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当院におけるサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の短期的術後成績

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1196.1200,2017c当院におけるサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の短期的術後成績本田紘嗣*1野本洋平*1戸塚清人*2高田幸子*1曽我拓嗣*1杉本宏一郎*1中川卓*1*1総合病院国保旭中央病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科・視覚矯正科Short-termResultsofCombinedPhacoemulsi.cation,IntraocularLensandTrabeculotomywithSinusotomyatAsahiGeneralHospitalKojihonda1),YouheiNomoto1),KiyohitoTotsuka2),SachikoTakada1),HirotsuguSoga1),KouichirouSugimoto1)andSuguruNakagawa1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:当院で術後1年間フォロー可能であったサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術について検討を行った.対象および方法:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を施行した症例のうち,術後1年間フォロー可能であった症例39症例50眼を対象とした.病型,術前後眼圧,術前後点眼スコア,合併症および生存率について検討を行った.結果:眼圧に関しては,術前平均18.0±4.9mmHgから術後1年で13.0±3.3mmHgと下降していた.また,点眼スコアに関しても,術前4.3±1.8から術後1年で2.1±1.6と下降していた.合併症に関しては重篤なものはなかった.生存率に関して,原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に有意差は認めなかった.結論:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術は重篤な合併症なく,術後眼圧および点眼スコアにおいて下降が得られた.Purpose:Toevaluatethesurgicaloutcomeoftrabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomy(LOT+PEA+IOL+SIN).Methods:Weconductedaretrospectivestudy,1yearpostoperatively,ofpatientswhohadundergoneLOT+PEA+IOL+SIN.Analysisincludedtypeofglaucoma,preop-erativeandpostoperativeintraocularpressure(IOP),preoperativeandpostoperativeeyedropscore,postoperativecomplicationsandsurvivalrate.Results:IOPdecreasedfrom18.0±4.9mmHgpreoperativeaverageto13.0±3.3mmHgpostoperativeaverage.Eyedropscoredecreasedfrom4.3±1.8preoperativeaverageto2.1±1.6postop-erativeaverage.Therewasnoseriouspostoperativecomplication,norwasthereanysigni.cantdi.erencebetweenprimaryopen-angleglaucomaandexfoliationglaucomaasregardssurvivalrate.Conclusions:IOPandeyedropscoredecreasedafterLOT+PEA+IOL+SINwithoutseriouscomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(8):1196.1200,2017〕Keywords:緑内障,線維柱帯切開術,サイヌソトミー,同時手術,超音波乳化吸引術,glaucoma,trabeculotomy,sinusotomy,combinedsurgery,phacoemulsi.cation.はじめに緑内障手術はさまざまな術式があるが,その中で線維柱帯切開術は緑内障手術のなかで流出路再建術として濾過胞を作らないため,術中および術後に重篤な合併症が少ない手術である.また,近年になってサイヌソトミーを併用することで術後の一過性眼圧上昇を予防するとともに,さらなる眼圧低下が報告されている1,2).既報では術前平均眼圧が19.8.26.1mmHgでの報告がなされている.今回当院での手術では緑内障や薬物治療を行ったうえで,平均術前眼圧18.0mmHgの緑内障症例で検討を行った.また,原発開放隅角緑内障お〔別刷請求先〕本田紘嗣:〒289-2511千葉県旭市イ1326総合病院国保旭中央病院眼科ReprintAdress:KojiHonda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,1326I,Asahicity,Chiba289-2511,JAPAN1196(122)よび落屑緑内障を中心に緑内障病型による術後眼圧の成績について検討を行った.I方法2013年7月23日.2015年10月28日に,当院でサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を行い,術後1年フォロー可能であった39症例50眼について,病型,術前および術後眼圧,術前および術後点眼スコア,合併症,生存率について検討を行った(表1).平均年齢は72.0±8.8歳,術眼は右眼27眼,左眼23眼であった.対象眼は緑内障として診断されたもので,術前に緑内障の薬物治療を行った症例とした.除外基準は,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術,レーザー線維柱帯形成術,毛様体光凝固術などの眼圧降下目的の手術を施行されていた症例とした.病型としては,原発開放隅角緑内障がもっとも多く28眼,ついで落屑緑内障が15眼,ステロイド緑内障が3眼,正常眼圧緑内障が1眼,その他が3眼であった.視野としては,湖崎分類IV期までの緑内障を対象とした.1.術.後.評.価眼圧はGoldmann圧平眼圧測定を行い,細隙灯顕微鏡検査および眼底検査により合併症の評価を行った.2.手.術.方.法当院のサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術式は,耳側角膜切開による超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行する.その後,下耳側を基本に二重強膜弁を作製し,Schlemm管を剖出して深層強膜弁は切除する.プローブをSchlemm管に挿入してOcularPosnerGonioprismでSchlemm管への留置を確認した後,プローブを回旋させて線維柱帯切開を行う.強膜弁を10-0ナイロン角針で縫合して,サイヌソトミーを輪部に2カ所作製,結膜を10-0ナイロン丸針で縫合する.前房洗浄を行い,眼圧調整を行い終刀とする.3.術.後.管.理術後点眼はベタメタゾン,レボフロキサシン,ピロカルピ表1対象症例内訳対象眼数39症例50眼性別男性30眼女性20眼手術時平均年齢72.0±8.8歳術眼右眼27眼左眼23眼緑内障病型原発開放隅角緑内障(POAG)28眼(56%)落屑緑内障(PEgla)15眼(30%)ステロイド緑内障(Steroidgla)3眼(6%)正常眼圧緑内障(NTG)1眼(2%)その他(高眼圧症1眼,慢性閉塞隅角緑内障2眼)3眼(6%)ン,ジクロフェナクナトリウムを基本処方とした.術後の目標眼圧は術前眼圧または20mmHg以下とし,眼圧上昇を認めた場合は内服または点眼による薬物療法を行った.術直後の30mmHg以上の眼圧上昇に対しては,サイドポートからの前房穿刺を行った.4.データ解析手術成績判定は,Kaplan-Meier生命表法を用いて,眼圧18mmHg以下および15mmHg以下の生存率を検討した.一過性眼圧上昇も考慮し,術後は1カ月後より生存率の検討を行った.各眼圧が2回連続で規定眼圧を超えた最初の時期をエンドポイントとした.なお,点眼スコアについては,合剤およびアセタゾラミド内服については2として換算した.II結果術前平均眼圧は18.0±4.9mmHgで,術後1年での平均眼圧は13.0±3.3mmHgと下降を認めた.病型別では,原発開放隅角緑内障では術前平均眼圧17.5±4.6mmHgから術後1年での平均眼圧は13.1±3.9mmHgに,落屑緑内障では術前平均眼圧18.0±4.5mmHgから術後1年での平均眼圧は13.3±2.4mmHgに,ステロイド緑内障では術前平均眼圧20.7±9.8mmHgから術後1年での平均眼圧は13.7±2.5mmHgに,正常眼圧緑内障では術前眼圧11.0mmHgから術後1年での眼圧は8.0mmHgに,その他では術前平均眼圧21.1±4.5mmHgから術後1年での眼圧は12.2±2.7mmHgに下降を認めた.眼圧推移としては術翌日および1週間後に眼圧は上昇傾向にあり,2週間で眼圧は安定していた(図1).病型別ではどの病型においても全体と比較してほぼ同様の推移を記録した(図2~5).原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に眼圧の低下を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05).点眼スコアに関しては,術前4.3±1.8から1年後は2.1±1.6と改善を認めた(図6).点眼スコア推移に関しては,2日目より点眼スコアの上昇を認め,その後は安定していた.病型別でみても,原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に点眼スコアの改善を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05)(図7).ステロイド緑内障に関しては,一過性眼圧上昇に対し使用していた点眼を中止しても眼圧が維持されたため,点眼スコアが低下していったものと考えられる.生存率に関して,18mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には43眼が生存となった.15mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には28眼が生存となった(図8,10).病型別では原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に差は認めなかった(図9,11).眼圧の上限設定や観察期間が既報によって違うところがあるので,一概に比30眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)252015105観察期間(月)観察期間(月)図1術後眼圧推移:全群(n=50)図2病型別の術後眼圧推移:原発開放隅角緑内障(n=28)35353030眼圧(mmHg)25201510252015105500観察期間(月)観察期間(月)図3病型別の術後眼圧推移:落屑緑内障(n=15)図4病型別の術後眼圧推移:ステロイド緑内障(n=3)35730術前123612術前1236126点眼スコア(点)25520415310250観察期間(月)図5病型別の術後眼圧推移:正常眼圧緑内障(n=1)較はできないが,20mmHg以下でおおむね1年の生存率は90%弱とほぼ同等の生存率であった5,7,10).合併症に関しては,1週間以上続くような前房出血が4眼,Niveauを形成するような前房出血が23眼,フィブリンの析出が6眼,Descemet膜.離が2眼,1週間以内の21mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は26眼であった.Descemet膜.離に関して,1眼は前房内に空気を入れたが,もう1眼は経過観察となっていた.いずれも視機能に影響するような10観察期間(月)図6点眼スコア:全群(n=50)*:Wilcoxonsignedranktestp<0.05.重篤な後遺症は残っていなかった.病型別では,原発開放隅角緑内障に術後のフィブリンやDescemet膜.離が生じる場合が多く,前房出血や一過性眼圧上昇は落屑緑内障に多い傾向となった(表2).III考按本研究では,進行性緑内障であることに加えて,将来的な薬物治療の継続やさらなる薬物治療の強化,それに伴う副作術前1236120.90.8POAGPEglaSteroidgla***************生存率点眼スコア(点)0.70.60.50.40.3観察期間(月)観察期間(月)図7点眼スコア比較:病型別(n=50)図8生存率:全群18mmHg(n=50)*:Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05.10.910.90.80.70.8(n=28)(n=15)生存率生存率0.20.10.70.60.60.50.50.40.40.30.30.20.20.10.100024681012024681012観察期間(月)観察期間(月)図9生存率:病型別18mmHg図10生存率:全群15mmHg(n=50)10.90.80.70.60.50.40.30.20.1生存率0024681012観察期間(月)図11生存率:病型別15mmHg表2術中術後合併症(n=50)全群(n=50)POAG群(n=28)PEgla群(n=15)Steroidgla群(n=3)Descemet膜.離2(4%)2(7.1%)0(0%)0(0%)1週間以上続く前房出血4(8%)2(7.1%)2(13.3%)0(0%)Niveauを形成した前房出血23(46%)10(35.7%)10(66.7%)1(33.3%)Fibrin析出6(12%)5(17.9%)0(0%)0(0%)一過性眼圧上昇(>21mmHg,1週間以内)26(52%)14(50%)9(32.1%)1(33.3%)一過性眼圧上昇(>30mmHg,1週間以内)4(8%)1(3.6%)2(13.3%)1(33.3%)用を念頭に手術適応を判断した.また,薬物治療で正常眼圧が達成されていても,年齢,視野障害の程度,他眼の状態,全身状態,生活環境などを加味して手術適応を判断した.当院でのサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術前平均眼圧は18.0±4.9mmHg,術後1年での眼圧は13.0±3.3mmHgの結果となった.既報では術前眼圧が19.8.26.1mmHg,術後1年での眼圧が12.3.18.1mmHgと報告1.9)されており,今回の研究では術後眼圧は既報と同等であった.今回の研究では既報に比べると術前眼圧は低値であり,眼圧下降率としては27.8%と既報の29.7%.48.0%とほぼ同等であった.点眼スコアについて,既報では術前1.9±1.4から6年後1.0±1.0と半分に改善を認めたとの報告があり,本研究でも半分に改善しており,ほぼ同様の結果が得られた5).今回の研究でも緑内障合剤であれば1種類でのコントロールも可能であり,患者のアドヒアランスの向上にも寄与できると考えられた.術中・術後合併症では,全体として1週間以内の21mmHgを超える眼圧上昇は26眼(52%),30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は4眼(8%),前房穿刺の処置を行ったのは1眼であった.既報では30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は20%と報告があり6),本研究は良好な結果であった.また,前房出血が原因の眼圧上昇に対して観血的手術を要した症例は,本研究では認めなかった.また,Niveauを形成するような前房出血は全体の23眼(46%)が認められ,1週間以上の前房出血が持続したのは4眼(8%)であった.7日以上続くような前房出血は8%,フィブリン析出は8%との報告がなされており,既報と同程度であった6).病型別では,原発開放隅角緑内障にDescemet膜.離が2眼(7.1%)に生じ,他の病型には認められなかった.既報ではDescemet膜.離の症例は0%となっており,本症例では合併症として多い結果となった6).今回,眼軸長を含めた解析は行っていないが,近視などによる前房深度などの多様性があったのかもしれない.落屑緑内障に10眼(66.7%)の前房出血が認められ,1週間以上の前房出血は2眼(13.3%)であり,他の病型より多い結果となった.術後の一過性眼圧上昇は9眼(32.1%)で認め,原発開放隅角緑内障に比べると術後早期の眼圧上昇は比較的少ない結果であった.線維柱帯切開術は房水流失の主経路の大きな抵抗となる傍Schlemm管結合組織からSchlemm管内壁を直接開放する術式であり,落屑緑内障は比較的集合管以降の房水動態が保たれており,集合管からの逆流が多いことが考えられる.これらの結果より,緑内障を有する初期から中期の患者で白内障を手術する際は,点眼スコアの改善も考慮し,線維柱帯切開術を併用することが望ましいと考える.一方,7日以内に30mmHg以上の一過性眼圧上昇を認めたものは16.1.34.8%との報告がある3,6,7,11).サイヌソトミー併用により一過性眼圧上昇が少なくなったとはいえ,術後合併症としてかなりの症例数が存在するため,末期緑内障に対してはやはり線維柱帯切除術などを考慮したほうがよいと思われる.ただ,認知機能低下や易感染性などのリスクを有する患者においては,線維柱帯切開術も念頭においてもよいと考えられる.今後,長期的な成績をまとめ,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の有効性を検討していく必要があると考えられる.文献1)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19962)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicale.ectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycom-paredtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmicScand78:191-195,20003)TaniharaH,HonjyoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimary-openangleglaucomaandcoexistingcataract.OphthalmicSurgLasers28:810-817,19974)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科19:761-765,20025)福本敦子,松村美代,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,20136)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.JJpnGlaucomaSoc12:30-34,20027)野田理恵,山本佳乃,越山健ほか:落屑緑内障に対する線維柱帯切開術と白内障同時手術の成績.眼科手術26:623-627,20138)小野岳志:開放隅角緑内障に対する白内障同時手術(流出路再建術)トラベクロトミー(トラベクトーム,suture-lot-omyabinterno/externo含む).眼科手術29:182-188,20169)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,199610)落合春幸,落合優子,山田耕輔ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとPEA+IOL同時手術の長期成績.臨眼61:209-213,200711)加賀郁子,城信雄,南部裕之ほか:下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科32:583-586,201512)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,200813)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,2011

緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1169.1177,2017c緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症市.岡.伊.久.子市岡眼科CPeripapillaryRetinoschisisinGlaucomaEyesIkukoIchiokaCIchiokaEyeClinic緑内障症例に網膜分離症を認めることがあり,おもに黄斑部に及んだ例が報告されているが,網膜.離の合併がなく黄斑部に及ばない症例は見過ごされている可能性がある.当院で緑内障経過観察中の症例にCOCTにて視神経乳頭耳側断面を測定したところ,5眼に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めた.分離部形状は網膜各層間.層内の浮腫で黄斑部に進展した例はなく,経過を追えたC4眼では緩解,増悪を繰り返した.平均年齢C71.2歳,屈折はC.0.15±1.5D,発症時眼圧はC12.2C±1.3CmmHg,発症時CMD値はC.3.73±3.4CdBであった.網膜分離症の範囲は神経線維層菲薄部に一致し,網膜分離症の視神経乳頭部にC1眼に乳頭Cpitを認めた.頻度はC6カ月間にCOCTにて検査した緑内障患者C5人/490人(1.0%)に認めた.3眼は網膜分離症に対応する部の視野障害が進行した.眼圧は低めだが,さらなる眼圧下降によりC3眼の分離症は軽減している.OCTによる視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定では網膜分離症発症時の網膜神経線維層厚が厚く検出されるため,注意が必要である.Retinoschisiswithglaucomaisreportedasmainlyinvolvingthemacularregion;casesrestrictedtobesidetheopticdiscarerare.Atourhospital,thetemporalsideoftheopticdiscwasscannedusingCirrus(CarlZeissMed-itec,CInc.)OCT.CInC490CpatientsCundergoingCglaucomaCfollowCup,C5CretinoschisisCeyesCwereCfound(1.0%)C.CAverageagewas71.2years;1male,4female;refractionC.0.15±1.5D,intraocularpressureatonset12.2±1.3CmmHgandMDvalueatonset.3.73±3.4CdB.Theschisiswasinvolvedeachretinallayer,attachedtotheopticdiscandover-lappedwiththeretinalnerve.berlayerdefect(NFLD);nocaseinvolvedthemacula.OpticdiscpitwasobservedinConeCeye.CAlthoughCtheCintraocularCpressureCwasClow,CthreeCretinoschisisCeyesCwereCreducedCowingCtoCfurtherCreductionCofCintraocularCpressure.CAttentionCshouldCbeCpaidCinCmeasuringCtheCretinalCnerveC.berClayerCaroundCtheopticdisc(cpRNFL)withtheOCT,becauseincreaseinRNFLthicknessmeasurementwasobservedatthetimeofretinoschisis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1169.1177,C2017〕Keywords:緑内障,網膜分離症,視神経乳頭pit,視野障害.glaucoma,retinoschisis,opticdiscpit,visual.elddisturbance.Cはじめに緑内障症例に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めることがあり,黄斑部に及んだ例が報告されている1.4)が,視神経乳頭近傍に限局する場合,見過ごされやすい.近年ようやく光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を用い視神経乳頭近傍に限局した網膜分離症が注目されはじめているが報告は少ない5,6).今回当院で緑内障経過観察中の症例C5眼に視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症を認めたので,臨床所見を含め報告する.CI症例当院で緑内障にて経過観察中の男性C1人,女性C4人,計C5人の片眼C5眼にCCirrus(CarlCZeissCMeditec,CInc.)OCTにて傍視神経乳頭網膜分離症を認めた.当院ではC2012年より緑内障全例に経過観察中,6カ月ごとに視神経乳頭耳側の網膜断層撮影を施行し,網膜分離症疑い例にはC3-DCscanや検査〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003島根県松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,IchiokaEyeClinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(95)C1169表1症例の内訳網膜分離症発症部位経過観察期間(年)症例性別年齢左右屈折(D)眼軸長(mm)視神経乳頭発症まで発症後C1CMC62CRC0.5C24.37下C5.83C2.80C2CFC60CLC.2.75C24.59下C13.31C1.42C3CFC79CRC0.75C21.08下C18.63C1.08C4CFC69CLC0.25C21.74上C11.57C2.26C5CFC86CRC0.5C22.91下C9.3C0.1平均C71.2C.0.15±1.5C22.9±1.7C13.2±4.5表2症例の内訳症例初診時眼圧(mmHg)初診時CMD分離症発症時眼圧(mmHg)平均眼圧(mmHg)網膜分離症発症後平均眼圧発症時CMD(dB)CMDCslope(dB/年)分離症部CMDCslope(dB/年)CPit発症時CPVD分離症部位(Disc.CNFLD部)視野欠損部C1C21C2.35C12C13.4±1.9C12.2±1.1C.5.45C.0.35C.0.56+.耳下鼻上C2C13C.0.56C13C13.2±1.3C13.4±1.1C.5.47C.0.48C.0.59不明+耳下鼻上C3C14C.3.66C13C12.5±1.7C11.4±2.0C.7.17C.0.81C.1.16不明+耳下鼻上C4C13C1.84C10C8.6±0.9C8.5±1.0C1.39C0.01C.0.06不明+耳上鼻下C5C13C.1.95C13C12.6±1.8C.1.95C0.04C0.06不明+耳下上平均C14.8±3.5C.0.39±2.5C12.2±1.3C12.1±2.0C11.4±2.0C.3.73±3.4C.0.32±0.4C.0.5±0.5C部を変えて断層撮影を施行し視神経乳頭周囲の変化を精査している.平成C28年C3.8月のC6カ月間に緑内障患者C972眼490人中C5人C5眼に網膜分離症を認めた.症例の内訳を表1,2に示す.男性C1人,女性C4人,平均年齢C71.2歳,屈折は近視C1人,遠視C4人で高度近視症例はなかった.眼軸長は平均C22.9C±1.68Cmmであった.経過観察期間は平均C13.2C±4.5年,初診後網膜分離症を認める前は5.18年,認めた後はC0.1.2.8年経過をみていた(表1).初診時眼圧はC13.21mmHg,平均C14.8C±3.5CmmHg,初診時MD値はC.3.66.2.35CdB,平均C.0.39±2.5CdB,網膜分離症発症時の眼圧はC12.2C±1.3CmmHgと低めで発症時CMD値はC.7.17.+1.39CdB,平均C.3.73±3.4CdBであった(表2).網膜分離症は全例視神経乳頭から神経線維層菲薄部に一致し,黄斑部に分離症が及ぶ症例はなかった.症例C1は視神経乳頭耳下側に網膜分離症を認めた(図1a,b).視神経乳頭の分離症部に明らかなCpitを認め,OCTにてCpit部より網膜分離症をきたしている様子を認め,視神経乳頭陥凹内部に硝子体癒着を認めた(図1c,d).初診時眼圧はC21CmmHg,その後点眼薬で眼圧は下降し,経過観察中の平均眼圧はC13.4C±1.9CmmHg,視野感度低下部は下方網膜分離症に対応する上方視野欠損を認め,MDCslopeはC.0.35±0.2CdB/年であったが,下方網膜分離症に対応する上方視野は.0.56±0.24CdBの進行を認めた.図2に網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.眼圧と網膜厚とは連動してはいなかったが,最近は網膜分離症の程度はやや軽減している.症例C2は後部硝子体.離後の症例で,視神経乳頭陥凹は全体に深く下方C1/4に及ぶ網膜分離症をきたした.図3aにOCTCangiographyのCenCface画像,上層に網膜分離症部の神経線維層が描出されており,断面図(図3b)では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.蛍光眼底撮影では中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが漏出点は認めなかった(図4).眼圧平均は網膜分離症をきたした右眼C13.2C±1.3CmmHgと比較的安定しているが,MDslopeは.0.48±0.2CdB/年で他眼C0.11C±0.2CdB/年に比し,視野進行を認め,網膜分離症部に対応する上方視野はC.0.59±0.25dB/年の進行を認めた(表2).網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.この症例も眼圧と網膜分離症厚にあまり関連はないが網膜分離症がやや増悪傾向である(図5).本症例のCOCTでの視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(cpRNFL)の網膜分離症発症前後を比較すると,発症前に視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し左眼の菲薄化を認め図1症例1のOCT画像a:OCTenface画像で視神経乳頭耳下側の暗い部分が網膜分離症の範囲.Cb:OCT視神経乳頭下方断面,視神経乳頭Cpit部より下方に網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像にて耳下側のCpit部の深い陥凹を認める.Cd:OCT水平断にて視神経乳頭下方Cpit部内側に硝子体癒着を認める.C80016網膜厚(μm)700600500400300200100014121086420眼圧mmHg2014/112014/122015/12015/22015/32015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/72016/8disc下部厚(μm)耳側部厚(μm)眼圧(mmHg)図2症例1の眼圧と視神経乳頭下部,耳下側部の網膜厚眼圧と網膜厚は連動していない.Cるが(図6),網膜分離症発症後,下方網膜厚は厚く測定され,MDslopeはC.0.81±0.12dB/年と他眼C.0.35±0.17dB/年に左眼の神経線維層菲薄部が右眼より厚くなっている(図7).比し進行しており,とくに上方視野はC.1.16±0.2CdB/年の症例C3は右眼耳下側に網膜分離症を認め,OCTangiogra-進行を認めた(表2).phyの脈絡膜層で右眼視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた症例C4は左眼耳上側の網膜分離症を認め,視神経乳頭陥凹(図8).網膜分離症に対応する上方視野欠損の進行が著明で,は全体に拡大しており,OCT断面図で視神経乳頭陥凹内部図3症例2のOCT画像a:OCTangiographyのCenface画像,表層に網膜分離症部の神経線維層が描出されている.Cb:断面図では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.図4症例2の蛍光眼底撮影中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが,漏出点は認めなかった.80020網膜厚(μm)6001540010200500眼圧mmHg2015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/7disc下部厚(μm)眼圧(mmHg)図5症例2の眼圧と視神経乳頭下部の網膜分離症部の網膜厚経過眼圧と網膜厚は連動せず,網膜厚はやや増加し,網膜分離症が増悪傾向である.C図6症例2.網膜分離症発症前のOCT画像a:網膜分離症発症前のCcpRNFL測定にて右眼に比し左眼の視神経乳頭下部神経線維層の菲薄化を認める.Cb:同時期の視神経乳頭耳側網膜断面図.耳下側に網膜神経線維層の著明な菲薄化を認める.C図7症例2.網膜分離症発症後のOCT画像a:症例2,網膜分離症発症後のCcpRNFL測定にて左眼の視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し厚く測定されている.Cb:視神経乳頭下方に網膜分離症を発症し,網膜厚が厚くなっている.図8症例3のOCT画像a:症例3,右眼耳下側に網膜分離症を認める.OCTangiographyのCenface画像,網膜分離症部が暗く認められる.Cb:視神経乳頭下方の網膜分離症.外顆粒層より内層の各層間,層内に浮腫を認める.Cc:OCTangiographyの脈絡膜層で視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた.Cd:視神経乳頭耳下側の断面図.pitは不明だが網膜分離症に接する部分の陥凹が深くなっている.より網膜分離症発症を認める(図9).MDCslopeは+0.01±0.1CdB/年と進行傾向はなかったが,網膜分離症に対応する下方視野のCMDCslopeはC.0.06±0.08CdB/年と感度低下を認めた(表2).症例C5は約C1カ月前に右眼耳下側に網膜分離症を認めた症例である.OCTCangiographyのCenCface画像で網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く,分離症部と接していることがわかる(図10).CII考按緑内障眼における網膜分離症については以前より黄斑部に及ぶ症例が報告されていたが,最近ではCOCTの解像度の向上に伴い,視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症症例が報告され始めている.Leeら5)は視神経乳頭周囲の網膜神経線維層と黄斑部のCSD-OCTCscan,赤外線写真撮影により緑内障の網膜分離症を調査し,372人中C22人(5.9%)25眼に網膜分離症を認めたと報告.当院の症例と同様,網膜分離症は視神経乳頭に接続し,網膜神経線維層菲薄部にきたしており,C黄斑部に網膜分離症が波及している症例はなかったと報告している.Bayraktarら6)はCOCTを用いC940人の緑内障と801人の緑内障疑患者を比較調査し,緑内障群はC3.1%,緑内障疑群はC0.87%の網膜分離症を認めたとし,彼らの症例も黄斑部に網膜分離症が波及している症例はない.今回は当院で緑内障経過観察中,網膜分離症を視神経乳頭付近に認めたC5症例を報告した.当院では緑内障経過観察時全例半年ごとにOCTで視神経乳頭耳側断面を測定しており,当院での網膜分離症出現頻度は約C1.0%である.上記C2文献と比べると頻度が低いが,これらは視神経乳頭周囲全周の断面図CBモードスキャンを測定し調査しており,当院では視神経乳頭鼻側のみ測定したため,上方,下方にきたした軽度の網膜分離症を検出できなかったものと思われる.Leeらの報告5)では神経線維層のみの分離がC13眼C52%と報告しており,比較的軽度な症例が多く含まれていることがわかる.今回の症例では全例多層にわたって網膜分離をきたしていた.上記C2文献のように視神経乳頭サークルスキャンの断層像を用い軽度の症例を見逃さなければ,より高い検出率となる可図9症例4のOCT画像a,b:左眼耳上側の網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像,視神経乳頭陥凹は全体に拡大していた.Cd:OCT網膜分離症部断面図で視神経乳頭陥凹内部より分離症を認める.C図10症例5のOCT画像a:症例5,OCTangiographyのCenface画像,右眼耳下側に網膜分離症が暗く認められる.網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く分離症部と接している.Cb:網膜分離症部の断面図.視神経乳頭陥凹に接して網膜分離症を認める.能性がある.OCTの視神経乳頭周囲のサークルスキャンに緑内障の網膜分離症の原因は以前より黄斑部に網膜分離症おいては今回症例C2で表示したように,網膜分離症をきたすをきたした症例より考察されている.Zhaoら1)は正常眼圧と厚みが増加し,神経線維層菲薄部が改善したように見える緑内障の黄斑部網膜分離症症例を報告し,緑内障に伴い神経ため,断層像を直接チェックできない機種では注意が必要で線維層菲薄化や欠損部より液化硝子体が網膜内に入り,網膜ある.C分離症または網膜.離を引き起こす危険があると考察,Zumbroら2)は緑内障患者C5人の網膜分離症につき報告,明らかな視神経乳頭の先天異常を認めない症例に網膜分離症をきたしたことより,視神経乳頭に先天異常がなくても緑内障性陥凹拡大より黄斑網膜分離症,症例によっては網膜.離をきたすことを報告している.彼らは液化硝子体が乳頭陥凹の薄い組織の小孔より漏れ出た可能性がありCopticCpitと機序が類似していると考察している.Takashinaら3)はCpitを認めない緑内障患者に黄斑分離症をきたし硝子体手術を施行,視神経乳頭上膜様組織から網膜分離症をきたし,トンネル状に硝子体と網膜分離症がつながっていたと報告している.Inoueら4)は緑内障C11人C11眼の黄斑分離症(そのうちC10眼は.離症例)を報告,視神経乳頭陥凹拡大はC0.7以上でCpitは認めていない.脆弱神経線維層,視神経乳頭部に硝子体牽引が加わり,網膜血管に沿った裂け目より液化硝子体が入る可能性につき言及している.上記のように網膜分離症は乳頭pitを認めない緑内障例で多数報告されており,緑内障による視神経乳頭陥凹拡大症例に多く,低眼圧の症例でも報告されている.今回の症例は全例網膜分離症はすべて緑内障による網膜神経線維層菲薄部に生じ,OCTで視神経乳頭陥凹部内側の網膜分離を認めた.症例C1のみCopticpitとCpit部への硝子体癒着をCOCTにて認めた.その他の症例ではCpitを認めていない.OCTangiographyのCenface画像でCpitのある症例C1では網膜分離症に接する視神経乳頭部にCpitを認めたが,pitを認めていない症例C3,5において最深陥凹部が網膜分離部に偏り,近接していた.症例C2,4では陥凹が全体に拡大していた.症例2,3,5は網膜分離症を認めるC5年以上前より後部硝子体.離をきたしており,症例C4は分離症を認める約半年前に後部硝子体.離をきたしていた.Kiumehrら7)はEDI-OCTを用い緑内障C45眼中C34眼に篩状板障害を検出したと報告,そのうちC11眼は乳頭Cpitで他はCrimの菲薄化,欠損で下方耳下側に多く上方視野感度低下が強いことを報告,Youら8)は同様にCEDI-OCTで検出できた緑内障篩状板185眼中C40眼にClamellarhole(11眼),離断(36眼)を認めたことを報告している.このように緑内障症例では後天性pitのみでなくCOCTの発展とともに緑内障篩状板障害の頻度の高さが報告されてきている.今回COCTで網膜分離症を視神経乳頭陥凹内に認め,硝子体癒着が明らかな例以外に,後部硝子体.離数年後の硝子体牽引があった可能性の少ない症例にも網膜分離症を認めたことより,Zumbroら2)の考察したように乳頭下部の篩状板部の小孔より硝子体液が網膜内に侵入し網膜分離症をきたした可能性が考えられる.菲薄化した網膜や視神経乳頭縁,血管側の小孔から網膜分離症をきたす可能性については強度近視例や視神経乳頭部の硝子体癒着例でそのような症例を認めることがあるが,今回報告した網膜分離症は視神経乳頭内から隣接する網膜線維層欠損部に扇状に及んでおり,形状が異なると思われる.経過観察中,眼圧,硝子体牽引にかかわらず,網膜分離症部の網膜厚の増減を認め,自然閉鎖が困難な篩状板小孔が原因となっている可能性がある.網膜分離症は緑内障進行に影響があるかどうかだが,今回の症例1.3は網膜分離症に対応する視野の進行傾向を認め,症例C2,3は他眼に比しとくに著明な視野進行を認めた(表2).症例C4は耳上部の網膜分離症で軽度のためか進行は少なく,症例C5は網膜分離症を最近きたした状態で現在はまだ視野進行は認めていない.網膜分離症では分離した網膜神経線維層は著明に菲薄化しており,分離症自体が悪化要因になるかどうかは不明だが,眼圧が低めでも進行性緑内障に発症しやすい可能性がある.網膜分離症の原因が分離症部に接する視神経乳頭に篩状板障害をきたしているとするとCKiumehrら9)の症例と同様に進行しやすい可能性があると思われる.網膜分離症をきたした症例に対する治療法だが,黄斑部に進展した症例はCpit-macular症候群と同様硝子体手術を施行した症例が報告されており,Inoueら4)はC11眼に硝子体手術を施行し,消失まで平均C11カ月かかったと報告している.Zumbroら2)はC1眼は緑内障濾過手術,2眼は硝子体手術で治癒したと報告している.Leeら5)はC22眼中C2眼にトラベクレクトミー,5眼に緑内障点眼を追加し,眼圧下降後の網膜分離症は軽減したと報告している.以上の報告より緑内障合併網膜分離症は黄斑部に及ぶと黄斑.離をきたす危険性もあり,定期検査,注意が必要かと思われる.硝子体手術以外に緑内障手術でも網膜分離症が治癒した報告があり,機序が不明だが網膜分離症の発症に眼圧上昇や変動が誘因になっている可能性が報告されており5,9),濾過手術による大幅な眼圧低下が有効な可能性がある2,5).今回のC5症例は網膜分離症発症時眼圧はC10.13CmmHgと低めだが,視野進行傾向に伴い点眼薬を増加し症例C2以外はさらなる眼圧降下により網膜分離症は軽減している.症例C2に関しては網膜分離症をきたした後の眼圧平均はあまり低下していなかったのでさらに眼圧を低下させる必要があるのかもしれない.これら,網膜分離症の機序や治療についてはさらなる検討が必要かと思われる.網膜神経線維層菲薄部の網膜分離症はCOCTにて同部の断層撮影をしないと発見しにくい変化である.網膜分離症は悪化すると病変が黄斑部に及ぶ危険性もあり,より眼圧を下降させる必要があると思われる.また視神経乳頭周囲サークルスキャンでの神経線維層厚の増加に注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhaoCM,CLiCX:MacularCretinoschisisCassociatedCwithCnor-maltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1255-1258,C20112)ZumbroCDS,CJampolCLM,CFolkCJCCetCal:MacularCschisisCandCdetachmentCassociatedCwithCpresumedCacquiredCenlargedCopticCnerveCheadCcups.CAmCJCOphthalmolC144:C70-74,C20073)TakashinaS,SaitoW,NodaKetal:MembranetissueontheCopticCdiscCmayCcauseCmacularCschisisCassociatedCwithCaCglaucomatousCopticCdiscCwithoutCopticCdiscCpits.CClinCOphthalmolC7:883-887,C20134)InoueM,ItohY,RiiTetal:Macularretinoschisisassoci-atedCwithCglaucomatousCopticCneuropathyCinCeyesCwithCnormalCintraocularCpressure.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmolC253:1447-1456,C20155)LeeEJ,KimTW,KimMetal:Peripapillaryretinoschisisinglaucomatouseyes.PLoSOneC9:e90129,C20146)BayraktarS,CebeciZ,KabaaliogluMetal:PeripapillaryretinoschisisCinCglaucomaCpatients.CJCOphthalmol,C2016:CID1612720C8pages,C20167)KiumehrCS,CParkCSC,CSyrilCDCetCal:InCvivoCevaluationCofCfocalClaminaCcribrosaCdefectsCinCglaucoma.CArchCOphthal-molC130:552-559,C20128)YouJY,ParkSC,SuDetal:FocallaminacribrosadefectsassociatedCwithCglaucomatousCrimCthinningCandCacquiredCpits.JAMAOphthalmolC131:314-320,C20139)KahookCMY,CNoeckerCRJ,CIshikawaCHCetCal:PeripapillaryCschisisCinCglaucomaCpatientsCwithCnarrowCanglesCandCincreasedCintraocularCpressure.CAmCJCOphthalmolC143:C697-699,C2007***

インプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1165.1168,2017cインプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較植木麻理*1小嶌祥太*1河本良輔*1三木美智子*1杉山哲也*2徳岡覚*3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2京都医療生活協同組合・中野眼科医院*3北摂総合病院眼科CComparisonofOutcomeafterTubeShuntSurgeryviaParsPlanainDi.erentTypesofGlaucomaImplantMariUeki1),ShotaKojima1),RyohsukeKohmoto1),MichikoMiki1),TetsuyaSugiyama2),SatoruTokuoka3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative,3)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital目的:アーメド緑内障バルブ(AGV)とバルベルト緑内障インプラント(BGI)の経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術(シャント手術)成績を比較.対象および方法:術後,3年以上経過観察できたCAGI群(12例C12眼)とCBGI群(15例C16眼)の術後成績,処置を比較する.不成功はC5CmmHg≧IOP,21CmmHg<IOP,光覚なし,緑内障の再手術と定義した.結果:術後C3年の成功率はCAGIC75.0%,BGIC88.9%であった.術前,3年後の眼圧(mmHg)はCAGIC34.4±7.6,13.1C±6.1,BGIC38.0C±12.9,14.1C±3.7と有意差はなかったが,術後高眼圧期に眼球マッサージをCAGVで58.3%(平均C8.8カ月),BGIでC18.8%(平均C0.4カ月)とCAGVで有意に多く,かつ長期に施行していた.結論:シャント手術の成績は種類による差はなかったが,AGVで長期の眼球マッサージが必要であった.CPurpose:ToCcompareCtheCoutcomesCofCpars-planaCtubeCshuntCsurgeriesCwithCtheCAhmedCglaucomaCvalve(AGV)andtheBaerveldtglaucomaimplant(BGI)C.Methods:Weretrospectivelyreviewedthemedicalrecordsof12eyesof12patients(AGVgroup)and16eyesof15patients(BGIgroup)C,whichwerefollowedupformorethan3Cyears.CMainCoutcomeCmeasuresCwereCsuccessCrate,CintraocularCpressure(IOP)andCtreatmentCafterCsurgery.CFail-ureCwasCde.nedCasCintraocularCpressureC≦5CmmHgCor>21CmmHg,ClossCofClightCperception,CorCneedCforCadditionalCglaucomasurgery.Results:At3years,successrateswere75.0%inAGVand88.9%inBGI.IOPs(mmHg)beforesurgeryCandCatC3CyearsCwereC34.4±7.6,C13.1±6.1CinCAGVCandC38.0±12.9,C14.1±3.7CinCBGI;thereCwasCnoCdi.erencebetweenthetwogroups.However,digitalocularmassageinthehypertensivephaseaftersurgerywasconductedCinC58.3%CofCpatientsCinCAGV(meanCduration:8.8Cmonths)andC18.6%CofCpatientsCinCBGI(meanCdura-tion:0.4Cmonths)C.CConclusion:AlthoughCthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheCoutcomesCofCpars-planaCtubeCshuntsurgerieswithAGVandBGI,longer-termocularmassagewasnecessaryinAGVgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1165.1168,C2017〕Keywords:経毛様体扁平部チューブシャント手術,緑内障,アーメド,バルベルト,眼球マッサージ.pars-planatubeshuntsurgery,glaucoma,Ahmed,Baerveldt,ocular-massage.Cはじめにント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI),2014年からはプレートを有する緑内障ドレナージデバイスを用いたチュアーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomaCvalve:AGV)がーブシャント手術は結膜の瘢痕化した症例に対し有効な術式承認された.海外において前房挿入型CAGVとCBGIを比較しであり,わが国でもC2012年よりバルベルト緑内障インプラた報告は散見され,眼圧下降はCAGVよりもCBGIがよいとす〔別刷請求先〕植木麻理:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MariUeki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigakucho,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPAN表1患者背景AGV(1C2例C12眼)(C2009年C1月.C2012年C3月)BGI(1C5例C16眼)(C2012年C4月.C2013年C3月)p値病型NVG8例8眼(PDRC6眼CRVOC2眼)POAG3例C3眼SGL1例C1眼NVG7例7眼(PDRC6眼CRVOC1眼)POAG2例C3眼SGL7例C7眼内眼手術回数C3.2±1.4C2.4±1.6C0.12a緑内障手術回数C1.3±1.0C1.2±1.7C0.39a術前点眼スコアC3.3±1.8C4.1±1.7C0.28a術前眼圧C34.4±7.3C37.5±12.2C0.55a硝子体手術既往の有無有:無=10:2有:無=13:3C0.88ba:Mann-WhitneyのCU検定b:Fisherの直接法る報告が多い1,2).しかし,経毛様体扁平部挿入型同士を比較したものはない.今回,筆者らは経毛様体扁平部挿入型CAGVとCBGIを用いたチューブシャント手術の中期成績を比較したので報告する.CI対象および方法1.対象大阪医科大学にて経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術(以下,シャント手術)を施行し,3年以上経過観察できた連続したC27例C28眼.シャント手術は同一術者(MU)が施行した.AGV群が12例12眼,BGI群が15例16眼であった.AGVについては大阪医科大学倫理委員会の承認を受け経毛様体扁平部挿入型のCPC-7を挿入している.内眼手術既往,緑内障手術既往,術前の点眼スコア,術前眼圧,硝子体手術既往の有無に群間の有意差はなかった(表1).C2.方法AGVとCBGIによるシャント手術後の眼圧推移(術前,術後C3カ月,6カ月,1年,2年,3年),視力,視野変化,角膜内皮細胞密度の変化,成功率,合併症の有無をレトロスペクティブに比較検討した.視野は湖崎分類のCI期をC1点,IIa期をC2点,IIb期をC3点とスコア化し,統計学検討を行った.検討には経時変化はCone-wayCANOVA,2群間の比較にはMann-WhitneyのCU検定,生存曲線はCKaplan-Meier曲線を用いた.手術不成功はCAhmedCBarveldtCComparisonCstudy(以下,ABCstudy)に準じて眼圧がC5CmmHg以下,21CmmHgを超えるもの,緑内障による再手術,インプラントの抜去,光覚消失と定義した1).C3.基本術式および術後処置a.AGV群結膜を輪部にてC100°切開.有硝子体眼は硝子体手術を先行して行い,無硝子体眼はインフュージョン設置後,AGVを上外直筋もしくは外下直筋間に挿入し,8-0バイクリル糸およびC9-0ナイロン糸にて本体を直筋付着部後方に縫着した.輪部よりC4CmmでCV-ランスで穿刺,輪部よりC2Cmm角膜側で切端したチューブを硝子体腔内に挿入,毛様体クリップを強膜床にC9-0ナイロン糸で縫着した.チューブ被覆はマイトマイシンCC(MMC)併用線維柱帯切除術後眼では保存強膜,それ以外は自己強膜弁にて行った.全例CTenon.を直筋付着部に縫着,整復した.術後はベタメタゾンおよびレボフロキサシンC1日C4回点眼をC3カ月継続,その後C3カ月C1日C2回点眼を行った.術後C20CmmHgを超えた場合はC1日C3回の眼球マッサージを開始し,適宜,緑内障点眼を追加した,眼球マッサージはC3カ月継続後もしくはC15CmmHg以下となった時点で中止し,2週間後の再診時C20CmmHg以上でマッサージを再開し,維持できるまで継続した.適宜,眼圧下降点眼は追加した.Cb.BGI群結膜を輪部にてC120°切開した.有硝子体眼は硝子体手術を先行して行い,無硝子体眼はインフュージョン設置後,BGIを上外直筋もしくは外下直筋間に挿入し,8-0バイクリル糸およびC9-0ナイロン糸にて本体を直筋付着部後方に縫着した.輪部より4mmでV-ランスで穿刺し,輪部より2Cmm角膜側で切端したチューブを硝子体腔内に挿入し,毛様体クリップを強膜床にC9-0ナイロン糸で縫着した.チューブの被覆はCMMC併用線維柱帯切除術後眼では保存強膜,それ以外は自己強膜弁にて被覆した.全例CTenon.を直筋付着部に縫着し,整復した.術後はベタメタゾンおよびレボフロキサシンC1日C4回点眼をC3カ月継続した,その後C3カ月1日C2回点眼を行った.5-0ナイロン糸にてCripcordを設置した.内服を含めたCfullmedicationでC25CmmHgを超えるものはC4週間後にCripcordを抜去した.抜去後にC20CmmHgを超えるものはCAGVと同様にマッサージ,緑内障点眼を開始した.両群とも術後C3カ月はレボフロキサシンC1日C4回,ベタメタゾンC1日C4回点眼,術後C3.6カ月はC1日C2回で継続した.CII結果眼圧は術前,AGV群でC34.4C±7.6CmmHg,BGI群でC38.0C±12.9CmmHgであった.術後C3年間において眼圧下降は維持され,術C3年後の眼圧はCAGV群でC13.1C±6.2mmHg,BGI群でC14.1C±3.7CmmHgであった.どの期間においてもC2群間に有意差はなかった(図1).手術成功率はC3年でCAGV群でC75.0%,BGI群でC88.9%と各群間に有意差はなく(図2),不成功の原因としては,眼圧がC21CmmHgを超えるものや緑内障再手術例はなく,原疾患や合併症にて光覚なしやチューブ摘出となったものや,眼圧がC5CmmHg以下となったものであった(表2).視力,視野は術前,術後経過観察期間で両群とも有意な変化はなく,3年間維持されていた.また,角膜内皮細胞密度(cells/mmC2)は術前,術C3年後でCAGV群C1,687.6C±997.4,C1,549.3±797.5,BGI群はC1,899.5C±680.4,1,814.4C±758.5と両群とも有意な減少はなかった.2群間で差があったのは術後処置の眼球マッサージであり,術後眼球マッサージをしていたものはCAGVでC12眼中7眼(53.8%),BGIで16眼中3眼(18.8%)とAGV群で有意に多く,マッサージ継続期間もAGVでC8.8C±8.9カ月,BGIでC0.4C±1.3カ月とCAGV群で有意に長かった(図3).CIII考按AGVとCBGIによるチューブシャント手術成績の多施設前向き研究はCABCCstudyとCAhmedCversusCBaerveldtCstudy(以下,AVBstudy)が知られている.ABCstudyでは不成功率はC3年でCAGV31.3%,BGI32.3%,5年でCAGV44.7%,BGI39.4%と有意差はなかったが,眼圧コントロールで不成功となったものは不成功群のなかでCAGI80%,BGI53%とCAGVで多く,眼圧コントロールはCAGVで悪かった.しかし光覚消失やインプラント摘出などの合併症はCBGIがAGVのC2倍であったという結果となった1,2).一方,AVBstudyでは,5年での不成功率はCAGV53%,BGI40%と有意にCBGIで少なく,最終眼圧もCBGIが低く,合併症の発症率は有意差がなかったとしている2).今回の結果ではC3年の経過観察で不成功がCAGVC25%,BGIC12.5%と両群間に有意差はなく,緑内障再手術はなく,不成功となったのは光覚消失および低眼圧,インプラント摘生存曲線1.8.6.4.203年生存率(AGV):75.0%p=0.18(BGI):88.9%061218243036術前36122436(月)(月)Mann-WhitneyのU検定図2生存曲線aorb:p<0.01(One-wayANOVA)図1眼圧の推移20表2不成功の原因眼球マッサージ継続期間(月)AGVCBGIIOP>2C1CmmHg0眼0眼CIOP≦5CmmHg3眼2眼緑内障再手術0眼0眼光覚なし2眼2眼チューブ摘出2眼2眼合計3眼(25%)2眼(1C2.5%)151050重複ありAGVBGI図3眼球マッサージ継続期間*:p<0.05:Mann-WhitneyのCU検定.C出によるものであった.ABCCstudyでのC3年の不成功率はAGV51%,BGI34%であり3),今回の結果はこれと比較して不成功率は低くなった.過去の経毛様体扁平部挿入型インプラント手術の成績はC2.3年でC80%以上の良好なものが多く4.6),また,前房型と経毛様体扁平部挿入型を比較した報告では,眼圧コントロール率はC80%以上と良好であり,有意差はなかった.これは前房型で血管新生緑内障が少なく,原発開放隅角緑内障が多い傾向があったことが関与している可能性がある6).今回,筆者らの症例では半数以上が血管新生緑内障であったが,不成功例が少なかったのは硝子体手術により網膜病変が落ち着いていたことも一因ではないかと推察された.Hypertensivephase(HP)はチューブシャント術後,数週間.数カ月に発症する眼圧上昇で,どのタイプのインプラントでも起こるが,とくにCAGVにて多く,40.80%と報告されており7.9),その原因として術後,プレート周囲組織が炎症細胞やサイトカインに曝露することが推察されている10,11).HPは手術不成功のリスクファクターであるが7.11),McIlraithらはCHPに眼球マッサージを平均C4カ月継続することでC1年後の術後緑内障点眼を減少させることができる12)と初めてCHPに対する眼球マッサージの有効性を報告した.また,Smithらは眼球マッサージで眼圧が下降する症例では,6カ月後に半数の症例でC20%以上の眼圧下降が可能であったと報告している13).筆者らの症例ではCHPにCAGVでCBGIよりも多くの症例が眼球マッサージをしており継続期間も長かったが,観察期間内の眼圧は有意差なく,3年後には眼球マッサージなしで眼圧コントロール可能であった.経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術はC3年の中期において眼圧下降はCAGV,BGIで有意差なく,有効な術式であったが,AGVでは多くの症例が眼圧コントロール維持に長期にわたる眼球マッサージが必要であった,利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetCal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC112:308-316,C20152)ChristakisPG,KalenakJW,TsaiJC:TheAhmedVersusBaerveldtCStudy:Five-YearCTreatmentCOutcomes.COph-thalmologyC123:2093-2102,C20163)BartonK,FeuerWJ,BudenzDLetal:Three-yeartreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC121:1547-1557,C20144)JeongCHS,CNamCDH,CPaikCHJCetCal:ParsCplanaCAhmedCimplantationCcombinedCwithC23-gaugeCvitrectomyCforCrefractoryCneovascularCglaucomaCinCdiabeticCretinopathy.CKoreanJOphthalmolC26:92-99,C20125)BanittCMR,CSidotiCPA,CGentileCRCCetCal:ParsCplanaCBaer-veldtCimplantationCforCrefractoryCchildhoodCglaucomas.CJGlaucomaC18:412-417,C20096)RososinskiA,WechslerD,GriggJ:RetrospectivereviewofparsplanaversusanteriorchamberplacementofBaer-veldtCglaucomaCdrainageCdevice.CJCGlaucomaC24:95-99,C20157)AyyalaCRS,CZurakowskiCD,CSmithCJACetCal:ACclinicalCstudyoftheAhmedglaucomavalveimplantinadvancedglaucoma.OphthalmologyC105:1968-1976,C19988)Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:EvaluationofthehypertenC-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCGlaucomaCValve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C20039)JungCKI,CParkCCK:RiskCfactorsCforCtheChypertensiveCphaseCafterCimplantationCofCaCglaucomaCdrainageCdevice.CActaOphthalmolC94:260-267,C201610)FreedmanCJ,CIserovichCP:Pro-in.ammatoryCcytokinesCinCglaucomatousCaqueousCandCencystedCMoltenoCimplantCblebsCandCtheirCrelationshipCtoCpressure.CInvestCOphthal-molVisSciC54:4851-4855,C201311)GeddeSJ,PanarelliJF,BanittMRetal:Evidenced-basedcomparisonCofCaqueousCshunts.CCurrCOpinCOphthalmolC24:87-95,C201312)McIlraithCI,CBuysCY,CCampbellCRJCetCal:OcularCmassageCforCintraocularCpressureCcontrolCafterCAhmedCvalveCinser-tion.CanJOphthalmolC43:48-52,C200813)SmithCM,CGe.enCN,CAlasbaliCTCetCal:DigitalCocularCmas-sageCforChypertensiveCphaseCafterCAhmedCvalveCsurgery.CGlaucomaC19:11-14,C2010***

緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015 年版)

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1042.1045,2017c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年版)比嘉利沙子*1井上賢治*1永井瑞希*1塩川美菜子*1鶴岡三恵子*1岡山良子*1井上順治*2堀貞夫*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofGlaucomaPatientsWhoAppliedforPhysicalDisabilityCerti.cateduringtheYear2015RisakoHiga1),KenjiInoue1),MizukiNagai1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),RyokoOkayama1),JunjiInoue2),SadaoHori2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を後ろ向きに調査した.年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.等級は,1級が14例(23%),2級が29例(47%)であり,両者で全体の70%を占めていた.病型では,原発緑内障が44例(開放隅角緑内障33例,正常眼圧緑内障7例,閉塞隅角緑内障4例)(72%),続発緑内障が16例(ぶどう膜炎6例,落屑緑内障5例,血管新生緑内障4例,虹彩角膜内皮症候群1例)(26%),発達緑内障が1例(2%)で,開放隅角緑内障が全体の54%で最多であった.視力障害と視野障害を重複申請した症例は25例であった.2005年および2012年の調査と比較し,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Weretrospectivelyinvestigated61patients(32male,29female)withglaucomatreatedatInouyeEyeHospitalandNishikasaiInouyeEyeHospital,whoappliedforphysicaldisabilitycerti.catesbetweenJanuaryandDecember2015.Patientsintheir80snumbered23cases(38%),intheir70s18cases(9%),andintheir60s15cases(24%).Astograde,.rstgrade(14cases,23%)andsecondgrade(29cases,47%)accountedfor70%ofthetotal.Glauco-matypeincludedprimaryglaucoma(44cases;72%),secondaryglaucoma(16cases,26%)anddevelopmentalglaucoma(1case;2%).Primaryopen-angleglaucomawasthemostfrequentglaucomatype(54%).Atotalof25patientsappliedfordouble-disordercerti.cates.Glaucomatypeandgradewerenotdi.erentbetweenresultsat2005and2012.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1042.1045,2017〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野障害,等級.glaucoma,visualimpairement,physicallydis-abilitycerti.cate,visual.elddisturbance,grade.はじめに上眼科病院グループで行っている視覚障害による身体障害者現在,わが国における視覚障害者の原因疾患の第1位は緑手帳申請の実態調査2.5)で,緑内障は上位を占めていた(表内障である1).地域や施設の特徴により,身体障害者手帳申1).しかし,緑内障患者の身体障害者手帳申請の詳細を検討請の原因疾患が異なる可能性は否めないが,2005年から井した報告は少ない6.8).今回,視覚障害による身体障害者手〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda,Tokyo101-0062,JAPAN1042(126)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(126)10420910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1井上眼科病院グループにおける視覚障害の身体障害者手帳申請の原因疾患2005年2)2009年3)2012年4)2015年5)1位緑内障23%網膜色素変性症28%緑内障31%緑内障29%2位網膜色素変性症17%緑内障23%網膜色素変性症17%網膜色素変性症18%3位黄斑変性13%黄斑変性12%黄斑変性11%黄斑変性15%(%)602015年:61例5150384034302010312030代40代50代60代70代80代90代図1年齢分布帳取得申請を行った緑内障患者について検討した.I対象および方法井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に外来通院中の緑内障患者で,2015年1.12月に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った61例(男性32例,女性29例)を対象とした.年齢は74.2±10.3歳(平均値±標準偏差),33.90歳であった.実態調査は,身体障害者診断書,意見書の控えおよび診療記録をもとに後ろ向きに行った.検討項目は,1)年齢分布,2)等級の内訳,3)緑内障の病型,4)重複申請の内訳である.視覚障害は,視力障害と視野障害に区分して認定されるが,両障害が等級に該当する場合は重複申請が可能である.1)から3)の項目については,2005年および2012年に行った井上眼科病院グループの実態調査結果7,8)と比較した.ただし,2005年は,井上眼科病院のみを対象としているため,症例数が少なくなっている.統計学的解析には,c2検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果1.年.齢.分.布年齢は,80歳代が23例(38%)と最多で,70歳代が18例(29%),60歳代が15例(24%)であった.その他の年代では,50歳代が3例(5%),90歳代,30歳代が各1例(2%)であった.2012年の調査では,同様に80歳代が最多で25例(34%),70歳代が22例(30%),60歳代が16例(22%)の順であった.2005年では,70歳代が最多で18例(51(%)1006級52805級4級603級402級1級2002005年2012年2015年図2等級の内訳%),60歳代が9例(26%),80歳代が5例(14%)の順であった(図1).2.等級の内訳1級が14例(23%),2級が29例(47%)で,両等級を合わせると全体の70%を占めていた.2005年,2012年と比較し,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.882)(図2).3.緑内障の病型緑内障の病型は,原発緑内障が44例(72%),続発緑内障が16例(26%),発達緑内障が1例(2%)であった.原発緑内障では,開放隅角緑内障(POAG)が33例(54%),正常眼圧緑内障(NTG)が7例(11%),閉塞隅角緑内障(PACG)が4例(7%)を占めていた.続発緑内障の原因疾患は,ぶどう膜炎が6例(10%),落屑緑内障が5例(8%),血管新生緑内障が4例(6%),虹彩角膜内皮症候群が1例(2%)であった.2005年,2012年の調査でも,同様に開放隅角緑内障が最多(43,63%)で,統計学的有意差はなかった(c2検定,p=0.763)(図3).4.重複障害申請の内訳申請は,視力障害のみが20例(33%),視野障害のみが16例(26%),重複申請を行った症例が25例(41%)であった.重複申請を行った25例のうち,視野障害が視力障害より上位等級であった症例は18例(72%),視力障害が上位等級であった症例は3例(12%),両者が同等の等級であった症例は4例(16%)であった.重複申請により,4例が上位等級に認定された(図4).(127)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171043【2005年】白内障術後3%n=35血管新生3%外傷3%落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2012年】血管新生3%n=73落屑ぶどう膜炎PACGPOAGNTG(%)【2015年】ICE症候群2%n=61血管新生発達2%落屑ぶどう膜炎POAGPACGNTG(%)図3緑内障の病型III考按視覚障害を米国の基準に従い9),良いほうの目の矯正視力0.02以上0.3未満のロービジョンと0.01以下の失明の両者とすると,2007年現在,日本の視覚障害者数は約164万人,約19万人弱が失明と推定されている1).さらに,視覚障害者の有病率は2007年では1.3%であったが,2030年では2.0%(約200万人)に増加することが予測されている1).緑内障患者に限定した今回の調査では,手帳申請者は70歳代以上が67%,60歳代以上では91%を占めていた.同調査における年齢(平均値±標準偏差)の推移は,2005年は72.1±9.3歳7),2012年は72.4±12.5歳8),2015年は74.2±10.3歳であった.年代別のピークは,2005年では70歳代であったが,2012年と2015年では80歳代であった(図1).症例数の差もあり単純に比較することはできないが,社会の高齢化に伴い,手帳申請も高齢者が増えると予想される.n=61視野障害の等級無54327241311111213648214123456無視力障害の等級図4各症例における視力障害と視野障害の等級数字は症例数を示した.黒の塗りつぶしは,重複申請により上位等級に認定された症例を示した.病型においては,原発緑内障が約3/4に対し,続発緑内障が約1/4を占めていた.過去の調査においても,同様の割合であり,全体としては開放隅角緑内障(POAG)が最多であった.また,TajimiStudyでは,続発緑内障の有病率は0.5%と報告されているが10),身体障害者では続発緑内障の割合が多かった.同じ病型でも症例ごとで重症度は異なるが,続発緑内障では重症例が多いことが示唆された.既報と比較して病型に関しては目立った変化はみられなかった(図2).身体障害者福祉法の障害等級判定には,問題点も指摘されている.視力に関しては,左右の単純加算による妥当性,視野に関しては,半盲と10°以内の求心性狭窄の評価の妥当性などがあげられる.また,手帳交付までの流れは都道府県により多少異なる.東京都においては,東京都心身障害者福祉センターに交付申請進達される診断書は年間約1,200件であり,障害認定課障害者手帳係で手帳交付が決定されるのは600件弱とされている.残りの約半数は,センター指定医の書類判定となるが,そのうち80%が視野に関する問題であり,疾患では,とくに緑内障が問題にあげられている11).視野障害2.4級では,「ゴールドマン視野検査のI/4イソプターが10度以内」と規定がある.1995年に視覚障害認定基準が改訂され,末期の緑内障患者の視野障害は該当しやすくなった.本実態調査では,2級が最多で,3級と4級に該当する症例がなかったのは,判定基準が影響している可能性がある.各疾患の重症度に合わせて等級が判定されるべきであるが,現状では疾患によって重症度と等級が一致していない場合もあり,緑内障の視野障害の評価は依然として困難をきわめる.一方で,今回の調査では,重複申請により上位等級に認定された症例が4例(16%)あった.緑内障という疾患の特徴上,手帳申請においては,視野障害の判定は重要な要素である.本実態調査では,井上眼科病院グループに通院している緑(128)内障患者数が正確に算定できないため,緑内障患者のうち身体障害者手帳を申請した割合が明確にできず,調査の限界があった.失明予防は,われわれ医療従事者の責務であるが,高齢社会により,身体障害者手帳申請者の増加および高齢化が予想される.また,身体障害者手帳の申請により,各福祉サービスや公的援助が受けられるが,実際にロービジョンケアに結びついているか否かの実態調査も今後は必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:視覚障害の疾病負担本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20073)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院における視覚障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20114)井上順治,鶴岡三恵子,堀貞夫ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請者の現況(2012年)─過去の調査との比較.眼臨紀7:515-520,20145)井上賢治,鶴岡三恵子,岡山良子ほか:眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳申請者の現況(2015年)─過去の調査との比較.眼臨紀10:380-385,20176)武居敦英,平塚義宗,藤巻拓郎ほか:最近10年間に身体障害者手帳を申請した緑内障患者の背景の検討─順天堂大学と江東病院の症例から─.あたらしい眼科22:965-968,20057)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20078)瀬戸川章,井上賢治,添田尚一ほか:身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版).あたらしい眼科37:1029-1032,20149)ColenbranderA:Thevisualsystem.Chapter12inGuidestotheEvaluationofPermanentImpairment,6thedition(RodinelliReds),AmericanMedicalAssociationpublications,p281-319,UnitedStatesofAmerica,200810)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclousureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,200511)久保田伸枝:現状の身体障害者認定基準に基づく視野判定.日本の眼科84:1584-1595,2013***(129)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171045

プロスタグランジン関連点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):580.584,2017cプロスタグランジン関連点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果石橋真吾永田竜朗近藤寛之落合信寿産業医科大学眼科学教室E.ectofSwitchingfromProstaglandinAnalogstoDorzolamideandTimololFixed-combinationEyedropsinGlaucomaPatientsShingoIshibashi,TatsuoNagata,HiroyukiKondouandNobuhisaOchiaiDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japanプロスタグランジン関連点眼薬(prostaglandinanalogs:PG)の単剤療法を6カ月間以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化が美容上気になると訴えた緑内障患者20例を対象に,PGを1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimolol.xed-combination:DTFC)へ変更し,変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の眼圧を測定した.同時に,角膜上皮障害と結膜充血についても観察した.また,美容上気になっている副作用(眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化)の変化についても,変更前と変更6カ月後で比較した.その結果,平均眼圧は変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後ともに有意な変化はなかった.角膜上皮障害と結膜充血の程度にも治療前後で有意な変化はなかったが,結膜充血の程度には,変更6カ月後で有意傾向がみられた.美容上の眼局所副作用は,20例中18例に改善がみられた.PGによる眼局所副作用が美容上気になっている症例に対して,PGからDTFCへの切り替えはPGと同等の眼圧下降を有し,かつ局所的に安全であることから,有用である.In20eyesof20glaucomapatientsbeingtreatedwithprostaglandinanalogs(PG),thee.ectsonintraocularpressure(IOP),cornealepitheliumdisorder,conjunctivalhyperemiaandadversereactionssucheyelidpigmenta-tion,vellushairanddeepeningofupperlidsulcus,ofswitchingtodorzolamideandtimolol.xed-combination(DTFC)eyedropswerestudiedatmonth0(baseline),month1,month3andmonth6aftertheswitch.Atmonths1,3and6afterDTFCinitiation,meanIOPrevealednosigni.cantchangesascomparedtobeforeswitching.Althoughtherewerenosigni.cantdi.erencesincornealstainingscoreorconjunctivalhyperemiascorebetweenbeforeandaftertheswitch,theconjunctivalhyperemiaindicesscoreshowedimprovingtendencyatmonths6afterDTFCinitiation.Adversereactionsalsoimprovedin18cases.SinceglaucomapatientsbeingtreatedwithPGwhoswitchedtoDTFCexhibitednosigni.cantdi.erencesinIOP,itisconcludedfromthisstudythatDTFCisausefulagentforglaucomawithadversereactions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):580.584,2017〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬,緑内障,眼圧,眼局所副作用.dorzol-amideandtimolol.xed-combination,glaucoma,intraocularpressure,adversereaction.はじめに緑内障に対するエビデンスのある唯一確実な治療法は眼圧を下降させることである.開放隅角緑内障に対してプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG)で治療した群は,プラセボ群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告1)や,正常眼圧緑内障では眼圧を30%下降させた治療群では,無治療群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告2)がなされている.緑内障治療は基本的に点眼薬治療であり,第一選択薬として眼圧下降効果にもっとも優れ,全身の副作用が少なく,1日1回点眼の利便性のよ〔別刷請求先〕石橋真吾:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShingoIshibashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu-shi807-8555,JAPAN580(120)いPGが選択されることが多い.しかし,PGの眼局所副作用として,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化など3.5)があり,とくに女性において美容上の問題となる.1.0%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimolol.xed-combination:DTFC)は,緑内障治療薬として有用であると報告6)されている.ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の併用療法と比較して,DTFCの眼圧下降効果は同等であるとの報告7)がある.しかし,PG単剤使用症例にDTFC配合点眼薬への切り替えを行った場合の有用性と安全性については不明な点が多い.そこで,今回PGの単剤使用による眼局所副作用が美容上気になると訴えた症例に対して,DTFCへの切り替えによる眼圧下降効果および安全性について検討した.I対象および方法対象は,2014年3月.2016年9月の期間,産業医科大学病院と鈴木眼科,くろいし眼科でPGによる単剤療法を6カ月以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼深溝化が美容上気になると訴えた緑内障患者20例20眼である.産業医科大学病院倫理委員会の承認を事前に受け,患者からは書面による同意を得た.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.内訳は,男性2例,女性18例,年齢は73.3±8.7歳(平均値±標準偏差)である.病型は,正常眼圧緑内障9例,原発開放隅角緑内障3例,落屑緑内障3例,原発閉塞隅角緑内障1例,高眼圧症4例である.PGの種類は,ラタノプロスト7例,タフルプロスト6例,トラボプロスト5例,ビマトプロスト2例である.また,美容上気になった眼局所副作用の内訳は,眼瞼色素沈着6例,眼瞼色素沈着・多毛4例,眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化4例,多毛3例,上眼瞼溝深化2例,多毛・上眼瞼溝深化1例である.方法は,PGによる単剤療法を6カ月以上行っている症例で,眼瞼の色素沈着や多毛,上眼瞼深溝化の眼局所副作用が美容上気になると訴えた場合,PGを中止しwashout期間を置かずに,1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR)の1日2回点眼を開始した.眼圧(mmHg)15105DTFCへ変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に眼圧を測定した.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で1回ずつ測定した.また,DTFCへ変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に角膜上皮障害と結膜充血につ図1変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の平均眼圧(平均値±標準偏差)の変化いて,細隙灯顕微鏡検査で観察した.角膜上皮障害については,フルオレセイン染色法を用いてArea-Density分類8)で評価し,AとDの合計をスコアとした.また,結膜充血は,全症例の平均眼圧は,いずれも変更前と比較して変更後有意な変化はない.NS:有意差なし,n=20.332.52スコアスコア21.510.51図2変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の角膜上皮障害(平均値±標準偏差)の変化平均角膜上皮障害スコアは,いずれも変更前と比較して変更後有意な変化はない.NS:有意差なし,n=19.表1変更前,変更6カ月後の眼局所副作用の変化眼局所副作用変更後変更前改善変更後不変変更後悪化眼瞼色素沈着6例6例(片側1例,両側5例)0例0例眼瞼多毛3例3例(片眼2側,両側1例)0例0例上眼瞼溝深化2例1例(片側1例,両側1例)1例0例眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化4例3例(両側4例)1例0例眼瞼色素沈着・眼瞼多毛4例4例(片側1例,両側3例)0例0例上眼瞼溝深化・眼瞼多毛1例1例(両側1例)0例0例図3変更前,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後の結膜充血(平均値±標準偏差)の変化平均結膜充血スコアは,変更前と比較して変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後に有意な変化はないが,変更6カ月後で有意傾向がみられる.NS:有意差なし,†:0.10>p≧0.05,n=19.変更前変更6カ月後図4上眼瞼溝深化と眼瞼多毛の症例64歳,女性.正常眼圧緑内障.トラボプロスト両眼投与症例.変更6カ月後,上眼瞼溝深化と眼瞼多毛の改善がみられる.20例中18例で改善がみられる.上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例のみ不変である.悪化した症例はない.0.1±0.3で,変更前後で有意な差はなかったが,変更6カ月で有意傾向を認めた(p=0.076,図3).写真判定による眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用は,変更6カ月後で,20例中18例に改善がみられた.そのうち,眼局所副作用が2項目あった症例では,全症例で両項目ともに改善がみられた.変更前にみられた上眼瞼溝深化1例と眼瞼色素沈着・上眼瞼溝深化1例の2例で不変であった.悪化した症例はなかった.両眼瞼の症例で改善・不変に左右差があった症例はなかった(表1,図4).アンケート調査でも同様に20例中18例で改善,2例で不変と答え,他覚的所見と一致した.III考按現時点で緑内障による視野障害の進行を完全に阻止する方法はないが,眼圧を十分下降させることで進行を鈍化できることが報告1,2)されている.PGは緑内障治療薬の第1選択薬として使用され,プロスト系としてプロスタグランジンF2a誘導体であるラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストと,プロスタマイドF2a誘導体であるビマトプロストの4種類があり,ぶどう膜強膜経路を促進させることで眼圧が下降すると考えられている.しかし,PGによる副作用として結膜充血,角膜上皮障害,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,睫毛延長,多毛,上眼瞼溝深化などが報告3.5,9)されている.一方,1%ドルゾラミド塩酸塩と0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬であるDTFCも緑内障治療薬として広く使用され,ドルゾラミド塩酸塩は毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素を阻害し,チモロールマレイン酸塩は毛様体無色素上皮に存在するb受容体を阻害し,房水産生を抑制させることで眼圧が下降すると考えられているが,PGに特有の眼瞼色素沈着や虹彩色素沈着,睫毛延長,多毛,上眼瞼溝深化などの副作用はない.今回,PG単剤使用で眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用が美容上気になると訴えた症例に対して,PGをDTFCに変更し,眼圧の変化と同時に角膜上皮障害,結膜充血の変化を変更前(ベースライン)と変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後と比較し,その結果を検討した.また,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用の変化についても,変更前と変更6カ月後と比較しその結果を評価した.その結果は,全症例の平均眼圧は,変更1カ月後,変更3カ月後,変更6カ月後ともに有意な変化はみられなかった.ドルゾラミド塩酸塩が1%ではなく2%でのDTFCの報告であるが,Leeらは正常眼圧緑内障に対して,ラタノプロストとDTFC(2%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬)の眼圧への効果をcrossoverdesignstudyによって調べた結果,眼圧下降率がラタノプロスト単剤治療群では13.1%,DTFC単剤治療群では12.3%であり,有意な差はなかったと報告10)している.本研究では,切り替え前に使用しているPGは,ラタノプロスト7眼,タフルプロスト6眼,トラボプロスト5眼と,ビマトプロスト2眼であった.ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの順で眼圧下降率が高いとの報告11)があり,そのため変更前のPGの種類によってはDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果の結果が異なる可能性があるが,今回の結果では,DTFCへの変更後の眼圧は変更前のPG単剤使用の眼圧とほぼ同等であった.このことから,DTFCはPGを単剤使用している緑内障の眼圧下降治療において,代替となる優れた薬剤であるといえる.角膜上皮障害については,角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性がある塩化ベンザルコニウムを含む点眼薬の頻回点眼や,b遮断薬などの主薬による細胞毒性により生じると考えられ,角膜上皮障害の発生頻度は抗緑内障点眼薬の回数と点眼薬数に相関すると報告12)されている.今回の研究では,切り替え後のDTFCの点眼回数がPGと比べて1回多いにもかかわらず,切り替え前後で角膜上皮障害に有意な変化はなかった.切り替え前のPGは,ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの4種類であり,塩化ベンザルコニウムの使用の有無や主薬が異なっているため,角膜上皮障害の程度に有意な変化がなかったことへの考察はむずかしいが,DTFCの添加物であるD-マンニトールが,塩化ベンザルコニウムの影響を減少させる作用があること13)が影響している可能性がある.一方,結膜充血の程度に有意な変化はみられなかったが,改善傾向であった.PGは副作用に結膜充血があり,ラタノプロストよりビマトプロストのほうが結膜充血を引き起こす.また,DTFCにも副作用として結膜充血があるが,ラタノプロストに比べて結膜充血が少なかったとの報告9)がある.本研究では,PGの使用を中止しDTFCへ切り替えたこと,DTFCによる結膜充血の副作用が出現した症例がなかったことから,結膜充血の程度に改善傾向がみられたと考えられる.また,眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用については,写真判定で20例中18眼に改善がみられ,上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例は不変であった.自覚的にも同様の結果であった.眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化はどのPGでもみられる眼局所副作用であるが5),PGを中止または変更することで可逆性に改善すると報告されている4,14,15).本研究では,改善しなかった上眼瞼溝深化の1例と眼瞼色素沈着と上眼瞼溝深化の1例は,PG使用前の眼瞼所見の記録がなかったことから,PGによる眼局所副作用ではなかった可能性や観察期間が短かった可能性が考えられた.これらのことから,本研究のPGからDTFCへの切り替えは,安全な緑内障の治療法と考えられる.アドヒアランスの低下は緑内障性視野障害の悪化に関与するとの報告16)があり,アドヒアランスの向上は緑内障治療上重要であるが,点眼薬数が増加するとアドヒアランスが低下するとの報告17)がある.本研究で,DTFCに変更後6カ月の時点で,眼局所副作用が改善しなかった2例はPGへの変更を希望されたが,改善がみられた18例はPGからDTFCへの切り替えにより点眼回数が1回増えるものの,DTFCの継続治療を希望された.今回,アドヒアランスについて詳しく調査はしていないが,PGによる眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化の眼局所副作用がアドヒアランスの低下を招く恐れがある場合,DTFCへ切り替えることによって,PGによる眼局所副作用を回避することができ,良好なアドヒアランスが保てる可能性があると考えられる.本研究では,症例数が少なかったことやPGが4種類であったことから,各々のPGからのDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果や副作用については,さらなる調査の必要があると考える.また,本研究では,変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中3例で,20%以上の眼圧上昇率を示した症例は20例中2例であった.PGを使用していない無治療時の眼圧が不明な症例があり,治療前のPGがノンレスポンダーであった可能性や,臨床試験に参加することで点眼改善効果による眼圧下降効果が起こりうるため,バイアスがかかっている可能性や,逆にDTFCの点眼回数が2回になったことによるアドヒアランスの低下の可能性も否定できない.さらに,DTFCへ切り替えることで視野障害が抑制できたかについては,今後調査の必要があると考える.以上,PGの単剤療法で眼瞼色素沈着や多毛,上眼瞼溝深化による眼局所副作用が美容上気になっている症例に対して,PGからDTFCへの切り替えは同等の眼圧を維持することができ,結膜充血や美容上気になる眼局所副作用が改善し,角膜上皮障害の程度に変化させないことから,有効かつ局所的に安全な緑内障治療の一つと考えられる.文献1)Graway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopenangle-glaucoma(UKGTS):arandomized,multi-centre,placebo-controlledtrial.Lancet385:1295-1304,20152)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallypressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:ラタノプロスト使用患者の眼局所副作用.日眼会誌110:581-587,20064)小川一郎,今井一美:ラタノプロスト点眼による眼瞼虹彩色素沈着眼瞼多毛:1年後の成績.あたらしい眼科17:1559-1563,20005)InoueK,ShiokawaM,WakakuraMetal:Deepeningoftheuppereyelidsulcuscausedby5typesofprostaglan-dinanalogs.JGlaucoma22:626-631,20126)KimT-W,KimM,LeeEJetal:Intraocularpressure-loweringe.cacyofdorzolamide/timolol.xedcombinationinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma23:329-332,20147)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,20118)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19949)KonstasAGP,KozobolisVP,TersisIetal:Thee.cacyandsafetyofthetimolol/dorzolamide.xedcombinationvslatanoprostinexfoliationglaucoma.Eye17:41-46,200310)LeeNY,ParkHYL,ParkCK:Comparisonofthee.ectsofdorzolamide/timolol.xedcombinationversuslatano-prostonintraocularpressureandocularperfusionpres-sureinpatientswithnormal-tensionglaucoma:ARan-domized,CrossoverClinicalTrial.PLoSONE11:e0146680.doi:10.1371/journal.pone.0146680,201611)VanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729-732,201013)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞障害性評価.薬学雑誌131:985-991,201114)井上賢治:プロスタグランジン関連薬による上眼瞼溝深化.あたらしい眼科33:551-552,201615)SakataR,ShiratoS,MiyakeKetal:Recoveryfromdeep-eningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfrombimatoprosttolatanoprost.JpnJOphthalmol57:179-184,201316)RossiGCM,PasinettiGM,ScudellerLetal:Doadher-enceratesandglaucomatousvisual.eldprogressioncor-relate?EurJOphthalmol21:410-414,201117)高橋真紀子,内藤智子,溝上志郎ほか:緑内障点眼使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,2012***

Descemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplasty(DSAEK)術後に遷延性角膜上皮欠損をきたした1例

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):283.287,2017cDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty(DSAEK)術後に遷延性角膜上皮欠損をきたした1例脇舛耕一*1,2稗田牧*2山崎俊秀*1稲富勉*2外園千恵*2成田亜希子*3木下茂*1,4*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学視機能再生外科学*3岡山済生会総合病院眼科*4京都府立医科大学感覚器未来医療学ACaseofPersistentCornealEpithelialDefectPostDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyKoichiWakimasu1,2),OsamuHieda2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2),ChieSotozono2),AkikoNarita3)ShigeruKinoshita1,4)and1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)OkayamaSaiseikaiGeneralHospital,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine背景:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)施行時に作製した角膜上皮欠損から遷延性上皮欠損をきたしたまれな症例を経験したので,その臨床経過を報告する.症例:80歳,男性.他院にてチューブシャント手術を含む緑内障多重手術を受けた.術後の右眼水疱性角膜症に対して,2015年9月25日にDSAEKを施行した.手術時に角膜上皮.離を機械的に作製し前房内の視認性を向上させ,Descemet膜の.離後にDSAEK用ドナーグラフトを挿入した.DSAEKグラフトの良好な接着が得られたが,手術3日後より角膜上皮欠損の創傷治癒過程がほぼ停止し,最終的に遷延性上皮欠損を生じた.本症例では手術前に角膜上皮障害や角膜輪部機能不全,ドライアイは認めず,手術時に施行した角膜上皮.離の範囲も輪部に及ばず,基底膜も損傷させていなかった.手術後,リン酸ベタメタゾン点眼を塩化ベンザルコニウム無添加の製剤に変更,また抗菌薬点眼も変更,薬剤量を減量し加療を継続した.以後,徐々に角膜上皮欠損は修復し,手術75日後に上皮欠損は消失した.その後は上皮.離の再発を認めていない.結論:DSAEK手術後に遷延性上皮欠損をきたした本症例では,手術前に抗緑内障点眼薬の長期使用歴があり,手術後点眼の影響も加わって角膜上皮修復が遅延した可能性が考えられた.Background:WepresentacaseofpersistentcornealepithelialdefectpostDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Case:An80-year-oldmaleunderwentDSAEKtotreatbullouskeratopathyduetorepeatedglaucomasurgery,includingatube-shunt,inSeptember2015.Duringsurgery,hiscornealepitheli-umwasmechanicallyremovedtoobtainbettervisibilityintheanteriorchamber,andalthoughtheDSAEKproce-durewassuccessfullycompletedtherewasdelayedhealingofthecornealepithelialdefect.Therewasnoepithelialstem-cellde.ciencyordryeye,noranydamagetothecorneallimbusorepithelialbasementmembraneduetoepitheliumremoval.Thepostoperativeeyedropmedicationwasthereforechangedfrombetamethasonewithben-zalkoniumchloridetothatwithout;antimicrobialeyedropswerealsochangedandreducedinfrequency.Theareaofepithelialdefectgraduallydiminished,eventuallydisappearingat75dayspostoperatively.Sincethentherehasbeennorecurrenceofepithelialdefect.Conclusion:PersistentcornealepithelialdefectpostDSAEKwithnopre-existingcornealepithelialabnormalitymayoccurduetodrugtoxicity,sochangeandreductionofpostoperativeeyedropmedicationshouldbeconsideredinsuchcasesfromtheearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):283.287,2017〕〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANKeywords:DSAEK,遷延性上皮欠損,薬剤毒性,緑内障.DSAEK,persistentcornealepithelialdefect,drugtoxicity,glaucoma.はじめにDescemets’strippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)は1998年にMellesらがposteriorlamellarkearto-plasty(PLK)として報告1)した後,次第に発展を重ね2,3),現時点では2006年にGorovoyが報告したマイクロケラトームでドナー作製を行うDSAEKが角膜内皮移植術のもっとも一般的な術式となっている4).DSAEKではDescemet膜.離やグラフト挿入・接着,層間スペースの確認などの前房内操作が必要であるが,ある程度進行した水疱性角膜症では角膜上皮,実質の浮腫により透見性が不良となっており,前房内操作が困難な場合がある.そのような症例においては,上皮浮腫を起こしている上皮を.離することで視認性を向上させることが一般的である.水疱性角膜症では上皮接着不良が生じており容易に上皮.離を作製することができるが,その際に上皮.離を6.8mm径程度として角膜上皮基底膜を損傷しないように機械的に.離すれば,1週間以内に被覆される.角膜上皮欠損部は,周囲の上皮細胞が伸展,移動し,その後細胞増殖,分化することで修復される5)が,その過程のいずれかが障害されると上皮の創傷治癒が滞り,遷延性上皮欠損をきたす6,7).遷延性上皮欠損を生じる背景としては糖尿病8)や神経麻痺性角膜炎9)などによる角膜知覚低下,化学外傷やStevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡などによる角膜輪部機能不全などがある.一方,水疱性角膜症では角膜上皮の接着不良から再発性角膜上皮びらんを生じるものの,角膜知覚や角膜上皮の創傷治癒機転は通常維持されており,遷延性上皮欠損をきたすことはまれである.しかし,今回,術前に角膜上皮欠損を認めず,術中の上皮.離操作後に上皮欠損が遷延し,上皮治癒に長期間を要した症例を経験したので報告する.I症例80歳,男性の右眼水疱性角膜症.既往歴として,他院にて1990年に右眼の水晶体.外摘出術および眼内レンズ挿入術を施行された.その後2005年頃より両眼の落屑症候群による緑内障を発症し,右眼に関しては2008年に線維柱帯切開術,2009年に複数回の線維柱帯切除術を施行された後,2014年4月にエクスプレスR(アルコン)を用いたシャント手術を施行された.その後2014年9月頃より角膜浮腫が出現し,水疱性角膜症に至った.右眼視力は0.01(矯正不能),右眼眼圧は7mmHgであり,角膜内皮細胞密度は測定不能であった.手術前の涙液メニスカス高は0.2mmと正常範囲内であった.本症例に対し,2015年9月24日にDSAEKを施行した.DSAEK手術時は前房内の視認性を向上させるために約8mm径の上皮欠損を作製し,前房メインテナーを設置,約7mm径のDescemet膜.離を施行後,BusinglideRを用いた引き込み法にて8.0mm径のDSAEKドナーグラフトを挿入した.手術中,あるいは手術後に特記すべき合併症を認めず,グラフトの接着を得た.角膜上皮.離は上皮基底膜を損傷しないようにMQARスポンジを用いて鈍的に.離し,.離した角膜上皮をスプリング剪刀で切除した.図1本症例におけるDSAEK術後の前眼部OCT所見上段は手術1日後,中段は手術2週間後,下段は手術1カ月後.図2本症例における遷延性角膜上皮欠損の治癒過程左列はディフューザー,右列はブルーライトフィルターにより撮影した前眼部写真.上皮欠損面積(mm2)5045403530252015105013579111315171921232527293133353739414345474951535557596163656769717375(術後日数)図3本症例および通常のDSAEK術後症例における角膜上皮欠損の面積変化上皮欠損面積(mm2)はImageJを使用して計測した.1)は本症例,2)はDSAEK術後164眼での平均値.手術翌日から,ガチフロキサシン(ガチフロR)点眼,塩化ベンザルコニウム含有リン酸ベタメタゾン(リンデロンR)点眼,オフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏点入をそれぞれ1日4回ずつ施行した.ドナーグラフトの接着は手術1日後から良好で,角膜浮腫も軽減を認め,手術2日後以降もドナーグラフトの接着不良部位を認めなかった(図1).角膜上皮欠損は手術2日後にはやや縮小を認めたが,手術3日後から上皮欠損の修復が遅延してきたため,手術4日後の時点でリンデロンR点眼を1日3回に減量した.しかし,上皮欠損の修復はわずかで遷延性上皮欠損をきたしてきたため,手術12日後にリンデロンR点眼から塩化ベンザルコニウム無添加のリン酸ベタメタゾン(リンベタPFR)点眼へ変更し,同時にガチフロR点眼とタリビッドR眼軟膏も1日3回とした.しかし,その後も改善は緩徐で,手術16日後よりガチフロR点眼を1日2回,タリビッドR眼軟膏点入を眠前のみとし,手術19日後からは自家調整したBSSR点眼を1日3回で追加した.その後抗菌薬点眼を手術39日後からタリビッドR点眼1日2回に変更し,以後は点眼内容を変更せず加療を継続したところ,上皮欠損は次第に縮小し,術75日後に上皮欠損部は完全に被覆された.以後は上皮欠損の再発を認めていない(図2).当院最終受診時の右眼視力は0.02(0.04×sph+8.0D),右眼眼圧は3mmHgであった.残存した淡い角膜上皮下混濁のため角膜内皮細胞の撮影部位はわずかであり,角膜内皮細胞密度は測定できなかったが,約1,500個/mm2と推定された.グラフトの接着は良好で角膜浮腫を認めず,前眼部OCT(Casia,TOMEY)で測定した中心角膜厚は562μmであり,角膜内皮細胞機能は十分に機能しているものと考えられた.当院で2007年8月.2015年12月に施行したDSAEK症例533眼のうち,本症例を除き,術中に上皮.離を作製し術後治療用ソフトコンタクトレンズを装用せず上皮.離が治癒するまでの期間が確認できた164眼での治癒日数は3.2±1.3日(平均±標準偏差,2.10日)であった.全例が2週間以内には上皮欠損が消失しており,遷延性上皮欠損をきたした症例は本症例以外には認めなかった.また,上皮治癒速度も,通常のDSAEK眼では1時間当たり平均0.53mm2であったが,今回の症例では1時間当たり0.017mm2であり,1/30以下に低下していた(図3).II考察DSAEK術中の視認性を向上させるために角膜上皮欠損を作製することは一般的であり,欠損部の範囲が角膜輪部に及ばなければ術後の角膜上皮創傷治癒は速やかに行われるはずである.実際,筆者の知る限りでは,DSAEK術後に遷延性上皮欠損を合併した報告は以下の例だけである.これは,全層角膜移植術後の移植片機能不全例に対するDSAEK術後で遷延性上皮欠損を発症した報告であり10),全層角膜移植術後の神経麻痺の状態に伴い,遷延性上皮欠損を発症したと考えられる.今回,遷延性上皮欠損をきたした症例は,チューブシャント手術を含めた緑内障多重手術後の水疱性角膜症であり,2014年4月のシャント手術以後は抗緑内障薬点眼が中止されていたものの,それ以前まで多種類の抗緑内障薬を長期間投与されていた.抗緑内障薬による角膜上皮への影響については,ラタノプロストとbブロッカーの併用による角膜上皮障害などについての報告11)がなされているように,抗緑内障薬による角膜上皮への毒性が指摘されている.そのため今回の症例でも,多種類の抗緑内障薬を長期間投与されていたことにより角膜上皮層の薬剤透過性が亢進し,角膜実質内の薬剤濃度が著しく上昇することで,手術3日後まで治癒傾向にあった角膜上皮の創傷治癒が低下し,遷延性上皮欠損をきたした可能性が考えられた.今回,術後のステロイド点眼薬を塩化ベンザルコニウム無添加の製剤に変更し,ニューキノロン点眼薬も角膜上皮細胞毒性がより少ない種類へ変更,減量することで,角膜上皮の創傷治癒を阻害する薬剤の角膜実質内濃度が軽減し,治癒が得られた可能性も考えられた.本症例ではSchirmer試験による涙液検査や角膜知覚検査を行っていないが,手術前後の涙液メニスカスは正常範囲内であり,少なくとも涙液減少型のドライアイは生じていなかったと考えられる.また,上方結膜に水晶体.外摘出術や線維柱帯切開術による結膜瘢痕を認めるものの,明らかな結膜血管侵入は認めず,POVも比較的保たれていた.しかし,抗緑内障薬による薬剤毒性以外に,過去の内眼手術既往が角膜輪部機能をさらに低下させた可能性も考えられた.今回,本症例に対し,治療用ソフトコンタクトレンズの装用は行わなかった.遷延性上皮欠損に対する治療法の一つとして治療用コンタクトレンズの連続装用の有効性が指摘されている12).一方で,治療用ソフトコンタクトレンズの連続装用による角膜感染症のリスクが懸念されている13,14).本症例は80歳の多重内眼手術後であり,日和見感染を生じる可能性が危惧されたため,治療用ソフトコンタクトレンズを使用しなかった.神経麻痺性角膜炎,角膜輪部機能不全,ドライアイなどの既往がない症例においても,本症例のように遷延性上皮欠損と同様の病態をきたすことがあり,とくに緑内障手術後眼でのDSAEKではその可能性が否定できない.遷延性上皮欠損は治療に時間を要し感染の危険性が増加するだけでなく,遷延性上皮欠損部位に浅い潰瘍形成や角膜上皮下混濁が生じて視機能低下の原因となりうる.DSAEK術後に角膜上皮欠損の治癒遅延を認めた場合は漫然と経過を観察するのではなく,可及的速やかに点眼内容の変更や点眼回数の減少などの対応を行い,角膜実質内の薬剤濃度を軽減させ治癒を図ることが必要と考えられた.文献1)MellesGR,EgginkFA,LanderFetal:Asurgicaltech-niqueforposteriorlamellarkeratoplasty.Cornea17:618-626,19982)TerryMA,OusleyPJ:Deeplamellarendothelialkerato-plastyinthe.rstUnitedStatespatients;earlyclinicalresults.Cornea20:239-243,20013)PriceFWJr,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JRefractSurg21:339-345,20054)GorovoyMS:Descemet-strippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea25:886-889,20065)ThoftRA,FriendJ:TheX,Y,Z,hypothesisofcornealepithelialmaintenance.InvestOphthalmolVisSci24:1441-1443,19836)BetmanM,ManseauE,LawMetal:Ulcerationiscorre-latedwithdegradationof.brinand.bronectinatthecor-nealsurface.InvestOphthalmolVisSci24:1358-1366,19837)McCullyJP,HorowitzB,HusseiniZM:Topical.bronectintherapyofpersistentcornealepithelialdefects.Fibronec-tinStudyGroup.TransAmOphthalmolSoc91:367-386,19938)HyndiukRA,KazarianEL,SchultzROetal:Neurotroph-iccornealulcersindiabetesmellitus.ArchOphthalmol95:2193-2196,19779)LambiaseA,RamaP,AloeLetal:Managementofneu-rotrophickeratopathy.CurrOpinOphthalmol10:270-276,199910)中谷智,村上晶:全層角膜移植後角膜内皮機能不全への角膜内皮移植術.日眼会誌117:983-989,201311)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,200012)SchraderS,WedwlT,MollRetal:Combinationofserumeyedropswithhydrogelbandagecontactlensesinthetreatmentofpersistentepithelialdefects.GraefesArchClinExpOphthalmol244:1345-1349,200613)SainiA,RapuanoCJ,LaibsonPRetal:Episodesofmicro-bialkeratitiswiththerapeuticsiliconehydrogelbandagesoftcontactlenses.EyeContactLens39:324-328,201314)BrownSI,Bloom.eldS,PearceD:Infectionseiththetherapeuticsoftlens.ArchOphthalmol91:275-277,1974***

リパスジル塩酸塩水和物点眼薬の眼圧下降効果と安全性の検討

2017年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(1):124.126,2017cリパスジル塩酸塩水和物点眼薬の眼圧下降効果と安全性の検討吉川晴菜*1池田陽子*2,3森和彦*2吉井健悟*4上野盛夫*2丸山悠子*5今井浩二郎*6外園千恵*2木下茂*7*1京都第二赤十字病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3御池眼科池田クリニック*4京都府立医科大学生命基礎数理学*5福知山市民病院*6京都府立医科大学医療フロンティア展開学*7京都府立医科大学感覚器未来医療学InvestigationofIntraocularPressure-loweringE.ectsandSafetyofRipasudilHarunaYoshikawa1),YokoIkeda2,3),KazuhikoMori2),KengoYoshii4),MorioUeno2),YukoMaruyama5),KoujiroImai6),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita7)1)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)Oike-IkedaEyeClinic,4)DepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)FukuchiyamaCityHospital,6)DepartmentofMedicalInnovationandTranslationalMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,7)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineリパスジル塩酸塩水和物(グラナテックR)点眼薬の眼圧下降効果と安全性について検討するために,2014年12月.2015年5月にグラナテックR点眼液を処方した225例のうち3カ月経過観察できた症例を対象に,眼圧下降効果および副作用をレトロスペクティブに検討した.処方した225例のうち,3カ月以内の中止例は20例であった.1カ月と3カ月に眼圧測定が可能であった125例のうち,グラナテックR追加群は94例(平均2.9剤に追加),切替群は31例(平均3.8剤より1剤切替)であり,経過中に副作用を認めたものは225例中76例で,半数以上に充血を認めた.点眼開始前眼圧は平均18.5±6.5mmHg,1カ月後の平均眼圧下降量は追加群/切替群は3.0±5.4/1.5±2.9mmHg,同じく3カ月後は3.1±5.4/2.9±3.0mHgであり,いずれも追加および切替前と比較して有意な眼圧下降効果を認めた.Subjectsofthisretrospectivestudywere225patientswhohadbeenprescribedGLANATECRfromDecember2014toMay2015.Statisticalanalysiswasdonebypairedt-test.Ofthe225patients,20werediscontinuedwithin3months.TheGLANATECRadditiongroupconsistedof94patients,andtheGLANATECRswitchinggroupof31patients.Sidee.ectsoccurredin76of225patientsduringthefollow-upperiod.Averageintraocularpressure(IOP)beforeGLANATECRinitiationwas18.5±6.5mmHg;averagedecreaseinIOPafter1and3monthswas3.0±5.4/1.5±2.9mmHgand3.1±5.4/2.9±3.0mmHg,respectively(additiongroup/switchinggroup).Inbothgroups,IOPwasstatisticallysigni.cantlydiminished.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(1):124.126,2017〕Keywords:リパスジル塩酸塩水和物,Rhoキナーゼ阻害薬,眼圧下降,緑内障.ripasudilhydrochloridehydrate,Rho-associated,coiled-coilcontainingproteinkinaseinhibitor,intraocularpressurelowering,glaucoma.はじめに2014年12月に発売されたリパスジル塩酸塩水和物(0.4%グラナテックR)点眼液は,Rhoキナーゼ阻害作用により主経路の房水流出を促進する1.5).これまでの抗緑内障点眼薬とは作用機序が異なることから,既存の点眼薬に追加,または切り替えることにより,さらなる眼圧下降の効果が期待されている.これまでに,多数例での0.4%グラナテックR点眼液処方による眼圧下降効果の報告はまだ行われていない.発売から1年以上経過し,多数の処方例を経験したので,リパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性につい〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,Kawaramachi,Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN124(124)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(124)1240910-1810/17/\100/頁/JCOPYてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法対象は2014年12月.2015年5月に当科および御池眼科池田クリニックを受診し,リパスジル塩酸塩水和物点眼液を処方した225例225眼(平均年齢68.0±35.0歳)である.本研究はヘルシンキ宣言のもと,厚生労働省倫理研究に関する倫理指針に則り個人情報を連結不可能匿名化した状態でレトロスペクティブな観察研究として行った.対象の内訳は男性111例111眼(平均年齢67.3±35.0歳),女性114例114眼(平均年齢69.4±35.3歳)であり,両眼に処方している場合は右眼のデータを選択した.副作用の検討は全例に対して行い,リパスジル塩酸塩水和物点眼開始前と開始後1カ月,3カ月の眼圧測定が可能であった症例に対して,眼圧下降効果をレトロスペクティブに検討した.眼圧測定にはGoldmann圧平式眼圧計を使用し,測定時間は外来診察時間であった午前9時.午後19時とした.点眼前眼圧は直前の1回の値を採用した.統計的検討は対応のあるt検定を用い,多重比較の調整にはBonferroni法により,p<0.017の場合に有意とした.データ表示は平均値±標準偏差とした.II結果リパスジル塩酸塩水和物点眼開始後1カ月,3カ月の眼圧を測定可能であった症例は125例125眼(平均年齢68.8±12.1歳)であり,内訳は男性63例63眼(平均年齢67.5±14.2歳),女性62例62眼(平均年齢70.1±9.8歳)であった(表1).既存使用の抗緑内障点眼液にリパスジル塩酸塩水和物点眼液を追加した群は94例94眼であり,平均2.9±1.2剤に追加されていた.1カ月後の平均眼圧下降量は3.0±5.4mmHgであり,3カ月後の平均眼圧下降量は3.1±5.4mmHgであった(図1).リパスジル塩酸塩水和物点眼眼圧下降作用に関しては5mmHg以上下降したHyperresponderが存在し,使用開始から3カ月の時点で眼圧が5mmHg以上下降した症例を9眼(25.5%),10mmHg以上下降した症例を5眼(5.3%)認めた.10mmHg以上下降した症例は全例が男性(平均年齢65.0歳)であったが,病型などその他の共通点は認めなかった.既存使用の抗緑内障点眼液平均3.8±1.0剤のうちの1剤をリパスジル塩酸塩水和物点眼液に切り替えた群は31例31眼であり,切り替え前の点眼薬はブナゾシン塩酸塩が19例,ブリモニジンが9例,その他が3例であった.1カ月後の平均眼圧下降量は1.5±表1患者背景(1カ月後と3カ月後に眼圧測定が実施できた症例125例)病型症例数(眼)男性:女性(人)平均年齢(歳)NTG4017:2368.0±11.8POAG3622:1471.6±13.5SG落屑緑内障154:1168.1±13.2ぶどう膜炎に伴う緑内障95:0464.6±16.0ステロイド緑内障11:0044血管新生緑内障22:0057.5±19.1その他のSG94:0559.3±18.1その他137:0677.0±4.2NTG:正常眼圧緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,SG:続発緑内障.*2220201818*1616眼圧(mmHg)14141212101088642200点眼前1M後3M後点眼前1M後3M後*有意差あり(p<0.01)*有意差あり(p<0.01)図1追加群図2切り替え群(125)あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017125表2リパスジル塩酸塩水和物点眼薬の副作用副作用症例数(眼)充血55眼瞼腫脹5霧視2頭痛2その他12合計762.9mmHg,3カ月後の平均眼圧下降量は2.9±3.0mmHgであった(図2).切り替えから3カ月の時点で眼圧が5mmHg以上下降した症例は9眼(29%)あり,10mmHg以上下降した症例は認めなかった.すでに4剤以上使用している多剤併用症例61例61眼(平均年齢66.8±12.8歳)に絞って検討しても,リパスジル塩酸塩水和物液点眼液の使用から3カ月の時点で平均2.7±4.9mmHgと有意な眼圧下降効果を認め(p<0.01),多剤併用症例に対しても有意な眼圧下降効果を確認した.リパスジル塩酸塩水和物を処方した225例中,副作用を認めたものは76眼(33.8%)(表2)であり,半数以上に充血を認めた.また,処方した225例のうち,開始後3カ月継続できずに中止した症例は20眼(8.9%)であった.途中中止に至った理由の内訳は眼圧下降効果不十分により緑内障手術に至ったものが9眼(45%),頭痛2眼(10%),その他9眼(45%)(圧迫感,ふらつき,充血,気分不良,転院,胸のつっかえ感,かゆみ,咽頭の違和感,前房炎症それぞれ1例ずつ)であった.III考按今回,筆者らはリパスジル塩酸塩水和物液発売以来,多数の処方例を経験した.リパスジル塩酸塩水和物を追加した群,もしくは既存の点眼薬と切り替えた群ともに,使用後3カ月の時点で有意に眼圧が下降した.すでに4剤以上使用している多剤併用症例に対しても,リパスジル塩酸塩水和物点眼液使用開始から3カ月の時点で平均2.7±4.9mmHgと有意な眼圧下降効果を認めた.これは,既存の抗緑内障薬とは作用機序が異なるために,多剤併用している症例に対してもさらなる眼圧下降効果を認めたと考える.緑内障点眼4剤目としての0.1%ブリモニジン点眼液の短期眼圧下降効果の報告6)や,ブナゾシン塩酸塩からブリモニジン酒石酸塩への切り替えの報告7)と比較しても,ほぼ同等の眼圧下降効果を認めた.しかし,有意な眼圧下降効果を認めた一方で,副作用も処方例の33.8%で認め,点眼を中止せざるをえない症例も処方全体の8.9%に認めた.このように,眼圧下降効果を認めながらも,副作用の出現により使用を中止する症例もある.使用当初は副作用症状がなくても使用期間が延びるに伴い,充血や眼瞼炎が出現する症例もあるため,副作用の出現には毎回注意が必要である.眼圧下降作用に関してはhyperresponderも存在していたが,眼圧下降の効果が持続するのか,それとも一時的なものなのかは,今後症例数を増やし,経過観察期間を延長し,検討していかなくてはならないと考える.この研究でのバイアスとして,眼圧下降効果は3カ月以上継続できた症例に限っているので,3カ月を待たずに眼圧下降不十分で中止した症例は眼圧下降効果判定には含まれていない.そのために眼圧下降効果が比較的よい症例の解析結果となっている可能性がある.リパスジル塩酸塩水和物点眼液は2014年12月に発売され,処方後の報告なども少ない.長期の眼圧下降効果や副作用などについては,今後のさらなる検討が必要と考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LeungT,ManserE,TanLetal:Anovelserine/threo-ninekinasebindingtheRas-relatedRhoAGTPasewhichtranslocatesthekinasetoperipheralmembranes.JBiolChem270:29051-29054,19952)IshizakiT,MaekawaM,FujisawaKetal:ThesmallGTP-bindingproteinRhobindstoandactivatesa160kDaSer/Thrproteinkinasehomologoustomyotonicdys-trophykinase.EMBOJ15:1885-1893,19963)MatsuiT,AmanoM,YamamotoTetal:Rho-associatedkinase,anovelserine/threoninekinase,asaputativetar-getforsmallGTPbindingproteinRho.EMBOJ15:2208-2216,19964)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectsofrho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandout.owfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20015)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115Clinical-StudyGroup:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20136)平川沙織,井上俊洋,小嶋祥ほか:緑内障点眼4剤目としての0.1%ブリモニジン点眼液の短期眼圧下降効果.眼臨紀8:896-899,20157)木内貴博,井上隆史,高林南緒子ほか:眼圧下降薬4剤併用緑内障患者におけるブナゾシン塩酸塩からブリモニジン酒石酸塩への切り替え.眼臨紀8:891-895,2015***(126)

緑内障患者点眼アドヒアランス向上を目指した製薬会社の啓発活動への医療従事者の評価

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1509?1517,2016c緑内障患者点眼アドヒアランス向上を目指した製薬会社の啓発活動への医療従事者の評価河嶋洋一*1菊池順子*2兵頭涼子*3木村泰朗*4*1京都ひとみケアリサーチ*2新お茶の水ファーマシー*3南松山病院眼科*4上野眼科医院EvaluationbyMedicalPersonnelofPharmaceuticalCompanies’EducationalActivities,AimedatImprovingInstillationAdherenceinGlaucomaPatientsYoichiKawashima1),JunkoKikuchi2),RyokoHyodo3)andTairoKimura4)1)KyotoHitomiCareResearch,2)Shin-OchanomizuPharmacy,3)DepartmentofOphthalmology,MinamimatsuyamaHospital,4)UenoEyeClinic緑内障患者の点眼アドヒアランス向上を目的とした試みがいくつか報告されている.そのなかで,製薬会社の啓発活動に対する眼科施設や調剤薬局に在籍する医療従事者からの満足度,活用度を今回,医療従事者への直接面談方式によるアンケート調査で実施した.全国33施設,141名の協力を得た.その結果,緑内障疾患の説明資材や眼球模型などの満足度,活用度が高い反面,患者の正しい点眼方法や毎日の点眼の重要性に関する資材や点眼補助具などに対する満足度,活用度が低いことがわかった.さらに,今後の製薬会社に期待する活動内容として,資材類,実物類からの視点と製品開発からの視点の両面でいくつかの有用な提案を得た.Sometrialsaimedatimprovinginstillationadherenceinglaucomapatientshavebeenreported.Medicalpersonnelatophthalmicfacilitiesanddispensingpharmaciesweresurveyedbyquestionnaire,throughface-to-faceinterview,toinvestigatesatisfactionratingandutilizationofeducationalactivitiesprovidedbythepharmaceuticalcompanies.Cooperatinginthesurveywere141medicalpersonnelfrom33facilitiesthroughoutthecountry.Resultsclearlyindicatedthatsatisfactionratingandutilizationofexplanationmaterialandlikeeyeballmodelsaboutglaucomadiseasearehigh.Ontheotherhand,materialsexplainingtopatientstheproperinstillationmethodandtheimportanceofdailyinstillation,ortheinstillationguidetool,arelow.Thissurveyprovidedusefulsuggestions,fromtheviewpointofbothexplanationmaterialsandproductdevelopment,regardingpharmaceuticalcompanyactivitiesforthefuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1509?1517,2016〕Keywords:緑内障,点眼アドヒアランス,アンケート調査,製薬会社,満足度.glaucoma,instillationadherence,questionnaire,pharmaceuticalcompany,satisfactionrating.はじめに慢性疾患である緑内障治療において,正しい点眼の継続性,すなわち患者個々の点眼アドヒアランスの良否が治療効果に及ぼす影響は大きい1?3).一方,自覚症状に乏しく,長期間の点眼治療を必要とする緑内障において良好なアドヒアランスを維持するためには,疾患と点眼治療の重要性への理解を目的とした啓発活動が重要となる.そのなかで,医療従事者から患者への関与,すなわちコーチングとよばれる医療行為がきわめて重要である4?6).このコーチング内容をサポートする手段はいろいろあり,そのうちの一つとして,治療に用いられる緑内障点眼薬を販売する製薬会社の啓発活動,すなわち,疾患説明資材,点眼薬情報,点眼方法提案,点眼容器,点眼補助具などの資材類,実物類の提供がある.しかしながら,これらの製薬会社の活動に対する医療従事者側からの評価に関する体系だった調査はこれまでほとんど報告されていない.そこで,今回,製薬会社からの資材類,実物類の提供活動に対する評価を目的とし,調査者が対象者となる医療従事者に直接面談することでアンケート調査を実施した.本報では,種々の資材類,実物類に対するアンケート調査による評価結果とそこからみえてくる今後の製薬会社に期待される活動について報告する.I対象および方法2015年3?5月の3カ月間に,眼科治療を実施する医療施設に在籍し,事前の了解が得られた医療従事者を対象とした直接面談方式によるアンケート調査を実施した.まず,アンケート調査の目的を説明した後に,製薬会社が提供している実際の資材類,実物類(表1および図1)を供覧し,最後に,表2に示す設問内容のアンケート調査用紙に無記名式,自記式での回答とした.各医療従事者がこれまでに使用経験した資材類,実物類に限っての回答とし,また,職務内容上,回答できない設問に対しては,無記入とした.なお,表1(代表例を図1の写真に示す)に示す資材類,実物類は,各種の緑内障点眼薬を販売している参天製薬株式会社,千寿製薬株式会社,日本アルコン株式会社,ファイザー株式会社と川本産業株式会社(市販の点眼補助具)の5社から提供を受けた.II結果アンケートを実施し,回収しえたのは全国33施設〔内訳は大学病院6施設,総合病院1施設,眼科病院3施設(薬剤科を含む),眼科医院14施設,調剤薬局9施設〕の141名〔内訳は眼科医37名,看護師40名,薬剤師21名,視能訓練士20名,その他(検査,受付などの眼科スタッフ)23名〕であった.1.アンケート調査結果最初に,全18設問のうち,数値での表示可能な14設問に対する回答結果を表3および図2(製薬会社から提供される資材類,実物類に関する設問)に示す.2.資材類,実物類に対するコメントおよび不満足理由つぎに,設問⑪および⑮で回答を得た,製薬会社から提供されている資材類,実物類のどういう点が評価されていないのかの回答を項目別に表4に示す(代表的な内容をそれぞれ3つ記載,括弧内は回答者の職種).3.結果のまとめ製薬会社から提供される資材類,実物類に関する調査結果を中心に簡単に列記する.1.自前の資材類との併用も合わせて,製薬会社からの資材類を約90%の割合で採用している.また,複数製薬会社の同様の資材類からの選択基準としては,「文字数が少なく,文字も大きく,イラストなどが多い内容となっている」ことであった.2.資材類,実物類に対する満足度は,満足しているものもあるが不満足のものも両方あるという評価がもっとも高く,いずれも70%を超えていて,ほぼ不満足であるという評価と合わせると80?87%に達した.3.資材類に対する満足度としては,全体として緑内障疾患説明冊子が約40%ともっとも高い評価であったが,眼科医では眼球模型が34%と一番高い評価であった.一方,不満足であるのは,点眼治療重要性説明冊子,点眼指導法説明冊子,点眼チェックシート類の3つであった.4.実物類に対する満足度としては,点眼容器の使用性,識別性に対して,満足,不満足の両方があり,医療現場のなかで,使いやすい容器と使いにくい容器が混在している現状が示された.また,点眼補助具に対しては不満足が高く,とくに眼科医からの評価が低かった.III考按一般的なデータ調査において,調査者が直接説明し,その場で対象者に回答を記入してもらう方法は,質の高い調査を行うことができる利点があり,さらに対象者に質問内容の理解を促すことで,回答の精度や回答率の向上が期待できる7).一方,今回のような製薬会社の活動に対するアンケート調査において,製薬会社の構成員(調査者)が行うとバイアスがかかる可能性が否定できず,そういう意味からも特定の製薬会社に属さない調査者が行うことで精度の高い結果が得られるものと考える.また,今回は1人の調査者がすべてのアンケート調査を実施したので,調査者の違いによる説明や回答結果のバラツキなどが生じることはなかったと考察する.つぎに,点眼治療効果を高めるためには,疾患の理解,点眼薬治療の理解,正しい毎日の点眼の実行という3つのステップ(点眼アドヒアランスの維持)が必要とされ,さらに正しい毎日の点眼には,識別性(複数の点眼薬を間違えずに点眼),正確性(眼の上に正確に1滴を点眼),継続性(毎日,負担なく点眼)の3項目の理解と実施が重要である8).製薬会社から提供される資材類,実物類はこれらの3つのステップおよび3つの重要項目いずれにも関与し,今回の調査にあたっては,最初に医療従事者にこれらの資材類,実物類の再確認のための説明を行った.今回,緑内障患者の点眼アドヒアランス向上を目的とした製薬会社の啓発活動に対する医療従事者からの評価を調査した.すべての回答者の経験年数で5年以上が87%であり,とくに眼科医,看護師,薬剤師は90%以上であった.さらに約80%以上は10年以上の経験者であり,これまでの豊富な経験を元にした回答が得られたと考える(設問③).点眼アドヒアランス評価に重要な緑内障患者がどれぐらい正確に点眼できているかの設問④に対しては,眼科医,看護師,視能訓練士,その他といった眼科施設内の医療従事者では,56?70%で10人中7?8人以上が正確に点眼できているとの回答であった.一方,おもに調剤薬局に勤務する薬剤師では,半分以下の患者しか正確に点眼していないが約90%と差が出た.また,全体として,10人中1人未満の割合で,いくら点眼指導しても正確に点眼できない患者が存在するとの回答もあった.また,正確に点眼できていない根拠として(設問⑤),もっとも多いのは点眼薬の減少するスピードが予想より早すぎる,あるいは遅すぎるという回答であった.二番目の根拠として,眼科医では眼圧下降効果が期待以下であったというのに対し,看護師,薬剤師などでは患者本人からの申告,すなわち,毎日の点眼を忘れるときがあるとか,多剤のうち何種類か点眼していないなどの声を聞いているというものであった.患者は眼科医よりも看護師などのより身近と感じる医療従事者に毎日の点眼状況を申告していると考察される.さらに,患者からの申告による根拠では同じように高い比率である看護師などの眼科施設内の医療従事者とおもに調剤薬局での医療従事者である薬剤師との間に正確な点眼患者比率に差がみられたことに対しては,薬剤師は眼科医や看護師などと比較して,一人ひとりの患者の点眼状況について常に把握すべく,投薬本数管理や点眼正確度確認などをより細かく観察,判断していると考えられ,このことがより現実的な数字の差に表れたのではないかと考える.以上のような医療従事者および患者によるアドヒアランス評価(表3)をもとに,緑内障患者の点眼アドヒアランス向上への寄与を目的とした製薬会社の活動,すなわち,いろいろな資材類,実物類の提供に対する医療従事者の満足度,活用度を調査した(図2).まず,患者説明,指導用資材の出処については(設問⑥),自前の資材類との併用も合わせて,製薬会社からの資材類を約90%の割合で採用していることがわかった.また,複数の製薬会社からの同様の資材(たとえば,疾患説明資材)のどれを選択するかについては(設問⑦),「文字数が少なく,文字も大きく,イラストなどが多い内容となっている」ことがもっとも高い基準であった.患者やその家族がより理解しやすい,読みやすいというのが一番大事だと考えられていて,今後の新しい資材類作成時の参考になるものと考える.まず,資材類に対する満足度では(設問⑧),ほぼ満足(20%),ほぼ不満足(9%)とともに,満足しているものもあるが不満足のものも両方ある,という評価が71%ともっとも高かった.個別の資材類への評価としては(設問⑨および⑩),全体として緑内障疾患説明冊子が約40%の一番高い評価を得ていたが,眼科医では25%であり,眼球模型が34%ともっとも高い満足度であった.一方,不満足であるのは,点眼治療重要性説明冊子,点眼指導法説明冊子,点眼チェックシート類の3つが高く,いずれも患者点眼アドヒアランスの向上を目的とした「正しい毎日の点眼の実行」に必要な資材類であった.これらの資材類に対する具体的な意見のうち代表的なものを表4(1)?(3)に示すが,患者の点眼実態など患者の現実に即した内容が多く,製薬会社の今後の活動改善に有用な意見と考える.また,緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査に関する高橋らの報告9)によると,年齢が若いほど指示どおりの点眼ができていないことも明らかになっているので,スマートフォンなどのアプリケーションソフトの充実が求められるという意見(表4(3)-2)も今後重要と考える.これらのアプリケーションソフトについては,現在2社からの提供があるが,現状ではその有用性に関する報告はなされておらず,今後の調査とさらなる開発が待たれる.さらに,満足度が高い疾患説明冊子や眼球模型に対しても,より満足度,活用度を高めたいという願望を込めた貴重な意見が得られた(表4(4),(5)).つぎに,実物類に対する満足度においても(設問⑫),ほぼ満足(13%),ほぼ不満足(13%)とともに,満足しているものもあるが不満足のものも両方ある,という評価が74%ともっとも高く,資材類への評価と類似していた.ただ,不満足であるという評価が眼科医と比較して看護師,薬剤師,視能訓練士で高く,患者の毎日の点眼がうまく行っていない理由として患者本人からの申告としている結果と関連しているのではないかと考える.満足,不満足両方の評価(設問⑬および⑭)で,点眼容器の使用性,識別性が挙げられているが,点眼補助具に対しては不満足が高く,とくに眼科医からの評価が低かった.今回,調査に用いた点眼補助具には,特定の製薬会社が自社の点眼容器形状のみに使用可能な点眼補助具(ファイザー株式会社からのXal-Ease)を無料提供しているもの(無料で提供する場合,自社の製品のみに使用できることが条件となる)と,市販品という形で,有料で入手できるもの(川本産業株式会社からのらくらく点眼など)の両者が含まれている.実際,医療現場では両者が使用されているが,前者は他の資材類などと同様,正しい点眼治療のための啓発を目的としたものであり,一方,後者は啓発というよりビジネスの要素が大きい.ただ,後者の場合,患者がインターネット情報などを元に購入するというケースよりも医療従事者が正しい点眼治療のための患者啓発を目的として,患者に紹介し,購入してもらっているケースが多いとの医療機関側からの情報を得,啓発活動の一環としての役割が存在するものと考え,今回は両者をまとめて評価した.これらの実物類に対する具体的な意見のうち代表的なものを表4(6),(7)示すが,現在までに報告されている点眼容器の使用性や識別性に関する研究結果10?13)に加え,今後の点眼容器開発に留意すべき重要な意見と考える.また,点眼しやすい容器と点眼しにくい容器など同一実物類で相反する回答を出したのが141名中44名と約30%の混在率評価であった.医療現場のなかで,使いやすい容器と使いにくい容器が混在している現状が示されていると考えるが,今回の調査では別々の設問であったため,もし混在しているかどうかを直接確認する設問であれば,この混在率はもっと高い数字が出ていたと予測する.また,点眼補助具に関しては,このような使いにくい容器を販売している製薬会社自らに新しい点眼補助具の開発を求める意見に繋がっていると考える.さらに,今後の製薬会社の活動を考える観点から,医療従事者が患者やその家族説明に対しての役割分担についてどのような意見を持っているか,設問⑰を設定した.単独あるいはいろいろな職種の組み合わせでの回答をみると,眼科医からその他(受付)までのすべての医療従事者のチーム医療体制が重要であることが改めて明らかとなり,製薬会社にはすべてのメンバーに均質化された情報提供が求められていると考えられる.また,視能訓練士については,種々の検査時に入手可能となる患者個々の運動能力,体位制限,認知力などの点眼アドヒアランス判断のための基本情報の共有化に力を発揮しているという意見が複数の医療従事者からあった.上記の満足度,不満足度を踏まえたうえでの今後の製薬会社への要望として,表5に示すような資材類や実物類が提案されたが(設問⑯),臨床試験段階も含めて世界的な緑内障点眼薬新薬が非常に少ない現状を考えたときに,現状のなかでの改善策としていずれも検討の価値があるのではと考える.最後に,医療従事者が毎日の点眼治療で考えていることを聞いた設問⑱に対しても多くの回答を得たが,そのなかでいくつかの回答をキーワード的にまとめたものをつぎに示す.“1回の説明ですべてを理解できる患者はいない.治療を繰り返すなかで,疾患の今の状態の説明,毎日の点眼重要性の理由説明,正しい点眼方法の理解,指導など,同じことを何度も繰り返すことで,患者のアドヒアランスは確実に上がると思う.患者が同じ質問を繰り返したとしても,それにしっかり答える必要がある.治療に携わる人間がこれをめんどうだと思っては,そこで緑内障の治療は「おしまい」と考える.”製薬会社にはこのような医療従事者の思いに応えるためにも,今後も継続して有用で活発な啓発活動が求められている.文献1)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20032)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20083)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,20124)吉川啓司,松元俊,内藤知子ほか:緑内障セミナー緑内障3分診療を科学する!─アドヒアランスとコーチング─.眼科52:679-694,20105)兵頭涼子,山嵜淳,大音静香:点眼治療アドヒアランス向上を目指した意識調査.あたらしい眼科27:395-399,20106)荒佐夜香,菊池順子:緑内障治療開始時の服薬指導治療継続に向けて.薬局薬学5:76-81,20137)谷川琢海:第5回調査研究方法論?アンケート調査の実施方法?.日放技学誌66:1357-1361,20108)庄司純,河嶋洋一,吉川啓司:点眼薬クリニカルハンドブック第2版.p18-26,金原出版,20159)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,201010)兵頭涼子,溝上志朗,川崎史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200711)大塚忠史:点眼アドヒアランスの向上を指向した医療用点眼容器の開発.人間生活工学12:32-38,201112)高橋嘉子,井上結美子,柴田久子ほか:緑内障点眼薬識別法とリスク要因,あたらしい眼科29:988-992,201213)東良之:〔医療過誤防止と情報〕色情報による識別性の向上参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合.医薬品情報学6:227-230,2005〔別刷請求先〕河嶋洋一:〒610-1146京都市西京区大原野西境谷町3-8-54京都ひとみケアリサーチReprintrequests:YoichiKawashima,Ph.D.,KyotoHitomiCareResearch,3-8-54OharanoNishisakaidanicho,Nishikyo-ku,Kyoto610-1146,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY1510あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(124)表1製薬会社提供の資材類,実物類①疾患の理解のコーチング:緑内障疾患に関する冊子,緑内障患者の見え方シミュレーションツール,眼球模型,眼球断面図・パネル類②点眼薬治療の理解のコーチング:点眼薬の種類・効果・副作用に関する冊子,点眼治療の重要性に関する冊子③正しい毎日の点眼の実行のコーチング:(ⅰ)識別性:点眼容器・キャップの形状・色調,ラベルの表示・色調,点眼薬識別シール,点眼チェックシート(ⅱ)正確性:正しい点眼方法指導冊子(点眼方法実写DVDを含む),点眼しやすい点眼容器形状,点眼補助具(ⅲ)継続性:毎日の点眼の重要性説明冊子,点眼継続に負担のない点眼容器形状,点眼補助具,点眼チェックシート,点眼お知らせサイト表2アンケート設問内容①職種を教えて下さい.1.眼科医,2.看護師,3.薬剤師,4.視能訓練士,5.その他()②所属機関を教えて下さい.1.大学病院,2.総合病院,3.眼科病院,4.眼科医院,5.調剤薬局③今の職種での経験年数を教えて下さい.1.3年未満,2.3?5年未満,3.5?10年未満,4.10年以上④緑内障患者さんのどれぐらいが,毎日ちゃんと決められた通りに点眼していると思われますか?1.ほぼ全員,2.10人中7?8人,3.半分ぐらい,4.10人中2?3人,5.それ以下⑤ちゃんと点眼していないことは,どういうことで感じられていますか?複数回答可です.1.点眼液の減少のスピード(速すぎる,遅すぎる),2.効果の弱さ,3.副作用発現の多さ(眼瞼周りの変化など),4.その他()⑥患者さんへの説明,指導には,どのような資材を使用されていますか?1.製薬会社からの資材,2.自前の資材,3.両方の資材⑦製薬会社からの資材を使われている場合,複数会社からの種々の資材の中で一つを選択される基準としては,どういう点を一番重視されていますか?1.説明しやすい内容や順序となっている,2.文字数が少なく,文字も大きく,イラストなどが多い内容となっている,3.最新の情報,知見も含め,レベルの高い内容となっている,4.その他()⑧現状の製薬会社からの資材で満足されていますか?1.満足している,2.満足していない,3.満足と不満足の両方が存在⑨満足している資材としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.疾患説明冊子,2.点眼治療薬説明冊子,3.点眼治療重要性説明冊子,4.点眼指導法説明冊子,5.眼球模型や眼球断面図・パネルなどの資材,6.点眼チェックシートや点眼薬識別シールなどの資材,7.その他()⑩満足していない資材としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.疾患説明冊子,2.点眼治療薬説明冊子,3.点眼治療重要性説明冊子,4.点眼指導法説明冊子,5.眼球模型や眼球断面図・パネルなどの資材,6.点眼チェックシートや点眼薬識別シールなどの資材,7.その他()⑪満足していない理由を教えて下さい.⑫製薬会社が提供しています実物(点眼容器や点眼補助具など)で満足されていますか?1.満足している,2.満足していない,3.満足と不満足の両方が存在⑬満足している実物としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.点眼しやすい容器,2.識別しやすい容器やラベル表示,3.点眼補助具,4.その他()⑭満足していない実物としては,どういう内容のものですか?複数回答可です.1.点眼しにくい容器,2.識別しにくい容器やラベル表示,3.点眼補助具,4.その他()⑮満足度を上げるために,製薬会社に望まれるものとその理由を教えて下さい.(対象となる実物名:)(その理由:)⑯今後,製薬会社に新規に開発,提供して欲しい資材や実物はありますか?1.ある(),2.ない⑰患者さんやそのご家族への下記の「疾患と治療法」初めの6項目毎の説明は,どういう職種のメンバーが行うのが適切あるいは効果的だとお考えですか?次の番号からお選び下さい.複数回答可です.1.眼科医,2.看護師,3.薬剤師,4.視能訓練士,5.その他疾患と治療法(),効果と副作用(),用法・用量(),点眼方法(),禁忌,使用上の注意(),医療コスト()⑱最後に,先生が患者さんの毎日の点眼治療について,日頃お考えのご意見やご提言がありましたら,教えて頂けませんでしょうか.図1資材類および実物類の代表例の写真(125)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201615111512あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(126)表3アンケート調査結果(1)設問①および②職種および所属機関1.大学病院2.総合病院3.眼科病院4.眼科医院5.調剤薬局全体6施設17名1施設1名3施設17名14施設87名9施設19名眼科医6施設10名0施設0名3施設8名14施設19名0施設0名看護師1施設1名1施設1名1施設6名5施設32名0施設0名薬剤師0施設0名0施設0名1施設2名0施設0名9施設19名視能訓練士1施設5名0施設0名0施設0名5施設15名0施設0名その他1施設1名0施設0名1施設1名5施設21名0施設0名設問③経験年数1.3年未満2.3?5年未満3.5?10年未満4.10年以上全体10名(7%)9名(6%)25名(18%)97名(69%)眼科医0名(0%)1名(3%)3名(8%)33名(89%)看護師2名(5%)2名(5%)4名(10%)32名(80%)薬剤師0名(0%)0名(0%)5名(24%)16名(76%)視能訓練士7名(35%)2名(10%)5名(25%)6名(30%)その他1名(4%)4名(17%)8名(35%)10名(43%)設問④毎日の正確な点眼患者比率(10人中)1.ほぼ全員2.7?8人3.約半分4.2?3人5.それ以下全体4名(3%)69名(49%)57名(40%)11名(8%)0名(0%)眼科医1名(3%)20名(54%)14名(38%)2名(5%)0名(0%)看護師1名(3%)21名(53%)15名(38%)3名(11%)0名(0%)薬剤師0名(0%)3名(14%)13名(62%)5名(24%)0名(0%)視能訓練士0名(0%)14名(70%)6名(30%)0名(0%)0名(0%)その他2名(9%)11名(48%)9名(39%)1名(4%)0名(0%)設問⑤不正確な点眼根拠(複数回答可)1.減少スピード2.効果弱い3.副作用多い4.患者申告など全体106名(48%)30名(14%)22名(10%)61名(28%)眼科医31名(46%)16名(24%)8名(12%)12名(18%)看護師27名(44%)8名(13%)5名(8%)21名(34%)薬剤師19名(44%)4名(9%)8名(19%)12名(28%)視能訓練士8名(38%)1名(5%)1名(5%)11名(52%)その他21名(78%)1名(4%)0名(0%)5名(19%)設問⑰単独あるいは組み合わせによる患者説明(複数回答可)1位2位3位疾患・治療法眼科医眼科医+看護師眼科医+薬剤師効果・副作用眼科医+薬剤師眼科医眼科医+看護師+薬剤師用法・用量眼科医+薬剤師薬剤師眼科医+看護師+薬剤師点眼方法看護師+薬剤師薬剤師看護師眼科医+看護師+薬剤師禁忌・注意点薬剤師眼科医+薬剤師眼科医+看護師+薬剤師医療コスト薬剤師その他(眼科スタッフ)眼科医+薬剤師(127)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161513図2アンケート調査結果(2)(グラフ中の数字は回答人数を示す)1514あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(128)表4資材類,実物類に対するコメントおよび不満足理由(1)点眼治療重要性説明冊子1.薬理作用の異なる多剤併用時の科学的根拠の説明が不十分(眼科医)2.いくら重要性を説明しても脱落例が多いが,どれ位の眼圧を保っていればいいかとか,今自分がどれ位の位置にいるとか,目安になる情報が入っていれば良いのだが(薬剤師)3.1滴滴下でOKとしているが,1滴で十分である科学的根拠(薬理学的,薬動力学的)が説明されていない(薬剤師)(2)点眼指導法説明冊子1.説明冊子だけでは指導しきれないので,実際に目の前で点眼してみせる(薬剤師,看護師)2.視弱障害の程度にあった説明が必要で,たとえば軽症例と重症例では説明内容も変えたほうが良い(眼科医)3.高齢の患者や手指・首の動きの悪い患者が点眼する説明内容になっていない(薬剤師,看護師)(3)点眼チェックシート1.チェックシートは単独使用のものが多いが,点眼忘れが多いのは多剤併用者であるため,現行のものは使いにくい(看護師,薬剤師)2.アドヒアランスの悪い患者は若い忙しい世代が多いため,もっとスマートフォンなどのアプリケーションソフトを充実させたほうが良い(眼科医)3.実際の患者の要求に沿っているか,その有用性に疑問(眼科医)(4)疾患説明冊子1.機序やしくみの説明が多く,患者の将来困るであろうことのイメージがわきにくい(眼科医)2.「自分は大丈夫」と簡単に考える患者には,冊子だけでは十分に伝えられないが,結局は人と人で伝える部分が大きく,眼科スタッフの頑張る部分と思う(眼科スタッフ)3.患者によって疾患,自覚が違い,患者によっては余分な不安を誘発させたり,逆に安易にとらえられてしまうことがあり,使用しづらい(眼科スタッフ)(5)眼球模型1.現状のものは,緑内障の説明には使いづらく,病態に特化した模型へのアレンジを望む(眼科医)2.OCT(opticalcoherencetomograph,光干渉断層計)による診断結果と連動できるようなアレンジがあれば(眼科医)3.現状のものは壊れやすいから,もっと頑丈なものを(眼科医)(6)点眼容器の使用性・識別性1.容器の硬さに差が大きく,押す力によっては2?3滴出てしまう(薬剤師,看護師)2.使用性を向上させるために容器形状を工夫しようとすると,形状が似てきて,会社間での識別性が悪くなる(これまでは,同一会社製品間での問題であったが)(眼科医,薬剤師,看護師)3.ミニ点眼薬(使い切りユニットドーズタイプ点眼薬)について,最近1日1?2回点眼の緑内障ミニ点眼薬がいくつか販売されているが,ドライアイミニ点眼薬(1日5?6回点眼)との識別性が悪く,患者の過剰点眼を危惧する(眼科医,薬剤師)(7)点眼補助具1.現状のものは真上からの点眼でなければ,うまく眼の上に点眼できない.したがって,補助具を使って点眼できる人は,補助具なしでも点眼できる(薬剤師,看護師)2.患者の使用継続性が悪いのが問題(眼科医,看護師,薬剤師)3.点眼しにくい容器を出している製薬会社自らが,新しい補助具の開発,販売をすべきである(眼科医,薬剤師)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161515表5今後,製薬会社に新規に提供して欲しい資材類,実物類(代表例)(1)資材類,実物類からの視点1.今回明らかになった不満足点からの改良への着手(毎日の正確な点眼支援)2.製薬会社自らによる点眼補助具の開発(操作容易,真上からの点眼不要)3.押す力に関係なく,1滴だけ点眼できる容器(多剤点眼時には,とくに必要)(2)製品開発からの視点1.配合剤点眼薬の充実【PG(プロスタグランジン関連薬)+CAI(炭酸脱水酵素阻害薬),PG+CAI+b(b遮断薬)など】2.眼内(前房,後房内)埋め込み型などのDDS(drugdeliverysystem,薬物送達システム)製剤(毎回の点眼行為を必要としない究極のアドヒアランス)3.医療従事者や患者の安心度の高いオーソライズド・ジェネリック(先発メーカーとの契約のもと,添加剤の種類・量,製造方法などが同じ)の開発1516あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(130)(131)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161517

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1187?1190,2016c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討吉谷栄人*1坂田礼*1沼賀二郎*1本庄恵*1,2*1東京都健康長寿医療センター眼科*2東京大学医学部附属病院眼科EfficacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutioninEyesofPatientswithGlaucomaMasatoYoshitani1),ReiSakata1),JiroNumaga1)andMegumiHonjo1,2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:日本人緑内障患者におけるリパスジル点眼液(グラナテックR点眼液0.4%)の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.投与開始後1カ月目,2カ月目,3カ月目の眼圧値および安全性について検討した.結果:投与開始前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後1カ月目14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった.3カ月間を通しての副作用として,結膜充血4例4眼,掻痒感1例1眼,眼刺激感1例1眼を認めたが,いずれも中止には至らなかった.結論:目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることが期待できる薬剤であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionintheeyesofpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14eyesof14patientstreatedwiththemultiplecombinedtherapyforglaucoma.Weexaminedintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafteradjunctionofripasudilophthalmicsolution.Results:ThemeanbaselineIOPwas18.6±4.2mmHg.At1,2and3months,IOPwas14.6±2.5mmHg,15.3±3.4mmHgand14.8±2.3mmHgrespectively;significantIOPreductionwasobserved.TherewasnosignificantcorrelationbetweenIOPreductionrateandage.Adverseeffectswerehyperemia(4eyes),itching(1eye),andeyeirritation(1eye).Nopatientsdiscontinuedbecauseofadverseeffects.Conclusion:RipasudilophthalmicsolutionwaseffectiveinsafelyreducingIOPinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1187?1190,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,緑内障,ROCK阻害薬,安全性,眼圧.ripasudilophthalmicsolution,glaucoma,Rhokinaseinhibitor,safety,intraocularpressure.はじめに緑内障においては,眼圧下降治療が依然として唯一確実に効果が認められている治療法であるため1),新たな眼圧下降機序の薬物の開発は治療の選択肢を拡大するという点において非常に有意義であると考えられる.リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液0.4%R,以下リパスジル点眼液)は,日本で研究,開発されたROCK(Rho-associatedcoiled-coilformingkinase)阻害薬の緑内障点眼液であり,その作用機序は,Rhoの標的蛋白質のセリン・スレオニンキナーゼであるROCKを阻害し,線維柱帯細胞の形態の変化,細胞外マトリクス産生抑制,傍Schlemm管内皮細胞の透過性亢進を通じて,主経路である経Schlemm管房水流出路での房水流出を促進することで眼圧下降をもたらすとされる2?4).これまでの報告によると,第I相臨床試験においては,健常男性において点眼投与2時間後,単剤で平均4.0mmHgの眼圧下降効果が認められた.第II相臨床試験では開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者において単剤で平均3.5mmHgの眼圧下降効果が認められた.第III相臨床試験では0.5%チモロール点眼液に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,0.005%ラタノプロスト点眼液に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果が認められた5?7).52週にわたる長期投与においても,単剤においては平均2.6mmHgの眼圧下降効果を認め,プロスタグランジン関連薬に追加した群では平均1.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,b遮断薬に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の併用に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果がそれぞれ認められている8).同時にその報告によると,副作用として結膜充血74.6%,眼瞼炎20.6%,アレルギー性結膜炎17.2%で,全症例352症例のうち51症例が眼瞼炎またはアレルギー性結膜炎のために中止となっている.ただし点眼中止後は,必要に応じた加療により症状は全例軽快したとされている8).一方で開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者における点眼開始後の24時間眼圧においては,単剤のリパスジル点眼液投与後から1時間から7時間は有意な眼圧下降効果を認め,初回の点眼投与2時間後において平均6.4mmHgの眼圧下降効果を認めたと報告されている9).その他のROCK阻害薬に関する報告では,糖尿病網膜症におけるROCK阻害薬による血管障害の制御の可能性に関して報告があり,血管内皮細胞障害阻害作用や白血球接着阻害による糖尿病網膜症の微小血管障害の病態制御の可能性が期待されている10).また,ROCK阻害薬の一種であるY-27632による角膜内皮の創傷治癒促進が指摘され,Fuchs角膜内皮ジストロフィによる初期の水疱性角膜症における角膜内皮機能の回復と視力回復が得られた報告もある11).リパスジル点眼液は2014年12月に世界に先駆けて販売が開始されたが,実際の臨床に基づく有効性と安全性の報告は皆無である.今回,緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.I対象および方法東京都健康長寿医療センター眼科に通院中の日本人緑内障患者を検討対象とした.緑内障の病型は問わず,緑内障点眼下でも目標眼圧(ベースライン眼圧より20%下降)に到達しない症例のなかで,2015年1?8月に,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.なお,本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理委員会で承認された.対象症例を1例1眼としてランダムに選択したが,リパスジル点眼液が両眼に投与された症例では,眼圧下降率の少ない眼あるいは内眼手術の既往歴のない眼を対象とした.Goldmann圧平眼圧計(Haag-Streit社,スイス)による診療時間内の眼圧測定,リパスジル点眼液開始前のHumphrey自動視野計(Carl-Zeiss社,ドイツ)SITA-Fast30-2の信頼性のある視野検査結果(固視不良,偽陽性,偽陰性それぞれ20%以下)を採用した.安全性の評価は,患者の自覚症状や細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を参考とした.経過観察中,目標眼圧に到達せず追加の緑内障治療を必要とした症例,転医した症例,データが得られなかった症例はその都度除いた.1カ月ごとの眼圧下降効果の評価は,投与開始後の得られたデータ群とその各々に対応する投与前のデータ群との比較により評価し,データが得られなかった症例の投与前のデータは除外した.主要評価項目は点眼追加後の眼圧経過であり,1カ月ごとの眼圧下降効果に関してはpairedt-testを用いた.また,副次的に投与後の眼圧の下降量と年齢,投与前眼圧値との相関関係に関して検討を行い,それぞれ,Spearmans’scorrelationcoefficientbyranktest,Peason’scorrelationcoefficienttestを用いて検討を行った.統計解析ソフトはStatcelver3を使用し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象患者を表1に示す.リパスジル点眼液追加投与前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後の眼圧値は,1カ月目で14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目で15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目で14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった(図1).それぞれの眼圧下降量は1カ月目で3.8±1.1mmHg,2カ月目で3.4±0.9mmHg,3カ月目で3.3±1.4mmHgであった.追加投与開始後の眼圧下降量と年齢の間には有意な相関関係を認めなかった(1カ月目:r=0.13,p=0.69,2カ月目:r=?0.20,p=0.53,3カ月目:r=0.29,p=0.45).一方,眼圧下降量と追加前眼圧との間には,有意な正の相関関係を認めた(1カ月目:r=0.80,p<0.01,2カ月目:r=0.65,p<0.05,3カ月目:r=0.84,p<0.01).安全性の評価では,結膜充血4眼(1カ月目3眼,3カ月目1眼),掻痒感1眼(3カ月目1眼),眼刺激感1眼(1カ月目1眼)を認めた(重複あり)が,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.III考按今回,眼圧コントロールが不十分であった緑内障患者に対して,リパスジル点眼液の追加投与を行った症例を後ろ向きに検討した.点眼数は投与追加前の平均3.1剤から追加後の平均4.1剤に増えた(配合剤は2剤として計算した)ものの,点眼追加後1カ月目から3カ月目において,いずれも有意な眼圧下降効果が得られていた.また,臨床上中止に至るような眼局所の副作用もなく,安全性も担保されていると考えられた.また,年齢と眼圧下降量には相関関係を認めなかったが,一方で,追加前眼圧と眼圧下降量に関しては有意な正の相関関係を認め,追加前の眼圧が高いほうがより強い眼圧下降量を得られることが期待される.ただし,今回の検討では症例数が少ないため,今後さらなる多症例数での検討が必要である.これまでの緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬を柱に,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2刺激薬を組み合わせることで眼圧管理を行ってきたが,リパスジル点眼液はこれら既存の点眼薬と作用機序が異なることから,新たな治療薬の選択肢となりうる.全身的な副作用も皆無であり,今後併用療法の一つの柱になるのでないかと考えられた.リパスジル点眼液追加投与後も目標眼圧に到達しなかった症例は4例4眼であり,2眼は開放隅角緑内障(83歳,女性と54歳,女性)で併用点眼薬を変更,1眼は落屑緑内障の76歳,女性で線維柱帯切開術を施行,1眼は開放隅角緑内障の74歳,女性でチューブシャント手術をそれぞれ施行された.安全性の検討に関して,今回の14眼で使用中止となるような重篤な副作用は認められなかった.もっとも頻度が高いと考えられた結膜充血は,3カ月間で14眼中4眼(29%)に認められた.ただし,診療時間内における患者の自覚症状の聴取,もしくは細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を評価対象としたため,その評価判定基準は統一されておらず,今後の検討を要すると考えられた.緑内障点眼薬においては,結膜充血などの眼局所の副作用による点眼アドヒアランスの低下が懸念されるため,リパスジル点眼液で頻度の高い結膜充血の動態を把握しておくことはアドヒアランスを維持するうえで非常に重要と思われる.アレルギー性結膜炎や眼瞼炎など他の副作用も含め,母数を増やし,より長期的な経過観察が必要と考えられた.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,避けられないいくつかの問題点があげられる.まず症例数が少ない(n=14)ため,眼圧下降効果や相関の有意性を正確に評価することが困難であり,今後さらに母数を増やす必要がある.つぎに,今回の検討対象に含まれるのはあらゆる病型の緑内障であり,かつ手術既往眼も含めたため,病型別の眼圧下降効果を正確に評価することが困難であった.つぎに,診療録記載に基づく安全性評価であり,その評価基準は一定していないため,今後は決められた評価基準を作成し評価していく必要がある.そして最後に,今回は3カ月間という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたる点眼評価を行っていく必要がある.このように多くの問題点は含有するが,今回の検討からは,目標眼圧に到達しない日本人緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降効果を得ることができる薬剤であると考えられた.IV結論目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることができる薬剤であると考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)中庄司幹子:新薬のプロフィルグラナテック点眼液0.4%.ファルマシア51:240,20153)本庄恵:Rho-associatedkinase(ROCK)阻害薬の緑内障治療薬としての可能性.日眼会誌113:1071-1081,20094)本庄恵:緑内障の新薬1:ROCK阻害薬.あたらしい眼科32:775-781,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20158)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol4:DOI:10.1111/aos.12829,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201510)有田量一:糖尿病性網膜微小血管障害のメカニズムとROCK阻害薬による病態制御の可能性.日眼会誌115:985-997,201111)小泉範子:Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を用いた新しい角膜内皮疾患治療の開発.日の眼科83:1324-1328,2012〔別刷請求先〕吉谷栄人:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:MasatoYoshitani,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaetyou,Itabashiku,Tokyo173-0015,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)11871188あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(106)表1患者背景背景因子症例数14例14眼性別男性5例,女性9例年齢70.2±12.2歳(51?92)MD?12.46±10.10dB(?29.01??0.53)PSD9.91±4.75dB(1.67?15.13)眼圧18.6±4.2mmHg(12?25)点眼剤数※3.1±0.9剤(1?4)病型原発開放隅角緑内障7例7眼落屑緑内障3例3眼続発緑内障2例2眼原発閉塞隅角緑内障2例2眼手術既往歴白内障手術5例5眼線維柱帯切開術1例1眼線維柱帯切除術1例1眼隅角癒着解離術1例1眼MD:meandeviation.PSD:patternstandarddeviation.※配合剤は2剤として計算図1リパスジル点眼液投与開始後の眼圧経過リパスジル点眼追加後,有意な眼圧下降が維持された.(107)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611891190あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(108)

Ex-PRESS®併用濾過手術における術中光干渉断層計の有用性

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1053〜1056,2016©Ex-PRESS®併用濾過手術における術中光干渉断層計の有用性松崎光博*1,2広瀬文隆*1,2山本庄吾*1,2吉水聡*1,2宇山紘史*1,2藤原雅史*1,2栗本康夫*1,2*1神戸市立医療センター中央市民病院眼科*2先端医療センター病院眼科ClinicalUsefulnessofIntraoperativeOCTinGlaucomaFiltrationSurgeryUsingEx-PRESS®ShuntDeviceMitsuhiroMatsuzaki1,2),FumitakaHirose1,2),ShogoYamamoto1,2),SatoruYoshimizu1,2),HirofumiUyama1,2),MasashiFujihara1,2)andYasuoKurimoto1,2)1)DepartmentofOphthalmology,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,InstituteofBiomedicalResearchandInnovation目的:Ex-PRESS®併用濾過手術おける術中OCTの有用性を検証する.方法:神戸市立医療センター中央市民病院で開放隅角緑内障に対しEx-PRESS®併用濾過手術を同一術者にて施行した4例5眼を対象とし,Ex-PRESS®挿入時に術中OCTガイド下に強膜弁下から前房への穿刺を施行した.結果:いずれの症例もEx-PRESS®挿入のための前房穿刺に先だって,刺入部位と前房側出口および虹彩との位置関係をリアルタイムに確認することができた.挿入後術中OCTにてEx-PRESS®が良好な位置に固定されていることを確認した.また,術終了時には深層強膜弁切除併用による強膜弁下のレイク形成と良好な濾過胞形成を術中OCT上で確認できた.5眼とも術後の濾過胞形成は良好であり,前眼部OCT(CASIA®)にてEx-PRESS®が良好な位置に固定されていることを確認した.結論:術中OCTは,Ex-PRESS®併用濾過手術における穿刺部位の決定に有用である.Purpose:Toevaluatetheclinicalusefulnessofintraoperativeopticalcoherencetomography(OCT)forfilteringglaucomasurgeryusingtheEx-PRESS®shuntdevice.Methods:Thisstudyexamined5eyesof4patientsdiagnosedwithopen-angleglaucoma.Theyunderwentfilteringglaucomasurgerybyonesurgeon,usingtheEx-PRESS®shuntdevice.ThesurgeonperformedanteriorchamberparacentesisandEx-PRESS®insertionunderintraoperativeOCTguidance.Results:IntraoperativeOCTenabledreal-timevisualizationofpositionalrelationshipsbetweenthescleralsurface,underapartial-thicknessscleralflap,andtheanteriorchamber.AfterEx-PRESS®insertion,intraoperativeOCTdelineatedtheEx-PRESS®deviceaswellpositionedinsidetheanteriorchamber,thelakeunderthescleralflap,andawell-formedconjunctivalbleb.Postoperatively,eachEx-PRESS®devicewasassessedusinganteriorsegmentOCT(CASIA®),confirmingthatalldeviceswerefixedingoodpositionintheanteriorchamberangle.Conclusions:IntraoperativeOCTcanbeausefultoolinEx-PRESS®implantationsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1053〜1056,2016〕Keywords:緑内障,濾過手術,エクスプレス®,術中OCT,前眼部OCT.glaucoma,filtrationsurgery,Ex-PRESS®,intraoperativeOCT,anteriorsegmentOCT.はじめに緑内障フィルトレーションデバイスであるEx-PRESS®(Alcon社)併用濾過手術は,デバイスが流出量をコントロールするため,線維柱帯切除術に比べて術中の急激な低眼圧をきたしにくく,術後は浅前房などの早期合併症が少ないと考えられている.また,虹彩切除が不要で前房出血の頻度が低いことが知られている.これらの理由によりEx-PRESS®併用濾過手術は,線維柱帯切除術と同等の眼圧下降が得られる安全性の高い手技として広く普及している1,2).Ex-PRESS®の挿入位置は,通常,強膜弁下の強角膜移行部(いわゆるグレーゾーン)後端を目安として決定されるが,強角膜外側と前房隅角側や虹彩との位置関係には個人差があり,必ずしも想定した位置に前房穿刺が得られるとは限らない.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)手術顕微鏡RESCAN700(CarlZeiss社,以下,術中OCT)は,手術支援システムCALLISTeyeと連携して,術野内のリアルタイム断層像を得ることができる.術者の片眼の接触レンズにOCT画像が投影されるため,視線を外すことなくそのOCT像を参照できる.術中OCTを用いて,前房側の位置関係を確認しながら穿刺することができれば,より確実なEx-PRESS®挿入を行える可能性がある.術中OCTは硝子体手術3)や角膜手術4)などで使用されているが,これまでに緑内障手術にて使用した報告はない.今回,筆者らは,Ex-PRESS®併用濾過手術おける術中OCTの有用性を検証したので報告する.I対象および方法対象は,神戸市立医療センター中央市民病院(以下,当院)にて2015年3〜8月に,同一術者にて開放隅角緑内障に対しEx-PRESS®併用濾過手術を施行した4例5眼である(表1).このうち白内障同時手術は1例2眼であった.いずれの症例も4mm×3mmの表層強膜弁を作製し,マイトマイシンCを塗布処理した後,深層強膜弁部分切除を併用した.Ex-PRESS®挿入時に術中OCTガイド下に強膜弁下から前房への穿刺を施行した.術中OCTへの切り替えや術中OCTの操作は,術者がフットスイッチ操作で行った.うち1症例(症例4)では術中に深層強膜弁部分切除による強膜弁下のスペース(以下,レイク)の形成や結膜縫合後の濾過胞の形成を術中OCTにて確認した.また,術後,眼圧が安定してから外来にて前眼部OCT(SS-1000CASIA®,Tomey社)にてEx-PRESS®挿入位置を確認した.挿入位置は,Ex-PRESS®本体と虹彩や角膜との接触がなく,先端の流出口および上方の流出口(リリーフポート)が開放しているものを良好な位置と定義した.II結果Ex-PRESS®挿入のための前房穿刺に先だって,術中OCTにて角膜輪部を中心に描写し,強膜と虹彩隅角側の構造が同定可能な明瞭な画像を得ることを確認した.25ゲージ(G)Vランスにて強膜弁下の表面から軽く押すことや,Vランスのシャドウを参考にすることで,強膜弁下と前房側出口および虹彩との位置関係をリアルタイムで確認した(図1A,B).この際,前房側の様子がVランスのシャドウでマスクされる場合は,Vランスの投影面積が最小になるようにVランスを操作した.また,Vランスと平行にOCT断層面を動かすことでVランスを描出し,挿入角度が虹彩と平行であることをOCT上で確認した(図1C,D).術中OCTにて位置や角度を調整しても,短時間で前房穿刺を施行することが可能であった.挿入後,術中OCTにてリアルタイムで断層面を動かしながら確認することで角膜や虹彩との接触がなく適切な位置に挿入されているか確認することが可能であった(図2).また,強膜弁縫合後,深層強膜弁部分切除併用による強膜弁下のレイク形成(図3A,B)を確認した.さらに,結膜縫合後,丈の高い良好な濾過胞形成を術中OCT上で確認できた(図3C,D).いずれの症例も術後の濾過胞形成は良好であり,前眼部OCTにてEx-PRESS®が良好な位置に固定されていることを撮像できた(図4).III考按Ex-PRESS®の使用成績調査(2012年7月9日〜2014年12月19日における中間集計)による安全性解析対象437眼において,虹彩接触症例が26.3%と位置異常の頻度が高いことがわかってきた5).以前,当院にて,線維柱帯切除術の経験が10症例以上ある複数の術者によるEx-PRESS®併用濾過手術後の52例62眼で検討した際は,虹彩接触症例は24.1%,角膜接触症例は1.6%であり,使用成績調査の中間集計とほぼ同様であり,症例ごとに挿入角度のばらつきを認めた(宇山紘史,亀田隆範,平見恭彦ほか:3次元前眼部光干渉断層計を用いたEx-PRESS®デバイスの観察.第37回日本眼科手術学会学術総会,2014).角膜や虹彩に接触したEx-PRESS®が必ずしも術後に問題を引き起こすわけではないが,角膜接触では角膜内皮障害が起こる可能性が指摘され6),虹彩接触では虹彩と癒着して房水流出口が閉塞し眼圧上昇した症例7)や,虹彩接触が慢性疼痛を引き起こした症例も報告されている8).本研究のように術中OCTアシスト下でEx-PRESS®挿入を行うことで挿入位置が安定し,位置異常による合併症の軽減が期待できる.一般に普及しているOCTの機種は撮像部の可動性がないため,手術中に術眼の断層像を撮影するのは困難である.さらに撮像部に可動性のある機種であっても,術中にOCTを撮影する場合は,いったん手術を止めて,機材を患者の顔に接近させてOCTを撮影し,また時間をかけて元に戻す必要があり,リアルタイムで画像を参照しながら手術を行うことは不可能であった.本研究で使用した術中OCTは顕微鏡と一体化しており,モードを切り替えるだけの操作でOCT像を術野に映しながら手術を継続できるため,患者への負担が少なく,術者の利便性が高い.一方で,現時点では広く普及しておらず,使用できる施設が限られてしまうことが問題点である.穿刺中に術中OCTを参照するのは挿入時に眼球が動きOCTの断層位置がずれるため困難であり,穿刺前の位置や角度の決定に留めるのがよいと考えられる.前房側の画像を参照しながら前房穿刺部位や角度を決定することで,より精度の高い挿入が可能になると思われる.外来の前眼部OCTにてEx-PRESS®の挿入位置を確認できる9)ように,術中にもリアルタイムで挿入位置を確認することができた.このことで,術中に微調整や再挿入の判断なども可能になると思われる.術中OCTは,Ex-PRESS®併用濾過手術での穿刺部位の決定における有用なツールとなりうる.また,OCTガイド下ではリアルタイムの画像的フィードバックが得られるため,術者の手術手技向上の一助になるというメリットも期待される.本研究では,症例数が少なく術中OCT非使用症例との術後成績の比較検討を行うことはできなかった.今後症例数を増やして術後のEx-PRESS®の位置異常発生率や術後成績などを検討する予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MarisPJ,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20072)WangW,ZhouM,HuangWetal:Ex-PRESSimplantationversustrabeculectomyinuncontrolledglaucoma:ameta-analysis.PLoSOne8:e63591,20133)EhlersJP,KaiserPK,SrivastavaSK:IntraoperativeopticalcoherencetomographyusingtheRESCAN700:preliminaryresultsfromtheDISCOVERstudy.BrJOphthalmol98:1329-1332,20144)StevenP,LeBlancC,LankenauEetal:OptimisingdeepanteriorlamellarKeratoplasty(DALK)usingintraoperativeonlineopticalcoherencetomography(iOCT).BrJOphthalmol98:900-904,20145)日本アルコン株式会社:アルコンエクスプレス緑内障フィルトレーションデバイス添付文章.2015年8月改訂(第3版)6)TojoN,HayashiA,MiyakoshiA:CornealdecompensationfollowingfilteringsurgerywiththeEx-PRESS®miniglaucomashuntdevice.ClinOphthalmol9:499-502,20157)内富一仁,藤本隆志,井上賢治ほか:エクスプレス®に膜様組織が付着し眼圧上昇した1例.臨眼69:1481-1485,20158)GroverDS,FellmanMA,FellmanRL:Newabinternotechniqueforremovalofiris-embeddedEX-PRESSshuntandchroniceyepaincausedbyshuntmalpositioning.JAMAOphthalmol131:1356-1358,20139)VerbraakFD,deBruinDM,SulakMetal:OpticalcoherencetomographyoftheEx-PRESSminiatureglaucomaimplant.LasersMedSci20:41-44,2005表1対象患者の背景年齢性別術眼病型水晶体再建術症例187男性左眼落屑緑内障既往症例251男性左眼原発開放隅角緑内障施行なし症例350女性右眼原発開放隅角緑内障施行なし症例471男性右眼原発開放隅角緑内障同時手術左眼原発開放隅角緑内障同時手術図1穿刺位置および角度を決定するときの手術顕微鏡写真(A,C)と同時に撮像した術中OCT像(B,D)Vランスにて強膜弁下の穿刺予定部(A⇨)を圧迫しながら,術中OCTでVランスのシャドウとして圧迫部位をリアルタイムに確認することにより(B⇨)穿刺位置を決定.強膜上のVランス(C⇨)を術中OCT像で描出(D⇨)し,虹彩面との角度を調整できる.A,Bは症例4,C,Dは症例3.図2症例2のEx-PRESS®挿入後の手術顕微鏡写真(A)と同時に撮像した術中OCT像(B)Bの上図は角膜輪部に直角な断層像(青線),下図は角膜輪部と水平な断層像(赤線).矢印の位置にEx-PRESS®が描出されている.Ex-PRESS®のシャドウで虹彩の一部が描出されていないため,前後の断層面から虹彩と前房の境界を点線で示した(B上図).角膜には牽引糸のシャドウが描写されている.図3症例4の手術顕微鏡写真(A,C)と同時に撮像した術中OCT像(B,D)A,B:前房に房水を注入し,矢印の位置にレイク形成を確認できた.C,D:結膜縫合後,丈の高い良好な濾過胞形成を確認できた.図4症例1の術後外来における前眼部OCT像(CASIA®)角膜や虹彩との接触なく,先端と上方の流出口が開放していることが確認できた.〔別刷請求先〕松崎光博:〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町2-1-1神戸市立医療センター中央市民病院眼科Reprintrequests:MitsuhiroMatsuzaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital.2-1-1Minatojima-minami-machi,Chuo-ku,Kobe650-0047,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(127)10531054あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610551056あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(130)