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In vitro におけるコンタクトレンズに付着した蛋白質に 対するソフトコンタクトレンズ用消毒剤のレンズケア効果

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):191.196,2021cInvitroにおけるコンタクトレンズに付着した蛋白質に対するソフトコンタクトレンズ用消毒剤のレンズケア効果鈴木崇*1糸川貴之*1堀江隆至*2内田薫*2堀裕一*1*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2日本アルコン株式会社CInvitroCEvaluationofLensCareE.ectofSoftContactLensDisinfectionSolutionontheProteinDepositedContactLensesCTakashiSuzuki1),TakayukiItokawa1),TakashiHorie2),KaoruUchida2)andYuichiHori1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TohoUniversity,2)AlconJapanLtd.C目的:ソフトコンタクトレンズ(SCL)に付着した蛋白質や脂質などの付着物は,眼アレルギー,眼不快感ならびに角膜感染症の原因となるため,SCLから付着物を適切に除去する必要がある.そこで今回,5種類のCSCL用消毒剤を用いて,invitroにおける頻回交換のCSCLに付着した蛋白質のレンズケア効果を検討した.対象および方法:試験コンタクトレンズ(CL)には,SCLのCeta.lconAおよびシリコーンハイドロゲルCCLのCseno.lconAを用いた.涙液組成を模したリン酸緩衝液(PBS)を含んだプラスチック試験管に試験CCLを移し,蛋白質が付着した試験CCLを準備した.過酸化水素剤(HP剤),ポビドンヨード剤(PI剤),3種類のマルチパーパスソリューション(MPS)およびCPBSを用いてCeta.lconAのレンズケアを実施した.レンズケアおよび測定順序をランダム化し,レンズケア時間は各CSCL用消毒剤の最短消毒時間とした.レンズケア後に試験CCLから蛋白質を抽出し,MicroBCAproteinassaykitにて分光光度計で吸光度を測定し,試験CCLに付着した蛋白質量を定量した.結果:試験CCLに付着した蛋白質量は,Cseno.lconAのC7.8C±1.1Cμg/レンズに比べてCeta.lconAはC1,089.0C±98Cμg/レンズと有意に多かった.5種類のCSCL用消毒剤ならびにCPBSでのレンズケア後のCeta.lconAに付着した蛋白質量は,それぞれC528.1C±88Cμg/レンズ,758.1C±155Cμg/レンズ,858.5C±218Cμg/レンズ,730.4C±140Cμg/レンズ,841.1C±257Cμg/レンズ,727.5C±160Cμg/レンズでレンズケア前よりも減少した.5種類のCSCL用消毒剤においては,HP剤に対してCPI剤およびC3種類のCMPS間で有意差を認めた(対応のないCt検定p<0.05).結論:InvitroにおけるCeta.lconAに付着した蛋白質はC5種類のCSCL用消毒剤でのレンズケア効果が認められた.HP剤はCPI剤やC3種類のCMPSに比べて,eta.lconAに付着した蛋白質に対するレンズケア効果が有意に優れていることが示された.CObjective:DepositsCsuchCasCproteinsCandClipidsCadheringCtoCsoftCcontactlenses(SCLs)causeCocular-relatedCallergy,discomfortandinfections.Thus,itisnecessarytohavethemappropriatelyremoved.Inthisinvitrostudy,weexaminedthee.ectoflenscareproteinsadheringtofrequentreplacementtypesofSCLbyusing5SCLdisin-fectionCsolutions.CCasesCandCmethods:ThisCstudyCinvolvedCeta.lconCACandCseno.lconCACsiliconeChydrogelCSCLs.CThestudySCLsweretransferredtoaplastictesttubecontainingaphosphatebu.er(PBS)simulatingtearcom-position,CandCaCstudyCSCLCtoCwhichCtheCproteinCwasCattachedCwasCprepared.CLens-careCtestCsolutionsCwereCexam-inedforthehydrogenperoxide(HP)C,thepovidone-iodine(PI)C,3typesofmulti-purposesolutions(MPS)andPBS.Lens-careCofCtheCeta.lconCACSCLsCwasCmadeCwithCdisinfectionCsolutions.CTheClens-careCandCmeasurementCorderCwererandomized,andthelens-caretimewastheshortestdisinfectingtimeofeachdisinfectantusedfortheSCLs.Afterlens-care,theproteinwasextractedfromtheSCLs,andtheabsorbancewasmeasuredandquanti.edbyaspectrophotometerusingaMicroBCAproteinassaykit.Results:TheamountofproteinattachedtostudySCLswasC1089.0±98Cμg/lensforeta.lconA,whichwassigni.cantlyhigherthan7.8±1.1Cμg/lensforseno.lconA.TheamountCofCproteinCadheringCtoCeta.lconCACafterClensCcareCwithCtheC5SCLCdisinfectionCsolutionsCandCPBSCwasC〔別刷請求先〕鈴木崇:〒143-8541東京都大田区大森西C6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:TakashiSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TohoUniversity,6-11-1Omori-Nishi,Ohta-ku,Tokyo143-8541,JAPANC528.1±88Cμg/lens,C758.1±155Cμg/lens,C858.5±218Cμg/lens,C730.4±140Cμg/lens,C841.1±257Cμg/lens,CandC727.5±160Cμg/lens,Crespectively.CTheCamountsCofCproteinCadheringCtoCeta.lconCACwasClowerCthanCpriorCtoClensCcare.CRegardingthe5SCLdisinfectionsolutions,astatisticalsigni.cantdi.erencewasdemonstratedamongHP,PIand3CMPS(unpairedt-testp<0.05)C.Conclusion:InthisinvitroCstudy,lens-caree.ectofproteinattachedtoeta.lconACwasCobservedCwithCtheC5SCLCdisinfectants.CItCwasCshownCthatCHPCwasCsigni.cantlyCsuperiorCtoCPICandCtheC3typesofMPSinregardtothelenscaree.ectontheproteinattachedtoeta.lconA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):191.196,C2021〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤,蛋白質汚れ,過酸化水素剤,ポビドンヨード剤,マルチパーパスソリューション.softcontactlensdisinfectionsolution,proteindeposits,hydrogenperoxide,povidoneiodine,multi-purposesolution.Cはじめにソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)やシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(siliconeChydrogelCcontactlens:SHCL)は,視力および整容補正,眼表面疾患の治療などを使用目的として普及してきた1,2).1日交換とC1週間連続装用タイプ以外の頻回交換タイプのCSCLやCSHCLにおいては適切なレンズケアが必要である3).レンズケアにはCSCL用消毒剤が多く使用されており,有効成分の観点からC3種類に分類される.1種類目は,塩化ポリドロニム,ポリヘキサニド塩酸塩またはアレキシジン塩酸塩を有効成分とするマルチパーパスソリューション(multi-purposeCsolu-tion:MPS)である4).MPSはその名のとおり,1本で洗浄,すすぎ,保存が可能であるが,洗浄の際にはこすり洗いが必須である.MPSは簡便に使用できるが,一部ユーザーは適切なこすり洗いを実施していないことが報告されている3).2種類目は,白金ディスクやカタラーゼにより中和が必要な過酸化水素(hydrogenCperoxide:HP)を有効成分とするHP剤で,こすり洗いは推奨である.HP剤は消毒効果が高いことが報告されており,白金ディスクで中和するCHP剤は防腐剤が含まれないことから,眼刺激が軽減されることが報告されている5,6).一方,HP剤が適切に中和されない場合は眼表面障害の発生が懸念される7).3種類目は,アスコルビン酸により中和が必要なポビドンヨード(povidoneiodine:PI)を有効成分とするCPI剤で,HP剤と同様にこすり洗いは推奨である8).PI剤も消毒効果が高いと報告されているが,適切に中和されない場合はヨードアレルギーが懸念される8,9).このように,SCL用消毒剤は有効成分に起因する長所ならびに短所はあるが,適切なレンズケアを怠った場合,レンズの汚れによる眼不快感,レンズ装用時の見にくさ,乳頭増殖などのアレルギー症状,アカントアメーバ角膜炎などのCCL関連合併症が発症するため,レンズケアの重要性が報告されている3,10.12).このような背景から,頻回交換タイプのCSCLやCSHCLに付着した蛋白質や脂質などの汚れに対するCSCL用消毒剤によるレンズケア効果について,invitroおよびCexvivoにおいて検討がなされている3,10.12).しかしながら現時点において,PI剤による頻回交換タイプのCSCLやSHCLに付着した蛋白質のレンズケア効果を検討した報告はない.そこで今回,invitroにおける白金ディスクで中和するタイプのCHP剤に対するCPI剤を含むC4種類のCSCL用消毒剤の蛋白質付着に対するレンズケア効果を比較検討した.CI対象および方法試験CCLにはCSCLの原材料ポリマー分類のグループCIVのCeta.lconAおよびグループCV-1のCSHCLであるCseno.lconAを用いた(表1).試験CCLをブリスターパックから取り出し,リン酸緩衝液(phosphateCbu.ersaline:PBS)で試験CLを繰返し洗浄後,報告に従って涙液組成を模したCPBS(表2)を含んだプラスチック試験管に試験CCLを移し,37℃でC16時間浸漬して蛋白質を付着させた試験CCLを準備した13).その後,HP剤,PI剤,MPS-A,MPS-B,MPS-CおよびCPBSを用いて試験CCLのレンズケアを実施した(表3).検体数の設定根拠は,統計的検出力ではなく,実施可能性に基づき各C6枚に設定した.試験手順に基づくバイアスを最小化するため,レンズケアおよび測定の順序をランダム化し,レンズケア時間は各CSCL用消毒剤の最短消毒時間として,置換ブロック法により事前に作製された割付順序に従って実施した.レンズケア後,1Cw/v%ドデシル硫酸ナトリウム(sodiumCdodecylsulfate:SDS)溶液を用いて試験CCLから蛋白質を抽出し,MicroCBCACproteinCassaykitを用いて分光光度計で波長C562Cnmにおける吸光度を測定した.評価項目は,5種類のCSCL用消毒剤のCHP剤,PI剤,MPS-A,MPS-B,MPS-Cでのレンズケア後および対照としたCPBSでの洗浄後の試験CCLに付着した蛋白量(μg/レンズ)とした.吸光度測定のブランクの標準液は,1%炭酸ナトリウムを含むC1Cw/v%CSDS溶液を使用した.MicroBCAproteinassaykitに付属のアルブミン標準サンプルを用いて検量線を作製し,試験CLのC1枚当たりの蛋白質付着量(アルブミンに換算した総蛋白質量)を算出した.操作のばらつきを最小化するため,表1試験CLの概要試験CCLCeta.lconACseno.lconA構成モノマー2-HEMA,CMAAなど2-HEMA,CSiMAA2,mPDMS1000,CDMAなど酸素透過係数*C28C103含水率[%]C58C38**ベースカーブ[mm]8.4,C8.78.4,C8.8直径[mm]C14.0C14.0中心厚[mm](.3.00D)C0.09C0.07SCLの原材料ポリマー分類CIVCV-1*(cm2/sec)×(mlOC2/ml×mmHg)**本研究のベースカーブはCeta.lconAがC8.7,seno.lconAがC8.8のC.3.00Dを使用.表2人工涙液組成組成含有量[mg/ml]TMS-PBS:Dulbecco’sphosphatebu.eredsaline(D8662[Sigma-Aldrich])CaCl2C0.1CMgCl2・C6HC2OC0.1CKClC0.2CKH2PO4C0.2CNaClC8.0CNa2HPO4・C7HC2OC2.16CLipidC0Lysozyme(LC6876-10G[Sigma-Aldrich])C5.3CBovineserumalbuminC3.5TMS:tear-mimickingsolution,PBS:phosphateCbu.eredCsaline.表3本研究で使用した5種類のSCL用消毒剤のレンズケア方法および検体数消毒剤CHPCPICMPS-ACMPS-BCMPS-C洗浄およびすすぎの方法こすり洗いを含めた洗浄およびすすぎ洗いを実施しないこととした.こすり洗いを含めた洗浄およびすすぎ洗いを実施しないこととした.レンズを手のひらにのせ,本剤を数滴つけて,レンズの両面を各々20.C30回指で軽くこすりながら洗うこととした.洗ったレンズの両面を本剤で十分にすすぐこととした.レンズを手のひらにのせ,本剤をC3.C5滴落として片面を人差し指で約C10秒間ていねいに洗浄することとした.裏面も本剤をC3.5滴落として約C10秒間ていねいに洗浄することとした.レンズの両面を本剤ですすぎ,表面の残留物を十分に取り除くこととした.手のひらにレンズをのせ,本剤を数滴つけて,レンズの両面を各々20.C30回指で軽くこすりながら洗うこととした.洗ったレンズの両面を本剤でC5秒以上すすぐこととした.最短消毒時間6時間4時間検体数各C6枚(eta.lconAおよびCseno.lconA)HP:hydrogenperoxide,PI:povidoneiodine,MPS:multi-purposesolution.作業員は操作の途中で交代せずに操作を行うこととした.統計解析は,5種類のCSCL用消毒剤でのレンズケア後およびPBSでの洗浄後の試験CCLに付着している蛋白量(μg/レンズ)について,各群の記述統計量(n,平均値,標準偏差,中央値,最小値,最大値)を算出することとした.一元配置分散分析によりC6群間の群間比較を行うこととした.本研究におけるすべての操作ならびに測定は,住化分析センター株式会社へ委託した.統計処理はCMicrosoftCExcel2016で実施し,記述統計量は正規分布に従っており,対応のないCt検定で実施した.CII結果1.試験CLに付着した蛋白質量試験CCL付着した蛋白質量はCeta.lconAがC1,089.0C±98μg/レンズ,seno.lconAがC7.8C±1.1Cμg/レンズでCeta.lconAが有意に多かった(対応のないCt検定p<0.05,図1).C1,400*1,2001,00080060040020001,089.07.8eta.lconAseno.lconA図1試験CLに付着した蛋白質量各群Cn=6,平均値C±標準偏差[μg/レンズ],*p<0.0001対応のないCt検定.C1,4001,2001,0008006004002000**2.eta.lconAへの蛋白質付着量Eta.lconAへの蛋白質付着量がCseno.lconAに比べて有意に多かったため,PBS,HP剤,PI剤およびC3種類のMPSでのレンズケア後の蛋白質付着量はCeta.lconAで評価することとした.eta.lconAに付着した蛋白質量は,PBSがC727.5C±160μg/レンズ,HP剤がC528.1C±88Cμg/レンズ,PI剤がC758.1C±155μg/レンズ,MPS-AがC858.5C±218Cμg/レンズ,MPS-BがC730.4C±140Cμg/レンズ,MPS-CがC841.1C±257Cμg/レンズで,レンズケア前のCeta.lconAの蛋白質付着量よりも有意に減少した(対応のないCt検定Cp<0.05,図2).また,5種類のCSCL用消毒剤のみでCeta.lconAに付着した蛋白質量を比較すると,HP剤は他の消毒薬に対して有意に低値であった(対応のないCt検定p<0.05,図2).CIII考察わが国では過酸化水素のコールド消毒システムとしてのSCL用消毒剤がC1991年に発売14)されて以来,MPS,HP剤およびCPI剤とC32種類が販売15)されており,頻回交換タイプのCSCLおよびCSHCLユーザーが使用している.SCLやSHCLの販売経路は眼科,CL量販店,眼鏡店,インターネットと多岐3)にわたる.一方,適切なレンズケアを指導されていないことによるCCL関連合併症が問題視されており,Cinvitro10,11)およびCexvivo11,12)におけるCSCL用消毒剤のレンズケア効果,消毒効果および眼表面への影響について報告がなされている.本報告はCinvitroでの結果ではあるものの,PI剤を含むC5種類のCSCL用消毒剤による頻回交換タイプのSCLに付着した蛋白質のレンズケア効果を検討した初めての報告である.***図2レンズケア前後のeta.lconAに付着した蛋白質量の比較各群Cn=6,平均値C±標準偏差[μg/レンズ],*p<0.05対応のないCt検定.HP:hydrogenperoxide,PI:povidoneCiodine,MPS:multi-purposesolution,PBS:phosphatebu.ersaline.土至田らは,正の電荷を帯びているリゾチームは負の電荷を帯びているイオン性CSCLに引き付けられるため,SCLの原材料ポリマー分類のグループCIIIおよびCIVのCSCLに蛋白質が付着しやすい傾向であると報告している13).本研究でも,eta.lconAのほうがCSHCLのCseno.lconAよりもレンズC1枚当たりの蛋白質付着量は有意に多かったことは,eta-.lconA中のカルボキシル基由来の負の電荷と本研究で使用した蛋白質類中の正の電荷との静電気的な相互作用が影響したものと考えた15,16).Kielは過酸化水素剤の分解時の酸素の発泡力は蛋白質の洗浄効果を示すと報告している17).Kielらの研究における試験レンズであったCvi.lconAにおいて,酸素バブリングまたは触媒ディスクなしの過酸化水素システム溶液で循環させたレンズよりも,過酸化水素システム溶液および触媒ディスクありで循環させたレンズから有意に多くの蛋白質が除去されたと報告している.HP剤の触媒ディスクありの条件,中和されたCHP剤の酸素バブルおよびCHP剤の触媒ディスクなしの条件での結果を比較した.その結果,試験レンズのCvi.l-conAの洗浄前での蛋白質付着量がC598C±184Cμg/レンズであったのに対して,HP剤の触媒ディスクありがC360C±52Cμg/レンズ,HP剤の酸素バブルがC471C±81Cμg/レンズ,HP剤の触媒ディスクなしがC464C±128Cμg/レンズであった.これらの結果に基づき,HP剤の触媒ディスクありはCHP剤の酸素バブルおよびCHP剤の触媒ディスクなしに比べて有意にCvi.lconAの蛋白質付着量が少なかったと報告している17).また,RequenaらはCHP剤が蛋白質の構造変化をもたらすと報告している18).以上から,本研究で使用した試験CCLのCeta.lconAに付着した蛋白質のCHP剤によるレンズケア効果は,HP剤の中和時における発泡力および蛋白質構造変化に起因するものと考えた17,19).岡田らは,実臨床のCCL装用眼におけるCSCLへの蛋白質の付着量は,invitroにおけるCSCLへの蛋白質付着量と異なり,その可能性としてCCL装用の場合は涙液中のリゾチーム以外の種々の蛋白質,脂質および無機物の相互作用による影響が考えられると報告している20).土至田らは,CL装用者の眼の状態,涙液中の蛋白質や脂質の種類やそれらの濃度,CL装用状況,生活環境要因や化粧品使用状況なども関与するため,invitroの結果がCinvivoにおけるCCL装用中の状況と同等の結果が得られるか否かの判断はむずかしいものの,研究の傾向を認識するという観点で有意義であったと報告している13).本研究もCinvitroにおける評価のため,exCvivoにおける頻回交換タイプのCSCLやCSHCLに付着した蛋白質量を正確に反映しているか否かは本研究結果のみでは判断できないが,こすり洗いが推奨であるCHP剤およびCPI剤,こすり洗いが必須であるCMPSのC3種類での試験CCLに付着した蛋白質の洗浄性能を理解するためには,有意義な結果であると考えた.本研究の結果から,頻回交換タイプのレンズ素材中に負の電荷を有するCSCLに付着した蛋白質起因の眼アレルギー症状や眼不快感を軽減するためには,HP剤はCPI剤および本研究で使用したC3種類のCMPSに比べて有用なSCL用消毒剤と考えられた.一方,今後の研究では,こすり洗いを実施した後でCSCL用消毒剤によるレンズケア効果や,CL装用後の頻回交換タイプのCSCLやCSHCLに付着した蛋白質のレンズケア効果の検討が必要と考えた.本研究でCeta.lconAに付着した蛋白質に対するC5種類のSCL用消毒剤のレンズケア効果が認められた.HP剤はCPI剤ならびに本研究で使用したC3種類のCMPSに比べて,レンズ素材中に負の電荷を有するCSCLのCeta.lconAに付着した蛋白質に対するレンズケア効果が優れていることが示された.利益相反:本研究は日本アルコン株式会社による研究資金にて実施した.文献1)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌118:557-591,C20142)奥野賢亮,井上智之,堀裕一ほか:眼表面疾患に対するシリコーンハイドロゲルレンズの治療的使用に関する検討.臨眼64:1533-1538,C20103)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜症全国調査.日眼会誌115:107-115,C20114)WaltherCH,CSubbaramanCLN,CJonesL:E.cacyCofCcontactClensCcareCsolutionsCinCremovingCcholesterolCdepositsCfromCsiliconeChydrogelCcontactClenses.CEyeCContactCLensC45:C105-111,C20195)LievensCW,KannarrS,ZootaLetal:LidpapillaeimproveC-mentCwithhydrogenperoxidelenscaresolutionuse.OptomVisSciC93:933-942,C20166)WaltersCR,CMcAnallyCC,CGabrielCMCetal:ComparisonCofCtheCantimicrobialCe.cacyCofChydrogenCperoxideCandCpovi-doneiodidecontactlenscareproducts.AAOptC20197)福田正道,北川和子,佐々木一之:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤の細胞毒性の検討.日コレ誌C32:39-42,C19908)Martin-NavarroCM,Lorenzo-MoralesJ,Lopez-ArencibiaAetal:Acanthamoebaspp.:E.cacyofBioclenFROneStepR,apovidone-iodinebasedsystemforthedisinfectionofcontactlenses.ExpParasitolC126:109-112,C20109)植田喜一:CLフィッティングケースバイケースポビドンヨードアレルギーが認められたケース.日コレ誌C47:C293-294,C200510)PuckerAD,NicholsJJ:Impactofarinsesteponproteinremovalfromsiliconehydrogelcontactlenses.OptomVisSciC86:943-947,C200911)OmaliCNG,CSubbaramanCLN,CColes-BrennanCCCetal:Bio-logicalCandCclinicalCimplicationsCofClysozymeCdepositionConCsoftcontactlenses.OptomVisSciC92:750-757,C201512)NegarCBO,CHeynenCM,CSubbaramanCLNCetal:ImpactCofClensCcareCsolutionsConCproteinCdepositionConCsoftCcontactClenses.OptomVisSciC93:963-972,C201613)土至田宏,村上晶,下川幸恵:シリコーンハイドロゲルレンズのタンパク質および脂質に対する付着性の評価.日コレ誌54:111-115,C201214)小玉裕司:ケア用品の基礎知識.日コレ誌C42:S11-S16,C200015)小玉裕司,梶田雅義,植田喜一ほか:コンタクトレンズデータブック第C3版.メジカルビュー社,201416)TakahashiCD,CUchidaCK,CIzumiT:ActivitiesCofClysozymeCcomplexedwithpolysaccharideandpotassiumpoly(vinylalcoholsulfate)withvariousdegreesofesteri.cation.PolymBullC67:741-751,C201117)KielJS:Proteinremovalfromsoftcontactlensusingdis-infection/neutralizationCwithChydrogenCperoxide/catalyticCdisc.ClinTherC15:30-35,C199318)RequenaCJR,CDimitroyaCMN,CLegnameCGCetal:OxidationCofCmethionineCresiduesCinCtheCprionCproteinCbyChydrogenCperoxide.ArchBiochemBiophysC432:188-195,C200419)三村達哉,須永鷹博,溝田淳:過酸化水素水によるCCL付着花粉の洗浄効果.アレルギーの臨床C40:60-69,C202020)岡田栄一,松田智子,横山哲朗ほか:ソフトコンタクトレンズに付着する涙液中タンパク質成分の解析.日コレ誌C49:C238-242,C2007C***

基礎研究コラム:眼球機能と構造における脂質代謝の役割

2021年2月28日 日曜日

眼球機能と構造における脂質代謝の役割小川護眼球各組織におけるさまざまな脂質の寄与一般的に脂質は細胞膜構成成分・エネルギー源・メディエーターの三大役割が生体で知られています.眼球は涙液から視神経に到るまでさまざまな組織で構築されていますが,マイボーム腺は脂質そのものを分泌するユニークな器官ですし,虹彩・毛様体からはプロスタグランジン(COX由来の脂質)が産生され眼圧を調節し,網膜はCw3脂肪酸の一つであるCDHAを生体内でもっとも濃縮して保持していますが,その生理的意義の多くは未だ不明です.これまでに,Cw3脂肪酸の網膜防御機能(慶大・厚東ら),コレステロールの網膜色素上皮細胞変性(京大・畑ら),角膜上皮障害へC12-HHTの回復寄与(順大・岩本ら)1),アレルギー性結膜炎へのCw3脂肪酸防御機能(順大・平形ら)2),EPA代謝物の網膜への寄与(ハーバード大・柳井ら),S1Pの網膜障害抑制(東大・寺尾ら),マクロファージ特異的なコレステロール代謝の加齢黄斑変性への寄与(ワシントン大・伴ら)など,さまざまな脂質の生理活性が報告されています.角膜上皮再生における好酸球.脂質代謝の寄与われわれは,元来,眼では悪者と考えられていた好酸球が,角膜創傷治癒において,脂質代謝酵素C12/15-リポキシゲナーゼ(以下,12/15-LOX)を介して眼表面で局所的に脂質代謝物を産生し,角膜上皮細胞の再生・治癒を促進することを発見しました3).マウス角膜創傷治癒モデルを誘導し細胞挙動を評価すると,治癒過程において好酸球が輪部付近に集積し,12/15-LOXを高発現していました.興味深いことに,当初,好酸球を欠損させると創傷治癒は促進すると仮説を立てていましたが,逆に創傷治癒が遅延しました.そこで好酸球特異的C12/15-LOX欠損マウスを作製し創傷治癒を評価すると,このマウスも治癒が遅延したことで,角膜上皮の再生・治癒において好酸球やC12/15-LOXの促進的な作用が明らかになりました.そこでCLC-MS/MS(liquidCchromato-graghy-tandemmassspectrometry)を用いた眼球における脂質メタボローム解析を行い,好酸球欠損マウスで顕著に減図1角膜創傷治癒における好酸球.12.15.LOXの寄与角膜創傷をトリガーに,眼表面において細胞間の相互作用が開始される.誘導された好酸球は,局所環境において12/15-LOXを介して脂質代謝物を産生する.それが幹細胞を刺激し,細胞増殖が起こると考えられた(文献C3のまとめ).理化学研究所メタボローム研究チーム慶應義塾大学医学部眼科学教室少を認めたC17-HDoHE(DHAからC12/15-LOXによって産生される代謝物)を点眼投与すると創傷治癒が改善されました.本研究において未解明な点は,1)12/15-LOX由来脂質代謝物がどのような受容体あるいは蛋白質との相互作用によるシグナル回路を介すか,2)好酸球やC12/15-LOXが細胞増殖を亢進している(Ki67+細胞の増加)が,幹細胞を含む輪部周辺にどのようにリクルートされるのか,3)元来悪者とされていた好酸球と誘導された好酸球は,異なる性質をもった細胞集団なのか,などがあり,今後の研究課題です.今後の展望脂質代謝物のシグナル経路としてCGPCRの網羅的スクリーニングアッセイが開発(東北大・井上ら)され,分子メカニズムの解明が期待されます.好酸球や脂質代謝の発現を制御することでCStevens-Johnson症候群やアルカリ外傷などの重症ドライアイ・遷延性上皮欠損に対して有効な治療法になりえるでしょう.今までは既存の代謝物を定量する測定方法を用いていましたが,ノンターゲット解析という新たな質量分析装置を用いた解析方法で未知の化合物が眼表面で捉えらえる可能性があり,特許取得や創薬治療に直結することが期待されます.文献1)IwamotoCS,CKogaCT,CYokomizoCTCetal:Non-steroidalCanti-in.ammatoryCdrugCdelaysCcornealCwoundChealingCbyCreducingproductionof12-hydroxyheptadecatrienoicacid,aligandforleukotrieneB4receptor2.SciCRepC7:13267,C20172)HirakataCT,CLeeCH,CYokomizoCTCetal:DietaryCw-3CfattyCacidsalterthelipidmediatorpro.leandalleviateallergicconjunctivitisCwithoutCmodulatingT(h)2CimmuneCresponses.FASEBJ33:3392-3403,C20193)OgawaM,TsubotaK,AritaMetal:EosinophilspromotecornealCwoundChealingCviaCtheC12/15-lipoxygenaseCpath-way.FASEBJC34:12492-12501,C2020CGenerationoflipd③metabolitesLipdmetabolitesIL-25,33lymphocyteIL-5abGPCRgsignalsthourghERK①wound②EosinophilsGPCRin.ltrationEosinophilsEGF↑Stemcells12/15-LOXStimulationCellCornealLimbus④⑤ofCLSCproliferationepithelium(63)あたらしい眼科Vol.37,No.2,2020C1790910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:Uveal effusion Ⅲ型に 対する硝子体手術 (中級編)

2021年2月28日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載213213Uveale.usionⅢ型に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにUvealCe.usionsyndrome(以下,UE)は,体位変換により網膜下液が移動する非裂孔原性網膜.離で,強膜肥厚により渦静脈が絞扼され,脈絡膜血管からの滲出が貯留する機序が考えられている.通常は小眼球に生じるが,Uyamaらは小眼球・強膜肥厚を認めないCUEをタイプIIIとして分類している1).筆者らは以前に強膜開窓術が奏効せず,硝子体手術により復位を得たタイプCIIIUEのC1例を経験し,pachychoroidCspectrumCdisease(PSD)との関連を疑い報告したことがある2).C●症例42歳,男性.右眼に網膜下液に可動性のある胞状の非裂孔原性網膜.離を認めた(図1).眼軸長は右22.36Cmm.術前のインドシアニングリーン蛍光眼底検査(IA)では,脈絡膜血管の拡張を認めた.OCTでは両眼とも脈絡膜の肥厚を認めた(図2).初回手術で強膜開窓術を施行したが復位が得られず,硝子体手術を施行した.水晶体切除,硝子体切除後に後極に意図的裂孔を作製し,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,シリコーンオイルタンポナーデを施行した.3カ月後にシリコーンオイル抜去と眼内レンズ二次挿入術を施行し,矯正視力はC0.5に改善した(図3).C●UEIII型とPSDUyamaらはCUEをCI~III型に分類した1).I型は小眼球・強膜肥厚ともに認めるもの,II型は小眼球を認めず強膜肥厚を認めるもの,III型は小眼球・強膜肥厚ともに認めないものである.通常,I型・II型には強膜開窓術が奏効するが,III型に対して強膜開窓術は無効であるという報告が多い.Uyamaらは組織学的にIII型には,I型・II型にみられるような膠原繊維の配列の乱れが少ないことを報告している.このことは,III型がCI型・II型とは異なった疾患単位である可能性を示唆している.本症例のCOCTでは,両眼とも拡張した脈絡膜血管,圧排された脈絡膜毛細血管を認め,中心窩下脈絡膜厚は(61)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1術前の右眼眼底写真網膜下液に可動性のある胞状の非裂孔原性網膜.離を認めた.図2右眼のOCT所見中心窩脈絡膜厚がC550μmと肥厚していた.図3術後の右眼眼底写真網膜は復位している.厚かった.また,IA所見もCPSDの特徴を呈していた.Haradaらは,OCTで脈絡膜厚がC787Cμmと著明に肥厚し,脈絡膜外層が低反射であるC41歳,男性のCUEを報告し,UEの発症に脈絡膜厚の増加が関与している可能性を指摘している3).強膜肥厚がなく脈絡膜が厚いだけでCUEのような胞状の非裂孔原性網膜.離をきたすのかについては議論の余地はあるが,今後CUEIII型と考えられる症例では,OCTによる脈絡膜厚の測定を行い,PSDとの関連を検討すべきかもしれない.文献1)UyamaCM,CTakahashiCK,CKozakiCJCetal:UvealCe.usionsyndrome:clinicalCfeatures,CsurgicalCtreatment,ChistologicCexaminationCofCtheCsclera,CandCpathophysiology.COphthal-mologyC107:441-449,C20002)TerubayashiCY,CMorishitaCS,CKohmotoCRCetal:TypeCIIICuveale.usionsyndromesuspectedtoberelatedtopachy-choroidCspectrumCdisease.CACcaseCreport.CMedicineC99:Ce21441,C20203)HaradaCT,CMachidaCS,CFujiwaraCTCetal:ChoroidalC.ndingsCinCidiopathicCuvealCe.usionCsyndrome.CClinCOph-thalmolC5:1599-1601,C2011あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021C177

開業医の加齢黄斑変性治療

2021年2月28日 日曜日

●連載104監修=安川力髙橋寛二84.開業医の加齢黄斑変性治療石川浩平石川眼科医院滲出型加齢黄斑変性(AMD)治療をとりまく環境はさまざまであり,病診連携が困難でマンパワーが不足する施設などでは,治療不足が生じていると考えられる.その治療不足を補い,治療回数を減らす方法のひとつとして,AMDの病型によって抗CVEGF薬治療の維持療法を変えることと,pachychoroid関連疾患には光線力学的療法を活用していく方法がある.はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)治療をとりまく環境はさまざまである.その環境により,AMD治療に対して抱える問題点は違う.ただどのような環境であっても,近年の治療方法が進歩したなか,視力,視機能低下を生じるような症例は,治療不足が大きなひとつの原因になっているのではないかと思われる.本稿ではさまざまな環境のなかで,開業医の立場でどのようにCAMD治療と相対するのか考えたい.CAMD治療をとりまく環境と問題AMD治療をとりまく環境を図1に簡単にまとめた.現在もっとも一般的で最良のCAMD治療は抗CVEGF薬の毎月連続C3回硝子体内注射で導入を行い,treatCandextend(TAE)法で維持療法を行う方法と考えられ,多数回の注射が必要である.この多数回の注射を,Aパターンのように拠点病院がCAMDの専門施設であれば,そこで治療方針を決め,拠点病院と紹介元の施設でその後の注射を手分けして行う,すなわち病診連携を行うことができる.もし紹介元の施設が抗CVEGF薬の注射を行っていなかったとしても,拠点病院は比較的マンパワーが豊富であることが多く,注射回数の増加に対する許容範囲は大きい.Bパターンでは,開業医がCAMDの専門施設であり,紹介元の施設が硝子体内注射を行っていないことも多く,すべてのCAMD患者を自院で治療,経過観察していかなくてはならないようなケースも多い.Bパターンではマンパワーが少ない施設で多数回の注射を行わなくてはならず,そのうち許容範囲を超えてくる.そこで生じやすいのがCTAE法での維持が必要である症例がCprorenata(PRN)法となり,治療不足に陥るという問題である.治療回数を減らす方法図1で示したCAMD治療をとりまく環境を変えることは困難である.BパターンのCAMD治療をする開業医に該当する当院では,治療不足にならないよう注意しながらできるかぎり注射回数を減らすことで,より多くのAMD患者を治療できるよう取り組んでいる.その取り組みとは,AMDのタイプ別に抗CVEGF薬の有効性を予想して維持方法を変えることと,光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)が有効な患者には積極的に早期から使用することである.実際の治療選択当院では,まずは光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で比較的脈絡膜が薄い患者は抗VEGF薬を毎月C3回投与で導入し,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の多くが網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)下の症例はTAE法で維持,CNVが網膜下まで至る症例はCPRN法で維持する.前者は再発時にCRPEが破壊され不可逆的A抗VEGF注射を行う病院・開業医抗VEGF注射を行わない病院・開業医B抗VEGF注射を行う病院・開業医抗VEGF注射を行わない病院・開業医図1AMD治療をとりまく環境(59)あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021C1750910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2Pachychoroidの1例a:カラー眼底写真で脈絡膜血管が見えにくく,橙赤色隆起病巣(ポリープ病巣)がみられる.Cb:OCT垂直断で脈絡膜厚がある程度厚く,脈絡膜CHaller総の血管拡張(pachy-vessel)と同部位の脈絡膜内層の菲薄化がみられ,ポリープ状病巣部位は網膜色素上皮の急峻な隆起がみられる.な視力低下となるリスクがあるため,後者はすでにRPEが破壊されており視力低下をきたしていることが多いため,このような方法を選択している.脈絡膜が厚いCpachychoroid関連疾患1)でCCNVを有する症例にはPDTと抗CVEGF薬の併用を考慮する.Pachychoroid関連疾患に対するCPDTの効果を検討した報告は少ないが,ポリープ状脈絡膜血管症に対してはCEVERESTCII試験で,早期からラニビズマブとCPDTの併用をすることの有効性が示されており,治療回数も少なくなる可能性が示唆されている2).CPDTをより有効に安全に行う方法まず症例選択が非常に大切である.Pachychoroidの定義とされている,脈絡膜厚がある程度厚く(200Cμm以上との報告あり),眼底検査で脈絡膜血管が見えにくく,脈絡膜CHaller層の血管拡張(pachy-vessel)と同部位の脈絡膜内層の菲薄化がある症例はCPDTを併用する候補となる(図2).このような症例であってもCPDTを照射する部位のCRPEの萎縮があったり,長年の漿液性C176あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021網膜.離の存在で感覚網膜の菲薄化があるような症例は避ける.PDTを併用する時点でこれらの条件を満たした症例は,ポリープ状病巣の有無にかかわらず,また早期であっても,レスキュー治療であっても有効性と安全性は高いと考える.逆にこれらの条件を満たさない症例は有効性,安全性ともに不確実であり,PDTの併用は勧めない.次に大切なのは抗CVEGF薬を併用することである.PDTに抗CVEGF薬を併用するのは抗CVEGF薬によりCNVを抑える直接的な効果もある.いっぽうで以前筆者らが行った研究では,PDT単独では治療後早期に大きく網膜機能の障害が生じるが,ステロイドや抗VEGF薬を併用することにより網膜機能障害が緩和できることを電気生理学的に確認している3~5).中心性漿液性脈絡網膜症と違い,CNVを伴う症例に対するCPDTは,PDTそのものにより生じるCCNVの炎症を抑えるためにも抗CVEGF薬の併用は重要であると考える.おわりにAMDをはじめ,抗CVEGF薬治療が適応となる疾患は多くあり,硝子体内注射回数の増加は眼科診療にとって大きな問題である.その解決策として病診連携が重要とされているが,それができない施設も多く存在する.今回紹介した治療方法は解決策のひとつであるが,それを行える施設も限られる.今後,さらに有効性,持続性,安全性の高いCAMD治療薬が登場することが期待される.文献1)CheungCCGM,CLeeCWK,CKoizumiCHCetal:Pachychoroiddisease.Eye(Lond)C33:14-33,C20192)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C20173)IshikawaCK,CKondoCM,CItoCYCetal:CorrelationCbetweenCfocalCmacularCelectroretinogramsCandCangiographicC.ndingsCafterCphotodynamicCtherapy.CInvestCOphthalmolCVisSci48:2254-2259,C20074)IshikawaCK,CNishiharaCH,COzawaCSCetal:FocalCmacularCelectroretinogramsCafterCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithposteriorjuxtascleraltriamcinoloneacetonide.RetinaC29:803-810,C20095)IshikawaCK,CNishiharaCH,COzawaCSCetal:FocalCmacularCelectroretinogramsCafterCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithCintravitrealCbevacizumab.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC249:273-280,C2011(60)

緑内障:緑内障配合薬のアップデート

2021年2月28日 日曜日

●連載248監修=山本哲也福地健郎248.緑内障配合薬のアップデート内藤知子グレース眼科クリニック2020年C6月にブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液「アイラミド」が上市された.アイラミドはCb遮断薬を配合しない国内で初めての配合点眼薬であり,Cb遮断薬が使用できない患者に対して新たな治療選択肢になるとともに,多剤併用治療されることが多い緑内障患者のアドヒアランス向上に貢献することが期待される.●緑内障点眼薬処方の原則緑内障治療の目的は患者の視機能を維持させることであり,現在,緑内障治療に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である.薬物治療を行う場合はまず単剤療法から開始し,目標眼圧に達さないなど有効性が十分でない場合に配合点眼薬を含む多剤併用を行うとされているが,緑内障診療ガイドライン第C4版には「併用処方時には薬理学的な作用点が同じ薬剤を選択してはならない」と記されており,併用して眼圧下降効果が期待できるのは,プロスタグランジン関連薬(以下,PG薬)・Cb遮断薬・Ca2作動薬(ブリモニジン)・炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitor:CAI)・Rhoキナーゼ(Rho-associatedCproteinkinase:ROCK)阻害薬(リパスジル)のC5成分が基本と考えられ,配合薬の使用にあたっても薬剤の作用機序が重ならないよう留意する必要がある.C●配合薬のメリット・デメリット配合薬を使用するメリットには,まず点眼回数を減らすことがあげられる.2剤併用を配合薬C1剤に変更することで,点眼ボトル数・1日の点眼回数が減少し,さらにC2剤以上を点眼する際には,5分以上の点眼間隔を空ける必要があるが,配合薬に変更することでその時間が不要となる.次に,防腐剤の総暴露量を減らすことができる.点眼薬に含まれている防腐剤が原因でアレルギー症状や角膜上皮障害が出現することがあるが,2剤併用を配合薬C1剤に変更することで防腐剤への総暴露量が減るので,副作用が減少する可能性がある.また,患者の点眼管理も簡便になるなど,アドヒアランスの観点からは配合薬の積極的な使用が勧められる.(57)配合薬のデメリットは,2剤併用の場合と配合薬C1剤の場合の眼圧下降効果が同等であるのかどうか不明な場合がある点である.たとえば,チモロールは本来C1日C2回点眼で使用する薬であるため,PG薬/Cb遮断薬(以下,CPG/b)配合薬のようにC1日C1回点眼で使用した場合には,眼圧下降効果が減少する可能性がある.2剤併用と配合薬とで比較した研究のメタアナリシスでは,2剤併用のほうが眼圧下降効果が強かったと報告されており1),それはCb遮断薬の点眼回数が少ないことが原因ではないかと推測されている.この点を考慮すると,2ボトルでC3成分の処方を行う際,PG/Cb配合薬+CAIの組み合わせよりは,PG薬にCCAI/Cb遮断薬(以下,CAI/Cb)配合薬を組み合わせるほうが理にかなっていると思われる.また,もう一つの欠点として,配合薬による副作用が出現した場合に,含有するC2成分のうちどちらの成分による副作用かわからない点があげられる.C●アイラミドの特徴これまで,わが国で承認されている配合点眼薬はCPG/b配合薬,CAI/Cb配合薬,Ca2作動薬/Cb遮断薬配合薬と,すべてがCb遮断薬との組み合わせであったため,Cb遮断薬が使用できない呼吸器・循環器系疾患を有する患者には配合薬が使用できず,配合薬同士の組み合わせもできないので薬剤選択の幅が少なくなることが難点であった.そこにC2020年,Ca2作動薬のブリモニジン酒石酸塩とCCAIのブリンゾラミドの配合薬である「アイラミド配合懸濁性点眼液」が上市された(表1).アイラミドは,ブリモニジン単剤・ブリンゾラミド単剤よりも有意に眼圧下降し,2剤併用群と同等の眼圧下降を得られることがわかっている.そして,わが国初のCb遮断薬を含まない配合薬であるので,Cb遮断薬を使用あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021C1730910-1810/21/\100/頁/JCOPY表1日本国内で発売されている緑内障配合薬製品名主成分C1主成分C2国内発売年防腐剤の種類ザラカムラタノプロストチモロールC2010CBACデュオトラバトラボプロストチモロールC2010塩化ポリドロニウムコソプトドルゾラミドチモロールC2010CBACアゾルガブリンゾラミドチモロールC2013CBACタプコムタフルプロストチモロールC2014CBACミケルナラタノプロストカルテオロールC2017ホウ酸エデト酸ナトリウムアイベータブリモニジンチモロールC2019CBACアイラミドブリモニジンブリンゾラミドC2020CBACC■:プロスタグランジン関連薬,C■:炭酸脱水酵素阻害薬,C■:a2作動薬,C■:b遮断薬,BAC:塩化ベンザルコニウムCPGPG+b遮断薬b遮断薬+CAIa2a2+CAI図13ボトルで4成分→2ボトルで4成分1日の総点眼回数もC5回からC3回に大幅に減少する.できない患者に処方できる配合薬としても有用である.なにより,これまでC3剤以上を使用していた多剤併用症例にアイラミドを組み合わせることで,点眼ボトル数および総点眼回数を大幅に減らすことができる.たとえば,PG薬・CAI/Cb配合薬・ブリモニジンのC3ボトルC4成分の組み合わせは進行例でよく処方されているが,アイラミドを利用することにより,2ボトルC4成分の処方が可能になる(図1).点眼回数はC5回からC3回に減り,かつ同程度の治療効果が得られることは,患者のアドヒアランスとCQOL向上の観点からは非常にメリットが大きい.さらに,アイラミドとCPG/Cb配合薬・リパスジルのC3ボトルでC5成分最大限の処方ができるようになったことも,アドヒアランス改善に大きく寄与すると考える(図2).C●おわりにメキシコなどの中南米諸国ではC2剤の配合薬のみならPG+b遮断薬a2+CAIROCK阻害薬ず,3剤・4剤の緑内障配合薬も発売されている2).配合される薬剤が増えるほど薬剤同士の相互作用や副作用の発現が懸念されるため,やみくもに配合薬を作ることには慎重にならないといけないが,これらの使用成績をみつつ,国内の配合薬の選択肢がさらに豊富になることが願われる.文献1)QuarantaL,BiagioliE,RivaIetal:ProstaglandinanalogsandCtimolol-.xedCversusCun.xedCcombinationsCorCmono-therapyCforopen-angleCglaucoma:ACsystematicCreviewCandmeta-ana.OculPharmacolTherC29:382-389,C20132)Baiza-DuranCLM,CLlamas-MorenoCJF,CAyala-BarajasC:CComparisonCofCtimolol0.5%+brimonidine0.2%+dorzol-amide2%CversusCtimolol0.5%+brimonidine0.2%CinCaCMexicanpopulationwithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmolC6:1051-1055,C2012図23ボトルで5成分5成分最大限の処方でも目標眼圧が達成できず,視野障害が進行するなどの場合には,緑内障手術治療を検討する.174あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021(58)

屈折矯正手術:ハイブリッドレンズ

2021年2月28日 日曜日

監修=木下茂●連載249大橋裕一坪田一男249.ハイブリッドレンズ吉野健一吉野眼科クリニック円錐角膜眼の屈折矯正において,ソフトコンタクトレンズ(SCL)は,装用感は良いが良好な視力が得られない.したがって,良好な矯正視力が得られるハードコンタクトレンズ(HCL)が第一選択となるが,一方で装用感の不良と,とくに進行例では角膜に障害を起こすことがある.SCLとHCLの欠点を補い利点を合わせもつハイブリッドレンズについて概説する.●従来の円錐角膜眼の屈折矯正円錐角膜は不正乱視を呈しているためソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)では良好な屈折矯正効果が得られない.したがって,球面カーブ,多段カーブ,カスタムカーブといったハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が屈折矯正の第一選択となり,2点接触,3点接触によるフィッティングがなされる1).しかし,HCL特有の異物感,レンズ下への異物の侵入による角膜上皮障害,また病期の進行に伴う角膜突出部とレンズ裏面の接触による角膜障害,疼痛,はずれやすいといった不具合が生じる.それに対して,SCLの上にHCLを装用するピギーバックレンズシステムが考案され,フィッティングの安定性と装用感の改善が得られたが,酸素透過性の低下や装用の煩わしさに問題がある1).強膜レンズは,強膜アライメントにフィットし,レンズ裏面は涙液リザーブにより角膜に接触することなく眼球前部1/4を覆う大きなHCLで,装用感も良く屈折矯正効果も良好だが,国内未承認ゆえ入手困難で限定処方となる.また,フィッティングにはある程度の熟練を要する1).そこで登場したのが,上記の問題点を一挙に解決するハイブリッドレンズである.●ハイブリッドレンズの適応ハイブリッドレンズは,中心部はRGP(rigidgaspermeable)素材,周辺部はソフト素材という異なるレンズ素材が重合することにより構成されており(図1),SCLの装用快適性とHCLの良好な屈折矯正効果のメリットを兼ね備えている.以下,日本未承認レンズではあるが,当院で処方しているLCS社製EyeBridSiliconeを例に述べる.ハイブリッドレンズが適応となる症例は,①フィッティングが不良,装用感が悪いHCLの装用者,②円錐角膜をはじめとした不正乱視眼,③すべての屈折異常(55)0910-1810/21/\100/頁/JCOPYab図1EyeBridSiliconeのレンズデザインa:Dk値100のRGP素材とDk値50のシリコーンハイドルゲル素材を重合したボタンからレースカット製法にて作製される.b:レンズ周辺部はシリコーンハイドロゲル・ソフトレンズ・スカート,Dk値50.レンズ中心部はリジッドセントラルゾーン,直径8.50mm,Dk値100.レンズ総直径は15.5mm.(2020LaboratoireLCSより転載)(近視,遠視,乱視眼),④ピギーバックレンズ装用者,である.●ハイブリッドレンズの処方テクニック一見,簡単そうに思える処方だが意外に奥が深い.従来の円錐角膜眼への処方と異なる点は,強膜部や眼瞼部にはレンズ周辺部を構成するSCL部分がフィットすることより,2点接触や点接触処方ではないという点である.処方のポイントは,処方交換を最小限に,いかに効率よく,いかに最高視力を出し,いかに快適で安全な処方をするかにある.図2に本レンズのパラメータを示す.(1)ハード部分のベースカーブの選択アピカルタッチによる角膜上皮障害が生じないよう,涙液リザーブを調整する(図2).スティープ・フィッティングでは,上皮障害を起こしにくいが,エッジ部分の接触や固着により異物感の原因や涙液交換不良の原因あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021171②ELa③SkirtJ+1.0+0.50.0-0.5-1.0図2EyeBridSiliconeのレンズパラメータと理想的なフィッティングa:①ハード部分のBC:涙液リザーブを調整する.第一選択トライアルレンズのBCは,Ave.K+0.2mmである.②ハード部分のEL:角膜に固着しないよう,安定したフィティングと快適な装用感が得られるよう-1.3~+3.0の範囲で選択する.トライアルレンズはすべてEL=Standard0.0である.③SkirtJ:良好なレンズ・センタリングとレンズの固着を防止するために,その傾斜は-1.0(スティープ)から+1.0(フラット)まで5段階ある.b1:理想的なフィッティングの高分子フルオレセイン染色パターン.b2:フラットなELゆえELをマイナス(-0.5)へ(スティープヘ).b3:スティープなELゆえELをプラス(+0.5)へ(フラットヘ).(2020LaboratoireLCSより一部転載)となる.また,レンズ下の涙液レンズによる遠視化で矯正視力も不良となりやすい.一方,フラット・フィッティングでは,視力は出やすいが,異物感や角膜上皮障害のリスクが高まる.第一選択トライアルレンズのベースカーブ(basecurve:BC)は,Ave.K+0.2mmとされている.アピカルタッチによるフルオレセイン・ステイニングが生じた場合は,BCをスティープにする.BC部のフィッティングはスティープ過ぎてもフラット過ぎても装用感は不良となる.(2)エッジリフトの選択ハード部分のエッジリフト(edgelift:EL)は,レンズが角膜に固着(impinging)しないよう,安定したフィッティングと快適な装用感が得られるよう-1.3~+3.0の範囲で選択する(図2).トライアルレンズはすべてEL=Standard0.0である.上記(1)(2)のフィッティング調整は,涙液をフルオ172あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021図3高分子フルオレセイン(FluoSoft)ソフトレンズ素材に浸透しない高分子フルオレセインを生理食塩水に溶解し,レンズ下に満たして装用し,フィッティングを観察する.レセインで染色し,スリットランプ下で観察することが必須である.しかし,トライアルレンズの周辺部はシリコーン素材であるため,通常のフルオレセインでは色素が周辺部ソフトレンズに浸透してしまう.ソフトレンズ素材に浸透しない高分子フルオレセイン液をレンズ下に満たして装用し観察する必要がある(図3).(3)SkirtJの選択SkirtJは,ハード部分に続く周辺のソフト部分が角膜輪部から強膜部分にかけてアライメントにフィットし,良好なレンズ・センタリングとレンズの固着を防止するために,その傾斜を-1.0(スティープ)から+1.0(フラット)まで5段階で調節するものである(図2).レンズの光学部(ハード部分)が常に瞳孔領を覆い,レンズが瞬目により0.25~0.50mm動くことが調節の目安となる.また,前眼部OCTのCASIA(トーメーコーポレーション)のある施設では,そのフィッティングをビジュアルで観察することも可能である.トライアルレンズはすべてJ=0.0である.●まとめフィッティング不良,装用感不良,不正乱視による矯正視力不良,そしてあらゆるコンタクトレンズユーザーに適応のあるハイブリッドレンズ(EyeBridSilicone)を紹介した.とくに円錐角膜眼への処方においては,最高視力を出し,角膜に障害を生じさせず,良好な装用感を得るために,高分子フルオレセインを用いたBCとELとSkirtJの調整が処方のポイントとなる.文献1)島﨑潤,前田直之,加藤直子編:どう診てどう治す?円錐角膜.メジカルビュー社,2017(56)

眼内レンズ:乱視矯正機能を有する低加入度数分節眼内 レンズ「レンティス コンフォート トーリック」

2021年2月28日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋411.乱視矯正機能を有する低加入度数分節眼内大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科レンズ「レンティスコンフォートトーリック」+1.5Dの加入度数を有する屈折型のC2焦点眼内レンズである「レンティスコンフォート」(参天製薬)に,乱視矯正機能を付加したトーリック版が登場した.従来のレンティスコンフォートと同様,選定療養ではなく,保険診療の枠内で使用することができる.軸安定性および乱視矯正効果は非常に良好である.本製品は「良好な遠方・中間視力」「不快な自覚症状の抑制」「焦点深度の拡張」「術前乱視の軽減」を実現させることによって,術後視機能の質の向上に寄与し,快適な見え方を提供する眼内レンズである.●はじめに低加入度数分節型眼内レンズ「レンティスコンフォート」は,+1.5Dの差がある二つの光学部をasymmetricな扇状に配した独自の形状を有するレンズである.その設計上の特徴から,ハロー/グレアといった不快な光学現象が生じにくく,またコントラスト感度の低下もほとんどみられない1).広い明視域をもちながら不具合が少なく,保険診療の枠内で単焦点眼内レンズと同じ感覚で使用できる製品である.今回,本レンズに乱視矯正機能を付加した「レンティスコンフォートトーリック」が登場したことにより,角膜乱視を有する症例にも適応が広がった2).C●デザインとトーリック度数二つの異なる度数の単焦点レンズを繋ぎ合わせたような分節型(segmented)レンズである.従来の多焦点眼内レンズが同心円状のデザインであったのに対して,非対称の配置となっているところが特徴的である.瞳孔径によって遠用/中間用ゾーンの面積比率が大きく変わらないため,遠中の見え方のバランスは瞳孔径に影響されにくい.レンズ状のトーリックマーク(axismark)は長軸方向に印されている(図1).このマークを角膜の強主経線に合わせることになる.トーリックの度数はC3種類(モデル名:LS-313MF15T1/T2/T3)で,円柱度数は表1のようになっている.C●使用方法新インジェクター(エタニティーアクセスイーズLCJ,参天製薬)は,眼内レンズに触ることなく,眼内レンズ固定器具をそのままインジェクターに装.するタイプである.保存容器から取り出した眼内レンズ固定器具を,(53)図1レンティスコンフォートトーリック低加入度数分節眼内レンズにトーリック矯正機能が付加されたもの.表1円柱度数型番CT1CT2CT3眼内レンズ面C1.5DC2.25DC3.0D角膜面C1.05DC1.58DC2.1Dインジェクター側面の開口部に差し込む(図2).一方向でしか噛み合わないので,上下左右を間違えることはない.装.したのち,インジェクター内部を粘弾性物質で満たす.プランジャーを前進させ,眼内レンズを前方に押していく.C●挿入操作強角膜の場合,2.2Cmmの創口からカートリッジ先端を前房内に挿入し,眼内レンズを押し出していく(図3).眼内レンズが水平に出るように方向を調整しながら,プランジャーを押す(図4).通常はインジェクターの回転操作は必要なく,単純に押し出していくだけでよい.先行部分が.内に入ったら,インジェクターを引き抜く.プランジャーは押し出しすぎないほうがよい.プランジャーの先端部は若干太くなっており,この部分が眼内に深く入ってしまうと,創口から抜き出しにくくなる.続いて手前部分を挿入する.レンズ手前部分がインジェクターから出てきたところで,フックでレンズを下に向かって押すようにすると(図5),レンズは.内に挿入される.C●軸合わせレンズを回転し(図6),axismarkを角膜の強主経線あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021C1690910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2インジェクターへの装着図3眼内レンズ挿入図4先行部分の挿入図5手前部分の挿入インジェクター側面の開口部2.2Cmmの強膜創から前房内レンズの先行部分を.内にレンズ手前部分がインジェクに,カートリッジを差し込む.に挿入.挿入.ターから出てきたところで,セミプリロード型である.フックで下に向かって押すことにより,.内に挿入できる.図6レンズの回転図7軸合わせ図8粘弾性物質の洗浄図9手術終了時フックでレンズを回転させる.強主経線にレンズのCaxismarkI/Aチップを眼内レンズ裏に.内での安定性はきわめてを合わせている.挿入し,洗浄している.良好である.乱視量Astigmatism(D)2.521.510.50pre1day1week1month3months6monthsTime図10乱視量の変化術前の角膜乱視と,術後の屈折乱視の経時変化.(文献C2より引用)に合わせる(図7).本レンズはプレート型であり,通常のオープンループ型眼内レンズより若干回転させづらいが,フックでの操作で問題なく回すことができる.レンズ光学部の表面を単純に押していくだけで回転できるし,大きく角度を変えたい場合はホール部にフックを引っかけて回転すればよい.眼内レンズ裏の粘弾性物質を洗浄し(図8),レンズの軸方向を再確認して手術終了となる(図9).術後の軸安定性はきわめて良好で,術後C1日からC6カ月の軸回転量はC1.66C±1.17°,乱視の矯正効果も良好であった2)(図10).C●おわりにトーリック版の登場により,レンティスコンフォートの適応はさらに広がった.保険診療で使用でき,かつ不快な光学現象が少ないことから,幅広い患者層に使用できる眼内レンズであると考えられる.文献1)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C20192)OshikaCT,CNegishiCK,CNodaCTCetal:ProspectiveCassess-mentCofCplate-hapticCrotationallyCasymmetricCmultifocalCtoricCintraocularClensCwithCnearCadditionCof+1.5Cdiopters.CBMCCOphthalmolC20:454,C2020

コンタクトレンズ:今だからハードコンタクトを見直す 今だからハードコンタクトを見直す

2021年2月28日 日曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科医院9.パワーの決定■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)のサイズ,ベースカーブ(basecurve:BC),ベベル,エッジ形状の選択が終わって良好なフィッティングが得られたと判断したら,最終的にHCLのパワー(度数)を決定する.しかし,HCLでは良好な視力が得られない症例があることも理解していなくてはならない.■パワーの決定法(全乱視がほぼ角膜乱視の場合)RV=0.2(1.2×sph.1.25D)オートレフ値:R)sph.1.50Dcyl.0.25DAx3°オートケラト値:45.00DAx180°44.75DAx90°このような症例では,テストレンズを装用させると(ほとんどのテストレンズのパワーは.3.0Dか.4.0D)過矯正になる.そこで,プラスレンズを予定のパワーよりも強めに入れて,雲霧法を使いながら矯正していく.(0.8×750/.3.0/8.8=+2.50D)(0.9×750/.3.0/8.8=+2.25D)(1.2×750/.3.0/8.8=+2.00D)(1.2×750/.3.0/8.8=+1.75D)(1.5×750/.3.0/8.8=+1.50D)(1.5×750/.3.0/8.8=+1.25D)こういう経過で視力矯正が得られたならば,最終的なパワーを決めなければならない.候補としては1.2の視力が得られた+2.00Dか+1.75Dを加えたパワーであるが,同じ視力なら弱いほうのパワーを選択するという考え方もある.筆者はHCLの上からオーバースキアをして選択する場合もあるが,赤緑試験を用いてもよい.赤緑試験とは1.0や1.2の視力が得られるようなほぼ完全矯正の状態で,低矯正か過矯正かをチェックする方法である(図1).+2.00Dのレンズを加えた状態で赤色の背景のほうがよく見え,+1.75Dのレンズを加えた状態で緑色の背景のほうがよく見えた場合は,+1.75Dのレンズでは過矯正となるので+2.00Dのレンズを選択する.よって処方レンズは750/.1.00/8.8で,そのHCLによる視力は1.2である.この症例のような軽い近視では以上のようにパワーを決定するが,強度近視や強度遠視では,角膜頂点間距離補正を行ったうえで,矯正するパワーを求めていかねばならない.いずれの場合も,雲霧法を利用して過矯正にならないように気をつける.また,強度近視や強度遠視の場合,テストレンズに強い度数がそろっていれば,で図1赤緑指標試験(2色テスト・R.Gテスト)正視の場合,無限遠から来た光は網膜上に焦点を結ぶ.さまざまな波長のなかでも黄色が網膜上にあるときが一番ものが見やすく,波長の長い赤色は屈折力が弱くて網膜のやや後方に,緑色は波長が短くて屈折力が大きくやや前方に位置する(a).近視の矯正で過矯正になると,緑色の焦点は後方に移動して網膜に近づくことになり,緑色の背景の円や十字などの指標のほうが赤色の背景の指標よりはっきり見える(b).低矯正では,その逆のことが生じて,赤色の背景の指標のほうが緑色の背景の指標よりもはっきり見える.このことを応用して,低矯正か過矯正を調べる方法が赤緑指標試験である.ただし,この試験法は完全矯正に近い状態でのみ有効である.(51)あたらしい眼科Vol.38,No.2,20211670910-1810/21/\100/頁/JCOPY涙液図2涙液レンズHCLと角膜の間に存在する涙液がレンズの働きをしてしまう.フラットではマイナスレンズ,スティープではプラスレンズとして働く.きるだけ実際のパワーに近いものを選択して,パワーを決定する.■残余乱視でHCLでは良好な視力が得られない症例RV=0.1(1.5×sph.3.00D(cyl.1.50DAx180°)オートレフ値:R)sph.3.75Dcyl.1.75DAx2°オートケラト値:45.50DAx180°45.75DAx90°このような症例では角膜乱視は.0.25DAx180°であり,全乱視は.1.50DAx180°である.球面HCLは角膜乱視の矯正のみ可能であり,球面HCLを装用させた場合は.1.25DAx180°の乱視が残ることになる.このような乱視を「残余乱視」とよび,この症例では球面HCLでは良好な視力が得られない.■持ち込み乱視でHCLでは良好な視力が得られない症例RV=0.1(1.2×.3.25D)オートレフ値:R)sph.3.75Dcyl.0.25DAx2°オートケラト値:45.50DAx180°47.00DAx90°このような症例では角膜乱視は.1.50DAx180°であり,全乱視は.0.25DAx180°である.球面HCLは角膜乱視の矯正のみ可能であり,球面HCLを装用させた場合は.1.25DAx90°の乱視が出ることになる.このような乱視を「持ち込み乱視」とよび,この症例でも球面HCLでは良好な視力が得られない.■残余乱視や持ち込み乱視で良好な視力が得られない場合の対処法HCLにて対処するのであれば後面トーリックHCLや両面トーリックHCLを処方することもあるが,筆者はトーリックSCLを処方することが多い.■BC変更とパワー変更HCLのBCと角膜の間には涙液が存在し,この涙液がレンズの働きをしてしまう.これを涙液レンズとよぶ(図2).角膜曲率半径とレンズの関係が平行な「パラレル」の状態ではレンズとしての働きはないが,角膜曲率半径のほうがBCよりも小さい「スティープ」の状態では涙液レンズはプラスとして働き,角膜曲率半径のほうがBCよりも大きい「フラット」の状態では涙液レンズはマイナスとして働く.たとえばHCLのBCを1段階フラットにすると,ほぼ.0.25Dの度数が加わることになる.■初めてHCLを装用した場合の注意点初めてHCLのテストレンズを装用した患者の場合,異物感であまり瞬目をせず,レンズが下方や上方に位置したまま矯正をしてしまうことがある.これでは正確なパワーを決めることができないことがあるので,しっかりと瞬目をするよううながしながら矯正視力を求めなくてはならない.あまりに異物感を訴える場合は,しばらく時間を置いてから計測するか,点眼麻酔薬を使用することも考慮に入れる.

写真:アトピー性角結膜炎に伴う角膜プラーク

2021年2月28日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横吉村井則彦彩野細谷友雅441.アトピー性角結膜炎に伴う角膜プラーク兵庫医科大学眼科学教室図1初診時の左眼前眼部写真角膜中央部に広範囲なプラーク形成と結膜充血を認める.眼瞼は腫脹し,皮膚は肥厚している.矯正視力(0.3).図3左眼前眼部フルオレセイン染色写真角膜プラークが鮮明になり,プラーク上は上皮が欠損している.図4治療開始半年後の左眼前眼部写真2回目の角膜プラーク切除後は結膜充血も改善し,角膜の上皮化,消炎が得られたが,実質混濁は残存している.矯正視力(0.3).(49)あたらしい眼科Vol.38,No.2,20211650910-1810/21/\100/頁/JCOPYアトピー性角結膜炎に合併した角膜プラークの1例を紹介する.患者は63歳,女性.主訴は左眼の視力低下と眼痛である.半年前に左眼痛を自覚し,近医にて巨大乳頭,角膜びらんを認め,4カ月前からは眼脂と視力低下も訴えていた.角膜の状態が悪化し,紹介受診となった.既往歴は高血圧症とアトピー性皮膚炎であった.受診時の矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.3)で,左眼の眼瞼腫脹,充血を伴う上眼瞼結膜巨大乳頭,角膜中央部の広範囲なプラーク形成を認めた(図1~3).右眼は軽度充血を認めるものの,乳頭増殖はなく,角膜病変も認めなかった.顔面の皮膚は全体的に乾燥,肥厚し,発赤を伴っており,皮膚科でオロパタジン塩酸塩錠が処方されていた.所見よりアトピー性角結膜炎,アトピー性眼瞼炎と診断した.オロパタジン塩酸塩点眼,リン酸ベタメタゾン点眼,タクロリムス点眼,レボフロキサシン点眼で治療を開始した.経過中MRSA角膜炎を併発したが,抗菌薬による治療ですみやかに改善した.保存的治療で上皮化が得られなかったため,2カ月半後に角膜プラーク切除を施行したが,術後も炎症が遷延し,角膜プラークが再燃した.眼瞼炎に対しタクロリムス軟膏を追加し,石灰化によるプラーク増悪を回避するためにリン酸ベタメタゾン点眼をデキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム点眼に変更,ステロイド内服も追加し,さらなる消炎を行って,初診から6カ月後に2回目の角膜プラーク切除を施行した.術後は上皮化が得られ(図4),巨大乳頭も改善し,眼表面の安定化を得た.アレルギー性結膜疾患のうち,春季カタルやアトピー性角結膜炎は,結膜の強い炎症により種々の角膜障害をきたす1~3).角膜プラークとは,角膜潰瘍が遷延化し,シールド潰瘍の底に炎症性残渣物が堆積し,均一な白色物質となったものである.組織学的には層状構造を呈し,免疫染色では好酸球由来の細胞障害性蛋白が検出されることより,変性した上皮細胞や好酸球,ムチンなどが構成成分ではないかと考えられている3).いったん厚い角膜プラークが形成されると,堆積したプラークが角膜上皮細胞の遊走を物理的に阻害する3).このため,上皮化が得られない場合は積極的にプラークを外科的に.離・除去することを検討したほうがよい.しかし,消炎が不十分だとプラークが再発することがあるので,まずは結膜でのアレルギー性炎症の鎮静化を図る.重症アレルギー性結膜疾患の場合,抗アレルギー点眼薬で効果不十分の場合は,免疫抑制点眼薬,ついでステロイド点眼薬の順に追加することが推奨されている2).局所治療で改善が得られない場合は,ステロイドの内服追加や巨大乳頭切除も検討する.炎症の活動性や治療効果は,掻痒感,充血,眼脂などの自覚症状と,結膜乳頭の丈や充血,浮腫,またプラーク周囲の点状表層角膜症の程度などで判定する.リン酸カルシウム塩を含むステロイドは,点眼液中のリン酸塩がカルシウムと結合して角膜の石灰化を引き起こすことがある4).本症例は経過中に角膜プラークが再燃したため,さらなる増悪を危惧し,リン酸カルシウム塩を含まないデキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム点眼に変更した.文献1)近間泰一郎,西田輝夫:アトピー性角結膜炎.臨床眼科61:484-486,20072)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版):日眼会誌114:833-870,20103)福田憲,熊谷直樹,西田輝夫:日常みる角膜疾患角膜プラーク.臨床眼科60:162-164,20064)長井紀章,伊藤吉將:知っておきたい!点眼剤の基礎知識添加物による眼組織への影響.薬局65:1731-1737,2014

難治性角膜疾患のレジストリー研究

2021年2月28日 日曜日

難治性角膜疾患のレジストリー研究RegistryResearchofIntractableCornealDiseases大家義則*川崎良**西田幸二*はじめに難治性疾患,いわゆる「難病」とは,発病の機構が明らかでなく,治療方法が確立していない希少な疾病であって,長期の療養を必要とするものと定義されている.角膜疾患にも多くの難治性疾患があるが,そのなかでも「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)に基づき,現在,無虹彩症,前眼部形成異常,膠様滴状角膜ジストロフィの3疾患が指定難病に指定されている.対象患者が診断基準により指定難病と診断され,重症度分類に照らしてIII度以上であると診断されると医療費助成の対象となり,医療費の自己負担上限額が所得に応じて設定される.筆者らは厚生労働省難治性疾患政策研究事業において全国の角膜専門医を中心に研究班を組織し,多施設共同研究として「希少難治性角膜疾患の疫学調査」「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」「前眼部難病の標準的診断基準およびガイドライン作成のための調査研究」を実施してきた.参加施設は愛媛大学,大阪大学,金沢大学,京都府立医科大学,杏林大学,慶應義塾大学,国立成育医療研究センター,順天堂大学,東京歯科大学,東京大学,東邦大学,宮田眼科病院(50音順)の12施設である.上記の各研究班では,指定難病3疾患を含む難治性角膜疾患(前眼部形成異常,無虹彩症,膠様滴状角膜ジストロフィ,Fuchs角膜内皮ジストロフィ,眼類天疱瘡など)について診断基準,重症度分類および診療ガイドラインの策定を目的とした疫学調査を行い,レジストリー登録を行ってきた.そのなかでも本稿では無虹彩症についての取り組みを中心に紹介する.I無虹彩症無虹彩症は,虹彩の先天性形成異常(完全または不完全欠損)を特徴とする疾患である(図1~3)1).有病率は64,000~96,000人に1人とされ,比較的まれな疾患である2,3).性差はなく,本疾患は遺伝性疾患で,常染色体優性遺伝形式を示す.患者の2/3程度が家族性に発症しており,残る1/3は孤発性であると報告されている.責任遺伝子はPAX6遺伝子であることが知られており,この遺伝子の片アレルの機能喪失によって機能遺伝子量が半減し,ハプロ不全によって発症すると考えられており,両アレルが異常の場合には胎生致死となると考えられる4).遺伝子変異はノンセンスやフレームシフトなどPTC(prematuretruncatedcodon)型の変異が多く,ミスセンス変異も報告がある5~7).本疾患の眼合併症として,虹彩形成異常以外にも角膜実質混濁や角膜上皮幹細胞疲弊症をはじめとした角膜症(図2),白内障(図3),高眼圧や緑内障,黄斑低形成,小眼球症,眼球振盪症などが知られており,視力予後は一般に不良である8,9).また,虹彩形成異常のために羞明を訴えることも多い.角膜症については幼少時には正常であることが多いが,成長につれ角膜実質混濁や角膜上皮幹細胞疲弊症を合併して視力低下の原因となることがある9).実質混濁に対する治療として表層もしくは全*YoshinoriOie&*KohjiNishida:大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)**RyoKawasaki:大阪大学大学院医学系研究科視覚情報制御学寄付講座〔別刷請求先〕大家義則:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(43)159図1無虹彩症患者の前眼部写真図2無虹彩症患者の前眼部写真虹彩欠損および周辺部角膜の混濁を認める.虹彩形成異常はあまり目立たない.角膜には血管新生およ(文献C1より引用)び混濁を認める.(文献C1より引用)図3無虹彩症患者の前眼部写真著明な白内障を認める.虹彩欠損も認める.(文献C1より引用)表1無虹彩症の診断基準A.症状1.両眼性の視力障害注1)2.羞明注2)B.検査所見1.細隙燈顕微鏡検査で,部分的虹彩萎縮から完全虹彩欠損までさまざま程度の虹彩の形成異常を認める注3).2.眼底検査,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査等で,黄斑低形成を認める注4).3.細隙燈顕微鏡検査で,角膜輪部疲弊症や角膜混濁などの角膜病変を認める注5).4.細隙燈顕微鏡検査で,白内障を認める注6).5.超音波検査,magneticresonanceimaging(MRI),computedtomography(CT)で,小眼球を認める.6.眼球振盪症を認める.7.眼圧検査等で,緑内障を認める注7).C.鑑別診断1.ヘルペスウイルス科の既感染による虹彩萎縮2.外傷後または眼内手術後虹彩欠損3.眼杯裂閉鎖不全に伴う虹彩コロボーマ4.Rieger異常5.虹彩角膜内皮(iridocornealendothelial:ICE)症候群D.眼外合併症PAX6遺伝子変異に伴う異常注8)E.遺伝学的検査PAX6遺伝子の病的遺伝子変異もしくはC11p13領域の欠失を認める.F.その他の所見家族内発症が認められる注9).<診断のカテゴリー>De.nite:Aのいずれか+B1+Eを満たし,Cを除外したものProbable:(1)Aのいずれか+B1+Fを満たし,Cを除外したもの(2)Aのいずれか+B1およびCB2を満たし,Cを除外したもの(3)Aのいずれか+B1およびCB3を満たし,Cを除外したものPossible:Aのいずれか+B1を満たし,Cを完全には除外できない注1)黄斑低形成,白内障,緑内障,角膜輪部疲弊症などの眼合併症により視力低下を来す.注2)虹彩欠損の程度により羞明を訴える.注3)60~90%が両眼性.注4)黄斑部の黄斑色素,中心窩陥凹,中心窩無血管領域が不明瞭となる.注5)病期により,palisadesofVogtの形成不全から,血管を伴った結膜組織の侵入,上皮の角化までさまざまな程度の角膜病変をとりうる.注6)約C80%に合併する.注7)隅角の形成不全によりC50~75%に合併する.注C8)PAX6遺伝子は眼組織の他,中枢神経,膵臓CLangerhans島,嗅上皮にも発現しており,これらの組織の低形成により,脳梁欠損,てんかん,高次脳機能障害,無嗅覚症,グルコース不耐性などさまざまな眼外合併症を伴うことがある.注9)家族性(常染色体優性遺伝)がC2/3で残りは孤発例である.(文献C1より引用)表2無虹彩症の重症度分類I度:罹患眼が片眼で,僚眼(もう片方の眼)が健常なものII度:罹患眼が両眼で,良好なほうの眼の矯正視力C0.3以上III度:罹患眼が両眼で,良好なほうの眼の矯正視力C0.1以上,0.3未満IV度:罹患眼が両眼で,良好なほうの眼の矯正視力C0.1未満注C1)健常とは矯正視力がC1.0以上であり,視野異常が認められず,また眼球に器質的な異常を認めない状況である.注2)I~III度の例で続発性の緑内障等で良好な方の眼の視野狭窄を伴った場合には,1段階上の重症度分類に移行する.注3)視野狭窄ありとは,中心の残存視野がCGoldmannI/4視標でC20度以内とする.注C4)乳幼児などの患者において視力測定ができない場合は,眼所見などを総合的に判断して重症度分類を決定することとする.(文献C1より引用)図4難病プラットフォームの構成難治性疾患政策研究事業研究班や難治性疾患実用化研究事業研究班から得た情報をもとにデータベースを構築している.(難病プラットフォームのホームページより)図5無虹彩症患者の難病プラットフォームへの入力画面視力,眼圧,緑内障の有無など診療情報の入力が可能である.(文献C1より引用)-