ゲノム情報と国内・国際ネットワークIntra/InternationalNetworktoShareGenomeInformation藤波芳*はじめに21世紀における情報革命の恩恵を受けて,医療におけるエビデンスの概念に変化がもたらされている.かつて,診察室内で医療者と患者間のみの経験に基づいて行われていた医療が,エビデンスというビッグデータに基づいた医療へ進展した(evidencebasedmedicine).さらに,近未来にはすべての医療機関においてコアデータサーバへのアクセスが開通し,診察室での情報がエビデンスとしてリアルタイムに更新され,そこで参照されるビックデータがそのまま個人の医療に活用される時代(nestgenerationevidencebasedmedicine)へ変容することが確実視されている(図1).また,医療を取り巻く科学技術の進歩は目覚ましく,2010年代より爆発的に普及したnextgenerationsequ-encing(NGS)methodにより遺伝情報を含めた100万規模の研究コホートの構築が可能となり,precisionmedicineinitiative(遺伝子,環境,ライフスタイルに関する個人ごとの違いを考慮した予防や治療法を確立する医療;https://obamawhitehouse.archives.gov/node/333101)の実践が現実のものなっている.これらの正常群,疾患群での臨床・遺伝情報の統合・共有化はあらゆる医学・生物学領域に及んでおり,眼遺伝学領域に与える影響も絶大である1).臨床・遺伝情報の統合・共有化の恩恵を最大に受けている分野の一つが,遺伝性希少網膜疾患分野である.遺伝性希少網膜疾患は臨床像が多様で,電気生理学的検査図1Nextgenerationevidencebasedmedicine近未来において,すべての医療機関においてコアデータサーバへのアクセスが開通すると,診察室での情報をエビデンスとしてリアルタイムに収集することが可能となる.すなわち,患者の主訴,検査所見などがリアルタイムにデータベースに取り込まれエビデンスを構築するビックデータの一部となる.それと同時にビークデータより提供された治療指針や疾患に関するすべての情報が個人の医療に活かされ,真の意味での個別化医療が実践される.を含む包括的臨床検査が診断に不可欠であり,診断に苦慮することも少なくない(図2,3)2~6).加えて原因遺伝子の変異が多彩なため,遺伝子診断が容易でなく,治療については実現困難であるとされてきた.しかしながら,近年の変革のなかで,遺伝性希少網膜疾患においても,数百症例単位の国際コホートが設立され,病態理解が急速に進み,欧米では治療についての臨床治験が各所で進行中である.*KaoruFujinami:東京医療センター・臨床研究センター視覚研究部・視覚生理学研究室,慶應義塾大学医学部眼科学教室網膜細胞生物学グループ,Genetics,UCLInstituteofOphthalmology,UK〔別刷請求先〕藤波芳:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1東京医療センター・臨床研究センター視覚研究部・視覚生理学研究室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(71)987図2多彩な表現型を示す遺伝性網膜疾患ABCA4遺伝子異常に起因する遺伝性網膜疾患患者の眼底自発蛍光所見.原因遺伝子が共通であったとしても,きわめて多彩な表現型が認められ,診断に苦慮することも少なくない.図3遺伝性網膜疾患の電気生理学的所見ABCA4遺伝子異常に起因する遺伝性網膜疾患患者の電気生理学的所見.遺伝性網膜疾患において電気生理学的検査は必要不可欠であり,診断,機能評価,予後予測にきわめて有用である.遺伝性希少網膜疾患日本欧米・Step1:コホート作成(自然経過観察)・Step2:網羅的遺伝子診断・Step3:遺伝子型表現型相関確立・Step4:治療考案・導入・Step5:治療効果判定(経過観察)図4遺伝性希少疾患へのアプローチ難治性である遺伝性希少疾患へのアプローチはコホート作成(自然経過観察),網羅的遺伝子診断,遺伝子型表現型相関確立,治療考案・導入,治療効果判定(経過観察)の5段階と考えるのが一般的である.第一段階であるコホート作成が大規模に行われるほど,治療導入以降の段階の症例が多くなるため,画一的診断に基づく大規模コホートの作成が治療への近道となる.図5JapanEyeGeneticsConsortium(JEGC)における協力体制国内協力施設で画一化された臨床検査が施行され,完全匿名化された臨床情報がオンラインデータバンクを通して,各疾患の担当者に送られる.それぞれの疾患担当者と主治医の協議のもと,最終的な臨床診断が行われる.インフォームド・コンセントが得られた後,患者末梢血もしくは唾液が採取され,東京医療センター・臨床研究センターへ送付される.東京医療センター・臨床研究センターでDNAが抽出され,次世代シークエンスの結果を元に,遺伝学的確定診断が行われる.また,上記診断フローと並行して新規遺伝子については機能解析を通して,病態解明へのアプローチが実践される.さらに,国内外の複数の施設との協力のもと,最終目的である遺伝性網膜疾患の治療導入が強力に推進される.さらに,得られたデータリソースは,オミクス研究事業などに活用される.図6JEGCにおける基幹施設JapanEyeGeneticsConsortium(JEGC)では2017年現在26の国内基幹施設を有しており(図中★),オールジャパンで遺伝性網膜・視神経疾患への協力体制が構築されている.(日本医療研究開発機構委託研究事業拠点班:遺伝性網脈絡膜疾患の生体試料の収集・管理・提供と病態解明:http://www.eye.go.jp/)表1JEGC関連施設ならびに施設代表者岩田岳独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター分子細胞生物学研究部角田和繁独立行政法人国立病院機構東京医療センター視覚研究部藤波芳独立行政法人国立病院機構東京医療センター視覚研究部三宅養三愛知医科大学堀口正之藤田保健衛生大学医学部眼科学教室山本修一千葉大学大学院医学研究院眼科学寺崎浩子名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学教室久世真奈美JA三重厚生連松阪中央総合病院眼科溝田淳帝京大学医学部眼科学講座直井信久宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野町田繁樹獨協医科大学越谷病院島田佳明藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院中村誠神戸大学医学部眼科学教室不二門尚大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学教室堀田喜裕浜松医科大学医学部眼科学講座近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学國吉一樹近畿大学医学部眼科学教室篠田啓埼玉医科大学医学部眼科学教室林孝彰東京慈恵会医科大学医学部眼科学講座福地健郎新潟大学医学部眼科学教室坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室望月清文岐阜大学医学部眼科学教室亀谷修平日本医科大学千葉北総病院近藤寛之産業医科大学眼科学教室石田晋北海道大学大学院研究科眼科学分野村上晶順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座高橋政代理化学研究所多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクト三宅養三出田眼科病院中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座NISO-NEl/NIH-UCLtrilateralresearchagreement図7遺伝性希少網膜疾患を対象とした国際協力体制遺伝性希少網膜疾患の病態理解・治療導入には,国境・民族を超えた形での国際コホート作成が必要不可欠となり,世界各地でコンソシアム形成が進んでいる.NISO:NationalInsituteofSensoryOrgans,NationalHospitalOrganization,TokyoMedicalCenter,Japan,AEGC:AsianEyeGeneticsConsortium,JEGC:JapanEyeGeneticsConsortium,EastAsiaIRDC:EastAsiaInheritedRetinalDiseaseConsortium,UKIRDC:UKInheritedRetinalDiseaseConsortium,UCL:UniversityCollegeLondon,NEI/NIH:NationalEyeInstitute,NationalInstituteofHealth,USA.表2遺伝性網膜疾患に関する国際協力体制CollaborativeResearchagreement(日米)PaulSieving,TakeshiIwataNEI/NIH,NISO二施設間共同研究契約CollaborativeResearchagreement(日英)AndrewDick,TakeshiIwataUCL,NISO二施設間共同研究契約CollaborativeResearchagreement(英米)PengTeeKhaw,PaulSievingUCL,NEI二施設間共同研究契約AsianEyeGeneticsConsortium(アジア)TakeshiIwataNISO14か国間共同研究EastAsiaInheritedRetinalDiseaseConsortium(日,中,韓)KaoruFujinamiNISO3カ国6施設間共同研究UKInheritedRetinalDiseaseConsortium(英)GraemeBlackTheUniversityofManchester英国内7施設共同研究,国際パートナーシップ(NISO)ProgStarStdudies(米英仏独)HendrikSchollWilmerEyeInstitute,JHUSM4カ国9施設間共同研究,国際パートナーシップ(NISO)GlobalEyeGeneticsConsortiumKaoruFujinamiNISO北米,南米,欧州,アジア,豪州における国際共同研究NEI/NIH:NationalEyeInstitute,NationalInstituteofHealth,USA.NISO:NationalInsituteofSensoryOrgans,NationalHospitalOrganization,TokyoMedicalCenter,Japan.UCL:UniversityCollegeLondon.JHUSM:JohnsHopkinsUniversitySchoolofMedicine.図8ABCA4関連網膜症インハウスデータベース遺伝性希少網膜疾患でもっとも頻度の高いABCA4関連網膜症については,約600症例の疾患群における変異頻度情報が10万を超える正常人の変異頻度情報(http://exac.broadinstitute.org/)にインテグレートされ,正常群・疾患群における各民族・コホート間変異頻度比較がブラウザにおける情報共有により可能となっている.