———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS切開など創口の閉鎖率が改善されたため,低眼圧の発生頻度も低下し,周辺部の硝子体まで圧迫しても安定した創口の閉鎖が可能になった.そのため,さらにMIVSに対する手術適応が広がっている.I増殖糖尿病網膜症MIVSではトロッカーカニューラシステムを用いているため,使用できる器具に制限がある.特に増殖糖尿病網膜症では増殖膜処理に用いる水平剪刀がカニューラを通して挿入できず,当初は増殖膜処理が困難であるため重症例ではMIVSが適応外と考えられてきた.挿入できるのはカーブ剪刀であるが,先端の曲がり角に制限があり,網膜の面に対して剪刀の方向が垂直になってしまいやすく,水平剪刀のように網膜面に対して接線方向での操作がむずかしい(図1).特に器具を挿入する対側の操作であれば網膜面に対して接線方向での操作が可能だが,器具を挿入した手元の操作となれば剪刀の先端しか増殖膜に接触せず,増殖膜の分層(delamination)はますます困難となる.しかし,xenon光源によるシャンデリア照明が進歩して,増殖膜を器具の切除しやすい方向に誘導できるようになり,増殖膜処理が行いやすくなっている(図2).また23G硝子体カッターは先端から開口部までの距離が短くなっているため,増殖膜と網膜の間に硝子体カッターを挿入でき,硝子体カッターだけで膜操作が行えるようになった(図3).この術式は硝子体カッターを用いたmembranectomyとして新しい術式はじめに白内障手術において小切開手術(micro-incisioncata-ractsurgery:MICS)が進歩するなかで,硝子体手術においても小切開手術(microincisionvitrectomysur-gery:MIVS)が広がっている.それは,2002年にFujiiら1)が経結膜的強膜創にカニューラを設置する25ゲージ(以下,25G)硝子体手術システムを開発して幕開けした.その手術システムは小切開かつ経結膜的無縫合硝子体手術が可能で,当初は黄斑疾患にのみ限定された術式であった.現在ではその有用性から,徐々にその適応を拡大してさまざまな疾患に施行されている.25G硝子体手術システムでは器具の口径が0.5mmであり,器具のしなりや脆弱性が問題であった.しかし,器具の剛性も改良によってかなり改善されている.さらに23G硝子体手術システム(口径約0.7mm)も加わり,MIVSでの選択肢が増え,ますます広がりつつある.25G硝子体手術や23G硝子体手術では強膜創の作製にトロッカーとカニューラを用いる.カニューラを設置することで,術中の器具の出し入れによる強膜創に硝子体が嵌頓して生じる強膜創近傍の医原性網膜裂孔が発生しにくくなる.このことは黄斑手術においてというより,器具の出し入れがより多い疾患に対して有用であると考えられる.小切開硝子体手術は周辺部硝子体を残して創口に硝子体を嵌頓させて創口を閉鎖する術式であり,術直後に生じる低眼圧はMIVSでの一つの合併症であった.斜め(39)1367MaotoInoe::1806202部特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13671371,2008極小切開硝子体手術:黄斑部以外MicroincisionVitrectomyinNon-MacularSurgery井上真*———————————————————————-Page21368あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(40)創血管新生とよばれていた(図5).これは強膜創に線維血管増殖を生じて,それが収縮することで周辺部の網膜離を生じさせたり再発性の硝子体出血を起こしたりする病態で,重症例での術後予後が不良である原因とされてきた.この強膜創血管新生は,糖尿病網膜症以外の症例でも強膜創の創傷治癒過程で生じ,一過性で自然消失するbrousingrowthと異なり,強膜創に嵌頓した硝子体を基盤に強膜創から硝子体基底部に沿って輪状の線維性血管増殖に発展するため,予後不良であった2).前部硝子体線維血管増殖(anteriorhyaloidsbrovascularproliferation:AHFVP)は硝子体手術のあるなしにかかに発展しているため,剪刀を使用する頻度が減少していることも事実である(図4).最近広がっている増殖糖尿病網膜症への抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)抗体であるベバシズマブ(アバスチンR)の硝子体内投与により,術前に新生血管の活動性を低下できるようになった.これによる術中の出血も少なくなるため,硝子体カッターのmembranec-tomyのみで増殖膜処理ができる症例が増加している要因にもなっている.また術後に投与して術後の重症化を予防できる可能性もある.糖尿病網膜症においては術後に強膜創に関連した合併症が問題となっていた.硝子体手術後に強膜創に嵌頓した硝子体を足場に眼内に向かって血管新生が生じ,強膜図4硝子体カッターでのmembranectomy23G硝子体カッターの先端を増殖膜の下に滑らせて切除を行っている.図2双手法での増殖膜処理23G鉗子と23Gカーブ剪刀で増殖組織を切除している.25G23G20G増殖膜網膜図3硝子体カッターの比較MIVSでの硝子体カッターは先端から開口部までの距離が短いが,23G硝子体カッターでは特に短い.図1カーブ剪刀での増殖膜切除増殖糖尿病網膜症の増殖組織を23Gカーブ剪刀で切除している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081369(41)は糖尿病網膜症でMIVSを使用すると強膜創に嵌頓した硝子体を足がかりに,より強膜創血管新生が発症するのではと危惧されていた.しかし,創口が小さいためかMIVSによる強膜創の新生血管増殖はあまり生じないようである.術後の再出血の頻度を比較した検討では20G手術とMIVSでは差がないようではあるが,自験例ではMIVSの術後に著しい強膜創血管新生を経験していない.同時期に広がった増殖糖尿病網膜症への抗VEGF抗体であるアバスチンRの硝子体内投与で重症例では術前に新生血管の活動性を低下できるようになったり4),術後に投与して重症化を予防できるようになったことも要因の一つである可能性はある.創口が小さいため強膜創での血管新生を予防できている可能性も高いが20Gの1mmの切開と23Gの0.7mm切開,25Gでの0.5mm切開と著しく発生率が異なることは考えにくい.MIVSではカニューラシステムを用いていて手術中の強膜創にかかるストレスが少ないため強膜創周囲の色素上皮細胞,ひいては線維芽細胞を刺激しないように眼内操作ができていることが誘因である可能性はある.II裂孔原性網膜離網膜離手術で重要なことは,硝子体をできるだけ切除して網膜への硝子体牽引を除去することである.小切開硝子体手術であっても強膜圧迫するか,wideeldviewingsystemを用いて最周辺部まで十分に硝子体を切除して硝子体牽引を除去しなければならない.MIVSでは結膜を展開していないため,通常のプリズムコンタクトレンズでは赤道部より前方に死角ができてしまうとわらず,前部硝子体膜に沿って線維血管増殖が起こり,同様に周辺部網膜離や再発性硝子体出血を起こして予後不良の因子になる3).AHFVPは硝子体手術が要因となる強膜創血管新生とは異なった病態であるが,網膜周辺部での虚血が生じている点では共通している.強膜創血管新生は20G硝子体手術での報告であり,強膜創を縫合しても硝子体の嵌頓が避けられないこと,または強膜創を縫合する縫合糸が刺激しているなどの説があった.小切開硝子体手術では経結膜無縫合手術であり,強膜創に硝子体が嵌頓して創口が閉鎖されると報告されている.実際UBM(ultrasoundbiomicriscope)を用いた検討でも強膜創に嵌頓した硝子体が観察されている.当初図5硝子体手術後の再出血に対する手術所見スリット光で観察すると強膜創での血管新生(白矢印)による硝子体出血と考えられた.プリズムコンタクトレンズWideeldviewingsystem死角になりやすい図6プリズムコンタクトレンズとwideeldviewingsystemの視野プリズムコンタクトレンズでの眼底観察では最周辺部の後方が死角になりやすい.———————————————————————-Page41370あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(42)網膜下に流入してさらに胞状の離になることがある.しかし,25G手術では灌流量が少ないため灌流液の勢いで網膜下に流入することはない.同様に25G手術では胞状に離した網膜が創口に嵌頓することはほとんどないが,23G手術の場合には眼内灌流量も20G手術と差がないため,こまめにプラグを挿入するか眼内灌流圧を少し下げるなどの注意が必要である.23G手術での胞状の網膜離に対する手術の場合は20G手術と同様に後極に少量の液体パーフルオロカーボンを注入しておくと網膜の挙動が少なくなる.また,MIVSではトロッカーカニューラシステムを用いているために術中に強膜創に硝子体が嵌頓しづらい(図8).このことは術中に強膜創に嵌頓した硝子体によって離した網膜が牽引されたり,網膜離が胞状離にならないようにする予防に役立っている.いう問題がある.これはwideeldviewingsystemを用いれば対処可能である(図6).結膜が浅くプリズムコンタクトレンズを用いた周辺部圧迫では制限がある場合には特に有用である.MIVSでの網膜離手術も通常の方法と同様に,まず網膜裂孔周囲の硝子体牽引を除去すると胞状の網膜離がゆっくり下がってくる(図7).MIVSでは眼内灌流量も少ないため,離した網膜の挙動が少ないといった利点もある.たとえば,20G手術ではインフュージョンの対側に網膜裂孔があれば,灌流液が網膜裂孔を通って図7MIVSでの網膜離手術網膜裂孔への硝子体牽引を早めに除去すると網膜離が少しずつ下がり,網膜が復位してくる.カニューラありカニューラなし強膜強膜硝子体硝子体図8トロッカーシステムと硝子体嵌頓トロッカーカニューラシステムを用いているため,術中に強膜創に硝子体が嵌頓しにくい.図9液体パーフルオロカーボン下での光凝固パーフルオロカーボン下(矢印)で網膜を復位させ,強膜を圧迫して手術顕微鏡による直視下で周辺部網膜裂孔(矢頭)への光凝固を行う.図10ライト付き同軸レーザープローブによる光凝固ライト付き同軸レーザープローブを挿入し強膜を圧迫して網膜裂孔(矢印)に光凝固を行っている.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081371(43)ときに数回の手術を行っていれば結膜の癒着が強く,結膜を展開して強膜創を作製しづらい症例にも遭遇する.その場合には結膜を展開せず,経結膜で強膜創を作製するMIVSで治療を行うほうが簡便である場合もある.しかし術後の感染が問題となるので強膜創は結膜と一緒に縫合したほうがよい.シリコーンオイル注入後においても1針縫合を追加する.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-guageinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20022)池田恒彦,田野保雄,前田直之ほか:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術後の再増殖─特に強膜創血管新生について.眼科手術4:111-114,19913)LewisH,AbramsGW,WilliamGA:Anteriorhyaloidbrovascularproliferationafterdiabeticvitrectomy.AmJOphthalmol104:607-613,19874)ChenE,ParkCH:Useofintravitrealbevacizumabasapreoperativeadjunctfortractionalretinaldetachmentrepairinsevereproliferativediabeticretinopathy.Retina26:699-700,2006網膜離手術で重要なことは網膜裂孔への十分な術中光凝固である.MIVSではレーザースポット径が20Gよりもやや小さくはなるが,レーザーファイバー自体にレーザー光を集光させて,眼内では広げることにより25Gであっても十分なスポットサイズが得られるようになっている.光凝固の方法は後極の裂孔であれば液-空気置換後に光凝固を行うが,周辺部裂孔の場合は液体パーフルオロカーボンを裂孔の高さを越えて注入して液体パーフルオロカーボン下で網膜が復位した状態で光凝固を行う(図9).また,液-空気置換を行いシャンデリア照明下で光凝固を行う方法,助手に強膜を圧迫してもらい光凝固を行う方法,ライト付きの同軸レーザープローブで光凝固を行う方法などがある(図10).シャンデリア照明は空気灌流下では先端が発熱する報告もあり,空気灌流下では照度を少し落とすようにしている.アトピー性皮膚炎に伴う網膜離は網膜最周辺部に原因裂孔が存在するため強膜バックリング手術が基本ではあるが,ときとして後極裂孔を伴ったり,増殖硝子体網膜症を合併した場合には硝子体手術が必要になる.この