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II.視路病変編 視路疾患のOCT Up-to-Date

2019年5月31日 金曜日

II.視路病変編視路疾患のOCTUp-to-DateOpticalCoherenceTomographyinVisualPathwayDisorder坂本麻里*中村誠*はじめに網膜に入った光刺激は,視細胞で電気信号に転換され,双極細胞,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)へ伝達される.RGCの軸索は視神経となり,視交叉・視索・外側膝状体・視放線を経て,後頭葉の視覚野へと伝達される(図1).この視覚伝導路(視路)に起きるさまざまな疾患により,神経細胞の軸索が損傷すると,損傷部位から末梢側への順行性変性とともに,細胞体側に向かう逆行性変性が起きる.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発達により,RGCやその軸索である網膜神経線維(retinalnerve.ber:RNF)を詳細に解析できるようになった.OCTは今や緑内障性視神経症の診断・治療に欠かせない検査となっているが,視路疾患においても,逆行性変性によるRGCやRNFの変化を描出することができ,その有用性が高まっている.視路疾患におけるOCTで観察すべきところは,緑内障性視神経症と同様である.すなわち,乳頭解析では乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnerve.berlayer:cpRNFL),黄斑部解析では黄斑部網膜神経線維層(mac-ularretinalnerve.berlayer:mRNFL),網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)と内網状層(innerplexiformlayer:IPL)を合わせたGCL/IPLやganglioncellanalysis(GCA),GCL/IPLにさらにmRNFLを合わせた網膜神経節複合体(ganglioncellcomplex:GCC)などである.本稿では,視路疾患を部位別に,1)視神経炎,2)視交叉病変,3)視索病変に分け,それぞれにおけるOCTの所見や有用性について解説する.I視神経炎のOCT視神経炎には,特発性視神経炎,多発性硬化症(mul-tiplesclerosis:MS)による視神経炎,抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎,抗MOG抗体陽性視神経炎のほかに,サルコイドーシスや甲状腺眼症,感染や外傷による視神経炎などがある.視神経炎の発症直後,視神経乳頭に腫脹がみられる場合には,OCTの乳頭解析でcpRNFL厚の増大がみられる(図2).乳頭腫脹のない視神経炎の場合は,発症直後は乳頭解析や黄斑部解析で菲薄化はまだみられないことがある(図3).外傷性視神経症では受傷2週後でcpRNFLとGCCの菲薄化がみられると報告されているが1),視神経炎においても発症から数週間経過すると逆行性変性によるRGCの萎縮がみられ,cpRNFLやmRNFL,GCL/IPL,GCCの菲薄化を認める.発症から3カ月以上経過すると,これらの菲薄化の進行は止まり,次第に変化がなくなっていく(図3).視神経炎後にRNFLやGCL/IPLが菲薄化していても,視力や視野障害が改善している例と,改善しない例がある(図4).OCTにおける各層の菲薄化と視機能障害の関係については複数の報告がある.視神経炎後6カ月以上経過した眼において,cpRNFL厚が75μm以上保た*MariSakamoto&*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕坂本麻里:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(41)611視神経視交叉外側膝状体視放線大脳皮質視覚野図1視路視神経乳頭から視神経となって眼外へ出た網膜神経節細胞の軸索は,視交叉,外側膝状体,視放線を経て大脳皮質視覚野へ至る.鼻側網膜由来の線維は視交叉で交叉し反対側の視索へ,耳側網膜由来の線維は交叉せずに同側の視索となる.Cab図2視神経乳頭腫脹を伴う発症直後の左視神経炎の例a:光干渉断層計の乳頭解析.左眼の乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)の増大を認める.Cb:同眼の眼底写真.左視神経乳頭の発赤腫脹を認める.mRNFLGCLIPLGCCa発症数日後LV=0.2(n.c.)b1カ月後LV=(1.5)6カ月後図3視神経炎の光干渉断層計(OCT)所見の経時変化多発性硬化症による左視神経炎の症例.a:発症数日後.左視力低下と傍中心暗点を認めるが,OCTの黄斑部解析ではまだ網膜内層の菲薄化はみられない.Cb:1カ月後.ステロイドパルス療法をC2クール施行し視力と視野は改善しているが,網膜内層は発症直後より菲薄化している.c:6カ月後.網膜内層の菲薄化の進行はみられない.mRNFL:黄斑部網膜神経線維層,GCL/IPL:網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)+内網状層(innerplexiformClayer:IPL),GCC:GCL/CIPL+mRNFL.a右眼左眼両眼発症の特発性視神経炎発症4カ月後RV=(1.2)LV=(1.5)b右眼左眼両眼発症の抗AQP4抗体陽性視神経炎発症4年後RV=(0.4)LV=(0.9)図4視神経炎後の網膜内層の菲薄化と視力a:両眼同時発症の特発性視神経炎症例.発症C4カ月後,両眼ともに網膜内層の菲薄化を認めるが,視力回復は良好である.Cb:両眼発症の抗CAQP4抗体陽性視神経炎症例.発症C4年後.両眼とも網膜内層は著明に菲薄化し,視力回復は右眼矯正(0.4),左眼矯正(0.9)までにとどまっている.RNFL:網膜神経線維層,GCL+:網膜神経節細胞層(ganglionCcelllayer:GCL)+内網状層(innerplexiformlayer:IPL),GCL++:GCL+.+RNFL.図5微細.胞黄斑浮腫(microcysticmacularedema:MME)a:抗アクアポリンC4抗体陽性視神経炎の症例.内顆粒層(innernuclearlayer:INL)にCMMEを認める().高度な視機能障害が残り,視神経乳頭は蒼白,萎縮している.Cb:開放隅角緑内障後期の症例.INLにCMMEを認める().中心視野障害を認め,緑内障性視神経萎縮を認める.図6下垂体腺腫による視交叉部圧迫の例a:左右の視神経乳頭に帯状萎縮を認める.b:乳頭周囲網膜神経線維層厚解析.左右ともに鼻耳側の線維が上下に比べ有意に菲薄化している.Cc:網膜神経節細胞複合体の正常からの偏移マップ.左右ともに交叉線維が由来する鼻側網膜に菲薄化を認める.図7右視索障害の症例a:ガドリニウム造影CT1強調CMRI(軸位断)で右視索に造影効果を認める().b:乳頭周囲網膜神経線維層の正常からの偏移マップ.患側の右眼では上下で,対側の左眼では鼻耳側で菲薄化を認める.Cc:網膜神経節細胞複合体の正常からの偏移マップ.右眼は耳側網膜,左眼は鼻側網膜の菲薄化を認める.

II.視路病変編 視路疾患におけるMRI オーダーのコツ

2019年5月31日 金曜日

II.視路病変編視路疾患におけるMRIオーダーのコツTechniqueforDiagnosticMRImagingofVisualPathwayDisorders橋本雅人*はじめに視路疾患は病変が球後または頭蓋内にあるため,MRI検査が不可欠である.しかしながら,視路は球後からはじまり,中頭蓋窩を経由して側頭後頭葉あるいは頭頂後頭葉を通り最終の視中枢に至る長い経路道であるため,漠然と頭部MRIをオーダーしても病変を見逃してしまう恐れがある.そこで重要なことは,視野欠損のパターン,左右眼の対光反応の差〔相対的瞳孔求心路障害(rel-ativea.erentpupillarydefect:RAPD)〕の有無などの眼科的所見から,責任病巣が球後か,視交叉近傍か,あるいは視交叉より中枢側かを見きわめ,それに応じたMRIオーダーをすることである.I球後視神経病変のオーダーのコツと読影球後視神経病変を疑うときは,表1に示した眼科的所見を認めたときである.MRIをオーダーするポイントとしては,眼窩内の視神経病変を短時間で効率よく描出する手法を指示することである.表2に当科で用いているプロトコールを示す.眼窩部は必ず脂肪抑制法の一つであるshorttauinversionrecovery(STIR)を冠状断で撮影することが重要である.球後視神経を冠状断で見ると,視神経線維の周囲にくも膜下腔が,さらにその外側を硬膜(視神経鞘)が筒状に囲んでおり,この形状は眼球後面から視神経管に至るまで続いている.通常のT1,T2強調画像でこれらの組織構造を描出することは困難であるが,STIRでは静脈や髄液などの遅い水の流れは高信号に描出されるため,神経周囲のくも膜下腔は髄液による高信号を呈する.したがって,STIRによる正常な視神経像は全体として細い白色の輪状となる(図1).また,全体像を把握する意味でT2強調画像または.uidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)(用語解説参照)頭部水平断を撮影しておくことが望ましい.単純MRIによって,炎症または腫瘍性病変を認めたときは造影を用いて病変を確認することも重要である.1.急性球後視神経疾患の画像診断視神経炎では脱髄性,浸潤性,自己免疫性といったさまざまな機序があるが,いずれの場合でも視神経に生じた炎症性浮腫が遅い水の流れとして反映されるため,STIRでは高信号を示す(図2a).また,視神経周囲炎では視神経鞘の炎症なので周囲の高信号が増強されて描出される1)(図2b).一方,虚血性視神経症ではこのような信号変化は示さず,正常と同様な信号を示す.これらの信号変化は,脂肪抑制法併用のT2強調画像を用いても,STIRとほぼ同様な画像が得られる.全身の悪性腫瘍からの髄液播種により急激な視力低下を示すものとして髄膜癌腫症(meningealcarcinomato-sis)があげられる.通常両眼性に発症することが多い.単純MRIでは,どのようなシーケンスを用いても正常視神経と変わりはないが,造影では眼窩部の視神経は輪状の造影所見を示す(図2c).さらに頭蓋内髄膜の造影所見が認められれば,この疾患を強く疑う重要な手がか*MasatoHashimoto:中村記念病院眼科〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570札幌市中央区南1条西14丁目中村記念病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(31)601表1球後視神経疾患を疑う眼科的所見表2眼窩部MRIに必要な検査オーダーと撮影時間図1正常な球後視神経のMRI所見STIR冠状断で描出される正常視神経.白色の輪状陰影()はくも膜下腔の髄液を反映している.b図2球後視神経疾患のMRI所見a:左球後視神経炎.STIRにおいて炎症のため軸索全体が高信号を示している().b:視神経周囲炎のSTIR所見.ステロイドパルス療法前(左)では左視神経周囲が高信号を示したが(),治療後では視神経周囲の高信号は目立たなくなり左視神経と同様の信号を示している.c,d:髄膜癌腫症の造影MRI所見.眼窩部造影T1強調画像では両側視神経周囲の輪状造影()を認め(c),頭部では頭蓋内髄膜(d)の造影()を認める.表3眼窩先端部にて視神経障害をきたす原因疾患眼窩外側眼窩内側図3視神経腫瘍のMRI視神経髄膜腫(a):造影水平断ではtram-tracksign()を認める.Neuro.bromatosistype1における視神経膠腫(b):矢状断で外側から内側に向かう連続面では視神経が拡大し,下方に屈曲している.図4STIRにおける視神経萎縮所見通常の冠状断において(Ca),右視神経は左に比べ小さく,全体に高信号を示すが(),視神経に垂直な斜め冠状断では(Cb)視神経の中心は低信号を示し,周囲くも膜下腔の高信号が強調されて描出されている().表4視交叉病変を疑う眼科的所見図5トルコ鞍近傍腫瘍のMRIa:下垂体腺腫.T2強調画像冠状断において充実性の下垂体腫瘤が視交叉を圧排()している所見を認める.Cb:下垂体卒中.下垂体腫瘍内にCT2強調画像で出血を示唆する低信号所見を認める().c:鞍結節髄膜腫.造影CMRIにおいて鞍結節部に造影効果を有する腫瘍を認める.右硬膜に沿ったCduraltailsign()も認める.Cd:蝶形骨縁髄膜腫:比較的均一で硬膜に沿った()びまん性充実性腫瘍が眼窩内に浸潤している.Ce:頭蓋咽頭腫.造影の矢状断ではトルコ鞍上に巨大な被膜を有する腫瘤を認め,内部は.胞部と充実性部で造影効果が異なる.Cf:Rathke.胞.T2強調画像冠状断において.胞が視交叉を上方に圧排()している.図6視交叉部視神経炎のMRISTIR冠状断で視交叉左側()に著明な高信号を認める.図7内頸動脈瘤の画像所見T2強調画像(Ca)ではトルコ鞍上に巨大な低信号の腫瘤陰影を認め,MRA(Cb)で内頸動脈瘤()と診断した.図8EmptysellaのSTIR冠状断トルコ鞍は拡大し下垂体が菲薄化()している.表5同名半盲と病変部位の関係ab図9先天性大脳皮質形成異常(先天性外側膝状体半盲)a:GCA解析.CirrusのCGCAでは,両眼ともに中心窩を境界線とした黄斑部内層網膜の菲薄化がみられた.右眼は非交叉線維,左眼は交叉線維の菲薄化であり,hemianopicatrophyが示唆された.Cb:Humphrey視野検査.両眼ともに垂直子午線で境される左上方および下方の欠損がみられ,四重分画盲と解釈した.Cc:頭部造影CMRI.右側脳室後角が狭小化し,右側脳室周囲の本来あるべき白質領域に灰白質が肥大し膨隆している所見を認めた().造影効果はなく腫瘍性病変は否定的であった.図10両側後頭葉梗塞のMRI所見a:拡散強調画像水平断.b:FLAIR冠状断.両側後頭葉とくに冠状断において右鳥距溝上唇に広がる梗塞病変がみられる().■用語解説■FLAIR:水の信号を抑制したCT2強調画像.脳室が低信号で描出され,脳梗塞のみ高信号で表示されるため病巣が明瞭.とくに脳室や脳溝付近などの病巣が明瞭に描出される.COnodi症候群:後部篩骨洞の気泡化が著明な場合は,蝶形骨洞を下方に追いやり,トルコ鞍まで篩骨蜂巣が侵入(Onodi蜂巣)し,視神経管を圧排することがある.CFlowvoid:血流や脳脊髄液(cerebrospinal.uid:CSF)のように流れている組織が画像上で無信号となる現象.-

I.眼球運動編 眼球運動障害治療のABC

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編眼球運動障害治療のABCBasicTreatmentforEyeMovementDisorders木村亜紀子*はじめに眼球運動障害をきたす疾患には,筋無力症やFisher症候群など全身疾患の初発症状として発症するものから,高齢者に多い微小循環障害に伴う眼運動神経麻痺や,外傷,頭蓋内疾患などが原因の中枢性のものなどに加え,最近では,加齢に伴って生じる眼球運動障害も明らかとなり原因は多岐にわたる.眼球運動障害により引き起こされる複視や頭位異常は,日常生活に大きな支障をもたらす.そのため,原疾患の治療中も複視や頭位異常に対する保存的治療はなされるべきであり,放置されるものではないと考えている.そして,発症後約半年間,眼位異常が安定し,改善傾向がなければ,積極的な手術治療の適応である.本稿では敬遠されがちな眼球運動障害に対する治療を基本から自験例を用いて解説する.I眼球運動障害治療のA:基本的な考え方眼球運動障害をきたす原疾患が多岐にわたることを考慮すると,その発症様式や眼球運動障害の種類から原因検索を行うことは必須である.本稿では,原因検索の仕方ではなく,複視や頭位異常に対する治療に重点を置いて解説する.まず,原因検索を行っている間にも患者は複視や頭位異常で日常生活に支障をきたしているため,フレネル膜プリズムやバンガーターフィルターなどの保存的治療により複視消失をはかる.原疾患治療後,約半年間,眼位に変動がなく,改善傾向がなければ,積極的に外眼筋手術の計画を立てるか,斜視角が小さければプリズム眼鏡で経過をみることにする.回旋偏位は保存的治療では矯正できないため,プリズムでうまく矯正できないときにはバンガーターフィルターを用いるほうが適しているかもしれない.回旋複視はとくによい手術適応ともいえる.すなわち,複視発症後,眼位異常が安定するまでは,手術治療を行わず保存的治療を優先し,約半年眼位異常が継続した場合は手術適応と判断する,ということが基本的な考え方である.II眼球運動障害治療のB:観血的治療1.手術治療の基本的な考え方外眼筋のバランスをとり正面視で正位となるように術式を組み立て,正面視と読書眼位での複視が消失するように調整する.逆にいうと,術後も正面視と読書眼位以外のいずれかの方向で複視は残存する.患者は,手術を受ければ全方向で複視が消失する,と期待していることも少なくないため,術前に説明がなされていなければ術後の不満につながってしまう.そのため,手術の目的があくまで正面視での複視消失であり,正面視以外でのいずれかの方向で複視が残存するであろうことを,あらかじめ説明しておくことは臨床上重要である.2.術式の決定方法たとえば,軽度の外転神経麻痺を例にあげると,患眼*AkikoKimura:兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕木村亜紀子:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(23)593a左内直筋後転右内直筋後転b図1軽度の左外転神経麻痺(赤線が麻痺)a:患眼手術と健眼手術.b:術後の眼球運動.矢印は眼球運動制限の方向をさす.c:両眼単一視野.術前術後図2術前後の両眼単一視野70歳,女性.左外転神経麻痺.眼位は近見C4プリズム,遠見C18プリズムの内斜視であった.右下斜筋後転左下直筋後転図3軽度の右滑車神経麻痺(赤線が麻痺,青線は弱化を示す)患眼手術としては右下斜筋後転が,健眼手術としては左下直筋後転が術式として考えられる.鼻側耳側図4上下直筋を用いた回旋偏位の矯正法(右眼)上直筋には内方回旋作用が,下直筋には外方回旋作用がある.耳側へ移動させると強化手術,鼻側へ移動させると弱化手術となる.上下直筋を移動させるときにはTillauxのらせんに沿って移動させる.MR:内直筋,LR:外直筋,SR:上直筋,IR:下直筋.a耳側鼻側bb図6手術方法と術後眼位a:左眼,内直筋後転C6Cmmと外直筋C6CmmのCplicationと下直筋後転と鼻側移動術のシェーマ.Cb:術後眼位.近見6プリズムの内斜位,遠見C14プリズムの内斜視,外方回旋偏位は正面視でC0°,下方視でC2°,上下偏位は消失した.図5中等度の左外転神経麻痺と上下・回旋斜視の合併例a:自由頭位.左へ顔を回し,右方視でものを見る代償頭位を認める.b:左眼の外転制限はわずかに正中を超える.abcIR図7高度な左外転神経麻痺a:右眼に高度な内斜視と正中を超えない高度な外転制限を認める.Cb:上下直筋の外方移動術の模式図.上下直筋の付着部からC8.10mmの位置で筋腹の半分に糸を掛け,角膜輪部からC10.12の位置にC45°の内上方,外上方となるように縫着する.Cc:術後眼位は正面視で正位となり,軽い内転制限を認める.外転は正中を超え,外転制限の改善も認める.Cab図8フレネル膜プリズム麻痺性外斜視に対しては,フレネル膜プリズムを基底内方にして用いる.図9バンガーターフィルターa:バンガーターフィルターが組み込まれた眼鏡のオクルアR(左眼)で外出時に用いている.Cb:右方視で複視がある場合,左眼の内側にバンガーターフィルターを貼る.図10斜視に対するボツリヌス治療a:右外斜視と内転制限を認める.Cb:右外直筋にC2.5単位投与後,半年後でも眼位は正位に保たれている.-

I.眼球運動編 自己抗体別重症筋無力症の臨床像

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編自己抗体別重症筋無力症の臨床像ClinicalComparisonofAnti-AChR,Anti-MuSK,andAnti-Lrp4-positiveMyastheniaGravis鈴木利根*はじめに重症筋無力症(myastheniagravis:MG)は,血液中の自己抗体により,横紋筋の神経筋接合部が障害される自己免疫疾患である1).日本人は眼筋型が40%程度と頻度が高く,しかも眼瞼下垂(約70%)や複視(約50%)が初発症状となることが多く,したがって,眼科を初診して見つかることが多い.MGでは病原性自己抗体の種類や発症年齢,胸腺腫の有無で臨床像が異なる.前半ではまずMGの基本像に触れ,その後に自己抗体別などにMGを分類したそれぞれの臨床像の特徴について述べる.また,筆者の臨床経験や個人的見解も前面に出し解説する.I診断1.発症形式と鑑別診断現病歴の聴取が大事で,MGを疑うきっかけとなる.複視は1~2週間前から発症が多く,眼瞼下垂は同じ位か少し長く数週間~数カ月前からの発症を訴えて来院する患者が多い.どちらか一方の症状を訴えることもある.高齢のMG患者が近年は増えており,高齢者では1週間前程度からの急性発症の複視を訴える虚血性(微小循環)障害の患者が非常に多く,さらに正確な発症時期を覚えていないこともあるので鑑別に注意する.このような虚血性の動眼・滑車・外転の各神経麻痺のほかに鑑別すべき疾患には,高齢者の加齢性眼瞼下垂や脳幹の血管障害による複視,小児では先天性眼瞼下垂や斜視がある.2.症状前述のように眼瞼下垂や複視が多い.必ずしも自分から訴えないが,よく聞いて「朝は軽度で夕方悪化する」のような日内変動の病歴が得られれば大いに診断の参考になる.アイスパック試験(2分間冷却で,2mm以上の眼瞼下垂改善)は手軽な検査であり,後述のテンシロン試験が陽性ならMGはほぼ確定できる(表1).眼瞼下垂は眼科を初診するMGでは片眼性が多い.眼瞼下垂の手術目的で来院あるいは紹介されて受診する患者にも一応疑う.「いつのまにか」ではなく「数週~数カ月前から」など発症時期をはっきり記憶していれば,高齢者でも幼児でもMGを疑う.診察時でも30秒間位閉瞼させた後に下垂が一時改善したり,短時間睡眠後などによる休息後の疲労回復現象も参考になる.これまでMGの眼瞼下垂に特徴的な付随症状としてlidtwitch現象(下方視から上方視させたときなどの上眼瞼の痙攣現象)や,enhancedptosis現象(一側の眼瞼を検者が挙上させると,他側の眼瞼下垂が増強)が知られているが,あまり特異度は高くない.MGの複視についての特徴を述べるのはむずかしい.眼瞼下垂を伴わず複視のみの患者もいる.はっきりした複視を訴えても,肉眼的観察やHess複像検査で運動障害の所見がはっきりしないこともある.眼球運動障害は片眼性でも両眼性でも,またさまざまなパターンがみられる.動眼神経麻痺の部分症状に似る内転や上転の単独障害,あるいは滑車神経麻痺と同様の垂直性複視を訴え*ToneSuzuki:獨協医科大学埼玉医療センター眼科〔別刷請求先〕鈴木利根:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学埼玉医療センター眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(17)587表1重症筋無力症診断基準案2013図1テンシロン試験陽性患者40歳,男性.低密度リポ蛋白質(Lrp4)抗体陽性CMG患者.アンチレックスR静注前(Ca)および静注C90秒後(Cb)の外眼部写真.注射前の右眼瞼下垂と左の瞼裂開大(plus-minus眼瞼徴候)が,注射後は消失して左右差がなくなり,眉毛の高さも同程度となって自覚症も改善した.症状は軽症の全身型で,胸腺腫認めず,免疫治療が奏効した.抗Lrp4抗体陽性MG自己抗体発見年抗AChR抗体1976年図3抗AChR陽性眼筋型MG患者の胸部CT66歳,女性.で示す部位に胸腺腫を示す陰影がみられる.抗MuSK抗体2001年抗Lrp4抗体2011年図2重症筋無力症の自己抗体抗CAChR抗体が陰性のCMG患者の約C30%に抗CMuSK抗体が発見された.さらに両抗体とも陰性のCMG患者の一部に,抗CLrp4抗体が発見された.=表2自己抗体別MGの特徴抗CAChR抗体陽性CMG抗CMuSK抗体陽性CMG抗CLrp4抗体陽性CMG頻度性別(男:女)症状クリーゼ胸腺腫合併治療80%1:2眼症状初発多く眼筋型(40%)10~20%20~30%抗CChE薬が有効3%未満(AChR陰性CMGのC10%)1:3初発より球麻痺合併が多い33%なし不定2.2~50%1:2C.5眼筋型~比較的軽症少ない少ない抗CChE薬や免疫治療が有効(抗CChE薬:抗コリンエステラーゼ薬)図4抗MuSK抗体陽性MGのHess赤緑試験71歳,女性.初診より構音障害や嚥下障害が主で,軽度の複視もみられた.呼吸管理,血漿交換が早期に神経内科で行われた.眼位は軽度の外斜視および左眼/右眼の上下斜視で,眼球運動障害はHess赤緑試験で示すように軽度であった.表3高齢者および小児MGの特徴後期発症CMG小児CMG症状眼筋型が比較的多い若年者よりやや多い抗CAChR抗体が多い他に抗横紋筋抗体陽性免疫治療が有効全身型への移行少ない眼筋型が非常に多い非常に少ない頻度少ない(50%)ほとんど抗CAChR抗体,抗CMuSK抗体はまれ予後良好全身型への移行少ない胸腺腫合併自己抗体治療=

I.眼球運動編 中枢性眼球運動障害を理解する

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編中枢性眼球運動障害を理解するUnderstandingCentralDisordersofOcularMotility城倉健*はじめに眼球運動障害は一見複雑に感じられるが,基本となる神経機構のいくつかさえ押さえておけば,理解することはそれほどむずかしくはない.本稿ではまず,非共同性の眼球運動障害を個々の脳幹神経核からの視点で解説し,次いで共同性の眼球運動障害を各種眼球運動の発生機構からの視点で解説する.I眼球運動神経核からみた眼球運動障害(単眼性.非共同性眼球運動障害)1.動眼神経核中脳の動眼神経核に障害が及ぶと,両側性の眼瞼下垂が生じる(midbrainptosis)1)(図1).これは,左右の上眼瞼挙筋が,正中に1つしかないcentralcaudalnucle-usにより同時に支配されているためである.動眼神経の他の亜核にも障害が及び,内転や上転,下転制限がさまざまな程度で加わることも多いが,centralcaudalnucleus以外の亜核は左右別々に存在するため,これらの障害は通常片側優位(非対称性)に出現する.動眼神経の亜核の解剖は複雑なので,上転や内転,下転制限から病変の広がりを推測するのはやや困難である.一方,両側性の眼瞼下垂は一目瞭然の眼症候であり,たとえ動眼神経亜核の解剖を理解していなくても,中脳動眼神経核自体の障害を知ることができる大変価値の高い眼症候といえる.両側の眼瞼下垂と異なり,一側の眼瞼下垂は多くの場合,髄外(末梢性)動眼神経麻痺で出現する.ただし,動眼神経核を出た後の髄内動眼神経線維が中脳病変で障害されれば,髄外動眼神経麻痺と類似する一側眼瞼下垂を伴う眼球運動障害をきたす.梗塞(虚血)が原因の場合は通常瞳孔が障害を免れるため,糖尿病性髄外(末梢性)動眼神経麻痺と紛らわしいが,中脳の梗塞では瞳孔とともに下直筋も障害を免れやすいことが鑑別の参考になる2)(図2).2.外転神経核および関連する内側縦束と傍正中橋網様体橋の傍正中橋網様体(paramedianpontinereticularformation:PPRF)が障害されると患側への側方注視麻痺が生じるが,外転神経核の障害でも同様に側方注視麻痺をきたす(図3a).ちなみに単眼の外転障害は髄外(末梢性)外転神経障害を示唆する眼症候である.まれに橋病変(外転神経核を出た後の髄内外転神経線維障害)で単眼の外転障害が出現することもあるが,通常は単独ではなく,他の神経症候(顔面神経麻痺や片麻痺,感覚障害など)とともにみられる.一方,単眼の内転障害は橋病変を示唆する所見である.橋病変による内転障害は,内側縦束(mediallongi-tudinalfasciculus:MLF)が障害されたことによる(核間性眼筋麻痺,MLF症候群)(図3b).橋病変による単眼の内転障害(核間性眼筋麻痺)は,他の神経症候を伴わず,単独で出現することも多い.核間性眼筋麻痺に*KenJohkura:横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科〔別刷請求先〕城倉健:〒235-0012神奈川県横浜市磯子区滝頭1-2-1横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(11)581図1動眼神経核障害による両側眼瞼下垂視床中脳に生じた悪性リンパ腫により両側眼瞼下垂をきたした69歳,男性.両側眼瞼下垂は動眼神経核自体に障害が及んでいることを示唆する.この患者は他に下方注視麻痺も伴った.bOculomotornerveInterpeduncularfossaPosteriorcerebralarteryMRLidSRPerforatingbranchIOBasilartipSubstantianigraRednucleusOculomotornucleusCerebralaqueduct図2中脳梗塞による髄内動眼神経線維障害79歳,男性にみられた中脳梗塞による瞳孔異常を伴わない動眼神経麻痺(a).瞳孔が障害を免れた動眼神経麻痺は糖尿病による髄外(末梢性)動眼神経麻痺に特徴的だが,中脳梗塞による動眼神経麻痺では下直筋も障害を免れる場合が多い.これは,中脳の虚血の場合には深部(つまり動脈の遠位部)から障害され,表層(つまり動脈の近位部)にある瞳孔成分や下直筋成分は障害を免れやすいことによる(b).Pupil:瞳孔成分,IR:下直筋成分,MR:内直筋成分,Lid:上眼瞼挙筋成分,SR:上直筋成分,IO:下斜筋成分.ab■PPRF障害:患側注視麻痺■MLF障害:核間性眼筋麻痺両眼とも障害側に向かない■外転神経核障害:患側注視麻痺■MLF+PPRF/外転神経核障害:one-and-a-half症候群両眼とも障害側に向かない図3傍正中橋網様体,外転神経核,内側縦束の眼症候a:傍正中橋網様体(PPRF)が障害されると患側への側方注視麻痺をきたす.また,外転神経核が核性に障害された場合にも,PPRFの障害と同様に患側への側方注視麻痺を生じる.これは外転神経核に,同側の外直筋へのmotoneuronのみならず,反対側の動眼神経核内の内直筋motoneuronへ連絡するinternuclearneuronが含まれていることによる.b:内側縦束(MLF)が障害されたことによる患側眼の内転障害を核間性外眼筋麻痺(internuclearophthalmoplegia)という.さらにMLFに加え,同側のPPRFないし外転神経核が障害されると,患側眼の外転,内転障害と,健側眼の内転障害をきたす.これをone-and-a-halfsyndromeとよぶ.c:左橋被蓋部の梗塞によりone-and-a-half症候群を呈した75歳,女性.PPRF:傍正中橋網様体,VI:外転神経核,MLF:内側縦束,III:動眼神経核.bcdCT図4水平性saccadicsystema:水平性saccadicsystemのシェーマ.テント上病変では眼球は患側に偏倚し,テント下病変では眼球は健側に偏倚する.b~d:70歳,男性の右中大脳動脈の塞栓症(b)と83歳,女性の右視床出血(c)では,いずれも眼球が病変側に向く方向に偏位している.これに対し,橋出血の77歳,女性(d)では,眼球は病変と反対方向に偏位している.FEF:前頭眼野,PPRF:傍正中橋網様体,VI:外転神経核.MRIDWICT患側への眼球偏倚L健側向き眼振健側への眼球偏倚患側向き眼振図5水平性vestibularsystem水平性vestibularsystemのシェーマ.延髄病変では眼球は患側に偏倚し,健側向き眼振が生じる.一方,小脳病変では眼球は健側に偏倚し,患側向き眼振が生じる.VN:前庭神経核,VI:外転神経核,MLF:内側縦束,III:動眼神経核.riMLFからの興奮性線維連絡健側への眼球回旋偏倚赤矢印:上転方向の線維連絡青矢印:下転方向の線維連絡図6垂直.回旋性saccadicsystem垂直/回旋性saccadicsystemのシェーマ.赤矢印は上転方向の線維連絡を示し,青矢印は下転方向の線維連絡を示す.また,下段の薄い矢印は各外眼筋が眼球に作用する力の向きを示す.一側のriMLFが障害されると,眼球は反対側に回旋偏倚する.riMLF:内側縦束吻側間質核,IR:下直筋,cSR:反対側の上直筋,IO:下斜筋,IV:滑車神経核,cSO:反対側の上斜筋.ab右中脳病変左延髄病変図7垂直.回旋性vestibularsystema:垂直/回旋性vestibularsystemのシェーマ.前庭神経核のある延髄の障害では,眼球は患側に回旋偏倚し,健側向き回旋性眼振が生じる.一方,橋より吻側の障害では,前庭神経核からの線維が交差後に障害されるため,眼球は健側に回旋偏倚し,患側向き回旋性眼振が生じる.b:上段は右中脳梗塞の59歳,男性,下段は左延髄梗塞の43歳,男性.左末梢前庭器から延髄の前庭神経核を経て交差し,橋を上行する経路が障害されるため,いずれの患者も眼球は左に回旋偏倚し,右向き回旋性眼振が出現する.VN:前庭神経核,IV:滑車神経核,III:動眼神経核.

I.眼球運動編 複視を主訴とした患者が来院したら

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編複視を主訴とした患者が来院したらHowShouldYouExamineaDiplopiaPatient?中馬秀樹*I診察の手順1.単眼性か両眼性か複視を主訴とする患者をみたら,まず行うべきことは,単眼性の複視か,両眼性の複視かを鑑別することである1~3).以下の手順で確認する.1.病歴聴取の際に,片眼を閉じると一つに見えるか,片眼を閉じていても二つに見えるかを聞く.2.診察で実際に片眼を隠してみて,一つに見えるか,二つに見えるかを検査する.3.ピンホールを用いて単眼複視が消失するかどうかを検査する(図1).単眼性の複視で,ピンホールで消失すれば,原因は眼球自体にある(未矯正屈折異常,白内障など)1~3).単眼性の複視で,ピンホールで消失しなければ,原因は大脳にある(大脳性多視症,視覚保続,心因性など)可能性がある1).2.斜視の有無両眼性の複視であれば,以下の手順で斜視があるかを確認する.1.病歴聴取で水平性の複視か,垂直性の複視か,回旋性の複視かを聞く.2.水平性の複視であれば交叉性か同側性かを聞く.3.診察では,カバーテストで水平斜視か,上下斜視か,自覚と一致するかを確認する.図1ピンホール検査単眼複視が消失するかどうか検査している.4.斜視があれば,共同性か,非共同性かを確認する.5.眼球運動制限があるかを確認する.垂直性の複視であれば,原因は甲状腺眼症と滑車神経麻痺が多い4).明らかな眼球運動制限(とくに上転制限)があれば甲状腺眼症をまず考え,以下の手順で確認する(図2).a.眼窩部MRIまたはCTで外眼筋の腫脹を確認す*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)573図2甲状腺眼症の眼球運動制限顕著な右眼の上転制限がみられる.表1甲状腺眼症の症状,徴候-図3甲状腺眼症の眼窩部MRI右眼下直筋の腫脹がみられる.図4甲状腺眼症の圧迫性視神経症の眼窩部MRI外眼筋が肥厚し,視神経を圧迫している.図5滑車神経麻痺の眼球運動明らかな眼球運動制限が観察できない.図6Maddoxロッドの写真左眼ロッド眼(右眼)図7Maddoxロッドを用いた眼位検査法1赤い線(右眼)が下ロッドを縦方向に当て,ペンライトを固視させる.図8Maddoxロッドを用いた眼位検査法2赤い線が上か下か確認する.赤い線が下であれば6PDRH2PDRH右上斜視が左方視,右斜頸で増加図11右の滑車神経麻痺パターン正面視で右上斜視が左方視,右斜頸で悪化する.同じ高さになったプリズム度数を記録図10Maddoxロッドを用いた眼位検査法4赤い水平線とペンライトの光が重なるプリズム度数を記録する.C2PDLH4PDLH15゜EX図12両側性の滑車神経麻痺パターン両側方時に内転眼が上斜視になり,外方回旋が10°以上ある.眼底写真がわかりやすい.表2眼筋型重症筋無力症の症状,徴候図13両側性の滑車神経麻痺の眼底写真(下)より外方回旋が目立つ.図14右動眼神経麻痺動眼神経麻痺瞳孔不完全完全外眼筋不完全動脈瘤完全虚血性動脈瘤図15動眼神経麻痺の発症初期からの変化と原因図16内頸動脈―後交通動脈分岐部の動脈瘤のCT血管像図17右外転神経麻痺==’図18小児の外転神経麻痺で判明した脊索腫

序説:神経眼科診療を楽しもう!

2019年5月31日 金曜日

神経眼科診療を楽しもう!Let’sEnjoyNeuro-OphthalmologicalPractice!中村誠*第56回日本神経眼科学会総会を去る平成30年12月14日,15日の両日,神戸国際会議場で開催しました.総会のテーマが,まさに「神経眼科診療を楽しもう!」でした.『あたらしい眼科』誌編集委員の大橋裕一先生から,折も折,本特集を編むにあたって,「先生の学会のテーマに大変共感しました.それを骨子に特集企画を作れませんか?」とのご下命をいただきました.願ったり叶ったりのご依頼に,一も二もなく編集を引き受けさせていただいた次第です.理由は至極明瞭です.編者が眼科サブスペシャリティの一つである「神経眼科」に対して強い危機感を抱いているからです.現在,医師や診療科の偏在が声高に叫ばれています.だが,事はそう単純なものではありません.診療科内におけるサブスペシャリティの偏在もまた深刻な問題です.若手眼科医師はこぞって屈折矯正や網膜硝子体サージャンをめざそうとする風潮にあります.一方,神経眼科,小児眼科といった領域を専攻しようとする若手医師はとても少ないです.それほどに神経眼科は医師が一生を捧げるに値しない無意味な領域なのでしょうか?少なくとも編者は決してそうとは思いません.いえむしろ,ともすれば,他診療科から,「いったい眼科は何をしているのだろう?」と訝しがられるほどに孤立した診療内容が多い中,神経眼科ほど,「チーム医療」という他診療科では当たり前の取り組みを実践し,患者の視覚のみならず生命予後にも貢献できるサブスペシャリティはないのではないでしょうか?その醍醐味に,若手眼科医が触れる機会さえなく,「少年老い易く学成り難し」を地で行くことを放念することは,あまりにも眼科医,患者双方にとって不幸なのではないでしょうか?要するに,神経眼科診療がいかに面白く,そして,未だすべてとはいえないまでも,多くの疾患を治療できるようになった分野であることを,次世代の眼科医に知ってもらいたい!これこそが編者が希求するテーマそのものです.このテーマに挑むには,単に優秀な研究者を寄せ集めるだけでは事足りません.小難しい理屈を書き連ねるのではなく,informativeかつinstructiveな解説のできるメンターを結集しなければなりません.神経眼科は視覚を扱うだけでなく,眼球運動の理解が不可欠な領域です.正常な立体視ができてこそ,初めて,ヒトは後方の視野を大幅に犠牲にしてまでも,両眼を顔の前面に配置する解剖構造を進化論的に選択した甲斐があります.その正常立体視を脅かす眼球運動経路障害をどのような手順で鑑別し,治療していくか.一般の眼科医にとって,とり*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)571

画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEF®の眼科画像に対する有用性の検討

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):559.565,2019c画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEFRの眼科画像に対する有用性の検討福岡秀記横井則彦外園千恵京都府立医科大学眼科CE.ectivenessofSoftDEFAdaptiveImageSharpeningSoftwareinOphthalmologyHidekiFukuoka,NorihikoYokoiandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:眼科診療においては,異常所見や経時変化のさまざまな目的で数多くの種類の画像を扱う.さまざまな眼科画像に対しCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を用いた画像鮮明化処理が有用であるか否かについて検討を行った.対象および方法:京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.10人の眼科医に盲検法にて画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を提示し,処理が臨床的に有用であるか判定させた.結果:前眼部写真における異常血管,角膜後面沈着物を鮮明化,およびフルオレセイン染色画像の点状表層角膜症の鮮明化が可能であった.眼底画像では,網膜裂孔,網膜下出血,網膜変性が鮮明化できた.その他にもマイボグラフィー像,眼底自発蛍光画像も鮮明化でき,医師全員が臨床的に有用と判定した.結論:画像鮮明化処理ソフトウェアは眼科のさまざまな画像に有用と考えられた.CPurpose:InCtheCclinicalCsetting,CnumerousCtypesCofCophthalmicCimagesCareCtakenCtoCdetectCandCfollowCupCabnormalC.ndings.CTheCpurposeCofCthisCstudyCwasCtoCinvestigateCtheCe.ectivenessCofsoftDEF(LogicC&CSystems,Kobe)adaptiveimagesoftwareinsharpeningthede.nitionofophthalmicimages.SubjectsandMethods:Ophthal-micimageswereobtainedofpatientsseenatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine;normalphotographsandphotographssharpenedwithsoftDEFwerethenevaluatedandcomparedby10ophthalmologistsviadouble-blindclinicaltest.Results:softDEFsharpenedthede.nitionofabnormalbloodvessels,keraticprecipitatesandstainedsuper.cialCpunctateCkeratitisCinCtheCophthalmicCimages,CasCwellCasCtheCcontourCofCretinalCtears,CsubretinalChemor-rhageCandCretinalCpigmentosaCinCfundusCphotographs.CInCaddition,ClidCmeibographyCandCfundusCauto.uorescenceCbecameclearer;allCtheCophthalmologistsCjudgedCtheCsoftwareCtoCbeCuseful.CConclusions:ImageCsharpeningCsoft-wareisusefulforvarioustypesofphotographsinthe.eldofophthalmology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):559.565,C2019〕Keywords:画像鮮明化処理ソフトウェア,眼科,画像.adaptiveimagesharpeningsoftware,ophthalmology,im-age.Cはじめに眼科では,細隙灯顕微鏡(スリット)や眼底カメラなどさまざまな光学機器を駆使し,眼球および眼付属器を観察することで診察を行う.そのため,前眼部細隙灯顕微鏡(スリット),フルオレセイン染色,前眼部光干渉断層計,網膜光干渉断層計,造影眼底カメラなどで撮影されたさまざまな種類の画像を取り扱う.そして,日常の診察では画像を注意深く観察することで異常所見を検出したり,診察で読影された異常所見の経時変化をファイリングしたりする.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,デジタルもしくは,アナログをデジタル変換した画像から,オリジナリティ(独自性)は保持した状態で画像に独自な処理を行うことで,目的の所見を強調する技術である.具体的には,霧がかかった悪い天候における霧の除去,暗所での監視カメラ映像の鮮明化のほか逆光や半逆光により相対的に暗くなった画像の変換などに利用され,画像鮮明化処理は,さまざまな領域で応用さ〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465,Kajiicho,Hirokoji-agaru,Kawaramachidori,Kyoto602-8566,JAPANCabcd図1今回用いたソフトウェアの説明a:低コントラスト画像のヒストグラム.ある一定の領域にシグナルが集簇しており,急峻な山なりの形状であることがわかる.Cb:ヒストグラム平坦化後のヒストグラム.Cc:ソフトウェアでの処理画像.上方が処理後の画像,下方が画像鮮明化処理前の画像である.処理前には画像の右側は低コントラストとなっているが,処理後はコントラストの改善がみられる.Cd:ソフトウェアの各パラメータの設定パレット.パラメータのスライダーを調整するとリアルタイムで処理結果ウインドウの画像が変化する.れている.今回筆者らは,眼科領域のさまざまな画像に対し画像鮮明化処理を行い,従来の画像と比較し,処理後の画像がどのように鮮明化し有用であるかについて検討を行った.CI対象および方法京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.前眼部写真としては,スリット眼科撮影装置CTL54(TOPCON)およびマイボグラフィー装置CDC4(TOPCON)を用いて撮影されたものを,後眼部写真としては,超広角走査型レーザー検眼鏡CDaytona(Optos),F-10TM(NIDEK社,蒲郡),眼底光干渉断層撮影CRS3000(NIDEK社)を用いて撮影された眼底画像を用いた.今回,不鮮明な画像を鮮明化する画像鮮明化処理ソフトウェアとして,鮮明化処理アルゴリズム(AdaptiveCDetailCEnhancementFilter:ADEF)(PN:patentCnumber.4386C959,PN.6126054)を利用しているCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を使用した.以下にこの画像鮮明化処理ソフトウェアで用いている方法の原理と処理手順,性能について説明する.ここにいう不鮮明な画像とは,コントラストの低い領域(暗い,もしくは濃度差が著しく小さい)に観察対象が存在する画像であり,不鮮明な画像であってもフォーカスのずれやブレが要因となった画像は対象ではない(撮影時の物理的な要因は対象外).すなわち,画像の鮮明化とは,低コントラスト画像の画像処理といえるが,コントラストの低い画像は一般にヒストグラムが偏る傾向にある.ヒストグラムとは画素の明度分布図のことで,横軸に明度,縦軸に面積(特定明度の画素数)で表される.ヒストグラムに偏りがある画像はヒストグラムの平坦化(histogramCequalization)1)という技術を用いてコントラストを回復させる.ヒストグラムの平坦化とは,たとえば,原画像の明度がC8ビットで表現され,原画像の総画素数をCTとすると,0.255のすべての明度の頻度がCT/256になるように変換する処理のことをいう.図1aが低コントラスト画像のヒストグラム,図1bがヒストグラム平坦化後のヒストグラムである.従来の低コントラスト画像のヒストグラムの平坦化には二つの問題点があった.すなわち,1)コントラストが高い領域にコントラストが低い領域が混在し,ヒストグラムの点からみると偏りが少ない画像の場合はコントラストを高めたい領域が十分にコントラストを回復できないという問題(コントラストの高低混在画像の問題),2)ダイナミックレンジの低い画像(非常に暗い領域や輝度差が小さく淡い領域)の場合,コントラストを広げ過ぎるとざらついたノイジーな画像になってしまうというコントラスト過多の問題である.以上のような従来からの克服課題であったコントラストの高低混在という画像の問題は,適応的ヒストグラム平坦化(adaptiveChistogramequalization:AHE)2)として知られる画像を細かく分割し狭い範囲で個別にヒストグラム平坦化を実行した後に合成することで解決可能となった.また,コントラスト過多の問題はCCLAHE(ContrastCLimitedCAdaptiveHistogramCEqualization)として知られるCLUTを生成する際に一定以上の大きな変化を制限することで軽減可能となった.一方,以上のような処理は膨大な反復演算のために非常に大きなメモリやアクセスを要するが,ADEFにより軽量かつ高速で実行可能となった.ADEFによる画像処理の手順は以下のとおりである.C①テスクトップ上に変換したい画像を表示する.ADEF処理を行うソフトウエア(SoftDEF)を起動し,処理結果ウインドウをドラッグして処理結果ウインドウに変換したい画像を入れる(図1c).②SoftDEFメインウインドウで各パラメータを調整する(図1d).③パラメータを確定させ,目的の画像ファイルをCSoftDEFメインウインドウ上にドラッグ&ドロップすると,出力ファイルの指定ウインドウが開くため,出力パス,ファイル名およびファイルフォーマットを指定して処理画像ファイルを出力する.特徴としてファイルフォーマットには“JPEG”,C“PNG”,“TIFF”,“BMP”が利用できる.“PNG”と“TIFF”フォーマットではC16ビットフォーマットに対応しているため,DICOMを変換したハイビット画像も変換可能である.処理速度はコンピュータのCCPUやCGPUの能力に左右されるが,最新の機種を利用するとCADEFはフルハイビジョンをC30枚/秒以上で処理が可能となり,動画をリアルタイムで処理する能力を有することになる.今回のソフトウェアにより鮮明化した画像が臨床的に有用であるかに関して,当院のC10人の眼科医に,画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を,盲検法にて提示し,①どちらが鮮明か否か,および,②臨床的に所見が明確か否かについての判定を得た.なお当研究は,京都府立医科大学の倫理委員会の承認のもと行われた.CII結果画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理を前眼部細隙灯顕微鏡(スリット)写真に対して行った.ディフューザー法で撮影された画像では角結膜にある血管や睫毛が強調され,鮮明化した画像が得られた.図2aにあるような結膜の角膜への侵入例では結膜血管の起始部から末端までの血管走行を追うことが可能であった.また,図2bは翼状片に結膜腫瘍を合併した症例であるが,画像鮮明化処理ソフトウェアにより,一見見逃しやすい腫瘍に特徴的な血管異常を強調することができた.図2cのフルオレセインの画像では,点状表層角膜症が判然としないが,処理により角膜中央部におけるその存在が明瞭に描出された.このように背景の暗い画像に存在する所見を鮮明化することが,今回の方法で可能であった.一方,図2dにおける逆光のような強膜散乱撮影写真では,処理前には角膜下方C1/3の部分の限局した範囲にしかみられなかった角膜後面沈着物が,処理後にはより広範囲かつより数多く観察された.また,図2eはスクレラルスキャッタリング法による画像であるが,逆光画像のように暗く認識がむずかしい虹彩が,処理後には虹彩紋様が認識できるほどに鮮明化された.つぎに,眼底画像に対して処理を行った.図3aでは病変が周辺部にあり,かつ淡い硝子体出血により不鮮明な画像であったが,処理後には網膜周辺の巨大裂孔の形状,網膜.離の範囲がより明確となった.図3bでは網膜下血腫は色調が暗くその範囲がオリジナルの画像では判別がむずかしいが,処理後は明瞭化,判別が容易となった.また,網膜にある点状病巣がとくに強調され,観察が容易になった.さらに,図3cのように,網膜血管の白線化や骨小体など範囲や色調が暗い画像が,処理後には網膜周辺部まで追える画像となった.図3dの眼底自発蛍光画像では,オリジナル画像では通常白味がかっており病変がわかりにくいが,処理後には白い霧のような領域は大部分除去され,自発蛍光の強弱が認識しやすくなった.図3eの眼底光干渉断層計画像では,全体的に輝度が上がり黄斑浮腫の範囲や場所が明確になった.その他の眼科の特殊な画像についても処理を行った.図4aに示すように直接法によるマイボグラフィー像では,オリジナルは白黒のはっきりしない画像であるが,処理後は,コントラストが強調されマイボーム腺の観察が容易となった.図4bはチューブシャントおよび強膜パッチ後の水疱性角膜症の画像であるが,処理後は結膜血管が強調されるとともに角膜上皮浮腫がとくに強調された.また,図4cに示すように結膜下の強膜の境界が鮮明化し,その範囲の認識が容易になった.以上すべての画像において処理後の画像の質の低下は認めなかった.すべての画像においてC10名中C10名(100%)の医師により,①画像は鮮明化したと判定され,同様に全医師により②臨床的な所見を取得しやすくなったと判定された.CIII考按画像鮮明化処理ソフトウェアは,現在,さまざまな製品が利用可能であり,各製品には,固有のアルゴリズムが内蔵され,さまざまな特長がある.このような画像鮮明化処理ソフトウェアの技術の向上が目覚ましく,撮影条件が悪く失敗した画像を修正できるだけでなく,降雪や濃霧などの悪天候での監視画像の処理や,暗所での監視画像の処理など,その有用性はさまざまな領域で認知されてきている.他科領域でも画像鮮明化が有用であったとの報告はあり3,4),眼科領域では,見えにくいものを強調するという意味で充血解析ソフト5),ブルーフリーフィルター6),赤外光マイボグラフィー7,8)などが開発されている.今回,前眼部写真,眼底カメラ画像から眼底自発蛍光画像までさまざまな眼科画像に対し画像鮮明化処理を行った.前眼部写真では,結膜においては結膜の血管が強調される画像が得られた.そのことから角結膜腫瘍など,血管の異常走行を伴う疾患に関して有用である可能性がある.角膜においては,正常では無血管で透明であるため強膜散乱法により撮影した角膜混濁,フルオレセインによる角膜の点状染色病変の鮮明化に有効であった.また,ぶどう膜炎,角膜移植後の拒絶反応やサイトメガロウイルス角膜内皮炎の角膜後面沈着物など,微細で見逃されやすいものも強調表示された.とく図2今回処理を行った眼科前眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:角膜移植後に移植片に結膜血管が侵入した症例.Cb:結膜腫瘍を合併した翼状片.Cc:点状表層角膜症のフルオレセイン染色像(ブルーフィルター使用).Cd:サイトメガロウイルス角膜内皮炎による角膜後面沈着物.Ce:真菌角膜感染症の強膜散乱法像.図3今回処理を行った眼科後眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:網膜.離裂孔(上方巨大裂孔および下方のC2箇所の網膜裂孔).Cb:加齢黄斑変に併発した網膜下出血.Cc:網膜色素変性.Cd:加齢黄斑変性の眼底自発蛍光像.Ce:黄斑浮腫の眼底光干渉断層計画像.図4今回処理を行った眼科の特殊画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理を行った画像(2)の比較a:上眼瞼マイボグラフィー画像.Cb:前房内へのチューブシャント手術後の水疱性角膜症.Cc:チューブシャントと強膜パッチを行った症例.に,角膜後面沈着物については,強調されただけではなく,画像鮮明化により詳細な形状が観察可能となった.マイボーム腺は近赤外線を用いたマイボグラフィーで一般に導管や腺房の撮影が可能である.ライトガイドを用いたマイボーム腺撮影法は,コントラストや明るさが高く有用であるが,正面より近赤外光を当て,その反射を撮影する方法ではコントラストや感度が低いことが問題であった.しかし,画像鮮明化処理を行うと,ライトガイドを用いたマイボグラフィーと同様の高いコントラストの画像を得ることが可能であった.眼底カメラにおいては結膜部の処理結果と同様に網膜血管が強調された.なんらかの網膜病変や網膜血管が強調されたほか,角膜混濁や白内障によって不鮮明な眼底画像でも病変の描出が可能であった.とくに超広角走査型レーザー検眼鏡においては周辺部が暗くなることが多く,この画像鮮明化処理ソフトウェアにより自然な状態で鮮明化されたことは非常に興味深い結果であった.スペキュラーマイクロスコープ(角膜内皮細胞撮影装置)や生体レーザー共焦点顕微鏡などの画像においても画像鮮明化処理が可能であった(データ未掲載).コントラストなどが高い画像取得は可能であったが,オリジナルの画像でまったく診断不可能な病変が処理後に診断可能になることはなかった.今回の検討で多くの眼科画像の画像鮮明化処理を行い,有用な画像が得られた.筆者らが今回行った処理方法はパソコン内に画像鮮明化処理ソフトウェアをインストールしたうえでのソフトウェアでの処理である.この方法ではさまざまな装置からのさまざまな種類のデジタル画像を安価な値段で処理できるというメリットがあるもののさまざまな装置からのデータ抽出と移行などによるデータ流出などの安全性の問題,撮影時にリアルタイムでみられないという問題などが残る.しかし,より高度なCCPUやCGPUが搭載されたコンピュータを利用すれば,フルハイビジョンをC1秒あたりC30枚以上処理でき,ほぼリアルタイムで処理できるレベルにあるほか,ハードウェアでの画像鮮明化も可能とされる.リアルタイムな画像処理では,その速度もソフトウェアと比較し非常に速い.今後の方向性を考えると,さまざまな眼科機器への応用のほか,眼科手術顕微鏡への応用により,より低侵襲で安全な手術が可能になるかもしれない.今回,眼科画像を画像鮮明化処理ソフトウェアで処理することで今まで見えなかった,もしくは見えにくかった画像が鮮明になった.ただ,画像鮮明化処理ソフトウェアにより病変所見をマスクしてしまう可能性,病変でない所見を病変と認識させてしまう可能性は否定できない.今後さらなる機器やソフトウェアの進歩が予想されるので,その眼科への応用に期待したい.本研究は科研費C16K11269の助成を受けて行われた.文献1)HumYC,LaiKW,SalimM;MohamadSalimetal:Multi-objectivesCbihistogramCequalizationCforCimageCcontrastCenhancement.ComplexityC20:22-36,C20142)PizerCSM,CAmburnCEP,CAustinCJDCetal:AdaptiveChisto-gramCequalizationCandCitsCvariations.CComputerCVision,CGraphics,andImageProcessingC39:355-368,C19873)児玉陸,湊泉,堀米洋二ほか:人工股関節の設置位置評価の精度検証.HipJoint41:403-406,C20154)MatsuoCS,CMorishitaCJ,CKatafuchiCTCetal:ComparisonCofCedgeenhancementsbyphasecontrastimagingandpost-processingCwithCunsharpCmaskingCorCLaplacianC.ltering.CMedicalCImagingCandCInformationCSciencesC33:87-95,C20165)福島敦樹:結膜充血の定量的評価(解説/特集).アレルギー・免疫(1344-6932)C22:666-672,6)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:DiagnosingdryeyeusingCaCblue-freeCbarrierC.lter.CAmCJCOphthalmolC136:C513-519,C20037)AritaCR,CItohCK,CInoueCKCetal:NoncontactCinfraredCmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.OphthalmologyC115:C911-915,C20088)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Anewlydevelopednonin-vasiveandmobilepen-shapedmeibographysystem.Cor-neaC32:242-247,C2013***

学校現場における重傷眼外傷

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):553.558,2019c学校現場における重傷眼外傷戸塚伸吉*1,2恩田秀寿*2*1とつか眼科*2昭和大学医学部眼科学教室CSevereEyeInjuriesatSchoolNobuyoshiTotsuka1,2)CandHidetoshiOnda2)1)TotsukaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversity,SchoolofMedecineC平成C24年度からC26年度までのC3年間に,日本スポーツ振興センターに報告があり,障害見舞金を支給された東海北陸C7県(愛知,岐阜,三重,石川,富山,福井,静岡)の学校現場における眼外傷症例全C40例を報告した.原因をスポーツとそれ以外の事故に分けると,小学生がスポーツC2例,事故C5例の計C7例,中学生がスポーツC13例,事故2例のC15例,高校生がスポーツC14例,事故C4例のC18例であった.スポーツ眼障害は中高生に多く,中高生の学校内の重傷眼外傷の原因は大部分がスポーツであることがわかった.スポーツの種類別では,ソフトボールを含む野球(18例),フットサルを含むサッカー(9例),その他の順に多かったが,野球でより重症であった.小学生にはしつけや指導・観察と危険作業時の保護眼鏡,中高生はスポーツ眼鏡をすることで,大部分の眼外傷を予防できると考えた.CWeCinvestigatedC40CcasesCofCsevereCeyeCtraumaCatCschoolsCofCsevenCTokaiCHokurikuprefectures(Aichi,CGifu,CMie,Ishikawa,Toyama,FukuiandShizuoka)for3years(2012to2014)thatreceivedexgratiapaymentfromtheJapanCSportCCouncil.CThereCwereC7CcasesCinCtheCelementaryCschools,CwhereCtheCsportsCactivity/accidentCratioCwas5:2;15casesinthejuniorhighschools(ratio13:2)and18casesinthehighschools(14:4)C.Bytypeofsport,baseball(18cases)andfootball(9cases)rankedC.rstCandCsecond.CMoreCsevereCcasesCwereCfoundCinCbaseballCthanCinfootball.Wethinkitisimportanttoeducatestudentsastobehaviorandtheuseofsafetyglasseswhenengag-ingCinCdangerousCactivitiesCinCelementaryCschools,CasCwellCasCtoCinstructCstudentsCtoCwearCsportsCglassesCinCbothCjuniorhighandhighschools,topreventeyeinjuries.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):553.558,C2019〕Keywords:眼のけが,眼外傷,予防,スポーツ,スポーツ眼鏡,学校,学校管理.eyeinjury,oculartrauma,prevention,sports,sportsglasses,school,schoolmanagement.Cはじめに学校現場における眼外傷については,スポーツを原因とする報告が多くあるのに対し,学校内の眼外傷をまとめた報告は少ない1.3).その原因と重症度から対策について言及した報告は筆者らの調べた限りなかった.今回,東海北陸C7県という限られた地域ではあるが,過去C3年間の学校現場における眼外傷のC40例について調査し,いくつかの知見が得られたので報告する.CI対象および方法平成C24年度からC26年度までのC3年間に,日本スポーツ振興センターに報告があり,障害見舞金を支給された東海北陸C7県(愛知,岐阜,三重,石川,富山,福井,静岡)の学校現場における眼外傷症例全C40例である.これらの事例は,日本国内の小学校から高等学校までに在籍した生徒に起きた眼外傷事例の一部(47都道府県のうちのC7県)である.スポーツ振興センターでは,障害見舞金支給規定としての重症度分類があり(表1),その規定に該当しなければ見舞金は支給されない.したがって今回のC40例は,後遺障害が残る比較的重傷の眼障害といえる.このC40例について,スポーツ振興センターが公開している統計データをもとに,同センターへ再調査を依頼し詳細をレトロスペクティブに検討した.原〔別刷請求先〕戸塚伸吉:〒457-0808名古屋市南区松下町C1-1とつか眼科Reprintrequests:NobuyoshiTotsuka,M.D.,Ph.D.,TotsukaEyeClinic,1-1,Matsushita-cho,Minami-ku,Nagoya,457-0808,CJAPANC表1障害等級表(眼障害のみ)等級金額第1級37,700,000円(C18,850,000円)両眼が失明したもの第2級33,600,000円(C16,800,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.02以下になったもの両眼の視力がC0.02以下になったもの第3級29,300,000円(C14,650,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.06以下になったもの第4級20,400,000円(C10,200,000円)両眼の視力がC0.06以下になったもの第5級17,000,000円(C8,500,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.1以下になったもの第6級14,100,000円(C7,050,000円)両眼の視力がC0.1以下になったもの第7級11,900,000円(C5,950,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.6以下になったもの第8級6,900,000円(C3,450,000円)一眼が失明し,又は一眼の視力がC0.02以下になったもの第9級5,500,000円(C2,750,000円)両眼の視力がC0.6以下になったもの一眼の視力がC0.06以下になったもの両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの第10級4,000,000円(C2,000,000円)一眼の視力がC0.1以下になったもの正面視で複視を残すもの第11級2,900,000円(C1,450,000円)両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの第12級2,100,000円(C1,050,000円)一眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの第13級1,400,000円(C700,000円)一眼の視力がC0.6以下になったもの一眼に半盲症,視野狭窄または視野変状を残すもの正面視以外で複視を残すもの両眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの第14級820,000円(C410,000円)一眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの・()内の金額は通学中およびこれに準ずる場合の障害見舞金額を示す.・一眼の瞳孔異常があり羞明が著しいような場合や中心視野に障害がある場合にはC14級を準用する,などの運用詳細があるがここでは省略する.・日本スポーツ振興センターのホームページ「学校安全Cweb」の中の障害等級表Chttps://www.jpnsport.go.jp/anzen/saigai/seido/tabid/790/Default.aspxより,眼障害のみを抜粋した.因と発生した疾患と重症度,対策について考察した.CII結果外傷の原因,外傷の種類もしくは疾病名,重症度等級,学年を一覧表にした(表2).重症度等級はスポーツ振興センターが公表している等級分類に従った(表1).24年度は20例(症例番号1.20),25年度はC9例(症例番号C21.29),26年度はC11例(症例番号C30.40)と年間C15例前後の報告があった.このC3年間のスポーツ振興センター加入者(小学校,中学校,高校の順に,3,009,015人,1,592,485人,1,557,224人)で発症率を計算すると,約C0.0002%,0.0009%,0.0012%となり,学校内での重傷眼外傷発生率は,小学生ではC50万人に約C1人,中学校,高校ではC10万人に約C1人程度となる.原因をスポーツとそれ以外の事故に分けると小学生がスポーツC2例,事故C5例の計C7例,中学生がスポーツC13例,事故C2例のC15例,高校生がスポーツC14例,事故C4例のC18例となっていた(表2).スポーツ眼外傷C29例のみに注目すると,小学生がC2例,中学生C13例,高校生C14例であり,中高生に多かった.中高生の学校内の重傷眼障害の原因は大部分(中学生が約C87%,高校生が約C78%)がスポーツであることがわかった.スポーツの種類別では,ソフトボールを含む野球(18例),表2全症例の被災年齢,性別,障害等級,傷病名と原因年度CNo.被災年齢性別障害等級主傷病名原因中2男C14外傷性黄斑円孔野球(含軟式)高2男C13硝子体出血,外傷性黄斑円孔サッカー・フットサル高2男C14網膜硝子体出血サッカー・フットサル高1男C8眼球破裂,眼窩骨折野球(含軟式)高2男C8外傷性視神経損傷野球(含軟式)中2男C13眼窩底骨折サッカー・フットサル中3男C13眼窩底骨折,裂孔原性網膜.離テニス(含ソフトテニス)中2男C14切迫黄斑円孔,網膜出血野球(含軟式)24平成年度中1男C14網膜.離サッカー・フットサル中2男C10前房出血,網膜前出血野球(含軟式)小4男C14視野異常サッカー・フットサル中2女C13網膜硝子体出血ソフトボール中2男C14視野異常ソフトボール高3男C12外傷性散瞳,前房出血,硝子体出血ペットボトルロケットによる眼打撲小6男C8外傷性視神経萎縮,外斜視,下斜視転倒時の持ち物による眼打撲高3男C7外傷性視神経症,顔面多発骨折,難聴,その他4Fからの転落,顔面打撲小2男C13眼窩下壁骨折他の児童との衝突中1男C12角膜穿孔,外傷性白内障じゃれあって友のシャーペンで打撲小6男C12角膜穿孔,外傷性白内障工作時の針金で受傷小5男C14網膜振盪症サッカーボールの打撲中2男C14前房出血,硝子体出血,麻痺性散瞳野球(含軟式)高1男C10外傷性視神経症,外傷性脈絡腱断裂野球(含軟式)高2男C14脈絡膜破裂,外傷性散瞳野球(含軟式)25平成年度高2男C8外傷性横斑円孔および網膜裂孔,外傷性網膜打撲壊死サッカー・フットサル高2男C8外傷性視神経症,眼窩骨折野球(含軟式)中2女C11角膜混濁(角膜裂傷),偽水晶体眼グラウンド整備高3男C13硝子体出血,網膜振盪症サッカー・フットサル小6男C12強膜穿孔,外傷性白内障図画工作中,針金が右眼に刺入小5男C13眼窩底骨折他の児童との衝突高1男C12外傷性散瞳ソフトボール高2女C13外傷性脈絡膜断裂,眼窩内側壁骨折ソフトボール高1女C11外傷性白内障バドミントン高2女C14脈絡膜断裂による網脈絡膜萎縮サッカー・フットサル平成年度26中2男C12網膜.離,硝子体出血,外傷性白内障野球(含軟式)中2男C13隅角後退野球(含軟式)中2女C14外傷性散瞳ソフトボール中2男C13外傷性黄斑円孔野球(含軟式)高2男C8黄斑変性症野球(含軟式)高2男C10左外傷視神経症自転車による自損事故高3男C12眼球破裂,外傷性白内障→眼内レンズ挿入眼技術家庭時,アクリル板加工中の事故(主傷病名は保存された記録用紙に基づく)表3学校別の重傷眼外傷原因分類(人数)眼外傷原因スポーツ事故発生なし合計小学校C2C5C3,009,008C3,009,015中学校C13C2C1,592,470C1,592,485高校C14C4C1,557,206C1,557,224原因別の発症率について,小学校と中学校,小学校と高校には,それぞれCc2検定(Fisherの直接確率検定)で,p=0.000,p=0.000と,どちらも有意な差がある.中学校と高校には有意差は認められない(p=0.720).フットサルを含むサッカー(9例)の順に多く,テニス・バドミントンが各C1例,発生していた.一方,小学生では,スポーツより事故例のほうが多く,これに基づく対策を急ぐ必要があるとわかった.CIII考按小学生から高校生までの学校での外傷を統計的に考察してみる.日本スポーツ振興センターの報告では,眼の外傷だけを数えてみると,小学校でC9.4%,中学校でC6.6%,高校で4.2%と低下していき,全身の外傷に占める割合は高くない4).一方で後遺障害となる外傷のC20%以上が眼の外傷である.今回の症例でも,同時期のC3年間に同センターに報告され障害見舞金を支給された全身の外傷と対比する(眼の外傷/全身の外傷)と,年度別に,48.8%(20/41),25.7%(9/35),16.9%(11/65)であり,合計するとC28.4%(40/141)が,全体のなかの眼の外傷ということになる.眼障害は全身の外傷に占める割合はC10%以下であり,学年が高くなるにつれ頻度は低くなるが,ひとたび発生すると重症化しやすく,後遺障害を残す学校での外傷のうちC4例にC1例以上が眼障害で,歯牙疾患についで多い障害といえる.小学生の眼外傷原因では,スポーツC2例に対してスポーツ以外の事故C5例であった.事故の原因としては衝突C2例と転倒時の持ち物での受傷がC1例であった.これらは,成長発達に従って起こりにくくなる原因と思われる.未熟性から起こる小児の眼外傷へ親の監視や環境面での予防を訴える,18歳以下の眼外傷C353例をまとめた報告5)にも述べられているとおり,集団のなかでの行動に関するしつけや指導者の監視が必要である.残るC2例に工作中の外傷があり,高校生にも1例あった.工作中の針金など鋭利なものを扱う場合や危険な作業を伴う実験などの授業では,やはり注意が必要と思われる.中学校から高校までの重症眼外傷の多くは,スポーツによるものであり,小学校よりも部活動が盛んになり,運動そのものの強度が強くなるために,重症眼外傷が多くなると考えられる.学校別にスポーツとそれ以外の事故による原因に分けた表を発症率で統計処理すれば,中学校や高校に比し小学校では有意にスポーツ以外の事故によるものが多い(表3).小学生と中高生の眼外傷対策は分けて考える必要があると思われた.端的には小学生にはしつけや指導・観察と作業時の保護眼鏡,中高生にはスポーツ眼鏡の装用が必要であると思うが,山形県の学校眼外傷を論じた菅野ら6)の報告にも同様の示唆を読み取れる.スポーツ眼外傷C29例の内訳は,小学生C2例,中学生C13例,高校生C14例であり,中高生に多く,男性C23例,女性C6例と圧倒的に男子に多い.このC29例の重症度を考えると,8級(片眼障害の最重症等級)からC14級(片眼障害の最軽傷等級)までとなっていて,両眼の障害(1.7級)はなかった.スポーツ種類別では野球がC18例,サッカーがC8例で,他の競技に比し圧倒的に多かった.学校内のスポーツ眼外傷の多くは野球とサッカーであることは,過去の報告と同様であり7),競技人口の変遷からサッカーによるものが増加してきていることは実感できる.日本スポーツ振興センターへ報告があった眼外傷すべての原因のスポーツの種類分けをすると,球技が圧倒的に多く,軟式野球やソフトボールを含めた野球がC1位で,サッカーがC2位,つぎにバスケットボールが続く.中学生になるとテニスが,高校になるとバドミントンが加わってくる4).今回のC29例でも原因もまさにその内訳どおりのスポーツが原因であった.過去の報告ともおおむね一致する1,8,9).この原因比率は競技人口に左右されると考えられ,競技人口比で換算した外傷の起こる割合はゴルフをC1としてラグビーは約C13,サッカーは約C10,野球は約C5という報告がある10)が,小学生から高校生までの眼外傷では,野球とサッカーがC2大スポーツであることは間違いない.正確な競技人口数は,児童・生徒であっても知りえず,競技人口あたりの正確な発症率を求めるには競技人口の統計が公表されることに期待したい.網膜.離や脈絡膜破裂や黄斑疾患などを眼底疾患としてひとくくりにすると,原因疾患としては多い順に眼底疾患C21例,眼窩骨折C7例,外傷性白内障C7例,外傷性視神経症C6例,外傷性散瞳C5例,眼球破裂・強膜角膜裂傷がC3例,角膜混濁がC1例となった(重複C10例).外傷性視神経症(7級,8級,8級,8級,10級,10級)と,眼球破裂・強膜角膜裂傷(8級,11級,12級)に比較的視力予後不良の重症例が多く,同様の報告もある11.14).眼窩骨折や外傷性散瞳では軽症例が多く,眼底疾患は中心窩への影響による視力障害が主原因のため重症例,軽症例が混在していた.外傷性視神経症のC6例のうち転倒や転落のC3例以外では,いずれも野球が原因であった.この調査では軟式,硬式の区別がつかないが,その3例は高校生であることからおそらくは硬式ボールと推測され,とくに硬式野球では重症の眼外傷が起こりやすいと考えられる.木村13)はサッカーによる黄斑円孔の発症率が高く重症としたが,近年は観血治療技術の向上から後遺障害の程度が低くなっていると推測される.平成C4年までのC5年間の日本体育・学校センター(現在の日本スポーツ振興センター)から障害共済給付金を受けた眼外傷症例C938名の報告をした長谷川ら3)によれば,8級(356例)が最多であり,野球とサッカーとでは重症度に違いがないとした.その報告より20年経過した現在,サッカーによる黄斑円孔症例やその他の疾患も含めた早期診断や治療技術の向上により,今回の報告での全体の軽症化(等級数の低下)や野球に重症例が多い結果を説明できると考える.個々の症例については,日本スポーツ振興センターの報告に基づくものであり,発症機序の詳細は眼鏡装用も含めて不明であった.スポーツ眼外傷予防として,眼鏡ガラスよりコンタクトレンズを勧める報告もまれにあるが15),スポーツ眼外傷のC90%は,スポーツ眼鏡などの保護眼鏡で防ぐことが可能と考えられているため7,16),成人のみならず,学生スポーツとくに球技ではスポーツ眼鏡が導入されるべき1,17,18)であると考える.スポーツの指導やルール改正により防ぐ方法もある12,19)と思われるが,別に譲る.屈折異常を有する場合には,視機能が不良で運動能力が向上するとは考えにくいという観点から,大前提として適切な屈折矯正は必要である.もちろん眼鏡レンズによる眼外傷の報告20)があるため,ガラスより強いとされたCCRC.39とよばれる古いタイプのプラスチックレンズでは,眼外傷への保護効果は限定的と考えるべきである.島崎10)は,これに関して,眼鏡をしていると眼瞼裂傷や穿孔性眼外傷が起こりやすく,眼窩骨折や外傷性散瞳は起こりにくいと報告した.保護眼鏡の素材については米国規格やヨーロッパ規格などの耐衝撃実験を考慮して21),現時点ではポリカーボネートにすべきである.わが国でもプラスチックレンズの耐久性について実験した報告があり22),ポリカーボネートには及ばないが,プラスチックレンズでも耐衝撃性コートを施せばかなり強くなるとしている.レンズの破損がなければ,穿孔性眼外傷や眼瞼裂傷を含めた眼外傷は,眼鏡装用で防げる可能性が高い.保護眼鏡はとくに,眼外傷が重症化しやすい硬式野球では必須と考える.海外では,16歳以下の開放性眼外傷C893眼のまとめ23),前出のCBuC.anら5),16歳以下のC220例の眼外傷をまとめたもの24)などがあるが,学校保健がわが国ほど発達していないためか,種々雑多の原因があり,それぞれの原因論からの対策を論じてはいない.眼鏡装用により周辺視野が狭くなるとの考えから,眼鏡を装用していることで自転車事故が多くなるとの報告があり25),その根拠に眼鏡枠で確実に視野が障害されること26)と有効視野の障害で自動車事故が増加するとの報告をあげている27).しかし,視野のC50.60°以内は障害されていないこと,有効視野には年齢の要素も関係するため,高齢者でなく,適切な眼鏡と適切な装用状態であれば運動能力への影響は限定的と考えた.ただし,周辺視野に影響する可能性があるレンズひずみの問題や,眼鏡装用による精神的な影響の観点から,眼鏡装用が及ぼす運動能力への影響については,さらに検討を要する.工作などの危険な作業や実験を行うときにも,保護眼鏡を装用することが望まれるが,今回の調査比率から,とくに小学校の工作では保護眼鏡の装用を義務付ける必要があると考える.ただし,耐久性の面ではスポーツ眼鏡に推奨されるほどの強度は必要ないと考える.針金を使用する工作ではCCR-39などのガラスやプラスチックレンズでもよく,爆発もありうる実験では,スポーツ眼鏡と同程度にする必要があるかもしれない.作業内容に応じた保護眼鏡の基準が作られるべきと考える.謝辞:ご協力いただきました独立行政法人日本スポーツ振興センター名古屋支所の皆様に感謝いたします.文献1)宇津見義一:学校での眼外傷とスポーツ用眼鏡.あたらしい眼科30:1101-1107,C20132)長田健二,渋谷勇三,古瀬萠ほか:島根県内C5市の小中学校での校内発生眼外傷の現状.島根医学C26:251-256,C20063)長谷川二三代,川西香,石田俊雄ほか:学校における眼外傷の後遺症について.眼臨C91:638-641,C19974)独立行政法人日本スポーツ振興センター:学校の管理下の災害〔平成C27年版〕.p151-205,C20155)BuC.anK,MatasA,LovricJMetal:Epidemiologyofocu-larCtraumaCinCchildrenCrequiringChospitaladmission:aC16-yearretrospectivecohortstudy.JGlobHealthC7:1-7,C20176)菅野馨,中村洋一:山形県における学校眼外傷の実態.眼臨C89:66-70,C19957)枝川宏:スポーツによる眼外傷.あたらしい眼科C14:C325-334,C19978)枝川宏:スポーツ眼外傷.日臨スポーツ医会誌C20:209-211,C20129)湯川英一,丸岡真治,原嘉昭ほか:天理市立病院における小児スポーツ眼外傷の発生状況.JournalCofCNaraCMedi-calAssociationC58:11-15,C200710)島崎潤:慶大眼科におけるスポーツ眼外傷の統計的観察.眼科C26:1413-1419,C198411)岩田充弘,北村昌弥,浅野徹ほか:スポーツと眼外傷.日職災医誌C49:509-513,C200112)大島剛,黒坂大次郎,田中靖彦ほか:学校スポーツにおける重篤な眼外傷についての検討.眼紀49:539-545,C199813)木村肇二郎:小児のスポーツ眼外傷.あたらしい眼科C8:C1551-1555,C199114)木村肇二郎:学校スポーツにおける眼外傷の重症例についての検討.日災医会誌C37:693-698,C198915)木下雅夫,荻原博実,稲富誠:スポーツによる眼外傷.日災医会誌C29:887-890,C198116)LuongCM,CDangCV,CHansonC:TraumaticChyphemaCinCbadmintonplayers:Shouldeyeprotectionbemandatory?CanJOphthalmolC52:143-146,C201717)武田桜子:アスリートの眼外傷とその予防(特集スポーツ視覚研究の最前線).臨床スポーツ医学C32:1182-1187,C201518)AmericanCAcademyCofCPediatrics,CCommitteeConCSportsCMedicineandFitness,AmericanAcademyofOphthalmol-ogy,EyeHealthandPublicInformationTaskForce:Pro-tectiveCeyewearCforCyoungCathletes.COphthalmologyC111:C600-603,C200419)VingerPF:Sorts-related-eye-injury.CACpreventableCproblem.SurvOhthalmolC25:47-51,C198020)今村裕,黒坂大次郎,小口芳久ほか:スポーツ時のプラスチックレンズ(CR-39)の破損による穿孔性眼外傷のC2例.眼紀46:1011-1014,C199521)DainSJ:MaterialsCforCoccupationalCeyeCprotectors.CClinCExpOptomC95:129-139,C201222)有澤武士,黒坂大次郎,大島剛ほか:スポーツにおけるプラスチック製眼鏡レンズの安全性の検討:レンズの耐衝撃性実験.眼紀C50:525-529,C199923)BaturCM,CSevenCE,CAkaltunCMNCetal:EpidemiologyCofCopenglobeinjuryinchildren.JCraniofacSurgC28:1976-1981,C201724)SinghS,SharmaB,KumarKetal:Epidemiology,clinicalpro.leandfactors,predicting.nalvisualoutcomeofpedi-atricoculartraumainatertiaryeyecareofCentralIndia.IndianJOphthalmolC65:1192-1197,C201725)ZhangM,CongdonN,LiLetal:Myopia,spectaclewear,andriskofbicycleaccidentsamongruralChinesesecond-aryschoolstudents.ArchOphthalmolC127:776-783,C200926)SteelCSE,CMackieCSW,CWalshG:VisualC.eldCdefectsCdueCtoCspectacleframes:theirCpredictionCandCrelationshipCtoCUKCdrivingCstandards.COphthalmicCPhysiolCOptC16:95-100,C199627)BallK,OwsleyC,SloaneMEetal:Visualattentionprob-lemsCasCaCpredictorCofCvehicleCcrashesCinColderCdrivers.CInvestOphthalmolVisSciC34:3110-3123,C1993***

出産後に片眼性に漿液性網膜剝離を認めた全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の1例

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):548.552,2019c出産後に片眼性に漿液性網膜.離を認めた全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の1例高辻樹理*1山田成明*1八田裕貴子*1藤永洋*2炭谷崇義*3舌野靖*3*1富山県立中央病院眼科*2富山県立中央病院内科和漢・リウマチ科*3富山県立中央病院産婦人科CACaseofUnilateralSerousRetinalDetachmentafterCesareanSectionwithSystemicLupusErythematosusandAntiphospholipidSyndromeJuriTakatsuji1)CNariakiYamada1)CYukikoHatta1)CHiroshiFujinaga2)CTakayoshiSumitani3)andYasushiShitano3),,,,1)DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofMedicine,DivisionofRheumatologyandEasternMedicine,ToyamaPrefecturalCentralHospital,3)DepartmentofObstetricsandGynecology,ToyamaPrefecturalCentralHospitalC全身性エリテマトーデス(systemicClupuserythematosus:SLE)に抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipidCsyn-drome:APS)を合併した患者で,妊娠高血圧症候群を発症し,帝王切開後に片眼の視力障害を生じ,漿液性網膜.離を認めたC1例を報告する.症例はC29歳の女性で,妊娠C5週時にCSLE,APS合併妊娠と診断され,SLEに対してステロイド,APSに対してアスピリン,ヘパリンを投与された.妊娠C31週で重症妊娠高血圧症候群による胎児機能不全を認め,緊急帝王切開を施行.出産翌日,右眼の視力障害を訴え,眼科を受診.眼底検査で漿液性網膜.離を認めた.出産後,徐々に漿液性網膜.離は自然軽快した.本症例において,出産後に認めた漿液性網膜.離は重症妊娠高血圧症候群が直接の原因と思われるが,SLE,APSが関与していたのではないかと思われた.CWeCreportCaC29-year-oldCfemaleCpatientCwithCcomplicationsCofsystemicClupusCerythematosus(SLE)andantiphospholipidCsyndrome(APS)whodevelopedCpregnancy-inducedChypertension(PIH)andChadCunilateralCblurredvisionandserousretinaldetachmentafterundergoingcesareansection.HavingbeendiagnosedwithSLEandAPSather.fthweekofpregnancy,shewasgivensteroidfortheSLE,andaspirinandheparinfortheAPS.AtCweekC31CofCpregnancy,Cnon-reassuringCfetalCstatusCdueCtoCsevereCPIHCoccurredCandCcesareanCsectionCwasCcar-riedouturgently.Thedayafterthebirth,shecomplainedofblurredvisionandwasdiagnosedwithserousretinaldetachmentviafundusexamination.Shegraduallyrecoveredfromthedetachment.Inthiscase,whilethepostnatalserousretinaldetachmentseemstohavebeenprimarilycausedbyseverePIH,SLEandAPSalsoseemtobepart-lycausative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):548.552,C2019〕Keywords:全身性エリテマトーデス(SLE),抗リン脂質抗体症候群(APS),妊娠高血圧症候群(PIH),漿液性網膜.離,ステロイド.systemiclupuserythematosus(SLE),antiphospholipidsyndrome(APS)C,pregnancy-inducedhypertension(PIH),serousretinaldetachment,corticosteroid.Cはじめに妊娠高血圧症候群の経過中に,まれに漿液性網膜.離を生じることがある.血小板減少やフィブリノーゲン低下などで微細な播種性血管内凝固症候群(disseminatedCintravascularcoagulation:DIC)が起き,脈絡膜循環障害を引き起こすことが原因と考えられている1).また,全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythematosus:SLE)にはさまざまな眼疾患を生じることがあるが,比較的まれに漿液性網膜.離を合併することがある2).今回筆者らは,SLEと抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipidCsyndrome:APS)を合併した患者で,重症妊娠高血圧症候群による胎児機能不全を認め,緊急帝王切開を施行後に急激な視力低下を自覚し,片眼性の〔別刷請求先〕高辻樹理:〒930-0975富山県富山市西長江C2-2-78富山県立中央病院眼科Reprintrequests:JuriTakatsuji,DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2-2-78Nishinagae,Toyama-city,Toyama930-0975,JAPANC548(126)漿液性網膜.離を認めた症例を経験したので報告する.CI症例患者:29歳,女性.主訴:右眼視力低下.既往歴:28歳時死産(妊娠C17週).現病歴:201◯年C3月に妊婦検診で蛋白尿を指摘され,4月に死産となった.5月に顔面に紅斑が出現し,皮膚科にてステロイド外用薬を処方されたが改善せず,10月に当院皮膚科を受診.両頬部および耳介に蝶形紅斑様皮疹を認め,関節炎や微熱も伴っていた.抗核抗体C640倍を指摘され,当院和漢リウマチ科を紹介受診した.前医産婦人科で妊娠C5週と診断されていた.妊娠の継続を希望し,SLE,APS合併妊娠の診断で,入院のうえCSLEに対してプレドニゾロン図1初診時の右眼眼底写真およびOCT写真の十字はCOCTの切片を示している.30Cmg内服,APS合併妊娠に対してヘパリン投与,バイアスピリン内服加療を開始した.退院時には,ヘパリン自己注射を開始した.プレドニゾロンは,12月よりC20Cmg,2017年C1月よりC12Cmgと漸減となった.2017年C1月(妊娠C15週)より尿蛋白陽性となり,4月末(妊娠C31週)に血圧C135/79mmHg,尿蛋白C3+となり,胎盤に多発梗塞巣が出現した.胎児機能不全,羊水過少を認めた.5月初め(妊娠C32週),血圧C145/84CmmHg,著明な下腿浮腫,体重増加,胎動減少を認めたことから全身麻酔下での緊急帝王切開が施行された.出産翌日,起床時に右眼視力低下を自覚し当院眼科(以下,当科)を受診した.初診時所見:瞳孔不同なし,対光反射正常,相対性求心性瞳孔反応欠損(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)陰性,眼球運動正常,眼球運動痛なし.視力はCVD=0.02C左眼図2初診時の左眼眼底写真およびOCT写真の十字はCOCTの切片を示している.図3右眼のHFA上:出産後C7日目,下:出産後C78日目.(0.04C×sph.1.00D(cyl.1.00DAx180°),VS=0.07(0.8C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx180°).前眼部に炎症所見なく,右眼後極部に円形の漿液性網膜.離を認めた.超音波CBモード,OCTでも右眼漿液性網膜.離が確認された(図1).左眼眼底には網膜.離は認めなかった.血液検査では,Hb8.4Cg/dl(12.16),血小板数C5.1万/μl(15.40万)と低下あり,BUN21mg/dl(8.20),Cre0.95mg/dl(0.7.1.3),CeGFR58と軽度の腎機能障害を認めた.C357Cmg/dl(80.図4出産後18日目の右眼眼底写真網膜色素上皮萎縮を.で示した.140),C44Cmg/dl(11.34)と補体低値を認めた.抗CDNA抗体はC5.6CIU/ml(0.6.0)と上昇はなかった.経過:当科初診後,同日に和漢リウマチ科より五苓散が処方され,産婦人科よりアルブミン投与開始された.出産前,プレドニゾロンC10Cmg内服下でCSLEの活動性は落ちついていたが,産褥期のCSLE増悪を予防する目的に,出産翌日よりプレドニゾロンC20Cmgに増量された.出産後C2日目,右眼漿液性網膜.離はやや改善傾向を認めた.出産後C3日目,網膜.離はさらに改善.出産後C4日目,右眼矯正視力はC0.4となり,網膜.離は前日より改善していた.原田病などの鑑別のためCHLA遺伝子型測定を行ったが,HLA-DR4,HLA-DRB1はいずれも陰性であった.出産後C6日目,自覚症状の悪化なく漿液性網膜.離は改善傾向だった.血圧は150/100CmmHg台と低下なく,降圧薬内服が開始された.出産後C7日目,Humphrey静的視野検査で右眼に上方および下方の障害を認め,漿液性網膜.離の影響が疑われた(図3)中心フリッカ検査では,右眼C20.24CHz,左眼C28.32CHzと左右とも低下を認めた.出産後C8日目,頭部CCTを施行したが,明らかな異常は認められなかった.降圧薬内服開始後,血圧はC130/80CmmHg台に低下し,出産後C14日目に産婦人科退院となった.出産後C18日目,右眼矯正視力C0.9,左眼矯正視力C1.5,中心フリッカ値は右眼C23.27CHz,左眼32.40CHz,両眼眼底周辺部に三角形状の網膜色素上皮萎縮巣を認め(図4),OCTでは右眼漿液性網膜.離は完全に消失していたが黄斑部網膜外層の菲薄化を認めた.色素上皮萎縮は漿液性網膜.離を生じた後極部から離れており,連続性は認められなかった.6月下旬(出産後C48日目),右眼矯正視力C1.0に改善.後極部の漿液性網膜.離は消失していた.7月下旬(出産後C78日目),右眼矯正視力C1.2,Humphrey静的視野検査での視野障害は両眼とも消失し,OCTで漿液性網膜.離の再発も認められなかった(図5).蛍光眼底造影検査を勧めたが,検査後一時的に授乳を中断しなければならないことを理由に検査を拒否された.その後通院を中断していたが,10月に和漢リウマチ科よりヒドロキシクロロキン内服投与開始され,11月当科再診.視力:VD=0.1(1.5C×sph.3.50D(cyl.0.75DCAx165°),VS=0.2(1.5C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx5°),OCTで異常は認められなかった.現在,外来にて経過観察中である.CII考察妊娠高血圧症候群は,胎盤の形成障害や母体の血管内皮障害などの全身の血管性変化に起因するといわれている3).妊娠高血圧症候群の経過中に,妊娠高血圧性網膜症を呈することがある.妊娠高血圧性網膜症には,網膜動脈狭細化や網膜出血,白斑を呈する高血圧性網膜症と,脈絡膜循環障害による網膜色素上皮障害が原因とされる漿液性網膜.離があげられる.発症時期は,妊娠中,出産後数日などさまざまであるが,妊娠末期,あるいは分娩後の高血圧を呈している時期の発症が多い4).一般に出産後に自然寛解し,予後は良好である.妊娠高血圧症候群で漿液性網膜.離が起こる機序としては,血小板減少やフィブリノーゲン低下などで微細なCDICが起き,それが脈絡膜循環障害を引き起こし,脈絡膜に隣接する網膜色素上皮が障害され漿液性網膜.離が起こると考えられている1).宇都らは,妊娠高血圧症C74例を検討し,74例中C32例(43.2%)に眼底病変を認め,そのうち高血圧性網膜症に分類されたのはC23例(72%),漿液性網膜.離を認めたのはC9例(28%)であったと報告している5).また,眼底変化を認めたC32例のすべてが重症妊娠高血圧症候群であったとされており,妊娠高血圧症の重症度と眼底変化との関係を考えるうえで興味深い.また,SLEは女性に発症率が高く,妊娠高血圧症候群のハイリスクとされている.SLE合併妊娠における妊娠高血圧症候群の発生率は,23.3%との報告がある6).また,SLE患者において,免疫的負荷がかかる妊娠時図5出産後78日目の右眼眼底写真およびOCTに妊娠高血圧症候群を発症した場合は,分娩後に自己免疫異常が増悪するリスクが高く,長期予後も不良である可能性が示唆されている7).一方,妊娠や出産とは別に,比較的まれにCSLEの患者に漿液性網膜.離を生じることがある.多発性後極部網膜色素上皮症(multifocalposteriorCpigmentCepitheliopathy:MPPE)は,網膜色素上皮の障害により眼底後極部に多発性の漿液性網膜.離を生じる疾患である.MPPEがCSLEに合併する場合,発症機序としては,ループス腎炎に続発する高血圧や脈絡膜の血管炎により脈絡膜血管障害を起こし,網膜色素上皮の外血液網膜関門が破綻するとする考え8,9)と,腎障害や副腎皮質ホルモン,免疫複合物,抗網膜色素上皮抗体により網膜色素上皮自体に障害が起きるとする考え10,11)がある.SLEに合併したCMPPEについて,15例中C10例が両眼性で,10例に高血圧,9例に腎障害を合併していたという報告がある.13例でステロイドが投与されていたが,増量により改善した症例も認められた2).また,抗リン脂質抗体は,SLE患者のC30%で陽性となり12),SLEに合併することはまれではない.APSの合併は,血管閉塞イベントの増加に関与し,自己抗体により形成された免疫複合体が血管壁を障害し,血小板凝集の亢進により血流低下を生じる.これらの変化は,種々の臓器,さまざまな太さの血管に生じるが,微小な血管に富む網膜や視神経では,より障害が強くなる.APSの眼症状としては,網膜中心(分枝)動脈閉塞症,網膜中心(分枝)静脈閉塞症,虚血性視神経症,球後視神経炎,SLE網膜症などがある.SLE網膜症は,APSを合併するとしばしば難治性となり,眼症状も重篤化する14,15).今回の症例は,重症妊娠高血圧症候群を発症し,帝王切開を契機に漿液性網膜.離を発症した.出産前の血圧がC150.160/90.100CmmHgと高値だったが,出産約C1週間後には120/80CmmHg前後に低下し,同時期に片眼の漿液性網膜.離の改善を認めた.漿液性網膜.離の発症時,プレドニゾロンは漸減されており,出産の約C1カ月前から内服量はC10Cmgと低用量であった.SLEについては,低補体血症を認めるものの,低アルブミン血症がおもな原因と考えられ,抗CDNA抗体の上昇もなかったことから,出産前後でCSLEの増悪はないと考えられた.また,APSに対しては,出産前までヘパリン自己注射,アスピリン内服が継続されていた.これらのことから,今回の症例では,重症妊娠高血圧症候群が漿液性網膜.離のおもな原因になっていると推察されるが,SLE,APSの合併も発症に関与している可能性が考えられる.今回,蛍光眼底造影検査を施行できず,発症機転について詳細な検討はできなかったが,眼底周辺部に残った三角形状の網膜色素上皮の萎縮から,脈絡膜循環障害が起きていたことがうかがわれる.本症例の場合,SLEによる網膜色素上皮の脆弱性,APSによる循環不全が素因にあり,妊娠高血圧症候群を合併したことにより網膜色素上皮障害を生じたのではないかと考えた.今回,漿液性網膜.離は片眼のみの発症だった.これまで,MPPEについてはC2/3が両眼性だったという報告がある2).妊娠高血圧症候群による漿液性網膜.離についても,片眼性と両眼性の割合について今後検討の必要があると思われる.SLEとCAPSを合併する患者で,妊娠高血圧症候群を発症し,出産後に漿液性網膜.離を発症した症例は,筆者らが調べた限りでは確認できなかった.SLE合併妊娠は妊娠高血圧症候群を併発しやすく16),APSと妊娠高血圧症候群の関連も以前から指摘されている17,18)ことから,両者を合併した患者で漿液性網膜.離を発症する可能性も少なくないと考えられる.本症例のような場合,出産後もCSLE増悪のリスクがあり,次回妊娠時にも重症妊娠高血圧症候群を合併する可能性があることから,内科,産婦人科と連携して,眼合併症について長期の経過観察が必要と思われる.文献1)飯田知弘,萩原徳一,大谷倫裕ほか:赤外蛍光造影による漿液性網膜.離の脈絡膜血管病変.日眼会誌C100:817-824,C19962)安藤一郎,桂弘:全身性紅斑性狼瘡(SLE)に合併した多発性後極部網膜色素上皮症のC1例.あたらしい眼科C14:C467-471,C19973)TsukimoriK,FukushimaK,NakanoHetal:TrophoblastdysfunctionCandCmaternalCendothelialCcellCdysfunctionCinCtheCpathogenesisCofCpreeclampsia.CTextbookCofCPerinatalMedicine2edition,(KurjakA,ChervenakFAeds)C,p926-934,InformaHealthcare,NewYork,20054)ValluriS,AdelbergDA,CurtisRSetal:Diagnosticindo-cyanineCgreenCangiographyCinCpreeclampsia.CAmCJCOph-thalmolC122:672-677,C19965)宇都美幸,上村昭典:妊娠中毒症の脈絡膜症と全身所見.日眼会誌95:1016-1019,C19916)ChakravartyCET,CNelsonCL,CKrishnanE:ObstetricChospi-talizationCinCtheCUnitedCStatesCforCwomenCwithCsystemicClupusCerythematosusCandCrheumatoidCarthritis.CArthritisCRheumC54:899-907,C20067)新垣精久,正本仁,青木陽一:妊娠高血圧症候群を発症したCSLE合併妊娠の臨床的検討.日本妊娠高血圧学会雑誌C19:97-98,C20118)高橋明宏,水川淳,沖坂重邦:胞状網膜.離を伴った脈絡膜循環障害のCSLEのC1症例.眼紀40:1081-1085,C19899)DiddieKR,AronsonAJ,ErnestJT:ChorioretinopathyinaCcaseCofCsystemicClupusCerythematosus.CTransCAmCOph-thalmolSocC75:122-129,C197710)田村喜代,杉目正尚,田宮宗久ほか:SLEに合併した胞状網膜.離のC1症例.眼紀38:790-797,C198711)MatsuoT,NakayamaT,KoyamaTetal:Multifocalpig-mentCepitherialCdamagesCwithCserousCretinalCdetachmentCinCsystemicClupusCerythematosus.COphthalmologicaC195:C97-102,C198712)岡田純:抗リン脂質抗体症候群.最新医学C45:351-356,C199813)AshersonCRA,CCerveraR:C‘Primary’,‘secondary’CandCotherCvariantsCofCtheantiphospholipidCsyndrome:culpritCorconsort?JRheumatolC21:397-399,C199414)HallS,BuettnerH,LuthraHS:OcclusiveretinalvasculardiseaseCinCsystemicClupusCerythematosus.CJCRheumatolC11:846-850,C198415)SnyersCB,CLambertCM,CHardyJP:RetinalCandCchoroidalCvaso-occlusiveCdiseaseCinCsystemicClupusCerythematosusCassociatedCwithCantiphospholipidCantibodies.CRetinaC10:C255-260,C199016)YanYuenS,KrizovaA,QuimetJMetal:Pregnacyout-comeCinsystemicClupusCerythematosus(SLE)isCimprov-ing.CResultsCfromCaCcaseCcontrolCstudyCandCliteratureCreview.OpenRheumatolC2:89-98,C2008