●連載208監修=岩田和雄山本哲也208.近視眼緑内障澤田有秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座近視は緑内障発症の危険因子であり,緑内障診療では近視症例を多く経験する.近視眼では視神経乳頭傾斜などの構造変化を認め,これが非近視眼にはない脆弱性を生じる原因となっている.近視眼緑内障では早期から中心視野が障害されることが多く,若年発症の傾向とあいまって,生活に支障をきたし,問題となることがある.C●緑内障リスクファクターとしての近視眼の特徴日本における近視の有病率は,近視を等価球面度数-1.0D以下とした場合,40歳以上の成人でC32.5%であり,これは欧米人においてC20%以下であるのと比較して高い割合となっている.近視は開放隅角緑内障(open-angleCglaucoma:OAG)発症のリスクファクターといわれており,近視とCOAGのオッズ比は,多治見スタデイにおいて弱度近視(>C-3.0D)でC1.65,中等度・強度近視(C.-3.0D)でC2.60であった1).近視眼では視神経乳頭とその周囲組織に特徴的な構造変化を生じる.それらは視神経乳頭の傾斜,耳側の広い乳頭周囲網脈絡膜萎縮(parapapillaryCatrophy:PPA),アーケード血管の黄斑への接近などである(図1).これらの構造変化は,近視化に伴う眼球の伸長により,視神経乳頭が耳側へ牽引されることにより生じる.緑内障眼における軸索障害は,視神経乳頭深部に位置する篩状板において生じることが示されているが,近視眼におけるこれらの視神経乳頭構造変化は篩状板にも影響を与えていることが推測され,近視性変化によって生じた篩状板組織の脆弱性が緑内障性ストレスに対する感受性を高めているものと考えられる.最近の臨床研究で,近視眼緑内障において,近視は等価球面度数や眼軸長の値ではなく,視神経乳頭傾斜とそれに伴う乳頭周囲組織の耳側への変位によって緑内障性視野障害の程度2),さらには進行速度3)に影響を与えることが示唆された.C●近視眼緑内障のOCT所見これらの特徴的な視神経乳頭周囲組織の構造変化から,近視眼緑内障では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見の解釈に注意を要する.一般(81)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1近視眼における視神経乳頭周囲の構造変化視神経乳頭傾斜,耳側の広範な乳頭周囲網脈絡膜萎縮,アーケード血管の黄斑への接近などの特徴的な変化がみられる.に近視眼では視神経乳頭周囲網膜神経線維層(circump.apillaryCretinalCnerveC.berClayer:cpRNFL)値は低く表示され,緑内障の偽陽性と判定されやすい.また,PPAが大きい場合,cpRNFLを測定するサークルがPPAに重なってしまい,その部分の網膜厚が測定できなくなることがある.そのような場合でも,近視性黄斑変化がなければ黄斑部の構造は保たれていることが多いため,黄斑部内層網膜複合体(ganglioncellcomplex:GCC)で上下の網膜厚の対称性を調べることで,緑内障診断を補助することができる.また,RNFLは耳側上下の血管アーケードに一致した膨大部を有するが,近視眼では膨大部が黄斑に近づくため,正常データベースとの比較ではこの部分が菲薄化していると判断され,偽陽性を生じやすく,注意が必要である(図2).あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C1419図2近視眼における神経線維層膨大部の黄斑側への偏位二峰性の神経線維膨大部がデータベースの正常範囲よりも黄斑寄りに偏位しているため,耳上側・耳下側の神経線維層厚は菲薄化していると判断され,ボーダーラインの診断となっている.図3近視眼緑内障における早期からの傍中心暗点52歳,男性,左眼.等価球面度数C-6.5D,眼軸長C26.16mm.Humphrey視野検査のCmeandeviationはC-3.50CdBであるが,傍中心暗点を認め,矯正視力は(0.6).書類を読むときに見ようとするところが見えないなど,仕事上の不自由をきたしている.●臨床的特徴と治療法近視眼緑内障の臨床的特徴として,比較的早期から中心視野が障害されやすいことがある(図3).緑内障眼では通常,Bjerrum領域の感度低下や鼻側階段が出現し,それらが拡大・融合して中心近傍へ障害が及ぶことが多いが,近視眼緑内障では早期から傍中心暗点が出現し,視力低下をきたす症例がある.これらの症例ではCOCTで乳頭黄斑線維束欠損が生じていることが多く,強度近視を伴う緑内障眼では早期から約C40%に乳頭黄斑線維束欠損を認めるという報告がある4).近視眼緑内障は非近視眼緑内障と比較して若年発症する傾向があり,活動性の高い若年者での視力低下は生活に支障をきたし,治療過程で問題となる.近視眼緑内障の治療は,非近視眼緑内障と同様に,まず薬物治療による眼圧下降を試みる.篩状板をはじめとする乳頭組織の脆弱性を考慮してより強力な眼圧下降を1420あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C必要とするという考え方もあるが,統一した見解は得られていない.点眼治療で十分な眼圧下降が得られないときは手術を考慮するが,近視眼では強膜が薄いため手術手技がややむずかしく,また,術後低眼圧になるリスクが高いことを知っておく必要がある.文献1)IwaseCA,CAraieCM,CTomidokoroCACetCal:PrevalenceCandCcausesCofClowCvisionCandCblindnessCinCaCJapaneseCadultpopulation:TheTajimiStudy.OphthalmologyC113:1354.1362,C20062)SawadaCY,CHangaiCM,CIshikawaCMCetCal:AssociationCofCmyopicCopticCdiscCdeformationCwithCvisualC.eldCdefectsCinpairedeyeswithopen-angleglaucoma:Across-sectionalstudy.PLoSOneC11:e0161961,C20163)SawadaCY,CHangaiCM,CIshikawaCMCetCal:AssociationCofCmyopicdeformationofopticdiscwithvisual.eldprogres.sionCinCpairedCeyesCwithCopen-angleCglaucoma.CPLoSCOneC12:e0170733,C20174)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetCal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau.coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C2012(82)