらに低眼圧眼においては,眼表面の流体物が眼内へ移入しやすくなり,眼内の細菌感染のリスクを高めると考えられている.低眼圧は小切開手術の“malignantfactor”と考えてよい.(27)1355aaabaaa:合:232002445合特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13551358,2008小切開硝子体手術:合併症とその対策ComplicationandManagementinMicroincisionVitrectomySurgery渡邉洋一郎*門之園一明*———————————————————————-Page21356あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(28)05101520a術前翌日眼圧(mmHg)1週間ERMVHMHBRVODMERRDBIOPSYVITOPAC0510152025術前翌日1週間b眼圧(mmHg)ERMVHMHBRVODMERRDBIOPSYVITOPAC図1刺入方法の違いによる術後眼圧経過トロカールを垂直に刺入したときの術翌日の眼圧(a)は,トロカールを斜めに刺入したときの術翌日の眼圧(b)よりも低下する傾向にある.ab図2低眼圧を回避するトロカールの刺入方法トロカールの穿孔は斜めに刺入され(a),抜去後は結膜上より強膜創の鈍的整復を行う(b)と,術後の低眼圧は生じにくい.ab図323ゲージ硝子体手術の強膜創の縫合強膜創の閉鎖が不完全な場合(a)は,1針の縫合が望ましい(b).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081357(29)筆者らの施設では,小切開硝子体手術を開始してから現在までの6年間で行われた小切開硝子体手術の全1,940眼のうち,1眼に術後眼内炎を認めている(図4).発症率は約0.05%である.症例は59歳の男性で,網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術を受けた.使用した器具は,TSV(Bausch&Lomb社)トロカールを垂直に刺入した.また,周辺部の硝子体ゲルは切除せず空気や膨張ガスを眼内には充しなかった.術後5日目に急激な視力低下をきたし,術後の眼内炎と診断し再度硝子体手術を行った.術中の硝子体よりMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出された.幸い術後最高視力は矯正0.9まで回復した.術後眼内炎を防止するための小切開手術として有望と考えられるのは,強膜創の工夫である.一つは,鋭利なトロカールで斜めに刺入する.硝子体ゲルを周辺部までよく切除する.嵌頓した硝子体ゲルを除去する.強膜創の鈍的整復を行い,water-tightな状態にする.さらに,ポピドンヨードの点眼を術終刀時に行う施設もある.ない.ところが,Kunimotoらによる大規模な研究4)が,25ゲージと20ゲージの硝子体手術の術後眼内炎発症率に関して行われた.それによると,20ゲージ硝子体手術の全症例5,498眼のうち,1眼(0.018%)に術後眼内炎が生じたが,25ゲージ硝子体手術では,全症例3,103眼のうち,7眼(0.23%)であった.25ゲージでは12倍術後眼内炎が生じやすいと述べている.小切開硝子体手術における術後眼内炎の発症リスクの原因は,強膜創が縫合されていないこと,眼表面液が眼内に誘導されやすいこと,硝子体ゲルの強膜創部への嵌頓が存在することがあげられる.ba5創口の大きさの違いによる嵌頓硝子体量25ゲージ硝子体手術の強膜創の硝子体の嵌頓(a)は,20ゲージ硝子体手術の強膜創の嵌頓(b)に比較して十分に減少する.図425ゲージ硝子体手術後5日目の前眼部所見著明な前房蓄膿をみる.表125ゲージ硝子体手術後の術後網膜離の発症の報告GuptaOP.AmatoJE.OshimaY.IbarraMS.FujiiGY.200720072006200520021.4%2.00.72.23.4———————————————————————-Page41358あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(30)ることはないが,器具の出し入れの際に注意が必要である.特に,近年は斜め刺入することが多いため,カッターの挿入の際に,トロカールを損傷することがある.また,トロカールの術中の脱落が生じることがある.硝子体内の血腫除去手術の場合に,しばしばトロカールが硝子体カッターの抜き差しにより脱落することがある.おわりに小切開硝子体手術には,特有の手術後合併症がある.特に,術後低眼圧と術後眼内炎に対する対策は重要である.合併症に対する術中・術後の適切な管理により,これらの合併症は克服されるであろう.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Initialexperi-enceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20022)GuptaOP,HoAC,KaiserPKetal:Short-termoutcomesof23-gaugeparsplanavitrectomy.AmJOphthalmol146:193-197,20083)ScottIU,FlynnHWJr,DevSetal:Endophthalmitisafter25-gaugeand20-gaugeparsplanavitrectomy:inci-denceandoutcomes.Retina28:138-142,20084)KunimotoDY,KaiserRS:Incidenceofendophthalmitisafter20-and25-gaugevitrectomy.Ophthalmology114:2133-2137,20075)ScartozziR,BessaAS,GuptaOPetal:Intraoperativesclerotomy-relatedretinalbreaksformacularsurgery,20-vs25-gaugevitrectomysystems.AmJOphthalmol143:155-156,20076)InoueM,NodaK,IshidaSetal:Intraoperativebreakageofa25-gaugevitreouscutter.AmJOphthalmol138:867-869,20043.術中の網膜裂孔・術後網膜離小切開硝子体手術が普及しはじめた当初,術後網膜離の発症率が20ゲージ硝子体手術よりも高くなる可能性が指摘されていた.しかし,術後網膜離の発症率は概して低い(表1).現在では,小切開硝子体手術では,おもに,トロカールを使用するため硝子体の嵌頓が非常に少なく,術後網膜離の発症がむしろ減少するといわれている5)(図5).4.その他23ゲージ硝子体手術では,トロカールの不十分な設置により,まれに急激な脈絡膜離を生じることがある.23ゲージトロカールはステンレスで構成されているため滑りやすく,その留置には十分に注意を要する.5.小切開器具の損傷25ゲージの口径は約0.5mm,23ゲージでも約0.7mmと非常に細いため荷重による小切開器具の曲げが容易に生じる.特に,25ゲージの硝子体鑷子や硝子体カッターは術中の不用意な操作で器具の破損を生じることがある.小切開器具の硬性度は低く,23ゲージでは20ゲージの半分,25ゲージでは20ゲージの4分の1であり,負荷に弱い構造である6).硝子体鑷子や硝子体剪刀は先端部を保護する専用のカバーをかける必要がある.また,硝子体カッターのプライミングの際には,先端部分をコップの底に当てないように注意する必要がある.現在市販されている25ゲージのトロカールの周囲は,ポリイミドで合成されているため,比較的損傷しやすい.仮に破損してトロカールの一部が眼内に残った場合でも,ポリイミドの生体適合性は高いので特別に問題にな

眼内照明係と広角観察システムの進歩

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSa.キセノン光源による照明装置キセノン光源の照明装置には,アルコン社のAccurusHighBrightnessIlluminator,シナジェティクス社のPhoton,ドルク社のBrightStarがある.キセノン光は網膜光障害をきたす短波長の光スペクトルを有するため,いずれの照明装置も短波長光をカットするバリアフィルターが内蔵されており,長時間の眼内照明による網膜光障害が生じないように安全性にも配慮した設計になっている.とりわけドルク社のBrightStarは4種類のバリアフィルター(420,435,475,515nm)が内蔵されており,用途に合わせてフィルターを選択することができる.同じキセノン光源でも各社のバリアフィルターの違いによって照明光の色に違いがあり,照明光の色分布を色度図(ChromaticityDiagram)に示した(図1).b.水銀蒸気灯光源による照明装置最近では,同じ出力パワーでキセノン光源よりも約2倍の明るさを有し,かつ網膜光障害の少ない水銀蒸気灯(mercuryvapor)を用いた光源装置(PhotonII)がシナジェティクス社より発売されている.PhotonIIの波長ピーク(図2)は550nmと580nmが中心なので,ややイエローグリーンな照明色(図1)であるが,術中の硝子体の観察がしやすく,網膜光毒性の観点からより長時間の手術に耐えうることが利点である.2.照明ファイバー照明装置が改良されたことに伴って,眼内照明に使うはじめに極小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysur-gery:MIVS)が最近になって飛躍的に広まってきた背景には,新しい眼内照明系の開発と広角観察システムの存在があげられる.明るい照明装置とシャンデリア式眼内照明を用い,これに眼底を後極部から周辺部まで一度に見渡せる広角観察システムを組み合わせることによって,23ゲージや25ゲージのような細い器具を用いても,比較的に安全かつ快適な手術が可能となった.さらに,裂孔原性網膜離や増殖糖尿病網膜症などのような後極部操作に限らず赤道部周辺部までの眼内操作も必要な症例もMIVSでストレスなく行うことができるようになってきた.これらの周辺機器の普及に伴って,最近のMIVSの手術適応そのものが広がったようにも思われる.本稿では,現在のMIVSに欠かせない眼内照明システムおよび広角観察システムの特徴と使用上の留意点について概説する.I眼内照明系(光源装置と照明ファイバー)1.光源装置25ゲージのような細い口径の照明ファイバーからでも十分な眼内観察光が得られる出力輝度の高い照明装置として,キセノン(xenon)光源や水銀蒸気灯(mercuryvapor)光源による照明装置が新たに開発され,MIVSには欠かせない重要なアイテムの一つとなっている.現在市販されているこれらの照明装置を表1にまとめた.(17)1345a系眼56522.7系眼特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13451353,2008眼内照明系と広角観察システムの進歩AdvancementsinEndo-IlluminationandWide-AngleViewingSystem大島佑介*———————————————————————-Page21346あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(18)て,照射角の広い,いわゆるトータルビューやワイドビューとよばれる23ゲージや25ゲージのライトパイプが開発された.さらに,最近では眼内を一度に広く照明できる,いわゆるシャンデリア式の照明ファイバーが照明ファイバーの選択肢も増えてきた(表2).従来のハロゲン照明装置では,20ゲージのライトパイプでも狭い範囲を照らすタイプのものしかなかったが,キセノンや水銀蒸気灯による輝度の高い照明装置の登場によっ表1各社のキセノン光源と水銀光源装置キセノン光源装置水銀蒸気灯光源装置光源装置AHBI(アルコン社)PhotonI(シナジェティクス社)BrightStar(ドルク社)PhotonII(シナジェティクス社)外観特徴,利点・420nm紫外線カットフィルター・赤外線フィルター・435nm紫外線カットフィルター・最大出力68lumen(20G)・最大出力40lumen(Awhシャンデリア25G)・4段階選択式の波長カットオフフィルター(420nm,435nm,475nm,515nm)・700nm以上の赤外線カットフィルターも搭載・lumen,ISOによる輝度表示・435nm紫外線カットフィルター・PhotonIよりも明るく安全(550nm,580nmにしか波長ピークを有さない,同じ出力(W)でPhotonIよりも2倍の照明輝度(lumens)を有する)接続可能な照明ファイバーの例・25Gライトパイプ・23Gライトパイプ・Torpedoシャンデリア・25Gシャンデリア・トロカール挿入用25Gシャンデリア・インフュージョン付25Gシャンデリア・27Gシャンデリア・トータルビューファイバープローブ(20G,23G)・エッカード氏ツインライトシャンデリア(25G,27G)・トータルビューシャンデリア23G・PhotonIに接続可能なシャンデリア照明が使用可・27/29Gシャンデリアも使用可AHBI:AccurusHighBrightnessIlluminator.PhantonIIAccurusHalogenXeunfilteredXeISO15752filteredReferenceWhiteMillenniumMetal-HalideBrightStar4200.80.60.4y0.8000.20.4×0.60.8435475515図1主要な照明装置による眼内照明光の色度図(ChromaticityDiagram)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081347(19)最近では,25ゲージ,27ゲージ(図3a,b)や29ゲージの極細ファイバー(図4a,b)のほか,さまざまなバリエーションのシャンデリア照明ファイバーが開発されている(図5a,b).疾患の特徴に合わせて,使いやすい種類のシャンデリア照明ファイバーを選択することができる(表3).b.シャンデリア照明ファイバーの利点と欠点シャンデリア方式の照明ファイバーを後述する広角眼底観察システムと組み合わせて用いれば,過度に眼球を動かすことなく,眼内を後極から網膜最周辺部まで一度に見渡すことができる.手術の安全性が向上するだけでかなり有用視されている.a.シャンデリア照明ファイバーのバリエーション市販するシャンデリア照明ファイバーはシナジェティクス社とドルク社のものが中心で,前者は自社の照明装置(Photonシリーズ)にしか接続できないが,後者は専用アダプターを用いれば,各社の照明装置とも接続可能である.1.000.800.600.400.200.00350400450500550600波長(nm)650700750800相対的図2水銀蒸気灯光源とキセノン光源の波長曲線黒実線:水銀蒸気灯光源の波長曲線(550nmと580nmの波長ピークを有する),灰色実線:キセノン光源の波長曲線,破線:健常人網膜の比視感度分布曲線,点線:無水晶体眼の網膜に対する光障害波長曲線.27ゲージ(0.35mm)25ゲージ(0.50mm)1,000μm図3a経結膜強膜固定式の25と27ゲージシャンデリア照明ファイバーの先端(シナジェティクス社)図3b経結膜強膜固定式の27ゲージ・ツインシャンデリア照明ファイバー(ドルク社)表2照明ファイバーの選択ライトパイプ式(術によるが要)従来通りのライトパイプ:明るさがやや暗く,照明範囲が狭いワイドビュー(トータルビュー)ライトパイプ:広角観察システムにも対応できる広い照明範囲を有するが,照明輝度はシャンデリア照明にやや劣るシャンデリア方式(広角観察できるうえ,術者による保持は不要)固定式スタンダードタイプ:27Gや27/29Gも開発されて,双手法の眼内操作にも便利カニューラに挿入可能なタイプ:固定式シャンデリア照明の利点を有するうえ,右手と左手の差し替えに便利インフュージョンライン付きのタイプ:黄斑手術なら,このタイプを用いて2ポートで事足りる———————————————————————-Page41348あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(20)子体を先に切除してしまうとよい.また,シャンデリア照明ファイバーは空気灌流下でもその先端が高熱となることが知られており,液-空気置換後は光量を下げることや必要以上に長時間にわたって空気灌流下で使用しないなどの対処が必要である.なく,25ゲージの欠点といわれる器具の剛性の問題もかなり解消される.また,網膜を局所的に照らすライトパイプとは異なり,シャンデリア照明は強膜壁に固定されるために黄斑部との距離が長くなる分,照明光が眼内全体に分散され,単位面積当たりの網膜光毒性も軽減できる可能性があるなどの利点が多い.しかし,大量の硝子体出血を認める症例にシャンデリア照明を用いる場合,まれに照明ファイバーの先端に凝血塊が付着し,それに伴う吸熱反応が原因でファイバー先端に熱溶解を生じることがある.このような懸念がある症例では手術開始時に照明ファイバー先端部周囲の硝図5a23ゲージのカニューラに挿入して用いるシャンデリア照明ファイバー(ドルク社)図5b25ゲージの灌流ライン付きシャンデリア照明ファイバー(シナジェティクス社)ab図427/29ゲージ・ワンステップシャンデリア照明ファイバーa:27ゲージ針の外套(矢印)の内部に29ゲージのシャンデリア照明ファイバーが通っている.b:強膜に刺入したのちに外套(矢印)を引くと29ゲージのシャンデリア照明ファイバーの先端(矢頭)が飛び出る構造になっている.表3シャンデリア照明ファイバーとライトパイプとの操作性の比較ライトパイプ固定式25Gや27Gシャンデリアトロカール挿入用23Gや25Gシャンデリアインフュージョン付き23Gや25Gシャンデリア自己閉鎖性△○○黄斑疾患○○○◎周辺部硝子体切除△○◎△双手法手術×◎△×◎:最適,○:使用可,△:やや難あり,×:不向き.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081349(21)観察像を得ることができる.逆に,広角観察システムの欠点として,屈折率の高い凸レンズを通じての眼底観察であるので立体感が乏しい,一部のセミ・ワイドタイプのものを除けば,倒像を直像に変換するインバーター装II広角観察システムMIVSに限らず,20ゲージ手術も含めて,最近の世界的な硝子体手術のトレンドの一つとして,広角観察システム(wide-angleviewingsystemもしくはpano-ramicviewingsystem)の普及があげられる.2006年のASRS(AmericanSocietyofRetinalSpecialists)による会員アンケート調査結果では,実に70%以上の網膜硝子体術者は何らかの広角観察システムを用いて手術している.すでに1990年代に開発された広角観察システムだが,ここ数年来の眼内照明系の進歩に伴って,その有用性が見直され,欧米では今や硝子体手術に欠かせないスタンダードアイテムであるといっても過言ではない.広角観察システムの利点と欠点を表4にまとめた.最大の利点は言うまでもなくその広い観察野にある.広角観察システムのいずれのタイプとも基本的には光学的に瞳孔中央付近に集光する倒像レンズの特性を利用しての眼底観察であるので,従来のフローディング式の硝子体コンタクトレンズのように頻繁にレンズを交換することなく,散瞳不良例でも,空気置換例でも,角膜形状や透明性に問題を有する症例でも,比較的に広く良好な眼底表4広角観察法の利点と欠点広角観察システムの利点周辺部病変の見落としが少ない眼内光凝固などの周辺部操作に便利周辺部観察や液-空気置換時のレンズ交換が不要空気置換下でも視認性が良い小瞳孔(3mm以上)でも視認性が良い前眼部,中間透光体の混濁に強い広角眼内照明やシャンデリア照明との相性が良い強膜圧迫の必要性が少ない広角観察システムの欠点倒像のため直像への変換装置(インバーター)が必要立体感が少ないため,黄斑部操作には不向き設備投資費用がかかる操作の習得に一定の期間(ランニングカーブ)が必要通常の硝子体コンタクトレンズと焦点距離が異なり,顕微鏡の粗動調整が必要広角眼内照明やシャンデリア照明がないと特性を生かせない接触型では,顕微鏡のX-Yの操作が逆非接触型では,前置レンズ縁が手術器具と当たりやすく,レンズの曇りや水滴付着が問題abc図6倒像を直像に変換するインバーター装置a:電動式のSDI(StereoscopicDiagonalInverter,オクルス社).b:切り替えレバーによる手動式のROLSReinverter(ボルク社).c:顕微鏡の対物レンズ(灰色丸)に内蔵される方式のInvertertube(ツァイス社).ノブ(矢印)を手動で切り換える.他社の装置と比べて画像切り替えのためのプリズムの追加がないので,インバーター装置の設置による観察像の画質低下が少ないのが特徴である.———————————————————————-Page61350あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(22)接触型に大別される.現在,わが国で使用されている非接触型と接触型の各システムの比較を簡単に表5にまとめた.また,参考までに各システムを用いた術中の観察像を図7acに示した.以下,わが国で使用されている各システムの特長と使い方のコツについて概説する.1.非接触型システム非接触型システムを眼底観察範囲が100°以上のいわゆるワイド・アングルタイプのものとそれ未満のいわゆ置が必要であることがあげられる.なお,インバーター装置には電動式のSDI(StereoscopicDiagonalInverter,オクルス社)と手動式のROLSReinverter(ボルク社)とInvertertube(ツァイス社)が市販されている(図6ac).広角観察システムには,顕微鏡や手台にシステム本体が固定されて,角膜前面に非接触式の前置レンズが降りてくる形式の非接触型と,従来の硝子体コンタクトレンズ同様に,直接角膜に広角観察レンズを前置するだけの表5主要な各種広角観察システムの比較接触型非接触型種類ClariVit,MiniQuadなどBIOMOFFISSPeyman-Wessels-Landers倒像変換システム必要必要必要不要対応する顕微鏡問わないツァイス社,ライカ社トプコン社(OMS-800)問わないシステム固定部位角膜上顕微鏡筒顕微鏡支持部手台(支持台)か顕微鏡支持部購入価廉価高価最も高価比較的に廉価X-Yの操作通常と反対通常と同様通常と同様通常と同様後極部操作支障なし前置レンズに当たりやすい前置レンズに当たりやすい支障なし強膜圧迫慣れが必要簡便簡便簡便最大視野角130°以上120°130°以上100°観察範囲(灌流下)有水晶体眼偽水晶体眼無水晶体眼硝子体基底部硝子体基底部鋸状縁鋸状縁毛様体扁平部赤道部硝子体基底部硝子体基底部硝子体基底部鋸状縁硝子体基底部硝子体基底部鋸状縁鋸状縁毛様体扁平部赤道部赤道部硝子体基底部硝子体基底部観察範囲(空気下)有水晶体眼偽水晶体眼無水晶体眼鋸状縁鋸状縁毛様体扁平部毛様体扁平部皺襞部硝子体基底部硝子体基底部鋸状縁鋸状縁毛様体扁平部鋸状縁毛様体扁平部毛様体扁平部皺襞部赤道部硝子体基底部硝子体基底部硝子体基底部鋸状縁最周辺部の視認性鮮明やや不鮮明鮮明限界あり眼球回転時の視認性低下するやや歪む支障なし支障なし助手の必要性あれば助かるなしなしなしabc図7シャンデリア照明下での各広角観察システムによる眼底観察像の比較a:非接触型(BIOM)と水銀蒸気灯光源(PhotonII)の組み合わせ.b:非接触型(OFFISS)とキセノン光源(BrightStar,475nm)の組み合わせ.c:接触型(クラリビットレンズ)とキセノン光源(PhotonI)の組み合わせ.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081351るセミ・ワイドタイプのものに分けると,前者にはBIOM(BinocularIndirectOphthalmomicroscope,オクルス社)(図8a)とOFFISS(OpticalFiberFreeIntrav-itrealSurgerySystem,トプコン社)(図8b)があり,後者にはPeyman-Wessels-Landerswideeldvitrecto-mylens(オキュラー・インスルメント社)(図9)がある.最近少し注目されているPeyman-Wessels-Land-erswideeldvitrectomylensは倒像を直像に変換するインバーター装置が必要ないのがBIOMやOFFISSよりも便利な点であるが,セミ・ワイドなために眼球を動かさないと隅々まで見えないのが難点である.一方,BIOMとOFFISSを比較すると,前者は顕微鏡の鏡筒と一体にして動くのに対して,後者は前置レンズを含めたシステム本体が顕微鏡の支持部に接続されて,鏡筒とは独立してピント調整できる点で操作性に優れている.さらに,OFFISSのほうは観察野の広さと鮮明度が(23)ab図8眼底観察野が100°以上の非接触型広角観察システムa:BIOM(BinocularIndirectOphthal-momicroscope,オクルス社).b:OFFISS(OpticalFiberFreeIntra-vitrealSurgerySystem,トプコン社).いずれも倒像を直像に変換するインバーター装置が必要.abab図9セミ・ワイドタイプの非接触型広角観察システムa:レンズを保持する支持アームとレンズ本体(Peyman-Wessels-Landerswideeldvitrectomylens).b:手術の実際.手術台に支持アームで接続しており,画像変換するインバーター装置を必要としない.———————————————————————-Page81352あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008BIOMより数段優れていることを強調したい.しかし,BIOMは複数の会社の顕微鏡に簡単に装着できるのに対して,OFFISSは自社製の顕微鏡にしか接続できないので,汎用性の点において今後さらに改良する余地がある.一般的に非接触型は接触型に比べて,システム構築にかなりの費用がかかること,BIOMやOFFISSでは前置レンズと角膜の距離が近いために,手術操作がレンズ縁によって妨げられること,角膜の乾燥や患者の息遣いでレンズに生じる曇りが視認性の低下につながることなどの難点がある反面,強膜圧迫や双手法による眼内操作がしやすく,倒像観察時の顕微鏡のX-Y操作が接触型のような逆の動きを取らない点で初心者にはマスターしやすい.しかし,接眼レンズは水平方向の動きであるのに対して,眼球の動きは回転方向であるので,これまで眼球を動かしながら手術操作する術者にとって,使用当初は観察像のピント合わせに苦労することがある.一般的な使用上のコツとして,角膜の乾燥防止には粘弾性物質のコーティングによる保湿,レンズに生じる曇りはドレーピングの徹底と吸引付き開瞼器を使用することでほぼ解消できる.接触型にも共通して言えることであるが,良好な観察像を得るには,眼球を極力動かさないように心掛けて手術することが肝要である.2.接触型システム現在市販されている広角観察用硝子体コンタクトレンズにはボルク社のミニクアド,クラリビット・ワイドアングル(通称:クラリビット)(図10a,b)やオキュラー・インスルメント社のランダース・ワイドアングルレンズなどがある.いずれのレンズも,静置すれば有水晶体眼では約110°以上(硝子体基底部付近)の観察野が得られ,さらに少し傾けると130°以上(鋸状縁付近)の広い観察野が得られる.これを無水晶体眼(白内障同時手術時)で観察すると,静置状態でほぼ鋸状縁付近まで観察できるので,シャンデリア照明と組み合わせれば,ほとんど強膜圧迫なしで網膜最周辺部まで硝子体切除を完遂でき,MIVSとの相性がよい.接触型の広角観察システムはインバーター装置と広角観察レンズのみで構成されるので,非接触型システムに比べてはるかに廉価であるうえ,非接触型のような前置レンズと角膜間で生じる光収差や観察軸のずれがないため,非常に鮮明な眼底観察像を得ることができる.また自己固定式のシャンデリア照明の登場によって,術者は自らこれまでライトパイプを把持していた手でレンズを支持することや強膜圧迫を行うことができるので,助手の力を頼らずとも,接触型システムでストレスなく手術を完遂することができる.しかし,倒像観察時の顕微鏡のX-Yの操作は直像時の操作とまったく逆となるので,操作に慣れるのには少し時間がかかる.ピント調節の距離も従来の硝子体コンタクトレンズに比べてかなり長く,微動調節以上の範囲での鏡筒の上下調節を行う必要があるので,上下の粗動調節がフットスイッチによる電動でできる顕微鏡がより便利である.以上,新しい眼内照明系と広角観察システムについて概説した.MIVSの登場によって,硝子体手術はますますその安全性と確実性を求められる手術となってきた.新しい眼内照明系と広角観察システムを組み合わせることによる視認性の向上と眼底観察野の拡大は,合併症の発生率の軽減と手術時間の短縮につながるさまざまなメリットが期待でき,まさにMIVSとベストマッチするシステム構築であると思われる.文献1)大島佑介:ニューインスルメント:硝子体手術用キセノン光源装置とシャンデリア方式の眼内照明.眼科手術18:515-518,20052)若林卓,大島佑介:ニューインスルメント:経結膜無縫合硝子体手術における新しいシャンデリア方式の眼内照明.眼科手術20:61-65,20073)OshimaY,AwhC,TanoY:Self-retaining27-gauge(24)ba図10広角観察用の硝子体コンタクトレンズ―ボルク社のミニクアド(a)とクラリビット・ワイドアングル(b)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081353transconjunctivalchandelierendoilluminationforpanoram-icviewingduringvitreoussurgery.AmJOphthalmol143:166-167,20074)OshimaY,ChowDR,AwhCCetal:Novelmercuryvaporilluminatorcombinedwitha27/29-gaugechande-lierlightberforvitreoussurgery.Retina28:171-173,20085)EckardtC,EckertT,EckardtU:27-gaugeTwinlightchandelierilluminationsystemforbimanualtransconjunc-tivalvitrectomy.Retina28:518-519,20086)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Thermalinjurycausedbychandelierberprobe.AmJOphthalmol143:167-169,20077)SpitznasM:Abinocularindirectophthalmomicroscope(BIOM)fornon-contactwide-anglevitreoussurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol225:13-15,19878)林仁,日下俊次,大橋裕一ほか:PanoramicViewingSystemを用いた硝子体手術.眼科手術8:117-120,19959)HoriguchiM,KojimaY,ShimadaY:Newsystemforberoptic-freebimanualvitreoussurgery.ArchOphthal-mol120:491-494,200210)LandersMB,PeymanGA,WesselsIFetal:Anew,non-contactwideeldviewingsystemforvitreoussurgery.AmJOphthalmol136:199-201,200311)NakataK:Wide-angleviewinglensforvitrectomy.AmJOphthalmol137:760-762,200412)川村肇:ワイドビューイングシステムを使用した裂孔原性網膜離の硝子体手術.眼科手術19:447-450,200613)白神史雄:ワイドビューイング硝子体手術:接触型.眼科手術20:520-522,2007(25)

極小切開硝子体手術の基本手技

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSな環境で手術ができるようになってきた.本稿では,従来の20ゲージシステムとは異なる小切開硝子体手術における手技や注意点に関して述べる.Iエントリーシステム小切開硝子体手術では,必ずトロカールを用いてカニューラを強膜に設置し,そこから器具の出し入れを行う.鋭なトロカールを用いて直接カニューラを強膜に設置する1ステップエントリー法とMVR(microvitre-oretinal)ブレードで強膜創を作製した後,トロカールを用いてカニューラを設置する2ステップエントリー法がある.1.ステップエントリー法おもに25ゲージシステムで行われている(図1).初期では強膜に対して垂直に刺入する方法が行われていたが,強膜創閉鎖不全による低眼圧や脈絡膜離などの術後合併症が認められ,術後眼内炎の原因にもなると考えられるため,最近では斜め刺入法が主流となっている4,5).まず結膜を鑷子で把持して,角膜側にずらし,トロカールをできるだけ眼球に対して水平に近い角度で刺入する.カニューラの先端部が強膜に達したら,トロカールを強膜に対して垂直に立てて,カニューラの根元まで一気に刺入する.カニューラを鑷子で把持して,トロカールを抜去する.つぎに,インフュージョンカニューラを設置して,同様にして残りの2カ所にカニューラはじめに1975年にO’Malleyら1)によって20ゲージの3ポートシステムが報告されてから,このシステムが長きにわたって硝子体手術の基本システムとして使用されてきた.2002年にEugeneDeJuanら2)によって25ゲージ硝子体手術システムが,2005年にはEckardt3)によって23ゲージシステムが報告され,一気に20ゲージからより小さいゲージの小切開硝子体手術の時代が幕開けされた.小切開硝子体手術では,基本的に経結膜的にトロカールを用いてカニューラを設置して,そこからカッターや器具の出し入れをする.強膜創の作製方法を工夫することによって,無縫合で手術を終了することも可能である.結膜切開をしないため,術後の異物感も少なく,ocularsurfaceにとっては低侵襲の手術と考えられる.しかし,結膜を切開しないために強膜圧迫がやりにくかったり,カッターや器具が細いために操作がやりにくかったりする面もある.今までの20ゲージシステムとは違うシステムだという認識の下,このシステムを導入していく必要がある.25ゲージシステムの黎明期は,エントリーシステムやカッターの切除効率が悪く,術者へのストレスが非常に多いシステムであり,従来の20ゲージシステムを大きく上回るメリットがあまり見いだされなかった.しかしながら,現在では小切開硝子体手術を取り巻く,ハードおよびソフト面がかなり充実されてきて,かなり快適(11)1339daa6311147特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13391343,2008小切開硝子体手術の基本手技BasicProceduresforMicroincisionVitrectomySurgery木村英也*———————————————————————-Page21340あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(12)を見失うと,カニューラの設置が困難になることがある.MVRブレードを刺入した箇所からカニューラを装着したトロカールを挿入して,トロカールを抜去し,カニューラを設置する.Dorc社製のクロージャーバルブは非常に便利で,カニューラに装着すれば灌流液や空気が漏出しにくくなる.IIカニューラの抜去カニューラを抜去したら,綿棒などで結膜上から強膜創を押さえるようにマッサージをする(図3).しばらく押さえてみても結膜下に灌流液や空気などが漏れてくるようなら躊躇なく強膜創を縫合する.漏出が少ない場合は結膜の上から縫合できる場合があるが,漏出が多い場合は結膜を切開して,強膜創を直接縫合する(図4).を設置する.硝子体の液化が進んでいる症例では,灌流して眼圧をある程度上げておかないと,つぎのカニューラが設置しにくい.最初のカニューラ設置時に硝子体液の漏出が少なければ,プラグをして残りの2カ所にカニューラを設置することも可能である.2.ステップエントリー法Eckardtが考案した方法3)で,おもに23ゲージシステムで行われている(図2).まず,結膜を鑷子かプレッシャープレートで角膜側にずらして,プレッシャープレートで強膜をしっかり固定する.24ゲージの角度付きMVRブレードで眼球に対してできるだけ水平に近い角度で刺入する.この方法の場合,プレッシャープレートの固定がポイントで,MVRブレードで作製した強膜創acbd11ステップエントリー法a:結膜を鑷子で把持して角膜側にずらす.b:トロカールをできるだけ眼球に対して水平に近い角度で刺入する.c:カニューラの先端部が強膜に達したら,トロカールを強膜に対して垂直に立てて,カニューラの根元まで一気に刺入する.d:インフュージョンカニューラを設置して,もう2カ所同様にしてカニューラを設置する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081341(13)acbd22ステップエントリー法a:結膜を鑷子かプレッシャープレートで角膜側にずらし,プレッシャープレートで強膜をしっかり固定する.b:24ゲージの角度付きMVRブレードで眼球に対してできるだけ水平に近い角度で刺入する.c:カニューラを装着したトロカールを同じ創からで刺入する.d:同様にしてもう2カ所にカニューラを設置する.図3カニューラの抜去カニューラを抜去したら,綿棒などで結膜上から強膜創を押さえるようにマッサージをする.図4強膜創の縫合強膜創をマッサージしても眼内液が漏出する場合は,躊躇なく縫合したほうがよい.結膜浮腫が強い場合は,結膜切開をして強膜創を縫合する.———————————————————————-Page41342あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(14)ぬトラブルになることがある(図7).また,器具がカニューラ内でひっかかるとカニューラごと一緒にはずれてしまうことがある.最近では自己閉鎖性を高めるためにカニューラを強膜に対して斜めに設置する方法がとられているが,硝子体腔に出ている先端部の長さが短く,術中に灌流部のカニューラが徐々に抜けてくると,灌流IIIカッターによる硝子体や増殖膜の処理小切開硝子体手術ではカニューラを設置するため,カーブの強い剪刀は使用できないが,カッターを用いて増殖膜をsegmentationすることができる.25ゲージカッターでは,吸引口が20ゲージより先端に近い場所にあるので,網膜上に付着した硝子体や増殖膜を比較的安全に直接切除することが可能である(図5).IV手術器具の動かし方20ゲージのカッターやライトガイドは硬く,それらで眼球の向きを制御することは可能であるが,特に25ゲージの手術器具は剛性が低く,同じように眼球を制御することが困難である.小切開硝子体手術では,カニューラを支点として器具を動かすのに慣れる必要がある(図6).BIOM(BinocularIndirectOphthalmomi-croscope)のようなwide-angleviewingsystemを使用する場合は,特にこの動きをマスターしておかなければならない.V術中にカニューラの状態に注意小切開硝子体手術ではカニューラを設置して,そこから器具の出し入れをする.これは20ゲージにはない手技であるので,術中にカニューラが抜けてしまうと思わ図7カニューラの脱落インフュージョンカニューラが抜けかかっている.図5カッターによる増殖膜処理25ゲージカッターは吸引口が先端に近く,網膜と増殖膜との間に先端部を滑り込ませ,直接増殖膜を切除することが可能である.図6手術器具の動かし方特に25ゲージシステムでは,眼球の動きを器具やカッターでコントロールするのではなく,できるだけ眼球を動かさずに,器具やカッターをカニューラを支点として動かすようなピボットが重要である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081343(15)おわりに小切開硝子体手術では,経結膜的にカニューラを強膜に設置してそこからカッターや器具を出し入れして手術をし,創の閉鎖性が良ければ縫合しないで手術を終了するという従来の20ゲージの手術とは異なる点が多い.小切開硝子体手術に特有な手技や注意点があり,それはちょうど白内障手術における計画的外摘出術と超音波水晶体乳化吸引術の関係に似ており,はじめから小切開硝子体手術システムで硝子体手術を教育された術者にとってはそれが今後は当たり前の手技となるであろう.文献1)O’MalleyC,HeintzRMSr:Vitrectomywithanalterna-tiveinstrumentsystem.AnnOphthalmol7:585-588,19752)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Initialexperi-enceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20023)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrec-tomy.Retina25:208-211,20054)ShimadaH,NakashizukaH,MoriEetal:25-gaugescleratunneltransconjunctivalvitrectomy.AmJOphthalmol142:871-873,20065)Lopez-GuajardoL,Pareja-EstebanJ,Teus-GuezalaMA:Obliquesclerotomytechniqueforpreventionofincompe-tentwoundclosureintransconjunctival25-gaugevitrec-tomy.AmJOphthalmol141:1154-1156,2006液が上脈絡膜腔に入り込み,脈絡膜離が生じることがある.特に強膜圧迫によって硝子体腔圧が上昇した際に生じやすい.術中は,常にカニューラの状態を把握して,抜けかけていれば押し戻すように心掛ける.万が一灌流部のカニューラが抜けてしまった場合は,インフュージョンカニューラを他のカニューラに取り付けて,眼圧を回復させる.一度脈絡膜離が生じると,同じところにインフュージョンカニューラを設置しても,再び脈絡膜離を起こしやすくなっているので,別の場所を使用するか,20ゲージのセルフリテーニングのインフュージョンカニューラを設置したほうがよい.VI液空気置換時の注意インフュージョン部のカニューラの先端が寝た状態になっていると,カニューラ周辺部の硝子体がかなり残存している場合,液-空気置換した際に,空気が硝子体腔ではなく,前房に入り込む可能性がある(図8).カニューラ周囲の硝子体を十分に切除するか,液-空気置換時にはインフュージョンカニューラを強膜に対して垂直に立てるようにしておいたほうがよい(図9).カニューラを斜めに刺入しているため,インフュージョンカニューラが寝た状態になると,その先端が前部硝子体膜より前方にいくために生じると考えられている.図8前房内空気迷入液-空気置換の際に,前房内に空気が迷入している.図9液空気置換時のインフュージョンカニューラの向き液-空気置換時は,前房内空気迷入を防止するためにインフュージョンカニューラが寝ないように眼球に対して垂直に立てておく.

極小切開硝子体手術の長所と短所-20ゲージ,23ゲージ,25ゲージでの比較-

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS近い将来にはほぼ完全に極小切開硝子体手術の時代になるものと考えられる.しかし,現状ではまだ極小切開硝子体手術には不利な場面もあり,20ゲージを選択したほうがよい場合があるのも事実である.極小切開硝子体手術を行うにあたっては適応の検討はもちろん,手術に際しては極小切開硝子体手術の長所と短所をきちんと理解し,十分な準備をしてから臨むことが大切で,さもないと思わぬ苦戦を強いられた挙句よくない結果に終わってしまう.特に極小切開硝子体手術をこれからはじめるような術者は,初期にそのような失敗を行うと悪いイメージにとらわれてその後の極小切開硝子体手術導入に消極的になってしまうことにもなりかねない.本稿では20ゲージ,23ゲージ,25ゲージの硝子体手術について,それぞれの長所と短所について述べる.I結膜・強膜切開20ゲージの手術と23ゲージ・25ゲージの手術で最も異なる点は強膜・結膜の扱いである.20ゲージの手術では一部の変法を除き,広範囲の結膜切開を行い,強膜には強膜面に垂直な切開を行って,手術終了時に縫合を行う.しかし,極小切開硝子体手術では原則的に結膜切開を行うことなく,経結膜的に手術が行われる.その際,結膜と強膜を通じて設置されたカニューラを通して眼内操作用の器具が出し入れされる.そのため,極小切開硝子体手術では,1) 結膜が温存できる.そのため,術後の患者の不快はじめに硝子体手術の発展においては,手術手技の進歩はもちろん,手術装置・器具の進歩が非常に大きな役割を果たしてきた.近代の硝子体手術はMachemerらによるVitreous Infusion Suction Cutter(VISC)によるものがはじまりとされるが,当時の器具は一つで灌流と切除・吸引を行うもので,かなり太いものであった1).その後O’Malleyらにより灌流,切除・吸引,照明の各機能をそれぞれ独立した20ゲージの3つのポートから行う方法が考案された2).この20ゲージ,3ポートのシステムはその後改良を重ねられながら今日に至るまで硝子体手術の主流となってきた.その間も手術器具をさらに細くし,眼球への侵襲を低くしようという試みは続けられた.近年De Juanらのグループによって25ゲージの硝子体手術3)が,その後Eckardtによって23ゲージの硝子体手術が実用化された4).ここではこのような23ゲージ,25ゲージの硝子体手術を極小切開硝子体手術とよぶことにする.極小切開硝子体手術は今日世界で急速に普及しつつあり,わが国でも極小切開硝子体手術を行う術者が増加している.極小切開硝子体手術には長所ばかりではなくもちろん短所もあるが,それをカバーするような方法が考案されるようになり,徐々に適応は拡大してきた.その結果,筆者らの施設もそうだが最近ではほとんどの症例を極小切開硝子体手術で行う施設も出てきている.今後はさらなる器具や手技の改良が期待できるため,いずれ(3)ツꀀ 1331urs47021特集●極小切開硝子体手術 あたらしい眼科 25(10):13311337,2008極小切開硝子体手術の長所と短所 20ゲージ,23ゲージ,25ゲージでの比較AdvantageandDisadvantageofMicroincisionVitreoctomySurgery─Comparisonbetween20Gauge,23Gaugeand25Gauge─吉田宗徳*———————————————————————-Page21332あたらしい眼科Vol. 25,No. 10,2008(4)23ゲージと25ゲージの比較ではやはり25ゲージのほうが創がかなり小さいため,強膜創の閉鎖も良好で,結膜の温存状態もよい.23ゲージでは時に大きな結膜裂創を作ってしまうことがある.II麻酔局所麻酔で手術をする場合,20ゲージの手術ではTenon下麻酔で十分に手術が行えるものと考えられている.しかし,極小切開硝子体手術では結膜切開を行わないのでTenon下麻酔には結膜切開が必要である.また,器具の剛性が低く,器具による眼球運動のコントロールが不可能なため,球後麻酔を確実に行い眼球運動を抑制する必要がある.球後麻酔の代わりに結膜に小切開を行い経結膜球後針を用いてTenon下麻酔のように球後麻酔を行っている術者もいる.III眼底視認性極小切開,特に25ゲージにおいてはライトガイドの細さから得られる光量が不足しがちで従来の光源ではどうしても見えにくい感じがあった.眼底周辺部の観察では結膜切開を行わないために十分な強膜圧迫を行うことができず,良好な視認性が得られないことが多い.この点は最近開発されたより明るい光源の使用,広角観察システム,シャンデリア照明などをうまく利用することによっておおむね解決できるものと思われる.別項を参照していただきたい.角膜の状態が悪いなど,内視鏡を用いた硝子体手術を行いたい場合,明るさ,解像度,剛性の面からみて現時点では25ゲージ,23ゲージはまだまだ使用に耐えうるとはいえず,20ゲージの内視鏡を使ったほうが無難である.IV硝子体切除硝子体切除の効率に関してはやはりゲージが小さくなればなるほど不利である.Alcon社の20ゲージ,23ゲージ,25ゲージのそれぞれの硝子体切除効率をグラフに示す(図2).当然20ゲージが最も切除・吸引の効率はよい.ごく大雑把な比較では23ゲージで20ゲージの2分の1,25ゲージでは20ゲージの4分の1程度になる.もっとも実際の使用感では23ゲージでは20ゲ感などは大幅に軽減できる.また,将来緑内障手術が必要になったときなどに結膜が瘢痕化していないことは非常に有利な点となる.出血が少ないので見た目もきれいである(図1).2) 強膜創,結膜創の切開・縫合が必要ないので手術時間が短縮できる.3) 出血が少なく,止血をしなくても術中の角膜上への出血の進入が少なく眼底視認性が良好である.4) 器具の出し入れを強膜に設置したカニューラを通して行うため創が広がったり傷んだりしにくい.という長所がある.しかし逆に,1) 強膜創を縫合しないので創の閉鎖が上手くいかないことがある.2) 結膜,強膜の創閉鎖が十分でないと低眼圧,眼内炎の危険が増加する.という短所がある.これらの短所に対しては,創の作製方法を工夫すること,術終了時に創の状態をよく確認して必要に応じて縫合することなどで対処できる.詳しくは基本手技,合併症の項を参照されたい.また,すでに結膜が瘢痕化しているような症例では極小切開硝子体手術のメリットは活かされにくく,逆に上手く創が作れないことがあるのであまりよい適応ではない.図1手術翌日の結膜所見手術の痕跡はほとんど見られない.強膜創はわずかに黒っぽく見えている(矢印).結膜創はずらしたところに存在するためこの視野には見えない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol. 25,No. 10,20081333(5)流量が少なくて済み,組織への影響が少ないと思われるのでこの点は悪いことばかりでもない.25ゲージの手術では灌流液量も吸引量も少ないため,眼圧が一定に保たれやすいと考えられる.この点も術後の炎症の軽減に役立っている可能性がある.灌流量が少ないことは胞状の網膜離の手術を行うときなどには創への網膜嵌頓の可能性が低下するというようなメリットも考えられる.一方,23ゲージではカニューラが太いので器具を挿入していないときには眼球が虚脱しやすくなるため注意が必要であるが,バルブ付きのカニューラを使用することで予防が可能である.硝子体ではないが,白内障手術で核落下を起こした場合,落ちた核片をカッターで処理することがある.経験からは20ゲージのカッターで処理できる程度の硬さの核であればおおむね23ゲージでも処理は可能と考えている.しかし,25ゲージでは核処理はほとんど不可能ではないかと思われる.極小切開硝子体手術においては器具剛性の問題で時にカッターやライトガイドが眼底周辺部に届きにくいことがあるため,通常の方法では周辺部の切除はむずかしい.V手術器具手術器具に関しては,まださまざまな問題が残されている.20ゲージ,23ゲージ,25ゲージそれぞれで使用できる器具が異なるため,23ゲージや25ゲージの手術を行おうとすればいちいちそのゲージの器具を揃える必要があるうえ,23ゲージや25ゲージでは今のところ20ゲージほど器具のラインアップは充実していない.もっともいずれこれらの手術が主流となれば徐々に器具は充実していくと思われる.余談になるが,いちいち異なるゲージの器具を揃えるのは相当な費用がかかることであるし,いろいろなサイズの似たような器具が混在すると手術室のスタッフが混乱し,間違った器具を出されることがあるのも問題である.つぎに器具剛性の問題がある.どうしても器具が細くなれば剛性が不足してくる.最近では25ゲージでもカッターの剛性は上がってきているように感じるが,ライトガイドなどの剛性は低く感じる.器具の剛性が低いと黄斑部の手術操作,たとえば内境界膜離などの場合に器具先端のコントロール性が悪く,操作はやりにくージと比較しても意外と大きな遜色はないように感じると思う.25ゲージでは体感的にも明らかに切除効率は低下する.反面,別の見方をすれば25ゲージは眼内灌Accurus 20ゲージ0102030405060カットレート(cpm)流量(cc/min)05001,0001,5002,0002,500100200300吸引圧400500600ABAccurus23ゲージ0.05.010.015.020.025.030.005001,0001,5002,0002,500カットレート(cpm)流量(cc/min)100200300吸引圧400500600Accurus25ゲージ0510152025301002004006008001,0001,2001,4001,500カットレート(cpm)流量(cc/min)100200300吸引圧400500600C図220ゲージ,23ゲージ,25ゲージの吸引流量の比較吸引流量は吸引圧,カットレートで変化する.吸引圧それぞれ100から600までについて比較した.横軸にカットレート,縦軸に流量をとっている.条件による変動があるが,20ゲージを1とすると23ゲージでは約1/2,25ゲージでは約1/4となっている.A:20ゲージ,B:23ゲージ,C:25ゲージ. (資料提供:日本アルコン株式会社)———————————————————————-Page41334あたらしい眼科Vol. 25,No. 10,2008(6)ンデリア照明などを使用すれば双手法での増殖膜処理が可能となり,手術の効率や安全性が飛躍的に向上する.もちろん20ゲージでもシャンデリアは使えるのだが,それも極小切開硝子体手術の発展に伴って進化した観察系や照明系が普及してきた恩恵ととらえることができる.VIタンポナーデ極小切開硝子体手術ではSF6(六フッ化硫黄)などのガスタンポナーデを必要とする症例において,創を閉鎖してから100%SF6を注入するような方法では,カニューラを抜去したときに眼球が低眼圧になりすぎてしまったり,逆にガス注入後に圧が上がりすぎてしまうなど,20ゲージのときほど安定した状態で終われないことが多い.筆者はあらかじめ希釈したSF6ガスをインフュージョンカニューラから注入してタンポナーデを行っているが,この場合にも眼球の虚脱を起こさないように少し工夫する必要がある.この点では他にもさまざまな工夫がなされているので,詳しくは他を参照していただきたい.シリコーンオイルに関しては23ゲージ,25ゲージに対応した特別な器具を使えば普通にカニューラを通してい.眼球を器具によってコントロールすることができないため,眼球運動のある場合にはより手術は困難となる.しかし,ある程度慣れてくればほとんどの手術手技は20ゲージとほぼ同様に行うことができる.先にも述べたが,極小切開硝子体手術では眼球を傾けることが困難であるため,周辺部の操作をする際には十分な視認性を得られにくい.これも器具合成の不足に起因している.それから,極小切開硝子体手術では強膜に設置したカニューラを通して器具を出し入れするため,器具の形状に制限がある.すなわち,太さの問題はいうまでもなく,先端が屈曲していたり,強く弯曲している器具は出し入れできない.たとえば,従来の水平剪刀,網膜下鑷子などは使用することができない.このような場合には手術方法を工夫するか,創を1カ所20ゲージに広げて20ゲージの器具を使用するしかない.器具に関してはネガティブな点ばかりではない.極小切開硝子体手術ではカッターが細く,開口部がより先端に位置している(図3).それを利用してカッターを硝子体剪刀代わりに使用することが可能である(図4).たとえば,増殖糖尿病網膜症の手術で,従来なら水平剪刀,垂直剪刀を用いて処理していた増殖膜もうまく行えばカッターのみで処理することが可能となった.それによって器具の出し入れが減るので時間短縮にもなり,ポートのトラブルも減少させることができる.さらに,シャ図3Accurusプローブ吸引開口部比較図に示すように23ゲージ,25ゲージのカッターでは吸引口が先端に近いところに開口している.より網膜に近いところでの切除が可能である. (資料提供:日本アルコン株式会社)増殖膜20ゲージA網膜増殖膜25ゲージB網膜図425ゲージカッターを用いた増殖膜の処理A: 20ゲージのカッターの場合.先が太く,開口部が先端から遠いためにうまく増殖膜を吸引・切除することができない.B: 25ゲージのカッターの場合.先が細く開口部が先端に近いため増殖膜を吸引・切除することが可能である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol. 25,No. 10,20081335(7)れない.3) 強膜創の閉鎖が不十分であること.4) 結膜切開と強膜切開が近すぎること.5) 強膜創から硝子体が脱出し,結膜創も通り抜けて外部に露出することがある.6) 強膜創の閉鎖不十分による術後低眼圧.などが考えられている.結局原因となるのは強膜創の閉鎖に関することと結膜の常在菌の問題である.強膜創の閉鎖に関してはトロッカー刺入方法の工夫や,術終了時の確認の徹底,必要時に創の縫合を行うことなどで対処できる.結膜からの菌の持ち込みに関しては術前の消毒を丁寧に行い,術中もトロッカー刺入時などに結膜を洗浄することなどの対処方法がある.そのような対策を徹底すれば極小切開硝子体手術であっても眼内炎の発生は最小限に抑えられるのではないかと考えている.実際わが国で最近行われたサーベイ(データ未発表)では極小切開硝子体手術でも20ゲージの硝子体手術と眼内炎発生頻度は変わらなかったと聞いている.引き続きの検討が必要であろう.極小切開硝子体手術で最も頻度の高い合併症は強膜創の閉鎖不全とそれに続く術後低眼圧である.眼内炎のところでも述べたが,これはトロッカーの改良と刺入方法の工夫によりずいぶん改善された.しかし,今でも縫合を必要とするケースももちろんある.少量のリークであれば12日で止まることが多いが,迷ったら縫合しておいたほうがよい.特に23ゲージでは創が大きいため注意が必要である.筆者らの施設では極小切開硝子体手術をはじめた初期には術後の網膜裂孔の発生頻度がやや高いように思われたが,これは術中の眼底周辺部の確認がむずかしかったためと考えられる.最近では手術方法の改良により解決された.VIII術後炎症について極小切開硝子体手術では術後炎症が少ないと考えられる.それにはいろいろな理由が考えられるが,おもに以下のようなものがある.1) 結膜切開を行わない.2) 硝子体の灌流液量が少ない.3) 眼球を傾けたり,強く圧迫することが少ない.注入はできる.しかし,シリコーンオイルは器具が細くなると抵抗が極端に大きくなるため特に25ゲージでは注入に長い時間を要する.強膜創の閉鎖はより確実に確認するようにしないとシリコーンオイルを注入したあと,強膜創から結膜下にオイルが漏れてくることがあるので注意が必要である(図5).オイル抜去はさらに問題で,25ゲージではほぼ不可能である.工夫すれば23ゲージか24ゲージでもオイル抜去は何とか行うことができるものの,経結膜的にすべてを済ますのはむずかしい.筆者らは結局オイル抜去のときは20ゲージの創を1カ所作製している.VII合併症について極小切開硝子体手術をはじめるにあたっては合併症についてよく理解しておかなければならない.最も重要な合併症はもちろん眼内炎である.極小切開硝子体手術では20ゲージの硝子体手術と比べて非常に眼内炎の発生頻度が高いという報告がなされた5).その原因として,1) 結膜を通してトロッカーを挿入するためその時点で細菌が眼内に持ち込まれる.2) 硝子体の灌流量が少なく,周辺部の硝子体の切除も少なくなりがちで,持ち込んだ細菌が洗い流さ図525ゲージ硝子体手術後の結膜下へのシリコーンオイルの漏出手術後数週間を経てから結膜下にシリコーンオイルの漏出が見られた(矢印).後日手術にて除去した. (写真提供:安川力 医師)———————————————————————-Page61336あたらしい眼科Vol. 25,No. 10,2008(8)象がある.一方,短所は一見非常に多いようだが,これは新しい手術の宿命であろう.それぞれに対処方法が考案され,短所は徐々に克服されてきた.しかしこれから極小切開硝子体手術を始める方々は,ここで述べてきたような問題点をしっかり理解し,対処方法を学んでから出発すべきである.現時点で20ゲージ,23ゲージ,25ゲージのどの方法がベストかを一律に決めるのは困難で,ここで述べたような長所や短所を考慮しながら症例に応じてベストの方法を選択するのがよいと思われる.23ゲージと25ゲージの選択では20ゲージから違和感が少なく移行できること,それなりに万能性をもっていることから23ゲージを選択する方法もあるし,より小切開の恩恵を受けられる25ゲージを選択する方法もある.流れとしてはいずれより細いゲージのものへと移行してゆくのではないだろうか.術後炎症の程度と関係するのかどうか不明だが,黄斑前膜の術後視力回復の比較で術後早期には極小切開硝子体手術のほうが20ゲージの手術よりもよかったという報告がある.おわりに20ゲージ,23ゲージ,25ゲージのそれぞれについてまとめてみた(表1).なかには筆者の印象のみによる採点もあるのでご容赦願いたい.こうしてみるとやはり20ゲージの良い点,悪い点と25ゲージの良い点,悪い点はほぼ対極にあり,それだけ良い点も悪い点もはっきり際立っている.23ゲージはその中間で良く言えば万能,悪く言えば中途半端である.極小切開硝子体手術のいちばんの長所は術後の患者に聞いてみるとわかる.20ゲージの術後の患者よりも訴えが少なく,楽だといわれることが多い.術後の炎症も少なく,回復が早い印表120ゲージ,23ゲージ,25ゲージの比較20ゲージ23ゲージ25ゲージ結膜の状態×○◎術後の異物感など△○◎強膜創の閉鎖◎(縫合した場合)△(無縫合の場合)○(無縫合の場合)ライトの明るさ◎○△(方法により○)切除効率◎○△周辺部の視認性○△(方法により○)△(方法により○)器具の剛性◎○△器具の充実度◎○○眼球運動の抑制○△△眼内灌流液量△○◎術中の眼圧の変化△○◎カッターによる増殖膜処理△◎◎カッターによる落下水晶体の処理○○×ガス注入◎○○オイル注入◎○△オイル抜去○△×内視鏡○△×術後炎症△○○眼内炎◎△(工夫により○)△(工夫により○)◎:非常に良い,○:良い,△:あまり良くない,×:悪い.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol. 25,No. 10,20081337文献 1) Machemer R, Parel JM, Buettner H:A new concept for vitreous surgery. I. Instrumentation. AmJOphthalmol 73:1-7, 1972 2) O’Malley C, Heintz RM Sr:Vitrectomy with an alterna-tive instrument system. AnnOphthalmol 7:585-588, 1975 3) Fujii GY, De Juan E Jr, Humayun MS et al:A new 25-gauge instrument system for transconjunctival suture-less vitrectomy surgery. Ophthalmology 109:1807-1812, 2002 4) Eckardt C:Transconjunctival sutureless 23-gauge vitrec-tomy. Retina 25:208-211, 2005 5) Kunimoto DY, Kaiser RS:Incidence of endophthalmitis after 20- and 25-gauge vitrectomy. Ophthalmology 114:2133-2137, 2007(9)

序説:極小硝子体手術-進化する硝子体手術-

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSの導入により,極小切開硝子体手術は確実,快適なものとなり,手術適応は糖尿病網膜症や網膜離などを含め大きく広がった.実際筆者らの施設ではほとんどの硝子体手術症例を極小切開硝子体手術で行うことができるようになった.米国での調査でも極小切開硝子体手術を行う術者はここ23年で大幅に増加し,適応疾患も大きく拡大したことが示されている.国内でも米国にやや遅れてはいるが同じような変化が確実に進行している.実は現在の状況は白内障手術が外摘出(extra-capsularcataractextraction:ECCE)から超音波乳化吸引(phacoemulcicationaspiration:PEA)に移行していったときの状況に似ている.最初はむずかしく危険な手術と思われていたPEAはcontin-uouscircularcapsulorhexis(CCC)や核の分割処理といった手術手技の開発,超音波乳化吸引装置の改良によって,数年のうちにほぼECCEにとって代わるまでになった.それと同様に今後数年のうちに硝子体手術の適応となるほとんどの症例で極小切開硝子体手術が標準の術式となるのではないかと予想される.とはいっても極小切開硝子体手術を導入し,実践するためには極小切開硝子体手術の特徴,弱点を知り,それに対する正しい対処法を学ばなければならない.さまざまな極小切開硝子体手術用の器具や,硝子体手術は長らく20ゲージ,3ポートのシステムが主流となって行われてきた.しかし極小切開硝子体手術(23ゲージ,25ゲージ硝子体手術)の登場によって,硝子体手術は大きな変革期を迎えようとしている.極小切開硝子体手術は経結膜的に行われるため,結膜切開,強膜・結膜の縫合が必要ない.そのため術後の眼球表面は大変美しく,患者の異物感なども大幅に軽減される.さらに,眼内の灌流液量が少なく術中の眼圧変化や眼球変形も少ないことから術後の炎症はより低減され眼球に優しい手術と考えられる.一方,極小切開硝子体手術が紹介された当時には手術手技などソフトの面が未完成であったばかりか器具などハードの面にも多くの問題があり,それほど印象がよくなかったのも事実で,本格的な普及が危ぶまれた時期もあった.極小切開硝子体手術には器具の剛性不足の問題や使用できる器具の種類に制限があること,周辺部硝子体の処理のむずかしさなど20ゲージと比較した場合どうしても弱点があった.そのため当初は黄斑疾患などに適応が限られていた.しかしその後の多くの人々の努力によって,大きく状況は変化をみせる.手術手技ならびに手術器具が改良され,極小切開硝子体手術はより安全で容易なものとなった.加えてキセノン光源やシャンデリアなど眼内照明器具の進化,広角眼底観察システム(1)1329●序説あたらしい眼科25(10):13291330,2008極小切開硝子体手術進化する硝子体手術MicroincisionVitrectomySurgery─EvolutionofVitrectomy─吉田宗徳*小椋祐一郎*———————————————————————-Page21330あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(2)いである.本特集の英文タイトルにもあるように,極小切開硝子体手術は英語ではmicroincisionvitrectomysurgeryと表記することが多い.私たちはこれを略してMIVSとよんでいる.MIVSはまたminimallyinvasivevitreoussurgery(最小侵襲硝子体手術)の略でもあり,MIVSという言葉には低侵襲手術を目指す願いがこめられている.極小切開硝子体手術が最小侵襲の硝子体手術となるよう,さらなる発展を続けていくことが望まれる.できれば眼底広角観察装置や新型の照明装置の購入も考慮しなければならないだろう.限られた時間と予算でそれらを行うのは本当に大変なことである.しかも23ゲージ,25ゲージどちらを導入すればよいのか,どの器具を購入するのがよいのかなど悩みや疑問は尽きないに違いない.本特集では極小切開硝子体手術を数多く手がけている比較的若手の術者たちに,極小切開硝子体手術を行うときに必要な知識,器具,さらには具体的な手技に至るまでを解説していただいた.読者の方々の極小切開硝子体手術に対する理解を深め,手術の上達の一助となれば幸方法:とりけの,また,そののない場合はあて文ください.メディカル葵出版あたらしい眼科Vol.26月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術Vol.22(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他毎号の【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他社〒1130033東京都文京区本郷2395片岡ビル5F振替00100569315電話(03)38110544://www.medical-aoi.co.jp

急激に光覚を失った視交叉炎の1例

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(131)13190910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):13191322,2008cはじめに両耳側半盲は視交叉障害により生じる半盲としてきわめて特徴的な所見であり,早期から視交叉部病変の存在を疑う唯一の重要な手がかりである.視交叉障害の原因としては視交叉近傍または視交叉自体の腫瘍や動脈瘤が最も多い.Schief-erら1)によると,視交叉障害の94%は下垂体腺腫や頭蓋咽頭腫などの腫瘍が原因であり,動脈瘤によるものは2%であったとしている.その他に発生頻度は低いが視交叉炎,放射線障害,emptysella症候群,エタンブトール中毒,血管障害,外傷がある.このうち視交叉炎は比較的まれな疾患である.視交叉炎は1912年Roenne2)によってはじめて報告された疾患である.Reynoldsらの文献3)には,視交叉炎の臨床像は球後視神経炎と同じであることから,球後視神経炎による炎症が視交叉に波及した場合と,視交叉自体に炎症が初発した場合の両者を含んでいるように記載されている.球後視神経炎による炎症が視交叉に波及して生じることが多く,視交叉自体に炎症が初発するものはまれである.今回筆者らは,Goldmann視野検査にて,両耳側半盲を呈し視交叉に炎症が初発したと考えられ,急激に光覚消失したが,ステロイドパルス療法で視力,視野の著明な改善がみられた視交叉炎の1例を経験したので報告する.I症例患者:68歳,女性.主訴:両眼視力低下.既往歴・家族歴:特記事項はなかった.〔別刷請求先〕古田基靖:〒514-8507津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学教室Reprintrequests:MotoyasuFuruta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversity,FacultyofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPAN急激に光覚を失った視交叉炎の1例古田基靖*1小松敏*2佐野徹*2福喜多光志*2井戸正史*2宇治幸隆*1*1三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学教室*2山田赤十字病院眼科ACaseofChiasmalOpticNeuritiswithSuddenLossofLightPerceptionMotoyasuFuruta1),SatoshiKomatsu2),ToruSano2),MitsushiFukukita2),MasashiIdo2)andYukitakaUji1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YamadaRedCrossHospital両耳側半盲を呈し急激に光覚が消失した視交叉炎の1例を経験したので報告する.症例は68歳,女性.約1週間前からの視力低下を自覚し,山田赤十字病院眼科を紹介受診した.さらに視力低下が進行し,Goldmann視野検査で両耳側半盲を呈した.その後両眼視力は光覚なしとなった.視交叉部の磁気共鳴画像(MRI)所見より視交叉炎と診断された.3回にわたるステロイドパルス療法で視力,視野の著明な改善がみられた.両耳側半盲は通常視交叉部の占拠性病変の結果としてみられることが多いが,視交叉炎も原因の一つとして重要であると考えられた.Wereportacaseofchiasmalopticneuritiswithsuddenvisuallossthatmeasuredasnolightperceptioninbotheyes.Thepatient,a68-year-oldfemale,visitedanearbyhospitalcomplainingofvisuallossinbotheyes.FromthereshewasreferredtoYamadaRedCrossHospital.Hercorrectedvisualacuitycontinuedtodecrease.Goldmannperimetryofbotheyesconrmedthepresenceofbitemporalhemianopia.Shebecameblind.Magneticresonanceimaging(MRI)revealedmarkedenlargementandenhancementofthechiasm.Wediagnosedopticchias-malneuritis.Wetreatedherthreetimeswithcorticosteroidpulsetherapy;sherecoveredhervisualacuityandvisualeld.Althoughspace-occupyingprocessesarethemostcommoncausesofchiasmaldiseases,chiasmalopticneuritisisalsoanimportantcause.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):13191322,2008〕Keywords:視交叉炎,両耳側半盲,ステロイドパルス療法.opticchiasmalneuritis,bitemporalhemianopia,cor-ticosteroidpulsetherapy.———————————————————————-Page21320あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(132)現病歴:1週間ほど前から両眼の視力低下を自覚し,平成17年10月26日近医眼科受診.視力は右眼=0.2(0.6×+3.0D),左眼=0.1(0.4×+3.0D)であった.両白内障手術を目的に,10月28日山田赤十字病院眼科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼=0.15(0.3×+3.0D(cyl0.5DAx120°),左眼=0.1(0.4×+3.0D(cyl0.5DAx120°).眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHgであった.眼位,眼球運動は正常で,両眼とも相対的瞳孔求心路障害(relativeaerentpapillarydefect:RAPD)はなかった.前眼部は特記すべきことはなく,中間透光体は軽度白内障を認めるものの,眼底所見も視神経乳頭の萎縮や,発赤腫脹などもなく異常を認めなかった.同年11月4日,視力は右眼=0.15(0.3×+3.0D(cyl0.5DAx120°),左眼=0.02(矯正不能)とさらに低下し,Goldmann視野検査では両耳側半盲がみられた(図1).視交叉部病変を疑い頭部コンピュータ断層撮影(CT)を施行したが,視交叉近傍を圧迫する腫瘍などは認めなかった.11月7日,頭部磁気共鳴画像(MRI)を施行したところ,T1強調像にて視交叉の腫脹がみられ(図2),FLAIR(uidattenuatedinversionrecovery)像およびT2強調像にて視交叉および視索に高信号を示したため視交叉炎と診断した.全身検査では心電図正常,血液一般検査,血液生化学検査とも,特に異常所見を認めず,頭部MRIにて多発性硬化症は認められなかった.治療と経過:11月7日緊急入院.入院時視力は右眼=光覚なし,左眼=光覚なし.直接対光反応は反応なしであった.11月8日より視神経炎トライアルで行われた特発性視神経炎の治療に準じて,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日,3日間点滴)を開始した.1回目のステロイドパルス療法後直接対光反応はわずかに反応するようになったが,視力は右眼=光覚なし,左眼=光覚なしのままであったため,11月18日より2回目のステロイドパルス療法を行った.2回目終了時には両眼視力手動弁まで改善した.11月28日,視力は右眼=(0.03×矯正),左眼=(0.01×矯正)に改善した.12月6日より3回目のステロイドパルス療法を行ったところ,12月8日に施行したGoldmann視野検査では大幅な視野の改善がみられた(図3).その後12月22日の頭部MRIのFLAIR像にて,視交叉部寄りの両側の視索部分が少し高信号を示しているが,腫脹の著明な改善がみられた(図4).平成18年1月18日,視力は右眼=(0.3×矯正),左眼=(0.3×矯正)と改善.その後再発はなかったが,徐々に両眼白内障が進行してきたため,平成18年10月19日右眼,平成18年11月14日左眼白内障手術を施行した.平成19年11月2日現在,再発もなく視力は右眼=(0.6×矯正),左眼=(0.6×矯正)となっている.経過期間中最高視力は両眼とも0.7まで改善している.現在も慎重に経過観察中である.図1ステロイドパルス療法前視野Goldmann視野検査で,両耳側半盲を認める.図2ステロイドパルス療法前MRI頭部MRIのT1強調像にて視交叉(矢印)の腫脹を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081321(133)II考按両耳側半盲は視交叉部位の障害によりひき起こされる.原因疾患としては腫瘍や動脈瘤などの占拠性病変によるものが多い.Schieferら1)によると,下垂体腺腫によるものが65%と最も多く,つぎに頭蓋咽頭腫15%であり,腫瘍が原因であるものの合計は94%になり,動脈瘤によるものは2%で,残り4%のものが占拠性病変以外のものであったとしている.視交叉炎は1912年Roenne2)によってはじめて報告され,つぎに1925年Traquair4)によって報告された疾患である.Reynoldsらの文献3)には,視交叉炎の臨床像は,病理学的所見,臨床所見,年齢分布,性差,臨床経過ともに球後視神経炎と同じであることから,球後視神経炎による炎症が視交叉に波及した場合と,視交叉自体に炎症が初発した場合の両者を含んでいるように記載されている.1994年に報告されたOpticNeuritisTreatmentTrial(ONTT)5)によると,視交叉炎は多発性硬化症や特発性視神経炎の経過中に現れることがあり,視神経炎症例中の5.1%に認められたとしている.狭義の視交叉炎とは視交叉自体に炎症が初発したもののことで,非常にまれなものである.実際には炎症がどのように波及したかがわからない症例がほとんどである.過去にはSoltauら6)が視交叉の炎症が両側の視神経に波及した症例を報告し,山縣7)は左視交叉前方の内側に生じた炎症が前方へは左全視神経と,後方へは視交叉左側へ波及した症例を報告している.本症例ではGoldmann視野検査で両耳側半盲がみられており,頭部MRIにて両側の視索が高信号を示していたことより,視交叉自体に炎症が生じ,両側の視索に波及したことにより急激に光覚を失ったものと考えられる.Newmanら8)は既報をまとめて,視交叉炎の特徴は女性に圧倒的に多く,視力が回復するまでに数カ月を要し,一般の視神経炎に比べて経過が長いことであるとしており,それ以外はほとんど視神経炎の特徴と似ているということであった.本症例では急激に視力が低下し,光覚が消失した.ステロイドパルス療法にすぐに反応せず,3回のステロイドパルス療法を施行した.最初のステロイドパルス療法から2カ月ぐらいしたところで両眼矯正0.3まで改善した.現在経過観察して2年ぐらいになるが,経過期間中最高視力は両眼とも0.7まで改善している.視交叉炎における視力予後については,症例報告が少ないこともありまとめた報告はないようである.Slamovitsら9)によると,光覚が消失した初発視神経炎12症例について検討し,4例は指数弁までしか回復しなかったとした.また彼らは過去の報告例からは光覚消失例の3050%が0.5未満にとどまっているとしている.宮崎ら10)によると高度の視力障害,特に光覚が消失した例では視力予後は不良であると述べられている.視交叉炎においては山縣7)によると,光覚図43回のステロイドパルス療法後MRI頭部MRIのFLAIR像にて視交叉(矢印)の腫脹の著明な改善を認める.図33回のステロイドパルス療法後視野Goldmann視野検査で,視野の著明な改善を認める.———————————————————————-Page41322あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(134)弁まで低下したものが手動弁までしか回復しなかったとしている.やはり高度の視力障害があると視力予後は不良であるようだが,本症例のように視力の回復がみられるものがある.一般の視神経炎に比べて経過が長いとされる視交叉炎では,今回のようにステロイドパルス療法にすぐに反応しない場合があるため注意が必要である.Spectorら11)やSacksら12)により報告されているように,視交叉炎の原因として多発性硬化症が関係していることが知られている.他にはLyme病に続発したもの13)や全身性エリテマトーデス(SLE)に続発したもの14)が報告されている.本症例では頭部MRIにて多発性硬化症は認められず,血液一般検査,血液生化学検査などの全身検査でも異常を認めず視交叉炎の原因は不明であった.今後は再発や多発性硬化症への移行などに注意しながら慎重に定期観察していく予定である.今回筆者らは視交叉自体に炎症が初発し,急激に光覚消失まで視力低下したが,ステロイドパルス療法にて大幅に視力,視野が改善した非常にまれな症例を経験した.視交叉炎はまれではあるが,両耳側半盲を呈する占拠性病変以外の原因の一つとして重要であると考えられた.文献1)SchieferU,IsbertM,MikolaschekEetal:Distributionofscotomapatternrelatedtochiasmallesionswithspecialreferencetoanteriorjunctionsyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol242:468-477,20042)RoenneH:UeberdasVorkommeneineshemianopischenzentralenSkotomsbeidisseminierterScleroseundretro-bulbarerNeuritis.KlinMonatsblAugenheilkd50:446-448,19123)ReynoldsWD,SmithJL,McCraryJA:Chiasmalopticneuritis.JClinNeuro-ophthalmol2:93-101,19824)TraquairHM:Acuteretrobulbarneuritisaectingtheopticchiasmandtract.BrJOphthalmol9:433-450,19255)KeltnerJL,JohnsonCA,SpurrJOetal:Visualeldproleofopticneuritis.One-yearfollow-upintheOpticNeuritisTreatmentTrial.ArchOphthalmol112:946-953,19946)SoltauJB,HartWM:Bilateralopticneuritisoriginatinginasinglechiasmallesion.JNeuro-Ophthalmol16:9-13,19967)山縣祥隆:視交叉炎の一例.神経眼科19:469-476,20028)NewmanNJ,LessellS,WinterkornJM:Opticchiasmalneuritis.Neurology41:1203-1210,19919)SlamovitsTL,RosenCE,ChengKPetal:Visualrecov-eryinpatientswithopticneuritisandvisuallosstonolightperception.AmJOphthalmol111:209-214,199110)宮崎茂雄,藤原理恵,下奥仁ほか:高度の視力障害をきたした視神経炎症例の視力予後について.神経眼科10:15-19,199311)SpectorRH,GlaserJS,SchatzNJ:Demyelinativechias-mallesions.ArchNeurol37:757-762,198012)SacksJG,MelenO:Bitemporalvisualelddefectsinpre-sumedmultiplesclerosis.JAMA234:69-72,197513)ScottIU,Silva-LepeA,SiatkowskiRM:Chiasmalopticneuritisinlymedisease.AmJOphthalmol123:136-138,199714)FrohmanLP,FriemanBJ,WolanskyL:Reversibleblind-nessresultingfromopticchiasmatissecondarytosystem-iclupuserythematosus.JNeuro-Ophthalmol21:18-21,2001***

緑内障を伴って健常成人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(127)13150910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):13151318,2008cはじめにサイトメガロウイスル(cytomegalovirus:CMV)網膜炎が,悪性腫瘍,臓器移植後,全身性エリテマトーデスや慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患あるいは後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeciencysyndrome:AIDS)などの免疫不全状態において生ずることはよく知られており1),CMV感染により続発緑内障を発症することはまれである2)と考えられていた.今回,健常成人に高眼圧を伴って発症したCMV網膜炎の1例を経験したので報告する.I症例患者:52歳,男性.初診日:2002年4月22日.主訴:左眼霧視.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.現病歴:2002年4月20日頃より左眼霧視を自覚していたが改善しないため,同年4月22日に近医眼科を受診した.左眼ぶどう膜炎および続発緑内障と診断され,同日に中濃厚生病院眼科へ紹介された.〔別刷請求先〕望月清文:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KiyofumiMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Yanagido,Gifu-shi501-1194,JAPAN緑内障を伴って健常成人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の1例堀由起子望月清文岐阜大学医学部眼科学教室ACaseofCytomegalovirusRetinitiswithSecondaryGlaucomainanImmunocompetentPatientYukikoHoriandKiyofumiMochizukiDepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine全身疾患の既往のない52歳,男性の左眼に,高眼圧を伴う網膜炎がみられた.PCR(polymerasechainreaction)法により前房水中のサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)DNAが検出され,CMV網膜炎と診断した.ガンシクロビルおよびステロイド薬投与を行い眼圧下降および網膜炎の消失が得られた.現在まで再発はなく,全身検索にてHIV(humanimmunodeciencyvirus)抗体も陰性で特記すべき異常は認めていない.健常成人に発症した緑内障と前眼部炎症を伴った網膜炎では,PCR法による前房水中のウイルス検索を行う際に,CMVを含めたヘルペスウイルスの検討が重要である.A52-year-oldhealthymalewithouthumanimmunodeciencyvirusinfectiondevelopedcytomegalovirus(CMV)retinitisconcurrentwithraisedintraocularpressure(IOP)inhislefteye.Initiallyhereceivedintravenousacyclovirtherapy,onsuspicionofacuteretinalnecrosis;however,hissymptomsfailedtoimprove.Afterpoly-merasechainreactiondisclosedCMVDNAintheaqueoushumor,wechangedtheantiviraltherapyfromacyclovirtoganciclovir.Thepatientrespondedwelltointravenousganciclovir;reactivationoftheCMVretinitishasnotbeenobserved.IntraocularDNAidenticationofherpesvirus,includingCMV,isrecommendedinhealthyindividu-alswithsuchocularndingsasinthispatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):13151318,2008〕Keywords:健常人,サイトメガロウイルス網膜炎,続発緑内障.immunocompetentindividual,cytomegalovirusretinitis,secondaryglaucoma.———————————————————————-Page21316あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(128)初診時眼科的所見:視力は右眼0.1(1.2×0.75D(cyl1.75DAx100°),左眼0.06(0.7×0.75D(cyl0.50DAx100°),眼圧は右眼20mmHg,左眼48mmHgであった.左眼球結膜に充血はほとんどみられず,角膜に豚脂様角膜後面沈着物(KP)を認めた(図1)が,前房内炎症細胞は軽微で隅角結節は認めなかった.左眼の前部硝子体に炎症細胞が軽度にみられ,耳側周辺部網膜には動脈の白鞘化と顆粒状の白色滲出斑を認めた(図2).蛍光眼底造影(FAG)では白色滲出斑がみられる部位に血行の途絶を認めた(図3).右眼には明らかな異常はみられなかった.動的量的視野および網膜電図には特に異常を認めなかった.画像検査所見:眼窩および頭部CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)では特に異常を認めず,胸部X線写真でも異常所見はなかった.血液検査所見:WBC(白血球)8,200/μl,RBC(赤血球)411×104/μl,Hb(ヘモグロビン)13.8g/dl,Ht(ヘマトクリット)41.4%,Plt(血小板)57.8×104/μl,CRP(C反応性蛋白)0.1mg/dl,RA44.4IU/ml,TP(総蛋白)6.7g/dl,Alb(アルブミン)4.0g/dl,BUN(血中尿素窒素)11.5mg/dl,Cr(クレアチニン)0.7mg/dl,T-Bil(総ビリルビン)0.2mg/dl,AST(アスパラギン酸・アミノ基転移酵素)26IU/l,ALT(アラニン・アミノ基転移酵素)26IU/l,g-GTP(gグルタミル・トランスペプチダーゼ)49IU/l,T-cho(総コレステロール)249mg/dl,TG(トリグリセライド)102mg/dl,随時血糖104mg/dl,抗核抗体40倍未満,血清補体価45U/l,血清蛋白分画A/G(アルブミン-グロブリン)比1.7,アルブミン62.4%,a1-グロブリン3.5%,a2-グロブリン11.2%,b-グロブリン9.5%,g-グロブリン13.4%,Ig(免疫グロブリン)G1,010mg/dl,IgA144mg/dl,IgM95mg/dl,IAP612μg/ml,可溶性IL-2レセプター193U/ml,ACE(アンギオテンシン変換酵素)7.1IU,リゾチーム6.6μg/ml,TPHA(梅毒トレポネマ血球凝集反応)(),ツベルクリン反応1.5mm×1.5mm.ウイルス学的検索:単純ヘルペスウイルス(HSV)-132倍(ウイルス中和反応neutralizationtest:NT),HSV-24倍(NT),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)4倍(補体結合反応complementxationtest:CF),CMV16倍(CF),Ebstein-Barrウイルス(EB)抗VCAIgG640倍↑(蛍光抗体法uorescentantibody:FA),EB抗EBNA(EBウイルス関連特異核抗原)80倍(FA),インフルエンザウイルスA型パナマ/2007/991,280倍(赤血球凝集抑制反応,hemag-glutinationinhibition:HI),HTLV(ヒトT細胞白血病ウイ図1初診時前眼部写真(左眼)豚脂様角膜後面沈着物を認める.図2初診時眼底写真(左眼)↑は白鞘化した血管.耳側周辺部網膜に顆粒状の白色滲出斑(▲)を認める.図3初診時蛍光眼底写真(左眼)滲出斑部の血行の途絶()を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081317(129)ルス)-1抗体16倍未満(ゼラチン粒子凝集反応:PA).HLAタイピング:HLA(ヒト白血球抗原)A24(9),B70,Cw7,DR4,DR9.経過:眼底の滲出斑は特徴的ではなかったものの,他の眼所見および上記の検査結果から当初は左眼急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)と診断し,即日入院のうえで加療を開始した.全身的には抗ウイルス薬(アシクロビル:ACV)1,500mgおよびプレドニゾロン40mg/日点滴を行い,循環改善薬(カリジノゲナーゼ)および抗血小板薬(アスピリン)内服を併用した.眼圧下降薬として1%ドルゾラミドおよび0.5%チモロール点眼を,消炎目的に0.1%リン酸ベタメサゾン,1%アトロピンおよびレボフロキサシン点眼を開始した.また,gグロブリン製剤2.5gを5日間投与した.前眼部の炎症は徐々に改善し,入院2日後には眼圧は12mmHg前後と低下した.入院時に前房水を採取し,一部をPCR(polymerasechainreaction)法によるVZVおよびHSVのDNA検索に供し残りを80℃にて凍結保存した.4月28日(入院7日目)に滲出斑の後極側に網膜光凝固術を施行した.KPも消失し前眼部所見が改善したので,ステロイド薬を漸減し,5月6日(入院15日目)からACVを内服に変更した.ところが5月10日(入院19日目)頃からKPの増加および滲出斑の拡大傾向がみられたので,ACV1,500mgおよびプレドニゾロン40mg/日点滴を再開した.前房水からのVZVおよびHSVDNA検索結果はともに陰性であったが,顆粒状白色滲出斑がやや拡大傾向にあり,ACV耐性のVZVによるARNの可能性が高いと考え5月14日(入院23日目)より抗ウイルス剤をガンシクロビル(GCV)500mg/日点滴に変更した.その一方で,健常人における網膜炎ではあるがCMV網膜炎も否定できないと考え,前回採取した前房水を用いてEBおよびCMVのDNA検索を行ったところ,CMVDNAが検出された.全身的な検索においてCMV感染は認められなかった(CMV抗原C10,C11陽性細胞は認めず)が,眼所見および前房水からのウイルスDNA検出より本症例をCMV網膜炎と診断した.GCV初期投与量500mg/日点滴を2週間続行したところ眼底所見の著明な改善がみられ,その後は維持量300mg/日点滴を継続しながらステロイド薬を漸減した.さらに6月に入ってから抗CMV抗体高力価gグロブリン製剤2.5gの投与を追加した.顆粒状白色滲出斑は消退傾向を示し,ステロイド薬を中止したうえでGCV3,000mg/日内服として6月10日退院とした.顆粒状白色滲出斑の消失を確認して10月4日にGCV内服を中止した.2007年7月現在,矯正視力は右眼1.2,左眼1.0,眼圧は右眼10mmHg,左眼11mmHgで再燃を認めていない.HIV(humanimmunodeciencyvirus)感染の有無に関して,同意を得たうえで検査を2度施行したが,2度とも陰性であった.CD4陽性Tリンパ球およびCD8陽性Tリンパ球ともに異常はなかった.なお,右眼には全経過を通じて異常所見はみられなかった.II考按続発緑内障を伴って健常成人に発症したCMV網膜炎に対してGCVおよびステロイド薬投与を行い眼圧下降および網膜炎の消失が得られた.CMV網膜炎は一般に顆粒状白色滲出病変と萎縮巣や出血の混在する眼底病変が特徴的である1).AIDSや悪性腫瘍などの基礎疾患を有する患者では,免疫抑制状態の存在および眼底所見から診断は比較的容易である1).本症例では臓器移植,ステロイド療法あるいは癌などの全身疾患がなく,血液検査でもCD4陽性細胞数の減少など免疫機能の低下を示唆する所見を認めず,血液中CMVウイルス抗原も陰性で全身的CMV感染は否定的であった.さらにHIV抗体は,経過中に施行した2回とも陰性であり,全身的に免疫機能の低下を示唆する所見はなかった.しかしながらPCR法による前房水中のヘルペスウイルスDNA検索からCMVDNAが検出され,抗CMV薬であるGCVにより眼底病変が沈静化したことから,眼底所見と合わせ本症例をCMV網膜炎と診断した.わが国において健常成人に発症したCMV網膜炎の報告は本症例を含め5例である(表1)36).平均年齢は46歳で,全例男性であった.患側は両眼1例で,他は右眼および左眼それぞれ2例であった.発症時視力は1例を除き良好であった.本症例ならびに北ら6)の症例において発症時に高眼圧を呈していた.全例で顆粒状白色滲出病変を特徴とし,3例に虹彩炎を認めた.PCR法による前房水中のCMVDNAの検索は4例で行われ,うち3例で陽性であった.陰性であった1例ではCMVウイルス抗原が血液中から検出された3).未施行であった1例では眼底所見とGCVの治療効果から本疾患と診断している4).HIV抗体は検査を施行した4例すべてで陰性であった.治療には全例でGCVが使用され,うち1例では硝子体内投与のみで改善がみられた6).全例でステロイド薬の全身投与が施行されていた.硝子体手術は2例で,網膜光凝固術は2例で行われていた.5例中3例でCD4陽性細胞数やCD8陽性細胞数の低下など一過性の軽度免疫不全状態がみられた.したがって,健常成人で眼底の顆粒状白色滲出病変に遭遇した際には,HIV抗体およびCD4陽性細胞数などの全身検索を行うと同時に前房水など眼内液を用いたCMVDNAの検索が必要と考えられた.加えて,CMV網膜炎と診断され直ちにGCVの局所あるいは全身投与が開始されれば,予後は比較的良好と思われた.一般にCMV感染に併発した続発緑内障の報告はまれである2)と考えられていた.しかし,Cheeら9)がCMVによる角膜内皮炎10例12眼で軽度のぶどう膜炎と眼圧上昇が全例———————————————————————-Page41318あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(130)にみられたと報告するなど,近年CMV感染が眼圧上昇を起こすことがはっきりとしてきた.deSchryverら7)は免疫不全を認めずしかも網膜壊死を伴わないCMVによる前部ぶどう膜炎5例全例で続発緑内障がみられたと報告した.また,vanBoxtelら8)は健常者にみられたCMVによる片眼性の慢性あるいは再発性の前部ぶどう膜炎7例を報告し,うち6例で続発緑内障がみられたという.本症例ではKPを伴う続発緑内障がみられた.よって免疫不全のない患者においてもCMVが他のヘルペスウイルスと同様の前眼部炎症を惹起し続発緑内障を併発する症例に注意が必要と考えられる6).両報告とも長期にわたるバルガンシクロビル内服が前部ぶどう膜炎の再燃を抑えたという.本症例でもGCV内服を長期に使用したことが網膜炎および前眼部炎症の再燃予防に効果的であったと考えられる.本症例の経験から,健常成人に緑内障および前眼部炎症を伴って網膜炎が発症した場合には,全身的な免疫能のチェックを進めるとともにPCR法により前房水中のHSVおよびVZVDNAのみならずCMVDNAの検討も忘れてはならない.文献1)箕田宏:サイトメガロウイルス網膜炎.眼科46:1548-1554,20042)日比野佐和子,山本修士:ウイルス性ぶどう膜炎による続発緑内障の診断と治療.眼科44:947-961,20023)二宮久子,小林康彦,田中稔ほか:健康な青年にみられたサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科10:2101-2104,19934)前谷悟,中西清二,松浦啓太ほか:健常人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎と思われる1例.眼紀45:429-432,19945)高橋健一郎,藤井清美,井上新ほか:健常人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の1例.臨眼52:615-617,19986)北善幸,藤野雄次郎,石田政弘ほか:健常人に発症した著明な高眼圧と前眼部炎症を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科22:845-849,20057)deSchryverI,RozenbergF,CassouxNetal:Diagnosisandtreatmentofcytomegalovirusiridocyclitiswithoutretinalnecrosis.BrJOphthalmol90:852-855,20068)vanBoxtelLA,vanderLelijA,vanderMeerJetal:Cytomegalovirusasacauseofanterioruveitisinimmuno-competentpatients.Ophthalmology114:1358-1362,20079)CheeS-P,BacsalK,JapAetal:Cornealendothelitisassociatedwithevidenceofcytomegalovirusinfection.Ophthalmology114:798-803,2007表1わが国において健常成人に発症したCMV網膜炎の報告報告者(報告年)年齢(歳)性別患眼矯正視力初診時眼圧(mmHg)所見CMVDNA(PCR法)CMV抗体価(CF)CMVantigenemiaHIV抗体価(EIA)初診時最終右左右左右左二宮ら3)(1993)32男左1.50.1不明0.2不明不明顆粒状白斑網膜出血増殖膜硝子体出血前房水()硝子体液()不明(+)HIV-1()HIV-2()前谷ら4)(1994)39男両1.21.0不明0.91214虹彩炎硝子体混濁白色滲出斑未施行16倍不明HIV()高橋ら5)(1998)66男右1.21.2不明不明1213限局性の滲出斑軽度の斑状出血前房水(+)64倍不明HIV-1()HIV-2()北ら6)(2005)42男右0.011.01.01.04517虹彩炎顆粒状白色滲出斑前房水(+)♯IgG:10.3IgM:0.35不明不明本症例(2007)52男左1.20.71.01.02048虹彩炎顆粒状白色滲出斑前房水(+)16倍()HIV-1()HIV-2()報告者(報告年)治療その他二宮ら3)(1993)ステロイド全身投与,MonoAb,PC,GCV,VIT(2回)CD4陽性細胞数減少前谷ら4)(1994)ステロイド全身投与,GCV,VIT─高橋ら5)(1998)ステロイド全身投与,ACV,GCVCD8一過性低下北ら6)(2005)GCV硝子体内投与BRVOに対する硝子体手術後CD4陽性細胞数一過性減少本症例(2007)ステロイド全身投与,ACV,GCV,PC─ACV:アシクロビル,GCV:ガンシクロビル,MonoAb:抗CMVヒトモノクローナル抗体,PolyAb:抗CMV抗体高力価g-グロブリン,PC:網膜光凝固術,VIT:硝子体切除術,BRVO:網膜静脈分枝閉塞症,#:酵素免疫低療法による.

増殖糖尿病網膜症硝子体手術後の血管新生緑内障

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(123)13110910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):13111314,2008cはじめに最近,硝子体手術の進歩に伴い,増殖糖尿病網膜症に対する手術成績は向上してきているが,糖尿病がもつ特有な,術後感染,出血,縫合不全など外科的合併症のほかに,眼科的合併症も数多く報告されている.増殖糖尿病網膜症に対して行う硝子体手術の最も重篤な合併症の一つに,血管新生緑内障がある.この硝子体手術後の血管新生緑内障は,術後に網膜離を合併している症例に多いとされている.しかし,解剖学的に復位が得られているのにもかかわらず,早期または晩期にも血管新生緑内障に発展し,予後不良な症例となってしまうことを経験する.今回筆者らは,硝子体手術初回手術後に新たに血管新生緑内障に至った症例を,眼科局所的の因子のほかに,全身的因子の関与についても検討したので報告する.〔別刷請求先〕渡辺博:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医学部眼科学第一講座Reprintrequests:HiroshiWatanabe,M.D.,&Ph.D.,TheFirstDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,7-5-23Omori-nishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN増殖糖尿病網膜症硝子体手術後の血管新生緑内障渡辺博土屋祐介田中康一郎小早川信一郎杤久保哲男東邦大学医学部眼科学第一講座NeovascularGlaucomaFollowingVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyHiroshiWatanabe,YusukeTsuchiya,KoichirouTanaka,ShinichirouKobayakawaandTetsuoTochikuboTheFirstDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に新たに血管新生緑内障に至った症例を,眼科局所的の因子のほかに,全身的因子の関与についても検討したので報告する.症例:対象は15症例16眼で,最終視力が0.01未満のA群(8眼)と0.01以上のB群(8眼)に分けて検討した.結果:硝子体手術後に血管新生緑内障がみられた時期は131カ月(平均10.2カ月)であった.最終眼圧が21mmHg以下にコントロールされたのは75%で,視力改善は38%,不変は19%,悪化は43%であった.A群とB群との間に有意差がみられた危険因子は,最終眼圧と低アルブミン血症であった.結論:硝子体手術後に血管新生緑内障を発症した場合,眼圧コントロール不良症例と低アルブミン血症の予後は特に悪く,また術後31カ月に発症した症例もあり,長期の眼圧の経過観察が必要であると考えられた.Oneofthemajorcomplicationsofvitrectomyfordiabeticretinopathyisthepostoperativedevelopmentofneo-vascularglaucoma.Weretrospectivelyreviewedtheresultsoftreatmentandserumriskfactorsin16eyesof15patientswithneovascularglaucomafollowingvitrectomyforproliferativediabeticretinopathywhohadbeentreat-edfrom1999to2006.The16eyesweredividedintotwogroups:GroupA:nalvisualacuitylessthanlightpro-jection,GroupB:nalvisualacuitymorethanlightprojection.Neovascularglaucomadevelopedatanaverageof10.2months(from1Mto31M).Intraocularpressure(IOP)wasnallycontrolledunder21mmHgin75%.Visualacuitywasimprovedin38%,unchangedin19%,worsein43%.IOPandhypoalbuminemiaweresignicantlyasso-ciatedbetweengroupAandgroupB.However,nosignicantassociationcouldbefoundregardinghypertension,renalfunction,hemoglobinA1coranemia.Theprognosisforneovascularglaucomafollowingvitrectomyforprolif-erativediabeticretinopathywaspoorineyesassociatedwithIOPandhypoalbuminemia.IOPshouldbefollowedupforanextendedtime,sinceoneofthesecasesexperiencedneovascularglaucomaonset31monthsaftervitrec-tomyfordiabeticretinopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):13111314,2008〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,血管新生緑内障,合併症,危険因子.proliferativediabeticretinopa-thy,vitrectomy,neovascularglaucoma,complication,riskfactor.———————————————————————-Page21312あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(124)I対象および方法1999年から2006年の間に東邦大学大森病院医療センター眼科で増殖糖尿病網膜症に対して初回硝子体手術を施行し,経過を10カ月以上観察された症例のうち術後に血管新生緑内障に至った15症例16眼(4.6%)を対象とした.術前に血管新生緑内障や緑内障の既往のあるものは除外した.症例は男性11例12眼,女性4例4眼,年齢は3482歳(平均57.7歳),経過観察期間は1063カ月(平均25.3カ月)であった.最終視力が0.01未満のA群(8眼)と0.01以上のB群(8眼)に分けて,全身的因子として年齢,ヘモグロビンA1c(HbA1c),腎機能(クレアチニン),高血圧,貧血(ヘモグロビン,ヘマトクリット),アルブミン,局所的因子として視力,眼圧,増殖膜,牽引性網膜離,手術方法を検討した.有意差検定は,Mann-WhitneyU検定,Fisher変法を用いた.II結果血管新生緑内障は硝子体手術後131カ月(平均10.2カ月)に発症した.硝子体手術後に血管新生緑内障に発展した16眼の増殖糖尿病網膜症の病態は,硝子体出血のみが3眼(19%),増殖膜が7眼(43%),牽引性網膜離は6眼(38%)であった.手術術式はトラベクレクトミー+マイトマイシンC(MMC)併用2眼(13%),トラベクレクトミー+MMC併用+網膜冷凍凝固9眼(55%),毛様体冷凍凝固2眼(13%),経強膜毛様体破壊術3眼(19%)の手術を施行した(表1).トラベクレクトミーは全例MMCを併用した.2回以上の硝子体手術は5眼(31%),そのうち3眼(19%)はシリコーンオイルに置換した.最終眼圧が21mmHg以下にコントロールされたのは12眼(75%)で,視力の改善がみられたのは6眼(38%),変化なし3眼(19%),悪化は7眼(43%)であった(図1).最終視力が0.01未満のA群(8眼)と0.01以上のB群(8眼)において,全身的因子において有意差がみられたのはアルブミン(表2),局所的因子において有意差がみられたのは最終眼圧(表3)であった.他の危険因子には有意な差はみられなかった.III考按硝子体手術後の眼圧上昇はよくみられる合併症である.黄斑浮腫,黄斑円孔などの単純硝子体手術よりも,増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術は急性術後眼圧上昇を生じる可能性が5倍高く,単純硝子体手術を受けた約60%で,術後48時間以内に眼圧が5%以上上昇した1)という報告がある.しかし術後眼圧が上昇する患者の多くは,薬物療法によりコントロールでき,外科的手術が必要になるのは11%といわれている1).今回の症例の検討で術後早期に一過性の眼圧上昇がみられた症例があったものの,薬物療法でコントロールできず外科的処置が必要になった時期は,早い症例で1カ月,遅い症例では31カ月とばらつきが大きかった.硝子体手術後にみられる血管新生緑内障の報告においては,硝子体手術と白内障との同時手術の危険因子に関して,図1視力予後縦軸に術後,横軸に術前の視力をlogMAR視力で表した.HM:手動弁,CF:指数弁,LP:光覚弁.10.10.01CFHMLP(+)LP(-)LP(-)LP(+)HMCF0.010.11術後視力術前視力表1手術方法・トラベクレクトミー(MMC併用)2眼13%・トラベクレクトミー(MMC併用)+網膜冷凍凝固9眼55%・毛様体冷凍凝固2眼13%・経強膜毛様体破壊術3眼19%表2グループA&Bリスクファクター(全身)・年齢p=0.674(NS)・HbA1cp=0.318(NS)・クレアチニンp=0.092(NS)・高血圧p=0.521(NS)・ヘモグロビンp=0.752(NS)・ヘマトクリットp=0.752(NS)・アルブミンp=0.033表3グループA&Bリスクファクター(眼)・視力p=0.281(NS)・初診時眼圧p=0.212(NS)・硝子体手術前眼圧p=0.172(NS)・最終眼圧p=0.016・増殖膜p=0.614(NS)・牽引性網膜離p=0.102(NS)・術式p=0.408(NS)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081313(125)以前より賛否両論あるが,最近では硝子体手術中に網膜最周辺部,硝子体基底部までの,硝子体の処理と徹底した網膜光凝固が可能なため,同時手術を選択する術者が多いような印象である.当院では硝子体手術後にみられる白内障の進行例が多いこと,無硝子体眼の白内障手術は難易度が高くなること,超音波プローブを前房内に入れた瞬間に水晶体が硝子体に落下した苦い経験があることなどより,今回の検討をする前より,全例白内障同時手術としているため,白内障手術の有無による血管新生緑内障の発症率の検討は実施できなかった.血管新生緑内障の治療の基本は病態生理より考えて,網膜最周辺部に至るまでの徹底した網膜光凝固によるルベオーシスの消退にあり,網膜虚血を改善させるべきである.最周辺部網膜まで汎網膜光凝固術を施行しても眼圧が下降しない場合には,線維柱帯切除術,毛様体破壊術,Seton手術が選択肢として考えられるが,代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術により眼圧下降が得られればある程度視機能を温存しうる.線維柱帯切除術により眼圧下降が得られなければ,毛様体破壊術を選択することである2,3).今回の筆者らの手術方法(表1)は,初回硝子体手術後に小瞳孔や小さめな前切開の症例があったため,網膜最周辺部は網膜冷凍凝固を用いた症例がやや多いが,これに準じて術式を選択した.術後の眼圧コントロール不良の原因は,網膜離を含む虚血であるが,当院でも前記の方法に準じて硝子体手術前,術中に可能な限り光凝固を施行し,術後足りなければ追加をしている.手術方法による術後結果の差をA群とB群との間で検討してみたが,有意な差はみられなかった.ほぼ同一術者が手術を担当したが,時期による技量の質の変化,手術時間,症例数の増加などが考慮されれば,群間に差がでたのかもしれない.ただ当院での手術方法は,前述したスタンダードな方法で施行されているので,最終眼圧が21mmHg以下にコントロールされたのは75%で,視力の改善がみられたのは38%という結果は,他施設4,5)と比べて遜色ないものと思われた.硝子体手術後の血管新生緑内障は網膜離の残存が4383%57)危険因子といわれているが,今回筆者らの検討では網膜離が6眼(38%)に対して,有さない症例10眼(62%)でも血管新生緑内障を発症した.A群とB群との間に,牽引性網膜離を伴った症例は,血管新生緑内障を発症しやすい傾向はみられた(p=0.124)が,統計学的有意差は認められなかった.しかし,網膜離が復位していても血管新生緑内障を発症することがある.汎網膜光凝固術(PRP)が完成していても,離がなくても血管が狭小化,白線化し,網膜は萎縮しており,結果的には虚血によるものは,予後が悪い(治らない).これらの原因は牽引性網膜離,線維性増殖,網膜硝子体癒着など眼内の形態学的変化が,硝子体手術によって改善していても,慢性の虚血性網膜循環障害が進行するような長年にもわたる全身的危険因子が存在していると,つぎのような,術後31カ月に血管新生緑内障を合併した症例を経験することがある.症例は82歳の女性で,初回硝子体手術前眼圧17mmHg,術後16mmHgと眼圧の上昇はみられなかった.HbA1c6.5%,アルブミン3.7mg,クレアチニン1.5,ヘモグロビン10.8mg/dl,ヘマトクリット32と血液結果に異常がみられたが,汎網膜光凝固が十分施行されており,網膜症は沈静化しているようにみえていた.31カ月後に来院時虹彩の血管新生と眼圧37mmHgと上昇がみられた.薬物療法にて眼圧のコントロールができず,経強膜毛様体レーザー光破壊術とその後トラベクレクトミー+MMC併用+網膜冷凍凝固を追加し,最終眼圧は19mmHgと安定している.高齢者で,糖尿病網膜症が一見沈静化しているようでも,このような症例もあり注意を要する.血液結果で予後不良になる諸因子の数を多く有するものは,血管新生緑内障発症のリスクが高いという報告8,9)に一致した.術後の眼圧コントロール不良の原因を全身的因子で検討した結果,最終視力が0.01未満のA群(8眼)と0.01以上のB群(8眼)において,有意差が出たのは,最終眼圧と低アルブミン血症だけであった.糖尿病腎症で生じる低アルブミン血症は硝子体手術後の眼圧上昇を介して術後視力を悪くするという報告10)がある.アルブミンは血液の浸透圧を高く保つ働きをしており,その低下は浮腫をきたすといわれており,その結果として網膜が光凝固施行をかなり追加しても,なかなかドライにならず,ウエットのままで,網膜症の活動性が高い状態が継続する症例があるために,視力予後が悪くなるのではないかと考えられた.最近注目されている治療は血管内皮増殖因子(VEGF)であり,第61回日本臨床眼科学会でも,血管新生緑内障の房水中のVEGF濃度は高い(山路英孝:第61回日本臨床眼科学会抄録,2007),増殖糖尿病網膜症に対してbevacizumabを硝子体に投与したところ,ルベオーシスが退縮し,87%で眼圧が20mmHg以下にコントロールされた(山口由美子ほか:第61回日本臨床眼科学会抄録,2007)との発表があった.また,同様に増殖糖尿病網膜症に対するbevacizum-abを投与で,虹彩新生血管における完全寛解は82%であった11)などの報告より,今後血管新生緑内障の新しい治療の選択肢が広がってきている.緑内障治療をメインテーマにした検討であれば,治療効果判定を眼圧ですべきであるが,今回は予後不良(視力)になった症例の種々のリスクファクターを検討することを目的としたため,眼圧は一つのファクターとして考え,最終視力で判定をした.今後は症例数を増やし,治療のターゲットを眼圧としたさらなる検討が必要と考えられた.———————————————————————-Page41314あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(126)おわりに増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に新たに血管新生緑内障に至った症例を,眼科局所的の因子のほかに,全身的因子の関与についても検討したが,今回検討した症例は,すべて血管新生緑内障に至った重症例のみであり,一般的にいわれている,危険因子をどの症例もいくつかもち合わせている群間比較である.眼圧コントロール不良の因子を検討し,最終眼圧以外に有意差がみられたものはアルブミンだけであったが,他の検討項目も血管新生緑内障発症の危険因子にならないということではない.増殖糖尿病網膜症が,単一な眼科疾患ではなく,全身疾患の一つの合併症であるという原点に戻り,血糖だけではなく全身的危険因子と増殖糖尿病網膜症の関係について,多元的にさらに検討が必要であると思われた.危険因子と血管新生緑内障の発症率について結論を下すためには,さらなるエビデンスの蓄積が必要と思われた.また硝子体手術後31カ月に発症した症例もあり,長期の眼圧の経過観察が必要であると考えられた.文献1)HannDP,LewisH:Mechanismsofintraocularpressureelevationafterparsplanavitrectomy.Ophthalmolgy96:1357-1362,19892)大鳥安正:緑内障手術の限界血管新生緑内障に対する手術の限界.眼科手術17:27-29,20043)野田徹,秋山邦彦:血管新生緑内障に対する網膜硝子体手術.眼科手術15:447-454,20024)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス糖尿黄斑浮腫に対する硝子体トリプル手術後の血管新生緑内障.あたらしい眼科23:67,20065)赤羽直子,三田村佳典,松村哲ほか:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の血管新生緑内障.あたらしい眼科17:1295-1297,20006)佐藤幸裕,島田宏之,麻生伸一ほか:硝子体手術に関する臨床的研究(その8),重症糖尿病網膜症に対する硝子体手術における術後合併症の検討.眼臨80:1880-1884,19867)WandM,MadiganJC,GaudioAR:Neovasucularglauco-mafollowingparsplanavitrectomyforcomplicationsofdiabeticretinopathy.OphthalmicSurg21:113-117,19908)大木隆太郎,栃谷百合子,田北博保ほか:硝子体手術後の糖尿病血管新生緑内障による失明例の検討.臨眼56:973-977,20029)KimYH,SuhY,YooJS:Serumfactorsassociatedwithneovascularglaucomafollowingvitrectomyforprolifera-tivediabeticretinopathy.KoreanJOphthalomol15:81-86,200110)安藤文隆:糖尿病網膜症硝子体手術成績と糖尿病腎症.眼紀51:1-6,200011)AveryRL,PearlmanJ,PieraminiciDJ:Intravitrealbeva-cizumabinthetreatmentproliferativediabeticretinopa-thy.Ophthalmology113:1695-1705,2006***