提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療5.ハードコンタクトレンズを処方する糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)はソフトコンタクトレンズ(SCL)と異なり,柔軟性や弾力性に乏しく,ベースカーブ(basecurve:BC)や直径など,選択すべきレンズ規格の選択肢が多い.このため,HCLを処方する際には,トライアルレンズを患者の眼に実際に装着し,満足のいくフィッティングが得られるまでトライアルレンズを変更するというtrialanderrorを行う.しかし,このtrialanderrorに慣れないため,「HCLの処方はむずかしい」と感じる先生が少なくない.そこで本稿では,HCLの処方手順に沿って,トライアルレンズの選択方法とフィッティングの評価方法のポイントをわかりやすく解説する.■素材の選択HCLは,素材ごとにDk値(酸素透過係数)で表される酸素透過能が異なり,Dk値が高いほど酸素透過能が高くなる.一般に,Dk値が高いほどレンズを経由した酸素供給が多くなるため角膜への負担が減少するが,一方で汚れが付着しやすくなり,変形や破損が生じやすくなるなどのデメリットも生じる1).そのため,強度近視でレンズが分厚い患者,装用時間が長い患者,角膜内皮の形状異常を生じている患者には高Dk素材のレンズを,アレルギーやドライアイなどのレンズが汚れやすい患者には低Dk素材のレンズを選択するとよい.■直径の選択レンズの直径は,瞼裂幅・角膜曲率半径を参考にして決定する.瞼裂幅が狭い眼ではレンズと眼瞼の接触による不快感が生じやすいため,直径の小さなレンズを選択するのがよい.一方,瞼裂幅が広い眼では,上眼瞼によるレンズの保持が得にくいためにレンズの動きが不安定になりやすく,比較的直径の大きなレンズが有用である2).また,角膜曲率が大きい眼は直径が大きなレンズ,角膜曲率が小さい眼は直径が小さなレンズのほうが,レ(63)視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科フラットパラレルスティープ図1ベースカーブ(BC)と角膜曲率の関係BCが角膜曲率より大きい状態をフラット,BCと曲率が等しい状態をパラレル,BCが角膜曲率より小さい状態をスティープとよぶ.ンズの動きが安定することが多い.■BCの選択第一選択となるBCはレンズの種別,直径,デザインによって異なるため,メーカーのフィッティングマニュアルを参考にする.実際にはオートケラトメータから得られた角膜曲率半径の弱主経線値,あるいは弱主経線値と強主経線値の中間値に近いBCを選択することが多い.BCと角膜曲率の関係性について,BCが角膜曲率より大きい状態をフラット,BCと曲率が等しい状態をパラレル,小さい状態をスティープとよび,原則としてはパラレルを理想とする(図1).■フィッティングの評価フィッティングは,涙液交換の有無を含めたレンズの動きを評価する動的評価と,レンズ中央と周辺部のフルオレセイン濃度の差(染色パターン)からBCと角膜曲率の関係性を推測する静的評価に分けられる.フィッティングの評価には涙液量が大きく影響するため,若年者やコンタクトレンズ装用が初めてで刺激性涙液分泌が多い場合は,HCL装用後に15~20分程度時間をおいたのちに評価を行うとよい.動的評価では,レンズの動きと安静位置を評価する.HCLの装用時は,瞬目ごとにレンズが上下に運動することでレンズ下の涙液交換を行っている.そのため,瞬目時のHCLの動きは,瞬目に一致してHCLが上方に引き上げられたあとに,緩徐に下方に下がってきて角膜あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023630910-1810/23/\100/頁/JCOPYアピカルタッチパラレルアピカルクリアランス図2フルオレセイン染色パターンの名称フルオレセイン染色パターンは,レンズ周辺部が中央部より明るく染色されるアピカルタッチ,レンズ全体が均一に染色されるパラレルフィッティング,レンズ中央部が周辺部より明るく染色されるアピカルクリアランス,の3種に分類される.中央に静止するのが理想である.動きが大きく早い場合はルーズ,小さく遅い場合はタイトとよび,このあとの静的評価の結果に応じて,BC・周辺デザインを変更する.静的評価では,フルオレセイン染色パターンを評価する.フルオレセイン染色パターンを評価する際には,レンズが偏位した状態での正確な評価はむずかしいため,レンズを角膜中央に移動させて評価する.フルオレセイン染色パターンは,レンズ中央部より周辺部が濃く染色されるアピカルタッチ,全体が均一に染色されるパラレルフィッティング,レンズ中央部が濃くて周辺部が薄く染色されるアピカルクリアランスの3種に分類される(図2).パラレルフィッティングは,レンズと角膜曲率が平行となるため,角膜への負担が少なく,理想的なフィッティングとされている.一方,アピカルタッチはレンズがフラットで角膜頂点で支えられている状態,アピカルクリアランスはレンズがスティープで角膜周辺部で支えられている状態である.■レンズ周辺部の確認レンズ最周辺部には,装用感を良好に保ち,涙液交換を円滑に行うために,ベベルというカーブが設けられている.フルオレセイン染色時にはベベル下に貯留した涙狭い適正広い図3レンズ周辺カーブ(ベベル)の比較レンズ周辺カーブが角膜に適合しているかどうか,ベベル下に貯留した涙液の幅からベベル幅を評価する.液の幅からベベル幅を評価し,ベベルが角膜形状に適しているかどうかを判定する(図3).HCLのBCと角膜曲率がパラレルであったとしても,ベベル幅が広いとレンズの曇り・過剰なレンズの動き(ルーズ)の原因となり,ベベル幅が狭いと,レンズの固着や装用時の不快感,涙液交換の不良による角膜上皮障害の原因となるため,周辺部デザインの変更を検討する.適切なベベル幅はメーカーやレンズの種類によってまったく異なるので,各社のフィッティングマニュアルを参考にするのがよい.■おわりに第2回セミナーで述べたように,HCLは光学性に優れており,唯一無二のメリットをもつ有用な屈折矯正手法である.また,HCLの処方は「やや煩雑でむずかしい」と捉えられているが,上述のようにポイントをふまえて処方を行えば,決してむずかしいものではない.HCLを適切に処方することで,質の高いコンタクトレンズ診療を行いたい.文献1)BennettES,HenryVA:Clinicalmanualofcontactlenses.5thedition,p145-147,WoltersKluwerHealth,20192)小玉裕司:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識4.HCL処方-サイズの決定.あたらしい眼科37:1117-1118,2020