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二次元から三次元を作り出す脳と眼 3.立体視・奥行き感覚とPanum融像感覚圏

2016年8月31日 水曜日

連載③二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科3.立体視・奥行き感覚とPanum融像感覚圏はじめにホロプター上の物体の両眼視差は0である.その前方では交差性視差,後方では同側性視差を生じる.視差が小さくPanum融像感覚圏内であれば凸や凹など立体感や奥行き感覚(depthperception)を生み,視差が大きく圏外であれば複視を生む.交差性視差刺激により誘発される輻湊運動は,その開始時に立体感や奥行き感覚を伴わないことがわかっている.脳は私たちの意識下でホロプターと視差を敏感に検出して利用している.立体視(stereopsis)とPanum融像感覚圏前回は,①ホロプター上の点は両眼網膜の対応点に結像し単一視されること,②ホロプターから前後に大きくはずれた点は,両眼網膜の非対応点に結像するため,複視の感覚を生じることを述べた.ホロプターに近接する点は,たとえ両眼の非対応点に結像しても融像により凸や凹の立体視につながることを今回追加して述べる.*ホロプター前後に広がる両眼で単一視可能な領域のことをPanum融像感覚圏1)とよぶ.*融像とは,両眼網膜に映る同質の像を中枢で融合させて単一の像として認識することである.Panum融像感覚圏は固視点近くで狭く,周辺視野に行くほど広くなる.視覚情報は視細胞→双極細胞→神経節細胞→視神経→視交叉→外側膝状体→後頭葉第1次視覚野へと伝達される.融像感覚圏の広さが固視点と周辺視野で異なるのは,中心窩では1つの神経節細胞が1つの視細胞に対応するのに対して,周辺網膜では1つの神経節細胞が多数の視細胞に対応しているためである.立体視の機序Panum融像感覚圏について具体的に考える(図1,2)2).花の中心Fを固視する.花より手前にある葉の先端AがPanum融像感覚圏の前端に位置すると仮定する.これより前方では複視を生じる.点Aの結像点を右眼では点Ar,左眼では点Alとする.点Arと点Aを通る直線とホロプターとの交点を点A’とする.点A’の右眼での結像点A’rは点Arに一致し,左眼での結像点A’lはAlより鼻側にある.A’はホロプター上の点なのでA’rとA’lは対応点であり,Fr-A’r=Fl-A’lである.AlはA’lより耳側にずれているのでFr-Ar<Fl-Alとなり,交差性視差をもつ.ArとAlを融像させると凸の感覚となる(交差性視差→凸の感覚.6月号連載①参照).葉の先端Aは花中心Fより手前に突出しているように見える.*網膜像が耳側にずれる=交差性視差→凸の感覚図2では花よりも後方にある葉の先端BがPanum融像感覚圏の後端に位置すると仮定する.これより後方では複視を生ずる.点Bの網膜での結像点を右眼では点Br,左眼では点Blとする.点Brと点Bを通る直線とホロプターとの交点を点B’とする.点B’の右眼の結像点B’rはBrに一致し,左眼での結像点B’lはBlより耳側にある.B’はホロプター上の点なのでB’rとB’lは対応点であり,Fr-B’r=Fl-B’lである.BlはBl’より鼻側にずれているのでFr-Br>Fl-Blとなり,同側性視差をもつ.BrとBlを融像させると凹の感覚となる.葉の先端Bは花中心Fより後方に引っ込んで見える.*網膜像が鼻側にずれる=同側性視差→凹の感覚このように非対応点に結像しても,そのずれが小さくPanum融像感覚圏内であれば,融像により凸や凹の感覚となる.Panum融像感覚圏は立体視や奥行き感覚を生み出すのに重要な役目を果たしている.奥行き感覚を遠近感と言い換えることもできるが,英語のdepthperceptionに対応して前者を使っている.生物は視差を情報として使う図3にまとめる.ホロプター上の点は両眼網膜の対応点に結像し,視差をもたない.すなわち視差0であり単一視される.ホロプターより手前に存在する物は交差性視差を生じる.この場合に融像感覚圏内では融像により凸や前方の感覚を生み,圏外では融像困難となり交差性複視の感覚を生む.ホロプターより後ろに存在する物は同側性視差を生じる.融像感覚圏内では凹や後方の感覚を生み,圏外では同側性複視を生む.いずれ詳述するが,後頭葉第1次視覚野には,両眼視差が0のときに強く反応する細胞や逆に反応が抑制される細胞,交差性視差刺激に対して強く反応する細胞,同側性視差刺激に対して強く反応する細胞が存在するとネコやサルを使った実験で報告されている2).また,輻湊についての研究から,交差性視差刺激により誘発される輻湊運動は,その開始時に立体感や奥行き感覚を伴わないことがわかっている3).つまり私たちが視差を立体感や奥行き感覚としてとらえていない段階で,脳はそれを検出して利用しているのである.カエルやカマキリなどの下等な生物の眼には輻湊運動は認められないが,両眼視差自体を使って虫との距離を測り捕食することがわかっている4).「なにが見えるか」に注意を向ける私たちの意識下で,脳は確実にホロプターをとらえ視差を計算している.文献1)粟屋忍:両眼視の発達とその障害.視能矯正学改訂第2版(丸尾敏夫,粟屋忍編),p190-201,金原出版,19982)TychsenL:Normaladultpsychophysics.InAdler’sphysiologyoftheeye(edbyHartWM),p773-802,Mosby,StLouis,19923)高木峰夫,阿部春樹,板東武彦:近見反応.動物とヒトでの生理学的解析から.神眼21:265-279,20044)鈴木光太郎:奥行きをとらえる.動物は世界をどう見るか.p193-218,新曜社,1995図1Panum融像感覚圏と交差性視差葉の先端AはPanum融像感覚圏の前端に位置する.網膜上の点Arと点Alは交差性視差をもち,融像により凸の感覚となる.図2Panum融像感覚圏と同側性視差葉の先端BはPanum融像感覚圏の後端に位置する.網膜上の点Brと点Blは同側性視差をもち,融像により凹の感覚となる.図3ホロプターと立体視・複視の関係ホロプター上の点の視差は0である.前方の点は交差性視差を生じ,Panum融像感覚圏内では凸の感覚,圏外では交差性複視の感覚となる.後方の点は同側性視差を生じ,Panum感覚圏内では凹の感覚,圏外では同側性複視の感覚となる.(87)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611690910-1810/16/\100/頁/JCOPY(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 159.PDT後の網膜下増殖組織を有する加齢黄斑変性に対する硝子体手術(上級編)

2016年8月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載159159PDT後の網膜下増殖組織を有する加齢黄斑変性に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として抗VEGF療法が普及する前は,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)が一般的に施行されていた.PDTの併発症の一つに脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を中心とした瘢痕性の網膜下線維増殖組織形成がある.筆者らは以前にPDT施行後の巨大網膜下血腫と線維増殖組織を有するAMDに対し,意図的巨大裂孔作製による網膜下手術を施行し報告したことがある1).●症例提示68歳,男性.左眼は以前にAMDによる硝子体出血に対して硝子体手術が施行され,引き続きCNVに対しPDTを2回施行された(GLD5,100μm).その後,眼底の状態は落ち着いていたが,突然,多量の網膜下血腫と下方に胞状の出血性網膜?離をきたした.後極部にはPDT後の網膜下線維増殖組織を認めた(図1).左眼に対して硝子体切除術を施行した.手術は眼内レンズを抜去した後,周辺部の残存硝子体を切除し,眼内ジアテルミーで耳側~下耳側最周辺部に約160°の意図的巨大裂孔を作製した.裂孔縁より網膜を後極に向かって翻転し,裂孔を介して直視下で網膜下血腫除去を行った.多量の網膜下出血が排出されたが,黄斑部から耳側にかけては巨大な凝血塊が線維増殖組織と一体となっており,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)と強固に癒着していた(図2).双手法で増殖組織をRPEから?離したが,その際に脈絡膜から出血が生じた.眼内ジアテルミーで止血した後,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展させ,意図的巨大裂孔辺縁に眼内光凝固を施行し,その後シリコーンオイルタンポナーデを行った.術後網膜は復位したが,広範囲にRPEの欠損を認め,左眼視力は矯正0.04(矯正不能)にとどまった(図3).●PDT後の網膜下増殖組織の特徴今回は網膜下増殖組織が巨大であったため,意図的巨大裂孔から増殖組織を抜去するという特殊な術式を行ったが,通常は後極の意図的裂孔から網膜下鑷子でCNVを抜去することが多い.この場合でも,過去にPDTが施行されていると,CNVとRPEの癒着が強固になっている可能性が高いので,CNV抜去時にRPEが広範に脱落してしまうことが多い.また,癒着がきわめて強固な症例では,脈絡膜血管を損傷し,多量の網膜下出血をきたすリスクもあることを念頭におく必要がある.文献1)錦織里子,佐藤孝樹,石崎英介ほか:光線力学療法施行後の網膜下線維性組織を伴う加齢黄斑変性に対し意図的巨大裂孔作製による網膜下手術を施行した1例.臨床眼科63:59-62,2009図1初診時左眼眼底写真多量の網膜下血腫と下方に胞状の出血性網膜?離を認める.図2硝子体手術の術中所見耳側に意図的巨大裂孔を作製し,網膜を翻転して双手法で網膜下線維増殖組織を除去した.図3術後の左眼眼底写真術後網膜は復位したが,広範囲に網膜色素上皮の欠損を認める.(85)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611670910-1810/16/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:Lid Wiper Epitheliopathyのエッセンス

2016年8月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人17.LidWiperEpitheliopathyのエッセンス白石敦愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学Lidwiperepitheliopathy(LWE)は,瞬目による眼瞼結膜と眼表面の間での摩擦によって引き起こされる眼瞼結膜縁の上皮障害であり,近年注目されつつある摩擦関連眼表面疾患の代表例である.●はじめに2002年にKorbらは,ドライアイ症状を高率に伴う上眼瞼結膜縁の上皮障害をlid-wiperepitheliopathy(LWE)とよぶことを提唱した1).彼らは,瞼板下溝から粘膜皮膚移行部にかけての領域に解剖学的な名称がなかったこと,この部が眼表面を掃く(wipe)ような動きをすることから,この部位をlid-wiperと命名した1).その後,下眼瞼結膜縁にも同様の上皮障害が認められることが報告され,現在では,LWEは上下の眼瞼結膜縁の上皮障害として認識されている2,3).●LWEの病態・特徴瞬目運動による眼瞼縁結膜と眼表面の間の摩擦の上昇がLWEの病因と考えられており,摩擦で眼瞼縁結膜表層の上皮の脱落と変性が起こると考えられている3)(図1).コンタクトレンズ(CL)装用者での発症率は高く,50%以上とする報告があり,CL装用により,眼表面の摩擦が強くなることが誘因として考えられている3,4).LWEは下眼瞼のほうが発症率は高く,高齢者より若年者に多く認められ,とくに若年者では無症状であることも多い2,3)(図2).●LWEの症状現在のところLWEに特徴的な症状はわかっていないが,ドライアイ症状を呈する患者にLWEが多く認められるとの報告が多い.しかしながら,LWEはドライアイによる所見の一つと思われがちであるが,涙液検査では異常所見は認められないことが多い(図3).したがって,ドライアイ症状があるにもかかわらず,涙液検査で異常を認めない症例では,眼瞼結膜を観察することがLWEを見逃さないポイントである.●LWEの観察通常の細隙灯顕微鏡検査では観察がむずかしいため,LWEを念頭において生体染色を行うことが重要である.通常のフルオレセイン染色やローズベンガル染色でも検出は可能であるが,図4に示すようにリサミングリーン染色とブルーフリーフィルターを用いたフルオレセイン染色がLWEの検出には有効である.●LWEの治療摩擦上昇の原因を探ったうえで,摩擦軽減の対策・治療方法を選択することが重要である.CL装用者:CLが摩擦増加の原因であるため,CL中止が原則である.人工涙液の点眼では,一時的に症状が軽快することもあるが,ほとんど無効である.近年登場したムチン産生を促進するドライアイ点眼薬は多少の効果がある可能性はあるが,大きな期待はできない.CL非装用者:ドライアイのない若年者に認められ,一般に治療抵抗性であることが多い.眼軟膏や近年発売されたムチン産生を促進するドライアイ点眼薬は,摩擦軽減効果が期待されるため,LWEに有効となることもある.高齢者:一般に,高齢者では眼瞼圧が低下し,摩擦も軽減しているはずである.高齢者にLWEを認めたときには,眼瞼形状・瞬目・ドライアイ・マイボーム腺機能不全など,さまざまな角度から摩擦上昇の原因を探索する必要がある.意外な原因として,洗眼行為がある.水道水による洗眼はムチンを含めた涙液を洗い流してしまうため,眼表面の摩擦上昇の原因となる.洗眼の中止のみで,症状もLWEも改善することがある.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepitheliopathyanddry-eyesymptomsincontactlenswearers.ClaoJ28:211-216,20022)ShiraishiA,YamaguchiM,OhashiY:Prevalenceofupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLens40:220-224,20143)白石敦,山西茂喜,山本康明ほか:ドライアイ症状患者におけるlid-wiperepitheliopathyの発現頻度.日眼会誌113:596-600,20094)KorbDR,HermanJP,GreinerJVetal:Lidwiperepitheliopathyanddryeyesymptoms.EyeContactLens31:2-8,2005図1インプレッションサイトロジーa:正常眼瞼結膜.多数のPAS陽性ゴブレット細胞が観察される.b:LWE.ゴブレット細胞は認められず,核・細胞質比が小さく,一部に扁平上皮化生した細胞(▲)が認められる.(83)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611650910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2LWEの発現頻度図3LWEとドライアイ検査図4各生体染色によるLWEの観察(84)

抗VEGF治療:抗VEGF治療時代におけるPDT併用療法のメリット

2016年8月31日 水曜日

抗VEGF治療セミナー●連載監修=安川力髙橋寛二31.抗VEGF治療時代におけるPDT併用療法のメリット齋藤航回明堂眼科・歯科北海道大学大学院眼科学分野抗VEGF薬が全盛期の現在でも,滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対する光線力学的療法(PDT)は,抗VEGF薬と併用すれば有効な治療法である.本稿では,滲出型AMDに対するPDT併用療法の適応と使用方法を概説する.PDT併用療法の意義と投与方法滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の単独治療は,レーザー照射により脈絡膜毛細血管板が閉塞することで血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を含めた炎症性サイトカインが産生されることなどに関連して,治療後視力が改善しないなどの問題点があった.この欠点を補うために,現在ではPDT時に抗VEGF薬を併用することがスタンダードとなっている.さらに筆者の病院では,抗VEGF薬に加えトリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionsoftriamcinoloneacetonide:STTA)40mgも用いたPDTトリプル療法を行っている1).この治療法は,治療1年後で有意な視力の改善と少ない平均治療回数(1.1回/年)を達成し,長期的にも抗VEGF薬併用PDTと比べ,視力や治療回数の面で優れていた2).方法は,薬物投与当日または翌日にインドシアニングリーン蛍光眼底造影ガイド下でPDTを行う.PDT施行後再発時には,抗VEGF薬を単独で投与する.抗VEGF薬併用PDTの適応抗VEGF薬併用PDTは,日本眼科学会のAMD診療ガイドラインでは,視力が0.5以下のポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)に対して推奨されている.さらに,この治療法が有効である可能性がある病態を表1にあげる.いずれにしてもこの治療の利点は,抗VEGF薬単独より治療回数を減らすことができることである.PCVでは,ポリープ状病巣の退縮率が抗VEGF薬単独より高いことから有効であり,かつPDTを初回治療から行ったほうが,途中から行うよりも治療回数を減らすことができる3)(図1,2).上述したガイドラインで抗VEGF薬単独投与が推奨されている視力良好例でも,治療後頻回に再発する場合,筆者の病院ではPDT併用療法を行っている.文献1)YoshizawaC,SaitoW,HiroseSetal:Photodynamictherapycombinedwithintravitrealbevacizumabandsub-tenontriamcinoloneacetonideinjectionsforage-relatedmaculardegeneration.JpnJOphthalmol57:68-73,20132)SakaiT,OhkumaY,KohnoHetal:Three-yearvisualoutcomeofphotodynamictherapyplusintravitrealbevacizumabwithorwithoutsubtenontriamcinoloneacetonideinjectionsforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol98:1642-1648,20143)GomiF,OshimaY,MoriRetal;FujisanStudyGroup:Initialversusdelayedphotodynamictherapyincombinationwithranibizumabfortreatmentofpolypoidalchoroidalvasculopathy:TheFujisanStudy.Retina35:1569-1576,2015表1抗VEGF薬併用PDTが有効または考慮すべき病態1.PCV2.RAP3.再発を繰り返す症例4.脳心血管イベントの既往をもつ症例5.(高齢,遠方,身体的要因などで)頻回に通院できない症例図1再発を繰り返したPCV症例症例は77歳,男性で,心筋梗塞と脳梗塞の既往がある.初診時の右矯正視力は0.4で,右黄斑部にフィブリンを伴った漿液性網膜?離があった(a).IAではポリープ状病巣とネットワーク血管が同定され(b),OCTではフィブリンを伴う漿液性網膜?離と網膜色素上皮?離があった(c).図2図1症例の治療後の経過PCVと診断してPDTトリプル療法を行ったところ,滲出性変化は消失し,視力は1.0まで上昇した.治療6カ月後に行ったIAでは,ポリープ状病巣の消失を確認した(a).同療法13カ月後からその後の14カ月間で4回滲出性変化が再発したので,そのたび抗VEGF薬療法を行った.その後の再発時にIAでポリープ病巣が再度出現していたので,初回治療31カ月後に2回目のPDTトリプル療法を行った.滲出性変化はすみやかに消失したが,その後2回再発したため抗VEGF薬を投与した.その後の再発時にIAでポリープ状病巣の再出現を確認したので,初回治療46カ月後に3回目のPDTトリプル療法を行った.その後2回再発したため,抗VEGF薬を追加した.初回治療60カ月後の現在,漿液性網膜?離はなく(b,c),矯正視力は1.0を保っている.初回治療後5年間でPDTトリプル療法3回(0.6回/年)と抗VEGF薬単独投与8回(1.6回/年)を要したが,血管イベントの既往をもつ頻回の再発症例に対しても,長期の経過で抗VEGF薬の投与回数を抑制でき,良好な視力を保つことができた.(81)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611630910-1810/16/\100/頁/JCOPY(82)1164あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016

緑内障:眼圧と脈絡膜

2016年8月31日 水曜日

●連載194緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也194.眼圧と脈絡膜臼井審一大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室脈絡膜は血管に富んだ組織で,黄斑部および外層網膜への血液供給,網膜の温度調節,視機能の調節といった働きがある1).網膜と異なり血液関門に乏しく,血流の影響を受けやすい2).正常でも厚みが変動し,日内変動の他3,4),調節によっても変化するが,濾過手術後のように大幅に眼圧が下降すると,著しく肥厚することが知られている.●脈絡膜の日内変動と眼圧,眼軸長との関係通常,夜間に眼圧が下降する際,眼軸長は短縮し5),脈絡膜は肥厚する4).脈絡膜厚は網膜に比べて個人差が大きく,近視眼では菲薄化する傾向がある.また,日内変動幅も個人差があり,OCTを用いた解析によると,わずか数μmしか変動しない眼もあれば60μm以上変動する眼もある.通常,日中の日内変動は少なく,夜間から早朝にかけて肥厚する傾向がある(図1).脈絡膜厚の変動は種によっても異なり,鳥類では調節の有無で数百μmも変化するが,ヒトを含むその他の種ではずっと小さい.調節による変化が強膜の伸展にも影響するものと考えられ,近視化との関連が示唆されている.●濾過手術と脈絡膜脈絡膜は外側の強膜と内側の網膜との間にあるメラニンに富んだ血管膜で,4層に分けることができ,外側から上脈絡膜(suprachoroid),血管層(vascularlayer),脈絡毛細血管板(choriocapillaris),Bruch膜(Bruch’smembrane)から構成され,血管層は大血管層(Harller’slayer)と中血管層(Sattler’slayer)の2層からなる.このうち脈絡毛細血管板は毛細血管からなる1枚の膜様構造で,Bruch膜側に窓構造(fenestration)をもつため血漿成分が自由に拡散しうる.これに対して血管層には窓構造がない.通常,脈絡毛細血管板と脈絡膜間質は平衡状態であるが,濾過手術のように急激に眼圧が下降すると脈絡毛細血管板内と血管外に圧勾配が生じ,血漿蛋白などの血液成分が血管外,すなわち脈絡膜間質へ拡散する.その結果,浸透圧によって間質に水が流出して脈絡膜に浮腫が起き,全体に著しく肥厚すると考えられる(表1)6).また,濾過手術後早期は眼軸長が短縮し,眼球全体としても縮小する6).濾過量が過剰となり低眼圧に陥ると,脈絡膜?離が発生する.脈絡膜と強膜の移行部である上脈絡膜には,膠原線維や弾性線維からなる比較的柔らかな層状構造があり,脈絡膜外隙(suprachoroidalspace)とよばれる間隙が存在する.低眼圧ではこの間隙に水が貯留し,脈絡膜?離が生じると考えられる.層板間の接着は後極部に比べて前方のほうが弱いため,脈絡膜外隙の拡大や脈絡膜?離は,通常,赤道部より周辺で発生する(図2).一方,脈絡膜?離をきたさない症例では,網膜と脈絡膜は波打ったように皺がより,網膜血管は拡張蛇行し,視神経乳頭は浮腫状を呈することがある.黄斑部に皺襞を生じて視力低下や歪視をきたした状態を低眼圧黄斑症とよび,通常は眼圧が5mmHg以下で起こることが多く,特徴的な眼底とOCT所見を呈する(図3).これは,眼圧が下降し眼球が縮小すると外眼筋が眼球を後方に牽引し,逆に視神経は前方へ圧迫するため後眼部に皺が起こりやすいためと考えられている.この低眼圧黄斑症は,眼球が変形しやすい若年近視眼に多い特徴がある.もともと後眼部は,前眼部に比べて膠原線維が疎であるため剛性が低く,眼球が変形しやすい構造をしているが,近視眼では眼球の伸長により強膜が薄く,さらに若年の強膜は弾性に富むため,後極部に皺が起こりやすいと考えられる.●閉塞隅角と脈絡膜濾過手術後の眼圧下降に伴う脈絡膜の肥厚とは別に,原発閉塞隅角の症例でも脈絡膜が肥厚していることが報告されている7).このような症例に飲水負荷試験を行うと,脈絡膜はさらに肥厚するといわれている8).すなわ(80)ち,このchoroidalexpansionという病態が,一部の急性閉塞隅角症の発症にかかわっていることを裏付けている.また,原田病のように脈絡膜のメラノサイトを標的とする自己免疫性疾患で炎症が脈絡膜全体に及ぶと,脈絡膜の血管透過性が亢進し,脈絡膜は著しく肥厚する.原田病でも,急性期に脈絡膜?離に伴って毛様体が前湾し,二次的な急性閉塞隅角症を発症することがあるので注意を要する.文献1)WallmanJ,WildsoetC,XuAetal:Movingtheretina:choroidalmodulationofrefractivestate.VisRes35:37-50,19952)DelaeyC,VanDeVoordeJ:Regulatorymechanismsintheretinalandchoroidalcirculation.OphthalmicRes32:249-256,20003)ChakrabortyR,ReadSA,CollinsMJ:Diurnalvariationsinaxiallength,choroidalthickness,intraocularpressureandocularbiometrics.InvestOphthalmolVisSci52:5121-5129,20114)UsuiS,IkunoY,AkibaMetal:Circadianchangesinsubfovealchoroidalthicknessandtherelationshipwithcirculatoryfactorsinhealthysubjects.InvestOphthalmolVisSci53:2300-2307,20125)WilsonLB,QuinnGE,YingGetal:Therelationofaxiallengthandintraocularpressurefluctuationinhumaneyes.InvestOphthalmolVisSci47:1778-1784,20066)UsuiS,IkunoY,UematsuSetal:Changesinaxiallengthandchoroidalthicknessafterintraocularpressurereductionandresultingfromtrabeculectomy.ClinOphthalmol7:1151-1161,20137)AroraKS,JefferysJL,MaulEAetal:TheChoroidisthickerinangleclosurethaninopenangleandcontroleyes.InvestOphthalmolVisSci53:7813-7818,20128)AroraKS,JefferysJL,MaulEAetal:Choroidalthicknesschangeafterwaterdrinkingisgreaterinangleclosurethaninopenangleeyes.InvestOphthalmolVisSci53:6393-6402,2012図1健常人の中心窩脈絡膜厚日内変動夜間から早朝にかけて厚くなり,夕方に向けて薄くなる傾向がある.(文献4を改変)表1濾過手術前後の眼圧,眼軸長,脈絡膜厚の変化線維柱帯切除術p値術前(平均±標準偏差)術後(平均±標準偏差)眼圧(mmHg)26.6±7.67.2±2.6<0.0001*眼軸長(mm)25.12±1.4224.86±1.430.001*中心窩脈絡膜厚(μm)206±64254±64<0.0001**p<0.05(Pairedt-test)(文献6を改変)(79)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611610910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2濾過手術後の低眼圧に伴う脈絡膜?離低眼圧により,眼底周辺に著明な脈絡膜?離がみられる.図3低眼圧黄斑症のOCT画像低眼圧に伴って網脈絡膜襞壁がみられる.1162あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016

屈折矯正手術:PTK後の遠視化への対策

2016年8月31日 水曜日

●連載195屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂大橋裕一坪田一男195.PTK後の遠視化への対策天野史郎井上眼科病院PTKは表層性角膜混濁の除去に有用であるが,術後の遠視化が問題点のひとつである.PTK後の遠視化が問題となることが予想される症例では,PTK時に遠視矯正PRKを施行することで遠視化を防ぐことができる.角膜混濁と白内障がある症例では,まずPTKを行い,PTK後に遠視が問題となる場合には,SRK-TではなくHaigis-Lなどの計算式を用いてIOL度数計算を行って白内障手術を施行することが勧められる.●はじめにエキシマレーザー治療的角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)は,顆粒状角膜変性症(granularcornealdystrophy:GCD)や帯状変性(band-shapedkeratopathy:BSK)などの表層性角膜混濁により視機能が低下した症例に対して有用な手術である1).2010年以降,国内では保険収載され,広く行われている.●PTKの実際PTKでは,瞳孔を中心とした直径約7mm程度の範囲内にエキシマレーザーを照射する.切除深度は上皮切除も含めて,GCDで100~150μm程度,BSKで80~120μm程度である.GCDでは角膜中層まで混濁があることも多いが,すべての混濁を切除する必要はなく,顆粒状混濁の間にある表層性のすりガラス状混濁が切除されればよい(図1).BSKでは術中にすべての混濁が切除された瞬間がよくわかるので,その時点でレーザー切除を終了する.PTKの術後,矯正視力の改善が約70%の症例でみられた1,2).●PTK後の遠視化への対策PTKの有用性は広く認識されているが,術後に遠視化することがその問題点として指摘されてきた.もともと正視や遠視である場合や,片眼のみの治療を行う場合に,術後の遠視化がとくに問題となる.PTK後に遠視化する原因としては,術後の上皮厚の不均一性などが考えられている.PTK後の遠視化対策としては,切除深度を減らす,transitionzoneを置く,ヒアルロン酸などのmaskingagentを術中使用する,などが提案されてきたが,有効性はあまり高くない3,4).筆者らはPTK後の遠視化対策として,症例の屈折状態に応じて,PTK施行時に同時に遠視矯正hyperopicphotorefractivekeratectomy(HPRK)を行ってきた2).PTKを施行した直後に,同じ術野でHPRK(opticalzone:6.5mm,transitionzone:9.0mmでのHPRKプラスsmoothingPTK3.6μm8.0mm)を追加した.遠視矯正度数は術前屈折度数,疾患から予測される切除深度などを考慮し,これまでの経験から決定した.GCDに対してPTKのみ施行した20眼と,PTKとHPRKを施行した15眼とで術後経過を比較したところ,視力の改善度や術後合併症で2群間に差はなく,術前からの屈折度数の変化は,PTK単独群では1.5D程度の遠視化がみられたのに対して,PTK+HPRK群ではほとんど術前から変化がなかった(図2).これらの結果から,PTK後の遠視化が問題となる症例では,PTK時にHPRKを同時に施行することが有用であることがわかった.●PTK後遠視矯正としての白内障手術PTK後のもうひとつの遠視化対策法として,PTK後に白内障手術を行うことがある.PTKを行う症例の多くが白内障年齢であり,白内障手術をその後に施行することを予定してPTKを施行する場合も多い.ただ,PTK後眼はLASIK後眼と同様に,角膜形状パターンが正常眼とは異なっており,通常のIOL度数計算を行うと,術後に遠視側に屈折がずれることが多い.筆者らはPTK後の21眼において,SRK-T,Haigis-L,Shammas,CASIA付属のOKULIXの4種の計算式で白内障術後屈折を予測し,白内障術後1カ月での実際の屈折値と予測値とのずれを計算した.屈折値のずれの平均は,SRK-Tで0.67±0.75D,Haigis-Lで?0.34±0.80D,Shammasで?0.85±1.07D,OKULIXで0.06±1.20Dであった(図3).屈折値のずれの絶対値の中央値および範囲はSRK-Tで0.7D(0~1.8D),Haigis-Lで0.7D(0~1.95D),Shammasで0.7D(0.05~3.05D),OKULIXで0.95D(0.02~2.4D)であった.この結果から,PTK後眼でのIOL度数計算では,通常広く使われているSRK-Tでは遠視側へのずれが大きいため,Haigis-Lなど他の方法を用いたほうがよいことが示唆された.●おわりにPTK後の遠視化対策として,HPRKの同時施行およびPTK後の白内障手術について述べた.お勧めの方針としては,PTKを行う前から白内障がある症例では,PTKを施行し,術後に遠視が問題となるなら,IOL度数計算式の選択に気をつけつつ白内障手術を行う.白内障がないか,あるいは白内障術後で,遠視化させたくない場合は,PTKと同時にHPRKを行う.なお,本稿で述べたPTKやHPRKの成績はEC-5000(Nidek社)によるものである.レーザー機種によりPTK後のセントラルアイランドが問題になるが,EC-5000ではエキシマレーザー照射パターンにslit-scanning方式を採用しているため,セントラルアイランドは問題とならない.本稿の内容は,使用するレーザー機種により多少違いがある可能性があることを最後に付記する.文献1)AmanoS,OshikaT,TazawaYetal:Long-termfollowupofexcimerphototherapeutickeratectomy.JpnJOphthalmol43:513-536,19992)AmanoS,KashiwabuchiK,SakisakaTetal:Efficacyofhyperopicphotorefractivekeratectomysimultaneouslyperformedwithphototherapeutickeratectomyfordecreasinghyperopicshift.Cornea2016May6.[Epubaheadofprint]3)DogruM,KatakamiC,YamanakaA:Refractivechangesafterexcimerlaserphototherapeutickeratectomy.JCataractRefractSurg27:686-692,20014)AmmM,DunckerGI:Refractivechangesafterphototherapeutickeratectomy.JCataractRefractSurg23:839-844,1997図1顆粒状角膜変性症へのPTKの術前(a),術後(b)顆粒間のすりガラス状混濁が除去できればよく,顆粒状混濁すべてを除去する必要はない.(77)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611590910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2顆粒状角膜変性症へのPTK術後の屈折度数変化PTK単独群では1.5D程度の遠視化がみられたのに対して,PTK+HPRK群ではほとんど術前から変化がなかった.図3PTK後眼への白内障手術時のIOL計算度数ずれの比較SRK-Tでは遠視側へのずれが大きいため,Haigis-Lなど他の方法を用いたほうがよいことが示唆された.1160(78)

眼内レンズ:2.5mm創口からの簡便な眼内レンズ摘出方法

2016年8月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋357.2.5mm創口からの簡便な眼内レンズ摘出方法溝手秀秋みぞて眼科光学部径6.0mmのアクリル製フォーダブル眼内レンズ(以下IOL)を2.5mm強角膜切開創から簡便に摘出する方法について検討したので報告する.IOLを水晶体?内から前房に脱臼させ,永田氏剪刀でIOL支持部を切断し,眼外に摘出した.その後,IOL光学部を逆V字に切断し,切断した中央部を眼外に摘出後,残りの部分を回転させながら摘出した.創口の拡大を行わずIOLの摘出が可能であった.●はじめに白内障手術後に眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の偏位,混濁,屈折誤差,多焦点と単焦点レンズの交換などの理由で,IOLを摘出する場合がある.このためには,惹起乱視が少なく,かつ小さな創口から安全,簡便にIOLを摘出する方法が望まれる.これまでに,IOLの光学部を眼内で切断することで,小さい創口からIOLを摘出が可能であり,いくつかの方法が報告されている.今回,筆者は新たな方法を考案したので報告する.●症例:53歳,男性2015年8月5日,左眼水晶体超音波乳化吸引術(以下PEA)+多焦点IOL挿入術,2015年8月26日,右眼PEA+多焦点IOL挿入術を行った.IOLは光学部径6.0mmのアクリル製フォーダブルレンズを使用した.2015年9月8日,右眼視力1.0(1.5×+0.50D),左眼視力0.4(1.5×+0.75D).左眼が見えにくく,眼鏡をかけたくないとのことで,左眼多焦点IOL交換を予定した.(75)2015年9月16日,左眼多焦点IOL交換を行った.2.5mm強角膜切開後,ビスコディスクRを前房内に注入して,IOLを水晶体?内から前房に脱臼させ,永田氏剪刀でIOL支持部を切断し,眼外に摘出した.次に,IOL光学部を逆V字に切断し(図1,2),切断した中央部を眼外に摘出(図3)後,残りの部分を回転させながら摘出した(図4).IOL摘出時,2.5mm強角膜切開創両端の角膜に皺が寄ったが,創口の拡大は行わなかった.続いて新しいIOLを挿入した.2015年10月16日,右眼視力1.0(n.c.),左眼視力1.2(n.c.).●考察IOLの切断方法は,①光学部を半切する方法1),②光学部の1/4のみを切断する方法2),③IOLを回転させながら螺旋状に切断する方法3)などが報告されている.切断したIOLの摘出に必要な切開創は①,②が3.0mm以上で,③は強角膜切開創で2.4mm,角膜切開2.6mmと記載されている.図5のように直径6.0mmの青い円の中に直径0.5mmの白い円を描き,白い円を含んで,円を切断する切開線を引けば,切断された部位の最大幅は2.5mm以下になる.今回の方法でIOLを切断すれば,2.5mm強角膜切開創からIOLが摘出可能と考え,行った.実際には,IOLに厚みがあり,IOL摘出時2.5mm強角膜切開創両端の角膜に皺が寄ったが,創口の拡大は行わず摘出可能であった.IOLを半切する方法に近い手技で切断できるので,半切に慣れている術者には容易と思われる.文献1)YuAFK,NgASY:Complicationsandclinicaloutcomesofintraocularlensexchangeinpatientswithcalcifiedhydrogellenses.JCataractRefractSurg28:1217-1222,20022)江口秀一郎:眼内レンズ交換1.IOL&RS25:183-189,20113)郡司久人,新井香太,伊藤義徳ほか:小切開から摘出可能な新しい眼内レンズ切断法.眼科手術23:603-607,2010図1IOL光学部を逆V字に切断①図2IOL光学部を逆V字に切断②(75)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.8,20161157図3逆V字に切断した中央部を眼外に摘出図4残りの部分を回転させながら摘出図5IOL光学部の切断模式図図1IOL光学部を逆V字に切断①図2IOL光学部を逆V字に切断②(75)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611570910-1810/16/\100/頁/JCOPY図3逆V字に切断した中央部を眼外に摘出図4残りの部分を回転させながら摘出図5IOL光学部の切断模式図

コンタクトレンズ:遠近両用コンタクトレンズの処方例

2016年8月31日 水曜日

コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一22.遠近両用コンタクトレンズの処方例小玉裕司小玉眼科医院●はじめに遠近両用コンタクトレンズ(CL)にはハードCL(HCL)とソフトCL(SCL)があるが,今回は遠近両用SCLの処方例を紹介する.遠近両用SCLは老視への対策だけではなく,眼精疲労への対策,あるいは白内障術後の調節力欠如への対策としても使用できることを紹介する.●症例1:遠近両用SCLの老視への処方59歳,女性,主婦.主訴:遠近両用SCLを使用しているが,近くが見えにくくなった.完全屈折矯正値:RV=0.2(1.5×S?2.00D),LV=0.2(1.5×S?1.5D).優位眼:右眼.加入度数:新聞,雑誌を用いて計測し,両眼ともに+2.0D.現在使用中のSCL:ボシュロム社のメダリストRプレミアマルチフォーカル.右860/?2.25/14.0/HIGH,左860/?1.25/14.0/HIGH)にて両眼遠見視力1.2,両眼近見視力0.5.処方したSCL:両眼に加入度数のもっとも高いタイプを使用していることから,球面度数と加入度数によって光学径が171通りも用意されている新しいデザインのジョンソン・エンド・ジョンソン社のワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルを試した(図1,2).同社推薦の処方手順にのっとり,優位眼が右眼で加入度数が+2.0Dであることから,右眼にMID,左眼にHIGHを選択した.右840/?2.0/14.3/MID,左840/?1.5/14.3/HIGHにて両眼遠見視力1.5p,両眼近見視力0.7を得ており,遠くも近くもよく見えるようになったということであった.このCLは,S面度数は完全屈折矯正値(頂点間補正をしたもの)を用い,加入度数と優位眼からLOWかMIDかHIGHを選択して処方するのが原則である.●症例2:遠近両用SCLの眼精疲労眼への処方24歳,女性,事務職.主訴:球面SCLを使用しているが,パソコンを長時間使用する仕事に変わってから眼精疲労,肩こり,頭痛がきつくなった.完全屈折矯正値:RV=0.1(1.2×S?3.75D),0.05(1.2×S?4.5D).優位眼:右眼.現在使用中のSCL:ジョンソン・エンド・ジョンソン社の2ウィークアキュビューR.右870/?3.25/14.0,左870/?4.0/14.0にて右眼遠見視力1.2,近見視力0.8,左眼遠見視力1.2,近見視力0.8.涙液層破綻時間,綿糸法でドライアイをチェックしたが正常範囲であった処方したSCL:パソコンを長時間使用することから,毛様体筋の酷使による眼精疲労と考え,+0.5D加入しているメニコン社の2WEEKメニコンデュオを試した.右860/?4.00/14.5,左860/?4.50/14.5にて両眼ともに遠見視力は1.2,近見視力は0.8で,従来のSCLと視力的には変化はなかったが,眼精疲労,肩こり,頭痛からは解放されたとのことで,現在もこのレンズを継続使用している.●症例3:遠近両用SCLの白内障術後眼への処方59歳,女性,医療事務職.主訴:遠くも近くも見たい.42歳のときに左眼,50歳のときに右眼の白内障手術を受け,術後に,それまで使用していた球面SCLから遠近両用SCLに変更していた.術前に使用していたレンズはジョンソン・エンド・ジョンソン社の2ウィークシュアビューR(現在は市販されていない).術後に使用したのは当時チバビジョン社(現在はアルコン社)から市販されていたフォーカスRプログレッシブ(現在市販されていない)であった.完全屈折矯正値:RV=(0.1×IOL)(1.2×IOL(S?4.0D),LV=(0.1×IOL)(1.2×IOL(S?5.0D).術後に使用していたSCL:フォーカスRプログレッシブ.右860/?3.25/14.0,左860/?4.25/14.0にて,右眼遠見視力は1.0,近見視力は0.7,左眼遠見視力は1.2p,近見視力0.5であった.新しく処方したレンズ:ボシュロム社からメダリストRマルチフォーカルが発売されたときにこのレンズに変更した.右900/?4.25/14.5/HIGH,左900/?4.75/14.5/HIGHにて両眼遠見視力1.5p,近見視力1.0を得ており,遠近ともにこのレンズが見やすいとのことで現在も使用中である.白内障術後眼には高加入度数の遠近両用SCLを処方するのがポイントである.●おわりに近年,各社から遠近両用SCLが市販されているが,その性能は明らかに進歩しつつある.老視に対する遠近両用SCLの処方も,コツさえつかめば手間も時間もそれほどかからないうえに,患者の満足度は高い.また,事務作業などで眼精疲労を訴える患者には+0.5D加入度数のレンズであれば,遠見視力も損なうことなく処方できるうえ,眼精疲労から解放されて喜んでいただける.白内障手術において,遠近両用IOLがない時代に手術を受けた患者があれば,一度試してみることをお薦めしたい.図1ワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルの瞳孔径の違いによる光学部の位置と見え方の影響のイメージ上段:光学部が瞳孔径より小さい場合は,近くはある程度見えるが,遠くはぼやけて見える.中段:光学部が瞳孔径に一致したときに,初めて遠くも近くもよく見える.下段:光学部が瞳孔径より大きい場合は,遠くはある程度見えるが,近くはぼやけて見える.(73)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.8,20161155図2瞳孔径の違いによる光学部設計のイメージワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルには,年齢による加入度数と屈折度を考慮して171種類の光学部径が用意されており,光学部と瞳孔径の一致をめざしている.

写真:CRAO with Cilioretinal Artery Sparing

2016年8月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦387.CRAOwithCilioretinalArterySparing草田夏樹横井則彦外園千恵京都府立医科大学視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①蒼白化した網膜②毛様網膜動脈による灌流が残存している領域(黄斑部を含む)②①図1CRAOwithCilioretinalArterySparingの症例(49歳,男性)起床時に右眼視野の異常を自覚し,短時間に進行したため救急受診した.網膜全体が蒼白化していたが,黄斑部と視神経乳頭の間の領域には血流が残存することが検眼鏡的に確認された.図4図1の症例のOCT(水平方向)黄斑部より耳側の領域は,網膜内層腫脹および輝度上昇がみられる(??).図3図1の症例のフルオレセイン蛍光眼底造影毛様網膜動脈のみが造影された.(71)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611530910-1810/16/\100/頁/JCOPY網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryobstruction:CRAO)は比較的まれな疾患であるが,発症後ただちに処置を行わなければ重篤な視力障害に至る.CRAOの病態について,そのほとんどがコレステロールなどの塞栓症とされるが,血栓症や血管攣縮に伴うもの,感染症に続発するもの,医原性の発症例も報告されている1).急激な視力低下のエピソード,対光反応減弱または消失,眼底所見などから診断は比較的容易である.CRAOは典型的には軟性白斑やcherry-redspotを呈するが,発症初期にはこれらの所見は明確でない点に注意が必要である.これらの典型的所見を呈するタイプ,すなわちclassicalCRAOは約67%と報告されている.また,一時的な血管閉塞や攣縮により発症と軽快を繰り返すtransientCRAO(いわゆる切迫型CRAO)が16%,本症例(図1,2)のように毛様網膜動脈による灌流が残存しているCRAOwithcilioretinalarterysparingは約10%程度とされている.また,巨細胞性動脈炎に伴うCRAOも数%存在するが2),わが国では巨細胞性動脈炎そのものが海外と比較し少ないため,頻度は低いと推測される.蛍光眼底造影検査により診断が確定されるが(図3),近年ではOCTにおける網膜内層の輝度上昇は,虚血に伴う浮腫を反映しており,診断に有用とされている(図4).CRAOでは,眼球マッサージ,高浸透圧利尿薬投与,前房穿刺,網膜循環改善薬投与などが行われる.これらの有効性については議論はあるが,眼圧下降による血管拡張や網膜循環改善の効果があると考えられている.もっとも重要であるのは全身的な原因検索であり,CRAO発症を機に不整脈や弁膜症などの心血管系疾患などが発見されることも少なくない.僚眼にも発症する可能性があることを患者に説明し,眼科的治療と同時に,全身の心血管系リスクの評価を内科専門医に依頼すべきである.まれであるが,眼虚血を基礎として,CRAO発症後に血管新生緑内障を併発することがある.視野が残存している症例では,定期的な眼圧検査や隅角鏡検査により,経過を観察することが重要である.また最近になり,網膜動脈閉塞症(retinalarteryocclusion:RAO)全体では,その後の脳梗塞の発症が有意に高いことが報告された3).文献1)ParkSW:Iatrogenicretinalarteryocclusioncausedbycosmeticfacialfillerinjections.AmJOphthalmol154:653-662,20122)HayrehSS:Acuteretinalarterialocclusivedisorders.ProgRetinEyeRes30:359-394,20113)RimTH:Retinalarteryocclusionandtheriskofstrokedevelopment:Twelve-yearnationwidecohortstudy.Stroke47:376-382,2016図5図1の症例のGoldmann動的視野検査灌流の残存している領域に一致して視野が残存する.

時の人 白石 敦 先生

2016年8月31日 水曜日

時の人愛媛大学医学部眼科学教授白しら石いし敦あつし先生本年3月,愛媛大学医学部眼科学教室の4代目教授に白石敦先生が就任した.同眼科学教室は,初代・坂上英教授が網膜疾患を,2代目・田村修教授が斜視弱視を,3代目・大橋裕一教授が角膜疾患・眼感染症をそれぞれ専門としていたことから,眼科の主要分野を幅広くカバーした全国レベルの診療・研究を行っている.白石先生の専門は角膜疾患,とくに眼表面疾患である.大橋先生以来の角膜疾患をメインに据えつつ,白石先生独自の取り組みが,これから形になってくると思われる.*白石先生は,昭和37(1962)年に瀬戸内海に浮かぶ伯方島で生まれた.名門,愛光学園高校を卒業後,地元・愛媛を離れて東京へ.日本医科大学に学び,昭和61(1986)年に同大第2外科に入局した.つまり,意外にも白石先生の医師としてのスタートは眼科ではなかったのである.その後6年間,外科医として研鑽をつみ,さらに同大大学院で病理学を研究する.そして平成7(1995)年に学位を取得したが,このときの博士論文のテーマはbEGFやVEGFの発現についてであった.ただし,まだ眼科領域の研究ではなく,大腸癌や大腸腺腫が対象であった.平成6(1994)年から平成10(1998)年まで,白石先生は米国シンシナティ大学に留学する.この留学が白石先生にとって大きな転機となった.シンシナティ大学眼科学教室で角膜の遺伝子の研究を行ったことで,「眼科に深く興味を抱くようになった」からである.そして帰国後,愛媛大学眼科学教室に入局.今日に続く眼科医としての活躍が始まる.*愛媛大学眼科入局後の研究テーマはズバリ「角膜の基礎・臨床研究」である.留学中,角膜に発現するケラチン12やルミカン遺伝子の解析,ノックアウトマウスの作製を行ってきたことを発展させ,帰国後は増殖因子であるEGFファミリーの角膜上皮,実質における分子メカニズムの解明に取り組んだ.その成果として,白石先生は創傷治癒や恒常性の維持にEGFファミリーの相互作用が重要な役割を果たしていることを明らかにした.角膜上皮細胞培養や角膜上皮再生医療への臨床応用につながる重要なメカニズムの解明である.ほかにも,角膜内皮細胞の細胞分裂制御機構に転写因子のPLZFとTGFbが連動していることをつきとめた.これらの基礎研究と並行して,白石先生は臨床研究にも力を注いできた.企業と共同開発した「眼表面専用サーモグラフィー」は,ドライアイの診断やアレルギー性結膜炎の治療効果判定などに活用されているし,圧センサーを応用した眼瞼圧測定器を独自に開発して,眼瞼圧と眼表面摩擦関連疾患の関連についてデータを示して報告した.あるいは,生体角膜共焦点顕微鏡を用いて,病理標本でしか証明されていなかったサイトメガロウイルス角膜内皮炎に特有な“Owl’seye”所見を,生体内で初めて観察したのも白石先生である.*研究のかたわら,愛媛大学病院眼科としての新しい取り組みも,白石先生が中心となって数年前から始まっている.その一つが「涙道疾患外来」である.涙道内視鏡手術を他大学に先駆けて導入したり,前眼部三次元画像解析装置を用いた涙液クリアランス解析法や,涙液のKlehbielflowを可視化して導涙機能を評価する検査法を開発し,診療に取り入れて成果をあげている.教室のモットーは自由闊達.坂上初代教授,大橋前教授と2人の愛媛大学長を輩出した伝統ある教室ではあるが,重々しい雰囲気とは無縁で,スタッフが自由に意見交換を行えるのが特色である.白石先生の趣味はマラソンとトライアスロン(!)だそうである.マラソンのベストタイムが3時間8分とのことだから,かなりの本格派である.最後に「駆け足」で紹介した.