●連載103監修=安川力髙橋寛二83.若年者の血管新生黄斑症に対する抗VEGF薬に加瀬諭北海道大学大学院医学研究院眼科学教室よる管理─脈絡膜骨腫に伴う新生血管について若年者に対する抗CVEGF薬治療はオフラベル使用になることが多いが,特発性脈絡膜新生血管(特発性CNV),ぶどう膜炎,眼腫瘍に伴うCCNVなどに対して行われる.脈絡膜骨腫は若年の女性に好発する難治性の眼内腫瘍で,経過中CCNVを伴うことがある.近年,抗CVEGF薬治療により,CNVの消退,網膜下液や出血が消失し,視力の改善が期待できるようになった.しかし,黄斑部に色素沈着を伴い,視力予後が不良な報告もある.今後のさらなる症例数の蓄積が必要である.はじめに抗CVEGF薬は今や眼内新生血管疾患の治療に必須となっている.とりわけ加齢黄斑変性(age-relatedmacu-lardegeneration:AMD),糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の黄斑浮腫に対し,初回治療として多くの患者に投与されており,比較的高齢者が対象となる.他方,オフラベルの使用になることが多いが,抗CVEGF薬は若年者に投与されることもある.尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群などのぶどう膜炎に伴う脈絡膜新生血管(cho-roidalneovascularization:CNV),VonCHippel-Lindau病(VHL)に伴う網膜血管芽腫,脈絡膜骨腫などの若年者に発生する難治性疾患が対象となる.血管新生黄斑症は,黄斑部に新生血管を発症し,視力低下や歪視をきたす疾患である.強度近視や特発性CCNVが主体と考えられるが,網膜色素線状や脈絡膜骨腫に伴うCCNVも含まれると考えられる.本稿では若年者の血管新生黄斑症に対する抗CVEGF薬治療の一例として,脈絡膜骨腫(cho-roidalosteoma:CO)に伴うCCNVについて概説する.CCOにおけるCNVの臨床像COは視神経乳頭近傍に発生する骨形成性の脈絡膜良性腫瘍で,主として若年女性に好発する.若年男性に発生することもある.片眼性の頻度が高いが,両眼性にみられることもある.COの組織内には,石灰化と骨吸収による脱石灰化の病巣がみられる.COはC10年の経過観察中,約半数でCCNVを伴い1),視力障害の重要な因子である.CNVを伴う際には,網膜下液の貯留,漿液性網膜.離や網膜下出血がみられ,視力低下の原因となる.CNVは両眼性に発生することもある.COに伴うCCNVの診断にはフルオレセイン蛍光造影,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT),OCT血管造影,超音波CBモード,CTが有用である.(77)脈絡膜陥凹に伴うCCNV形成もみられる2).COに伴うCNVに対しては,網膜光凝固,経瞳孔温熱療法,光線力学的療法,抗CVEGF薬治療が行われる3).COに対する抗VEGF薬治療の実際COに合併するCCNV8例(女性C5例,男性C3例)に対してベバシズマブ硝子体内注射(intravitrealCbevaci-zumab:IVB)を行った報告では,平均年齢(中央値)はC34歳で,5例はC36歳以下の若年者であった.CNVの形状としてはC8眼中C6眼でCpredominantlyCclassicCNV,2眼はCminimallyCclassicCNVとCoccultCNVであった.注射回数はC3~10回で,経過観察期間はC3~15カ月(平均C9カ月),5眼でC2~6段階の視力改善がみられた.5眼でCCNVは消失し,3眼では部分的な消失であった.網膜厚も減少した4).Raoらは,黄斑部に及ぶCOによるCCNVに対して,AMDに準じてCIVBを月C3回施行し,視力の改善と網膜下出血,網膜下液の消失を得ることができたと報告した5).以上よりCIVBはCCOに伴うCCNVに対して有用であることが示されている.わが国では,Yoshikawaらが脱石灰化したCCOに伴うCCNVに対してCIVBを行ったC3例を報告した6).IVBの注射回数は平均C2回,平均観察期間はC56カ月と長期にわたっていた.中心窩下にCCNVがあった症例はC2例,傍中心窩はC1例であり,IVB後に視力が悪化した症例もあり,脱石灰化したCCOに伴うCCNVでは治療後に黄斑部に色素沈着をきたし,視力予後が不良になる可能性が示された6).ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)もCCOに伴うCCNVに対して用いられるようになった.近年,IVRのC2回投与により,長期間網膜下液の再発がみられず,IVRが有効であったとの報告もある7).IVBはCCNVの退縮に,IVRは網膜下液の消退を促進し,視力改善に貢献する可能性も示され8),IVRは網膜下液の残存がみられる際に有効であるあたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C770910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1症例1脈絡膜骨腫(30歳代,女性,右眼)a:初診時右眼視力(0.6).視神経乳頭近傍に脈絡膜骨腫,黄斑部に網膜下出血がみられる.Cb:OCTで黄斑耳側にCCNVを示唆する不正な網膜色素上皮の隆起がみられる().c:IVR施行後,網膜下出血が消退し,視力も(1.0)に改善した.Cd:CNV病巣も消失し,滲出の再燃はない().ことが示唆される.近年,COに伴うCCNVの退縮に,アフリベルセプト硝子体内注射のC1回投与も有効であるとの報告がある9,10).症例提示自験例を示す.症例C1はC30歳代,女性.右眼のCCOに伴うCCNVにより変視症,視力低下を認め,右眼の矯正視力は(0.6)であった.倫理委員会の承認のもと,IVRをC1回施行したところ,CNVが退縮し,視力も(1.0)に改善した(図1).その後C2年経過したが滲出の再燃はない.症例C2はC10歳代,男性.右眼の視力低下があり,矯正視力(0.08)であった.傍中心窩にCCNVが認められ,それに伴う網膜下出血がみられた.IVBをC1回施行したところ,腫瘍は脱石灰化し,色素沈着をきたした.視力は(0.1)で著明な改善はなかった.その後C3年経過したが滲出の再燃はない(図2).おわりに若年者に対するこのような抗CVEGF薬治療は,多くの場合オフラベル使用と考えられるが,患者の視力維持,改善に貢献する可能性があることが明らかになってきている.今後のさらなる症例の蓄積が必要である.文献1)ShieldsCL,SunH,DemirciHetal:FactorspredictiveoftumorCgrowth,CtumorCdecalci.cation,CchoroidalCneovascu-larization,CandCvisualCoutcomeCinC74CeyesCwithCchoroidalCosteoma.ArchOphthalmol123:1658-1666,C2005C78あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021図2症例2脈絡膜骨腫(10歳代,男性,右眼)a:初診時右眼視力(0.08).傍中心窩にCCNVとそれに伴う網膜下出血がみられる.b:OCTで傍中心窩に脈絡膜の不整な隆起,中心窩に網膜浮腫がみられる().c:IVBを1回施行.腫瘍は脱石灰化し,色素沈着をきたした.視力は(0.1)を維持.Cd:3年後.滲出の再燃はない().2)PierroCL,CMarcheseCA,CGagliardiCMCetal:ChoroidalCexca-vationinchoroidalosteomacomplicatedbychoroidalneo-vascularization.Eye(Lond)C31:1740-1743,C20173)古田実:脈絡膜骨腫.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編).医学書院,p360-365,20154)PapastefanouCVP,CPefkianakiCM,CAlCHarbyCLCetal:IntraC-vitrealCbevacizumabCmonotherapyCforCchoroidalCneovascu-larisationCsecondaryCtoCchoroidalCosteoma.Eye(Lond)C30:843-849,C20165)RaoS,GentileRC:Successfultreatmentofchoroidalneo-vascularizationCcomplicatingCaCchoroidalCosteomaCwithCintravitrealCbevacizumab.CRetinCCasesCBriefRep4:303-305,C20106)YoshikawaCT,CTakahashiK:Long-termCoutcomesCofCintravitrealinjectionofbevacizumabforchoroidalneovas-cularizationCassociatedCwithCchoroidalCosteoma.CClinCOph-thalmol9:429-437,C20157)NarangCS,CSindhuCM,CSheoranCKCetal:ChoroidalCosteo-ma:thevariedresponseofsubretinal.uidtoanti-VEGFagents.BMJCaseCRep13:20208)ShieldsCL,SalazarPF,DemirciHetal:Intravitrealbev-acizumab(avastin)andranibizumab(lucentis)forCchoroi-dalCneovascularizationCoverlyingCchoroidalCosteoma.CRetinCCasesBriefRepC2:18-20,C20089)ArrigoCA,CPierroCL,CSacconiCRCetal:BilateralCchoroidalCosteomacomplicatedbybilateralchoroidalneovasculariza-tion.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC50:398-400,C201910)RajabianCF,CArrigoCA,CGrazioliCACetal:FocalCchoroidalCexcavationandpitchforksigninchoroidalneovascularisa-tionCassociatedCwithCchoroidalCosteoma.CEurCJCOphthalmolC1120672119892802,C2019(78)